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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第103話 『Teacher Dream/どんな花が咲くかなんて分からないけど』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー。さて、本日のお話は?」

スゥ「あの子とあの人によるせんせぇなお話ですぅ」

ミキ「何気に凄いキャラなあの人に憧れているけど、それでも迷ったり躊躇ったりはあるみたい」





(立ち上がる画面に映るのは・・・・・・前へ、倣えっ!!)





ミキ「でもでも、どんなお悩みも恭文とあむちゃんでズバッと解決っ!!」

スゥ「出来るといいですよねぇ」

ラン「スゥがなんか弱気になってるっ!? と、とにかく早速行くよー! せーの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・二階堂悠。聖夜小で働く教師で、今は6年星組の担任でもある。

このお話を無印時代から読んでいただいている読者の皆様にはもうお馴染みなキャラであろう。

元々はイースターの社員で、教師として聖夜小に入り込んでいた科学者。





そうやって僕とフェイト達がこの聖夜市に来る前から、ガーディアンの動向を探りつつ子ども達からこころのたまごを抜きまくっていた。

ただそこや偽エンブリオを作ろうとした目論見も、無印の第6〜8話における戦いの中で潰えた。

二階堂自身もその時色々とあったために自分を省みて、そこから現在に至るまで聖夜小の教師として働いている。





ここの辺りに関しては僕やフェイト、あむが特別な事をしたわけじゃない。いや、むしろ何もしてないと言っていい。

全部はあの小さくてとっても強い女の子のおかげ。あの子が二階堂に罪を数えさせたわけですよ。

その後二階堂はりまの転校によって星組が学級崩壊していた間も、当然ながら工作クラブの顧問を続けてもいる。





あれ以来なんとなく波長が合うのか合わないのか、僕ともお弁当を対価に情報を出してもらっている間柄である。





そして今回はそんな二階堂が目立ったり目立たなかったりするお話。全ての発端は二階堂の教室でのこんな一言だった。










「それじゃあこれから、『将来の夢』というテーマで作文を書いてもらいます」



そう、これが全ての発端。こんな僕に対してのいじめとしか思えない事を授業でやると言い出した。

思わず表情が苦虫噛み潰したようになるのは許されると思う。てーか許されなきゃおかしい。



”主様、どうするの?”

”普通に『Sirが無事に出産出来ますように』とか『二人で親になっていきたい』とかそういう事は書けないでしょう”

”書けないねぇ”



しかも作文って事は他のみんなの前で発表・・・・・・やばい、それはさすがに無理だ。いや、でも・・・・・・僕はシオンの方を見る。

シオンは僕の視線に気づくとこちらを見て優しく笑って、右手で髪をかき上げた。



「先生、それ1年の時にも書きましたー」

「そうらしいねぇ」



さて、ここで一つ補足。どうもこの学校では1年の時にそういうのを書くのが慣例になっているらしい。

だから前にガーディアンでも、仕事の関係でその作文に目を通した事もあるんだ。



「でもあれから時間も経ってる事だし、考えも変わってるかも知れないでしょ? だから」



先生、年齢を8歳くらいにごまかした上で学校に入っている場合はどうすればいいんでしょうかー。

それをバレないように書くってのは、結構神経使うんです・・・・・・聞けたらどんなに楽かー! マジどうしよー!!



「そこまではっきり分からないなら、漠然とした形でいいから。あ、これは誰が読むってわけじゃないんだ」



内心頭を抱えて泣きかけてた僕に、教壇の二階堂が救いを差し伸べた。一瞬僕の方を見たのがなんかムカつく。



「もちろんみんなの前で読むわけでもない。読むのは僕だけ。つまり」



二階堂は右手を上げて人差し指を立てて、にっこりと笑う。



「僕と君達だけのひ・み・つー♪










その瞬間に、教室に笑いが巻き起こる。それで僕は・・・・・・改めて白紙の作文用紙に目を向ける。





それなら・・・・・・それなら、正直に書いちゃおうかな。こういうのもきっと、必要な感じがする。





まだ目覚めないあの子の事を見つけるためには、きっと必要。だから僕は、ペンを手に取った。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第103話 『Teacher Dream/どんな花が咲くかなんて分からないけど』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして放課後、今日はまなみとわかなとあむと一緒に帰る事になった。





リインとティアナは恒例の買い出し係。僕達は敬礼をして見送った上で、坂を降りていく。










「・・・・・・蒼凪君は旅や冒険かぁ。そういうの好きなんだ」

「うん。友達のお姉さんお兄さんについていって、イギリスに行ってからかな。
知らない場所や知らない風景を見るの、楽しいなーって」

「「へー」」



なお、あむに関しては・・・・・・察してあげてください。

具体的には二人がなんであむをキラキラした瞳で見るかとかいう部分で。



”主様、ツッコまなくていいの? あの答え方はさすがに”

”いいのよ。多分本人が一番苦しんでるだろうから”

「それでまなみちゃん達はなんて書いたの?」

”苦しんでいるようには見えませんが”



・・・・・・まぁいいか。僕はKYじゃないから黙っておこうっと。



「あ、私は花屋さん。やっぱりいいなーって」



笑顔で答えたまなみを見て、まぁなんというか・・・・・・良かったなぁと。

でも良心がまた傷んで、つい笑顔から目を逸らしてしまった。



「それでわかなは昔っから先生なんだよね」

「へー。わかな、そうなの?」

「うん。・・・・・・困ってたら手を差し伸べてくれるし、良い事をしたら誉めてくれるし、悪い事をしたら叱ってくれる。
子ども達に優しくて、勉強が面白いって教えてくれる。だから私なりたいの。二階堂先生みたいな先生に



足を進めつつ照れ気味に言うわかなを見て、僕は納得。



「「・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」



・・・・・・だけど、納得してないのが二人ほど居る。だから今、叫び声が上がって僕達の足が止まった。



「で、でもわかなちゃん、二階堂先生って転んでばっかだよっ!?
それにファッションセンス0で、整理整頓出来ないしっ!!」

「そうだよそうだよっ! それでどうして二階堂先生にいっちゃうのっ!?」

「・・・・・・あむ、まなみはともかくとしてなんでガーディアンであるおのれが分かってないのよ」



呆れ気味にそう言うと、あむが納得出来ないと言いたげに僕の方を見た。・・・・・・コイツは本当に。



「二階堂先生は教師としてはレベル高いでしょうが」

「あ、蒼凪君は分かるの?」

「まぁガーディアンの仕事してるしね。その関係で教師とは密に連携しとかないとダメだし。
そこに関しては僕だけじゃなくて、唯世達も分かってると思うな」

「そう言えば・・・・・・あぁ、でもよかったー。分かってくれる人が居て嬉しいよー」



わかなは両手を胸元の前で握り締めて、目を輝かせながら僕の方を見る。

どうやら普通に賛同者が得られて嬉しい・・・・・・え、そこまでなの?



「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

「だから道端で叫ぶなっ! 普通にうるさいんですけどっ!? ・・・・・・よーし、納得出来ないなら一つずつ説明してあげるよ。
まず二階堂先生は確かに運動神経0でだらしなくて社会人としては失格レベルに思えるかも知れない」

「あ、蒼凪君・・・・・・結構ボロクソに言うんだね」

「まぁ事実だしね。でも、それは一面に過ぎないよ。例えば」



視線を聖夜小の方に向ける。するとあむとまなみもわかなも同じように後ろの聖夜小の方を見た。



「勉強が分からない子が居たら、結構辛抱強く分かるまで放課後に教えてあげたりしてるのよ? 多分今日もやってる」

「え、そうなのっ!? あたしそんな話全く聞いてないんだけどっ!!」



・・・・・・改めて思った。やっぱあむってバカだわ。あのね、そこだけは自信を持って言い切れるし。

だってこれ、先生方の間だと普通に広まってる話だよ? 特に二階堂は指導が熱心だって。



「あと私が見たのは、落ち込んでいる子が居たら話しかけて励ましてあげたりとか?
とにかく目が良いというか、気配りが出来るというか・・・・・・素敵だなーって」

「だから父兄もそうだけど教職員の間でも二階堂先生は評価が高いのよ?
普段だらしないのは、生徒に無駄に距離を取らせないためのポーズとさえ言われている」

「へぇ、そうなんだ」

「なんか意外」










まなみはともかく、あむが普通に感心顔なのがやっぱり気になるというかなんというか。

それでも僕はあむの隣でニコニコしながら今の話を聞いていたスゥの方を見る。

スゥは二階堂の事好きだから、二階堂の良さを分かってくれる子が居て嬉しいんでしょ。





だからスゥはニコニコしながら、楽しそうなわかなの事をずっと見ていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・アンタ、普通に小学生よね」

「言うな」



今日の夕飯のメインは麻婆豆腐。少し辛味を抑えて、その分甘口でご飯が進む味付けにしている。

ご飯を食べながら、今日の授業のお話になった。それでなんかフェイトがニコニコした顔をしている。



「それでヤスフミやあむはどんな事書いたの? ・・・・・・あ、言いたくないなら別にいいんだけど」

「うーん、僕は・・・・・・そのまま」



それでなんか照れくさくて、ついついご飯をかき込んでしまう。



「そのまま? という事はあの、『魔法使い』とか」

「うん。二階堂しか読まないならいいかなーと。あ、でもそれだけじゃないの」



隣に座るフェイトの方を見て笑うけど、照れくささのせいでちょっと仏頂面になってるかも。



「旅や冒険に、フェイトとの事とか・・・・・・まぁザッとした感じで」

「・・・・・・そっか」



フェイトは左手で優しく僕の頭を撫で始めた。それがまぁ、やっぱり恥ずかしい。



「それであむさんはなんて書いたんですか?」

「あ、それ私も気になるなー。やっぱりここは唯世くんのお嫁さんとかかな」

「え、ウェディングベル目指しちゃうんですかっ! それは素敵ですねー!!」

「はぁっ!? そんな事書いてないしっ! てゆうか、シャーリーさんもリースもバカじゃんっ!!
・・・・・・あたしは、アレだよ。今は夢を夢見る時間を大切にしたいって感じ?」

『・・・・・・おー』



僕とリイン以外が感心した声で、澄ました顔のあむを見る。

なので僕は、中華スープをすすってから真実を教えてあげる事にした。



「あむ、それは会議でなぎひこが言ってた事と同じだよね?」

「ですです。なぎひこさんは別クラスでそういうのやってなかったから聞いてみたらそういう答えが出たです」



そして僕達のツッコミによって、あむがそのまま固まった。フェイトを筆頭に全員の視線も冷たくなる。



「しかもまなみとわかなと帰る時にも全く同じ事言ってたし」





あの時の僕はどうやら甘かったらしい。この女は反省などしていなかった。

さすがに二度目は見過ごせないので、こうやってレッドカードを出したわけである。



「・・・・・・あむ、さすがにヒロインでパクリはどうなのかな」

「そうよ。アンタ砲撃撃たない分女子力高いのにそれはないでしょ」

「う、うぅ・・・・・・恭文ー! アンタなに普通にバラしてくれてんのっ!?」

「僕のせいじゃないでしょうがっ! 逆切れするなー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、教師というのも意外と大変なもので・・・・・・自宅の書斎で作文を読んだりもするわけだよ。

まぁ今日はものがものだし約束もあるし、自宅じゃないと出来ないと言った方が正解かも。

・・・・・・蒼凪君は『魔法』が使える魔法使い・・・・・・かぁ。でも、全部守りたいなんてなんだからしいなぁ。





命だけじゃなくて、夢も笑顔も・・・・・・全部。でも、確かにそれは『魔法』だね。そんなのきっと簡単な事じゃない。

あとは他にも夢が沢山ある様子で、なによりだよ。まぁ蒼凪君に共通して言えるのは『変えたい』って気持ちが強い事かな。

でもそれは人だったり世界だったりするよりは、自分。蒼凪君の『変えたい』は自分に対して言っている。





性格的な部分もあるんだろうけど、人にあれこれ言う前にまず自分の事って感じなんだろうね。

言うなら、出来ない自分から出来る自分にキャラチェンジしたいって感じ? 『魔法』の事だって同じだよ。

ただこの文面を読んでると蒼凪君の目指してる『魔法』の根っこは・・・・・・うーん、やっぱりらしいなぁ。





てゆうかあの子、僕が元敵だったって事忘れてない? そこは辺里君や日奈森さんもだけどさぁ。

例えば辺里君は、周りのみんなが幸せになれたらって書いてる。ただ、この子の場合まだまだ迷いが多いみたいだね。

誰かに『とても嫌っている相手が倒れそうな時、手を差し伸べられるか』って聞かれたけど答えが出ないとか。





『みんな』と言いながら、自然とそういう相手を除外している自分を突きつけられた。

ようするに、夢に嘘をついていると言われた・・・・・・ねぇ、言ったの蒼凪君じゃない? コレ。

あとは色んな人にアドバイスをもらったけど、まだまだ考え中と言う感じらしい。





用紙の消しゴムの痕を見るに、相当考えて書いてくれたみたいだね。

ここから察するに・・・・・・話し出すとついつい長くなりがちになるという感じかな。

でも僕からすると、そこについては多分出来ると思うんだけどなぁ。





辺里君が誰をそこまで嫌って除外しているかはなんとなく想像がつくけど、それでもそう言える。

だってほら、元敵で散々やり合った僕に対してちゃんと作文書いて出せるんだよ?

真城さんはあの時はガーディアンに居なかったから別として、これが出来るならきっと大丈夫じゃないかな。





それで日奈森さんは・・・・・・二人ほど明確な感じではないね。まだまだ夢見るお年頃かな。

だけどそんな中にもしっかりとした意志がある。なんでも親御さんに常々『子どもには無限の可能性がある』と言われてるらしい。

その可能性を大事にしなさいとも言われてる日奈森さんは、逆にそれで決めかねてる。





一つにしてしまって・・・・・・決めてしまう事は他の可能性から目を背ける事になるんじゃないかってさ。

だから今はいっぱい考えて、いっぱい悩んで・・・・・・少しずつ決めたいと。まぁ日奈森さんらしいかな。

まぁ普通はこうだよね。ブラックダイヤモンド事件の時に聞いた次元世界のアレコレがまたおかしいだけで。





あ、実は僕蒼凪君の年齢の事とか魔法の事とか、ゆかり経由で聞いてるんだよ。まぁ今更だけどね。

でも、みんな夢が色々あって素敵・・・・・・そこまで考えて、少し胸が痛くなってしまった。

その痛みを振り払いながら作文を読み続けて、真城さんの分に来た。・・・・・・ふむ、なるほどなるほど。





やっぱりあの二人、似てるのかなぁ。どこかで夢の色みたいなものまで近い感じがするよ。

だから何気に波長も合うし、ガーディアン内での立ち位置も似た感じになるのかもね。

僕は一旦背伸びをして、作文達を丁寧にまとめた上で机の上に置く。それで立ち上がってリビングの方へ行く。





そこで寝た状態のあの子を見て・・・・・・軽くため息を吐いてしまった。










「・・・・・・これ、バレたら蒼凪君や日奈森さん達怒るかなぁ。でも放置もなんか違うだろうしなぁ」










この子の記録媒体から映像を抜き出して、それでこの子がどういう事情で作られたのかは分かった。

あと首の後ろにあのバカの名前入りのプレートが埋めこまれてたしね。まぁそれは即刻外して捨てたけど。

損傷も奇跡的にというレベルで、重要機関やエネルギー源である偽エンブリオには及んでなかった。





つまり修理自体はパーツがあればなんとかって言う感じ。それでそのパーツも・・・・・・実はあったりする。

ただあの後すぐに急にシステムダウンした影響かな。思考・動作プログラムの一部に欠落が見られるんだよ。

それもかなり重要なところ。ここはこの子を再起動させてみないとどの程度影響が出るかは分からない。





もちろん周囲のプログラムの繋がりを見て、欠落部分がどういう形かは察せるんだけどね。

てゆうか、九十九のバカの性格を考えれば簡単に読み取れる。あの男、本気で三流だ。

さて、ここまでちょくちょくという感じで修理は進めたけど・・・・・・せっかくだし今日は頑張る?





その上でこの子と話してみて、これ以上蒼凪君達に危害を及ぼさないように止めてみますか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夢を見てる時に寝言で『むにゃむにゃ』って言う人なんて見た事無いわね

あー、そりゃホンマ・・・・・・ってちゃうわっ! 将来の夢の話ですからっ!!

教えません

なんでよっ!!

あら、知らないんですか? 『人』に『夢』と書いて『儚』・・・・・・つまり、人に夢を話すと儚くなるの



・・・・・・リビングのテレビからは爆笑の声が聴こえる。またまた踊るさんま御殿的な番組に出たママは大受け。

それを見てパパやママはともかくとして、今日は兄さんまでもが楽しそうに笑っている。



「・・・・・・母さん、飛ばしてるなぁ」

「トレビアンー♪ さすがは愛しの君。冴えたジョークも君の魅力だね」

「そう? 使い古された言い回しなのが気になっちゃって・・・・・・何か良い受け答えないかしら」

「いや、変に凝った方がダメじゃないか? こういうのは全体的なテンポと流れがあるわけだし」





みんなから離れて後ろのテーブルでその様子を見ていた私は、少し疑問に思ってしまった。

兄さん、なんで普通にそういうの分かるわけ? そこは少しびっくりなんだけど。

アレですか、料理や武術だけじゃなくてお笑いやトークスキルも鍛えるわけですか。



兄さんの今後の方向性が心配になっていると、ママが私の方を向いた。





「ね、ルルの夢って何?」

「・・・・・・教えません。人に話すと儚くなるので」

「む、やるわね」



えぇ、やりますよ? 私は完璧を目指すので。・・・・・・そうよ、完璧だからこういう答え方をするのよ。

今一瞬、何かモヤモヤするものが胸の中をよぎったのは気のせいなんだから。



「あー、でもルルが小さい頃は儚さなんて感じなかったし、大丈夫かも。
ほら、毎日のように夢を話してくれたし、本当に楽しそうだった」

「そうだったね。前に一度『鳥さんになるんだー』って言った時はさすがに肝を冷やしたなぁ。
それでパリのアパルトマンションの窓から、翼を付けた上で飛び降りそうになった」

「それとお風呂にずーっと浸かって、『お魚さんになるんだー』と言った時も大変だった。
俺までそれに付き合わされて、出ようとすると泣かれて・・・・・・まぁ楽しかったんだが」



私は楽しそうに人の恥ずかしい過去を話し出した三人を置いてけぼりにしてリビングを出た。

なんだろ、やっぱりイライラする。まるで私だけがこの家でよそ者みたいに感じてしまう。



「ルルー、何をイライラしとるんだみゃあ?」

「してないわよ」

「ならえぇけど」










そうよ、イライラしている理由なら分かってる。エンブリオ探しが全く上手くいかないからだ。

そのせいでママが昔の輝きをどんどん無くしている。私の大好きだったママじゃなくなっている。

私の夢・・・・・・そうよ、そんなの決まってるわ。私は、ママの輝きを取り戻したい。





あの映画女優として、眩いくらいに輝いているママじゃなきゃだめなのよ。そうじゃなきゃ、完璧じゃない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日。あたしは昨日恭文に呆れられた事もあって、改めて二階堂先生の事をよーく見てみた。

そうすると・・・・・・うん、確かに良い先生なんだよね。てゆうか、今そこに気づくあたしってもしかして相当だめ?

ほら、あたしやガーディアンは一般的な生徒や先生より二階堂先生の事良く知ってるわけだしさ。





でも・・・・・・そっか。本当に先生になってるんだよね。もうイースターのアレコレなんて忘れそうになってるし。





ただそんな中、昨日そんな二階堂先生みたいになりたいと言っていたわかなちゃんに少し変化が起きた。










「わかな・・・・・・先生になるのやめるって、またどうしたのよ」

「ん、ちょっとね」



放課後、中庭のテラスの一つに座ってまなみちゃんとあたしとで困った様子のわかなちゃんに話を聞いていた。

わかなちゃんは視線を落として、あたし達と目を合わせようとしていない。というか、明るく振る舞おうとしている?



「別に二階堂先生がダメとかじゃないんだ。ただちょっと自信なくしちゃったの。
実は昨日、テレビでモンスターペアレンツの特集を見ちゃって」

「モンスターペアレンツ? ・・・・・・あ、私それ知ってる。てゆうか私もその特集見た」

「え、なにそれ。あたしちょっと分かんないんだけど」

「モンスターペアレンツって言うのは、怪物的な親って考えればいいのかな」



怪物的な親・・・・・・怪物的な親・・・・・・怪物?

やばい、あたし・・・・・・顔が青くなってる。というか、震え走ってるかも。



「学校や職場に子ども絡みで無茶な要求を突きつけてくる親の事なんだ。
それが怪物的に見えるから、モンスターペアレンツ。最近社会問題になってるんだって」

「へっ!? ・・・・・・あ、そうなんだ。いや、てゆうかちょっと忘れてたけどあたし知ってたよ? うん、知ってた」

『・・・・・・嘘ばっか』



はい、そこの三人うっさいっ! てゆうかしょうがなくないっ!? 怪物的な親って想像したらそりゃあしょうがなくないっ!?



「例えば私が昨日見たのだと・・・・・・『うちの子が傷つけられたから、相手の子にも同じだけ傷をつけてやりたい』とか?
もしくは『給食は食べないんだから給食費は払わなくていい』とか・・・・・・とにかくいちゃもんなんてレベルじゃないの」

「それはまた・・・・・・あ、じゃあわかなちゃんが自信なくしたって、そのせい?」

「・・・・・・うん。そういう人達をちゃんと相手にして、説得とか・・・・・・先生になれるのかなーって。
ただ、別に先生にもうなりたくないって言うのじゃないんだ。そう考えたら、他の事も考えちゃって」



わかなちゃんはそう言いながら笑うけど、どこかその笑いが辛そうに見えたのは・・・・・・あたしの考え過ぎかな。



「ファッションデザイナーとか、ジュエリーとか・・・・・・興味のある事も沢山」

「まぁ、そういうのは分からなくはないけど・・・・・・あー、でも今決めるのもなんか違うのかなぁ」



まなみちゃんは少し視線を上に向けて、考え込んでしまう。あたしもその・・・・・・うまく言えないな。

その間にわかなちゃんは立ち上がって、少し足を進める。



「まだ時間もあるし、働くなんて永遠に遠い未来みたいじゃない?」



それで両手を後ろに回して、反時計回りにあたし達の方に振り向く。それで笑った。



「だから、そういう事で」










やっぱり笑顔が辛そう。というか、迷って・・・・・・アレ、今なんか嫌な予感が。

いやいや、気のせいか。でも、わかなちゃんの言いたい事は分かるかな。あたしも昨日の作文アレだし。

月夜の事とかイクスの事とか、そういうので悲しい事減らすお仕事もいいかなぁとは思ったの。





ただそれって、あたしの中の可能性の一つなんだよね。一つであって、全部じゃない。

だから色んな可能性を探していきたくなって、それでストライクアーツも始めて・・・・・・だから作文もあんな感じ。

なんか、難しい。てゆうか、フェイトさんやなのはさん達はどうやって将来の事を決めたんだろ。





もうあたしやまなみちゃん達の年には管理局でバリバリに働いて、将来の事・・・・・・『なりたい自分』を決めてた。

決めて、ここまで通して夢にして・・・・・・もしかして決められないあたし達がダメなのかな。

ふらふらと迷って分からないままで居るあたし達がダメで、本当はフェイトさん達みたいにしなきゃダメとか?





ううん、それもなんか違う気がする。なんだろ、改めて考えると分からないって結構怖いのかも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文と二人でガーディアン会議に使う書類を両手で持って移動中、花壇に水やりをしている二階堂先生を見つけた。





先生は私の方を見て、じょうろでまんべんなく水をあげながらにっこりと笑った。










「やぁ、これからガーディアン会議? あ、君達の作文読ませてもらったよー」

「いや、いちいち報告しなくても。てーかなんか恥ずかしいし」

「あははは、大丈夫だって。言った通り口外するつもりはないから」

「・・・・・・おかしい、ですか?」



恭文が居るのに、ついこんな事を言ってしまった。それで恭文と先生は顔を見合わせて・・・・・・先生は笑った。



「むむむむむっ! りまの夢を笑うなー!!」

「あぁ、ごめんごめん。別に真城さんの夢を笑ったわけじゃないから。・・・・・・ただ、変な事を聞くなぁと思って」

「だって」

「まぁ蒼凪君も居るからここでは言わないけど、僕は素晴らしい夢だと思った。そこは蒼凪君も同じくかな」





先生があんまりに素の顔で言うから逆に信じられなくて・・・・・・でも、その言葉に嘘がないのはすぐに分かった。

私の夢は、みんなを笑顔にする事。大好きな人達みんな、笑顔にしたい。作文にはそう書いた。

でもなんか気恥ずかしくて、あんな事を聞いた。だって、そういうの私のキャラじゃないようにも感じるの。



それには今私の隣で困ったように視線を逸らしてる人も、当然だけど含まれてる。まぁ口には出さないけど。





「それにね、僕は嬉しいんだ。君もそうだし蒼凪君や他のみんなが、僕の事を信じて本当の事を書いてくれて。ほら、特に僕は元敵だし」

「・・・・・・今更そんな死に設定出されても困るっつーの。読者は誰も覚えてないし」

「あらら、君がそこ言っちゃうの? 罪を数えろって僕に突きつけたくせに。
アレはすさまじく痛かったなぁ、蹴りであっちこっちの骨を砕かれてさぁ」

「言われなくても自分で数えてる人間にとやかく言うほど、野暮じゃないってだけの話だよ」





この二人は私がガーディアンに来る前に色々あったらしいけど・・・・・・普通に仲良しみたい。



ただ本人達にそこを聞いたら、きっと否定するわね。それだけは断言出来るわ。



私と恭文は先生の方に近づいて、先生が水をあげている箇所を見る。そこはまだ花も咲いていない芽達が居た。





「ねぇ二人共、この芽から何の花が咲くか知ってる?」



先生は近づいてきた私達の方に、じょうろを動かしながら視線を向ける。



「いや、知らない」

「私達が植えたものじゃないから。先生、何の花が咲くの?」

「僕も知らない」

「「知らないんかいっ!!」」



それで先生はまた、何の花が咲くかも分からない芽の方を向いた。そのまま芽を優しい瞳で見ている。



「この子達も知らないのかも知れない。でも、いつかきっと綺麗な花が咲く。
夢って・・・・・・そういうものじゃないかな。そして、教師は水をやる事しか出来ない」



だけどその優しい瞳が、少しだけ悲しげな色になった。それは私だけじゃなく恭文も気づいた。



「まぁ蒼凪君は知ってる事なんだけど、僕は真城さんと同じくらいの頃に自分で自分のこころのたまごを壊した事があるんだ」



少し驚きながら先生の顔をマジマジと見ると、先生はその視線に気づいて苦笑した。



「真城さんも話してくれたし、少しだけね。・・・・・・でも、それだけじゃない。
イースター時代にたまごをガラクタ扱いして、壊して見下して・・・・・・沢山の夢を傷つけた」

「その結果、さっきの話みたいに恭文から骨を折られたと」

「そうだねぇ。自業自得って部分を含めてもアレは辛かったよ。
でも、そこから立ち上がれたからこそ気づいて、決めた事があるんだ」



水を受けて芽はキラキラと輝いていた。太陽の光が反射してるせいもあるけど、とても綺麗。



「別に大した事じゃなくて、教師をやるなら生徒達がそんな事にならないようにしてあげたいなってさ。
だってあんなめんどくさい事は、僕だけで充分だから。僕だけで、沢山だから」



先生はそこまで言うと、私と恭文の方を見て・・・・・・また笑った。

だけどその笑いがどこか痛みを含んでいる事に、私達は気づいていた。ううん、それでも笑えるって事なのかな。



「それが僕の夢であり、蒼凪君流に言うなら罪の数え方かな。
罪は償うものでもなければ許されるものでもない。向き合って、数えて・・・・・・でしょ?」

「・・・・・・そうだよ」



恭文は瞳を閉じて、また開いてから優しい目で沢山の芽を見る。



「そうね。でも先生がそれなら」

「それなら?」

「私と、同じかも」










私にも罪は・・・・・・多分二階堂先生に割合近い罪があるから。でも、変えていけると知った。





その上でいつか、私なりの花を咲かせたいなって、キャラじゃないけど思っちゃった。・・・・・・あ、ダメだわ。





これじゃあ何かの歌の歌詞みたいだもの。JASRAC的に問題よ。よし、もっといい言い回しを考えましょ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「先生・・・・・・かぁ」

「あなた、迷っているのね」



歩道を歩くメガネの女の子の前に立って、右手で取り出したジュエリーを見せつける。

それだけで女の子は瞳を虚ろにして、この宝石に見入ってしまう。



「・・・・・・ルル、ルル」

「何よ、この忙しい時に」

「いや、めちゃんこ強いパワー持ったなぞたま抜き出す言う話はどうなったんみゃあ?」

「大丈夫。これは個人的ストレス解消だから」

「そんなんでえぇんかいっ!!」



さ、それではいつも通りにやっていきましょ。・・・・・・せーの。



やりたいように・・・・・・やったらえぇがねっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・これは。お兄様」

「りまー、なぞたまの気配がするよー!!」



二人が少し慌て気味にそう言ったのを見て、僕はりまと顔を見合わせる。

りまは素早く書類を僕に渡してきた。それを受け取って、ジガンの中に即時収納。



「バルディッシュ、唯世達にメールしといて。会議は遅れるって」

≪了解です≫

「それじゃあ恭文、急ぎましょ」



頷きつつも全力でダッシュ。シオン達の案内で僕達は学校の外を目指した。



「あ、ちょっと二人ともっ! てゆうかなぞたまって」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そこっ! 375ページを読みなさいっ!!」





あの子がいつもの公園・・・・・・あれ、この表現おかしいわね。



とにかくいつもの公園の噴水近くのベンチに座ってた子どもを指差す。



するとその子は立ち上がって、手に持っていた雑誌を朗読し始めた。





どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ! やったかっ!? ・・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
さぁ、見てみろ。なん・・・・・・だと・・・・・・? コレが私の




どうやらあの子に指定されたページは、いわゆるバトル系の漫画だったらしい。

どっかのそういうのを朗読してお金もらっている人みたいになっていた。



「・・・・・・兄さん、あの手のお話ってワンパターンじゃない?」

「言うな。ワンパターンというよりは良い意味でのマンネリだな。そういう熱くなるお決まりがあるんだ」





というか、普通に情景が思い浮かぶって・・・・・・バトル漫画、どんだけワンパターンなのかしら。



でもワンパターンなのはともかく、読んだ事そのものが彼女にとっては合格らしい。



なので彼女は右手ではんこを持って、それを子どもの額に押す。





「はい、よく出来ました。花まるをあげましょう」



はんこを離すと、額にはピンク色の花柄のスタンプが押されていた。

それでその子は目を虚ろにして、嬉しそうに笑いながらその場で崩れ落ちる。



「・・・・・・ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「こら、泣かないの。あなたは立ち上がれるわ。さぁ、その二本の足で大地を踏みしめなさい」



次は倒れてないた子どもに近づき励ます。するとその子は涙を拭いて立ち上がった。



「はい、よく出来ました」



それであの子にも額に花まるを押す。あの男の子は本当に嬉しそうに笑いながらあの子を見上げた。



「先生・・・・・・!!」

「というわけで、次は腕立て伏せ200回ね」

「はいっ!!」



彼女は平然と『腕立て200回』を要求した。あの子はそれに従って必死な顔で腕立てを始める。

・・・・・・まだ5歳くらいなのに。でも誉められた事が嬉しかったのか、無茶振りされても必死に頑張ってる。



「ルル、あん子はアレか。教師になりたいからアレだみゃあ?」

「かも知れないわね。あ、今度は猫に『気をつけ』させたわね」

「でも猫ちゃん、足がプルプルしてる」

「そりゃあ本来は四本足で歩く生き物だからなぁ。さすがに無茶だろ」



でもそれだけじゃない。兄さんと同い年くらいの服装がだらしない男達に近づく。

近づいて右手でその男達を指差し、あの子は叫んだ。



「服装の乱れは心の乱れですっ! しゃんとしなさいっ!!」



声をあげた瞬間、指先からピンク色の光の粒子が溢れて、男達にかかる。

それで男達の服装がだらしないパーカーから、学ラン姿に変わった。



「うんうん、よろしい。あぁ、これよ。私は・・・・・・私はようやく」



その子はその様子に満足そうに笑うと、傍らにずっと居たなぞたまがあの子の背後に回る。



「先生になれたのねっ!!」



それからすぐに巨大化。いつものように口を大きく開いて・・・・・・あの子を食べる。



あ〜ん♪



あの子を飲み込んだなぞたまは、紫色の光となって弾ける。

その中から姿を変えたあのメガネの子が出てきた。



「・・・・・・キャラなり」





まず群青色だった髪は明るい空色に変わる。額には当然のように白いハテナ。

それでメガネも大きめの額縁メガネに変わった。服装は黄色いスーツにストッキング、白いパンプス。

なお、スカートに触れなかったのには理由がある。・・・・・・地球儀が腰の部分を丸々覆ってるの。



背中には両手でやっと持てるサイズの分度器の翼。多分、翼で合っているはず。

その分度器の後ろに四本ずつ備えつけられているのは巨大な鉛筆。

それでそれで、地球儀の後ろにコンパスや三角定規も備えつけられていた。



右手にはタクトを持ち、左手には出席簿らしいもの。まさしくその姿は先生そのものだった。





「ティーチャードリームッ!!」

「・・・・・・・・・・・・兄さん、アレダサいわね」

「まぁアレは・・・・・・アレやしなぁ」



今まで色んななぞキャラなりを見てきたけど、アレはブッチギリよ。もうなんか・・・・・・アレよアレ。



「そうか? 中々に先鋭的デザインで素敵だと思うが」

「はぁっ!? 兄さん、いったい何言ってるのよっ! どう考えてもアレはダサいでしょっ!!」

「ルル、お前は見る目がないな。時代は21世紀だぞ? センスもより先鋭的に」

「先鋭的過ぎるでしょっ! 主に方向オンチ的な意味でっ!! あと、私が悪いみたいな言い方はやめ」

「こらそこっ!!」



兄さんの方に向いていたから、接近に気づかなかった。

慌てて私にかかってきた声の方を見ると・・・・・・あの子が居た。



「「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」



え、兄さんもなんか驚いてるっ!? あ、もしかして全然気づいてなかったとかっ!!



「あなた達、将来の夢は?」

「「へ? 将来の・・・・・・え?」」



あんまりに突然だったので、私も兄さんもつい固まって先生をマジマジと見てしまった。

それで二人で顔を見合わせてどう対処したものかと思っていると・・・・・・先生は私達を指差した。



「夢がないなんていけませんっ! 夢はあなた達が叶えるものですっ!!」

「いや、俺は一応夢があるんですが」

「そうそう、兄さんは・・・・・・え、そうなのっ!?」




驚いて隣の兄さんの方を見ると、少し照れ気味に頷いた。

に・・・・・・兄さん、いつの間にそんな。このままプータローになると思ってたのに。



「あら、それは素晴らしい事ね。で、内容はなに?」



いやいや、なんでいつの間にか先生と生徒のお話みたいになってるのっ!? これおかしいでしょっ!!



「色んな事に挑戦したい・・・・・・でしょうか。武術や料理が元々好きで、出来ない自分から出来る自分になれた時嬉しかったですから。
だからこれからももっともっと色々な事をやってみて、そういうキャラチェンジが出来る自分で居られたらなと」



それで兄さんも真面目に答えないでっ! これ状況的におかしいのよっ!? しかも先生がウンウンって頷いてるしっ!!



「まぁ明確な職業とかではないので、夢と言えるかは分からないんですが」

「そんな事はありません。先生は素晴らしい夢だと思いますよ。
夢は人それぞれ千差万別。あなたの描く色でいいんです」

「・・・・・・先生」



だから涙ぐむなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんでちょっと感動ものっぽくなってるのよっ!!



「では、花まるをあげましょう」



それで先生はタクトをあのはんこに持ち変えて、兄さんの額に押す。

兄さんは嬉しそうな顔をしながらその場に崩れ落ちた。そしてインも目を閉じて兄さんの上に落ちる。



「兄さんっ!?」

「インっ! お前さんもしっかりするがねっ!!」



ちょっとちょっと、武術強いのにあっさりやられちゃってどうするのよっ! てゆうかこれだと・・・・・・あ、ヤバい。



「さて、お兄さんは花まるでした。では、あなたはどうですか?」



やっぱり次は私だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「いや、だからなんで面談みたいになってるのかしらっ! ・・・・・・あぁもう、分かったわよっ!!
夢は自分で掴むものよっ! 自分で使えて叶えて・・・・・・やりたいようにやってくっ!!」

「よろしい」










それで先生は満足そうに笑うと、先生は素早く私の額にはんこを押した。





避けようと思ってたのに、避けられなかった。私達もその場で、兄さんとインと同じく崩れ落ちた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「前へ・・・・・・倣えっ!!」



瞳が虚ろな人達が数人並んで、前へ倣えをしている。なお、全員年齢も性別もバラバラ。

子どもやご老人に、仕事途中なサラリーマンっぽい人まで居る。



「やめっ!! ・・・・・・うーん、どうも揃わないわねぇ」



そんな事を言うのは、空中で浮かんでいる素晴らしいセンスの服を着た・・・・・・アレ、もしかして。



「わかなちゃんっ!?」

≪ど、どうなってるのっ! なんでわかなちゃんがなぞキャラなりしちゃってるのっ!!
だってだって、昨日は楽しげに先生になりたいって言ってたのっ! それでこれはないのっ!!≫

「・・・・・・あ、もしかして」



僕達と同じく気配に気づいて、ここに来るまでの途中で合流したあむが足を止めた。

あむは頬を引きつらせながら、空中に浮かぶわかなを見た。



≪日奈森嬢、あなた何かご存知で≫

「う、うん。わかなちゃん、先生になるかどうか迷っちゃったって言ってたから。それで・・・・・・かも」

「決定ね。その迷いに突け込まれたのよ。ホント好き勝手やってくれるわね」



全く同意見だけど、今はそこはいい。僕は空中に居るわかなを見据え・・・・・・声をあげる。



「わかなっ! おのれなにやってんのっ!? てーか猫に気をつけはだめでしょっ!!」

≪そうなのっ! 足がプルプルしてるのっ!! 早く解除するのっ!!≫

「え、まずアンタ達そこっ!?」

「動物虐待で訴えるわよ」

「それでりままでそこなんだっ!!」



僕達の声に気づくと、わかながこちらの方を見る。それで嬉しそうに微笑みながら両手を広げた。



「あ、みんな・・・・・・見て。私先生になったの」

「バカじゃんっ!? そんなのなぞたまにされたせいでワケ分かんなくなってるだけだしっ!!」

「・・・・・・そんな事ない。これは私の『なりたい自分』」



わかなは一気に表情を曇らせて、首を横に振りながら信じられないという顔で僕達を見る。



「いやいや、さすがに猫に気をつけはダメだって。わかな、まずそこからだよ」

「そうね。先生だったら動物虐待は禁止よ。猫に無理なく出来るのは反省までだと思うわ」

だからアンタ達はもうちょっと緊張感持ってくれますっ!? てーか猫から離れろー!!

「ひどいっ! あむちゃんなら・・・・・・みんななら、分かってくれると思ったのにっ!!」



わかなは悲鳴に近い声を上げながら、タクトを左に振りかぶる。



「なにより先生に向かってなんて口の聞き方ですかっ! ・・・・・・気をつけっ!!」






避けようと思ったその瞬間に、右薙に振るわれたタクトによって紫色の粒子が撒き散らされた。

その粒子を浴びると、途端に身体に強烈な違和感が走る。・・・・・・マズい。

それは僕だけではなく、他のみんなも同じ。もうこちらは相手の術中にハマっていた。



あむとりまとキャンディーズにクスクスとシオンは、号令通りに気をつけをする。





「右向け右っ! 小さく前へ倣えっ!! 大きく前へ倣えっ!!」



わかなの号令通りにみんなは動いていく。どうやら抵抗が出来ないらしい。

腕をプルプルと震わせて抵抗しようとしているみたいだけど、全くダメらしい。



「上手上手」



その様子を満足そうに見ていたわかなが、ようやく僕の方を見た。それで目を見開いて驚く。

僕はさっきからずっと、あむやりま達と違って号令には従ってない。ずっとその場で立っていた。



「・・・・・・変身」

≪Riese Form≫



その場で僕は瞬間的に変身。白いマントをなびかせながら、空中に居るわかなを睨みつけた。

バルディッシュもセットアップされ、クリアカラーな刃と柄尻が蒼い色に染め上げられる。



≪Scissors Form≫




次にカートリッジが1発ロード。バルディッシュはその姿を両手鎌に変える。



「こらそこっ! 先生の言う事を聞きなさいっ!!」



また光の粒子がばら撒かれるけど、それに構わずに僕は一歩進む。



「・・・・・・邪魔だっ!!」



叫びながら気合いを入れると、さっきと同じように僕の身体を戒めようとした感覚が弾け飛ぶ。

・・・・・・この感覚を感じた途端に、修羅モードを解放した。あいにく、この程度の能力ならあくびしてても抵抗出来るわ。



「恭文、アンタなんで平気なワケっ!?」

「いや、これくらい普通だから。あむ達の気合いが足りないのよ」

「そんなんで納得出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



足を進めながら、右手で片手持ちしているバルディッシュを1回転。



「な、なんで・・・・・・なんで先生の言う事を聞かないのっ!!」

「それはね、おのれが先生なんかじゃないからだよ?」



笑ってそう言ってやると、わかなは上昇を開始。僕を睨みつけながら、またタクトの先をこちらに向けた。



「そんな事ない・・・・・・そんな事、ないっ!!」





その叫びがトリガーだったのか、分度器の翼に備えつけられた鉛筆が発射される。

紫色の光の軌跡を空の中に刻みこみながら、さながらその様子はミサイル。

あむ達がまだ動けないので、魔法を一つ発動。前方に大きな壁の盾を生成した。



鉛筆ミサイルはその全てが壁に命中。軽い着弾音が響くけど、壁には亀裂一つ入らない。



攻撃を防いだら壁はそのままにして、急上昇。わかなと同じ高度まで上がった。





「もう一度言う。お前は先生なんかじゃないよ。昨日自分で言った事も忘れたの?
・・・・・・先生は困ってたら手を差し伸べてくれるし、良い事をしたら誉めてくれる」




空中でわかなは動きを止めて、揺れた瞳で僕を見始める。



「悪い事をしたら叱ってくれる。子ども達に優しくて、勉強が面白いって教えてくれる。昨日そう言ったのは誰なのよ」

≪そうなのっ! わかなちゃんのなりたい先生は、こういう風に号令で生徒を押さえつける先生なのっ!?
そんなの絶対違うのっ! 少なくともわかなちゃんが憧れた二階堂先生はこんな事絶対にしないのっ!!≫

「もう一度・・・・・・もう一度おのれがやった事を見ろ。
少なくとも僕にはこれが昨日話してくれた『先生』とは思えない」





わかなは震えた瞳で、未だに動けないあむ達や猫達を見る。

もちろん能力の影響を受けていると思われる他のみんなも見る。

・・・・・・アレ? なんか木陰で倒れてる見慣れた二人が居るな。



なんでここに・・・・・・いや、今はいい。今大事なのは目の前のわかなの事だ。



わかなはタクトと出席簿を手放す。その二つはわかなの真下の噴水に水音を立てながら落ちた。





「そんな、私」



わかなの額の白いハテナが、×に変わる。それからわかなの周囲を包み込むように、半透明の×たまが現れた。



≪主様、今なのっ!!≫

「あいよ。・・・・・・必殺」





バルディッシュを右に引いて、魔力を込めて刃を研ぎ澄ます。

バルディッシュの刀身を包んでいた魔力の刃は大きくなる。

そのまま突撃し、数十メートルという距離を一瞬で駆け抜けた。



零距離を取った上で・・・・・・わかなを包み込む×たまに向かって、袈裟に刃を打ち込む。





「魔女狩りっ!!」



蒼い閃光が×たまを、そしてわかなを戒めていたあの宝石を斬り裂き砕く。

僕はそのまま斬り抜けて、空中を滑りながら停止。



「・・・・・・もどき」



時計回りに振り返りながらわかなを見ると、わかなの服は制服姿になっていた。

というか、キャラなりが解けていた。それでそのまま、ゆっくりと地面に降りていく。



「ジガン」

≪ここに居たというだけじゃ、二人を疑えないの。単純に巻き込まれた可能性もあるの≫



言いたい事は察してくれたらしく、すぐに答えてくれた。それで僕はまぁ、軽く息を吐く。



≪難しいですね。本当に≫

「そうだね」










わかなの真下には、ちょうど噴水横に備えつけられた白いベンチがある。





ゆっくりと落下していったわかなは、自然な形でそこに腰を下ろす。





今まで前へ倣えをしていたみんなも解放されて、腕を下ろして安堵の息を吐いた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、わかなはすぐに目を覚ました。当然ながら僕は変身を解除。





わかなは首を傾げつつ、なぜ自分や僕達がここに居るのかと疑問顔。










「・・・・・おーいっ! みんなー!!」



それで解決のはずだったのに、なんでか後ろから足音。そちらを見ると、息を切らせながら二階堂がこっちに来ていた。



「二階堂先生っ!? あの、いったいどうしたんですかっ!!」

「いや、蒼凪君と真城さんがいきなり居なく・・・・・・あ、無事に終わったっぽい?」

「まぁその、色々ありましたけどなんとか」

「あの、先生」



わかなはベンチから立ち上がって、二階堂の方に数歩近づく。

二階堂は息を整えながらわかなの方を見て、首を傾げる。



「私、よく分からなくなったんです」

「え、分からなくなったって言うと・・・・・・何がかな」

「自分が何になったらいいかなーって。その、作文には先生になりたいって書いたじゃないですか。
だけど、ジュエリー関係やファッションデザイナーもいいなーって」

「あー、それで迷っちゃった感じ?」

「えぇ」



二階堂はようやく納得したようで、息を整えつつ噴水の近くのある場所に視線を向けた。



「それでいいんじゃないかな。・・・・・・ごらんよ」



僕もあむ達もそちらに視線を向けると、そこは公園の中にある花畑。

色とりどりの花が咲いているそこは、見ているだけで優しい気持ちになる。



「あの花達を。あんなに色んな花がある。あんなに色んな色がある。
人も・・・・・・そうやって色んな花を咲かせる事が出来るんだよ」

「色んな・・・・・・花」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



色んな・・・・・・花。花はきっと、夢。つまり人は色んな夢を咲かせる事が出来る。





夢・・・・・・さっきのアレコレを思い出して、自然と胸が苦しくなった。










「色んな花を咲かせる事が出来る・・・・・・かぁ。痛いとこ突かれたなぁ」



感心顔でそんな事を言うナナの帽子を左手で掴み、目深にかぶらせる。

ナナはそれだけで前が見えなくなって、ふらふらし始めた。



「・・・・・・なによ、それ」










色んな花なんて、咲かせる必要ないじゃない。そうよ、そんな必要ないわ。

私が目指すのは完璧という花だけ。色んな色も、色んな花もいらない。

もうとっくにそう分かっているはずなのに、どうして私はこんなに苦しいの?





なんで感心顔の兄さんやインと同じく、あんな綺麗事に惑わされちゃうのよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



色んな花・・・・・・あぁ、でもなんか分かったかも。無理にフェイトさん達みたいにしなくていいのかも。

前に空海も言ってたじゃん。分からないって事は、どんな自分にもなれるって事だってさ。

きっとあたしの中にも、りまの中にも、わかなちゃんや二階堂先生・・・・・・みんなの中にもあるんだ。





どんな花が咲くかなんて分からないけど、でも分からないからきっと、あたし達の花は色んな色になるんだ。










「・・・・・・色んな花」

「色んな色」

「色んな匂いですぅ」



ラン達は花畑に近づいて、色とりどりの花達を楽しげに見ていた。

それはりまや恭文、あたしとわかなちゃんに二階堂先生も同じく。



「でも色んな花を咲かせるなんて、あたし達に出来るのかな」

「もちろんだよ」



二階堂先生は微笑みながら、いつもより優しい瞳で花達を見ていた。



「その可能性は、誰の中にもある。もちろん僕の中にもね」

「・・・・・・二階堂先生って、一応先生だったんだなぁ」

「そうそう。一応・・・・・・ちょっと蒼凪君っ!? それはどういう意味かなっ!!」



恭文は慌て始めた二階堂先生を見て、楽しげに笑う。それに釣られて、あたし達も笑ってしまう。



「いやいや、一応誉めてるんですよ?」

「そうね、誉めてたわね」

「蒼凪君、ナイスだよ」

「そうそう。先生納得しなきゃだめじゃん」

「納得出来ないからっ! お願いだからもうちょっとちゃんと誉めてくれないっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんというか・・・・・・優亜の事が無事に片づいたのは嬉しいよね。
・・・・・・お兄ちゃん呼びは全く改善出来なかったけど」

「言わないでー! てーかマジ頭痛いからやめてー!! そして今更そこに触れるのおかしくないっ!?」





あのドタバタの翌日。僕とあむはたまたま出現した×たまを浄化して家路についていた。

てゆうか、政治関係がまたドタバタしてるせい? ×たまも普通に出てるような・・・・・・世知辛いなぁ。

あの×たまから聴こえた声も、『疲れた』とか『やってられない』とか寂しいものばっかだったし。



だけどはてなが付いたり×が付いたり・・・・・・こころのたまごも世間の波に流されて大変だなぁ。





「あー、でもマジでなぞたま事件どうしよう。こうなったらルルとヘイを一日中つけるか?」

「いや、さすがにそれは・・・・・・でもそれくらいしないと現場押さえられないレベルではあるよね。だけどさ、あたし思うんだけど」

「何?」

「二人が犯人じゃなかったら、完全な無駄足になる可能性もあるんだよね。
あ、でも・・・・・・それでなぞたまがまた出たら、二人が犯人じゃないって証明になるか」

「一応はそうなるね」





あむがそう言いながら嬉しそうな顔をするのは、きっとルルと通じた部分があるせい。



でも同時に僕の話にも合わせてくれて、理解を示そうとしてくれている。



まぁアレだよね。いつぞやの海里の時と違ってある程度合わせて考えてくれるのはありがたいかも。





「もしくは真正面からツッコむ・・・・・・とかどうかな」

「歌唄みたいな性格じゃない限りは、流されて終わるだ・・・・・・いや、それもアリ?」

「アリかも知れないよ? ルルって意地っ張りで卑怯なのとか嫌いっぽいし。
いや、でもその分ヘイさんが冷静っぽいからダメかな。うーん、こう考えると手段色々なくない?」

「確かにね」



なら、もうちょっとアレコレ・・・・・・いや、なんかコレだめかも。てゆうか僕、普通に失敗してる?

だってほら、あむにとってはルルはそれほど印象悪いわけじゃないっぽいし・・・・・・うわ、これマジ失敗だし。



「あたしも付き合うから、のけ者にするな」



内心どうしようと思っていると、あむが呆れ気味にこちらを見ながらそう言ってきた。



「別にルルやヘイさん疑うの、平気なわけじゃない。むしろ気分が悪い。
だけど・・・・・・やっぱりこれ以上こんな事が続くのは嫌。あたし、拳握るって決めたし」

「いや、でも・・・・・・あむ、バカでしょ」

「そうかも。でもアンタよりはずっとマシだし。だからあたしもちゃんと巻き込む事。いい?」

「・・・・・・分かった。途中で泣いても知らないから」

「バカじゃん? 泣くわけがないし」





・・・・・・幸か不幸か、僕達の今の杞憂は無意味なものと片づけられる事になった。

それは僕達が知らない間に、長かったこのなぞたま事件はとっくの昔に最終局面を迎えていたせい。

それを僕達が知るきっかけは・・・・・・今。そう、今この瞬間だった。



家に向かって歩いていた僕とあむは、通りがかったコンビニである光景を目にした。





「・・・・・・こらそこっ! そんなところで座ってたむろしないっ!!」

「あぁ? なんだよババア」

「うるせぇんだよ。とっとと消えろっつーの。キャハハハハハ」

なんですかその口の聞き方はっ! 私が消える前にあなた達が他人の迷惑を考えて消えなさいっ!!

『は、はいっ! すみませんでしたっ!!』





コンビニの表でたむろしてた柄の悪そうなのを叱り飛ばしていたおばあ様が居た。

白い手入れの行き届いたスーツを身にまとい、金色の髪をショートカットにした女性。
.
身長は大体フェイトと同じくらいで・・・・・・また凄い迫力だなぁ。



でも日本語上手だなぁ。多分海外の人かと思うけど。





「・・・・・・全く、日本の若者はどうなっているんですか」



なんか凄いなぁと思いつつ、僕達はそのまま家に戻ろうとした。でもそんな時、視線が僕達の方に向いた。



そこのあなた達っ!!



てゆうか、右手で指を指された。その時、凄まじく嫌な予感がした。

関わっちゃいけないという危険信号がビービーと鳴り響く。よし、ここは。



なぜ逃げようとするのですかっ!!



なんかすっごい見抜かれてるー! てーかあむまで驚いた顔・・・・・・おのれも考えてたんかいっ!!

僕達が動揺している間に、翡翠色の瞳のおばあ様は僕達のところに急接近してくる。



「・・・・・・あなた達」

「な、なんでしょうかぁ」

「あの、僕達早めに家に」

「この近くにモルセールという家があるでしょ」

「「・・・・・・・・・・・・モルセール?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それで改めてお話を聞いたところ、この人はルルとヘイのおばあさん・・・・・・かおるさんの義理のお母さんだった。

つまりあのシェフな旦那様のお母さんって事だね。それで結局そのおばあさんを案内する事になってしまった。

キビキビと足取りも軽快に歩き、背筋をピンと伸ばしたおばあ様は普通に近寄り難い雰囲気があったりする。





つまりその・・・・・・別にさ、通り道だからいいのよ? コースちょっと変えればいいだけだし。





だけど重い。今の空気が重くて重くてしょうがない。僕、正直あむに押しつけて帰りたいです。










「・・・・・・それにしても日本語上手ですね」

「子爵として当然です」

「で、ですよねー」



あむがコミュニケーションを取ろうとしてるけど、さすがに僕にはそんな勇気はない。

返す刀でバッサリ斬られそうで・・・・・・やっぱり『早々に立ち去るべき』と脳内で危険信号が出まくってるのよ。



”主様ー、子爵という事はこの人はフランスの貴族さんなの?”

”そういう事になるね。かおるさんに前に聞いた話だと、旦那さんは本当にそういう家の出らしいし”

”つまり貴族夫人・・・・・・確かに出している空気が普通の方とは違いますね”



でもバルディッシュも納得なこのおばあ様と一緒に行動はかなり辛い。だってね、歩く度にさっきの勢いで噛みついていくのよ。

そりゃああんな調子でポンポン飛び出してったら、道だって分からなくなるよ。・・・・・・どんだけ日本は穢れてるんだろ。



「そう言えばさっきから気になっていましたが」

「・・・・・・え、あたしっ!?」

「なんですか、そのだらしない格好は」



なお、『だらしない』というのはあむの普段の着こなしの事です。おばあ様的にはやっぱり目に付くらしい。



「いや、その・・・・・・これはこういうファッションですって。
ほら、恭文だって似たようなもん・・・・・・アレ、なんかいつの間にかちゃんとしてるっ!!」



ちなみに僕はとっくに修正済み。おばあ様の現時点での言動を考えて、やっておいた方が良いと判断した。

シャツも中に入れてるし、制服の前も閉じている。ネクタイもキチンとしてるから問題なし。



「ほら見なさい。そんな格好をしているのはあなただけじゃありませんか。しゃんとなさい」

「そうだよあむ、なんでおのれはそういう格好をして恥ずかしくないの? もうちょっと制服は上手く着こなさなきゃ」

「いやいや、それおかしいしっ! そもそもそこアンタに言われるのはめちゃくちゃ屈辱」

いいからしゃんとなさいっ!!

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」



結果、あむは自分の美意識をへし折って『しゃんと』しました。・・・・・・あむ、おのれもまだ甘いね。

先を歩きながら後ろで落ち込む現・魔法少女を見て、少し哀れに思ってしまった。



「そうそう、それとあなたも」

「え、僕ですかっ!?」

「その袖口と懐に隠している物を今すぐ出しなさい」



袖口に懐・・・・・・あ、まさか携帯している鋼糸や飛針の事っ!?



「あとはそのベルトに付いている妙な機械もです。小学生にはそんなものは必要ないでしょう。私が預かります」



きゃー! ワイヤーベルトの事まで見抜かれてるー! ねぇ、この人マジで何者っ!?

どっちも金属探知やスキャンでも分からないようにちゃんと隠してあったのにー!!



「いや、その・・・・・・これはダメなんです。というかこれは訓練に必要で」

いいから出しなさいっ!!

「いえ、ですから僕は実戦剣術を勉強してて、これらはその用具で」

言い訳など聞いていませんっ! 早く出しなさいっ!!



・・・・・・すみません、ちょっとプチンって来ました。なんていうか、アレだね。

まずは話を聞くくらいの事はしていいと思うんだ。ほら、初対面だし。だから・・・・・・冷静にいこう。



「だからダメだっつってるでしょっ!? これは実戦剣術用の大事な用具なのっ!!
なんで初対面の相手にそれを預けなくちゃいけないのさっ! 話おかしいでしょっ!!」

なんですかその態度はっ! 年上に対してはもっと敬意を払いなさいっ!!

「敬意払って欲しいなら払えるだけの態度を示してくれますっ!? そもそもそんな調子だから一人で息子の家にも行けないんだよっ!!
あーあー、情けないったらありゃあしないっ! フランスの子爵様は一人で外も歩けない方向オンチだって言うんだから笑っちゃうよっ!!」

なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! あなた、そこに座りなさいっ!!
この私が目上の者に対しての態度をきっちり教えてあげましょうっ!!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 恭文落ち着いてっ!!
ほら、ルルのおばあさんもっ! ここでケンカしてても意味ないからっ!!」










・・・・・・その後、僕は道案内しつつあくまでも冷静に・・・・・・冷静に話した。

だけどなぜだかこの人はキレて、家の目前だと言うのに逆方向へ行こうとしたりであむが大変だった。

もうアレだ。なんかあむがすっごく疲れた顔してるけど僕は気にしない。





だって僕は冷静に話そうとしたし。でも・・・・・・アレレ? うーん、なんかおかしい。





このおばあさんを見てると違和感がある。でもそれが何か・・・・・・あ、もしかして。




















(第104話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、ドキたま/じゃんぷ第3話はアニメの第84話『二階堂先生は先生だったぁ!?」』を元にしております。
あとは72話のルルのおばあさんがやって来たお話も込みだね。もちろん冒頭だけだけど。そして強烈キャラです」

あむ「あー、確かにアレはなぁ。てゆうか恭文、二階堂先生のお話結局やったんだね」

恭文「うん。なんかエンジンかかって一気に書いたんだって。あとはストックを作って」

あむ「まずそこっ!? ・・・・・・あ、本日のあとがきのお相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文です。今回のお話はご覧の通り二階堂がメインのお話。てーか僕は完全に脇だったなぁ」

あむ「まぁいいんじゃないの? で、そこはともかく・・・・・・実は作者さんが風邪引きました」





(・・・・・・辛い)





恭文「大丈夫だよ。作者は強い子だから。ゆっくり寝てれば問題ないって」

あむ「アンタ普通に冷たいねっ! てゆうかその殺し屋の目はやめないっ!?」

恭文「気にしてはいけない。それであむ」

あむ「ん、なに?」

恭文「とりあえずフェイトとなのはは参考にしない方がいいな。
色んな花咲かせられたのに一つに集中して後悔したタイプだから」





(蒼い古き鉄が真顔です。現・魔法少女、相当引いています)





あむ「それはまぁ、FSとか見てるとかなりね。てゆうか、ほら、GMとまとが」

恭文「あー、GMとまとはね。12/11の最新話でフェイトが相当アレだったしなぁ。
つまりアレよ。一つの花を咲かせてそれをどこかで絶対とか思ってるからあぁなるのかもよ?」

あむ「ジュンイチさんが咲かせる花と自分が咲かせる花との違いを認められなかったとか?」

恭文「そういう理屈だね。でもそれは決して良い事じゃないから、フェイトの花を見事に散らせて・・・・・・ごめんなさい」





(どうやら自分に突き刺さるものを感じたらしい。蒼い古き鉄は吐血した)





あむ「てゆうか、そこはルルにも言える事じゃない? まぁこの辺りはまた次回以降でやる話だけど」

恭文「うん、だと思う。この時期のルルとGMとまとのフェイトって、多少かぶってるとこあるんだろうね。
自分の頭の中で描いてた理想や形を絶対として、人に押しつけていくところ・・・・・・フェイト、泣かないで」





(『だって・・・・・・だって私・・・・・・うぅ』)





恭文「とにかくそんなルルも目立っているなぞたま編も、あとちょっと。
次回はルルのおばあさんが主役レベルで目立ちます」

あむ「マジ?」

恭文「少なくとも僕とあむがメインではないかな。ルルとヘイのお話になってると思う。
・・・・・・それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむでした。みんな、自分なりの花を咲かせていこうねー」










(色んな色、色んな花、色んな匂い・・・・・・単純だけど、とっても大事な言葉です。
本日のED:ORANGE RANGE『花』)




















フェイト「・・・・・・ヤスフミとあむ、どうしてまた」

シャーリー「あー、なぎ君達から連絡来たんですか。そう言えば帰り遅いですね」

フェイト「なんだか×たま浄化してたみたい。でも帰りにその・・・・・・ルルちゃん達のおばあさんに捕まったって」

シャーリー「はぁっ!? なんですかそれっ!!」

フェイト「パリから会いに来たそうなの。でも道が分からなくて、案内してて・・・・・・どういう遭遇率だろうね」

シャーリー「ホントですねぇ。あ、それとフェイトさん、みんなの改修もうすぐ終わりそうです」

フェイト「ホントに?」

シャーリー「えぇ。まぁインフィニティ・ガンモードはもう少し時間かかりますけど、でもきっとそう遠くない内に」

フェイト「なら良かったよ。・・・・・・あとは、この事件の犯人を特定するだけだね。ここも対策考えておこうか」

シャーリー「はい」










(おしまい)





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