[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第17話 『気になるあの子のホントのキャラ』



時刻は夕方。つばさ君と太郎君は元気に回復して、ややのご両親も無事に帰宅。私達はそれに見送られるようにして、家に戻った。・・・訂正、戻ろうとしていた。





だけど、そうはいかなくなった。気配がする。





私達を取り囲む、悪意の気配が。










「・・・蒼凪恭文に蒼凪リイン、そしてフェイト・T・ハラオウンだな? 悪いが、我々と一緒に来てもらおう」



そう言って、線路下のコンクリ作りのトンネルの前後の入り口を塞ぐ影がある。そうして私達の間を挟むように出てきたのは、黒い背広にサングラスをかけたガタイのいい人達。

電車が上を通り、その音がトンネル内で響く。それがやけに耳障りに感じるのは、気のせいじゃない。



「はわわ・・・この人達はぁ」

「エル、知ってるの?」

「はい。何度か見た事のある・・・イースターの実行部隊の人達ですぅ」



エルとヤスフミが小声でそんな話をする。でも、それで分かった。

多分・・・私やヤスフミの意志と関係なく連れて行こうとしている。理由・・・考えるまでもないよね。



「・・・理由は?」

「話す必要はない。さぁ、来てもらうぞ。抵抗すれば・・・」



懐から銀色の、金属の棒を出して、伸ばした上で右手に持つ。それは・・・バリバリと音を立てる。多分、スタンロッド。



「痛い目を見てもらう」

「残念ながら、我々はプロだ。妙な能力を使おうとも、お前らに勝ち目は」





男の一人がそう言って、手に持った缶・・・恐らくガス入りを放り投げようとした瞬間、声がさらにその後ろからかかった。





「勝ち目ねぇのは、てめぇらだ」





それにより、連中の動きが止まった。その声の主に全員の視線が集まる。だけど、それは気にせずにこちらへと歩いてくる。





「つーか、プロってんなら目の前の相手の格くらい見抜けよ。じいちゃんもフェイトさんもリインさんも、お前らが10Dくらい居たってかすり傷一つ負わねぇよ」





この・・・声っ!!





「・・・あぁ? なんだ貴様は」

「しっかし、じいちゃんホントあれだよな。なんで来た早々これなわけ? おかしいでしょ。まぁいいや、お前らもう帰れ。俺は優しいから弱いものいじめはしたくないんだ」

「おい、無視するな。つーか、ガキはとっとと家に帰れ。大人の邪魔を」



瞬間、その声の主は自分をガキといった男の顔面を跳んで・・・蹴り飛ばした。

男が仰向けに倒れ、轟音が響く。



「・・・誰が幼稚園児に間違えそうになる子ども体型だって?」



蹴りを叩き込んでから、その子は地面に着地する。そして、明らかに怒りの色を瞳から出して、そう言った。

・・・誰もそこまで言ってないよっ!?



「な・・・何をしているっ! はやくこのガキどもを捕まえろっ!!」





残念ながら、それは・・・無理だよ。だって、ヤスフミがもう動いてるし。

男達の股間を、鉛色の何かが打ち抜いた。地面から手が生えている。それは直径30センチぐらいの拳を作り、男達の股間を穿つ。

その衝撃により男達がうつぶせに、潰れた股間を押さえながら地面に倒れる。だけど、止まらない。続いて、その倍くらいの大きさの拳が複数、男達と同じ数だけ生まれ、そのまま・・・倒れる男達の身体を一気に打ち抜いた。



胴体を潰すように、もう動けなくなるように、拳は男達を穿つ。トンネル内に、電車の音が響く。それだけじゃなく、男達の叫び声も響く。そして、男達は沈んだ。



これはヤスフミの魔法・・・ブレイクハウト。でも、また派手にやった・・・・よね。まぁ、いいか。





「・・・隙だらけだよ。つーか、反応遅すぎ」

「・・・・・・じいちゃん、なんつうかさ、相変わらず容赦ないよな。俺、見てて痛いんだけど」





そう言いながら私達に近づいてくるのは、一人の男の子。腰まで伸ばした栗色の髪を金色のリボンで一つに纏め、釣り目の赤い瞳をしている子。



今の服装は・・・要所要所にベルトのアクセントがついている黒の長袖に、緑のパーカーパンツ。そして、私達を見て嬉しそうに微笑む。





「そこはともかく・・・やっほーっ! じいちゃんもフェイトさんもリインさんも、久しぶりー!!」

「「「恭太郎っ!!」」」





そう、ヤスフミの孫・・・咲耶と同じ未来の時間で生きている新しい古き鉄、蒼凪恭太郎だった。



あと、たぶん・・・本当にたぶんだけど、私がおばあちゃんだと思う。ううん、そうなるようにがんばりたいな。





「「「なんでいるのっ!?(いるですかっ!?)」」」





私達が、当然のように疑問をぶつけると、恭太郎が思いっきりこけた。





「いきなりそれはおかしいよなっ!? つーか、俺が居ちゃ悪いのかよっ!!」

「いや、別にいいんだけど・・・てゆうかさ、恭太郎。おたふく風邪はいいの? あと、はやての孫とか雫の娘とかの追求は」

「・・・悪い、じいちゃん。そこは忘れさせてくれ。特に・・・後者。うぅ、アイツらなんなんだよ。俺が何したって言うのさ」

「・・・・・・色々大変だったんだね。すっごいわかるよ」





















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第17話 『気になるあの子のホントのキャラ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、それからすぐに家に戻った。少々大きい荷物を八つほど持ってきた上で。





そして、戻った直後に電話がかかってきた。それは・・・アリサからだった。私はヤスフミ達に断ってから、自室に入り、その電話を取る。











『・・・イースターのこと、調べたわ。まぁ、取り急ぎ報告って感じかな』

「うん。アリサ、あの・・・ありがと」

『いいわよ。うちの会社でも、あれのやり口は少々気にしてたしね。またひどく強引なのよ』



いつもと変わらない口調でそう言ってくれるのは、きっとアリサの優しさだと思う。つまり・・・気にするなと言ってくれている。



「それでも、ありがとうなんだよ。友達なんだから」

『・・・そうね。ただ、×たま関連であんまり突っ込んだ所は分からなかったわ。どうも相当ガードが固いらしいし。で、まずイースターの経営体制なんだけど』

「うん」

『ナギが聞いたって言う『御前』と『専務』。御前の方は分からなかったけど、専務の方はもうバッチリよ。専務は現在のイースターの実質のトップで、名前は星名一臣。年は50以上だから、もう結構なおじいさんね。
アンタ達が掴んだ情報通りなら、エンブリオ探すためにあれこれ直接的に指示を出してるのは、多分コイツね。さっきも言ったけど、イースターという会社の実質的なトップでもあるらしいから』



やっぱり、会社ぐるみでエンブリオを探しているんだ。・・・大人が子どもの夢を自分の目的のために奪い、壊すなんて。そんなこと、許されるわけがないのに。



『それで、星名一臣の家族構成なんだけど、これがまたちょっと複雑でね。元の苗字は一之宮って言うのよ』



一之宮? え、それじゃあ星名という苗字は・・・。



『現妻であり、イースターを創設した一族の一員である星名奏子と結婚してるの。で、婿入りして、星名の性になったってわけ。でも、結構年が離れてるし、婿入りってことも考えると多分政略結婚ね。
そして、その二人の間には子どもが二人。まぁ、どっちも星名奏子の連れ子なんだけど・・・名前は月詠幾斗と月詠歌唄。あと、月詠歌唄ってのは』

「ほしな・・・歌唄。月詠幾斗の実の妹」

『そうよ、そして現在絶賛活躍中の人気歌手。・・・って、なんで知ってるのよ』

「この間本人に会ってね。直接聞いたの」



そうして思い出すのは、あのディープな・・・やめよう。あれはあの・・・ダメだから。うん、だめ。



「でも、これで分かったよ。どうして月詠幾斗とほしな歌唄がイースターに協力しているのか。星名専務・・・父親の影響だったんだね」

『・・・フェイト、これはあくまでも想像だけど、多分協力って言うのとは違うわよ』

「え?」

『アンタ、月詠或斗って知ってる?』



つきよみ・・・あると? なんだろう、名前から察するに月詠兄妹の関係者だと思うけど。



『まぁ、そうよね。えっとね・・・・』



アリサから聞いたのは・・・かなり重要な事。月詠幾斗とほしな・・・月詠歌唄の家庭について。

でも、そうだったんだ・・・。あ、まだネタバレ禁止ということなので、こういう感じにします。ごめんなさい。



『アンタ、それはメタだって。あぁもう、そういうとこまでナギの影響を受けなくていいから』

「・・・そうだね。ちょっと反省した。でも、アリサの言いたい事は分かったよ。つまり、月詠兄妹がイースターの仕事に協力・・・ううん、従事しているのは」

『間違いなくそれが大きな要因でしょうね。本人達がどう思っているかは知らないけど、周りの連中はそれを使って言う事を聞かせようとしてるんだと思う』





二人ともしゅごキャラ・・・キャラもち。しかも、ほしな歌唄に関しては自分の歌でこころのたまごを抜く能力を持っている。

だから、イースターは二人をエンブリオ捜索班に当てている。

普通の人には、しゅごキャラやこころのたまごは見えないし、干渉する能力が無いから。



仮に二人がそれを嫌がっていたとしても、きっと今聞いたことを持ち出して、従わせてるんだ。





『・・・腐った大人よ、本当にさ。子ども達には何の罪もないってのに、自分達の勝手な都合で振り回してるのよ? どういうことよ、これ』



全く同意見だよ。・・・なんとか、したいな。私は、こういう状況を何とかしたくて、こういうことが少しでも少なくなるように、執務官の道を選んだんだから。



『でさ、まだ問題があって・・・』

「なにかな」

『いや、鮫島が調べてくれて分かったんだけどね。アンタ達の身辺、向こうに相当かぎ回られてる』



・・・うん、知ってる。多分そうじゃないかって思ってたから。

向こうからすれば、私達は突然の乱入者。しかも、ヤスフミとリインはキャラ持ちでもなんでもないのに、この一件に介入して、煮え湯を飲まされてる。警戒されないわけがない。



『まぁ、アンタの事だから、戸籍やらなんやらでボロが出るようなことはしてないだろうけどさ。それでも気をつけなさいよ? いつどんな形で直接攻撃に出てくるか分からないんだから。
しばらく、単独での行動も控える事。あと・・・必要なら、魔法使ってでもいいから相手をぶっ飛ばした方がいい』

「うん、分かってる。というより・・・そうした」

『そうした・・・って、まさかもう襲われたのっ!? それで、怪我とかはっ!!』

「うん、そこは大丈夫。・・・だって・・・私達は、そういうのを何度も相手にしてるプロなんだから。なにより、私には強い騎士がついてるんだもの」



私がそう言うと、電話越しから安堵のため息が聞こえた。・・・ごめん、心配かけちゃって。



『ううん、無事ならいいのよ。・・・で、そいつらはどうしたの?』

「ヤスフミが居るんだよ? このまま家に帰すと思う?」

『返すわけがないわよね』



そして、ちょっと裏技を使って、その八人は別所にて現在ヤスフミが尋問中。

リインが襲われた時のやり取りを録音してくれていたから、私達が不利になるようなことにはならない。



『でも、警察に引き渡したらまた面倒なことになると思うんだけど。相手は世界の大企業よ? どんなチート技を使うか分かったもんじゃないわよ』

「それなら大丈夫だよ。丁度香港国際警防隊の人がこっちに来ているらしくてね」





ヤスフミもそこを考えたらしくて、すぐに香港に連絡を取った。こういう事が起こった時、個人だけではどうしようもなくなった時、いつでも相談してきていいからと、向こうに居る美沙斗さんとあと・・・菟弓華さんだっけ? その人達に言われていたとか。

・・・どれだけ仲良しになってたんだろ。私、真面目にビックリなんだけど。いや、確かに一月に一回というハイペースで香港に通っていたから、なってもおかしくは無いんだけど。

とにかく、連絡を取ったところ・・・丁度こっちに仕事で来ていた隊員が居たらしくて、その人に明日の朝一で引き取ってもらうことになった。もちろん、法の裁きにかける。逃げ道なんてない。



ヤスフミ、なんだか嬉しそうだったな。さすがに突然だったから、そこまでしてくれるとは思ってなかったらしくて。電話越しに、何度もお礼を言ってた。





『あぁ、なるほど。確かにあそこの人達なら、イースターが相手でも問題ないわね。むしろ、アレにケンカを売れる人達を見たいわ』



まぁ、そこはともかく・・・ヤスフミは大丈夫かなぁ? とりあえずその前に必要な情報は吐かせるとは言ってたけど。

あんまり派手な事はしないようにとは言ってるけど・・・多分、止めても聞かないだろうなぁ。こういうので容赦が無いのは相変わらずだし。



『・・・まぁ、ナギにケンカ売ったのが運の尽きよ。ただ、あんまアタシがあんまやり過ぎないようにと言っていたと伝えておいてね。やり過ぎると、今度は守られた側が辛いからーってさ』

「そうだね、そうするよ。・・・アリサ、ありがと」





心配してくれたことにもそうだし、調べてくれた事に対してにもお礼を言う。

でも、ここまで詳細に相手の事が分かるとは思ってなかった。だから、感謝だよ。

それに、ようやく形が掴めた。私達の戦う相手が・・・相当に頭を冷やした方がいいということも分かったし。



・・・だめだ、今あの時のなのはの顔を思い出しちゃったよ。もっと言うと、TV版の8話。





『いいわよ。それじゃあ、また新しい事が分かったら電話するわ』

「うん。・・・でも、分からなくても電話して欲しいな。友達としては、沢山話したい」

『それもそうね。じゃあ、また気軽に電話するということで』

「うん」










電話を切って、天井を見る。また、思い出すのは・・・あの子。そして、その兄。





なんとかしたいな。こんなこと、きっと・・・間違ってるから。





あぁ・・・あと、あれもあったんだ。うぅ、まさか本当に来るなんて思わなかったよ。





でも、咲耶に続いて恭太郎まで・・・。これは、本当の気を引き締めた方がいいかも知れない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・で、尋問はどうなのよ」

「あー、いい感じで色々吐いてくれたよ? 星名専務の指示で襲ったってさ。向こうは僕やリインを何かの実験台にしたいみたいだね。そのために捕縛・・・だと」

「根性のない連中だよな。もうちょい我慢するのがプロってもんだと俺は思うんだが」



・・・ねぇ、二人とも、ご飯食べながらそういう話ってどうなのかな。いや、私も気にはなるんだけど。



「・・・で、咲耶。元気だったか?」

「恭さまが居ないので元気ではありませんでした。毎日毎日心細くて、ご飯も喉を通らなくて」

「そっか、元気だったんだな。・・・じいちゃん、フェイトさん。あとティアナさん達もマジごめん。コイツ、無駄に食うから大変だったろ?」



恭太郎が申し訳なく言ってきたので、私達は・・・頷いた。結構大変だったから。



「恭さま、優しさが足りません。もっと言うと、私への愛が足りません」

「そうですよっ! 咲耶は恭太郎の本妻ですよねっ!? もっと愛を注ぐですっ!!」

「だから違うよっ! コイツと俺とはパートナーってだけだからねっ!? つーか、リインさんだって大変だったって頷いたじゃねぇかよっ!!」

≪すみません、リインさん。恭太郎はこういう方向性のツンデレ≫

「違うわボケぇぇぇぇぇぇっ!!」





賑やか・・・だなぁ。よく考えたら、恭太郎とこういう風に普通に食事ってなかったかも。あの時は、途中までヤスフミが居ないせいか、みんなどこか気持ちが重たかったから。





「でも、ホント久しぶりよねー。・・・でさ、咲耶から聞いたけど、オールでカラオケでそうとうゴタゴタしたらしいわね。その辺り、どうなってるのよ」

「・・・逃げてきた」

≪おたふく風邪が治って、向こうが攻勢に出るぎりぎりのタイミングで・・・ですね。いや、怖かったですよ≫



とても気が重いと言うような表情で恭太郎がつぶやいたのを聞いて、私達はため息を吐いた。

・・・そっか。うん、そうだと思ったよ。でもね、恭太郎。多分それは恭太郎が悪いよ? ちゃんと断るなりしないから、みんなだって期待を持っちゃうんだから。



「じゃあフェイトさん、一つ聞くけど、ちゃんと『俺は今のところ誰とも付き合う気はない』って言ったのに『愛は奪うもの』とか言って押して来る連中ばかりの場合は・・・どうすればいいのかな?」

「・・・ごめん」

「だから、そのために私が本妻となろうと」

「お前は別に名目だけとかじゃなくて、名実ともになろうとしてるじゃねぇかよっ! アイツらと同じことだろうがっ!!」



どうやら、未来の古き鉄はとっても大変らしい。というか・・・もしかして、ヤスフミ以上に大変?



「でさ、話を戻すけどアンタ達、正直に言いなさい。一体何した?」

「ティアナ、いきなりそれってひどくない?」

「そうだよ。俺達これでも良識派だぜ? そんな手荒な事は」

「いきなり素手で一人半殺しにしたアンタに、そんな事を言う権利はないわよ」



あ、状況を説明してなかったね。本局に言っていたティアとシャーリー、咲耶が戻ってきたので、みんなで夕飯。なお、今日のメニューは・・・私特製のかに玉と中華スープ。

・・・うん、中華鍋を振るうの、だいぶ慣れてきたよ。最初は結構大変だったんだけど、慣れちゃうと便利なんだよね。焼く・炒める・煮る・揚げる・蒸すが、これ一つで出来ちゃうから。



「あのー、この恭文さんに似たミニマ・・・いいえ、素敵な方はどなたでしょうか? エル、さっきから置いてけぼりだったのですが」

「あぁ、恭太郎は恭文さんの遠縁の親戚の子なのです。結構最近になって居ると言うのが分かったんですけど」



まぁ、嘘は言ってないよね。・・・さすがに孫だなんて説明出来ない。



「あぁ、そうなんですか。・・・なら、どうしてじいちゃんなんて呼び方を?」

「恭太郎と最初に会った時、恭文さんとちょっとあって・・・じいちゃんはまぁ、あだ名みたいなものなんですよ」

「なるほど・・・。蒼凪恭太郎は、ちょっと感覚が変・・・と」



なんて言ってメモを・・・メモ、好きなのかな。



「で、なにやったのよ」

「大した事はしてないって。最低限の傷の治療を施した上で、前にシティーハンターで見た拷問を試しただけで」

「いや、だからそれが何かを聞きたいのよ。この短時間でそれはないでしょうが」

≪特に大した事はしてませんよ? まず・・・全員床に縛り付けて動けないようにしてから、パンツ一丁にしたんです≫



・・・え、どうして?



「その上で、どこからか調達した鳥のエサを身体中に塗りたくったの。特に股間を重点的に」



こ、こ・・・股間っ!?



「どうしてよっ!!」

「特に股間を重点的にっ!!」



また言ったっ!!




「だからどうして二回言うのっ!? そこ別に大事じゃないでしょっ!!」

「いや、全員揃ってもう男として肉体的にも精神的にも再起不能にしてやろうかと」

「・・・アンタ、恐ろしい事考えるわね。で、鳥のエサを塗りたくるのと、再起不能にするのと、どう結びつくのよ」



なんだろう、その時点で嫌な感じがするんだけど。



≪ここからが大事です。手にお盆を持たせて、その上に液体の入ったビンを持たせるんですよ。
ただし、中に入った液体は、どこからか調達したニトログリセリンです。当然・・・落とせば人の身体など一瞬で吹き飛ぶ量ですね≫



はいっ!?



「・・・もちろん、そう言っただけで中身は水だけどね」

「ただ、連中には実際にお盆の上に載せた容器をぶん投げて割って、そこそこの大きさの物を吹き飛ばす所を見せて、真実味を演出してる。そこに、これまたどこからか調達したおなかを空かせた鶏さんを数羽投入・・・ですよ」

≪すると、鶏さんは当然エサが付着した男達の身体中をつつきまくる・・・というわけです。特に股間を重点的に≫

「だから、なぎ君もアルトアイゼンもどうしてそこに行っちゃうのっ!? 私には分からないんだけどっ!!」



お、恐ろしいことするなぁ。普通に怖いんですけど、それ。

ただまぁ・・・水ならいいかな。本物はダメだけど。



「フェイトさん、ツッコむところはそこじゃないですからっ! てゆうか、アンタはマジで・・・!!」

「なぎ君、恭太郎、脅しに使ったニトログリセリンとか、どこで調達してきたの? 完全に劇薬だよね」

「色々ツテがあるのよ。・・・ごめん、冗談。連中にはそう言っただけで実際は魔法でぶっ飛ばしただけだったり。もち、現象は激似だけどね」

「つーか、俺もじいちゃんもその手の薬品使うのは趣味じゃない。加減出来ないから怖いじゃん」



なら、また安心だ。本当にそんなものを持ち歩いてたら、危な過ぎるもの。

・・・あ、待って。それならあの人達は今どうなってるの?



「あぁ、一人がビンを落としたです。そのショックで全員同時に落として・・・現在、皆気絶してます」

≪肝っ玉の小さい連中ですよね。まぁ、必要な情報は大体吐いてもらいましたし、あとは警防に引き渡すだけですけど≫



なんだろう、私はちょっと思った。やっぱり容赦ないよね。うん、分かってた。



「・・・なぎ君も恭太郎も、真面目に最悪だよね。私今、ドン引きだよ? きっと読者も同じくだよ? ファンがきっとガクっと減ったよ?」

「つーか、アンタらどんだけ容赦ないのよ。どうせ二人揃って、殺気出しまくってたんだろうし」

「おじいさまも恭さまも、外道ですわ。漫画の拷問を本当に試す人、私は初めて見ました。ですが、恭さまのそういう部分もまた素敵・・・」



咲耶っ!? それはちょっと違うんじゃないかなっ!!



「エルも、本物の鬼畜というものを初めて見ました。
鬼っ! 悪魔っ!! 人でなしー!!」

「僕は何にも聞こえない〜♪」

「俺も同じくー♪」



そう二人は平然と言いのけて、かに玉を食べる。美味しそうに食べる。

なので、ちょっと意地悪することにした。



「ヤスフミ、恭太郎、かに玉どうかな? 美味しい?」

「うん、すごく美味しいよ。フェイトのかに玉最高ー」

「いや、いい味してるってー。俺は和食派だけど、中華もいいって思っちゃうから不思議だよなぁ」

『すっごく都合のいい耳してるしっ!!』



・・・・・・私の声は聞こえてるんだね。



「当然じゃないのさ。フェイトの事、好きだし。どんだけ離れてたって、聞こえないわけがない」





ふと、真顔に戻ってそう言ってきた。・・・あ、あの・・・ありがと。こう、すごくうれしいよ。





「・・・蒼凪恭文とフェイト・T・ハラオウンはラブラブ・・・と。そして、空気が非常に甘くなる・・・と」

「あー、エルっつったよな。なにいちいちメモってんだ?」

「日記代わりです」

「なるほど、納得だ」

「ところで恭さま、私の声は聞こえますか?」

「・・・さぁ、どうだろうな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なんだとっ!? 失敗したとはどういうことだっ! 相手はたかだか子ども二人に女一人なんだぞっ!!」

『申し訳ありません。ですが、相手はやはり相当の手熟で、どうしようもなく』

「えぇい、もういいっ! すぐに次の手を差し向けろっ!! 人手はどれだけ使っても構わんっ! あのガキどもを捕まえるんだっ!!
連中はキャラもちでも無いのに、たまごが見え、浄化する能力を持っている。それを解析すれば、きっとエンブリオを手に入れる手がかりになる。抵抗するなら先日指示した通りに多少痛めつけても」

『・・・それは無理です』

「何故だっ!!」





うわぁ、また雷落としまくってるわね。まぁ、そりゃあそうか。作戦が完全に失敗してるわけだし。



しかし、星名専務・・・蒼凪恭文と妹の蒼凪リイン、それに協力者のフェイト・T・ハラオウンを襲撃するなんて、また余計な事を。海里の事があるから、下手にガーディアンのメンバーに警戒されたくないってのに。





『星名専務、香港国際警防隊というのは、ご存知ですね?』

「・・・あぁ、あのガキが所属しているとかいう組織だな。それがどうした」

『今のところ動いている様子はありませんが、これ以上やれば、確実に彼らを敵に回します』

「それがどうしたっ! そんなものに、イースターが屈するわけがないだろうっ!! 気にする事はないっ! そいつらごと叩き潰せっ!!」



また叫ぶなぁ。てゆうか、自重しないとマジで心筋梗塞になると思うんだけど。さすがにお年だしさぁ。



『ですから、それは無理です』

「なぜだっ!!」

『奴らを指す・・・『最強で最悪』という言葉は、伊達では無いということです。一度敵に回せば、いかなる手を使ってでも我々を叩き潰します。法律というルールを無視してでもです』

「ふん、そんなわけがなかろう。組織が個人的感情で動き、イースターを敵に回すと?」

『個人的感情? 星名専務、なにか誤解をなさっているようですね。・・・この会社に、非合法でルール無視な所が全く無いというのであれば、問題はないでしょう。それで動いてイースターを潰そうとすれば、確かに個人的感情です。
ですが、我々は大人一人と子ども二人を拉致しようとした。これは世間で言えば立派な犯罪。そして、警防はそれを取り締まる組織です。我々は、既に連中に攻撃する正当な理由を与えているも同然なんですよ?』



また固まったし。しかし、固まったり叫んだり・・・忙しい人だなぁ。



『現に、差し向けた人間は全員自宅にも帰って来ていません。いや、帰ってくるかどうかすらわからない。星名専務、立場をわきまえずにアナタに忠告させていただきます。あの警防の関係者に喧嘩を売るのは、自ら首を差し出すのと同じです。
これ以上、今回のような形で蒼凪恭文とその関係者に手を出すのはやめたほうがよろしいかと。今後同じご命令をされても、我々は拒否させていただきます』

「貴様・・・! 飼い犬が飼い主に逆らおうと言うのかっ!?」

『飼い主が野良犬に首を喰いちぎられないためには、それも必要な手と考えています。・・・万が一にも二度目があった場合、イースター社は』

「えぇい、もういいっ! お前らには頼まんっ!!」



そのまま電話を叩き切った。なんというか、やっぱり忙しい人よ。うーん、出世はしたいけど、私はもうちょっと余裕を持って生きたいなぁ。



「・・・えっと・・・専務、よろしいでしょうか」

「なんだっ!?」

「怒鳴らないでくださいよっ! 私はただ作戦の経過報告に来ただけなんですけどっ!?」

「・・・・・・そうだな、すまない。それで、君の作戦・・・確か、ブラックダイヤモンド計画だったな。その後はどうだ?」



あ、なんか謝ってきた。まぁ、引くべき時はしっかり引く人でもあるから、専務と言う地位にも立てるわけですよ。ただヒステリー起こしてるだけだと、部下は付いてこないもの。

・・・そして、自分の身を振り返る。私は思った。自重していこうと。だって、私は結構そういうのやってるように感じたから。



「はい。先日完成した試作CDを使って通り魔的に周辺の人間に聴かせました。
すると・・・×たまが大量に取れました。まぁ、つまり実験は成功ですね。あと、プロモーションも兼ねて・・・先日お渡しした計画書の通りに進行していきます」

「あぁ、目を通した。確かに話題性作りも出来るし、普通にほしな歌唄のプロモーションと考えてもいい作戦だ。
・・・しかし、どうして思いついたんだ? こんな手の込んだことを・・・いや、今のは言い方が悪かったな。巧妙と言うべきだろうか」

「理由ならあります。まず一つは、ちょっとしたアクシデントで考えていたよりも早く、ガーディアンの連中にこちらの行動・・・ゲリラライブの事がバレてしまったこと」



エルのおかげでね。ただ、今では感謝している。おかげで、元々描いていた計画が大きく形を変えたから。もちろん・・・私達にとってより大きく利益を上げる方向で。



「そしてもう一つは・・・それで歌唄が言った一言です。いっそ覆面でもしたらどうかと。最初はバカなことをと思ったんですけど、覆面を正体を隠すものと考えた時・・・ひらめきました」

「なるほど。・・・三条君、君には期待しているよ。君は二階堂と違って、大局的に・・・イースターの利益も込みで物事を進行出来るようだからな」

「はい、ありがとうございます。でも、それだけではありませんわ。必ずやエンブリオをこの手に」

「あぁ、頼むぞ」



あぁ、それとこれだけは言っておかないと。これ以上やられると、確実に私の計画に支障が出る。

まぁ、専務としての器量に期待するとしますか。



「専務、それと・・・一つお願いが」

「なんだ?」

「今回のような形で蒼凪恭文やその関係者に手を出すのは、もうやめていただきたいんです。もちろん、ガーディアンの連中にもです」



私のその言葉に、専務は明らかに不快な色を示す。それは当然だ。さっき散々言われていたようだったから。



「報告書にも書いていると思いますが、現在、私の弟がスパイとしてガーディアンに入り込んでいます。今のところは上手く馴染めているようですが・・・こういうことが続いて、下手に周辺を警戒をされて、疑いを持たれるようなことになるのだけは避けたいんです。
いえ、弟だけの話ではありません。弟の報告では、ガーディアンの人間は、どうも私達がまだ何らかの形で動いていると思っているようです。今のところ確証は掴めていないようですが、気づかれればどうなるかわかりません」

「ふん、君らしくもない。たかだか子ども相手に随分弱気だな。まるで気づかれたら失敗するとでも言いたいようだ」

「・・・専務、完全犯罪を達成する唯一無二の方法をご存知ですか?」



私の言葉に、専務が首を傾げる。だから・・・自信と確信を持って、私は言い切る。



「それは、気づかれないことです。気づかれずに犯行を行い、気づかれずにそれを証明する全ての物象を消す。そして、気づかれずに日常に戻る。・・・まぁ、これは推理小説マニアの友人からの受け売りなのですが。
死体が見つかるとか、血の付いたナイフが出てきたとか、あの人の行動が不審だとか・・・そういう事になった時点で、もういかなるトリックを施したとしても、完全犯罪にはなりえないんです。気づかれない事、そのために疑いや警戒心を持たれない事こそが、完全犯罪の唯一無二の方法です」



二階堂はここを間違えた。日奈森あむやガーディアンのメンバーの前に姿を現して、自分の正体をバラしたから、あっさりやられた。



「それを弱気と言うなら、私は弱気でかまいません。ですが、ただ怯えているだけではないことをお分かりいただけないでしょうか」



もちろん、気づかれたくらいで止められるとは思っていない。だけど、それでもだ。私の札は、通ってしまえばそれだけで勝負が付く札。余計な邪魔はされたくない。ゲームの最後のコールの時まで・・・隠し通すのが賢明というものだわ。



「今の私・・・イースターにとって重要なのは、エンブリオを見つけ出す事。そのために、手出しをしないこともまた、必要な手だと思っています。そして、そうすればかならず連中を出し抜き、勝てるとも考えています」

「・・・そうだな、確かに私としたことが、少々早計過ぎたようだ。成果は必要だが、それで計画が頓挫してしまっては意味がないのも事実。
分かった。君の言う通りにしよう。あの興味深いサンプルどもを手に出来ないのは残念だが・・・私も、妙な奴らに痛くも無い腹を探られたくはない」

「そうしてくれると助かります。・・・すみません、立場を弁えずに出過ぎた発言をしてしまいました」

「なに、気にすることはない。君の言っている事の方が正しいのだからな。我々はエンブリオさえ手に出来ればよい。ただし・・・」

「えぇ。専務にお心を砕いていただいた以上、成果は必ず出してみせます」










見てなさい、ガーディアン。今度こそアンタ達を出し抜いてあげるから。





そして・・・勝つのは、私達イースターよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・君の事だから大丈夫だとは思うけど、一応気をつけておくんだよ?』

「なんというか・・・すみませんでした。いきなりの話だったのに」

『問題は無いよ。君はもう、立派なうちの関係者なんだから。それに、話を聞いたみんなも随分ノリノリで、すごく協力的だったから。
しかし・・・あの世界的企業であるイースター社に狙われるなんて、一体何をしたの?』

「うーん・・・魔法使いとして人助けをしたら、何故か喧嘩を売られたんです」

『なるほど、それなら納得だ。まぁ、これ以上ゴタつくようなら、本格的にうちを頼ってくれてかまわないよ? 香港国際警防隊は、総力を結集して遠慮なく叩き潰すから』



現在、ある場所を目指して歩きつつ、携帯で香港の美沙斗さんとお話。いや、改めてお礼は必要かなと。

すると、少し冗談めいた口調で・・・いや、本気に感じる何かを感じちゃうんだけど。とにかく、そんなことを美沙斗さんが言った。



「というより・・・潰せるんですか? 相手は世界的な大企業なのに」

『掴める証拠次第・・・かな。ここだけの話、あの会社、どうも不透明な金の動きがあるみたいなんだ。それも相当
一応、その関係でうちの方でもマークはしていたから。というわけで、有力な情報を掴めると非常にありがたいな』

「あはは・・・頑張ります」

『それで、恭也や美由希、士郎から色々聞いているけど、神速の方はどうなってる?』



一応、美沙斗さんは御神流の関係者なので、僕が神速を使えるようになっているのは知っている。なので、こういう話も当然出てくる。



「・・・最大発動回数は一日に3、4回。発動時間は・・・周りの体感時間で3秒ちょいって感じですね」

『そっか、まだまだ発展途上だね』



そう思う。うぅ、頑張らないとだめだなぁ。これだと、銃器持ち100人相手に一人で勝つなんて言う領域には、いつたどり着くか分からないし。



『でも、焦り過ぎもよくないよ。私もそうだし恭也達だって、今の形に持っていくのは本当に時間がかかった。
君の場合は体型の問題もあるんだから、1年でそこまでいけたのは本当にすごいと思う。でも、その先を目指すなら・・・じっくり、本当に時間をかけていくしかない』

「そうですね。少しずつ・・・今を使い潰さないように、頑張っていきます」

『そうだね。そこは大事だ』



今を使い潰さないように。1年ほど前にフィリスさんから言われた一言。よく、心の中で復唱している。

今を未来に繋ぐためには、周りの人だけじゃない。自分も守っていかなきゃいけないんだって、それで思い出せるから。



『・・・じゃあ、また何時でも連絡してくれてかまわないから。あと、忙しいとは思うけど香港にも顔を出してくれると嬉しい。
こっちも結構様変わりしているから、観光も楽しめるはずだよ。あと・・・君が来てくれると、弓華やみんなが喜ぶ。実際、啓吾も久々に君に会えて嬉しがってただろう?』

「えぇ、すっごくうれしがってましたよ。その場で組み手やろうと言われてちょっと困りましたけど」



学校行くからと言ったのに、すっごい乗り気だし。・・・あの人、本当に美緒さんという美由希さんと同級の娘さんが居るお父さんですか? ちょっと元気すぎでしょうに。



「だから・・・必ず行きます。その時には、今回のお礼も直接伝えます」

『うん。待っているよ。あと・・・』



普段は穏やかで、静かな声の美沙斗さんだけど、またワントーン下がった。そして・・・怖い。めっちゃ怖い。

な、なんでしょうか? というか、なんか声から殺気が・・・。



『美由希の事なんだけど、また現地妻3号に戻ったとか言っているんだ。これはどういうことかな』

「・・・僕が聞きたいんです。あの、前にも話したと思うんですけど、僕・・・彼女が出来たわけですよ」

『うん、以前一緒に香港に来たフェイトちゃんだったよね』

「で・・・なんかその関係を暖かく見守る会というのを知り合いの女性連中が結成したらしくて、それの名前が現地妻ズで、会員ナンバーが現地妻○号・・・らしいんです。
なお、僕はそれが結成された事も、そんな話になっている事も、最近になるまで全く知りませんでした」



しばしの沈黙。そして・・・美沙斗さんが涙声で口を開いた。



『・・・どうだろう、一夫多妻制というのは』

「それはダメですってっ! というより、母親としてその発言はアウトですからっ!!」

『なら、一度私がそっちに行って君を粛清』

「それは僕的にアウトだからやめてくださいよー!!」










・・・とにかく、現地妻ズは何が何でも解散に追い込んでみせると宣言して、電話を終えた。なお、美沙斗さんは心の底からよろしく頼むと懇願してきた。





いや、マジで解散させよう。それが無理でも、現地妻って名称を変えよう。今のようにあらぬ誤解を受けまくるに決まっている。





とにもかくにも、僕は目的の場所へ付いた。そこは・・・学校の屋上。そこで寝転がりながら、空を見ている男が一人。少しオレンジがかった長めの髪に、メガネ。そして、ちょっとだけ緩めに着こなした紺色の背広。





僕はそいつへと近づく。










「お昼寝とは、また随分余裕だね。仕事はどうしたのさ」

「・・・あぁ、蒼凪君。いやぁ、ちょうどヒマが出来てさ。ちょっと日向ぼっこしてるんだよ。ほら、今日は天気がいいし」





そう、我らが担任の二階堂悠。僕はこいつに会いに来た。しかし・・・また呑気な。



いや、分かるけどね。今日は気候も落ち着いているし、天気もいいし、空も青いし・・・僕だって、このまま寝ちゃいたいくらいだ。





「で、こんなところでどうしたの? 君も日向ぼっこ・・・ってわけじゃなさそうだね」

「ちょっと話があってさ。悪いけど、少し耳を貸してよ」

「言っておくけど、僕の時間は高いよ?」

「大丈夫、それに見合う対価は持って来てるから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それはまた・・・災難だったねぇ。てゆうか、星名専務も大胆だなぁ」

「その星名っておっちゃんは、こういうことやりそうなタイプなの?」

「やりそうだね、目的のためなら手段を選ばない人の典型例だから。ガーディアンもそうだけど、キャラもちでもない君にあれこれ邪魔されてるのが相当気に食わないんでしょ」

「なるほどね・・・。いっそ襲って半殺しにでもしてやろうかしら」

「やめときなよ。そんなことを自分からやったら、君は名実共に犯罪者だよ? そうなったら誰も君をかばえなくなる」





さて、今はお昼休み。人気の無いところ・・・屋上で呑気に昼寝なんてしていた二階堂を襲撃したのには、理由がある。



それは、先日の僕達がやられた襲撃に関して。なお、お土産としてお弁当なんて持ってきてる。





「で、その人達は今は?」

「こっちに居た警防の隊員・・・陣内啓吾さんって言う僕の知り合いと、その部下の人達に引き渡した。いろんな意味で逃げ場はなくなるから、安心して眠れる。
それで、今後またこういうことがあるようなら・・・本格的に協力してもらって、イースターを叩き潰す事になった。なんでも、イースターって不明瞭で莫大な金の動きがあるんだって。それで警防もマークはしていたとか」

「あー、多分×たま関連だろうね。君が壊してくれたロボットや、エンブリオ製造機とかだけでも、相当額だから。しかし、また恐ろしい人達と繋がり持ってるねぇ」

「でも、いい人達だよ? ・・・いや、なにかあったら協力するからと言われたのは意外だったけど」



さすがにびっくりしたしさ。まぁ、ありがたくはあるけど、やっぱりお礼しに、香港行かないとだめかな。それが無理でも、なにか送っておかないと。



「で、僕に聞きたいことってなに?」

「イースターのそういう実行部隊って、どれくらい戦力があるのかな」

「・・・僕もそれほど詳しい事は知らないけど、それでもいい?」



僕は、その言葉に頷いた。二階堂はそれを確かめてから、話し出してくれた。



「僕は元々、子ども達のたまごを抜くためと、ガーディアンであるヒマ森さん達の監視のためにここに居る事が多かったから、そういうのと関わることが少なかったんだよ」



また・・・はっちゃけるなぁ。いや、今はイースターと関わりないらしいから、いいんだけど。



「なら、聖夜小に潜入前は? 二階堂だって、イースターの社員だったわけだから」

「僕の専門は開発・・・ようするに、君にぶつけたロボットや、×たま関連の機械を作る事だったからね。会社の中に居た時も同じくだよ」



つまり、二階堂は完全な開発畑の人間だったってわけか。・・・昔の自分の、名残かねぇ。



「ただ、星名専務直轄でそういう連中が居るというのは、聞いた事がある。なんでも、重役のボディーガードなんかもやってたりするらしい。
だけど、どこかの特殊部隊みたいに思いっきり武闘派で、過激な事をするという感じではなく・・・警備部の延長みたいな感じだと思うな。僕も聞いた話だけではあるけど、そんな印象を受けた」



なるほど、それであの緩めの練度ですか。全く、なんなの、あのセミプロ集団。



「と言うより・・・その辺りの事、聞き出さなかったの?」

「聞き出しましたさ。渋るようだから、少々拷問した上でね。ただ、嘘をつかれてる可能性も考えたから、一応」

「なるほど。それはまた、随分な念の入れようで」

「僕はともかく、僕の周りの人間に手出しされても困るもの。これくらいは当然。まぁ、しばらくはくさい飯を食べることになるから、それで反省してもらえると嬉しいねぇ」



とりあえず、油断禁物なのは変わらず・・・かな。またこういうのが無いとも言えないし。とりあえず、星名専務ってのがバカじゃないことを祈るだけだ。



「しかしまぁ、随分素直に話してくれるね。もうちょっと手こずるかと思ってたんだけど」

「いや、それは・・・ねぇ? この美味しそうなお弁当を前にしたら、口も軽くなるさぁ。それで、あの金髪の綺麗なお姉さんが作ったかと思うと、味わいもまた深まってさ」



なんて言いながら、きんぴら牛蒡を一口。美味しそうに噛み締めている。なので・・・僕はある一つの事実を突きつけた。



「言っておくけど、そのお弁当作ったのは僕だから」

「ぶっ!!」



失礼にも噴出しやがった。なお、二階堂のためじゃない。皆の分のお弁当の材料をちょこっと拝借して、その寄せ集めで作った。



「で、もう一つ言っておくけど・・・フェイトに不埒な真似をしたら、生まれてきた事を後悔させてあげるね? もちろん、拒否権は無い」

「き、肝に命じておきます。いや、だから・・・その殺し屋の目はやめない? さすがに怖いからさ。・・・あぁ、そうそう。あとクラスの事なんだけど」



・・・あぁ、まだ分裂してるよね。てゆうか、よく気力が持つなぁ。どんだけ頑張り屋ですか。女子も男子も。



「そうなんだよねぇ〜。真城さん、だいぶ雰囲気柔らかくなったとは思うんだけど、最初が最初だからさぁ。女子の面々に嫌われてるのって、大きいよね。それもヒマ森さん以外の全員に。
そう言えば、君もそんな感じじゃないの? 見てると、辺里君以外の子とあんま喋ってないように感じるし」



とりあえず、また弁当を食べながら、幸せそうに緩い顔をしている二階堂に苦笑しつつ、頷く。なんつうか真面目に先生してるんだよね。僕はびっくりさ。

どうやら、男連中は僕がりま派じゃないのがお気に召さないらしい。普通に仲間はずれにするし。まぁ、あれでダメージ受けるほど緩くはないからいいんだけど。



「また大変だよねぇ。・・・あぁ、そう言えば新ジャック・・・三条海里君の様子はどう?」

「あぁ、元気・・・って、なんでいきなり海里の話?」

「あー、いやいや。君より身長が高いから、いじめられてないかなーと」

「そんなことするかっ! いや、確かに最初に会った時はヘコんだけどっ!!」

「やっぱりそうなんだね・・・」





とにかく、そんな話をしながらお昼休みは過ぎていく。おー、校庭でみんなが遊んでるよ。すっごく楽しそうだよ。





「で、この事をガーディアンのみんなには?」

「とりあえず、唯世には話しておく。他は・・・大丈夫だとは思うけどね。多分、僕達が襲われたのは、向こうから見たら明らかにイレギュラーなせいだろうけど、それでも念のため」

「うん、懸命な判断だ。まぁ・・・何かまた聞きたかったらいつでも来なよ。ただし、お弁当は持参でね?」

「そうさせてもらうわ。あと二階堂」

「分かってる。・・・向こうが僕の立ち位置をどう見るかは分からないってことでしょ? つまり、下手をすれば僕も危ない」



僕はその言葉に頷いた。なお、これはフェイトの見解。

今のところ、二階堂は普通に先生で、ガーディアンに肩入れしてるとかそういうわけではない。ただ、それでも・・・警告だけはしておいてと、頼まれたのだ。



「しばらくは気をつけるよ。夜はあまり出歩かないことにする」

「うん、それがいい」



・・・てかさ、お弁当は僕の手作りになるけどいいの? もちろん、フェイトには手出しさせない。



「いいのいいの。僕、美味しいものには目がないからさ。もちろん、男色の趣味はないけど」

「そりゃよかった。僕もないもの」

「いやぁ、やっぱり僕達、気が合うみたいだね。なんというか、話しやすいもの」

「だね」










平和な午後。だけど、話す内容は非常に物騒。でも、こういうのが結構楽しいのは、やっぱり気が合うせいなのかも知れない。





そして、空を見上げて・・・思う。あのツンデレツインテールの事を。





ね、歌唄。フェイトから家の事は色々聞いたけどさ・・・今そうしているのは、イースターのためとかそういうのじゃないよね?

歌唄は月詠幾斗を助けたいって言ってた。そのためにエンブリオを探す・・・その言葉、きっと本当のことだ。でも、何から助けたいのか、僕にはちょっと分からなかった。

でも、ようやく分かった。・・・でもさ、それで本当にいいの? 歌唄の歌を、歌唄の魂を、こんなことに使っていていいの?





・・・やめよう。こんなこと、思っていても無意味だ。





そう、思っていても無意味。だったら・・・ぶつかり、言葉をかけるだけだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして放課後。ガーディアン会議の前に唯世を呼び出して、早速話を始めた。





で、唯世の表情が重い。そりゃそうだ。いきなり企業が拉致とかかまそうとしてきたんだから。










「とにかく、さっきも言ったけど管理局は動けない。だけど、ツテ・・・香港国際警防隊でも、イースターの方をマークしていたらしいんだよ。だから、最悪そっちだけは動ける」

「そっか。でも、注意だけは必要・・・だよね。蒼凪君やフェイトさん達が狙われた理由を考えると、僕や日奈森さん達は大丈夫かも知れないけど・・・」



その読みが違っていて、ガーディアン全員を狙っている可能性だってある。注意だけはしておいても損は無い。



「そうだよね。とにかく、みんなにはさりげなく僕から気をつけるようにと言っておくよ」

「うん、悪いけどお願い。しかし・・・なんでこうゴタゴタするのか。うぅ、やっぱり分かりやすく『私がラスボスだー!!』って言うようなのが出てくれると、嬉しいんだけどなぁ」

「あ、それは同感。どうも不透明なのはイライラしちゃうよね。あと・・・蒼凪君」

「なに?」

「ごめん」



唯世・・・なぜいきなりそんな泣きそうな顔で謝る? 別に唯世が悪い事したわけじゃないでしょうが。



「でも、僕達やイースターのために、本当だったら関係の無い蒼凪君やフェイトさん達まで危ない目に・・・」

「・・・バカ」



僕が突然そう言うと、唯世が驚く。だから・・・話を続ける。



「もう、関係なくないよ。だって、僕達は仲間でしょうが」



唯世の目が見開く。そして、静かに頷いた。



「だったら、そういうのは言いっこなし。・・・大丈夫、僕もフェイトもティアナも、魔導師組は全員むしろこういうのの方が本分なんだから。
なんかまた仕掛けてくるなら・・・徹底的に叩き潰すだけ。というかフェイトとティアナがもう気合い入りまくりでさ。むしろ来てくれた方が自分達は暴れられるって張り切っちゃってるのよ」



どこからか『そんなことないからー!!』という声が聞こえたのは、気のせいだ。

だけどそれと同時に『今までの憂さをここで晴らすぞー!!』・・・という声も聞こえたから、不思議だ。



「あはは・・・それは頼もしいなぁ。でも、確かにそうだったね。フェイトさんもランスターさんも、それに蒼凪君も、僕達より強いんだから。・・・ね、蒼凪君」


うん? なにかな。


「ありがと」

「・・・ううん」










季節は、五月に入ろうかと言う時。そして、気合いを入れなおす。





だって・・・ねぇ? 色々暗雲立ち込めてるしさぁ。そこはちゃんとしませんと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、会議です。まぁ、花壇の植え替えとかそういう業務的な話をして・・・明日はガーディアン会議はお休み。





うーん、なんというか・・・平和だなぁ。





でさ、そこの三人。もっと言うと、エースとジョーカーとジョーカーU、なに読んでるのよ。










「あ、漫画」

「ギャグマンガ大王ですよー♪ リインとややちゃんのクラスでも、大流行なのですー」





そう言って、リイン達が見せてきたのは、一冊のコミックス。下手上手いと言われる画力に、個性の強いキャラクター達がもたらす爆笑必死の不条理ギャグ。その名もギャグマンガ大王。

なお、1話五分形式でアニメ化などされていたりして、オープニングを声優のうえだゆうじさんが歌ってるのよ。

なお、僕のお気に入りはやたらと毒のある千利休と、ツッコミ属性弄られ属性持ち秀吉のお話だね。人気なのかよくレギュラーで出てる。



・・・あれ、どっかで聞いた事あるな。これ。





「あ、恭文も知ってたんだ。うーん、さすがガーディアンのオタク代表」

「そういう誤解を受けるような言い方はやめて。まぁ・・・マンガは好きだけど」



と言うかさ、キングとジャックス。いいの? 学校にマンガ持ち込んでさ。



「まぁ、授業中に見るとかしないのなら、問題無いよ」

「俺も同じくですね。個人の趣味の時間にまで口出しするのはどうかと。俺も先ほど拝見させてもらいましたが、特に悪影響を及ぼすというか、そういうものは感じませんでしたし。」



あ、なんか海里が理解を示している。うーん、これはうれしいなぁ。そういうのダメっぽい子だと思ってたのに。



「というより、マンガより危ないものを平然と持ち込んでいる蒼凪君にそれを言う権利は無いと思うな。もっと言うと、袖とか懐とかに」

「・・・唯世、最近ツッコミが厳しくなってきたね。誰の影響?」

「もちろん、蒼凪君だよ」

「家臣がお前のように暴走気味だと、王たるこの僕や唯世も苦労するということだ。覚えておけ」



どうやら、うちのキングとそのパートナーはどんどん強くなっているようである。・・・あれ、なんだろう。今一瞬、唯世の肩にキャロの生霊が見えたんだけど。

唯世・・・お願いだから三代目魔王だけは襲名しないでね? それは間違いなく悪手打ちだから。



「それでさ、リインちゃんの言うようにうちのクラスでも大人気でさ。特にこの『バラーンス』ってギャグがおかしくて」



・・・あぁ、らしいね。結構定期的にやっているある意味このマンガの代表ネタだよ。

たださ、やや。一つ間違えてるから。すっごい間違えてるから。



「「『バラバラーンス』だから(でしょ?)」」



声がハモった。すっごいハモった。それにより場が一瞬固まる。で、当然発言した二人をみんなは見る。

一人は僕。そしてもう一人は・・・。



「え、りまたん知ってるの?」

「べ、別に?」



そう、りまだ。というか、僕も驚きなんですけど。

だけど、りまは普通にメールを打っている。平然といつもの表情を装う。・・・召使いですか?



「違うわよ。・・・あなた、私の印象どうなってるの?」

「ねぇ、りま。まず自分の行動を振り返ろうよ。僕の前のあの邪魔な連中を全部どかしてから言おうよ」

「・・・それもそうね。あと、召使いじゃなくてママにメールしてるの。会議早く終わったから、お迎えの時間変わったって」



お迎え・・・あ、親御さんがお迎えに来るんだ。

そう言えば、僕もそうだしティアナもリインも見たことないかも。りまが一人で普通に歩いて帰ってるところ。



「あ、そうだりまたん。読んだことないなら貸してあげようか? ギャグマンガ大王」



なぜだろう、その瞬間、りまの身体が一瞬震えた。



「もうね、すっごく面白いよ? 特にアレだよアレ。もうこーやってね」



ややがいわゆるフュージョ○的なポーズを取って、りまにアピールする。

なお、これが例の『バラバラーンスっ!!』のポーズ。だけど、やや・・・それちょっと違ってる。こう微妙にいい加減さが伝わってイライラするくらいに違ってるから。



「それで、こう言うのっ! バラーンスっ!!」

「「『バラバラーンスっ!!』よっ!!(だからっ!!)」」

『・・・え?』



また声がハモった。一人は当然僕。そして、もう一人は・・・目を鋭く輝かせ、ややにその視線をぶつけたりまだった。



「・・・真城さん?」



あむがそう呼びかけるけど、りまはそのまま走り去って行った。

な、なんなんだ・・・一体。



≪というか、マスター≫

「なに?」

≪りまさん、ちょっと顔赤くしてませんでした?≫










そう言えば・・・そうかも。うーん、本当にどうしたんだろう。というか、あんなテンション上がった声を出したとこ、初めて見たよ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、というか・・・さ、いいかな?」




そして、翌日の事。教室で恭文が手を上げて発言してきた。

なお、今は二階堂先生が居ないため、自習時間・・・ホームルームです。



「はい、蒼凪君。なにかな」

「・・・それを聞くの?」

「・・・・・・ごめん、一応ね。分かってた。私すっごい分かってたよ。とりあえず・・・一緒に言ってみようか」

「だね」



議長の女の子と打ち合わせもしてないのに呼吸を合わせて・・・言い切った。



「「邪魔だから自分達の席に戻れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! てゆうか、うるさーいっ!!」」



恭文と議長の子が言うのも当然だ。だって・・・恭文の前の席の子。つまりりまがクラスの召使いを侍らせて、女王様になっている。

そのために、後ろの子は前が見えない。というか、ぶっちゃけ邪魔。気配が邪魔。そして無秩序。あまりに無秩序。



「私達も蒼凪君に同意ー! 前の男子が邪魔で見えないしー!!」

「やかましいっ! 我々はりま様に奉仕の最中だっ!! 文句をつけるなっ!!」

『そうだそうだー!!』



うわ、なんか最低な理屈つけてきてるしっ! てゆうか、二階堂先生はどうしてこういう時にいないのよー!!



「あむちゃん、なに言ってるですか? 居ないからこそホームルームの時間になっているというのに。
というか・・・無秩序にも程がありますー! エル、こういうのが1番嫌いなのですー!!」



確かに、エルの言う通り・・・って、そうじゃないからっ! あぁもう、どうしろって言うのよこれっ!!



「というより、蒼凪恭文っ! 貴様りま様に対して反抗的だぞっ!!」



・・・はい?



「そうだそうだっ! あまりに横暴な振る舞いの数々・・・許しておけるかっ!! 今すぐりま様に忠誠を誓えっ!!」

「・・・ほう、なぜ?」



や、やばい。なんか恭文の声がすっごく怖い。まだ普通なんだけど、寒気を覚える。



「当然だろうがっ! 貴様、鈍いようだから気づいてないかも知れないが、男子の大半からハブられているんだぞっ!?」



そ、そうなのっ!?



「・・・あむちゃん、気づいてなかったんだね」

「ミキ、知ってたのっ!?」

「スゥもです。ただ、恭文さんはあぁ言う人なので、特に気にしていないんですけどぉ」



・・・あぁ、それは分かる。恭文はこういうこと気にするタイプじゃないもん。



「それもこれも、真城りまという姫に対して無礼な行動の数々が原因っ! お前、ぶっちゃけ嫌われてるんだよっ!!」

「ちょっとっ! それっていじめじゃないのっ!? さいてー!!」

「やかましいっ! りま様を慕わないこの男が悪いのだっ!!」





なによ、それ。そんなの、恭文・・・全然悪くないじゃん。

てゆうか、恭文はりまに対して無礼なことなんてしてない。

りまが悪い事したら、それはだめだよって叱ってただけじゃん。



それなのに・・・!!





「さぁっ! 今すぐりま様に忠誠を誓えっ!! さもなくば、お前に粛清を」

「・・・・・・やめて」



瞬間、召使い連中の言葉が止まった。原因は・・・りまの声。

恭文は立ち上がって、ゆっくりと、穏やかに連中を見る。いや、見ようとしていたその数瞬前に声がかかった。



「邪魔だから、皆戻って。あと、静かにして。・・・別に無礼なんてされた覚えないから。普通にダメだよって叱ってくれただけだし」

「り、りま様っ! しかし」

「しかしじゃない。それと・・・ハブるとかそういうことしないで。ぶっちゃけ、迷惑。もういい、全員召使いやめて」

『り、りま様ー!!』



そして、全員が席に戻る。解雇宣言により、そうとうヘコみながらだけど。・・・いや、そこまで?



「と、とにかく・・・話、続けていいかな? あと、蒼凪君も座って? ほら、なんか問題なくなったみたいだし」

「・・・だね。別に粛清するならそれでもよかったんだけど。全員・・・叩き潰せばいいだけだし」



あぁぁぁぁぁっ! なんかちょっぴし怒ってたっ!? なんか言葉の尻に殺気が篭ってたしっ!!



「やっぱり、溜まってはいたんだね。私、そうじゃないかなと思ってたんだよ」

「実はボクも」



あはは・・・召使い諸君? 君達はきっと今命拾いをしたよ。恭文、加減はするだろうけど、それでもやるとなったらやる子だから。



「えー、議題の方なんですが・・・実は、学級文庫が増えて、散らかっています」



クラスの教室の後ろの方には、クラスの人間が読んだりしてもいい本が置いてある。みんなの家からいらなくなった本を持ち寄っているんだけど・・・確かに多い。というか、整理がついていない。



「そこで、クラスに一人文庫係を決めて、週に一度でいいので、学級文庫を整理してもらいたいと思いますー」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』



全員からブーイングの声。まぁ、そうだろう。確かにこういうのはめんどくさい。あたしも経験があるからわかる。



「はいはーい。静かにー。平等にくじを引いて決めたいと思いますー。
・・・あれ、蒼凪君。どうしてそんなにヘコんでるの?」

「いや・・・くじ、当たるかなと思って」

「いやいや、これだけ人数が居るんだし、さすがにそれは・・・」

「僕、運無いんですけど?」

「あ、あははは・・・」










恭文、そこまでですか。いや、分かるけど。色々経歴とか聞いてるからすっごいわかるんだけど。





とにかく、くじを全員で引く。空箱に入っているのを引いて、端が赤くなっている付箋を引いたらその人が係になるというもの。





そして・・・。










「・・・・・・泣いて、いい? いや、真面目にだよ」

「え、えっと・・・蒼凪君、頑張って? いや、大丈夫だよ。週に一度のことだから」

「ううん、そこじゃないの。だって・・・僕1番最初に引いたんだよ? それで1発でコレだよ? うぅ・・・何かが間違ってる。激しく間違ってる」

「そ、そっかぁ・・・」










そう、恭文が当たりを引いた。それも、1番最初に引いて1発で。なんというか・・・恭文の運の悪さって、ここまで?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、嘆いていてもしょうがないので・・・放課後になってすぐに、本の整理にとりかかった。





しかし、結構量あるなぁ。うし、頑張らないと。










「・・・蒼凪君、ごめんね。本当だったら手伝えればいいんだけど」

「私達、塾があって・・・」



そう心から申し訳なさそうに言ってきたのは、まなみちゃんとわかなちゃん。・・・あ、訂正。まなみとわかな。呼び捨てにしてオーケーと許可を貰った。



「いいよいいよ。てゆうかさ、こういうのの整理をするのはいいのよ。ある意味僕の得意分野だから」

「そうなの?」



本の整理をしながら、まなみの声に答える。・・・うん、そうなの。



「知り合いにでっかい図書館の司書長をしているユーノ・スクライア先生って言うすごい人が居るんだけどね。
その人の手伝いでそこの図書館に出入りして、よくこういうことしてたから。むしろ、好きだよ?」

「あ、そうなんだ。・・・なら、さっきまで声もかけづらいくらいにヘコんでたのはやっぱり」

「・・・うん」



一発って・・・初っ端って・・・。さすがにヘコむさ。さすがに泣きたくなるさ。うぅ、なんなんだろう。



「まぁ、決まっちゃったものは仕方ないし・・・ちゃんとやるよ。うん、頑張る」

「そっか・・・。じゃあ、頑張ってね。あ、手伝える時は私達も手伝っちゃうから。ね、わかな」

「うんうん。私達は蒼凪君の味方だよー」

「・・・二人とも、ありがと。あ、勉強頑張ってね。それじゃあ、また明日」

「「はーい」」





なんて話して、二人はこちらに笑顔を向けつつ、急いで塾へと向かっていった。・・・小学生も色々忙しいらしい。

とにかく、そんなことをしている間に、教室はあっと言う間に僕だけの世界になった。

うーん、しかし手作業というのもこれはこれで楽しい。だけど、時間がかかる。



・・・魔法使っちゃおうかな。





≪だめですよ。楽を覚えると、人間はすぐに堕落しますから≫

「それもそうだね」

≪というより、分類が細かすぎるんですよ。なんでイチイチ内容をチェックしてソレ毎に分けようとしてるんですか≫

「あははは・・・。つい無限書庫臨時司書としての本能がこうさせてしまうのですよ」



ついついなぁ・・・。やっちゃうんだよなぁ・・・。うぅ、時間をかける原因と分かっていても、来週にはきっと同じ状態になると分かっていても、やってしまうのは長年定期的にやっていたお手伝いのせいなんだろうなぁ。

でも、大体目を通したから来週からはもっと早く出来るかな。えっと・・・次はミステリー関係と。



「無限書庫ってなに?」

「あぁ、本局の方にあるでっかい書庫でね。そこに存在しない情報はないって・・・あれ?」



声がした。後ろを見る。誰も居ない。

だから、視線を落とす。・・・居た。僕の前の席の子が。というかりまだった。



「・・・何してるの?」

「ん・・・」



そう言って、一旦出して、下に置いてあった本の一冊を取り、僕に手渡す。・・・どうやら、手伝いに来てくれたらしい。

なので、僕はそれを受け取り、本棚に入れる。りまは、また同じように本を渡す。



「・・・あれ、真城さん。なにしてるの?」

「・・・・・・別に」

「なんか、手伝いに来てくれたみたいなの。てゆうか・・・あむも?」

「ま、まぁ・・・ガーディアンの仕事無いしね。なんかすごいヘコんでたみたいだし、一応」

「そっか、二人とも・・・ありがと」



あ、なんか二人揃ってそっぽ向いた。と言うか、あむの顔が赤いのは何故?



「とにかく、パパっとやっちゃおう? 三人ならきっとすぐに終わるって」

「うん、そうだね」





・・・なんて言ってると、本当にすぐに終わりそうになっている。



いや、二人に感謝だよ。僕、もうちょっとかかると思ってたのに。





「そんなことない。でもあなた、普段の言動に似合わず細かいのね」

「そう?」

「あー、それはあたしも思った。中身確認して、ジャンル確かめて、それが分かるようにポップまで作って・・・」



やっぱり、僕の本の整理の仕方は細かいらしい。あぁ、そう言えばフェイトにも言われたっけ。僕の元々借りていたマンションの保管庫にある漫画の数々を見て、ため息を吐かれたことがある。



「昔馴染みの人が、でっかい図書館で司書長をしててね。それの手伝いをよくしてたから・・・そのせいかな。普通にこれくらいはしないと、後でわかんなくなるから」

「もしかして、さっき言ってた無限書庫?」

「そうそう」

「変わった名前なのね。あぁ、それと・・・」



・・・なに?



「ごめん」



ただ一言だけ、そう言ってきた。・・・何を意味するかは、なんとなく分かった。



「いーよ別に。あの程度の野次は問題無い。こっちの邪魔して、何かしらの形で喧嘩売ってくるなら、もうしないように叩き潰せばいいんだし」

「そう。なら、問題無いわね。あなた、それが出来る人みたいだし」

「出来過ぎて逆に怖いけどね。てゆうか真城さん、もしかしてそれ言うために残ったの?」

「・・・別に。あと、あなたも・・・りまでいいわよ?」



その言葉に、あむが驚く。だって、自分からこういうこと言うとは思わなかったから。



「いいの?」

「だって、一人もう呼び捨ての人間が居るんだし」

「あー、そう言えばそうだね。じゃあさ、あたしもあむでいいよ。で、恭文は恭文で」



もしもし、そこのお姉さん? 勝手に決めないで欲しいんですけど。



「いいじゃん。それに、なのはさんが言ってたよ? 仲良くなる秘訣は、お話することと名前を呼び合うことだってさ。あたし達と真城さん・・・りまは、そういう機会が今までなかったんだし、ここで仲良くなっちゃおうよ」

「・・・あの横馬は、どうしてそういう事を言うのかな」

「えー、あたしはいい事だと思ったけどなぁ。フェイトさんともそうやって仲良くなったらしいし」



・・・そっか、あむは知らないんだ。横馬の『お話』が本当の意味でお話じゃないってことを。

横馬のお話は、砲撃だよ? 肉体言語だよ? つまり、戦って分かり合うという少年漫画のノリだよ? あれはおかしいから。



「なのはって、誰?」

「あ、りまは知らないんだね。フェイトさんの10年来の親友で、恭文の友達。あたしや唯世くんにややは一度会ったことがあるんだけど、もうすっごく綺麗で優しい人なんだ。
ヴィヴィオって言う女の子の子どもが居るんだけど、その子もまた可愛いの。・・・どういうわけか、恭文はそのなのはさんに意地悪ばかりするんだけどね。横馬って言って名前で呼ばなかったり、魔王って呼んだり」

「あなた、女に優しく出来ないのは最低よ?」

「大丈夫、僕はフェイトとリインには優しくしてるから。それとあとね・・・二人とも、アレの本性を知らないからそう言えるんだよ。もう生きているだけでツッコミどころ満載な人生送ってるんだから」



なぜだろう、二人がとても疑わしい目で僕を見る。それがとてもイラってくる。・・・本当のことなのに。



「・・・あれ、ねぇ恭文。これも文庫の中にあったの? これ、昨日ややとリインちゃんが読んでたやつじゃん」

「あったの。一体誰が持ち込んだのかねぇ」



あむが呆れた顔をするのも無理はない。それは・・・ギャグマンガ大王。つまり、マンガ。

この学校、真面目にフリーダムじゃないの? 僕はビックリですよ。



「あと、あむ。それは昨日のとは」

「違う」



そうそう、昨日のは三巻。これは発売したばかりの四巻・・・あれ?

え、今誰が僕の言おうとした事を先んじて言った?



「アルト?」

≪違います。・・・あの人ですよ≫



あの人・・・そう、あの人だった。



「貸して」

「えっ!?」



今、あむの手からマンガをひったくったあの人です。そして、目を輝かせながら最新刊を見ている。

その時、今まで僕達の様子を嬉しそうに見ていたクスクスが・・・こう言った。



「りま、いつものー!!」



りまの左頬に涙、右頬に星のマークが付く。色は緑色。そして、走った。目指すは教壇の上。そこに立ち、こう高らかクスクスと共に声を上げた。



「「バラバラーンスっ!!」」



りまとクスクスが笑顔で二人そろって例のポーズを取って・・・な、なんかやらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「「バラバラーンスっ! バラバラーンスっ!! バラバラーンスっ!!」」



何度も、何度も、もう今まで見たことがないくらいにすっごい嬉しそうに連続でバラバラーンスですよ。

あ、あはは・・・あむ。これは何? なんかいろんなものが崩壊したんだけど。



「多分・・・りまさんとクスクスのキャラチェンジですぅ」

「あぁ、そう言えばあたしもキャラなりは見たことあるけど、キャラチェンジはない・・・って、これがそうなのっ!? いくらなんでもぶっ飛びすぎでしょっ!!」

≪というより・・・楽しそうですね。止めることに罪悪感を覚えてしまうほどに≫

「そ、そうだね・・・。というかさ、いつまであの調子なんだろう」



そして、それから数十秒後。りまの頬の涙と星のマークが消えた。そして、明らかに『しまった』という顔をした。

で、僕達と視線が合う。そして・・・。



「やぁぁぁぁぁんっ!!」



身体を丸めて、ボールになられた。



『ボール化っ!?』



え、えっと・・・どうしようか。これ。



≪・・・えーっと、りまさん。もしやとは思いますが、お笑いとかギャグとか・・・相当好きですか?≫

「悪いっ!? えぇそうよ、私は笑いにうるさいわよっ! いい加減にギャグやられるの、許せないわよっ!! だから・・・なにっ!?」



なんだろう、あの子はツンデレなのだろうか。なんか、ティアナの影を見たよ。すっごい見たよ。



「それで隠してたんだ。でも、すごいギャップ」

「やぁぁぁぁぁっ!!」

「でもさ、別に僕はいいと思うけど。唯世だってアレだよ? 隠す事ないって」

「やっ! かっこわるいもんっ!!」



あむと僕が口々にそう言うけど、本人的には納得していないらしい。もう必死だもの。顔が必死だもの。

クスクスは・・・なんかすっごい笑ってるし。



「りまー、よかったねー。恭文はりまのキャラチェンジ好きだってー」



いや、クスクス? 僕そこまで言ってないんだけど。そしてりま、なぜ顔をさらに赤くする。



「クスクスっ! 余計な事言わないでっ!! というか・・・絶対誰にも言わないでよっ!? いや、真面目によっ!!」

「あー、分かったから。そんな必死にならなくていいよ。・・・りまは、皆に話されるの嫌なんでしょ?」



僕の言葉に、りまは頷く。なら・・・ねぇ?



「だったら、僕は内緒にする」

「・・・なんで? だって、敵・・・じゃないの?」

「それは、僕のやることをりまが邪魔をすればの話でしょうが。邪魔しないのなら、別に敵でもなんでもないもん」

「・・・・・・あなた、本当に変な奴よね」

「よく言われるよ」





しかし・・・うーん、面白い。本当ならいじめてやりたいけど、本人そうとう気にしてるらしいから、やめておこう。



まぁ・・・ねぇ? 一応こういうのは大事ですから。





「というかさ、りま。時間大丈夫? ご両親の迎えとか」

「・・・あ、ママに電話するの忘れてた」

「こらこら。・・・なら、ここはもう大丈夫だから、帰っていいよ」

「ん。それじゃあ、私先いく。じゃあね、あむ」



りまは慌しく教室を出た。・・・静かになったねぇ。というか、もう夕方だし。

だけど・・・あれ、足音が来る。で、教室のドアが開くと・・・りまが居た。



「なに、忘れ物?」

「違う。・・・言い忘れてたから」



そのまま僕を真っ直ぐに見て・・・数秒後、りまは沈黙を破った。



「じゃあね、恭文」





それだけ言って、走り去った。・・・え、僕にも挨拶?



そのために戻ってきたって・・・どんだけですか。





「・・・ねぇ、恭文。真面目にフェイトさん居るのにりまにフラグ立てるのはどうなのかな」

「立ててないからっ! なんでいきなりそんな話っ!?」

「いや、だって・・・ねぇ。でもさ、恭文」



あむが嬉しそうに僕の方を見る。言いたい事は、なんとなく分かった。



「最初は不安だったけど、新生ガーディアン、いい感じだよね。りまも、なんだかんだで結構可愛いとこ、あるしさ」

「・・・そうだね」










そして、それから少し経って・・・本の整理は全て終了した。





明日、りまにお礼言わないとなぁ。うん、そうしようっと。




















(第18話へ続く)





[*前へ][次へ#]

29/51ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!