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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース16 『ティアナ・ランスターとの場合 その10』



・・・・・・聖夜学園。僕とリイン、ティアが通う学校。

学部は初等部と中等部、学年は星組と月組の二つに分かれている。

生徒数は多く、歴代ガーディアンの頑張りもあってか、本当の意味で生徒の自主性を重んじた校風になっている。





まぁ・・・・・・だからだね。うん、だから学校見学で僕達が練り歩くと、非常に生徒達の注目を集めるのよ。










「あ、あの・・・・・・ヤスフミ、リイン」





だから、フェイトがちょっと怯えた表情になるのだ。廊下を歩き、体育館やグラウンドを見て回る度に、注目を集めまくってるんだから。

というか、視線が怖い。ちょっとイラってくるくらいにフェイトやキャロに対して男子生徒が気合いを入れた視線を送ってくるのだ。

まぁ、そういうのには睨みを利かせて黙らせたりしてる。てゆうか、普通に胸とかお尻とかを見るな。なんかイラってくる。



現在、学園内の無駄に広い中庭でお散歩してたりする。というか、見学だね。木々や花々、そしてアーチなんてあったりするので、みんな驚いている。





「大丈夫。ここの学校の生徒はややを筆頭にみんなフリーダムだから、気にしないで」

「そうなのです。ややさんを筆頭にミーハーなので、問題ないのです」

「そうそう。ややを筆頭に・・・・・・って、それどういう意味っ!?」

≪言葉通りの意味でしょ≫

「こてつちゃんまでひどいよー!!」





とにかく、さすがに中庭だと生徒は居ない。だって、今授業中だし。居たら問題でしょ。



とりあえず、見学者な方々の様子を見る。フェイトもキャロも、学校の様子があんまりにアレなので驚いてる。





「なんというか、地球の学校ってすごいんですね。中庭が広くて、しかもすごく綺麗だし」

「私、この間の授業参観の時に少しだけ見てはいたけど・・・・・・やっぱり、聖夜小って敷地が広いね」

「というか、リインは好きですよ? お庭が広くて、ぽかぽかで、とっても幸せなのですー」

「まぁ、それはここが私立だからというのもあると思います。公立の学校だと、きっとこうはいかないでしょうし」



唯世の言葉に、二人は納得したように頷き、そしてまた緑でいっぱいな中庭を見る。

・・・・・・そう、二人だ。一人はフェイト、一人はキャロ。そして残りの一人は、俯いて色々考え込んでいる。



「なぁ、エリオ。どうしたんだよ」

「・・・・・・・・・・・・え?」



空海にそう名前を呼ばれた小さい子は、ビックリしたように顔を上げる。上げて、自分より背の高い空海を見る。



「え、えっと・・・・・・バスケすごかったですね」

「・・・・・・はぁ? おいおい、それはさっき見た体育の授業じゃないかよ。ここ中庭だぞ?」

「す、すみません」



・・・・・・どうなってんですか、これ。うーん、まずい。色々とまずい。



「ね、恭文」



隣を歩くあむから小声で声がかかる。なので、僕も同じくらい小さい声で返事をする。



「エリオのこと?」

「・・・・・・うん。なんかさ、様子変じゃない? こう、集中してないし」

「やっぱりそう思う?」

「やっぱりだよ。てゆうか、初対面のあたし達でも分かるっておかしいって。なんかあったの?」



そう、エリオの様子がおかしい。というか、あむでも気づくくらいなので、当然のように動く人間が居る。



「まぁ、色々とね。てゆうか、実はあんまり心配してない」

「え?」



そう、あのお兄さんは普通にこういうのが得意らしい。だから、こんな状況ではいの一番で動く。

僕とあむがこんな会話を小声でしている間にも、ため息を吐いて、右手でエリオの手を掴んだから。



「うし、ちょっと動くか」

「え? あ、あの・・・・・・」

「つーわけで・・・・・・走り込みダーッシュッ!!」





・・・・・・当然のように、そのまま全速力でエリオを連れ去るのだ。



というか、エリオが浮いてるな。なんか『あの・・・・・・えっと・・・・・・助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』って言ってるけど、気のせいでしょ。





「あぁ、エリオっ! 空海君も待ってー!! 一体どこ行くのっ!?」

「大丈夫ですよ、フェイトさん。空海のアレはいつものことですから。てゆうか、あむちーもやられてたよねー」

「あぁ、やられてたね。うん、やられたよ」



あむとややの言うように、空海は『とりあえず身体を動かすとすっきりする』と言って、人にアレをよくやる。てか、僕もやられたことがある。

うーん、体育会系の所業ではあるけど、その通りなんだよね。実際、すっきりするし。



「でも・・・・・・」

「フェイトさん、大丈夫ですよ。相馬君はこう・・・・・・ちょっと体育会系で人の機微とかがあまり分からない様に見えますけど」



唯世、口調は丁寧だけど言ってることは容赦ないよ? ほら、なんかフェイトもキャロもみんな苦笑いし出したし。



「実は、全然そんなことないんです」



唯世が、空海が走り去った方向を見ながら、少しだけ遠いものを見るような目で言葉を続ける。



「人が悩んでいるのとか、困っているのとか、ちょっとした仕種だけでもそういうのが分かっちゃうんです。それで、ちゃんと相談に乗ってくれる。僕も相馬君に助けられた事が何度もありますから」

「そっか。・・・・・・任せても、大丈夫なのかな」

「大丈夫です。聖夜小ガーディアンのJチェアは、優秀ですから。僕が保証します」

「・・・・・・分かった。なら、ここは空海君に任せることにする」










・・・・・・さて、どうしたもんかな。僕は自分からは干渉しないって決めてるし、空海に任せておくのが得策なのかも。





とりあえず、空海とエリオの居場所は、アルトにサーチお願いして、把握だけしておきますか。










”・・・・・・それは最悪手だと思いますわよ?”





いや、でもねぇ・・・・・・なんか深いとこまで首突っ込むのもめんどくさ・・・・・・えっ!?





「恭文、どうしたの? なんかキョロキョロしちゃって」

「い、いや・・・・・・。アルト、リイン、あとフェイトも。今、僕に念話送ってきた?」





そして、リインとフェイトは首を横に振る。つまり、送っていない。



というか、みんなが僕をとても怪訝そうな顔で見る。まぁ、考えてみれば当然だよね。だって、いきなりこれだもの。





≪とりあえず、私も送ってませんけど。どうしたんですか≫

「・・・・・・うーん、なんか変な電波を受け取っちゃって」










よく考えたら念話じゃないかも知れない。それとはちょっと違ってたから。





じゃあ、あの聞いた瞬間に寒気を感じた声は、なに?




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース16 『ティアナ・ランスターとの場合 その10』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・どうだ、エリオ。身体動かすとすっきりするだろ」

「そ、それは・・・・・・まぁ」





10数分に及ぶ全力疾走・・・・・で、俺は息切れてんだけど、エリオは全然。

そういや、恭文のやつも俺より身体小さいくせにタフだったな。今のエリオと同じく息一つ切らせない。

・・・・・・やっぱ、戦闘のプロと体力比べするのが間違ってるのかも。俺、基本一般人だし。



アイツと違って俺、『しんそくのばっとうじゅつ』なんて使えねーし。あ、でも剣心みたいなこと出来るのはうらやましーな。アイツの剣の先生も出来るって言うしよ。





「でよ、何悩んでんだ?」

「え?」



いや、なぜそこまでビックリした顔で俺を見る。おかしいだろ。



「お前、何か悩んでるだろ。だから、せっかくの学校見学なのに全然集中してねぇ。違うか?」

「なんでそれを・・・・・・誰から聞いたんですか?」



恭文からだ。・・・・・・とは言えない。だって、特に何も聞いてねぇし。それはフェイトさんやリインからもだ。

とにかく今、俺に対してどこか怒った顔をしている目の前の小さい奴に、ため息混じりにこう答える。



「バカ」

「バ、バカっ!? なんですかいきなりっ!!」

「いきなりもなにもねーよ。いいか? 今のお前の様子を見てれば、誰だって気づくっつーの。もう顔に『悩んでますー!!』って言う色が出まくってるし」





で、自分の顔を両手でぺたぺたと触って、少しして俺を見る。視線から『ホントですか?』という声が聞こえたので、俺は頷いて肯定した。それにより、エリオの顔が真っ赤になった。

・・・・・・まぁ、アレだ。最初はそんな気にするほどでもなかったが、学校見学が進むにつれて色が濃くなってる。これで分からないやつなんか居ない。

現に、唯世もそうだがややと日奈森も気づいてた。で、実際かなり気にしてた。あー、それとリインもそうだし、表面には出してないが恭文もだな。



ま、伊達に生徒をお助けするガーディアンやってるわけじゃねぇってことだ。これくらいは見抜けて当然、朝飯前ってやつだ。





「そう・・・・・・ですか」

「つーわけで、話してみろよ」

「・・・・・・それはあの、あなたに話しても意味が無い事ですし」

「あ、ひでぇな。まぁ、確かに? 俺はお前やフェイトさんや恭文と違って魔導師でもなんでもねぇから、意味ないだろうけどな」



少しだけ意地悪く言うと、エリオの目が見開いて、俺を見る。その瞳に申し訳なさそうな色を見つけて、少し安心する。

今の反応で、どうやらコイツは中々いい奴だと分かったから。



「あの、その・・・・・・すみません」

「あぁ、いいっていいって。ただな、それでも聞くことくらいは出来るぞ?」



少ししゃがんで、真っ直ぐにエリオの顔を見る。

目線を合わせて、また言葉を続ける。



「いいから話せ。人に話すだけでも、楽になれたり、考えがまとまる時だってあるんだしよ。俺はちゃんと聞く。とりあえず、そこだけは出来る」





これは、うちの兄貴の一人から教わった。あ、ちなみに俺五人兄弟の末っ子。



なんか、精神科医のカウンセリングとかで使われてる技術らしい。アドバイスよりも、ただ話をちゃんと聞くこと。まずそこをちゃんとすることが必要とか。



えっと・・・・・・細かい事は分からないけど、ようするにあれだ。溜め込まずに人に話せってことだな。うんうん。





「あの・・・・・・分かり、ました」

「おう」

「それはいいんですけど・・・・・・ここ、どこですか?」





エリオにそう言われて、俺は辺りを見回す。見回すと、林の中。そして・・・・・・あ、特別資料棟だ。



唯世から聞いたことがある。確か、迷子の生徒がたどり着く場所だとか。



つーことはあれだな。うん、分かった。





「悪い。迷ったみたいだ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・相馬君達、特別資料棟に居るみたいだね」

「特別資料棟? ・・・・・・あ、プラネタリウムっ!!」

「特別・・・・・・あ、もしかして噂の?」



とりあえず、中庭のアーチに全員座って、人から見えないように地図を開く。それは、学校内をサーチした結果。

で、それをみんなに見せて、現在行方不明な感じになった二人の位置がどこか確認してもらったんだけど・・・・・・プラネタリウムってなに? 噂ってなに?



「あのね、この特別資料棟ってとこ、中はプラネタリウムになっているんだ。あたし、一度行ったことがあるの」

「それでね、ここって一つ噂があるんだ。・・・・・・こころが迷子になった子だけがたどり着けるって言われてるの。だから、生徒のみんなの大半がここに来た事がない」



それはまた・・・・・・ホラーめいた噂で。てか、今ややが話したような感じの場所ではないのは確かだと思う。だって、アルトのサーチで普通に補足出来たし。



「まぁ、普段はこの地図に載っているように、学校内でも辺鄙なところにあるから、誰も来ないんだ。その噂は、そういう部分から来てるんだと思う」

「あー、それ分かるかも。あたしもここに初めて行った時は、ほんとに迷子になった時だったから。というか、ちょっと悩んでた時」

「なるほど・・・・・・。もしかしたらあむさんのような人ばかりがここに来たから、そういう噂が立ったのかも知れないですね」

「あはははは、そうかも」



なるほど・・・・・・。てか、どんだけフリーダムな学校なんだよ聖夜小。学校の中にプラネタリウムがあるなんて聞いたことないし。



「フェイトさん、日本の学校って、みんなこうなんですか? プラネタリウムがあったり、こういうちょっと怪談というかそういう話が噂になってたり」

「た、多分違うと思う。怪談はともかく、少なくともプラネタリウムは私が通っていた聖祥には無かったもの」



フェイト、そんなたどたどしく僕とかリインに『そうだよね? 私間違ったこと話してないよね?』なんて、視線で言わなくていいよ。

大丈夫。怪談はともかく、本格的な(あむと唯世談)プラネタリウムがある小学校なんて、僕も聞いたことないから。



「なんというか、聖夜小だけだと思います。こう・・・・・・理事長がちょっと変わった人なので」

「そうなの? てゆうか唯世くん、理事長に会ったことあるんだ」



そりゃあ、唯世は理事長知ってて当然だと思う。だって、ガーディアンという生徒会のキング・・・・・・生徒会長なんだから。

他のみんなも同じ事を考えたのか、どうやら納得したようだ。表情でわかる。



「うん、そうだよ。あー、ほら。僕はキングだから、その関係でガーディアンの活動報告とかも直接するから。
あと、ガーディアンメンバーの選定をするのと、その最終決定権があるのも、理事長なんだ」

「なるほど・・・・・・」





どうやら、この学校の理事長というのは中々に面白い人らしい。というより、もしかしたら相当に懐が広い人なのかも知れない。



だって、経歴を偽ってここに入り込んでた二階堂が、また先生やれてるのもそうだし、なぎひこが『なでしこ』として学園生活を送ることを認めたのもそうだしさ。





「で、僕達はどうしようか。一応プラネタリウムに向かう?」



唯世を見ながらそう聞くと、唯世は口元に手を当てて、少し考えて・・・・・・頷いた。



「・・・・・・そうだね。まぁ、学校見学も兼ねてゆっくりかな。きっと向こうは相馬君がなんとかしてくれてるだろうし」










なんとかしてくれると非常に助かる。だって、僕に面倒が少なくて済むから。





・・・・・・なんだろう、さっきからこう・・・・・・今のエリオに対して妙な既視感デジャヴを覚えるのは。





いや、僕はちゃんと理由が分かってる。今のエリオは、敗北によって細かい内容はともかくとしてかなり悩んでいる。もっと言えば、自分を見失いかけてる。





つまり・・・・・・よし、やめよう。これを言うのはフラグだ。絶対言わない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



で、中に入って、プラネタリウムの機械を弄って、スクリーンへの投影を開始してからエリオと話す。





なお、機械自体の操作はコンソールに丁寧な説明板が張られてて、俺でも分かった。これならきっと、ややでも分かるだろ。





とにもかくにも、俺はこの小難しい顔したやつの話をなんとか聞き終えた。いや、口が重たかったから中々に苦戦した。










「・・・・・・ようするに、お前は魔法無しでその相手に負けたのが悔しいってことだよな。まぁ、本当にザっとした形で言えば」

「そう、ですね。まぁ、本当にザっとした形で言えば」



とりあえず、腕を組んで星空を見上げる。・・・・・・まぁ、スクリーンに投影されている形だから正確には違うけど、そこはツッコまないように。



「なぁ、空海」



俺の右横にプカプカ浮かんで、同じように話を聞いていたダイチが小さく声をかけてきた。

とりあえず、エリオやキャロはしゅごキャラが見えないようだし、視線を向けずに同じように小さく返事をする。



「どうした?」

「マジで俺らじゃどうしようもなくないか? これ、恭文やフェイトさん達の仕事だろ」

「・・・・・・言うな」



俺も聞いてまさかこうくるとは思わなかったんだよ。もうちょい身近な悩みかと思ったんだが・・・・・・。

まぁいいや。聞いた以上は力になるのが常だろ。とりあえずもうちょい聞くことにしようか。



「一応、そのための訓練はしてたんです。AMFって言う魔法を使えないようにする技術もあるので、その対策として」



AMF・・・・・・あぁ、この間の授業参観の時にサリエルさんが言ってたあれか。その中に入っちゃうと、魔力結合・・・・・・だっけか? とにかくそれが出来なくて、魔法が使えなくなる。

恭文のやつが普段からあの針やらワイヤーみたいなのを使ってんのも、魔法無しで戦闘出来るように・・・・・・ということらしい。模擬戦の時にフェイトさんやリンディさん達から聞いた。



「一応、自信はありました。でも・・・・・・本当に、まるで赤子の手を捻るみたいに一蹴されて、サリエルさん・・・・・・あ、サリエルさんというのは」

「あー、その辺りは大丈夫だ。ちょっと前にこっちに来たことがあってよ」

「そうなんですか?」

「あぁ。ほら、恭文が使ってるあの変身するためのカード持ってきてくれたんだよ」





二階堂とやりあった時にカードが全部無くなって、もうゼロフォームでは戦えなくなるとか俺達全員が思ってたら、普通に補充出来ると来たもんだ。

しかも、使用していたカード自体が無くなる事以外はデメリットもないって聞いて、ビックリしたっけな。だってアイツ、なんも話さねぇし。

ちなみに、一番心配していた日奈森が相当お冠だった。自分を助けるためにカードを使ったも同然だったから、かなりだ。



まぁ・・・・・・ありゃ恭文が悪い。つーか、紛らわしいんだよ。

そういう説明はこっちが聞かなくてもやるのが普通だろ。つーかどんだけ秘密主義の塊なんだ?

正直、そこを矯正出来ずにこのまま卒業するのが不安なんだが。あれで学校生活上手くやっていけるんだろうか。





「なるほど、納得しました。それで・・・・・・サリエルさんが居なかったら、本当に死んでたかも知れなくて」

「そんなに強かったのか」

「強かった・・・・・・です。サリエルさんも苦戦するくらいに」



話を聞きながら思い出すのは、あの模擬戦。・・・・・・サリエルさん、めちゃくちゃ強かったよな。武術関係詳しくない俺でも分かる。

つーか、幻術と本物をサーチってのだけで見抜いたのがすごいって。俺達もそうだし、シャーリーさんとかも出来ないんだしよ。



「俺もよ、実は前に来てくれた時に、『恭文とティアナさんVSヒロリスさんとサリエルさん』って組み合わせで戦ってるところ、見たんだよ」

「ホントですか?」

「おう。だから、お前よりは負けるかもしんねーけど、サリエルさんが苦戦してたってことは、その相手がマジに強かったってのだけは、分かるぞ」



そう言いながらニッコリ笑うと、少し安心したように、おかしいように、クスリとエリオが笑う。

・・・・・・まぁ、いい傾向だな。んじゃ、もうちょっと突っ込んでいくか。



「ただ・・・・・・今悩んでるのは、それとは関係ないんです」

「へ?」



突っ込んでいこうとした矢先に、それは止められた。

てゆうか、疑問で頭の中が一杯になる。今までの話とは関係ないところで悩んでるってことだよな。どういうことだよ、それ。



「いや、関係はあるんですけど・・・・・・あの」



少し、沈黙する。俺は何も言わずに、そのまま言葉を待つ。

目の前のやつの目を見ながら、ゆっくりとだ。そうして・・・・・・少しだけ時間が流れて、エリオは口を開いた。



「怖いんです」



左隣に座るエリオは、俯いて、プラネタリウムの床部分を見ているかのような体勢で、小さくそう呟いた。

暗い館内の中では、今ひとつよく見えないが・・・・・・震えているようにも見える。



「怖い?」

「・・・・・・最後の最後で、サリエルさん、相手の首を刎ねたんです」





・・・・・・とりあえず、ここに関しては俺はコメントしない。

てか、その場に俺が居たわけでもなんでもないのに、コメント出来るわけがない。

しかし、そっか。そうだよな。魔法が使えないってことは非殺傷設定は使えないということ。



使えないということは、当然・・・・・・そういうこともあるってことか。





「その時の光景が、頭から離れないんです。あの、それで別にサリエルさんが怖くなったとかではないんです。それは絶対に」

「・・・・・・あぁ、分かってる。じゃあエリオ、お前は何が怖いんだ? なんで、その時の光景が頭から離れないんだよ」

「僕、今まで自分のやってきたことが・・・・・・自分が、怖くなったんです」



俺はその時、エリオをじっと見ていて・・・・・・ようやく確信が持てた。

コイツ、やっぱり震えてる。怖くて、怖くて・・・・・・逃げ出したくなってる。



「僕は今まで、局の一員として、騎士として、傷ついている誰かを助けるために戦うんだって、そう思っていました。そのために強くなりたいとも思いました」



・・・・・・・なんでだろう。俺はこの言葉を聞いた時、最近知り合ったある奴の事を思い出していた。



「ただ、魔導師になる前から、自分の中にある力・・・・・・魔法を人に対して使っていました。魔法あり無しに関わらず、実際に傷つけたこともあります。
だから、覚悟はしてました。知っていました。戦うということは、自分のしていることは、決して奇麗事じゃないと。単なる暴力だと」



ヘラヘラした顔の中に、なにか・・・・・・無茶苦茶重いもんを抱えた奴を。進む方向はエリオや俺達とは全然違うけど、それでも自分の道を突き進んでいる奴を。



「例え人を助けても、戦うという行為の真理は変わらない。局員も、犯罪者も関係ない。理由も関係ない。ただ、対峙する相手を傷つけ、踏みつけることだと。
色んな人にそれを教わって、自分でも一つの実感として持っていて、ちゃんと分かっていると思ってました。・・・・・・でも、分かってなかったんです」



どうして思い出したのかと言うのはとりあえず置いておく。とにかく俺は、今のエリオにどう声をかけていいかと考える。

だけど、その考えがどうしてもまとまらなくて、俺はただ聞くことしか出来ない。



「僕は、覚悟なんてしていなかった。なにも分かっていなかった。あの時、目の前で実際に誰かが殺される現場を直で見るまで、ずっとそこから逃げてた。魔法は、守るための力だと逃げていた。
そんなことないのに。僕がやってきたことは、僕が積み重ねてきたものは・・・・・・ただ、誰かを傷つけるための力だった。あの時、サリエルさんがした行為。それが現実だった。僕の行為の行き着く先は、あそこだった」



独白はまだ続く。まだ、エリオは全部を吐き出してない。



「まだ、フェイトさん達と居る時は大丈夫だったんです。仕事場では大丈夫だったんです。みんな、僕と同じだから。戦うことを仕事にしている人間ばかりだから。
でも、ここに来て、相馬さんに日奈森さんや辺里さんに結木さん、僕と同い年くらいの子達が戦いとは関係なく暮らしているのを見ていると、こう・・・・・・すごいズレが襲ってきて」

「・・・・・・エリオ」

「それを見て、妬ましく思ったりしたんです。僕は今、こんなに苦しいのに、この人達は平然と笑っている。戦いとかそういうのとは関係ない世界で生きてる。
八つ当たりだと分かってても、そんなことを少しだけ考えてしまったり。・・・・・・あぁ、そんなの違う。全然違う。そうだ、今の今まで僕がやってきたことは、目指してきたものは」





思考が悪い方向に流れている。そう思った俺はとにかく声をかけて止めようとした。

だけどその瞬間、エリオから黒い光のもやが溢れてきた。そのもやは背中から出て来て、数メートル上で一塊になる。

一つの形を取ったそれは、俺のよく見覚えのあるものだった。それに、思わず俺は息を飲んだ。



それはたまご。そう、こころのたまごだった。





「なんだったんだろ。もう、分からないや」





そして、エリオのたまごなりたい自分に、×が付いた。



だけど、変化は止まらない。その黒いたまごからあるものが出てくる。





「・・・・・・ダイチっ! キャラチェンジっ!!」

「おうっ!!」










俺の頭に金色の星の形をしたアクセサリーが付くのと同時に、たまごの中から出てきた『それ』が妖しく声を上げながら笑い、手に持った槍をかざす。





次の瞬間、俺達の居た空間が黒い雷撃で満たされ、座席が、空気が、星を映し出していた装置が、そして俺とダイチが、それをまともに受けていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんだこれは」



プラネタリウムにゆっくりと向かっていると、キセキが怪訝そうな顔で呟く。

そして、ラン、ミキ、スゥ。ぺぺも同じ顔をする。



「ぺぺちゃん、みんなどうしたの?」

「みんな、感じたでちか?」

「うん。すっごく嫌な気配」

「というか、これは×キャラさんですぅ」



・・・・・・×キャラっ!? え、学校の敷地内になんでっ!!



「それだけじゃないよ」



ミキが僕に対して、深刻そうな顔で言葉を続ける。

というか、ある方角を指差す。それは・・・・・・僕達が目指していた方角。



「気配は、あっちから感じる」

「・・・・・・まさか」

「多分、そのまさか」

「空海さんとエリオになにかあったですかっ!?」



とにかく、制服の内ポケットから携帯を取り出して・・・・・・繋がらないしっ! つーか、電源切ってるっ!? あぁもう、こういう時くらいはマナー違反して欲しかったよっ!!



≪というより、あったようですね。資料棟の中、半壊しています。というより、ところどころに小さな熱源反応が≫

「はぁっ!?」



あぁ、いきなり事件発生っておかしくないっ!? と、とにかくまずは・・・・・・。



「みんな、今すぐに資料棟に向かって空海の安全確認っ!!」

「分かったっ!! ・・・・・・って、モンディアル君は?」

「エリオは見殺しっ!!」

『えぇぇぇぇぇぇっ!?』



そして、今叫んだ全員が僕を非難の目で見る。てゆうか、頭の血の巡りが悪い。

仕方ないのでとっても簡潔に説明することにした。うん、本当に簡潔に。



「こらこら、なんでそこ驚くっ!? エリオは魔導師で局員なんだから、放置しても適当に生きてるっ! フィールド展開するだけでも、防御力は高くなるんだからっ!!
でも、空海はキャラ持ちってこと以外は一般ピーポーっ! だから、先に怪我するとしたらこっちだし、優先なのは当たり前っ!! ・・・・・・納得したっ!?」

「な、なるほど・・・・・・。うん、分かった。とにかく、相馬君の状態確認を優先ということで」

「あの、ヤスフミ。なにかあったの? というか、エリオがどうかしたのかな」



フェイトがあむや僕達の様子に疑問に満ちた視線を・・・・・って、そうか。しゅごキャラ見えないんだ。

キャロも同じくなのか、首を傾げてる。なので、とっても簡潔に言う。



「×キャラが、多分資料棟に出てきてる。というわけで、僕達は今から対処するから」

「えぇっ!?」










とにかく、僕達はそこから全力疾走で木々が生い茂る・・・・・・表現おかしいけど、生い茂ってるのよ。

生い茂る中庭を抜けて、古ぼけた資料棟に到着した。だけど、おかしい。表現ではなく、今度は目に映っている光景がおかしい。

まず、入り口のドアが吹き飛んでいたから。ドアは乱暴に砕かれて、その破片から煙がプスプスと上がっている。どうやら、焼け焦げているらしい。





その様子に、なーんかデジャヴを感じつつ、僕達は中に入る。ゆっくりとドアの残骸を踏み分けつつ、慎重に。

すると・・・・・・あっちこっちで火花が走っていた。というより、室内が何かが焼ける匂いで充満していた。

大火災というレベルではないし、消えかけてはいるけど、十分ボヤレベル。そして、その光景の中にある二つの影の様子を見て、僕は大まかな事態を察した。










「・・・・・・相馬君っ!!」





プラネタリウムの中央、そこに空海が倒れていた。あと、ダイチも。



そして、その近くの席に、エリオが崩れ落ちていた。





「エリオっ!!」

「エリオ君っ!!」





とりあえず、僕は空海の方に行く。で、頭を振りながら起き上がろうとしている空海に、回復魔法を一発。



右手をかざすと、空海の身体が青い光に包まれる。それに空海は二、三回、その場で目をパチクリさせて、元気よく立ち上がった。





「・・・・・・お、身体軽いや。恭文、サンキューな」

「いいよ。で、早速だけど質問。何があったの?」

「悪い。エリオのたまごが×キャラになっちまった」



・・・・・・やっぱりか。だから、エリオがあんなつや消し目で反応を示さなくなってるわけだ。

おかげでフェイトとキャロが泣きそうだし。てゆうか、泣いてる。



「それでエリオの×キャラは?」

「多分、外に飛び出してったと思う。俺と空海でなんとか止めようとしたんだけど、キャラチェンジしても全然歯が立たなくて・・・・・・。すまねぇ」

「いいよ」



てか、この惨状を見れば責める気も無くなる。・・・・・・これ、あとでリメイクハニーとか使って直さないとだめかな。



「でさ、ちなみに攻撃って、雷でバリバリ?」

「あぁ、そうだけど・・・・・・なんで分かったんだ?」



やっぱりか。そうなると・・・・・・少し厄介かも。まぁ、油断さえしなきゃオーケーでしょ。



「これでも1年近くは付き合いあるもの。分かるよ。
てか、空海もごめんね。あのバカが迷惑かけて」

「いや、それはいいけどよ。・・・・・・なぁ、恭文」



うん、どった? てか、また偉く真剣な目で僕を見るね。



「エリオ、悩んでたぞ」

「・・・・・・知ってるよ」



しかも相当。僕達の想像以上にだ。じゃなきゃ、いきなり×キャラなんて生まれるはずがない。



「それが原因で今日のコレだから」

「そっか。でよ、多分お前なら、アイツの悩みを解決出来ると思うんだよ」

「嫌だね」



即答で答えると、空海が『やっぱりかよ』という顔で僕を見る。なので、両手を上げて軽くそれに答えた。



「僕、別にエリオとは友達でもなんでもないの。なので、正直どうなろうが知ったこっちゃない」

「また冷てぇな。アイツはフェイトさんの保護児童だろ? つーことは、お前の家族でもあるんじゃねぇのかよ」

「そうだよ。でも、僕はそういう風に思ってない。てか・・・・・・答えなんて結局、自分のためのものじゃないのさ。
なんで僕がそんな理屈を理由に、エリオの答えをわざわざ用意する必要があんのよ。悩むなら、勝手に悩めばいいでしょ」



とは言え、このまま放置も違うか。フェイトがピーピー泣いたら正直一緒に暮らしている現状では非常にうっとおしい。

これでは、僕とティアの夜のお勉強にも差し支えるというもの。それは正直いただけない。



「ま、それでもヒントくらいはあげてもいいけどね。後は潰れようがなんだろうが、知らない」

「・・・・・・そっか。ま、それでいいんじゃねぇの?」

「あらま、止めないんだ」

「これでもJチェアだからな。お前の言いたい事も分かるんだよ。・・・・・・どっちにしろ、助けるんだから理由なんか別にどうでもいいんじゃねぇか?」



なんか、自分でも苦い顔になるのは気のせいじゃない。普通に見抜かれてるように感じるのは、やっぱり辛い。



「まぁ、そういうことにしておくよ。・・・・・・悪いんだけど、唯世達と一緒にフェイトとキャロの事、お願い。特にフェイト」



あぁ、ポロポロと泣き出してるし。しゃあない、とっとと決着を付けますか。



「分かった。こっちは任せとけ」

「お願い」



とにかく、僕は待ってくれていたあむとリインと一緒に外に出た。・・・・・・てか、待ってたんだ。



「まぁね。・・・・・・でも、どうする? ラン達、もう×キャラの気配は近くに感じないって言ってるし」

「・・・・・・マジ?」










正直、あの『なんとなくレーダー』を期待してたのに。なんとなくで精度は低いけど、それでもなんとなくなんとかなってしまうかなとか思ってたのに。





まぁいいや。とにもかくにも捜索開始だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、×キャラの気配がつかめないのは今も変わらず?」





とにかく、学園の外に出て捜索開始。とは言え、僕達はアテもなく歩くことしか出来ない。だって、×キャラになっちゃったらアルトはサーチも出来ないんだし。



で、アルトや僕と違って『なんとなくレーダー』で気配察知が出来る三人は、申し訳無さげに首を縦に振って、僕の言葉に答えてくれた。





「ごめん、変わってない。一応ボク達も気配は追ってたんだ。だけど」

「移動スピードがすっごく速いみたいなんだ。アッと言う間に私達から離れちゃった」

「もうもう、あっという間だったです。うぅ、恭文さんごめんなさい」

「あぁ、いいよいいよ。というか、ありがとね」



まぁ、ちゃんとやってくれた上でこれだから、もう僕は何も言えない。

で、問題は×キャラだよ。移動速度は相当速いか。



「あと、なんか電気がビリビリーとかってダイチが言ってたよね。てゆうか、どうして恭文はエリオ君の×キャラがそういうの使ったって分かったの?」

「簡単な推理だよ。エリオ、先天魔力変換資質で雷を持ってるの」

「せんて・・・・・・かみな・・・・・・なにそれ?」





で、あむに街の歩道を歩きながら説明。・・・・・・魔力変換とは、使用者の魔力を炎や雷、氷と言った自然界にあるエネルギーを模して変換する技能である。




「あ、もしかしてあの凍華一閃とかあのアイシクルキャノンって」

「そうだよ。あれが魔力変換。ただ、魔力変換にも二つ種類があるの」





一つはプログラムを介して魔法の一つとして使用する場合。僕やリインが魔力変換を行う場合はこっち。

プログラムを介して温度変化などの必要なコントロールを行って、魔力を変換。その工程を通した上で、魔法を使う。

これは、適切なコントロール技術を身につければ誰でも使える。実際、僕も氷だけじゃなくて炎と雷の変換も覚えてるし。



そして、もう一つは・・・・・・。





「生まれながら・・・・・・ようするに、先天的に変換資質を持っている場合です。
資質を持っている人は、プログラムを介さずに自分の意思で魔力変換を行う事が出来るんです」

「えっとぉ、恭文さん達はその先天資質を持っているのではないんですよねぇ」

「うん。僕達の変換は、あくまでも魔法の一つとしてだから」





そして、エリオは僕達と違って、先天的な変換資質を持っていると説明した。



そう話した時に、あむとラン達が納得した顔になった。僕の言いたい事が分かってくれたらしい。





「ようするに、エリオさんの×キャラだからそれだということですねぇ。ティアナさんの時と同じように、宿主の特性を写しているんですよ」

「そうだよ。だから電気属性の攻撃が出来た」



あの焼け焦げたような跡の数々は、間違いなくそれだ。フェイトの訓練とかにも付き合ってたし、自分で変換技術を覚えた時に色々実験したりとかしたから、よく分かる。



「動きが速いのも同じく。・・・・・・エリオ、フェイトと同じ装甲薄めの高機動型アタッカーだからさ」

「高機動だから、速くて当然と・・・・・・。あぁ、あたしなんかまだ慣れないなぁ。てゆうかさ、絶対おかしいって。
魔法なのにどうして装甲とか高機動とか、そういうどっかのロボットアニメみたいな単語が出てくるわけ?」

「奇遇だね、僕も魔法と出会った時、面白いどうこうは別として今のあむと全く同じことを思ったよ」





・・・・・・とにかく、以前×を付けられた上で二階堂に奪われたティアのたまごを入れられた人形は、射撃と攻撃の力を持った幻術を使うチートキャラクターだった。

今回もそれと同じ。電撃による範囲攻撃と高速移動の特性を持ってる。資料棟で空海がやられたのも、間違いなく電撃による攻撃。ダイチに確認もしてるから、多分間違いない。

そうすると、僕達はエリオの×キャラを追う上で気をつけておかなきゃいけないことがある。それは・・・・・・本物との能力の差異だ。



ティアの幻影は、幻影そのものには攻撃能力なんてない。だけど、×キャラが出した幻影は普通に攻撃能力を持っていた。

今回もそれと同じ現象が起こる可能性がある。この場合、危険なのはあむよりも僕とリイン。理由は、エリオの能力を『知っている』から。

同種の能力を持っている可能性が高いとは言え、だからと言って相手の能力を知ったかぶりすれば、足元をすくわれる危険性があるのだ。





「・・・・・・ね、電撃で範囲攻撃って、やばくない? それやられたら、あたし達感電しちゃうじゃん」

「とりあえず、リイン達は大丈夫ですよ? 電撃対策はバッチリですから」



これでも身近に雷使いが一人居るもの。事ある事に模擬戦闘してたから、普通にその辺りはしっかりしてる。

だけど、あむはそうじゃ・・・・・・ないよなぁ。



「ね、あたし達どうしようか」

「うーん、大きな木の下に隠れるとか?」

「ラン、それはかえって危ないから。その木に雷が落ちる危険だってあるよね」



なんか雷に打たれる図を想像したのか、顔が青ざめてるもの。今のミキの言葉で、より青さが増した。



「あれだよ、ハートロッドを避雷針代わりにしたら? こう、地面にグサって突き刺してさ」

「あ、なるほど。雷が落ちてきたら、地面に突き刺したハートロッドにこう、バリバリーって・・・・・・。あの、それできるの?」

「・・・・・・いや、僕に聞かれても」



たまごはあるけど、キャラなりもキャラチェンジも出来ないのよ? 分かるわけがないじゃん。

とにかく、青い空の下、学校の途中なのになんか普通に外を出歩きながらも腕を組みつつ考える。考えて・・・・・・閃いた。



「あ、ランなら分かるかも」

「なるほど。というわけでラン」



あむがランに視線を向ける。で、両手をブンブン振って『そんなのわかんないよー!!』とか言って慌ててる。

だけど、そこで終わらなかった。表情がハッとしたように明るくなって、あるものを取り出した。



「こういう時はやっぱり・・・・・・おみくじー!!」



そう、それはおみくじ。神社とかに置かれている六角形だか八角形だかの木箱を振って・・・・・・って、おーいっ!? そんなおみくじでどうしろって言うのさっ!!



「・・・・・・ラン、アンタなにしてる?」

「あ、出た出た」



え、僕達の的確なツッコミ無視っ!?



「えっと、恋愛運上昇。金運・・・・・・あ、ちょっと悪いね。それでそれで、今日はとっても意外な出会いがあるかも知れないだってさ。よかったねー」

「いいわけあるかボケっ! てか、エリオがどこに居るか何一つ示してないじゃんっ!! それで僕達にどうしろとっ!?」

「そうだよ。そんなのじゃ全然ダメだね」



そして、ここで登場したのは我らがハイセンススペードのミキ。

うーん、やっぱりクールキャラではあるから、きっとすごい一手を出してくれるに違いない。



「うーん、ここはやっぱり・・・・・・これじゃない?」



ミキ、そう言いながらなぜダウジングマシーンを取り出す? そしてなんか探ろうとするな。



「出たよっ! こっちっ!!」



それをそんな笑顔一杯で信じようとするな。そして、どこを指差しているのさ。そっちは聖夜小でしょうが。



「もう、ランもミキも全然ダメですぅ。もっと真剣にやってください。やっぱりここは・・・・・・これでしょう」



スゥ、そう言いながらなぜ泡だて器を垂直に地面に立てる。あれかな? もしかして僕は真剣って言葉の意味を今まで勘違いしてたのかな。



「・・・・・・はい、出ましたぁ。こっちですよぉ」



で、なぜ倒れた方向を自信満々に指差す? しかもスゥ、そっちはミキが指差したのとは逆方向だし。



「・・・・・・恭文。てゆうかアルトアイゼン、やっぱりサーチって無理なの?」

≪残念ながら。×キャラ化してるおかげで物理サーチが出来ないんですよ≫

「そっか。あー、こうなったら恭文の運の悪さに期待するしかないのかなぁ」

「それしかないかも知れませんね。うぅ、いつも通りのパターンになるのを期待なのです」



・・・・・・どうしよう、そんな期待なんて正直裏切りたい。でもなぁ、今までの経験から行くと、そろそろ出そうな感じではあるんだよね。

うーん、とりあえず適当にもうちょっとブラついてみるか。そうしたら、なんか当たるかも知れない。



「なんでみんな揃ってスゥ達を無視するですかぁっ!? こっちを向いてくださいっ! というか、恭文さんまでー!!」

「そうだよっ! 私達真剣に考えてるのにっ!!」

「絶対こっちだってっ! ボクのダウジングは完璧なんだからっ!!」

「さー、とりあえず捜索を続けるですよー。というか、頑張るですよー」

『みんなひどいよ(ひどいです)ー!!』










・・・・・・とにかく、捜索は継続。当たりが出る事を祈りつつ、近辺を探す。





でも、出るかなぁ。というか辛い。なんかリインとあむとキャンディーズは無茶振りなプレッシャーかけて来るのが辛い。・・・・・・あ、そうだ。





僕は、とりあえず端末を右手で服の内ポケットから出して、ある人に通信をかける。今は休み時間中だし、多分繋がる。










『はい? てゆうか、どうしたのよ』

「あ、もしもしティア? 突然だけど、今から僕とあむとデートしようよ」

『あぁ、それはいいわ・・・・・・はぁっ!? デートってどういうことよっ! しかもあむも一緒ってっ!!』





いやね、実は・・・・・・かくかくじかじかというわけなのよ。学校内から唯世達を動かすわけにはいかないし、ティアならいいかなーと。





『いや、いいかなって・・・・・・あぁもういいわよ。事情は分かったから。ただし、ガーディアンの活動に引っ張ってかれたってちゃんと中等部の先生達には説明しといてよ? 意外とうるさいんだから』

「あぁ、そこは大丈夫。唯世がちゃんとしてくれるから。というかさ・・・・・・いいの?」

『いいわよ。てか、なんで聞くのよ』



いや、さすがにちょっと無茶振りかなーと思ってたので。・・・・・・いや、本当によ?



『まぁ、普通なら自分たちでなんとかしなさいとか言うとこだけど、エリオに×が付いてんでしょ? ・・・・・・私も同じ目に遭ったしね。まぁ、早めになんとかしちゃいましょうか』

「うん。ティア、ありがと」

『ん・・・・・・。じゃあ、先生達の許可もらってから、すぐにそっちに合流する。それまで無茶しないように。いいわね?』

「わかった」










ということで、ティアを増援として呼んだ。とりあえず手数はあるけど・・・・・・エリオの×キャラ、どこ行ったんだろ。





というより、今までの×キャラとは行動パターンが違う気がする。今まではその場で破壊活動を継続してたのに、今回は普通に僕達から逃げてる。





・・・・・・うーん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、空海君を保健室に連れて行く。そして、一応傷の治療。まぁ、ちょっとしたやけどくらいだったんだけど、一応念のため。





とにかく、私はみんなから過保護なまでに心配されたおかげかようやく落ち着いたので、混乱しきっているキャロに事情説明。あ、エリオもベッドを貸してもらって寝かせてもらってる。










「・・・・・・というわけなんだ。エリオがあの状態なのは、エリオのたまごに×が付いたせいなの」

「じゃあ、エリオ君は」

「大丈夫。日奈森さんと蒼凪君が×キャラを浄化すれば、たまごも元に戻るから」





・・・・・・そう、あむさんとヤスフミが浄化出来れば元には戻る。でも、エリオ・・・・・・こんなに悩んでたなんて。

私、保護者失格だよ。側にも居られないし、力にもなれなかったし。なんか、ダメだな。

恋とか・・・・・・してる場合じゃなかったのかな。やっぱり私はその前に二人の保護者であるべきで。



でもでも、ヤスフミへの気持ち、最近抑えられなくなって来てて、やっぱり告白とかしたくなってきてて・・・・・・。





”・・・・・・Sir、あまりお気になさらず”

”バルディッシュ?”

”おそらく今、彼に気持ちを奪われていて保護者としての責務が疎かになっていたのではないかと反省していたと思いますが”



なぜか考えを丸々読まれているっ!?



”今の今まで、彼女達の保護者として、局員として、執務官として・・・・・・そういう風に自分を疎かにし、諦めていた部分があった。
だから、ランスター女史に彼を取られ、それから自分の気持ちに気づいて後悔することになったのを、忘れたわけではありませんよね?”





その言葉がグサっと胸に突き刺さる。突き刺さって、考える。・・・・・・忘れられるわけ、ない。忘れてなんて、ない。

だって、この1年お姉さんで居て、辛かったから。ティアとヤスフミが仲良くしてるの見るの、ちょっと辛かった。

もちろん、私の自業自得。二人のせいなんかじゃ絶対にない。自分に嘘をついて、諦めを許していた私のせい。



だからなのかな、それを感じる度に、ヤスフミが笑ってくれるのが嬉しいと思うのと同時に心に痛みが走って、思い出して・・・・・・そんなことをずっと繰り返してた。





”いいではありませんか。一人の女性として恋に走ったとしても。・・・・・・ただ、勘違いして欲しくないのは、この話は彼の事に限った事ではありません。
仮にこれから他の男性に心を奪われたとしても、彼女達の事ばかりを考えていては、同じ事の繰り返しです。それでいいわけがありません”

”・・・・・・そうだね。バルディッシュ、ありがと。なんだか、少し楽になった”

”いえ”










やっぱり、告白・・・・・・考えてみようかな。その、きっとヤスフミを戸惑わせる。もしかしたらすごく傷つけるかも知れない。

でも、あの・・・・・・ちゃんと伝えたい。だめ、1年前はお姉さんのままでも大丈夫なんて思ってた。

だけど、無理みたい。・・・・・・言葉に、したいよ。今の私の気持ちを。ちゃんと伝えたい。





あなたの言葉は、想いは嘘なんかじゃなかった。だから私・・・・・・今、あなたに惹かれてるんだって、伝えたい。うぅ、でもでも、やっぱりそうすると三角関係で・・・・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ねね、フェイトさんが煙出して唸り始めてるんだけど、どうしたんだろ」

「てゆうか、顔赤いな。・・・・・・あー、俺ベッドから出た方がいいか? そうすりゃフェイトさん休めるしよ」

≪結木女史、相馬氏、気にしないでください。Sirはこう・・・・・・暴走しやすいんです≫





フェイトさんの懐からプカプカとバルディッシュが浮かんで、俺達に声をかける。で、当然のように俺達は首を傾げる。



・・・・・・なんだろう、よくわからない。つーか、俺達が触れていい感じでもないから、気にしないことにする。





「・・・・・・私にも、何か出来ませんか?」




その声は、キャロ。真剣な目で、俺達を見てた。



で、言っている意味はすぐにわかった。ようするに、×キャラ浄化に手を貸したいって言ってるんだ。





「というか、恭文さんが浄化出来るなら。私やフェイトさんだって」

「うーん、多分無理じゃないかな。やや達も同じ事考えたんだけど、なんか恭文の魔法が浄化出来るのは、恭文がキャラ持ちだからみたいだし」

「・・・・・・え? あの、恭文さんキャラ持ちってどういうことですか。私、なにも聞いてないんですけど」



・・・・・・おいおい、アイツマジでどんだけ秘密主義者だよ。たまごのこと、身内にまで秘密にしてやがったのか。



「え、キャロちゃん恭文のたまごの事知らなかったのっ!?」

「というか、恭文さんのたまごってなんですか? あの、私本当に分からなくて」



・・・・・・マジで知らなかったらしい。俺達は顔を見合わせて、全員苦い顔をする。

恭文、お前・・・・・・距離感あり過ぎやしねぇか? 知り合いであって友達じゃないと言っても、これはないだろ。



「うー、恭文色んな事秘密にしすぎだよー! やや達にもゼロタロスのカードのこと内緒にしてたし・・・・・・ちょっと不愉快ー!!」

≪結木女史、そこは言わないでいただきたい。たまごのことを秘密にしていたのは、レアスキル認定や、局や不埒な連中の目を避けるために必要だったんです≫

「え、それってどういうこと? 特に変な事ないじゃん。恭文もやや達と同じで、ただキャラ持ちってだけなのに」

≪・・・・・・あなた方はどうも、自分達が特異な存在だと自覚がないようなので説明しておくと≫



なんだろう、今すっげー呆れられた気がする。俺達全員、バルディッシュにすっげー呆れられた気がする。



≪局ではあなた方が所持しているような特異能力を、レアスキルと呼称しています。そして、そういうスキルを持った人間は、局の中でも重宝され、尚且つかなり注目もされるんです≫

「いや、特異能力って・・・・・・しゅごキャラはそういうものじゃないよ。あくまでもなりたい自分が形になっただけなんだから。僕達だって普通の小学生だし」

≪そのしゅごキャラの力を借りる事で武装をどこからともなく出したり、虹色の絵の具で物理干渉能力を持った攻撃を防いだりなどは、普通の人間には出来ません。しかも、魔法のそれとは違う。私から言わせれば、十分にレアスキルですよ≫





まぁ、そう言われると・・・・・・そうだよなぁ。日奈森に至っては、アミュレットハートになると運動能力がすげー。飛行こそ出来ないけど、長時間滞空が出来る。

クローバーのリメイクハニーは物・人問わずどんなものでも即効で『お直し』出来る。実際に二階堂の大怪我もすぐに治した。

話聞いてると、管理局ってのは魔法文化が中心らしいし、そこを考えると魔法ってやつに頼らずに色んな事が出来る俺達の能力は珍しい部類には入るとは思う。



つまりだ、しゅごキャラやキャラチェンジ、そしてキャラなりが実際にどういうものかってのは関係ない。俺達が出来る事だけを、ようするに外見だけを見ると、そうなるってことか。





≪そして珍しい力、それを生み出す根源になりえる物は、とかく人の興味を集めやすい。彼は、局の人間に自分のたまごが珍しい実験材料のように見られるのを嫌ったんです。いや、局だけの話ではない。
犯罪者の中でもそういう輩は居る。場合によってはある日突然拘束され、長年に渡って非人道的な実験のモルモットとして扱われ、壊される。そういう現実も、世の中には確かにありますから≫





・・・・・・俺達がテレビの中でしか聞いたことのないような現実を、この金色のアクセサリーは平然と、普通のことのように話した。

その言葉にある種の実感が篭ってたから、不満顔だったややがなんか落ち込んだような顔になった。

てゆうか、ちょっと顔が青い。明らかに顔色が悪い感じがしてる。もしかしたら、想像してるのかも知れない。



自分のしゅごキャラぺぺが、そして自分が、そういう風に一つのデッカイ組織やいわゆる悪い連中から見られて、扱われる姿を。・・・・・・今、俺が考えていたのと同じように。





「だから、蒼凪君は本当に親しい人間以外にはたまごの事を黙っていたということかな? たまごの事が分かると、確実に色んな人間の注目を集めることになるから」

≪そうです。知っているのも、Sirにランスター・フィニーノ両補佐官、リイン女史にアルトアイゼン。あとはこの間来たクロスフォード女史達ですね。
知り合いの中でも、知らない人間の方が多いくらいです。なお、知っている人間にも口止めはしっかりしています≫



そこまで徹底してんのかよ。てか、マジで身内の中でごく一部って感じだし。



≪まぁ、彼の秘密主義はいつものことなんですよ。運が悪いために隠し手は常に保持しておかなければなりませんし、手札を相手に知られると弱くなる傾向も確かにあるので、徹底しているんです。
というより・・・・・・これくらいは私の知る限りで言えば、まだ普通のレベルなので、許してもらえるとありがたいです。ひどい時は行動や真意そのものから隠して、自ら悪役を買いますから≫

「こ、これが普通のレベルって・・・・・・」

「恭文、なんて言うか・・・・・・不憫な人生送ってるよね。やや、ちょっと泣きそう」

「ま、まぁ・・・・・・アレだキャロ。たまごのことは恭文から聞け。多分そのほうが早い」

「・・・・・・そうですね、そうします」



あれ、なんかケロっとしてる。てゆうか、『もう、仕方ないなぁ』って顔してやがるし。

え、なにこれ? 俺達があーだこーだと揉めて、フェイトさんが『・・・・・・同盟規約は破らないように』とか呟きまくってる状況で、なんでこの子は平然としてんだよ。



「恭文さんは、私やエリオ君の方なんて振り向いてくれませんから。バルディッシュじゃないけど、これはいつものことです」

「え?」

「だから、全速力で追いつくことにしてます。追いついて、しっかりと手を掴んでから話は聞きます」










なんだろう。そう言ってにっこりと笑うキャロの笑顔に、俺は背筋が寒くなった。





あれ、なんでだろ。俺が食らったのは雷撃であって、氷の攻撃とかじゃないよな。なのになんで寒くなんだよ。おかしいだろ、これ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あれ、なんでだろう。





なんか今、すっごい寒気を感じたような。










「恭文、どうしたの?」



あむが心配そうに声をかけてくる。それに対して、微妙な笑顔しか返せない。

だって、背筋にまだ殺気・・・・・・もとい、さっき感じた鋭いくらいに寒いものが残ってるから。



「いや、こう・・・・・・嫌な予感というか、帰ったら大変なことになりそうな感じがするというか」

「はぁ? なによそれ」



聞かないで。僕だってよくわからないんだから。

しかし、なんだろ。六課辞めてから、ちょくちょく感じるんだよね。うーん、よく分からない。



「とにかく・・・・・・気配ないなぁ。うーん、本当にどこに行っちゃったんだろ」

「恭文さん、もしかしたらミキがダウジングで見つけたみたいに、学校内かも知れませんよ?」

「・・・・・・こうなってくるとそこも考えないといけないね」



聖夜小自体の敷地もかなりあるし、外に出てそろそろ1時間とか経とうとしてる。

一応、可能性の一つとしてはあり。だけど、僕達が外の捜索に時間を費やすのには変わらない。もちろん、ここにも理由がある。



「でもでも、学校内には唯世さん達が居ますから、何かあれば連絡は来ますよねぇ」

「そうだよ」



そう、今スゥが言ったのがその理由。学校内にキャラ持ちメンバーが居ないならともかく、キセキにぺぺ、ダイチも居る。

×キャラなり×たまの気配があれば、気づかないはずがない。そして、気づいたら絶対に連絡をくれる。



「なら、あたし達はこのまま外の捜索・・・・・・でも、疲れたよー。うぅ、急がなきゃいけないのは分かってるけど、このまま歩きっぱはキツいよ」

「確かにね。・・・・・・なら、ちょっと休憩する? もちろん、捜索ついでに」





そう言いながら僕が指差すのは、丁度通りがかった公園。・・・・・・僕とあむが、最初に出会った場所。



それを見てあむは、一瞬表情を明るくする。だけど、すぐに首を横に振った。





「ううん、いいよ。エリオ君はあの状態なんだし、もうちょっと頑張る」

「・・・・・・そっか。まぁ、アレだよ。それで歩けなくなったなんて言われてもあれだし、休みたくなったらきっちり休んだ方がいいよ? じゃないと、帰りは僕におんぶされることになる」

「あははは、了解。そこはちゃんとしておくよ」





とにかく、なんて言いながらも一応公園には入る。もちろん、休憩は無し。



で、入って・・・・・・・少し歩く。心地よい緑の風景に、なんか癒されてた。癒されて・・・・・・・足を止めた。





「・・・・・・恭文?」





なんだろう、妙な違和感を感じた。それを探るために、僕は・・・・・・瞳を閉じた。





「ちょっと静かにしてて」





集中して、辺りの気配を探る。・・・・・・空気の揺れ、匂い、触覚、熱。視覚を遮断することで、普段より高いレベルに上がった感知能力で周辺一帯の気配を探る。

恭也さんや美由希さん、警防のみんなとの訓練で鍛えた技。魔法や機械類に頼らない、感覚という原始的で、鍛え上げればどんな状況でも使えるレーダーをフル回転で使う。

そして、気づいた。この地点から10時の方向。距離にして500メートル前後。木々がいい感じで視界を塞いでるからここからそこは見えない。



だけど、妙な気配がある。人の気配もあるけど、そうじゃないのもある。それも・・・・・・複数。





「あむちゃんあむちゃんっ! ×たまの気配がするっ!!」

「えぇっ!?」

「・・・・・・あっちだよね」





僕は、目を見開いて指差す。そしてそれに、ラン達がビックリした顔になる。



どうやら、正解だったらしい。





「そ、そうだよ。というか恭文、どうして?」

「ボク達と違って、×たまの気配は察知出来ないよね」

「うん、出来ない。だから、周辺の気配の違和感を探ったの」



ま、×たまとは思わなかったけど。でも、エリオのたまごは×キャラに孵化したはずなのに。

そこまで考えて気づいた。ま、まさかとは思うけど・・・・・・。



「恭文、とにかく急ごう? そこに行けば分かるよ」

「・・・・・・そうだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・公園の真ん中の開けた広場にあったのは、大量の×たま。数にして20以上。それと同じ数、地面に蹲ったり、倒れている人達が周辺に居る。

どうやら、たまごを抜き出されたらしい。でも、それだけじゃない。全部が黒い人形に囚われていた。

そして、僕たちを無機質な顔でギョロリと見る。表現がおかしいけど、そういう風に感じてしまった。





あぁ、やっぱりか。てか、引くカード間違えてるし。










「・・・・・・別口ですか。てゆうか、イースターがまたなにかしてたですね」



これは、二階堂が作った例の強化ボデイ達。もちろん、みなさまご存知イースター印のもの。

なでしこやアギト達と買い物に行った時にも遭遇したけど、性能実験でもしてるわけ? 遭遇率が高いし。



「みたいだね。ま、そこはいいじゃないのさ」



とりあえず、左手からゼロタロスを取り出す。



「そうだね。・・・・・・このまま放置なんて出来るわけないし。だから、とっとと片付けて、×キャラ探さないと」

「そういうこと。あむ、一緒に行くよ」

「うんっ!!」



あむが両手を自分の前へ持っていく。僕もゼロタロスを腰に巻きつけ、左手の親指でベルト上部のスイッチを入れる。

鳴り響くのは甲高い笛の音。それにより、黒い人形達が身構え、こちらへと今にも踏み込もうとしている。



「あたしのこころ・・・・・・!!」



それから、カードホルダーに手を伸ばして、カードを取り出す。

僕は、右手に持ったカードをゼロタロスに挿入。



「変身っ!!」



動かしたスイッチが元の位置に戻り、ベルト前面の装飾が回転し、ベルトとカードのオレンジのラインが繋がり、二つの装飾で一つの線を描く。

その線が、強い輝きを放つ。それは、ラインと同じ色の輝き。



≪Charge and Up≫



そして、僕の隣であむは、鍵を開けた。



「アンロックッ!!」





ベルトからオレンジ色の鏡のようにも見える板状の光がはじけ、それがそのまま僕の身体を包む。そうして、ジャケットを装着。



あむも、スゥとキャラなり。胸元のハンプティロックから放たれる緑色の光の中で、その姿を変える。





【「キャラなりっ! アミュレットクローバーッ!!」】



光の中から出てきたあむの姿は、先ほどまでと違っていた。緑のかぼちゃパンツにクローバーの髪飾りで髪は短めのツインテールになっている。

そして、エプロンのようにも見える白いフリフリの服。・・・・・・なんというか、思いっきりスゥだよね、コレ。



「最初に言っておくっ!」



僕はそれから視線を外し、連中を見据えながら左手で連中を指差す。

そのまま、力強く言い放つ。



「僕はかーなーり強いっ!!」

≪ついでに言っておきます。時間がないので、即効で片付けます≫



そのまま、右手を伸ばしてアルトを抜く。

こっちは時間がないし、本命じゃないなら用はないっ! とっとと浄化して、捜索再開だっ!!



「・・・・・・ね、そこ複数形じゃないかな。ほら、あたし居るし」

「ついでのついでに言っておく。一緒にするな、レベルが果てしなく違い過ぎる」

「なにそれっ!? てゆうかムカつくんだけどっ! さっきは一緒だって言ったじゃんっ!!」

「気にしないでっ! てか、行くよっ!!」



そのまま、僕は前に踏み込む。連中との距離は一瞬で零になる。

人形は、僕に向かって右拳を叩き込んでくる。でも遅い。僕はそれを左に回避。回転しつつ、殴りかかってきたのに左から一発叩き込む。



「こらっ! 一人で突っ込まないのっ!! ・・・・・・リメイク」





あむが両手から、泡だて器を出す。



それをそのまま、振りかざした。





「ハニーっ!!」





泡だて器から溢れるように出てきたのは、クリーム色のシロップ。

それが人形達の大半を包む。そして、そのまま浄化した。

人形の中から白いたまごが出てきて、核を抜かれた人形達が、どっかのコピーロボットみたいに小さくなった。



だけど、全部じゃない。残り13・・・・・・その数は、あむのリメイクハニーから軽々と逃げた人形の数。だけど、その隙を狙って動く影があった。





「フリジットダガーッ!!」





放物線を描きながら、リインが生成した氷の短剣が雨のように降り注ぐ。



人形達の合間を縫うように短剣は次々と着弾し、地面を穿つ。・・・・・・リインは、わざと外してる。僕と違って、普通に攻撃したらたまごを壊すから。





「恭文っ!!」





分かってるっ! あむ、リイン、ありがとっ!!





≪Flier Fin≫





両足首から生まれたのは、二枚の青い光の翼。より速く、鋭く前へ進むための力。



二人が初っ端でパンチを利かせてくれたおかげで・・・・・・一気に突っ込めるっ!!





「鉄輝・・・・・・!!」





だから、僕はもう動いている。



そしてそのまま、アルトの刀身は青い光に包まれて、全てを斬り裂く刃となった。





「一閃っ!!」





乱れた陣営の中へと踏み込み、そのまま加速して刃を袈裟、逆袈裟に打ち込み続け、人形を両断する。青い光の線が、黒い人形を、そして空間を斬り裂く。

そのまま陣営を突き抜けた直後、後ろで爆発音。残り13体の人形、その全てが爆炎に包まれる。

その炎の中から、たまごが出てくる。出てきたたまごは白く、ちゃんと浄化されてる。それに、内心胸を撫で下ろす。



撫で下ろした直後、僕とあむを上から影が覆う。それに僕達はほぼ同時に後ろに飛びのく。その次の瞬間、地面に穴が開いた。






「・・・・・・なに、増援登場?」

「みたいだね。てゆうか・・・・・・ね、恭文。なんか剣みたいなの持ってるんだけど」



そう、あむの言うように、僕達を上から襲ってきた人形は、黒い70センチ程度の片手剣ロングソードを振りかざして僕達へと叩き込んだ。数は、ちょうど2。

・・・・・・さて、さっき片したのは雑魚として、これはどうかな。外見は同じだけど。



【油断は禁物ですぅ。うぅ、これはもしかしなくてもランかミキに交代した方がいいかも知れませんねぇ】

「そうだね。ラン、早速だけど」





あむ達が作戦方針を決めたのは、本当に一瞬の事。僕がそれを聞いていたのも、本当に一瞬のこと。

リインが攻撃態勢を再び整えたのも、本当に一瞬の事。

だけど、その幾つかの一瞬さえあれば、『それ』には十分だったらしい。



『それ』は一瞬で踏み込み、一瞬でコピーロボットと化した人形に入り込む。





「・・・・・・え?」





一瞬で近づき、穿つ。あむに剣を持ってにじり寄っていた人形を、背後からその手に持った槍で貫いた。



そして、一点突破で貫かれた人形から、たまごが出てくる。それは・・・・・・音を立てて、僕達の目の前で砕けた。





「たまごが」

【壊されました・・・・・・】





人形自体には、ここから見る限り傷は付いていない。どうやら、たまご自体を直接的に攻撃したらしい。そのまま、再び小さくなり始めた人形に、影が乗り移る。

乗り移ったことで人形は縮小をやめ、再び大きくなった。そう、一瞬だけ借りていた身体を、捨て去った。

人形に表情はない。言うなれば、マネキンとかと同じだから。でも、それでも・・・・・・どこか嬉しそうに笑ったように見えてしまった。



右手に持つのは、両刃の黒い大槍。その槍の穂先に、雷撃がほとばしる。それだけで、先ほどまでの動きだけで、一体何があったのか、僕達は理解してしまった。





「エリオ君の、×キャラ・・・・・・」

【まさか、戦力強化のために人形を乗っ取ったですかっ!? 中にあったたまごを壊してっ!!】

「どうして・・・・・・どうしてこんなことするのっ!? たまごの中には、持ち主の子の夢やなりたい自分が詰まってるのにっ!!」

(・・・・・・それが、どうした)





そのかすれるような声は、人形から聞こえた。あむの方へ走り込もうとするけど、人形が打ち込んできて・・・・・・それをアルトで受け止める。



やばい、鍔迫り合いになった。つーか、押し込まれてる。コイツ・・・・・・力、強い。





(弱いから、壊される。壊すことは、戦いにおいては当然のことじゃないか。なのに・・・・・・なぜそんな事を言うのかな)

「違う、そんなの違うっ!!」

(違わない・・・・・・。あぁ、そうか。真理が見えてないんだ。だったら)





あむにその切っ先が向く。つか・・・・・・・・・・・邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





(真理を、見せてあげるよ)










その瞬間、黒い人形が踏み込み、その槍の切っ先があむに向かって飛び、突き立てられた。





鍔迫り合いしながら見た動きは、まさしく雷光。そう、黒き雷光が、あむを標的として僕の目の前で走った。




















(その11へ続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで、ティアナさんにほとんど出番がなかったティアナルート第10話、みなさんいかがだったでしょうか。本日のお相手は、古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「前回、僕は間違ったことは言ってないと思う蒼凪恭文です。・・・・・・なお、ややは今回お休みをいただいて」

やや「休んでないからっ! やや、ちゃんとここに居るしっ!!」





(あ、なんか居た)





やや「えっと、みんなやっほー。結木ややです。・・・・・・でさ、ややは思ったの」

恭文「思ったって・・・・・・え、なにを? ・・・・・・あ、もしかして」

古鉄≪あぁ、ついに分かってくれたんですか。そうですよ、みんな違っていていいじゃないですか。みんなヒロインじゃなくていいじゃないですか。
リンディさんやアルフさんや桃子さんだってヒロイン出来ないんですから、あなたがヒロイン出来なくても問題はないんですよ≫

恭文「そうだよやや。人には向き不向きがあるんだもの。みんな違ってていいんだよ。ナンバーワンよりオンリーワンだって。
オケラだってミミズだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだし、友達なんだよ」

やや「違−うっ! そういうことじゃないからっ!!
えっとね、やや・・・・・・IFルート頑張っていきますっ!!」





(あ、なんかファンファーレが鳴り響いた)





古鉄≪・・・・・・どうして分かってもらえないんですか? みんな違っていていいじゃないですか。みんなヒロインじゃなくていいじゃないですか。
ネガタロスやフォン・レイメイやスカリエッティだってヒロイン出来ないんですから、あなたがヒロイン出来なくても問題はないんですよ≫

恭文「そうだよやや。人には向き不向きがあるんだもの。みんな違ってていいんだよ。ナンバーワンよりオンリーワンだって。
穢れた指先で、夜を注ぎ込んで、ちぎれるまで君をこじ開けて・・・・・・なんだよ」

やや「ちょっとそれ意味わかんないよっ! てゆうか、それは全員男の人だよねっ!? しかもネガタロスに至ってはイマジンだしっ!!
・・・・・・とにかく、ややは前回から色々考えたの。夜は9時間ほど眠り、お昼寝もして」

恭文「それはいくらなんでも寝すぎじゃないっ!? てゆうか、それだけ寝るとかえって身体に悪いってっ!!」





(だけど、エースにはそんなことは関係ないらしい。普通に話を続けるから)





やや「いいのっ! 寝不足はお肌の大敵なんだからっ!!
とにかく、やや・・・・・・別に恭文とそうなってもいいよ?」

恭文「・・・・・・へ?」

やや「まぁ、ちゅーとかえっちなことはその・・・・・・まだ子どもだからだめだけど、そうじゃなくて付き合うとか、ややから恭文を好きになるとかは、問題ないもん。てゆうか、今だって好きだしさ」

恭文「えぇっ!?」

やや「てゆうか、みんなややのこと誤解し過ぎ。やや、別に赤ちゃんキャラだけじゃないもん。ちゃーんと年相応の女の子キャラだって出来るしー」





(なお、原作・・・・・・というより、アニメの方だとそういうシーンは結構多いです)





やや「というわけで、IFヒロインに名乗りはこれからも上げ続けるので、大丈夫だよ?」

古鉄≪・・・・・・ややさん、よーく考えてください。みんな違っていていいじゃないですか。みんなヒロインじゃなくていいじゃないですか。
プレシアさんやアリシアさんやリニスさんだってヒロイン出来ないんですから、あなたがヒロイン出来なくても問題はないんですよ≫

恭文「まぁ、そういうことなら仕方ないか。何が大丈夫かは分からないけど」

古鉄≪そうです・・・・・・え?≫





(あ、なんか青い古き鉄が認める姿勢に入ってる)





やや「え、ややがIFヒロインでいいの?」

恭文「実際やるかどうかはわかんないし。まぁ・・・・・・僕もややのことが嫌いでもないしね」

やや「・・・・・・そっか。あの・・・・・・ありがと。やや、なんか嬉しい」

恭文「別にお礼なんていらない」

やや「いいの。ややが言いたいんだから。てゆうか、もっと素直になりなよー。ホントはややに『好き』って言ってもらえてすっごく嬉しいくせにー」

恭文「べ、別に嬉しくないしっ!?」





(青い古き鉄、腕を組みそっぽを向く。で、エースはエースでなんだか嬉しそう)





古鉄≪とりあえず・・・・・・終わっておきますか。なんかこれ以上のコメントは無粋な気がします≫










(というわけで、なんかツンデレな人とか映しつつ本日は終了。
本日のED:中原麻衣『Sweet Madrigal』)




















恭文「さてティア、ルート話も10話を超えていよいよクライマックスに入ってきたので、それを記念して『ツンデレールガン』を覚えようよ」

ティアナ「嫌よ」

恭文「えー、どうしてー?」

ティアナ「1、名称と響きにすっごく嫌なものを感じる。2、レールガンなんてガチで質量兵器だから、局員の私が使えるわけがない。3、アンタは間違いなくまた私をオモチャにしようとしてる。・・・・・・分かった?」

恭文「ぶー、じゃあいいよ。僕がやるから(コインを右手に持って、電撃発生。そしてそのまま・・・・・・発射)。
・・・・・・お、出来た。うーん、いい威力だねぇ」

ティアナ「・・・・・・『いい威力だねぇ』じゃないわよっ! このバカっ!! アンタなに普通にぶっ放してんのっ!?」

恭文「大丈夫。ちゃんと射線上に誰もいないことは確認した」

ティアナ「そういう問題じゃないわよっ! つーか、コインでレールガンってドンダケ無茶苦茶してんのっ!?」

恭文「仕方ないじゃんっ! こうじゃないと『ツンデレールガン』にならないんだからっ!!」

ティアナ「意味わかんないわよそれっ! そもそも『ツンデレールガン』ってなにっ!?」










(おしまい)




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