[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース24 『日奈森あむとの場合 その6』



【「・・・・・・キャラなり」】





口から出てきた声は、僕の声ともう一つ。ただ、今身体を動かしてるのは、僕じゃない。

僕とキャラなりして、一体化したはずのヒカリ。うん、身体を乗っ取られてるの。

ついでに、なぜか胸元まで膨らんでいる。パッドの類だけど、それでも。



てーか、なんか大きいんですけどっ!? シオンだってそこまでじゃないのにっ!!





【「ライトガードナー」】



姿を表したのは、光の守護者。これが・・・・・・僕の描く『なりたい自分』の姿の一つ。



【よし、ここからリインフォース・ライナーに一気にてんこなりだっ!!】



なお、てんこなりとは『てんこ盛りなキャラなり』の略。僕が考えた。



【シオン、ヒカリ、心を一つにしてっ! それで一気に】

「バカっ! そんな時間はないだろうがっ!!」

『ムリィィィィィィィィィィッ!!』



あ、×たま達が動き出してる。てゆうか、こっちに対して敵意向けてるし。

すぐに×たま達は一斉に動く。そして、吐き出す。



『ムリィィィィィィィィッ!!』



黒い風・・・・・・衝撃波を。それに、僕・・・・・・ううん、ヒカリは左手をかざす。

かざして、展開するのは黒い三角形のシールド。なお、ベルカ式魔法陣。



「無駄だ」



風はシールドに防がれる。それにより、僕達は無傷。

シールドによって裂かれる形となった風が、コンクリの地面を削るけど、それでも。



【・・・・・・ヒカリ、なんでヒカリはこんなに巨乳キャラなの?
というか、しゅごキャラ状態でも、何気に大きいよね】

「戦闘中に何を考えているんだっ! お前はっ!?」



だってー、いつもいつも気になってるんだもの。

普通に僕、乗っとられた状態だから、感触を確かめようもないしさ。



【というか、どうして大きくなってるんだろ。普通にビックリなんだけど。
あれかな、肉体改造なんてコアなジャンルを、知らない間に】

「前に説明しなかったかっ!? 安心しろ、パッド的なあれこれだっ! というか、頼むから集中しろっ!!」

【だって、てんこなり出来なかったー! あれ楽しいのにー!!】

「言ってる場合かっ! そしてそのネーミングはやめてくれないかっ!? 普通にダサいだろっ!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース24 『日奈森あむとの場合 その6』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



全く、我が宿主は・・・・・・普通に状況を鑑みているのか?

まぁ、ここが良い部分ではある。どんな時でも、自分を見失わないのだから。

そうだ、だからこそ光になれる。どんな闇をも照らす、消えること無き星の光だ。





そして、私はそんな『ひかり』を形取るもの。・・・・・・この程度で、負けるわけにはいかない。










「・・・・・・ライト」



私の周囲に展開されるのは、数十の光の短剣。色は、シールドと同じ。

そのまま、攻撃を防ぎながらも私はそれを撃ち出す。



「ダガー」





勢い良く射出された短剣の数は、ちょうど×たま達と同じ。・・・・・・これが、私の能力の一つ。

恭文やシオンでは中々難しい、大量弾の生成と制御を、私は得意とする。

短剣は同じ色の軌跡を描きながら、×たまを追う。×たま達はそれにビックリしたように、一目散に逃げていく。



その間に、私はシールドを解除。翼を羽ばたかせて、大きく上に飛ぶ。・・・・・・あむ達は、大丈夫のようだ。

イースターの物と思われる黒いバン・・・・・・くそ、もう逃げてしまっているか。

中々に手堅いな。あむ達が見えた時点で、もう逃走を開始したのだろう。



追跡は無理だな。それでは、わざわざ同時進行にした意味がなくなる。

私は、左手を逃げ惑う×たま達にかざす。・・・・・・恭文、とりあえず動きを止めるだけでいいか?

あむ達や倒れてる子ども達を巻き込まない方向にも出来るが、少々手間がかかる。





【そうだね。とりあえず、浄化をやりやすいようにしておこうか】

「なら、こうだな」



空中で、逃げ惑う×たまを追うダガーが、その軌道を変える。というか、追いかけるのをやめた。

それに、×たま達が安心したような、頷くような動きを見せる。



『ムリ? ムリムリ?』

『ムリムリ・・・・・・ムリィィィィィィィィィィィッ!!』



そして、私に殺到しようとする。・・・・・・だから、こうなるんだ。



『ムリッ!?』



×たま達を大きく囲むように、ダガーが輪を作るように回転する。そして、それは大きな闇色の輪になった。

そのまま狭まり、×たま達の動きを止める。



『ムリムリッ!? ムリ・・・・・・ムリッ!!』

「無駄だ。お前達の力では、そこから脱出は出来ない」





別に、ただ輪を作っているわけじゃない。あれは、一つの形に過ぎない。

いわゆる封鎖結界というものだ。あの輪から、見えない形で球体状のバリアが張られている。

だから、上にも下にも、もちろん左右にも逃げる事が出来ない。何度ぶつかっても、同じだ。



とりあえず、ここから一気に浄化も可能だ。だが・・・・・・必要はないようだ。





「恭文、あむがやってくれたようだ」



私は、見下ろすようにしながら右を見る。唯世をキセキを中心に、黄金色の光が溢れ出した。

その光が二人を包む。そして、その中からとても強い決意を感じた。



【みたい・・・・・・だね。というか、なにあの光っ!?】

「恭文、分からないのか? あれと同じことを、私達も経験しているだろう」

【え、じゃあまさか】










そう、そのまさかだ。・・・・・・辛い時間を乗り越えて、初めて得られる光もある。





二人は、ようやくその光を手にしたということだろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・唯世くんっ!!」





恭文が、ヒカリとキャラなりしてたまごを引きつけてくれている。

その間に、あたしは一気に跳んで、唯世くんのところへ着いた。

だけど、妨害とかそういうのなかったね。あのスピーカー付きのバンも、とっとと逃げちゃったもの。



あたし、もしかしたら例の×キャラ強化ボディとか、出てくるんじゃないかと思ってたのに。





「多分、自分達の仕業だとバレる危険性を考えたんじゃないかな?
ここまでほしな歌唄や、イースターの行動だというのを隠してるから」



ミキの言う事に、一応納得。・・・・・・確かに、その通りだね。

あたし達だって、今日偶然にディードさんがCDをもらわなかったら、ずっとこのままだったろうし。



「・・・・・・唯世さん、スゥ達のこと、わかりますか?」

「ただ、せ。僕・・・・・・だ、キセキだ。
僕の声が・・・・・・きこ、える・・・・・・か?」

「うぅ・・・・・・よわい」



だけど、唯世くんは両手で頭を抱えて、あたし達の方を見ようともしない。苦しそうに唸っているだけ。



「唯世くん、しっかりしてっ! あたし達のこと、わかるよねっ!?」

「た・・・・・・だ」



あぁ、まずい。キセキのたまごの×がさっきよりも濃くなってるし。

と、とにかく・・・・・・声をかけ続けよう。それしか、きっと出来ない。



「ぼくは・・・・・・弱・・・・・・い。にせものの・・・・・・おう、さま」

「唯世くんっ!!」

「弱い、偽者の」





・・・・・・ううん、それだけじゃ足りない。



あたしはそのまま両手を伸ばして。唯世くんを抱きしめた。



力を込めて、安心させるように、優しさも込めて。





「・・・・・・唯世くん、お願い。ちゃんとあたし達の声を聞いて」



唯世くんは今、迷子なんだ。自分の行き先が、居場所がどこか分からなくて、すごく不安なんだ。

あの時のあたしと、同じなんだ。迷子なの、寂しいよね。だから、教えるよ。



「思い出して。キセキが・・・・・・なりたい自分が生まれた時の事を」



後ろで恭文が戦ってる音が聞こえる。だけど、それには構わずに言葉を続ける。

迷子かも知れない。だけど、絶対に一人じゃないと。それでも忘れたらいけないことがあると、言葉を続ける。



「それで、信じて。その時の自分の気持ちを。誰でもない、唯世くんが信じなきゃいけない。
そうしなかったら、唯世くんの大事なもの、全部消えちゃうじゃん。唯世くんは、それでいいのかな」

「・・・・・・アミュレット、ハ・・・・・・ト?」










・・・・・・そうだよ、アミュレットハートだよ。もう、それでいいよ。

それでも、いい。素のあたしじゃなくたって、いい。

唯世くんが好きなのは、アミュレットハートなんだよね。もう、それでいいよ。





私は知ってる。そして、私だって同じだ。私も・・・・・・唯世くんの外キャラだけを見て、好きになった。





唯世くんの事を責める権利なんて、私にはない。それでもいいから、お願い。あたしの言葉・・・・・・届いて。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・花を踏んでしまった。関係の無いものを壊してしまった。

それが悔しくて、情けなくて、僕は泣いていた。ひたすらに・・・・・・泣いていた。

そんな時だった、目の前に王冠のマークをつけたたまごが現れたのは。





そしてそれからすぐ、そのたまごはパカリと割れた。










「・・・・・・泣くなっ!!」

「うわっ!!」



目の前に出てきたのは、小さな子。金色の王冠を頭に乗せて、赤い分厚いマントを羽織った子。

その子は怒っている様子だった。怒った目で、僕を見ていた。



「泣くな唯世っ!!」

「え? 君、どうして僕の名前を」

「僕の名はキセキ、お前のしゅごキャラだ」



その時は首を捻るだけだった。だって、しゅごキャラなんて聞いた事がなかったから。



「それに関してはあとで説明する。とにかく、王は泣かないものだ。王が進むべき道に涙は不要」

「だけど」



花を、潰した。壊した。僕は、優しくも無ければ立派な人でもなかった。

だけど、目の前の子はそれでも言葉を続けた。



「ならば、助ければいい」

「え?」

「その花は、まだ生きている。弱く、今にも命は消えそうだが、まだ生きている」



もう一度、潰れてしまった花を見る。この花が・・・・・・生きている?

そう考えた時に、心の中に何かが沸き立つのを、強く感じた。



「お前が傷つけたと思うなら、それを悔やむのなら、泣く前にやることがあるだろう。王とは、そういうものだ」





・・・・・・それから僕は、その花の世話をすることにした。

と言っても、水を上げたり、様子を見に行ったり・・・・・・という具合に、子どもで出来る範囲なんだけど。

そうしたら、みんなもそれを手伝ってくれるようになった。



花は、少しずつだけど元気を取り戻していった。それが嬉しくて、幸せで・・・・・・決めた。





「・・・・・・キセキ」

「なんだ」

「僕、決めた。王様になるよ」





僕は、弱くて、全然だめで・・・・・・出来ることなんてほんの少し。

僕の世界は、とても小さく、弱い世界だ。

だけど、それでも、ほんの小さな形でも『奇跡』を起こしたい。



その『奇跡』で、同じように小さくて弱い誰かの世界を守れたなら・・・・・・そうだよ。

そうだ、やっと見えた。ううん、思い出した。僕のなりたい王様の形。

そして、そうなってやりたいことが。・・・・・・キセキ、聞こえる?





”ただ・・・・・・せ・・・・・・”



ごめん、苦しい思いさせちゃって。でも、もう大丈夫。・・・・・・いくよ。



”・・・・・・ふん、遅過ぎだ。まぁいい、いくぞ”

”うん”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



【唯世・・・・・・!!】



そのまま、唯世の両手が動き、両手の親指と人差し指で四角を作る。



「僕のこころ・・・・・・!!」





唯世の隣にはキセキのしゅごたま。



・・・・・・いや、キセキが、閉じられていたしゅごたまから解放されて出てきた。



そのまま、唯世は鍵を開けた。





「アンロックっ!!」





胸元に再びしゅごたまに包まれたキセキが吸い込まれる。

その身を包むのは、割り合い白に近い黄色の服。

フリフリな部分が多いまさしく王様・・・・・・というか、王子様な格好。



頭の王冠はキャラチェンジ時よりも装飾が本格化し、右手には黄金色に輝く王冠付きのロッド。





【というか・・・・・・やっと復活かい。遅いんだよ】

「そう言うな。私の予想よりも、ずっと早い」

「ヤスフミっ! というか、ヒカリっ!!」




上から声がかかる。それは、フェイトだった。右手には、当然のようにバルディッシュ。



バリアジャケット姿で、髪型も変えたから一つ結び。・・・・・・ギリギリだが、間に合ったのか。



そして、私達は唯世の方を見る。唯世は強い瞳で、こちらを・・・・・・×たま達を見る。





【「キャラなりっ! プラチナロワイヤルっ!!」】



生まれたのは、王という存在の一つの姿。唯世が思い描く未来の可能性。

今ここに、それは姿を表した。・・・・・・しかしまぁ、ずいぶんと派手だな。



「・・・・・・日奈森さん、蒼凪君にヒカリ。ごめん、心配かけて。
でも、もう大丈夫。フェイトさんも、心配かけちゃいましたよね」

「ううん、大丈夫。それで、唯世君」

「はい、あとは僕と日奈森さんに任せてください。・・・・・・日奈森さん、いくよ」

「うんっ!!」



そのまま、あむは人差し指を×たまに向ける。唯世も王冠ロッドの先を向ける。



「「ネガティブハートに、ロックオンっ!!」」



そのまま、あむは両手でハートのマークを作る。唯世は、王冠ロッドの先を向けたまま。

キーにピンク色のエネルギーが溜まり、王冠ロッドの先に白い光が集まっていく。



「オープンっ!!」

「ホワイト・・・・・・!!」



そして次の瞬間、ハート型のエネルギーと、白い光の奔流が×たま達に向かって放たれた。



「ハートッ!!」

「デコレーションっ!!」





×たま達が私の作った輪の中で右往左往しているが、無駄だ。



その二つの技の直撃を食らって、黒い絶望を含んだたまご達は、元の白いたまごへと戻った。



しかし、まだ結構数があったのに・・・・・・よくやるものだ。二人分の浄化パワーだからだな。





「うーん、急いで酢昆布持ってきたの、無駄になっちゃったね」

「普通にお前は何を持って来てるんだっ! そしてよく家にあったなっ!!」



普通にバリアジャケット装着しながら、それを取り出すのはどうなんだっ!? ほら見ろっ! あむ達がポカーンとしてるしっ!!



「・・・・・・恭文、キャラなりを解除するぞ。もう大丈夫だ」

【あ、うん】



私は、キャラなりを解除。恭文は元の姿に戻った。なお、私も元のしゅごキャラ姿。

そして次の瞬間、恭文は頭を抱えて地面に突っ伏した。



「恭文っ!?」

「蒼凪君っ!? あの、どうしたのかなっ!!」

「あぁ、心配ないよ? ・・・・・・ヤスフミ、大丈夫?」

「・・・・・・ごめん、やっぱ慣れない。具体的には、フェイトレベルの胸の大きさとか」

「お前はまだ言うのかっ! そこまで来ると、セクハラだぞっ!?」





それを見て、あむと唯世が事情を察してくれたようだ。・・・・・・そう、私達のキャラなりには、一つ欠点がある。

能力は申し分ないし、それぞれに浄化技もあるのだが、恭文への負担が大きい。肉体というよりは、精神にだ。

私達は一応女性になるのだが、恭文は男。そして、私達とのキャラなりは私達が身体の主導権を持つことになる。



その上、姿まで私達よりになるので、恭文は女装しているも同然。普通にそこが辛いらしい。



まぁ、それで私達を否定するような真似をしないのは、本当にありがたいと思う。





「フェイトさんが言ってた『フォロー』って、これだったんですね」



あむが納得したように、落ち込む恭文を見ながら言ってくる。

それにフェイトは、困った顔で頷く。



「うん。ヤスフミがリインを連れていかなかった時点で、こうなると思って。
・・・・・・ヤスフミ、大丈夫だよ。ほら、あむも唯世君も変な目で見てないよ?」

「・・・・・・てんこなり、マジで使えばよかった。
そうだよ、よくよく考えたらどうして僕は初っ端から単独キャラなりに行っちゃったのっ!?」

「あぁ、泣かないでっ!? 大丈夫、大丈夫だからっ!!」










とりあえず、落ち込むが私やシオンを否定しない我が宿主は、その姉に任せることにする。

私は、バンが去って行った方向を見る。シオンも、傍らに飛んできて同じく。・・・・・・色々と、納得した。

ここ最近、未成年者が夜に出歩くと言うのが、この街でちょっとした問題になっていた。





だが、今回のこれで分かった。その原因はおねだりCD。引いては、ほしな歌唄だったんだ。

そう思う原因は、唯世以外にここにやってきていた子達だ。全員が10台前半と思しき身なりに背格好。

少なくとも今の時刻に出歩いていたら、誰だって怪訝に思う年齢層の人間ばかりが、ここに集まっている。





・・・・・・・・・・・・これは、もしかしなくても相当にまずいか?

この調子だと、今日みたいなことが何度行われていたか、分かったもんじゃない。

だが、気になる。どうしてイースターは、急にこんな強引な作戦を?





二階堂が敵だった時とは、全くやり口が違う。・・・・・・何か、嫌な予感がする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でも蒼凪君、フェイトさん、それに日奈森さん・・・・・・すみませんでした」



いや、別に謝る必要ないし。・・・・・・てゆうか、あれだよね。僕が必要あるんだよ。



「唯世、このままの体勢で悪いんだけど」

「あ、うん」

「ごめん」



本当に一言だけそう言った。唯世がキョトンとした表情になる。



「どうして、蒼凪君が謝るの?」

「いや、唯世のこと思いつめさせたかなぁ・・・・・・と、ちょっと反省を」



おねだりCDの危険性については、唯世も分かってたはず。

それなのに手を出した理由は、多分あのプラネタリウムでの会話かなぁ・・・・・・と。



「あ。・・・・・・僕は大丈夫だよ? おかげでね、少しだけかも知れないけど見えたんだ。
僕のなりたい王様の形。そして、王様になってやりたいこと」

「そっか。・・・・・・それとさ、唯世。自分は弱いって言ってたよね」

「うん」



まぁ、なんというか・・・・・・アレだよアレ。うん、アレなのよ。



「それでいいじゃん。それが唯世の強さだよ」

「え?」

「ある人は、こう言ってるよ? 自分の弱さを、ダメなところを知っている人は、人のそれが分かる」



なお、やなせたかしさんだね。アンマンパンとかの作者さん。

何かの雑誌のインタビューで、こんな話をしたそうだ。



「それが分かる人は、自分の弱さやダメなところに押し潰されそうな誰かの心を、優しく包んで守れる力を持っているんだよ」





弱い部分を抱えた人こそ、人よりだめなところがある人こそ、本当に誰かの心を守り、助けることの出来るヒーローになれると。

誰かの痛みや苦しみを心の底から理解し、助けるために必要なのは、力や正しさではない。

ましてや勝つ事でもない。そういう弱さこそが必要なのだと、そう言っていた。これを聞いた時、すごく感銘を受けたのを覚えている。



力じゃ、勝つだけじゃ、守れないものが、繋げられない未来ってのは確かにあるのよ。



それを繋ぐのは、きっと優しさなんだと思う。





「・・・・・・強さってのは、勝つってのは、何かを先に繋げる結果を呼び起こせるから価値があるんだ」



だから勝つ事に、強さに、人は意味を見出せるんだ。



「ただ何かを踏みつけて、その先を潰すだけの強さは、きっと間違ってる。
そんな強さを振りかざしても、待っているのは・・・・・・きっと、破滅」



うん、間違ってる。そんな強さは絶対に、間違ってる。例えば、命を奪う・・・・・・とかかな。



「だから、唯世は強いよ。・・・・・・もうちょっと、自分に自信持ちなよ。
少なくともここに一人・・・・・・ううん、もっと沢山、唯世の強さを知って、認めている人間が居るから」

「そうだよ、唯世君。私もそうだし、バルディッシュとヤスフミにアルトアイゼンも、あむも認めてる。
もちろん、ランちゃん達にヒカリとシオン、ガーディアンのみんなだって、同じだよ。それと」



フェイトが視線を向ける。そこには、キャラなりを解除したキセキが居た。



「全く、これだから庶民は。王の言いたい事を先取りするとは何事だ。
・・・・・・よいか唯世、恭文とフェイトさんの言う通りだ」



キセキは、そっぽを向いて、唯世と目を合わせようとしない。そのまま言葉を続ける。

だけど、決してそれは唯世を嫌っているからじゃない。なんというか、照れくさいんだと思う。



「王足るものには、確かに強さが必要。だからこそ、僕も常日頃お前に厳しく言っている」

「・・・・・・うん」

「だが、その強さは自らの国の民の今と、そこから続く未来を守る力であり続けなければならん。
例え目の前の戦いに勝利しても、それを守れなければ、戦った意味も勝った意味も無いのだ」



唯世の目が見開く。多分、こんなことを言うキセキは、初めて見たのだろう。

なお、僕も初めて。普通にこの子は、こういう事が出来る子なのだと再認識した。



「お前の弱さ・・・・・・優しさは、そんな未来を手にするために、もっとも必要で大切なものだ。
というより、優しくなければ王は決して務まらんし、誰もついて来ない。・・・・・・よーく覚えておけ」

「・・・・・・うん。キセキ、ありがと」

「ふん」





そっぽを向いたままなのは変わらず。だけど、顔は照れているのか真っ赤。

それを見て、僕もフェイトも、ヒカリとシオンにあむとキャンディーズも、表情が崩れる。

・・・・・・一応、キングは死守出来たね。でも、まだだ。まだ終わってない。



この一手を避けただけじゃ、目指すべき勝利には繋がらない。



『魔法』を使える魔法使いを目指す身としては、ここからが正念場・・・・・・かな。





「ヤスフミ」

「なに?」

「・・・・・・あの子とは、話せた?」

「いや、逃げられた。てーか、追いかける余裕もなかった。でも、大丈夫」



尻尾は掴んだ。それだけでも、今日と言う時間の価値は上がる。

立ち上がり顔を上げる。そして、右の拳を自然と握りしめた。



「このままじゃ、済まさない。絶対に・・・・・・止める。
そして、数えさせる。歌唄の・・・・・・罪をだ」

「・・・・・・うん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文、もう一度聞くわよ。それ、本当?」

「本当だよ。エル、もう一度みんなに話してあげて」

「はいです。あのCD・・・×たまを使って造られてるです。
エル、勘違いじゃないかと思って何回も確かめましたから、間違いありません」

「・・・・・・確かに、エルの言う通りだ」



キセキが、本当に信じられない様子で、そう言った。声が震えているのは、気のせいじゃない。



「このCDから、本当に微弱で僕達しゅごキャラでも触れなければちゃんと分からないレベルではあるが、×たまたまごの気配がする」



そう、おねだりCDに関して話をした。みんなの表情が重い。というか、一部顔が青い。

1番顔が青いのは、海里だ。それがなぜかは、今のところ分からないけど。



「でもひどいよ。たまごをこんなことに使うなんて。・・・・・・やや、絶対許せない」

「イースターのやつら、見境無しでちね。しかも、それをやってるのがほしな歌唄とその関係者でちか。
恭文、アルトアイゼンも・・・・・・そこは、間違いないでちよね?」

≪間違いありません。先ほどみなさんにお話した通り、このCDに入っている『ブラックダイヤモンズ』。
そのインディーズバンドのボーカルは、間違いなくほしな歌唄です≫

「でも、こう言ったらアレだけど、昨日ディードさんがゲリラライブに遭遇してよかったのかも。
そうじゃなかったら、このまま気づかないことだって・・・・・・あったわよね」



まぁ、りまの言うような可能性があったのは事実。

でも、関係者としてはあんまりそれは言えない。だって、いくらなんでも怖すぎだもの。



「歌唄・・・・・・どうして、こんな」

「日奈森さん、今はそこを言っても仕方ないよ」



うん、言っても仕方ない。もう、事実は目の前に出て来ちゃってるんだから。

そして唯世は、CDに移していた視線を上げて、僕達を見る。



「・・・・・・とにかく、今までほしな歌唄がゲリラライブを行ったり、急に影を潜めていたのはこのせいだったんだよ」

「ゲリラライブはCDの元になるたまごの確保。影を潜めていた・・・・・・いいえ。
インディーズバンドを隠れ蓑にライブをするようになったのは」



このブラックダイヤモンズというバンドは、ぶっちゃけりまの言うように隠れ蓑だ。

でも、ここは盲点だった。僕達が探していたのは、ほしな歌唄だったんだから。



「私達の邪魔が入るのを嫌ったから」

「でも、それだけじゃないです。昨日も恭文さんやリインにフェイトさん達で話したですけど、学校内にCDを広めた人間が居るです」



出された紅茶を飲みながら、海里を見る。青ざめた表情はそのままだった。



「リインちゃん、それどういうこと?」

「まず、このCDは普通にバンドのプロモ用として無料配布されているものです。
・・・・・・まぁ、この辺りは、昨日ヒカリとシオンが言った通りですね」



普通に考えて、それがこの短期間に学校内で都市伝説めいた形で広まるとは思えない。

尾ひれが付いてこうなったと考えるにしても、そのスパンがあまりに短過ぎる。



「リインがクラスでおねだりCDの話を聞くようになったのも、ここ1週間前後の間ですし。
・・・・・・やっぱり、短期間でこんな噂が広まるきっかけが、あったはずです」

「もっと言うと、それを作った人間が、聖夜小内に居ると見ていいだろう。
そうでなければ、今の状況には納得が出来ない。いくらなんでも不自然だ」

「リインさんとヒカリが言っているのは、学校内に二階堂先生のようなスパイが、また入り込んでいるということだよね?」



二人は、唯世の言葉に頷いた。で、僕とシオンの方も見る。僕達も頷く。

二人と同意見という意味で、しっかりとだ。それに唯世の表情が苦くなる。



「・・・・・・そう言えば」



ややが、少し考え込むような顔になった。・・・・・・どったの?



「ほら、やや昨日頼まれたじゃない? CDの出所を調べて欲しいって。
それで、友達に電話かけて聞いてみたんだ。あのCDを、どこで手に入れたのかって」

「あ、そういやそうだったね。それで、どう?」

「うん。そうしたら、変なんだ。というか、ややも話聞いてて、なんか怖くなってきたの。
その友達は普通に例の七日間のルールに乗っ取って、別の友達から渡されたらしいの」



まぁ、ここは僕達の予想の範囲内。というか、それ以外にCDが広まるルートが分からないし。



「だけど、人によってはいつの間にか、知らない間にカバンの中に入ってたってこともあるとかって言ってた」

「はぁっ!?」

「結木さん、それは間違いないの?」



ややが唯世の言葉に頷く。・・・・・・というか、ちょっと待て待て。

いつの間にか、知らない間にカバンの中に入ってた? それって・・・・・・・・・!!



「唯世の時と全く同じではないかっ!!」



そう、唯世も全く同じだったらしい。学校から帰ってきて宿題をやろうとしたら、CDがいつの間にか入っていたと。



「そうだね。・・・・・・そうするとやっぱり」

「いるわね、学校の中にCDを噂と一緒に広めた犯人が。もっと言えば・・・・・・イースターの手先が」



・・・・・・海里の顔の青さが更にひどくなる。その様子を見て思った。

もしかして、このCDの内容を知らなかったとか? いや、そんなわけが・・・・・・ありえるかも。



「・・・・・・唯世くん、どうしよう」

「とにかく、このCDを急いで回収しよう。でも、問題がある」

「問題?」

≪問題は、素直に出してくれるかどうか・・・・・・なんですよね。
というより、防護策になるかどうかも、怪しいですよ≫





あー、そうだよね。それがあった。回収されるというのは、七日間のルールを破るのと同じだもの。

つまり、『回収される→CDを他の人に聴かせられない→身も毛もよだつ恐怖に襲われる』・・・・・・なのよ。

だから、CDを持っている子はガーディアンのお願いだろうと、絶対に渡さない・・・・・・となるわけである。



CDに関する噂を信じている人間からすると、この状況だけは避けたいはず。これは、骨が折れるかも。





「その辺りの事も考えて、このルールも一緒に広めたんだろうね」

「中々にやり口が狡猾ですね。この作戦を考えた人間は、そこそこ頭のいい人間なのでしょう」

「・・・・・・こうなってくると確かに、アルトアイゼンの言うように防護策にもならないかも」

「唯世、だがそれだけでは足りぬ。あとは、根本的な解決策の構築が絶対に必要だ。
それが出来なければ、こちらが圧し負けるのは時間の問題だろう」

「確かにそうだね」



そう言って、キセキが僕達を見る。唯世も、同じ。



「恭文、アルトアイゼン、リイン。僕が思うに、この状況はお前達の本来の仕事に割り合い近いはず」

「そうだね、近い方だと思う」

「ならば聞く。こういう時、お前達やフェイトさん達なら、どう対処する」



そんなの決まってる。CD1枚1枚枝葉に対処してもどうにもならないなら、根っこを叩けばいい。



「ほしな歌唄と、その関係者を止める。CDを広めた奴も含めてだよ」

「ここで取れる方法は、相手が行動を起こした時を狙うという形になります。
もっと言うとCDを聴いた人間を集めて、たまごを回収する時にとっ捕まえるです」

≪イースター本社に乗り込むなどと言う派手な手が使えない以上、これが確実だと思われます。
一応、その腹積もりでフェイトさん達が探りを入れていますから、私達はいつでも動けます≫

「そうか、ならばそのままそれは継続だな。
すまぬが、フェイトさん達にもよろしく頼むと伝えておいてくれ。・・・・・・唯世」

「うん、それでいこう。とにかく、まずはCDの回収だね」



ぶっちゃけ、効果は薄いかも知れない。ハッキリ言えば、やらないよりマシってレベルですよ。

だけど、それでもやる必要と意義はある。だから、唯世だってこう言うのだ。



「ガーディアンである僕達が積極的に動けば、学校中にCDが危険なものだって印象を生徒のみんなに与えることも出来る」

「そうだな、絶対に無駄にはならないだろう。皆も、それで良いな?」










・・・・・・唯世の言葉に、全員が頷いた。





そう、海里も表情はさっきとあんまり変わってないけど、それでも頷いた。





そして、僕達がCD回収のために動き出したほんのちょっとの隙を突いて・・・・・・海里は、姿を消した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どういうことだ? ・・・・・・俺は聞いてない。





あのCDが×たまから造られてるなんて・・・・・・聞いてないぞっ!!










「ムサシ、お前まさか」

「拙者も知らなかった」



俺は、ムサシの目を見る。・・・・・・嘘は、ついていない目だ。



「・・・・・・蒼凪殿達の話を聞いてから改めてCDの気配を探って、やっと気づいたくらいだ。
すまん海里、このムサシ・・・・・・一生の不覚だ。疑うべき要素は、いくらでもあったと言うのに」

「いや、いい。悪かった、ちょっと強く言いすぎた」

「構わん。それで海里・・・・・・と、聞くまでもないな」



とにかく、隙を見つけて俺はみんなの輪から外れて、学校の外に出た。

そのまま電話をかける。相手は・・・・・・あの人。



『・・・・・・もしもり、海里? アンタどうしたのよ。今授業中でしょ?』

「すみません、ゆかり姉さん。急ぎ聞きたい事がありまして。
・・・・・・例のCDなのですが、どうやって作ったんですか? というより、どういうものなのでしょうか」

『例のCDって・・・・・・あぁ、おねだりCD? またどうしたのよ急に』

「いえ、よく考えたら詳細を全く聞いてなかったと思いまして。
あと、俺が聴いても大丈夫なものなのかと」



とりあえず、適当なことを言っておく。・・・・・・頼む、否定してくれ。

あれは、俺の動揺を引き出すためのものだと、証明してくれ。



『あー、そう言えば話してなかったわね。とりあえず海里、アンタは聴いちゃだめよ?
アンタのしゅごキャラに×が付いちゃうから。さすがにそれリサイクルはね〜』

「・・・・・・どういう、ことでしょうか」

『あのCD、×たまをプレスして造ってるのよ。
その効力で、中に入れた歌唄の歌を聴いた子達を好き勝手に出来るってわけ』





だが、それは本当に無駄な願いだった。俺の願いは、簡単に否定された。

つまり、俺が広めたCDを聴いた子達はたまごを抜き出される。

そのまま、そのたまごはエンブリオでなかった場合、またCDにされる。



・・・・・・これでは、蒼凪さん達の話通りじゃないかっ!!





「なぜ・・・・・・こんな恐ろしいことを」

『なぜ? ・・・・・・海里、アンタなに言ってるのよ。アンタの好きな合理的な方法ってやつでしょうが』



違う、俺はこんなこと望んでいない。こんなことを、『合理的な方法』などと言った覚えは、ない。



『使えるものは×たまだろうがCDだろうがなんでも使って勝つ。そうして私は勝ち組になるのよ』



違う・・・・・・違う、絶対に違う。俺は、違う。違うんだ。

頼む、信じてくれ。俺は・・・・・・俺は・・・・・・!!



『てゆうかアンタ、まさかとは思うけどガーディアンの連中に影響されて、仲良しこよしが好きにでもなったの?』



姉さんの声が、遠く聞こえる。足元がガラガラと、崩れて行く声がする。



『全く・・・・・・そんなことでどうすんのよ』



どうする? そうだ、俺はどうすればいいんだ。俺は・・・・・・俺の、手は・・・・・・もう。



『大体、こんなことしてる時点で、アンタはもうガーディアンの仲間でもなんでもないでしょ?』



その言葉が俺の胸を貫いた。そして、鋭い針・・・・・・いや、言葉の杭は、俺の心に確かに穴を開けた。



『いい、海里。私達の目的は』



俺は電話を切った。もう聞きたくなかった。何も聞きたくなかったから。

・・・・・・俺は、なんてことを。なんてことを、してしまったんだ。



「海里・・・・・・大丈夫か? お主、顔色が悪いぞ」

「いや、大丈夫だ。・・・・・・とにかく、もう戻ろう。みんなに怪しまれて」

「悪いけど、もう怪しんでるよ」





後ろから声。その声に俺の身体がこわばる。そして、ゆっくりと振り返る。

すると、そこに居たのは・・・・・・あぁ、もうだめか。

俺は、もう仲間では、なくなったんだ。いや、多分仲間ですらなかったんだ。



だって、俺はこの人を・・・・・・この人達を裏切っていたんだから。





「・・・・・・いつから、気づいてたんですか?」

「この間、あむと唯世とティアナと一緒にガーディアンの買出しをした少し前から」



そんなに、早く。いや、当然か。この人は、ジョーカーやキング達とは違う。本当に、戦う人だから。



「それと三条さん、お兄様と私達の事を、尾行していましたね?」



そこまで、バレてましたか。相当に気をつけて、距離を取っていたというのに。



「もうちょっと気配の消し方は上手くしておくもんだよ。バレバレだって」

「残念ながら、恭文はそういうことに関しては非常に鼻が利く。海里、お前の対策では甘過ぎたんだ」



そこに居たのは、蒼凪さん。そして、そのしゅごキャラ二人と、アルトアイゼン。いや・・・・・・俺の、敵だ。



「海里、とりあえず僕とアルトとリイン、ヒカリとシオンには全部バレてる。
中々上手くやったようだけど、ちょっと僕達のことを甘く見すぎたね」

「・・・・・・蒼凪殿、まさかとは思うが」

「そうだよ、勝手に調べさせてもらった。最低な事にね。
まぁ、海里って言うよりは、学校内にスパイが入り込んでいるかどうかをだけど」



その中で、俺の存在が浮かび上がってきてしまった。・・・・・・あぁ、そうだな。ここは、当然だ。

俺は姉さんと寝食を共にしているし、苗字だって同じだ。本格的に調べれば、すぐにバレるだろう。



「あむ達はともかく、僕達は基本的に人様を疑うのが仕事だ。
二階堂の事があったにも関わらず、周囲のことを気にしないわけがないでしょうが」

「えぇ、そのようですね。やはり、この手は危険札だったようです」

「・・・・・・海里」

「あなたの言いたい事は分かっています。だから、答えましょう」



俺は蒼凪さんの目を見据える。そして・・・・・・全てをぶちまけた。



「おねだりCDを学校内に広めたのは俺です」



そして、宣言する。俺は、あなたの敵だと。



「そして、俺は・・・・・・イースターのスパイですよ」










そのまま俺は走り去った。全速力で車道に飛び出し、一目散に突っ切る。

車のクラクションや迫ってくる気配や急停止のブレーキの音など気にしない。

そのまま、向こう側の歩道まで渡り切った。俺は、そこからまた更に走る。





・・・・・・蒼凪さんが追いかけてくるかと思った。

だが、さすがに車道を突っ切ることは出来なかったらしい。

なんとか、撒く事が出来た。学校が、どんどん遠ざかっていく。





そしてこの瞬間、俺の中で何かが砕けた。

俺はもうきっと、真の侍になどなれない。そうだ、なれるはずがない。

だって、真の侍は、こんなことをするはずがないのだから。





俺は、もう夢を諦めなくちゃいけないんだ。俺は・・・・・・俺の、手は・・・・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・バカ野郎。話は最後まで聞けよ」

「私達、少し手を間違えてしまいましたね」

「そうだな。逆に追い詰めてしまったのかも知れない。・・・・・・失敗だ」





なんか事情があるなら力になるってのに、とっとと逃げやがって。



つーか、普通に今のは危ないでしょうが。なんか車道が混乱状態だしさ。



・・・・・・くそ、完全に見失ったし。でも、これで覚悟は決まった。





”そうですね。あの電話での会話の様子だと、希望はあるかも知れません。
海里さんは、おねだりCDの正体を知らなかったと思われます”

”じゃないと、あの青い顔とかが繋がらないしね”

”そして、それをひどく後悔している様子も見受けられる。・・・・・・どうします?”

”どうするもこうするも、決まってるでしょ”



あのまま放っておけない。こういう時はやっぱりアレだ。

いわゆる一つのリリカル式っ!!



”アルト、次に海里が出てきたら僕達で戦うよ。そして、魔王仕込みの『お話』だ”

”了解しました。さて、差し当たっては”



とりあえず、聖夜小の中へと戻る。戻りながら頭を抱える。

そう、差し当たっては問題がまだあるから。



”差し当たっては、みんなへの説明・・・・・・だよなぁ。うぅ、気が重い”

”まぁ、がんばりましょうか”

”そうだね”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・やばい。予想はしてたけど、空気が凄まじく重い。





いや、分かってた。すごい分かってたけど。まぁ、僕が原因なのであんまり言えないんですけど。





ただ・・・・・・あの、みなさん? そろそろ何か発言していただけると、嬉しいかなと思うのですけど。










「・・・・・・恭文」



そんな事を思うと、あむが睨み気味に僕を見る。というか、語気が厳しい。

ロイヤルガーデンに一旦CDの回収作業を終えて戻ってから、早速話した。そう、海里のことだ。



「あたし、そういう冗談嫌いなんだけど。ありえないよね、いいんちょがイースターのスパイだったなんて」

「・・・・・・奇遇だね。僕も嫌いだよ。でも、残念ながら事実だ。海里は、認めたよ」

「マジ、なんだね?」

「残念ながらね」



出来れば認めて欲しくなかったんだけど、そうはいかなかった。いやはや、やっぱりこうなるか。

クロノさんじゃないけど、こんなはずじゃなかった事ばっかりだよ。



「でも、蒼凪君」



唯世の視線が僕に向く。どうやら、ちょっと怒ってるらしい。視線で分かった。



「学校内にスパイがいるかどうか調べた事、どうして黙ってたのかな」

「なら逆に聞く。唯世は話したら、どうしてた?」

「止めてたよ。同じ学校の仲間を疑うなんて、僕はしたくない」





そうだね、あむと同じくだ。あむも、理由を聞くまでは最初は怒ってたし。

なお、あむにはバレても知らなかった事にしておくようにと、言ってある。

僕は別に問題ないのよ。こういうのは、慣れてるから。



ただ、あむは・・・・・・普通に唯世の好感度が下がるのは、辛いでしょ。



まぁ、僕を見て泣きそうな顔をしているので、同じことかも知れないけど。





「それが理由だよ」



ここで止められてゴタゴタ・・・・・・なんてごめんだったし。



「あと、もう一つ」



紅茶のカップを取り、一口。・・・・・・ちょっと冷めてるけど、美味さは変わらない。

だけど、感覚的にそれが半減しているように感じるのは、なんでなんだろう。



「何にもなければ、そのまま胸に仕舞っておきたかった。
僕だって、身内を疑うのはやっぱり気分がよくない」

「なら、そのまま何もしないと言う選択肢はなかったのかな」

「なかったね。また二階堂みたいに入り込まれてる可能性、0じゃなかったんだもん。
なにより、そういうシチュはやんなるくらいに見てる。だから、どうしても不安でさ」

「でもだからって」

「それで実際に僕は殺されかけたことがある」



唯世の言葉を遮るように、少し強めにそう言った。

それにより、唯世の言葉が止まった。だけど、僕は止まらない。



「まぁ、返り討ちにしてやったけどね。あと、それだけじゃない。
大事な・・・・・・本当に大事な友達がそのせいで身も心も壊されかけたことがある」

「え?」

「僕の知り合い、結構特殊な事情持ちが多くてね。その関係。それだって一度や二度じゃない」



ギンガさんやイギリスでの一件、あとはJS事件だね。あれもなんだかんだで、今回とシチュは似てるから。



「僕はみんなとは違う。そういう状況も、そういうことをやる人間も、やんなるくらいに知ってる。
・・・・・・そんな状況で戦う事も多い人間として、ここはちゃんとしておきたかったんだよ」

「・・・・・・蒼凪君、一つ聞かせてもらっていい? それは、そういう人間を見つけるために?」

「違う。・・・・・・僕の心配がバカなことだって証明されたら、いいなと。
僕は、ぶっちゃけ間違ってていいのよ。正しくなくても・・・・・・いい」



まぁ、ここはいつも思う事かな。僕の心配とか、杞憂とかが、ただの思い過ごしであった欲しいなと。

残念ながら、それが成立したことは本当に少ないけど。うん、事件は普通に起こるのよ。



「・・・・・・わかった」

「唯世くん、あの」

「日奈森さん、大丈夫だから。僕は、今ので納得した」



そうしてくれると、本当に助かる。正直、これ以上言い訳がましいこと、言いたくないし。



「あと、みんなも納得して。三条君はさっき言った通りの状態だもの。なにより、僕は前に日奈森さんに言った事があるんだ。
蒼凪君やフェイトさんはこういう状況に立った数が僕達よりもずっと多いから、こういう時は指示に従おうって。みんな、それでいいかな?」



そう唯世に言われて、あむが頷いた。ややとりまも・・・・・・同じくかな。



「ただ蒼凪君、もし今度こういうことをやるときは、必ず僕にだけは話を通して。
お願いだから、全部自分だけでなんとかしようとしないで。背負おうとしないで」

「それは王様としての命令?」

「そうだよ。でも、それだけじゃない。仲間としてもお願いしている。・・・・・・どうかな」

「・・・・・・わかった。つーか、黙ってて悪かった」



唯世は首を横に振って、『大丈夫だから』と言ってくれた。

とりあえず、少しだけ気分が軽くなった。・・・・・・とにもかくにも、あとは当面の問題かな。



「色々進展はしましたけど、それでもリイン達のやることは、変わりありません」

「さっき話した通り、歌唄ちゃんが行動を起こした所を押さえる・・・・・・だよね」

「でも、ジャック・・・・・・三条海里が敵のスパイとなると、少々厄介だと思うんだけど。
計画の邪魔をしようとする私達の事を、そのまま見ているとは思えないわ」

「あ、そうだよね。りまたんの言うように、もしかしたらそこでいいんちょと戦うことになるかも知れないよ。やや、そんなの・・・・・・嫌だよ」



ややが、泣きそうになってる。僕はちょうどややの左隣なので、右手で思いっ切り頭を撫でてあげる。



「あー、それなら問題無い。ややにみんなはやる必要ないから」

「え?」

「海里の相手は僕がする。皆は歌唄に集中して」



そう言うと、みんなが驚いたような顔になった。僕が撫でている、ややも同じく。



「・・・・・・蒼凪君、どういうことかな」

「海里を連れ戻す」



僕がそう言うと、全員が目を更に見開く。そして、当然のように疑問の視線を僕にぶつける。



「蒼凪君、僕達にも分かるように説明して。
三条君は、スパイなんだよね? それをどうして連れ戻すのかな」

≪海里さんは、おねだりCDの製造方法と効果までは、知らなかったようです≫

「えぇっ!?」

「そして、それをひどく後悔している様子でした。
もしも三条さんが本当にイースターの仲間と言うなら、アレはありえません」

「つまり、三条君は・・・・・・本当の意味で、イースターの仲間になっているわけじゃない?」



そう、唯世の言う通りだ。いったい何の皮肉か、こうなってきて初めて・・・・・・出てくる可能性があるのだ。



「海里、あれで結構お人よしなところがあるでしょ?」



みんなが力強く頷くのは、きっと海里が僕達の仲間だった証拠。

例えスパイだったとしても、海里の居場所とこれまで過ごしてきた時間は、みんなの中にある。



「もしかしたらスパイの件はともかく、おねだりCDに関しては単純に、姉に利用されていただけなのかも」

「ようするに、完全にイースター側に居るわけではないということだな。私も、その可能性は高いと思う」

「・・・・・・あ、そうだよね。もし本当に手先になってこんなことしたなら、いいんちょが後悔した様子なんて見せるはずないし」

「確かに、改めて考えるとおねだりCDの話をしてる時のジャックの様子、おかしかったわ。
本気のスパイだったら、アレはないわよ。なんでそれでイチイチ顔を青くする必要があるの?」



・・・・・・まぁ、そんなのは二の次だけどね。ただ、海里とちょっと話をしたいだけだし。



「・・・・・・唯世、みんな、わがまま続きで悪いけど、海里が出てきても絶対に手出ししないで。僕、ちょっと海里と話があるから」

「だめだよ。いくらなんでも、これ以上君の勝手を認めるわけには」

「海里とどうしてもサシでやりあって、伝えなきゃいけないことがあるんだ。邪魔をされても困る」





今、海里が後悔しているとしたら、それは間違いなくおねだりCDの事だ。

間接的にでも、×たま・・・・・・こころのたまごをあんな状態にした原因を作った。きっと、そこに苛まれている。

あれも僕の知り合い連中と同じで、また言い訳したりは出来ないタイプらしい。



ようするに、忘れることも、下ろすことも出来ないただのバカ。今まで見ててそう感じたよ。





「それは、なにかな。三条君に話す前に僕達に」

「それは無理。肉体言語だもの。それが無理だって言うなら・・・・・・ガーディアンをやめる」



僕の言葉に、全員の目が見開き、表情が驚きに染まる。



「やめて勝手をやらせてもらう」



・・・・・・まぁ、そうだよね。いきなりだもの



「蒼凪君っ!? ねぇ、ちょっと待ってよっ! どうしてそんな話になるのかなっ!!」

「これに王様としてとか仲間としてとか、そういうので手出しされても困るんだ。
・・・・・・海里のこと、僕が追い詰めたも同然だからさ。そのケジメはキチンとつけたいの」

「お願いだから落ち着いてっ!?」

「残念ながら、僕は落ち着いてるよ? もうすっごい冷静」

「冷静じゃないよっ! なにより、三条君が本当にイースターの手先になっていないのなら」



唯世が、必死に僕の方を見る。でも、揺らげない。僕はもう、決めたから。



「こう、なにか従わざるを得なかった理由があるとしたら、僕達もそこは手伝うよっ! また一人で何とかしようとしないでっ!!」

≪だめです。これは、この人だから出来ることなんです。・・・・・・納得して、いただけませんか?≫



アルトをセットアップさせ、鞘口の部分を右手で持つ。伝わるのは、相棒の重み。



≪言葉は想いに変えて、刃に・・・自らの斬撃に乗せて伝えます。
誰でもない、今迷いに迷いまくっているあの人に対してです≫



きっと、同じだから。僕と海里は、同じ。今の海里の気持ちが、少しだけ分かる。

だから手を伸ばしたい。このままになんて、絶対にしておけない。



≪きっと、それは言葉にすれば陳腐なものです。
今のあの人・・・・・・いいえ、あなた方にすらに伝わることは、まずないでしょう≫

「言葉ってめんどくさくてさ、場合によっては上手く伝わらないのよ」



そこは、マジに思う。だからこそ、あの横馬が『お話』信仰に囚われてるわけだし。



「あのL5間近な感じの海里相手に普通の言葉は無理っぽいんだ。
だから、これで伝える。コレなら、きっと海里にも伝わるはずだから」

≪いいえ、伝えます。・・・・・・そうですよね?≫

「もちろん」



斬ろうと思って斬れないものなんて、どこにもない。だから、斬る。今海里が抱えている後悔と迷いを。

・・・・・・責任はしっかり取らなきゃ、ダメっしょ。



「・・・・・・まぁ、カッコつけるのはここまでにしておきましょうか。
あのね、みんなにはほしな歌唄をフルボッコにして欲しいのよ」

「お兄様が三条さんを一人で相手取るというのは、実はそっちの理由の方が大きいんです」

「恭文、どういうことよ。お願いだから、ちゃんと私達に説明して」

「分かってる。いい? つまり・・・・・・」



で、ここはしっかりと説明した。で、みんな納得してくれた。



「アンタ、それならそうと最初から話しなさいよ。あたし達みんな、驚いたじゃない」

「いやぁ、なんかカッコよく決めたくて」

「決める必要ないから。普通にしてくれれば、いいんだから。
でも、納得した。一人で突っ込んで無茶するってだけじゃ、なかったんだ」





あむ、当然でしょ。普通にもう僕一人でどうこうってレベルは、超えてる。

歌唄と話したくはあるけど、みんなで海里の相手がどこまで出来るって話もある。

ぶっちゃけ、海里は強いよ? あと、みんなは説得とか言って時間かかりそうだし。



だったら、ここは適材適所。普通に最悪の事態を想定した方がいいでしょ。





「で、シチュはコレ以外にも想定して、決めていくから」

「でも蒼凪君、それ・・・・・・僕達に出来るのかな」

「やらなきゃいけないの。いい、唯世。僕の知っている人は、こう言っている」



シグナムさんだね。そう言えば、最近手合わせしてないなぁ。フェイトも僕も忙しいからなぁ。



「『戦場に置いて、一騎当千のエースなど、存在しない』・・・・・・と。
ようするに、アニメとかゲームみたいな単騎無双が通用するほど、戦いは甘くないってこと」

≪単純に数が多く、個の能力がしっかりしていれば、戦いは有利になる。
決して戦場に置いて、自身を特別な存在と思うなという、戒めの言葉ですね≫



それは僕もそうだし、向こうも同じ。単純に、数が多くて総合的な能力が高ければ有利なの。



「だから、恭文がいいんちょの相手をして引きつける? 歌唄ちゃんだけなら、数ではやや達が有利だから」

「そうだよ。やや、何気に勘がいいじゃないのさ」

「でしょでしょ? ややだって、やる時はやるんだからー」



とりあえず、他の面々も見る。全員、納得してくれたようで嬉しい。



「・・・・・・つーわけだから、みんなお願いね。
歌唄が向こうのキングだ。その歌唄を止めれば、こっちは勝てる」

「・・・・・・分かった。なら、その辺りもまた後で話そうよ。やっぱり、僕達は経験がないしさ。こういう時は蒼凪君を頼らせて欲しいんだ」

「お前はあらゆる意味で、僕達ガーディアンにとって戦闘面での最強のカードだ。
それは今までの事で立証されている。だから、お前の判断は信じよう。ただし、条件がある」



キセキが、僕を見ながらそう言って来た。だから僕は・・・・・・とりあえずその条件を聞く事にした。



「何?」

「頼む。決して一人で何とかしようとしないでくれ。お前の後押しと露払いくらいは僕達でもやれる」



それは、意外な言葉だった。王様キャラだし、いつも通りな発言かと思ったら、かなり真剣で鋭い言葉だったから。



「お前が海里に何を伝えたいかは知らないが、それが大事な事なら・・・・・・ちゃんと伝えられるように、何も言わずに僕達を頼れ」

「恭文、それはクスクスもペペちゃんも、他のみんなも同じだよ?」



そして、クスクスが僕の前に飛んでくる。飛んできて・・・・・・なぜかガッツポーズ。



「恭文にとっては、すっごくすっごく大事な事なんだよね? 海里に何があっても、絶対にちゃんと伝えたいことなんだよね?
だったら、クスクス達を頼って? 絶対に誰にも恭文の邪魔、させないから。クスクス達みんなで、力になるから」

「・・・・・・いいの? 僕、みんなに嘘ついてたのに」

「今更何言っている。・・・・・・僕も唯世も、庶民達もとうにお前を信じると決めた。
だからお前は、何も言わずに僕達に信じられてろ。そして、勝手に自分を通せ」



僕は、みんなを見る。みんな・・・・・・ただ頷いてくれた。信じるから、頼れと。

だから僕は苦笑して、静かに頷いた。もう、あんまり言うのもきっと空気を読めてないから。



「んじゃ、思いっ切り頼らせてもらうわ。そして、勝手にやらせてもらう」

「うむ、それでいい。・・・・・・頼むぞ」

「うん」










・・・・・・やっぱり海里を早めに止めたい。今の海里は相当危うい。





もしかしたら、歌唄以上に。早く止めないと、本当にまずい事になる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・アリサから事情は聞いた。ショックだったのも、分かる。ただ、やっぱり話しては欲しかった」

「で、家に帰ったら帰ったでこれですよ。・・・・・・あぁ、なんか辛い。自業自得だけど、辛い」

「ヤスフミ、考えてることが口に出てる」

「嘘っ!!」





・・・・・・夜、ちょっとしたお話し合い。だけど、普通に辛い。

ちゃんとしなきゃいけないのは、分かる。でも、ヤスフミに申し訳ない。

やっぱり、こういう所はあんまり直ってないね。自分の風評を犠牲にするところ。



一人で突っ込むのにも色々理由がありはするんだろうけど、それでもだよ。





「アンタ、マジでなにしてんのっ!? これが仕事だってこと、忘れてるでしょっ!!」

「あいにく、仕事のつもりなんてない。・・・・・・言わなかった?」

「えぇそうね、聞いてるわよ。・・・・・・聞いてるし、知ってる。それで、私は納得した。
でも、お願い。本当にお願いだから、もうちょっとだけ」

「悪いけどそのつもりないわ」



ティアの表情が、驚き・・・・・・ううん、落胆に染まる。それで、揺れている瞳でヤスフミを見る。



「僕は仕事のつもりも、みんなとはチームのつもりなんてない。・・・・・・今の僕は、聖夜小6年星組の文庫整理係。
ガーディアン・ジョーカーVの蒼凪恭文だ。だから今仕事って言うなら、それはガーディアンに関してだけ」

「・・・・・・アンタ」

「そういう事だから。・・・・・・ごめん。みんなの事は、遠慮なく振り切るわ」



そのままヤスフミはテーブルから立ち上がって、部屋に戻った。ティアは・・・・・・頭を掻きむしってる。



「・・・・・・フェイトさん、いいんですか?」



シャーリーが、困ったように聞いてくる。・・・・・・まぁ、自分で調べた事なんだよね。

ちくいち報告を義務付けたわけじゃないし、ハッキリ言えば言う権利は、ない。



「うん、いいよ。それに仕事をしてるしてないで言えば、ヤスフミは仕事をしてるよ?」

「え?」

「ガーディアンのみんなに協力するようにお願いしたのは、私達だもの。・・・・・・ヤスフミは、ちゃんと仕事をしてる。
ガーディアンの中に入るという仕事をね。簡単に手の平を返して私達の側に立つのは、ある意味ではその仕事を通してない事になるんだよ」

「・・・・・・なるほど。ガーディアンと管理局・・・・・・というか、私達のチームは別物ですしね。
ここでなぎ君が私達のチームの一員じゃないと言うのは、考えようによっては正しいことになる」



シャーリーにはそう返したけど、ヤスフミ・・・・・・ショックだよね。海里君とすごく仲良さげだったから。

なんだか、見ていて微笑ましかったから。あぁもう、どうしてこんな事ばかり起こるの?



「でも、それでも納得は出来ませんよ。・・・・・・最近のなぎ君、見ていて正直怖いです。
ほしな歌唄の事にも、三条海里君の事にも、あまりに入れ込み過ぎていて、冷静じゃないです」

「多分、そこは大丈夫。理由としては今言った通りだもの。
それにヤスフミも言ってたでしょ? 自分はガーディアンのジョーカーVだって」





ガーディアンのみんなと協力して対処していくことは、決めてるみたいだから。

私達はともかく、あむや唯世君達が何気にブレーキ役にはなってるみたい。

やっぱり、みんなには感謝だな。ヤスフミの居場所、ちゃんと作ってくれているから。



ヤスフミもみんなのことが好きだし、ガーディアンに居たいみたい。だから、なんだかんだで楽しそう。

きっと、ガーディアンの中では魔法使いとして飛び込みたいというヤスフミの願いが叶ってるからだ。

ガーディアンのみんな、×たまを助けるためにいつも一生懸命だから。・・・・・・そうなんだよね。



局と言う組織では叶わない事が、私達が出来ない事は、あの子達は出来ているんだ。

ただ純粋に、真っ直ぐに飛び込む気持ち。私達が、どこかに置いてきてしまった気持ち。

ヤスフミの力になってくれて嬉しいし、ありがたくはある。でも、やっぱり悔しくもある。



・・・・・・局ってやっぱり、不自由な事も多いな。なんというか、改めて感じたよ。





「あのバカ・・・・・・どうしてあぁなのよ」



ティアは、頭を抱えてる。あれから少し微妙だけど、普通には話せてる。

訂正、話せていた。でも・・・・・・また亀裂が大きくなった。



「分かってる。分かってるのよ。仕方のない事だって、分かってる。
だけど・・・・・・頼ってくれない方が、私はずっと嫌なのに」










・・・・・・ティアに何も言えなかった。振り切るヤスフミの気持ちは、私達はもう分かってるから。

ヤスフミ、私やティアの事傷つけると思ってる。頼って、彼女の事に巻き込む方がずっと。

なんか、やり切れないよ。私達のどちらも間違ってはないはず。正しいかどうかは別としてだよ?





なのにどうして私達、こんなに行き違うんだろ。





・・・・・・もしかして私、無自覚にまた何かやらかしてるのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・昨日は、非常に散々な日だった。ガーディアンになって史上最大と言ってもいい。

まず一つ、CDにされたたまごの浄化が不可能だったこと。CDとたまごは、完全に別物らしい。

そしてもう一つ、いいんちょが・・・・・・イースターのスパイだったこと。





それで、恭文の事。作戦の事を含めても、普通にいいんちょの事もなんとかする気らしい。










「・・・・・・なんで、こんなことばっか起きるのよ。アイツが運悪いのは聞いてたけど、正直これはないって」

「あむちゃん、そんな言い方あんまりですぅ。恭文さんの運の悪さのせいじゃないですよぉ?」

「あー、ごめん。そういう意味じゃないの。・・・・・・だってさ、歌唄の事で相当だったんだよ?」



フェイトさんとの空気も良くなった感じだけど、それでもだよ。てゆうか、ティアナさんとはまた微妙とか。

昨日戻ってからも、この関係で相当やり合ったってヒカリが言ってた。・・・・・・やっぱりか。



「その上、いいんちょのことまでなんて」

「あ、そういう意味なんですねぇ」



学校から帰ってきて、ベッドに顔を埋めながら、あたしは大きくため息を吐く。ねぇ、なにこれ?

アイツ、普通に心労が積み重なりまくってるわけでしょ? 正直、心配にもなるって。



「でも、あむちゃん」

「ラン、なに?」

「どうして恭文は海里君の事、自分でなんとかする。
・・・・・・ううん。自分なら何とか出来るって言えたんだろ」





そこは、みんなが疑問に思ってる所。いいんちょは、普通におねだりCDを配っていた事を後悔しているらしい。

恭文とアルトアイゼンはそれを、おねだりCDの効果や目的を聞かされてなかったからだと、読んでいる。

つまり、いいんちょは完全にイースター側の人間ってわけじゃないみたい。だけど、説得は無理。それで・・・・・・あぁ、そうだ。



恭文が、少し悲しそうな顔で言ってた。いいんちょは、奪って壊した事実に押し潰されそうになっている。

どんな形でも、知らなかったとしても、今回のことに手を貸していたのは事実。それを気に病まないワケがない。

だから後悔している。だから、自分の未来の可能性や、なりたい自分を諦めることも考えられる・・・・・・って。





「私ね、聞いててまるで自分のことのように言ってたから、すごく気になったんだ。
多分、他のみんなも同じ。あむちゃんだって同じだから、何も言えなくなったんでしょ?」

「・・・・・・まぁね」



恭文の言葉には、何か実感があった。だけどそれが何か分からなくて、みんな首をかしげてる。

うーん、どういうことなんだと。・・・・・・だめだ、よく分からないや。



「よし、恭文に聞いてみよう。じゃないと、さっぱりだって」

「そうだね。・・・・・・というか、いい機会だよね」

「確かにね」



ちょうど今日、恭文の友達で兄弟子のサリエルさんがこっちに来る。

恭文が教えてくれた。なんでも、ミキとのキャラなりの体力問題の解決手段を持って来たとか。



「でも、これで解決するといいですよねぇ。恭文さん、シオンやヒカリとのキャラなりは辛そうですから」

「そ、そうだね。思いっ切り女装だもんね」

「アンタ達、そこはあたしも同感だけど、あんま言っちゃだめだよ? アイツ、マジで気にしてるみたいだし」

「分かってますよぉ」










とにかく、あたしは着替えてすぐに外に出た。・・・・・・疑問を、恭文にぶつけるために。





あと、あの体力問題がどんな風に解決されるのか、色々と考えながら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、現在。サリエルさんと恭文と一緒に、買い物中。





いや、仕方がないのよ。なんか、サリエルさんが夕飯作ってくれるらしくてさ。





あたしも、一応それに付き添い? まぁ、少し話したかったし。










「・・・・・・やっさん、フェイトちゃんから聞いたが、相当面倒な状況になってるらしいじゃないか。
てーか、お前マジでどうした? いくらなんでも今回は暴走し過ぎだろ」



サリエルさんが、スーパーのお肉を吟味しながらそう聞いてきた。

それに対して恭文は、右手だけ上げてポーズ。



「大丈夫。普通に新学期始まってから、ずっとこれですから。
学級崩壊するし、ガーディアンの輪はごちゃごちゃだったし」



それを聞いて、サリエルさんが頬を引き攣らせる。・・・・・・あー、そう言えばありましたねぇ。



「とりあえずアレですよ。この一件が片付いたら、みんなとはもうちょい話しますよ。
今は、フェイト達にかまってらんないんです。その瞬間に僕は最低野郎ですし、死亡フラグ乱立ですし」

「そ、そうか。いや悪かった。てゆうか、知ってた。俺それ知ってたわ」



やばい、サリエルさんが圧されてる。てゆうか、恭文何気にイライラ溜まってる?

声になんか怒気が篭ってたし、人に有無を言わせないようにしてる。



「・・・・・・あむちゃん、そうとう大変だったのか?」

「えっと・・・・・・はい」





あたしのたまごの事を抜かしてくれてるのは、多分恭文の優しさ。

うん、そういうの分かるようになってきた。恭文は、きっとすごく優しい。

普通にこういう時、守ってくれようとする。あたしの事、しっかりとリードもする。



それが心地いいなとか、ちょっと思ったり。うん、心地いいんだよね。恭文と居るとなんだか落ち着く。

年上だからって言うのもあるかも知れないんだろうけど、それでも。

生まれたとことか、家庭環境とか、過ごしてきた時間とか全然違うのに・・・・・・仲良くやれてる。



・・・・・・あー、そうだね。あたし、恭文と居るの好きなのかも。

話すのもそうだし、どっか一緒に行くのも楽しい。そうだ、なんだかんだで結構一緒だ。

朝の登校も大体一緒だし、帰りは家までよく送ってくれるし。あれ? なんか唯世くんより一緒かも。



でも、いいかな。なんか・・・・・・唯世くんはマジ見込みない感じだから。

アミュレットハートが本当に好きみたい。あたしじゃなくて、アミュレットハートを。

なんかさ、こう・・・・・・疲れちゃった。だから・・・・・・あれ?



あたし、何言おうとしてた? だから・・・・・・なんだろ。





「お前、厄年まだだよな? やばいぞ。厄年来たら、またとんでもないことになるかも」

「言わないでください。うぅ、どっかに運が本当に良くなるお守りとかって、ないかなぁ。あむ、知らない?」

「ごめん、知ってたら真っ先に教えてる。てゆうか、普通にあたしが使ってる」

「「ですよねー」」










・・・・・・やっぱり、兄弟子ってやつなのかなと、少し思った。

なんかこう、二人の呼吸の合い方が友達というのとは、また違うから。

なお、結局このタイミングでは恭文から話は聞けなかった。理由は簡単。





スーパーから出た直後に、家出してきたりまと鉢合わせして、非常にゴタゴタしたから。





結局それが片付いて、あのとんでもないジュースを飲んだりして、ようやく話を・・・・・・聞く時間があった。




















(その7へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、折り返し地点に入ったあむルートです。みなさん、こんばんみ。蒼凪恭文です」

ウェンディ「ウェンディっスー」

やや「結木ややでーす」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンです。・・・・・・さて、一つツッコみたい所があります≫

ウェンディ「何っスか?」

恭文「やかましいわボケがっ! なんでおのれが普通に居るっ!? そこ、ちょっとおかしいからっ!!」





(そう、ここにはポジティブガンナーが居る。何故か居る)





ウェンディ「あ、私もそこのややちゃん見習って、レギュラーになりに来たっス」

恭文「はぁっ!?」

ウェンディ「私だって、IFヒロイン出来るっスよっ!? ティアナやフェイトお嬢様みたいに、恭文のを胸でしたり出来るんっスからっ!!」

恭文「小学生の前でシモネタ言ってんじゃないよっ! そして、そこヒロインの条件じゃないからっ!!」

ウェンディ「とにかく、次のIFは私になるためにしばらくここにお世話になるっスから」

やや「わー、ウェンディさんよろしくー。一緒に頑張りましょうね?」

ウェンディ「よろしくっスー」

古鉄≪勝手に歓迎しないでもらえますか? 私達は納得してないんですけど≫

恭文「そうだよっ! てーか、普通にナカジマ家帰れっ!! なんでおのれまでこっち来ちゃうっ!? 普通に来なくていいのよっ!!」





(そう言うと、ポジティブガンナー・・・・・・蒼い古き鉄に思いっ切り迫る)





ウェンディ「恭文、私・・・・・・魅力ないっスか?」

恭文「そういう問題じゃないからっ!!」

ウェンディ「そういう問題っス。拍手の返事100で言った事、嘘だったんっスか?
私をとまとの正式なヒロインの一人として認めると約束を」

恭文「してないよねっ!? 一体何言ってるのさっ!!」

古鉄≪あ、私達邪魔みたいなんで、ちょっと出てますね≫

やや「うんうん。あ、ウェンディさんまた後でお話しましょうねー」

ウェンディ「了解っスー」

恭文「いや、あの・・・・・・ちょっとっ!? 行動が色々おかしいからっ!!」





(とにかく、二人は退場。そして蒼い古き鉄とポジティブガンナーの二人っきりになった)





ウェンディ「真面目に聞いてるっス。私、魅力ないっスか? ディードやセインと違って、ダメっスか?」

恭文「いや、あの・・・・・・そんな事、無いから」

ウェンディ「だったら、お願いだから頭ごなしな否定はやめて欲しいっス。私、何気に傷つくっスよ?
あ、ちなみに私は大丈夫っス。恭文と居るのは面白いし、楽しいっスから」

恭文「そういう問題っ!?」

ウェンディ「そういう問題っスよ。そういうわけっスから、よろしくっス」

恭文「よ、よろしく・・・・・・あれ、なんか僕騙されてるような」

ウェンディ「気のせいっスよ。さぁ、早速二人でIFルートについて構想するっスよー」

恭文「いや、気が早すぎるからっ! 普通にそれ、気が早いよっ!? お願いだから落ち着いてー!!」










(当然のように、ポジティブガンナーが落ち着くわけがない。この後強制的に会議に突入。
本日のED:AAA『Crush』)




















あむ「・・・・・・あたし、IFウェンディルート考えた方がいい?」

恭文「ごめん、考えなくていい。もう全然考えなくていいから」

あむ「そっか。でも・・・・・・なんで? いや、真面目にウェンディさんはフラグ立ってないし」

恭文「アレだよ、IFルートって暗くなりがちだから、ウェンディみたいに引っ張ってくタイプだといけるとか考えたんじゃないの?」

あむ「あー、それならまぁ分かる。で、折り返し地点でようやくだよね。
何かこう、布石みたいなものが出されたよ」

恭文「あれだね。普通に唯世の『アミュレットハート』で・・・・・・と」

あむ「うん。さぁ、ここからあたしIFの始まりだー。みんな、今までのはプロローグだよ?」

恭文「うわ、勝手に公式設定作ってるし。・・・・・・てゆうか、そこまで僕とIFルートしたかったの?」

あむ「ち、違うよっ! ただ、やるんなら徹底的にって事っ!! 何勘違いしてるっ!? マジでバカじゃんっ!!」

恭文「そっか。あむ・・・・・・そうだったんだ。いや、まさかそうだとは知らなかったよ」

あむ「マジ違うからっ! 勘違いしないでよっ!!」










(おしまい)





[*前へ][次へ#]

29/37ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!