小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Report11 『Iron Size』 シルビィ「前回のあらすじ。維新組は実質行動不能状態に追い込まれ・・・・・・でも、アイアンサイズに借りの一つを突き返した」 恭文「さぁこれからって時に、色々と面倒な横槍を突き入れて来た某提督のおかげで、普通に僕達は追い込まれました。 ・・・・・・くそ、マジでどうしろって言うのさ。質量と人員の数に物を言わせての制圧戦はこういうテロ対策の基本なのに」 シルビィ「これじゃあ、下手をすれば私達がそのテロリストにされかねないわね。 ううん、もうされてるかも知れない。ただ・・・・・・それでも諦めるつもりないでしょ?」 恭文「当然。僕はここで、アレクの一番の味方なキャラを通すって決めたんだから。だから、絶対に引かない」 シルビィ「うん、その意気よ。私も同じだから、一緒に頑張りましょうね。 ・・・・・・というわけで、最終局面に突入なメルとま11話、始まります」 恭文「どうぞー」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ その日の夕方、シルビィとパトロールから戻ると・・・・・・分署のロビーで、涙目のフェイトに遭遇。 今度は何があったんだとビックリしつつ、話を聞いた。 その話にアレクが拳を強く握り締めていたけど、今は気づかない振りをした。 「・・・・・・てーか、なんでハラオウン執務官がこっちに居る事がバレてんだ? あたしはまずそこが分からないよ。だってクロノ提督以外は内緒だったんだろ?」 「確かにそうよね。維新組の奴らがチクったとは思えないし」 「原因の一つは、私達がヴェートルの中央本部を通じてこっちに来たからです」 シャーリーがそういうのでその顔を見ると・・・・・・苦い顔で頷いた。あぁ、つまりそういう事か。 中央本部はヴェートルにとって税関の役割を果たしている。次元世界への窓口と言ってもいい 「ちょ、ちょっと待ってください。ください。私・・・・・・なんだか怖くなってきたんですけど」 「パティ、俺もだ」 そして残念ながら、そこから情報が漏れたという事は、かなり恐怖を覚える考えが浮かび上がってくる。 「・・・・・・中央本部の上の方は既に、公女の信仰者と化しているのか」 つまり、上の方がこれだから下の方の情報を好き勝手に見れるってわけ。で、それが公女に伝わった。 「ハラオウン執務官、こちらに来る時には本名で来られたのですか? 偽名などは」 「偽名でした。身分の方や来た目的も偽ってます。この辺りはクロノ提督の指示で」 それでもバレ・・・・・・あぁそうか。外見とかまでは変えてなかったんだね。 なんにしても、対策が甘かったのは事実か。くそ、ここはマジで僕達の落ち度だ。 「恐らくは前々から、局員の出入りに関してはチェックされていたのでしょう。 もちろん全員ではないでしょうが、あなたのような有名で優秀な局員が今回の件に介入しないように」 ≪その目的は察するに・・・・・・優秀な人材を投入されて、アイアンサイズの一件を即時解決されないためですね≫ 「間違いなくな」 今回みたいに公女がアイアンサイズの跳梁跋扈の手助けをするのは、そこが理由なのよ。 普通に考えれば、自分への味方となる駒は多い方がいい。でも、今回はダメ。多過ぎてもアウトなのよ。 「アイアンサイズが派手に大暴れしてくれれば、それだけ自分への味方も増えるし疑惑の目も逸れる」 もうちょっと簡潔に言おうか。EMP・・・・・・いいや、ヴェートルの人達は公女の盾であると同時に生贄なんだよ。 その盾の消耗度が・・・・・・アイアンサイズのテロによる被害者が多ければ多いほど、向こうの非道さが際立つ。 結果的にそれは、自分への味方を増やす事にも繋がる。自分を悲劇の王族として魅せる事が出来る。 なお、ここで公女に対する批判が行われるということはない。その原因は親和力だよ。 初期の段階ならともかく、時間が経ていく毎に親和力が世界中に浸透していくんだから。 現に今がその状況だ。親和力のせいで、見えるところで公女を批判する人は居ない。 一部例外・・・・・・僕やアンジェラみたいに親和力が通用しない人間を除くけど、それだって極少数のはずだ。 「そしてアイアンサイズ・・・・・・クーデター派も自分達から引く事はない」 向こうは例えそこが分かっていても・・・・・・ううん、分かっているからこそだね。 分かっているからこそ、エンジンかけてあれこれ仕掛けて来てるのよ。 「でもフジタさん、かと言って『味方』となる局員なりなんなりが大量に乗り込んでもダメなんですよね。 そんな事になってアイアンサイズが早々に逮捕されると、色々と困る事になる」 「その通りだ」 まずアイアンサイズが逮捕された場合、当然だけど自供の際に親和力の事をバラされる危険がある。 公女はアイアンサイズを排除したくはあるけど、局とかの人間に確保されても困るのよ。 親和力の特異性はぶっちぎりだ。そこを踏まえると、局やEMPDにGPOが公女に疑いの目を向けないわけがない。 そこで色々とチェックが入ると、当然のように次元世界征服計画にも支障が出る。 ただ、今は分からないけど。親和力の影響がさっき言ったような感じで相当広がってるもの。 「俺達やEMPDに逮捕される事もなく、アイアンサイズが好き勝手に出来る状況を作る必要がある。 そして生贄を差し出すんだ。自分という『悲劇の王族』を世界中に見てもらうためにな」 ≪アイアンサイズは普通で真っ当な局員なら相手に出来ない連中です。 ただ、フェイトさんのようなエース級であるなら、色々と話が変わってきます≫ 「まさしく僕達は公女の手の平の上というわけ? 全く、洒落が利いてないね」 ただ、ここはフェイトを安易に責める事は出来ないよなぁ。 普通にこんな真似をしてくるなんて、誰も予想してなかったんだもの。 「・・・・・・アレ?」 いやいや、なんかおかしくない? それだったらアイアンサイズは結果的にどうするつもりなのさ。 いや、それ以前にこの行動はまるで時間稼ぎをしているかのようで・・・・・・まさか。 「シルビィ、フジタさん」 「お前も気づいたか。おそらくはそれで正解だ」 「現状だといつまでかかるか分からない。だから・・・・・・という事なんですよね」 「恐らくそうだ」 つまり公女は何かしらのダメ押しというか、ドでかいアクションを考えてる? だから自分達に疑惑の目が向けられるのを避けるために、今の状況を利用している。 そうだ、そうだよそうだよ。今までのあれこれは間違いなく時間稼ぎだ。 親和力を浸透させるのもそうだし、次元世界を掌握するための手段を用意してるんだ。 「あとあと、本局の方でも公女が直接的に動かせる人間が出来始めているです。これは大問題ですよ」 ≪そうなりますね。じゃなきゃ、クロノさんの部下同然なフェイトさんに突然な帰還命令なんて出せないでしょ≫ 「恭文さん、これかなりマズいですよ? 相手方が動き出すまで待つなんて出来ないのです」 「そうなるよね。ならないはずがないよね」 このままじゃ下手したら、公女が何かする前に権力的に潰される危険もある。 そうなったら、もう誰も公女に手出ししようがない。・・・・・・あとは、テロリストの如く暗殺しか出来ない。 「私達、完全無欠に孤立無援状態に置かれるです。 この調子で行けば場合によっては、私達が犯罪者ですよ?」 「あー、そうなるか。何かしらの罪状をでっち上げてそうする事も出来る。・・・・・・リンディさんも相当だったしね」 「リンディ? えっと、お前の保護責任者のリンディ提督か。恭文、お前のおっかさんがどうしたんだよ」 ジュンがそう言った瞬間、フェイトの身体が震えた。 どうやらフェイトも知っているらしい。だから、表情の重さが強くなる。 「アルパトス公女のシンパ・・・・・・ううん、信仰者になってた。 僕に公女を守るために局に入れとか、ワケの分かんない事言いまくるの」 「・・・・・・マジかよ。お前、それ大丈夫なのか?」 「こっちに乗り込んで来たって、半殺しにすればいいだけでしょ。問題ないよ。 もう止まるつもりも、揺らぐつもりもないしさ。ジュンだって同じでしょ?」 「当然だ。うちのおふくろもアタシの学生時代からのダチも・・・・・・同じ感じだしな」 あぁ、シルビィから聞いてたけどマジなんだ。やっぱりジュン的には辛いよね。 「こんなの、あたしは絶対納得出来ない。なによりツケはしっかり払わせなきゃいけないしな」 「だね。・・・・・・まぁアレだ、目的は同じだし少しくらいはお手伝い出来るよ」 「あはは、そうだな。んじゃ・・・・・・ちょっと頼らせてもらうわ。ありがとな」 「ん、いいよ」 「・・・・・・あのね、なぎ君」 ジュンと気持ちを固めている間に、シャーリーが非常に言いにくそうに口を開いた。 なので僕達は当然のように首を傾げる。 「フェイトさんに圧力をかけてここに居られなくなるようにした実行犯、リンディ提督なの」 「はぁっ!? ・・・・・・フェイト」 フェイトはただ静かに頷くだけ。もうその口からは嗚咽しか出ない。 「シャーリー、それだとクロノさんも」 「あ、親和力の影響は大丈夫なの。ただ・・・・・・同じ提督でも立場や実績的にはリンディさんが上でしょ? クロノ提督もリンディ提督の圧力のせいで、もう身動きが取れない状況に追い込まれているらしいの」 ≪それなら開発中のHa7などは≫ 「それもリンディ提督の命令で開発中止になった。私からもマリーさんに確認したから、間違いない。 多分その理由は・・・・・・なぎ君とフジタさんがさっき言った通り。時間稼ぎのためだよ」 ここまで徹底してるか。てか、どこから情報が伝わった? ・・・・・・いや、もうここはいい。 リンディさんの権力と手管なら極秘裏に開発してたとしても、普通にバレる『危険性』はあった。 「同じように無限書庫のユーノ司書長も情報面での支援は無理だと思う。 リンディ提督に権力を行使されたら、『局員』である以上はフェイトさんも私もそれに従わないといけない」 「それに関しては正式な局員ってわけじゃないユーノ先生も同じか」 「・・・・・・うん。例えそうだとしても、上の命令や指示は絶対だもの。 他の人はともかく、リンディ提督なら何かしていてもすぐに気づいちゃう」 権力というのは一種のチートカードだと誰かが言ってたことがある。そして今、僕はそれを痛感していた。 確かにこんなのどうしようもない。組織の一員である以上、上司の命令は聞くべきだもの。それが理不尽でもだ。 「つまり、もうマジで戦力はこれだけと」 「ごめん。公女の能力ややり口は聞いていたのに、見通しが甘かった。これは私のミスだよ」 「違うよ。シャーリーのせいじゃない。・・・・・・ホントに、ダメだった。何も・・・・・・何も出来ない」 ちょっとイラっと来たけど、ここはいい。フェイト達はもうアテに出来ないんだし、放っておく。 覚悟も決まってない人間の心情に構ってられるほど、状況は緩くないのよ。 「それでリイン」 「嫌です」 リインは昼間と同じように突っぱねた。フェイトは俯いたままだけど・・・・・・言葉を続ける。 「リイン、そんな事言わないで。帰投命令が出ているのは、リインも同じなの」 こっちに直接だけじゃなくて、フェイト経由でも言うように指示してたのか。なんつうあざといやり口を。 親和力のせいで『公女のため』と思えばなにしてもいいとか考えてるんじゃないの? 「ヤスフミは局員じゃないし、今の雇い主はGPOだから突っぱねられるけど、リインは・・・・・・リインは無理なの」 「ですね。リンディさんから直接言われたです。それでリインはハッキリ返事しました。 そんな命令聞けないから、管理局なんてやめてやるですと。だから戻れません」 「リイン、そんなのダメだよ。お願い、落ち着いて。リインは良くてもはやて達が」 「知ったこっちゃないのです。・・・・・・リインだって、恭文さんと同じです」 リインは僕の左隣で、右拳を強く握り締めて・・・・・・フェイトに決別するように言い切った。 「リインだって、古き鉄です。こんな状況、納得なんて出来ないです。 だから戦います。リインは・・・・・・公女のやってること、絶対に許せないですから」 「リイン、お願い。ワガママ言わないで。ここで戻っちゃうけど・・・・・・必ず、必ず何とかする。 ・・・・・・そうだ。戻ってすぐに私とクロノとみんなで母さんを説得するよ。そうすればきっと」 「フェイトさん、分かってるハズですよね? そんな時間ないですよ」 鋭く、呆れ気味にそう言われてフェイトが言葉を詰まらせる。・・・・・・こう言いたくなる気持ちも分かるのよ。 僕だってアレはさすがに寒気が走ったもの。特にフェイトは優しいし局員のみんなが好きだから、余計に来るの。 「シグナムやシャマル、ヴィータちゃんも同じ感じになりかけてるんです。 もうリイン達は、時間の余裕なんて使い切りました。それなのに・・・・・・それなのに帰れ?」 リインは怒ってる。この状況でまだ覚悟を決めていないフェイトに対して、かなりだ。 うん、決める必要があるのよ。下手したら世界そのものを敵に回すかも知れない覚悟を。 「そんな真似、私には出来ません。というかフェイトさん、フェイトさんは何のために来たですか」 「え?」 「局の・・・・・・クロノさん達の命令だから来たですか? 仕事だから来たですか? ただそれだけのために、ここまで来たですか? フェイトさん、何がしたかったですか」 苛立ってるから、普通にフェイトに対して口調が厳しい。 元々ほんわか口調のリインだけど、それでもキツメなのは変わらない。 「だったらフェイトさんはいらないです。帰るならグダグダ言わずに今すぐ帰ってください」 「リイン、どうしてそういう事言うのかな。お願い、分かって? 私達は局員なの。 どんなに理不尽でも・・・・・・母さんやみんなを信じて、預けて変えていかなくちゃいけないの」 「あんな人達、信じられるわけがないじゃないですか。フェイトさん、バカじゃないんですか?」 そうハッキリ言われて、俯き・・・・・・強く拳を握り締めながらフェイトは涙を零す。 だから・・・・・・僕はフェイトに歩み寄る。歩み寄って目の前で止まった。 それから思いっ切り右手で引っ張ったく。叩いたのは、フェイトの柔らかな左の頬。 なお、マジで加減しなかった。だからフェイトの頬は赤く染まるし、普通に口から血も出たりする。 「ヤスフミっ!? あなた、何してるのっ!!」 「シルビィ、黙ってて」 衝撃で鈍い音を立てながら倒れこむけど、僕は構わずにフェイトの胸ぐらを掴む。 「リインの言う通りだよ。お前なにグダグダやってやがる。てか、普通にこのまま帰すわけにはいかない。 フジタさん、分署にも拘置施設ありましたよね。そこにフェイトもシャーリーもぶち込んでいいですか?」 「わ、私もっ!?」 「そうだよ」 「・・・・・・蒼凪、本気か」 「本気ですよ」 掴んで引き寄せて、無理矢理立たせる。そして・・・・・・怒鳴りつける。 「お前、グダグダ泣き言言ってんじゃねぇよっ! それがお前の選んだ選択だろうがっ!! 全部自分のせいだろっ!? だったら笑って受け入れろよっ!!」 フェイトは涙を流す。痛いのか悲しいのかは分からないけど、フェイトは泣く。 「お前はもう諦めたんだろうがっ! だったら泣いてんじゃねぇよっ!! 泣いていいのはな・・・・・・諦めないで抗ってる奴だけだっ! だから泣くんじゃねぇっ!!」 「無理・・・・・・無理だよっ! そんなの、無理だよっ!! だって私、ここに・・・・・・ここに・・・・・・!!」 「ここに・・・・・・なんだっ!? はっきり言えよっ!!」 掴んだ胸元を乱暴に揺すって、フェイトにしっかりと吐かせる。 このバカ、この期に及んでまだグダグダしてるから、腐った性根をしっかり叩き潰す。 「はっきり言えよっ! お前・・・・・・一体何しにここに来たっ!! 何がしたくて散々言われる事覚悟でここまで来たっ!! ちゃんと口に出してみろよっ! この期に及んで、何グダグダと我慢してるっ!? 全部吐き出せよっ!!」 そう怒鳴りつけると、涙を流しながらフェイトは・・・・・・ようやく口を開いた。 「私はここにヴェートルの人達を・・・・・・ううんっ! ヴェートルの人達なんてどうでもいいっ!!」 口を開いて、お仕事モードの状態だったら絶対に言わないような事を口にした。 「私はヤスフミを・・・・・・大好きな子を助けに来たのっ!!」 普通の状況だったら、胸が高鳴るシーンだと思う。でも、今はシリアスモードなので一時封印。 「なのに何も出来ずに帰るなんて、嫌だよっ! そんな事で笑えないっ!!」 「だったら他人からグダグダ言われたくらいで、自分の通したいケンカを見失ってんじゃねぇよっ!!」 荒く息を吐きながら、呼吸を落ち着けて・・・・・・フェイトを真っ直ぐに見る。フェイトは、ただ嗚咽を漏らし続けていた。 「・・・・・・フェイト、マジでしっかりして。大体ここで戻って説得出来ると本気で思ってるの?」 ま、無理でしょ。そして・・・・・・無理な要因はまだあるのよ。別にリンディさんがお話出来ないだけじゃない。 「その前にフェイトもシャーリーも、どんな手を使ってでも親和力を行使されて手駒にされるに決まってる」 フェイトの目の中に動揺の色が走った。・・・・・・そこは考えていたらしい。 リンディさんと公女が接触を持っている可能性がある以上、強制的にそれをやられる可能性は大きい。 「フェイト、フェイトは管理局員だから、執務官だからフェイトじゃないんだよ? はっきり言うけど、そんな肩書きに塗れて縛られてるフェイトは大嫌いなの」 フェイトのおでこと自分のおでこをくっつける。おでこにフェイトの肌の熱が伝わる。 「最初の時と同じだよ。僕はフェイトの外向けの顔と仕事モードが嫌いなの。 そうやって仕事や立場に縛られて、大事な事を簡単に見失う」 フェイトは呆然とした顔をしている。すごく近くで、嗚咽気味の息が僕の顔にかかる。 「・・・・・・フェイト、すごくカッコ悪い。なんで自分の気持ちから逃げてるのさ。 もう答えは出てるじゃない。あとはそれを貫く覚悟を決めるだけだよ。・・・・・・僕は許さないから」 そんな呼吸がかかるくらいの距離で、フェイトにだけ話しかける。 「ここで泣きながら『仕方がない』なんて言い訳するの、僕は許さないし認めない フェイト、今本当にどうしたいのさ。そうやってどうありたいかという気持ちから、いつまで逃げるつもり?」 フェイトの瞳が、鼻が、唇が凄く近いけど、今はドキドキよりフェイトの説得だ。 悪いけどここで帰らせるわけにはいかない。何が何でも最後まで相乗りしてもらう。 「フェイトはもう答えが決まってるよね? 決まってるから今苦しいんだよね」 「うん」 「それを通せる形だから執務官の道を選んだんでしょ? ずっと前にそう教えてくれたよね。こんな状況、全部ひっくり返してやりたかったから」 「・・・・・・うん」 涙がまた零れ落ちる。それでも気にせずに僕はフェイトの目を見る。 「今の自分が凄くカッコ悪いって事くらい、戻ったらどうなるかなんて事くらい、もう分かり切ってるよね。 フェイトは今、自分のそんな夢や理想に・・・・・・泥を塗りかけてるんだよ」 「・・・・・・・・・・・・うん」 真っ直ぐに、決して目を逸らさずに向き合う。 「僕は強制はしない。ただ、これだけは覚えておいて。僕は今のカッコ悪いフェイトは大嫌い。 僕が好きになったフェイトは凄くバカだけど、無茶苦茶カッコ良いんだから」 僕はこの間のゴタゴタが起きてから、もっと早くにこうするべきだった。そうしたら、ここまで取り乱す必要もなかった。 フェイトがお仕事モードに入って意固地になってるなら、僕がそれを壊せばよかった。 それに関しては反省だ。でも、まだ遅くない。遅くないから・・・・・・ありったけをぶつけていく。 ・・・・・・フェイトは何も言わない。数秒の沈黙が訪れて・・・・・・それでも、フェイトの唇が動いた。 「シャーリー、私・・・・・・失踪するから。テロに巻き込まれて消息不明になるの。それはシャーリーも一緒だよ」 「え?」 「ここに残る。私・・・・・・私も、今の自分が嫌い。カッコ悪すぎて、好きになんて絶対になれない。 それが凄く嫌なの。だから私自身としてやりたかったことを、ちゃんとする。帰るのはそれからだよ」 ・・・・・・ふん、だったら泣いてないで最初からそう言えっつーの。全く、メンドくさい女。 ま、そんな女の子に片想いし続けている僕も僕だけどさ。 「ヤスフミ、あの・・・・・・それでいいかな」 「うっさい。いちいち僕に頼るな。自分で決めたんだから、自分で通しなよ。 ・・・・・・誰に否定されようが、何を言われようが全力で。そこにフェイト自身があるでしょうが」 「うん、そうする。・・・・・・ううん、そうしていくよ」 フェイトは言いながら微笑んで・・・・・・あれ、固まった。固まって顔がなんか凄い真っ赤になった。 「・・・・・・・・・・・・フェイト、どうした?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヤスフミと顔が凄く近い。今の私達の距離は・・・・・・恋人に近いと思う。 姉と弟でも友達でもなく、男と女。私達が未だ体験した事のない恋人という距離。 それに胸が苦しくなった。だから私は・・・・・・反射的に両腕を動かした。 このままじゃ私達、姉弟でも友達でも居られなくなる感じがして、すごく怖くなったから。 そうだ、この距離は・・・・・・そんな関係は怖い。だから私は拒絶した。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「がぼぶっ!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・だ、だめっ! あのえっと・・・・・・私達は姉弟なんだよっ!? それなのにこんな距離は絶対だめなんだらっ! ヤスフミ、何考えてるのかなっ!!」 と、止める間も無かった。あ、あははは・・・・・・なんて言うかヤスフミとフェイト執務官、似てるなぁ。 もしかして似たもの同士だから、色々すれ違ったり仲良くなったりするのかな。そしてフェイト執務官、噛んでますから。 「・・・・・・いや、あのフェイトさん」 「あぁ、シャーリーからも言ってっ!? あの、えっと・・・・・・とにかくダメだったのっ!! 私達は姉弟で友達で仲間で・・・・・・こ、こんな距離は禁止っ! 絶対禁止っ!!」 「いや、落ち着いてくださいよっ! というかやり過ぎですっ!! なぎ君、死にかけてますよっ!?」 私達はシャーリーさんの右手の指差す方向を見る。 そこにはなぜか引っくり返っているソファーとテーブルの下敷きになったヤスフミが居た。 「・・・・・・あぁぁぁぁっ! ヤスフミ、しっかりしてー!! ちょっとフェイト執務官、どんだけの力で殴ったんですかっ!?」 「え、あの・・・・・・多分全力で」 「殺すつもりですかっ!? 魔導師の全力は、普通に殺人兵器じゃないですかっ!! あぁもう、だから資質たっぷりな魔導師なんて嫌いなんですっ! 色々加減知らないしっ!!」 「魔法なんて使ってないよっ! そしてさり気なく心情を暴露するのはやめてくれないかなっ!? あの、えっと・・・・・・ヤスフミ、ごめんっ!! あの、生きてるかなっ!?」 でも、返事がない。普通にそれで全員の血の気が引いた。だってヤスフミ、普通にしぶといタイプなのに。 「た、大変なのだー! すぐに応急処置するのだー!!」 「ぼ、僕は医務室から治療キット持ってきますっ!!」 「あ、私もお手伝いしますっ!!」 「パティ、公子、そっちは頼んだっ! とにかく俺達は蒼凪の救助だっ!!」 『はいっ!!』 ・・・・・・なんか、いつも通りだなぁ。私達、何気に世界の危機に立ち向かってるのに。 でも、いいか。いつも通りだから、何とかなっちゃうような感じがするもの。 『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々 Report11 『Iron Size』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・というわけで、最終決戦前なのに僕は包帯だらけになったわけですが」 「ご、ごめん。・・・・・・でもヤスフミだってひどいよねっ!? 私、口の中が切れてたんだよっ!? それにあんなもうちょっとでキスしちゃうような距離・・・・・・絶対ダメなんだからっ! 私達は姉弟で」 「やかましいわボケっ! 僕は加減したよっ!? 普通に殺る気満々だったらもうちょいやってるわっ!! 人中なり水月なり狙って、龍槌閃もどきなりかましてるってーのっ!!」 とにかく、包帯だらけでアレクとパティに支えられながら、僕は会議に参加だよ。 「アレだ、後でお仕置きとしてチューするから。丹念なバストタッチも込みでチューするから」 「それはだめっ! 私達はその・・・・・・姉弟なんだよっ!? そんな事したら、そうじゃなくなっちゃうよっ!! そんなの絶対だめっ! 私はヤスフミと友達で仲間で姉弟なんだから、絶対にそういうの禁止だよっ!!」 「いいじゃん別に。普通の姉弟はあんな勢いで殴り合ったりしないしさ。今更だよ。 よし分かった。それなら後でフェイトにそういう事をしているのを考えるよ。それならいいでしょ」 「それもダメだからー! そういうエッチなことはその・・・・・・あの、絶対ダメなのっ!!」 なんだろ、軽く泣きそうなんですけど。というかさ、みんなが慰めの視線を向けてくるの。 特に横の二人? すっごい泣きそうな顔で僕を見てる。あはははは、でも泣きたいのは僕なのよ? 「アレク、パティ、なんかごめん」 「いえ、大丈夫です。・・・・・・色々お世話になっていますし。ただあの、頑張ってください」 「私もです。主にご飯関係で。あと・・・・・・うぅ、頑張ってください。私は応援しています」 アレク、パティ、そう言いながら頭撫でるのやめて? ほら、普通に僕はビックリだから。 「それで・・・・・・これからどうしましょう。フェイトさんもやる気モードなのは良いこととしても、現状は変わってないのです」 ≪この人の包帯だらけはすぐに回復するとして、あまり時間はかけられなくなりました。 公女の親和力による次元世界支配は、私達が思っていたよりもずっと進行速度が早いです≫ アイアンサイズがまた出てくるのとか、公女が尻尾を出すのを待って・・・・・・なんて、もう言っていられなくなった。 尻尾が出る前にこっちから早急に対処する必要がある。だったら、まずはどうする? やれる手は、実はそんなに多くない。 「まず、公女をぶっ飛ばす・・・・・・ってのは、ダメなんだよな。そんな事したら、あたしらが犯罪者にされちまう」 「というか、下手をすればもうされてもおかしくない状況よ? 向こうは管理局に影響を出せ始めているんだから」 「とりあえず俺達に取れる手は非常に少ない。そして、これ以上の増援や戦力強化も期待は出来ない」 ≪管理局もそうですが、こうなるとEMPDも心配ですよ≫ うーん、そうなると・・・・・・嘱託とか、はやてみたいな完全フリーな人間くらい? でも、ここまでの事情を聞いた上で、世界が敵に回る覚悟を決めたうえで付き合ってくれる人間? ”マスター、ヒロさんとサリさん、あとはジンさんと我が下僕くらいしか思いつかないんですが” アルトも僕と同じことを考えていたらしい。確かに・・・・・・なぁ。 ヒロさん達もだけど、ジンとバルゴラもなんだかんだ言いながら引き受けてくれるとは思う。 ”でも、全員アウトだよ。それ、僕も考えたけどさ。ヒロさん達は、なんか連絡取れなくなってるでしょ?” ”なっていますね。ジンさんはジンさんで、同じような感じで長期出張中ですし” 結構距離があるし、連絡を取ったり呼んだりしている間に時間的に詰みだよ。 くそ、引退組なヒロさん達はともかく、ジンだけでも来てくれると大分楽になるんだけどなぁ。 ”というかアルト、何時バルゴラが下僕になったの?” ”勝手に認定しました。問題ありませんよね” ”あぁ、無いね” ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ≪いや、大有りだぞっ!? 一体何を言っているっ!!≫ 「・・・・・・バルゴラ、どうした? 今は夕飯時だぞ。静かにしろ。言うなれば今は神の時間だ。 そしてお前は神に反逆してるんだ。お前、自分がそんな大層な愚か者だって事を分かってるのか?」 ≪いや、あの・・・・・・マスター、普通にそんなにステーキが好きか≫ 当たり前だろっ!? ここんとこ忙しくて、普通に肉は久々なんだよっ!! あぁ、密林サバイバルにレーション生活なんてもう嫌だ。自炊するくらいの時間と環境くらいは普通に欲しい。 「というわけで、いただきま」 『ジン坊、悪いんだけど今いいか。よし、いいよな』 ナイフとフォークを持って戦闘準備を整えた俺の横に・・・・・・通信画面が開いた。 そこには、俺の先生と同期のお姉さんとお兄さんの顔。だから俺は、それから目を背ける。 『ちょっとアンタ、私ら無視ってどういうことっ!? 随分偉くなったねっ!!』 「無視じゃないです。40日ぶりの温かい肉を食いたいだけです。食ってから話しますから」 『ジン坊、それは残念ながらお預けだ。・・・・・・悪いんだがお前、今すぐ俺らと合流してくれ。てゆうか、失踪するぞ』 「・・・・・・はぁっ!?」 ちょ、ちょっと待てっ! 失踪ってなんだよっ!! 普通に話がおかしくねっ!? 『色々計算したんだが、俺とヒロだけじゃ速攻は無理っぽいんだよ。お前の力が要る』 「いや、その前に俺の食事タイムが必要なんですけどっ! てーか、頼むから俺を休ませてくれー!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そうなるとフジタ補佐官、本当に私達だけでやることになるんでしょうか」 「一応維新組の無事な連中を、借りることが出来ました。 連中なら親和力の影響も大丈夫です。維新組は公女より、蒼凪に惚れています」 ・・・・・・え、僕っ!? いやいや、なんでそこで僕が出てくるんですかっ!! 「なんかさ、あたし達もさっき聞いて知ったんだよ。 先日のアレでお前の事、レイカや維新組の連中が大層気に入ったんだってよ」 「アンタ、本命は落とせないくせに、他のは落とせるのよね。どうなってんのよ」 あはは、ナナ・・・・・・それは僕が聞きたい。だって今、包帯だらけになりながら初めて聞いたし。 「とにかく、維新組の協力も含めた上で出来る事を考えるですよ。 でもでも・・・・・・うーん、やっぱり決定打は出せないです」 ≪とりあえず、優先順位を決める事からでしょうか≫ 「そうだね、一度に全部は無理だもの。この場合・・・・・・やっぱりアイアンサイズかな。 アイアンサイズを捕縛して、場合によってはクーデター派との交渉材料にする」 いわゆる司法取引ってやつだね。情報をくれれば、多少は罪を大目に見る。 で、クーデター派は僕達よりも情報持ってるだろうし、上手く行けば詰めるかも知れない。 「ヤスフミ、ちょっと待ってっ! それって、アイアンサイズやクーデター派と手を組むってことっ!?」 「・・・・・・ヤスフミ、本気なの?」 「『出来れば』って条件が付く。それで色々といい方向に持っていければ嬉しいとは思う」 まぁ、無いだろうけどさ。ただ、方向性は見えた。アイアンサイズの捕縛がまず一つ。 そこから連中をどうにかゲロさせて、それで終了だ。 「ヤスフミ、私は納得出来ないっ! 犯罪者と手を組むなんてそんなのダメよっ!!」 「ヤスフミ、それは色々矛盾してるんじゃないかな。私もシルビィさんと同じく反対だよ。 クーデター派と交渉するような真似、警察機構に属する私達が」 「それでも、アレクの元々の顔見知りだ」 フェイトの出した少し不快そうな声は、僕のこの言葉で止められた。 あとはシルビィの剣幕もだね。二人とも驚いたように僕を見る。 「ヤスフミ、あなたまさか・・・・・・アレクシス公子のために?」 「まぁ、色々反省したの。アレクの知人なら、ガチに敵扱いもダメなのかなーってさ」 「・・・・・・恭文さん」 それで二人とも苦笑。だけどその中に確実に納得してくれた色があった。 「もちろん二人の言うように最悪手ではあるし、ここは無理だとも思う」 そんな甘い相手じゃないのは、ここ最近のアレコレでもう明白だよ。 多分止まらないだろうね。明確に王族に対しての殺意と親和力撲滅のための使命感で動いてるから。 「でもさ、数時間前とは状況がまるっきり変わってるじゃない? 贅沢言ってられる状況じゃないよ」 数時間前はHa7やクロノさんが色々手管を使って送るはずの増援や、無限書庫の情報。 そういうものが実際に出せるかどうかはともかく、出すための動きがあったんだもの。 「確かにそうだね。母さん・・・・・・リンディ提督のせいで、私達はかなり追い込まれてる」 「でしょ? 公女という共通の止めたい相手が居て、これ以上の戦力増強が期待出来ない以上」 「向こうに俺達との一時的な共闘を求めるのも手か」 もちろん公女やアレクを殺すとかそういうのは絶対になし。ここは納得させる。 ただ・・・・・・この一点で無理っぽいよなぁ。向こうはもう、そういうのを色々ぶっちぎってるし。 だけど試してはみたくはある。これが成功すれば、敵対勢力が一つは減るもの。 だからフジタさんもその可能性を考えて、普通に唸っているのよ。 「お前の狙いや言いたい事は分かった。それなら俺も納得だ。 成功するかどうかはともかく、交渉自体は考えていいだろう。ハラオウン執務官、何かありますか?」 「いえ、ありません。というより・・・・・・反省してます。ヤスフミ、私より冷静に状況を見てるから」 また苦笑しながら僕を見るので、『当然』という顔で笑ってやった。 「フェイト、仕方ないよ。フェイトは僕にお詫びのチューもしてくれないポンコツ執務官なんだから」 「そこは関係ないんじゃないかなっ!? と言うか、チューは絶対ダメなんだからっ!!」 「・・・・・・ヤスフミ、あなたそこまでこだわるの? 全く・・・・・・そんなにチューがしたいならいいわよ。 後で私がいくらでも濃厚なのをたっぷりしてあげるから。というか、私の方だけずっと見てて」 「期待してる。で、シルビィ的にはまだ反対?」 『なんかさらっと凄い会話してるっ!?』 はいはい、周り騒がないで。そしてシャーリーはニヤニヤするな。 あと、アレクとパティはその涙目やめて。何がそんなに不満なのよ。 「出来るなら折れたくないけど・・・・・・背に腹は代えられないのよね。一応は納得した。 ただヤスフミ、私も成立する可能性が限りなく0に近いと思っているのは、知っておいて?」 「・・・・・・分かってるよ」 そんな真剣な顔で睨み気味な視線を向けなくても、承知してる。 ただ、シルビィも言ったけど背に腹は代えられないのよ。 「でも・・・・・・交渉が成立するかどうかは、今は気にしなくてもいいんじゃないかしら。 どちらにしてもそのためには、アイアンサイズの身柄の早急な確保が必要よ。あとはその手ね」 「そうなんだよね。そこだけがどうしても思いつかなくて。やっぱ、一発勝負の大捜索しかないのかな」 だけどさっき話したみたいな時間の問題が出ている。だからフェイトもフジタさんもみんなも頭を捻るのよ。 「あ、アンジェラ一つ思いついたのだ」 「ほう、お前がこういう時に発言するとは珍しい。アンジェラ、どうするんだ?」 「恭文やフェイトお姉ちゃんのお母さんのせいで動けなくなってるなら、もっともっと偉い人に協力して欲しいって頼むのだ」 「・・・・・・なるほど。アンジェラ、アンタにしては中々良い線突くじゃない。確かにその手は有効かもね」 ナナが見直したようにそう言うと、フジタさんと僕以外の人間の表情も同じ形になる。 「こう言っちゃあアレだけど、ハラオウン総務統括官が管理局牛耳ってるわけじゃないもの」 「そうだね。母さんより上の役職で権力のある人は沢山居るから。もちろん良識的な人も。 例えば・・・・・・伝説の三提督。そんな人達だったりに協力を頼めば、もしかしたら」 「だが、その手は最後の手段でしょう。今早々に選ぶべき手ではない」 「えー、補佐官どうしてなのだ?」 ここは僕もフジタさんと同意見。まぁ、確かに僕ならミゼットさん達に連絡とか取れるよ? 先生経由で知り合ってるし、はやての仕事の手伝いで護衛の仕事したりもあったから。 「アンジェラ、まずその上の人間の中でもそこそこ立場のあるリンディさんがコレなのよ? もしかしたら、今フェイトが名前を挙げた伝説の三提督だって危ないかも」 「・・・・・・えっと、アレクのお姉さんの親和力で、みんなと同じようになってるって事?」 「うん。可能性はかなり高いと思う」 権力には権力で対処ってのが、世の中の常套手段だと僕は思う。ハッキリ言って、それが手っ取り早いもの。 そしてそこを公女達が考えていないとは思えない。最初の段階でそこをやらかしてるんだから。 例えばミゼットさん達に相談したとする。それでもしも、ミゼットさん達が公女の信仰者と化してたら? 正直、これは博打になる。それも分の悪い博打だ。フジタさんの言うように、現段階で打つ手とは思えない。 「リイン達がその手を取ると、どうしても相談した人にアレクさんの事も話す必要があるです。 それで最初は味方のフリをしていて、実は公女が親和力で操ってるとかだったら」 「そうだな。そうなれば俺達は完全に袋小路だ。今の俺達の有効札はまず二つある。 一つは公子が協力してくれているということ。そしてもう一つはその事を向こうに知られていないという事」 ようするに、公女達から見ると僕達が計画に気づいているとは、今のところ思ってはいないはず。 話を聞く限り公女は自身の親和力に、絶対の自信を抱いている。そしてそこは突け入る隙にもなりえる。 だからこそ、僕達はギリギリまでそこを公女や他の人間に知られないようにするべきなのよ。 維新組のスタッフにはレイカさん達が口止めしてくれているらしいから、ここは大丈夫。あとは僕達の問題だ。 「だがその手を取ると、その札全てを失う事になる。なんにしても賭けになるぞ」 「確かにそうですね。ヤスフミ、どうしよう。正直私もこの手がいいかなとは思ってたんだけど」 フェイトが僕を見ながら、困ったような顔でこちらを見る。なお、当然だけど僕も同じ顔。 「でも危険が大き過ぎるし、やっぱり人頼みではあるから消極的な手ではあるんだよね。 何かこう、私達からも攻め手を出さないとダメかな」 「ダメだと思う。・・・・・・フェイト、連中の目的はなに? まずクーデター派は王族を皆殺しにする事」 目的はもちろん、親和力という能力の抹殺のため。そうじゃなくちゃ、ここまでするはずがない。 「そして公女の目的は親和力を用いた次元世界征服だね。ここはもう達成しかかっていると言っていいと思う」 「だけど、僕達は現状で出せるカードが余りに少ない。 というより、場にカードがほとんで出ていない。これじゃあゲームにならないよ」 「なら、まずは相手に札を出させる事・・・・・・あ、そっか」 フェイトがハッとした顔になって、目を見開いて僕を見る。 「相手にその選択を取らせるアクションをすれば」 「そうだね。うーん、この場合はやっぱり僕達が親和力の事を知っている事が鍵かな。 その鍵を上手く使えば、アイアンサイズとの交渉も有利に進められるかも」 「だけどヤスフミ、それはどっちにしても交渉の場が出来た時の話だよ? まずは相手にそのテーブルにつかせる事から始めないと。でも・・・・・・うーん」 「それならいい方法があります」 僕とフェイトが悩んでいると、鶴の一声が放たれた。 そう力強く言い切ったのは、僕の隣のアレク。そして・・・・・・とんでもない爆弾を投げた。 「恭文さん、補佐官、フェイト執務官・・・・・・僕を囮にしてください」 「え?」 「僕を囮にして、アイアンサイズをおびき寄せるんです。二人は確実に出てきます。 最終目標がカラバ王族の完全抹殺である以上、出ない理由がありません」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・襲撃から、約2週間が経った。俺と姉ちゃんは、現在港湾区に居る。 普通に姉ちゃんは完全回復して、俺達は再び動けるようになった。 なったが、これからどうしたものかと考えているところに・・・・・・一つ、情報が入った。 アレクシス公子が監視の目をかい潜って月に戻される前にまたもや失踪。 そうしてこの近辺に潜伏しているらしい。しかもそうとう確かな情報だ。 で、真っ昼間から見つからないように俺達も色々手管を使って探して・・・・・・見つけたぜ。 忌々しい特徴的な色の髪に白い肌。身なりは小汚いが、間違いなく公子だ。 手持ちの端末でも、完全に特徴は一致している。変身魔法の類でもないと出ている。 俺と姉ちゃんは顔を見合わせて、狙いを定めた。これで・・・・・・ようやく一人だ。 だから俺達は、倉庫の天井から全力で飛び上がって、一気に落下。 俺と姉ちゃんは、倉庫と倉庫の間の路地を歩くソイツの頭上から、一気に襲いかかる。 「・・・・・・公子っ!!」 「ようやく見つけたぜっ! さぁ、とっとと死ねやっ!!」 公子は俺達を見てビックリしたような顔をして・・・・・・妙な行動を起こした。 俺達を見て、僅かに笑ったんだ。まるで罠にかかった獲物を見るようにして。 瞬間、魔法の反応。公子の足元に金色のミッドチルダ式の魔法陣が浮かぶ。 浮かんで、公子の姿が一瞬で消えた。俺の蹴りと姉ちゃんの拳は、ただコンクリの地面を砕くだけ。 衝撃によりクレーターが出来たりはしたが、そこはいい。俺達が気にしなきゃいけないのは、別のとこだ。 「姉ちゃんっ!!」 「・・・・・・まさか」 俺達が顔を見合わせている間に、閉鎖結界が展開。空の色が幾何学模様に変わった。 「そのまさかだよ」 右から聴こえてきた声は、ちんまいステッキを持ったガキ二人に、白と赤と黒のラインが入ったパワードスーツを着た女。 「お前ら、そうとう焦ってたんだね。いや、良かったよ。マンマと餌に釣られてくれてさ」 もう一つの声は、左から。ソイツは、ゆっくりと・・・・・・くそ、またまた本気モードかよ。 あと、あのポニーテールガンナーも居やがる。これ、完全に詰みってわけか? 「んじゃ、ここで終わりにしようか。・・・・・・さぁ、お前達の罪を数えろ」 「大人しく、縛につきなさい。もうこれで終わりよ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「フェイト執務官、上手く行きましたね」 「えぇ。・・・・・・パティ、大丈夫?」 「大丈夫です。寸前で助けてもらいましたから」 そう言うのは、港湾区の一角でフジタ補佐官と私のところに転送されてきたアレクシス公子。 私・・・・・・やっぱり後方支援になってしまった。維新組の総大将の事もあるから、やっぱりね。 とにかく、アレクシス公子だった子はその姿を一瞬で変える。その子は、パティ。 つまり・・・・・・囮捜査だったの。噂を流して、アイアンサイズを釣り上げるための。 「ハラオウン執務官、結界の方はしっかりとお願いします。恐らくこれが、最後のチャンスです」 「分かっています。でもフジタ補佐官、ヤスフミ達は」 「大丈夫ですよ。あなたの弟は、あなたが思っているよりずっと強い。・・・・・・信じてあげてください」 「・・・・・・はい」 ・・・・・・信じてないわけじゃないんだけどな。ただ、たまらなく心配になるだけで。 でも・・・・・・あの時は驚いたな。まさか公子が、あんな事言い出すなんて。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・いや、確かにそれならやれるよ? 連中の目的は、王族の抹殺。 ここだけは絶対変わらないから。アレクを囮にするのは、一番いい方法だと思う」 「僕もそう思います」 「でもでもアレク、囮って分かる? アンジェラはやったことないけど、すっごくすっごく危ないのだ」 「アンジェラ、そこも分かってるよ。・・・・・・でも、やりたいんです。僕は今の状況で笑ったりなんて出来ない。 納得して笑う事なんて出来ない。だから・・・・・・戦いたいんです。僕に出来る最大限の事で、戦って今を覆したい」 それは私に対してヤスフミが言った事。・・・・・・あぁ、まただ。またヤスフミが、何かを変えたんだ。 「・・・・・・アレク、本気なの? というか、怖くない?」 「怖いです。逃げたいくらい・・・・・・見てくださいよ、コレ」 両手が震えてる。それを見て、私は胸が苦しくなる。だから、言おうとした。 無理はしなくていいと。あなたは公子なんだから、そんな事をする必要がないと。 「情けないですよね。僕や姉さんがこの状況を招いた張本人なのに、怖がってる。 絶対になんとかしなくちゃいけないのに、怖がって・・・・・・逃げたがってるんです」 でも、何も言えなくなった。・・・・・・公子だからこそ、力や今の状況に一番怯えていると思ったから。 「だけど、逃げたくない」 公子は震えている両手を、強く握り締める。握り締めて・・・・・・瞳に強い力を宿す。 その力の名は『決意』。それが今の公子を強くし、輝かせていた。 「逃げたくなんて、ない。もうこれ以上逃げて・・・・・・後悔するのなんて、嫌だ。 こんな自分のままなんて、嫌なんです。だからお願いします」 きっとそれはさっきの私と同じ。だから・・・・・・何も言えなくなってしまった。 「怖いのも、逃げたいのも全部含めた上で・・・・・・戦わせてください」 「・・・・・・全く、しゃあないなぁ」 左手でヤスフミは、公子の頭を撫でる。そしてアンジェラちゃんは、公子の両手を強く握る。 「もう気持ち、固まってるんだよね?」 「はい」 「なら、一緒に戦おう? 怖いのも逃げたいのも全部含めて、それでも・・・・・・突き抜ける」 「うんうん。アレク、アンジェラ達と一緒に頑張るのだー」 「・・・・・・ありがとう、ございます」 ・・・・・・ちょっと待ってっ!? 思わず納得しそうになったけど、さすがにダメだよっ!! 「ヤスフミ、ちょっと待ってっ!? そんなのダメだよっ! いくらなんでもリスクが大き過ぎるっ!!」 「今更でしょ。僕達、下手したら世界そのものを敵に回してるんだしさ。てーか、他に方法ある?」 「あるよ。私が変身魔法で公子に変装する。そうすれば、公子に危険な目に遭ってもらう必要はない」 公子のお気持ちは嬉しいけど、それだけで充分だよ。戦うのは、私達の仕事なんだから。 公子は後ろに下がっていて欲しい。あとは・・・・・・私達で絶対に何とかする。 「却下」 「どうしてっ!?」 「連中が変身魔法を見抜く手段を持ってたらどうするのよ。それも遠距離から」 そう鋭く言われて・・・・・・一度矛を納めるしかなかった。確かにその可能性はあるから。 魔力反応や微弱な変化で、変身魔法は見抜けないわけじゃないもの。 「そこを考えないような緩い奴らじゃないよ? で、それをやられたらもうおしまい。 確かにリスクは高いけど、アレク本人にやってもらう方が確立は高いんだよ」 「それは分かるけど・・・・・・でもだめだよ。私は絶対に賛成出来ない」 「恭文さん、公子にアンジェラ先輩、そこは私も同様です」 私の言葉に乗っかってきたのは、パティ捜査官。ヤスフミの隣でずっと話を聞いてた。 「公子は戦闘技能があるわけでもありません。危険度の大きさは無視出来ないですよ」 「まぁ、そこがなぁ。僕達の誰かが一緒・・・・・・とかだと、意味ないよね」 ここはヤスフミも分かっていたのか、苦い顔でパティ捜査官を見る。 まぁ当然だよね。経験もあるし、警防とかでも色々教わってたんだから。 「正直さ、フェイトの言った事、僕もちょっと考えたのよ。さすがにアレク本人は怖過ぎるもの」 「でもでも、さっき恭文が自分で言ったみたいに変身魔法はダメなのだ。 アンジェラだって、見ただけで気づいちゃうよ?」 「あー、そういやお前は見抜けたんだったよな。あたし、思い出したよ」 「えぇっ!?」 へ、変身魔法を見ただけで見抜くっ!? そんな事出来るわけないよっ! というか、この子何者なのかなっ!! 「一応ね、背丈が似てる僕が魔法を使わずに変装・・・・・・ってのも考えたのよ」 あ、そっか。その手があったよね。古典的ではあるけど、魔法どうこうでバレる心配はない。 そのお姉ちゃんとしてはかなり心配だけど、ヤスフミの技能の高さは知ってるし・・・・・・これならまだ。 「でも、どっかの顔認証システムみたいに、体型の一部から別人だってバレる可能性もあるでしょ? だからこれもダメ」 「・・・・・・あぁ、そうだね。つまり・・・・・・・ヤスフミ」 私の言葉に、ヤスフミは困った顔のままで頷く。 「うん。僕達が普段囮捜査とかで使ってる手段のほとんどがアウトになる」 「そうなる・・・・・・よね。うぅ、どうしよう。ね、やっぱりヤスフミ的にも、本心を言えば公子本人の囮は」 「やりたくないね。こっちの予測しない手でその場から一気に攫われたら、確実にアウトだもの」 変身魔法も変装もだめ。そうなると、公子本人を使う必要がある。 でも、これはあまりにリスクが高過ぎる。アイアンサイズがどんな手に出るか分からないもの。 「・・・・・・なぁパティ、そう言うんであれば代案を考えてからじゃないかな。 あたしも現状でこの囮作戦が一番いい手だとは思うしさ」 「分かっています。というか、ジュン先輩もみなさんもお忘れですか? ・・・・・・私、こういう時に使える手札があるじゃないですか」 パティ捜査官が自信満々に言うと、GPOのメンバーは顔を見合わせて・・・・・・ハッとした顔になった。 ううん、私とヤスフミとリインにシャーリーも同じく。確かに私達は、その手札の事を忘れていたから。 『・・・・・・あっ!!』 「そうです。囮作戦の公子役は、私がやります。私なら、完璧に公子になり切れますから」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・それで、僕とフェイト達は改めてきちんとした説明を受けた。 パティは以前少し説明した通り、完璧な変身能力がある。それもどんな人間にもなれる。 現に僕達の目の前で変身して、完璧なアレクになってしまった。 アルトとバルディッシュ、リインのサーチでも本人と一致って出るし・・・・・・すごい。 てゆうか、魔法じゃないんだ。魔力関係が一切出て・・・・・・よし、ここは気にしない方向で。 「・・・・・・でもパティ。姿形が完璧なだけじゃ、アレクにはなれないよ?」 「え、どうしてですか?」 「そこは俺も同意見だな。現に以前の変装はシンヤに気づかれた」 どうもシンヤさんは、実際に公子に会った事がないのに一発で変装に気づいたらしい。 「というかフジタさん、僕とシルビィはその時居なかったんですけど、なんで気づいたんですか」 「協力を取り付けた時にそこも聞いた。俺も何気に気になっていてな。 ・・・・・・眼光だそうだ。『アレクシス公子』の目の中に、何故か知っているパティの影を見つけたとか」 「そ、そんな無茶苦茶なっ! 現に今だって、私もバルディッシュでさえも喋らないとどっちがどっちか分からないのにっ!!」 「いやフェイト、有り得るよ。マスター級やそれに近い武術の達人に、そういう事が出来る人は確かに居るもの」 例えば美沙斗さんや弓華さんとかだね。当然だけど恭也さんや美由希さんもこれに入る。 やっぱり僕達魔導師は、魔法とかミッド水準の科学技術におんぶされてるね。そのせいでそういう勘が磨かれないのよ 「恭也さんとか美由希さんレベルって言えば、フェイトにも分かるでしょ?」 「・・・・・・それならまぁ、納得だけど。というかヤスフミ、あの人と組み手やったと聞いてるけど、そんなに強いの?」 「うん。ガチな格闘戦だと、多分僕は勝てない。他の色々な技能を駆使してなんとかって感じかな。 もちろん向こうは魔法無しで。パワードスーツ込みでも、武術家としての技量が高いから」 「そこまで・・・・・・なんだ。ただ者ではないと思ってたけど、ちょっとびっくりしてる」 あの人・・・・・・手合わせした時も思ったけど、無茶苦茶勘がいいんだよね。すごい人だ。 「とにかくだ。連中はそんなシンヤや俺達よりもずっと、アレクシス公子を知っている。 公子の細かい癖や動作に違和感を感じて、そこからバレる可能性もある」 ≪つまり、ここではパティさんがアカデミー賞ものの演技力を発揮。 そうして『アレクシス・カラバ・ブランシェ』になる必要があるという事ですね≫ アルトがそう言うと、アレクの姿なパティが納得したように頷く。 つまりよ、今のままではパティはそれが出来ないという事になる。 「なるほど。納得しました。でも、どうすれば」 「パティ、捜査実習の時にその辺りは教えたはずだ。相手の行動パターンを見抜きたいなら」 「・・・・・・あ、徹底した観察と事実に基づいた考察」 フジタさんがそこまで言うと、パティは思い返して気づいたらしい。そして更に深く納得した表情になる。 「そうか。あの時の私は公子に対してそこが全く足りてなかったんだ」 「そうだな。この作戦をやるのであれば、まずそこだ。 そしてそのためには本人を見なければ、どうにもならないだろう」 どうやらそういう事をしてたらしい。そう言えばランサーになってからもうすぐ2ヶ月とかだっけ。それでなのか。 「あとは・・・・・・やっぱ生活パターンの学習? 出来る限りアレクの側に居ることを心がける。 あれだよ、もうアレクの姿をしている時は男子トイレに入るくらいの気持ちじゃなきゃダメだって」 「そ、そうなんですかっ!?」 「そうだよ。まぁ、徹底した観察と今の自分の性別を一端封印する気持ちは大事かな。 性別って意外と大きいのよ? 同じような体格でも、性別が違うと歩き方も変わってくる」 「・・・・・・確かに私と公子では、その辺りが壁になるかも知れませんね。 あぁなるほど。うん、その通りかも。恭文さん、アドバイスありがとうございます」 パティには少し集中して、そういう細かい部分からもアレクを演じてもらう必要がある。 そしてパティは、そのための気持ちが固まったらしい。決意に満ちた顔でアレクを見ていた。 「それなら公子、少し集中的に観察してもよろしいでしょうか」 「は、はい。それは構わないんですけど、あの・・・・・・やっぱり僕が」 「ダメです。公子、公子がぶつかるべき相手は、アイアンサイズだけじゃありませんよね? ・・・・・・だから公子が戦うべき時が来るまでは、私が露払いをします」 アレクはまだ納得しきれてないようだけど、ここも要協議かな。 やっぱアレクの振り上げた拳の行き所もあるし。 「あの、ちょっと待って」 「フェイト執務官?」 「パティ捜査官、前から少し思ってたんだけど、それはどうやってるのかな。 魔力反応もないし、今までの話を聞く限りレアスキルというわけでもない」 「それは、あの」 「もしも信頼性の低い違法な装置とかだったら、私は許可出来ないよ。そこからバレる可能性もあるわけだし」 フェイトの視線が厳しい。というか・・・・・・いや、今はそこはいいじゃないのさ。 普通にパティのおかげで、一つの解決案が導き出せたんだしさ。 「・・・・・・違います。というよりこれは、私が生まれつき持っている能力なんです」 パティの表情が、少し悲しげなものに変わった。だからフェイトは、疑問に思う。 「ちょっと待って。生まれつき」 ・・・・・・そこまで言って、ようやく気づいたらしい。だからパティだって、頷くんだ。 フェイトは言葉を止め、自分が今どんだけKYだったかを痛感しているらしい。表情が一気に曇ったもの。 ”フェイト・・・・・・バカでしょ。さすがに僕とリインもアルトも分かったのに” 呆れ気味に一言だけそう言う。だからフェイトは、申し訳なさ気な顔になる。でも、遅かった。 ・・・・・・とりあえずアレだ。フェイトの疑問は確かに正しい。でも、この場で聞くべきじゃなかったよ。 「・・・・・・ごめん。私、本当に今無神経だった。あの、ごめん。謝っても取り返せないんだけど」 「じゃあ謝らないでください」 パティはハッキリそう言った。だけど、瞳は優しく・・・・・・フェイトを安心させるように笑っていた。 また泣きそうな顔になったフェイトはそれを意外そうに見ていて、逆に戸惑ってしまっている。 「私も謝られても辛いだけですし。それに大丈夫です。・・・・・・今はこの力に感謝しています。 この力があるから出来る事があります。それは、公子の戦いの手助けになれる事です」 言いながら、公子をパティは見る。そして変身を解除した。 僕の隣に居る女の子は、嬉しそうで・・・・・・だけど凛々しくアレクに笑いかけていた。 「公子、私も見ての通り、あなたや恭文さんの友達と同じ『普通とは違う存在』です。 でも・・・・・・それでも、勇気を持って一歩踏み出せば、変わる事が出来ます」 「・・・・・・パティさん」 「それを私に・・・・・・一番の味方になって、教えてくれた人が居ます」 ・・・・・・あ、これ。前にアンジェラが言ってくれた言葉だ。 だからアンジェラも、自信を持って胸を張りながら僕を見るんだ。 「公子、一人で戦おうとしないでください。ここには恭文さんを筆頭に、あなたの味方が沢山居ます。 私も同じです。GPOも何も関係ない。もちろん親和力のせいなんかじゃない」 みんな、アレクを見ながらパティの言葉に同意するように頷いた。なお、フェイトはまだ涙目。 ここはマジで自業自得だと思うので、気にしない事にする。シャーリーも同じなのか、フォローしないし。 「ただの私として・・・・・・あなたに力を貸します。あえて信じてくれとは言いません。 ただ遠慮なく自分の気持ちにワガママになって、私達を巻き込んでください」 パティがそう言うと、アレクが僕を・・・・・・みんなを見る。それで一度瞳を閉じて、一気に見開いた。 「・・・・・・みなさん、ありがとうございます。ならお願いします。僕に力を貸してください。 姉さんを、アイアンサイズやクーデター派を止めて、こんな悲しいことを・・・・・・もう終わらせたいんです」 『了解っ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そんなこんなで色々噂を流して、フェイトには行方不明になってもらって・・・・・・ようやくだ。 ようやく、ここまで来た。ここまで来て、戦う前に試す事がある。 「逃げられない状況だし、少しお話だ。お前達、公子や公女達を殺すのをやめない?」 「聞けないねっ! これが私らの仕事でさっ!!」 「・・・・・・そうまでして、親和力を消し去りたいわけ?」 警戒を緩めない二人だけど、僕の言葉に表情を驚きに染めた。 ≪私達、外に優秀な友達が結構居るんですよ。だからもう、バレてますよ? あなた達がどこの所属で、何のためにカラバ王族を殺したいかを≫ 「そしてリイン達も、親和力の事を何とかしたいと思ってるです。 そういう意味では、リイン達はあなた達と目的は同じですね」 「そうか。だったらお前ら、なんで邪魔すんだ。普通に俺らに奴らを殺させろよ」 ダンケルク・・・・・・いや、二人か。二人から、激しい憎悪と殺気が噴き出す。 それを感じて思った。どうやら、まっとうな交渉はやっぱり無理だと。 「知ってるなら、奴らが何をしてきたか、どんだけ化け物かも知ってんだろうがっ! 何それでも守ろうとしてんだっ!? 奴らを信仰して、死んだ奴がどんだけ居ると思ってやがるっ! 俺達は・・・・・・カラバはずっと、奴らの食い物にされてたんだよっ!!」 ・・・・・・そうか。うん、よーく分かったわ。 「現に世界を見なっ! あのバカ公女のせいで、次元世界全体が第二のカラバになりかけてやがるっ!! 全部あの化け物共のせいさねっ! ほら、分かっただろっ!? 私ら止める前に、あの害虫共をぶち殺し」 「喋るな」 視線を厳しくして、睨みを利かせる。それだけでキュベレイとダンケルクは言葉を止めた。 「・・・・・・喋るなよ。てめぇらに王族を『化け物』呼ばわりする権利はねぇ」 少しばかりの距離を取りつつ、僕はそう言い切る。 そしてすぐにダンケルクやキュベレイを、足元から青い縄が縛り上げる。 ≪Struggle Bind≫ 「お前ら、EMPに来てから何人殺した。王族とは関係のない人間を、何人殺した」 ジガンのカートリッジをフルロード。そうして、連中の足元のベルカ式魔法陣から、縄が更に生える。 生えて、全身を縛り上げる。絶対に逃がさないように、身体を縛り切るような勢いで。 「相当数殺してるよな。あの生体兵器だけでも、100人単位だ。 それ以外でも、色々やらかして何人も死んでる。・・・・・・もう黙ってろ」 お前達に、公女や王族のやり方をどうこう言う義理立てはない。そんなものあるわけがない。 そんな奴が正義を語って『自分達は間違ってない』と来たもんだ。もう笑っちゃうね。 王族を理由に、殺した事実を正当化した。踏みつけて利用した事実を正しいこととした。 コイツらはこの期に及んで、まだ被害者ぶってやがる。だから抑えられなくなった。 「力も、身体も、生まれのどうこうも関係ないっ! ここまで暴れたのは、お前ら自身だろうがっ!! 分からないようならハッキリ言ってやるっ! お前らは」 「ヤスフミ、もういい」 シルビィが右肩を叩いてくる。静かに声を僕にかけて・・・・・・そうして、僕をジッと見る。 「もう、いい。そこについては多分、話して伝わらないから。もういいの。お願い、それ以上言わないで」 青い瞳に僅かに涙が溜まって、どこか悲しげなのが胸を貫いた。 「ヤスフミは今、絶対にそんな事を言っちゃいけない。 ・・・・・・ただ哀れむだけでいいの。お願い、それだけで・・・・・・それだけでいいから」 『落ち着いて?』と言っているのが分かって・・・・・・少し、冷静になる。 僕の様子からそこが分かったのか、シルビィが軽く安心させるように笑ってくれる。それから、奴らを見る。 「とにかく、あなた達の事情については知っているわ。もう言い逃れなんて出来ない。 リインちゃんの言うように、私達は同じところを目指しているとさえ思う。だからまずは冷静に話を」 シルビィの言葉がそこまで言いかけて止まる。それで僕も気づいた。 キュベレイの腹から、あるものが出るのを。それは・・・・・・手榴弾? 僕は咄嗟に詠唱を開始する。 「嫌なこったっ!!」 それはすぐに爆発して、辺りに衝撃が広がる。なお、僕とシルビィはその直撃を受けてない。 ブレイクハウトで壁を作って、爆発の衝撃を防いだ。爆風と炎が、辺り一帯に渦巻く。 でも大丈夫。発動したブレイクハウトによる壁はその全てを遮り、僕達を守る。多分向こうも同じ。 向こうにも同じく壁を作って防いだもの。そして・・・・・・爆発が止んだ。 ・・・・・・爆発中心部に、気配がない。自爆? いや、逃げたのかな。 「・・・・・・ヤスフミ、ありがと。というか、この間も思ったけど便利な術持ってるのね」 「魔法での防御だけだと、不安だしね。それにほら、これを使えばシルビィにアクセサリーだってすぐに作ってあげられる」 「あ、なるほど。そういうのも込みって事ね。・・・・・・それでアイアンサイズは?」 「この周辺には居ない。連中の気配が消えてるもの」 でも、普通に結界内だし簡単には逃げられないでしょ。 「あとごめん。・・・・・・交渉、ぶち壊した」 「ん、大丈夫。私達みんな、気持ちは同じ。だから気にしなくていいのよ?」 「・・・・・・うん」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・姉ちゃん、さすがに無茶し過ぎだって。爆弾使って、バインド吹き飛ばすなんてよ」 爆発に乗じて身を隠して、一気に結界から脱出。まぁ、そこの辺りの手段はご想像にお任せする。 「仕方・・・・・・ないだろ。こうでもしなきゃ、普通に捕縛だったんだしよ。でも」 「あぁ。あんま、変わらねぇかも知れねぇな。普通に俺ら、もうマジでボロボロだしよ」 死ににくい身体ってのも、考えものだな。てーか、マジで必死に逃げねぇとダメだろ。 今のままじゃ、絶対に勝てねぇ。まだだ、まだ俺達は・・・・・・俺達は、奴らを殺せてねぇんだ。 あの結界や転送魔法・・・・・・局の魔導師か? 反応から見て、古き鉄じゃねぇ。 くそ、だったら早く逃げねぇとヤバい。既にサーチかなにかで反応が掴まれてる可能性が。 「・・・・・・ダンケルク、キュベレイ」 この区画の片隅、薄暗い路地を歩く俺達を後ろから呼ぶ声がする。 そちらを見ると・・・・・・赤い髪に俺達に近い肌の色。そして、黒いコート。 「・・・・・・マクシム様っ!?」 「な、なんでここにっ!!」 俺ら、最後の大暴れのための準備もまだ出来てないってのにっ!! 「もう一刻の猶予も無いと思い、急いで駆けつけた。 ・・・・・・すまぬ、お前達ばかりに負担をかけてしまった」 俺達はその場で崩れ落ちて、こちらに歩いてくるマクシム様を見上げる。 いつものように凛々しく、そして気高い顔立ちで俺達を見る。 「いいえ、そんな事は・・・・・・マクシム様、すみません。私達は」 「何も言うな。お前達はよく頑張ってくれた。だが、もうひと踏ん張り頼めるか? こうなればカラバの全戦力を用いてでも・・・・・・公女を抹殺する」 「マクシム様、そんな事をすれば」 「そうしなければカラバの悲劇は繰り返される。 それと・・・・・・GPOとも協力していくべきかも知れんな」 はぁっ!? いやいや、なんでそうなんだよっ! てーか、アイツら敵だぞっ!! 「先程の会話、実は聞かせてもらっていた。・・・・・・恐らく、向こうも余裕がない故の交渉だろう。 そしてそれに関してはこちらも同じことだ。それならばこれもひとつの手だろう」 「ですが、それだと親和力が」 「なに、案ずる事はない。ただ懸念すべきは・・・・・・最後の最後、手元が狂ってしまう可能性もあるという事だ」 そう言いながら、マクシム様が口元を軽く歪めて笑う。・・・・・・あぁ、そういう事か。 連中の戦力を利用して公女に一気に近づいて、で・・・・・・どさくさに紛れて殺しちまおうと。 「時の英雄とは、その行動の内容によって決まるものではない。行動の結果で決まる。 我々の行動・・・・・・親和力の完全抹殺こそがそれだと、私は信じている。二人とも、それでいいな?」 「はは。我らアイアンサイズ、常にマクシム様と共に」 「マクシム様と共に。・・・・・・てゆうかマクシム様、もしかしてそのために」 「まぁそういう事だ。私自ら出て行った方が、色々と楽だろう。さて、では早速」 「・・・・・・悲劇とはまた、随分と失礼ですね」 その声に寒気がした。だけど、寒気を感じる前に俺達を上から襲う影があった。 全ては一瞬。その間に俺達とマクシム様の間は引きはがされ、砕けた。 砕けたのは、俺と姉ちゃんの右耳のイヤリング。それが片刃のサーベルでの突きで壊れた。 俺達はその声の主と、今の攻撃をしてきた奴の間に挟まれる形になる。 攻撃した女は、片目を眼帯で覆って、青い長袖のコートを羽織り黒色のショルダーガード。 そして1メートル弱はあろうかと言う大ぶりながらも細身のサーベルを俺達に向ける。 その光景を見ながら声をかけた女は・・・・・・優しく微笑んでいた。 だが、それは悪魔の微笑みだ。俺達はもう、それをやんなるくらいに知っている。 「ダンケルク、キュベレイ、大変でしたね。でも、もう大丈夫です。私が楽にしてあげますから」 胸の中に湧き上がる感情に、必死に抵抗しようとする。でも、ダメだった。 俺達は・・・・・・もうこの人が好きだ。大好きで大切で、いとおしい。全力で守りたい。 「あぁ、アルパトス公女」 「俺達を・・・・・・こんな俺達を助けてくれるのですか?」 「私らに、許しを与えてくれるのですか?」 俺達はあなたを殺そうとしたのに。それなのに、あなたは俺達に微笑む。 微笑んで、天使の慈悲をくれる。それが嬉しくて、俺達はまた泣く。 「当然です。あなたは私達の同胞。今までは悲しい行き違いをしていただけ。 ダンケルク、キュベレイ、私はカラバを復興させます。力を貸してくれますか?」 「「はっ! この生命に替えましてもっ!!」」 「ダンケルク、キュベレイっ!!」 後ろを見る。そこには・・・・・・敵が居る。俺達は立ち上がった。 命を賭けて、俺達は公女を守らなくちゃいけない。それが俺達の正義だ。 もう間違えは繰り返さない。俺達は、間違っていた。 王族はカラバ・・・・・・いや、世界にとって絶対的に必要な存在なんだ。 「マクシム、あなたも悔い改めるのであれば、私があなたに許しを与えます」 「何を言うかっ! 貴様、神にでもなるつもりかっ!!」 「いいえ。私はただ・・・・・・世界の全てを幸せにしたいだけです」 「ふざけるなっ! お前の力による支配など、私は決して認めないっ!!」 言いながら、あの男がサーベルを抜く。だから俺達は走った。 公女のためなら、ボロボロの身体の痛みも吹き飛ばせる。そして、あの男に抱きつく。 「ダンケルク、キュベレイっ! やめるんだっ!! お前達、目を覚ませっ!!」 「目を覚ますのはお前だよっ! この世界の反逆者がっ!!」 「公女の言う事を聞けっ! 公女は、この世界の救いの女神だっ!!」 「ふざけるなっ! 親和力は救いの力などではないっ!! ただ人の自由意志を奪い」 言葉は、最後まで続かなかった。オーギュ様が、サーベルで逆賊の胸を貫いたから。 「・・・・・・オー、ギュ」 刃をそのまま引き抜くと、逆賊の身体から力が抜ける。俺達は、そっと離れる。 そうして倒れて・・・・・・そこから血が溢れ出す。目は見開いたまま、もう動く事はない。 「さらばです、お兄様」 「・・・・・・オーギュ、すみません。あなたに辛い思いをさせてしまいました」 「いいえ、大丈夫です。この身は・・・・・・カラバと公女のためにあります」 そう言いながら、膝を突き公女に傅く。それに俺達も習う。あぁ、そうなんだ。 この身体の全ては、カラバと公女のためにある。そうあるべきなんだ。 「ありがとう。あなたの忠義、心より感謝します」 「は。全てはカラバと公女のために」 「では、参りましょう。私達の新しい居城・・・・・・サードムーンへ」 オーギュスト様を中心に、薄紫色の魔法陣が展開。それによって、俺達は新しいカラバの城へと跳んだ。 この身は、カラバと公女のために。そうだ、それが絶対で・・・・・・俺達の幸せなんだ。 (Report12へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |