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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report06 『Prince disappeared』



恭文「前回のあらすじ、ご飯を食べていたら、キュベレイがゴッドイーターやろうぜと声をかけてきました」

シルビィ「違うからっ! というか、わざわざ文字を太字にする必要あるのっ!?」

恭文「無いけど何かっ!?」

シルビィ「逆ギレしないでよっ!! ・・・・・・とにかく、色々核心に迫りつつも話は進みます」

恭文「進むね。てゆうか、普通にアバンチュールじゃなくなったかも」

シルビィ「あら、アバンチュールは徹底的に楽しむわよ?」

恭文「やるのっ!?」

シルビィ「当然よ。事件は事件で真剣にやるけど、そこのは切り替えをしっかりしなくちゃ」

恭文「あ、あははは・・・・・・中々パワフルなんだね。僕は色々ビックリだよ」

シルビィ「というわけで、メルとまReport06・・・・・・どうぞー」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・邪魔するよぉっ!!」





声は野太い女の声。後ろを見ると・・・・・・あぁ、フラグを踏んでしまった。てーか、来たよ。

味方しか居ないこの状況が気に食わないのか、わざわざ月にまでやってきたキュべレイが。

そしてキュべレイは、爆煙渦巻く中から飛び上がり、公女を襲う。それを見て、僕は跳ぶ。



跳びながら瞬間的にバリアジャケット装備。そして、魔法を一つ発動。



そうしながらも女のわき腹に蹴りを入れる。だけど、左腕で防がれた。





「邪魔すんな、チビっ!!」



そのまま僕の右足を掴もうと右手を伸ばして来て・・・・・・バカが、笑ってんじゃねぇよ。

お前の弟との戦闘で、お前らの硬さは大体覚えた。だからもう・・・・・・貫ける。



≪Stinger Ray≫

「スナイプショット」





発生したのは数発の青い光の弾丸。それは、閃光となり笑っていたキュべレイの胸元に迫る。

キュべレイは身を捻るけど、それでも遅い。スティンガーは全てキュベレイを貫く。

胸元を、腹を、左肩を貫き、僕が撃ったスティンガーの全ては天井へと突き刺さって穴を穿つ。



キュべレイは痛みに顔を顰めて、僕から離れるようにしながらもそのまま床へ墜落。地面を滑る。

公女様の脇を滑るようにしたので、当然のように公女様達は無事。側近もガードしてた。

かくいう僕は、着地の体勢が取れずにそのまま下に落下してしまう。そして下にはテーブルとお食事。



受身は取ったけど、丁度下にあったマリネやカルパッチョ塗れになった。



で、それでも起き上がりながら踏み込む。踏み込んで、側近と公女に声をかける。





「早く安全なところにっ!!」





返事は聞かずに、そのまま前へと突っ込んだ。狙うは、当然あの襲撃者。

キュべレイは起き上がりながら、僕に右拳を叩きつけて来る。

それを左側に避けると、裏拳が来た。僕の顔面を潰すように、拳が飛ぶ。



飛んできた拳を避けつつ、またもや魔法・・・・・・は、だめだ。まだ避難し切れてない。

後ろに大きく飛んで、距離を取る。着地して、トントンと跳びながら、左手をクイクイと動かし、挑発。

そして、背中から当然のように小太刀を二本取り出すのである。





「・・・・・・へぇ、武装仕込んでたわけか」



まぁね。サクヤさんやシルビィは武装持ち込めなかったから、その分僕が頑張ったのよ。



「さすがは古き鉄だね。やることがいちいちぶっ飛んでる。
・・・・・・でも、その辺りにしときなっ!? もう、怪我だけじゃすまないよっ!!」





キュべレイが、伏せ気味に突っ込んでくる。僕は咄嗟に左へと避ける。

キュべレイは当然のように、先ほどと同じく僕に裏拳をかます。でも、そこに僕は居ない。

上に跳んで、左手を動かす。そして、キュべレイの首に鋼糸を巻きつける。



そうして、数メートル離れた机の上に着地。そのまま、鋼糸を引き絞りキュべレイを窒息させる。





「へぇ、僕の事知ってるんだ。だったら、分かってるよね。
僕にケンカを売った奴こそ、怪我だけじゃすまないってことは」

「そう」



キュべレイは、両手で僕の鋼糸を掴んだ。さっきの二の舞かと思ったけど、違った。



「だねっ!!」



キュべレイは僕の鋼糸を引きちぎった。力いっぱいに両手で掴んで、いとも簡単にである。

・・・・・・うそ。数本に束ねて、強度はそうとう上げてるのに。てーか、こんなのありかい。



「じゃあ、どうせだっ! 言葉通りにしてもらおうかねっ!!」




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report06 『Prince disappeared』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



叫びながらキュべレイが、まるで猛牛のように動く。僕は上に跳び、シャンデリアに掴まる。

なお、テーブルは見事に粉々です。あと、上に載ってた料理も。

それからキュべレイは上に跳ぶ。跳んで、そのまま右から回し蹴り。



かく言う僕は、シャンデリアを揺らして10時の方向に思いっきり飛んでいる。もう、そこには居ない。

シャンデリアはキュべレイの蹴りで砕け、捻じ曲がり、そのまま天井を剥がれて会場奥に叩き付けられた。

そのため、会場が少し薄暗くなる。そんな中、着地した僕とキュべレイは向き合い、再び飛び込む。



シルビィとサクヤさんと補佐官が早速避難誘導してくれてるけど、人が多い。

それならと思いつつ、僕はキュべレイの拳を避ける。

コイツは弟と違って、パワーファイター。威力はあるけど、小回りは僕の方が上である。



振るわれる拳を避け、叩き込まれる蹴りを避け、会場内を跳びまわる。

その度に豪華な料理やそれを載せたテーブルがダメになるけど、気にしていられない。

キュべレイに向かって、右の刃を袈裟から叩き込む。キュべレイはそれを身を捻って避けた。



そこを狙って左の刃で刺突を叩き込もうとした時、キュべレイの左足が動いた。

僕の顔面に向かって、蹴りが飛ぶ。それを、左に少し動いて避ける。

でも、そこで止まらない。足が逆袈裟にまるでハンマーか何かのように、叩き込まれた。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」





咄嗟に後ろに大きく跳んで、転がりながら避ける。その間に足が床に叩きつけられた。

そして綺麗な赤いカーペットが敷かれた床が、一気に砕ける。というか、カーペットも塵になる。

転がりつつ起き上がった僕を狙ってキュべレイは大きく跳び、右足で蹴りを放つ。それを右にまた転がって避ける。



なお、床はさっきよりも大きくクレーターが出来た。・・・・・・なんつうバカ力だよ。どこの師匠?

そしてキュべレイは立ち上がる。満足そうに笑いつつも、また突進してきた。

だけど、ただの突進じゃなかった。キュベレイの姿が一気に消えてしまった。嫌な予感をしつつ、右に大きく跳ぶ。



瞬間、凄い勢いで風圧が巻き起こり、僕の身体が数メートル吹き飛んで壁に叩きつけられる。

そして、轟音。壁にドでかい穴を開けてキュベレイの身体が軽く埋まりかけていた。

立ち上がりながらもそちらに視線を送っていると、キュベレイがニヤリと笑う。うわ、余裕綽々だし。



てゆうか・・・・・・な、なんですか今のっ!? てーか地面に真っ直ぐ亀裂みたいなのが入ってるしっ!!





”超高速での突撃ですね。恐らく、あの巨体の筋力を前進のみに費やしてるんでしょ”

”それは一体どこの猛牛だよっ! くそ、突き抜け過ぎててチート臭がプンプンだしっ!!”



しかもヤバい。アレはソニックムーブみたいな高速移動系の魔法とは全く違う性質だ。

物理的な力であの巨体が一気に加速するもんだから、それだけで凶器と化す。



「ちょこまかすんじゃないよ。いくらアンタでも、私のコレは」



瞬間、キュベレイの身体が少しだけ沈んだ。



「見切れないだろっ!?」



僕は壁際からすぐに離れる。離れながらも魔法を二つ発動。そして、またソニックブームが発生。

真っ直ぐな亀裂がカーペットごと切り裂き、僕が居た場所の壁を・・・・・・砕かなかった。



「・・・・・・・・・・・・がは」





キュベレイが驚愕の表情で自分の胴体を見る。そこには、自分の身体を深々と貫き貫通する巨大な杭。

回避する時にブレイクハウトを発動して作った杭だ。・・・・・・強度は覚えてたから、いつもより三割増しで固くしてる。

あの突撃は、多分なのはレベルの防御系統の魔法でも防ぎ切れない。そしてカウンターも普通なら無理。



カウンターしようにも、相手の攻撃そのものが見切れないし、空中という逃げ場のないこの状況だと間合いも開けられない。

いや、それ以前にカウンターを撃ち込もうとした途端にあの巨体に圧し潰されると思う。

だから、逃げる時にブレイクハウトを発動して交差気味にキュベレイ自ら突っ込んでもらった。



一応あのスピードで小回りが利くとかも警戒はしてたんだけど、大丈夫のようだ。そして、キュベレイは今のままでは動けない。





≪Delayed Bind≫





だって・・・・・・杭に貫かれながらも、身体を青い鎖に戒められてるんだから。

これはクロノさん譲りの設置型のバインド。その名もディレイドバインド。

任意の空間にトラップのように設置して、そこに入った対象を戒める魔法だ。



一応言語詠唱が必要な魔法ではあるけど、僕の能力ならタイムラグなしで設置も可能。





「・・・・・・鉄輝」





あの突撃スピードと身体の強度を瞬時に計算、そして効果範囲も少し絞った。

その上で杭が突き刺さると同時にほぼラグ無しで発動するようにした。

というより、多分バインドだけじゃあ勢いが強過ぎて、引きちぎられるしね。



この杭程度で死なないのはもう知ってる。だから、どっちかって言うと本命はコイツだ。



だからこそ僕はとっくに踏み込んでる。二刀を上段から振るって、キュベレイに叩き込む。





「双閃っ!!」



だけど、キュベレイはそんなバインドを僕が斬撃を叩き込む数瞬の間に引きちぎった。

鎖達が会場にはじけ飛ぶ。僕は・・・・・・すぐに魔法をまた発動。



≪Sonic Move≫





右に大きく移動・・・・・・いや、弾き飛ばされた。その原因は、当然キュベレイ。

あの状態から無理矢理に加速して、僕に突撃してきた。二刀でガードしたけど、それでもダメージを受ける。

テーブルや他の料理を吹き飛ばしながら、床を滑るように転がる。てーか、普通に痛い。



そして、数個のテーブルを巻き添えにした上で止まった。止まってから、すぐに起き上がる。




”・・・・・・刃は大丈夫ですね”



両手の刃は刃こぼれなし。魔力を込めていたせいもあるだろうけど、それでも無事。



”そうだね。ここは安心したわ”





アルトの刃と同材質だし、ここで刃こぼれも無しというのは普通に良かったよ。

起き上がりながら、僕はキュベレイの方を見る。キュベレイは、普通に床に転げていた。

杭が突き刺さった体勢から無理に加速したもんだから、そうなるのよ。



僕が発生させた杭は中程からへし折れてる。キュベレイのお腹には杭が突き刺さったまま。

引っかかった感じで無理に突撃したから、途中でバランスを崩してコケたらしい。

でも、これで分かった。コイツ、自分の突撃スピードを全くコントロール出来ていない。



コントロール出来ているなら、壁に埋まって止まる必要なんてない。僕の杭なんて、あっさり避けられる。

あの状態でキュベレイが出来るのは、ガチで強力な前進だけ。そのパワーが半端じゃないから、対処しにくいけど。

でも、僕なら対処出来る。神速やフェイトの真・ソニックやらなんやらで、高速型との相手は得意だもの。



あ、そうそう。とりあえずブレイクハウトを解除・・・・・・っと。





”さて、どうしますか? 普通にやっても間違いなくジリ貧ですよ”



杭は『全て』床に戻る。地面から生まれてへし折れたものも、キュベレイに突き刺さったのもだ。

キュベレイに突き刺さった方は、粒子のようになって砂となって床に落ちる。キュベレイの腹には、ただ大穴が開くのみ。



”物理的貫通ダメージは一切ダメ。スターライト・・・・・・ダメだ。
チャージ時間も取れないし、こんなとこでぶっ放したら、僕達宇宙空間に投げ出されちゃうよ”



キュベレイは、それでも立ち上がる。お腹に僕の頭くらいの穴が相手いるのに、それでもだ。



”ブレイクインパルスなどの内部破壊系のダメージはどうでしょう。
魔力ダメージもそうですが外的ダメージもこの調子だと恐らく、決定打になりません”



うん、そうなるよね。多少はふらついてるから、ダメージが全く無いわけじゃないみたいだけどさ。



”ダメ。・・・・・・最初の蹴りの時に、それ使ってる”



あの時、徹を込めると同時に足を起点に発動していた魔法が・・・・・・ブレイクインパルスなのよ。



”まさか・・・・・・破砕振動数が検出出来なかったんですか?”

”うん”





ブレイクインパルスは物質の振動破砕数を検出して、それと同じ数の振動を瞬時に送り込む技。

内部破砕系の魔法なんだけど、僕の能力・・・・・・瞬間詠唱・処理能力ならラグ無しで一瞬で発動可能。

教えてくれたクロノさんは発動までにラグがあるけど、僕ならラグ無しで発動出来るの。



もう前回のアレコレで普通のやり方はダメだってのは分かってた。だから初っ端でパンチかましたんだけど、ダメだった。



だから危うく足掴まれて、握り潰される所だったのよ。くそ、どうなってんのさコイツら。





「くくくく、頭のいい子だねぇ。私に吸収されるのが怖くて杭を消したのかい」



キュベレイが言いながら、こちらに向き直る。多少はダメージ有りだけど、それでも決定打にはなってない。

・・・・・・覚悟を決めるしか無いかも知れない。普通の手段じゃ、僕はコイツを止められない。



「おやおや、だんまりかい?」

「・・・・・・あぁ、ごめんね。改めてビックリしちゃって。ほら、ゴリラって言葉を喋らないと思っててさ」





どうやら、相当にキレやすいらしい。また飛び込んできた。ただし、両手の銃を出して。

くそ、普通に持ってたのを隠してたのか。なお、銃はAK-47にも似たアサルトライフル。

それを乱射しながら、僕に一気に踏み込む。僕は左に跳んで避けた。



同じように衝突音がする。でも、そこで止まらない。キュベレイは右手の銃を突き出す。

ブレイクハウトを発動して、乱射されたライフル弾の全てを防ぐ壁を生成。

だけどまたすぐに左に走る。なお、ブレイクハウトで壁は作りつつ。そして、最初に作った壁が砕けた。



薙ぎ払うように放たれた銃弾は壁によって防がれるけど、それでもキュベレイはまだ銃を向けてくる。

だから左手で飛針を出して、ライフルの銃口に向けて魔力を込めた上で投擲。青い魔力に包まれた刃が、銃口に納まった。

それで引き金を引くもんだから、ライフルが二つとも暴発した。銃身の中程からあっさり爆発してしまう。



・・・・・・そりゃそうだよ。ただ魔力を込めたんじゃなくて、ブレイクハウトも込みなんだから。

銃口に入るタイミングに合わせて、2倍ほど膨張するように仕込んでた。

そんな状態で銃を撃つから、キュベレイは顔をしかめて軽く怯むのよ。だから僕は一気に走る。



すると、キュベレイは役に立たなくなったライフルを放り出してから、また飛び込む。

今度は普通に走ってきた。キュベレイの奴、どうやら気づいたらしい。

僕が自分の突撃のタイミングを完全に見切っている事を。・・・・・・ようやくである。



ただ、零距離でしてくる可能性もあるので、一応注意。あとは今まで僕が見切った癖はワザととかさ。

右の小太刀を逆手に持って、交差するように斬りつける。その対象は、キュベレイの右拳。

徹も込めた一撃は、決してキュベレイの拳に劣るものじゃなかった。衝撃が弾け、その場で互いに足を止める。



続けて上から打ち下ろされる左拳を後ろに跳んで避ける。なお、追撃で両の拳を連続で振るってくるので同じく。

左の拳を打ち下ろし、もうボロボロの床が砕けるのと同時に前に踏み込む。キュベレイは、すかさず右手を振るう。

僕はすぐに上に高く跳んで、その右腕の上に乗る。乗りながらもそれを足場に更に上に飛ぶ。



そうしてキュベレイの右薙に振るわれた右手を避ける。避けながら僕はキュベレイの背後に回る。

だからまずは冷静に一撃。落ちつつも時計回りに回転しつつ、キュベレイの首の後ろに向かって刃を叩き込む。

キュベレイの首をそれで斬り裂く。ただし、斬れたのは三分の一の深さの所まで。



そうしながらも僕は床に着地。キュベレイはそれでも忌々しそう僕に攻撃する。

身体を時計回りに回転させて、右拳で裏拳を叩き込んでくる。それを後ろに下がって、胸元すれすれではあるけど難なく避ける。

回転の勢いを活かしつつ、髪を靡かせながら次は左足を振るう。それはブレイクハウトを発動する事で対処。



相手のインパクトが強くなる前に、支柱を瞬間的に出して相手のケリを止める。

そこを狙って、僕は突きを入れる。なお、魔力で硬化してあるので簡単には砕けない。

だからこそ、キュベレイのバカ力による蹴りでも止められたのである。



キュベレイの頭を狙った突きは、右の手の平で防がれた。そのまま、零距離で押し込んでくる。

体重や体格の軽い僕は、その勢いに圧される形で簡単に吹き飛ばされた。

10数メートルの距離を滑るようにして後ろに下がる。その間にキュベレイは体勢を立て直す。



自分の足の動きを止めた支柱を根元からへし折って、僕に投擲した。僕は構わずに突っ込む。

軌道を見切った上で、すれすれで避ける。僅かに右のジャケットの肩の上の部分が掠る。

忌々しげにキュベレイが舌打ちしながら、飛び蹴りをかましてくる。それを左に身を捻るようにして回避。



地面を砕きつつも着地しながら、キュベレイは僕に向かって右足を即座に上げて後ろ回し蹴り。

胴体に穴が開いてるのに、元気な奴だと思いつつ、その足に向かって小太刀を叩き込む。

徹を込めた上でなら、向こうとパワー負けはしないらしい。攻撃自体は通用しなくても、それでもだ。



人のそれとは違う身体と小太刀が交差して、火花を散らす。すぐにキュベレイは左足での蹴りに移行する。

右薙に叩き込まれたそれを、後ろに跳んですれすれで回避。そうしつつ、ブレイクハウトを発動。

蹴りのモーション中の首や胸元の辺りを狙って、魔力硬化した杭を瞬時に叩き込む。



丁度僕から見て左側から発生した杭にキュベレイが目を見開く。

だけど、外れた。キュベレイは咄嗟に身体を捻って、直撃を避ける。

避けつつ一端動きを止めて・・・・・・息を吐きながら右拳を振るう。



裏拳を叩き込んで、自分の横にある杭を粉々に粉砕した。もちろん、忌々しげにだ。





「またちょこまかとウザッたい技を使うねぇ」

「そりゃあゴリラからするとウザッたいだろうね」

「・・・・・・黙れよ、チビが。何も知らないガキがグダグダ言うんじゃないよ」



言いながら、キュベレイが僕を睨む。そして、両腕を胸元まで上げてまた構えた。



「ふん、三流のクズの言う事だね。『何も知らない』? お前・・・・・・バカじゃないの?
お前らが何も言わないからこうなってんだろうが。グダグダ抜かしてんじゃねぇよ」



軽くその場でトントン跳んで、左手の小太刀を逆手に持って前に突き出す。

くっついたカルパッチョとかマリネやそのソースをぽたぽた落としつつ、僕は挑発を続ける。



「こいよ、三流ゴリラが。まずは『あいうえお』から僕が教えてやる」

「そうかいそうかい。だったら・・・・・・もういっちょ行こうかね。それで殺してやるよ」

「それはこっちのセリフだ」





まずあの突撃自体は、もう怖くない。いくら目にも写らぬスピードとは言え、予備動作がハッキリし過ぎてる。

2回目で気づいた。コイツ、飛び込む直前に上半身のどこかしらが僅かに沈むのよ。油断しなければ、充分先読みは可能。

・・・・・・普通そういう予備動作は削って、発動のタイミングを分かりにくくするものなのに。



もちろんそこを言ってやるほど、お人好しでもなければ優しくもない。だから僕は、二刀をまた構える。

キュベレイは怒り心頭と言う顔をしながらまた上半身・・・・・・肩を沈めて、突進する。

訂正、突進してこようとした。だけど、そこを狙って飛び込んできた影が一つ生まれた。



それは紫の透明なバイザーと、同じ色(Not透明)のワンピースを着た女性。

その女性は銀色の細身のレイピアを手に持ち、突き出す。

それを見切って、キュべレイが動きを止めた。後ろに少し跳び、その一撃を避ける。



避けて、キュベレイはすぐに右拳を動かした。乱入者の腹を狙って、突きを打ち込もうとする。

でも、それよりも速く二撃目が走る。それは、右薙の一撃。それを慌てて避けた。

そう、キュべレイは慌てて避けたけど、胸元と首にそれぞれ一撃・・・・・・ううん、三撃入ってた。



キュべレイが着地して、相手を腹立たしく見る。致命傷じゃないらしいけど、それでもやっぱり痛いらしい。

その人はゆっくりとレイピアの切っ先を前に・・・・・・キュベレイに向かって向ける。てーか、ちょっと待って。

今の全然見えなかった。この人、強い。多分僕よりもずっと。ヒロさんと同じくらいのレベルなのかな?



いや、でもやっぱちょっと待ってっ! もしかしなくてもこの人・・・・・・メルビナさんっ!?





「蒼凪、よく持たせてくれた。おかげで公女も招待客も、無事だ」

「そりゃよかった。じゃなきゃ、カルパッチョとマリネ塗れになった甲斐がないですし」

「安心しろ。色男っぷりが上がって、シルビィが更にお前の事を好きになりそうだ」



ホント、よかったわ。そうじゃなかったら、いの一番に突っ込んだ理由が分からないし。



「ありえないでしょ、どんだけシルビィの恋愛は海鮮趣味なんですか」

「・・・・・・ふ、違いないな」

≪でも、ちょっと遅過ぎませんか?≫



そうだよそうだよ。僕、普通に苦戦してたよ? というか、我ながらよく頑張ったと思うし。



「すまない。少し見慣れた顔を見つけたので、手間取った」





この人は、バリアジャケットを装着したメルビナさんだった。でも、これだけじゃない。

メルビナさんに飛び込もうとするキュべレイを止める影が一つ。

乱入者は、どうやら二人だったらしい。その影は遠方から、十手を回転させながら投げつけてきた。



そう、十手なのよ。僕の小太刀よりも10センチ以上も太くて大きいけど、それでも十手。

その十手をキュべレイは大きく飛んで回避。そこを狙って、飛び込んだ。

黒い鎧、そうとしか形容出来ないものを着込んだ男が。その男は、目の部分にゴーグルをつけてる。



普通のじゃなくて、機械的なもの。・・・・・・目の部分だけロボコップと言えば、分かるだろうか。



その男の右手に持った十手に、雷撃が宿る。魔法じゃない、機械的なもので発生した電気エネルギー。





「・・・・・・お前っ!!」

「消えろ」



男は裂帛の気合いの元、空中に居るキュべレイに十手を叩き付けた。



「はぁっ!!」





それをキュべレイは、右手でガードする。するけど、接触点を始点に、空間に青い雷撃が迸る。

次の瞬間、キュべレイは床に叩き付けられた。

叩きつけられて、床を削りながら数メートル滑る。そして、壇上に激突した。



・・・・・・え、なんでここに居るのっ! というか、初見だしっ!! すっごい初見だよねっ!?





「維新組の、協力に感謝する。だが、貴公はなぜここに?」

「アイアンサイズの動きを追っていた・・・・・・とだけ、言っておこう」



おぉ、なんか渋い声だ。まぁ、そこはいいとしよう。

・・・・・・黒いのは、左手で回転して飛びっぱだった十手を掴む。



≪マスター、これが≫

「うん。維新組の黒い男だよ」





・・・・・・維新組というのは、前にも説明したけどEMPDの組織した凶悪犯罪専門の特別部署。

GPOとは一種のライバル関係らしい。で、こいつはそこに最近やってきたの。

維新組の総大将であるレイカさんの昔馴染みだっけ? 2ヶ月前くらいから、姿を現すようになったとか。



それでランサーのみんなが苦戦していると、ちょこちょこ姿を現して助けに来るそうなのだ。

そう、まるでどこぞのヒーローのように。現にどこぞのヒーローみたいに、パワードスーツなんて着てる。

今黒い男が着ているのは、維新組でレイカさん達が使っている戦闘用の強化スーツなのよ。



合法的にするために、魔力バッテリーを搭載して動かしている『質量兵器』。

ギリギリアウトでありながらもギリギリセーフだったりするので、ヴェートルの中央本部が頭を痛めてるものの一つ。

確かに魔力を応用した防衛システムなんかは、局でも使ってるしね。あんまり言えないわな。



それでも中央本部は再三のように警告して、廃棄するように言ってるんだけど、EMPDはどこ吹く風。

でもそうだよね。ここの人達は基本的に魔法資質0なんだし、これくらいしないとだめだって。

しかしすげー。アレ、すげーかっこいいよ。僕、こういうの欲しいかも。





「とりあえず維新組の黒いお兄さん」

「なんだ、古き鉄」

「そのパワードスーツ、僕にください」

「蒼凪、お前はこの状況で何を言っているっ! そして何が『とりあえず』なんだっ!?」



正直に言えば、こんな軽口叩いている間に相手の能力について考察したいから?

てゆうか、僕は基本シリアスなんて3分が限界なんだー。こんな長くシリアスムードは嫌なんだー。



「ダメだ。まぁ、お前の身長があと20センチ伸びたら考えてもいいがな。
それくらいならば、この玄武のサイズもぴったりだろう」

「誰がミジンコレベルで小さいだってっ!?」

「誰もそこまでは言っていない」





ふん、いいよいいよ。それなら・・・・・・あ、レイカさんに頼もうかな。



いや、待てよ。相談してヒロさん達と作るのもアリかも。でもどうせだったら・・・・・・あぁ、そうだよ。



それで電王とかに変身出来たら、楽しいよね? よし、ヒロさん達にアイディア出してみよう。





「・・・・・・しかし、真っ黒だ。真っ黒過ぎて逆に目立つ」

「言うな。俺も常々そう思っている」





なんかさりげなく自分でもそう思ってたのっ!? ちょっとビックリなんですけどっ!!

そしてなんかさりげなかったのは、コイツだけじゃない。キュべレイも同じくだ。

爆煙の中でゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いてくる。・・・・・・てーか、まだやる気かい。



やばい、コイツら普通に強い。てーかタフ過ぎる。なんですか、これ。





「GPOに古き鉄、維新組・・・・・・こりゃ、私一人じゃきついねぇ」

「問題ない。お前が今すぐに武装解除し、降参するのであればな」



右の十手の先を向けつつ言い放ったその言葉に、キュべレイは鼻で笑う。

なお、ここで『何も武装してませんよ?』とツッコむのは無粋なので、やってはいけません。



「もしくは、今すぐ僕達にフルボッコにされるかだよ。さ、どうする?」

「蒼凪、それは全く事態の解決案になってないぞ」





その時、僅かにだけど右耳にイヤリングをつけているのが見えた。金色で、輪っかになってる。

小さくて、戦闘用とは思えないくらいに可愛らしいと思った。・・・・・・でも、あれ?

あのイヤリングってどっかで・・・・・・あ、思い出した。確かダンケルクも着けてたのだ。



そっか。姉弟って言ってたから、お揃いなのかな。中々可愛い事をする方々である。





「残念ながらそうはいかない。それに、問題はないんだよ。・・・・・・こうすればねっ!!」



そうして、キュべレイは左に直進。いや、そっち壁。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



キュベレイはそのまま突撃して、轟音と共に壁を砕きながら突っ切った。それに思わず、僕達は唖然とする。



「・・・・・・か、壁を砕いて逃走したっ!? アイツ、どこの横馬だよっ!!」

「まずい、あちらには要人の緊急脱出用の転送ポートがあったはずだ」



維新組の黒いお兄さんが、ハードボイルドな感じで冷静にそう言った。

・・・・・・って、なんか間が悪っ! それだと普通に逃げられちゃうじゃんっ!!



「く、急いで追うぞ。蒼凪、維新組の、私に続け」



というわけで、メルビナさんに僕も黒いのも続いた。続いたけど・・・・・・ダメだった。

数分後、転送ポートに到着したけど・・・・・・もう逃げられた後だった。てーか素早過ぎるぞ、おい。



「・・・・・・くそ、逃げられたか」

「くそぉ、パーティーのご飯の恨みをまだちゃんと晴らしてないのに。
僕、カルパッチョとサラダとマリネ塗れなのに。お魚さんごめんなさい状態なのに」

「お前はまだいいだろうが。私は酒を我慢したんだぞ? あの女、次に会ったら必ず叩き伏せる」

「メルビナさん、酒を我慢するのは仕事として当然だと思うんですけど、そこは僕の気のせいですか?」



などと、二人して決意を固めていると、気づいた。黒いのが・・・・・・居ない。

うそ、真面目に話で聞いてた通りに、音もなく消えた。僕も気配が掴めなかった。



「維新組のは気にするな。神出鬼没は元からだし、少なくとも敵ではない」

「いえ、敵ですよ。僕をミジンコ呼ばわりしやがって」

「お前の耳は一体どうなっているっ! 誰もそこまで言ってないぞっ!?
・・・・・・まぁ、アルパトス公女達が守れただけでもよしと」

『長官、大変ですっ!!』



メルビナさんがうまく纏めようとした所、普通にそれに水を挿してくれるのが居た。それは、シルビィ。

とっても慌てた様子に、僕はとメルビナさんは凄く嫌な予感がしつつも、その通信に答える。



「シルビィ、どうした」

『それが・・・・・・公女は側近の方も居たので大丈夫だったんですが、アレクシス公子がどこにも居ないんですっ!!』

「なんだってっ!?」

「アレクシスって・・・・・・あぁ、あの影が薄い男の子か」

≪きっと、影が薄くなり過ぎて半透明になったんじゃ≫



あぁ、だから僕達じゃ視認出来なくなって・・・・・・って、ちょっと待ってっ!? それ違うでしょうがっ!!



「あのメルビナさん、僕は今すっごく嫌な考えが思いついちゃったんですけど」

「そうか。蒼凪、奇遇だな。実は私もなんだ」



言いながら、僕達は見る。そう、目の前にある転送ポートを。



「そこに関しての答え合わせは必要と思うか?」

「出来ればしたくないですけど、一応は」

「そうか。そこまで私と同じとはな。やはりお前とは気が合うようだ」



まぁ、アレだよ。転送ポートの使用履歴を見れば、一目瞭然とは思うけどさ。



「アレクシス公子・・・・・・もしかしなくても、これ使ったのっ!?」

≪アイアンサイズに遭遇して、それで逃げるために・・・・・・充分有り得ますね。
もし捕まったのなら、普通にどっかに死体が転がってるでしょうし≫

「・・・・・・シルビィ、すぐにEMP分署のジュン達に連絡を。
現時点を持ってアレクシス公子の捜索と保護を、GPO・EMP分署の重要案件とする」

『わ、分かりましたっ!!』










・・・・・・普通に、こっちに来て負けてばっかだと思った。それはもうかなり。公子は結局転送ポートで姿を消していた。

この後、アレクシス公子の徹底捜索はGPOの仕事の一つになったのは、言うまでもない。

でも、まずい。影が薄いと言っても、あの子は王族の一人であることに間違いはないんだから。





つまり、アイアンサイズなりその関係者に捕まったら・・・・・・その場で、死亡確定である。





あぁもう、マジでこれってヤバくないっ!? 緊急事態もいいところだしっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけらしいんだよ」



ここはヴェートルのEMP分署。そう、ここは宇宙じゃない。

あたしはシルビィから連絡をもらって、みんなに事情説明したところ。



「恭文さん、なんでそこまで大きなトラブル引いてるですか?
あぁ、やっぱり運の悪さが今回は全開なのです」

「リインさん、恭文さんはそこまでなんですか?」

「はいです。・・・・・・あ、というかパティさん。
リインは別にさん付けじゃなくても大丈夫って言ったですよね? あと、敬語もNGなのです」

「あ、ごめん。私より先輩だから、つい」





あー、そういやアイツ、運が凄まじく悪いんだったよな。・・・・・・でも、考えたらそうだよなぁ。

だって、1話目で幼稚園バス襲撃に遭遇して、あたしらにどっかの怪物扱いされるだろ?

2話目ではロリコン扱いされ、シルビィとカップル扱いされ・・・・・・って、後者は別にいいな。



いきなり列車内でバトルして、それの爆発に巻き込まれかけて、シルビィと二人で線路内をさ迷った。

その後は後で生体兵器の大群とやり合って・・・・・・で、今回はアイアンサイズのせいで、ご馳走がパー。

アイツはお魚さんごめんなさい状態。もっと言うと、マリネとカルパッチョ塗れ。



・・・・・・なんだろ、時間軸で言うとたった20日前後でこれなんだよな。やばい、あたし泣けてきた。





「・・・・・・ねぇ、私泣いていいかしら。なんかすっごい涙出てきたんだけど」

「ナナ、あたしもだ。アイツ・・・・・・今までこの調子って、よくグレずに生きてきたよな。なんか偉いよ」



よし、帰ってきたら飯おごってやろう。あたしだけは、アイツを労ってやろう。ちょっと不憫過ぎるよ。



「とにかくそれでキュべレイにも逃げられちゃってるって言うし・・・・・・ジュン、EMPDとヴェートル中央本部には」

「大丈夫、もう連絡してる。メルビナ長官からも、協力を要請するってさ。
今回ばかりは小競り合いしてる場合じゃないしな。みんなもそのつもりで頼むぞ?」

『了解っ!!』



維新組の連中にも一応連絡した。で、レイカも同意見なので、急いで捜索・保護するという話になった。

ただ救いもある。ポートの記録だとEMPに跳んだのは間違いない。だから、すぐに見つかるはず。



「とりあえずアンジェラにも連絡しとくか。今日、非番だけど」

「あー、あのバカ猿には直接説明がいいんじゃない? 通信越しとかだと、めんどくなりそうだし」

「そうだな、そうするか。でも一応メールで、簡潔に説明はしとこうっと」

「・・・・・・あの、そう言えばアンジェラさんって、誰かと暮らしてるですか? ご家族の方とか」



ふわふわと浮かびながら、リインが疑問顔で聞いてきた。・・・・・・そういや、知らなかったんだっけ。



「いや、アンジェラは一人暮らしだ。元々はシルビィと暮らしてたんだけどな」

「シルビィさんと? ・・・・・・あ、そう言えば姉妹同然に育てられたって言ってましたよね」

「でも、何気にアンジェラもアンタより経験も年も上なのよ。それで協議し合って、互いに一人暮らしに切り替えたのよ」





まぁ、契約なんかの細かい手続きはシルビィがしてあげたんだけど。ただ、実はアンジェラはちびっ子だけどすごい。

一人暮らしになってどうなるのかと心配していたあたし達みんなを、いい意味で見事に裏切ったんだよ。

料理は不器用ながらもちゃんとするし、掃除も頑張ってるらしい。なんていうか、シルビィが一番喜んでた。



一人で暮らすようになったおかげで自立心が芽生えて、少しお姉さんになったのかもと何度も言ってたよ。





「アンジェラさん、そう言えばお姉さんというか、面倒見のいい方ですよね。
リインにもいっぱいいっぱい優しくして、色々心配してくれてるのです」

「そうなのよね。・・・・・・私、アンジェラにあんな面があるなんて知らなかったわ」

「まぁ、アイツだってずっと子どもじゃないさ。どんどん成長していってるってことで、いいんじゃないのかな」










・・・・・・ところがどっこい、あたしらはともかくEMPDや中央本部的には全然良くなかった。

一件関係のない事柄が、今強く結び付き始めようとしてたんだから。

今日のEMPの天気は雨だ。それも土砂降りで、傘がなかったらあっという間にずぶ濡れになる。





公子が風邪を引く前に、見つけてやりたいとあたしは思った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・逃げて、来ちゃった。寒い。雨・・・・・・止まない。

これから、どうしよう。EMPD・・・・・・だめだ。

ならGPO・・・・・・だめ、長官って言ってたあの人が、あんな調子じゃ。





なら、ヴェートルの中央政府・・・・・・いや、ダメだ。これはもっとダメだ。

管理局に僕達の事が、親和力の事がバレたら、大問題になる。

だけどこのままは絶対ダメなんだ。そんな事したら、もっと大変なことになる。




どうすればいいんだろう。もう嫌だ。僕は・・・・・・いらなかった。こんな力、いらなかったのに。










「・・・・・・あれ?」



薄暗い路地に隠れるように、逃げるように蹲っていると、声がかかった。

不思議とその声には素直に反応した。そして、僕は顔を上げる。



「君、こんなところでどうしたのだ? ・・・・・・はわわ、ずぶ濡れで大変なのだ」

「あの」

「とりあえず・・・・・・これ」



その子はポリ袋から白くてふかふかで温かい食べ物を、僕に差し出してきた。



「これ」

「肉まんなのだ。まずは、それを食べて暖まるのだ」





その子を見ていて、気づいたことがある。この子、普通にしている。

瞳の色が全く普通だ。あのGPO長官や、その部下の司祭とは違う。

いや、あの会場や僕の周りに居る人達とは、全く違う。



本心から僕の事を心配して、手を伸ばしてくれてるんだ。





「いい、の?」

「うーん、君の方が寒そうだからいいのだ。ささ、早く食べるのだ」





暗い世界の中で、ようやくこの子の顔がハッキリと見えた。それは獣耳をした、子ども?

・・・・・・ちょっと待って。もしかしてこの子、親和力が効いてない? あぁ、間違いない。

どうしてかは分からないけど、今この子が手を伸ばしてくれたのは、親和力のせいじゃないんだ。



それが嬉しくて、僕は肉まんを受け取る。そして、そのままかぶりつく。・・・・・・身体の中に、温かさが広がった。





「美味しい?」

「・・・・・・うん、美味しい。それに、すごく温かいよ」










その子の家に連れられて、お風呂を借りて、服も借りてしまって・・・・・・そうして、また泣いた。





この子の前では僕は、化け物ではなく人間で居られるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、散々大暴れした翌日・・・・・・僕達はヴェートルに戻る事になった。





なったんだけど、それはそれとして惜しい事がある。それは、月面観光。










「・・・・・・状況的に仕方ないとは言え、月面都市・・・・・・観光したかった」

「・・・・・・今回の一件が解決したらだな。帰る前に好きなだけ観光してくれ」

「さすがに今回は帰る前に少し・・・・・・というのは、ちょっと無理なのよね。ヤスフミ、ごめん」

「シルビィが謝る必要ないよ。うん、分かってる。でも、マジで失態だなぁ」





ここは月面都市の宇宙港。普通にシャトル乗って移動なんて・・・・・・すごいなぁ。

転送ポートもあるけど、基本こっちが主流らしい。

とにかく僕達は、出発ロビーの休憩用椅子に座りながらお話。



で、昨日のアレコレを思いながら、どうしても表情が苦くなる。マジでアレ、どうしよ。





≪もうスターライトでぶっ飛ばすしか無いんじゃ≫

「でも、今までの状況から見るにそういうのが出来ない場所ばかりに出てきてる」

「まぁそこは当然だろうな。大体、お前がスターライトを撃っていい場にテロを仕掛けても、意味があるまい」



何時ものスーツ姿に戻ったフジタさんの言う事も一理ある。うぅ、でもどうしよう。



「だが蒼凪の言うような状態だとすると、相当厄介だな。何か手を考えなければ」

「そうですね。戻ったらEMPDの技術スタッフにも、解析を頼んでみましょうか。
・・・・・・ヤスフミ、大丈夫よ。私達も協力するから・・・・・・ね?」

「・・・・・・ありがと」










とにかく、もうちょっと対策を考える必要がある。この場合・・・・・・人に相談だよね。





うし、ちょっとセーブも兼ねて相談してみるか。もしかしたら打開策が見つかるかも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・じゃあ、公子が見つからないの?』

「うん」



分署に戻って来たその日の夜、ある意味セーブポイント化しているフェイトとの通信。

まぁ、現状について簡単に説明。で、ビックリされている。



「でもおかしいんだ。EMPが広いって言っても、限定された地域のはずなのに」

『しかも、EMPDとヴェートルの管理局も協力してるんだよね? 小競り合いとか無し』

「うん。さすがに今回は事態が事態だから、ちゃんとやってる。・・・・・・あぁ、でもまだ気になることがあるんだ」



それはアイアンサイズ。まぁまぁ、予想通りではあった。でも、理由がどうしても分からない。



「アイアンサイズのキュべレイってのに徹・・・・・・打ち込んだんだけどさ。
あとはブレイクインパルスも並行して」

『徹・・・・・・ちょっと待ってっ! ヤスフミ、徹はともかくブレイクインパルスを撃ったのっ!?
どうしてっ! いくらなんでもあの魔法を生きている存在に撃ち込むなんて、ありえないよっ!!』

「そうだね。普通ならありえない。でも、振動破砕数が検出出来なかったのは、もっとありえない」



僕の言っている意味が分かったのか、フェイトの顔が青冷めた。だから僕は、頷いてあげる。



『・・・・・・そんな。あの、ありえないよ。だってあの魔法は』

「んなもん、使ってる僕が一番分かってる。でも、検出出来なかったの」



ここもフジタさんだけじゃなくてメルビナさん達にも報告してる。相当ビックリされたけどね。



「とりあえず、同系統の攻撃である徹も効果が薄かった。そして魔法による内部破砕系の攻撃は効果0。
その上ブレイクハウトやスティンガーや小太刀で身体を貫こうと、全く致命傷にならない。それで僕にどうしろと?」



そこまで言って気づいた。フェイト、落ち込んで反省したような顔になってる。

まぁ、その・・・・・・少し言い過ぎたので、僕はここで矛を納める事にする。



『・・・・・・ごめん』

「別に謝らなくていいよ。全く・・・・・・どうなってんのよ、連中は。
徹も特にインパクトをずらされて、効果が半減したとかじゃない。通ったのは確定なのに」

『本当にかなり強敵なんだよね。デバイスも使えないし、非殺傷設定なんてどこ吹く風状態』

「うん。中央本部の武装隊の魔法は、現にサッパリだったらしいから」



とにかく戦い方をもっと鋭い形に変える必要がある。通常の内部浸透系でどうにかってのは、多分難しい。

なら、四肢を全てを斬り落としてでも潰す戦い方をしないと。じゃなきゃ、また負ける。



「てーか、我ながら情けない。ここに来て、負けまくりだもの」

『ヤスフミ・・・・・・あの、そんなことないよ。負けてなんてない。ヤスフミ、頑張ってると思う。
お願いだから、そんな事言わないで? 別に今の現状は、ヤスフミだけのせいじゃないよ』

「それでも負けてる。何も・・・・・・何にも出来てない。取り零して、壊して・・・・・・そればっかだ」

『・・・・・・そう、なのかな』










もう、これ以上は負けない。絶対に負けない。自分の意地ってのもあるけど、それだけじゃない。





これ以上負けたら、間違いなく大事な何かが壊れる。そんなの、絶対認められないから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フェイトさん、なぎ君どうでした?」

「・・・・・・表面上は平気にしてるけど、そうとうキテるみたい。さすがに状況が状況だから。
私、ホントダメだね。肝心な時に力になってあげられない。抱きしめて、『大丈夫』だとも言えない」

「・・・・・・フェイトさん」





でも・・・・・・どうなってるの? 話を聞く限りアイアンサイズはあまりにおかし過ぎる。

通常の生体兵器や機械兵器とは全く違う。だから『魔導師だから』で言い訳しないヤスフミでも苦戦し続けてる。

ヤスフミは『四肢を斬り落としてでも』って言うけど、正直それだけで何とかなるとは思えない。



例え殺すしか無いにしても・・・・・・きっと今のままじゃ決定打が叩き込めない。どっちにしてもジリ貧。

ヤスフミだってそこが分かってる。だから今、きっと困ってると思う。だったら・・・・・・よし。

正直私は、ヤスフミにはもう完全にこの件から手を引いて欲しい。他人に預けてしまっていいと思う。



それが傲慢だって言われたら、その通りだよ。でも、それの何が・・・・・・何が悪いの?

他の人が傷ついてもいいのかって言われたら、私は『そうだよ』って言うしか無いよ。うん、そうだよ。

その通りだけど、何か問題あるかな。私にだって、優先順位くらいはあるんだから。



私は大事で大好きな男の子に、大切なあの子に傷ついてなんて欲しくない。

重い物を背負って、苦しんで欲しくなんてない。そんなの嫌なの。

私はヤスフミに幸せになって欲しい。泣いてなんて欲しくない。そんなの、絶対に嫌だ。



だけど、それは言わない。ヤスフミがここで逃げる言い訳をどうしてもしたくないって思ってるなら、言わない。

きっとここで言い訳する方がヤスフミは傷つくから。そういうのが後悔するって、教えてもらったから。

とにかく、それだったら今の私に出来る事で精一杯ヤスフミを支援する。まだ・・・・・・まだ私達は動けないから。



だから、何が出来るか少し真剣に考えてみる。そして・・・・・・答えを出した。



答えを出したから、何も言わずにある人に通信をかける。そして数秒後、それは繋がった。





『あ、フェイト・・・・・・どうしたの? こんな夜遅くに』

「ユーノ、ごめん。いきなりだけど内密に調べ物をして欲しいんだ。
あ、クロノには話してくれて大丈夫だから」

『え?』

「調べて欲しいのは、無機物への侵食能力を持った生体兵器の詳細。
それも魔法や打撃による内部浸透系の攻撃が、全く通用しない種別のものについて」



ユーノにそう言うと、一発で何を言いたいか分かったらしい。隣のシャーリーと同じく、驚いた顔してる。

でも、それでも私は頷く。今はこんな事くらいしか出来ないから、こんな事をちゃんとやるの。



『・・・・・・カラバやヴェートルのクーデター関連の調べ物は、上層部から引き受けないようにと言われてるんだけど?』

「ならいいよ。私が明日にでもそっちに行って自分で調べるから」

『あぁもう、そんな怖い顔はなし。一応言ってみただけだから。・・・・・・恭文君、相当苦戦してるの?』

「うん」



隠しても仕方ないから、正直に吐く事にした。だからユーノも納得した顔になる。



「・・・・・・ヤスフミ、言い訳しないで飛び込める自分になりたくて、一生懸命頑張ってる」



どんなに私や母さんや周りの人達が『してもいい。それでもいい』と言っても、絶対曲げなかった。

だからこそ、あの場で立って戦っていられる。それは・・・・・・悔しいけど今の私には出来ない事。



「そんなヤスフミが、こんなワケの分からない事で負ける? 私はそんなの嫌だ。
だからお願い。どんな些細なことでもいいの。力を・・・・・・力を貸して」

『分かってるよ。僕も気にはなってたし、実はクロノからも『もしフェイトがこういう事を言い出したら、力になって欲しい』って頼まれてる』



・・・・・・私のお兄ちゃんは、あの子と同じで勘がいい時がある。というか、先読みが得意?

色々読まれてるのがちょっと嬉しいのと同時に悔しくて、私は頬を少しふくらませる。



『元々さ、今回の件への介入に備えてちょっとずつ調べてはいたんだ。だから、大丈夫。
今のフェイトの言葉で、最後の取っ掛かりは掴めた。・・・・・・すぐに答えを持ってくるから』

「うん。ユーノ、ありがと」

『いいよ。てゆうか、フェイトと同じく僕も恭文君の強さは知ってるんだよ? 僕もあの子に負けて欲しくないから』

「・・・・・・うん」










やっぱり側に居ないのは、居られないのは・・・・・・不安で寂しい。それはホントの気持ち。そして同時に怖くもある。

出来れば来年の新部隊では一緒に過ごしたいな。ちょっとだけ、そんな風に思ってしまった。

そうすれば今よりも出来る事はあるし、あそこならなのは達も居るからヤスフミにとってもいい場所になると思う。





でも、それも全部この件をクリアしてから。今の私に出来る事で、あの子の背中を押そう。





それでなんとかして、ヴェートルに行けるようにならないと。正直・・・・・・もうこれ以上停滞は嫌だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「帰りたく・・・・・・ないの?」

「・・・・・・うん」



この子は僕が何者なのかとか、そういう事をちゃんと知ってた。

というより・・・・・・GPOの人間だったらしい。ここはビックリした。



「でもでも、みんな心配してるのだ。どうしてなのだ?」

「僕・・・・・・逃げて、来たんだ」



ここに匿ってもらう以上、事情を話さないわけにはいかないと思い、話した。

そうだ、僕は・・・・・・僕は逃げたんだ。その事実が、心に重くのしかかる。



「逃げて? ね、君は何から逃げちゃったのかな」

「それは・・・・・・あの」



たった数文字言うだけでいい。なのに僕は躊躇ってしまった。

それでも気持ちを振り絞って、僕は目の前で座っている子に話した。



「姉さん、なんだ」

「お姉さんから? ね、どうしてなのかな。お姉さんの事、嫌いなのかな」

「よく分からない。よく・・・・・・ううん、もう分からないんだ」



身体に震えが走る。今の姉さんの目の中にある狂気を思い出して、恐怖が蘇る。

ううん、姉さんだけじゃない。他の人達にその狂気がどんどんと伝染していく。



「あぁ、泣かなくてもいいのだ」



言いながら、その子がそっと僕を抱きしめてくれる。

・・・・・・温めてくれようとしているみたいで、とても安心した。



「ごめんね、嫌な事聞いちゃったね。あのね、それなら話さなくていいよ?」

「え?」

「帰りたくないんだよね。でもでも、みんな君の事を探してて、見つかったら帰されちゃう。
だから・・・・・・ここに居てもいいよ。ここなら、簡単に見つかる心配は無いのだ」

「あの、でもそれは」





さすがにそれは悪い。だって僕がここに居ると、絶対にこの子に迷惑をかけちゃう。

でも、同時に嬉しくもあった。この子に親和力の影響は無いのは、もう確定だ。

つまり純粋に僕自身の事を心配した上で、こう言ってくれてる。それが伝わった。



その子は・・・・・・僕を見ながら、安心させるように笑ってくれた。それでまた嬉しさが増した。





「大丈夫。困ってる人を助けるのも、GPOのお仕事なのだ。君が困ってるなら、全力で助けるのだ」

「・・・・・・あの、ごめん。ホントに・・・・・・ごめん」

「謝るのも無しー。ホントに大丈夫なのだ」










EMPに雨はまだ降り続けている。でもそれも明日には止むらしい。





僕は目の前の子に迷惑をかけるのを承知で、逃げ続ける事を決めた。





目の前の現実をどうにかしたいと思いつつも・・・・・・僕はまた、逃げてしまったんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・公子の失踪から四日後。それはそれとして日常業務も頑張る必要がある。

だからこそ僕は、EMPの某所に居た。なお、中はどこぞの体育館張りの広さがある道場。

その僕の周りには数十人のお兄さんが呻きながら倒れている。





うん、僕がぶっ飛ばしたの。なお、全く加減無しで。で・・・・・・ここにも理由がある。










「・・・・・・ほらほら、どうしたのよ。まさかこの程度でおしまいなんてこたぁ」



言いながら、僕は振り返りつつアルトを右薙に叩き込む。

アルトの刃が捉えたのは、後ろから飛びかかってきたお兄さん。



「無いよねっ!!」



そのまま回転させながら、右側の壁に向かってぶっ飛ばした。

木の壁に叩きつけられて、お兄さんが動きを止める。



「あのさぁ、こっちは魔法も何も使ってないのよ? なのにこれってあり得ないでしょ」



で、僕はそのまま道場の奥側を見る。そこには漢字で『誠』の文字。そこには五人の人。



≪全く・・・・・・偉そうな事を言う割りには三流ですね。
あなた方、そんな事で私達にケンカを売ったんですか?≫





そのうちの二人はシルビィとリイン。二人は僕と一緒にここに来てくれた。

そしてもう二人はレイカさんとシンヤさん。あともう一人は、ここで初めて顔を合わせた人。

身長は190行くかどうかという高さで、ザフィーラさんレベルで身体がガッシリしてる。



腰まである黒髪を頭の後ろ・・・・・・頭頂部の近くまで結わえて、銀の鉢金を巻いている。

名前はキョウマ・アシナさん。維新組の隊長陣の一人で、総大将のレイカさんの補佐役らしい。

もうここまで言えば分かると思うけど、ここは維新組の屯所の中にある、訓練用の道場。





「さて、それじゃあもう一度聞こうか。・・・・・・誰が靴の裏にくっつきそうなくらいなミクロマンだってっ!?」

≪いや、そこじゃないでしょ。というより、誰もそこまで言ってないですから≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ふむ、アレが古き鉄か。我が維新組の隊士が束になっても敵わないとは」





あ、状況の説明が必要よね。まぁその・・・・・・維新組のレイカ・ミドウに正式に依頼されたのよ。

互いに切磋琢磨し合うために、稽古の相手をして欲しいって。なお、実際は全然違うわ。

古き鉄・・・・・・ヤスフミの実力を確かめるために、開始と同時に隊士が一斉に襲いかかった。



で、その結果がどうなったかと言うのは・・・・・・見ての通り。あ、一応事前の取り決めがあってね?

多少は暴れていいという事になってたの。だから維新組の隊士達は、最初はすごく楽しそうだったわね。

元々私達『異星人』が気に食わないし、古き鉄の噂を聞いて何が来るかと期待してたみたい。



もしも維新組で古き鉄を叩き潰せたら、それだけでもネームバリューが広がる。

そして倒したのが自分だったら・・・・・・と考えて、来たのがヤスフミだった。

だから当然のように全員憤慨。バカにしてるのかとさえ罵られたわ。まぁ、ここまでは大丈夫だった。



ただ、そのうちの一人がヤスフミを『チビ』呼ばわりした瞬間、袈裟に斬撃を喰らって沈んだ。

そこからはアレよアレよと言う間に集団戦よ。止める間もなく、一気に数十人を叩き潰した。

ワイヤーで動きを止めたり、手裏剣みたいなのを投擲して怯ませている間にアルトアイゼンで斬ったり。



一応峰打ちなんだけど、それでも一撃で沈んでいって、ヤスフミは息一つ切らせていない。





「あのアホ共・・・・・・アレ程油断するな言うてたやろ。魔導師の上にちんま」



瞬間、ヤスフミの視線がレイカに突き刺さった。なお、凄まじい目でこちらを見ている。

思わず全員が怯んで下がるくらいに視線がすごくて・・・・・・とっても怖い。



「しょ、少々小柄やからって、ナメてかかるからああなるんや」

「これはまた全員揃って鍛え直しですね。というより・・・・・・リインさんにシルビィさん。
僕達、蒼凪さんの身長についてあそこまで言いましたっけ。今のレイカさんのアレコレは抜きにして」

「・・・・・・気にしないでいいですよ? 恭文さん、身長の事に関しては過剰に反応しますから」

「なお、迂闊に触れない方がいいですよ? 私も初対面でそこに触れて、蹴り飛ばされましたから」



あの時は、今みたいに仲良くなってアバンチュールするとは思わなかったなぁ。・・・・・・なんだか不思議。



「・・・・・・ほらほら、もっと来てよ。僕をミジンコ呼ばわりしたんだしさ、まだその罪は贖えてないよ?」



ちょっと待ってっ!? 誰もそこまで言ってないからっ!!

あぁ、絶対にマズいっ! ヤスフミ、間違いなくこれが出稽古で実践訓練だって忘れてるわよねっ!?



「ミドウ総大将、如何いたしましょう。正直古き鉄はまだ本気を出しておりません。
身のこなしを見るに、格闘技だけでも至誠館の高弟レベルはあるかと」



あ、至誠館というのは、維新組隊長陣・・・・・・というか、維新組のメンバーの大半ね。

その人達が門下生を務めているこの世界の古武術の道場の一つなの。



「そうですねぇ。現時点で魔法らしきものを全く使っていませんし。
というかあの人、魔法無しでの集団戦に相当慣れてますよ?」



そこは見ていて私も気づいた。経歴も聞いてはいたけど、それでもビックリしてる。

今の局の魔導師の中で、あそこまで魔法無しでやれる人・・・・・・そんなに居ないと思うもの。



「あ、それ正解です。恭文さん、維新組のみなさんみたいな人達の所で、相当頑張って訓練してますから」

「あぁ、それですか。納得しました」



シンヤさんとキョウマさんは納得してくれたけど・・・・・・レイカはダメみたい。

もうイライラしてるのが丸分かりだもの。ヤスフミというよりは、倒された隊員達に対して。



「おい、GPO」

「・・・・・・何?」

「正直、このまま帰らせるわけにはいかんなぁ。えらいうちの隊士達をナメくさってくれとるし」

「ちょ、ちょっと待ってっ!? 普通にあなた達が仕掛けてきたんじゃないのよっ!!」



そうよそうよっ! ヤスフミに『チビ』なんて言うからダメなのよっ!?

ヤスフミ、普通に身長はコンプレックスなんだからっ!!



「ドやかましいっ! キョウマ、うちは『朱雀』の準備して」

「なりませぬ」



立ち上がりかけたレイカが、前のめりに軽くコケた。そして忌々しげにキョウマさんを見る。



「なんでやっ!!」

「総大将、お忘れですか? 朱雀は現在整備中です。夕方までは動かせませぬ」



あっさりと言い切ったキョウマさんに、レイカが歯ぎしりをしながら睨み・・・・・・なんだか、理不尽よね。



「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! そやったらシンヤ、『白虎』の準備しいやっ!!」

「あー、はいはい。・・・・・・って、僕がですかっ!?」

「何言うてんのやっ! さっきから古き鉄見ながら楽しげにしとったやろっ!?
『戦ってみたい戦ってみたい』って顔に書いとるでっ! えぇからはよせんかいっ!!」

「あぁもう、分かりましたよ。あー、シルビィさん、とりあえず蒼凪さんを止めてもらえますか?
あの調子だと、僕の準備が終わるまでにうちの隊士達を全員叩き潰しそうですし」

「あ、分かりました」



とりあえずシンヤさんが動く。未だに残る数人の隊士を手玉にとっているヤスフミの暴れっぷりを見つつも、外に出る。

・・・・・・さて、私はまずあの中に入らないとだめなのよね。うぅ、これは大変よ? 隊士もヒートアップしちゃってるし。



「あの・・・・・・というか、レイカさん」

「なんや、チビ妖精」

「うー、リインはチビじゃないですっ! 恭文さんへの愛でとってもビックなのですよっ!?」



リインちゃん、多分そういう事を言ってるんじゃないのよっ!? というか、妖精サイズなのは間違いないからっ!!



「とにかく・・・・・・朱雀とか白虎ってなんですか?」

「・・・・・・あぁ、お前さんは知らんかったんか。なら、見てのお楽しみやな」










こうして数分後。シンヤさんの準備が出来たので、暴れていたヤスフミをなんとか止めた。





あくまでも安全をしっかりと確保した上での模擬戦だけど・・・・・・マズい、今更だけど不安だわ。





ヤスフミってすっごいバトルマニアだって、ちょっと聞いてるのよ。あぁ、なんだか本当に不安なんだけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・これはマジかい」





カラバの某所で、ついついいつもの関西弁になってまうくらいに、うちは驚いていた。



あれから数日、ランディさんとザフィーラ共々必死に調査して・・・・・・ようやく真実に触れられた。



それもドでかい宝箱や。もうパンドラの箱言うてもえぇで。





「正直・・・・・・僕には信じられません」

「ですがランドルフ捜査官、これならば今までのアレコレに全て説明がつきます」



そうなんよなぁ。ヴェートルの不可解な独断やったり現状の疑問点の全てがスッキリや。

ただ問題が一つ。全て疑問点が解決すると同時に、とんでもない現実が出てくる。



「それはそうなんですが・・・・・・まずい」

「何か気になる事でも?」

「うちの長官と先輩が一人、問題の人物のすぐ側に居るんです。
僕がカラバに出発した時点で、相当入れ込んでいました」





あぁそういう事か。ランディさんが困惑顔で言うのも納得や。てゆうかその長官さん、相当有名や。

むっちゃ強い剣術の使い手でもあるし、何より・・・・・・うちも今回の一件で知った話や。

なんやEMPが今より荒れてた時に、現場に介入するために自ら降格してEMP分署の長官に納まったとか。



この辺り、諸事情込みなんやけどな。その話は何気に有名で武勇伝みたいになっとる。

リンディさんは『上の人間としてありえないし信じられない』言うて非難しとったけど、うちは見習うべきやと思う。

それくらいの覚悟を持って、ヴェートルとEMPの人達を守りたい思うたんや。そこは間違いない。



それを同じ警備組織のうちらが見習わんでどうすんのよ。そやから局はダメダメやっちゅうに。





「下手をすると・・・・・・ということでしょうか。主はやて、これは」

「うし、ランディさん。これらは事情説明用のディスクも付け加えた上でEMPに送っときましょ。
あとはうちの依頼主にもやな。一応でも報告しとかんと。まぁ・・・・・・大丈夫であることを祈ろうか」



何にしても、これらがないと対抗策が取れん。しかし・・・・・・こりゃマズいなぁ。

下手するとヴェートルの人間だけやない。管理局や次元世界そのものがうちらの敵になるで。



「そうですね。それじゃあ僕達はもう少しだけ調査を継続して」

「えぇ。でもすぐに向こうに行けるように準備だけは。
ザフィーラ、場合によっては無断で世界間の転送もしてくよ。えぇな」



基本、そういうんは報告なりが義務やったりする。でも、今回はそれは無しや。

こうなるとうちとしては依頼主のクロノ君にでさえ、連絡取るんもちょお躊躇われてまうもん。



「心得ました。あと、一応シグナム達にも説明はしておいた方がいいかと」



あぁ、そうやな。うちらがこっち来る前からどんだけ影響が強うなってるかを考えると、非常に怖いとこやけど・・・・・・それでもや。

説得はめんどいやろうけど、ここで敵に回るよりはずっとえぇやろ。このままやと間違いなくうちやのうて向こうさんを『信仰』する。



「ならそっちも頑張ろうか。きっと骨が折れるよ?」

「でしょうね。ランディ捜査官、月のメルビナ長官やランサイワ捜査官には」

「・・・・・・正直、ここで報告は躊躇います。アレよりひどくなってるとすると・・・・・・どうしても」

「敵方にバレる危険もあると」

「そういう事ですね。とにかく、ここはまた考えることにしますよ」










さて、なんにしてもこれは・・・・・・アレよ、世界の危機やな。どないしたもんかなぁ。

それで実は・・・・・・カリムが今年作成した予言詩の一つに『親和』というキーワードが入ったもんがあった。

正直な、ランディさんから『親和力』というワードを聞いた時、マジでビビったんよ。





うちも『アレ』の影響で、一応毎年作る予言詩をちょこちょこ見させてはもらっといたから、すぐに分かった。

恭文、アンタはきっと言うても引かんやろうけど・・・・・・覚悟は決めておいた方がえぇで?

うちもアンタもフェイトちゃん達も、いわゆる世界の危機に真っ向から立ち向かうはめになってもうたからな。





クリア出来んかったら、夢の舞台そのものがおジャンかぁ。そないなこと・・・・・・やらせるわけないやろ。





絶対に止めたる。こんなくだらない押し付けがましい『親和』なんて、うちはよういらんのやから。




















(Report07へ続く)




















あとがき



フェイト「というわけで、本日のサブタイトルは『消えた王子』です。うん、そのままだよね。
というか、ネタバレだよね。・・・・・・あ、本日のあとがきのお相手はフェイト・T・ハラオウンと」

恭文「あ、蒼凪恭文です。あの、フェイト・・・・・・どうしたの? ほら、なんか殺気立ってるけど」

フェイト「・・・・・・ヤスフミ」

恭文「何、かな」

フェイト「今回のクロスのお話は、一体何っ!?」





(閃光の女神、ドンと机を叩く。というか、それで蒼い古き鉄が怯える)





フェイト「私、この時すっごくすっごく心配してたんだよっ!? なのにこれはなんなのかなっ!!
デートを何回もしたり、オールで御飯食べたり、そ、そのうえ・・・・・・キスしちゃってっ!!」

恭文「待ってっ!? まずあれに関しては僕は覚えてないんだからっ! それでどうしろって言うのさっ!!」

フェイト「そんなの言い訳にならないよっ!!」

恭文「なるからねっ!? てゆうか、この話の時はフェイトはスルーしまくりじゃないのさっ!!
それでなんで言われなくちゃいけないわけっ!? 色々言ってる事おかしいんじゃないかなっ!!」

フェイト「そ、そんな事ないよっ!!」

恭文「あるからっ!!」





(そこまで言うと、閃光の女神・・・・・・涙目になり始めた)





フェイト「・・・・・・ぐす」

恭文「お願いだから泣くのやめてっ!? 僕が悪いみたいになっちゃってるからっ!!」

フェイト「私だって分かってるよ、そんな事っ! でもでも・・・・・・悔しいんだからしょうがないよねっ!?」

恭文「いや、ちょっと無茶苦茶だからっ!!」

フェイト「無茶苦茶じゃないよっ!! ・・・・・・悔しいの。シルビィさんや他の人達みたいに出来なかった。
もっと早く自分の気持ちだったり、そういうのに気づいてたら・・・・・・余所見しないでくれたのかなって考えたら、悔しいの」





(閃光の女神、ヤキモチモードで蒼い古き鉄の両手を執る。それでしっかりと握り締める)





フェイト「というか、現段階でも勝てる感じがしなくて・・・・・・ヤスフミ、私頑張るよ。
もっと頑張って、ヤスフミの彼女としてずっと居られるようになる。だから・・・・・・見捨てないで欲しい」

恭文「あぁ、だから泣かなくていいからー!! ・・・・・・あと、フェイトの事、絶対に見捨てたりしないから。
ケンカも多いし、一杯話さないとだめだけど、それでも・・・・・・僕はそんなフェイトだから好きになんだよ?」

フェイト「ホントに?」

恭文「うん。シルビィとはまた違う魅力が、フェイトにはあるの。で、僕はそっちの方を選んだ。
だから、大丈夫だよ。というか・・・・・・僕がフェイトの側に居たいし、フェイトに側に居て欲しいの」





(・・・・・・また始まったと、その様子を見ていた誰もが思った)





恭文「あの、不安にさせちゃってごめん。でも、大丈夫だよ?
僕はフェイトの騎士で・・・・・・フェイトの彼氏だから。フェイト、大好きだよ」

フェイト「うん、私も・・・・・・好きだよ。というかごめん、私その・・・・・・バカだった」

恭文「大丈夫。フェイトがバカだってもう知ってるもの」

フェイト「・・・・・・ヤスフミ」





(閃光の女神、嬉しそうに微笑む。だけど数瞬後、気づいてしまった)





フェイト「ちょっと待ってっ!? 何さり気なく私の事バカって言ってるのかなっ!!」

恭文「だって、フェイトをそうやっていじめたくなったから」

フェイト「またそういう事言うっ! 私はいじめられるよりいじめる方が好きだって、何度も言ってるよねっ!?」

恭文「嘘だよ。フェイト、中の人がドMだからいじめられる方が好きだよね?」

フェイト「そんな事ないからー! そ、そういうヤスフミだってそっちが好きなんじゃないのっ!?
だって私にいじめられてる時のヤスフミ、反応がいつもより可愛いものっ!!」

恭文「そんな事ないからっ! 僕はドSなんだよっ!?」

フェイト「・・・・・・嘘だよ。ヤスフミは意地っ張りなだけで、Mだと思うな。うん、間違いないよ。
だって私にいじめられるの、好きだよね。だから私、ヤスフミが喜んでくれるようにSになるんだよ?」

恭文「いや、逆だから。フェイトがいじめられるのが好きで、僕はフェイトが喜んでくれるといいなと思ってSなんだよ?」

フェイト「ヤスフミだよっ!!」

恭文「フェイトだってっ!!」





(そして、またまたまたまた頬を膨らませつつにらみ合い・・・・・・頷き合った)





フェイト「それなら、ちゃんと白黒つけちゃお? どっちがMなのか、ここでしっかり決めるの」

恭文「いいよ。でもフェイト、負けたら覚悟しておくんだね。ずーっとMとして扱ってあげるから」

フェイト「それはヤスフミの方じゃないかな。わ、私だって色々学習してるんだし・・・・・・負けないから」

はやて(またまたたまたま通りがかった)「・・・・・・アンタら、またなんちゅうとんでもない会話しとるんっ!?
どっちがエッチかどうこうだけやのうて、まだこんなくだらないことしてたんかいっ! えぇ加減やめんかっ!!」

フェイト「でもはやて、ヤスフミが私の事誤解してるし」

恭文「僕はフェイトが自分の性癖に気づいてないから、ちゃんと気づかせたいだけで」

はやて「アホかっ! 普通に最初はこんな話やなかったやろっ!? どこでどうしたらそうなるんよっ!!
てゆうか、マジでアンタ達はバカップルやなっ! もう酷過ぎてどっからツッコんでえぇか分からんしっ!!」

恭文・フェイト「「バカップルじゃないよっ! 読者のみんなだってそう思ってくれてるよっ!?」」

はやて「んなワケあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁもう、なんで自覚無いんやこいつらはっ!!」










(狸部隊長が頭を抱えるけど、もうこれは仕方がない。諦めるしかないのかなとちょっと思ったりした。
本日のED:水樹奈々『天空のカナリア』)










シルビィ「・・・・・・ちょっと待ってっ!? 今回の話について全く話してないじゃないのよっ!!」

恭文「だってー、フェイトが悪いんだよ? 前回前々回と僕に負けてるのに」

シルビィ「そして本気で勝負してるのっ!? ・・・・・・ヤスフミ、バカップルって知ってるかしら」

恭文「うん。辺り構わずイチャつく奴らでしょ? ホント傍迷惑だよね」

シルビィ「どうしてそれが分かっていながらそうなるのかしらっ! 私は本当に疑問よっ!!
・・・・・・とにかく、維新組のシンヤさんと組み手よ。全く、派手に暴れるから」

恭文「だってー、連中が僕を指してお米に文字を書くために使う筆の先くらいにちっちゃいって」

シルビィ「そこまで言ってないから。本当に誰もそんな事言ってないのよ?」

恭文「気のせいじゃないかな」

シルビィ「それはこっちのセリフなんだけどっ!!」

恭文「僕のセリフで合ってるよっ!!」

シルビィ「合ってないわよっ! うぅ、私はヤスフミの全部を愛する覚悟はあるわよっ!?
覚悟はあるけど、この勘違いだけはダメっ! どうすればいいのっ!!」










(おしまい)





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