小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report03 『You just bring my radio』
・・・・・・結局、来て早々のミッションは失敗に終わった。
被疑者は捕縛出来ず、行方不明のストリートファイター達は消息不明。
その上、敵の目的もサッパリだよ。なんなの? あの青に紫のラインが身体中に入った怪人は。
アレが一種の生体改造の類だと言うのが、GPOや僕達の結論。だけど、分かったのはそれだけ。
ストリートファイター達をさらったのが、生体改造のサンプルのためだったとしても、何のために?
そもそも、改造された『アレ』がどんな効果を及ぼすかも分からない。そう、全部分からない事だらけだ。
そんな状況で管理局が何をしているかというと、何もしていない。本当に全くだ。
完全にヴェートル中央政府は、GPOやEMPDの後方支援程度しか仕事をしていない。
というか、見ていて気づいた。局員連中ももうこの現状に嫌気が差して、やる気を無くしている。
この世界の人達のほとんどが、局の管理を完全否定してるんだもの。そりゃ仕方ないって。
ただそれでも救いはある。それがGPOだ。GPOは次元世界で管理局と協力体制を結んでいる組織。
だけどこれまでの実績や地域住民に根ざした活動から、少なくとも中央本部よりは信頼を得られている。
具体的には市民の雑務の依頼なんかも、快く引き受けているとか。
空が飛べるメンバーが居るから、その人間がビルの窓拭きとか、もしくはレジャー施設の警備とか。
なんかライブイベントで総出で歌をうたって、会場を盛り上げたとも言ってたな。
とにかくGPOは局よりも柔軟であり、人員も優秀。そして、それぞれが個性的。
そういう部分もEMPの市民に親しまれている理由だと思う。ただ・・・・・・なぁ。
その個性のせいで、少し僕は振り回される事になった。というか、まだ僕は知らなかった。
マジでGPOの面々の影が、異常に濃いと言う事を。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さて、本日は急な話ではあるが、オーディションを行いたいと思う」
『オーディション?』
ここはEMPの分署の中。冒頭一発目から、とんでもないボールを投げてきたのは、メルビナさん。
・・・・・・まぁ、待て。まぁまぁちょっと待とうか。いや、むしろ待ってくださいとお願いしたいよ。
「なんで、月分署に居るはずのメルビナさんとサクヤさんがここにっ!?」
≪あなた方、いったいどうしたんですか≫
なお、時間は朝の9時である。そこを踏まえた上でこれからの話を見ていただくと、非常に楽しくなると思う。
「そ、そうですよっ! 長官、どういうことですかっ!? あの出動から、1日しか経ってないのにっ!!」
「シルビィ、それは私から説明いたします。実は・・・・・・GPOのメンバーが出演するラジオ番組を制作したいと、長官宛にオファーがあったんです」
『はぁっ!?』
とにかく僕とリイン、アルトにフジタさんにシルビィ達は話を聞いた。なんでもその題材は、サクヤさんの言うようにラジオ。
EMPの放送局がGPOのランサーに目を付けて、個人のDJ番組を作成しようと考えたのだ。
「広報活動の一貫・・・・・・ではないんですよね」
「あぁ。広く人材を募集しようと考えて、我々に目をつけたらしい」
「まぁ、それなら分かるわね。うちはそういう意味では、個性の宝庫だし」
「そうだな。特にこの3日程度で、さらに濃いのが来たしな」
ジュン、ナナ、普通に僕を見ないで? 僕、基本的に普通だから。ノーマルな性格だから。
そんなどこぞの魔王みたいじゃないし、どこかのたぬきみたいに腹も黒くないし。
「でも・・・・・・誰? そんなヒロさんみたいなことを言い出したのは。
好きとか嫌いとか、最初に言い出したのは誰なのかしら」
≪駆け抜けていく、ときめくメモリアルですか≫
「そして、きらめく朝日に窓辺のRadio。流れるラブソングは私の今日の気分だよ」
≪で、その次はZARDさんなんですよね。あれも凄いですよね。どういうタイアップしたら、あぁなるんですか≫
「恭文さんもアルトアイゼンも、二人揃って、何の話してるですかっ!?
というか、誰も好きとか嫌いとか、言い出してないですよねっ!!」
なお、今回クロスしている『メルティランサー THE 3rd PLANET』は、KONAMIから発売されたゲームなのであしからず。
そして唐突だけど『ときめきメモリアル』もKONAMIから出てるゲームなのであしからず。
「てーか、普通にヒロさんの関係者なんじゃ」
いや、まさかなぁ。さすがにそれはないか。あははははははは。
「蒼凪、よく分かったな」
「え?」
「その放送局のプロデューサーは、クロスフォードの後輩だ」
当たっちゃったよオイッ! というか、普通に関係者の発案なんかいっ!!
「あの人、無駄に顔広いなぁっ! てーか、一体どんだけ人脈あるっ!?」
・・・・・・まぁまぁ、話は分かった。だからこそ時系列とか設定とか無視して、メルビナさん達がまた来たと。
「しかし長官、パーソナリティは誰がやるのですか?」
「あ、あの・・・・・・私は無理ですからっ! 私、ラジオで喋るのなんて、本当にっ!! それなら、補佐官に」
「バカ者っ! 俺が番組に出て意味があるのかっ!? 俺は厳密には、EMPDの人間だろうがっ!!」
少なくともフジタさんが出るよりはパティが出た方が、GPOの番組としては、成り立つよね。
でも、パティは本当にダメらしい。普通に首を横に振りまくって、身体全体で『無理』と自己主張してる。
「とにかくだ。・・・・・・この場合候補はおのずと決まってくるな。もちろん、俺は除かれる」
うん、ですよね。だって、GPOのメンバーであるという看板を掲げるでしょ? 広報活動ではなくてもそれでも。
で、個人の特色を活かすって言っても、ある程度顔が売れてるのじゃないと番組が作り辛くなるしダメでしょ。
≪つまり、私ですね≫
「違うわボケっ! てーか、僕もおのれも、引いてはリインもGPOのメンバーじゃないでしょっ!? 当然除外だよっ!!」
「え、リインもダメなのですかっ! リイン、頑張る気満々ですよっ!?」
「頑張らなくていいんだよっ! この場合頑張る人間は、六人しか居ないんだからっ!!」
つまり・・・・・・目の前でなんかはしゃぎながら話を聞いているシルビィに、アンジェラにサクヤさん。
そしてナナにジュンに、話を持ち込んできたメルビナさんだ。あと、パティを除いたのには理由がある。
「確かにみなさんが一番妥当ですよね。というか、それだと新人である私は外れます」
パティはランサーになってまだ日が浅いそうだから、今ひとつ弱い。
というか本人がマジで嫌がっているので、メルビナさんも躊躇ってるらしい。見てて分かった。
「・・・・・・よかったぁ」
「パティさん、そんなにやりたくなかったですか? ラジオなんて簡単ですよ。
メタな発言全開で、昔馴染みの近況や秘密を勝手にバラせばいいのです」
≪あぁ、高町教導官とフェイトさん達がサウンドステージMでやってたラジオはそんな感じですね。
なら、あなたにも出来ますよ。ほら、適当にシルビィさんやジュンさんの恋愛遍歴なんてバラせば≫
「出来ないよっ! というかそれって最低なんじゃないかなっ!? 普通に友達なくしちゃうよっ!?」
というかパティ・・・・・・そこまでやりたくないんだ。もう必死だし。
よし、なら少しいじめようか。主に僕が楽しむために。
「でもパティ、ラジオでは慣れない新人のワタワタ具合を、微笑ましく聴くという番組もあるのよ?」
僕を含めた全員が、改めてそのワタワタするであろう新人を見る。
で、『そう言えば』と言わんばかりの顔になった。メルビナさんに至っては、何度も頷いている。
「だからパティでもいけるの。むしろそういう番組の方が、一般受けしやすかったりする」
まぁレギュラー番組でずっとそれだと、逆に反感買うけどさ。
スペシャル番組的に一回だけで素人って看板が付くなら、ひとつの売りになるのよ。
「や、恭文さんっ!? お願いですから、そういうことは言わないでくださいっ!!」
「蒼凪、それはいいアイディアだな。・・・・・・よし、パティには死ぬほどワタワタしてもらうか」
「パティ、頑張れ。あたし達はみんなで応援してるぞ」
「補佐官もジュン先輩も、お願いしますっ! あの、私は本当に無理なんですっ!!」
とにかく、メルビナさんが言っていた『オーディション』の意味は分かった。
それによって、この番組のパーソナリティを決めるという事なのよ。
でも、なんでそこまで? わざわざ月分署から戻って来たりとかしてるし。
普通にメルビナさんが長官権限で選出しても、全く問題ないと思うんだけど。
だから僕はやる気満々なメルビナさんにちょこっと聞いてみる事にした。
「でもメルビナさん、どうしてわざわざオーディションを? 普通にメルビナさんが選んでもいいと思うんですけど」
「いや、それなんだが・・・・・・すまん、お前達ちょっとこっちに」
メルビナさんが僕とフジタさん、パティとリインを呼び寄せてから顔を寄せ、小声で話して来た。
「メルビナさん、どうしたんですか」
「蒼凪の言うように、私の方で決めてしまおうかとも考えたんだ。一応権限はあるしな。
だがまぁ・・・・・・蒼凪とリインは分からないと思うが、うちのメンバーは全員個性が非常に強い」
小声で話しつつ、僕は全員を見る。そして、フジタさんが納得したような顔になった。
「長官、おっしゃりたいことは俺にもよく分かりました。確かに連中はアクが強い。それも相当だ」
「ようするに先輩達をここでテストして、実際にやらせた時にどうなるかを確かめておこうと」
「補佐官、パティ、正解だ」
≪まぁ、普通に考えても妥当な線ですよね。これ、実質GPOのPR番組になるんですよ?
それなのに変なノリになったら、とんでもないことになりますって≫
「GPOの威信や今まで積み上げてきた物が一瞬で崩壊する危険性、大なのです。リインも一応のオーディションは賛成なのですよ」
でも・・・・・・ジュンとかナナ辺りは、まともに見えるんだけどなぁ。
あと、サクヤさんもそうだしさ。シルビィ・・・・・・一番やばいな。で、アンジェラも子どもだから。
「はいはいっ! メルビナ、補佐官、アンジェラ質問なのだっ!!」
ほら、だから元気よく右手を上げて、僕達にキラキラした瞳を向けてくるのよ。
「なんだ、アンジェラ」
「オーディションって、美味しいのっ!?」
・・・・・・・・・・・・だめだ、これ。フジタさんが、なんかめまい起こしかけたし。
あぁ、倒れないでください。いきなり先行き不安になりましたけど、それでもしっかりー。
「とにかく、オーディションは1時間後に始める。
全員、自分の特色を生かした番組のプロットを立てるように」
「え、実際やらせるつもりですかっ! しかも、番組企画立てるところからっ!!」
「当然だ。というより・・・・・・すまん、また来てくれ」
あ、また小声になった。なので、僕達はまたスクラム組んでお話し合いです。
「これくらいしなければ、どうにも不安で不安で。そのためにわざわざまたこっちに戻ったくらいだしな」
「長官、その気持ちはよく分かります。俺もなぜだか泣きたくなりました」
「・・・・・・あなた方、この五人にどんだけ苦労させられてるんですか。反応がおかしいでしょ」
≪あの、真面目な意味で私なりマスターのような、外部で普通の人間がした方がよくありませんか?≫
「というか、ギャグ回だとしてもこのノリはおかしいのです」
とにもかくにも、オーディションはこうして開催されることになった。
というわけで、本日は基本こんなノリですので、了承しておいてね?
『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々
Report03 『You just bring my radio』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・というわけで、オーディションが早速始まる事になった。
まず、一番手は僕の大本命(ギャグ的な意味で)のシルビィである。というか、もう出オチだよ出オチ。
「・・・・・・ヤスフミって、愛情表現下手よね」
「はぁっ!? いきなり何言ってんのっ!!」
「アレでしょ? 気になる子はいじめて気を引くってタイプ。だから私にもそうやって」
≪「正解です」≫
「正解ちゃうわボケっ!! ・・・・・・まぁ、アレだよ。頑張ってね?」
・・・・・・はいはい、周りうるさいよっ!? 『きゃー』とか言うなっ!! ジュンは『ヒューヒュー』とかするなっ!!
≪ディレクションしながら、フラグ立てないでくださいよ?≫
「あれですね。終わったらもうシルビィさんは、恭文さんにラブラブになっちゃうかも知れないですね。
・・・・・・認めないのですよっ! リインというものがありながら浮気なんて、絶対許さないのですっ!!」
黙れやボケがっ! だから、おのれら絶対なんか勘違いしてるでしょっ!!
そしてリインも何言ってるっ!? 普通に僕達、そういう関係じゃないよねっ!!
「ならば、俺達は歴史の生き証人になるんだな。・・・・・・しっかり見ておかなければ」
「恭文さん、頑張ってくださいっ!!」
「蒼凪、私は仕事とプライベートの区別さえ付けるなら、職場恋愛に口出しするつもりはない。
ただ頼みがある。シルビィの妄想癖をしっかりと抑えてくれ。それだけしてくれれば私は何も言わない」
「フジタさんとパティとメルビナさんまで、二人のボケに乗らないでもらえますっ!? ここは乗っちゃいけないとこだからっ!!
てーか、立てられるわけがないからっ! そしてメルビナさんは涙目になるなっ!! 何をそこまで苦労してるっ!?」
それ出来たら、普通に奇跡だよねっ!? どんだけマッハなオフィスラブなんだよっ!!
てーか、僕は本命が居るのー! シルビィとそうはならないんだからっ!!
「・・・・・・あぁもういい。とにかくシルビィ、準備はいい?」
「いつでもいいわ。さぁ、やるわよー」
なお、僕がキューを振るのである。いや、これくらいしか仕事無くてさ。
それじゃあ、エコーをかけて・・・・・・3、2、1、キューッ!!
『シルビア・ニムロッドのぉ・・・・・・あなたに、会・い・た・い♪』
初っ端から、すっごい色っぽいキャラ作って声出したっ!? と、とにかく音楽流して・・・・・・!!
流れ出すのは、朝の始まりを連想させるような明るい曲。なお、シルビィが全部ぶち壊してくれたけど。
「こんばんわ、いかががお過ごしですか? 『シルビィのあなたに会いたい』のお時間です」
今、朝だけどね。太陽が燦々と差し込んでるけどね。でも初っ端は正直アレだけど、挨拶は普通だ。
「毎日、厳しい任務をこなして家に帰ると、私も一人の女の子。
・・・・・・あぁ、私も燃えるような恋がしたいなぁ」
普通じゃなかったしっ! あの、話の文脈が繋がってないよっ!?
てーかそれ、寂しいキャリアウーマンの愚痴じゃんっ! おいおい、最初からクライマックスだなぁっ!!
「それでは、早速シルビィの日記のコーナーに行ってみましょう」
で、視線で『エコーかけて?』と言ってくる。なので、エコーエコー・・・・・・オーケーだよー。
あと、事前に指示された音楽もかけて・・・・・・と。これでよし。
『・・・・・・今朝、起きた瞬間に感じたの。今日は運命の日になるって』
い、いきなりポエムコーナーっ!? 待て待て、冒頭一発目からこれはないからっ!!
『そして、あなたと出会ったの。朝のラッシュの中、あなたの横顔はとても凛々しかった』
いや、おのれは普通に車通勤だったよね? 僕、赤い綺麗な車を見たよ? それは誰の話だよ。
『あなたの輝きが、そっと私に囁いた』
『シルビィ、今日も可愛いね』
メルビナさんっ!? アンタなに普通に加わってるのさっ! そして、言ってから頭を抱えるなっ!!
『ふと振り向くあなた。・・・・・・・どうしたの?
目が合った。くすっと微笑むあなた。私、分かったの。コレが恋だって』
いや、分からないから。というか、普通に話してないよね?
本当に話してないよね? 全部これ、おのれの妄想だよね?
『二人は恋に落ちて、駆け落ちするの』
はぁっ!? なんでいきなり駆け落ちっ! 恋だと分かって、そうなるまでが読み切れないしっ!!
『結婚式は、高原の丘のチャペルで二人っきりっ!!』
王道貫き通すねちょっとっ! てーか待てっ!! これ、そもそも一体なんの番組っ!?
『新婚旅行は、南の島で熱い情熱的な愛を確かめ合うのー! それでねそれでねっ!!』
「「あぁもう、ストップストップー!!」」
エンジンかかってきたシルビィを、僕とメルビナさんが必死に止める。
で、それにシルビィが不満そうに頬を膨らませる。だけどこの女にそんな権利は、正直無いと思う。
「えー、ヤスフミの長官も、どうして止めるんですかー!?
ここからがいいところだったのにっ! 二人の甘い新婚生活を」
「語らなくていいよっ! てーか、この番組を聴いて、誰が得するのっ!?
シルビィの妄想をラジオで延々聞かされても、楽しくないからっ!!」
「そんな事ないでしょ? だって最初に個人の特色をって」
「特色出し過ぎてるからっ! なんで普通に塩梅が分からないっ!?
ほら見てっ!? 審査員の方々も全員×出してるしっ!!」
なお、審査員はフジタさんとパティ、リインにアルトである。全員、×の札を上げている。
あ、アルトの札は、リインが両手を使ってあげているのであしからず。
「・・・・・・俺がリスナーなら、冒頭でチューニングを変えるな」
フジタさん、中々に強いパンチをかましますね。いや、分かりますよ?
普通にあの色っぽい声で、なにか断層が出来てましたから。
「えっと、シルビィさんらしさは出てると思うんですけど、ちょっと・・・・・・すみません」
後輩であるパティでさえも、ここまで引いてる。やばい、マジでリスナー置いてけぼりだ。
少なくとも、この場に居る人間は置いていかれた。
「というかというか、全然ダメなのです。まさしく誰得番組なのです。
これならリインが恭文さんとのラブラブさ加減を語った方が、100倍マシなのです」
マシじゃないよっ! それ、全く同じ路線だよねっ!? むしろ逆に何がどう100倍マシなのかを、僕は聴いてみたいよっ!!
≪あれですよ、特化し過ぎですって。もう少し一般向けを狙うべきでしょう。
というか、ラジオで恋愛ネタやるなら、主にリスナーの話をやってくださいよ≫
「というわけで、満場一致でシルビィ失格。はい、お疲れ様でした」
「そんなー! 理不尽過ぎるわよ、こんなのっ!!」
「やかましいわっ! これが理不尽なら、今のEMPの現状は地獄そのものだよっ!!
理不尽の言葉の意味と重さを分かってないでしょっ! これはね、当然って言うのっ!!」
とにかく、ブーブー言ってるシルビィには下がってもらった。でも・・・・・・頭痛い。
いや、頑張ろう。一発目からこれだから、きっと後はみんなまともだ。
「次は・・・・・・サクヤ、頼むぞ。お前は、シルビィの二の舞にはなるな」
「はい、頑張らさせていただきます」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、優しい穏やか音楽を流して・・・・・・キューッ!!
次はこの方。当然、良識派である。あぁ、ここからは当然のように僕は楽が出来る。
『サクヤ・ランサイワの、アーカネストナイトー!! ・・・・・・ですわ』
・・・・・・あれ? なんかタイトルからして、非常にやばい気がするんですけど。
おかしいな。シルビィがボケた後は円滑に進むはずだったのに、裏切られた感じがする。
『・・・・・・ちゃっちゃちゃちゃー! ちゃっちゃちゃちゃー!! ちゃちゃちゃちゃちゃー!!』
な、なんか歌い出したっ!? あれ、これって岩男潤子さんの少コミナイトの出だしじゃっ! なんでサクヤさんが知ってるのっ!!
「みなさん、こんばんわー。サクヤ・ランサイワです。
・・・・・・果てしなく広がる次元世界、そこに世界の真理は存在します」
待って待って、なんかすっごい宗教関係者的な発言してるんですけど。
「さぁ、今週もアーカネストの世界で一緒に過ごしましょう。ちゃちゃちゃちゃー♪」
あぁ、なんか宗教色がー! サクヤさんの色というか、宗教色がすごい混じってるー!!
可愛らしいキャラで完全に誤魔化されてるけど、宗教番組だよねコレはっ! サクヤさんまで楽出来ないってどういう事さっ!!
「それでは、みんなに祈ろうのコーナーを」
「ストップストップッ! ストップー!!」
・・・・・・荒い息を吐きながら、僕は止めた。だめだ、これ以上はだめだ。
サクヤさんが戸惑い気味に僕を見るけど、気にしてはいけない。
「あの、蒼凪さん。何か私が不手際でも」
「いや、不手際って言うか・・・・・・あの、なんて言うかその」
最初のアレがあるからな、慎重にいかなくちゃ。二の舞はごめんだし。
「サクヤさんの番組はこう・・・・・・アーカネスト寺院の要素がありますよね?」
「えぇ」
なんかあっさりと、『今更何を言っているんですか?』という顔で認めたっ!?
いやいや、これ違うでしょっ! もしかしてこの人、趣旨の根源を理解してないんかいっ!!
「えっとですね、GPOの番組になるわけじゃないですか」
「えぇ」
「なので、そこでアーカネストの名前を出しちゃうと、色々と問題があるんですよ。
あ、ちなみにアーカネストが悪いとか、そういうことじゃないですからね?」
最初の事があるので、ここはしっかりと念押し。その上で一般的な観点から説明を続ける。
サクヤさんは今までの印象からすると、理性的な人だ。ちゃんと話せば、絶対に分かってくれる。
「ラジオを聴いてる人は、やっぱりサクヤさんの番組・・・・・・引いてはGPOの人間の番組だと思って、聴くわけですよ」
「・・・・・・つまり、そこでアーカネストの名前や、それっぽい単語を出してしまうのはダメなのですね。
リスナーの方々がGPO関係者の番組か、アーカネストの番組か分からなくなってしまう」
「そうそう、そうなんです」
「そう言われれば、確かに。・・・・・・私としたことが、失念していました」
よかった、納得してくれた。・・・・・・あー、まさか二発目でこんなパンチ強いの来るとは。不意打ち過ぎるぞ、おい。
なお、審査員の方々は×を上げて、僕の言葉にうんうんと頷いていた。みんな、空気を読んでくれていたらしい。
「とにかくサクヤさん、お疲れ様でした。あ、今言った部分を除けば、全体的にはかなり高得点ですので」
「本当ですか?」
「はい。あれですよ、癒し系番組って感じで、構えずに聴けそうでした」
まぁ、最初のアレにはビックリしたけどね。ただ、ツッコんでも楽しくなりそうにないので、スルーします。
そしてサクヤさんはどこか嬉しそうに、優しく微笑む。その笑顔に、少しドキっとしてしまった。
「・・・・・・ありがとうございます」
いやぁ、癒されるなぁ。でも、スペック高いよ。下手したらフェイト以上?
なんだろ、フェイトと話させたらすごい化学反応起こしそうで怖い。さて、次は・・・・・・ジュンか。
「よし、次はあたしだな。・・・・・・な、恭文。個人の特色を生かせばいいんだよな?
でも、今のサクヤみたいにGPOの人間がやってるかどうか分からなくなるのは、アウト」
「そうだね。もちろん、あんまりGPOってことは意識しなくてもいいよ?
でも、どっかの団体の名前は出さないでもらえると、ありがたい」
色々お金とかかかるしねぇ。普通にそういうのはやめた方がいいって。
「分かった。なら、これでばっちりのはずだ。
・・・・・・くくく、メインパーソナリティの座は、あたしがいただきだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『・・・・・・・・・・・・さわやかな風と共に走っていたい。そう、風は友達』
で、SEと。バイクのエグゾーストノートを流して・・・・・っと。
『ジュン・カミシロのっ! バイクで・・・・・・GO!!』
で、リズミカルでポップな音楽スタート。・・・・・・ジュンは、バイク番組か。
あ、こういうのはいいかな。あんまりカルト過ぎなければ、特色は出せるかも。
「こんばんわー。ジュン・カミシロです。みんな、楽しいバイクライフ、送ってるかな?
あ、先週事故ったカガサキ君と、ゴトウ君、ウチヤマ君は大丈夫かな?」
はぁっ!? 誰だよそれらはっ! てーか、待て待てっ!!
今更だけど、なんでシルビィもサクヤさんもジュンも、毎週続いてる番組って体でやってるのっ!?
「リスナー同士で事故るってのも、この番組ならではだよね」
『ならでは』じゃないよっ! 嫌だよそんな番組っ!! 普通に呪われてるのかと思うよっ!?
と、とにかくジュンが持ってきたディスクを、プレーヤーにセット。で、ジュンを見る。
「それでは今日は、この間行われた公開ツーリングの様子をお送りしましょう」
ジュンが左手で『再生して』とジェスチャーしてくる。なので、僕は非常に嫌な予感がしつつも、ポチ。
『ブォォォォォォォォォォォォォッ!!』
瞬間、部屋中にバイクの走行音が、流れ始めた。・・・・・・なお、映像は当然ない。普通にこれだけ。
「おい」
『ブォォォォォォォォォォォォォッ!!』
ひたすらに走行音が流れる。まぁ音の変化でコーナー曲がってるとか、そういうのは分かる。でも、これだけ。
「・・・・・・おい」
『ブォォォォォォォォォォォォォッ!!』
だからメルビナさんだって、非常に頭痛そうな感じだ。とりあえず、あれだ。
『ブォ』
僕はプレーヤーの停止ボタンを押して、音を止めた。で、ビックリしてるジュンに向かって、一言。
「ジュン、失格」
「妥当だな。私も異論はない」
で、審査員の方々も全員、×を上げている。はい、解決したね。よかったよかった。
「な、どうしてだよっ! 二人の失敗は踏まえてるだろっ!?」
「やかましいっ! その代わりに別の大きな失敗をかましまくってるでしょうがっ!!
別の大きな何かをジュンは置き去りにしてるのよっ!? 大体、これ何時まで流すつもりさっ!!」
「え、番組終了までだけど。なお、コンセプトは『風を感じる』だ」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ラジオナメてんのかお前はっ!! これ、別にテレビとかじゃなくて、ラジオなのよっ!?
音だけなんだよっ! 走行音だけなんて、手抜きもいいとこでしょうがっ!! むしろ事故だよっ! もう放送事故だしっ!!」
や、やばい。ちょっと酸欠になりかけてる。ジュンがちょっと涙目になりかけてるから、少し落ち着こう。
・・・・・・何気にジュンって、打たれ弱い? うわ、発言には気をつけないと。
「・・・・・・とにかくアレだよ。確かにいいチョイスだとは思う。バイク、趣味なんだよね?」
「あぁ。学生時代から、乗りまくってるしな」
「納得した。たださ、ラジオで公開ツーリングの模様をやるなら、走行中の様子は冒頭10秒くらいだって。
基本的にみんなはジュンの喋りを聴くために、チューニングを合わせているわけだからさ」
で、こういう感じだったと感じることは可能だ。僕も10秒くらいはそう思ってた。
でも、10秒超えたら『アレ?』になってた。普通に放送事故は間違いないと思う。
「じゃあ、それ越えた後はどうするんだよ」
「休憩している間に、みんなにインタビューして・・・・・・とか、走行以外の様子も録音して、放送するのよ。
そうすれば、レポートとしては充分過ぎるくらいよ。で、あとは参加者の感想メールとかを読む」
「そうだな。参加者からのメールなどを読んで、お前が振り返りつつ話す。1コーナーとしてはそれで充分だ。
ジュン、お前が立てたコンセプト自体は、蒼凪の言うように狙いはいいと思う。だが、余りに構成に手を抜き過ぎだ」
「なるほど。・・・・・・うん、それなら納得だ」
あ、納得してくれた。うむぅ、ジュンは大人だなぁ。どっかの恋愛バカと違って、とっても素直だ。
「てか、恭文。お前普通にラジオ番組とか詳しいのか?」
「まぁ、自分で聴いたりとかしてるから、そのおかげかな」
特にね、ゆかなさんのラジオー♪ 池澤春菜さんと出てるのが好きなんだー♪
それでそれでファンクラブにも入って、二人のお誕生会とか行って・・・・・・うふふー♪
「とにかくジュン。ジュンの場合は番組構成だね。コンセプト自体は、今までで一番だから」
「分かった。・・・・・・くそぉ、もうちょっとだったかぁ」
いや、ここは掛け値なしで言ってるよ? あとは、どれだけ大衆受けする方向に持っていけるかだよ。
特色を出すって言っても、そこをちゃんとしてないと聴いている人が置いてけぼりになっちゃうから。
「ちょっとちょっとっ! 私はっ!? ジュンがオーケーなら、私だって同じじゃないっ!!」
そして、シルビィが不満そうに・・・・・・あぁもうコイツは。なぜこうなるの? 僕、すっごい聞きたいんだけど。
「で、メルビナさん。次は誰ですか?」
「私よ」
後ろからファンシーというか幾何学というか、そういう模様のステッキを突きながら出てきたのは、ナナ。
僕から見ても今ひとつ謎キャラのナナは、自信満々にジュンと入れ替わるようにして、出てきた。
「全く、サクヤ以外はみんなダメダメね」
・・・・・・待て。ハッキリ言えば、サクヤさんもダメなのよ? なぜにそこでサクヤさんを抜かす。
「アンタも大変でしょ、擬似と言えどディレクターだもの」
「・・・・・・ナナ、そう言うってことは、僕は今回楽をさせてもらえると受け取っていいんだろうね?」
「当然よ。私がしっかりとした番組作りってのを、見せてあげるわ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『ナナイ・ナタレシオン・ナインハルテンのっ! COOKING・RADIO・ACTIVE!!』
・・・・・・クッキング? あ、料理物か。なるほど、ナナは料理が好きなのね。
あれ、場の空気がなんか冷たいものに変わったぞ? というか、恐怖だよ恐怖。
「はーい、ナナよ」
でも、いいテンションだ。軽快な音楽と共に、軽いノリで喋る。うんうん、高得点だぞこれは。
「全く、みんなダメダメよ。いい?
人にとって大切なのは・・・・・・衣食住っ!!」
ふむふむ、だから食にちなむわけです・・・・・・いやいや、ちょっと待ってっ!?
ま、まさかこの女・・・・・・ラジオで食べ物ネタをやろうとしてるんかいっ!!
「というわけで、私が本当の食ってやつを、教えてあげるわ。それじゃあ、早速このコーナーに行きましょうー」
やばい。これはコンセプトどうこうの前に、すさまじい予感しかしない。
ラジオで食べ物ネタは、絶対にやばいって。もう、地雷源突入だよ。
『今週の・・・・・・MIX・UP』
・・・・・・よし、まずは話を聞いてからだ。まずは、そこからでしょ。
「このコーナーでは、様々な食材をミキサーでMIX・UP。新しい世界へあなたをご招待するコーナーよ」
キャー! 地雷だったっ!! 間違いなく地雷だったよこれっ!? もうミキサーでMIXとか言ってる時点で、地雷だしっ!!
そして、すっごい楽しそうだなこの子はまたっ! 僕、キャラ変わっててちょっとビックリなんだけどっ!!
「今日の食材はね、納豆とプリンとトマトジュースとゴマと」
「「ストップストップッ!!」」
なんか普通に何かが既に混ざり切っているミキサーを、ナナは平然と持ち出してきた。
当然のように、僕達はナナを止める。ナナはとっても不満そうだけど、まずは話を聞いて欲しい。
「なによ、なんか問題ある?」
「いや、あの・・・・・・ナナ? ラジオで食べ物ネタは、ダメだって」
「どうしてよ。特色を出すんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・ナナ、もしかしてラジオ番組とかって、あんまり聴いたことない?」
もしかしたら、だからコレなのかもと思い、聞いてみた。で、ナナは頷いた。
うし、一応説明しておこうっと。じゃないと、ナナだってワケ分からないだろうし。
「あのね、ラジオ番組で食べ物って、一種のネタとして扱われ易いのよ」
「はぁ? ・・・・・・それ、どういうことよ」
「ようするに、まずいものを食べさせられて『なにこれっ!?』って状態になりやすいってこと。
逆に美味しいものを食べて『美味しいっ!!』ってのは、あんまりないんだよね」
ぶっちゃけラジオで美味しいもの食べて幸せそうな様子を流しても、それこそ『誰得』なのよ。
まぁリスナーからのお勧め品とかなら、後者でもいいんだけど、コーナーだと大体前者。
「そ、その通りよナナちゃん。ほら、自分の料理を、そういう風に見られたくないでしょ?
ヤスフミは万が一そうなった時の事を考えて、言ってるんだから。ですよね、メルビナ長官」
「そうだぞ、ナナ。いや、蒼凪だけではなく私達も心配だ。それもかなりな」
そしてシルビィにメルビナさん、というかGPOメンバーはなぜに必死?
僕、さすがにそこまでは言ってないんですけど。
「アンタ、そうなの?」
「まぁ、心配ではあるかな」
主に僕の胃袋とか。あのノリだと、アレを飲んでとか言われそうだし。
「・・・・・・会って数日も経ってないのに、そこまで考えててくれたんだ」
「だって、『袖すり合うも他生の縁』って言うでしょ?
これでナナが笑いものみたいに扱われたら、僕だって気分が悪い」
あれ、なんか黙った。てゆうか、普通に僕の事ジッと見上げてるんですけど。
というか、なんか頬が若干赤いんですけど。あれ、これはなに?
「ま、まぁ・・・・・・そこまで言うなら、仕方ないわね。
私だって自分の料理をネタにされたくないし、納得するわよ」
あ、そっぽ向いて、納得してくれた。・・・・・・あの、これはなに? 僕、マジで何もしてないんだけど。
「・・・・・・蒼凪、助かった」
「ヤスフミ、本当にありがと。あなたは私達の命の恩人よ」
「いや、意味分かりませんから。なんですか、この異常な置いてけぼり感は。
そしてどうしてフジタさんは顔面蒼白で震えてるんですか。おかしいでしょ、アレ」
「そうか、お前は知らなかったな。後で説明してやるから、今はこれで納得してくれ」
メルビナさんがすごく疲れ果てた表情で言うので、もうここで納得する事にした。
なお、ナナは相変わらずつんつんモード。だけど、頬が赤い。・・・・・・なに、これ?
「とにかく、最後はアンジェラか。・・・・・・まぁ、期待はしていないが、よろしく頼」
言いかけたメルビナさんが、固まった。で、僕とナナも固まった。
アンジェラが・・・・・・どろどろのミキサーの中の液体を、飲み干してる。
「・・・・・・ぷはぁ。ナナちゃん、これ美味しいね」
「アンジェラ、アンタ光ってるわよ?」
「てーか、蛍光色・・・・・・メ、メルビナさんっ! これなんですかっ!?」
「とにかく、次だな」
「いけるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・蛍光色できらきらしているアンジェラを見てると、目が痛い。
そんな事を思いつつ、僕は再びキューを振る。そして始まった。伝説と呼ばれる番組が。
『チョコレートに、クッキーに』
え、なんかポエム調っ!? というか、普通に食べ物じゃないのさっ!!
そして、次々とありとあらゆる食べ物を並べ立てる。でも、あの・・・・・・え?
『・・・・・・みーんなみーんな、大好き』
いやいや、ちょっと待って? ポエム調でちょっと可愛いけど、基本的に食べ物の話だけだよね? なんでそうなるのさ。
『もっと美味しくっ! 食べるのだー!!』
番組タイトルまでもが、食欲に染まりきってたー!!
「みんなー! お腹ときめいてるー!? アンジェラだよー!!」
ときめかないよっ! てーか、お腹ときめくってなにっ!? どんだけおのれの食欲は、乙女モードなんだよっ!!
「今日も、スタジオにいっぱいいっぱいご飯が沢山なのだー!!」
何時の間にか、アンジェラの周りにはお菓子やご飯やおかずが沢山・・・・・・って、何の固有結界だよっ!!
「じゃあ、早速食べるのだっ!! ・・・・・・はむはむ」
「「ストップストーップッ!!」」
全力全開で蛍光色のアンジェラを止める。・・・・・・だめだ、最後までまともじゃなかった。
結局全員ツッコミ所満載って、どういうことっ!? これはおかしいでしょうがっ!!
「うー、メルビナも恭文も、なんで止めるのだっ!?」
「止めるに決まってんでしょうがっ! ついさっき言わなかったっ!?
美味しいもん食べてる様だけを聴いても、基本的に番組は成り立たないんだよっ!!」
「その通りだっ! それになにより、その形式不明武装多脚砲台は、私のだろうがっ!!」
・・・・・・なにっ!? その形式なんちゃらかんちゃらってっ!!
「あ、形式不明武装多脚砲台は、牛丼の事よ? 昔色々あって、GPOではそういう風に呼んでるの」
僕が疑問に思っていたのを察したのか、シルビィがとっても丁寧に補足を入れてくれた。
それに僕はすごく納得・・・・・・出来るかボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「何がどういう風になったらそうなるのっ!? おかし過ぎるでしょうがっ!!」
「あ、恭文も食べるー? ほら、こっちの形式不明武装多脚砲台・特盛り、あげるからー」
「うん、じゃあもらっちゃおうかなっ!? でも、普通にその名称はやめてっ! それ特盛りって美味しさ半減だからっ!!」
あぁ、なんなのこれっ!? てゆうか、普通にどいつもこいつもマトモな番組作りゃあしないしっ!!
シルビィが恋愛妄想で出オチだと思ってた僕は、もしかして間違ってたっ!? うん、分かってたわっ!!
「・・・・・・もういい、お前らには任せておけん。
あとアンジェラ、その形式不明武装多脚砲台は、あとで弁償してもらう」
メルビナさんが右拳をフルフルと震わせながら、握り締める。だけど、言ってる事が若干アレ。
そしてその右拳を開き、色々アレな番組を作った五人を、ビシッと指差す。
「この私がっ! 真のラジオ番組というものを見せてやろうっ!!」
おー、なんかすっごい宣言した。というか、普通にメルビナさんが燃えている。
「そうだ、蒼凪」
「はい? てゆうか、なんで僕をそんな燃えている目で見てるんですか」
「お前も手伝え」
・・・・・・・・・・・・よし、ちょっと待って? 今、とんでもないフレーズが聞こえたんだけど、気のせいかな。
「というか、お前もダメ出ししまくった以上、出来る所を見せるべきだろう。
お前も今から私と番組をやるんだ。なお、当然のように拒否権はない」
「えっ!? ・・・・・・いやいや、僕はGPOメンバーでもなんでもないじゃないですかっ!!
そして僕の拒否権を勝手に剥奪しないでっ!? どんなジャイアニズムですかっ!!」
「細かい事は気にするなっ! いいから、私に続けっ!!」
「続けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・この形式不明武装多脚砲台、美味しいね」
≪なんかここの形式不明武装多脚砲台、リニューアルしたんだろ?≫
「うん。前よりお肉が柔らかくて、ジューシーなのよ。いや、この型式不明武装多脚砲台は中々」
・・・・・・定食屋(ふたば軒)で俺の目の前で丼物を食べながら、意味不明なことを言う女が居る。
そいつの名前はヒロリス・クロスフォード。俺の弟子仲間で、同僚で、腐れ縁。
「まぁまぁ待て。普通に待てよ」
「なによ、サリ」
「・・・・・・形式不明武装多脚砲台って、なんだ」
「え、牛丼だけど」
なんかすっげー勢いで言い切ったっ!? お前、『なんでそんなこと聞くのさ』って顔をするなよっ!!
俺がおかしいみたいだろうがっ! おかしいのはお前だからなっ!?
「いやさ、メルビナの奴がこういう言い方しててね、私もそれに倣ってるのよ。面白いでしょ」
「面白くねぇよっ! あと、それビック盛りだろっ!?
形式不明武装多脚砲台のビック盛りって意味分からねぇしっ!!」
≪・・・・・・アメイジア、本当なのか?≫
≪本当だ。メルビナのねーちゃんは普通にこういう面白いところがあるから、俺も姉御も好きなんだよ≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というわけで、本日のお相手はメルビナ・マクガーレンと」
「蒼凪恭文でした。それでは皆さん、よい一週間をお過ごしください。では、また次回」
『See You AGAIN!!』
・・・・・・すごいです。即席コンビのはずなのに、30分に渡って突っ込みどころ全くなしで番組やり切ったです。
なのでリイン達審査員も・・・・・・全員、満点なのです。
「・・・・・・十二分に視聴に耐えうる番組だと思います。
これなら、GPOの看板を掲げても恥ずかしくないでしょう」
「あの、えっと・・・・・・ごめんなさい。私、恭文さんのこと誤解していました。まさかこんなことが出来るなんて」
「恭文さんの新しい魅力を発見したのです。というかというか、メルビナさんも凄いのです」
≪気品さもありながら、親しみ易さもある。普通にこれなら、レギュラー放送にも耐えうる番組でしょう≫
みんな、信じられないくらいにべた褒めです。・・・・・・なお、恭文さんはアシスタントとして、メルビナさんを立てまくりました。
メルビナさんは、大人の女性パーソナリティという感じで、軽快なトークを恭文さんとやりまくって・・・・・・だから、シルビィさん達も感動してます。
「長官っ! 私、感動しましたっ!!」
「長官と蒼凪さんがおっしゃっていたことは、こういうことだったんですね」
「悔しいけど、これならこっちだよな」
「まぁ、こういうことなら、納得しないことも・・・・・・ないかな?」
「・・・・・・アンジェラ、お腹空いたのだ」
みんなの様子に二人は勝ち誇ったような顔をして、拳をぶつけて互いを称え合います。
・・・・・・でも、恭文さんが出るのはまずいんじゃ。やっぱりGPOじゃないですし。
「じゃあ、満場一致でパーソナリティは、メルビナさんで異議なし?
あ、僕は除いてね。あくまでも今のは、ピンチヒッターなんだから」
『意義なーしっ!!』
「・・・・・・蒼凪、いっそお前も出てはどうだ? 一応、今はお前もGPOの人間ではあるしな。
なにより私は、お前とラジオをするのはとても楽しいと感じた」
「いやいや、それだと個人のパーソナリティじゃなくなりますって。
依頼の前提そのものがダメになりますし。ここはメルビナさんに頑張ってもらわないと」
「そうか。では・・・・・・全力でやらせてもらうとしよう。お前やみんなの分まで、しっかりとな」
こうして紆余曲折あって、ラジオパーソナリティは決定しました。・・・・・・したハズだったんです。
このすぐ後、メルビナさんは非常に荒れる事になるのです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・私だ。先日オファーの有ったパーソナリティの件だが、私がやることになった。
番組コンセプトはかくかくしかじか・・・・・・という感じだ。未熟者ではあるが、よろしく頼む」
・・・・・・え、だめ? 待て待て、それは一体どういうことだ。
「なになに? もう既に次元世界を桃色に染める番組があるので、私の声やコンセプトだとそれに被るっ!?」
待て待てっ! 私はその桃色などと言ういかがわしい番組とは、一切関係がないぞっ!! 言われても困るんだがっ!?
「・・・・・・その番組も、初めは真面目路線だったっ!? それが段々とおかしくなっただとっ!!
具体的には屋形船で録音した辺りから、番組が汁塗れになっただとぉっ!!」
ま、待てっ! なら私以外の誰がやるというのだっ!! 補佐官やパティ、蒼凪とリインはダメなんだぞっ!?
あとは恋愛バカやボケボケ司祭や、バイク馬鹿一代に次元世界まずい料理選手権一位に、大食いキャラしか居ないだろうがっ!!
いやいや、それに何より・・・・・・私の打ち立てた番組とその汁塗れといういかがわしい番組を一緒くたにするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夜、凄まじくヘコんだ様子のメルビナさんと、それをフォローするサクヤさんは帰っていった。
・・・・・・まさかメルビナさんがダメ出しされるとは。てーか、それなら最初から言っておきなよ。
「結局、パティしかいないからやらせてはみたけど」
「ワタワタし過ぎて、本番になったら心臓止まりそうな勢いだったよねぇ。
・・・・・・てーか、あれは絶対止まるな。そして、歴史に残る放送事故だよ」
とりあえず、パティにソロパーソナリティは無理だと判断した。
で、みんなの提案で僕がアシスタントに入ったらどうだろうとなったので、それもやってみた。
「そうしたら今度は、あの子がアシスタントみたいになっちゃうもの。あれは無理よ」
「そうだね。・・・・・・実はさ、みんなには言わなかったけど、アレで番組を成り立たせる方法が一つだけあるの」
「そうなのっ!? もう、それならそうとどうしてあの場で」
「僕がパティにシモネタ振りまくってセクハラしまくるの」
あれだよ、僕がラジオでパティにスリーサイズとかファーストキスとか初体験とか聞きまくるのよ。
あと、週に何回エッチするかとか、自慰はするのかとか、好きな体位は何かとか。
それなら、女性パーソナリティがワタワタして、それを楽しむアシスタントって形になる。
例えパティが心臓止まる寸前までワタワタしてもOkなんだけど・・・・・・やっぱダメらしい。
目の前のシルビィが僕の話を聞いて、言わなかった理由とかどんな話をするのかとか察したようだ。
だから納得したように軽く頷いた。・・・・・・通じ合えるって、素晴らしいよね。
「納得したわ。というか、それはダメよ。パティがパーソナリティとして成立しても、GPOの品性が疑われちゃうもの」
「納得してくれて嬉しい。うん、やっぱダメに決まってるよね」
「でもパティ、あんなあがり症だったなんて。私達、ちょっとビックリしたわ。ランサー試験は大丈夫だったのに」
「多分、パティ個人を求められてるからじゃないかな。ランサーとしてとか、そういう能力とはまた別。
だからパティは、役職とかランサーとしての能力を抜いた自分に自信が持てなくて、アレ」
話していて、フェイトと似た印象を受けたのよ。フェイトもお仕事で執務官モード入ると、キャラが変わるし。
フェイト個人は基本的に穏やかで優しくて、多分こういう仕事もパティと同じように慌てながらやると思うな。
「・・・・・・・・・・・・個人としての自分に自信が持てない、か」
「シルビィ、何かそういうので心当たりでもあるの?」
「実を言うと・・・・・・というか、ヤスフミちょっと気づいてるでしょ」
「まぁ、一緒にラジオやったしね」
手元を動かしつつ、僕はシルビィに頷いて答えた。嘘言っても、もう仕方ないから。
「というか、あの時のパティとプライベートのフェイト、キャラがモロ被りでさ。それでなの」
「それでか。うん、納得した。ただ・・・・・・ごめん。私から勝手には話せないんだ」
「いいよ。僕も無理に知りたいとは思わないから。生きてれば、そりゃあ色々あるでしょ。
まぁアレだよ、思い当たる部分があるなら気をつけてあげて? こういうの、やっぱ辛いらしいから」
「・・・・・・ありがと」
今日の仕事の報告書をシルビィと書きながら・・・・・・いや、パーソナリティしかしてないんだけど。
とにかく書きながら、今日の事を振り返る。・・・・・・結局今回の話は、全て無しになった。
「とにかくパーソナリティだけど・・・・・・僕やアルト、リインならまだ出来るけど、GPOメンバーじゃないしなぁ」
「補佐官も厳密な事を言えばGPOに正式所属というわけじゃないから・・・・・・あぁ、勿体ないなぁ」
「しゃあないでしょ。メルビナさんがもうキレちゃったんだから」
「あぁ、確かにあれはねぇ。・・・・・・あ、そうだ。ね、ヤスフミ」
うん、なに? てゆうかシルビィ、普通に顔近いって。どうしたのさ。
「明日、お休みもらってるわよね? せっかくだから、ちょっと付き合ってよ」
「・・・・・・え?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・なのはちゃんがなんやおかしい?」
「まぁアイツがおかしいのは、いつもの事なんだけどよ」
チビスケがなんやニムロッド捜査官と仲良うしていたその頃、ここはミッドのうちらの自宅。
バニラのアイスキャンディーを食べつつ、ヴィータがリビングでそんなことを言ってきた。
「ヴィータ、お前・・・・・・容赦ないな。まぁ、我もそう思うが」
ザフィーラ、アンタまで同意見かい。なのはちゃんに対して、どんだけ歪みない認識持っとるんよ。
「で、どうおかしいんや?」
「まぁ、おかしいって言うのもあれか。・・・・・・ファンになってんだよ」
「ファン?」
「ほら、今バカ弟子とリインが居る世界に亡命してきてる、アルパトス公女だよ。
部隊の設立の打ち合わせしてる時に、やたらとその事を話してくんだよ」
・・・・・・あぁ、あの公女さんか。それやったらうちも納得や。いや、うちだけやない。他のみんなも同じくや。
「なるほど。アルパトス公女の人気に、なのはもご他聞に漏れず肖っているというわけか」
「でも、それは分かるわ。私もファンだもの。シグナムもでしょ?」
「私はファンというほどではない。だが、好感の持てる方だとは思う」
現在アルパトス公女は、ヴェートルローカルではあるけど、テレビなどのメディアに毎日のように出とる。
もちろん理由はある。カラバの復興支援のお願いや。・・・・・・まぁ、当然やな。
いきなり家族皆殺しにされて、これからクーデター派がカラバ仕切りますとか言われて、納得出来んやろ。
そしてその映像は管理局・・・・・・次元世界全体に回っている。
人それぞれ理由はあるけど、カラバとヴェートルの問題は注目度高いもん。
必然的に自分の現状とクーデターの不当性を訴えかけるために、身を削っている公女も同じや
ここひと月くらいは特に出てるなぁ。何回かミッドの方で、特集番組が組まれたりしとるし。
で、めっちゃ可愛くてメディアに出てる話し振りも相当に好感が持てるから、人気が高まっとる。
あれよ、どこぞのアイドルなんてメやないから。もしも歌のCD出したら、確実にミリオン行くレベルやで?
「てゆうか、リンディさんも年甲斐も無くファンになっとるらしいわ。
レティさんがちょおボヤいてたもん。一緒にファンクラブ入ろうって誘われたって」
「・・・・・・それはまた相当ですね。リンディ提督、そういう人じゃないのに」
「いやシャマル、あの人も何気にノリが軽いから、これは有り得るで?
ただ、公女への注目度が上がるのに反比例して、局の支持率が下がってるのがアレやけどな」
局は理由はどうあれ、犯罪を見過ごしているのと同じや。非難されんはずがない。
カラバのクーデター派の仕業と思われるテロは、未だに起きとる。
あと恭文達が居るGPOに、ヴェートルの管理局中央本部は負けてもいる。
そういうのも報道されとるんよ。それは現状の局の支持率の下がり方に、拍車をかけとる。
あれよ、もうすぐ局の支持率を公女の人気が追い抜くやろ。
世間は確実にその方向に動いとる。反対意見が絶対的に少ないもん。
というか、この状況で公女を叩くような意見なんて、出せんって。確実に総スカン食らうわ。
「主はやて、実際問題本局・・・・・・クロノ提督やテスタロッサが動くのは」
「かなり難しいらしいわ。うちも気になってるから、クロノ君達にはちょくちょく連絡取ってるんやけど、さっぱり」
ヴェートル政府が管理局に対して言い方悪いけど、反抗的なのは事実やからなぁ。
局上層部であんな世界見捨ててもえぇとか思うてるの、絶対居るやろ。
なら、なんで管理世界に認定したんかって思うやろうけど、しゃあないんよ。
普通に次元航行技術を確立して、次元世界の存在に気づいてもうたんやから。
「フェイトちゃん愚痴ってたもん。こんな状況を止めるために執務官になったんに、何も出来んって」
部隊設立のために色々と連絡取り合う時に、漏らしてたわ。で、苦い顔してた。
恭文に局の仕事に興味持ってもらいたくて、また誘ったらしい。で、そうしたらその事持ち出されたとか。
何も出来んのも、現状を変えられず止まってるだけなんも嫌やとハッキリ言われたとか。
ガジェットの事もさっぱりなのが、余計拍車かけとるんやろうなぁ。・・・・・・マジで局はおかしいわ。
くだらない柵と常識のせいで、一般市民や下っ端がめんどくさい想いをしてばっかやし。
「そうですか」
「まぁ、シャーリーも居るからあんま心配は・・・・・・あぁ、心配やな。
こんなめんどい状況に凄まじく運が悪いのが、当然な顔して首を突っ込んどるんやから」
てーか、これを頼んだアイツの友達は何考えとるんや? これ、明らかに厄介ごとフラグやろ。
アイツの運の悪さは相当やし。あぁ、絶対何か起こる。確実に何か起こるわ。
「てーかよ、バカ弟子やGPOも相当苦戦してるらしいよ?」
「あ、アンタ連絡取ってたんか」
「うん。アイアンサイズって連中の事で、相談された。でさ、バカ弟子もボヤいてたよ。
想像以上にヴェートルの中央本部が動いてないし、役立たずだって」
・・・・・・アイツがそこまで言うって事は、相当かいな。アレでもこういうことに関しては良識派やからなぁ。
自分の好き嫌いで、相手方の能力をボロクソ言う奴ちゃうもん。つまり・・・・・・マジでアレってことや。
「じゃあ、あれかいな。GPOとEMPDに任せっきりっちゅう感じか」
「みたい。テロの方も捜査はしてるみたいだけど、管理局はEMPの現地住民からの受けが相当良くないから進展しないんだって」
なるほど。それやと聞き込みしても、反応がナシのつぶてなんやろうな。
市民が局の捜査活動に協力する姿勢を示してくれんって・・・・・・それ、マジで相当やんか。
「・・・・・・そこまでか。まぁ、政府自体が局の管理を否定しているからな。そういうのもあるのだろう。
そしてなにより今回のことだ。EMPの現地住民の反応も、無理は無いのかも知れんな」
「政治的意向はともかくとして、ヴェートル現地政府は困っていた子ども達を助けただけや。
で、公女が悪人とかちゃうやろ? それやのに局がこの対応やから、普通にムカついてるんやろ」
今回かてそのテロの実行犯であるアイアンサイズに対して、有効打を打ててないらしいしなぁ。
なんや、相手方の能力がブッチギリらしい。魔法はサッパリ通用せんし、デバイス吸収されてまうし。
攻撃しても再生されて、その上デバイスは吸収される。これ、どんなチートや?
普通にありえんって。・・・・・・スターライトで木っ端微塵に吹き飛ばすしか、対処ないんやないか?
「主はやて。テスタロッサの心配と苛立ちは、蒼凪がそんな連中と事を構えているのも原因なのでしょう」
「そうやな。ほんまやったら助けてあげたいんやろうけど、それも出来んようやし」
なお、全員もう分かってるから口に出さん選択肢がある。それはアイツが今回の件から手を引くこと。
これは絶対ない。もう関わって、現状を見てもうてるはず。だったらアイツは最後まで関わるわ。
「まず局員である私達は、何も出来ない。だって上が傍観の姿勢を崩さないから。
結果的に恭文くんのような嘱託や、GPOのような外部組織に全てを任せる形になっている」
「その通りや。今回の一件では管理局も局員も、何も出来てない。マジで全部人任せになっとる。
いや、そもそも組織体制からして何もしようとしてないんや。見過ごして、臭いもんに蓋をしとる」
あれよ、普通に増援送るとかも出来んのよ? ヴェートル政府との色々な軋轢に、拍車をかけるかも知れんから。
EMPで起こっとるテロが広域次元犯罪かどうか分からんのも、それが不可能な理由や。
執務官で、ある程度の独立行動の権限を与えられとるフェイトちゃんも動けないような状況が、今や。
なんや色々圧力というか、そういうのがかかっとるらしいわ。最近まで強引に、別の事件捜査を割り当てられてたしなぁ。
「アレやな、ヘイハチさんみたいに立場無くすの覚悟で暴走って手もあるやんか?
でも、フェイトちゃん達はそれも出来ん。そやから余計に・・・・・・なんやろうなぁ」
人それぞれに道がある。フェイトちゃんの道は、そういうんのは無しなんやろ。どっちが良くて悪い言う話ちゃう。
チビスケやヘイハチさんが暴走して、色んなもん振り切ってでも小さくて大事なもんを守ろうとするんのも道。
うちにフェイトちゃん、みんなが組織の人間として動いて、大きくて沢山のもんを守ろうとするのも道や。
フェイトちゃん、生真面目というか自分の感情より人の事や仕事優先にしてまうからなぁ。
仕事や局からの命令優先にすると、チビスケは危険なまんまや。
そやけどチビスケの事は心配で何とかしたくて・・・・・・だけど、任された仕事と責任は放置出来ん。
とりあえずアレや、フォローしておこうか。友達としても、アレはなんとかせなあかんやろ。ちゅうか難儀やなぁ。
フェイトちゃん一人で何でもかんでも出来るわけちゃうんやから、もうちょい楽に構えてえぇと思うんやけど。
「あ、だったらなのは・・・・・・は、ダメだな。アイツ、すっげー勢いで公女のファンやってるし」
「絶対空気読まんな。はぁ、しゃあないか。うちがちょくちょく連絡取って、フォローするわ」
なんて話して方針を決めていると、懐から着信音。
この着信音は、携帯端末から。で、この着メロは・・・・・・クロノ君?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『とりあえずアレや。クロノ君もフェイトちゃんのフォローは頼むな?
あのチビスケの事やから、絶対またなんか妙なカード引くに決まっとるし』
「分かっている。・・・・・・はやて、感謝する」
『えぇよ、別に。だってうち、友達なんやから。それで用件は・・・・・・カラバに行って欲しい、やったな?』
「あぁ」
恭文が向こうのニムロッド捜査官と親睦を深めていた頃、僕は本局の自分のデスクから、はやてに通信をかけていた。
用件は実にシンプルだ。管理世界であるカラバに潜入し、調査して欲しいというもの。
『なぁクロノ君。分かっとるとは思うけど、今それをうちらがやったらまずいやろ』
「まずいな。だが、このまま何もせずに手をこまねいているのはもっとまずい」
『・・・・・・いや、確かにカラバのクーデター派の犯罪やて立証出来んと、うちら動けんけど』
現在本局が動けないのは、EMPで起こっているテロがカラバ関連だと証明出来ないから。
だが、調査しなければそうだと証明出来ない。だが、証明するものは何一つない。
だから、調査出来ない。・・・・・・堂々巡りもいいところだ。全く、上は何を考えている。
ヴェートルとの外交問題が非常にややこしいのは事実だろうが、だからと言ってこれはないだろう。
恭文でなくても局を・・・・・・組織を嫌いになる。現に今のフェイトがそれになりかけだ。
局の中で、執務官の仕事の中で、自身の通したい理想や願いがあるから大丈夫なだけ。そう、ただそれだけだ。
『でも、マジでえぇんか? これバレたら大問題やし』
「違う、そういうことじゃないんだ」
はやての言葉を切るように、僕は否定を口にした。
今回はやてに頼みたいのは、今はやてが想像しているものではない。
「はやて、僕が君に頼みたいのは、クーデター派の犯罪の証拠を掴むことじゃない」
『・・・・・・クロノ君、どういうことや? もうちょい話してもらわんと、うちは動けんで』
「分かっている。・・・・・・先日、僕宛てにGPOのランドルフ・シャインボルグ捜査官から連絡が来た」
なお、面識は全くない。名前も初めて聞いた。聞いて調べて、そこで誰かを知ったくらいだ。
GPOという半民間組織の中でも上の役職に居る、優秀な人物。なお、元局員だ。
魔法資質は無く、許可を取って質量兵器を扱うガンナーだった。ここはニムロッド捜査官と同様。
今恭文とリイン達が居るヴェートルのEMP分署で働いていたこともあるということが分かった。
そして現在はヴェートルの月分署で働いているはずの人物が、僕にコンタクトを取ってきた。
なお、その原因はヒロリスさん。ヒロリスさんはGPOのマクガーレン長官と飲み友達らしい。
この辺りは恭文から聞いていたんだが・・・・・・そのヒロリスさん経由で僕の事も聞いたらしい。
なんでもマクガーレン長官に付き合わされる形で、ヒロリスさんと何度か顔を合わせたとか。
色々考えたが、現状の局でこの問題に対して積極的に動いている僕に、頼る事にしてくれたそうだ。
何も成果を出せていないのにそう言ってくれたのは・・・・・・喜ぶべきかどうか、少し迷ってしまう。
『で、半民間の警備組織の捜査官が、なんでいきなりクロノ君に連絡を?』
「現在彼はカラバで潜入捜査活動中だそうだ」
理由は言わなくても分かると思う。この一件が、クーデター派の犯罪だと立証するためだ。
マクガーレン長官からの内密の指示で、潜入したと話していた。
「だが・・・・・・捜査中に色々ときな臭くなってきたらしい。
なお、クーデター派に自分の事がバレそうになったから救援して欲しいということではない」
『まぁそうやろうな。それやったら頼む人間間違えて・・・・・・ちょお待って」
はやては気づいたらしい。連絡をもらった僕と同じように、怪訝そうな顔をしている。
確かに大事な所は一切言っていない。だが、概要だけで事の重大性が伝わるようにはなっている。
「まずうちらに自分の身が危なくなったからSOSしたんとちゃう。
それでなおかつ調査中にきな臭くなった? クロノ君、それってまさか』
僕ははやての言葉に頷いた。一応テロ関連の調査ではないので、ギリギリ大丈夫なはずだ。
ハッキリ言えばただの屁理屈だが、それでも必要な事である。
『マジかい。・・・・・・なるほど、そやから局で信頼出来る人間にも協力して欲しいと。
で、下手するとGPOの方だけじゃどうにも出来ん可能性があるんか』
「そういう事だろうな」
でなければ、現状で役立たずの上に話しか知らない僕達になど頼るはずがない。
まずさっきも言ったが、潜入捜査がバレそうになったわけでもなんでもないんだぞ?
何か・・・・・・何か大きな事実を掴んでしまったと見るのが正解だと僕は思う。
それも下手をすれば、今の図式が180度変わりかねないほどの大きな事実だ。
『確かになぁ。あぁもう、なんでこの状況で更に面倒な可能性が出てくるんよ』
「奇遇だな。僕も全く同じことを思っていた」
・・・・・・世間では公女と公子は、悲劇の王族とされている。そして、クーデター派は悪者だ。
単純明快とも言える勧善懲悪の図式。これこそが、世間一般に広まっているクーデターの事実。
そのために、公女達の人気は次元世界において徐々に高まってきている。
いや、3ヶ月前から今と比較するなら爆発的にだ。というより、おかしい部分もある。
この次元世界では管理局システムが絶対であり、当然ともされている。
まぁ色々意見もあるだろうが、そこは置いておいてくれ。僕も色々疑問はあるんだ。
そんな中においてなぜカラバという世界が自治権を主張し、管理局に認められている? それも本当に長い間だ。
自治権ならば聖王教会も同じくだが、ミッドや別世界の一部を自治区としている聖王教会とは規模が全く違う。
カラバに関して言えば、世界が丸々一つカラバ王国の物になっている。これは次元世界の中でも異例中の異例。
現にヴェートルに関してはこの4年の間に、相当に揉めている。決して簡単な話ではない。
「とにかくはやて。カラバという国の歴史や王族の詳細をシャインボルグ捜査官と協力して早急に調べてくれ」
『無限書庫の方は?』
「既に頼んである。だが、おかしいんだ。無限書庫にはカラバの詳細なデータが一切無い」
『はぁ? 次元世界の知識の全てが詰まっとるとか言われてるのにそれなんかい』
カラバという世界は、実はそれほど知名度があったわけじゃない。
今回の一件が広まった事で、名前が知られたと言ってもいい。
だからだろうか。無限書庫でも、カラバの資料は少ないらしい。
というより、現状メディアで報道されている程度の範囲・・・・・・一般常識レベルでの資料しかないとか。
「ユーノからもこの調子が続くようなら、現地調査が一番いいと勧められている。
だからこそ君にお願いしているんだ。もちろん出来うる限りのサポートはさせてもらう」
『なるほどなぁ。・・・・・・納得したわ』
フェイトも動かしたいところではあるが、フェイトははやてと違い所属がしっかり決まっている。
それで下手に動かすと周辺に感づかれてしまう。そうなると、かえってシャインボルグ捜査官の邪魔をしかねない。
つまり今の段階で動けるのは恭文のような嘱託か、はやてのようなフリーの捜査官だけだ。
もしくはシャインボルグ捜査官のような、外部組織の人間だけ。・・・・・・本当に歯がゆい。
色々矛盾や問題の多い組織だとは思っている。それでも信じられる人間は多いとも思っている。
だが今回はブッチギリ過ぎだ。正直僕も、飛び出せるなら飛び出してしまいたい。
それほどに現状が腹立たしい。自分に対してもそうだが、フェイトや部下達にも申し訳が無い。
何とかしたいのは、全員同じなんだ。だが僕は上司として、それに対してNGを出す必要がある。
本当に腹立たしい。僕はこんな事をするために、局員を続けているわけではないというのに。
『・・・・・・了解や。まぁ、歴史の勉強やと言えば、納得してくれるやろうし、大丈夫やて』
「そうだといいんだがな」
まぁ色々とバレないようにはして欲しいと、念押しはした。バレると、非常にうるさいからな。
『あとは・・・・・・チビスケとリインか。まぁ、向こうさんのランサーも腕が立つ言うし、多分大丈夫か』
「あぁ。・・・・・・現状維持だけならな」
『そうやなぁ。今回の賊はチートキャラやもん。それも今までにないレベルや。
質量兵器も扱えるGPOの方々はともかく、恭文はアルトアイゼンとリインと一緒に戦えん』
「恭文が魔法無しでの戦闘が出来て、本当によかったと思っている。
そうでなければ、大怪我をしていた所だ。そこだけはフェイトも安心している」
同時に悔いて反省もしている。以前自分が『魔導師だから』と言って、そのための訓練を否定したことをだ。
フェイトは現在本当に色々と突き刺さってるし、負担もかかってる。・・・・・・恭文にもフォローするように頼むか。
『いや、出来たから巻き込まれ・・・・・・いや、出来てへんでも巻き込まれたか。アイツ、運悪いし』
「そういうことだ。なにより、それでも飛び込んでいただろう」
『そうやろうな』
・・・・・・早めに動かなければならない。本当に早めにだ。こう、何かがおかしい。
亡命の話が出てから、少しずつだが何かが進んでいるんだ。
だが、それが今は分からない。それが・・・・・・腹立たしい。
(Report04へ続く)
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