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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース20 『日奈森あむとの場合 その2』



古鉄≪前回のあらすじ。作者があむさんルートという事で、力を入れまくった結果、二階堂編まで間違えてRemixしてしまって、第0話が前後編みたいになりました≫

恭文「一応、ちょこちょこ変えたりしてるからその差異を楽しんでもらえれば・・・・・いいなぁ」

古鉄≪構成、もうちょっと考えなくちゃいけませんね。この調子で全部Remixしていったら、あむさんルートだけで26話行きますって≫

恭文「そうだね。うん、ここは考えよう。というわけで、前回の黒い幻影出てきたーってところから、スタートです」

古鉄≪どうぞー≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まず目につくのは、両手に銃を持った今まで対峙してたのが一人。

両手持ちサイズなショットガンを持ったのが一人。同じサイズのマシンガンを持ったのが一人。

某ハセヲさんが持ってるような銃剣を両手に持ったのが一人。





銃剣の右手の銃のには、ガトリングのような砲身が付いている。

左手は・・・・・・普通だけど、あれは両手持ちのより小径のショットガンだ。

あの形態ではあの二つの銃の役割は、近接での格闘戦闘用。





普段みたいな誘導弾や普通の弾丸は基本的に使わない。

そして、僕に狙撃してきたであろうロングレンジライフルを持ったのが一人。

・・・・・・よ、よりにもよってセブンガンモード再現かい。でも、これで念押しで確定された。










「恭文さん、これは・・・・・・!!」

「ティア、幻術って言うのが使えるの」

「げん・・・・・・じゅつ?」

≪簡単に言えば、幻を作り出す魔法です。魔導師の中でも使っている人間は相当少ないんですが、ティアさんはその使い手なんですよ≫





ただし、幻はあくまでも幻。斬れば消える。・・・・・・うん、さっきみたいに消えるの。

魔法としての幻術はあくまでも幻を作り出すだけ。攻撃能力が皆無なのだ。

あと、術者によるけど、基本的に幻影自体には防御力もない。



魔法攻撃もそうだし、例えば斬ったり蹴ったりとかの物理衝撃にも弱い。

例えば・・・・・・石なんかをひょいっと投げて当てるだけでも消える。

しかも使用している間は術者は全く動けなくなるし、魔力消費もとても大きい。



使用者が少ないのは、幻術はそういう単独では使い勝手の悪いサポート専用の魔法だから。

でも、ティアはその幻術と射撃を使って、これまでも何度も不利な状況を覆してきた。

JS事件での活躍なんて、もう語り草だもの。タクティカルガンナー足るティアの生命線が、幻影。



もう、ここまで言えば分かると思うけど、これらの黒い人形は・・・・・・!!





「あの黒い人形達は、ティアナさんが使えるその・・・・・・幻術って言うのと、同じ感じで作られてるってことっ!?」

「あむ、正解」

「たまごの持ち主であるティアナさんの特性、そのまま映してるんだね。
恭文、幻術ってどういう使い方するのかな。ボク達、そういうのさっぱりだし」

「ティアの場合、本人が相手の目の前から姿を消した上で、自分や弾丸の分身を作る。それで撹乱だね」



そうして、その中に本物の弾丸や自分を混ぜた上で、相手を混乱させる。

もちろん、サーチとかそういうのが通用しないようにプログラムを構築した上で。



「攻撃対象が増えればその分当然攻撃回数も増える。体力や魔力の消耗も多くなる。
そうして、疲れた所を狙って、ズドンってわけ。それと」



これだけならまだいい。問題は、まだある。もしかしたら・・・・・・もしかしたらだけど、もっとやばいかも。



「黒い人形が作ってる幻影は、ティアが使ってる幻影よりも性能が高いかも知れない」

≪先ほどのあなたへの攻撃ですね≫





ティアの幻影は敵の攻撃を出来るだけ長く引き付ける、囮として使うのが主。

あの接近しての一撃はその趣旨と外れる。銃剣モードの幻影作ってることだってそうだ。

あれは、幻影を使う場合の趣旨から外れるもの。なにより、あの弾丸は幻影なんかじゃない。



実際に、マジな至近距離で、手に持った銃から撃ち込まれたもの。

つまり、防御力や戦闘能力はともかくとしてだよ?

あの人形は、本物の弾丸をぶっ放せる、直接攻撃力を持った幻影が作れるということになる。





≪そうなると、厄介ですよ。実質これは、あなた対数が不明のティアさんということになりますから≫

「そ、それってもしかしなくても・・・・・・大ピンチっ!?」

「・・・・・・おい、二階堂。あの人形にティアの×たまは何時入れたの」



警戒を緩めることなく、僕は後ろで呆然としている二階堂に聞く。



「ふん、なんでそんな事を君に教えないと」

≪Stinger Ray≫



左の指から閃光が走る。それが二階堂の頭を掠める。髪が数本・・・・・・はらはらと落ちる。



「選べ。死ぬか答えるか。なお、答えなかったら比喩無しでお前を殺す」



お前の皮肉に付き合ってる時間はないのよ。あむが止めようと、僕はお前を撃つし潰す。さぁ、どうする?



「・・・・・・昨日の夜だ。機動実験もそれくらいに」

「「「「なんかすっごい怯えた目で即答したっ!?」」」」





なら、幻影作って姿消すには十分過ぎる。

現に不意打ちかますために、今の今まで存在を隠しもいたわけだしさ。

もちろん、どういうタイミングかは知らないけど。



さて、情けない事に僕一人でこれどうこうは無理かも知れない。この場合・・・・・・相談だよね。





「アルト」

≪今メールが届きました。もうこちらに向かっているそうですけど、もうちょっとかかります≫





なお、こちらに向かっているというのはフェイト達のこと。

・・・・・・当然でしょ。ボクがなんのためにアイシクルキャノンをぶっ放したと?

魔法反応で、向こうにここの事を教えるためだよ。



この街に来た時に、町中にサーチャーは設置してるんだから、きっと気づくと思った。





≪それと本体の位置、向こうからも探してもらえることになりました。
どちらにしても、今すぐには無理でしょうけどね≫





なるほど、ならしばらくは持たせないとダメだと。

まぁ、しゃあないか。ここに来る時点で覚悟はしてた事だ。

・・・・・・ぶっ飛ばして行こうじゃないのさ。



今守るべきは、誰? それは、あむと手負いの二階堂だ。





「あむ、ラン達と二階堂連れてここからすぐに逃げて。キャラなりなりキャラチェンジすれば、出来るでしょ」

「え?」

「僕は、こいつらの相手しないと行けなくなった」





人形達の周りに弾丸が生成される。・・・・・・それを見て思う。苦戦は必死かなと。

人形を間違えて破壊したらマズいから、レールガンなんかで一気呵成には潰せない。

そして、数がどれだけ居るかも分からない。基本はフェイト達が来るまで持久戦だ。



ゼロタロス・・・・・だめ。カードは残り1枚。使ったら・・・・・・あぁもう、無駄使いしなきゃよかった。





「・・・・・・ダメだよ。また恭文一人で」

「なにがダメだって言うのさ。もしかして、ハッキリ『足手まとい』って言わなきゃわからないわけ?」

「恭文っ! そんな言い方ないよっ!! あむちゃんは、恭文の事すごく心配して」

≪なら、他にどういう言い方をすればいいと言うんですか?≫



アルトが、僕の手元から冷たい声を出す。それで反論しようとしたランが止まる。他のみんなも、同じ。



≪・・・・・・あなた達のフォローを出来る余裕が全くないんです。お願いですから邪魔をしないでください≫

「・・・・・・そうだね、あたしは足手まといだ」



俯いて、あむがつぶやいた。そして、自分の胸元に両手をかざし・・・・・・え?



「あたしのこころ、アン・・・・・・ロック」





そのまま、青い光に包まれる。その光がはじけると、出てきたのは、人りの女の子。

青いスペードのアクセサリーが付いた帽子をかぶり、同じ色の上着とミニスカート。

・・・・・・じゃなくて、短パンを履き、足元を縞模様のニーソックスを着けた姿の女の子。



どこかセンスがいいと言うか、品の良さを感じさせる服装。



そして上げた顔は、その瞳は・・・・・・強い決意の色で、染まっていた。





「キャラなり。アミュレット・・・・・・スペード」



両手に青い絵の具が付いたでかい槍みたいな筆を持って、あむが構えた。



「え、あの・・・・・・もしもしっ!? おのれは一体、何してるのっ!!」

「あたしは、恭文が何で自分の魔法を『魔法』なんかじゃないって言ったのか分かんない。
なんで、悪人キャラみたいな事しちゃうのかなんて、全然分かんない」



あむは、僕の話なんて聞いちゃくれない。聞いちゃくれないから、そのまま爆発する。



「・・・・・・戦うのとか、そういうのなんて、さっぱりで全然分かんないっ!!
足手まといっ!? あぁそうだね、あたしはぶっちぎりの足手まといかも知れないねっ!!」



弾丸が、僕達へと殺到してきた。それに身構え、回避の体勢を取ろうとすると、あむが前に出てきた。

そしてそのまま、勢い任せに筆を振るった。すると、虹色の絵の具が眼前に広がった。



「カラフル・・・・・・キャンパスッ!!」




それらが弾丸を防ぐ。それだけじゃなくて、そのまま前方へ広がって・・・・・・人形を全て消した。

人形はまるで幻のように・・・・・・いや、幻なんだよね、あれは。



「でも・・・仲間が、友達が危ない目に遭うかも知れないのに、黙って見てることなんて出来ないっ!!」



あむが、そのまま僕の方へとカツカツと足音を立てながら来る。それで、僕の胸元を掴む。



「つーか、ちったぁあたし達の事を信用しろっ!! なにまた性悪キャラに戻ってるわけっ!?」



左手で掴んで、そのまま睨見ながら言葉を続ける。


「アンタはあたしらよりずっと・・・ずっと強いかも知れないけど、だからって一人でなんでもやろうとするなっ!!
あたし達は友達で、仲間だって言うのに、なんでちゃんと頼ってくれないのかなっ!? アンタ、マジでバカでしょっ!!」

「・・・・・・バカはおのれだっ!!」



ゴツンッ!!



「い、痛ぁ」

【思いっきり拳骨っ!?】



あ、中に居るのはミキなんだね。・・・・・・ということは、これはミキとのキャラなりなのか。うん、納得した。



「当たり前じゃボケっ! 信用ってのはね、それだけの力がある人間に対してだけ言うセリフなんだよっ!!」



あむが、僕の胸元から手を離す。離して、頭頂部を押さえるけど、そのまま僕は言葉をぶつける。



「戦闘経験0なトーシローを、この状況で信用しろっ!? もう一度言うけど、バカはおのれだっ!!」

「ちょっと恭文っ! なにもそこまで言わなくても」

「・・・・・・怪我しても、責任取れないから」

「へ?」



・・・・・・まぁ、アレだよアレ。



「あと、ほんの少しだけもたせて欲しいの。
・・・・・・本体を何が何でも補足する。それだけ出来れば、逆転のカードが引ける」

「あ、あの・・・・・・それってつまり」

「前に言ったでしょ? 僕は、バカは嫌いじゃないの」



僕の言葉に、あむがハッとする。・・・・・・僕はあむ達と初めて会った時、そう言った。まぁ、軽口程度だったんだけどね。



「ただし、さっき言った通りに怪我しても責任取れない。
僕はアレ相手だとあむに対しては全くフォロー出来ないから」

「それってようするに、何があってもあたしの責任ってこと?」

「そうだよ。僕はあむがここで死のうがどうなろうが、一切助けない。というか、正確にはその余裕がない」



弾丸も避けるなり回避するなり迎撃するなり、全部自分で、死ぬ気で処理してもらう。



「それが僕がこの状況であむを隣に置く、本当に・・・・・・本当に最低限の条件。
それが出来ないなら、ぶっ飛ばしてでもここから退避させる。・・・・・・オーケー?」

「・・・・・・分かった。あたしも、恭文の事アテにしないし、助けない。全部、自分でなんとかする」

「あむちゃん、いいのっ!?」

「いいよ。・・・・・・いいの。これで、いいんだから」



なんでそう言いながら、またそんな嬉しそうに笑うのかが僕には疑問だよ。・・・・・・はぁ、まぁいいか。

・・・・・・シオンとヒカリとのキャラなり、使えないなぁ。あむが居なければ、やってもいいかと思ったんだけど。



「んじゃま」



僕は、増殖するように現れる黒い人形達を見る。あむも、両手で筆を持って構える。



「うん、行こう? ・・・・・・恭文」

「なに」

「ありがと」

「・・・・・・いいよ」





そのまま、僕達は飛び出した。・・・・・・こうして、無茶で無謀な共同戦線は開始された。



この後十数分に渡り、黒い人形の大群と僕達は死闘を演じることになる。



・・・・・・あれ、あむルートなのにこの構成って、いいのかな。





「恭文、なにボーッとしてんのっ!? ほら、行くよっ!!」

「おのれが仕切るなっ! 主役は僕なんだからさっ!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース20 『日奈森あむとの場合 その2』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・・・・・・・なぎ君、あむちゃん、お待たせっ! 本体と幻影の割り出し作業、終わったよっ!!』



薄暗く、木造で三階建ての建物の中、繋がった通信に、僕とあむは顔を見合わせた。

ここはイースターの『元』社員寮。そして、二階堂の研究室。



「マジっ!?」

『マジだよマジ』



ティアの×たまを入れた強化ボディは、ティアと同じく幻影を前に出して姿を消していた。

しかも、自力での攻撃能力を持った幻影を。その対処にあむと二人で追われていたけど、ようやく切り札が引けた。



『二人とも、この借りは大きいよ? あとでしっかり返してね』

「あの、ありがとうございますっ!! ・・・・・・それで、あの人形の本体は?」

『それがね、三階・・・・・・それも、なぎ君達がさっき居た場所なの。あの大広間に居る』



・・・・・・幻影で姿を消してたって事か。くそ、なんつうめんどい事を。

ということは・・・・・・もしかして、二階堂や×たま達が危ないんじゃっ!!



「あむっ!!」

「うんっ!!」





そこから全速力で、一気に三階に駆け上がる。そして、再び機械の置いてある大広間に突入。

すると・・・・・・居た。二階堂が。なお、放置してました。

だって、いくらなんでもこの状況であむなり僕が張り付いて、張り付いて・・・・・・大事な事だから二回言ってみた。



とにかく、それで戦力減らすわけにはいかないし。





「・・・・・・君達、どうして戻ってきたのさ」

「簡単だ。ここに人形の本体が居るらしい」

「はぁっ!?」



でも、どこに? 気配は探ってみたりするけど、どこにもそれっぽいのが。



「なんですかぁ、この気配」

「こんなの、さっきまで感じなかったのに。これ・・・・・・え、一体何lっ!?」



キャンディーズが、なにやら怪訝な顔で辺りを見回し始めた。

その次の瞬間だった。大量に有った×たまが・・・・・・消えた。



「あむちゃん、アレっ!!」

「×たまが消え・・・・・・いや、違う」



×たまが消えた代わりに、現れた。黒い、人形が。だけど、今までとは違う禍々しい感じがする。

というか、なんか黒いオーラが・・・・・・!!



「そっか。あの×たま達を吸収してたんだ」

【だから、本来のティアナさんの魔法を越える形で、幻影も大量に作れたし、コントロールも出来た。・・・・・・というかさ】

≪あぁ、そうですね。自分が作った人形に知らない間に勝手をされて、計画を自分からぶち壊しにしてたんですよ。
あれ、マジでバカですね。多分、マスターを含めた戦力を潰すにはこれくらいしないとだめと判断したんでしょ≫





まぁ、そこはいいじゃないのさ。とにかく、ようやくご本人と対面だ。

コイツを浄化すれば、あの×たま達もそうだしティアのたまごも取り戻せる。

まさに一石二鳥どころか三鳥・・・いや、四鳥くらいついてもいい状況。



僕は、アルトを構える。あむは筆。そして、黒い人形も構えた。





「・・・・・・え?」





あむがおどろいた声を上げる。それはそうだ。

だって、自分の眼前に人形が居るんだから。

そのまま、銃を構え・・・・・・いや、銃剣に変えて斬撃を打ち込む。



待て待てっ! なにさあの速度っ!? くそ、マジでパワーアップってわけっ!?





「きゃあっ!!」

「あむちゃんっ!!」





そこに即座に飛び込む。いや、左に大きく飛ぶ。右のガトリングが火を噴いた。

床に着地して、再び人形を見据えると、もう目の前に居た。

そのまま身体を時計回りに回転させながら、刃を打ち込んでくる。



僕はアルトで防いで、そこから身体を捻るように人形の左側に回りこむ。そうして、斬撃を撃つ。





「はぁぁぁぁぁっ!!」





人形はその斬撃を、銃剣の左の刃で受け止める。

そのまま、人形が引き金に指をかけ、引いた。

ガトリングが火を吹き、弾丸が大量発射された。



けど、僕はもうまた左斜め後ろに跳んで、大きく距離を取って散弾を避ける。

人形が両手の銃剣を天井近くまで放り投げる。

それから、自分の近くに現れた黒い歪みに向かって手を伸ばす。



伸ばして取り出したのは、ライフル。それを僕に向けて、数発撃ち込んできた。



僕はそれから放たれた弾丸、全てを斬り払う。その間に、あむが動く。





「カラフル・・・・・!」



後ろからその隙にと言わんばかりに筆を振るう。その軌道から生まれるのは、虹色の絵の具の奔流。



「キャンバスッ!!」





でも、ライフルが中ほどから折れて、その先にもう一つ銃口が存在している。

そう、このライフルには仕込みでマシンガン形態になる。

作ったヒロさんが・・・・・・あの、あれだよあれ。



00が好きで、もっと言うとケルディムが好きで、こういう仕様に。



・・・・・・って、こんな話してる場合じゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





≪あむさんっ! 下がってくださいっ!!≫

「え?」



遅かった。その瞬間、銃口から大量に弾丸が放たれ、あむに雨のように降り注ぐ。

自分に迫っていた絵の具を弾丸で蹴散らし、霧散させてあむへと無慈悲に直進。



「く・・・・・・!!」





あむが筆を目の前にかざすと、僕達の使う防御魔法・・・・・・プロテクションのような青い障壁が発生。



それが盾となり、黒い弾丸を防ぐ。・・・・・・防ぐけど、数発突き抜けて迫る。



・・・・・・って、やらせるかいっ! とりあえず魔法発動っ!!





≪Sonic Move≫



瞬間、あむの身体がその場から消えた。生まれたのは、蒼い光。

その光は、あむを数十メートル後ろに連れ去った。連れ去ると同時に、人形から距離を取る。



「あむ、大丈夫?」

「あ・・・・・・うん。あの、ありがと」



・・・・・・あむの身体は、僕の両手の中。そのまま、僕はあむを床に下ろす。

あむは、身長に床を踏みしめて自立。僕はそれを確認してから、視線を黒い人形に向ける。



「あむ、ちょっとジッとしてて」



フェイト達は、まだ到着しない。そして、人形の戦闘能力は多分素のティアを超えてる。

本気モード出さなきゃ、二人揃ってお陀仏だ。だったら・・・・・・やりますか。



「僕は・・・・・・僕の道理を通してくる」

≪Sonic Move≫





言いながらももう一度、ソニックムーブ。一気に踏み込み、人形の眼前へと青い閃光となり迫る。

そして、それに対して人形が右足でミドルキックをかましてきた。

それに対して伏せて回避。続けてかかと落とし。そこから薙ぎ払いと攻撃が続く。



だけど、それらも横へのローリングとジャンプで避けて、なんとか無傷。

ジャンプしてから、アルトを左から横薙ぎに打ち込む。それを人形はしゃがんで避ける。

刃を返して上から落ちながらも打ち込むけど、今度は後ろに転がるようにして避けた。



そこを狙って、左足で着地してから僕は、一気に前に飛び込む。

右足での回し蹴り。人形はライフルでガードした。

でも、僕は無理矢理足を振り抜いて、人形をそのまま後ろに吹き飛ばした。





「恭文さんっ!!」

「リインっ!? またいきなりだねオイっ!!」

「先行して、ぶっ飛ばしてきたですよっ! フェイトさんももうすぐ着くですっ!!」

「そう。でも・・・・・・ダメだね。もう終わらせるから」



いつの間にか、リインが横に居た。・・・・・・なら、やることは一つっ!!

僕は、左手でゼロタロスを取り出して、腰に装着。アルトを、一旦鞘に納める。



「・・・・・・ダメっ!!」



僕がケースからカードを取り出すと、あむが叫んだ。・・・・・・どったのよ。



「どったのよ」

「だってそのカード、最後の一枚なんでしょっ!? さっき、そう言ってたじゃんっ!!」



あー、そうだね。なんだかんだで最初の時や×たま浄化に猫男相手の時。それに、昨日の二階堂相手と使いまくったからなぁ。

今の手持ちのカードは、これで品切れ。だから、これを使ったらゼロタロスでの変身は不可能になる



「あむ、バカじゃないの?」

「バカってなにっ!!」

「カードは、お守りでもなんでもないのよ。・・・・・・使うべき時に使わなくて、どうするってーの」



僕は、左手でゼロタロスのスイッチレバーを押し込む。それから、カードを裏返す。



「大丈夫よ。あむのこと、ちゃんと守るから。・・・・・・あむの事、好きだもの」

「・・・・・・え」

「大事な仲間で、友達だから。傷なんて・・・・・・絶対につけさせない」



いつもならオレンジの色の面から入れるけど、今回はその裏側・・・・・・蒼色の面を表にして挿入する。



「変身」



カードを、そのままゼロタロスに挿入。円形の装飾が回転して、カードのラインと合わさって蒼色の大きなラインを描く。

そして、そのラインが強く輝き、そこから放たれる光が僕達を包み込む。・・・・・・うん、僕達なのよ? リインも一緒だから。



≪Vega Form≫





蒼の光に包まれ、姿が変わる。僕の方にリインが同じ色の光に包まれながら、吸い込まれる。

足元に、金属製の具足を装備。てゆうか、両手のジガン共々空色に染まる。

ベルトの右側には、ゼロガッシャーのAパーツとBパーツ。アルトも鞘ごと、ベルトの左側に装着される。



それからジャケットも多少変化する。青のジャケットの二の腕の側面には、オレンジ色の装甲。

その上から更に、黒色のマントを羽織った。そのマントの留め金の色は、オレンジ。

最後に、髪と瞳がそれぞれ色調を変えた空色に染まる。そして、蒼い光が渦を巻く。



巻いた渦が、それを構築する光の粒子が氷の粒となる。僕は・・・・・・右手をその中で動かす。

動かして、ガッシャーの持ち手を取り外し、残りのパーツに接続。ゼロガッシャーを大剣モードにする。

それを順手で持って、逆袈裟に振るう。僕の周囲で渦を巻いていた氷達が、はじけた。



はじけた青い凍れる粒子は羽へと姿を変え、僕達の周りに舞い散る。





「・・・・・・最初に言っておくっ!!」



僕はゼロガッシャーを肩に担いで、左手でティアのたまごを取り込んでいる黒き人形に向かって、宣言する。

今と言う時間に、ありったけの強さと誓いを刻み込むために・・・・・・最初に言っておく。



「僕はかーなーり・・・・・・強いっ!!」

【ついでに言っておきますっ! リインは置いてけぼりにされたので、かーなーり・・・・・・機嫌が悪いですっ!!】

「・・・・・・ごめんなさい」





そのまま、僕達は倒れていた黒い人形目掛けて飛び出した。人形は・・・・・・もう立ち上がりかけていた。

そこに丁度銃剣が落ちてきた。人形はライフルを、再び現れた黒いゆがみの中に放り投げる。

それから、二丁の銃剣を上手くキャッチすると、即座にショットガンを1発。僕は右に大きく跳び、すぐに迫る。



銃口がこちらを向く前に、ガッシャーを左薙に銃に対して打ち込み、その先をずらす。

今度はガトリングが向いてくる。だけど、相手の右サイドに回りこむようにして、その銃口から逃れる。

銃口の先が僕を追いかけてくるけど、僕の方が速い。



やや背中側まで移動して、そこからガッシャーを左から打ち込んで一閃。

人形は身体の正面を向け、両手の銃剣の銃口の下の刃を盾にして受ける。

次の瞬間、やっぱりと言うべきだろうか。散弾とガトリングが火を噴く。



僕の居た空間を、弾丸達が埋め尽くした。でも、僕は攻撃を受け止められてから、すぐに上に跳んでる。

やっぱり、長期戦は不利か。僕はともかくあむ・・・・・・いや、下の唯世や空海達がもたない。

向こうはロボットと幻影の混成軍団に苦戦してると思われるので・・・短期決戦で決めるしかない。



それじゃあ、まずはこれっ! 一気呵成に行くためには、機動力が大事だものっ!!





≪Axel Fin≫





跳びながら、左手のジガンからカートリッジを1発消費。背中に青い翼が生まれ、羽ばたき、その羽を辺り散らす。

僕は身体を捻り、人形を飛び越える。そうしながら、人形の左の肩口に向かってガッシャーの刃を打ち込む。

刃を包むのは蒼い魔力。それは鋭く斬れる刃を構成する。



一人分じゃない。僕とリイン・・・・・・二人の魔力が交じり合い、一つの新しい力となる。





【「鉄輝・・・・・・!!」】



上下の概念から言うと、刃を斬り上げる形で振るい、人形の肩の後ろ側に切っ先より少し下の部分を叩き込んだ。



【「一閃っ!!」】



人形は避けられずに、刃をその身に食らう。刃と柄を通して、手から伝わる感触は多少硬いけど・・・・・・問題ない。

力は腕を・・・・・・肩から斬り落とした。そうしながら僕は後ろにしゃがむように着地。



「まだまだ行くよっ!!」



左手の親指で、ゼロタロスのチャージスイッチを押す。

押して、ゼロタロスからカードを抜き出して、ガッシャーのスロットに挿入。



≪Full Charge≫

【「必殺っ!!」】




再びガッシャーの刃を、蒼い力が包み込む。



【「僕達の必殺技っ!!リイン達の必殺技っ!!





人形が、肩を斬り落とされたのを気にも留めていないかのように、こちらに振り向く。

いや、後ろに飛びながら、僕に銃口を向けてくる。

でも、遅い。僕は振り返りながらも踏み出して、体勢を整えているんだから。



背中のアクセルが羽ばたき、僕を加速させる。周囲に魔力で構成された青い羽が舞い散る。

その中を僕は、アクセルの過剰とも言える加速力により駆け抜け、距離は既に零距離。

宙を飛ぶ人形がこちらへ振り返り、銃口が完全に僕のほうを向く前に接近は出来た。



だから僕は、逆袈裟にガッシャーの刃を人形に向かって叩き込んだ。





【「パートTっ!!」】





刻み込まれるのは、先程よりも大きく輝く蒼い閃光と、『A』が逆になったようなエンブレム。

そして、青い閃光が人形を斬り裂き、粉々に砕く。

僕は斬りながらも着地。人形は床に叩きつけられる前に爆散し、炎が生まれる。



・・・・・・でも、その中から現れる物があった。それは、幾つもの黒いたまご達。



それらは、一瞬で白へと変わる。変わって、次々と消えていく。





【・・・・・・持ち主の所へ、帰ってく】

【浄化、無事に出来たですね】

「そうだね」



僕は、左手でカードを持つ。当然のように、ゼロタロスの変身用のカード。

そのカードにヒビが入る。カードは音を立てて、粉々に砕けようとしている。



【あむちゃん】

「・・・・・・恭文のカードが、割れちゃう」



・・・・・・パリンッ!!



「割れ、ちゃった」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あむちゃん、しっかりしてー」

「そうだよ。もう終わった事なんだしさ」

「元気出しましょぉ?」



ランとミキとスゥが、そんな風に言ってくるけど・・・・・・ごめん、だめ。

あたしはただひたすらに、ベッドに寝転んで・・・・・・というか、踞って落ち込んでた。



「でも、迷惑かけちゃった。・・・・・・なんか、だめ」





・・・・・・あれから、三日が経った。あたし日奈森あむ、かなりヘコんでいます。

原因は、二階堂先生の一件で恭文に沢山迷惑をかけちゃったこと。

まず、一枚だけのカードを使わせた。・・・・・・もう、ゼロフォームは使えない。



それで、恭文はフェイトさん達に相当怒られた。原因は、あたし。

あたしと恭文は,二階堂先生の所に行く時、みんなに黙っていた。

そうしないと、スゥの安全が確保出来なかったし、それが二階堂先生との約束だったから。



恭文も巻き込んだから、まず恭文もあたしと同じように黙ってた事を怒られた。でも、それだけじゃない。

・・・・・・キャラなり出来ても、戦闘に関してはズブの素人であるあたしを、逃がさなかった事でまた怒られた。

あたしが無理を言ったせいだって言ったんだけど、フェイトさんやシャーリーさんは納得してくれなかった。




それでその、フェイトさんからお風呂に入った時に色々聞いた。

あの状況で、恭文があたしや先生を無理矢理外に出せるのかって。

やっぱりさ、色々納得出来なかったから。だけど、恭文なら無理矢理逃がす方法もあったらしい。



別に殴ってどうこうじゃなくて、転送魔法って言うのがあるらしいの。テレポートする魔法って教えてもらった。

恭文、そういう魔法も覚えてて、フェイトさんとかと違って瞬間的にそういうのを発動出来たりするらしい。

だから、それであたしや先生を転送・・・・・・という手も、実はあった。だから、絶対に無理じゃない。



恭文なら、あたしをあの場に残す方がどれだけ危険か分かってたはずなのに、そうしなかったのは認められない。

フェイトさん、苦い顔でそう言ってた。あたしが無理を言ったのは事実なのに、それでも・・・・・・ダメ、だった。

まぁ、長々と話したけどさ。あたし・・・・・・あの場で残るって言った事、マジでダメだったんだって思ってるの。



だって、結局あたしは恭文に迷惑かけただけだった。最後は助けられて、あたしのせいで余計に叱られた。



・・・・・・信じてなんて、言う権利なかった。無かったのに・・・・・・はぁ。





「どうしよう。あたし、なんで・・・・・・あんな事言えたんだろ。
あたしが残る方が、恭文が迷惑だってなんであの場で気付かなかったんだろ」

「・・・・・・あむちゃん」










・・・・・・この時は、申し訳なさとか色々な事で頭を抱えてた。恭文と、ちょっとだけ上手く話せなかった。

でも、あの・・・・・・ごめん。この数日後に行われた授業参観で、キレました。

だって、だって・・・・・・普通にヒロリスさん達がゼロタロスのカード、持って来たのっ!!





アイツ、あたし達が聞かなかったからって、カードがデメリットも無く補充出来るのとか、全然話してなかったのっ! マジムカつくしっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・それから、あむがヒドかった。ゼロタロスのカードが補充出来たのが、お冠だったし。

あれだよ、ヒロさんとサリさんが来た時に普通に渡してくれたのを見て、頬を膨らませてたし。

説明しよう。二階堂戦で、一度カードの残量が切れちゃったのよ。あむはずーっと気に病んでた。





自分守るために、カード使い切ったとか考えてたらしいのよ。

というか、普通に使う度にゼロノスみたいなデメリットがあるとか、考えたのよ。さすがにビックリしたし。

うーん、そう考えると色々悪いことしちゃったような気がしなくもないけど、怒るのって理不尽なんじゃ。










「・・・・・・あむ、そろそろ機嫌直してくれない? てか、そんな無茶な装備を使うわけがないじゃないのさ」

「そうだね。あたしは魔法とかそういうのさっぱりなお子様だから、全然分かんなかったよ。うん、そうだね」

「うー」



・・・・・・現在、時刻は夕方。今日、授業参観がありました。馴染みの連中がそれにカッコ付けて、同窓会開きました。

で、ヒロさんとサリさんも来ました。先日の一件でゼロタロスのカードが切れてたので、新しいカードを持ってきてもらいました。



「・・・・・・キャンディーズー」

「悪いけど、私もちょっとプンプンだから。てゆうか、そういうことをどうして話さなかったのかな」

「ボク達を助けるためにカード使い切ったって、ちょっと心配してたんだから」

「恭文さん、反省してくださいですぅ」



それで、なぜかあむが非常にビックリした顔をして、カードを補充出来るのかと聞いてきたので、頷いた。

カードは大容量の魔力バッテリーで、一枚につき一回こっきりの変身だけではあるけど新しいのを補充することは可能だと。



「なんでそうなるのっ!? ・・・・・・ヒカリ、シオンー!!」

「お兄様、日奈森さんに謝るべきです」

「そうだな。あむは魔法のことを知って日が浅い。それで察しろなど無茶振りだろ」

「二人までそれかいっ!!」



現在、夕方になりかけな川原沿いの道を、あむがすたすたと歩く。で、僕がそれを追いかけている。

同窓会やってるみんなとはちょっと別行動で、あむのフォローに走ってるの。



「あむ、別に黙ってたとかじゃなくて、その・・・・・・あむだって聞かなかったじゃない?」

「そうだね。聞かなかったね。うん、だから別にいいよ。あたしが悪いんだもんね。もう分かってるよ」



・・・・・・やばい、なんかちょっとプンスカしてるし。あーもう、ここで僕がキレても意味ないよね。

なら、どうすりゃいいのよコレ。僕にはもうフォローのしようがないし。



「・・・・・・ごめん」

「謝らないでよ。てゆうか、謝って欲しくないし」



ならどうしろって言うのっ!? あぁもう、マジでめんどくさいしっ!!



「たださ」

「何よ」



あむは、僕の方を向かずにスタスタと歩きながらも言葉を続ける。僕はただ、それを追いかけるのみ。



「・・・・・・あたしがカードの事聞いたら、ちゃんと答えてくれた?
無茶苦茶重たい話が有っても、はぐらかしたりしないで、ちゃんと教えてくれた?」



そう言って、あむが足を止める。僕も同じように止まる。・・・・・・でも、あむは僕の方は向かない。

ただ前だけを見て、あむは・・・・・・僕の方を見ない。だけど僕は、あむの方を見てちゃんと答える。



「あむが、本気で知りたいなら教えたよ。てゆうか、ここはもう隠してる札でもなんでもないしね。
重い事情は・・・・・・ごめん、保証出来ないわ。こっちは、隠してる札になるだろうし」

「そっか。なら・・・・・・うん、もう言わない。てゆうか、ごめん。なんかさ、ちょっとカチンと来たんだ」

「話さなかった事、そんなに嫌だった?」

「違う。・・・・・・あたし自身に対して、カチンと来てたの」



夕日の中、あむはようやく振り向く。振り向いて、少しだけ震えた瞳で僕を見てた。

それに・・・・・・不覚にも、ちょっとドキッとした。待て待て、落ち着こうよ。この子、まだ11だから。



「あたしの無茶のためにカード使わせちゃったのに、あたし・・・・・・何も出来ないって考えてさ。
例えば補充出来るにしても、新しいカードも作れないし。てゆうか、フェイトさんに怒られちゃったし」

「大丈夫だよ。予測はしてたもの」

「大丈夫じゃないよ。・・・・・・結局、恭文だけに泥かぶらせちゃってる」



あむが俯く。俯いて、表情が重くなる。・・・・・・あの後、唯世とフェイトにしこたま怒られたダメージが大きいらしい。

というか、主に僕だね。もう総スカンだったもの。素人のあむを、あんな鉄火場に付き合わせたーって。



「あたし、なんかダメだね。マジで・・・・・・ダメだ。
なんであたし、あの時恭文に『信じて』なんて言っちゃったんだろ」

「さぁ、なんでだろうね。僕はあむじゃないから、分かんない。でも・・・・・・これだけは言えるわ」



僕は、足を進める。進めて、あむの横を通り過ぎる。・・・・・・でも、あむの横まで来て足を止める。

止めて、右手をあむの頭の上に乗せる。それで、そのまま優しく撫でる。



「僕があむを信じたかったから、僕の勝手で信じたの。あむの言葉も、実は関係なかったかも」



あむが息を飲む。飲んで、少し震えるけど・・・・・・僕は気づかない振りをした。



「てか、今更謝るな。僕達は一緒に無茶して、一緒に自分の道理は通した。もう、それでいいでしょ。
間違ってるとか間違ってないとか、僕は興味ない。・・・・・・てかさ、嬉しかったんだ」

「え?」

「少なくとも、あむは僕の事信じてくれてるから、あんな風に言ってくれたんでしょ?」

「・・・・・・恭文」



・・・・・・だめだ。こういう空気は、だめだ。僕のキャラじゃないし。よし、話変えよう。



「てゆうかさ、カードの事を話さなかったのは、悪かった。
あむの気持ち、全然考えてなかった。・・・・・・ごめん」

「ううん、もう大丈夫。あたしの方こそ、ごめん。なんか子どもっぽい癇癪起こしてさ」

「いや、子どもでしょうが」

「うっさいっ! そこはツッコまないでくれるっ!?
・・・・・・というか、ありがと。信じて・・・・・・くれて」

「ん、大丈夫だよ」





・・・・・・少しの間、あむの頭を撫でてた。本当に少しの間だけ。



あむは少し恥ずかしそうにしてたけど、そのまま受け入れてくれた。



それがなんだか嬉しかったり・・・・・・まぁ、楽しかったり。





「・・・・・・そうだ。せっかくだし、ちょっと寄り道しない?」

「寄り道?」

「うん。実は、最近美味しい鯛焼き屋さん見つけたんだー。
まぁ、恭文には特別に教えてあげるよ」

「そっか。なら、付き合わせてもらおうかな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あ、これ美味しい」



ただ甘いだけじゃない。餡子・・・・・・小豆の風味や、生地の食感が◯。

だから、僕と同じように商店街のアーケードのベンチに座ったあむも、ニコニコ顔。



「でしょ? あたしも初めて食べた時は感動したもの」

「うむぅ、あむは舌が肥えてるよ。これ真面目に美味しいって」

「そう言ってもらえると、連れて来た甲斐があったよ」



とりあえず、鯛焼きはそれぞれ4つずつ買ってる。・・・・・・シオンとヒカリ、キャンディーズにも分けるしね。

夕方に染まった空を、商店街の中から見上げつつ、粒餡鯛焼きをパクリ。・・・・・・美味しいなぁ。



「・・・・・・恭文ってさ」

「うん?」

「この間みたいな状況、良くあるの?」

「まぁ、それなりにね」



アーケード街は、夕方だから人通りが多い。買い物帰りの主婦とか、早めな帰宅途中のサラリーマンとか。

そんな中、あむが聞いてきたので、鯛焼きをパクリ食べつつ答える。



「僕、運悪いしね。結構多いよ? 単独で無茶苦茶強い魔導師(犯罪者)とガチでやったりとかさ」

「そっか。・・・・・・怖く、ない?」

「怖いよ? 僕、痛いの嫌いだし、死にたくなんてないし」



だけど、どっかで戦うのが楽しいとも思ってる。うん、命を賭けるのは嫌いじゃないのよ。

多分、一生治らないだろうなぁ。こればかりは・・・・・・性分だから。



「だけど、見過ごせなかったり、止めたいなって思ったら・・・・・・飛び込む。
あむだって、同じじゃない? ×たま助けたいと思ったら、理屈抜きで動いちゃう」

「そうだよね。うん、そういうのならあたしもちょっとだけ分かる。
でも、恭文は仕事じゃない? きっと、少しだけ違うよ」

「違わないよ? ・・・・・・管理局の事とか、そういうの関係ないんだ。別に、他人のためとかじゃない。
僕が、やりたいと思ったからそうしてるだけ。うん、全部自分のためなんだ。今だって同じだよ」



軽く鯛焼きを持ち上げて、僕の右隣でカスタードクリームの鯛焼きを両手で持ってるあむに、それを見せる。



「あむと寄り道したいなーって思ったから、してるの。うん、変わらない」

「・・・・・・恭文、変わってるよね。そういう時、世界平和のためーとかなんとか言うのが普通じゃん?」

「あー、フェイトとかなのは達はそういうの多いよ?
局の仕事を通じて、世界やそこの住む人達のためにーってさ」



もちろん、その中で自分なりにやりたい事や理想や夢があるからそうしてると、付け加えておく。

完全自己犠牲とかでは、ないのよ。人間、そこまで出来る程立派には出来てない。



「あ、やっぱりそうなんだ。・・・・・・そうだね。なんか見てて、そうだなって思う」



あむが、言いながらカスタードクリームをパクリ。・・・・・・あ、美味しいのか幸せそうな顔になってる。



「・・・・・・ちょっと、羨ましいかな」

「なんで?」

「あたしはさ、まだそういうの見えないんだ。ラン達居るけど、明確な形じゃない。
フェイトさんとかあの人達みたいに、どんな仕事に就きたいとか、そういうの無いから」



両手を、太ももの方に下ろして・・・・・・あむは、少し俯く。



「別に、仕事に就くだけが『なりたい自分』じゃないと思うけどな」



言いながら俯きかけていたあむが、顔を上げて僕の方を見る。

身長が2pしか違わないから、ほとんど同じ目線を受け止めつつ、僕は頷く。



「まぁ、そういうのが多いかも知れないけど、それだけじゃないよ。・・・・・・僕なんて、『魔法が使える魔法使い』だし」

「魔法使い? え、でも魔導師だよね」

「魔導師は、『魔法使い』とは違うんだ。うん、違う。
だから僕、あむより年上だけど、まだ『なりたい自分』にはなれてないの」



もう一口、粒餡の鯛焼きをパクリ。鯛焼きは、もう尻尾の部分しかなかった。だから、もう一口パクリ。

それで全部食べて・・・・・・しっかりと咀嚼した上で、飲み込む。飲み込んで、あむの方を見る。



「この間みたいな状況でね、自分が守りたいって思ったもの。壊したいって思った、悲しい事。
そういうの、守ったり壊したり出来る『魔法』が使える魔法使いになりたいんだ」

「・・・・・・今は、違うの?」

「うん。まだまだなの。だから、ラン達人質に取られてるのに撃とうとしたりする」



軽く、冗談交じりにそう言うと、あむがハっとした顔になった。それで、何かを納得したような顔になる。



「・・・・・・多分ね、僕が目指す魔法使いなら、そんな事しなくても助けられたから。あむがあの時、言った通りだよ。
うん、まだ・・・・・・遠いな。ずっとじゃなくていい。その一瞬だけでもなれたらいいなって思ってても、それでもだよ」

「そう、なんだ。だから、恭文は大人だけどシオン達が生まれたのか」

「だと思う。魔導師になる前から、ずっと思ってた事だから。まー、ようするに・・・・・・こんな感じでいいんじゃないかな?
僕みたいに、現実の役職に迎合出来ない夢を持ってる人間だって、居るんだから」

「・・・・・・そうだね」



あむは、そのままカスタードクリームの鯛焼きをパクリ。



「恭文、ありがと。なんかあたし・・・・・・ちょっと気が楽になった」

「なら良かった。・・・・・・あ、そうだ。今度はあむの話聞かせて欲しいな」

「あたし?」

「うん。ほら、僕が来る前の事とか、あんま知らないしさ」



・・・・・・いや、なぜそんな真っ直ぐに僕を見るの? 別に変なことは聞いてないでしょ。



「えっとね、あたし・・・・・・まぁ、聞いてるだろうけど『クール&スパイシー』なんて言われてんの。
でもさ、実際はこう、ビビリキャラなわけよ。それで、こう・・・・・・そういう外キャラ、外したいなって思ったら」

「ラン達が生まれた」

「うん。それでさ、もう大変だったんだから。ランが、ガーディアン総会であたしとキャラチェンして、その場であたしに告白させるしさ」



・・・・・・ガーディアン総会って、アレだよね。ガーディアンが学校運営の方針とかを、生徒とお話する場。

え、あそこって確か全校生徒が集まってたよねっ!? なんでそこでそんな爆弾を投げちゃうのっ!!



「・・・・・・ラン、空気読めない子だったんだね。あぁ、スバルと同類なんだ」

「恭文、ひどいよー! 私、空気読める子だもんっ!!」



残念ながら、それは錯覚だよ。錯覚過ぎて、色々ビックリだし。



「でさ、それでランとミキとスゥが生まれて、ガーディアンになって・・・・・・うん、色々あったよ?
恭文とリインちゃんが来る前にも、沢山良いことや悲しいこと・・・・・・うん、色々あった」

「悲しいこともなんだ」

「・・・・・・前にちょっとだけ話したじゃない? ×たまを壊した奴が居るって。
あれは、ショックだったな。夢って、叶えられる人間しか見ちゃいけないのかなとか、考えたりした」



・・・・・・あの猫男と同じような理屈を言って、×たまを壊した奴の事だね。

いや、もしかしたら猫男がそれの可能性も、ある。だから、あむの表情がちょっと暗くなるのかな。



「あ、もちろん楽しいこともいっぱい。ややって、バレエ教室通ってるんだけど、そこに体験入学したり」

「え、ややバレエやってるのっ!? アレだよね、踊る方のバレエっ!!」

「うん。お世辞にも上手とは言えないけど、もう一生懸命頑張って凄かったんだから。
あぁ、それと・・・・・・なでしこの家にお泊りってのもあったなぁ。あとね」










そのまま、暗くなるまであむと二人で色々と会う前についてお話。

こんな事があって、こんな事を感じて・・・・・・うん、沢山話した。

話しつつ、鯛焼きを食べて、二人で笑ったり、ちょっとしんみりしたり。





・・・・・・どうやら、僕はこの子の事が好きみたい。





年は離れてるけど、きっと大事な友達で仲間だと・・・・・・思ってるんだと思う。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いやぁ、先日は大変だったなぁ。色々と苦労してしまったもの」

「・・・・・・あなたが私達に、ゼロタロスのカードがデメリットなく補充出来る事を黙ってたせいでしょ?
それであむちゃんには、ちゃんとフォローしたの?」

「しましたさ。そりゃあもうしっかりと。・・・・・・でも、またフォローしようっと。唯世に妙な勘ぐりをされない程度に」

「そうね。そうした方がいいわ。そして、そこは大事ね」





現在、時刻は夕方。あのあむとのお話とかからちょっとだけ時間が経った。

僕は・・・・・・藤咲『なでしこ』と、帰り道を歩いてる。

まぁ、ちょっとお願いもあったのでなでしこと一緒させてもらったの。



あむの親友で、多分これからも繋がりが強いであろうなでしこだから、お願い出来る事。





「お兄様、チャレンジャーですね。また噂されますよ?」

「言わないで。マジで言わないで。あぁもう、アレ頭痛いんだけどどうしたらいいの?」

「しかも、なでしこは本来は男だしな」





・・・・・・現在、学校内で『僕×なでしこ』という妙なカップリングが成立してしまっている。

なお、もうみなさん周知の事実だと思うけど・・・・・・なでしこは、本当はなぎひこという男の子。

日舞の家元である家の方針で、幼少期から女性として生活していたの。



そんななでしこも、もうすぐ留学。だから、この後の展開とかも考えると非常に頭が痛い。

あれだよ、きっとなでしこが留学したら遠距離恋愛って話になるんだよ。

なでしこは、唯世とややに空海くらいにしか留学の事は知らせてないから、きっと詰問される。



・・・・・・まぁ、あむにも言ってないのは、色々勘ぐってしまう要因だけどさ。





「あら、いいじゃない。あなたは今のところフリーなんだし」

「よくないわボケっ! てーか、フェイトがなんか勘違いしてんのよっ!?
どこかからこの話聞いて、早速応援モード入りかけてるんだからっ!!」



ティアの事はそれとして、僕が本気だったら応援するとか言い出してるのよ。

まさか、なでしこの事をバラすわけにもいかないから、必死に否定するしかないし。



「そうなの? でも、ティアナさんが」

「・・・・・・ティアも『それならそれで納得するわよ』とか言ってるの。ただ、それでも視線が冷たい。
ねぇ、僕どうすればいいの? 勘違いが酷過ぎて、家に帰るの嫌なんだけど」

「・・・・・・本当の事を言うというのは、考えなかった?」



歩きながら、隣のなでしこが僕を見ながらそう言う。意味は、考えるまでもない。

自分の家の事とかを、バラさないのかって言ってるのよ。



「そういうわけにもいかないでしょ。・・・・・・あむには、留学から帰ってきたらちゃんと話すつもりなんでしょ?」

「えぇ、そのつもり。成長期とかもあるし、その辺りがリミットだと思うの」



なでしこの留学機関は、約1年。それでなでしこは、それを終えたらあむやみんなに言うつもりらしい。

自分が、本当は藤咲なぎひこというれっきとした男だと・・・・・・ちゃんと。



「だったら、それまでは黙ってるよ。どこからどういう風に話が漏れるか分からないしね。
・・・・・・それまでは、『僕×なでしこ』も許容しようじゃないのさ」

「そう。・・・・・・恭文君、ありがと。やっぱりあなた素敵だわ」

「今頃気づいた? もう僕は素敵過ぎるのがデフォなのに」

「ふふふ、ホントね。それで、そろそろ本題に入らない?」

「あー、そうだね。実はさ、留学前で忙しいのに悪いんだけど、ちとお願いがあるのよ」



えっとね、かくかくしかじか・・・・・・というわけなのよ。



「・・・・・・黒猫さんの事を、あまり悪く言わないで欲しい?」

「うん」



街中から、住宅街の方に入ってきた。歩きながらも、僕は左隣のなでしことお話継続中。



「もしもメールなり電話なりで、あむが月詠幾斗の事を相談してきたら、敵扱いはやめて欲しいんだ」

「・・・・・・何か事情込みなのよね」

「うん。聡いなでしこなら、もう言わなくても分かってるかも知れない事情。
・・・・・・あむ、月詠幾斗と鉢合わせすることが多いらしいのよ。少なくとも、敵視はしてない」

「そう。確かにそうね。それは私も、見ていて感じたわ。この間なんて特にそう。
そしてそれは、多分黒猫・・・・・・いいえ、月詠幾斗も同じ。あむちゃんを敵視はしてない」



だろうね。そうじゃなかったら、僕達が二階堂の所にみんなに内緒で向かった事とか、わざわざなでしこ達に言うはずないもの。

あれは僕ではなく、あむの身を心配しての事なのかも。結局、案内してくれた寮に二階堂もスゥも居たしさ。



「まぁ、アレなのよ。僕の昔馴染みってさ、元々敵対してたのが友達になるってパターンが多いの。
なのはとフェイトも、元はそうなのよ? 敵対してたけど、紆余曲折あって友達になったの」



ジュエルシードの一件だね。てゆうか、フェイトは厳密に言えば元犯罪者で、管理局の敵だもの。

で、無事に僕達の担任になった二階堂も同じ感じだし、そういうのは全く無いわけじゃない。



「それは分かるけど、どうして私に? 私、もうすぐ留学しちゃうのに」

「でも、なでしこはあむの親友でしょ? いやさ、色々考えたのよ。
もしもあむがこの辺りを悩んだ時、誰に一番に相談するかなーって」

「それでなでしこ、私達はお前にするのではないかと考えた。
というより、もしかしたら来年度残るガーディアンメンバーには相談しにくいかも知れない」



来年度残るのは、僕とリインとややと唯世だね。僕はまぁ、こういう話したから大丈夫かも知れない。

リインとややも、そこまで頭ごなしに敵扱いは、きっとしないと思う。空海も、同じじゃないかな。



「現メンバーに相談しにくい理由は・・・・・・辺里君が、月詠幾斗を敵視してるからね?」

「そうだよ」

「その読み、外れとは、言えないわね。特にあむちゃんは、辺里君の事が好きだから」



僕達が相談しにくいと思ったのは、キングである唯世が月詠幾斗を強く敵視してるからなのよ。

で、なでしこの言うように、恋心故に嫌われたくないって感情もあるでしょ? ちょっと難しいって。



「なでしこ、唯世のアレは何時からなのよ? ガーディアンの活動の中で、何かあったとかかな」

「ごめん、私も詳しくは知らないの。ただ、ガーディアンの活動の中で月詠幾斗が出てくると、毎回あんな感じではある」

「そっか」



唯世が単純に生理的に受け付けないなんて理由で、アレとは思えない。

ということは、やっぱり何か原因があるのかな。・・・・・・うーん、謎だ。



「・・・・・・あぁもう、ここはいいや。とにかく、そういうわけだからなでしこに相談してくるかなーって思ったの。
なでしこ、これでガーディアンからは抜けちゃうでしょ? 言い方は悪いけど外の人間になる。だから逆に・・・・・・ってさ」

「納得したわ。確かに、そういう事なら私まで敵視した物言いはだめね」

「てゆうか、何気に気をつけてたでしょ。今、ちょっと思ったけどさ。
うーん、やぶ蛇だったかな。僕が言わなくても、なでしこ分かってそうだったし」

「さぁ、どうかしら。私、意外とそういうの読み切れないのよ? 今のお話の中で、軽く反省したくらいなんだから」



僕がそう言うと、なでしこは曖昧にするようにクスリと笑った。

・・・・・・なでしこはあむとは親友だから、色々気遣いは出来るのよ。



「というか、あなたはどうなの?」

「何が?」

「ほしな歌唄よ。・・・・・・親しいんでしょ? この間のアレコレで、とても仲良さげだったから」



・・・・・・なでしこの視線が、鋭くなった。別に責めてるとかじゃなくて、何かを見抜こうとしてる目。

僕は、夕方の住宅街の歩道を歩きながらため息を吐く。やっぱ、色々見抜かれてるらしい。



「かなりね。だって、友達だし」

「・・・・・・一回会っただけで、相当絆が深まったのね」

「一回じゃないよ。僕、歌唄とは大分前に知り合ってるの」



隠して無駄だから、簡単に話した。歌唄と友達やってる事とか、そういうのも全部。



「そう。だから、あむちゃんの事を余計に心配してたのね」

「・・・・・・僕はさ、別にいいのよ。割り切りつけてるし、そういう仕事だもの。
でも、あむは違うはずだから、ちょっとね。うん、心配だった」

「納得したわ。でも、あなたも割り切りつける必要、ないわよ」



なでしこは、言いながら足を止める。そして、少しだけ背が僕より高いから、見下ろすような感じで僕を見つめてくる。



「お友達が敵になってるんだもの。割り切りなんて、つけなくていいわ。
・・・・・・なんとかしたいと思ったら、お仕事の事とかそういうの抜きで頑張っていいと思うの」

「そういう、ものかな。僕、これでも一応フェイトの補佐官なんですけど」

「そういうものよ。というより忘れてない? 今のあなたは、フェイトさんの補佐官じゃない」



・・・・・・・・・・・・え?



「だってあなたがここに居るのは局の仕事のためでも、あむちゃんを心配したり、ほしな歌唄の事で悩んでるのは、お仕事じゃないでしょ?
今のあなたは、聖夜小学園5年星組・ガーディアン見習いの蒼凪恭文君よ。そして、私達の友達で仲間。だから、それでいいの」

「・・・・・・なでしこ」

「ごめんなさい、ちょっと偉そうだったわね」



なでしこは、申し訳なさそうに笑うとまた足を前に進める。僕も、それを追いかけて、僕達はまた歩き出す。



「あなたは仮にも大人なんだし、簡単にこういう事は出来ないわよね」

「ううん、大丈夫。・・・・・・なでしこ、ありがと。なんかさ、ちょっと分かった」

「そう言ってくれると、少し気が楽になる。恭文君、頑張ってね」

「・・・・・・うん」










そう、なんだよね。歌唄達を友達だって思う気持ちは、仕事とは関係ないんだよね。

少しだけかも知れないけど、なんか吹っ切れた。だから、僕もなでしこも笑顔で足を進められる。

・・・・・・3月の半ば、一応でも平和な時間はゆっくりと過ぎていく。





だから僕となでしこは、ゆっくりとそんな時間を満喫しながら、夕方の街を歩いていた。





空は闇で染まりつつあり、もう頭上には一番星が輝き始めていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・キーとロックが、近づきつつあるね。でも、それだけじゃない」





ロックと距離を縮めつつある、蒼い星がある。とても強く、眩く輝く星が。

この星の光は・・・・・・うん、間違いなくあの子だね。蒼凪、恭文君。

僕の知らない、未知の力を操る子。でも、それは大した問題じゃない。



だってそれは、僕が知らないし分からないというだけの話だもの。

あの子も、あの子のしゅごキャラにあの子がパートナーと呼ぶ子達も、ちゃんと居る。

重要なのは、そこだよ。分からないこと、知らないことを恐怖する必要はないんだよ。



むしろ、そこにワクワクしなきゃ。そうして分かって、知って、沢山の可能性に触れられるんだから。





「眩く、強い輝きは時として人の歪められた運命すらも、あっさり変えてしまう。
いや、それを定め付けられてると言ってもいい。輝きは、震える迷い子すらも惹きつけるから」



そんな輝きを持っている人間は、実は本当に一握り。持っていても、大事にせずに捨ててしまう人も多い。

悲しいことだけど、それが現実というもの。そして、そんな現実を変えるのは・・・・・・やっぱり、そんな輝き。



「・・・・・・君の輝きが何を変えて、どんな未来を導き出すのか、それは残念ながらまだ見えない。
ただ、それでも物語のページは次に進む。そして、その主役の一人は・・・・・・間違いなく、君だよ」










あー、そう言えば彼のガーディアンでの役職を、まだ考えてなかったね。

辺里君からは、彼を6年の相馬空海君の後釜にとは、推薦されてはいるんだよ。

そして、彼のパートナーである空色の髪の女の子も新Qに推薦された。





でも・・・・・・新Jも新Qも、もう決めちゃってるんだよね。あはははは、どうしようかコレ。





うーん、それならいっそ・・・・・・よし、それで行こう。切り札が三枚なんて、きっと面白い事になるだろうしね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


・・・・・・・・・・・・そして、4月。それからあたし達は6年生になった。

二階堂先生のことや、なでしこの留学の事とかを越えて、ようやく。

楽しみだった新学期は、波乱から始まってしまった。例えば、学級崩壊の事。





例えば、あたしにダイヤのたまごが生まれた事。あと新Jと新Qが誰になるのかとかだね。





そんな事があった中で、あたしは現在・・・・・・すっごく、ヘコんでます。










『・・・・・・それじゃあ、6年星組かわいい女子ランキング・第1位の発表ー!!』





新学期初日、ロイヤルガーデンでお茶会も兼ねた会議があるので、それに向かう途中。



・・・・・・ちょっと忘れ物をしたのに気づいて、教室に戻ると、クラスの男子がこんな事をしていた。



最初に聞いた時は、くだらないことしてると思ってた。でも・・・・・・違った。





『・・・・・・やっぱりりまさまかー。まぁ、当然だよな。キツイけど可愛くて・・・・・・そこがまたよしで』

『見た目とのギャップもオーケーだよな』

『でよ、日奈森あむはどうだ?』



突然あたしの話になった。・・・・・・普通なら、気にする必要なんて無かった。



『あー、なんか意外と普通。女子とつるんでるし・・・・・・一匹狼っぽいところがよかったのになぁ』

『だなー。クール&スパイシーが間近で見れるって期待してたのによ。てゆうか・・・・・・あれだよ、あれ』

『そうそう』

『らしくなくなったよなー』





・・・・・・現在、あたしは近くの公園を歩いている。お茶会をサボって、憂鬱な気持ちを抱えつつ。



一匹狼、クール&スパイシー、それは全部あたしの外キャラ。ほんとのキャラじゃない。



ほんとのあたしは、ビビリで、情けなくて、弱くて、全然だめで・・・・・・!!





「・・・・・・あむちゃん」



ランの声が聞こえる。でも、憂鬱な気持ち、全然消えない。



「てゆうかさ、いいんだけどさ。別にさ」





モテたいわけでも、人気者になりたいわけでもないけどさ。

ただ・・・・・・あんな風に外キャラで見られるのが嫌で、頑張ったのに。

一生懸命にこにこしてさ。キャラじゃないのに無理してさ。



・・・・・・なのに、バカみたいとか、らしくないとかっ! もう・・・・・・もうっ!!





「もう嫌だー!!」

『爆発しちゃったっ!?』



爆発した。自分の中の、色んなごちゃごちゃしたものが。声になって全部吐き出せと、身体中で言っている。



「どーしろって言うわけっ!? わかんないよっ! 春なんて・・・・・・嫌な事ばっかっ!!」










ホントのあたしって・・・・・・! あたしらしさって、いったいなにっ!? わかんないっ! マジでわけわかんないよっ!!

・・・・・・そう思った時だった。カバンの中に大事にしまっていたダイヤのたまごが、あたしの横を通り過ぎ、空に浮かぶ。

そして、黒ずんだ。その黒ずんだたまごに模様が浮かぶ。それは・・・・・・あたしがこの1年の間に見慣れたものだった。





浮かぶ模様は、白いバッテン。それを見て、さっきとは違う冷たい感覚で身体中がいっぱいになった。





・・・・・・嘘。あたしの・・・・・・あたしのたまごに、×が付いたっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



新学期初日、学級崩壊しました。いや、意味分からないでしょ?

でも、僕も意味分からないのよ。転入生の真城りまってのが原因で、男女が真っ二つに割れた。

そんな頭の痛い初日を終えて、明日からどうしようと思ってたら、あむを見かけた。



だけど、その時にあむが泣いてたのよ。それで、僕は必死に追いかけて来たんだけど・・・・・・見失った。





・・・・・・くそ、居ない。こっちの方だと思ったのに。










”アルト、サーチお願い。なんか、やばい感じがひしひししてるの”



これまでJチェアを努めていた、空海は3月で卒業。なでしこも、転校した。

あむはちょっとだけ寂しいお別れを、2回同時に経験してるのよ。・・・・・・それで、学級崩壊だしなぁ。



”もう行っています。・・・・・・出ました。あっちです”





アルトの指示された方向に向かって歩く。というか、走る。すると、人影を見つけた。それは・・・・・・え、フェイトっ!?

両手に買い物袋を持ってフェイトが歩いていた。それで、僕を見つけて笑顔で手を・・・・・・触れないから。

それでは触れないから、振ろうとしないで。とにかく、僕はフェイトの所へと行く。



僕達の間の車道を通る車に気をつけて、横断歩道を渡って、到着。



そのまま、フェイトと合流。フェイトはその場で待っていた。





「ヤスフミ、もう会議終わったの?」

「それどころじゃないの」



本当だったら、ガーディアン会議もあったのよ。でも、唯世に事情説明してサボタージュさせてもらった。



「フェイト、あむ見かけなかった?」

「あむさん? ううん、見かけてないんだけど、なにかあったの」

「かも知れないの。学級崩壊やら空海の卒業やらなでしこの転校やらで、ダメージ受けてるようなのよ。涙目で、学校出てった」

「・・・・・・納得したよ」





まぁ、心配ないと思うけどさ。でも、さすがに・・・・・・色々あったしなぁ。

初日で学級崩壊するし、転校生に手を差し伸べたら『バカじゃないの』って言われるし。

ごめん、やっぱり心配だわ。なでしこから頼まれてもいるし、やっぱり心配。



・・・・・・あれ、なんで僕はこんなあむの事ばっかり考えてんだろ。なんかおかしくない?





”マスター、フェイトさん”



アルトの声がした。その思念は、フェイトにも伝わってるらしい。僕の胸元のアルトに視線を向ける。



”・・・・・・どうしたの?”

”おかしいんです。あむさんの近くに、ランさん達とは違うたまごの反応があるんです。というか、なんですか。この妙な反応は”





今、アルトはしゅごキャラじゃなくて、しゅごたまをサーチしてもらってる。

・・・・・・ようするに、物理的に存在しているたまご本体を対象にサーチだね。

で、ラン達のたまごじゃない物が、そのサーチに引っかかってる。



とにかく、それなら今反応が出てるのは何なの? 普通にしゅごキャラとかならいい。

でも、そうじゃないなら・・・・・・1番可能性があるのは、×たま。

そして、僕とフェイトは顔を見合わせる。同時に、その可能性に気づいたから。





「フェイトっ!!」

「うんっ!!」





そのまま、アルトにナビしてもらいつつ近くの遊歩道へと走る。そして・・・・・・あむを見つけた。

いや、あむだけじゃない。ランに、ミキに、スゥ・・・・・・そして、あむの上空に一つのたまご。

黒ずんでてよく分からないけど、ダイヤの模様と、その上にバッテンが付いてる。



な、何? あの×たま、今まで見たのと全然違う。



だけど、動揺してる暇なんてなかった。僕達が驚いている間に、たまごが空へ飛び立とうとする。





「ほっぷっ!!」



ランの声と一緒に、あむの両腕にピンク色の羽が生える。



「すてっぷっ!!」



今度は両足。



「じゃんぷっ!!」





あむは、ランとキャラチェンジして、そのまま空高く跳ぶ。跳んでたまごを捕まえようとして・・・・・・ぶつかった。

もうそうとしか言いようが無い。空高く飛んだ×たま、あむは真っ直ぐに向かってた。

それなのに、何かにぶつかったように上昇していた軌道はストップして、そのまま落下を始めた。



で、あむは地面に叩きつけられ・・・・・・って、させるかっ!!

僕は咄嗟にダッシュして、落下してきたあむを両手でしっかりとキャッチ。

なんか、またまたお姫様みたいになってるのは、気のせいだ。





「・・・・・・あれ、痛くない」

「そりゃそうでしょ。僕がキャッチしてるんだし」

「というか・・・・・・あの、恭文っ!? なんでここにっ!!」

「可愛いお姫様を助けに来たのよ。それ以外に理由ある?」

「はぁっ!? てか、お姫様って・・・・・・あの、その・・・・・・!!」



驚いてるけど、そこはいい。問題はここじゃないんだから。



「あむさんっ! 大丈夫っ!?」



その声の方を見ると、フェイトが走り寄ってきた。

・・・・・・買い物袋を手から離さないのは、どう評価するべきかちょっと迷う。



「フェイトさんまでっ!! ・・・・・・えっと、買い物帰りですか?」

「あ、うん」



まぁ、見れば分か・・・・・・って、そうじゃないっ! あの×たまが一体何かを聞かないとっ!!



「う、うーん・・・・・・」





だけど、聞けなかった。だって、足元から声がしたから。それはピンクと白の柄のたまご。

そのたまごの横に・・・・・・小さな女の子。何故か風呂敷も横に落ちている。

金色の長い髪に白いワンピースに小さな羽根、頭の上に天使の輪がついて・・・・・・え、ちょっと待って。



僕、この子が一体なんなのか知ってる。凄く、知ってる。





「・・・・・・エルっ!?」

「恭文、この子知ってるの?」

「知ってるもなにも・・・・・・歌唄のしゅごキャラだよ」

『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』










・・・・・・・・・6年生になった最初の日。そう、その日はきっと一生忘れられない日になった。

だって、あんまりにカオス過ぎるから。たださ、ここはまだ序の口だったのよ。

この後、更に問題が浮上する。それはほしな・・・・・・ううん、月詠歌唄の事。うん、ほしな歌唄じゃないの。





だって、歌唄は僕にとってはイースターの関係者なんかじゃなくて・・・・・・友達、だから。




















(その3へ続く)




















あとがき



やや「というわけで、ようやくプロローグ終了っ! 次回から本格始動だよー!!」

恭文「・・・・・・すごいね。なんか力の入れようが凄いよね。あ、本日のあとがきのお相手の、蒼凪恭文です」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンです≫

やや「とまとスーパーヒロインの、結木ややでーす。
いや、いよいよ登場したねっ! ベガフォームッ!!」





(そう、なんだかんだでティアナルートでも出なかったあのフォーム、ここで出ました)





恭文「さて、何気にベガフォームが登場したりしてるわけですよ。
デザインのコンセプトは、リーゼフォームのアナザーですね」

古鉄≪重装備な感じも考えたんですが、あえてシンプルにしました。なお、チェックポイントは黒のマントです≫

やや「これでStS・本編で出さなくても問題ないかなーって、作者さんが言ってたしねー」

恭文「・・・・・・それもどうかと思うけどね。とりあえず作者、早くStS・Remix書きな? ちょっとスランプなのは分かるけど」

古鉄≪エリオさんの戦闘、難しいんですよね。キャロさんもそうですけど。
さて、みなさんいかがだったでしょうか。バレンタインデー残念でした記念の二話目ですけど」

恭文「なお、作者がですね。えぇ、作者がですね」





(蒼い古き鉄、すっごいそこを念押し。・・・・・・傷つくのでやめてください)





恭文「とりあえず、あむとはこんな感じで仲良くなって・・・・・・あれ、何かが引っかかってくるんですけど」

古鉄≪ロリコンルートですしね、仕方有りませんよ≫

恭文「それは言わないでー!!」

やや「でもでも、いいなぁ。鯛焼きややも食べたいー!!」

恭文「やや、そこが感想って色々違うと思うんだけど、気のせいかなっ!?
・・・・・・あ、新Qとか新Jとかも、次回登場ですんで」

古鉄≪導入部に時間かけましたしね。ただ、この辺りはティアナさんルートで書きたかった部分でもあります≫

恭文「ゼロタロスのカードがなくなるのとか、その辺りの話とかね。・・・・・・あとでまた、あむに謝っておこうかなぁ」





(蒼い古き鉄、色んな意味でIFルートな思考になって来ているようだ)





恭文「それでここまでと本編の差異は・・・・・・まぁ、ないよね?」

古鉄≪ありませんね。色々布石は打ってますが、それはまた次回以降ですよ≫

やや「というわけで、本日はここまでかな。・・・・・・よし、それじゃあ鯛焼き食べにいこー!!」

恭文「どうしてそうなるっ!? てか、鯛焼き押しまくりかいっ!!」










(そして、そのまま勢い良く古き鉄コンビはエースに引っ張り出されて、鯛焼きを食べに出てしまった。
本日のED:日奈森あむ(CV:伊藤かな恵)『シークレットプリンセス あむVer』)




















あむ「・・・・・・ここから本編なんだよね」

恭文「一応ね。なんかさ、前段階の話をしっかりしてないと、唐突過ぎるってことでこれですよ。
なお、今回のIFでの本編やRemixとの差異はこれだね。ちょっとリストアップしてみた」





・ゼロフォームとベガフォームの二形態で、カードが無い場合はナハトフォームになる。

・StS・Remixアフターで、フェイトに振られているというIF。

・歌唄とエル、イルとはこの段階まで良好な友人関係を築いている。

・ティアナからアプローチされてるけど、断っている。

・今のところ、誰かと付き合うつもりはない。でも、フェイトは振られた話で弄っていじめる。

・ゆかなさんは恭文の永遠の嫁。





恭文「・・・・・・という感じで話が進むから」

あむ「ちょっと待ったっ! なにこれっ!? ゆかなさんはアンタの嫁とか、関係なくないかなっ!!」

恭文「気のせいだよ」

あむ「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! これ、あたしIFだよっ!? それでこれはありえないじゃんっ!!
・・・・・・よし、はやてさんから没収したあのエロ小説朗読する。そうしたら、こんなバカな事もう言わないでしょ」

恭文「それはやめてくんないかなっ!!」

あむ「・・・・・・恭文が、そっとあ・・・・・・あたしの、首筋に」

恭文「やめてー! 法案が怖いからマジやめてー!!」










(おしまい)







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