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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第25話 『かわらぬもの かわりゆくもの わすれたくないもの まもりたいもの』(加筆修正版)



「・・・・・・じゃあ、本当になにもなかったのね」

「えぇ、ありませんよ。そういういかがわしい事はひとかけらも」



.なお、添い寝の事は内緒にした。・・・・・・だって、アレはいかがわしくないし。

その、エッチどうこうじゃなくて、普通にフェイトを側に感じたかっただけみたいだから。



「まぁ、そうだよね。・・・・・・うん、予測はしてた」

「エイミィさん、なんでそんなに呆れ顔なんですかっ!?」

「お祝いじゃないの?」

「パパ、おめでとうじゃないの?」



・・・・・・みんなの期待とは違うし、お祝いじゃないね。

つか、こんな大げさに祝う事じゃないし。でも、なんで? いつものノリとは明らかに違うし。



「・・・・・・鶏肉野郎」

「ヴィータちゃんの言う通りだ。俺達の期待を裏切りやがって」

「なぎさんのヘタレ」



思考はその声で中断された。そちらを見ると・・・・・・なんか不満そうな方々が居た。



「現状維持なんだね。恭文、それはどうなのかな?」

「泣けるです」

「蒼凪、またあのおでん屋に行くか。シグナムと、近所の前原殿と一緒にな」

「恭文くん、精密検査しましょうか。大丈夫、EDは治るのよ?」

「・・・・・・アホかぁぁぁぁぁっ!!」



そう、僕は現在吊し上げに遭ってます。みなさん・・・・・・カレルとリエラ以外ね。不満そうです。



「いいじゃん、何も無くたってっ! あって気まずくなるよりは数倍マシでしょうがっ!!」

「まぁ確かにな。つか、ようやくだな」

「えぇ、ようやくノーダメバリアは解除出来ました」

「長かったわね。うん、本当に」

「シャマルさん、お願いだから泣くのはやめて」



僕も泣いたけどさ。ある意味、そうなるより快挙じゃない? いや、自分で言うと説得力無いんだけど。



「・・・・・・やっさん」

「サリさん、どーしたんですかそんな真剣に」

「高級レストランでピアノフォームを弾くなよ」



あ、なんか崩れ落ちた。つーか待て待てっ!!



「『これでいいか』ってスタッフさんやらに確認は取りつつ弾きましたよっ!?」

「それでも弾くなよっ! お前バカだろっ!!」

「つか、そういうところでも大丈夫なアレンジ方法教えたの、サリさんですよねっ!?
実際やって彼女おとしたとか言ってたじゃないですかっ!!」

「あんなのホラに決まってるだろうがっ! 実際は引かれたわっ!!」



・・・・・・・・・・・・は?



「ドウイウコトデスカ?」

「いや、やっさんのやる気を促すために事実の脚しょ」



その瞬間、サリさんが吹き飛んだ。というか、蹴って吹き飛ばした。



「・・・・・・なにすんだお前っ!?」

「それはこっちのセリフだっ! なにとんでもないフカシ吹いてるっ!? 思わず鳥肌立ったし血の気が引いたでしょうがっ!!」



・・・・・・怖っ! 真面目に怖っ!! 一歩間違ってたらBADじゃないかよっ!!

すさまじく奇跡的なバランスで昨日を越えた事を、今さらながら認識したよっ!!



「まさか本気でやるとは思わなかったんだよっ! お前『TPO』って知ってるっ!? 場を考えろよ場をっ!!」

「それは僕が言ったことでしょっ!? しっかりとした完成度で文句言わせなければOKって言ってたでしょうがっ!!」










そう。戸惑う僕にサリさんはそう言った。それだけじゃない。こうも言ってた。





それも、すっごい自信満々で、もう勢い凄かった凄かった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『お前は馬鹿かっ!? 音楽に国境無しっ! 素晴らしい演奏に、曲の出自は関係無いっ!!
いや、出自どうこうだけで判断する奴は二流以下だっ! ついでに判断させる弾き手も三流以下だっ!!』



・・・・・・サリさんの言葉は、そんな色んなものに喧嘩を売った発言から始まった。



『そもそも音楽とはなんだっ!? そうっ! 「音を楽しむ」ことだっ!!
確かに場に合ったチョイスは必要だろうっ! しかし、それだけでは足りないっ!! 足りるはずがないっ!!』



・・・・・・その時居たのは、カリムさんと僕。で、僕はなぜか殴られて倒れてた。



『なぜならっ! 場に合う曲を弾くだけでは音楽は完成しないからだっ!!
ただ弾くだけならば、音源をスピーカーから流せばいいだけの話になるっ!!』



殴られた頬を片手で押さえ、僕はただただ呆然と話を聞いていた。



『お前はそれでいいのかっ!? いいや、よくないっ! いいわけがないっ!!
お前がやることは場に合う曲を弾くことじゃないっ! 曲に・・・・・・ピアノを通じて魂を込める事なんだよっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・サリエル殿、やはりあの方の弟子なのですね」

「ですです」

「そう言いながら、みんなで俺を呆れた目で見るのはやめてくれないかっ!?」

「・・・・・・まだあります」

「まだあるのっ!?」










そう、まだある。サリさんの固有結界は・・・・・・凄かったのだ。





そして思った。やっぱりこの人、僕と同じで先生の弟子なんだと。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『この場合、楽しむという言葉は、気持ちを込めるという意味に変換してくれ
ディスクや音源を使用するならともかく、人間が生で弾く場合、音と言う情報に付与されるものがある』



それからサリさんは、三回転捻りを加えながら言い放った。



『それは・・・・・・心っ! 魂だっ!! 演奏者が自らの魂を込めるからこそ、音楽は人を魅了するんだっ!!
それを・・・・・・アニメ関係だからだめっ!? 場を考えろっ! TPOだとっ!! フザケた事抜かしてんじゃねぇよっ!!』



いや、世間的に言えば僕ふざけてないし。これが普通だし。



『貴様っ! それでもピアニストかっ!? 歯を喰い縛れっ! 腐りきった性根を修正してやるっ!!』



・・・・・・・・・・・・ぐべぼっ!?



『もう一度言うっ! 出自など関係ないっ!! そして勘違いするなっ! 好きな曲ばかりを弾けと言っているわけではないっ!!
必要最低限なチョイスはしなくてはいけない。ただ好きな曲を弾くだけでは、それは押し付けになる。それはプロの仕事ではないっ!!』



・・・・・・あの時、なんでぶっ飛ばされたんだろ。改めて考えるとわけわからないし。



『その場合どうするかっ!? ・・・・・・答えは一つっ! そう、アレンジだっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんつうか、洗脳ですか? いや、洗脳ですよね。もうアタシはそう思いました」

「なぎさんに精神操作の魔法を使ってたとか」

「そんなことしてないからなっ!?」

「・・・・・・で、折り返して」

「これでようやく半分なのっ!?」










そう、折り返して、固有結界はまだ続く。なんて言うか、あの時のサリさんは凄かった。





きっと神様が宿っていたのだろう。何の神様かは知らないけど、きっと宿っていた。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『一件激しい曲が、演奏する楽器やテンポを変えただけでとても雰囲気のいい曲になるだろう。そう、アレンジだ。
新しい可能性を、その手で作り出すっ! それこそがアレンジの理念っ!! 場に合わないなら、まず合う可能性を探すことが先決だろうっ!!』



た、確かに・・・・・・それはそうかも。音楽には無限の可能性がある。それなら、出来るのかも。



『・・・・・・もちろん、版権をぶっちぎらない程度にっ!!』



この時、慌てて付け加えた時点で気付くべきだった。いや、もう遅いけど。



『何度も言うようだが、好き勝手をやれと言っているわけではない。ただっ! くだらない常識で自らの音楽の可能性を狭めるなと言っているんだっ!!
お前はそんな器じゃないだろっ!? 貴様っ! 電王のピアノマンの回を見ていないのかっ!!』



僕は首を横に振る。もはや主旨がさっぱりだけど、そんなの関係無い。

言葉に込められた熱が、僕を、カリムさんを貫く。



『見ているなら話は早い。・・・・・・あれこそがお前の目指すべき姿だ』



・・・・・・いや、本気で振り返ると訳が分からないっ! 僕、なんでこれで納得したっ!?

僕だけじゃなくて、カリムさんも説得されかけてるしっ!!



『弾く曲がどうかなど関係ないっ! そんな戯言は聞き流せっ!! あれこそが真なる音楽っ! 真に弾き手の想いがこもった音は、万人を魅了するっ!!
そんな音楽をその指で、その心で奏でたいとは思わないかっ! 自らの魂の全てを叩きつけてだっ!! そんな常識を飛び越える演奏がしたいとは思わないのかっ!?』



・・・・・・なんで僕はちょこっと涙目なんだろう。どうしてカリムさんは『目から鱗が落ちました』的な顔してるんだろ。



『お前なら出来るっ! いや、お前にしか出来ないっ!!
何ものにも捕らわれない本当の音楽というものを、世間様に教えてやれっ!!』



改めて考えると本気で訳が分からない。これ・・・・・・なに?



『やっさんっ! お前は今からピアノマンになるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文」

「お願い、言わないで」

「なんでそれで説得されちゃうのっ!? おかしいよっ! 僕、今相当回数突っ込んだよっ!!」



・・・・・・なんでだろうね。こう、サリさんの勢いがすごくてつい。



「・・・・・・だって、こう言わなきゃやっさんは納得しないだろっ!!
別に俺と同じ目に合えばいいとか考えてたりしたわけじゃないぞっ!? それは2割程度だっ!!」

「なにげに無視出来ない割合じゃないのさっ! どんだけ最低な思考してるんですかアンタっ!!」





いや、確かに文句は言わせませんでしたよ? えぇ、全く。

あの言葉に感動して、必死に練習し続けた甲斐は確かにありましたよ。

でも怖いわっ! 振り返ると本気で怖いわっ!! ほら、鳥肌すごい立ってるよっ!?



つか、常識や規律ぶっちぎって目的達成する人がそんなホラ吹くなっ!!





「あぁ、どうして俺のまわりにはマトモじゃないのばかりなんだよ。
本気でそれでなんとかするって、おかしすぎるだろ」

「アンタが言うなっ!!」



なんか失礼なことを言い出したし。くそ、この人はたまにバカになる。

本気でたまにバカになるんですけど、どうすればいい?



「・・・・・・って、違う。こんな話じゃなかった」

「じゃあ何が言いたかったんですか」



そしていきなりテンションが変わった。というか戻った。



「ここまでだからな」

「はい?」

「俺達に出来るのはここまで。そう言ったんだ。あとは、フェイトちゃんとお前が決めていく事だ。
もうフェイトちゃんは『今』を見てる。ここから導き出される結果は、全部お前次第だし、お前の責任だ」

「・・・・・・はい」





他のみんなも、同じくらしい。表情がサリさんと同じだし。

つまり、これでダメならそれはフェイトどうこうじゃない。僕の問題ということ。

ここからは、皆は味方でも敵でもない。ある意味審判だ。



レッドカードものなら、遠慮なく退場させられる。・・・・・・それで、いい。

一番変えたくて、変えられなかったことは、覆せたんだから。

子ども扱いしないで、スルーしないで、ちゃんと見てくれる。



ずっと、ずっと・・・・・・そうして欲しかったから。やっと、ちゃんとぶつかれるんだ。

そしてそれはつまり、答えが出るということ。覚悟は、決めてた。

・・・・・・まぁ、ダメだったら、多分泣く。でも、引きずりはしない。ううん、したくない。



もう今までとは違うんだから。見てくれた上でダメなら、納得しなきゃね。





「ま、頑張れ。サリさんの言う通り、ここからはお前次第だからよ。
アタシらは本当にマズイって思わない限りは、フォローしねぇから」

「それで充分です。・・・・・・一番の願いは、叶いましたから」



一応進展はあったから、いいのさ。ここからはじっくりノンビリだ。・・・・・・あ、そっか。

そのためにも変わっていくことは、新しい僕を始める事は必要なんだよね。



「・・・・・・ならいい。んじゃ硬い話はここまでにして、みんなで美味しくご飯にするか。
せっかくのごちそうが冷めるしな。そしてリンディ提督には出ていってもらおう」

「はい」

「ちょっと、そこを即答するのはおかしくないかしらっ!?」

「お母さん、これは仕方ないですから。本当に仕方ないですって」










そして、その後は皆で楽しくご飯を食べた。それはもう楽しく騒ぎながら。

・・・・・・とは言え・・・・・・だよな。どうしたもんか。

フェイトのことじゃない。・・・・・・新しい自分、どうやって始めればいいか、考えてる。





忘れたくないことがある。絶対に忘れたくない事が。僕が僕で居るために、絶対に必要な記憶と時間。

その記憶と時間があるから、僕は守りたいものと壊したいものを、見失わないで済む。迷わないで戦える。

・・・・・・それでも、時々間違えちゃうし、取りこぼしちゃうけどね。特にこの間は、間違えまくりだし。





例え持っていることで誰かを傷つけても、遠ざけることになっても、消しちゃいけない記憶。

つか、それでどうこうなる覚悟なら、とうに決めている。だって、僕は・・・・・・弱い。

だからきっと、組織やコミュニティにそれを預けたら、忘れる。





今の気持ちも、重さも、その存在さえも。それだけは、それだけは絶対に嫌で。

だから今までは嘱託で居た。局員として戦ったら、きっと忘れる。今までは、そう思っていた。

でも・・・・・・それだけじゃ守れないものがある。掴めない未来もある。





必要、なのかな。それを掴むためには・・・・・・降ろして、忘れる事も。

そうしなかったら、ダメなのかな。というより・・・・・・だめ、まだよく分からない。

今のままじゃ、ダメ。新しい自分を始める。つまりそれって・・・・・・そういう事なのかな。





今までの僕を全部捨てて、そこから始めなくちゃ、それは無理なのかな。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第25話 『かわらぬもの かわりゆくもの わすれたくないもの まもりたいもの』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



朝日が眩しい。黄色に見えるんは気のせいやない。

・・・・・・いや、もう太陽は昇りきってるんやけどな。

まー、あれや。あれなんよ。もうあれがあれしてあれでな。辛い辛い。





コメントするとカットなんよ。悪いんやけど察してくれると助かるわ。

とにかくうちは首都に戻ってきた。ロッサとは途中で会話少なげに別れた。

現在は某ファーストフード店でマフィンかじっとる。そして、胸元には青い宝石。





そやからうちは、気持ちをしっかりと固めた上で・・・・・・その子に言葉をかけた。










「・・・・・・なぁ、アルトアイゼン」

≪・・・・・・≫



返事が無い。ただのしかばね・・・・・・って、アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「なにを華麗に無視しとるんやっ!? ほら、起きてるやろっ! さっさと返事しいっ!!」

≪さっさ≫

「自分うちを舐めとるやろっ!!」

≪・・・・・・あんなあり得ない状況を私に見せておいて、よくそんなことが言えますね≫

「う・・・・・・そ、そこを言われると非常に弱い。まぁ、直で・・・・・・やしなぁ」





実は昨日の夜、なんというかホンマにありえへんことが起こった。うちが朝帰りしたんは、そこが原因や。

嵐で帰れなくなって、同じ部屋に泊まることになったロッサと祝杯上げたんや。

理由は『恭文×フェイトちゃん』成立の前祝い。なお、ここに絶対にうちの末娘は加えん。



いや、二人は、完全無欠に同じ部屋に泊まる事になった。

これはもう恭文が男を見せて確定かなと。なお、うちの英断。

それで、なんやかんやとあって・・・・・・気が付いたら朝。



で、うちら・・・・・・その、何が原因やったっけなぁ。





「えっと・・・・・・」

≪あなたが『男女が同じ部屋に泊まっていたら、当然エロい事をする』・・・・・・と言い出したからですよ≫

「あぁ、そうやった。そしたらロッサがそんなことないって反論してきて」

≪そうして・・・・・・アウトコースです。あの、なんですかコレは。
これしか説明出来ないなんて、おかしいじゃないですか≫

「そうやな。どないしよ」



うちは落ち込んだ気分のまま、目の前のテーブルに突っ伏す。いや、真面目にどないしよ。



「・・・・・・いや、大丈夫か。恭文とフェイトちゃんだって・・・・・・やろうし」

≪どうでしょ。マスターとフェイトさんですし≫

「いや、でもさすがに」

≪それより、自分のことを考えたらどうですか?≫










そうやな。どないしようか。ハプニングでそうなるって、ラブコメではよくあるやん?

・・・・・・キツいな。実際のところ。やっぱここは誰かに相談した方がえぇかな。

ロッサには気にすることないなんて言うてしまったけど、ミスやった。





・・・・・・どないしようか、マジで。フェイトちゃんに相談する? 一応同じ境遇やし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・どうしようか。まさかこうなるとは思わなかった。

いや、やめよう。こんな事を口にしても、最低なだけだ。

はやてとそうなったことを・・・・・・僕自身は後悔は無い。





うん、それはない。ただ、はやては・・・・・・違うよね。『気にしない』とハッキリ言われてしまったし。

確かにその場の勢いでそうなる事は・・・・・・ある。というか、なった。

だけど、今回は抑えるべきだった。僕は男だ。男として、女性であるはやてを守らなくてはいけない。





なのに、これだ。・・・・・・本当に最低だな、僕は。ただあの時・・・・・・僕は。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何も・・・・・・無いですから」

「・・・・・・テスタロッサ、そこはもう分かった。だから安心してくれ」



・・・・・・テスタロッサ、その涙目はやめてくれ。いや、我々が原因なんだが。



「しかし蒼凪は・・・・・・いや、だからこそらしいのか」





現在は談話室でテスタロッサと茶を飲んでいる。私が蒼凪仕込みの淹れ方で淹れた。

茶葉を湯に通してから、揺らさずにじっくり待つ。飲んでくれる相手の笑顔を考えながら、ゆっくりとだ。

これだけで、随分と味が良くなるのだから不思議だな。まぁ、それはさておき、話だな。



涙目のテスタロッサに、ここまで引っ張ってこられた。つまり、何かまだあるということだ。





「それで、相談とはなんだ?」



恋愛事・・・・・・ではないな。第一、そんな話をするなら私には相談しないだろう。




「はい。実は・・・・・・かくかくしかじか・・・・・・なんです」

「なるほど」

「はい」



蒼凪を補佐官にか。また英断を・・・・・・というか、アイツはちゃんと出来るのか? 色々不安なんだが。



「だが、そこまで気を使う必要はないのではないか? 蒼凪ならば、一人でもなんとかなるだろう」



実際、現在もどうにかなっている。絶対無いだろうが局員になり、部隊に正式に入ったとしても、問題は。



「・・・・・・怖いんです」

「怖い?」

「ヤスフミ、ヘイハチさんに似ていますから」





それだけでテスタロッサが何を危惧しているのかを理解した。

・・・・・・蒼凪の師、ヘイハチ・トウゴウという人間は局員ではあった。

しかし、その枠の中で簡単に縛られる人間ではなかった。



自分がそうしたいと思えば、局の命令や常識など、無視して進む。今もそうだ。そして蒼凪も同じく。





「万が一を考えて、ヤスフミに来てはもらいました。・・・・・・今の所は大丈夫ですけど」



私達が出動するような大きな事件がミッドで起きているわけでは無いしな。だが、有事となると話は別だ。



「でも、何かが起きて局や組織・・・・・・私達の動きと自分の動きが大きく食い違ったとする。
そうなったらヤスフミは、躊躇い無く飛び出します。アルトアイゼンと一緒に」

「・・・・・・そうだな」

「それだけじゃなくて・・・・・・その、昨日というか最近、改めて気付いたんです」

「気付いた?」

「ヤスフミ、凄く危ういんです」



表情は重く、何かを恐れた色が見えるのは気のせいではない。

しかし、ここまでになるとは。一体、何がそんなに気になる。



「どういうことだ?」

「ヤスフミが局や組織、そういうのを嫌いな気持ちは理解出来ました。
今のヤスフミにとって、それがどうしても拭えないものであることも」



理解『している』ではなく、『出来た』・・・・・・か。やはり、変化はあったのだな。



「でも、それならヤスフミは何をしたいのかとか、そういうのが見えないんです。
ヤスフミ自身もまだ見えてない感じらしくて、それが何か怖い感じがして。あと」

「あと?」

「JS事件の一件もそうですけど、ヤスフミ・・・・・・人のために動いてすり減る事が多いじゃないですか」



・・・・・・それがアギトやフォン・レイメイの事だと言うのが分かった。というか、昔からそれだな。

アイツは近くで誰かに何かあるなら、全力で助けようとする。場合によっては、身を省みずだ。



「このままは、見ていられないんです。いつか、本当に笑えなくなりそうで・・・・・・怖いんです。
でも、ただ局や組織に自分を預けるなんて安易な方法じゃあだめ。ならどうすればいいかが」

「分からないと。なら・・・・・・それを探すためにも補佐官という事か」

「はい。・・・・・・本当は、旅に出て考えるのもいいとも思います。本気で考えようとはしてるみたいですし。
ただ、そのまま居なくなっちゃうようで、手が離せなくて・・・・・・それがダメだって分かってるのに」



テスタロッサは俯く。そして腕に力を込め・・・・・・恐らく、膝の上の手を強く握りしめている。



「私、ダメですね。ヤスフミの事、もう子ども扱いしないって決めたのに。結局側に置こうとする。
・・・・・・シグナム、どうしたらヤスフミ・・・・・・変わってくれるんでしょうか」

「何のためにだ?」

「私はヤスフミに笑っていて欲しいんです。何も諦めて欲しくない。
両親の事や、リインを助けるために人を殺した事を、言い訳にして欲しくない」

「・・・・・・そうだな」





・・・・・・8年前の8月1日、蒼凪はあるトラブルに巻き込まれて、地球に漂流してしまったリインを助けた。

まだ魔導師ではなかった蒼凪は大層本当に驚いたそうだ。ただ、それでも二人は友人になった。

ここには理由がある。蒼凪は当時、学校も行かずに友達も居ない・・・・・・本当に孤独な生活を送っていた。



両親は居るが、互いに愛人のところに入り浸り、所謂育児放棄の状態。そんなところに、リインが来た。

元々未知な物や世界に強い憧れがあった蒼凪にとっては、それが運命の出会いとなった。

リインから事情を聞き、好奇心も手伝って蒼凪はリインを保護し、我々に会わせると約束した。



リインを一人きりの自宅で保護し、世話を始めた。同時に、我々への接触も出来うる限りで試みた。

リインはリインでテスタロッサやなのはに主はやて、それに我々守護騎士と、同じ目線の友人が居なかった。

ようするに、兄や姉には恵まれていても、同級生的な人間が居なかったということだな。



そういう部分から、リインは自分と同じ目線で接してくれる蒼凪に好感を覚え、親しくなった。

だが我々管理局組はリインの捜索と、その時関わっていた事件の捜査のために自宅にも帰れなかった。

だからこそ、蒼凪の保護から連絡がつくまでに1週間もかかってしまった。・・・・・・それが、アウトだった。



1週間目の深夜、その時我々が関わっていた案件に関わる重要な証拠を持っていたリインを狙って、暗殺者が襲撃をかけた。

リインは次元漂流の際のダメージで魔法が使えず、戦う力はなかった。そのままでは、当然のように殺される。

だから蒼凪は・・・・・・そいつらを殺した。その直後に我々が保護し、本局で預りとなり・・・・・・そこからの付き合いというわけだ。



当時の我々の周囲では、色々と問題になった。その辺りは風潮のせいもあるが、仕方ないとも思う。

今とは違い戦闘訓練も受けておらず、信頼出来るデバイスも、味方すらも居ない状況だったのだから。

確かに蒼凪には魔法資質があった。そしてそれ以上に、戦闘者としての高い資質もだ。



皮肉な事にそれがあるからこそ蒼凪は、襲ってきた賊の撃退が可能になった。

そして更に皮肉な事に、それがあるからこそ『守るためにはもう殺すしかない』という結論を、早々に出してしまった。

だから蒼凪はリインを守るために、倒すためではなく殺す戦い方を覚悟して、それを実行に移した。



友人となったリインを守るために、その手を汚し・・・・・・蒼凪は非常に後悔していた。

ただ、それは決して相手を殺した事ではない。・・・・・・蒼凪は、その性根から戦闘者向きらしい。

自分の手で命を奪った事に衝撃を受けても、それを全て背負う覚悟を最初から決めて、それを通した。



吐いても、泣いても、それだけは誰がなんと言おうと絶対に変えなかった。なら、後悔したのは何か。

それは・・・・・・殺しても、自分が本当に守りたかったリインを守れなかったこと。

怪我をさせたわけではないんだ。ただ、リインに重荷を背負わせて傷つけてしまったと、そう後悔した。



小さくて弱い存在に『自分の為に友達に殺しをさせた』という重荷を背負わせたと、苦悩し続けた。

・・・・・・そうだな、アイツは昔からそういう奴だった。口ではどう言っても、他人の事ばかりだ。

他人の身体を、命を、想いを・・・・・・その手で全部守ろうとする。手が届くなら、絶対に諦めようとしない。



アイツは大切なものが壊れる事が、奪われる事がどれだけ悲しくて怖い事かを知っている。

だから抗おうとする。最初の経験もあるのだろうが、そういう気性が非常に強い。

ヒーロー物が主はやてと同じく好きではあるし、そういうのに憧れがあるせいだろうか。



そしてそんな奴だからこそ、トウゴウ先生も力を貸した。貸して、弟子にしようとしたのだと思う。

そんな奴だからこそ、アルトアイゼンもマスターと認め、リインもあの調子。・・・・・・蒼凪には確かにある。

人を惹きつけ、現状を変えていく強い輝きがだ。現に今までも色々と変えている。



リンディ提督やアルフになのは、テスタロッサやギンガが蒼凪を局に誘うのもここが理由。

そんな人材だからこそ、変わりゆく組織の中では必要と考えているのだろう。

ただ、蒼凪があんな性格だしな。他はともかく、我々八神家の面々はもう無理だと判断している。





「同じように事件中のアレコレや今までの事を笑えない理由にせずに・・・・・・沢山、笑っていて欲しいんです」

「だが、それは今でも・・・・・・なるほど、そういう事か。
お前の目から見て、蒼凪は過去を理由に諦めている部分があると」

「・・・・・・はい」



テスタロッサは私の目を見ながら頷いた。その目を見て、私は更に納得した。

そういう事なら、今までの話の流れもまぁ分かる。心配になる理由もだ。



「局の事どうこうは抜きに、何かそう感じるんです。でも、それが何か分からないんです。
私が変わって欲しいのは、そこなんです。でも私・・・・・・どうすればいいのかなと」

「それなら、少し私も気をつけて見てみる。仕事に差し支えない程度だが、気も配ろう。
それでしばらく一緒に考えてみるとするか。もしそうなら、さすがに見過ごせはしない」

「シグナム・・・・・・あの、ありがとうございます」










・・・・・・見過ごせるわけがなかろう。かく言う私も、そんなアイツの強さに惹かれた人間の一人だ。

だからこそ今まで付き合いが続いている。もしもそうなら、改善したいに決まっている。

まぁ、うちの医務官程ではないがな。しかし・・・・・・アイツは仕事を放り出して何をしているんだ?





よし、あとで説教をくれてやろう。主はやても居ない以上、そこはしっかりしなければ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・夕方、来てくれた皆にお礼を言いつつ見送ってから3時間後。





やけに肩を落とした感じのアルフさんがどこかから戻ってきて、双子と一緒にお昼寝についた後。





僕は、ハタ迷惑なお母さんと話をしていた。なお、場所は景色が綺麗に見えるベランダで。










「・・・・・・単刀直入に言うけど、局に入るつもりはない?」

「単刀直入に言いますけど、ありません」

「いつもならここで引き下がるところだけど・・・・・・今回はそうは行かないわ」



右隣に居るリンディさんは、ベランダの手すりに手を当てながら僕を見下ろす。

視線が若干真剣なのは、きっと気のせいじゃない。



「今、組織は変わり始めているわ。悲しい事件の後で、みんなが頑張っている。
そんな中であなたの力は絶対に必要なの。協力、してくれないかしら」

「嫌です。僕、六課の面々の如く人身御供にされたくないですし」



その視線を軽く睨み返してそう言うと、リンディさんがため息を吐いた。

僕が何を言いたいかは、分かっているはず。だから、そのまま話が進む。



「どうしても六課が必要だった・・・・・・では、納得してくれないわよね」

「しませんね。まぁ、全員に全部ぶちまけて、協力を仰いだって言うならまだ納得出来ますけど」

「でも、そうはしなかった。だから・・・・・・信じてはくれない。そういう事よね」

「えぇ」



よし、話は終わった。終わったから、帰ろ帰ろっと。・・・・・・あれ、なんか表現がおかしい。ここが僕の家なのに。



「なら、これからあなたはどうするの?」



僕が頭を抱えかけた時、リンディさんの声が鋭くなった。

それで視線をまたリンディさんに移すと、厳しい目で僕を見ていた。



「正直母親としては、今のあなたとフェイトとのお付き合いは認められない。
・・・・・・あなたは、過去に引きずられ過ぎてる。それは互いに不幸しか呼ばない」

「・・・・・・なるほど。人殺しな息子なんていらないと。ま、それはそれでいいですけど」



瞬間、リンディさんの右手が飛んできた。なので当然のように左手で受け止めて、捻り上げる。



「あの・・・・・痛い痛いっ! 本当に痛いからやめてっ!?」

「でしょうね。へし折るつもりでやってますから」

「殺る気満々っ!? というか、空気を読みなさいっ!!」



うわ、なんか普通に一番空気読んでない人に言われたしっ! すっごいムカつくんですけどっ!!



「普通に考えて、ここはあなたが殴られるところでしょっ!?
あなたが大人しく殴られるシーンじゃないのっ! 色んな事を間違えてるわよっ!!」

「やかましい。そんなベタなお約束を僕に求めるな。てゆうか、普通に正当防衛って成り立つでしょ。
人の家を勝手に占拠するわ、勝手に成立みたいな勘違いするわ、むしろ僕が殴っていいでしょ」



言いながら、僕はリンディさんの右手を離す。

リンディさんは手首を押さえながら、その箇所に息を吹きかける。



「・・・・・・とにかく、私はあなたに変わって欲しいの」



で、痛みが収まったのか僕を見る。なお、涙目なのは気のせいだ。



「もう少しだけ、楽に生きて欲しい。もう・・・・・・いいのよ?
あなたは罪は充分に数えた。向き合って、償いも続けた」

「嫌です」





そう言い切った。多少胸に動揺が走るけど、それでも。

だってそれは・・・・・・さっきまで考えていた事だったから。

夕日が差し込んで、僕の左頬を温める。その熱が今はすごく苦しい。



変わる事を求めてる。そして、求められている。でも、何かが違う。

何かがズレてるんだ。だから今、首を素直に縦に振れない。

それで・・・・・・怖い。振った瞬間に、何かが派手に壊れてしまいそうで。





「何故そこまでこだわるの? あなたは『罪を数える』という言葉を、誰から言われたかも覚えていない」



そうだ、覚えてない。確かに聞いたはずなのに、誰から言われたかとか、何時聞いたかすら覚えてない。

ただ、記憶の中にその言葉は刻み込まれていて・・・・・・ずっと誰かの背中と一緒に、僕の心の中に残ってる。



「なのにずっと信じ続ける。罪を、過去を数えて向き合う必要があると。正直理解出来ないの。
あなたが信じるべきは、目の前のみんなの言葉のはずよ。何故それを信じられないの?」

「じゃあいいですよ、しなくて」



これ以上は聞いても無駄。だから僕は、ベランダから出る。だけど、リンディさんは僕の左手を掴んだ。



「お願い、ちゃんと話を聞いて。・・・・・・ストレートに言うわね。あなたの目指す言い訳しない自分を、もう捨てて欲しいの。
あなたのそれは目標でも覚悟でもなければ、夢なんて言うものでは絶対にない。ただ償いを続けるための理由付けよ」



違う。そんなの、絶対に違う。僕は・・・・・・償いなんてした覚えがない。



「今のあなたは、ただ目の前の現実から逃げているだけ。だから、一人で戦う事を続けている。
今からでも遅くないの。本当のあなただけの夢や目標を、現実の世界の中から探すの」



・・・・・・違う。僕は、逃げてなんてない。全然、違う。




「だから過去を捨てて。もう実体のない記憶に、必要のない償いに囚われ続けないで。
私・・・・・・いいえ、フェイトやみんながこれから変えていく居場所や世界を、信じて欲しいの」

「・・・・・・絶対に嫌です」

「・・・・・・どうしてなの? 誰もあなたにこれ以上の償いは求めていない事が、なぜ分からないの。
これ以上JS事件のような事を続けていたら、あなたは壊れてしまう。それが今のあなたの道よ」



僕の話を、聞くつもりはないらしい。とにかく僕に変わって欲しいようだ。



「だからあなたは、過去に縛られないで変わっていく必要がある」



強く握られていて、手は振り払えない。・・・・・・思いっ切りやれば、別だけど。



「過去を忘れる事が美徳だなんて言うつもりはない。きっと、それは間違い。
でも、今のあなたには絶対に必要な事よ。あなたはもう鉄でなくていい」



それは、ある意味では救い。でも・・・・・・心が言ってる。絶対に違うと。



「難しいことじゃないの。ただ、信じればいいの。あなたの大切な人を。
その人達が居る場所を、変わっていく世界を。そして一緒に、あなたも変わっていけばいい」



頷くなと、危険なサインを送り続ける。頷けば、大事なものが消えると強く。



「そうして現実と向き合うだけでいい。それが大人になるという事よ。だから・・・・・・もう、降ろしましょう?
ほんの少しだけ勇気を出すだけでいいの。それだけであなたは、幸せになれるから」

「・・・・・・ふざけるな」



口から出た声は冷たく鋭いもの、それにリンディさんが目を見開く。



「他人が変える世界なんて、僕は信じられない。そんな場所、僕は信じられない」



そんなの、どう信じろと? リンディさんが悲しそうな顔をしても、僕は同じだ。

・・・・・・そうだ、知ってる。世界を変えたいなら、自分を変える必要があるんだ。



「許されている? ナメた事抜かすな。僕が、一体誰にどう許されているって言うんだよ」

「私達よ。・・・・・・私達が許す。罪の重さを忘れる事も全部許して認めるわ。忘れて狂いそうになるなら、私達が守る。
だから・・・・・・恭文君、お願い。もう悲しい時間は終わりにして。もうそんなものはいらないの。あなたはこのままじゃ」

「フザケんじゃねぇっ!!」



声に驚いたのか、リンディさんの手の力が緩み、僕の手はようやく開放される。



「・・・・・・信じられるわけがあるか」



信じられるわけが、ない。変わっていくから信じろ? ふざけるな、そんなの寝言だ。

今の言葉には、過去が何一つない。ただ未来と周りに期待だけして、そこに居ろと言ってる。



「その『大事な人』を駒扱いしたお前の言葉を、それを当然とするような居場所を、誰が信じるっ!!
てめぇ、自分の立場云々を考えてから物を言いやがれっ! 一体何様だっ!!」

「分かっているわ。ただ、それでも私は保護者・・・・・・いいえ、あなたの母親として」

「だったらもう、お前なんて母親じゃないっ! お前みたいな母親、こっちから願い下げだっ!!」



もういい。完全に頭に来た。例え今、衝撃を受けて泣きそうな顔をしても、僕は一切気にしない。

気にしないから・・・・・・僕は、続きを言い放つ。最低なのは自覚した上で、ハッキリと。



「もうハラオウン家とは縁を切ってやるよっ! それならいいだろうがっ!!
僕とお前はもう家族でもなんでもないっ! だから干渉される言われはないっ!!」

「恭文君、お願いだから落ち着いてっ!? 私はただ、もっとちゃんと話を」



最後まで聞かずに、僕は部屋の中に入った。そして、急ぎ足で外に出る。

後ろから声がするけど、完全無視。一気にホテルに向かって苛立混じりで歩き出した。



「・・・・・・やっちまった」



歩速が、徐々に緩やかなものになっていく。そして、頭が冷静になる。

でもま・・・・・・いいか。家占拠とか、ありえないもの。僕が出てく現状とかさ。



「変わるって・・・・・・何さ。忘れるって、何さ」





夕方の雑踏の中を歩きながら、僕は俯きながら呟く。呟くけど、分からない。

変わる事は、どうして必要なの? 僕は・・・・・・今のままでいい。

変わって、僕の中にある大切なものが消えたり壊れたりするのは、嫌だ。



僕は償いなんてしてない。そんなもの、した覚えがない。・・・・・・最低でしょ?

でも、事実なんだ。僕は敵を殺した事自体は後悔は微塵もない。

もちろん命の重さってやつは感じてる。でも、それだけ。ただそれだけ。



命のやり取りの中で、人が死ぬのも、自分が殺したり殺される側に回るのは当たり前の事だから。

戦いに立つ以上、死ぬのなんて嫌だから、勝つ気概ではやる。でも、そこは事実。

うん、シンプルなのよ。そして、シンプルだからこそ凄まじく重い。だから、後悔するのは別の事。



殺して・・・・・・何かを壊しても、全部守れるわけじゃない。それは、最初の時に思い知ってる。

最初の時はリインを傷つけて、フォン・レイメイの時は周りのみんなを傷つけた。

・・・・・・変わらないから、これなのかな。忘れて、降ろさなかったらずっと同じことをする。





「そうなのかな。それが・・・・・・答え、なのかな」



足を進めながらも、更に考える。考えるけど、答えが出ない。僕、どうしたいんだろ。

新しい自分・・・・・・なんだろ、分からない。どうしたいのか、分からないよ。



「なんだろ、怖い。変わるの・・・・・・今までの自分が消えるのが、凄く・・・・・・怖い」










雑踏の中で、足を止める。止めて・・・・・・俯き、拳を握り締める。





人々は僕を邪魔そうに避けて、そして置いていく。変われない僕を、何人も。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とりあえず、アレだ。色んな亀裂が入りまくったのは分かった。

てゆうか、お昼寝してた双子とアルフがびっくりして飛び起きたし。

私も普通にウトウトしてたの、飛び起きちゃったし。で、落ち込むお母さんから話も聞いた。





当然のように、私は頭を抱える。アルフも今回は何故か頭を抱える。










「・・・・・・お母さん、正直この状況でそれを言うのは、最低ですって。
そりゃあ恭文くんもキレますよ。こっちは迷惑かけっぱなしなのに」

「でもエイミィ、もうさすがに我慢出来ないのよ。
大体、こっちに来たのだってこの辺りの話を恭文君とするためですし」

「でしょうね」



じゃなきゃ、わざわざ恭文くんの家に来るとは思えないもの。普通にお母さん、高給取りよ?



「それって、自分に色々迷惑がかかるからですか? 提督としては、家族にはちゃんとして欲しいから」

「エイミィ、さすがにそういう言い方は」

「違うわ。・・・・・・あの子を預かった以上、ちゃんとした大人になって欲しいの。
クロノやあなた、フェイトやなのはさん達のように、現実の中に腰を落ち着けて欲しい」



テーブルの上で俯き、両手で顔を覆いながら、お母さんはそう言う。



「もうあの子は18よ? 本来であれば、何かしらの事を考えていてもいい。
でも、それが全く見えないの。そして何度考えても、答えが一つしか出ない」

「恭文くんが、過去やJS事件の事を理由に、そういうのを諦めてる?」

「えぇ。そして、それはここ最近のアレコレでどんどん強まっているの。
・・・・・・どうして伝わらないのかしら。私、あの子にそんなに難しい事を望んでいるの?」



言うけど・・・・・・どうしようか。思わずアルフと顔を見合わせちゃったし。



「お母さん、とりあえずここを明け渡してから話すべきだったって。
さすがにアタシも同じことやられたら、そりゃあぶちのめしたいくらいにムカつくよ」

「そうですよ。一緒に暮らしてる時みたいにって狙いは分かりますけど、無理ですって。というわけで、これは自業自得ですね」

「・・・・・・やっぱり?」



あ、ちょっと自分でも分かってたのか、普通に声が柔らかくなった。

なので、全力で頷く。というか、普通にこれはありえないもの。



「とにかく、アイツの捜索かな。下手するとこのまま失踪の可能性もあるぞ」

「ありえるね。アルフ、フェイトちゃんに連絡お願い出来る?
・・・・・・あと、お母さんは空気を読む訓練をしてください。えぇ、真面目にお願いします」

「・・・・・・そうするわ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・母さん、何考えてるのっ!? 今の現状でそんな話をされたら、ヤスフミがキレるのは当然じゃないっ!!」



夜、アルフから慌てた顔で通信がかかった。ヤスフミがこっちに来てないかというものだった。

それで事情を聞いて・・・・・・私は急ぎ足で、部屋から車へと隊舎の廊下を歩いている。



『まぁ、お母さん的には見てられなかったんだろうな。で、実際アタシも同じではある。
アイツ、自分の夢とか目標とか、フェイトで言う所の執務官みたいなもの、口にしないだろ?』

「そういうので不安に・・・・・・でも、納得出来ないよ。私は、知ってるから」





ヤスフミに最初の頃、殺した事とかは忘れていいって言った。でも、ヤスフミは首を横に振った。

何度も話しても全然だめで、それでケンカして・・・・・・あぁ、ここでもだね。

ここでも私はヤスフミと繋がりたいと、理解したいと思って、教えてもらったんだ。



ヤスフミがどうして忘れたくないのかとか、そういう思う気持ちを沢山。





『分かってるよ。まぁ・・・・・・アレだ、ちょっと探してもらえないか?
エイミィはお母さんとお話で忙しいし、アタシは・・・・・・多分避けられるだろうから』

「・・・・・・どうして?」

『お休みの時、この間のアレコレを謝ったんだよ。
正直さ、絶対に納得出来ないし、アイツの行動は擁護もしちゃあいけないと思ってる』



アルフは、『ここだけは譲れない』と表情で伝えてくる。一応、そこは私も納得。

やっぱり殺す事は、命を奪うことは絶対にいけないことだと思うから。



『でも、引退組で部外者なのに無神経な事言いまくったのは確かだから、そこの辺りをな。
・・・・・・そうしたら、相当辛辣に『話したくない』って言われた。アタシ、完全に嫌われたみたいだ』



・・・・・・そんな事があったんだ。私、全く知らなかった。



『この辺りは自業自得もいいところだから、まぁいいんだよ。ただ・・・・・・フェイト、ごめん。アタシ、本当にバカだった。
アタシはハラオウン家の使い魔なのに、ちゃんとその仕事を出来なかった。家族なのに、追い詰めるようなことしかしなかった』

「そんなことないよ。・・・・・・アルフ、ありがと。話そうとしてくれて。私ね、それだけでも充分嬉しいの」

『ううん。じゃあ気をつけてね。というか、早くした方がいい。
下手したらアイツ、このまま失踪の可能性もある。・・・・・・マジでお願い』

「・・・・・・うん」









すがるようなアルフの顔に、私は頷いて答えてから通信を切る。そしてそのまま、歩速を上げる。

・・・・・・どうしよう。かく言う私も、答えをちゃんと見つけてない。

変わっていくって、本当にそうしなきゃいけないのかな。嫌な事全部、捨てなくちゃだめなの?





そんなの、私にはやっぱり分からない。だって、答えは私や母さんが決める事じゃないから。

答えはヤスフミの中にある。ヤスフミが自分の中から探して、自分で決めていくんだ。

・・・・・・どんな答えでも、ちゃんと認めたい。ヤスフミが一生懸命考えた答えなら、それでいいから。





というかどうしよう。連絡が取れない。端末の電源は切ってるし、アルトアイゼンも・・・・・・あれ?

そうだ、アルトアイゼンは隊舎に居る。シャーリーにメンテで預けてあったんだから。

それで・・・・・・そうだよそうだよ。今の私じゃあ、もしかしたら解決出来ないかも知れない。





あの子達の力を借りよう。そうすればきっと・・・・・・今のヤスフミの力に、絶対なってくれるはずだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なんかこう、ホテルに戻る気分にならなくて、近辺の海沿いに居た。

静かに夜の海をずーっと・・・・・・ずーっと見ていた。

お腹はペコペコだけど、食欲自体が沸かない。今、そんな気分じゃない。





なんでなんだろう。僕のやって来たこと、そんなに変なのかな。だめ、なのかな。

償いなんて、出来ると思ってない。誰を助けても、何を守っても同じ。

というより、そもそもどうやって償えと? 僕は殺したこと自体は後悔してないのに。





いや、後悔する権利なんて、無いと思ってる。そんなの、殺された方からすると迷惑らしいし。

ただ背負うだけ。事実をただ背負うだけ。そしてただ、どうしようも無いくらいに重くて・・・・・・ヘコむだけ。

僕が後悔してるのは、そうまでして大事なものを壊してしまった事だけ。あー、やっぱこれは最低かも。





だから、戒めている。忘れない事で自分がそんな最低な人間だって、刻み込んでる。

殺した事自体には何の後悔もなくて、なのにあの子を守れなかった事は後悔している最低野郎だと。

同じ間違いを繰り返したくなくて、もう守りたいものを壊すのなんて嫌で・・・・・・ずっと、そうして来た。





僕は弱いから、そうしないとすぐ間違える。そうしても、度々バカをやるくらいには弱い。

それがJS事件だったり、他のアレコレだったり。・・・・・・全部、守りたいもの。

手が届くなら、ありったけで全部守りたい。どれかだけ無事でも、ダメなんだ。





身体も命も想いも、夢みたいな形のないものも守りたい。それで、笑顔で居られる今を守りたい。

テレビの中の正義のヒーローみたいにはなれなくてもいい。ただ・・・・・・ただ目の前のことだけでいい。

覆したい今があるなら覆して、悲しいことなんてぶち壊したい。ずっとそう思ってきた。





なんだろう、それを・・・・・・嫌だ、忘れたくない。僕は何にも忘れたくない。

でも、どうして? このままじゃ壊れて、フェイトとも付き合うのはダメだと言われたのに。

なんでこんなに・・・・・・僕、どうしてここまで過去にこだわってるんだろ。





意地、なのかな。でも・・・・・・僕は、その・・・・・・分からない。





やっぱり、分からない。僕はどうして・・・・・・どうしてなんだろ。










「・・・・・・恭文さん」



後ろから声がかかって、身体が震えた。そして、急いでそっちを見る。

そこに居たのは・・・・・・リインだった。というか、両手には待機状態のアルト。



「リインっ!? というかアルトもなんでっ!!」

「恭文さんの事、探しに来たですよ」

≪全く、苦労しましたよ。こんな街の片隅に居てどうするんですか≫



言いながら二人は、僕の方に飛んでくる。そして一気に、僕の左隣に来た。



≪あなた、ただでさえ私に影の濃さで負けてるのに。簡単に世界に埋もれますよ?≫

「・・・・・・ほっとけ」

「あー、それでリンディさんと派手にやりあったらしいですね」

「まぁね」



どういう経由で伝わったんだろ。でも、今はいいか。なんか・・・・・・どうでもいい。



「それで話は聞いているので、早速行かせてもらいますね。ね、アルトアイゼン」

≪えぇ≫

「え、何を?」

≪「あなた、バカじゃないんですか?」≫



二人は呆れ気味に、思いっ切り言い放った。当然、その対象は僕。・・・・・・・・・・・・よし。



「いきなりバカっておかしくない!? つか、先制パンチとしておかし過ぎるからね、それっ!!
てーか、バカだよっ! 普通に『母親じゃない』宣言しちゃったりしたしっ!!」

「そこじゃないですよ。てゆうか、それは当然だと思うのでどうでもいいのです」

≪そうですよ。私達がバカだと言ったのは、そこじゃありません≫



じゃあ、何処だと言うのだろう。他に言われる要素・・・・・・あ、色々あるや。



≪・・・・・・あなた、なんで忘れてるんですか≫

「忘れてる?」

「忘れてるですよ。だからリンディさんのバカな言動にも、ちゃんとした論破が出来ないです。
・・・・・・恭文さん、恭文さんの夢、リインとアルトアイゼンは知っています」



その言葉に、胸が貫かれる。そして・・・・・・呼吸が苦しくなる。



「恭文さんがどうして『狭い枠に閉じこもる言い訳をしない自分』を目指しているのか、知っています。
それにどれだけ憧れて、何があってもそうなりたいと思ったか、リイン達は知っています」



それは、あの・・・・・・本当に一部の人間しか知らない事だから。



「その夢は、変わってないですよね? 今改めて恭文さんを見て、それは分かったのです。
恭文さんがリンディさんの言葉に頷けなかった理由も、同じように変わってないですよね」

≪そうですよ。それなのに、どうしてそこを忘れてるんですか。だからバカなんですよ。
・・・・・・あなたはバカで性悪で、我が儘で嘘つきでヘタレで天然フラグメイカーで≫

「その上いつも無茶して、みんなに心配かけまくって、運もなくて、こうと決めたらやたらと強情で」



ちょっとっ!? いくらなんでも言い過ぎでしょうがっ!!



≪そして私があの時、マスターと認めた人です≫



その言葉にまた胸が震えた。・・・・・・そうだ。僕はあの時・・・・・・アルトに認められたんだ。



「私も同じですよ。・・・・・・大事な、本当に大事な人です。恭文さんは、私に今をくれた人ですから」

「アルト・・・・・・・リイン」





バカ。それは・・・・・・僕だって同じだよ。二人に・・・・・・そっか。

僕、忘れてた。忘れちゃいけないと思う理由の一つ、本当に忘れてた。

正直、戒めている部分もある。でも、それだけじゃない。



あの時、僕はリインやアルトと出会えて、始められたんだ。

今に繋がる時間を。今を、守りたいと思うようになったんだ。

でも、あの時のことをどれか一つでも忘れるのは・・・・・・そうだよ。



大事なパートナー達との時間も、一緒に忘れることになるんだ。



後悔している時間も、状況はどうあれ始まりの一部だから。そこは、間違いないから。





≪・・・・・・思い出しましたか?≫

「うん、思い出した。なんか・・・・・・ダメだね」

≪その通りですよ≫

「恭文さん」



リインが真っ直ぐに僕を見る。どこか優しくて、強い瞳で。

夜の風と月明かりを浴びながら、僕を見続けてくれている。



「恭文さんは、忘れたいのですか? あの時の事覚えてるのは、ずっと持っているのは、辛いですか?
大事な夢を、憧れ続けている自分のなりたい形を捨てて、楽になりたいですか?」



さっきまでは分からなかった。だけど、今なら分かる。だから、リインの言葉にこう返す。



「・・・・・・正直ね、軽くはない。でも、忘れたくない。絶対に」



・・・・・・これなんだ。僕は・・・・・・これが答えなんだ。そうだ、だからなんだ。



「戒めるだけじゃない。重いだけじゃないんだ。だって、あの時の時間の全ては、今に繋がっている」



忘れたくないと思う理由の一つ。それは、あの時の時間が後悔だけじゃないから。

大切なパートナーや大好きな人と繋がった時間も、そこにあるから。



「夢も、憧れている形も、捨てたくない。僕が・・・・・・僕の心の中で、ちゃんと息づいているものだから」



そうだ、絶対に償いのためなんかじゃない。言い訳しない自分は、僕がなりたい自分の形だから。

そんな自分になって・・・・・・もしもなれたら、夢に近づけるような気がして・・・・・・それでなんだ。



「それを忘れる事も、置いていく事も、絶対にしたくない。何も・・・・・・捨てたくなんてない。
そんなことをしてまで楽になんて、幸せになんてなりたくない。・・・・・・拭えないの、絶対に」

「私も同じですよ」



『恭文さんと同じです』。そう言って、リインは更に言葉を続ける。



「重くないって言ったら、嘘になる。でも私は、過去に囚われているつもりこれっぽっちもない。
恭文さんが大好きで、大切で・・・・・・愛してるから、一杯守りたいし側に居たい」



小さな右手を僕に向かってそっと伸ばす。アルトは宙に浮いて、リインの手元から離れる。

リインの手は、そっと僕の左頬を撫でてくれる。一杯・・・・・・優しく。



「あの時の時間は、私達の中にもあります。私達も、忘れたくなんてない。
・・・・・・あなたは、償いなんて最初からしていない。そんな事のために、ここまで来てはいない」



言いながらも、リインはずっと手を動かしてくれる。それで、少しずつだけど迷いが晴れていく。



「そんな事、私達が誰にも言わせない。あなたのこれまでがそのためだけだったなんて、絶対に認めない。
言い訳しない自分を目指す事も、誰かを本当の意味で守りたいと思うあなたの心も、全部本物だから。嘘なんて、これっぽっちもない」

「・・・・・・リイン」

「だから、まず自分のことを信じて。今のままだとあなたが壊れるなんて、それこそが嘘。ホントの事は、全部今までの時間の中にあるから」



ヤバい、ちょっと泣きそう。てゆうか、目に涙たまってきたし。



「だからわがまま通して、他のみんなは黙らせちゃいましょ?」

「わがまま?」

「忘れないで、変わっていけばいいです。・・・・・・きっと出来るから。夢も想いも変わってないなら、それでいい。
捨てられないなら、捨てたくないなら全部抱えて、その上で進んで・・・・・・ここから新しいあなたを一緒に始めればいいから」



リインのそう言いながら浮かべた笑顔に、心が・・・・・・決まった。

あんなに揺らいでいた心の動揺が、完全に動きを動きを止めた。



≪・・・・・・それでも忘れそうになったら、それが嫌なら、私達が思い出させてあげます。
重いのなら、肩くらいは貸します。私達は、そのためにあなたと一緒に居ますから≫

「恭文さん、本当に忘れん坊さんですね。恭文さんは、一人じゃないですよ?
アルトアイゼンも、私も居ます。だから、迷わないでください。恭文さんの答えはもう、出ているはずです」



・・・・・・そうだね、きっと迷ってた。フェイトとの時間、繋ぎたくて・・・・・・考えて、迷ってた。

普通という枠の中じゃなきゃ、人が作った枠の中じゃなきゃ、だめなのかなって。なんか僕、ダメだな。



「そうだね。とっくに出てた。・・・・・・でも、いいのかな」

≪いいんですよ。私達が選んで、私達が生きる時間です。私達のやり方で幸せにならないでどうするんですか。
それに今日までの記憶は全て必要であり、幸せなんです。クラジャンの歌詞にもあるではありませんか≫

「私達の今と、今までの時間の全ては、誰がなんと言おうと、幸せだと思える未来に繋がっています。絶対に、絶対です。
忘れて繋がる未来なんて、私達には必要ありません。それをこれから、証明していきましょう。大丈夫、私達ならきっと出来ます」



不思議だ。一人だったら、きっとリンディさんの言うようにしてた。でも・・・・・・一人じゃない。

僕の時間は、夢は、目指している『なりたい自分』は嘘なんかじゃないって、背中を押してくれた。



「・・・・・・一つね、考えてる事があるんだ。僕の新しい、変わりたい形」

「それは、大事な形ですよね」

「うん。でもさ、僕は知っての通りバカだから、一人じゃ無理っぽいんだ。・・・・・・アルト、リイン」





アルトが居る。リインが居る。それだけで怖いものがなくなる。

どんな状況も変えていけると、心から信じられる。そのための力も溢れてくる。

僕には、僕の世界がある。僕の変えたい今や、欲しい未来がある。



それを人任せ? 出来るわけがない。僕の世界を、僕自身を変えられるのは、僕だけなんだ。

・・・・・・僕達にとって、今日までの記憶は全て必要で、幸せ。誰がなんと言おうと、絶対に。

その中で忘れていいことなんて、下ろしていいことなんて、なにもない。



その中にあるものは嘘になんてしないし、嘘なんて何もない。



だから、ここから・・・・・・一歩だけ踏み出す。踏み出して、前に進む。





「お願い。これからも、僕と一緒に戦って」

≪もちろんです。というか・・・・・・私達は約束したはずですよ?
『決して一人では戦わせない』と。その約束に期限を決めた覚えはありません≫

「そうですよ。それに私は蒼天を行く祝福の風であると同時に、古き鉄・・・・・・あなたの、一部だから。
だから守る。私の全てで、あなたの全てを。全部守って、一緒に笑顔で居られる未来に行くから」



・・・・・・・・・・・・うん、そうだね。一人じゃない。だから・・・・・・いつも通りだ。



「分かった。んじゃ、こっからはいつものノリで行こうか。めんどいのはもうおしまい。
僕達は僕達のノリで、僕達の時間を生きる。楽しく、ヘラヘラと、傲慢にね」

「はいです♪」

≪全く、やっと復活しましたか≫





それが罪だって言うなら、背負うさ。それでも、やらなきゃいけない。

忘れたら、無かったことにしたら、そうして諦めたらダメなんだ。

それで得られる未来なんて、僕達にはいらない。欲しいのは、ただ一つ。



諦めないで進んで・・・・・・そうして得られる時間なんだから。





「うん、復活したよ。・・・・・・そうだ、それでいい。何も消えてない。何も、捨てられない」





・・・・・・そうだよ、捨てたら壊れるものがある。それは、僕のなりたい形。

リインやアルト、先生や師匠、一部の人にしか話していない僕の夢。

これが壊れるなんて、嫌だ。これは僕にとって凄く大事なものなんだ。



だから、右手を胸元で握り締める。そして・・・・・・覚悟を決める。





「一歩ずつで、いいよね。ここから・・・・・・少しずつでも目指したいから」

「はい」





僕は僕なんだ。今までの時間は、嘘になったりしない。捨てたりなんて出来ない。

だから始めてみよう。今までと違う道になっても、変わっても変わらないものを持ち続けていられる自分を。

それで何も諦めないで、全部掴んでいける新しい僕を。きっとこれが、今の僕の変わりたい形。



・・・・・・あの人の言うような、守るべきものを守る騎士としての自分になりたい。

だって僕の守りたいものも、貫きたい事も、何も変わってなんてないから。

それに背負う・・・・・・いや、大事に持っていたいものも、何も変わらなかったから。





「というわけで・・・・・・フェイトさん、もう大丈夫ですから出てきていいですよー」

「え?」



リインが声をかけた方を見ると、申し訳なさそうな顔で歩いてくる影がある。

それは、フェイト。というか・・・・・・え、どうしてっ!?



≪あなたの捜索を主立ってやったの、フェイトさんなんですよ≫

「そうなのっ!?」

「そうなの」



言って、フェイトは僕の前までくる。そして頭を下げる。



「・・・・・・ごめん、ヤスフミ。母さんがヒドイこと言って。
ヤスフミ、何も忘れたり降ろしたりしたくないって言ってたのに」

「別に頭下げる必要ないよ。フェイトが言ったわけじゃないじゃん」

「それでも私の母さんだから。・・・・・・隣、いい?」

「うん。・・・・・・あ、ちょっと待って」



懐から取り出すのは、青と白のチェックのハンカチ。それを、右隣に敷く。



「はい」

「あ、ありがと」



フェイトは微笑みながら、そのハンカチの上に腰を降ろす。

まぁ、制服が汚れたりしたらダメだしね。一応こういうのは大事なのさ。



「・・・・・・ゆっくりでいいよ。今すぐ決める必要はない」



どうやら、色々聴こえてはいたらしい。だからフェイトは、一言だけそう言った。

それから僕を見て、安心させるように笑ってくれた。



「そうかな? リンディさん辺りは、普通にそれだと納得してくれないみたいだけど」

「母さんはこの際気にしなくてもいいよ。・・・・・・ヤスフミとアルトアイゼンと、リインの時間だもの。
少しずつでいい。それに、明確ではなくてもやりたい事とか・・・・・・見えてるんだよね」



僕はフェイトの言葉に頷いて、少し辛いけど安心させるように笑う。さっきのフェイトと、同じように。



「一応は。ごめん、昨日はその・・・・・・まだ考えがまとまってなくて。というか、今ちゃんと気づいた」

「謝らなくても大丈夫だよ。今はいっぱい色々考えて、こんがらがってるだろうから」

「・・・・・・うん。それでさ、フェイト」



・・・・・・どうしよ、言いにくい。でも、言わなきゃいけないね。



「ストップ」



言葉は遮られた。少し怒ったような顔で、フェイトは僕を見る。

・・・・・・なに言おうとしたのか、分かったのか。



「分かるよ。私やみんながこれまで望んできたような答えは出せない。またそう言おうとした」

「・・・・・・うん」

「そんな答え、出す必要ないよ。ね、ヤスフミは何がしたい? 戦って、なにを変えたい?」



そんなの決まってる。・・・・・・変わらなかった。なにも。



「・・・・・・今を守りたい。それを壊す理不尽があるなら、目の前で誰かが泣くなら、全部覆したい。
身勝手で我が儘だけど、そんな自分の気持ちのために戦いたい。組織や世界のためなんて、嫌だ」

「うん」

「それに・・・・・・絶対に忘れたくない。あの時の時間は、重いだけじゃない。今に繋がっているから。
過去を数えて向き合う事は、償いのためなんかじゃない。前へ一歩踏み出すためだから」



記憶は時間。それがあるから、ここに居られる。だから、忘れたくない。なにがあろうと絶対に。

『お前の罪を数えろ』だって同じだ。誰が言ったか覚えてなくても、僕の中にある。



「僕は、何も捨てたくない。大切なものを捨ててどうにかするような事、したくない。
・・・・・・必要のない記憶なんて、どこにもない。そんなの絶対に、違う」

「・・・・・・うん」



全部必要で、大事で・・・・・・僕という人間の積み重ねがそこにある。いらないものなんて、何もない。

・・・・・・フェイトは、満足そうに頷いてくれた。認めて、受け入れてくれているから出来る仕草。



「なら、それでいいよ。きっとヤスフミにとっては、全部そこからだと思うから。あ、でもね」

「なに?」

「お願いが一つだけ。・・・・・・本当にもう少しだけでいいから、自分をもっと大事にして欲しい。
きっと飛び込んでいくんだろうけど、そのためにヤスフミがすり減ったら意味がないよ」



フェイトが左手を伸ばして、右手をそっと握り締めてくれる。握り締めて、強く胸元に引き寄せて抱きしめる。



「守りたいなら、その中に自分を含めて。自分の事も、全部守って。
出来るかどうかはともかくとして、そういう気持ち、少しだけでいいから持っていて欲しいな」

「・・・・・・善処、する」



ごめん、大事にはしたいけどちゃんと出来るかどうかは約束出来ないや。

守りに入って何も出来ないのも、やっぱり嫌だしさ。



「善処かぁ。これは・・・・・・うん、もうちょっとお話かな。
ね、このまま少しだけ混ぜてもらってもいい? もう少し、ちゃんと話したいんだ」

「うん。あ、というか仕事」

「今日はもう終わってるから、大丈夫。・・・・・・それに」



フェイトが、言いながらも僕の手を繋ぐ。繋いで、強く握り締める。



「今は、しっかりとヤスフミと向き合いたい。もっともっと、分かり合いたいから」

「あの、えっと・・・・・・ありがと」

「うん。じゃあ、また昨日みたいにお話だね」





・・・・・・見えた形は、目の前の女の子を守れる強い形。傷ついて、壊れそうになった時に、僕は助けになれなかった。

それが嫌で、覆したくて・・・・・・だから、迷った。迷って、降ろさなくちゃそれが出来ないとさえ思った。でも、そんなの違った。

僕がなりたかった形は、それが出来無くても・・・・・・ううん、しないでフェイトの事、ちゃんと守れる形なんだ。



どうしよう。どう、伝えよう。でも、ちゃんと言わなくちゃだめだよね。



言わないでこれだったら、絶対色々とんでもないことになるし・・・・・・うーん。





「ヤスフミ、どうしたの?」

「あ、ううん。・・・・・・もっと手、繋いでてもいいかな」

「うん、いいよ」




















(第26話へ続く)






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