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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report09 『Shambles Outbreak』



ナナ「さて、前回の続きよ。・・・・・・修羅場だわ」

ジュン「まぁ、自業自得なんだよな。ガチで自業自得なんだよな」

ナナ「な、なんていうかちょっと罪悪感が湧いてるのはなんでかしら。私達、ちょっと煽り過ぎたとか?」

ジュン「かも・・・・・・いやいや、とりあえずそこはいいだろ。それよりも気になる事がある。
なんでハラオウン執務官はこっちに来たんだ? そこがあたしには分からないんだけど」

ナナ「確かに局員はヴェートルだと嫌われてるしね。捜査活動だって、普通に上手く行かないわよ。
まぁそこも気になりつつ、今回のお話は始まるわ。ちゃーんと最後まで見てるように」

ジュン「それじゃあスタートッ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それでユーノ、親和力については何か分かったか?」

『ごめん、それがさっぱり。でも・・・・・・おかしいなぁ。
見事にその部分だけが、資料の中から抜き取られてる感じなんだよ』



予測はしていたがやはりか。次元世界の全ての知識が存在しているという無限書庫ですら、この有様とは。

今回の事、アレクシス公子の内部告発がなければ、何も分からなかったぞ。下手をすればそのまま公女の世界征服を許していた。



「もしかしたらカラバの王族が上層部を親和力で操作して、資料を削除していたのかも知れないな」

『能力の概要を聞いた限りでの判断だけど、それは可能だよね。実際がどうかは別としてさ。
・・・・・・でもクロノ、どうするつもり? 現時点じゃ公女を止める事なんて出来ない』

「確かに。アレクシス公子の話を聞く限りでは、説得で止めるのは不可能だろう。
なにより説得しようとすれば親和力によって、こちらが支配されてしまう」

『というか、逮捕してもそんな能力があったら、無罪の可能性が大きいと。
公女のやろうとしていることは、立派な管理局への反逆になるけどそれでも』





本当に厄介な能力だ。洗脳の類などとは違い、自身が気づかない内にその相手を好きになるのだから。

はやてとランドルフ捜査官がGPOと僕宛に送ってきたキャンセラーが、もっとあればいいのだが。

あとはアレクシス公子だ。公子の証言はとても重要な意味を持つもの。だが、それだけでは足りない。



出来れば決定的な証拠が欲しい。公女が直接的に犯罪行為に手を出して・・・・・・いや、これは最低か。



そうだな、つい管理局側で話を考えてしまっているが、これは最低な行為だな。人が罪を犯すのを、期待しているのだから。





『まずは親和力への対策をもう少し整えることからだね。そして、それは不可能な事じゃない』

「そうだな。現にクーデター派はそれが成せた。その成果も、こちらの手の中に僅かだがある」

『そしてそこをちゃんとしなかったら・・・・・・なのはみたいになる』



あぁ、そう言えばメディアに出ていた公女の親和力の影響を受けまくって、シンパの一人になっていたな。

エース・オブ・エースからしてそんな様子だから、局の若い連中まで影響を受け始めている。



『はやてと向こうのシャインボルグ捜査官が入手したキャンセラーって、向こうに送った3個だけなの?』

「いや、実はこっちにも2個送ってきた。それに関しては、フェイトとフィニーノ補佐官に装備してもらっている」



届いたのは今朝の話だ。はやての奴が、相当に頑張ってくれたらしい。

・・・・・・これでフェイト達も影響は受けずに済む。



「それ以外は残念ながら無い。とは言え、さすがにクーデター派に協力を仰ぐわけにもいかない」

『確かにそうだね。というか、クーデター派がEMPでのテロ事件に加担してる可能性は、濃厚だもの』

「本当に厄介な状況になってきた。いちいち順序立てていかないと、どこから手を付けるべきか分からなくなってきそうだ」





ただ、そうも言っていられなくなってきた。だからこそ僕は当然のことながら、もう手を打っている。

そう、切り札はもう手に入れてある。だからこそ・・・・・・あの二人には動いてもらっている。

おそらくフェイトは対アイアンサイズ戦においては無力だろう。だから、他のことをやってもらう。



一つは公子の護衛要員としての役割。・・・・・・決してGPOの面々の能力を信じていないわけではない。

ただ、戦闘以外でもフェイトの所有する魔法の数々は有効打になりえるかも知れん。

あと、これが僕的には一番大きい理由なんだが、やはり対処するにしてもフェイトには一度現状を見てもらいたい。



僕達が現状を見ずに本局の執務室から知った顔であれこれ言っても、結果的に連携に差し支える。



フィニーノ補佐官にはそこの辺りをそれとなく伝えてあるので、多分これで大丈夫なはずだ。





「あとは恭文が、いつもの調子でやり過ぎ無い事を祈るだけだ」

『恭文君?』

「アレクシス公子は公女と違って、自身の力にかなり怯えているらしい。
恭文とGPOの面々が話を聞いた時も、相当だったとか」

『・・・・・・あぁ、察しがついたよ。それであの子、キレてるんでしょ。
もう真っ向から公女ともアイアンサイズともケンカをやろうとしている』

「正解だ」



フェイトの話ではそうらしい。・・・・・・昔からそういうのに関わる事が多かった奴だ。

フェイトの事など、その一例に過ぎない。これは事後はまた荒れるだろうか。



「一応フェイトが僕達に任せるようにと言ったが、最近のアレコレもあるしな。
当然のように返事はノーだ。恭文はGPOの面々と共に徹底抗戦の構えを出している」

『・・・・・・GPOの人達と?』

「どうも向こうの方々は、アイツとうちの御母堂や使い魔や妹よりも上手くやれるらしい。
普通に居心地も良いらしく、仲の良い人間も数人出来たそうだ」



GPOの自由な気風が、アイツの性に合っているんだろう。・・・・・・このまま入ってもいいくらいだろうな。

熱心に誘っているフェイトや母さん、あとはギンガ・ナカジマ陸曹などは不満だろうが、僕はこれでもいいと思う。



『納得したよ。でもまぁ、GPOの事がなくても任せられるわけがないよね。
フェイトやクロノに限らず今回の件、局はほぼ役立たずなんだから』

「非常に不甲斐なく、そして遺憾な事にその通りだ。
・・・・・・最近よく思う。組織というのは、それ自体は信じられるものではないとな」

『また大胆発言するね。仮にも提督なのに』



提督だからこそそう思う。僕が現場主義というのもあるが、それでもだ。

中に居るとどうしても色々なものを見る。ただ、それでも組織人は組織を信じる。



「組織が信じられるのは、それを構築する人間が信頼に値するからだと僕は思う。
本当に簡単な事でもいいんだ。そして組織に属する人間はそれに応えるのが仕事の一つ」



この辺りの基準は、人それぞれだと思う。個人の業績や人間性、そういうものも一つの指針になる。



「そしてその中のルールは手本であり絶対ではない。全ては人が変える」

『まぁ、確かにそうだね。ルールと大きなくくりが前提の信頼関係の上で、管理局もそうだけどどこの会社も動いてる。
・・・・・・言いたい事が分かったよ。ようするにその組織の中の人間である自分は、信じるに値するかどうか迷ってるんでしょ』

「そうだな。今回の事で言うなら、フェイトを筆頭に部下達には歯痒い想いをさせてしまった。
そして市井の人々の信頼を、僕達は揃って裏切っている。だから、どうしてもな」



あとは新部隊の事だ。その辺りの事も含めて、どうしても引っかかってしまった。

だが・・・・・・それでも関わると決めたのは自分だ。なんというか、今更だな。



『まぁ、その辺りも含めてまたご飯でも食べながら、話しようか。
きっとクロノは疲れてるんだよ。少しだけ息を抜いて、力を蓄える事も必要なんじゃないかな』

「そうだな。ではユーノ、事件が終わったら少し付き合ってもらえるか?」



さすがに今は無理だ。フェイト達が頑張ってくれている以上、僕が休むわけにはいかない。



『うん、もちろん。まぁそのためには人使いの荒い某提督が、僕にしっかり休みをくれる事が前提だけどね』

「・・・・・・善処する」

『善処ってなにっ!? そこは『もちろん』とか言うべきじゃないかなっ!!』










恭文、お前は今何をしている。特に何か報告を受けているわけではないから、事件は起きてないとは思う。





だが、僕も一応は心配しているんだ。連絡くらいは、しっかりしてもらえると助かる。・・・・・・フェイトばかりにせずにな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・現在僕、やばいです。普通に修羅場です。なんか、シルビィが来ました。

フェイトが来ているところにシルビィが来て、やばいです。

シルビィが、フェイトに対して対抗意識を燃やすような感じで、燃えています。





そしてフジタさんやジュン達は、全然助けてくれません。放置プレイもいいとこです。





リインさえも、こっちに来てくれません。・・・・・・あぁ、僕はどうすりゃいいのっ!? てーか、なんでこんな事にっ!!




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report09 『Shambles Outbreak』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・夕方、かぁ」



やばい、普通に一日ぐーたらしちゃってた。というか、だめ。なんかだめ。

うー、最近は休みのほとんどをヤスフミと過ごしてたからかなぁ。なんかつまらなくて。



「一応・・・・・・合格、だしなぁ」





もちろん、本命が居るからそうはならないわよね。うん、きっとならない。



でも、それでも・・・・・・もう少しだけ、頑張っちゃおうかな。



恋が実らないのは慣れてる。本当に、慣れてる。そこだけは、少しだけお姉さんだから。





「・・・・・・よし」










差し入れ、持って行っちゃおうっと。夕飯食べてるかも知れないし、軽めの物がいいわよね。





あ、スイーツなんかいいかも。あと、みんなの分も買っていこうっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・それで、お休みなのにここに」

「はい。せっかくですし、ヤスフミともまた仲良くしたなーと思って」

「そうなんですか。あのシルビィさん、ヤスフミがお世話になっているそうで。本当にありがとうございます」

「いえ」





あれ、なんでこんなことに? というかシルビィの回想を挟んでも、なんか緊張感漂ってるんですけど。

なんで僕はフェイトとシルビィとGPOのロビーの真ん中で、一緒にケーキ食べてるの?

というか、他のメンバーが遠巻きにこっち見てるんですけど。というか、おかしいなぁ。



なんで僕と一緒にフェイトと向かい合う形で座っているシルビィが、すごく怖い感じなのかな。





「私もヤスフミに、色々助けてもらいましたから。
・・・・・・例えば、爆発寸前の列車から助けてもらったりとか」



そ、そう言えばそういう事もありましたね。でもさ、なんでちょっと嬉しそうなの?



「例えば、私と歩く時に車道側に回って守ってくれたりとか」



あぁ、初デートした時ね。うん、あったあった。でも、なんでそんな怖いくらいに笑顔なの?



「例えば、一緒に一晩お酒を飲んで・・・・・・沢山話して、元気づけてもらったりとか」



あれ、そんな事したっけ? いや、お酒を飲んだ覚えはあるのよ。

でも、僕はシルビィを元気づけたっけ? むしろそれは僕の方じゃないかな。



「例えば、月面で転びそうになった私を支えてくれたりとか」



いや、それ僕がシルビィに支えられて・・・・・・いや、なんでもありません。



「例えば、パーティーに参加する時にエスコートしてくれたりとか」



いやいや、それは仕事・・・・・・なんでもありません。



「例えば、私にイヤリングプレゼントしてくれて、朝食を一緒に食べたりとか」

「だから待てっ! そのイヤリングも仕事絡みでしょっ!? 普通に数に入れるなっ!!」

「私達、なんだかすごく息が合っちゃって。とっても仲良しになったんですよ?」

「無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



言いながらシルビィが僕の右腕を取って、そのまま抱きしめる。というか、腕を組む。

あ、この中々の大きさの胸の感触がいい感じ・・・・・・って、違うからっ!!



「そうですね、話を聞く限りはそう感じます。
・・・・・・ヤスフミ、良かったね。シルビィさん、本当に良くしてくれてるみたい」

「あ、あはは・・・・・・そう、だね」



笑顔で嬉しそうに言ってるのは、フェイト。なお、さっきのアレコレから、妙な勘ぐりはしないことにしたらしい。

普通にいつもの勘違いが飛び出さないのは嬉しいんだけど、きっとこの場だけなんだと思うと、気分も重い。



「あ、ヤスフミ。クリーム付いてる」



シルビィが言いながら、右手の人差し指で僕の唇近くをなぞる。

なぞると、そこには僕の食べていたショートケーキのクリームが確かにあった。



「あーん」



で、そのままそれを食べる。・・・・・・あ、あのこれはなに?

なんかすっごい微笑ましい状況なのに、怖いんですけど。



「・・・・・・私の事だけ、見てて」



小声でそっと言われた。当然シルビィです。僕にだけしか聞こえないような声で、僕の目を見ながら言う。



「アバンチュールは変えないから。・・・・・・約束、したでしょ?」



僕は首を縦にブンブンと振る。すると、シルビィは嬉しそうに笑う。

つ、つまり・・・・・・これを意地でも維持? あの、自業自得なんですけど、これは辛いです。



「・・・・・・それで、今度は一緒にプールに行こうねーって話をしてるんです」



はぁっ!? 待て待て、そんな約束を何時したっ!!



「あ、そうなんですね。・・・・・・でも、海は? ここ、海も近いようだし」

「あ、この間のアイアンサイズの一件で、しばらくこの近辺は遊泳禁止になってるんです。
パージした区画の残骸の影響調査が済んでいないので。だから、プールなんです」



なお、あの汚染された残骸から新しい生体兵器が生み出される事はなかった。普通に泳いで陸地に上陸とかもなかった。

みんな崩落に巻き込まれて瓦礫と瓦礫の間に挟まれ潰れて、そうじゃないのも溺れて・・・・・・そのままである。



「そっか、納得したよ」

「納得しないでっ!? というかシルビィっ!!」



シルビィの顔が、こちらに向く。なお、腕は組んだ状態なので、とても顔が近い。



「なにかしら?」

「僕、そんな約束した覚えが」

「したわよね」



ニッコリと微笑まれながらそう言われた。そして瞳が言っている。・・・・・・反論は認めないと。

だから僕はこう言うしかないのだ。勇気を持って、全力全開で。



「そ・・・・・・そうだね。うん、したよね。それで、僕はシルビィの背中にサンオイルを塗るんだよね」

「もう、ヤスフミったら・・・・・・それは海での話でしょ? プールでサンオイルはないわよ。
・・・・・・あ、もしかしてそれで私の身体を触りたいとか? 全く、エッチなんだから」

「違うよっ!? 普通に勘違いしちゃっただけだからっ!!」










あぁ、やばいっ! 普通にフェイトが嬉しそうだしっ!!





というか、お願いだからみんな助けてー!? 職場でコレは、ありえないでしょうがっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あの、フジタ補佐官。なぎ君のアレは、いいんですか?」



いや、私の上司があの恐怖の固有結界に一役買ってると考えると、あまり言えないんですよ。

でも、さすがに気になるんですよ。なぎ君がもう、半分死にかけてますし。



「問題はありません。一応、業務は終了していますし。というより・・・・・・接触したくないんです。
例えアレが仕事中だったとしても、俺は遠慮なく見て見ぬフリをしていたと思います」



そこまで言い切りますか。いや、さすがにそれは・・・・・・仕方ないのかなぁ。



「そうね。普通にシルビィもエンジンかかってる感じだし、あれに関わったらマズいわよ。
というか、フェイト執務官は普通に勘違いしてるわよね? 言ってないだけで」

「だよな。まぁ・・・・・・恭文、静かに眠れ」

「あーめん・・・・・・なのだ」

「・・・・・・恭文さんって、モテるんですね。とりあえず、ご冥福をお祈りします」










そして、GPOメンバーは公子も含めて全員手を合わせる。・・・・・・ノリがいいなぁ。





なぎ君があっという間に馴染めてるわけが、よく分かったよ。普通に局よりも合ってるんじゃないかな。





うーん、やっぱりなぎ君に局員は合わないんだよね。局の中だと、なぎ君はハードボイルド通せなくなっちゃうし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・でもフェイト、フェイトは基本現場出れないでしょ」





話を逸らすために言った言葉に、フェイトが固まった。そして、ワタワタと慌て出す。

・・・・・・そう、フェイトは戦力としてアテに出来るか分からないのだ。

理由は当然のように、僕が二度取り逃がしているアイアンサイズの二人の能力。



フェイトは近接型だし、バルディッシュで殴った途端に取り込まれる危険もある。



で、フェイトは魔法無しでの戦闘が出来ない。そのための装備も技能もない。どうしようもないのだ。





「・・・・・・うぅ、そこはツッコまないで? 多分私は戦闘では役立たずだろうけど、それでも必要だったんだ」

「いや、必要って」

「そうなの。というかヤスフミひどいよ。ヤスフミが私やクロノにお願いしたことだよね?」



え、僕がフェイトやクロノさんにお願い? ・・・・・・あぁ、なるほど。



「もしかしてアレクの護送とかの関係?」

「うん」



とりあえずアレクに聞こえないように、ちょっと声を潜める。

で、フェイトが頷いてくれたので僕もシルビィも納得した。



「そこの辺りはクロノからフジタ補佐官の方に連絡してある。
どっちにしても現地のスタッフや局のスタッフを簡単に使えないから」

「それでフェイト執務官自ら・・・・・・ですか」

「そういう事です。私は事情も知ってるし、見ての通り切り札もありますし」





あー、ようするにアレクをどっか安全なところで保護するとするでしょ?

で、その場合どうやってそこまで連れていくかというのが問題なのよ。

本来だったら中央本部やEMPD、それに本局のスタッフを使う。



でも、今回はそれが出来ない。だって、普通に親和力というキラーカードが出てるから。

護送スタッフに任せてみたら実はそれがアルパトス公女のシンパで、そのまま月に強制送還という可能性も無くもない。

だから親和力キャンセラーをフェイトやシャーリーに持たせた上で、後々護送スタッフにするつもりなのよ。



それで天然モード発動した事に関しては、まぁまぁ言いたいことはあるけどここはいい。





「・・・・・・ありがと。てゆうか、こんなに早くなんとかしてくれるとは思ってなかった」



さすがに事件解決後とか、いつも通りな展開を想像してたのに。



「ううん。その、元々早くこうしたかったんだ。・・・・・・ごめん、遅くなって。
私、今回は戦うのとかはダメかも知れないけど、それでも・・・・・・ちゃんとする」



フェイトが言いながら、いつも通りの優しい微笑みを浮かべる。

それが嬉しくて・・・・・・とりあえず、表情は普通を装った。だって、シルビィが怖いから。



「あ、それでね」

「うん?」

「実はもう一つ、お土産を持ってきたんだ」

「お土産?」

「うん。ヤスフミ、ずっとアイアンサイズの能力や身体の事が気になってたよね?
内部浸透系の打撃が通用しなかったりとか。・・・・・・その理由、ユーノが調べてくれた」



フェイトが真剣な顔でそう言って来たので、続きを聞くことにする。



「・・・・・・何か分かったの?」

「まず、アイアンサイズのような事を可能にする生態改造の技術は、昔から存在した。
ただ・・・・・・改造なんて言葉を超えてるの。身体そのものを完全に作り変えるから」



フェイトが右手を操作して画面を開く。そこに映るのは・・・・・・コレ、銀色の球体?



「もうこれは人格を別の身体に移し変えるようなレベル。もちろん、ぶっちぎりの違法技術」



それが人の図の中心に存在して、点滅している。



「多分だけど、アイアンサイズの身体にはこれと同じような核がある。
その核がアイアンサイズの無茶な能力を現実の物にしている」



あー、なるほど。アニメでよくあるやつか。核を攻撃しないとどうこうって言うの。



「ヤスフミの内部浸透系の打撃が通用しないのは、当然だよ。
あの身体は感覚こそ通っているけど、全部核の操作で動く人形みたいなものだから。つまり」

「この核を攻撃して直接的にダメージを与える。
最悪、破壊すればアイアンサイズを止められる・・・・・・という事でしょうか」



シルビィがそう話を纏めて聞くと、フェイトが頷いた。



「そういう事だね。そしてヤスフミで言うなら、この核目がけて内部浸透系の打撃を打ち込めば止められる」





言いながらも、フェイトの顔はやっぱり苦い。・・・・・・僕にそんな事して欲しくないんでしょ。

まぁ、これは殺す戦いだもの。相手が人間やめてるからなんて、言い訳にもならない。

そしてそれは魔法以外の方法が必要になる。ブレイクインパルスはアウトだったしさ。



あとは核の場所だね。・・・・・・もしかしたら核が身体の中で移動とかしてるとかかも。

ようするに、特定の場所に存在しているものじゃないってこと。急所である頭とか胸とかじゃなくてさ。

てーか、そんな分かりやすい場所にあるわけがないか。



それでここから核の場所を調べる時間も・・・・・・ないよね。だって、サーチとかがさっぱりだったし。





「・・・・・・なるほど、確かに普通にやったら止められないかも。
私達もここまでは考えてなかったですし、サーチでもサッパリでしたから」

≪なにかこちらのサーチを阻害する機構でも組み込んでいるんでしょう。
今までの反応を見るに、痛覚などの神経は働いていますけど≫



『人形』って言っても、そこは確定。でも、それでも身体自体が強いから、耐え切れる。



≪それでも手足や顔なんて言う末端部分じゃ意味がなかったんですよ。それじゃあ狙いが甘い≫

「狙うは中心部分。身体を構成するコアってわけか」





それで多分徹じゃ、そのどこかにある核まで衝撃が届いてないんだよ。

そもそも核の場所が分からないんだ。狙って徹すにしても、その狙うポイントが分からない。

もっと強く・・・・・・身体全体に浸透して、核すらも砕くだけの破砕力が必要なんだ。



だったらアレしかない。躊躇いも、迷いもある。殺しは、殺しだから。



だけど、それでもやる。・・・・・・どうしてもこの手しかないなら、やるしかない。





「フェイト、ありがと。充分過ぎる土産だわ」

「・・・・・・うん。ただね、ヤスフミ」



だから、その苦くて泣きそうな顔はやめて? 普通にシルビィが疑問顔じゃないのさ。



「これもユーノが詳しく調べてくれたんだけど、核自体も身体に守られていて、相当強固なの。
だから核の場所が分かっても、浸透系の攻撃が通用するか分からない。そこで」

「「そこで?」」

「マリーさんに協力してもらって、弱体化させるための補助武器を急ピッチで作ってもらってるの」



なお、マリーさんとは本局技術部のお友達。まぁ、ここはお馴染みだよね。

というか・・・・・・え、補助装備? なんですかソレ。



「名称は『Ha7』。体組織の伝達と各種機能に障害を発生させる、ウィルス兵器」



それを直接連中の身体の中に打ち込めば、相当に弱体化させられるらしい。



「それでね、Ha7の使用はそのまま打ち込むだけでもOKなんだけど、それだと時間がかかる。
短時間で急激に効果を発揮させるには、大量の魔力による後押しが必要になるんだ」

「大量の魔力?」

「うん。魔力に出来上がったHa7が反応して、それで中のウィルスが活動を活発化させるの。
アイアンサイズに打ち込んだ後に、強力な魔力攻撃でダメージを与えれば」

「なるほど、一気にHa7が連中の身体を蝕んで捕縛可能状態にまで追い込むと。・・・・・・あ、もしかして」



フェイトが頷いた事で、答えが出た。つまりフェイトが来たのは、Ha7の使用要員としての役割もあるのか。



「そうだよ。これはヤスフミの魔力量だと、ちょっと厳しそうなんだ。
だから、それは私がやる。アウトレンジからの魔力攻撃なら、ヤスフミの足は引っ張らない」



・・・・・・うし、一気に切り札が揃った。Ha7自体は出来上がってないけど、これならやれる。



「あの、フェイト執務官。本当にありがとうございました。おかげで色々と助かりました」

「ううん。私というより、無限書庫の司書長や本局の技術スタッフのおかげだから。
というより私・・・・・・魔法無しだと本当に何も出来ないし、これくらいはね」



自嘲気味に笑うフェイトを見て、シルビィが僕の右腕から離れた。

そして両手を膝の上に乗せて、ペコペコする。



「いえ、あの・・・・・・えっと、恐縮です」



シルビィが普通にペコペコし出した。というか、さっきまでのバトルモードがOFFになった。

・・・・・・なんか、すげー。フェイトのこういうところ、ちょっと見習わないと。



”・・・・・・出来れば、普通に捕縛して欲しい。昨日待っててって言ったのは、そういう理由もあるんだ”



で、念話が届くわけですよ。・・・・・・頭、痛いなぁ。



”元々対策を考えていたと”

”うん。クロノがかなり最初の段階からね。私はちょこっと乗っかっただけ。
・・・・・・でも、そこは本当にお願いしたい。出来れば雷徹とかも使わないで欲しい”



フェイトには手札見せちゃってるからなぁ。普通にバレてるし。



”Ha7があれば、捕縛も十分に可能だから。それで私も、絶対に外すつもりはない”

”出来ればそうするし、そこは信じてるよ。アイツらには、吐いてもらわなきゃいけないことが山ほどあるしね。
・・・・・・大丈夫。僕はヘタレで怖がりだから、殺しなんて出来るならしたくないよ。そこは変わってないから”

”分かった。・・・・・・ヤスフミ、最終確認だよ。私やGPOのみなさんに全部任せて下がるなんて言うのはなしかな”



最終確認だから、フェイトは僕がどう言うか分かってる。分かってるけど・・・・・・あぁもう、やっぱ『ごめん』だ。



”さっきも言ったけど、Ha7があれば十分に逆転出来る”



あははは、やっぱ色々と傷つけてるよね。色々と辛いわ。



”現にヴェートルの中央本部は、もうそういう形にしてしまっている。
なにより・・・・・・それをしても私は責めない”

”嫌だね。てーか出来ると思う? それも、負けっ放しなのにさ”

”・・・・・・思ってないよ。というか、それを本気で言うのは最低だもの。うん、最低だ。
ここでそれ本気で言ったら私、フィアッセさんとの一件から全く成長してないもの”



なにやら、あの時の事はフェイトにとって、色々反省らしい。たまに、こういう事を言う。

まぁいい傾向だと思って、僕は何も言わない。全部フェイトが決める事だし。



”でも、無茶は絶対にしないで? 私も出来る限りはサポートする。
だから・・・・・・お願い。もう私、側に居る。あなたの力になれるから”

”善処するよ。死なない程度に気張って、死にそうになったら遠慮なく逃げちゃうから。
フェイト、悪いけど振り切るわ。僕はもう絶対に負けないと、連中に罪を数えさせると決めたから”



負けっぱなしなのは確定だしなぁ。今更ここで勝ったところで、結局は仕返しレベルに等しい。

でも、それでもこれ以上負けていいことにはならない。なにより・・・・・・こういう仕事は、基本負け戦でしょ。



”・・・・・・うん”



とにかく、方針は決まった。僕やシルビィからしたら思いがけずなんだけどさ。

とりあえずフェイトには、また何かしらお礼を考えておくことにする。



「あ、そうだ」

「フェイト、どうしたの?」

「私とシャーリー、しばらくこっちに居るし・・・・・・ヤスフミ、シルビィさん、さっき言ってたプール」



あぁ、あれね。普通にシルビィが勝手に決めたイベントね。



「明日、行って来たらどうかな? 仕事の方は、私達でフォローするし」

「「・・・・・・・・・・・・出来るわけがないでしょっ! そんなことっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・補佐官、良かったのかよ。二人をまたまたお休みにしちゃって」

「カミシロ、人聞きの悪いことを言うな。二人は仕事だ」



そう、仕事だ。EMPの屋内プールの私服警備員としてな。たまたまそういう仕事が入っていた。

で、元々シルビィと蒼凪に頼むつもりだった。彼氏連れに見えた方が、色々と都合がいい。



「というより、この仕事を受けた時に『男女二人連れの方がいい』とアドバイスをくれたのは、お前だろうが」

「・・・・・・まぁな」





なんでも以前カミシロが同じような依頼を受けて対処した時、それはとてもとても大変だったそうだ。

まぁ当然だが女性一人だけだと・・・・・・居るんだよ。TPOを弁えないナンパな連中が。

そして女性二人・・・・・・いや、女性だけだと必ず来るらしい。それで俺は蒼凪をセットにする事にした。



ここはカミシロのアドバイスだが、恋人・・・・・・いや、そこまでいかなくてもいいか。

友人や家族(弟連れ)と思わせれば、そういうのも防げる。

あとは人が増える事で、単純に警備のために必要な目が増えるからだな。



一人だけでは気づかない事も、二人居ると自然と分かってしまう時もある。

なお、この仕事の依頼先はそのプールが設置してあるホテルだ。

このように、GPOでは市民や一般企業からの仕事も多く来る。それもかなりだ。



この辺り、半民間組織ゆえの柔らかさだ。この間のラジオもそうだが、結構色々な依頼が来る。

住宅区の町内会主催の護衛術勉強会の指導スタッフとか、EMPに入っている企業のビルの窓拭き要員とか。

あとは市民サッカーの助っ人や、結婚式場のパンフレットのモデルに・・・・・・あぁ、ライブもやったそうだな。



そしてここのスタッフは、そんな仕事をきっちりこなしていく。それも笑顔で献身的にだ。

だからこそGPOは、市民に受け入れられている。少なくとも管理局よりはずっとだ。

局よりも身近な形でこの世界に根ざす。そんな気風は、俺達も見習うべきなのかも知れない。



とかく警察機構というのは高圧になりがちな仕事だしな。だからこそ余計に気を付ける必要がある。

そういうので市民と距離が出来ては、いざという時に差し支えるんだ。

現在の中央本部がまさしくそれだと言えば、だいたいの人間は分かってくれると思う。





「というか、まさかフェイトさんの言った通りになるなんて」

「わ、私は流石に冗談だったよ? あの、そこは本当に。
というか、管理局とGPOじゃあやり方が違う部分はあるもの」



なお、方針どうこうという話をフェイト執務官はしていない。もっと、細々としたものだ。

書類の処理の仕方や機材の扱い方。そういう部分で言っている。



「来て一日目の私達がGPOのベテラン捜査官のシルビィさんの代わりなんて、100%は無理だよ。それは思い上がりだと思うな」

「まぁ、それは確かにそうですね。でも、あの二人どうしてるんでしょ」



朝、ロビーでコーヒーやお茶を飲みながら、俺達は全員思う。まさか仕事を忘れてはいないだろうなと。

いや、それはないか。蒼凪もシルビィも、仕事はきっちりする方だ。問題はあるまい。



「それでフェイト執務官、Ha7の事ですが」

「近日中には完成するとのことです。ただ、問題があります」

「それまでアイアンサイズの連中が大人しくしてるかどうか・・・・・・ですよね」



カミシロの言葉に、フェイト執務官は頷く。そう、そこが問題だ。ようするに時間だな。

連中がこの間みたいな大規模な破壊活動を、いつしてこないとも限らない。



「下手をすれば、私達はその切り札無しで連中とドンパチよ?」

「望むところ・・・・・・って言いたいけど、さすがに楽じゃないよな」

「そうだな、厳しい戦いになる」



・・・・・・キッチンから公子とアンジェラ、パティの声が聞こえる。今からお昼の仕込みだ。

公子、本当に申し訳ありません。GPOの台所奉行にしてしまって・・・・・・いや、そこは心から思います。



「・・・・・・ヤスフミ」

「フェイトさん、やっぱり心配・・・・・・ですよね」

「うん。でも、きっと引かない。引くわけが・・・・・・ないから」





言いながら、フェイト執務官はキッチンを見る。・・・・・・俺も同意見です。アイツは引かないでしょう。

とにかく、Ha7の完成を待つ事だな。何か起きれば対処するしかないのだから、ここはいい。

本局技術部のマリエル・アテンザという人は、相当優秀らしい。近日中には必ず完成するそうだ。



それまで静かに時間を過ごせることを祈るか。本当にそれだと助か・・・・・・ん?





「誰か来ているな」



とりあえず、俺はその場で入り口の方に回線を繋ぐ。繋いで・・・・・・固まった。



『おう、GPO。ちょお話があるんやけどえぇか?』



維新組・・・・・・ミドウ総大将か。いや、シンヤにキョウマさんも居る。

それに隊士も数名後ろに見える。そして総大将は少しご立腹な顔だ。



「ミドウ総大将、ご用件はなんでしょうか」

『簡単や。・・・・・・お前らが匿っとるアレクシス公子、うちらに引き渡してもらうで』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



白いタイル貼りの床。人工的な並の出るプールには、砂浜まである。

なお、それだけじゃない。その横には普通のプールもある。

屋内って聞いてたけど、そこそこ広いんだね。なんか、ウォータースライダーまであるし。





で、僕とシルビィは・・・・・・遊んでます。










「ねぇ、次はウォータースライダー乗りましょ?」



楽しそうに、本当に楽しそうに笑うのは、一人の女の子。なお、スタイルはすごくいい。

深めの谷間が出来てるし、腰は細いし・・・・・・普通に視線が痛いのは気のせいとしたい。



「いや、あの・・・・・・仕事」

「いいから」



白のビキニを身に纏ったシルビィが、僕の右手を取る。

そして、指まで絡ませてしっかり握った上で、どんどん歩いていく。



「・・・・・・私達はプライベートで来てるの」



そして僕をウォータースライダーに引っ張りつつ、小声で言ってくる。



「そういう風に見せなくちゃ、お仕事なんて出来ないわよ?」



なるほど。そういう時のお約束は、しっかり守れと。あんまり監視するような意識を出すなと。



「あ、もちろんそうしつつも周りに気を配るの。うん、ここは大事」





シルビィが小声で言いながら、僕だけに微笑む。普通に可愛くて、仕事を忘れてるようにしか見えない。

というか、あの・・・・・・シルビィって前にも言ったけど、身長170くらいあるのよ。うん、結構高いの。

で、それだと僕とは頭ひとつくらい違う。だから・・・・・・僕の視界にちょうど見えるのは、シルビィのたわわな胸。



フェイトやシグナムさんには負けるけど、それでもシルビィは充分スタイルがいい。

豊かな胸と表現するに相応しい白い双丘が、僕の目の前にはある。

や、やばい。白い肌とかくっきりな谷間とかが目に毒だ。普通にやばい。





「・・・・・・エッチ。女の子の胸をジッと見るのは、マナー違反よ?」



やっぱり気づかれてたっ!? あぁ、そんな膨れた顔はやめてー!!



「・・・・・・エッチだし。というか、ドキドキしないわけがないし」

「そっか。だったら・・・・・・それは嬉しいかな」



右手の力が強くなる。強くなって・・・・・・優しい気持ちを、伝えてくれる。



「私だけじゃなくて、ヤスフミもアバンチュールを楽しんでくれてるの、分かったから」

「男としては最低だと思うけどね」



で、ウォータースライダーの入り口・・・・・・というか、そこに上がるための階段に到着。

僕達は、ゆっくりと登っていく。まぁ、足とか滑らないようにね。



「大丈夫よ。・・・・・・瞬間的に燃え上がって、いい思い出で終われる恋もきっとある」



シルビィ的には、それがこれらしい。というか、普通に楽しそうなのが・・・・・・違うな。

なんだろう、一瞬だけ表情に陰りが見えた。すぐに、消えたけど。



「そうだな、私のことは・・・・・・練習って思ってくれていいわよ?
フェイト執務官にアプローチするための、練習。だから」



階段を登りながら、シルビィは視線を進行方向へと向けつつ言葉を続ける。



「うん、だから・・・・・・もっと、本気になって欲しい。そうじゃなかったら、きっと練習にならない」

「・・・・・・本気になったら、練習じゃないじゃないのさ」

「本気の練習だから、いいの。うん、それで・・・・・・いいよ?」





そんなわけで、僕達は周辺警備もしつつ楽しく遊んだ。・・・・・・演技でね。



他のみんなはパトロールとかなんとかしてるのに、僕達だけ悪いなと思いつつ、時間は過ぎる。



ただ、シルビィが普通に楽しそうなのはどうにかしたい。仕事を忘れてるのかなって、ちょっと思うのよ。





「ほら、ヤスフミ。次は温水プールで泳ぎましょ? 早く早くー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、帰還しました」

「よく戻ってきたな。仕事の方は大丈夫だったか?」

「はい。出番もなく、特に向こうさんから緊急連絡みたいなのもなく・・・・・・すみません、遊びました」



もちろん警戒は怠ってないけど、そうなると遊び・・・・・・あれ、おかしいなぁ。



「いや、いいさ。それは最上の評価だ。ご苦労だったな」

「あー、でも残念だったなー。今度はプライベートで行きたいわよね」



・・・・・・せっかく全部華麗に締めようとしてたのに、右隣の女が全部ぶち壊してくれた。

だからフジタさんが右手で頭を抱えるし、僕も引きつった笑いしか浮かべられない。



「フジタさん、お説教します? というか、僕がしたいんですけど」

「奇遇だな、蒼凪。俺も同意見だ。・・・・・・シルビィ、少し話を聞かせてもらうぞ。
お題は、今日の仕事中にお前は一体何を考えていたかをだ」

「どうしてですかっ!? というか、ヤスフミもヒドいわよっ! 私、ちゃんとやってたのにっ!!」

「やかましいっ! そう言いたくなるもなるよっ!?
僕は今日と言う日の全てに疑いを持ちたくなったしっ!!」



なんてツッコんでいると・・・・・・アレ、おかしいな。なんかフジタさん以外の空気が重くない?

具体的に言うと、フェイトがなんか涙目で消沈しかかってるんですけど。あぁ、アレは気づきたくなかった。



「・・・・・・・・・・・・フジタさん」

「気づいたか」

「えぇ、気づきました。気づいてしまいましたよ。何があったんですか」

「簡潔に言おう。・・・・・・『アレクシス公子』は現在、維新組屯所に居る」

「「はぁっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ですから、何度も言っている通り公子は私が責任を持って保護します。
・・・・・・本局執務官、フェイト・T・ハラオウンとしてお願いします。維新組のみなさんは私達に任せて」

「そらアカンなぁ。ちゅうか、任せられるわけがないやろ」



結局、しらばっくれるのは無理だった。普通に公子がここに居る事はバレていた。

それでハラオウン執務官が自分達が保護するという名目で引き下がらせようとしているが、無駄だ。



「ミドウ総大将、何故ですか? この世界が管理世界である以上、本局スタッフの指示に従う事は決定しているはずです」



あくまでも広域次元犯罪に発展して、本局の手が必要な場合に限りだが、そうなっている。

そこは中央本部も同じくだ。いわゆる『餅は餅屋』というやつなのだろう。



「アレクシス公子の身柄を今、月に戻すわけにはいかないんです。
不満があるなら、正式に私の上司のクロノ提督に抗議してくださっても構いません」





ハラオウン執務官は、心根の優しい方だ。穏やかで優しく、俺のようなひねくれ者でも好感が持てる。

そして蒼凪との様子のアレコレを見る限り、本来はこんな言い方をする人ではない。

ここまで『本局の執務官』という立場で一見高圧的に言うその理由は・・・・・・蒼凪のためだ。



出る前に、蒼凪に『アレクの事、お願い』と言われていた。だから守ろうとしている。

本局の人間としての立場を活かせば、維新組を引かせられると思っている。

そして俺達はその好意に甘えてしまっている。ここで維新組と衝突する事は、決して良策ではない。



だが・・・・・・恐らくこれでは無理だ。俺達は、ここで引くほど素直には出来ていない。





「ハッキリよう言わんとわからんらしいなぁ。
・・・・・・うちらはお前ら『異星人』が嫌いやっちゅうてんのやっ!!」



シンヤやキョウマさんが止める間もなく、総大将がキレた。



「そんな好き嫌いで仕事をするんですか? だったらなおさら、あなたのような人に公子は預けられません」

「やかましいわアホンダラっ! ここまで何もせんと能々としとった奴にグダグダ言われる筋合いないわっ!!
今更こっち来て何様やっ! 何もせんこと選択したんやから、もう余計な干渉せんと出てけやアホがっ!!」



残念ながら、総大将の言う事は正しい。だから誰も彼も止めるチャンスを失っている。

いや、維新組の隊士は普通にハラオウン執務官に敵意を向けている。



「そうやっ! 本局も中央本部も、何もせんことを選んだやろっ!? それはアンタも同じやっ!!」



苛立った総大将が、ハラオウン執務官の胸元を両手で掴んで引き寄せた。引き寄せて間近で睨みつける。



「マジで局の人間は腑抜けらしいなっ! ちったぁ古き鉄を見習ったらどうやっ!?
アンタの数倍はよう出来るわっ! アレくらい出来るんやったら、うちらも認めるんやけどなっ!!」



ハラオウン執務官は何も答えない。それを総大将は『反論出来ない』という意味合いに取ったらしい。



「古き・・・・・・鉄」

「そうやっ! うちらと同じような考えの奴やっ!! アンタかて、名前くらい聞いた事あるやろっ!!」



かく言う俺達も同じだ。そこを突かれては反論出来ないと思っていた。



「ふん、よう分かったかっ! この世界には『異星人』も管理局も要らん存在っ!!
それやのにウダウダと口出しするんやないっ! とっとうちらの目の前から消えんかいっ!!」

「・・・・・・くだらない」

「なんやとっ!?」

「くだらない。そう言ったんですけど、聞こえませんでしたか?
あなたが例に出した古き鉄なら、今のあなたに対してそう言い切ります」



その声は俺達が今まで聞いていたハラオウン執務官の声より低いものだった。

だから維新組の連中も思わず目を見張る。



「私は今のあなたの発言を認めない。あなたの言葉は・・・・・・とてもつまらない。
異星人だから、管理局の人間だから、自分と・・・・・・違うから。そんな理由で他人を簡単に否定する」



そして俺の方から、ハラオウン執務官の視線が見えた。その視線はとても厳しく、悲しげだった。



「なにより、私や局という存在を否定するために古き鉄を・・・・・・ヤスフミを引き合いに出した。
私はそれが許せない。あなたは絶対的な勘違いをしている。だから、そんな事をする」

「ふん、誰が勘違いしと」

「している」



鋭い言葉が総大将の動きを止める。・・・・・・ハラオウン執務官は、キレてる。



「あの子は、あなたと同じなんかじゃない。・・・・・・うん、知ってるよ。私は、あの子の事を良く知ってる。
あなたなんかよりずっと。だから言える。あの子は、あなたの言葉を絶対に否定する」



原因は、古き鉄・・・・・・蒼凪の事を出されたからだろう。というより、それ以外に考えられない。



「あの子は私なんかよりずっと優しいから。そして強いから・・・・・・今のあなたの言葉を、きっと認めない。
今のあなたが言った『異星人』なんて言葉が、ただの差別意識に過ぎないって・・・・・・きっと遠慮なく断言する」



・・・・・・その言葉には、確かな説得力があった。きっとハラオウン執務官だから言える言葉だ。



「そんな言葉、意味がない事だって嘲笑う。私だって同じだ。私は、あなたを認めない。
あなた達全員がそんな考えなら、私は・・・・・・・こんな世界の在り方なんて、絶対認めない」



だから声のトーンが徐々に上がっていく。もう俺達にも、そして維新組の連中にも止められない。



「・・・・・・ふざけるんじゃないっ! この三流がっ!!」



悲しげな叫びがロビー内に響く。それに総大将が思わず手の力を緩める。



「どうしてそうやってつまらない意地を張るのっ!?」



だが、すぐに力が強まった。その発言で、総大将の糸がキレてしまった。



「はっきり言うけど今の現状は、あなた達がそんな風につまらない意地を張っている事が原因の一つだっ!!」



・・・・・・まずい。総大将の目に殺気がこもり出した。というより、右拳が強く握り締め始めている。



「確かに私達にも悪いところはあるっ! ううん、私達の方がずっと罪が重いっ!!
私達はあなたの言うように、何もしなかったっ! そのための努力すら放棄したっ!!」



でも、ハラオウン執務官は止まらない。・・・・・・まずい、予想以上に激情家らしい。



「それを・・・・・・それを選んで、今もそうし続けているっ!! そんなの分かってるっ!!
言い訳なんて出来ないし、どんなに頑張っても贖い切れるワケがないって、分かってるっ!!」



というより、今までの現状に対して相当鬱憤が溜まっていたんだろう。色々吐き出しまくっている。



「でも、あなた達には何の非も落ち度も全く無いのっ!? 本当にそう言い切れるのかなっ!!
・・・・・・ほら、早く答えなさいっ! レイカ・ミドウっ!! 聞いてあげるから・・・・・・早く答えろっ!!」

「・・・・・・どやかましいっ!!」



瞬間、総大将の右拳が飛んだ。それは真っ直ぐにハラオウン執務官の顔目がけて飛ぶ。

だが、それを受け止める手があった。・・・・・・俺が入るより早く、キョウマさんがその拳を止めた。



「止めるなキョウマっ!!」

「・・・・・・なりません」



キョウマさんは右手で拳を止める。だが、ハラオウン執務官への敵意の視線は止まらない。



「総大将、冷静に。ここでハラオウン執務官を殴り飛ばした所で、我らが不利になるだけです」



それにハラオウン執務官は、ただ強くミドウ総大将を睨みつけるだけだった。



「えぇから離せっ! ・・・・・・ガタガタ抜かすんやないわボケっ!!
お前とは覚悟の重さも仕方も違うんやっ! 上から目線でうちの・・・・・・いや、うちらの覚悟を見下してんやないっ!!」

「見下してるのはそっちでしょっ!? あなた達にとって私が『異星人』なら、私からだってあなた達は『異星人』だよっ!!
そんな事も分からないくせに得意げに『異星人』なんて事を理由にしてるあなたに、そんな事を言う資格はないっ!!」





・・・・・・その言葉が、俺の心にグサリと音を立てて突き刺さった。そうだ、そうなんだ。

先日の蒼凪のアレクシス公子への言葉も突き刺さったが、これも同じくらいだ。

なぜなら俺も、その『差別意識』を使っていた。それを理由に最初の時、シルビィ達に対して辛辣な態度を取ってばかりだった。



GPOにやって来た当初、俺はシルビィ達『異星人』と仕事など出来ないし、世界に不要な存在とさえ思っていた。



・・・・・・だが、実際は違った。みんなは『異星人』などではなかった。俺と同じただの人だったんだ。





「もう一度言うっ! そんなつまらない意地で・・・・・・何かを否定するなっ!!」

「なんやとっ! もう勘弁ならんっ!! 手前、今この場で斬り刻んでぶっ潰したるっ!!」

「あぁもう、レイカさん落ち着いてくださいっ! さすがにやり過ぎですってっ!!」

「ほらほら、ハラオウン執務官も落ち着いて。こんな事で言い争ったってしょうがないって」



シンヤとカミシロがそれぞれに二人を羽交い締めにして引き剥がす。それでようやく沈静化だ。



「カミシロ捜査官、離してっ!? ・・・・・・そっちがその気ならそれでいいよっ! 遠慮なく相手になってあげるっ!!
私・・・・・・私は絶対に今のあなたの言葉が許せないっ! そんなあなたがヤスフミを分かったように語った事も許せないっ!!」

「だから落ち着けってっ! こんな事でケンカしたって、恭文の奴が困るだけだろっ!?」

「・・・・・・キョウマさん、ちょっと総大将の事、押さえててくださいね。あぁ、カミシロさんもお願いしますよ?」

「「・・・・・・了解」」



シンヤが、そう言いながらハラオウン執務官に視線を向ける。とりあえず冷静な自分が話す事にしたらしい。



「ハラオウン執務官、仰りたい事もまぁまぁ分かります。今のは総大将も悪い部分がある。
いや、多分うちの総大将が絶対的に悪いですね。空気読み違えてますから」

「シンヤっ!!」

「事実でしょ? どこをどうしたらこんな話になるんですか。全くバカバカしい」



とりあえず、キョウマさんが羽交い絞めで後ろに下がらせてるので、総大将は大丈夫だ。



「ただ、それでもここは私達に任せていただけませんか?」

「でも」

「でもじゃありません。ここで互いにぶつかり合っても、いいことはないでしょ。
・・・・・・お願いします。僕はまぁ、あなたの事は蒼凪さんから聞いているので納得出来ます」

「え、あの・・・・・・ヤスフミからっ!?」



シンヤが驚くハラオウン執務官の言葉に頷く。・・・・・・あぁ、先日の出稽古の時か。



「先日、彼に組み手の相手になってもらいまして。いやぁ、あの子は面白い子ですよねぇ。
・・・・・・それでその時に、あなたの人柄や素敵さについて惚気混じりで色々と」

『惚気混じりっ!?』



アイツは一体何をしているんだっ! 普通にシンヤに話す内容じゃないだろっ!!



「ただ、うちの隊士や総大将達はそうじゃないんですよ。
自分達の行動理由を『つまらない意地』と言われてキレない理由が無い」



そこまで言われて、ハラオウン執務官はようやく気づいた。

維新組の人間・・・・・・シンヤとキョウマ以外が、自分に対して本当に強い敵意を向けていることを。



「でも、あの・・・・・・それは」



それに気づいて、ようやく頭が冷えたらしい。さっきまでの怒気を収めて、俺達の知る温和な様子のあの人に戻った。



「お願いします、分かっていただけませんか? 総大将には、僕の方からキツ目に言っておきますので。
ただ・・・・・・そんな意地を張ってしまうだけの積み重ねがあったのも、やはり事実なんです。お分かりですよね?」

「・・・・・・はい」



ただ、やはりハラオウン執務官は納得出来ないらしい。・・・・・・蒼凪、どうなっている。

いくらなんでも頑張り過ぎだろ。お前、どれだけこの人と親しい関係を築いているんだ。



「・・・・・・ハラオウン執務官、もういいです」



全員がその声の方を見る。すると、キッチンから公子が出てきて・・・・・・ん?

キッチンから出てきたのは、公子とアンジェラ・・・・・・だけ?



「アレクシス公子っ!  あの・・・・・・ダメですっ!! だってあなたは」

「いえ、大丈夫です。これ以上あなたやGPOの方々にご迷惑をおかけしたくありません。
・・・・・・あの、維新組のみなさん・・・・・・フジタ補佐官達は」

「分かっています。・・・・・・総大将」



言いながらシンヤが、羽交い締めにされている総大将を見る。若干呆れているのは、気のせいじゃない。



「もうお分かりでしょうけど、ハラオウン執務官がここまで必死に止めたのには、ちゃんとした理由があるからですよ?
GPOや自分以外の人間が身柄を預かると、その『理由』に対処出来なくなる可能性があると考えていらっしゃる」



シンヤは案に総大将達に『このまま連絡して、すぐに月に送り返すのは無しですね』と言っている。

それは俺もそうだがキョウマさんと総大将も気づいた。表立っては言えないから、こういう言い方をしている。



「だったらそこはしっかりして、ご自分の認識が如何に間違っているかをご理解していただかないと。じゃないと、もっと揉めますよ?」



辛辣な言い方ではあるが、悪意はない。これはその裏側に真意を隠すための囮だ。

そして俺達にもこう言っている。『事情があるならこちらもやり方は考えますから、ここは納得してください』・・・・・・と。



「そしてそれは結果的に、『異星人』である公子の信頼をも損ねる結果になる。
正直、僕はそれが得だとは思えませんけどね。ねぇ、キョウマさん」

「その通りだ。・・・・・・総大将、ご決断を」

「・・・・・・あぁ、そうやな。公子、そこのボケ女よりは融通利かせるやさかいに、何でも言うてください」

「あ、ありがとうございます」



落ち込むハラオウン執務官はそれとして、俺は気になっていた。いや、俺だけじゃない。

シンヤが公子を見て少しだけ怪訝そうな顔をする。少しだけ公子をジッと見て・・・・・・納得した顔になった。



「では話も纏まりましたし・・・・・・それでは『アレクシス公子』、こちらへ」

「・・・・・・はい」

「公子・・・・・・あの」



ハラオウン執務官は納得し切れずに、公子を止めようとする。でも、公子は微笑んでそれを諌めた。



「大丈夫です。・・・・・・みなさん、本当にありがとうございました」



言いながら、公子は憤慨気味な隊士と総大将、それをなだめるキョウマさんとシンヤに連れられて外に出た。



「・・・・・・フェイトさん」

「シャーリー・・・・・・・私、ダメだった。ヤスフミに頼まれてたのに・・・・・・なにも、出来なかった。
あの人の言う通りだよ。ホントに私・・・・・・バカバカしい話でキレて喚いただけだった」

「バカバカしいって言うのは、違うんじゃないですか? ・・・・・・・なぎ君は、フェイトさんの大好きな男の子なんですから。
なにより私も同感なんです。もしこの場になぎ君が居たら、きっとあんな理屈は鼻で笑って・・・・・・フェイトさん以上にキレてます」

「シャーリー・・・・・・!!」



・・・・・・泣き出したハラオウン執務官は、フィニーノ補佐官に任せる事にする。

蒼凪にもフォローしてもらいたい所だが、今は駄目だ。仕事中だしな。



「・・・・・・補佐官、いいのかよ。公子を簡単に引き渡しちまって」

「そうよ。これ、恭文とシルビィが戻ってきたらなんて説明するの?」

「ですです。きっと恭文さんまたキレ・・・・・・アレ? いや、あの・・・・・・アレレ?」



どうやらリインは気づいたらしい。首を傾げながら、公子と一緒に出てきたアンジェラの方を見ている。



「アンジェラさん・・・・・・まさかっ!!」

「そのまさかだ。・・・・・・カミシロ、ナナ、お前達気づいてなかったのか。シンヤは気づいていたぞ?」



アイツ、昔から異常に勘が良いからな。ちょっとした機微だけで、隠し事などをあっさり見抜く。

だからこそさっきだってハラオウン執務官の行動の真意を見抜いてきた。・・・・・・恐ろしい奴だ。



「それにリインも今気づいたと言うのに」

「「え?」」





全く・・・・・・公子と仲の良いアンジェラの反応を見れば一目瞭然だろうに。

アンジェラは公子が連れて行かれるのに、無反応だった。普通なら抵抗しようとするだろ。

リインは蒼凪の事を考えて、そこに行き当たった。そしてそれは正解だ。



だから俺はアンジェラを見る。アンジェラは・・・・・・困ったように半笑いを浮かべていた。





「・・・・・・補佐官、分かってたの?」

「あぁ。公子と仲良しなお前が、この状況を納得するわけないしな。・・・・・・アンジェラ」

「分かってるのだ。その・・・・・・ごめんなのだ」

「いや、良い判断だ。お前かパティのどちらかの考えかは知らないが、よくやってくれた」



カミシロとナナ、それにフィニーノ補佐官は分からないという顔なので・・・・・・そろそろネタばらしと行こうか。



「アンジェラ」

「うん。・・・・・・アレク、出てきていいよー」



そう声をかけると、キッチンから・・・・・・エプロン姿の公子が出てきた。



「「「こ、公子っ!? でもさっき・・・・・・あの、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」」

「・・・・・・その、ご心配おかけしました」

「ちょっと待ってくださいっ! フジタ補佐官、これどういう事ですかっ!?」



ハラオウン執務官をなだめていたフィニーノ補佐官が、混乱し気味な顔で俺とアンジェラ、それに公子を見る。



「だって公子はさっき維新組に」

「アレはパティですよ」

「はいっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・パティの変身能力?」

「あ、そっか。パティが公子に変身して入れ替わったんですね」

「そうだ。これは魔法などに依存しないパティの特殊能力だ。
この能力を使えば、パティは誰にでも変装する事が出来る。サーチでもそれはバレることはない」

「正直、提案された時にはビックリしました。でも・・・・・・僕の代わりにパティさんが」



アレクが落ち込んだ顔になるのは、きっと優しいためだと思う。でも、正直その顔はやめて欲しい。

普通にさ、落ち込んでるのが二人とか鬱だから。ガチでこういうのダメだって。



「フジタさん、僕はパティってオーディションで心臓止まりかけた印象しかないんですけど・・・・・・大丈夫なんですか?」

「問題ない。こういう状況での立ち回り方を、俺が直々に教えている。
心臓が止まる心配もないだろうし、時間稼ぎくらいは出来るだろう」

「・・・・・・それ、相当に分が悪いと思うんですけど。制限時間無しですし。
言うなら向こうはゴールがなくて、僕達だけゴールがあるサッカーですよ?」

「言うな。あと・・・・・・蒼凪」





フジタさんがまた声を潜めながら・・・・・・横目で落ち込むフェイトを見る。

現地住民である維新組やレイカさん達と全くお話出来なかったのが、相当ショックなんでしょ。

僕もフェイトを見る。・・・・・・あ、シャーリーが申し訳なさそうに右手挙げて『ごめん』ってしてきた。



僕は軽く右手を振って『大丈夫』とサイン。正直・・・・・・なぁ。どうすりゃいいの? 僕に言えること、きっとそんなにはない。





「あのまま意気消沈され続けても、全体の士気に影響する。
フィニーノ補佐官だけでは手も足りん。そして、俺達も正直何も言えん」

「・・・・・・フェイトを盾扱いした事なら、気に病む必要ありませんけど。
どうせフェイトが自分からやるって言いだしたんでしょ?」



多分タイミング的には、維新組を入れる前だね。きっとこう言ったに違いない。

『私が本局の局員の立場をかざせば、止められるかも知れません』って。



「・・・・・・よく分かったな」



フジタさんが軽く驚いてるので、僕はお手上げポーズで軽く返す。



「これでも付き合いが長いんで。てゆうか、そういう意味で言うと僕も何も言えないんですよね」



結局フェイトに押し付けちゃったのも同然だしなぁ。あぁ、失敗したなぁ。

あんな言い方したら、フェイトがどういう行動に出るかは予測出来たのに。



「でもヤスフミ、だからってヤスフミまでノータッチはだめよ。
・・・・・・大事な人なんでしょ? だったらこういう時に頑張らなくちゃ」

「よそ見してもOKなの?」

「えぇ」



シルビィは躊躇い無くそう言い切った。軽く笑いながらなのは、きっと年上の余裕というやつでしょ。



「というか、これでノータッチだったらかえって幻滅しちゃうな。
お姉さんとしては、ここはヤスフミが頑張る所だと思うの」

「一応僕の方でも色々話したんです」



そう言ってきたのは、今まで話を聞いていたアレク。そして落ち込むフェイトを見ている。



「ただ、維新組の実体というか、次元世界の人間に対しての意識に触れたことがショックらしくて」



うん、そこだよね。てゆうか、そこしか考えられないもの。結果的にアレクが無事でコレだもんなぁ。

てゆうか、維新組はそこまで局や『異星人』を嫌ってるんかい。フェイトの言い方が若干悪いのもあるけど、ちとめんどいぞ。



「・・・・・・恭文さん、僕からもお願いします。ハラオウン執務官は僕や恭文さんのために頑張ってくれたんです。
そこだけは絶対に間違いないんです。それなのに今のようになってしまうのは、あんまりにヒド過ぎて」

「・・・・・・・・・・・・うーん」



なんて考えていると・・・・・・分署の中で大きく緊急アラームが鳴り響いた。

一旦フェイトの事は置いておいて、僕もフジタさんも一気に戦闘モードに突入する。



「カミシロっ!!」

「・・・・・・EMPDから、救援要請だっ! アイアンサイズが・・・・・・おいおい、マジかよっ!!」

≪ジュンさん、どうしました?≫

「アイアンサイズの奴らが、維新組の屯所に襲撃をかけてんだよっ!!」



維新組屯所って・・・・・・はぁっ!? じゃあ、レイカさんやシンヤさんが襲撃されてるんかいっ!!



「現在交戦中で、隊士にけが人多数っ! 維新組の隊長達が応戦してるけど・・・・・・かなり苦戦してるらしいっ!!」



いや、違う。・・・・・・僕はフジタさんと顔を見合わせて、頷き合う。どうやら同じ考えらしい。



「狙いはアレクか。くそ、どこから情報漏れたのさ」

「今ソレを考えても仕方あるまい。すぐに救援に向かうぞ」

「あの、私も」



そう言ったのは、アラームを聞いてお仕事モードに突入したフェイト。

そして当然のように、フジタさんが首を横に振る。



「ダメです。・・・・・・フェイト執務官は、すみませんがリインと一緒に分署で待機を。
今のあなたは現場に出せません。その理由、ご自分でお分かりのハズですよね?」

「・・・・・・はい」





まずデバイスが全く使えない状況を想定した、本当に徹底した戦闘訓練をフェイトはしていない。

普通に護身術よりちょっと上なレベルでは、アイアンサイズには通用しないもの。

普通の非殺傷設定の魔法も効果が薄いし、下手に出てこられると正直こっちは辛い。



あとは今のフェイトのメンタル面の問題だよ。現場で崩れても、正直僕もフォローする余裕がない。



それに・・・・・・今回はもう意識を最大レベルに上げる。フェイトが居ると、色々やりにくいのよ。





「それ以外のメンバーは、全員出動っ!!」

『了解っ!!』



で、ジュンとナナ、アンジェラが動く。僕もすぐに飛び出そうとする。



「・・・・・・蒼凪」



だけど、フジタさんに止められた。僕は振り返りながらそちらを見る。



「はい?」

「これまでの借りを、一気に返してこい。・・・・・・殺す事がそれになると、それが正しいなどと言うつもりはない。
ただそれでも、借りは借りだ。お前が今までのあれこれを負けだと思うなら、最後の一回だけでもいい。奴らに、勝て」

「・・・・・・言われるまでもありません。今回は、絶対に勝ちます」

「あぁ、その息だ。しっかりやってこい」



そうして、僕達は夜の闇の中に飛び出し。



「・・・・・・あの、補佐官。恭文さん」



気合いを入れていると、後ろから声がかかった。そっちには・・・・・・アレク。

真剣な目で僕とフジタさんを見ていた。だから、当然のように僕達は首を傾げる。



「アレク、どったの? ・・・・・・あれ、何か今すごく嫌な予感が」

「多分その予感は正解です。僕を、僕を現場に連れて行ってください」

「はぁっ!?」



当然のように、僕はフジタさんを見る。少なくとも、決定権はフジタさん持ちだもの。

全員驚く中でフジタさんは、真っ直ぐにアレクを見る。ただ静かに、何かを見極めるように。



「・・・・・・条件があります。俺の側から離れない事。そして、公子だとバレないように変装する事。
俺は最後方で指揮車から指示ですし、中から出なければ問題はないでしょう。蒼凪」

「はい」

「公子は俺がしっかりと守る。お前は気にせずに・・・・・・全てを振り切れ」

「当然です」

「ちょっと待ってくださいっ! フジタ補佐官、私は納得出来ませんっ!!」



声をあげるのは、フェイト。なお、他の面々は『仕方ないか』という顔をする。

この差が一体何かは・・・・・・僕にはよく分からない。



「大体、公子を現場に連れていってどうするつもりですかっ!?」

「・・・・・・ありがとうございます。なら、急いで準備します」

「出来るだけお早めに。アンジェラ、お前は手伝ってやってくれ」

「了解なのだ」

「補佐官っ! みんなも待ってっ!? こんなの絶対おかしいよっ!!
お願いだから・・・・・・お願いだから、ちゃんと私の話を聞いてくださいっ!!」










当然のように、フェイトの話を聞く人間など居るわけがなかった。





だって、これはアレクがそうしたいと望んだ事なんだから。全員急いでEMPDの維新組屯所に向かう。





だけど・・・・・・そこは修羅場と化していた。どうやら僕は、楽に今日という日を終えられないらしい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



維新組の隊長陣は、この世界に昔から伝わる総合格闘術の道場の出。

僕達が乗り込んだ和風の面持ちの道場は、広さが普通にどこかの体育館くらいにはある。

というか、先日僕とシンヤさんが組み手したあの場だよ。ここになんとか追い込んだのか。





その中で呻きながら、血を流しながら倒れている人間が多数。だけど、動いている影もある。

血と破壊の後で汚れきった木造りの道場の中で動く影は、5つ。

二つはダンケルクとキュベレイ。そして、レイカさん達三人だ。あと・・・・・・あれ?





レイカさんが赤の甲冑を着て、刀を持っている。そして、シンヤさんは白の甲冑で警棒の類。

あの模擬戦の時に使っていた電磁警棒だね。それでダンケルクとどつき合ってる。

ダンケルクは、右手にロングブレード。左手にハンドアックスを生やして、それを得物にしてる。





キュベレイの方には、キョウマさんが青の甲冑を着てピンでやり合ってる。というか、二人で力比べしてる。

でも圧し負けて、掴んでいた腕ごと持ち上げられる。そこから思いっ切りぶん投げられた。

キョウマさんが投げられた方向は、僕達の左側。勢い良く投げられ、床の木を砕きながらも転がった。





・・・・・・くそ、マジでチート集団ってわけ? 普通にやってくれるじゃないのさ。










「・・・・・・二手に分かれましょ」





様子を見て、シルビィがそう口にする。僕達は当然のように、それに頷く。

見てる限り、もう限界だと思う。どっちかだけ介入はアウトでしょ。

そんな真似をして、どっちかにでも内部に突入されたら完全アウトだ。



中の公子に化けているパティに近づかせない事が、僕達の最低限の勝利条件なんだから。





「私とヤスフミはダンケルクに。ジュンとアンジェラとナナちゃんはキュベレイをお願い。
維新組の人員はもう限界みたいだから、ここからは私達が」



言いながら懐から銃を出すシルビィは、真っ直ぐにレイカさん達を見る。

・・・・・・甲冑、普通にヒビや欠けている所があってボロボロだ。相当派手にやり合ったんだね。



「了解。まぁ、連中がそんな甘く助けられるとはあたしには思えないけどな」

「なら、一気呵成に襲いかかればいいだけよ。
そこは状況判断しつつで。それじゃあ・・・・・・行くわよっ!!」




シルビィの号令と共に、僕達は前方に駆け出す。ジュン達はキュベレイの所に。

ダンケルクは、シンヤさんと斬り合っていた。だけど、それに構わずにシルビィは三発撃った。

シンヤさんは銃声が響くよりも早く、ダンケルクの右手での唐竹の斬撃を左に動いて回避。



そうして、ダンケルクの真正面から撃たれた弾丸は全て命中。そこから僕が飛び込む。





「・・・・・・くそ、GPOに古き鉄まで。ちっと長くやり過ぎたか?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・GPO? それに蒼凪さんまで・・・・・・あぁ、それはそうですよね。





これだけ派手にやり合っていたんですし、普通に気づきますよね。










「GPO・・・・・・余計な真似、するんやない。アレは、うちらの獲物や」

「何言ってるの? もうボロボロじゃないの。いいから無理しないで」



シルビィさんは目の前で衝突を始めた蒼凪さんとダンケルクを見据えながら、そうレイカさんに声をかける。

ただ、それじゃあ納得するわけがないんですよねぇ。うちの総大将、普通に負けず嫌いですから。



「アホ言うんやないっ!!」



だから、必死な形相で膝を突いていたのに立ち上がるんですよ。・・・・・・タフだなぁ。



「この世界はな、うちらが守るんやっ! 何時までもお前らや管理局におんぶに抱っこなんて、出来るかいっ!!
そうや、出来るかボケっ! あんな腐れ女の居る組織になんざ、ガタガタ言われるのなんてごめんやっ!!」

「ちょっとちょっと、色々言ってくれるじゃないのさっ!!」



その声は、ダンケルクと衝突している蒼凪さん。色々と遺憾だと言いたげな口調だった。



「はっきり言っておくけど、僕は『異星人』なんてくだらない考えだと思ってんのよっ! そしてお前ら、あの子の一体何を知ってるっ!!」



両手の小太刀を振りながら、ダンケルクと幾度と交差し、道場内を走り回りながら声を続ける。



「あの子は萌え要素満載の・・・・・・次元世界一素敵な女の子なんだからっ!!」



ダンケルクがその前に回り込んで、右の刃を突き出して突撃する。それを右薙に振るい、攻撃を弾いて逸らす。




「なにより気にくわないのが・・・・・・そんなあの子のたった一面を、それもほんのちょっとを見ただけで『腐れ女』っ!?
ふざけるなボケがっ! 人間の基本は多重構造でオーケストラなんだよっ! 誰だって・・・・・・僕やお前だってそうなんだよっ!!」



間合いを取り、互いに間合いを取りつつも警戒。・・・・・・そして気づいた。蒼凪さんの動きが全く別人だ。

僕と以前やり合った時よりも、ずっとキレがある。どうやらアレが実戦の蒼凪さんらしい。



「大体、それならおのれは行き遅れ決定の男女って事になるでしょうがっ!!」



ハッキリそう宣言すると、維新組の負傷者の中で意識がハッキリしてる面々は、つい吹き出してしまった。

常日頃、そう遠くない未来にそうなるんじゃないかと噂されているの・・・・・・この人、知らないはずなのに。



「なんやとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「人にグダグダ言う前に、我が身を省みて自分の女を磨けってーのっ! はっきり言ってあの子の方が上だしっ!!」



それだけ言うと、蒼凪さんは戦闘に集中して、再びダンケルクと斬り合いを始めた。・・・・・・でも、本当に不思議な人だ。

あの軽口を叩きながらも、攻撃は鋭く苛烈。そしてそれ一つで僕達の敗戦ムードを、一気に切り替えてしまった。



「蒼凪さん、飛ばしてますねぇ」

「そ、そうですね。・・・・・・やっぱよそ見許したのは失敗だったかしら」

「はい?」

「なんでもないです。とにかくレイカ、あなた達が止めても聞かないのは分かってるわよ」



言いながら、ちょっと苦笑気味に蒼凪さんを見ている。真っ直ぐに・・・・・・真剣な瞳で。



「これでも長い付き合いだもの。でも、あなたはともかくスーツの方は限界よ?」



立ち上がりかけていたレイカさんが、動きを止める。止めて・・・・・・歯を食いしばった。



「レイカさん、バッテリー切れです。かく言う僕も、もう無理です」





僕達が使っているパワードスーツ・・・・・・強化甲冑は、魔力式の携帯型バッテリーを搭載している。

それで甲冑の中にある、身体能力強化のための装置を稼働させている。

だからこそ僕達はこの甲冑を装着している時は、魔導師張りの身体能力を発揮出来る。



出来るんだけど、そのバッテリーが切れると普通に動けなくなっちゃうんだよ。

だってこれ、重量にしたら100キロ近くあるんだよ? 歩くくらいならともかく、これで戦闘は無理。

だからレイカさんが悔しげに動こうとするけど・・・・・・足を止めるわけだよ。



この状況で普通に飛び込んでも、意味がない事が分からない人じゃないもの。



後ろを見ると、キョウマさんも同じく。・・・・・・でも、それだけやり合ってたって事か。





「シルビィさん、申し訳ありませんが」

「分かってます。・・・・・・あなた達のおかげで、アイアンサイズを捕縛出来るかも知れません。ありがとう」

「いえいえ」










バッテリーは、戦闘モードでフルに動いて30分は持つ。・・・・・・意外と短いでしょ?

予備のバッテリーを持ってくるのは、この状況だとちょっと厳しい。

というか、その間に普通は戦闘が終わってるよ。でも、逆を言えば30分は戦ってた。





アイアンサイズのみなさんは普通に強いけど・・・・・・ずーっと延々同じように戦って続けられるわけじゃない。

現に最初の時と今とでは、確実に動きが鈍くなってる。肉体や精神が消耗しない身体というわけじゃないようだ。

そうだ、僕達は無意味に苦戦したわけじゃない。だからレイカさんだって、納得して動きを止めた。





今なら・・・・・・今の状況なら、彼らを逮捕出来るかも知れない。あとは・・・・・・こりゃ、ここを超えたら隊長会議かなぁ。

フェイト・T・ハラオウンは『異星人』・・・・・・次元世界の人間で、僕達の『敵』である本局の人間。

維新組の人間はそんな色メガネであの人を見ていたから、あんなバカな事になったのかも知れない。





正直、あんな事ばっか起こるのはごめんなんですよねぇ。そんな事では、自立は程遠いですし。




















(Report10へ続く)






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