小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第16話 『覚醒する切り札 つながり始めた切り札達 そして・・・』:2
「・・・というわけで、ハラオウンさんも交えて今日のガーディアン会議を」
そう言って、議長な海里がちらりとある地点を見る。そこには、新品のおむつが気持ちいいのか、すやすやと眠る双子。
「静かに、ひっそりと、小声で行いたいと思います。みなさん、よろしいでしょうか」
『・・・了解』
というわけで、ここからは基本的に小声です。ご了承ください。
「それで、まず議題の一つ・・・ほしな歌唄のゲリラライブの件なのですが、蒼凪さんとハラオウンさん達の調べでは全く止んでいる状態でしたよね」
「だね。一応フェイトもネット巡回して目撃情報とか調べてるんだけど、さっぱり」
「あぁ、そうでしたね。ファンのブログや掲示板などでも反応なし・・・ですか」
「そうだね。私もその辺りを中心に見ているんだけど、先日遭遇して以来さっぱり。それらしい情報も無いんだ」
あれでフェイトの言うように楔を打ち込めていて・・・ならいいけど、どうもこの静けさが辛いなぁ。何が起こってるのかさっぱりだし。
いっそ『これから世界を征服しまーす』とか言って、攻撃しようとしてくれた方がわかりやすいのに。
「まぁ、確かにそれは分かりやすいけどね。でも、不可解な事もある。蒼凪君とフェイトさんが言うように、ほしな歌唄のゲリラライブはパタリと止んでいるのに、×たまの発生率が減っている様子が全く無い。これは、どういうことだろう」
≪その辺りもしっかりと考えています。元々私達は、こういうのが専門ですから≫
「アルトアイゼンの言う通りです。・・・まず、考えられる要素は二つあるです。一つ、リイン達が気づいていないだけで、ほしな歌唄のゲリラライブはなんらかの形で続いている。
リインが思うに、これが1番可能性が高いです。ほしな歌唄の武器は歌。なら、歌を使った形で作戦を進行するというプランは変わらず・・・ということですね」
「歌唄ちゃんをそんな悪い子みたいに言うのはやめてくださいっ! 歌唄ちゃんは周りの人達に利用されてるだけで・・・むぎゅ」
「はいはい、家出人はちょっと黙ってようねー。というかさ、エル。勘違いはやめとこか」
左手で飛び出して会議に口を挟んで来たエルを抑えつつ、言葉を続ける。
「勘違いってどういうことですかっ!? 歌唄ちゃんは悪い子じゃないですっ!!」
「・・・利用されてるかどうかは別として、歌唄は自分の意思でエンブリオ探しをしてる。で、そのために心のたまごを片っ端から抜いてる。それは事実でしょうが。
まさか、利用されてるからたまごを抜いた事は歌唄には一切責任が無い・・・とでも言うつもり? はっきり言えば、ほしな歌唄は現状では、完全無欠に『悪い子』じゃないのさ」
「そ、それは・・・」
「ヤスフミ、ちょっと意地悪。エルちゃん困ってるよ?」
フェイトが呆れたように言ってきたので、適当に返事をして矛を収めた。・・・間違っては無いと思うけど、それだけってのも・・・違うよね。
「とにかく、話を続けるです。そしてもう一つは、出来ればあって欲しくはないんですけど・・・他の要因のせいというのが考えられます」
≪これはようするに、イースターの手の者・・・二階堂やほしな歌唄のようにたまごを抜き出せる能力を持った人間が、ほしな歌唄以外で動いていて、その人物の活動の影響で×たまの発生率が減っていない・・・ということですね≫
「つまり、新しい敵・・・」
「確かに、そのどちらかで考えるのが妥当だね。現にこの間あむとヤスフミと一緒に居る時に遭遇したアレも、今までのゲリラライブのやり口とは全く違う感じだし」
そう言いながら、フェイトがびわを剥く。で、そのびわに手を伸ばそうとしてたのが居たので、それをパシンと叩く。
「・・・なにするのよ」
当然それは、りまだった。なんか痛そうに手を押さえるけど、僕は気にしない。
「なにするのじゃない。横から人のびわ取ろうとするな」
「爪が汚れるじゃないのよ」
「知るか。自分で剥いて食べろ」
というわけで、手を離して僕はびわを剥く。フェイトは・・・少し気にした様子だったけど、変わらずにびわを食べる。・・・どうやら、美味しいらしい。表情が一気に緩んだから。
そして、びわを食べながらフェイトが話し出す。真剣な顔で食べてるので、これはこれでなんか違和感。
「なんにしても、こういう静かな時はかなり怖いかな。私の経験上、こういう時は相手が力を貯めている時だから。つまり・・・」
「いつか、それが爆発する・・・ということですね。あとは、その爆発がどういう形で襲ってくるか」
唯世が真剣な顔でそう言うと、フェイトが頷いた。
「そうだね、なんにしても油断は禁物だよ」
「とにかく、ほしな歌唄の動向に関しては現状維持・・・で行くしかないでしょう。向こうの動向を確かめる手段が無い以上、俺達には打てる手がない。
それと次の議題ですが、蒼凪さんとミキのキャラなりはもう大丈夫なんですよね」
海里が真剣な目で僕とミキを見ながら言ってきたので、それに頷く。
「ミキの協力のおかげでなんとかね。ただ、少し問題があって・・・」
「体力の消耗が半端じゃないんだよ。一回使ったら、ボクも恭文も全然立てなくなるの」
「ヤスフミ、かなり鍛えてるから体力は普通レベルは超えてるはずなのに、あれなんだよね。
・・・やっぱり、ミキちゃんがあむのしゅごキャラで、ヤスフミが本来の宿主じゃないというのが原因なのかな」
「だと思います。あむちゃんとエルのキャラなりも体力の消耗が激しいですから」
つまり、短時間での連続使用は無理。・・・いや、マジックカードなりで回復魔法を使えば、いけるかも知れないけど、どっちにしろ負担は大きい。
「というわけでヤスフミ、多用は禁止だよ。・・・確かに強力な形態だけど、その反動が大き過ぎるもの。ヤスフミだけならともかく、ミキちゃんの体力の問題だってあるんだし」
「分かってるよ。なにより、これ使ったら後がなくなるもの。どちらにしたって切り札だって。使った後に増援が来て戦えませんでしたーじゃ、話にならない」
≪使うのは、他に戦闘メンバー・・・あむさんやフェイトさんやリインさん、咲耶が居る状況ですね。単独行動中での使用は絶対に厳禁です。私なら、キャラなりを解いて崩れ落ちた瞬間を狙って攻撃します≫
「うん、わかってるならいいんだ」
次はタルトに手を伸ばす。そして、パクリ。・・・あぁ、美味しい。自画自賛だけど美味しい。うぅ、幸せな午後を過ごしてるなぁ。
「というかというか、そういう時はリインです。ヴィンクルムフォームで一気に大暴れです。・・・恭文さんは、最近私への愛が不足してるです。そんなんじゃリイン、浮気しちゃうですよ?」
「いきなりなんの話っ!?」
「だめだよ蒼凪君、リインさんは君を慕ってここまで付いてきてくれてるんだから、ちゃんと気持ちに応えていかないと」
「唯世も真顔で何とんでもないこと言い出してるっ!? ちょっとは落ち着けー!!」
なお、このツッコミも小声です。あしからず。
「うーん、やっぱりパワーアップのために訓練だって。岩をごろごろーって。どうせだから、ヴィンクルムフォームも一緒にやっちゃおうよ」
「いや、それは嫌だから。そしてどうしてもそれやりた」
『おぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!』
劈くような泣き声。それに目を向けると、双子が泣いてる。それはもう盛大に。
え、さっきおしめ変えて・・・おしめ以外が原因かっ!!
「・・・何か社会に不満でもあるのでは?」
「エサでも与えてみれば?」
「ねぇ海里、りま、それ本気で言ってる? だったら今すぐ病院行ってきた方がいいよ。うん、かなり重症だね」
≪あなた方の赤ん坊に対しての認識は一体どうなっているんですか。いくらなんでもおかしいでしょ≫
と、とにかく・・・この泣き方は、えっと思い出せ。確か前に聞いた事があるぞ。えっと・・・あ、そうだ。思い出した。
「多分、両親が居なくて寂しくなっちゃたんだよ」
「そんなこと分かるの?」
りまが疑問顔で僕を見上げながら聞く。なので、頷いて答える。
「分かる。・・・赤ん坊の泣き声ってね、同じように聞こえるかも知れないけど、全然違うの。まぁ、感覚的にしか掴めないような違いだけどね。というわけで、やや」
「やだ」
遠慮なくぶった斬りやがったしっ! つーか姉っ!! そろそろしっかりと仕事しないっ!?
とにかく、僕は太郎を抱き上げて、ややに渡す。だけど・・・泣き止まないし。そして抱き方下手だし。こりゃ、マジで育児にはノータッチだね。慣れてる感じしないもの。
「あーん、ややにはむりー! 恭文パスー!!」
「弟をパスするなっ!! ・・・全く、肉親が抱き上げるのが1番いいってのに」
なんてボヤいていると・・・歌声が響く。これ・・・フェイト?
そう、フェイトだった。フェイトがさっきと同じように、つばさを抱かかえながら、優しく歌う。
”ヤスフミ、一緒に”
”あ、うん”
僕も一緒に歌う。それはフェイトの十八番の歌。で、僕も好きな歌。
優しい春の歌。桜の季節はとうに過ぎちゃったけど、それでも聞くと、春の温もりと匂いと、桜の色が目の奥に浮かんでくる。
その暖かく、包み込むような声に、双子の泣き声は徐々に止み・・・。
あ、太郎も泣き止んだ。つばさも同じく。もうなんかゆるーい顔になってるし。
「・・・フェイトさんも恭文も、すごい。あたしが手を出す暇なかったし」
あむがそう言って取り出していたのは、携帯電話。そこから、いいタイミングでオルゴールの音が流れる。
あ、双子がそれが耳に入ったのか、なんだかご機嫌に笑い出した。
「いやいや、どうやらオルゴールはお気に入りみたいだよ?」
「ならよかった。でも・・・そうしてるとなんだか夫婦に見えるね。双子の赤ちゃんのお父さんとお母さんだよ」
あむが笑顔で言った一言で、僕とフェイトは顔が真っ赤になる。だ、だって・・・あの、いや・・・あの・・・ねぇ?
「そうかしら。いくらなんでも片方小さ過ぎだし」
「それに年齢も離れているでしょう。これはさすがに・・・いや、蒼凪さんが大人になれば問題ないのでしょうか」
「それもそうね。男の方の身長がもうちょっと伸びれば問題ないわよ。それに、10歳くらいの年の差カップルって、結構多いらしいし。・・・まぁ、がんばんなさい? 奇跡って、起こる時は起こるものらしいから」
そう遠慮なく好き勝手に言ってくれる二人に対して、睨みを・・・あぁ、だめだ。僕の腕の中の太郎が怯える。
とりあえず、笑顔は維持しつつ言葉だけで返す。
「・・・おのれら、いろいろ覚えておきなよ?」
「ヤスフミ、抑えて抑えて・・・」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
現在、私とシャーリーさんは咲耶を連れて本局へと来ていた。
理由? 一応中間報告って必要なのよ。私達があそこにいるのは、エンブリオという物を探すためなんだから。
まぁ、フェイトさんとリインさんはガーディアンのメンバーに会ってるから、動けないけどね。
しかし・・・最近フェイトさんがどんどん主婦化してる感じがする。家に帰ると、笑顔で迎えてくれるその姿が素晴らしい。もう若妻よ。新妻よ。
それがまた似合うのが恐ろしいんだけど。ただ、あのおかえりなさいとただいまのキスはどうにかして欲しい。つーか、一回でいいじゃないのよ。
なんでアイツから一回、フェイトさんから一回で頑張っちゃうの? あぁ、あの様子だと行ってきますと行ってらっしゃいのキスもしてる。それもディープなやつよディープなやつ。
・・・とにかく、そんなことを久々に感じる管理局の空気に触れつつ、本局の通路を歩きつつ、考える。あの糖分過剰排泄カップルは、どこまで行くんだろうと。
もしかして、未来までずっとあんなんじゃないんだろうかと考えると、ちょっと怖い。
「そう言えば、この制服着るのも結構久しぶりだよね」
「そうですよね。よく考えたら、私は中等部の制服着てますけど、シャーリーさんは制服って久しぶりなんですよね」
「だねぇ。いやぁ、なんか気分が締まるなぁ」
「でも、この時代の本局に来るのは初めてですわ。・・・うーん、タイムスリップしてる気分です」
「「いや、実際にしてるから」」
なんてツッコミを、白いワンピース姿の咲耶に・・・あぁ、目を引いてるなぁ。外見的にはフェイトさんに似ているから余計に。
しかし、コイツも・・・何しに来たのかよくわからなくなってる。鉄火場ではあんまり出番が無いし、家だとあのエルと一緒に寝転がってワイドショーとか見ながらお菓子食べたりしてるらしいし。
「でも、それは少しだけですわ。シャーリーさまやフェイトさまと一緒に家事をしたりもしてますし」
「あ、そうだね。・・・私ね、最近咲耶やフェイトさんから料理教わってるんだ。暇な時間も多いから、今のうちに花嫁修業しようかなと思って」
「へぇ、そうなんです・・・え、アンタ料理出来るの?」
「もちろんです。恭さまを落とすために、和食を密かに勉強していましたから。恭さま、和食が大好きなんです。
『和食は奥が深い。世界に通用する一つの文化だ』と言ってはばからないんです」
あー、アレの好みに合わせてってことね。・・・でも、孫は和食なんだ。アイツは中華好きだって言うのに。
アイツ曰く『中華料理は奥が深い。医食同源を実戦している。そして中華鍋は万能調理器。焼く・炒める・煮る・揚げる・蒸すの5つが一つのもので出来るのですごい』・・・とか言って、中華万歳してるのよね。
ただ、作るものが無駄に美味いから、私達はなんの文句も言えないし。なんでも、香港って言うこっちの世界の貿易港に何度も所用込みで行って、本場の味を覚えて、みんなの食べやすいようにアレンジしてるとか。
・・・どんだけ頑張り屋よ。てゆうか、やっぱり恭太郎はアイツの孫よ。中華と和食って違いはあっても、考え方が同じだし。
「ちなみに、恭さまの親御さま・・・おじいさまの子どもに当たる人は洋食が好きです。『洋食は奥が深い・・・(以下、似たような発言のため割愛)』と言ってはばかりませんから」
「・・・親子三代揃ってなにしてるんだろうね。と言うより、和洋中って来たら次はなにが来るんだろ」
「ただ、三人揃ってそれでも中華鍋がすごい調理器具という認識だけは変わらないんですよね。ここだけは絶対譲れないようで」
「いやいやっ! そこは変えていかないっ!? というより、中華鍋で洋食と和食作るって想像できないんだけどっ!!」
まぁ、そんな遺伝子の不思議さは置いておくとして、私達はある部屋の前に来た。その部屋は・・・提督専用の個室オフィス。その中に、ノックをした上で入る。
「・・・失礼します。ティアナ・ランスター一等陸士であります」
「失礼します。シャリオ・フィニーノ一等陸士です」
「通りすがりの美少女ですわ。覚えておきなさい」
「はいそこっ! そんなオチはつけなくていいからっ!!」
とりあえず、頭が痛くなりつつ目の前の人物に目を向ける。どうやら、私と気持ちが同じらしい。頭を抱えているから。
黒のバリアジャケット姿でそこに居たのは・・・クロノ提督だ。そう、私達はこの人に現状を報告するためにここまでやってきた。
「あぁ、よく来てくれたな。あと咲耶・・・一応、初めましてだな。僕がクロノ・ハラオウンだ。あと、僕の頭頂部を見るのはやめろ」
「いえいえ、頭頂部を見ているのではありません。頭頂部を通して、時の流れの残酷さを見ているんです」
そう言って、咲耶はどこか遠いものを見る・・・悲しげな目になる。
それについつい釣られ・・・るわけないでしょうがっ!!
「何上手い事を言って誤魔化しているっ!? というより、自分で『してやったり』という顔をするなっ! 本当になんなんだ君はっ!!」
「通りすがりの超絶美少女ですわ。覚えておきなさい」
「そういう事を聞いているんじゃないっ! そして何故に先ほどよりパワーアップしているっ!!」
・・・鉄の系譜ってやつは、みんなこうなのだろうか。考えてみれば、ヒロリスさん達やアメイジアに金剛もそうだし、以前アイツに会いに一度だけ遊びに来たヘイハチさんもそうだし、アイツとアルトアイゼンなんて言わずもがなだし。
出来ればもうちょっとマトモに・・・なるわけないわよね。うん、わかってた。
「とにかく、報告を聞こう。・・・色々ゴタゴタしてるそうだしな」
「えぇ、かなり」
とにかく、ここからはお仕事モードで、報告を始めた。
咲耶も、当然横から茶々を入れたりせずにしっかりとやる。・・・ここはさすがだと思った。やっぱり、やる時はきっちりやらないとね。
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「・・・赤ちゃん、すごく落ち着いてるね。いっぱい笑ってるし」
「よっぽど蒼凪さんとハラオウンさんの腕の中が心地いいのでしょう」
海里が興味深そうに僕の腕の中に居る太郎を。そして、フェイトの腕の中に居るつばさを見る。
「こんな小さなものが泣いたり笑ったりするとは・・・興味深い」
「なら、抱っこさせてもらえば?」
「クイーン、さすがにそれは・・・」
「あぁ、いいよ。・・・海里、手を広げて」
少しだけ海里に近づいて、太郎を手渡す。
「いや、しかし・・・俺には」
「大丈夫だよ。・・・赤ん坊ってね、身体の部位の中で頭が1番重いんだ。で、筋力も発達してないから、自分でそれを支えられないの。だから、首と頭をしっかり腕で支えるようにして・・・ほら、抱けた」
「あ、ありがとう・・・ございます」
少しだけ普段のクールな顔を外して、こそばいいような、恥ずかしがるような表情で太郎を海里は抱く。
うーん、ほほえましいなぁ。自分の時を思い出してしまう。僕もきっと、初めてカレルやリエラを抱いた時はこんな感じだった。
「・・・僕もね、海里と同じ事考えたの」
「え?」
「小さくて、壊れそうなのに、笑ったり泣いたり・・・もっと大きなくくりで言っちゃえば、生きてるのは不思議だなと。
でさ、出産にも立ち会った事があってね。その時に生まれた直後の赤ちゃんを抱かせてもらったの」
「そうなのですか? もしかして・・・先ほど話されていた兄夫婦のお子さん」
「そうそう」
・・・そのおかげで、一時期僕とエイミィさんは非常に大変だったけどね。いや、真面目にだよ?
DNA検査なんて言うNGワードをクロノさんがポロっと言うから、真面目に離婚の危機が来た。
そして、エイミィさんがそういうことを言うなら、今度は本当に僕の子どもを産んでやるとか言い出したからまた大変だった。
さすがに・・・そろそろパパ認識は真面目に修正しないとダメだよなぁ。このままだと、幼稚園なり小学校のお絵かきの時間でパパの絵を描いてくださいって言われた時に、僕の絵を描きかねないよ。
なお、後日・・・今年度から二人が入園した保育園のお絵かきの時間で、二人揃って『パパ』として僕を描いて来たとエイミィさんがこっそり教えてくれた。
というより、どうしようと相談された。かなり真剣に相談された。
当然、僕は泣きました。多分、クロノさんも泣いている。僕よりも勢い強めで泣いていると思う。
「俺は出産というのには立ち会った事がないのですが・・・どのようなものなのですか?」
「もうね、壮絶という一言だよ。妊婦の息む声と助産婦さんや産医の励ます声が分娩室に響いて、外まで聞こえるらしくてさ。
それが長時間続くから・・・まさしく修羅場。まぁ、命が生まれるわけだから、当然なのかも知れないけど」
「そ、それはすごいですね・・・」
「見ている最中は『早く終わってー!!』ってずーっと思ってたけど、いざ赤ちゃんが出てきて、産声を上げると・・・言いようのないくらいに感動した。
・・・命が生まれるって・・・そこに存在して、生きてるって・・・それだけで奇跡なんだって言う言葉があってさ。その時まではなんかうそ臭く感じてたんだけど、もしかしたらホントかも知れないって、思うようになったんだ」
ガラにもなく、感動した。カレルとリエラが産声を上げた時、胸に熱いものがこみ上げてきた。あと・・・あぁ、あれもあった。エイミィさんが双子を抱いている時、それまで見ていた女の人としての顔じゃなくて、お母さんの顔になってるのを見た。
あれもなんだか、感動したなぁ。それらが原動力かな。1年に渡る子育ての手伝い、頑張れたの。
小さくて、弱くて、壊れそうな命・・・僕の手は壊して来た手で、汚れてるかも知れないけど、それでも絶対に守りたいって思ったから。
まぁ・・・その時横で、クロノさんが息を切らしながらヘコんでいたけど。言いようのない視線を僕にぶつけてたけど。多分、それがDNA検査とか言い出した原動力だと思う。
「少し、分かった気がします」
「え?」
「あなたが何故、あそこまで×たまの浄化に拘るのか。・・・存在して、生きている事、それ自体が奇跡。
ならば、きっとたまごも同じだと、俺は今・・・思いました。その奇跡を俺のちっぽけな力で守れるならば、守りたいとも思いました」
「・・・そうだね。壊れるのは、壊されるのは、壊すのは、きっと悲しい事だから。守れるなら、守りたいよね」
「はい」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな話をヤスフミと海里君がしていて、それを皆が微笑ましく見ていた。
なんて言うか、海里君の前だとヤスフミは少しお兄さんなのかな。まぁ、実年齢的にも、学年的にもそうなるんだろうけど。
「多分、剣術使い同士、通じ合うものがあるんじゃないでしょうか。実際、三条君も蒼凪君の前では少しだけキャラが違いますし」
「あー、そうだね。いいんちょ、恭文の前だといつものしっかり委員長キャラが外れる感じはする。・・・あ、そうだ。唯世くんも抱いてみたら?」
「え、僕がっ!? で、でも・・・」
「大丈夫だよ。ヤスフミが言うように、優しく・・・頭を支えて、落とさないように気をつければいいから」
「は、はい・・・」
そうして、唯世君につばさ君を抱かせた。でも、その次の瞬間、私はビックリした。
だ、だって・・・唯世君の頭に金色の王冠がいきなり発生して、つばさ君を片手で持ち上げ、高らかに宣言した。
「王者の道に涙は不要っ! 稚児よ笑え・・・天高くっ!!」
「唯世くんっ!? それあぶな」
「きゃきゃー! きゃーきゃー!!」
『なんか喜んでいるっ!?』
・・・高いところに上げたからかな。
でも、なんでいきなりこれっ!? というか、それは危ないからだめー!!
「・・・・・・もー! つばさや太郎なんかいーじゃんっ!! 二人よりややの方がずっと可愛かったんだよっ!?
ほら、フェイトさん見てくださいよっ! あむちーも見てよっ!! これが赤ちゃんの時のややっ!!」
「やや、さすがにその発言はお姉ちゃんとしてどうなのかな?」
「フェイトさん、あたしも全く同感です。・・・でも、可愛い」
「でしょー?」
うん、それは思った。確かに小さい頃のややは可愛い。・・・いや、今が可愛くないという意味じゃないけど。
「・・・フェイト、やや」
隣を見ると、ヤスフミから声がかかった。・・・どうしたの?
「太郎がお腹空いたみたいなんだよ。つばさは・・・」
ヤスフミがある地点を見る。・・・落ち込みながらも、今度は普通につばさ君を抱く唯世君を。
そこはいいとして、つばさ君の表情を見る。それから、私は太郎君の方を。どっちも同じ・・・かな。
「・・・二人分必要だね」
「そうだね」
「・・・・・・あー! やや、ミルクの時間忘れてたー!!」
「「「ちょっとっ!?」」」
とにかく、ヤスフミはややから必要なものの場所を聞いて、ミルク作りに取り掛かる。つばさ君と太郎君は、疲れさせないように一旦ベビーベッドに寝かせる。
赤ちゃん・・・久しぶりに抱いたけど、可愛かったなぁ。私も・・・産みたいな。ヤスフミとの赤ちゃん。私、生まれは特殊だけど、子どもはちゃんと産めると太鼓判は押されているから、問題は無いんだよね。不安・・・無いわけではないけど。
でも、やっぱり産みたい。好きな人との子どもを、産みたい。今はエンブリオの事があるから中々難しいけど、それが解決したら、や・・・やっぱり頑張ってみようかな。結婚と、ヤスフミのご両親のお墓作りと同時進行で、子作り。
・・・は、恥ずかしいよ? その・・・だいぶコミュニケーションのあれこれも慣れて来てはいるけど、やっぱり恥ずかしい。
「でもでも、赤ちゃんのお世話って大変なんだねー」
「なんて言うか、泣いて笑ってご飯を食べて・・・気楽なものです」
そんな声が聞こえた。そこを見ると・・・カーペットの上で遊んでいたランちゃんとエルちゃんだった。
「うん、大変だよ。でも、気楽・・・というのはちょっと違うかな」
「どういうことですか?」
「赤ちゃんは、自分では何も出来ないもの。放っておいたら、そのまま死んじゃう。だから声を上げるのは『助けてー』という合図でもあるんだよ」
「なるほどなるほど・・・。エル、勉強になりました」
そう言って敬礼して私に挨拶する。でも・・・そのすぐ後に振り向き、なにやらつぶやく。
「フェイトさんはお母さん属性大・・・と。そして、蒼凪恭文とラブラブ・・・と」
「一体なにを言ってるのっ!? というより、メモしないでー!!」
「あははは・・・。ねね、やや。このアルバム見てて思ったんだけど」
あむがアルバムを指差しながら、カーペットでゴロゴロとするペペちゃんと遊ぶややに視線を向ける。ややがあむの方を向くと、あむが言葉を続けた。
その表情には疑問の色が見える。私はベビーベッドの様子を気にしながら、その会話に耳を向ける。
「なになに?」
「四年生の時の写真だけ、なんか薄くない? 他は沢山あるのに」
「・・・・・・あぁ、それつばさと太郎のせい」
え? 双子のせいって・・・どういうことだろ。
その言葉に少し考えて、気づいた。この二人は多分生まれて1年経ってない。つまり・・・。
「ママの中に二人が居るせいで、パパもママも忙しくってさ。・・・その上、パパとママを独り占め。やや、一人っ子がよかった」
「・・・一人っ子なんて、そんなにいいものじゃないわよ?」
「そうかなー」
真城さんは一人っ子なんだね。なんだか、実感篭ってたし。でも・・・やや、今ちょっと寂しそうな表情だった。私は、兄弟が出来て嬉しかったけどな。
お兄ちゃんにクロノ。弟・・・今は、大事な恋人で、将来の旦那様だけど、ヤスフミ。・・・ただ、私とややとでは状況が違う。
私は、生まれ方が生まれ方だし、ハラオウン家でも養子ではあったし、弟のヤスフミが来た時も、ヤスフミはもう10歳で自分の判断で動ける年だったから。
だから、多分今のややが言ったような・・・下の子に両親の愛情を取られるというような感覚は、味わってない。
・・・エリオとキャロにも、そんな思いさせてるのかな。私、保護者としての自分ももちろんあるけど、ヤスフミの前では一人の女の子として居るように心がけてるし。
あぁ、でもでも・・・エリオとキャロにヤスフミがヤキモチを焼いていたって言うし、ヤスフミにもややと同じような思いさせてたんだ。
「・・・フェイトさん」
「あむ、どうしたの?」
「あたし、ちょっと思ったんですけど、もしかしてややのなりたい自分って・・・」
あむがペペちゃんを見る。ペペちゃんの外見は、思いっきり赤ん坊。おしゃぶりを口に咥え、ベビー服を見に纏い・・・あぁ、そっか。
しゅごキャラはなりたい自分だから。きっと、赤ちゃんになれば両親の愛情を独り占め出来るのにって思ったんだ。
「そう言えば・・・しゅごキャラって、二つのタイプがあるよね」
「二つ・・・ですか?」
「うん。みんなから色々話を聞いて思ったんだ。大まかに二つに分けられると思ったの」
一つは・・・もう自分というものが完成しているけど、今の自分とは違う可能性を探している内にしゅごキャラが生まれるパターン。
「あぁ、分かります。空海がそれですね」
「そうだね。空海君のダイチは、新しい事を探していて、なんでもいいからチャレンジしたいと思う気持ちから生まれたらしいから。
多分・・・ややのペペちゃんも同じ。違う自分・・・赤ちゃんに戻りたいという気持ちから生まれたんだよ」
「でもそれって、ある意味退行ですよね」
「・・・そうだね。本人には絶対には言えないけど」
そしてもう一つは・・・多分、あむさんが当てはまると思う。
自分がまだ未完成で、足りない自分を探すうち、その足りない要素がしゅごキャラとなって現れるパターン。
「あぁ、それも分かります。あと唯世くんもそうですね」
「唯世君も?」
「はい。・・・ほら、さっきの王様キャラがそうですよ」
あむに言われて、私は思いだす。・・・確かにアレは、普段の温厚で大人しい唯世君とは全く違った。どちらかと言うと、キセキに近い状態。
「唯世くん、本当はあがり症で、キングなんて器じゃないってよく言ってるんです。
それで、総会の時とか人前に出て話さなきゃいけない時は、キセキにキャラチェンジしてもらって、さっきみたいな王様キャラで話すんですよ」
「・・・なるほど。それは納得だよ」
「あー、日奈森さんバラさないでよー! 蒼凪君達やフェイトさんには秘密にしてたのにー!!」
「いいじゃないですか。リイン達だって、そういう時は緊張しますから。みんな同じです。ね、フェイトさん」
私はリインの言葉に頷く。優しく、唯世君を安心させるように微笑みながら。・・・私も、会議とかで前に出て、捜査状況を上の人達に説明したりする時は、かなり緊張する。あむやみんなの言い方を借りると、元々そういうキャラでもないから。
だから、最初の頃は手の平に人と言う字を三回書いて飲み込んだりしてた。今では場数が増えたおかげで、だいぶマシになったけど。
「ほら、フェイトさんだって同じだって言ってるんだし、そんな気にする事ないって」
「そ、そうかな・・・」
「・・・お待たせー! ミルク出来たよー!!」
そう言って、ヤスフミが両手にミルクを持って出てきた。横にはスゥちゃん。・・・あ、見かけないと思ったらヤスフミと一緒だったんだ。
「はい〜。恭文さんと色々お話させてもらってましたぁ」
「・・・フェイトさん、気をつけた方がいいよ? スゥは恭文を狙ってる節があるから」
ミキちゃんがどこかにやにやしながら、私の耳元でそう言ってきた。
・・・そうなのっ!?
「そうそう。最近だと『スゥも恭文さんとキャラなりしたいですー!!』って言って聞かないんだから」
「あぁ、言ってるよね。・・・てゆうかさ、アンタあたしのしゅごキャラにフラグ立て過ぎじゃない? どんだけ守備範囲広いのよ」
「立ててないからっ! どうしてそういう話になるっ!?」
「そうですよっ! フェイトさん、スゥは恭文さんを狙ってなんていませんからねっ!? ただ単に、恭文さんともっともっと仲良しさんになりたいと思っているだけですぅっ!!」
い、いや・・・それが狙って・・・あぁ、もういいよ。その、私は頑張るだけなんだから。ヤスフミが余所見しないように、しっかりと素敵な女の子になって
「・・・逆光源氏」
「真城さん、またキツイボールを・・・」
・・・年齢の事、もうバラしたい。そうすれば問題なくなるのに。
なんだろう、どうして私、ちょっと泣きたくなってるんだろう。
「・・・やっぱり、赤ちゃんっていいなぁ」
ややが小さくまたつぶやいた。
「というか、ずるいよ。二人とも。泣いて甘えて、ダダをこねれば周りの人がみーんなやってくれる。ややも赤ちゃんに戻りたい」
ベビーベッドで眠る二人を見ながら、そんな話をする。・・・やっぱり、それなんだね。ペペちゃんが赤ちゃんの姿なのは。
「しかも、お姉ちゃんキャラいきなりやれとかって言われたって・・・どうしたらいいか分からないよ」
・・・お姉ちゃんキャラ・・・か。
「確かに、そうだね」
「え?」
自然に出てきた言葉は、とても意外なものだった。自分でもびっくりしてる。
「私もね、同じだった。ヤスフミが家族になって、一応・・・弟という形になった時に、形は違うけど今のややと同じで、お姉ちゃんキャラをどうやればいいのか分からなかった。
まぁ、ヤスフミは赤ちゃんじゃなかったんだけど・・・その分すっごいケンカしたんだ。ヤスフミ、全然私の話を聞いてくれない時があったから」
「そうなんですか? ・・・ちょっと意外。とっても仲良しに見えるのに」
「仲良しだけど、相性はそれほどよくないよ? ケンカして、仲直りして、それを何度も繰り返して・・・互いに気持ちをぶつけ合って、それで、今に繋がってる」
まぁ、赤ちゃんと10歳児という違いはあるけど、基本は同じ・・・はず。大丈夫、天然モードとか入ってない・・・はず。
あぁ、どうして私はこんなに自分の事なのに自信無さげに話すの? いや、色々前科があるからなんだけど。
「ややは、つばさ君や太郎君のこと、嫌い?」
「嫌いでは・・・ないです。ただ、こう・・・ヤキモチ焼いてるのかな。そんな感じで」
「そっか。確かに、ヤキモチ焼いちゃうよね。今まではややがパパとママを独り占めしてたのに、それが無理になるんだもの」
「そうなんです。と言うか、フェイトさんも、そうだったんですか?」
その言葉に、胸がチクンと痛む。・・・ヤスフミが心配そうにこっちを見るけど、微笑みで返した。大丈夫だからと、視線に込めて。
「・・・そうだね、割り合い近いかも知れない」
思い出すのは、夢の中でしか会った事も話した事も無い姉の事。プレシア母さんの愛情を・・・独り占めにしていた人。
私、さっき嘘をついたよ。ややと同じような気持ち、味わってる。
確かにこれはキツイ。私はまぁ・・・割り切りはつけてるからいい。
けど、ややはまだ子ども。それも、普通の小学生と言えば小学生。やっぱり嫉妬したりするのはしかたないと思う。
「それで、話を戻すけど・・・赤ちゃんって、確かに何も出来ない。ヤスフミがさっき言ったみたいに、小さくて、弱くて、簡単に壊れちゃいそう。だから、守るのはとっても大変。
でもね・・・幸せな気持ちを沢山くれるんだ。それになにより、ややも・・・赤ちゃんだったんだよ? きっと、今の二人みたいに一杯泣いたり笑ったりしてた」
「そ、それは確かに・・・」
「でも、それだけじゃない」
「え?」
「同じように、ややもパパやママ、親戚の人達・・・とにかく、周りの人達に沢山、沢山幸せな気持ちを、そこから生まれる笑顔をあげてたんだよ」
ややが私を見る。真っ直ぐに目を見開きながら。私はそれを見つめながら、微笑む。
「多分、お姉ちゃんになるのって・・・そういうことなんじゃないかな。昔の自分と同じ存在を守る。簡単に言えば、守られる側から、守る側になるんだよ」
「ややが・・・つばさや太郎を守る?」
私は頷く。ややは、どこか不思議そうな顔で・・・もう一度ベビーベッドを見る。
「守って・・・どうなるんですか?」
「そこからまた、新しい時間に繋がるよ。あの子達が大きくなったら、いっぱい仲良くなって、いっぱい遊べたりする。
パパやママに言えないこととかを相談し合ったり、ケンカしたり、仲直りしたり・・・」
「フェイトさんと恭文みたいに?」
「そうだね、そうなるかな。もしそうなれたら、きっとそれは、とても楽しい事だと思うんだけど、どうかな?」
私の言葉に、ややは少し唸り、頭を捻る。・・・少し、まとまり無さ過ぎたかな。
「そうなるかは分からないです。でもでも・・・フェイトさんや恭文みたいに仲良しになれて、楽しく過ごせるなら、いい・・・のかな」
「・・・うん、そうだね」
私もベビーベッドを見る。ヤスフミがミルクを飲ませるために二人を抱かかえようとする。
あ、海里君も同じくだね。どうやら助手として任命されたらしい。ちょっと困ってる表情を浮かべているのが、なんだか微笑ましい。
「恭文といいんちょ、やっぱり仲良しさんっぽいですよね」
「そうだね。・・・いいんちょってなに? あむも同じ事言ってたんだけど」
「ほら、メガネかけて、真面目で、てきぱきしてるじゃないですか。だから、委員長キャラ・・・いいんちょかなと」
な、なるほど。そう言えば・・・小学生と中学生の時にも居たよ。海里君みたいなタイプの子が。うん、確かに委員長をやってた。私、納得したよ。
「・・・やや」
「恭文、どったの?」
「太郎とつばさの様子が・・・おかしい」
「えぇっ!?」
私達はベビーベッドを見る。・・・顔、赤い。そして苦しそう。
すぐに立ち上がり、額に手を当てる。
「おでこ、熱い。病気かなにかかも」
「風邪・・・かな。いや、多分風邪だ。カレルとリエラが似たような症状になった時があった」
私もそう思う。というより・・・ヤスフミ、ちゃんとお父さん出来るんだよね。うん、これなら安心かも。
・・・って、そんな事を言っている場合じゃないよねっ!? 今はこの子達のことだってっ! えっと、この場合は・・・!!
「でも、さっきまで平気だった」
「急に体調が悪くなることもあるんだ。やや、ご両親に連絡を」
「あ、はい」
ややは懐から携帯を取り出して、電話をかける。でも・・・繋がらないらしい。表情に浮かぶ焦りの色が、どんどん濃くなる。
もしかして、法事って言ってたから、電源を切ってるっ!?
「多分そうだよ。・・・なら、親戚・・・あぁだめだ。縁者の法事なら、きっとみんな切ってる。ならやや、かかりつけの病院とかある? それなら」
「もうかけてるっ! だけど・・・繋がらないのっ!!」
「今日は日曜だから、もしかして休診日なのかも」
「うぅ・・・どうすればいいのっ!? パパもママも居なくて病院もダメなんじゃ、もうどうしようも」
「やや、落ち着いて」
私はややの両肩に手を当てて、視線を落とす。ややの目を、同じ高さからしっかりと見る。
「・・・あなたがパニックになったら、つばさ君と太郎君がもっと怖がる。そうしたら、この子達は守れないよ。だから、落ち着いて・・・深呼吸、してみようか」
「は、はい」
ややが深呼吸を始める。私はそのまま、言葉を続ける。
「とにかく、このまま放置は絶対にダメ。早くお医者さんに見てもらわないと」
「あの、フェイトさん。蒼凪君達の能力で治療は無理なんですか?」
「あ、そうだよっ! 恭文とリインちゃん、傷を治したりする能力が使えるんだから、それで」
「・・・それは無理なんだ」
ヤスフミが後ろで申し訳なさそうに言う。リインも同じく。表情が落ち込んだものになる。
「蒼凪君、それはどうして?」
「僕やリインが使える回復関係の能力は、病気とかの治療には使えないの。というより、そういう能力自体がないのよ」
回復魔法には、いくつか種類がある。一応風邪などの病気関係を治療する魔法もあったらしいけど、現在では使われていない。
理由は一つ。これらは病気を形成するウィルス・・・細胞に対して直接的に干渉する魔法になるから。
だけど、干渉中にコントロールを間違えると、その病気の細胞が活性化して、一気に症状が悪化してしまうケースがあるとか。そうなると、もう取り返しがつかない。
過去に回復魔法が発展を遂げている途中、そういう事故が多発したらしく、それゆえに関係者はウィルス関係には薬や自然免疫力を助ける形で対処していこうと言う事で話がまとまったとか。
「ごめん。使えればどうにかしたいんだけど」
「ううん、大丈夫だから。なら・・・三条君、この場合はやっぱり」
「救急車でしょうね。少々時間はかかるでしょうが、急ぎ電話を」
「・・・・・・大丈夫っ!!」
そう叫んだのはやや。どこからか幼児を背負うためのベルトを持ってきて、それを身につける。
瞳には強い決意の色。そして・・・つばさ君をそのベルトに載せる。
「やや、病院まで連れていくっ!!」
「えぇっ!? でも、休診なんじゃ」
「とにかく行ってみる。あの病院、せんせーの自宅も兼ねてるから、電話に出ないだけかも知れないし。このままは・・・ダメなんですよね?」
私を見ながらややが聞いてきたので、私は頷く。乳幼児の体調の変化は、下手をすれば大事になるから、対処は早めじゃないといけない。確かに・・・その方が速いかも知れない。
「やや、病院までの距離は?」
「全力疾走で10分です」
「・・・なら、いいよ。でも、そこがダメだったらすぐに救急車だよ? 時間はかけられないから。あと、私にもベルトを貸して」
「え?」
・・・どうしてぽかーんとした表情になるのかな。当然だと思うのに。
「一人で二人は背負えないよ。私が太郎君を背負うから。・・・大丈夫、これでも私、速さには自信があるの。10分どころか、5分で着いちゃうよ」
「・・・はいっ! ありがとうございますっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして・・・メンバー総揃いで全力疾走。なお、ややから場所を教えてもらったフェイトは真面目に全力疾走だった。誰も追いつけないかと思うくらいに。
で、マジで5分で病院に到着。こじんまりとした昔ながらの町の病院という感じ。看板には石川小児科と書かれており、確かに本日休診の札がかけられていた。
僕にフェイト、お姉ちゃんモードに入ったのか、フェイトの速さについて来たややはともかく、リインや他のガーディアンメンバーは・・・姿が見えない。
というか、もしかしなくても振り切ってるっ!?
だけど、ややとフェイトはそんな事にはお構いなしで、全力で玄関の横開きと思われる入り口を叩く。全力で叩きつつ、ややが叫ぶ。
「せんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そして、フェイトも叫ぶ。
「いらっしゃいませんかっ!? 急患なんですっ!!」
・・・あれ、なんだろう。なんか中からビンみたいなのが割れる音が。
それから、ドタドタと足音がして、玄関が慌しく、勢いよくガラガラと開けられた。
「誰じゃぁぁぁぁぁぁっ! 今日は休みじゃと・・・あれま、お前さんは結木さんとこの」
「よかったー! せんせー、つばさと太郎が・・・!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・うわ、こりゃひどいですね」
僕がそう言うのも当然だ。診療室に置かれていたのは、砕けたビンとひしゃげた船の模型。どうやら、ボトルシップを作ってたらしい。
さっきの割れた音はこれか。でも・・・これだと直しようがないなぁ。大半の部品がアウトになってるし。
「あはは・・・一から作り直しじゃわい」
「うぅ、せんせーごめんね。ボトルシップダメにしちゃって・・・」
「すみません。私も、もう少し静かに呼んでいれば」
「あぁ、えぇわいえぇわい。ボトルシップも大事じゃが、子ども達の方がもっと大事じゃからのぅ」
笑顔で落ち込むフェイトや反省モードなややにそう言ってくれるのは、この病院の院長先生。その笑顔に隠しているものは見当たらない。
多分、本心から半年がかりで作っていたというボトルシップより、ようやく落ち着いた表情で眠り出した子ども達の方を大事だと思っているのだろう。・・・なんていうか、いい人だよ。
「それで、つばさ君と太郎君は」
「あぁ、安心せぇ。少し風邪気味だっただけじゃ。飲ませた熱冷ましが効いてくれば、すぐによくなるわい」
先生がそう言うと、フェイトとややの表情が安堵の色に染まる。僕も、同じく。なんにしても、大事にならなくてよかった。
「しかし・・・あの甘えん坊が、立派なお姉ちゃんになったのぅ」
「あはは・・・。やや、全然立派じゃないよ? 最初はパニくってたし。なんていうか・・・あの」
ややがフェイトを見る。少しだけ、照れたように頬を染めてるように見えるのは、なぜ?
「フェイトさんが落ち着かせてくれたから・・・かな。あの、ありがとうございました」
「ほうほう。つまり・・・立派なお姉ちゃんの見本があったと」
「い、いえ。私はそんな・・・」
おぉ、照れとる照れとる。また表情が無駄に可愛いなぁ。もじもじしてるの可愛いなぁ。フェイト、可愛いよフェイト・・・だよ。
「フェイトさん、あそこで恭文が幸せオーラ出してるんですけど」
「た、たまにあぁなるんだよね。よく分からないんだけど。でも、やや」
「はい?」
「頑張ったね。ちゃんとお姉ちゃん、出来てたよ」
「・・・はい。ありがとうございます」
それから数分後。息を切らしながらようやく他のガーディアンのメンバーが病院に到着した。なお、リインがサーチで僕の居場所を特定して、案内したらしい。
ややのご両親にはもう院長先生から連絡してるそうなので、僕達はご両親が来るまで待合室に移動。そこで、ようやく安堵の息を吐いた。
いや、吐けなかった。この機を逃すまいと、ようやくあむが重い口を開いたから。そう・・・あの話だ。
「・・・日奈森さん、それ・・・本当? ほしな歌唄が、日奈森さんの四つ目のしゅごたまを持っているって言うのは」
「うん、本当」
「しかも、×が付いているとは・・・危険ですね。というより、蒼凪さん、ハラオウンさん、リインさん。なぜこの事を黙ってたんですか」
海里の視線が僕達に向く。当然、視線は厳しい。・・・うん、そう来るよね。そう来るしか選択肢ないよね。
「あの、ごめん。それはボクがお願いしたことなんだ。恭文達が話すのはきっと簡単だけど、それじゃああむちゃんのためにならないから」
「そうでしたか。・・・お三方すみません、事情を知らなかったとは言え」
「ううん、大丈夫。黙ってたのは事実だしね。それで、これからのことなんだけど」
「・・・・・・バカみたい」
その爆弾を投げたのは、りま。それにより、あむが凄まじくヘコむ。涙目なのは、気のせいじゃない。
つーか、こいつはまた空気を読まない発言を・・・!!
「×が付いたなら、それは外せばいいだけじゃないの」
「え?」
「敵の手にあるなら、それは取り返せばいいだけじゃない。簡単な話よ。それともあなた、人のたまごは助けられても、助けたいと思っても、自分のたまごは助けられないとでも言うつもり? それこそ本物のバカよ」
「真城・・・さん」
あまりに意外な言葉に、僕もあむも皆もびっくりしてる。と、というか・・・なぜにいきなりそれ?
「・・・ねぇ、あなたもそう思うわよね」
りまが僕を見る。見上げながら、視線の中に強いものを込めながら、僕に聞く。
「あなた、私にたまごは浄化する。壊させたりなんてしないって、言い切ったわよね。
話を聞く限り、ほしな歌唄は私以上にこっちにケンカを売ってるわよ? だったら・・・」
「あぁ、そうだね。だったら、取り戻すだけだ。いや、せっかくだから」
僕はにやりと笑う。不敵に・・・らしく。
「歌唄からダイヤのたまごを華麗に奪い取って、吼え面かかせてやろうじゃないのさ」
「ですね。うん、やるですよー♪」
「ややもリインちゃんと恭文に同意ー! やろうやろうー!!」
「ふむ・・・。これは作戦の練り甲斐がある」
そうして、僕の言葉にみんなが乗ってくれる。それをあむは・・・驚いた表情で見る。
「あの、みんな。呆れないの? あたし、ジョーカーなのに・・・自分のたまごに×つけちゃったのに・・・」
その言葉に、僕達は顔を見合わせる。そして、こう答える。
『ぜんぜんっ!!』
・・・つーか、不安になりすぎなんだよ。新メンバーはともかく、唯世とかややがここであむを見捨てるようなことをするわけないのに。
「あむ、私も同じだよ。みんなと一緒には戦えないかも知れないけど、力になるから」
「そうだよ、日奈森さん。・・・全く、もうちょっと僕達を信用して欲しいなぁ。大丈夫、僕達は・・・仲間だから」
「・・・うんっ!!」
あむが、目に溜まった涙を拭いつつも、笑顔を浮かべる。それを見て、思った。
もしかして新体制のガーディアン、まとまり始めてる? ほら、なんだかりまが素直になってるしさ。
「ヤスフミ」
「うん?」
「いい感じだね」
「うん、いい感じだ」
さて、こうすると・・・残る問題は二つか。学級崩壊とあむのたまご。
うんうん、この調子でどんどん解決していっちゃおー!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・病院の中ということで、入る前に切れた息を整えながらも携帯を見ると、着信が入っていた。家の中ではつばさ殿と太郎殿を驚かせないためにマナーモードにしていたから、そのせいで気づかなかったらしい。
俺は、ジョーカーの話が一段落してから、蒼凪さん達に断って、ムサシと一緒に外に出る。もちろん、折り返しの電話をするため。
「・・・海里」
「なんだ、ムサシ」
「お役目、ゆめゆめ忘れるべからず。深入りは禁物なり」
「わかってるよ」
とにかく、病院の外に出た。それから携帯の電源を入れなおし・・・着信履歴の画面を開く。
そこからその履歴を選択して、かける。数回のコール音の後、電話は繋がった。
『ふぁい、ひゃ・・・ごくん。えー、三条です』
「・・・姉さん、一体なにを食べてたんですか。というより、食べながら電話に出ないでください」
『あ、なんだ海里か。仕方ないでしょ? さっきまでプロモーションの打ち合わせで、お昼食べ損なってたんだから。・・・てゆうか海里、アンタ今の今までなにしてたのよ。何回かかけてたってのに』
「すみません、姉さん。少々ゴタゴタしてたもので」
俺に電話をかけてきたのは、蒼凪さんにも少し話した事のある実の姉。名前は三条ゆかり。
・・・どこかの少女漫画家みたいな名前だと、よく言われる。
『てゆうか、ガーディアンの連中と一緒なんでしょ? なにか進展あった?』
「はい。・・・ジョーカーVとUの協力者・・・フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと言う人に接触しました。偶発的にですが、その人の身体能力の一旦を垣間見ることが出来ました」
『フェイト・・・あぁ、うちの虎の子に平手打ちをかましてくれた女ね。全く、たまご絡みじゃなかったら、損害賠償請求をしてやりたいくらいよ。で、身体能力って言うと・・・どれくらいなの?』
「ジョーカーVと並び相当ですね。確実に一般のそれを超えています。相当な距離を短時間で、しかも赤子を一人背負った上で全力疾走したのに、息を切らせていませんでした」
現在の職業は、とある会社の芸能プロダクションでマネージングの仕事をしている。
なお、今は売れっ子の歌手の専任。
『そう・・・。しかし、不思議なのよね。あの蒼凪恭文っておチビちゃん』
「と言いますと?」
『いや、去年そいつは聖夜小に転入してきたんだけど、こっちの調査でどれだけ調べても、前の学校の事とか、どこで生まれたのかとか、そういう足取りが掴めないのよ。戸籍自体はちゃんとあるんだけど』
「それは確かに不思議・・・いや、妙ですね」
まぁ、元々謎の多い人ではあるし、警防・・・香港にある警備部隊にお世話になっていたのであれば、俺やガーディアンのメンバーのように普通の生活をしているというわけでもないだろう。
そこを考えると、大して不思議というわけでもないかも知れない。足取りがつかめないのも、単純に学校に通ってなかっただけとも考えられる。
『ただ、もっと妙な事があるのよ』
「と言いますと?」
『これ、まだ他の連中には話していない極秘情報だから、内緒にしててね?』
「了解しました」
『ほら、この間フィアッセ・クリステラっていうイギリスの歌手が来日したじゃない』
・・・確か、俺が聖夜小に転入する前・・・前年度の2月か3月になろうという話だな。
『そのフィアッセ・クリステラとあの子が対談するから、予習代わりに昔の映像資料とかも見てたのよ。
あの子はどうも昔からファンだったらしくて、そういうの必要ないって言ってたんだけど、私は一応ね。で・・・その時に見つけたの』
「なにをですか」
『蒼凪恭文とフィアッセ・クリステラが一緒に居るところよ』
俺はそれを聞いて・・・ため息を吐いた。
『なによ、いきなりため息なんて・・・失礼しちゃうわね』
「姉さんが言ってたんじゃないですか。ジョーカーVとフィアッセ・クリステラは親交が深いらしいと。警護任務にも携わっていたようなんでしょ? だったら、そういう映像が残っていても問題はないかと」
『普通ならそれで片付けられるんだけどね、普通じゃなかったのよ。・・・丁度8年くらい前かな。その年にフィアッセ・クリステラは、母親の後を引き継ぐ形でクリステラ・ソング・スクールの校長に就任してから、初めてチャリティー・ツアー・コンサートを行ったの。
で、あのコンサートはアンタもご存知の通り、世界各地を飛び回るから、当然日本にも来日した。その時にはフィアッセ・クリステラの地位は確立されていたから、当然報道陣も沢山来た』
そのコンサートのことなら俺も知っている。収益を全て寄付に当てるというすごいもの。確か、今も校長であるフィアッセ・クリステラ氏と卒業生の一団が、各地に歌声を届けているはず。
そこまで考えて、俺は気づいた。・・・なぜいきなり8年前の話になる? それなら、蒼凪さんはまだ3歳とか4歳のはず。
『そこなのよ。8年前、フィアッセ・クリステラが来日したって言う報道の映像の中で、あのおチビちゃんと一緒に映っている所を見つけたの。
ただ・・・それが今とほとんど変わんない姿で、仲良さげにフィアッセ・クリステラと手を繋いで歩いてたの。どう下に見積もっても、3、4歳なんて年齢には見えないのよ』
「どういう、ことですか?」
『さぁね。ただ、あのおチビちゃんやおチビちゃんの関係者には色々裏がある。ここは確定ね。海里、引き続き調査の方を頼むわよ。特に・・・蒼凪恭文よ。
あの常識破りで無茶苦茶なランブルカードを抑えられるかどうかで、私達の今後が決まるわ。どんな手を使っても構わない。蒼凪恭文・・・いや、ガーディアンの連中の弱みを見つけて、潰しなさい』
「・・・心得ました、姉さん」
『そうして、エンブリオを必ず見つけて・・・勝ち組になるのよ。二階堂のバカが失脚した今こそ、チャンスだもの。しっかり専務に売り込まなきゃ』
・・・姉の勤め先は、イースター・プロダクション。親会社は、世界的企業であるイースター社。姉がマネージャーとしてついているのは、ほしな歌唄。
そして俺は・・・その姉に頼まれ、ガーディアンに入り込んだ。つまり、イースターのスパイだ。
(第17話へ続く)
あとがき
恭文「さて、ようやくまとまり出したガーディアン・・・なんだけど、なんとまぁ、海里がほしな歌唄のマネージャーである三条ゆかりの弟で、イースターのスパイだったという衝撃の事実をバラしたところで、次回に続きます。えー、今回のあとがきのお相手は、僕、蒼凪恭文と」
ミキ「なお、ややの弟が双子というのは、この話のオリジナル要素です。実際にはつばさだけだったりします。そんな補足を入れたミキです。なお、あとがき初登場。・・・でさ、恭文。なんで僕はここに居るの? いつもはアルトアイゼンがやってるじゃない」
恭文「いい質問をしたね。今回のあとがきは・・・緊急特別企画っ! ハイセンスブレードはダサい・・・スペシャルっ!!」
(どこからか流れてくるBGM。なお、『俺、参上』です)
ミキ「・・・なに、そのタイトル」
恭文「簡単だよ。えー、拍手で前回のお話の感想を頂きまして・・・ハイセンスブレードはダサい。ブルースペードとかスペードフォームの方がかっこいいという意見を多数頂きました」
ミキ「うそっ! スペードとかつけるのはすっごい安直なのにっ!! というか、ハイセンスブレードは拍手のアイディアをそのままもらったから、さすがにその意見はどうなのっ!?」
恭文「残念ながら嘘じゃない。まぁ、ブレイド形態だからこれだから、ハイセンスブレードでもいいんだけどね。あと、語呂がいい」
(青い古き鉄、なんかウンウンと力強く頷く。・・・なんでだろう。なんか納得がいかない。そして、更に納得がいかないファッションリーダーに、カンペが渡される)
ミキ「・・・ね、恭文」
恭文「なに?」
ミキ「あのさ、今渡されたカンペにさ・・・『ハイセンスブレードっていいよね』という意見もそうとう来てるって書いてるだけど。というか、見る限り半々だって」
恭文「気のせいだよ」
ミキ「気のせいじゃないよねっ!? こうやってデータも載ってるのに、どうしてそう言うことが言えるのかが疑問だよっ!!」
(青い古き鉄、口笛を吹いて誤魔化す。ふーふーと吹いて誤魔化す)
ミキ「誤魔化しきれてないしっ! というか、口笛吹けてないしっ!! なんか息をリズミカルに吐き出してるだけだしっ!!」
恭文「でもさ、ハイセンスブレードがダサいって言う意見もあるのよ? これは事実ですよ。しかも半分」
ミキ「・・・う、た・・・確かに。なら、こうしようよ」
恭文「なに?」
ミキ「折衷案も来ているし、これを試すなり、一度ブルースペードなり言ってみようよ。で、しっくりくるならこれでもいいし。まだ決定ってわけじゃないんだしさ」
恭文「あぁ、そう言えばお告げ来なかったもんね。魔法少女にありがちなお告げ」
ミキ「でしょ? これならいいと思うんだけど」
(青い古き鉄、とりあえず頷く。どうやら、本編中にやってみることにしたらしい)
恭文「さて、それじゃあ今回はここまでかな。お相手はもう何がダサくて何がハイセンスなのかが分からなくなってきた蒼凪恭文と」
ミキ「同じく・・・な、ミキでした。ね、センスってどういうところで決まるのかな?」
恭文「なんだろう・・・脳神経?」
ミキ「その答えはリアルすぎて逆に引くよ」
(センスについてあれこれ協議している様子を映しつつカメラ・フェードアウト。
本日のED:『こんにちは赤ちゃん』)
アリサ「・・・鮫島、これで全部?」
鮫島「取り急ぎ・・・ではありますが。申し訳ありません、やはりその×たまやらエンブリオ関連のことは分かりませんでした」
アリサ「まぁ、仕方ないわよ。フェイトの話じゃ、マジで見えないらしいし」
鮫島「ただ・・・」
アリサ「ただ?」
鮫島「気になる点が二つ。まず一つは、イースターは業務とは関連の無い所に資金をつぎ込んでいるようなんです。それも相当額。
まぁ、だからと言ってそれで会社経営が傾くなどという事はないのですが」
アリサ「・・・察するに、それがエンブリオを見つけるための投資ってことかな。それで、もう一つは?」
鮫島「はい。・・・恭文様とフェイト様、リイン様の身辺にて、不審な動きがあります。もっと言えば・・・狙われているかと」
アリサ「はぁ? あの劇物指定とそのパートナー達を誰が狙ってるって言うのよ。どこのバカよ、その命知らずは・・・って、聞くまでもないわよね。鮫島、その辺りはアタシから連絡しとくわ。調査、ありがとね」
鮫島「いえ、問題ございません。お嬢様」
(おしまい)
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