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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report05 『First moon of landing a certain magic guru』



・・・・・・真面目に今回は思いっ切り後手に回りまくりだよなぁ、僕達。

連中がカラバ・・・・・・いや、違うか。どこの所属でなんの目的かもさっぱり分かってない。

そこの辺りが分かるだけでも、大分違うと言うのに。うぅ、やっぱ負け続きだなぁ。





でも、そのためにはどうすればいい? 一番いいのは、連中を捕縛する事。でも、それ以外は?

それ以外は・・・・・・連中の足取りや動き方を追う事。これはEMPDや中央本部もやってる。

もちろんGPOもだよ。バカやったりしつつも、ここはしっかり。だけど、それも今のところ掴めていない。





色んな意味で中央本部が無能っぷりを晒した事や、現状がコレな事で局に大しての批判はかなり増えてる。

というか、ミッドのレジアス中将が公式的にヴェートル中央本部へ批判コメントしたとかで、また相当な大荒れ模様。

GPOやEMPDとかはそれほどじゃないんだよね。むしろそんな中で頑張っている人達として注目されている。





あとは・・・・・・公女だね。そんな現状で追い詰められている悲劇のヒロインとして、人気が広まりまくってる。

まるでどっかのアイドルレベルだって。正直恐ろしいやらなんやら・・・・・・でも、うーんおかしいなぁ。

シルビィや他のみんなもすごいファンだし、八神家やフェイト、リンディさんでさえ公女を絶賛しまくっている。





確かに可愛いのは認めるし、状況的に悲劇のヒロインなのは確かだけど、あの人ってそこまでなの?





一緒にお昼を食べているアンジェラ共々、そこの辺りに色んな疑問があったりする(生体兵器騒ぎの三日後の日記より抜粋)。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・EMPでの一件は聞いている。ヴェートル中央本部、相当叩かれているな」

「そうだね。ほとんど役立たず状態だったから、仕方ないとは思う。
・・・・・・あのクロノ、やっぱりヤスフミをこっちに戻そうよ。あの映像の集束砲、ヤスフミとリインだし」



艦長室にいきなり乗り込んできたのは、フェイト。原因は今日の昼間の騒動だ。

EMPの区画の一つに突如現れた生体兵器。そしてそれをEMPDとGPO・・・・・・恭文達が主導で排除したらしい。



「また重い物・・・・・・背負った。ヤスフミ、メールや通信にも出ないの。
何度かけても全然ダメなんだ。きっとすごく落ち込んでる」



とりあえず、お茶を飲ませて落ち着かせている。もう涙目もいいところだったからな。

艦長室の来客用のソファーに座っている我が妹は、不安で顔を青くしている。



「フェイト、心配なのは分かるが・・・・・・落ち着け。
呼び戻したり現場で何もしないことを選択したりするのは無理だと、君だって分かってるだろ?」



ヤスフミは正式な嘱託の仕事としてあそこに居る。何より、ここで引く奴ではあるまい。

経験から言わせてもらうと、絶対に引かないな。これでアイツは、あそこで通すべき意地が出来た。



「・・・・・・うん。ごめん、クロノ。ただ、やっぱり心配なの。ヤスフミ、本当に言い訳しない子だから」

「確かにな」



まずいな。普通にヒロリスさん達との修行の事などを話してしまいたいが、それをやると恭文に怒られる。

あと、ヒロリスさん達にもだな。・・・・・・ただ、ヤスフミが強くなっている事は、知っておいて欲しいものだ。



「分かってるから・・・・・・分かってるけど、だったらどうすればいいのかなって、たくさん考えてるんだ。
私達を信じて預けて欲しいなんて考えてもきっと無意味で、そんな言葉に今は説得力なんて出せなくて」

「・・・・・・残念ながらその通りだ。僕達は現時点で全く何も出来ていない。
なにより中央本部の対応の問題もある。僕達を信じろとは、やっぱり言えない」

「そう、なんだよね。クロノ・・・・・・私、悔しいよ。
こんな事のために・・・・・・こんな事するために、執務官になったんじゃないのに」

「奇遇だな。僕も同じくだ」










せめて僕達からも何か一歩踏み出せれば、対等に色々と出来たかも知れない。でも、それすら出来ない。

だからフェイトだって、今悔しそうに歯噛みしながら俯いて涙を流すんだ。

というより・・・・・・恭文、僕の方まで心配になってきたぞ。お前、本当に大丈夫なのか?





よし、僕からも連絡を取ってみよう。フェイトの通信にも出ないとなると、かなりダメージがあるのかも知れない。

フェイトが呼び戻す話をしたのも、ここまで取り乱したのも、そこの辺りを考えた上でだろう。

そうでなければ言うわけがない。それになにより、フェイトにとって恭文はなのはやはやて達とはまた違う。





自己主張が少なく、人のために無理をしがちなこの子にとって、恭文の存在はとても大きい。

素の自分のままワガママな部分や嫌な部分をそのまま見せられる相手、それが恭文だ。

少なくとも僕は数年見続けていてそう思っている。この子自身は気づいていないが、その傾向は相当に強い。





フェイトは恭文の前では僕達以上にワガママになるし、普段は見せない嫌な部分も見せる。

その一端がクリステラ女史の一件だったり、入局への誘いやアレコレだったりもする。

フェイトは恭文以外の相手には、そんな事は一切しない。基本的に仕事モードでも温和なんだ。





・・・・・・自分で温和で優しいキャラクターを作り上げて、それを通そうとしているように見えない事もない。

一種のアイドル像とでも言えばいいだろうか。人受けの良いキャラクターを装って、そうして人間関係を対処している。

その理由は実に簡単。そうしなければ誰かに嫌われ、否定されると恐れているのかも知れない。





まぁ母さんやアルフには言えないが、僕は何気にそういう部分が気になっていたんだ。

だが、そんな時に恭文と関わった。恭文の前ではそうはならない。

恭文の前ではフェイトは、そういうキャラクターを簡単に外して素の自分のあれこれを見せられる。





なにより恭文とはそれまで人とケンカなど全くしていないフェイトが相当やり合ってる。

なのはとだって最初の時は色々あったが、それ以後はそういうのは全くないんだ。

そこから見れば、恭文の前に居る時のフェイトがどれほど稀有な状態か、理解してもらえると思う。





恭文相手だと、理由はともあれ定期的に衝突するからな。まぁ、その後思いっ切り仲直りするんだが。

だからフェイトにとっては余計にというのがあるんだろうな。この子自身はそういう部分がある事に気づいていない。

恭文が自分にとって嫌われたり疎まれる事を恐れずに、真っ直ぐにぶつかって行ける相手だという事にだ。





気づいてはいないから、『家族』などと言う言葉を持ち出してはいるがな。

僕にもそれが恋愛感情かどうかは分からないが、特別な存在であることは確かだから、余計に心配なんだ。

恭文・・・・・・まぁお前は戦闘者として完成度が高いし、大丈夫だとは思う。





それでも僕も兄貴分でな、色々と心配なんだ。・・・・・・本当に深手を負っていなければいいんだが。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それでダンケルク、あのチートチビだけど」



姉ちゃん、チートって・・・・・・いや、確かに狙撃弾丸を察知して斬り払うなんざ、チート以外の何ものでもないけどよ。



「あぁ、なんか分かったのか?」

「ほら、前回の定期報告であのチビの事も伝えただろ?
そうしたらマクシム様がありがたいことに調べてくださった」



お、なんか悪いな。俺と姉ちゃんは普通にボーゲルの数を揃えるので必死だったし、助かっちまった。



「あのチビの名前は蒼凪恭文。管理局の嘱託魔導師だよ」

「なんだ、普通じゃねぇか。てーか、局員でも何でもねぇんだよな」



まぁそうか。局員だったら、GPOの連中とつるむハズがねぇよな。



「まだ話は続くよ。アンタ、古き鉄って知ってるかい?」

「古き鉄? ・・・・・・あぁ。なんかここ数年ですっげー暴れてる、凶悪魔導師だっけか」



確か昔局に居た、めちゃくちゃ有名で強い魔導師の弟子だっけか?

それが魔導師とは思えないほどの武闘派で、そいつも同じだとか。



「それで腕が立って、並み居るオーバーSも相手にならな・・・・・・姉ちゃん、まさか」



魔導師と思えないほどの武闘派で腕が立つ・・・・・・あぁ、そうだよ。あのチビそのものじゃねぇか。



「そうだよ。あのチビがそれだ」

「それがどういうわけか、この一件に首突っ込んでるって言うのかよ」

「そうだよ。そしてこんな噂も知ってるだろ? 古き鉄とその身内に手を出した人間は・・・・・・必ず破滅すると」

「・・・・・・あぁ」





・・・・・・俺が知ってるだけでも、相当な話だぞ。姉ちゃんの言った噂も真実らしい。

確か1年くらい前に、そいつが不正を行っていた管理局高官を数人摘発したとか。

その高官が古き鉄の身内に手を出した報復だとかなんとかって言ってたが、真偽の程は分かってない。



だがその一件のせいで、アングラで『古き鉄』は名前が売れてる。

今の犯罪者の恐怖の対象とも言える魔導師の一人、それが古き鉄だ。

あー、それとこういう噂が立つのには、相当な原因があるんだよ。



あのチビ、それまでにオーバーSの犯罪者を合計で数十人ぶちのめして監獄送りにしているらしい。

それも徹底的な『破壊』だ。数人精神的に再起不能にもしてるとか。

そういう前歴があるのも、そう思われる要因だって言うのは付け加えておく。





「マクシム様から気を付けるようにと相当言われたよ。ここは実力だけの話じゃない。
本局の提督一家や聖王教会・・・・・・関係者の後ろ盾も相当強固らしいしね」



噂ではまるでどっかの化け物扱いだったが、まさかそれがあんな小せぇガキだったとは。

アレだ、噂ってのはアテになんねぇよな。俺は今更だが痛感したぜ。



「まぁ問題ねぇだろ。古き鉄だろうがなんだろうが結局は魔導師だ」



そして、アテになんねぇのはもう一つ。アイツが相当なのは分かったが、それでも俺達の敵じゃねぇ。

アイツの攻撃は恐らく、俺達の身体の事を知った上でのものだ。だからアレだけの事が出来た。つまり・・・・・・そういう事だ。



「あぁ、そうだね。『魔導師』には私らは倒せない。いや、他の連中も同じくだね」



そうだ、そのために俺達はこの身体を手に入れた。人ってやつを捨てたんだ。

それだけの俺らの覚悟、誰にも砕けるはずがねぇよ。



「つーか、今度会ったらぶっ潰してやるよ。なぁ姉ちゃん」

「もちろんさ。全ては・・・・・・マクシム様のために」

「マクシム様のために」




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report05 『First moon of landing a certain magic guru』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あぁ、このカクテル美味しいわね」

「そうだね。何気にこのつぶつぶゼリーがいいよね。綺麗で口当たりもいいし」



これ、タピオカの類かな。普通のゼリーとはまた感触が違うし・・・・・・あ、でも面白い。



「あと、色合いも綺麗よね。黄色のドリンクに青の雫なんて」



なんて言いながらもシルビィ、すっごい真っ赤。てーか、普通に飲み過ぎだし。



「ほら、ヤスフミももっと飲んで? 嫌な事があった時は、思いっ切り酔っ払って憂さを晴らすの」

「あの、僕は酔わないって前に言わなかった? これを100杯飲もうと、僕は顔も赤くならないよ」



アルコールは水同然だもの。酔う要因、あるわけがない。

だから、手持ちのカクテルを飲み干す。飲み干して前を見ると、シルビィがジッとこっちを見てた。



「そう言えばそうだったわね。でも・・・・・・それって、ちょっと可哀想」

「なんで?」

「ほら、お酒って百薬の長とか、心の薬なんて言うでしょ?」



・・・・・・あぁ、言うね。傷の消毒にも使えるし、その他にも色々の効能があるから。



「そう言われる理由の一つって、酔えるからだと私は思うの。
酔って、少しだけ気持ちを楽にさせてくれる。でも、ヤスフミにはその効果がない」

「だから、可哀想?」

「うん。・・・・・・というかごめんね、私だけこれで」

「いいよ、別に。ほら、酔っ払って色っぽくなってるシルビィの事、ジックリ鑑賞出来るし」



などと、軽く冗談めいた口調で言う。現在のシルビィの格好は、白のYシャツに紺のスカートと意外とラフ。

そして、白い肌がほんのり染まっている。普通に綺麗だし。というか、ボタン開け過ぎだから。胸元見えてるから。



「もう、エッチなんだから。てゆうか、そういう事でストレスを晴らすの?
ヤスフミって、そういうこと出来る子だったんだ」

「いいや。僕は本命は居るけど、普通にフリーだもの。憂さを晴らす相手をしてくれる人も居ないし。
・・・・・・そういう時は、フラっと一人で出かけるんだ。というか、旅に出る。行くアテもなくさ」

「うん」

「そこで知らない風景とか、知らない人達とちょこっと関わったりして・・・・・・それで、少し元気が出る。
そういうの、ワクワクするんだ。そういうワクワクで、また頑張ろうって元気が出るの」



シルビィはお酒を飲む手を止めて、僕の目を見ながら微笑んでる。

嬉しそうというか、楽しそうというか・・・・・・そんな感じ。



「ね、だから嘱託? 一つの部隊に留まらないで、色んな所で色んなものに出会えるから」

「・・・・・・なんで分かるの?」

「んー、なんとなくね。というか、これでも元局員よ? そしてヤスフミよりお姉さんだもの」



言いながら、また左目でウィンク。なので、僕は苦笑いしか返せない。

シルビィはまた不満そうだけど、許して欲しい。普通に僕、ビックリしてるもの。



「でも、そういうの好きなんだ。だったら・・・・・・またヴェートルを案内したいな。
まだね、ヤスフミの知らない事が沢山あるんだから。それも一杯」

「ホントに?」

「うん。ここからミッドに帰っちゃう前に、沢山沢山案内するわね。
それで・・・・・・ヤスフミにもこの世界を、好きになってもらえたら嬉しい」



好きになって・・・・・・かぁ。今のシルビィの言葉とは意味合いが違うけど、よく聞く言葉。

なのはだったりフェイトだったり、リンディさんだったりアルフさんだったり。



「・・・・・・どうしたの?」

「え?」

「今、ちょっとぼーっとしてた。・・・・・・何か考え事、してたでしょ」



首を横に振ろうとしたけど、ダメだった。普通にシルビィは、逃がしてくれなかった。

だから・・・・・・話した。局に強く誘われている事や、それに対して僕がどう思っているかとか。



「そっか。フェイト執務官は、局に入って欲しいんだ」

「かなりね」



ご飯も食べつつ、僕はシルビィとお話を続ける。てゆうか・・・・・・ここのご飯美味しいな。

単なるおつまみメニューかと思ったけど、これだけで充分におかずになるものばかりだし。



「局・・・・・・自分の仕事場を、好きになって欲しいみたい。そして、信じて欲しいって言われる。
他はともかく、自分や僕の知っている人達は絶対裏切らない。だから・・・・・・って」

「でも、それは無理よね。正直に言わせてもらえば、現状で局は何も出来ていないもの」



シルビィ、中々に手厳しいね。てゆうか、カクテル飲みながらそういう話してると、オールドミスに見えるよ。



「そして今回みたいな事は、別に特別じゃない。局ってさ、意外とダメな所も多いもの。
海と陸が仲が悪かったり、魔法に頼り過ぎちゃって私みたいなマイノリティは肩身が狭かったり」

「うん。で、そこを他の人にツツかれると、みんなは必死に改善しようとするのよ。で、出来ちゃうの。
完全には無理でも、そのキッカケくらいは作れるだけの力はあってさ」





鉄板餃子を箸でつまみつつ・・・・・・シルビィも何気に箸使いが上手い。

この辺り、ミッドで日本文化が浸透しているせいだね。

で、それに感心しながらも思い出す。僕の周り、色々な意味でチートだと。



普通に権力や立場も有って、何とか出来て・・・・・・色々おかしいよね。





「だから」

「余計に性質が悪い。だから、何度断っても言ってくる。
組織や居場所を変える事は可能で、ヤスフミにもそうして欲しいと思ってる」

「・・・・・・うん。でも、僕は一処に留まるのって好きじゃなくてさ。組織改革も興味ない。
僕は僕のために戦いたいもの。だからシルビィが言うような理由で、嘱託してるくらいだし」



というか、さっきはビックリした。僕が嘱託してる理由、一発で見抜かれたのはシルビィが初めてだもの。

大抵は『どうして局員にならないの?』から入るのに。お姉さんキャラって、やっぱ凄いのかも。



「ね、そうしてどんな風になりたいの? 多分みんながそう言うのは、ヤスフミのそういう部分が分からないせいかも知れないわよ?」

「なぜそこまで・・・・・・あ、もしかして」

「うん。実は私も経験者なの。あとはアンジェラのこととかでね。その辺り、どうかな」

「・・・・・・そうだなぁ」



酔わない体質だけど、もしかしたら・・・・・・この日は少しだけ効いていたのかも知れない。

お酒という薬の効果を、僕はほんの少しだけ受けていたんだと思う。



「魔法使い、かな」

「魔法使い? え、それならもうなってるわよね」

「ううん、違うの。例えばさ、アニメとか特撮のヒーローみたいに守りたいと思ったものをちゃんと守れる正義のヒーローって言うの?」



シルビィは真剣に僕を見ながら聞いてくれる。そこに嘲りとか、そういう色は感じられない。

それで僕は安心出来る。だって、やっぱり・・・・・・怖かったから。



「本当に小さい・・・・・・魔導師になる前からそういうのが好きで、ずっとそんな風になれたらいいなって。
それが出来る『魔法』が使える、すごく強い魔法使いになれたらいいなって、思ってたんだ」

「それは今までの流れからすると、話してないのよね」

「そうだね」



カクテルを、また一口飲む。少しだけ・・・・・・もう少しだけ、お酒の力にすがるようにしながら。



「やっぱり今日みたいなことがあると・・・・・・言えなくなるんだ。そんなの、無理だって思うの。
僕は弱くて、ヒーローみたいにはなれなくて、全部なんて守れない。間違えて、取り零してばっか」

「そう。・・・・・・それで話を戻すけど、私はフェイト執務官達の気持ち、少しは分かるんだ。
もしもヤスフミにヴェートルが嫌いだって言われたら、ちょっとショックだもの」

「そういう、もの?」



僕は、あんまりそういうのはない。自分が好きだから他人にも好きになって欲しいとかは・・・・・・んー、ないな。

メタメタに言われたらそりゃあムカつくけど、基本は人の考えだもの。あんま気にしない事にしてる。



「そういうものじゃないかな。多分ね、みんなはヤスフミと繋がりたいのよ。
同じものを見るって、共感・・・・・・繋がるという意味にも取れるから」



確かにそういうフレーズはよく言われる。何かあっても、組織の一員だったら共有出来ると。

一緒に背負えるし、今よりずっと力になれるから大丈夫だと。



「局と言う場所で色んなものを共有して、一緒に居たいの。そして、自分達ならそれが出来ると思ってる。
特にハラオウン家は提督家系で、フェイト執務官も優秀。高町教導官もエース・オブ・エースでしょ?」



シルビィはしつこいようだけど元局員。だから、局の内情とかそういうのに詳しい。

だからこそ僕の周りが凄まじくハイスペックなのも、身を持って理解している。



「言い方は悪いけど下手に力がある分、理想・・・・・・綺麗事を通す事が出来る。
なんだか羨ましいなぁ。世の中にはそういう理想、普通には通す力がない人間も居るのにね」



シルビィは、多分自分の事を言っている。少しだけ表情が苦いものになっていたから。

・・・・・・シルビィ、レアスキルはあるけど魔法資質がないらしいから。そういう部分で言っていると思う。



「・・・・・・なるほど」

「ただ、私はそういうのはあんまり好きじゃない」



それでもシルビィは、少し口調を強めにして言い切った。それに思わず、息を飲む。



「だから本当に少しだけしか、フェイト執務官達の気持ちが分からない。ハッキリ言えば、理解出来ないの。
ヤスフミが局員になる必要があるとは思えない。だって、せっかく素敵な夢があるんだもの。今のままでもいいんじゃないかな」

「・・・・・・どうして? だって、叶わない・・・・・・無茶苦茶な夢なのに」

「そんなことない。実は私だって同じような夢・・・・・・持ってるのよ?」



少し恥ずかしげにシルビィが笑う。それに、少し胸が高鳴った。



「正義の味方って言うのかな。パパとママが警察機構の人間だから、そういうのあるんだ。
悪い奴をやっつけて、泣いている人達を助けるんだーって。だから、ランサーをやってる」



それがシルビィの夢。子どもっぽいかも知れないけど、きっと・・・・・・大事な夢。



「それが私の夢の一つ。大人になって、今日みたいに現実に向かい合うと色々あるけど、それでも変わってない。
私の、私だけの夢の形。私のなりたいと思う私が・・・・・・この夢の中にあるから。だから、今でも私はその夢を追いかけてる」



シルビィは僕の顔を見ながら、ずっと笑ってる。本当に嬉しそうに、ずっと。



「だから余計に思うの。私とヤスフミは立場も場所も、信じてるものもきっと違う。
だけど今は繋がってるし、こうやってお酒も飲んでる」



右手で、手に持ったカクテルのグラスを持ち上げて、アピールする。



「きっとね、家族で友達だから心配しているのも分かる。私もパパとママとかに、相当心配かけちゃってるから」



そこの辺りは、局だったりGPOの移籍だったりで色々あったらしい。ただ、深くは聞かなかった。



「それでも、何の意味もなくただ一緒に居るために同じ場所に行く必要はない。むしろ逆よ。
違っていても繋がれるから、違っていても手を取り合えるから、繋がりは尊いんじゃないかな」

「・・・・・・そうだね。きっと、そうだよね。だって、違うのなんて当たり前なんだから」

「そうよ。だから、ヤスフミが嫌なら入らなくていいわよ。
ヤスフミの居たいと思う場所は、ヤスフミが決めていいのよ?」



言いながらシルビィは、右手を伸ばす。自分の利き腕である右手を。

伸ばして・・・・・・そっと僕の頭を撫でる。



「誰かのためにとか、考えなくていい。私は応援するよ?
ヤスフミの夢、大切にして欲しいって思う。だから・・・・・・ね?」

「・・・・・・あの、ありがと」

「ううん。さ、もうちょっとペース上げようか。今日は朝まで飲むわよー」

「え、なんかすっごいやる気っ!? てゆうかちょっと待ってっ! 明日も仕事だからっ!!」










当然のように、シルビィにこんな理屈が通用するはずがなかった。僕は結局、オールで付き合わされた。





まぁ、色々気晴らしが出来て楽しかったけどさ。シルビィ・・・・・・あの、マジでありがと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・時刻は午前3時。さすがにヤスフミは少しお休み。

横になって、小さな男の子はGジャンを布団に仮眠中。なお、私は寝顔をおつまみにもう一杯。

いいの。ヤスフミが酔えない分、私が酔うんだから。そうよ、酔っ払うんだから。





補佐官も、明日・・・・・・もとい、今日の仕事は気にしなくていいって、言ってたもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・唐突にまたも嫌な予感が身体を走って、布団の中で目が覚めてしまった。まずい、すごく不安だ。

シルビィの奴、まさか蒼凪と一緒にオールで飲むなんて事、してないだろうな。

確かに俺は仕事のことは気にするなと言ったが、そこまでは・・・・・・いや、大丈夫か。





シルビィも大人だ。そこの辺りは、しっかりと分別をつけているはずだ。





つけていると・・・・・・いいよな。一応覚悟だけはしておいた方がいいか?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私はお酒を飲んで酔うと、少し気持ちが楽になる。普段より笑ったり泣いたり出来る。

吐き出せないものが吐き出せたりする。だから・・・・・・うん、だからだな。

つい『可哀想』って言っちゃった。そこは反省。ヤスフミ、同情されたいわけじゃないのに。





それでも個室で二人っきりだから、色々話は出来たかな。リインちゃんもぐっすりだし。

・・・・・・あぁ、なんか今日はお酒が止まらないなぁ。どんどん飲んじゃう。

さすがに今回のコレは重かったしなぁ。うぅ、ジュン達にも改めてフォローしなくちゃ。





それで昔の話とか色々させてもらった。リインちゃんと出会った頃の事とか。

フェイト執務官達がヤスフミの事心配しているの、そういうのもきっとあるんだろうな。

でも・・・・・・私は、私だったら・・・・・・私は無言で席を立った。





席を立って、座椅子に寝転がっているあの子を見下ろす。そして、ほっぺたをプニプニ。










「・・・・・・無用心。あの時、狙撃弾丸を華麗に回避した君と同一人物だとは、到底思えないぞー?」



この子、柔らかいな。頭を無でたりした時にも思ったけど・・・・・・すごく柔らかくて小さい。

それなのになんでだろ。なんであんなに強いところがあるのかな。それがちょっと不思議で、私は微笑む。



「こらー、聞いてるのかー?」



目の前の子は、寝返りを打って仰向けに体勢を変えた。そして、気持ち良さそうに寝息を立てる。



「もう、いくらなんでもグッスり過ぎ。私みたいな美人と一緒に居てそれなんて、ちょっと傷つくんだけどー?」

「・・・・・・・・・・・・んにゅ、ふぇいと」



ちょっとだけからかうつもりで声をかけてた。この調子で目が覚めてもいいくらいに軽く。

でも、その寝言で私の思考は完全に切り替わった。というか、カチンと来た。



「好き・・・・・・ふぇいと」





『好き』だけ、やたら明確だった。間違いない。ヤスフミ、フェイト執務官の夢見てる。

まぁ、昨日は色々あった。だから好きな人に、夢の中で甘えてる。それは分かる。

両腕を動かして、自分を抱きしめるようにしてる。多分、夢の中で抱きしめてる。



夢の中のフェイト執務官に抱きついて、沢山甘えてるんだ。





「そっか」



・・・・・・ムカついた。すごくムカついた。目の前に居るのは私なのに、余所見してる。

もちろん分かってる。これは本当に仕方のない事で、そうなる理由もあるんだって、頭では分かってる。



「仕方ないよね。ヤスフミが好きなのは、フェイト執務官だもの。
私に・・・・・・会ったばかりの私に、心から甘えるはずがない」



酔っ払っていて、きっと私は感情をいつもみたいにコントロール出来なかった。だから抑えられなかった。

目の前に居るのは私なんだから、私に甘えて欲しかった。私・・・・・・受け入れたのに。



「だけどごめん。私・・・・・・どうしても許せないわ。だから、もらっちゃうね」





そっとヤスフミに顔を近づけて・・・・・・そのまま、口づけをした。

数秒かけて、結構濃厚にキスをする。触れている柔らかい感触に、頭の芯が痺れる。

男の子にキスするの・・・・・・その、初めてじゃない。私、ヤスフミよりお姉さんだもの。



でも、ドキドキする。いけない事だって分かってるのに・・・・・・分かってるから、なのかな。

ゆっくりと唇を離した。ヤスフミは、まだ静かに寝息を立てている。目は覚ましてないみたい。

左手で唇に触れる。まだ・・・・・・温かくて柔らかい感触、残ってる。



残ってるけど・・・・・・アレ、なんかおかしいな。私、急に冷静になってきてる。





「・・・・・・何やってんだろ、私」










私は立ち上がって、二人を起こさないように部屋を出る。というか、お手洗いに顔を洗いに行く。

失敗した。なんかもう、色々失敗した。私、色々不安定になってるのかな。

ムカついたからって、寝てる所を不意打ちでキスしちゃうなんて。・・・・・・あぁもう、マジでダメよ。





というか、ちょっとおかしい。これだと私、まるでヤスフミの事が好きみたいじゃない。

まだそういうのじゃない。小さいけど強くて、優しいあの子と仲良くなりたいだけ。

これまでのアレコレを見る限り私達、色々相性はいいみたいだもの。だから・・・・・・なんだ。





仲良くなるのに、フェイト執務官の存在が邪魔だと思ってる。なんでだろ、もうワケ分かんないな。

・・・・・・これから30分後、ヤスフミとリインちゃんは目を覚ました。当然だけど、私のバカは覚えてない。

それからまたヤスフミと二人で起き抜け一杯という感じでまた飲んで・・・・・・午前5時に、お店を出た。





二人の割り勘でも、支払いは相当額だった。沢山食べて、いいお酒飲んじゃったしね。

そして私は涙目な補佐官にお説教をされてしまったのは、言うまでもないと思う。

だって、補佐官が気にする必要はないって言ってたのに・・・・・・うぅ、理不尽よ。





・・・・・・・・・・・・でも私、どうしようかな。見込み・・・・・ないよね





ううん、それでもいいかな。見込みのない恋も、そういう時間も・・・・・・もう慣れてるもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・列車一つ派手に吹き飛ばすって、アイツなにやってんの?」

「正確に言えば、吹き飛ばしたのはやっさんじゃないけどな」



本局で日に日に高まっていくカラバの公女擁護論の勢いにちょこっとノリつつも、俺とヒロは普通に仕事だ。

まぁアレだ、公女は確かに美人だと思うぞ? 可愛いし、ヒロと違って性格も良さそうだし、一般受けはしやすいだろ。



「それでサリ、例のツグロウ・フジタだっけ? 何か分かったのかね」

「それが、全然だ。・・・・・・コレは俺の推測だが、公式的な文書だったり指令だったりで動いてないんじゃないのか?」

≪なるほど、辞令自体はガチで正式なもので、変な部分はない。
ただしEMP上層部の方から非公式に頼まれるか何かして、GPOに来たってことか≫

「多分な」





ツグロウ・フジタ。EMPのエリート役人。で、現在はGPOの補佐官であり、EMP分署の指揮官。

色々と人当たりが悪いとやっさんは言ってたが、それは初対面だけらしい。

ようするに極度の人見知りか? なんだかんだで、時間経過すれば馴染んでいくというタイプだ。



現にGPOメンバーと特に仲が悪いとかではないし、やっさんとも打ち解けているそうだ。





「サリややっさんの話を聞くに・・・・・・なんていうか、めんどくさいタイプってこと?
最初は一番嫌がるくせに、最後は自分が一番楽しんじゃうような」

「そうだな。でよ、経歴も洗ったんだが、変な所はないんだよ。綺麗過ぎるところもない」

「そっかぁ。・・・・・・あ、綺麗過ぎると言えばさ、最近メルビナにまた連絡取ったのよ」



信じられないが、あの聡明な人とヒロは飲み友達だと言う。・・・・・・色々とおかしいよな。



「そうしたらメルビナ、公女様にすっごい首っ丈なのよ。で、恋する乙女のごとく綺麗になってた」

「そうか。でも、首っ丈なのはマクガーレン長官だけじゃないぞ? 世の中的にも公女に首っ丈だ。
ついで局内部でもファンクラブが出来たしな。それで公女を助けようとなにやら色々と始まってるとか」





管理局がダメだと思っているのは、市民だけじゃない。内部・・・・・・下の人間の方が特にだ。

最近あった生体兵器騒ぎのせいで、その勢いは増している。

ファンクラブ内だと、局員と市民とでそういう協議を相当にしまくって意気投合しちゃってるとか。



つまりアレだ、色々と言い訳じみては居るが管理局全体がこの対応を取っているわけじゃない。



原因はヴェートル中央本部も本局も、上層部の人間が臭い物に蓋しまくっている事に起因する。





「確かカラバ復興のための基金や公女への支援を視野に入れてるとか。もちろん、そこまで大仰なもんじゃないが」

「うわ、そりゃすごいね。・・・・・・まぁ、儚げでついつい『守ってあげたくなる』タイプだから、そうなるのかね」

≪でも姉御、別にファンは男ってわけじゃねぇだろ? メルビナのねーちゃんは、普通に女性だしよ≫



そうなんだよなぁ。てーか、そう言うヒロもさりげなくファンになってきてる。

あと、俺も色々と疑問はあるが、可愛いと思ってる。もしかしたら、好みかも。



≪男性層にも受け、女性層にも受け、年齢も関係ない。
公女はもしかしたら、天性の強いカリスマを持っているのかも知れませんね≫

「かもな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・先日の出動のあれこれから数日後。僕、蒼凪恭文はついに奇跡の領域へ来ました。





今までこの話では、海外ロケやら幽霊と対決やら散々やってきた。





だけど、今回はぶっちぎりっ! だって・・・・・・だって・・・・・・!!










『宇宙へ来たんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

『こら、ヤスフミダメだってっ! 跳び過ぎると、戻ってこれないわよっ!?』





ここはヴェートルの月表面。現在、あの白くてもふもふな宇宙服を着て、はしゃいでおります。

先日の一件で仲良くなったシルビィも一緒。なお、理由はある。それもかなり重大。

例の公女を励まそう的なパーティーが行われるので、警備のために呼ばれたのだ。



で、フジタさんも来てる。今はメルビナさんと分署で難しい顔しながらチェスやってるけど。

あぁ、でも楽しい。ホントに宇宙に来てるんだよね? 宇宙に居るんだよね?

真っ暗闇な空間にふわふわな無重力に、青く見えるヴェートル。そして、月の大地の感触。



やばい、これは相当幸せかも。あぁ、リインも連れてこれればよかったー。

・・・・・・なお、あの翌日にフェイトに連絡を取った。というか、ガチに心配してたらしくて泣かれた。

で、いつも通りな顔を見せたら涙を拭きながら安心してくれた。あとは・・・・・・アレだね。



生体兵器騒ぎの事に関しては、何も言われなかった。というより、言う権利がないと思っているらしい。

言うなら、この場に乗り込むくらいの事をしたいとか。そしてお願いされたよ。

絶対にすぐにこっちに来れるようにするから、極力無茶な事とかはしないようにして欲しいと。



一応でも理解は示してくれた片想いの女の子に感謝もしつつ、今の僕は月の大地を踏みしめているわけですよ。





『もう、そんなに嬉しいの?』

『嬉しいに決まってるじゃないのさっ! だって、宇宙だよっ!?
あぁ、まさか宇宙空間に来れるなんて、思ってなかったのー!!』



なお、当然のようにマイク越しの通話なので、かっこが普段と違うのです。あしからず。



『ふふ、そうなんだ。なら、連れて来た甲斐はあったなぁ。感謝なさい?』

『もう感謝するよ。シルビィ、ありがとー』



どうしよう、どこまでも駆けたくなる。このまま駆けて月一周とか出来るんじゃないかって思う。

それくらい嬉しいのー! あぁ、月の大地に僕の足跡がー!!



『でももうすっかり、ヴェートルは気に入ってくれてるわね』

『うん。だって、ミッドでも月には行けないしさ。地球は行けるけど、まだ実験段階だもの』

『その辺り、この世界の宇宙工学が発達しているおかげね。でも、なんだか嬉しいな』



宇宙服越し、にっこりとシルビィが笑ってくれる。それが、なんか嬉しい。



『ヤスフミが、ヴェートルを好きになってくれてるみたいで。うん、そこは嬉しい』

『・・・・・・そっか、ここはシルビィの大事な世界だしね』

『えぇ。でも、ちょっとはしゃぎ過ぎ。宇宙空間で暴れまわるのは、本当に危ないんだから。・・・・・・はい』



地面を蹴り出し、シルビィの身体がふわりと浮く。そして、僕の隣に着地。

そうして僕の左手を、右手を伸ばしてそっと握り締めた。



『・・・・・・あの、これは?』

『いいから。ほら、面白いところ色々案内してあげる。いきましょ?』

『え、まだ面白いとこあるのっ!? 行く行くっ!!』

『ふふふ、次行くとこはすごいわよ? なんと、野生の宇宙ウサギが見られるんだから』

『え、こっちの月にはウサギが居るのっ!?』










とか言いながら、歩き出すので僕もそのまま・・・・・・って、これはいいのか?





や、やばい。なんかシルビィとの距離の縮まり方がおかしいような。なんですか、これは。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・では、シルビィを前に出して」

「ほう、そう来るか。中々に面白い事をするな」



月分署の長官室でメルビナ長官とチェスの最中。なお、駒は各ランサー達だ。

ランサー達の能力を模す形で駒の動き方が変わっている。これが中々に歯ごたえがある。



「しかし補佐官、先日のアレコレから分署はどうだ?」

「まずパージした区画の観測調査は現在も継続中です。ただ、今のところは大丈夫です」



言いながらメルビナ長官がアンジェラの駒を前に出す。・・・・・・ナナの駒なら取れる。

だが、これは囮か? 長官側のシルビィとサクヤの駒が死角をカバーしてる。



「ヴェートル中央本部の上が色々小うるさいですが、そこはまぁ察してください」

「あぁ、察している。EMPの行政スタッフは有能かつ強引だからな。だが・・・・・・すまないな」



そこで少し膠着。少し駒について考えてしまう。ここでカミシロを捨駒にすれば、向こうのナナを取れる。

だがそれではきっと、長官には勝てない。それはさっきまでの対局で証明済みだ。



「補佐官もそうだが、アイツらや蒼凪達に任せっきりになってしまっている」

「そう思っていただけるだけで充分ですよ。それで月の方は」



俺と長官の戦略には、決定的な差がある。それは長官は全ての駒を大事にしているということ。

恐らく、ただの駒ではなくシルビィ達本人の姿をその中に映しているんだろう。



「サクヤ共々、なんとかと言ったところだ。アイアンサイズが月に乗り込んできたりもないしな。
それに月都市の市長や支援者も協力してくれている。地上よりは安心だ」



それを聞いて胸を撫で下ろしつつ・・・・・・俺は一つの駒を取った。



「ならよかった」










俺なりの確信と指揮官としての在り方などを込めつつ、駒を・・・・・・仲間を動かしていく。





その結果がどうなったかなどは、まぁ察してくれ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・やっさんがまたフラグ立てたって」

「はぁっ!?」



お昼休みにまたヒロと茶を飲んでたら、普通に端末を見ながらこんな事を言ってきた。



「メルビナからメール来てさ。やっさん、今ヴェートルの月面都市でひゃっほいしてるんだって。
ほら、宇宙初進出だから。で、GPOのシルビア・ニムロッドと月面歩行しながらデートしてるって」

「アイツは・・・・・・・! またそれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



てーか、シルビア・ニムロッドって・・・・・・あの金髪で、青い瞳の美人だよなっ!?

なんで本命居るのにまたフラグっ!? アイツ、マジでおかしいだろっ!!



≪サリ、もう落ち着けって。幕間の度にフラグ立てるのは、いつもの事じゃないかよ≫

「今回幕間じゃねぇよっ! 過去話だけど一応クロスだぞっ!?」

≪というかよ、アレだよアレ。ボンドガールならぬとまとガールって考えればいいんだよ。
ほら、それ言ったら007なんてボーイの比じゃねぇぜ?≫

「まぁ、それならまだ納得出来るね。ただし、アイツはジェームズ・ボンドより紳士じゃないけど」



ヒロ、全く同意見だ。むしろ一緒にしたらジェームズ・ボンドに失礼だ。

しかし、アイツはどうしてあぁなんだ? あぁ、泣きたい。また泣きたい。



≪シャマル医務感などにバレなければいいのだが。バレたら、間違いなく大事になるぞ≫

≪なるな。すっげーエンジンかかった様子だったしよ≫

「でも、よく考えたら当たり前な状況と言えば、当たり前な状況なんだよねぇ」



ヒロが、少し納得したように言ってきた。もち、紅茶を飲みつつのんびりとだ。・・・・・・え、なんで?



「とまとのお約束的にじゃなくて、月面ってことは宇宙空間移動してるんでしょ?
それで一人で行動は危ないって。やっさんは特にはしゃぎまくるしさぁ」

「あ、そういう意味か。でも、アイツ・・・・・・ついに宇宙空間進出かぁ。すげーな。俺らもそこはしたことないのに」

「帰ってきたら、ぜひ話聞かせてもらわなきゃいけないね。ヴェートルの月面って、宇宙空間に適応した生物が居るらしいし」

「あぁ、居るぞ。・・・・・・でも、いいなぁ」










宇宙空間でデートなんて、まるで夢のようだぞ。アイツ、ついにすごい壁越えやがった。





でも、その壁を越えてもハラオウン執務官は落とせない可能性があるんだよ。それもなんだかなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「宇宙ウサギ・・・・・・可愛かったなぁ。フェイトとリインと、ヒロさん達に土産が出来たよ。
あ、フィアッセさんや知佳さんとゆうひさんにも連絡しよーっと。うふふふ、みんな驚くだろうなー」

≪確かに興味深かったですね。シルビィさんの話だと、生態もまだ完全には解明されてないらしいですし≫



あぁ、マジでここに来てよかった。テロとかあれこれはあるけど、それでも来てよかった。

よし、帰ったら早速通信でフェイトに話して、スクリーンショットも送って・・・・・・あぁ、幸せー!!



「・・・・・・蒼凪、別に俺は部下の恋愛に口出しするつもりはない」

「え、フジタさんいきなり何の話してるんですか?
ほらほら、空気読んでくださいよ。今は宇宙ウサギの話じゃないですか」

「お前は性格はともかく、仕事はきちんとやってくれている。
それなら、俺があれこれ言う理由もないだろう」



そして、僕の大事なツッコミは無視かいっ! というかアンタ、いきなりなに言い出してるんですかっ!!



「ただな、やはり身辺整理をきっちりしてからの方がいいとは思う。
お前、聞くところによると本命が居るらしいな。あとリインのことも」

「だからちょっと待ってっ!? こんなタキシード姿でいきなり言うことじゃないでしょうがっ!!」



現在、あの楽しくもちょっと複雑な宇宙進出を終えて、パーティー会場の前。

そう、『公女を励まそうパーティー』である。僕達は女性陣を待っているところ。



「なにを言っている。先ほどまで楽しそうに月面デートをしていたくせに」

「デートなんてしてないからっ! 普通に月面観光してただけですよっ!?
そして、宇宙ウサギの可愛さに二人して癒されただけなのっ!!」

「お前、それを世間一般では『デート』と言うんだが?」



・・・・・・・・・・・・あぁっ! た、確かにそうだっ!!

やばい、とまとの宇宙初進出に浮かれて、それが頭から抜けてたー!!



「い、いや。シルビィはあれですよ? 自分が年上だから、お姉さん的な感じですって」

「そこから恋愛に発展というのも、そう言えば大学時代の知り合いに何人か居たな。
あとな・・・・・・言いたくもなるぞっ!? お前、今何人女の名前を出したっ!!」



あれ、フジタさんがなんかお怒りモードだ。てゆうか・・・・・・アレ? 何人名前出したっけ。

えっと、フェイトにリインでしょ? ヒロさんは『達』だから除外して、フィアッセさんに知佳さんにゆうひさん。



「五人ですね」

「あっさり答えるなっ! あのな、普通にそれだけ出してたらさすがの俺でも気になるぞっ!?
お前、その五人とは明らかに友達以上の関係だろっ! 後者三人は知らないが、俺は普通にそう感じたぞっ!!」

≪フジタさん、正解です。というか、真面目になんなんですか、あなたは。
もう20人は目前じゃないですか。ハーレムとか普通に出来ちゃうでしょ≫

「そこは言わないでー! てゆうか、今ハーレムの話は関係なくないっ!?」



あ、待てよ? そうだそうだ、前回はアニメで言うところの、キャラのピックアップ回だったんだよ。

それでシルビィがピックアップされてただけなんだよ。だから、次はきっと別の人だ。



「だ、大丈夫だって。今回は別のキャラだろうしさ。きっと、その人と仲良くなるんだよ」

「蒼凪、お前は一体なんの話をしている。そして、そのメタ発言はやめろ。危険過ぎるだろうが」

≪そうして、今度はその別の人のフラグを立てるんですね≫



変なこと言わないでっ!? 絶対立てないからっ! 普通に仲良くなるだけだからっ!!



「今度は誰だろうな。この状況から考えると、サクヤかメルビナ長官か?」

≪いや、ここを超えてからというパターンもありえますね。まだ、序盤も序盤ですし≫

「なるほど。なら、アンジェラ・・・・・・いや、ナナ辺りが危ないか? パティは大丈夫なんだが」



そしてフジタさんっ! アンタいつの間にアルトと仲良くなったっ!? もしかしてアレかっ!!

行間と話の間での進展具合は、全部察して読み取れって無茶な仕様ですかっ!!



≪意外と突発的な新キャラかも知れませんよ? 女性ならなんでもいけますから。
あとパティさんが大丈夫なのは、ご自身が奪わせないからでしょうか≫

「全く違う。パティにはちゃんと想い人が居る。もちろん俺ではない」



え、そうなの? 常日頃フジタさんの仕事を楽しそうに手伝ってるから、てっきりそうだと思ってたのに。



「ランドルフ・シャインボルグという人物が居てな。まぁ、彼もGPOの人間なんだが」





あ、確かシルビィから聞いた事があるぞ。シルビィの従兄弟で、アンジェラの幼馴染。

今は某所へ長期出張中だっけ? じゃあ、パティは遠距離恋愛中なんだ。

・・・・・・辛いだろうなぁ。僕もフェイトとはそんな感じだった事があるから、ちょっと分かる。



まぁミッドに引っ越してきて、修行のために仕事減らしてからはそうでもなくなったけどさ。





「・・・・・・蒼凪、お前は鬼畜だな。そんなパティにまで手をかけようとするとは」



きゃー! 人がちょっと昔を思い出している間に、ピックアップキャラクターがパティに決まってるっ!?



「あれか、ハーレムでも建造したいのか」

≪ちなみに私の元マスターでこの人の剣の師匠は、この人ならハーレムを建造出来ると断言してました≫

「だろうな。シルビィとの急激な進展具合やリインの様子などを見ていれば、誰でもそう思う」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そんなことないっ!! 絶対そんなことないからねっ!?
ハーレムなんて無理なんだっ! そんなの絶対不可能なんだっ!!」



なんて頭を抱えて蹲っていると、綺麗な足が見えた。淡いピンクのヒールを履いている。

で、見上げると・・・・・・あ、髪を下ろしたシルビィが居た。傍らにはメルビナさんとサクヤさん。



「・・・・・・補佐官、あんまりヤスフミをいじめないでもらえますか?
ヤスフミ、こう見えて実はかなりのヘタレなんですから」

「誰がヘタレじゃボケっ! てーか、どこから聞いてたっ!?」

「えっと、あなたが私を『大好き』って言ったところから?」

「そんなこと誰が言ったっ! もう一回冒頭から読み直してこんかいっ!!」



お願いだからシルビィもやめてー! ハーレムなんて建造したくないのっ!! そんなの絶対無理なのよっ!?

というか、僕は恋愛フラグなんて立ててないからー! あくまでも友達フラグだよっ!? 大体、僕はフェイトが本命なんだー!!



「さて補佐官、私とサクヤが蒼凪の毒牙にかけられない内に、会場内へエスコートしてもらえるとありがたいんだがな」



そんな事を言ったのは赤を基調として、青のラインが入ったドレスを着ているメルビナさん。

なお、右肩には生地はなく完全に肩出しです。スタイルもいいので、色っぽい。



「長官、それは失礼ですわ。・・・・・・蒼凪さん、大丈夫です。
私達は邪魔はしませんから。ただ、やはり補佐官のおっしゃるように身辺整理を」

「だから、色々と勘違いしてますからねっ!? 僕本命居るんですからっ!!」

「えぇ、分かっています。ただ、やはり第三夫人までとなるとあなたとシルビィとリイン、そしてフェイト執務官との協議は必要ですし」

「何も分かってないよねっ! アンタは今、何も分かってないし分かろうとすらしてないよねっ!? 分かってる振りをしているだけだよねっ!!」



安心させるように言ってきたサクヤさんは白色の薄手のドレスに、透明なストールを羽織っている。

でも、全く安心できない。綺麗だなとかそういうのはあるけど、それでも安心出来ない。



「いや、本命が居るのにこれはおかしいだろ。長官やサクヤの言うことは、もっともだ」

≪むしろ、フェイトさんの存在を隠れ蓑にしてるんですよ≫

「あぁ、それなら俺も納得だ」



してないからぁぁぁぁぁぁぁぁっ! アルトはそこを知ってるよねっ!? すっごく知ってるよねっ!!

あと、おのれらが仲良くなった経緯はやっぱ行間の間からは読み切れないわっ! てーか出来るかボケっ!!



「では、少々責任が重過ぎる感はあるが・・・・・・サクヤ、メルビナ長官、俺がエスコートしますので」

「補佐官、よろしくお願いします」

「うむ、頼むぞ」

「なに僕を無視して勝手に話進めてるっ!? こら、ちょっと待てー! 普通に三人体制作って逃げるなー!!」



だけど、そんな僕の言葉など通用するわけもなく・・・・・・三人は普通にパーティー会場に入ってしまった。

残されているのはシルビィと僕だけ。あと、胸元のアルト。な、なぜこんなことに? おかしい、何かが色々とおかしい。



「あぁ、頭抱えなくても大丈夫よ。ほら、アバンチュールって必要だと思うし」

「一体何の話っ!? てーか、おのれも抵抗せんかいっ!!」

「だって、もう疲れちゃったんですもの」



なんか知らない間に抵抗の意思を失ってるっ!? あれかっ! これも行間読んで判断しろってかっ!!

でもさ、絶対に読みきれないと思うんだっ! どうやってもこれは無理だと思うんだっ!?



「いいじゃない。仮にここで付き合っても、浮気にはならない。
付き合わなくても、仲のいい友達にはなれる」



本当に疑問があるという顔で僕を見る。で、気づいた。シルビィ・・・・・・もしかして、ちょっと怒ってる?



「結果はどうあれ私達がこれから仲良くなることに、さして問題があるとは思えないんだけど?」

「そ、それはまぁ・・・・・・確かに」

「でしょ? というか」



シルビィはそのまま左手をそっと僕の前に差し出した。なお、手の甲は上。

つまり僕に手を取って、エスコートしろと言っているのである。



「今、あなたの目の前に居るのは私。フェイト執務官じゃないわ。
私のことだけ見ててくれないかしら。それで余所見なんて絶対だめ」



胸元の開いたドレスだけど、どこか清楚な印象を受ける。そのドレスのまま、シルビィは微笑む。

装飾は少なめで、無地で・・・・・・でも、綺麗。不覚にも少し、ドキっとしてしまった。



「・・・・・・エスコート、お願い」

「えっと、もしかしなくても・・・・・・怒ってる?」

「当然でしょ? この場に居ない女の子の話をされて、怒らない女の子が居ると思う?」

「あぁもう、分かったよ」



右手を伸ばす。そうしてシルビィの手を取る。・・・・・・あ、結構ごついな。

でも、それが嫌とかじゃない。一生懸命頑張って、戦ってる人の手と指だから。



「目の前の素敵な女の子一人釣れないようじゃ、本命なんて釣れないってどっかのマンガでも言ってたしね」

「うん、そういうことよ。私のこと、ここに居る間はしっかり釣り上げてね?」

「釣られてくれるの?」

「それはヤスフミの腕次第よ。とりあえずこの時間が素敵な思い出になるように頑張って欲しいな」



なんて話しながらも、そのまま手を繋いで会場入り。・・・・・・そう、これは一種の約束。



「てゆうか、ドレスも誉めてもらってないのよ? 正直色々減点なんだから」

「・・・・・・悪い、見惚れて誉めるの忘れてしまった」

「あ、今のはプラスかな。お世辞じゃなくて本心かららしいし」



アバンチュールを、互いにかますという契約なのだ。なお、エロは抜きである。

あ、あれ? なんか知佳さんの時と、ノリが似てるような。



「了解。んじゃ、ここに居る間はシルビィの事だけ見てることにする」

「うん、それでいいわよ。あ、どうせなら一生私だけを見ててくれてもいいわよ?
私は本気の告白をスルーなんてひどい真似、絶対にしないから」

「またいきなりだね」

「当然よ。ヤスフミが私だけを見てくれるように、私もヤスフミだけを見るから。
だから私達は互いに本気。そうなったらいつ化学反応を起こすか分からないもの」










こうして、第二の夏のアバンチュールが始まることになった。なお、当然エロは抜きである。・・・・・・あ、あれ?





なんでこんなことになってるんだろ。あれですか? 元ネタが恋愛要素込みのゲームだからですか?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・補佐官」



聞かないでください。仲良さげで、身長差を鑑みても恋人同士に見えるのは分かります。

けど、何も言わないでください。俺はもう気にしないことにしたんです。



「確か我々が月に戻ってからひと月も経ってないはずなのに・・・・・・どうしたのでしょう。
もちろんシルビィが殿方に治して惚れっぽいのは、いつものことなのですが」



アイツは恋愛関係に凄まじい憧れがあるからな。

サクヤ曰く、『年がら年中誰かに恋している』・・・・・・だそうだ。



「確かにそうだな。私は何時ぞや競馬騎手の男性に恋をした時は非常に苦労した覚えがある」

「競馬騎手? ・・・・・・あぁ、ジョッキーですか」

「そうだ。それもイケメンとかなんとかで特集された記事を見て一目惚れだ。まぁ、ここまでなら普通なんだが」



正直そこを『普通』で片付けられる長官は凄いと思う。俺はまだ、その領域に達していない。



「アイツは本人と会った事もないのに『背が釣り合えば私達は理想のカップルになれる』と言い出してな」



なお、ジョッキーというのは小柄な人間が多いらしい。シルビィが言っているのはそこの部分だろう。

しかしそれで『私達』か。アイツの恋愛関係の妄想癖は、相当前からだったんだな。



「ですが長官、そうなると蒼凪は」

「補佐官、それ以上言うな。蒼凪に対してそこを言うと、半殺しにされるぞ。それも瞬間的にだ」

「そ、そうですか」

「まぁアレだ。親交を深める事自体は、決して悪いことではない」





メルビナ長官、そう言いながら純米酒を煽ろうとするのはやめてください。

言葉と行動が一致していませんから。あなたもあの仲の良さには納得し切れてないんじゃないですか。

というか、お願いですから現実から逃げないでください。なにより俺達は警備で来てるんですよ?



酒もだめだし、現実から逃げるのもダメなんです。それはアウトですから。



・・・・・・とりあえず、肉・魚類が入ってないのを確認したうえで取って来たサラダの皿を、サクヤに渡す。





「補佐官、ありがとうございます」

「ドレッシングはノンオイルのしそドレッシングだが、大丈夫か?」

「はい。肉・魚類の脂でなければ、問題ありませんので」



サクヤは、嬉しそうに笑ってくれる。・・・・・・サクヤはベジタリアンだ。肉や魚の類は食べない。

この肉と魚で溢れかえったバイキングに少し困っていたので、手を貸しただけのこと。



「問題ない」










今回の俺は、二人のエスコート役だ。きっちりしなくてはまずい。

・・・・・・などと言っていると、出てきた。長い銀色のウェーブの髪。

本当の細い身体に、ゆったりとした白いドレスを着た一人の少女が。





そう、彼女がカラバ公女であり、ここに亡命してきた、アルパトス・カラバ・ブランシェだ。

その隣に居るのは・・・・・・身長170はあろうかという大女。その腰には、大型の剣。

赤く長いウェーブのかかった髪に、右目に眼帯。服装は、青の動き易い騎士服。





その名は、オーギュスト・クロエ。公女の側近で、公女と共に亡命してきた人物。

・・・・・・そう、クロエなんだ。彼女はクーデターの首謀者である、マクシミリアンの実の妹だ。

だが彼女は実際には、アルパトス公女のよき理解者であると聞く。本当に敵味方に別れたわけだ。





現在、アルパトス公女との傍らに立ち、出席者に挨拶を始めた公女をさりげなく守っている。

その動きに、隙は見られない。そして・・・・・・その数歩後ろに、白い礼服姿の男の子が居る。

公女と同じ髪をしているが、こちらは短め。体格的にも、蒼凪と同じくらいと小さい。





そして、なぜかこの場に相応しくない物憂げな表情を浮かべる。それが、俺には妙に気になった。

とにかく彼がアレクシス・カラバ・ブランシェ。カラバの公子だ。だが、公女に比べると若干陰が薄い。

俺の記憶する限り、公式的には公女ばかりが出ているし・・・・・・もしかしたら動く姿を見たのは、これが初めてかも知れん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「特に変なのは居ないみたいね」

「だねぇ。・・・・・・あ、このカルパッチョ美味しいな」

「ホントに? ・・・・・・あ、美味しい。これいいなぁ」



うむぅ、この油はなんだろう。オリーブオイルとはまた違うなぁ。

風味は似てるけど、シソに近い味わいもあって、とてもさっぱりしてる。



「うし、これは味を覚えて帰ろうっと。リインに作ってあげないと」



・・・・・・あ、しまった。また他の子の名前を出してしまった。

とりあえずシルビィを見る。シルビィは、笑っていた。



「なんだか、リインちゃんのお父さんみたいな思考よ?」

「た、確かに。否定出来ないかも」

「そう言えば、ヤスフミって料理得意なのよね」

「うん。顔見知りに、色々叩き込まれてるしね」



分署のキッチンを借りて、ご飯を作ったりもしてる。なお、リインには好評。

というか、ナナとかジュンとかアンジェラにも好評。アンジェラ的には、量は不服だけど。



「シルビィは?」

「これでも得意よ? やっぱり男の子は胃袋からって言うしね。
でも、料理出来る男の子・・・・・・うん、ポイント高いな」

「そりゃ良かった。減点分を取り戻せると、非常に嬉しいね」



言いながら、カルパッチョをもう一口。で、シルビィも一口。二人して、にんまりする。



「でも、補佐官は・・・・・・両手に花よねぇ」

「あれだけで人目を引き付けてるよね」



普通に見ても、警護してる人には見えないって。アレだよ、リア充だよ。



「・・・・・・あ、ヤスフミっ! アレアレっ!!」











シルビィのテンションが、急に上がった。で、そちらを見ると・・・・・・居た。

噂の公女と側近と思しき女の人と、なんか影の薄い公子が。

思わず見惚れて、皿を落としかけた。でも、それで気づいた。





公女達を見た瞬間から、何かこう・・・・・・心の中に自然に、異物が入り込んで来ているのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・美しいな」



メルビナ長官が、感嘆とする表情でそう口にする。そして、それには負けるがサクヤも同じ表情。

そして、シルビィはミーハーになっている。遠目からでも分かる。蒼凪が、押さえるのが大変そうだ。



「だが、決してそれだけではない。とても強く、気高く。そして気丈な方だ。
色々と心労が積み重なっているだろうに、しっかりと前を向いていらっしゃられる」



・・・・・・俺はここに来て3ヶ月経つが、メルビナ長官がここまで人を誉めた様は、初めて見た。

というか、べた褒めだろ。どんだけ公女好きなんだ? この人は。



「我々は守らなければなるまい。あの方の笑顔とその強さをだ。
・・・・・・月分署に来てから、強く思い始めているよ」

「そうですわね。あの様子を見ると、自然とそう思ってしまいます。
一刻も早く、心安らげる日々を送れるようにしなくてわ」

「そのためにはアイアンサイズの逮捕だな。連中をしばきあげて、クーデター派を叩き潰さなければ」



・・・・・・いやいや、メルビナ長官? なにやら怖い話になってきているんですけど。

というより、目が怖いですよ。普通に俺は引いてますから。少し落ち着いてください。



「メルビナ長官、どうぞ一杯」



とりあえず俺は、そのためにオレンジジュースを差し出した。



「あぁ、すまないな」



メルビナ長官はそれを受け取り、飲み始めた。純米酒ではないが、美味しそうに飲んでいるので一安心。



「ほら、サクヤもしっかり食べろ。場に馴染むのも、俺達の仕事の一つだ」

「は、はい。それでは」





サクヤの手は、公女に見とれて完全に止まっていた。俺の言葉で、ようやく動き出す。

しかし、見てると他の人間も同様だな。なんというか、すごいカリスマ性だ。

カイドウ市長が、彼女を心の底から見習いたいと言っていた意味が分かる。



あの10代前半にしか見えない公女には、才能がある。それは、人を引き付ける才能。

カリスマ性と言えばいいのだろうか。トップに立つ人間には必要な才能だ。それが、彼女にはある。

だからこそ、会場に居る人間は全員、彼女の一挙手一投足に視線が集まるし、見とれてしまう。



・・・・・・いや、蒼凪以外か。蒼凪は食べ物を前に殺気を放出している。どうやら、人に取られたくないらしい。



ほら、だからシルビィにおでこをペシンと叩かれるんだ。お前、食い物の前にシルビィをちゃんとエスコートしてやれよ。





「どれ、私も一つ挨拶をしておこう。これでも月分署の署長だしな」

「では、私達も。補佐官、行きましょう」

「あぁ」










とにかく、俺達は公女に挨拶するために動いた。





・・・・・・ただ、サクヤはまた手が止まっていたのか、サラダが残った状態だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・おかしい。なんかこう、おかしい。





公女様に夢中なシルビィはともかくとして、僕はローストビーフを食べつつ頭を捻る。










”どうしたんですか、さっきは”



念話が届く。当然、それはアルト。で、ビーフを食べつつそれに答える。



”ん、なにが?”

”いきなり修羅モード、発動したでしょ”



・・・・・・うん、発動した。バレないように、食べ物を前にって感じでさ。

まぁおかげでシルビィから、おでこぱっちんってされちゃったけど。



”なんかさ、変なのよ”

”だから、なにがですか”

”あの公女様が出て来てからかな。こう・・・・・・頭にもやがかかる感じがしたというか。
空気が綺麗過ぎて、逆に気持ち悪いくらいになったというか”



ビーフをもぐもぐしつつ、公女を見て興奮して僕の肩を掴んでシルビィがぐらぐら揺らしてるけど、気にしない。

てーか、お願いだから落ち着いて欲しい。普通に僕、食事中なんだけど?



”もっと言うと、神無月とかが使ってた催眠術? アレに近いものをかけられてる感じがして、瞬間的に”

”催眠術って・・・・・・この状況でですか? ありえませんよ。
大体、誰があなたにそんな事をして得があるんですか”

”だよねぇ。てゆうか、催眠術やとはまた違う感じなのよ。
こう・・・・・・もっと自然と心の中に入り込むというか、なんというか”



あんまりに自然過ぎて、最初は気づかなかった。

多分、今までにヒュプノによる攻撃を受けた事がなければ、ずっとそのまま。



”でも、不思議なの。モード発動した後だと、その感覚が消えてる”

”・・・・・・あなたの修羅モードは、一種の自己催眠じゃないですか”



うん、そうだね。知ってるよ。強力な自己催眠による潜在能力の開放が、修羅モードの正体。

だから僕には、催眠術やら洗脳の類が全く通用しない。そんなのより、自己催眠の方が強いの。



”それを発動して、何かを跳ね返せた感覚があるということは”

”やっぱ、なんかされてたんだよね。というか、多分され続けてる”

”まだきてるんですか?”

”うん。違和感にはもう気づいてるから、何とか抵抗してるけど”



あとシルビィが、隣でうるさいから。てーか、凄まじくはしゃぎまくっている。

この女、ここまでミーハーだとは思わなかったぞ。てーか、落ち着け。TPOってあるから。



”ですけど、ここにアイアンサイズのような輩は居ませんよ?
居るのは、公女と公子の味方だけです。あと、ミーハーなシルビィさん”

”そうだよねぇ。だって、この会からして月面都市の市長が『公女を励まそう』って企画したんでしょ?
で、みんな集まってすごい勢いで味方して・・・・・・公女の敵になるような輩なんていないんだよねぇ”



・・・・・・僕は失念していた。もう懸命なとまと読者の方々は、ここまで言えばお分かりになるだろう。

これは戦闘発生フラグなの。だからこそ入り口の扉が、音を立てて派手に吹き飛んだりするわけである。



「・・・・・・・・・・・・邪魔するよぉっ!!」










声は野太い女の声。後ろを見ると・・・・・・あぁ、フラグを踏んでしまった。てーか、来たよ。





味方しか居ないこの状況が気に食わないのか、わざわざ月にまでやってきたキュべレイが。





こうして、いつものようにバトルに突入する寸法になったわけである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文が楽しく遊んどる頃、うちは某所に居た。で、ここで一つ豆知識の披露や。

カラバという世界の歴史は、結構古いんよ。うん、かなりな。

新暦に入る前から存在してて、管理局システムが出来てからも、そのままや。





そのままっちゅうんは、王政を取って自治権が通ってたという意味や。ただしそれは全て過去の話。

3ヶ月前にクーデターが起こるまではそうやったんやけどなぁ。それでもカラバは今、平穏の中に居る。

まだまだ騒々しいけど、それでもや。この辺り、世界の文化レベルもそこそこ高いせいやと思う。





それでも通信環境のインフラはまだサッパリな感じやし、ほんま片田舎言う感じやな。

ただ、見た限りでは空気もえぇし雰囲気も穏やかでえぇ。

こんなとこで血生臭いクーデターが有ったとは、うちはどうも信じられん。





あー、これやったらうちの子達との旅行とかで来たかったなぁ。嫌な事全部吹っ切れそうなくらいのどかやし。










「・・・・・・初めまして。ランドルフ・シャインボルグです。あ、ランディと呼んでください」

「初めまして、八神はやてです。あ、私も名前でいいですから」





ここはカラバでやっとる一般的な大衆居酒屋の中。なお、個室で二人っきりや。

うちの子も護衛役にザフィーラは連れてきとるけど、それだけ。

シグナムやヴィータ、シャマルは仕事あるし、新部隊設立の方でも動いとるから今回は出番無しや。



そして今うちの目の前に居るんは、金色の髪をオールバックにした中々のナイスボーイ。



青い無地のスーツを着込んで、同じ色の瞳がとってもキュートな、ランディ捜査官や。





「突然の要請を受けていただき、本当に感謝しています。あとすみません、こんなところで」

「いえいえ。むしろ、こういうところの方が変に悟られる心配はないでしょ」



あれからうちは急いで準備して、クロノ君以外の人間に知られんようにカラバに来た。

ホンマは単独渡航も考えたんやけど、さすがに危険と考えてザフィーラを連れてきとるわけや。



「いいチョイスです。いや、ランディさんは中々やり手なんですね」

「そう言ってもらえるとありがたいんですが・・・・・・実はこれ、僕の上司の受け売りなんです。
お酒が好きな人でして、その関係でこういう場が色々役立つ事に気づいたらしくて」

「あ、なるほど。納得しました」



ここに周りの客に興味を持ちたいと思うのはおらへんやろ。興味持ちたいなら、酒と料理と一緒に来た仲間や。

とにかく個室のテーブル席に座りつつ、ご飯も食べつつお話や。うちの末っ子も関わっとる以上、ここはちゃんとしときたい。



「で、どんな具合になってるんですか。私としてはまず『きな臭くなった』原因について聞きたいんですが」

「・・・・・・ハッキリ言いますと、今回のクーデターには裏があります。
単純に首謀者であるマクシミリアン・クロエがカラバ王族を裏切ったというものじゃないようなんです」



・・・・・・世間一般でのお話では、マクシミリアン・クロエは世話になってた方々を裏切った逆賊。

ただ、それを今ランディさんは否定した。単純にそんな図式やないと、きっぱりと。



「・・・・・・つまり、このクーデターにはちゃんとした正当性がある?」

「はい。だからこそ、アイアンサイズもあそこまでしてるんだと思います。あとは」

「ヴェートル中央政府への再三の公女と公子の引渡し要請ですね」

「そうです」



カラバのクーデター派・・・・・・新政府は、ヴェートルに対して当然のようにこれまでそういう要請をしている。

だけどヴェートルは突っぱねている。なお、最初に突っぱねてからすぐにテロが起きるようになったんよ。



「そこに関しては今はどうなっているんでしょうか。ここだとそこまで詳しい情報が入らなくて」

「定期的にはやっているようです。ただ、ここはランディさんが知っている状態とさほど変わらないかと。もちろん、テロも含めて」

「・・・・・・そうですか」





で、話戻すけど人を殺したんに、正当性なんてと言う方もいるやろ。けど、今回はそんな話ちゃう。

うちやランディさんが言うてるのは、ここでクーデターが起こるに足る何かが存在していたっちゅうことや。

少なくともクーデター派が執拗に王族を皆殺しにしようと狙う程に根が深く、とても大きな要因が。



そやから関係者と思われるアイアンサイズは、EMPで未だにテロをしとる。

でも、この場合なんやろ。普通に独裁とかに対してのあれこれっちゅうんのは、足りないと思うんよ。

それやったら政権を奪取した現時点で、基本もう王族に用は無いはずよ?



あとは個人的恨みとかかなぁ。でも、広域次元犯罪になるリスクを考えると、ここまでやるとは思えない。





「もちろん、まだ確証は掴めていませんが。あと・・・・・・これを」



言いながらランディさんが差し出してきたのは、青いケース。アクセサリーとか入れるやつやな。

で、それを手に取って開けると、金色のちょお地味目な輪っか型のイヤリングが二つ。



「私を口説くためのプレゼント・・・・・・というわけじゃないですよね」

「あ、あははは・・・・・・そういううちの従姉妹みたいな発言は、やめてもらえると助かります。
ただ、デバイスの類のようなんですが具体的にどういうものかとかはまだ掴めてなくて」



ふむ、正体不明のイヤリングか。てか、これがどんなキーになるんやろうか。

そこに関してもまだ分かってないらしい。ランディさんも少し苦い顔やし。



「現在このイヤリングは、量産体制を取らせて出来次第国民に配っています。
この国の中で重要な位置に居る人間から優先的に」

「そこをつついて、ランディさんも入手したと」

「えぇ。まぁこれに関してはまた詳しく説明します。それで・・・・・・あともう一つ」



ランディさんがさっきからずっと潜めていた声を更に潜めて、周りを気にしながら続きを言う。



「どうやらカラバの王族には、ある特殊な能力が備わっていたようなんです」

「特殊・・・・・・レアスキル?」

「はい。そしてそれが、カラバという『王国』が管理局システムの中で」

「存在し続けた理由であり、ここ3ヶ月の間の動乱の鍵でもあると」

「そうです」



もしかしたら王族個人にどうこうやのうて、そのレアスキルを根絶やしにしようとしてる?

・・・・・・あり得ん話やないな。もちろん、レアスキルの内容にもよるけど。



「で、ランディさん。そのレアスキルの名前なり能力って、分かりますか?」

「能力まではまだ。ですが名前だけはなんとか。名称は・・・・・・親和力」

「・・・・・・親和力」




















(Report06へ続く)







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あきゅろす。
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