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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第8話 『Remake The Dream&EGG』:1



「・・・・・・恭文さんにあむちゃんっ!!」

「よ、よくここが分かったよね」

「せんせぇ、まずそこからっておかしいと思いますぅ」





3階の大広間・・・・・・ここはこの社員寮が現役だった頃、ひとつの役割があった。

住んでいる人間のリフレッシュルームになっていたらしい。

だからここには部屋はなく、ただ広い遊戯室みたいになってたとか。



あ、今は別のものが置いてあるけどそれでも広い。天井も高いし、普通に暴れまわったり出来そうだ。

そしてその窓から外を見る僕の隣には、ここに来てなぜかコーヒーを入れてくれたり掃除をしてくれたりした女の子。

その子の言葉に・・・・・・まぁ、一応同意。というより、まずここは心の中だけでも謝っておこう。





「ま、まぁいいや。とにかく本当に二人だけで来たようだし、これでショータイムの始まりだ」

「・・・・・・なにをするんですか?」

「内緒。詳しくは原作かアニメ見て」



僕がそう言うと、空中に浮いて外を見ていたあの子がずっこけた。



「どうしてですかっ!? せんせぇちょっと適当過ぎますっ!!」

「ここでそれを語るのは完全に悪役の負けフラグじゃないのさっ! 僕はそんなの嫌なんだよっ!!」

「でもでも、話さないと分からないと思いますけどっ! 特にあの機械の事とかっ!!」



あぁもう、調子狂うなぁ。・・・・・・まぁいい、負けフラグなんてへし折ればいいんだし、話しても問題ないか。

なので、僕は視線をある箇所に移す。この広間の隅に置いてある巨大なポットには、×たまがぎっしりと入っている。



「簡単だよ」



そしてその横には、小さなポッド。そのもう一つの小さなポッドは、彼女の特等席。



「あれを使って君や×たまを別のたまご・・・・・・エンブリオに作り変えるのさ」

「・・・・・・せんせぇ、やっぱり負けフラ」

「うっさいよっ! そもそも君が話せって言ったんだよねっ!?
だったら、黙って最後まで聞いてくれるかなぁ・・・・・・!!」

「ご、ごめんなさいですぅ」



とにかく僕が考えたのは、無ければ作ればいいという発想だ。エンブリオはおそらく通常のたまごが変化したもの。

だったら膨大なエネルギーとその大元があれば・・・・・・きっと出来る。



「でも、そんな事が」

「出来るさ。エンブリオは今までの調査から察するに夢の結晶らしいからね。
材料は大量のこころのたまごと、キャラなりが出来る特別なたまご・・・・・・つまり、君さ」

「はぅぅぅぅっ!?」



・・・・・・なんだろう、乗ってくれる彼女に対して感謝の気持ちが出て来てるんだけど、気のせいかな?

よし、気のせいだ。大体僕はそんなキャラじゃないし。



「というわけで、ほら、はやくたまごに戻って」

「だ、だめですぅっ! せんせぇはそんな人じゃないですよねっ!?」

「あいにく僕、そんな人だし。ほらほら、僕は極悪人だよ?」

「なら、どうしてスゥ達しゅごキャラが見えるですかっ!?
本当に悪い人には、スゥ達は絶対見えない人ですっ!!」



そう言われて、身体の動きが止まった。止まって・・・・・・苦い思い出が心の中に湧き上がる。



「スゥ達が見えてお話出来るって事は、キャラ持ちで・・・・・・『なりたい自分』を持ってたんじゃないんですかっ!? せんせぇっ!!」

「そう、思うかい?」

「はいっ! だから、やめてください・・・・・・!!
こんな事したら、せんせぇのしゅごキャラだって悲しむんですよっ!?」



迷い無く言い切ったよ。人質・・・・・・いや、キャラ質にされてるってのにさ。不思議な子だよ、全く。



「ありがとね、でも」

「でも?」



表情が自嘲するようになるのは、きっとそんな不思議さのせい。らしく、ないよね。僕は完全無欠に悪人なのに。



「悲しむ事は無いよ。だって、僕のしゅごキャラは、生まれる前に死んだからさ」










あぁ・・・・・・死んだんだ。僕が殺した。うん、僕が・・・・・・殺した。





大事な、大事な『なりたかった自分』ってやつを、僕が殺したんだ。僕の心はとっくの昔にからっぽだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・え? あの、先生やめたって』

『あぁ、奥さんが身体を急に壊されて・・・・・・それが原因でね。退職なされたんだよ。
それで言いにくいんだけど、顧問がもう居ないんだ。工作クラブは恐らく、廃部になるんじゃないかな』



その出来事を堺に、色んなものが壊れた。



『高学年になったら、ロボットは卒業ね。もっとちゃんと勉強しなさい』

『そうだぞ。お前、将来負け組になりたいのか?』





両親がいきなりそう言ってきた。そうして僕の世界が・・・・・・夢が、少しずつひび割れる。

そのひび割れた隙間から、そこから現実が入り込んできた。

僕はそれが認められなくて、先生が居なくなってもロボット博士になりたかった。



そこだけは間違いなかった。だから必死に作って、夢を追いかけた。

入り込んで、僕を侵食する現実から目を背けるように。

だけどそこに至るためには、あの時の僕の小さな手では届かなかった。





「また失敗だ・・・・・・!!」



動かない。ありったけを込めてるのに、信じてるのに・・・・・・それは動かない。

それが僕を苛立たせる。現実と一緒に僕を侵食する。



「なんで動かないんだよ、このガラクタがっ!!」



もうそれは僕にとって夢じゃない。ただ存在するだけで僕を苛立たせる。その苛立ちが表情にも現れる。

だから僕は目の前の『ガラクタ』に腕を振り上げ・・・・・・壊した。壊れたんじゃない。壊したんだ。



「お前なんて、壊れちゃえよっ!!」



振り上げた腕がガラクタに当たり、ガラクタが宙を飛ぶ。飛んであるものにぶつかった。

いや、ぶつけたのかも知れない。僕はこの時、夢も何もかもわずらわしかったから。



「・・・・・・あ」





僕はその光景に呆然とした。この時はこれが何かなんて分からなかった。

でも、その光景で本能的に理解した。この時、僕の大事なものが壊れたと。

そしてそこから・・・・・・現実が一気に入り込んできた。もう、逃げられない。



だってそれは僕の選択だから。僕が壊す事を、現実に飲み込まれる事を選んだ。





「たまごが・・・・・・!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「割れた・・・・・・ううん、割っちゃったよ。なりたかった自分なんてさ。もう、粉々のぐちゃぐちゃ」



ハンプティ・ダンプティ、割れちゃったたまご。もう二度とかえらない・・・・・・ってさ。



「とっくの昔に・・・・・・たまごから君みたいなしゅごキャラがかえる前に、割ったんだ」

「・・・・・・そんなぁ」

「まぁそういうわけだからさ。そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・ダメなんだ」



僕は夢や理想より現実を選んだ。選んでしまった。だから空っぽになってしまった。

だから今、こんな歪んだ笑いしか浮かべられない。だから今、僕は君を怯えさせている。



「ぼくはもう選んでる。選んだなら・・・・・・勝ち組にならなくちゃ。
だから、ね? そろそろたまごに戻ってよ。・・・・・・ほら」





そうして、僕は怯える彼女に手を伸ばす。彼女のたまごの殻を持つ。

・・・・・・ごめんね。せっかく僕の事『いい人』って言ってくれたのに、こんな真似してさ。

そこだけは・・・・・・本当に悪いと思ったよ。本当に遅いけど、たった今ね。



だからせめて苦しませないように、エンブリオに変えてあげるよ。

僕は両手でたまごの殻を持って、彼女をその中に押し込める。

それから右手だけでそのたまごを持って・・・・・・あれ、締まらないな。



あぁわかった。必死で抵抗してるんだ。なんかぐいぐい押されるもの。





「だ、ダメ・・・・・・ダメですから・・・・・・! せんせぇ、やめてくださいっ!!」





そう彼女が叫んだ瞬間、爆発音が響いた。僕がそちらを見ると、信じられない光景だった。

僕の右側・・・・・・約10メートル程の所。蒼い太い光が床を、天井の一部を吹き飛ばした。

その振動で建物が揺れる。ただ、変化はそれだけに留まらなかった。



それだけじゃなくて、どういう理屈かは知らないけど辺りの温度が一気に下がった。

吹き荒れる風は冷たく、僕の体温を確実に奪う。そしてその風に乗って、激しく鋭い何かが走った。

右腕にとても強い衝撃。何かが砕ける音。そして、肘と手首の間を始点に激痛が走る。



でも、その痛みを認識してすぐ、次の痛みが襲って来た。





「・・・・・・さぁ」





なぜならそれは突然に僕の目の前に姿を現したから。本当に突然で、驚きながら巻き起こる嵐に巻き込まれ続けた。

それは続けて回し蹴りで僕の左側へと右足を叩き込む。それにより、左腕が折れた。

骨が折れるなんて初めてで、続けてくる痛みで叫びそうになる。でも、その叫びは止められた。




体勢が崩れた僕に向かって、それはさっき僕の左腕をへし折ったのと同じ足を、胴へ叩き込む。

それでアバラが折れて、また痛みが襲う。それから足を少し引いて回し蹴り。

でも、倒れる事はまだ許されない。返す足・・・・・・右の足のかかとでまた蹴りが飛んできたから。



左頬に衝撃が遅い、歯が何本か砕ける。右足のヒザ当たりに激痛。

それにより僕の体勢が崩れる。・・・・・・あぁ、ヒザを踏み抜かれたんだ。

それから倒れ行く僕の顎に右足が叩きこまれて、身体が宙を待った。



もうこれで開放される。そうどこかで思ってた。でも、それは勘違いだった。





「お前の罪を数えろっ!!」





それは跳びながら僕の前まで来て、顔面に向かって蹴りを叩きつけた。

そして僕はそのまま床へと吹き飛ばされた。

床を一度跳ねて、もう一度身体がそれに叩きつけられると転がっていく。



そのまま10メートル以上転がり、僕の身体は置いてあった机に叩きつけられる形で、ようやく止まった。



上から灰皿やら積んでいた書類やコーヒーが落ちてきて、僕の身体を、服を汚す。





≪抜かないんですか?≫

「こんなの、斬る価値もない。・・・・・・大の男が、こんなかわいい子を泣かせてんじゃねぇよ」





徹底的に蹴られた事により、砕けた両手や右ひざ、鼻やアバラに、いつの間にか・・・・・そうだ。

本当にいつの間にか砕かれた右手。それらから来る痛みに思考が鈍くなるのを感じつつも、僕は見る。

右の拳を握り締めて、僕を見下ろすように視線を向ける・・・・・・チビを。



左手にはたまご。優しくも力強く持っている。僕は痛みで薄れ行く意識の中、やっと認識した。

僕はただの子どもを相手にしていたつもりだった。でも、これは・・・・・・これだけは違う。

こいつはどちらかと言えば、僕達の側なんだと。方向が真逆なだけで、きっと本質は同じ。



目的のためなら壊す事も厭わない奴なんだ。昨日の時点で認識しておくべきだった。でも、遅かった。





「男が女泣かせて許されるのはね、それでも大事なもの守るために突っ走らなきゃなんない時。
ただそれだけって決まってんだよ。・・・・・・ほら、立てよ。このクソ野郎が。当然遺書は用意してんだろ?」

≪まだクライマックスは始まったばかりです。こんなのでお寝んねなんて、許されるはずがないでしょ。
私達を怒らせた罪、こんな事では数え切れないですよ? 宣言通り、今日があなたの命日です≫










その言葉を聞いて、僕は意識を手放した。





心のうちで、ほくそえみながら。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第8話 『Remake The Dream&EGG』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



社員寮1階、ロビーのようになっていたのか、そうとう広く作られている玄関。

その中を埋め尽くそうかという勢いで、僕達の目の前に立ちはだかるのはロボット。

なんだかお土産屋さんとかに売ってそうな、古ぼけたデザインである。





こうしているだけでも、どんどん数を増やしている。そのまま、僕とあむを包囲するように迫り来る。





くそ、急いでる時にこれかい。またお約束踏んでるなぁ。










「あむちゃん、行くよっ!!」

「うんっ! ・・・・・・あたしのこころ」

「あー、ちょっと待ってあむ」



僕の言葉に、あむがずっこけて止まった。あむの隣に来ていたランとミキも同じく。



「・・・・・・って、なんでいきなり止めるかなっ!!」

「それ、今やる必要ないわ」

「はぁ? いやいや、アンタも変身って」





僕はもう一回周囲の状況を思い出す。ここは街外れで人の気配や出入りはほとんどない。

そして、二階堂とスゥは3階。普通にやっていたんじゃきっと時間がかかる。

1階でこれだから、きっと2階にも居ると見ていい。うん、そこは間違いないと思われる。



つまり、普通にやったら死亡遊戯の如く、敵の屍を超えていかないとどうにもならない。

あー、ようするに、ロボットは今、僕達の目についているだけじゃないって事だね。

あのバカの目的がエンブリオを作る事なら、その作業を邪魔されるのは嫌なはず。



つまり、そのための機械の前に到達される事がそれ。こうやってロボットを出してきたのが、何よりの理由だよ。

そして、アイツの捻じ曲がった性格を考えるに、これだけじゃ足りない。例えば僕達が必死にこいつを片す。

そうやって僕達が息も絶え絶えにようやくたどり着いたところで、作業終了って言う安っぽいシナリオを考えてそうだ。



なので、僕は決めた。外見から見たここの構造やボロい内装で、ビビっと来た。



そのシナリオ、もっと面白い形に変えてあげましょ。もちろん、僕達にとってね。





「アルト」

≪はい≫

「ここからぶっ放したら、どうなる?」

「・・・・・・あぁ、それなら2時の方向に、100メートルほど進まないとだめですよ。そうしないと、到達出来ません」



さすがは我が相棒。一言だけで僕のやりたい事を読んでくれた。

とにかく、ここから100メートルだね。それなら・・・・・・行きますか。



「あむ、一気に行くよ」

「え?」



僕はあむの手を左手で掴んで、そのまま右に走り出した。



「えっ!? あの・・・・・・ちょっとっ!!」

「いいからっ!!」



その行く手を、ロボット軍団が阻む。でも・・・・・・甘い。僕はあむの手をしっかりと握って、引き寄せる。というか、抱き寄せる。

そのまましっかりとあむを抱き寄せてから、大きく飛ぶ。飛行魔法を使った上で、100メートルの大ジャンプ。



「え、あの・・・・・・飛んでるっ!?」





そう、跳んでいる。あ、訂正。飛んでいる。

木で作られたボロい通路の天井すれすれを飛んで、ロボット軍団の包囲網を越えた。

ロボット軍団は表情なく、僕達を見上げる。



着地したら、当然追撃が来るよね。だから、その前に動かないと。





≪あむさん、着地したらすぐに、ランさんとキャラチェンジなりキャラなりを≫

「へ?」

「いいから言う通りにして。時間がないの」





とにかく僕達を囲んでいた一団の隙間を見つけて、そこに着地。

前から後ろから追撃のためにやってくるけど・・・・・・くそ、やっぱり他にも居たか。

そこは気にせずにあむを離す。離してからすぐに左手を上にかざす。



かざしながら、アルトに最終確認。





「アルト」

≪ベストポジションです。ある程度範囲を絞った上でなら、何も巻き込みません≫

「ならよかった。んじゃ・・・・・・行くよっ!!」



かざした左の手の平に生まれるのは、蒼い凍れる息吹を含んだ砲弾。

僕が長年使い続けてきた、信頼出来る魔法。兄と慕う人から受け継いだ力の一つ。



≪Icicle Cannon≫

「ファイアッ!!」





その砲弾は僕の声に応えるように、青い砲撃となって放たれた。

そしてそのまま天井を突き破り、砕き、更に二階の天井すらも吹き飛ばし、3階へと到達。

で、そこで止まるわけがない。先ほどまでと3階の床を吹き飛ばす。



というか、3階部分の天井も一部吹き飛ばした。そして、辺りに轟音が響く。



上から砲撃の魔力に触れて、凍った天井や床やらの破片がパラパラと降り注ぐ。





「キャラチェンジッ!!」



あむの髪につけられた二つのバッテン印のアクセサリーが、ピンク色ハートマークに変わる。

そして両手首と足首に同じ色の羽。どうやら言った通りにしてくれたっぽい。



「これでいいんだよね?」

「・・・・・・うん」

≪ランさん、グッジョブです≫



そんな事をしている間にも、前後からロボット軍団が・・・・・・あれ、数増えてる。

というか、なんか倍になってる。やばい、急がないと詰まれる。



「このまま、飛ぶよっ!!」

「へ・・・・・・?」





叫びつつも僕は上に飛んだ。冷たい爆煙が渦巻く中に突入して、3階に一気に到達。そして、見つけた。



右手でたまごを持ったあの男を。距離にして10メートル程度。



ベストポジションって・・・・・・結構ギリギリだよね。でも、これなら行ける。





”・・・・・・大丈夫、持っているたまごはあれだけです。遠慮なくやっちゃってください”

”了解”





脳内のスイッチを入れる。そして、足元に小さな魔法陣・・・・・・魔力による足場を構築。

入れたスイッチにより、世界が灰色に染まる。視覚を認識する神経が一時的にオフになった証。

それからすぐに、その足場を踏み台にして跳んだ。スイッチを入れた影響で空気が重くなってる。



まるでゼリーかなにかのような中を、泳いでいるような感覚に襲われる。

でも、それに構わず僕は男の目の前に来る。男は僕のほうを見ている。

だけど僕は見ていない。そのまま右手を伸ばして・・・・・・男の右手首を掴む。



魔力を込めた上で、僕は手首を握り潰す。手に骨が砕ける感触が、伝わる。

そうして右手から零れ落ちて、ゆっくりと・・・・・・本当にゆっくりと落下していたたまごを視認。

左手を急いで伸ばして、床に落ちる前に慎重に優しく、キャッチ。



・・・・・・限界が来た。スイッチがオフになり、視覚に色彩が戻る。男の視線が僕に移る。





「・・・・・・さぁ」





表情の中に右手を折られた痛みと、認識できない何かに対す怯えが混じる。

やっぱり、3秒じゃこれが限度か。でもいいや、ここから徹底的に行く。

まず足を少し引いて右足で回し蹴り。それにより邪魔な左の腕も折る。



そこから怯んで蹲りかけた所に、胴に右足の蹴りを1発。

少し足を引いて、あの馬鹿の頭目掛けて足で往復蹴り。

男の口から血とそれに塗れた歯が飛ぶけど、気にしない。



それからまた足を引いて、行動できなくなるように対処。

具体的には右の膝を踏み抜く。そこから顎に向かって蹴り上げる。

でも、まだ終わらない。僕は左足で馬鹿の目の前まで跳んだ。





「お前の罪を数えろっ!!」



最後に打ち込んだのは・・・・・・顔面への両足での蹴り。男の身体はそのまま、ボロい木の床に叩きつけられる。

一回バウンドして、もう一回。その衝撃を殺す事が出来ずに、そのまま転がるようにして吹き飛んだ。



≪抜かないんですか?≫

「こんなの、斬る価値もない。・・・・・・大の男が、かわいい子を泣かせてんじゃねぇよ」





僕は着地。左手に持ったたまごは、問題なし。そのために足での攻撃に終始したし。

いやいや、カウボーイビバップ見て足技かっこいいと思って練習したのが、こんなところで役に立つとは。

なお、やり過ぎとは言う事なかれ。相手はこちらへの攻撃どうこうは抜きにしても、危険なのは確か。



だって、目からビームを通り越して、手から衝撃波なんてかましてくるのよ?



徹底的に、行動不能になるまでぶっ潰すのが道理でしょ。





「男が女泣かせて許されるのはね、それでも大事なもの守るために突っ走らなきゃなんない時。
ただそれだけって決まってんだよ。・・・・・・ほら、立てよ。このクソ野郎が。当然遺書は用意してんだろ?」



身体を、体力の消耗による虚脱感が襲う。頭も・・・・・・少し痛む。

だけど、問題ない。まだ僕は動ける。・・・・・・とは言えさ、やっぱ多様は無理か。



≪まだクライマックスは始まったばかりです。こんなのでお寝んねなんて、許されるはずがないでしょ。
私達を怒らせた罪、こんな事では数え切れないですよ? 宣言通り、今日があなたの命日です≫





これ使うの、あと1〜2回が限度かな。うぅ、やっぱり消耗激しいなぁ。

まぁそこはともかく、僕は左手に視線を向ける。その先にあるのを見て、僕は少し表情が緩んだ。

そこにあるのは、緑色でクローバーの装飾がなされたたまご。



あと、一緒に声もかける。優しく安心させるように。





「・・・・・・さて、話は変わるけどお姫様。パーティー会場は、ここでいい?」

≪良ければ、これから私達と楽しく踊りませんか? もちろん答えは聞いてませんけど≫

「恭文さんっ! アルトアイゼンっ!!」



スゥのたまごを持った手をゆっくりと開く。

すると、スゥはその中から泣きそうな顔で出てきた。・・・・・・よかった、大丈夫みたい。



「スゥ、よく頑張ったね。もう大丈夫だから」

「はい。あ、あの・・・・・・あの、恭文さん」

「なに?」

「せんせぇに、これ以上攻撃しないでください。もう昨日みたいな事、しないでください」



・・・・・・はい? いやいや、何故にいきなりそんな涙目でそんな事言うのよ。



「せんせぇ、恭文さんと同じようにスゥ達が見えるんです。
それでそれで、せんせぇにも昔しゅごキャラが居たんです。だから」

「だからスゥやラン達にティアナのたまごを奪ったのは、仕方が無い?」



スゥは必死で、僕に懇願するような表情のまま、口が止まった。止まって、そのまま僕を見る。



「これまでも子ども達からこころのたまごを抜き出してきた事も、ガラクタ扱いした事も悪くない?
過去に可哀想な事があったから、今まで犯した罪は全部帳消しにするべき?」

「それは、あの・・・・・・恭文さん」

「悪いけど、そんな理屈は僕は認めない。スゥが泣こうが叫ぼうが、あの野郎はぶっ潰す。
・・・・・・犯した罪は、理不尽は拭えない。誰も許しちゃいけないし、償いも出来ないもんなのよ」



僕がそう言うと、スゥが首をぶんぶんと横に振った。



「でもでも、せんせぇはただ少し・・・・・・悲しい事があって、今こうなってるだけなんですぅ。
絶対の絶対に、本当の意味で悪い人なんかじゃないんですぅ。だから・・・・・・恭文さん」



そして更に瞳に涙を溢れさせながら、僕を見る。



「・・・・・・アイツがどういう手に出てくるかによるよ? 無抵抗でぶっ飛ばされるのなんて、ごめんだし」

「はい。・・・・・・え、あのそれってつまり、先生が何もしなければ・・・・・・い、いいんですかっ!?」

「いいよ。それに、さっき言ったでしょうが」



僕は右の人差し指をピンと上に立てて、スゥの目を見て言葉を続ける。

多少呆れ気味な顔になってるのは、気にしないで欲しい。あれだよ、ストックホルム症候群とかで納得しておく。



「女の子泣かせていいのは、大事な物を守りたいと思って、そのためにどうしても突っ走らなきゃいけない時だけだってね」

「・・・・・・はいっ! ありがとうございますっ!!」





まぁいいや、これで昨日のグダグダの鬱憤は晴らせたわけだし。

あとはティアナのたまごさえ取り戻せれば、よしって事にしようじゃないのさ。

ま、スゥには魔法の事とか内緒にしてた時に、信じてもらってた恩があるしね。



・・・・・・あと、あむも。少しくらいは譲歩しようじゃないのさ。それくらいは折れても、バチは当たらないでしょ。





”・・・・・・・・・・・・いや、このやり取りはもう既にいろんな意味で遅いと思うんですけど”

”気にしてはいけない”



心の中でそう言った直後、スゥが嬉しそうな顔である箇所を見た。そして・・・・・・驚きの表情を浮かべながら叫ぶ。



「・・・・・・って、せんせぇもうボロボロですぅっ!!
というか、恭文さんっ!? 一体何したらあぁなるんですかぁっ!!」

「よし、僕もう一回下に降りて飛ぶところから始めるわ。そうすれば」

「まるまる今までのくだりを無かった事にしようとするのはやめてくださいっ! それでもきっとダメだと思うですよぉっ!?」

「・・・・・・スゥっ!!」



その声に振り返ると、あむ達が居た。どうやら、本当に少しだけ飛ぶタイミングが遅れてたらしい。



「あむちゃんっ! ランにミキもっ!!」

「よかった、どこも怪我ない?」

「はいっ!!」



すぐ後ろであむ達に抱きつくスゥを見て安堵する。いやぁ、やっぱりあの子は癒されるなぁ〜。

それから、左手を出す。あむはそれを見て、優しく、慎重にランのたまごを受け取る。



「恭文、あの・・・・・・ありがと」

「どういたしまして」

「というか、あれなに? あの青いのどがーんで寒いのも魔法なのかな」

「そうだよ。魔力を氷結属性に変換させた上での砲撃」



僕の言葉に、あむやラン達の頭にはてなマークが・・・・・・あ、この辺りは説明してなかったな。



「・・・・・・はい?」

「それに関しては、後で説明する。とにかく、次はティアナのたまごだ」



僕は、再び視線を二階堂に移す。さて、ちょっと目を覚ましてもらわないとダメかな、これ。



「え、えっと・・・・・・恭文。なんか二階堂先生、すっごいボロボロな気がするんだけど」

「そりゃそうだよ。アバラ数本に両手に右足へし折ったから」

≪あと、鼻も砕きましたね≫



僕がそう言うと、あむが完全に固まった。そしてなんかランとミキと一緒に叫んだ。



『はぁっ!?』

「大丈夫。僕は今から下にもう一回降りて、ここに飛び込んでくる所から始めるから。そうすれば、あれは神の力が働いて」

「意味分かんないよ、それっ! あと、そんな力は絶対働かないからっ!!
それやっても、恭文が二階堂先生ボコボコにした事は変わんないよねっ!?」

「うん、僕もそう思う」





僕達がこんな話をしている間に奴は、床に身体を叩きつけられながらもふらふらと立ち上が・・・・・・らない。

てゆうか、立ち上がれるわけがない。右の膝を踏み抜かれてるんだから。と言うより、気を失ってるらしい。

・・・・・・今度は完全に潰したよ。でも、まだ終わらない。もうちょい付き合ってもらう必要があるから。



奪われたティアナのたまごのありか、聞き出す必要があるから。

あぁもう、これでまたフラグ立てるの? 僕はそんなつもりないってのにさ。

二階堂の服は、灰やらコーヒーやらで汚れて、もうひどい事になってる。



あそこまで来ると哀れみさえ感じるね。でも、油断は禁物だ。

スゥにはあぁ言ったけど、それはあくまでもアイツが素直にたまごを返した時に限りだ。

×たまの力を使って衝撃波ぶっ放すとか、たまごを抜き出すとか、散々やらかしてる。



そういう所から考えても、まだ手札を隠している可能性は十分にある。場合によっては・・・・・・もっとだ。





「変身」

≪Riese Form≫



リーゼフォームに変身しながら、僕はそのまま、ゆっくりと二階堂に歩み寄る。

白いマントを靡かせながら、右手をしっかりと握り締める。



「・・・・・・恭文、どうするの?」

「ティアナのたまごの在り処を聞き出す。場合によっては拷問だね」

「拷問って・・・・・・アンタ、何言ってんのっ!? そんな事絶対ダメに決まってるじゃんっ!!」

「あいにく、悪党相手には一切加減しない事にしてんのよ。なにより」



少し足を止めて、あむの方を振り返る。あむは・・・・・・やっぱり怒った顔をしてた。



「コイツが正直に吐いてくれればOKなだけだし。僕に拷問なんて真似して欲しくなかったら、一緒に説得して」

「え?」

「僕はティアナのたまごが取り戻せればいいって事。うん、それだけだよ」



それから視線を前に戻して、改めて二階堂の方へ行く。



「・・・・・・そっか。うん、そうだよね。それさえ出来れば、大丈夫だよね」





あむがそう言った次の瞬間、倒れている二階堂の横から黒い弾丸が複数飛んできた。

それを僕は咄嗟に右に跳んで避ける。そこまではよかった。

そう、そこまではよかった。問題は、そうして避けた僕の目の前に影が出来た事。



身長は僕より少し高めで、細身の女性を模していると思われる・・・・・・人形?

それは僕に対して銃口を向けて、1発至近距離でぶち込んできた。

僕はそれをジガンで受け止める。ジガンから伝わるのは凄まじい衝撃。



それにより、僕は後ろに吹き飛ばされる。吹き飛ばされながら、僕は影の正体を見る。

居たのは・・・・・・黒い人形。その人形が、両手に黒い銃を持ち、連射する。

僕は身を翻して着地。そのままアルトを腰から抜き放つ。



襲ってきた数発の弾丸を、全て斬り払う。刃が黒い弾丸を斬り裂く度に、黒い火花が目の前を走る。





「恭文っ!?」

「大丈夫。ガードした」

「そっか、よかった。・・・・・・よくないからっ! なんなの、あれっ!?」

「×キャラだよ」



あむの声に、答える声があった。それは、倒れた二階堂だった。



「・・・・・・くくく、痛みに感謝しないとね。君が吠え面かく姿を、この目で拝めるんだから」



なるほど、痛みで目を覚ましたと。まぁ、僕も経験あるからこういうのは分かるけどさ。



「でも、普通の×キャラとは」

「そうだよ、ボク達と全然等身が」

「それはそうだよ。これは・・・・・・×キャラ・×たま専用の強化ボディなんだから。
言うなれば、その人形とキャラなりしてるって感じ?」

「強化・・・・・・ボディっ!?」

「下で君達がスルーしたロボットはね、中に×たまを仕込んでエネルギー源にしてるんだ」





×たまをエネルギー源っ!? んな事まで出来るんかいっ!!



・・・・・・どうやら、イースターの連中は×たま関係でそうとう高い技術力を持ってるみたいだね。



もうこれ、普通に次元世界の技術と近いレベルなんじゃ。





「で、これも同じ。ただ違うのは、能力がワンオフモデルだから下のアレらとは比べ物にならない。
そして、使用している×キャラの特性を丸々コピーするって事」



マジで虎の子だと。くそ、何か来るとは思ってたけどこれは予想外過ぎるぞ。



「で、コイツは君達・・・・・・特に蒼凪恭文、お前を潰せと命令してある。いや、コレを作るのは苦労したよ。
出来る限り人間に近い動きが出来るように作ったから、僕の美的センスとは全然違うのが不満点だね」



焦りは隠して、僕は腰を落として突撃体勢を整える。だってそうこうしている間に、黒い人形が構えてるもの。



≪・・・・・・待ってください。あの銃・・・・・・というより、あの構え方は≫



右手の・・・・・・黒く、持ち手の上の方に丸の中に×がついている装飾が施された銃を構える。構えて、その銃口を僕達に向ける。



「アルトアイゼン、知ってるの?」

「あぁ、それは知ってるはずだよ。だってこれの中身」



二階堂は僕を見て・・・・・・にやりと笑った。



「君の仲間から抜き取った×たまを使ったから」

「それって・・・・・・ティアナさんのっ!?」



やっぱりか。なんか動きや構え方が似てると思った・・・・・・あれ?

今思考の奥で一瞬感じた妙な違和感は、ひとまず置いておく事にする。今は目の前の人形だ。



「あぁ、そうそう。このボディに向かって浄化出来る技を叩き込んだ上で倒せば、たまごは普通の状態に戻るから。
でも・・・・・・無理だろうね。あの子のたまごから出てきた×キャラ、どういうわけか普通の×キャラよりも能力高いみたいでさ」



だろうね。ティアナがどんだけ執務官になるって夢に賭けてるか、知ってるもの。

夢や願いの強さが、そのまましゅごキャラの力や強さに変換されるなら・・・・・・そう、なるよね。



「君や日奈森あむの能力じゃ、これは倒せないよ。
くくく・・・・・・あはははははっ!!」

「・・・・・・そう、そりゃよかった」



正直、安心した。コイツさえ何とかすれば、あらゆる問題が一気に解決するんだから。いや、すばらしいねぇ。



「え?」

「いや、お前が正真正銘救いようのないバカでよかったよ」

「バ、バカ・・・・・・だとっ!?」

「バカでしょうが。まさかお前、今の今まで僕達が本気出してると、そう思ってたの」

≪そうですね、マジでバカでしょ≫



人形の周りに・・・・・・黒い弾丸が複数表れた。やっぱりティアナのたまごっぽい。なんかね、空気で分かるの。

対峙するのは髪すら生えていない、一体どこの黒いクリスタルボーイかって言いたくなるような人形。



「んじゃま、楽しく暴れるとしますか。・・・・・・あむ、ちょっと下がってて」

「え?」

「まぁ参加してもいいけど、フォローは出来ないから」





あむにそれだけ言うと、そのまま僕は飛び出した。黒い弾丸達も同時に飛び出した。

それを走りながら斬り払い道を開く。だけど、その分黒い人形は後ろにジャンプして下がる。

ジャンプしながら、僕に向かって両手の銃を乱射。黒い弾丸が雨のように襲ってくる。



それを左に走って避ける。弾丸によって床に穴がいくつも・・・・・・おいおい、いいのかこれは。

でも、それに対して感想を持っているヒマはない。

黒い人形は着地してからまた弾丸を大量生成。そのまま発射してくる。



僕はそれに向かって走り、数メートルという所まで近づいたら、大きく跳んだ。

跳んで飛び越せれば・・・・・・って、そんなわけにはいかないよね。

なんか下から、弾丸達が軌道を変えて飛んできたし。だから僕は左手を下にかざす。



そのまま蒼い魔力スフィアを形成。そして、ぶっ放す。





「クレイモアッ!!」





青いスフィアは散弾となり、下から僕目掛けて密集するように迫っていた弾丸を撃墜。

広間に爆煙が広がる。そして、その中を突っ切るようにして下がる。

こうする理由は当然ある。空中で動きの止まった僕に、また弾丸の雨が襲ってきたから。



とにかく、再び前進。爆煙を突っ切るようにして黒い人形に飛び込む。

弾丸がまた襲ってきた。それを横に走りながら回避。

もっと言うと、黒い人形に対して円運動を行いながら、全速力で広間を駆け抜ける。





「え、あの・・・・・・ちょっとっ!?」

「あむちゃん、避けてー!!」

「そんな事急に言われてもー!!」



なんか被害が増してるけど気のせいだ。



「ちょ、やめ・・・・・・あぁっ! 装置が・・・・・・装置が穴だらけにっ!!
ポッドが壊れてるしっ! あぁ、どっちにしてももう終わりだっ!!」




・・・・・・バカな男がなんか叫んでるけど気のせいだ。

もっと言うと、デカイ装置や×たま詰め込んでたポッドに流れ弾が当たる。

それで鉢の巣だったり、ポッドの容器が割れて×たまが雪崩みたいに零れたけど気のせいだ。



とにかく、走りながら左手の指先に蒼い光弾を生成する。





≪Stinger Ray≫





そのまま走りながらも数発乱射する。それに対して黒い人形は左の銃を向けて弾丸を乱射。

・・・・・・いや、的確に僕のスティンガーを全て撃墜した。でも、それが命取り。

僕はもう踏み込んで接近している。悪いけど、ここで一気に決める。



腰のアルトに魔力を込めて、青い刃を打ち上げる。





「鉄輝・・・・・・!」



アルトを一旦鞘に納めた上で、そのまま抜き打ちっ!!



「一閃っ!!」





横薙ぎに放たれた一閃は、黒い人形を見事に斬り裂いた。

斬り裂いたんだけど、手ごたえが無い。防御される事も考えてたんだけど、それすらなかった。

もっと言うと、まるで煙のように消えた。・・・・・・それに驚いているヒマは無かった。



真上に殺気。僕は後ろに飛ぶと、今まで居た場所の床が蜂の巣になった。上を見ると、黒い人形。

床を踏みしめ、そのまま連射して隙だらけな人形に向かって踏み込む。

まだ魔力は残ってる。そのまま逆袈裟にアルトを人形に再び打ち込んだ。



でも、さっきと同じようにまた消えた。・・・・・・なんとなく、なんとなくだ。だけど、すごく嫌な予感が身体を支配した。

そのまま着地して、あたりを見回す。見回して・・・・・・右に跳んだ。頬を、黒い弾丸が掠めた。

次は左、後ろ、転がるように前。それから右にアルトを振るって弾丸を斬り払い、その全てを避けていく。



待て待て、姿見えないのになんでこれ? おかしいで・・・・・・ま、待てよ。

ティアナのたまご、能力が普通の×たまより高いと言っていた。

×たまから生まれた×キャラは、どうやら持ち主の特性を自身の能力にしている。



いや、中に居るなりたい自分に×が付くんだから、これは当然か。

だから、サッカー部員だったあの子の×たまだって、これと同じ感じだった。

あの子はサッカーボールみたいなエネルギー球体を形成。



そうして、それらを蹴り飛ばして攻撃してきた。それに関してはこの強化ボディも同じ。



戦い方や行動や銃だったり構えだったりが、この強化ボディも色々な事情からティアナそっくり。





「ま、まさか・・・・・・!!」

≪恐らくそれで正解でしょう。もっと早くに考えつくべきでしたね≫

「くそ、さっき感じた違和感はこれかっ! あぁもう、なんてめんど」





言いかけて言葉が止まった。言葉を止めたのは感じたから。

感じたのは鋭く、刺すような針みたいな殺気。

それは後ろから迫っていて・・・・・・僕は身体を捻って、その殺気に対処。



右に向かって身体を回転させながら、その脅威を斬る。

すると、アルトの刃は捉えていた。黒く細長い・・・・・・ライフル弾のような弾丸を。

弾丸は最初姿を消していた。その弾丸は刃に触れる事で姿を現した。



それを見て全ての事態が、僕達の推測が間違っていないと理解出来た。



弾丸は僕の一閃で真っ二つになり、目の前で爆発した。





「・・・・・・二階堂。お前、とんでもない事してくれたな。あとで左足と顎も砕いてやるから覚悟しとけ」

「ふん、はたして出来るかな? その前に君はやられ・・・・・・え?」



その爆発が止む頃、それ『ら』は姿を現した。数は・・・・・・5。



「な・・・・・・そんな。僕が作った人形は一つだけだぞ。こんな」

「幻影だよ」

「幻影っ!?」





まず目につくのは、両手に銃を持った今まで対峙してたのが一人。

両手持ちサイズなショットガンを持ったのが一人。同じサイズのマシンガンを持ったのが一人。

某ハセヲさんが持ってるような銃剣を両手に持ったのが一人。



銃剣の右手の銃のには、ガトリングのような砲身が付いている。

左手は・・・・・・普通だけど、あれは両手持ちのより小径のショットガンだ。

あの形態ではあの二つの銃の役割は、近接での格闘戦闘用。



普段みたいな誘導弾や普通の弾丸は基本的に使わない。

そして、僕に狙撃してきたであろうロングレンジライフルを持ったのが一人。

よりにもよってセブンガンモード再現かい。でも、これで念押しで確定された。





「恭文さん、これは・・・・・・!!」

「ティアナ、幻術って言うのが使えるの」

「げん・・・・・・じゅつ?」

≪簡単に言えば、幻を作り出す魔法です。魔導師の中でも使っている人間は相当少ないんですが、ティアナさんはその使い手なんですよ≫





ただし幻はあくまでも幻。斬れば消える。・・・・・・うん、さっきみたいに消えるの。

魔法としての幻術はあくまでも幻を作り出すだけ。攻撃能力が皆無なのだ。

あと術者によるけど、基本的に幻影自体には防御力というものが全くない場合が多い。



魔法攻撃もそうだし、例えば斬ったり蹴ったりとかの物理衝撃にも弱い。

例えば、石なんかをひょいっと投げて当てるだけでも消える。

しかも使用している間は術者は全く動けなくなるし、魔力消費もとても大きい。



使用者が少ないのは、幻術はそういう単独では使い勝手の悪いサポート専用の魔法だから。

でも、ティアナはその幻術と射撃を使って、これまでも何度も不利な状況を覆してきた。

JS事件での活躍なんて、もう語り草だもの。そんなタクティカルガンナー足るティアナの生命線が、幻影。



もう、ここまで言えば分かると思うけど、これらの黒い人形は・・・・・・!!





「あの黒い人形達は、ティアナさんが使えるその・・・・・・幻術っていうのと、同じ感じで作られてる?」

「ミキ、正解」

「なるほど。たまごの持ち主であるティアナさんの特性、そのまま映してるんだね。
恭文、幻術ってどういう使い方するのかな。ボク達、そういうのさっぱりだし」

「ティアナの場合、本人が相手の目の前から姿を消した上で自分や弾丸の分身を作る。それで撹乱だね」



そうしてその中に本物の弾丸や自分を混ぜた上で、相手を混乱させる。

もちろんサーチとかそういうのが通用しないようにプログラムを構築した上で。



「攻撃対象が増えればその分当然攻撃回数も増える。体力や魔力の消耗も多くなる。
そうして、疲れた所を狙って、ズドンってわけ。それと」



これだけならまだいい。問題はまだある。もしかしたら・・・・・・もしかしたらだけど、もっとやばいかも。



「黒い人形が作ってる幻影は、ティアが使ってる幻影よりも性能が高いかも知れない」

≪先ほどのあなたへの攻撃ですね≫





ティアナの幻影は敵の攻撃を出来るだけ長く引き付ける、囮として使うのが主。

あの接近しての一撃はその趣旨と外れる。銃剣モードの幻影作ってる事だってそうだ。

あれは、幻影を使う場合の趣旨から外れるもの。なにより、あの弾丸は幻影なんかじゃない。



実際にマジな至近距離で、手に持った銃から撃ち込まれたもの。

つまり、防御力や戦闘能力はともかくとしてだよ?

あの人形は本物の弾丸をぶっ放せる、直接攻撃力を持った幻影が作れるという事になる。





≪そうなると厄介ですよ。実質これは、あなた対数が不明のティアナさんという事になりますから≫

「そ、それってもしかしなくても・・・・・・大ピンチっ!?」

「・・・・・・おい、二階堂。あの人形にティアナの×たまは何時入れたの」



警戒を緩める事なく、僕は後ろで呆然としている二階堂に聞く。



「ふん、なんでそんな事を君に教えないと」

≪Stinger Ray≫



左の指から閃光が走る。それが二階堂の頭を掠める。髪が数本・・・・・・はらはらと落ちる。



「選べ。死ぬか答えるか。なお、答えなかったら比喩無しでお前を殺す」



お前の皮肉に付き合ってる時間はないのよ。あむが止めようと、僕はお前を撃つし潰す。さぁ、どうする?



「・・・・・・昨日の夜だ。機動実験もそれくらいに」

『なんかすっごい怯えた目で即答したっ!?』





なら、アレが幻影作って姿消すには十分過ぎる。

現に不意打ちかますために、今の今まで存在を隠しもいたわけだしさ。

もちろんどういうタイミングかは知らないし、ここは今はどうでもいい。



さて、情けない事に僕一人でこれどうこうは無理かも知れない。この場合・・・・・・相談だよね。





「アルト」

≪今メールが届きました。もうこちらに向かっているそうですけど、もうちょっとかかります≫





なお、こちらに向かっているというのはフェイト達の事。

・・・・・・当然でしょ。ボクがなんのためにアイシクルキャノンをぶっ放したと?

魔法反応で向こうにここの事を教えるためだよ。



この街に来た時に街中にサーチャーは設置してるんだから、きっと気づくと思った。





≪それと本体の位置、向こうからも探してもらえる事になりました。
どちらにしても今すぐには無理でしょうけどね≫



なるほど、ならしばらくは持たせないとダメだと。まぁしゃあないか。ここに来る時点で覚悟はしてた事だ。

・・・・・・ぶっ飛ばしていこうじゃないのさ。今守るべきは誰? それはあむと手負いの二階堂だ。



「あむ、ラン達と二階堂連れてここからすぐに逃げて。
キャラなりなりキャラチェンジすれば、出来るでしょ」

「え?」

「僕はこいつらの相手しないといけなくなった」





人形達の周りに弾丸が生成される。・・・・・・それを見て思う。苦戦は必死かなと。

人形を間違えてたまごごと破壊したらマズいから、ブレイクハウトなんかで一気呵成には潰せない。

そして数がどれだけ居るかも分からない。基本はフェイト達が来るまで持久戦だ。



とは言え、やっぱりフェイト達も過剰に手出しは出来ないよね。だって×たまの浄化能力無いんだし。





「・・・・・・ダメだよ。また恭文一人で」

「なにがダメだって言うのさ。もしかしてまたハッキリ『足手まとい』って言わなきゃ分からないわけ?
・・・・・・あぁ、そっか。昨日の如く本気で僕の邪魔をしてくれるわけか。そっかそっか、納得したわ」

「恭文っ! そんな言い方ないよっ!! あむちゃんは、恭文の事すごく心配して」

≪なら、他にどういう言い方をすればいいと言うんですか。
この人のおせっかいのせいで、せっかくのチャンスを棒に振ったのは事実でしょ≫



アルトが僕の手元から冷たい声を出す。それで反論しようとしたランが止まる。他のみんなも同じ。



≪こっちはあなた達のフォローを出来る余裕が全くないんです。
お願いですから、邪魔をしないでください≫

「そういう事。だからお前ら全員とっと失せろ」

「・・・・・・そうだね、あたしは足手まといだ」



俯いて、あむが呟いた。そして、自分の胸元に両手をかざし・・・・・・え?



「あたしのこころ、アン・・・・・・ロック」





そのままあむは、青い光に包まれる。その光がはじけると、出てきたのは、一人の女の子。

青いスペードのアクセサリーが付いた帽子をかぶり、同じ色の上着とミニスカート。

・・・・・・じゃなくて、短パンを履いて足元を縞模様のニーソックスを着けた姿の女の子。



どこかセンスがいいと言うか、品の良さを感じさせる服装。



そして上げた顔は、その瞳は・・・・・・強い決意の色で染まっていた。





「キャラなり。アミュレット・・・・・・スペード」



両手に青い絵の具が付いたでかい槍みたいな筆を持って、あむが構えた。



「え、あの・・・・・・もしもしっ!? おのれは一体、何してるのっ!!」

「あたしは、恭文が何で自分の魔法を『魔法』なんかじゃないって言ったのか分かんない。
なんで悪人キャラみたいな事しちゃうのかなんて、全然分かんない」



あむは僕の話なんて聞いちゃくれない。聞いちゃくれないから、そのまま爆発する。



「・・・・・・戦うのとか、そういうのなんて、さっぱりで全然分かんないっ!!
足手まといっ!? あぁそうだね、あたしはぶっちぎりの足手まといかも知れないねっ!!」



弾丸が僕達へと殺到してきた。それに身構え回避の体勢を取ろうとすると、あむが前に出てきた。

そしてそのまま勢い任せに筆を振るった。すると、虹色の絵の具が眼前に広がった。



「カラフル・・・・・・キャンバスッ!!」




それらが弾丸を防ぐ。それだけじゃなくそのまま前方へ広がって・・・・・・人形を全て消した。

人形はまるで幻のように・・・・・・いや、幻なんだよね、あれは。



「でも仲間が、友達が危ない目に遭うかも知れないのに、黙って見てるなんて出来ないっ!!」



あむがそのまま僕の方へとカツカツと足音を立てながら来る。それで、僕の胸元を掴む。



「つーか、ちったぁあたし達の事を信用しろっ!! なにまた性悪キャラに戻ってるわけっ!?
あたし、アンタのそういうところマジムカつくっ! だからおせっかいだってやるんだよっ!!」



左手で掴んでそのまま睨みながら言葉を続ける。



「アンタはあたしらよりずっと・・・・・・ずっと強いかも知れないけど、だからって一人でなんでもやろうとするなっ!!
あたし達は友達で仲間だって言うのに、なんでちゃんと頼ってくれないのかなっ!? アンタ、マジでバカでしょっ!!」

「・・・・・・バカはおのれだっ!!」



遠慮無く僕は叫びながら、左手を握り締めてあむの頭頂部に向かって振り下ろした。



「い、痛ぁ」

【思いっきり拳骨っ!?】



あ、中に居るのはミキなんだね。・・・・・・という事は、これはミキとのキャラなりなのか。うん、納得した。



「当たり前じゃボケっ! 信用ってのはね、それだけの力がある人間に対してだけ言うセリフなんだよっ!!」



あむが僕の胸元から手を離す。離して頭頂部を押さえるけど、そのまま僕は言葉をぶつける。



「戦闘経験0なトーシローをこの状況で信用しろっ!? もう一度言うけど、バカはおのれだっ!!
言うだけの力も、経験も、知識も無い奴はねっ! 信用されなくて当然なんだよっ!!」

「ちょっと恭文っ! なにもそこまで言わなくてもいいじゃんっ!!」

「黙れKYがっ!! ・・・・・・怪我しても、責任取れないから」

「へ?」



・・・・・・まぁ、アレだよアレ。僕はやっぱり甘いって話だね。



「あと、ほんの少しだけ持たせて欲しいの。本体を何が何でも補足する。それだけ出来れば、逆転のカードが引ける」

「あ、あの・・・・・・それってつまり」

「前に言ったでしょ? 僕はバカは嫌いじゃないの」



僕の言葉にあむがハッとする。・・・・・・僕はあむ達と始めて会った時、そう言った。

まぁ、軽口程度だったんだけど・・・・・・それは嘘じゃない。



「ただし、さっき言った通りに怪我しても責任取れない。
僕はアレ相手だとあむに対しては全くフォロー出来ない」

「それってようするに、何があってもあたしの責任って事?」

「そうだよ。僕はあむがここで死のうがどうなろうが一切助けない。
というか、さっきも言ったけど正確にはその余裕がない。だから助けられない」



だからあむには、弾丸も避けるなり回避するなり迎撃するなり、全部自分で死ぬ気で処理してもらう。

だからこそ、真剣な目であむを見る。むしろ若干睨みつけちゃってるくらいだし。



「それが僕がこの状況であむを隣に置く、本当に・・・・・・本当に最低限の条件。
もしちょっとでも他の人間に守ってもらえるとか思ってるなら、今すぐ僕の目の前から消えろ」

「じゃないと、マジ迷惑なんだね」

「そうだよ。そうじゃなきゃ、僕はお前と繋がってる事自体が迷惑だ」

「・・・・・・分かった。あたしも恭文の事アテにしないし、助けない。全部自分でなんとかする」



でも、あむはそんな僕の視線を受け止めつつ言い切った。それに少し驚いてしまう。



「あむちゃん、いいのっ!?」

「いいよ。・・・・・・いいの。これで、いいんだから」



なんでそう言いながら、またそんな嬉しそうに笑うのかが僕には疑問だよ。・・・・・・はぁ、まぁいいか。



「んじゃま」



僕は増殖するように現れる黒い人形達を見る。あむも両手で筆を持って構える。



「うん、行こう? ・・・・・・恭文」

「なに」

「ありがと」

「・・・・・・いいよ」

「いや、恭文はどうしてまたベルト・・・・・・って、ちょっとっ!?」



僕は左手から銀色の・・・・・・サウンドベルトを取り出してる。そして、それを腰に巻く。

アルトは一旦鞘に収めて、空いた右手でパスを持つ。左の親指でケータロスのエンターボタンを押す。



「ま、まさか・・・・・・!!」

「あれ・・・・・・やる気っ!?」

「わぁ、ワクワクですー!!」

『それは絶対違うからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』



なんか言ってるけどきっと気のせいー! さぁて、行くぞー!! パスをセタッチっ!!



≪The song today is ”BLADE CHORD”≫



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文さん、また内緒でこんな無茶を」

「ですが、事情を考えれば仕方ないかと。下手に私達が参加すれば、今度こそスゥさまやティアナさまのたまごが危なかったですし」

「とにかくヤスフミやあむさんに対してのお説教は後で考えるとして・・・・・・シャーリー」





私はリインと咲耶と一緒に、街の人達には見えないように空を飛行中。

オプティックハイド、便利そうだからティアに習っておいてよかったよ。こういう時に凄く便利。

私達は魔法で姿を消しながら、ヤスフミのアイシクルキャノンの反応が掴めた箇所へ急行中。



でも、状況はあまり芳しくないと思う。アルトアイゼンから返信のメールが来たけど、どうしよう。

よりにもよって、そんなチートキャラが相手になるなんて・・・・・・うぅ、これは予想外だよ。

月詠幾斗だけなら、ヤスフミだけでもなんとかなると思ってた。だけどこうなると話が変わる。



だってもしもこの強化ボディが沢山あったら・・・・・・イースターの手元にある×たま全部が、敵になるって事だもの。





『すみません、アルトアイゼンから幻影のデータは送られて来てるんです』

「幻影自体の解析は可能なんだね?」

『はい。そこだけはなんとか。なので、それの分析は進めているんですが・・・・・・まだ絞り込めてません』

「でも、本体がその研究室の中に居るのは間違いないんだよね」

『そこは間違いないです。ボディ自体は×キャラのように見えないわけじゃないですから』










なら、街への被害は避けられるね。・・・・・・避けられるけど、やっぱりまずい。





急がないと、ヤスフミとあむさんが・・・・・・!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「絡みつくー闇をー切り裂いてー♪」



なんて歌いながらジャンプで突撃。影達をなぎ払い、僕とあむは廊下に出る。

とりあえず3階は広間だけしか作ってないみたいだから、下を捜索だ。



「うたいながら戦うなー! いったいどこのアニメの主人公キャラっ!?
というか、どうしてこれなのかなっ! あたしマジで分かんないんだけどっ!!」

「そんなの決まっている。西川ちゃんが好きだから」

「そこは聞いてないよっ! てゆうかどんだけ電王好きっ!? そのベルト電王のだよねっ!!」

≪「一生ファンで友達で居たいと思うくらいですがなにかっ!?」≫



だってだって友達だしー。リュウタともすっごい仲良しだしー。



「んな事を言い切るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 若干逆ギレ入ってるように感じるのはどうしてかなっ!! てゆうか友達ってなにっ!?」

【あむちゃん、とにかく前っ! 前っ!!】





あむがその言葉に前を向く。眼前からミサイルのように襲ってきた弾丸達に対して、一気に踏み込む。

そうして筆をを左薙に振るう。先ほどと同じように虹色の絵の具が広がり、弾丸達を撃墜する。そこに僕は突撃。

更に襲い来る弾丸を避けながら、階段の所に陣取った黒い人形の幻達をアルトで両断していく。



袈裟に、横薙ぎに、唐竹にアルトを振るい弾丸を潰していく。その度に薄暗い通路の中で銀色の閃光が閃く。



もう勢い任せの突撃スタイル。だけど、それがたまらなく楽しい。





「あむっ!!」

「なにっ!?」

「今の、結構いい連携だったねっ!!」

「・・・・・・そうだねっ!!」



僕は先行して階段を飛び降り、二階の廊下へと落下しながら魔法を発動。



≪Stinger Snipe≫



そして光弾を操作。それにより、そこに密集していた黒い人形の幻影たちを一蹴する。

光弾はうねり、曲がり、鋭く加速して立ちはだかる幻達を貫く。



「スナイプ」



左手に光弾が戻り、その上で螺旋を描く。描きながら僕は魔力を補充。

そのまま廊下に転がるように着地して、左側の廊下に向ける。



「ショットッ!!」





廊下に光の線が走る。それがロボットや人形の胴体を貫く。

ロボットからはたまごが出てきて、黒から白に戻る。人形は・・・・・・くそ、幻影か。

とにかく僕はそのまま右へ走る。アルトに魔力を纏わせて斬る。



あむの事には構わない。自己責任である事は、もう伝えてあるもの。





「はぁぁぁぁぁぁっ!!」





袈裟、逆袈裟とアルトを打ち込みつつ、人形とロボットの一団を切り抜ける。そうして、数体を排除。

でも、これで終わらない。また人形が出てきた。人形は僕に対して2丁拳銃を向ける。

もう一体はマシンガンを向けて乱射してくる。・・・・・・遅い。僕はもう跳んで、こいつらの背後に回ってる。



僕はそのまま振り返るように右からアルトを一閃。人形二体を排除した。





【あむちゃんっ!!】

「うんっ! カラフル・・・・・・キャンバス!!」





僕はそれでもチラッと声のした方を見る。あむが筆を袈裟に振るっていた。

例の虹色の絵の具でそちら側から着ていたロボットや人形を倒す。

・・・・・・便利だな、アレ。普通にあれ攻撃として使いたいんですけど。



なんて思いながらも、再び正面を見る。いや、正面に向かって打ち込む。

そのまま乱れ打ちのようにアルトを振るい、襲ってきた弾丸を斬り払う。

この感じ・・・・・・ロングライフルタイプか。それから僕は上を見る。



視線の先にはショットガンタイプと銃剣タイプが居て、僕に向かって飛びかかっていた。



僕は元来た道に転がるように跳ぶ。次の瞬間ショットガンがぶっ放され、床が穴だらけになる。





≪Stinger Snipe≫





左手から誘導弾を発射。発射されたスティンガーは、ショットガンタイプを貫きかき消す。

それから方向転換し、ロングライフルタイプを目指す。

それをコントロールしながら、飛び込んできた銃剣タイプに対処する。



そいつは右手の銃口がガトリングみたいになってる銃をこちらに・・・・・・いや、天井に向けて発射。

銃口の下に空いた穴から黒いロープを・・・・・・って、アンカー!?

こんなのまで使えるんかいっ! マジで本人とドンかぶりだしっ!!



アンカーで勢いをつけてこちらに来ながら、左手の銃を向ける。



それから散弾が発射された。それに対して僕は既に対処している。





「クレイモアッ!!」

≪ファイア≫





ショットガンとクレイモア、二つの散弾は近距離でぶつかり合い、爆煙を巻き上げる。

それを斬り裂くように、僕は袈裟にアルトを全力で叩き込んだ。そこに感じるのは・・・・・・確かな手ごたえ。

爆煙の向こうから、左の銃の刃で横薙ぎの一閃をかましてきた人形の一撃とぶつかり合った。



そのまま人形はアンカーを排除したのか、再び自由に動かせるようになった右腕を僕に向け、引き金を引く。

少ししゃがんでばら撒かれる弾丸を回避しつつ踏み込み、胴に向かって一閃。だけど、それを左の刃で受け止められる。

そこから左の銃から散弾が至近距離で放たれた。それを右に回りこむように避ける。



避けつつも右足で回し蹴り。人形はそれを背中に食らい、消えた。

・・・・・・あ、スティンガーの反応が消えた。撃墜されたか。

それに気づいてすぐ、奥から数発・・・・・・鋭く速い弾丸が来た。



アルトを袈裟、左からの真一文字。右からの返し、左からの袈裟と斬撃を繰り出し、全てを斬り払う。



で、目前に突然2丁拳銃を持ったのが現れて・・・・・・って、しつこいっ!!





「・・・・・・あぁもうっ! 人形も合わせるとマジでキリが無いしっ!!」

【二階堂先生、真面目にとんでもない事してくれたよね。
本人はなんか動けなくなっちゃってもう役に立たないし】





なお、人形がどこにあるかももう分からないとかふざけた事を言っていた。



なので、もう一回顔面に蹴りを入れてやろうか本気で考えたのは気にしない方向でいく。



いや、やめたよ? スゥにこれ以上攻撃しないでってお願いされてるしさ。





『なぎくん、あむちゃん、聞こえるっ!?』





目の前に出てきた人形が銃口を向けて撃つ前に、懐に踏み込んで左ナックルで一撃。それを食らって消えた。

次に飛び込んできたのは、マシンガンタイプ二人。すぐに下がってスティンガーを発動。

それを飛ばして撃墜。なお僕はちょっと下がって寮の一室のドアを蹴り飛ばし、その中へ避難していた。



で、それから再び全速力で廊下を走っていると、通信が来た。あむの方にも画面が開いてるみたい。これはシャーリー。





「聞こえてるよっ! もう素晴らしいくらいにっ!!」

『というかさ、すっごく楽しそうなのは気のせい?』

「楽しいよっ! こんな派手なパーティーで暴れられるんだっ!!」





またまた出てきたのは、銃剣タイプが二人。寮の壊れた部屋の玄関から飛び出すように出てきた。

僕はスライディングするように滑り込み、一体の足元に足払い。

もう一体にはそこから起き上がりつつ前に踏み込んで、アルトを唐竹に一閃。



それを両手の刃で受け止められたけど、そこに構わず押し込んで、窓辺にぶつけて消す。





「楽しくないはずが・・・・・・ないでしょっ!!」

『安心した。どうやら心配なさそうだね』










武器や攻撃はともかく、本体のほうはすぐに攻撃で消せるみたいでよかったよ。





いや、中途半端な分身なんだから、影分身とかと同じって思えばいいのかも。





そんな事を思いつつ、そこから今度こそ奥へと進行する。獲物は・・・・・・僕の真正面に居た。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『まぁ、なんで隠してたのかそういう話は後にするけど』



そうしてもらえると、非常に助かります。あたしもかなりピンチですし、余裕ないです。



『とにかく、今本物の捜索をこっちでもやってるっ!!』

「マジで出来るんですかっ!?」

『出来るよっ! その幻影、こっちの機材でもデータ掴めるみたいだからっ!!
それで頼もしい増援もあるから、もう少しだけ持たせてっ!!』





弾丸を避けるため、あたしは跳ぶ。跳びながら筆を振るって、カラフルキャンバスを発動。

そうしてロボットの中にある×たまを浄化しつつ、人形の幻影を消しつつ、あたしは恭文とは逆の方向に進んでいた。

・・・・・・恭文、あたしやラン達の事少しだけだけど、今までより信じてくれた。



一緒に戦ってもいいって、背中預けてくれた。だったらここで気張らなきゃ、啖呵切った意味ないよね? 



なによりアタシのキャラがすたるじゃんっ! 何が何でもぶっ飛ばしていくよっ!!





「あの・・・・・・増援って?」



ぶっ飛ばしながら、あたしの動きに追尾するように動くシャーリーさんが映る画面にあたしは顔を向ける。



『まずフェイトさん達。こっちは距離が離れてるから結構遅れる。でも、もう到着しているメンバーが居る』



1階の方から轟音が聞こえた。爆発音というかなんというか、そんなのが。



『・・・・・・唯世君達だよ』

「えっ! なんで唯世くん達がっ!!」

『例の月詠幾斗から、あなたやなぎ君がここに居るって教えてもらったらしいの』

「イクトがっ!?」



・・・・・・すぐに居なくなったと思ってたのに、そんな事してたんだ。



『それでこっちに連絡があってね。もう人形の幻影の事とかは話してるから、対処してもらう事になってる』



でも、どうして? イースターで、敵同士なのに。イクト自身がそう言ってたのに。



「あの、それってマジで危険なんじゃ」

『フェイトさんも私も、一応止めたよ?』



シャーリーさんが困った顔をしていて、それを見てあたしは気づいた。



『ティアナの能力が使える×キャラや幻影相手に、何の戦闘訓練も受けてないみんなが立ち向かうのは無茶だって』



そこにさっきの恭文の顔が浮かんで・・・・・・どうやらあたしは、マジで足手まといと思われてるらしい。



『でも、どうしても行くって聞かなかったんだよ。
大事な仲間二人の危機に、なんの助けにもなれないのは嫌だって』



みんな・・・・・・あたしも恭文もすごく勝手したのに。なんかもう、『ありがと』しか言えないよ。



『本当ならみんなもそうだけど、あなただってここから退避してもらいたかったんだけどね。見てて気が休まらないもの』

「・・・・・・でも、恭文一人じゃ」

『アレ見てたら、心配なんてしてるのがバカらしくなるよ?』



あぁ、分かります。戦ってるのに、いつ弾丸で蜂の巣にされてもおかしくないのに、凄く楽しそうですしね。

なお、あたしは話してても結構必死。ううん、シャーリーさんが話してくれるから、大分落ち着いてきたかも。



『それになにより、なぎ君のバトルマニアは筋金入りだしね。
多分一人で戦うって言い出したと思うけど、それだって3割くらいは自分が楽しむためだよ?』

「あ、あはは・・・・・・アイツ、マジでどういうキャラしてるんですか」










とにかく話しながらも前からまた弾丸の雨が襲ってきた。廊下は狭くて、避ける余裕は無い。

だからあたしはバカみたいに何度も・・・・・・何度も筆を振るってそれを防ぎ、少しずつでも進行していく。

あたしは恭文みたいに強くない。弾丸かい潜って近づいて攻撃なんて、出来ない。





だから・・・・・・バカみたいでも、出来る技と力を振るっていくしかないんだ。





大丈夫、一人だけじゃなくてみんながいるっ! だから、絶対に負けないっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!!」





藤崎さんが両手に銃を持った人形を何とか薙刀で斬って倒す。いや、消す。

結木さんや相馬君も、なんとかロボットや人形を退ける。僕もなんとか。

でも、ここまですごい状況になってるなんて・・・・・・正直思っていなかった。



フェイトさんやシャーリーさんの話し振りから一応の覚悟はしていたけど、これはひどいよ。





「・・・・・・なぁ」

「なに? 空海」

「恭文のやつ、もしかしたらよ」





相馬君はまたボールを蹴り上げて、ロボットと幻影の一団に向かって蹴り出す。

ボールはロボットの列の間でバウンドするように進行していく。

長いライフルみたいなのを構えていた黒い人形に向かって跳ぶ。



人形はライフルでそれを撃墜した。でも、まだ終わらない。

相馬君がまたボールを出して上に軽く蹴り上げている。

そこからジャンプして・・・・・・オーバーヘッドキックを叩き込む。



ボールは先ほどとは比べ物にならないスピードで人形へと着弾し、それをかき消す。・・・・・・これも幻影。





「ずっとこんな戦いとかやってたのかも知れねぇな」

「・・・・・・そうだね。死にかけた事とかすごく強い魔導師と戦ったりした事とか、何度もあるって言ってたしね」



だからこそのあの行動と強さ。間違っているはずなのに、否定出来ない説得力があった。

何かこう、強い何かを感じた。言いようの無い力強さが、僕と同じ体型のあの子の中にはあった。



「まぁその話は後でもいいでしょ。今は」

「やや達も頑張って、人形の本体を見つけるっ!!」



僕はロッドを握り締める力を強めた。・・・・・・あれが蒼凪君の強さの一つ。



「それが出来なくても、数を減らして上の恭文やあむちーの手助けをする・・・・・・だねっ!!」

「そうだね。魔法関係で一気に粉砕出来ない以上、そうするしかない。みんな、やるよ」

『了解っ!!』










大事な仲間であるランスターさんのたまごや会って間もないラン達のたまごを取り戻すために、あそこまでやろうとした。

何を言われても、どう思われても構わないという覚悟をしていた。少なくとも僕にはそう見えた。

頑ななまでに強くて、危うくて、だけどどこか輝きもある。そんな背中を、あの時の蒼凪君はしていた。





だったら僕だって・・・・・・王様である僕だって、負けるわけにはいかない。





なにより王様だからこそ、会ってから少ししか経ってない蒼凪君にあそこまでやらせて、このままなんてダメなんだ。






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あきゅろす。
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