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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第17話 『平和っていうのはすばらしい。そう感じるのは、きっと平和じゃなくなってからだ』:1



・・・さて、休みから帰って来た僕とアルトは、さっそく訓練だったりします。





だけど・・・。










「いーじゃん♪ いーじゃん♪ すげーじゃんー♪」

「い〜じゃん♪ い〜じゃん♪ すげ〜じゃん〜♪」

「・・・あのさ」

「なーに? ツンデレ」

「な〜に? ツンデレさん」

「誰がツンデレよっ!? つかっ! ヴィヴィオもこの変なお兄ちゃんの真似しなくていいからっ!!」





ティアナ、なにげに失礼なこと言わないで欲しいよ。心が痛いじゃないのさ。ね、ヴィヴィオ。





「うん♪」

「・・・ヴィヴィオ、随分なぎさんと仲良くなったね」

「だって、恭文とアルトアイゼン、面白いもん」

「面白いって・・・。それ、年上の評価としてどうなのかな?」



・・・いいよ、そこはもうさ。慣れてるから。



「あ、でもでも。面白いだけじゃなくて、すごく強くて、かっこよくて、ノリノリなのっ!! 特に今日・・・は、残念だったね」

「ヴィヴィオ、その言い方やめてっ! ・・・まぁ、確かにね」



そう言って、僕は思い出す。・・・今日の、フェイトを相手取っての模擬戦闘。結果は、負け。それはもう見事に。



「映像で見せてもらったのと違ったね」

≪・・・マスターの感覚、やっぱり不安定みたいですね≫

「それって、あれだよね。どういう斬り方をすれば、物が斬れるかわかるっていうの」

≪そういう言い方をするとまるで某魔眼のように聞こえるからやめてください。
ようするに、一瞬の裂帛の気合と踏み込みです。・・・あの時のマスターは、それが出来ていたのに≫

「フェイトママのザンバ―斬ろうとして、カウンター喰らっちゃったもんね・・・」





あぁ、そうだったね。くそ、これじゃあだめだ。

あの時、雷の砲弾を斬った時の感触。あれが・・・先生の言う境地。想いを込めた、今を覆す僕だけの切り札。



でも・・・。



さて、一応補足です。

今日の訓練終わり、ティアナ達と、見学していたヴィヴィオと一緒に、お昼に戻る途中。

だけど、僕はあれこれ反省中です。・・・やっぱり、一流への道は遠いってことか。入り口が近づいてるように感じた分、キツイなぁ。





「でも、焦ってもしかたないと思うな。そういうのは、一朝一夕には物に出来ないって、シグナム副隊長も言ってたし」

≪まぁ、じっくり行くしかないでしょ。それになにより、グランド・マスターだって、こんな簡単に境地についたりはしませんよ。道は長いんです≫

「・・・そうだね」





じっくり行くしかないか。・・・うん、頑張ろう。

でも、やっぱり剣術の修行はもうちょっとしたいな。魔法戦闘はなのはにフェイトや師匠とかがいるし、スバル達とやりあってもいい感じになる。

だけど、剣術となると・・・どうしても、シグナムさん頼みな部分が大きいしなぁ。



だけど、シグナムさんは、何回か言っているけど参加の頻度がそれほど多いわけじゃない。そうすると・・・うーん・・・。



やっぱり、二人に頼むしかないのかな。先生の弟子だし、剣術も含めた武術関係は相当。相談するなら、一番いい。

でも、今は六課にいるから、あまり勝手も出来ないし・・・。





「・・・ね、恭文」





僕が、あれこれ考えながらも、日常をギャグ的色に染めていたいななどと思っている所に、いきなりシリアス色を持ってきたKYな女が居た。

そう、最近この話のおかげで、一部でおバカなKYキャラを確立し始めているスバルである。(独断と偏見です)

当然、スバルもさっきから居た。いや、小説だからわからなかっただろうけど、そうなのよ?





「なに?」

「・・・ちょっと過激過ぎじゃないかな」

≪・・・は?≫

「いや、クレイモアとかだよ。火力調整がおかし過ぎるよ。すごい勢いで魔力弾が飛んでくるし・・・」

≪スバルさん、いまさらですか?≫

「・・・うん、今さらなんだけど、気になったの」

「まぁ、僕も今さらだけど答えるよ。問題無い問題無い。撃つとき加減はしてるもん」



そーである。というか、今まで使い慣れている魔法だし、練習も継続中。どうにかなるように、研究は続けてるのだ。



「あんなの、使う必要ないよ。もうやめよ? もし誰か怪我させたりしたら・・・」

「却下。つか、ああいう感じの火力重視の魔法があるから、僕はオーバーSとかにも、ギリギリ対処出来るんだよ?」





クレイモアは、一種のハッタリとして手札に加えてる部分もあるしね。

保持している。そして、人に撃つのを躊躇わない部分も見せる。これって、相手方からすると結構なプレッシャーらしいのよ

大量の魔力の散弾は、非殺傷設定だと、直撃すれば容赦なく相手方の魔力を削る。なんにしても、一撃必殺の攻撃だ。



つか、僕の戦い方は基本的に自分より強いやつを、一撃で倒すことを念頭に置いている。

『一撃必殺・先手必勝・不意を突く』。これが出来なきゃ、僕は簡単に潰される。

・・・いや、スレイヤー○ネタだけどね。でも、実際そうなのよ。オーバーSと凡人ってのは、それほどに差がある。



現に今日だ・・・だめじゃないかよぉぉぉぉぉぉっ!!

あー、僕のバカっ! あの感覚を呼び起こすのに必死で、完全にそれ忘れてたっ!!

だぁぁぁぁぁっ! 豆腐の角に頭ぶつけたいよっ!!

どっかの漫才コンビのツッコミの人に、暗に『死んでしまえばいいのに』って言われてるようなツッコミを受けたいよっ!!





「・・・アンタ、反省しまくりね」

≪まぁ、こういう日もありますよ。ただ、パートナーデバイスとしては、残念ながらスバルさんの意見は却下ですね≫

「どうしてっ!? アルトアイゼンは、恭文のパートナーだよね? だったら、恭文がちゃんとするように指導していかないと・・・」

≪残念ながら、マスターはこれくらいしないと、フェイトさんは愚か、スバルさんにでさえ勝てませんよ。基本へタレで弱いんですからこの人≫

「そんなことないっ! 恭文強いもんっ!!」





あー、実力を勝ってくれるのはうれしいけど、それは思う。僕は弱い。基本能力だけなら、スバルになんて勝てないもん。

僕がオーバーSに勝ったり出来るのは、一撃必殺の攻撃力とノリがあるから。



いつもの自分のノリを忘れない戦い方をする。その中で、確実に決める。躊躇い無く、容赦なく。だからこその現状だと思ってる。

うん、普通にやっても絶対無理だね。





「そして今日の僕はノリを忘れてた・・・。あぁ、ダメだ。よし、京都行って来る」

「ダメだからっ! というか、今日のなぎさん本当に反省ばっかり・・・」

「そんなに悔しかったんだね・・・」





うん、かなり。ということで、ご飯食べて気分を・・・。





「ダメだからっ! というか、私の話を聞いてっ!!」

「だから・・・却下」

「どうしてっ!?」

≪この人、無駄に高い攻撃力でどうにかするのが基本ですから、それが出来なきゃ、負けますし、それくらいは≫

「そんなことないよっ! さっきも言ったけど、恭文はすごく強いんだから、あんな魔法使う必要ないっ!!」

「あー、スバル。落ち着きなさいよ。つか、やるのはコイツなんだから、アンタが熱くなったってしかたないでしょうが」



そのとおりである。大変なだけだからやめてほしい。



「あと、人の魔法を『あんな』なんて言い方するのはやめなさい。コイツが無茶苦茶考えて作った、大事な魔法なんだからね?」





うんうん、ティアナは察しが良くて非常に助かる。最近・・・というか、ティアナと囮デートをしてから、どうも話しやすい感が増えてる。

実際、二人で訓練やらについて、あーでもないこーでもないと議論したりするし。プライベートな事もちょこちょこ話すようになった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・そっか。なんか大変だったのね」

「まーね。あ、でも、それからはそんなでもなかったかな。フェイトも、僕が魔導師の仕事するの、応援してくれるようになったし。
うん、それは嬉しかった・・・」





つい先ほどから、僕の子供時代・・・嘱託魔導師の認定試験の話をしてた。





「てかさ、アンタは空気読まないわよね。どうしてそこで負けないのよ。そこで負けないから、最強物とか『俺強いw』みたいな感想を持たれるのよ」

「やかましいわっ! つか、負けたら魔導師続けられてなかったってっ!!」



真・ソニックのスピードとやりあうなんて、あの時の僕には出来なかったのよっ! 出されたら、足掻くどうこうの前に瞬殺だよっ!!

・・・そう言えば・・・やめとくか。



「聞いていいわよ?」

「ふぇ?」

「だから、私の子供時代の話、聞こうかどうかって考えてたでしょ。聞いていいわよ」




・・・ティアナはエスパーですか? エスパー○○ならぬ、エスパーティアナですか? なんで考え読まれるのさ。





「アンタがわかりやすい顔してたからよ。・・・てか、そんなに気を使う必要ないわよ」

「そーかな」

「そーよ」

「でもさ」

「なによ?」

「記憶って、楽しいことばかりじゃないでしょ?」





僕がそう言うと、ティアナが黙った。というか、表情が少し固まった。





「・・・なんでそう思うのよ」

「僕がそうだから。だから、ちと考えるの」

「そう。だったら、考える必要ないわよ。つか、話をしたくなかったら、言い出したりしない。・・・一応、信用はしてるしね」

「僕は、話せないかもしれないのに?」

「いーわよそんなの。アンタにとって、魔導師になる前とか、子どもの頃の記憶は・・・楽しいものじゃないんでしょ?」





そう、だな。うん、楽しくない。

僕は、リインやフェイト、なのはに師匠にはやて達から、今をもらったと思ってる。



今、こうして笑って生きられる時間を、みんながくれたと思っている。だけど・・・その前の僕は、そうじゃなかったから。





「だったら、無理に話すことなんてない。つか、話さなくても、私達が同じ部隊の仲間だってのは、変わらない・・・でしょ?」

「それは、ティアナに対してだって変わんないと思ってるけど」

「いいのよ私は。つか、遠慮なんてしないでよ。アンタ、そんなキャラじゃないでしょ? もっと図々しくしてなさい。・・・そっちのほうが、私もやりやすいしね」



一回、このおねーさんには、僕のことをどういう風に思っているかを詳しく聞きたいよ。・・・まぁ、いいか。



「・・・そーだね。うん、そうだ。ごめん、なんか変な気使わせちゃって。それなら・・・教えてもらっていいかな?
ティアナ・ランスターという『次元世界のツンデレ・オブ・ツンデレ』が如何にして形成されたか気になるし♪」

「アンタねぇ・・・。ま、いいわよ。聞かせてあげようじゃないの。あ、ただし」

「なに?」



少しだけ笑うと、ティアナは指を一本立てて、僕に言った。



「お茶、淹れてくれないかな? アンタの話は、アンタが言いたくなってからでいい。ま、その代わりって言ったらあれだけど・・・アンタのお茶飲みながら、色々話したいな。
話せないことじゃなくて、話せることを、アンタが楽しいって思った記憶を、時間を、少しずつ。いいかな?」

「・・・いいよ。色々手札をさらしていこうじゃないのさ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、ティアナからは、執務官を目指すことになった動機を聞いた。





そして納得した。だから、このおねーさんは、こんなにも頑張り屋なんだなと。





自分だけの夢じゃなくて、お兄さんの夢だったんだから。そりゃ、人一倍頑張りは激しくなるさと、一人納得した。





二人して、その後もお茶を飲みながら、ノンビリ話したり・・・。うん、その時間は、嫌いじゃなかったりした。





ただ、それとは対照的にどーしても距離感が微妙な人間が出来上がってしまった。普通にしてる分には問題はない。

ただ・・・今みたいな状況でそれが出てくる。





そう、その子は、僕を見てとても苦いというか、心配そうというか、そんな顔をしている女の子だ。










「でも・・・過激過ぎるよ。もうちょっとやりようってあるんじゃないかな。
恭文はもう強いよ? 昔とは違うんだし、こんな無茶苦茶なのダメだよ」





スバルがまだ不満そうだけど、ここは流す。しかし、最近どうもスバルはおかしい。こう、よく僕にこういう話をしてくるのだ。

今みたいに、クレイモアとかを使うのをやめないかとか、戦い方をもうちょっとちゃんとしてみないかとか。

これがジョークかなにかならいつもの調子で返すんだけど、本人はいたって真面目な話ときてる。



どうも僕の過激というか特化部分に懸念事項があるらしい。



まぁ、心配してくれてるのはわかるけど、だからと言ってはいそうですかで納得はできない。だって、やるのは僕なんだから。





「スバル、アンタも納得しなさい。コイツがとんでもない悪党ならともかく、そうじゃないってのは、アンタだってわかるでしょ?」

「でもさ、やっぱり・・・」

「やっぱりじゃない。言ってることは間違ってないでしょうが。
・・・アンタと違って、こいつは魔力量や体力、資質さえ、恵まれてるわけじゃないんだから」



ティアナ、色々とキツイよそれ。スバルは身体のこともあるんだし。

てか、このおねーさんもスバルの身体のことを知ってると聞いたときはびっくりしたさ。いや、僕もびっくりされたけどさ。



「そういう人間はね、どっかで過剰なほどに特化しないと、生き残れないのよ。私だったら、それは射撃かな。
で、コイツの場合、それが攻撃力だったってだけの話よ。つか、アンタがずっと傍にいて守るって言うんならまだしも、そうじゃないんだから」



そう、悲しいかな僕達は・・・別れの時がくる。こうしていても、すぐに。

僕は、まぁ、ちょこっとだけ迷ってるけど、すぐに助けに行けるかどうかわかんない位置だしね。後の事も色々考えておかないと。



「でも、今は違うよ。今なら傍にいるから、他の魔法を構築して、恭文がそれに慣れなくても、慣れるまでは守れるし・・・」

「スバルさん、まぁ、確かにクレイモアを筆答に、恭文の魔法は過激ですけど、恭文達なら大丈夫ですよ」

「そうですよ。なぎさんは、確かにちょっとアレなところがありますけど」



をい。



「でも、ティアナさんの言う通り、なぎさんは、犯罪者とは違うんです。
なにより、今までだってちゃんと、使いこなしているんですから。もしダメと思ったら、フェイトさん達が止めるに決まってますよ」

「そーよ。私らより付き合いの長いフェイトさんやなのはさん達が、アレを見ても問題なしって顔をしてた。
・・・ってことは、この二人にとって、その力は、絶対に必要なもんなのよ」

「そうだよスバルさんっ! だから恭文とアルトアイゼンのこと、信じてあげて? 二人は、古き鉄なんだから、きっと大丈夫っ!!」





・・・みんな、そう言ってくれるのか。悪い、ちょっときた。なんか目にきた目に。

いや、これまで頑張ってよかった。17話とか大変だけど頑張ってよかった。



とにかく、スバルは全員がそう口を揃えて言うと、苦い顔をして・・・どこか寂しげというか悲しげな色も含めて、こう言った。





「・・・わかった」

「・・・とはいえ、アレよ。
アンタもアルトアイゼンも、格上相手を一人でどうこうって状況が多いかもしれないけど、ここに居る間くらいは私達のことを頼りなさいよね。一応、仲間なんだから」

「わかってますよ。困ったときにはティアナに頼ることにするから」

≪私も同じくです。頼りにしてますよ、ティアナさん≫

「ねー、恭文、ヴィヴィオは?」

「「僕(私)達は?」」

≪「まぁ、チビッ子トリオはおいといて」≫

「「「おいとかないでよっ!!」」」










そうして、適度に三人をからかいながら、時間は過ぎていく。





きっと、これが平和な時間なのだろう。・・・あぁ、なんかいいなぁ。このまま何事も無く時間が過ぎてほしい。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第17話 『平和っていうのはすばらしい。そう感じるのは、きっと平和じゃなくなってからだ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・そか。なかなかに難しいか」

「まー、じーちゃんのようにはいかないってことだ。いや、あれがもう一人なんて、アタシはちょっと嫌だけど。
でもよ、剣術って難しいんだな。フェイトから、じーちゃんみたいなことが出来たって聞いて、ちと期待してたんだけど」

「しかたあるまい。アイツもまだまだだ。あの時は、本当に上手く行き過ぎた形だったようだしな。
ただ、魔法戦などは問題はないです。剣術も、アイツの成長部分が不安定というだけであって、決して変わりがないという話ではありませんし」










部隊長室で、はやてとシグナムとお茶なんぞ飲んでる。あー、やっぱバカ弟子のお茶の方が美味しいな。まずくはないけど、比べちまうや。





ま、それはさておき。うちのバカ弟子関連で色々とお話中だ。ま、いろいろと前途は多難って感じで。

つか、あいつはここ一番ではすさまじく強いけど、他は意外と普通・・・つか、運がねぇしな。ま、予想はしてたや。





あ、そういや、ちょっと気になってたんだ。










「なんや?」

「いや、アイツ前よりそうとうタフになってねぇか?
アタシもなのはも、試験がもうすぐだから相当厳しくやってるんだけど、平然としてやがるんだよ」





それだけじゃなくて、全体的な戦闘スキルが前よりずっと上がってる。具体的に言うと、ここ1、2年くらいの間に相当だ。

もともとやるやつではあったけど、より洗練されてきてる。同じ行動でも、比べてみると違いが分かる。視野も、広がってる。

まぁ、だからこそ、アタシらもアイツに昇格試験受けさせたくなったんだけどな。





「あぁ、そういうことか。実はな、元教導隊の魔導師の人達と、友達になったんよ」

「はぁっ!?」



元教導隊の魔導師っ!? なんだよそれっ!!



「我らも主の補佐などで忙しくて、ここ1、2年は訓練の相手などをしてやれなかっただろう。その時に世話になったそうだ。
アイツの今までを聞いて、いつかのお前やあの方のように、本当によくしてくれたらしい」

「つまり、その人たちに厳しく鍛えられてたってことか?」





アタシの言葉に、はやてとしグナムが頷く。

なんでも、むちゃくちゃ強い人達らしくて、剣術や魔法戦も含めてあれこれ教えてもらってたそうだ。



・・・なるほどな、それなら納得だ。アイツ一人に、なのはが二人がかりで教えてるようなもんだしな。



しかし、アタシはダメだな。アイツの師匠なのに、そういうことちゃんと出来てやれねぇ。

自分のことにかかりっきりだ。それで死にかけてりゃあ、世話ねぇよ。



・・・アイツは、その場に居なかった戦いに対してあーだこーだ言うやつじゃねぇ。

だから、六課に来てからも、アタシのゆりかごでの無茶については何にも言わねぇ。至って普通にしてる。



あ、なのはは別だな。まぁ、アイツがここに来ることになった直接の原因だし、また無茶されてもアレだからなんだけどよ。



それでも、辛い思いとかさせたって考えると、申し訳がたたねぇ。口に出さないだけで、そういうのを感じないってわけじゃないしな。



・・・師匠失格だな、アタシは。





「そんなことはあるまい。お前の言葉と導きがあったからこそ、アイツは今ここに居て、戦えると言ってもいい。
お前は、蒼凪の師だ。自信を持て」

「せやでヴィータ。あんたは、あの人と肩を並べとる恭文の先生やろ?
恭文かて、そう思っとるから、師匠って呼び続けてるんやからな」

「・・・だな。悪い、ちと弱気になってた」

「構わんさ。実際、我々もこの1、2年のアイツの成長速度には驚いているしな。まぁ、アイツにはちゃんとした理由がある。当然といえば当然か」



・・・あったな。フェイトのやつを守りたいって思ってる。アイツの今を、笑顔を。アイツの幸せを、誰よりも望んで、叶って欲しいと思ってる。

なんつうか、やっぱ騎士だよアイツ。そういうガラじゃねぇかもしれないけど、間違いなくな。



「せやな。・・・とにかく、ヴィータもシグナムも、恭文のことお願いな。
試験もあとちょっとで1ヶ月切ってまうし」

「心得ました」

「大丈夫だよ。スバルやティアナ達とも色々やってるみたいだし、きっと上手くいく」





それに・・・合格するって約束してくれたしな。大丈夫だ、あの二人なら・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんなで、朝の訓練についてあーでもないこーでもないと話をしつつご飯を食べていると・・・いきなり呼び出された。





「・・・よし、シチュー食べてから行こうか」

「なに言ってるのよこのバカっ! ほら、すぐに行って来るっ!!」

「だって、シチュー冷めちゃうじゃないのさっ!」

「アンタ、シチューと呼び出しとどっちが大事だと思ってるのっ!?」

「シチュー」





僕が即答すると、みんなが呆れるような顔をした。



・・・だってそうでしょ? 人間は少し待たせても問題ないけど、シチューは待たせたら冷めるんだよっ!?





「恭文、なにか重要な用件かもしれないから・・・早く言ってきたほうがいいと思うよ?」

「そうだよ。ね、フリード」

「きゅくきゅくっ!」

「シチューは私が食べてあげるから。ほら、行った行ったっ!」

「くそぉ・・・。ティアナを恨んでやる」

「どうしてよっ!?」










そんな会話をしてから、ホワイトシチューに別れを告げて応接室へと向かった。



とりあえず・・・くだらない用件だったら八つ当たりする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして1時間後。僕は・・・海上隔離施設に居た。なんでっ!?




















「ごめんねなぎ君。他にいなくて・・・」



・・・呼び出されて、言われるままに通信を繋げると、ギンガさんが画面の中にいた。

で、頼まれたのだ。更正プログラムの一環で、料理を作ることになったのだけど、手が足らないので手伝ってほしいと・・・。



「ちなみに、今日の品目は?」

「ショートケーキよ」



まてまてっ! いきなりショートケーキってどういうことっ!?



「普通、粉吹き芋とか、チャーハンとか、そういうとこから始めない?」

「みんなのリクエストを取ったら、こうなったの。それも、満場一致で」



あー、そういやみんな受刑者だったなぁ。甘いもの、飢えてるのかな?



「うー、飢えてるっス〜。ぎぶみぃしょぉとけぇきっス〜」

「とりあえず、その表現は、色んな意味でヤバイ気がするからやめようか」



あー、とりあえずウェンディはアレだ。受刑者としての自覚がない。



「そんなこと無いっスよ。私はいつだって真面目っスっ!」

「あー、そうだね。うんうん、ウェンディは真面目で偉いね〜」

「・・・なんか手抜きっスね」

「うん、だって手抜いてるんだもん♪」





なんか睨んでるのは置いておく。とりあえず、確認っと。



えっと、材料は揃ってるし、器具もOK。これなら・・・。





「うん、私となぎ君とで教えながらなら、すぐ作れると思うの」

「だね。よし、だったらささっと始めようか」

「・・・ギンガ」



もう何を言ってもアレなので、気合を入れようとすると、ルーテシアが話し掛けてきた。

なーんか、真剣。うん、表情に変化がないように見えるけど、真剣な感じがする。



「どうしたの、ルーテシア?」

「・・・まだ来ない」

「あぁ、そういえばそうね。もうすぐのはずなんだけど」

「ギンガさん、来ないって誰? 他に増援読んでるってことかな」

「ううん、そうじゃなくてね。えっと・・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あー、すっかり遅くなっちゃったー!!





ルーテシアやみんな、待ってるわよね? もう、先生がもたもた検査してるからー!!





今日の調理実習、私も参加させてもらうことにした。親と子のコミュニケーションも兼ねてね。あと、あの子達とも。





まぁ・・・複雑よ? 色々あったし。腹が立たないと言えば嘘になる。あの子達は、私の相棒や上司の敵でもあるわけだしね。





でも、少なくともルーテシアは、そういうのも含めてもあの子達を嫌ってはいない。むしろ、色々教えてもらって、お世話にもなったと言っている。

だったら、母親である私が器量の狭いところを見せちゃ、あの子の情操教育の妨げになるだけ。

時間をかけて、あの子達のことを知っていくことにしたのだ。わだかまりも、その中で消していくことにした。





あ、これは私の恩師でもあり友達でもあるヒロちゃんの助言ね?

いやぁ、久々に話したら泣かれたし。ヒロちゃんの荒っぽいけど涙もろいところは相変わらずだったなぁ。

で、色々相談して、今みたいな結論に達した。明日は明日の風が吹くってことで、いいでしょ。うん。





とにかく、もう到着はしてるし、急いで向かわないと・・・。





私は、急いで車椅子を走らせる。もう、どこかのイタズラ小僧かと言わんばかりに。





まさか、子どもの頃にイタズラで車椅子レースなんていうのを友達とやっていたのが、ここで役に立つとは思わなかったわ。

あ、みんなはもちろん真似しちゃだめよ? うん、絶対に。車椅子はオモチャじゃないんですからねっ!





自分はどうかと言われてしまえばそれまでだけど、こっちには大義名分がある。問題はないわっ!

天国のクイント、ゼストさん、見ていて。私・・・元気ですっ!!





そうして見えてくる。受付が。私は、そこにむかって全速力で・・・・飛んだ。





多分、段差かなにかがあったのだろう。私の身体は宙を舞い、見事に飛んだのだ。





あぁ・・・やっぱり車椅子で敷地内で20キロとか出すものじゃないのね。ごめん、ルーテシア。





お母さん・・・飛ぶわ。

羽ばたいた鳥の歌を歌うわ。

きっと将来は武道館よ。





私が、落下の痛みを覚悟して目を閉じると・・・え?





痛みは無かった。車椅子が落ちたガシャンという音は聞こえたけど。私は・・・誰かに抱きとめられた。










「あの、大丈夫ですか?」





耳元から、くすぐるような声がする。柔らか味のある優しい声。でも、私の思考は別のところにあった。



だって、この人・・・私の胸、触ってるんだもん。それも、思いっきり鷲掴み。



あぁ、どうしよう! なんでこんなベタなことになっているの? あ、でもこの感じはけっこうひさび・・・いやいやいやっ!!

で、でも・・・これも運命の出会いよ。旦那はとうの昔にいなくなったし、私はシングルマザーだし、問題はないはずっ!



あぁ、自由恋愛バンザイよっ!!



さぁ、目を開けて、勇気を出して・・・!!



そうして私が目を開けると、そこに居たのは・・・栗色の髪と黒い瞳をした・・・え?





「女・・・の子?」

「・・・男の子です」





あぁ、それなら安心だわ。さすがに百合の気は無いし。

・・・ちっちゃっ! え、本当に男の子っ!?

だって、よく考えたら声とか顔立ちとか女の子で通るし、身長だって、今は蹲って抱きとめられているけど私より下よっ!?



・・・あれ? この子、もしかして。





「・・・なんか元気そうで安心しました。というか、思考が顔に出てますよ? というか、聞こえました」

「あ、ごめんなさいね。ところで・・・」

「はい?」

「ひょっとしてあなた、蒼凪恭文くん?」

「え、えぇ・・・」



やっぱり。ルーテシアや、ヒロちゃんから聞いてた特長と同じだったもの。



「あ、私はメガーヌ・アルピーノ。よろしくね。・・・あの、ヒロちゃんから聞いてないかな?」

「えっと、メガーヌさんですよね。ヒロさんと友達だって言うのは本人から・・・」

「そうだよ」





ヒロちゃんの一回り下の友達で、魔導師。なかなかに見所のある面白い性悪な子って誉めてたわね。・・・最期のも誉め言葉だそうよ?

ルーテシアからも聞いていたし、あのヒロちゃんが共通の趣味があるとは言え、仲のいい友達と言ってたから、どんな子と思って期待してた。



まぁ、それは置いといて。お姉さんは君に言いたいことがあるわ。別にこのままでも・・・いいけど。でも・・・。





「意外と大胆なのね。でもだめよ? いきなり初対面の女の子の胸を触るなんて・・・めっ!」





そう言うと、その子は手元を確認した。私の胸を鷲掴みにしている自分の手に、そこでようやく気付く。.





直ぐに顔を真っ赤にして、私の前でひたすらに土下座を繰り返して謝り倒した。





あぁ、気付いてなかったのね。・・・私、そこそこある方だと思うんだけどなぁ。ひょっとして、慌ててたのかな?





だとしたら・・・うん、可愛い♪




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ほら、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ?」

「いや、でも・・・」





僕が、ルーテシアから母親であるこの人、メガ―ヌ・アルビーノさんを迎えに行くと、いい感じで鳥人間になりかけているところに遭遇した。



いや、まさか・・・あんなベタなことするとは。だって、慌てて気付かなかったんだもん。シャマルさんと、初めて会った時のことを思い出してしまったよ。

・・・気付いた途端に感触が襲ってきたのですが、張りがありつつも柔らかったです。

Eカップだという変な情報までいただきました。つか、アルトがさっきから黙っているのが非常に辛い。





≪大丈夫ですマスター、全てのことには話すべきときというものがあります。それが来るまでは・・・内緒にしておきましょう≫

「お願いだから一生内緒にしててくれないかなっ!?」

「そうね、それはお願いしたいかな? 私だって、女ですもの。殿方に身体を預けたことを広めてほしくはないわ」

「変な言い方しないでくださいよっ! そんないかがわしいことはしてないでしょうがっ!!」



いや、胸を触るのは充分にいかがわしいんだけど。



≪・・・そういうことなら仕方ありませんね。まぁ、結婚式の話のタネにでも取っておきましょう≫

「うん、おねがいね。スピーチは期待してるから。あ、それまでヒロちゃんには内緒にしてるね」



いったい何のお願いっ!? そして誰の結婚式っ! つーか、なんでそんなに意気投合してるっ!!



「こう、アルトアイゼンちゃんとは、気が合うの。ね〜♪」

≪ね〜♪≫

「そうか、そりゃなっと・・・できるかぼけぇぇぇぇぇっ! お前らおかしいよっ!! つーか、なんで一瞬で2対1の図式が出来上がってるのっ!?」





まぁ、そこはいいさ。よくはないけどいいさ。ただ、気になることがある。

・・・あの、お母さん。お願いだから上目で僕を見るのはやめてください。仕方ないんですけどね。でも、瞳が妙に艶っぽく感じるんです。





「お母さんなんて呼ばないで。メガ―ヌって・・・呼んで欲しいな」

「だから、上目遣いはやめてください。いや、仕方ないですけど」





メガ―ヌさんがまた暴走などしないように、僕がしっかりと後ろから車椅子を押している。

なので、当然のようにメガ―ヌさんより僕のほうが視点は上なので、そうなるのだ。



ちなみに、車椅子の方はなんともなかった。傷がいくつかついただけである。

しかし、この人は本当にあの物静かなお子様の親ですか? 行動と発言がぶっ飛びすぎでしょ。





「あ、ひょっとしてルーテシアとそういう関係なの? もう、それならそうと言ってくれればいいのに。
大丈夫よ。私、そういうのには理解がある方だから。前の旦那がちょっとアブノーマルで、色々と大変だったのよ・・・」

「どうしてそうなるんですかっ! というかその話は知りたくないので、黙ってくれませんかメガ―ヌさんっ!?」

「あ、別にさん付けにしなくていいわよ? むしろ、呼び捨てにして欲しいかな」





だめだ。本能が告げている。この人には勝てない。絶対に、勝てない。



多分リンディさんやシャマルさんとかと同じタイプだ。いや、下にオープンな分、二人より凶悪かもしれない。

下手な発言をすれば、僕の尊厳とか立場とか命が危ない。





「・・・そう。そうなんだね」

「へ?」

「こんなおばさんと話すのが嫌なのね。いいわ、それなら仕方ないわ。
みんなに・・・というか、ヒロちゃんに、さっき私がされた辱めを伝えるから。あなたが・・・出会い頭に私の胸を・・・乳房を・・・っ!」



やぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇぇっ! ヒロさんにだけは言わないでっ!! 正真正銘殺されちゃうからっ!!

あの人敵に回すなら、フェイトとガチにケンカするほうが楽なんだよっ!!



「・・・呼び捨ては色々と危険な気がするので、さん付けで我慢していただけるとありがたいです。
お願いします。それで手を打ってください。それ以上は無理なんです・・・」

「仕方ないなぁ。じゃあ、二人っきりの時は呼び捨てにしてね?」

「どこの恋人ですかそれはっ!?」





なにやら、秘密の関係というのも楽しそうとかどーとか言ってるけど、気にしないことにする。





「・・・あ、なぎ君おかえり」

「お母さんっ!」

「あー、ルーテシアごめんね〜」



やっと・・・到着した。ち、ちかれた・・・。



「随分とお疲れのようだな」

「あ、ありがとうございます」



チンクさんが、コップに水を入れて持ってきてくれたので、それを飲み干す。あぁ、火照った身体に染み渡るわー。



「なにかあったのか? 少し帰りが遅かったようだが」

「いえ、ちょっと話込んじゃいまして・・・」

≪ベタな出会い方をしたのでいろいろと大変だったのです。しかも、意外とオープンな方でしたし・・・≫



ツッコんでやりたい。だけど、ツッコんだら絶対にバレる。なので・・・ここは流すっ!

でも、オープンというのは同意見。あんまりにもおっぴろげ過ぎて、対応に困ったもの。



チンクさんが不思議そうな顔してるけど、とりあえずはOKである。でも・・・。



「ルーテシア、やっぱり表情が明るいですよね」

「そうだな。母君と話しているときは、いつもあぁだ」





大人びていて、どこか達観してる印象を受けるんだけど、メガ―ヌさんと話しているルーテシアは、年相応の子どもだ。

エリオやキャロも、フェイトに対してあれくらいしてもいいのに・・・。



そこで気付く。チンクさんが、どこか辛そうで、すまなそうな顔をルーテシアとメガ―ヌさんに向けているのを。



・・・よし。





「チンクさん、エプロンずれてますよ?」

「え?」



チンクさんの返事を待たずに、エプロンを直す。まぁ、ほとんどずれてないんだけどね。



「これでよしっと・・・。それじゃあそろそろケーキ作り始めましょうか。さー、美味しいの作って、いっぱい食べるぞ〜♪ おー!」

「恭文・・・。すまないな」

「なにがですか?」

「いや、なんでもない。そうだな、美味しいケーキを作るとするか」

「はいっ!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで・・・ケーキ作りは始まった。



僕とギンガさんを先生として、あーだこーだ言いながら作っていく。



お菓子作りの基本はなにか? そう、材料計算だ。



お菓子は普通の料理と違って、材料の分量が少し違うだけでも、味わいや食感がかなり変わってくる。



なので、そこから・・・・きちんと計らなきゃいけないって言ってるのになにをやってんだそこのアホコンビっ!!





「えー、だってめんどくさいじゃんそんなの」

「そうっスよ。というか、恭文は細かいこと気にしすぎっス。こういうのは勢いっスよ勢いっ!!」

「お、おのれら・・・! ・・・はぁ、まぁいいや。とりあえず、僕の失敗談を一つ話してやろう」

「なんっスか?」



そう、アレは昔のこと。ものは試しと、今のアホコンビみたいなことをやったことがある。

感性と計算、どっちが正しいのか試したくなったのだ。その結果・・・。



「岩石よりもかたいクッキーが出来た。全部僕が食べたけどね。当然、翌日は顎が疲れてしゃべれなかったさ」

「「う・・・」」

「で、そこを踏まえた上で一つ質問。例えば、ケーキが恐ろしい出来になっても・・・二人は当然食べきれるんだろうね?」

「さ、計量しようかウェンディ」

「そうっスね。計量って大事っスよ。うんうんっ!」



いやぁ、誠意ある説得っていうのはするもんだね。素直でいいことだよ。



「まぁ、なんか困ったことがあったらすぐに言ってね。助けるから」

「・・・恭文さん、困りました」



おぉっと、早速かっ!



「じゃあ、アホコンビもしっかり計量するんだよ? まぁ、ちゃんとやってアレだったら、僕も食べるの手伝ってあげるから」

「おぉ、恭文意外と優しい〜。あ、そういうナンパなの?」

「まぁアレっスよ、私らの魅力にメロメロってことっスよね」

「・・・天誅」





水を指先にちょっとだけかけて、二人の目に飛ばしてやった。なんか『目がー! 目がー!』とか叫んでるけど、きっと気のせいだ。



アホ二人は放っておくことにした僕は、呼ばれたほうへと向かう。そう、オットーとディードの方だ。



うん、なにで困っているのかはよくわかった。つか、どうするんだこの玉子?





「玉子の黄身と白身が分けられません・・・」

「あぁ・・・、それでこの惨状か」





ボールの半分近くで埋め尽くされた玉子の白身と黄身が交じり合ったもの。そして、周りにある大量の玉子の殻。



うむぅ、初心者の躓きやすいところに思いっきり躓いてるのか。殻を見ると、玉子自体も上手く割れないみたいだし。





「よし、ちょっと見てて」





別のボールを二つ取り出すと、その内の一つの節に卵をコンコンと叩きつける。



「この時、力をいれ過ぎないようにするの。そうだな・・・一気に割るんじゃなくて、玉子の殻に、本当に少しだけヒビを入れる感じかな」





二人は食い入るように見ている。それにちょっと気恥ずかしい思いをしつつも、作業を続ける。





「で、ほら。こんな感じで軽めにひびが入ったら、ここに指を当てて・・・」



ひびの入った方を、パカっと開ける要領で肩を真っ二つに割る。まぁ、基本的なのはここまでだ。で、ここからが応用。



「半分に割れた殻で、黄身だけを移し変えるようにするの。そうすると・・・」

「・・・すごい」

「白身が下の方に落ちていきます・・・」

「これで、大体の白身がとれたら、こっちのボールに黄身を置いて・・・。これで終了っと」

「「おぉー!」」



うむぅ、いつぞやの僕と同じだな。僕も卵の殻割れなかったし。



「よし、じゃあ二人でやってみようか。ゆっくりでいいからね」

「えっと・・・こんな感じ?」

「うん、そうそうっ! でも、もう少しだけ優しくかな。・・・そう、それでいいよ」



うん、オットーは一個割ったら要領掴んだみたい。で・・・あれ?



「うぅ・・・」



ディードは苦戦してる。さっきよりはマシになってるみたいだけど、ちょっとだけ手際が悪い。



「ディ―ド、力を抜いて」

「え?」

「緊張してたら、上手くいくものもいかないよ? コツは、優しくゆっくり」

「優しく・・・ゆっくり・・・」

「そう。別に競技してるわけでもなんでもないんだから、焦らなくていいんだよ。みんなもディードと同じようなものなんだから」





そう言って、周りを見る。



セインとウェンディは、あーでもないこーでもないといいながら計量カップと計りと格闘している。



ディエチ、それにノーヴェも、ギンガさんと一緒に別のスポンジ作りに苦戦中だ。

なんか、ディエチは生地を混ぜるのが楽しいのか、妙にうっとりした表情を浮かべている。・・・そういう属性もちだったんだね。



ルーテシアとアギトは・・・うん、チンクさんと、メガ―ヌさんと楽しそうに一連の作業をこなしながら、オーブンの調整なんてしてる。

つか、あの人料理スキル高いのか。この中で一番進んでるでしょ。チンクさんが、なんかいつもと違う。すごい柔らかい感じになってる。すごい人だ・・・。



・・・なんかこっちみてニッコリと笑った。とりあえず、僕も返す。多分すっごく不自然な笑いになっていただろう。





「でも・・・」

「ディード、料理が美味しく出来る秘訣って知ってる?」

「え?」



そう、料理には美味しく出来る秘訣がある。とっても簡単なことだ。



「特別な技量なんて、必要ないの。大事なのは、誰かが食べて、美味しいって言ってくれる姿を想像することだよ」

「美味しいと・・・言ってくれる姿・・・」

「そう。例えば・・・チンクさんとか、オットーや、ディエチとか。ノーヴェとか、あのポジティブコンビでもいい。
自分が作ったものを食べて、美味しいって言ってくれる。それが作った人にとっては一番の報酬であり、料理が美味しくなる調味料にもなるんだ」

「・・・よく、わかりません」

「なら、これから分かっていけばいいんだよ。僕も手伝うから、焦らずに、ゆっくり作っていこうよ。ね?」





戸惑い気味なディードの顔を見つめながら、笑ってみる。大丈夫だよという気持ちを込めて。



・・・この子達は、本当に戦うこと以外のことを教えてもらっていないんだな。

なんでギンガさんが力になりたいと思ったのか、少し分かった気がする。きっと、こういうほんのちょっとのことの大切さを、教えたかったんだ。



それが積み重なって、きっと日常は生まれるんだから。まぁ、僕だって戦うのは好きだし、楽しい。だけど、そればっかりなんて嫌かな?





「恭文さん・・・どうして、そこまでしてくれるんですか?」

「どうしてって?」

「私達は、あなたのご友人や仲間を傷つけました。本来であれば嫌ってもいいはずです」



・・・そう、この子達は罪を犯した。あんまりに楽しいから、忘れそうになる。でも・・・消えない事実。


「なのに・・・あなたは平然とチンク姉様やディエチ姉様と語らい、セイン姉さまやウェンディとも、先ほどのように楽しそうにします。
私やオットーにも、今のように優しく教えてくれます。いえ、それが嫌というわけではないんです。ただ・・・どうしてなのかと」

「おかしいかな? 六課の皆だってそうしてるじゃないのさ」

「ですが、六課の方々とあなたとでは、事件での関わり方が違うはずです」



ふむ、痛いところを突いてくるな。確かに僕はどちらかといえば、第三者に近いしなぁ。うーん、と言っても理由なんて一つだけなんだけど。

ここは真面目に帰す場面だと思うので、ディードの目を真剣に見つめて、思ったことを口にする。



「そんなの決まってる。僕がそうしたいから」



そう、許す許さないっていう理屈は抜きにして、僕がそうしたいのだ。

・・・まぁ、確かにディードに言われたような部分が無かったと言えば嘘になるけど。



「正直さ、わだかまりはあるかな。うん、少しだけ。でも、それでもね。みんなのこと・・・嫌いになれないんだ。
ギンガさんのこととか、そういうのも含めて、嫌いになれない。だったら、友達になれたらいいなって、思ったから」

「友達・・・。私達で、いいんでしょうか」

「もし、自分たちのしたことを理由にそう言うんだったら、それは間違いだよ」

「どうして、そう言い切れるんです?」

「言い切ってた?」

「はい」



・・・そうだね、言い切ってた。うん。でも、それはすごく簡単だ。だから、即答出来る。



「僕も、同じだから。・・・間違いを、犯したの」

「それは・・・どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だよ。僕も、ディード達と同じなの」



まぁ、僕とみんなのどっちがヒドいかなんて話をしても意味がないからそこは飛ばすとして・・・。



「僕の剣の先生に言われた。間違っても、失敗しても、本気でそれを悔い改めて、今を変えて行きたいと願うなら、誰でも幸せになる権利がある・・・ってさ」



・・・間違えた自分が許せなくて、それで大事な物を傷付けた自分が、許せなくて。

でも、その言葉で、前を向けた。まだ終わってなくて・・・先が、あるんだってさ。



「・・・そうでしょうか? 失礼ですが、綺麗事に聞こえます」

「うん、そうだね。綺麗事だ」



うん、そんな簡単じゃない。この8年で、やんなるくらいに味わった。


「でもさ」



それでも、僕は言葉を紡ぐ。


「ただ未来を閉ざして、止まるだけの真実より、どんなに低くても、ここから先に続く何かに気付ける綺麗事の方が、僕は好きかな。
だから、言うね。・・・過去の自分や、生まれを理由に、諦めたりしたらダメなんだよ? そんなことしても、楽しくない。うん、だから言い切った」



・・・ディード、ちょっと戸惑ってる。うーん、めんどくさい話、しちゃったかな。



≪・・・まぁ、こういう人なんです。世界や組織など関係なく、自分がそうしたいと思ったらそうするんです。
あなた方といるのも、結局は自分勝手なんですよ。ディードさん、私からもお願いします。大変だとは思いますが、付き合っていただけますか?≫

「・・・はい」





そうして、僕は双子コンビに付きっきりで、作業を進めることになった。



ディードもちょっと戸惑っていたみたいだけど、途中からはにこやかな笑みを浮かべながら玉子を割っていた。



それを見ながら・・・ちょっとだけ、嬉しい気持ちになっていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、なんだかんだで焼成作業に突入である。



みんなであれこれやりながらようやく生地は完成。オーブンは完全に暖まっていたので、その中に生地を注ぎ込んだ型を入れて焼く。



大体、50分前後かな?





「長いっスよね〜。こう、アギトさんの炎熱魔法とかでぱーっと出来ないっスか?」

「あほかっ! 生地がダメになるでしょうがっ!!
ウェンディ、いいことを教えてあげる。空腹と待つことは、人を幸せにするのよ?
こうやって待つことで、ケーキを食べた時の美味しさがまた倍増するんだから」

「そうよウェンディ。なぎ君は喫茶店で色々手伝ってたんだから、説得力はあるよ?」

「ほう、恭文は飲食店勤務の経験があるのか。なるほど、道理で手つきに無駄がないと思った」



いや、それほどでも・・・。最初はぶきっちょでしたよ?



「ということは、お菓子作りだけじゃなくて料理とかも出来るの? 例えば、喫茶店で出すような、パスタとかピザとか」

「軽食だけじゃなくて、和洋中の大体の料理はOKです。練習して、作れるようになったんです」





・・・まぁ、フェイトに食べてもらって『美味しい』って言ってくれるのが嬉しかったからなんだけどね。

みんなに涙ぐましい努力だと言われたのは、時の彼方に置いていこうと思う。



そしてメガーヌさん、なんでそんなにニコニコしてるんですか。





「いえね、これはさらにいい感じだと思って〜」

「お母さん、なんか嬉しそう」

「ねぇ恭文、ルーお嬢様のお母さんとなにかあったの?」

「そうだぞ。お前、なんでルールー差し置いて仲良さそうなんだよ。なんか作業しながらやたらと笑いかけてたりしてたしよ」



あー、みんなの視線が厳しい。いや、あったというかなかったというか・・・うん、こう、意気投合したのですよ。



「そうなの。運命的なものを感じるくらいに意気投合しちゃったのよ。ね?
あと、私の昔からの友達が、恭文くんとも友達なの。そのおかげかな」

「そ、そうですね・・・」

「一応納得は出来るっスけど・・・。なんか気になるっスね」

「恭文、吐くなら今のうちだよ? 私らだって鬼じゃないんだからさ。じゃないと、恭文の心にディープダイバーして、潜入しちゃうぞ〜?」

「誰が上手い事を言えといったっ!?」

≪そうですよ。ただ、マスターの手が胸へと当たっただけです≫





その瞬間、世界が凍った。そして、僕は駆け出した。



でも・・・外へは逃げられなかった。



カンッ!!



横から飛んできたのだ。そう、フォークが何本も。僕の頬を掠めて、壁へと突き刺さる。



後ろから、鬼の気配がする。いくつも・・・いくつも・・・。





「・・・アルトアイゼン、こっちへ来てくれるか? 被害を及ばないようにするのには少しばかり姉は怒りすぎた」

≪了解しました≫



そう言って、アルトは後ろへ飛んで行く。って、おい逃げるなっ!!



『・・・少し、頭冷やそうか?』





その瞬間、僕の未来は・・・決定した。




















「・・・なるほど、そういうことか」

「はい、そういうことです」



なぜか正座なんてして、僕は先ほどのことを話した。ちなみに、触ったときの感想まで吐かされました。



「ギンガ、この場合はどうすればいいのだろう?」

「とりあえず通報よね。あぁ、あと六課の方にも連絡を・・・」

「おねがいだからそれは勘弁してぇぇぇぇっ! お願いっ!! フェイトにはっ! フェイトには知られたくないのっ!!」

「よし、フェイトお嬢さんに連絡だね。いや、よかったよかった」

「よくないわっ!!」



やばい、この状況は敵しか居ない。どうすりゃいいんだっ!?



≪まぁ、自業自得ですよね≫

「アルトのせいだよねっ!?」

「あー、みんな。私は大丈夫だから、気にしないでほしいな」

「ですけど、なぎ君がご迷惑をおかけしてるわけですし・・・」



そんな、角の生えたギンガさんに怯えつつ、メガ―ヌさんがバツの悪そうな顔で、言葉を続けた。



「いや、私も車椅子で暴走したのが悪かったんだしね。恭文くんは、それを助けようとしてくれただけだもの。事故よ事故。それに・・・」

「それに?」

「他の男の人ならともかく、私は恭文くんにだったら、胸、触られても平気よ?」





そのある意味核弾頭級の発言が場に飛び出した。

その瞬間、ギンガさんとチンク、ディエチにノーヴェにセインにウェンディ、それにアギトも顔を真っ赤にした。



で、当然僕も真っ赤です。





「ルーお嬢様のお母さん、もしかして恭文のこと・・・」



ディエチの搾り出すような問いかけに、メガーヌさんは顔をなんでか赤らめて、照れたように笑って・・・言い切った。



「うん、気に入っちゃった・・・♪ だって、今までを見るに、すごくいい子なのは確定なんですもの」



い、いい子っ!?



「あぁ、運命の出会いってあるものなのねっ! 生きていてよかったわ。自由恋愛バンザイよっ!!
そういうわけだから恭文くん、シングルマザーだけど・・・いいわよね?」

「なにがっ!? ・・・いや、そんな艶っぽい瞳で僕を見ないでっ!!」





な、なんだろう。シャマルさんとすずかさんと美由希さんの影が見える・・・!!





「あ・・・そうなんだ。ふふ、それならそうだって言ってくれればよかったのに。
大丈夫、私が色々、お・し・え・て・あ・げ・る・か・ら♪」

「なにを察したっ!? あんた一体何を察したっ!!
そしてなにを教えるつもりだなにをっ! つーか子どもの前でそんな発言するなぁぁぁぁっ!!」



これはよい子でも読める小説なんだよっ! 18的な要素は極力排除していくんだよっ!! お願いだからエロを持ち込むなぁぁぁぁっ!!



「恭文・・・お父さん?」

「違うからっ! つか、ルーテシアもノらないでっ!! ・・・僕にはフェイトがいるし」

≪あぁ、誤解の無いように言っておきますが、片思いです。それはもう完全無欠に≫

「ほっとけっ!! ・・・って、あれ?」





・・・え? なんでそんな目で僕を見るの?





「・・・へぇ、アレっスか。恭文はフェイトお嬢さんのことが・・・へぇ」

「なるほどな。それでさっき、あの人に知られたくないって騒いでたってわけか。そりゃ、知られるとマズいよな」





・・・ウェンディとノーヴェが、なにやら鬼の首を取ったようなニヤニヤ顔で僕を見る。

つか、ノーヴェ。そんな顔できたのね。ビックリだよ。あれかな、近代ベルカ式とかじゃないよね?





「そ、そうだよ・・・。なんか悪い?」

「悪くなんてないっスよ。まぁ、どういう経緯でそう思ったのかは聞かせて欲しいっスけどねぇ。ね、みんな?」





そうして、みんながニコニコと頷く。・・・えっと、喋らないとだめ?





「そうだな、是非聞かせてくれ。姉としても、興味があるしな」

「興味あるんですかっ!?」

「・・・なぜ驚く。姉は少し傷ついたぞ。確かに姉はこういう体型だが、需要はあるんだ」

「その発言はやめてくださいっ! 危ないですからっ!!
というか、ごめんなさい・・・。その、チンクさんはこういう話に、いの一番に首突っ込むイメージがなくて」

「謝ることはない。・・・ネタばらしをするとだ。最近、そう言った情緒関係を勉強しているんだ。
ギンガやカルタス殿やナカジマ部隊長達を筆頭に、色々聞きまわっているというわけだ」

「納得しました」



まぁ、妹達のことに備えて・・・って感じかな? さて、あとは周りの方々か。どうして僕を取り囲むのさ?



「あー、ごめんね恭文。実は私も・・・」

「私にも教えて欲しいな〜。色々と気になるし」

「ディエチ、そんなに申し訳なさそうにしなくていいから。で、セイン。少しはディエチを見習って。なんで僕にマイク代わりにお玉向けてるのよ?
・・・とりあえず、正座を止めていいですか? それなら話しますよ」

「ルーテシア、ごめんね。お父さんゲットできなくなっちゃった」

「大丈夫だよお母さん。『男と女はラブゲーム。チャンスが有れば奪ってよし』って、ドクターが・・・」

「子どもに何を教えてるのさあのオレンジ畑っ!?」




















とりあえず、正座だけはやめさせてもらった。それで、みんなの視線が集まる中、話した。





まぁ・・・その・・・。過去の話とかも絡んでくるので、その辺りも含めて、どうしてフェイトに惹かれたかという話を。

ここで終われば、にこやかな笑みに囲まれた素晴らしい時間で終わったのだろう。





だけど、そうはならなかった。アルトが過去にどういうスルーのされかたをしたのかをバラしたもんだから・・・大変なことになった。




















「・・・すまん、恭文。ハンカチを・・・ハンカチをくれ。姉は・・・涙が止まらん。恋とは・・・悲しいものなのだな」

「ハンカチは渡しますけど、泣くのはやめてください。悲しくなってくるじゃないですか。あと、これだけ悲しいのは僕だけです。いえ、それがまた悲しいですけど」

「これ、アレっスよね? 感動巨編ってやつっスよ。もう、涙が・・・」

「私もだよ。恭文・・・なんなら私が付き合おうか? ほら、私は特に嫌いとかじゃないし」

「なんの告白っ!? つーか泣くなポジティブコンビっ!
あと、そういう言い方すると、まるで僕がフェイトに嫌われてるみたいじゃないのさっ!!」





他のメンバーも同様である。



ギンガさんは僕と目を合わせてくれない。ディエチはひたすらに『ごめんなさい・・・』を繰り返し、テーブルに突っ伏し、声を殺し泣く。

双子コンビも、今一つ理解出来ない様子だけど、話の重みは伝わったらしく表情が重い。



アギトとノーヴェは・・・なんか横で僕の肩を叩きながら『女なんて、星の数ほどいるさっ!』って、泣きながら励ましてるし。



ルーテシアもなんかかわいそうなものを見る目で、僕を見る。





「・・・それなら、お母さんと付き合おうよ。お父さん」

「お父さんは決定っ!? いや、だから・・・そのね、フェイトが・・・好きだし・・・」

「でも、お父さんのこと見てくれないよ?
それに、フェイトさんはいい人だと思うけど、お母さんだって負けていないと思う。フェイトさんと同じで胸も大きいし」



お父さんはやめてくれないかなっ!? そして胸の話はしてやるなぁぁぁぁぁっ!!


「・・・フェイト執務官はいくつなのかしら」

≪サイズは分かりませんが、体型はギンガさんと同レベルですね≫

「・・・うん、前にお会いした時も思ったけど、負けてるわ」



はい、そこ微妙な会話しないでください。ギンガさんの顔が赤いから。真っ赤だから。



「・・・恭文、真面目に聞いていいかな。やっぱり巨乳じゃなきゃダメなの?」



セインが無茶苦茶真剣な顔で聞いて来た。・・・うん、そうだよね。そう見えるよね。仕方ないと思う。でもね、そうじゃないからっ!!



「いや、だから以前言った通りだって・・・。
セインは、充分可愛いし魅力的だよ。話してると楽しいし、気負わなくて済むし、一緒にバカもやれる感じだし。
胸が大きかろうが小さかろうが、そこは変わんない。いや、真面目な話だよ? お願いです。信じてください。本当に違うんです・・・」

「あぁ、そんなに落ち込まなくていいよ。ごめん、ちょっと意地悪しちゃったね。・・・ありがと。それ聞いて安心した」

「・・・というか、こんな答え方で大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」





少し照れたように笑うセインの表情とは違って、僕の心は、少しだけ暗い気持ちだった。

ルーテシアの言葉が心に突き刺さっていたから。その・・・通りだ。



結構頑張ってるのになぁ。ダメ・・・なんだよね。

フェイトは、僕のこと弟としてしか見てくれなくて、正直どうしたらいいのかって、手詰まり感を覚えてる。

いや、じっくりいくしかないんだけどさ。そりゃあ、ゲンヤさんの言うことは分かる。でも・・・。





「・・・まぁ、あれよ」



メガーヌさんが、僕の傍まで来て、俯いていた僕の頭に手をポンっと乗せてきた。

柔らかくて、優しい暖かさが、頭と、心を支配する。



「とにかく、そろそろケーキも焼ける頃合だし、みんなで美味しく食べましょ?」

「・・・はい」

「あ、ごめんなさい。隊舎に連絡する時間なので、ちょっと出てきます。なぎ君、あとお願い出来るかな?」

「うん、りょーかい」

「ごめんね、すぐに戻ってくるから」





そう言ってギンガさんは調理室の外へと飛び出した。





”大丈夫よ”

”ふぇっ!?”



思念通話っ!? あ、そっか。この人も現役時代はルーテシアに負けないくらいに優秀な召喚師だったっけ。出来て当然か。



”今日会ったばかりの私が気に入るくらいなんだもん。保証出来る。君なら絶対に、その子のこと振り向かせることが出来るよ。大丈夫”

”・・・はい、ありがとうございます”

”そういうわけだから、あとでメールアドレス教えてね♪ まずはメル友って感じでっ!!”

”はいっ!?”



こ、この人もしかして・・・話を聞いてなかったっ!?



”もちろん聞いてたわよ? でもね・・・愛に障害は付き物なの。そして障害が有れば有るほど、愛は燃え上がるのっ!!
私、こう見えても結構しつこいんだよ?”





・・・だめだ。この人にはやっぱり勝てない。とりあえず、メールアドレスはちゃんと教えよう。じゃないと六課まで来そうだし。





”それに・・・”

”それに?”

”私、さっきも言ったけど、仮死状態も含めて、色々経験はあるからさ。相談してくれるかな?
フェイト執務官、相当な難物みたいだし”

”あの・・・でも・・・”

”いいから。・・・君、本気でどうしたらいいのか、悩んでるんでしょ? そういうときくらいは人を頼りなさい”



ほえ? あれ、なんか違う。さっきまでのぶっとびキャラと違う。こう、落ち着いた感じが・・・。



”君、結構突撃タイプだってね。一人で突っ込んだりとか、格上相手とやりあうことが多いとか”

”・・・そう、ですね”

”ま、ヒロちゃんから色々と聞いててね。その上で言わせてもらうけど、君・・・危ないね”



メガーヌさんは、言い切った。僕が、危ないと。チンクさんや、ルーテシアと色々と楽しく話しながらも、思念の声は、鋭く、真剣だった。



”一直線で、一途で、まっすぐで・・・。だけど、それゆえに危ない”

”・・・そんなことはないですよ? よく汚いと言われますし、痛いのも苦しいのも嫌いですし”

”それは一部だよ。本当の君は、きっとすごく強い。痛くても苦しくても、迷ったり、止まったりしないで戦える。
だけど、同じくらいにすごく危ないよ。死にそうなくらい傷ついてても、平気な顔して剣を振るう。大丈夫って顔して、戦おうとする”



・・・そうかも。戦いで迷ったりするの、嫌いだし。



”そう、見えます?”

”見える。だからね、相談して欲しいな。人生の先輩として、色々と力になるよ。だから、覚えなさい。私が教えてあげる。
苦しい時に、困った時に、誰かに甘えたり、頼ったりするのってね。恥ずかしいことでも、なんでもないんだよ?
私は君より年上だもの。年上のお姉さんの前では、甘えてもいいんだから”

”・・・ありがとうございます”





この人、もしかしたらすごい人なのかも。会って数時間しか経ってないのに、ここまで・・・。





”それに、一回練習はしておいた方がいいと思うんだよね。じゃないと、やっぱり緊張して上手くいかないだろうし”

”なんの練習っ!?”

”・・・もう、そんなことを女の口から言わせるつもり?”

”うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!”










ダメだっ! この人やっぱり強すぎるっ!! オーバーSとガチにやりあう方がまだ勝率あるよこれっ!?





そして、その数分後、ケーキが焼き上がったのを知らせる鐘の音が、キッチンに響いた。




















さて、そんなこんなで・・・ケーキが焼きあがった。・・・って、ギンガさん来ないし。



「・・・うん、いい焼き上がりよ。ギンガちゃんが来るまでに、私達だけで盛り付けしちゃおうか」

『おー!』



焼き上がった4つのスポンジケーキに、みんなが作った生クリームを塗っていく。



「出来るだけ均等になるように塗るの。こんな感じで・・・」

「ほぇー、上手いもんっスねぇ〜」

「なのはさんの実家で働くと、こういうの作れるようになるのかな・・・」

「なのはの実家に拘らなくても、これから実習とかで作っていけば、ディエチ一人でもきっと作れるようになるよ。
まぁ、僕も多分また呼ばれるだろうし、その時にも色々教えるよ」

「そっか。恭文、ありがと」



クリームを綺麗に塗ったら、次は盛り付け。

白い土台に、赤いイチゴを盛り付ける。そうして、ケーキの上の隅に、クリームを搾り出す。



「あー、これ面白いなぁ」

「力入れすぎると一気に飛び出すよ?」

「うん、だいじょお・・・・ぶはっ!!」



言った傍から・・・。セインの顔がこう・・・絵的に表現できない状態になった。しいて言うなら、R18です。



でも、とうのセインは、その顔に付着した生クリームを舐めて・・・。



「うん、美味しいっ!!」

「そりゃよかった。・・・って、そのまま全部舐め取る気かいっ! いいから、早く顔洗ってきなよ」

≪絵的に色々マズイですよソレ≫

「えー、いいよ別に」

「・・・砂糖やらなんやら付着した状態でいるつもり? 舐めとっても、それは変わらないよ」

「そりゃマズイね・・・」



あと、絵的にね。うん、色々と。



「でも、どうせならこう・・・悦に浸ったような表情で、息を荒めにして言わないとだめよ。そういうので男の子はクラっとくるんだから」

「ちょっとそこのお母さん? 変なアドバイスをしないでくださいっ!!」

「お、おいしーよー?」

「セインもやらなくていいから・・・」



さて、そんなこんなでやっているうちに・・・。



「かんせーいっ!」

『おー!』




ちょっとだけ歪だったり、盛り付けが下手なところがあるけど、これがハンドメイドのケーキの味なのだ。



お店の完成されたケーキも確かにいい。だけど、こういうのは・・・とてもいい。



さて・・・、まだ来ないな。ちょっと呼びに言ったほうがいいかもしんないなコレ。





「ごめんね、遅くなっちゃって・・・って、もう出来上がってるのっ!?」

「とっくにだよ。みんなで盛り付けもしちゃったんだから」



噂をすれば影ありとはよく言ったものだ。ギンガさんがようやく来た。



「ごめんなさい。つい・・」

「なにがついなのかを詳しく聞きたいよ。さ、早く食べよ? 暖かいものは、暖かいうちが美味しいってね〜」



さて、ケーキを切り分け・・・うん、ディードに頼もうかな?



「わ、私ですか?」

「うん、半分お願い。・・・あ、気合入れてやったほうがいいよ? そこの欠食児童達が大きさにこだわるから」



そう言って、僕はポジティブコンビを見る。はいはいそこ、無駄にこちらにプレッシャーをかけない。ちゃんと均等に分けるんだから。



「「はーい(っス)」」



ケーキを均等に1ホール8等分に分ける。まぁ、人数分だと、2、3個とかだけど、それでも自分達が苦労して作ったもの。食べる瞬間はひとしおである。



さて、出来はどうかな・・・ぱく!










『美味しい〜♪』










うんうん、これはいけるわっ!



「ほんとっスね。こう・・・心に染み渡る甘さっスよ」

「私達、受刑者だよね? こんな事してていいのかなっ!?」

「・・・なんか、いいよな。こういうの、アタシ達でも出来るんだな」



あー、つい疑問に思ってしまうけど、今日はいいじゃないのさ。じゃないと、僕が食べられないんだし。



「・・・美味しい」

「本当に。普通に食べるよりも・・・こう、美味しさが違います。上手くいえないんですけど」



ケーキを一口食べる度に、幸せそうな顔をする双子コンビを見て、ちょっと嬉しくなる。



「そうだね。うん、なんか違うや」

「・・・こういうことなのだろうな。きっと」



年長組の二人も、幸せを実感している。・・・っと、そうだった。



「はいみんな。紅茶も淹れたから、ケーキと一緒にどうぞ」



そう、紅茶の準備をしていた。で、全員分淹れ終わったので、みんなに配る。



「アギトには・・・はい。アギトサイズのティーとカップ」

「お、悪いな。・・・うん、このお茶美味ぇなっ!」

「ほんとに? いやぁ、よかったよ」



うむぅ、やっぱりおいしいって言ってもらえると、理屈を抜きでうれしい。うん、こういうのいいな。



「・・・うん、確かにこの紅茶はレベルが高い。これも、高町一等空尉の実家仕込みなのか?」

「そうです。あと・・・聖王教会のカリムさんにも教わりました。あの人も紅茶うるさいんですよ」

「あぁ・・・ほんとうにいい子なのね。自由恋愛バンザイよっ!」

「お母さん、やっぱりお父さんは捕まえないといけないね」

「そうね、お母さん頑張るわっ!!」



頑張らないでください。いや、心からそう思う。そして、お父さんはもう決定稿なんだね。うん、わかってたよ。

でも、本当に美味しくできてよかった〜。食べてて幸せになるんだもん。



「・・・恭文さん」



ケーキを食べながら、隣りに座っていたディードが、僕のことを見つめてきた。

真剣で・・・だけど、どこか嬉しそうな瞳。



「少しだけ、分かりました」

「分かったっていうと?」

「先ほど、恭文さんの言った言葉です。『作った物を、美味しいと言ってくれることが、作った人間にとっての一番の報酬であり・・・料理を美味しくする調味料』。
少しだけ、その言葉の意味が分かった気がします」





そう言って、ディードが他の皆を見る。



お茶を飲みながら、ケーキに舌鼓を打ち、楽しそうにしているみんなの姿を。・・・うん、そうだね。



美味しい料理は、人の心まで幸せにする。悲しい事があってもお腹は空く。

そんな時に、美味しい物を食べると・・・問題が解決していなくても、なんとかなったような気がする。

刃物を握る手で、人を幸せに出来るのは、料理人だけだって言うしね。あ、これは天○総司さんの受け売りね。





「だね。まぁ、僕もディードからそれを受け取ってるけどね」

「え?」

「ディードが美味しいって言ってくれて、嬉しかったし」

「・・・私も、同じです。恭文さんがケーキを美味しいと言って食べているのを見た時、嬉しかったです」





ディードが、微笑む。本当に優しい顔で。

ポジティブコンビみたいに明るい笑いじゃない。だけど、見ていだけで心が落ちついてくる、優しい微笑み。





「私も、幸せになる権利、あるでしょうか」

「あるよ。・・・大丈夫、これから勉強していく中で、きっと見つかるよ」



少なくとも、僕は見つかった。だから、ここに居る。だから・・・言い切れる。



「ディードだけの幸せの形が。誰のためでもない、ディードのための時間が。焦らず、少しずつ、探していけばいいから」

「・・・はい」





少しだけ、役に立てたのかな。・・・これだけでも、ここに来てあれこれした甲斐はあったな。





「・・・アレは・・・アレっスか? フラグ成立っスか?」

「恭文、プレイボーイだよね。あのディードをあんな簡単に・・・」

「それをどうして、フェイトお嬢様相手だと出来ないんだろ・・・」

「本命の前だと、へタレだからじゃねぇか? スバルとかの話聞いてると、そんな感じだしよ」

「あー、それは言えるな。そういうオーラ出してるし」

「こらこら、あまり好き勝手なことを言うものじゃないぞ。
・・・姉としては、妹を色々と気遣ってくれるのはうれしい。ディードにいい影響を与えているようだしな」

「・・・ディード、嬉しそう」





・・・なんか好き勝手なことを言っているけど、無視。





「お母さん、頑張らないとお父さん取られちゃうよ」

「そうね、どうもフェイト執務官以外には、いい感じみたいだし・・・。ルーテシア見ててっ! お母さん・・・頑張るわっ!!」

「いえ、なぎ君に悪影響を与えるようなことは・・・」

「だめよギンガちゃん。恋は絶対に必要なことなんだから。ギンガちゃんだって、好きな子居るでしょ?」

「えっ!? いや、私は・・・その・・・」





よし、気にしない方向で行こう。したら負けだっ!!






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あきゅろす。
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