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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第14話 『話して分かることがある。一日一緒にいて、なんとなく分かることもある』(加筆修正版)



今回の話の全てのきっかけは、ギンガさんとフェイトによるお説教だった。

場所は、六課の談話室の一つ。・・・・・・これが自業自得だとは、まぁ分かってた。正直分かってた。

二人は謝れと言うので、適当に流しまくってた。流しに流して気にしない方向にした。





てーか、謝るべきとこは謝ったのに、これ以上やる必要ないもの。

で、またまたフェイトが『仲良く出来ないよ?』と言うので、『する必要ない』と言い切った。

普通にフェイトが不機嫌になったりしたけど、気にしない。とりあえず、そんな感じで話は終わった。





で、ギンガさんがようやくこっちに来た用件を話してくれた。それで、話がようやく始まった。










「実は首都でね、カップルを中心に狙っている強盗が出没しているんだ。
だけど、中々捕まえられなくて。見回りも強化してるんだけど、効果が無いの」

「それで私もギンガから相談されたんだ。何かいい方法は無いかって・・・・・・その、ヤスフミ」

「・・・・・・いいよ」

「だめっ! というかなぎ君、なんで私達の方を見てくれな・・・・・・え?」

「いや、だからいいよって答えたんだけど」



つか、真っ直ぐに目を見据えて話してるじゃないのさ。なんで僕が、あたかも見てないように言うの?



「ヤスフミ・・・・・・どうしたのっ!? あの、ひょっとして具合悪いのかなっ!!」

「・・・・・・どういう意味さ、それ」



つーか、どうしてそうなるのさ。僕がゴネるとか思ってたわけですか。



「なぎ君、お願いだからちゃんと話を聞いてくれないかな」

「いや、聞いてるじゃないのさ。それでいいって言ってるんだけど」

「ヤスフミ、ちゃんとした話なんだよ? だから、最後まで聞いて。
というか、ギンガがどうして欲しいのか、ヤスフミ分かってるのかな」

「え、分かってて言ってるんだけど」

「「えぇっ!?」」



いやいや、そこでなんで驚くのさ。・・・・・・とにかく、話は分かった。



「ようするに、その犯人を僕が捕まえろってことでしょ」



そうして、僕は席を立ち上がって外に出ようとした。だって、引き受けるって決めたから。



「お願い、話は最期まで聞いてくれないかなっ!?」



・・・・・・何故か、それでギンガさんに手を掴まれたけど。



「いや、聞いたでしょっ!? なんの問題があるとっ! それと字が違うからっ!!」



正解は、『最後』だね。てゆうか、普通に不吉だからやめて欲しい。



≪というか、何がそこまで信じられないんですか。この人、オーケーしましたよね?≫

「あの、それはそうなんだけど・・・・・・とにかく、最後まで説明するから、ちゃんと聞いて?」



ギンガさん的にはそういう事らしいので、聞くことにしたわけですよ。フェイトも首を縦に振りまくってるし。



「とにかくさっき話したような感じで、パトロール強化をしても根本的な解決にはならない。
だから、なぎ君が女の子と私服で夜の街をうろついていれば、強盗のほうから来ると思うの」



そこを一網打尽。ようするに囮捜査というわけですか。うん、まったく予想通りだよね。なので、僕は頷く。



「なら、それでいいよ。僕は遠慮なく引き受け・・・・・・って、フェイト?
お願いだから、手をそんなに強く握らないで。どんな愛情表現なのさ」

「ヤスフミ、お願い。お願いだから、ちゃんと私達の話を聞いて」

「バカじゃないのっ!? 今聞いたよねっ!? それで引き受けるって言ったでしょうがっ!!
なんでそんなに信じられないのっ! あぁもういいっ!! だったらもう断ればいいんでしょっ!?」

「それはだめっ!!」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



だったらどうしろって言うんだよっ! お前らマジでワケ分かんないしっ!!



「・・・・・・あの、フェイトさんもギンガさんも、マジでイミフですよ。
コイツは全部聞いて、それで引き受けるって言ってるじゃないですか」



今まで黙って話を聞いていたティアナが、さすがに呆れたように口を開いた。

まぁ、そりゃそうだよね。僕だって、これはイミフだもの。



「なんでそれでそうなるんですか? 依頼してきたギンガさん達がその反応は、おかしいでしょ」

「それは・・・・・・その」

「あの、私もフェイトさんも、引き受けてくれるとは思ってなかったの。なぎ君、体型にコンプレックスがあるから」

「コンプレックス?」





あー、一応説明しておくと、僕は自分の身体というのが・・・・・・好きじゃない。ぶっちゃけると嫌いだ。

身長も低い。顔立ちや体型は女性的。声だって、言うなれば少年・・・・・・というか、女の子と言ってもいい。

声のトーン、エリオよりも高いしね。その僕が女の子と歩けば・・・・・・どうなる?



この場合は担当捜査官のギンガさんなり、六課の捜査担当であるフェイトだろうけどさ。

とにかく、強盗から見れば絶好のカモと見える。108の筋肉隆々な方々よりは、かなりマシ。

ギンガさんが僕に頼もうとしたのも、それが大きい。で、二人がこんな調子なのもそこなのよ。



ようするに、僕のコンプレックスを刺激するとか思ってる。まぁ、確かになぁ。



身長があればフェイトも僕を弟としてではなく、男として見てくれるのかなと考えたりするし。





「ギンガさん、あとフェイトも」

「「・・・・・・うん」」

「もうさ、めんどいからこれで終わらせるよ? 僕は、この仕事を引き受ける。
局員どうこうじゃなくて、大事な友達二人の頼みなら僕はしっかりやる」



それで報酬も、しっかりいただくと付け加えたりはする。うん、ここ大事よ?



「ただし、条件が一つ」



右手の指をピンと立てて、僕は・・・・・・たった一つの条件を二人に突きつける。



「それは・・・・・・攻撃行動に関しては、一切の制限をしない事。
例え僕が犯人を殺そうが腕をぶった斬ろうが、文句は一切言わない事」



二人が苦い顔をする。というか、ティアナもだ。まぁ、普通に『殺す』なんて言うからだけどさ。

でも、いいのよ。今はあくまでも例えで言ってるだけだもの。



「なお、異論反論は認めないし、僕もここだけは絶対譲らない。
もしも現場で攻撃行動を制限するつもりなら、すぐに他を当たって。さ、どうする?」



僕は二人の目を、睨み気味にそう断言する。それで二人は数秒顔を見合わせて・・・・・・頷き合った。



「分かった。なら、その条件は飲むよ。ただ・・・・・・必要以上に乱暴な事をするのはダメだよ?」

「そこは私もお願いしたいんだ。戦闘になった場合、シチュが街中になるのは確定だもの。
被害が、ヤスフミとティアだけに留まらない可能性があるんだから」

「分かってるよ。あくまでも周辺被害を出さないための、即時鎮圧だから。うん、そこは承知してる。それでいいよね?」

「それなら大丈夫だよ。・・・・・・ヤスフミ、ありがと。
かなり助かる。実はギンガも他の捜査官の人達も、かなり困ってたんだ」

「別にいいって。ぶっちゃけ報酬の」



お手上げポーズでそう言いかけて・・・・・・数秒固まった。



「そっか。それを聞いて、ちょっと安心した」



その理由はとっても簡単。さっきのフェイトの発言に、とんでもない爆弾を見つけたから。



「あの、ちょっと待ってください。今・・・・・・なんて言いました?」



あ、ティアナもさすがに気づいたか。うん、そうだよね。さっきさりげなく、自分の名前出たんだから。



「あのさ、なんか今・・・・・・ティアナの名前が出たような」

「あのね、囮捜査はなぎ君とティアにしてもらおうと思って」

「「はぁぁぁぁぁぁっ!?」」





・・・・・・僕は一つ忘れていた。ギンガさんが、まだリハビリ中の身だということを。

当人はやる気充分だったそうなのだけど、マリエルさんにそれがバレた。

そのために、お叱りの後にドクターストップがかけられたらしい。



まぁ当然だよね、死にかけたんだし。で、僕に協力してもらうのは決定として、問題が一つ。



他に誰がいるかと考えて、ティアナならいいのではないかと思ったそうだ。





「まず一つに、ヤスフミが言ったように相手方に魔導師が居る可能性もある。だから、魔導師がいいと思ったんだ。
そう考えると、例えば六課の中で言えばシャーリーやルキノ達みたいな、非戦闘用員はだめ」

「それで、スバルも考えたの」



この辺り、ギンガさんが頼みやすいというのがあるらしい。あと、背丈の問題だね。

スバルやティアナなら、僕と同じくらいで若い10代前半のカップルに見えるとか。



「ただ、あの子はその・・・・・・なぎ君も知っての通り、空気が読めないでしょ?
正直、こういう囮捜査には向かないんじゃないかというのが、私達の結論なの」

「なるほど」



てか、泣かないでよ。僕が悪いことしたみたいだしさ。・・・・・・やっぱ、ギンガさんもアレは苦労してるんだ。



「それでティアなんだ。私もギンガから相談されて、それが1番いいかなって」

「いやいや、フェイトでいいじゃん。執務官だし、こういうのは得意技でしょ」

「えっと、あの・・・・・・そこも考えたんだ。ただあの」



・・・・・・フェイト、申し訳なさそうな顔をしなくてもいい。うん、もう分かったから。



「そうだよね。僕とフェイトと身長差じゃ、姉弟だもんね」



フェイトは、申し訳なさげに頷いた。・・・・・・フェイトがダメな理由は、僕との身長差。

そのせいで、僕とは恋人に見えない。で、手近なところで出来る人が居なくて、ティアになったわけですよ。



「うん、そうだよね。ダメだよね。僕、フェイトくらいの身長の女の子とは、恋人になれないもんね」

「あの、違うの。お願いだから落ち込まないで? ・・・・・・うぅ、ごめん」










・・・・・・色々突き刺さった。正直、放り出してやろうかとも思ったけど、まぁここはいいさ。





フェイトはちゃんとそういうの分かって、申し訳ないとか思ってくれてるんだし。だったら、納得する。





だから暴れてやる。犯人半殺しにしてやる。つーか、ストレス解消してやる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とにかく、そこから話は進んでいった。実行日時とパトロールコースなどを打ち合わせした。

それから迎えの車に乗って帰って行ったギンガさんを見送って、その日は僕も帰路についた。

こうして、僕とティアナのデートを模した強盗ホイホイな囮捜査は、決行されることになった。





僕は首都クラナガンにある、待ち合わせでよく使われる広場に居た。

あれから大体4日後。時刻は、もうすぐ午後6時になろうかという時間。

さすがに日が沈みかけて、少し辺りが薄暗い。だけど、街の街頭とイルミネーションが辺りを彩る。





そのために、辺りの光景を明るくさせている。ここだけ昼みたいなノリだ。

ここには一つの逸話がある。それは新暦が始まって間もない頃の話。

とあるフェレットと飼い主の主人が居た。主人とはぐれたフェレットは、一途にこの場所でずっと待ち続けていたとか。





だからあるのよ。広場のど真ん中に実寸の何倍の大きさだって言いたくなるような、フェレットの石像が。

この話は、ミッドでは絵本やら映画やらアニメやらにもなっているほど有名な話。

ここに住む人間なら、知らない人は居ないくらい。つまり、ミッドの忠犬ハチ公なのよ。





なんでもユーノ先生が変身魔法でフェレットに変化しようと思ったのは、この話のせいらしい。

子どもの頃に絵本で読んだこの話の影響で、フェレットが好きだったからとか。

そういうわけで、この場所は首都ではかなり有名な合流スポットとなっている。










「ごめん、待たせちゃったわね」





どうやら、待ち人が来たようである。僕を呼ぶのは、オレンジ色の髪をした一人の女の子。

今日はいつもツインテールな髪を、ストレートに下ろしている。

その子は、当然ティアナ。僕とティアナは、ここで待ち合わせしてた。



ティアナがこちらへ走ってきた。で、それをなんとも言えない心地で見ている。





「ティアナ、別に走ってこなくてもいいのに。待ち合わせの時間まで、まだ余裕あるよ?」





大体15分くらいね。ちなみに僕は今から15分ほど前に来て、人の動きを見ながらぼーっとしていた。

あのね、すごく気分が重かったの。それで覚悟を決めるために少しだけ、早く来た。

夕方の街の空気を吸いながら、一人で覚悟を決めたかった。



でも、決まる前に来ました。くそ、空気をマジで読んで欲しいんですけど。





「アンタがもう来てるとは思わなかったのよ」

「僕の周りの素敵なお姉さん達に『男の子は待たせるんじゃなくて待つもの』って教わったし、これくらいは当然だよ」



なお、なのはとかではない。実は、フェイトでもない。まぁその辺りは・・・・・・察して?



「へぇ、意外とレディに気を使う教育受けてるのね。感心感心。
・・・・・・あの、お願いだからさ。もう少し楽しそうな顔して欲しいんだけど」

「ごめん、すぐには無理」



ティアナがため息を吐く。でも、分かって欲しい。

いきなり友達でも何でもない子とデートしても、色々辛いだけなのよ。



「そんなに気分乗らないの?」

「別にそういうわけじゃない」



これで『全く乗らない』って言えないのが、僕の甘さだと思う。まぁ・・・・・・なぁ。

フェイト以外の女の子とデート、如何わしい事抜きで実は結構してるし、あんま言えないか。



「てーか、デート前ってのはみんなこうよ? 特に、初デートの時にはね。
どうリードしようかとか、どういう風に話していこうとか、色々不安が付きまとうのよ」

「・・・・・・なるほど、一種のブルー入っちゃうわけか。それなら納得した」





さて、納得してかれたティアナを見ながら、今回の突発的なミッションの内容を反芻する。

ギンガさんとフェイトの話だと強盗がよく出没する時間帯は、今くらいの時間帯から深夜11時にかけて。

狙われているカップルも、それほど大人ではない。大体僕達と同い年くらいだ。



ようするに終電は諦めて、そのままご宿泊・ご休憩な所に入ってお泊りな関係ではない。

健全な付き合い方をしている感じで、少し弱そうでちょっと脅せば簡単に言うことを聞いてくれる。

年齢にすれば大体10代前半や、後半入りたてくらいのカップルが被害に遭いやすいとか。



だから、僕でありティアナなんだろうね。確かにフェイトやギンガさんじゃ、大人っぽ過ぎる。

それでこういう事件だと、胸糞の悪い話だけど女性が二次被害に遭う事も多い。

今回の強盗事件では金品だけで、その手の事が起きてないのが救い。



だけど・・・・・・いつ起きるとも限らない。二人や他の関係者も、その辺りを相当危惧してた。

仕方ない。面倒事になって、胸糞悪くなる前に絶対に解決しよう。

とにかくそんなわけで、僕も今回はちょぴっと弱そうな服装で来ている。



理由は当然、狙われるために。ちなみにコーディネイトは、はやてとシャーリーの二人。

ギンガさんとフェイトから、話を聞いて自主的に協力してくれたのよ。

ただ・・・・・・色々ゴタゴタしたのは、言うまでと思う。つかアイツら、楽しんでやがったし。



まぁ、それでも辛い僕の心情をフォローしてくれたのはありがたかった。

とにかく僕は黒のインナーに、薄手の白いパーカーを羽織る。

下はジーンズ生地のパンツ。足元には、白のスニーカーを履いている。



そして、はやての入れ知恵でワンポイント入れてある。

伊達で、フレームの細い眼鏡をかけているの。なお、シャーリー印の特注品。

なんていうか、弱そうっていうよりアキバに居るオタクっぽい格好じゃないかと、ちょっと思う。



・・・・・・あ、でも最近はそんなこともないのか。みんなかっこいい格好してたし。

そして、今回の恋人役であるティアナの格好はというと・・・・・・こっちも気合い入ってる。

白のワンピースに、紺色の長袖で薄手な上着を羽織っている。




髪型はさっきも言ったけど、ストレートのロングヘアー。これはこれで新鮮。





「それじゃあとっとと行きましょ」



言いながら、ティアナが僕の左手を握る。というか、恋人繋ぎ。



「・・・・・・はやてやシャーリーの入れ知恵?」

「そうよ。こうすると恋人同士に見えるらしいから。てか、よく分かったわね」

「一応、付き合いは長いもの。ギンガさんやフェイトは、こういうの出来ないし」

「そっか」










そうして僕達は広場から、首都の繁華街へと歩き始めた。





・・・・・・当然、手は恋人繋ぎで。狙われるために、嘘っぱちなデートはこうして始まった。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第14話 『話して分かることがある。一日一緒にいて、なんとなく分かることもある』



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なんでよ。なんで私、こんなにドキドキしてるの?

表面上は平気な顔を装っているけど、身体の中がすごく熱い。

何時、それがコイツに悟られるんじゃないかってビクビクしてる。





で、でも八神部隊長とシャーリーさんから、これくらいしないと成功しないって言われたし。

私も実際そう思うし・・・・・・ここでやめるわけにはいかないわよね。

コイツは・・・・・・どうなのかな? なんか普通にしてるから、そこの辺りが読み切れない。





私は恥ずかしい。別に、コイツとこうしているのが嫌っていう意味じゃない。

なんていうか少し不思議な感じ。やっぱり初めて・・・・・・だからかな?

こんな風に男の子とその、恋人みたいな手の繋ぎ方するのは。





でも、嫌じゃない。色々あったけど・・・・・・私はコイツと居るの、嫌じゃない。そこだけは、確定かな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・僕達は、首都クラナガンの繁華街の方へとやってきた。

事前打ち合わせの中で被害者の証言を見せてもらったのだけど、事件が発生する状況は全く同じ。

繁華街を歩いている時に男連中五〜六人にいきなり囲まれて、ナイフを突きつけられる。





その後に裏路地へと連れ込まれて、男の方に殴る蹴るの暴行。

それにより怯えきって、抵抗の意思を無くしたカップルから金目の物を強奪。

バカにしたような笑いと共に立ち去る・・・・・・という腐ったやり口である。





そいつらだけでやってるってわけじゃなくて、後ろ盾が居る可能性も二人は考えていた。

893な方々とか、繁華街ではた迷惑な規模で吊るんで息巻いてる連中なんかだね。

だけど、それはシバキあげればすぐに吐くでしょ。というか、吐かせるし。





そんなわけで、僕達はウィンドウショッピングなどをしながら、繁華街を歩いている。

ちなみに僕達が狙われなくても、他の人達が狙われる可能性もある。

なので囮捜査と同時に、私服パトロールでもあったりするのだ。





そんな中で、ティアナが足を止めた。足を止めて視線を向ける先にあるのは、ブティック。










「真剣に見てるけど、欲しい服でもあるの?」



ミッドではそこそこ有名な服のブランドのお店の前のショーウィンドウを見ているティアナにツッコむ。

食い入るように見てたなぁ。僕はそれを横目で見つつ、それらしい奴が居ないかどうかをチェック。



「そういうわけじゃないんだけど、いいなぁって思って」

「・・・・・・あの服?」



その言葉にティアナが頷く。ティアナが見ていたのは、フリルの付いた青いワンピース。

これがはやて辺りだったら『相手居ないでしょうが』とか言うとこなんだけど、今日は一応デートの振り。



「ティアナなら似合うんじゃないの?」



ちょっとは、気遣っていかなきゃダメでしょ。



「・・・・・・そう思う?」

「うん。こう、今みたいに髪を下ろして、上に何か羽織ったりすれば十分」

「そっか、ありがと」



別に礼を言われるようなこと、言ってないのに。うん、かなり普通だよ?



「でも、ちょっと意外だった」

「なにが?」

「いや、ティアナはそういう可愛らしい感じの服、好みだったんだなって」





えー、こういう不用意な会話だけはみなさん絶対にしてはいけません。

なぜって? 両手を頬に添えられて・・・・・・思いっきり引っ張られるからですよ。

あー、頬が痛い。加減しないんだもの。でも、理不尽だ。



普段のイメージから言っただけなのに、なんでこれっ!?





「アンタが悪いからでしょ? 女の子はね、みんな可愛いのが好きなのよ。
私との今後のために、覚えておきなさい。いいわね?」

「・・・・・・はい」

「なら、よろしい。ほら、次行くわよ。この際だから、色々見ておかなきゃ」



そうして、また手を繋いで歩き出す。なんというか、ちょこっと大丈夫になってきた。



「でも、残念だね」

「なにがよ?」

「ほら、都合が合えば、お店の中に入って試着とか出来たのに」



店の中に居たら襲われないしなぁ。・・・・・・いや、こういうこと言う時点で色々おかしいけどさ。



「ま、仕方ないでしょ。今度の休みにでも来るわよ」

「なら、僕もまた付き合おうかな。というか、プレゼントするよ」

「・・・・・・いいわよ別に。まぁ、誕生日にでもおねだりさせてもらおうかな。
それまでに貯金してなさいよ? 奮発してもらうから」

「りょーかい。お手柔らかにね」




恋人同士という設定なので。、そんな話をしながらまた繁華街を歩き出した。

するとクレープ屋を見つけたので、僕の提案で食べる事にした。

だってずっと繁華街歩きっぱなしなんて行動、デートとしておかしいでしょ。



そこを誰かに注目されたら、私服パトロールだって気付かれる可能性があるし。

店の中には入れないけど、多少は緩急つけとかないとだめでしょ。

ちょうどその店の周りに白い丸テーブルと椅子が置いてあったので、そこに腰を落ち着ける。



それで周囲の様子に気を配りつつ、間食タイムとなった。





「・・・・・・おいひー♪」

「ホントね。これはレベル高いわ」





クレープの味に、僕もティアナもご満悦だった。僕はイチゴと生クリームたっぷりのものを。

ティアナは季節限定の栗とマロンクリームたっぷりのものを。

いや、このクレープ屋さんは当たりだよ。仕事じゃなければ全メニュー制覇したい気分だ。



生地はもっちりとしてて噛む度に心地のいい感触が口の中に広がる。

イチゴや生クリームも同様に素晴らしい。仕事の疲れも吹き飛ぶ甘さが素晴らしい。

でも、しつこかったりはしない本当に程よい甘さ。それを一緒に売っていたお茶と一緒に頂く。



少しだけ冷たくなった風が肌寒いけど・・・・・・なんだか心は温かい。





「口元にクリームついてるわよ?」



そう言われて、指でクリームを拭こうとする。でも、それは無理だった。



「これで取れたわよ」



ティアナに、テーブルの上に置いてあったティッシュで拭いてもらったから。



「・・・・・・ありがと」

「はい、どういたしまして」

「うむぅ、ティアナはこういうのないよね」

「なにが?」

「口元になにかついてるーとかさ」



見た記憶がない。そういう隙というか、ドジなところというか・・・・・・・何げにシャーリーと同じで、完璧超人?



「そんな完璧超人なんかじゃないわよ? 普通にドジだってするし、隙だってあると思うけど」

「いや、見てるとそんなにないから」



パートナーのスバルは隙だらけなんだよなぁ。

というか、ツッコむ要素満載? 主に思考なんだけど、どうしてこうも違うのか。



「どうしたのよ?」

「ん? いや、ティアナの隙がないかなと観察してたの」

「もう、そんな簡単には出さないわよ」

「ほら、出さないようにしてるじゃないのさ」





そういうのを、完璧超人って言うんだよ。ある意味外キャラバッチリな子ですよ。



二人でクレープを食べながら、そんな会話をしてると・・・・・・なんでだろ? 後ろから気配が。



試しになんの脈絡も無く、気配のする方をバッと見てみる。・・・・・・何もない。





「どうしたの?」

「あ、なんでもないない。ちょっと視線を感じたんだけど、気のせいだったみたい」










真剣な顔で聞いてきたので、手を振りながら答える。





もう一度気配を探ってみるけど・・・・・・犯人に目をつけられたのかな? それならそれでOKなんだよね。





だけど、別口って可能性もある。一応、警戒だけはしとくか。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うわ、危なかった。恭文、いきなり振り向いてくるんだもん。ビックリしちゃったよ。

でも、あのクレープおいしそうだなぁ。・・・・・・私は、恭文とティアのデートを尾行中。

だって、ティアがやたらめかし込んで出て行ったのが、気になったんだもの。





ちなみに服装は、尾行してますーっていうそれっぽい服装になっている。

でも恭文とティア、お忍びデートって感じの格好だね。

恭文は眼鏡かけてるし、ティアは髪を下ろして・・・・・・おぉ、ストレートヘアーだね。





『いつもと違う私を見て?』ってことなのかな? でも、ティアもようやくなんだ。

訓練校時代からの公認カップルとしてはちょっと寂しいけど。というか、二人ともひどいよ。

そういう関係なのに、私に内緒にしてるなんてさ。なんか疎外感感じちゃ・・・・・・あ。





ひょっとしてティアが模擬戦の後も普通にしてたのって、そういう関係だったからっ!? いつのまにーーー!!

アレかなっ! 執務官だからっ!? 恭文、執務官なら誰でもいいんだっ!!

とにかく私は、ゆっくりと二人の追跡を再開した。・・・・・・本当に気をつけよう。





恭文って妙に勘がいい時あるし、アルトアイゼンもいるし、気を抜いたらすぐに気付かれそうだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず妙な追跡者の気配は・・・・・・あははは、すっごい感じてるんですけど。

どうしよう、僕はこの気配にすごく覚えがあるの。この視線にすごい覚えがあるの。

でも、僕は・・・・・・うん、もうツッコまない。これ以上面倒事を増やしたくない。





クレープを美味しく食べた後は、また手を繋ぐ。そうして、一緒に歩く。










「・・・・・・アンタってさ」

「何?」

「どういう所で、相手を友達だなって認める?」

「うーん、気分」



くだらないことを話しながら、繁華街をぶらぶらウィンドウショッピング。

と言っても、僕達が管理局の人間だと気付かれそうな話題は避けている。



「てゆうか、友達ってなんかこう・・・・・・自然となってるものじゃない?
気づいたら、心のどっかに相手の存在が居てさ」

「アンタはそうなんだ」



事前にそういう取り決めをしていたからだけど、犯人たちの耳に入って、気付かれる可能性もあるし。



「そうだね。だから、ちょっと苦手かな。ヴィヴィオみたいな子どもはともかく、同年代に面と向かって『友達だ』って言うのは」



さっきからアルトが黙っているのが気になっている方もいると思うけど、それが理由。

・・・・・・管理局所属どうかはともかく、魔導師ってバレたら絶対に警戒されるし。



「じゃあ、私やあの子はまだアンタの中には居ないんだ」

「そうだね。ティアナだって同じじゃない?」

「・・・・・・違うって言いたいとこだけど、その通りなのよね。私もさ、そういうの苦手なのよ。
てゆうか、普通に『友達作ろう』とかって言われても困らない? それもかなりさ」

「あー、困る困る」



ティアナと居る時間は・・・・・・ちょっと心地いい。なんか、さっきから話が合い出した。



「だからアレだよ、うちの家長とかは非常に困った」

「うん、分かる。てゆうかアレよね、私達の関係にまで口出しして欲しくないわよね」

「うんうん」

「大体、私とアンタが仲良くなるタイミングは、私達が決めるのよ?
なんでそれを、イチイチ口出しされなくちゃいけないのよ」



そうそう、だから横からアレコレ言われても・・・・・・アレ?



「・・・・・・ティアナ、口出しされたの?」

「アンタ程じゃないけど、ちょっとね」

「ごめん」

「なんで謝るのよ」

「多分僕は、口出しした人間を知ってるから。だから、一応ね」



そんな事を言って、互いに苦笑いしつつもまたデートを楽しもうとした瞬間、それはやってきた。

背中には冷たい刃の感触。僕らを取り囲むのは、害意を持った気配。・・・・・・お客さんか。



”来たわよ”

”分かってる。・・・・・・こうも簡単に釣られてくれるとはね。間抜けを釣るのに餌はいらないってやつ?”



僕達二人を取り囲むのは、六人の男。服装だけを見るなら、10代後半成り立て。

ちょっと素行の悪い若者といった感じのラフでパンクな若者。



”アンタ、普通に気配とか察知するの得意よね? 人数どれくらいか分かる?”

”殺気出してんのは、六人。伏兵の気配は、今のところ無しかな”



冷たい切っ先の感触が、少しだけ強くなる。・・・・・・恐らく、ティアナも同じ。



「死にたくなかったら、来い」





耳元で聞こえたのは、不愉快な音程のしゃがれた声。ソイツは明らかにこの状況を楽しんでいる。

恐らく僕に抵抗をされて、黙らせるために刺すことになったとしても、その心境は変わらない。

・・・・・・ま、この場は抑えててあげるけど。この状況は願ったり叶ったりだし。



なので・・・・・・当然、連中に囲まれた状態で路地へと入っていく。

路地の入り口につくと、僕達二人が先頭を歩く形になり、そのまま奥へと進んでいく。

そうして連れ込まれたのは、行き止まりになっている路地裏。



と言っても、道幅は結構広い。車一台分くらいなら入れそうだ。



普通なら数も多いし、相手は凶器持ち。絶体絶命な状況。でも、残念ながら普通じゃない。





「随分楽しそうじゃねぇか坊主。こんな綺麗な彼女を連れて歩いてよ?」



僕達・・・・・・というより、ティアナを品定めするような目でこちらを見ている悪党その1。

顔だけ振り向きながらその様子を見ていると、他の連中も下種な笑いを浮かべている。



”いや、よかったねティアナ。綺麗だそうだよ?”

”もうちょっと素敵な人に誉められたいわね”



むむむ、贅沢な。そこはともかく・・・・・・近くに魔力反応は無しか。

コイツらの中に、魔力とかは感じない。一応、第一条件はクリアかな。



「つーわけで、お前には勿体ないからよ」



どういう意味だ。僕はこんなに素敵な男の子だっつーのに。



「このねーちゃんは、俺達で遊んでやるよ」

「だな。姉ちゃん、俺たちと楽しいことしようぜ?」

「大丈夫大丈夫、俺すっげー優しいからっ! ひゃひゃはははっ!!」



・・・・・・ようするに、ティアナで『自分達だけが楽しいこと』をしようとしているわけだ。



”ちょうどいいタイミングだったみたいね”

”そうね。強盗だけで終わらせるのに飽きて、行動のエスカレート。
よくある話だわ。全く、不覚にも関わってよかったとか思ったじゃないのさ”



そんなことを二人で思いつつ、悪党その2・3・4の話に耳を傾ける。



「おいおい、そんなことしちゃったら、俺達犯罪者だぜ?」

「いいじゃねぇか。どっちみち、強盗したりしてるし・・・・・・犯罪者なんだしさ」



僕達に対してナイフを突きつけてきている悪党その5・6が、耳障りな言葉を並べる。

するとその他の奴らも、それに乗るように楽しそうに笑う。



「ひょっとして、カップルばかり狙っている強盗って・・・・・・い、嫌だ。助けて」



少し怯え気味な色を付け加えて、僕はそう聞いてみる。だって、確認は大事だもの。

間違ってたらアウトだし。そしてティアナ、ちょっと笑いそうになるな。



「そうだよ。・・・・・・くくく、楽しいぜぇ、幸せそうにしている、お前らみたいな連中をな?」



とにかく、返事は後ろにいる悪党その5とその6から返って来た。



「こういうとこに引きずり込んで、ジックリといたぶるんだよ」

「そうすると女の方とかが、涙目で『もうやめてください!』とかいいやがるんだよっ!!
それが楽しくて楽しくて・・・・・・ついついこうしたくなっちまうんだよっ!!」





そう言って、悪党その6がティアナに抱きつこうとする。

だから僕は、右手を動かす。懐から取り出したのは、銀色の金属製のカード。

数は三枚。それを僕は、上に放り投げる。悪いけど・・・・・・ちょっと徹底的に行く。



行動は全て一瞬の事。その間にも、三枚のカードが宙を舞う。





「黙れ」





次の瞬間、男達と僕とティアナが居た空間を、金色の雷撃が埋め尽くした。

・・・・・・その雷撃は一瞬だった。その場に居た全ての人間を、撃ち貫く。

そうして悪意を蹂躙し、踏みつける。踏みつけられた男達は、一斉に煙を上げながら倒れる。



ま、復活されると厄介だしね。これくらいはさせてもらう。



倒れた小悪党六人を見ながら、僕は言葉を続ける。





「これ以上ガタガタ抜かすなら・・・・・・もう二度と歩けないようにするぞ?」



ま、気絶してるからどうにもならないか。とりあえずここはいいや。

僕は、倒れてる悪党に視線を向けたまま、隣の子に声をかける。



「ティアナ、大丈夫?」

「当然よ。てゆうか、合図無しってどういうことよ?」

≪私がクロスミラージュには合図を送っておきました。問題はありません≫





僕達はあの雷撃の中、平然と立っていた。なぜこうなるのか? 簡単である。

だって、事前に打ち合わせしてたし。そうじゃなかったら、さすがにこれはアウトだって。

ティアナには今の電撃を完全に無効化出来る、魔力フィールドの構築データを事前に渡してある。



それを発動させれば・・・・・・ノーダメというわけだ。当然、僕とアルトもね。いや、フェイトには感謝だよ。



それが出来るようにあえて小さな穴を作る形で、魔法組んでくれたんだから。





「てか、アンタ・・・・・・意外とキレやすいのね。あんな風な言い方されたの、腹が立ったの?」

「まさか。僕は知っての通り冷酷非情な奴だよ?」



僕は、右手を伸ばす。そして次々と男達の身体や四肢が、青い縄で縛りつけられていく。



「会った事も無い奴らが死のうが生きようが正直興味がないし、持ちたくもない」



これは僕のバインド。逃げられても困るし、抵抗はもっと困るし、ここはきっちりしておかないと。



「ただ、悪党って奴が嫌いなだけ。特にコイツらみたいなのは」



追撃・・・・・・伏兵・・・・・・無し。妙な気配とかもない。

とりあえず油断はまだ出来ないけど、これで完了かな。



「・・・・・・そっか」

「そうだよ。・・・・・・あれ?」



なんか、明りがこちらに迫ってきて・・・・・・って、管理局員っ!?



「あの人達が着てるの、地上部隊の制服よね。え、なんでこっち来てる?」

「さすがティアナ、連絡早いね」

「私は連絡してないわよ。アンタじゃないの?」



僕は当然のように首を横に振る。真面目にこれは知らないし。



「なら、アルト?」

≪残念ながら私も違います。・・・・・・というか、今回は私の出番少なすぎです≫



だって仕方ないじゃないのさ。いつもの調子で喋ってたら、魔導師だってバレちゃうんだし。

じゃあ、クロスミラージュ? いや、それならティアナが気付かないはずが・・・・・・じゃあ、まさか。



「恭文、ティアー!! 大丈夫ー!?」

「・・・・・・なにしてんの、あの子」

「ティアナ、そこについては知らない方がいいと思うな」










やっぱり、スバルだったか。分かってた。うん、分かってたよ。





まぁいいか。普通に増援を呼んできた事を評価して、あんま言うのやめようっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・うん、わかった。こっちのことは心配せえへんでもえぇから。ほな、おつかれさま」



そこまで話して、うちは通信モニターを落とす。・・・・・・いやぁ、無事に解決したみたいでよかったわ。



「蒼凪ですか?」



そう聞いてきたのは、シグナム。当然、今回の囮捜査についても知っとる。で、この場にはもう二人。



「はやて、ヤスフミ達どうだった?」

「ラブラブですか?」

「シャーリー、それは違うよ。囮捜査なんだから」



いや、うちも思ったけどな。で、丁度フェイトちゃんとシャーリーも居る。



「ラブラブはしてないけど、ブラブラしとったら、思ったよりもはよう獲物が引っかかったらしくてな。スピード解決や」



いやぁ、さすが恭文やわ。即でカードを引き当てとるし。うちはやってくれると信じてた。

・・・・・・捕まえるために、また1話とか使ってもめんどいやん?



「よかった。あ、ヤスフミやティアは大丈夫かな。怪我とか、してない?」

「それも大丈夫や。つか、恭文おるのに、そないなことになると思うか?」

「ならないでしょうね」



うん、それはうちも思うてたわ。魔法が必要やと思ったら、非魔法能力者相手でも使うしな。



「というか、使ったんだよね。アレ」

「使ったらしいで?」





フェイトちゃんがまた苦い顔しとるけど、これはもうえぇやろ。アイツ怒らせる方が悪い。

・・・・・・恭文が犯人をぶっ飛ばすのに使ったのは、簡易型のカード型デバイス。

アイツが常に、複数枚常備しとる魔法装備や。その効果は、実に簡単。



カードに込めている魔法を思念によるスイッチ一つで、一瞬で発動させる事の出来る文字通りの手札。

そして今回はフェイトちゃんの広範囲型の電撃魔法を入れたものを作成して、持って行ったいうわけや。

ただ弱点が一つ。一枚につき一つの魔法を、一回しか使えん。



再入力は可能やけど、現場やったらそないな暇ない。基本的には使い捨てや。

ただ速効性は大きいし、使用分の魔力もカードに一緒に入れとる。

せやから、発動時に魔力を消費したりもせぇへん。ここが利点になるな。



今回やったみたいに、他の魔導師の協力があれば、自分が使えん魔法も使える。



その利点が気に入って、アイツも常備しとるっちゅうわけや。





「出来れば使わないで欲しかったのに。アレ、無差別の広範囲攻撃なんだから」

「テスタロッサ、納得しろ。蒼凪は最初に条件として出したはずだ」

「それはそうなんですけど・・・・・・うぅ、やっぱり私がついて行けば良かったのかな。
あぁでも私だとヤスフミとは、身長差で恋人に見えないから失敗してただろうし」

「アンタ、どんだけ心配・・・・・・って、フェイトちゃん、それ恭文に言うたらあかんよ?」

「え?」



いやいや、キョトンとした顔してもあかんって。それ、完全にアウトやし。



「アンタ、忘れたんか? アイツは普通に身長がコンプレックスやんか。
そこでそないな事言われたら、普通にヘコむやん」

「あ、そこは大丈夫。ちゃんとその・・・・・・謝ったから。それもかなり」

「話したんかいっ! てーか、それは大丈夫やないやろっ!! ・・・・・・あ、それともう一つ。
あんま恭文とスバル達の付き合いに、口出ししたらあかんよ。『仲良くして欲しい』とか禁止や」

「・・・・・・はやて、どういう意味?」



いや、どういう意味もこういう意味もないから。うち、マジで話聞いて、ビックリしたし。

てゆうか、なんか心が痛いなぁ。さすがに濃い泥を被らせてもうてるし、ちょっとくらいは肩持ちたいんよ。



「うち、ティアにデートのアドバイスしてる時にアレコレ聞いたんよ。
それで分かったんやけど模擬戦でのアレコレ、あの子は気にしてないんよ?」



面倒事を頼んだ身として、一応気になったからそこを探った。そうしたら、全くや。

報復はしっかりとさせてもらったから、もう引きずらない言うとる。恭文がちゃんと実力示しとるんも理由やな。



「で、恭文の『友達じゃない』発言も、いい思うとる。むしろ、自分と同じでめっちゃ楽言うてたし」

「そうなのっ!? で、でもスバルはなんだか辛そうだしっ!!」

「ティアはそうなんや。それやのにアンタやリンディさんがやたら『仲良くして欲しい・嫌わないで欲しい』言うから、やり辛いって漏らしてたもん」



フェイトちゃんが信じられないという目でうちを見る。でも、しっかり頷いてその考えを壊す。



「しかも・・・・・・フェイトちゃん、アレからうちらが知らん間にそういう話したらしいな? それもかなり真剣なテンションで」

「う、うん。ヤスフミがあんな調子だから、フォローしようと思って」

「ぶっちゃけそれ余計なお世話になっとるから。ティア、どうしたもんかって困っとったし」





困ってるのは、残念ながらこれだけやない。

フェイトちゃんが恭文に、しっかりお説教をまたするとか言うたことに関してもや。

別にあの子、アイツの距離の取り方とか性格とかに対して、そこまで気分悪くしてはない。



うちも気にはなってたけど、話してみてそれは嘘やないのは伝わった。





「アレよ、あの二人はきっとアレくらいで丁度えぇんよ。ティアも何気に人見知りやろ?」



フォワード陣も見とったら、スバルがツンデレなティアのクッション役になって親交深めた感じやしな。

あの子はプライベートな自分を見せるんが、ちょお苦手な子なんやと思う。恭文と同じでな。



「あぁ、そうですね。多分人見知りと素直じゃない者同士で、いい感じになるんですよ。
なぎ君とティア、互いに距離の詰め方や相手を友達だと判断する基準が、どこか似てるんですよ」

「だからこそ、ティアナは蒼凪の『友達じゃない』も素直に受け取れると。
・・・・・・なんというか、喜ぶべきか悩む息の合い方ですね」

「確かになぁ」



あー、フェイトちゃんは何かショック受けて愕然としとるし。なんやねん、これ。


「そ、そんな・・・・・・私のやった事、ダメなの?
私、ただ二人・・・・・・ううん、他の部隊員と仲違いとか嫌だっただけなのに」

「この場合はダメやな。てーか、ティアはちょっとウザがってたで?
何度も『大丈夫』言うたのに、全然聞いてくれない言うてたもん」





いや、隊長としては正解よ? テコ入れ必要な事態と考えてもえぇから。

ただ、ティアにそれやったんがミスジャッジや。だって、ティアは話した通りやし。

・・・・・・フェイトちゃん、呆然としとるし。うーん、なんか悪いことしてるみたいや。



やっぱ集団の一員として、アイツの行動はダメな部分多いかも知れんなぁ。

組織と部隊員の先輩として、フェイトちゃんが気にしたのも、まぁ分かる。

ただ、うちは何も言えん。いや、もうマジごめんなさいと言うしか無いんよ。





「あの・・・・・・なら私、どうすればいいのっ!? さすがにもう見過ごせないよっ!!」

「アレや。それでも恭文の人間関係には、あんま口出さんようにしようか。とりあえずティアに対しては、必要ない」





落ち込むフェイトちゃんはともかくとして・・・・・・うち、ちょっと意外やった。

フェイトちゃんに頼み込んで、即鎮圧用にカード作成やし。うちは普通にクレイモア使うかと。

アイツはフェイトちゃんがこの調子やったら、絶対イライラしとる。そやから、手段選ばん思うたのに。



・・・・・・なんやかんや言うて、気を使ったのかもしれんな。あんま暴力的なことするのもアレとか考えて。





「・・・・・・それと、どうも今回のことをホンマのデートと勘違いして、スバルが後つけてたらしいんよ」

「スバルがっ!? ・・・・・・そういえば、エリオとキャロが姿を見ないって言ってたけど」

「一体何をしているんだ。仕事もあると言うだろうに」



そやなぁ、うちにも分からんわ。・・・・・・あの子、アレで特救でやってけるんやろうか。ちょお心配や。



「とにかく恭文とティアは向こうで作らなあかん書類があるから、今日と明日は向こうでお世話になる。
それで明後日から通常勤務に入る。まぁ、そういう感じでよろしくな」

「了解しました」

「あと、フェイトちゃんはマジで反省しとき。心配なんは分かるけど、これに関しては余計な事し過ぎや」

「あの、その・・・・・・はい」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・長かったなぁ」





ここは、ナカジマ家のスバルの部屋。私とアイツは今日はここに宿泊。そして、明日は108で書類作成。

アイツも下のソファーで寝てる。・・・・・・客間もあるのに、ソファーがいいって譲らなかったのよ。

・・・・・・アイツは本当になんだろ。なんというか、ついていけない時がある。



日常の中に居るアイツと、模擬戦なんかで戦っている時のアイツ・・・・・・なんか違う。

あんまりにも温度差があり過ぎる。普通に私、ビックリしてる。

戦闘に入ると一本線が切れるというか、過激で容赦が無くなるというか。



あんなもん使ってまでどうにかするとは、最初は思ってなかった。

そして更に切れると・・・・・・シグナム副隊長と戦ってた時の状態だ。

戦いを完全に楽しんでた。でもだからって、悪いやつだなんて思ってない。



まぁアレよ。一日デートして、アレコレ話してみて、その印象は強くなったかな。

確かにアイツは、なのはさんやフェイトさん達とは違う。もっと言えば、私とも違う。

だけど、それでもいい奴だとは思う。別に同じである必要なんて、無いしね。





「・・・・・・別に、いいわよね」





私は、暗い部屋の中で布団に入ると、自分の右手を見る。今日、アイツとずっと繋いでいたその手を。

今日は楽しかったかな。男の子とデートするなんて、初めての経験だったし。

アイツも、なんだかんだ言いながらも、始まったら意外とちゃんとリードするのよね。



自分は道路側歩いたりとか。話しやすい話題振ったりとかさ。

ちゃんと男の子、出来るんだなって感心してしまったくらいだもの。

まったく、普段からああしてればいいのに。まぁ、だからこそなんだろうけどさ。





「ずっと友達だーなんて、力いっぱい言えなくてもさ。そういう暑苦しいの、私も趣味じゃないし」



でも、アイツはどうだったんだろ? 私と一緒に居て、楽しかったのかな。

私、あんま楽しそうな顔とかしてなかったかもしれないし、つまんなかったかな?



「・・・・・・私、何気にして・・・・・・あ、そっか」





言いかけて、気づいた。私・・・・・・あぁ、そうなんだ。別に私、アイツの事嫌いじゃない。

前に八神部隊長にも漏らしたけど、アイツとの距離感は何か心地いいんだ。

こう・・・・・・無理しなくてすむって言うのかな。無理矢理仲良くならなくたって、いいやって感じ。



多分、アイツも同じだと思う。なんか、確信を持って言える。




「・・・・・・よし、寝ようっと」



とにかく、今日の任務は無事に終了。明日は、報告書作成か。しっかりやっていきましょ。

そう思い立つと、私は瞳を閉じた。そしてすぐに眠りについた。・・・・・・一応、これだけは言っておくわ。



「おやすみ。あと・・・・・・今日はありがと」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・陸士部隊・第108部隊。ミッドチルダ西部にその隊舎を置く、ミッド地上部隊の一つ。

ミッド地上で起こる、ロストロギアやらその他色々な密輸事件。それらを主に扱っている部隊。

部隊長であるゲンヤさんの人柄故か、縄張り意識やらでガチガチな動きになりやすい地上部隊の中でも優秀。





僕の知る限りでも、指折りの柔軟性と思考を兼ね備えた部隊である。

囮捜査の翌朝、僕とティアナはここに報告書作成のために来た。

それで僕の悪友でありオタク仲間である八神はやては、以前この部隊で仕事をしていた。





そのためにここの部隊長であるゲンヤさんは、はやてにとって師匠と言える存在なのよ。

そんなはやて絡みで、ギンガさんやゲンヤさんと知りあって、早3年。

まさかここまで付き合いが続くことになるとは、正直思ってなかった。





どうやら僕は、ここでは通りすがりにはなれないらしい。もう、普通に外キャラ外れてるしなぁ。

まぁそんな事は置いておくとして、早速オフィスでギンガさんとティアナとアルトと一緒に作業を開始。

昨日、どういうルートを回って、どの辺りで連中にエンゲージされたのか。





どこに連れ込まれて、連中がなにをして僕の怒りに触れたのか。

そしてどういうぶちのめされ方をして、どういう感じで護送されたのか。

結果、現場の状況はどうなったのかなどを、結構細かく打ち込んでいく。





僕とティアナの認識で差異がないかどうか、細かく相談しながら作業を進めていく。










「・・・・・・これでOKかな?」

「そうだね。大丈夫だと思うよ」



そして丁度お昼位に、報告書は完成。・・・・・・いやぁ、疲れた。



「・・・・・・でもアンタ、意外とデスクワーク出来るのよね。手際いいからビックリしたわよ」

≪師匠に叩き込まれましたから≫

「『デスクワークは、どこの部署に行っても必須なんだから、ちゃんと出来るようになっとけ』って言われてね。
練習と称して自分の仕事手伝わせるんだもの。そりゃあ上手にもなるよ」

「なるほど。確かにヴィータ副隊長、デスクワークも厳しいからなぁ。そこも師匠譲りってわけか」





・・・・・・二人の前だからこれは口には出さないけど、ちょっとアウトな事をした事もある。

師匠の了承を得た上で、師匠のサインが必要な書類の処理をこなしたりとか。

いや、最近は無いよ? ただ、本当に師匠一人だけじゃあ手が回らない時だけね。



師匠なりシグナムさんって、上から扱いが悪いというか、イビられてる部分があったのよ。

そのせいで無茶な仕事を振られたりとかね。最近はもう無いけど、その辺りのフォローをしていた。

筆跡? そんなもの練習して真似られるように決まってるじゃないのさ。



筆跡鑑定もパス出来るくらいの仕上がりのものをね。



もちろん、書いた後で師匠にはちゃんと内容をチェックしてもらっている。





「あ、ギンガさんもありがと。手伝ってくれて、助かったよ」

「ううん、大丈夫だよ。それじゃあお昼にしようか。もう私お腹ペコペコ」



ギンガさんにそう言われて、端末の画面にある時計に目をやる。

・・・・・・あ、ホントだ。もうこんな時間なんだ。道理でお腹が空いてると思ったさ。



≪なら、ゲンヤさんの所まで連れて行ってください≫

「あ、将棋指すんだっけ?」

≪はい。まぁ、恒例ですし≫

「なら、部隊長室へ寄ってからだね」



僕達は端末の電源を落として、部隊長室へと向かう。ちゃんと『失礼します』と言った上で、部屋へと入った。



「・・・・・・失礼しまーす。ゲンヤさん、将棋の相手を連れてきました」

「あ、恭文くんにアルトアイゼン。それに・・・・・・ティアナちゃんも、久しぶりー」

「マリエル技官っ!!」





部屋に入った僕達を待っていたのは、当然部隊長であるゲンヤさん。そしてあともう一人。

緑色のショートカットの髪。本局の青い制服に白衣。眼鏡越しの明るい笑顔が印象的な女性。

本局の科学スタッフである、マリエル・アテンザさんがそこに居た。



マリエルさんとは、魔導師として戦い始めた頃から色々とお世話になっている。主に、デバイス・・・・・・アルト関係で。

特に、Sランク魔導師を墜とした戦闘で中破したアルトの改修の時には非常にお世話になった。

元々先生のデバイスだったアルトには、形状変換の類が搭載されてなかった。



なので、ハイブレードモードを搭載したり、ジガンスクードを作成したりと縦横無尽な働きっぷりを見せた。

その作業工程において、僕はマスターとしてかなり関わらせてもらった。

だけど、マリエルさんの凄まじい仕事ぶりに感心するしか無かった。



ちなみに六課のオタクデバイスマイスターのシャーリーとは、眼鏡師弟な関係である。





「マリエルさん、久し振りです」

「うん、お久し振り。聞いたよ、昨日はまた無茶したらしいね?」

「え? ・・・・・・ゲンヤさん、なにを話したんですか」

「いや、お前がティアと楽しそうに囮捜査をしたって話をな」

「また変なことを」



ティアナの前なんだから、余計なことを言わないでください。つか、顔が見れないし。



「そういやマリエルさんは、どうしてここに?」

「あ、うん。ギンガの治療の途中経過の報告にね」

≪ギンガさん、まだ悪いんですか。・・・・・・食べ過ぎるから≫

「そこは関係ないよっ!? ・・・・・・それなら大丈夫だよ。順調に回復してる。
年明けには、戦闘も可能になるくらいに魔力も身体も回復するかも」

「ホントですかっ!?」



ギンガさんがマリエルさんの言に食いついてきた。てゆうか、詰め寄るようにマリエルさんに迫る。

・・・・・・そんなに戦いたいのか、おのれは。どんだけ好戦的な人生送ってるのさ。



「でも、まだ完全にはよくなってないんだよ? なのに、囮捜査しようとするなんて。
・・・・・・もし何かあったら、どうするつもりだったのっ!?」

「ですから、なぎ君に協力してもらうつもりでしたし。
もしそれでダメなら、その時は私も魔法使ってでもなんとかするつもりで」

「待て待て、僕をアテにするなっ!! てゆうか、普通に僕が迷惑だからやめてっ!?」



・・・・・・とりあえず、ここはいいか。てか、マジでギンガさんの動向には気を付けなくちゃ。

それは後にするとして、今はお食事ですよ。うんうん。



「あー、マリエルさん。ここで立ち話もなんだから、食堂で話しませんか?
別にゲンヤさんに嫌がらせするとかならともかく、そうじゃないですよね」

「あ、そうだね。・・・・・・アレ、だったらなんで部隊長室に?」

≪私がお願いしたんですよ。書類も片付いたんで、ゲンヤさんの相手をしようかと≫

「おぉ、そうかそうか。なら早速やろうぜ」



ゲンヤさんが楽しそうに机から、結構な値段がしそうな将棋板を取り出した。



「今日は勝つからな」

≪無理でしょ≫

「即答するなよっ!!」



うん、二人は将棋仲間なの。ちなみにどうやって打つかと言うと、ゲンヤさんは普通に手でコマを動かして打つ。

アルトはどこにどの駒を打つかをゲンヤさんに言って、駒を動かしてもらうの。



「もう、父さんったら」

「なら、私は三人と一緒に食事に行ってきますね。残りの報告はその後にでも」

「おう、ゆっくりしてきていいぞ。俺はコイツと楽しくしてるからよ」

「ゲンヤさん、アルトのことお願いします」

≪ティアナさん、ギンガさん、マリエルさん、すみませんけどこの人のことをお願いします≫










僕とアルトがほぼ同時にそう言うと、なぜかみんなが笑った。・・・・・・なんでだよっ!?





とにかく僕達は、将棋に夢中な子ども二人を部屋に残し、食堂へと向かった。


















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「六課で元気にやってるんだよね?」

「あははは、毎日楽し過ぎて笑ってしまいそうですよ。
日々あっちこっちから『みんなと仲良くしろ』ってウザいウザい」

「いや、それは・・・・・・あぁ、分かった。もう言わなくていいよ」



とにかく、悲しい気持ちになりながらも食堂でお昼を堪能する。

・・・・・・うん、美味しいなぁ。ここの食事も久しぶりだから、なんか懐かしいや。



「なぎ君が妙な事をしなければ、問題ないんじゃないの?」

「失礼な。僕は全く普通なのに」

「絶対違うよっ! 色々やらかし過ぎだからっ!!」

「あ、そうだ。恭文くん、今度本局の方に来てくれないかな? アルトアイゼンと一緒に」

「それは構いませんけど、どうしたんですか?」



そう聞くと、マリエルさんがまた楽しそうな顔で、ニコニコし出した。



「うん、一回私の方でもメンテしたいなと思って。シャーリーが頑張ってくれるとは思うけど、やっぱり見てみたくてね。
というか、ヘイハチさんの時からずっと見てきている可愛い子と色々お話したくて。ほら、同い年でもあるし」



マリエルさんは先生のパートナーだった頃から、アルトのメンテを請け負っていた。

なので・・・・・・非常に仲がいいのだ。同い年というのも、大きい要因だったりする。



「それとそのついでって言ったらアレなんだけど、特殊車両開発部の方にも顔を出してもらえないかな?
ヒロさんとサリさんが、恭文くん達は六課でどうしてるのかって心配してたから」

「あー、了解です。それじゃあ、作業中にでもちょっと顔出します」

「うん、そうしてあげて」



しかし・・・・・・結構な頻度で通信して連絡取ってるのに、心配って。

いや、僕のいきなりな現状を考えれば仕方ないのかな。



「なぎ君、お二人はお元気?」

「うん、すっごく。でも、最近は会えないんだよね。向こうも僕も仕事あるし」

「そっか」

「ね、その二人って誰なの? アンタやギンガさんの知り合いなのは分かったけど」





さて、また説明である。今、マリエルさんが言ってた二人は、僕のオタク友達。

そして本局の特殊車両開発部に勤める、局員さん。

以前話した僕の誕生日にデンバードを送ってきた開発部の友達というのは、この二人。



あ、もうこの話にも登場してるよ? 1話と8話で。詳しくは読み返して欲しい。

この二人との出会いは、凄く偶然。僕がたまたま見ていた某ゲームの攻略サイト。

そこのチャットで知り合って、意気投合してオフ会。そのオフ会の中で、管理局仲間というのが判明。



それ以来、二人には色々と手助けしてもらっている。



いわゆるネットな関係から始まった友達付き合い。・・・・・・と、ティアナにしっかりと説明。





「それって凄い偶然よね。たまたま同じゲームをやってて、それで仲良くなったんでしょ?
それでオフ会しようって話になって、それで会ってみたら実は局の関係者同士で」



ティアナが分かりやすいくらいに、驚いた顔をしている。いや、僕も実際驚いたから分かるけど。



「まぁね。なんていうか、うん、すごいと思う」

「それも、技術開発部の中でも有名な二人と知り合うんだもの。すごいと思うよ」

「あ、なぎ君。もし会ったらよろしく言っておいてくれないかな?
私も、退院してからお会い出来ていないもの。特にクロスフォードさんには念入りに」

「了解。ギンガさんがバカだってことだけ伝えておくよ」

「ちょっとっ!?」



・・・・・・なんていう会話をしつつ、お食事は終了。

そうして、部隊長室に戻ってみると、地獄がそこにあった。



「待ったっ! 頼む、この一手は待ってくれっ!!」

≪ゲンヤさん、待ったは無しですよ? ・・・・・・これで詰みです≫










アルトが、容赦なくゲンヤさんを叩きのめしていた。

空中にプカプカと浮かぶ青い宝石に、部隊長は必死に頭を下げていた。

絶対に部隊員には見せてはいけない光景が、そこには広がっていた。





・・・・・・うん、アルトや、もうちょっと優しくしてあげようね? ほら、威厳とかってあるしさ。






















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、今はちょうどお昼休み。やる事は全て片付いたので、能天気に僕は一人でお昼寝中。





しかし・・・・・・空気が美味しいなぁ。山間部で緑がたくさんあるからなんだけど、気持ちいいやぁ。










「・・・・・・ホントに気持ちよさそうだね」

「もう話はいいの?」



その場に現れた女性・・・・・・ギンガさんは、僕の言葉に頷きながら、芝生に寝転がる僕の隣りに腰を下ろす。



「うん、少しゆっくりしようと思ってて。というか、マリエルさんに休むようにって言われちゃったの」





部隊長室に戻ってから、ギンガさんとマリエルさんとゲンヤさんは、ギンガさんの体の経過報告のために話。



僕一人、その場を離れた。アルトは・・・・・・マリエルさんと色々話をしたいそうなので、その場に残した。



ティアナは、なんか隊舎に連絡があるとかで別行動。あははは、見事にバラバラだね。





「経過はいい感じなんだよね?」

「うん、ちゃんとリハビリしてるしね」

「そっか」

「でも、早く魔法戦出来るようになりたいんだよね。
どうも昨日みたいな鉄火場になった時に、なんにもできないのって落ち着かなくて」



・・・・・・ギンガさん、それは性質の悪い職業病だよ。ワーカーホリックだよ。高町なのは症候群だよ。



「ちょっとはゆっくりしたら? ギンガさん、別に僕みたいなバトルマニアじゃないんだしさ」

「でも、やっぱり早く復帰したいよ。これ以上ブランクがあると、なぎ君に置いていかれそうだしね」

「それでも少しはノンビリしなよ。休みは大事なんだしさ。
・・・・・・データで見せてもらったけど、瀕死もいいとこだったじゃないのさ」



その上、レリックとリンカーコアを融合させられたりさ。

まぁ、ギンガさんがさらわれたことを聞いた時にも思ったけど・・・キツかった。



「・・・・・・そうだね。なんというかごめん、心配かけちゃって」

「謝んなくていい。まぁ、アレだよギンガさん」



ギンガさんが、何かなという顔を向けてきた。まぁね、僕は怪我したとき何にも出来なかったし。



「本格的に訓練再開とかしたら、付き合うよ。もちろん、マリエルさんの許可と監修の元でだけど」

「なぎ君・・・・・・あの、ありがと。すごく助かる」

「いいよ別に。だから、あんまり焦んないで」

「うん。・・・・・・でも、私も心配」

「なにが?」



僕は、言いながらギンガさんを見る。その目を見て、なんとなく言いたい事は分かった。



「なぎ君・・・・・・スバルが心配してるのは、理解してあげてくれないかな?
もちろん、今までの経験があるから、どうしても受け入れられないのは分かるけど」

「大丈夫だよ。僕もそうだし、アルトだってちゃんと分かってる」





無茶苦茶心配そうな顔してるギンガさんに、寝ながら笑顔を向けてみる。

いやぁ、あの模擬戦で相当ゴチャゴチャしたからなぁ。もうめんどくさいめんどくさい。

まぁ、仕方ないと言えば仕方ないんだよね。スバルの周りには、僕みたいなの居ないだろうし。



マイノリティ魔導師の辛い所だよ。普通に『もうあんなのやめよ?』とかって、言ってくるし。





「というか、どうしてあんな戦い方したの?」

「いや、ティアナが強くて」

「違うよね。・・・・・・私はなぎ君がとっても強い事、凄く知ってる。その強さに、私は助けられたもの。
だから分かる。何を狙ってたの? 絶対何か狙いがあったから、あんな事したんだよね」



ギンガさんが、寝転がる僕を見てそう言って来た。なお、視線で『嘘はダメ』と言って来てる。

言って来てるけど、さすがにここでバラすわけにはいかない。普通にまだネタバレの時期じゃないもの。



「内緒。てゆうか、極秘事項だから話せないの」

「それは、とても大事な事?」

「大事な事だね。じゃなかったら、あそこまでする必要ない」

「・・・・・・なら、納得する」



ギンガさんはそのまま優しく微笑んでくれて、それから空を見上げる。だから、僕も同じようにする。

今日もミッドの空は晴れていて・・・・・・とても綺麗。だから、気持ちが楽になる。



「ごめん」

「いいよ。話せない事なら、無理には聞かない。
うん、大丈夫。私、これでもなぎ君の事・・・・・・信じてるんだよ?」

「だったら、嬉しいな」










少しだけ瞳を閉じて、帰る時間が来るまで寝てた。





目が覚めた時、ギンガさんが頭を撫でてちょっとビックリしたけど。





ただ、穏やかな陽気の中での眠りは・・・・・・すごく心地良くて、疲れが少し取れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして夕方、僕とティアナは無事に隊舎に戻ってきた。

ギンガさんとゲンヤさん、マリエルさんに見送られ、108の人に車で送ってもらった。

僕は家で降ろしてもらうって言うのも考えてたのに、ティアナに引っ張られた。





だから夕焼けの中、僕は特に荷物もないのに隊舎に戻ってるのである。










「うぅ、家を通り過ぎたのに。そのままベッドに入れるのに」

「バカ。私だけで部隊長達に報告させるつもり?」

「うん」

「アンタ、マジでそのやる気ないのは何とかしないっ!?
・・・・・・でも、こんなに長い間アンタとずっと一緒に居るとは思わなかった」

「あー、それは僕も」



色々分かった。僕、ティアナと居ると楽だわ。ほら、距離に気を使わなくていいの。

これがスバルとかエリキャロになると、非常に気を使うしなぁ。もしかして、アレらがおかしいのかな。



「そっか。まぁ、アレよ。この調子でいいわよね」



ティアが、歩きながら僕を見る。若干微笑んでるように見えたのは、気のせいじゃないと思う。



「私達はこの調子でさ。いつか自然と友達だって言えるかも知れないんだし」

「そうだね。きっと、この調子でいいよね」

「うん。・・・・・・さて、部隊長に帰還報告しないと」

「その必要はあらへんで? 二人ともお疲れさん、ようやっと帰ってこれたなぁ」



・・・・・・何故に待ち受けてる。てゆうか、普通にどこから出てきた。



「八神部隊長っ!?」



突然に出てきたのは、はやて。普通に音も無く出てきたし。なんですか、このタヌキ。



「てーか、どうしたのよ」

「実はギンガから連絡もろうてな。そろそろ帰ってくる時間かと思うて、来てみたんよ」

「なるほど」

≪納得しました≫

「ならえぇわ。それじゃあ恭文、アンタにお客さん来てるから、ロビーの方にすぐ向かってな」



あれ、なんか変だなぁ。すっごく嫌なものを感じさせるフレーズを、この子は言わなかった?



「はやて、ごめん。お客さんって誰?」

「とりあえず、行けば分かるがな。ホラホラ、あんま待たせたらあかんよ? 行った行った」

「あぁもう、おのれは普通に強引だねっ!!
・・・・・・というわけでティアナ、行ってくるね。それじゃあお疲れ様」

「えぇ、行ってらっしゃい。それと・・・・・・お疲れ様」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人と別れてから、疑問いっぱいな顔で六課のロビーへと向かった。





そこに居たのは・・・・・・・待て待て、この人はお客じゃないでしょうが。










「ヤスフミ、お疲れ様」

「・・・・・・え、フェイトってお客さんっ!?」

「はやて、どんな説明したのっ!! ・・・・・・とにかく、少し話があるんだ。さ、座って」

「あ、うん」





ロビーに設置してあるソファーに座っていたのは、フェイトだった。

つか、客じゃないでしょ客じゃっ! 思いっきり関係者じゃないのさっ!?

とにかく、フェイトはいつもの制服姿でそこに座っていたので、僕もその隣りに腰かける。



やばい、なんかもう嫌な予感しかしない。最近このパターンで相当な目に遭ってるもの。





「ヤスフミ、ティアとはどうだった?」

「・・・・・・何もないよ。普通に仕事して、普通に」



とりあえず、フェイトの隣に座る。で、軽くお手上げポーズで答える。でも、そこで思い出した。



「あ、そうだ」

「どうしたの?」

「ティアナに余計な事言ったでしょ。僕と仲良くしてくれとかなんとか」



フェイトが痛いところを突かれたように、表情を苦くした。・・・・・・やっぱりおのれかい。

リンディさんが改めて言うとはさすがに思えないから、おのれかなのはしか無いかなと思ってたのよ。



「ティアナ、困ってたからそういうのマジでやめて。アレ、ちょっとウザがってたよ?」

「あぁ、本当にごめんっ! そこはあの、はやてにも叱られて反省してるのっ!!
・・・・・・というかティア、ホントに困ってた? 私、ダメだったかな」

「確実に困ってたね。大体、僕とティアナは今くらいの距離感が理想なのよ」



まぁ、フェイトの指示通りに僕とティアナが友達付き合いしなきゃいけないって言うなら、別だけどさ。



「で、そこもデート中に互いに確認し合ったから、問題無し。
・・・・・・僕はいいから、ティアナに後でちゃんと謝って。いい?」

「・・・・・・うん」



・・・・・・反省しているようなので、これくらいにしとく。てゆうかさ、別に僕はいいのよ。

ただ、ティアナやスバルにアレコレ言うな。どう思うかは、向こう様の領域だってーのに。



「あと、もう一つごめん」

「何?」

「・・・・・・その、私・・・・・・身長の事、最初の時に言ってたから。改めてその・・・・・・ごめん」

「別にいいよ」



てか、最初に相当気にしてくれてたじゃないのさ。アレで充分だし。



「うん、大丈夫だよ。僕は気にしてない」

「ホントに?」

「ホントだよ。てゆうか、僕は言わなかった? 大事な友達二人の頼みだから、引き受けるって。
そういうのも全部込みだった。だから、フェイトもギンガさんも、そこで謝る必要ないの。・・・・・・OK?」



そこまで言って、ようやくフェイトは納得してくれた。安心したように、静かに息を吐く。

・・・・・・うん、今回はまぁ納得してるよ? なんだかんだで、ティアナとデートも楽しかったしさ。



「それで用件は、ティアナと僕の事だけ?」

「ううん、それだけじゃないんだ。あの、もうすぐ私とエリオとキャロでお休み取るでしょ?」

「あぁ、そうだよね。旅行するんだっけ」



さて、以前スターズの三人がお休みを取ったのを覚えているだろうか。

その時、フェイト達ライトニング分隊は、お休みがなかった。そこで、もうすぐ三人で休みを取るのである。



「・・・・・・あぁもうっ! 僕のバカっ!! マジでこの間の休みの時に旅行すればよかったっ!!」



頭を掻きむしりながら叫んでしまう感情の根源は、後悔。

そうだ。そうすれば、もっとリフレッシュ出来たはずなのに。



「ヤ、ヤスフミっ!?」

≪あー、フェイトさん気にしないでください。この人、あれ以来ずっと後悔してるんですよ≫

「あ、納得したよ。・・・・・・って、そうじゃないっ! あの、大丈夫だよっ!? 旅行なら私達と一緒に行くんだからっ!!」

「そうだよそうだよっ! あの時もフェイト達と旅行に行けば・・・・・・え?」



後悔に苛まれるのを一旦中断して、僕はフェイトの方を見る。フェイトは、三回連続で首を縦に振った。



「僕が・・・・・・フェイトと一緒? てゆうか、フェイトとエリオとキャロの家族旅行に一緒?」

「うん」

「なんでっ!? いやいや、僕が一緒に行っちゃダメでしょっ!!」

「どうしてそういう事言うのっ!? 特に問題ないと思うんだけどっ!!」



もちろん、そういう事を言う理由はある。・・・・・・普通に、僕お邪魔虫じゃない?

ほら、12話のアレコレ以来ちょっと距離開いてるしさ。フェイトはともかく、二人が嫌じゃないかと。



「あ、もしかして私達の邪魔になるとか考えてない?」

「うん。だって、久々の水入らずだって聞いてるし。それにほら、こういうのは大事でしょ?
スカリエッティの同類であるフェイトが人形であるエリオ達をいい具合に飼いならすために」



フェイトは一瞬で怒り心頭という顔をするけど、両拳を胸元でぐっと握りしめて・・・・・・お、飲み込んだ。



「・・・・・・飲み込んだか。うん、僕の言いたい事は伝わってるらしいね」

「な、なんとか」



その上こっちの意図をちゃんと理解するとは・・・・・・さすがに2話前のお話だしなぁ。これでダメだったら鳥頭過ぎるって。



「でもヤスフミ、唐突過ぎて本気で怒りそうになったんだけど」

「何言ってるのよ。フェイトの精神鍛錬のために不意打ちしなきゃ意味ないでしょ。
これからこの調子でしばらくの間フェイトの事をいたぶっていくからそのつもりで」

「どうしてそこまでっ!? というか、いたぶるって言わないで欲しいんだけどっ!!」

「だってまた緊縛プレイになられても困るし」



あれ、なんでフェイトはきょとんとした顔になるんだろ。それですぐに嬉しそうな顔になったし。



「・・・・・・ありがと。気遣ってくれて」

「別に気遣ってないし。あれだ、フェイトをいじめる喜びに目覚めたんだよ。
あといつぞや約束したキスとバストタッチのお礼をもらっていない内に死なれても困るだけだし」

「そっか。うん、そうだよね。ヤスフミはいじめっ子だから、そういういじめが大好きなんだしね。
それでエッチだからそうなっちゃうのは当然なんだよね」



なんでかフェイトは楽しそうに笑う。うーん、シーン展開がおかしくない? いや、まぁいいんだけど。



「あのね、そこの辺りは大丈夫だよ? 私もそうだし、エリオ達も納得してくれてるから。
というか、二人がヤスフミとの交流も兼ねて行きたいって言い出したんだ。この間のアレコレ、いい方に作用してるみたい」

「あ、そうなんだ。でも、いいの?」



僕がそう聞くと、フェイトが優しい笑顔を浮かべながら頷いた。



「でも、僕ここ最近色々やらかしてるし」

「確かに最近はその・・・・・・色々行き違ってるでしょ。ぶつかったりもして、結構シビアな話したりもして」



まぁ、それなりに衝突することも多かったなぁ。色々面倒事が多かったからだけど。



「だから仕事から完全に離れて、ヤスフミと休日を過ごしたいなって思ってるの。
ここで私が負担かけてる部分、少なくないし・・・・・・きっと心配も凄くかけてる」

「・・・・・・うん」

「だから取り返していきたいんだ。このままは嫌。私はヤスフミとこれからも・・・・・・ちゃんと繋がっていきたいから。
あの、どうかな。もしエリオやキャロと居るのが嫌とか負担がかかるとかなら、無理は言わないよ。そこは・・・・・・本当に」

「・・・・・・・・・・・・そっか。じゃあ、あの・・・・・・参加、します」



エリオ、キャロ。ありがとう。きっと、すごい気遣ってくれてたんだよね。うん、ちゃんとお礼言わなきゃ。



「なら良かった。じゃあ、早速色々準備しなきゃ。それで絶対、楽しい旅行にしようね」

「・・・・・・うん」










こうして僕とアルトは、フェイトとチビッ子二人のお休みに参加することが決定した。





そう、とある魔導師の休日、第2段である。わーい、旅だ旅ー♪ 思いっ切り楽しむぞー♪




















(第15話へ続く)





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あきゅろす。
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