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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第21話 『とある魔導師と閃光の女神の一夜』



さて、フェイトを連れて必死に走っています。それはもう頑張って。










「ヤ、ヤスフミっ!?」

「フェイト、急いでっ! このままだと・・・・・・まずいっ!!」

「え?」





このままだと危ない。そう思った。

だって、今回はマジな緊急事態じゃない。

だから、飛行魔法も転送魔法も許可でないし。



そしてそれは・・・・・・正解だった。

僕達がたどり着いた場所は、人でごった返していた。

・・・・・・ここは、ラトゥーアに併設されているホテル・ラトゥーアのフロント。



そう、この悪天候で帰れなくなった人達が、寝床の確保のために動かないワケがない。

当然のように、ここに集まってきているのだ。うん、考えるまでもなかったね。

だって、レールウェイだけじゃなくて、車やバスの類も、全部アウトなんだもん。



だから、必要かと思って来たんだけど・・・・・・遅かった、かも。





「・・・・・・大丈夫かな、これ」

「泊まれると・・・・・・いいよね」

「ちなみにフェイト、野宿の経験は? なお、テントとかそういうの無しで」



まぁ、フィールド系の魔法を行使すれば、寒くて凍えて死ぬとかは、ないのよ。

ただ・・・・・・なぁ。それでも、人工物の中で野宿は、きっと辛いと思う。



「それは、無いかも。・・・・・・ヤスフミは?」

「ある。ヒロさん達との修行中に、宝探しとかした時にさ」

「そんなことしてたのっ!?」










フェイトの疑問の叫びは、聞こえないことにした。うん、聞こえると辛いから。





だって、結局・・・・・・お宝で一攫千金の夢は、パーになっちゃったしさ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第21話 『とある魔導師と閃光の女神の一夜』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そこをなんとかっ!」

「そうしたいのは山々なんですが・・・・・・無理なんですよ」





現在、フロントでヤスフミとフロントマンの人が交渉中。だけど、まったく上手くいかない。

交渉内容は、二部屋取れないかという話。

だけど・・・・・・顔見知りなら、一部屋でお願いできないかと言われた。



この状況だしね。私たち以外にも、どんどん人が来ている。



・・・・・・同じ部屋は、少しまずいしね。前にそれで大騒ぎだったし。





「多少割高でもいいんで、二部屋取れませんか?」

「取れないこともないですが」

「ほんとですかっ!?」

「ですが、それだとこれになってしまうんです。
それがこちら・・・・・・最高級のロイヤル・スウィートです」



提示された額を見て、私たち二人とも、ビックリしたのは言うまでもないと思う。




「多少じゃねぇぇぇぇぇぇぇっ! ぶっちぎってるっ!! ぶっちぎっちゃってるよね、これはっ!?」



というか、ヒドイよこれは。お金が無いわけじゃない。

だけど、これを二部屋は、もったいなさ過ぎる。・・・・・・うん、それなら。



「わかりました。同じ部屋でお願いします」

「フェイトっ!?」



こうなったらもう仕方ない。さすがにスウィートルームは高すぎるわけだし。



「あの、私なら大丈夫だから。・・・・・・ね?」

「・・・・・・わかった。あの、この部屋・・・・・・ベッドが二つある部屋で、お願いします。一つは、絶対認めませんので」









フロントマンさんが、丁重に頭を下げながら『ありがとうございます』と言うと、カードキーを渡してくれた。





そして、その部屋へと向かう。・・・・・・でも、どうしよう。いきなりこんなことになるなんて。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・バリケードの材料、売ってなさそうだな。いや、いっそブレイクハウトで構築する?
そうだ、そうしよう。帰る時に元に戻せば、問題ないハズだよね」

「あの、そんなことしなくても・・・・・・私は大丈夫だよ?
あと、それは絶対だめだからっ! 普通に罰金コースだよっ!?」

「だって、僕が大丈夫じゃないの。うん、いろんな意味でね」



つか、いきなりこうなるとは・・・・・・なんだこの神展開っ!? 前回に続いてわけがわからないしっ!!



とにかく、これからだよね。うん、極力意識しないようにしよう。



・・・・・・あ、こういう時には頼りになる人がいるじゃないのさっ!!





「フェイト、ごめん。ちょっと連絡するところがあるから」

「あ、うん」










そして、僕は部屋を出てから、通信を繋ぐ。そう、その相手は・・・・・・この人。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『はーい♪ ・・・どうしたのかな。お姉さんにあんなことやこんなことを相談したくなっちゃったの?』





そう、みなさまご存知、無敵のお母さん。僕のメル友でもあるメガーヌ・アルピーノさんだ。


というわけで、事情説明。かくかくしかじか・・・・・・なんですよ。





『・・・・・・まずは避妊具ね』

「失礼しました。というか、豆腐の角に頭ぶつけてください」

『いけずー! 軽めのジョークじゃないっ!! というか、こういうのは大事なのよっ!?』



分かってるわぼけっ! つか、そういうことを聞きたいんじゃないっ!!

どうすればこの神展開を、平穏無事に切り抜けられるかを聞きたいんですけどっ!?



『平穏無事・・・・・・まぁ、フェイト執務官が君をっていうのは無いだろうから』



そうですね、むしろあったらビックリですよ。



『やっぱり君の我慢次第よね。でもよ? むしろ、抑えない方がいいのかな。
・・・・・・いや、そういうのは・・・・・・だし。うん、やっぱり我慢なさい』

「いったい何を思い出したんですか、あなたっ!!」



ビックリしたぞ。色んな方程式が飛び出たんだから。



『まぁ、アレよ。場合によっては、時の流れに任せることも、必要よ?』

「いや、あの」

『そうなる時っていうのは、そうなるべくしてなるんだから。うん、我ながら名言だわ』



・・・・・・その嬉しそうな顔はやめてください。というか自分で名言って言わないで。



『とにかく、頑張ってね。せっかくのシュチュエーションなんだもの。
そういうことが無くても、距離を縮めるいいきっかけにはなると思うな』

「・・・・・・はい。あの、話聞いてくれてありがとうございました」

『ううん。というか、これで少しは落ち着いたでしょ?』





・・・・・・うん、色々と見抜かれていたのね。やっぱり、凄い人だ。

とにかく、僕は再度お礼を言ってから、通信を終えた。

結果の報告を約束した上でね。うん、しっかり報告出来るように、ハッピーエンドを目指そう。



それから部屋に戻ると・・・・・・なにしてるの?





「あ、うん。非常口の確認。こういうの、大事だから」



・・・・・・もう一回通信したくなってきた。こういうのは、どう読み取ればいいんですかってさ。



「それでフェイト、夕飯どうする?」



なんだかんだで、もうそんな時間ですよ。またバイキング? それも芸がないなぁ。



「あ、それなら行ってみたいところがあるんだ」

「そうなの?」

「うん。ここなんだけど」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・まさか、フレンチレストランを持ってくるとは」

「ちょっと気になってたから。でも、残念だね」



ここは、ホテルの上層階にある、フレンチレストラン。本当なら、窓から綺麗な夜景でも見えるんだろうけど、今は見えない。

だって、どしゃぶりなんだもん。代わりに、窓全体にスクリーンが張られて、夜景の映像が映っている。



「・・・・・・フェイト」

「うん?」

「あの、ごめん。早く返してればよかった」



いきなりではあったけど、色々とやりようがあったのではないかと、反省しております。



「いいよ、謝らなくても。それにね、一日ヤスフミとずっと一緒なんだよね。
そんなこと、滅多に出来ないもの。だからきっと、いい思い出になるよ」



そう言って、にっこり笑うフェイトの笑顔が、凄くまぶしかった。とても明るくて、優しくて。

だめだな、やっぱり。僕はフェイトには、デレデレなんだと思う。うん。



「・・・・・・うん、ならいいや。そうだね、楽しく過ごそうか。最後まで」

「うん」





そして、僕とフェイトは出てきた料理に、美味しく舌鼓を打った。というか、本当に美味しかった。





うん、幸せ。あと、フェイトが笑顔だったのも、幸せだよ。今日は、やっぱりいい日だなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フルコースの食事も、メインを終えて、後はデザートを残すのみになった。

途中で、ワインも頼んだりして、ちょっとだけ大人な雰囲気。

・・・・・・なんだか、心地いいな。お酒が入っているのもあるんだけど、今の時間が心地いい。





料理をいただきつつ、ヤスフミと話した。今日のこととかを中心に、楽しく。なんだか、安心する。

こういう形のデートに誘われた事が、無いわけでは無い。・・・・・・断っていたけど。

どうしても、下心みたいなものを感じていたから。本能的な部分で、不安を感じていた。





うん、不安に感じる部分が強かったんだ。色々な理由で。

・・・・・・私の身体が特殊な生まれ方をしているのも、その理由の一つ。

だけど、普通の女性とは全く変わりがないらしいけど。





つまりその、クローンだけど、出産とかもちゃんと出来る。短命というわけでも、ない。

ハラオウン家でお世話になるようになってから、クロノとリンディ母さんの進めもあって、検査を受けた。

クローン技術は、ミッドの技術でも、不安定だから。だからこその検査。





例えば・・・・・・突然の遺伝子の変異による、短命。出産などの、生命としての機能の不全。

私だけの話じゃなくて、私のような生まれ方をした子には、常にそういった心配が付きまとっていたから。

数年に渡る、将来性も鑑みた上での、遺伝子レベルでの検査。そしてその結果は、オールグリーンだった。





私は、普通の女性と変わらず、子どもも産めるし、短命でもない。そう断言された。それが、今から4年前。

これは、さっきも言ったけど数年に渡って遺伝子レベルで検査をした結果。

医者の方が、驚くくらいに完璧で、覆りようもないらしい。これには私もビックリした。・・・・・・覚悟は、していたから。





私は、プレシア母さんの贈り物だと思っている。私にじゃない。・・・・・・アリシアにだ。

プレシア母さんは、きっと生き返ったアリシアに、本当に幸せになって欲しかった。

もっと言うと、普通の女性としての幸せを、全うして欲しかったのではないかと、思う。





生き返らせて、もしそれが理由・・・・・・先ほど言ったようなことが起これば、二回も娘を亡くすことになる。

それが嫌で、だからきっと、本当に長い時間をかけたんだと思う。それでも、耐えた。

アリシアとの、一点の曇りもない時間を夢見て。そして、アリシアの幸せな未来を夢見て。





だからこその今の身体だと思っている。もちろん、感謝はしている。だけど・・・・・・少しだけ複雑。

話がそれたけど、私がそういうのを断っていたのは、気が進まなかったから。

身体のこと、生まれのこと。・・・・・・全く気にしていないと言ったら、嘘になる。





それに、エリオやキャロのこともあったから。充分過ぎる位に幸せ。だから、そういうのはしばらくはいい。

そうだ、今あるものだけでいい。だって、私は十二分に満たされている。貫きたい理想が、仕事が、私にはある。

見守っていきたい子達が居て、暖かな家族が居て・・・・・・だから、今あるものだけでいい。これ以上は、いい。





これ以上は、欲張りだもの。私はもう充分幸せになっているから。そう・・・・・・思ってたんだけどな。

だけど、今は違う。・・・・・・なんだか、不思議なの。たった一日だけなのに。

それまで私達が過ごしてきた時間の、何千分の一。それが、今日と言う日。





その少しの時間で、私のヤスフミを見る目が変わってきているのが分かる。

一緒に居て、家族とか、そういうのを抜きにして、安心できる。

私のこと、気遣ってくれているのが分かる。不安にさせないように、守ろうとしてくれているのが、分かる。





・・・・・・それに、私はドキドキしている。今まで、感じたことのない色の幸せが、胸の中で生まれ始めてる。

ヤスフミとこうして居る時間が楽しくて、今の状況も、実は楽しんでいる。その、不安に思わない訳じゃない。

やっぱり、ヤスフミも男の子だから・・・・・・なんて考える。でも、それよりも大丈夫だと思う部分が強い。





・・・・・・勝手だよね、私。だけど、信じたいな。うん、信じたいんだ。





私は。今まで知らなかった今のヤスフミを、信じたいんだ。それで、もっと・・・・・・。










「・・・・・・あれ?」



ヤスフミが何かに気付く。・・・・・・私も気付く。さっきまで、BGMに流れていたピアノの音が、消えていた。

それによって、少しだけ、外の雨の音が聞こえる。



「なにか、揉めてるね」



それが気になったのか、ヤスフミが、近くのウェイターさんを呼びつける。



「あの」

「すみません、ご迷惑おかけしております」

「いや、それはいいんですけど、これは」

「実は」



ウェイターさんの話によると、音響設備が壊れたらしい。・・・・・・雷とかの影響かな。

というか、なんか照明も・・・・・・あぁ、暗くなってる。ざわめきが、どんどん大きくなる。



「あの、あそこにおいてあるピアノは駄目なんですか?」



恭文が視線で指したのは、ちょうど店内の中心にある、一台のグランドピアノ。

確かにあれを使えば、場を沈めさせることが出来るかも。



「あれは催し用で、スタッフの中では弾ける人間が、居ないんですよ」

「なんちゅう・・・・・・」

「それは意味、ないね」

「・・・・・・あ、それなら」



ヤスフミが、何かを思い付いたような顔をした。そして、提案した。



「僕が、弾きますよ」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?





『えぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、ピアノの前に座る。で、スタッフさんを何人か呼んでもらって、打ち合わせ。





大丈夫、ピアノはサリさんやらカリムさんやらに相当叩き込まれた。だから、弾ける。










「・・・・・・で、こういう感じの曲なんですよ」



なんて言いながら、軽めに弾いたりする。まぁ、一応ね。いきなり弾いて、ビックリされてもアレだから。



「問題、あります?」



で、口ひげの生えたオーナーさんが唸る。唸って・・・・・・力強く頷いた。



「今日は子供連れのお客さんも多いし、多少砕けても問題・・・・・・ないよな?」



オーナーさんが、周りの店員さんを見る。で、全員も頷いた。



「そうですね。というより、この際お願いした方がいいと思います。
正直、曲目どうこうと言うより・・・・・・雨の音が」



雷や雨の音が、どんどん激しくなって窓を叩く。正直、食事出来るレベルじゃない。



「なら、決まりですね。あ、一応曲目の確認作業だけお願い出来ますか? お任せは、ちょっと不安なんで」

「分かりました。では、すみませんがお願いします」

「はい」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・結局、トントン拍子で話は纏まり、本当に弾く事になった。照明が、少しだけ暗いものに変わる。

そして、中心でピアノに向かったヤスフミが、他のお客さんの注目を集める。

というか、大丈夫なのかな。ヤスフミ、ピアニストなわけじゃないんだし。





だけど、そんな私の心配を余所に、準備は進んでいく。そして・・・・・・始まった。

少しだけアップテンポな曲。どこか激しくて、強くて。でも、それは印象。

曲自体はスローで、場の雰囲気を壊すようなものじゃなかった。というか、ちょっと控えめに弾いてる感じ。





でも、凄い。普通に上手だよ。ヤスフミ、いつの間にこんなこと出来るようになったの?

・・・・・・知らなかったこと、またあったね。きっと、まだある。知って、いけるかな?

ううん、知っていける。私が、向き合おうと望めば、絶対に。出来ない理由なんて、ないよ。





とにかく、私とお店のお客さんは、音響設備が復活するまで、ヤスフミのピアノに耳を傾けていた。





これだけじゃなくて、色んな曲を弾いた。でも、本当にビックリした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・タダにしていただきました。いや、なんでも覚えておくもんだね〜。





なお、弾いた曲は・・・・・・ダブアクとクラジャンのピアノフォーム。

あと、某絶対可憐なアニメの三番目のEDとか。(耳コピで密かに練習していた)

あれ好きなのよ。・・・・・・弾き語りすればよかった。いや、さすがにマズイだろうけど。





・・・・・・なお、親子連れで来ていたお客さんのリクエストに、応えたりした。

というか、子どもの方だね。こっちは弾き語りしてしまっったさ。クラジャンのファイナル。

控えめに、ゆっくりと・・・・・・1コーラスだけ。うぅ、拍手されてしまったのが、くすぐったいよ。





一応付け加えておくと、全てお店の方に確認した上で弾いている。弾き語りも同じく。これで大丈夫ですか〜てな具合に。










「でも、驚いた」



レストランを出て、部屋に戻る最中のこと。そう話しかけてきたのは、フェイト。

なんか、嬉しそうというか、楽しそうな顔してる。ワインのお陰で、顔も少し赤いし。



「なんで?」

「ピアノ、弾けるなんて、知らなかったから」



あー、確かに言ってなかった。見せる機会もなかったしね。



「サリさんとカリムさんに教えてもらったんだよ」





修行のために聖王教会に居るとき・・・・・・ここ1、2年の間にだ。



理由は簡単。弾き語りとかが、モテ要素だから。これで告白でもしろと、叩き込まれたのだ。



まぁ、オタクの好奇心の元に、アニメ関係の曲しか弾けなかったりするんだけど。





「そうだったんだ。なんだか、サリさんはホントにお兄さんだね。色んなこと教わってる」

「うん、そうだね。感謝しないと」



とりあえず、無事に帰り着いたら、報告メールを打とう。好感度は稼げたと。



「他は何が弾けるの?」

「うーん、アニメ関係だけなんだけど、色々。・・・・・・うん、子ども受けはいいね。そんな曲ばかりだ」

「そうだね。さっきのあの子も、嬉しそうだった」





思い出すのは、リクエストをしてきたヴィヴィオくらいの子。うん、嬉しそうだった。



なんというか、ああいうのを見ると、僕も嬉しい。



・・・・・・そうだよね、僕の中にあるのは、壊すことだけじゃない。それだけじゃ、無いんだ。





「そう言えば、あの歌・・・・・・えっと」

「クライマックスジャンプ?」

「あ、そういう題名なんだね。えっと、最近ヴィヴィオやなのはが口ずさんでるのをよく・・・・・・というか、ヤスフミが弾いた曲にも聴き覚えがあるの」



あぁ、電王は二人も好きだしね。納得納得。



「実はあれ、僕がディスク貸している特撮物の主題歌や、挿入歌なんだよ。
実際に、ピアノバージョンも作られてる」



というか、それが弾きたくなって、練習が本格化したりした。それはもう、猛特訓でしたよ。



「だからなんだね。納得した」

「まぁ、そういうのを抜きにしても、あの曲達は好きなんだけどね」



特に、今日歌ったファイナル、いいんだよね。歌詞が変わってて、元のクラジャンの続きみたいになってて。

・・・・・・劇場版の3作目、見れてないからさ。聞いて寂しさを埋めているのさ。



「うん、解る」

「解るのっ!?」

「だって、弾いている時、すごく楽しそうだったから」



・・・・・・はい、楽しかったです。すごく。



「ね、音源とかってある?」

「・・・・・・うん。CDから取ったのを、端末に入れているけど」

「なら・・・・・・今日歌っていたの、欲しいな」



・・・・・・え? それはまたなぜに。だって、フェイトは電王見てないのに。



「聴いてて、いい曲だと思ったから。こう、元気になれるの」

「・・・・・・そっか。うん、わかった。そういうことなら」










そして、僕は快く音源ディスクを貸す約束をした。





なんか、嬉しい。フェイトと、こうやって共通の話題が出来ていくのが。





やっぱり、今日に感謝だよ。うん。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・というか、フェイト大丈夫?」

「うん、大丈夫。というか・・・・・・おかしいなぁ。一杯くらいなら、平気だと思ったのに」





ワイン開けました。いや、その場の勢いで。

というか、フェイトはお酒弱くなってない? 前はまだ大丈夫だったのに。

とにかく、少しだけふらふらしているフェイトを部屋に連れ帰って、ベッドに座らせる。



うん、酔っ払ってるってほどじゃない。多分、悪酔いしただけだ。問題はないと思う。



続いて、僕は水を持ってくる。洗面所に、コップがあったので、それに汲んでだ。それをフェイトに渡す。





「あ、ありがと・・・・・・」



それを飲むと、楽になったみたい。少し息を吐いた。・・・・・・でもさ、色っぽいよ。

いつもは真っ白な肌が、ほんのり赤く染まって、凄く綺麗。見ているだけで、ドキドキする。



「・・・・・・ヤスフミ?」



そのトローンとした目は凶器だと思う。

・・・・・・まぁ、いいや。ここは落ち着いていこう。慎重に、的確にだ。



「・・・・・・ううん、なんでもない。でも、大丈夫?」

「うん。少し身体が熱いけど、大丈夫。やっぱり、飲みなれてないとダメなんだね」

「あははは・・・・・・そうだね」



僕は慣れてるからなぁ。一本開けたけど、まったく平気。



「あー、じゃあ僕お風呂入ってくるよ」



・・・・・・あの、フェイトさん。なんでいきなりそんな警戒心出してくるのさ。

あ、まさかっ!!



「違うっ! そういうことじゃないからねっ!? 普通に汗かいてるから、さっぱりしたいだけでっ!!」



今度は、顔が真っ赤になった。いや、僕もなんだけど。なんていうか、ネジが抜けてるよ。今日のフェイトは。



「・・・・・なら、公共浴場の方に行くよ。それなら、フェイトも安心でしょ?」

「あ、うん。・・・・・・なら、私も行こうかな」



うーん、今はやめたほうがいいと思う。お酒が入っているから、ちと危ない。

入るなら、酔いを醒ましてからだよ。



「そうだね。・・・・・・なら、ちょっとお話しようか」

「え?」

「その、酔いが醒めるまでの間、少しだけ。・・・・・・いいよね」





断る理由? ないでしょ。とにかく僕はもベッドにちょこんと座って、フェイトと話すことになった。



そして、色々と話す。六課のことやエリキャロのこと。リインのこととか。あと、僕の進路のこと。





「・・・・・・解散後はまた、フリーの魔導師に戻るつもりなの?」

「そのつもりかな。あー、まだ本決まりじゃないけど」



結構、迷っていた。いろんなこと、考え始めているから。

ただ、変わらないものが・・・・・・道を少しだけ、示し始めているとは思う。



「そっか。・・・・・・部隊に入るのは、選択肢にはならないのかな」

「やっぱり、そこにいくんだ」

「それはそうだよ。ギンガやナカジマ三佐みたいに、ちゃんと能力を認めて、受け入れてくれてる。
そんな人達だって、居るわけだから。それだって、立派な選択の一つだと思うな」





・・・・・・なんだろう、性にあわないのかもしれない。どうも、辛い。



組織ってやつの中に入って戦うのは、考えても違和感しか感じないから。



うん、確かに誘ってはくれてる。嬉しくも思う。でも、組織としての戦いってやつは、なんか違う気がする。





「・・・・・・難しそうだね」

「うん、難しい。リアルに考えられないもの」

「ね、まずはやってみてからでもいいんじゃないかな。その、命令とかで戦うのが嫌なの、わかるよ?
でも、108なら問題ないよ。ヤスフミの事、三佐やギンガはちゃんと認めてくれてる」

「そう・・・・・・かな」



今ひとつ自信が持てないけど。それに・・・・・・だ。やっぱり、助けには行けなくなるだろうしなぁ。



「私はね、その・・・・・・部隊に入って欲しいなって、思う」



うん、その話・・・・・・されてるしね。分かってた。



「ヤスフミが、重いのをちゃんと自分のものとして背負いたい気持ち、知ってる。
だけど、それでも・・・預けて欲しい。ううん、管理局という組織に、一緒に背負ってもらうのは、だめかな」

「・・・・・・フェイト」

「あくまでも道の一つとしては、いいんじゃないかな?
もう、いいと思う。少しだけ、楽な道を歩いたって」

「・・・・・・完全無欠に正しければ、信用してもいいけどね」





JS事件もそうだし、ギンガさんの一件でも思ったさ。この組織、あんままともじゃない。



志のしっかりしている人間も多数いるから、なんとかなっているだけで。



・・・・・・あ、だからなのかな。うん、きっとそうだ。





「あー、ごめん。別にフェイトやみんなのことをどうこう言ってるわけじゃないの。
ただ・・・・・・局って組織は、信用できないかな。人は信用できるけど」





それでも、嫌なのだ。どっかでまともじゃないと思っている組織に背中を預ける。

その命令で動く。・・・・・・だめだね、うん、やっぱり嫌だ。

命令のためとか、それを理由に自分の力を振るうのは、嫌だな。



自分で選びたい。戦う場を。力を振るう理由を。なんか、そっちの方がらしい。



・・・・・・あ、それでひとつあったんだ。





「えっとね、フェイト」

「なにかな?」



うぅ、もしかして機嫌悪い? そりゃそうか。自分が居る組織の批判もいいところなんだから。



「・・・・・・あのね、例えばの話だよ。僕が騎士って言ったら、変かな?」

「え?」

「いや、だから・・・僕が騎士の称号を取ったりしたら、変かな」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」










・・・・・・なぜ叫ぶ。そうですか。そんなに似合いませんか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



き、騎士っ!? ヤスフミが・・・・・・騎士っ!!





あまりの衝撃に、身体を支配していたお酒からくる倦怠感が一気に吹き飛ぶ。ついでに、さっきの管理局批判への憤りも。










「・・・・・・わかった、もういい」

「あぁ、ごめん。悪かったよっ!!
・・・・・・でも、どうしていきなりそんなことを?」





うん、理由が分からない。だってヤスフミは、ずっと騎士の称号を取るのは『ガラじゃない』と断り続けていたんだから。



私もそうだし、シグナムやヴィータが勧めてもだ。なのに、どうして。





「うーん、取ってみたくなったの。こう、師匠達みたいにはなれないだろうけど、それでもいいかなと」

「・・・・・・そっか。あの、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」



ヤスフミ、今までは騎士になりたいとは、思ってなかったみたいだから。

だから、本当にビックリした。重ね重ねになるけど、本当に。



「でも、どうして?」

「うーん、上手く言えない。ただ・・・・・・ね。
ガラじゃないじゃあ、騎士にならない理由にならないって、気付いたの」





・・・・・・よくはわからない。だけど、ヤスフミにとっては、それで充分だと思う。



決めるのは、ヤスフミなんだし。・・・・・・そうだよね。



決めるのは、ヤスフミなんだ。私、また忘れかけていたのかも。





「ヤスフミ」

「やっぱ、変かな?」

「変じゃないよ。あの、少しだけ話を戻すけど、聞いて?」



ヤスフミは、私の言葉に頷いてくれた。だから・・・・・・言おう。私の気持ちを。



「・・・・・・局員になるの、どうしても躊躇う?」

「そうだね。躊躇う。僕は、組織のためや、命令のために戦いたくない」




うん、そう言ってる。自分のために戦いたい。自分のワガママと勝手のためにと。・・・・・・それだけじゃない。

今まで背負ってきたものを。これから背負うものを、自分のものとして・・・・・・背負いたいと思っている。



「確かに、命令のために、組織のために戦う部分は否定出来ない。
逆にそういうのがないと、戦えないところがある」





私だって、同じだ。執務官は、自由気ままなように見えるけど、局員であることには変わりない。

上からの命令がなければ、動けないし、理不尽でも、聞かなきゃいけない時もある。

だけど、それでも・・・・・・知ってもらいたい。それだけじゃないことを。



ううん、もう知っているかも知れない。だけど、もう少しだけ・・・・・・本当に、もう少しだけ。





「それでも、信じて欲しいな。・・・・・・局の事じゃないよ?
ヤスフミが今まで一緒にやってきた、局の仲間の事を」



ちゃんと、見て欲しい。ナカジマ三佐やクロノ、はやてみたいな信頼出来る上司だって居る。

そういう人達を信じて戦うことも出来る。悪い事ばかりじゃないから。



「・・・・・・ごめん、信じられない」



だけど、否定された。『躊躇う』なんて言葉じゃない。真っ向からの否定。

だから、私は聞く。さっきから、ずっと気になっていたから・・・・・・ちゃんと、聞いてみる。



「ヤスフミ、何か隠してるよね」

「何も、隠してないよ?」

「隠してる。・・・・・・分かるよ。だから、私達さっきから上手く話せない」



もちろん、私の言い方が悪かったというのも、ある。でも、それだけじゃない。

ヤスフミは、何かを隠してる。だから・・・・・・ちゃんと繋がれない。



「お願い、話して。大丈夫だよ? 私、ちゃんと受け止める。
受け止めて、一緒に何とか出来るなら、何とかしたいの。だから・・・・・・お願い」



ヤスフミの黒色の瞳を真っ直ぐに見ながら、そう言うと・・・・・・ヤスフミは、ようやく口を開いてくれた。



「・・・・・・JS事件でね、僕・・・・・・局が更に嫌いになったの」

「・・・・・・そっか」



大丈夫、さっきみたいな嫌な思いは感じてない。ちゃんと、話せてる。



「その理由は、レジアス中将や最高評議会の事?」



特に前者かなと思った。ヤスフミ、レジアス中将の事、相当気に入ってたから。



「違う。・・・・・・クロノさんやリンディさん、六課の事」

「え?」

「あの時・・・・・・カリムさんの力の話をされた時の事、覚えてる?」



私は、頷いて答えた。JS事件中、聖王教会での騎士カリムとクロノとのお話し合い。

その時、色々な事情からヤスフミも参加してた。



「なんかさ、見抜かれてるみたいだから、ぶっちゃけるね。
・・・・・・あの時、リンディさん達に腹が立ってたんだ」

「どうして?」



そう聞いて・・・・・・ヤスフミが答える前に気づいた。ヤスフミの性格を考えるなら、答えは一つしかない。



「・・・・・・フェイトやなのは、六課の人達を・・・・・・局の勝手な都合に巻き込んだから」



だから、私は納得した。ヤスフミが『信用出来ない』と言った理由も、同じく。



「僕はさ、六課には居ないし、ぶっちゃけ部外者もいいとこだから、あの場では言わなかった。
ただね、ムカついてた。フェイト達はまぁ・・・・・・いいの。はやてと、友達でしょ?」

「・・・・・・うん」



そうだね、友達だから関わる事を決めた。もちろん、エリオやキャロの事があったから、私もその・・・・・・ちょっとね。

でも、組織の事情や、六課の存在がどうしても必要なのは事実だったから、何も言わなかった。それと、理由はもう一つある。



「でも、例えばティアナみたいに、自分の夢に近づくため・・・・・・まぁ、キャリアアップのため?
あと、エリキャロやスバルみたいに、親しい人間を慕って来てる人達も、沢山居るわけじゃない?」

「・・・・・・うん」



だから、なんだね。だから・・・・・・ヤスフミは、本当に怒った。というか、もしかしたらそれも込みなのかな。

あの時、クロノや私達からの六課入りの話を断ったのは。怒ってたから・・・・・・断ったんだ。



「知らない人間を、自分の組織の人間ってだけで、美味い餌を見せびらかして」





少しだけ、その言葉が突き刺さる。それは、私もやったことだから。

これが、私が母さん達の事をあまり言えなかった理由。・・・・・・スバルとティアに、初めて会った時だね。

スバルには、なのはの教導。ティアには、私のアドバイスを『餌』に、六課入りを誘ったから。



私も、同じ穴のムジナなの。知らなかった事とは言え、局の都合にみんなを、エリオとキャロを利用しようしたの。





「それであんな大事に巻き込んだ。事情のほとんど、結局知らないままにさ」



ヤスフミは、現在六課の部隊員になっている。だから、分かる。大半の人間が、裏事情を知らない事を。

それが、余計に・・・・・・なのかな。余計にヤスフミのイライラを、助長させちゃってる。



「・・・・・・ムカついたの。マジでムカついて、腹が立って・・・・・・本気で、キレかけた。
僕はあんなのに、巻き込まれたくない。だから、局が嫌い。信用、出来ないの」

「・・・・・・そっか」





ヤスフミは、一つ嘘をついた。それは、とても優しい嘘。多分、ヤスフミが戦う時は、ずっとついている嘘。

ヤスフミ、腹が立ったのは、ムカついたのは・・・・・・私達の事、心配してくれてるからだよね?

分かるよ。ヤスフミ、『自分のため』なんて言っても、結局は誰かのために頑張っちゃう子だもの。



そうだよ、知ってたはずなのに・・・・・・なんで私、ちょこっとだけそれを忘れてたんだろ。





「ありがと、話してくれて。あの、私は怒ったりしてないから、大丈夫だよ?」

「ホント・・・・・・?」

「うん。・・・・・・だから、躊躇うんだよね」

「そうだね、躊躇う」

「そっか。ね、少しだけ話を変えるね?」



ヤスフミが頷いたのを見て、私は方向転換。それは、ヤスフミの昔のこと。



「例えば私がさっき言ったように、組織だったり人だったりに重い物を下ろして生きる事は、無理かな?
繰り返しにはなるけど、自分を預けて戦うことだって・・・・・・間違ってはないと思う」

「それ、僕じゃない。そんなことしたら、僕が嘘になる」



『僕が嘘になる』。それは、時々言う言葉。私は、その言葉をずっと否定したかった。でも、出来なかった。

ヤスフミの言う事には、何か真実味があって・・・・・・それが、それを止める。



「なにより」



ヤスフミが自分の右手を見る。どこか、さびしげで・・・・・・悲しそうに。



「僕ね、弱いんだ。・・・・・・忘れちゃいけないって思ってる。
そのはずなのに、何度も・・・・・・何度も、忘れそうになる」

「それも、許せないの?」

「うん、許せない。忘れて・・・・・・なかった事にする自分が、許せないの。・・・・・・ごめん、フェイト」

「どうして謝るの? ヤスフミ、何にも悪いことしてないよ」



きっと・・・・・・私が悪い。事実を背負う重さも、そうしたいという気持ちも、ちゃんと分かってあげられない私が。



「僕、フェイトの言うように・・・・・・自分を大事にしてないのかも。だから、心配かけて、困らせてる。
・・・・・・ごめん。それでも、駄目なんだ。組織に預けたりなんて、出来ない。何も、預けたくない」





やっぱり、ダメなんだね。・・・分かってる。ううん、分かった。仕方ないんだよね。

ヤスフミが守りたいものは、私達と同じようで違うから。背負いたいものも、私達とは違う。

それに、色々嫌なものまた見せちゃったんだもの。もう、何も言えないよ。



ヤスフミ、本当に嫌がってる。嫌がって、苦しんでる。

というより、怯えてる。私のこと、傷つけたんじゃないかって。

・・・・・・なら、どうする? 私になにが出来るの?



ううん、答えなんて、一つしか無い。・・・・・・それしか、ないよね。それが迷惑? そんなわけない。



それを言えば、私の方がたくさん迷惑をかけてきた。だから・・・・・・大丈夫。





「・・・・・・なら、私の所に来ない?」

「え?」

「私の・・・・・・補佐官に、なってみないかな」

「えぇぇぇぇっ!?」





驚くよね。うん、私、一回ヤスフミから提案されたの、断っているから。

断ったのは、ヤスフミが駄目とか・・・思ってた。今なら、分かる。

子ども扱いして、遠ざけていたんだ。でも、今は違う。



ちゃんと、見える。今のヤスフミの姿。だから、声をかけられる。





「あのね、局員としてじゃなくていい。・・・・・・やっぱりね、そう言うのは、もう少しだけ局の事」



・・・・・・ううん、これは違う。よし、訂正だね。



「・・・・・・ごめん、これはちょっと違った。今までとは違う物を知ってから、考えて欲しい」

「だから、補佐官?」



私はその言葉に頷く。今までとは違う生活を始めて、その中から考えて欲しい。

本当に、今まで通りの時間の中でしか生きられないのかどうかを。なにより・・・・・・なんだよね。



「・・・・・・だめ、迷惑かける」

「迷惑なんかじゃないよ」



今までと同じは、駄目なんだ。あぁもう、私、本当にうまく話せない。自分でいらいらする。



「悩んだり迷ったりするなら、今見ているものが全部じゃないことは知っていかなきゃ、いけないと思う」



私だって、そうだった。ちゃんと知っていると思っていた。でも、勘違いだった。



「だから、考えよう? 一緒に」

「・・・・・・一緒に?」

「私も、ヤスフミと一緒に考える。側に居れば、それも出来ると思うから。
あの、ごめん。私・・・・・・結局ヤスフミを振り回す形になっちゃってる」



私が、仕事を放り出せればいい。でも、それはちょっとだけ無理で・・・・・・うぅ、本当にダメだよ。

自分が動けないからヤスフミの方から来いなんて、最低だよ。うん、最低だ。



「ね、フェイト。本当にいいの? 僕、絶対に迷惑かける。きっと、暴走する。
・・・・・・やっぱり、合わないよ。僕は自由に戦ってる方が、性にあってる」






そうだね。きっと、ヤスフミは局の規律なんて、関係無しで進んでいく。

自分の守りたいもののために。壊したいもののために。

ヤスフミが守りたいのは、今だから。世界でもなければ、人でも、組織でもない。



きっと、あの人と同じように、必要だと思ったらどこまででも進んでいく。



だけど・・・・・・・だめなの。それだけじゃ、だめなの。





「でもね、暴走しなくても、ギンガやこの間みたいにしなくても、そうできる道があるかも知れないから。
私、手伝うよ。ううん、手伝わせて欲しいの。あなたの・・・・・・力になりたいの」

「・・・・・・僕、フェイトの望む通りには、きっとなれないよ?」





『やっぱり、局に入って欲しいから、そう言う』。そう言いたげなヤスフミの表情が突き刺さる。

・・・・・・当然だよね。私、何度も押し付けてきた。ここにくるまで、なんにも分かってなかった。

だけど、違う。その、結局押し付けてる・・・・・・と、思う。でも、そうじゃない。それだけじゃない。



私は、そんな気持ちを込めて、言葉を紡ぐ。





「・・・・・・ならなくていい。なる必要なんて、ない」



ヤスフミは、すごく優しい。普段の言動や行動はともかく、根っこは本当に優しい。

でも、だから今少しだけ分からなくなってる。何時だって誰かの今を守るために、戦うから。



「あのね、知らなかったことを知っていくのって、やっぱり楽しいんだ」



・・・・・・今日、それを改めて実感した。私の知らなかったヤスフミを知っていくのが、すごく。



「今までとは違う、新しい自分を始めるなら、まず、違うものを知っていくこと。絶対に必要だと思うから」

「新しい自分・・・・・・」

「ヤスフミはきっと、そんな自分を始めたいんじゃないかな。だから、迷ってるんだよ」

「・・・・・・そう、なのかな」



そうだよ、きっと。ヤスフミが迷っているのは、そういうことだと思う。新しい自分の形、まだ見えないんだ。

今見えているものだけじゃ未来を決めるのには、足りないんだ。



「それを見つける事を、手伝わせて欲しいの。・・・・・・局員になりたくないなら、ならなくていい」



というか、無理な感じがするしね。それでも、まずは・・・・・・なんだ。



「ただ一つだけ、お願い。これから一緒に考えたい。
それで変わる事を・・・・・・違うものに触れる事を、怖がらないで?」



本当に、それだけでいいから。それだけで、いいの。



「私も傍にいる。だから、一緒に探していこうよ」

「フェイト・・・・・・あの、でも」

「でもじゃない。・・・・・・私には、ヤスフミの荷物は背負えない。
私は、ちょっと精神攻撃されたくらいで、簡単に壊されそうになるくらい、弱い」



・・・・・・ライオットヤスフミとの絆が無かったら、壊されてた。

ヤスフミ、私も同じなの。私も、ちょっとだけ分からなくなってる。私達、同じなんだよ?



「だけど、それでも出来る事はあるの」



私は、ベッドからゆっくり立つ。それで・・・・・・向かい側の恭文に、手を伸ばす。

伸ばして、そのまま抱きしめる。優しく、安心させるように。



「あなたが落ち込んだりした時、元気が出るまでこうやって・・・・・・あなたを抱きしめる事は、出来るから」

「あの、フェイト」



ヤスフミが、腕の中でもぞもぞする。でも、離さない。



「だめ、逃げないで」



力を、少し強める。ヤスフミは・・・・・・動きを止めた。



「せめて、六課が解散するまでは、考えさせて欲しいの」

「・・・・・・フェイト」

「私、ちゃんと抱きとめるから。不安な気持ち、私には正直に話して欲しい。・・・・・・どうかな」









少しだけ苦い顔で、頷いてくれた。そして、優しく抱き返してくれた。

これから・・・・・・なんだよね。うん、これから。一緒に考えていこう。

・・・・・・局に入る必要なんて、どこにもないんだよね。





私は私で、ヤスフミはヤスフミだから。うん、考えていこう。

一緒に・・・・・・あ、ヤスフミだけじゃなくて、私もだね。

私も知って、考えていかなきゃいけない。





違うものに、知らないものに触れていくことを恐れずに・・・・・・新しい私達、始めていこう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



新しい自分・・・・・・か。なんだか、思考になかった。でも、本当にいいの?

僕はきっと、フェイトの望む姿になんて・・・・・・なれないのに。とにかく、話している間にフェイトの酔いも冷めてきた。

なので、二人でお風呂タイムとなった。・・・・・・当然別々にね?





海鳴のスパラクーアみたいな所があったので、寝間着と肌着を用意した上で、一緒に向かった。





一応外の風景も見れたけど、この天候である。結果は、推して知るべし。











「・・・・・・ヤスフミ、ごめん。待たせちゃった」



お風呂を堪能したあと、寝間着(というか、浴衣)を着て待ち合わせ場所に立つ。

すると、フェイトが少しだけ小走りで来た。来ているのは、寝間着にも使える浴衣。



「ううん、今上がった所だから」

「・・・・・・嘘」



いや、嘘じゃないから。つか、その疑いの眼差しはやめて。根拠を示してよ根拠を。



「根拠ならあるよ」



そう言いながら、フェイトが、髪に触ってきた。・・・・・・しまった。



「やっぱり、冷たい」

「うぅ」

「10分以上待ってたよね」



だから、なんでそこまで分かるっ!?



「ヤスフミ、待たせるより、待つ方が楽だって考えてるから。
・・・・・・というか、ごめんね。寒かったよね」

「ちゃんと暖まったから、大丈夫だよ。フェイトも、大丈夫?」



お、即答で頷いた。まぁ、そうだよね。頬や肌が、紅く染まっているし。

・・・・・・で、なぜにモジモジし出すのさ。普通に可愛いからやめて。



「こういう場合、ハグとかして温めた方が・・・・・・いいのかな?」

「しなくていい。てゆうか、お願いやめて。真面目に理性・・・・・・飛ぶ」

「ご、ごめん。なら、早く戻ろう?」

「うん」



そうして、部屋に戻るために歩き出し・・・・・・・・・・・・あの、フェイト。



「なに?」

「・・・・・・やっぱネットカフェ行くわ」

「どうして?」



・・・・・・すみません。色んなものがレッドゾーンなんです。

こう、フェイトから漂ってくる匂いとかで。その、身体が熱い。顔、きっと真っ赤だ。



「・・・・・・あのね」

「うん」

「その、男の子だから・・・・・・分かるよ? それだけじゃなくて、私の事も気遣ってくれている」



・・・・・・本能は強いのさ。どうしようもないくらいに。

この間みたいなことになったら、真面目にヤバいのですよ。



「でもね、大丈夫だから。だって、私」



フェイトはきっと『家族だから』と言うと思った。もう、いつものパターンだね。



「ヤスフミのこと、信じてるから」



・・・・・・へ?



「ヤスフミは、無理矢理、そんなことを迫ったりしない」



・・・・・・えっ!?



「もしそうなっても・・・・・・ちゃんと私の声を聞いてくれる。私の気持ち、見てくれる」



いや、あの・・・・・・フェイト、さん?



「自分の欲望を満たすために、無理矢理そんなことは絶対にしない。
状況に流されて、女の子を襲うような子じゃない。私、そう信じてるから」

「あの、どうしてっ!? だって、何時もなら『家族だから』とかっ! 『弟だから』とかっ!!」

「・・・・・・今日はデートでしょ? そういうのは無しにしたんだ」

「そ、そうだったんだ」



いや、そんな裏テーマがあるなんて、知らなかったけど。



「私、勝手なこと言ってるけど、一緒に寝たいな。・・・・・・ダメ、かな?」

「あの・・・・・・ダメじゃない。というか、頑張る」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、頑張ることになった。当然ベッドは別々で。





二人で布団に入る。照明は、すぐ近くのライトだけ。・・・・・・フェイト。










「うん」

「僕が居て、嫌じゃない? 本当に本当に・・・・・・怖く、ない?
僕、フェイトの事・・・・・・怖がらせてないかな」

「嫌じゃないよ。もちろん、怖くなんてない。・・・・・・あ、でも」

「・・・・・・でも?」

「少しだけ、ドキドキしてる。怖いとかじゃなくて、お泊まりデートなんて初めてだから」



うん、僕もドキドキしてる。おかしいくらいに、心臓の鼓動が高鳴ってる。



「とにかく、私・・・・・・大丈夫だから。ヤスフミも、不安にならないで欲しいな」

「・・・・・・分かった。あの、それじゃあ、おやすみ。フェイト」

「うん、おやすみ。ヤスフミ」










フェイトがにっこりと笑ってくれたのが嬉しかった。僕は電気を消して、目を閉じた。





緊張・・・・・・してる。だけど、大丈夫。やましい気持ちより、強い気持ち、ちゃんとあるから。





なんか、嬉しい。僕・・・・・・フェイトに信じてもらってるんだ。なんだろ、すごく幸せ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



消灯後、現在二時間。眠れません。うぅ、ダメだよ私。なんでこんなにドキドキしてるの?

恐怖・・・・・・じゃない。ただ、その・・・・・・うぅ、わからないよ。

前は、こんなにならなかった。ヤスフミを抱きしめながら寝ても・・・・・・心臓の鼓動、速くなった。苦しいくらい。





思い出したのは、あの時の言葉と温もり。胸が、切なくなる。

・・・・・・私、何考えてる? そうかなんて、分からないし。

でも・・・・・・そうなのかな。もし、そうだとしたら・・・・・・そうなら、どうする?





色んな事が頭の中で、ジグソーパズルのように繋がっていく。

もしもそうなら、私はちゃんと応えないといけない。目の前の男の子の想いに、全力で。

だって私、嬉しいから。そして、このままなんて、絶対に、嫌だから。





うん、ヤスフミだけじゃあ駄目なんだよね。私も、頑張らないといけない。でもその前に・・・このドキドキを何とかしたい。





母さん、エイミィ、アルフっ! 助けてー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・目覚めはそうか・・・・・・なんか、目が重い。

昨日、泣いたりしたからかな? まぁ、それ以外は、OKだけど。

お酒の入っていたせいか、一晩中眠れないなんてことは、無かった。





それに今回は、抱きしめられてもいないしね。うん、そこは安心だ。

僕は、ゆっくりとベッドから抜け出す。暖房は切っていたから、少し寒い。

フェイトは、眠っている。うん、起こすのが忍びないほど・・・よだれ垂らしてるし。





起こさないように、少しだけ口元から出ている唾液を拭う。しかし、何の夢をみればこうなるのさ。

なお、ちらっと見えた胸元は、気にしない方針で。・・・・・・我慢だ、僕。

フェイトが信じてくれたのに、裏切りたくなんてない。そんなの、絶対に嫌だ。





とにかく、窓の近くへ行く。カーテンは閉めきられてなお、何かを遮ることが出来ずにいた。





なので、フェイトを起こさないように、ちょこっと開ける。










「う・・・・・・ん」





声は後ろから、振り向くと、寝ぼけ眼な女神が居た。



女神は目を眠たそうに擦りながら、僕の方を見る。



というか、胸元が危険です。





「やすふみ・・・・・・おはよう。はやおひはへ」

「おはよ。・・・・・・フェイト、呂律が回ってないから。というか、遅いくらいだよ?」



時刻は午前7時。フェイトだって、もうちょい早起きなはずである。



「・・・・・・そうだね。私達二人、お寝坊さんだね」

「まぁ、休みは取っているんだし、OKでしょ」



事態が事態なので、僕もフェイトも、追加で休みを取っている。だから・・・・・・問題、無いといいなぁ。

まぁ、グリフィスさんなら、なんとかしてくれるでしょ。うん。



「そうだね。あとはてんきだけど・・・・・・」



まだ半覚醒かい。ひらがなになってるし。とにかく僕は、返事の代わりにカーテンを開ける。



「・・・・・・きれい」





フェイトが思わず呟いたのも無理はない。眼前に広がる景色は、本当に素晴らしかったから。

まさに、それは台風一過。太陽は昇り、海はその輝きを受け止めてなお、青く澄んでいた。

そして空は、心まで晴れるような青。昨日の曇天が、まるで嘘のように感じる。



その景色に、二人で少しだけ言葉を失っていた。だって、本当に綺麗だから。





「・・・・・・これなら、ちゃんと帰れるね」

「そうだね。でも、そう言うと」

「何?」

「ちょっと雰囲気壊れるね」










・・・・・・・・・フェイト、寝起きなのにツッコミ上手だね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人でゆったりと朝食を食べたあと、ホテルをチェックアウト。そのまま、ラトゥーアのある人工島を出た。





レールウェイも、普通に再開されていて、よかったよかった。・・・・・・あ、そうだ。










「・・・・・・フェイト」



レールウェイの車内の中、隣同士に座ったフェイトの顔を見上げる。少しだけ、真剣モードで。



「補佐官の話なんだけど」

「あの、返事なら今すぐじゃなくていいよ? ヤスフミが他にしたいことがあるなら、そっちでもいいから」

「・・・・・・いいの?」



昨日も言ったけど、絶対に迷惑かける。それに・・・・・・何よりなんだよね。



「フェイトが望む通りの答えなんて、きっと出せない」

「そんなこと、言わないで欲しい。あの、局員になって欲しいとかじゃない。それはゼッタイっ!!
・・・・・・ヤスフミと一緒に、これからのことを考えていきたい。ただそれだけだから」

「・・・・・・それで、新しい僕?」

「うん、そうだよ。あ、でもヤスフミだけじゃないよ?」

「え?」



フェイトが、真っ直ぐに僕を見る。そして、言葉にした。

色んな意味でターニングポイントになった言葉を。



「私も、始めたくなった。ここから新しい私を。だから・・・・・・一緒に、頑張りたい。
誰でもない。ヤスフミと一緒に。私も、今までとは違う事に触れていきたいの」



フェイトの左手ば、僕の右手にそっと触れる。触れて・・・・・・優しく握られる。



「それで、その中には、ヤスフミのこと、弟や家族としてじゃない。つまり、その・・・・・・」



フェイトの言葉が詰まる。だけど、それは一瞬。すぐに、続きは音となって、僕に告げられた。



「男の子として、見ていくことも・・・・・・入っているから」



・・・・・・・・・・・・え?



「おとこ・・・・・・のこ?」

「うん。友達とか、仲間とか、家族とかじゃない。ただの男の子。
昨日みたいにね、男の子としてのヤスフミと、もっと過ごしたいんだ」



言ってる意味が、今ひとつ理解出来なかった。衝撃があまりに大きすぎて、ちゃんと受け止め切れない。

でも、その言葉が・・・・・・ずっと待ち望んでいたものだと言うのは、すぐに分かった。



「だから、もっと・・・・・・教えてくれる? 男の子としてのヤスフミを、私に」



あれ・・・・・・僕、なんで涙が・・・・・・あれ、止まらない。どんどん、溢れだしてくる。



「・・・・・・ごめん」



フェイトは、そんな僕の事を、優しく抱き締めてくれた。

なんで・・・謝るかな。



「私、ヤスフミのこと、ずっと傷つけていたから。でもね、もうそんなことない」



力が強くなる。だけど、それによって生まれた息苦しさが、心地いい。



「あの、ごめん。今はこんな言い方しか出来ないけど・・・・・・ちゃんと、応えていきたい。
今のヤスフミのこと、もっと知りたい。理解して、繋がっていきたい。私、そう思っているから」

「よく分からないよ。それ・・・・・・!!」

「うん、そうだね。私も同じ。だから・・・・・・変わっていこう?
私達二人で。一人じゃないから・・・・・・きっと、出来るよ」










返事の代わりに、フェイトを強く抱きしめた。





フェイトは、そのまま、受け入れてくれた。すごく、嬉しかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それじゃあ・・・・・・フェイト、また明日ね」

「うん、また明日。あの・・・・・・また、たくさん話そうね」

「うん」










そうして、僕はフェイトと別れて、レールウェイを降りた。

手を降って、見送った。フェイトも、手を振り返してくれたのが嬉しかった。

・・・・・・なんか、スッキリした。うん、色々と。





でも、フェイトどうしたんだろ。こう、またネジが外れてない?

ま、いいか。あ、ただ・・・・・・気になることがある。

ホテルのロビーで、緑でロングヘアーな人を見た。





あと、栗色ショートカットの女の子を見た。しかも・・・・・・オーラが微妙だった。

・・・・・・よし、幻覚だ。あれは、見間違いだ。うんうん。

とにかく、家に帰ってきた。前日、リンディさんから帰還命令が出されていたのだ。





だからこそ、ここに居る。そう、占領され続けている我が家の前に。

正直、入るの辛い。でもまぁ、大丈夫でしょ。みんな大人だし、そこは察してくれるだろう。

そして、僕は入る。もち、ただいまと言いながら。










「ただいまー」





パパーンっ!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?





『おめでとー!!』

「・・・・・・え?」



あー、なんだろうな。また幻覚? 何でいきなりクラッカー(Notジオン)?

そして、なんでパーティーな装い?



「おかえりー! ・・・・・・恭文くん、おめでとう っ!!」

「あなたのために、腕によりをかけて・・・・・・お赤飯、炊いたのよ。うぅ・・・・・・長かったわね」

「「パパ、おめでとー!! ・・・・・・なにが?」」



うん、ここまではいい。居ることを知っていたから。予測してはいた。で、問題は次。



「おう、邪魔してるぞ。まぁ・・・あれだ。よかったな」

「・・・・・・よかったな。我は・・・・・・我はっ!!」

「現地妻1号としては、寂しいわ。でも・・・・・・嬉しいわっ!!」

「リインは・・・・・・リインはぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あぁ、ヴィータちゃんもザフィーラさんもシャマルさんもリインちゃんも泣かないで。今日は、めでたい・・・ごめん。
やっさん、俺も泣いていいかなっ!? というか、泣くわっ! やっさん、お前は次元世界の恋の勝利者だっ!!」




・・・・・・なんで、兄弟子とか、主治医とか、守護獣とか、師匠とか、パートナーとかがいるのっ!?



つか、また勝手に人の家に上がり込んでっ!!





「問題ないよ。やっさんの家は俺たちみんなのセカンドハウスなんだから」

「んなわけあるかこのぼけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「まぁまぁ。ほら、一緒にお赤飯、食べましょ?」



なんで炊いてるっ!? ・・・・・・だから、そのお祝いモードはやめてっ!!



「リイン手伝ったですよ〜」

「カレルとリエラも手伝ってくれたんだよね」

「「うんっ!!」」

「あ、俺は味見だっ!!」

「一番どうでもいい人でしゃばらないでっ! サムズアップしなくていいからっ!!」



つか、なんでここにっ!? まだ出向予定じゃ・・・・・・あぁ、無駄だよね。分かってた。



「サリエルさん」

「あ、はい」

「いつも恭文君がお世話になっているそうで・・・・・・ありがとうございます」

「あぁ、そんな頭下げないでください。俺もヒロも、やっさんと絡むのは、楽しんでいますから」



・・・・・・そう言って、楽しそうに談笑するのは、僕の保護責任者と兄弟子。ヤバい、なんか頭痛がする。



「なぎさん、おめでとうっ!!」

「お祝いもってきたよっ! というか・・・よかったね。本当に」





・・・・・・お前らもかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





「エリオお兄ちゃんに、キャロさんだー!」



・・・・・・キャロはさん付けなんだね。カレル、中々位置関係を理解してるわ。



「お兄ちゃん達も、パパのお祝い?」

「そうだよ。・・・・・・なぎさん、年貢の納め時ですねっ! ハーレムなんて、しょせん夢なんですよっ!!」

「その言い方やめてっ! つーか何を勘違いしているかなっ!! そんな夢見てないからねっ!?」

「恭文、その・・・・・・お父さんに、なるのかな?」





エリオ、涙目でそんなことを言うな。お、お願い。お願いだから・・・・・・!!





「みんな落ち着けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!? なんでそんなことにっ! 私、分からないよっ!!」

「あのね、フェイトちゃん。うん、状況は分かるよ?
でも、なにがあったのっ!! いきなりこれは無いよねっ!?」

「・・・・・・いきなりすぎませんか? 私、フェイトさんが雰囲気に流される人だとは、思いませんでした」



な、なのはっ!? ティアまで、そんな微妙な目を私に向けないでっ!!



「まぁまぁ、ティアも落ち着いて? ・・・・・・でもでも、どんな感じだったんですかっ!?
なぎ君の事だから、優しく・・・・・・あぁ、でも情熱的に激しくとかっ!!」

「フェイトさん、やっぱり・・・・・・痛いんですか?」



スバル、シャーリーも、お願いだからそんなに興味ありげに聞かないでっ!!

というか、そんなの私が聞きたいよっ! ・・・・・・やっぱり、痛いのかな?



「こらこら、そういうのは聞かないのが大人ってもんよ?
・・・・・・なにも言わなくていい。とりあえずこれ、使いな? というか、使わせな」



ヒロさん、なんで居るんですかっ!?

お願いですから目を逸らしながら・・・・・・その、『明るい家族計画』なんて差し出してこないでくださいっ!!



「フェイトママ・・・・・・おめでとう♪ あのね、恭文はずーっとフェイトママのこと好きだったんだよ?
だから、大事にしてあげてね。ヴィヴィオも、恭文がパパなのは、嬉しいし」

「ヴィヴィオ、どうしてそうなるのっ!? お願いだから、落ち着いてっ!!」

「だって、フェイトママはヴィヴィオのママでしょ? ということは、恭文だってパパだよ?」





それでもお願いだからそんなこと言わないでっ! というか、ヒロさんとサムズアップで意志疎通しないでっ!!

いつの間に、そんなに仲良くなったのっ!? でも、やっぱりなんだ・・・・・・って、そうじゃないからっ!!



「あの・・・・・・みんな、違うからっ! 私とヤスフミは・・・・・・その・・・・・・何もないのっ!!」





確かに、お泊まりデートをした。その、異性として・・・・・・過ごした。

たくさん気付いた事があった。変えていきたいこと。変わりたいと思うことが、出来た。

だけど・・・・・・そんなことはしてないからっ! 本当にしてないからっ!!



ヤスフミだって、私が不安にならないように、凄く気を使ってくれて・・・・・・!!。



私、それが嬉しくて。自分の今までの視点が、本当に駄目だって気付いて・・・・・・!!





「・・・・・・テスタロッサ」

「フェイト」

「あぁ、シグナム。アルフ」



よかった。二人ならまともに。



「よく決心したな」



え? あの、どうして私の肩を掴むんですか。なんでアルフまで涙目なのっ!?



「あのさ、アタシ・・・・・・心配だったんだ。生まれの事とかを理由に、こういうの、諦めるんじゃないかってさ」

「アルフ、いきなり何の話かなっ!?」

「でも、そうじゃなかった。よかった。アイツやっぱすごいよ。
フェイトのドキドキして嬉しい気持ち・・・・・・伝わってきたよ」



伝わって・・・・・・まさか、精神リンクっ! 私あの時・・・・・・リンク強化しちゃったんだっ!!

もしかして、それで余計にみんなの勘違いが酷くなってるのっ!?



「テスタロッサ、蒼凪はああいう奴だが、お前への気持ちは本物だ。アイツなら、お前に何があろうと、必ず力になり、越えていける。
アイツは、不可能を超え、理不尽を覆し、今を守る古き鉄だからな。・・・・・・見捨てて・・・・・・やるなっ!!」





アルフが泣いた。シグナムまで泣き出した。それに釣られて、みんなも涙目になる。



あの・・・・・・お願い。お願いですから・・・・・・!!





「私の・・・・・・話を、聞いてぇぇぇぇぇっ!!」




















(第22話へ続く)






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