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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report15 『Changing world』



・・・・・・この話はまだ極秘裏ではあるし、私自身もショックではあった。





ただそれでも・・・・・・ヤスフミには、知る権利がある。










「これはクロノから聞いた極秘情報なんだ。だから、まだ他の人に言わないようにね。
管理局・・・・・ヴェートル中央本部は、EMPからの完全撤退を視野に入れ始めているの」

『えぇっ!? それ、どういうことっ!!』



というか、きっと知らなきゃいけない。今の現状を知って、キチンと受け止める必要がある。

ヤスフミはどんな形であれ、何かが変わるきっかけの一つになったんだから。



「・・・・・・ヴェートルの人達の主張を受け入れて、現地政府に全て任せるため・・・・・・と表では言っている。
それでね、GPOの撤退も・・・・・・実はそこに連なる形で行われるんだ。つまり、単純なトカゲの尻尾切りだけじゃない」

『いや、なんで・・・・・・あ、そっか。ヴェートルの平和維持を現地政府に全て任せるつもりなら、GPOの手も不要って理屈なんだね』

「うん、そういう事になるみたいなんだ。GPOはヴェートルの管理下の組織じゃないから」





でも、実際は少し違う。これは責任逃れをするための言い訳もいいところ。

EMPD・・・・・・ヴェートルの現地政府の責任を増やすという事は、良いことばかりじゃない。

確かにあの世界の人達が望む方向にはなる。でも、同時に自己責任にもなる。



あの世界で何があってもよっぽどの事がない限り、管理局はノータッチを通せる。

ようするに、今回みたいに『なぜ管理世界なのに何もしないのか』という批判を避けるため。

ヴェートルの事絡みで、局の威信や尊厳は相当損なわれている。・・・・・・だからなの。



それを守るために管理局上層部は・・・・・・ヴェートルという世界を、そこに住む人達を守る責任から逃げた。

クロノから話を聞いた時、正直ショックだったよ。聞こえは良くても、トカゲの尻尾切りもいいとこだから。

ヴェートルも管理世界の一つで、私達管理局が現地の人達と手を取り合う事で守るのが局の理想のはず。



なのに私達の上の人間は、自分からその理想を放棄した。・・・・・・本当に、ショックな事ばかりだ。

あ、それと説明が足りなかったね。GPOの撤退によっても中央本部が慣例通りにならなかった場合、こうなるの。

つまり、ここから中央本部がヴェートルの人達の信頼を取り戻していけるなら・・・・・・そのまま。



だけど、正直それでも無理だと思う。私、あれから街の人達を見て気づいたから。

例えば局員とEMPDのスタッフが目の前に居て、困った事があったとする。

というか、そういう場面を見た。その場合、真っ先に住人の方々はEMPDのスタッフの方に行った。



そして局員はそれを普通の事として受け止めて、その場を後にした。



・・・・・・自分から声をかける事も出来たのに、それすらなかった。本当にここはショックだったよ。





『・・・・・・そっか、そうなんだ。うん、そうなんだ』



だけど、ヤスフミやヴェートルの人達は違うらしい。すごく嬉しそうにしている。

正直私には、それを素直に受け止める事が出来なかった。多分、苦い顔をしてると思う。



「ヤスフミ、あの」

『分かってるよ。局の都合でのトカゲの尻尾切りってことはさ』



だったら、そんなに嬉しそうにしないで? 私達が・・・・・・ヤスフミが必死に守った世界なんだよ?

なのに、どうしてそんなに笑えるのかな。私達の居場所の一つは、また何もしない事を選んだのに。



『でも、それってつまり・・・・・・ヴェートルの人達次第ってことでしょ?』

「え?」

『壊すのも育てるのも、そこの人達次第』

「それはそうだけど」

『一人一人の力は小さくても、みんなで心強き守り手になる。それがこの世界全ての人の想い。
・・・・・・維新組のキョウマさんが、そういう風に言ってたんだ。だから嬉しいの』



ヤスフミはそう言って笑う。また・・・・・・私は振り切られていくらしい。



『例えどんな形でも、そんな風に世界が変わって・・・・・・ここの人達で育てられていく。
フェイト、考えてみてよ。僕達、管理世界の新しい在り方が生まれた瞬間に立ち会えたんだよ?』

「・・・・・・その結果、ヴェートルは壊れるかも知れないんだよ? そこの人達が壊すかも知れない」





そうならないように、私達管理局が守る。そうならないように私達が力を貸す。それが管理世界の在り方。

カラバは親和力によるものだったし、本当の意味で丸々一つの世界が自立するという事態はヴェートルが初めて。

だから局員の中この話を知っている人達の中では、不安を感じて上に抗議をする声もかなり多い。



管理局はもっと現地住民に理解されるように頑張るべきだと、母さんも声をあげている。

ようやく悲しい事件を越えたのだから、ここからまた管理局の在り方やそのシステムを真に理解してもらうべきだと。

理解してもらって、信じ合って互いに預け合って、今まで通りの協調の姿勢を貫くべき。



そのためにはGPOの力だって必要になるとも言ってる。そこは私も同感だった。



だから一応、無駄とは思うけどクロノ経由で意見書を送ったりもしている。





『だけど、ここから本当に管理世界の一員になっていくかも知れない。少しずつ変わるかも知れない。変化は悪いことばかりじゃないよ』



そう言って楽しげに笑うヤスフミの顔を見て、なぜだろう・・・・・・そう思っている自分が、バカらしくなっていた。

確かにヴェートルで暮らすあの強い人達なら、そんな人達なら・・・・・・大丈夫なのかなと、そう思えてしまうから。



「ヤスフミは、ヴェートルの人達を信じられるんだね」

『当たり前じゃん。僕・・・・・・この世界が好きなんだ。楽しくて、カオスで、ワクワクする事が沢山ある』



辛いことや苦しいことの方が沢山あったはずなのに、ヤスフミはそう言う。それを見て、私はようやく笑えた。

さっきみたいな悲しい笑いじゃなくて、ちゃんと・・・・・・いつも通りに微笑む。



『それにさ、一つネタばらしをすると・・・・・・ヴェートルの人達にフェイト達の気持ち、伝わってるよ?』

「え?」

『ほら、1割くらいは認めるって言われたでしょ?』



・・・・・・うん、フジタ補佐官経由で言われた事だね。あぁ、そうだよ。私、ここも忘れてた。

あの総大将がそう言ってたと伝えてもらった時、本当に嬉しかったはずなのに。



『それでまた進展があったんだ。入院中にレイカさんとかとお話させてもらって、色々話聞いてるの。
今までみたいな意固地なのはやめて、少しずつ管理局と歩調を合わせていくつもりだって』

「そうなのっ!?」



私、そこは知らなかった。ヴェートルから戻ってからずっと裁判だったりして、向こうの情報はあまり入ってないし。



『うん。事件後に維新組総出で市庁に押しかけて、色々市長と議論したんだって。というか、し続けてるみたい。
しっかりと譲るべき所や折れるべき所は折れて、突っ張る所は突っ張る方向でいいんじゃないか・・・・・・とか』

「・・・・・・そうなんだ。あ、もしかして」



さっきからヤスフミ、やたらと『大丈夫』と確信を持っている様子だった。それにネタばらしって言ってた。



『そういう事。この話聞いてたからさ、あの様子なら大丈夫かなーと。
目上目線なのを承知で言うと、現状のままだったら僕も多少は不安になってたかも』



目上目線・・・・・・あぁ、そうだよね。私またやらかしてた。こういうのが、ヴェートルの人達の反感を買う要因なのに。

管理局が守るとか私達が守るとか、それはヴェートルの人達からしたら子ども扱いされている不快なものなんだ。



「・・・・・・納得したよ」

『でも、ちょっと大変だった。維新組に誘われて、断るのがかなり』

「そうなの? ・・・・・・でも確か維新組って、ヴェートル出身者しか入れないんじゃ」



私がそっちに行く前にチェックした資料では、そういう風な話だったのに。

それを見て、また悲しくなったりもしたっけ。次元世界の人達を誤解してるって。



『なんか最近、変えたらしいの。元々『管理局ファックユー』な方々が門を叩く事が多かったんだって』



ヤスフミ曰く、そういう人達から見ると維新組はかなり人気があるらしい。・・・・・・なんだろう、ちょっと複雑。



『別に犯罪者とかじゃなくて、ヴェートルみたいに管理局の体制に疑問を持つ人達の先駆けみたいに思われてるみたい』



・・・・・・そうなんだ。でも、見る人から見ればそうなるのかな。

維新組・・・・・・ううん、ヴェートル自体がそういう気風に溢れた世界だから。



『・・・・・・フェイト、フェイトは局員だから色々思っちゃうだろうけど、もうちょっと前向きに考えてみたらどうかな。
僕は局が管理する世界なんて興味ない。でも、ここの人達が作る世界がどうなるかは、凄く興味があるんだ』



・・・・・・ヤスフミは、本当に楽しそうにしている。本当にあの世界に同調しているらしい。

一つの居場所を見つけたのかなと思うと、それが私は凄く嬉しくて・・・・・・だけど、少し悲しかった。



『それにさ、『みんなが幸せになれる』と一方的に思い続けて行う管理なんて、公女の親和力と同じだと思う。
そして局という組織の在り方やルールが全てだと思うこと。それだってある意味では信仰になるんじゃないかな』

「そう、なのかな。・・・・・・ううん、きっとそうなんだよね」



選択は一つじゃなくて、幸せの形も一つじゃなくて・・・・・・あぁ、そうなんだよね。

もしかしたら現状の管理システムは、親和力の類になってしまっているのかも知れない。



「なら私達は、管理局という組織の親和力にやられた信仰者になっちゃうね」

『そうなるね。で、僕は修羅モードでその辺りを弾き返してるから、迎合出来ないと』



少し冗談めいた口調でそう言うヤスフミを見て、私も軽く右手で口元を抑えて、クスリと笑う。



「それはちょっと寂しいけど・・・・・・でも、その方がいいんだよね」



だってそのためにこの間まで大騒ぎだったんだもの。母さんも気持ちの悪いくらいにおかしくなってたし。



「私だって今そういう信仰とかの類に関わるのは・・・・・・ちょっと嫌だ」

「あ、さすがに懲りてたんだ。リンディさんと同じく誘ってくるかと思ったけど」

「まぁその、ヤスフミと同じ局員として頑張れたらなぁとは思うけど・・・・・・今は言えないよ。
今は局員も悪い事ばかりじゃないなんて、全然言えない。だって今回、悪い事ばかりだった」

『・・・・・・そうだね』



ヤスフミは優しいけどちょっと厳しいところもある。だから私の言う事をあっさり認めた。

私は苦笑を返すしかなかった。てゆうか、そうなるの。だって・・・・・・事実なんだから。



「それで話を戻すけど・・・・・・やっぱり今回の話、残念ではあるんだ。
そうならないための努力がこれから出来ないのは」

『局員として?』

「ううん。・・・・・・私自身として。私ももっと、あの世界の事を知りたいと思っていたから。
ヤスフミと同じようにね、あの世界のこと・・・・・・好きになりかけていたから」

『・・・・・・そっか』



それからまた、色々と話してから通信を終えた。大分・・・・・・時間食っちゃったな。

まぁいいか。ヤスフミと話せて、ちょっとだけ裁判への憂鬱な気持ちも払拭出来たし。



「・・・・・・シャーリー」

「はい」



側には私が休んでいる間にも、書類を打ってくれていたシャーリーが居る。でも、さすがに疲れた様子だった。

これが終わったら、二人でたっぷりお休みもらおうっと。エリオとキャロにも会いに行きたいもの。



「管理局の管理システムって、間違ってるのかな。・・・・・・私ね、みんなが幸せになれる形だと思っていた。
ヴェートル以外の世界はどこもそうで、ちゃんと魔法文化や世界のルールも守ってくれてて・・・・・・それが普通だと思ってた」





魔法文化や魔法文明は一つの完成された形だと思う。悲しい歴史を超えて得られた、価値のある答え。

それを掲げて、世界に浸透させていく仕事は・・・・・・とても大事な仕事だとも思ってた。でも、それは勘違いだった。

私達が掲げる答え・・・・・・『親和』には、矛盾が存在していた。そして私達はその矛盾に負けた。



なんだか今回の事は本当にショックな事ばかりだった。本当に色々と。



そういう他の世界での犯罪を追いかけて、あっちこっち回る執務官としては、かなりだよ。





「どうなんでしょうね。ただ・・・・・・ヴェートルという世界に限っては、それは不必要だと思います。
あの世界は、あの世界の人達の手で守れる。それはもう今回の事で証明されちゃっていますし」

「・・・・・・そうだね。私達は守り手にならなかった」

「えぇ」



管理局は最後の最後まで事件に対しては一切不介入。それどころか、公女の犯罪の手助けまでしていた。

サードムーンを違法改造したの、中央本部の技術開発部のスタッフだったの。親和力の影響で疑いも持たずにだよ。



「私達局員はもしかしたらみんな、管理システムという答えが出している親和力に魅入られてるのかも知れませんね。
ううん、そこは次元世界全体ででしょうか。本当に長くて沢山の悲劇が積み重なった答えだから、そうしてしまう」



シャーリーの言う事は間違ってない。だってもしそれで同じ間違いを繰り返したら、どうなるの?

答えを出すまでに積み重なった犠牲は? 結局は無駄と烙印を押す事になる。そんなの、誰だって嫌だよ。



「だから私達はついついそれを絶対視してしまう。だけどなぎ君やヴェートルの人達から見るとまた違う。
もしかしたら相当に疑わしくて、胡散臭く見えるのかも知れないですね。だから現状に繋がった」

「私達次元世界の人間が、局が・・・・・・悲しい歴史の上でそれを選んだと理解はしてもらえないのかな。
それで色々問題はあるけど、74年やってきた。その実績を信じてもらうことは」



そのためのGPOだったり、局の活動だったりすると思うんだ。でも、それも無理らしい。

シャーリーが苦い顔で首を横に振ったから。・・・・・・私の予想通りに。



「したとしても、問題は残りますよ。フェイトさんだってそう思ってますよね。
例えば・・・・・・アイアンサイズです。例えばオーギュスト・クロエ」



それはヤスフミが戦った相手。そして・・・・・・私がヤスフミやGPOの人達に押し付けた相手。

私は『魔導師』で『局員』だから、その人達と真正面から戦う力が無かった。



「みんななぎ君の言うところの『魔法至上主義』という既存のルールの上では、対応し切れない相手ばかり。
まぁこれはひとつの側面ですけど、こういう事が現実に起こる以上、そこに疑問を持つ人達は出てきて当然です」

「・・・・・・やっぱりか」

「えぇ、やっぱりです」



そうだよね、現にヤスフミもその一人だから。すずかの家のあれこれでそれを痛感した。

だから『飛び込む事に言い訳をしない自分』になろうとして、ここまでやってきたんだから。



「私達管理局の掲げるシステムには、とても大きな矛盾と問題がいくつもあります。でも、悲しい事にそれだけじゃない。
・・・・・・私達はそういった世界や人、出来事の流れに全くついていけてないんですよ。今回の事で痛感しました」





そしてそのために私達は全ての対処を、ヤスフミやGPOの人達に押し付ける形になった。

私達以外で言うと親和力の影響を受けた母さんのせいで、増援や調査関係もさっぱり出来なかった。

事件に積極的に関わって、EMPの人達を守ったのは・・・・・・やっぱり維新組やEMPD。そしてGPO。



あの世界に誰よりも根ざしていて、しっかりとした形で生きている人達が・・・・・・ヤスフミの言う守り手。

あとは、ヤスフミもその守り手だったと思う。そんな人達を好きになって、真っ直ぐに向き合ったから。

でも私達は、管理局はその守り手になる事をしなかった。理解しようとする事も、向き合う事もしなかった。



ただ無闇に親和を振りかざし、見下して・・・・・・私もその一人だったと痛感した。

そして私達の居場所は、その守り手になる事を放棄した。相手を理解出来ない存在として見限った。

ここから自分から変わっていく努力をする事を諦め、自ら掲げた理想と協調の形に泥を塗った。



そしてそんなのはダメだと声を上げても、声はかき消されて・・・・・・あぁ、なんかダメだ。





「シャーリー」

「はい?」





それが悔しい。確かに新しい一歩かも知れない。ヤスフミの言うように、未来は決まっていないんだから。

ここからいい方向に変えられるかも知れない。だけど私は・・・・・・私達は負けた。

維新組の人達の話を聞いて、余計に思った。きっと上より下の方が、そういう努力をしたいと思ってる。



互いにそのための準備を少しずつだけど始められていたのかも知れない。でも、全部壊れた。





「少しだけ、目・・・・・・閉じさせてもらっていい?」

「・・・・・・少しだけですよ? それで、寝るのは禁止ですから」

「うん、分かってる」










私は腰掛けている椅子に体重の全部を預けて、上を向いた。そして瞳を閉じてその上に右手を乗せる。

それで少しだけ泣いた。局員として、執務官として、本当に敗北感ばかり。泣かないと正直どうしようもない。

ヤスフミ、ごめん。私はやっぱり局員だから悔しいよ。嬉しい気持ちもあるんだけど、それでもなんだ。





狭い世界に居るあの人達の心も変えられず、上の汚いやり口も変えられず。私、ホントにダメだな。




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report15 『Changing world』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕は病院のロビーで夜の月を見上げているシルビィの所に向かった。

というか、普通にリインと入れ替わりでフォロー。やっぱり・・・・・・ショックだよね。

フェイトにはあんな風に言ったけどさ、それでも黒い部分があるのは否めない。





どう話すべきかとか考えつつも、僕はシルビィの左隣に座る。それで視線を上げる。





白くて大きい月を・・・・・・シルビィが今見上げている月を、僕も一緒に見上げる。










「・・・・・・さっきフェイトから話聞いてさ。うん、大体の事情は分かった」

「怒ってる・・・・・・わよね」

「どうして?」



ただ二人で月を見上げながら、言葉を交わす。ここの照明は落とされていて、月明かりだけが僕達を照らす。



「怒る理由、ないでしょ。シルビィ・・・・・・ううん、アンジェラやジュン達もショックだったのは分かったから」

「・・・・・・うん、ショックだった。確かに局の人間からいい印象を持たれていないのは分かっていたけど、それでもよ」



シルビィが両膝の上で握りしめた両手を、また強く音がするくらいに力を込めて握る。



「喜ぶべき部分もあるって分かってるの。どんな形にしても、ヴェートルの主張は認められたから。
でも・・・・・・それにしては、あんまりに身勝手で納得出来ない部分が多過ぎる」

「そうだね、それは紛れも無い事実だ」



そればかりは、否定出来ない。したくても・・・・・・なんか、全然だめだ。



「ヤスフミ」

「何?」

「ヤスフミに・・・・・・甘えていいかな」

「いいよ」



そのまま、シルビィは僕に抱きついてくる。そして・・・・・・強く僕を抱きしめてくれる。

ううん、抱きしめて甘えてくる。僕はそのまま、シルビィを抱き返した。



「ごめんね。私達・・・・・・このままヴェートルに居られればよかったのに」

「ん、大丈夫だよ。シルビィ・・・・・・僕もシルビィに甘えたくなった」



それは少しだけ嘘。そう言えば、シルビィも甘えやすくなるかなと思って。

シルビィもそれが分かったのか、嗚咽の混じった声でクスリと笑う。



「このまま僕もシルビィに甘えてもいい? というか、甘え合うの」

「もう、今は私が甘えたいのに・・・・・・でも、いいよ。
このまま二人だけで、いっぱい甘え合おうね」

「・・・・・・うん」










そのまま、互いを強く抱きしめ合って、肩を埋め合って・・・・・・温もりを寄せ合った。





そんな僕達を白くて大きな丸い月だけが、空の上から優しく見守ってくれていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・結論から言おう。俺の正体はバレバレだった。それもGPOのメンバー全員にだ。

普通に事後に全員にげんこつを喰らった。そして聞いて衝撃を受けた。

なお蒼凪は気づいていなかったと、ビックリした顔でそう言ってくれた。リインもそう言ってくれた。





だが・・・・・・そう口にした二人の目の中に、明らかに慰めの色が見えたのが悲しかった。

だから俺は泣いた。今だけは泣いてもいいと思い、泣いてらしくも無く深酒をして思いっきり酔った。

そして現在。GPO・EMP分署の解散まで1週間を切り、荷物整理なども佳境に突入。





そんな分署内で俺は、メルビナ長官と居る。二人で深夜にこそこそと・・・・・・チェスなど打っている。










「・・・・・・市長の命令だったんだな」

「えぇ」





アレクシス公子達が亡命してきた直後、俺は海外留学からEMPに戻ってきていた。

それでそのまま維新組隊長陣の追加メンバーとして入った。・・・・・・が、そのすぐ後に辞令を出された。

市長自らの辞令で、俺に補佐官をやれというものだ。なお、名目は長官不在のGPOのサポート。



だが、非公式にGPOという組織がEMPに必要かどうか・・・・・・いや、違うな。

『異星人』の手がこの世界の治安維持に本当に必要かどうか見極めて欲しいと頼まれた。

EMPDの中からではなく、GPOという外部組織の中からだ。だから俺はここに来た。





「それで、答えは見つかったか?」

「えぇ。市長にも報告しました。・・・・・・この世界に、『異星人』の手は必要ない」



市長は満足そうに俺の答えを受け入れてくれた。この辺り、ここ最近の総大将達の説得の影響もあるらしい。



「いや、そもそも『異星人』など存在しない。俺達は住む世界そのものが違っていたとしても、同じ人であり仲間。
結果はどうあれ、俺達は互いに手を取り合う事を、認め合う可能性を最初から放棄してはいけない。だから」



言いながらも、目の前のボードに向かいつつ俺はひとつの駒に手を伸ばす。



「まずはここから・・・・・・もう一度理解し合っていく事。そのための道を選ぶべきだと、そう答えました。
俺達は・・・・・・いいや、警察・政府機構に属する俺達だからこそ、信じる事から目を背けてはいけない」



右手で駒を取って動かすと、長官が軽く唸った。それを聞いて、俺は少しやり返せたと思った。



「・・・・・・そうか」

「えぇ。長官、俺からも一つ質問です」

「なんだ?」

「何時から気づいていたんですか? 何か情報があったとか」



一手一手打ちながら、メルビナ長官と話す。なお、もう月分署に居る必要はなくなった。

公女のガードも必要がなくなったし、元々は急設されたもの。問題はない。



「私もそうだがシルビィ達も特に確証があったわけではない。強いて言うなら・・・・・・空気だな」

「空気?」

「貴公が出す空気と、維新組の黒い奴が出す空気が同じだった。
経歴や名前などは関係ない。変装しようと、心根までは隠せないという事だろう」

「なるほど。・・・・・・それを見抜かれるとは、俺もまだまだ修行が足りない」



言いながら、一手打つ。・・・・・・よし、ナイトは取った。



「それとアレクシス公子だが・・・・・・聞いているか?」

「えぇ。管理局の保護プログラムに則って、隠匿生活を送るとか」



ようするに、世間で流れている情報と同じようにという事だな。名前や戸籍なども変えて、別人になる。

どこかのバカが親和力の話を聞きつけるかも知れん。これくらいの処置は必要だ。



「カラバの復興支援の手伝いは・・・・・・無理、だしな」



ぬ、ボーンをやられたか。だが、まだまだ。

この5ヶ月程で鍛えた指揮能力があれば、先日の月での一局のような事にはならない。



「出発は明日だそうだ。昼過ぎには出るし、我々は見送り出来んな」

「また早いですね。・・・・・・蒼凪には」

「無論会いに行ってもらう。アンジェラも同席だな。しかし、本当に蒼凪に来てもらってよかった」



そこは俺も同感だ。今回の事、奴が起爆剤にならなければ、解決したかどうか危うい。

やはり古き鉄は、爆弾だった。それも次元世界の命運さえも救えるほどに強烈な爆弾だ。



「だがアイツは・・・・・・なんというか、自覚がないな。
公子の事も含めて、一連の事件での起爆剤の一つになったというのに」

「だからこそでしょう。公女のように『自分が世界を幸せにする』などと曰う奴よりは、数倍マシです。それに」

「それに?」

「無自覚・・・・・・言い換えるなら、ただ己が道を見据えて突き進む奴だからこそ、周りを惹きつけるんです。
俺が子どもの頃に近所に住んでいた踊りの先生が、こんな事を言っていました」



本当に20年前とかそれくらいだな。俺がガキだった頃だ。綺麗な人でな・・・・・・いわば初恋ってやつだ。



「『心が眩いほどに輝いている人間は、理屈や体裁を抜きに何をしても美しい』・・・・・・だそうです。
心の在り方が、その生き様が、理屈抜きでその人間を輝かせる。そこから本当の美しさが生まれるとか」

「・・・・・・確かにな。蒼凪が輝いているかどうかは別として、それは私にも覚えがある。だがそういった美しさを持つ人間は本当に少ない」

「えぇ。蒼凪を見ていて、思い出しました。それが答えを出すきっかけでもあります」



具体的にはハラオウン執務官をぶん殴った時だな。あれもまた大変だった。



「俺達が意地を張るのは、管理局や次元世界が嫌いだからじゃない。
なのにそんな理屈や体裁に囚われていたから、『異星人』などという侮蔑を繰り返していた」



敵のように感じていたが、それは違う。俺達の意地の根源にあるのは、やはり人々の幸せ。

公女による親和など無くても、笑える時間がある。そんなちっぽけなものを守りたい。



「俺達は・・・・・・俺達は管理局と対等な立場でこの世界を、そこに住む人達を守りたい。
この世界で暮らすなら、誰一人として泣かせたくなどない。ただそれだけでした」

「・・・・・・そうか。それが貴公の生き様か」

「そう言い切れる程、俺はまだ自分を磨き抜いていません」



などと言いながら、俺はクイーンの駒を動かす。そして・・・・・・にやりと笑って、言い切る。



「長官、チェックです」

「む・・・・・・よし、補佐官」

「待ては無しですよ? というか、この間は待ってくれませんでしたよね」

「それはそれ、これはこれという言葉があってだな」

「聞きません」










・・・・・・さて、俺はどうするかな。とりあえずアレだ、俺も実は色々と考えている。





何気に蒼凪と同じく、GPOの空気が気に入っているのも事実だ。





このままヴェートルを飛び出るのも、選択か? だが・・・・・・うーん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ユーノ、今回は色々とすまなかったな。特に親和力の完全封印の術式だ」

『大したことはしてないよ。キャンセラーという手本があったし、マリエル技官の協力もあったから。
というか、マリエル技官が専門外なのに本当に良く手伝ってくれたから』



管理局はようやく元の平穏さを取り戻し、僕もユーノに改めて礼を言うために通信だ。なお、僕は航海任務中。



『うん、すごい頑張ってた。結局Ha7は、リンディさんのせいで開発中止になったから』

「出来なかった分、そこはしっかりとか。・・・・・・やはり申し訳ないな。あとで連絡を取らなければ」





フェイトはしばらくミッド常駐だが、状態はまぁ、察してくれ。

アルパトス公女とオーギュスト・クロエの裁判がアレだからな。

とどめにヴェートルの独立問題・・・・・・トカゲの尻尾切りだ。



現地政府の対応が多少緩やかになりつつあるとは言え、ショックだったらしい。

言い方こそ綺麗だが、実際は切り捨てだ。決して綺麗なものではない。

管理局上層部は、自らの手で管理システムの理念を捨てた。フェイトは度々そう口にする。



そしてだからこそ、自分達でそんな組織を変えるべきなんだと意気込んでもいる。

ただ、やはりショックなのは消えなくて・・・・・・裁判が終わったら、あの二人には長い休みを出さなくては。

さすがに根根を詰め過ぎだし、今回は色々あり過ぎた。休養期間は必要だろう。





『それでクロノ、ヴェートルの方の話・・・・・・本当なの?』

「本当だ。一応僕や母さんからも上に打診はしたが、本局上層部の決定は覆らない。
特に母さんは今回の件で仕方無しとはいえ、失態をかましにかましまくってるしな」

『発言権そのものがない。いや、発言を控えろと?』

「そうだ。まぁ上からすると母さんは同類だからな。さすがにそんなのにアレコレ言われたくないんだろ」



そこを抜いても、提督と言っても将校クラスに比べたら下っ端だ。そして局では上の決定は絶対。

伝説の三提督も協議に加わったそうだが、それでもダメだったらしい。管理局はあの世界から逃げ続ける事を選んだ。



「今から1年ないし2年ほどで、ヴェートルから中央本部は撤退。
ヴェートルという世界の管理は、現地政府の手に委ねられる」

『そんなに短いのっ!? ・・・・・・ちょっと待って。
GPOを追い出してから盛り返すのに、さすがにそれは』

「足りないだろうな。そして上はそこも承知だ」



なお、フェイトには伝えていない。今話したら希望を砕きかねない。

・・・・・・組織の意向はともかく、相互理解を進められるかも知れないという希望をだ。



『つまり、もうヴェートルという世界から手を引くことは決定と。
でも、完全に好き勝手というわけにはさすがにいかないよね』

「当然だ。定期的な状態観察も必要だし、そこの辺りについても要協議だ」



そこには魔法文化の推奨も含まれている。元々魔力は、環境汚染の心配が少ないエネルギーではあるからな。

ヴェートルの技術者達も、独自に研究は進めていたんだ。そういう部分での法的配備も課題の一つになる。



『まぁ、その世界の人達にとっては良いことなんだろうね。ただ・・・・・・クロノ達管理局局員として見ると』

「完全な敗北だ。管理局は、僕達の理念は、あの世界では不必要と判断された」



苦々しい事ばかりだと、胸の内で悪態をつく。

事件に全く対処出来なかった事もそうだが、これだって同じくだ。



「そして上はここから信頼を取り返す事を諦め、それを認めてしまった。
現実問題としてそれは間違いない。本当に嘆かわしい事だ」

『だからこそ、フェイトも辛いと』



・・・・・・なんだ、コイツも聞いていたのか。僕は何気にビックリだぞ。



『リンディ提督が謝罪のために通信をかけてきた時に、ちらちらとね。
まぁ仕方ないんだろうね。フェイトは管理局に助けられた子だから』

「だからこそあの子は管理局という組織が、そこの人達が好きになっている。どんな問題があろうと、それでもだ」



それに関してはなのはもだな。あの子も小さい頃に色々あって、自身へ強いコンプレックスを持っている。

だからこそ魔法に出会えて、自分にやれる事を見つけられて嬉しかったと、教えてくれた事がある。



「だが・・・・・・なんというか、それが良いことなのかどうかは、僕には判断がつかない」

『また弱気だね。どうしたのさ』

「弱気にもなるさ。・・・・・・親和力という力の事を、ずっと考えていたんだ」





強い力と輝きは、人の心・・・・・・いや、時としてその運命さえも変えるきっかけになる。

今回の恭文がアレクシス公子や維新組の方々を変えるきっかけになったように。

そして、家族を失った悲しみで途方に暮れていたアルパトス公女を、親和力が変えたように。



そしてその親和力が、世界を混乱に導き甘い信仰で埋め尽くそうとしたように。





「僕達管理局も、その規模や理念の正しさ、そういったもので親和力を使っているのではないかとな。
というより、最近フェイトや恭文とそういう話をしたんだ。・・・・・・・僕達も公女とさほど変わらなかったよ」





今回の事件を通じて思ったのは、実は親和力の性質自体は、特別なものではないと事。

いわゆる強烈なカリスマを持った人間・・・・・・いや、そこに関しては人だけではないか。

人は何にしても強い輝きに魅せられる。理念やその生き様、場合によっては金などの俗物的な物。



何にどんな輝きを感じるかは、人それぞれだ。世間的に正しいかどうかは、また別問題。

だが、そこに強い何かを感じた時に人は強烈に惹きつけられる。僕にもそういう覚えがある。

そう考えると、管理局の掲げるシステムや理念はそれなのではないかと感じた。



あとは、これから僕達が本格的にかざしていく餌だ。僕や母さんも、公女と変わらないな。



親和力・・・・・・強い輝きをかざし、人を利用しようとしているのだから。





「フェイトやなのは、局に対して夢を持った連中を僕達の親和力で利用しているだけかも知れない。
僕達の組織は、自分達の理念一つマトモに通せない場所だと言うのにな」

『・・・・・・確かにそうかも知れないね』



コイツは聡い奴だと昔から思う。だから苦い顔で、僕の言葉を肯定した。

そして遠慮のない奴だ。普通ここは『そんな事ないよ』とか言うだろ。・・・・・・僕は苦笑した。



『正直ね、僕も今回の事を考えると『最後に決めるのはその人だから、輝きをかざした人間に罪はない』なんて言えないんだよ。
その結果がリンディさんやなのは、ヴェートル中央本部の暴走と公女の犯罪行為の傍観でしょ? なんか難しいよね』

「確かにな。逆にあまり干渉し過ぎても、それは人のためにも世界のためにもよくはない」



恭文に前に借りたパトレイバーという漫画で、警察機構は風邪薬だという比喩があった。だからこそ、飲み過ぎには注意。

いわゆるロボット漫画だとタカをくくって読んでいたら、色々と考えさせられてしまったのを今思い出した。



「なにより、それでは今フェイトが頭を痛めている公女と同じだ。
・・・・・・輝きをかざした人間にも責任がある。それも決して小さくない責任だ」

『そうだね。そう考えると、恭文君はこれからも楽ではないよね』

「どういう意味だ?」

『あの子にもその輝きがあるから。その決して小さくない責任と、きっとずっと向かい合う必要がある』



ユーノはどこか嬉しそうにそう言った。・・・・・・どうやら、ユーノも恭文の力を買ってくれている人間のようだ。



「アイツは大丈夫だろ。本人は今回の一件でのアレコレへの自覚が全くない。
自分の手の小ささと無力さを、最初の時に痛感しているからだろうな」

『・・・・・・そうだね。きっとあの子は、公女みたいに自分から輝きをひけらかすような真似はしない』



そこが公女との違いなのだろうなと思った。まぁあれだ、多少性格がいい加減な人間の方が、色々強いんだろう。

あとは単純なところとかだな。真面目過ぎると、今のフェイトや公女のようになってしまう。



「何事も過ぎない方がいいのだろうが、その塩梅が組織全体でまだよく分かってないように感じる」



その例の一つが今回のアレコレだ。そしてそれらは氷山の一角に過ぎない。悲しいことにな。



「おかしい話だ。管理局が設立して、来年でもう75年目だと言うのに」

『まだ75年・・・・・・かも知れないよ? 巨大な組織としては歴史が浅いのかも。
もしくは世界の変化に、管理局という組織はその巨大さゆえに全くついていけてない』

「なるほど。だからどこか停滞しているように感じると」

『まぁあくまでも一例として聞いてもらえると、嬉しいな。
とにかくアレだよ、その辺りもまた今度じっくり話そうよ』



言いながらユーノは安心させるように表情を崩す。そして、右手を上げてクイクイと動かす。

その様子を見て、僕は少しだけ重い気分が剥がれていくのを感じた。



『この間行ったステーキ屋さんで美味しく食べた後に、お酒なんて軽く飲みつつさ。
この調子でやると、普通に一晩話す肴にはなりそうだし』

「そうだな。男二人で一晩こういう話も、まぁ悪くないだろ」










新暦74年の11月、世界は・・・・・・とりあえず元の落ち着きを戻した。

・・・・・・そう、『とりあえず』はなんだ。まだ本命は来ていない。

それも僕の憂鬱の原因の一つ。そして、罪の一つ。僕はまたかざす必要がある。





僕達の組織の理念と『親和力』をだ。・・・・・・そこだけは、抗い切れないと思っている。





なんというか、僕はアレだな。遅かれ早かれ地獄に落ちてもおかしくない。覚悟だけは、しておくか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・シルビィから話を聞いた翌日、アレクがアンジェラと来た。





それで、色々と話を聞いた。だから・・・・・・病室でお別れ。










「・・・・・・そっか。ちなみに連絡とかは」

「しばらくは無理だそうです。下手に接触を持つと、僕だけではなく恭文さん達も危ないそうなので」

「アンジェラも同じくなのだ。うー、管理局はケチなのだ」



そう膨れて言うアンジェラに、僕達は苦笑する。でも・・・・・・しゃあないんだよね。

術式で完全封印出来たとは言え、アレクが危ない目に遭う可能性は大きいから。



「アレク、ごめんね。見送りとか行けなくて。というか、この格好で」

「ごめんです。でもでも、ここの婦長さんは厳しくて抜け出すと怖いのです」

≪ハッキリ言って、鬼ですね≫

「あははは・・・・・・大丈夫です。そのためにこちらから出向きましたし。あの、恭文さん」



アレクが、ベッドに腰掛ける僕を見ながら・・・・・・頭を下げた。



「色々と、ありがとうございました」

「ううん。てか、僕だけがどうこうじゃないし。アンジェラもそうだし、シルビィ達みんなのおかげだよ」

「はい。ただ、そこだけじゃないんです」



え? そこじゃないって・・・・・・どういう事だろ。僕、他になんかしたっけ。

アレクは頭を上げながら、嬉しそうに笑って言葉を続けた。



「あの時、サードムーンの中枢で・・・・・・自分は僕の騎士だと言ってくれた事です」



僕はリインと顔を見合わせる。そう言えば・・・・・・あぁ、ありましたねー。



「あの時、すごく嬉しかったんです。僕みたいなのにそこまで言ってくれる人が居るとは思わなくて」

「そんな事ないよ。・・・・・・僕は、アレクだからそう言えたんだよ?」

「だったら嬉しいです。本当に、ありがとうございました」



アレクが右手を出してくる。だから僕はベッドから立ち上がって、その手を取る。

アレクの手はやっぱり細くて、小さくて・・・・・・だけど、とても強い手だった。



「アレク、もし何かあったら気にしないでいつでも呼んで? 僕はアレクの騎士だもの。
何かあるならその時はまた『ガラじゃない』なんて変えて、助けに行くから」

「あ、リインもお供しますよー」

「うー、アンジェラも同じくなのだー。アレク、絶対だよ?
アンジェラも恭文もリインちゃんアルトアイゼンも、アレクの一番の味方で友達なのだ」

「・・・・・・あの、ありがとうございます。ホントに・・・・・・ありがとう」



それでそこからまた少し話して・・・・・・お別れの時間が来た。アレクは病室から出て行く。アンジェラも同じく。

アンジェラが転送ポートまで付き添って、そこからまたはやて達が引きとってくれるらしい。



「アレク・・・・・・またね」



そう言うと病室から出ようとしているアレクは振り向いて、今までで一番の笑顔を見せてくれた。



「はい。また必ず・・・・・・必ず、会いましょう」



こうしてアレクは一歩踏み出した。名前も、経歴も変わっちゃうけど・・・・・・それでも一歩。

悲しい事も苦しい事も引っくるめて、アレクは笑顔で前に進んでいった。



「・・・・・・恭文さん」

「うん」

「良かったですね。アレクさん、公女の事があっても・・・・・・ようやく、笑えるようになったです」

「そうだね」



リインが嬉しそうにアレクが出て行ったドアの方向を見る。確かに・・・・・・そうなんだよね。

あの笑顔は全部含めているから・・・・・・だから笑えるんだ。僕は、そう思いたい。



≪あなたが色々と傷を負ってでも頑張った甲斐が、あったじゃないですか≫

「そんなことないよ。僕は頑張ってなんてない。・・・・・・全部、アレクが頑張ったからだよ」

≪それもそうですね。あなたはいつも通りですし≫

「そういう事だよ。うん、そういう事だと思う。やっぱり『一番の味方』は・・・・・・難しいのよ」



・・・・・・というわけで、そこの辺りも話しつつもアレを頂きましょう。

僕はベッド脇の戸棚の上の白い箱を見る。それはアレクが持って来てくれたアップルパイ。



「じゃあリイン、早速いただいちゃおうか」

「ですね。・・・・・・恭文さん、アレクさん・・・・・・大丈夫ですよね」

「大丈夫だよ。うん、きっと・・・・・・大丈夫」










それから2時間後、アンジェラからメールが来た。アレクははやて達がちゃんと預かってくれて、本局に跳んだ。

ただ、凄まじく誤字や脱字が多かった。この辺りは、泣いているかなにかだと思って、僕はツッコまなかった。

とにもかくにも僕はこの翌日に退院予定。それでEMP分署は、EMPDのメンバーが引き続き使う形になるらしい。





だから僕達は引越しのための準備などを進めて・・・・・・あぁ、そうだよそうだよ。

シルビィは車とかバイク持ちだから、その辺りが大変だったんだ。あと衣服類。

そういうのを無理矢理に手伝わされて、GPO・EMP分署はもうすぐ解散の日を迎える事になる。





それで・・・・・・あぁ、なんか軽い催しするとか言ってたな。というか、EMP市庁主催のお見送り会?

GPO・EMP分署撤退の前日に、市長さんがなにやら話すとかなんとか。

まぁそうだよね。形式的にもこういう事はしっかりしておかないと、色々問題になっちゃうもの。





あ、それで忘れてた。アレクが作ってくれたアップルパイは、本当に美味しかった。





・・・・・・とても甘くて、程よく酸味があって、ほんの少しだけ少しほろ苦い味だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



現在、僕は無事に退院して・・・・・・中央区のあるところに来てる。

というか、先日話した式典だね。市長はまず、GPOに対しての感謝の祝辞をながーく話した。

そして更に、GPOの撤退に基づくプロパガンダ的なあれこれを更に長く話す。





ようするにこの撤退があくまでも前向きな方向だと強調しまくっているわけですよ。










『・・・・・・このように、ヴェートルのこの4年間における発展の数々は、GPOの方々の尽力が無ければ成立しません。
今回のEMP分署の撤退がヴェートルにとって、次元世界の中で独り立ちするために必要なのは明白ですが』

”でも・・・・・・あのはげちゃびん、どんだけ喋りまくるんでしょうね。既に30分越えですけど”

”確かに。シルビィ達も軽くうんざりしてる感じだし”

”というか、リインもお疲れモードなのです。うぅ、ちょっとグダグダなのです”



ただ、ここの辺りはヴェートルからすると嘘ではない。だって普通に自分達の主張が通った事でもあるから。

なお、シルビィ達は壇上に上がってる。僕はまぁ、正式なスタッフじゃないし一応ここでね。



『それでもやはり惜しくはあります。ただ、我々は忘れてはいけません。
未熟だった我々を守る盾となり、世界に巣食う悪を断つ剣となった彼女達が居た事を』



やっぱりGPOは次元世界の・・・・・・『異星人』でもあって、そこの辺りで思うところもあるんでしょ。

ただ、それでも中央本部よりも人気があるのは凄いと思う。ここの辺りはやっぱりシルビィ達の頑張りだよ。



『そして最後に』



あ、最後なんだ。・・・・・・アレ、おかしいな。普通の祝辞なのに色々安堵してしまった。

話してる内容もかなりいいのよ。プロパガンダ的な要素があると考えなければ。



『もう一度・・・・・・この世界のために尽力してくださったGPO・EMP分署スタッフに、感謝の気持ちを伝えたい。
・・・・・・政治上のやり取り等でぶつかることも多々ありましたが、この世界とEMPに住む住人を代表して言わせていただきたい』



そして市長は・・・・・・横に疲れ気味に立っていたシルビィ達の方を見て、また綺麗にお辞儀をした。

それからマイクの方に戻って、言葉を続ける。コレは多分、スピーチの類じゃないと思う。



『・・・・・・ありがとう』










その市長の言葉を皮切りに、会場内で拍手が巻き起こる。きっと感謝の気持ちを伝えるための拍手。

僕も・・・・・・うん、一緒になって拍手した。でも、なんか・・・・・・アレだね。シルビィ達の頑張りはやっぱり通じてたんだよ。

目上目線だけど、そうじゃなかったらこの拍手には絶対に繋がらないから。なんか良かったな。





シルビィ・・・・・・良かったね。でも、泣くのはやめな? ほら、化粧がちょっと崩れてるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、式典は補佐官を務めていたフジタさんが出て少し話をしたりして・・・・・・静かに幕を閉じた。

僕はシルビィ達と合流。というか、シルビィが泣き崩れて・・・・・・また甘えて来たので、優しく抱きしめた。

とにかくこれでEMP分署のお仕事は終了。あとは明日みんなで次の仕事先へ出発するだけである。





なんか・・・・・・感慨深いなぁ。僕、マジで歴史や時代が変わる瞬間に立ち会えたんだよね。





色々思うところも無くはない。うん、そこはかなりね。でも、それでもこれがいい結果を呼び起こすと信じたいな。










「・・・・・・でも、せっかくだからお前も出れればよかったんだけどな」

「そうよそうよ。それなのにEMP市庁の連中、『正式なスタッフじゃないからダメ』とか言い出すし」

「リインちゃんも局員だからアウトーって言われたのだ。うー、そんなのおかしいのだー」

「そうですよね。恭文さんとリインさん、本当に頑張って協力してくれたのに」



ジュンとナナとアンジェラとパティが不満そうだけど・・・・・・まぁ、僕達はそう言ってもらえるだけでありがたいのよ。

色々いい方向に転がり始めたのは嬉しいし、うん・・・・・・それで充分かな。



「少なくとも蒼凪さん達は私や長官よりも今回の件では働いてくれていますし、本当に残念です」

「・・・・・・あの市長、多少は柔らかくなったと思ったんだが。全く、これでは先が思いやられるぞ」



なお、サクヤさんとメルビナさんももうすっかり元通り。うーん、ここは本当に良かったよ。



「いっそ無理矢理にでも乱入させるべきだったか? どうせ蒼凪は悪評の方が多い。ここで一つ増えたところで」

「長官、それは名案ですね。あぁ、私達はどうして先程それを思いつかなかったのでしょう」

「こらこらっ! サクヤさんもメルビナさんも無茶苦茶言わないでっ!?
てーか、それ犯罪でしょっ! あと、僕を一体なんだと思ってるのさっ!!」

「「・・・・・・蒼凪恭文」」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



そしてシルビィは・・・・・・僕に抱きついたまま頭をゴロゴロさせて甘えてる。

とりあえず、そろそろ千尋の谷に突き落としたくなった。だって、絶対泣き止んでるし。



「フジタ補佐官、補佐官もお疲れ様なのです」

≪中々の名演説だったじゃないですか。途中で市長殴るし≫

「あぁ。・・・・・・ちょっと待てっ! そんな事をした覚えがないぞっ!?」

≪いや、ゲームでしてたじゃないですか≫

「一体何の話だっ!! ・・・・・・それでみんな」



フジタさんが、神妙な面持ちで僕達を見る。それで・・・・・・少し緊張し気味に言葉を続けた。



「俺がGPOに来た当初、歓迎会を空気を読まずにぶち壊した事があっただろ」

「あぁ、あったわね。で、補佐官・・・・・・それがどうかしたのよ」

「今更ではあるんだが、そのやり直しがしたいんだ。まぁ今回は歓迎会ではなく・・・・・・さよなら会だが」





・・・・・・あぁ、思い出した。以前シルビィから聞いた話だね。でも、それも今なら納得出来る。

フジタさんは元々維新組の人間。だから、普通に『異星人』の集まりであるGPOと仲良くする気が無かったのよ。

というかもしかして、毛嫌いしてたのかも。だから歓迎会なんてやられてキレた。



でも、今は違う。だってこの人はもう・・・・・・GPOの一員なんだから。





「・・・・・・もちろんですよ、補佐官。というか、最後なんだし思いっきり騒ぎましょうよ」



だからシルビィも僕から身体を離して、こう言うの。満面の笑みで、補佐官に笑いかける。



「そうだな。よし、それでは現時刻から補佐官の歓迎会のやり直しとEMPへのさよなら会を行うぞ。
・・・・・・全員、覚悟を決めろっ! 今日は翌朝までノンストップで飲み明かすぞっ!!」



メルビナさんの号令に、全員が敬礼する。僕とリインも少し遅れて・・・・・・敬礼した。

そして声を揃えて、僕達は周りの目も気にせずに叫んだ。



『了解っ!!』










・・・・・・こうして、マジでノンストップで飲み明かす事になった。というか、フジタさんと宴会は何気に初めて。

静かに落ち着いて飲む人だったけど、今日に至ってはジュンやらアンジェラやらメルビナさんに引っ張られて大変だった。

それで僕もずっとシルビィとリインの相手してたし・・・・・・でも、本当に楽しかった。だから少し寂しい。





このメンバーとずっとここで仕事出来たら・・・・・・本当に、本当に楽しかったんじゃないかと思ったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして全員、出発の時間になって軽くハイテンションなままEMP分署を出た。





中央本部から本局に跳んで、ヴェートルを後にする。それで・・・・・・ついにお別れの時が来た。










「・・・・・・じゃあ、ここでお別れね」



ここは本局の転送ポート場。シルビィ達はここからまた、別の世界に跳ぶ。

なお、向こうにもう例の移動式の分署があるので、普通に行くだけでOKとか。



「でもフジタさん、なんであなたここに居るんですか」

「お前・・・・・・酒を飲みながら説明しただろうが。俺は正式にGPOのメンバーに入ったんだ」



いや、だからなぜ? なぜにそうなるのかが、僕は色々疑問だよ。

ほら、維新組の黒い奴だったのに。どうしてそうなるのさ。



「今回の一件で、自分の見聞の狭さを痛感してな。ミドウ総大将達とも色々相談した。
・・・・・・俺もお前と同じようなものだ。色々なものを見聞きして、旅の中で自らを磨くことにした」

≪それでGPOですか≫

「あぁ。それでいつかヴェートルに戻るつもりだ。やはり俺が守りたい場所は、あそこだからな」



言いながら、フジタさんが両手を出す。不器用に笑いながらも出された両手を、僕は同じように差し出して握り締める。



「蒼凪、世話になったな。俺はお前から本当に色々と教わった」

「・・・・・・僕、何もしてませんよ? というか、お世話になったのは僕の方ですし」



いや、真面目にフジタさんに何かした覚えないって。僕、なんかやった?

・・・・・・あ、黒い奴だってバレた時に、『気付かなかった』って言ったことか。うん、納得した。



「相変わらず自覚なしか。まぁいい、そこがお前らしさでもある。・・・・・・リイン、アルトアイゼン」

≪「はい?」≫

「蒼凪を守ってやってくれ。蒼凪には強い力がある。
だがその力は、蒼凪が蒼凪らしくなくては発揮されない。頼むぞ」

「言われるまでもないのです。リインは何時だって恭文さんの一番の味方なのです♪」

≪まぁ、私もこの人とバカやるのが好きですし・・・・・・引き受けますか≫



よく分からないやり取りだけど、それでもOKらしい。

補佐官は満足そうに頷くと・・・・・・あ、次はパティか。



「恭文さん、あの・・・・・・ありがとうございます」



それで同じように両手を繋ぐ。てゆうか、僕は何した? パティになんかした覚え無いんですけど。



「公子の力の事を聞いた時に恭文さんが言った言葉、私も嬉しかったんです。その、今更ですけど」

「・・・・・・ううん。パティ、ランディさんと仲良くね。アレだよ、片想いの先輩からの助言としては・・・・・・押していこうか」



アレだね。パティは見てると押しが足りないと思うの。基本弱気な子だし、それも分かる。



「というか、もうちょっと自信持った方がいいよ。・・・・・・今目の前に居るパティは、充分魅力的だよ?
生まれの事も、悲しい事も楽しい事も全部含めてここに居るんだから。だから、パティは綺麗なの」

「恭文さん・・・・・・ありがとうございます。あ、上手くいったら報告しますね」

「うん。待ってる」



パティは嬉しそうにしながらも手を離して・・・・・・次はサクヤさん。



「やはり、こういう場合は例に倣うべきでしょうか」



などと言いながらちょっと躊躇いつつ両手を差し出すので、僕は優しく握り締める。

・・・・・・あの、何故に顔を赤くするんですか。というかおかしいでしょ、この反応は。



「私、殿方とここまで強く手を繋いだ事がないので」

「そうなんですかっ!?」

「はい。私は神にこの身を捧げているので・・・・・・その、あなたとシルビィがするような正面からの抱擁もあまり」



・・・・・・あぁ、司祭様だもんね。地球で言うところのシスターみたいな感じで、恋愛関係は抑え気味なのか。



「あの、僕なんかでよかったんでしょうか。ほら、初めてですし」

「いえ、大丈夫です。助けていただきましたし、それに・・・・・・あなたの手はとても優しいのですね。
私、シルビィやアレクシス公子とここまで絆を深められた理由をやっと理解しました」

「そう言ってもらえると・・・・・・出来れば、サクヤさんとももっとお話したかったです」



うぅ、それは口惜しいなぁ。だって、絶対フェイトレベルの逸材だと思うのに。



「・・・・・・あら、いけませんね。私が目の前にいるのに、フェイト執務官の事を考えては」



何故に分かったのさっ! この人、もしかしなくてもすっごく勘がいいっ!?



「とにかくお元気で。あ、もし良ければ今度アーカネストにいらしてください。歓迎します」

「あ、あははは・・・・・・必ず」



そして、サクヤさんの細くて白い手が離れる。次は・・・・・・あ、なんか片手だけ出して来た。



「ま、アレよ。色々・・・・・・ありがと」

「ううん。僕もナナに色々教えてもらったし、助かった」



僕は少ししゃがんで、視線を合わせる。合わせて、不器用に差し出された手を握り締める。

両手で優しく、細い手が壊れないように・・・・・・優しく。



「まぁ、最後かも知れないから言っておくわね」

「何?」

「ラジオのオーディションの時さ、アンタが私の料理をネタにされないようにって気遣ってくれたの・・・・・・ちょっと嬉しかったの。
いやさ、私の料理ってどういうわけか評価が悪くて、色々言われたりして・・・・・・だから、その・・・・・・今度食べさせてあげるわ」



あぁ、そりゃありがた・・・・・・ちょ、ちょっと待ってっ!? 僕、もうその話聞いてるんだけどっ!!

こう、あれは色通りの味って・・・・・・断れないっ!? うん、無理だよねっ! 分かってたわっ!!



「分かった。じゃあ食べるよ。あ、それだとまた会いに行かなきゃいけないね」

「そうね。・・・・・・だから、また」

「うん」



そして、ナナの手が離れ。



「あー、ちょっと待って」



でも、すぐにまた手を強く掴まれた。そして、左手をそっと胸元に当てられる。



「・・・・・・あぁ、やっぱりかぁ。でもどうして・・・・・・ううん、考えるまでもないか。
強く信じるなら、誰のこころの中にでも息づくものだもの。うん、納得した」

「・・・・・・ナナ?」

「ね、アンタの中の輝き・・・・・・生きてるんだからね?」

「え?」



言っている意味が分からなくて、僕は首を傾げる。



「アンタが信じてるもの・・・・・・夢や願い、それに『なりたい自分』は生き物なの。
人間とは違う成り立ちの仕方だけど、それでも生きてる。それはただの思考パターンなんかじゃない」



それでもナナはいつものツンツンモードとは違う少し優しい目で、そのまま言葉を続ける。



「アンタのこころの中で息づいて、アンタが本当の意味で生きていくために必要な力をくれているの。
そしてそれが無かったら、人はただ呼吸するだけの存在になっちゃう。この事、絶対に忘れないで」



ただ、大事な話ではあるらしい。その優しい瞳の中に、確かに真剣な色が混じってるから。



「そして大事にして。アンタはこの世界の人間としてはその輝きが強い方なんだし、絶対大事にしなきゃだめよ。
じゃないと、一生会う事なんて出来ないわよ? 自分の中の輝きに会える人間なんて、そうそう居ないんだし」

「あ、あの・・・・・・ナナ? 言ってる意味がよく」

「いいから覚えておきなさい」



そしてその真剣な色ゆえに、ナナは僕に有無を言わせてくれないらしい。

瞳が言ってるの。『ごちゃごちゃ言わずに私の言う事を覚えておきなさい』って。



「アンタが自分を信じられるなら、いつか絶対に私の言ってる意味が分かる日が来るから。
・・・・・・・いいわね? この私、ナナイ・ナタレシオン・ナインハルテンとの永遠の約束なんだから」

「え、えっと・・・・・・うん、分かった。よく分からないけど、約束する」

「ならよろしい」



そのままナナは右手を離して、今度は両手で僕の手を握ってくれる。



「じゃあ、またね。・・・・・・恭文」

「うん、またね」



それからゆっくりと、ナナの手を離す。度は僕より背が高いので、また立ち上がる。

今までと同じように握り締める手は、ちょっとゴツゴツしてて・・・・・・だけど、とても強い手。



「何かアレだよな。ヴェートル案内とか、あたしもしてあげたかったんだけど・・・・・・悪いな」

「ううん。僕も怪我しちゃったりしたから。というかジュン、いいの?」

「ですです。ジュンさんはヴェートル出身者なのに」



ジュンも、フジタさん達と同じくGPOメンバーとして旅立つ。だから、話聞いた時はビックリしたっけ。



「いいんだよ。あたし、もうGPOが気に入ってるしさ。おふくろにも納得してもらってる。
まぁあれだ。また何かの時は頼りにするから。・・・・・・あ、それとフェイト執務官は頑張れよ」

「・・・・・・努力するよ。骨折られたのに、キスもバストタッチもだめだったけど」

「それはお前が悪い。女心はそんな簡単じゃないんだよ」

「それでもアレは痛かったんだよっ! それくらいしてもいいと思うんですけどっ!?」

「だめだ。んじゃ、またな」



そうして、ジュンの手が離れ・・・・・・うわふっ! いきなり抱きついてくるなー!!



「うぅ、ヤスフミ・・・・・・リインちゃん、アンジェラ寂しいのだ」

「いや、そうは言われましても・・・・・・でもほら、アドレス交換したし」

「それでも寂しいのだー! 二人も一緒に来るのだー!! 7年スルーなんて、放置でもいいよねっ!?」



そしておのれらはイチイチフェイトの事を持ち出すねっ! 一体それ、どういう事っ!? 僕は色々びっくりなんだけどっ!!



「でもでも」

「うん?」

「またたまにでいいから会いに来てくれるなら、恭文のご飯をまた食べさせてくれるなら・・・・・・アンジェラ、ちゃんとさよならするのだ」

「ん、必ず会いに行くよ」



僕は両腕でアンジェラの身体を抱きしめる。アンジェラ、子どもだからかも知れないけど・・・・・・凄く温かい。



「アンジェラ、ありがと。僕、アンジェラが『ただ一番の味方になればいい』って言ってくれた時・・・・・・ホントに救われたんだ」

「ううん。恭文はすっごく強い子だから・・・・・・きっど、色々考えちゃうんだよね。
でもでも、そのままの恭文でいいのだ。そのままの恭文が、アンジェラもアレクも好きなのだ」

「・・・・・・ん」



そして、アンジェラが僕から飛び降りる。そうして笑顔を浮かべながら、僕に手を振る。



「恭文、またなのだ」

「うん、またね」



アンジェラはやっぱりアンジェラだから、たくさん笑ってさよなら。

それで・・・・・・あぁ、この人との対決もしたかったよなぁ。



「蒼凪、あの脳筋によろしく伝えておいてくれ。今度は絶対に負けんとな」

「あははは・・・・・・普通にそれですか」

「当然だ」



言いながらも、僕達は握手。メルビナさんはもうシンパの時のような感じではなく、ホントにいつも通り。

あのラジオのオーディションの時と同じような感じで・・・・・・うん、そこは嬉しい。



「あと、もしよければお前もGPOのランサーにならないか?」

「え?」

「私としては、お前の能力と資質は非常に高く評価している。それになにより、今回の一連の流れだ。
お前が居なければ、事件は解決しなかったとさえ思っている。・・・・・・どうだ?」

「えっと、それはすごく嬉しいんですけど・・・・・・すみません、まだ修行期間中で。
あとそれが終わったら、再来年の春までやらなきゃいけないことがあるんです」



はやてが新設する部隊の手伝いだね。公女の一件はともかくとして、ガジェットは出続けているらしいし。

みんなの手伝い、外からでもしなくちゃ。そのためには、まだまだ特訓ですよ。



「・・・・・・そうか。それはお前にとって大事な事なんだな?」

「はい。大事な友達たちとの・・・・・・ううん、自分との約束ですから。それで期間も期間ですし」

「なら納得しよう。まぁアレだ、そうは言ってもまた何かの折には呼び出す可能性もあるので、覚悟しておくように」

「あはは・・・・・・そうなって欲しいようなならないで欲しいような。
また会うなら、事件絡みじゃない方が嬉しくはあったりします」

「確かにな。ではそちらの方向で考えておくか。それでは・・・・・・また会おう」



それで笑顔で僕達は互いの手を離す。それで最後は・・・・・・うん、この子だよ。



「もう、大丈夫?」

「えぇ。ただ、またちょっと泣きそう。・・・・・・アバンチュール、おしまいだもの」



それはシルビィ。シルビィは、手を差し出さない。ただ、両手の後ろに回している。



「そうだね。というか、入院中はありがとね。ホントに毎日来てくれて」

「ううん。・・・・・・ね、ヤスフミ」

「何?」

「私、あなたの事・・・・・・本気で好きになりかけてた」



・・・・・・うん、そうだね。なんかこう、そういうの気づいてたから。



「だめよね。アバンチュールだって分かってたのに、本気になっちゃうんだもの」

「シルビィ、あの」

「何も言わないで? ・・・・・・前にも言ったでしょ? 一瞬で燃え上がって、綺麗なまま散りゆく淡い恋もあるって。
私、本当に嬉しかったの。私のワガママなのに、それでもヤスフミと一緒にそういう恋が出来たもの。だから」



シルビィは、瞬間的に踏み込んで抱きついてきた。それで・・・・・・そのまま僕の唇のすぐ横にキスをする。

唇を離して、すぐ目の前にシルビィの顔。吐息がかかるくらいの距離で、とてもドキドキする。



「ヤスフミ・・・・・・お願い」

「同じ、ように?」

「うん」



だから僕はシルビィの唇のすぐ横に、キスをした。お別れと、また会おうという気持ちを込めて。

唇を離して、シルビィが同時に身体を離す。ゆっくりと・・・・・・でも、確実に。



「ヤスフミ・・・・・・またね。アバンチュールはおしまいだけど、私達は友達だから」

「うん」



言いながら、僕達は互いに手を伸ばして・・・・・・そっと繋ぎ合う。強く握って、気持ちを伝え合う。



「シルビィ・・・・・・大好きだよ」

「私も。私は、あなたの事が・・・・・・好き」



そしてゆっくりと離す。シルビィは後ずさるようにして下がって・・・・・・みんなの輪に戻る。

それからみんなは、すぐ近くのポートの上に乗る。僕とリインは手を振る。



「みんな、またねー! 必ず会いに行くからー!!」

「またですよー!!」

≪それでは・・・・・・また≫



みんな手を振り返してくれて・・・・・・シルビィが一番、大きく振ってくれる。



「ヤスフミ、またねっ! 絶対・・・・・・絶対また会うんだからっ!!」



その声を最後に、みんなの姿が消えた。・・・・・・みんな、旅立っていった。

新しい世界に飛び込んで、それで・・・・・・また同じように頑張る。



「・・・・・・リイン、アルト」

「はい」

≪えぇ≫

「帰ろうか」



僕は振っていた手を下ろして、足元に置いていたリュックを拾い上げる。

それからまた背負って・・・・・・一歩ずつ、ミッド地上の中央本部直送の転送ポートを目指す。



「・・・・・・恭文さん、いっそのことシルビィさんとお付き合いしてもよかったんじゃないですか?」

「いいのよ。互いに納得済みのひと夏の恋だったんだから。うん、これでいいの」



歩を進めながら、数ヶ月空き家状態にしてある家に戻る。とりあえずは、のんびりとだね。



≪ということは、ちょっと本気になりかけてたんですか?≫

「・・・・・・実はね。結構さ、揺らぎかけてた」



なんだかんだで・・・・・・うわ、もう3ヶ月とかそれくらいだし。

8月だったのが、もう11月とかだよ? 普通に僕、びっくりだって。



「でもでも、リインもいい経験が出来ました。結構色々あったですけどね」

「そうだね。・・・・・・リイン、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。恭文さんと一緒なら、リインはどこまでだってがんばれるのです♪」

「・・・・・・そっか。リイン、ありがと」



世界には色んな矛盾がある。管理局による管理システムも同じく。決して全部が正しいわけじゃない。

だからきっと今後も・・・・・・ヴェートルみたいな世界は出てくると思う。それでまた、色々とゴタゴタする。



「大丈夫ですよ。さて、それじゃあリインははやてちゃんのお家に戻らないと」



ヴェートルという世界がどうなるかは、正直誰にも分からない。まだ新しい一歩を踏み出したばかりだから。

だけど・・・・・・それでも大丈夫な気がする。だってあの世界の人達は、すごく強い人達ばかりなんだから。



≪そう言えばあなた、仕事休みまくってるんですよね≫

「はいです。それでそれで、今度こそ認めさせるです。恭文さんとのエロは今からでもアリだと」

「アリじゃないよっ!? てゆうか、まだその野望を持っていたんかいっ!!」





新暦74年の11月の後半。カラバのクーデターから端を発する一連の事件は、こうして終わりを告げた。

数々の傷と犠牲を受けながらも、それでもようやく終わり。公女とオーギュストの裁判ももう終了している。

当然だけど有罪。二人は衛星軌道上の軌道拘置所で無期懲役刑を受けて、服役を開始した。



この事件は非公式ファイルで『AKB(アルパトス・カラバ・ブランシェ)事件』、または『カラバ事件』と呼称される事になる。

そして事件の真実が世間に公開される事が永遠に無いというのを、僕達はまだ知らなかった。

この辺りは親和力のせいだね。まぁ・・・・・・アレだよ、普通にアレクの時間は先に繋がっていったって事だよ。



とにかく世界は静かに、平和な時間をまた刻み始める。そしてそこからまた一歩、前へ歩き出す人間も居る。

例えばシルビィ達のように。例えばヴェートルの人達のように。例えば・・・・・・強くて優しいあの子のように。

そんな中、僕とリインとアルトは事件の余韻とかそういうのを吹き飛ばすくらいに、騒ぎながらも前に歩く。



ただひたすらに笑って、ただひたすらに・・・・・・掴みとった勝利と大切な時間を、その腕でいっぱいに抱きしめる。



僕達の大切な明日は、僕達の時間は、親和なんて鎖じゃ縛り切れないくらいに大きいの。だから、全力で抱きしめるんだ。





「・・・・・・あ」





通路に出てしばらく歩くと・・・・・・人影が見えた。その人影がこちらを見て微笑む。

それは白のロングスカートに青のインナー。それに黒のカーディガンを羽織った、金色の髪の女の子。

なので僕は、軽くダッシュしてその子の前へ行く。その子は軽く右手振ってくれた。



さすがに今は抱きつけない。だって・・・・・・・ほら、ついさっきアレだもの。そこまで神経太くないし。

僕はその子の目の前で軽く見上げる。ルビー色の瞳は・・・・・・優しく僕を見てくれている。

戦いの日々はここで一旦おしまい。だから僕は、ここから始まる日常に『こんにちは』を言うことにした。





「ただいま、フェイト」

「うん。おかえり、ヤスフミ」










・・・・・・一番守りたい時間は、守りたい笑顔は、ここにある。それはとっても大きくて大切。





うん、やっぱり親和なんて鎖じゃあ縛り切れないよね。この時間は・・・・・・そんなに小さくない。




















(とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吠えまくった日々・・・・・・おしまい)






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