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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース23 『日奈森あむとの場合 その5』



『・・・・・・・・・・・・何してるのっ!?』



前回のあらすじ。あむと唯世と買い物に来たら、猫男こと月詠幾斗があむをベンチの上でお姫様抱っこしました。

・・・・・・・・・・・・いやいや、これ意味わかんないしっ! てーか、なんですかこれっ!!



「これはまた、大胆ですね」

「シオン、そういう問題ではないだろう。しかし・・・・・・えぇっ!?」

「お姉様、驚き過ぎです。これくらいはよくある事です」

「これはよくは無いだろうっ! むしろ、よくあったら嫌なんだがっ!!」



てゆうか月詠幾斗っ! なんでお前ここに居るっ!? おいおい、僕達が居ない間に、なにがあったのっ!!



「そ・・・・・・そうだっ! 月詠幾斗、早く日奈森さんを話せっ!!」

「いや、こいつから抱っこされてきたんだぜ?」



え、マジっ!? あむ・・・・・・おのれは一体何をしているっ!!

僕達の視線が厳しくなったのをあむは感じ取ったのか、当然のように身を萎縮させる。



「アンタ、マジで何してるっ!? 私達の協力どうこうの前に、アンタがそうやってフラフラしてたら意味ないでしょっ!!」

「ち、違うっ! あたしは転んだだけだってっ!! 転んで・・・・・・こうなったんだよっ!?」

「どう転んだらそうなるのか、私は是非とも聞かせて欲しいんだけどっ!?」

「えっとね・・・・・・こんな感じ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・恭文とティアナさんが電話のためにここから離れた後、唯世くんも席を離れた。

というより・・・・・・離れさせちゃった。原因は、あたしがスカートにソフトクリームを落としたから。

唯世くんは近くの水道でハンカチを濡らしてくると行って、そのまま。





なお、唯世くんのバニラは私が預かっている。あ、恭文とティアナさんは自分で持ってった。





というわけで、現在右手はチョコで左手はバニラという、両手に花ならぬ両手にソフトクリーム状態です。










「でも・・・・・・あぁ、王子の食べかけアイス」

「あむちゃん、食べるのとか無しだよ? いや、人としてさ」

「完全にアウトですぅ」





でもでも、バレなきゃいいとも言うし・・・・・・いや、さすがにそれはないか。

唯世くんがオーケーとか言うなら、ともかく。・・・・・・言ったらどうしよう。

あぁ、でもこんなチャンスはもう二度とこないかも知れないし。



いやいや、やっぱり駄目だよね。うん、駄目だ駄目だ。





「日奈森あむは変態・・・・・・と」

「エル、お願いだからそんなことをメモ・・・・・・されてもしかたないよね」

「ランもお願いだからフォローしてよっ! てゆうか、あたしそんなことしないしっ!!」



あ、こんなことをしている場合じゃない。ソフトクリームが溶けて落ちそうだし。

なので、私はペロリと舐めてそれを止めようとする。言っておくけど・・・・・・チョコ味だからね?



「ん・・・・・・」



・・・・・・そんな時だった。普通にそれを舐めて止めた奴が出てきた。てゆうか、イクトだった。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・よ」



全速力で後ずさりして、距離を取る。てゆうか・・・ふ、普通に挨拶してきたっ!?



「てゆうか気配無さ過ぎっ! アンタ、なんでそんな近づけるのよっ!!」

「ネコだからだろうな」

「納得出来るかー!!」

「てゆうかお前、アイスを両手食いってどんだけ食いしん坊なんだよ。・・・・・・太るぞ?」

「ち、違うっ! こっちのバニラは唯世くんの」



あたしの言葉に、イクトは口元に右手を当てて少し考える。



「唯世の?」

「そうだよ」

「ふーん」



・・・・・・なんだよ、なんでそんなジッと見るのさ。



「俺も好きだぜ」



イクトが、流し目・・・・・・って言うのかな、そういう視線を向けて言ってきた。というか、あの・・・・・・え?



「チョコ味」



なんだろう、すっごいムカついた。これ、罪じゃないよね? 絶対罪じゃないよね?



「期待した?」

「するかバカっ! てゆうか、アッチ行けっ!! シッシっ!!」



あたしは右手で・・・・・・あ、動かせない。動かしたら、あたしのチョコアイスがとんでもないことになる。



「てゆうか、そうやっていつもからかってばっかりで・・・・・・わけわかんないしっ!!
いい加減ほっといてよねっ! そうだ、ほっといてよっ!!」

「ほっとけねーよ。・・・・・・気になるし」



イクトが、左の膝を抱えながらそう言ってきた。

その言葉に、ドキっとしてしまう。不覚にもドキっとしてしまう。

だ、だって・・・・・・あの、歌唄があの時言ってた事を、思い出したから。



前に『イクトがこんなに気にする女の子、今まで居なかった』・・・・・・と言ってたっけ。





「・・・・・・ぷっ」



そして、そんなあたしを見て、イクトは笑い出した。クスクスと、おかしそうに。

・・・・・・そっか、またか。またからかわれたのか。あたしはさ。あははははははははは。



「こんにゃろーーーー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「という事なんだけど、どうかな?」

「「納得出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「うん、そうだよねっ! やっぱりそうなるよねっ!? あたし分かってたわっ!!」

「つーかお前」



猫男が僕達のやり取りを完全無視して、唯世を見る。見て・・・・・・ニヤリと笑う。



「今でもバニラが好きだったんだな」



・・・・・・今でも? いやいや、なんでそんな言い方するのさ。

それで唯世も、痛いところをツツかれたようにちょっと怯むし。



「な・・・・・・!!」

「相変わらず、お子様味覚」



そう言いながら、唯世がさっきまで食べていたと思われるバニラソフトを舐める。

というか、舐め方がいやらしい。あ、猫男の舐めているのと逆の部分がトロリと。



「あむ、そっち側」

「え? ・・・・・・あ、うん」



とか言いながらおのれはそっちを舐めるなぁぁぁぁぁぁっ!!

なんで二人で一つのソフトを舐めあってるんだよっ!! どんだけ濃厚プレイっ!?



「・・・・・・くくく、いいのか唯世? ボヤボヤしてると、だーい好きなバニラソフトもあむも、おにーたんが食べちゃうぞ」



・・・・・・とりあえず、どうしようか。よし、突然だけど会議だ。



「全員聞いて。僕はどうするべきだと思う?」



そうして、付き合いの長い方々は即座に答えてくれる。そう、僕の通すべき流儀を。



”殴ればいいと思いますよ”

「というか、殴りましょう」

「恭文、私は止めないぞ。遠慮なくやれ」

「殴っていいわよ。てゆうか、アンタと言えばツッコミじゃないのよ」

「シオンもヒカリもティアナさんも、過激過ぎないっ!? ボク、びっくりなんだけどっ!!」



うん、そうだね。それでいくよ。というわけで、僕はスタスタと歩いて行く。

そして・・・・・・バニラソフトをふんだくった。なお、僕はとっくにソフトを食べ終わっている。



「あ」

「何邪魔してんだよ。ここからがいいとこ」

「・・・・・・やかましいわボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



閃くのは、白い閃光。その閃光の名は・・・・・・ハリセン。

そう、ハリセンを唐竹に打ち込んで、猫男をシバいた。



『いきなりハリセンで攻撃っ!?』



どこからか持ってきたハリセンで、猫男の頭を全力で殴ってやった。



「痛ぇ。だからお前、なにす」

「あ?」



若干柄の悪い目で見てしまうのは、きっとあんまりな状況に対しての怒りのせいだと思うことにする。



「・・・・・・なんでもない」

「そうか、ならよかった。つーわけで帰れ。色々とこっちは忙しいんだよ。真面目に忙しいんだよ」

「あぁ、そのつもりだ。もう充分からかったしな。・・・・・・それと、お前」

「なに?」

「歌唄のやつと、もしよければ仲良くしてやってくれ」



・・・・・・はぁっ!? いきなりなに言い出してんのさっ!!



「アイツはお前の事、随分気にしててな。
まぁ、いきなり付き合うとか、そういう高度な事は求めてないが」

「そのニヤニヤした視線を僕に向けるな。目潰しするぞ。つーか、なんで僕が歌唄と」

「そうすると俺が非常に楽になる」



そっか、そうなんだ。うん、分かってたよ。妹はともかく兄は乗り気じゃないみたいだしね。

ようするに、僕が歌唄の気を引くと自分へのマークが楽になるのね。うん、納得した。



「・・・・・・アホかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



閃光は、再び閃く。なお、今度は顔面目がけて右薙の一閃。



『もう一発いったっ!?』

「いいじゃないか。アイツは美人だし、スタイルだってこれからどんどんよくなるから、きっといいぞ」

「そう言う問題じゃないんだよっ! つーか妹を売るかっ!?
普通兄として止めるだろっ! どう考えたって止めるでしょうがっ!!」

「普通、兄として妹と恋愛はしないと思うからこそ、頼んでるんじゃねぇか」



なるほど、ここは納得せざる終えない。言ってる事に間違いはないんだから。

あれ? そう言えばなんか忘れてるような。・・・・・・あぁっ! 歌唄の状態、聞き出せるじゃないのさっ!!



「・・・・・・最近おかしいんだよ、アイツ」



少しだけ、真剣な表情に戻って、小声で猫男が言った。それに、熱くなっていた頭が冷めていく。

おかしいって・・・・・・どういうこと?



「いや、アレは元々おかしいと思うけど。実の兄にディープキスだし」

「バカ、そういうんじゃねぇよ。・・・・・・っと」



猫男が後ろに飛ぶ。僕も、同じく。理由は簡単だ。

僕達・・・・・・いや、猫男を狙って、金色の光の奔流が放たれたから。



「とにかく、頼んだぞ。俺は・・・・・・コイツの遊び相手にならなきゃいけないからな」



そう言って、猫男がある一点を見る。で、僕も見ている。



「た・・・・・・唯世くん?」



てゆうかこれ、唯世のホーリークラウンっ!?

あ、頭に王冠・・・・・・なんかキセキとキャラチェンジしてるっ!!



「許さない・・・・・・許さないぞぉぉぉぉぉぉぉっ! 月詠幾斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」





唯世の背中から、赤いオーラがほとばしる。

そしてそのまま、ホーリークラウンを飛びのいた猫男に向かって乱射。

猫男は、当然のように逃げる。だって、当たったらきっと痛いから。



そして、逃げて・・・・・・それを唯世が追いかける。





「そう言えば、ガキの頃もよくバニラ食ってたよな。おにーたんの膝の上で」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



そのまま、どこか遠いところへ二人とも去って行った。去って行って・・・・・・帰ってこない。

あ、あのバカ。僕はともかく、あむを置いてけぼりにしやがった。なんだよ、これ。なんなんだよ、これ。



「恭文、今のはなんだったんだ? 私にはよく分からないんだが」

「・・・・・・知らない」

「日奈森あむは、振られて置いてけぼり・・・・・・と。
あぁ、あれはエルの経験上から言わせてもらうと、帰ってきませんねぇ」

「えぇっ!?」



とりあえず、エルにそんな経験があるかどうかはともかくですよ。

・・・・・・このままはまずいよね。荷物多いし、あむがヘコむし。



「ティア、とりあえずソフトパス」

「あ、うん。・・・・・・えっと、どうしようかこれ」

「どうするもこうするも無いでしょ。・・・・・・ティア、あむ、僕は唯世連れ戻してくる。
まだそんな遠くに行ってないと思うから、ヒカリ達と待っててくれるかな」

「・・・・・・わかった」



僕はヒカリとシオン、ミキの方を見る。視線の中に『それでいいかな』という気持ちを込める。

それだけで、みんなには伝わったようで、すぐに頷いてくれた。



「でも、もし辺里さんを連れ戻すのが無理なようでも、戻ってきてくださいね?」

「さすがにこの量を、あむだけには任せてはおけないでしょ。
アンタ、野宿決定なんだしさ。そこは頼むわよ?」

「分かってる。それじゃあ、行ってくるね。あ、エルも大人しくしてなよ?」

「はいなのです。いってらっしゃいですー」










・・・・・・ねぇ、神様。一体何考えてるの?





これ以上、僕にどうしろって言うのさ。もう限界値超えまくってるんですけど。




















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ケース23 『日奈森あむとの場合 その5』



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・降りてこーいっ! 月詠幾斗ー!!」

「木登りが苦手なのも変わらずなんだな」

「く、こうなったら・・・・・・ホーリーっ!!」

「いい加減にせんかいっ! このバカキングがっ!!」



閃光は、三度閃く。閃いた閃光は、右薙に後頭部を撃ち抜いた。

だから、唯世もキャラチェンジを解除して、こちらを見るのだ。



「痛ぁ。・・・・・・あれ? あ、蒼凪君。
どうしてそんなに睨むのかな。というか、あの・・・・・・怖いんだけど」

「やかましいっ! あむほったらかしてネコ追っかけるってどういうことっ!? ありえないっ! めっちゃありえないからっ!!」

「で、でも・・・・・・月詠幾斗が」

「でもじゃないっ! ほら、戻るよっ!!」



とりあえず、首根っこを掴んで引っ張る。それはもう全力でだ。



「あ、蒼凪君っ! 痛いっ!! 痛いからやめてっ!!」

「僕は何も聞こえない。・・・・・・とりあえず、うちのキングからかうのはやめてくれると助かるな。
やってもらわないといけない仕事が結構あってね、そこから離れられると、僕達が困る」

「なら、その仕事が無い時にからかう事にするさ」

「うん、それでいいや。で、一つ質問」



足を止めて、猫男を見る。聞いても無駄だろうけど、一応聞く。



「さっきのは、どういう意味? てーか、『敵』である僕よりおのれの方が、歌唄をちゃんと守れるでしょうが」



兄で、最愛の人って立ち位置なんだから、出来ないはずがない。

・・・・・・まさか、それが出来ないような状態に、二人は置かれてる?



「お前、やっぱ分かってないな」

「何がだよ」

「権力ってやつは、俺や歌唄、お前みたいな何の力のない子どもは、簡単に踏みつけられるんだよ」



今までとは違うトーンだった。でも、それだけで色々と伝わった。どうやら、質問には答えてくれたらしい。

つまりよ、今のコイツの状況では、歌唄を助けたり守ったりすることが出来ない。だから・・・・・・僕である。



「あと」

「なにさ」

「・・・・・・俺、お前の事は歌唄から聞いてたんだよ」



なるほど。コイツも知ってる。僕の年齢とか、そういうのを最初からだ。

だから納得出来た。木の上から僕を見ている冷めた瞳の中に、強い光を感じたのを。



「んじゃ、行くわ」

「そう。あぁ、それと」

「なんだ?」

「歌唄は、歌唄の歌は、歌唄の夢は、僕が守る。・・・・・・いや、ぶち壊すわ」



やっと分かった。ここで話せて、ようやく理解出来た。答えは、確かに僕の中にあった。



「お前の頼みなんざ、関係ない。僕が、そうしたいんだ。
あの子が・・・・・・好きだから。月詠歌唄は、僕の大事な友達だから」

「・・・・・・そうか」



・・・・・・そんなことを言って、王様を引っ張る。全く、なんですかこれは。

何度か言ってるような気がするけど、ありえないでしょ。猫男は、さっさとどこかへと跳んで行った。



「蒼凪君・・・・・・あの」

「唯世、真面目な話。いい?」

「あ、うん」

「僕はいい。ヒカリ達もいい。でも・・・・・・あむにこんな真似するのは、絶対ダメだから」



首から手を離し、そのまま歩きながら言う。唯世は、追っかけてくる。



「女の子と一緒に出かけたのに、その女の子を放り出す?
そんなの、男として最低だよ。最低限のマナー以前の問題だって」



僕が言えた義理ではないけど、ここは自分のことは棚に上げる。

棚に上げて、言うのである。てーか、僕しか言う奴居ないし。



「・・・・・・ごめん」

「僕に謝る前に、あむに謝る。いい?」

「うん」





まぁ、あむが多分に悪い部分があるような気がしないでもないけど、ここはいい。

それに・・・・・・ねぇ? 色々と望ましくない状況ではあったけど、収穫もあったのよ。

あの様子だと、あながちアミュレットハートだけに興味を持っているわけじゃ、なさそうだから。



それだけであんな我を忘れたような怒り方をするとは思えないもの。

・・・・・・いや、もしかしたら、それだけじゃないのかも知れない。

うし、いい機会だし、気にはなっていたから一つ聞いておこうか。





「唯世、一つ質問。歩きながらでいいから答えて」

「なに、かな」

「月詠幾斗、昔からの知り合いなの? というか、昔何かあった?」



唯世が俯いた。表情が少しこわばったように感じたのは、気のせいじゃないと思う。



「どうして、そう思うの?」

「逆に聞きたいね。さっきのアレを見て、どうしてそう思わないのかをさ。
思う理由なら、最低でも二つはあるじゃないのさ」





一つ。唯世は月詠幾斗の事になると、感情的になる傾向が強い。

僕とアレが初めて接触した時にも、感情任せで飛び出そうとした。

・・・・・・見ていて、スカリエッティを追ってた時のフェイトを、思い出してしまった。



二つ。唯世はともかく、月詠幾斗は昔から唯世を知っている様子だった。

例えば・・・・・・唯世がバニラを好きだった事を、知っているのとかもそうだ。

あと、おにーたんとかなんとかもそうだ。どうも挑発の類とは思えない。



多分だけど、そうとう子どもの頃からの知り合いじゃないかと思った。

待てよ。ということは、もしかして月詠幾斗の妹である歌唄とも・・・・・・アレ?

だったら、あのプラネタリウムの館長さんが歌唄を知ってても、問題ないんだ。



唯世の親戚だって言ってたし、それなら納得出来る。





「恭文、すまん。今は聞かないでもらえるか?」



静かに言ってきたのは、キセキだった。いつもとは違う低姿勢な感じに、少しびっくりする。



「・・・・・・理由は」

「まず、お前の推測に間違いはない。ただ、月詠幾斗との事は、唯世の傷にも触れる部分なんだ。
お前達もそうだが、ガーディアンの人間・・・・・・卒業した空海や留学したなでしこも知らない」





なるほど。他はともかく、唯世にとってはそれくらい重いことと。

・・・・・・全く、だったら無理に聞くわけにはいかないじゃないのさ。

仲間だからって、なんでも知らなきゃいけないルールなんてないもの。



でも・・・・・・そう考えると、海里のことを勝手に調べる形になったのはアウトだよなぁ。





「分かった。なら、この話はここまでにしておく」

「すまないな」

「いいよ、別に。僕も、実は唯世達に隠し事してるしね」

「あぁ、それなら推測は付く。・・・・・・ほしな歌唄との事だな?」



キセキの言葉に、僕は頷かない。首を、横に振った。



「違うのか?」

「違う。『月詠歌唄』との事だ」

「・・・・・・そうか」

「ついでにそれだけじゃない。実は最近また二つほど、大きなのが増えてさー」

「そしてもう二つあるのかっ!? お前はどれだけ秘密主義者なんだっ!!」










とにかく、色々と波乱含みな一日はこうして終わった。





あむと唯世を送った後、僕は・・・・・・あぁ、そうだ。本日の宿を探さなくちゃ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「せっかくですし、高級ホテルがいいですね」

「そうね。それで私も泊まるから、それで色々決着つけちゃおうか」

「つけないよっ!? てゆうか、友達同士で遊びに来たんじゃなかったんかいっ!!
・・・・・・泊まるのは、やっすーいカプセルホテルだよ。そして、ティアをお持ち帰りはしない」

「だが、お金はあるのか?」

「財布は持ってきてる」



で、中身も確認したから問題ない。十分に一人くらいなら泊まれる。

あー、身分証明は・・・・・・大丈夫か。ただ、顔見知りに会わないように気をつけておこう。



「ならいいが・・・・・・無駄使いは駄目だぞ? 質素倹約が一番だ」

「分かってるよ。・・・・・・じゃあ、いっそマジで泊り込み合宿しようか。
ちょっと試したい技とかがあるしさ。うん、けってーい」

「そして野宿・・・・・・それはいいアイディアだな。
この街は晴れてさえいれば星が綺麗に見えるから、きっと楽しくなる。・・・・・・それで恭文」

「なに?」



ヒカリが、僕の前へと来て、真剣な顔で僕を見ている。そのまま、口を開いた。



「ティアと、色々話せたな」

「・・・・・・我ながら甘いと痛感しまくってるけどね。主に死亡フラグの問題で」

「なんだ、やっと気づいたのか」

「お兄様、鈍過ぎです」



コ、コイツら・・・・・・マジでたまに僕の味方かどうか、怪しくなるんですけど。

普通に僕に対して扱いが悪いような気がするのは、なんで?



「でもさ」

「なによティア」

「マジで力貸したい。まぁ、アンタが私達と距離取ってた理由は・・・・・・うん、分かった。
色々気遣わせちゃってるのも、分かった。でもさ、私だって無関係ってわけじゃないのよ?」



ティアが、歩きながら僕を見る。真剣な目で僕を見下ろすので、一瞬呼吸が出来なかった。



「私はキャラ持ちじゃないし、限界はあるだろうけど・・・・・・それでも、力にはなりたいんだ。
あの子どうこうじゃない。恋人ではなくても、アンタは私にとって大事な友達だから」

「・・・・・・だめ。僕、振り切るって決めたし」

「・・・・・・マジで強情っ張り。てか、アンタあの子が好きなんじゃないの?」

「まぁ友達だしね。ティアと同じく、好きではあるかな」

「そっか」





まぁ、恋愛感情込みでもよくはあるんだよね。歌唄の事を何とかしたいってのは、事実なんだし。

でも、マジでそうなら、失恋の傷が増えるのは確定だよね。あはははは、なんかダメだなぁ。

僕、もうちょっと楽な恋愛したいかも。もう実は両想いでしたーってノリとか、よくない?



それなら、ティア・・・・・・あぁ、でもだめだ。なんか、やっぱり友達なんだよね。



異性としては、ドキドキ・・・・・・まぁ、しなくはないけど、なんか付き合うって想像出来ない。





「・・・・・・恭文さん、ティアさん」

「うん、エルどった?」

「エル、迷惑・・・・・・かけてますよね」



・・・・・・歩きながら、僕は首を横に振る。というか、ティアも同じく。



「迷惑とかじゃないわよ。アンタに対してのアレは、私達の落ち度だもの。
それで、恭文が怒ったのもちゃんとした理由なの。だから、迷惑なんかじゃない」

「ティアさん・・・・・・ほんと、ですか?」

「ホントよ。ただ、問題があるとすれば、コイツが凄まじく強情っ張りって事よ」

「そうですね。恭文さんは本当に強情で、手強いのです」

「よく言われるよ」










とりあえず、ティアとは別れてその夜は野宿。そして、修行開始。

アルトをセットアップして、かなり集中してやった。

それで・・・・・・答えが見えた。ようやく、伝えたい言葉の片鱗に触れられた。





ティアと、仲直りみたいな感じになったせいかな。あー、でもやっぱり僕甘いのかも。





それでも、見えた。歌唄に伝えたい言葉も・・・・・・そうしてやっと踏み出せた一歩も。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あ、恭文からメールだ」





唯世に送ってもらう形で、お買い物から帰ってきた。

それで、あむちゃんが『疲れたー』と声をあげてベットに寝転がる。

ヒロインとしてそれはどうなのかなとかボク達が思っていると、着信音。



あむちゃんが、懐からピンク色で卵型の携帯をパカリと開く。開いて確認したら、これ。





「・・・・・・ミキ、ちょっとこっち」

「どうしたの?」



ボクは、部屋の真ん中のテーブル飛び立って、あむちゃんの方へ行く。

それで、あむちゃんが携帯の画面を見せてくれた。



「ミキにメッセージ。少しだけ踏み出せたから大丈夫・・・・・・って」

「・・・・・・そっか」

「あ、ここから下の文面は、ミキへの個人的メッセージって書いてるから、アンタだけ見な?」



あ、ホントだ。というか、普通に一緒に居る時に話してくれればいいのに。



「あたしはちょっと下がってるから」

「分かった。あむちゃん、ありがと」





とにかく、ボクは携帯のボタンの上に座る。

そして、両手の平で、ボタン操作。メールを読んでいく。

・・・・・・少し面倒な事が分かったから、ボクの力をまた借りるかも知れない?



なんだろ、面倒な事って。・・・・・・まぁ、いいか。うん、問題ないや。

だって、一応ボクはパートナーみたいなものだしさ。

ハイセンスブレード(仮)は体力の問題もあるから簡単には使えないけど、それでも頑張るよ。





「あむちゃん、メールありがと」

「あ、読み終わった?」

「うん。あと・・・・・・それでさ」



まぁ、せっかくボク宛てに送ってくれたわけだし、一応ね。



「ボク、恭文に返事のメール打ってもいいかな?」

「・・・・・・いいよ。ね、ミキ。恭文大丈夫そう?」

「うん。ティアさんとは、関係改善出来たって。というか、謝られたから。
それで家を追い出されたけど、今日泊まるところも見つかったから、問題ないって」

「あははは、そっか。・・・・・・いやいや、追い出されたってなにっ!?」










あれ? そう言えば、あむちゃん達には話してなかった・・・・・・ま、いいか。





そう言えば、メールの文面からどこか楽しげな気持ちが伝わってきた。何か良いこと、あったのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そして、それから数日後。時間はどんどんと飛ぶ。

翌日、なんとか帰宅を許された僕は、制服を着て学校へごー。

なお、リインとティアはともかく、フェイトとシャーリーが何か言いたげな目で僕を見てる。





ううん、今も見てる。まぁ、ここはいい。少なくとも僕からは絶対話さないし。





ただ、問題がある。それは・・・・・・あの子が持ってきてくれた。










「・・・・・・これなんです」





オレンジのスカートと、白の上着を羽織った、栗色の髪の女の子。名前は、ディード。

つい先日、フェイトの四人目の補佐官となり、僕が保護責任者をやることになった子である。

僕、何度もこの話は断ったのよ。僕は保護責任者なんて出来ないし、ガラじゃないって。



それでもとお願いされて・・・・・・折れて、現状に繋がりました。

あははは、笑っていいよ? 僕、自分の面倒も見切れてないのにこれだもの。

とにかく、そんなディードが唐突にロイヤルガーデンに来た。なお、僕を訪ねてである。



そして、ディードが街中を歩いてる時に、手に入れたものがあるとかで、僕達にそれを見せてきた。





「CD・・・・・・ですよね」

「はい」



透明なマキシサイズのCDケースに、黒に白の×印がプリントされてる。

そして、真ん中には『BLACK DIAMOND』の表記。・・・・・・これ、なに?



「あの、ディードさん・・・・・・でしたよね」



唯世が、少し慎重に聞く。初対面なので、色々緊張してるらしい。

それでもあむに唯世、ややには事情説明してるから、まだ大丈夫。



「はい」

「このCDが、どうかしたんですか?」

「えっと・・・・・・路上ライブと言うんでしょうか。それに先ほど遭遇しまして」

≪路上ライブ?≫





・・・・・・ディードの話を統合すると、こうだ。遭遇したのは、買い物帰りのこと。

今度メジャーデビューするバンドの宣伝活動で、路上ライブが行われていたらしい。

で、このCDはそのバンドのデビュー曲。というか、それの仮バージョン。プロモ用に配っていたとか。



まぁここまでなら、まだ珍しいことじゃない。問題はここからだ。





「そのライブの様子なんですが、妙だったんです」

「妙?」

「全員、歌声を聴いた途端に心ここにあらずの状態になっていました。
もちろん私も同じです。引き寄せられるようにして、このCDを手にしていました」



・・・・・・待て待て。なんか背筋が寒いんですけど。てゆうか、来て三日目でこれはありえないでしょ。



「それで、歌を聴いてると・・・・・・こう、『もっと聴かなくちゃいけない』という強迫観念に苛まれている感じがして」

≪・・・・・・あなた、精神操作を受けかけていたんじゃないんですか? それはおかしいでしょ≫

「かも知れません。それで、家に戻る前にちょうどここに通りがかって、恭文さんに相談したくて」




ディードでもその怪しい歌声をぶちまけていた連中が誰かは、分からないらしい。

ここはこっちに来てから日が浅いので、いいとしておく。

それで、声が歌声を崩さない程度に機械を通して加工されていたらしい。



歌い手は帽子を目深にかぶった上にサングラスまで装着してたので、本当に誰かは分からない。



とは言え、現場を見てないのでどうしたものかと全員が頭を抱えてると・・・・・・ややが口を開いた。




「ディードさん、ちょっとCD借りますね」

「はい、どうぞ」



ディードに一言断ってから、机の上に置いてあったCDを手に取り、色んな角度からそれを見る。

そしてややは、ハッとした顔になる。それに全員の視線が、ややに向く。



「もしかして、コレ・・・・・・おねだりCDっ!?」

「おねだりCDって・・・・・・あぁっ! もしかしてアレですかっ!?」

「うん、多分あれだよっ! ややが友達からちょろっと見せてもらったのと、同じだもんっ!!」

「結木さん、リインさん、そのおねだりCDってなに?」



そうだそうだ。まずそこを説明してよ。てーか、リインも知ってるってどういうこと?



「えっとですね、恭文さんは知らないですか? 最近、学校内で噂になってるCDなんです」

「これを聞くと、どんな願いでも叶うって言われてるCDなんだ。
やや達、クラスで最近よくこれの噂聞くようになったの」

「なるほど。一種の都市伝説なのね」

「ですね。ただ、ここからが重要なんです」



リインが右手の人差し指を立てて、声のトーンを落とし、脅かすようにして言葉を続けた。



「受け取ってから一週間以内に誰かに聴かせないと・・・・・・身の毛もよだつ恐怖が襲ってくるそうです」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あむ、いきなり隣で叫ぶのやめないっ!? 普通に僕はビックリするからっ!!」

「ご、ごめんっ! でも、駄目っ!! あたし、こういう話ホントにだめなのー!!」



とりあえず、あむが自分で自分を抱きしめながら震えてるのは、置いておく。

冷たいようだけど、他に考えなくちゃいけないことがあるのだ。それもかなり。



「それでリインさんとややさんの見立てでは、私がもらったCDは、そのおねだりCDだと」

「ややもちょろっとしか見てないですけど・・・・・・多分、間違いないです」

「ですが、そうなると色々とおかしいですね」

「あぁ、おかしいな。・・・・・・恭文、このCDは徹底的に調べてもらった方がいい」



ヒカリとシオンが、ややの持っているCDを見ている。というか、言われるまでもない。なんかこう、嫌な感じがする。



「ヒカリ、シオン、それってどういうこと?」

「簡単です。まずそのバンドの歌で、ディードさんが精神操作と思しき症状を体験しています」



というか、ディードの話し振りだと、聞いた人全員がそれでしょ? どう考えてもおかしい。



「そしてもしもこれをおねだりCDとするなら、なぜそんな都市伝説めいた話になるかが、疑問です」



都市伝説というのには、色々と種類がある。例えば全くのデマだったり、根っこがあってそこから広がったり。

これは後者だけど、そうなると色々と問題がある。それは・・・・・・時間だ。



「やや。このCDの噂は、結構前からあったのか? 例えば、私達が聖夜小に来る前からとか」

「ううん。大体・・・・・・1ヶ月くらい前からかな。ちらほらと流れ始めたんだ。・・・・・・あ、そっか」

「そういうことだ」



ヒカリがややの言葉に頷く。みんなも分かったから、納得するらしい。そう、ここが疑問だ。

1ヶ月やそこらで、どうしてこのCDが『おねだりCD』になるかが、分からないのだ。



「もらうタイミングは偶発的とは言え、出所自体は判明している。
なのに、なぜそのCDがおねだりCDと噂されているのかが、疑問なんだ」

「結木さん、あなたゴシップ関係は詳しいですよね? なら、一つ質問です。
このCDの話は聖夜小だけでなく、他の学校でも広まってるんですか?」

「うーん、ごめん。ちょっと分からないよ。でも、プロモ用のCDだったって話は、全く聞いてない」

「とにかく、そのお友達に出所の確認をお願いします。あと、CDは聴かないように言っておいてください。
・・・・・・ディードさん、あなたは急いで家に戻って、CDの調査をお願いします」

「・・・・・・分かったわ」










・・・・・・こうして、おねだりCDを調べる事になった。なお、ここにはある前提がある。

ゲリラライブ。精神操作を可能とする歌。そして、変装している女。

ディードの話だと、女ということだけはなんとか分かったらしい。そこで、全員が同じ事を考えた。





あ、訂正。海里を除く全員がだね。ディードの話だと、身長は同じくらいらしいし。





つまりだ、ディードのおかげで、僕達は当たりを引けたわけである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・エル、ついて行っちゃったのっ!?」

「うん。ティア達が面倒見てくれるから、大丈夫だとは思うけど」



現在、フェイトと一緒に夕飯の仕込み。ディードとシャーリー、ティアは本局でCD調査。

ディードのツインブレイズに歌の音声データも録音したから、それの解析もある。



「・・・・・・魔法の事、話してるんだよね」

「うん。一応、友達だからいいかなーと」

「友達・・・・・・か」



ジャガイモを剥いていると、フェイトがなんだか不満そうな顔をしている。

手元を動かしながら、カレー用の肉を裁きながら、フェイトが話しかけてくる。



「ヤスフミ、あんまりにほしな歌唄の事に入り込み過ぎてないかな」

「・・・・・・普通だよ。てーか、長丁場なのは間違いないから、適度に力抜いてる」

「うん、そうだね。あ、ここを出ていくとかそういうの無しだよ?
ヤスフミは野宿とか慣れてるかも知れないけど、もうディードだっているんだし」



なぜに僕の思考が分かる。てゆうか、慣れてるって分かってるなら、問題ないでしょうが。



「私達は気にしないから、ちゃんと居て?」

「嫌だ。数日野宿で精神修行する予定だし」

「それもだめ。どうしてなの?」



リインはお風呂中だから、僕とフェイトしか居ない。だから、フェイトも話してる。

ため息交じりに、話していくことにする。じゃないと、きっとフェイトは納得しないから。



「ね、お願い。ちゃんと話して? 私はヤスフミとちゃんと話したい。ちゃんと話して、分かり合いたい」

「別に問題ないでしょ。僕、元々馴れ合いは嫌いだし」

「あるよ。・・・・・・やっぱり、私達があの子を敵扱いしたのが原因?」



フェイトの手が、止まった。そして、本当に信じられないという顔で、僕を見・・・・・・ないね。

てゆうか、僕がソレだよ。驚いた顔して、フェイトを見てる。



「最近、改めてヤスフミを見るようになって、気づいたんだ。あの子の事、好き?」

「まぁね」



テーブルの上の、ヒカリとシオンの笑い声が聞こえる。あやつら、普通に腹抱えて笑ってるし。

そうかそうか、気づいてなかったのは自分だけってやつですか。



「ね、きっかけはなに? やっぱり、イギリスでの事が原因なのかな」

「・・・・・・なんか誤解があるみたいだけど、恋愛感情とかじゃないから」

「そうなのっ!?」





そうなのよ。普通に、友達として。あんま、意識はしてなかったけど、やっぱりそういうのかなぁと。



どうやら僕が本気で言ってるのは、ご理解していただけたらしい。



そのまま肉を切りながら、少し声のトーンを落として言葉を続ける。





「ごめんね」

「どうして謝るのさ」



肉を切りながら、いきなりそんなことを言って来たので、少しビックリした。



「きっと、嫌な思いさせてたから。・・・・・・ヤスフミにとって、彼女は敵でもなんでもない。
大事な友達なのに、私達はずっと敵扱いしてた。だから」

「謝るくらいなら最初から言うな。てーか、僕に謝るくらいなら、エルに謝れ。
まぁ、アレだよね。やっぱキャラ持ちの事はキャラ持ちにしか分からないってことでしょ」

「・・・・・・うん、そうだよね。そう言われても仕方ないよね」



だから落ち込むな。まるで僕が悪いみたいじゃないのさ。

なお、『いや、お前が悪いから』という意見は、スルーします。



「でもヤスフミにも謝りたいの。距離感開いてたのはそういうのが、原因だろうから。
だけどヤスフミ、本気・・・・・・なんだね。本気で、あの子を助けようとしてる」

「僕は、いつだって本気だよ。・・・・・・違うな」



僕、そこまで性根真っ直ぐじゃないし。うし、訂正だ。



「本気でぶつかりたいと思った相手には、本気でやるよ。ありったけで無茶と無理を通して、全部を賭ける。
フェイトしかり、チンクしかり、歌唄しかり。・・・・・・そうじゃなきゃ、何も伝わらないし、何も出来ない。そんなの、意味がない」





とりあえず、包丁の根元部分のエッジで、ジャガイモの芽を取る。

取りつつ、話を続ける。多分、フェイトにはちゃんと言っておかなきゃいけないから。

僕の時間を、想いを、全部を賭ける。そうじゃなくちゃ、きっと今の歌唄には伝わらない。



色々考えたけど、基本これしかないなと。あと・・・・・・海里に対してもだね。





「僕は魔法使い志望だもの。こういう状況での魔法使いは、何時だって最高のハッピーエンドを目指すの。
・・・・・・あの子が、あの子の歌が好きなんだ。でも、それはほしな歌唄じゃない」



今の歌唄は、きっと大事なものを見失ってる。『イクトを助ける』って言ってたけど、あれは違う。

答えは、次のページを開くための鍵は、もう僕の手の中にある。だから言い切れる。



「初対面で僕にハッパかけて、その後も友達付き合い続けてくれた、月詠歌唄が好きなの」

「・・・・・・そっか。ね、ヤスフミ。ティアとの事は・・・・・・だめっぽい?」

「ダメだね」



即答に、フェイトの視線が厳しく・・・・・・って、なんでそうなる?

普通におかしいでしょうが。僕は、本心を話してるだけなのに。



「ティアの事、好きだよ? でも、異性としてじゃないかなって。・・・・・・どっちにしても、今は無理なの」



フェイトが、寂しそうな目になる。でも、僕の意見は変わらない。



「そっか。なら私、ダメなことしたよね。ティアの事、結果的に押し付けようとしてた」

「大丈夫、だってフェイトだもの」



にっこり笑顔で言うと、フェイトが安心したように笑う。

そして、次の瞬間に『ちょっと待ってっ!?』と声を上げる。



「それ、どういう意味かなっ!?」

「全てにおいて言葉通りの意味だけど、何か? だって、フェイトじゃあ仕方ないし」

「何かじゃないよっ! そして、冷たい目でそういうこと言わないでっ!?
・・・・・・まぁ、言われても仕方ないか。今回は、全く反論出来ないわけだし」



あ、ちゃんと自覚はあるんだね。感心感心。



「だけど」

「なに?」

「ホントに、安心した。ティアの事はまぁ残念だけど・・・・・・ヤスフミ、諦めてなかったから」

「うん、最初から諦めてなんてないよ。諦め・・・・・・られないよ」



芽を取り終えたので、皮を向く。スルスルと、流れるようにジャガイモは白い中身を表していく。



「フェイトと一緒に幸せになるって約束は、継続だもの。
今回の事だって、同じなんだ。諦められないの。絶対・・・・・・無理なの」



思い出すのは、フリーダムだけど優しいあの子。僕の夢を笑ったりなんてしないで、認めてくれた強い子。

もう一人は、素直じゃない感じがするけど本当は優しい子。この子も、同じように認めてくれた。



「心配かけてるのも、一応自覚してる。みんなを傷つけてるのも、知ってる。自分が最低なのも分かってる。
だけど、止まれない。もう決めたんだ。これは、僕がやらなきゃいけない事なの」



で、最後はあのバカ。人に言うだけ言っておいて、自分はさっぱり出来てないという典型例。



「三人とも守る。想いも、夢も全部守る。僕が目指す魔法使いなら、絶対にそこに手を伸ばす。
だから、勝手にする。諦めないために、取りこぼさないために・・・・・・フェイト達の事、振り切るから」

「・・・・・・そっか。なら、私達は速度を上げて、それに追いつく事にする」

「え?」

「それならいいでしょ? ヤスフミは、ヤスフミの勝手でやってればいいから。もう止めたりしない。
私達は、私達で勝手に追いつくし勝手にやってる。・・・・・・答え、聞かないから」



微笑みながら、そう言い切るのは僕の大事な人。

・・・・・・そっぽを向いて、頷くことしか出来ないのが、ちょっと悔しい。



「とにかくフェイト」

「うん、分かってる。私も諦めてないよ? そこは絶対。あの時の私を、嘘にしたくないから。
ただその・・・・・・出会いが無いというか、いい人が居なくて色々駄目というか」

「大丈夫だよ。その時は僕が第三夫人にもらってあげるから」

「うん。・・・・・・えぇっ!?」



・・・・・・そんなにビックリすることないのに。というか、包丁落とすのはやめて? 足元怖いから。



「それが嫌なら、ちゃーんと頑張れってこと。そうだなぁ、期限つけようか。うし、今から3年以内ね?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



フェイトが、叫ぶ。結構距離は近いので、普通に声の大きさにビックリ。・・・・・・あなた、何故にそんなキャラ?



「3年以内に彼氏なり好きな人なり気になる人が出来なかったら、夜這いかけるから」

「そ、それはだめっ! あの・・・・・・絶対だめっ!! というか、夜這いは犯罪なんだよっ!?」

「大丈夫だよ、合意の上なら」

「夜這いって時点で合意じゃないよねっ!?」



大丈夫、ちゃんとその時に確認するから。というか、普通に座ってお話から発展させてく予定だし。



「うし、これで婚約成立と。いやぁ、三人体制は楽しみだねぇ」

「た、楽しみって・・・・・・あのヤスフミっ!? 三人体制とかハーレムって、駄目だったんじゃっ!!」





そんな事は気にしない。大丈夫、許容量をぶっちぎってて、多分何も感じなくなると思うから。

・・・・・・なお、ハッパをかけているのである。で、一応本気。じゃないと、ハッパにならないから。

色々複雑ではあるけど、そういう幸せも探す努力は怠らないようにと、言っているのである。



フェイトも、それが分かってるから、『仕方ないなぁ』という顔で、お肉を炒め始めるのだ。





「・・・・・・じゃあ、婚約ね? ただ、私も努力はするから。それでも駄目なら、ヤスフミにお嫁にもらってもらう。
つまり、フィアッセさんとの婚約と同じだよ。言った以上はヤスフミも覚悟決めてね? 私は今決めたから」

「分かってる。・・・・・・まぁ、アレだよ。別に女の子相手でもいいよ? 同姓愛だって、立派な愛情なんだし」

「どうしてそっちいっちゃうのっ!? そういうのも認めてくれるのはありがたいけど、私はそっちにはいかないよっ!!」



なんて言いながら、僕達は笑ってる。・・・・・・こういうのも、いいのかも。

姉弟で、友達で・・・・・・うん、これも一つの幸せなんだ。



「ヤスフミ」

「なに?」

「もう、私達も無関係じゃないよ。だから、私の手も使って欲しい」

「・・・・・・嫌だ」



うん、嫌だ。なんというか・・・・・・嫌だ。あのCDだって、僕が解析しようと思ってたくらいだし。

・・・・・・シオンとヒカリが先に動いちゃったから、出来なかったけど。くそ、やっぱ僕ダメだし。



「あの、大丈夫だよ? もう、ちゃんと分かってるから」

「そういうのじゃないよ。・・・・・・だって、情けないじゃん」

「情けない?」

「初恋の人の手や、好きだって言ってくれる女の子の手を借りる。
そうしなくちゃ、理由はどうあれ今気になってる女の子一人、助けられないなんてさ」



なんかこう、嫌なのよ。同じ理由で、ティアも本人に言ったけどアウト。うん、色々プライドがあるの。

というか、そんなことしても歌唄とちゃんと向き合えない感じがして、嫌だ。



「特にティアだよ。・・・・・・絶対に、嫌な思いさせるだろうし」



そして、そう言うとフェイトが大笑いし出した。・・・・・・うぅ、だから話すの嫌だったんだ。

あぁそうですよ、子どもっぽいですよ。だけど、なんか普通に恥ずかしいのよ。



「そっか。・・・・・・納得した。だけどね、気にしないで欲しいな。
本当に、気にしないで欲しい。私は気にしない。ティアだって、同じじゃないかな」

「・・・・・・嫌。てゆうか、やっぱり振り切る」

「うん、それでいいよ。私も納得したから、もう言わない。やっぱり追いつくことにする」



細かいことは、気にしてはいけないということで話は落ち着いた。とにかく、別の話をしよう。

フェイトも、この一件に関してはもう分かってるらしい。なので、そのまま調理を続けてるし。



「・・・・・・フェイト」

「なに?」

「互いにさ、好きな相手が出来るでしょ?」



フェイトは、お肉に塩コショウをしながら、頷く。



「結婚して、子どもとか出来ても、ずーっとこんな風にいられたらいいよね。
姉弟で、友達で、仲間で。だけど・・・・・・大好きな相手で」

「そうだね。それで、互いの相手が妬いちゃうの。いかがわしい事はないのは分かるけど、それでも。
・・・・・・ヤキモチ、適度に妬かせるくらいには、頑張ろうか。そうしたら、逆に上手くいくかも」

「あははは、そうだね。それくらい仲良く出来たら嬉しいかも。
それで、月一とかで互いに合意の上で浮気して」

「しないよっ! ヤスフミ、今日はいくらなんでもセクハラが激し過ぎないかなっ!?」

「だって、今日はそういう気分なんだもの。フェイトに言葉オンリーでセクハラして、いっぱいいじめるの」



久々にフェイトと通じ合えてる感じ。それが楽しくて楽しくて、仕方がない。



「ヤスフミ、好き・・・・・・だよ?」

「あぁ、そっか。セクハラが大好きなんだ」

「違うよっ! どうしてそうなるのっ!?」



唐突に、脈絡も無く好きとか言うからそうなるのよ。何がどう好きなのか、ちゃんと話してから言うべきでしょ。



「・・・・・・友達で、仲間という意味合いだけど、それでも好きだから」

「うん。僕もフェイトが好き。将来の第三夫人だしね」



にっこり言うと、フェイトが苦笑いする。というか、困ったように急にオロオロし出す。



「・・・・・・が、頑張るよ? 頑張って、ヤスフミに夜這いされて、大人になるルートは回避するんだから。
というか、そうなるなら私が・・・・・・その、ヤスフミに対して本気じゃないとダメだし」



お肉を炒めながら顔を赤らめるお姉さんを見て、少し笑う。だって、からかうと面白いんだもの。



「もちろん約束はしちゃったから、そうなったら本気で頑張るよ。
でも、ダメになるようにも頑張る。うん、そこは本当だよ?」

「うん、楽しみにしてる。なお、僕より弱い男は認めないから。
最低ラインでも、良太郎さんか侑斗さんレベルだね」

「それはハードル高すぎないっ!? むしろ、最低じゃなくて最高ラインだよっ!!」



だけど、そんな平和は長く続かない。無粋なコールは、突然に鳴り響いた。



『フェイトさん、失礼しますっ!!』



そんな幸せを、遠慮なくぶち壊してくれるのが居た。そう、それはシャーリーだ。

普通に通信かけてきて、僕達の前に顔を出してきた。・・・・・・どうした?



「シャーリー、空気読んでくれない? 僕はこれからフェイトに夜這いをかけて、結婚する事が決まったんだけど」

『フェイトさんといったい何してるのっ!?』

『・・・・・・よし、後でちょっと私と話しようか。
私に対してアレで、フェイトさんに対してそれはありえないでしょ』



あ、横から不満そうな顔でティアが出て来た。・・・・・・よし、ちゃんと答えようか。



「いや、姉弟としての絆が成せる技だから」

『それだけで説明出来ないわよっ! このバカっ!!
・・・・・・って、そうじゃないっ! あの、大変なのっ!!』

「ティア、シャーリーも何がどう大変なのよ。ちゃんと説明して。『ほうれんそう』って大事だよ?」

『じゃあ結論だけ言うっ! あのCD・・・・・・中に×たまが入ってるのっ!!』

「「・・・・・・・・・・・・はい?」」



いやいや、ちょっと待って。言ってる意味が分からないぞ。どういうことさ、それ。



『恭文さん、聞こえるですかっ!? おーいなのですっ! 返事をしろーなのですっ!!』

「エル、聞こえてるから、そんな大きな声出さなくていいよ」



画面の端から、エルが割り込んできた。・・・・・・どうしたの。ちゃんと話して。



『あの、エルはディードさんが持って帰ってきたCDから、×たまの気配を感じたです』

『それで、私達で色々調べたら・・・・・・ドンピシャです。
どうやってかは分かりませんけど、このCDには×たまがプレスされているんです』

『それでそれで・・・・・・あの、ディードさんが持って帰ってきた歌声のデータですけど』



あぁ、そっちもあったか。でも、もう聞かなくても答えは分かるや。

だって、エルがすっごい泣きそうな顔してるしさ。



『あれ、歌唄ちゃんの声です。エルが言うから、間違いないのです』

『私とシャーリーさんの方の解析でも、そう結果が出ました。
CDの方は危険なので再生してませんけど、ライブで歌ってたのは間違いなくほしな歌唄です』

「・・・・・・そう」



とりあえず、包丁を置く。手元に持ってると、フェイトが危ないから。

フェイトが心配そうに僕を見てる。とりあえず・・・・・・ごめん、ちょっとキレてるわ。



「でも、何のためにそんなことを? ×たまをCDにプレスして、それで歌を聴かせる意味が分からないよ」

『そこが私達にもサッパリなんです。だって、ほしな歌唄の歌は直接聴かなきゃ効果が無いんでしょ?』

『はいです。CDとか録音音源とかでは、ダメなんです。だから、エルにもサッパリなのです』



フェイトとティア、エルがそんな事を言ってると、非常にタイムリーに僕に電話がかかってきた。



「お兄様、どうぞ」

「あ、ありがと」



とりあえずエプロンで手を拭いて、シオンが持って来てくれた端末を右手に持つ。

なお、端末はリビングのテーブルにずっと置いてあった。それの通話ボタンを押して、繋ぐ。



「もしもし」

『あ、恭文っ!? あの、大変なのっ!!』



その声はあむだった。とても慌てて、それが電話越しからでも伝わってくる。



『唯世くんが・・・・・・おねだりCDを聴いたらしくて、今行方不明になってるのっ!!
それだけじゃなくて、キセキのたまごにも×が付きかけてて・・・・・・お願い、助けてっ!!』



どうやら答えは出たらしい。まぁ、ここは行きながら考えるか。

まずはあむと唯世の方だ。しかしあのバカ・・・・・・とんでもないこと、やらかしやがった。



「フェイト、ティア、答え合わせはいらないわ。答えの載った答案が、向こうからやってきたから」

『・・・・・・みたいね』

「フェイト、ちょっと出てくる。サポートお願い」

「わ、分かった。でもヤスフミ」

「大丈夫。遭遇しても、半殺し程度で済ませるから」



あのバカ・・・・・・話の前に、まず一回叩き潰してやる。



「ヒカリ、シオン」

「分かっていますわ」

「行こう、恭文。・・・・・・さすがに、今回は私もキレてる。徹底的に、止めるぞ」



・・・・・・・・・・・・『イクトを助ける』? 無理。お前には、絶対無理だ。

猫男を助ける前に、お前・・・・・・自分を助けられてねぇだろうがっ!!



「それで悪いんだけど」

「なんだ?」

「たった今覚悟、決めた。二人とも・・・・・・巻き込むわ」

「・・・・・・何をいまさら。相乗りすると言ったじゃありませんか」

「その通りだ。余計なことは考えず、お前は突き抜けていろ。私とシオンも、そうする」










自分の歌も、夢も、その意味もおざなりにしやがってっ!!





いったい何やってんだっ!? ふざけんじゃねぇぞっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、アミュレットハート姿なあむと合流。なお、リインは自宅待機。

フェイトだけじゃ後ろの手が足りない。そっちのサポートのためだ。

二人でビルや家屋の天井を飛びながら、まずは実際に自分の目で捜索。





とりあえず、夜景が綺麗ということは分かった。





分かったから・・・・・・唯世を出せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!










「・・・・・・唯世くん」

「あぁもう、我ながら空気読んでなかったっ! こんなタイミングであんなこと言うんじゃなかったっ!!
これは豆芝レベルじゃないのさっ! ちくしょー、最近の僕はいくらなんでも、オンボロ過ぎるぞっ!!」



今日の夕方に、唯世に少しお小言を言ってしまったのだ。どんな王様になって、何をしたいのかと。それで・・・・・・これなの。



【今更だよっ! でも、本当にどこに・・・・・・!!】



なお、フェイト達はまだ見つけられていないようだった。見つけたら連絡が来るはずだから。



「でも恭文、さっきの話本当なの? おねだりCDを作るのに×たまが使われているって言うの」

【しかも、それに歌唄ちゃんが絡んでるって】



夜空を飛びながら、あむが聞いてきた。僕とヒカリとシオンは、頷いた。



「間違いない。エルがCDの中からたまごの気配を、僅かに感じたそうだ。
・・・・・・失敗だった。確かに妙な感じのするCDだとは思っていたのだが」

「改めて確認しなかったのは、本当にそうなりますね」

「・・・・・・許せない」



空を跳びながら、あむが腹立たしげに呟く。



「だって、CDになっちゃったらそのたまご達はどうなるの? もう浄化とか無理なんじゃ」

「とりあえず、そこは後で試すよ」

「そうだね。もしかしたらオーケーかも知れないし」





ダメな可能性は、今は考えないようにしよう。それに、そこより前にまずは唯世だ。

・・・・・・冷静になれ。唯世は、今現在どこに居ると思う? CDを聴いて居なくなったのはどうして?

普通に抜き出すなら、もうキセキはとっくに×が付いているはずだ。



だけど、キセキはまだ大丈夫。苦しみながらも、必死にそれに耐えてる。





「もしかしたら、×たまを集めるためにCDを聴いた人達は、一時的に催眠状態に置かれているのかも知れません」

「シオン、それどういうこと?」

「ようするに、そのまま自宅でたまごに×が付く・・・・・・違いますね。
エンブリオが出てきても、イースターが回収できない可能性があるということです」





・・・・・・なるほど。例えば、聞いた人の自宅とかで、エンブリオが出てきたとする。

だけど、イースターの連中の所に来る保証なんて、どこにもない。

いや、そのままどっか知らないところに飛んでいく可能性の方が大きい。



現にあむのダイヤのしゅごたまが、それだった。

歌唄のバカが出てくるまで、行方がさっぱりわからなかったんだから。

だから聴いた人間をどこかに集めて、そこでたまごを抜き出す・・・・・・と。



キセキがこの状態なのは、宿主の唯世の精神状態と相まって、そんな状況に置かれてるからなのか。





「でも、それだけでは無いと思います。イースターの人間は、×たまを回収してCDにプレスしました。
目的はエンブリオを見つけ出すためだと言うのは、簡単に想像出来ます」

「だが、この計画をそのままエンブリオが見つかるまで続けるつもりなら・・・・・・いや、続けるだろうな。
それなら、CDは数が多い方が絶対的に有利だ。だがCD作成のためには×たまが必要になる」



ヒカリが、シオンの言葉に続けていく。それをあむと僕達は跳びながらも聞き続ける。



「そのためにも、例えエンブリオではなかったとしても、×たまは出来る限り回収しておきたいのだろう」

「恐らく、そういう意味合いも存在しているんでしょう。
いわゆる悪魔の観点から考えた、最悪なリサイクル方法ですよ」





だから一時的に催眠状態に置いて、聴いた人間を一箇所に集める。

そこで一気にこころのたまごを回収・・・・・・ということだね。

確かに効率はいいわ。そして、手段が普通の人間に思いつくレベルじゃない。



マジでどっかの悪の組織の行動だ。イースターの連中、マジで性質が悪いし。





「でも、こんなのひどいよっ! イースターの連中、みんなのこころのたまごを・・・・・・なりたい自分の可能性を、なんだと思ってるのっ!?」

「自分の目的を達成するための道具にしか思ってないんでしょ。・・・・・・でも、よかったよ」

「恭文っ! アンタなにがよ・・・・・・か」



うん、よかった。すっごくよかったよ。イースターの連中が、どこぞの三流犯罪者レベルでさ。



「こういうのの相手は、僕達の領域だ。おかげで、何の躊躇いも無く連中をぶち壊せる」

≪・・・・・・そうですね。そこだけは、幸運でしょう≫

「私達の目の前でこのようなことを行うなど、愚の骨頂でしょう」

「シオン、その通りだ。だから、これ以上は・・・・・・やらせない」



でも、ここはいいか。怒りは直にぶつければいい。なにより、ただ斬るだけじゃダメなんだから。



「あぁ、まだよかった事がある。これで手がかりが一つ見つかった」

「え?」

『そうだよ。・・・・・・ヤスフミ、あむもお待たせ。分かったよ』





僕の左隣に通信画面が開いた。それは、フェイト。

こうやって通信が来たということは、考えるまでも無い。

唯世の居場所が見つかったんだ。僕達は、近くの民家の屋根に着地。



足を止めて、みんなで改めて通信画面を見る。





「フェイトさん、本当ですかっ!?」

『うん。まぁ、唯世君というより、言うようにCDを聴いたと思われる人達が集まっている場所だけど』

「え? でもそれだと・・・・・・あ、そっか」





あむはどうやら分かったらしい。フェイトの言う方法で捜索すれば、カードが確実に引ける事を。

・・・・・・僕達の推測が当たっているなら、連中はCDを聞いた人間を一つ所に集めようとしている。

そうしないと、回収に手間取るから。なにより、エンブリオが出ても捕獲出来ない。



つまり、今現在どこかにその人達が集合・・・・・・大量に人が集まっている場所が、あるはずなの。





『きっとそこに唯世くんが居る。そして、現在それと思われる場所は、一箇所だけだよ。これで決定だと思う』

「フェイト、それでその場所は?」

『今アルトアイゼンにデータで送った。あとヤスフミ、私もそっちに行くから』



・・・・・・いや、フェイトが来てもダメでしょ。まさかたまごを壊すわけにもいかないし。



『大丈夫だよ。たまごはともかく、フォローは出来る。
・・・・・・場合によっては使うつもりなんだよね?』



なぜ見抜かれているんだろう。フェイトが当然という顔してるし。



「・・・・・・つまりそういうことですか?」

『そういうことだよ。とにかく、そういうわけだから。多分10分くらいで追いつけると思う』

「了解。・・・・・・フェイト、ありがと」

『ううん』



そのまま通信は終わった。とにかく、フェイトが来てくれるなら、僕が足手まといになる事は避けられる。

ううん、回復するまでの時間をフェイトに稼いでもらうことだって可能だ。・・・・・・アルト。



≪データは既に届いています。問題ありません≫

「うし、それじゃあ・・・・・・あむ」

「うんっ! 行こうっ!!」





そのまま、大きく跳ぶ。・・・・・・夜景の綺麗さに見とれる余裕が欲しいなとか、ちょっと思いながら。



そして、到着したのは広場。スピーカーの黒いバンが止まっている。



そして、その周りに沢山の子ども。





『全てすくい取る。歪んだ夜空に』



スピーカーから流れる歌声によってその大半が倒れて、その胸元や背中から黒いたまごが表れる。

でも、それだけじゃない。倒れていない人間の中に、見知った影を見つけた。



「・・・・・・唯世くんっ!!」

「あむ、唯世をお願い。キセキ、そろそろやばいかも」

「え? ・・・・・・キセキっ!!」



後ろを見ると、キセキのたまごがうっすらと黒ずんでいた。



「く・・・・・・苦しい。唯世」

「王様、もうちょっと踏ん張っててよ。さすがに秒殺は無理だから」

「お前、どうする・・・・・・つもり、だ?」

「キャラなりする」



あむとミキ達が、驚くように表情を歪める。・・・・・・多分、これが一番いい。



「僕がキャラなりして、たまごは対処する。で、あむはその間に唯世の方をお願い。
なお、反論は認めないから。・・・・・・時間がない。同時進行でやらないと、キセキがもたない」



キセキのたまごが、今見たら少し黒ずんでいた。空色で王冠の柄のたまごは、黒くなり始めてる。

あむなら、きっと唯世をなんとか出来る。で、その間に僕が×たまを・・・・・・である。



「で、でもダメだよっ! ハイセンスブレード(仮)を使ったら、アンタもミキもヘロヘロになるんだよっ!?」

【そうだよっ! それで恭文が途中でダウンしちゃったら、あむちゃんだけに】

「バカ。誰がミキとキャラなりするって言った?」

【「え?」】



まぁ、正直やりたくない。うん、かなりね。だけど・・・・・・この状況では、そうは言っていられないのだ。

だから、僕はヒカリを見る。ヒカリは、力強く頷いてくれた。



「まぁ、この場ではお姉様が有効ですよね。私は、どちらかと言えば個人戦が得意ですし」

「すまないな。だが・・・・・・恭文、いいのか?」

「贅沢は言ってらんない。なにより、決めたもの」



本当に心配そうというか、申し訳なさそうに僕を見るヒカリに、僕は笑いかける。



「是が非でも通したいことがあるなら、その瞬間だけは『魔法使い』になるってさ」



そして、今がその時だ。ここで躊躇う理由なんて、迷う理由なんて無い。だって通したいことは、目の前にあるんだから。



「・・・・・・あぁ、そうだったな。だからこそ、私達がここに居る」

「そういうこと。ヒカリ、すぐに行くよ。あむ、そういうわけだから」

「分かった。唯世くんは、あたしに任せて。・・・・・・しっかりね」

「うん」



そして、あむはキセキを連れて、そのまま飛び出した。僕は、一回だけ伸びをする。

それから胸元に両手を持っていく。・・・・・・大丈夫、開けられる。信じろ、自分の可能性を。



「僕のこころ・・・・・・!!」



僕はそのまま両手を動かし、鍵を開けた。自分の中にある、可能性の一つを。



「アンロックッ!!」





その瞬間、僕の身体が黒い光に包まれる。ヒカリはその中で、たまごに包まれる。

左手を伸ばし、手の平の上に星の光のたまごを乗せ、胸元に持っていく。

すると、たまごは吸い込まれるように、僕と一体化した。それから、僕の姿が変わっていく。



両手には、黒の指出しグローブ。黒に黄色のラインが入ったインナーを、装備。

リインのジャケットのそれに似ているものは・・・・・・というか、基本そのまま。腰のフードまである。

色だけが違うインナーを装備すると、右足にハイソックスを装着。両足には黒のブーツ。



上から、黒色の半袖のジャケットを羽織る。それから、髪にも変化が現れる。

髪は伸び、銀色になり、腰まで伸びる。そして、ゆっくりと瞳を開ける。

瞳は、つや消しの赤。そのまま、ゆっくりと微笑みながら、左手を左薙に振るう。



背中に、黒い4枚の翼が生まれる。左右の上下に二枚ずつで、上の羽が大きい。

その翼が勢い良く開くと、見を包んでいた黒い光は弾け、まるで雪のように降りしきる。

黒い羽も、同じように僕達の周りを舞う。その様子に、×たま達がビックリしたようにこちらを見る。



夜という闇の中にありながら、その色ははっきりと分かった。





【「・・・・・・キャラなり」】





口から出てきた声は、僕の声ともう一つ。ただ、今身体を動かしてるのは、僕じゃない。

僕とキャラなりして、一体化したはずのヒカリ。うん、身体を乗っ取られてるの。

ついでに、なぜか胸元まで膨らんでいる。パッドの類だけど、それでも。



てーか、なんか大きいんですけどっ!? シオンだってそこまでじゃないのにっ!!





【「ライトガードナー」】










生まれたのは、守りたいものを守る魔法使いの姿。消える事のない星の光の中にある願い。





こうして鍵は開けられた。今と言う時間を覆して、未来を守るために。




















(その6へ続く)





















あとがき



恭文「というわけで、みなさん乳酸菌取ってる? 蒼凪恭文と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンと≫

やや「結木ややで、本日のあとがきはお送りしたいと思います。
というわけで、サイト開設一周年記念小説第二弾だよ」

古鉄≪早速ですが、話を始めましょう。・・・・・・以前、犬吉様が書かれた影とまとの第1話のあとがきに、こんな事がありました。
そこで判明したんですけど、この人がフェイトさんに振られた結果、相当数の女の子にフラグを立てていました≫

やや「えっと、主要の女性キャラ全員だよね。もうちょこっとしか出てない人も含めて」

古鉄≪とらハメンバーも含まれていましたから、まぁまぁ凄いことになってたわけですよ。
もうどこの大奥かと言うくらいに。そして、その中にはフェイトさんも居ました≫

やや「もう逆に面白くて、作者さんは腹を抱えて大笑いしたって言ってたね。
そのお話だと、恭文がフェイトさんへの気持ちも残ってて・・・・・・あ、今回のIFに近いんだね」

古鉄≪そうですね。まぁ、何が言いたいかと言うと・・・・・・あの人はハーレムを建造するつもりという事ですね≫

やや「そうだね。普通にあのあとがきに載っていた人達全員のフラグくらい、楽に立てられるよね」

恭文「立てられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





(あ、なんか叫んだ。大奥の主が)





恭文「ふざけんじゃないよっ! 何これっ!? なんで僕がいきなり糾弾されてんのさっ!!」

やや「だって恭文、フェイトさんフラグ立てちゃってるし」

恭文「立ててないよっ! 姉弟の微笑ましいコミュニケーションじゃないのさっ!!」

古鉄≪いやいや、アレはもうEXフラグを成立させてしまおうというあなたの悪意が見えましたよ。
そんなのフェイトさんが他の男のものになるのが嫌なんですか? 正真正銘の鬼畜ですね≫

恭文「嫌な言い方しないでもらえるかなっ! てーか、あれでフラグ立ってたら8年スルーはないよっ!!
あれくらい、フェイトと僕の間では普通だよっ!? フラグなんて立つわけがないんだからっ!!」





(そんな叫びも、あとの二人はスルー。それに思わず、蒼い古き鉄は拳を握り締める)





やや「てゆうか、今回は色々あったよね。まぁ、クロスの話の流れに沿いつつだけど」

古鉄≪ここは大きく変えられませんから。歌唄編Remixでもありますし≫

やや「それで、恭文はフェイトさんにフラグを立てて、セクハラしまくって」

古鉄≪もうあれですよ、大奥が単なるネタじゃなくなって来てますよ。
普通にありえる未来じゃないですか。この人フリーにさせちゃ、ダメですね≫

やや「そうだね。恭文をフリーにさせちゃうと、普通にフラグ立てまくっちゃうんだよ。
それで、ティアナさんIFみたいに恋愛に臆病になってるとかじゃないと、それは確定」

古鉄≪呼吸する度に、その息から何かこう・・・・・・細胞が放出されていますね。
それを女性が吸い込んで、フラグが立ちやすくなるように≫

恭文「人をどっかの病原菌みたいに言うのやめてくれないっ!? てーか、それはありえないからっ!!
だから、マジで僕はフェイトのフラグなんて立ててないからっ! 立ってる様子なんて無かったでしょっ!?」





(そして、あとの二人は顔を見合わせる。呆れたようにため息を吐いた)





恭文「ため息吐かないでよっ! なんかもう僕が全部悪いみたいな空気出来上がっちゃってるしっ!!」

古鉄≪当然でしょ。・・・・・・さて、そんな最低男が主人公やってますけど、この話も次回に続きます≫

恭文「最低言うなー!! だから、これでフラグ立ってたら8年もスルーされるわけが」

やや「みんな、恭文はこんな子だけど、見捨てないであげてね? それでは、本日はここまで。お相手は結木ややと」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンと最低男でした。それでは、また≫

恭文「普通に僕を無視しないでよっ! あと、僕は最低じゃないからっ!!」










(そんな叫びは、誰にも届かない。というか、みんなの視線がとっても冷たい。
本日のED:ほしな歌唄(CV:水樹奈々)『BLACK DIAMOND』)




















あむ「・・・・・・IF・IFフェイトさんルートなんて、思いついた。うん、あたしがね」





・ここまでの話の流れは、一緒。フェイトは一度無理だと結論を出している。

・フェイトは婚約してから改めて恭文を見るようになって、少しずつ男性として意識するようになる。

・一度断っている負い目から、中々気持ちに素直になれなかったけど、勇気を出して告白。

・恭文、当然ビックリ。ただ、歌唄の事などもあるのでいきなりオーケーは出来なかった。

・フェイトは、今度は自分が追いかける番だからと言って、頑張ってアプローチをする。なお、ちょっとズレてる。

・結果、まずはお試し期間的に互いを見ていく事になって、互いを意識。
しゅごキャラクロス終了時に結ばれる。





恭文「・・・・・・あ、あははは。あの・・・・・・日奈森さん? もしかして怒っています?」

あむ「怒ってないよ?」

恭文「そう言うんだったら、僕と目を合わせてよ。なんでちょっと冷たい感じに刺のある言葉しか出さないのさ」

あむ「だって、これあたしIFだよねっ!? なんで5話目にもなってそれらしい要素ないのかなっ!!
その上、フェイトさんとあんな会話するしっ! あてつけにIF・IFフェイトさんルート考えたくもなるよっ!!」

恭文「そんな事言われても仕方ないじゃないのさっ! ここまではそれらしい事件出せなかったんだしっ!!」

あむ「仕方なくないよっ! もう絶対絶対余所見禁止だよっ!? 大体、アンタがふらふらしまくるからこうなるんじゃんっ!!」

恭文「何それっ!? 余所見であむにどうこう言われたくないしっ! 唯世にふらふら猫男にふらふらしまくってるしっ!!」

あむ「してないじゃんっ! 変なこと言わないでよっ!!」

古鉄≪・・・・・・もう夫婦喧嘩じゃないですか。事実がないだけで、会話は付き合ってる男女ですよ≫

やや「まぁ、次回からだよね。確かに恭文の言うように、そういうキッカケが無かったもの。うん、ここからだよ」










(おしまい)





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あきゅろす。
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