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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第107話 『EXTREME DREAM/『完璧』な夢の終わりと始まり』



シオン・イン・ぺぺ『しゅごしゅごー♪』

シオン「さて、ドキッとスタートドキたまタイム。ついに長かったなぞたま編も終局」

イン「その時ルルは、ナナは・・・・・・そしてみんなは」

ぺぺ「ついに登場なあの最終フォームも見逃せないでちよっ!!」





(立ち上がる画面に映るのはEXTREMEでLINERなあの姿。そして・・・・・・零れ落ちる涙)





イン「宝石箱の中に眠っていた『なぞ』達の物語の最後、絶対に見逃さないでね」

ぺぺ「それじゃあ今回もいくでちよー。せーの」

シオン・イン・ぺぺ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



起き上がりながら迫り来る女を警戒していると、私がさっき居た場所で光が生まれた。

その光は黒と翠の螺旋を描きながら空に昇っていく。そしてその光の中からこちらに飛来する影が生まれた。

私はまた何か来たのかとうんざりしつつその影を追うと・・・・・・というか、驚きで目を見開いてしまった。





だってそれは蒼凪恭文だったんだから。でも、さっきまでの姿と全く違う。










「・・・・・・恭文さん、それは」










女も驚きの声をあげていた。だけど蒼凪恭文は笑うだけで答えない。





その笑いがシャクに触って私は・・・・・・周囲にまた宝石を生成した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今の僕の姿はリーゼフォームでも二人とのキャラなりでもない。黒いインナーに翠色のロングパンツに、編み上げのブーツ。

その上から白い陣羽織を羽織る。それの各所に、赤と青と金色と紫のラインが通る。

陣羽織の背中には、青色の刺繍で時計をモチーフにしていると思われるエンブレムが刻まれる。





そして両手にはジガンを装備。ただしいつもと違って左右で色が違っている。

右が翠で左が黒。翠はシオンの色で、左はヒカリの色になる。

右の手の甲には銀色の十字、左の手の甲には蒼いスターライトを象った装飾がある。





陣羽織の上から腰に装着するのは、青いDEN-Oベルト。そのバックル部分のクリスタルは虹色に輝く。

その両脇にはアルトが変身して生まれたデンガッシャーのパーツ四個。

それぞれに青い宝石が装着されていて、元のデンガッシャーとはデザインが少し異なる。





ルルがそんな僕の姿を見て、ただただ呆然と驚いていた。










【【「・・・・・・キャラなり」】】





身体から今までにないくらいに力が溢れてる。それで・・・・・・それで分かる。

今まで二人としてたキャラなりとは違う。ちゃんと身体の感覚がある。

あぁ、でも分かった。二人に身体を乗っ取られてたのは、僕が徹底した形を求めたからだ。



だからキャラが『変わる』んじゃなくて『替わる』方向にまで昇華されてしまった。

勇気を持った先の守護と破壊・・・・・・その形を追いかけたくて、だけどずっとどこかで目を背けてて。

でも、もう大丈夫。また間違えたり迷ったりする事もあるだろうけど、それでも忘れたくない。



もう僕は答えを知っている。その答えによって湧き上がる強さのままに僕達は、名乗りを上げた。





【【「リインフォース・ライナー!!」】】





やった。ついに、ついに身体の感覚があるキャラなりが・・・・・・!!



ミキとスゥとはしてるけど、二人とはこれが初めてだから本当は泣きたくなるくらいに嬉しい。



でも涙は一旦収めて、今はハードボイルドを通していく事にする。





「恭文さん、その姿は」

「ディード、ありがと。でも後は僕に任せて」



それで振り返って、ディードの方を見て・・・・・・笑った。



「すぐに終わらせる。あとさ、後でいっぱい話したい。色々考えていきたい事があるから」

「・・・・・・分かりました」



ディードが微笑みながら頷いてくれたので、改めてルルの方を見る。ルルは呆然とした表情を変えて、僕を睨みつけていた。




「ふ、随分余裕ね。もうアンタに後なんて無いのに。・・・・・・壊してやる。
ママの夢を、私の夢を邪魔する愚か者は全員、壊してやるんだからっ!!」

「吠えるな、三流。あんまり強く吠えちゃうと・・・・・・弱く聴こえるよ?」

「なんですってっ!!」

「ルル、お前には罪がある」



腰の左側のアルトガッシャーのパーツを両手で取り出して、それを接続してから上に放り投げる。



「守りたいと言いながらかおるさんの事を知ろうとしなかった事。
そうやって自分の夢を押しつけた事がお前の罪だ」



それから今度は右側のパーツ二つを持ち、落ちてきた合体パーツの前後に合わせるように接続。

パーツとパーツの間で火花が走り、アルトガッシャーはソードモードの形状に変わった。



「またそんな嘘をっ! 昔に戻れば、ママだって幸せになれるっ!!」

【そうやってまたお前は目を背けるつもりか。
何も知ろうともせずに、お前の母親の幸せが分かるわけがあるか】



するとアルトガッシャーは鞘も込みな日本刀形態に変化した。

僕はそれをベルトの左腰に当てて鞘をベルトと接続。



【そうやってお母様から目を背け、自分の夢から目を背け、あなたによって夢を歪められた人達の悲しい笑いから目を背け】



アルトの柄を握って一気に抜くと、その刃は眩いばかりの虹色だった。・・・・・・この感触、やっぱ素敵だね。



【そしてあれほどまでに自分を心配して、必死にかばったナナさんから目を背け・・・・・・それでどうするつもりですか】

≪お母さんの事大好きなのは分かるの。でもでも、押しつけちゃだめなの。勝手に決めつけちゃダメなの。
なにより不満があるならどうして話そうとしなかったの? どうして今コレなのか知ろうとしなかったの?≫



それでまず僕から一歩踏み出す。ルルは苛立ち気味に僕を睨みながら、一歩下がった。

そんなルルの周囲の宝石が強く輝く。輝いてさっきやろうとしていた砲撃攻撃の準備を開始。急速的にスフィアを形成する。



≪あなたはただの意気地なしですよ。今と・・・・・・自分とさえ向き合う勇気のない臆病者です≫

「そんな臆病者の相手は、あむやヘイや唯世達がするまでもない。
・・・・・・お前の相手は、僕で充分だ。臆病者の相手は、臆病者で充分だ」





僕もお前と同じ臆病者だ。どうしようもないダメキャラだ。だから許せないし納得出来ない。

こんな事をしても、未来へは手を伸ばせないと知っているから・・・・・・罪だと知っているから、止めるんだ。

でもアルト、経緯や事情がなぜ分かっている体で話すのさ。そこが非常に疑問なんだけど。



おのれついさっき参加して・・・・・・いえ、なんでもありません。空気読もうっと、僕。





「どうやら本当に分かってないらしいから、中のナナも含めてもう一度突きつける」



言いながら左手を上げて、指を鳴らす。するとどこからともなく音楽が鳴り響いた。



≪The song today is ”EXTREME DREAM”≫

【今度は私達も・・・・・・ですよね、お姉様】

【あぁ、もちろんだ】



そして僕達を取り巻くように風が吹く。その風が陣羽織を、髪を優しくなびかせる。



【【「さぁ」】】



その風の中で上げていた左腕を素早く前に伸ばして、ルルを指差す。



【【「お前達の罪を、数えろあなた達の罪を、数えなさい」】】




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第107話 『EXTREME DREAM/『完璧』な夢の終わりと始まり』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「嘘や・・・・・・嘘や嘘や嘘や嘘やっ!!」



その間にルルが形成したスフィアが、まるで水飴のような粘度を感じさせるような動きでまた一段と大きく膨れ上がる。



「だって私・・・・・・私は自分の夢も、よう分からんのだからっ!!」



ようやく感情を吐き出し始めた。そして首を横に振る度に、大きさとその中に込められた力が増していくのが分かる。

でも、僕は決して止まらない。もう既に止まる理由などない。



「それで押しつけられるわけがないっ! なによりそんなのみんな同じやろっ!!
それが罪だなんて・・・・・・そんなんワケが分からんわっ!!



そしてそのスフィアはルルの叫びによって、噴き出すように放たれた。



「甘えてんじゃ・・・・・・!!」



アルトの柄を両手で持って僕は・・・・・・その砲撃に向かって袈裟に刃を叩き込んだ。



「ねぇよっ!!」



虹色の閃光によって砲撃は斬り裂かれ、まるで石の破片のような粒子が辺りに撒き散らされる。

僕はその中を、無形の位を取った上で歩いて行く。そしてルルに迫る。



「・・・・・・分からないなら、探せばいい。夢も、答えも・・・・・・探していけばいい。
少しずつでも見つけていけばいい。こんな事をする必要なんて、どこにもない」



ルルは僕に向かって、未だに残っていた弾丸を撃ち込んでくる。咄嗟に身を屈めて右から回り込むように走る。

ルルは振り向いて僕の方に弾丸を連射しようとする。でもその前に全力で踏み込んだ。



「飛天御剣流」



・・・・・・唐竹袈裟左薙左切上逆風右切上右薙逆袈裟刺突っ!!



「九頭龍閃っ!!」



生まれたのは虹色の九つの斬撃。それが宝石ごとルルを斬り裂き、その身体を吹き飛ばす。



「・・・・・・もどき」



ルルの身体は近くの木に叩きつけられて、地面に落ちる。それで苦しげに僕をやっぱり睨みつけた。

それにため息を吐きながら僕は、ルルの事を見る。ルルはそれでも周囲に宝石を生成。



「お前がやるべき事は、納得出来ないからこそぶつかって相手の想いを知っていく事だった。
それが出来るのが家族だったり、友達だったりするんじゃないの?」



僕は右手でアルトを一回転させる。するとアルトと鞘が光に包まれて、ロッドモードのガッシャーに変わった。

左手でどこからともなくパスを取り出し、それをベルトに静かにセタッチ。



「その上で一緒に答えを探していけばいいじゃないのさ。ルルだけの、かおるさんだけの答えじゃない。
ルルとかおるさんの・・・・・・みんなが笑える答えを、みんなの夢を。そうじゃなきゃ、ずっとこのままだよ」

≪Full Charge≫



バックルの円形のクリスタル部分がセタッチされた瞬間、虹色の光を放ちながら点滅。

そこから火花が走り、ガッシャーの柄尻に伝わる。そしてその切っ先がクリスタルと同じ色の光に包まれた。



「うるさい・・・・・・うるさいうるさいうるさいっ! そんな事ないっ!! アンタはでらぁ嘘つきだっ!!
そんな必要ないっ! 私は間違ってないっ!! そうよ、私はいつだって完璧を目指すのっ!!」



叫びながらも空中に数メートル浮かび上がって、先ほどと同じようにまたスフィアを形成。

僕に狙いを定めて砲撃を放つ。・・・・・・やっぱり言葉を伝えるのは難しいらしい。



「だからこれでママは、ママは幸せにっ! 完璧になるんだみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



砲撃の直径は僕を軽く飲み込む程。空気を震わせながらもその砲撃は迫る。

視界が・・・・・・いや、周囲が宝石と同じ色に染められ、空間そのものを飲み込もうとしている。



「なれるわけが」



そんな中でロッドを逆手に持って、その砲撃に向かって鋭く投擲。

腕を袈裟に振りながらルルに向かって投げつけた。



「ないだろうがっ!!」





ロッドは切っ先に虹色の光を煌めかせながら、砲撃に直撃。そして砲撃を斬り裂きながら直進していく。

いや、斬り裂くのは砲撃だけじゃない。『なぞ』の色に染められかけた周囲の色すらも斬り裂き消し去っていく。

砲撃は先ほどと同じように砕け散り、世界は再び元の色を取り戻していく。



その中で粒子に還った砲撃の破片はまるで雨のように降り注ぐ。

ロッドの切っ先はその様子に驚いて目を見開いたルルの胸元に突き刺さる。

その瞬間、ロッドは蒼い甲羅状のエネルギーサークルへと瞬間的に変化。



ルルはそのサークルによって、全身の動きを戒められる。





「ぐ・・・・・・がぁっ!!」



両手を広げられ、足を吊りそうなレベルで伸ばされ、まるで甲羅に張り付けにされているようにも見える。

ルルは身を捩らせて抵抗しようとするけど、当然ながらそれは無意味。それで僕は・・・・・・ルルを睨みつける。



【『Nobody's Perfect』・・・・・・人は誰も完璧なんかじゃない。
だから寄り添い合う。それが人生という名のゲームです】

【そしてそれだって勇気だ。未来を切り開くための、大切な気持ちだ】

「いい加減に気づけっ! お前は完璧なんかじゃないっ!!
大事な人と真正面から向き合う勇気も出せない・・・・・・ただの臆病者だっ!!」



ルルが僕の叫びで身を竦ませて、僕の事を怯えたような表情で見始めた。

右手を肩まで軽く上げ、スナップさせる。



「二人とも、最後いくよ」

【いつでもどうぞ、お兄様】

【恭文、派手にぶちかましてやれ】

「うん。・・・・・・コレで決まりだっ!!」



僕は右足を踏み出して、そのまま拘束されたルルに向かって走り出す。

数メートル進んで一気に跳躍して、両足を引く。すると右足に黒と翠色の二色の光が生まれた。



「・・・・・・そんな」



自分と同じ高度まで上がった僕を見ながらルルの表情が虚ろなものにかわり、額のハテナが×に変わった。



「だったら私・・・・・・私は・・・・・・!!」



そしてルルの周囲に半透明な×たまが出てきた。・・・・・・ぎりぎりだったけど、行くよ。



【【「ビート」】】



螺旋を描くその光を叩きつけるように右足を突き出し、僕はサークルと中に居るルルに向かって飛び蹴りを打ち込む。



【【「エクストリームッ!!」】】










蹴りがルルの胸元に入ると、サークルは割れるように爆発。

その衝撃も加算されてルルの身体が吹き飛ぶ。その身体は落下して、林の中の木に激突。

ルルの身体は木の中に埋まるように沈んでから、うつ伏せに倒れた。





僕もその間に林の中に着地。腰を落としている状態で、右手を軽く上げる。

そこに上から落ちてきたアルトロッドを掴み、立ち上がりながら肩に担ぐ。

ルルはゆっくりと立ち上がった。でもすぐに元のワンピース姿に戻る。





そしてその胸元には、ルルの『夢』。その夢が込められた宝石にヒビが入る。

そこから甲高い音を立てて、宝石は砕けた。粉々になって、ゆっくりとルルの足元に落ちる。

この瞬間、この場にある全ての『夢』もなぞも・・・・・・全てが砕け散った。





そしてそれらの元凶だった女の子は、虚ろな目をしながら前のめりに倒れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・光の中に私は居た。さっきまであんなに苦しくて、悲しい事ばっかりだったのに。

それで私の周囲にあの巨大なぞたま達が現れる。なぞたま達は分裂して、元の大きさのたまごになる。

だけど変化はまだ続く。そのたまご全てが、まるで染め上げられるかのように白くなっていく。





私の『夢』が、消えていく。その光景を見ていて、そう感じてしまった。そしてたまご達は空に昇る。

光の中で上も下も右も横もないようなところなのに、たまご達にはどこがどうなっているのか分かっているように動く。

みんな、空に昇って消えていく。手を伸ばすと、そこに強い輝きが生まれた。





その輝きを見て私は・・・・・・手を引いてしまった。もう、いらないわよね。





あんな物の前に、必要なものがある。悔しいけど私、突きつけられてしまったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なぞたまは全て、僕がルルを止めた時点で全部元に戻った。

やっぱりなぞたまがルルの『夢』や迷い・・・・・・それに近いエネルギーを分け与えた物だったらしい。

だからルルの迷いが、こころに付いた×が消えた事でみんな元に戻った。





それであむとヘイは、ティアナがフォローしてくれてたおかげで問題なかった。

たまごに閉じ込められたキセキ達も元に戻ったので、その場でリメイクハニー実行。

ヘイの怪我も治って、壊したものとかも全部治って・・・・・・だけど、まだやらなきゃいけない事がある。





それは今、公園の一角の芝生で寝ているルルに現実を突きつける事。










「・・・・・・ルル」



傍らのヘイが優しく声をかけると、ルルはゆっくりと目を開いた。それで周りに居る僕達の事を見ていた。



「兄さん・・・・・・あの、私」



それからすぐにハッとした顔をして、一気に起き上がる。起き上がって改めて周囲を見渡した。



「・・・・・・この子の事か?」



ヘイはどう言っていいのか分からないような・・・・・・そんな困った顔で、ルルに向かって両手を差し出す。

その両手の中にあるのは、あのたまご。良くも悪くも、主のために頑張ったあの子のたまご。



「ナナっ!!」



ルルはヘイからそのたまごを優しく受け取り、そのままたまごに声をかけ続ける。



「ナナ・・・・・・ナナっ! ナナっ!!」

「ルル、ダメだよ」



そんなルルに対して、インが静かに宣告する。それでルルは瞳を思いっきり開いて、もう一度ヘイの方を見る。

インはヘイの傍らに居たから、そうなってしまう。僕達はその様子を、ただ見ている事しか出来なかった。



「ナナ、起きない。私達も何度も呼びかけたし、あむの何でも『お直し』する能力も使ったけど・・・・・・ダメ」

「・・・・・・そんな」

「当然よ、そんなの」



ルルの右側から発せられた声は、白のワンピース姿で腕組みをしているGPOなナナ。

呆然とした様子でルルはナナの方を見る。それでナナは、深くため息を吐いた。



「しゅごキャラは『なりたい自分』であり夢なのよ? 宿主がそれを大事にしなきゃ、消えたりこうなるに決まってる」



さて、ここで問題。自分のしゅごキャラをなぞたまにする事は大事にしていると言えるのか。

当然ながら・・・・・・言えない。これこそがルルに突きつけるべき『現実』の形だよ。



「あ・・・・・・あぁ」

「アンタ、そんな事も分かんなかったの? アンタがエンブリオを手に出来ても同じ。
その子はどっちにしたってこうなってたわよ。アンタが、この子をこんな風にしたの」



ルルは震えながら、改めて自分の両手の中を見る。それでたくさん・・・・・・たくさん涙を零し始めた。



「ねぇ・・・・・・ナナちゃん、少しいい?」



ナナの右隣に居たシルビィが少し小さな声でそう言うと、ルルが反応してシルビィの方を見上げた。

シルビィはそれで慌てて両手を横にブンブンと振った。



「あ、違うの。えっと、この子もナナちゃんって言うの。いわゆる愛称なんだけど」



それでルルはまたたまごを見つめて、涙を零す。

優しく風が吹いているのに、そのせいでどうにも場の空気は気まずい。



「それでナナちゃん、ナナちゃんの魔法でこの子の事は」

「無理だよ」



その言葉に答えたのは、僕だった。それでナナとルルの視線が集まる。



「どんな『魔法』を使ったって、他人がとやかくしたってきっとダメだよ」

「そうね。でも・・・・・・分かるわよね?」



ナナが僕の方を見上げる。だから自信を持って頷いた。



「うん、だからきっと」



改めてルルに視線を向けると、ナナのたまごは涙で濡れまくってた。

それでもルルの涙は止まらず、ただ懺悔の言葉を呟き続ける。



「ナナ・・・・・・ナナ、ごめんね。私、分かってなかった。自分の事ばかりで、何も考えてなかった」



ルルは両手で、強く・・・・・・強くたまごを握り締める。



「ママの事も、兄さんの事も、パパの事も、あなたの事も・・・・・・何も考えようとしていなかったっ!!」



それでまだ強く握り締め・・・・・・アレ、なんかマズいような。軋むような音が聴こえるんですけど。



「あの、ルル? もうその辺りにしとけ。さすがにそれ以上力を入れると」

「ごめん・・・・・・ごめんナナっ! ナナっ!!」

「いや、だからお兄さんのお話を聞いてっ!? おのれたまご握り潰すつもりかいっ!!」

『・・・・・・その通りだみゃあっ!!』



たまごから突然大きな声が響いて、全員の動きが止まった。それはもちろんたまごを握っていたルルも同じ。

ルルは驚きながらたまごを見ると、たまごの真ん中にギザギザのヒビが入った。



「ぷはぁっ!!」



大きく息を吐きながら、割れつつ消えていくたまごの中から出てきたのは・・・・・・ナナだった。

ナナは浮かび上がって、怒った表情でルルの方を軽く睨みつける。



「こらルルっ! マジでうちの事握り潰すつもりやったろっ!! もうめっちゃ苦しくて寝てる余裕もなかったわっ!!」

「・・・・・・ナナっ!!」



そのままルルは両手を伸ばして、めいっぱいにナナを抱き締めた。



「ナナ・・・・・・ナナ、ナナっ! ナナっ!!」

「いや、だから離して・・・・・・てーか落ち着けー! 今度は絞め殺され・・・・・・ぐぐ」

「ルル、お前本当に落ち着けっ! ナナの顔が真っ青になってるぞっ!!」

「これじゃあしんみり出来ないね。まぁ二人らしいけど」



そんなルルを止めようと必死になっているヘイとインを見て、全員が表情を崩す。僕も・・・・・・軽く息を吐いた。



≪・・・・・・お決まり過ぎて笑っちゃいますね。というか、いいんですかねコレで≫

「いいんじゃないの?」



胸元から聴こえた声に答えながら、改めて僕はあの四人を見る。



「もし神様ってのが居るならさ、これで改めて突きつけてるんだよ。
『お前達には悲しみに潰されてる余裕すら与えない。二人で罪を数えろ』・・・・・・ってさ」

≪それもそうですね≫










こうしてなぞたま事件は終わりを・・・・・・ううん、まだ終わってない。

重要なところはこの後平謝りだった四人が決めていかなきゃいけない。

それが出来て始めて、この事件は終わりを迎えるのよ。





だから僕達に出来る事は一応終了。あとは、この四人の問題だよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・まずあの場に来ていたガーディアンとその関係者と兄さんには、なによりナナには平謝りし続けた。

もう、分かったから。私は・・・・・・私は本当に大切な事を抜かしていたんだって。

だからそこを埋めるために私は、仕事を終えて戻ってきたママと二人っきりでリビングでお話。





その間に時刻は夕方に戻って、世界は紅く染まっていく。

そんな光がリビングに差し込んでテーブルにつく私達も染める。

向かい側に座るママは、少し物憂げな表情。それを見て胸が痛い。





昼間の事があるから・・・・・・どうしても私達は無言になっていしまう。でも、ママはそれでも口を開いた。










「・・・・・・ルルは」



カップの中の紅茶を小さじで回しながら、ママは私の方を見る。



「私がバラエティに出るの、嫌?」

「・・・・・・うん」

「そう」



私も小さじを回していく。そうしないと、怖くて落ち着かない。



「ママには、映画女優に戻って欲しいの」

「・・・・・・どうして」



ママは近くの砂糖壺から、角砂糖を取り出して紅茶に入れる。



「ルルは私に女優に戻って欲しいの?」

「・・・・・・おばあ様が、何事も完璧におやりなさいって。あと」

「あと?」



こみ上げていた恐怖が強くなっていく。ただそれでも私は、あの輝きを思い出して・・・・・・伝える。



「ジュエリー」



ママの方を見ると、ママの手が止まっていた。そのためにさっきから響いていた小さな金属音が止まっていた。



「ママ・・・・・・あの時着けてくれた、ジュエリー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの授賞式の時、ママは私の作ったジュエリーを着けて出席してくれた。

その前、ママが自宅の全身鏡でドレスとジュエリーを合わせて身だしなみを整えつつ鼻歌をうたっていた。

私はその後ろで兄さんと一緒にソファーに座って、その様子を見ていて・・・・・・とってもご機嫌。





だって名誉のある賞の授賞式に出るのよ? それで私のジュエリーを着けてくれる。それがとっても嬉しかった。










「どう、似合う?」



ママは振り返りながら両手を広げ、誇らしげに私を見る。

その胸元には、私が作ったジュエリーがキラキラに輝いていた。



「うんっ! とっても素敵っ!! ね、兄さんっ!!」

「あぁ。母さん、とても良いと思う」

「ありがと」




ママは嬉しそうに笑いつつ、右手でそっと胸元を触る。



「ルルの作ってくれたこのジュエリーのおかげかしら」



視線を落として、私のジュエリーをいとおしそうに見てくれる。それで胸がどんどん高鳴っていく。

ママはとっても綺麗で輝いてる。その輝くお手伝いが出来た事が、本当に嬉しかった。



「完璧よ、ルル」










私の方を見ながら出てきたその言語で、その嬉しさは最高潮に高まった。





繰り返しになるけど、完璧なママの輝きのお手伝いが出来た事が本当に嬉しかった。





この時の事、絶対に忘れないって思った。だから追い求めた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・完璧って、言ってくれたの」





だから今までずっと悲しかった。エンブリオに頼ってでもあの輝きを取り戻したかった。

あの時のママが、ジュエリーの輝きが消えてしまいそうで・・・・・・ううん、違う。

あの時の事が嘘になりそうで怖かった。ママの輝きのお手伝いが出来た事が無しになると思った。



だからここまで来て、頑張って・・・・・・でも、結局それらはただの愚行だった。

自分の浅はかさというか愚かさが悔しくて、机の上に置いてある手を自然と握り締めてしまう。

私に必要だったのは、こうやって話す事だった。『どうして?』と聞くだけでよかった。



だから私は、カップの中に落ちていた視線を上げてママを見る。ママは・・・・・・涙ぐみながら口元を押さえていた。





「・・・・・・ごめんね。私が何気なく言った事が、あなたを縛っていたなんて」

「・・・・・・ママ」

「私、母親失格ね」

「そんな事ないっ!!」



ママは何も答えずに、右手でそっと涙を拭う。



「なんで、私が日本に来ようと思ってたか分かる?」



私は当然だけど首を横に振る。・・・・・・あ、もちろん私がイースターに協力するからじゃない。

あくまでもママとパパが日本に来るのが決まってから、そういう話になったから。



「パパからね、聞いたの。あなたがいつも私が帰りを、ずっと寝ないで待ってたって。
もちろんヘイも。本当にギリギリまで待ってくれているって」



・・・・・・少し呼吸が止まった。というかあの、それは・・・・・・うん、事実。

パリに居る時はママの事をお出迎えしたくて、兄さんと二人必死に夜更かししたりしてた。



「映画の撮影って長いじゃない? いつ帰れるか分からないし、時にはロケでずっと家を開けなきゃいけない」

「・・・・・・それで、なの?」



ママは頷かない。また視線を落として、瞳に涙をいっぱいに溜める。



「日本でバラエティの仕事を引き受ければ、あなた達と毎日顔を合わせられると思って・・・・・・もう寂しい想いはさせたくない」

「ママ」

「でも、だめね」



ママの右の瞳から、涙が一滴零れた。それが夕日の光に照らされて宝石のように輝く。



「勝手にあなた達はこうだろうって、決めつけてた。私、母親失格ね」



私は何も言わずに立ち上がり、ママの後ろに回り込む。それでそのまま一気に抱きつく。



「ううん」



驚いたのか、ママの身体が軽く震える。その寒気を押さえ込むように力を強める。



「ママは合格。世界一のママ」

「・・・・・・ルル」





これだけで、本当によかったんだ。エンブリオなんて私達には必要なかった。

どうして私、こんな事に気づかなかったんだろう。どうしてこんなに遠回りしちゃったんだろう。

その間に間違えて、傷つけて、踏みつけて壊して・・・・・・本当にバカだった。



だからママにいっぱいのごめんなさいとありがとうを込めて、もっともっと強く抱き締める。



そんな私の腕にそっと左手が乗っかった。閉じていた目を開くと、ママが私の方を見て微笑んでいた。





「あなたも世界一の娘よ」










・・・・・・明日、改めてあの子達に謝りに行こう。今日も謝ったけど、まだ足りない。

それでこれから少しずつ、探していこう。私の夢を、私とママと・・・・・・みんなの夢を。

あ、でも一つ見つかったかも。ママとこうやって繋がれたから見つけられた。





私はやっぱり『完璧』を目指したい。ただ・・・・・・どう言えばいいんだろう。





私自身というよりは、誰かがそういう形に輝ける手伝いが出来たらいいなって考えちゃった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・どうやらうまくいったみたいだね」

「あぁ。んじゃ、俺達は俺達で」



リビングに続くドアの前で中の様子を父さんと二人で覗いていたけど、それも終わり。

俺達はそっとドアから下がって、別室のキッチンの方に静かに歩いて行く。



「しかし父さん、それならそうとどうして教えてくれなかったんだ。
別に俺達に話したくなかったとかそういうワケじゃなかったんだろう?」

「いや、すまないね。私もどうも決めつけていたようで」

「そうか。なら、それは俺と同じだよ」



二人して歩きながら苦笑気味になるのは、喜ぶべきか困ってしまうところだ。

色んな意味で親子だからこうなるのか・・・・・・まぁなぞたまの事を考えると笑えないが。



「よし、今日は再出発のためにご馳走を作るとしようか。あ、ヘイ」

「なんだ?」

「実は面白い料理を思いついたんだよ」



父さんはそう言いながら自信満々に胸を張り、リビングに居る二人に聞こえるんじゃないかと言いたくなるくらいの声で叫んだ。



・・・・・・ポークカツレットに八丁味噌のソースをかけると、でらぁうみゃあ食べ物になるんだみゃあっ!!



思わず足を止めて、父さんの事を信じられないものを見るような目で見てしまう。

ただこれは許して欲しい。父さんの言った事はありえないんだ。そうだ、絶対にありえない。



「父さん、それは本気か? もしくは冗談か? 一応ツッコんでおくが味噌かつとしてその料理はもうあるから」

ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!

「あと、その料理は一昨日母さんが作ってくれたじゃないか。なんでそれで新発見になるんだ」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



父さんは相当ショックだったらしく、その場で崩れ落ちた。というか、泣き始める。



「・・・・・・ヘイ、これは本気っぽいね」

「そうだな」

「というかパパって、オーナーシェフだよね? 凄い人だよね? なのにコレって」

「言うな、イン。俺もたまに良く分からなくなる時があるんだ」










さて、味噌かつとは母さんの出身地である名古屋の郷土料理。名古屋めしの代表格でもあるな。

元々はトンカツを食べている時にどて焼きなどで使う八丁味噌をつけて食べたら美味しかったというところから来ている。

ただそのままだと味が濃厚過ぎて一般受けしなかったため、味噌を薄目のスープで割る形で一般に広まった。





当然だがこれを新発見な料理などと銘打って出したら・・・・・・その結果は察して欲しい。





ただまぁ、こういう本気か冗談か分からないようなところが自分の父親の凄いところだとは思っているが。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



事件は終わり、アルト達も戻って来て、僕達はロイヤルガーデンでのんびりお茶。





今日はフェイトとシルビィとナナも来て、ある人と連絡を取りつつ会議もしてたりする。










『・・・・・・まず今回は本当にお疲れ様だった。みんな、よくやってくれたな』

「いえ、僕達は特に。山本さん兄妹の問題に関しては、蒼凪君と日奈森さんの働きが大きかったですし」

「それは言えるわね。私達は昨日が初対面だったわけだもの」

「でもみんなが頑張ってくれたのは変わらないよ。みんな、本当にありがと。それでお疲れ様」



フェイトが笑顔でそう言うと、あむ達は照れたように笑う。僕は・・・・・・まぁいつも通りのおすまし顔だよ。



『特にニムロッド捜査官とナインハルテン捜査官には感謝します。
あなた達がこちらに来ていなければ、彼らの中から重傷者が出てもおかしくなかった』

「あ、いえ。本当に今回は偶然でしたし」

「別にお礼を言われる程大した動きはしてないわよ。
最後の美味しいところをもらっただけだもの。・・・・・・でも恭文、本当によかったわけ?」



ナナが少し疑問そうに僕の方を見る。そこはシルビィとクロノさんにフェイトも同じくかな。



「あの子達、あのまま返しちゃって。まぁ拘束するのなんてナシなのは分かるけど」

「ヤスフミ、そこは私も同感なんだ。またルルちゃんがなぞたまを抜き出すような事には」

「フェイト、ナナもそこは大丈夫だよ。実は今朝ヘイからメール来てさ」



具体的には登校途中だね。ルルを追ってる時に電話とメールのアドレスを連絡用に交換してたから、そのためになの。



「かおるさんとちゃんと話して、万事解決したっぽいんだよ。
ルル本人ももうなぞたまなんか作らないってさ」

「そうなんだ。なら良かった。ヤスフミ的には大丈夫そうな感触?」

「だと思う。てーか同じ事やろうとしたら、ヘイとナナとインが止めるはずだよ。なにより」



右手でカップを持って、ゆっくりと紅茶を飲む。それで・・・・・・軽く息を吐いた。



「昨日話したでしょ? なぞたまはルルの夢や迷いそのもの。それをみんなに押しつけて叶えさせただけ。
きっと今のあの子にそんな能力はないよ。分からない自分と向き合う勇気を持ったなら、こころにハテナなんて付かない」

「・・・・・・そうだったね。なら、きっと大丈夫」

「いやいや、フェイトさんちょっと待って。恭文、アンタヘイさんといつアドレス交換したわけ?」

「昨日ルル追っかけてる時だよ。ほら、捜索途中で必要になるかも知れないから」

「あ、それでか」



あむもみんなも納得してくれたようなので、僕は改めて紅茶を飲む。それで自分の前を見る。

机の上には、同じように紅茶を飲む僕の・・・・・・二人のしゅごキャラ。



「・・・・・・このクッキーは美味しいな。よし、もう一枚だ」



訂正、一人食に走ってクッキーを両手で持って食べまくってる。シリアス顔だから余計に凄い。



「お姉様、食べ過ぎです。というより昨日からどれだけ食べれば気が済むんですか、太りますよ?」

「安心しろ、私はいくら食べても太らない体質だ。ビバしゅごキャラ」



その瞬間、サムズアップするヒカリにフェイトやシルビィにナナ・・・・・・とにかく女性陣の視線がヒカリに集中した。

でもヒカリはどこ吹く風で、またクッキーを食べる。・・・・・・お姉さんとそっくりだけど、大胆不敵な子だよ。



『しかしなぞたまがルル・ド・モルセール・山本の夢そのものだったとは・・・・・・驚きだったな』

「でも納得よ。あのたまご、私からすると凄い奇妙な気配してたもの。
他人の夢とあの子の夢がごっちゃになってワケ分かんなくなってたからそうなったのね」

『そう考えると僕達は今まで、彼女一人の夢に振り回されまくっていたわけか。なんというか、少し困ってしまうな』

「それは言えますね。僕も正直気づいた時は呆れるやらなんやらで」



そこまで言って言葉が止まった。それで僕は振り返って入り口の方を見る。



『恭文、どうした』

「クロノさん、すみません。通信切ります。ちょっと来客っぽいんで」

「え、ヤスフミちょっと待って。入り口には誰も」



フェイトの言葉を聞きながらも空間モニターに左手を伸ばして画面をシャットアウト。

それから数秒後・・・・・・ロイヤルガーデンの入り口のドアが開いた。



「・・・・・・あ、ルルちゃんにヘイ君っ!!」

「やっぱりかぁ。なんか気配したから」

「相変わらずアンタの気配察知凄いよね。でも・・・・・・フェイトさんは出来ないんですよね。恭文より経験あるのに」

「うぅ、そこは言わないで? 常々反省しているところなんだ。私は長さはあっても濃度が足りなかったみたいで」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人を迎え入れて、お茶を淹れた上で僕達は少し沈黙。なお、用件はルルが話したい事があるとか。





だから僕達はルルの言葉を待っているわけだけど・・・・・・あぁ、どこかでカラスの鳴く声がする。










「まず昨日もあの場で言ったけど・・・・・・本当に、ごめんなさい。それで、これだけは言っておきたいの」

「なにかな」



あむがルルの方を見ながらそう聞くと、ルルは一息入れ替える。



「私と兄さんは確かにイースターの側についてはいたけど、あの会社のやり方そのものを認めていたわけじゃないの。
・・・・・・まぁ、アレだけの事しちゃったから説得力は0だろうけど・・・・・・それだけはね」

「ん、信じるよ」



ためらいもなくそう言ったあむにルルが驚く。それでまた軽く息を吐いて・・・・・・苦笑する。



「ありがと。あとはあなた達に話しておかなきゃいけない事があるわ」

「まぁこの辺りは昨日恭文君達にも話したが、俺とルルはイースターから完全に切り捨てられた。
ただ話していないところもある。まずそうなった原因は二つ。一つはなぞたま作戦がことごとく失敗した事」

「それでもう一つが・・・・・・これが最大の原因ね。イースターはデスレーベル作戦を始めようとしているみたいなの」



ルルの言葉で、一気に全員の表情が険しいものに変わる。というか・・・・・・アレレ? なんか引っかかるような。



「ルルちゃん、そのデスレーベル作戦って何かな」



フェイトがルルに聞いている間にも、この引っかかりが何かを思い出してみる。いや、やっぱり引っかかってるのよ。



「私も詳しい事は分かりません。ただそういう作戦を始めるから、私達はいらないって門前払いを食らっちゃって。
ただ話の感じだと・・・・・・星名専務主導で動いてる様子でした。それでその作戦で確実にエンブリオが出る確信を持ってもいる」

「実を言うと、俺達がなぞたまを抜いている間にエンブリオの出現条件を向こうの技術担当に調べてもらっていたんです。
もしかするとそこの辺りで何か発見があってという可能性もあります。まぁ俺達はそれを知る前に切り捨てられたんですが」

「単純にごっつ強いパワーを出せばえぇってだけの話じゃないんよ。
何かエンブリオが惹きつけられる波長みたいなのがあるんじゃないかって話だみゃあ」

「多分それで正解なのですよ。現に昨日のアレコレだって、エンブリオ出てこなかったですし」



デスレーベルデスレーベル・・・・・・DL? DL・・・・・・そこまで考えて、一つ気づいた。

いや、でもちょっと待って。もしそうならこの計画、相当に根が深いぞ。それで方向性も絞られるかも。



「ヤスフミ、どうしたのかな。さっきから黙ってるけど」

「・・・・・・ダークレジェンド」

「え?」

「前にシュライヤが偽エンブリオで洗脳された時、そう名乗ってた。
『キャラなり・ダークレジェンド』って。それでデスレーベル・・・・・・どっちもDL」



あの時それを聞いたなぎひこ以外のガーディアンメンバー全員の表情がハッとしたものに変わる。

もしも・・・・・・もしもよ? 僕の考えてる通りなら、この作戦はマジでかなり前から練られてた事になる。



「・・・・・・ちょ、ちょっと待ってっ! じゃああの時シュライヤがおかしくなっちゃったのってこの作戦の一環だったって事っ!?」

「じゃあじゃあ、もしかしてデスレーベル作戦ってまたこの間みたいな事が起きちゃう作戦の事なのかなっ!!」

「そうかどうかは知らないけど、あれがデスレーベル作戦の一環だと言うのは多分正解よ」



あむとややの驚きを肯定したのは、二人の言葉に頷いたヘイとルルだった。だから全員の視線がそちらに向く。



「実はあの一件でシュライヤ王子に偽エンブリオを渡したのは、私と兄さんなの。
偽エンブリオを使った実験の対象として、たまたま見かけたシュライヤ王子が選ばれた」

「・・・・・・それがあの茶番の真相ってわけか」



そのためにシュライヤを利用してくれたわけか。あの時のシュライヤの姿を思い出して、唇を噛み締める。



「二人とも、それでその主導は」

「星名専務と九十九だ。ちなみにその時、君の戦闘データを取る名目もあったそうだ。
その戦闘データを解析して煮詰めた結果出来たのが特別製の×ロット・・・・・・BY」

「それがあの黒いヤスフミの正式名称なんだね」

「だからBYって・・・・・・単純明快というかなんというか」



シルビィが呆れた声をあげながら、改めてルルとヘイの方を見た。



「ねぇ二人とも。BYが作られたのはやっぱり、ヤスフミ対策って感じなのかしら」

「えぇ。イースターは彼の戦闘能力と存在を驚異と考えていました。とは言え数の勝負は相手にならない。
だから恭文君の姿と能力を模した上で、自身の驚異となる存在をそのまま取り込もう・・・・・・という所ですか」

「でも、出来た結果はみんなの知っての通り。私とヘイも見てて呆れたよ。
というより、あの子はやっぱりかわいそう。せっかく生まれたのに」





どうやら星名専務ってのは相当に根性腐ってるらしいね。

それなら最初から自分の手でエンブリオを見つけるつもりだったって事だもの。

そうじゃなくちゃなぞたま事件が起こる前から、こんな真似するはずない。



最初の最初から、ルルとヘイの事も信用してなかったんでしょ。マジで時間稼ぎのつもりだったのよ。

ううん、もしかしたらBYの事も・・・・・・それで悲しいかな、こちらはその手にまんまと乗ってしまっている。

その計画に関しては色々疑問もあるけど、シュライヤの一件から数えるとそれなりに時間が経ってる。



始動時期があれからだとしても、大体3ヶ月〜4ヶ月弱。おそらく計画はもうかなりの段階まで進んでるかも。



少なくともなぞたまっていう目眩ましをもう必要としない段階まではだよ。





「とりあえずその二人にはたっぷり礼をする必要があるかな」

「ヤスフミ的に、シュライヤ王子から預かった借りを返す必要もあるしね」

「うん。あ、でも冷静にいくよ? 心は熱く、そして頭はどこまでもクールにだよ」

「よろしい・・・・・・って、私が言っても説得力ないね」



フェイトが苦笑するのを見て、僕も軽く半笑い。いや、だって・・・・・・アレだったしなぁ。



「まぁルルとヘイは昨日礼をしたとしておくとして」

「助かる。・・・・・・あ、だが先日の決着がついてはいないな」



ヘイが僕の方を見てニヤリと笑う。その意味が分かって・・・・・・僕も険しくなっていた表情が明るくなってしまう。



「しばらくは出来そうもないし、機会を見つけて再戦というのはどうだろうか」

「あ、それいいね。僕もあのままってのは今ひとつすっきりしないし」

「いやいや、アンタ達何言っちゃってるわけっ!?」



僕達が二人盛り上がっていると、あむが睨み気味にこちらを見てきた。



「てゆうかもう事件終わったんだから戦う必要ないじゃんっ!!
恭文、アンタ海里とのアレコレをまた繰り返すわけですかっ!!」

「全く・・・・・・日奈森あむ、だからあなたはダメなのよ。男の子というのはこういうものなんだし、納得なさい」

「そうだよ、あむ。あくまでも先に続く事前提の勝負なら、アリなんじゃないかな。私も覚えはあるし」

「なんでルルもフェイトさんも納得しちゃうわけっ!? あの調子でぶつかったら大怪我するに決まってるじゃんっ!!」



あむはそこまで言うと諦めたのか息を吐いて、ルルとヘイに改めて視線を向けた。



「というか、それやられると困るし。ルル、ヘイさん・・・・・・もしイースターが何かしてきたら、力を貸して欲しいんだ」

「日奈森さんっ!?」



唯世というか、全員それに驚いた。いや、だって予言の事とかあるのに。



「別に一緒に戦えとか言うんじゃないの。たださ・・・・・・ほら、偽エンブリオ使ってどうこうってのも予測なわけじゃない?」

「・・・・・・なるほど。何か気づいた事があったら教えて欲しいとか、そういう感じかしら?」



りまが紅茶を飲みつつあむに視線を向けてそう言うと、あむが力強く頷いた。



「そうそうそれ。あたしバカだけど、何かとんでもない事が起こるって感じがするのは分かるんだ。
二人もキャラ持ちだし、もしかしたらそういうのあたし達より早く気づくかも知れないじゃん」





だから今ここでそういう『何か気づいたら教えてくれ』ってお願いをしてるのか。むむむ、何気に考えてるなぁ。

結構単純だけど、変化が起こった事に気づく・・・・・・そのための目が増えるのは効果的な手段だもの。

その変化が悪いものなら、出来るだけ早く気づいた方が傷の広がりや深さも最低限で済むのは僕も知っている事。



そこは長年事件捜査に関わってきたフェイトとリインとシルビィとナナも同意見らしく、感心した目であむを見ていた。





「だから今りまが言ったみたいに、何か気づいたら教えて欲しいんだ。・・・・・・どうかな?」

『あ、無理』

「即答で拒否られたっ!?」



あむの驚きなど意に介していない様子でルルは紅茶を一口飲む。それでヘイは・・・・・・あ、少し申し訳無さげにしている。



「いや、実はまだ本決定ではないんだが」

「私達、フランスに帰る事になったから」

『・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



しかし全員見事に驚いてたわね。まぁいきなりな話だったしそれもしょうがないのかしら。

ちなみに理由は・・・・・・もう日本じゃなきゃいけない理由が無くなった事。

だって日本に来たのは、ママが私や兄さんと居る時間を作るためだもの。そのための来日。





でも私達は互いにこれからもっと話し合って、お互いに一番いい方法を探していく事にした。





だから日本じゃなきゃいけない理由は、もうどこにもない。だからママは今、リビングで電話を終えて私達に笑いかける。










「・・・・・・映画のお話、OKしたわ」



時刻はもう夜で、外は真っ暗。窓際でタラランティーノ監督と国際電話をしていたママはこちらに振り返り、OKサイン。



「ただ、いくつか条件を付けちゃった」

「条件? ・・・・・・母さん、出演料の値上げ交渉は慎重にやらないと」

「もう、違うわよ」



兄さん、そこでどうしていきなりお金の話になるのよ。どう考えてもそこはおかしいじゃない。



「一つは時々向こうだったり日本のバラエティに出る時間を確保する事。それでもう一つは」



言いながらママは少し照れたように笑った。



「家族との時間を大切にさせてもらう事」










その笑顔を見て私達は・・・・・・納得したような、少しこそばゆいような。

とにかくとにかく、心が温かくて切なくなって・・・・・・複雑な嬉しさで胸をいっぱいにしていた。

・・・・・・やっぱり私は、あの時思った方向で進みたいな。それが私の夢、なのかな。





まだよく分からないけど、それでいいのかも知れない。今はその分からない事と向き合う時間。





向き合って、『やりたいようにやったらえぇがねっ!!』って・・・・・・頑張る時間なんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



かおるさんの映画撮影の件もあるので、家族との時間を確保するためにもフランスに戻る事になったモルセール一家。





そんな話を聞いて家族の大切さを痛感したあむは、夜僕と組み手して・・・・・・公園の草むらで寝転がってます。










「ぜ、全然動けない。唯世くんはなんか風格出てきてるっぽいのに」

「あははは・・・・・・そんな事ないよ? 僕は防御技能だけしか出来ないから」



なお、今日は唯世も一緒に訓練。僕とばっかやってても勉強にならないので、合同でやる事にした。

ちなみに始める前はあむは非常に大はしゃぎだった。でも・・・・・・お察し下さい。



「唯世、やっぱ合気道とか習ったら? あっち方向が唯世には絶対向いてると思うわ」

≪でもあなた、私がワイハでノロウサボディ焼いている間も攻撃関係は一切成長してないんですね≫

≪実はそうなの。唯世くん、せめてカウンターは覚えるべきなの。防いで避けてるだけじゃ単独戦闘は難しいの≫

「・・・・・・ごめんなさい」



それで唯世もあむの隣で寝そべってます。原因は・・・・・・お察し下さい。



「あ、そういやあむ」

「なに?」

「ほら、夏休み終わる直前に、全員揃って魔法適性あるかどうか検査したじゃない? まぁ話のネタついでにさ」

「あー、うん。やった・・・・・・あ、もしかして」



あむが半身を起こしてこちらを向くので、頷いた。唯世もそれに続く。



「結果出たよ。まぁここは後で各々に伝えるとして」

「あの、僕達は大丈夫だよ? そこまで気を使わなくても」

「そうじゃん。てゆうか、そんなののあるなしで関係変える程緩い付き合い方してないし」

「そう。でも二人とも・・・・・・それはフラグだよ?」

『一体なんのっ!?』



フラグの怖さを今ひとつ分かっていない二人に警告なども出した上で、話す事にした。

本人達がそこまで言うのなら、きっとフラグも折れると信じて・・・・・・便利な言葉だよね。信じてってさ。



「まず唯世は・・・・・・ごめんなさい」

「蒼凪君どうしたのっ!? あの、ダメなのはしょうがなかったと思うけどなんで君がヘコむのかなっ!!」

「いや、なんかこう・・・・・・色んなシビアな展開を思い出しちゃって」



過去のアレコレを思い出すと、魔法適性があるかないかというのはかなりの差を生み出すらしいし。



「それであむは魔法適性あるね。リンカーコアがあったから」

「マジでっ!? え、でもあたし魔力とかって全然感じないってっ!!」

「まだコア自体が眠ってる状態だったんだよ」



確かにあむからは今まで魔力の類は感じなかった。でもそれは当然の事。

あむ自身がそれを今の今まで抑え込んでいた状態だったんだから。



「あむ自身が『それがある』って自覚してないから当然魔力も内包されたまま。
そもそも魔力って自分の意思で抑え込んでレーダーでも反応しないように出来るものだから」

「日奈森さん自身に力の自覚がなかったから、自然とそうなってたって事なんだね」

「そういう事だね。ここの辺りは解放手段はいくつかあるし、僕やフェイトでも出来るものだからすぐにでもいけるよ」

「そう、なんだ。じゃああたしも・・・・・・まぁ、あるならあるで便利だけどさ」





あむは嬉しそうに両手でガッツポーズ・・・・・・は取らなかった。

どうやら隣に居る唯世の事を気にしているらしい。

あくまでも普通を装っているけど、唯世も僕も内心はもう見抜いている。



だから唯世も優しい目であむの事を見守ってるのよ。・・・・・・しかし、驚きだよなぁ。

結果として魔法資質持ちだった中にあむの他に空海とりまも居たんだから。これは結構珍しいって。

なお、僕達が今まで気づかなかった理由はあむと同じく。二人も自然と抑え込んだ状態だった。



二人には今頃フェイトからお話されてると思う。それで資質が・・・・・・これもまたどういう事だろ。

まずあむは魔力量そのものは僕とどっこいどっこい。驚く程高いわけじゃない。

りまはそれより少し多いくらいで、空海が僕達とりまの間って感じ? 適性関係は当然まだ不明。



でも地球出身の魔導師は強力な魔法資質か珍しいスキルを保有している傾向が強いため、将来性は未知数。

・・・・・・そう結果を書いた報告書に書かれてたのよ。多分これはなのはとかはやて、グレアムさんの影響が強いと思う。

二人は言わずもがなだし、グレアムさんもリーゼさん達を維持出来るくらいに魔力量も技能もあるからさ。



それでフェイトも僕を見ながら苦笑してたっけ。かく言う僕もそんな中に入ってはいるから。





「あ、それで恭文。実はあたしも話があって」

「何?」

「あたし、明日家に戻るよ」



・・・・・・その言葉が信じられなくて、僕と唯世はあむの方をまじまじと見てしまった。



「ちょっと二人ともなにっ!? あたしが家に戻るってだけでそんな驚くわけですかっ!!」

「いや、だって・・・・・・もううちでご飯を食べるのも当然って感じになってたし」

「僕も段々違和感を感じなくなってたんだ。むしろ蒼凪君の家が日奈森さんの家じゃないかと」

「そんな事ないからっ! あたし家出してきただけだしっ!! ・・・・・・まぁ、アレだよ。
あたしもさ、ルルやヘイさんの話を聞いて色々反省したわけよ。このままじゃだめかなーと」



僕達の目の前で苦笑しているあむの家出の原因は、あのお父さんがあむが作ったチョコを勝手に食べたから。

しかも謝らないで言い訳ばかりなお父さんにキレたあむは、夜遅くに僕のところに来たわけですよ。



「あたしがマジで『ムカついた』って気持ちを話さないと、パパもあのままかなーって思って。
だから戻って、ちゃんと話して・・・・・・うん、分かってもらわないとダメだね。あたしが分かる必要はないよね」



だからこそ今、そう言いながらも僕達の目の前で殺気を放出するわけだよ。どうやら怒りが再燃したらしい。



「あむ、あの・・・・・・落ち着け? ほら、冷静に冷静に」

「そうだよ、日奈森さん。まぁその、確かに話を聞く限り今回は相互理解は必要ないように感じるけど、さすがにそれは」



だ、だめだ。僕達の声が届いてない。両拳握り締めて紫色のオーラ放ち始めてるし。

でもまぁ、一応は安心かな。何気にフェイトやリースが心配してたから。



≪・・・・・・あの、チョコってなんですか? よくよく考えたら私なんでこの人が家に居るのか聞いてないんですけど≫

≪お姉様、そこを話すと非常に長くなるの。なのでジガンがじっくり説明してあげるの≫

≪だが断る≫

≪どうしてなのー!?≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そしてそれから少し時が経ち、季節は11月に突入。僕達はかおるさん達一家のお見送りに聖夜空港へ来ていた。





それぞれが別れを惜しむ中、僕はヘイから小包を一つ手渡された。というか、大包だった。










「ヘ、ヘイ・・・・・・これは一体」

「俺が使っていた硬化コートとウェアとブーツ一式とその予備だ」

「はぁっ!?」



両手いっぱいの包みを持ったまま驚いてしまう。ヘイとインはそんな僕を見ながら頷いた。



「どうしようか迷ったんだが、よければ君が使ってくれ。
ブーツやウェアはともかく、コートはギリギリいけるはずだ」

「恭文、電撃使えるよね? それは電撃を通せば凄く硬くなるから、きっと役に立つよ。
またBYも出てくるかも知れないから・・・・・・私達からのプレゼント」

「いや、でもコレってヘイのものじゃ」

「いいさ。きっともう俺には必要のないものだ」



言いながらヘイは、あむと話しているルルの方を見る。



「今の俺に必要なのは、家族との時間と・・・・・・宝探しをしていく勇気だけだ」

「・・・・・・そっか。なら、コレは借りておくよ。それでまたあった時に、必ず返す」



ヘイを見上げながら笑って、僕は右手をそのままヘイに向かって差し出した。



「もちろん僕用にコピーを作った上でね」

「なら、その時を楽しみにしている。それで決着も、その時に」

「うん」










ヘイは右手を出して、僕の手を強く握ってくれた。後ろからフェイト達がそんな僕達を温かく見てるのが分かる。





・・・・・・やっぱ、もっと強くなりたいな。目の前のライバル候補に負けないくらいに、もっと強くだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・シオン」

「えぇ」










私達は何も言わずに、ただ天を指差します。別れの言葉など、私達には不要。





なぜなら私達は常に天を・・・・・・同じ太陽という輝きの下で生きる友なのですから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うぅ・・・・・・お前さん方の事は、忘れんからなぁ」

「全く・・・・・・泣くな。ほれ、コレを使え」

「うぅ、ありがとうみゃあ。・・・・・・ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!

「バカ者っ! 人のハンカチで鼻を噛むなっ!! そして汚いなっ!!」



ナナがバカやらかしてるのは軽く無視。それで辺里唯世のしゅごキャラに関しても・・・・・・後で謝っておこうっと。



「マドモアゼル・日奈森、ルルとヘイの友達で居てくれてありがとう」

「というか、お見送りまで・・・・・・なんと言っていいやら」

「いや、あの・・・・・・まぁその、友達なんで」



パパもママもお願いだからそういうのやめてー! もう気恥ずかしいんだからっ!!

・・・・・・それで日奈森あむは、私の方に寂しげな視線を向けた。それを見て私は軽く息を吐く。



「何よ、その目は。私達が居なくてせいせいしたと思ってるんじゃないの?」

「そんな事、ないよ」

「あら、私はせいせいしてるわよ? ほんと、せいせいして・・・・・・すっきりして」



言葉が尻すぼみになって視線をつい逸らしてしまうけど、私は気にしない。そうよ、本当に・・・・・・せいせいしてるんだから。

呼吸を入れ替えて、私は懐から長方形のピンク色のケースを出して日奈森あむに何も言わずに手渡す。



「ルル、コレ」

「いいから開けてみて」



日奈森あむは驚きながらもケースを開くと、目を見開いた。



「・・・・・・なぞたまは抜かないわよ?」

「いや、分かってるしっ! てゆうかあのコレ・・・・・・いいのっ!?」

「いいわよ。色々迷惑もかけちゃってるしね」





渡したのは、私が作ったジュエリー。もちろん私の『夢』を込めたもの。

ただしそれは、なぞたまを抜いていた時に込めていたものとは違う。

宝石に込めているのは、私の中にずっとあった一つの『夢』・・・・・・輝き。



それが少し照れくさくて、視線を右に動かして空港の天井を見てしまう。





「私、ジュエリーデザイナーになるつもりなの。・・・・・・誰かが『完璧』に輝く手伝いがしたいなって」





やっぱり私はあの時、ママが『完璧』って言ってくれた事が嬉しい。あの時のママの輝いていた事が嬉しい。

今のママも輝いているって、少し素直に認められるようになったけどそこだけは絶対変わらない。

それで考えたの。あの時みたいに私が作ったジュエリーで、誰かの輝きがプラスされるなら素敵だなって。



私達は一人では何も出来ない事もあって、一人で考えてるだけじゃあきっと・・・・・・失敗ばかりの事もあって。

それで間違えて、取り返しのつかない事をしちゃう事もあって。だからこそ手を繋いで、話し合って考えていく事が大事。

これもそういうのに似てるのかも。私がジュエリーを作っても、それ単体では絶対に完璧にならない。



身に着けてくれる誰かが居て、初めて宝石の輝きは本当の意味で引き出される。

だから私はジュエリーを作り続けたい。私はきっと・・・・・・あぁ、そうだ。私、ようやく分かったの。

私があの時魅入られた『完璧』は、個人や一つのものだけで出せる輝きじゃなかった。



あの時で言うなら、ママの輝きと私のジュエリーの輝きの二つが合わさって生まれたものに魅入られた。

私が目指す『完璧』の一つは、そういう風に誰かと繋がる事で生まれる輝きだったんだ。

そんな簡単な事に気づくのに遠回りして、ひどく間違えて・・・・・・私は自嘲気味に笑ってしまう。



なら、間違えた分だけ追いかけていこう。迷ってしまった分だけ頑張っていこう。



それで誰かの輝きを引き出して、笑顔にしていけるなら・・・・・・きっとそれが、私の償い。





「ジュエリーデザイナー・・・・・・それが、ルルの夢?」

「えぇ。・・・・・・あ、でも歌手にもなりたいしパティシエにもなりたいし、ロッククライミングもやりたいし」

「へ?」

「そうなるとうたってケーキが作れてロッククライマーなジュエリーデザイナーかしらっ!!
でもそれはそれでアリよねっ! うん、絶対アリよっ!!」



私はつい楽しくなって、笑顔で右手を思いっきり上げて上に突き出してしまう。



やりたいように、やったらえぇがねー!!



・・・・・・でも次の瞬間、顔を真っ赤にしてしまう。それで周囲を見渡すと・・・・・・全員が笑っていた。

私は小さく縮こまり、ゆっくりと腕を下ろす。身体ごと日奈森あむから逸らしてしまうのは、きっと許される。



「・・・・・・ねぇ、ルル」

「なによ」

「私達、友達だよね」



いきなり不安げにそう聞いてきたので、私はそれを鼻で笑ってやった。



「違うわ」



もうさっきまで感じてた気恥ずかしさはない。だから今度は身体ごと日奈森あむに向かい合う。



「私達は友達じゃないわ。そもそも友達になれるほど付き合い深くないじゃないの。
一緒に遊んだ事もなければむしろケンカしてばかり。これじゃあまだまだよ」

「あの、ルル? さすがにその言い方は」

「ママは黙ってて。・・・・・・えぇ、友達じゃないわ。だって」



それから私は・・・・・・思いっきり笑って、右手を悲しげな顔をしていた日奈森あむに向かって差し出した。



「これから、今この瞬間から・・・・・・私達は友達になるんですもの」



日奈森あむは驚いたように目を見開いてから、静かにケースの中からワイン色の宝石の着いたネックレスを取り出す。

それを素早く首にかけた上で、私の差し出した右手を強く・・・・・・強く握り締めて笑った。



「初めての握手だね」

「そうなるわね。それが別れの握手だなんてね」

「でも、それだけじゃないよ。ここから・・・・・・始まりだから。ルル、よろしくね」

「えぇ、よろしくね。・・・・・・あむ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして飛行機の出発時刻が迫り、四人は搭乗口へ向かった。それからさほど経たずに飛行機は空港から離陸。





そのまま青い空の中へ白い巨体は高く・・・・・・高く飛んでいった。










「ルルちゃん達、行っちゃったね」

「そうだね」

「でもでも、きっとルルちんの事だからパリでも元気でやってくよー」

「そうね、やってくに決まってるわね。・・・・・・向こうが故郷なんだから



鋭くツッコんだりまの言葉で、ややが唸りながらも固まる。その様子を全員で笑ってみていた。



「これでなぞたま事件は一段落かぁ。でもヤスフミ、そのコートって」

「うん、九十九が作ったって言ってたものだね。それでさ、フェイト・・・・・・少し考えたんだけど」

「なにかな」



僕を右隣から覗き込んでいたフェイトの顔を見上げる。



「リーゼフォーム、バージョンアップしようと思うんだ。ヘイから借りたこれらも使って、モデルチェンジ」



フェイトが驚いたように目を見開く。見開いて、真剣な顔に変わった。



「物理装甲も込みなジャケットにするという事かな」

「うん」

「・・・・・・プランは?」

「まずは物質変換でコレのコピーを作れるかどうか試す。その上でかな。
多分形状記憶合金的な性質に近いと思うし、出来ない事はないと思うんだ」



そこまで言うとフェイトは、優しく微笑んで頷いてくれた。



「ならいいよ。せっかく借りたものだし・・・・・・頑張ろうか。あ、私も手伝うよ?
だってリーゼフォームは私の騎士としての姿なんだから」

「ありがと。でもその・・・・・・改めて言うと、照れちゃうね」

「そ、そうだね。でもいいんだよ。あの、こういうのはとっても大事な事なんだから」










リーゼフォームは、フェイトの騎士になりたいと・・・・・・フェイトを守りたいと思って作ったジャケット。

だからやっぱりモデルチェンジするなら、最低でもフェイトの許可は必要なのよ。

もちろん他のみんなの許可もさ。だから少し不安だったんだけど、すぐにOKしてくれてよかった。





僕達は自然と顔を近づけて、そのまま軽く背伸びをしながら唇をゆっくり重ねた。





なお、そのすぐ後に周囲から『甘いからやめろー!!』と声が響くけど気にしてはいけない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ルルとヘイさん達のお見送りを終えて、首元のジュエリーを見ながらニコニコしつつあたしは家に帰り着いた。

時刻はもう夕暮れ時で・・・・・・って、陽が暮れるのが早いなぁ。前だったらまだ明るかったのに。

それで実は、帰りにたい焼き買って来てたりする。夕飯前だからみんなで一つのたい焼きを分け合ってって感じかな。





なんだかんだで今日は色々あったし、お腹がいつも以上にペコペコなんだ。だからまずはこれで持たせる。










「あむちゃんあむちゃんっ! 早くたい焼き食べよ食べよっ!?」

「ボクもう待ちきれないよ。だってカスタードクリームだし」

「優しい甘みと生地とのコラボが素敵ですぅ」

「あー、はいはい。分かってるって。でもちょっと待って。まずは着替えてから」





なんて言いながらも、あたしはベッドに一旦座る。まずは腰を落ち着けて一休みーとかしようとした。

でもベッドに座った瞬間、とてつもない違和感を感じた。なんというか・・・・・・あー、そうだな。

本来何もないはずのベッドに、なんか細っこいものが入ってる感触がしたって言えばいいのかな。



あたしはそれが怖く感じて、一気に飛び上がってベッドから数歩下がった。





「アレ・・・・・・あむちゃん、どうしたの?」



それでも・・・・・・それでもあたしは、ミキの声は一旦無視でベッドに近づく。

近づいた上で、右手を伸ばして布団を掴む。そして、一気に引き剥がした。



「・・・・・・イ」



ベッドにかかっていた布団を一気に跳ね上げて、その中を見る。そしてあたしは驚愕した。

そこには、膝を抱えてまるで赤ちゃんみたいな格好で寝ている男が居た。なお、めっちゃ知り合い。



イクトッ!?

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!










季節は11月。夏の暑さの反動からか、急激に気温が下がりつつある今日この頃。





その勢いに乗るかのように今、あたし達とイースターとの最終決戦が始まろうとしていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



この部屋には、たくさんの輝きが存在している。世間的に価値のあるものから、そうじゃないものまで。

だが等しく存在している価値がある。それが・・・・・・輝き。その輝きはケースに入れて壁一面に飾ってある。

そしてそんなケースの中に一つ、空のものがある。その中に入る輝きはすでに決まっている。





だけど手に入らない。二階堂悠、三条ゆかり、月詠歌唄、モルセール兄妹・・・・・・無価値な彼らが尽く失敗したから。

無価値で役立たずな彼らでは触れられなかった輝きの名は、エンブリオ。眩く輝く光のたまご。

その輝きにはどれだけの私財を投じてでも手に入れる価値がある。あの輝きに触れていると、自然と胸の中が満たされる。





柔らかい椅子に座りながら、そっと右手を伸ばす。その手の中には、空っぽの透明な壁掛けケース。





その空っぽさが、まるで今の心のように感じる。だからだろうか、また・・・・・・隙間が増えてしまう。










「エンブリオ・・・・・・やはり欲しい」










一臣、お前は彼らと違って無価値な人間でない事を期待している。お前は今までも結果を出してきた。

だがもし出せなかったら・・・・・・その時は残念だが、お前を切り捨てなければいけない。

過去の功績も、どれだけイースターに尽くして来たかなども一切関係ない。大事なのは今だ。





今結果を出せなければ、お前は無価値で必要のない人間だ。そんな人間は・・・・・・いらない。




















(第108話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、なぞたま編は無事に終局。ついにイースターとの最終決戦である光編です。
今回のお話はアニメしゅごキャラの第89話『心、分かりあえて』を元にしています」

フェイト「そして突然にあむの前に姿を表した月詠幾斗君、この来訪が何を示すかは・・・・・・次回で。
というわけで、本日のあとがきのお相手はフェイト・T・ハラオウンと」

恭文「蒼凪恭文でお送りしたいと思います。というわけで、本編でついに登場しましたリインフォース・ライナー」

フェイト「基本ラインはStS・Remixで出た時と変わらないんだよね。能力とか必殺技も電王ベース」

恭文「うん。ただStS・Remixは一種の半覚醒バージョン。こっちが本覚醒だから、少し描写が変わっています」





(具体的にはビートエクストリームやフルチャージ時の火花とかですな)





フェイト「それで山本一家はテレビ通り・・・・・・だったよね」

恭文「そうだね。テレビでもあんなのりでフランスに戻っちゃうから。ナナ辺りの話も基本ラインは同じ。
というか、やっぱりアレだね。テーマとしては対話・・・・・・気持ちを伝える事の大切さですよ」

フェイト「だから行き違って、その結果が今回の事件だしね。あの、それは・・・・・・過去の私に言ってやりたい」

恭文「そっか。でも泣かないで? フェイト、フェイトはもう泣かなくていい。もう充分泣いたから」





(言いながら蒼い古き鉄、そっとハンカチで閃光の女神の涙を拭う。閃光の女神はなんだか嬉しそうだ)





フェイト「でもヤスフミ、StS・Remixで完全にコントロール出来なかったのって、やっぱり『勇気』に辿りつかなかったから?」

恭文「うん。あっちの対ヴィヴィオ戦の時は無意識にその答えに触れたからてんこなり出来たの」





(StS・Remixの中で、ヴィヴィオも含めた上でハッピーエンドを望んで、そのために手を伸ばした結果ああなりました。
あと改訂版のFSなども、この『勇気』が無く外キャラ的な対応を繰り返してしまうというのを意識していたりはします)





フェイト「あ、そうなんだ。じゃあこの展開はもう1年くらい前から?」

恭文「StS・Remixのラストどうしようかーって悩んでた時からだから、そうなるね。
シオン出すって決めた時に、成長の結果というかそういうのが出た方がいいって事で」





(そこからヒカリの登場やてんこなりの事が一気に決まってああなったんだよねー)





フェイト「だから本編のヤスフミは酢昆布が無くてもてんこなりは出来るんだよね。もう答えにたどり着いてるから」

恭文「そういう事だね。ちなみにStS・Remixな僕も、のちにこの出来事を通して本覚醒版に変身出来るようになります」

フェイト「でも・・・・・・これで一応は一段落かぁ。これで落ち着けないのがなんというか」

恭文「まぁしょうがないよ。ここは一気呵成に最終決戦突入の方がテンポいいしさ。
あと、小話として・・・・・・僕がガチに主人公やるのはドキたまで一応は最後になります」





(ただ、ここはあくまでも時系列的な問題です。この後の展開があるならそうなるという事ですね。
Vivid編をやるならあむとヴィヴィオ。Force編をやるなら三人組主軸にとは考えています。
恭文は・・・・・・まぁアレですよ、八神恭文的な立ち位置になると思ってもらえれば良いかと。最悪脇役レベルです)





フェイト「え、そうなの?」

恭文「そうらしい。まぁなんだかんだで僕の話も書くとは思うけど、基本ラインはそれだって。
りた〜んずの方はそういうテストケースでもあって、それで手応え得られたから。あとは・・・・・・ほら」

フェイト「あぁ、なのはの問題があったよね。なのはは主役を譲らないから」

恭文「でしょ? だからよっぽどの事が無い限りは先輩ライダー的な立ち位置にしようって決めてるんだって」





(『だから私主役譲ってるよねっ!? スバル達充分主役として出番に恵まれてるのにー!!』)





恭文「・・・・・・というわけで、次回からは光編。イースターとの最終決戦がいよいよ始まります」

フェイト「私達が追い求めていた『エンブリオ』、そして未だヴェールに包まれている『御前』の正体も明らかになります。
あとはなぜ世界崩壊に繋がるような事態になるか・・・・・・だよね」

恭文「そうなるね。それでは本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・ハラオウンでした。それじゃあみんな、また」










(そして二人はいつものように手を振って・・・・・・ラブラブしつつお別れ。
本日のED:Labor Day『EXTREME DREAM』)




















フェイト(添い寝中)「・・・・・・ねぇヤスフミ」

恭文「何?」

フェイト「私もね、ヤスフミの言う『勇気』が無い子だったんだ。多分、かなり最初の時から。
みんなが笑ってくれれば、仕事を通して何かが変われば・・・・・・ってずっと考えてて」

恭文「うん」

フェイト「だからプレシア母さんや局を必要以上に信じようとしてた。『間違ってる』って言う勇気がなかったから。
ただ変わっていくって期待して、信じて欲しいと身勝手に押しつけて・・・・・・うん、やっと分かったよ」





(寄り添いながら、閃光の女神は力強く微笑む)





フェイト「私は今まで・・・・・・ずっと今まで、ただ期待するだけで何かを『変えたい』って思ってなかった。
そういう期待をみんなに押しつけた上でずっと仕事をしていたから、だから・・・・・・そんな自分が嫌いになった」

恭文「だから・・・・・・局を辞める?」

フェイト「うん。もう迷いなんてない。あ、でも産休手当を出来るだけ高額で絞り取るためにもう少しこのままの方がいいのかな」

恭文「悪い子だね」

フェイト「悪い子だよ? 期待するだけの、押しつけるだけで何も言わない『良い子』は卒業なんだから。
・・・・・・あと、その事も含めてヤスフミといっぱい話したい。話して、伝えて、たまにケンカして・・・・・・決めたいな」

恭文「分かった、付き合うよ。あ、でも僕も話したい事がたくさんあるんだ。だから、二人で・・・・・・だね」

フェイト「うん」










(おしまい)





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あきゅろす。
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