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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース17 『ティアナ・ランスターとの場合 その11』



雷光があむに迫る。このままでは、当然のように串刺し。

そう、串刺しになる。黒い人形は、その中に居る悪意は、それを当然の結果だと思っただろう。

でも、甘い。それは勘違いもいいところだ。だから、僕は遠慮なく目の前の人形に右足で腹部に向かって蹴りを叩き込む。





そうして怯んだ人形に向かって、魔力を宿した刃を胴に突き入れる。切っ先は胴のど真ん中を貫通。人形は、身体を震わせてそのまま動きを止めた。

刃を引き抜くと、人形は某コピーロボットの姿になった。そして、その中からたまごが出される。黒くて、×の付いたたまごが。

そのたまごがはじける。ただし、はじけるのは×と表面の黒。その中から出てきたのは、白い、羽の絵が描かれたこころのたまご。





そしてそのたまごは、そのまま空高く飛んで行った。これで・・・・・・安心してあむのサポートに向かえる。

すぐにフォローに向かわなかった理由? そんなの簡単だよ。

あむは・・・・・・目の前の悪意なんぞに負けない。あむは、×の付いたエリオなんぞよりもずっと強いんだから。










(・・・・・・なんだと)





あむは、瞬間的に近くに居たランとキャラなり。ピンク色のチアガール姿になっていた。

みなさまもうご存知なあむのキャラなりの基本形態・アミュレットハート。その特徴は、高い運動能力。

だから、余裕で人形の突撃を見切り、上空高く飛んで避けている。人形は地面を滑るように着地した。



そして、一瞬固まる。どうやら避けられたのが相当意外だったらしい。槍の穂先や手元に視線を向ける。





「・・・・・・鉄輝」





だから・・・・・・お前は僕に後ろを取られるんだよ。



袈裟に、遠慮なく・・・・・・刃を叩き込む。





「一閃っ!!」





青い閃光と、振り向きざまに雷撃を宿した上で打ち込まれた槍の一撃が、その場で衝突する。

場に広がるのは黒い雷撃。それを、鉄輝一閃が斬り裂き続ける。

その余波が、雷撃の礫がジャケットを叩くけど、問題ない。ノーダメもいいところだ。



ゼロフォームの防御力の高さを舐めんなっ! この程度でどうにかなるほど・・・・・・ヤワじゃないのよっ!!





「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





そのまま強引に、刃を、そして力を叩き込む。それにより、槍の穂先を青い閃光が斬り裂く。

でも、それだけだった。人形は咄嗟に槍を手放して、そのまま大きく後ろに飛んだ。

恐らく、そのままだと自分も両断されると考えたからだ。そして、それは正解だった。両断された黒い槍が、地面に落ちて、蒸発するように消えた。



僕は追撃をかけようとする。ここは当然だ。相手は武器がない。ここを狙わない理由なんざ、どこにもない。





(・・・・・・サンダー)





瞬間、人形が右手を上げる。上げた掌の中に、黒い光が集束していく。



嫌な予感がして、左手を使ってスティンガーで撃墜しようとした。でも、遅かった。





(レイジ)










巻き起こったのは雷撃の嵐。黒い暴力が、辺りの物を蹂躙する。





そして、僕も、後ろで着地していたあむも、側に居たリインも、それに巻き込まれる事になった。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース17 『ティアナ・ランスターとの場合 その11』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、二階堂。どんな感じ?」

「うーん、こっちの無傷なのは僕が前に作った強化ボディの劣化品・・・・・・いや、量産型って言うべきかな。性能を下げて、大量生産を可能にしたモデルだよ」

「ワンオフ型の次に来て当然のですね。これはこの間出て来たのとして・・・・・・じゃあ、こっちのはなんですか?」



リインは、横長の机に置かれた、胴に穴が開いた方を指差す。それを見ながら二階堂が表情を苦くする。

いや、怒ってる。なんかすっごい怒ってる。だって、普段のおとぼけキャラが剥がれてるもん。



「こっちの方が僕が作ったのに割合近いね。でも、近いのは能力だけ。他はヒドい。これじゃあ×たまとのシンクロ率が低くなるだけなのに」


どうやら、自分の作ったものを勝手に弄られてるのが不服のようだ。科学者としてのプライドってのがあるらしい。

どっかシャーリーとかマリエルさんの影がちらつくから、不思議だ。



「現に、君達とヒマ森さんが戦った時も二体とも剣持ちだったんでしょ? それも全く同じ」

「そうです。・・・・・・それが×たまとのシンクロ率が低い証拠ってことですか? シンクロ率が低いから、たまごの特性をそのまま表に出せない」

「そういうこと。で、それをなんとかするために、武装を剣に固定して、近接戦闘寄りの調整を施してる。蛇足に蛇足を足してるわけだよ。
てゆうか、腹立つなぁ。僕の調整で完璧だったのに、そこに横から無駄な手を入れるからこうなるんだよ。こりゃ・・・・・・もしや九十九の仕業か」

「九十九?」



二階堂がボソっと呟いたのを、僕は聞き逃さなかった。なので、当然のように二階堂に視線を向けつつ聞く。

二階堂は、二体の人形のデータが映し出されたノートパソコンのモニターとにらめっこしながら、答えてくれた。



「イースター所属の技術者。僕と同じエンブリオ捜索を請け負った別チームの三条ゆかりって性悪女の部下だよ。
この乱暴なやり口というか、人の物を臆面もなく自分が作ったかのように誇る調整の仕方。あの男がやりそうだ」

「そう。ちなみに、結構仲悪かった?」

「少なくとも、君とランスターさんの仲の良さには負けるね」

「なるほど、そりゃ納得だ。てか、それで勝ってても嫌だよ」

「あ、それもそうだね。僕、そういう趣味はないし」





とにかく、これで合点が行った。つまり、その九十九ってのがこの人形の運用実験を行ってたのがあれと。

あと、なでしこが留学前に遭遇したのも同じくだ。そして、エリオの×たまがこっちの蛇足に蛇足を足したのと同種と思われるボディを略奪したのもここでしょ。

ようするに、見抜いたのよ。あむのリメイクハニーで浄化されて、地面に落ちていた量産型より、あむや僕に襲い掛かっていたコイツの方が強いってさ。



でも、それじゃあ足りないな。・・・・・・運用実験を行ってたってことは。





「どこかでイースターの連中が様子を見てたのは間違いないわね。
で、当然人形が一体乗っ取られたのも知ってる。ね、二階堂先生、あむ。こういうことって前にもあったの?」

「僕の知る限り、そういう事例は見られてないね。ヒマ森さんも同じくでしょ?」

「うん、あたしも見たことがない。×たまが×たまを攻撃して壊すなんてとこも・・・・・・同じく」



あー、確かにそこがあったか。そうすると・・・・・・とりあえず、ティアの顔を見る。

・・・・・・視線が合うけど、ティアはすぐに視線を下に落とした。別に喧嘩したとかじゃない。ティアの手は今全力全開なのだ。



「・・・・・・モンディアル君のたまご、確保するなら早めに確保したほうがいいよ」

「二階堂、その心は?」

「稀有な実験材料として見られる可能性があるからって言えば、納得してくれる?」

「納得した」





ようするに、そういう反応を起こしたたまごだから、なんとか手にしようとするわけですか。確かに今までの行動から見るとやりそうだわ。



・・・・・・痛い、痛いよティア。もうちょっと優しくして?





「うっさい、いいからじっとしてて。・・・・・・雷撃による裂傷に火傷。傷自体は浅くないんだから、ちゃんとしないとダメよ。
全く、リインさんやあむはほぼ無傷なのに、なんでアンタだけこれ? おかしいでしょ」

「恭文、大丈夫? てゆうか、ごめん。あたしとリインちゃんをかばったから・・・・・・」

「大丈夫。てか、フロントアタッカーは盾になるのも仕事よ? これくらい出来なくてどうすんのさ」





隣に座るティアナが、僕の腕に包帯を巻いてくれる。うん、結構キツめに。

現在、僕とあむとリインは、聖夜小に戻ってきてる。ここは、視聴覚室。仕事中の二階堂を呼び出して、あるものを見せていた。

それは、あの時入手した二体のコピーロボットもどき。もとい・・・・・・×たま強化ボディ。



一つは、最初に僕とあむが遭遇したもの。もう一つが、さっき二階堂が言ってた『ヒドイ』やつ。で、それに関しての検証は今までのやり取り通り。

あの雷撃の嵐の中、僕はあむとリインを庇って防御魔法を展開した。だけど、それを貫かれて少々傷を負った。

ここはまだ動けるので問題はない。てか、軽傷もいいところだもの。ゼロフォームの装甲は厚いんだし。



で、人形は結局逃がした。その直後にティアが来てくれて、一時退却という判断になったのである。





「・・・・・・ん、これでよしっと」



腕の包帯を巻き終えたのか、ティアが満足そうな顔をする。

で、身体をちょっと動かしてみる。・・・・・・うん、いい感じ。これならオーケーかな。



「ティア、ありがと。ほんじゃ早速・・・・・・」

「行くわけね」

「もちろん」



そのまま、椅子から立ち上がる。時刻はお昼。もう一回出て・・・・・・なんとか見つかればいいんだけど。

とりあえず、今回はティアも最初から一緒かな。唯世は以前言った通りに学園からは動かせない。学園内に出てくる可能性だってまだあるんだから。



「ま、気をつけてね。先生達には後で報告だけはしておくように。もちろん、嘘の理由をでっち上げた上でね。・・・・・・あー、蒼凪君。一つ忠告」

「なに?」

「モンディアル君の行動を僕なりに分析してみたんだ。どうして、あの子の×キャラが他のたまごを壊すような真似をしたのかと」



・・・・・・二階堂が、立ち上がった僕の目を真っ直ぐに見る。で、ため息混じりに僕はその視線にこう答える。



「エリオの×キャラは、他のたまごを壊したいんでしょ? もっと言えば、自分以外の人間の夢を」



ティアナとあむ、リインが息を飲む。飲むけど・・・・・・多分これで間違いない。

だって、二階堂が頷いたんだから。二階堂の忠告は、この辺りに関係してるのは間違いないようだ。



「そうだよ」

「ちょ・・・・・・ちょっと待ってっ!? なんでエリオ君の×キャラがそんなことするのっ! あたしワケわかんないしっ!!」

「いい? エリオは空海の話だと自分とあむや唯世、やや達みたいな普通の小学生と自分とを比べた。そして、そこでまた悩みが深くなった」



・・・・・・バカな奴だよ。人様羨もうが何しようが、変えられるのなんざ自分しか居ないってのに。

人は、変えられないよ。変えられるのは、自分だけ。だけど、あのバカは人を変えようとした。



「で、それがこんがらがってこう考えたんじゃないの? 『自分は真理に気づいたからこうなった。だったら、みんなに気づかせてやる』・・・・・・ってさ」

「だから、あれ? ・・・・・・そんな」

≪全く、だから真面目キャラは性質が悪いんですよ。糸が切れた時の暴走の勢いがおかし過ぎますよ≫

「ですです。どうしたらそうなるのかさっぱりですよ」





アルトとリインの言う通りだ。まったく、保護責任者とそっくりってどういうこと? おかし過ぎるでしょうが。

うし、絶対フェイトに進言しよう。もう少し二人はいい加減な性格になるように指導していけと。

てか、また同じ事があっても僕は絶対手出ししたくないし。



なんで僕がそんな真似しなきゃいけないのかイミフだし。それをやるのはフェイトか、フェイトの将来の旦那様(女性も可)の仕事だよ。絶対僕の仕事じゃない。





「あぁ、なるほど。だからアンタの先生はアンタをいい加減な性格に育てたわけね」

「そうそう。・・・・・・って、ティアっ! 彼氏に対してそれはひどくないかなっ!?」

「問題ないわよ。アンタを見て色々納得しただけだから」

「納得するなっ!!」





・・・・・・つまりですよ、エリオの×キャラはこころのたまごを狙ってくるはず。

壊すために、手前勝手な真理を押し付けるためにだ。あの行動は、疑いなくそれを連想させるに値する。

だからこそ、絶対に止めなくちゃいけない。理由はどうあれ、もうあんな真似はさせるわけにはいかない。



さっきはあぁ言ったのに関わる理由? 僕が目の前でやられると気に食わないからだよ。それ以外にやる理由ないでしょ。





「まぁ、分かってるならいいんだ。とりあえず、辺里君達には僕から話しておくけど・・・・・・」





この辺りの理由は分かる。たまごを狙うなら、キャラ持ちでたまごが現実に存在しているみんなを狙ってくる可能性が高いからだ。心構えがアリとナシとじゃあ、色々差が出る。

そういや、ダイチはなんで・・・・・・いや、もしかしたらあの場所から離れてからごちゃごちゃしたのかも。

考えてみれば、真面目キャラなんて普段はともかく異変時には若干思考がアレになるのは常識だもの。どういう変化が起こっても不思議じゃない。



もしくは、エリオ自身がしゅごキャラが見えてない様子だったから、×キャラ化した直後はそういうのをよく分かってなかったとか・・・・・・かな。





「君のお姉さんや、ルシエさんには言わない方がいいよね」

「うん、それでお願い。知ったら知ったでまためんどくさいし」

「随分ヒドい言い草だね」

「そうもなるよ。もうちょいグータラでいい加減な人格に育ってくれてれば、僕達も楽が出来たんだから」










・・・・・・とにかく、二階堂に後をお願いして、僕達は再び学校の外に出ることにした。





とは言え・・・・・・どうしたもんか。まぁ、歩きながら考えるか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・歩きながら考えるとは言った。うん、そう言った。





でもだからって・・・・・・この状況はありえない。










「ね、アンタ・・・・・・マジで運悪くなってない? これはおかしいでしょ」

「恭文、今度は何したの?」

「こら二人ともっ! なんでもかんでも恭文さんのせいに」





とか言いながら、三人は僕と同じように散開する。そこにあるものが飛んでくる。



それは黒い雷光。黒い雷光はまるでどこぞの隕石の如く地面へ着弾する。





「するのはやめてくださいっ! 恭文さんはこれがデフォですよっ!?」

≪そうですよ、あなた方そろそろ理解しましょうよ≫





なんて呑気に話してるけど、僕は全然呑気じゃない。



そこから僕の方へ飛んできた人形の槍をアルトで弾き、避けて、斬り合ってるから。





「お前らうるさいっ! てか、人が必死で頑張ってる時に変なこと言い合うなっ!!」

≪本当ですよ、全く・・・・・・緊張感が欠如してますね≫










そんなことを言いながらも、斬撃は線を描く。その線は力。力はぶつかり合い、火花を、小さな光を放ち続ける。

接触は間を置かずに何度も行われる。力のぶつかり合いが放つのは、光だけじゃない。空気も震わせていく。

衝撃は、音と共にリインが張ってくれた結界の中に響き渡る。その衝撃を全身に浴びながらも、僕も、人形も、決して譲らない。





てーか・・・・・・譲れるわけがない。だから少しずつ、斬り合いながらも踏み込んでいく。それにより、槍による刺突の衝撃が強く、鋭くなる。

突き出された槍を、アルトで左側に弾く。僅かに穂先が、青いジャケットの左の二の腕部分を、ティアが巻いてくれた包帯を斬って散らす。

だけど、僕はそれに構わずに一気に踏み込んだ。距離は1から、零に変わる。





そのまま、刃を左から胴に向かって叩き込む。瞬間、人形が僅かに下がった。その僅かな『回避』によって、人形は僕の斬撃を避ける。

刃の切っ先が金属質な感触のボディを斬る。いや・・・・・引っかく。その部分から火花が散り、ボディに傷が出来る。

そして、槍の柄を持つ手が僅かに下がる。人形の手に力が篭るのが見えた。黒い槍の刃が、僕の左側・・・・・・首のすぐ横に来る。





刃が、打ち込まれた。そして、人形は大きく飛んで下がった。刃は引き斬りの要領で、接触点に勢いのある斬撃を与えた。

人間の身体はとても脆い。そんな真似をされたら、僕は死ぬ。

だから、攻撃が来ると分かった時、槍の刃と首の間に左腕を入れて、攻撃を防いだ。





左腕には、当然のようにジガンが装着してある。ジガンの表面部分に浅い傷を与えて、人形の攻撃は失敗に終わった。

人形は僕と3メートルほどの距離を取る事になった。着地してから、また雷の槍を生成。それを僕に対してぶっ放した。

アルトを袈裟に、横薙ぎに振るい、それらを斬り裂く。そうしながら、前へと踏み込む。





人形がもう一発、至近距離からぶっ放す。ジガンに魔力を込めて、拳に青い魔力を纏わせる。それから、裏拳の要領で叩き落す。

拡散された力の粒子が、目の前で一つずつ、宙に消えていく。その中を斬り裂くように、再び黒い雷光の槍が打ち下ろされる。

いや、突き出される。人形は飛び出しながらも跳躍して、上から下に向かってその切っ先を僕に向かって突き出した。





後ろに跳んで、それを避ける。切っ先は地面に性懲りも無くまた穴を開ける。

それから、そのまま踏み込んで僕に迫る。切っ先が地面を抉り、線を描く。

距離が充分と思ったのか、下から上に向かって勢い良く斬り上げた。地面を構成する土が、僕の前に舞う。





その攻撃を、アルトを前にかざして防ぐ。衝撃で少し後ろに下がる。人形はそれを好機と見たのか、片手で持った槍を引いて、僕に狙いを定める。










「・・・・・・ハートロッドっ!!」










回転しながら飛んできたのは、二つのピンク色のロッド。それが僕へと迫ろうとしていた人形を狙う。

いや、それだけじゃない。オレンジ色の弾丸と氷の短剣が数発、そのロッドの周りをうねりながら飛ぶ。

僕はその間に後ろに跳んで、数メートル距離を取った。取りながらも、左手の人差し指をあのバカに向ける。










≪Stinger Ray≫










他の攻撃と時間差を付けた上で放ったのは、青い光弾。それが人形を狙う。

人形は、こちらを見もせずに雷撃の槍を生成して、スティンガーに向かって放ち撃墜。

そして、残りのバトンとか短剣とか弾丸とかに向かって・・・・・・槍の穂先を向けた。





その穂先に、エネルギーが集束していく。黒い、光の粒子が・・・・・・いや、雷撃が集まり、ある形を取る。

それは砲弾。丸い砲弾から、小さく雷撃が迸っている。

・・・・・・ちょっと待てっ! 砲弾っておかしいでしょうがっ!! まさか・・・・・・マジで砲撃っ!?





で、マジで砲撃だった。槍の穂先から、フェイトのプラズマスマッシャーを思わせる奔流が放たれる。

それがロッドも、短剣も、弾丸も飲み込み、あむとティアとリインを狙う。

それは・・・・・・遠慮なく着弾し、爆炎を上げた。










(・・・・・・しぶとい)










なんか呑気に言ってる人形に迫り、袈裟に打ち込む。人形は、それを左に飛んで回避。僕と先ほどまでと同じように10数メートル距離を取る。

僕は、横目で立ち上る爆煙を見る。・・・・・・その左右に、影を三つ見つけた。左にティアとリイン。右に、尻餅を付いたような体勢のあむ。

それに内心ホッとする。ホッとして・・・・・・人形に刃を向ける。










「あむ、大丈夫っ!?」

「な、なんとか・・・・・・。てかティアナさん、なんなんですかこれっ!?」

「砲撃よっ! てか・・・・・・マジでパワーアップってどういうことよっ!!」





ティアナ、パワーアップじゃない。エリオ・・・・・・元々使えるのよ。

六課解散時は習得してなかったけど、保護隊の仕事やりつつ練習してたらしい。

キャロが送ってきた近況メールに書いてたよ。エリオが頑張ってるとかなんとかってさ。



・・・・・・・・・・・・あのバカ。





(お前達・・・・・・よく、僕のことが分かったな)

「分かったもなにも無いわボケっ! 普通に学校の中じゃないのさっ!!」





ここは、学校の中庭の中。僕達の目の前に今立ち塞がるのは、黒い槍を持った人形。

そう、普通に学校の外に出ようとした時に、普通に影を見つけた。

で、普通にそれを三人で追いかけたら、普通に遭遇した。



あ、ありえない。RPGでランダムエンカウントでラスボスと遭遇するくらいにありえない。





≪たまごを狙ってこっちに来たんでしょ。丁度戦闘能力低めな方々がほとんどですし≫





確かにその通りかも。で、僕達が居ないとか思ったのかも知れない。

ここに来るまでが僕達より時間かかったのは、もしかしたら鉢合わせしないように回り道してた・・・・・・とかかな。

とにかく、これは好都合だ。だって、九十九とか言うお邪魔虫が介入してまた強化ボディを投入されてもうざい。結界だから逃げられないし・・・・・・ここで仕留める。





「そうね。あと、アンタの言う通りなら間違いなくここは餌場よ」



ティアがクロスミラージュを再び構える。銃口の先には、黒い槍騎士。



「そんなこと、させない。そんなの・・・・・・絶対だめ」

【自分に×が付いたからって、人のたまごを壊していいことになんてならないよっ! そんなの、ただの八つ当たりじゃんっ!!】



あむも、とっくにアミュレットハートにキャラなりしてる。僕もセットアップしてる。ただ、僕は今回ゼロフォームにはなってない。

なんて言うか、こんな奴にカードなんざ使いたくない。というわけで・・・・・・踏み込む。



「エリオ、アンタ・・・・・・マジでいい加減にしなさいよっ!!」





ティアが放った弾丸が人形に迫る。人形はそれを槍で斬り払う。そこを狙って、僕は踏み込んで、更に加速。アルトを抜き打ちで左から叩き込む。

その斬撃に手ごたえは無かった。人形は上に跳んでそれを回避。回避しつつ、槍を両手で持って僕に叩き込む。

叩き込まれた槍の穂先が地面を穿つ穴を開け、そこから雷撃が迸る。・・・・・・右に飛んでそれを避けつつ、距離を取った僕を追撃しようとする。



そこに、数発のオレンジ色の弾丸。エリオの足元を、手元を狙うような精密な軌道。当然、ティアのもの。

エリオはそれを、先ほどと同じように槍で払いつつ・・・・・・いや、払わない。

周囲から生まれるのは、雷撃の槍。エリオがフェイトから教わって使えるようになった射撃魔法と全く同じ形。



そう、先ほどから何度も使っている黒いプラズマランサーだった。それでその全てを打ち落とす。僕達の間に爆煙が生まれ、隔てる。





「・・・・・・お前、なんでこんなことするわけ?」

(なぜ? 聞く必要あるのかな。・・・・・・真理を教えてあげるんだよ)



楽しそうに声が響く。そう、楽しそうにだ。

・・・・・・言葉は、続く。



(奪う事、壊す事、それが真理だ。奇麗事の奥に隠された真実。でも・・・・・・僕だけが知ってるのはだめだろ?)



黒い人形が、大きく手を広げる。広げて・・・・・・・声が大きくなる。



(だから、教えてあげたんだ。あのたまごは弱かった。だから壊されるんだってさ。・・・・・・そう言えば、君達もたまごを持ってるよね。気配がするもの)



あむと、僕の方に人形が視線を向ける。そして、その無表情な顔立ちから、笑顔を感じてしまった。

そう、コイツは笑ってる。・・・・・・笑ってるんだ。



(ねぇ、出しなよ。僕が真理を教えてあげるからさ)

「エリオ・・・・・・アンタ、ふざけんのも大概にしなさいよっ! アンタ、それでも元機動六課のフォワードっ!? マジでバカでしょっ!!
なのはさんやヴィータさんにシグナムさん、フェイトさんやみんなが私達に教えてくれた事は、そんなバカげたことじゃないでしょうがっ!!」

(あんたも、分かってないんだね。・・・・・・そんなの、無意味だったんだよっ!!)





槍の穂先に、雷撃が灯る。黒い雷撃が、周囲に落ちる。



それにティアとあむ、リインが防御体勢を取る。だけど、僕は立ち尽くしていた。





(そう、無意味だったっ! あの中で僕がやってきたことは無意味だったんだっ!!
真理なんて、なにもなかったっ! もう・・・・・・そんなのどうでもいいっ!!)





その中を、僕は・・・・・・前に踏み出した。



一歩ずつ、ゆっくりと。





(・・・・・・あれ? もしかしてあなたからたまごを壊されたいのかな。じゃあ、いいや)





雷光が走る。それは僕に向かって。



鋭く、早く、破壊しか呼び起こさない槍の切っ先が、鋭く突き刺さろうとする。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふざけんな」





槍の穂先を、身体を左に捻って回避する。いや、振りかぶる。右拳を強く・・・・・・強く、握り締める。

そして全力で、捻った身体を今度は逆回転させつつ右拳を叩き込んだ。顔面に全力で。

それにより、人形の頭部が砕け散り、そのまま後ろに吹き飛んだ。



槍の穂先からほとばしっていた雷撃で、ジャケットが少々ぼろぼろになる。でも、いい。



そんなの、もうどうでもいい。





「そんなに真理とやらがお望みなら、壊してやるよ。お前に本物の破壊って奴を、心身共に満足するように味わってもらおうか」





踏みしめながら、今度は両の拳を握り締める。強く、強く、そして硬く。



集中しろ。コイツはエリオのたまご・・・・・・だけど、憎むべき悪意だ。




「あむ、ティア、こいつは僕が叩き潰す。手出さないで」

「「・・・・・・マジ(ですか)?」」



マジだよ。



「ちょっと待ってっ! 一人でなんて、そんなのダメだよっ!! アンタ、なんでまた一人でなんとかしようとするのっ!?」

【そうだよっ! それに壊すって・・・・・・エリオ君はどうなるのっ!?】





人形がふらふらと立ち上がる。どうやら、頭を壊しただけじゃどうにもならないらしい。



中々に丈夫な作りだと思いつつ、あむ達の言葉に答える。





「うっさい。いいから下がってろ。・・・・・・許せない」





そのまま踏み出す。人形は凝りもせずに槍を突き出して、突っ込んでくる。





「・・・・・・許せない。コイツの今言ったことは、絶対に許せない。エリオには、その対価を払ってもらう」





だから、壊す。もうこんな事を言わないように、徹底的に壊す。



アルトを打ち込み、槍を払う。払われた槍を返して、人形が槍を突き出してきた。



僕は右に避けて、左手を伸ばしてその柄を掴む。





(あははは、そっか。あなたは真理を分かってるんだ。そうか、そうだよね。僕達仲良く出来そうだよ)

「一緒にすんじゃねぇよ。・・・・・・僕は、お前とは違う」



左手を握り締める。強く・・・・・・強く。



「確かに、戦いは壊す事だ。武器は凶器で、それを扱う術は殺人術だ。どう言い訳しようが、どんな御託を抜かそうが、それが真理。戦う事は、相手を踏みつけ、傷つける事」





それに、エネルギーで構築されているはずの槍が軋む。軋んで音を立てる。





「絶対に奇麗事じゃない。あぁ、そうだ。その通りだ。あむやティア、なのはやフェイトの言ってたことは、ぶっちゃけ・・・・・・本当の意味で手を汚した事のない人間だから言える奇麗事だ」





握り締めて・・・・・・そのまま、槍の柄を握り潰す。



握り潰された柄の破片が、粒子となって宙に消える。その部分から、槍は分かたれる。





「・・・・・・でもなっ! それが全部じゃないっ!!」

(・・・・・・なんだと?)

「戦う意義は、真理は、自分で決めていくもんだっ! そうすれば、凶器で、殺人術で、壊すための術で・・・・・・大切なものを守ることだって出来るっ!!
一体自分が何を守りたいかを、それを守るために業を背負う覚悟を忘れた奴が、人に偉そうに答えを押し付けてんじゃねぇよっ!」





そう、だから壊す。徹底的に壊す。



でも、壊すのはたまごじゃない。



壊すのは・・・・・・そうだ、僕が壊したいのは・・・・・・!!





「お前のそんな緩いはた迷惑な真理なんざ、今すぐ・・・・・・叩き壊してやるっ!!」










僕の大事な荷物の未来を、今を消し去る悪意。あむ達の流儀に合わせるなら、こころに付いた×。

そんな悪意で、未来が消えるなんて、今が壊れるなんて絶対に認められない。

僕は神様になんてなれない。なのは達みたいな組織の人間にもなれない。自分の力を『守るための力』なんて思えない。





そんな僕にでも、出来ることがある。それは、壊す事。壊して守るなんざ、矛盾してるとも思う。でも、壊したい。

・・・・・・今壊したいのは、エリオに付いた×。あのバカがこんなにこんがらがる原因になった絶望。

集中しろ。斬ろうと思って斬れないものなんてない。僕の魔法が、×たまを斬っても浄化出来る・・・・・・いや、違う。





・・・・・・そっか、ようやく分かった。僕は、×たまを浄化してたわけじゃないんだ。

僕はただ、たまごに取り付いた絶望を、迷いを、魔法という力を通して、あの子達の力を借りて、斬っていただけなんだ。

僕は浄化なんて、最初から出来てなかった。ただ、斬りたいと思うものを斬っていただけ。





だったら・・・・・・お願い。力を、貸して。こんな今を壊すための力を。未来を守るための力を。










”・・・・・・認められませんか? こんな今は。こんなあの子の姿は”





認められるわけない。こんなの、絶対に認められない。



・・・・・・あれ、僕は誰と話してるのさっ!!





”分かりました。ならば、願ってください。もっと強く・・・・・・壊したいと”





てか、この声は誰っ!?





”未来が、今が消えていく可能性を壊したいと、ただひたすらに願い続けてください。そして・・・・・・お兄様、一緒に行きましょう”





え?





”私達の心・・・・・・アンロック”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・アイツの身体が光に包まれた。それは、緑色。

いや、翡翠色って言うのかな。そんな色に包まれたアイツから、人形が距離を取る。

てゆうか、私達みんなワケが分からない。あんまりにいきなり過ぎるから。





でも、すぐに分かった。光の中に、アイツ以外の影を見つけたから。










【あむちゃん、アレっ!!】

「翠色の・・・・・・たまご」

「アレ、アイツのたまごじゃないのよっ!!」





それに気づいた途端に、光が弾けた。



それは風を伴い、たまごに反応して飛び込んでいた黒い人形を吹き飛ばす。人形は、そのまま地面を転がる。





「・・・・・・キャラなり」





光の中から声がする。それは、アイツ・・・・・・いや、アイツの声じゃない。

というか、その声に寒気がした。脳裏にこびり付いていた忌まわしい記憶が蘇る。

や、やばい。足が震える。震えて立てなくなりそう。てゆうか・・・・・・あぁ、やっぱりなんだ。



光の中から姿を現したのは、瞼を閉じた一人の『女性』。腰まである翠色の長い髪。髪の左側に十字架のアクセサリー。

身に纏う服のデザインは聖王教会のシスター服そのまま。ただし、スカートがあむのアミュレットスペードのように短パン形式になってる。

そして、腰の後ろの部分にフードが生まれ、自身から生まれる風に黒に近い色合いのそれが靡く。



両手には黒の指が出るタイプのグローブ。そのグローブに、拳を保護するように銀色の金属製パーツが装着されている。

ゆっくりと、目を見開く。見開いた目の色は青。アイツの魔力と同じ色。深くて、優しい色合いの瞳。

・・・・・・その姿を見て、私は思った。多分、リインさんも同じ。そう、私達はあの姿が何かを知ってる。



そして思った。寄りにも寄って・・・・・・これがアイツのキャラなりなんて、残酷過ぎると。





「セイント、ブレイカー」





あぁ、間違いないっ! アレぶっちぎりでシスター・シオンじゃないのよっ!!



てーか、なんでああなるのっ! なんで寄りにも寄ってアイツの女装姿がキャラなりになるのよっ!! もしかして女装願望が実は有ったとかっ!?





「違いますよ、ランスターさん」



なんか思考を読まれてたっ!? てか、ランスターさんって言いながら微笑むのはやめてー! マジで違和感あるんだからっ!!

そ、そうよっ! その・・・・・・恋人同士で、頻繁にエッチもしてるから余計に違和感があるのよっ!? お願いだから自重してー!!



「私がお兄様のしゅごキャラなのには、理由があるんです」

「え、『私が』ということは・・・・・・」

「はい、私はシオン。お兄様のしゅごキャラです」



当然のように、私とリインさんとあむは顔を見合わせる。見合わせて・・・・・・・・・・・・叫んだ。



【「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」】

「ちょ、ちょっと待ってっ!? 君がしゅごキャラってどういうことかなっ!!」

「そうですよぉっ! そもそもしゅごキャラはそんなに大きくなれませんっ!!」



あぁ、ごめん。私・・・・・・もう、だめ。



「あぁ、ティアしっかりするですー!!」

「お願いだから倒れるのやめてくださいっ! てか、それはあたしがしたいんですからー!!」



そっか、それは私と同じね。でもごめん、出来るなら許して欲しい。

さすがにキツいの。前に見た時の数倍キツいの。あぁ、なんだろこれ。



「あ、今はお兄様の身体をお借りしてる状態なんです。身体はともかく、人格は先ほど言った通りなのであしからず」

「それワケわかんないよっ! キャラなりの時に宿主の身体を借りるしゅごキャラなんて、ボク聞いたことないしっ!!」

(・・・・・・僕を)



その声に私達はハッとする。そちらを見ると、人形が立ち上がって、アイツの目の前に居た。

さっき砕いたはずの頭が何時の間にか再生されて、その目がアイツを・・・・・・シオンを見据える。



(忘れるなぁぁぁぁぁぁっ!!)

「何を言ってるんですか」





突き出された槍を、アイツ・・・・・・シオンは苦も無く避けた。というより、姿が一瞬消えた。

気づいた時にはシオンは懐に入り、人形の胴体に右、左と拳を叩き込んでいた。

人形がそれに怯む。すぐに体勢を整えて反撃しようとするけど、シオンが早足で間合いを詰める。



そこに袈裟から叩き込まれた槍を、苦も無く左手の甲を使って払う。そして、腹部に右足で蹴り。人形を蹴り飛ばし、距離を取った。





「忘れ去られる程度の存在感しかないくせに、偉そうなことを言うのはやめてもらえませんか? ハッキリ言って、目障りです」





な、なによアレ・・・・・・。なんか無茶苦茶強いし。てか、動きを目で追うのがやっとなんですけど。



あぁ、それ以前に性格が・・・・・・やっぱり性格が全開だ。平然と『存在感がない』とか『目障り』とか言い放つし。





「当然ですわ」

「だから、アンタ思考を読むのやめてもらえるっ!?」





人形の回りに、雷撃の槍が生成され、放たれる。数は8。

それを見て、シオンはため息を吐いて、右手を開いた。





「アックスガン」





そこに翠色の光が集まり、形を取る。それは・・・・・・銃。

グリップの下が斧のようになっていて、銃身部分にグリップガードのような装飾が見られる。

そのまま、シオンは銃口を向けた。銃口の先には、自分に飛んでくる8つの槍。



そして、気づく。その銃口の下部に、青い宝石が埋め込まれていることに。





≪どうも、私です≫



ア、アルトアイゼンッ!? どうしたのよそれっ!!



「すみませんね、形が変わってしまって。やっぱり、あなたをそのまま使うのは躊躇われますから」

≪当然です。私のマスターは二人だけですから。例えあなたでも使用は認めません≫

「えぇ、分かってます」





シオンは狙いを定めながら引き金を引いた。銃口から弾丸が放たれ、黒いプラズマランサーが全て撃墜される。

当然、そのままじゃない。銃口の先が動いて、人形を狙う。弾丸が数発放たれる。だけど、それは地面に着弾するだけ。

人形が黒い光に包まれたと思うと、その姿が消えた。



そして、アイツの後ろに姿を現し、槍の切っ先を突き出す。





「恭文・・・・・・じゃなくて、シオンっ!!」

「というか、ややこしいですー! 恭文さんでいいじゃないですかー!!」





なんて言ってる間に、シオンは右手を動かし、銃を軽く上に投げる。その間にクルリと銃は回転して、シオンはそのまま銃身を持つ。

・・・・・・いや、銃身と兼ねる形になっていた持ち手を持つ。保持する場所を変えただけで、銃はハンドアックスに見えるようになった。

その場で回転しながらシオンは、左から真一文字に斧で一撃を加える。その一撃は、突き出された槍を中ほどからいとも簡単に両断した。



両断された槍が宙をクルクルと舞い、私達の前に落ちて、地面に突き刺さる。





「遅いですわ」





またシオンの右手が動いて、保持する場所を変える。斧から銃に変わったそれを、シオンは人形に向けた上で乱射した。

それに怯みながら、人形が後ずさりする。着弾を示す火花が、人形の胴体から上がり続ける。それも短い間隔で数十回。

ある程度距離を取ったら、シオンは銃口を上げて射撃をやめた。



人形は、手元に残っていた槍を見て、力を込めて・・・・・・また、復元した。・・・・・そっか、頭も同じ要領でやったんだ。





「というより・・・・・・男なら拳で語りなさい。武器に頼るなど邪道です」

≪マスターも頼ってますが。私に首っ丈ですよ? そしてあなたも頼ってますよね≫

「お兄様はいいんです。そして私もいいんです。だって、女の子ですから」





・・・・・・全然納得出来ない。全く納得出来ない。アンタ自身が1000歩くらい譲って女の子だと認めたとしても、今の身体は男でしょうが。



というか、私は聞きたいことがある。それもかなり。結構本気で。





「あ、私は本当にしゅごキャラのシオンですよ?」

「だから思考を読まないでっ!? てか、なんでそんな一々私の言う事が分かんのよっ!!」

「当然です。だって・・・・・・ランスターさんは、お兄様と身も心も結ばれているではありませんか。
情熱的に、そして定期的に互いに夜這いをかけてかけられですし、分からないはずはありません」



そんなんで納得出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「あぁ、どうしましょう。思い出したらなぜか気恥ずかしくなってしまいます」

「そして思い出すなっ! てか、アンタ見てたのっ!? アンタ私達のアレこれとか見てたわけっ!!」



というか、アンタいきなりなに言い出してるっ!? 普通にあむが居るんだからそういう話やめてよっ!!



【と、というか恭文はどうしてるのっ!? 君がしゅごキャラだとしたら、恭文はっ!!】

「そうだよっ! アンタ・・・・・・一体恭文になにしたのっ!!」

「・・・・・・日奈森さんにランさん」



あ、なんかあむが顔青くしてる。すっごい震えだした。

そうよね、普段がアレだから違和感あるわよね。すっごいあるわよね。私だってあるもの。



「何か誤解があるようですけど、私は何もしていません。お兄様は現在、気絶してるだけです」

【「気絶っ!?」】



・・・・・・・・・・・・はぁっ!? なんでそうなんのよっ!!



「・・・・・・もう、お兄様失礼です。せっかくお会い出来たのに、私の姿を見た途端に気絶してしまったんですもの」



それだけで、私とリインさんには事情が飲み込めた。そりゃそうよね、いきなりたまごから出てきたのが自分の女装姿とかありえないわよね。

そりゃあ、常識的に考えてビビるわよね。ビビらないはずないわよね。私だってビビってるもの。



「意識のない間に勝手に身体をお借りするの、さすがに心が痛みますのに」

「シオン、それは無理ないと思うです。というか、しゅごキャラの状態でもその姿だったんですか?」

「差異はありますが、基本的にこれです。・・・・・・まぁ、これ以上の説明は後ですわね」



とか言いながら、シオンは視線を外さない。自分を睨み、今にも飛び込もうとする人形を。



「今は・・・・・・この分からず屋のお仕置きからでしょうか」

(だから、僕を無視するなっ! お前達、なに戦いの最中にグダグダと喋ってるっ!!)

「しかたないでしょう?」



まるで当然の事のように言い放つ。それにより、人形は敵意を強めた。私から見ても、殺気というか、それに近いものがシオンに当てられている。

だけど、シオンはまるでそれが平気なように、言葉を続けた。



「あなた相手では、楽しく乙女の会話も間に含まないと、楽しめないんですもの。・・・・・・知っていますか?」



シオンはそう言いながら右腕を上げる。

そうしながら、いつの間にかどこかへあの銃を収納したのか、何も持っていない右手の人差し指で天を指す。



「私の尊敬する、天の道を往き、総てを司る方のお婆様はこう言っています。・・・・・・太陽が偉大なのは、あなたのような塵すらも輝かせることが出来るからだと」





・・・・・・何それっ!? てか、なによその又聞きっ!!





「さぁ、喜びなさい。私という太陽の光があれば、あなたのような三流以下の小物でも、十二分に輝けるのですから」

(・・・・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 叩き込んでやる・・・・・・お前に、真理を叩き込んでやるっ!!)





そう言って構える槍は、今までのような単純な武器というのとは違った。その形は、ストラーダを模していた。

その槍から、これまたストラーダのセカンドフォルムを模したブースターがいくつも出る。

槍のメインブースターに火が灯り、次の瞬間、雷光はロケットのように飛び出した。



今までよりもずっと速い攻撃。10数メートル有った距離は一瞬で零になる。



だけど・・・・・・シオンは僅かに身体を右に捻って避けた。






「無理ですわ」





そこを狙って、横にある補助ブースターに火が灯り、凄い勢いで真一文字の斬撃が打ち込まれた。それをシオンはしゃがんで避ける。

避けてすぐに立ち上がると、そこから離脱しようとしていた人形の左腕を、左手で掴む。そうして、右腕でボディブローを数発打ち込む。

それから、左手を離して、後ろに下がって距離を取る。



ブースターを使用した突きやなぎ払いが来るけど、シオンはそれを全て紙一重でかわす。





「だって、私の方が強いんですから」





打ち込まれた槍の柄に近い部分を腕で受け止め、掌底で払い、身体を捻り避ける。その直後に、人形に対して拳を、そして蹴りを叩き込む。





「えぇ、あなたになど負けるわけにはいきません。だって・・・・・・」





それに怯んだら、早足で前に進む。決して離れない。格闘戦で、自分の得意レンジだけで勝負し続ける。





「お兄様は、ようやく私に気づいてくれましたから」





そして、攻撃が来たら防いだり弾いたりしてカウンター。そして、最初に戻る。





「許せない悪意を」





襲い来る槍の一撃を避け。





「認められない現実を」





身体を捻って飛んできた蹴りを拳で叩き落し、一歩下がる。





「世界を、そして自身すらも縛りつけようとする常識を」





それから再び自分の顔に向かって突き出された槍を、右拳で叩き落す。





「そして、大切な『荷物』を、そんな『荷物』の今とこれからを壊そうとする害意。
それらを破壊出来る魔法使いになりたいという気持ちにようやく気づいてくれた。その時点で、あなたの敗北は決定しています」










人形が黒い光に包まれる。そうして距離を取り、またブーストをかけて突撃した。

今までよりもずっと速い。乾坤一擲って言葉があるけど、まさしくその通りだと思う。

それだけじゃない。複数の雷撃の槍と共に、シオンに殺到した。





槍がシオンを狙って飛ぶ。それを後ろ、右、上と跳んで、避ける。宙に居るところを狙って二つ飛ぶけど、空中で緑色の障壁を張って、それを蹴って軌道を変えて避ける。

避けながら、また銃を出して、全ての攻撃を打ち落とす。・・・・・・ただし、人形以外。そこを狙って、人形が飛び込んできた。

その槍の切っ先を、それを今までよりは身体を大きく左に動かして、避ける。





避けると同時に、左手で掌底を叩き込む。狙いは人形自体にじゃない。狙うのは、槍。掌底が、自分へかけられようとした横薙ぎの追撃を止めた。

そう、槍は武器としては長物だから、普通に使うなら、攻撃のスタイルに関しては限られる部分がある。飛び込みつつの突き、打ち込みになぎ払い。さすがにサリエルさんレベルで誰も出来るわけじゃない。

そして、シオンは右拳をしっかりと握り締め・・・・・・胴に叩き付けた。今までで一番の轟音と衝撃がこちらに伝わる。人形が、それを喰らい後ろによろめく。





よろめきながらも槍を振るう。なので、右手で柄を受け止め、左手でそれを掴む。右手をまた動かし、両手で槍を掴む。

掴んで・・・・・・左足で人形を蹴った。蹴って、槍と人形を無理矢理引き剥がす。・・・・・・肩の関節を粉砕した上で。

何の技を使ったかまでは分からないけど、アイツが足を叩き込むと同時に、肩の関節が破裂した。続けて二撃目。それにより、右の二の腕を同じように粉砕する。





槍はアイツの手元に残る。だけど、興味がないようにそれを放り投げた。投げた槍は、落ちる途中で黒く、細かい粒子になって消え去った。

・・・・・・アイツと違って、戦闘スタイルが格闘寄りなんだ。だけど、格闘は格闘でも、スバルやザフィーラのとはまた違う。

カウンターからの波状攻撃。相手の攻撃をしっかり見切った上で対処して、ダメージを与えていく。





な、なんつうか・・・・・・しゅごキャラってすごいかも。ここまで出来るんだ。










「さて、そろそろ幕引きですね。・・・・・・あなたを、壊します」





ゆっくり、ゆっくりとシオンがそう言いながら歩いていく。



そして、私は気づいた。シオンの右足に変化が生まれていた。





(まだだ・・・・・・!!)





人形が、また光に包まれる。そして、破壊された槍も、腕も、全て治った。



あぁ、また自己再生っ!? てか、無茶苦茶過ぎよっ!!

そしてそのまま、勢い良くシオンに向かってまた飛び出した。

飛び出して・・・・・・直前で消えた。黒い人形はまた、シオンの後ろに回りこんでいた。





「・・・・・・ビート」





右足・・・・・・足と足首周辺に、翠色の光が集まる。シオンは、後ろから自分に向かって槍を打ち下ろそうとしている害意に、全く動揺していない。



まるで、もう勝利が決定しているかのような余裕さえある。そしてシオンは、そのまま・・・・・・動いた。





「スラップ」










身体を回転させ、まるで剣か何かでなぎ払うかのような回し蹴りを人形に食らわせた。余りに早く、力強い蹴り。そのために、斬撃か何かだと勘違いしてしまいそうになる。

足の軌道は、あの灯った翠色の光のせいか、まるで閃光のようにも見えた。その閃光が、再生し続けた身体を、槍を、一瞬で粉々に砕いた。

シオンは一回転すると、身体を少し伏せ気味にして足を止めた。後ろで、人形が爆発する。





その炎の中・・・・・・ゆっくりと、白いたまごが姿を現した。シオンは身体を起こして、振り向きながらそれを見る。

そのたまごは、逃げるように空へ・・・・・・ううん、エリオの下に帰って行った。

シオンがそれを見て安心したのか、ため息を吐く。そして・・・・・・。





ゆっくりと、右の指で天を指した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから、エリオは目を覚ました。うん、目を覚ました。

×キャラの事とかそういうのはさっぱり覚えてないというはた迷惑なことこの上ない状況だったけど、ここはいい。

問題はあるのよ。みんなが医務室で『よかったねー』って言いながらエンディングに行こうとしてるけど、ここはいいのよ。





現在僕、医務室の前で体育座りしながら、凄まじくヘコんでます。










「・・・・・・お兄様、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。大丈夫」










目の前には、シスター服を身に纏い、心配そうに僕を見る女の子。

シオン・・・・・・あの緑色で十字架の模様があったたまごから生まれた子。僕のしゅごキャラ。

あの時、キャラなりする直前に分かった。シオンは、僕の色んな意味で『壊したい』という気持ちから生まれた。





たまごが生まれた前後、僕は精神的に追い詰められてて、自分の目標の途方のなさに気づいて落ち込んでもいた。

でも、捨てられなかった。『守りたいものを守れる魔法使い』は、それを可能とする『魔法』が使える魔法使いは、紛れも無く僕のなりたい自分だった。

その代わりなんて、捨てる選択肢なんて、なかった。そして、デンライナーが来て、良太郎さん達と会って、その気持ちが固まった。僕の形は、貫けるものなんだと分かった。





あと、今の自分を包む世界の常識が、知っていることが全部じゃない。知らないことを知っていく・・・・・・言い方を変えれば、常識を破壊して行く事が楽しいんだって気づいた。

それから、アルフ(もう他人なので呼び捨てにしてる)とやりあうことが決まった時に、それらの気持ちが強くなった。

『守りたいものを守れる魔法使い』になりたいという気持ちは、もう拭えないものになった。だけど、それだけじゃない。もう一つのなりたい自分の気持ちも、強くなった。



アルフはあの時、僕を常識、世界、組織、家族という檻に閉じ込めようとした。シオン曰く、それが自分という存在が生まれる一番のキッカケになったらしい。

そんな檻を破壊したい。拭えない、捨てられない、変えられない想いを貫くために、何時だってそれが出来る自分でありたいと思う気持ちから、シオンが生まれた。

つまり、シオンのたまごは、僕が今まで見えていた『守りたいものを全部守れる魔法使い』というのとは、同じでありながら真逆の方向性が形になったものなのだ。





本当に簡単に言えば、人や物、概念や常識、そういうの全部含めて『壊したいものを全部壊せる魔法使い』だった。そして、どういうわけかその姿は僕の女装の時の格好。

姿は当然同じ、声まで同じ、喋り方まで同じなので、さすがに見た時はショックの余り気を失った。で、目が覚めたらキャラなりしてたとか言うので、更にショックを受けた。

で、あむもリインもティアも無駄に優しい。なんかすっごい優しい。それだけでキャラなりで僕がなにやったか察してしまった。



こ、怖い。具体的に想像するのがすごく怖い。てーか怖すぎる。





「あははは、やっぱ相当来てる?」

「あむ、聞くまでもないでしょ」

「・・・・・・そうですね」





まぁ、ここはいい。というか、安心した。これでシオンが消えてたらどうしようかと思ってたもん。

『自分の女装姿だったからしゅごキャラを否定した』なんて、いくらなんでもギャグにならない。

姿見はおいおい慣れてけばいいでしょ。うん、そうだそうだ。



今は、生まれたことを感謝しよう。というわけで、僕はシオンに視線を向ける。





「シオン・・・・・・やっと会えたね」

「そうですね。・・・・・・本当に、会いたかったです。というかお兄様遅すぎです。私がどんなしゅごキャラか気づくのに1年もかかるなんて」

「あははは、ごめん」

「謝る必要はありません」



シオンは右手で髪をかき上げながら、優しく、本当に優しく心に染み渡る声でそう言ってくれた。

そのまま、微笑みながら言葉を続ける。



「だって、ちゃんと気づいてくれたのですから。・・・・・・ありがとうございます。
というわけなので、今までの遅れを取り戻すためにこれからはバンバンキャラなりしましょうね」

「だが断る」



場の空気が固まる。うん、僕もニッコリ言い切ったから、こうなるのは当然なのだ。

てゆうかさ、絶対嫌だ。僕の想像通りだとしたら絶対嫌だ。あれだよ、応援だけしてくれてればいいから。



「お兄様に選択権はありません」

「いやいや、あるから」

「だから、ありません」





ニッコリと微笑みながら、互いに一歩も譲らない。



悪いけど、認めてるけど、それでも嫌だ。女装はダメージが来るんだ。普通にキツいんだ。





「大丈夫です。戦闘の時は私が表に出ますから、お兄様は・・・・・・あれです、野上さん形式ですから」

「え、僕憑依される形っ!?」



・・・・・・なんか『何を聞いているんですか?』というような顔でアッサリ頷きやがったっ!!



「てか、それでも嫌だよっ! 元は僕の身体なんだからっ!!」

「大丈夫です。お兄様の身体には傷一つ付けませんから。というか、納得しないとみんなに話しますよ?」

「なにをさ」

「ランスターさんと毎回愛を確かめ合う時、してもらうことがありますよね。しかも、最近それがもっと好きになってきた。
理由は、以前よりも大きさを増したランスターさんの胸。それで」



きゃー! それはやめてー!! てーかなんでおのれは普通にそう言うことを知ってるっ!? おかしいでしょうがっ! なんでそうなるのか、僕はさっぱりなんだけどっ!!



「・・・・・・恭文、アンタティアナさんとなにしてんのっ!? マジ信じられないんですけどっ!!」

「てーか、しゅごキャラに伝わってるっておかしいでしょっ! まさか・・・・・・たまごに話しかけてたとかじゃないでしょうねっ!!」

「ち、違うっ! そんなことないっ!! そんなことないよっ!? いや、ホントだってっ!!」

「そうです、お兄様はそんなことはしてません。というか、私達の目の前で散々イチャイチャラブラブエロエロしてたくせになぜそういうことを言うんですか」

「「・・・・・・そう言えばっ!!」」





たまごだからと気にしてなかったけど、中から見られてたっ!? ティアと顔を見合わせて・・・・・・あぁ、なんか二人して真っ赤になるー! なんかダメだー!!



二人して頭を抱えていると、医務室のドアが開いた。そこから出てきたのは、唯世達だった。





「え、えっと・・・・・・蒼凪君。おめでとう、しゅごキャラが産まれて、よかったね」



で、みんな僕を見て生暖かい視線を送る。



「そうだな。い、いやぁ・・・・・・マジでよかったな。しかも初っ端でキャラなりだろ? お前日奈森レベルだって」



・・・・・・誰だよ、喋った奴。



「う、うんうん。すごいよねー。そうだ、今日はお祝いだー」

「・・・・・・なぜ、あなた方は揃ってそんなに私から目を逸らすんですか? というより、お兄様に対してその慰めオーラはやめてください。なにより、若干棒読み臭いのが私達の神経を逆撫でしているのですけど」



シオン、いいこと言った。今までの中で一番いい発言だよ。・・・・・・とにかく、三人が出てきたってことは、エリオはもう大丈夫ってことかな?

中に居るのは、リインとフェイト、キャロ・・・・・・それに、あのバカか。



「なぁ、恭文。お前、エリオと話さなくていいのか?」

「いや、言いたい事は全部×キャラに言っちゃったし。日奈森あむ方式だよ」

「でも、エリオ君がそれ覚えてないなら意味ないじゃんっ! ちゃんと話さなくちゃだめだよー!!」



・・・・・・うーん、めんどくさいなぁ。正直、関わる意味無いと思うのに。

僕の表情からそれが分かったのか、みんながなんか苦い顔をする。



「・・・・・・ね、恭文。エリオ君やキャロちゃんに対しての態度がちょっと冷たいのって、フェイトさんに振られた事が関係してる?」



あむがそう聞いてきたので、頷いた。ティアは、何も言わない。



「・・・・・・少しね。だって僕、エリオ達と深い関係になるわけじゃないもん」

「それ、逃げてるだけじゃん。エリオ君もキャロちゃんも、恭文と仲良くしたいと思ってるのに、フェイトさんに振られたからこれって、おかしいよ」

「確かにそうかも知れませんわね。・・・・・・お兄様、私も日奈森さんと同じです」



シオン・・・・・・あぁもう、寄りにも寄ってなのが敵に回ったし。

もうこの時点で勝てる気がしないのはどうしてだろう。会って1日経ってないのに、上下関係が出来上がってるのはなんでだろう。



「もちろん、二人はフェイトの保護児童ですし、お兄様がフェイトの夫にも恋人にもなれない以上、二人だけではなく、フェイトに対してもある程度の線引きは必要。
これでもしフェイトが誰かと恋愛関係になった時、その人よりお兄様の方に距離が近いのは、相手方にとっては好ましくないでしょう」



なんつうか、嫌なとこ見抜いて来るし。もう一人の自分だから、見抜かれちゃうのか。



「・・・・・・シオン、そうなの? だから恭文、二人に対してつっけんどんになっちゃうの?」

「えぇ。このコミュニティで男性の率が多ければ大丈夫なのでしょうけど、そうではありませんから」





ただ、それだけじゃない。クロノさんも僕も、フェイトの血の繋がりのある家族じゃない。

万が一にもそういうことを相手方が知っていた場合、妙な勘繰りをされる場合がある。

本当に本当に・・・・・・ある程度は、距離を置かなきゃいけないのよ。フェイトとも、エリオともキャロとも。



クロノさんとかはともかく、僕はフェイトに片思いしてた経緯があるし、未練があるとか思われたら嫌だ。





「とにかくお兄様、ちゃんとモンディアルさんと話してください。・・・・・・答えを見せる必要はありません。助ける必要もありません。というか、あんなの見捨てていいでしょう」

「ちょっとシオンっ!? アンタいきなり何言い出してるのっ! さっきあたしと同じって言ったじゃんっ!!」

「気のせいです」



あむが『そんなわけあるかー!!』とか叫ぶけど、シオンはそれを意に介さず話を続ける。

僕の目を、自分の青い瞳で真っ直ぐに見ながら。



「でも、あなたの背中を見せることくらいは、していいんじゃないでしょうか」

「それは・・・・・・道化だね。僕が一番嫌いな役回りだ」

「そうですね、私も嫌いです。というより、少なくとも自分から見せるものではありませんわ。
でも、きっと今のあの子には必要ですから。・・・・・・一緒に、毒を飲みましょう?」





そう言われて・・・・・・僕はため息を吐いた。で、立ち上がる。



そのまま、何も言わずにシオンと一緒に保健室に入った。





「・・・・・・ヤスフミ。あの、だ・・・・・・大丈夫?」

「た、大変だったんだよね」

「恭文さん、元気出してください。大丈夫ですよ、リインは何時だって恭文さんの味方ですから」



だから、どうしてこいつらに話が伝わってる? おかしい、おかしいでしょうがこれ。

とにかく、僕はそのまま歩く。ベッドから起き上がっていたエリオのところまで歩き、見下ろす。



「体調、大丈夫?」

「うん。・・・・・・なんというかごめん、いきなり倒れちゃって」

「謝るならフェイトや空海に謝りなよ。ここまで運んできたのはフェイトで、連絡して来てくれたのは空海なんだし」



まぁ、そういうことにしておく。・・・・・・で、エリオはそう言い切る僕に苦笑をする。

そして、考える。どう話したものかと、いろいろと。



「・・・・・・恭文」

「なに?」

「空海さんから、聞いてるんでしょ?」



・・・・・・頷いた。どうやら、フェイト達は『空海から聞いた』というシナリオで動いてるらしい。

まぁ、しゃあないか。当然のようにどうして倒れたかって話になるし、そこを保護者であるフェイトや、関係者である僕達に話さないわけにはいかない・・・・・・というのが、道理だもの。



「ね、恭文は・・・・・・どうして、戦えるの?」



僕を見上げる。瞳は迷いと不安で揺れている。

どうやら、×を取っても本当に根っこの部分までは手が届かなかったらしい。



「フェイトさんやキャロともさっきまで話して、教えてもらってたんだ。だけど・・・・・・全然、分からなくて」

「分かるわけがないでしょうが。バカじゃないの?」



なので、一刀両断してやった。フェイトとキャロの視線が厳しくなるけど、気にしない。

だって、事実だもの。



「自分の答えを、人の中に求めるなよ。・・・・・・どうして戦うのか、どうして戦えるのか、それを僕達が言うのはすごく簡単だよ。
でも、そんなの意味が無い。だってそれは『エリオが』どうして戦うのか、どうして戦えるのかという答えにはならないんだから」

「・・・・・・僕、が?」

「そうだよ。そして、その答えはもうエリオの中にちゃんとある」





しゃがんで、右の人差し指でエリオの胸に当てる。エリオの視線がそこに向く。





「だけど、その答えは決してエリオが望んでるようなものじゃないかも知れない」



真っ直ぐに、エリオの目を見る。思っていることが、考えている事が、伝わるように。

ようするに、あの時と同じ。現実は辛く悲しい。自分の望んでいる答えや言葉ばかりじゃないから。



「もしかしたら、見つけて開けた時点で、今までと同じようには戦えないし、そうする意味も、理由も無いんだって分かっちゃうようなものかも知れない。でも、エリオはこれからそれを探して、見つけるの」

「・・・・・・どうして? だって、開けた時点でそうなっちゃうなら、意味無いよ。僕は騎士になって、強くなるのに。戦えなくなるなら、そんなのいらない。見つけたくないよ」

「意味の無い答えなんてない」



・・・・・・動揺する瞳を見つめる。



「そんなもの、どこにもない。もしあるとすれば、それは他人の答えだ。答えは、自分にだけ意味を持つ。他人にとっては意味が無い。その逆もまた然り」



真っ直ぐに、視線に『逃げるな』と意思を込める。



「人から与えられた理由を、人から与えられた意味を絶対とし、それを基準に動く。そんなの、人形と同じだ。・・・・・・以前のルーテシアや、ナンバーズのみんなと同じ」



エリオの身体が震える。一瞬だけ、ビクッと。



「エリオ、分かってる? エリオが今さっきフェイト達に戦う理由を聞いて、色々話して、それを自分の理由にしたら、それはキャロやフェイトをスカリエッティと同類にするってことに」

「あ・・・・・・」



どうやら、気づいてくれたらしい。視線が下に下がった。瞳の中の動揺の色が激しくなった。



「そうやって戦って、また同じ事で迷ったら今度は誰にすがるの? いや、その前にフェイト達は間違ってたって否定するよね。
・・・・・・そんなの、僕は絶対に認めない。つーか、フェイトもキャロも甘過ぎ。なんでそこで教えちゃうの」

「それは・・・・・・あの、その・・・・・・ごめん」

「でも、どうしても放っておけなくて。エリオ君、本当に悩んでたから」



で、視線でリインを指す。リインは、首をブンブンと横に振った。

・・・・・・まぁ、教えてないならいい。教えてたらちょっと怒ってたし。



「もういい、二人には任せておけない。・・・・・・エリオ、しばらく僕と旅に出ようか」



立ち上がりながらそう声をかけると、三人がポカーンとした。そして、叫ぶ。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「さっきサリさんからも大体の状況は聞いた」



ということにしておく。大丈夫、海鳴では『さっき』は3日前まではその意味の範疇に収まるから。



「エリオの迷いはよくわかる。僕も同じ事を考えた事があるから」



僕がそう言うと、エリオの目が見開いた。



「魔法が、局の推奨する非殺傷設定ってのが、大事なものを覆い隠してたってことに気づいてね。数ヶ月くらいもやもやしてたことがある」



・・・・・・あぁもう、言いたくなかったのに。絶対言いたくなかったのに。

シオンとリインがなんか微笑ましそうしてるけど、僕は気にしない。



「で、僕の知ってる人達で魔導師じゃないけどフェイトみたいなオーバーS相手でもタメ張れる人達が何人も居る場所がある。
そこの人達に会って、色々話を聞いてみようか。で、訓練もしてるから実際にさせてもらっちゃお」

「え、えっと・・・・・・あの、それはありがたいんだけど、いいの?」

「いいよ。ただし、僕は連れてくのとお膳立てをするだけ。その中で答えは、エリオが自分で見つけるの。僕は一切手伝わない。・・・・・・どうする?」

「・・・・・・・・・・・・行ってみたい。それでもいいから、行ってみたい」





なら、決まりかな。・・・・・・一応、フェイトとキャロを見る。二人は頷いた。どこか嬉しそうに。



そして、視線で言って来る。『ありがと』と。それがどうにも辛くて、視線を背ける。だって・・・・・・恥ずかしい。





”ヤスフミ、ありがと”






視線だけじゃなくて、言葉でも言ってきたけど。





”礼なら後でシオンに言いなよ。話した方がいいって僕にしつこく言ってきたの、シオンだし”

”だめ。それだけじゃ足りないよ。・・・・・・だって、例えそうだとしても、ヤスフミが話そうと思わなかったら、何も変わらなかったかも知れないんだから”

”・・・・・・ふん”





時刻はもう夕暮れ。なんというか、長かった一日がようやく暮れる。




窓の外から差し込む茜色の夕日は、もうちょっとで沈むところまで来ていた。





「恭文・・・・・・僕、ようやく分かった」

「なにが?」

「あの時、恭文がどうして旅に出たいと思ったのか。・・・・・・恭文も、こんな気持ちだったんだね」

「さぁ、どうだろうね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そして、それから三日後。エリオ達は自然保護隊に戻った。

さすがに今日『旅行行って来ます』と言って行けるわけがない。ちゃんとお休みを取る必要があるのだ。

ただ、自然保護隊の人もエリオの様子を気にはしていたので、出来るだけ早く都合をつけてくれる手はずになったらしい。



予定としては、出発したら春休みが終わるまでは旅行することになるので、今のうちから関係各所に連絡して相談の真っ最中。

結構大変ではあるけど、自分で言い出してしまったこと。ここは頑張っておこうと思う。

フェイトがなんというか・・・・・・ちょっと嬉しそうなのが非常に気になる。気になったのでほっぺたむにーってしてやった。










「・・・・・・もう卒業式かぁ」

「そうね。てか、濃密な一ヵ月半だったわ」





温かくなった陽気の中、ティアと二人学校までの道のりを歩く。確かに色々と濃密だった。

始めてたまごからかえっているしゅごキャラと出会って、二階堂とやりあって、ヒロさん達と模擬戦して、エリオの事があって・・・・・・。

で、今日は卒業式。ガーディアン最年長である空海は、初等部を卒業。新学期には中学生である。



にも関わらず、身長が僕より高いのは許せない。色々と許せない。





「本当ですね。・・・・・・あぁ、空の陽気が心地いいです。外の世界は、やはり広くて大きいですね」





シオンのことも、だいぶ慣れた。なお、キャラなりに関しては非常事態以外はしないと言ってるんだけど、シオンは毎回したいと言っている。

なんでも、モモタロスさん達状態で僕の身体を借りて暴れるのが相当楽しかったらしい。現在、討議の真っ最中である。

ちなみに、試しに(すごく嫌だったけど)覚悟を決めて能力テストのためにキャラなりしたら、気絶してないのに僕は良太郎さん状態だった。



アレは僕の意識が切れてたせいだと思ったのに・・・・・・くそぉ、絶対非常事態以外はキャラなりしない。





「あ、そうだ」

「ティア、どうしたの?」

「私、執務官試験受けるのやめたから」



春の風を気持ちよく受けつつ、笑顔でそう言ったティアを見て、僕は固まった。

・・・・・・はぁっ!? え、どういうことそれっ!!



「別に執務官になるのやめたとかじゃないわよ? ・・・・・・イースターの一件にケリが付くまでは、付き合いたいんだ」

「あの、ティア・・・・・・それはだめだよ。だって、ようやく試験を受けてもオーケーってとこまで来たのに」

「いいの。あれからね、私の理由ってやつ? いろいろ考えたんだ」



そう言って、ティアが僕を見る。そして、手をギュッと握ってくる。

強く、本当に強く・・・・・・だけど、どこか優しく。



「私、恭文とずっと一緒に居たい。恭文が戦うなら、背中を預け合って、一緒に戦いたい。
それで・・・・・・これから先、一生愛し合っていけたらいいなって、思ってる。なんかさ、離れたくないんだ」

「・・・・・・ティア」

「ただ、アンタにもそうしてもらうけど。・・・・・・イースターの一件が片付いて、私が執務官になったら、その時は、恭文が補佐官。
言っておくけど、局員になれってことじゃないから。嘱託扱いでいい。ただ・・・・・・」



今にも涙が零れ落ちそうな瞳で、僕を見る。



「側に、居て欲しいの。それだけで、私・・・・・・すごく強くなれる。すごく幸せになれる」



だから僕は、その手を握り締める。

強く、強く・・・・・・離さない様に。



「・・・・・・いいよ」

「ホントに?」

「うん。まぁ、無茶はしまくるんだろうから、それでもいいなら」

「・・・・・・ありがと」





ティアが辺りを警戒して・・・・・・シオンに目配せ。シオンはお手上げなポーズを取ってから、たまごに戻って、僕のケープの中に入り込んだ。

瞳を閉じて、そのまま顔を近づける。近づけて、そっと・・・・・・唇を重ねてきた。

僕は瞳を閉じて、それを受け入れる。本当に、数瞬だけのキス。



でも、それだけで心が温かくなって、嬉しくて・・・・・・唇を離してから、二人でニコニコしてしまう。





「・・・・・・あー! ティアも恭文さんも、なにしてるですかっ!?」

「きゃー、生キスだー! やや、キスしてるとこなんて初めて見たー!!」

「ちょ、ややっ! リインちゃんも声出しちゃだめだってっ!! てゆうか・・・・・・二人ともなにやってんのっ!? ここ通学路なのにっ! 不純異性交遊禁止ー!!」






後ろを見る。見ると・・・・・・そこに居たのは、ややと待ち合わせしていたリインと、同じく待ち合わせしていたと思われるあむ。




・・・・・・あ、あははは・・・・・・今の、見られてた?





「いいのよ。だって私、恭文の彼女だし。チューくらいは普通にするもの」



きゃー! なんかティアさんが弾けちゃったー!! すっごい澄ました顔で言い放つってどういうことっ!?



「わー、ティアナさん大人ー。よし、メモメモ・・・・・・」

「いいわけないですよっ! てゆうか恭文、アンタもしっかりしなさいよっ!!」

「あー、コイツ責めるのは筋違いよ。だって、私がしたくなっちゃったんだし」



その言葉で、あむが真っ赤になる。というかティア、あんまりに弾け過ぎじゃありませんか? てか、キャラ違うって。



「いいのよ。・・・・・・これからはこういうキャラも出来るようになるって決めたんだから」

「なんで?」

「なんでもよ」

「・・・・・・恭文さん」



そして、当然のようにそれに対してお怒りな方が居る。それは・・・・・・リイン。なんかすっごい目で僕を見る。



「せっかくですし、リインともチューしましょうか。リインもしたくなっちゃいました」

「いきなりなに言い出すっ!? だめっ! 絶対ダメだからっ!!」



主に年齢的に。ここ大事だからもう一度言うと、年齢的に。



「というかというか、黙っていれば恭文さんもティアもリインをないがしろにし過ぎですっ! リインは恭文さんの第二夫人ですよっ!? それなのに・・・・・・二人とも、ちょっと頭冷やすですー!!」



や、やばい。なんかいつぞやみたいにメドゥーサになってるし。

これは・・・・・・ティア、どうする?



「当然・・・・・・逃げるわよ」

「了解」










全速力で、その場から二人してダッシュ。なんか追いかけてくる三人(一人殺気持ち)から必死で逃げる。

なぜか僕達、笑ってたりするけど、そこは気のせい。うん、絶対気のせい。

季節は初春。まだ少し肌寒いけど、温かい陽気が空から差し込む。出会いと別れの季節は、これからが本番である。





・・・・・・ティア、僕も・・・・・・同じだよ。ティアと居ると、すごく幸せ。そして、すごく強くなれる。

まぁ、アレだよ。口には中々出し辛いし、面と向かって言うの・・・・・・結構辛いけど、いつも思ってる。

ありがと。こんな僕の事・・・・・・好きになってくれて。いつも側に居てくれて。





ティアのこと、大好きだよ。世界中の誰よりも、なによりも。










「・・・・・・私も、大好きよ」

「そっか。・・・・・・って、いきなりなにっ!?」

「アンタの思考なんて、何時だってお見通しってこと」



こ、怖い女・・・・・・。



「ほら、早くしないとリインさんやあむ達に追いつかれるわよっ! もっと早く走ってっ!!」

「分かってるよっ! 行くよ、ティアっ!!」

「えぇっ!!」




















(ティアナ・ランスターの場合・おしまい)





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