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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース09 『ティアナ・ランスターとの場合 その3』



時刻はもうすぐお昼。行くあてもなくて・・・こう、二人でぶらぶらしてる。





吐き出して、受け止めてもらって、やっぱり、気持ちは楽になってるらしい。昨日みたいな辛いのとか苦しいのとかは、ない。










「・・・どこ行こうか」

「そうね・・・。ね、せっかくだから首都まで足・・・あ、アンタが疲れちゃうか」

「大丈夫だよ?」

「だめ。自分が病気持ちだってこと、忘れないように。途中で体調崩したりしたらどうすんのよ」



た、確かにそれはまずいかも。だったら・・・うーん・・・。

あ、そうだ。



「ね、それなら水族館行かない?」

「水族館?」



この近く・・・少し電車に乗ると、ラトゥーアというのが



「だめよっ! アンタ、それでまた天気悪くなったらどうすんのっ!? さすがに三度目はまずいわよっ!!」

「またってなにっ!? 三度目ってなにさっ!!」



なら・・・うし、別のところだ。



「じゃあ、映画でも見に行く?」

「映画か・・・」



そう言えば、最近・・・あぁ、そうだ。無茶振りされまくって結局さらば電王見れてないんだ。

見たいけど・・・ダメだな。



「アンタ、何か見たいのあるのね」



だから、なんでそうなるっ!? つーか見抜くなぁぁぁぁぁっ!!



「まぁ、あるにはあるけど、だめ」

「なんで?」

「いや、ティアは知らないだろうし」



簡潔に説明した。そして聞いた。電王って知ってるかと。

で、当然首を横に振られる。



「・・・ごめん、わかんない。なんか人気だってのは聞いてるんだけど」

「じゃあだめ。今やってるの、思いっきりTVの事後話みたいな感じだし」



だからこそ見たかったんだけど、まぁ、ここはしかたないか。次の機会ですよ。



「別に私は構わないわよ? 適当に察するから」

「なんか器用なスキル持ってるっ!?」

「スバルの影響よ。あの子、普通に私がわかんない作品見に行こうとするから」



・・・・・・あれ、ずっと前からKYだったんだ。あはは、苦労人だなぁ。

でも、今回はだめ。うん、だめなの。



「どうしてよ」

「これ・・・一応、デートでしょ?」



僕がそう言うと、ティアがちょっと顔を赤らめる。

まぁ、そこは構わずに言葉を続ける。



「僕だけ楽しいのは、ダメだと思うから。てゆうかヒロさんサリさんと一緒に見るって約束してたし、JS事件の時もそのためにスカリエッティ陣営とやりあう覚悟決めたようなもんだし」

「・・・そっか。確かに、勝手に約束破ることになるしまずいわよね。てゆうか、アンタ・・・その映画見るために連中に喧嘩したの?」

「当然。だって、ゆりかごやらなんやらで管理局ぶっ潰れたら、地球だろうとちゃんと劇場公開されるか分かんなかったし」



なぜだろう、ティアがちょっと呆れてる。てゆうか、ため息を吐く。

うーん、そんなにおかしい事言ったかなぁ。普通だと思うのに。



「とりあえず、映画一本見るために世界の危機に立ち向かうバカはアンタやヒロリスさん達だけよ。・・・そんなに好きなの?」

「好きだね。ヒーロー物はどれでも好きだけど、電王はその中で1番」

「ふーん、やっぱり男の子なのね。そういうの好きなんだ」



ティアが笑う。なんだか嬉しそうに。にこやかで優しい笑みを僕に向けてくれる。

それを独り占めしている事実に気づいて、なんかこう・・・くすぐったい。



「うん。だって、憧れない? 自分の想いや意地を貫いて、そうして全部を救えて、全部助けられる正義の味方ってさ」



僕は、本当に何気なく言った。特に意識してないで。

だけど、ティアにはそう聞こえなかったらしい。ちょっと固まったから。



「・・・・・・そうね、私も憧れる」

「ティア?」

「ううん、なんでもない。さて、それじゃあ映画はダメとして・・・」

「ティアが見たいのがあるなら付き合うよ?」

「それが見事にないのよ。こう・・・私の興味を引くようなサスペンス物がなくて」



ティアはそう言うのが好きなのか。一応覚えておこう。

だったら・・・そうだな、あれがいいかも。



「それなら、プラネタリウムなんてどうかな。この近くに出来たらしいんだ」

「・・・うん、それならいいかも。平日だし、人は少ないだろうし。そこはラトゥーアじゃないの?」

「うん」

「なら、問題ないわね」





何が問題ないんだろう。僕にはよく分からない。そして三度目ってなに? ティアナには邪気眼の気とかがあるのだろうか。ちょっと気になってしまった。



ただ、ティアナ・・・じゃなかった、ティア的にはそれでも問題ないらしい。すぐに表情が明るくなったから。





「というか、あの・・・」

「謝らなくていい。・・・ちょっとずつでいいわよ。きっと、アンタ・・・その、恭文、すごく疲れてるんだろうし」



あ、名前でまた呼んでくれた。というか、頬を染めて目を逸らした。

・・・ティアって、こんな可愛かったっけ?



「私のこともね、今すぐ返事とか、いいから。・・・私も、これから少しずつ、恭文のこと知っていく。なりかけな気持ち、時間をかけてちゃんと育てていきたいんだ。だから・・・さ」

「うん・・・」

「てゆうか、あれよ。我慢出来なくなったら押し倒すから。で、アンタの事さっき話したみたいな感じにするから」

「それはやめて欲しいんですけどっ!?」





そのまま、ゆっくりとプラネタリウムに歩き出す。もちろん、二人で。





「なによ、私が相手じゃ不満があるわけ? それはそれで傷つくんだけど」

「いや、あの・・・そういうことじゃなくて、えっと・・・」

「・・・ごめん、ちょっと意地悪した。まぁ、アレよ。私は私で適当にやってくってこと。うん、それだけだから」










こんな話をしながら、昼の町を歩く。まぁ、場所は僕が覚えてるので、当然先導は僕で。





・・・・・・ティア、本当に・・・僕で、いいの?





ごめん、まだ少し怖い。こういうの、変えていきたいのに。ティアに対して不満どうこうは、無いんだから。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先のこと


ケース09 『ティアナ・ランスターとの場合 その3』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、プラネタリウムに到着。今日の演目は・・・なんと、地球の星々。・・・ミッドって、マジで地球文化入り込んでるよなぁ。特に日本。





ティアと隣同士で座って、ついさっき始まったプラネタリウムを見上げる。で、二人して解説に耳を傾けて・・・無言。いや、当然でしょ? 喋ってたらまばらにいる他の人達の迷惑になるし。





でも、一人で来るのとはちょっと違う。なんかこう、安心出来る。一緒に居るだけなら、大丈夫みたい。





ちゃんと、笑えてるかな。ティアの事、傷つけたり、嫌な思い・・・させて、ないかな。





少し、不安だわ。やっぱりさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文の隣でプラネタリウムを見ながら、地球の星ってこんな形なんだと思いながら、さっきの言葉を思い出していた。

『自分の想いや意地を貫いて、そうして全部を救えて、全部助けられる正義の味方』・・・か。もしかしたら、これが恭文の夢・・・というか、なりたい形なのかな。

でも、そんなのは絵空事。少なくとも、私には無理。今まで、局員で居て、災害救助の仕事だったり、六課の任務だったりに従事して、全部救えて、全部助けられたかと聞かれたら、即答で『ない』と答える。





自分の想いや意地・・・組織の中でそれを貫くのもまた難しい。やっぱり、組織の中では人は歯車だと思うから。

でも、多分恭文はこれなんだよね。なんか、確信があるのよ。この話をしてた時、とても遠い・・・憧れる感情がこもった目をしていたから。今まで、見た事がない。まぁ、初めて会ってからそんな経ってないんだから、当然なんだろうけど。

でも、それだけじゃない。諦めもあった。アイツも、一つの実感として、実体験として分かってる。それが単なる絵空事で、夢だって。叶うはず・・・ないって。テレビの中のヒーローみたいにはなれないって。





・・・・・・でもね、そういう現実的な事は抜きにしてよ。うん、抜きにして。そんなこと言ったら、どんな夢だって描けなくなるもの。私は、そんなのは嫌かな。

もし、もしも本当にそれが恭文のしたいことで、通したいことで、目指したい形だとしたら、私・・・応援、するから。

なんかさ、聞いててすごく素敵だなって、思っちゃったのよ。私やスバルとは形は違うかも知れないけど、それでも、素敵だと思う。





うーん、やばい。私・・・ちょっと惚気てるのかも。これはまずいわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・星、綺麗だった。





作り物だけど、すごく綺麗で、輝いてて・・・星の光、スターライト。





あぁ、そうだ。どうして忘れてたんだろ。僕の中には、ある。僕の進むべき・・・ううん、進みたい道への答えが。もう、ちゃんと僕の中にはある。





星の光は、守りたいものを守り、壊したいものを壊し、そうして今を覆し、未来へと繋ぐための力。リインとのユニゾンだって同じだ。もらった、大事な力。





でも、そうしたら・・・。





僕は、今何を守りたいんだろ。何を壊したくて、どんな今を覆したくて、何を未来に繋ぎたいんだろ。





僕は変わらない、変えられない答えを持ったまま、何がしたいんだろ。どこへ行けば・・・いいんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・プラネタリウム、素敵だったわね」

「うん」



少しだけ日が傾いて、お昼過ぎになって、真上に昇った太陽の陽を浴びつつ、ティアと二人歩く。

なお、プラネタリウムはしっかり観賞した。



「でもさ、地球の星って、あんな感じなのね。新鮮だったわ」

「綺麗だよ。ミッドの星もまたいいけど、それでも」

「星、好きなの?」

「まぁ、星座がどうとかそういうのは詳しくないよ? でも、見上げるのは好き」



歩きながら、空を見上げる。今は・・・昼間だから星は見えないけど、星はちゃんとある。

うん、見えないから、触れられないから無いなんて・・・嘘、なんだよね。どんなものだってそうだよ。



「でさ、飛行魔法で飛びながら空見るのもまた楽しいのよ。まぁ、大体が戦闘中とか訓練中なこと多いから、あんま余所見も出来ないんだけど」

「そっか。うーん、飛行魔法習うようになったらやってみようかな」

「うん、お勧めだよ。まぁ、一人の時がいいね。・・・他の人が居ると絶対ツッコまれるから」

「そうね。私だってスバルが機動訓練中にそんなことしてたらツッコむわ」



二人で・・・その、僕がちょっとダメになる前と変わらない、そんな会話。それが楽しい。

というか、楽しくなってきた。やっぱり、ティアとは気が合うのかも。だから、楽になれるのかも。



「さて、これから・・・ご飯食べようか」

「そうだね、ちょうどお昼だし。うーん、何食べよう」

「じゃあさ、ちょっと付き合ってもらっていい? この近くに美味しい隠れ家的なカレー屋さんがあるってサリエルさんに聞いたのよ」



・・・・・・そなの? わ、そこは知らなかった。近くに住んでるのに。

なら、ティアに任せちゃおうかな。うーん、でもデートなのにこれは男としていいのだろうか。



「私は大丈夫よ? てゆうか、今日は私から誘ったんだから、私がリードする。いいわよね?」

「・・・・・・うん。じゃあ、お願い」










そして、また歩き出す。今度は右・・・家とはまた反対方向だね。





ゆっくりと、歩いていく。その間に、少しずつ、本当に少しずつ話す。





好きな食べ物の事とか、最近見たテレビの事とか、そういうの。





なんだろう、やっぱり・・・相性いいのかな。心地いいや。










「・・・あれ、メールだ」





着信音が着ている紺で薄手のジャケットの内側から鳴り響いた。なので、僕は内ポケットに手を伸ばして、携帯端末を懐から取り出す。



取り出して・・・いったん、閉じた。そのまま、またポケットの中に入れる。





「返事、いいの?」

「いいの。だって、今はティアとの時間だもの。後にしておく」

「・・・気遣ってくれるのは嬉しいけど、大事な用事だったらどうするの? 私は大丈夫だから、中身くらい確認しなさい」



ティアが少し困ったような顔で言ってくれる。でも、僕は頷かない。もちろん、ここには理由がある。

そう、とっても大事な理由なのだ。



「だって、メール送ってきてくれたの、女の人だよ?」



僕の言葉に、ティアの表情が変わった。なんというか、納得したというか、つまらなそうというか。

それがどうしてなのかはよくわからないけど、とりあえず確認だけして欲しいという意見は潰れたらしい。



「そういうことなら、返事は出来れば、後にして欲しいな。その・・・今は、余所見して欲しくない・・・って、なんかおかしいね。
一応、告白っぽい事はしたけど、私達、まだそういうのじゃないのに。ごめん、ちょっとダメだった」

「ううん、大丈夫。・・・デートだもん」

「そうね、デートだもんね。なら、問題ないか」

「うん」










・・・・・・差出人の名前は、高町美由希さん。僕のお姉さんの一人。





そして、僕を好きだと言ってくれる人の一人。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・夕方になった。でも、返信が無い。うーん、やっぱだめかなぁ。





まぁ、その・・・うん、距離取られてるのは分かってた。でも、だめだなぁ。それがちょっとひどくなってるその理由をちゃんと考えてなかった。





ホントに、どうしてちゃんと話してくれなかったのかな。 ・・・って、当然か。恭文からすると、私はその、断ったのに言い寄ってくる女の子みたいなものなわけだし。





でも、やっぱり力になりたかったと、空を見上げて考える。見えるのは・・・二つの月。










「・・・美由希ちゃん、どったの?」

「あ、ヒロリスさん。・・・いえ、恭文くんからメールの返事来ないなと」





そう、私高町美由希、現在ミッドに来ています。ここはなのは達の職場である六課隊舎の中庭。

理由? なのは経由でえっと・・・なんだっけ? 魔法なしでの戦闘訓練の特別講師として呼ばれたから。なお、日帰り予定です。

で、今日一日かけて皆で訓練して・・・ティアナちゃんって言う子は居ないんだっけ。うーん、会ってみたかったなぁ。実はもうすぐ帰る時間だったりするし。



これでも二代目翠屋店長。色々と忙しくはあるのですよ。





「でも、恭文の状態、あんまりよくないんですよね」

「・・・・・・うん、とりあえず私が命の危険を感じるほどにはね。なんかこう・・・痛い視線を感じるの」



そう言ってなんだか急に頭を抱えて明後日の方向を見て何かに向かって謝り出した。



≪あー、ねぇちゃん気にしないでくれ≫



声がした。それは、ヒロリスさんが両手の中指につけている指輪から。なんでも、アルトアイゼンやなのはのレイジングハートと同じデバイスらしい。

というか、少し話しているのを聞いただけではあるんだけど思った。アルトアイゼンと同じレベルでよく喋る。そして、キャラが濃い。



「でも・・・」

≪姉御はありもしない視線を感じる性質に目覚めただけなんだ。六課のガール達は自分達も同じくだからって、反省しまくってて、誰も姉御だけを責めるようなことはしてねぇってのに≫

「そっか」



なんでもヒロリスさんは、恭文の症状がひどくなる原因を作った責任にここ数日、苛まれているらしい。

しかもその状態で六課に来たものだから、かなり怖がっている。ヒロリスさんの友達のサリエルさんが教えてくれた。



≪なぁ、姉御。もうそこはいいじゃねぇか。ボーイを自宅から叩き出したハラオウン家よりはマシだって。姉御はマジでボーイがそんな状態だって知らなかったんだからよ≫

「でも察することは出来たって考えるとめっちゃ怖いのー! やっさんが復活するのだって、待ち遠しくもあるけど怖いのー!!
あぁ、今のうちに彼氏見つけて結婚して子ども産んどくっ!? ほら、この世の幸せを堪能してからでもいいじゃないのさっ!!」

≪それは諦めろ。つーか子ども産むとかそういう話の時点で年単位突入確定だから無理だ≫

「じぃぃぃぃぃざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!」



あ、あははは・・・。なんというか面白い人達だなぁ。いや、恭文レベルでキャラの濃い人って、見るの久々かも。

恭文の剣の師匠のお弟子さんとは聞いてるけど、うーん・・・その人のお弟子さんはみんなこうなるのかな。



≪てゆうかよ、あのツンデレガールはボーイのとこじゃねぇのか? ほら、なんかこう・・・意識してる感じだったしよ≫

「ツンデレガール?」

≪あぁ、今日居なかったティアナ・ランスターだよ≫

「え、そうなのっ!? でもでも、恭文ってあの・・・」



ずっとフェイトちゃんの事引きずってて、私やシャマルさん、すずかちゃんの事も・・・ダメで、フィアッセの事も婚約解消したいとか言い出してて。

フィアッセは首を絶対に縦に振らなかったから、結局そのままだったけど。



「いやぁぁぁぁぁぁっ! ティアナちゃんの話もやめてー!! ごめんっ! マジでごめんー!!」

≪ねぇちゃん、姉御は気にしないでくれ。どうやらありもしない古傷の痛みが疼き出したらしい。
いやよ、二人して気が合う感じで、ツンデレガールはボーイのことめちゃくちゃ心配してたんだよ。だからそうじゃねぇかなぁ・・・と≫

「・・・そっか」

≪あー、悪いな。変な話しちまって≫



私はその言葉に、首を横に振って答える。大丈夫だからと、笑っても見せる。

多分、この子はちゃんと事情が分かってる。だからこんなことを言うんじゃないかと、思った。



「ちょっとね、嬉しいんだ」

≪嬉しい?≫

「うん。・・・その子は、別に私やなのはみたいな昔からの知り合いでもなんでもないんでしょ? それなのに恭文のこと、ちゃんと心配してくれるのは、嬉しい」










うーん、やっぱり私はお姉ちゃんの位置なのかなぁ。そのティアナちゃんが本当にそういう風に思ってくれて、それで・・・なら、私は余計な手出ししない方がいいだろうし、このまま恭文には会わずに帰るのも考えないと。





ただ、もしも・・・もしも、恭文が相談してきたら、というより、連絡してきたら、ちゃんと話はしよう。だって、私はお姉ちゃんなんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・本当に隠れ家的で美味しかったカレーを食べてから、また街をブラブラとウィンドウショッピング。





これだけでも・・・あぁ、そうだ。楽しいんだ。僕、ティアと居て楽しいんだ。なんか、ちょっと分かった。





そして夕方。そろそろ解散かなぁと、思い始めるような時刻。空は昨日と同じように、茜色に染まり始めた。










「今日はさ、その・・・ありがと」



ティアが僕の左隣を歩きながら、ゆっくりと、優しい声で言って来た。

瞳も、同じ。声と同じ優しさをその中から感じる。



「ううん。僕も楽しかったし」

「・・・なら、よかった」



昨日とは違う。なんだか、落ち着いてる。ティアの側に居るの、すごく心地がいい。



「うーん、まずいなぁ」

「どったの?」

「いえね、あのカレー屋さん、なんか足繁く通っちゃいそうで怖いのよ。もうすっごく美味しかったし」



あー、そうだね。特にあのシュリンプカレーはくせに。なりそう。海老がプリプリで大ぶりで、カレーにちゃんと風味もあったし。

でもでも、僕の食べたパンプキンカレーも中々だと思うのさ。甘めな味付けとかぼちゃの風味がグーでさ。



「・・・なら、また行ってみようか」



小さな声で、街の雑踏にかき消されそうなほどの音量で、ティアが僕に聞いてきた。それは『一緒に』という意味。

少しだけ不安げな顔をして、僕を見る。ティアの方が少しだけ身長が高いから、その少しの差の分、見上げる感じ。



「いいよ、行こうか」



返事は自分でも意外なほどすんなり出た。だから、ティアもビックリした顔をする。



「いいの?」

「いいの。ただ、あの・・・」

「なにかな」



・・・どうしよう、言わなくてもいいような気はするけど、それもだめな気がする。



「そこから大人な感じに突入・・・ってのは無理っぽいんだけど、いい? いや、あの・・・ティアとそういうことするのが嫌とかじゃなくて、あの・・・その・・・」

「・・・バカ」



ティアの右手が伸びて、僕の頭に乗る。そのまま、また・・・撫でてくれた。



「ごめん。あの・・・押し倒すとかはさ、聞き流してくれていいから。ちょっと調子乗り過ぎてた。なんかさ、おでかけ・・・じゃなかった、デート出来たのが嬉しくて」



照れくさそうに笑う。あ、なんかそれわかる。僕も・・・そうだった。

・・・胸が、苦しくなる。申し訳なさとぶり返した痛みで、なんか・・・だめ。



「ごめん」

「なんでアンタが謝るのよ。てゆうか・・・その、嫌な事言ったわよね」

「ううん。・・・ごめん」

「だから、どうしてアンタが謝るのよ」





フェイトの事、考えた。今はティアとの時間なのに。・・・やっぱり、まだダメ、なのかな。



そしてそのまま、言葉少なめに・・・家に着いた。





「ティア、本当に送らなくても大丈夫?」

「大丈夫よ。これなら暗くなる前には帰れるし、なにかあったらクロスミラージュが隊舎に連絡してくれるし。てゆうか、ホントに自分が病人だってこと忘れてるでしょ」



・・・気にしないで。



「じゃあ、あの・・・またね」

「うん。・・・メール、してもいい?」

「もちろん」

「そっか。それじゃあ、また帰り着いたらメール・・・するね」





そのまま、ティアは隊舎に向かって歩く。僕は・・・まぁ、手を振ってそれを見送る。



姿が見えなくなるまで見送って、それから家(仮)に入る。入って・・・ソファーに、突っ伏した。





「・・・・・・これから、どうしよ」










先の事とか、何をしたいのかとか、ティアのことをどうするのかとか。





フェイトの補佐官になって、フェイトを守る・・・というのが、やりたいことだった。JS事件の時みたいなことは嫌だったから。





でも、それで、それだけでいいのかな。それで近づけるのかな。





星の光・・・・・・その中にあったやりたい事。なりたい自分。どうすれば、近づけるんだろ。





果てしなく、遠い目標なのにさ。『魔法』が使える魔法使い、なんて。





やばい、なんか落ち込んできた。・・・気づかなければ、よかった。そうしたら今日一日、楽しく過ごせて終わりで、済んだのに。





僕の魔法は、『魔法』なんかじゃないって、もう・・・知ってるのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・なんて考えている間に、リイン達が帰ってきた。





夕飯はリインが作ってくれて、それを三人で食べる。なお、今日のメニューはハンバーグとサラダに野菜スープ。










「・・・それで、デートは楽しかったのに落ち込んでるですか」

「うん」

≪持ち直したと思えばまた落ち込んで・・・やっぱり、先は長いですね≫

「そうですね・・・」



のんびり、じっくり・・・かな。うん、少しずつでいいのかも。



「でもでも、ティア・・・やっぱり恭文さんのこと意識してたですねー」



あの、リインさん? なんでそんな嬉しそうなのさ。いや、こう・・・僕が話したからだけどさ。

なんかこう、大きくて一人で抱えられなかった。まぁ、リインとアルトには他言しないようにと言った上でなんだけど。



「あの様子はフラグ4までもうすぐですよ。リイン、見ててビビーって来ました」

≪それになにより、受け入れてくれたんでしょ? それが証拠ですよ。よかったじゃないですか≫



いや、よかったって・・・あの・・・うーん。



「どうしたですか?」

「なんか、まだ考えられなくて」

「それは仕方ないですよ。それにそれに、ティアだって言ってたんですよね?
自分もなりかけで、少しずつ気持ちを育てていきたいから、返事は今すぐじゃなくていいし、時間はかかっていいって」



うん、言ってくれた。言ってくれたから・・・余計に考える。

例えば、僕は答えを出せるのかなぁ・・・とか。ずっとこのままだったらどうしようとか。それだったら、ティアへの答えはもうNOで返事していいんじゃないかとか。



「・・・リイン」

「はいです?」

「かなり早いけど、地球・・・行こうか」

「あ、そうですね。リンディさん達が戻ってこないうちに挨拶するのも手かも知れないです」



リインは、僕の言いたい事がすぐ分かったらしい。・・・つまり、毎年クリスマスが恒例なあそこへの挨拶を、繰り上げて今やろうという話だ。

リンディさんもアルフさんも、エイミィさんに双子ですら今は自宅に居ない。なら、問題ないはず。



「でもでも」

「なに?」

「まだまだお疲れモードですし、それが回復してからですよ」

≪そうですね。今日の事だけで大進歩なんですし、焦ってはいけません≫










・・・確かに。結構疲れてるのも確か。いや、楽しかったんだけど。





少しずつ、少しずつ・・・か。うーん、勢い任せでいけないのが色々辛い。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・うーん、辛いなぁ。





その、今日はとても大きな一歩だったと思う。思うんだけど・・・。





もうちょっと頑張ってみたかったという気持ちも確かにあったり。










「・・・・・・って、私は何考えてんのよ」



隊舎で、よくアイツと色々な話をした談話室で一人、帰って来てからボーっとしてた。なお、大体同じ部屋を使っていたので、そこの椅子に座って、窓から月を見上げながらだったりする。



「でも、あの・・・拒否とかはなかったし、一応認めてはくれた・・・のよね」



なら、よかった・・・のよね。うん、可能性が0ってわけじゃないんだし。



≪Sir、おめでとうございます≫

「ありがと・・・って、クロスミラージュ、アンタ居たんだったわよね」

≪はい。しかし、彼は重症のようですね。別人のように見えました≫

「そうね」





やっぱり、キツイわよね。その・・・話してくれた通りなら、その、フォン・レイメイだっけ? フェイトさんに振られた事とかも今までの事とかも、家族のことも、全部否定されたわけだし。

それだけじゃなくて、家族や局からも、その手は間違っていると否定された。私だったら、正直やってらんなくなるわよ。

・・・てゆうか、もっと早く気づいてあげられたらよかったのに。そうしたら、あんなボロボロにならずに済んだのに。



見てて、話聞いてて、失礼なことにも繋がるかも知れないのに、私、すごく泣きそうになった。





≪しかし、話を聞くとリンディ提督やアルフさんはひどいですね。結果のみを見て全否定ではありませんか≫

「家族として、そんなことをして欲しくないってのもあるんでしょうけどね」





実際、私も聞いた事がない。同年代でそんなことしてる魔導師なんて。基本的には非殺傷設定での攻撃が原則付けられている。生かさず殺さず、牢屋に収監が普通の事で・・・。

私もスバルも、エリオもキャロも、訓練校やなのはさんとヴィータ副隊長との訓練で、それが当然のものと教えられていた。それが使えない場合もあると、頭では分かっていても、多分本当の意味では疑問にも思ってなかった。

それから考えると、アイツの行動は逸脱している部分があるのはどうしても否めなくて。それはもっと言えば、普通じゃない・・・異常行動とも取られやすい。



特にリンディ提督は長年局に勤めているし、アルフさんもフェイトさんの補佐官として仕事してたから、余計に来るのかな。

家族としてだけじゃなくて、そういう局の倫理的な問題に晒されて欲しくないから・・・とか考えて。でも、だからってひどいわよ。

外も否定して、内も否定して・・・それじゃあ、アイツはどこに行けばいいわけ? 変わらなきゃ居場所なんてないって言ってるのと同じじゃないのよ。



アイツはずっと声を上げてたのに。あんな風になりたくない。狂いたくなんてないって、声・・・上げてたのに。



でも、私にも言う権利はなにもないや。だって、気づいてなかったんだから。あぁもう、マジでイライラする。





「・・・どうすれば、いいのかな」

≪味方で居ればいいのではないでしょうか。それだけでも、きっと救われるはずです≫

「うん、そうだね。そうだったら、嬉しいな」










昼間の事・・・恭文のことをギュッと抱きしめた時の事を思い出す。





思い出して、不謹慎にも胸が高鳴る。だって、あの・・・男の子とあんな風にハグしたこと、なかったから。





アイツ、すごく細かった。それで、男の子には思えないくらいに柔らかくて、暖かくて・・・。





味方で、居るか。うん、今はそれでいいよね。だって、好きになりかけな気持ちと同じように、それだって私のちゃんとした感情なんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・それから、数日後。





心身の回復を待っている間に、ハラオウン家の喧嘩は見事に解決。みんな無事に帰って行きました。










≪・・・あの連中は、なにがしたかったんですか? 嫌がらせですか? 単なる嫌がらせですか?≫

「知らない。そして考えたくもない。
・・・あぁ、でも久しぶりの我が家だー!!」





なので、当然僕達は自宅に来ていた。・・・訂正。帰って来ていた。

なお、リンディさん達には僕達は緊急の出張中とかなんとか言ってくれて誤魔化してくれていたらしい。

防波堤となってくれていたはやてに感謝である。



ついでに、皆が出たすぐ後に業者を呼んで、玄関の鍵を丸々交換してくれたヒロさんにも感謝だ。

これで合鍵を持ってるハラオウン家に勝手に侵入される心配もない。これが精神の安定にとても効果的だ。

あ、ヒロさんに感謝のメールを送ったら、すっげー長文で謝られて、逆に申し訳なくなったりした。





「落ち着くですー! すっごい落ち着くですー!!」

「うしっ! 今日は自宅解放記念のパーティーだっ!! 飲んで食べて騒いでいいよねっ!? ・・・・・・答えは聞いてないっ!!」

≪「おー!!」≫










ぴーんぽーん♪










「・・・居留守使おうか」

「とりあえず、誰が来たかだけ確認しません?」

≪そうですね≫





というわけで、玄関前の様子を映すモニターを確認・・・あ。



金色の髪に、白のロングコート。





「シャマルさんだ」

「ですです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・これ、八神家・・・というより、隊長陣みんなからの差し入れ」





どうやら、これを渡すために来てくれたらしい。



なお、リインは普通に買い物に出た。まだ明るいし・・・大丈夫、だよね。





「ありがとうございます。・・・てか、またたくさんありますね」





そう言ってシャマルさんが出してきたのは、両手で抱えていたいっぱいの荷物が入った紙袋。



見ると・・・食料品や本まであった。





「フェイトちゃんは本ね。心が疲れた時に読むと効果的・・・って言うのがあったから、買ってきたんだって。恭文くんのこと、すごく心配してる」

「そう、ですか」

「まぁ、今はいいわね。ただ・・・状態がよくなったら、お話してみて? フェイトちゃん、あなたにたくさん謝りたい事と、伝えたい事があるって言ってるから」

「・・・・・・はい」





本当は手紙を書くと言い出してたそうなんだけど、僕の状態が悪くなる可能性もあるから、個人的メッセージは控えることにしたらしい。



というより、シャマルさんが止めたとか。





「他の皆は料理の本とか、珍しい缶詰とかリインちゃんの好きそうなものとか。でも、よかったわね。自宅が解放されて」

「あははは、正直もう縁切ってやろうかと何度か考えました」

「そうね、そこは仕方ないわ。・・・それで、調子はどう?」

「とりあえず、今日はパーティーをやる予定でした」



自宅解放記念日だしなぁ。ここは派手に行きたいのですよ。



「そっか。うーん、出来れば私もそれには参加したいなぁ。それで、そのままお泊りで、一緒にお風呂に入って、お布団で寝て・・・」

「なんでそうなりますっ!?」

「現地妻1号としては当然よ。それに、こういう時にはそういうのが効果的なのよ? 肌と肌との触れ合いによって心の傷が癒えた例はいくらでも」



・・・・・・なんだろう、真面目な顔で言うから信じてしまう。ただ・・・あの、それは色々とまずい気がする。



「それでね・・・朝まで、燃え上がるのっ!!」

「アンタ人の家に上がり込んできた身分でいきなりなに言ってるっ!?」



てゆうか、それは無理。

今、ティアの顔が頭の中でよぎったし。さすがに、それでこれは・・・なぁ。



「ティアと何かあった?」



いや、シャマルさん。なぜ、分かります? てゆうか、どうしてティアの名前が出るのですか。



「ティアからね、少し相談されてるの。あなたの状態とか、過去の事とか、そういうのを聞いて、力になりたいんだけどどうすればいいのか・・・って」

「そうだったんですか」

「あと、アレも聞いた。告白、されたのよね。好きになりかけてる・・・って」



僕は頷いた。少しだけ表情が苦くなるのが、ちょっと心苦しかった。

・・・ちょっと待って。まぁ待ってよ。今すっごく気になる何かが頭をよぎったんだけど。



「それでどうしてあんな発言っ!?」

「えっと・・・ティアへの対抗心から・・・かな。だってー、私が1番最初に恭文くんにフラグを立てられたのよ? 次のIFルートは私話でーって要望だって来てるのよ? なにも問題は」

「あるに決まってるでしょうがぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか、ルート話ってなにっ!? おかしいっ! 言ってることおかしいからっ!!」




や、やばい。久々に全開でツッコんだら頭クラクラしてきたし。

うし、深呼吸・・・数回繰り返して、やっと落ち着いた。



「まぁ、そこは冗談よ。もちろん、恭文くんが望むなら、私はいつでも受け入れるわよ?」



ニッコリ笑顔で言ってきたので、とりあえず、ほっぺたをプニーと引っ張ってやった。なんか痛そうだけど気のせいだ。



「と、とにかく・・・ティアも急ぎ過ぎたんじゃないかと反省してるし、答えは今すぐじゃなくていいみたいよ?
あなたの状態が本当によくなって、それから少しずつ考えてもらえればいいから・・・って」

「ティアにも、そう言われました。ただ・・・」

「ただ?」

「それだけじゃ、ないんです」





シャマルさんに話した。気づいた事とか、見えた事とか、見えない事とか・・・色々。



特に自分がやりたい事、なりたい形、僕の、僕だけの夢って言うのかな。そういうのが見えないのが・・・・・・違う。無理なものだと気づいて、それが苦しいと、こぼした。





「・・・・・・そう。でも、フェイトちゃんの助けになりたいという気持ちも、確かに本当の事。だから、また迷っちゃってる」

「はい。その・・・どうすればいいのか、分からなくて」

「なら、それも含めてこれからじっくりとよ。ただね、これだけは覚えていて欲しいの。あなたのなりたい形は、決して許されないものではないわ」



そう、でしょうか。でも、無茶過ぎです。『魔法が使える魔法使い』・・・なんて。

そんなの、無理なのに。もう、知ってるのに。



「そうかしら。私はそうは思わないけど」

「無理、です」

「だって、あなたの魔法は、もう立派な『魔法』よ?」



優しく、両手を掴んで、撫でてくれる。



「その魔法に、リインちゃんにはやてちゃん達、それになのはちゃん、フェイトちゃん・・・いろんな人達が助けられてきた。もちろん、私も」



そのまま、右手を伸ばして・・・頬を撫でてくれる。



「私、思うの。確かにあやふやな形で、人によってはダメと否定するかも知れない。でも、私も、ティアも・・・みんなだって、否定しないわ」

「どうして、ですか」

「だって、あなたが心から望んでいる形の一つだもの。きっと、ずっとどこかで諦めていたものの一つ。
だから、願うくらいは、夢を見るくらいは、きっと許される。ううん、許されなきゃおかしい」



優しく、本当に優しく・・・言葉をかけてくれた。

それが堪らなくなるくらいに嬉しくて。同時に、ちゃんと応えられないのが申し訳なくて・・・。



「あとね、どうしても明確にやりたいことやなりたいものが見えないのなら、しばらく療養して、状態がいいようならフェイトちゃんの補佐官として仕事を再開して、その中で探していけばいいんだし」



・・・・・・いいんでしょうか、それ。というより、あの・・・フェイト、許してくれるかどうか。



「フェイトちゃんは大丈夫よ。あなたの支えになりたいって、言ってるのよ? あなたの気持ちも、これからの事も、助けになりたいと思ってくれてる」

「・・・・・・嬉しいけど、ちょっと複雑です」

「そうね。それは私も思った」



出来れば・・・なぁ。まぁ、いいや。ここは言っても仕方ないし。

だめ、やっぱり疑ってる。嬉しいけど、同じくらいに疑ってる。なんか、ダメだ。



「でも、それは私も同じかな」



シャマルさんの顔が、少し近づく。そのまま・・・動けずに、唇が触れた。

優しく、僕の右の頬に、柔らかい感触が刻まれる。



「恋人とか現地妻どうこうは抜きにして・・・あなたの力になりたい。あなたの傷が癒えるように、包み込んであげたい。それが私の、あなたへの本当の気持ちなの」

「シャマル、さん・・・」

「リインちゃん、しばらく戻ってこないだろうし・・・ね、少しだけ恭文くんのこと、癒してあげたいな。私の全部を使って、あなたが立ち上がれるように、前を見れるように、包んであげたい」










そのまま、優しく・・・本当に優しく、シャマルさんが僕を抱きしめた。





いつものハグとは違う。身体を密着させて、自分を、僕に預けてくれてる。










「みんなには内緒にするから、あの・・・甘えて? それとも、やっぱり怖いかな」

「・・・怖く、ないです」

「なら、よかった」










僕はそのまま、シャマルさんを抱き返・・・さなかった。





肩に手を当てて、ゆっくりと身体を離す。・・・だめ、みたい。





うん、だめだ。こんなの・・・だめ。










「・・・あのね、別にいいのよ? お姉さんに甘えるのは、別に悪い事ではないもの」

「そ、それはそうですけど・・・」

「ティアのこと、気にしてる?」



・・・少し。



「そっか。うーん、やっぱり私はお姉さんで、現地妻1号なのかなぁ」

「だ、だからその現地妻というのは・・・」





やめてもらえないんですよね。そうですよね、えぇわかってました。



でも、あの・・・ありがとう、ございます。吐き出して、少しすっきりしました。





「ううん。私は・・・あなたのお姉さんだもの」

「・・・はい」










夢・・・見て、いいのかな。本当に無謀で、どうしようもない願いだけど、持ってて・・・いいの、かな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・夜、自室でクロスミラージュを磨いていると、アイツから、通信がかかってきた。なので、当然のように私はそれを取り、繋げる。





ただし、外にいったん出た上で。スバルに・・・というより、人に聞かれたくない。てゆうか、あの・・・どうしたの?










『うん。なんていうかあの・・・えっと、コミュニケーション?』



・・・・・・はい?



『だって、その・・・一応、オーケーみたいな感じには言ってるし、必要かなと』



告白の事だと言うのは、すぐに分かった。そして、私は苦笑する。だって、なんていうか・・・バカだもの。そんな、律儀に応えようとしなくていいのに。

・・・別に、いいのよ? あの、もちろんそれが嫌とかじゃない。ただ、まだ無理して欲しくないというか、私もちょっと調子乗り過ぎてたというか。



『いいの。その・・・ティアと話したかったから』

「あの・・・ありがと」

『うん・・・』



どうしよう、なんかこう、気まずい。別に喧嘩したとかじゃないのに。

ドキドキして、苦しくて、アイツの事、ちゃんと見れてないし。だめだな、私。



「で、調子・・・どう? 家には戻れたのよね」

『おかげさまでね。本気で縁を切ってやろうかどうかと悩む日々は終わりを告げたよ』



あはは・・・冗談に聞こえないのよね。まじめに聞こえないのよね。

てゆうか、目がつや消しなのが嫌なのよ。お願いだからハイライトに戻って来て欲しいわ。



『そっち・・・どう?』

「みんないつも通り・・・かな。ただね、やっぱ違うの」

『へ?』

「アンタが居ないから、なんだか静かで、つまんないの」



少し、表情が崩れた。照れくさそうというか、うれしそうというか。



「アンタの居場所、ちゃんとあるわよ? 物理的な意味じゃなくて、みんなの中に。うん、もちろん私の中にも」

『・・・そういうの、あんまり好きじゃないんだけどな』

「どうして?」

『そのために止まるの、嫌いなんだ』



嫌い・・・か。まぁ、それはなんとなく分かる。見てて、そうじゃないかと思った。



「ならさ、アンタはどこか・・・行きたい事とか、やりたい事って、今まであった? フェイトさんのためとかそういうのじゃなくて、本当に自分だけの・・・夢とか」

『・・・・・・ない、かも。あのね、プラネタリウム、行ったじゃない?』



うん、行った。なんていうかさ、デートって言うにはあんまりに大人し過ぎたのかも知れないけど、嬉しかったかな。

一緒の時間を過ごせる事、そういうのって大事だと分かったから。



『その時に星見ながら少し考えてさ、気づいたんだ。僕・・・例えばティアやフェイトみたいに執務官の仕事をして、その中でやりたい事がある・・・とか、スバルみたいにレスキューの仕事に就いて・・・とかって、ないなと』

「そっか。なら、これから探していけばいいんじゃないの?」

『でも、そうすると管理局以外かなとは、ちょっと思って』



・・・・・・局は、だめ・・・なのか。アンタ、局の規律関係で嫌な思いしてばっかりだもんね。嫌いとも言ってたし。

だったら、別に問題ないわよ。管理局だけが仕事の場だけじゃないだろうし。



『それは、そうなんだけど』

「なによ、歯切れ悪いわね。なんか問題あるの?」

『いやさ、そうするとティアと離れる感じだし、見ていくって事は難しいのかな・・・とか』



少し照れ気味・・・というか、怯え気味にそう言ってきた恭文の言葉で、私の体温は急上昇した。

だって、それは、その・・・・・・う、嬉しいっ! 嬉しいのよっ!? ただあの、そこは予想してなくてっ!!



「そ、そうね。私はフェイトさんの補佐官だし、アンタが管理局以外の場所で働くなら、難しいかも。
てゆうか、執務官になったらもっと忙しくなるだろうし。もしそうなれたらぶっちぎりで遠距離恋愛だろうし」



とりあえず、勤めて冷静に振舞う。振る舞っていきたい。いや、振舞おう。

・・・・・・振舞えるわけないでしょっ!? さすがにあの・・・だめっ! 無茶苦茶ドキドキしてきたしっ!!



「たださ、あの・・・あれよっ! そのためにアンタが進路決めるってのも違うと思うのよっ!!
だって、自分のための選択よっ!? 私のために考えるんじゃ、今までと同じじゃないのよっ!!」

『確かにね。・・・・・・てゆうかティア、なんか顔赤いけど』

「気のせいよっ!!」



コイツ、弱ってるせいかなんか意識してないし。うー、それはそれでムカつくわ。

でも、あの・・・色々考えてくれてるのは嬉しい。自分だって大変なのに。うん、嬉しい。



「あ、あのさ」

『なに?』



だったら、少しだけ・・・本当に少しだけ勇気を出して・・・。



「もうすぐ、クリスマスじゃない?」

『うん』



距離、縮めよう。それが無理でも、この間みたいに二人だけの時間、思い出、作ってみたい。



「イブはちょっと無理っぽいんだけど、クリスマス当日なら休み取れそうなんだ。それでさ、デート・・・して、みない?」

『あー、ごめん。クリスマスは無理』



そっか。無理か・・・って、ちょっと待って。



「あのさ」

『なに?』

「即答は、やめて欲しかった。なんか、すごいヘコむ」

『・・・え、あのティアっ!? なんでそんなに涙目なのかなっ!!』



だって、あの・・・せっかくいい雰囲気だったのに、それが壊れたみたいで、なんか辛くて。

あぁもう、私最近マジで涙もろくなってるし。やっぱり、好きになりかけてるらしい。改めて自覚した。



『あの、別にティアどうこうで断ってるわけじゃないんだ。ちゃんと理由があるの。理由が』

「え?」










・・・・・・そうして、恭文から聞いた。クリスマスにはリイン曹長と海鳴の方へ行って、デート・・・というか、ある場所でお話するのが恒例なのだとか。





どうしても大事な用事で、これはフェイトさんや隊長陣にも行き先内緒のデートなので、絶対に外せないとも言われた。





まぁ・・・その、そういうことなら納得した。うん、納得するしかない。リイン曹長、コイツにぞっこんだし。










「・・・・・・あれ、でも海鳴行ってどうすんの? アンタ、ハラオウン家には帰れないでしょ」

『そうだね。まぁ、それ以外で転送ポート開ける場所があるから。もっと言うと、アリサに頼んだ』



えっと、なのはさんの友達だ。この間あったあのどこか通じ合える感じのする人。



『そこから行くかな』

「そっか。とりあえず納得した」

『・・・ごめん』



別に謝らなくていいと思った。だって、恒例かどうかは別として、先約があるならそっち優先なのは当然だもの。私だってそうする。まぁ、心苦しく思ってくれているのがちょっと嬉しかったり。

クリスマスデートは・・・まぁ、来年ということに。休みが取れればになるという部分に関しては、気にしない方向で行こうと思う。



「問題ない。まぁ、気をつけて行ってきなさいよ? それで怪我しても仕方ないし」

『うん。・・・・・・あのさ、ティアナ』



うん、どうした?

・・・てゆうか、返事しない。うん、無視する。



『あの、ティア?』

「もう一回ちゃんと呼んで」

『へ?』

「さっき、ティアナって呼んだ。私、ティアでいいって言ったわよね」



少しだけ、頬を膨らませてそう口にすると、恭文が少し困った顔をする。

でも、いいの。



『・・・ティア』

「はい」



その、これくらいのわがままは、許して欲しい。私は心からそう思った。



『リインとのデート、午前中には終るんだ』



うん。



『いつもならそこから翠屋の手伝いとかするんだけど、僕がこの状態だから高町家の皆にゆっくり療養しろって言われててさ』



まぁ、そうよね。まだ本調子ってわけじゃないでしょうし。



『だから、午後からなら空いてるよ? リインとはまだ予定決めてなかったし』

「え?」

『その、ミッドに戻ってくる時間もあるから、夕方くらいになっちゃうかも知れないけど・・・どうかな』



言葉が出なかった。だって、そこは予想してなかったから。してなかったから・・・また胸の鼓動が急激に早まる。苦しくて、嬉しくて、なんとも言いがたい感情が心を支配する。

でも、答えは一つだった。うん、本当に一つだけだった。



「それじゃあ、あの・・・そうする。てゆうか、ありがと。私、マジで嬉しい」

『・・・・・・うん』










クリスマスに、デート・・・か。あ、デートプランとかどうしよ。





ううん、そんな思いっきりガチじゃなくていい。ただ、一緒に時間を過ごしたという思い出が出来れば、それで。ただ・・・あの、少しおめかしはしようっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そして、クリスマス。リインと一緒にあれこれお話して、ミッドに帰還。恭文さんもちょっとだけシックに決めて、おでかけしていったです。てゆうかアルトアイゼンも一緒なのでリインはお留守番です。
うーん、せっかくですし、隊舎に戻るですか? でもでも、帰ってきた時に誰も居なかったら恭文さん寂しがるでしょうし・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・雪振る日。もうすぐ夜の闇に包まれそうなミッドで、僕はあの子を待っていた。





ここはうちの最寄の駅。まぁ・・・あれですよ、ご飯食べに行こうみたいな感じなので、そんなに長くはならないけど。










「・・・・・・おまたせ」





声がかかった。それは、当然のようにティア。髪を下ろして、唇には淡いピンクのルージュ。それに、他にも薄めにナチュラルメイク。



それで、あの・・・髪と同じ色のコートを羽織ってて、ハイヒール・・・え、ハイヒールっ!? なんでまたっ!!





「だって、ホテルのバイキングとは言え、ちゃんとしたとこで食事でしょ? そりゃあ少しは頑張るわよ。てゆうか、恭文だって同じじゃない」

「・・・だって、ヒロさんがこうしないと入れないって」

「奇遇ね。私も同じくよ」





なお、僕の格好は紺の上着にロングパンツ。なお、無地です。そして黒のインナーという・・・結構正装っぽい感じ。まぁ、ノーネクタイでラフではあるけど。

今日行くのは、話を聞いたヒロさんが無料チケットをくれたバイキングディナー。

ただし・・・中々に高級なレストランらしい。多少はこういう形で頑張らないといけないのだ。



とりあえず、手を差し出す。ティアがそれに首をかしげる。





「雪降ってるんだよ? ハイヒールでこけられても困る。同伴者として、エスコートは必要でしょ」

「・・・・・・ありがと」





そのまま、差し出した僕の右手に、ティアが自分の左手を重ねる。そして、ゆっくりと指と指をつなぎ合わせた。



そうして、歩く。目指すはレールウェイ。そのホテルは、首都にあるので、まずはそれに乗って移動である。



少しハイヒールが歩き辛そうなティアの歩調に合わせて、ゆっくりと歩く。手・・・暖かい。





「で、コートの下ってどうなってるの?」

「それはね、ヒロさんがドレスまでくれたのよ。まぁ、結構ラフな感じのではあるんだけど」

「・・・なんでそこまで?」

「この間の撮影会でアンタに負担かけたの、相当気にしてるらしいの」



・・・・・・大丈夫って言ったんだけどなぁ。うぅ、なんか怯えられてるみたいでちょっと心苦しいなぁ。

あ、撮影会で思い出した。



「あのさ」

「うん?」

「この間の写真・・・見た、んだ」



ティアとデートの約束をしてから、勇気を出して封を開けた。そう、あのパンフレットが入っていた封筒だ。

で、見た。かなり心臓に悪かったし、怖かったけど、なんとか全部見た。



「うん」

「・・・・・・なんかこう、照れくさいね」

「そうね、私もそうだった。でさ、アンタ・・・その、よく笑ってたわよね」



うん、笑ってた。あんなに笑ってたんだってビックリしたから。



「僕ね」



歩きながら、言葉を続ける。繋いだ手が暖かくて、それを逃がさないようにギュッと握り締める。



「あの時、演技で笑ってると思ってたんだ。もっと言うと、嘘の笑い。ティアどうこうじゃなくて、仕事モード。
演技が必要だから、笑ってて、ティアに嘘ついてて、自分にも嘘ついてて。だから・・・今まで、あれが見れなかった」

「・・・・・・うん」

「でも、そうじゃなかったのかも」



ティアに視線を向ける。そして・・・笑う。

ちょっとぎこちないかも知れないけど、微笑む。



「もしかしたら僕、ティアと仲直り出来たのが嬉しくて、それで・・・笑ってたのかも」

「・・・そうだったら、嬉しいな」



右手に力が加わる。強く、優しく、ティアが手を握り返してくれる。



「私もね、同じだった。恭文と仲直り出来たのが嬉しくて、繋がりが変わらなかったのが嬉しくて、それで・・・笑ってた。
あの時から意識してなかっただけで、その・・・好き、だったから。それは今も、変わってない」

「ホントに?」

「ホントよ。だから私、アンタの手、繋げてる」

「・・・・・・ありがと」










そのまま、ホテルまで真っ直ぐに、その時の話をしながら、ティアと、二人で笑いあいながら向かった。





楽しく・・・なると、いいな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、現在。時刻は夜の9時。





そのホテルの一室(ロイヤルスウィートルーム)でティアと二人、ベッドに腰掛けて頭抱えてます。










「・・・・・・ラトゥーアじゃないから安心してたのに」

「ティア、それ意味わかんない」

「リイン曹長には連絡したのよね?」

「うん。さすがに一人ぼっちでクリスマスはあれだから、隊舎に向かうように言ってる」










で、こんな会話をするのには理由がある。それでは、回想スタート。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はーい、お客さん。おめでとうございます」





ティアと楽しくご飯を食べていると、楽しそうな恰幅のいい支配人さん(後で聞いた)がやってきた。で、いきなりそんなことを言われた。





「お客様方は、当レストランの100万人目のお客様になります。なので・・・これをどうぞ」





と言って、差し出されたものは・・・えっと、なんですか? これは。





「ロイヤルスウィートルーム・・・宿泊券っ!?」

「はい。当ホテルの使用期限は本日限りの宿泊チケットです。
しかも、最高級のロイヤルスウィートっ!!」



え、えっと・・・すごいの、それ?



「すごいですよー。額にすると・・・・・・まぁ、これくらいに」

「うわ・・・宿泊するだけでこんなに」

「なんて言うか、私達には縁のないもんよね」



そうだね、それがもらえるって言うんだから・・・え?

ちょっと待ったっ! 使用期限は本日限りって、まさか今日中に使わないとダメなのっ!?



「はい。見たところお二人は恋人同士のようですので」

「ち、違いますっ! まだOKもらってないですしっ!!」



ティアー! 大声で関係性を暴露しないでー!! おのれはいったいどこのフェイトっ!?



「なら、余計に泊まっちゃってください。きっと忘れられない一夜になりますよ〜」

「・・・・・・普通にセクハラで訴えていいかしら」

「ティア、抑えて抑えて・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・で、一応相談した。換金出来ないかと。別のものはダメかと。

あっさりダメとか言われた。つーか、言いながら笑ってた。

殴ってやりたくなったのはきっと気のせいじゃない。ティアだって拳握ってたし。





それで、隊舎に連絡して、はやてに相談して・・・サムズアップされたので速攻で通信を切った。で、なのはに相談した。ヴィヴィオと一緒に泊まらないかと。

そうしたら、海鳴に里帰りしてやがった。なので、地獄へ落ちろと言って『清しこの野郎』と不吉な替え歌を歌ってあげてから通信を切ってやった。

フェイトに連絡するのは、ティアとの相談の結果、なんかムカつくということで無しになったし(どうせエリキャロのためにしか使わないだろうから)、八神家や他のメンバー・・・あれこれ考えて、結局、その・・・お泊りデートすることになった。





いや、あの・・・僕から言い出したんだけど。それだったらチケットももったいないし・・・で、ティアに軽く言ったら、その・・・頷かれて。





やばい、なんだこれ。なんだこの超展開。ハヤテのごとくでもこんなの無いでしょ。てゆうか、ありえないし。










「あのさ」

「な、なに?」

「アンタも男だし、男の生理とかってあるわよね。その・・・大丈夫だから。今日は一応安全な日だし、そういう事もあるかなとか、考えてたし」



一体なんの覚悟決めてるっ!? お願いだから落ち着けー!!

普通にベッド・・・一つしかないんだったぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁまずいっ!! もしかしてかなりピンチっ!?



「と、とりあえずシャワー浴びてくるわ」

「え、あの・・・ティアー!?」










だけど、僕の声は届かずに、ティアはそのままシャワー室へ・・・あ、あはは・・・どうしよ。あの、これなに? なんでいきなりこんなことに。





よし、逃げ・・・られるわけがないでしょっ!? やばいっ! マジでこれはやばいっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ど、どうしよ。あの・・・えっと。





とりあえず、私落ち着け。そうよ、落ち着きなさい。アイツはまだ半病人状態なのよ? 先の事とか考え始めてはいるけど、それでこうなって負担かけてもダメじゃないのよ。あぁもう、私焦り過ぎ。





シャワーを浴びて、熱くなった頭を冷やす。・・・まぁ、水を浴びるわけにはいかないけど、それでも一応。










「・・・バカ。私、ホントにダメだ」










ゆっくりでいい。焦らなくていい。答えを約束なんてしなくていい。そんなことをアイツに言った。でも、嘘だ。





アイツとメールのやり取りしたり、話をしたり、一緒に居たり・・・その度に思う。アイツのこと、全部独り占めにしたいって。独り占めにして、それで・・・あの、妄想した通りになりたい。





それで、それで・・・。





やばい。頭冷えるどころか、どんどん熱くなってきた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・ティアが出てきた。バスローブを羽織って、その・・・隣に座った。





てゆうか、目が据わってる。すっごい据わってる。










「お、おまたせ」

「あ、うん」





よ、よし。ここは・・・逃げよう。





「僕もシャワー浴びてくる」

「・・・うん」










とにかく、シャワー室に入って、鍵を閉めて・・・これでよしっと。乱入だけは避けられる。





まずい、さっきのティアが、こう・・・肌が紅潮して、胸の谷間とかも見えてて、まずい。凄まじくドキドキしてきた。





てゆうか、あの・・・好き、なの・・・かな。ティアのこと。





まだよく・・・わからないや。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やばい、心臓が凄まじい勢いでドクドク言ってる。今までの人生の中で1番肝を冷やしたJS事件の時でもここまでじゃなかったのに。





わ、私落ち着け。アイツちょっと引いてたじゃないのよ。こういう時は・・・そうよ、飲み物よ。何か飲んで、今度こそ頭冷やさないと。





なので、部屋の冷蔵室に置いてある・・・あ、ウーロン茶いいわね。その緑色の缶を取って・・・一口飲むっと。





・・・・・・あれ、なんか変な味ね。うーん、普通のウーロン茶より苦いような・・・あれぇ? なんか、顔が更に熱くなったような。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・とりあえず、シャワーの中で一度頑張った。ごめん、これで全てを察して?





だって・・・あの、こう・・・ウェイクアップしてて、どうにもならなくて。でも大丈夫。なんとか納まったから。










「ティア、お待たせー」

「・・・・・・遅いっ!!」



ごめんなさいっ! てゆうか、なんでいきなり怒鳴るっ!?



「アンタ、ちょっとこっち来なさい」

「へ?」

「早くっ!!」





よ、よく分からないけど・・・あの、また隣に座る。で、ティアの手元には・・・・・・え?



ティアの手元には缶。それはウーロン・・・ハイ。ようするにお酒。





「ティアっ!? なに飲んでるっ!!」

「え、ウーロン茶よ」

「ちがーうっ! それはウーロン『ハイ』っ!! お酒なんだよっ!? 未成年なに飲んでるのさっ!!」

「・・・・・・あぁ、それで少し変な味だったんだ。納得納得」



いや、あの・・・ティア? ちょっとフラフラだし。

あぁ、そうか。お風呂入った直後にこれだから余計に来てるんだ。いつもより口調がおかしくなってるし。



「てゆうか、紛らわしいわっ! だって、味が似てるのよっ!? 飲んだ事が無い私に、わかるわけないじゃないっ! その上缶の表記も紛らわしいしっ!!」

「あぁ、そうだね。似てるよね。分かる分かる」



僕もウーロンハイとウーロン茶の味の区別がつかないような濃度で何度も飲まされた事があるから、よく分かる。・・・・・・先生に。



「・・・・・・でも、丁度よかったのかな」

「へ?」

「なんかね、お酒飲んだから・・・なのかな。少しだけ、気持ち・・・吐き出せそうなの」





ティアがそう言ってまたウーロンハイを・・・はいはい、もうやめようね。

とりあえず、缶を取り上げる。・・・あ、そんなに飲んでない。で、これなんだ。

とにかく、これは少し離れたテーブルに置く。で、それからまた手招きしているティアのところに戻る。



戻ったら、話が続く。





「あのね」

「うん」

「アンタにエッチして欲しい。てゆうか、エッチしたい」



・・・・・・・・・・・・待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! なんの気持ち吐き出してるっ!?

やばいっ! この人気持ちと本能の欲求を勘違いしてるっ!!



「いいでしょ、別に」



ついでに言葉の使い方も間違えてるー!!



「あれよ、ツインテールじゃなきゃだめとか言うならそこはちゃんとするわよ」



しなくていいからー! そしてお前は僕の事を一体なんだと思ってるっ!? そんなことしなきゃ女の子とエッチな事出来ないような偏った性癖は持ってないからっ!!

・・・・・・あ、僕意外と元気になってるのかも。なんかツッコミの切れが戻ってきてる。



「というわけで・・・しよ?」



だから待てぇぇぇぇぇぇぇぇっ! バスローブの帯に手をかけないでっ!? やばい、この間の妄想よりも破壊力大きいんじゃっ!!



「ちょ、ちょっと待って。さすがにそれは」



いや、さっき意識しまくってて本能的にも身体的にもウェイクアップしてたから緊急処置を施したりはしたけど、それでも待って。

あの、えっと・・・やばい。なんかまた来た。ウェイクアップが来た。今のティア、その・・・すごく可愛い。



「・・・・・・私じゃ、だめ?」



なんか身体を寄せて見上げてきてるー! てゆうか、あなたの方が身長高いのに器用な真似しますねっ!!



「いや、だめとかじゃなくて、ティアは今お酒のせいでちょっと・・・あの」

「うん、おかしくなってるわね。変なテンションだって自分でも分かるし」



あ、自覚はあるんだ。



「でも、いい」



そのまま、ティアに両肩を掴まれて・・・本当に自然に、ポスンを柔らかめのベッドに押し倒される。



「今言ってる事が自分の気持ちなのは、ちゃんと分かるから。泥酔とかはしてないし、ちゃんと自我はあるし。・・・・・・やっぱり、私じゃだめ、かな」

「違う、そうじゃない。・・・そうじゃない」



そうじゃなくて、あの・・・僕、この状態だし、ティアの気持ちに対してちゃんと答え出せてないし、それでエッチなんて・・・。



「エッチしたから付き合えなんて、言うつもりない。ただ・・・このままは、嫌なの。だって、あの・・・だめなの。
もう、ドキドキし過ぎて・・・アンタに負担かけるかも知れないって分かってても、止まれないの」



・・・・・・僕と、同じなのかな。ううん、同じなんだと思った。だって、僕も意識してて、それで・・・さっきあれだったから。

僕を見るティアの必死で、だけど綺麗な瞳が嬉しくて、それで・・・あの、ごめん。もう、我慢できない。



「僕で、本当にいいの?」



そう聞くと、少しビックリした顔をした。でも、すぐにコクンと頷いた。



「実はね、その・・・さっきからティアの事意識しまくってたの。今日のティア、何時にも増してすごく綺麗だったから」



・・・・・・あぁ、そうか。僕・・・この子の事、少なくとも嫌いとか恋愛対象に見れないとかじゃないんだ。意識・・・してるのかも。



「だから、僕も・・・ティアと、エッチしたい」

「うん」

「というより、あの・・・変だね。ティアとだったら、いいかなって。誘われて、すごく嬉しいんだ」

「・・・・・・うん」





身体を起こす。ティアは僕から手を離してくれたので、そのまま何の抵抗も無く起き上がれた。



それで、隣の女の子を見る。身長が同じくらいだから、やっぱり、視線の高さが同じ。





「あ、あのね」



ティアが顔を更に赤らめながら、僕を見る。



「私、初めてなの。デートとかも恭文が初めてで、その・・・マジでこういうこと、経験ないの」



手が震えてることに今更だけど気づく。それが可愛くて、ついクスリと笑ってしまう。



「それでも、いい? 知識だけはあるけど、ホントに・・・初めてなの」

「・・・・・・僕も同じだから大丈夫。あの、ティアも僕でいいかな?」



両手を見る。・・・色々、あるから。

だけど、すぐに両手を柔らかい感触とぬくもりが包んだ。それは、ティアの両手だった。自分の手を重ねて、温めるように触ってくれている。



「恭文が、いい。アンタが人を殺したとかそんなの関係ない。・・・・・・ううん、それも全部含めて、アンタがいい。それで怖がったりなんて、絶対しない。
好き・・・だから。恭文のこと、もっと知りたい。あの、今のアンタは病人なわけだし、いきなり恋人とかそういうじゃなくてもいいと思ってるから、私の事・・・・・・もっと、見て欲しい」

「・・・・・・ごめん。きっと嫌な思い、たくさんさせてるのに」

「謝ら、ないでよ。てゆうか、早くして。あんま長く会話してると興冷めするって言うし」

「うん・・・」










ティアが目を閉じた。見えるのは、柔らかそうな唇。





そのまま、両手を繋ぎながら・・・・・・僕は、その唇に、自分の唇を重ねた。





本当に自然に、まるで吸い寄せられるかのうように。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ティア。





ごめん。あの・・・痛い?










「・・・・・・かなり。うー、酔いが一気に覚めた」

「ごめん」

「あー、謝らなくてもいいわよ。その・・・すごく、優しくしてくれたから」



それはまぁ・・・知識だけはあったので。



「それに・・・あれよ。お酒のせいで忘れるなんてことにはなりそうもないし、それは嬉しいかな。・・・あのさ」

「うん?」

「私の事は、いいのよ。初めてだったから。恭文は・・・どう、だったかな。その、気持ち・・・よかった?」



かなりストレートな質問。だけど僕は、首を縦に振った。

だ、だって・・・その通りだったから。それにティア、すごく可愛かったし。



「・・・そっか。ならよかった」

「ごめん。ティアは痛いだけだったのに」

「大丈夫。ほら、段々とよくなるって八神部隊長も言ってたし」



・・・・・・そっか。アレとかソレとかははやて経由の知識だったんだ。道理で瞼の奥でタヌキのサムズアップがちらついたよ。



「でもティア、はやても彼氏居ない暦=年齢の子だよ? 多分それはマンガとかゲームとかの知識だろうし」

「そうなのっ!?」



右隣で身体をうつぶせにしてたティアが、ガバっと起き上がって・・・あの、見えてる。見えてるから。



「別に問題ないわよ。てゆうか、見るだけじゃなくて・・・その、色々したんだから、いいでしょ?」

「そ、それは・・・まぁ」



かなり・・・ねぇ。ティアを見ながら思い出してた。その・・・かなり色々した。

というよりティア、なんでそんな嬉しそうなの? なんでそんなに勝ち誇った顔するの?



「そりゃするわよ。まず、好きな男の子に近づけた。というより、一つになれた。それで、恭文に私がペチャパイなんかじゃないと教えてあげられた。
私、見ての通り普通にDくらいはあるのよ? まぁ、スバルには負けるけど、それでも最近また大きくなってきてる感じなんだから。うん、将来性はバッチリね」

「また嬉しそうに・・・・・・。そう言えば、実地で本当に教えてくれたんだよね」



模擬戦の時に、挑発してそんなことを言ったのを思い出した。よくよく考えたら、二人っきりで、それを確かめてるのと同じだし。



「そうね。でも、あの時はこうなるなんて思わなかったな。普通にセクハラされてムカってきてたのに。でも・・・」



ティアが、またベッドに体重の全てを預けて、僕の近くに来る。優しく、微笑みながら言葉を続ける。

・・・・・・なんだろう、すごく可愛い。てゆうか、なんでこんなにドキドキして・・・るんだろ。



「今は、違うかな。確かめてくれて嬉しいし、痛かったけどエッチ出来て嬉しいし。
・・・・・・あのね、何度も言うみたいでアレだけど、エッチしたから付き合うとか、そういうのじゃなくていいから」

「でも・・・」

「これは、その・・・私の事をもっと知って欲しくて、恭文のことを知りたくて、エッチしたの。
あと、繋がることで気持ち・・・通じ合わせたくて。絶対にこれを盾にアンタに関係を迫るためじゃない。だから、あの・・・えっと・・・」



少し戸惑いながら、薄暗い部屋の中でもはっきり分かるほどに頬を紅潮させながら、ティアが僕を潤んだ瞳で見て・・・言ってくれた。

優しく、どこか必死さも感じさせる声で。



「アンタの状態が仕事出来るくらいまでにはよくなって、それから・・・かな。それから少しずつ考えて、それでたまには・・・こうやって気持ち通じ合わせていくの。
それで私を、ティアナ・ランスターのことを、本気で好きになってくれたら・・・その時は、正式に付き合って欲しい。本気じゃないなら、私は、嫌だ」



そこまで言って、ティアが噴き出した。・・・なんか、おかしいことあったかな。



「いやさ、エッチしたいって押し倒しておいて、実際そうなったのに、これはまたわがままだなーと思って。
やっぱり、負担かけてるよね。特にアンタは、こういうの気にしそうだもの」

「いいよ。その・・・僕だって同じだったんだから。あのね、ティア」

「うん?」



・・・・・・ちゃんと、応えたい。



「もう、怖くない。ティアの気持ち、繋がってる時にたくさん感じた。好きだっていっぱい言ってくれて、本当に嬉しかった」



ただエッチして終わりなんて、嫌だ。このままそれだけの関係なんて、絶対に嫌だ。

ちゃんと、目の前の女の子の気持ちに、応えたい。



「だから、もう・・・怖く、ないから。でも、あの・・・ごめん。エッチしてて最低だけど、まだちゃんと答えが出せなくて、今はこれが精一杯で」

「・・・ありがと。あのね、謝らなくていい。それだけで・・・嬉しい。今はそれだけですごく嬉しいから。私も、伝わった。応えてくれようとしてるの、ちゃんと・・・分かったから」



でも、僕はそういうわけにはいかない。

ティアがなんか涙目になってるけど、それじゃあ、だめ。



「でも、早めに職場復帰を目指さないと。さすがにこれは・・・なぁ」



事情込みとは言え働いてなくて、それで女の子と・・・これでしょ? 僕、このままだとヒモみたいな感じになりそうだし。



「気持ちは分かるし、それも分かるけど」



分かるんかい。



「焦ったらだめよ。シャマル先生にだって、まだ許可もらえないんでしょ?」

「うん・・・」



差し当たっては、家族関係の問題を解決しないとまずいと言われている。フェイトの補佐官やるにしても、絶対に局員としてやれとか言うに決まってるだろうからと。

結局魔導師ランク試験も僕がこれだし、お流れになったしなぁ。うーん・・・。



「やっぱり、少しずつよ。そんな風に焦らなくていいから、ゆっくり・・・いこ?」

「・・・・・・うん」










・・・・・・あ、そっか。なんだか、やっとわかった。





僕、この子の事・・・好きになりかけてるんだ。だから、もっと繋がって、知っていきたいって、思ってるんだ。





答えは、必要・・・だよね。その、少しだけ時間はかかるかも知れないけど、絶対に。




















(その4へ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・・・・最低ですよね≫

恭文「はい、ごめんなさい。真面目にごめんなさい」

古鉄≪さて、IFルート3話はマスターが株を下げる話と相場が決まっているのでしょうか。付き合ってもないのにエッチしちゃった二人がどうなるのか楽しみな次回に期待しつつ、みなさんおはこんばんちわちわ。
リリカルなのは二次創作界の永遠のヒーロー。古き鉄・アルトアイゼンです。ヴィヴィオ、お姉さまは頑張ってますよ。ヴィヴィオも頑張ってくださいね。それと天海さん、コミケお疲れさまでした≫

恭文「・・・アルト、メッセージが個人的過ぎない? えー、どうも。最低と言われたら何も否定出来ない蒼凪恭文です」





(いろんな意味でその通りだからどうしようもない)





古鉄≪とにかく、今回の話・・・実は次回とか、最後の方のシーンに繋がる感じに仕上げているので、もしかしたらあの話を読んでいただいている方には『アレ?』という感じに見えるかも知れません≫

恭文「あー、そういやそうだよね。・・・って、つなげるの?」

古鉄≪繋げます。このルートだとあの話に絡むのは間違いありませんから。うーん、そうするとあの話の立ち位置って大きいんですよね。
マスターはその中で、自分の『なりたい自分』について見つめなおす機会が出来るわけですから。これは嬉しい誤算ですよ。普通に最強物っぽくなるかなとかは危惧してましたから≫





(だって・・・ねぇ。能力差があるから。ただ、それが実は能力差ではないことに最近気づいたり)





恭文「とにかく、これなら次話が終わってもいい感じだよね。なんか前向きにはなってきてるし」

古鉄≪そうですね。あと・・・≫

恭文「なに?」

古鉄≪出来れば本編のリーゼフォームのように、新規一転というか、リニューアルというか、そういうものを形にしたいとは思っているので、そこの構築ですね。なお、名前はもう決まってたりします。デザインが決まってませんけど≫

恭文「お、それは楽しみだ。・・・えー、それではそこに期待もしつつ、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは、また≫










(そうして、久々に後書きっぽい感じで静かに終った。
本日のED:中原麻衣『ふたりぼっち』)




















恭文「・・・・・・これだと電王クロス第一弾って起こるのかな」

ティアナ「もう言わないだけで全ルートで起こるってことにしておけばいいんじゃないの?
で、記憶を奪われるのは各ヒロインで対応してさ。ほら、そうしないとナナタロスにセブンモードもあるし」

恭文「あー、それがあったか。あれ、描写には出てないけど普通に作るよりもかなり強度が上がってるって裏設定あるしね。
その辺はオーナーとリュウタのおかげですよ。えっと、設定では・・・・・・アルティメット・クウガの本気の攻撃でも傷一つ付かないの」

古鉄≪というか、ナナタロス自体も実は、普通の魔法的デバイスのそれとは違う異質なものになってるんですよ。
電王的要素やパワーが注入されて、実は何気に相当パワーアップしているアイテムだったりします≫

ティアナ「そ、そうなんだ。でも次回か次々回か分からないけど、一応ゴールは見えたわよね」

恭文「そうだね。はてさて、どうなるか」

ティアナ「てゆうか、あの・・・ベッドシーン、恥ずかしいわよ」

恭文「僕も・・・」










(おしまい)





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あきゅろす。
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