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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第19話 『とある魔導師の不幸 閃光の女神の憂鬱』



・・・あなたは、見たことがあるだろうか?





海上に浮かぶ人工島から、緑色やら黄色やら赤やら青やらわけのわからない色の狼煙があがっているのを。





もし、見たことがないなら、あなたは幸せだ。だって・・・。





今の僕たちは、ぶっちぎりで不幸だと思うから。頭、痛いもん。




















「・・・や、恭文さん。あれ、なんですか?」

「なんのこと? さ、ご飯食べるよ」

「いや、なに華麗に無視しようとしてるのっ!? あのおかしい煙はなにっ!!」

「知るかボケっ! どーせヒロさんに決まってるでしょうがっ!!」





あぁ、関わってしまった。思考がちょこっと関わってしまった。まぁ、いいや。どーせこうなる運命だったんだ。





「とにかく、中に入るよ。正直、あそこに今近づくのはお勧めしない。間違いなく・・・後悔するよ?」

「・・・蒼凪、やけに自信があるな」

「前に、僕はあそこに居ました。その様子を見たシャマルさんは、卒倒しましたよ」





あー、みんなが驚き顔をしたので一応補足。実は、シャマルさんはヒロさんとサリさんのこと、知ってたのよ。

一応僕の主治医みたいな感じだから、サリさんが話しておきたいと言われたので、紹介したのだ。

・・・泣かれたっけ。『だから、どうしてお前は本命以外でほいほいとフラグを・・・』とか言われた。まぁ、それはいいか。



なお、今日シャマルさんは不在です。ザフィーラさんと一緒に、本局の医療施設のお手伝いなのです。はやても、同じく本局で会議です。





「・・・なぎ君、なんか・・・すごい人たちと関わってたんだね」

「色んな偶然のおかげでね」



そう、色んな偶然のおかげで、僕はここにいる。うん、本当に・・・感謝しないと。



「とにかく、我々も挨拶しないといかんな。・・・大事な仲間を助けてくれた恩人に、礼の一つでも言わなければいけないだろう」

「そうですね。ちゃんと話さないと、いけませんね。色々と今日の現状について」










・・・正直、それはやめてほしい。いや、真面目によ。





なーんか、嫌な予感がするんだよね。・・・かなり。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第19話 『とある魔導師の不幸 閃光の女神の憂鬱』




















・・・とにかく、連絡しよう。うん、まずはそこからだ。





隊舎のロビーで全員腰を落ち着けてから、僕は通信を繋ぐ。そう、おそらくこの状況で一番マトモな人にだ。










『・・・おう』

「なんでそんなに疲れ果ててるんですか?」



そう、サリさんである。すさまじく疲れ果てた顔してるけど。



「あの・・・大丈夫ですか?」

『あぁ、だいじょ・・・って、リインフォースUちゃんっ!?』

「あ、はいですっ! あの・・・前に地上本部でお会いしましたよね?」





そう言われた瞬間、疲れ果てていたサリさんの表情が明るくなった。そう、それはもう素晴らしいほどに。





『俺のこと覚えててくれたんだっ! いやぁ、正直嬉しいよ。あの場だと、俺はモブその1とかだったのに・・・いや、なんか・・・泣いていい?』

「なんでっ!?」

『ヒロが散々無茶苦茶やらかしたからだよっ! やっさん、今すぐこっち来てみろ。すさまじいことになってるから。
正直さ、俺はヴィータちゃんに何回謝ったかわからないよ』





やっぱりかっ! あぁ、予想はしてたけど。・・・さて、どうするかな。まぁ、答えは一つだけなんだけど。





「じゃあ、そのまま帰ってもらえます?」

『やっぱりかい。・・・残念ながらそれは無理だ。フェイトちゃんやヒロが、お前やら今日居なかった隊長達に話したいんだってさ』





・・・逃げていいですか?





『骨は拾ってやるよ』

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

≪生きて、帰れるといいですね≫




















アルトのつぶやきは、聞こえないことにした。










・・・そうして10数分後。元気はつらつな姉弟子と、疲れきった閃光の女神がやってきた。




















「やっさん、お疲れさまー♪」

「ヒロさん、おつかれ・・・じゃないですよね」

「まーね。いやぁ、楽しかった楽しかった。やっぱ戦うのは楽しいね〜」





その瞬間、なのはとシグナムさんとシャーリーの視線が僕にぶつかった。そう、その視線は語りかけている。



お前と同類なんだなと。失礼な連中だ。・・・で、ヒロさん。





「なに?」

「フェイトになにしたっ!? なんでこんな疲れきったオーラ出してるんですかっ!!」

「いや、アンタにやるのと同じ要領でぶっ飛ばしただけなんだけど・・・」



それだぁぁぁぁぁぁっ! つか、僕と同じ要領ってことは、本気で容赦なく? うわ、それはないわ・・・。



「・・・ヤスフミ」

「な、なにかな?」



あれ、なんか・・・こう、空気が違う。



「悔しい」

「「え?」」

「だって、私の方が現役で、前線にもちゃんと立ってて・・・。なのに、訓練継続してるとは言え、引退しているヒロさんに・・・一蹴された」



そう言いながら、フェイトはとても悔しそうだった。そりゃそうでしょ。現役でエースな執務官なのに、それすら一蹴だもの。



「・・・フェイト、それは仕方ない」

「どうしてっ!?」

「先生の影、見えたでしょ?」





僕がそう言うと、フェイトが納得してくれた。うん、しぶしぶだけど。





「・・・ヒロさん、また今度相手をお願いします。次は、負けません」

「・・・やっさん、もしかしてこの子、すさまじく負けず嫌い?」

「残念ながら」




















とにかく、その後はフェイトとの再戦の約束をしたり、挨拶し合って、堅苦しかったり、そんなことがあった。



ここはまぁ・・・割愛する。だって、なのはが緊張しまくって足がガタガタ震えてる様など話しても、意味がないでしょ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それでヒロさん。師匠はまだ演習場に?」

「うん。サリと一緒にティアナちゃん達見ててくれてる。・・・あと、やっさん」

「はい」

「覚悟、決めなよ? あの子、私が教えるって言ったのに、アンタの口から聞くって言って、遠慮したんだから」





なぬっ!? てっきり知ってるもんだと思ってたのに。・・・そうだよね。うん、覚悟決めよう。というか、決めてる。



スバルばかりが悪いわけじゃない。僕、年上でお兄さんだしね。なのにグズグズしてた僕も悪い。

つーかさ、どんなにKYで押し付けだろうと、僕にとっては大事な友達であり、仲間だしね。ちょっとくらいは、頑張らないといけないのさ。





「・・・大丈夫そうだね。うん、これなら安心だ」

「・・・ヤスフミ」

「・・・フェイト、そんな顔しない」

「でも・・・」





まぁ、フェイトにはあの一件で本当に心配かけてるしな。しかたないか。でも・・・ちゃんと言おう。





「あのね、フェイト。僕・・・そんなに弱く見えるかな?」

「え?」

「そりゃあ、フェイトに比べたら弱いけど。でもね、背負い方くらいは、分かってるよ。それも、当に決めてる」





うん、決めてる。そして、戒めてる。あれが、一つの事実だと。だから、覚えてる。僕の、守りたい時間と記憶の一部分だから。



その記憶があるから、僕は、僕でいられる。同じ道を歩もうとしても、覚えているから、止まれる。



守りたいものを守れない最悪手だけは、打たなくて済む。・・・成長してるかどうかは、ちょっとだけ、自信ないけどね。



それでも間違えるし、取りこぼすから。





「お願い、もう少しでいいから、信じて・・・くれないかな?」

「信じてるよっ! あの、でも・・・」

「フェイト、僕、少しだけ不満がある」



僕がそう言うと、フェイトが僕を見る。だから・・・ちょこっとだけ、意地悪をした。



「フェイト、あの頃のままの僕で見ている時がある。今の僕のこと、見ていない時がある。今だってそうだよ。・・・それがね、不満」



その瞬間、フェイトの表情が固まった。そして・・・え、なんで涙目っ!? あの、僕なにか言った・・・けど、なんでっ!!



「あの、大丈夫っ! 大丈夫だから・・・」



いや、大丈夫じゃないから。まったく・・・。まぁ、話を進めよう。



「・・・僕、少しは強くなったよ? あの時とは違う。壊したいものと同じくらい、守りたいものが出来たから」

「私、見て・・・ないかな?」

「そう感じる時、ある。僕は、フェイトとは同年代の友達でもあるはずなのに、そういう風に話せないで、イライラしちゃう時、ある」



・・・そうだ。うん、それなら・・・ちょっとだけ、頑張ろう。



「あのね、フェイト。その・・・今度、またその辺りのこと、ちゃんと話したいな。時間作って、じっくり時間をかけて。・・・ダメ、かな?」

「・・・ダメじゃない。私、ヤスフミにそういう嫌な思いさせてるなら、ちゃんと改善したいから。
私も、話す。だから、ヤスフミも、話して欲しい」



フェイト、少しだけ漏れてた涙を指で拭く。そして、僕を見て言ってくれた。それが、すごくうれしかった。うん、すごく・・・。



「うん、話すよ。今の僕のこと、もっとフェイトに知って欲しいから。誰でもない、フェイトに、知って欲しい」

「・・・うん」










なんだろ、フェイト・・・ちょっと違う。なんか違う。





もしかして、ヒロさんにぶっ飛ばされた時に、なんか変なところ打ったんじゃっ!?










「・・・あのね、ヤスフミ。私も・・・」

「・・・あー、お二人さん。悪いんだけどさぁ」



その声に、思考が現実に引き戻される。そう、固有結界が崩された。そして、二人して周りを見る。そして、顔を赤くする。

だって、みんな・・・見てた。



「まぁ、その辺りの話は、またあとでね。つか、私らのことを忘れないでほしいんだけどなぁ〜」










・・・すさまじく顔が赤くなって、身体が赤くなったのは、言うまでもないだろう。うん、熱い。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



身体、熱い。でも、ちょっとだけ話せてよかったかも。私がどう思っているかじゃない。ヤスフミの気持ち、聞けたから。





・・・私、ダメだな。本当に、分かってなかったかもしれない。ううん、分かってなかった。





とにかく、そんな私たちのことは置いておいて、話は進んでいく。そう、とても大事な話を。










「・・・それで、ヒロリス殿」

「あ、はい?」

「スバル達と実際に剣を交えて、どういった感想を抱きましたか?」





・・・そうだね。それは気になる。実際、なのはがすごく・・・緊張してる。



たしか、聞いた通りなら教導隊出身だもの。そして、実力はあの通り。その二人から見て、スバル達は・・・。





「いい感じだね」





即答っ!? というか、なんの迷いも溜めもなかったよっ!!





≪こういう人なんですよ≫

「失礼な。・・・まぁ、若さゆえのなんたらってのは仕方ないとして。完成度は現時点でもかなりのものだよ。
みんないい子みたいだし、私は気に入ったよ。いやぁ、もう10才若かったら、チーム組みたかったのになぁ」

「・・・ありがとうございます」





あ、なのはがなんだか感激してる。シャーリー、なだめてるね。

というか、この方の評価は、教導隊メンバーからすると、そこまでなんだね。





「・・・ヒロさんにサリさんも、そうとう暴れてたらしいから。教導隊では伝説の人扱いなんだって」

≪まぁ、グランド・マスターに比べたらまだまだですよ≫

「そ、そうなんだ・・・」





まぁ、あの人に比べたら・・・誰でも、そうなるよ。





「ただよ、気になるところがなかったわけじゃないけど」





その瞬間、なのはの体がこわばり・・・って、なのは落ち着いてっ! どうして体が震えまくっているのっ!?





「・・・あー、ヒロさん。なのはは無視で。大丈夫、サリさん居るなら、倒れてもすぐに対処出来るでしょ」

「それもそうだね」



それで納得するんですかっ!? あぁ、なんだかヤスフミが二人居るように感じる・・・。



「・・・まぁ、気になるって言っても、ここがダメっていうのじゃないのよ」

「え?」

「あの、それはどういうことですか?」

「なんていうか、もうちょっと完成の形を高めにしてみてもいいんじゃないかという話なの。
そうだな。例をあげると・・・ティアナちゃんだね」





ティア? ティアがどうしたんだろう。確かに最初の頃は揉めたけど、でも、ちゃんと解決していけたわけだし・・・。





「実はね、私・・・やっさんとティアナちゃんの模擬戦、見させてもらってるのよ」

『えぇぇぇぇっ!?』



私たちが驚いていると、恐る恐る手を上げた人間がいた。・・・ヤスフミだった。



「あー、ごめん。僕が見せたの。ちょっと反省点が多くてさ。ヒロさん達のアドバイスが欲しくて」

「なるほど。そういうことか」



でも、それなら私たちに言ってくれればよかったのに。外部の人に見せるなんて・・・。



「・・・思いっきり不機嫌に説教かましたくせに何を言うか。しかも、この話になるとお説教モードに入って、ちゃんと話出来なかったじゃないのさ」



う・・・。



「ごめん・・・」

「いーよ。・・・で、気になるところってのはなんですか?」



全員の視線が、再びヒロさんに集まる。それを待っていたかのように、話し出した。



「まぁ、あれよ。あの子、ぶっちゃけちゃえば勝気な性格してるじゃない?」

「そう・・・ですね」

「その上ツンデレでしょ?」



・・・ツンデレ?



「それは関係ないじゃないですかっ!!」

「ちょっとした冗談だよ。・・・でよ、そういう勝気で突撃思考に走りやすい部分が気になった。
と言うより・・・やっさんのふざけた戦い方にあそこまで乗ちゃったところかな。うん、そこは改善点だと思う」






・・・確かに、ヤスフミふざけていた。そして、その発言に乗せて、ティアナは途中暴れに暴れてた。



でも、無理ないよ。いろいろきわどいところ言われてたし。ヤスフミは全くまじめじゃなかったし。





「でもさ、戦いってのは綺麗事じゃないわけよ。ああいう性根の腐ったふざけたやつを相手にすることだってあるわけだし。
特に、あの子は執務官志望でしょ? 犯罪者・・・人間をメインに相手にしていくわけだし、よけい危ないよ」

「ちょっとヒロさんっ!?」

「・・・なるほど。あの時の蒼凪のように、究極のマイペースとも言うべき人間に振り回されているようでは、危ないと」

「・・・反論できないのがむかつく」



・・・そう、なのかな。



「まぁ、それはティアナちゃんだけじゃなくて、他のみんなも同じかな。いや、うちらの知っているのがひどすぎるってだけなんだけど。
ちょっと、真っ直ぐ過ぎる部分がある。もっと言うと、そういうふざけたやつを相手に出来るかどうか、怖い部分がある」

「でも、それならみんな強くなっていますし・・・」

「リインちゃん、私はそういうことを言っているんじゃないの。・・・あの子たち、トラウマとかない?
触れられると、逆上するほどの傷とか」





・・・あっ!





「フェイトちゃんはわかったみたいだね」

「あの、つまり。あの時のヤスフミと同じやり口で、トラウマや、コンプレックス関係で攻撃を受けたら・・・」

「うん、そういうのに弱いところがあるってこと。『希少価値でステータス』はアレだけど、そこは考えていくべきだと思った」



確かに、そうかもしれない。でも、みんな鍛えてるし強くもなってるからだいじょ・・・うぶじゃないよね。

だって・・・・。



≪ここに一人、スバルさんやティアナさん達より強いにも関わらず、精神攻撃で潰されかけた人がいますから≫

「・・・はい、私です」





スカリエッティのアジトに乗り込んだ時、私は戦えなくなりそうになった。



母さんのことや、エリオやキャロのこと、ヤスフミのことをあれこれ言われて。そうだ、そういう攻撃は、とても辛い。自分が、信じられなくなるから。





「・・・あのさフェイト。僕、その話を聞いた時に本気で呆れたんだけど。先生に、何回その辺りは弱点だから改善しろって言われてた?」

「は、反省してます・・・」





あの人にも、相当言われていた。それでも、どこ吹く風じゃないと、いつかつぶされる。そう言われた。

あの時は、もっと強くなることだと思ってたんだけど・・・違った。そういうことじゃ、なかった。



力じゃない、心だった。私の心は、弱かった。だからあの時私、負けかけたんだ。





「まぁ、その反省も付き合うよ。・・・で、ヒロさんとしては、その辺りの改善策を出した方がいいと」

「そーだよ。気になって本当にかましたやっさんと同じでね。ま、予想よりひどくなかったけどさ」





・・・え?





「ごめん、ぼくちょっとといれ」

「待って」

「フェイト、なんでぼくの手をそんなに強く掴むの? 嫌ではないけど、もうちょっと優しくしてほしいな」



ヤスフミが逃げようとしなければ、私だってこんなことはしない。だから、問い詰める。しっかりと。



「ヤスフミ、今、ヒロさんがとても気になることを言ったんだけど、どういうことかな」

「・・・いや、気のせいじゃないかな?」

「ヤスフミ。私、ちゃんと話したいの。さっき言ったよね?」

「わかりました。白状します。実は・・・」





そして、ヤスフミは立ちかけていた席にもう一度戻って、呼吸を整えると、口にした。そう、真実を。





「あれ、はやてとグルでやったの」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?










『えぇぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・さて、話は少しだけ時間を巻き戻すところから始まる。





そう、シャマルさんと話して、そのあとのはやての頼みごと。それこそが、現在の状況のきっかけなのだ。





あ、詳しくは13話を読んでね? ぺこり。




















「・・・なぁ、ぶっちゃけ六課の前線メンバーってどう思う?」

「どういう意味合いかによるよ?」





能力的・・・申し分ないと思う。



性格・・・面白い人間多いよね。最近のお気に入りはスバルだよ。面白い面白い。僕の周りにはいない、ボーイッシュな妹キャラだし。





「そういうアンタの趣味趣向で話してるんとちゃうわっ! もっと真剣な話なんやけどっ!?」

「じゃあ、なにが気になってるのさ?」

「まぁ、端的に言うと・・・メンタル面やな」





・・・それなら、問題ないんじゃ? 隊長陣は経験豊富。フォワード陣だって、あれだけの修羅場潜ってるわけだし。





「ほんまにそう思うか?」

「正直に言うと、思わない」

「せやろ? そう言うと思ったわ。で、きっかけはなんや」



そう、僕は現在の六課の、隊長陣を含めた前線メンバーのメンタル面での能力に、ちと疑問がある。きっかけは・・・。



「スバルとフェイトだね。ほら、スバルって最初の模擬戦の時、僕の軽口に結構乗っかってきたじゃない?」





それを見て、精神攻撃関係・・・というか、挑発とかの類は弱いのかなって印象を受けた。まぁ、あの性格だから仕方ないんだけどさ。





「フェイトちゃんは・・・言うまでもないわな」

「スカリエッティにつぶされかけたんでしょ? 全く、なに考えてるのさ・・・」





僕がのんきにフラグ立てそこなったとか考えてる時に、そんなことになっているとは思わなかったさ。



シャーリーから聞いて、僕がどれだけビビったと? 地上本部のことなんか放り出して、フェイトを助けに行けばよかったと後悔したさ。





「つか、フェイトもフェイトだよ。そんな聞く価値もない戯言言われても、ろくな結果にならないのは見えてるだろうに。
出てきた瞬間に『しゃべるな』とか言って、サクッと潰せばいいのに、緊縛プレイでしょ? 呆れたよ」

「・・・いや、アンタ、そろそろ自分が特殊例っちゅう自覚を持たん? つか、それは完全にお話出来ん人やないか」



失礼な。僕は世界のスタンダードだよ。



「まぁ、とにかくや。そういうのも含めて考えると、ちとメンタル関係がやばいかなと思うんよ。
さっきあんたが言うたように、経験も積んでる。だけど、トラウマやら出自関連って、それだけじゃダメやんか」

「確かにね。現にフェイトがダメダメだったし。先生にも散々言われてたはずなのに、これでしょ? ありえないって」





なお、なんか突き刺さる音が聞こえたけど、気のせいだ。





「つまり、はやての頼みごとっていうのは・・・」

「そや。そのトラウマ関係をなんとかしたいんよ」

「いや、それなら僕に頼む必要なくない?」



つか、そういう話は教導官であるなのはや、師匠を通してほしい。



「いや、アンタしかおらんのよ。つか、アンタを仲介した方が早い」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ? なんだろう、すごく嫌な予感がする。



なんだろう、すごいこれから不幸が連鎖していくような気がするんだけど。





「なぁ、ヒロさんとサリさん。改めて紹介してくれへんか?」

「はぁっ!?」




















「・・・というわけなんですよ」

『なるほどねぇ・・・。トラウマ関係か。そりゃまた難儀な』





あ、補足が必要だよね。実は・・・JS事件の際、ヒロさんとサリさんも、スカリエッティにその身を狙われていた。

理由は簡単。二人が、僕と同じヘイハチ一門だから。



で、地上本部の襲撃の時に、僕の友達で、ヒロさんと姉妹同然な少女時代を過ごしたカリムさんとも親交の深いはやても、二人と顔を合わせているのだ。



このあたりの話は今後していくとして・・・。でも、アドレスとか交換してるはずなのに、なぜに僕を巻き込む?





「いや、ちょっと頼みにくくてなぁ。アンタが間に居ると楽かなぁと」

「そんな理由っ!? そんな理由で僕は巻き込まれているわけですかっ!!」

『まぁ、あれだよやっさん。諦めろ』



サリさん、お願いだからそのオーラやめて。仲間だ俺達みたいなオーラやめて。どこの三昔前の青春ドラマですかそれ。



『でよ、今ざっと経歴見せてもらったけど・・・よくもまぁ、ここまでトラウマやら過去の出自関係でゴタついた人間ばかり集められたね』

「まぁ、いろいろありまして・・・」



それって便利な言葉だよね。すごく楽だよ。



『特に・・・やっさんの想い人。この人危ないでしょ。実際潰れかけてるし。
つか、バカだよね〜。敵の戯言なんざ聞き流して、サクっと半殺しにすればいいのに。話なんざ、全部その後でしょ』



あ、なんかまた突き刺さる音が。今度は二本だね。包丁かな? ちょっと鈍い感じだった。



『・・・ごめん、八神部隊長。こいつはやっさんと同じく特殊例だから気にしないで。
ま、それでよ。そういうことなら、まずは現状把握から始めないとまずいんじゃいかな』

「現状把握・・・ですか?」

『そーだよ。結局、その危惧って、今のところは八神部隊長の個人的不安なわけじゃない?』



そう、現状では、はやて一人の危惧に過ぎない。対処するなら、確かに現状把握は必要だね。



『まぁ、ハラオウン執務官の例は間違いなくバカだと思うけどさ。それで止まるのはありえないって。俺が全く同じ立場でも、それはありえない。
そんな話は、戦い終わった後でいくらでも出来るだろうに』





おいおい、またなんか突き刺さる音が聞こえたよ? 今度はけっこう数が多いんですけどっ!?

おかしいな。なんでこんな隣でそんな恐ろしいことになっているみたいに聞こえるの? 音が無駄に生々しいし。





「・・・特殊例はあなたもですか。まぁ、そこはえぇです。なら、現状確認言うてもどうすれば?」

『そんなの簡単だよ。リアルに仕掛ければいい。突発的に、こっちの真意は内緒でね。
別に、全員に仕掛ける必要はないよ? 一人に仕掛けて、それで周りの反応を見るのだって、十分なデータになるわけだし』



・・・あ、なるほど。



『そこさえ分かれば、俺のほうで実際の予測データは作れるから。まぁ、あくまでも予測だけど』



一種の意識調査みたいな感じにしていくわけか。それなら・・・うん、いけるかもしれない。



「確かにそれなら・・・」

『というわけで、やっさん。頼むね』





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?





『いや、なにそんな面白い顔で固まってるのさ。お前しかいないだろうが』



あれ、なんでヒロさんも僕を見る? お願いだから手を合わせるなっ! そんなお亡くなりコースな人を見る目で僕を見るなっ!!

なんか丸焼きにされてる自分を感じてしまうからやめてっ!!



『今度の模擬戦とかで、思いっきりふざけて、見ている人間から『ふざけ過ぎだこの野郎』と、反感買うような舐めた戦い方をしろ。
そうすりゃ、現状把握としては十分。俺の方でデータも作成可能。八神部隊長の不安が本物かどうか、分かるだろ』

「いや、というか、僕の風評とかそういうのは無視ってどういうことっ!!」」

『でも、やるつもりだったんだろ?』





・・・見抜かれてたか。まぁ、気にはなってたし。他に手があるわけじゃなかったし。なにより、僕が適任ではある。



他のメンバーでそういうのが出来るの・・・いないしね。みんないい子だもの。





『つまりだ、やっさんはいけにえってわけだ。やっさんというスケープゴートに対して、どういう反応をするか、見極めないといけない。
まぁ、お前の風評をぶち壊しにする可能性もあるし、無理にとは言わないけどな』

「・・・わかった、やりましょ」

「アンタ、えぇんか?」



仕方ないでしょ。選択の余地は無さそうだし。



「それに、はやては大丈夫かと気になってるんでしょ? で、やった上で勝ちを通せる人間も、おそらく僕だけだよ」

『そうだ、負けたら意味がない。これは、そういう手口で勝たないとだめなんだ』





負ければ、今までのやり口が正しい。そういう証明にしかならない。



だけど、もし僕が空気読まずに勝てば? 当然僕に非難が集まるわけさ。その時の反応を見極めるというわけである。



そして、僕のやり口が汚く、ふざけてて、相手を舐めきった手段であればあるほど、効果は増す。



まぁ、さすがにトラウマ関係責めるわけにはいかないけど。





『まぁ、あれだよやっさん。菓子折り位は送ってやるから、頑張れ』

「がんばりますよ。大事な友達のため、血と肉と内臓をささげようじゃないですか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というわけなのですよ。










「はやてちゃん、私やヴィータちゃんにもなんの相談もなしでそんな勝手なこと・・・」

「な、なのはさんっ! 落ち着いてくださいっ!!」

「あー、ごめん。それも私たちからのアドバイス。知っている人間がいると、やっぱり反応が変わるからさ。
まぁ、主演女優賞を取れるくらいの演技力があれば別だけど」



あいにく、そんな演技派は、うちの狸と僕しかいない。後は大根畑だよ。・・・ティアナ以外ね? アレは狸になれそうだ。



「というか、フェイト・・・大丈夫?」

≪あなた、ひどいことになってますよ? もう、いろんなもんが突き刺さって・・・≫

「・・・私、やっぱり駄目かもしれない」





いきなりそんなあきらめセリフを吐かないでっ!



・・・とにかく、そういうわけでやったのだ。あと、ヒロさんに映像を見せたのは、さっき言った理由もあるけど、それだけじゃない。





「模擬戦後の、六課の様子なんかも、報告するためですか?」

≪そうです。リアルに仕掛けないと意味がありませんから、それはもう秘密裏に≫





なお、それをどうしてティアナにやったのかは・・・わかるよね? ティアナに対しての先ほど話した危惧を、はやても持っていたから。

執務官って、やっぱり単独行動多いしね。なので、やるなら・・・ということである。

あぁ、これバレたら、殴られるかな? 覚悟はしておこう。



しかし、今の今まで頭痛かったけどさ。フェイトは怒るしギンガさんは乱入してくるし、スバルとは微妙な感じになるし。まさしく連鎖が来たよ。



もうちょっと言うと、リンディさんも家に居るしな。



・・・よし、バレる前に、後でフェイトに白状しよう。そうすれば、ダメージも少ないはず。





「・・・ヤスフミ、どうして黙ってたの」

「いや、こういう理由なのって聞かれなかったから」










そう言うと、みんな納得してくれた。いや、素晴らしい理解力で助かるよ。本当にねぇ。あははははははっ!!




















「納得するわけないよっ!!」





やっぱり駄目かぁぁぁぁぁぁっ!!





「だって、話したら反応が・・・」

「そんなのわかってるよっ!」

「だったら文句つけないでよっ!!」

「文句じゃないっ! ・・・感情論の問題だよ。話せなかったの、分かるよ? 私、潰れそうになった前例作ったから、どうしてもそうなるの、分かる。
私に言う権利、ないのも・・・わかる。だけど、話して欲しかった」





・・・なんだろう、悪いことしているような気になってくる。いや、実際してるんだけど。お願いだからその涙目はやめて。





「まぁ、あれだ。蒼凪はテスタロッサに謝れ」

「なんでっ!?」

「当然ですっ! 2年前の一件の時だってそうだったじゃないですかっ!! ちゃんとしなきゃ、ダメですよっ!?」





・・・こ、こいつら理不尽だっ! まぁ、しゃあないか。嘘ついてたのは確かなんだし。はやて、恨むよ?





「・・・フェイト」

「謝っても許さない」



どうしろって言うんだよこれっ! つか、みんなも目をそらさないでっ!! 特にヒロさんっ! あんた方のおかげだよねこれっ!?



「あのね、ヤスフミ。私、そういう悪だくみしてたことが嫌だって言ってるわけじゃないの。まぁ、それも嫌だけど、もっと嫌なことがあるの」

「え?」

「ヤスフミ、自分は大丈夫だからって言って、自分の風評とか、そういうの犠牲にしてでもなんとかしようとする時がある。それがね、嫌なの」



・・・あの、フェイトさん? さっきよりも増して、どうしてそんなに泣きそうになってるんですかあなたっ!?



「2年前の一件だってそうだよ。・・・守りたかったの、分かるよ? でも、そのためにヤスフミの信頼や、自由が損なわれていいわけないよ。
反省、しなくてもいい。謝らなくてもいい。だけど、お願い。もう少しだけ、そういうのを大事にしてほしい」



・・・でも、僕はフェイトと違って立場があるわけでもないし。



「そういうことじゃない。もっと、自分を大事にして欲しいの。・・・これも、今度ちゃんと話そうか。長くなりそうだし」



・・・うん。

とにかく、話は次のステージに進む。そう、フェイトが進めたのだ。



「・・・それで、ヒロさん」

「うん」

「正直、ヤスフミを生贄同然に扱ったこととか、言いたいことは山ほどあります。だけど、そこは後でいいです。
・・・スバル達の実際は、どうですか? というか、今日いらっしゃったのも、それが理由ですよね」

「そーだね。やっぱり、引き受けた以上はちゃんとしたくてさ。八神部隊長にスケジューリング教えてもらったの。
やっさん居ない方が、直にぶつかれるしね。で、結論を言うと・・・」





その瞬間、場が静まり返る。そして、ヒロさんが口を開いた。





「現状維持でいいんじゃないの?」





その瞬間、全員がずっこけた。・・・え? まてまてっ! あれだけ危ないとか言っておきながら、現状維持ってどういうことっ!?





「あー、ごめん。言い方が悪かったね。方向性は現状維持でいい。そう言ってるの」

「と、言いますと?」

「ようするにだよ。なのはちゃんやヴィータちゃんが、今まであの子達に教えている方向性はそのまま。
ただ、さっきも言ったけど、卒業時の完成系を、少しだけ高くするんだよ。で、隊長陣もいい機会だから、メンタルトレーニングしていくの」



あ、なるほど。だからこその現状維持か。



「八神部隊長は、私ややっさんみたいに出来ないとアウトなのかと考えてたけど、それこそアウトだよ」



そう、はやては最初そんなことを言っていた。特殊例でなければ、だめなのかもしれないと。



「やるのはあの子達・・・そして、アンタ達だ。何をされても、自分が一番信じられる理由で、止まらずに戦えるように、今よりももう少しだけ、心を鍛えればいいんだよ。
スバルちゃんとやりあって、それは確信に変わったかな。もう一度言うね? アンタ達はアンタ達だ。私やサリ、やっさんと同じである必要なんてないよ」

「ヒロリスさん・・・」



・・・こういう人なのだ。器量が大きいというか、すごいというか。うん、そうだよね。

スバル達は、僕達とは違う。僕達も、スバル達とは違う。それで、いいじゃないのさ。



「・・・つまり、ヒロリス殿の意見をまとめると、我々も含めて、最低でも一度は、徹底したメンタルトレーニングが必要・・・ですか?」

「そうですね。方向性は、今のままで。何を言われても、揺らがずに、自分の中にあるもの、信じられるようにするべきだと思います」



ヒロさん、シグナムさんには敬語なんですね。ちょっとびっくりしましたよ。



「そうすれば、大丈夫。みなさんはもちろん、あの子達も、どこへだって飛んでいけますよ。・・・なのはちゃん」





なのはの視線が、ヒロさんに向く。その目は、少しだけ緊張の色が見えた。そんななのはを安心させるように、ヒロさんが笑う。





「アンタ、自信持っていい。あんな真っ直ぐに進める子達、局の魔導師の中でもそうそう居ないよ。
そんな子達の先生になれたこと。指導できたこと。誇りに思いな?」

「・・・はい。ありがとうございます・・・!!」





・・・なのは、泣き出した。つか、そこまで嬉しいのか。ヒロさん、なにげにすごい人なんだよね。うん。





「でよ、こっからは少し真面目な話ね? ・・・現状で、今言ったようなことって出来る?」



それは、なのはに対しての言葉。そしてなのはの返事は・・・ノーだ。表情暗くなったし。つか、どんだけアップダウン激しいんだよ。



「やっぱ、手が回らないか」

「・・・はい」





そう、現状でも一杯一杯だったりするのだ。なのはとヴィータ師匠がメインで教えてるけど、それだって技量が中心。

メンタルトレーニングを、今以上に含めて。それも、隊長陣も交えて・・・は、かなり厳しい。

いや、全員やるかどうかはわからないけどね。実際の具合を見てみないと。





「それなら問題ないよ?」

「え?」

「優秀な教導官を、アンタとヴィータちゃんの補佐につけるから」

『えぇぇぇぇぇっ!?』



まてまてっ! そんなはな・・・あ、なんかまた嫌な予感が。



「あ、あの補佐って・・・」

「だから、はやてちゃんからあれこれ聞いててさ。人手が足りないのは読めてたの。で、うちらの方で、手配しちゃった♪」



だぁぁぁぁぁっ! やっぱりかいっ!! このままマトモにいくとは思ってなかったけどっ!!



「いや、でも・・・それはっ!!」

「安心して。今言ったように、補佐だから。しかも、経験は豊富よ?」



・・・間違いない。もう決定だよ。



≪・・・あなた方、まさかとは思いますが≫

「そうだよ。私とサリも、六課に出向する。で、教導手伝うから。隊長陣のメンタル面、うちらが面倒見ようじゃないのさっ!!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』










隊舎が揺れたのは、気のせいじゃない。というかさ、これ・・・どうなるの?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・よっと。










ゴキっ!!










「んっ!」

「大丈夫?」

「あ、はい。というか、すみません。ストレッチまで・・・」



そう、俺はあのバカの『特別講習』が終わった後、演習場に降り立った。当然、フォローのため。



「いーよ。・・・少しきついかもしれないけど、我慢してね。これやっとけば、明日には全快だから」





今、俺と話している子・・・ティアナちゃんに対してしているのは、全身へのストレッチ。ただし、普通のじゃない。



俺が考案した、魔導師or騎士用のストレッチだ。

全身のつぼや筋肉を刺激して、体内の血流や、魔力循環の効率を良くして、回復効率を上げるもの。

あっちこっちの世界の生体術を参考に組んだ。すぐに動けるように。エンプティになっても、戦えるようにね。



あ、すぐ横でグッタリしているちびっ子二人や、チビ竜にもやってる。これで、明日緊急出動とかになっても、大丈夫なはず・・・だ。





「・・・しかし、すげーですね。そんなことも出来るとは」

「あのバカと長年組んでるとね」





あのバカ、頭脳労働やらなんやらは全部俺任せだからな。おかげでこういうのが得意になったのさ。



ヴィータちゃんが、やたらと感心した目で見ているのが辛いね。考案した根っこの理由が今ひとつかっこよくないし。





「しかし・・・本当に申し訳ない」



ストレッチをサポートする手を止めずに、頭を下げる。うん、本当に申し訳ない。



「あぁ、いいですよ。こいつらにはいい勉強になったでしょうし」

「あの、大丈夫ですから。というか・・・すみません。うちのフロントアタッカーが迷惑を・・・」



・・・いや、正直スバルちゃんはまだいい。やっさんの対処が下手くそだったのが原因だから。でも、アイツはそういうわけじゃない。

今からでも遅くない。六課への出向、断ろうかな。どんなことになるか予測つかないし。いや、もう後の祭りだけど。



「・・・とりあえず、これで・・・よしと」





ま、そんなことを思いつつも手を止める。もう、ストレッチは最後の段階まで終わったから。



ティアナちゃんが、息を吐く。・・・やっぱ、きつかったか。まぁしゃあない。ヨガもいいとこだもの。





「サリエルさん、ありがとうございました」

「いえいえ。・・・ま、もう少しだけここでじっとしてなよ。すぐ動くのはお勧め出来ないから」





他の二人とチビ竜も、そうだしね。つか、演習場・・・壊れてないよな? これ、最新設備だし、金額で請求されても、俺は困る。

それだったら、自力で修理したいよ。そっちの方が、金がかからなくて済む。



・・・あのバカのおかげで、修復魔法も得意なのさ。開発局仕込みのメカテクニックも駆使すればなんとか。





「あぁ、大丈夫ですよ。うちのバカ弟子とバカ副隊長の戦闘に比べれば軽いですから」



・・・ヴィータちゃん、苦労してるんだね。表情に陰りが見えるよ。いや、俺もあれは見せてもらったけど、分かる。

エンジンかかったあのバカ二人の模擬戦と同じなんだよ。何回、騎士カリムやシスターシャッハに謝ったことか・・・。



「あの、サリエルさん」

「どうした? あ、まだきついところがあるとか」

「いえ、そうじゃなくて・・・。まさかとは思うんですけど、アイツとも毎回・・・こうなんですか?」





ティアナちゃんが言っていることは・・・わかるよね? やっさんと俺達の訓練は、いつもこうなのかという意味だ。



そして、その言葉に俺はうなづく。そう、やっさん鍛えてる時も毎回こうだ。なお、これには理由がある。





「ほら、やっさんって、ここの隊長陣とつながり深いだろ? この部隊・・・六課が設立するうわさも、ちらほら聞いてたしさ」





それにだ、状況もそれに拍車をかけた。ガジェットやら、レジアス中将やら、レリックやら、陸と海の中の悪さやら。

そういうが、どうにも目に付きはじめたのが、2年前。ちょうど、やっさんと会った時期だ。



で、状況を聞いて、こいつは危ないと思った。間違いなく、その辺の嵐に巻き込まれ始めている。そう感じた。



そのときのやっさんは、一応・・・エースではあると思う。だけど、それじゃあ足りない。ストライカー? 同じだ。足りない。



だから、先生と同じマスター・・・とはいかなくても、その入り口が10倍スコープで覗いたら見えるくらいの位置には立ってもらおうと、鍛えることにした。



なんつうかさ、放っておけなかったんだよね。惚れた女や、大事な友達を守る。そんな理由で、命を賭けるアイツを。

いまどき、珍しいじゃない? アイツみたいなバカはさ。死なせるには惜しいさ。生きてもらって、暴れてるのを見るのを老後の楽しみにしたいのよ。





「・・・そうだったんですか。つか、アイツはそれならそうと言ってくれりゃあ」

「なに言ってるんだよ。その頃、八神部隊長共々、隊長陣は色々と忙しかったじゃないのさ」



部隊を設立するってのは、簡単なことじゃない。そうとう苦労してたようだしね。



「それなのに、やっさんが自分の都合でヴィータちゃん達を付き合わせたら、本末転倒だよ」





まぁ、まったく話してなかったわけじゃない。アイツの主治医であるシャマルさんとは、会わせてもらったから。

ちょっと無茶させるし、ちゃんとしておきたかったのが、理由だ。



だけど・・・さ。アイツ、どうしてああなんだよっ!? 明らかにフラグ立った人じゃないかよあれっ!!

泣いたさ。そして不憫に思ったさ。どうして本命にあれが出来ないのかと、俺は泣いたさ。





「・・・なんか、勝てないな」

「・・・そんなことはないよ、ティアナちゃんだってなかなかだ。見てて惚れ惚れしたくらいだし」










うん、やっぱりこの部隊はいい人材が揃ってる。まさに金の卵の宝庫だ。





・・・やっさんも、そう思ったから力になりたかったんだろ。正直、ギンガちゃんの一件の時と同じく、また泥をかぶってもらったしな。

またフォローしないといけないな。まったく、バカな友達兼弟弟子を持つと、苦労するよ。どーしてあそこで断るという選択が出来ないのか・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



スバル・ナカジマ。現在、医務室で寝込んでいます。原因は、ヒロリスさんにぶっ飛ばされたから。うー、体が・・・。





まだまだだなぁ、私。というか、世の中には、もっと強い人たちが居る。なのはさんや副隊長がてっぺんじゃないんだよね。





・・・もっと知ってみたいな。別に、戦うのが好きとかじゃないけど。でも、少しだけ、強くなる別の意味を、見つけた気がする。










「スバル、入るよー」





その声は、医務室の入り口から聞こえた。栗色の髪と黒い瞳。・・・恭文だった。え、もう帰ってきてたんだ。





「恭文、どうした・・・の?」

「どうしたもこうしたもないよ。・・・スバル、よかったね。生きてて」



恭文、その表現はどうかと思う。お願いだから、指で涙を拭う仕草はやめて。いや、結構びっくりだったけど。



「まぁ、あれだよスバル」



恭文は、私が寝ているベッドの横に椅子を持ってきて、そこにちょこんと座る。そして・・・頭を下げた。



「ごめん」

「・・・なんで謝るの?」

「僕がもたもたしてたから、スバルに負担かけた。思い詰めさせた。・・・ごめん」



・・・バカ。本当に、バカだよ。悪いの、私なのに。恭文の気持ち、無視してた私なのに。



「あの、私のほうこそ・・・」

「あぁ、そのままでいいから。・・・ヒロさんから聞いた。そうとうきつくやったんでしょ?」



起きようとすると、恭文に寝かされた。体、まだ言うこと聞かない。やっぱ、無茶させすぎたのかな。



「じゃあ、このままでいい?」

「うん」



なら、私もだ。というか、私が謝らないといけない。



「恭文、あの、私が悪いの。ごめん」



私、ずっと恭文の気持ち無視してた。ちゃんと話そうとしてなかった。空気、読めないって言われても、しかたないよね。



「いいよ。スバルが疑問に思うのは、当然だもの。理屈じゃなくて、どうしても納得出来なかったんだよね?
壊すために戦う。そう口にする魔導師ってやつがいるのが」

「・・・うん」



私は、なのはさんに助けてもらった。だから、魔法は誰かを守るもので、壊すためのものじゃないと思ってる。だから、どうしても・・・。



「・・・僕にとっては、少し違う」

「そうなの?」

「うん。魔法って言うのは・・・ぶっちゃけちゃえば、力だね。もしくは道具」



すごく広い定義だと思った。力というのは、いろんな意味に取れるから。



「道具っていうのとはちょっと違うかもしれないけど。とにかく、使い手の性根がどうだろうが、それがあれば、なんであろうと使える。そういうものだと思ってる」



そこまで言うと、恭文が考えだした。どう話そうか、考えてる。・・・今なら、分かる。

前まで分からなかった恭文の気持ち、分かる。やっぱり、ちゃんと見てなかったんだ。私、だめだな。



「あのね、恭文」

「なに?」

「私、ちゃんと聞く」



ヒロさんと話して、どうしようか考えて、それしかないと思った。うん、それしかないと。



「恭文の話がどんな話でも、ちゃんと最後まで聞くから。話したいように、話していいよ。否定なんてしない。全部、受け止めるから。・・・ごめん、なんか偉そうだね」



でも、こういう言い方しかできなかった。・・・もどかしい。思っていること、全部言葉にしないで、伝わればいいのに。



「いいよ。・・・ちゃんと分かったから」



そう言うと、恭文は少しだけ黙った。そして・・・口を開いた。



「・・・正直ね、壊すためだけに戦ってるわけじゃないよ?」



最初に飛び出したのは、そんな言葉。そして言葉は続く。少しずつ、考えながら、私に、私だけに届くように、続いていく。



「守りたいものがある。それを守るためにも戦ってる。だけどね、それだけじゃだめなんだ。忘れたくないことがあるから」

「・・・忘れたくないこと?」

「・・・戦うことが、守るって言葉だけで片付けられない。それを、忘れたくない。間違えた事を、忘れたくないの。
まぁ、その・・・ハッキリ言っちゃうと・・・」





そして、次に出てきた言葉は、私の胸を貫いた。





「僕、魔法の力で・・・人を殺したことがあるんだ」




















・・・それから、恭文は話してくれた。どうして、そうなったのかを。





8年前。リイン曹長と会った恭文は、ある事件に巻き込まれた。





その事件の黒幕連中の差し金で、偶発的に、恭文の住む街に飛ばされてきたリイン曹長を追って、暗殺者の類が小隊を組んで、襲撃をかけてきた。





そして、その時、リイン曹長と友達になって、仲良くなっていた恭文は、どうしてもリイン曹長を守りたかった。





だから・・・殺した。





その時の自分には、アルトアイゼンのような信頼の出来るデバイスも、魔法の知識も、戦闘の訓練の経験すらなかった。





リイン曹長を引き渡して見捨てるなんていう選択肢は取れなかった。そんなこと、出来なかった。だから・・・戦うと決めた。





だけど・・・。




















「・・・他にね、方法が思いつかなかった。他に・・・考え付かなかった」

「・・・でも、どうしてそこまでして、守ろうと思ったの?」





そこが分からない。恭文にとって、リイン曹長との繋がりを、そこまで大事に思う理由が。





「僕の親ね、最低だったんだ」

「え?」

「互いに別に相手が居てさ。お金は送ってくるけど、ずーっとその相手の所に入り浸ってるの。
だからね、家族の記憶って言うのが、無いんだ。親のご飯を食べたりとか、そういうのもないの」



・・・え、ちょっとまってっ!



「じゃあ、それまでどうしてたの?」

「出来合いのもの食べてたりしてた。誕生日を祝われた経験も・・・無いな。ハラオウン家にお世話になるようになってからかな。そういうの、感じるようになったの」





知らなかった。私、普通に育ってきたとばっかり・・・。





「だからね、リインと会う10歳くらいまでの記憶って、一色だけなんだ」

「一色?」

「うん。・・・同じ景色と、同じ時間と、同じ生活。ひとりだけの、灰色の世界。意味の無い記憶と時間。同い年の友達作るのも、嫌だと思ってたから」

「・・・もしかして、リイン曹長が、恭文にとって初めての友達だったの?」



私の言葉に、恭文はうなづく。リイン曹長も、なのはさん達以外で言うと、恭文が初めての友達だったらしい。

だから、二人はすぐに意気投合した。



「それでね、リインと会って、その一色だけの世界に、見ているだけで元気になれるような、青い空の色が刻まれたんだ。
そこから僕の時間は、思い出して、意味のあるものに変わった。僕の記憶・・・過去は、存在する意味を得たの」

「だから、守りたかった?」

「・・・うん。出会ってから、襲撃されるまでね。たったの一週間だった。
だけど、そのたった一週間が、それまでの10年よりずっと幸せで、大事な時間になったから」










リイン曹長に、そんな時間をもらった。だから、守りたい。そう思った。だから・・・殺した。





そうするしか、守れる方法が無かったから。だけど・・・それじゃあ守れなかった。恭文はそう口にした。










「・・・殺した後にね、気づいた。間違いだって。そんな結果でも、リインの事は、本当の意味で守れて居ないってことに。
リインに重荷を背負わせただけで、守るって約束、破ったってことに、気づいたの。壊しちゃいけないものまで、壊したんだ」

「・・・リイン曹長が、そう言ったの?」



首を横に振る。それは、否定の意味。うん、リイン曹長はそんな風に言うわけない。

話を聞く限り、恭文のこと、大事な友達だと思っていたんだから。



「リインは、大丈夫だって言ってくれた。ちゃんと、守るという約束を護ってくれた。そう言ってくれた。だけど・・・なんだ」

「恭文は、そう思えなかったの?」



うなづいた。静かに、何かを思い出しているような表情で。



「だけど、そうだなって思った。それが、悔しくてさ。力が無くて、最悪手しか打てなかったこと。大事な友達との約束、本当の意味で守れなかったこと。全部が悔しかった」

「・・・なら、どうして?」





私の疑問は、その一点だった。どうして、そこまでして・・・そんな思いをしてまで、まだ戦っているのか、分からない。



というか、それをどうしてなのはさんやフェイトさん達が認めているのかも、正直、分からない。





「どうして、戦うの? 壊すために戦うなんていう、悲しいこと言ってまで」

「・・・そう言うのは、忘れないため」



殺したことを、命を奪ったことを、忘れないため・・・かな。



「・・・ちょっと違う」

「なら、どうして?」

「殺すっていう手を使っても、守れないものがある。それを、忘れたくないの」



それが分からない。その、最悪手で後悔したのはわかるけど。



「あー、ごめん。僕の話し方が悪かった。・・・あのね、さっきも言ったけど、守りたいものが出来たんだ」

「記憶・・・だよね」

「うん。さっきはリインをあげたけど、リインだけじゃない。フェイトやはやて、師匠達になのは・・・。
みんなと出会って、僕の記憶と時間は、思い出して楽しいものに変わった。持っていて、よかったと思えるものになったんだ。だから、守りたい」





恭文が、まっすぐに私を見る。私は、ベッドから、恭文を見上げる。いつもは見せない真剣な顔に、少しだけ、ドキっとする。





「みんなからもらった今を、守りたい。そう思うようになった。・・・だけどね、その楽しい時間の中で、忘れそうになるんだ」

「・・・殺したこと?」

「うん。その選択肢を取って、すごく後悔したこと。それしか取れなくて悔しかったこと。楽しい時間の中で、少しずつ、忘れていくんだ。だけど、忘れたくない」





また言った。忘れたくないと。すごく、辛い記憶のはずなのに、忘れたくない。



恭文、そう何度も言う。・・・なんでだろう。忘れた方が、楽なのに。





「殺すという手段・・・というより、守りたいものを守れない、壊したくないものまで壊すような最悪手を取らないために、あの時の悔しさ、絶対に忘れたくないんだ。
忘れたら、同じことを繰り返しそうで、怖い。だから・・・戒めるの」

「戦いは、壊すものもある。そう、言い続けることで?」

「そうだね。・・・うん、下手くそだけど、そう戒めていたいの。ごめんだしね。大事な約束、本当の意味で守りきれないのは、絶対に」





そこまで言うと、部屋に静寂が訪れた。私・・・なんて話せばいいんだろう。恭文に対して。



恭文も、考えてる。私に対して、どう話せばいいか、ずっと。





「・・・ごめん、なんかわけわからないよね。全然だ」

「さっきから謝ってばっかりだよ? あの、大丈夫。・・・ただ、壊すためだけに、自分の楽しみや利益のために戦うわけじゃないって、わかったから」

「ならよかった」





・・・そうだよね。それしか・・・ないよね。私に言えること、きっと。





「あのね、恭文」

「うん?」

「私、たぶん恭文の気持ち、ちゃんと分かってあげられない」





悔しいけど、本当のこと。恭文がどうしてそう思うのか、そう思いたいのか、100%の理解が出来ない。



本人じゃないから、仕方ないんだけど。でも・・・それでも・・・!





「友達で、居られるかな? 私達、全然違うけど、それでも・・・友達、続けていけるかな」

「僕はそのつもりだけど?」

「・・・私も」



私も、恭文と友達で居たい。その気持ち、変わってない。

うん、変わらなかった。その、ちょこっとびっくりしたけど。



「あと・・・ね」

「うん」

「その、私も恭文に隠し事してた」





うん、隠してた。恭文のことばかり言えない。私も・・・!





「・・・それ、スバルの身体のことだよね」

「・・・え?」





ま、まってっ! 身体のことって、え・・・・えぇぇぇぇっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・じゃあ、ギン姉のことも知ってたのっ!?」

「うん。さっき話したようなことがあって、その時にゲンヤさんやマリエルさんから説明を受けた。だから、スバルの身体のことも・・・」





私の身体が、戦闘機人だって、知ってたんだ。あ、そういえば・・・最初のときに、振動拳使ったのに、動揺してなかったっ!!



私の目、金色になったりしてるはずなのに、それからも普通に・・・。





「結構詳しく聞いてたからね。あれが、スバルの先天性のスキルだってのは、すぐに分かった。
というか、ごめん。その・・・どういう機会で話せばいいのか、わかんなくて」

「・・・本当だよ。私、すごく悩んでたのに、バカみたいだよ」





バカみたいだよ。本当に。恭文がすごく申し訳ない顔してるけど、このままじゃ許さない。・・・何事も、代価は必要だしね。





「反省してる?」

「してます・・・」

「なら、今度アイスおごってね? それでいいよ」



うん、それで・・・。



「私も、恭文にアイスおごるから。それで・・・おあいこ。いい?」

「・・・スバル」



そ、そんな目で見ないでよっ! その・・・私だって、どういう風に決着つけていいのか、わからないんだから。

うぅ、私・・・やっぱり空気読めないのかも。



「ま、それでおあいこになるなら、遠慮なくおごるよ。とびっきり美味しいのをね」





そう言って、やっと笑ってくれた。いつもの、少しだけとぼけたような態度と一緒に。・・・うん、安心する。



これで、いつもどおりなんだよね? うん、きっとそうだっ!!





「・・・恭文」

「なに?」

「ごめん」

「・・・いーよ。気にしてないから」



だけど、うん。ちゃんと謝る。私が、わがままで、子どもで、押し付けがましかったから。だから、謝る。



「あの、話は変わるんだけど、ヒロリスさんやサリエルさんとは、いつもあんな感じなの?」





戦ってて、すごく気になった。だって、ヒロリスさんすっごく強いんだもん。恭文、本当にあんな人を相手にしているのかと・・・。





「気になるの?」

「かなりっ!!」

「・・・そうだね。うん、あんな感じだよ。二人ともすごく強いからさ。あれこれ教えてもらってるの。それで・・・」










それから、本当に少しだけ、恭文と話した。色んなことを。内容は、秘密。





でも、すごく楽しかった。私、今日のこと忘れない。大事な友達と、ちゃんと繋がった日だと思うから。きっと・・・忘れない。





ううん、忘れちゃいけない。同じこと、繰り返さないために。私とは全然違うけど、大事に思える友達を、ちゃんと認めるために。





戒めよう。忘れないことで、自分に。違うけど、同じ。そんな、単純で大事なことを、心に。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あの様子なら、大丈夫だね」

「ま、60点ってところか? やっさん、スバルちゃんの器量に感謝しときなよ。つか、二人揃ってぶきっちょだね〜」

「まぁ、蒼凪にしては上出来だろう。しかし・・・」

「なぎ君、また妙なフラグ立てたんじゃ?」

≪・・・なんというか、もう無理でしょ。色んなキャパシティが崩壊寸前ですよ≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・母さん、ヤスフミの家に居るんだよね」





さて、スバルが話してる最中に寝付いたので、そっとその場を離れて、帰ることにした。



なお、ヒロさんとサリさんは・・・ごめん。今日はもう勘弁して。今頃、僕の隣に座ってるお姉さん以外の隊長陣の中に混じって会議中ですので。

いや、いい感じで糾弾会議だそうですよ? あれからすぐに帰ってきたはやてを絞り上げてるとか。部隊長自らやらかしてるしね。





「でも、どうして今まで黙ってたの?」

「・・・話そうとするとね、妙な気配を感じるの。そこをたどると・・・リンディさんの影が」





そう、フェイトである。うちのモンスターをなんとかしていただくために、事情をぶちまけました。



なお、なのはと師匠は知らないという話にしました。いや、師匠は正直とばっちりだし。





≪まぁ、黙っていたのは悪かったとは思いますがね。・・・でも、真面目に怖かったんですよ。朝、出かける度に妙なオーラで威圧してきますし≫

「そこまでなんだ・・・。とにかく、話してくれてよかったよ。みんな相当心配してたから」

「ご迷惑おかけしました・・・」





それとだ、僕も一応はハラオウン家の人間。黙りっ放しもアウトなのである。ちゃんと話さないと・・・。










とにかく、僕とフェイトは、トゥデイに乗って、自宅へと戻ってきた。いや、フェイトは自宅じゃないけど。





とにかく、リンディさんと緊急家族会議だ。絶対に帰ってもらおう。クロノさんと仲直りしてもらわないと、どうしようもない。





そんな戦闘意欲も満タンで、僕はドアを開けた。そして、家族からの『おかえり』というコール。





すばらしいのは、わざわざ玄関まで来て、出迎えてきてくれたのだ。いや、幸せだよね。こういうの。なので・・・・。




















僕は、その場で崩れ落ちた。




















「「パパっ! おかえり〜♪」」

「おかえりー。いやぁ、今日はおそ・・・フェイトっ!」




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか増えてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!




















さて、もう説明するまでもないだろう。僕をパパと呼ぶ人間は、今のところ二人しかいない。

そう、カレルとリエラである。海鳴に住んでいるはずの二人だ。

そして、その後ろから、保護者のように歩いてきたのは、赤毛で犬耳犬尻尾。あはは、該当者が一人しか居ないや。




















「アルフっ!? というか、カレルにリエラもっ!!」

「フェイトおねえちゃん、お久しぶりー!」

「おねえちゃんも、パパのお家にお泊りに来たの?」



・・・は?



「いやぁ、悪いね。アタシらも来ちゃった」



まぁ、待とうよ。待ってくださいよ使い魔さん。待ってくださいお願いですからっ!!

ありえないでしょこれっ! なんでカレルとリエラまで連れてこっち来てるっ!? 海鳴の家はどうなったのさっ!!



「あの、アルフ。来ちゃったって言うけど、海鳴の家はどうしたの?」



フェイト、ナイスだよそのツッコミっ!!



「いや、クロノは航海任務だしさ。それにアタシだけでチビ達の世話全部はちょい無理だしさ」



そのアルフさんの言葉に、僕もフェイトも凍りついた。まてまて。『アタシだけでチビ達の世話』? この状況でそれはおかしくないっ!?

だけど、それがおかしくないことはすぐに証明された。だって、リビングの方からなんか来たから。



「恭文くんお帰り〜! いや、突然ごめんね」

「エイミィっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



えー、現在海鳴のハラオウン宅では、嵐が吹き荒れている。原因は・・・この二人だよ。










「だから、どうしてそうなのっ!? クロノ君、なんでもっと真剣にお母さんのこと、解決しようとしないわけっ!!」

『いや、だから探してはいる。もう少し待ってくれ。すぐに居場所を・・・』

「そういうことじゃないよっ! クロノ君が態度を改めないと、見つけても帰ってきてくれないよっ!?
お母さん、絶対に傷ついてるんだからっ!!」





原因は、うちの家主さんだよ。つか、見事に休みを消化して雲隠れするって、どんだけ用意周到なのだ。

で、それ関連で、うちの若夫婦も言い争っているわけだ。

・・・ほら、チビ達は向こう行こうな。パパの大好きな電○のディスクでも見ようか。キン○ロスかっこいいしさ。




『とにかく、もうしばらく待ってくれ。・・・それじゃあ、また後で連絡する』





うわ、一方的に通信切っちゃったよ。エイミィ、頭掻き毟ってるし。



うむぅ、やっぱりエイミィはお母さん寄りか。そりゃそうだよな。私もちょっとひどいと思ったもん。





「・・・アルフ、支度して」

「・・・は?」

「カレル、リエラ。少しだけ旅行行こうか?」





・・・あの、すさまじく嫌な予感がするんですけど。





「どこいくの?」

「楽しいところだよ〜」

「どこ〜?」

「二人の大好きな、パパのところだよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、家出してきたと。





「いやぁ、びっくりしたよ。玄関開けたら、お母さんが掃除してたんだから」

「それを言ったら、私の方こそびっくりよ。いきなり、かわいい義娘や使い魔や、孫達が来たんですもの。でも、うれしかったわ」





そう言いながら、談笑する嫁姑。うん、楽しそうだね。すごく・・・・・・・・・・たのし・・・・・・・・そうだよねっ!!





「つか、お前らおかしいよっ! ここ誰の家かわかるっ!? 僕の家なんですよっ!!
なんでそんな我が物顔で入っていけるのさっ!!」

「なら、問題ないわよ。あなたは、私達の大事な家族なんですから」





だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! くそっ! 魔法使ってぶっ飛ばせるならぶっ飛ばしてやりたいっ!!



なんで月の終わりにこんなびっくりイベントに付き合わないといけないんだよっ! おかしいでしょうがっ!!





「・・・あの、母さん。エイミィも、すぐに帰った方がいいよ」



だけど、神は居た。そう、フェイトだ。フェイトは至極マトモだった。



「あら、どうして?」

「だって、二人はいいかもしれないですけど、カレルとリエラに悪影響ですよ。両親がケンカして、別居状態なんて・・・」

「そうですよ。二人の迷惑考えてください。大人の都合で振り回していいはずないでしょうが」



そういうめんどくさいのはやめて欲しい。主に僕に迷惑だ。



「・・・フェイト、あなたアレを見ても、そう言えるかしら?」



そして、リンディさんはある一点を指差す。そこを僕とフェイトが辿ると・・・。



「さぁ、しばらくはパパのお家にお泊りだからな。楽しくなるといいなぁ」

「うんっ!」

「あのね、パパと一緒に遊ぶのっ!!」





・・・悪影響・・・悪影響・・・なさそうじゃないかよこんちくしょうっ!!





「・・・ごめん、ヤスフミ。しばらくこのままで大丈夫かな?」

「フェイトが見捨てた・・・」

「あの、違うっ! 見捨ててないからっ!! ・・・あぁ、お願いだから泣かないでー!!」










・・・そして、結局クロノさんを除いたハラオウン家は、無事に家で暮らすことになった。





あ、フェイトは別ね。この後僕が隊舎まで送っていった。










しばらくは、このなんとも言えない共同生活が続くことになる。あの、真面目に聞いていいかな?

僕、ようやくスバル問題が解決したのよ。なのに・・・なんでこうなるのっ!?




















(第20話に続く)







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