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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report10 『Creeping erosion named Affinity』



恭文「前回のあらすじ、維新組屯所にアイアンサイズが強襲。僕達はそれの対応のために出動」

フェイト「そして戦闘開始というところで、お話が始まります。
・・・・・・でも、悔しい。私本当に今回は何も出来そうにない」

恭文「そこは僕だって同じだよ。本当にギリギリ過ぎて、かなり危機感持ってる。フェイトだけじゃないから」

フェイト「・・・・・・そう言ってくれると、少しは気が楽になるよ。とにかくメルとま第10話、始まります」

恭文「どうぞー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ダンケルクはまたも僕に踏み込んでくる。そうしてダンケルクは・・・・・・腹を打ち抜かれた。





衝撃で目を見開いて、同じように開いた口から苦しげな息が漏れる。










「く」



腹を打ち抜いたのは、僕のブレイクハウト。地面の木を操作して、木の杭を打ち込んだ。

ただし、それでもダンケルクの身体は貫けない。ダンケルクは忌々しげに両腕を振るう。



「効かねぇなっ!!」





振るって、杭をバラバラに斬り裂いた。僕へと踏み込もうとするけど、もう遅い。

僕は目の前には居ない。そして、シルビィが牽制に銃弾を数発叩き込む。

ダンケルクの身体に火花が散る。・・・・・・銃弾でも、コイツは死なない。



肉体そのものが普通に高い防御力を有しているんだ。ガチにやり合うのは、やっぱり危険。





「・・・・・・はぁっ!!」



僕は後ろから、両手の刃を唐竹に叩き込む。ダンケルクは振り返りつつ僕に、小太刀よりも分厚いハンドアックスを叩き込む。

小太刀と横薙ぎのハンドアックスの一撃が衝突する。だけど・・・・・・砕けたのは、ハンドアックスの方だった。



「・・・・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





右手に残ったのは、鉄拵えの柄だけ。なお、これをやったのは簡単。徹を叩き込んだから。

ダンケルク本体にではなく、迎撃に来るのを読んで吸収している武器本体に直接。

普通に吸収している武器の物質硬度までがチートレベルにならないのは、今までのアレコレで知っている。



僕だけじゃなくて、シルビィ達は前々からダンケルク達とやり合っていたんだもの。これくらいはね。

前にどっかから持ち出した戦闘ヘリと融合した時も、普通にダメージを与えて破壊出来たらしい。

それがコイツらの融合能力の穴の一つ。コイツらは無機物を吸収して、その能力を活用出来るだけ。



ただそれだけで、その物質の硬さや能力、強度のパワーアップとかまでは出来ない。

そして徹は本気で叩き込めば、人一人くらい簡単に殺せる技。

そこら辺から拾ってきたハンドアックスの破壊なんて、楽勝だよ。でも、失敗が一つ。



軌道の問題で、徹を連続して二つ叩き込んだだけになってしまった。・・・・・・ここが失敗。



普通にインパクト、ズラされちゃったのよ。連続して叩き込むんじゃだめ。やるなら、同時だ。





「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」





そしてダンケルクが、忌々しげに僕に唐竹にロングソードを叩き込む。僕は左に大きく跳んでそれを回避。

斬撃が床を砕き、轟音が音に響く。だけどシルビィは変わらずに、今の攻防の間に弾をリロード。

弾丸を乱射して、ダンケルクを背中から撃ち抜く。それにダンケルクは怯むようにして身体を前に倒しかける。



僕は足を止めて、当然のように魔法詠唱に入る。狙うはダンケルク。

そしてそのダンケルクは、倒しかけてた身体を右足を前に出して踏ん張った。

・・・・・・いや。そこから姿が一気に消えた。そして、4時の方向から殺気。



僕は身を左に捻りながら、飛び込みつつ放たれた突きを避ける。

当然のようにダンケルクは、通り過ぎる直前に足を止めて右薙に斬撃を打ち込む。

僕は後ろに数歩下がってそれを回避。当然だけどダンケルクは追撃をかける。



なので、ダンケルクは刃を引いた。引いたけど、動けなくなった。



そりゃそうだよ。・・・・・・自分の身体を戒める青い鎖が生まれたんだから。





≪Delayed Bind≫










ディレイドバインド。設置型のバインドで、一定空間に侵入した敵を戒める鎖だ。

なお、さっき詠唱していたのはこれ。ちょっと術式をアレンジして、僕が立っている位置に設置した。

当然だけど、僕だけはそれに引っかからないようにした上で。





・・・・・・この状況で、武器の投擲はない。だって武器を投擲したら、僕達と素手でやり合う必要があるんだから。





危険が大き過ぎるし、やるわけがない。僕はそこで追撃・・・・・・いや、それはシルビィがしていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



補佐官の指揮車の中で、僕は画面とにらめっこ。そして、GPOのみなさんと恭文さんの戦いの様子を見ている。

恭文さん、まるで別人のようだ。・・・・・・オーギュも組み手などではこうだった。

戦闘者という方々は戦いに一度踏み込んだ途端、別の自分を開放するのかも知れない。でも、それもその人。





でも、ダンケルクとキュベレイは本当に変わり果てていた。僕の知っている二人ではなかった。










「・・・・・・補佐官」

「はい」

「ダンケルクとキュベレイは、元々カラバの闘士・・・・・・近衛騎士に相当する立場だったんです」



そして仲の良い姉弟でもあった。カラバの事を思い、いつも頑張ってくれていた。

だけど僕の知っている二人は、あんな肌や髪はしていない。普通に武器の融合能力も持っていない。



「僕達が・・・・・・僕達が追い詰めてしまったんですよね。だから二人は変わり果てた」

「・・・・・・例えそうだとしても、その二人が自らの意志で選んだ道なのは間違いありません」



補佐官は否定しなかった。『そんな事はない』という優しい言葉ではなく、その側面を認めた。

僕は車の助手席で座りながら、膝の上に置いていた両手を強く握り締める。



「公子、もしお辛いのなら」

「大丈夫です。・・・・・・現実を見るために、ここに来たんですから」










あの時、パーティー会場でキュベレイを見るまでは、まだ信じられなかった。

信じたくなんて、なかった。でも・・・・・・もう否定出来ない。

この状況を呼び込んだ原因となるのは、姉さんだけじゃない。僕も同じなんだ。





姉さんを止められなかった。止めようとしなかった。戦おうとしなかった。それが僕の罪。

でも・・・・・・ダメなんだ。身体が震える。心が震えて、力が出ない。

こんなの、無理だ。僕にはどうしようもない。どうしていいかも分からない。・・・・・・怖い。





僕は怖い。僕は・・・・・・恭文さんやみんなのようには戦えない。そんなの、怖くて無理なんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪Delayed Bind≫

「な、なんじゃこりゃっ!?」





うーん、ヤスフミやるなぁ。何気にこういう頭脳プレイ得意なのかな。ここは高得点かも。

あとは今の状況ね。多分アイアンサイズの二人は、相当消耗している。

身体の作りはともかく、中身は人格のある人間だもの。集中力に陰りが出てる。



あとは維新組が頑張ってくれたおかげ。今は少し下がってるけど。





「・・・・・・・・・・・・魔力ブースト、スイッチオン」





私のリボルバーに青い光が灯る。・・・・・・実はこの銃、一つ仕掛けがあるの。

ヴェートルでは、魔力素を機械的な技術で応用する研究が、結構進んでる。

維新組の使っている強化甲冑のバッテリーとかが、その最も足る例よ。これも同じなの。



私は魔法が使えない。だから、コレに弾丸とは別に小型の魔力バッテリーを仕込んでる。





「ライオットッ!!」





そのバッテリーを機動させて、通常時より破壊力のある強力を撃ち出す事が出来るの。

なお、搭載箇所はグリップ。オートマチック式の銃みたいに、マガジンを入れ替えて使うの。

これは管理局だったら絶対に使えないような代物。でも、GPOは違う。



GPOは、局の手の届かない所を補佐する組織。その関係で色々と規律も緩い。

別に無規律で無軌道というわけじゃないけど、それでも管理局みたいに魔法至上主義はない。

だからこそ、私もこういう武装が使えるの。もちろんちゃんと許可を取ること前提だけどね。



そういうわけだから・・・・・・一発、行ってみましょうかっ!!





「ショゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」





銃口から放たれたのは、青い魔力に染め上げられた弾丸。

それが銃口から飛び出たのと同時に、大きな青いエネルギー状の球体に変わる。

ダンケルクは普通に動けない。ヤスフミのバインドは、ダンケルクを戒め続ける。



そして、弾丸はダンケルクの左の二の腕に直撃。それに圧されるようにダンケルクは吹き飛ぶ。

ヤスフミの仕掛けた蒼い鎖を引きちぎりながら、私の弾丸は爆発した。

爆煙が生まれ、何かが滑って落ちるような音が聞こえる。・・・・・・コッチ側からじゃ見えない。



でも、ヤスフミはすぐに踏み込んだ。それを見て私はまだアレが無事なのだと気づく。

・・・・・・フェイト執務官、お心遣い嬉しかったですけど、ごめんなさい。どうやら私達、それを不意にしそうです。

私は左に回り込みながら、爆煙の向こう側に視線を向ける。そこには、確かにダンケルクが居た。



ダンケルクは立ち上がり、ヤスフミと斬り合っている。刃は幾重も振るわれ、衝突を続ける。

そして、ヤスフミが圧している。もう、あの時とは違う。・・・・・・アイアンサイズだけの話じゃない。

ヤスフミの気構え自体が、もう今までとは違うんだ。ヤスフミは、公子の話で完全にキレた。



朝の話で教えてくれた。人と違う友達が、どんな風に苦しんだりしているのかを見てきたって。

だからきっと、見ていられなかった。今のヤスフミの背中には・・・・・・ちゃんと守りたいものがある。

きっとそれは、公子の時間。公子が自分を『化け物』だなんて言わないようにしたいんだと思う。



だからヤスフミの斬撃達に、ダンケルクは圧される。圧され続けて、後ろに下がる。

圧されて、弾いて捌いて、隙を突いて刃を突き出しても、ヤスフミは止まらない。

突き出された刃が左肩の上を斬ろうと、変わらずに前へと踏み込む。絶対に引かない。



薙ぎ払う刃が前髪の一部を斬っても、反撃に肩口に右の刃を叩き込む。

その刃がダンケルクの左の肩を斬る。だけど、斬撃の僅かな痕がつくだけ。

ダンケルクはそこから、ヤスフミの胸元に向かって刃の切っ先を突き出した。



ヤスフミは・・・・・・え、嘘。





「・・・・・・なんだとっ!?」





右の小太刀の刃の中程でその切っ先を受け止めて、そのまま踏み込む。

刃はロングソードを下に捌きつつも押して、反撃出来ないようにしている。

鍔元でそれをやっているから、薙ぎ払いも打ち込めない。そして、ヤスフミの斬撃が振るわれる。



ダンケルクはたまらずに下がってそれを回避。・・・・・・いや、首元を僅かに切っ先が斬り裂いた。

半歩だけ下がったダンケルクは、また踏み込む。攻撃直後の恭文の胸元を狙って、突きを再び打ち込む。

それを恭文は右に跳んで避ける。続けてくる袈裟からの一撃は、左に跳んで避けた。



そして見えた。胸元のジャケットが浅くだけど斬られているのを。そこから血が出てる。



ダンケルクは荒く息を吐きながら・・・・・・しゃがみ込むようにして踏み込んだ。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





ダンケルクが右薙に刃を叩き込む。そこにヤスフミは・・・・・・右の刃を唐竹に叩き込んだ。

刃と刃は交差するように衝突し、せめぎ合う。そこからダンケルクの左手が貫手になる。

零距離でヤスフミの腹を貫くつもりなのは、すぐに分かった。だから私はヤスフミに向かって声を上げる。



でも、その前にヤスフミが動いていた。空いていた左の小太刀を上に振り上げる。





「小太刀二刀流」



そのまま刃を逆袈裟に振るって、右の小太刀の峰に叩きつけた。

ちょうど小太刀の刃で十字を描くようにしているのが、ここからでも見える。



「陰陽交差・・・・・・もどき」





ダンケルクのロングソードの刃に、ヒビが入る。そしてそのまま・・・・・・真っ二つに斬り裂かれた。

相手が抜き手を叩き込むよりも速く、獲物はヤスフミによって破壊された。

ダンケルクの動きが止まる。・・・・・・普通に強度は変わらなくても、吸収された物は身体の一部になるらしい。



だからダンケルクが苦悶の表情を浮かべる。それでもダンケルクは抜き手を放った。

だけど、それさえも見抜かれていたらしい。ヤスフミの腹にはもう、スフィアがあった。

それも鉄球。だから、ダンケルクは焦った顔で一気に右に跳ぶ。多分、私と同じことを考えた。



アレはクレイモアの一種で、ヤスフミは零距離でアレを撃つつもりなのだと。

ダンケルク、前に食らっているもの。それでそこを考えないわけがない。

ヤスフミとダンケルクとの間に、数メートルの距離が出来た。そして、私とヤスフミと挟まれる形になる。



その様子を見て、ヤスフミは・・・・・・笑っていた。思わず、寒気が走る笑いだった。



だってヤスフミの身体中から殺気が溢れていて、それとその笑いがあまりにアンバランスで。





「逃げてくれてよかったよ」



スフィアを消しながら、そう言った。そして、そのまま続ける。



「つまりコレを食らったら、お前は死ぬかも知れないって怯えたんでしょ?
・・・・・・よかったよ。これで一つ、通用する攻撃が見つかった」

「・・・・・・てめぇ、なんだよ。まるで以前とは別人みたいじゃねぇか」



さすがに気づいたらしい。・・・・・・当然よね。私だって驚いてるくらいなんだから。



「アレか、今までのアレコレでキレてんのか? もしくは、俺らを人間じゃないから殺してもよしとしたか」

「ふざけんじゃねぇよ」



言いながら、ヤスフミが踏み込む。踏み込んで、刃を唐竹に振るう。

ダンケルクは左に大きく跳んで、またヤスフミと距離を取った。



「お前らの身体が人間じゃないどうこうなんざ、僕には何の興味もねぇよ」



斬撃は道場の床を破壊する。破壊して・・・・・・また轟音を上げる。



「・・・・・・僕は、お前らがお前らだからぶちのめしたいんだよ」



私はそちらに銃口を向けながら思う。消耗はしてる。でも、まだまだやれるレベルだ。

油断したら、普通にこっちが負けるかも知れない。ヤスフミも、そこは分かってるはず。



「・・・・・・くそっ!!」





ダンケルクはそこから身をしゃがめながら一気に加速。加速してレイカに飛び込んだ。

私も、ヤスフミも、シンヤさんも距離が離れていた。だから・・・・・・誰も助けられなかった。

ダンケルクはレイカの身を包む赤い甲冑に触れると、その中に吸い込まれた。



それから半身から顔を出して、勝ち誇ったように笑う。・・・・・・う、嘘。





「く・・・・・・こら、離れんかいっ! マジ気色悪いわっ!!」



レイカの右半身を・・・・・・ううん、姿を現しているのは左半身だけど、多分全体的にだ。

ダンケルクはあそこから強化甲冑の全体を操作している。



「レイカさんっ!!」



レイカの強化甲冑と融合したっ!? それで・・・・・・こっちに歩いてくるっ!!



「きゃははははははははっ! お前ら、油断したなっ! どうだ、これで手出し出来ねぇだろっ!!
俺を攻撃すれば、この女が死ぬぜぇっ!? そっちのお前らも、動くなよっ!!」





同じようにキュベレイと戦っていたジュン達も、目を見開いてその光景に愕然となる。

キュベレイは勝ち誇った顔で、自分に殴りかかっていたアンジェラの腹部に左拳を叩き込む。

当然のようにアンジェラは、吹き飛ばされながら床を転がる。・・・・・・まずい。



この状況、リアルにマズい。強化甲冑を破壊するまで攻撃したら、中のレイカまでどうなるか分からない。

キュベレイは、ゆっくりとダンケルクに近づいてくる。そして、ダンケルクも同じようにしながら私達から離れる。

レイカは苦悶の表情を浮かべながら、必死に抵抗する。だけど、出来るわけがない。



強化甲冑は、完全にダンケルクに支配されている。レイカはそれを着込んでいるのよ?

全身を好き勝手にされているのと同じなのに、そんなの無理よ。甲冑自体も相当な重さだし。

つまり私達は・・・・・・一気に形勢逆転された。私達、普通にこれじゃあ手出し出来ない。



なんとかしてレイカを助けださなくちゃ。でも、どうやって? この状況で取れる手段は・・・・・・何があるの。





「・・・・・・ナメとるんやないでっ!!」





声を上げたのは、一人の女性。軽く振り上げられていたダンケルクの腕が、一気に動く。



動いて・・・・・・刃の切っ先が一気に右脇腹に向かって、振り下ろされた。



元々ボロボロになっていたのか、甲冑の装甲は簡単に砕けて、ダンケルクの腹を斬り裂いた。





「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



肩口に生えるようにしていたダンケルクが、叫んだ。

さすがに刀全部が入ったわけじゃないけど、それでも傷は深い。



「・・・・・・逃げるなボケがぁっ!!」



彼女の腕の力が強まっている。それにより、ダンケルクの表情が更に苦痛で歪む。



「レイカさんっ!!」

「総大将っ!!」



私達が動く前に、アイアンサイズが勝利に酔いしれる前に動いたのは・・・・・・レイカ・ミドウ。

維新組総大将にして、誇り高い武闘家。そうだ、彼女は敵の手に落ちるくらいなら、死を選ぶ人間だ。



「うちは維新組総大将・・・・・・レイカ・ミドウを貫き通すに、決まってるやろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ダンケルクは堪らずに甲冑との融合を解除。キュベレイも、動きが止まっている。



「魔力バッテリー、オン」





・・・・・・残りのバッテリーを全使用。私はキュベレイに狙いを定める。

ヤスフミも前に踏み込んでいる。そして、刃には蒼い魔力。

それに気づいたダンケルクは、痛みに悶えながらも立ち上がり、ヤスフミに踏み込む。



踏み込み、飛びかかりながら・・・・・・両腕を貫手にして、襲いかかる。





「死ねよ、チビがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・鉄輝」



貫手が叩き込まれる。でも、それすらも斬り裂いて・・・・・・空間に青い閃光が生まれた。

ダンケルクの腕を中程から両断したのは、ヤスフミの唐竹での斬撃。



「双閃」



そのままヤスフミは、宙を跳ぶダンケルクを見据える。ダンケルクは、今度は声を上げずに口を大きく開く。

ヤスフミの身体を食いちぎろうとするように、必死に。ヤスフミはそれを見ながら、再び両手を振り上げる。



「御神流奥義」



小太刀の刃を宙を飛ぶ敵に向かって・・・・・・ラグ無しに袈裟斬りに同時に叩き込んだ。



「雷徹っ!!」



・・・・・・その攻撃は、ダンケルクに通らなかった。だけど決して、ヤスフミが外したわけじゃない。

だってダンケルクを吹き飛ばすようにして、キュベレイが割り込んできたから。



「姉・・・・・・ちゃんっ!!」





キュベレイは胸元にヤスフミの斬撃を食らった。深々とした傷が、キュベレイの身体に刻み込まれる。

キュベレは目を見開きながら、透明な体液を口から大きく吐き出した。

吐き出しながら、ヤスフミを睨みながらも両手を広げた。そして圧し潰すようにして腕を叩きつける。



ヤスフミは、後ろに咄嗟に跳んで回避した。・・・・・・くそ、捉えきれなかった。

でもどうして・・・・・・あぁ、そっか。月でヤスフミとやりあった時に使ったっていう突撃だ。

私も超筋力開放で、同じような突撃をした事があるもの。でも、何のために?



ううん、事情も分かる。ダンケルクはキュベレイをずっと『姉ちゃん』って呼んでる。だからなんだ。





「大丈夫・・・・・さね。・・・・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



胸元を両手で押さえながら、キュベレイは俯く。俯くけど、ダンケルクに向かって跳んだ。



「姉ちゃんっ! おい姉ちゃ」



跳んで、そのままダンケルクを抱えて壁に激突。轟音を立てながら姿を消す。

・・・・・・逃げられた。というか、転送の類を使われたんだ。



「・・・・・・レイカさん、しっかり・・・・・・しっかりしてくださいっ!!」

「総大将っ!!」










叫びながら、シンヤさんとキョウマさんがレイカに近づく。でも、一番に近づく子が居た。





それはヤスフミ。ヤスフミは何も言わずに傷口に手を当てて、蒼い光を放出する。





レイカの表情が、苦しげなものから少し力が抜けたものに変わる。・・・・・・もしかしてアレ、治療魔法?




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report10 『Creeping erosion named Affinity』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・動かないで。傷を塞ぐから」

≪この傷全部は無理ですが、止血くらいならこの人でも出来ます。大人しくしていてください≫

「あぁもう、僕がやった方がよかったんじゃないの?」

「ふん、やっぱりそのつもりやったんか」



まぁね。どっちにしろ無傷でどうこうは無理かなーと思ってた。

だから、覚悟を決めた。・・・・・・その前に、この人が動いたけど。



「目ぇ見て分かったわ。自分、うちごと斬るつもりやったやろ」

「・・・・・・まぁね。優先順位は決めてるもの」

「そうやろうなぁ。アレはそういう目やった。そして、それでえぇ」





・・・・・・これ、人に刺されるより傷口深いんじゃないの? どんだけ躊躇い無く突き刺したのさ。

あ、一応説明ね。自分で自分を刺すと、傷口が浅くなる傾向が強いの。

ほら、ためらい傷って言葉があるでしょ? アレはそういうところから来てる。ではなぜ浅くなるのか。



それは自己防衛の本能のせいで、自分では致命傷を与え辛いのよ。それは僕も同じく。





「でも、堪忍なぁ。あんな連中に好き勝手されて、アンタの手ぇ借りるくらいやったら・・・・・・こっちの方がマシなんよ」

「あぁもういいよ。喋らないで」



シャマルさんに治療魔法を教わっててよかった。止血と応急処置的に傷を塞ぐくらいなら、なんとか。

ただ出血も多いし、急所にギリギリな傷。これ、急いで搬送しないと危ないよ。



「・・・・・・そんなに『異星人』が嫌いですか」

「違いますよ。あなた達『異星人』に頼らないと、自分の世界一つ守れない自分が・・・・・・嫌いなんです」

「それは総大将だけではない。我ら維新組も、EMPDも同じくだ」



そう声をかけたのは、動かない甲冑を必死に引きずってこっちに来たシンヤさん達。

少しだけ、どういう顔をしていいか困ってしまった。



「我らの世界は、我らが守る。例えか細い腕だったとしても、一人一人が心強き守り手でありたい。
それが・・・・・・この世界の人間全ての願いだ。だからこそ、現状に繋がっている」

≪・・・・・・納得しました≫

「そういうのなら、僕も分かります」



僕も同じような事考えて、魔導師やってる部分はあるしね。

子ども扱いとか、無力扱いされて守られるだけなんて嫌だーとかさ。



「それと・・・・・・古き鉄、感謝する」

「え?」

「さっきの話、実はちょこっと聞いてました。蒼凪さん・・・・・・感謝します」



回復魔法による止血と応急処置を続けていると、キョウマさんが綺麗に頭を下げてきた。

い、いきなりお礼言われたっ!? というか、シンヤさんも頷いているしっ!!



「あの、言葉違いませんか? 僕、味方を見殺しにしようとしたのに」

「いいや、間違ってなどいない。・・・・・・お主は、総大将と我ら維新組の誇りを守ろうとしてくれた。
自らの身を敵に利用されて、そのまま敗北するなど我らにとっては屈辱以外の何物でも無い」



いや、そんな大層なもんじゃ・・・・・・でも、キョウマさんにとってはそうらしい。

疑問を浮かべた僕の顔を見て、力強く頷いてくれたから。



「まぁ、道徳的に言えば色々あなたの行動に思う所はありますよ?」



そりゃそうでしょ。人質に構わず攻撃なんて、正しいわけないし。



「でも、やっぱりここはお礼なんです。きっと僕達も戦える状態ならば・・・・・・今のあなたと同じことをしました。そこだけは間違いない」

「我ら維新組は、決してこの世界を脅かす悪に屈してはならない。そう総大将自らがお決めになった。
我らもその志に惹かれて、集いここに居る。だから・・・・・・主と我々は同じだ」



キョウマさんは、自信を持ってそう言った。そしてそれは・・・・・・他も同じらしい。

周辺で倒れていた隊士達が、僕を見てなんか頷いてるの。ちょ、ちょっと怖いくらいに肯定されてるんですけど。



「・・・・・・そうですか」



そんな動揺は、おくびにも出さずにそれだけ返した。・・・・・・すっげー武闘派集団だな。

ヒロさんやサリさん、先生と話合うんじゃないの?



「あ、そう言えば一つ確認。レイカさんの血液型って、O型の+だったりします?」

「え、えぇ。そうですが・・・・・・あの、なぜそこを?」

「血液型同じなら、輸血を手伝えるかと思いまして。まぁ、偽善者なんで」










・・・・・・・・・・・・結局今回の一件で、維新組は大ダメージを受けた。

隊士の大半が負傷して、総大将であるレイカさんは自傷行為で重傷。

ただ、この後病院に緊急搬送されて、手術の結果命は助かった。





当然のようにしばらくは動けないので、キョウマさんが総大将代理となった。

なったんだけど・・・・・・隊士達の大半が負傷したから、あんま変わらない。

EMPDの一般隊員の方々も、アイアンサイズには対抗出来ない。つまり、EMPDは実質無力化。





ヴェートル中央政府は基本もう傍観者なので、僕達だけでどうにかしなきゃいけない。





でも、そんな事を言っている間に時間は進む。・・・・・・借り、少しだけ返せたかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぐ、ぐぅ・・・・・・がぁ」

「姉ちゃん、しっかりしろ。大丈夫・・・・・・じゃねぇよな」





なんだよ、アレ。姉ちゃんのコアに亀裂が入ってる。そのせいで姉ちゃんは、壁にもたれながら唸っている。

まさかアイツ、俺達の身体の秘密に気づいた? ・・・・・・いや、それでもありえねぇ。

俺達のコアに亀裂を入れるなんざ、物理的にやろうと思ったら相当衝撃が加わらないと無理なんだぞ。



それこそ加えられたら人の身体の中なんざ、グチャグチャのミンチになるような衝撃だ。

魔法・・・・・・いや、魔法を使った兆候は全くなかった。つまり、魔法に全く頼らずこれか?

なんだよアイツ、以前と全く違う。捕縛とかそういう事をもう頭に入れてねぇ。



あの目は、あの笑いは、俺達を殺すつもりだった。殺してもいいと思っていた。



それも俺達が人間じゃないからなんて理由じゃねぇ。そうだ、そう言ってたじゃねぇか。





「ダン・・・・・・ケルク、無事かい」

「あぁ、大丈夫だ。俺は腕斬られただけだしよ」





ここ・・・・・・地下水路の物質を適当に吸収して、もう腕は再生させた。かなり痛かったがな。

とにかく姉ちゃんのダメージ回復は、もうちょっとコアの自己修復が進んでからだ。

物質の吸収による回復は、俺達にもかなりの痛みを伴なう。今は姉ちゃんがそれに耐えられねぇ。



・・・・・・だが、維新組の連中はアレでしばらく動けねぇはず。そうだ、俺達は負けたわけじゃねぇ。



公子を殺せはしなかったが、それでも邪魔な連中の排除は出来たはずだ。





「姉ちゃん、とにかく今は身体を休めることだけ考えようぜ。連中の事は、また後でいい」

「あぁ・・・・・・そうさせてもらうよ」










・・・・・・アレが古き鉄か。どうやら俺達は二人して、とんでもねぇ化け物を相手にしたらしい。





だが・・・・・・それでも絶対に負けねぇ。公子も公女も、皆殺しにしてやる。絶対に生かしておかねぇ。





全てはマクシムさまのために。そして、カラバの未来のために。・・・・・・急がねぇと、とんでもない事になるぞ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・現在、深夜0時。てゆうか、普通に僕はレイカさんの搬送に補佐官の許可をもらった上で付き合った。

それから病院で血液検査をした上で輸血を手伝って、ようやく分署に帰って来た。

そしてフェイト達はホテルだから、ここには居ない。みんなも今日はもう解散したらしい。





だから、ここには僕と先に寝てるようにと言っておいたリインだけ・・・・・・あれ?





ロビーに明かり。というか、なんかいい匂いがする。










「恭文さん、お帰りなさい」



そう言いながら、明るい花柄の白いエプロンを装着しているアレクが、分署のキッチンから声をかけてきた。



「アレク、どうしたのっ!?」

「恭文さん、お腹空かせて帰ってくるだろうと思って、夜食を」



いや、それでどうして・・・・・・あ、病院に確認したのか。多分、リインに手伝ってもらったな。



「鳥のササミ入りの雑炊です。もうちょっとで出来るので、待っててください」

「うん。というか、なんか悪いね」

「いえ。僕もなんだか、眠れなかったので」




それで10数分後、ちゃっかり起きてたリインとアレクと一緒に・・・・・・雑炊すすってます。

というか、美味しい。ササミに青のり、あと梅肉の風味でまた豪勢な味わいになってる。



「アレク、これ美味しいよ。いやぁ、幸せだなぁ」

「リインもなのです。アレクさん、普通にお店レベルですよ」

「そうかな。あの、そう言ってもらえると嬉しいです」



言いながら、アレクは笑う。でも、気づいた。その笑いの中に、何か影があるのを。

原因は・・・・・・うん、言うまでもないね。ダンケルク達の事だ。



「・・・・・・恭文さん」

「うん」

「ダンケルクとキュベレイは、カラバの関係者です。
・・・・・・顔見知りなんです。色々お世話になったりもしました」

「そっか」



それがあんな形でアレクと公女の家族や親類を皆殺しにして、今もなおを狙っている。

アレクや公女の中にある力を恐れて、ずっとだ。だから、アレクが雑炊を食べる手を止める。



「・・・・・・僕、戦う必要があるんですね」

「そうだね」



アレクが本気で現状を何とかしたいと思うなら、どんな形でも戦う必要がある。

公女をリコールするのだって、その一つだ。別に前線に出てドンパチだけが手段じゃない。



「ただ僕達に話した事だけをあげても、アレクは充分戦ってると思うんだ」

「え?」

「別に前に出て相手を斬りつけるだけが戦いじゃないって事。
ここから最後まで守られたとしても、そこは絶対に変わらないよ」



雑炊を食べながら、僕はそのまま言葉を続ける。リインは・・・・・・黙って食べ続けている。



「でも、アレクはそれだけでいいのかって、迷ってるんでしょ? だから、今日も飛び出した」

「・・・・・・はい」



それが分かったから、僕もフジタさんも現場にアレクを連れて行ったのよ。あと、シルビィ達もだね。

アレクが何かそうして見極めたい事があるから、現場に行きたいと言うのはすぐに分かったから。



「あんなの、嫌なんです。僕達がきっかけで、何人も傷ついて・・・・・・戦って、死にかけて。
僕が月でのうのうとしていた時、EMPではあんな事になっていたなんて・・・・・・知らなかった」

「情報が届いてないって意味じゃ、ないよね」



雑炊をすすりながらそう聞くと、アレクは俯きながら頷いた。



「ただ僕は、知識で知っていただけ。実際が本当にどうかは、きっと知らなかった。自覚が無かった。・・・・・・最低ですよね」



僕もリインも、何も言えない。確かに・・・・・・最低だと言える部分があるのは、確かだから。



「だから何とかしたくて現場に出て、現実を見て・・・・・・何とかしなくちゃいけない。
僕も戦わなくちゃいけないと思ったんです。でも、ダメなんです」



アレクは自分の両手を上にあげて見る。胸元まで上げた両手は、ただ震え続けていた。



「震えが、止まらないんです。怖くて、怖くて・・・・・・逃げてしまえって、声がするんです」



雑炊を、静かに食べ続ける。そして、アレクは泣く。噎び泣きながら・・・・・・声を漏らす。



「あんなの無理で、ただ守られてるだけでいいだろって、何度も声が・・・・・・それが、振り払えないんです」



半分以上は食べてお腹も多少膨れたので、左手でコップに入った水を二口ほど飲んで・・・・・・息を吐く。



「・・・・・・僕だって、怖いよ」



アレクが僕の方を見る。だから僕は、アレクに視線を向けながら頷く。



「誰かを傷つけるのも、傷つけられるのも、殺し合いをするのも、怖い。そこは本当に。
まぁバトルマニアな所はあるけど、基本戦いなんてしたくないし、逃げられるなら逃げちゃいたいの」



自嘲するように笑いながら、丼にれんげを置いて、胸元に右手を当てる。



「アレク、怖くていいんだよ? 逃げたくたっていいの。本当にそうしちゃっても、誰もアレクを責めない」



それはフェイトやリンディさんが何時も言う言葉。というか、何度も言われまくっている。



「だから大事なのは、アレクの中の気持ちじゃないのかな。
怖いのも、逃げたいのも全部含めて、アレクが戦いたいと思う理由」



だけど、僕はここからこう続ける。どうするかは、アレクが決める事だから。



「アレクがそれでも戦って、変えたい今や欲しい未来がなんなのか。
そのためには戦う事が本当に必要なのか。大事なのはそこだよ」

「怖いのも・・・・・・逃げたいのも、全部含めて」

「うん。・・・・・・まぁさ、時間は多分そんなに残されてない。今日の襲撃、一応成功だしさ」





維新組は行動不能に追い込まれた。もっと言えば、EMPを守護する組織の戦力を削られちゃったの。

パティ・・・・・・『アレクシス公子』は無事だったし、アイアンサイズにそこの辺りの正体はバレてないだろうけど、それでもだよ。

深手は与えているし、多少は余裕はある。・・・・・・多分、そのはず。これで増援なんて来たらどうしようもない。



・・・・・・いや、ちょっと待て。増援が来るとしたらどうする?





「だからその時が来るまで、少し考えてみたら?
なんで自分が戦いたいと思ったのかとか、その辺りも含めてさ」

「・・・・・・恭文さん」

「美味しい雑炊を食べながらね。ほら、早く食べないと冷めちゃうよ? 考えるのは、食べた後でも出来る」

「あ、はい」










アレクは慌てたようにまた雑炊を食べ始めた。で、僕も同じく。リインは嬉しそうにニコニコしてる。

・・・・・・まぁ、どうするかはやっぱりアレクが決めるべきだしさ。ここで僕が強制は出来ないよ。

ただ、時間はきっと本当にない。揺らいでいる暇なんて、多分一瞬で終わってしまう。





それまでにアレクの答えが出るのを期待するよ。あとは・・・・・・公女だね。





このままメディアへの露出を多用した世界征服計画を続けてくれると、別の意味でこっちは楽なんだけど・・・・・・うーん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく維新組屯所襲撃から五日後、俺は現在EMPDの警察病院に居る。当然のように、見舞いだ。

向こうには外回りと言ってある。そして尾行等も気を付けた。簡単にはバレまい。

そして、俺はお見舞い用の白い花を持って・・・・・・病室のドアをノックした上で、入室した。





部屋の中には、薄いオレンジ色の入院着を羽織ったミドウ大将。普通にもう意識を取り戻している。





だから、その隣に居る白いYシャツ姿の男と一緒に、俺に向かって笑いかける。










「おう、フジの字。元気そうやないか」

「・・・・・・レイカさん、それはフジタさんのセリフですから」

「その通りですよ。全く、元気そうでなによりです。ミドウ総大将」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ベッドの横の椅子に座り、シンヤが花を活けて・・・・・・コイツ、昔から器用だよな。





とにかくそうして少し腰を落ち着けて、ミドウ総大将の迷惑にならないレベルで話だ。










「すまんな。うちら維新組は先日のアレで、動ける人員は限られてもうてる」

「負傷者多数。総大将は見ての通り。キョウマさんが代理となっていますけど、それでもですよ。
それに・・・・・・僕達の強化甲冑も相当ダメージが入っていて、しばらくは修復作業です」

「そうですか。・・・・・・すみません、俺達がもっと早く気づいていれば」

「アホ抜かせ。うちらの家の事やで? お前さん方が普通に入り込んできてえぇはずないやろ」



軽く笑いながら、ミドウ総大将はそう口にする。・・・・・・それが少し、突き刺さった。

こういう部分が俺達になければ、もっと世界は平和で静かだったのだろうかと、少し。



「あー、それと・・・・・・シンヤから聞いたで。フジの字、自分随分タヌキになったなぁ」

「・・・・・・俺の指示ではありません。俺の『部下』は何分自由気ままでして」

「上司の監督責任ちゅうんのを知ってるか?」



そこを言われると、非常に痛い。自主性と取るべきかスタンドプレーと取るべきか、悩むところだ。



「・・・・・・まぁここはえぇか。『アレクシス公子』の事は、最小限の人間しか知らん。
うちらで口止めはしとくから、ここもこのままアンタに預けるわ」

「僕達の現状が現状ですし、中央本部の方はやっぱり信用出来ない。
それが一番いいというのが、我々の結論です」

「了解しました」



これでパティもこっちに戻ってきていても問題はないな。だが、本当に今回は心苦しい。

色んな意味で維新組を防波堤にしてしまった。この借りは非常に大きい。



「でも、アレやな。古き鉄には礼を言わんと」

「え? ・・・・・・あぁ、輸血ですか」

「それもあるけど、ちゃうわ。うちを躊躇いなくあの不埒者ごと殺そうとしてくれたことや」



それを聞いて、思わず苦笑する。まぁ・・・・・・予測はしていた。



「うちを犯人に利用された三流としてではなく、維新組総大将のレイカ・ミドウとして死なせようとしてくれた。
・・・・・・次元世界の魔導師にも口先だけやない、あないに硬くて強くて骨のある奴が居るんやなぁ」



シンヤは同意見と言うか同じなのか、軽く微笑みながらお手上げポーズだ。



「是非ともうちの組に欲しいくらいや。この間の出稽古でも腕は確かめさせてもろうとるしな」

「総大将、維新組はヴェートル出身者に限るのではなかったのですか?」



維新組に入れるのは、ヴェートルで生まれ育ったものだけだ。この辺り、士気を高める意味合いが強い。

自分達は『異星人』に負ける事なく、生まれ育った世界を守るんだという意識を高めるわけだ。



「ま、それはそれや。いやな、入院中にアレコレ考えて・・・・・・もうそういう括りも要らんかなー思うてな」

「というと?」

「次元世界出身者の中にも、僕達維新組への入隊希望者が増えているんですよ。
なんだかんだで管理世界認定から4年ですし、そういう人達も増える頃です」



なるほど。移住者というか、そういう連中がということか。・・・・・・色々混じり合い始めているんだな。

ヴェートルという世界は、やはり次元世界という大きな世界の中の一つで・・・・・・だからなんだ。



「それで奇特っちゅうかバカなことにな、次元世界出身者にも関わらず維新組の理念に共感しとるのも多いんよ。
元々管理局のやり方とかが嫌いな連中からすると、うちらはそれに楯突いとるバカに映るらしくてなぁ。何気に有名らしい」

「そのケンカに自分も一枚噛ませて欲しいという・・・・・・まぁ、そういう荒っぽい人達がうちの門を叩くんです」

「・・・・・・納得しました」

「そういうわけなので、最近もキョウマさんと一緒にその辺りをどうしようかとか、色々考えていたんですよ。
まぁ、うちの総大将はフジタさんもご存知の通り『あんな感じ』だったので、これは無理かなと内心諦めていたんですが」





なんというか色々衝撃ではあった。ミドウ総大将は今は穏やかな顔を見せているが、かなり気性が激しい。

次元世界の人間を、そして管理局を相当嫌っていた。・・・・・・認定直後のテロで、この人は弟を亡くされたんだ。

その時中央本部が何をしたか、そして誰がその一件を解決したかは、想像に任せる。



その子は俺も顔馴染みの子でな。本当にまだ幼くて・・・・・・総大将は目に入れても痛くない可愛がりようだった。

とにかくその一件に憤慨したミドウ総大将は、一念発起して維新組を立ち上げたというわけだ。

全てを管理局任せになど出来ない。自分達の世界を自分達で守れるようにと・・・・・・ここまで来た。



維新組の隊士の大半は、そこまでの経験はなくても志に関してはミドウ総大将と同じくなんだ。

みんな認定直後の変化で何かを失って、傷ついて・・・・・・それが許せなくて、維新組の門戸を叩いた。

『つまらない意地』かも知れないが、それでも当人達にとっては大きく、そして強烈な理由だ。





「・・・・・・フジの字」

「はい」

「アンタ、次元世界の人間を『異星人』とか言うてたやろ? その認識は・・・・・・今も同じか?」



俺はその穏やかな声で問われた質問に、首を横に振る事で答えた。



「今は違います。・・・・・・俺もミドウ総大将が気に入った骨のある奴に、脳天から衝撃を食らいまして」

「なんや、アンタもかいな」

「えぇ。あとは総大将の言うところの『ボケ女』ですね。アレにも衝撃を受けましたよ」





公子に『僕の友達は普通と、自分と違うから化物なの?』と言った時だな。アレは・・・・・・あぁそうだ。

アレやハラオウン執務官の発言によって、自分が『異星人』という言葉を使っていた事が恥ずかしくなった。

俺の認識は、ただの差別意識だったんだ。そしてそんな意識が根底にあることは、決して良くはない。



過去や起きた事件やそれに伴なう痛みは変えられない。それは俺がこの仕事に就いて、痛感していることだ。



だが、そのために未来を閉ざすなら・・・・・・それにこだわるのは、きっと良くはないんだ。





「ま、それなら納得や。でも、それでえぇんよな。
うちらは同じ人間で、でっかい世界に住む同じ仲間。基本はきっとそれでえぇ」

「・・・・・・そうですね。だからこそ今の現状は」



ミドウ総大将とシンヤが頷く。二人も同じらしい。そして、恐らくだがアシナ総大将代理もだ。



「絶対にようアカン。アレや、あのムカつく女の言うように・・・・・・きっと管理局だけの話やない。
うちらももしかしたら、まぁホンのちょっとだけ意固地に成り過ぎてたんやろ」

「レイカさん、『ホンのちょっとだけ』ですか?」

「当然や。うちらからすると、侵略者も同然やで? 遠慮なく突然に中央本部立てたりするしなぁ」

「でも、その侵略者とも僕達は仲間であり・・・・・・手を取り合う事が必要」



シンヤの言葉に、ミドウ総大将は頷く。頷いて、俺の方を見る。



「フジの字、シンヤをちょお走らせてキョウマには伝えておく。
もし維新組の人員が必要なら、動ける奴見繕っとくから遠慮なく使うんや」

「・・・・・・いや、それはありがたいのですが、いいんですか?」

「えぇよ。アレや、ゴネるようなあの『古き鉄』に協力出来る言うたら、全員名乗り出るやろ」

「先日の組み手や捕物の影響でうちの隊士達の魔導師に対する認識、180度変わりましたから。
もうすごいすごい。というか、レイカさんもなんですよ? 目が覚めてから彼の話ばかりで」

「シンヤ、お前は黙っときっ!!」



・・・・・・とにかく俺は、頭を下げる。この人にここまでしてもらったんだ。

それも防波堤代わりにしてしまったのに。それでこれくらいしか出来ないのが、色々辛い。



「ミドウ総大将、シンヤ・・・・・・感謝します」

「えぇよ。その代わり、うちらのケンカをアンタ達に預けるんや。・・・・・・しっかりやるんやで。
あと、あの女に伝えておいてくれるか? まぁアンタの言うことも・・・・・・1割くらいは認めたるってな」

「・・・・・・心得ました」










正直俺にはどこぞの局員のように、管理局を肯定など出来ない。

そのやり方や運営方針、組織としての行動の遅さなど、色々気になるところがある。

それは今回の件で強まった。だが・・・・・・それでもなんだ。





それでも俺達は、ほんの少しだけでも考え、実行に移すべきなのかも知れない。





管理世界の一員として、管理局や管理システムと一緒に歩いていける道を・・・・・・少しずつでも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、外回りと称して何やら色々と動こうとしていたフェイトさんを取っ捕まえて、私も同行。





やばかった。普通に管理局員として動こうとしていたのが丸わかりだったもの。










「・・・・・・フェイトさん」

「ごめん、シャーリー。あの、なんて言うか・・・・・・街をちゃんと見ておきたくて」

「え?」

「やっぱり、実体をちゃんと見ないと何も言えないなって。うん、だからここに居る間に見ておきたいんだ。
この世界の事、ここに住む人達の事をちゃんと知って・・・・・・その上で私なりに出来る事、探していきたい」



どうやら、私の心配は無駄に終わったらしい。フェイトさん、自分なりに考えて結論を出してたんだ。



「それに、ヤスフミに『次元世界一素敵』って言われちゃったんだもの。だったら、頑張りたいんだ」

「・・・・・・納得しました」





そう言って、少し照れたように笑うフェイトさんを見て、内心胸を撫で下ろす。・・・・・・やっぱりなんだなぁ。



フェイトさんにとってなぎ君は、いろんな意味で特別なんだ。だから、その言葉に強い力がこもる。



なんて考えていると、フェイトさんの端末に通信がかかった。かかって、フェイトさんはなんとなしに繋ぐ。





『フェイト、すまない。今大丈夫か?』



その画面に映ったのは、私達の上司。・・・・・・クロノ提督、どうしたんだろ。



「あ、うん。・・・・・・クロノ、どうしたの?」

『すまないが、至急本局に戻ってきてくれ。事件捜査に関してなんだが』

「それなら大丈夫だよ。色々とこっちで分かった事もあるし」



フェイトさんが言っているのは、公子の証言のおかげでアイアンサイズがカラバの関係者だと判明したこと。

ただ・・・・・・辛そうではあったな。カラバでは、色々と良くしてくれていた人達らしいから。



『違う。・・・・・・全く別件の捜査だ。なお、内容はロストロギアの違法バイヤーの追跡。
別の船の担当執務官が追跡中だが、少々苦戦している。それを手伝って来て欲しい』

「え?」

『それとHa7だが、不必要と判断されて開発中止になった』

「えぇっ!?」



それに私もそうだけどフェイトさんも、顔を見合わせてただ驚くしかなかった。



「ちょ、ちょっと待ってっ!? クロノ、そんなのありえないよっ! だって私達は」

『すまない。どうやら先手を打たれたらしい。
僕ではどうしようもないんだ。というより、母さんもやられた』



フェイトさんが顔を青くした。母さん・・・・・・つまり、リンディ提督だ。

じゃあこの仕事を突然に振ったのは、リンディ提督?



「クロノ・・・・・・それ、どういう事かな。私、分からないよ。ねぇ、ちゃんと説明して」

『言葉通りの意味だ。母さんはいつの間にか、完全にアルパトス公女の信仰者になっている。
そのせいで上も横も完全に固められていて、君達に勝手に休みを与える事すら出来なくなった』

「待って。ねぇ、待ってよ。母さんが公女の信仰者で、先手を取られたって・・・・・・・ま、まさか」





クロノ提督は信じられないという私達の顔を見ながら・・・・・・ただ頷くだけだった。

つまり、圧力がかかったんだ。私達がヴェートルに居られないようにするために。

でも、誰が? そんなの決まっている。それが実行可能な力を持っている存在が、月には居るから。



だけどこんなの予想外だ。まさかフェイトさん個人をピンポイントで攻撃してくるなんて。





『もしかしたら知らない間に直接的な接触を持たれたのかも知れない』



そのせいでただのミーハーなファンが一気に最終段階に進行した?

でもそんなこと・・・・・・いや、ありえる。公子からの情報通りなら、確定だよ。



『最初はともかく、顔を合わせれば能力の対象内だ。・・・・・・この調子だと、僕もかなり危ない』

「そう、ですか」





もしくはなぎ君を警戒してかな。なぎ君・・・・・・古き鉄は仕事復帰してから、更に悪名が広まった。

アイアンサイズもなぎ君が古き鉄だって調べた様子だったし、公女がそうしない理由はない。

なによりなぎ君の人間関係だよ。提督一家であるハラオウン家の縁者で、その他にも色々知り合いも多い。



そういう部分から妙な横槍を入れられないために、公女が動いていた?





「フェイトさん・・・・・・私達が思っているより、事態は相当悪くなってるみたいですね」

「・・・・・・うん」



それで気づいた。フェイトさん、泣きかけてる。だって声が嗚咽気味だもの。



「私・・・・・・また『何もしない』事を選ばなくちゃいけないのかな。
ようやく・・・・・・ようやくここまで来たのに・・・・・・!!」










フェイトさんは、ただ悔しそうに右手を握り締めるしかなかった。それは私も同じ。

というか、マズい。この調子だと局員組は誰一人として、GPOの支援が出来無くなるかも。

リンディ提督は私達の中では一番の権力者。そして局員は上の命令には絶対服従が常。





だからフェイトさんは戻らないといけない。フェイトさんにはなぎ君のように飛び込む事なんて出来ないから。





それは他のみなさんも基本同じ。私だってそうだ。・・・・・・まずい。この状況、本当にまず過ぎる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いや、だから無理ですって。僕、仕事中ですよ?」

『ダメよ。早く戻ってきなさい。リインさん、それはあなたもよ』

「残念ながら、そのつもりはないのです。リイン達はここでやる事があるのですよ」

『・・・・・・なら、仕方有りませんね。総務統括官として命令します。
リインフォースU空曹長、ただちに本局に帰還なさい』



うわ、最悪だし。権力に訴えかけて言う事聞かせる気ですか。普通に横暴でしょ。

だからリインだって不快感を隠そうともせずに、はっきり言い切るのだ。



「なら、リインは管理局を辞めるです。それなら問題ないですよね」



車の助手席。僕の肩に座りながらリインがそう言うと、リンディさんが嫌悪感むき出しでリインを見始めた。



『リインさん、どうしてそうなるの。私は理不尽な命令をしているつもりはないのだけど?
ただ仕事に戻って、自分のやるべきことをやりなさいと言っているだけ。それだけなんだけど』

「知りません。てゆうかリインは、別に局員としての立場に興味はないのです。
元々辞めたくなったらいつでも辞めるつもりでしたし」

『・・・・・・ふざけないで。そんな気持ちで局の仕事に携わっていたというの?』

「はい」



リインはあっさりと臆面も無く言い切った。それでリンディさんの表情が、更に険しくなる。



「リインにはそれよりももっと大事で、大切な事があります。
それを恭文さんと一緒に貫く必要があります。だからそんな命令は聞けません」

『・・・・・・分かった、もういいわ。ねぇ恭文君』

「なんですか?」

『あなた、管理局に入りなさい。リインさんがこんな悲しい事を言うのは、あなたが原因よ?
あなたがリインさんの輝かしい未来を奪っているの。それでなんとも思わないの?』



なるほど、そう来たか。だから僕は遠慮なくこう答える。もちろん、笑顔で。



「思いませんね」



・・・・・・リインには一応意思確認してるもの。それで、最後まで付き合ってくれるって言ってくれた。

だから僕も最後まで巻き込む事にした。リインは大事なパートナーだから、離れるなんて出来ない。



『信じられないわ。恭文君、どうしてそうなの?
決して難しい事じゃない。管理局を・・・・・・私達を信じるだけでいいの』

「信じられるわけないでしょ。現状でバカやりまくっているのに」

『それに関しても答えを出しているわよね? 色々な問題は、あなた自身の手で変えればいい。
信じられないなら、信じられる場所に変えればいい。あなたにはそれだけの力があるわ』



前提がおかしいでしょうが。なんで僕がわざわざそんな事しなくちゃいけないのよ。

理念なり人なり、そういうものをある程度信じられて初めて仕事場として選べるっていうのに。



『私達も力を貸す。だから信じてくれるだけでいい。ただそれだけの事なのに』

「いやです。なんで僕が管理局の組織改革に人生賭けなくちゃいけないんですか。めんどくさい」



あぁもう、車の一番死亡率の高い席で、何故にこんなウザい会話をしなきゃいけないのさ。

てゆうか、なぜにリンディさんはこんなすごい勢いで僕に戻ってくることを望んでる?



『・・・・・・もちろん、あなたがそこでアルパトス公女をお守りしたい気持ちはよく分かるわ。
私も出来るなら、お側に出向いてこの身を捧げたいくらいですもの』

「いやいや、なんで公女の話になるんですか。別に僕、公女のためにここに居ませんし」



むしろケンカ吹っかけられたので、遠慮なく買おうとしてるんですけど。



『恭文君、無理しなくていいの。もう私、ちゃんと気づいているんだから。
・・・・・・守りたいのよね。あの高貴で気高い人を。そのためにあなたは、わざわざそこに出向いた』



あ、アレ? なんか寒気がする。リンディさんの目を見てると、一種の狂気を感じる。

・・・・・・ヤバい。これ、なんかすごい覚えある。これは・・・・・・まさか。



『でもね、あの方を守りたいなら、なおのこと管理局に入り、私達と同じ道に進むべきよ。
管理局に入って、公女が生きる世界の平和を守る尊い仕事に携わる。それがあなたの道よ』

「リンディさん」

『何かしら』

「いっぺん豆腐の角に頭ぶつけろ。多分そのバカは、それくらいしないと治らないわ」



そのまま通信を叩き切る。切って、しっかりとリンディさん関係のアドレスは全拒否。

・・・・・・やば、真面目に気持ち悪いわ。真面目にコレは気持ち悪いわ。



「・・・・・・・・・・・・恭文さん、今のってまさか」



どうやらリインも気づいたらしい。今のリンディさんが異常と言っていい状態なのを。

だから表情からさっきまでの不快感が消えて、若干顔が青くなってる。



「間違いないよ。リンディさん、親和力の影響にやられてる。
それも最終段階だよ。手遅れレベルだよ」





・・・・・・どうやら僕は、色々と認識を変える必要があるらしい。

親和力による支配は、その人格にも影響を及ぼすみたい。

さっきの話、全部僕達が『公女を守りたい』という前提の上で進んでた。



多分リインに戻って来いって言ってたのも同じことなんだ。公女を守るために、局の一員として動けと言っている。



あー、ようするに・・・・・・親和力の支配のために、リンディさんの変なリミッターが解除されてたのよ。





「リンディさんって、リンディ提督よね? 本局でアースラの艦長をしていた」



僕は運転席のシルビィの言葉に頷く。多分、顔色悪いからシルビィは普通に心配してくれてる。

おいおい、ちょっと待ってよ。よりにもよってリンディさんがコレですか? ありえないって。



「マズいわね。公女と直接接触を持っていないはずのリンディ提督までそれなんて」



シルビィが車を運転しながら、焦った顔でそう口にする。・・・・・・当然だよ。



≪直接接触を持たれた可能性もありますよ。この人がここにずっと滞在していますし≫

「・・・・・・なるほど。ヤスフミの存在を邪魔に思ってか。
古き鉄は相当有名だもの。向こうが驚異に思っても不思議じゃない」

≪もしかしたらかなり早い段階で目を付けられて、それでかも知れませんね≫



あー、それは有り得そうだわ。もしかしたらクロノさんやヒロさん、カリムさんの事も知ったのかも。

本局提督に聖王教会にクロスフォード家・・・・・・基本頼るつもりはないけど、後ろ盾と考えるとバッチリだしさ。



「ただ・・・・・・相手が悪かったわよね」

≪えぇ。この人、例えこの状況でフェイトさんが人質に取られても、遠慮なく無視しますから。というか、無視したことがあります≫

「そう言えばリインがこの間通信した時も、シグナムやシャマルがちょっと・・・・・・あれ、怖かったです」



なんでも、普通にリイン二人にすごい勢いで、アルパトス公女のサインを求められたらしい。

というか・・・・・・シャマルさんはともかくあのシグナムさんまでかい。そりゃあ怖いわ。



「リインも? 僕も師匠にすごい勢いで『アイアンサイズKILL』を約束させられたよ。
出来ないなら、自分が乗り込んでアイアンサイズぶっ潰すって言ってた」

≪言ってましたね。というか、これは普通に怖いですよ。ここに来て私達の周りまで公女色ですよ≫



普通なら幸せに思うところなんだろうね。僕も影響受けたりとかしてた。でも、ダメなのよ。

僕はそういうので心安らぐことは許されない性分なの。普通に現実に畏怖するしかない。



「シルビィ、シルビィの周りは大丈夫?」

「大丈夫と・・・・・・言い難いかな。パパとママが危ない感じだった。
アンジェラの遊び友達もそうだし、ジュンのお母さんや学生時代の友達もよ」

「くそ、真面目に時間ないってこと? このままじゃ、マジで世界中の人間が敵に回るし」

「正直そういうのはゴメンかな。ラブロマンスとしては有りだろうけど、それでもこれはブッチギリ過ぎだもの」










なんて考えていた僕達は、まだ知らなかった。時間はないのではない。





もうその時が来てしまった。その事を、この後に痛感しまくることになる。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・公女、リンディ提督から伝言です。ご憂いの件、解決出来たと。
あと、公女に重々にお礼を言って欲しいと託けを受けております」

「あら、そうなの。その理由は?」

「娘が公女に迷惑をかけるような事にならずに済んだので・・・・・・ということらしいです。
今回の『勝手な真似』について、リンディ提督は全く知らなかったそうでしたから」

「そう、ありがとう」





私は市長からお借りしている、月面が綺麗に見える部屋の中で、少し笑う。

総務統括官・・・・・・ふふ、温いわね。なんというか、あんまりに簡単過ぎて笑っちゃうわ。

親和力の徹底行使を行うだけで、あの女性も簡単に私の信仰者になる。



人を幸せにするこの力、やっぱりもっともっと上手く使えるようになりたいわ。





「『感謝します』と伝えておいてくれる? あと、娘さんの事はあまりお気になさらないようにと。
聞くところによるとお年頃なんですもの。色々とあるに決まっています」

「は」





・・・・・・フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。別称、閃光の女神。

相当優秀で、数々の事件を解決している敏腕らしい。その人がヴェートルに来てこそこそ動いていた。

GPOと接触を持って、こそこそこそこそ・・・・・・まるで私や局の上層部から隠れるように。



だから・・・・・・悪いとは思ったんですけど、退場を願います。

今はまだ、私の望む世界に気づかれるわけにはいかないから。

あなたが優秀でなければ、こんな必要もなかったんですけど。



あとは古き鉄か。こっちも噂で聞くに相当。出来れば排除したいけど、まぁいいでしょう。





「オーギュ、リンディ提督は古き鉄・・・・・・蒼凪恭文の母親なのよね?」

「はい。養子縁組はしていませんが、保護責任者と。ただ、以前説明された通りこちらは無理です」



局員でもなければどこの組織に属するわけでもない。おとぎ話のヒーローみたいな魔導師の弟子。

助けてもらった恩を仇で返すようで悪いけど、こちらもなんとかして排除したかった。



「噂通りの相当な暴れ馬らしく、母親である自分の言うことも全く聞いてくれないと嘆いておられました」

「そう、それは大変ね」



家族や周りの者が言う事を聞いてくれないのは、好きになってくれないのは本当に悲しい。

私も今回の事でその辛さを身を持って思い知った。・・・・・・だから、少し思いついた。



「機会があれば、私が素直な子になるように説得すると伝えておいてくれるかしら」

「心得ました。それはリンディ提督もお喜びになりますね」

「えぇ、きっと喜ぶはずよ」



だけど、気にする事はないわよね。ただの権力も立場も持たない個人に、私の力に抗う事など出来ないのだから。

なにより今頃はこの身に宿る力でGPOの方々諸共、オーギュや他のみなさんと同じかも知れない。



「オーギュ、月分署のメルビナ長官とサクヤ・ランサイワ司祭との会食は予定通り?」

「はい。今日の18時に、レストランを予約しております」

「そう。・・・・・・楽しみね。もうすぐ、もうすぐなのよ。やっとここまで来たわ。あと、例の物はいつ使えそう?」

「中央本部の上層部とその配下のスタッフが頑張ってくれました。もうすぐ使用が可能です」

「それは良かったわ。みなさんにはまたあとで激励してさしあげないと」



この調子で草の根運動も悪くはないけど、私はもう待ちきれない。いいえ、待つ理由そのものがないわ。

だって私の暮らすべき王国は、理不尽に奪われ壊されたのだから。すぐにでも取り戻したいと思って当然でしょ?



「・・・・・・公女、いよいよなのですね。いよいよ我々は」

「えぇ。私達は失ったものを取り戻せる。本当のカラバの歴史が、ここから始まるわ」










この力で取り戻す。いいえ、私がより大きな形にする。私達の王国を、歴代のカラバの王が成せない程巨大に。

だからどこの誰にも邪魔はさせない。そう、誰一人としてよ。そう言えば・・・・・・あぁ、もうあの子はいいわ。

ここまでしたのだから、きっとアイアンサイズが殺してくれる。例えここに戻ってきたとしても、私達には邪魔な存在だもの。





私の計画にも反対していたし、はっきり言って邪魔なのよ。

それになにより、アレクは何も出来ない。そう、出来るはずがないわ。

あの子は私とは違う。ただ力に怯え、泣くだけしか出来ない。





本当にあの子の事が理解出来ないわ。アレク、あなたはなぜ怯えるの?





私達は・・・・・・私達の力は、人々を幸せに導く力なのに。




















(Report11へ続く)






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