小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第6話 『ジョーカーの名は・・・・・・エンブリオ』:2
それから、僕と唯世達は行動開始。急いで僕達の家に集合となった。
そして、そこで見たのは・・・・・・どこでどうしてこうなったのか、あむの姿だった。
あむは俯いて、ただただ落ち込んでいる様子。僕達も、正直声をかけ辛い。
次に目に入ったのは、自室のベッドに寝かされたまま全く動かないティアナだった。
「これは・・・・・・こころのたまごを抜かれている」
家の部屋の一室に置かれたベッドに寝かされているティアナを見て、キセキが開口一句言った言葉は、それだった。
「たまご・・・・・・つまり、ティアナのこころのたまご?」
≪キセキさん、ではティアナさんが目を覚まさないのは≫
「あぁ、本来あるべきたまごをなくしているからだ。
しかもこの娘の場合、よほどたまごを・・・・・・『なりたい自分』を大事にしていたようだな」
「そのせいで、普通にたまごを抜かれた時よりも症状がひどくなってるでち。
目を覚まさないで眠り続けるなんて、普通なら無いでちよ」
キセキとペペの言葉に、僕は右の拳を握り締めた。・・・・・・その理由が分かるから。
ティアナの夢・・・・・・執務官になりたいというのは、ティアナだけの夢じゃない。
ティアナのお兄さんの夢でもあるんだから。二人分の夢、大事じゃないはずがない。
「あの、ヤスフミ」
「ティアナ、こころのたまごを抜かれてるんだって」
「そんな・・・・・・じゃあ、ティアは」
「おい、恭文」
キセキが僕の前まで来て、声をかける。なので、一旦思考は中断して、キセキの方を見る。
「なに」
「この人に言っておいてくれ。たまごさえ取り戻せば目を覚ますから、そんなに心配するなと。
そしてこの娘のたまごは、僕と唯世達で必ず取り戻す。見つけて戻してあげれば、問題はないだろ」
「え?」
「いいから、言え。僕は同じ事を二度言うのは嫌いなんだ」
・・・・・・僕は、言われた通りにフェイトにキセキの言葉を伝えた。
すると、フェイトはキセキがどの辺りに居るのかと聞いてきたので、それを教えた。
「えっと、キセキ・・・・・・でいいよね」
すると、フェイトはそちらの方を見て優しく微笑んでくる。
「ありがと、私はあなたの事は見えないけど・・・・・・あなたの言葉、とても嬉しかったよ」
それを見てキセキは腕を組み、顔を赤くしてそっぽを向く。
「ふ、ふん。これくらいは王として当然だ」
「・・・・・・なんか、すっごい照れた顔してるよ?」
「そっか」
「照れてなどいないっ!!」
とにかく、ティアナのたまごを取り戻すのが重要項目か。・・・・・・いや、重要項目はもう一つだね。
”フェイト、ティアナはともかくとして・・・・・・あむ、何があったの? というか、なんでこの状態さ”
”あむさん、倒れてるティアを見つけて、連絡をくれたんだ。でも、ずっとこの状態で”
僕とフェイトは、部屋の端で、ただ立ち尽くすあむの方に視線を向けつつ、念話で相談。
「・・・・・・日奈森さん」
「あむさま。もしかして・・・・・・二階堂悠と、なにかあったんですか?」
ティアの肩に布団をかけながら、咲耶がそう言った。
その言葉に、全員の視線が咲耶に向いてから・・・・・・あむへ向かう。
「二階堂・・・・・・って、二階堂先生? え、どうしてそこで二階堂先生の名前が出るんですか」
唯世が聞いている間にもあむは、俯きながら拳を僕と同じように握り締めていた。
≪・・・・・・すみません、私達遅かったようです≫
「ティアが倒れたって連絡が来る直前に分かったんだ。
なぎ君やみんなを監視してたの、その二階堂先生なんだよ」
「・・・・・・二階堂先生がっ!? シャーリー、アルト、それ」
≪マジですよ。というか、どうデータを検証しても『監視』というレベルでずっとガーディアンの側に居るのは、あの人しか居ないんです≫
いや、確かにそれなら学校内で監視なんて出来るし・・・・・・おい、待て。
「唯世」
「うん、分かってる」
僕達は今日起こった事をフルスピードで思い出す。まず、あむはたまごを没収された。
それは誰に? 今噂の二階堂先生にだよ。うん、先生だからね。
そしてティアナがこの状態。今のあむを見るに、ラン達もあむの手元には無いと思われる。
「・・・・・・どうしよう」
僕達が結論に達する前に、あむが悔しさと苛立ちを隠そうともせず、呟いた。
「ラン達、さらわれちゃった・・・・・・!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・全員リビングに集まって緊急会議。というか、超展開過ぎて意味分からない。
今すぐに動き出したい気分だけど、アテも無く動いては意味がない。
まず僕達に必要なのは、状況の整理と冷静になる事。強いては事を仕損じるとも言うしね。
「それでシャーリーさん、二階堂先生が僕達を監視していたというのは、間違いないんですね?」
「うん、間違いないよ。・・・・・・ごめん。私達がもっと早く気づいていたら、なに手が打てたかも知れないのに」
「いえ、本来であれば分からなかったかも知れないんです。そこは、いいですから」
でも、なんで二階堂先生・・・・・・いや、二階堂が僕達を? なんにしてもまずそこでしょ。
「二階堂・・・・・・イースターの社員だった」
そこを考えようと思った時、その分かって当然の答えはあむが小さく呟く事で提示された。
だから僕だけでなく、全員が納得した顔になるのよ。
「つまりその事実を隠して、聖夜小に潜入していたんだね。
ね、唯世君。たまごは主に子どもが持ってる事が多いんだよね」
「はい。まぁ大人でも極たまに持っている人は居ますけど」
「基本的には、やや達みたいな子どもが持ってる事が多いんだ。でもフェイトさん、それがどうかしたの?」
「うん、どうかするんだよ。・・・・・・多分潜入していた理由の一つは、そこだから」
フェイトが真剣な表情でそう言うと、みんなの表情がまた変わった。
驚きと納得したものが入り混じった表情。だからフェイトだってそれを見ながら、強く頷く。
「・・・・・・そうか、確かに学校内に居るのは子どもがほとんど。これなら効率よく抜き取れそうなたまごを探す事が出来る。
あとは同時進行で僕達の動きも見張れるし、場合によっては邪魔だって出来る」
「というより・・・・・・見張ってきてたな。やたらと俺達に対して距離感が近いとは思ってたけど」
「でもでも、どうやってそれで学校に・・・・・・ううん、考えるまでもないよね。
現に恭文とティアナさんが年誤魔化して潜入してるんだもん」
つまり二階堂は、経歴関係を一切誤魔化した上で教師になってる。というか、本当に教師かどうかすらも怪しい。
「イースターが、二人と同じ手を使えないなんて理屈、ないよね?」
「ややちゃん、正解よ。・・・・・・少々惚けたところがあるけどいい先生だと思ってたのに。
どうやら私達、完全に騙されていたみたいね。察するにあれも演技かしら」
まぁこの辺りはいいでしょ。今大事なのは、二階堂がラン達とティアナのたまごを抜き出した上で逃亡してるって事だもの。
「・・・・・・あた・・・・・・の、せいだ」
全員がどうしようかと頭を働かせていると、声が聞こえた。
それは小さく後悔を含んだ声。その声を発した主に、全員の視線が集まる。
「あたしの、せいだ」
「・・・・・・日奈森さん、そんな事ないよ」
「ううん、あたしのせいだ。あたしがもうちょっとしっかりしてれば・・・・・・!!
今頃ラン達、どんな目に遭わされてるのかも分かんないのにっ!!」
なんか頭抱えて不埒な事言い出したあむに僕は歩み寄って、右手であむの頭を軽くコツンと叩いてやった。
それで、ようやく僕のほうを見る。泣きそうな顔で・・・・・・だけど、真っ直ぐに見てくれる。
「やす・・・・・・ふみ?」
「バカ、今それを言ったって仕方ないでしょうが。つーか、それを言ったらラン達がさらわれたは僕のせいだよ」
「え?」
「もちろんティアナのたまごが抜き出されちゃったのも、僕のせい。
・・・・・・僕は二階堂の監視に気づいてた。なのにここまで何も出来なかったんだから」
僕がもうちょっと強引にでも監視者に・・・・・・二階堂に迫ってれば、これは防げたかも知れない。
我ながらこういうのはらしくないと思うから、つい表情が苦くなる。まぁ、仕方ないのかな。
「ね、あむ。二階堂は没収したたまご・・・・・・ラン達を、あむの前に見せたんだよね」
「うん」
「こういう言い方をしたらあれだけど、あむを無力化するためにこんな真似したなら、そんな事する必要ない。
あむからたまごを没収した時点で、ラン達ごとたまごを叩き割ればいいんだから・・・・・・って、泣きそうな顔するなっ!!」
くそ、やっぱりやりにくい。こりゃマジで精神状態がよろしくないのか。うし、ちょっと気をつけよう。
「でも、そうはしなかった。これ、どういう事か分かる?」
「どういう事って・・・・・・どういう事かな」
「あむ、僕が質問してるの。だから、ちゃんと自分で考えて答えを出して。
どうして二階堂は、わざわざラン達をさらっていったの?」
僕が強めにそう言うと、あむは少し考えるような仕草を見せて・・・・・・ちゃんと答えを出した。
「・・・・・・ラン達を消したりするのが目的じゃない? あ、そうだよそうだよ。
それなら、恭文の言うみたいにとっくにたまご壊されてる」
「そうだよ」
少しだけあむの表情が明るくなったのは、与えられた答えじゃなくて自分で回答を導き出したから。
あむが自分で考えて答えを出したから、その手応えがあむの中にちゃんとした力をくれる。だから、表情が明るくなる。
「あ、そう言えば・・・・・・×たまもラン達も有意義に調理するからなんとかって」
なんだ、そんな事言ってたんだ。つまり・・・・・・アレか、ラン達をなにかの実験台にする?
なお、そこにはティアナのたまごも含まれてる。だったら、話は簡単だね。
「ならあむ、有意義に調理される前にあのメガネを叩き潰すよ。それでラン達を助け出せばいい」
僕がそう言うと、あむの表情がまた明るくなった。そしてクリクリした瞳で僕を見るので、僕は強く頷く。
「ラン達、助け・・・・・・出せるかな。だってあたし、今はキャラなりもキャラチェンジも出来ない。
恭文と違って、魔法も使えないし戦えない。そんなんで・・・・・・出来るのかな」
「助け出すの。ラン達は、あむのしゅごキャラ・・・・・・もう一人の自分でしょ?
あむが助け出さないで誰が助け出すのよ。大丈夫、一人じゃない。僕も手伝うから。・・・・・・ね、みんな」
僕がそう言いながら、フェイト達を見る。もちろん、唯世達の方にも視線を向ける。
まず大事なのは、あむを立ち上がらせる事。そのために必要なのは・・・・・・後ろ盾を作る事。
「時間も無いし、手数も欲しいんだ。悪いんだけどみんなも、手伝ってくれる?」
だから言い方は悪いけど、みんなをちょこっとだけ利用する。だってみんなは、やっぱりあむを見て強く頷くから。
「・・・・・・あなたにとって、ランちゃん達はとても大事な存在なんだよね。
だったら、絶対に助けよう? 私達も、出来る限り力を貸すから」
「フェイトさんの言う通りだよ。それに、僕達は生徒をあらゆるお悩みから守る・・・・・・ガーディアンだよ?」
「仲間の危機は、私達の危機だもの。あむちゃん、恭文君。
一緒にラン達を、ティアナさんのこころのたまごを取り返しましょう」
あむはいつの間にか目にたまっていた涙を右手で拭い、元気良く頷いた。
「・・・・・・うん、みんなありがと」
僕も、なでしこからウィンクされて・・・・・・小さく頷いた。心の中で、『ありがとう』とお礼を言いながらね。
だってさ、僕の扇動にわざわざ乗ってくれたんだもの。そこは本当に感謝しないと
「なら、すぐに捜索して二階堂を確保しないと。ヤスフミ、リイン、咲耶」
「分かってる、すぐに出るよ。・・・・・・アルト」
≪サーチならもう行っています≫
お、さすが我が相棒。なら、早速。
≪ですが、すみません。反応がつかめないんです≫
「え?」
≪アルトアイゼンの言う通りです。恐らく、正体を明かすに伴って自分の位置が分からないようにジャミングか何かを仕掛けているのでしょう≫
フェイトの手元のバルディッシュも乗っかるようにそう言ってきた。その言葉にフェイトの表情が僅かに曇る。
「それなら、居場所は」
≪申し訳ありません、Sir。現状の我々では掴めません。
しかし、デバイスである我々のサーチすら退けるとは≫
≪二階堂・・・・・・いえ、イースターはもしかしたら、×たまに関わる事で相当高い技術力を持っている可能性もありますね。これは油断できませんよ≫
くそ、一筋縄じゃいかないって事ですか。なら・・・・・・どうする? この街はぶっちゃけそれなりに広い。
アテもなく探すのは、無理だよ。その上ラン達の身の安全も考えると、余り時間もかけられない。
「あ、やや思いついたっ! イースターの本社に乗り込むってのはどうかなっ!?」
「ダメだよ、結木さん。シラを切られたらそれで終わりだよ? 仮に・・・・・・いや、無理なんだけどね?
仮に実力行使で潜入するしても、本社に居るかどうかも分からないんだし」
「あ、そっか。ならなら、どうするの? ランちゃん達の事もあるし、もたもた出来ないよ」
「ふふふ・・・・・・安心しろっ! 庶民どもっ!!」
あ、さっきまで照れまくっていた王様がなんか急に威張り出した。
「誰が照れていただっ!?」
「だから地の文を読むなっつーの。というか王様、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない。ここは王足る僕に任せるがいい」
ほう、つまりいい手があると。しかも相当に自信が持てる手なんだね。もう胸張りまくりで逆に逸れてるし。
≪さすが王様、やはり我々庶民とは頭の中身が違いますね≫
「ふははははっ! その通りだっ!! 崇めよっ! もっと僕を崇めよっ!!」
「・・・・・・ね、キセキ。崇めるから早く話を進めて」
こっちは時間がないの。1分でも早く探し出さなきゃいけないんだから、無駄な時間は食いたくない。
「おぉ、そうだったな。・・・・・・実はな、サーチとやらは我らしゅごキャラでも出来る」
「そうなのっ!?」
「あぁ。しゅごキャラ同士は気配ならなんとなく察知出来るのだ」
・・・・・・はい? いや、『なんとなく』ってなんですか。
「名づけて、なんとなくレーダー! それを用いて、ラン達を見つければいいだけの事っ!!
大丈夫っ! 僕と家来達が全力を尽くせば、ラン達もティアナさんのたまごもすぐに見つかるっ!!」
≪さすが王様、やはり我々庶民とは頭の中身が違いますね≫
「・・・・・・なぜだ。さっきと全く同じ言葉なのに、意味合いが180度違う感じがするんだが」
「気のせいだよ。ただアルトは、キセキがバカだって言いたいだけだから」
「誰がバカだ誰がっ! お前ら、極々自然に僕を侮辱するなっ!!」
やかましいわボケっ! それは僕が視線感じてたのと同じ事でしょっ!?
なんでそこでもう一回そこいくのさっ! もうちょい具体策をちょうだいよっ!!
「というか、それなら他にいい方法があるのかっ!?
お前達の相棒のサーチとやらも当てにならんではないかっ!!」
「うっさいわボケっ! つーか、なんかテレパシーとかなんとか・・・・・・もっと直接的なのはないわけっ!?」
「テレパシーとはなんだテレパシーとはっ! なんとなくレーダーとさほど変わりないだろうがっ!!」
「多少は変わりあるからねっ!? つーかジャミングっ! ジャミングされてたらレーダー無意味じゃないのさっ!!」
「それはテレパシーも同じだろうがっ! とにかく、安心しろっ!!
王であるこの僕とこの僕の優秀な家臣たちに、そんなものが通用するはずがなかろうっ!!」
なんか自信満々に言ってきたっ!? つーかその無駄にも見える自信の根拠は一体なにっ!!
お願いだから今すぐその詳細を、僕に詳しく話せー!!
「まぁまぁ。蒼凪君、落ち着いて。・・・・・・とにかく、今はそんなものでもないよりマシだと思うんだ」
あ、王様になんか突き刺さった。それで両手で胸元押さえてる。
「今はその超たよりない『なんとなくレーダー』に頼るしかないよ」
あ、また突き刺さった。うわ、痛そう。てゆうか、顔青ざめてるし。
「・・・・・・えっと、唯世さん。もしかしなくても意外とキツイですか?」
「リイン、よく分かったな。唯世の奴は、自覚無しで突き刺さる事を言う時があるんだよ」
「納得です」
とにかくその『なんとなくレーダー』を頼りに、僕達はなんとなく夜の街へ繰り出す。
そしてなんとなくラン達を捜索する事になった。フェイトとシャーリーは、なんとなくここに残ってティアナのケア。
なお、みんなへの自宅へはしっかりと遅くなるという連絡を、なんとなくした上で出立した。
本当はなんとなく明日とかにした方がいいんだろうけど、多分・・・・・・あむが精神的に持たないから。
こういう場合、結果はともかく周りが・・・・・・そして自分が動いているという感覚は大事。
それだけで、気持ちはだいぶ楽になる。唯世達もそれが分かっているのか、すぐに動いてくれた。
まぁあれだよ。多分、ティアナのたまごも二階堂が持っているはず。・・・・・・うし、ぶっ飛ばす。
別に僕はティアナとは現段階でも友達とか仲間とか素直に言える間柄じゃないけど、それでもこれは見過ごせないのよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・みんな、ここ?」
「あぁ、確かにしゅごキャラの気配を感じた」
「間違いないわ」
「居るぜ居るぜ。それも複数だ」
そして、それから数十分後、意外と簡単に見つかった。・・・・・・なんとなくレーダー、もしかして凄い?
「でも、人が多いですわね」
「そうですね。・・・・・・あれ? なんかカメラが」
「リインさま、ちょっと肩に乗ってください」
「あ、はいです」
咲耶がそのままリインを肩車して・・・・・・リインが人だかりの向こう側の様子を見る。
「あれ? 確かあの人テレビで・・・・・・あぁ、思い出したですっ!!
前に失礼極まりない占いをしてた人ですっ!!」
「あ、もしかしてそれって冴木のぶ子じゃない?」
「それですそれっ!!」
なるほど、その冴木のぶ子の番組か何かのロケだったのか。
で、この中に・・・・・・え、本当に居るの? まさかロケを見に来ているとは思えないんだけど。
でもリイン、ちょっと声大きいから。お願いだから、発言にはもうちょい気をつけてよ。
なんかこの辺りに居る人の大半がその冴木のぶ子のファンなのか、僕達の事ギロってにらみ出してるし。
「・・・・・・で、どうする? 王様」
「決まっている、僕と唯世達でこの周辺を探す」
「そうだね。蒼凪君とリインちゃんに咲耶さんは、日奈森さんと一緒に近くで待っててくれるかな」
その方がいいかも。僕達は『なんとなくレーダー』使えないし、もしかしたら二階堂がここから脱出する可能性もある。
つまり、僕達はこの中に居る(かもしれない)二階堂を待ち伏せる役。もちろん、遭遇する可能性は低いだろうけど。
「あと」
唯世が顔を近づけて、声を僕にかける。僕は軽く耳を近づけて、聞く体勢を整える。
「もし何か起こるようなら、日奈森さんの事、お願い。
今の日奈森さんは、キャラチェンジもキャラなりも出来ないから」
「・・・・・・分かった。そっちも気をつけてね」
「うん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕達四人はその人だかりから少し離れて・・・・・・待つ事になった。
なんというか、もう真っ暗だね。うぅ、見つからない様子だったら、急いでみんなを家に送らないと。
一応連絡はしてるから、大丈夫ではあるけどさ。でも、だからって遅くなり過ぎるのもアウト。
というか、僕もちょっと危ないのかな。ここでは一応小学生で通ってるわけだし。
「・・・・・・おじいさま」
「なに?」
「おそらくですが、コンサートの時に×たまを欲しがっていたのは」
「二階堂だろうね。いや、他に該当者居ないけど」
でも、何のために? それももうすでに孵化している、あむのたまごまで奪ってさ。
昨日の話通りなら、あむのたまごはエンブリオでもなんでもないよ? その上もう外に出てるし。
「それで私、少し思ったのですが・・・・・・たまごを何かに変化させようとしているのではないでしょうか」
「変化・・・・・・ですか?」
咲耶の言葉に、リインと僕も、あむも頭を働かせる。変化・・・・・・何かに変える?
「はい。まずこころのたまごを基本として考えてください。
こころのたまごは持ち主のありようで×が付き、×たまへと変化します」
「そして、極々たまにあむや唯世達のように『なりたい自分』・・・・・・しゅごキャラが生まれる」
「えぇ。それも言い様によっては、変化です。
そして、ガーディアンのみなさんやあの月詠幾斗の言い様を考えるに」
「・・・・・・なるほど、言いたい事は分かった」
僕は咲耶の方を見て、『やっぱりか』と思いつつも話を続ける。
「エンブリオ入手のためだね?」
「はい。今回ランさま達やティアナさまのたまご・・・・・・いいえ、×たま回収に手を出したのは、そのため。
もしかすると、今までとはまた違うアプローチからエンブリオを狙っているのかも知れません」
「でも、そのために人のたまごに手を出していいはずがないですよ。・・・・・・絶対、止めなくちゃいけません」
「そうだね、なんとかしないと・・・・・・って、その前にまずはラン達か」
このままじゃ、ラン達がその違うアプローチの被害者になる可能性がある。
場合によっては・・・・・・かな。戒めの事もあるけど、人の命がかかってるならそうも言ってられない。
「ラン達、大丈夫かな。ひどい事されてないかな」
「あむ、そこの辺りは心配ない。てーか、あむがそこは自分で答えを出したじゃないのさ」
「あ、そうだね」
ラン達は、二階堂の『調理』の大事な食材。それを下手に傷つけるような真似は、多分しない。
そこに改めて気づいたから、落ち込んでたあむも表情が明るくなる。
「大丈夫ですよ。きっと助け出せるです。リイン達も力を貸しますから」
・・・・・・ただしそれは、『調理』が始まるまでの間だけの話。もう既に有意義に使われている可能性だってある。
現時点で状況が不明だし、取り戻せるかどうかは別として今の状態を確かめる意味でも、早く二階堂を。
「・・・・・・・・・・・・アンタ、こんなところでなにしてるの?」
唐突に横から声がした。そちらを見ると・・・・・・金色のツインテールに気の強そうな瞳をした女の子が居る。
服装は白でレースが付いてて、普通に見るなら可愛い。そして、両隣にはガタイのいいお兄さんが二人。
「・・・・・・歌唄」
「え、恭文さん。今なんて」
「あなた、ほしな歌唄さまですか? ・・・・・・あぁ、やっぱり」
え、やっぱり? あの咲耶、なんでそのワケの分かんない発言飛び出すのかな。
というかほら、僕すっごい疑問だし。歌唄もなんかボケた顔しちゃってるし。
「そうだけど・・・・・・てゆうか恭文、なんでアンタがここに?」
いや、それはこっちのセリフ・・・・・・あれ?
「・・・・・・歌唄」
「なに?」
気づいてしまった。とても嫌な可能性に、すっごい気づいてしまった。その原因は、歌唄の腰にあるもの。
その腰にあるものは、昼間のあむの腰とすっごい符号する部分がある。
「その腰のものは・・・・・・あの」
歌唄の腰にはアクセサリーがついていた。それは、白と黒のたまごのアクセサリー。
それを見て頭がフル回転。まず、キセキ達はしゅごキャラの反応を掴んだと言っていた。
ただ、それがラン達かどうかは、もしかして『なんとなく』だから確定じゃない?
いやいや、それ以前に確かフィアッセさんが、歌唄と対談した時にも『小さな子達を見た』って言ってた。
で、話を少し戻すけど歌唄の腰・・・・・・昼間あむがラン達を装着してた時と、全く同じなのよ。
「歌唄、まさか」
「・・・・・・そうよ、私はキャラ持ち」
「・・・・・・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「やはりですか」
「だから咲耶、その『やはり』って何っ!? 僕すっごい気になるんだけどっ!!」
(第7話へ続く)
おまけ:二人のあまあまはちみつタイム:その3
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コンサート終了後、なんとか家に戻って来て・・・・・・というか、部屋に戻って来た。
それでフェイトと二人、パジャマ姿でお話。ベッドの上に座り込んで、僕達は互いを見つめ合う。
あ、あの・・・・・・その、なんというか公認浮気というかなんというか・・・・・・色々やりましたので、まずあれですよ。
「・・・・・・ごめんなさい」
「もう、大丈夫だよ。フィアッセさんとは友達・・・・・・だよね?」
そこは事実なので、全力で頷いた。・・・・・・ハグとかするけど。
「まぁ前にも言ったけど、フィアッセさん相手ならエッチな事抜きに限り公認浮気は認めてるし」
「浮気って言わないでっ!? そういうのじゃないからっ! 僕はフェイト一筋だからっ!!」
「ん、そこは信じてる。ヤスフミ、私の事いっぱいいっぱい愛してくれるから」
ストレートに笑顔と共にそう言われて、僕は一気に顔が真っ赤になる。というか、ちょっと熱い。
「ご、ごめんなさい」
「だから、謝らなくていいよ。ね、ヤスフミ」
フェイトがそう言いながら、僕を見る。僕と同じように頬を赤く染めて、どこか怒ったような色を含んだ瞳で見つめてくる。
「私、いっぱい・・・・・・いっぱいヤキモチ焼くんだ」
「うん」
「だからね、ヤスフミがフィアッセさんに会いに行ってる間、ずーっと妬いてたの。
私が恋人のはずなのに、どうして他の女の子のところに行くのかなーって」
フェイトが頬を膨らませて矢継ぎ早に言ってくる。それを聞いて、非常に申し訳ない気持ちになる。
「ただ」
「ただ?」
「だからって、ヤスフミの交友関係を縛るような真似・・・・・・したくないの。
私はヤスフミの彼女だけど、ヤスフミの繋がりを縛る権利はどこにもないから。大切な人、だよね?」
今フェイトが言った『大切な人』が、フィアッセさんの事を指しているのはもう言うまでもないと思う。
「・・・・・・そうだね、凄く大切。フィアッセさんの笑顔が、フィアッセさんの『歌』が・・・・・・大好きだから」
大好きな友達で、お姉さんで、わがまま仲間。それが僕にとってのフィアッセさん。
ずっと・・・・・・ずっと恋人とかそういうのじゃなくても、繋がっていけたらいいなぁと思う人。
そんな話をフィアッセさんにした事がある。そうしたら、自分も同じだと言ってくれた。
笑顔と一緒に言ってくれて、抱きしめてくれて・・・・・・なんか、嬉しかったなぁ。
「でもね、それでも妬いちゃうの。だから今日は、朝まで・・・・・・コミュニケーションだよ?」
「・・・・・・うん、朝までずっと・・・・・・ずっとっ!?」
そしてフェイトは、僕を見ながら笑顔で頷く。というか、期待の視線を向けてくる。
「え、なんでそうなるのさっ!!」
「そうなるの。寂しかったから、その分埋めて欲しい。言葉だけじゃなくて肌を重ねて、私への気持ち伝えて欲しい。
そうじゃないと、私、本当にヤスフミが私の事好きなのかどうか、分からなくなっちゃうよ。うん、不安になっちゃうんだよ?」
「え、えっと・・・・・・あの」
「嫌?」
いや、その・・・・・・嫌とかじゃなくて・・・・・・うぅ、その寂しげな視線はやめて欲しい。色んな意味で凶器だしズルいよ。
「えっとね、フェイト。その・・・・・・僕、今日ちょっとほしな歌唄関連でゴタゴタしたって言ったでしょ?」
「うん」
「それでね、その時に・・・・・・その、殴ったり蹴ったりして暴れてまして」
僕はフェイトの目を真っ直ぐに見ながら・・・・・・言葉を続ける。
僕の中に、どうしても躊躇う部分があると伝えなきゃいけないから。
「だから、そんな事したばかりの手で、フェイトとそうしていいのか、ちょっと躊躇うの。
フェイトの事、汚しちゃうんじゃないかって・・・・・・あれ、あのフェイトさん?」
どうして僕の頬に両手を添えて・・・・・・いひゃいー! ふひーっへひっはははいへー!!
「・・・・・・ヤスフミのバカ」
え、なんで膨れてるのっ!? あの笑顔からそこに行くのは、おかしいと思うんですけどっ!!
「もしかして魔法なしでの戦闘のすぐ後は添い寝もNG気味なのって、それが原因?」
「・・・・・・ふぁい」
・・・・・・うん、それが原因。なんか・・・・・・どうしてもそういう気分になれなくて。
だから触るのもちょっと躊躇われて・・・・・・って、お願いだから泣きそうな顔しないでっ!?
「気にしないよ? 私、汚れたりなんてしない。だって、ヤスフミの手・・・・・・汚れてなんかないんだから」
フェイトはそのまま、両手を離して僕の右手を掴む。ギュッと、優しく包むように握ってくれる。
フェイトの手の温かくて、ふにふにした感触が伝わる。そうしながら、真っ直ぐに僕を見る。
「そもそもこの手が嫌いなら、最初からハグや手を繋いだりもしないよ。
・・・・・・私、この温かい太陽みたいな優しい手が大好きなんだ」
優しい穏やか瞳で僕を見ながら、頬をほんのりと赤く染めながら・・・・・・微笑んでくれる。
それで少しだけ、気にしてた部分がほぐれた感じがする。
「あのね、精神的なものでどうしても無理なら・・・・・・添い寝だけでもいいよ。
とにかく今日は、ヤスフミに側に居て欲しい。離れたく・・・・・・ない」
「・・・・・・いいの?」
「いいの」
「なら、あの・・・・・・頑張る。というか、フェイトと一緒に寝たい」
そのまま少しだけ見つめ合う。そうして間をおいてから二人で目を瞑り、そっと唇を重ねる。
深い口付けじゃなくて、浅く、ただ重ねるような優しいキス。
触れ合う唇の柔らかくて温かくて甘い感触に胸が高鳴って、泣きたい位に切なくなる。
それからすぐに唇を離して、また見つめ合う。・・・・・・なんかだめ、身体の中が熱い。
「な、なんか・・・あの、ドキドキしてきた」
「そ、そうだね。私も、凄くドキドキしてる。ダメだね、私達。
何回もキスしたり、エッチな事してるのに、全然慣れない」
「うん、慣れないね」
いつもどきどきして、安心して・・・・・・幸せで、とても嬉しくなる。
「フェイト」
「うん」
「ありがと」
「ん・・・・・・いいよ」
なんというか、とても素敵な彼女を持ったと思う。僕、本当に感謝しないと。
振り向いてくれて、僕を男の子として見てくれて・・・・・・ありがとうって。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから布団の中で手を繋ぎながら、さらにお話。なんか、今日はそういう雰囲気だから。
フェイトとエッチな事していっぱい繋がるのも、確かに幸せ。
だけどそういう事をしなくても、ただ手を繋いで一緒に眠ってるだけでも・・・・・・幸せ。
「でも、あの月詠幾斗・・・・・・相当だったね」
まぁ、会話内容が仕事絡みなのがアレだけど。
ただ今日起こった事について話すと、どうしてもこうなるの。
「そうだね。かなりいい動きしてたし・・・・・・やっぱりキャラなり効果・・・・・・いや、マジックなのかな?」
「かも知れないね。よく考えたら、あむさんもヤスフミとリインの手を引っ張って数十メートル飛んだって言うし」
「もしかしなくてもキャラなり時の能力って、魔導師のそれとイコールなくらいに高いのかも」
今まではあむの戦闘的な能力が低い感じだったから、あんま気にならなかった。
そこの辺りは判断力とかそういう方向でだね。けど、今日の月詠幾斗を見るに・・・・・・相当だよね。
「あのね、唯世達が教えてくれたんだけど・・・・・・キャラなりってしゅごキャラの力を120%引き出すそうなの。
それでしゅごキャラは、宿主の未来への可能性・・・・・・『なりたい自分』そのもの。だからあんなに能力が高いのかも」
「可能性そのものかぁ。なら、やっぱりキャラなりした相手と戦う場合、その相手は私達にとっても相当な強敵だね」
「そうだね。相手にしてるのは、相手のそういう可能性そのものなんだし。でも・・・・・・次会った時は、絶対ぶっ飛ばす」
強く決意を燃やしていると、そんな僕を見てフェイトが少しおかしそうに笑った。
「ヤスフミ、なんか悔しそう」
「まぁね。キャラなりして能力上がってたとは言え、仕留め切れなかったから。
てーかあの横槍・・・・・・もしかして月詠幾斗以外に、そういうキャラ持ちが居るのかな」
「かも知れないね。というか、結界張ってなかったのは失敗だったかも。・・・・・・うぅ、難しいなぁ。
魔法の事とかがバレないようにすると、あむさん達以外の人が居るところで結界張るのは躊躇われるし」
あとはアレだね。あむや唯世達の反応を見るに、あの猫男とガーディアンの面々は知り合いっぽかった。
あむに至っては思いっきり名前呼び捨てだったし。名前呼び・・・・・・横馬理論だと、友達とかそういうのになるのかな。
ならなにか、あるのかな。その辺りも明日以降詳しく聞ければいいんだけど。
「ね、私今思い出したんだけど・・・・・・唯世君達はキャラなりしなかったよね」
「あー、そこも聞いてる。キャラなり出来るのって、ガーディアンのメンバーの中だとあむだけなんだって」
どうやら、その辺りの要素もあむがジョーカーとしてガーディアンに招かれた要因らしい。
確かにキャラなり出来てたまごが三つ・・・・・・特別な主人公キャラっぽくはあるよね。
「なら、あむさんは本当の意味でガーディアンの切り札なんだね。でも、エンブリオ・・・・・・イースター」
フェイトは、僕が報告した月詠幾斗が話してた単語を口に出して連ねてみる。連ねて考えて・・・・・・頭を横に振った。
「だめだね、今の段階だと何にも分からないよ。やっぱり、ガーディアンのみんなの話を聞かないと」
「だね」
「・・・・・・ね、ヤスフミ」
フェイトが引いていた顔の赤みをまた戻していく。まぁようするに、また顔が真っ赤になっていってるわけだよ。
「話は変わるけど、気持ち・・・・・・いっぱい伝わってる。繋いだ手、優しくて温かいから」
「・・・・・・仕事の話しながらこれは、色々問題かも知れないけどね」
「あはは・・・・・・そうだね。でも、恋人タイムには変わりないから、大丈夫だよ」
でも、どうしよう。なんかこう・・・・・・うぅ、恥ずかしい。
「・・・・・・したく、なっちゃった?」
フェイトが頬を更に赤く染めて・・・・・・そう一言言った。僕、どうやら相当分かりやすいみたい。
「なら、いいよ? 我慢、しないで欲しいな」
そう優しく言われて、僕は・・・・・・首を横に振った
いや、僕も・・・・・・結構抑えてる部分があるのは事実なんだけど、それだけじゃない。
「じゃあ、どうしたのかな」
「フェイトが隣で寝るの、やっぱり嬉しいなって。
というか、好き。一人で寝るの、やっぱり寂しかったから」
僕がそう言うと、フェイトは表情を崩して、嬉しそうな・・・・・・優しい笑顔を僕に向けてくれた。
「私も、嬉しいよ。ヤスフミと一緒に寝るの・・・・・・好き」
「なら、よかった。・・・・・・ね、フェイト」
「うん?」
「あのね、確かにしたくなっちゃったの。でもコミュニケーションは今日は無しでいいかな?
今日はこうやって、フェイトとゆっくりとしてたい。それでラブラブしたいんだ」
「ん、いいよ。あ、でも・・・・・・いっぱい私に触って欲しいな」
フェイトはそう言いながら、右手だけを離す。それからそっと、僕の頭を・・・・・・髪を撫でてくれる。
その感触が気持ちいいし、心地もいい。あとは嬉しくて、顔がほころんでしまう。
「髪や頭、それに頬とか、撫でて欲しい。私も撫でるから。
それでヤスフミを好きで・・・・・・独り占めしたいって気持ち。伝えていくね」
「・・・・・・うん」
その後、他愛も無い話とのんびりとした触れ合いを朝まで堪能・・・・・・二人で寝不足になった。
だけど、その・・・・・・幸せ。うぅ、やっぱり僕は基本を忘れてるのかも知れない。
なので、ここからはこっちもクライマックスで叫び続けようっ! 僕はフェイトが本命で、彼女なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そしてその翌々日。もうちょっと言うと、みんなに魔法の事を話した翌日の事。
僕とフェイトは早朝にコミュニケーションを兼ねて、二人で明け方の街を歩いていた。
なんて言うか、早朝ランニングである。ま、身体が資本なので。
そこで僕達はなんの因果か、遭遇した。そう、未知との遭遇だ。
「・・・・・・ヤスフミ」
「なに?」
「ほら、アレ」
フェイトが歩きながら指差す場所は、公園の中にあるバスケットコート。
そこにダンダンと何かが跳ねる音が聞こえる。
視線を向けてよーくそこを見ると・・・・・・朝もやの中、誰かがドリブルをしてる。
青いフードの付いたジャンパーを着て、早朝の日が差し出したばかりのコートを走り回っていた。
「朝から元気だねぇ」
「うん、そうだね。でも、楽しそう」
それはフェイトと同様に、僕も思ってた。だから視線は外さずにその言葉に頷く。
「ん、楽しそうでなによりだよね」
フードで顔は見えないけど、ボールを見事に操っている人物からとても楽しそうな雰囲気が出てる。
まるでこの状況が嬉しいと言わんばかりに、僕より少し身長が高めな人は動き続ける。。
軽快なドリブルでコートを走り回り、ボールを両手に持って・・・・・・高く跳んだ。
「はぁっ!!」
本当に高く・・・・・・高く跳んで、ダンクシュート。バスケットボールをゴールに叩き込んだ。
その時、フードが頭から外れる。そして青く潤いのある長い髪が、ふぁさりと舞う。
「・・・・・・あれ? 確かあの子、ガーディアンの」
「うん、なでしこだ」
僕達は顔を見合わせて、コートへと近づいていく。
その足音に気づいたのか、荒い息を吐きながらなでしこがこちらを見てびっくりした顔をしている。
「おはよ、なでしこ。いや、奇遇だね」
「・・・・・・・・・・・・え、えっと、あの」
「あの、おはよう。なでしこさんも早朝の運動かな」
「そ、そんな感じです」
なぜだろう。若干反応が重いような。いつもの優雅と言うか飄々としたイメージと違う。
「ね、なでしこ。どうした? なんか変だけど」
「・・・・・・あの、ごめん」
「なぜいきなり謝るのさ」
「僕」
え、なんでいきなり一人称が僕? ちょっと待って、昨日別れてからいきなり僕っ娘に路線変更?
もしかしてミキに憧れたとかかな。青繋がりで、そうなっちゃったのかな。
「藤咲なでしこじゃ、ないんだ」
「「・・・・・・はい?」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「藤咲・・・・・・なぎひこ君。なでしこさんの双子のお兄さんだったんだ」
「はい。えっと、改めまして。藤咲なぎひこです。
恭文君、フェイトさん、なでしこがいつもお世話になっています」
「あ、ううん。むしろお世話になってるのはこっちだから」
頭を捻りつつも僕達は近くのベンチに座って、詳しくお話を聞いた。
・・・・・・なんでもこの子は、海外に留学しているなでしこの双子のお兄さんらしい。
名前はなぎひこ・・・・・・あの、ご両親? いくらなんでも名前が安直過ぎるんじゃ。
もうちょっとだけ、個性を持ってつけてあげましょうよ。
「でも、なんでここでバスケなんて?」
「ここでバスケしてたのは・・・・・・恭文君達と同じだよ。早朝の運動。
ほら、朝から身体を動かすと、やっぱり気持ちいいでしょ?」
「なるほど。確かにそれは同感だよ」
なぎひこはなでしことと外見も髪の長さも同じ。だけど、なでしことは違う。
こう・・・・・・男特有の空気と言うか雰囲気があるから。
でも、話しやすいのは変わらないかな。なぎひこにも、通じ合える感じがする。
「・・・・・・どうしたの?」
「ううん、なんでもない。なでしこによく似てるなぁと思って」
性別が違うって事は二卵性だよね? 普通二卵性の双子って、似ない事が多いって言うのに。
「それはまだ僕となでしこが子どもだからだよ。年齢を重ねれば、きっと違いが出てくると思うな」
「そうだね。男の子は特に身長が・・・・・・あの、ヤスフミ?」
そうだね、身長が・・・・・・ねぇ。あははは、自業自得とは言えやっぱり辛いなぁ。
「・・・・・・なでしこから聞いてた通り、身長がコンプレックスなんだね」
なでしこ、おのれは僕をどういう風に話してる? いくらなんでもおかしくないかな。
「あ、そうだ。ね、恭文君、せっかくだから・・・・・・僕と1勝負してみない?」
「勝負?」
「そ。1on1で、時間が許す限り。バスケットのルールは分かるよね?」
その言葉に僕は頷いて答えた。バスケのルールなら、僕は分かる。
「相手をタックルなりでぶっ飛ばして、ボールを持ったまま突進してタッチダウンすればいいんだよね」
「そうそう・・・・・・って、全然違うっ! それはアメフトだよっ!!」
「大丈夫」
僕はサムズアップして、不安げななぎひこを安心させるように言葉を続ける。
「僕は毎週アイシールド21は立ち読みしてたから」
「だからそれはバスケットじゃないからねっ!? というか、立ち読みしないで買いなよっ!!」
「ごめんごめん。大丈夫だって、SLAM DUNKはちゃんと読んでるから」
もちろんこれは冗談。さすがに僕はそこまでバカじゃない。
大丈夫、バスケットのルールくらいは分かる。実際にフェイトやなのは達とやった事もある。
なにより、僕はSLAMDANKが大好きなんだ。アニメ版の主題歌の中は全部歌えるのだ。
そしてその中で好きなのは、『絶対に誰も』と『きらめく時にとらわれ』なんだ。
「いや、だからどうしてジャンプ作品にいくのさ」
「なぎひこ、一体なに言ってるんだよ」
「いや、君の今までの発言が『なに言ってる』んだからだよねっ!?」
そんな事はない。きっとそれは気のせいだよ。
というか、ジャンプは『友情・努力・勝利』がスローガンだし。
「ジャンプには『友情・努力・勝利』という男の子が大好きな三大原則があるじゃない。
男の子はみんなジャンプを見て成長していくんだよ。なぎひこだって、ジャンプ好きでしょ?」
「まぁね。最新の話が留学先だと読めないのが残念なくらいだよ。
僕、まさかNARUTOがあんなとこまで進んでるとは思わなかった」
なんて軽く言いながら、ボールを持ったままなぎひこが立ち上がり、軽くドリブルを始める。
「とにかく、それなら問題ないね。早速始めよう?」
「うん。フェイト」
「私はここで見てるから、二人で楽しんで来ていいよ。あ、でも怪我だけはしないようにね?」
「「はーい」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・あ、恭文君」
そして時は過ぎて登校時間。いつものように学校目指して歩いていると・・・・・・なでしこに後ろから声をかけられた。
なでしこは小走りに後ろから走りよって来て、僕の隣に来た。
「おはよう」
「うん、おはよ」
軽く笑顔で挨拶を返すと、なでしこも同じ感じで返してくれた。
「あ、そう言えば」
「うん?」
「今朝はありがとね」
・・・・・・なにが? 僕、今朝はなでしこに会ってないじゃないのさ。
いや、待てよ。一つだけ思い当たるふしが・・・・・・あぁ、なぎひこの事か。
「あ、これはなぎひこの事よ。あなたと思いっきりバスケ出来て、楽しかったって言ってたわよ?」
「そっか」
まぁ、思いっきり・・・・・・暴れたねぇ。二人して汗だらけになったもの。
あ、でも僕は息切れてなかったから、いいか。さすがに男の子とは言え、トーシローに体力で負けるのはねぇ?
「それでね、もうなぎひこはお昼には留学先に帰るんだけど」
「そうなんだ。うーん、残念だな。3ポイントシュートで逆転された借り、返してないのに」
「それはまた今度会った時に返してもらえれば大丈夫よ。・・・・・・ね、恭文君」
なでしこが、少しだけ真剣な顔で僕を見てきた。でも、そんな顔になる理由が今ひとつ分からなかった。
けど僕は同じような感じで、なでしこに視線を返す。なでしこはそれを受け止めながら、言葉を続けた。
「また、なぎひことバスケしてくれる? というより、仲良くしてくれると嬉しいな。
なぎひこは結構あなたの事、気に入ったみたいだから」
「うん、いいよ。というか、しなきゃ借りを返せないじゃないのさ」
「それもそうね。でも・・・・・・ありがと」
そうして二人で学校への道を歩いていく。なんかこう、色々不思議な感じを持ちつつだよ。
なお、翌日の学校新聞に僕達の熱愛が報道されたのは、気にしない方向で行く。
というか、話したくない。だってだって・・・・・・リイン経由で話を聞いたフェイトの機嫌が、ちょっと悪くなったし。
うぅ、僕は本当になにもしてないのにー! 普通に登校時に偶然会って話しながら歩いただけなのにー!!
(本当に続く)
あとがき
古鉄≪さて、原作で言うと3巻辺りのお話ですね。エンブリオというジョーカーの存在。そして、それの取得のために動き出したイースター社の刺客。奪われてしまったランさん達やティアナさんのたまごなど、様々な要因をはらんで次回に続きます。
というわけで、そんなあとがきの本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫
スバル「えっと、一応しゅごキャラクロスにもちょこっとだけ登場予定のスバル・ナカジマです。あ、実はあとがきでは初登場っ!!」
(その言葉にファンファーレがなる。・・・そう、実はあとがきでスバルが登場するのは、意外にも今回は初めて)
古鉄≪ただ、エリオさんはまだなんですよね。ティアナさんは本編の22話。キャロさんは同じく本編の25話に登場してるんですが≫
スバル「エリオ、登場したがってたよ? 出してあげなよー!!」
古鉄≪だが断る≫
スバル「なんでそうなるのかなっ!? きっとすごく泣いてると思うんだけどっ!!」
(どこかで誰かの泣く声が聞こえるけど、きっと気のせいだ)
スバル「・・・というかさ、アルトアイゼン」
古鉄≪はい?≫
スバル「ティア、大丈夫なの?」
古鉄≪その辺りも次回です。さて、かく言う次回はイースターとの正面衝突必死な展開。そして、その中で切り札が・・・あ、切られませんね≫
スバル「なんでっ!?」
古鉄≪いや、分量的な理由でそこまでいけないかなぁと・・・。とにかく、次回もお楽しみにと言う感じで、今回はここまでっ!
お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫
スバル「スバル・ナカジマでしたっ! それでは・・・またですっ!!」
(そうして、二人で笑顔で手を振る。その様子を映しつつ・・・カメラ・フェードアウト。
本日のED:ティアナ・ランスター(中原麻衣)『二人の翼』)
唯世「・・・人、多いね」
キセキ「そうだな。だが、急がなければ・・・。そう言えば、唯世」
唯世「なに?」
キセキ「恭文達には月詠幾斗やほしな歌唄の事、話さなくていいのか?
もう無関係と言うわけでもないだろう。恐らくだが、あの時恭文に攻撃をしかけて月詠幾斗を助けたのは」
唯世「そう、だね。・・・とりあえず、現状維持で」
キセキ「・・・分かった。なら、しばらくの間は僕も黙っておく事にしよう」
唯世「ごめんね、キセキ」
キセキ「謝るな。まぁ、王は人の気持ちに配慮する事も必要という事だ。よーく覚えておけ」
唯世「うん、覚えておくよ」
(おしまい)
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