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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第7話 『心配なものは、やっぱり心配だったりする』(加筆修正版)



・・・・・・何度目かの打ち合いの後、私達は再び間合いを取り、対峙する。

やはり、前に相手をした時よりも太刀筋が良くなっている。重さも増している。

主やシャマルから、とある方達に修行をつけてもらっていたとは聞いていた。





・・・・・・中々いい経験だったようだ。そんなことを思い、つい楽しくなってしまう。

普段ならダメだと自分を戒めるところだが、コイツ相手だとそんなことも野暮に感じるから不思議だ。

目の前に居るのは、見ようによっては少年か少女にしか見えない古き鉄。





主の友であり、私の家族であるヴィータの弟子。

長い付き合いになるが、少しずつでも成長はしてきているようだ。

よかったな。身長と、テスタロッサとの関係の方は全くだというのに。










「ほっといてくださいっ! 特に後者っ!!」

「思考を読むなっ!!」



言いながら、私は上段から唐竹に木刀を叩き込む。瞬間、蒼凪の姿が消えた。



「飛天御剣流」



いや、私の左サイドに回転しながら回り込み、左薙に回転の勢いを活かして木刀を叩き込む。



「龍巻閃・もどきっ!!」



私は、咄嗟に反時計回りに身を捻り、木刀でその斬撃を受け止める。

『ガキン』という音が響いて、私達は鍔迫り合いの体勢になる。



「それも・・・・・・そう、だな」



一瞬、動きが追い切れなかった。この技は、何度も使うところを見ているというのに。

・・・・・・蒼凪と主、私の好きな漫画の主人公が使う剣術だ。見よう見まねで蒼凪も使っている。



「・・・・・・蒼凪」

「なんでしょ」

「シャマルからも軽めと言われている。そろそろ締めるぞ」

「はい」





そして私達は、互いに気を練る。勝負をたった一撃で決めるために。眼前の敵を叩き斬るために。

アイツも大丈夫のようだな。そうでなくては面白くない。

蒼凪、そしてあのお方の剣術の最大の特徴は、その重さにある。



全ての攻撃を、たった一撃・・・・・・『一の太刀』で決める事に、その技術と思いの全てを注ぎ込んでいる。

重く、鋭く、どんな攻撃も防御も回避も意味を成さない。そんな一撃を繰り出すことが真髄。

実際、あのお方に遠く及ばないとしても、アイツの一撃にはもう充分過ぎるほどの重さがある。



私も油断などすれば、一瞬で倒されるに違いない。



もちろん、私とて意地がある。それほど簡単にはやらせないが。





『・・・・・・はぁっ!!』




全ては一瞬だった。互いに一気に踏み込み、練った気を木刀に込めて・・・・・・袈裟で一閃。

・・・・・・バキッ!!

互いの一撃に耐えられなくなったのか、私達の木刀は接触したところから綺麗にへし折れた。



・・・・・・・・・・・・ふむ。





「よし、ここまで。・・・・・・というより、もう続けられないな」

「修復魔法使えばなんとかなりますけど?」

「いや、やめておく。これ以上ヒートアップすると、仕事ギリギリまでやってしまいそうだ」

「ですね。・・・・・・シグナムさん、ありがとうございました」





折れた木刀片手に、蒼凪がお辞儀をしてくる。さっきまでの鋭い感じが、一瞬で消え去った。

なんというか、戦いの時と通常時の差が激しいのも相変わらずか。

・・・・・・だからこそコイツは恐ろしい。自分の意思で、一瞬でその切り替えが出来る。



日常と戦いの切り替えを、本当にしっかりしている。正直、ここは見習いたい。

戦いに身を置いていると、どうしてもその境界線が曖昧になってしまう。

ようするにだ、戦いの中でのあれこれを日常に引きずって、色々と問題行動を起こすという事だな。



単純にスランプというか、そういうものならまだいい。それが精神的な病気に発展する事もある。

だからこそ、シャマルのような医務官が、メンタル部分までしっかりとケアする事が必要な時もある。

古来より、そう言った戦い・・・・・・もっと身近な事で言えば、仕事とプライベートとの切り替えというのは、永遠のテーマだ。



コイツの場合、あまりに切り替えが出来過ぎて距離を取られる事も多いらしい。

恐らくそういう連中は、蒼凪が何も考えていないと思っているのだろう。だが、私はそれは愚かだと思う。

蒼凪は、ちゃんと切り替えをしているだけ。本来であれば見習うべきだ。だから、私もさっきああ言った。



・・・・・・最近、それが崩れ始めているが。まぁ、半年もの常駐だ。多少は崩れてもいいのだろう。



だが、賭けに関してはしっかりと取り締まらなくては。コイツの事だ。絶対にまた乗るに決まっている。





「しかし、無理を言って悪かったな。こんな朝早くから付き合ってもらったこと、感謝する」

「いえいえ。楽しかったですからもーまんたいですよ」





今の時刻は朝の6時半。本来であれば蒼凪はまだ出勤する必要のない時間。

・・・・・・だったのだが、私が無理を言って来て貰った。ちなみに、呼び出した理由は実に簡単だ。

コイツの腕がどれほど上がったのか、実際に自分で確かめたかったから。



もちろん、シャマルに蒼凪共々怒られるのはごめんだ。なので、あくまでも軽めに。





「・・・・・・30分打ち合っていたのは、軽めに入るんですね」



蒼凪が何か言っているが気にしてはいけない。私の平穏のためにも、これは絶対だ。



「お前とやるのもかなり久しぶりだったが、中々いい経験をしたようだな。予想以上に腕を上げている」

「ありがとうございます。でも、そんな大した事はしてませんよ?」

≪せいぜい、二対一で夜までガチでやりあったり、砲撃魔法の雨嵐にさらされた程度です≫

「・・・・・・よく生きていたな」





そして、それは充分に大した事だろうがっ! 六課でもそんな訓練をした事はないぞっ!?

だがなぜ・・・・・・あぁ、考えるまでも無い。蒼凪は、なのはと似たタイプの魔導師だ。

命がけのやり取りの中でこそ、真価を発揮する。ようするに、実戦向きなんだ。



逆を言えば、蒼凪もなのはも身内に甘い部分がある。身内相手だと、本気になり切れない。

少なくとも、実戦レベルでの『本気』ではない。そういう部分でも、この二人は良く似ている。

だからこそ、なんだかんだで付き合いが続くかも知れない。・・・・・・本人達は、挙って否定するだろうが。



その辺りを考えて、徹底的に追い詰めて実戦での本気を引き出す方向にしたんだろう。





「自分でも不思議です」

「とにかく、それだけの修練を重ねたんだ。それ相応に強くなっているのは間違いあるまい。
まぁ、性格の悪さと調子の乗りやすさは相変わらずのようだが」

「いやだなぁシグナムさん、僕のどこが性格悪いと」



全てだと言ってやりたくなっても、きっとそれは罪ではない。今、心から私は思う。



≪全てですね≫

「アルトアイゼン、いいタイミングだ」

「なんでそこでシグナムさんが同意っ!?
・・・・・・まぁ、アレですよアレ。世の中には色んな不思議がいっぱいっていうことで」

「どんな不思議だ」



・・・・・・とまぁ、こんな会話をしつつも互いにクールダウンをして、一緒に朝食を取ることにした。

ここで終われば、どれほど幸せだったのだろう。



「・・・・・・あら、なんだか楽しそうね」



突然聞こえた声に、私も蒼凪も恐怖を覚えた。

そう、それは私達の聞き覚えのある声だった。



「シャ、シャマル」

「あ、おはようございま、ます」



蒼凪、どもるなっ! 平常心だ。平常心を保てっ!!

クールダウンをしている私達の後ろから突然現れたのは、六課医務官であり、私の家族であるシャマル。



「おはよう」



ただ、笑ってはいるが目が笑っていない。全く笑っていない。それが私も蒼凪も、堪らなく怖い。



「・・・・・・ね、何をしていたのかしら?」

「い、嫌だなぁシャマルさん。男女の秘め事に首を突っ込むなんて野暮ですよ?」



何を言い出すんだっ!? お前はやっぱりバカだろっ!!

・・・・・・と、ツッコんでやりたくなったが、ここはそうでも言わないと、まずいな。



「そうだ。シャマル、私と蒼凪の秘め事に口を出すな。
私達にだって、お前にも話せない事が一つや二つあるんだ」



全力全開での、木刀での打ち合いとかがな。



「あら、それなら余計に口出ししたくなるわ。というより、しなくてはいけないわよ。
・・・・・・シグナム、私が恭文くんの現地妻1号というのは、当然知ってるわよね?」



・・・・・・現地妻、1号っ!?



「蒼凪、お前まだシャマルとそんな関係なのかっ!!」

「知らない! 知らないですからっ!! つーか、それはシャマルさんが勝手に言ってることですよっ!?
僕は何にも関与していないですからっ! あぁ、そんな怖い目はやめてー!!」

「恭文くん、酷いわっ! あの時、街中であんな格好をさせた挙句」



そんな事を、お前達はしていたのかっ!? そして、どんな格好だっ!!



「私を視姦して思う存分楽しんだくせに・・・・・・しらばっくれるのっ!?」



はぁっ!? お前達そんな事をして・・・・・・いるわけがないな。

あれだ、シャマルのいつもの妄言だ。有り得ん。絶対に、有り得ん。



「何時の話っ!? というか、見てないでしょうがっ!!」

「あんな風に、舐めまわすように見るなんて。いくら愛のためとはいえ、恥ずかしかったのよ?」

「胸元隠しながらそんな頬を赤くして言うと、リアル過ぎていやだからやめてくださいっ!!」

≪モテる男は辛いですね≫

「これは絶対モテてるって言わないよねっ!? つか、僕はフェイト一筋だっ!! ・・・・・・あれ?」



そうだったな。お前は・・・・・・そうだったな。



「蒼凪、今度またあのおでん屋にザフィーラと連れて行ってやる。
あれだ、お前の好きな牛スジとちくわぶを好きなだけ奢ってやる」

「あの、シグナムさん。なんで僕の頭をそんな痛々しい顔で撫でるんですか?
てーか、シャマルさんっ!? なんで僕から目を逸らすっ!!」

「とにかくよ、シグナムと天然浮気男の恭文くんは、こんな朝早くから何をしてたのかしら?」

「誰が天然浮気男ですかっ! そもそも僕達付き合ってないでしょっ!!
・・・・・・いや、ですから男女の秘め事に口を出すって、野暮ですよ?」



お前はまだ言うかっ! その発言のせいでどれだけ横周りをしたと思っているっ!?



「そうね、それはその通りだと思うわ。だけど」



なぜだろう。いつもは温和で優しいアイツの顔が、修羅か鬼の類に見える。



「本気で全力で・・・・・・! 二人して遠慮なしに組み手をしているんだから、口を出すしかないでしょっ!!」

「い、いやだなぁ。シャマルさん。僕達そんなことしてませんって」

「そうだぞ。確かに組み手はしたが、そんな本気にはやっていない。あくまでも、軽くだ軽く」

「・・・・・・クラールヴィント」

≪はい≫



突然に空間モニターが展開。もうここまで言えば、そこに現れた映像が何かなど言う必要は無いと思う。

そう、私と蒼凪の組み手の様子だ。それも、最初から。



「・・・・・・シャマルさん」

「何かしら」

「弁護の機会って与えられます?」

「与えられると思う?」

「ですよねー」










その後のことは、聞かないでくれ。





とりあえず、私と蒼凪は色々大変だったとだけ、言っておく。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第7話 『心配なものは、やっぱり心配だったりする』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

≪怖いのでやめてくださいよ。てゆうか、どんだけ謝り続ければ気が済むんですか。逆に引かれますって≫

「だって、シャマルさん怖かった」

≪まぁ、心配してくれるが故のアレです。心広く受け止めましょう。ほら、あなたの現地妻ですし≫

「違うわボケっ! シャマルさんが勝手に言ってるだけだからっ!!」



早朝でのガチな組み手を、シャマルさんにフォーカスされた僕と烈火の将。

もちろん、見事にお説教を食らうことになった。・・・・・・・午前中いっぱい使って。



≪シャマルさんは、あなたの無茶に泣かされてますから。アレとかソレとか≫





そう、以前話した大怪我を負った時を筆頭に、僕はシャマルさんに心配をかけまくっている。

なので、正直頭があがらない。あぁ、あの時は・・・・・・血判かかされたよなぁ。

『もう二度とこんな無茶はしない』って、約束をさせられたんだよなぁ。



さっき、それを出されて本気で謝ったし。





≪それだけではなく、あなたとシャマルさんとの間にはあんなことやこんなことが≫

「ないからっ! うん、絶対ないから!!」





せいぜい、あぁるじゅうご・・・・・・くらい、だよ?

よし、気にしないことにする。うん、そうだそうだ。

さて、僕がこれからどうするかというと、あのタヌキの巣に向かうところ。



お説教が終わってから、はやてに呼び出された。とにかく、部隊長室に到着。





「失礼しまーす」



なんて挨拶も忘れない。うん、誰が来てるかわかんないしね。



「お、きたきた。まってたで」

「やぁ、元気そうだね」



・・・・・・・・・・・・よし。



「失礼しました」



そうして僕は、踵を返して退場しようと。



「またんかコラっ! なんで逃げようとするんやっ!?」

「だって、査察官を見たら逃げろって先生から教わってるし」

「そないなこと言うわけないやろっ!」

≪・・・・・・事実です≫

『そうなのっ!?』



そうなのよ。だから、逃げていいよね?



「そんなんあかんに決まって」

「答えは聞いてないっ!!」

「なんでやー!!」

「・・・・・・相変わらずだね。うん、安心したよ」



そんな僕達の漫才を呆れたような様子で見ていたのは、まっがーれな人。



「その説明はやめてくれないかなっ!?」

「じゃあ、アニメとかゲームとかでなのはによく似た声の女の子に『東京へ帰れ』って言われた人」

「それもアウトだよっ!!」





・・・・・じゃあ、普通に説明することにする。

緑色のストレートのロングヘアー。そして、白のスーツを見事に着こなしている。

僕より身長の高いこの男の人の名前は、ヴェロッサ・アコース。



職業は、本局勤めの査察官。ようするに人の仕事のダーティな部分にケチをつけるの。

クロノさんとは昔からの友達で、当然僕やはやてとも親交がある。

実の兄弟の居ない僕にとっては、クロノさん同様、兄さんみたいな感じだったりする。



そして・・・・・・敵っ!!





「なんでそうなるのかなっ!?」

「当たり前じゃないですか。査察部の人間に何回ダーティーな処理をした書類やら、仕事の事やらで詰問されたと?」

「・・・・・・それ、自分が悪いって感想は持たないのかな?
しかも、話に聞くとその度に言い負かしてるよね。担当官が何人泣いてると?」

「そんなことは気にしません。なぜなら、僕は自分がよければ全て良しですから」



ヴェロッサさん、お願いだからため息吐くのやめてもらえます? 僕が悪いみたいじゃないですか。



「まぁ、そんなジョークはさておきましょ。
どうしたんですかいったい? うちのタヌキでも口説きに来たとか」

「誰がタヌキやっ!!」

「もしくは、ついにタヌキを更迭するとか」

「いや、それもあるんだけど」

『嘘ぉっ!!』



あるんかい。僕もアレだけど、この人も相当だよ。



「クロノに頼まれたんだよ。君の様子がどんな感じか見てきて欲しいってね。・・・・・・包帯だらけの顔で」

「・・・・・・なにがあったんですか、あの人」

「なんでも、君に作成を命じた報告書やら始末書やらの量のことで、相当絞られたらしいよ。
君のお姉さんとか、可愛くてつい溺愛してしまう医務官とか、ハンマー持った赤い服の女の子とかからたっぷりと」



なるほど。つか、みんないつのまにそんなことを。まぁ、そんなのはどうでもいいや。



「これに懲りて、ユーノ先生への無茶な要求も少なくなるといいんですけど。
僕はいいですよ? でも、それが他の人もなのは、さすがにどうかと」





僕も無限書庫手伝った時にちょうど、クロノさんからの無茶苦茶な資料請求が来たことあるから解る。

あのお兄さん、こちらの調べる手間とか、作業時間とか、労働基準法とか完全無視で来やがるし。

必要なのはわかるけど、そのために毎度毎度、書庫がパニックになるってどういうことさ。



僕、謝ったもん。関係者だから、すっごい謝り倒してごめんなさいって言ったもの。





「まぁアレですよ、『あなたのおかげで、医務官からはたっぷり怒られて元気にすごしています』とでも伝えてください」

「そ、そうだね。伝えておくよ」



うむぅ、ヴェロッサさんがちょっと引き気味なのが気になるなぁ。どうしてだろ。



「じゃあ、はやてとヴェロッサさんの楽しい時間を邪魔したくないんで、そろそろ失礼します」

≪頑張ってくださいね≫

「そやなぁ。心遣いおおきに・・・・・・・ってあほかっ! そないなこと、こんなとこでするわけないやろっ!?」

「・・・・・・ここじゃなければいいの?」

「そ、そういう問題やないやろっ!? うちかて心の準備が・・・・・・いやいや、そうやのうてっ!!」



さすがは乙女。いろいろと大変そうである。そうだよね、タヌキだって乙女だもんね。うん、知ってた。



「まぁ、その気遣いは非常にありがたいんだけど」



ヴェロッサさんが左手をかざすと、そこから何条もの光の輪が現れる。

色は緑色。その輪の中心から、大きめのバスケットが出てきた。



「実はティータイムにと思って、お茶とお菓子を持ってきてるんだ。よかったら一緒にどうだい?」

「いただきます。いやぁ、やっぱり持つべきものは査察官の知り合いですよ。実に良いタイミングです」

「・・・・・・君、やっぱりいい性格してるね」

「えぇ。よく『性格がいい』と言われます」

『意味が180度変わってるからっ! それっ!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・学校?」

「そうか。ヴィヴィオ・・・・・・学校に通うんだ」



ヴェロッサさん特製の紅茶に口をつけつつ、世間話。

なんでも、ヴィヴィオが学校に通うそうだ。あー、そういえば今は通ってないんだっけ。



「うん、年齢的にも新一年生がちょうどよさそうやしな。まぁ、解散後の話やけど」

「なるほどね。で、それはそれとしてだよ。はやて、ティータイムくらいは休憩しなよ」

「全くだよ」

「・・・・・・なぁ、恭文。人の職場にやってきて、おやつ持ってくる人間と仲良うティータイムってどうなんや?」

≪問題ありません≫



美味しい紅茶とミルフィーユを前にして、仕事などする人間の神経を疑ってしまうよ。



「はやて、大事なものを無くしちゃったんんだね。あぁ、だから影が薄いんだ」

「なんやむかつくな自分っ! あと、うちは影薄くないよっ!?」

「でも、彼の言うとおりだと思うよ」

「ロッサ、アンタもかいなっ! うちのどこが影薄いんよっ!!」



あー、やっぱりヴェロッサさんも思ってたんだ。だよね、はやては影薄いもんね。



「そこじゃないよ。・・・・・・休憩は大事だってとこ」

「年中無休で休憩中のロッサに言われても、説得力ないよ」

「ひどいなぁ、お茶用の美味しいジャムも揃えてきたのに」





そう、ヴェロッサさんが持って来たのは、丁寧にも紅茶とお菓子だけじゃなかった。

紅茶に入れることで甘さと匂いが広がる、素敵なジャムまで用意していた。

僕もさっき一口だけ食べさせてもらったのだけど、素晴らしく美味しかった。



既製品ではない。間違いなく手作りの味だった。ヴェロッサさん、相変わらずいい腕してるなぁ。





「気持ちは嬉しいけど、私はスカリエッティ事件の失態、取り戻していかなあかんから」

「失態?」

「失態なんてないでしょうが。あのお祭り騒ぎ起こした連中ぶっ飛ばして、ゆりかご墜としたんだし」



その場に居なかったから、話を聞く限り・・・・・・だけどね。

確かに地上本部襲撃やら、六課隊舎陥落やらを防げなかったのは落ち度かも知れないけどさ。



「それは、うちのエースやストライカーたちのおかげや。私はなんも出来てない」



そう言うと、はやての表情に影が差す。

痛く、辛い思い出を呼び起こしているかのように・・・・・・って、マジでどうした。そんなキャラじゃないでしょ。



「はやて、ゆりかご攻略戦の時・・・・・・何かあったの?」



もっと言うと、僕がゴチャゴチャして以前話したセッテとドンパチしてた時だよ。



「・・・・・・そやな。ちと反省材料が多すぎてな。指揮官としてもそうやし、魔導師としてもや。
臨時指揮や状況管理に負われっぱなしで、最終決戦に間に合わんかったからな」



・・・・・・あぁ、ゆりかごの外で、航空隊の指揮してたんだっけ。現場責任者で、そういう事が出来るから。



「恭文は報告書読んでくれとるから、分かるやろうけどそれだけちゃうんよ」

「・・・・・・なのはとヴィヴィオ共々、ゆりかご内部に取り残されたこと?」

「そや。それにフェイトちゃんにも結局単独行動させて、危ない目に遭わせてもうた。部隊からは、何もフォロー出来んかった。
うちの失態は、そういうの全部含めてやな。スバル達が助けてくれたから、ようやくオーケーになっただけよ?」



・・・・・・フェイトも、自爆間近のスカリエッティのアジトに残って、それをシャーリーと止めてたらしい。

で、ようやく止めた時に上から落石。それをエリオがソニックムーブで助けて・・・・・・ですよ。



「うち、ぶっちゃけこれで誰か死んでたら、アンタに殺されてもしゃあないもん」

「ぶっそうな事言うな。・・・・・・例えこれでフェイトが死んでても、そんなことしないよ。
てゆうか、戦いで人が傷つくのも死ぬのも、当たり前でしょ。いちいち感情的になったりしないよ」



紅茶を飲みつつ、はやての言葉に軽く答える。・・・・・・うん、そうよ。軽く答えるのよ?



「うん、当たり前なんだよ。戦いの中で人が死ぬのも、嫌な現実や腐った連中を見るのもさ。
それにいちいち動揺するのも、隙を突かれて緊縛プレイも、バカのやることでしょ」



もう一口、紅茶を啜る。・・・・・・はぁ、落ち着くなぁ。



「うん、当たり前の事なんだよ。最悪な事実だけど・・・・・・そうなのよ」



少なくとも、僕はそう思う。今は特にそうだね。だから、紅茶の香りに癒されるわけですよ。



「・・・・・・あぁ、そうやったな。アンタは、JS事件中はそういう感じやったか」

「まぁね。・・・・・・あ、詳しくは『とある魔導師と古き鉄の戦い』を」

「アンタ、この状況でまた宣伝かっ!? シリアスモード全部ブチ壊しやんかっ!!」

「いいのよ。辛気臭い話しちゃったしさ。・・・・・・全くダメダメ。
日常は日常でしっかり楽しまないと、つまらないし」



はやては、部隊を設立するのが夢だった。そこの指揮官に立つのを目標にしていた。

それで、実際に立って見て、色々と難しいこととか、反省することとか・・・・・・考えたんでしょ。



「はやて、いい言葉があるよ」

「なんや?」

「『全ての問題は、美味しいジャム入りの紅茶とミルフィーユをいただいている間に解決する』。
・・・・・・というわけで、お茶を飲め。ミルフィーユを食べろ。それが答えだ」

「なんやその無茶苦茶理論っ!?」

「でも、そんなにウダウダ悩んだところで、その失敗とやらが今すぐ取り返せるわけでもないでしょ」





はやてが小さく唸った。そして、渋々という顔で頷いた。

どうやら、僕の話している事は分かってもらえたらしい。

うん、取り返せないよ。てゆうか、どうやって取り返すの?



世間の評価は上々で、結果オーライだったとしても、フェイト達はみんな無事なのにさ。



てゆうか、もしも本当に誰か死んでたら、逆に取り返しようが無いと来てる。はやてだって、そこは分かってるはず。





「まぁ、僕はその場に居なかった訳じゃない?
だから、どの辺りが失態なのかはきっと本当の意味では分からないし、言う資格もない」



言いながら、また紅茶を一口すする。・・・・・・うん、いい香りだわ。

さすがヴェロッサさん。紅茶好きのカリムさんを義姉に持つだけあって、技能がプロ級だ。



「悩みたいなら悩めばいいよ。でも、悩んでる間に紅茶は冷めるよ?
・・・・・・せっかくここまでおやつとお茶を持って来てくれた、ヴェロッサさんの心遣いと一緒にね」

「恭文、あの・・・・・・うち」



まぁ、あれだよ。あんま偉そうな事いうのもアレだけどさ。

でも、たまには言いたくなるのよ。うん、たまにはね。



「今はやてが悩めるのは、世界が平和だからでしょ。だったら、まずはその平和を享受しようよ。
じゃないと、なにが平和であるかすらわかんなくなるよ? さっき言ったように、つまらなくなる」





そう、世界は問題だらけかもしれないけど、概ね平和。少なくとも、手の届く範囲は。

それなのに、このタヌキは反省ばっかして、今ある平和に目を向けようともしない。

そんなんで良いわけが無い。・・・・・・これは、前に先生が言ってた事。



戦いを終えたら、どんなにコンディションが良くても、ちゃんと休むことが必要。

身体のためというより、自分の気持ちのため。

自分が居るべき日常や、平和がなにかを、絶対に忘れないために必要なこと。



それが休む事だって言ってた。・・・・・・だから、ここに来るのも最初は断ったのになぁ。

少し話が逸れたけど、それなら今ある平和とは何? 簡単だよ。

手元にある暖かい紅茶と、それ用のジャム。そして、美味しいミルフィーユだよ。



このどこにでもあるようなものを、何の憂いもなく味わえる時間こそ平和だと、僕は思う。

六課の人間は、沢山の人のそんな時間を守るために戦ったはずなのよ?

それなのに当の本人達がそれを味わえないって、どういうことですか。



誰がなんと言おうと、無理矢理にでも味わえばいいのに。





「つーか、そんなに辛そうな顔してるんだったら、管理局なんてやめちゃえばいいんだよ。
片意地張らなくても、生き方なんて色々あるでしょ」



うーん、そうだなぁ。例えば・・・・・・あ、良いこと思いついた。



「例えば、気遣いを持ってお茶とお菓子を持ってきてくれるお兄さんの所に、永久就職するとかさ」

「な、なに言うてるんや自分っ!?」

「いや、僕の中で『はやて×ヴェロッサ』は鉄板だから」

「あほかっ!!」



やかましい、おのれよりマシだ。てーか、部隊長から力入ってたら、下が休めないでしょ。

そういうの、嫌でも伝わるんだしさ。特にフェイトとなのは達隊長陣に伝わるのはマズいのよ。



「まぁまぁ。・・・・・・でも、僕も恭文と同じだよ。今はやてが悩めるのは、簡単に言えば平和だから。
差し迫って命の危険がなくて、世界が平穏な時間を刻んでるから」



ヴェロッサさんは、優しい瞳ではやてに語りかける。愛しい妹に声をかけるように。

・・・・・・クロノさんがたまにフェイトにやってる表情が、そこにはあったのよ。



「少し、ゆっくり進めばいいよ。急いで走りすぎて、転んで立ち上がれなくなるよりはずっといい。
悩むのもいいけど、息を抜くことだってきっと必要だよ」

「・・・・・・ロッサ」

「心配性なカリムは言うに及ばず、僕もクロノも心配してるよ? 生意気で、口の減らない妹の事をね」



正直、その心配の10%でいいから、僕の体調の方に気を回して欲しい。特にクロノさん。



「それにね、はやて」

「なんや?」

「君の悪友と、そのパートナーも心配してるみたいだよ?
自分達だって、平穏な時間を満喫しなきゃいけないのに」



はやてが、ハッとした目で僕を見る。・・・・・・今更遅いっつーの。



「まぁ、お茶が冷めてまずくなるのが嫌なだけです。
紅茶のお茶っ葉と水は、そんなことをされるためにここにあるわけじゃないですから」



大体、僕はその辺りの切り替えは上手な方だもの。人の心配をする余裕くらいはある。



≪・・・・・・べ、別に、アンタの事なんてどうだっていいんだからっ!!
心配なんて、してるわけじゃないんだからねっ!?≫

『どんなキャラ崩壊なツンデレっ!?』



・・・・・・まぁ、とにかくだよ。結論だけ言おうか。うん、ハッキリとね。



「お茶、冷めないうちに飲んじゃいなよ。ミルフィーユも食べちゃおう?
仕事は後にしても問題ないけど、これらは問題大量発生だし」

≪この場で表現すると、かなり生々しくなるので伏せておきますが≫

「・・・・・・そやなぁ。それは放っておいたらダメやな」



そこまで言うと、はやては仕事の手を完全に止めて、デスクから立ち上がった。



「それに、大事な友達やお兄ちゃん達に心配かけたら、アカンしなぁ。
ロッサ、恭文、アルトアイゼン・・・・・・おおきにな」

「うん」










そうして、僕達三人は仕事のことはさておき、お茶とお菓子に舌鼓を打った。

その時のはやてが、少し楽になったような顔だったのが、ちょっと嬉しかった。

・・・・・・平和な時間、もうちょい満喫して欲しいよ。だから・・・・・・だな。





マジで何も起こって欲しくない。僕はいいのよ。言うなれば将棋の『歩』だし、そういうのに割り切り付けてるから。

戦いでは、ハードボイルドを通すって決めてるしね。フェイトやなのはやみんなみたいに、優しくなんてなれないの。

そして、ミルフィーユを美味しそうにがっつき始めた僕の友達も、フェイト達と同じ。はやて、凄く優しいの。





部隊長だから、やっぱり責務は重い。それで、事後に色々反省もする。そうしなきゃ、成長出来ないから。

そういう意味では、日常と戦いの切り替えが苦手なのかも。・・・・・・だから、何にも起こって欲しくない。

これでまた何か有って、『反省しよう・失敗の取り返しだ』なんて話になっても、周りが楽しくないのよ。





ヴェロッサさんだって今日来たのは、その辺りが気になったからだろうしさ。僕の事は、きっと表向きの理由だよ。





・・・・・・タヌキはやっぱり、タヌキらしく笑ってくれないとつまらないよ。そういうものなの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なぁ、お前さん。さっきから気になってたんだが」

『どうしました?』

「なんでそんな包帯だらけなんだっ!?」



いや、結構マジな話しちまったから、ツッコミ辛くて仕方なかったが、もう限界だ。

もう通信画面の向こう側が、気になって気になってしかたねぇぞ、それ。



『・・・・・・色々、ありまして』

「色々か」

『仕事の振り方が、無茶だと・・・・・・横暴だと・・・・・・殺す気かと・・・・・・訴えられて負ける気かと』

「あぁ、もういい! 辛いなら話さなくていいからっ!!」



仮にも提督権限を持っている奴をここまで凹ませるたぁ、いったい何があったんだ?

まぁ、それはともかく・・・・・・・そうだ。ちょっと気になってたし、聞いてみるか。



『ナカジマ三佐、地上部隊の方は』

「まぁ、そっちと変わらねぇぞ。ボチボチって言ったところだ」

『そうですか。こっちも同じです。組織改革の流れは確実に生まれていますが、まだなんとも。
やはりレジアス中将や最高評議会の一件は、衝撃的でしたから』

「そうか」





管理局は、色々問題抱えてる組織だが、バカばかりじゃない。

俺はともかく、今通信してるクロノ提督やリンディ提督、八神の奴はそれを改善したいと思ってる。

他にも、現状の組織のあり方に不満を持って、改善したいと思ってる奴は居る。



組織は人が作るもんだ。だから問題も多い。でも、だから変われるんだ。

管理局は今、変わろうとしてる。色んな犠牲や、哀しい事件を越えてな。

それが無くちゃ変われなかった事に関しては、まぁ色々思う所はある。



でも・・・・・・それでも、変わり始めた事、俺はそれが喜ばしい。





「これ、高町嬢ちゃん達が話してたんだけどよ」

『はい?』

「世界的な平和ってのは、10年も続けば奇跡だ。20年30年・・・・・・100年となれば、もう夢物語。
でも、それでも頑張って、次の世代までに、ちったぁマシな世界に出来ればいいなって事を、この間な」

『・・・・・・そうですね。少し傲慢な言い方ではありますが』



お前、きついな。まぁ、確かにそうだな。まるで俺達が世界を勝手してるみたいには、聞こえる。



『管理局・・・・・・いえ、人々の安全と平和を守る組織に属する人間である以上、それは誰もが抱く願いです。
もちろん、僕も。本当にもう少しだけ、色々な問題が片付いた形で、新しい世代に任せられたなら・・・・・・と』

「そして、それを立派に背負える世代を育てること。高町嬢ちゃん、相当そこの辺りが気合い入ってたぞ?」

『その前に、自分の事に気合いを入れて欲しいですよ。実家の方々が、色々心配されてるそうですし』



実家・・・・・・あぁ、そうか。なんだかんだで怪我したり、娘出来たりしたしな。

それで心配しないわけがないか。てか、高町の嬢ちゃん。マジで自分のことも何とかしようぜ?



「そういやよ、あいつはどんな調子だ?」

『アイツ? ・・・・・・あぁ、恭文ですか』

「そうだ。六課に出向になったろ? お前さん達の差し金で」





高町穣ちゃん達は、最終決戦時のダメージが抜けきっていない。

それを危惧したリンディ提督は、ある優秀な魔導師を六課によこした。

・・・・・・蒼凪恭文、うちの娘の友達だ。当然俺も面識がある。



近頃の若い魔導師にしては、実力もあるし面白いやつだ。アルトアイゼンのやつも含めてな。



あ、1個訂正だ。今は『娘達』になってるんだった。スバルがずいぶん気に入った様子だった。





『アイツもアルトアイゼンも、あぁいう性格ですから。問題なく溶け込んで・・・・・・いないようです』

「あぁ、やっぱりか。アイツ、どうせ仕事用のキャラ作ってんだろ。
ハードボイルドとかなんとか言ってよ。なぁ、アイツのアレ、元々なのか?」

『元々です。魔導師になった頃から、あんな感じでした。
・・・・・・普段の仕事ならばそれでも問題ないのですが、さすがに常駐ですから』



アイツはこう、戦闘時と日常時の切り替えがしっかりしてる。本人曰く『ハードボイルド』とか。だから、逆にそのギャップに引く人間も居る。

俺とかギンガは大丈夫なんだよ。元々八神から聞いてはいたしよ。ただ、スバルや他の面々はそうじゃねぇだろ。



『ただ、そのおかげか六課に来た目的も、他の部隊員には察知されていないようです』

「そうか。それなら、なにかあっても安心だな」

『それはどうなるかは分かりませんが、少し安心出来るのは確かです。
アイツももう、経験だけは豊富な魔導師ですから』



・・・・・・さすがに身内だからなのか手厳しいな。

アイツは俺の目から見ても、かなり出来るやつだと思うが。



「豊富なのは経験だけか? 実際、これまでも色々な状況をひっくり返してるじゃねぇか」

『それはそうなのでしょうが、師匠譲りで過激な行動が多いですから。
それにひっくり返した分、被害も広がります。主に犯人に対して』

「まぁ・・・・・・なぁ」





俺のとこにもよく来てもらってたが、色々と出動の度にやらかしてくれたからなぁ。

犯人確保と現状打破には、実はかなり有効な手を打つ。

だが、いかんせん、それがやりすぎなことが多々あった。戦闘モードに入るせいだな。



時折始末書の海に溺れてたな。溺死はしなかったが。



それだけならまだしも、ギンガが説教かますからなぁ。あれは辛そうだった。





『ただ』

「ただ?」

『身内の贔屓目と笑ってもらえれば幸いです。・・・・・・僕は、アイツを見ていると面白いんです』



面白い・・・・・・あぁ、そこは俺も同意見だな。じゃなきゃ、何回も仕事で呼んだりしねぇって。



『トウゴウ先生の想いは、確実にアイツに受け継がれています。だからこそ、何かを期待してしまう』

「・・・・・・そうか。で、そんな期待出来るアイツを、組織改革に巻き込む予定はあんのか?」

『他はともかく、僕はありません。アイツは、僕達とは道が違う。局が求めてるのは、いい意味でも悪い意味でも局員です。
組織や世界のために、ルールを守った上で行動出来る人間が必要。でもアイツは、ハードボイルドが性に合ってるようですし』

「それもそうだな」










局員は、ある意味ではハードボイルドとは真逆だしなぁ。基本、そういうのは無しだったりする。





しかし、あとちょっとで解散か。・・・・・・このまま、後見人達の心配が無駄に終わってくれると俺は嬉しい。





理由? 簡単だよ。八神の奴が、また難しい顔して事件に向き合う必要がないからだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、仕事が終わって夜。そう、あっと言う間に外は真っ暗。





僕は、とっとと帰らずにこの人達を呼びつけてた。










「・・・・・・そう。はやてちゃんがそんな事を」

「はい」

「我らの前では普通だったが・・・・・・やはり、装ってただけか」



六課の談話室の一室。シャマルさんとザフィーラさんに来てもらった。

師匠は未だにスバル達と訓練中だし、なのはとフェイトとシグナムさんもそれに参加。他に居なかったのよ。



「はい。・・・・・・まぁ、一応気をつけてもらえますか? 上があんな感じじゃ、下に響きますし。
特に直で下に居るのが、フェイトと横馬じゃないですか。余計にそう思うんです」

「高町とテスタロッサも、主と同じで抱え込みがちなタイプではあるしな。・・・・・・実はな、蒼凪」

「はい?」

「先程、アコース査察官が戻られる前にも、同じ事を伝えてきた」



・・・・・・あぁ、そうだよね。ヴェロッサさんは大人だもんね。うん、納得出来るわ。

くそ、あのお兄ちゃんキャラは僕の出番を取りやがって。ちょっとだけ負けた感じがするぞ。



「なら、余計な事でしたかね」

「ううん。はやてちゃんの事、心配してくれて感謝してる。・・・・・・でも、恭文くん」

「ほい?」

「切り替えが必要なのは、あなたも同じよ? 私から見ると、あなたも下手なタイプですもの」



少しだけ、儚げと言うか心配そうな顔で向かい側に座ったシャマルさんが僕を見る。

いや、それは足元に踞ってる狼モードのザフィーラさんも同じ。・・・・・・心配かけてるのは、僕も同じか。



「僕は、隊長三人よりは上手く出来てる自信ありますよ。えぇ、そこはもう」

「そう装ってるだけでしょ? ・・・・・・現地妻1号だから、分かるの。
何にも思わないほど、あなた冷たくないもの。うん、冷たくなんてない」

「・・・・・・そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、そのバカな称号は捨て去ってもらえると、更に嬉しいです」

「だから、無理しないで? 辛い時は、甘えてくれたっていいんだから」



安心させるように僕に笑いかけるシャマルさんには、どうやら現地妻という称号を捨て去る気はないらしい。

・・・・・・その称号さえなければ、僕は素直にお話聞けるのに。



「どうやら、我は席を外した方が良さそうだな」

「外さないでもらえますっ!? むしろ居てくれなきゃ困りますからっ!!」

「そうね、そうしてもらえると助かるかな。・・・・・・恭文くん、またいっぱい抱きしめて欲しいな」

「またって何っ!? てゆうか、その艶っぽい目で僕を見るなっ! そして、胸元に手を当てるなー!!」










・・・・・・とにもかくにも、はやての様子は気をつけてもらえるという話になった。

というかさ、元々八神家のみんなは気にしてたらしい。まぁ、みんな魔導師だしね。

それで局員だもの。はやてが普通を装ってても、分かっちゃうのよ。





二人から師匠とシグナムさんと、リインにも伝えてもらって・・・・・・あとは、お任せかな。

僕でも気をつけてはいくけど、やっぱりこういうので一番力になれるのは、家族だと思うし。

僕は友達として・・・・・・まぁ、いつも通りに行くか。ヘラヘラと、性悪な悪友としてさ。





きっと、それくらいしか出来ないしね。僕は局員でもないから、はやての責務を半分も理解出来ないだろうし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・アルト」

≪はい?≫



自宅で、ノンビリ遅めの夕飯なんて作りつつ、僕は相棒に話しかける。

なお、今日のメニューはハンバーグとサラダとコンソメスープ。



「やっぱりさ、隊長って大変なんだよね」

≪そうですね。というか、教導官だったり執務官だったり・・・・・・普通の局員では就けない役職の人間は、みんなそうです。
その仕事故に能力を上からも下からも求められ、それに応える。応えて、責務を通す。みんな、きっとそうです≫

「そっか」



目の前でジュージュー焼けるハンバーグを見ながら、僕は思う。思い出すのは・・・・・・フェイトの顔。

フェイトも隊長で執務官で、六課の捜査主任だしさ。そうだよね、大変だよね。



「それって、何のためなんだろうね。・・・・・・管理局は、絶対に綺麗な組織じゃないよ?
現に、上はフェイト達の『守りたい』って気持ちを裏切ってた。裏切って、利用してた」

≪えぇ。JS事件だって、言わば氷山の一角です。というか、あなたは色々見てますしね≫

「見てるね」





嘱託って言うのは、外から管理局を見てる部分が、局員より多い。局員だと、どうしても中から見るしね。

だからさ、分かるのよ。色々組織の矛盾というか、そういうのがあるなぁってさ。ただ、それもまた当たり前。

地球にある警察機構だって、同じようなもんだもん。別に、管理局が絶対的にダメとかではないの。



ただ、規模が広い分汚職とか腐敗とかがあると、被害が大きくなりがちってだけでさ。



うん、こういうのは良くある事。管理局でもそうだし、もしかしたら一般の会社や人間関係でも・・・・・・ありがちなのよ。





「正直、分かんないんだ。みんな、それなのになんで局員なんてしてるんだろ。・・・・・・失礼だよね」



どうしてフェイト・・・・・・ううん、昔馴染みが局員してるか、知ってる。

みんな、それぞれの役職の中に自分の夢や理想がある。だから、局員になってる。



「うん、失礼だ。色々疑問があるのは、僕だけの感情だもの。フェイト達には、何の関係もない」

≪そうですね。ただ・・・・・・いいんじゃないですか? ここには、私しか居ませんし≫

「・・・・・・ありがと」

≪問題ありません≫



なんて話している間に、ハンバーグが焼けた。というか、焼き過ぎた。

その日の夕飯は、片面が見事に焦げたハンバーグを食べることになった。・・・・・・はぁ。



「・・・・・・あれ?」



焦げたハンバーグを見て、気分が落ち込んでる所に通信がかかってきた。その相手は・・・・・・あれ、フェイト?



「どうしたんだろ。こんな時間に」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・スキルアップ?』

「うん。せっかく六課に居るんだし、何か勉強してみたらどうかなと思って」



談話室で、一人ヤスフミに通信をかける。まぁ、その・・・・・・お姉さんとしては、色々お話したいんだ。



「このまま解散まで過ごせれば、一つの自信にはなると思うの。でも、それだけじゃなくてもっとこう」

『・・・・・・フェイト』

「何かな」

『局員になるつもりなら、無いよ?』



その言葉に、少し胸が貫かれる。だから、私は・・・・・・首を横に振った。



「そういう事じゃないんだ。まぁ、その・・・・・・そうなってくれると、嬉しいなとは思ってる」

『なるほど。フェイトは局員じゃない僕はお嫌いと』

「ち、違うよ。そういうことじゃないの」



・・・・・・アレ、ヤスフミちょっと怒ってる? いつもだったら、いきなりキツイ事言わないのに。

というか、表情が険しい。もしかして私、話を始めるタイミング間違えたかな。



「ヤスフミ、そう思うのってやっぱりJS事件が原因?」

『それもある』



それもある・・・・・・か。つまり、他にも色々原因がある。そして、私はそれを知ってる。

ヤスフミ、局の不正とか汚職とかダメな部分とか、そういう所を見ることが多かったから。



『てゆうかさ、あんなもん見せられて局員になれなんて、無茶振りでしょ』

「うん、そうだね。だから、変えたいとは考えられない? 一つの場所の中から、少しずつでも。
それが、現実と向き合うって事じゃないかと、私は思うんだ。自分に出来る精一杯で」

『フェイト知ってる? 一処に溜まった水は、淀んで腐るだけなのよ?
で、腐った結果がレジアス中将だったり、最高評議会じゃないのさ。僕、腐りたくないし』



間違いない、ヤスフミかなりご機嫌斜めだ。でも、私何かしたかな。

いつもだったら、本当にこんなこと言わない。もうちょっとオブラートに包むもの。



「そんな事ない。組織だって変わっていくよ? 人が変わるように、管理局だってこれから変わっていく。
他の局員の人や、ヤスフミの知ってるみんなが一生懸命・・・・・・って、この話はもういいね」



そうだよ、話ズレてるよ。別に今日は、ヤスフミにこういう話をするつもりなかったんだから。



「というか私、ヤスフミに局員になって欲しいって話をするために通信したんじゃないから。うん、そこは絶対なんだ」

『じゃあ、なんでいきなり?』

「せっかくだから、六課の中だから出来る事をやって欲しいなって思って。
私もなのはも、みんなも居るから色々出来るとは思うんだ」



例えば資格勉強とかもそうだし、単純に訓練して強くなるという事以外でも出来ることは沢山ある。

ただずっと、六課に居るだけなんてつまらないもの。それに、もしそういうのを積み重ねれば、何か変わるかも知れないし。



『やめとく』

「そんな事言わないで、考えるだけ考えて欲しいな。
資格一つあるだけでも、仕事はやりやすくなるし、局や周りにも認められるし」

『別に認められなくていい。てーか、そんなのいらない』



・・・・・・ヤスフミの言葉から、『うんざり』という感情が見えた。というか、語気が強かった。

それを聞いて、私は・・・・・・何も言えなくなった。



『僕、元々認められるためにどうこうなんて、興味ないし。
そんな事のために僕は六課に居るんじゃないし、魔導師やってるんじゃない』

「でもヤスフミ、みんなはそうやって」

『・・・・・・フェイトは、局やみんなから認められない僕はいらない?』



その言葉が、私の中で何かを砕いた。砕いて・・・・・・私、手が震えてる。



『みんなと同じじゃない僕は、いらない? だから、そういう事を言うの?
みんなと同じで、みんなから認められて、局や世界からも必要とされなくちゃダメだから』

「違う・・・・・・違うよ。ヤスフミ、どうしちゃったの? どうして、そういう事を言うのかな」

『そうしなくちゃ、僕はフェイトの家族でもなければ友達でもなんでもないから』

「違うよっ! あの、絶対そんなことないっ!!」



私は声をあげてた。画面の中の、どこか冷めたような目をしてるヤスフミに、声が届くように。

ヤスフミ、絶対おかしい。いつもなら、本当に・・・・・・本当にこんな事言わないのに。



「ただ、私・・・・・・私ね、ヤスフミにもっと」

『・・・・・・ごめん、フェイト』

「・・・・・・どうして、謝るのかな。というか、謝らないで欲しいよ」



なんでこうなっちゃうんだろ。・・・・・・私、もうちょっと六課や今居る場所を好きになって欲しいだけなのに。

ただ仕事を通すだけじゃなくて、色々な事をこの場から感じて欲しいと思ってるだけなのに。



『僕、今日ちょっとおかしいわ。・・・・・・ごめん、もうこのまま通信切っていいかな』



・・・・・・ヤスフミが、申し訳なさそうにそう言った。だから私は、食い下がる。



「あの、もしいきなり過ぎて嫌な思いさせたなら謝るよ。お願い、このままなんて嫌なの」



もしかしたら、知らない間に傷つけてたのかも知れない。だからヤスフミと、こんな風になっちゃってる。

ううん、きっと傷つけてたよね。いきなり局入りの話したりして、嫌な思い・・・・・・させた。



「私が何かしちゃったなら、ちゃんと話して欲しいんだ。・・・・・・情けないけど、心当たりが無くて」

『違うよ。・・・・・・フェイトのせいじゃない。僕が、悪いの。フェイトの言ってる事、一応は分かるつもり。
でもごめん。今は全然頷けない。きっと、フェイトの事傷つけるだけだから。フェイト、ごめん』

「だから、謝らないで? ね、もしかして何かあったのかな。
だから、そういう風になっちゃうし、私達全然話せない」

『・・・・・・少しね』



それだけで、充分だった。ヤスフミの『少し』は、大体嘘だから。

きっと、それは『凄く』に変換していいと思う。8年の付き合いだから、分かるの。



「分かった。私もタイミングが悪かったみたいだし、また改めるよ。
ただねヤスフミ、これだけは分かって欲しいの」

『なに?』

「私、ヤスフミが局員じゃないからいらないなんて、思わない。
そんなこと、絶対に思わないから。・・・・・・これだけ、お願い」

『・・・・・・分かった。というかフェイト、本当にごめん。僕、八つ当たりしてた』

「ううん、大丈夫だから。ホントに、大丈夫だよ?」










そのまま、おやすみだけを言って通信を終えた。終えて・・・・・・私は、机に突っ伏した。

『局やみんなから認められない僕はいらない? 同じじゃない僕は、いらない?』・・・・・・か。突き刺さった。

私、知らない間にそういう風に扱ってたのかな。いらないから、そうならないように局員になって欲しいって声をかけた。





・・・・・・ヤスフミに、明日謝ろう。何にしても、嫌な思いさせちゃったのは事実だよ。

というか、そうなのかな。ヤスフミが局員でみんなから認められなかったら、私はあの子がいらないのかな。

そんなの、違う。もしそうだったら、私・・・・・・こんなに心が痛くなったりしないよ。





どうして、こんなに上手く出来ないんだろ。私はヤスフミのお姉さんで、ずっと友達なのに。





というか私、ヤスフミに・・・・・・一体、どうして欲しいんだろ。なんだか、よく分からなくなってきちゃったよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・フェイトに、翌日謝り倒した。お詫びにクッキーなんて焼いて、持ってきた。





だから早朝の仕事前の談話室で、フェイトがYシャツに制服のスカートを履いた姿で驚いた顔をするのだ。










「ごめん。僕、昨日ホントにおかしかった。・・・・・・ごめん」

「・・・・・・あの、大丈夫だよ? ちょっとビックリしただけだから。
というか、私もごめん。嫌な話、しちゃったよね」

「・・・・・・ごめん」

「もう謝らなくていいよ。私達二人とも、互いに悪かった部分があるってことで、おしまいにしよう? それでいいから」



そう言って、フェイトは笑って、大丈夫と許してくれた。

それが嬉しかったり申し訳なかったりで、泣きそうになった。



「それでヤスフミ」

「うん?」

「スキルアップ、考えるだけ考えてみて欲しいんだ。局どうこうは、あまり関係ないの。
・・・・・・ただ、このままずっと居るだけって言うのは、つまらないかも知れないから」

「興味ない。てか、僕は別に勉強しに来たんじゃないし」



僕は、仕事しに来たのよ。それは変わらない。・・・・・・うん、変わらないの。



「なら、そのために勉強していくって考えられないかな」

「・・・・・・今は無理。なんか、資格とかそういうの取る気、失せてるの。局の仕事関連のは特に」





昨日のはやてのあれこれとか考えたら、なんかそういうの嫌になって来たのよ。

前にさ、ヴェロッサさんが言ってたの。六課で言う所のフェイトやなのは、はやての立場に居る人間は、孤独になりやすいって。

仕事の中で誰かが頼ってきても、それはその人の能力やその人の立場や資格、それに伴なう権限に集って来てる。



だから、決してその人個人ではない。上も、下も・・・・・・その役職に就いている人間だから、頼るのよ。

まぁ、局だけの話じゃないね。きっと一般社会にも通じる話だ。何かの役職に就くって、そういう事なのよ。

もちろん、現実はここまで渇いてない。その人の人間性とか、そういうのも見た上で頼ってる。



でも、そういう部分もあるのも事実で・・・・・・そう考えたら、マジでイライラしてきた。

イライラして、みんなが局に居る事が間違った事のように感じて・・・・・・ダメだなぁ。

昨日も言ったけど、みんなそれぞれにやりたい事通すために、局員やってるってのに。



とにかく昨日、その辺りを考えてたら、色々とイライラしてた。

だから、はやてがあんな調子なのかなとか考えたら、特に。

そんな時にフェイトから通信かかってきて・・・・・・アレなの。



あぁもう、マジで八つ当たりだし。フェイトには、関係ないでしょ。





「・・・・・・・・・・・・そっか。なら、無理は言えないね。
こういうのはやっぱり、本人のモチベーションが大事だから」



フェイトは、少し残念そうな顔でそう言った。・・・・・・フェイトは、何も聞かない。

どうしてこれなのかとか、聞いてこない。気を使わせてるんだと思って、申し訳なかった。



「ごめん」

「だから、謝らなくていいよ。・・・・・もう、いいんだよ?
私は大丈夫だから。話せる時が来たら、話してくれるだけでいいから」

「・・・・・・・・・・・・ん」









僕も何があったのかとかは・・・・・・言えなかった。言えるわけが、無かった。

フェイトは、執務官の仕事も局のみんなの事も、きっと好きだから。だから・・・・・・ね。

ただ、スキルアップの事に関しては、ちょっとずつでも考えて欲しいと言われたけど。





別に六課解散後でもいい。何か資格があるだけでも、楽になる部分はあるというのが、その理由。





いざとなったら、自分も力になると言ってくれたフェイトの笑顔が嬉しくて、それでやっぱり・・・・・・申し訳なかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・聞けなかった。何があったかとか、何も。

でも、事情は大体分かるし大丈夫だよね。うん、分かる。

きっと、JS事件でのあれこれが原因だから。それ以外に考えられないもの。





ヤスフミ、やっぱりもっと休ませた方がいいのかな。かなり疲れてるのかも。

疲れてるから、必要以上にお仕事モードを装おうとしたり、昨日みたいに不安定になったりする。

私、単純にヤスフミが来てくれた時は嬉しかった。だって、家族でもあるし、友達でもあるから。





でも、もしかしたら本当に空気を読んでなかったのかも。というか、勝手な期待を押し付けていただけなのかな。





あんな事件が起きた直後で、元々局に対していい印象を持ってないヤスフミがどう思うかなんて、分かり切ってた事なのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、なんでさっそくここにいるのっ!?」

「もちろん、なぎ君が六課でちゃんとやっているかどうかを見に来たの」



時刻はお昼。六課に、突然の来客があった。というか、僕の目の前に居る。

抱えているアレコレに思い悩む暇もなく、嵐はやってきた。



「よし、見たよね。充分見たよね。だから早く帰って、リハビリしなよ」

「ちょっと恭文っ!? ギン姉になんてこというのっ!!」



やかましい。早速再登場でビックリなんだよ。そしておのれが絡んできて、僕は余計に大変なのよ。



「そうはいかないよ。私には、なぎ君の行動の見守り、正しい方向へと導くという使命があるの」



無いよ、そんな使命っ! てゆうか、普通にあり得ないレベルでしょうがっ!! お願いだから仕事してっ!?



「108部隊に居た時だって、そうだったでしょ?」

「あの、それは僕が仕事で居た時だよね? 今は別の部隊じゃないのさ。なぜにここまで来る?」

≪もう諦めません? ギンガさんは、あなたじゃ止められないでしょ≫





・・・・・・そうだね。まぁ、心配してくれるのはありがたいけどさ。

こういう事言ってるけど、なんだかんだで僕の心配してくれてるのは確かだろうし。

そうなのよ。来客って言うのは、ギンガさんなのよ。更生プログラムで忙しいはずなのに。



お昼時のいきなりと言えばいきなりの来訪に僕はビックリ。スバルはニッコリ。



ギンガさんは、なぜか僕の淹れたお茶を飲んでウットリ。





「だって美味しいんだもの。・・・・・・あぁ、やっぱり落ち着くな。
なぎ君の淹れてくれたお茶、本当に美味しい」

「ホントだねぇ〜。恭文、この間のウェアの時も思ったけど、意外と家庭的なんだよね。これがまた、ギン姉のマドレーヌとよく合うし」

「豆芝、一杯1000円だから。もう3杯目だから、3000円だね」

「お金取るのっ!? というか、私に対して絶対キツイってっ!!」



白い壁の談話室の中でそんな声をあげる豆芝は、絶対に自覚がない。

・・・・・・やっぱり空気読めてない?



「おのれのせいで映画を見逃したからだけど、何か? もうどこの劇場でも放映してないよ」



そう、僕は完全にモモ達の最後のクライマックスを劇場で見逃した。

・・・・・・劇場で、見たかったな。くそ、このためにJS事件は頑張ったのに、見れないってどういうこと?



「え、えっと・・・・・・ごめん。あの、アルトやティアナから怒られて、反省してるの。だから」

「豆芝、反省すればなんでも済むと思ってんの? んなわけないじゃん。・・・・・・劇場借り切ってよ。
身銭を切って劇場を借り切って、僕のためだけにさらば電王を放映してよ。ほら、早く」

「あぁ、ごめんっ! お願いだからその怖い目はやめてー!!」





とりあえず、そう叫ぶ豆芝は無視。ギンガさんは事情を知ってるのか、何も言わない。

ギンガさんは、手土産にお菓子なんぞ持ってきていた。

それが、僕達が食べている手作りのマドレーヌ。もちろん大量。



・・・・・・この間のお願いの報酬でしょ。全く、動きが速いというかなんというか。





「それじゃあスバル、早速試してみようか」

「うん」

「試す?」

「あのね、ギン姉と二人で話してて・・・・・・両手でリボルバーナックル、やってみようと思ってるの。あ、恭文も付き合って?」

「だが断る」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ドガァァァァァァァァンッ!!



「僕、断らなかったっ!? なんでここに居るのさっ!!」

≪・・・・・・姉妹揃って、強引ですしね≫

「てゆうか、また派手にガジェットが吹っ飛んだしっ!!」



とにかく、紫色で赤いネクタイに胸元にプレート。両手に白と紫色のナックルを装着したギンガさんが居る。

そんなギンガさんは、ブリッツキャリバー(マッハキャリバーと姉妹機)で全力疾走。



「これで、ラストッ!!」



疾走して、利き腕である左拳で・・・・・・トドメっ!!



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ドガァァァァァァァァァァァァァンッ!!



「・・・・・ギンガさん、本当に退院したばっかり? リハビリ必要な人の行動とその結果とは思えないよ」

≪マリエルさんが知ったら、怒るんじゃ≫



なお、マリエルさんというのは、ギンガさんの主治医みたいな人ですので、あしからず。



「でもアルト、これが基本なんだよね」

≪二人の母親であるクイント・ナカジマさんは、そうですね≫




僕達は演習場へと場所を移して、リボルバーナックルの両手装備を試していた。

以前も話したと思うけど、このリボルバーナックルというデバイスは、二人の母親であるクイントさんの形見。

二人は上手い具合に利き腕が分かれていたので、スバルが右手用、ギンガさんが左手用を装備して使っていた。



本来の装備形式は、今ギンガさんがやっているこれになる。



しかしさっきのスバルので初めて同時装備を見せてもらったけど、これは・・・・・・いいんじゃないの?





「・・・・・・なぎ君、どうだった?」



ブリッツキャリバーで滑るように走りながら、ギンガさんがこっちに戻ってきた。

で、僕は一種のオブザーバーというか、アドバイザーですよ。意見を頼まれたの。



「そうだね。・・・・・・うーん、やっぱ有効だよ。両手装備ってさ」



まぁ、月並みな意見だけど、両手に武器を装備というのは、防御や攻撃の面から言っても有効。

両手がそれぞれ独立してカートリッジを装備しているから、火力の向上が見込まれる。



「リボルバーナックルって敵からすると、パッと見で一番に警戒する部分じゃない?
二人と模擬戦してる時にも思ったんだけど、強力な攻撃は大体装備してる腕からなのよ」

「あ、そうだね。そこは私も常々気を付けてる所だから、分かるよ。
例えば、両手装備だったらなぎ君はちょっとやり辛い?」

「片手じゃなくて、両手に気を配るしね。多少はやりにくい」



まー、剣も片手じゃなくて両手で持ったほうが強いって言うしね。両手バンザイですよ。



「いきなり両手になるから、しっかりと訓練する必要はあるけど」



ギンガさんはまぁ、大丈夫でしょ。ちゃんと片手装備のデメリットも分かってるんだしさ。

というか、何回か訓練付き合ったりしてるもの。うん、ここに不安はない。



「なぎ君から見ると、むしろ両手装備にした方がいいって感じ?」

「だね。これなら、もう一揃えリボルバーナックル作ってもいいとは思う」

「恭文、それってどういうこと?」

「形見なんだから、どっちかに両方預けるとかじゃなくて、新しい同型を両手用で作ってもらうの」



スバルが、ハッとした顔になる。そして、感心した目で僕を見始めた。

・・・・・・なお、ギンガさんは普通。多分やってる最中で考えてたんでしょ。



「で、それをスバルだったら左手、ギンガさんだったら右手に分けて装備する」

≪なるほど。それならば元のリボルバーは、今のまま大事に使えますね≫



これからもシューティングアーツで戦うなら、戦力強化も含めてこれがベストだと思うの。

でも、そんな僕の提案に、二人は何故だか苦い顔を浮かべていた。スバルも、そんな顔に変わった。



「なにか問題?」

「うん。・・・・・・なんていうかさ、まだ私達には、重いかなって」



スバルが、第2話に続いて、また電波な事を言い出した。

重い? えっと、筋力的に・・・・・・じゃないよね。



「じゃあ、なにが重いのよ」

「なんだかね、いけるかなって思ってやってみたんだ。
でも、私もスバルも、まだ母さんみたいにはなれないかなって」

「・・・・・・うーん」



あぁ、そういう話ですか。というか、ギンガさんまで同じなんかい。



「母さんは、家庭も仕事も、両手でしっかりと持ってた。でも、私達はまだそこまで出来ない。
やってみて分かったの。こう、もっと頑張らないといけないかなって」

「まぁ、そうだよね。仕事はともかく、家庭どころか恋愛が無いもんね」

「そうなんだよね。なぎ君と同じで」

「・・・・・・ギンガさん、中々強いね」





僕は二人のお母さんとは顔見知りなわけじゃないから、よく分からない。でも、そう言うんなら仕方ないか。

まぁ、二人にとっては師匠であり憧れの女性であるのは間違いないもの。

それと同じスタイルで行っていいのか、まだ踏ん切りがつかないってとこかな?



そういうのなら、僕も少し分かる。ほら、僕の師匠達も凄まじく強いから、色々考えるのよ。





「ごめんね、なぎ君。せっかく付き合ってもらって、色々考えてくれたのに」

「別に謝ることじゃないでしょ? どうするかは、ギンガさんとスバルが決めればいいんだし」

≪そうですよ。好きなようにすればいいじゃないですか。
背負いたいと思えば、家庭が無くても背負ってしまえばいいんです≫

「・・・・・・そうだね。ありがと」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それじゃあスバル、見送りありがと。なぎ君も」

「いいよいいよ」

「なぎ君も、六課のみなさんにご迷惑かけないようにね? あんまり暴れたりしたらだめだよ。
あと、歯も磨いてちゃんと規則正しい生活もして、お仕事キャラだけじゃない部分も見せて」

「ギンガさん、僕はいつからギンガさんの子どもになったっ!? そのお母さんモードはやめてっ!!」





リボルバーナックルの両手装備は、一時保留が決定した。

その後、僕とスバルはギンガさんの見送りに出ていた。

もうすぐ、部隊からの迎えの車が到着するとかで、僕達は外。



・・・・・・色々と複数の所用込みだったのね。うん、納得したよ。





「ギン姉、恭文ってそんなに暴れてるの?」

「そうだね、なぎ君の使う魔法の大半は、最大火力効率を重視し過ぎていて、周辺被害が広がりやすいの。
・・・・・・とりあえず私の知っている武勇伝を一つあげると、建物一つの支柱を切り倒して、軽々と倒壊させたことがあった」



あー、立て篭っていた犯人をいぶり出そうとした時か。あったあった。



「恭文、そんな事したのっ!?」

「だって、人質取って鬼の首取ったような顔してたからさ」

「人質取られてたのに、そんなことしたのっ!?」

「当然でしょ。僕のお仕事は、連中ぶっ潰す事よ? 優先順位はしっかり決めるの」



人質取られてるからって、そいつら放置で潰されてろと? あいにく、僕はそこまでお人好しじゃない。



「というか、ちゃんと人質の方々には警告したよ? 『運が悪かったと思って諦めて』って」

「結果的には、誰にも被害は出ずに済んだけど・・・・・・いつもこういう感じなの。ほんと、ああ言うのはやめて欲しい」

「嫌。縁もゆかりもない人間のために負けるのも死ぬのも、ごめんだし。僕、エゴイストなのよ?」

「なぎ君、それは周りの親しい人達が、人質に捕らえられても言える? 例えばフェイトさんとか」

「言えるけど? てか、フェイトやなのはにはやてを人質に取られた事、あるけど」



二人がビックリした顔で、僕を見る。だから、頷いてやった。



「大体7年くらい前かな。地球の方でちょっと事件があってさ。三人が居た場所に、爆弾仕掛けた奴が居たのよ。
で、そいつぶちのめせる直前でその話し出したから、無視して攻撃しようとした。まぁ、コッチ側の増援でやり損なったけどね」

「・・・・・・そう、だったんだ」



・・・・・・スバル、そんな目で僕を見るな。なんかこう、居心地が悪いじゃないのさ。

僕、いつもこんな感じなのに。人質如きで僕が止まるとか、思って欲しくない。



「とにかくこんな感じだから、スバルもそうだけどなぎ君のことも心配なの。
なぎ君もアルトアイゼンも、やると決めたら誰にも止められないし」

「それが僕達のいいところだよ」

≪まったくです。倒すと決めたら、相手の答えなんて聞かないだけですよ≫

「違うでしょっ!? というか、答えは聞いてっ!!」



ギンガさんが、頭を抱え始めた。それを見て僕は、スバルを見ながらお手上げポーズ。

うーん、どうしてだろう。スバルまでギンガさんと同じように困った顔してるよ。



「・・・・・・スバル、そういうわけだからなぎ君のことお願いね。
止められないとは思うの。でも、止めようとすることが大事だと思うから」



そんなオリンピックの精神みたいなことを言わないで欲しい。

そして豆芝、張り切るな。僕が疲れるから。



「とにかくギンガさん、気をつけて帰ってね? あと、余計なお願いするな。
僕は自分の面倒くらい、自分で見られるってーの」

「それは分かるけど、ここは部隊だよ? もうちょっと、みんなと仲良くして欲しいな」

「だが断る」

『だから、断らないでっ!?』










とにもかくにも、ギンガさんは戻っていった。スバルは始終腕を組んで、ずっと唸ってた。





まぁ、この辺りは気にしない。そこを気にする前に、僕はある魔王に呼び出されたから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「学校見学? ・・・・・・あぁ、ついに小学生からやり直す決心がついたんだ。
横馬、よく決意したね。大丈夫、ここからなのちゃんになっていけるよ」

「何勘違いしたのっ!? というか、なのちゃんって何かなっ!!」



ロビー近くの休憩所で、なのはとお話。それで聞いた事は、学校見学に行くというもの。



「私じゃなくて、ヴィヴィオの学校だよ。聖王教会系列の、サンクト・ヒルデ魔法学院。
それでもしよかったらなんだけど、恭文君に付き合ってほしいなって」

「・・・・・・どうする、アルト?」

≪やめておきましょう≫

「だね」

「どうしてっ!?」



そんなの決まっている。うん、決まってるじゃないのさ。



「魔王育成のための虎の穴なんて、行きたくないし」

≪全くです。か弱いか弱い子羊の我々に死ねと? 私達に、あなたの生贄になれと言う気ですか≫

「そんなとこ行かないからっ! 二人ともか弱くないからっ!!
といいますか・・・・・・また魔王って言うー!!」

「冗談はこれくらいにして、なんでまた僕に?」

「切り替え早過ぎるよ!!」



なんて言いながら、咳払いしていつもの明るい表情に戻る横馬も、充分切り替えが早いと僕は思った。



「・・・・・・えっと、今度私とスバルとティアはお休み取るでしょ?」

「確か、三日間だっけ?」



この間、スバルとティアナが騒いでたなぁ。休み忘れてて、どこ行くか予定立てなきゃーって。



「うん、その時に学校を見に行くんだけど、恭文君にも付き合って欲しいの」

「何故に僕?」

「だって、力になるって言ってくれたよね。私がヴィヴィオの本当のママになれるように」

「言ってないでしょうが、そんな事っ! と言いますか、僕は仕事あるでしょっ!?」



そうだよそうだよ、仕事あるでしょ? 現段階において、全く休みないのよ?

あり得ないでしょ。ほら、仕事サボって学校見学なんて、行けないでしょ?



「あ、それなら大丈夫」



なのはがニッコリ笑顔で、こう告げた。それが、始まりだった。



「恭文君も、私達と同じスケジュールで休み取ることに決まったから。というか、通達したよね?」



・・・・・・・・・・・・え?



「はぁっ!? ちょっと待ってっ! 僕、何にも聞いてないんだけどっ!!」

「え、でもはやてちゃんが伝えるって・・・・・・まさか、はやてちゃん忘れてたのっ!?」

「うん、そうだろうねっ! だって僕初めて聞いたのよっ!?
あぁもう、あのタヌキはマジで何やってるっ! 心配して損したしっ!!」










こうして、色んな事が決定した。うん、本当に色んなことが。





僕の全然お休みにならないお休みが、始まりを告げた。




















(第8話へ続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで、6・7話の再編成ですよ。おかげでタイトルが入れ替わる形になりました≫

恭文「というかさ。普通にそうしないと、タイトルの意味が通らないのよ。
・・・・・・えー、そんなわけで、加筆修正も7話目ですよ。みなさん、おはこんばんちわちわ。蒼凪恭文です」

古鉄≪古き鉄、アルトアイゼンです。なお、フェイトさん人質取られて無視は、幕間そのはちですね≫

恭文「あれ、フェイト達も爆死する可能性があったしね。そういう意味では、無視してるのですよ。
・・・・・・でも、なんか間違ってる? 僕があの時守りたいのは、フィアッセさんなのに」

古鉄≪優先順位をそうやってきっちり決められる人間は、中々居ないんですよ。普通は動揺しますって≫





(青いウサギ、右耳をくしくししながらそう口にする。まぁ、普通は無理だよねぇ)





恭文「それで今回の話は、追加シーン多いんだよね。後々の21話とか18話とかに繋がるシーンも加えつつだよ」

古鉄≪加筆修正では、フェイトさんのヒロイン押しというテーマがあるので、出番を増やしてるんですよね。
・・・・・・修正前は、この段階まで誰をヒロインにするべきか、ずっと迷ってましたから≫

恭文「ギンガさんかスバルか、それともフェイト・・・・・・いやいや、他・・・・・・って感じだね。
17話まで意外とふらふらした感じではあったのよ。というか、僕・・・・・・ハードボイルドだ」

古鉄≪色々無理してる感じになってますけど。てゆうか、元々あなたはそんなキャラじゃないでしょ≫





(青いウサギ、付き合いも長いから色々分かる)





恭文「それでも僕は、戦う時はそうするって決めてるのよ。『さぁ、お前の罪を数えろ』・・・・・・ってさ」

古鉄≪あの渋さを出すには、あと26年は必要ですよ≫

恭文「まぁ、吉川晃司さんが44とかだしね。そうなるよね。・・・・・・というわけで、次回は休日編です」

古鉄≪ここは、それほど加筆修正するところ・・・・・・ありますね。エリオさんとキャロさんとか≫

恭文「そこの辺りは、追加シーン加えて1クッション置くんだってさ。
そうしないと、8話冒頭に繋がらないもの。というわけで、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは、また次回に≫










(そして、二人揃って手を振る。次回はきっと平穏に進むと信じて。
本日のED:仮面ライダーWのBGM『ハードボイルド』)




















???『・・・・・・ここで休日決まるって、お前も運がないな』

???『もう電王の上映、終わってるのにね。で、学校見学行くつもり?』

恭文「行きますよ。てゆうか、フェイトにも頼まれちゃったんです。
ヴィヴィオ、こういうの初めてだから様子を見てて欲しいって」

???『あー、ハラオウン執務官はお仕事だもんね。法的後見人としては、色々あるってことか。
まぁやっさん、ようやくの休日だし、ノンビリ過ごしな? 大丈夫、きっとノンビリ出来るよ』

恭文「えぇ、過ごしますよ。ノンビリ出来無くても、しますよ。頑張りますよ、僕」

古鉄≪本当にゴチャゴチャし過ぎてましたし、そう願いますよ。私も、少し息を抜かせてもらいますね≫

恭文「うん、そうして?」










(おしまい)






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あきゅろす。
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