小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第17話 『病は気から。そして、極意は基本の中にあり』(加筆修正版)
恭文「前回のあらすじ。ネタ振りってすっげー難しいと改めて感じた回でした」
エリオ「違うよねっ!? みんなでお風呂入った話だよねっ!?」
恭文「そうだね。丸々1話お風呂話だったもの。最後の最後で駄犬がKYだったけど」
エリオ「いや、アレは恭文が悪いんじゃ」
恭文「あいにく、僕の辞書に自分が悪いという文字はない」
エリオ「何っ!? そのツッコみ辛い開き直りっ!!」
恭文「というわけで、今回はお休み最終回。さぁ、派手に行くよー」
エリオ「ど、どうぞ」
恭文「あ、その前に対価を払わないと」
エリオ「え?」
(蒼い古き鉄、おもむろにコンポを取り出して・・・・・・再生)
エリオ「え、何これ?」
恭文「え、覚醒ヒロイズムだけど。DARKER THAN BLACK・黒の契約者の二期OPだよ」
エリオ「何それっ!?」
恭文「れー♪ てー♪ るー♪ えー♪」
エリオ「いきなりなにっ!?」
恭文「いや、これがこの改訂版のテーマソングだから、対価を払わないといけないんだよ」
(詳しくは、対価コメとニコニコ大百科で検索してください)
恭文「さ、みんなも一緒に。・・・・・・げー♪ いー♪ かー♪ るー♪ てー♪ いー♪」
エリオ「いやいや、これずっと続けるのっ!?」
恭文「りー♪ るー♪ れー♪ てー♪ るー♪ えー♪ いー♪ るー♪」
エリオ「お願いだからやめてー! というか、真面目に僕は意味が分からないのー!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・早朝の道場というのは、とっても寒い。そして、冷たい。だから、辺りの空気が張り詰めている。
それでも、心はワクワクとドキドキで一杯。だって、目の前にはとっても強い女の人が居るから。
白い半袖のシャツに黒いジャージを着たその女性は、美由希さん。なお、メガネは今回は無し。
だって僕達・・・・・・木刀持って朝稽古の途中なんだから。
美由希さんは、両手に木刀。なお、両方共小太刀サイズ。
美由希さんや士郎さん、あと恭也さんが使う実戦剣術の基本装備。
ちなみにその名前は『御神流』。小太刀の二刀流を基本とする流派。
そこに鋼糸や飛針(投擲暗器の一種)を活用して戦う、実戦剣術なのだ。
で、美由希さんはその中でもスピードと突きに優れるタイプ。
多分、本気だったらフェイトより速い。色々な裏技を使った上でね。
細かい説明をすると、それだけで1話の半分使っちゃうので、こんな感じで締める事にする。
で、僕はアルトと同サイズの木刀。何気に以前使っていたのを、取っておいてもらった。
距離は大体10メートル程度。ぶっちゃけ、どっちも射程内に入ってる。
一応、暗器の使用もありのルール。・・・・・・うん、僕も御神流使えるの。
弟子にしてもらったとかじゃなくて、稽古の中で技を盗ませてもらった。
とにかく・・・・・・魔法無しだとスピードでは、僕は美由希さんには絶対に勝てない。
『裏技』を使われたら、移動スピードを感知するのがやっと。こっちからは迂闊に攻められない。
なら、どうすればいい? そんなの決まってる。基本は防御と回避、それにカウンター重視。
何時も僕が格上相手にやる時の常套手段。僕なんて、一撃食らったら簡単に墜とされる。
だから、集中する。心を研ぎ澄まし、周辺の動きに気を配る。相手の一挙手一投足を感じ取る。
考えてから動いてたんじゃ、遅い。培った経験と感覚を全開にする。
いいなぁ、このギリギリな綱渡り感。ちょこっとだけ久々だから、楽しくなってくる。
六課だと、シグナムさんとの斬り合いくらいしかこういうの無かった。
スバルやティアナ? さぁ、僕には何の事やらさっぱり。とにかく、美由希さんだよ。
そして、美由希さんが踏み込んできた。踏み込みながら、右手の小太刀を逆手に持って打ち込んでくる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
僕は左に下がってそれを回避。・・・・・・いや、し切れない。だから、木刀を盾にして斬撃を防ぐ。
木と木が音を立てながら擦れて、僕達は交差する。でも、すぐに美由希さんは踵を返して僕に突撃する。
僕より身体が大きいのに、小回りと俊敏さは向こうが上。正直、ここは自分の不甲斐なさを痛感する。
右と左に持った木刀による斬撃を、下がりながらも払い続ける。基本は防御と回避優先。
勝負は・・・・・・一撃だ。とは言え、簡単じゃない。そこは美由希さんも分かってるもの。
下がりながら、どんどんと追い詰められて、壁が間近に迫る。迫って・・・・・・背中に当たった。
瞬間、美由希さんの二刀が閃く。左の突きが僕に向かって襲い来る。僕は、それを右に動いて回避。
木刀の切っ先は、壁スレスレで止まった。そこから身を捻って、僕に向かって薙ぎ払いが来る。
それに向かって避けながらも木刀を打ち込む。打ち込んで、すぐに大きく右に跳ぶ。
僕の動きが止まった所を狙って、美由希さんの右の刃が突き出されてたから。それをスレスレで避ける。
美由希さんと3メートルほど距離を取って、互いにほんの少しだけ止まる。とまるけど、すぐに動き出す。
先に動き出したのは、美由希さん。美由希さんは僕に向かって、また踏み込んでくる。
かく言う僕も、美由希さんに向かって飛び込んでいた。
そこを狙って顔に突き出された右の突きを、頭を捻って避ける。
避けつつ、しゃがんで胴に右薙に打ち込むと、美由希さんはそれを左の小太刀で防ぐ。
小太刀を逆手に持って、それを盾のようにして防いだ。その感触を確かめる前に、僕は頭を下げる。
美由希さんの右の刃での薙ぎ払いが来たから。それを、スレスレで避ける。
避けつつも踏み込んで、刃を引く。ただし、少しだけ。切っ先の方向を変えて、狙うは美由希さんの腹。
そこから一気に踏み込み、美由希さんの腹に向かって身体ごと剣を突き立てる。
それを美由希さんは、身体を左に捻って回避。回避しつつ、僕の右サイドを取る。
取って、唐竹に右の刃を叩き込んでくる。僕は身体を捻って、それを木刀で防ぐ。
防ぎつつ、大きく後ろに跳ぶ。美由希さんの左の刃が、即で打ち込まれてたから。
刃は右から、がら空きな腹を薙ぐように振るわれる。それが、服を僅かに掠める。
だけど、致命傷じゃない。そのまま数度跳んで、また元の距離になる。
・・・・・・いや、なる直前に僕達は同時に左手を動かしていた。そこから放たれるのは、鋼糸。
僕は美由希さんの攻撃直後の隙を。そして、美由希さんは回避直後の隙を狙った。
鋼糸の先には、しっかりと投擲して相手を拘束する事が出来るように、金属製の重しがついている。
そのついている投擲用のための重し二つがぶつかり合って、甲高い金属音を立てる。
互いに鋼糸を回収して・・・・・・とりあえず、第1ラウンドは終了。でも、まだ終わりじゃない。
「・・・・・・腕、鈍ってないね。ううん、更に良くなってる」
「そりゃまぁ、それなりに頑張ってますんで」
言いながらも、互いに時計回りに動いて睨み合う。美由希さんは二刀を順手に持ち、僕は正眼。
やばい、めちゃくちゃ楽しい。やっぱ、こうじゃなくちゃ楽しくない。
やるかやられるか。答えはそのどちらかしかない。シンプルだけど、それがすごくいい。
シンプルなのは、やっぱ分かりやすいよね。だから僕も美由希さんも、笑っている。
互いに、本気になれるとここで認識出来たから。
「なら、もうちょっと本気出そうか」
「そうですね。出しましょう」
瞬間、美由希さんの姿が消えた。一気に感覚が研ぎ澄まされて、自然と身体が動いてた。
方向は、7時。僕は身を捻って、突き出された脅威を木刀で防ぐ。
「ぐぅ・・・・・・・!!」
突き出されたのは、木刀。僕の背中に向かって放たれた突きを、僕は木刀を盾にして軌道を必死に逸らす。
逸らして見え・・・・・・ううん、感じたのは、美由希さんの存在。普通に一瞬で僕の背後取りやがったし。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
なんて叫びながらも、左手を動かす。叫んだのは、いわゆるハッタリ。
本命は、零距離での鋼糸による拘束。なお、僕の得意技の一つ。
左手を僅かに動かして、今確実に目の前に居る美由希さんを捉えるために、僕は鋼糸を振るう。
だけど、鋼糸じゃ美由希さんは捉えられない。普通に一気に距離取られたし。
それで、美由希さんは壁際に姿を表した。・・・・・・くそ、普通にチートだぞ。
あーもう、どうする? 普通に防いだりするくらいなら、なんとか出来る。でも、それだけ。
「美由希さん、それはチートじゃないですか?」
今美由希さんが使ったのは、神速。御神流の奥義とされる歩法。
脳内のリミッターを解除して、自身の時間感覚を引き伸ばすという技。
その主な効力は、超高速での行動。それがさっきのあれこれ。
時間感覚を引き伸ばすと、相手にとっての1秒が自分にとっては4秒にも10秒にもなる。
ようするに、普通の人が4秒かけて一回出来る事が、1秒足らずで出来るようになるのよ。
美由希さんはそれを発動して、一瞬で僕の背後に移動。そうして突きを繰り出したってわけ。
ヤバい、解説してみて改めて思った。これは厨二過ぎる。14歳の病気過ぎる。
「何言ってるの。神速のスピードを見切れてる恭文の方が、よっぽどチートだよ」
言いながら、また踏み込んできた。だって、姿が消えたもの。・・・・・・僕の周りで、風が吹き抜ける。
吹き抜けて、左から何かが跳んできた。跳んで刃を振るう。だから僕は、それをギリギリで受け止めた。
「・・・・・・ほらっ!!」
目の前に居たのは、左の刃を逆手で右切上に叩き込んできた美由希さん。
なお、僕は衝撃で後ろに吹き飛ばされた。そんな僕に向かって、鋼糸が放たれる。
僕は身を捻って、道場の床に転がるようにして鋼糸を避ける。鋼糸は僕の上を通り過ぎた。
そして、美由希さんの姿がまた消えた。すぐに体勢を整えて。右に跳ぶ。
・・・・・・美由希さんが、神速使って一気に突きを叩き込んできた。僕は、ギリギリでそれを回避。
「うーん、恭文の危険察知能力はやっぱり厄介だなぁ。神速でも見切られちゃうなんて」
何を言うか。見切るって言うか、感じ取るだけでこっちは精一杯だと言うのに。
僕は立ち上がりながら、美由希さんと距離を取る。美由希さんは、右の刃を引いてまた突きの体勢。
神速は、まさしく目にも写らぬ速さ。うん、止まらぬじゃないのよ。僕はただ、感じ取ってるだけ。
美由希さんの攻撃の気配とか、周りの気配とかで攻撃のタイミングを。本当にギリギリだよ。
さて、どうする? 神速には相手の速度を活かした交差法でのカウンターは通用しない。
なんか発動してる時、視覚にまで時間感覚の引き伸ばしの影響が出るらしいのよ。
相手の行動が、引き伸ばした時間の間隔の分だけ、ゆっくりに見えるとか。
ようするに、美由希さんからするとさっきの僕の動きとかも全部スローモーションで見えてたのよ。
だから、零距離での鋼糸の展開にも気づいた。そうじゃなかったら、しっかり縛れたはずなのに。
神速、やっぱチートだよ。素早い行動速度に相手の動きをしっかり見切れる目。
その両方が備わるんだから。もちろん、反動はあるそうだけどそれでも切り札だ。
つーか悔しい。あのスピードと同じ領域に行ければ・・・・・・いや、それが出来無くてもいい。
もっと感じるのが見切れるになれば・・・・・・とにかく、僕は木刀をしっかりと構える。
美由希さんも、右手を引いた。突きで一気にという事らしい。・・・・・・覚悟、決めろ。
加減して勝てる相手じゃない。ガチに本気でやらなきゃ、捉える事すら出来ない。
神速を使えば、銃撃だって軽く避けられるんだ。僕もそこは目撃してる。
ぶっちゃけさ、ソニックムーブみたいな高速移動の魔法より高性能だよ?
理由はさっき言ったように、早く移動するだけじゃなくて防御と回避にも有効だから。
それを、鍛錬による研磨で身につけるんだから・・・・・・恐ろしいわな。
そして思う。まだ足りないと。僕は・・・・・・きっと、もっと強くなれる。まだ、進めると。
「恭文、もう終わりじゃないよね?」
「・・・・・・当たり前でしょうが。ここからがクライマックスに決まってる」
「なら、良かった」
さて、考えは纏まった。やっぱり基本でなんとかするしかない。うん、それしか選択がなかった。
・・・・・・僕と美由希さんは、一気に前に踏み出した。踏み出して、刃を。
「待て待てっ! 二人ともそこまでだっ!!」
踏み出して、動きを止めた。止めて、僕達は同時に見る。
道場の上座で僕と美由希さんと同じ格好で立っている士郎さんを。
「・・・・・・士郎さん、止めないでもらえます? ここからが楽しくなる所だったのに」
「そうだよ。恭文、ちゃんと魔法に頼らない戦い方忘れてないんだし、これからだって」
「美由希、お前・・・・・・まさか恭文君だけで早朝訓練を終えるつもりか? あっちを見ろ」
そうして、士郎さんが左手で指差す方向を見る。道場の隅には三つの影がある。
フェイトとエリオと、キャロが正座で居た。あ、三人は僕と美由希さんの早朝訓練を見学に来たの。
「あ、あはは・・・・・・そうでした」
美由希さん、フェイトとエリオの相手もする予定だから、さすがにこれ以上は無理だと士郎さんは判断したらしい。
なお、キャロは除く。だって、武術関係さっぱりらしいから。それでも居るのは、後学のためですよ。
「あ、それなら二人には恭文にやってもらえば」
「何言っているんだ。フェイトちゃん達は、恭文君とは今はいつでも出来るだろ。だが、お前はそうじゃない」
「あははは、はい。いや、ごめんね。恭文と打ち合うの久々だったから、楽しくてさ」
言いながら、ニコニコと笑う美由希さんの笑顔に、士郎さんは苦笑する。
僕はまぁ・・・・・・美由希さんと同じ顔。だって楽しいし、美由希さんが笑ってるのはやっぱり楽しいし。
「というか恭文」
「エリオ、何?」
「いつもこんな感じなの? その、ワイヤー使ったり木刀でスレスレに攻撃したり。
というかあの、美由希さんの姿が全く見えなかったんだけど」
「いつもこんな感じだよ?」
エリオの言葉にそう答えると、エリオとその左隣に居たキャロが唖然とした。
フェイトは訓練の様子を知っていたので、ただただ苦笑いして自分に視線を移した二人に頷く。
「魔法無しでの戦闘も視野に入れてるしね。これくらいはやっておかないと」
「・・・・・・納得したよ。確かに相手になるわけがない。
僕、魔法無しだとこんなに激しくスレスレな打ち合い、したことないもの」
「え、そうなの? ・・・・・・フェイト」
「そうだよ。でもエリオ、あまり気にしなくてもいいんだよ?
ヤスフミや美由希さん達が少し特殊ではあるから」
ショックを受けたのか、呆然としているエリオにフェイトが少し困りつつフォロー。
その様子を見て、僕と美由希さんと士郎さんは苦笑い。まぁ、事実だしなぁ。
「だが、しっかりと鍛錬していたんだな。少し錆びているのではないかと思ったんだが」
「何を言いますか。日々これ精進。日々の暮らしの中にこそ、修行の極意はあるんです」
ようするに、何気に色々と基礎訓練はしっかりしてたって事だね。まー、暇を作るのが大変だったけどさ。
「と、去年やってた戦隊物の猫師匠が仰ってました」
「テレビ番組のセリフなのかっ!! ・・・・・・だが、納得した。というより、安心した」
「なら良かったです。まぁ、これでも頑張ってたんです。魔法に頼りっ切りになるの、嫌ですし。
せっかく盗ませてもらった技が錆び付くのも嫌ですし」
とは言え・・・・・・うーん、やっぱりマスター級には弱いよなぁ。もうちょっとパワーアップしたいのに。
右手に握った木刀を見つめて・・・・・・強く、握り締める。もっと強く、なりたい。
言い訳しない、カッコいい自分になりたいから。その一つの形がハードボイルド。
その一つが、先生みたいな古ぼけた鉄。うん、カッコいいから目指すの。
とても在り来たりな言い方だけど、カッコよくて憧れるから、僕もこうありたいと思う。
最近は、中々にダメダメな事が多かったしなぁ。うーん、足を止めてたかも。
でも、あとは何があるだろう。こう、何かがちょっと足りない気がする。
「とにかく、日々の精進も欠かしていないのなら、あとは基本的な事を忘れないようにする事だな」
そんな僕の心情を見抜いたかのように、士郎さんがそう言った。そして、僕を見ながら頷く。
「基本的な事・・・・・・ですか」
「そうだ。私にも経験がある。日々の修練に集中し過ぎると、つい基本が疎かになりがちなんだ。
君の剣術の基礎、あっただろ? そういう部分から振り返る事も、鍛錬には必要じゃないかな」
「あ、なるほど」
・・・・・・ずっと前、先生に言われたことがある。うん、剣術を習い始めて、結構最初の段階で。
それは、極意であり基本。そして・・・・・・一つの真実。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『お前は根っこはともかく普段はバカじゃ。細かい理屈うんぬんはえぇから、剣を振るう時は相手を真っ二つにすることだけ考えとけ。
そうすりゃ、何でも斬れるわい。たとえそれが、鉄だろうが鋼だろうが磁石だろうが岩だろうが水だろうが・・・・・・魔力だろうがの』
それでホントに斬れるのかと聞いてみたら、何も言わずにフェイトと模擬戦を組んだ。
その中でフェイトのザンバーを、魔法も無しで一瞬で真っ二つにした。それに、すごく驚いた。
『ワシらにとっての『斬る』ということは、力学やら物理学やらじゃない。
つか、そんなもんに頼って斬っているうちはまだまだじゃ。必要なのは、大事なのはたった一つ』
言いながら先生は、アルトを僕に渡してくれた。
『それはハートじゃ。お前の今を覆したいと思う気持ちが、お前を、お前の太刀筋を強くするんじゃよ。
だから、願え。そして信じろ。そうしたい、そうありたいと思う自分の心を。信じて・・・・・・貫くんじゃ』
そうして、自慢気に笑いながら言葉を続ける。
『大丈夫。その力は・・・・・・可能性のたまごは、お前の中にもちゃんと眠っとる。
あとは、どこまでそれを自分で信じられるかだけじゃ』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
言われた時はバカ呼ばわりはどうなのかと思ったけど・・・・・・うん、そうなのかも。
僕の基本は、やっぱりそこなんだ。理屈じゃない。そうしたいと、そうありたいと思う気持ち。
そうして、認められない今を覆したいと思う気持ち・・・・・・か。なんか、ちょっと忘れたのかも。
あぁそうだ。何かが足りないと思っていたけど、ここだ。斬ろうと思って、斬れないものなんてない。
理屈や道理をねじ伏せるだけの想いの強さ。そのレベルまで心を研ぎ澄ます事。そうだ、これが僕の基本だ。
「・・・・・・何か、掴んだのかい?」
「はい。士郎さん、ありがとうございます。あ、それに美由希さんも。おかげで色々スッキリしました」
「ううん、大丈夫。・・・・・・よし、じゃあ次はエリオ君かな。準備はいい?」
「はい、大丈夫です」
そうして美由希さんはエリオ、その次にフェイトと組み手を行う。
最後にフェイトのリクエストで僕と組み手をして、その日の朝練は終了した。
ちなみに結果は・・・・・・・御剣の剣士の実力は半端じゃないとだけ言っておこう。
美由希さん、フェイト以上に速いからなぁ。うぅ、やっぱり僕もまだまだ足りない。
「あ、あの・・・・・・ヤスフミ」
「何?」
「そろそろ鋼糸でぐるぐる巻きから開放してくれると、助かるんだけど」
そう言って来たのは、僕の目の前で芋虫になってるフェイト。
なお組み手の決め手は、僕の鋼糸による拘束。
「・・・・・・フェイトが変に抵抗するから、絡んでる」
「えぇっ!? あの、困るよっ!! 早く外してー! 私、縛られたりとか嫌いなんだっ!!」
「あぁもう動かないでっ! 余計に鋼糸が絡んで外れなくなるよっ!?」
「それでも嫌なのー!!」
結局、鋼糸はアルトで斬って対処したことを付け加えておく。
でも、基本・・・・・・うし、帰ったらそこを気を付けつつ修練するか。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
第17話 『病は気から。そして、極意は基本の中にあり』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝稽古の後、桃子さんが朝食を作ってくれていたので、みんなで食べた。
当然の如くえらい量を作って見事に完食となった。・・・・・・正直、申し訳ない気持ちでいっぱいだったよ?
今度エリオには『三杯目のおかわりからは、茶碗をそっと出す』というのを教えないとマズイんじゃなかろうか。
よし、フェイトに進言してみることにする。ちょっと無駄っぽいけど、それでも進言する。
朝食とそれにともなう後片付けを終えて、高町家の面々は翠屋へと、営業準備のために向かって行った。
フェイトとエリオとキャロは、着替えやらなんやらのためにハラオウン家へと戻った。
僕は、フェイト達に断った上で別行動。月村邸へと、一人足を進めていた。
理由はすずかさん。昨日の夜に帰り際、やってもらいたい事があると言われたのがきっかけ。
それも凄い勢いで。凄い勢い過ぎて、普通に断るという選択肢はなかった。
フェイトも了承の上というのがなんか臭う。旅行中なのに。・・・・・・なんなんだろ?
前にこういう事があった時は、可愛い執事服が出来たから着てとかだったからな。
まぁ、そうだったらデコピンでもして遠慮なく断ろう。僕はそういうキャラじゃないし。
などと考えながらも足を進めていると・・・・・・到着した。目の前には、とてもデッカイ洋風の建物。
これが月村家。すずかさんのお家、会社経営しているから敷地も建物も大きいのよ。
どっかの中規模のホテルかって言いたくなるくらい。そして僕の前に広がるのは、月村邸のでっかい正面玄関。
人気が無いので、ついついアルトも警戒心を緩めて喋ったりしてしまう。
僕達がそこに入ろうとした時、僕の携帯端末に着信が入った。・・・・・・・あれ? すずかさんからだ。
「はい、もしもし?」
『入りますか? 入りませんか?』
「・・・・・・は?」
『入りますか? 入りませんか?』
・・・・・・・とりあえず、僕は何も言わずに通話を切った。
そのすぐ後に、端末の電源を落とすのも忘れない。
≪・・・・・・あの人は何がしたいんですか?≫
「本人に聞こうか」
うん、あれかな。ヤングジャンプでローゼンメイデンが連載しているのが嬉しくて、言ってるのかな?
まぁいいや、くだらない理由だったらシバくから。てーか、これだけじゃ意味分からないし。
そんな正義の心を胸に燃やしつつ、いつもの通りにいつもな感じで玄関を越えて入っていった。
入って・・・・・・気づいた。確かにこりゃ、意味不明な質問をしたくもなるさと。
「・・・・・・アルト」
≪はい≫
いつものように、インターホンで名前を名乗って、自動で開く玄関を入って、数歩歩いて気付く。
様子がおかしいことに。いや、おかしくなったことに。辺りから、気配がごっそり無くなった。
人気はなかったけど、それでも何かしら感じてたのに。だけど、入った途端にそれらは消失。
なんというか・・・・・・世界が変わった。もうそうとしか言いようの無い感覚が僕とアルトを襲った。
この感覚はすごく覚えがある。魔導師になってから、何回も閉じ込められたから。
まるで、この周囲に・・・・・・閉鎖結界が張られたみたいな空気を感じる。
「魔力反応はある?」
≪はい。この屋敷だけに、極めて限定的に結界が張られています。・・・・・・しかしこれは≫
「どうしたの?」
≪今感知している魔力反応・・・・・・フェイトさんのなんですよ≫
「・・・・・・ちょっと待ってっ! これ、フェイトがやってるのっ!? なんのためにっ!!」
そう声を上げた次の疑問、僕達の答えてくれる素晴らしいイベントが起きた。
鳴り響く警報。なぜかどっかのロボットアニメのようにせりだしてくる地面。
その中から出てきたのは、鉄機。もっと言うと、二足歩行のロボット。
ガンダムっぽいのとかボトムズっぽいのとかパーソナルトルーパーっぽいのがどっさりと出てきた。
「な・・・・なんじゃこりゃっ!?」
僕達の周囲を取り囲む、どこかで見たことがあるようなフォルムの機械人形の軍団。
2メートル程の大きさのそれらを見て唖然とする他ない僕とアルト。
「・・・・・・よし」
僕は思い立つと、すぐに携帯端末の電源を入れて、すずかさんに電話・・・・・・繋がらないしっ!!
ならフェイトに念話・・・・・・端末・・・・・・やっぱり繋がらないっ!!
ならなら、アリサに、エリオにキャロに・・・・・・・なんで誰も繋がらないんだよっ!!
そうこうしている間に、二本角の白いのやタコっぽいのがこちらに銃口を向けている。
「・・・・・・アルト」
≪はい≫
「正当防衛って、成り立つよね」
≪この状況で、成り立たない理由が分かりませんよ≫
「ならよかった」
連絡が取れない以上、この場で取れる解決方法は一つ。
・・・・・・こいつらを全部ぶちのめすのが一番手っ取り早い。
幸いなことに結界は張られている。なら、どれだけ暴れようが問題はない。
こいつらを掃除した後で、すずかさんと協力しているであろうフェイトとはお話だ。
てゆうか、料理してやる。いくらなんでもこれはおかしいでしょうが。
「んじゃま・・・・・・セット」
言いかけて、やめる。せっかくだから、楽しめる方向にした。
「変身っ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・・始まった。でもすずか、ちょっとやりすぎじゃないかな」
「いいのっ! なぎ君ったら、いきなり電話切るんだよっ!? いい薬だよっ!!」
「いや、それはアンタがあんな意味不明な電話かけるからでしょ」
「恭文・・・・・・大丈夫かな?」
それはかなり心配。まぁ、ガジェットとかでも機械兵器相手は慣れてるし、大丈夫だよね。
「すずかさん、あのロボット達って、強いんですか?」
「ううん、全然弱いよ? 本気の恭也さんだったら、20分もあれば全滅させられる程度の能力しかないから」
「・・・・・・アンタ、それは強いって言うのよ? 明らかに一般レベル超えてるじゃないのよ」
「そうだよ」
というか、あの恭也さんが20分かかるという時点で脅威なんだけど。
恭也さん、美由希さんと同レベルで強いから。もっと言うと、マスター級だと思う。
魔法が使えなくても同じだよ。私はハッキリ言えば美由希さん達より下。
もちろん、空を飛んだり砲撃みたいなミドルレンジの攻撃を使えば、別だよ? それなら、私は勝てる。
だって二人は、魔法能力者じゃないんだから。でも、クロスレンジでの斬り合いというなら話は別。
私はクロスレンジ主体ではあるけど、それでも相手にならない。それほどに御神流の剣士の人達は強いの。
現に今日も・・・・・・うぅ、私本当にダメだな。ヤスフミみたいに神速のスピード感知なんて出来ないし。
あと、シグナムもそうか。恭也さんと美由希さんの技術に興味を持って、ちょくちょく相手してもらってたみたいだから。
オーバーSで執務官で・・・・・・だけど、それでも世界は広い。私より強い人は沢山居る。
分かってはいたけど、色々とショックではあるな。私は・・・・・・弱いんだ。
・・・・・・JS事件での失態とかで、反省し通しだったから、余計に痛感している。
「あぁ、ヤスフミ・・・・・・本当にケガしないといいんだけど」
あ、現状説明を忘れてた。・・・・・・今、私達が居るのは月村邸。
ヤスフミと別れた後にここへ急行して、アリサとすずか共々ヤスフミを待ち受けていた。
それで屋敷を囲むようにしてかけてる結界は、私の儀式魔法。
ユーノみたいには上手く出来ないけど・・・・・・それでも充分なはず。
それで、なんで私達がこんなことをしているかというと・・・・・・・原因はすずか。
「ナギの試験勉強に協力したいからって、いきなりこれはないんじゃないの?」
「まぁ、はやての許可は取ってるし、局や六課としては問題無いんだけど」
「ごめんねフェイトちゃん。でも、私は魔導師でもなんでもないし、なぎ君にはこういうことでしか協力出来ないから」
すずかがどこからかヤスフミの空戦AAAの試験の話を聞いて、是非協力したいと言い出した。
それで前日にメールでお願いされた。もちろん最初は断った。だって、今は旅行中なのに。
だけど、いつの間にかはやてに根回ししてて、どうしてもとお願いされて・・・・・・・この状況に。
それで今ヤスフミが戦っているのは、すずかと、すずかのお姉さんである忍さんが基本設計を担当。
そうして月村の家の会社で研究・開発した、新型ガードロボットの試作機達とか。
元々、この家のメイドのノエルさんが自分で相手をしてテストしたり、この家専属のガードロボットにするつもりで持ち込んだもの。
・・・・・・なんだけど、せっかくだからとヤスフミの修行相手として提供することに決めたとか。い、いいのかな。
「まぁ、アンタの気持ちは分からなくはないけどさ。
でも、あとで謝っておきなさいよ? アイツ、終わった時には軽くキレてそうだし」
「すずか、私も一緒にヤスフミに話すから。・・・・・・ね?」
「・・・・・・うん」
私達がそう言うと、すずかが少しションボリしたような顔で頷く。
・・・・・・ヤスフミ、すずかだって悪気があったわけじゃないから、あんまり怒らないであげてね。
でも、本当に大丈夫なのかな。はやては『いいストレス解消になるやろ』なんて笑ってたけど。
外の様子を映し出したモニターを見ながら、私はそんな事を思ってしまった。
やっぱり、お姉さんだから心配にはなるんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・ぶっ飛ばす。とりあえず、すずかさんとフェイトはこれが終わったあとでぶっ飛ばす。
女の子だから殴ったりはしないけど、とりあえず腕にシッペだシッペ。
その後、からしを叩いたところに塗りたくってやる。そう心に決めつつ、僕は走る。
走って、刃を袈裟に打ち込んで、人形を一体両断する。・・・・・・これで20体目。
戦闘開始から既に5分。今、赤い角付きの一つ目を真っ二つにしたところ。
あー、他のより3倍速かったから手強かった。
アニメ見てたお陰で、どういう攻撃するのか予測がつくのがありがたいよ。
ほんとにそのままな攻撃してくるしさ。これ作ったの・・・・・・あぁ、間違いない。
すずかさんや忍さんの匂いがする。すずかさんはともかく、忍さんはすっごいオタク趣味だし。
そんなオタクが作ったとしか思えないような機械人形軍団が、本日の相手。
それに対して、まず、僕がやったことは、囲まれている状況を打破することだった。今、ようやくそれが終わった所。
敵の陣形は、アルトのサーチの結果、やはり僕をグルリと囲む形で来ていた。数はおよそ100体。
普通なら絶対絶命の状況。・・・・・・あくまでもそのままで戦えば。
なので、まずはその陣形を一点突破で崩すことから始めた。
例え敵が100体だろうが200体であろうが、囲んでいる状態では全部は襲ってこれない。
僕は別に巨大建造物でも何でもないもの。その全てが寄って集れる程はない。
そして、目の前に一直線に居るのはそのうち何割か。
それを一気に突っ切れば、少なくとも常時周囲に気を配りつつやり合う必要はない。
と言いますか、フロントアタッカーっていうのはそういうのが仕事だしね。
そんな理由で方針を決めると、即座に行動開始。敵陣に突撃を開始。
しながら敵を一体、また一体とアルトで叩き斬りつつ、道を開いていった。
後ろからの敵の攻撃は、近くに居た機械人形を盾にすることで回避。
決して足を止めず、アルトに敵の位置関係を把握してもらったからこそ出来た。
そうして、視力検査に使うあの図のような状態になった敵陣は、どう出る?
当然、包囲網を突破した僕をそろって追いかけ始める。さぁ、ここからが狩りの時間である。
「アルト、アレ使うよ」
≪分かりました。ですが、いいんですか?≫
「周辺に生体反応は無いんだよね? だったら、問題なし。
ただし、それっぽいのが出てきたらすぐに教えて」
≪了解です≫
そんな会話をしている間に、機械人形たちはこちらに迫ってくる。
僕は、その一団へと突撃しながら、左の手の平の上に、あるものを出現させる。
・・・・・・ピンポン玉サイズの一個の鉄球。それに、すかさず魔力を込める。
球は込められた魔力の量だけ大きくなり、蒼い魔力光に包まれる。
そして、砲丸ほどのサイズへと変わった。それは、手のひらの上で浮いた状態になる。
でも、これで終わりじゃない。次に左腕の手首に、リング状の環状魔法陣が発生する。
手首と、鉄球を包むように、合計二つ。一団との距離が1メートルを切ろうとしたタイミングで、僕は動く。
鉄球を、手の平を機械人形の一団に向け・・・・・・叫びつつもトリガーを引く。
「クレイモアッ!!」
≪ファイア≫
鉄球がその叫びに応じるように、小径のベアリング弾へと瞬間的に形を変える。
蒼い魔力を帯びたまま飛び散り、立ちはだかる機械人形達を撃ち貫く。
クレイモア。僕が魔導師に成り立ての頃から使っている、範囲型分散掃射魔法。
これはその実弾バージョン。魔力を込めた鉄球を、小型のベアリング弾へとに瞬間的に分裂。
その後、それらを前方に向かって掃射。それによって、一定範囲の敵全てを倒すという荒業。
ちなみに今使ったバージョンは、ガジェットなどの普通サイズの敵用。というか、機械用。
対人戦? 危なくて使えるわけがない。自分にとって無意味な殺しはしない主義なんだよ。
とにかく、これで7体は倒した。さ、次行くよ次。・・・僕は、少ししゃがんで上に跳んだ。
クレイモアに蜂の巣にされて、爆発する機械人形達を飛び越える。
一番近くに居たタコっぽいみどりの機械人形を、唐竹割りで真っ二つに斬り裂く。
手ごたえをじっくり感じる間もなく、すぐに移動。機械人形達の射撃を避けながらも、僕は走り続ける。
アルトを右に薙ぎ、左に薙ぎ、そして下から上に、上から下へと振るい続ける。
そうして鉄機を次々と斬り倒しながら、僕は走り抜けて敵陣をめちゃくちゃにする。
一斉掃射でなんとかしようとする連中が居たら、一気に踏み込んでクレイモア掃射で破壊。
撃ち漏らした連中はアルトで一体ずつ斬っていく。で、一直線で無駄にやってきてるのは、こうする
≪Stinger Snipe≫
左手の人差し指の先で生まれたのは、蒼く輝く螺旋の光。
それが一条の光の矢となって、鉄機達を貫く。
≪ストップです≫
貫く予定だった光は、手元で不意に消えた。アルトが、勝手に発動キャンセルしてくれたせい。
「なにすんの、アンタっ!?」
≪せっかくです。剣術だけであとは倒しましょう≫
「はいっ!?」
≪あなた、すずかさんが考えなしでこんなことしてると、本気で思ってるんですか? それもフェイトさんまで巻き込んで≫
「・・・・・・あ」
なるほど、そういう事ですか。まぁ、それなら・・・・・・納得した。
細かい事情はともかく、何かあるってことだね。すずかさん、すごくいい人だもの。
優しいし、いい匂いがするし、ふかふかだし、タプタプだし・・・・・・あれ、なんか違うな。
とにかく、普通に事情込みって事か。で、その辺りの事情も・・・・・・なんとなく察しがついた。
≪そういうことです。まぁ、初心に戻らせてもらおうじゃありませんか≫
「うん、そーするわ」
まったく、これでラスボスとか出てきたら泣くよ?
・・・・・・ま、それでもなんとかしてやろうじゃないのさっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・恭文、今ごろ大丈夫かな?」
「まぁ、問題はないだろう。フェイトちゃんも一緒なんだし、すずかちゃんがちゃんとガードロボットを制御した上でやるそうだからな」
「でもさ、びっくりしたなぁ」
昨日の夜帰ってきたら、私宛てにすずかちゃんから電話がかかってきた。
『なぎ君に家の庭で修行してもらいたいんですけど、大丈夫ですか?』と言われた。
「すずかちゃん、恭文君の力になりたかったのよ。・・・・・・ちょっと無茶かなとは思うけど」
「確かにね。でも、大丈夫か」
「あぁ、ちゃんと説明した上でやると言ってたしな。
いきなりやったらアレだとは思うが、それなら恭文君も納得した上でやるだろう」
なお、私達がこの後今現在どういう状況になっていたかを知って、非常にビックリしたのは言うまでもないと思う。
「だね。でも、すずかちゃん・・・・・・あー、やっぱ負けてられないなぁ」
フェイトちゃんとはさっぱりっぽいし、恭文も年頃だし・・・・・・もうちょっと頑張った方がいいのかな。
まぁ、アレだよ。私は・・・・・・うん、嫌いじゃないしね。というか、むしろ好きな方だし。
「・・・・・・母さん、美由希はやっぱり恭文君のことが」
「さぁ、どうかしら?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これで・・・・・・80!!」
唐竹に80体目の敵を斬る。これで残り五分の一。つまり、20体。
「うし、あとちょっと」
時間はすでに20分。ここまでなんとかやってきた。しかし、これだけ斬るとさすがにきついね。
まー、あの二人との訓練の方がもっときついけど。砲撃魔法の雨嵐だしさ。
つか、僕がクロノさんにこういうシチュエーションでの立ち回り方をどれだけ叩き込まれたと?
格上ならともかく、剣術のみといえど、格下相手に手間取るわけにはいかないのよ。
≪あちらも対応はしようとしてましたけど、こちらの殲滅スピードに追いつけなかったというのが正直なところでしょう≫
「だね。・・・・・・でも、さすがに距離は取られてるね」
残り20。サーチなしでもしっかりと分かる程度の数になった機械人形達は、当然警戒態勢。
だから、こちらと距離をとって警戒している。
≪問題ないでしょ≫
「もちろん」
スティンガースナイプなり使って、サクっと片付けたいと思っても、罪じゃない。
ブレイクハウトで串刺しもあったよなぁ。あははは、遠距離攻撃出来ないって、意外と大変。
≪却下ですよ≫
「うん、わかってる。・・・・・・地道にいきますか」
≪現地妻2号の愛は偉大なんですから≫
「現地妻言うなっ! 僕はそんな称号は一切認めてないよっ!?」
ま、それとは別にお仕置きはするけどね。とにかく、こっからは個別に斬ってくしかない。
とりあえず、目に付いた左肩にデカイ砲筒を背負ったタイプの機械人形に向かってダッシュ。
砲門から・・・・・・・あれ、なんか電気みたいなのが音を立てながら砲弾になってる。
≪電気集束砲ですね≫
「電気集束砲っ!? なんですかそれっ!!」
≪なお、名前は今私が勝手に付けました。てゆうか、なんでそんなのが積んでるんでしょ≫
「そこは僕が聞きたいんだけどっ!?」
砲門の先に、遠めでも当たれば危険と分かるほどの電気エネルギーが球体状に集束。
それが砲弾として撃ち出されようとした。もちろん、その攻撃目標は僕。
てゆうか、撃ち出された。轟音を響かせながら、砲弾は僕に向かって真っ直ぐに飛ぶ。
・・・・・・恐ろしいね月村家。今の地球のテクノロジーを30年くらいぶっちぎってない?
≪これ、回避ですね≫
・・・・・・アルトのその言葉に、僕は足を止めて、雷の砲弾にたいして、正眼の構えで迎え打つ。
≪何してるんですか?≫
・・・・・・普通なら、電気の塊であるあの砲弾に対しての対処は、限られる。
魔力を込めて斬るか、クレイモアなりスティンガーなりぶつけて撃ち落す。
もしくは、回避というのが定石だろう。というか、回避だったらすぐに出来る。
そうじゃなきゃ、ヒューマンローストになってお終いである。でも・・・・・・なんだよなぁ。
基本、思い出しちゃったもの。だったら、試したくなるのが人情ってもんでしょ。
「アルト、少しだけ無茶をするよ。魔力付与無しで、真っ二つにするから」
≪・・・・・・失敗は許しませんよ?≫
前にも話したと思うけど、僕の剣は、日本の薩摩の示現流がベースとなっている。
示現流には二の太刀はいらない。全て、一の太刀で決める。
それほどの打ち込みを放つことが、この流派の基本であり・・・・・・全てなのだと教わった。
派手に動いたために、いつのまにか荒くなっていた呼吸を整える。
呼吸をしながら、吸い込んだ酸素と一緒に、身体の隅々に力を送る。
筋力や物理的な力じゃない、立ちはだかる障害を一閃で切り裂くというイメージ。
そこから生まれる、強い想いの力だ。物理や論理?
・・・・・・ばかばかしいね。そんなもんだけで、目の前の標的が斬れるわけがない。
金属だろうが魔法だろうが道理だろうが、斬りたいと思えば何でも斬れるんだよっ!!
そーだよ、僕はバカだよっ! だから、こういうやり方でしか力出せないんだよっ!!
「・・・・・・行くよ」
雷の砲弾がこちらに向かってくる。・・・・・・アルトを呼吸しながら、ゆっくりと正眼に構える。
さっきも言ったけど、魔力はあえて込めない。それでも斬れなければ意味がない。
使うのは・・・・・・ううん、信じるのは心の中に眠っている想い。自分という一つの可能性。
足を止めている僕に、他の機械人形達が間近へと迫ってきているが、そんなのは気にしない。
斬り裂いた後に、すぐ動けばいいんだから。さぁ、ぶっ飛ばしていこうじゃないのさ。
めんどくさい今も、つまんない時間も全部覆して・・・・・・ここから、一歩踏み出す。
僕は、踏み出した。信じて、願って・・・・・・貫くと決めた想いから、その一歩は生まれた。
「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そうして振り下ろされた鉄刀は、一瞬で閃光となる。魔力も込めてないのに銀色に眩く輝き出した。
その輝きで世界を、今という時間を変える。その力は、目の前の雷の砲弾をに及ぶ。
青色の雷撃は、唐竹に打ち込まれた刃によって綺麗に、真っ二つに斬り裂かれた。
その瞬間に、二つになった砲弾の合間を抜ける形で再びダッシュ。
「はぁっ!!」
あのキャノンもどきの腹にアルトを打ち込む。
閃光はまた生まれて、砲撃手の胴体に一筋の線を刻み込む。
それによって、雷の砲撃手は上半身と下半身がお別れとなり・・・・・・爆散した。
・・・・・・出来た。ここ最近の中で、1番の斬撃だ。今までのとは、手応えが全然違う。
≪・・・・・・大丈夫ですか?≫
「うん」
手元を見る。アルトを握り締めている右手を上げて、ジッと見て・・・・・・その手応えを実感した。
何かが吹っ切れたのを感じた。抱えてたものやイライラが、凄く軽くなった。
「アルト」
≪はい≫
「全部、僕の心次第なんだよね。嘘にするのも、真実にするのも」
≪当然じゃないですか≫
その言葉に嬉しくなって、口の端で笑う。笑って、すぐに左に跳ぶ。
今まで僕が居た場所を、マシンガンの弾丸が通り過ぎる。まだ、休んだりは出来ないらしい。
「でもさ、斬った瞬間に感電するかな〜とかちょっと思ってたんだけど・・・・・・大丈夫でよかったよ」
言いながらも走って、マシンガンを撃ってきたザクっぽいのに突進。ソイツとの距離は20メートル。
≪・・・・・・私、通電対策は整えてるんですけど?
強力な魔力攻撃以外では問題ありませんよ。磁力の類も通用しませんし≫
再び掃射される弾丸を右に走りながら避けて、一気に左脇へと踏み込む。
左手で持っていたヒートホークが、僕に頭目がけて打ち下ろされた。
だけど僕は、そのまま刃を右薙に打ち込む。それごとザクっぽいのを真一文字に両断した。
斬り抜けるようにして走り、僕の後ろでザクっぽいのが爆発する。
≪と言いますか、魔力付与無しでも大抵の物は斬れるようにしているではありませんか≫
「・・・・・・あれ?」
続けて、他の奴の射撃を避けつつ、アルトの話を考える。・・・・・・そうだよそうじゃないのさ。
昔アルトが中破した時に、強化プランの一つとして形状変換と一緒に搭載したものがある。
それは、特殊なレアメタルの刀身フレーム。そこにコアを移植したじゃないのさ。
「ということは、アレですかっ! 僕のやったことって全くの無意味っ!? そんなー!!」
≪そんなことはありません。アレを見てください。あなたが砲弾を斬った場所を≫
アルトに言われてその場所を見ると、4体の機械人形が、火花を上げて倒れている。
地面が・・・・・・なんか抉れてる。というか、焼け焦げて・・・・・・クーレター?
その周囲で倒れている機械人形達に動く様子は・・・・・・ない。なにがあったの、あれ。
≪真っ二つになって宙に浮いていた雷の砲弾が拡散して・・・・・・あの通りです≫
「拡散?」
≪そうです。あれ、何かに接触した途端に砲弾を構築してる電気エネルギーが拡散するようになってましたから。
いや、爆散と言うべきですね。・・・・・・・恐ろしいですね、月村クオリティ≫
えっと、つまり僕はそんな危ないのを斬ったってこと? ・・・・・・怖っ! 今さらだけど怖っ!!
「というかアルト、それ知ってたよねっ!? それならそうと教えてくれるとありがたいんだけどっ!!」
≪問題はありません≫
「いや大有りだからっ! 危うくローストヒューマン一人前が出来上がりになるとこだったでしょうがっ!!」
≪でも、あなたは斬れたじゃないですか≫
アルトは、静かな声で僕にそう言ってきた。
その声は、どこかいつもより優しさを感じさせるものだった。
≪・・・・・・雷という、本来であればあのような形にはなりえないエネルギーを、拡散する間も与えない瞬間的な一撃。
あなたのパートナーとなって数年経ちますが、五指に入るほどの見事な打ち込みでした。アレくらい、毎回出せるようになって欲しいですね≫
「・・・・・・誉めてくれるのは嬉しいけど、話逸らそうとしてるでしょ?」
言いながらも、僕達は走る。走って・・・・・・踏み込む。
≪そんなことはありません。私は、あなたならばこの状況をクリア出来ると・・・・・・信じていましたから≫
ザクっぽいの三体に袈裟、逆袈裟、袈裟と刃を打ち込んで、斬り抜ける。
もう、大丈夫。コイツらの硬さは覚えたし、さっきの手応え・・・・・・まだ、やれる。
「今すっごい嘘っぽかったしっ! 絶対逸らそうとしてたでしょっ!! ほら、正直に言ってっ!?」
≪別にいいじゃないですか。ほら、続き行きますよ≫
「良くないんですけどっ!?」
・・・・・・アルトに言われるまでもなく、残りの敵がこちらにじわじわと迫っている。なお残り、11体。
僕は、ただ前に。躊躇う事なくフォーメーションなんて組もうとしている敵機達に踏み込んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・僕とアルトは、敵にかたっぱしから突撃していって、斬り伏せていった。
そうして、斬っていった中で最後に残ったのは・・・・・・黒いボディの機械人形。
左腕に三本のスタンスティックが付いている。・・・・・・なんでわかるのかって?
もちろん、スタンスティックから電気が迸ってるからだよ。
とにかく、そんな機械人形が僕とアルトの前に対峙した。
・・・・・・じりじりとにじり寄る機械人形。こいつだけ動きが違う。
ひょっとして、誰かに操作されてるのかな?
そんな事を考えてしまうほど、見事な間合いの取り方だった。
武装を見るに、僕と同じタイプだ。きっと一撃で決めてこようとする。
勝負は、一瞬で決まる。僕はアルトを構える。・・・・・・いや、鞘に納める。
そして、かがむ。せっかくだ、こっちでも手応えを得たい。
黒い機械人形も腰を低くかがめて左拳を握り締め、突撃の構えを見せる。
先ほどと同じように、魔力は込めない。ただ、僕は強く願い、信じるだけ。
あの一閃が僕にモノにできるかどうかは、これで決まるような気がした
そして・・・・・・どちらともなく、いや、ほぼ同時に踏み出した。
拳と刀が互いに相手を打ち砕く力をもって、ぶつかり合った。
「・・・・・・瞬(またたき)」
生まれた閃光は二つ。一つは、下から上への斬り上げ。
それにより、股間から刃を受けて機械人形は真っ二つになる。
でも、閃光はもう一つ生まれる。その一つは肩口からの袈裟での一撃。
瞬(またたき)というのは、先生から教わった居合い・・・・・・抜きの技。
抜きというのは、示現流で言うところの居合いなの。
そしてそれは下から上への斬り上げが基本。ここには理由がある。
示現流は元々、実戦剣術として発展した。甲冑を着た相手との戦いも、視野に入れてる。
そこで鎧の構造上どうしても防御が薄くなる股・・・・・・睾丸部を狙っての斬り上げ技が生まれた。
それがこれ。そして、同時に刃を返しての連撃も視野に入れられている。
だから、目の前の機械人形は身体を分割されて、僕の目の前にただのパーツとなって崩れ落ちる。
「二連」
そのまま、機械人形は爆発して炎を上げる。・・・・・・これで、100体目。
なんとか勝った。あの時と同じような手ごたえもつかめた。これで・・・・・・・終わり?
「アルト、一応増援とかは」
≪はい、周辺に反応はありま・・・・・・・新しい反応が一つ≫
あの、まだやるつもりですか? 今度は何だよっ!? ちくしょお、クレイモア使って瞬殺してやるっ!!
多少やけくそ気味になりながらもあたりを見回すと、その反応が居た。
「・・・・・・すずかさん」
白いワンピースに頭には同じ色のヘアバンド。長い髪を靡かせながら、すずかさんがこっちに来る。
あちらこちらに機械人形の残骸が横たわって、炎も少なからずあがっている中を、平気な顔してだよ。
そうして歩いてくる姿はとてもミスマッチで・・・・・・どこか惹かれるものがあった。
まぁ、普通に綺麗な人だしなぁ。とにかくすずかさんは僕の前へと来て、静かに微笑む。
「なぎ君、お疲れ様。・・・・・・えっと、怪我とかないかな?」
「すずかさん、他になにか、言うことはないかな?」
その言葉に、すずかさんの頬を汗が一滴、ゆっくりとつたって落ちていくのを、僕は見逃さなかった。
「え、えっとね。これは・・・・・・って、なぎ君、なんで私の腕を掴むの?
なんで腕をめくるのっ!? いや、やめてっ! お願いだからやめてっ!!」
「すずかさん、好きだよ。大事な友達だもの」
「言葉と行動が全く一致してないよっ!? というか、普通にそう言ってくれるのは嬉しいけど、それなら女の子として言って欲しいかなっ!!」
「あ、無理」
「即答っ!?」
・・・・・・安心して、殴りはしないから。
「あ、それとありがとね。何かこう、僕のためにこれなんでしょ?」
細かいことは分からないけど、そこは分かった。
だから、すずかさんは表情を明るくして思いっ切り頷く。
「あ、気づいてたんだっ!!」
「あははは、もちろんだよ。だから、しっぺだよ?」
「なぎ君、話がおかしいよっ! お仕置きなら他に色々あるんじゃないかなっ!!
ほら、一晩中添い寝とかっ! 唇が腫れるまでキスでもオーケーだよっ!?」
「少女漫画の見過ぎだね。うん、ちょっと現実戻ってこようか」
ただ・・・・・・ケジメは付ける。だから、僕は腕を振り上げて、一気に一閃を打ち込む。
「・・・・・・うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
先ほど少しだけ掴んだ一閃の極意を応用したしっぺを、すずかさんの腕に叩きつけた。
・・・・・・これがこの戦いの終わり。そして、貴重な休日三日目の終わりでもあった。
すずかさんは痛みで蹲ってしまったけど、僕の怒りは収まらない。だって、からし塗ってないし。
その後、いいタイミングで飛んできたフェイトにも同じ事をしようとした。
でも、アリサとエリオとキャロに止められたりした。
まぁ、なんやかんやでごたごたしたけど、特に話す必要もないと思うのでここは割愛とする。
とりあえず、事情は分かったのであのタヌキへのお土産(限定お菓子)は、この場で僕だけで食べてやった。
月村家でお昼やお茶もごちそうになって・・・・・・もう、帰る時間になってしまった。
あははは、また三日目バトルってどういうこと? 前回もリンディさんとそれだったしさ。おかしいなぁ。
でも、色々と気遣ってくれたすずかさんには、ちゃんと感謝することにする。うん、そこは大事よ。
・・・・・・すずかさんは、大事な友達だから。大事で、大好きな・・・・・・友達。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
腕のしっぺは痛かったけど、なぎ君・・・・・・気づいてたんだ。
それが嬉しくて、食事中ずっとニコニコしてた。本当に嬉しかったから。
・・・・・・なぎ君のこと、やっぱり諦め切れないな。うん、好き・・・・・・なんだ。
素直じゃないところも、優しいところも、全部含めて好き。だから、一杯力になりたい。
私、もっと頑張った方がいいのかな。フェイトちゃんはあんな感じだし・・・・・・うーん。
とりあえず、次の計画を立てよう。次はどうしようかな。やっぱり・・・・・・メイドさん?
なぎ君、メイドさんに弱いし、頑張ればきっと大丈夫だよね。よし、がんばろー!!
「・・・・・・いやいや、何普通に帰り際にとんでもない発言してるっ!? みんな聞いてるからっ!!」
「アレ?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・・楽しくて、すずかさんの笑顔と僕を見る優しい瞳がどうにも気恥ずかしかった時間は、あっという間に過ぎた。
過ぎたけど、すずかさんが暴走してる。・・・・・・この人は本当に。
「それじゃあ恭文、怪我しないように気をつけて帰ってね」
「はい。美由希さん、士郎さんに桃子さん。見送りありがとうございます」
「あら、いいわよ別に。ね、あなた?」
「そうだぞ。・・・・・・とりあえず、なのはが魔王と呼ばれないように見張っていてくれ」
「父さんっ!? え、そこもしかしなくてもすっごい気にしてたんだっ!!」
時刻は既に5時過ぎ、僕とフェイトにエリオとキャロは、明日の勤務もあるため転送ポートでミッドへと戻る時間となった。
月村邸の庭で転送を待つためにみんなで出てきたのだけど、そこに店を早仕舞いして高町夫妻と美由希さんがやってきた。
・・・・・・仕事もあるのに来てくれた事に、少し胸が熱くなる。あ、ハラオウン家の皆には、さっき通信でお話してきた。
というか・・・・・・カレルとリエラに泣かれた。辛いですよアレ。
「あと・・・・・・すずかさんも本当にありがとう。AAAランク試験。絶対に合格するから」
「・・・・・・うん」
・・・・・・お願いだから涙目にならないでっ! あぁ、普通に暴走してるー!!
「アリサ」
「アンタがなんとかなさい」
「薄情者ー! 鬼ー悪魔ーツンデレー!!」
「うっさいバカっ! てゆうか、アタシはツンデレじゃないわよっ!!」
とにかく、何とかしなきゃいけないので、すずかさんを見上げる。見上げて・・・・・・どうしよう、困った。
「だって、またしばらく会えないのかなって思ったら・・・・・・すごく寂しい」
「あー、年末年始には必ず帰ってくるから」
「・・・・・・本当に?」
「本当に本当に。いつもそうでしょ?」
「あ、そういえばそうだね。今年も翠屋の手伝いに来るんだ」
士郎さん達の方を二人で見ると、三人は頷いた。ここ、毎年の恒例行事だしね。
「うん、その予定。だから大丈夫。・・・・・・なんだったら、はやてが部隊の責任者だもの。
メールで僕を休ませろとか、それ相応に圧力をかければもっと確実に」
「うん。それじゃあかけとくね」
・・・・・・はやて、ごめん。余計な事言ったかもしれない。
まぁ、あれだよ。これも部隊長としての試練だと思って、なんとかしていってくれたまへ。
「でも、やっぱり寂しいから」
言いながら、すずかさんが飛び込んでくる。
僕の身体は、あっという間にすずかさんの腕の中に収まった。
「ちょ、すずかさんっ!?」
すずかさんは、優しく包み込むように抱き締めてくれる。
あの、でもその・・・・・・やっぱり恥ずかしいから離してー!!
みんなも妙にニヤニヤ・・・・・・いや、美由希さんだけがすごい勢いで睨んでる。
あ、あははははは。なんで頭の中でアラームが鳴り響いてるんだろ?
「離さないよ」
「いや、あの」
「だって、こうするの好きだから。なぎ君も、ギュってしていいよ?
というか・・・・・・してほしい。私だけなんて、嫌だよ」
「・・・・・・うん」
僕はすずかさんを抱き締める。ありがとうって気持ちを込めて、伝わるように。
「うん、伝わったよ。なぎ君の優しい気持ち、沢山。・・・・・・幸せ」
「あの、えっと」
「だめ、力緩めちゃ」
「うん」
うぅ、幸せと言えば幸せだけど・・・・・・これはあの、なんというか申し訳ないというか、優柔不断というか。
「大丈夫だよ。なぎ君の気持ち、分かってるから。
でも・・・・・・やっぱり簡単には諦めたくないなって、思うから」
「すずかさん」
「お願い、想うだけでいい。本当にただそれだけでいいから・・・・・・その権利と時間を、私にください」
耳元で聞こえたのは、吐息のような声。
それに耳をくすぐられて、少しだけ、身体が熱くなる。・・・・・・あの、えっと。
「それと」
「ま、まだなにか?」
「試験頑張ってね。私も応援に行くから」
「はいっ!? いやいや、局の関係者しか試験見に行けないからっ!!」
すずかさんの無茶っぷりに、つい苦笑してしまう。でも・・・・・・ここまでしてくれたんだ。
もう、この試験は僕だけの話じゃない。・・・・・・重いねぇ、どうにもこうにもさ。
”おかしい。単に大暴れしたくてこれだっただけなのに”
”でも、それを背負ってもなお、超えなければなりません。
そうしなければ、すずかさんの想いにちゃんとした形で応えられませんから”
・・・・・・だね。そうして、すずかさんが名残惜しそうに僕を放すと同時に、それは現れた。
「あ、もう時間だね」
フェイトがそう口にする。後ろを見ると、そこには魔法陣。
・・・・・・本局が開いてくれた転送ポートだ。
「それじゃあ、みんなありがとうね。また、年末とかに帰ってくるから」
≪ありがとうございました。それではまた≫
「それじゃあ、アリサ、すずか。またね。美由希さんに士郎さん達も」
「「お世話になりましたー!」」
転送ポートの上に乗って、みんなに手を振る。
・・・・・・徐々に魔法陣の外の風景が歪んでいって・・・・・・そして、僕はミッドチルダへと跳んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
少しふらつくような感覚を覚えて、思わず目を閉じる。それから目をゆっくりと開ける。
するとそこは、本局の転送ポート。うん、ここからまた中央本部に戻って、ミッド上陸なの。
とにかく、一旦そこからゆっくりと降りて・・・・・・あー、でもアレだよね。
「エリオ、キャロ」
「なに?」
「ごめん、結局三日目は僕の都合に付き合わせちゃって。
海鳴、あっちこっち観光できればよかったんだけど」
「あぁ、それなら大丈夫。ね、キャロ」
「うん。なぎさんの大暴れが見れたし、私とエリオ君的には・・・・・・満足かな?」
・・・・・・どういう意味かは聞かないでおこう。うん、それが平和だ。
「フェイト」
「うん?」
見上げて見えるのは、ルビー色の瞳。優しい金色の髪。・・・・・・やっぱり、ドキドキする。
あぁ、ごめんなさいごめんなさい。でも、やっぱり本命はフェイトなんです。
「誘ってくれてありがと。すっごく楽しかった」
「ならよかった。私もヤスフミと一緒に過ごせて、楽しかったよ」
そう言ってくれたことがすごく嬉しかった。うん、やっぱりフェイトと居るの、幸せ。
「でも」
「でも?」
「何かあった? なんかこう、スッキリした顔してる」
中央本部行きの転送ポートは、こことは別。だから、僕達はそこに向かって歩き出す。
歩き出しながら、フェイトがそう聞いてきた。だから・・・・・・頷いて答えた。
「あった。僕がうじうじしてたってのも分かったから。うん、分かったの。僕はやっぱ、古き鉄だってさ。
僕はその基本を忘れかけてた。・・・・・・もっと強くなる。大負けしようが何しようが、揺らがないくらいに」
フェイトの顔を見上げながら、思いっ切り笑う。今までのうじうじを、全部吹き飛ばすくらいに。
「それで、無茶苦茶強くてカッコいい鉄になる。それが・・・・・・僕のなりたい形かな。
うん、そうだ。僕、やっぱりそんな先生みたいな強くてカッコいい人になりたいんだ」
「・・・・・・そっか」
こうして、旅行は終わりを告げた。まぁ、何時ぞやのお休みに比べたら非常に有意義だっただろう。
フェイトと添い寝して、混浴して・・・・・・うふふ、幸せだったなぁ。よーし、この調子で明日からも頑張ろー!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
古き鉄・・・・・・ヤスフミの基本は、そこなんだ。うーん、どうしよう。
とりあえず私はお休み中に悩みが増えた。それは・・・・・・ヤスフミとのズレ。
あのね、局に入るどうこうは一応は納得してる。というか、今は無理だと思ってる。
そこはいいんだけど、ヤスフミとの関係にこう・・・・・・なんだろ。
仲良くは出来てると思う。でも、何か壁みたいなものを感じる。
ヤスフミが心を開いてないというわけじゃない。私も・・・・・・違うと思う。
でも、何か噛み合わない。何かがズレて、だから六課に来てから衝突が多い。
元々ケンカする方だけど、それでも最近は多い方。何がおかしいんだろ。
私はヤスフミとまた手を繋ぎながらまた何が足りないんだろうと考えて・・・・・・・やっぱり分からないと答えを出す。
今の私達の間には・・・・・・ううん、私には何かが足りない。それも決定的にだよ。
基本は今までと同じはず。なのに、何かがズレてる感じがする。あ、でもだからダメなのかな。
エリオとキャロともアレからまた話したりして・・・・・・だけど今までと同じ。
だから何かが違うような感じがしてるのかも。やっぱりワケが分からないままではあるから。
それで何かがおかしくなり始めてるのかな。もしくは、元から・・・・・・コレなのかな。
それに私が気づいただけ? だったら・・・・・・あれ? よし、少し冷静に考えてみなきゃいけない。
もしも、今感じているズレやもどかしさが元からあったものだとする。
それに今の今まで気付かなかったとしたら、それはどういう事なんだろう。
私とヤスフミの今までって、一体・・・・・・なんだったんだろう。
私はもしかして、ずっと・・・・・・ずっと何かとんでもない勘違いをしてたのかな。
(第18話へ続く)
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