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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第104話 『We dream of a shining jewel in a box/天上天下唯我独尊っ!? 強烈おばあ様キャラ登場っ!!』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ナナ「・・・・・・はぁ」

ラン「あの、えっと・・・・・・ナナ? なんでそんなに落ち込んでるのかな」

ミキ「そうだよー。というか、ナナの出番はもっと後だよね」

ナナ「お前さんらは気楽でえぇなぁ。うちはとってもブルーなんに」

ラン「・・・・・・あー、もしかして原因は」

スゥ「前回出てきたあの方ですかぁ?」

ナナ「そうだみゃあ。あのばあ様なんよ。ルルはばあ様の影響でらぁ受けとるし、マジ大変なんよ。
ルルの完璧主義もばあ様の影響で、側に居るだけでホント息が詰まりそうで・・・・・・はぁ」

ミキ「いや、何も二度言わなくても」

スゥ「大事な事だから言ったんでしょうかぁ」





(立ち上がる画面に映るのは、そんな噂のあの人)





ラン「まぁそれでも大丈夫と信じて、今日もいってみよー。せーの」

ナナ「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ラン・ミキ・スゥ『ため息かぶせてこないでー!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・気持ち良さげ〜♪

「このCMどえりゃあ面白いだみゃあ」

「あら、ありがとー」



ママがジャージ着てウォーキングマシンで歩いてるだけのCMのどこが面白いのかが、私には分からない。

だけど一つ分かる事がある。・・・・・・そう言いながら夕飯前なのにまたイチャつき始めているパパとママはバカップルだという事よ。



パパっ!!

ママ・・・・・・!!

「「あ、おばあ様」」



私と兄さんの声がハモった瞬間、二人は顔を真っ青にして抱き合いながら床に崩れ落ちた。



「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 許してー!!」」

「・・・・・・パパ、ママも落ち着いて。私達の冗談だから。というか、そこまで怖いの?」

「ルル、察してやれ。パリに居る時はそれはもう大変だったろ」

「ま、それはね?」





私的には問題ないんだけど、パパとママ的にはおばあ様は苦手なタイプらしい。

ただ別にそれで嫌いというんじゃなくて・・・・・・そうだな、頭が上がらないと言えばいいのかな。

言うなればうちの家系の頂点に居る人なの。でも、本質的には凄く素敵な人よ?



まぁ確かにちょっと怖いし口うるさいと言われるようなところもある。そこだけは私も否定はしないわ。

実際私も小さかった頃はおっかないなーって情けない事に思っていた時期もあったりしたから。

だけど、それだって実は・・・・・・アレ、インターホン? それに気づいたママはそのまま立ち上がって、玄関に向かう。



だから当然のように私はそれを止めに行く。いや、だって・・・・・・ママは今ジャージ姿なのよ?

なんかあのCM以来気に入ったらしくて、わざわざCMで使ったのと同じ青いジャージの上下を買って最近着てるの。

そういうのを見ているから、だから余計に早くエンブリオを見つけたいのに。ホントこれはどうしよう。





「・・・・・・あら、あなた達」

「あははは、どうも」

「かおるさん、すみません。ちょっと所要で」



そこの辺りに頭を悩ませながら玄関に向かって、ママにジャージ姿で出るのをちょっと注意。



「もうママ、だめじゃない。そんな格好で出ちゃ」



だけど玄関先に居る二人を見て、言葉が止まった。



「日奈森あむに・・・・・・蒼凪恭文っ! あなた達どうしてっ!!」

「いや、一人で外も歩けないお貴族様を運んで来たのよ」

「はぁ? なによそれ」

だからなんですかその言い草はっ! あなた、そんな言い方しか出来無くて自分が恥ずかしくないのですかっ!?



その声を聞いて、私もママも身体が震えた。いや、ママに至っては完全に顔が青冷めている。



「あははは、嫌だなぁ。それは散々貴族や子爵とか言いまくってるくせに道分かんなくなった人に言ってあげてくださいよ。
まぁそりゃあ何か体調悪いとか病気とかなら分かるけど、判断力しっかりしてるのにそれはとんだおバカさんとしか言いようが」

お黙りなさいっ! 本当にあなたは親からどういう教育を受けているのですかっ!!
いいでしょうっ! そういう事であれば今すぐに私があなたの親も含めて話をしますっ!!


「あぁ、そりゃ無理ですよ」

なぜですかっ! まさか親が居ないとでも言うつもりですかっ!!

「えぇ。あいにく僕は実の親も育ての親もとっくに居なくなっていますけど何か?」



なんか玄関前で凄まじく重い会話が繰り広げられている。しかもなんでか私の家の玄関前で。

後ろから足音がしたのでそちらを見ると、兄さんと父さんまで何事かという顔でこちらに来ていた。



またよくそんなデタラメを・・・・・・!!

「あぁぁぁぁぁぁぁっ! ルルのおばあさん落ち着いてっ!! そこはマジなんですっ!!
コイツ実の親も死んでるし、育ての親っぽい人とももう縁切ってるんでっ!!」

「・・・・・・本当なのですか?」

「えぇ。あの、その・・・・・・コイツも色々あって。悪い奴じゃないんですけど、基本口が悪いしカウンター大好きだし」

「あむ、それはどういう意味? 僕は基本おとなしい平和主義者だって言うのに」



とにかく玄関にもう少し近づいて、家族全員で外を見る。それで・・・・・・私達は全員驚愕の声をあげてしまった。

パパと似た色合いの髪に、白いスーツに険しい表情は・・・・・・あぁ、噂をすればなんとやらって本当にあるのね。



・・・・・・おばあ様っ!?

「・・・・・・・・・・・・えぇ」










ちょ、ちょっと待ってっ! どうしておばあ様が・・・・・・だってパリに居たはずなのにっ!!





あぁ、でも・・・・・・嬉しいかもっ! これでママが元の輝きを取り戻す弾みがつくわっ!!




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第104話 『We dream of a shining jewel in a box/天上天下唯我独尊っ!? 強烈おばあ様キャラ登場っ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しかし、物持ちが良いってのは美徳なのかねぇ。おかげで修理もはかどるはかどる」





何気にうちは汚かったりする。ゆかりからも『整理整頓の出来ない男』などと言われてたりしてた。

それは今も変わらずだよ。昔はともかく今はイースター時代に作ったロボットの試作品やジャンクを捨て切れないから。

その中には当然ながら×ロットのパーツとかもあってね。でも今回はそれで助かってる。



実はイースター辞める時に九十九辺りに僕の作品を触らせるのも嫌だったから、パーツも全部引き上げたんだよ。

でもパーツはあっても設備が足りないから、そこも準備して・・・・・・いや、これは何気に大変だ。

まぁじっくりで大丈夫だよね。ボディに仕込まれてた発信機は潰したから、向こうに僕の事が分かるとは思えない。



なので鼻歌なんて軽くうたいつつ、すっかり彼専用の部屋と化したリビングでいそいそと腕を動かす。





『・・・・・・なぜだ』

「何がだい?」

『なぜ、私を助ける。私はお前の生徒を・・・・・・蒼凪恭文を倒すために作られた』

「あー、それは困るなぁ。出来ればそういう事はしないで欲しいんだけど。
ほら、僕が蒼凪君の先生だって事を知っているなら余計にさ」



しかしまた蒼凪君も厄介なのに目をつけられたなぁ。この子のデータを見てるだけで力の入れようは感じるよ。

まぁ大丈夫か。九十九はアホだし、あの傷や記録された戦闘データを見るに今のこの子じゃ相手にならないっぽいし。



『それは無理だ。私はそういう風にプログラムをされている。
そして私のマスターである九十九はそれを望んでいる』

「あー、そのプログラムならもう消去されてるっぽいから問題ないよ? それに九十九ももう君のマスターじゃない」

『・・・・・・なんだと』



黒い身体の彼は身体を起こそうとするけど、僕はそれを右手で軽く押さえつける。



「動かないの。今大事なとこなんだから」



それで僕はまた胸元の方に向かい合う。しかしまた派手に壊したなぁ。蒼凪君、何気に過激だから大変だよ。



「言っておくけど僕は何もしてない。ほら、君と初めて会った時・・・・・・すぐに君、システムダウンしただろ?」

『あぁ』

「それで君の思考・動作プログラムを確認したら、何箇所か欠損部分が出来てた。
欠損しているのは君の行動原理に近いところだったし、多分消えてるのは今君が言ったところだね」



もうちょっと言うと、『必ずこうしなければならない』って言うような部分が消えてたんだ。

あの時は雨も降ってたし、多分そのせいだろうね。電子機器は強いようで脆いから。



「なにより見た限りではプログラムに九十九がマスターだって示すようなものは何一つなかった。
察するにそれも一緒に・・・・・・って感じかな。それで君が記憶を持っていられるのは奇跡だよ」





一応思考プログラムとそういう記録のためのメモリは別系統になってたんだ。

そのためになんとかって事だけど、それでも本当なら九十九の事とかも忘れてていいはずなのに。

なんというか、アレだよね。僕には九十九に縛られないためにその部分が消えたように感じる。



それでこの子は少しの間黙って・・・・・・唐突に口を開いた。





『・・・・・・確認した。いや、確認出来なかった。私のメモリーに重大な欠損部分が存在。
マスター登録も・・・・・・違うな。マスター登録のためのプログラムそのものが消えている』

「でしょ? つまり君は、もう九十九の命令で蒼凪君達を狙う必要はないって事。
いいや、九十九の命令を聞く理由そのものがないよ。だって九十九はもうマスターじゃないし」





この子はもう、九十九の命令に『絶対的に従う必要』が無いんだよね。

例え九十九がどういう命令をしても、全ての選択権はこの子自身に委ねられる。

それで他にこの子のマスターと成り得る存在も居ない。ここは確認済み。



ようするに九十九が不在の場合に備えての代理マスターを設定してないんだよ。

多分自分だけがこんな凄い子のマスターで居たかったんだろうね。

だからこの子は九十九の言う通りにしか動けなかった。言うなら首輪付きだよ。



でもその首輪は既に外されてしまったってわけ。





『そう・・・・・・なるな』

「そうなるね。何、不満?」

『不満・・・・・・解答、不能』










この子が現状にどこか戸惑っているような様子に見えるこの子を見て、ふと考えた。

・・・・・・前に読んだキカイダーって漫画のラストにさ、こんなセリフがあるんだよ。まぁロボット好きだし読んだ事があってね。

それは『人間になったピノキオは、本当に幸せになれたのだろうか』・・・・・・って言うのなんだ。





なんとなしになんだけど、そのセリフを思い出しちゃったんだよ。どこか重なるものを感じたからかな。





マスターを、操り手を無くした人形は・・・・・・そのままで本当に自由に、幸せになれるのかなってさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なぜ僕はここに居るんだろう。いや、厨二的な問いかけじゃなくて現実問題として分からない。

僕とあむは早々に退散しようとした。てーかやり合っててもこっちの血圧上がるし。

なのにどうしてか僕とあむはご飯を出されて、一緒に麻婆豆腐食べています。あれれ、おかしいなぁ。





僕はルルやヘイ、かおるさん達を見るけど・・・・・・ルル以外は妙に緊張している。










「・・・・・・しかし君は勇気があるな」



ヘイが困ったような顔で小声で僕の方に話しかけてきた。



「うちのおばあ様と真正面からあれだけやり合えるのは中々居ないぞ。というか、俺の知る限り君が初めてだ」

「いやいや、あれくらいは根性入れてやればなんとか」

「ならないならない。現にうちの両親を見てみてくれ」



言われるまでもなく見ている。だからヘイが何を言いたいか、とっくにもう知っている。



「モルセール家の嫁な立場の母さんはともかく、実の息子である父さんでさえあの調子なんだ」

「・・・・・・納得しました」



でもおかしいなぁ。僕はあくまでも冷静に話していたのに。いや、本当にだよ?

今までの話を見てもらえれば、僕が如何に平和的解決を望んでいたかは理解してもらえると思う。



「てゆうかそこの二人、真面目に空気を読んでくれないかしら。せっかくの家族団らんなのに」

「その二人にはまぁ色々とありましたが、ここまで道案内をしてもらいました。子爵として礼をするのは当然です」

「ですよねー。さすがおばあ様」



おいおいっ! この子舌の根が乾かない内にとかそんなレベルじゃない速度で意見180度方向転換したよっ!!

あ、ヘイがそれを見てため息吐いてる。どうやら兄的にもあの様子は辛いらしい。



「しかし」

「は、はい。なんでしょうお母様」



おばあさんは視線を鋭く動かし、リビング全体を見る。



「子爵の家にしては少々庶民的ではありませんか?」

「・・・・・・恭文、この家は庶民的なの?」

「いや、一般的に言うなら広い方だよ。家具も結構こだわってるっぽいし、レベルは高い方だと思う」

「だよねぇ」




とりあえずこのおばあ様が日本の住宅事情を鑑みない上で、なにか無茶振りしてるのは分かった。



「それに息子よ」



それでまだ無茶振り続くんかい。



「使用人は何人居るのですか?」

「いや、使用人って・・・・・・ママ、ここは日本で」

「そうですよ。パリとは違ってそういうのはないですから」

貴族の家ですっ! 使用人の一人や二人は当然でしょっ!!
ヘイもそれとはなんですかっ! あなたももう少しシャキっとなさいっ!!


「「・・・・・・すみません」」



とりあえずアレだ。このおばあ様がマジでモルセール家の頂点に存在しているのは分かった。

それでそのおばあ様がどんだけ無茶振りかは、一般家庭なあむの頬の引きつらせ方で察せると思う。



さすがですおばあ様ー! 私が常々言いたかった事をそのものずばりとっ!!



そこのイエスマンはもう黙れ。おのれを見てるとStS第8話の悲劇とか思い出すからやめて。



「それと・・・・・・こんなものをここに来る途中でもらいました」



言いながらおばあさんがどこからともなく取り出したのは・・・・・・アレ、楽しい夕食がいつの間にか説教タイムになってるような。

とにかく取り出したのは、カラー刷りのチラシ。そこにはウォーキングマシンに乗ったかおるさんが居た。



「あ、これ『気持良さげー』ですよね? 僕このCM好きなんですよー」

「あたしもあたしも。学校でも大評判で」

「ホントにっ!? あぁ、嬉しいわー」

嘆かわしいっ!!



あぁもううるさいっ! てーかマジでいちいち叫んで疲れないのっ!? このおばあさんはさっ!!



パリで女優をしていた頃はこんなではなかったはずっ!!

「・・・・・・すみません」





・・・・・・なんでかあむが僕の肩を押さえている。てゆうか、かなり必死な顔で僕を見ながら首を横に振る。

それだけじゃなくてヘイまでが顔を真っ青にしてあむと同じようにしてるのよ。

なんでだろうねぇ。僕はもう無茶苦茶冷静よ? というか、キャンディーズまで僕の前に来て止めようとしないでよ。



お願いだから僕がこれからキレようとしてるみたいな対処の仕方はやめてよ。僕は本当に冷静だし。





「あなた達は貴族の誇りを忘れています。どうせ厳しい私から逃げて、この日本で好き勝手遊び呆けていたのでしょう」

「「違います違いますっ! 誤解ですっ!!」」

お黙りなさいっ!!

「・・・・・・・おのれが黙らんかいっ! このバカがっ!!」



あーもう、あったまきた。なんかまたおばあさんがこっち睨みつけるけど、気にせず立ち上がる。



「バカとはなんですかっ! これは家族の問題ですっ!! あなたは黙ってなさいっ!!」

「そういうのがバカだっつってんのよっ! てーかそもそも客人の目の前で散々やらかすなー!! 子爵としてそれどうなのっ!?」



そこまで言って、さっきから感じていた違和感に一つの推論が唐突に思いついた。

いや、まさか・・・・・・ううん、ありえるかも。お国柄や歴史の違いでも説明は出来るし。ならここは・・・・・・悔しいけど乗る。



「なによりこれの何がダメだって言うのっ!? おのれはこのCMに出てる時のかおるさんを一度でも見た事があるんかいっ!!」



言いながらあのチラシを指差して、分からず屋なおばあ様にも分かるようにしっかりとお話する事にした。

でも、あくまでも冷静にだよ。決してかおるさんをバカにされたのがムカついたとかそういう事ではない。



「あなた、おばあ様に向かってなんて口の聞き方を・・・・・・すぐに謝りなさいっ!!」

黙ってろ

「ごめんなさいっ! 私が悪うございましたっ!!」

『ルルが引き下がったっ!?』



余計な横槍はそれとして、改めて僕はおばあ様を見る。



「もしも見た事もないのにそういう風に言うなら、自分がバカだと言ってるようなもんだよ。
僕にはこのCMに出てるかおるさんが、映画の時のかおるさんより下とは全く思わないね」



それで鼻で嘲笑って見下してやる。それでおばあ様はわなわなと肩を震わせる。



「どっちのかおるさんも色は違うけど、キラキラしてる事は変わらない。
どっちのかおるさんもとっても輝いてる。だから今すぐ・・・・・・かおるさんに謝れ」



でも僕の言葉で、全員が目を見開く。僕を止めようとしていたあむの力が緩まった。



「お前が今言った事はかおるさんが一生懸命にやった仕事を、ちゃんと知ろうともしないでバカにしてる。
僕はただその一点が許せない。そんな理屈でかおるさんの輝きを縛り付けるな。だから謝れ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 恭文くん落ち着いてっ!?
私は大丈夫だからっ! 本当に大丈夫だからっ!!」

「そうだぞっ! しかも君目がマジじゃないかっ!!
さすがに俺達も怖くなってくるからやめてくれっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、なんとか落ち着いた蒼凪恭文は平然とご飯を平らげて日奈森あむと一緒に戻っていった。

全く・・・・・・あの子はいったいなんなの? 子爵の誇りをバカにするような事言って。

しかもCMのママも輝いてる? 嘘っぱちよ。ママは女優をやってこそ輝きを放つの。私が一番知ってる。





まぁそんなイライラを一旦収めつつ、私はおばあ様とお部屋で紅茶をゆっくりと飲む。・・・・・・あぁ、落ち着くわ。










「おばあ様、不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません。
もう二度とこんな事がないように、私からあの子にはキツく言っておきますので」

「構いません。私も面白かったですし」

「そうですよね、面白く・・・・・・はぁっ!?」



思わず声を上げてしまった。それでおばあ様は・・・・・・あ、なんか笑ってる。



「男の子というのは、本来アレくらい跳ねっ返りが強い方が大物になるものなのですよ。むしろ好感が持てます。
そのせいでついつい若い頃に戻った気分でやり合ってしまいました。あんな形で口喧嘩をしたのはいつ以来でしょう」

「え、あんなのやった事あるんですかっ!?」

「えぇ。私がまだ若かった頃・・・・・・日本人のボディーガードを付けた時にですね。
ヘイハチ・トウゴウと言う方なのですけど、これがまたとんでもない男でした」

「は、はぁ」

「ルル、将来婿をもらうならあの子のような子をもらいなさい」



・・・・・・いきなりとんでもない事を言い出した。それで思わず顔が真っ赤になってしまう。



「おばあ様、いきなり何を言い出すんですかっ! 冗談でもやめてくださいっ!!」

「冗談ではありません。もちろんあの子を必ず婿にしろと言っているわけでもありません。あなたにも選ぶ権利はあります」

「そ、それを認めてくれるのは嬉しいですけど」



何気に言い方ヒドいわね。いや、こういう方だとは知っているけど。



「そうですね、もう少し言うと・・・・・・あの子のように、誰かが目の前で侮辱されら本気で怒れる人を見つけなさいという意味です」



それがさっきのアレコレを言っているのはすぐに分かった。つまり・・・・・・え、そういう事で大丈夫かしら。

おばあ様、アレは蒼凪恭文を試すためにワザととか? あとは日奈森あむもよ。



「立場や人種に関係なく、真っ直ぐにその相手とぶつかれる心根の強い殿方を見つけなさい。
そういう殿方は昨今では本当に貴重です。ご時世なのか、妙に馴れ合いの上手な方が多いですし」

「その代表があの子・・・・・・ですか。でもあの子はただ単に無知で世間知らずな子どもですよ?」

「ふふ、そうかも知れませんね」



それでまたおばあ様は静かにお茶を飲んだ。えっとあの・・・・・・アレレ?

この場合私はどうすればいいのかしら。ちょっと困ってしまうのだけど。



「ルル、日本はもう慣れましたか?」

「はい。おばあ様」

「絵は描いていますか?」



唐突にそんな事を言われて、少し胸が痛くなる。



「絵・・・・・・ですか」

「えぇ」



胸の痛みはすぐに引いたけど、なぜか今度は寂しい気持ちになってくる。それがどうしてか、自分でもよく分からない。



「昔はよく描いて私に見せてくれました。将来は画家になりたいと言って」



・・・・・・あぁ、あったわね。でもなんだろ、今思い出すと恥ずかしいわ。

あ、だから痛かったのかも。そんな完璧とは程遠い過去の自分を思い出したから。



「絵本も好きでしたね。大きくなったら自分もこんなお話を」

「もうおばあ様、よしてください」



気恥ずかしくなって、慌てて苦笑気味におばあ様を見てお話を止める。



「全部子どもの頃の話。なんだか恥ずかしいですわ」



そう、全部子どもの頃の話。いわば妄想の類と同じ。だから苦笑は止まらない。



「私はおばあ様を見習って完璧を目指し、子爵の末裔としてふさわしい自分を目指していますから」





だからあの時の私は完璧とは程遠かった。だから痛くて恥ずかしい。

アレよ、いわゆる厨二病な時の自分を思い出して辛くなるのと似ているのかも知れない。

でも今の私は違う。大人になり、完璧を目指す事にしている。だからそんな痛い行動はしない。



だって私が目指しているのは、目の前のおばあ様のような素敵且つ完璧な自分なのよ?

おばあ様は完璧よ。完璧で、常に堂々としていて・・・・・・そして輝いている。

そう、私はこんな風に完璧じゃなくちゃいけない。だから・・・・・・だからママにもそうあって欲しいのに。



自然と落ち込む私の表情から何かを察したのか、おばあ様は何も言わずに優しい瞳で私を見てくれていた。



きっとおばあ様も私と同じ気持ちなのだと思った。ママは・・・・・・本当に今はダメになってるもの。





「・・・・・・ジュエリーは作っているのですね」



それで視線を動かして、おばあ様は部屋の中のジュエリーケースに視線を向ける。

私も自然とそこを見るんだけど、つい困った表情を浮かべてしまう。



「はい。でも最近、満足いくようなものが作れなくて。・・・・・・今はママがあんな感じだから」



あの頃の完璧だったママの輝きを取り戻したいのに、取り戻せない。どんなに頑張っても手が届かない。

その間にママはどんどんダメになって・・・・・・そんなの、嫌なのに。私は手元の紅茶に視線を落とす。



「ルル」



少し鋭い声でおばあ様が私に声をかけてきた。私は落としていた視線を上げて、おばあ様の方を見る。



「あなたの夢はなんですか?」

「え」

「やりたい事はありますか」










・・・・・・私はおばあ様の問いかけに、何も答えられなかった。私の・・・・・・私のやりたい事。

それはやっぱり、一つだけよね。私はママの輝きを取り戻したいんだ。

そうよ、そんなの分かり切っている。私が目指す私なりの完璧な輝きの答えよ。





ならどうして? どうして私は今、何も答えられなかったのかしら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ママ、どうも僕達が逃げてきたと思ってるみたいだね」

「そうみたいね。あぁ、どうしましょう」



正直恭文くんがキレたのはいいのよ。元々あの子がああいう感じの子だってのは知ってるもの。

それに・・・・・・ちょっと嬉しかったのよね。ルルともパーティー以来微妙な感じが拭えなかったから。



「でもハニー、恭文君は元々ああいう子なのかい?」

「あ、パパ的には不愉快だった?」

「いや、それは大丈夫なんだ。ただ君の事であそこまでキレるのかと言うのは少し疑問で」

「・・・・・・恭文くんは元々そういう子よ? 私と初めてあった時も、ちょっとゴタゴタがあってね。
その時にも今みたいに納得出来ない事に『納得出来ない』って声をあげて頑張ってたの」



その様子を見て、フィアッセ・クリステラさんやスクールの人達がどうしてあの子を信頼出来るのかがよーく分かった。

私自身もお話してて好印象を持てたのもあるし・・・・・・そこを思い出して、つい寝室のベッドに腰掛けながら笑ってしまう。



「そういう声をあげる勇気があの子にはあるの。悲しい事を全部吹き飛ばすようなパワーがね。
誇りどうこうを含めても、黙ってられなかったのよ。なんか嬉しかったなー」



パパは私の背中に左腕を回し、そっと抱きしめてくれる。私はそれにゆっくりと甘えていく。



「ただそのせいで色々苦労もしてるみたいだけどね。
だけど私は、それがあの子のいいところだと思うから」

「そうかい。でも、なんだか少し妬けるね。君の心は今、あの子でいっぱいみたいだ」

「あら、浮気するつもりはないから大丈夫よ? 私はパパだけ」



どうもヤキモチ焼かせてるようなのでパパの方を改めて見てウィンクすると、パパは嬉しそうに頬をほころばせてくれた。



「それはよかった。なら・・・・・・問題はママの方か」

「そうよねぇ」





だけど問題はお母様の方。まぁその、ルルってお母様の影響を本当に強く受けているの。

あの子の完璧主義や性格は、お母様を尊敬するがゆえと言ってもいい。もっと言うと模倣・・・・・・ううん、違うな。

そういうのとは違う。尊敬して、大好きだからおばあ様のような女性になりたいと思うのは本心だもの。




うぅ、どうしましょう。この調子でパリに戻るなんて流れになったらダメなんじゃ。

あのね、ルルがお母様の影響を受ける事そのものはいいの。そこは本当にいいの。

確かにかなり融通が利かない所もあるけど、基本的には素敵な人だから。



パパや私にヘイも頭こそ上がらないけど、本当に尊敬出来る方だとは思っている。

そうじゃなかったら家族なんてやっていられません。でも問題は・・・・・・むしろルルより私の方。

私はこのためにまた女優の仕事を本格的にやるようになるのはマズいの。



私、仕事の量をコントロールして出来る限り家に居るために日本に来たようなものだから。

だから先日来たあの依頼も断るつもりなんだけど・・・・・・うーん、どうしてなのかしら。

その場で返事をしてしまえばいいだけだったのに、一瞬戸惑って考える事にしてしまった。



何か、何か足りないような気がしてる。だけどそれが分からなくて、そこも含めてパパと一緒に頭を悩ませている。





「よし、僕も今回は頑張ってママとちゃんと話すよ。それで納得してもらわないと」

「パパ、ありがと。だけど・・・・・・まず頭を上げられるかどうかが問題よねぇ」

「・・・・・・そこは考えないようにしようか。マイハニー」

「・・・・・・そうしましょうか」










そして夫婦二人で深く・・・・・・深くため息を吐く。ホントこれはどうしましょ。





まさか恭文くんに頼っちゃうわけにもいかないのよね。というか、それは絶対無理だわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日。なんでかあの後あむやフェイトに軽くお説教を喰らった。・・・・・・いや、なんでっ!?

それに軽く首を傾げつつもフェイトのほっぺをむにーとして、ディープに行ってきますと行ってらっしゃいのキスはした。

今はもう放課後だけど、あれからフェイトは悶々とした気分で過ごしている事だろう。





それで僕が何をしているかというと、ガーディアン会議。だけどそれはもう終わり。





でもそんな時、ロイヤルガーデンの入り口に人の気配が生まれた。それについ寒気が走った。










「・・・・・・蒼凪君、どうしたの?」

「いや、その・・・・・・この気配は」

「おじゃまします」



その声にあむ共々固まりつつも振り向くと・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やっぱりあのおばあ様だしっ!!



「おばあさんっ!? え、なんでここにっ!!」

「あなたと」



それでおばあさんは僕の方に視線を移す。



「そこの彼が本当にルルとヘイの友人にふさわしいか見に来ました」

「「・・・・・・はぁっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



頭が痛くなりつつも、応対する事になってしまった。そしてみんなに事情説明。





みんなにはルルの事とかも話していたので、ここはすんなり納得してくれた。でも問題がある。










「この紅茶を淹れたのは誰ですか?」

「僕ですけど」



それはね、この状況をどうするべきかをすっごい迷ってるって事だよ。

現に紅茶淹れて持っててもすぐに呼びつけられるしさ。あははは、3期始まって3話目にしてコレってどうなのよ。



「・・・・・・・驚きです。指摘する所が無い程にレベルが高い。
お店でもこのレベルの紅茶は中々飲めません。どこかで勉強していたのですか?」

「えぇ。友達の喫茶店の手伝いしてたんで。あとは紅茶の淹れ方の師匠が二人ほど」

「そうですか。では、腕を錆びつかせないように精進なさい。
その年でこれだけ出来るのは本当に素晴らしい事です」

「はぁ、どうも」



それでおばあさんはゆっくりと紅茶を飲む。僕はとりあえず問題なさそうなので下がった。

・・・・・・てーかちょっと待って。なんでこんな場の空気が緊張感に満ちてるの? おかしいって。



「恭文君、やったね」

「ナギナギ、やるじゃねぇか」

「なぎひこ、リズム、それ意味分かんない。具体的にはあのおばあさんがここに居るのと同じくらいに意味分かんない」



それで二人は僕の方を見て苦笑いしつつ頷く。なお、それは僕だけじゃなくてあむも同じ。

もうね、凄い混乱してラン達共々頭抱えてるし・・・・・・マジでどうしてこうなった。



「しっつもーん。フランスパンはなんであんなに固いのー?」

「あ、リインもですー。あのあの、毎日フランス料理食べてるですかー?」



それでそこは空気読めっ!? それでリインはどんどんやや寄りになってきてるねっ!!

なによりその質問をあのおばあさんにするのは激しく間違ってるでしょうがっ! なんでそこ読み違えるっ!!



「あなた達は何年生ですか」

「「5年生でーす」」

「だったらもっと大人らしくなさい」



おばあさん、素晴らしいツッコミです。でも二人には効果ありませんって。

なんかまだ笑ってるし、そこは常々僕も言っているところなんです。



「「えー、でもでも」」

・・・・・・甘えるでないっ!!



ロイヤルガーデンにおばあ様の声が響き渡った。そして二人は一瞬固まって、次の瞬間に泣き出す。



「「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 怖いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」



それでバカ二人はそのままこちらに戻ってくる。リインが僕の方に飛び込んでくるので、軽く避けてやった。

でもリインはホーミング性能があるので、僕の左横を通り過ぎようとした瞬間に足を止めてジャンピング抱きつき。



「・・・・・・・恭文、あなたあのおばあさんを見習ったら? きっと振り切るってああいう事よ」

「うん、そうだね。僕もなんかそう思い始めてたとこだったよ。ほら、現状を見れば分かるでしょ?」

「えぇそうね。私もなんだかそう思い始めていたところだったわ」



でもヤバい。具体的にはこのカオスな状況のゴール地点が見えない。

なんかこのまま残りの尺使っちゃいそうで怖いんですけど。



「唯世、相手は子爵の末裔。失礼のないようにな」

「う、うん」



もう頭抱えまくりな状況の中で、ついに唯世が動いた。唯世はおばあさんに近づいて丁寧に会釈。



「ようこそ、ロイヤルガーデンへ」

「髪に寝ぐせがついてますよ」

「えっ!? あの、寝ぐせなんて・・・・・・あ、まさか」



唯世は驚きながらも両手で自分の頭のアホ毛を・・・・・・おばあさん、それ違うっ!!

それアホ毛っ! それは立派なチャームポイントだからっ!!



「・・・・・・お兄様、あの方は本当にいったい何しに来たんですか」

「僕に聞かないで。まさか昨日のケンカの続きや仕返しって感じじゃないだろうし・・・・・・シオンも読み切れないの?」

「残念ながら」

「「あぁもう、行っちゃえ王子ー!!」」



ややとリインのバカが笑顔でとんでもない事言った瞬間に、唯世の頭に王冠が付く。

さすがに相手が悪過ぎると思い、リインを強引に引っぺがして下ろした上ダッシュ。すぐに唯世の背後を取る。



「・・・・・・王子? 僕を王子と」



それで背後から気配を感じた。咄嗟にこちらに投げられたバケツを視線も向けずに左手でキャッチし、そのまま唯世に被せる。



「はいそこまでっ!!」



それでキャラチェンジはストップ。それで僕は後ろに視線を向けると、なぎひこがサムズアップしてた。僕も左手で同じように返す。



「・・・・・・どうしたのですか、いきなり」

「いえ、なんでも・・・・・・アレですよ。気にしないでください。てゆうか気にされると困るんで」



そのまま唯世を引きずって後ろに下がらせる。というか、なぎひこの方を見て頭を下げた。

それからすぐにややとリインを睨みつけたら・・・・・・二人とも素知らぬ顔しやがったし。



”リイン、しばらくハグもキスも一緒にお風呂も禁止だから”

”なんでですかっ!? リイン怖かったから仕返ししただけなのですっ!!”

”相手見てやってっ!? 間違なく唯世が返り討ちに遭うだけだしっ! それになによりこの人がこうなのは多分”

「・・・・・・おばあ様、なにやってるんですかっ!!」



言いかけたところでまた来客。息を切らせながら飛び込んできたのは・・・・・・ヘイとインだった。



「ヘイさんっ! あの、あなたまでどうしたんですかっ!!」

「インさんも・・・・・・珍しく慌ててますね」

「あぁ、恭文君っ! みんなもうちのおばあ様が・・・・・・本当にすまないっ!!
突然にここに案内してくれって言うから連れてきたらこのありさまでっ!!」

「かなり探しまわって・・・・・・やっと見つけたの」



なるほど、だから迷子になっていたこのおばあさんが唐突にここに現れたと。

制服をアテに探せる感じでもなかったから、正直変だなぁとは思ってたんだけどそういう事かい。



「ヘイ、謝る必要はありません。私はこの二人が本当にあなたやルルの友達にふさわしいか見に来ただけです」

「だからそれダメですからっ! そんな選定されて友達が出来ても意味ないでしょうっ!!」

「あら、家族として最低限見極める程度は構わないでしょう? ・・・・・・さて」



そう言いながらおばあさんは立ち上がって、改めて僕達の方を見た。



「迎えも来た事ですし」

「え、俺そういう役回りっ!?」

「そろそろお暇するとしましょう。お邪魔しましたね」



・・・・・・こうして、いつ終わるとも知れないカオスは終わりを告げた。というかアレだ、ヘイさんお疲れ様。



「あなた達も来るのですよ」

「「「・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」」」










それで結局僕とあむは、平謝りなヘイとおばあさん共々ロイヤルガーデンを出た。・・・・・・え、みんな?





嬉しそうな顔で見送りやがったよっ! 普通に見捨ててくれやがったしー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



場所を移して聖夜小のグラウンド。どういうワケか四人で楽しそうにサッカーをしているみんなを見ていた。





ベンチに座って早数分。・・・・・・横でまた天を指差してるシオンとインは一切無視する事にした。










「あの、おばあ様。二人にも用事とかがあるかも知れませんし」

「お黙りなさい」

「はい、申し訳ありません」



だから舌の根も乾かないうちに意見変えないで。超高速とかそんなレベルじゃないから。



「・・・・・・日本の子ども達はいいですね。のびのびして」

「「はぁ」」

「ルルも昔はそうでした。ヘイ、あなたも覚えているでしょう」

「まぁ、それは。毎日のように夢が変わってましたから」



ヘイは視線をサッカーをしているみんなに向けて、楽しげに笑う。



「昨日は歌手、今日は画家、明日は女優・・・・・・毎日のようにころころとなりたいものが変わっていた。
でもどの夢もルルにとっては本気で、まるで夢の宝石箱でもルルの中にあるんじゃないかって感じで」

「えぇ。・・・・・・あなた達」



おばあさんが少し微笑みながら、僕とあむの方を見る。



「私の事を、口うるさい年寄りだと思っているのでしょう?」

「いや、そんな事は」

「口うるさいとは思ってませんけど、腹の底が読めないとは思ってます。昨日のアレだって絶対ワザとだろうし」

「恭文、アンタマジ空気読んで・・・・・・え、ワザとっ!? アレってまさか、あの口喧嘩っ!!」



なので僕は頷いてやった。それでおばあさんは驚いた顔をしながら楽しげに笑う。

あむとヘイの二人は唖然としながら僕達の方を見ていた。



「あなた、いつ気づいたんですか?」

「気づいたのはかおるさんの話になってからですか? てゆうか変だと思ったのは・・・・・・そうだな、一番最初に会った時。
僕達がルルやヘイさんと知り合いだって知ってから、急に空気が硬くなりましたし。僕達の事、相当警戒してましたよね?」



確かにあのコンビニのアレからぶっ飛ばしてたけど、僕とあむが二人の関係者だって知ってからはそれ以上だよ。

警戒というか、そういう感情を向けられてたのは気づいた。だからやたらと噛みついてたのかも。



「多分警戒し始めたキッカケは、僕達が会う前からやってた『お説教』。それで目についた日本の若年層。
現に昨日おばあさんがお説教かました連中は、全員ルルとヘイさんと同年代ばかりでした」



描写こそされてないけど、あのコンビニの前に居たバカ共みたいな感じのにばかりお説教してたのよ。

逆に大人とかはスルー気味だった。とにかく若年層に一目散ーって感じだったし。



「それで一緒に歩いている間も食事中もずーっと僕達の様子を気にしてた。
てゆうかあの場で説教始めたのも、僕達の事試してたんですよね」

「待て待てっ! おばあ様が君達を試してたって・・・・・・なんのためにっ!!」

「目の前でそういう事をやられてどういう反応を示すか・・・・・・僕達の人間性を試した。
それでルルやかおるさん達とどの程度親しいかも見極めようとしてたとか」

「・・・・・・・そこまで見抜かれてたのですか。では、悪い事をしましたね」



ヘイとあむはやっぱり驚きながらおばあさんを・・・・・・って、二人とも気づいてなかったんかい。

あむはともかく、ヘイは気づいてもよさそうだったのに。まぁおばあさんに相当怯えてたからしょうがないか。



「いいですよ、別に。てゆうか、そういう性分でもあるんですよね」

「そういう事になるのでしょうか。・・・・・・・私は小さい頃から子爵の娘として育てられてきました。
家を守る事が私の役割で、それを果たすために夢など持つ余裕も時間も許されていませんでしたから」

「それで家を守るためには、外敵を見極める目も必要。
というか、そういうマニュアルでもあるんですか?」



未だに驚き続ける二人は無視してそう言うと、おばあさんがまたなぜか嬉しそうにこちらを見始める。



「・・・・・・えぇ。あなた、どうしてそこまで」

「子爵なんですよね? だったら歴史の中で伝えられたものの中に、処世術の類もあってもおかしくはないかなーと」

「そうですか。まぁ・・・・・・そういう事もあるかも知れませんねとだけ、答えさせていただきます」

「分かりました。ならここは僕ももうツッコみません」





あー、やっぱりそういう方向か。ようするに先祖代々伝えられた処世術みたいなのも仕込まれてるのよ。

もちろん詳しくは分からないけど、その一つが昨日の口うるさい年長者を演じるという事なんでしょ。

そういう伝統・・・・・・狭めな閉鎖社会で積み重ねられたものは、近代的な一般常識とは真逆になる時もあるのよ。



そうだね、このマニュアルを御神流みたいな剣術や藤咲家の修行に置き換えると分かりやすいかも。

僕もそういうのに関わる事が多かったから、すぐに納得出来る。

・・・・・・そんな話をしている間にもかけ声が響き、サッカーボールはゴールに向かって飛ぶ。



確かにここの生徒はのびのびしていると思う。まぁ理事長があんな感じだしなぁ。





「・・・・・・私自身が今言ったような幼少期を過ごしてきました。だからルルにはもっとのびのびとして欲しいのです」



またおばあさんは、そんな生徒達をどこか羨むような目で見ていた。



「もちろんヘイにも。まぁ、ヘイに関しては微塵も心配はしていなかったりしますが」

「・・・・・・おばあ様、それは傷つきます」

「何を言っているんですか。あなたも昔のルルと同じく、夢の宝石箱を持っているでしょう?
武術も強くなりたい。料理も上手になりたい。もっと色んな事が出来る自分になりたい」

「おばあ様、頼みますからやめてくださいっ! なんかもう恥ずかしいんですっ!!」



本当に困った様子のヘイを見て、僕とあむはつい笑ってしまう。だって顔真っ赤で面白いし。



「ただあなたに関して心配している事があるとすれば、二つだけでしょうか」

「と言いますと」

「一つは余りにルルの事にかまけ過ぎて、自分の他の夢をおざなりにしないかどうか。
そしてもう一つは守りたいが余り、ルルに自分の描く理想像を押しつけていないか」



でもヘイの表情はその言葉で固まった。目を見開きながらおばあさんの方を見た。

それでその言葉は・・・・・・僕にも突き刺さるものだった。僕にも、そういう覚えはあるから。



「あなたがルルを大切に思っているのは分かります。ですがそのためにあなた自身の願いをおざなりにしないで欲しい。
・・・・・・何かを守りたいのであれば、自分の中にあるその何かを大切に出来るようにならなくては」



それでまた更に突き刺さった。色々覚えがあり過ぎて、僕にも言われてるような感じがする。



「そうでなければ、人は簡単に忘れてしまいます。守りたいものの価値が、どれほどの大きさなのかを。
そして守りたい気持ちが強ければ強いほど、見失います。それが自分とは違う人間の輝きである事を」

「忘れ、見失う・・・・・・俺がその道を進んでいると」

「かも知れません。だからヘイ、もっと欲張りになりなさい。追いかけたい願いが沢山ある事は幸運です。
そして感情が強くなる分だけ、目を見開いて逃げずに今を知りなさい。いいですね?」

「・・・・・・はい」

「よろしい」



真剣な面持ちで頷いたヘイさんを見て、おばあさんは満足気に穏やかな笑いを浮かべた。



「あとはルルでしょうか。あの子には私のこういうところを受け継がせてしまったようでどうしても心配で」



それでわざわざパリから来た? いや、さすがに・・・・・・ありえるな。

少なくとも心配そうな顔している今の様子を見るに、ただの暴君ってわけじゃあなさそうだし。



「おばあさん、そんな事ないんじゃないかな」



でも、そんなおばあさんを否定するようにあむは笑っていた。おばあさんは軽く目を見開いてあむを見ている。



「そう思いますか?」

「うん。だってルル、なんか色んな事上手だし頑張り屋だし・・・・・・あたしも見ててすごいなーって思った事あるし。
まぁ少し素直じゃないとこはあるけど、あたしから見てルルは充分のびのびしてるから・・・・・・うん、きっと大丈夫」

「そうですか。なら・・・・・・少しは安心出来ます」










それで四人で空を見上げる。空はやっぱり青くて、それでとっても広かった。

・・・・・・何かを、守るかぁ。僕、フェイトの事にかまけっきりになってるつもりはなかったんだけどなぁ。

でも・・・・・・なんだろ、何か引っかかる感じがする。僕、自分の夢をおざなりにしてたのかな。





だから引っかかってるのかな。だから引っかかって・・・・・・スターライトのたまごの子の事、考えちゃうのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おばあ様の事はそれとして、私はイースター社の方に向かっていた。

もちろん用件はエンブリオ出現の条件を、萬田さん達に相談するため。

なんだけど・・・・・・到着して10分。私は未だ入り口の方に居た。





それは目の前の黒服黒メガネな男達が私の入場を思いっきり妨げてくれるせいよ。










「・・・・・・だから、なんでっ!? 私も兄さんも顔パスだったじゃないのよっ!!」

「専務の命令だ。関係者でもないものを入れる事は出来ない」

「関係者でもないってなにっ!? 私は立派なイースターの関係者よっ!!」

「残念ながらそれは昨日までの話だ。・・・・・・イースターに役立たずは必要ない」



どこかあざ笑うようにそう言われて、事態が理解出来た。

どうやら私が思っていたよりもずっと・・・・・・ずっと早く、見切りをつけられたらしい。



「もう我々イースターはなぞたまなどと言う欠陥品はアテにはしない。これからはデスレーベル作戦が主軸となる」

「ルル・ド・モルセール・山本、君は兄共々無価値と判断されたんだよ」

「・・・・・・そう、分かったわ」



このまま引き下がるのは本当に悔しい。だから私は両手で宝石を出して、男達の胸元に叩きつける。

そのまま指を動かして、スーツを軽く掴む。服の中の肌を爪で削ってもいるだろうけど、気にしてる余裕はない。



「な・・・・・・!!」

「こら離せっ! さもないと」

「やりたいように、やったらえぇがね」



次の瞬間、宝石が輝いて男達の胸元からハテナマークのたまごが出てくる。



「さもないと・・・・・・何かしら」



男達は私を掴もうと上げていた腕を下ろし、その場で立ち尽くしていた。

それを見て私は、身の程も弁えられない無価値なバカ共を嘲笑う。



「あと、さっきアンタ達が言った事は勘違いよ。役立たずで無価値なのは・・・・・・アンタ達だわ」





私は宝石から手を離してハテナマークのたまごを掴み・・・・・・握り潰した。

手の中で何かが砕けるような嫌な感触が伝わるけど、気にせずに私はその手を引く。

男達は虚ろな顔のままその場で崩れ落ちて、微動だにしなくなる。



それを見てもう一度笑ってから踵を返した。踵を返して、早足で本社から離れていく。それで両拳を強く握り締める。



街の雑踏がやけに耳について非常にうるさい。それを振り払うように、私は速度を早める。





「ルル」

「なによ」

「アンタ、あんな・・・・・・なぞたまは壊したりは無理なんじゃ。いったいどうしたら」

「何言ってるのよ。変質させたのは私よ? だったら砕く事も出来て当然じゃない」





別に、心なんて痛まないわ。無価値なものを砕いて捨てただけ。

イースターが私達を切り捨てたのと同じよ。なによりあんな奴らのたまごが砕けたって、何が困るって言うの?

誰も困らないわよ。そうよ、誰も困らないわ。どうせ連中も同じ穴のムジナなんですもの。



今まで私がなぞたまにした奴らと同じく、自分の夢も分からないようなバカなんですから。

奴らは完璧じゃない。不完全なくせに虎の威を借る狐の如く、人を見下す事しか出来ない。

そう、完璧じゃない。だからいらないわ。奴らは無価値でいらない存在だった。



そして完璧じゃないものなんて・・・・・・いらないのよ。いらない、そんなもの必要ない。





「・・・・・・見つけてやる」



あの気持ち悪い感触を忘れるために、私は強く・・・・・・強く拳を握り締める。

手に爪が食い込む事も気にせずに、ただ握り締める。



「絶対にエンブリオを見つけてやる。もうイースターなんてこっちから願い下げよ。
それで必ず・・・・・・必ずママの輝きを取り戻すんだから。それが私の夢なんだ」

「・・・・・・ルル」










完璧じゃないものはいらない。だから私は・・・・・・ママは完璧じゃなくちゃいけない。





あの時のママの輝きを取り戻さなきゃ、ママが消えちゃう。そんなの私は嫌だもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日はオフなので家事を頑張っていると、出かけていたお母様と疲れた顔のヘイが帰って来た。





ヘイがここまでゲッソリするのは珍しいなと思っていると、お母様に声をかけられる。





それで現在、食事用のテーブルで向かい合わせに私達は座り・・・・・・あの、私何かしたかしら。










「さっき、ヘイに案内してもらってあの子達の学校に行って来ました」

「あの子達の・・・・・・え、聖夜学園にっ!?」

「えぇ。それで少し話をさせてもらって、日本の子ども達の様子も見せてもらって、ようやく分かりました」



おばあ様はテーブルに膝をつきながら、私の方を安心したような顔で見た。



「どうしてあなた達が日本に来たのか。・・・・・・全てはルルとヘイのためですね?」



・・・・・・どうやら、私達がお母様に頭が上がらないのはもうしばらく続くらしい。

だってお母様は私達が頭を悩ませている間に、全部知ったんだから。それが嬉しくて、つい涙ぐんでしまう。



「・・・・・・はい」

「なら、タラランティーノ監督の映画の話も断るつもりですか?」



でも、その涙が一瞬で吹き飛んでしまった。私は思わずおばあ様の方を驚いた顔で見てしまう。



「お、おばあ様・・・・・・その話はどこでっ!?」

「私の方にまで連絡がありましたよ? 向こうはあなたが日本に居る事を忘れてましたから。
映画出演のお話があるそうですね。そのためにもあなたにパリに戻ってきて欲しいと」

「そ、そうなんですかぁ。あははは・・・・・・それはまた」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ママがあのタラランティーノ監督の映画に出るっ!? え、嘘っ!!

いいや、嘘じゃダメっ! だってそれならチャンスじゃないのよっ!!

エンブリオに頼らなくてもママの輝きが取り戻せるっ! いいえ、このままじゃダメっ!!





だってママは断るとしているじゃないのっ! ママ、どうしてそうなるのっ!!





よし、折を見てママを説得しようっ! それがうまくいけば・・・・・・それならもうイースターの事なんて関係ないわっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



タラランティーノと言うのは、世界的な有名な映画監督。以前もお仕事でお世話になった監督さんなの。

これが中々に面白いというか楽しい人でね。またお仕事したいなーと思っていたの。

だから誘われた時は本当にありがたいし、やってみたくはあったんだけど・・・・・・断る事にした。





そこの辺りはまたお返事はしてなかったりする。いや、一応期限いっぱい考えてみたくなっちゃって。










「まぁあなたの考えもあるでしょうから、無理は言いません。ただかおるさん」

「はい」

「あなただけで決めてはいけませんよ? あなたが一番に理解して欲しい相手と、気持ちを通じ合わせなければ」

「・・・・・・はい。お母さん、ありがとうございます」



本当に、悔しいくらいにこの人は色んな事が分かっている。それが恐ろしいやらなんやら。

私、この人と同じ年齢になった時にこれくらいの事出来るかしら。・・・・・・ごめん、無理かも。



「では、私は早めに帰る事にしましょう。ただね、その前に食べたいものが」

「なんでしょう」

「アレがいいですね。あなたが朝に作ってくれた・・・・・・味噌煮込みうどん」



お母様が目を見開いて、まるで子どものように楽しげな顔でそう言った。

本来なら喜ぶべきなんだと思う。だけど・・・・・・私は少し固まってしまった。



「あの、お母様? 確かお母様は朝『こんなのは貴族の食べ物じゃない』と一刀両断を・・・・・いえ、結局召し上がってはくれましたけど」



そうなのよ。ご機嫌取りのために朝作ったら、一刀両断されちゃって・・・・・・それでなんで?



「それはそれ、これはこれです。かおるさん、お願い出来ますか?」

「・・・・・・はい、ただいま」










どうやらうちの娘の素直じゃないところも、おばあ様譲りらしい。





私はそれがなんだか嬉しくなって・・・・・・クスリと笑いながら、調理場に向かった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それでずーっとたまごを見てたんだ」

「うん。なんか考えちゃって」



夜、フェイトと添い寝しながら昼間の事を話してた。

まぁその、夫婦だし・・・・・・一人だと煮詰まっちゃいそうだから。



「別にね、おざなりにしてるつもりはないんだ」



フェイトのお腹を左手で優しく撫でる。フェイトは少しくすぐったそうに身を震わせながら、息を吐く。



「だけど未だにスターライトの子のたまごがかえらないのは、そのせいかなぁと。
どっかでそういうの見失ってるのかなって・・・・・・考えちゃって。ね、フェイト」

「なにかな」

「後悔、してない? 僕とその・・・・・・こうなって」



フェイトは視線が厳しくなるけど、すぐに優しい瞳に戻って首を横に振った。



「じゃあ、正直に言うね。・・・・・・してるわけないよ。だって私が選んでここまで来たもの。
それでね、もしも・・・・・・もしもあのまま局員を続けてたとするよ?」

「うん」

「そうしたらきっと、たくさん大事なものを無くしてた。例えば」



フェイトは近づいて、僕の事を一気に抱きしめる。



「今私の腕の中に居る、大好きな男の子との繋がりとか。・・・・・・ヤスフミ、私は後悔なんてしてないよ?
ヤスフミが居なかったら、私本当に勘違いしたままだった。なにより、いっぱい話したよね」

「うん、話した。でも・・・・・・足りなかったのかなって、なんか考えちゃって。
話したつもりで、押しつけてフェイトのやりたい事奪ってたのかなって・・・・・・さ」

「そっか」



僕もフェイトの事を、優しく抱きしめる。お腹を圧迫しないように、優しいハグだけど・・・・・・幸せ。



「でも私、なんだか分かった気がする」

「何が?」

「もしかしてヤスフミは、自分の使いたい『魔法』の形をちゃんと分かってないんじゃないかな」



少し身体を話して、フェイトを見上げる。フェイトは真剣な目で僕の事を見ていた。



「だからそういう風に不安になっちゃう。ブラックダイヤじゃないけど、人の事を救えても自分の事が二の次になっちゃう。
それが『おざなり』なんだと思う。それで余計に不安になって・・・・・・でもそんな必要はきっとないよ。答えは、ヤスフミの中にある」

「そう、思う?」

「うん。もう一度、1から考えてみたらどうかな。迷った時は原点に帰る・・・・・・ってね」

「・・・・・・そうしてみる。フェイト、ありがと」

「どういたしまして」










そのままゆっくり顔を近づけて、瞳を閉じた上で唇を重ねる。

答えは、僕の中にある。でもそれがずっと見えなかった。今の僕はきっと何かが見えていない。

だからフェイトの言うように何度も何度も話して・・・・・・伝え合って来たのに、不安になる。





だけど、なんだろ。何かが引っかかってるって事は・・・・・・何か掴み始めているのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんでヤスフミが不安になったのかを考えて・・・・・・ヤスフミの事をもっと知りたいって考えて、一つ気づいた。

それはヤスフミの持っている『魔法』への憧れの形。というか、目標地点って言えばいいのかな。

別にヤスフミは誰かを助ける事が美しくて、かっこ良くて・・・・・・だからそういうヒーローみたいになりたいとは考えてない。





ここは付き合う前後からヤスフミと何度も話してたから、そこだけは自信を持って言える。

この子は別に表面的なカッコ良さだけで、そういう事を言ってるんじゃないの。

ならヤスフミはどうして『魔法』を使って全部守れる魔法使いになりたいのかなって考えた。





それに関しては今までも何度も考えてたけど、改めて考えて・・・・・・ようやく答えが分かった。

ヤスフミが使いたい『魔法』は、きっと本当に特別な事じゃない。きっと誰にでも使えて・・・・・・それで今まで何度も使って来た。

それで私がちょっとずつちょっとずつヤスフミとズレたのは、私がその『魔法』を使う事を忘れてしまったから。





JS事件で私達が後悔してすれ違ったのは、互いに事情込みでもその『魔法』が使えなかったから。

でも六課時代に私がヤスフミと改めて向き合えたのは、その『魔法』を使う事が出来たから。

その形はきっと答えではなく一つのスタートラインにある。そう考えると、色々な事に納得が出来ちゃう。





だけどコレはきっと、今のヤスフミに教えちゃいけない事。自分で考えて、答えを探さなきゃいけない事。

だから私に出来るのは、ヤスフミの背中を押していく事だけ。例えば、こうやって抱き締めたりして。

私も『魔法』を使って今のヤスフミと向き合っていきたいから。まぁその、負けたくない相手が二人程居るし。





ヤスフミ、私は後悔なんてしてないよ? 私はヤスフミの『魔法』で助けてもらった。自分を省みる事が出来た。

それで私の本当の夢の一つを思い出す事が出来た。もしかしたら、少し前の私だったら後悔してたかも知れない。

私には夢と仕事があるのに、恋愛になんてうつつを抜かしてーって・・・・・・バカな事にね。





でも私はそんなバカな私をとっくに振り切ってるから、自信を持って言える。私、今とっても幸せ。

ヤスフミと一緒に居られて、いっぱいキスして・・・・・・愛し合って、一緒にお父さんとお母さんになっていける。

言葉に出来ないくらいに本当に幸せなんだよ? だから私その・・・・・・うぅ、早く安定期に入りたいよ。





そうしたらキスだけじゃなくて、少しだけ繋がったりしても大丈夫なのに。でも、その分いっぱいキスしよう。





大事で大好きな男の子に、私の気持ち・・・・・・沢山伝えるために。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトから元気をもらいつつ、それから少ししてルルとヘイのおばあさんはパリに帰る事になった。





それで僕とあむは・・・・・・その、どういうわけか聖夜市にある聖夜空港にお見送りに来てしまった。










「・・・・・・それじゃあおばあ様、お元気で」

「あと、ご要望の味噌煮込みうどんセットは俺と父さんに母さんで責任を持って送りますので」

「えぇ、お願いします」



なぜ自分がここに居るのかという疑問を持ってしまうのは・・・・・・許されるよね。

おばあさんの視線が、ルルとヘイからあむの方に移った。あむがそれで固まってしまう。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



あむは下がって一気に『服装の乱れ』を直し始める。



「・・・・・・学習能力のない」



基本的にこのおばあさんは、外敵かそう成り得る要因に対してだけ厳しいと言うのに。



「恭文君、そう言ってやるな。うちのおばあ様が厳しいのは基本変わらないんだ」

「まぁそれは見てて分かりますけど」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ルル、ヘイ、あなた達の夢は決まりましたか?」



おばあ様が俺達に対していきなりそんな事を言ってきた。それでまずは俺の方を見る。



「・・・・・・俺はまぁ、おばあ様の言うように沢山ありますので。まだまだ宝探しの途中です。
宝石箱の中は広過ぎて、俺自身ですら想像の出来ないものもありそうで」

「でしょうね」

「それでその中には」



俺は右隣に居たルルの方を見る。ルルはなぜそこで俺の視線が向くか分からない様子だった。

それに構わず右手で頭を軽く撫でてやる。その手はすぐに離してやった。



「大事な妹の夢を、輝きを守りたいという宝石も確かにあるんです。それだけは、間違いない。
ただおばあ様の言うように、もう少し落ち着いて目を見開き、欲張りになってみたいなとは思います」



それから改めておばあ様の方を見て、思いっきり笑う。



「宝石箱の中で行う宝探しは、中々に面白そうですから。
欲張りになって、一つ一つの意味を見つめていきます」

「そうですか。なら・・・・・・ルル」

「はい。おばあ様を見習って、ママに昔の輝きを」

「ルル、あなたの『やりたい事』ですよ?」



優しく諭されるようにそう言われて、ルルが目を見開いて固まる。おばあ様は再び俺の方に視線を向けた。



「ヘイ、どうやらあなたがその夢を叶えるためには、探さなければならないピースがあるようですね」

「そのようですね。おばあ様、ありがとうございます」



そう言ってから姿勢を正し、おばあ様に向かって深く頭を下げる。



「おばあ様のおかげで俺は・・・・・・自分の浅はかさを知る事が出来ました」

「え、兄さんもなによ。といかあの、おばあ様。私はまずママの事をなんとか」

「ルル、大丈夫です」



おばあ様は両手でルルの肩を優しく掴んで・・・・・・俺でも数度しか見た事のない優しい笑顔をルルに向けた。



「この日本なら・・・・・・いいえ、違いますね。あなた自身が諦めなければ、それはきっと見つかります。
ルル、あなたの中にも宝石箱はあるんですよ? ただあなたは、それを忘れているだけ」

「・・・・・・宝石箱」

「えぇ。次に会う時にもしそれが見つかったら、私にぜひ教えてください。
あなたなりの、あなただけの答えを。私はいつまでも待っていますから」










俺はとんでもない勘違いをしていた。おばあ様が来てからのここ数日でそれが少しだけだが見えてきた。

俺はルルを手伝う前に、やるべき事があった。それを抜かしていたんだ。

そんなバカな俺の代わりにおばあ様がそれを成してくれた。本当にまだまだ修行が足りない。





もしかしたらイースターと縁が切れたのは、本当にいいタイミングだったのかも知れない。うまくいけば、このまま。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ルルのおばあさんは本当に・・・・・・本当にびっくりするくらいに沢山笑って、そのまま飛行機に乗った。





飛行機は無事に離陸して、そのままパリの最寄りの空港。空は快晴だし、快適な旅になるといいなぁ。










「・・・・・・ところで恭文君」

「なんですか?」

「なんであむちゃんは崩れ落ちて大きく息を吐いてるんだ」

「ヘイさん、それ聞く必要あります?」

「すまん、無いな」



あむ的にはやっぱりおばあさんは相当緊張する相手だったらしい。僕はもうすっかり慣れたもんなのに。



「で、僕も一つ聞きたいんですけど・・・・・・ルルどうしたんですか」

「まぁその、こっちも色々あってな」



ルルはロビーから見える青空を眺めながら、苛立っているような困っているような顔で立ち尽くしている。

ぶっちゃけあむとはいい対比で、実にシュールだよ。それでナナがルルの事を必死に元気づけてるし。



「・・・・・・恭文君、すまないが近々ロイヤルガーデンに伺ってもいいか?」

「いや、それは構わないですけどまたどうして」

「少し話しておきたい事があるんだ。あとは相談だな。もしかすると俺だけで解決は」

あぁもうっ! ルルしっかりせんかっ!! もうどーんとやったらぁえぇがねっ!!



ルルは相当必死なナナに励まされてるけど、反応0。それに苛立ったのか、ルルが腕を振り上げて叫んだ。



ママさんの事なんとかしたいのかて、ルルの気持ちっ! やったら迷う必要なんてねぇやっ!!
さー! 今日も頑張ってなぞたま作って、エンブリオをとっととゲットするでー!!


『・・・・・・え?』



その言葉に僕も、ヘイも、それに気が抜けたような顔をしていたあむでさえも反応した。

ルルもこれにはさすがに反応して、完全に固まった。



「ルル、どういう事? 今の・・・・・・今のナナが言った事って」



あむがそう言いながら近づいている間に、ヘイが僕から少し距離を取った。

あと、近くでまた天を指差してたシオンとインもだよ。



「な、なんの事だみゃあっ!? うちなんも言っとらんってっ!!」

「そうよ」

「ルルっ!!」

「私がなぞたまを抜いていたの。エンブリオを手に入れるためにね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ナナちゃん待ってー! というか、置いて行かないでー!!
私しか案内出来ないのにどうしてそうなるのよっ!!」

「えぇそうねっ! アンタがみんな驚かせようなんて計画を立てなきゃそうなってたわよねっ!!」



それで乗っちゃってる私も私だと思うけどねっ!? うん、ありえないって知ってるから何も言わないでっ!!



「てゆうか、転送ポートの予約時間ぎりぎりなんだから急ぎなさいよっ! キャンセルになるじゃないのよっ!!」

「だってー、荷物多いんですもの」

「そんな山みたいに荷物持ってくからよ、このバカっ! アンタこれを旅行か何かと勘違いしてるでしょっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・最終調整は完了。いやぁ、何気にかかっちゃったねぇ」

「あぁそうだな」



ポッドから取り出したこの子達を見て、ようやく肩の荷が下りた。

下りて・・・・・・後ろのマリエルちゃんと同じく今にも崩れ落ちそうだよ。



「お前がやったらと設計変更してたからな」



サリ、過去は振り返らないのが美点よ? なにより睨むのやめて。きっと私は悪くない。



「さて、あとはみんなに任せて私らはのんびりかな」

「なんだ、危なくても助けないのか。八神司令からは万が一には頼むって言われてんのに」

「そん時はそん時さ。ただ・・・・・・今はめちゃくちゃ、眠い」



急ぎに急ぎまくって何徹したっけ? 正直思い出したくないレベルでしてるから・・・・・・・もう限界。



「あぁそうだな。とりあえず受け渡し完了したら寝るか」

「そうしよそうしよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



覚悟はしてた。でも、きっとあたしはまたどこかで嘘だって思ってた。鼻で笑ってしまってた。

イースターとはなんにも関係がなくて、恭文襲ったのも何かの間違いで・・・・・・ルルはそんな子じゃないって思ってた。

だってあのパーティーの時のルルの様子見てたら、イースターと繋がってるなんてありえないって思った。





だから今、信じられないくらいに震えてる。目の前のルルの言った事がどうしても受け入れられなかった。





それが情けなくて、自分に腹が立って仕方なくて・・・・・・あたしはなんにも言えなくなってしまった。




















(第104話へ続く)




















あとがき



シルビィ「さて、なぞたま編も上手く纏まるならあと2話でなんとかなる今回のお話、どうでしたでしょうか」

恭文「というわけで、今回はしゅごキャラのアニメ第72話『激震!おばあさま登場!!』。
そして最後のバレシーンは第87話の『ナナを救え!しゅごキャラナース出動?』が元になっております」

シルビィ「いわゆるミキシングなのよね」

恭文「うん。イースターに切り捨てられたシーンは、実は前回の二階堂のお話の中だけどね。
というわけで、そんなチャンプルーなお話のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

シルビィ「シルビア・ニムロッドです。・・・・・・というか、このバレはあり?」

恭文「アリだね。だって原作がこの通りだったんだから」





(ちなみにアニメだと、バナナ羊羹食べ過ぎて腹壊したナナの看病のためにあむが泊まり込んで、朝起きたらナナが・・・・・・という話です)





恭文「それで今回のメインはやっぱりおばあさんだよ。・・・・・・作者が調子乗ったせいでテレビよりスペックアップしてるし」

シルビィ「性格的に?」

恭文「性格と能力的に」





(まぁ基本ラインはあんな感じです。何気に凄い大人です)





シルビィ「でも、前代未聞のバレだけどこれでなぞたま編も最終決戦よね。
あとはヤスフミの事かしら。ほら、また・・・・・・私を差し置いてラブラブしてたし」

恭文「いや、差し置くのしかたなくないっ!? 僕フェイトの永遠の婿だしっ!!
てーか拍手の方でバージルさんとかどうしたっ! 惚れてたでしょうがっ!!」

シルビィ「・・・・・・振られたけど何かっ!? ちょっと親子丼とか言っただけで引かれたんだけどっ!!」

恭文「引くに決まってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





(注:マジでそういう拍手がありました)





恭文「あー、でもシルビィは本当に心配が無くて助かるわ。なのはとティアナにも見習って欲しい」

シルビィ「高町教導官とティアナちゃん? ヤスフミ、高町教導官に対して必要なのはあきらめの心だと思うわ」





(『なんですかそれっ! 私諦められるようなキャラじゃないのにー!!』)





シルビィ「それでティアナちゃんは・・・・・・あなたが引き受けて問題なしにしましょう」

恭文「出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

シルビィ「ごめん、冗談よ。でもほら、ティアナちゃんは元が良いんだからどうとにでも出来ると思うのよ。
それに恋愛にも無自覚じゃないし、女子力も高いし、あんまり焦らなくていいと思うのに」

恭文「まぁしょうがないんだよね。だって・・・・・・先輩がアレだし」

シルビィ「・・・・・・納得したわ。さて、それじゃあ次回からは最終決戦開始よね」

恭文「そうだね。その結果がどうなるかは・・・・・・どうなるんだろうねぇ。まだ半分しか書きあがってないし。
とにかく本日はここまで。お相手はティアナの今後が心配な蒼凪恭文と」

シルビィ「ティアナちゃんはきっと頑張れると思うシルビア・ニムロッドでした。それじゃあみんな、SEE YOU AGAIN♪」










(ティアナ脱走ルート、第15話書きあがりそうで・・・・・・あれ、なんか近況報告多いな。
本日のED:七咲逢(CV:ゆかな)『minamo』)




















ティアナ「・・・・・・なぎひこにも女子力負けたし、これからどうしよう」

シャーリー「そうだよねぇ。私も結構頑張ってたのに、これはなぁ」

ディード「二人とも、まだ落ち込んでいたんですか。今日は本当にめでたい日なのに」

ティアナ「いや、それはね? だけど・・・・・・・うし、決めた。この件片付いたら私女子力鍛えるわ。
もうちょっとオシャレとか出来るようになって、料理とかも頑張って」

シャーリー「それがティアの新しい夢というか目標?」

ティアナ「あ、そうですね。うん、ちっぽけだけど・・・・・・私なりの夢になるのかな」










(おしまい)





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