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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第24話 『とある魔導師と閃光の女神の一夜』(加筆修正版)



「そこをなんとかっ!!」

「お客様のご要望をお受けしたいのは山々なんですが・・・・・・無理なんです」





現在、フロントでヤスフミとフロントマンの人が交渉中。だけど、まったく上手くいかない。

交渉内容は、二部屋取れないかという話。

だけど・・・・・・顔見知りなら、一部屋でお願いできないかと言われた。



この状況だしね。私たち以外にも、どんどん人が来ている。



・・・・・・同じ部屋は、少しまずいしね。前にそれで大騒ぎだったし。





「多少割高でもいいんで、二部屋取れませんか?」

「取れない事もないですが」

「ほんとですかっ!?」

「ですが、それだとこれになってしまうんです。
それがこちら・・・・・・最高級のロイヤル・スウィートです」



提示された額を見て、私たち二人とも、ビックリしたのは言うまでもないと思う。



「多少じゃねぇぇぇぇぇぇぇっ! ぶっちぎってるっ!! ぶっちぎっちゃってるよね、これはっ!?」



というか、ヒドイよこれは。お金が無いわけじゃない。

だけど、これを二部屋は、もったいなさ過ぎる。・・・・・・うん、それなら。



「分かりました。同じ部屋でお願いします」

「フェイトっ!?」



こうなったらもう仕方ない。さすがにスウィートルームは高すぎるわけだし。



「あの、私なら大丈夫だから。・・・・・・ね?」

「・・・・・・分かった。あの、この部屋・・・・・・ベッドが二つある部屋で、お願いします。一つは、絶対認めませんので」









フロントマンさんが、丁重に頭を下げながら『ありがとうございます』と言うと、カードキーを渡してくれた。





そして、その部屋へと向かう。・・・・・・でも、どうしよう。いきなりこんな事になるなんて。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第24話 『とある魔導師と閃光の女神の一夜』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・バリケードの材料、売ってなさそうだな。いや、いっそブレイクハウトで構築する?
そうだ、そうしよう。帰る時に元に戻せば、問題ないハズだよね」

「あの、そんな事しなくても・・・・・・私は大丈夫だよ?
あと、それは絶対だめだからっ! 普通に罰金コースだよっ!?」

「だって、僕が大丈夫じゃないの。うん、色んな意味でね」





つか、いきなりこうなるとは・・・・・・なんだこの神展開っ!?

前回に続いてワケが分からないしっ!!

とにかく、これからだよね。うん、極力意識しないようにしよう。



・・・・・・あ、こういう時には頼りになる人が居るじゃないのさっ!!





「フェイト、ごめん。ちょっと連絡するところがあるから」

「あ、うん」










そして僕は部屋を出てから、通信を繋ぐ。その相手は・・・・・・この人。





人呼んで、暴走機関車。というか、某理想郷の捜索掲示板でそんな風に言われた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『はーい♪ ・・・・・・恭文くん、どうしたのかな。
またお姉さんにあんな事やこんな事を相談したくなっちゃったの?』



そう、みなさまご存知無敵のお母さん。僕のメル友でもあるメガーヌ・アルピーノさんだ。

何気にあれから、色々相談してプライベートな事はあらかた話してしまっている。



「実はそうなんです。今、大丈夫ですか?」

『うん、今丁度夕飯の仕込みも終わったし。あ、というかそっちは大丈夫?
もうここも凄い大雨で・・・・・・うぅ、この部屋、星が綺麗に見えるのに。ちょっと残念』

「それが大丈夫じゃないんです。実は、その辺りで問題が出まして」





・・・・・・この人の包容力というか大人っぽさは、恐ろしい。普通に外向きのキャラが外れる。

こういう多面性が、メガーヌさんの魅力の一つだと僕は思う。うん、一つの顔だけじゃないの。

女の子なキャラもお母さんでお姉さんなキャラも、ちょっとエッチなキャラも出来る。



ただ、僕に対しては事ある毎にエッチなキャラを全開にするのは、やめて欲しい。



というわけで、早速挨拶もしつつ事情説明。かくかくしかじか・・・・・・なんですよ。





『・・・・・・まずは避妊具ね』

「失礼しました。というか、豆腐の角に頭ぶつけてください」



早速コレだしっ! あぁもう、予想はしてたけどこの人ドンダケッ!?



『いけずー! 軽めのジョークじゃないっ!! というか、こういうのは大事なのよっ!?』



分かってるわボケっ! でも、そういう事を聞きたいんじゃないのっ!!



「メガーヌさん、どうも理解してくれてないようなので、ハッキリ言いますねっ!?
僕はどうすればこの神展開を、平穏無事に切り抜けられるかを聞きたいんですよっ!!」



決して避妊具が必要な状況に、どうすれば出来るかを聞きたいんじゃないのよっ!?

てゆうか、その・・・・・・僕達、まだ付き合ってもないのよっ!? ダメに決まってるでしょっ!!



『平穏無事・・・・・・まぁ、フェイト執務官が君をっていうのは無いだろうから』



そうですね、むしろあったらビックリですよ。嬉しいけど、逆に僕は戸惑っちゃいますよ。



『やっぱり君の我慢次第よね。でもよ? むしろ抑えない方がいいのかな。
・・・・・・いや、そういうのは・・・・・・だし。うん、やっぱり我慢なさい』

「いったい何を思い出したんですか、あなたっ!!」



ビックリしたぞ。色んな方程式が飛び出たんだから。メガーヌさんはいたずらっぽく笑うけど、僕は全く笑えない。



『まぁアレよ。場合によっては、時の流れに任せる事も必要よ?』

「いや、あの」

『そうなる時っていうのは、そうなるべくしてなるんだから。うん、我ながら名言だわ』



・・・・・・その嬉しそうな顔はやめてください。というか自分で名言って言わないで。



『とにかく頑張ってね。せっかくのシチュエーションなんだもの。
そういう事が無くても、距離を縮めるいいきっかけにはなると思うな』

「・・・・・・はい。あの、話聞いてくれてありがとうございました」

『ううん。というか、これで少しは落ち着いたでしょ?』





・・・・・・うん、色々と見抜かれていたのね。やっぱり凄い人だ。

とにかく僕は再度お礼を言ってから、通信を終えた。

結果の報告を約束した上でね。うん、しっかり報告出来るように、ハッピーエンドを目指そう。



それから部屋に戻ると・・・・・・なにしてるの?





「あ、うん。非常口の確認。こういうの、大事だから」



・・・・・・もう一回通信したくなってきた。こういうのは、どう読み取ればいいんですかってさ。



「それでフェイト、夕飯どうする?」



なんだかんだで、もうそんな時間ですよ。またバイキング? それも芸がないなぁ。



「あ、それなら行ってみたいところがあるんだ」

「そうなの?」

「うん。ここなんだけど」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・まさか、フレンチレストランを持ってくるとは」

「ちょっと気になってたから。でも、残念だね」



ここはホテルの上層階にある、フレンチレストラン。本当なら窓から綺麗な夜景でも見えるんだろうけど、今は見えない。

だって、どしゃぶりなんだもん。代わりに窓全体にスクリーンが張られて、夜景の映像が映っている。



「・・・・・・フェイト」

「うん?」

「あの、ごめん。早く帰ってればよかった」



いきなりではあったけど、色々とやりようがあったのではないかと、反省している。



「いいよ、謝らなくても。それに・・・・・・一日ヤスフミとずっと一緒なんだよね。
そんな事、滅多に出来ないもの。だからきっと、いい思い出になるよ」



そう言ってにっこり笑うフェイトの笑顔が、凄くまぶしかった。とても明るくて、優しくて。

だめだな、やっぱり。僕はフェイトにはデレデレなんだと思う、うん。



「・・・・・・うん、ならいいや。そうだね、楽しく過ごそうか。最後まで」

「うん」










そして僕とフェイトは出てきた料理に、美味しく舌鼓を打った。というか、本当に美味しかった。





うん、幸せ。あと、フェイトが笑顔だったのも幸せだよ。今日はやっぱりいい日だなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フルコースの食事もメインを終えて、後はデザートを残すのみになった。

途中でワインも頼んだりして、ちょっとだけ大人な雰囲気。

・・・・・・なんだか、心地いいな。お酒が入っているのもあるんだけど、今の時間が心地いい。





料理をいただきつつ、ヤスフミと話した。今日の事とかを中心に、楽しく。なんだか、安心する。

こういう形のデートに誘われた事が、無いわけでは無い。・・・・・・断っていたけど。

どうしても、下心みたいなものを感じていたから。本能的な部分で、不安を感じていた。





うん、不安に感じる部分が強かったんだ。色々な理由で。

・・・・・・私の身体が特殊な生まれ方をしているのも、その理由の一つ。

だけど、普通の女性とは全く変わりがないらしい。





つまりその、クローンだけど出産とかもちゃんと出来る。短命というわけでもない。

ハラオウン家でお世話になるようになってから、クロノとリンディ母さんの勧めもあって、検査を受けた。

クローン技術はミッドの技術でも、不安定だから。だからこその検査。





例えば・・・・・・突然の遺伝子の変異による、短命。出産などの、生命としての機能の不全。

私だけの話じゃなくて、私のような生まれ方をした子には、常にそういった心配が付きまとっていたから。

数年に渡る、将来性も鑑みた上での遺伝子レベルでの検査。そしてその結果は、オールグリーンだった。





私は普通の女性と変わらず子どもも産めるし、短命でもない。そう断言された。それが、今から4年前。

これはさっきも言ったけど、数年に渡って遺伝子レベルで検査をした結果。

医者の方が驚くくらいに完璧で、覆りようもないらしい。これには私もビックリした。・・・・・・覚悟は、していたから。





私はこれを、プレシア母さんの贈り物だと思っている。私にじゃない。・・・・・・アリシアにだ。

プレシア母さんはきっと生き返ったアリシアに、本当に幸せになって欲しかった。

もっと言うと普通の女性としての幸せを、全うして欲しかったのではないかと思う。





生き返らせてももしそれが理由・・・・・・先ほど言ったような事が起これば、二回も娘を亡くす事になる。

それが嫌で・・・・・・だからきっと、本当に長い時間をかけたんだと思う。それでも耐えた。

アリシアとの一点の曇りもない時間を夢見て。そして、アリシアの幸せな未来を夢見て。





だからこその今の身体だと思っている。もちろん、感謝はしている。だけど・・・・・・少しだけ複雑。

話が逸れたけど、私がそういうのを断っていたのは、気が進まなかったから。

身体の事、生まれの事。・・・・・・全く気にしていないと言ったら、嘘になる。





それにエリオやキャロの事もあったから。充分過ぎる位に幸せ。だから、そういうのはしばらくはいい。

そうだ、今あるものだけでいい。だって、私は十二分に満たされている。貫きたい理想が、仕事が、私にはある。

見守っていきたい子達が居て、暖かな家族が居て・・・・・・だから、今あるものだけでいい。これ以上はいい。





これ以上は、欲張りだもの。私はもう充分幸せになっているから。そう・・・・・・思ってたんだけどな。

だけど、今は違う。・・・・・・なんだか、不思議なの。たった一日だけなのに。

それまで私達が過ごしてきた時間の、何千分の一。それが、今日と言う日。





その少しの時間で、私のヤスフミを見る目が変わってきているのが分かる。

一緒に居て、家族とか、そういうのを抜きにして、安心できる。

私の事、気遣ってくれているのが分かる。不安にさせないように守ろうとしてくれているのが分かる。





・・・・・・それに私はドキドキしている。今まで感じた事のない色の幸せが、胸の中で生まれ始めてる。

ヤスフミとこうして居る時間が楽しくて、今の状況も実は楽しんでいる。その、不安に思わない訳じゃない。

やっぱり、ヤスフミも男の子だから・・・・・・なんて考える。でも、それよりも大丈夫だと思う部分が強い。





・・・・・・勝手だよね、私。だけど、信じたいな。うん、信じたいんだ。





私は今まで知らなかった今のヤスフミを、信じたいんだ。それでもっと・・・・・・もっとなんだ。










「・・・・・・あれ?」





ヤスフミが何かに気付く。・・・・・・私も気付く。

さっきまでBGMに流れていたピアノの音が、消えていた。

それによって少しだけ、外の雨の音が聞こえる。



なお、当然のようにどしゃ降りの雨が窓やホテルを叩く音。決していい音じゃない。





「なにか揉めてるね」



それが気になったのか、ヤスフミが近くのウェイターさんを呼びつける。



「あの」

「すみません、ご迷惑おかけしております」

「いや、それはいいんですけど、これは」

「実は」



ウェイターさんの話によると、音響設備が壊れたらしい。・・・・・・雷とかの影響かな。

というか、なんか照明も・・・・・・あぁ、暗くなってる。ざわめきが、どんどん大きくなる。



「あの、あそこにおいてあるピアノは駄目なんですか?」



ヤスフミが視線で指したのは、ちょうど店内の中心にある一台のグランドピアノ。

確かにあれを使えば、場を沈めさせる事が出来るかも。



「あれは催し用で、スタッフの中では弾ける人間が、居ないんですよ」

「なんちゅう」

「それは意味ないね」

「・・・・・・あ、それなら」



ヤスフミが、何かを思い付いたような顔をした。そして、提案した。



「僕が弾きますよ」



・・・・・・・・・・・・え?



『えぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、ピアノの前に座る。で、スタッフさんを何人か呼んでもらって、打ち合わせ。





大丈夫、ピアノはサリさんやらカリムさんやらに相当叩き込まれた。だから、弾ける。










「・・・・・・で、こういう感じの曲なんですよ」



なんて言いながら、軽めに弾いたりする。まぁ、一応ね。

いきなり弾いて、ビックリされてもアレだから。



「問題、ありませんか?」



で、口ひげの生えたオーナーさんが唸る。唸って・・・・・・力強く頷いた。



「今日は子供連れのお客さんも多いし、多少砕けても問題・・・・・・ないよな?」



オーナーさんが周りの店員さんを見る。で、全員も頷いた。



「そうですね。というより、この際お願いした方がいいと思います。
他に弾ける人間も居ませんし、正直曲目どうこうと言うより・・・・・・雨の音が」



雷や雨の音が、どんどん激しくなって窓を叩く。正直、楽しく食事出来るレベルじゃない。

てゆうかさ、ここはレストランなのよ? 普通に空気壊してるって。ほら、子どもも泣き始めてるし。



「なら、決まりですね。あ、一応曲目の確認作業だけお願い出来ますか?
お手間をかけさせてしまいますが、こちらもいきなり全てお任せは不安なので」

「分かりました。じゃあすみませんけど、そっちもお願いします」

「はい」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・結局、トントン拍子で話は纏まり、本当に弾く事になった。

照明が少しだけ暗いものに変わる。それに、辺りのお客さんがどよめく。

そして中心でピアノに向かったヤスフミが、他のお客さんの注目を集める。





というか、大丈夫なのかな。ヤスフミ、ピアニストなわけじゃないんだし。

いや、そもそもピアノ弾けるの? 私はそんな事出来るなんて、全く知らない。

だけど、そんな私の心配を余所に、準備は進んでいく。そして・・・・・・始まった。





少しだけアップテンポな曲。どこか激しくて、強くて。でも、それは印象。

曲自体はスローで、場の雰囲気を壊すようなものじゃなかった。

というか、ちょっと控えめに弾いてる感じ。空気を壊さないように、優しく・・・・・・しっとりと。





でも、凄い。普通に上手だよ。ヤスフミ、いつの間にこんな事出来るようになったの?

・・・・・・知らなかった事、またあったね。きっとまだある。知って、いけるかな?

ううん、知っていける。私が向き合おうと望めば、絶対に。出来ない理由なんてないよ。





とにかく私とお店のお客さんは、音響設備が復活するまでヤスフミのピアノに耳を傾けていた。





これだけじゃなくて、色んな曲を弾いた。でも、本当にビックリした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・タダにしていただきました。いや、なんでも覚えておくもんだね〜。

なお、弾いた曲は・・・・・・ダブアクとクラジャンのピアノフォーム。

あと、某絶対可憐なアニメの三番目のEDとか。(耳コピで密かに練習していた)





あれ好きなのよ。・・・・・・弾き語りすればよかった。いや、さすがにマズイだろうけど。

・・・・・・なお、親子連れで来ていたお客さんのリクエストに、応えたりした。

というか、子どもの方だね。こっちは弾き語りしてしまっったさ。クラジャンのファイナル。





控えめに、ゆっくりと・・・・・・1コーラスだけ。うぅ、拍手されてしまったのが、くすぐったいよ。

一応付け加えておくと、全てお店の方に確認した上で弾いている。

弾き語りも同じく。これで大丈夫ですか〜という具合に。さすがにそこはちゃんとするさ。





お店をフェイトと二人出て、少しだけ顔を赤くしながら僕達は・・・・・・部屋を目指す。










「でも、驚いた」



そんな道中の最中に、フェイトがそんな事を言ってきた。

なんか嬉しそうというか、楽しそうな顔してる。ワインのお陰で顔も少し赤いし。



「なんで?」

「ピアノ。弾けるなんて、知らなかったから」



あー、確かに言ってなかった。見せる機会もなかったしね。



「サリさんとカリムさんに教えてもらったんだよ」





修行のために聖王教会に居るとき・・・・・・ここ1、2年の間にだ。



理由は簡単。弾き語りとかがモテ要素だから。これで告白でもしろと、叩き込まれたのだ。



まぁオタクの好奇心の元に、アニメ関係の曲しか弾けなかったりするんだけど。





「そうだったんだ。なんだか、サリさんはホントにお兄さんだね。色んな事教わってる」

「うん、そうだね。感謝しないと」



とりあえず無事に帰り着いたら、報告メールを打とう。好感度は稼げたと。



「他は何が弾けるの?」

「うーん、アニメ関係だけなんだけど、色々。
・・・・・・うん、子ども受けはいいね。そんな曲ばかりだ」

「そうだね。さっきのあの子も、嬉しそうだった」





思い出すのは、リクエストをしてきたヴィヴィオくらいの子。うん、嬉しそうだった。



なんというか、ああいうのを見ると、僕も嬉しい。・・・・・・そうだよね。



僕の中にあるのは、壊す事だけじゃない。それだけじゃ、無いんだ。





「そう言えば、あの歌・・・・・・えっと」

「クライマックスジャンプ?」

「あ、そういう題名なんだね。えっと、最近ヴィヴィオやなのはが口ずさんでるの。
それでよく聴いてて・・・・・・というか、ヤスフミが弾いた他の曲にも、聴き覚えがあるの」



あぁ、電王は二人も好きだしね。納得納得。



「実はあれ、僕がディスク貸している特撮物の主題歌や、挿入歌なんだよ。
というか、電王の。実際にピアノバージョンも作られててさ」



というか、それが弾きたくなって、練習が本格化したりした。それはもう、猛特訓でしたよ。



「だからなんだね。納得した」

「まぁ、そういうのを抜きにしても、あの曲達は好きなんだけどね」





特に今日歌ったクライマックスジャンプのファイナル、いいんだよね。

歌詞が変わってて、元のクラジャンの続きみたいになってて。

僕、初めて聴いた時には感動したもの。最後これなんだーってさ。



・・・・・・劇場版の3作目、見れてないからさ。聴いて寂しさを埋めているのさ。





「うん、解る」

「解るのっ!?」

「だって、弾いている時、すごく楽しそうだったから」



・・・・・・はい、楽しかったです。すごく。



「ね、音源とかってある?」

「・・・・・・うん。CDから取ったのを、端末に入れているけど」

「なら・・・・・・今日歌っていたの、欲しいな」



・・・・・・え? それはまたなぜに。だって、フェイトは電王見てないのに。



「聴いてて、いい曲だと思ったから。こう、元気になれるの」

「・・・・・・そっか。うん、分かった。そういう事なら」










そして、僕は快く音源ディスクを貸す約束をした。なんか嬉しい。





フェイトと、こうやって共通の話題が出来ていくのが。やっぱり今日に感謝だよ、うん。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・というか、フェイト大丈夫?」

「うん、大丈夫。というか・・・・・・おかしいなぁ。一杯くらいなら、平気だと思ったのに」



もう言ってはいるけど、一応再補足。二人でワイン開けました。いや、その場の勢いでさ。



「というかフェイト、お酒弱くなってない? 前はまだ大丈夫だったのに」

「うぅ、久しぶりだからかな。ダメだなぁ」





とにかく、少しだけふらふらしているフェイトを部屋に連れ帰って、ベッドに座らせる。



うん、酔っ払ってるってほどじゃない。多分、悪酔いしただけだ。問題はないと思う。



続いて、僕は水を持ってくる。洗面所にコップがあったので、それに汲んでフェイトに渡す。





「あ、ありがと」



それを飲むと、楽になったみたい。少し息を吐いた。・・・・・・でもさ、色っぽいよ。

いつもは真っ白な肌が、ほんのり赤く染まって、凄く綺麗。見ているだけで、ドキドキする。



「・・・・・・ヤスフミ?」



そのトローンとした目は凶器だと思う。・・・・・・まぁ、いいや。ここは落ち着いていこう。慎重に、的確にだ。



「・・・・・・ううん、なんでもない。でも、大丈夫?」

「うん。少し身体が熱いけど、大丈夫。やっぱり飲み慣れてないとダメなんだね」

「あははは・・・・・・そうだね」



僕は慣れてるからなぁ。一本開けたけど、まったく平気。



「あー、じゃあ僕お風呂入ってくるよ」



あの、フェイトさん。なんでいきなりそんな警戒心出してくるのさ。・・・・・・あ、まさかっ!!



「違うっ! そういう事じゃないからねっ!? 普通に汗かいてるから、さっぱりしたいだけでっ!!」



今度は顔が真っ赤になった。いや、僕もなんだけど。

なんていうか、ネジが抜けてるよ。今日のフェイトは。



「・・・・・なら、公共浴場の方に行くよ。それなら、フェイトも安心でしょ?」

「あ、うん。・・・・・・なら、私も行こうかな」

「うーん、今はやめたほうがいいと思う」



お酒が入っているから、ちと危ない。入るなら、酔いを醒ましてからだよ。



「そうだね。・・・・・・なら、ちょっとお話しようか」

「え?」

「その、酔いが醒めるまでの間、少しだけ。・・・・・・いいよね」



断る理由? ないでしょ。とにかく僕はもベッドにちょこんと座って、フェイトと話す事になった。

それで色々と話す。六課の事やエリキャロの事やリインの事とか。あと、僕の進路の事。



「・・・・・・解散後はまた、フリーの魔導師に戻るつもりなの?」

「そのつもりかな。あー、まだ本決まりじゃないけど」



結構迷っていた。色んな事、考え始めているから。

ただ、変わらないものが・・・・・・道を少しだけ、示し始めているとは思う。



「でも・・・・・・旅に出ようと思ってるんだ」

「え?」



フェイトが表情を変えた。それは驚きや戸惑。その中に不安の色があるのは、当然だと思う。



「旅に出て、ゆっくりしたいなーって。ゆっくりしてく中で、色々考えたいんだ。
これからの方向性とか、嘱託続けるかってレベルで。正直、もう色々ゴメンだから」

「・・・・・・あの、ごめん。母さんもそうだしアルフには私から言ったんだけど」

「ううん、そういう事じゃないの。局の業務自体にもう関わりたくないなって・・・・・・ちょっと思ってる。
いっそGPOの方でお世話になろうかなぁ。シルビィ達とまた大暴れするのも楽しそうだし」



フェイトは何も言わない。何も言わずに、ただ優しく頷くだけだった。



「・・・・・・それなら局の部隊に入るのは、選択肢にはならないんだね」

「やっぱりそこにいくんだ」



フェイトは少し申し訳なさそうにしながら、また頷いた。



「例えばギンガやナカジマ三佐みたいに、ちゃんと能力を認めて受け入れてくれてる人も居る。
そんな人達と仕事をする道もあるわけだから。それだって立派な選択の一つだと思うんだ。あと」

「・・・・・・誘ってくれてる以上、ちゃんと納得のする返事はするべき?」

「うん。ナカジマ三佐はともかく、ギンガは多分・・・・・・それだと簡単には納得しないと思う。
少し話した感じだけど、ヤスフミの将来の事を心配した上で言ってるから」



だよねぇ。てゆうか、そういう話されるもの。でも・・・・・・なんだよなぁ。

やっぱり局の仕事には、極力関わりたくない。もう、なんかめんどくさい。



「旅に出てリフレッシュはいいと思うの。ただ、その先の事・・・・・・簡単にでも決めるべきじゃないかな」

「・・・・・・うん」

「まぁ、無理なら仕方ないと思うんだ。大体、そういうのを考える意味も含めて・・・・・・だよね?」



僕はフェイトの言葉に頷く。一応はそのつもり。まだどうなるかは分からないけど。



「それで私はね、その・・・・・・局の部隊に入って欲しいなって思うんだ」



うん、その話・・・・・・されてるしね。分かってた。



「もちろん色々あった。でも、だから今局はヤスフミみたいな人材を欲してる。多分GPOや他の組織よりもずっと。
ね、これから局は・・・・・・組織は変わっていくよ? 今ならヤスフミが変えていく事も出来る」

「・・・・・・フェイト」

「お願い、改めて聞きたいの。そういう変わる組織や、頑張って変えていこうとしている人達の事、信じられないかな。
・・・・・・これも難しい? やっぱり前に言ってたみたいに、『変わっていくから』は答えにならないかな」



僕は即で頷いた。だけどフェイトは落胆したり、怒ったりしたりしないで・・・・・・受け止めてくれた。



「ごめん」

「謝らなくていいよ、分かってた事だから。あ、それなら・・・・・・他にしたい事ってある?
旅に出る事やGPOの事以外で、やってみたい事。そうしたいなーって思う事」

「他? ・・・・・・えっと、ないよ」

「嘘。今、何か隠したよね」



なんかすごい勢いで見抜いて来たっ!? というか、普通に視線厳しくしないでっ!!



「ヤスフミ、私・・・・・・今ならいつもよりヤスフミの事、分かるよ?
分かりたい、知りたいって思ってるから・・・・・・ずっとヤスフミの事見てるから」



つまり、隠し事をしてもダメと言いたいらしい。・・・・・・うわ、なんかまた頷いたし。



「あの、笑わない?」

「ヤスフミが笑って欲しくないなら、絶対笑わない。ちゃんと受け止めるよ」

「・・・・・・ホントに?」

「うん。あ、もちろんどうしても話したくないなら、無理しなくていいよ?」



フェイトは、やっぱり優しいと思う。だから、安心させるように笑ってくれる。

だから僕はそれに対して首を横に振って、少し頑張る事にした。



「・・・・・・あのね、例えばの話だよ。僕が騎士って言ったら、変かな?」

「え?」

「いや、だから・・・・・・僕が騎士の称号を取ったりしたら、変かな」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」










・・・・・・なぜ叫ぶ。そうですか。そんなに似合いませんか。





まぁ、そうだよね。僕・・・・・・普通にそういうキャラじゃないし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



き、騎士っ!? ヤスフミが・・・・・・騎士っ!!





あまりの衝撃に、身体を支配していたお酒からくる倦怠感が一気に吹き飛ぶ。





ちょっと待ってっ!? えっと・・・・・・あの、どうしてそうなるのかなっ!!









「・・・・・・分かった、もういい」

「あぁ、ごめんっ! 悪かったから拗ねないでっ!?
・・・・・・でも、どうしていきなりそんな事を?」





うん、理由が分からない。だから私、思わず驚いて取り乱してしまった。



だってヤスフミは、ずっと騎士の称号を取るのは『ガラじゃない』と断り続けていたんだから。



私もそうだし、シグナムやヴィータが勧めても。なのに、どうして。





「うーん、取ってみたくなったの。こう、師匠達みたいにはなれないだろうけど、それでもいいかなと」

「・・・・・・そっか。あの、本当にごめん。ちょっとびっくりしちゃって」



ヤスフミ、今までは騎士になりたいとは、思ってなかったみたいだから。

だから、本当にビックリした。重ね重ねになるけど、本当に。



「でも、どうして?」

「うーん、上手く言えない。ただ、この間聖王教会に言った時にシャッハさんと少し話してね」

「それで?」

「うん。『ガラじゃない』じゃあ、騎士にならない理由にならないって、シャッハさんに教えてもらったんだ。
僕みたいにバカで、どうしようもないのでも・・・・・・守りたいもののために戦う騎士になれるって、教えてもらった」





・・・・・・シスター・シャッハと何を話したのかは、私には詳しく分からない。

だけど、ヤスフミにとっては、それで充分だと思う。少しだけ、今までと違う事に手を伸ばし始めてる。

それになにより、それを決めるのはヤスフミなんだし。・・・・・・そうだよね。



決めるのは、ヤスフミなんだ。私、また忘れかけていたのかも。





「ヤスフミ」

「やっぱ、変かな?」

「変じゃないよ。あの、少しだけ話を戻すけど、聞いて?」



ヤスフミは私の言葉に頷いてくれた。だから・・・・・・私の気持ちを、改めて言おう。



「・・・・・・局員になるの、どうしても躊躇う?」

「そうだね。躊躇う。僕は組織のためや、命令のために戦いたくない。特に管理局は嫌」



うん、そう言ってる。自分のために戦いたい。自分のワガママと勝手のためにと。・・・・・・それだけじゃない。

局は・・・・・・私達の居場所は、ヤスフミに信じてもらえてない。むしろ、嫌われてさえいるから。



「確かに命令のために、組織のために戦う部分は否定出来ない。
逆にそういうのがないと、戦えないところがある。特に局は不自由が多いかも知れない」





私だって同じだ。執務官は、自由気ままなように見えるけど、局員である事には変わりない。

上からの命令がなければ、動けないし、理不尽でも、聞かなきゃいけない時もある。

だけど、それでも・・・・・・知ってもらいたい。それだけじゃない事をちゃんと知っていて欲しい。



ううん、もう知っているかも知れない。だけど、もう少しだけ・・・・・・本当に、もう少しだけ。





「でももう一度だけ・・・・・・本当にもう一度だけ、聞かせて欲しいの。
ヤスフミが今まで一緒にやってきた、局の仲間の事・・・・・・信じられないかな」





私はやっぱり、バカだから信じて欲しいと思う。

ナカジマ三佐やクロノ、はやてみたいな信頼出来る上司だって居る。

そういう人達を信じて戦う事も出来る。悪い事ばかりじゃないから。



あとは・・・・・・そうだな。みんなの事信じられないのは、少し寂しいからかも。





「・・・・・・ごめん、信じられない」



だけど否定された。『躊躇う』なんて言葉じゃない。真っ向からの否定。

だから私はさっきからずっと気になっていたから・・・・・・ちゃんと、聞いてみる。



「ヤスフミ、また何か隠してるよね」

「何も隠してないよ?」

「隠してる。・・・・・・分かるよ。だから、私達さっきから上手く話せない。
なんとなくだけどね、分かるんだ。それで私は、ちゃんとそれが知りたい」



もちろん私の言い方が悪かったというのもある。でも、それだけじゃない。

ヤスフミはずっと何かを隠してる。だから・・・・・・ちゃんと繋がれない。



「お願い、話して。大丈夫だよ? 私、どんな答えでもちゃんと受け止める。
受け止めて、一緒に何とか出来るなら何とかしたいの。だから・・・・・・お願い」



ヤスフミの黒色の瞳を真っ直ぐに見ながらそう言うと・・・・・・頷いてくれた。



「・・・・・・JS事件でね、僕・・・・・・局が更に嫌いになったの」

「・・・・・・そっか」



大丈夫、嫌な思いは感じてない。ちゃんと話せてる。もうズレてない。



「その理由は、レジアス中将や最高評議会の事?」



特に前者かなと思った。ヤスフミ、レジアス中将の事、相当気に入ってたから。



「違う。それもあるけど、それだけじゃないんだ。・・・・・・クロノさんやリンディさん、六課の事。それになのはやはやて・・・・・・フェイトの事」

「え?」

「あの時・・・・・・カリムさんの力の話をされた時の事、覚えてる?」



私は頷いて答えた。JS事件中、聖王教会での騎士カリムとクロノとのお話し合い。

その時色々な事情から、ヤスフミも参加してた。



「なんかさ、見抜かれてるみたいだから、ぶっちゃけるね。
・・・・・・あの時、リンディさん達に腹が立ってたんだ」

「どうして?」



そう聞いて・・・・・・ヤスフミが答える前に気づいた。

ヤスフミの性格を考えるなら、答えは一つしかない。



「・・・・・・フェイトやなのは、六課の人達を・・・・・・局の勝手な都合に巻き込んだから」



だから、私は納得した。ヤスフミが『信用出来ない』と言った理由も、同じく。



「僕はさ、六課には居なかった。ぶっちゃけ部外者もいいとこだから、あの場では言わなかった。
ただね、ムカついてた。フェイト達はまぁ・・・・・・いいの。はやてと友達でしょ?」

「・・・・・・うん」



そうだね、友達だから関わる事を決めた。もちろんエリオやキャロの事があったから、私もその・・・・・・ちょっとね。

でも、組織の事情や六課の存在がどうしても必要なのは事実だったから、何も言わなかった。それと理由はもう一つある。



「でも例えばティアナみたいに、自分の夢に近づくため・・・・・・まぁキャリアアップのため?
あとエリキャロやスバルみたいに、親しい人間を慕って来てる人達も沢山居るわけじゃない?」



だから、なんだね。だから・・・・・・ヤスフミは本当に怒った。というか、もしかしたらそれも込みなのかな。

あの時、クロノや私達からの六課入りの話を断ったのは。怒ってたから・・・・・・断ったんだ。



「知らない人間を自分の組織の人間ってだけで美味い餌を見せびらかして」





少しだけその言葉が刺となって心に突き刺さる。それは私もやった事だから。

これが私が母さん達の事をあまり言えなかった理由の、最後の一つ。

・・・・・・スバルとティアに初めて会った時に、私は今のヤスフミが言った事をやってる。



スバルにはなのはの教導。執務官志望のティアには私のアドバイスを『餌』に、六課入りを誘ったから。



私も同じ穴のムジナなの。知らなかった事とは言え、局の都合にみんなを、エリオとキャロを利用しようしたの。





「それであんな大事に巻き込んだ。事情のほとんど、結局知らないままにさ」



ヤスフミは現在六課の部隊員になっている。だから分かる。大半の人間が、裏事情を知らない事を知ってる。

それが余計に・・・・・・なのかな。余計にヤスフミのイライラを、助長させちゃってる。



「その上、そんなみんな揃って上は裏切った。『信じて欲しい』って思って頑張ってるみんなをあっさりだよ」

「・・・・・・じゃあヤスフミ、もしかしてその・・・・・・更に嫌いになった原因の一つって、私達も裏切られたから?」



自分で言ってて少し妙な気分になったけど、そこは気にせずにヤスフミの方を見る。

ヤスフミは頷いて・・・・・・表情を険しくして、両手を強く握り締める。



「1年前だってそうだ。シルビィ達を・・・・・・頑張って来たみんなをあっさり切り捨てて、否定してさ。いい加減見切りつけたくなるつってーの」





・・・・・・あ、何回か名前が出てるシルビィさんというのは、私も知っているヤスフミの仲間なんだ。

GPOというのもその人達が入っている局の外部組織。ヤスフミとそこの人達、本当に親しいし付き合いが深いの。

それで1年前の・・・・・・以前話した局の信頼が著しく下がる事件にも、その人達は関わっている。



関わって、解決に尽力したのにそういう扱いを受けて・・・・・・あぁ、そっか。やっぱりヤスフミは変わってなかった。



今怒ってるのも、エリオ達の事で通信して来てくれた時に怒ってたのも、やっぱり誰かのためだったんだ。





「・・・・・・ムカついたの。マジでムカついて、腹が立って・・・・・・本気で、キレかけた。
僕はあんなのに巻き込まれたくない。だから局が嫌い。信用出来ないの」

「・・・・・・そうなんだ」

「うん。それで・・・・・・思ったんだ。マジで局の中じゃ、僕は自分になれない」





ヤスフミは一つ嘘をついた。それはとても優しい嘘。多分ヤスフミが戦う時はずっとついている嘘。

入りたくないと思ってるのは自分のためでも、怒ってるのはきっと・・・・・・私達のため。

分かるよ。ヤスフミは『自分のため』なんて言っても、結局は誰かのために頑張っちゃう子だもの。



そうだよ、知ってたはずなのに・・・・・・なんで私、ちょこっとだけそれを忘れてたんだろ。





「ありがと、話してくれて。あの、私は怒ったりしてないから、大丈夫だよ?」

「ホント?」

「うん。・・・・・・だから躊躇うんだよね」

「そうだね、躊躇う。今も躊躇ってる。フェイトやみんなに悪いと思ってても、それでも」



自分がそう思う事で、言う事で、私達の居場所ややりたい事を否定してると思ってる。

だから今・・・・・・苦しそうに俯く。そんなヤスフミの表情に、胸が締めつけられる。



「・・・・・・局の中じゃ、組織の中じゃ騎士になんてなれないって躊躇ってる。なにより」



ヤスフミが自分の右手を見る。どこか、寂しげに・・・・・・悲しそうな瞳で。



「僕ね、弱いんだ。・・・・・・忘れちゃいけないって思ってる。
そのはずなのに、何度も・・・・・・何度も、忘れそうになる」

「それも許せないの?」

「うん、許せない。忘れて・・・・・・なかった事にする自分が、許せないの。・・・・・・ごめん、フェイト」

「どうして謝るの? ヤスフミ、何にも悪い事してないよ」



きっと・・・・・・私が悪い。ここまでちゃんと気づいてあげられなかった。

知ろうと手を伸ばす事すらしなかった。だから、私が・・・・・・悪い。



「僕、フェイトの言うように・・・・・・自分を大事にしてないのかも。だから心配かけて、困らせてる。
・・・・・・ごめん。それでも駄目なんだ。局だけには迎合したりなんて出来ない。何も預けたくない」





やっぱりダメなんだね。・・・・・・分かってる。ううん、分かった。これは仕方ないんだよね。

ヤスフミが守りたいものは、私達と同じようで違うから。背負いたいものも、私達とは違う。

それに色々嫌なもの、また見せちゃったんだもの。もう何も言えないよ。



それにヤスフミ、本当に嫌がってる。嫌がって、苦しんでる。

というより、怯えてる。私の事、傷つけたんじゃないかって。

なら、どうする? 私になにが出来るの? ううん、答えなんて一つしか無い。



・・・・・・それしか、ないよね。それが迷惑? そんなわけない。



それを言えば、私の方がたくさん迷惑をかけてきた。だから・・・・・・大丈夫。





「・・・・・・なら、解散後に私の所に来ない?」

「え?」

「私の・・・・・・補佐官に、なってみないかな」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」





驚くよね。うん、私、一回ヤスフミから提案されたの、断っているから。

断ったのは、ヤスフミが駄目とか・・・思ってた。今なら、分かる。

子ども扱いして、遠ざけていたんだ。でも、今は違う。



ちゃんと、見える。今のヤスフミの姿。だから、声をかけられる。





「あのね、局員としてじゃなくていい。・・・・・・やっぱりね、そう言うのは、もう少しだけ局の事」



・・・・・・ううん、これは違う。よし、訂正だね。



「ごめん、これはちょっと違った。局の事なんて知らなくていい。
ただ、今までとは違うものを知ってから、考えて欲しいんだ」

「だから、補佐官?」



私はその言葉に頷く。今までとは違う生活を始めて、その中から考えて欲しい。

本当に今まで通りの時間の中でしか生きられないのかどうかを。なにより・・・・・・なんだよね。



「・・・・・・だめ、迷惑かける」

「迷惑なんかじゃないよ」



今までと同じは、駄目なんだ。あぁもう、私、本当にうまく話せない。自分でいらいらする。



「悩んだり迷ったりするなら、今見ているものが全部じゃない事は知っていかなきゃ、いけないと思う」



私だって、そうだった。ちゃんと知っていると思っていた。でも、勘違いだった。



「だから、考えよう? 一緒に」

「・・・・・・一緒に?」

「私もヤスフミと一緒に考える。側に居れば、それも出来ると思うから。
あの、ごめん。私・・・・・・結局ヤスフミを振り回す形になっちゃってる」



私が仕事を放り出せればいい。でも、それはちょっとだけ無理で・・・・・・うぅ、本当にダメだよ。

自分が動けないからヤスフミの方から来いなんて、最低だよ。うん、最低だ。



「ね、フェイト。本当にいいの? 僕、絶対に迷惑かける。きっと、暴走する。
・・・・・・やっぱり、合わないよ。僕は自由に戦ってる方が、性にあってる」






そうだね。きっと、ヤスフミは局の規律なんて、関係無しで進んでいく。

自分の守りたいもののために。壊したいもののために。

ヤスフミが守りたいのは、今だから。世界でもなければ、人でも、組織でもない。



きっとあの人と同じように、必要だと思ったらどこまででも進んでいく。



だけど・・・・・・・だめなの。それだけじゃ、だめなの。





「そうかも知れないけど・・・・・・私、手伝うよ。
ううん、手伝わせて欲しいの。あなたの力になりたいの」

「僕、フェイトの望む通りには、きっとなれないよ?」





『やっぱり、局に入って欲しいから、そう言う』。そう言いたげなヤスフミの表情が突き刺さる。

・・・・・・当然だよね。私、何度も押し付けてきた。ここにくるまで、なんにも分かってなかった。

だけど、違う。その、結局押し付けてる・・・・・・と、思う。でも、そうじゃない。それだけじゃない。



私はそんな気持ちを込めて、言葉を紡ぐ。その言葉を、想いを、今目の前の子に届けたいから。





「・・・・・・ならなくていい。なる必要なんて、ない」



ヤスフミはすごく優しい。普段の言動や行動はともかく、根っこは本当に優しい。

でも、だから今少しだけ分からなくなってる。何時だって誰かの今を守るために、戦うから。



「あのね、知らなかった事を知っていくのって、やっぱり楽しいんだ」



・・・・・・今日、それを改めて実感した。私の知らなかったヤスフミを知っていくのが、すごく。



「今までとは違う、新しい自分を始めるなら、まず違うものを知っていく事。それは絶対に必要だと思うから」

「・・・・・・新しい自分」

「ヤスフミはきっと、そんな自分を始めたいんじゃないかな。だから、迷ってるんだよ」

「そう、なのかな」





そうだよ、きっと。ヤスフミが迷っているのは、そういう事だと思う。

新しい自分の形、まだ見えないんだ。

今見えているものだけじゃ未来を決めるのには、足りないんだ。



多分騎士の称号を取ろうかどうか考えているのは、その証拠だと思う。





「それを見つける事を、手伝わせて欲しいの。・・・・・・局員になりたくないなら、ならなくていい」



というか、無理な感じがするしね。それでも、まずは・・・・・・なんだ。



「ただ一つだけ、お願い。これから一緒に考えたい。
それで変わる事を・・・・・・違うものに触れる事を、怖がらないで?」



本当に、それだけでいいから。それだけで、いいの。



「私も傍にいる。だから、一緒に探していこうよ」

「フェイト・・・・・・あの、でも」

「でもじゃない。・・・・・・私には、ヤスフミの荷物は背負えない。
私はちょっと精神攻撃されたくらいで、簡単に壊されそうになるくらいに弱い」



・・・・・・ライオットヤスフミとの絆が無かったら、壊されてた。

ヤスフミ、私も同じなの。私もちょっとだけ、自分が分からなくなってる。私達、同じなんだよ?



「だけど、それでも出来る事はあるの」



私はベッドからゆっくり立つ。それで・・・・・・向かい側に座っていたヤスフミに、手を伸ばす。

伸ばして、そのまま抱きしめる。優しく、安心させるように。



「あなたが落ち込んだりした時、元気が出るまでこうやって・・・・・・あなたを抱きしめる事は、出来るから」

「あの、フェイト」



ヤスフミが、腕の中でもぞもぞする。でも、離さない。



「だめ、逃げないで」



腕の力を少し強める。ヤスフミは・・・・・・動きを止めた。



「せめて六課が解散するまでは、考えさせて欲しいの」

「・・・・・・フェイト」

「私、ちゃんと抱きとめるから。不安な気持ち、私には正直に話して欲しい。・・・・・・どうかな」









少しだけ苦い顔で、頷いてくれた。そして、優しく抱き返してくれた。

これから・・・・・・なんだよね。うん、これから。一緒に考えていこう。

・・・・・・局に入る必要なんて、どこにもないんだよね。





私は私で、ヤスフミはヤスフミだから。うん、考えていこう。

一緒に・・・・・・あ、ヤスフミだけじゃなくて、私もだね。

私も知って、考えていかなきゃいけない。





違うものに、知らないものに触れていく事を恐れずに・・・・・・新しい私達、始めていこう。

それで・・・・・・あぁ、そっか。私ようやく分かった。ヤスフミにどうして欲しいのか、本当にようやく。

局に入って欲しいとか、忘れて欲しいとか、重い記憶を降ろして欲しいとか、言い続けて来た。





でも、本当はそんなの関係がなかった。一緒に居る事なんて、私は最初から求めていなかった。求めていたのは、一つだけ。

私はただ、ヤスフミにずっと笑っていて欲しかっただけなんだ。だって・・・・・・ヤスフミの事が好きだから。

私の側に居て、守ろうとしてくれて・・・・・・何時だって泣いている誰かのために頑張るこの子が、好きなんだ。





そんな子が過去を理由に笑えないなんて嫌で、だから・・・・・・やっと、やっと気づいた。

ズレていたのは、私があまりに局や現実の事に、囚われ続けていたからだ。

囚われて、いつの間にかそういうフィルターを通してしかヤスフミを見れなくなった。





でも、もう大丈夫。もうズレは感じない。だから私は、強くヤスフミを抱きしめる。





もうちゃんと見えてる。私が守りたいもの、私が欲しかった時間・・・・・・ちゃんと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



新しい自分・・・・・・か。なんだか、思考になかった。でも、本当にいいの?

僕はきっと、フェイトの望む姿になんて・・・・・・なれないのに。

とにかく、話している間にフェイトの酔いも冷めてきた。






なので、二人でお風呂タイムとなった。・・・・・・当然別々にね?

海鳴のスパラクーアみたいな所があったので、寝間着と肌着を用意した上で、一緒に向かった。

一応外の風景も見れたけど、この天候である。結果は、推して知るべし。





うぅ、そこは残念だなぁ。ここからなら、きっと星空はすごく綺麗に見えてただろうに。











「・・・・・・ヤスフミ、ごめん。待たせちゃった」



お風呂を堪能した後、寝間着(というか、浴衣)を着て待ち合わせ場所に立つ。

すると、フェイトが少しだけ小走りで来た。着ているのは僕と同じ、寝間着にも使える浴衣。



「ううん、今上がった所だから」

「・・・・・・嘘」



いや、嘘じゃないから。つか、その疑いの眼差しはやめて。根拠を示してよ根拠を。



「根拠ならあるよ」



そう言いながら、フェイトが、髪に触ってきた。・・・・・・しまった。



「やっぱり、冷たい」

「うぅ」

「10分以上待ってたよね」



だから、なんでそこまで分かるっ!? 普通に恐ろしいしっ!!



「ヤスフミ、待たせるより待つ方が楽だって考えてるから。
・・・・・・というか、ごめんね。寒かったよね」

「ちゃんと暖まったから、大丈夫だよ。フェイトも、大丈夫?」



お、即答で頷いた。まぁそうだよね。頬や肌が、紅く染まっているし。

・・・・・・で、なぜにモジモジし出すのさ。普通に可愛いからやめて。



「こういう場合、ハグとかして温めた方が・・・・・・いいのかな?」

「しなくていい。てゆうか、お願いやめて。真面目に理性・・・・・・飛ぶ」

「ご、ごめん。なら、早く戻ろう?」

「うん」



そうして、部屋に戻るために歩き出し・・・・・・・・・・・・あの、フェイト。



「なに?」

「・・・・・・やっぱネットカフェ行くわ」

「どうして?」



・・・・・・すみません。色んなものがレッドゾーンなんです。

こう、フェイトから漂ってくる匂いとかで。その、身体が熱い。顔、きっと真っ赤だ。



「・・・・・・あのね」

「うん」

「その、男の子だから・・・・・・分かるよ? それだけじゃなくて、私の事も気遣ってくれている」



・・・・・・本能は強いのさ。どうしようもないくらいに。これでこの間みたいな事になったら、真面目にヤバいのですよ。



「でもね、大丈夫だから。だって、私」



フェイトはきっと『家族だから』と言うと思った。もう、いつものパターンだね。



「ヤスフミの事、信じてるから」

「・・・・・・へ?」

「ヤスフミは、無理矢理、そんな事を迫ったりしない」



・・・・・・えっ!?



「もしそうなっても・・・・・・ちゃんと私の声を聞いてくれる。私の気持ち、見てくれる」



いや、あの・・・・・・フェイト、さん?



「自分の欲望を満たすために、無理矢理そんな事は絶対にしない。
状況に流されて、女の子を襲うような子じゃない。私、そう信じてるから」

「あの、どうしてっ!? だって、何時もなら『家族だから』とかっ! 『弟だから』とかっ!!」

「・・・・・・今日はデートでしょ? そういうのは無しにしたんだ」

「そ、そうだったんだ」



いや、そんな裏テーマがあるなんて、知らなかったけど。



「私、勝手な事言ってるけど、一緒に寝たいな。・・・・・・ダメ、かな?」

「あの・・・・・・ダメじゃない。というか、頑張る」



フェイトが嬉しそうに笑ってくれる。それが・・・・・・あぅ、だめ。

僕は、フェイトに抱きついた。フェイトがびっくりしたように身を震わせる。



「・・・・・・あの、ヤスフミ?」

「ごめん。あの、でも・・・・・・ダメなの」



いやらしい意味とはまた違う。ただ、あの・・・・・・うぅ、僕だめだ。

漂ってくるのは、甘くて優しいお風呂上がりの匂い。それに気持ちが落ち着いてくる。



「フェイトの事、離したくない。今日はずっと独り占めにしたい。僕も・・・・・・フェイトと一緒に寝たい」

「・・・・・・うん。ね、ヤスフミ・・・・・・その『一緒』は、部屋かな。それともベッド?」

「・・・・・・・・・・・・ごめん、ベッド。エッチな事、絶対にしない。だから・・・・・・お願い」

「そっか」



言いながら、フェイトは抱き返して頭を撫でてくれる。それに、少し息を吐く。



「あのね、そんなに怯えなくていいよ? その、えっと・・・・・・私は大丈夫だから。
というか、前に一度してるもの。だから、大丈夫。・・・・・・一緒に寝ようね」

「・・・・・・ん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして頑張る事になった。当然ベッドは一緒で、二人で布団に入る。照明はすぐ近くのライトだけ。





フェイトも僕も顔が真っ赤で、だけど互いに離れたくないって強く思ってて・・・・・・だから、同じ部屋に居る。










「フェイト」

「うん」

「僕が隣に居て、嫌じゃない? 本当に本当に・・・・・・怖く、ない?
僕、フェイトの事・・・・・・怖がらせてないかな。あの、もしも嫌なら、大丈夫だから」



不安だったけど、フェイトは迷いもなくすぐに首を横に振ってくれた。

いつものように、優しく微笑みながら・・・・・・すぐに。



「嫌じゃないよ。もちろん、怖くなんてない。・・・・・・あ、でも」

「・・・・・・でも?」

「少しだけドキドキしてる。怖いとかじゃなくて、お泊まりデートなんて初めてだから」



うん、僕もドキドキしてる。おかしいくらいに、心臓の鼓動が高鳴ってる。



「とにかく、私・・・・・・大丈夫だから。ヤスフミも、不安にならないで欲しいな」

「・・・・・・分かった。あの、それじゃあ、おやすみ。フェイト」

「うん、おやすみ。ヤスフミ」










フェイトがにっこりと笑ってくれたのが嬉しかった。僕は近くのスタンドの電気を消す。

左隣に寝ているフェイトと向かい合って、身を寄せて・・・・・・両手を繋ぎ合う。

それから、ゆっくりと瞳を閉じる。フェイトの温もりと匂いに包まれて、気持ちが安らぐ。





緊張・・・・・・してる。だけど、大丈夫。やましい気持ちより、強い気持ち、ちゃんとあるから。

こうやって、気づいた。僕・・・・・・フェイトのすごく近くに居たかっただけなんだ。

エッチしたいとかじゃなかった。ただ抱きしめて、手を繋いで、感じたかっただけなんだ。





僕の守りたい時間は、繋がりは、ちゃんとここにあるんだって・・・・・・強く。





でもそれとは別に、なんか嬉しい。僕・・・・・・フェイトに信じてもらってるんだ。なんだろ、すごく幸せ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



消灯後、現在二時間。眠れません。うぅ、ダメだよ私。なんでこんなにドキドキしてるの?

恐怖・・・・・・じゃない。ただ、その・・・・・・うぅ、分からないよ。

前はこんなにならなかった。ヤスフミを抱きしめながら寝ても・・・・・・心臓の鼓動、速くなった。苦しいくらい。





思い出したのは、あの時の言葉と温もり。胸が、切なくなる。

・・・・・・私、何考えてる? そうかなんて、分からないし。

でも・・・・・・そうなのかな。もし、そうだとしたら・・・・・・そうなら、どうする?





色んな事が頭の中で、ジグソーパズルのように繋がっていく。

もしもそうなら、私はちゃんと応えないといけない。目の前の男の子の想いに、全力で。

だって私、嬉しいから。そして、このままなんて、絶対に、嫌だから。





うん、ヤスフミだけじゃあ駄目なんだよね。主人公キャラなのは、ヤスフミだけじゃない。

私も同じくだから、頑張らないといけないんだ。でもその前に・・・・・・このドキドキを何とかしたい。

ヤスフミ、気持ち良さそうに寝ちゃってる。ちょっと笑ってるのも可愛い。




もしかして寂しくなっちゃったのかな。だからいつもよりワガママになって、求めてくれてる。

実を言うと・・・・・・覚悟は、してたんだ。布団に入った途端に押し倒されるかなって。

ヤスフミはもう大人の男の子で、私も身体だけは大人で・・・・・・うん、だからそう思ってた。





でも違った。私、またヤスフミにビックリさせられた。私の身体じゃなくて、私自身を求めてたんだ。

でもそうしてずっと想っててくれたんだ。身体だけを求められていたなら、私・・・・・・とっくに奪われてるもの。

ちゃんと返事するにしても、謝らなくちゃいけないよね。それで・・・・・・・やっぱりどうしよう。





お詫びのつもりでそうなるなんて、絶対だめ。だけど、なんだか私も気持ちが昂ぶってきてる。

というか、ヤスフミだけこれで私は火照ってるなんて、おかしくない? 普通逆だよね。

どうしよう、このまま眠れなかったから。それだと私、すごくエッチな女の子になるんじゃ。





母さん、エイミィ、アルフっ! 助けてー!! こういう時は女の子はどうしたらいいのっ!?





やっぱりヤスフミを起こして、頑張った方がいいのかなっ!? でも・・・・・・あぁぁぁぁぁぁっ! 本当に助けてー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・目覚めはそうか・・・・・・なんか、目が重い。

昨日、泣いたりしたからかな? まぁ、それ以外は、OKだけど。

お酒が入っていたせいか、一晩中眠れないなんて事は、無かった。





僕は、ゆっくりとベッドから抜け出す。暖房は切っていたから、少し寒い。

フェイトはぐっすりと眠っている。うん、起こすのが忍びないほど。よだれ垂らしてるし。

ずっと手を繋いで・・・・・・ううん、途中からハグにシフトしたみたい。すごく温かかった。





起こさないように、少しだけ口元から出ている唾液を拭う。しかし、何の夢をみればこうなるのさ。

なお、起きた時に思いっ切り見えた胸元は、気にしない方針で。・・・・・・我慢だ、僕。

フェイトが信じてくれたのに、裏切りたくなんてない。そんなの、絶対に嫌だ。





とにかく窓の近くへ行く。カーテンは閉めきられてなお、外から差し込む何かを遮る事が出来ずにいた。





なのでフェイトを起こさないように、ちょこっと開ける。










「う・・・・・・ん」



声は後ろから、振り向くと、寝ぼけ眼な女神が居た。

女神は目を眠たそうに擦りながら、僕の方を見る。というか、胸元が危険です。



「やすふみ・・・・・・おはよう。はやおひはへ」

「おはよ。・・・・・・フェイト、呂律が回ってないから。というか、遅いくらいだよ?」



時刻は午前7時。フェイトだって、もうちょい早起きなはずである。



「・・・・・・そうだね。私達二人、お寝坊さんだね」

「まぁ、休みは取っているんだし、OKでしょ」



事態が事態なので、僕もフェイトも、追加で休みを取っている。だから・・・・・・問題、無いといいなぁ。

まぁ、グリフィスさんなら、なんとかしてくれるでしょ。うん。



「というか、あの・・・・・・昨日はありがと。というかごめん。僕、どうかしてた」



いくらなんでも一緒に寝て欲しいは・・・・・・うぅ、無いよね。なんであんな事言ったんだろ。



「そんな事ないよ。私、ヤスフミと一緒で・・・・・・温かくて、幸せだったよ?
だから、謝らないで? というか、ヤスフミは違うのかな。私と一緒だったの嫌だった?」

「ううん、そんな事ない。僕も同じだから。・・・・・・いいの?」



確かに僕はその・・・・・・うん、その通りだった。それでフェイトも同じらしい。

フェイトは少し身体を起こして、安心させるように一杯笑ってくれたから。



「うん、いいんだよ。あとはてんきだけど」



まだ半覚醒かい。ひらがなになってるし。とにかく僕は、返事の代わりにカーテンを開ける。



「・・・・・・きれい」





フェイトが思わず呟いたのも無理はない。眼前に広がる景色は、本当に素晴らしかったから。

まさに、それは台風一過。太陽は昇り、海はその輝きを受け止めてなお、青く澄んでいた。

そして空は、心まで晴れるような青。昨日の曇天が、まるで嘘のように感じる。



その景色に、二人で少しだけ言葉を失っていた。だって、本当に綺麗だから。





「・・・・・・これなら、ちゃんと帰れるね」

「そうだね。でも、そう言うと」

「何?」

「ちょっと雰囲気壊れるね」

「・・・・・・・・・フェイト、寝起きなのにツッコミ上手だね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人でゆったりと朝食を食べたあと、ホテルをチェックアウト。そのまま、ラトゥーアのある人工島を出た。





レールウェイも、普通に再開されていて、よかったよかった。・・・・・・あ、そうだ。










「・・・・・・フェイト」



レールウェイの車内の中、隣同士に座ったフェイトの顔を見上げる。少しだけ、真剣モードで。



「補佐官の話なんだけど」

「あの、返事なら今すぐじゃなくていいよ? もちろん無理もしなくていい。
ヤスフミがやっぱり旅に出て考えたいなら、そっちでもいいから」

「・・・・・・いいの?」



昨日も言ったけど、絶対に迷惑かける。それに・・・・・・何よりなんだよね。



「フェイトが望む通りの答えなんて、きっと出せない」

「そんな事、言わないで欲しい。あの、局員になって欲しいとかじゃない。それは絶対。
・・・・・・ヤスフミと一緒に、これからの事を考えていきたい。ただそれだけだから」

「それで、新しい僕?」

「うん、そうだよ。あ、でもヤスフミだけじゃないよ?」

「え?」



フェイトが、真っ直ぐに僕を見る。そして口にした。色んな意味でターニングポイントになった言葉を。



「私も始めたくなった。ここから新しい私を。だから・・・・・・一緒に、頑張りたい。
誰でもない。ヤスフミと一緒に。私も今までとは違う事に触れていきたいの」



フェイトの左手が、僕の右手にそっと触れる。触れて・・・・・・優しく握られる。



「それでその中には、ヤスフミの事、弟や家族としてじゃない。つまり、その」



フェイトの言葉が詰まる。だけど、それは一瞬。すぐに、続きは音となって、僕に告げられた。



「男の子として、見ていく事も・・・・・・入っているから」



・・・・・・・・・・・・一瞬、何を言っているのか分からなかった。だから、オウム返しに聞き返す。



「おとこ・・・・・・のこ?」

「うん。友達とか、仲間とか、家族とかじゃない。ただの男の子。
昨日みたいにね、男の子としてのヤスフミと、もっと過ごしたいんだ」





やっぱり言ってる意味が、今ひとつ理解出来なかった。

衝撃があまりに大き過ぎて、ちゃんと受け止め切れない。

でも、その言葉が・・・・・・僕がずっと待ち望んでいたもの。



そんな言葉だという事だけは、すぐに分かった。





「だから、もっと・・・・・・教えてくれる? 男の子としてのヤスフミを、私に」



あれ・・・・・・僕、なんで涙が・・・・・・あれ、止まらない。どんどん、溢れだしてくる。



「・・・・・・ごめん」



フェイトは、そんな僕の事を、優しく抱き締めてくれた。なんで・・・・・・謝るかな。



「私・・・・・・ヤスフミの事、ずっと傷つけていたから。でもね、もうそんな事ない」



力が強くなる。だけど、それによって生まれた息苦しさが、心地いい。



「あの、ごめん。今はこんな言い方しか出来ないけど・・・・・・ちゃんと、応えていきたい。
今のヤスフミの事をもっと知りたい。理解してもう一度繋がっていきたい。私、そう思っているから」

「よく分からないよ、それ・・・・・・!!」

「うん、そうだね。私も同じ。だから・・・・・・変わっていこう?
私達二人で。一人じゃないから・・・・・・きっと、出来るよ」










返事の代わりに、フェイトを強く抱きしめた。





フェイトは、そのまま、受け入れてくれた。すごく、嬉しかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それじゃあ・・・・・・フェイト、また明日ね」

「うん、また明日。あの・・・・・・また、たくさん話そうね。
少しずつでいいの。本当に少しずつでいいから・・・・・・ヤスフミの事、教えて欲しい」

「・・・・・・うん」





そうして僕はフェイトと別れて、レールウェイを降りた。

手を振って、笑顔で見送った。フェイトも、手を振り返してくれたのが嬉しかった。

・・・・・・なんか、スッキリした。うん、色々と。



でも、フェイトどうしたんだろ。こう、またネジが外れてない?

ま、いいか。あ、ただ・・・・・・気になる事がある。

ホテルのロビーで、緑でロングヘアーな人を見た。



あと、栗色ショートカットの女の子を見た。しかも・・・・・・オーラが微妙だった。

・・・・・・よし、幻覚だ。あれは、見間違いだ。うんうん。

とにかく家に帰ってきた。というか昨日メールで、リンディさんから帰還命令が出されていた。



だからこそ、ここに居る。そう、占領され続けている我が家の前に。

色々とおかしい。まだここに居る事自体がおかしい。アイツら、何様?

だから正直、入るの辛い。でもまぁ、大丈夫でしょ。みんな大人だし、そこは察してくれるだろう。



そして、僕は入る。もち、ただいまと言いながら。





「ただいまー」



パパーンっ!!



「・・・・・・え?」

『おめでとー!!』

「・・・・・・・・・・・・え?」



あー、なんだろうな。また幻覚? 何でいきなりクラッカー(Notジオン)? そして、なんでパーティーな装い?



「おかえりー! ・・・・・・恭文くん、おめでとう っ!!」

「あなたのために、腕によりをかけて・・・・・・お赤飯、炊いたのよ。うぅ・・・・・・長かったわね」

「「パパ、おめでとー!! ・・・・・・なにが?」」



うん、ここまではいい。居る事を知っていたから。予測してはいた。で、問題は次。



「おう、邪魔してるぞ。まぁ・・・あれだ。よかったな」

「・・・・・・よかったな。我は・・・・・・我はっ!!」

「現地妻1号としては、寂しいわ。でも・・・・・・嬉しいわっ!!」

「リインは・・・・・・リインはぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あぁ、ヴィータちゃんもザフィーラさんもシャマルさんもリインちゃんも泣かないで。今日は、めでたい・・・・・・ごめん。
やっさん、俺も泣いていいかなっ!? というか、泣くわっ! やっさん、お前は次元世界の恋の勝利者だっ!!」



・・・・・・なんで兄弟子とか主治医とか、守護獣とか師匠とかパートナーとかがいるのっ!?



「つか、また勝手に人の家に上がり込んでるしっ! お前らマジふざけんなっ!!」

「問題ないだろ。やっさんの家は、俺達みんなのセカンドハウスなんだから。
アレだ、リンディ提督はどうでもいいが、俺は違うだろ? よし、決定だな」

「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「まぁまぁ。ほら、一緒にお赤飯、食べましょ?」



なんで炊いてるっ!? ・・・・・・だから、そのお祝いモードはやめてっ!!



「リイン手伝ったですよ〜」

「カレルとリエラも手伝ってくれたんだよね」

「「うんっ!!」」

「あ、俺は味見だっ!!」

「一番どうでもいい人でしゃばらないでっ! サムズアップしなくていいからっ!!」



つか、なんでここにっ!? まだ出向予定じゃ・・・・・・あぁ、無駄だよね。分かってた。



「サリエルさん」

「あ、はい」

「いつも恭文君がお世話になっているそうで・・・・・・ありがとうございます」

「あぁ、そんな頭下げないでください。俺もヒロも、やっさんと絡むのは、楽しんでいますから。
ただリンディ提督、もう出てってください。俺はいいですけど、アンタ邪魔ですから」



やかましいわボケっ! 正確に言えばアンタも邪魔なのよっ!? 普通にアンタも邪魔なんだよっ!!



「そうはいきません。とりあえず恭文君とちゃんと話す必要がありますし」

「・・・・・・カレルー、リエラー、おばあちゃんが装着してたあの仮面あるかなー」

「あ、ここにあるぞ。色々迷惑かけてたらしいから、俺が回収に来た。・・・・・・やるか?」

「やっちゃってください」

「お願いだからもうやめてー! 本当に一度話したらもう出ていくからー!!」



いや、マジで出てけ。普通に出てけ。もう邪魔だから。

そして僕はアレだ、家の鍵を交換する。もう鍵屋に電話してやる。



「なぎさん、おめでとうっ!!」

「お祝い持ってきたよっ! というか・・・・・・よかったね。本当に」



・・・・・・お前らも来るのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そして普通にタイミング良過ぎだしっ!!



「エリオお兄ちゃんに、キャロさんだー!」



・・・・・・キャロはさん付けなんだね。カレル、中々位置関係を理解してるわ。



「お兄ちゃん達も、パパのお祝い?」

「そうだよ。・・・・・・なぎさん、年貢の納め時ですねっ! ハーレムなんて、しょせん夢なんですよっ!!」

「その言い方やめてっ! つーか何を勘違いしているかなっ!! そんな夢見てないからねっ!?」

「恭文、その・・・・・・お父さんに、なるのかな?」



エリオ、涙目でそんな事を言うな。そんなにフェイト離れが出来てないのか。ほら、キャロを見習って。



「お願い。お願いだから・・・・・・! みんな落ち着けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!? なんでそんな事にっ! 私、分からないよっ!!」

「あのね、フェイトちゃん。うん、状況は分かるよ?
でも、なにがあったのっ!! いきなりこれは無いよねっ!?」

「・・・・・・いきなりすぎませんか? 私、フェイトさんが雰囲気に流される人だとは、思いませんでした」



な、なのはっ!? ティアまで、そんな微妙な目を私に向けないでっ!!



「まぁまぁ、ティアも落ち着いて? ・・・・・・でもでも、どんな感じだったんですかっ!?
なぎ君の事だから、優しく・・・・・・あぁ、でも情熱的に激しくとかっ!!」

「フェイトさん、やっぱり・・・・・・痛いんですか?」



スバル、シャーリーもお願いだから、そんなに興味ありげに聞かないでっ!!

というか、そんなの私が聞きたいよっ!! ・・・・・・やっぱり、痛いのかな?



「こらこら、そういうのは聞かないのが大人ってもんよ?
・・・・・・なにも言わなくていい。とりあえずこれ、使いな? というか、使わせな」



ヒロさん、なんで居るんですかっ!? お願いですから目を逸らしながら・・・・・・その、『明るい家族計画』なんて差し出してこないでくださいっ!!



「フェイトママ・・・・・・おめでとう♪ あのね、恭文はずーっとフェイトママの事好きだったんだよ?
だから、大事にしてあげてね。ヴィヴィオも、恭文がパパなのは、嬉しいし」

「ヴィヴィオ、どうしてそうなるのっ!? お願いだから、落ち着いてっ!!」

「だって、フェイトママはヴィヴィオのママでしょ? という事は、恭文だってパパだよ?」



それでもお願いだからそんな事言わないでっ! というか、ヒロさんとサムズアップで意志疎通しないでっ!!

いつの間に、そんなに仲良くなったのっ!? でも、やっぱりなんだ・・・・・・って、そうじゃないからっ!!



「あの・・・・・・みんな、違うからっ! 私とヤスフミは・・・・・・その・・・・・・何もないのっ!!」





確かに、お泊まりデートをした。その、異性として・・・・・・過ごした。

たくさん気付いた事があった。変えていきたい事。変わりたいと思う事が、出来た。

だけど・・・・・・そんな事はしてないからっ! 本当にしてないからっ!!



ヤスフミだって、私が不安にならないように、凄く気を使ってくれて・・・・・・!!

途中で確かに甘えてきたけど、それでも嫌じゃなかったよっ!? 私だから甘えてくれたのが分かって、嬉しかったのっ!!

だから私、自分の今までの視点が、家族や友達、局の先輩ありきでの付き合い方が、本当に駄目だって気付いて・・・・・・!!





「・・・・・・テスタロッサ」

「フェイト」

「あぁ、シグナム。アルフ」



よかった。なんでアルフが隊舎に居るのかが分からないけど、二人ならまともに。



「よく決心したな」



え? あの、どうして私の肩を掴むんですか。なんでアルフまで涙目なのっ!?



「あのさ、アタシ・・・・・・心配だったんだ。生まれの事とかを理由に、こういうの、諦めるんじゃないかってさ」

「アルフ、いきなり何の話かなっ!?」

「でも、そうじゃなかった。アイツ、何気に色々考えて・・・・・・それでなんだよな。
フェイトのドキドキして嬉しい気持ち・・・・・・伝わってきたよ」



伝わって・・・・・・まさか、精神リンクっ! 私あの時・・・・・・リンク強化しちゃったんだっ!!

もしかして、それで余計にみんなの勘違いが酷くなってるのっ!?



「テスタロッサ、蒼凪はああいう奴だが、お前への気持ちは本物だ。
アイツなら、お前に何があろうと、必ず力になり、越えて・・・・・・ぐぅ」



アルフが泣いた。シグナムまで泣き出した。それに釣られて、みんなも泣く。



「あの・・・・・・お願い。お願いですから・・・・・・! 私の・・・・・・話を、聞いてぇぇぇぇぇっ!!」




















(第25話へ続く)






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