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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第59話 『Singin 'in the Rain/降り続ける雨は何のため? 前編』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー』

スゥ「ドキッとスタートドキたまタイム、本日もスタートですよぉ」

ラン「今日も元気いっぱい・・・・・・と言いたい所だけど、普通に雨なんだよねー」

ミキ「降り続ける雨の中、色々なところでお話が動いていくよー」





(立ち上がる画面の中に映るのは、降り続ける雨とそれを見上げる色んな人達)





ミキ「でも雨・・・・・・だめだ。なんかこう、憂鬱になってくるね」

スゥ「でもでも、雨の日は雨の日で色んな楽しみ方があるんですよぉ。
雨音を聴いてセンチメンタルな気分になったりぃ、家の中で読書をしたりぃ、他にも」





(ほんわかクローバー、ひたすらに雨の日の楽しみを話し続ける)





ラン「とにかく雨でも今日も元気いっぱい行くよー。せーの」

ラン・ミキ・スゥ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・くそ、リインの野郎。普通にアタシが買ったサーフマット持ってきやがって」

「アギト、何気にいいもの持ってるよな。うーん、アレはドキドキだぜ」

「あぁ。ただ、買ったばかりでまだ使ってないけどな。えぇっと・・・・・・リズム、だっけか」

「あぁ。よろしくなー」

「おうよろし・・・・・・って、普通にさっき挨拶したろ」



現在、僕とフェイトとリースとアギトとなぎひこは夕飯の仕込み。てーか、今日は普通に豪勢だよ。

なお、シャマルさんはそろそろお話が終わる頃と踏んで、唯世と狸達を呼びに行ってる。



「すみません。僕や恭文君が止める前に動いちゃってて」

「うぅ、ごめんね。でも・・・・・・リインとややが持ち出したの、アギトが買ったのなんだね」



なお、煮込みハンバーグという(リインと師匠とやや的に)ご馳走を大量に仕込む。

当然だけど下ごしらえもそこそこ手間がかかる。それをこなしつつも、フェイトの言葉にアギトが頷く。



「はい。普通にアレで遊んだら楽しいだろうなーと思って、密林で即買いを」

「そ、即買いなんだ。でも・・・・・・せっかくだし海で少し泳ぐのもいいよね」

「そうだね。その分みんなが大変だろうけど」



ただでさえ八神家は大人数だしなぁ。もうさざなみ寮超えてるって。



「確かに私達、普通にすごい大人数で来ちゃってますしね。ちなみになぎひこさんは泳ぎは」

「まぁ得意な方です。これでもスポーツ関係は基本的に・・・・・・リズムのキャラチェンジがなければ」

「あははは・・・・・・確かに」

「おいおい、ナギーもリースも失礼な事言うなよ。大体、ナギーは考えすぎだ。
なんでもまずやってみりゃあいいじゃないか」



ただ、下ごしらえももうすぐ一段落。あとはお鍋のお仕事だったりする。



「・・・・・・リズム、だからってアレはないって。なんでもかんでも飛び込んだって全部出来ないよ。僕の身体は一つだけだよ?」

「そうか? でも野球やサッカーやった時は楽しかっただろ」

「いや、そういう問題じゃないから」



なお、ここまで頑張って夕飯を準備するのには理由がある。



「あぁ、お前らもそこまでにしとけ。とにかくアタシらは問題ないぞ?
泊まるのも客間もあるし、雑魚寝になるので良ければ・・・・・・あ」



だからアギトも、キッチンの水場で手を洗いながらそんな事を言う。でも、その言葉が止まった。



「恭文とフェイトさんはふたりっきりの部屋がいいよな。アタシでリインとかややにシャマ姉には空気読ませとくよ。
だから恭文とフェイトさんはまぁ・・・・・・いつも通りにしといてくれ。ただ、あむ達とかには見られないように」

「「なにちょっと目を逸らしながら気持ちの悪い気の使い方してるっ!?
どうしてそうなるのか疑問だよっ! お願いだからこっち向いてー!!」」

「・・・・・・おじいさん、おばあさん、仕方ないと思いますよ?
だってその・・・・・・こっちに来てからも二人は同じ部屋ですし」



リースにそう言われて、僕とフェイトは息が詰まる。

た、確かにその・・・・・・うん、コミュニケーションで子作りも継続中だよ。



「・・・・・・やっぱりその、通じ合っている異性同士ってのはそんな感じなのか。そうか、うちだけじゃないのか」

「それはその・・・・・・というか、ヤスフミは彼氏で婚約者で・・・・・・え、うちだけじゃない?」

「八神二佐とロッサの旦那も同じなんだよ。偶数日の朝なんて八神二佐の肌がもうツヤツヤでさ。
アタシらそのツヤツヤと甘い空気に結構やられてるんだよ。もう普通に辛い辛い」










・・・・・・そう言われて、僕とフェイトは顔を見合わせる。まぁまぁ僕も聞いてはいる。





というか、フェイトは恐らく僕より聞いていると思われる。だって、すごい顔が真っ赤だし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私とヤスフミはその、偶数日の夜にそういうコミュニケーションをして仲良くしている。

元々ヤスフミが偶数日にその・・・・・・私の事を考えて一人でしてたそうなの。

だからそれに合わせる形かな。あ、あのね、私に合わせちゃうと間隔が開き過ぎて凄い事になるから。





私、ヤスフミとお付き合いする前まではそういう性欲とかって、今よりもずっと弱かったから。

この辺り、自分の中の色々な諦めのためかなとも思っている。それで・・・・・・あのね。

はやてともそういう話をするの。まぁ、女の子同士の意見交換会みたいな感じになるのかな。





それで聞いてるの。はやてはヴェロッサさんと奇数日にそういうコミュニケーションしてる事とか。

あとは結構詳しい感じかな。あの、男の子を喜ばせるテクニックとかもちょっと話したりして。

私がその・・・・・・ヤスフミに後ろからされるのが怖いのはおかしいのかなとか思ったことがあって。





前からされるのは怖くない。私が上になってするのも・・・・・・というか、上になってするのは好きなの。

私から動いてヤスフミの事気持ちよくしてあげるのは、好き。だから奉仕的なあれこれも普通に好きだったりするんだ。

でも後ろからは少し苦手。ヤスフミの顔が見えなくて、前からとか上からとかと比べると安心感が足りない。





そういう時にはメガーヌさん共々、コミュニケーションでのあれこれを相談させてもらったりしてる。

逆に私がそういう相談をされる時もあるの。それで答えたりする。

あの、私・・・・・・自分で思ってたよりずっとエッチな女の子みたいだから。





でもあの・・・・・・そ、そこまでなんだ。見る限りではそういうの無かったのに。










「まぁ、でもいいことなんだよな。結婚式ではアレだったらしいしよ」



そうアギトが言った瞬間、ヤスフミが左手で胃の辺りを押さえながら崩れ落ちた。



「ヤスフミっ!? あぁ、またトラウマ発動しちゃったんだっ! しっかりしてー!!」

「あぁ、アタシが悪かったから落ち着けよっ! てゆうかお前、フェイトさんとリインと婚約したのにそれはまずいだろっ!!」

「え、えっと・・・・・・恭文君はどうしたんですか? というか、結婚式って」



あ、なぎひこ君がポカーンとしてる。・・・・・・この辺り知らなかったんだね。



≪実ははやてさんの結婚式当日に、ヴェロッサさんが諸事情込みで失踪したんですよ≫

「え?」

「で、八神二佐も含めて全員『ヴェロッサKILL YOU』な状態になっちまったから、コイツが捜索も込みでほぼ一人で対処したんだよ」

「ただそのせいでヤスフミ、結婚式に相当なトラウマが出来ちゃって・・・・・・この間も大変だったの」

「それはまずくないですかっ!? だってフェイトさんとリインちゃんと婚約してるのにっ!!」

「うぅ、そこは言わないで?」





私もなんとか改善したいと思ってて、その結果ようやく沈静化したの。

だけど、この間のアレで再燃したらしくて。・・・・・・よし。私、ヤスフミとは同じ控え室にしてもらおうっと。

その、もう私達は色々見せ合う関係なんだもの。着替えは一緒でも問題ないんだよね。



それで前日から絶対に離れないんだ。結婚初夜のコミュニケーションの時まで、ずーっと一緒なの。



そうじゃないと、ヤスフミがまた崩れ落ちちゃうよ。





「おじいさん、しっかりしてくださいっ! というか、顔真っ青じゃないですかっ!!」

「結婚式・・・・・・いや、新郎居なくならないで。新婦もドタキャンとかやめて」

「ヤスフミー! あの、大丈夫だよっ!? 私もリインも絶対そんな事しないからっ!!」

「あ、あはは・・・・・・なんだか大変だなぁ」

「ナギナギ・・・・・・バットクールだぜ」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第59話 『Singin 'in the Rain/降り続ける雨は何のため? 前編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず崩れ落ちて唸されてる恭文君は、リビングのソファーに寝かせた。

僕達は下ごしらえの続き・・・・・・というか、一旦後片付けだね。あとは火にかけるだけだから。

リースさんが恭文君を見てくれてるので、一応は安心。でも・・・・・・相当だね、アレ。





そしてその間に、空が少し薄暗く・・・・・・って、天気悪くなり始めてるのかな。なんだか雨が降りそうだし。










「しかしなぎひこ、悪いなー。なんか手伝ってもらってよ」

「いえ、大丈夫です。お世話になってますし。・・・・・・でもアギトさん、今日って何かあるんですか?」



夕飯がやたら豪勢だったし、お昼もかなりのものだった。フェイトさんと恭文君は知ってる感じみたいだけど。



「そうだよな。なんか普通にご馳走ばっかりだし、ナギナギやフェイトさんもすげー楽しそうだったしよ。・・・・・・さっきまでな」



言いながらリズムが、恭文君達の方を見る。そして少しひきつった笑いを浮かべてお手上げポーズ。

どうやら普通に唸され続けているらしい。・・・・・・・そこまでなんだ。



「いや、アタシも細かくは聞いてないんだよ。シャマ姉・・・・・・シャマルがやたらと張り切ってこれなんだけどさ」

「うーん、だったらなんでしょうね」



とりあえず戸棚に少し使わせてもらったお皿なんかを収めて・・・・・・あれ?

戸棚の空気が冷たい。というか、奥に保冷剤が乗っかった箱がある。



「これ、なんだろ」



保冷剤があるところから見て、生ものなのは分かった。だから腐ったらまずいと思って、慎重に取り出した。

白い四角い箱に持ち手に・・・・・・あれ、なんかロゴがある。これはお店の名前かな。



「ん、なぎひこどうした?」

「あ、いえ・・・・・・これが中に」

「・・・・・・なんだこれ? なんか甘い匂いがするな」



その箱を見て、フェイトさんが一瞬動揺したように目を見開いた。でも、それをすぐに収める。

収めたけど、内心はドキドキらしい。僕の両手の箱を見て、非常にワタワタしている。



「てゆうか、氷結結界の術式が箱の周りにかかってるな」



氷結・・・・・・え、なんだろ。僕は言ってる意味がよく分からなくて、アギトさんの顔を見る。



「アギト、なんだそれ? オレやナギーにも分かるように説明頼む」

「あ、お前らは分からないか。あのな、見えないだろうけど箱の周りに魔法で特殊なフィールドが張ってあるんだよ。
それに包まれてると、包まれてるものはそこら辺に置いておいても効果が切れるまでは冷蔵庫の中にあるのと同じなんだよ」

「あぁ、それで氷結結界なんですね」

「へぇ・・・・・・魔法ってのは便利だな。よしナギー、チャレンジだ」



いや、だから・・・・・・リズムっ!? 普通になんでも首ツッコむのはやめようよっ!!



「・・・・・・いや、無理だと思うぞ。氷結系はコントロールも難しいし、結界魔法も同じくだ。
お前の宿主、普通に魔法資質あるかどうか分からないんだし、いきなりはダメだ」

「へぇ、そういうもんなのか。魔法って難しいんだな」

「そういうもんだな。魔法ってのは一つの学問だから、難しいんだ」



確かに触ってるのに、冷たさが変わらない。でも保冷剤・・・・・・あ、それもそのフィールドに包まれてるんだ。



「でもこれ、誰が?」

「とりあえずシグナムやヴィータじゃないな。ヴィータの姉御とシグナムは氷結変換は使えないんだよ。
八神二佐・・・・・・あぁ、それも無いな。細かい魔力コントロールはさっぱりだし。恭文・・・・・・なわけないか」

「そうだよな。そこはオレにも分かる。だってナギナギ・・・・・・バットクールだし」

「なにより恭文君は僕達と一緒に来たもの。それはないよ」



そうなってくると・・・・・・あ、さすがの僕でも分かる。というか、そこまで来ると大体絞られてくるよ。

この場合、予想出来るのは二人だけ。なお、僕達はお客さんだから除外される。



「・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



その声にびっくりして、危うく箱を落としそうになるけどなんとか確保。

というか・・・・・・あ、シャマルさんとはやてさんと辺里君がこっち見てる。



「シャ、シャマルさん・・・・・・どうしたんですかっ!?」

「そうやで。いきなりそないな大声出して」

「い、いえあの・・・・・・なんでもないですよ?」



それでシャマルさんはフェイトさんの方を見る。フェイトさんはその視線を受けて『うんうん』と何度も力強く頷く。

でも、当然ながら僕達はこれで納得するわけがない。なので、全員でシャマルさんを見る。



「え、えっと・・・・・・話さなくちゃ、ダメですか?」

「ダメやろうな。てーか、これ翠屋の箱やんか。どないしたんよ、これ」

「その・・・・・・実は、ですね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・はやてさんの両足の麻痺完治の10周年?」



それでその場でシャマルさんと・・・・・・事情を知っていたフェイトさんから簡単に説明された。



「・・・・・・あぁ、そやそや。うん、思い出したよ。確かに10年前の今日に石田先生から麻痺の完治を宣告してもらったわ」

「はやてちゃん・・・・・・やっぱり忘れてたんですかぁ?」

「まぁ最近色々忙しかったしなぁ」



今日の夕飯がご馳走モードだったり、なのはさんの実家のケーキがミッドのここにあるのはそのお祝いのためだと。

というか・・・・・・え、足が完治? 話が色々と物騒というかなんというか。



「あ、なぎひこ君や唯世君はさっぱりやな。えっとな、うち9歳まで両足に麻痺があって、歩けんかったんよ」



言いながらはやてさんが、自分の両足を軽くポンポンと叩く。

それで僕と辺里君は顔を見合わせて・・・・・・答えを出した。というか、もう出てるよね。



「納得しました。それで今日の夕飯、すごく力が入ってたんですね」

「うん、そうなんだ。それでね、私達がここに来たのもシャマルさんと相談の上で」

「出来れば夕飯まで内緒にしておきたかったのに・・・・・・うぅ、なぎひこ君が見つけるとは思わなかったわ」

「ご、ごめんなさい」



とりあえず、色々空気が読めてないように感じたので謝る。

でもシャマルさんは、それを見てすぐに首を横に振った。



「ううん、大丈夫だから。私も隠し場所が悪かったんだし」

「そやそや。てゆうか、普通にびっくりしてもうたもん。でも翠屋・・・・・・あぁ、懐かしいなぁ」



とりあえずキッチンの棚に置いた魔法がかかったケーキ入りの箱を、はやてさんが嬉しそうに瞳を細めながら見つめる。



「うちではお祝い事がある度に翠屋のケーキを食べてなぁ。甘いもの苦手なシグナムもここのはいけるんよ。
というかシャマル、ケーキこれだけか? さすがにこの人数でコレは足らんと思うんやけど」

「あ、大丈夫です。別所に同じ結界をかけた上で2ホールほど保存しています」



ここの辺り、事前に恭文君達と打ち合わせとかしていたせいらしい。なお、僕達の参加は問題ないとか。

というか、せっかくなので色々なお話も込みで参加して欲しかったとは、シャマルさんの談。



「でも10年かぁ。・・・・・・なんやうち、あの頃からあんま成長しとらん感じがするんやけど」

「え? あの・・・・・・八神さん、どうして僕の事を見るんですか?」

「いや、唯世君もそうやけどなぎひこ君や空海君に海里君、あとあむちゃんにも抜かれとるやろ?」



自分の頭頂部に右手を当ててから、はやてさんがその手を唯世君の頭頂部に乗せる。

そして悔しげな顔をした。というか、僕の方も若干恨めしげに見ている。



「さすがに小学生なみんなに抜かれとると色々辛くてなぁ。成長期ももう過ぎとるし・・・・・・どないしようか」



そう言われて、僕と唯世君にシャマルさんとフェイトさんとアギトさんは顔を見合わせる。

ど、どうしようか。あの・・・・・・普通に僕とか唯世君がアレコレ言っても問題だよね?



「ま、まぁ・・・・・・あのはやてちゃん、大丈夫ですよ。いざという時には聖夜小に潜入出来ますし」

「・・・・・・シャマル、それはアレや。色々うちの心を抉るんやけど」





とにもかくにも夕飯の準備は完了。ケーキもシャマルさんの魔法のおかげで状態は良し。



あとは・・・・・・恭文君が復活するかだね。てゆうか、トラウマがヒド過ぎてちょっと涙出てくるんですけど。



あ、それと外に出てるみんなの事もあるか。雨・・・・・・降り始めちゃったから。





「・・・・・・雨?」



あれ、恭文君が復活したのかな。なんか起き上がって外の様子を見てる。



「あ、ヤスフミ・・・・・・大丈」

「まずい、ディードっ!!」



そのまま僕達が声をかける前にリビングから消えた。というか、走り去った。

というかさ、擬音が聴こえたんだけど。凄い勢いで走り去った音が。



「・・・・・・ナギー」

「何、リズム」

「ナギナギって、面白いよな」

「そうだね、否定はしないよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ふぁ・・・・・・雨嫌だー! 全然遊んでないのにー!!」

「準備運動やってる間に雨はおかしいのですー! シグナムなにやってるですかっ!?」

「バカを言うな。海を甘く見てると事故に発展するぞ」



・・・・・・訓練をほとんど出来てないのも辛いな。かと言って準備運動をしないのもアウトだ。

特にリインとややはサーフマットでそこそこの深さの所まで行く。それで海に落ちて足にツッたりしたら大事だ。



「とにかく本降りにならない内に戻ろ・・・・・・あれ?」

「アコースさん、どうされましたか?」

「いや、なんか・・・・・・音が聴こえない?」

「ヴェロッサ、お前もか。私もだ」



何かこう・・・・・・『ドドドドドドドドドドドドドド』と言うような音が聴こえる。

というより、その音が凄い勢いで近づいてくるんだが。もちろんこちらにだ。



「そう言えば私も・・・・・・なんでしょう、人の足音に近いですが」

「あぁ、俺も聴こえました。・・・・・・ムサシ、お前もか」

ディードォォォォォォォォォォォォっ!!



全員がその叫び声の方を驚くように見る。そこには・・・・・・土煙を上げながら、全力疾走している蒼凪がいた。

必死な形相で、右手に二本。左手に一本で合計三本の傘を持って、全速力でこちらに向かって走ってくる。



「傘持ってきたよっ! というか大丈夫っ!? 濡れてないかなっ! 早く戻らないと風邪」





蒼凪は全速力で疾走しつつ、砂浜へ続く階段に足を踏み入れる。

だが、砂浜に足を踏み入れた途端に足を躓かせた。

そのまま少し宙を飛んで・・・・・・蒼凪は砂に正面から突っ込む。



というより、勢いが凄かったのか私達の方に滑ってくる。

そのために砂が雨雲のせいで薄暗くなった空間に舞い上がる。

それは丁度私達の前で停止した。なお、蒼凪は目を回している。





「恭文さん、大丈夫ですかっ!? しっかりしてくださいっ!!」



ディードも私達もすぐに駆け寄って、ディードが蒼凪を両腕で抱きしめる。

そして蒼凪は目を回しながらも、ディードに向かって右手の傘を差し出す。



「ディ、ディード・・・・・・傘」



だが力尽きた。そのまま腕を落として瞳を閉じる。



「恭文さんっ!!」

「恭文さん、ちょっと待つですー! ディードの事だけですかっ!?
ほら、リインの事はどうしたですかっ! もしかして忘れてたですかっ!?」



リインが必死に力尽きた蒼凪を揺らすが、蒼凪は答えない。

コイツ・・・・・・テスタロッサからシスコンになってると聞いてはいたが、ここまでか。



「・・・・・・リインちゃん、それは大丈夫だと思うよ? ほら、傘三つだし。やや達も入れるよ」

「そうだね。でも、傘三つじゃあギリギリ足りないよ」



私達は六人だ。そして蒼凪も入れると七人。普通に足りんぞ。

コイツの事だから、フィールド魔法を使うつもりで自分を数に入れてなかったとかか?



「いえアコースさん、恐らく蒼凪さんはサーフマットを使えば大丈夫と思っていたのでは」

「海里、お前は強いな。だがサーフマットをアテにするのは、それはそれで色々問題があると私は思うぞ」

≪すみませんね。この人ディードさんが絡むとちょっとバカになるんですよ≫

≪ある意味フェイトさんレベルで溺愛しちゃってるの。主様はすっかりシスコンなの≫










とにかく崩れ落ちた蒼凪は、ディードがお姫様抱っこで運んだ。そして家に到着してすぐに目を覚ました。

なお、その時ディードがやけに嬉しそうだったのと言うのと、この話を聞いた全員が呆れたのはもう言うまでもないと思う。

ただ、雨が降り初めの段階で蒼凪が傘を持って来てくれたので、私達は濡れなかったのは事実。そこは感謝した。





そして私達が家の中に入った直後、雨は本格的に降り始めて世界を冷たい雫で染め上げた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・JS事件。新暦75年9月に起き、機動六課が担当した事件。

広域次元犯罪者・ジェイル・スカリエッティの手によって企てられた、管理局史上に残る都市型テロ事件。

ミッドチルダ地上本部の首脳陣や最高評議会の面々と言った人物達も、この事件に深く関与。






この事件を受けて発生した管理局の体制見直しに関しての動きやその気風は、今なお続いている。

戦闘機人や人造魔導師と言った違法な生体兵器の量産計画。

その試作機ナンバーズによる、ミッド地上本部と機動六課隊舎に壊滅的打撃を与えた施設攻撃。





そしてスカリエッティの協力者として、次元世界の中でも指折りの犯罪者であるフォン・レイメイもこのテロに参加。

一味の地上本部の施設襲撃時に局員を数十人単位で大量虐殺。現場は地獄絵図だったと言う。

そして後日に再び地上本部に出没。何を考えたのか、事件主犯の一人であるレジアス・ゲイズ中将を殺害、逃亡した。





その後・・・・・・ここはかなり有名だから、私も知っている話だ。『あの』古き鉄によって『排除』された。

この一件によって古き鉄が・・・・・・『英雄』がまた知名度を上げたのは明白。

出来れば彼のような人間の力を借りられれば状況はかなり楽になるとは思うけど、それは可能だろうか。





とにかくこの事件での極めつけは、古代ベルカの巨大戦艦・・・・・・『聖王のゆりかご』の起動。










「部隊員・・・・・・及び被害者は」



私がエンターボタンを押すと、けたたましく警告アラームが鳴った。



「・・・・・・詳細に閲覧ロックがかかってる?」

「おう、どうしたい。エラーか」



後ろから声がかかった。胸の中の動揺を隠さずに後ろを見ると、一人の男性が居た。

どうやら相当集中していたらしい。背後の気配に全く気を向けていなかった。



「いえ、すみません。大丈夫です」

「おう、そうかい」



階級章は三佐・・・・・・ここの部隊長っ!?



「失礼しました。ルネッサ・マグナス執務官補です。
グラース・ウエバー執務官の補佐として、こちらでデータベース使用の許可を」

「・・・・・・あぁ、お前さんがそうなのか。いや、話は聞いてるよ」





なるほど、部隊長だからある意味では当然・・・・・・なのだろうか。

まぁ仕事がこまめなのは分かった。こういうのが出来ない方々も居るわけだし。

とにかく、考えている間にまたドアが開いた。そこから入ってくるのは一人の女性。



長くて緩やかに流れる青色の髪は、女性の私から見ても綺麗だと思う。





「あぁマグナス執務官補、ここに・・・・・・あら、部隊長も」

「ナカジマ陸曹長」










もしかして私を探していた? ・・・・・・あぁ、かなり集中していたんだな。





やはりダメだな。集中し過ぎると色々とお留守になってしまう癖は、直していかないと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえずうちの部隊長は会議があるので、早々に退場してもらった。





それで私はマグナス執務官補が閲覧していたデータ・・・・・・アレ?










「マグナス執務官補、機動六課の事調べてたの? あと・・・・・・古き鉄の事」

「すみません。前線が出来る協力者が必要かと思いまして。それもエースないしストライカー級の」

「・・・・・・もしかしてフレイホーク君から何か?」

「機動六課に少しだけ所属していたとバルゴラからは。それで・・・・・・まぁ、軽い思いつきで」

「うん、納得したよ」



機動六課のみなさんはまぁ、身内が居るのは承知の上で言うけど、全員そのクラスだからなぁ。

古き鉄・・・・・・なぎ君も同じく。なぎ君、私よりもずっと強いから。



「でも、多分難しいと思うな」



左手でかがみ気味に端末のコンソールを操作して・・・・・・とりあえずアレだよね。

私の形式上の権限だと、簡易データが限度かな。かなり深く関わってるから、話す事は出来るけど。



「事件当時、108は機動六課と協力体勢にあってね。だから分かるんだけど、みんな忙しいから。
特に隊長・副隊長のみなさんはそうだね。元々の立場もあるからどうしても」

「やはりですか。では・・・・・・古き鉄、蒼凪恭文はどうでしょう。
嘱託魔導師ではありますし、連絡を取り付けて協力を頼む事は」

「うーん、多分それも難しいな。なぎ君は確かに局員ではないけど、今は六課の元分隊長の方の補佐官だから」

「その隊長と同じくという事ですね」



今はミッドに居るけど・・・・・・出来るなら事件には関わらせたくない。なぎ君もなぎ君の同級生の子達も。

あんまりに血生臭くなるもの。なぎ君はきっと遠慮なく飛び込むんだろうけど、他の子達にこんな話は聞かせたくない。



「・・・・・・なぎ君?」



あ、普通に話したけどマグナス執務官補は疑問だよね。なので私は、画面を見たまま答える



「私、なぎ君・・・・・・古き鉄と友達なんだ。もう付き合いも5年目」



それで振られたんだよね。もっと・・・・・・もっと早く自分の気持ちに気づいてたらなぁ。

一つの後悔だけど、同時に思い出でもある。今でも胸の中で生きている大事な思い出。



「それでですか。納得しました。ところで・・・・・・部隊員のデータから閲覧ロックがかかってるのはなぜでしょうか」

「まず執務官補も知ってるかも知れないけど、JS事件自体が非公開項目の多い事件なの」



多く公開されてるのはなぎ君絡みの事だね。もっと言うとフォン・レイメイを排除出来たという事実。

ただ・・・・・・そのためになぎ君がまるでどこかの化け物みたいに言われているのは、友達としてはやっぱり辛い。



「それで引っかかるんじゃないかな。関係者のプライバシーもあるし」

「なるほど。JS事件を解決して、その有様を間近で見た機動六課メンバーも同じくと」

「うん。それで・・・・・・多分これが1番の理由。この事件、あやふやであいまいなんだ」

「あやふやであいまい?」

「非公開部分・公開部分を問わず、ある一点の線引きの判断がすごく難しい。
戒めるべき悪と認められるべき善・・・・・・その線引きがすごくあやふやであいまいなの」



例えばレジアス中将の行動だね。行動自体は間違ってたけど、目指す所は間違ってないと言われている。

つまり・・・・・・だめだな、なんだか上手く言えないや。とにかく・・・・・・これで良しっと。



「はい、ロック解除完了っと。簡易データだけだけど、これで大丈夫なはずよ」

「ありがとうございます。というか、助かりました」

「ううん。それじゃあ私はオフィスに居るから、何かあるようなら遠慮なく呼んで欲しいな」

「はい、ありがとうございました」



私は微笑みながら踵を返してオフィスに・・・・・・あ、そうだ。



「あ、そうだ」

「はい?」

「良ければ『ギンガ』って呼んでくれないかな。うちだと父さんも居るから紛らわしくなっちゃうし」

「確かに・・・・・・では、ギンガ捜査官」

「うん」



それでマグナス執務官補が何か思いついたような顔をした。

だけどすぐに冷静ないつも通りな顔に戻る。



「それでは・・・・・・良ければ自分の事もルネッサと呼んでください。マグナスは平凡過ぎる苗字ですので」

「そう言えばうちの部隊員にも三人くらい居たかな。でも、いい苗字だと思うよ?」

「ありがとうございます」

「でも『ルネッサ』って・・・・・・響きからしてオルセア辺りの感じだけど」

「南部の内戦地区の出身です。よくある戦災孤児で。9歳までは戦場に居ました」



失敗・・・・・・しちゃったかも。・・・・・・うん、あるんだ。次元世界は基本的に平和だけど、そういう世界もあるの。

内戦によって色々なゴタゴタが起きて、紛争地域になっていたり。局の管理を否定して独立しちゃった世界があったり。



「その後戦災支援のNPOに拾われて・・・・・・ミッドチルダの教育を受ける機会がありまして。
知能や射撃技術で局からのスカウトを受けまして、現在に至ります」

「あ、射撃型なんだ。それならフレイホーク君とは」

「はい。今までの中で訓練に付き合わせていただきまして・・・・・・勉強させていただきました」

「そう」



なんて言えばいいか分からなくて・・・・・・というか、私に言う権利なんて無いと思った。

だから私は暗くなりそうだった表情や気持ちを変えるために、別の話をする事にした。



「ね、そういえばさっきなぎ君の事を相当呼びたがってたように見えたけど、どうして?」



というか、友達として少し気になってたから。ちょっと勢いが強かったもの。



「・・・・・・見えましたか?」

「かなりね」

「そうですね。しいて言うなら・・・・・・英雄だからでしょうか。そして新世代の革命家だとも思います」



それは友達としてはあんまり素直に聞けない言葉だった。なんというか、真実を知ってるせいかな。



「JS事件時のフォン・レイメイを止めた事もそうですが、他にも色々とあります。
例えば3年前の管理世界カラバを発端とした別世界のヴェートル・・・・・・EMPでのテロ事件」





うん、それも知ってる。ただ、アレに関しては私からすると色々不透明に見えるんだよね。

私達からすると、テロ事件の犯人は戦闘中に『排除』。クーデター派の主犯も突然変死。

その上被害者だったはずのカラバ王族も、まるで逃げるみたいに突然消えたみたいな感じだから。



なぎ君が戻ってきてからそこの辺りを聞こうとも考えたけど、ちょっとそれは無理だった。



なんというか・・・・・・色々と秘匿事項が絡みに絡んでる感じがしたんだ。うん、空気を読んだの。





「当時現地に駐在していたGPOと協力する形で、古き鉄もこの一件に関わったと聞いています」

「・・・・・・ルネッサ、それはどこから?」



公式的にはあのテロ事件の主犯は八神二佐と守護騎士の人達やフェイトさんが止めたらしい。

というか、なぎ君とGPOは・・・・・・特に何も記述が無かったはずなのに。



「まぁその、色々と」

「色々とか」



苦笑い気味にそう答えたルネッサを見て・・・・・・まぁ、深くはツッコまない事にした。

多分アングラとかそういう辺りでの情報じゃないかな。それならまだ分かるの。



「とにかく、現在ヴェートルが管理局による管理から独立・・・・・・そうですね。
言うならばヴェートルによる『革命』が成功したきっかけにもなっているのではないでしょうか」

「それもその『色々』から?」

「えぇ。・・・・・・その、物事を裏側から見るのが好きで。よく悪いクセだと言われます」

「そんなことないんじゃないかな。そういう視点は捜査官なら必要だと思うし」





色んなゴタゴタがあったヴェートルには現在、中央本部もそうだけど部隊の隊舎やGPOも存在していない。

元々あの世界にあった現地政府と警察機構の手だけで治安維持が成されているから。

開始されたのは去年の9月くらいの話だから・・・・・・うん、1年くらい前の話だね。当然だけど、凄いニュースになった。



ただ管理局や局員からすると・・・・・・敗北感の方が強かったなぁ。そこは私も同じくだよ。

本来なら管理世界の平和維持は、管理局がその責任と理念を持って行うのが常識。そして通例でもあるから。

なので撤退は・・・・・・一部では『管理局は存在意義を放棄した』とバッシングされる側面もある。



父さんは『面白い』とか言ってたけど、私もそう思ってるの。上は何を考えているのかと、本気で疑わしくなった。





「でもなぎ君があの世界に居た事は、そのきっかけに・・・・・・なってるのかな」





なぎ君やGPOの方々がテロを止めたという記述は、一般的な局員が見れる資料には載ってなかった。

それを止めたのは、現状に不満を持って必死に動いたフェイトさん達。

そんなみんなが『英雄』とされているのが現状。でも・・・・・・あぁ、改めて考えると少しおかしいかも。



そもそもテロ事件の主犯には魔法関係がさっぱりだったって言うし、どうやって止めたのかも記述されてない。



上手く『フェイトさん達が頑張ってなんとかした』と読んでる側をノセるような文面で・・・・・・今ひとつ信ぴょう性は薄いかも。





「そこの真偽はさすがに分かりませんが、私のような者からすると古き鉄は英雄のように思えてしまいます。
先程ガンナーと言いましたが、自分はギンガ捜査官やフレイホークさんと違って魔導師ではないので」



・・・・・・つまり、許可を取って質量兵器を使っての銃撃戦なんだ。そう言えば戦場に居たって言ってたものね。



「ルネッサ、もしかしてなぎ君・・・・・・というか、魔導師に」

「・・・・・・失礼を承知で言うなら、憧れと同時に嫉妬の感情もあったりします。
特にこの世界では魔法至上主義とも言うべきものが通っていますし、余計に・・・・・・すみません」

「ううん、大丈夫だから。あの、ごめんね。嫌な事聞いちゃって」

「いえ」



でもそうだよね。魔法が使えない人からすると、使える人達をそういう目で見る事もあるんだよね。

私は少し俯く。というか、反省する。魔法が使えて当たり前な自分の価値観は、ちょっとだけ歪なように感じたから。



「でもなぎ君・・・・・・古き鉄は色々悪評も広まってるよ? それでもかな」

「それでもです。なによりそれは何かを・・・・・・世界を変える力を持った人間には付き物の事ではないでしょうか。
悪評云々の前に、評価をもらえるという事が重要・・・・・・あ、これは以前一緒に居た人が言っていた言葉ですが」

「えっと・・・・・・良くも悪くも注目を集められるだけの結果が出せる事が大事という事かな」

「そういう事です。ただ私個人としては先程言った通りですので・・・・・・悪評というのとは違いますね」



一応評価してくれてるのかな。だとしたら・・・・・・うん、嬉しい。

ただもしかしたら本当に絡む事になるかも知れないから、一つ訂正しておこうっと。



「そっか。それなら納得だよ。でもね、ひとつだけ訂正。
・・・・・・なぎ君は、英雄じゃないよ? もちろん革命を起こすような子でもない」

「・・・・・・なぜでしょうか」



言葉はさっきまでと変わらない。でも、その言葉のどこかに不快感を感じた。

え、えっと・・・・・・相当信じ込んでるのかな。なぎ君、いつからそんな評価を受けるようになったんだろ。



「なぎ君は自己犠牲的な事が好きじゃないんだ。ううん、むしろその逆。
そういうのを1番嫌う子なの。自分に対しても、人に対しても」



まぁこれでも5年の付き合いだから分かるの。大好きになった子だから・・・・・・分かるんだ。



「誰かが痛いのも、自分が痛いのも嫌い。だから・・・・・・自分もみんなも含めて笑えるようにするために、そんなわがままのために戦う。
本当にそれだけなんだ。なぎ君は英雄でも革命家でもない。ただ優しくて強くて・・・・・・温かい心を持った、ただの男の子なの」

「・・・・・・そうですか。というよりその、失礼しました。
私なんかよりギンガ捜査官の方が蒼凪恭文氏の事をご存知なのに」

「ううん、大丈夫だよ。というか嬉しかったの。なぎ君ってさっきも言ったけど悪評の方が多いから。
だからルネッサがなぎ君の事をちゃんと評価してくれてるって分かって・・・・・・うん、嬉しかった」

「・・・・・・いえ」










でも・・・・・・うん、確かにここはちょっと分かるな。もしもなぎ君が居たらってやっぱり考えちゃう。





この不透明な事件でも、なぎ君が居てくれるだけで大分安心出来ちゃう。なんだか・・・・・・頼れるんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・うー、サーフボードに乗る前に雨降るなんて信じられないー」

「うぅ、リインも楽しみだったですよ? あんまりです」

「まぁまぁ、ややちゃんもリインちゃんも落ち着いて? ほら、まだ機会は沢山あるんだし」

「藤咲君の言う通りだよ。宿題を終わらせさえすれば、基本毎日自由なんだし」





何気に大騒ぎになりそうな夕飯を前に、僕達はリビングでのんびりまったり。

ただ、一部不満な人間が居る。それはややとリインだ。原因は降り出した雨。

そしてなぎひこと唯世がそのフォローに回ってる。普通に大変そうだ。



僕も回りたいとこではあるけど、僕は僕で大人としてやることがあるのよ。





「というか、私も残念です。かなり訓練する予定だったのに」

「俺もです。これはやはり自分で地道にやれという知らせでしょうか」

「そうだな。そこの辺りは蒼凪なりディードやテスタロッサから教わるといい。
しかし・・・・・・本当に残念だ。私も何気に久々だったと言うのに」

「確かにそうだね。しかもよりにもよって今日だもの。僕達、ちょっとついてないかも」



ソファーに並んで座ってそう言うのは、ディードと海里とシグナムさんとヴェロッサさん。

シグナムさん主導で訓練だったから、みんなも雨のせいで中止。・・・・・・あぁ、訓練と言えばまだあるか。



「・・・・・・ミッドって雨多いんですか?」

「いや、ここまでのはたまにしかねーよ。でもおかしいよな。
ミッドの天気予報って、魔法使って調査もしてるから結構的中率高いんだよ」

「それでも外れる時があるんですね」

「だな。まぁアレだ、天気ばかりは神様の領域なんだろ。魔法で全てコントロールなんてきっとダメなんだよ」





海里達の向かい側に座る形になってるりまと師匠が・・・・・・あれ、いつの間にか意気投合してる。

なんだろ、何気にペースというか距離感が合ってるのかな。

・・・・・・なんて考えていると、リビングに入ってくる影が二つある。



それはパジャマを着た女の子と男の子。なお、髪はお風呂上がりなので濡れてる。





「うぅ、はやてさん・・・・・・お風呂ありがとうございました。おかげで助かりました」

「あぁ、えぇよえぇよ。それであむちゃんも空海君も、ザフィーラも大丈夫か?」

「我も問題ありません。空海、お前はどうだ」

「えぇ、そこはなんとか。しかし今日は雨降る感じじゃなかったのに・・・・・・ついてないっすよね」



ザフィーラさんとロードワークに出てたあむと空海は、派手にずぶ濡れた。

なので、お風呂を借りて(当然別々)さっきまで温まってたのよ。



「そうなんよなぁ。あないに天気も良かったのに・・・・・・フェイトちゃん、これ今日はここ泊まった方がえぇよ」

「そうですね。この雨のせいでレールウェイの運行にも支障が出てるし・・・・・・そうした方がいいわね」



はやてとシャマルさんが言いながらも外を見る。というか、なんか風が激しいんですけど。これは台風ですか?



「あむちゃん達もこのまま帰ったら、ずぶ濡れになっちゃうわよ」



そしてお茶をいただいていたフェイトは・・・・・・まぁ、困った顔。

さすがにこの人数だしなぁ。ご飯は大丈夫だったけど、色々と



「あの、それは・・・・・・迷惑じゃないかな。何分この大人数だし」

「うちは問題ないよ。まぁ客間に均等に分けて雑魚寝みたいな感じやろうけど。
でも、このまま帰してなんかあるのも・・・・・・なぁ? 問題やて」

「なら・・・・・・ヤスフミ」



フェイトが僕の方を見るので、頷いて応えた。確かにこの雨だし、そっちの方がいいかも。



「それならはやて、悪いんだけど今日はこのままで」

「了解や。ほな、うちは早速客間の準備やな」

「あ、はやてちゃん、私もお手伝いします」










それではやてとシャマルさんがいそいそと廊下に消えていった。それで・・・・・・僕は雨が降りしきる外の光景を見る。




そこに関してはフェイトやあむ達も同じ。・・・・・・雨かぁ。明日には止むといいんだけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「雨さん、止みませんねぇ」

「そうだな。・・・・・・せっかく海に来ているというのに、これでは泳ぐのは無理だな。僕は非常に残念だ」

「えー、クスクスそんなの嫌だー」

「クスクス、しかたないでちよ。雨の後だと水位も増すし波も荒れるでちから、やっぱり危ないでち」



ボク達しゅごキャラメンバーも、全員窓に張り付いて外の様子を見てる。でも・・・・・・すごい豪雨だなぁ。

ミッドってずっとお天気な印象が強かったけど、やっぱり雨とかも降るんだよね。・・・・・・あ、当たり前か。



「うー、でもでも退屈だよー。お外行けないし、海も泳げないしー」

「ボクもだよ。ミッドの海の風景、もっと描きたかったのになぁ」



青い海に白い砂浜、そして二つの月が交わる異世界の風景。少しだけ描いたけど・・・・・・うーん、足りない。

せっかくのミッドでの時間だもの。もっともっと色んな風景や時間を絵にしていきたいなぁ。



「それにせっかくの修行もダメになってしまった。かと言って拙者達がこの中で大騒ぎは厳禁だ」

「俺達の事、見えないのが大半だしなぁ。うーん、こういうところはやっぱ不便だぜ」

「確かに・・・・・・これではお兄様とキャラチェンジして泳ぐという計画がパーになってしまいます」

『なんか恐ろしい事考えてたっ!?』



それはやめてあげてー! さすがにそんな事したら、恭文がお亡くなりになっちゃうからー!!



「まぁアレだ、家の中でも遊べる事はきっとあるだろ」



そんな事を外の風景を見ながら言うのは・・・・・・あぁ、リズムやっぱりかっこいいかもー!!



「オレらはオレらで、そういうのを探していこうぜ。ほら、なぎひこやあむ達は色々忙しそうだしよ」

『さんせーい』

「よし、僕も・・・・・・って、ちょっと待てっ! 僕がしゅごキャラの王だぞっ!? 普通にお前が仕切るなー!!」

「キセキさん、仕方ありませんよ。あなたよりリズムさんの方がリーダーシップに溢れるんですから」

「シオン、お前という奴はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



とりあえず・・・・・・アレだよね、シオンは鋭く刺を突きつけるタイプだと言うのが分かったよ。

でもでも、やっぱりリズム素敵だなー。あぁ、キセキもいいし・・・・・・ボク、迷っちゃうかもー。



「・・・・・・・・・・・・ラン殿スゥ殿、ミキ殿は一体どうしたのだ」

「あー、ムサシ放っといてあげて? ミキはこう、惚れっぽいから」

「いつもの事とは言え、ミキは目移りしやすいキャラですねぇ」

「そ、そうか」



・・・・・・でも、目移りする前に着信音が鳴った。



『見つめ・・・・・・ないで♪ 捕まえーないで♪ 迷い込んだーバタフライー♪』



というか、迷宮バタフライ。あ、これ歌唄の・・・・・・って、恭文の着信音?



「・・・・・・な、なんの御用だろ。とにかくフェイト、僕ちょっと電話してくる」

「うん。あと・・・・・・ヤスフミ」

「ん、何?」

「私、あれから色々考えたんだけどね。やっぱり・・・・・・一度歌唄とちゃんと向き合うべきじゃないかな。
歌唄、本気でヤスフミの事が好きで、お付き合いどうこうじゃなくて側に居たいんだと思うの」



あれ、なんかすごく聞き逃せない発言を聞いてしまったような。



「だからその、第三夫人も・・・・・・ありかなって」

「フェイト、一体なに言ってるのっ!? 婚約したばっかなのにそれはないからー!!
そしてお付き合いどうこうじゃないのに第三夫人はおかしいでしょうがっ!!」

「・・・・・・そう言えばっ! そ、そうだよねっ!? なのにどうしてそうなるのかなっ!!」

「僕に聞くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










とりあえずボク達全員は誰からの着信かすぐに分かった。あ、リズムとはやてさん達以外だね。

リズムは生まれたばかりだし、はやてさん達は恭文とあの子の事を知らないだろうから。・・・・・・シャマルさん以外。

でも、確かにアレはなぁ。『一生ついて行きます』レベルの告白だと思うもの。だからね、思ってたんだ。





恭文、普通にあの子を振り切れないなら・・・・・・覚悟決めて四人体制なのかなって。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく僕は、この家の二階のベランダ近くに陣取って電話を繋ぐ。で、当然あの子ですよ。





・・・・・・普通にフェイトが歌唄認める姿勢なのがびっくりなんですけど。てか、どうしてああなった?










『以前フェイトさんとリインには私の気持ち、改めてしっかりと言ってあるから』



ベランダの近くと言っても、当然外じゃない。窓際・・・・・・家の中だ。

降りしきる雨とそれに打たれる窓やベランダの様子なんかが見えつつも僕は話を聞・・・・・・あれ?



『アンタに一生関わって、私の歌で背中を押していきたいって』

「そして僕の思考を読まないでっ!? 普通に怖いからっ!!
てゆうか、僕はマジでフェイトとリイン以外の子とそうなる予定ないからー!!」

『誰もそうなれとは言ってないでしょ? ただ側に居られたらいいなって言ってるだけで』

「同じことだよっ!!」



なお、電話の向こうの相手は当然だけど歌唄。歌唄・・・・・・普通に電話かけてきたのよ。

歌唄の携帯からでも次元通信出来るようにはしておいたから、これくらいは楽勝って感じだね。



「で・・・・・・どうしたの? そっち色々忙しいんじゃ」

『・・・・・・これがまぁ、意外と暇なのよね。その辺りの事情はアンタだったら分かるでしょ』

「まぁ、察する程度なら出来る」



よし、ここは触れないでおこう。多分歌唄も触れられたくないだろうし。

だって、ちょっと声が強張ったもの。まぁ、ここは気遣っていこうか。



『でもね、本当に少しずつなんだけど仕事がもらえてる。それは・・・・・・うん、嬉しいかな。
でもさ、なんかアンタがこっち居ないのが寂しくてね。それで電話したんだ』

「・・・・・・え、僕だけ? ほら、あむとか唯世とか」

『どうでもいいわよ』



待て待てっ! その言い方はアリなのっ!? 普通に冷たいねっ! 僕が言えた義理じゃないけどっ!!



『恭文さーん、歌唄ちゃんはこんな事言ってても、あむちゃん達と会えないのも寂しく感じてるですよー?』

『こらエル、黙ってなさいっ!!』



あ、エルの声だ。・・・・・・なるほど、大体読めてきた。僕経由であむ達の様子も聞こうとしてるのか。



『さっきだって『やっぱり行きたかった』って言いたげな顔してたしなー。イシシシシシシシシー』

『イルも黙っててー!!』





今度はイルの声だ。・・・・・・まぁ、ここは仕方ないんだよなぁ。

だって歌唄、再デビューのために頑張ってる最中だもの。

一応話だけはしたんだけど、やっぱり歌手業での再起を頑張りたいって言われたから。



その成果がこの間超・電王編が終わってから聴かせてくれた『Heartful Song』だよ。





「よし、エルーイルー。そこの辺りはあむ達にも伝えておくから安心してー」

『おう、頼むぞー』

『恭文さん、お願いなのですー』

『お願いする必要無いわよねっ!? てゆうか、アンタ達私の電話越しに話すのはやめなさいっ!!』



とりあえず、歌唄が軽く咳払いして落ち着きを取り戻そうとする。でも、僕はニヤニヤ。

多分電話の向こうのエルとイルも同じくと見える。だって笑い声が聞こえてるもの。



「あー、でもちょうど良かったよ。僕もさ、歌唄に色々報告があって」

『報告? 何よそれ』

「ん、まぁ色々あってね。・・・・・・月詠幾斗の事、少し進展があったんだ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・歌唄って、まさかほしな歌唄かっ!? イースターのアイドル歌手のっ!!」

「はい。・・・・・・というかはやてさん、知ってたんですか?」

「これは意外でち。はやてさんは普通にミッド暮らしでちよね」

「いやいや、ややちゃんがこの間のカラオケで恭文に歌わせてたやんか」

「・・・・・・あ、そう言えばそうでした」



あぁ、あったあった。普通に恭文君は『自分で一回も曲入れてないー』って不満を漏らしてたけど。

でも、いいんじゃないかな。だって僕もあの様子を思い出すと、普通に口元がにやにやしちゃうんだ。



「それでもう分かっとる思うやろうけど、ミッドって地球文化がかなり入り込んどるんよ」

「あー、それはフェイトさんと恭文から聞いてます。神隠しでこっちの世界に来ちゃった人達が居たんですよね」

「そうや。その関係で地球・・・・・・特に日本の文化やあれこれは、ミッドの主流でもあるんよ。
というかな、ミッド人のご先祖様の一部はそういう人達やったという説もある」



えっと、確か昔神隠しみたいな感じで地球の日本から居なくなった人達が、実はミッドに流れ着いてたんだよね。

それでその人達から日本文化とかそういうのが沢山伝わって・・・・・・ミッドでは日本語が公用語みたいになってるらしいの。



「で、話を戻すけど」

「あ、はい」

「アレでほしな歌唄って知ってなぁ。こっちに戻ってから出てるCD買って、よく聴いてたんよ。というかファンやな。
いや、あの子かっこいいやんか。マジでえぇなーと思ってたんやけど・・・・・・え、マジであん子が恭文にゾッコンなんかい」

「えっと、ゾッコンっていうか・・・・・・一生関わるとか言ってました」



・・・・・・恭文君、僕が留学している間に一体なにやらかしたの? 確かあの子、敵な位置だったよね。

なのになんでそこまでになるのさ。僕は今半笑い状態のあむちゃんや辺里君達と同じく、本気で疑問なんだけど。



「アタシもはやてもその子がイースターのアレコレに関わってたのはクロノから聞いてたけど・・・・・・アイツ、またフラグを」

「ヴィータ、もうそこは触れんとこうか。普通に触れてもうちらが面白くない。てーか今更よ」



あ、そっか。クロノさんから聞いてたなら、ブラックダイヤモンドのアレコレも知ってて当然なんだよね。うん、納得した。



「もう押しかけ女房と同じよね。恭文とフェイトさんの家にもちょくちょく遊びに来てるし」

「りまたんが言うような感じで、すっごく仲良しなんです。
歌唄ちゃんもフェイトさんやリインちゃんが居てもOKみたいに思ってて」

「・・・・・・アイツ、絶対いつか刺されるわ」

「はやて、言うな。それこそ今更だ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



え、えっと・・・・・・はやてもヴィータもややもりまも、盛り上がるのやめない?





ほら、普通にあの・・・・・・・ね? 私とリインも色々辛いんだ。





というか、シャマルさんがなんかまた殺気出してるんだけど。これどうすればいい?










「・・・・・・テスタロッサ、お前・・・・・・婚約者としてそれはいいのか?」



リビングの隅で盛り上がってる四人をどう止めたものかと思っていると、シグナムから声がかかった。

なお、若干呆れた顔だったのは・・・・・・うん、気にしないで?



「リイン、お前もだ。これはある意味浮気だと思うが」

「リインは大丈夫ですよ? というか・・・・・・なんか認めるしかないかなーと思ってるです」



ザフィーラも私とリインをシグナムと同じ目で見ている。なお、狼モード。



「そこはフェイトさんもですよね?」

「・・・・・・そうだね。まぁ、ヤスフミの気持ち次第だよ? でも答えは決まってるかなーって」





そう思うようになったのはつい最近。そしてそのきっかけは・・・・・・月夜との戦いの話を聞いてから。

歌唄がヤスフミのために自分に何が出来るか、明治に来るまでに相当必死に考えて答えを出したらしい事。

『歌』という形でこれから先、ヤスフミが戦うなら背中を押していきたいと気持ちを固めた事。



シャーリーとかリイン、あとは歌唄本人から『宣戦布告』として聞いて・・・・・・こう、強く感じたんだ。

歌唄にとってヤスフミって、本当に大事な存在になってるんだなって。

きっとリインレベルでヤスフミの事が好きになってきてて・・・・・・うん、なってるね。



その、浮気とかは嫌だよ? 余所見されるのも嫌だ。でも、でも・・・・・・なんだ。

もしもヤスフミが歌唄の気持ちにどんな形であれ向き合いたいと思ったなら、受け入れたいなと。

もちろん私も余所見されないように努力する。それで歌唄に負けないようにする。



でも、そのためにヤスフミの気持ち縛ったりヤキモチは・・・・・・きょ、極力無しにしたいなって。



だけどその、たまには妬くよ? その、余所見は・・・・・・嫌なんだから。





「多分ヤスフミ・・・・・・歌唄の『歌』に惹かれてる。だから振り切れない」










例えばその、ギンガやすずかにしたみたいに断れないの。私とリインが好きだけだと理由にならない。





うん、それは当然だよ。ヤスフミはどこかで歌唄の事、特別に思い始めてるから。





第三夫人・・・・・・決定なのかな。まぁ、まだ分からないよね。うん、分からないんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それで歌唄に説明した。クロノさんの秘密の手管で、月詠幾斗の行方を調査する手はずが固まった事。

何か見つかれば、僕もそうだし歌唄にもすぐに話が行く事になっていること。

あー、ここまで話さなかったのには理由があるのよ。実は歌唄に話す前に、フェイトからゆかりさんに話してる。





ゆかりさん、実質歌唄の保護者になってるしね。で、この事を話しても問題ないかと確認したのよ。

歌唄、今が大事で大変な時期ではあるから。で、ゆかりさんの答えはOK。

むしろそういう手はずがしっかりと整ったという話なら、ちゃんとしてあげて欲しいと頼まれた。





やっぱり歌唄、僕達の前ではあんまり出してなかったけど・・・・・・月詠幾斗の事、相当心配してるらしい。

まぁそりゃそうだよね。立ち位置的に月詠幾斗が辛い位置に居るのはもはや明白。

そして歌唄にとっては『I Love You』な存在であり、たった一人のお兄さんだもの。そうならないはずがない。





仕事の合間に行方を自分でも探したりしてるらしいし・・・・・・これがカンフル剤になるなら、それでいいかなと。










『・・・・・・そう。なら今度、私からもクロノさんにお礼言わないといけないわね。
一応さ、アンタからも伝えておいてもらえるかしら。助かりますって』

「ん、ちゃんと伝えておく」



でもそう考えると、僕に対するアプローチの数々って・・・・・・その寂しさの裏返しなのかな。



「とにかく、何か動きがあるようなら僕もそっちに戻る手はずになってるから。
歌唄、万が一月詠幾斗が接触してきたら、いつでもいいから連絡して」

『何言ってるのよ。アンタだって戦技披露会ってのに出るんでしょ?
大舞台でやることあってそっちに来てるのに、それでどうすんのよ』

「それもそうなんだけどね。いや・・・・・・まぁアレなのよ」



どうしよ、今予言のことを話すのは・・・・・・まずいなぁ。歌唄の不安を煽りそうだし。

仕方ない。ここは今ある手札を使って、色々とうまい具合に理論付ける事にしよう。



「歌唄には話したけど、ちょっと前にイースターが偽エンブリオ持ち出して来てるでしょ?
で、歌唄や二階堂やゆかりさんもイースターやめてて、大量に×たま抜き出せる人間はもういない」

『そうね。少なくとも私は私や二階堂さん以外でそんなのと会った覚えがないわ。
そしてそれに関してはイクトも同じよ。イクトはエンブリオじゃなかった×たまの『掃除』係だったから』





ブラックダイヤモンド事件より前、イースターは抜き出したこころのたまごがエンブリオじゃなかった場合、壊してたらしい。

ただのガラクタとして処分していた。で、その処分・・・・・・『掃除』を引き受けていたのが、月詠幾斗なのよ。

以前あむが目の前で×の付いたたまごを壊された事があると言ってた事がある。そしてその実行犯はどうも月詠幾斗らしい。



ようするに、あむが目撃したそれはイースターからの命令での『掃除』だったのよ。

もちろんだからってたまごを・・・・・・人の夢をぞんざいに扱ったという事実は絶対に消えない。

だけどそこに月詠兄妹にかかっていた色々な圧力を鑑みると、話が少し変わる。



多少は同情の余地と言えるものが出てくるのよ。あくまでも多少だけどね。



あの猫男がそこの辺りで言い訳するような奴なら一瞬で吹き飛ぶような・・・・・・そんな、小さな余地だよ。





『つまり、イクトには私や二階堂みたいな×たまを抜き出す能力がない。そしてブラックダイヤモンドの時みたいな事も出来ない。
例えばあの音源データはもう壊されちゃったし、なによりマスターCDを作るための×たまの確保自体が難しい』



ついでにボーカルである歌唄も切り捨てたしね。歌唄は歌唄で別所で頑張ってる。

ブラックダイヤモンドというバンドは、歌唄有りきだもの。歌唄が居ない以上はここは無理。



「で、そこに偽エンブリオをシュライヤに渡した『女』だよ。あのね、僕がこう言ってるのはそこが理由なのよ。
何にしても、イースターがまた何かしらの準備をしているのは事実だもの。そして月詠幾斗もそれに確実に巻き込まれる」

『・・・・・・納得したわ』



連中にエンブリオを掴ませない事もそうだけど、作戦自体も未遂で止める必要が出てきてるしなぁ。

最悪出てきた×たまを全部浄化だよ。・・・・・・・どっちにしても骨が折れるな。



『それでその『女』だけど』

「うん?」

『単純に考えれば新手ね。そんな状況だからこそそこは納得出来る。例えば・・・・・・そうね。
イースターってアンタはもう知ってるだろうけど、全世界に支社があるのよ。そこからの増援とか』

「あぁ、それもあるか。でもそのためにわざわざ海外から日本に・・・・・・ご苦労な事だよ」



しかしそうなると・・・・・・うー、どっちにしてももうちょい情報が欲しいなぁ。

クロノさん、そこの辺りも調べるとか言ってたけど・・・・・・どうなんだろ。



『何言ってるのよ。アンタやフェイトさん達だってさほど変わらないでしょ?
×たまが起こした現象を調べるために、わざわざ地球に乗り込んで来たじゃないのよ』

「まぁ、それはそうだけどね」



なお、ここの辺り僕達が元々地球で暮らしていたというのも大きな理由。地理とか文化関係に強いからだよ。

そうすると、非常に捜査がしやすい。管理外世界で動く場合、そういうのも重要視されたりする。



「まぁアレだよ、歌唄もそういうわけだから・・・・・・お願いね。あと、身辺にも気をつけるように」



イースターは役立たずを端からドシドシ切り捨てるやり口だから、切り捨てた歌唄を再度拾うような真似はしないと思う。

でも、背に腹はなんとやらとも言う。ここの辺りはゆかりさんにも言ってあるけど、歌唄本人にも一応ね。



『分かってるわよ。何かあるようなら駆けつけて』



歌唄の声が少し優しくなる。優しくなって・・・・・・・あれ、なんか描写がおかしい。



『私の歌・・・・・・アンタに届けるから』

「いや、あの・・・・・・歌唄?」

『お願い。何回か言うようだけどそれくらい・・・・・・させて欲しいんだ』



いや、そういう事じゃないからっ! 普通に歌唄の心配してるのに、なんで僕が駆けつけられる立場になるのかって言ってるのっ!!



『もちろん分かってる。アンタはフェイトさんやリインが好き。
多分私が入り込む余地なんてない。うん、多分無い』



声・・・・・・少し切なげなものになった。それで胸が締め付けられる。

雨だからなのかな。なんかこう、いやでもセンチな気持ちになってしまう。



『アンタはどっちも振り切れないし裏切れない。というか、アンタはそんな事出来る奴じゃない。
今まで見ててそこは痛感したもの。アンタは二人とも好きで、ずっと側に居たい』

「・・・・・・うん」

『だから・・・・・・なんて言うのかな。友達って言うのじゃ足りないの。もっと近い所に居たい。
アンタに迷惑かけてるのも、戸惑わせてるのも・・・・・・これでも一応自覚あるのよ?』

「・・・・・・迷惑じゃ、ないんだ。それだけは本当。あの時の歌唄の歌、本当に嬉しかったから」



明治時代で月夜と戦った時の『Cyclone Effect』、本当に凄かったから。

あの時さ、ダイレクトに歌唄の気持ちが伝わって・・・・・・うん、ホントに嬉しかったんだ。



『・・・・・・ね、もっとこっ酷く振り切ってもいいのよ? 私、それくらいの覚悟はしてる』



普段の歌唄とは違う、か細い声。どこか不安げなその声に・・・・・・胸が締め付けられる。



『もう私が二度とアンタに近づきたいと思わないように、これ以上ないくらいに沢山傷つけていい。
私の心も身体も弄んで、めちゃくちゃにしていい。というかさ・・・・・・アンタ、少し優し過ぎる』



呆れてるような、感心されてるような・・・・・・そんな声。でも、不安げなのは変わらない。



『優し過ぎるから、ちょっと期待しちゃうのよ? 見込みあるのかなって。無いならむしろ傷つけて欲しい。
私にはそういう扱い方・・・・・・していいんだから。それくらいしないと、私は諦めないわよ?』

「出来れば・・・・・・うん、出来れば苦労しないんだけどね。でも、ダメなんだ。
歌唄の歌、心に届いたから。どう応えていいのか・・・・・・ごめん、まだよく分かんない」

『そう。でも、それなら嬉しいかな。一応フェイトさんやリインに食いつけてるわけだし』



え、えっと・・・・・・これはあの、マジでどうしよう。と言うか僕、歌唄の事振り切れない。

なんでだろ、フェイトやリインの事好きなのは変わらないのに・・・・・・うん、変わってないのに。



『ありがと。それを聞けただけでも嬉しい』

「・・・・・・僕的には複雑だけどね。浮気に近いもの」

『大丈夫よ。てゆうか、だから第三夫人に入るって言ってるじゃない。
『三人それぞれ意味合いが違うけど好きで離れられない』なら、理由になると思わない?』

「・・・・・・それぞれに?」

『そうよ。フェイトさんは恋人・・・・・・お嫁さんとして。リインは絶対に離れられないパートナーとして』



歌唄が指折り数えるようにそんな風に言う。それでまぁ、その通りだったりする。



『私が・・・・・・なんだろ、とにかくフェイトさんやリインとは別なの。
少なくとも私はそうよ? イクトへの気持ちは変わってないけど』



そしてそっと囁くように歌唄が言葉を続けた。音声オンリーなので、歌唄の声がまた耳をくすぐる。



『変わってないけど・・・・・・まぁ、イクトの次くらいに好き。
それで意味合いは違うわ。だから恭文もそれでいいのよ』

「まぁ、そういう事なら」



・・・・・・ちょっと待ってっ!? 普通に僕なんで流されかけてんだっ!!



「だから待って待ってっ! 普通に理論がおかしくないっ!?
てゆうか、基本一夫多妻制は特殊でしょうがっ! 基本は一夫一妻制でしょっ!!」

『現時点で第二夫人もらってるアンタにそんな事言う権利ないわよ』

「そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



電話口から、歌唄がクスクス笑う声が聴こえる。だけど当然ながら僕は頭を抱える。

や、やばい。いろんな意味で僕はやっぱダメなのかも。でも・・・・・・まぁ、覚悟は決めたし。



『まぁアレよ、振り切れないなら覚悟決めるしないわね。私に、月詠歌唄に向き合う覚悟よ。
それで・・・・・・私は決めてる。私の歌で、本当の私の想いで、アンタの背中を押し続ける覚悟を』

「歌唄、あの」

『恋人じゃなくていい。夫婦じゃなくていい。キスも愛しあう事も無くていい。ただ・・・・・・そうしたいの』



ま、まずい。まだ心臓が高鳴ってきた。というかあの・・・・・・これはアウトだって。

でも、フェイトやリインを理由に断るのも違う気がしてきて・・・・・・あれ、なんかおかしい?



『恭文、好きよ。ホントなんか・・・・・・どうしようもないくらい』

「・・・・・・どうして、僕? 月詠幾斗も居るのに。別に嫌いなわけじゃないでしょ」

『その質問はずるいわよ。アンタだって『どうしてフェイトさんとリインの二人ともなの?』って聞かれたら、ちょっと困るでしょ』



・・・・・・確かにそうだ。きっかけはもちろんあったけど、それでもだよ。

好きになり続けてるのは・・・・・・理屈じゃないな。うん、理論では語れない部分だ。



『あえて言うならアンタの輝きと心でうたっている『歌』に惹かれた。それだけかしら。うん、理屈じゃないの。
理屈や理論で語れるほど、この私の気持ちは単純じゃないの。単純じゃないから、らしくもなく純情キャラやるの』



僕は・・・・・・何も言えなかった。てーか、言う権利なんてない。だって僕、まだどう応えるべきか分かってないから。

歌唄は沈黙からそれを察して『それでいいから』と言ってくれたけど・・・・・・やっぱり申し訳なさがある。



『ね、そっちはどんな様子? こっちは少し前から雨が降ってるの。それまでは本当にいい天気だったのに』



そんな事を言いながら、歌唄はさり気なく・・・・・・ないけど、優しく話を変えてくれる。

色々とダメな自分に呆れつつも僕はもう一度窓の外に目を向ける。雨は・・・・・・まだ降り続けていた。



「・・・・・・こっちも雨だよ。昼間までは本当にいい天気だったんだけどね」

『そう。でも、なんだか不思議ね。世界そのものが違うのに、私達きっと・・・・・・同じ景色や空気を感じてる』

「そうだね。うん、きっとそうだ」










・・・・・・どうしよう、僕・・・・・・まずい。この子が振り切れない。フェイトもリインも嫌いになったわけじゃない。

二人への好きな気持ちはちゃんとある。でも、その中に歌唄や歌唄の歌が同居し始めてる。

恋人ともパートナーとも違って・・・・・・うん、違う。恋愛感情というのとは違うんだと思う。でも、そうなの。





友達で・・・・・・それだけでいいのかな。立場の問題だけで片付くとは思えないけど、疑問ではある。

どうしよう。僕は歌唄が言うみたいにこっ酷く振り切る事なんて・・・・・・今のままじゃ、きっと出来ない。

そうなると、僕は歌唄との関係に対してある程度の答えを出す必要がある。ここは絶対に。





友達でも、恋人でもない・・・・・・僕と歌唄の距離。その距離をなんと言えばいいのかは、今はまだ分からない。




















(第60話へ続く)




















あとがき



恭文君「というわけで、雨の日の風景はどうだったでしょうか。なお、僕がディードを迎えに行くシーンは動画枚数1万枚くらいの勢いを想像してください」

あむ「いやいやっ! それ普通にアニメ一本分より多いんじゃないのっ!? あの1シーンでそれはないってっ!!」

恭文「というわけで、そんなジョークも挟みつつ本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。・・・・・・なんだかんだでドキたま/だっしゅももう10話だよ」

恭文君「50話から2年目スタートだしね。あー、でも歌唄の事どうしよー」





(蒼い古き鉄、ドS歌姫との距離感を測りかねてるようである)





あむ「別に第三夫人ってのじゃないんでしょ? 恋愛感情とは違うし」

恭文「・・・・・・うん、それは違う。でもリインやティアナみたいなパートナーとは違うの。
フィアッセさんともまた違うし・・・・・・あとあと、月詠幾斗の事や芸能界再起の事もあるしさ」

あむ「・・・・・・あぁ、そっか。色々難しい要因絡んでるんだ。それでアンタと歌唄の事はともかく」





(現・魔法少女、普通に今回はちゃんとあとがきにするつもりらしい)





あむ「雨の中、ちょっとずつ事件が進んでる感じだね」

恭文「そうだね。なお、次回はもっと色々出てくる予定だったりします。
でもさ、何気にドキたま/だっしゅも10話で、もうすぐ1クールなわけですよ」

あむ「あー、そうだね。前哨戦はまぁまぁいい感じなのかな。というか、予定より長くなったんでしょ?」

恭文「当初の予定では、もうミッドチルダ・X編入ってるしねー。
でもあれだね、この勢いでOP変わるね。シドのレインになるね」

あむ「雨だからそうなるのっ!?」





(雨はーいつか止むのでしょーうかー♪)





恭文「雨の中みんなが空を見上げながら立ち尽くしてたり、ややが叫んだり。
で、僕が例の連中とセブンモードで派手に斬り合ってたり、ジンが射撃戦してたり」

あむ「そしてなんかOP映像想像してるっ!?」

恭文「とにかくそんな状況になるのももうすぐだよ。具体的にはあと2話?
あとがき・拍手世界から見ると楽しみだけど、本編世界から見ると全然嬉しくないのが不思議だよね」

あむ「まぁそれはね。こっちのあたし達はある意味神の視点というか、オーディオコメンタリー的な感じだもの」

恭文「ではでは、まだまだ雨の中でのお話は続きます。というか、基本天候崩れたまま?」

あむ「なんかそうらしいね。それでは本日はここまで。お相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃみんな、次も雨だよー。雨対策は万全にねー」

あむ「いや、小説でそこは関係なくないっ!?」










(でも、リアルでも(2010年5月21日現在)は時期的にはもうちょっとで梅雨の時期だし、何気に必要だったりもする。
本日のED:シド『レイン』)




















スゥ「・・・・・・雨の日は、静かにご本を読みながら雨音に耳を傾けつつ、センチメンタルに過ごすのもいいですよぉ」

ムサシ「なるほど、それもまた一興だな。だが・・・・・・これではそれも無理だろう」

ダイチ「すっげー土砂降りで、雨音楽しむ余裕ないよな」

ペペ「もうちょっと雨足が穏やかだったらそれも出来たでちよね。うーん、それじゃあ後は」

クスクス「じゃあじゃあ、みんなで『変な顔』対決ー! ほらほら、変な顔ー!!」

ミキ「それ、クスクスだけが楽しくなるって。というか、やりたいだけでしょ」

ラン「ならなら、運動しようよー! 身体動かさないとつまんないよー!!」

スゥ「ラン、ダメですよぉ。はやてさん達はスゥ達が見えないんですし、びっくりさせちゃうかもですよぉ?」

ミキ「さっきそういう話したばっかりなのに、もう忘れちゃったの?」

ラン「あ、そっか」

リズム「ここは静かにトランプなんていいんじゃないか? 勝負内容によっては盛り上がるだろ」

シオン「まぁそれが妥当なところでしょうか。でも、結構人数が居ますけど」

キセキ「2チームに別れて、メンバーを入れ替えつつやればまぁいけるだろ。
勝負は・・・・・・まぁそれも変えつつだな。七並べや大貧民など色々ある」

リズム「うし、それじゃあ夕飯まではそれで遊んで時間潰そうぜ」

全員『おー!!』

キセキ「・・・・・・おーいっ! だからお前が仕切るなー!! 僕がしゅごキャラの王だぞっ!?」

シオン「キセキさん、仕方有りませんよ。やっぱりリズムさんの方がリーダーシップが取れますから」

キセキ「ぐはっ!!」

ムサシ「シオン殿・・・・・・お主、容赦がないな」

ダイチ「全くだぜ」










(おしまい)





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