[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第16話 『身も心も裸になって、そうやってようやく話せることもある?』(加筆修正版)



古鉄≪前回のあらすじ。お休みをもらって、フェイトさんと旅行に出たマスター。
当然のように、フェイトさんフラグを立てようとひたすらに暴走していました≫

なのは「してたね。それも凄く。普通に引くレベルだと思うんだ」

古鉄≪そしてそんな中・・・・・・魔王降臨。魔王の怒りを沈めるために銭湯に向かいます≫

なのは「魔王って誰の事かなっ! てゆうか、なんで魔王の怒りのために銭湯っ!?」

古鉄≪とにもかくにも、今回は全編ゆったりお風呂タイムとなります。
アニメだったら、きっと湯気だらけで見れたもんじゃないですね。それでは、スタートです≫

なのは「ど、どうぞ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで・・・・・・久々にやってきました。海鳴・スパ・ラクーア。

早速、僕達は当然だけど男湯組と女湯組へと別れることになった。いや、楽しみだなぁ。

なんて言いながらも、服を脱いで、タオルを巻いて浴場内に入る。





それで・・・・・・うん、懐かしい気持ちになった。だって、去年の年末の時と変わってなかったの。





逆に安心した。これで絢爛豪華だったらどうしようかと思ってたし。










「あ、でも変わってることが一つ有るかな」

「なに?」



そんな話をしながら、お風呂場を歩く。そして、エリオが嬉しそうに声を上げた。



「恭文が一緒だってとこ。前回は、男の子は僕だけだったから」

「そういえばそうですね。それで、みんなから『一緒に入ろう』って言われてたです」



ここは羨ましいって言うのが正直な反応なのだろう。

だけど、僕の口から出てきたのは・・・・・・一つの言葉だった。



「エリオ、大変だったんだね。あれでしょ? 無自覚なセクハラでしょ?」

「それだった。・・・・・・早く大人になりたいな。とりあえず、お風呂が一緒出来ない年齢に」

「そうだね。そこまでいけばさすがにみんな自重」



言いかけて気づいた。それも、気づかなくていい話に。



「・・・・・・自重しなかったらどうする? もう見られてるんだから、みんな平気な顔してさ」

「それは怖いよっ! というか、普通に恭文も止めてっ!?」

「分かった、フェイトは止める。あと、リインとすずかさんと美由希さんも止める。
じゃないと、僕が怒られるから。でも、他は頑張れ」

「頑張れないよっ!!」



とりあえず、連中は出張任務だって言うのに何してる? そこんとこの境界線は付けるべきでしょ。

てーか、シグナムさんや師匠にアリサまで居てそれとは・・・・・・エリオ、色々苦労してるなぁ。



「それじゃあ、思いっきり楽しもうか。今回は僕も居るしね」

「うん」

「楽しむですよー♪」





そうして、僕達はお風呂巡りへと繰り出したのだった。

あぁ、旅と言えばお風呂だよね。お風呂タイム、大事だよね。

フェイトと・・・・・・くそ、おまけ二人が居なければそれも狙えただろうに。



まぁいい。ここはお風呂上がりで綺麗なフェイトを堪能出来るから、良しとする。





「・・・・・・ちょっとまってっ!!」

「エリオ、どうした? いきなり叫んで」

「ですです。どうしたですか?」

「どうしたじゃないですよっ! なんでリインさんがこっちに居るんですかっ!!」






さて、ここで一つおさらい。ここは男湯。それでリインも来ている。

どうやら、エリオは普通にここが疑問らしい。

というか、リインは最初から居るのに。リインの衣服も、男湯のロッカーにある。



でもエリオ、このタイミングでツッコむのか。もうちょい早く来ると思ったのに。





「リインは11歳以下ですから、大丈夫ですよ?」

「そういうことじゃなくてっ! その、平気なんですかっ!?」

「当然です。まぁ、エリオはちょこっとアウトですけど」

「なんで僕っ!?」



なんでだろうね。うん、僕には分かんない。



「それなら、恭文はどうなるんですかっ!!」

「いや、特に気にならないし。だって、リインとお風呂入るし」

「恭文さんとは、何回もお風呂入ってるから、大丈夫ですよ。
というか、リインの全ては恭文さんのものなのです。問題があるはずがないのです」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



僕とリインは、出会った当初から一緒によくお風呂に入っている。それも初日に。

で、それは今も変わらない泊まりに来た時は、一緒にお風呂に入って、頭を洗ったり背中を流したり。



「お風呂の中で一緒に100まで数えたりするです。もうラブラブなのですよ。
というか、今はこういう場所ですからバスタオルしてますけど、本当ならいらないですよ?」

「あぁ、そうだね。僕もつけないしね」

「おかげでモザイク入るですよ」



あー、入るね。こち亀とかはお風呂のシーンで湯気とかじゃなくて、ガチなモザイク入ったアニメもあるよなぁ。

あ、じゃあ今の僕もモザイク? いや、それはさすがにリリカルなのはじゃないって〜♪



「そんな表現しないでくださいっ! というか、恭文もそんな楽しそうに笑わないでっ!!」



なお、僕もエリオも腰にタオルを巻いてるので、モザイクはありません。



「エリオ、リインと恭文さんはこれくらい普通です」

「そうそう。とにかくせっかくのお風呂、楽しまないとね。行こうか、リイン」

「はいです♪ さ、エリオも来るですよ〜」

「・・・・・・これ、本当に普通なんだよね?」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第16話 『身も心も裸になって、そうやってようやく話せることもある?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・私、リインちゃん見習って行ってこようかな? ほら、最近カップル風呂って出来たし」

「美由希ちゃん、シャレにならないからほんとにやめてね。
つーか、カップルじゃないでしょカップルじゃっ!!」

「いや、お風呂の中でなるかも知れないし。恭文だって男の子だし、私はまぁ・・・・・・別にOKだし」

「公共浴場をなんだと思ってるっ!? そういうのはガチでマナー違反だからやめてっ!!」



・・・・・・『冗談だよ』なんて言いながら笑って手を振るけど・・・・・・どうだか。

美由希ちゃん、恭文くんのこと本当に可愛がるもの。というか、好き?



「色々心配ではあったから、ちょっと気になってるだけだよ」

「あぁ、そっか。どのくらい知ってるの?」

「多分、子育てで休業中のエイミィよりは知ってる」



・・・・・・普通にそれは疑問なんですけど。確かに双子の子育てで、私は局の仕事から引いてるよ?

でも、それ言えば美由希ちゃんはなのはちゃんのお姉さんではあるけど、局の仕事とは無関係だし。



「これでも私、実戦剣術の先輩だもの。そういうのがあるから、色々相談はされるんだ。恭ちゃんやお父さんも同じくだね」



恭文くんは、美由希ちゃんとお兄さん、あと士郎さんにちょくちょく稽古をつけてもらっていた。

その中で色々な事を教わって、まぁ事件もあったりしたんだけど・・・・・・無事に超えられるだけは強くなった。



「恭文さ、やっぱちょっとキテるみたい。なんか、見てて気づいた」

「そっか」



私の目から見てると、普通だった。いつも通りの、普通の恭文くんだった。

話したけど、そこは変わらず。だけど・・・・・・美由希ちゃんの目からすると、違うんだ。



「本当はさ、2ヶ月とか3ヶ月とか、長い間休養させた方がいいんだよ?
こういうの、簡単じゃないから。私もね、たまに割り切れない時がある」



お風呂の中、美由希ちゃんが自分の右手を見る。湯船の中にあったそれは、ゆっくりとお湯の中から出てきた。

肌がお湯を弾くようにして、お湯が手や腕から流れていく。その手を、美由希ちゃんは見る。



「自分の事だけじゃなくて、フェイトちゃんやリインちゃんの事も気にしてるみたいなんだ。
なんだか二人も危なかったんでしょ? そういうのも余計に神経擦り減らす要因」

「・・・・・・そこまで話してたんだ」

「まぁ、知っての通り我が家とフィアッセ、あと香港の母さんはあの子と繋がり深いから」



普通に私や母さんにアルフには『大丈夫』なんて言うくせに。・・・・・・これはちょっとショックだな。

家族じゃなくて、剣術の先輩で自分と経歴が似てる美由希ちゃん達に頼るんだ。



「あー、なんか負けてるなぁ。てーか、これはうちの家族には聞かせられないわ」

「でもさ、エイミィ・・・・・・分かってあげてね? きっと家族だから、余計に弱いとこ見せられないんだよ。
男の子ってさ、そういうとこあるよ。恭ちゃんやお父さんもそうだったから、分かるんだ」

「・・・・・・それ言われちゃうとなぁ。そういう意味では、クロノ君も同じだから」



男の意地ってやつですか。でも、正直その意地を張られると私達は困るんだけどなぁ。

現にうちの家長と使い魔はかなりご不満だし。フェイトちゃんも、心配しまくってる。



「ただ、嫁で義姉としてはその意地をちょっと止めてもらえると嬉しいのよ」





仕事場でもそれのおかげで、エリキャロとも微妙で、スバルちゃんとは相当微妙。

その上なんか、模擬戦で鋼糸使って更に微妙になったとか。

フェイトちゃんから話を聞いて、母さんとアルフが頭抱えてたもの。まぁ・・・・・・なぁ。



一応さ、美由希ちゃんが友達だし、高町家とはご近所だから私達はそういうの認めてるの。

フェイトちゃんも、根っこは同じく。ただ、どっちにしても使って欲しくないというのが、私達の意見。

ミッドでは質量兵器関係にアレルギーがあるから、それに恭文くんが晒されるのを危惧してるのよ。



あー、質量兵器っていうのは、魔法に依存しない物理的な兵器の事。

地球の銃やミサイルと同じと言えば、分かってくれるかな。

鋼糸なんかも、相当厳密に言えばそれになる。もう相当厳密に言えばだけどね?



鋼糸の殺傷能力は使う人間の技量に左右されちゃうから、私達はそこまでじゃないとは思ってる。

美由希ちゃんみたいなマスター級が使うならともかく、私みたいなのが使ったらただの丈夫な糸だもの。

・・・・・・ただ、これには理由があるんだ。新暦という暦になる前、次元世界にはこういう兵器がどっさりとあった。



そのせいで沢山の人が死んで、滅びた世界もかなりある。それが旧暦と呼ばれる時代では普通の事。

暦を新暦とし、その元年に管理局を発足して、管理局・・・・・・ううん、世界は一つの決断をした。

悲しい歴史を繰り返さないために、質量兵器を原則的に禁止したの。そしてそれは、今も同じ。



ロストロギアの保守・管理と同じく、質量兵器の根絶は管理局の目的の一つでもある。

管理局が武力をフェイトちゃん達みたいな魔導師に頼り切ってるのは、そこが原因なんだ。

一応厳正な審査を通せば拳銃くらいは所持出来るけど、それだって魔法のサブみたいなもんだしさ。



そしてその意識は管理局だけじゃなくて、市井の人達にも浸透している。

この辺り、小学校低学年とかで習うような話だもの。だから、そのせいなんだよね。

母さんやアルフ、フェイトちゃんに六課の部隊員が拒否反応を示したのは。



質量兵器・・・・・・魔法に全く頼らない武装を使うのは、それを主な戦い方とするのは、ダメなこと。

過去に行われた過ちを、繰り返していると思われる。それが、大半の人が持つ印象。

これ、間違ってはないと思う。私自身が、子どもの頃や訓練校時代にそう教わってたんだから。



もう言うなれば質量兵器アレルギーだよ。次元世界は、全体的にこのアレルギーにかかっている。

まぁ、これはヘイハチさんが言ってた事のそのまま受け売りだけどね。

だから、恭文くんがそういうのを使うのを認めていても、やっぱり使って欲しくはないと思うんだよ。



私達は『仕方ないなぁ』で済ませられるけど、他の人はそうじゃないもの。



・・・・・・とりあえず、話戻そうか。今は恭文くんの意地っ張りをなんとかするという話だよ。





「でもさ、そんなハードボイルドなんて、あの子のキャラじゃないのにね」

「エイミィ、それは違うよ? ハードボイルドだって、恭文の立派なキャラだよ。
私はアレは凄いと思うけどな。切り替えがちゃんと出来るのは、一つの才能だよ」

「才能・・・・・・かぁ」



その才能のせいで距離を取られる事もあるのは、どう考えればいいんだろ。

母さんやアルフもそこを気にしてる。多少は引きずるくらいが、人間らしいと思うのに。



「まぁ、一応気をつけてあげて? ただ、今は迂闊に触れない方がいい。
・・・・・・心の整理をつける時間さえ取れないんだもの。下手すると、もっとこじれる」

「分かった。母さんとアルフにも、そう言っておく。てゆうか、それなら将来の事とか」

「もちろんダメだよ。・・・・・・リンディさん達、相当気にしてるの?」

「気にしてるね。かなり心配してるから」










・・・・・・私達が触れられないワードは、三つかな。





一つは『JS事件』、二つ目は『管理局入り』、三つ目は・・・・・・『フォン・レイメイ』。





ただ、美由希ちゃんと少し話せてよかった。おかげで地雷を踏むことはなさそうだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あぁ、いいお湯だね」

「本当です」

「なのはママ、銭湯って・・・・・・楽しいね」

「そうでしょ? 隊舎で入るのとは、また違うしね」

「うん」



確かにそうだね。色んな人が居るし、お風呂もいつもより広いし。

あー、でもこの檜のお風呂は気持ちいいなぁ。凄く暖かくて、良い匂いで、安心する。



「あの・・・・・・フェイトさん」



私にそう聞いて来たのはキャロ。なんというか、すごく疑問顔。



「どうしたの?」

「エリオ君はともかく、リインさんは向こうでいいんでしょうか?」

「そういえばそうだよね。リイン曹長、女の子だし」



・・・・・・そっか、二人は知らないんだ。そう言えば、私も話してないし。



「あー、リインはあれでいいんだ。恭文君とは、何回もお風呂に入ってるし」

「てゆーか、あの二人はいつもあんな感じよ? いつでもどこでもベタベタベタベタ」

「なんというか、付き合ってるみたいに見えるよね。
私、時々リインちゃんが羨ましくなるよ。なぎ君と本当に仲良しさんなんだなって」





リインとヤスフミ、互いに相手に裸を見られても平気なくらいに、付き合いが深いから。

海鳴で暮らし始めた頃は・・・・・・週1かな。リイン、うちにお泊りに来てた。

一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、遊んで、寝て・・・・・・それで、一緒に起きる。



それはヤスフミや私達がミッドの方に来てからも、それは変わらない。

頻度はちょっとだけ少なくなったけど、それでも、一緒に過ごす時間は消えたりしない。

もちろん、それまでの記憶も。だからずっと繋がっていられる。



確かに、ヤキモチは焼いちゃうな。リインは私なんかよりずっと、ヤスフミを理解しているから。





「だからはやて、ちょっとだけヤスフミにヤキモチ妬いてるんだ」

「八神部隊長がですか?」

「そうなの。自分やヴィータやシグナムより、ヤスフミの方がリインの正式なロードに見えるって」

「納得しました。でも、本当にそうですね。ご飯も、時間が合えば一緒に食べたりしてますし」



よくお話したり、一緒にお仕事したりしてる。・・・・・・だから、はやてがたまに悔しそうになる。

その様子を思い出して、私はお風呂の中で苦笑い。やっぱりリイン、ヤスフミ一直線だよね。



「でも八神部隊長的には、大丈夫なんでしょうか」

「キャロ、そこは触れないであげて? 私もフェイトちゃんも、気にはしてるんだけど」



なのはが、私に視線を向けてくる。やっぱりなのはも苦笑いしてた。



「・・・・・・ねぇ?」

「そうだね。リインの勢いが凄過ぎるのと、何度かそれで家出したりもあったし」

「そんな事あったんですかっ!?」



私達の結論としては、もうどうしようもないのでそっとしてあげようという事になった。

それはアリサとすずかも同じく。私となのはと同じような顔をしてる。



「まぁ、アレよ。アンタ達は知らないでしょうけど、リインとナギは本当に色々あってね。
そのせいで、互いに離れようがない関係になってるのよ」

「ただ、はやてちゃんはまぁ・・・・・・家族としての意地があるから、頑張ろうとするの」

「でも、負けちゃうんですね。なぎさんにあっさりと」

「・・・・・・うん」



とりあえず、はやてへのお土産・・・・・・もうちょっと調達しようかな。きっと、落ち込んでるだろうし。



「というか、なのはママ」

「ん、なに?」

「恭文も一緒、お風呂入れないの、少し寂しいね」





私やなのはと同年代であるヤスフミは、さすがにこちらには来られない。

というか、来てもだめだよ。私だけならともかく・・・・・・あ、そういう意味じゃないよ?

ヤスフミは変な事を強要したりしないって分かってるから。



というか、なのはやアリサ、すずか達以外の、他の人も居るんだし・・・・・・だめ。

うん、絶対だめ。一応ヤスフミだってもう年頃なんだし。

でも・・・・・・あれ、なんで私・・・・・・エリオとキャロがお風呂入った時の事、思い出してるんだろ。



そう言えば、二人は色々話して仲良くなったって言ってたよね? だったら・・・・・・うーん。





「じゃあヴィヴィオ、後で一緒に男湯の方に行ってみる? そうすれば、なぎさん達と一緒に入れるし」

「でも・・・・・・なのはママとフェイトママが寂しいよね」

「ヴィヴィオ、私やなのはのことは気にしなくていいよ。大丈夫だから、ヤスフミのところに」

「・・・・・・ヴィヴィオ、もしかして、みんなでお風呂に入りたいの? 恭文君だけじゃなくて、エリオとも」



なのはが、何かに気づいたような顔でヴィヴィオを見ながらそう聞いた。



「うん」



それに、ヴィヴィオは頷いた。・・・・・・あぁ、そうか。それなら納得かも。

みんなで一緒にお風呂・・・・・・確かに難しいよね。私達、もう互いに大人なんだし。



「よし。なら、ママに任せて」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁ、いいお湯だね。エリオ」

「そうだね。このボコボコいうのって、クセになるね」

「なるですー。というか、日ごろの頑張りが癒されるですよ〜」





さて、僕達は泡風呂で幸せに浸っていた。それはもう見事に。

エリオも、リインが居る事に大分慣れたよう。実に普通にしている。

で、僕はお風呂に入りながら・・・・・・色々と振り返ってた。



事件中に戦ったとんでも犯罪者のフォン・レイメイの事とか。

詳しくは・・・・・・え、宣伝だめ? ちゃんとここだけで話せ?

しゃあないな。まぁ、アレだよ。スカリエッティが僕を捕まえるために雇った奴なのよ。



ただ、笑って人を殺せるようなとんでもない奴でさ。アレと色々やり合って・・・・・・勝ちはした。

勝ちはしたけど、負けた。負けたから、またリンディさんとかアルフさんとかが不満そうだった。

で、そういうのが終わってようやくあの書類の束と向き合って、片付けば休めると思ったらこれだもの。



あははは、マジですずかさんや美由希さんに恭也さんにはごめんなさいだよなぁ。

あと、アリサもか。相当心配かけまくってる。・・・・・・マジで、一度止まった方がいいのかな。

でも、止まっちゃったらなんだかもう動けなくなりそうで、怖い。少なくとも、今は無理だ。



自分の仕事、守るという綺麗事・・・・・・通さなきゃいけないから。まだ、止まれない。



アレコレに対しての答えを考えるのは、その後かな。後・・・・・・六課解散後か。





「・・・・・・恭文?」



解散後、どうしようかな。普通に嘱託に戻る・・・・・・いや、ちょっと考える。

少し、休みたいな。それで・・・・・・あぁ、そうだ。



「ううん、なんでもない。旅って楽しいなって考えてたの」

「そっか。・・・・・・そうだね、確かに楽しいね」





旅、出ようかな。一人でブラリと、当てもなく色んな所を回る。

その途中でイギリスに寄って、フィアッセさんにも会いに行って・・・・・・そうしようかな。

うん、そうしよう。だって、旅は楽しいもの。知らないものに沢山出会えて、毎日ワクワク。



でも、何処行こうかな。行きたいとこ、今のうちからリストアップしておこうっと。





「でもエリオ、本当に銭湯に慣れてるね。もうちょい緊張するかと思ってたのに」

「うん。・・・・・・前に皆で入って、本当に楽しかったから」

「それでエリオは、ティアのオープンを見たです」

「・・・・・・は?」



オープン・・・・・・全開・・・・・・開店。ティアナ、ショタコンだったか。分かります。



「エリオ、大丈夫だよ。僕は『エリオ×ティアナ』は認められるよ?」

「認めないでよっ! というか、違うっ! 本当に見て」



あ、なんか黙った。そして俯いた。



「すみません、見ました。上から下までくっきりと」

「・・・・・・エリオ、どうしてそうなった? 少なくとも、ティアナからそれはないよね」



さすがにさっきのは冗談だよ。冷静に考えて・・・・・・あぁ、無いな。普通にティアナが見せるとは思えない。

そして、エリオが『エロ男・揉んでやる』に変貌して、見ようとしたとも思えない。それは恐らくない。



「うん。その、原因はスバルさんなんだ」



あのバカのせいかいっ! つか、どうしてプライベートだとそうやってバカなのっ!? いや、もうバカ以外の表現しか出来ないけどっ!!



「スバルが、ティアのバスタオルを剥ぎ取ったですよ。ティアが『見れるうちに見ておきなさい』って言ったので」

「自分の見せなさいよ、そこは」



人を晒し者にしちゃ・・・・・・いや、それをやらないからこそのスバルか。



「アレですよ。スバル的にはティアが初めてで、自分が二番目だと衝撃が強いと思ったんじゃないですか?」

「あ、あれか。『ほら・・・・・・私(ドガ―ン)』みたいなことをするわけか」

「そうですよ。ティアという美人をあえて最初に見せるんです。そして、自らのそれより秀でている部分を後から見せる。
そうするとアラ不思議。スバルの方が、ティアより素敵だと思うですよ。それによって、完全にライバルを崩そうとしてるんですね」



というわけで、僕達の結論は一つ。



「「スバル・・・・・・恐ろしい子っ!!」」

「話が変な方向に行ってないかなっ!? というか、その会話完全にアウトだよっ! それに、リインさんも乗らないでくださいっ!!
・・・・・・でも、アレ本当に困ったよ。僕、みんながフォローしてくれなかったら、しばらくティアさんと話せなかったもん」



そりゃそうだよなぁ。上から下まで真正面がオープンでしょ? しかも、ティアもスバルに負けないくらいにスタイルいいし。

なんていうか、スバルはどうなの? いや、あんな感じだからこそ、部隊のムードメーカーになれるのか。



「まー、アレだよエリオ。大変だったね」

「うん、大変だった。・・・・・・というか、最初から六課に恭文が居てくれたらって何度か考えるんだ。前線メンバーって、男は僕だけだよ?」

「いや、ザフィーラさん居るじゃないのさ」

「でもザフィーラは狼だし、隊舎に居る方が多いし」



・・・・・・ん? 待て待て、なーんか妙な違和感があったぞ。



「あー、エリオ。一つ質問」

「なに?」

「ザフィーラさんが、人の姿になれるって知ってる?」

「・・・・・・・・・・・・え?」










その時のエリオの顔が、非常に面白いものだったのは、言うまでもない。





てゆうか、知らなかったのっ!? えぇ、いやいや・・・・・・どうしてっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「じゃあ、ザフィーラがずっと狼形態なのは」

「はい」



エリオに簡単にだけど事情説明。・・・・・・その昔、はやてと師匠達が一緒に暮らし始めた時。

ザフィーラさんは自分だけ男の人だったので、まだ小さかったはやてに気遣ったとか。



「で、八神家が局に勤め初めてからは、はやてやシャマルさんの護衛につくことが多かったんだって。
その時、あの形態だとやりやすいそうなんだよ。あと、狼形態だと、人材制限に引っかからないとか」



ようするに、そうやって六課が所有する隠し手の一つになっているわけですな。

しかしビックリした。ここまで一度も人の姿になってなかったなんて。



「というか、僕はザフィーラが喋れるって初めて知ったときもビックリしたよ」

「・・・・・・マジですかい。でもさ、それでようやく納得出来た」





なーんでスバルやエリオがザフィーラさんのこと呼び捨てにするのか分からなかったんだけど、理解した。

・・・・・・確かに守護獣や使い魔は呼び捨てが基本だと言われている。アルフさんも、そんな事を言ってた。

でも、それでもザフィーラさんは目上・・・・・・あれ? もしかして僕の考えがおかしいのかな。



そう言えば、さん付けで呼ぶって宣言した時、アルフさんもザフィーラさんも、普通に苦笑いしてたなぁ。





「・・・・・・今からさん付けにしたほうがいいかな?」

「しなくていいと思うよ? あの人、そういうこと気にする人じゃないから。
むしろ親近感持ってくれて嬉しいんじゃないかな」

「ですです。だから、大丈夫ですよ?」



僕とリインの言葉に、ようやく安心した顔を浮かべたエリオを見ながら思った。

でもザフィーラさん、なんというか・・・・・・『盾の守護獣』が『影の守護獣』になってませんか?



「あの、それで話を戻すけど・・・・・・男が僕一人って、やっぱり色々大変だよ」

「あー、確かになぁ。そこに僕が居れば、まだ中和されるもんね」

「でしょっ!? 本当に大変だったんだからっ! 特にスバルさんっ!!
よく抱きつかれたり、お風呂に連れて行かれそうになったり」



・・・・・・スバル、どんだけフリーダムなんだよ。つか、10歳児にそんな感想を持たれるって大概だよ?

なんかシャマルさんやすずかさんや美由希さんの影が見えたのは、気のせいじゃなかったか。やっぱ恐ろしい子だよ。



「最近はそうでもないの?」

「そうだね。恭文の方に興味が出てきたみたいで、僕にはあまり」

「・・・・・・その言い方は誤解を招くからやめて」

「でも、恭文」

「ん?」



エリオが、僕の顔を見て、少し真剣な顔と声をぶつけた。



「スバルさんと、もうちょっと距離詰めた方がいいんじゃないかな。
ほら、仕事ってやっぱり人間関係を上手くやる必要もあるし」

「あいにく、今のところそのつもりはない」

「どうして?」

「どうしても」



ストーカーとお友達になりたいと思う人間は、あまり居ないでしょ。

あぁ、バラしてしまいたい。普通にエリオにバラしてしまいたい。でも、さすがにそれはダメだよね。



「エリオ、そこの辺りには海より深い事情があるのですよ。察してあげてください」

「いや、さすがにそれは無理ですからっ!!」



そう、察して欲しい。普通に僕にも色々問題があるのよ。

・・・・・・なんて考えて、お湯に肩まで浸かっていると声が聴こえた。



「エリオくーんっ! リインさんっ!!」

「恭文ー」





声のした方を見ると、身体にバスタオルを巻いている二人の女の子が見えた。

キャロがヴィヴィオと手を繋いで、ゆっくりと歩いてくる。

あ、そうか。エリオも女湯に入れるけど、キャロも男湯に入れるんだ。もちろんヴィヴィオも。



・・・・・・いやいや、ちょっと待とうよ。あの二人、何故にここに来た?





「二人とも、どうした? ・・・・・・あ、エリオとリインを呼びに来たとか?」

「うん、二人もなんだけど、なぎさんも呼びに来たの」

「恭文、一緒にお風呂入ろう?」

「よし、二人を連れて行って戻りなさい、早く。つーかとっとと戻れ」





二人が泣きそうな顔になったけど気にしては負けだ。普通に入るなら、まだいいのよ。

呼びに来たって言ったのがポイント。つまり、ここじゃない何処かへ入ろうという話だ。

・・・・・・あのね、僕はまだ死にたくないのよ。確かにこの外見だけど、一応男で18歳よ?



なのは達に見つかったら、挿入歌の調べと共にフルボッコだよフルボッコ。





「あのね、二人は子どもだから分からないかも知れないけど、僕は女湯には入れないのよ?」

「別に女湯に入ろうなんて言ってないんだけどっ!!」

「そうだよっ! 恭文のエッチっ!!」



冷たい視線を送りながら、そう言い放つのは幼女二人。

だから、お風呂に浸かりながら遠慮なく、僕は反撃する。



「だったらどこがあるとっ!? 男湯だったら『呼びにきた』なんて表現はしないでしょうがっ!!」

「・・・・・・あ、それもそうだね。えっと、とりあえず女湯じゃないんだ」

「家族風呂って所があってね、そこなら一緒に入れるんだよ」

「家族風呂?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕達三人は二人に連れられて、施設内のある一角にやってきた。ドアを開けると、そこは露天風呂。





入り口からエリオ共々空を見上げると、泡風呂を堪能している間に空は暗くなり、夜の色へと染まっていた。





ここから見上げる夜空に、瞬く星が見える。なんというか綺麗だ。・・・・・・こんな所があったんだね。










「今年の10月に新築されたんだって。それで予約式なんだけど、今日はたまたま空いていてすぐに入れたの」



なるほど、だから僕が知らなかったわけか。だって、その頃だと書類の海に溺れてたし。



「ママ、恭文とエリオさんと、リイン曹長連れてきたよー」



あれ、なんか凄まじく嫌なフレーズを聞きとってしまったんだけど。気のせいかな。



「あ、来た来た。恭文君、エリオもリインもこっちこっち」

「キャロ、ヴィヴィオ、案内ありがとうね。私たちが男湯に入ると、大変なことになっちゃうから」



気のせいじゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんか、バスタオル巻いたフェイトと横馬が居るしっ!!

よし、今やるべきことは一つだ。足を踏み出そう。そう、後ろへと。



「エリオ、リイン戻ろうか」

「ですです」

「恭文、なんか身体が熱いんだけど、どうすればいいの?」

「じゃあ、水風呂入りなさい。でも、急に入っちゃだめだよ?
心臓のところにまず水をかけて冷たさに慣らしてから、身体を入れるの」



それをやらないで急に入って、ショック状態とかになって、病院に運び込まれた人も居る。

人間の身体って、強いように見えて弱いから。こういうところは気をつけないとダメなのよ。



「分かった。やってみるよ」



あー、なんか『ちょっと待ってー』とか聞こえてるけど気のせいだ。

うん、気のせいに決まっているっ! 頼むからそうだと言ってよ神様っ!!



「・・・・・・えっとね、ヴィヴィオが恭文君と一緒にお風呂入りたいって言い出したの。
それでここのこと、ロビーのチラシで見たの思い出して、お願いしてみたんだ」

「そうしたら、丁度予約が空いてたんだ。それで、せっかくだからみんなで入ろうって思って」

「なるほど、事情は分かった。じゃあ後はごゆっくり」

「だから帰らないでっ!! ・・・・・・ヤスフミ、大丈夫だよ? 私もなのはも気にしないから。
付き合いは長いもの。ヤスフミは変なことしないって分かってる。というか、ほら・・・・・・バスタオルだし」



あははは、普通に嫌なんですけど。僕の理性がパーになる可能性があるんですけど。これ、どうしろと?

・・・・・・いや、待てよ。一緒にお風呂・・・・・・そうだ、これは待ちに望んだシチュエーションじゃないか。



「だったら仕方ないなぁ。付き合ってあげようじゃないのさ」

「恭文っ!?」

「相変わらず切り替えが早過ぎですっ!!」



なんて言いながら、早速お湯に突撃。ゆっくりとフェイトの隣を陣取る。そして、横馬に視線を向ける。



”横馬、そこから移動してフェイトから離れて。てゆうか、ヴィヴィオのところに行って。
てゆうか、他のも同様だから。いい? フェイトの隣は僕のものだ。異論は一切認めない”

”どうしてっ!?”

”僕がフェイトのフラグを立てるために必要だからだよっ! そのくらい察しろっ!!”

”察知出来るわけがないよっ! というか、もう無理だからっ!!”



確かに、僕が入ったのと同時に他のみんなも同時に・・・・・・く、リインがさり気なく僕の隣を取った。



”仕方ない。じゃあ、全員ノボせようか。それで僕とフェイトの二人っきりに”

”恭文君、今日はどうしたのっ!? さすがに熱の入れようがおかしいからっ!!
というか、ちょっと怖いよっ! 私もエリオもキャロも、リインも引きまくってるからっ!!”

”この旅行中が、フェイトフラグを成立させる最大のチャンスなんだよっ! もう手段とか選んでいられるかっ!!”



そうだ、僕は甘かった。エリキャロの事とかもう放置でいいんだ。そんな温い事言ってるから、フラグが立たないんだ。

もう手段や体裁など選んでいられない。僕に必要なのは、貪欲なまでのアグレッシブさなんだ。



”無理矢理な事全般以外なら、何でもしてやるっ! さすがにこのまま来年度に行くとかは嫌なんだー!!
だからお前ら協力しろっ! てーか空気を読めっ!? 今ある最大限で空気を読めっ! 答えは聞いてないんだよっ!!”

”あぁ、分かったよっ! 出来る限りいい空気になるように協力はするから、落ち着いてー!!
フェイトちゃんが不審がってるよっ!? ほら、笑って笑ってっ!!”

”・・・・・・恭文、そこまで?”

”エリオ君、エリオ君も8年スルーとかされれば分かるよ。
普通にこれくらいにはなると思うな。だって、8年だもの”

”その間、色々あったですから。さすがの恭文さんも、必死になるのです”



とにもかくにも、僕とフェイトが仲良くなるための最大のチャンスはこうして訪れた。

ヴィヴィオ、ありがとう。あとで美味しいものご馳走してあげるよ。それはもうドッサリと。



「ね、フェイト・・・・・・手、繋いでいい?」



今、僕はフェイトの右隣。フェイトは、左手でバスタオルを押さえながらこちらを向く。

髪はアップにまとめてあって、ほんのり桜色に染まった白い肌が綺麗。



「うん、いいよ」



言いながら、フェイトはそっと僕の左手を取ってくれる。お風呂の中で、僕達は手を繋ぎ合う。

あぁ、幸せだ。うぅ、12話の僕・・・・・・よくやった。そこで説教したから、旅行に行けるんだよ?



「でも」

「でも? ・・・・・・あ、変なことならしないよ」

「違うよ。なんだかヤスフミ、今回は特に甘えん坊だなと思って」

「だって、フェイトと旅行だしさ。いっぱい思い出・・・・・・作りたいんだ」



見上げて、微笑みながら言うとフェイトも頷きながら笑い返してくれた。

あぁ、幸せ。フェイトとお風呂で手を繋いで・・・・・・うぅ、頑張ろう。ここが正念場だ。



「そうなんだ。納得した」










とにもかくにも、お風呂の中でのノンビリとしたお話は始まった。





その様子は・・・・・・まぁ、こんな感じ? なぜか昔の話になってしまったのが不服だけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



オハナシその1:僕の嘱託魔導師認定試験。





「え、なぎさん勝っちゃったのっ!? 負けてボロボロに泣いて、それでフェイトさんに認められるって言う展開の方が面白いのにっ!!」

「そうだよっ! 恭文なんで勝っちゃったのっ!? そんなことしたら、俺最強物とか言われて、クレームついちゃうよっ!!」

「面白いってなんだよ面白いってっ!? つか、そんな僕が空気読めてないみたいに言うなっ!!
大体、そんなのワンパターンなんだよっ! 感性が古過ぎるってーのっ!!」



なんなんだよその意見はっ!? 全く信じられないっ! 何年前のシナリオだよっ!!

いや、それ以前に泣き落としなんて情けないっ! そんなの主人公のやることじゃないしっ!!



「いいっ!? 僕はなにがなんでも勝たなきゃいけなかったんだよっ!!
フェイトは負けたら絶対に能力リミッタ―とかつけて、僕が戦えないようにしたに決まってるしっ!!」

「ちょっと待ってっ! 私はそんなことしないよっ!!」

「・・・・・・嘘だ。だって、そういう話したじゃないのさ」



無理矢理にでもやるとか言って迫ったくせに、なにを言うか。僕はしっかり覚えてるよ?



「・・・・・・ごめん」

「まぁまぁ。恭文君も抑えて。今は、そんなことないんだから」

「まぁね」



うん、今は応援してくれてる。心配だけど、否定なんて絶対したりしない。

そういう気持ち・・・・・・しっかりと届けてくれてる。だから、戦える。



「でもなぎさん、その後はフェイトさんには勝ったりしたの?」

「・・・・・・これがぜーんぜん。しばらくは負けっぱなしだった。
本当にガチでやり合って勝てるようになったのって、ここ2〜3年くらいの間だよ?」

「今でも、勝率・・・・・・3割がいいところかな。私が7割。うん、まだまだ譲らないよ。
ヤスフミも強くなったけど、私だって強くなるんだから」



・・・・・・結構頑張ってるのに、5割どころか4割が抜けないってどういうことだろ。

いやまぁ、フェイトが本当に強いからなんだけどさ。



「ただ、本当に敵同士で実戦でやり合ったら、私がコテンパンに負ける感じがしてるんだ」

「フェイトさん、どうしてですか? それだけ勝率に差があるなら、恭文が勝てるとは思えないんですけど」

「ヤスフミ、身内には優しいんだ。だから、本気と言っても実戦での本気は出せない」



フェイトが、どこか微笑ましそうに僕を見る。だから、僕はそっぽ向く。

・・・・・・そこは触れられたくなかったのに。フェイトのバカ。



「あー、そうだね。恭文君はいい意味でも悪い意味でも命がけの実戦向きなんだ。
だから味方相手の模擬戦なんかだと、攻撃が若干甘くなったりする」



なのはまでなんかニヤニヤし出したし。・・・・・・僕、ここは弱点なんですけど。

身内だろうが、ガチで潰せなくちゃ意味ないでしょ。ハードボイルド通せないし。



「何言うか。なのはにそこ言われたくないし。そういう意味で言えば、なのはも同類でしょ?」



僕となのはは確かに、そういう癖がある。ある程度加減しちゃうというか、攻撃のキレが甘くなるの。

だからさ、スバル達との模擬戦見てて思うのよ。温いなって。実戦で本気になったなのはは、もっと鋭いもの。



「にゃははは、そうだね。私達、似たもの同士だしね」

「そうだね。でも、僕は魔王じゃないから」

「私だって魔王じゃないもんっ! うぅ、そうやってまたいじめるー!!」



でも、やっぱり・・・・・・好きな女の子より弱いのは、ダメな気がする。うん、頑張ろう。



「まぁ、アレだよ。僕は基本弱いよ? 資質で言えばこの中で1番下だろうしさ。
天才や歴戦の猛者を相手にする以上、相手を半殺しにする気でいかなきゃ、勝てない」

「心構えが大事ということかな。やっぱり、戦いって気持ち次第で能力が左右されやすいから」

「そうだよ。エリオ、さすがに戦闘教本であれこれ勉強してるだけはあるじゃないのさ」

「ま、まぁ・・・・・・少しはね」



なんて言いながら、エリオは照れたように苦笑いする。それに、僕もそうだしフェイトやなのはも首を傾げる。



「ただ、本の受け売りなのが情けないけど」

「別にいいんじゃないの? 大事なのは、どこまでそれを実践して、自分のものに出来るかだもの。
それを言えば、僕の手持ちの技能や持論だって、普通に受け売りや習ったものばかりだし」

「そうなんだ。・・・・・・そう言ってもらえると、少しは気が楽になるよ。ありがと」



だから、ハードボイルドなのよ。気持ちを固めて、鉄の男を通す。せめて、戦ってるその瞬間はさ。

それが出来ないと、僕もなのはも今話に出たみたいに弱くなると。あははは、難儀だなぁ。



「なら、恭文も受け売りだけど・・・・・実体験から色々学んで、持論や一つの確信になった?」

「うん。エリオもそうだしキャロも、六課でフェイト達隊長陣と模擬戦してるなら、分かるよね?
オーバーSってランクに居る人間が、どんだけの能力持ってるかってのは」





二人は納得したように頷いた。まぁ、人によるよ? そこは絶対。

戦闘スタイルや相手との相性によって、能力は相対的に変動するんだから。

ただ、単独での戦闘スタイルを確立しているオーバーSってのは、相当に強い。



相手の油断や能力への慢心、僅かな隙に一気に攻撃を叩き込まないと、あっという間に潰される。



だからこそのクレイモアであり、鉄輝一閃。その隙を作り出すためのブレイクハウトだったり、鋼糸だったりする。





「でもなんでだろ。だって、その時はフェイトママに勝ったんだよね。
甘いところがあっても勝ったのに、どうしてその後はダメだったの?」



ヴィヴィオが、疑問と言う顔で聞いてきた。・・・・・・それも、僕の甘さなんだよなぁ。



「そんなの簡単だよ。・・・・・・手札が知られちゃったから」





あの勝負では、僕が勝てたのには、一つの理由がある。

クロノさんと一緒に必死で訓練して覚えたバインドや、氷結系への魔力変換。

それに砲撃などが、とても大きなアドバンテージになったからだ。



特にバインドと氷結系習得による火力の向上は大きかった。

それをフェイトが知らなかった所を突いた故の勝利だと、僕は思う。

そう、色んな状況を利用したからこそ、得られた勝利だ。



つまり・・・・・・それが無ければ負けていた。





「あ、そっか。その後は、フェイトママがバインドとか使えるって知ってたから」

「うん。その辺りを気をつけながら戦ったの。
知っていれば、発動スピードの速いヤスフミの魔法でも対処のしようはあるから」



だからって、普通は中々対処出来ない。出来るのは、フェイトの技量の高さ故だよ。



「だけどこの一戦で、図らずともクロノの言い分が正しいと証明されたことになるのかな」

「なるね。恭文君は、自分のスキルをあれこれ言わない方がいい」

「まー、僕が自分のスキルを人に話さないようにしてたのは、そういうわけもあるの。これも、ある意味戒めになるのかな?」

「スバルはこの説明しても、納得してくれなかったですけどね。リインが言ってもだめでしたし」





あぁ、そうだったね。強いんだから、手札が知られてもなんとかなる。

同じ部隊の人間にまで内緒にする意味が分からないの、一点張りだった。

つか、あの豆柴は僕の実力を過大評価し過ぎてるって。



手持ちの札を上手く活用してるから、強敵揃いのオーバーS相手でもやれるってだけの話なんだし。



そして、それでもギリギリだよ。まだ、甘いんだ。ガチにマスター級を目指すなら、まだだ。





「これは六課だけのことじゃなくて、他のところでもそうしてるの。
基本は平凡な近代ベルカ式のフロントアタッカー」



それで、フェイト達にもそこは協力してもらってる。僕が変則的なオールラウンダーってのは、内緒なのよ。

なお、反対意見は出なかった。手札が知られると、格上相手に弱いというのは立証されたもの。



「そうだったんだ」

「でも、なんで?」



その疑問をぶつけて来たのは、キャロだった。なんでって、なにがよ。



「なぎさん、どうして遠距離攻撃を習得しようと思ったの?
剣術って特化部分があるから、わざわざそこまでして習得する必要もないと思うのに」

「あ、そこは僕も疑問。あのワイヤーみたいなのを使ったりもするし。それはどうしてかな」

「あ、そっちね。うーん・・・・・・『〇〇だから』で言い訳したくなかったからかな」



フェイトと手を繋ぎながら、見上げるのは空。海鳴の星空は久しぶりだから、なんだか楽しくなってくる。



「資質的に合わない。だから遠距離攻撃はいい。魔導師だから、魔法に頼らない武器なんて使う必要がない。
そういうのさ、言い訳だと思ってるんだ。自分の進化の選択肢を狭める、つまんない言い訳。そういうの、目指す所じゃない」



フェイトの、僕の手を握る力が強まった。きっと・・・・・・それは色々と心配をかけている証拠。

でも、ごめん。僕はやっぱ止まれない。これが僕の選択の一つだから。



「魔法使えない人でもね、無茶苦茶強い奴って沢山居るんだ。僕はそういう人、何人も知ってる。
高速魔法張りの移動能力持ってたり、普通の攻撃なんてさっぱり通用しなかったりさ」

「・・・・・・だから、なの? だから恭文は言い訳しない」

「そうだね。そういうのと何度も命のやり取りしてれば、そりゃあこうも考える。それで、気づくの」



感じるのはワクワク。知らないものに、未知なものに触れられる時に感じる胸の高鳴り。



「言い訳して可能性を狭めるなんて、つまらないって。そんな事をしなければ、僕はまだまだ強くなれる。
そう考えると、楽しくなる。それにさ、イチイチ言い訳して足を止めるなんて嫌だし。そんなのカッコ悪い」



浴槽の床に当てていた右手を、そっと握り締める。握り締めながら・・・・・・僕はただ、空を見上げる。



「どっかの正義のヒーローだったら、そこは『やっちゃるっ!!』なんて言って、乗り越えるところだもの。
だったら、僕もそうしたいなってずっと思ってるんだ。そういうの、カッコいいもの」

「そうですね、ヘイハチさんもそういう言い訳しない人ですから・・・・・・そうなるですね」

「うん」

「・・・・・・そっか。なんだか納得したよ」



とりあえず、エリオが納得してくれた所で次に話に行こうか。



「それでそれで、フェイトさんのためにいっぱい頑張ったですよね」



やばい、寒気がした。リインがいきなりなんか言い出してるのが、非常に怖いんですけど。



「リイン、その話はやめない? ほら、色々問題あるし」

「恭文さんが飛び込む気持ちに言い訳しない自分になろうとしたのは、もう一つ理由があるです。
それは・・・・・・フェイトさんの力になるためなのですよ」

「え?」



きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! バ、バラしやがったっ!! ちくしょお、リインに話したの誰っ!? あぁ、僕だったー!!

フェイト、その真っ直ぐな瞳で僕を見つめないで。悲しくなってくるから。いや、言わなきゃいけないように感じるから。



「ヤスフミ、どういう事かな。あの・・・・・・どうして?」



つか、他のみんなもそんな興味深い目で見ないで。悲しくなってくるから。



「・・・・・・みんなの知っての通り、フェイトってオールレンジのスピードアタッカーじゃない?」



僕は、観念して話す事にした。もうそれしか選択が無いみたいだから。



「あ、うん」



執務官という単独行動が多い職業柄、フェイトは多彩な状況に合わせた術式を習得している。

砲撃や誘導弾。広範囲攻撃。果ては近接用の斬撃魔法。あ、それに儀式魔法とかもあったな。



「で、嘱託の試験の時まで、僕はフェイトに一回も勝ったことがなくてさ。
近づけないし近づいても避けられるし。フェイトは僕からすると苦手タイプだったの」

「うん、そうだった。それで恭文君、すっごく悔しがるの」

「で、クロノさんに試験対策であれこれ教えてもらうことになった時に、対フェイトを目標に掲げることになったんだよ」



ここには理由がある。フェイトは、さっきも言ったけどその時の僕が一番苦手としているタイプ。目標としても丁度いいってこと。

あと、僕はどういうわけか格上相手とやりあうことが多いんだから、絶対に遠距離攻撃の手段は必要だと言う話になったのだ。



「・・・・・・そうだったね。恭文君、どういうわけか魔導師に成り立ての頃から、オーバーSとか、AAA級とかとやりあうことが多いんだよね」

「「「そうなのっ!?」」」

「うん、そうなんだ。下手をすれば、私やなのは以上に」





はい、そこの二人。かわいそうなものを見る目で僕を見るな。つか、僕が聞きたいわ。

なんでそんなもんがゴロゴロしてて、それの相手をすることが多いのかが分からないよ。僕がビックリだよ。

確か、AAA以上の魔導師って、局の中でも5%以下のはずだよね。なのになんで・・・・・・いや、待てよ。



局の規模が広いっていうのが、倍率の低さに拍車をかけてるからなんだけど。実際は相当数居るでしょ。





「あと、僕も誘導弾や砲撃なんかが使えると、フェイトみたいなタイプと連携戦なんかした場合、幅が広がるって言われたんだよ」



それで練習する動機には『好きな女の子に負けっぱなしというのも、嫌』なんていうのもあったんだけどね。



「近接戦闘オンリーだと、どうしてもフェイトは射撃戦が中心になる。
それだと、せっかくの近接戦能力とスピードが活かせない。だから」

「覚えたんだね。あの、それならどうして今まで黙ってたの?」

「・・・・・・聞かなかったから」

「そういうことじゃないよっ!! あの時、ちゃんと話してくれれば、私・・・・・・ちゃんと分かったのに」



あぁ、もうそんな暗い空気を出さないでほしい。つか、こうなるのが分かってたから嫌だったんだよ。

くそ、リイン・・・・・・恨むよ? 普通にバラしてくれやがって。



「じゃあヤスフミ、恭也さん達にアレコレ教わったのもそれなの?」

「いや、それはまた別口。てゆうか、フェイト知ってるじゃないのさ」



フェイトとなのは、リインは納得したように頷いた。ただ・・・・・・根源は同じ。

飛び込みたい気持ちに言い訳しない自分になるために、もっと強くなりたいなって考えてたから。



「でも、その狙いは正解だったよね。フェイトちゃんと一緒に戦うの、それから凄く上手になった」

「マジックカードなんかも使うようになったしね」



アレだって、魔力量でスタミナ切れしやすい僕の弱点を防ぐためのものだもの。あと、文字通り手札を増やす。



「でもでも、フェイトさん」

「あ、うん」

「恭文さんが、大事に思っているフェイトさんの力に少しでもなりたいから、頑張ったっていうのは認めてくださいね?
リイン、ちょこちょこ練習お手伝いしてたですが、本当に大変だったんですから。うん、すごく頑張ってたです」

「・・・・・・そうだね。あのヤスフミ・・・・・・ありがと」

「いや、礼を言われるようなことしてないからっ! つか、僕の勝手でやったことだしっ!!」










あー、リインはまた余計なことを・・・・・・とにかく、次行こ次っ!!





次は何の話っ!? 普通に僕が楽な話だと嬉しいんですけどっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



オハナシその2:高町なのはとの友情の始まり。





「・・・・・・なのはママ、そんなにガチにケンカしたんだ」



楽な話じゃなかった。ヴィヴィオに話題振られて、もう答えるしかなかった。ちくしょお、楽がしたいのに。



「あの、ヴィヴィオもエリオもキャロも、お願いだからそんなに呆れた目で私を見ないでっ!!」

「いや、仕方ないでしょ。12歳の時でもそれなんだから」

「でも、それから恭文は、なのはママが好きになったんだよね」

「・・・・・・まぁ、バインドの借りは返せたからね。元々、それが返せなくてイライラしてたようなもんだから」



僕と出会ったとき、この横馬は入院して、リハビリの真っ最中だった。

まぁ、半年の入院生活の終盤も終盤だったから、日常生活には差し支えない程度に回復してはいた。



「でも、魔法の借りは魔法で返さなきゃ意味がないというのが」

「フェイトさんやヴィータ副隊長の話も聞かなかったんですよね? 恭文、強情過ぎるよ」

「二人とも、それはどういう意味かな。よし、小一時間くらい話そうか」



いや、だって常識的に考えてよ? 僕は間違ってないよ。

普通にバインドを出会い頭にかけるような女を、誰が好きになるのよ。



「でも、私は嬉しかったな。恭文君がそう言ってくれて」

「どうしてですか?」

「・・・・・・それってね。『魔法をしっかり使えるくらいにまでちゃんと身体を治して、元気にならなかったら絶対に仲良くなんてしない』って意味だったんだ」



なのはが、とっとも嬉しそうな顔でそう言った。両手を胸の前で合わせて、思い出しながらニコニコしてる。



「恭文君ね、嫌いって言っても会ったばかりの私のこと、本当はずっと応援してくれてたの。
早く元気になれって、いっぱい声をかけてくれてたんだ。うん、恭文君は凄く優しいんだよ?」



待て待て、何その妄想っ!? つか、なんでそんなに『あの時は感激したなぁ〜』みたいな顔で言うのっ!!



「恭文、そうなのっ!?」

「そんな風だから、ギンガさんフラグとか、なのはさんフラグとか言われるんだよっ!!」



ワケ分かんないから、それっ! つか、ギンガさんの話は今は関係ないでしょっ!?



「ちょっと横馬。それ誰から聞いたの?」

「え、フェイトちゃんからだよ」



僕は、当然のようにフェイトの方を向く。フェイトが逃げようとするけど、だめ。

だって、両手掴んでるもの。うん、絶対離さないから。



「・・・・・・ふぇいと、あとでいろいろとはなしをしようか。うん、けっこうながくね」

「あ、あの・・・・・・お手柔らかに」

「恭文さん、角が生えてるですよ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



オハナシその3:SS02事件





「・・・・・・はやてから、僕が来る前の話とか色々聞かせてもらってるのよ。
部隊運営の今後の参考にしたいから、意見が欲しいって言われてね」

「うん?」

「なんていうかさ、なんで六課ってコミュニケーション不足で問題が起こるってパターンが多いのっ!?
どんだけオフィスライクな付き合い方してるのさっ! そうなる意味が分からないしっ!!」



普通の部隊なら、ここまでは言わない。オフィスライクなのが普通だもの。でも、六課は違う。

隊長陣は昔馴染みで、フォワード陣は普通にその関係者が大半。普通なら、人間関係でゴタゴタなどしない。



『め、面目ないです』





さて、ここからはみんなの話だよ。というか、フェイトとエリキャロの話だよ。

要点だけ言うと、フェイトに心配をかけたくない。迷惑をかけたくないと思ったエリオとキャロ。

だから、自分達なりに無理せず背伸びをして頑張った。大人になろうとした。



だけど、フェイトとしてはまた違う不安を覚えてた。

二人には子どもらしく、背伸びせずに甘えたり迷惑をかけたりして欲しかったのだ。

なのに、自分にそういう部分を見せなくなってきたエリキャロに不安を覚えた。



自分が保護者として信用されてない。間違っているのではないかと。

・・・・・・まぁ、思う所はあるけどここはいい。うん、普通でいいよ。

で、それでまた悲しそうな感情を顔に出したフェイトを見て、動揺したエリキャロ。



・・・・・・なんていうか、互いに話してないからそうなるって言うリンディさんとアルフさんの意見は正しいよ。



いや、真面目に思うから。気遣いすぎで行き違うってどんだけですか。まぁ、親子してるとは思うけどね。うん、羨ましい。





「でも、今はそんなことないんだよね?」

「うん、いっぱい話すよ。僕達の気持ち、ちゃんとフェイトさんに伝える」

「うん、伝えてくれてる。私も・・・・・・自分の、もっと甘えて欲しいって気持ち、エリオとキャロに伝えてるよ」



どこか嬉しそうに口にする三人を見て、口からため息が漏れる。

本当にさ、ここまで親子されたら、僕の入る隙なんてないじゃないのさ。



「あ、ヴィヴィオもなのはママにちゃんと伝えてるよー」

「うん、伝えてくれてるね。偉い偉い」

「えへへ♪」



・・・・・・こっちの親子は大丈夫そうだね。てか、大丈夫じゃなかったら困るし。



「というか、ヤスフミも伝えて欲しいな」

「なんで僕っ!? ・・・・・・あ、大丈夫。リンディさんにちゃんと伝えてるから」

「そっちじゃないよっ! というより、そっちも伝えてないよねっ!?」

「そうですっ! そこはリインに」

「ごめん、リインでもないんだ。私に、ちゃんと伝えて欲しい」



なんでっ!? いや、伝えてるじゃないのさ。色々とっ! それはもうすごいいっぱいっ!!



「だって、開発局のお友達のこととか、デンバードとかトゥデイとか、ジャンプ式の訓練とか」

「・・・・・・はい?」

「あと、聖王教会の騎士カリムと友人になってすごくお世話になってることとか、同じタイミングでギンガと凄く仲良くなったこととか。
さっきの話もそうだよ。ヤスフミ、私に隠し事が多い。私は今言ったこと、後から知って本当にビックリした」



・・・・・・いや、だってねぇ。そう言われても困るし。僕だって、言いたい事はあるんだよ?



「フェイトはフェイトで仕事してたじゃないのさ。それに、そういうこと聞いてきたことある?」

「それは、その」

「つか、色々と守秘義務が絡むことが多いのよ。カリムさんの事もギンガさんの事もそう。
フェイトが家族や友達でも、話せない事は多いの。うん、納得したね?」

「だ、だからその・・・・・・納得出来ないっ!!」



なんか逆ギレしたっ!? 待て待て、これは理不尽でしょっ!!



「だって、ヤスフミは話してくれないし聞いても誤魔化されるし・・・・・・それでどうすればいいのっ!?」



いや、近づくのやめてっ!? 僕達は今格好が格好なんだからっ! ヤバいのよっ!!



「私、ちゃんとヤスフミと話したいのっ! 昔みたいに話して・・・・・・分かり合いたいのっ!!」



主に僕の理性がヤバいんだからっ! ・・・・・・よし、こうなったら口先でなんとかするっ!!



「でもフェイト、昔みたいには無理だって。ほら、フェイトも偉くなっちゃったしなんでか子持ちになったし。
僕もリインの押しのせいではやてや師匠から恨みの視線ぶつけられるし。うん、納得したね?」

「してないよっ! というより、それは色々関係がないよねっ!?」

「いや、あるから。それはもうすっごいあるから。ほら、お互いに忙しい身だし、昔通りには」

「出来るよっ!! ・・・・・・ヤスフミ、それだって言い訳じゃないかな。うん、普通に言い訳だよ」



や、やばい。痛いところ突かれた。でもフェイト、お願いだから近づくのやめない?

ほら、胸の谷間すっごい見えてるから。もう見えまくってるから。



「・・・・・・私達は上がろうか」



言いながら、なのはがお風呂から出て・・・・・・いやいや、ちょっと待ってっ!?

なに僕とフェイトを置いて出ようとしてるっ! てゆうか、なんかリインまで上がってるしっ!!



「そうですね。リイン達はお邪魔ですから。さ、ヴィヴィオ行くですよ」

「うん」



行かないでー! みんな、お願いだから助けてっ!? 僕は何も悪いことしてないからっ!!



「なぎさん、ごゆっくり」

「僕達、空気読めるから出てるね」

「ま、待ってっ! 人間空気読めないくらいが可愛いんだよっ!? ほら、スバルなんてめちゃくちゃ可愛いしっ!!」



きゃー! 視線も向けずにみんなお風呂に戻ってくー!!

てゆうか、フェイト離し・・・・・・僕が手を繋いだんだったー!!



「みんな、後でね。私とヤスフミは、ちょっとゆっくりお話するから」



フェイトも普通に見送るなっ! ほら、みんなでお話じゃなかったのっ!? みんなでお話して、仲良くなる場じゃなかったんかいっ!!

僕はそう思ってたんだけどっ! ほら、その趣旨がねじ曲がってるからっ!!



「さ、ヤスフミ・・・・・・せっかくだし、色々お話しようね。お風呂の中でなら、色々素直になれるだろうし」

「へ、へるぷみー!!」










だけど、誰も助けてくれなかった。この後僕達は、微妙な感じでここ最近の事を話した。





なぜ微妙になったかって? 簡単だよ。・・・・・・フェイトが気合い入り過ぎて、僕が引いてしまったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、このマッサージ機は気持ちいいね」

「美由希さん、すこしおばさんくさいですよ」

「う」

「でも、なぎ君・・・・・・とりあえずは元気そうでよかった」



まぁ、アンタと美由希さんは、本当に心配してたしね。そう思うのも・・・・・・でも、とりあえずか。

そこはアタシも同意。大負けのダメージなんて、簡単には癒えないもの。うん、それでいいのよ。



「いや、家の末っ子が心配かけちゃってごめんね。あの子もそうだけど、相棒も止まんない子だからさ」

「あー、大丈夫大丈夫ー。なんとかなるって信じてはいたから」

「なぎ君、ここ一番では強いですから」

「確かに、アイツは引きが強いもんね。・・・・・・何度それでゲームで負けた事か。
なによ、あの引き。アレこそチートよチート」

「アリサちゃん、前にポーカーで大負けしたの、まだ恨んでるの?」



当然よ。おかげで罰ゲームでメイド服でナギを『ご主人様』と呼んだ屈辱、忘れようがないわ。

あー、思い出すと腹が立つ。だから、思わず両拳を思いっ切り叩きつけたりするわけよ。



「あー、それとエイミィ」

「何?」

「恭文、今日うちに泊めるから」

「うん、いいよ」



マッサージ機に揺られながら、美由希さんはとても幸せそうにそう口にした。

普通に聞いていたエイミィさんが、ビックリした顔になる。



「・・・・・・はぁっ!? なんでよっ!!」

「せっかくだし、ちょっと稽古付き合って欲しくてさ。あとは・・・・・・私からお話。いいよね?」

「それは、まぁ・・・・・・あぁもう、仕方ない。そこもお母さん達には連絡しとく」

「ありがと」










・・・・・・ナギ、アンタ感謝だけは忘れないようにしなさいよ?





美由希さんもすずかも、エイミィさんだって相当心配してくれてるんだからさ。





だから・・・・・・とっとと大負けのショックから立ち直りなさい。じゃないと、アタシまで調子狂うのよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁ、こんな感じでスーパー戦闘・・・・・・もとい、銭湯タイムは終了した。

この後、全員でハラオウン家へと向かった。・・・・・・フェイトが微妙だけど。

今ひとつ上手く話せなかったのが、不満らしい。フェイト的には、何かが納得出来ないと。





それが分からなくて、ずっと頭を捻ってる。でも、残念ながら僕にもそこが分からない。





そして、ハラオウン家に上陸すると・・・・・・僕には一つの問題が持ち上がった。










「母さん、ただいま」

「「ただいま戻りましたー!!」」



なお、エリキャロはただいまと言うことにしようと、事前に取り決めていたそうだ。まぁ、正解だね。



「「パパ、おかえりー!!」」





そうして、リビングから僕の方へと走りよってくるのは・・・・・・一組の男女。というか、子ども。

同じ顔立ちで、ほぼ同じ髪型。ヴィヴィオよりも小さい身長の双子。

この子達は、クロノさんとエイミィさんの子ども。その名も、カレルとリエラ。



そして、パパと呼ばれたのは・・・・・・僕です。あははは、やっぱり直ってなかったかぁ。





「うん、ただいま。カレル、リエラ、元気だった?」

「「うん♪」」

≪お二人とも、お久しぶりです。というか、まだパパなんですね≫

「あるとあいぜんー♪ おひさしぶりー。
というか、パパはパパだもんっ!!」

「そうだよっ! パパには、パパって呼ばなきゃいけないんだよっ!?」



・・・・・・説明が必要? うん、そうだよね。エリオもキャロもヴィヴィオさえもぽかーんとしてるし。



「あのね、ヤスフミは、二人からパパって呼ばれてるんだ」

「いや、それは見れば分かるんですけど」

「なぎさん、まさかエイミィさんとそういう関係なの?」

「んなわけあるかボケっ! 全くクリーンな関係だよっ!!」



あぁ、そうだそうだっ! これがあったんだっ!!

仕方ない、ちゃんと。



「あー、それは私から説明するわ」



エイミィさんが説明してくれるらしい。



「恭文くんね、この子達が生まれた時に1年位魔導師の仕事休んで、私の子育て手伝ってくれてたのよ」

「あ、ひょっとしてそれでパパって呼んでるんですか?」

「うん。・・・・・・なんでか、うちの旦那様より先にね」



あぁ、そうでしたね。その事実は忘れていたかった。ちなみに、原因と思われることはこれだけではない。



「それだけじゃなくて・・・・・・まぁ、その。私の出産の時、恭文くんが最後まで立ち会ってくれたのよ。
というか出産してすぐ、私の次にこの子達抱いたの・・・・・・恭文くんだよ?」

「なぎさん」

「恭文、さすがにそれは」

「待ってっ! そんな非難の目で僕を見るなっ!!」



つーか、クロノさん航海任務で居なかったしっ!! それでどうしろとっ!?



「あと、僕に子ども抱かせたのは病院の助産婦さんだからっ!!
あの感動シーンで、抱かないって選択肢はなかったんだよっ!!」



お前ら、僕がどんだけ心苦しかったとっ!? マジで辛かったんだよっ!!



「『よかったね。パパに抱いてもらえて』って言われた時の僕の居心地の悪さが、お前らに分かるのかっ!?
マジで僕は泣きたかったんだよー! 誕生の喜びじゃなくて、クロノさんから色んなものを奪った罪悪感で泣きたかったんだよっ!!」

「あぁ、ヤスフミ落ち着いてっ!? ハードボイルドハードボイルドッ!!」





実際、それからクロノさんはすごくヘコんだ。僕を責めるようなことは言わないけど、ヘコんでた。

なお、それだけで済めばよかったんだけど・・・・・・済まなかった。

僕がクロノさんより先にパパって呼ばれたもんだから、またヘコんだ。



一時期、本気で『エイミィさん×僕』について疑惑もたれてたし。何回ガチな家族会議が行われたと?





「・・・・・・まぁ、実際問題として、恭文君とエイミィには何も無いんだけどね。ということで、みんなお帰り」

「おかえり。てゆうかさ、早速その話するのやめろよ。アタシらも頭痛かったんだしさ」



なんて言いながら僕達に声をかけるのは、リンディさんともう一人。犬耳犬尻尾な幼女。

オレンジに近い色合いの長い髪の子は、アルフさん。何回か名前が出てる、フェイトの使い魔。



「ただいま。母さん、アルフ」

「おう、おかえり。お風呂は堪能してきたか?」



アルフさんは、元々フェイトの補佐として局の仕事に携わっていたけど、4年前に引退。

現在は、ここで家事手伝い。カレルとリエラの世話に頑張る可愛い使い魔さんだ。



「「ただいま戻りました」」

「ただいまです」



・・・・・・アルフさん、何故に僕をそんな微妙な目で見る。いや、覚えあるけど。すっごいあるけど。



”まぁ、アレだ。恭文”

”ほい?”

”悪かった”



あれ、なんかいきなり謝ってきたし。またどうしたのよ、これ。



”いやさ、色々反省したんだ。アタシはもう引退組だし、あんま我が物顔で言うのもダメだってさ。
マジで悪かったと思ってる。現場に出てるアンタの状況、理解しようともしなかった”

”・・・・・・謝るくらいなら最初からグダグダ言うな。うざったいし。
てーか、もう話しかけるな。悪いけどこっちは、お前に何の用もない”





ハッキリそう通告すると、アルフさんが固まった。・・・・・・残念ながら、僕は性格が悪いの。

謝ってそれで全部オーケーなんて、基本的にフェイトとリイン以外には許さない。

とにかく、ヘコみ気味なアルフさんはともかくとして、僕達は家に上がる。



アルフさんには、視線を向けない。うん、僕が向ける義理立てないし。





「・・・・・・ねぇ、恭文君」

「ただいまです。リンディさん。あと、それは嫌です」

「まだなにも言ってないでしょっ!?」

「いや、なんとなく嫌な予感したんで。さ、とにかくあがりますね。つーか、ご飯ご飯♪」

「あぁん、いけずー。お願いだから一回くらい『お母さん』って言ってくれていいじゃないのよー」










・・・・・・言ったじゃないですか。ここにお世話になるようになってから、一回だけ。





というか、気恥ずかしいので、あとにする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、それから楽しくお食事会を済ませた。いやぁ、うっとおしい気分が吹き飛んでよかったよ。

高町家の面々や、アリサにすずかさん、なのは達も、ホクホク顔で帰って行った。

で、日帰りな予定を組んでいたなのはとヴィヴィオ、リインはミッドに戻る。





このまますずかさんの家の転送ポートから、ミッドに戻るそうだ。・・・・・・ま、しばしのお別れってことで。










「・・・・・・てか、早朝訓練ならハラオウン家でもよかったのに」

「いいじゃんいいじゃん。せっかくだし、色々とさ」



まぁ、僕は高町家の客間でお世話になるんだけど。なお、士郎さんと桃子さんは先に戻ってる。

火の元、ちゃんと閉めたかどうか気になったとか。・・・・・・いやいや、大丈夫でしょ。



「というかさ、居辛いでしょ」

「・・・・・・かなり」



美由希さんには、色々相談してるから丸分かりらしい。どうにもこうにもなぁ。



「心配してくれてるのは分かるんですけどね」

「そうだね。でも・・・・・・ちょっと辛い」

「はい」

「まぁ、仕方ないんだろうね。非殺傷設定って言うの? そういうの常識なんでしょ?
だから、余計にアレルギー反応起こしちゃうんだよ。あとは、身内だから」



夜道を美由希さんと二人で歩きながら、そんな話。それは、JS事件での大負けの話。

フォン・レイメイと戦って、また間違えて・・・・・・傷つけた事。何も守れなかった事。



「守るって、難しいですよね」



満点に輝く星を見ながら、僕は歩を進める。そうして思い出すのは、大事な女の子の顔。

一人は、フェイト。それでもう一人は・・・・・・リイン。



「全部守れるわけなんてなくて。手は二つだからどうしても限界はあって。
・・・・・・だから、考える必要があるんですよね。何を守りたいのかとか、真剣に」



以前、ゼスト・グランガイツさんにそう言われた事がある。何を守りたいか、何を通したいかを常に問いかけろ。

もしも僕が大事なものを守る騎士なら・・・・・・どんなに苦しくても、問いかけ続けろと。



「そうだよ。でも、恭文は答えが出てるんでしょ?」

「出て、ますね」



何を・・・・・・何を1番に守りたいかって考えて、出てきた答えは一つ。

でも、分からない。どうすればそれを通せるのか、まだ分からない。



「なら、少しずつ考えていけばいいから」



美由希さんの左手が、僕の頭に乗る。そのまま、優しく撫でてくれる。



「少しずつ考えて、ちょっとずつ道を探せばいい。時間は、かかってもいいよ。
少なくとも今は、それが許される時間なんだから。・・・・・・ね?」

「・・・・・・はい」










考えたり、迷ったり出来るのは世界が概ね平和だから。だから・・・・・・考える必要がある。

僕が、本当にどうしたいのか。1番守りたいものを守るために、どうすればいいのか。

・・・・・・考えて答えを・・・・・・嘘や偽りの無い僕の答えを、出すしかない。





僕は、そのままもう一度空を見上げる。空の星達は、ただ優しく・・・・・・輝いてそこに居た。










(第17話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで・・・・・・やばい、ネタ振りが難しいと思い始めた蒼凪恭文です」

あむ「どうも。日奈森あむです。え、難しいってなにが?」

恭文「いやさ、同人誌で初見の人のためにとか考えたら、どこまでJS事件話とかのネタばらししていいのかなってかなりね」

あむ「まぁ、外伝としてもう話が出てるし、そこまで意識はしなくていいんじゃないの?
ちょっと思わせぶりな感じで、あれこれ話振って・・・・・・でさ」

恭文「ならいいんだけどさ。外伝読むこと前提なのもどうかなーとか思ってて。
・・・・・・いっそ、一緒にJS事件話も同人誌化とかした方がいいのかな。それでセットって感じでさ」

あむ「あー、それも一つの手か。まぁ、そこはまた考えていこうよ。
今の段階なら、まだ修正は利くんだし。・・・・・・で、結局改訂版16話は二分割しました」





(すみません、普通に長かったんです)





恭文「あはは、早速話数増えたね。普通にこれはアレだって」

あむ「それで、全編湯気と温泉だね」

恭文「うん。大分スッキリした感じ。なお、三日目は17話となりますので、ご了承ください」

あむ「でも温泉・・・・・・いいなぁ。うちの近所だと、こういうの無いからなぁ」

恭文「海鳴はそういうの恵まれてるしね。でも、その年で温泉ご要望って、もはやヒロインじゃ」

あむ「うっさいっ! いいじゃん、ヒロインでも温泉好きだってさっ!!」





(現・魔法少女でも、温泉は好きらしい)





あむ「というわけで、お休みも次で最後。さて、どうなるか」

恭文「もう1話追加にならないことを、祈るのみだよ。それでは、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむでした。それじゃあ、また次回にー」










(そうして二人、そこから温泉の話になる。どこのお風呂がいいかについて、熱く談義。
本日のED:改訂版FSのテーマソング・アンティック-珈琲店-『覚醒ヒロイズム』)




















リンディ「・・・・・・そう。相当辛辣に言われちゃったのね」

アルフ「あぁ。聞く耳持たずって感じだった。その・・・・・・当然だよな」

リンディ「そんな事は無いわよ。はぁ、あの子ももうちょっと何とか・・・・・・ならないわよね。
私達が実際に面倒事を押し付けちゃってるのは、事実ですもの。計算、狂っちゃったなぁ」

アルフ「とりあえず、時期を見てもう一回話してみるよ。この間のあれこれは、アタシが悪かったと思うし」

リンディ「なら私は・・・・・・どうしようかしら。後見人としても、あの子にはもうちょっと六課に馴染んで欲しい所だけど・・・・・・うーん」

フェイト「・・・・・・・・・・・・ヤスフミと、あんまり上手く話せなかった。
なんでだろ。どこかズレてるというか、噛み合わない感じがして」

エイミィ「あぁ、フェイトちゃん落ち込まないの。・・・・・・あはは、これどうすればいい? 色々爆弾フラグが出てるんだけど」










(おしまい)






[*前へ][次へ#]

3/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!