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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第11話 『忘れちゃいけないことがある。壊れちゃいけないものだってある』(加筆修正版)



「・・・・・・やっぱり痛い」





朝、目が覚めてから、同じ部屋で暮らしている二人が寝ている内に、軽くウォーミングアップに出た。

といっても、今日は早朝訓練は無いから、こんな早くに起きてウォーミングアップしても意味・・・・・・無いんだよね。

だれど、一応確認したいことがあった。ストレッチを加えながら、少し気になる個所を重点的にチェック。



・・・・・・やっぱり痛い。身体の所々に、痛みが走る。動けなくなるとか、そんなレベルじゃない。

普段動く時に、どうこうなるというものでもない。ただ、強めに刺激したりすると痛みが走る。

この原因、もう考えるまでもない。・・・・・・はぁ、今日のシャマルさんの定期検診、気が重いなぁ。





「というか、恭文君にはやっぱりごめんだよね。・・・・・・ごめん」










疲れてて、ちゃんとお休みしなきゃいけないのに・・・・・・私、止まれないんだもの。

でも、それでもまだ空を飛ぶことから離れるわけにはいかない。

まだやるべき事と、伝えなきゃいけない事があるから。それは、きっと私だから出来る事。





それが終わるまでは、飛び続けなきゃいけない。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第11話 『忘れちゃいけないことがある。壊れちゃいけないものだってある』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



三日間の慌しく、休みにならなかったといえば全くならなかった時間は終わった。

リインを抱き締めながらの眠りから覚めると、窓の外は非常にいい天気だった。

そして朝食を食べて朝風呂に入って、歩きながら隊舎へと出勤してきた。





とにかく、今日の朝の予定は、再開される訓練の見学。

その前に医務室へ行って、シャマルさんの定期検診を受けなきゃいけない。

気が重い。・・・・・・そう、僕がここまでお休みにこだわった原因は、ここ。





この検診で悪い結果が出ようものなら、僕は非常にお叱りを受けることになる。

そこの辺りを、きっと某総務統括官とかは分かってくれてないんでしょ。

全く、なんなのアレ? ふざけんじゃないっつーの。





僕は、これ以上めんどくさいことはごめんなのよ。いいのよ、別に新しい友達とか作らなくて。大体・・・・・・あれ?










「横馬」

≪ですね≫



そんな鬱な気持ちを抱えながら医務室に向かっていると、なーんか同じく鬱な空気を背負った人を見つけた。

制服姿にサイドポニーが映える女性の後ろ姿。ここまで言えば、誰かなど考えるまでもないと思う。



「横馬、おはよう」



で、当然のようにその子は僕の方を振り向いた。笑顔なのは、性格的な問題。



「あ、恭文君おはよう。アルトアイゼンもおはよう」

≪おはようございます。高町教導官≫



なのはが、教導官制服・・・・・・あぁ、訓練あるしね。うん、納得した。

とにかく、そのまま僕達は歩き出す。当然のように同じ方向に。



「昨日はありがと。いや、あのカレーが美味しくて美味しくて」

「ううん、こっちこそありがと。ヴィヴィオがね、昨日寝付くまでまた行きたいって何度も言ってたんだ」

「・・・・・・僕、ずっと寝てたよ?」



家の主人としては、思いっ切りお構いも出来なかったのに。何が楽しかったんだろ。

なお、某総務統括官とスターズコンビはお構いする理由がないので、除外します。



「それでも、すごく楽しかったみたいなんだ。あ、もちろん私も楽しかったよ?」

「そっか。また、事前連絡さえくれればいつでも来ていいよ?
ヴィヴィオも、昨日持っていったディスクの続きも見たいだろうしさ」

「うん、また寄らせてもらうね。でも、突然はやっぱりダメなんだね」



苦笑気味になのはが、歩きながら僕を見る。でも、どうやら納得しているらしい。



「あはははは、ダメに決まってるじゃないのさ。もう誰が来ようが対応しないことにしたから」

「そうだよね。うん、そうなるよね」



そのせいで昨日の前半は全く休めなかったし。結局、キバの録画分消化も途中で止まっちゃったし。

うん、もう突然の来訪になんて絶対対応するもんか。する理由があるわけがない。



・・・・・・フェイト以外

「フェイトちゃん以外ってどういうことっ!? 普通に私やはやてちゃんくらいは対応してよー!!」

「まぁ、考えておく」



軽くそう返すと、なのはは満足だったらしい。なんか嬉しそうに笑ってる。



「そういやさ、ちょっと聞いたんだけどなのはも海上隔離施設に顔出してんだって?」

「隔離施設? ・・・・・・あ、ナンバーズ」

「そそ」



フェイトとリンディさんが、なんかルーテシアの保護責任者やってたとか言うしなぁ。

スバル達もあんな感じだったし、マジで殴られたご本人達は気にしない方向にしているらしい。



「というか、顔出したんだ」

「ま、知っての通り軌道拘置所に居る嘘つき女と色々あったんでね。
どっちにしても、顔出さなきゃいけないかなとか思ってたんだよ」

「・・・・・・7番のセッテ?」

「それ」



セッテとは、まぁ・・・・・・楽しく戦えて、ちょこっとだけ因縁が出来て、再戦の約束をした。

今度は事件絡みの殺し合いじゃなくて、戦って力をぶつけ合おうと。でも、約束は守られない。



「フェイトちゃんから、聞いてる。会いに行ったりしたんだよね」

「したね。でも、敗者の矜持があるとか何とか言って、更生プログラムへの参加を断ってる」





チンクさん達のように、更生プログラムを受ける道を選んでいない人間も居る。

もっと言えば、局への捜査協力を断って、黙秘を続けている人間が。

例えば、主犯であるジェイル・スカリエッティ。その参謀であるナンバーズ長女のウーノ。



ゆりかごでなのはから怒りの鉄槌をかまされて、ピンク色の物に恐怖を覚えるようになったという四女のクアットロ。

で、僕ともちょこっとだけ絡んで、アジトでスカリエッティ共々フェイトによって捕縛された三女のトーレ。

そして、そのトーレが教育係を務めていて、僕との再戦の約束を破ったバカが、セッテ。





「わざわざさ、書類のあれこれが忙しいのに、会いに行ったんだよ?
でもさっぱり。あははは、フェイト以外でも女の子に振られるってのは、またキツイね」

≪あなた、何気に100発100中ですしね。でも、本当に残念ですね≫

「そうだね。セッテ、凄く強かった。あんなのじゃ足りないよ。
もっと・・・・・・もっと力をぶつけ合って、楽しみたかったのに」





今名前を上げた五名は、それぞれ別の軌道拘置所に収監されている。

あ、そこはいわゆる刑務所みたいなところと考えてもらえれば、大丈夫だから。

セッテは、ナンバーズの中でも最後に生まれた子。だから、関わった事件の数も少ない。



中央本部襲撃と、スカリエッティの命で僕をあっちこっちで探しまくってたくらいだもの。

だから僕もそうだし、局の関係者やフェイトやチンクさん達からも、かなり言われている。

更生プログラムを受けて、これからの自分について考えてみないかと。



それは、セッテが望めばすぐにでも可能。なお、僕は再戦の約束を守れと言っている。

セッテの未来なんて知らないけど、約束は戦士として守れと。

でも、セッテは首を縦に振らない。・・・・・・自分は負けた。



だから、負けた人間として相応の咎はあってしかるべきだと譲らない。



だから今も独房の中に居る。だから、僕との約束は・・・・・・守られない。





「・・・・・・つまんない」



歩きながら、ちょっとだけ漏らしてしまった。でも、なんかこう・・・・・・だめ。

何気にあの子との再戦の約束は楽しみにしてたから、フェイトから事情を聞いてから、ずっと宙ぶらりんになってる。



「ホントに、つまんない事ばっか」



やれ居場所を作れ、やれ友達になれ、やれスキルアップを目指せ。

極めつけは、楽しみにしてた再戦は無理・・・・・・最近、こんなことばっか。



「なんで、こうなんのかな。なんで・・・・・・もっとシンプルにいけないんだろ」

「・・・・・・恭文君」



それで気づいた。なのはがすごく心配そうな顔をしているのに、ようやく。

だから僕は、首を横に振って笑って応える。少しだけ無理をしてるけど、それでも笑う。



「大丈夫だよ。てーか、約束守らせるならまた説得したっていいんだしさ」

「・・・・・・そうだね。うん、説得していこう? 今は忙しいからだめだけどさ。
でも、恭文君がまた戦いたいって本気で思ってる事、何度も伝えれば・・・・・・きっと」

「だと、いいんだけどね。・・・・・・てゆうか、なのはとかもそんな感じなんでしょ?」

「まぁ、再戦とまではいってないよ? あー、でもティアがウェンディとそんな事話してるのは聞いてる」



ティア・・・・・・あぁ、そう言えば廃棄都市部の戦闘で、ウェンディはティアナとやり合ってるんだっけ。

報告書の記憶を引っ張り出すと、確かウェンディはガンナーだったから、その関係でそうなってんのか。



「私の場合は、ディエチかな。こう、砲撃専門という部分でウマが合うというかなんというか」

「性格は真逆なのにね。だって、なのはは魔王でディエチは素敵なレディだし」

「ち、違うもんっ! 私は魔王じゃないもんっ!!」



まぁ、話も軽く纏まったところで・・・・・・そろそろ本題に触れようと思う。

僕のバカな発言に乗って、気分を盛り上げてくれる大事な友達に感謝しつつ。



「それでなのは、なのはは何故に僕と同じ方向に歩く?」

「・・・・・・恭文君と行き先が同じだからだよ」



なのはの表情が、途端に暗いものに変わる。そして、ちゃんと答えてくれた。

きっと内心では『聞くまでもないよね?』とか思ってるにも関わらず。



「そっか。・・・・・・なのはも、シャマルさんか」

「うん」



このバカは、僕とは違うベクトルで相当無茶やらかしてる。

そして、シャマルさんは主治医なので当然のように、色々厳しくなる。この辺り、察して?



「なのは、ごめん。せっかくのフォローを無駄にしたわ」

「ううん、仕方ないよ。だって・・・・・・どっちにしろすぐに分かることなんだし」

「そうだね」










こうして、二人重い気分のまま、医務室に向かった。というか、入った。

なお、僕の方は大丈夫だった。フェイトやはやて達が、真面目にフォローしてくれたみたいだから。

で、一応戦闘許可も出た。ただし、マジで定期的に休むようにするのが条件だけど。





とりあえず、ここはいいのよ。ここは、いいの。問題は・・・・・・なのはの方だよ




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・スバルさんもティアさんも、おめでとうございます」

「うん、ありがとね」

「まさかこーんな早く決まるとは思わなかったけどね」

「スバルさんは特救に、ティアさんはフェイトさんの補佐官に・・・・・・バラバラになっちゃいますね」



私とティアの解散後の行き先、ついさっき確定した。だから、そんな話をエリオとキャロとしながら、廊下を歩く。

そして思う。確かに・・・・・・そうだなと。それはちょっとだけ、寂しい。



「そうだね。でも、会おうと思えばいつでも会える距離なんだし大丈夫だよ」

「まぁ、私もアンタも相当忙しくなるだろうし、そうそう簡単には行かないでしょうけどね」

「そんなことないよ。きっと大丈夫。うんうん」

「なんの自信よ、それ」



よくは分からない。でも、そう思いたい。なんか・・・・・・やっぱさ、お別れはちょっとだけ寂しいから。



「そういえば、アンタ達二人は一緒なんだっけ?」

「はい。私とエリオ君は、私が元々居た自然保護隊の方に行くことになると思います」

「お、二人はやっぱり仲良しさんかぁ」



確か、六課で覚えたスキルを活かすためにっていうのと、フェイトさんを安心させるためだったはず。

学校に行ってどうこうという案もあったけど、フェイトさんとの協議の結果、これに決まったらしい。



「はい。保護隊の方々も歓迎してくれるそうで・・・・・・頑張っていきます」

「そっか、エリオもキャロも、ファイトだよ」

「「はいっ!」」

「・・・・・・そういやさ、アイツはどうするんだろ」

「あー、そういえばそうだね」



来たばっかりだけど、そういうの考えないとだめだよね。やっぱり。



「アイツ? あぁ、なぎさんの事ですね」

「そうそう。・・・・・・って、キャロ、なぎさんって何よ?」

「休み中に色々とありまして、そう呼ぶようにと」

「僕も、『恭文』と呼ぶようにと。あと、原則敬語は禁止に」



思わず、ティアと二人顔を見合わせてしまう。・・・・・・これは、どういう事?

私達は『友達じゃない』とハッキリ宣言されてるのに、どうして二人だけっ!?



「そっか、よかったね」



そんな感情を、おくびにも出さないで私は二人に笑いかけながら、話を続ける事にした。

ちょっと何か突き刺さったけど、気のせいだ。というか、やっぱりフェイトさんの保護児童だからかな。



「はい。ただ、まだ他人ですけど」

「それで、仕事場とプライベートの区切りをきっちり付ける事が条件なんです。
なので私達はこれから・・・・・・ですね。まだ、0の状態なんです」

「・・・・・・なるほど。まだまだアンタ達もそんな距離と」



その言葉に、ちょっと安心・・・・・・いやいや、していいのかな? 色々間違ってると思うんだけど。



「でも恭文、またフリーで仕事するとか言いそうだけど、ちょっともったいないかな」





きっと、恭文だったら部隊の中でもすごいことになると思うんだけどなぁ。

すぐに、なのはさん達みたいなエースとかストライカーとか言われてさ。

戦闘スキルは高いみだいだし、補佐官資格を取れるくらいに事務関係も優秀。



それなのに、それでどこの部隊にも所属せず、決まった役職にも付かないなんて、普通は勿体無い。

もちろん、それぞれの志望があるから一概には言えないよ? 嘱託だって、立派な仕事だもの。

・・・・・・そうだよね、言えないよね。だって私、恭文の事何にも知らないんだから。





「実は私もちょっと気になって、アレコレ調べてみたのよ」

「・・・・・・ティア、さすがにもうやめないと、恭文怒るよ?」

「大丈夫よ、もうしてないから。それで分かったんだけど、アイツとアルトアイゼン、相当なのよ。
大小問わず色々な一件に巻き込まれては、暴れてるみたい」

「ティアさん、そうなんですか?」

「そーよ。公開非公開問わずね。古き鉄って二つ名まであるくらい。
で、スカウトとかもされてるんだけど、今にいたるってわけ」





そう、恭文の戦闘能力を買って、所属してみないかと声をかける部隊もあったとか。

だけど、全て断っているらしい。自由気ままな魔導師の生活が性にあっているからと。

これはギン姉から詳しく聞いたんだけど、恭文がフリーの魔導師で居るのは、そこが理由とか。



嘱託のような一処に留まらない職業だと、色々戦いが出来るというのが大きい。

魔導師戦や対人戦に限らず、観測世界なんかに居るドラゴンや巨大ミミズなんかを相手にも戦う。

そういう風に色んな戦闘経験を積むことで、修行している。恭文の先生みたいに強くなること夢見て。





「管理世界にはそういう生物が増えすぎてしまうこともあります。
それを駆逐して減らしていくのも、局の大事な仕事ですから」



さすがはキャロ、そういう仕事の重要性を、ちゃんと分かってる。うーん、カントリーガールは違うなぁ。



「アイツの先生とやらが今のアイツみたいな感じのことを、昔からしているそうなのよ。自分の意志で、自分のためにね」

「自分のために・・・・・・ですか。でも、局員だったんですよね?」

「でも、そうみたいなんだ。私もギン姉やティアから聞いて知ったんだけど、恭文の先生・・・・・・ヘイハチ・トウゴウさんって言うんだけどね」





局に所属してた時から凄い問題児で、好き勝手しまくってたらしい。それはもう凄い勢いで。

規則違反なんて日常茶飯事。単独行動は大好きだし、問題行動の数々で査問にかけられたことも数知れず。

作成した始末書の枚数で、局の裏ギネスに載ったこともあるらしい。



・・・・・・というか、そんなことをギネスにしたことがビックリだよ。

だけど、その高い戦闘技能で色々な事件や悲劇を潰してきた。

だから、評価はすごく高い。私達は知らなかったけど、局の伝説になっているらしい。



そして、そんな人だからこそ、それだけの問題児でも局は解雇することなんて出来なかった。

ううん、むしろ解雇なんてしたくなかった。今の偉い人が相当引き止めていたとか。

ヘイハチ・トウゴウさんが局を辞めた事は、『100年に一人の逸材を失った』と形容されていた。



ただ無茶なだけじゃなくて、その行動にもしっかりとした理由があった。

どこか人を惹きつける人だったらしくて、大小問わず理解者も多数だったらしい。

そして、局を引退した今でも、それは変わらない。どこかの世界で、自分のために戦っている。





「いわゆる一昔前の英雄で、究極の自由人ってやつよ。
局員としての規則なんてガン無視で動いてたらしいし」

「そんな凄い人が恭文の先生だったんですか。でもそれって、ちょっとだけ恭文に似てますね」

「エリオ君、それ逆だと思う。多分、なぎさんがその先生に似てるんだよ」

「・・・・・・そうだね。多分、すごく影響を受けてるんだと思う。
フェイトさんも言ってたから。恭文とその先生は、そういうのを抜きにしても凄く似てるって」



・・・・・・そういうの、知らなかった。ホントだ、私は恭文の事を何にも知らない。

友達になりたいのにな。でもでも、恭文は強情だし、私無神経な事しちゃったし・・・・・・うぅ、出来るかな。



「まぁ、その話はいずれアイツから聞くとして、医務室入っちゃいましょ」

「あ、うん」



そう言えば、目的を説明してなかったような気がする。私達四人、今日の訓練に備えて医務室に向かっている。

えっと、ファーストエイドキットって言えば分かるかな? 応急処置用の用具の補充のためになんだ。



「・・・・・・あれ?」

「スバルさん、どうしました? エリオ君も」

「話し声が聞こえる。シャマルさんとなのはさんに」

「恭文?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・シャマルさん、そこ、痛いです」



なのはは、顔を顰めながらそう口にする。なお、制服の上着を脱いで医務室のベッドに横たわってる。

その反応を見て、シャマルさんが表情を険しくする。



「やっぱり。恭文くん、次はここお願いできる?」

「ほいほい。それじゃあいくよ、なのは。・・・・・・それ」

「や、恭文君、そこ、ちょっときつい」



そして、またシャマルさんの表情が険しくなる。というか、僕も同じく。

予想はしてた。うん、かなりね。だからまぁ・・・・・・もう言うのめんどくさいから、何も言わない。



≪今までのデータを総合すると、これはかなりひどい状態ですね≫

「うん、アルトもう言わなくていいよ。それ、すっごい分かってるから」

「そうね。・・・・・・全く、今回も長い治療になるわよ?」

「はい、ご迷惑おかけします」





結局僕は、なのはの定期検診に同席。というか、シャマルさんの助手みたいな形になった。

それであれこれ見せてもらったけど、普通の怪我じゃない。てか、休み明けでこんな状態なんてありえない。

確かにダメージが残ってるのは知ってた。だけど・・・・・・確認してみて改めて思う。



その残り方が明らかにおかしい。だから、一応確認する。





「ねぇなのは、まさか事件が終わってから、こんな状態で仕事やら訓練再開してたっての?」

「・・・・・・うん」



申し訳なさそうな顔をしないで欲しい。だったら、今すぐ休め。休んで、寝ておけっつーの。



「で、これはブラスターシステムの」



言いかけて気づく。後ろに・・・・・・気配が四つ。これは知ってる気配だ。

だからその気配に向かって、少し大きめに声をぶつける。



「入り口の前の四人、盗み聞きしてないでとっとと入ってこい」



シャマルさんとなのはが驚いた顔になるけど、更に驚くことになる。

だって、入り口からフォワード四人が入ってきたんだから。



「スバルっ! というかみんな・・・・・・どうしてっ!?」



なのはが驚きの声をあげると、四人は申し訳なさそうにペコペコし出す。



「あ、あははは・・・・・・すみません」

「その、お話中だったので私もスバル達も入るタイミングを逃しちゃって」

「あら、そうだったの。・・・・・・何か私かなのはちゃんに用?」

「えっと、ファーストエイドキットを補充したくて。今、少しだけ大丈夫ですか?」

「えぇ、問題ないわ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



スバル達は、ファーストエイドキットを補充してとっとと出ていった。





なお、外に気配はなし。これで安心してお話が出来る。










「危なかったわね。危うく聞かれる所だった。というか相変わらず恭文くんの察知能力はすごいわね」

「まぁ、恭也さんと美由希さんのおかげですよ」




視界に頼らず、音や空気の流れ・・・・・・いや、場合によってはそれすら頼らない。

とにかく、目の届かない存在の気配や攻撃を察知する技術。魔法とかとは違う、僕の得意技の一つ。

これを教えてくれたのは、なのはの兄姉である恭也さんと美由希さん。二人は実戦剣術の達人。



その人達との訓練で、培ったのがこれなの。で、今回は四人とも気配全然消せてなかったし、すぐに分かった。





「とにかく、横馬の身体がギシギシ悲鳴上げてるのは、ブラスターシステムの後遺ダメージと」

「正解よ。恭文くん、アルトアイゼン、ここまで聞いたあなた達の正直な意見を聞かせて?」



意見も何もない。こんな状態を見たら、結論なんて一つだ。何かあってからじゃ遅いわけだし。

つか、余裕こいてた自分に腹が立つ。予想はしてたはずなのに、情報は知ってたはずなのに、見積もりが甘かった。



「完全回復するまで休んでもらったほうがいいと思います。
通常業務も、スバル達への訓練も含めて全部です」

≪私もマスターと同意見です。これはひどすぎます≫

「そ、それはだめだよ」

「なにがダメだよ。そうやって無理して無茶して、もし墜ちたらヴィヴィオはどうなるの?」

「うぅ・・・・・・そうだけど」




ブラスターシステムというのは、なのはとレイジングハートの最後にして最強の切り札。

エクシード・・・・・・エクセリオンを全力全開とするならば、ブラスターは言うなれば限界突破。

本来のなのはとレイハ姐さんでは出せないような魔力出力を、あの手この手で叩き出す。



そうして得られた圧倒的なパワーで、敵を一気に屠る。ただし、対価は高い。

その対価が何かなど、今、僕の目の前に居る無鉄砲な教導官を見れば一目瞭然である。

待っている最悪な結末は、死。そうならなくても、長い時間をかけての休息が必要となる。



そして、今のなのはがそれなのは、もう言うまでも無いと思う。





「私も恭文君とアルトアイゼンと同じ意見よ」



真剣な顔で、シャマルさんはなのはにゆっくりと話し始める。

医務官として、友として、今のなのはの現状を嘘偽り無くである。



「あなたの傷は、自分でも分かっていると思うけど相当深いものよ?
例えば仕事を完全休職した場合、完治までには恐らく1年」



そうそう、完治までには1年くらいは必要・・・・・・え?



「場合によっては、3〜4年は覚悟してもらいます」

「3〜4年っ!? プータロー生活を送ってもそんなにかかるんですかっ!!」

≪高町教導官、現在は最大魔力値が8%も低下しています。
そしてダメージの具合から考えるに、それくらいの時間は必要になります≫




さて、この場合友達としては殴ってでも止めるのが、正解なんだろうね。うん、そうだよ。

ただなぁ・・・・・・あーもう、一応言うだけは言ってみるか。多分無駄だろうけど。



「なのは、めんどくさいから単刀直入に言う。出来るか出来ないかで答えて」

「・・・・・・うん」

「仕事、今から休養して。てーか、僕よりおのれの方が休みが必要でしょうが」



そしてなのはは、数秒考えて・・・・・・強く閉じていた唇を開いた。



「ごめん、出来ないよ」

「・・・・・・そっか」



僕としては、数秒考えてくれただけで充分だった。即答するかと思ってたから。

だって、普通にヴィヴィオの事とかも考えてくれてたんだろうからさ。



「それならそれで、やめるわけにはいかない理由を教えてよ。
僕はまぁ、知っての通り冷たい奴だからさ。おのれが死のうが生きようが知ったこっちゃない」

「恭文くんっ!?」

「でも、シャマル先生もフェイト達も、そんな答えじゃ絶対納得しない。
・・・・・・完全無欠に振り切れるわけじゃないんでしょ? だったら、ちゃんと話しなよ」

「うん。・・・・・・まだね、スバル達に伝えたいことがあるの。
渡したいもの、沢山あるの。だから」



やっぱり教導関連かい。・・・・・・マジでスバル達に気づいて正解だったな。

これで聞かれてたら、色々とやりにくくなるのは明白だもの。



「伝えたいことと渡したいものって、何?」



僕は、行儀が悪いと知りつつなのはが腰掛けているベッドに腰掛ける。

もちろんなのはの隣り。なのはは真剣な表情のまま、話し出す。



「うん、端的に言っちゃうとね。戦うための力や技能に戦術なの。
・・・・・・恭文君は知ってるよね? 教導隊の教え方とそこに込められている意味については」





その言葉に、僕は頷く。頷く体はないけど、アルトもきっと同じ反応だ。

戦技教導隊は以前も話したけど、一般的な部隊の魔導師とはまた違う仕事をする。

武装局員の新しい魔法装備の開発や、魔法戦闘の技術や戦術の構築がそれ。



まぁ、他にも細細としているけど、この場では簡単な説明で終わらせてもらうことにする。

そして、その他には教導も含まれる。ようするに、今なのはが六課で行なっている感じだね。

ある一定水準の技能を持った魔導師を生徒として、より高度な戦闘技術を教える仕事もある。



でも、教導隊ではこう言った教官としての仕事は、普通1年も出向して行なうものじゃない。

例えば3週間とか2ヶ月とか、そう言った短期間の間に行われる。

出向した部隊の武装局員相手に、短い時間の中で濃密に戦闘技術を叩き込むのだ。



自分達の教えた事が、その局員の未来に繋がるように。

通したい想いを通せるように、他者と自身を守る盾となるように。

短い時間の中にそんな強い想いを込めて、自信が培ってきた力と技術を伝えていく。



それが、戦技教導官という仕事。普通の局員の教育を担当する教官とは、また違う仕事なのよ。





「で、それで・・・・・・何を教えたいのよ」



もうここまでで分かると思うけど、一応説明。

なのははスバル達に教えたい事がまだあるから、仕事は休めないと言ってる。



「無茶だ無茶だって言われてきた」



そこまで言いかけて、なのはが僕を見ながら苦笑した。



「恭文君には『ずっと使わず墓の中にもっていけ』なんて言われたエクセリオンもどうにか安定して、スバルに渡すことが出来た」



苦笑の原因が分かった。僕がそう言った時の事、思い出してるんだ。

なんか自分を心配してくれてると勘違いしたのか、言った時嬉しそうだったし。



「でも、まだまだだから、卒業までにしっかりと伸ばしたいの。ACSもバスターも、同じようにもっと伸ばせる。
ティアはね、恭文君は最近来たばかりで分からないと思うけど、最初に比べると、本当に魔力運用が上手くなったんだよ」

「・・・・・・とりあえず、今が上手いのは大体知ってるよ。じゃなきゃ、幻術なんて使わないだろうし」



幻術というのは、非常に魔力を食う術式。だから、その場合は魔力運用の技術が重要になってくる。

ようするに、如何に魔力燃費を抑えて魔法を使えるかどうかって事だね。ティアは、そこがちゃんと出来るから幻術も活用出来る。



「だから六課が解散するまでに、集束系のキッカケを教えられそうなんだ」

「・・・・・・集束系?」





そこまで聞いて、ひっかかるものがあった。集束系というのは、魔法の運用技術の一種。

空気中に漂っている微量な魔力を集めて、巨大な魔力エネルギーを構築するというもの。

なお、その手の技術では奥義と言える高等技術。習得難易度で言えば・・・・・・Sクラス以上だね。



そして、使えるようになっても、安心は出来ない。

きっちりしっかり練習していかなきゃ、完全なものにはならないから。

この技能の利点としては、魔力消費が少ないということ。



発動に必要な最低限なトリガー分を除けば、自身の魔力をほとんど消費しない。

魔力というのは、空気中に存在しているエネルギーだ。

それを魔導師は、リンカーコアで自然吸収して、自身の魔力としている。



そんなありふれたものを、一点に集めて、火力として使用する。

それが、集束系魔法。その威力は、推して知るべし。

それによってどんな魔法が撃てるかというと、代表格なのは・・・・・・あ。





「ま、まさか、スターライトブレイカーっ!?」

「そうだよ」



なのは、まさかアレをティアナに教えるつもりなの? うわ、また大胆な。



「あの幾度となく演習場を使用不可能へと追い込んだ、次元世界最大の凶悪魔法を教えるんだ。うわ、最悪」

「そ、そんなことないよっ! 演習場を完全破壊したのだって、ほんの15、6回だしっ!!
というか凶悪魔法ってひどいよ! 最悪ってさらにひどいよっ!!」



いや、十分過ぎるくらいの回数だから。それにそれだけあれこれぶっ壊してれば立派な凶悪魔法でしょうが。



「なのはちゃん・・・・・・ティアナを魔王の後継者にするつもり?」

「そしてシャマルさんもひどいですよっ! それだとまるで私のスターライトが魔王の証明みたいじゃないですかっ!!」





ちなみに、なのはがスターライトでぶっ壊したのは別に演習場だけではない。うん、それだけじゃないのよ。

ミッドの廃棄都市部で一緒にそこそこ腕の立つ違法魔導師連中とやりあった時は、犯人もろともビル郡をなぎ倒した。

辺境世界でデカ物を相手にした時には、海は裂け大地は割れ、世界の叫びがこだました。



なんていうか、ドラグスレイブですか? もしくはエターナルフォースブリザード?



これだけ色々壊してきて、今まで一人として死人が出てないのが不思議でならないよ。





「でも、なんでそれを?」

「ほら、ティアは恭文君と同じで魔力量が多くないから。それの補強のためにね。
魔力量頼みの攻撃だと、ティアとは相性がよくないから」





魔力頼みの攻撃。分かりやすく言うと、なのはのディバインバスターのような魔法だ。

術に使う魔力量=威力という分かりやすい術式。

確かにそれは、なのはやスバルみたいな馬鹿魔力持ちとは相性がいい。



魔力量が多いから、何発でも撃てる。威力も、消費魔力が多ければ多いほど上がる。

だけど、僕やティアナみたいに魔力量が平均な人間には、基本的に向かない。

あんなのを連続でぶっ放せば、あっという間に魔力はスッカラカンになってしまう。



あの手の攻撃は、自身の魔力質量を叩きつけるわけだから、下手に消費量を減らすと威力に直結する。

確かに、ティアナには向いてないか。ただでさえ、幻術って言う消費カロリー多めなものがあるのに。

そんなの使ってたら、幻術もその手の攻撃も、それどころか射撃すら出来無くなって、すぐに立ち行かなくなる。



僕も一応砲撃魔法は習得してるけど、色々手段を講じて何とかその問題を解消してるし。





「集束系なら火力は充分だし、周辺の魔力を使用すればトリガー分の魔力だけで発動できるし、向いてると思うの」

「なるほどね。でも、それだったら、僕がクレイモアを教えれば一発解決だよ」

「それは絶対にいやっ! ティアナが恭文君みたいになったらどうするのっ!?」

「どういう意味だよっ!」



コイツ、僕をなんだと思ってるっ!? クレイモアはいいじゃないのさっ! ロマンじゃないのさっ!!



「とにかく、ティアなら使いこなしてくれると思うから。技術的な意味でも、精神的な意味でも必ず」



力強く、大丈夫だからという表情のなのはを見て、この件は納得するしかないと思った。僕のことも含めて。

ティアナについては、教導の中でちゃんと見ているだろうし、そのなのはがティアナなら大丈夫というんだ。絶対大丈夫なんでしょ。



「それでね、エリオには射撃の基礎とチャージドライブ。
キャロには元々教えていたのに加えて、シューターを教えたいなと思って」



次は、ちびっ子二人。というか、普通だ。前の二人と違って、普通だ。



「二人はスバル達と違って、発展形じゃなくて基本が中心になっちゃうんだけどね」

「ふむ、まぁチビッ子達は大きくなるに連れて、若干戦闘スタイル変わるかも知れないよ?
ポイントだけ抑えとけばいいんじゃないかな? てか、そのつもりでそれなんでしょ」

「うん」



エリオは現状の戦い方に幅を持たせて、キャロはやられにくいフルバックって感じかな?

と言いますか、楽しそうだなぁ。こっちはなかなかにヒヤヒヤしてるんだけどさ。



「みんなが心配してくれてるのは分かる。それでこんなこと言うの、間違ってるよね。でもね、スバル達に伝えたいの。
私が飛べるうちに、全力で戦っていく中でしか教えられない事、私が持っている力と想いを、しっかりと受け取ってほしいの」

「・・・・・・横馬、それは自分が飛べなくなる可能性を鑑みてる?」



ちょっときついかも知れないけど、それは事実だ。現に今だってみんなそれを心配している。

僕の言葉に、なのはが俯いて考え込むような表情を見せる。というか、数秒考えて、口を開いた。



「・・・・・・よくないよ。よくないに、決まってるよ。もしかしたら、ずっと治らないかもしれない。
飛べなくなるかもしれないって、何度も考えたよ。本当に沢山。それは、すごく怖いよ」

「でも、引けないと」

「うん、そうだね。でも、例えそうなっても、私が伝えた力と想いは、スバル達の中で生きてくれるの。
そうして、スバル達が今よりも強くなったら、今度はスバル達が別の誰かにそれをきっと伝えてくれる」



それは、教導隊の理念。力と技と、その中に込められた想いは、連鎖していく。

そうして次の世代に確かに伝り続けると信じて、なのは達は仕事をしている。



「だからね、止められないの。飛べなくなった時のことより、飛べる内に何が遺せるのか。
そういうことなのかなって思うの。だから・・・・・・ごめん」



あー、だめだ。これはもうだめだ。だから僕は、大きくため息を吐く。

分かってはいた。分かってはいたけど・・・・・・やっぱ、こうなるのか。



「なのは、僕はもうゴチャゴチャ言わない。だから、一つ約束」

「約束?」

「やるなら、絶対墜ちるな」



手を伸ばして、なのはの頭に手をやる。そして、くしゃくしゃに撫でてやる。



「や、恭文君っ?!」

「そんな遺品みたいな力、もらって誰が喜ぶ? 誰も・・・・・・誰も喜ぶわけがない。
ここで意地通すなら、自分も守れ。自分の未来も守った上で、全部通せ」



どうせ、止めても聞かないのは分かってた。だから、シャマルさんも呆れたような顔しかしない。

だからきっと頭の中で、治療スケジュールなんて立ててる。そうに、決まっている。



「いい? 高町なのはが飛ぶ事をやめる時は、その貧相な胸を一杯に張って、笑顔で言い切れる時だけ。
『私はすごく頑張った』って自信を持って、自分の意思でさ。・・・・・・怪我して飛べなくなりましたなんて、僕は認めない」



なのはの目を見る。なのははくしゃくしゃの頭を両手で押さえながらも、僕を見つめ返す。



「涙なんてもういらない。遺品みたいな力もいらない。
そんなのがあっても、うっとおしい。欲しいのは一つだけ」



少し恥ずかしいけど、まぁこういうキャラも必要だし・・・・・・ちょっと、真剣にやる。



「皆が心から願っているのは、魔法の力とか、技術とかじゃない。
いつもなのはが笑顔でいるっていう事実。ただそれだけなんだから」

「私の、笑顔」

「そうだよ。てか、仮にも元魔法少女でしょうが。
魔法少女は、気合い入れて敵味方含めてハッピーエンドに持ってくもんなのよ」



まぁ、今だけは魔法少女として認めてあげるよ。ただし、上に『元』が付く。ここは絶対。



「グダグダ言わずに、やれ」

「なんで命令口調っ!? ・・・・・・でもそれは、すごく大変な約束だね」

「そうだね。だから、休養すれば? そっちの方が楽でしょ」



両手をお手上げポーズにして軽く皮肉も込めてそう言うと、なのはは笑う。笑って、首を横に振った。



「ううん、楽だけど・・・・・・それは嫌だから。うん、約束する。
絶対に、力を遺品なんかにしない。だから大丈夫」

「ならいいや。・・・・・・シャマルさん、患者はこんな感じですけど」

「全く、本当に困った患者さんね」



そう言いながら、シャマルさんは笑っていた。まぁ、苦笑気味だけど。



「なのはちゃん、一つ約束。・・・・・・治らないなんて、言わないで?
もう言いたい事は恭文くんが言ってくれたから、私からはこれだけ」

「・・・・・・はい。すみませんでした。私、必ず身体を治して、もっと飛びます。
涙も遺品もいらない。私のありったけで、みんなで笑います」

「うん、よろしい」










こうして、高町教導官は六課解散まで頑張る事が決まった。





同時に、僕の心労が変わらずに続くことも決定した。・・・・・・我ながら、甘い。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とりあえず、診察は終わったので私達は訓練場に移動。





移動しながら、私はとっても嬉しい。申し訳なさもあるけど、嬉しさの方が多い。










「・・・・・・私、いい友達持ったなぁ」

「え、僕達友達だったっけ。覚えないんだけど」

「恭文君がヒドイよー!!」





私が恭文君と会ってから、もう8年。うん、あっという間。

あの時恭文君は、ちょっとした事情で本局の方に保護されていた。

それでなんというか・・・・・・正直に言ってしまえば、私はすごく嫌われてたの。



理由は私が拠ん所無い事情のために、まだ挨拶もしていない恭文君にバインドをかけたから。

そのせいで、私は非常に嫌われていた。でもでも、アレは恭文君が悪いんだよ?

シャマルさんの手を引いて、本局の医療施設を逃走しまくって大混乱に陥れちゃうから。



とにかく、フェイトちゃんやはやてちゃんと違って、私は相当嫌われてた。

名前で呼んで欲しいと言っても、辛辣に『高町さん』と言われてしまう。

そういうのを色々悩んでて・・・・・・結果、私はいつもの『お話』に走った。



ただ、相当苦戦した。恭文君、基本的に戦ってる時はハードボイルドを通す子だから。

容赦なく、普通の魔導師が使わない手とか使われたりした。

私も恭文君も、死にかけた所から復活して、互いに色々反省点があって、そのせいかな。



その反省点を互いにぶつけ合って、死闘を演じて・・・・・・まぁ、私が勝った。





「うー、恭文君が冷たいよー。一緒の部屋で寝泊まりした中なのに」

「誤解を招くような事言うなっ! というか、アレは絶対気のせいだからっ!!」

「気のせいじゃないもんっ!!」





ただ、やり過ぎたせいでせっかく退院したのに、二人揃って病院へUターン。

そこから、ちょっと手管を使って二人一緒の病室にしてもらった。

それでお話して・・・・・・だけど、やっぱりつっけんどんにされた。



とにかく、それでもなんとかお話して・・・・・・友達になった。

互いに名前で呼ぶようになって、それから8年。恭文君は、私の大好きで大事な男の子。

だから、晴れた空の下、訓練場まで歩いていてとても楽しい。





「あ、そう言えば」

「何?」

「さっき私の事貧相な胸って・・・・・・ひどいよっ! 私だって、そこそこ成長してるんだよっ!?」

「気のせいだよ」

「気のせいじゃないからっ!!」



恭文君は、私にずっと意地悪。私をいじめて、意地悪して、楽しんでる。



「じゃあいいよっ! 触ってもいいよっ!? それで確かめてよっ!!」

「あー、そうやって僕を痴漢で訴えるんだね。うわ、最低だよ。
その手の冤罪は、人の人生を簡単に狂わせるのに」

「そんなことしないからっ!!」



それでも私は恭文君の事、大好きだから。大事な男の子で・・・・・・ライバル、だもの。

だから同時に、申し訳なさも感じてる。恭文君はきっと、私より休みが必要だから。



「なのはちゃん、最低ね」

≪最低ですね≫

「どうしてそうなるのっ!? セクハラした恭文君が悪いよねっ!!」

「だって、恭文くんのセクハラは私にとってはご褒美よ?」

「シャマルさんの主観なんて、誰も聞いてないですからっ!!」





・・・・・・とにかく、恭文君の事もうちょっと気遣っていこう。負担かけちゃう以上、ここは絶対。

朝に『つまんない』って言った時の恭文君の顔、私は忘れられない。

今まで・・・・・・ううん、1番最初の時に見たみたいな、辛そうな顔してた。



そう考えると、私は最低だな。大事な友達を、自分の都合に巻き込んでるんだもの。





「あ、なのは」

「何? もう胸は触らせてあげないんだから。恭文君が意地悪だから、意地悪し返すんだから」

「大丈夫。僕はなのはの胸を触るくらいなら、フェイトの胸を触るよ」



それはどういう意味っ!? 大きさかなっ! フェイトちゃんの胸の方が大きいからいいって言ってるのかなっ!!

うぅ、女の子としてすごい敗北感を感じてるんですけどっ! 片思いしてるのは当然知ってるけど、それでも悔しいっ!!



「とにかく、ここに居る間に戦ってよ」

「え?」

「ストレス解消の相手をしてって言ってんのよ。なんかさー、思いっ切り派手にやりたいんだよね」



恭文君は、私達と違うところがある。それは、戦い・・・・・・命のやり取りを楽しむ部分。

ヘイハチさんに、絶対に修正は不可と言わしめる程の闘争本能が、恭文君の中にはある。



「つまんないのが吹き飛ぶくらいに、思いっ切りさ」



普段は抑えてる。恭文君、『痛いのは嫌』って思ってるから。

でも、それでも・・・・・・現状のモヤモヤを吹き飛ばすくらいのものを、恭文君は求めてる。



「・・・・・・恭文君」

「頼むわ。さっきの話と矛盾はしてるけど、頼める人間は限られるのよ」

「ううん、大丈夫。・・・・・・思いっ切り、やろうか。あ、もちろん私も約束を守るから」

「ならよかった」










普通なら、止めたりするのが正解なんだと思う。やらないのが正解なんだと思う。

でも、私はそれは出来ない。だって私達、こういう関係なんだもの。それに約束してる。

いつだって全力でぶつかり合って、理解し合おうねって。だから、これだって同じ。





普段恭文君は、私にこういう頼みごとはしない。でも、今は頼ってきてくれてる。

だから、迷惑をかけるならそれにちゃんと応えたい。だから、今だって頷いた。

私達は空を見上げながら、そのままゆっくりと前に歩いていく。





空はどこまでも広くて、大きくて・・・・・・あの中を飛んだら、すごく気持ちいいと思わせるものがあった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、日々は静かに続く。だから、僕は・・・・・・泣いていた。





ボロボロと涙を流し、手を動かす。うぅ、やっぱりこれは慣れない。










「恭文さん、大丈夫ですか?」

「お前・・・・・・ボロボロじゃねぇか」

「ヤスフミ、辛そうだから私手伝うよ」

「あぁ、大丈夫だから。フェイトはそこに居ていいよ」




さて、ここが今どこかというと、僕の自宅。で、今返事したのは、師匠とリイン。そしてフェイト。

三人を夕食に招待して・・・・・・というより、師匠に『アレ』を作って欲しいと頼まれた。

なので、そのついでに僕が夕飯を用意しているの。



ま、師弟とパートナーと、片思いのお姉さんで、あれこれお話も交えつつという感じである。

今日のメニューは、スーパーにつくまでに色々と考えたのだけど、やはりここは王道で行くことにした。

メインディッシュはお肉。今日は、師匠とリインの好きなハンバーグにした。



ひき肉と今の今まで刻んでいたタマネギ、その他の材料をしっかりと混ぜる。

味付けのための調味料を入れてからフライパンに投入。時間をかけてじっくり焼く。

焼き色がついたら、蓋をして蒸し焼きっと・・・あー、レンジメイトやっぱ買うかな。



一人分しか作れないけど、ハンバーグとかでも、面倒少ないし。

それと同時進行で、ハンバーグ用の和風ソースと、お味噌汁を作る。

ソースは、海鳴在住時代に桃子さんから教わった、醤油ベースの自信作。



お味噌汁は、ジャガイモとタマネギに細かく賽の目切りしたお豆腐を入れる。

これだと、タマネギから甘味が出て、それをジャガイモが吸う。

それで、とても美味しくなるのよ。これが大好きなんだよね〜。あとは野菜だけど、適当に作ってる。



ごぼうとこんにゃく、人参を細切りにして、それを炒め煮。醤油と日本酒とみりんでさっと味付ける。

味見・・・・・・うん、少し甘めな味付けだけど、ご飯は進むな。

ご飯は真っ白いご飯。シンプルにして、濃い目の味付けのおかずにあわせるのである。



キッチンに広がる香ばしい匂い。あぁ、おなかすいてくるなぁ。・・・・・・っと、そうだ。





「三人とも、出来上がるまであと10分くらいかかるから、それまでテレビでも見てて」

「おう、勝手に見せてもらってるー」

「ですー♪」

「あははは、ごめん」





・・・・・・そうでしたね。ここはあなた方のセカンドハウスでしたよね。というか、リインと師匠のね。忘れてたよ。

人の家ということを忘れて、のんきにくつろぐ二人(フェイトは普通)に苦笑しつつ、ハンバーグを焼く。

そして、味噌汁を温めて、合間合間に野菜の炒め煮を盛り付けて、ご飯をお茶碗に注ぐ。



それで準備は完了。こうして、食卓に並ぶおかずの数々。いやぁ、我ながらがんばったわ。



なお、説明し忘れてたけどリインはフルサイズ。もううちに来る時の恒例である。





「ほらほらみんな座って」

「はい。よいっしょ・・・・・・です」

「よっと。・・・・・・さてと」

「それじゃあ、みんな一緒に」



僕達四人がリビングのテーブルのイスに座って、ご飯の前に置かれたお箸を持って、一斉にこう口にした。



『いただきまーすっ!!』



そうして箸をつける前に、師匠の手が止まる。そして、僕を見る。



「そういやよ、バカ弟子」

「ほい?」

「まぁ、アタシはリクエストしたからだけどよ。なんでフェイトやリインまで一緒なんだ?」

「・・・・・・ちょっと相談したいことがあるんです。まぁ、御飯食べてゆっくりした後でですね」

「そうか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・しばらくぶりだな。お引越し祝いを持っていった時からだから、大体2年ぶり?

うわ、もうそんなになるんだ。仕事でよく会ってたから、そんなに久し振りな感じがないんだよね。

というか、この間は悪い事しちゃったなぁ。緊急の仕事が入っちゃったから、なぎ君への連絡遅くなっちゃったし。





というか、スバル・・・・・・うーん、なぎ君どうしたんだろ。いつもならまだ上手くやれるのに。

やっぱり、色々あったから・・・・・・だよね。そうだよね、中々割り切ったりは出来ないよね。

詳しくは『とある魔導師と古き鉄の戦い』を読んでもらうとして、これからだよ。





うー、今から気が重いな。ただ、なぎ君の話も分かるの。だけど、フェイトさん達きっとビックリしちゃうよね?





とにかく、気合いを入れよう。今日はその・・・・・・大事な話をする日なんだし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・美味しい」





いやぁ、自画自賛になるのは承知の上で言わせてもらうけど、ご飯が美味しい。

なんというか・・・・・・幸せだ。でも、幸せはそれだけじゃない。

フェイトと師匠やリインが、『美味しい』と言って、美味しそうな顔して食べている姿にも幸せがある。



その姿を見ているだけで、僕まで幸せになってくるから不思議だ。

・・・・・・僕が料理を初めてしたのは、リインと出会ってからすぐの頃のこと、リインにご飯を作ってからの話。

最初は、ひどい腕前だった。それはもうすごい勢いで。僕はずっと一人だったから、出来合いのもので済ませてたしね。



だけど、それをリインが食べてくれて、『作ってくれて嬉しかった』と言ってくれて。

それがすごく嬉しくて、それを繰り返していると、どんどんと作るのが楽しくなっていった。

それからしばらくの後、ハラオウン家で暮らすようになって、魔導師の仕事が空いた時には、料理勉強。



というか、なのはの実家である翠屋に行って仕事を手伝うようになった。

これは、なのはのお母さんである桃子さんの鶴の一声で、翠屋の店員になったのが原因である。

というか、好きな子・・・・・・フェイトを本気で捕まえたいなら、料理は出来たほうがいいとアドバイスされた。



・・・・・・なんで桃子さんに話してもないのに、フェイトが好きだって見抜かれたんだろ。それも、初対面の段階で。

とにかく、それをきっかけにお菓子作りにも手を出したりするうちに、大抵のものなら時間さえかければ作れるようになっていった。

それと同時にハラオウン家の家事のいっさいも手伝うようになった。だけど、これには一つの問題がある。



・・・・・・女性物の服やら、肌着やらの洗濯の仕方まで熟知してしまったのは・・・・・・なぁ。





「・・・・・・ごちそうさまでしたー。恭文さん、すっごく美味しかったです♪」

「ご馳走様でした。・・・・・・うん、美味しかった。なんというか、料理の腕は追い抜かれちゃったね」

「ごちそうさまでした」



うん、リインとフェイトは満足みたい。さて、僕としては師匠の反応が気になる。なぜか? それは師匠だからだよ。



「・・・・・・いや、こっちの方も腕上げたんじゃねぇのか? 前に食った時より美味しくなってるぞ」

「ホントですか? ・・・・・・そう言ってもらえると作った甲斐があります」

「うむぅ、やっぱり恭文さんは、ヴィータちゃんの反応が気になるですね。リイン達はどーでもいいみたいです」

「いや、そんなことないからっ! リインやフェイトにも、美味しいって言ってもらえて嬉しいしっ!!」





とにかくみんな反応良好で、とても嬉しくなる。いや、師匠には色々作って試食してもらったりしたからなぁ。

やっぱり、誉められると嬉しいのである。僕はそんな気持ちを感じながら、後片付けのために動く。

食器を持ってキッチンのシンクに置く。それを水に浸して、スポンジに洗剤を垂らして、洗い物開始である。



・・・・・・それほど汚れがこびりつくようなメニューにはしてないけど、それでもきっちり綺麗に洗いましょっと。





「師匠、洗い物済ませたら、アレを作りますね」

「お、待ってました。あー、アタシも手伝ったほうがいいか?」

「いえいえ、師匠は今日はお客様なんですから、ゆっくりしててください。でも、寝たりしないでくださいよ?」

「子ども扱いするなっ!! ・・・・・・ったく」



あはははは、師匠だけじゃなくてリインやフェイトにも言ってるんですけどね。

まぁ、さっとすませてデザートタイムとしゃれこもうか。



「・・・・・・洗い物〜洗い物〜♪」



なんて鼻歌を歌い出した時、チャイムが鳴った。・・・・・・あ、ようやく来たか。



≪時間ぴったりと言うところですね≫

「そうだね。・・・・・・あの、ちょっと悪いんだけど」

「あー、分かってる。アタシが出るから、お前は洗い物しとけ」

「お願いします」



師匠は、そのまま玄関に出てくれる。・・・・・・さて、ドキドキだなぁ。

さすがに人間関係にも力入れなきゃけないから、呼んだ。でも、それでもだよ。



「・・・・・・ヤスフミ、私達にお話って本当になに?」



リビングから、フェイトが声をかけてくる。さすがに疑問に思うらしい。

若干視線が厳しいのは、僕がそこの辺りを全く話していないせいだよ。



「それも・・・・・・ギンガを呼んだりして」

「ちょっとね。ギンガさんにも少し関係のある話だから」



手を動かしながら、フェイトに視線を向けずにそう答える。



「ギンガも? ・・・・・・あ、もしかして」

「あははは、言っておくけどお付き合いしてますとかじゃないよ? 勘違いしたら、皿ぶん投げるから」

「あの、私が悪かったと思うから皿をこっちに向けないでっ!? うん、ちゃんと分かってるからっ!!」










この後、ようやく到着したギンガさんを家に上げて、とりあえずお茶を出す。





出しながら・・・・・・二人して困った顔になったのは、これからの話の内容のせいだと思う。




まぁ、アレだよね。とりあえず1クッション置いて、みんなに冷静になってもらうために、アレの力を借りようか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ギンガさん、お茶」

「あ、ありがと。・・・・・・この間はごめんね。スバルとティアが迷惑かけちゃって」

「大丈夫。それよりももっと迷惑なリンディ・ハラオウン提督って言うのが来たから」

「そ、そうなんだ」

「そうなのよ。アレだね、迷惑という言葉をそのまま形にしてくれて、非常に嬉しかったよ」



そんなウィットに飛んだジョークを飛ばすと、何故かギンガさんは苦笑い。

というか、みんなが苦笑い。うーん、どうしたんだろう。



「それと、ご飯食べるなら作るけど?」





ギンガさんにお茶を出しながらそう言う。いや、今回はちゃんとしたお客さんだし、もてなす必要あるかなって。



とは言っても、ギンガさんはスバルやエリオ並に食べるからなぁ。



量では間違いなく満足させることは出来ないと思う。余り物でさくっと炒め物でもってところかな?





「あぁ、大丈夫。軽く食べてきたから。というか、メールしたよね。食べてくるって」

「それでも確認って、大事でしょ?」

「・・・・・・納得した。あ、それならミルクとお砂糖もらってもいいかな」

「そのまま飲んでください」



にっこり笑顔で言うと、ギンガさんが少し膨れる。大人っぽいギンガさんだけど、その仕草は可愛らしい。

そして、そんなギンガさんと僕のやり取りを見て、不満を表す方々が居た。



「おい、ギンガは客なんだからケチケチするなよ。それくらいあげてやれ」

「ですです」

「そうだよヤスフミ。せっかく来てくれたんだから、おもてなししなきゃだめだよ?」



・・・・・・師匠、リインも、そしてフェイトも、わかってない。

あなた方があげろと言った、そのミルクと砂糖をどこに入ると思ってるんですか?



「みんな、それは今ギンガさんが何のお茶を飲もうとしてるのか、分かった上で言ってる?」

『何のお茶? ・・・・・・あ』



そう、そうだよ。それらは全て、ギンガさんが飲もうとしている『日本茶』に入れるつもりでしょうが。

そんな飲み方、私は認めませんよ? 日本茶は、そういう飲み方するもんじゃないし。



「ギンガ、六課のスターズ分隊の副隊長としての命令だ。そのまま飲め」

「ですです」

「ごめんねギンガ。お願い・・・・・・出来るかな?」





ギンガさんがなんか『美味しいのに・・・』とか呟いてるけどスルーだ。

まったく、リンディさんも頼むからこの妙なお茶の飲み方を世間に広めないでよ。

アレ、マリエルさんも好きだって言うし。なお、マリエルさんはリンディさんから教わった。



被保護者といたしましては、なのはのエクセリオンと同じで、墓の中まで持っていって欲しいよ。



一回試したけど・・・・・・だめ。リンディさんが入れるような量は、絶対無理。ごめん、アレは無理。





「それで師匠、せっかくだしギンガさんの分も一緒に作ろうと思うんですけど大丈夫ですか? というか、食べながらお話」

「おぉ、別にかまわねぇぞ」

「ですです。ギンガ、一緒に食べるですよ〜」





うし、さっき最終確認したら、材料はギンガさんの分が加わっても問題なし。



師匠達が来る前に練習がてら作った試作品一号と二号は問題なく作れたし、味も申し分なし。



これなら大丈夫でしょ。さっそく作業に取り掛かるから、みんなテレビでも見てゆっくりしててください





「おー、任せるぞー」

「恭文さん、リインは眠気覚ましに手伝いたいんですけど、いいですか?」



僕のダボダボなパジャマを着て、リインがそう言ってきた。

とりあえず、しゃがんで裾を捲ってあげる。危ないから。色んな意味で危ないから。



「なら、お願い出来る?」



リインが助けてくれるとありがたいもの。さすがに五人分はキツイかもだし。



「はいです。リインがんばるですよ〜♪」

「えっと、すみません、話が読めないんですけど」



困惑気味な顔で、ギンガさんがそう言う。

うん、これだけ聞くとさっぱり訳分かんないよね。というわけで教えてあげよう。



「今からね、ヤスフミがデザートを作るところだったんだ。アレって、それの事なの」

「デザートですか。でも、いいんですか?」

「別にかまわねぇよ。てか、なんかアタシらに話あんだろ?
お前も着いたばっかだし、ちょっとゆっくりしとけ」

「・・・・・・はい。それなら、お言葉に甘えて。というかあの、アレってなんですか?」

「至高のアイスクリームだよ」



フェイトがそう補足すると、ギンガさんが一瞬考え込むような顔になった。そして、次の瞬間には表情が驚きに染まる。



「至高の・・・・・・アイスクリームッ!?」



そう、事ある事にアレと言いつづけていたのは、アイスクリームだ。

といっても、特別な作り方をするわけでも特別な材料を使うわけではない。



「ギガうまなんだよこれがな。それじゃあ、任せたからな」

「はいです。恭文さん、頑張るですよ」

「もちろん、美味しいアイス作るよ」

『おー!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そういえば、ギンガ」

「はい」



なぎ君がアイスを作っている間、フェイトさんとヴィータ副隊長とお話。

・・・・・・なんでアイスを作るのに、魔力光が見えるんだろう。



「あぁ、アイツらアイス製作用の魔法組んでるからな」

「はいっ!?」

「と言っても、すごく簡易的なものだから、危険とかはないんだ。それで、身体の方は大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です。リハビリもしっかりやってますし」





なんというか、こうやってフェイトさんの近くで、プライベートなことを話すって、初めてかも。

やっぱり、六課に関わるまでは、憧れで遠い人だったから。というか・・・・・・綺麗。

金色の髪に、優しいルビー色の瞳。肌が白くて、凄くスベスベしてそうで、それにスタイルもいい。



私もいい方だと思うんだけど、うーん・・・・・・やっぱり負けてる?



はやてさんは、フェイトさんより大きいって言ってくれるけど。





「そうなんだ、ならよかった。あまり、無理しちゃだめだよ?
リハビリは、やっぱり時間をかけてしていかなきゃいけないから」

「だな。アタシらもリハビリは付き添い経験あるけど、あんまりやりすぎても逆効果だ。ま、気長にいけ」

「はい。・・・・・・お二人とも、ありがとうございます」



気長か。なんだか、また置いてかれちゃうな。ランクは同じなのに、どうしてこうも差が出来ちゃうんだろ。

いや、考えるまでもない。経験が倍くらい違うわけだし。



「ギンガ」

「はい?」

「あの、ヤスフミと仲良くしてくれてるんだよね。ありがとう。凄く助かってる」

「あ、いえ。私の方こそ、なぎ君にたくさん助けてもらっていますから」



うん、助けてもらっている。言葉に出来ないくらいに・・・・・・たくさん。



「ほんとは、もっと前に言えたらよかったんだけど、ゴタゴタしちゃったでしょ?
遅くなってごめんね。というか、ヤスフミが色々迷惑かけちゃってるみたいで」

「あの、大丈夫ですから。というか・・・・・・迷惑じゃないです。友達ですから」



なぎ君が言っていた。迷惑をかけたり、かけられたり。それが出来るのが友達だって。

だったら、問題はない。うん、私だってなぎ君に心配とか迷惑とか、いっぱいかけてるんだし。



「ありがとう。そう言ってくれると、とても嬉しいよ」

「いえ」



なんというか、本当になぎ君のお姉さん的な位置なんだね。

スバルが言ってたなぁ。なぎ君と居る時のフェイトさんは、私に似てるって。うん、お姉さんなんだよね。



「でも、なにか大変なこととかあったら、いつでも言ってほしいな。ヤスフミ、ちょっと不器用ってゆうのかな。
暴走気味なところがあるから、ギンガに、必要以上に迷惑かけたりとかしてないか心配で」

「あの、大丈夫です。そういう時は、お説教してますし」

「アイツにそれは効果ねぇだろ。本気で悪いと思わないとよ」

「実を言うと」





なぎ君は暴走して結果を出せるのが凄い。しかも、被害は犯人側にだけ拡大させるし。

おかげで、いつも結果オーライな感じになっている。

はぁ、もっとちゃんとして欲しいんだけどなぁ。いや、今がちゃんとしてないってわけじゃない。



ただ、例えば正式な局員になったりしたら、ダメかなって思う。





「ゴメンねギンガ。ヤスフミって、その・・・ちょっとアレだから。私も、たまにわからない時があるの。
ノリとか勢いだけで戦うというか、行動しちゃうというか、なんというか」

「お前、家族としてその発言どうなんだよ。つか、戦いってのは、ノリのいい方が勝つんだよ」

「うん。ヤスフミにも前にそう言われた。あの、それはわかるよ? 私も、その言葉で戦えたから」



分かるんですね、フェイトさん。・・・・・・まぁ、間違ってはないのが、なぎ君クオリティというかなんというか。



「まぁ、アレだよギンガ」

「はい」

「アイツは、ああいう奴だけど、仲良くしてやってくれ。
なんだかんだで、お前のことは好きみたいだからよ」

「・・・・・・あの、はい。私も・・・・・・さっきも言いましたけど、なぎ君の事を大好きな友達と思っていますから」










・・・・・・うん、そこは絶対。そうじゃなかったら、家に遊びに来たりなんてしない。





とりあえず私とヴィータ副隊長は、どこか満面の笑みで嬉しそうなフェイトさんは、気にしない事にした。





何か勘違いしてる。絶対この人、何かを勘違いしてると思う。だけど、正直触れたくないので、スルー。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、ここからはどこかで聞いたようなミュージックに乗せて、アイス作りに突入である」

「恭文さん、誰に説明してるですか?」

「リイン、気にしたら負けだよ。んじゃ、ここにお願いね」



そう言って、キッチンに二つの大きめのお櫃を置く。これで何をするのかって? ・・・・・・こうするのだ。



「アイス・キューブっ!!」





リインがそう唱えると、足元にベルカの魔方陣が浮かび上がる。

そして、お櫃の上からどこからともなく四角い氷が降り注ぐ。

それはちょうど、お櫃を一杯にするような量で降り止む。



この魔法は、至高のアイス製作のために、組み立てた魔法。

リインと半分冗談半分本気であーでもないこーでもないと言いながら作ったの。

あ、もちろん僕も使えるよ。というか、氷結系への魔力の変換技術は、僕の持っている技能の一つだし。



と言っても、フェイトとエリオの電撃や、シグナムさんの炎熱みたいな先天的なものじゃない。

勉強と修練により習得したもの。これはクロノさんにも教えてもらったし、リインに付き合う形で一緒に研究もしてた。

もち、戦闘レベルのものを使える。そして、その氷の表面温度は氷点下20度前後になるように調整している。



この状態でうっかり素手で数秒触れば、氷と肌が仲良くディープキスするはめになる。





「リイン、手を出して」



なので、事前対策はバッチリとさせてもらう。



「・・・・・・これでよしっと」

「はいです。ありがとうです恭文さん」

「どういたしまして。それじゃあ早速」





保険として、リインと手袋をつけ終わったら氷が溶けないうちに行動開始。

僕とリインは金属で出来た、円筒形の容器を持つ。

この容器は、横にしても中身が漏れない密閉状態を作れるもの。その数は、五つ。



多少口が広い作りにはなってるけど、これ自体は普通だ。

その中にはアイスの材料・・・・・・牛乳やバニラエッセンス。あと、その他必要なものが既に入っている。

というわけで、これをゴリゴリして、アレしてコレして、数分後・・・・・・それらは一つの形になった。





「「出来たーーーー!!」」



二人して時間も考えずつい叫んでしまった。ま、別にいいでしょ。



「フェイト、師匠、ギンガさんもお待たせー! 出来たよー!!」

「恭文さんとリイン特製、至高のアイスクリームです〜」

「お、出来たか!!」

「あ、美味しそうだね」

「ホントに美味しいんだよ。私もこれ、大好きなんだ」





ウキウキが体中からにじみ出てる師匠とフェイト。まぁ、ここはいい。問題はギンガさんだ。

まだこれが普通のアイスだと思っているのがありありと伝わる。とにかく全員、リビングのテーブルに来る。

・・・・・・ふふふ、ギンガさんの反応が楽しみだねぇ。このアイスを初めて食べた人の反応がこれまた面白いのよ。



師匠の時はミスター味っ子ばりのリアクションが見れたからね。



そのおかげで、部屋が散らかって掃除が大変だったけど。





「まぁ、とにかく溶けないうちに食べましょ」



みんなの前にアイスを置いて、スプーンも置いて・・・・・・・それではみなさん、ご一緒に。



『いただきます』



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そう言えば、なぎ君にアイス作ってもらうのは初めてかも」

「あー、そうだね。そう考えると、ちょっとドキドキかも」

「確かにそうだね」





・・・・・・とりあえず、見た感じは普通のバニラアイスだよね?

至高のっていうから、どんなものが出てくるのか思ってたんだけど。

とは言え、あのヴィータ副隊長にフェイトさんまで、すっごく楽しそうに待ってた。



なにより、なぎ君の料理スキルの高さは知ってる。だから、ただのアイスとは思えない。



まずは食べてみてからだよね。私はスプーンでアイスを一すくいして、口へと運ぶ。

・・・・・・結論から言えば、このアイスはおいしくはなかった。だからと言って、マズイという意味ではない。

これは美味。そう、これは言うならば美味。前になぎ君が教えてくれた、美味しいを超える表現が似合う。



だけどなんだろ。口に入れた途端に広がる、ヴァニラの風味。

それと仕事の疲れが吹き飛ぶような甘味。かなりのレベルだと思う。

でも、それがこのアイスの真価ではない。このアイスの凄いところは・・・・・・食感。



口に入れて、溶けていく時の食感が、普通のアイスに比べてはるかに柔らかい。

あっさりとしていて、溶けてから名残惜しさを感じてしまうほど儚く、柔らかい口溶けの感触。

でもそれは、ソフトクリームのようなトロっとした感じではなくて、普通のアイスとソフトの中間とでも言うのか。



舌の上で氷の粒の一つ一つが踊るような・・・それらが私の舌を刺激して、なんともいえないハーモニー。

だめ、上手く言葉に出来ない。言葉にすればするだけ、嘘になりそうな感じ。

とにかく、このアイスの食感を知ると、普通のアイスの溶ける感じがどうにも硬く思えてしまう。





「ギガうまだろ?」

「えっ!? ・・・・・・はい、ギガうまです。というかすごいです」



ニヤニヤしながら私のほうを見るヴィータ副隊長の言葉に、ただただ呆然としながら返事をする。

うん、なんというかほんとにすごい。そして美味しい。食感が変わるだけでここまで違うなんて。



「恭文さん、ギンガが感心してますよ?」

「だね。まぁ、喜んでくれたみたいで嬉しいよ」



なぎ君とリイン曹長もニコニコと嬉しそうに私を見ている。もちろん、自分達の分を食べるのも忘れない。

それは・・・・・・フェイトさんもか。すごく幸せそう。



「いやぁ、これが食べたかったんだよ。ありがとな恭文、これで明日からまた気合いれていけそうだ」

「リインも幸せです〜♪」

「そうだね。私も・・・・・・こう、幸せだよ。凄く贅沢してる気分」



表情が、とても緩んでる。仕事場では・・・・・・あ、当然か。

今はお仕事モードじゃなくて、完全プライベートなんだから。だから、こうなって当然なんだよね。



「なら、よかった。師匠、いつでも言ってくださいね。作りますから。あ、もちろん、リインとフェイトにも」

「おう」

「はいです♪」

「・・・・・・私にはないの?」

「ギンガさんも、また食べたいの?」



なぎ君の言葉に、頷く。そう、私だってスバルほどじゃないけど、アイスは大好き。

これほどの物なら、是非また食べたい。というより、自分で作りたい。私の胃袋が満足するくらいに。



「いいよ。詳細なレシピ、あとでメールしとくから」

「うん、なぎ君助かる。これ、父さんにも食べさせたいから」

「ね、ヤスフミ。それなら私にもレシピ教えて欲しいな。
ヴィヴィオにも食べさせたいし。あ、もちろんヤスフミにも食べて欲しいな」

「そうなの? なら、楽しみにしてるね」

「うん、楽しみにしてて。とびっきり美味しいの作るから」




そう言って、みんなまたニコニコしながらアイスをほうばる。

・・・・・・うん、幸せそうな顔してる。作ったなぎ君でさえ、どっかの世界にいっちゃいそうな顔してるし。



「ね、なぎ君」

「ん、なに?」

「レシピ見れば分かるんだろうけど、気になるから先に教えてほしいな。
このアイスって、どうやって作ったの?」

「うーんとね、普通に作った」

「へぇ、そうなんだ・・・・・・って、そんなわけないでしょ!?」



普通に作ってこの味なら、これはどこでも食べられるはず。

でも、私はこんなアイス食べたことないもの。



「いやいや、本当に普通なんだって。ただし」



そこまで言うと、なぎ君は人差し指を真っ直ぐ上に立てて、こう続けた。



「今のアイスの作り方じゃなくて、昔の作り方なんだ」

「昔の作り方?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そう、僕が作ったアイスは、決して特別な方法では作っていない。

これはその昔、ミッドではどうかは知らないけど、僕が生まれた世界の地球の作り方。

地球では、先ほど僕とリインがやっていたような作り方で、アイスを作っていたらしい。





材料を入れた金属の容器を横向きに氷の中に押し込んで、それからそこで回転させる。

僕達は魔法で氷を作ったけど、実際には、氷に塩を、氷3:塩1の割合でふりかけてからやる。

そうすると、化学反応で氷の表面温度が−20度以下になる。





すると氷に触れて同じくらいに温度が下がった容器の中に入った材料が、少しずつ凍っていくのだ。

回転させるのは、筒の中で材料が、均等な厚さでアイスになるようにするため。

横向きに置くと、中の材料は、筒の横側・・・・・・下の部分に溜まる。





そこから、材料を筒の中全体に回るように回転させると、均等に凍っていくのだ。

だから、氷の中で時計みたいに回転させるんじゃないよ?

そんなことしても、ずーっと一部に溜まりまくりだし。





で、頃合を見て、容器の中にくっついたそれをスプーンなどでこそぎ落とす。





それを綺麗にカップに盛り付ける。やったのはこれだけである。










≪特別なことは何一つしていません。問題は、アイスが出来る時の温度なんです≫





実を言うとこの作り方は、翠屋の手伝いをしていた時に教えてもらった。

それを物は試しと、店主である士郎さんと桃子さん監修のもとにやってみたこと。

で、それを師匠やリインに食べてもらったところ、大好評だったので、定期的に作っているのだ。



士郎さんと桃子さん曰く、現在流通に回っているアイスは、長時間の運送や保存も考えている。



凍っていても、生物は生物。必要以上に低い温度で、アイスを作っているらしい。





「それが確か、氷点下40度前後だっけな。これは20度前後で固めちゃうから」

「でも、それだけでここまで違いが出るの?」

「アタシも初めて聞いた時はビックリしたんだけどよ。
−40度まで下げちまうと、アイスが硬くなりすぎるってんだよ」

「その通りです。つまり、その温度差が普通のアイスとこのアイスの違いになるのですよ」





師匠も今言ったけれど、必要以上に低い温度で固められた今のアイスは、昔より硬い口どけになっているということだ。

このアイスは、それに比べると若干口当たりが柔らかく、その感触が心地よいだけである。他はそれほど変わっていない。

まぁ、あとは好みの問題だと思う。美味しいのは確かだけど、だからといって今あるアイスが美味しくないってわけじゃないしね。



・・・・・・僕は好きよ? 100円のカップのアイスとか、モナカで真ん中に板チョコ入ってるやつとか、3○とかさ。





「なるほど。納得した」

「まぁ、作る手間が少しかかるから、量は多く作れないってのが欠点だけどね」





例えば、このやり方のままで沢山の量を一度に作ろうと思ったら、手間がかかる。

大量の容器と氷を用意して、ゴリゴリゴリゴリしなければならない。

そんなの非効率なので、あれやこれやと対策を考えないといけないでしょ。



そんなわけで、ギンガさんやスバルやエリオみたいにビックバン盛りぺろりな方々を、量で満足させるのはちと難しいのだ。



だからこそ、今のように冷凍技術の発達してない時代では、アイスクリームは一部の特権階級だけが味わえるものだった。





「でも、これだけ美味しいと山盛りで食べたくなっちゃうね。・・・・・・挑戦してみない? 私も一緒にやるから」

「まぁ、それならまだなぁ。僕だけとかなら、絶対に嫌だけど」

「流石にそんな事は言わないよ。あー、でも逆に少ない方がいいのかも知れないね」

「だな。アレだ、この量をじっくりしっかり味わうから、余計に美味しさが増すのかも知れないぞ?」



師匠は、言いながらもスプーンを動かし、アイスを一口一口味わっていく。これが、その大人な食べ方らしい。



「そうですね。ただそれだと、私やスバルはダメですけど」

「・・・・・・お前ら、すっげー食うしな」










とにもかくにもアイスを食べ終わって、そこからまたコーヒーを入れて、ようやく開始。





僕とギンガさん・・・・・・あと、スバルの事も含めて、ちょっとだけシリアスなお話の開始である。




















(第12話へ続く)






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