[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory50 『ジュリアン・マッケンジー』


第七ピリオドが終わって、マシタ会長との話し合い……は予定外だったけど、それも無事に終了。

ただその中で恭文さんは、一つ提案をしてくれた。


「――第九レースのやり直し?」

「そう。不正があった上で決着したレースだし、やり直しを要求するくらいは許されるでしょ」

「てめぇ……」


レイジは視線を厳しくするものの、すぐにそれを収めた。


……恭文さんもレース出場者で、僕達を散々邪魔してくれた。

その上で負けたから、やり直しは恭文さんにもメリットがある。

しかもビルドストライク、大破したからね。試合が明日とかだと……もう。


だからこれには矛盾もある。でもね……そういうのは全部分かった上で、大人として提案してくれたんだ。

僕達にはそういう道もある。そう声を上げることは許されるし、誰も責めないってさ。


僕もレイジと同じだ。怒りとか、侮辱されたとか、そういう感情はなかった。


「実際問題、死人が出かけているんだ。Cも広域指名手配がされているし、トラブル自体は隠せるレベルじゃない。だよね、マシタ会長」

「え!?」

「……もしこの一件を覆い隠したままにしたら、PPSE社……更に株価が下がるだろうなぁ」

「それはすっごく困る! ……よし!」


マシタ会長は意を決した様子で、拍手を打つ。


「この場で確約できるのは、大会運営委員会と協議することだけになるけど……大丈夫かなぁ」

「いりません」

「いらねぇよ」

「ふぇぁぁぁぁぁ!?」


素っ頓狂な悲鳴を出しながら、マシタ会長がずんずん詰め寄ってくる。


「え、いいの!? 確かに結果までは約束できないけど……妨害されたんだよね、君達!」

「別に泣き寝入りするわけじゃありません。ちゃんとした調査と、事実公表は約束していただいたわけですし」

「う、うん! それはもちろん!」

「俺達もいるしね。なぁ、タカ」

「あぁ」


ハマの伝説なんて言われている人達も、そこは全力を尽くすと……笑って約束してくれる。


……それだけで十分だった。僕達の声を、見たものを信じて、不正を見過ごさず追いかけてくれる。

矛盾しているのも分かった上で、僕達に道を示してくれた人もいる。

僕達の感じたことは殺されない。ちゃんと守られた上で、一つの声として広げられる。


それだけで十分だった。何より今日の敗北は、Cのせいにはできないから。


「今日のオレ達は、面倒な奴らをぶっ飛ばせないくらい……弱かった。それだけでいいんだよな、セイ」

「あぁ」

「そ、そう……じゃあ、いいの?」

「はい」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


改めて事実公表と警備強化、事件調査を約束してもらって……本当にそれだけで十分。

だから今も、手を動かせる。それすらなかったらもう、心がへし折れていたかもだけど。


そう、あれからすぐ部屋に戻って、ビルドストライクの修復作業に入った。


「セイ、ビルドストライクは」

「予備パーツが足りない。ここからは自転車操業だ」

「……すまねぇ」

「謝らなくても大丈夫。というか、僕の作戦ミスもあるし」


レイジの方は見ず、とにかく手を動かし続ける。時間が惜しいどころか、本当に足りない。

明日一日はフルで作業……あ、組み合わせ発表だけは見ておかなきゃ。そのついでに買い出しもしようっと。



「というわけでレイジ、次のバトルは”ミーティア”を使うよ」

「いいのか! 決勝トーナメント用の切り札だって言ってただろ!」

「それに参加できるかどうかの瀬戸際なんだ」

「……だな」

「とにかく今は休んで。レイジにも万全の状態で挑んでもらわないと」


そう思っていると、レイジの気配が右から左に移動。そのまま外へ行こうとする。


「ちょ、レイジ!? どこに」

「夜食、必要だろ。適当に見繕ってくる」

「……ありがと」

「リクエストはあるか?」

「じゃあ……玉子サンド」

「分かった」


そのまま出ていくレイジを見送ってから、改めて作業に没頭。


今日の敗北はレイジだけのせいじゃない。完全に僕の作戦ミスでもある。

決勝トーナメント用にって、ミーティアを温存したのは間違いだった。


「いや……それ以前の問題か」


今日のレース……その試合映像を、モニターに立ち上げつつ振り返る。

爆煙と散弾、生まれゆく杭(くい)に晒(さら)されるビルドストライク。

そこにミーティアの影を重ねて、表情を顰(しか)めてしまう。


「たとえミーティアを持ちだしていたとしても、これじゃあ……!」


でも……ビルドストライクも、ミーティアも、今日のアレで改良プランを思いついた。

まずは一つ、変わることができると思う。そのためにも頑張らないと。


決意を固めつつ、試合映像を停止。出場選手の総合成績表に切り替える。


「今日の第七ピリオドで、大幅な順位入れ替えがあった。全勝組から落ちた僕や恭文さん達。
その下で確実に勝利を重ねている、チーム・ネメシス、ルワンさんのような一敗組」


特にチーム・ネメシスとルワンさんの勝利は大きかった。

あれで全勝組からの離脱者が多く出て、この状況に繋(つな)がっている。


「父さん」


……本当に負けられない。

次の試合、誰が相手だろうと勝つしかない。


「世界って……凄(すご)いね」


正真正銘の土俵際なんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ベイカーちゃんを呼び出す……ゴーストボーイ達が帰ってから、すぐ呼び出す。

それでかくかくしかじかと、状況を説明した結果……ベイカーちゃんの顔が真っ青。


「ちょっとベイカーちゃん、どういうこと!? B.O.Bなんて危ない奴らに関わっているなら、ボクは止めたからね!? でも聞いてないからね!」

「わ、私は……何も……」

「知らなかったじゃ済まないよ!? あれで変な刑事二人も入り込んだし!
それどころか静岡(しずおか)県警や警視庁、特殊犯罪対策課なんて人達も出てきたからー!」

「で、ですが御安心を……セイ・レイジ組は脱落寸前。ゴーストボーイも一体どうなるか分かりませんし、カテドラルについても所在がハッキリしたなら」

「話を逸(そ)らすなぁ!」

「……仕方ないでしょ!? 知らなかったんだからぁ!」


逆ギレしたよ! というかやめてよ、泣きたいのはボクなの! ボクはどういうことかって聞いているだけなのー!


「と、とにかく大丈夫です! PPSE社との繋(つな)がりはバレないよう、手は打っています! こちらへの被害は皆無かと!」

「本当に!? 本当だろうね! さすがに今回は、いつものドジじゃ済まないよ!?」

「それより会長、レイジ少年は……あなたについて何か」

「何も……覚えて、ないらしい。でももし、思い出したら……!」


そっちもあったぁ! あの少年、激おこカムチャッカファイヤーだったもの! 怖いよ、やっぱり怖いよ!


「もし思い出したら、彼は」

「私の秘密を……プラフスキー粒子の正体も全て露見する! そうなれば」

「――!」


そこでベイカーちゃんが険しい顔になり、慌てて駆け出す。

私の脇を抜けたかと思うと、窓を開けてキョロキョロ。


「ベイカーちゃん?」

「……何でもありません。気のせい……みたいです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……屋根から下ろしたロープに掴(つか)まり、窓の上に身を潜ませる。

おかげでベイカー女史には気づかれなかったようだが……しかし、気になる話が幾つか出てきたな。

この忍者装束のステルス効果に感謝しつつ、さっと屋根に上る。


「来たばかりだが、今日のところは撤退か。だが有意義な二十秒ではあった」


やはりボクの睨(にら)んだ通り、PPSEのマシタ会長達が鍵。彼らは当然ながら、製造技術の秘密を握っている。

問題は……それにイオリ・セイのパートナー、レイジが絡んでいる様子。

まずは彼の正体、出身地を探るところからだろうか。そうすればマシタ会長の情報も集まるやもしれん。


あと気になるのは……なぜここまで極秘にするか。やはり粒子被害とでも言うべき状況を危惧して?

それならまだいいが……彼らを見ていると、そこまで配慮ある大人とは思えない。もう一幕ありそうだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第七ピリオドが終了した、その日の夜――カテドラルのメンテナンスをしながら、こっそり聞き耳を立てていた。

そう、今日マシタ会長の現地宅へお邪魔したとき、コッソリしかけたサーチャーごしに……秘書との会話を。


≪やっぱりCを雇い入れたのは、マシタ会長達ですか≫

「だと思ったよ。明らかに怪しいもの、アイツら。しかも会長の方は、レイジについて知っていた様子」

≪察するにアリアンから逃げおおせた犯罪者か何か。どうします? レイジさんには≫

「今は迷うなぁ。決勝トーナメント前だし……試合が終わってから、ちょろっと話そうか」

≪そうですね。私達も集中したいですし≫

「……プロデューサー、それって盗聴じゃ」


するとなぜか呆(あき)れる千早、りん、ともみ……みんな、部屋は別々なのに、こっちに集まっていた。


「違うよ千早、シーン転換の垣根を跳び越え、奴らの思考をのぞき見ているんだよ」

「そんな超常的描写はありませんでしたよ!?」

「じゃあ神の視点」

「メタいです!」

「ねぇ、恭文さん……まさか事件捜査では毎回これとか」


そんなことをともみが言ってきたので、作業台に視線を集中。メンテナンスに没頭していく。


「お願いだから答えてー!」

「ともみさん、証拠にはならないですけど、とっかかりが掴(つか)めればいいのです」

「リインちゃんまで認めるって!」

「……まさかあの、かっこいいおじ様達も……いや、まさか……まさかなー」


おぉそうだ、鷹山さん達にも連絡しておこうっと。

今回は荒事もほぼ放り投げるし、取っかかりは共有しないとね。

……あとはCの身柄さえきっちり押さえれば、繋(つな)がりを辿(たど)ることは難しくないはずだ。楽しくなってきたねー。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory50 『ジュリアン・マッケンジー』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


午前十一時――第八ピリオドの対戦表が出されて、ピッタリ一時間後。

第八ピリオドは一対一のバトル。なおこれについては、二日間に分けて行われる。

明日は第二十五戦まで行い、明後日(あさって)はその続き。


去年、フェリーニとグレコさんがやったみたいな、壮絶な延長戦もあり得るから。

しかし三代目メイジンとジュリアン……念のためセシリアにも連絡したところ。


「まさかおのれと大尉が呼び出したとは……!」

「メディーックってなんだよ! ”私は馬鹿です”の略称か!」

「それは言わないでください!」


准将が入院したと聞いて、近隣の総合病院へ駆けだした。

そうしたら……御覧の有様だよ! 何、仮病でチャーター便まで用意させるって!


「准将にどうしてもと頼まれまして。いろいろと御恩もあるので……うぅ」

「で、ジュリアンは」

「食肉工場へ運ばれる豚さんのように、困惑した瞳で出ていきました」

「ですよねー!」

「しかし、准将はなぜ」


そう言いかけるものの、シオンは納得した様子で髪をかき上げる。


「いえ、聞くまでもありませんでしたね」

「でもタイミング良すぎだよなぁ。また上手(うま)く組み合わさったというか……お」


中庭のベンチに座り、箱を片手に悩むジュリアンがいた。


「……ズルいですよ、グランパ……しかもバトルは明日って……使うガンプラもこれって……!」

「ならまた放り出せばいいのに」

「さすがに今回は無理だぁ! ……あれ?」


頭を抱えたジュリアンが、左脇から近づく僕達に気づき、一気に破顔。


「ヤスフミ! シオン達も……久しぶり!」

「久しぶり、ジュリアン!」


ジュリアンは箱を大事に抱えながら、思いっきりハグ。英国(えいこく)式の挨拶なので問題ナッシングです。


「お元気そうで何よりです、マッケンジーさん」

「というか、少し痩せたか? おでんを食べろ、おでんを」

「……コイツは見習わなくていいぞ。しかし、お前も災難だなぁ。三文芝居でチャーター便って」

「だって、ホビー&ホビーの発売日が分からなくなったって……!」

「それが一番大きいのかよ!」

「グランパはそれとガンプラの発売日だけは、絶対間違えない人なんだ!」


わーお、凄(すご)いガンプラ馬鹿だと力説されたよ。そうなると、僕達には納得するしかないわけで。


「で、どうするか迷っていると」

「かなり……しかも相手は三代目メイジン、だろ。となれば」

「その正体はユウキ・タツヤです」


ジュリアンは神妙な顔で頷(うなず)き、分かっていたと……そうして静かに座る。


「彼は、二代目の思想に取り込まれたのだろうか」

「教えてもいいけど、どうする」

「……いや、今はいい」


僕達からの念押しは、タツヤの名前だけで十分だったらしい。

ジュリアンは蓋を開け、箱の中身に苦笑する。


「それはボクが、確かめなきゃいけないことだ。……取り込まれたのなら、それはボクが逃げた選択の上……タツヤはボクの身代わりになった」


どうやらジュリアンの腹は決まったらしい。その瞳は静かに燃えて、中の相棒を見つめていた。

それは白と赤にカラーリングされた、ガンダムF91――ジュリアン・マッケンジー、ガンプラ塾時代の愛機。


<ガンダムF91イマジン>は、あのときと変わらないまま、箱の中で鎮座されていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


中庭に集う、若人としゅごキャラ達……その様子に一応の安堵(あんど)はするものの。


「ふふふうーふふーん♪」


准将はベッドで休みつつ、模型紙を楽しげに見つめていた。それにはつい困り気味。

なお見ている雑誌は『E.F.S.F鑑集め』という、割とピンポイントなものだった。


「よろしいのですか、准将」

「〜♪」

「孫を騙(だま)すような真似(まね)をして……しかもあんな、下手にバラして」

「よいも悪いもない。ジュリアンには、メイジンと向き合う時間が必要だからな」

「相変わらず強引ですなぁ」

「戦局を見極めたと言え」


確かに、それは的確だった。どうやらジュリアン君には、戦う理由ができた様子。

……明日のバトル、相当荒れるぞ。タツヤ君にとっても彼は、越えなくてはいけない壁だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくん……昨日のアレから、連絡が取れない。

少し心配になって、部屋を訪ねることにした。差し入れにクッキーも持ってきたし、これで。

そう思って入り口の前に立ち、ノックしようとすると。


「やめとけ」


左横から声をかけられた。びくりと震えながらそちらを見ると、レイジくんが……困り気味に立っていて。


「レイジくん」


そのまま手招きされつつ、選手村のレストランへ。なおクッキーは、レイジくんがバリバリむしゃむしゃと……!


「相当集中してるんだよ。声をかけるのも躊躇(ためら)われるくらいに」

「やっぱり、スタービルドストライクが……あんなに壊れたから」

「それもあるが、オレ達の試合は明後日(あさって)だろ? その間に改良もしておきたいんだってよ」

「……爆弾なんて、使われなかったら」


そうだよ、あんな卑きょうなことさえなければ……そもそも、イオリくん達は危ない人に妨害されたわけで。

それでレースのやり直しもないなんて、おかしい……絶対におかしい!


「絶対……絶対……イオリくん達が勝ってた! 最初の、恭文さんの妨害だってなければ!」

「……ヤスフミも、あのレナート兄弟って奴らもマジだった」


でもレイジくんは……向かい側に座るレイジくんは、それをつまらなそうに一蹴した。


「そしてCとか名乗る奴に……オレ達は守られた」

「守られ、た?」

「セイの計算では、あの……核だったか。それの爆発で一番威力が高くなるのは、湖の中心部らしい。
爆発タイミングから見て、水蒸気爆発ってのも込み……まともに食らえば木っ端みじんだった」

「で、でもイオリくん達は」


レイジくんは、悔しげに拳を……テーブルに叩(たた)きつけた。


「オレ達はその手前で引きずられた上、野郎のガンプラが盾になってくれたからな……!」

「……!」


その言葉に息を飲んだ。

危ない人がいなかったら、レイジくん達は……迫ることすらできなかった?


「だったら余計に……やり直すべきだって、思う! 爆弾とか、あんな妨害も駄目……あんなの、ガンプラバトルじゃない!」

「なぁ、チナ」

「今度は正々堂々、全力で勝負するの! 今から大会の偉い人達にお話ししようよ! そうすれば」

「それをアイツやオレに言って……お前、どうしたいんだ」

「……!」


わたしは今、言った。やり直すべきだって……今度は正々堂々、ちゃんと戦うべきだって。

だったら爆弾なんて、禁止すればいい。そう言った……でも、それは届かなくて。


「お前がどう思おうと勝手だが、アイツの邪魔だけはするな。……いいな」


レイジくんはそう言って、クッキーとわたしを置き去りに歩き出す。

わたしはまた……戦う人の邪魔を、した? イオリくんの、邪魔を……。

分かっているのに。分かった、はずなのに。みんな真剣で、楽しみ方が違うって。


でもあんなに頑張ったイオリくんが、レイジくんが負けたことが……どうしても、受け入れられなくて。

また自分の無力さと惨めさを痛感しながら、涙をこぼす。


置いていかれる……私はまた、あの子に置いていかれる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっちは午前中、どこかへ出かけていたようだ。というか筋トレ……鍛え直し?

軽く行き違いになったが、差し入れは無事に渡した。明日のバトルも気合い十分なようで、一安心しつつ。


「ダーグ、選手村にもベースがあるよね!」

「だな! ……もしかすると」

「有力出場選手とバトル!?」

「あるかもしれない!」

「いいかもしれない!」


レヴィと盛り上がりながら、選手村のバトルルームをちょっと覗(のぞ)く。

すると金髪のイケメンが、赤白のF91を調整していた。

知らない顔だが、シミュレーションモードも立ち上げるところらしい。


なのでそこへ飛び込み。


「「バトルじゃあ!」」

「……え?」


レヴィと二人、Vサインで挨拶。


「いや、いきなり悪いなぁ。実は知り合いの激励に来たら、ちょっと見かけたもので」

「ねね、シミュレーションより実戦だよ! バトルしようよ!」

「え……ですが、御迷惑では」

「いやいや、ちょうど俺達も血が疼(うず)いていてなぁ。もちろん破損がないよう、シミュレーションモードでも構わないが」


男は数秒思案するが、笑顔で頷(うなず)いてくれる。


「ありがとうございます。では……もしよろしければ、通常モードでのバトルをお願いします」

「あぁ、構わないぞ! レヴィ」


俺はユニコーンを取り出し。


「壊れても泣いちゃ駄目だよ? ……行こう、スプライト!」


レヴィもスプライトを取り出し笑う。……だがレヴィはそこで、気になったのか軽く前のめり。


「でもこのF91、大丈夫なの? 間接がクタクタ」

「それなら大丈夫、元々こういう仕様だから」

「ふーん……って、自己紹介が遅れたね。ボクはレヴィ・ラッセル!」

「ダーグだ」

「ジュリアン・マッケンジーです。ではラッセルさん、ダーグさん……よいバトルをしましょう」

「「おう!」」

≪BATTLE START≫


――そうして俺達は愛機とともに、宇宙空間へ飛び込む。

二対一という状況……それに何となく嫌な予感がしたので。


「レヴィ、気を引き締めろ」

『……分かってる』


悠然と……身動き一つせず構える、F91。

そしてあのクタクタ間接を『仕様』と言いのけたこと。

更にF91自身の、ぱっと見でも分かる完成度――。


コイツは、とんでもなく強い。その事実に血が沸き立ちながらも、揃(そろ)ってアームレイカーを押し込んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


旦那様が病院から戻ったので、妻としてめいっぱいの激励。

それでダーグとレヴィは血が騒いだのか。


――バトルしようぜ! ……誰かと!――


とか言って、派手に突っ走っていきました。

そうしたらレヴィがお財布を忘れていたので、アミタと追いかけたところ。


「あれ……凄(すご)いイケメン!」

「……キリエ」


お姉ちゃんの呆(あき)れた顔は気にしない。だって……美形よ!? 旦那様には負けるけど!

ただわたし達とは逆方向だし、気にせずに右の通路へ。

そのまま外を目指し、まずは階段へ……そこで、強烈な引っかかりを覚えた。


「キリエ、どうしました?」


お姉ちゃんには答えず、踵(きびす)を返してバトルルームへ。するとダーグとレヴィが、膝をついて茫然自失(ぼうぜんじしつ)となっていた。


「ダーグ、レヴィ! どうしたんですか!」

「……あれは」


お姉ちゃんも気づいて、小さく息を飲む。

バトルベースに倒れる、ユニコーンとスプライト……でも、これは。

間接部を中心に切り崩され、バラバラなの。それ以外の破損は最低限だけど。


これなら関節を入れ替えるだけで、すぐ復帰できるわ。……問題は二人の実力を前に、”そんなことができるファイター”って辺り。


「ちょっと二人とも、しっかりして!」

「レヴィ、大丈夫ですか! 一体何が!」

「……化け物だ」


わたしがダーグを、お姉ちゃんがレヴィの肩を掴(つか)んで揺らす。すると二人は、戦慄しながら。


「化け物が……いやがった……」


小さく、声を漏らし続けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ダーグとレヴィが憔悴(しょうすい)しきった状態で……キリエ達に肩を貸されながら、戻ってきた。


さすがに驚いて、始めかけていた作業の手を止めて介抱。

二人はベッドに寝かせた上で、壊れたユニコーンとスプライトをチェック。


「しっかし、こっぴどくやられてるね。一応聞くけど油断は」

「さすがにしてねぇ……」

「ボクも……うぅ、悔しい……! もっと強くなってやる!」

「あぁ! ジュリアン・マッケンジー……次は覚えてろ!」

≪≪『ジュリアンマッケンジー!?』≫≫


ダーグとレヴィがガッツポーズをする中、アルト達と驚いてしまう。そうか、それで……!


「おう! 紳士的にリベンジしてやる!」

「だったら相当鍛えないとね。相手はガンプラ塾で、メイジンに最も近い男だったんだから」

「おうさ! ……え」


ダーグとレヴィが慌てて起き上がり、額にかけたタオルもすっ飛ばす。


「「ガンプラ塾!?」」

「旦那様、もしかしなくても知り合い?」

「待ってください。ジュリアン・マッケンジーと言えば」


そこでシュテルが思い当たったのか、タブレットを取り出しポチポチ……表示されたトーナメント表を見て、納得した表情を浮かべる。


「やはり……マッケンジー卿の代理出場で、明日メイジンとバトルするファイターです」

「マジかよ!」

「それで納得がいった」


ガンプラ塾生がどんだけぶっ飛んでいるかは、セシリアやタツヤ、エレオノーラを見れば一目瞭然。

そして今、新しい実例が示された。だからディアーチェも、破損したユニコーンとスプライトを見やる。


「では小僧、メイジンに最も近いというのは……ユウキ・タツヤでは」

「違う……少し長い話になる」

「あぁ」

「ジュリアンは准将の孫であり、ガンプラ塾第一期生――タツヤの先輩だった。入塾当初から、タツヤを気にかけてくれた優しい先輩でね。
ガンプラ塾のスパルタ体制であっても、楽しいガンプラを追い求める一人でもあった」


そういう意味でも先輩であり、タツヤからも慕われていた。

実際ガンプラ塾の経験を生かして作り上げた、Hi-νヴレイブの調整も手伝っていたしね。

タツヤも心の底から、先輩として……ライバルとして慕っていた。


……だからこそ、無意識でも押しつけていたんだけど。それがジュリアンのプレッシャーになるとも知らずに。


「でも二〇一一年三月……前にも話した通り。二階堂とゆかりさんの結婚式から戻った直後だ。ガンプラ塾バトルトーナメントが起きたのは」

≪その中でジュリアンさんは、ガンプラバトルをやめた≫

「ガンプラバトルを、やめた……だとぉ!」


その言葉に驚愕(きょうがく)し、前のめりとなったのは負けた二人だった。

そう……あのときからジュリアンの時間は止まった……止まってしまった。

どうしようもないプレッシャーに苛(さいな)まれ、壁を突きつけられた。


”好き”だけでは、”楽しい”だけでは、大好きな何かと向き合えない。それが、ジュリアンの心をへし折った壁。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇一一年三月――塾内を震撼(しんかん)させる、一つの知らせが入った。

ガンプラ塾バトルトーナメント。スタッフ・塾生強制参加で、敗者は退塾の憂き目に遭う。

そうしてただ一人を残す。そう、これはメイジン候補を選出する”オーディション”。


最後に勝ち残ったものがメイジン候補となり、二代目とバトル。それに勝利すれば……三代目だ。

たとえ戦う相手が仲間・家族・兄弟だとしても、それを押しのけ勝利の頂を目指すべし――メイジンの言葉だ。

その意味、今回のトーナメントについてずっと考えていた。これは夢を賭けた戦いだ。


だが僕はメイジンそのものには余り興味がない。メイジンの方針に疑問があるせいなんだが。

退塾は夢破れることを意味し、勝者はその引導を叩(たた)きつける。

そんな中に飛び込む理由……戦う理由を考えていた。だが何度考えても僕は僕のスタンスを崩せない。


そんな状況で、ジュリアン先輩に誘われ……気晴らしのバトルをすることに。


≪BATTLE END≫


ベースから粒子が煌(きら)き、ゆっくりと天井へと登っていく。

着地した二機を見つつ、かき上げていた髪を右手でさっと戻した。


「参りました……」

「やはりというか」


ジュリアン先輩は表情を緩め、ベースに着地したHi-νガンダムヴレイブを見下ろした。F91イマジンではなく、僕のガンプラをだ。


「君とのバトルは楽しいな。しかもHi-νガンダムヴレイブ、まだギミックを隠しているだろう」

「気づかれましたか。原点にはない、僕オリジナルのギミックです。お見せできるのは恐らくトーナメントで対戦するとき」

「……そうか。やはり君も出るんだな」


そこでジュリアン先輩の穏やかな表情が一気に曇る。

先輩は優しい人だ、トーナメントの現実に心を痛めているのだろう。


「メイジンになりたいのかい」

「父は内心期待しているようです。ですが、どうでしょう」

「ならばなぜトーナメントに。自分の手で、仲間に引導を渡すことになるんだぞ。
しかもゴーストボーイも……いや、彼は参加するはずないか。本当に部外者だ」

「恭文さんは参加しますよ」


そこだけは断言できて、つい苦笑する。ジュリアン先輩は面食らって、口をパクパクさせ始めたが。


「あの人は戦いから、気づいたことから決して逃げない人なんです。……あと」

「うん?」

「メイジンのサングラスとマント、カッコいいと……着てみたいと、言っていたことが……!」

「……あ……うん」


ジュリアン先輩は、僕が本気だと察してどん引き。

そうだよね……さすがに、アレはどうかと思うんだ。

アレのために、メイジンになるって……でも恭文さんだからなぁ!


しかも瞳をキラキラさせながら言うから、反論しにくくて!


「何にせよ、飛び込んできます。八割方、僕と同じ理由で」

「それは、なんだい」

「自分の実力を試したいから……でしょうか」


また先輩を驚かせてしまった。メイジンになりたいからでもなく、完全な腕試しで飛び込むんだから……自分でもおかしくなって笑う。


「確かにメイジンの教えには承服しかねます。けれど、だからと言ってバトルから逃げてしまってはこの場にいる意味がない。
僕達はみんな自分のガンプラが一番だと信じ、競い高め合ってきたのだから。
だからトーナメントの結果はどうあれ、全身全力で戦えば悔いは残らない――そう信じています。それに」

「それに?」

「どこにいてもガンプラは続けられる。ここにいる全員が、それを知っているはずですから」

「……そうか。強いな、君は」


そう言いながら先輩は、ベースの向かい側からこちらへゆっくり歩いてくる。そのとき吐かれた静かなため息……このとき、僕は気づくべきだった。


「いえ、そうじゃありません。僕もここで教わっただけです。ジュリアン先輩や仲間達に」

「なるほど。では、トーナメントで」


だが僕は先輩が今背負っているものに気づかず、訳知り顔で誓いの握手を交わした。交わして、しまったんだ。


「えぇ、負けませんよ」


メイジンから、完全に取り乱したままなエレオノーラ先生から、先輩が何を託されたか。

この大会が先輩にとって、どんな意味を持つのか。それを知ることもなく、先輩に楔(くさび)を打ち込んでしまった。それは、僕の罪だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そしていよいよ、塾内バトルトーナメントが開催。これまでにない緊張感が肌に痛いが、それでも戦いの決意は揺らがない。

なお恭文さんは、スゥやミキ、朝比奈さん達というハーレムパーティに。

本人も頭が痛そうだったけど、頑張ってほしい。ヤナも言っていたでしょ、覚悟を決めないと刃傷(にんじょう)沙汰だって。


――そうして僕の第一回戦は無事に終了。

カイラも、恭文さんとヤナさんも問題なかった。

問題があるとすれば……ジュリアン先輩の方で。


ジュリアン先輩は一回戦……予想外の苦戦を強いられ、その結果キレた。

負担では絶対やらない、ガンプラへの徹底破壊を行い、辛(から)くも勝利した。

それから……いや、それ以前から、先輩の様子はおかしくなった。


いつも浮かべていた、穏やかな笑みは消え去り。

何かに追い立てられているような、そんな顔ばかりを見せている。

それでも僕はジュリアン先輩なら……あの人なら、メイジンにふさわしいと思っていた。


そう思い、押しつけていた。メイジンという名前を受け継ぐ覚悟も、目指す勇気もなく……ただ戦い続けていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして残す試合は決勝と、明日僕と恭文さんが戦う準決勝のみ。

ここまで数々のバトルが行われ、破れたものは去っていった。


カイラも、マクガバン先生も、ヤナも……まぁヤナとカイラは、僕のメイドって形で居座っているけどね!


――夜も遅い時間だが、先輩の部屋を訪ねてみた。

ノックをしても先輩は出てこないが、それでも……声は届くと信じて。


「先輩……決勝戦進出、おめでとうございます。次勝てば、僕も決勝戦です。
あなたになら負けたとしても悔いはない。楽しい、ガンプラバトルをしましょう」


そうエールを送り、僕も自分の部屋へ戻る。――そうして迎えた準決勝。

激戦だった……しかし、心たぎるバトルだった。紙一重の差で勝利し、いよいよ決戦へ挑む。


……その日は僕にとって、運命の転換期だった。

僕はあの日、自らの甘さを突きつけられた。カイラの言う通りだった。

恭文さんの言う通り、今更じたばたと苦しむ羽目になった。


のしかかるのは重圧……そして困惑。


『ガンプラバトルトーナメント、決勝戦を始めます』


現れない目標、悔いのないバトルどころか、その機会すらも奪われ。


『……ジュリアン・マッケンジーの自主退塾により、勝者はユウキ・タツヤ」

「そん、な……!」

『三代目メイジン候補は、ユウキ・タツヤに決定しました』


恭文さんが、カイラが、ヤナが、アランが……誰もがぼう然とする中、望まない決着が告げられる。


「どうして……どうしてきてくれないんだ! ジュリアン先輩!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


メイジン候補になった僕……あとは二代目とのバトルで認められれば、全てが変わる。

だが、その前に……慌てて恭文さんと空港へ走った帰り道、一人雨の中でたそがれる。

まるで泣くに泣けない、そんな僕の代わりに空は泣いているようだった。


――ジュリアン先輩……なぜ、塾を辞めるんですか!――


ギリギリのところで僕達はジュリアン先輩に追いついた。

そうしてジュリアン先輩は恭文さんに、シオン達に優しく笑いかける。


――こころの声……それを聞き取った結果だ。なかったんだよ、ボクにはメイジンになる理由が――


どうやら恭文さんと何やら話したらしい。だがそれが、決して先輩を蹴落とすような言葉じゃないのは分かる。

きっと先輩はこうするほどに迷っていた。それに気付かなかった僕が……そうだ、カイラだって苦言を呈してくれていたのに。


――ボクはガンプラを楽しみたいから、より深く知りたいからこの塾に入った。
……だが仲間を蹴落とし、恨みを買ってでも勝とうとする……二代目メイジンのような生き方はできない。
かと言って、それを変えるだけの覚悟もなかった。だからここで止まるんだ――

――ガンプラ、やめるのかな――

――分からない。だが少し距離を置いて、考えてみようと思う。……だから気にしないでくれ――


先輩は恭文さんにそう言って、そっとその右肩を叩(たた)く。


――君に自分の声を……と言われて、ようやく踏ん切りがついたんだ。だから胸を張れるよ、これはボクの選択だってね――

――……そう。じゃああれだ、それでまた塞ぎ込んでたら、またドアを殴り飛ばして会いにいくよ。
僕も腹を決めるよ、ジュリアン・マッケンジー。言葉の責任、おのれと一緒に持っていってやるから――

――はははは、それは怖いなぁ。でもありがとう。……タツヤ、すまない。逃げたと思ってくれていいよ――


最後にそう謝って、ジュリアン先輩はつきものが落ちたような顔で去っていった。それから恭文さんと別れ、一人で……一人になりたかった。

今の精神状態だと、恭文さんのせいだと責めてしまいそうで……! そんなのは違うと信じられるのに。

そうだ、違う。それは八つ当たりであり、僕のエゴだ。


ジュリアン先輩……あなたはガンプラを好きでいるため、ガンプラから遠ざかった。

このままではガンプラから嫌いになりそうだったから。

でも僕は……。


「先輩が名人になる――僕はあなた一人に重責を背負わせ、自分はどこかで関係ないと思っていた」


なんて愚かなんだ。自らへの怒りで、傘の柄を強く握り締める。

雨により冷えた柄、それが手の熱で熱くなるまでずっと……手から強い痛みが走っても、決して力を緩めない。


「それが、結果的にあなたを追い詰めてしまった」


謝るのは僕の方だ。

なのに……先輩、僕はこのままメイジンになっても、今までのようにガンプラと接することが、できるでしょうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっちの話は、また衝撃的で。その……暴走EVAみたいなバトルは、あの物腰から想像できなかった。


「――”好き”だけでは、”楽しい”だけでは、大好きな何かと向き合えない」


やすっちは窓際に寄り、大会会場であるドームを――ライトアップされた夜の街並みを見やる。


「タケシさんはね、タツヤをガンプラ塾に推薦するって決めたとき、こう言ってくれたんだ。……選ぶのは君だ」

「そしてあのマッケンジー卿も、孫に同じことを突きつけた。確かガンプラバトルの、楽しさ以外の部分も学ばせるために」

「その結果、ジュリアンは選んだ。メイジン達からプレッシャーをかけられた末に」

「プレッシャー、だと」

「三代目の最有力候補だからね。誰も彼もぶっ潰して、絶対負けず勝ち上がって……自分の後を継げ。そういうプレッシャーだ」


やすっちがこっちへ振り返り、お手上げポーズを取る。


「それはタツヤもだけど」

「それでよく立ち上がれたな、あの兄ちゃん」

「そこはいろいろあってね。……イギリスに戻ったジュリアンは、ガンプラから一切手を引いた。
実はセシリアも心配していてね。それでマッケンジー卿と一芝居打ったらしい」

「あのドリルっ子が?」

「あぁ……今気づいたが、同じイギリス出身で、塾の先輩でもあるんだよな」

「だから敬愛しているんだよ、今でも」

-
それで燻(くすぶ)った状態だから、発破をかけたわけか。仮病を使って……また無茶(むちゃ)だなぁ、あのお嬢様。

いや、それはメディーックとかやったらしい、あのじいちゃんもだが。


「じゃあ恭文さん、タツヤさんは塾生時代、ジュリアンさんに勝ったことは」


おぉそうだ! メイジンは全勝組だから、一回くらい負けても決勝に残れるかもしれない。

だがそういうこととは抜きに、これはトーナメント決勝のやり直しでもある。絶対に負けられない戦いだ。

それも塾生時代の勝率次第だと思ったが、どうやら悪いらしい。


やすっちの顔は、今までで一番渋くなったから。


「タツヤが当時使っていた、Hi-νヴレイブの調整が主だった……それは留意してほしいんだけど」

「はい」

「僕が聞く限りでは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ジュリアン先輩が相手とあっては、どんな努力と工夫をし尽くしても足りない。

……メイジンになってから封印していた、切り札の解放も辞さないレベルだ。

私が持っている全てを出し尽くさなければ、絶対に勝てない。だからこそケンプファーアメイジングの調整にも余念がない。


アランを手伝い、丹念にパーツの一つ一つに手を入れていく。


「ジュリアン・マッケンジー……世界レベルの実力者でも入塾が難しい、最高峰のガンプラビルダー育成機関【ガンプラ塾】。
その第一期生・筆頭。天才的な制作・操縦能力で、最も次期名人に近いとされていた男」

「私も彼こそが、三代目メイジンにふさわしい存在だと思っていた」

「だが彼は突如としてガンプラ塾を辞め、ガンプラバトルの表舞台から姿を消す……いや」


アランはライフルの面出しをしながら、苦笑気味に首振り。


「あの塾内バトルトーナメントの、最後の敗者となった。それも自ら望んで」

「……その天才が一年半のときを経て、舞い戻ってきた」

「ではタツヤ、彼との対戦成績は」


アランが塾生でありながら、こう聞くのもしょうがない。彼はあくまでもビルダー専門学科出身。

ようは学部から違うので、その辺りには明るくないんだ。ジュリアン先輩とは学年も違うしね。

でもそれだけじゃない……アランは『ある一戦』を除いて聞いている。


私が先輩を追い詰め……追い詰められている先輩を知ろうともせず、結果的に勝ってしまった勝負を。


「〇勝七敗」

「……」

「全敗だ」


だからこそ手は動く。

だからこそ、心はたぎる。

メイジンとしての責務もある。だがそれだけではない。


一人のファイターとして、あの人を越えたい……今度こそ、ありったけで戦いたい。

そうたぎる私がここにいる。ならば燃え上がるのみだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第八ピリオド・一日目……今回はともみを連れて、荒野のバトルフィールドへと飛び込む。

はい、第一試合ということで、割と注目が……でも、これも心地いいね!


「さて……何がくるかな」

「でもカテドラルなら問題ないんじゃ」

「甘い。……あの人、本当ならかなり強いんだよ?」

「え……」


セコンドベースのともみが、目をパチクリさせていた。

あぁ、ここまで醜態を晒(さら)し続けていたからなぁ。その気持ちも分かるけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第一試合……イオリくんはやっぱり、ビルドストライクの修復に専念しているらしい。

試合観戦はレイジくんに任せて……わたしはそのレイジくんと、ラルさんと一緒に観客席から応援。


それで恭文さんはあの、カテドラルというガンプラを使ってきた。

またあんな、粒子の爆弾とかを使うのかな。……レイジくんには、昨日ああ言われた。

でもやっぱり、あれは違う。イオリくん達が、会長達が教えてくれたガンプラバトルじゃない。


それが引っかかっていると。


「ライナー・チョマー……本来の実力は、フェリーニやルワン・ダラーラに並ぶ」

「え……!」

「マジ、かよ」


ラルさんは、信じられないことを言い出した。

あの……すぐにやられちゃう、ニット帽の人がフェリーニさんと同レベル?


というかほら……レイジくんがすっごく驚いて! それはあり得ないんじゃ!


「世界大会常連組だからな。フェリーニとの勝負にさえ拘(こだわ)らなければ、君とセイ君以上だよ」

「じゃあラルのおっさん、この試合は」

「既にチョマーは予選敗退決定。更に言えば、フェリーニとの繋(つな)がりもない試合だ」

「フェリーニへの私怨に拘っても、全く意味がない」

「……もしかすると、本来の彼が見えるかもしれんぞ」


さすがに疑わしく感じていると――。


突如、恭文さんの背後が爆発した。


ううん、地面から何かが飛び出してくる。

それは今まで見たことがない、不思議な期待だった。

肩アーマーがなくて、流線型の体。でもお腹(なか)がすっごく細いの。


顔つきもガンダムっぽいけど、アゴが複雑。


それで大きなメイスを持って、カテドラルに振り上げ……打ち下ろした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


トリコロールカラーの機体から退避しつつ、一気に二十メートルほどの距離を取る。

すると奴はバックパックに携えた、長大な滑空砲を展開。

それを左脇に抱え、一発放ってくる。シールドで防御すると、衝撃からカテドラルが停止。


そこを狙い……背部と両サイドスカート、両太もものスラスターを噴射。

こちらにメイスと突き立ててくる。それもシールドで防御するけど、咄嗟(とっさ)に嫌な予感がして左スウェー。

するとメイスの中心部から、ガンメタルの杭(くい)が射出。シールド表面を僅かに削り、僕達の眼前を突き抜けた。


「……!?」

『よく避けたなぁ!』


奴はとんでもない出力でメイスを振るい、カテドラルを吹き飛ばす。

身を翻しながら着地すると、静かに……武芸者のような佇(たたず)まいで、奴はメイスを構えた。


「おい、恭文……確かあれは」

「嘘……!」

「まだ、発売されていませんよね」

「バルバトス……」


ショウタロスが震える手で、あのガンダムを指差す。


「ガンダムバルバトスじゃねぇかぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ガンダム、バルバトス?」


会場中が歓声に包まれた。チョマーさんの出したガンプラ、悪魔……悪魔のガンプラ? 凄(すご)いのかな、それ。


「十月から放映開始予定の『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』にて登場する主人公機だ。
現段階では雑誌なども設定画やイメージイラストのみで、プラモ本体は登場していない」

「えぇ! で、でも……あれ!」

「……作ったんだな、全て自分で」

「恐らくは」

「作った!?」


え、ガンプラって改造するんじゃ……絵を元に!? イオリくんも設計図とか書いていたから……そんな馬鹿な!


「言っただろう、チナくん……彼もまた、世界で戦う男だと」

「――!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バルバトスは、展開に合わせて武装や装甲を追加・変化していくと公式発表されている。

あの両肩アーマーがなく、左腕にガントレットを装備する姿は『第一形態』。

既に設定画も出されているけど……それでフルスクラッチ!? とんでもないね、この人!


ガウ攻撃空母より手間がかかってるでしょ!


「ともみ」

「解析完了……でも、何これ。GN粒子に近い、重力制御効果があるみたい」

「出力も半端ないね。一つ売ってほしいくらい」

『ふ、そう褒めるな』

「でも、それでリカルドと真っ向勝負をすればよかったのに」

『言うなぁ! こっちはな……必死に許可を取ったんだよ! 一応設定協力者だからな!』

「「設定協力!?」」


へ!? え……ちょっと待った! それだと話が変わってくるよー! いろいろ変わってくるよー!


『俺だって早めに出せるなら出したかったわ! ナノラミネートアーマーだって、一生懸命考えたのに……!』

「おま、それもオルフェンズ登場予定の設定かよ!」

『ようやく昨日、プラモ原型でもあるコイツを出していいと許してもらったんだぞ! その苦労がお前達に分かるかぁ!』

「……なんかその、ごめんなさい」

「恭文さんが、謝った……!?」


いや、まさかそんな……複雑な事情があるとは、思わなくてー。

え、でもプラモ原型? 原型も担当したの!? すげぇ、そんなのと戦えるって!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「チョマーの野郎、そんなことをしてたのかよ……!」

「あおー」


どうやらリカルドさんは御存じでなかった御様子。また一緒に観戦していると、目をパチクリさせていました。


「てーか羨ましいぞ、おい! 俺にも一枚噛(か)ませろぉ!」

「おー!」

「わたくしもですわ! 射撃……射撃機体が作りたいです! わたくしのように可憐(かれん)で優雅! 美しい機体を!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日はジュリアン先輩との大事な試合。

それで他の試合も見つつ、精神集中……していたのだが。


「……アラン」


ライナー・チョマーの悲痛な叫びで、それが吹き飛んだ。

燃えている……燃えているぞ、私の心は今、熱く燃えたぎっている!


「メイジンとして名を挙げれば、いつかは」

「まぁ二代目や過去の大会優勝者が使っていたガンプラも、レプリカ的に市販された例はあるしね。そういう意味では可能かな」

「そうか……!」

「でも今回の場合だと、アランが作ったガンプラに限るんじゃね?」

「そうか……そうかそうか……そうかぁ」

「……あ、こりゃ聞いてないな」


一緒に観戦しているミスタージオウが何やら呟(つぶや)いているが、それは置いておこう。

私がガンプラの原型を作る……もしかすると、ザクアメイジングやケンプファーアメイジングが市販される?

さすがにそのままではないが、そういう未来もあるわけか。……最高じゃないか!


す、少し恥ずかしくはあるが、何だか嬉(うれ)しいだろう!? よし、メイジンとしてもっと精進しなくては!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バルバトス……バルカンなどの補助兵装はなく、純粋な物理・質量攻撃に偏っているわけか。

それならばと、一気に百メートルほど急上昇。バスターライフルを出力最小・連射速度重視で……回転しながら連射。

パピヨンを倒したときにも使った、曲がる弾丸。それらの雨嵐に対して、バルバトスは……まずメイスで地面をひと薙ぎ。


爆煙を生み出し、姿を隠した上で急加速&急上昇。一気にこちらの背後を取ってきた。

メイスが左薙に振るわれる前に、振り返って左回し蹴り。手元を蹴り飛ばした上で、バスターライフルを腹部へ突き立てる。

……いや、バックパックのアームが稼働し、滑空砲が再展開。

奴は距離を取りながらも構え、大口径砲弾を放つ。


それとビームが正面衝突し、混じり合いながら爆発。その衝撃で下がりながらも加工。

奴の突撃を曲がるビームで止めようとするも、その機動力とパワーで軌道を見切り、直撃しそうなものはメイスで受け止め払う。


装甲で受け止めて払わない? いや、着弾時の衝撃などで動きが止まるなら、回避は当然か。

その間に近づかれて、近接質量攻撃に回られたらアウトだし。


『結局、フェリーニへの復しゅうは成し遂げられなかった……だからこそ俺は、私怨を捨てた!』


その上でまた肉薄するので、空中を踏み締め反転。振るわれるメイス……その柄目がけて、シールドバッシュ。

大ぶりな武器なので、取り回しには難がある。それで攻撃をキャンセルしてから、時計回りに回転。

シールドのエッジを、滑空砲目がけて左薙に打ち込む。


粒子変容塗装が成されたシールドは、ビームすら両断する切れ味を見せる。

それゆえに滑空砲が中程から抉(えぐ)れ、派手に爆発。

それに煽(あお)られたバルバトスを蹴り飛ばし、近くの岩山(いわやま)へと叩(たた)きつける。


『だからこそ』


バスターライフルを構えると、奴は岩山(いわやま)から抜け出し反転。

きりもみ回転しながら、その頂上目がけて逆風一閃を放つ。

メイスで岩山(いわやま)を砕き、即席の散弾とした上でこちらに放ってきた。


射撃を中止、左に跳ぶ。一旦距離を取っていくと、奴もまた背部スラスターを吹かせ追撃。

カテドラルと遜色ない加速で……いや、それ以上? 距離をどんどん詰めていく。


「カテドラルが振り切れないだと! おい、幾ら何でもおかしいぞ!」

「この出力……もしかして」

『だからこそ……友達である貴様を叩(たた)いて! 叩(たた)いて! 奴に後悔させてやるぅ!』

「結局私怨を捨てていない!?」


ともみが衝撃を受けたところで、奴が更なる加速を見せる。

そうして二百メートルほどあった距離が一気に詰められ……メイスがこちらに投げつけられた。


それをシールドで払うと、奴は肉薄しながらも右手刀。

シールドバッシュの勢いを生かしつつ、更に回転……上へと退避すると、鋭い指先がカテドラルの装甲表面を抉(えぐ)る。

更に払ったメイスが、そうして伸ばし……突き抜けるバルバトスの手中に収まった。


『――ふん!』


そのまま奴は反転し、動きに合わせての唐竹一閃が襲う。

咄嗟(とっさ)にシールドで防御するも、その衝撃を殺せず吹き飛び……今度は僕達が、岩山(いわやま)に叩(たた)きつけられてしまった。


「パワーも、ダンチ……!? 恭文さん!」

「やっぱり、アシムレイトだ」

「え……!」


リカルドへの恨みつらみが突き抜けたこと。

フルスクラッチしたバルバトスへの理解度が半端ないこと。

それらの要因が相まって……カテドラル以上のとんでも出力をたたき出している!


あぁ、おかしい! 油断しないって決めたのに! フラグは踏んでいないはずなのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「カテドラルが押されている、だと」


またまた暫定メイジン&そのライバルと、試合を観戦していたら……カテドラルがボコボコフラグ、立ってしまった。


「恭文さんでも手こずるレベルなのか。今のライナー・チョマーは……!」


おじさんの最高傑作が……いや、それはライナー・チョマーへの侮辱か。

いろいろおかしい方向だが、あのフルスクラッチバルバトスも”最高傑作”。分かるぜ、ヤスフミ。

お前が感じている圧力……俺にも伝わっている。対する男もまた、結局ガンプラ馬鹿ってことさ。


「アシムレイト……ライナー・チョマーもまた、限界を突破したわけか」

「だとすると厄介だな。彼は本来の強さを取り戻していると言っていい」

「……だったら」


そう、だったら……ヤスフミの奴は、まだ使ってないからな。


「ヤスフミも限界を突破すればいいだけだ」

「何だと」

「まさかカテドラルの底が、あんなものだと思ってるのか?」

「「――!」」


見せてやれ、ヤスフミ……ソイツは今までのようなヘタレじゃない。

カテドラルが本気を出すに足る強者(つわもの)。


今のお前ならできるはずだ……カティの本質を知ろうとした、お前なら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「OK……よく分かった」


岩山(いわやま)からはい出て、ゆっくりと浮かび上がる。一旦バスターライフルは背部にセットし直し。


「リカルドのアホは後でボコるとして」

「恭文さん、それ……多分理不尽」

「僕だってともみが離れたら、嫌だし」

「え……」


ともみというか、りんも……とにかく深呼吸。

一旦目を閉じ、突撃してくるバルバトスには構わず。


『もう遅い! フェリーニ、これが貴様への』

「……行くよ、カテドラル」


目を開き、鎖をかみ砕く。

閉じ込めていた獣を解放し、その流れでカテドラルとシンクロ。

頭から足の先までしっかり繋(つな)がって、生まれた傷の痛みも共有。


そうして溢(あふ)れんばかりの力をノーモーションで発動。こちらへ肉薄し、メイスを振り上げるバルバトスに。


『手向けだぁぁぁぁぁぁぁ!』


真下から、炎熱の砲弾を放射。それはメイスを受け止め、その表面を、塗料を融解させ始める。

そうして爆発……泥のように粘度を保った炎が、バルバトスの肩や腕、足、フロントスカートに付着。ボディを溶かし始める。


『何……うお、あちあち! あちぃ!』


バルバトスは咄嗟(とっさ)に下がりながら、回転しながら炎を……いや、”溶岩”を払いのける。


『何だ、今のはい……たい』


そして気づく。僕達の周囲で響く、巨大なうごめきを。

粒子で形作られた岩山(いわやま)は次々融解し、それが炎熱の海となる。


蠢(うごめ)くマグマは各所で破裂し、また熱の泥へ溶け込み、破裂……そんなサイクルを繰り返しながら、脈打ち続けていた。


『何だ、これは……!』

「友達として、リカルドにはきっちり言っておくよ。……彼氏の有無はちゃんと確認しろってさ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何、あれ……! フィールド全体が……カテドラルの足下を中心に、溶岩みたいになって!

それで鳴動し続けていた。あんな大きな場所が……カテドラル一体を中心に。


『これは、どういうことだ……一体何が起こっているんだ!』

『まさか……!』

「これが、カテドラルの力か……」


ミホシさんと会話するように、ラルさんが声を漏らす。

驚くわたし達を見やることもなく、ただ蠢(うごめ)くマグマを、カテドラルを見ていた。


「カテドラルの粒子制御能力が作用して、フィールドそのものが作り替えられている!」

「何だって! そうか……あの散弾や杭(くい)は、どでかい力の一部ってわけかよ」

「そ、そんな! それってルール違反じゃ!」

「いや、システム機能自体に介入さえしなければ、問題はないはずだ」

「そしてあの野郎<ヤスフミ>が、そんなミスをするわけがねぇ……くそ」


レイジくんは悔しげに拳を握り、左手に叩(たた)きつけた。


「昨日のレース、本気を出していなかったのか……!」


悔しい……悔しいよ。こんなに凄(すご)いガンプラなら、あんな卑きょうなことをしなくても勝てたはずなのに。

なのにどうして……ちゃんと勝負してくれなかったの。これじゃあ、イオリくん達が可哀想(かわいそう)だよ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ライナー・チョマーは周囲の状況に戸惑い、逃げ惑う。

しかし粒子変換されたマグマの矢が、次々と彼を襲う。


『くそ……こんなものでぇ!』


あのバルバトスもやはり最高傑作。

放たれる矢を次々かわし、縄のように戒めてくる熱をすり抜け、カテドラルに迫る。

だが振るわれるメイスに対し、カテドラルはサーベル基部を取り出す。


左手に持たれたそれから、ビームサーベル……もとい、ビームロングダガーでいなされる。

刃が通常のサーベルよりも短く、取り回しに優れていた。それでメイスの質量を上手(うま)く受け流し、バルバトスと交差する。

更にバスターライフルを再度右脇に抱えて、速度重視の連射。マグマビットとの連係攻撃で、バルバトスの回避先を押さえ、追い込んでいく。


「……これが、メイジン最高傑作……カテドラルの、真の力」

「さすがはおじさんだ」

「……カワグチ、ボクは悔しいよ」

「アラン?」


アランは拳を握り、壁に叩(たた)きつける。ただしその瞳は熱く……強く燃え上がっていた。


「君にも同じことを思った。ビルドファイターであるメイジンに、ボクのガンプラは必要なのか。
……少なくとも二代目には、それは必要なかった……それが悔しい……ボクはビルダーとしても、二代目に遠く及ばない」

「ならばどうする」

「追いかけるさ、全力で――!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ライナー・チョマー、凄(すさ)まじいなぁ。楽しくてずっと笑いっぱなしだった。


「凄(すご)い……凄(すご)いよ、ライナー・チョマー! 捉えられるイメージが生まれない!」


こちらのマグマビットを、射撃を交わしながら、接近戦を試みてくる。

やっぱりコイツも世界に立つ男……良かったよ、決勝トーナメントへ向かう前に、その強さが確かめられて!


『お前こそ……あぁ、そうだな……フェリーニのことなんざどうだってよかった! 俺は』


マグマビットが展開。回避先で一瞬停止したバルバトスを囲み、自ら編み込みながら檻とする。

でもそれをバルバトスは、メイスの一振りで粉砕。その上でこちらに対し、刺突を放ちながらバンカー射出。


『こんなバトルがしたかったんだ!』


距離は当然開けているから、それは決して打撃じゃない……射撃だ。

咄嗟(とっさ)にシールドをかざし、放たれた不可視の衝撃波を防御。

それが破裂し、見えない爆発を引き起こす。その間にバルバトスは加速し、マグマの網とその残滓(ざんし)から離脱。


再度バンカーを収納した上で、飛び込みながら刺突を放つ。

それを受け止め、すれすれで脇に流す。バンカーを放つかと思ったら、そうではなく。


『そこぉ!』


こちらの顔面を掴(つか)み、引き寄せながら腹に打突。そのままバンカーを射出した。

ボディに突き立てられようとする杭(くい)……本来ならそれは必殺の一撃。

カテドラルを真っ二つにすることだろう。……直撃さえしていれば。


そこで鋭く左スウェー。球体上のコアブロックと装甲表面で、メイスと杭(くい)を受け流す。

鉄の一撃は脇で突き抜け、衝撃波を放った。その間に右拳を握る。

更に左手で引き戻され駆けたメイスを掴み、奴を拘束。


『何……!』


バスターライフルを手放した上で、奥の手を発動。

火中で燃える栗、それを素手で拾い上げる……熱を感じることがないほど、素早く的確に。

そんな修行を経て習得できる、超神速の連打。


その速度は某北斗神拳伝承者を上回り、一瞬のうちに数百発を叩き込むことが可能。その名も。


「火中天津――甘栗拳!」


カテドラルの人間的な可動と反応、それが成せる人機一体。

リアルでやれば必殺同然な衝撃は、ナノラミネートアーマーを貫き、バルバトスの上半身を粉砕した。


「……もどき」


そう、漫画『らんま1/2』に出てくる技です。……だからこそ、先生と一緒に修行したんだよ。


『ま、また漫画の……技、かよぉ』

「一応奥の手だよ?」

『だったら、光栄だな。……楽しかったぜ』

「僕もだよ、チョマーさん」


破砕したバルバトスは力なく落下・爆散。

それを見送りながら、カテドラルの右手を軽く振るう。よし……間接部は問題なしと。やっぱ頑丈だねー。


≪BATTLE END≫


これで僕の予選ピリオドは終了……七勝一敗で、予選突破圏内へ再突入だぁぁぁぁぁぁぁ! よっし!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゴーストボーイとライナー・チョマーの試合はアレだったが、他は順調に進む。

あのアーリー・ジーニアスは、サイコガンダムを斬撃波で一刀両断。

ヤサカ・マオも成層圏からの砲撃を、ハイパーサテライトキャノンで飲み込み……狙撃手のザンネックを撃破。


そして第十五試合……俺達の出番だ。


「兄貴、本当に”コイツ”でいいんだな」

「念には念をだ。何せ相手は」


フリオに答えつつ、向かい側に立つ奴を見やる。


「歴戦の勇士、ルワン・ダラーラ様だからな」

「OK。じゃあ始めるか」

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Canyon≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は森林も多い山岳部……あの、ひときわ高い岩山(いわやま)がいいな。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


フリオが両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「フリオ・レナート」

「マリオ・レナート」

「ジムスナイパーK9――出撃する」


アームレイカーを押し込み、俺達の本命ガンプラが飛び出す。

ジムスナイパーIIに追加装甲、及びオリジナルバックパック【ブラッド・ハウンド】をセットした狙撃機体。

俺達の理想を、目指す”戦争”を詰め込んだソイツは、カーキグリーンのボディで太陽の光を受けながら、高い山を目指す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


負けた……一昨日から何度も思っているけど、負けた。どうしようもない完敗だ。

しかも大会に介入した、悪い人に助けられて……あの最後の追い込み。それが本当に悔しい。


……でも、同時に心が沸き立つんだ。


だってそうだろう? あの日、父さんが戦っていた大舞台は、こんなに激しくも熱い場所だった。

それぞれ違う本気を持ち寄って、全力で駆け抜ける。夢見ていた時間は、それ以上の熱に満たされていた。

もっと強くなりたい。そんな熱に負けないくらい、熱く……熱く……そう思いながら、ビルドストライクの改良を進めていく。


それにね、その熱が見せてくれたんだ。RGシステムの更なる先を。

レナート兄弟には感謝しなきゃ。そもそも僕達が使っているのはストライク。

その身を犠牲にして、パイロットを、大事な人達を守り抜いた機体だ。


核爆発如(ごと)きで壊れるようじゃあ駄目。ビルドストライクはストライクの進化形でもあるんだから。

イメージはできている。そのために昨日、徹夜で用意したクリアパーツもある。

肩部と両膝、アンクルアーマーなど、各所に追加する形でセット。


「よし……!」


塗装のためではあるけど、パーツ分割を細かくしておいてよかったよ。


「これでビルドストライクは、もっと高く飛ぶ……もっと熱く燃え上がる」


その姿を想像すると楽しくて、嬉(うれ)しくて。


「ビルドストライク、ごめん。でも約束する」


笑いながら作業し続けていた。


「僕も……もっと強くなる」


(Memory51へ続く)





あとがき

恭文「はい、というわけでMemory51です。なお今回は幕間第29巻の内容を、一部変更・ダイジェスト的に盛り込んでおります」


(お話の内容自体は、ビルドファイターズA第三巻で描かれたものになります)


恭文「敗北を受け、慟哭(どうこく)するチナ……などはさて置いて、セイは全力少年」

フェイト「ほんとだよね! 楽しんでるよね! しかもRGの更なる先って何!?」


(具体的に言うと作者イメージが、HGからRGビルドストライクに進化します)


フェイト「どういうこと!?」

恭文「お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。でも……うぅ、私もセコンドできるのに」

恭文「あのときはアイリ達がお腹(なか)にいたでしょ!」

フェイト「うぅー!」


(ドキたまシリーズ最終回の直後、アレでした)


恭文「そしてガンダムバルバトス、初登場。いろいろ補正がかかって、カテドラルに匹敵するパワー……どういうことなの」


(なんか、ノリで)


恭文「とにかくこれで、十月以降はグレイズ達も出せるぞー。アニメもリアルと違い一年連続で続いたってことにすれば、ルプスや獅電も」

フェイト「第八回大会でギリギリ?」

恭文「うん」


(環境、アップデート。いや、読者アイディアもかなりもらうので、こういうのは必要かなぁと)


フェイト「でもヤスフミ、ナノラミネートアーマーの設定とかは」

恭文「簡単に再現できるものでもないし、大丈夫だよ。それより気になるのは」

フェイト「ジムスナイパーK9……!」

恭文「そっちの戦闘シーンは書き上がっているので、次回冒頭でどがーんっと。その後はジュリアンとタツヤの対決。……しかも今回は」

フェイト「あ、そっか! アニメと違ってケンプファーアメイジング!」

恭文「果たしてタツヤは、あのときできなかった”決勝戦”をクリアできるのか。こうご期待ー」


(でもバルバトスはいいなぁ。肉弾戦は楽しい。
本日のED:MAN WITH A MISSION『Raise your flag』)


ガブリエレン(もう肌寒くなってきたねー。それでカキフライ……カキフライー♪)(むぎゅー)

恭文「ガブリエレン、カキフライが大好きだものね。でもその、またまたくっつきすぎ」

ガブリエレン(だって恭文、すっごく温かいから……大好きだよー)

ヴィエルジェ(なら私も負けないように)

恭文「カキフライ、作れない……」


(おしまい)






[*前へ][次へ#]

24/26ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!