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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース22 『日奈森あむとの場合 その4』



歌唄・・・・・・てーか、イースターの動向は全く掴めない。

ややのとこの子守やら、詩音さんの留学の話やらを超えつつも、時間が過ぎる。

それと同じくらいに、焦りが募る。だから・・・・・・だろうか。





学校帰りに、あむと一緒に鯛焼きなんて食べてるのは。





なお、お店は以前一緒に来た事のある美味しい鯛焼き屋さん。










「・・・・・・恭文」

「なに?」

「フェイトさん、心配してたよ? 恭文、歌唄のことに熱入れ過ぎてるって」





カスタードクリーム味の鯛焼きをほうばりつつ、あむがそう言って来た。

・・・・・・心配、かけてるのは分かる。実際、自分でもそう思う。

だから、ついつい学校帰りに周りを見渡して、探すのだ。歌唄の姿を、歌唄の影を。



そして、その度に後悔する。あの時、手を離さなければ、こんな思いをせずに済んだのにと。



届ける言葉なんて、想いなんて、何もなかったのに。・・・・・・ホント、僕は馬鹿だ。





「知ってる。てか、連絡取り合ってるんだ」

「まぁ、一緒にお風呂で洗いっこした仲だしね。普通にメル友なんだ。
・・・・・・でも、それはちょっと同感。帰りも、相当遅いんだってね」



別に、遅いってほどじゃない。8時くらいには、帰るようにしてるし。



「それだけじゃなくて、毎日毎日何にも言わずに一人こっそり抜け出してるんだよね。
で、あっちこっち探し回ってるんでしょ? 歌唄のこととか、路上ライブとか」

「何にも言わずにとは失礼な。ちゃーん、リインとシオンとヒカリには言ってるよ」

「いや、そこでフェイトさんやシャーリーさん達に言ってないでしょ。で、口止めしてるよね」



・・・・・・意外と鋭い。てーか、どこから情報が漏れた? リインが言うとは思えないし。



「簡単な推測だよ。というか、連日だとさすがにフェイトさん達だって気づくって。
・・・・・・ね、マジで大丈夫なの? あたし、話聞いてビックリしたんだけど」

「大丈夫だよ。てーか、普通に秘密の散歩になってしまっている。
てゆうか、そこから夜の自主トレ? 別に歌唄探すだけじゃなくて、戦闘訓練も兼ねてるの」

「あ、そうなんだ。・・・・・・でも、何の手がかりも無しなんだね」





鯛焼きをパクリと食べつつ、あむが少し表情を曇らせた。

・・・・・・本当に、歌唄の裏の仕事の気配は0になってる。

さすがに何の証拠も無しに、テレビ局に乗り込むわけにもいかない。



だから、みんなちょっと困ってる。くそ、何かやってるのは間違いないと思うのに。





「・・・・・・メールや電話は?」

「通じると思う? あははは、着信拒否にされてるさ」



あの時、鯛焼き食べてからだね。試しにやったら、なっていてびっくりした。

・・・・・・結構ショックだったかな。歌唄はマジで、僕と敵対関係に身を置きたいらしい。



「・・・・・・マジ、大丈夫なの?」

「さぁ、どうだろうね。ただ」



鯛焼きを、冷めない内にパクリ。・・・・・・なお、僕のは粒餡。



「現実は、鯛焼きのように甘くないらしい。
人の心に届く言葉や想いってやつをぶつけるのも、甘くないみたい」

「・・・・・・そっか」

「ま、心配してくれてるのはありがたいけど、問題ないよ。僕は適当にやってくわ。
凄まじく長丁場になりそうだし、捜索方法そのものを考え直す必要があるみたい」



てーか、バレてると今後はやりにくいな。まぁ、いいか。じっくりいきましょ。



「現実の苦さは、鯛焼きの甘さで打ち消しつつね」

「そうだね、そうしな? ・・・・・・でも、それだと毎日食べないといけないね」

「確かに。歯磨きして、食べた分はカロリー消費しないと」

「あははは、それは重要だね。じゃないと太っちゃうもん」



それは嫌だなぁ。体重管理が出来ないと、仕事も出来ないと思われちゃうし。

・・・・・・捜索方法、いい手を一つ思いついた。



「あむ、猫男と接触ってしてる?」

「ううん、全く。・・・・・・実はさ、あたしもそこ考えたの。
歌唄なりイースターの事、イクトに聞けば分かるかなって」

「素直に話してくれるかどうかってのが、問題だけどね」



まぁ、あむはまた色々と違うらしいけど。遊園地でデートしたそうだし。

・・・・・・ビックリだよね。あれは、本当にいいんだろうか。



「あとは・・・・・・イル? こっちはアンタやシオン、ヒカリの領域だけどさ」

「こっちも難しいかも。イル自体は、素直じゃないけどすごくいい子なのよ」



若干、アギトにかぶってるところがある。なんというか、あの子は面倒見がいいのよ。

『仕方ないなぁ』とか言いながら、世話を焼く感じ? 僕やシオンに対しても、同じだったし。



「だけど、エルの話を聞いてると、イルは積極的に歌唄やイースターの仕事に協力してる」



歌唄の月詠幾斗を助けたいって気持ちに、同調してるんだと思う。

なんだかんだで、優しい子なのよ。やり方はともかく、歌唄の助けになりたいと思ってる。



「普通には話してくれないってことか。少なくとも、説得する必要がある。
でも、そのためにも材料が必要だよね? 普通にやったって聞かない」

「うん。だけど、僕達にはその材料が無い」



普通に道徳観を説くのは、エルがもうやってる。僕も、この間の大騒ぎでやってる。

つまり、それ以外のアプローチをする必要があるのだ。だけど、そのための材料が無い。



「言うならあれだよ? ラスボス倒すための必須アイテムが、あるダンジョンにあるのよ。
で、そのダンジョンにはラスボスを倒さないと絶対行けない。もう詰み確定だって」

「というかどんな無茶なゲーム? それは絶対クリアは無理だって」





そもそも、どうして歌唄がイースターの仕事に従事してるかも分からないんだから。

・・・・・・訂正。フェイトがアリサに調査を頼んで、調べてもらって分かった。

ま、僕は聞かないって言ったけど。そんなのは、歌唄の口から聞けばいいことだ。



ここで知りたいとは思えない。そんなの最低だし。こう言い切ったら、ティアがとても不満そうな顔をしてた。

ちゃんとフェイトの補佐官として、仕事しろとも言われたっけ。僕は、今自分達の輪を乱してるともさ。

で、遠慮なく鼻で笑ってこう返してやった。『局の仕事のつもりなんざ、これっぽっちもないと』。



それで『赤の他人が、人のケンカに横から口出しするな。勝手に乱れてろバカが』と言ったら、何故か空気が悪くなった。





「うーん、どうしてだろう」

「・・・・・・いや、それは恭文が悪いんじゃ」

「そうだよ。フェイトさんもティアナさんも心配してくれてるのに」

「恭文さん、ちょっとダメですよぉ?」

「そうだね。でも、地の文を読み切って的確にツッコミ入れてくるキャンディーズも、ダメだと思うんだ」



・・・・・・でも、マジで口出しされたくないんだもの。あー、いっそあそこ出ちゃおうかな。



「これ、本格的に長丁場だね。向こうが動いてくれないと、どうにもならないよ」



あむが言いながら、また鯛焼きをカプリ。僕も、一口同じようにカプリ。

鯛焼きは、ちょっとだけ冷めていた。



「だけど、のん気にもしてられない。急がないと、絶対にマズいことになる」



言いながら思い出すのは、今はシオン達と一緒に空のお散歩をしている、あのフリーダム天使。

でも、多分嘘だ。散歩じゃなくて、歌唄やイルの影を探してるんだと思う。シオン達も、分かってて乗ってくれてる。



「恭文さん、もしかしなくても・・・・・・焦ってますかぁ?」

「少しね」



鯛焼きを握る手の力が、強くなる。マジで急がないとマズい。

今日・・・・・・ううん、今すぐ壊れてもおかしくないんだ。



「てゆうかさ、今日話したでしょ?」

「あぁ、それがあるかぁ。フェイトさん達の見解は、前に話した通りなんだよね」

「うん。絶対何か企んでるはずなんだ。このままさよならなんて、ありえないし」





今月に入って、×たま狩りの成果報告があった。結果は、先月の3倍。

海里やりまの協力があったおかげで、ここまでの成果が出せた。

だけど、問題が一つ。・・・・・・これ、総合的な出現数に、追いついてないかも知れない。



でも、ガーディアンのみんなも僕達魔導師組も、なぜ出現数が増えているのかが分からない。



たまごを大量に抜き出せる歌唄は、動いてる気配が無い。でも、これ。・・・・・・マジでどうなってる。





「まぁ、考えても仕方ないか。やっぱ、もうちょっと調査活動は続けておこうっと」

「うー、なんか申し訳ないなぁ。あたしも、遅くまで外に出れればいいんだけど」

「それは無理でしょ。最近、あむくらいの年頃の子が夜遅く俳諧するのが、社会問題になってるらしいし」



なんか、昨日ニュースでやってた。・・・・・・そのせいで、ガーディアンの面々の親御さんも、ちょっと厳しいとか。

あむもそうだし、唯世だったりややも大変だと言ってた。僕はまぁ、なんとかなってるんだけど。



「親に不必要に心配かけないのも、子どもの仕事の一つだよ」



そのためにやりたいことを諦める必要はないと思うけど、大事な事ではあるのだ。

・・・・・・なお、僕が言うと非常に説得力が無いのは知ってるから。



「危なくなったら、遠慮なく増援として引っ張り出すよ。だから、大丈夫」

「・・・・・・分かった。でも、無理とかしちゃだめだよ? フェイトさん達もだけど、あたしも結構心配してる」

「大丈夫だよ。・・・・・・僕は僕が出来る範囲で、最大限の無理と無茶しかしてないもの」



鯛焼きを、また一口カプリ。もぐもぐしながら、空を見上げる。

アーケードの中、透明な屋根越しに見える青い空を。そして、鯛焼きを飲み込む。



「今やってるのだって、同じ。いつもそうするって、決めてるし」

「なんで? アンタ一人がそんな事しなくてもいいって、きっとみんな思ってる」

「・・・・・・弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは何もやらない言い訳にはならない。
僕の知っている凄く強くて優しい人達が、そう言ってたんだ。僕もそうありたいって思ってる」





思い出すのは、時の電車に乗って旅をしているあの人達の事。・・・・・・元気、かなぁ。

なんか、無性に良太郎さん侑斗さん、リュウタにモモタロスさん達の顔が見たくなったや。

ナナタロス、帰ったら磨いてあげようっと。なんか、色々思い出しちゃった。



あとあと、チケットも磨いて・・・・・・本当にちょっとだけ、思い出に浸ってもいいよね。





「・・・・・・電王?」

「そうだよ。良太郎さん達、かっこいいじゃん」

「やっぱり好きなんだ。まぁ、『最初に言っておく』ってやるくらいだしね」

「うん、好きだよ。・・・・・・僕のなりたい、『魔法使い』の一つの形だと思うから」



ミキの言葉には、軽く答える。・・・・・・さすがにご本人さん達が存在してるとは、言えないもの。



「だけどさ、僕はやっぱり弱いもの。正義のヒーローになんてなれるほど、立派じゃない。
だから今あるありったけを賭けないと、その瞬間だけだとしても、『魔法使い』になんて・・・・・・なれない」





取り零したりするのも、何も出来ないのも、悔しい。だから、出来る範囲で最大限。

それをやらない言い訳も、逃げる言い訳も出来ないから、ただ前に飛び込む。

今の自分に、出来るだけの無茶をする。それが必要な時だってあるのよ。



『魔法』が使える魔法使いになる道は、とても険しいのよ。簡単じゃない。





「だけどさ、それでも心配してるんだよ? 特に、フェイトさんだよ。
最近アンタと溝が出来始めてるって、すごく気にしてる。ちょっと泣いてた」

「勝手に泣かせておいていいよ。あむも、フェイト達が何言おうが、適当に無視してていいから」

「ちょっとっ!? さすがにそれないんじゃないかなっ!!」

「・・・・・・いくらフェイト達が泣こうが喚こうが、口出しはさせない。全部振り切るから」



あむがなんか睨んでくるので、その視線を受け止めつつ、あむの目を真っ直ぐに見る。

そして、あむがため息を吐いた。ため息を吐いて、また鯛焼きを食べる。



「本気、なんだ」

「本気だよ。ありったけで、全速力でぶつからなかったら、きっと何も出来ない。
現に、この間ここで会った時は何も出来なかった。もう、あんなのごめんなの」





もう、あんなのはゴメンだ。数少ないチャンスを、きっと逃した。

もしかしたら、最後のチャンスだったかも知れないのに。

対価を、払う必要がある。そのための覚悟を、する必要がある。



今の僕が取り戻したいのは、奪いたいのは、きっとあの子だから。





「でも、本当はそういうのじゃないかも」

「え?」

「・・・・・・歌唄を助けるために、フェイトやティアの力をこれ以上借りちゃったら・・・・・・きっと、もっとだめ。
なんかさ、そんな風に感じちゃうんだ。どうしてもそう感じちゃって、素直に『力を貸して』って言えないの」



だから、かな。距離を置きたい。他はまだいい。他は・・・・・・きっとまだいい。

ただ、フェイトとティアだけはだめだ。絶対だめ。



「・・・・・・分かった。なら、あたしは何も言わない。てーか、言う権利ないよね」

「権利が無いとまでは言わない。でも、ごめん。どっちにしろ止まれないや」

「そっか」



あむは、それ以上何も言わない。きっと、色々察してくれてるんだと思う。



「でも、やっぱアンタってバカじゃん」



いや、違った。察した上でボール投げてきたし。



「うん、バカだ。なんか、すっごい大バカ」

「バカって連呼するなっ! 自分でもちょっと気にしてるのよっ!!」

「気にしてるのっ!? ・・・・・・まぁ、そういうことなら分かった。
ならさ、またこうやって鯛焼き食べに来る? で、愚痴とか聞いてあげる」

「あ、それいいね。なら、失恋同盟の会合も兼ねて、定期的にやろうか。もちろん、僕のおごりね」

「うん、当然だね」





・・・・・・・・・・・・さて、やることはたくさんだ。

先日の襲撃の事も考えると、歌唄のことだけに限定するわけにはいかない。

この場合・・・・・・あぁ、そうだ。まだやることがある。



多分、僕だから出来る事。ちょっと、やっておくか。





「・・・・・・あむ」

「ん、なに?」

「もし僕が、あむや唯世・・・・・・ううん、違うな。
学校の人間を、イースターのスパイだと疑うって言ったら、止める? というか、怒る?」

「はぁっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あむちゃん、よかったの? 認めちゃって」

「ん・・・・・・」

「正直、私はちょっとショックだよ。学校のみんなのこと、好きなはずなのに」

「ただラン、恭文さんのお話も、分かりますよぉ? 可能性は、決して0じゃないんですし。なにより」

「子守の後に、イースターに襲撃されたことだよね。確かになぁ」





現在、ベッドの上で寝転がって色々考え中。襲撃の事、唯世くんには話してるらしい。

・・・・・・でも、納得した。みんなに帰りとか気をつけるようにって言ってた理由、そこだったんだ。

恭文やフェイトさん達も、相当警戒してるって言うし、あたしも気をつけた方がいいよね。



でも・・・・・・あぁもう、さすがに何も言えないよなぁ。二階堂先生みたいなことが無いなんて保証、0だもん。





「一回やってバレてる。だから、もう来るとは思わないから、あえてやってくる可能性は、確かにあるよ」

「ミキ的には、恭文がそういうの調べるのはアリってこと?」

「まぁね。・・・・・・まぁ、きっと大丈夫だよ。何にも出てこないって。
それで、ボク達はそうなったら笑えばいいんだよ。『ほら、大丈夫だったでしょ?』って」

「・・・・・・そうだね」



というより、出てきて欲しくないなぁ。これ以上ゴタゴタはキツイもの。

でも恭文、マジで大丈夫? フェイトさん達にも内緒って言ってたし、あたしかなり心配だよ。



「あと、あむちゃん。恭文さん・・・・・・正直、怖いくらいに歌唄さんに入れ込んでますよね」

「そうだね。だけど、仕方ないんじゃないかな」

「やっぱり、ですかぁ?」

「アンタ達も、気づいたでしょ?」





寝転がりながら、ラン達を見る。ラン達は、静かに頷いた。

正直さ、あたしも最近の恭文はちょっとおかしいと思ってた。

普通に歌唄の事、単純に心配してるって言うのだけじゃ、考えられないもの。



あたし達が気づいてるってことは、ヒカリとシオン、リインちゃんも気づいてる・・・・・・よね。





「ね、ヒカリ達とリインちゃんも」

「間違いなく気づいてるね。というか、同じことを考えてるの。私、昼間聞いたから」

「それで、同じく怒ってるね。そうじゃなかったら、フェイトさん達に黙ってるはずがないよ。
あと、恭文があの調子だしなぁ。男の子の意地、全開にしちゃってるから」

「確かに事情は分かりますけど、でも・・・・・・あぁ、でもでも・・・・・・うぅ、面倒なのですぅ」



ミキが、少し厳しい声でそう口にした。だけど、今のところフェイトさん達にそれは伝わってない。

だから、こう・・・・・・行き違っちゃってる。それも相当に。



「あとね、恭文・・・・・・ちょっとだけ漏らしてたんだ」

「何を?」

「ティアナさんやフェイトさん、シャーリーさんにムカついてるって。
多分、これが原因じゃないかな。フェイトさん達は、キャラ持ちじゃないから気付いてない」



あれからミキ、恭文と仲良いから聞けたのかな。・・・・・・多分、そうだよね。



「そうですよねぇ、ヒカリさん達にとっては、命の恩人にもなるわけですし」

「だけど、この調子は絶対マズいよね。うー、あたしマジで何も出来ないし」










・・・・・・恭文、アンタがそんなに必死になる理由は、単純に歌唄のこと心配してるからじゃないよね?

あたしはこれでも失恋同盟で、同じキャラ持ちだから気づいた。

というか、気づかないわけがないって。あぁもう、マジでどうしよう。このままは絶対マズい。





なんで新学期になってからこんなゴチャゴチャしまくるの? 絶対おかしいじゃん。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース22 『日奈森あむとの場合 その4』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・で、アタシにフェイトにも内緒で調べろと?』

「ごめん。僕がやれれば、そっちの方が早いんだけど」

『あぁ、いいわよ。話は分かるから』



夜、フェイト達には『訓練』と言って、合法的に外に出た。でも、実際は違う。

電話をかけたのは、アリサ。僕の長年の友達で、海鳴の頼れる女ナンバー1。



『・・・・・・ただしナギ、この借りは高いわよ?』



アリサの声が、厳しくなる。まぁ、ここは予想してた。

今僕がやってることは、非常に最低だと思うもの。



『アンタは、アタシに10年来の親友に、嘘をつけと言っている。
そして、アンタは上司であるはずのフェイトに、嘘をつこうとしている』

「そうだよ」

『ついでに、最近のアンタの様子もフェイトからちょこちょこ聞いてる。溝が出来てることもね。
・・・・・・アンタ、マジでどうしたのよ。フェイトとの変わってくって約束、破るつもり?』



フェイトは、どうやら色々と心配しているらしい。まぁ、気にする必要もないけど。



『フェイトは、アンタが前みたいに諦めるようになったんじゃないかって、マジで怖がってる。
ついでにアタシも、もしそうなら許さない。すずかのこと、結局は振ってるわけだし』



・・・・・・その、やっぱりすずかさんの告白は受けられなかった。フェイトを理由に断ってるのに、今更だもの。



「別にそういうわけじゃないよ」

『ならなんでよ。正直、今のアンタの行動はそうとしか思えない。
なんで敵を助けるために、そこまで頑張っちゃうわけ? らしくないでしょ』

「・・・・・・アリサ」

『なによ』

「悪いけど、そういう話は一切受け付けない」



電話の向こうで、息を飲む声がした。自分でも信じられないくらいに低くて、冷たい声が出た。



「フェイトが傷つこうが泣いて絶望しようが、どうだっていい。これは僕と歌唄のケンカだ。
フェイトには僕と歌唄との間の事に、手出しなんてさせない」

『・・・・・・アンタ、マジでふざけんじゃないわよ。何でそうな』

「歌唄に前に言われたんだ」



初めて会った時だね。・・・・・・なんか、すごく昔に感じるから、おかしい。



「フェイトに振られたからって、なりたい自分を捨てていいのかって、言われた事がある。
そんな事を初対面の僕に対して言うような女の子が、今・・・・・・その『なりたい自分』を、捨てかけてる」



今、僕の部屋でのんきにネットラジオなんて聴いてるエルを、歌唄は捨てた。

一応笑ってはいる。だけど、すごくショックだったはず。



「そんなの見てられない。なんとかしたい。でも、だめなの。今のままじゃ、何も出来ない」



手を掴んでも、伝えたい言葉も、想いも、何も出てこなかった。・・・・・・今のままじゃ、ダメなの。



『・・・・・・だから、全部振り切ってでも突っ込んで助けるって言うの?
恋人にはなれなくても、家族で、友達で、仲間のフェイトを泣かせて』



そうだね、泣かせてるね。知ってるよ。もう、とっくに知ってる。それでも止まれないし迷えない。

そんなことをしたら、また手を離す事になる。何より、この場合フェイト達に頼る方が最低だと思うし。



『リインとアンタのしゅごキャラ以外の仲間を泣かせてまで、その子を助けてどうなんのよ。
アンタ、このままだとマジであの時の自分に嘘をつくことになるわよ? それでいいわけ?』

「・・・・・・なんで歌唄とエルやイルを友達として助けようとすることが、嘘つくことになるのさ。
アリサ、言ってる事めちゃくちゃだよ? フェイト達が友達なら、三人だって僕の友達だ」

『確かにそうね。悪い、今のはアタシの失言だった』





・・・・・・宿主にあんな直球で否定されて、平気なわけがない。

だけど、あの子は今のところピンピンしてる。

つまり口ではどう言っても、歌唄がエルを否定していないのが理由だと、僕は思う。



あの子が歌唄にとって、どんな気持ちから生まれた存在なのかによるけどさ。

まだ、希望はある。本当に小さな希望かも知れないけど、それでも。

フェイト達の行動どうこうは、もう関係なくなった。今のままじゃだめなんだ。



あむとの約束も、エルとの約束も守れない。・・・・・・そんなの、嫌だ。

普通に今のままじゃ、ただ綺麗事を言うだけじゃあ何も伝わらない。

歌唄に、僕の言葉を本気だと思ってもらえない。それじゃダメなんだ。





『そのために、これ?』

「そうだよ。・・・・・・この間さ、今のエル達みたいに宿主が夢を信じられなくて、消えかけてる子に会った。
消えかけてるしゅごキャラ、どうなるか知ってる? 半透明になって、ずっと苦しそうにしてるの」

『だから余計にって事か。あぁもう、マジで何も言えないじゃないのよ』



アリサは、やっと納得してくれたようだ。電話越しでも、それは分かる。



『でさ、それならどうしてフェイトやアンタのホの字の補佐官の子の力を借りないのよ。
今のアンタ一人の力で無理なら、そうするのが道理でしょ? 実際、みんなはそうして欲しがってる』

「嫌だ。フェイト達の力なんて、借りたくないし」

『・・・・・・・・・・・・アンタねぇ』



アリサが、言いかけて止まった。止まって・・・・・・こう続ける。



『あぁもういい。察しがついた。でも、自覚だけは持っておきなさいよ?
フェイトは確かにアンタの事を振った。でも、アンタとの約束はフェイトにとって大事なものなの』



知ってるよ。何度も、言ってくれるから。自分は、変わりたいって。

約束は守り続けるから、僕にも変わることを諦めないで欲しいって。



『アンタは今、フェイトの事傷つけてる。大事な友達で仲間のはずなのに、沢山。
フェイトは、相当思い悩んでるわよ? アンタの事が分からないって、かなりね』

「でも・・・・・・止まれない。・・・・・・よし、野宿生活本気で考えるか。
なんだかんだで、僕は今だめかも知れない。これくらい言うなら、一人で野宿生活でしょ」

『それはやめてくれると嬉しいわ。それと現状じゃあ、現状の方がダメなのは確かよ?
だけど、だからってそれをやられるとフェイト達がもたないわよ』



いきなり最低とは失礼な。・・・・・・まぁ、事実だけどさ。

うん、僕はバカで最低だよ。そんなの、とっくに知ってる。



『とにかく、分かってるならいいわ。・・・・・・で、話を戻すわね。
実はアンタの問いかけへの答えを、ちょうどアタシは持ってる』



夜の林の中で、その声はどこか鋭く聞こえた。というか、時間かかると思ってたのに、いきなりこれかい。



『一応ね、フェイトから状況を聞いて、アフターサービスのつもりで調べてたのよ。
・・・・・・まぁアンタには伝えたから、フェイトに話すかどうかの判断は任せるわ』

「分かった。それで、その答えは? ノー? それとも・・・・・・イエス?」

『イエスよ。アンタの周囲に、イースターのスパイが入り込んでる』



出来れば、ノーであって欲しかった。だけど、ここは仕方ない。

だって世の中は、いつだって『こんなはずじゃなかった』ことばかりなんだから。



『それもすっごい間近よ。多分、そいつがガーディアンの行動の詳細を流しまくってるわね。
アンタ達のパトロールスケジュールを掻い潜るようにして、イースターが動いてるのよ』

「・・・・・・ちょっと待ってアリサ。その口ぶりだと、普通にスパイがガーディアンの中に居るように聞こえるけど」

『その通りよ』



頭が痛くなってきた。だから、自然と左手で頭を押さえる。隣のヒカリとシオンが心配そうに顔を覗いてくる。

とりあえず、左手を上げて返事した。・・・・・・マジでクロノさんの持論通りって、どういうことさ。



『結論から言うわね。そいつの名前は三条海里。
聖夜小4年月組で、ガーディアンのジャックスチェアの男の子よ』



浮かんだのは堅物そうに見えるけど、実は意外とシャイで優しい男の子。

剣術仲間で友達で、弟みたいで・・・・・・最近料理の話などを通じて、かなり仲良くなった子。



「そう思う根拠は」

『そいつの姉、三条ゆかりって言うのよ。その女が勤めてる会社は、イースター・プロダクション』



もう言うまでもないと思うけど、一応説明。イースター・プロダクションは、イースターの系列企業だ。



『そして、あるトップアイドルのマネージャーを勤めてるわ。ナギ、アンタもよく知ってる子よ』

「・・・・・・歌唄、なんだね」

『正解』



・・・・・・そういや、マネージャーの名前とかは聞いてなかったっけ。仕事の話だし、自然と避けてた。

でもこれで納得した。確かに海里がスパイをやる理由は、存在している。



『ただ、現時点で本当にそうかは分からないの。あくまでも、そういう関係があるってだけ』

「だけど、限りなく黒に近い」

『えぇ。実際、聖夜小に転校したのも、姉がこっちに呼び出したかららしいの』

「確かにそりゃ濃厚だわ。濃厚過ぎて、笑っちゃうくらいに」



とにかく電話を終えた。アリサには、重々にお礼を言った上で。

・・・・・・背中を木に預けて空を見る。空は、変わらずに星空で支配されてた。



「・・・・・・お兄様」

「恭文」

「シオン、ヒカリ。悪いんだけど、しばらく海里とムサシの動向には注意しといてくれる?」

「それは構わないが、大丈夫か?」



・・・・・・隠しても無駄だから、吐き出すことにする。



「正直、キツイ。・・・・・・レジアス中将の時と同じくらい、ショック受けてるわ。
全く、なーんでこんな事ばかり起こるんだか。僕、なんか呪われてるのかね」

「かも知れないな。だが、それでも止まるつもりはないのだろう?」

「ないね。・・・・・・ね、二人は海里に説得って、通用すると思う?」



二人は揃って首を横に振った。それも遠慮なく即行で。

僕も二人と同意見。多分説得は・・・・・・通用しない。



「三条さんの性格を考えるなら、それは無理な相談です。
元より裏切っているのは、覚悟の上でしょうし」

「そう、だよね」

「そう。だから・・・・・・あとは、お前の気持ち次第だ」



ヒカリが優しい瞳で僕を見ていた。シオンも同じく。



「チンクさんの時と同じです。お兄様がどうしたいのか、どうありたいのか。
それで道は決まります。だから、考えましょう。そして、決めましょう」

「お前がそうしたいなら、私達は必ず力になる。もちろん、アルトアイゼンもだ」

≪当然でしょう。・・・・・・逃げないでくださいよ? あなたの『なりたい自分』から。
あなたの『魔法』は、こんな状況を根こそぎ覆すためにあるんですから≫



胸元のパートナーは、浮かんで僕の前に来る。そして、夜の闇の中で輝きながら声を続ける。



≪あなたはもう、決めました。フェイトさん達を振り切ってでも、傷つけてでも手を伸ばして、大事な友達三人を守ると。
だから、戦ってください。最後の最後までその選択を通して・・・・・・彼女達を助けてください。それが、あなたの出すべき結果です≫

「・・・・・・そうだね。んじゃ、色々考えていこうか。それで・・・・・・突き抜ける。アルト、ありがと」

≪問題ありません≫










多分海里に対しても、方向性は歌唄と同じだね。ぶつかる事が必要なら、全力でぶつかる。





きっと僕には、それくらいしか出来ないから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、それから数日後。





あむと僕と唯世は、ある場所で待ち合わせをした。





なお、目的はガーディアンの備品買出しである。










「・・・・・・ね、恭文。あたしはフェイトさんが来るって聞いてたんだけど」

「奇遇だね、あむ。僕もそう聞いてたよ」



・・・・・・あむが驚くのも無理はない。普通に着いて来たのが居る。

黒の半そでの上着に、白のワンピースを着た、オレンジ色の髪の子。



「悪いわね。フェイトさんが急用で、来れなくなっちゃったのよ。
・・・・・・あ、作戦は理解してるから、大丈夫よ?」

「そ、そうですか」



そう、ティアだ。・・・・・・フェイトは、本局に急に行く必要があって、欠席。

だけど、これだとあむと唯世の仲を応援出来ない。なので、ティア。



「・・・・・・恭文、大丈夫?」

「ごめん、頭痛い。てーか、普通にフェイトだったら色々やりようはあったのに」










なんで、寄りにも寄ってティアっ!? おかしいでしょ、これっ!!





ちくしょお、リインもシャーリーも、フェイトにくっついてったし・・・・・・どうすりゃいいんだよ、これっ!!





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトさん、絶対にティアに話しちゃだめですよ?」

「ですです。ティア、きっと傷つきますよ」

「なんでそうなるの? だって、ダブルデートならヤスフミと話すチャンスはあるだろうし」

「フェイトさん、私がお話したこと、全く分かっていただけてないようですね」





・・・・・・本局の通路内で、シャーリーとリインに私は呆れられていた。原因は、今日のこと。

本局の用事というのは、クロノへの報告。だけど、私が来る必要はなかった。

だけど、どうしても必要が出てきたと軽くヤスフミとティアに嘘をついて、二人をデートに送り出した。



その、ティアがあんまりにヤスフミの事気にしてて、見てられなくて・・・・・・それで、こんな感じに。





「・・・・・・そう、でした」

「心配なのは分かりますけど、今日の事は絶対に余計です。ティアも、少し感づいてましたし」

「フェイトさん、真面目に自覚してください。フェイトさんは、恭文さんの恋愛の応援なんてしちゃいけないのです」



元祖ヒロインにそう言われて、グサリと刺さる。心に、かなり鋭く。

言ってる意味は・・・・・・分かったから。というか、シャーリーにも言われてたし。



「ただ、フェイトさんがそうしたくなる気持ちも分かるのです」

「リインさんっ!?」

「フェイトさん、ティアさんの後押しなんて、実はついでだったりしますよね?
最近、歌唄さんのことになると恭文さんの熱がすごいのを、なんとかしたかった」

「・・・・・・うん」





実際、距離が出来てる。ヤスフミはほしな歌唄のことになると、自分だけでなんとかしようとするから。

私達は協力して対処しようとしてるけど、ヤスフミはそれを嫌う。自分だけで背負おうとする。

自分ひとりで彼女を探して、見つけようとしている。彼女から全部聞こうとしている。



そういうのをやめて欲しくて何回か話してるんだけど、すごくつっけんどんにされて話にならない。

私やシャーリーじゃだめっぽい。何かこう、壁みたいなものを強く感じる。それで、ティア。

ティアはなんだかんだでヤスフミとは通じ合えているし、大丈夫かなと思った。



デートで距離感どうこうというのも、ある。でも、実際は今のヤスフミを止めて欲しかった。

今のヤスフミ、正直見てられない。以前の自分を顧みないヤスフミに戻ったみたい。

あの子を助けるために、それ以外の全部を振りきって諦めようとしてるとしか思えない。



私との約束、忘れちゃったのかな。私が・・・・・・恋人にはなれないから。





「ただ、今の恭文さんの熱の入れようは、仕方ないのです」

「リイン、仕方なくないよ。実際、仕事にも差し障りが出てるし」

「・・・・・そこは私も同感です。なぎ君がチームの輪を乱してるのは事実ですよ?
私達はフェイトさんをリーダーとする一つのチームとして、事件に対処するのが仕事のはずなのに」

「二人とも、そこから勘違いなのです。恭文さんは今回の件、仕事のつもりなんて0ですよ?」



リインが、歩きながら進行方向をひたすらに見つめつつ、そう言った。

・・・・・・というか、本人も言ってたよね。そんなつもりないって。



「・・・・・・リインさんがそこまで言うってことは、何かあるんですか? 最近のなぎ君が少しおかしいわけ」

「あります。一つは、エルの事です」



エルちゃんというのは、当然のようにほしな歌唄のしゅごキャラ。

なんでいきなりあの子の話になるのか、私達は分からなくて首を傾げてしまう。



「恭文さん、エルが何時消えるか分からないと思って焦ってるです。それも相当」

「え?」



だけど、今のリインの言葉でそれがどれだけバカな事かを認識した。そして、思った。

しゅごキャラの事は同じしゅごキャラかキャラ持ちの子じゃないと、親身に考えられないのかなと。



「ちょ、ちょっと待ってリインっ! エルちゃんが消えるって・・・・・・どうしてっ!?」

「そうですよっ! だってあの子、すっごい元気ですよっ!? いきなりそんな風になるわけが」

「二人とも、本当に気づいてなかったですか?
・・・・・・呆れたです。シオン達とも付き合いが長いのに」



リインが、深い溜息を吐く。それを見て私は痛感した。私達・・・・・・今、リインに本気で呆れられてる。

シャーリーも同じなのか、困惑した顔になってる。私達二人とも、同じ顔で互いを見合わせる。



「エルはあの場で、歌唄さんに『いらない』って否定されたです。
エルは・・・・・・優しくても弱い自分はいらない。それを捨てる事が強さだと、ハッキリ」

「・・・・・・あ」

「本当なら、ダイヤみたいに×が付いてもおかしくないですよ? いいえ、エルだけじゃないです。
この調子で行けば、歌唄さんの所に居るイルだってどうなるか分からないです」



・・・・・・私とシャーリーは、ようやく気づく。というか、思い出す。



「リインさん、だからなぎ君・・・・・・あんなに必死なんですか?」

「はいです。イギリスで、歌唄さんもそうですけどエルとイルにも、相当お世話になったらしいですから」

「あの、リインはそれをヤスフミから」

「聞いてませんよ? というか、言わなくても普通分かります。
だってリインはキャラ持ちじゃないですけど、聖夜小ガーディアンのジョーカーUで、シオン達とも友達ですから」





・・・・・・イギリスで彼女に会った時、そのしゅごキャラである二人にも、励ましてもらったらしい。

ヤスフミは、自分の夢を、なりたい自分を信じていいんだって、声をかけてくれたとか。

それでヤスフミは夢を話したらしい。守りたいもの全てを守れる、そんな『魔法』が使える魔法使いという夢を。



だけど二人は笑ったりしないで優しく、『とても素敵で、綺麗で、強い夢だ』と言ってくれたとか。

あの子も同じ。ヤスフミ曰く、あの子らしい言葉で背中を押してくれた。・・・・・・うん、そうなの。

ヤスフミ、それを本当に嬉しそうな顔で話してくれたことがある。私も、それを聞いて嬉しかった。



・・・・・・私達だったら、きっと戸惑う。私達は、ひとつの現実として知っているから。

そんなのは無理だと。そんな『魔法』は、使えないと。私も同じ。

もしも変わりたいと思う前だったら、否定していた。そんなの無理だと。



ちゃんと現実を見て、現実の役職の中でやりたいことを探そうと言って、傷つけていた。

あ、今は違うよ? ・・・・・・とても大きくて、優しくて、強い夢だと思う。

ゴールなんて全く見えないけど、ヤスフミらしい夢だと、今は認められる。



そう考えると、ヤスフミの今までの行動も、すっと納得出来るようになった。

漫画やアニメの魔法を元に、自分の魔法を構築したりするのも。

ヒーロー物が大好きで、良太郎さん達と会った時に、すごく嬉しそうにしていたのも。



ひねくれた事を言っても、何時だって泣いている誰かのために全力で戦うところも。



全部、そんな魔法使いになりたいって気持ちからなんだと、やっと納得出来た・・・・・・って、話逸れてる。





「シオン達だって、同じなんです。歌唄さんだったりエル達が居なかったら、自分達は消えてたかも知れないんですから」

「ヤスフミが自分を信じられなくて、そのまま・・・・・・ということだよね」

「はいです」





しゅごキャラは『なりたい自分』。宿主が信じてあげなかったら、否定されたら、簡単に消えちゃう。

信じるということは、自分の夢を大事にするということ。そうして初めて、あの子達は存在出来る。

だけどエルちゃんは、宿主であるほしな歌唄に思いっ切り否定された。いらないと、必要のない子だと。



そうだよ。なんで私、今まで気付かなかったんだろう。ヤスフミが『仕事じゃない』と言い切って必死になる理由は、ちゃんとある。

ヤスフミにとって、シオンやヒカリにアルトアイゼンにとって、エルちゃんも彼女と居るイルという子も、大事な友達なのに。

見ていて、それはすごく伝わっていたのに。その友達が消えそうになってるのに、必死にならないわけがない。



それも宿主である、彼女の手によって。そんなの、きっとすごく悲しいことだ。

そうなんだよね。だから、あんなに必死になってるんだよね。・・・・・・私、バカだ。

ヤスフミがそういう子だって知ってたのに、気持ち、考えてあげられなかった。信じてあげられなかった。



放っておけるわけ、ないんだよね。だってそれは、ヤスフミの『なりたい自分』にも嘘をつくことになるから。





「でもリインさん、それだとフェイトさんや私達の干渉を嫌う理由が・・・・・・あぁ、分かりました」

「確かに、私達の手は借りたくなくなるかも。というか、傷つけてた・・・・・・よね」

「あぁ、ホント失敗だった。エルちゃんもだけど、なぎ君がどう思うかも予測出来たのに」



私達は自然とほしな歌唄を敵だと認識して、そういう風に扱っていた。対策会議もかなりの回数やってた。

多分、これがヤスフミと距離が開いた原因だと思う。ヤスフミ、これに対して怒ってたんだ。



「違います」



そして、更に事実を突きつけられる。リインの言葉がどこかキツく感じたのは、気のせいじゃない。



「恭文さん、会議自体は、納得してますよ。二人とティアに対して本気で怒ってる点は、ただ一つ」



この辺り、ガーディアンでも定期的にやってるかららしい。

ヤスフミもエルちゃんも、必要な事だと思ってるとか。



「歌唄さんに『いらない』と言われたその日にエルの前でそれをやって、尋問して追い打ちをかけた事です」



・・・・・・気持ちがどんどん重くなる。それを無自覚にやっていた事が、余計に心を重くする。



「一度、真剣にあむさんにエルを預かってもらうかどうか協議したそうですから。
というか、ヒカリから聞いたですけど、家を出て完全自給自足な野宿生活を考えてるとか」

「えっ!? で、でも私達には」

「言うわけないですよ。さっき言ったですよね? 本気で怒ってるって」



ただ、あむの家だと妹さんがしゅごキャラを見えてて、エルちゃんが来ると色々と問題になるらしい。

それで却下になったとか。・・・・・・あむに、なんだね。私達じゃなくて、あむに行くんだ。これは相当だな。



「だから、リイン達も黙ってました。というか、リインもそうですけどシオンもヒカリもちょっと怒ってるですよ」



それはよく分かってる。さっきからリインの言葉の中に、少し刺が含まれてるから。



「仕方ないと言えばそれまでですけど、今回は無神経過ぎます。
恭文さんがエルをよく外に連れ出すの、そこが理由ですよ?」

「私達とエルちゃんを接触させないため・・・・・・かな」

「はいです。そんな話をされて、エルが楽しいわけないですから」



ヤスフミは、出かける時には必ずエルちゃんを連れていくし、自分の部屋で寝泊まりさせてる。

そうだ、おかしいのはヤスフミの普段の態度だけじゃなかった。エルちゃんとも距離が出来てた。



「・・・・・・ごめん」

「私も同じくです。今回は本当に無神経でした。すみません」

「リインや恭文さんに謝られても、困るのです。エルに謝ってください。
・・・・・・まぁ、エルはきっと笑って許してくれるでしょうけど」





私、やっぱりバカだ。実際、今リインから話を聞くまで、ヤスフミの事を疑ってた。信じてなかった。

ヤスフミはただ、大事な友達を助けたくて、本当に必死になっていただけなのに。

・・・・・・というか、ちゃんと話して欲しかったよ。そうだよ、話して欲しかった。



ヤスフミの恩人なら、私にとっても無関係じゃ・・・・・・いや、これは違う。





「ただ、別に二人とティアだけが全部悪いわけじゃないですよ? 恭文さんも相当強情で、妙な意地を張っちゃってるんです。
・・・・・・もう少しだけ、距離を取って待っててもらえますか? 恭文さんとエルには、リイン達がついていますし」

「あの・・・・・・うん」










リインの目を見て、私もシャーリーも引いた。・・・・・・ヤスフミ、諦めてるわけじゃ、無いんだよね?

諦めたくないから、頑張ってるだけなんだよね? ただ、必死になり過ぎちゃってるだけなんだよね?

自分を助けてくれた大事な友達たちを、助けたいだけなんだよね? それなのに、どうしてなんだろう。





どうして、私達・・・・・・距離が出来てるの? ううん、そんなの決まってる。私・・・・・・最低だよ。

分からないなら、話そうとすれば良かった。前みたいにどうしてそうなるのか考えればよかった。

『ヤスフミの本当の気持ちが知りたい。だから、教えて欲しい』って、伝えればよかった。





でも私はそうしなかった。今日、そのための機会があった。

もしかしたらヤスフミが誘ってくれたのは、そういう理由だったのかも知れない。

それなのに、ティアに押し付けた。・・・・・・私、逃げたんだ。





分からなくて、怖がってただけなんだ。本当に、本当に・・・・・・最低だよ。





私、ヤスフミの友達にも、お姉さんにもなれてない。なろうともしてなかったんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時間ギリギリに到着した唯世と一緒に、買い物に向かう。

本日の作戦は、あむと唯世の会話量を多くする事。

そのために、僕はフェイトと姉弟の時間を展開しようとした。





まぁアレですよ。アリサとの会話で色々省みたのよ。

省みて、少しくらいは譲歩しようかなと。まぁ、フェイトに対してはさ。

フェイトは一応結論は出てるし、事情説明くらいはいいかなと思ったわけよ。





甘いとは言わないで。それはもう僕がやんなるくらいに知ってる

とにかく、そうして僕達が自分達の世界を形成してあれこれ話し込んでいると、どうなる?

必然的に唯世は、あむと話すしかないかなと思ったのよ。





だけど・・・・・・だめだ。ティアじゃそれが出来ない。というか、空気が気まずい。

やはり、ここ数週間のあれこれが響いているのだろうか。改めて考えても、気まずい。

だから、普通にさっきからあむと話したりしてる。唯世置いてけぼりでさ。





そして、着いて来たキャンディーズと話してる。これは、まずい。










「・・・・・・だから、ナシゴレンに梨は入ってないって」

「そうなのっ!? 私、ずっとそう思ってたのにっ!!」

「ランは慌てんぼうですねぇ。ナシゴレンは、地元の言葉なんですよぉ?」

「そうそう」



デパートを歩きながら、ランの間違った料理知識にツッコミを入れてる。・・・・・・やばい、ティアが孤独だ。

だけど、フォロー出来ない。だって、ここで変な誤解させたくないし。僕、ティアとはそういうつもりないし。



”恭文、さすがにまずくないか? 私から見てもティアがダメージを受けてるんだが”

”いっそ、私かお姉様のどちらかとキャラチェンジします? そうすればまだ”

”あぁ、そうしたいよ。出来ればそうしたいよ。変な誤解させたくないから、態度を軟化したくもないし。
でも、それやると確実に壊れる。根底にある何かが確実に壊れると思うんだ。そうなったら、元も子もない”

”全く、フェイトにも困ったものだ。お願いだから、この状況にしてどうなるかくらいは分かって欲しい”





それ言えば、フェイトが来ても同じと思う人もいるだろう。だけど、絶対に違う。

僕はさすがに空気を読む。普通に、姉弟のコミュニケーションがしたかっただけなのだ。

さっきも言ったけど、最近空気微妙だったし。普通に話して、そこの辺りを埋めたかったのよ。



それでお話かな。僕は、別に諦めてるわけでもなんでもないってさ。



ただ、男の子として譲れない意地があるというだけの話なの。





”あれ、急にとは言ってましたけど、絶対にワザとですよね”

”間違いなくね。・・・・・・もうこの際だから、ハッキリ『余計な事をするな』って言っておこうか”

”それはやめておけ。色々と心配しての行動だろうしな。だが・・・・・・その前にティアだ”

”ちくしょー! 普通に楽しい買い物のはずなのに、なんでこんな事にっ!?”





頭痛い。ここ最近色々あった中で、一番頭が・・・・・・ん?

気づいた事がある。僕達・・・・・・誰かに見られてる。気配というか、視線を感じる。

そんな事を言ってる間に、雑貨屋に入る。四人で、あれやこれやと見ていく。



見ていきながら、気配を探る。・・・・・・やっぱり、見られてる。でも、誰ですか。





「・・・・・・ね」



気配を探っていると、ティアが声をかけてきた。普通に僕の方を見る。

どこか、瞳が寂しそうに感じたのは、気のせいじゃない。てーか、僕が原因か。



「出来れば、私とも話してくれると助かるんだけど?」

「いや、ミキと話してたでしょ」

「・・・・・・これ、デートよね?」



そうだね。フェイトが余計な世話をしてくれたおかげで、こうなってるけどね。

そして、ティアはそのまま小声で、楽しそうに話すあむと唯世に聞こえないように、言ってくる。



「だったら、ちゃんとデートしたい。・・・・・・お願い」

「悪いけど、そのつもりはないわ。ティアとデートなんて、出来ない。したいとも、思わない」



ハッキリ、言う事にした。ティアの表情が崩れるけど、気にしない。

・・・・・・駄目、みたいだから。やっぱ、僕はマジでムカついてるらしい。



”・・・・・・やっぱ、怒ってるよね。あの、ごめん”

”なんで謝るのさ”

”エルに追い打ち、かけたから。・・・・・・尋問とか、捜査会議とかで”



いきなり切り替わった念話につっけんどんに答えてたら、ティアがいきなりそんなこと言ってきた。

それで、びっくりする僕を見ながら・・・・・・申し訳なさそうな顔で、頷いた。



”アンタと距離出来ててさ、どうしてかなってかなり考えたんだ。
アンタは自分の事でマジに怒る奴じゃないし、あとはほしな歌唄やエルの事かなと”

”・・・・・・ティア”

”実はさ、フェイトさんの話受けたのも、これを言いたかったからなんだ。もちろん、あとでエルにもちゃんと謝る。
・・・・・・ごめん、アンタにとってはエルも、ほしな歌唄も友達なのに。私達、マジで無神経だった”



ティアの視線を受け止めるのが辛くなって、僕は目を逸らす。逸らして、目の前の雑貨に視線を向ける。



”・・・・・・僕に、謝らなくていい。でも、エルにはちゃんと謝って”

”うん”

”エル、かなり泣いてたんだ。自分はやっぱり僕達とは敵で、だから・・・・・・って”

”・・・・・・うん”



振り切れないって、どういう事だろ。こういうのも希望持たせちゃう要因なのに。

言いながら、僕は目の前の雑貨に手を取る。それは、×印の髪飾り。なんとなしに、手に取ってしまった。



”ね、もし・・・・・・その、マジで私と居るのが嫌なら、私もう帰るわよ?”

”・・・・・・いいよ、別に。たださ、その・・・・・・そういうつもり、僕はないから。
マジで、無いから。誤解されても僕は困る”

”ん、いいよ。あくまでもこれは、友達として遊びに来てるだけ。
それで充分だから。ありがと、側に居る事、許してくれて”



・・・・・・僕は、やっぱり色んな意味で甘いらしい。

そう言いながら笑いかけてくれるティアの顔、マトモに見れないの。



「恭文」



耳元でいきなり声が聞こえてきた。それは、ミキ。

小さく、僕にしか聞こえない声で話してくる。



「最低だよ」



あぁ、見てたわけね。だから、いきなりコレですか。



「知ってる。中途半端だよね、僕」

「そうだね。でも、無理に振り払おうとしなくていいんじゃないかな。
というか、もっと色々話したら? そうしたら、見えない答えだって見えると思うな」

「嫌。・・・・・・事件終了後に話すよ」

「ダメだよ。今話して」

「それは無理なのよ」



そう、無理なの。絶対無理なの。だって・・・・・・だって・・・・・・!!



「事件解決前にそんな話したら、死亡フラグっぽくて怖い」

「そんな理由っ!? 恭文、女の子をなんだと思ってるのかなっ!!」

「やかましいわボケがっ! ティアの気持ちと僕の命と夢とどっちが大事とっ!?」



ぶっちゃけ僕はエゴイストだから、後者の方が大事なのよっ! 死亡フラグなんて立てたくないのよっ!!



「いいっ!? 死亡フラグは怖いんだよっ! 兄貴キャラとか年下にアドバイスとか、決戦前に大事な約束とか話とか、ぶっちぎりなんだよっ!!
僕の知り合いにそういうのを延々踏み続けた結果、危うく死にかけたヘリパイロットが居るんだからっ!!」

「そうなのっ!?」

「本当です。大怪我を負って、完治するまでに半年ほどかかりましたね」



ヴァイスさん、よく生きてたよなぁ。いや、本当に良かったよ。そして、アレを見て思ったの。

死亡フラグって、やっぱり怖いなと。僕はそういうの、踏まないようにしようと。



「・・・・・・あの蒼凪君、楽しそうなところ悪いんだけどやめた方がいいよ」

「そうだよ。アンタそれだとめちゃくちゃ変な人だよ? 独り言言いまくってる人じゃん。・・・・・ティアナさん」

「あむ、唯世も他人の振りよ。あれには関わっちゃだめ。あぁもう、アイツマジでバカだし」










そして、しばらく時間が経って・・・・・・僕宛てに連絡が来た。





その相手は、シャーリー。僕とティアはあむと唯世達から少し離れて、その通信を繋ぐ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・ほう、今頃気づいたか」

『うん、今頃だね。あのさ、多分『これが私達の仕事だから』とか言っても、なぎ君は絶対納得しないだろうから、これだけ。
ちゃんとフェイトさんとティアに、今の気持ちを話してあげて? 二人は話せばちゃんと分かってくれる。こんな事、バカバカしいよ』

「どうだか。てゆうか、僕が悪いみたいな言い方やめてもらえる?
みんなは『敵』への対処で忙しそうだから、煩わせないようにしただけじゃないのさ」



受話器から、息を飲む声が聞こえる。それでも、言葉は続く。



『なぎ君、本当にお願い。このままじゃ二人とも潰れる。特にティアだよ。
ティアはただ、今のなぎ君の事を心配してるだけなの。それが分からないハズないよね?』

「うん、だったら潰れてば? てーか、今さら分かったような顔して口出ししてくるな。
話して謝って、それで終わり? それで全部解決でここからは一緒に頑張る?」



鼻で笑ってやる。受話器の向こうに聞こえるように、思いっ切り。



「・・・・・・ふざけんじゃないよ。エルがどんだけ泣いてたと思ってんだ」



んな緩いフェイト達しか満足しない解決なんて、僕は絶対許さない。なので、こう言い切る。



「さぁ、お前達の罪を・・・・・・数えろ」



なお、僕はもう数えてる。で、ちょっと反省した。前にもヒロさん達と話したけど、歌唄達と友達じゃなかったら、やってただろうなと。

もし同じような状況に立ったら、もう少し優しくする事にする。うん、ほんのちょっとだけ。隙を見せないようにしてね。



「話は、全部それからだ」

『・・・・・・なぎ君。分かった、もういいよ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なぜだろう、今日は家に帰って来るなと通達されました」

≪通達されましたね。というか、キレてましたね≫

「少し頭冷やせって、自分の事じゃないの?」

≪間違いなくそうですね≫



ねぇ、言う人間逆じゃない? 普通僕が言うべきだと思うんだけど。



「・・・・・・お兄様、残念ながら私でさえもこれは当然だと思ってしまいます」

「恭文、私も同じくだ。というかお前・・・・・・ありえないだろ。どの辺りがありえないって、あの辺りがありえないだろ」

「そうよっ! アンタ、私と話したって事をシャーリーさんに言ってないじゃないのよっ!!
なんでそうなんのっ!? まずそこ抜かすって、ヒカリの言うようにありえないじゃないのよっ!!」

「いや、売り言葉に買い言葉で」

「言葉の使い方、激しく間違えてるわよっ!!」





・・・・・・シャーリーは、流石に勘が鋭い。普通に僕の心情を見抜いて来た。てーか、謝られた。

そして、殺気混じりのさっきのやり取りですよ。うーん、変だ。刺激しないように、優しく返してあげたのだ。

だって、マジで構ってる余裕ないし。話するにしても、まずは歌唄の事だ。・・・・・・あのバカ。



こんなの、ずっと続けてるわけ? 正直、僕は段々メンドくなってきたので、折れてしまいたいんですけど。

いや、駄目だ。もう少し・・・・・・もう少しだけ。まぁ、これくらいはいいでしょ、僕がメンドくなる分はさ。

エル達が歌唄に消されるより、ずっとマシだ。だけど、届けたい言葉は・・・・・・まだ見えない。



答えは、必ず僕の中にある。なのに、それがまだ見えないの。





「ボクもティアナさん達と同意見。大事なとこ抜かしてるんだし、自業自得だね」

「くそ、世界が僕を否定する」

「責任転嫁しないでよっ!! ・・・・・・ね、恭文」

「なに?」



またミキは、僕を真剣な顔で僕を見ているる。一体どうしたと言うのだろう。



「ティアナさんとはこんな感じだし、もうフェイトさんの事も許してあげたら?」



歩き始めた僕を追いかけるようにしながら、ミキもこちらに来る。それで、僕の方を見ながら声をかける。



「絶対に悪気は無かっただろうしさ。こう、お仕事をしなきゃいけないというの分かるし。
というか、ガーディアンでも同じような感じなのに、どうしてフェイトさんだけ?」

「なんだかんだで、ガーディアンのみんなはそこまでガチじゃないじゃん」



あむとかややとかもそうだし、あとは・・・・・・唯世もさ。そんな思いっ切り否定とかはない。



「・・・・・・フェイトさん達は、ガチだったんだ」

「ガチだったね。それが管理局員としてのお仕事モードなのよ。だから余計に、エルがヘコんだ」

「そこはあの・・・・・・マジでごめん。あぁもう、エルにもあとでちゃんと謝らなくちゃ」



執務官と補佐官としての経験だろうけどさ。まぁ、ここは僕も言えない。

僕だって、エル達と友達じゃなかったらやってただろうし。



「つまり、それをエルの前でやったのが恭文が怒ってる事なんだね」

「まぁね。それにミキ、知ってる? 悪気が無いで全部済ませられるわけがない」



それなら、管理局なんていらないのよ? 地球に警察なんて、いらないのよ?

道徳の授業とか、その手の資料とか、善悪なんて概念もいらないのよ?



「悪気がないで全部許されるなら、イースターの行動だってもーまんたいでしょ。
罪は、数える必要があるのよ。どんなに小さくても。それ抜かしてお話? 納得出来るわけがないし」



そう考えると、今日フェイトと話そうとかちょっと考えてしまったのはダメだな。

うん、ダメ。僕からは絶対話さない事にする。うし、改めて決めたぞ。



「・・・・・・確かに。そこを言われると、色々と辛い」

「私も同じくよ。さっきから色々突き刺さってるわ」

「あー、いっそどっか部屋借りようかな。いや、待てよ。別に野宿でもオーケーではあるか」





現状で、あそこで暮らしていてその姿勢を貫くのはやっぱダメなのよ。

言うなら、あそこを出てひとり暮らしを始める必要がある。

なお、シャーリーがそこをツツいてきたので、もう明日明後日にでもやるつもりと言ってやった。



そうしたら、逆に出て行くのを止められた。・・・・・・なんで? 意味分からないし、あの女。





「いや、それはマジでやめてっ!? てゆうか、強情っ張り過ぎでしょっ!!
・・・・・・なによりアンタ、それでお風呂とかどうするの?」

「大丈夫、サバイバル経験はある。お風呂も、魔法を駆使すれば毎日露天風呂だよ。
てゆうか、電撃の魔力変換使えるから、電化製品もオーケーだし」

「「完全自給自足のオール電化生活っ!?」」



お水を生成する魔法も組んでるし、炎熱変換を上手く活かせばお湯も作れる。

食料も、色々手管使えば揃えられる。・・・・・・マジでそうしようかな。



「でも、それはだめ。・・・・・・それやったら、歌唄ちゃんと変わらないよ」

「確かにね。でもさ、現状だとより最低だと思うけど。
衣食住お世話になっててこれだもの。うん、最低だ」

「だから、許してあげたら・・・・・・あぁ、そうだね。さっき言ってたよね。
罪は、数える必要があるって。つまり、フェイトさん達が自分から数えないとだめと」

「そうだよ。罪を数えることは・・・・・・過去と向き合う事だもの。
向き合って、新しい一歩を踏み出すためには必要なの。僕は、そう解釈してる」



本当に小さな頃、誰かから言われたような聞いたような・・・・・・そんな言葉。

でも、それってWの決めセリフなんだよね。僕、初めて見た時びっくりしたし。



「てか、今回はフェイトやティアの力、出来る限り借りたくないし」

「・・・・・・やっぱり怒ってるわよね。謝っても、許してくれない感じ?」

「違うよ。・・・・・・ティア、そうじゃないの」



ティアの目を、見れない。見てしまったら、頼ってしまいそうなのが嫌。

だから、本当に少しだけ返す事にした。



「ティアやフェイトの力を借りたら、僕・・・・・・マジで最低だから」

「はぁ? なんでそうなんのよ」

「・・・・・・僕、理由はどうあれ歌唄に首ったけだから」



そう言うと、ティアは納得したのかどうか分からないけど、僕の頭に左手を乗せた。

乗せて、そっと撫でてくる。というか、すぐに乱暴になる。



「バカ。気にしないわよ」

「僕が気にする」

「でも、私は気にしない。フェイトさんだって、きっと同じよ。
アンタ、妙な意地張り過ぎ。もうちょっと力抜きなさいよ」

「だけど、僕は気にするの」



歩きながら、そんなどうしようもない問答を続ける。

なぜかこういう時でも呼吸が合うのは、相性の良さ故だろう。



「強情っ張り」

「知ってるよ。でも、ツンデレなティアには言われたくない」

「私はツンデレじゃないわよ」



とにかく買い物は、全部終了。いやぁ、そこは無事に終わってよかったね。

しかし唯世は・・・・・・まぁいいか。お友達モードでも、あむが幸せそうだった。



「というかミキ、お前はどうしてついて来たんだ?」



あむ達から離れて電話していたら、ティアだけじゃなくてミキも一緒に来た。

なお、かなりビックリしております。普通に来るもんなぁ。



「最近恭文、ほしな歌唄の事とかでも、頭痛めてるみたいだし」

「それだけではないんですが、心労が重なってるのは事実です」

「私とフェイトさん達が、無神経な事しちゃったりしたから・・・・・・あ、もしかしてアンタ、恭文の事心配してたの?」



ティアがそう聞くと、ミキがそっぽを向いた。とりあえず、嬉しいので撫でる事にする。

ミキの耳が赤くなるけど、気にせずにゴーである。



「ありがと」

「・・・・・・まぁ、一応僕もパートナーだしね。でも恭文」

「死亡フラグは踏みたくないんだけど」

「なら、事後でいいよ。もう贅沢は言わないから。うぅ、ティアナさん、恭文っていつもこうなの?」

「残念ながら、いつもこうなのよ。コイツ、バカだから」



とりあえず、両手を上に上げて背伸びである。・・・・・・それで、気分が少しスッキリした。

しかし、頭痛いなぁ。めんどいことばっかりが積み重なってくるし。



「19だと厄年にはならないよね。・・・・・・やっぱり、運の悪さ?」

「そうなのかな。うー、これ以上ゴタゴタはごめんなんだけど。
・・・・・・マジで野宿しようかなぁ。事件解決するまでさ」

「だから、それは駄目よ。そうなったら、本当にフェイトさんが駄目になっちゃうじゃないの」

「別に距離取るとかじゃないよ。ちょっと人気のない所にこもって、精神修行するの。
剣術の訓練も並行でやって、世間のこととかそういうのを忘れて没頭する」



春休みとかに、恭也さんや美由希さんとやってた訓練だね。世間から離れて、集中力を高めて訓練。

これが中々に楽しいし、面白いの。ただひたすらに剣に打ち込む。・・・・・・うん、楽しいわ。



「あ、そういう方向も加味って事か。まぁ、それなら納得する」



魔導師であるティアナは、訓練の重要性をよく分かっている。だから、納得してくれるのよ。



「恭文、そういうの楽しいの? ボクはよく分からないんだけど」

「うん。僕、一人も結構好きなのよ? ・・・・・・自分を見つめて、向きあって心を研ぎ澄ます。
誰かと居る時とはまた違う鋭さが出すためには、必要なことなの」

「へぇ、そうなんだ。ねね、修行ってどんなことするのかな」

「えっとね、そうだな・・・・・・例えば」





ミキとそんな話をしながら、ティアと歩きつつあむと唯世のところに戻った。

そして、固まった。唯世もどこかへ出かけていたのか、ハンカチを持って固まっている。

いや、今ぽとりと落としたけど。落とした理由? それはね、とても簡単な事なんだ。



・・・・・・猫男が、右手にチョコ、左手にバニラのアイスを持ったあむをお姫様抱っこしているから。





『・・・・・・なにしてるのっ!?』









ちゃらちゃちゃー♪ ちゃらちゃちゃーん♪(火曜サスペンス劇場のテーマ)




















(その5へ続く)






















あとがき



古鉄≪・・・・・・さて、サイト開設一周年記念スペシャル第一弾、いかがだったでしょうか。
すみません、作者がStS・Remixに集中して、一周年記念小説書くの忘れてました≫

やや「それは、後日改めて書くんだって。というか、プロット出来たんだよね」

恭文「うん。春らしいお話にする予定とか。・・・・・・というわけで、本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンと≫

やや「結木ややです。それで、今回のお話はアレだよね。恭文がバカ」

恭文「あはははは、何一つ否定出来ないのが悲しいね」






(そう、この話だと蒼い古き鉄はちょっとバカ)





恭文「でもさやや、自分の好きな相手が理由はどうあれ他の女の子の事見ててよ?
それでその子を助けるために、力貸してくれとか言われたらムカつくでしょ」

やや「・・・・・・まぁ、ムカつくね。てゆうか、無神経だと思う」

恭文「でしょ?」

やや「でも、恭文は最低だよね」

恭文「そこはやっぱり変わらないっ!?」





(エース、力強く頷く。やっぱり変わらないらしい)





古鉄≪とにかく、今回のお話でクロス本編で言うと20話の段階まで来たわけですよ≫

恭文「まだ平和だよね。僕以外」

やや「恭文は自業自得じゃん。普通にフェイトさん達に頼めばいいのにー」

恭文「やや、覚えておくといいよ? 男の子って、意地があるんだから」

やや「そういうものなの?」

古鉄≪そういうものですね。とは言え・・・・・・あむさんルートじゃないですよね≫





(青いウサギ、とっても基本的な所にツッコんできた。そう、それは作者もすっごい思ってるとこ)





やや「まぁ、仕方ないんだよね。この段階だと、あむちーって唯世の事好きだし」

恭文「てゆうか、普通にいきなりガチに恋愛関係になれるわけがないし。
このルートで描くのは、所謂『3年後に期待』ってレベルまでだよね」

古鉄≪あとはエピローグ的に、恋人になったあなた達の様子で決まりでしょ。・・・・・・あ、ややさんもそれでいけるじゃないですか≫

やや「あ、そうだよね。こう、フラグが1立ちましたーってお話を書いて、それで数年後ってやれば大丈夫じゃん」

古鉄≪年齢差は問題ないんですよね。もっと上の人居ますし。例えば≫





(うったわれるーものー♪)





恭文「・・・・・・アルト、その人達は離婚した。それも大分前に」

古鉄≪あ、そうですか。なら≫





(俺達うったわれるーものー♪)





やや「・・・・・・何でもないようなことが、幸せなんだよね。
何でもないような塩味が、幸せだったとややも思うよ」

恭文「某番組でやってるラーメンコーナーじゃないのさっ!!
・・・・・・とにかく、現時点での年齢が問題なのは分かった」

古鉄≪というか、ややさんは設定上リインさんと同い年ですから。
リインさんと本編みたいな感じになるなら、ややさんもいけるんですよね≫

やや「でしょでしょ? ややだって、ヒロイン出来るんだからー」

古鉄≪・・・・・・赤ちゃんキャラでさえなければ≫

やや「こてつちゃんひどいよー! 赤ちゃんキャラの何がいけないのっ!?
これからのヒロインは、赤ちゃんキャラ出来ないとダメなんだからっ!!」

恭文「やや、それは絶対錯覚だよ。もうね、賭けてもいい」





(エースはプンプンだけど、その通りなんだから仕方ない。そう、仕方ないのよ)





恭文「というわけで、同時アップだけど次回はこの続きですよ。事態は色々動きますよ」

やや「ここからは本編クロスでも一気にシリアスモードになったとこだよね」

古鉄≪そうです。一種のRemixなので、あっちこっち展開変えたりもしてますので、その差異もお楽しみに≫

恭文「それでは今回はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

やや「ややだってヒロイン出来るもんっ! 結木ややとっ!!」

古鉄≪・・・・・・ノーコメントで。古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは、また≫

やや「こてつちゃんが今日はなんだか冷たいよー!!」





(蒼い古き鉄は思う。基本的に、このウサギはずっと前からこういうキャラだったと。
本日のED:いとうかなこ『悲しみの向こうへ』)










あむ「・・・・・・あたしIFじゃないよね?」

恭文「まぁ、細かいことはいいじゃないのさ」

あむ「良くないからっ! てゆうか、普通になんなのコレっ!!」

恭文「やかましいっ! おのれが唯世や猫男やらにふらふらするから、こっちはやりにくいんだよっ!!」

あむ「何それっ!? 逆ギレして欲しくないんですけどっ!!」

恭文「だってそうでしょっ!? おのれが最初から僕だけを見てればこんなめんどくないのっ! もうここからは絶対余所見するなっ!!」

あむ「分かったよっ! じゃああたしアンタだけしか見ないしっ!! 絶対余所見しないから、覚悟しといてねっ!?」

やや「・・・・・・こてつちゃん、あむちんと恭文がおかしいよ」

古鉄≪そうですね。口説いて口説かれオーケーしてるわけですし。しかもアレ、絶対無自覚ですから≫

やや「まぁ、IFだからいいんだよね。本編でやったら、大問題だけど」










(おしまい)




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