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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第2話 『妄執』


空から舞い降りたのは、鉄塊を持った女――。

それが要塞の如(ごと)き堅牢(けんろう)さを誇っていた、悪魔の装甲車を、レイバー一体を粉砕。

更にAMFが発生している中で、的確な慣性制御を行い、新しい武器も地面から生成した。


何よ、これ……! しかも笑っていた……楽しげに、戦いの中で笑っていた。


「嘘……ヤスフミ!」

「やすふみ? あれ、それって……フェイトさんや部隊長達の幼なじみ!」

「確かハラオウン家で、リンディ提督が後見人で……嘱託魔導師をしているって」


ちょ、そんなのがいたの!? ということはハラオウン一派……いや、違う。

アイツは、違う。あの行動……躊躇(ためら)いなく人の命をすり潰した、容赦のない攻撃。

それはハラオウン一派のような、妄想家じゃない。もっと別の……そう、あれは。


「お前達なら、”古き鉄”と言えばもっと分かるだろう」


シグナム副隊長の言葉で、一気にイメージが固まる。

これまで持っていた【英雄】の姿と、画面のアイツ……一つとなり、ピッタリとはまり込んだ。


「じゃあ、あの子がヴェートルの英雄なんですか!」

「そう。蒼凪恭文――またの名を」


その姿は……古びた鉄そのものだった。


「史上最凶の嘱託魔導師」


こびりついた血も、汚れも落とすことなく、一部として背負い進む。


「古き……鉄」


頑(かたく)なで、時代遅れな鉄――それが、私達の前に降り立った。




魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝

とある魔導師と機動六課の日常 Ver2016

第2話 『妄執』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さて、全員のヘイトがこっちに向いてくれたし、ささっと片付けるか。

更なる調整を重ね、完成にまた一歩近づいた第五世代デバイスの試作システム……そのお披露目(ひろめ)にもなるし?


『なんだ、このガキ……AMFの中で魔法だと!』

『構わねぇ! やっちま』


とか言うので一気に飛び上がる。奴らのガトリングがこちらへ向けられた瞬間、アクセルフィンの羽根が羽ばたく。

このアクセルフィンはオリジナルと違い、カートリッジ一発分の魔力で効果ブースト。

反応と加速力に比重を置いたセッティングで、空間を縮めるほどの速度で突き抜ける。


まぁ転送魔法の方が手っ取り早いんだけどね! それはそれとして。


「よっと!」


真正面にいた一機へ肉薄。更に翼を羽ばたかせ、その頭上を宙返り。


瞬間的な加速により、奴らの射線上からは既に離脱している。

だから奴らは虚空を、僕が踏み締めていた地面を、囮(おとり)にしたソードメイスを蜂の巣にするだけ。


『いない……どこだ!』


その間にハッチ背部へと取りつき、緊急用の開放スロットルを引いて……一気に展開。

搭乗者の首根っこを掴(つか)み、引きずり出した上で背後に放り投げる。


まぁビルの谷間……安全圏なので、死にはしないでしょ。ちゃんとヘルメットや防護プロテクターもつけていたし。


「うわぁ!」


すぐさまコクピットへ乗り込み、射線変更されるガトリング弾を回避。

なお弾丸は機体装甲に当たって、その全てが跳弾。周囲へと跳ね返っていく。


『取りつかれただと! 五番機がやられた!』

『引きはがせ! こっちは四機……講習も受けていない魔導師風情に』


奴らが動揺している間に、術式発動――メインシステムに侵入し、すぐに掌握。


「HDM接続、カット。緊急モニター表示オン」


ハッチを閉じた上で、各種スロットルの具合を確認。うん、よく改造されているねー。

なので二時方向へローラーダッシュ。放たれるガトリングを回避しつつ、こちらの弾丸を右薙に掃射――。

液体装甲の前では、さすがのガトリングでも無力に等しい。でもそれは、機体本体に限り。


断続的なトリガーにより、奴らの飛び道具そのものを狙い、蜂の巣にし、爆散する。


『何!』

『馬鹿な!』

「ごめんねー」


これで近接戦闘しかなくなった。スモークディスチャージャーに攻撃能力はないし、僕の距離で戦える。


「講習なら受けてるんだわ」


忍者資格を取っていた絡みで、ハンニバルについては動かしたことがある。

OSや操縦系統のレスポンスは原型機とほぼ同じだから……いや、一箇所違うか。


≪危ない奴らですねぇ……自爆装置がついてますよ。シャットダウンはしましたけど≫

「しかも外部からの……ネットワーク、辿(たど)れる?」

≪戦闘中に終わらせますよ≫

「お願い」


奴らがナタを構えたところで、二時方向にローラーダッシュ――。


「It's――」


コンクリの地面を踏み砕き、ハンニバルは一つの”車両”として走り出す。

残り四体の同族を、AMFガトリングで牽制(けんせい)しつつ、一番右の奴へ回り込み。


「Show Time!」


ナタで左薙の斬撃。両腕と胴体部の関節を狙い、力尽くで粉砕する。

よし……弾丸はともかく、手持ち武器は魔法などで破砕しないよう、液体金属を使っていると思った。

もちろんアルトと事前サーチもきっちりしたけどさ。これなら共食いも問題なくいける。


デバイスや普通の物質操作が通用しないのは、素材の時点で打ち負けているから。

でも同じだけの硬度があれば? 少なくともその衝撃を、その重さを伝えることはできる。


九時方向から切り付けを、ナタで流しつつ走る。

更に左腕のスモークディスチャージャーを連射。

地面に叩(たた)きつけられたスモークグレネード三発が、周囲に煙幕を展開する。


その間に二体目へと迫り、逆袈裟・袈裟・右薙の連撃。両肩と腰を、根元から切り落とし破砕。

……振り返り、後ろから迫ってきた三体目に対処。唐竹一閃を弾(はじ)いた上で、刃を返し胴体両断。

中にいる奴らからも話を聞きたいし、できる限り生かして仕留める。


そして二時方向からの斬撃を防御し、そのまま左スウェーで脇へと流す。

そうして背後を取った上で、胴体部目がけて右薙一閃。

その質量でフレームを斬り砕き、戦闘不能とする。これで終わり……ではなくて。


≪……辿(たど)りましたよ。とりあえず親機からの自爆プログラムはシャットダウン。奴らのシステムも掌握しました≫

「ありがと。……さて」


コクピット内部で軽く伸びをして、通信を展開。


「今動けず、もがいているお前達に告げる……こちらは」

『こうなったら……死なばもろとも!』


リーダー格っぽい、蒼肩の機体が爆散……しない。


『なんだ……なぜだ! なぜ』

「人の話は全て聞こうよー。お前達の自爆プログラムは全て掌握してる」

『何……!』

「というか、機体の制御系統は全て?」

『た、隊長!』

「ヒドい奴らだよねぇ、お前」


頭を痛めながら、最初に放り投げた奴を見やる。

そこにいたのは人ではなく、肉塊がすり潰されたような……そんな、赤い痕だけだった。

安全圏に放り投げたってのに、わざわざ……!


≪でもハッキリしましたね。あなた達は、自分の命など度外視している≫

「安易な金目的じゃないってことだね。まぁそういうわけだから、その辺りをキリキリ」


……そこで一つ、また一つと銃声が響く。

慌てて通信制御系を操作し、四機全員とラインを繋(つな)ぐ。

映っていたのは、自ら頭を撃ち抜いた犯人達。


全員が二十代後半以上の男で、その体格・顔立ちから歴戦の勇士と分かる。

ヘルメットを脱ぎ、持っていたベレッタでこめかみを……つい頭を抱える。


「さすがにそれは無理だわ」

≪全ての銃がコンピュータ管理になることを願いましょうか。さて、残るは三編隊ですが≫

『ちょお待った!』


そこではやてから通信。慌てた様子が空間モニターに映る。


『恭文、追撃は一旦やめて、こっちと合流して!』

「何言ってるの。一編隊を潰したら、他のだって」

『大暴れしてないんよ!』

「……してないの?」

『うん。とりあえず残骸からより詳しく解析したいし、時間が欲しい』

「分かった」


連鎖的に大暴れ……かと思ってたんだけど、また違うらしい。

つまり相手には、要求がある。この馬鹿どもはそれをすんなり通すため、脅しをかける役割だったと。


でもそれが返り討ちに遭ったんだから……どうなるかなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


逆賊どもの掃討が進み、世界はまた変革へと近づく。

そう思いほくそ笑んでいたのだが、突然入った緊急連絡にがく然とする。


「なん、だと……全滅……馬鹿な!」

『暴れていた四班だけですが……しかも、たった一人の魔導師に』

「どういうことだ! AMFは展開していたのだろう!」

『恐らくはパーペチュアルの術式かと。あれはAMFだと止められませんし。
……しかも腕が凄(すさ)まじい。レイバー操縦経験もあるようです』

「忌ま忌ましい……まだ分からぬか! 逆賊どもめが!」


腹立たしさで、悲しさで、テーブルを強打。そのときせき込み、血を吐き出しかけてしまう。


「旦那様!」

「構うな! げほ……げほげほ!」


老い先短い我が身……せめてお国のため、世のため人のため、この命を燃やし尽くし、奉公しようと定めた。

逆賊を駆逐し、人々が求める真の平和を、その安寧(あんねい)を伝える。そのためには奴らが邪魔……邪魔だと言うのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ハンニバルに搭乗したまま、人気のない市街を移動。

そうして機動六課の野戦拠点へたどり着いたのは、一時間後だった。

なおハンニバルについては、急きょ用意したトレーラーにてしっかり保護。


武装関係も運んでくれたので一安心。ゲンヤさんには感謝です。

コクピットを開け、少し振りの外へ。そのままトレーラーから飛び降りると。


「恭文さんー!」

「恭文!」


リインとはやて達が駆け寄ってきた。なのでまずはリインをしっかりキャッチ。

妖精サイズなのに安心しつつ受け止め、頭を撫(な)でてあげる。


「改めて、お帰りですー!」

「ただいまー。しかしはやて……相変わらず運が悪いねぇ」

「あんたに言われると屈辱やな! ……でもごめん、感動の再会を味わいたいところやけど」

「問題ないよ」


パイプを骨組みに張られたテント。その中へ入ると、知った顔と知らない顔が入り乱れる。


「馬鹿弟子!」

「どうもー。で、こっちの事情は」

「そちらもクロノ提督から聞いている。だがいいのか、リンディ提督が」

「あの、ヤスフミ……よかった。やっと六課に入ってくれるんだね」


あぁ、フェイトは話を聞いていない。これが(ぴー)型の悪癖か。


「あのね、今はみんなで一緒に、母さんを支えるべきなの。そのためには、ヤスフミの協力も絶対に必要で」

「ねぇはやて、この分隊長は不愉快なんだけど」

≪ほんとですよ。どうして私達が六課へ入るんですか、くだらない≫

「え……ヤスフミ、待って。母さんが要請したよね、必要なことだって」

「何人か死んでいる現場で、関係ない話をガタガタ抜かす……その時点でお前、勘が狂ってるんだよ」


ズバリ言い切ると、フェイトが悲しげに首を振る。


「関係あるよ! ヤスフミは誤解してる……母さんは本当に苦しんで、悩んで……一人ぼっちなの!
そんな母さんが、助けてって言ったんだよ!? ヤスフミは家族として、それに答える義務があるの!」

「家族じゃないわ、あんな奴……もちろんお前とも」

「……どうして、そんなヒドいことを言うの。母さんはヤスフミが大人にならないから、凄(すご)く悲しんで」

「はいはい、フェイトちゃんはこっちよー。お薬の時間ですからねー」

「シャマル先生、ヤスフミを止めてください。ねぇ、お願い……大人になってくれるだけでいいの。私達と一緒に頑張ってくれるだけで」

「シャマル、お願いなー」

「任せてください……!」


シャマルさんに引っ張られ、フェイトは退室。するとはやてが申し訳なさそうにため息。


「ごめんなぁ……知っての通り、混乱状態が続いていて」

≪それでなんで現場に≫

「勝手に出てきた。で、対応した身としては」

「鹵獲したハンニバルは、このまま使おうよ」

「向こうさんへの対抗手段になり得るし、それは問題ないよ。でも自爆プログラムは」

『それなら心配ありません』


そこで通信モニターが展開。やや疲れた様子のシャーリーが……アレ、背後にはハンニバルが。


「シャーリー!」

『108のメカニックスタッフが協力して、装置とプログラムは解除していますから。だよね』

「うん。駆動OSも一から書き換えたから、今までと同じ方式では無理だよ」

「そっか。じゃあデータ引き上げとか……相手方についての情報は」

「それらしいものは全く。あったのはミッド地上の地図データと、そこへの書き込みだけ」

『なぎ君が破砕した五機も同じくだよ。必要最低限のものしか詰め込んでいない。
あ、それとその五機ですが、損傷箇所も共通フレーム部分が主なので』


更に別のモニターが展開。そこに映るのは、僕が壊したハンニバル達。


『いわゆるミキシングで修復できそうです。二機は何とかなるかと』

「乗り込んで対抗できるんやな!」

『搭乗には訓練が必要ですが、こちらからの遠隔操作は可能なので。そちらの鹵獲機体も、同様のアップデートを行います』

「よし、なら全力で進めて! 最低でも盾にはできる!」

『了解です! ……ところでなぎ君、ハンニバルのシステムから、敵の本拠地とか』

「駄目。編隊の掌握と同時に試みたんだけど、ラインをカットされた。恐らくは対策込みで、面倒に書き換えられている」

『一筋縄ではいかないかー。じゃあメカ関係はこっちに任せて、少し休んでいてよ。今は動けないし……それと、お帰り』


それには肩を竦(すく)めて応えると、シャーリーは笑顔で通信終了。

リインがさっと用意してくれた椅子に座り、お言葉に甘えて伸び。


「やつらの動きは変わらず?」

「市街地を回るだけ。やっぱ北の奴らが暴走……いや、威力証明か?」

≪つまるところ、最強の敵は装こ≫

「「「それはやめろぉ!」」」


あれー、師匠達も揃(そろ)って、鋭くツッコんできた! どうしてー!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


シャマルさんが離してくれない。ヤスフミに、分かってもらわないと……駄目なのに。

母さんを傷つけないで。大人になって、私達と一緒に……ただ信じてくれるだけで、いいって……!


「シャマルさん、離してください! ヤスフミをどうして叱らないんですか!」

「全部あなた達が……いいえ、私達が悪いから……よ!」


強引に放り投げられ、地面を転がる。起き上がっても、シャマル先生は私の前に立ちふさがって制止する。


「……フェイトちゃん、エリオ達にも言われたでしょう? 提督が悪いのに、叱ろうともしないのは駄目だって」

「それは……でも」

「あなたはきっと、過去と同じ間違いを繰り返している」


その言葉で寒気が走った。


「家族と向き合う勇気を、大事な人の間違いと向き合う覚悟を、どこかに置き忘れている。
……だから恭文くん達は、私達から『奪い返す』と決めたのよ。間違いの上で奪われたもの、全てを」

「奪って、ない。それこそ違う……私達は、申し訳なくて……母さんも同じで」

「残念ながらリンディ提督は、そんなことを欠片(かけら)も思っていないわ」

「嘘です! だって、私は母さんの口から!」

「そんな嘘をたやすくつく……そんな人間なのよ、彼女は――」


その言葉が信じられなかった。

それなら、信じた私は……嫌だ……嫌だ……。

今まで母さんの言う通りに、母さんが示してくれた大人にって、頑張ってきたのに。


その母さんが実はおかしくて、示した方向が間違っていた?

だったら私、これからどうすれば……私の十年は、一体なんだったの……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれが、古き鉄――どうしよう、手が震えてる。

明らかにただ者じゃないもの。凄(すご)く手慣れた雰囲気な上、堂々としてる。

そう堂々とくつろいで、リラックスして……パイプ椅子なのに! しかも背もたれもないタイプなのに!


まるでもたれ掛かっているかのように、ぐでーって! これだけで普通の神経じゃないわ!


「あ、あの……八神部隊長」

「……っと、紹介が遅れたな。この子達がうちのフォワードで」

「スバル・ナカジマ二等陸士です!」

「エリオ・モンディアル三等陸士です!」

「キャロ・ル・ルシエ三等陸士です! あ、この子はフリード」

「くきゅー♪」


そしてフリードはばさばさと羽ばたき、古き鉄の頭に……こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「ご、ごめんなさい! フリード、降りてー!」

「くきゅ?」

「首を傾(かし)げられた!?」

「……目上の人だと失礼になるから」


アイツは優しくフリードを剥がし、頭を撫(な)でてあげる。しかも……目をキラキラさせながら。


「やめようねー」

「くきゅー」

「ていうか……おぉぉぉぉぉ! これがアルザスの飛竜! アルト、ドラゴンだよドラゴン!」


いきなりテンションが変わった!?


≪あなた、ドラゴン自体は見るのも初めてじゃないでしょ≫

「それでも心ときめくんだよ! いいねー、ドラゴン!」

「くきゅー!」


ドラゴン……何だろう、一気に印象が変わった。そう思ったところで、スバルに肘をツツかれる。


「ティア、自己紹介!」

「……そうだった!」


やば、すっかり忘れてた! すぐに敬礼して、古き鉄へ挨拶。


「初めまして! ティアナ・ランスター二等陸士です! お噂(うわさ)はかねがね」

「そっかそっか……ねぇはやて、この子を殴っていい」

「「はい!?」」

「おのれが仕掛けた爆弾、なぜか僕のせいにされたからねぇ……!」


……あれかぁぁぁぁぁぁぁ! え、どうして!? いや、そう言えばチンクやルーテシアが、それっぽいことを!


「そ、その節は申し訳ありませんでした! もう……一発と言わず、二発三発と!」

「あぁ、いいよいいよ。冗談だから」


いや、限りなく本気に聞こえたんだけど……というか今、拳を鳴らしましたよね、あなた。


「それにまぁ、僕もおのれやスバルについては、ギンガさんからいろいろ聞いてたしね」

「あ……私も聞いてます! ギン姉とはお友達だって!」

「そう……犬っぽい妹と」

「犬!?」

「ツンデレ」

「誰がツンデレよ! ていうか……ギンガさんー!」


ちょっと、どういうことよ! 私……ツンデレじゃないし! 一体どこがどうツンデレなのよ!

あとで……仕事が終わった後で! きっちり問い詰めなくちゃ! 今は非常事態だから駄目だけど!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアが怒りに打ち震えて……そうだよね、ツンデレって言われるの、嫌いだものね! ツンデレなのに!

とにかくえっと……メモ帳を取り出し、幾つか質問開始。今は非常事態だし。


「それでえっと、蒼凪さん」

「恭文でいいよ。じゃないとギンガさんがうるさくなる」

「どういうこと!? じゃ、じゃあ……恭文」


あれかな、私と仲良くしないと……というか、後でギン姉とはいっぱい話そう。


「まずその……レイバー? 操縦は今すぐ習得とか」

「無理。工業用のものでも、車みたいに教習所へ通ってようやくだしね。軍用ともなれば、数十時間の実技・学科訓練が必要」

「え、でも恭文は」

「恭文は地球の方でも、嘱託魔導師と同じような仕事をしていてな。第二種忍者なんよ」

「忍者!?」


恭文が取り出したのは、地球の現地語で書かれた資格証。

ほ、本当だ……忍者って! 本当に忍者って書かれてる!


「その中でレイバー操縦はもちろん、銃器や刀剣の扱いも覚えてな。ほれ、あっちでは魔法なんてほいほい使えないだろ」

「な、納得しました。じゃあシャーリーさんのプランが確実」

「更に言えば軍用・警察用でよく使われているタイプは、乗り心地・居住性共に最悪なのよ」

「最悪?」

「狭い上にシェイクされるんだよ。実はアタシ達も以前、ちょっとした体験会で乗ったことがあるんだが」

「……八神家全員、ゲロったわ。シェイカーつーか、ミキサーや」


そんなレベル……! あぁ、そういう意味でも”訓練”が必要なのか。それもさっとメモしていく。


「お、思い出すだけで吐き気が……」

「リインも、あれは無理なのです……うえ」

「ああああああ! しっかりしてください!」

「俯(うつむ)いちゃ駄目です! 空! 空を見上げましょう!」


思い出すだけで本気の嘔吐(おうと)をしかけるって……どんだけなの、レイバーって!


「じゃあ……あの、戦車を潰した魔法というか、物質操作は」

「そう……あれはパーペチュアルの秘蔵術式【アイアンクリエイト】。魔物すら断ち切る、強じんな刃を生み出すわけだよ」

≪あれですよ、地属性とか神属性的な魔法ですよ≫

「何それ!」


と、とにかく……企業秘密なんだね。うん、詳細を話すつもりがないのは分かった。


「でもさぁ、おのれらは現場対処に出ない方がいいよ」

「え……で、でも」

「奴らは捕まりそうになったら、躊躇(ためら)いなく死を選ぶ」


……そこで、胸が痛くなる。

そうだ。恭文が確保した犯人達も、揃(そろ)って自決を……それはつまり。


「だったら、余計に引けない」

「なんで」

「私……レスキュー志望だから。消えそうな命があるなら、絶対に助ける……全速力で、最短距離で!」


死にそうになっても、止めて、道を繋(つな)ぐということ。

罪を償い、やり直すという道に……つたない言葉だけど、そんな決意を込めた。


すると恭文は肩を竦(すく)めるだけで、何も言わない。でも……それだけで、何だか心が温かくなった。


『……八神部隊長!』


そこで突然、グリフィスさんから連絡。


『犯人から再び連絡が!』

「……ついに要求かなぁ」


緊張しながらも、部隊長が応対。私達も身を寄せて、その様子に聞き耳を立てる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


車両の解析が進む中、はやてが実にすばらしいニュースを持ってきた。

そう、持ってきてくれるはず。聞き耳を立てながらも、会話に集中――。


『やぁ八神二佐、随分御活躍のようだね』

「おかげ様でなぁ」

”ボイスチェンジャー……師匠”

”最初の連絡もそうだった。ルキノとグリフィス達が、必死に解析しているところだ”

『我々の力は分かってもらえたと思う。まぁ無駄な抵抗もしているようだが』


男は怒りを滲(にじ)ませながらも、はやてを、管理局そのものをあざ笑う。


『異界の魔導に精通していようと、しょせんは管理局の犬。貴様らに世界を守る資格などないよ』

「あいにく、あれは犬というより狼や。うちらじゃ制御し切れん」

『ざれ言はいい……本日午後三時までに』


現時刻を確認。午後十一時……ゴタゴタしている間に、お昼目前となっていた。


『管理局が捕縛した犯罪者を、全て解放したまえ』

「なんやて!」

『それが成されない場合、我らが編隊は街を破壊し尽くす』

「狙いはなんや!」

『粛正だよ、八神二佐。君達は管理局を救ってしまった……その間違いを、我々が正そうと言うのだ。では、いい返事を期待する』

「ちょお待て! それはどういう」


どういう意味か聞くまでもないからか、通話は切られた。

はやては頭をかきむしりながら、グリフィスさんに確認。


「グリフィス君」

『逆探知不可……ですが音声データが増えたので、ボイスチェンジャーの解除は進むと思います。もう少しだけお時間を』

「ピザ屋の配達くらいでお願い」

『善処します』


軽く返したものの、はやては疲れ果てて着席。それでまた頭をかきむしる。


「マジかよ……!」

「さすがにそんな真似(まね)はできんぞ。市街がどれだけ混乱するか」

「達成されなくてもいいとしたら、いろいろ変わりますよ。しかし要求が金じゃないとは」


お昼として用意されたハンバーガーを、一つ手に取り開封。

僕の大好きなテリヤキバーガー……ついニコニコしながらかぶりつく。


「面倒だなぁ」

「お前、こんなときによく……いや、こんなときだからこそ、だな」

「おう」


シグナムさんも、師匠も、はやても、リインも僕に続き、ハンバーガーをしっかり食べてエネルギー補給。


「シグナム副隊長」

「お前達も食べておけ。この四時間が山だ」

「それを越えて、上手(うま)い夕飯が食えるようにな」

『はい!』


スバル達もそれにのっかり、勢いよく食べる。

そう……人間、ご飯がなければ生きていけない。

どんな状況だろうとしっかり食べることは、とても大事だ。


そうしないといざってとき、エネルギー切れで動けなくなるもの。


≪さて……どう読みます?≫

「金が目的じゃないのは予想していたけど、最悪のコースだ」

「あれもスカリエッティ達と同じね。表現したい思想があって、そのために……ねぇ、装甲車はミッドだけだと思う?」


ツンデレ呼ばわりしたせいか、ティアナもすっかりため口。でもいい食べっぷりなので、全く気にならない。


「最低でも主要都市には仕掛けられているかな」

「んぐ!? ティ、ティア……というか恭文!」

「僕ならそうする。中央本部の事件以上にお笑いぐさだよ?」

「確かにね。これだけ戦力も整った組織が、魔改造した装甲車とレイバーすら止められないんだから」


ヴェートルの事件、そしてJS事件で露呈したように、管理局の問題点がまた浮き彫りとなっている。

魔法戦力に一極化しすぎて、その保険が存在しないのよ。だから簡単に蹂躙(じゅうりん)される。


「こうなると、主犯を捕まえるしかないわよね。……そう言えば部隊長、犯人達の身元は」

「おぉそうやった! 実は恭文が到着する前、三佐とクロノ君が協力して調べてくれてな」


はやてはハンバーガーを食べきり、さっと手を拭く。その上でモニター展開……自決した奴らの顔を映し出した。

ただし現場映像ではなく、ちゃんとしたプロフィール表。


「連中、オルセアみたいな内戦地域で活躍していた、反管理局体制の活動家や。
その関係から、一時期管理局にもマークされとった。……実際は傭兵(ようへい)崩れやけどな」

「傭兵(ようへい)崩れ?」

「活動家が暴れるのにも、お金が必要。それを稼ぐために戦場で暴れて……結局手段が目的になったわけや」


はやてのザックリとした説明に、首を傾(かし)げたキャロも一応納得。

……残念ながら管理世界の中でも、そういう……内戦地域はあってね。

NPOも含めた治安維持活動も行っているけど、難しいところはある。


管理局の人員が足りないとか、そういう話だけじゃないんだ。一度生まれた火種は、鎮火しても危険なものだから。

特に民族・宗教などが絡むとね。”違う”という当たり前のことで、相手への攻撃を正当化してしまう。

それが一度、属するコミュニティの正義になってしまったら……なかなか拭えないよ。


≪妙に統率が取れている上、潔いと思ったら……でもこれでハッキリしましたよ≫

「管理局の転覆を狙っているわけか。スカリエッティの尻追いで」


やってることは同じというか、真似(まね)っこ。それに呆(あき)れながらもハンバーガーを食べきり、ドリンクもぐいっと飲み干し。


「お恥ずかしいったらありゃあしない。……ごちそう様でした」


包み紙をしっかり丸めて、ゴミ箱に入れる。よし、腹も満たされたし、お昼寝の時間まで頑張るぞー。


「ヤスフミ、のん気にしてる場合じゃないよ!」


そこでフェイトが戻ってきた。あぁ、シャマルさんは仕事をしない人だったのか。僕の現地妻になるとか言ってるからー。


「あの……アルトアイゼンのシステムを、私達に譲ってほしいんだ。
そうすればAMFでも魔法が使えるし、それで私達も戦えれば」

「アホか! 四時間で形にするなんて無理やで!」

≪それ以前に、GPOとの約束がありますから≫

「駄目だよ。……もうそんなわがままは駄目。私達を信じて、母さんの言う大人になるの。
さっきも言ったよね。ヤスフミは母さんをいっぱい傷つけたんだから、そうする義務があるって」

「それでお前みたいに、アジトに閉じ込められる役立たずになれと? 馬鹿馬鹿しい」


左手の時計を操作して、アラームセット。


「お前を見ていればよく分かるよ、リンディさんが間違っているって……だからシャーリーにも愛想を尽かされる」

「――!」

「てーか僕やギンガさんを殺しかけたこと、謝ってもないのに」

「だ、だってそれは、ヤスフミが私とシスター・シャッハを」

「本気で謝る気持ちがあるなら、どこだろうと土下座はできるよ? そう……たとえ溶岩の如(ごと)く燃えたぎる、鉄板の上だろうと」

「ひ……!」

「話がすり替わっとるで! 鉄板はどこぉ!」


二時五十分――まぁ十分前行動は基本だよね。


「それに僕は、お前達のことなんてどうでもいい」

≪いつものように、パーティを楽しみますか≫

「ヤスフミ、待って! 私は」

「……フェイトさん、僕達が恥ずかしいのでもう黙ってください」

「エリオ君と同じくで」

「そんな……エリオ、キャロまで、どうして」

「言ったはずです。僕達は、フェイトさんのような臆病者にはならない。……家族が間違っていたら、叱る勇気を持つって」


その言葉でフェイトは崩れ落ち、被害者ぶって泣き崩れる。

……それが面倒なので振り返り、蹴飛ばしてテントの外へシュート!


「ふぎゃ!」

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」

「超――エキサイティング! ……って、アホかぁ! 容赦なくぶっ飛ばすって!」

「言ったでしょ、どうでもいいって。ところではやて、六課隊舎ってまだ修復中だよね」

「うん。修復作業も来週頭から……え、なんで確認するの」

「つまり、装甲車が数台爆発したとしても、誰も困らない」


市街地で暴れさせるのも、破壊するのも危険。なので暗に提案すると、はやてと師匠達があんぐり。


「たとえ、今度こそ更地になったとしても」

「……アンタ、まさか!」

「他にないでしょ。金が目的じゃないとすると、最悪自爆する可能性も」

「それがあったか……!」

「くきゅ!?」


フリードが恐ろしいと言わんばかりに鳴き、スバル達も動揺。


「で、でも市民の避難は済んでいるよ!? いや、完全防備とはいかないかもだけど!」

「そこでレイバーの御登場だ」

「そうだったー! シェルターくらいならこじ開けられるんだね!」

「ハンニバルもそれなりに器用だしね」

「……分かった! 今度こそ全部の責任は、うちが取る!」


おぉ、さすが部隊長。深町本部長ほどではないけど、即決で決めてくれたよー。


「でも、何か手があるんやな!」

「時間もあるしね」

「ほなエリオ」


そこでちびっ子その一がさっと出てくるけど。


「あ、ごめん。アンタは駄目や」


はやてが即座に訂正して、その勢いのままずっこける。……仕方ないので、起こしてあげよう。


「ねぇエリオ、再就職先は探すべきだと思うな」

「あと半年の、我慢ですから……!」

「今のは悪かったよ! うちの判断ミスやから! あとエリオ、今の発言については後でお話や!」


そんな理不尽な通達を受けたエリオには、肩を叩(たた)いて力強く励ます。

少年よ、大きく育て……わんぱくでもいい、たくましく育ってくれれば。


「あれに接近戦もないし、やっぱティアナかキャロかな」

「……部隊長、今思ったんですけどヴォルテールで踏みつぶすのは」

「市街地やで!?」

「いや、だから踏みつぶすだけで」

「デカすぎるやろ! 動くだけで大破壊確定や!」

「おま……おい、その目はやめろ! 本気じゃねぇか! 拳を鳴らすなぁ!」


今の会話でよく分かった、この子はやめよう。あの……深町本部長と同じで、ヤバいキレ方をしそうだ。


「蒼凪、ライトニング分隊副隊長として進言する。……キャロはやめてくれ」

「そんな、一生のお願いってノリで言わなくても……ならそっちの」


えっと……何だっけ、名前……つい声の方が印象的で。


「中原麻衣さんボイスの子がいいな」

「「「「誰!?」」」」

「それがティアナや。そっかそっか……アンタ、中原麻衣さんも好きやったなぁ」

「「「「しかも通じている!?」」」」

「舞-HiMEもよかったしねー。さぁ行くよ、マイマイ!」

「変なあだ名を付けるな馬鹿! ティアナ……ティアナよ! ティアナ・ランスター!」

≪楽しくなりそうですねー≫


そうして笑いながらテントを飛び出すと。


「蒼凪!」


シグナムさんから車のキーを投げつけられる。それをキャッチして。


「裏に止めてあるレパードだ!」

「レパ……ありがとうございます」

「ヤスフミ、駄目……どうして! また同じ間違いを」

「はいはい、てめぇは薬の時間だろうが」

「離して! ねぇ、どうすればいいの……私、分からないよ! ただ母さんを傷つけてほしくない……みんなで解決したいだけなのに!」


小うるさいハエの羽ばたきは気にせず、問題の車へ。

ティアナに『これ?』と視線で問いかけると、頷(うなず)きが返ってきた。……でもこれは。


「本当にレパードだぁ! しかもゴールド!」

「日産【レパード】――だったわよね。地球で一九八〇年から、十九年ほど製造・販売された車」

≪大下さん達もよく使っていたそうですね≫

「どちら様?」

≪あぶない刑事ですよ≫


キーのスイッチを押して、ロック解除。その上で乗り込んで、シートベルトを締める。

内装やロック関係は、最新式に置き換えているのか。試しにエンジンを始動させると……おぉ、いい音!


「でもどうして」

「アースラと同じ。もう使われていない古い車を、車両部から融通してもらったの」

「あぁ……隊舎が襲われたから」

「車両関係はほぼ全損だったしね」

「じゃあフェイトの、宝の持ち腐れな黒い車も」

「それも」


ティアナもシートベルトを締めている間に、安全確認。


「しっかしフェイトのアホ、相変わらず学習してないんだねぇ」

≪これ以上馬鹿をやる前に、勇退させてあげるのが優しさでしょ。牢屋(ろうや)入りはさすがに笑えませんよ?≫

「そう言ってくれると嬉(うれ)しいわ。というか、どうして分からないのかしら」


方向指示器を出した上で、ギアを繋(つな)ぎ、アクセルを踏む。ティアナは外付けのサイレンを車体上部にセット。

けたたましい音と光を放ちながら、レパードは軽快に走っていく。


「その発言が、部隊員の私兵化を当然とするものだって」

「結果六課への疑いを強めることになる。……察するにティアナは」

「設立を見過ごされていたのよね、最高評議会に。つまるところ六課は猟犬……前々から部隊長達も、疑問点として言っていたから」

「そう」


ちゃんと話をして、分かり合って……それで納得した。

やたらと結束を感じるのは、そのせいだったのか。あとはちびっ子達が濃い。

六課は嘘の上で、欺瞞(ぎまん)と謀略の上で設立された部隊だ。


でも真実もあった。問題はそれが潰されかねないほど、嘘が大きいことだけど。


「それで乗り心地はどう? 外回りにも使うから、念入りに整備してるんだけど」

「昔の恋人に出会えた気分だね」

「それは何より」


ティアナが肩を竦(すく)める中、僕達は街を走る。

活気も、笑顔も、人の流れも消え去った街を。


「それとアルト、ヒロさんがうたった”アレ”、調整しておいて」

≪あれ……アレ? え、もしかして≫

「フェイトはともかく、スバルの”甘さ”は叶(かな)えてあげたいでしょ」

「無理しなくていいのよ? あの子だって自分の身が最優先なのは分かってる」

「大丈夫、策はあるから」


その辺りも説明しつつ、僕達は走る。

強奪者を追い込むため、僕達は走り抜ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの子は現場対処に向かったらしい。それで六課と合流……それが嬉(うれ)しくて、特別総務統括官室で笑っていた。

ようやく伝わったのよ。あの子の頑(かたく)なだった心に、この私の愛が。

きっとフェイトも話してくれたのね。あの子はフェイトのことが好きだから、結局甘いのよ。


まぁだからこそ、フェイトには念入りに……私の理想を、私の信念を伝えたのだけれど。

これで全てが上手(うま)くいく。第五世代デバイスの試作システムがあれば、私は返り咲ける。

今回の件を機動六課が――私の子達が解決すれば、より盤石。機動六課への喝采は、そのまま私のものとなる。


だからはやてさん達にも、念入りに通達した。


「後見人として命じます。捕縛したレイバーを使うことは許可できません。
私達は管理局員よ? 質量兵器の使用など厳禁に決まっているわ」

『で、どないしろと』

「既に蒼凪恭文三等陸士がいるでしょ。彼から第五世代デバイスの試作システムを取り上げ、解析を進めなさい。いいわね」

『恭文は局員とちゃいますよ』

「今は手続きが済んでいないだけよ。でも六課へ協力するというのなら、それは局員になるという意思表明と同じ。
さぁ、急ぎなさい……時間はないのだから。大丈夫、あなた達ならきっとできるわ。あなた達は私が育てた英雄なのだから」


そうしていつものように愛を、世の摂理を説く。それだけでみんなは従って。


『お断りや、キ(ぴー)』

「……は?」


でも違った。この子まで私を裏切ろうとする。


『というか、後見人でも何でもないのに、また偉そうに』

「何を言っているの。私は」

『あぁ、そう言えば通達が遅れたかなぁ。ミゼット提督達にも協力してもらって、後見人から下ろしてもらったから』

「なん、ですって……そんな馬鹿な! 理由は!」

『最終決戦で犯した数々の行動……更に管理局上層部への恫喝(どうかつ)行為。
それを重く見て、アンタは邪魔やと判断された』


するとはやてさんは、六課の部隊構成表を送ってくる。

それは本当につい最近、改訂されたばかりのもの。そこには……私の名前がなかった。


しかもライトニング分隊の分隊長が、なのはさんの兼任になっている……!


「フェイトは、どうしたの!」

『あんな精神状態で、現場に出せるわけがないやろ。分隊長から降りてもらってる。もう一般ぺーぺーやで』

「なぜそんなことを!」

『さっき言うたやろ。つまりアンタが恭文に要請しようと、恭文がそれを受けようと、六課が受ける義理立ては一切ないわけや。
ついでに言えば恭文は、アンタの要請を蹴ったはずやで。それも公衆の面前で』

「馬鹿を言わないで! それならどうして、介入したの! 他に理由が」

『アンタはまだ、アイツのことが分かってないんやな。……アイツらが戦う理由なんて一つで十分やろ』

「だから、それが私よ! 私の言葉をようやく信じてくれた!」


そうよ、私は否定などされていない。あれは悪夢……夢だったのよ。

あの子は私の愛を、私の言葉をようやく理解し、私に奉仕する喜びを悟ってくれた。


「だからこそあの子は、大人として……局員として戦う道を選んだのよ!」

『全然違う。――犯人達のやっとることが、何一つ気に食わないからや』

「違うわ! いいから聞きなさい! たとえ六課の後見人でなかったとしても、私は特別総務統括官――リンディ・ハラオウンよ!」


狂人の理屈を否定し、はやてさんに私の立場を告げる。

するとどういうことだろう……彼女は、鼻で笑った。


『このことは内政干渉として、しっかり抗議させてもらうから』

「何ですって! 待ちなさい、これは命令よ! もし破る場合、相応の処罰も考えるわ! 部隊員達の進路についても」

『そっちはクロノ君とカリム、ミゼット提督達が頑張ってくれとるから、問題ないよ。じゃあそういうことでー』

「待ちなさい!」


そして通信はたやすく切られる。かけ直しても繋(つな)がらない……また、着信拒否にされた。

あの子にも、エリオ達にも……フェイトにすら、繋(つな)がらなくなった。

いえ、エリオ達は繋がる。でも言葉が通じない……私が間違っていると、筋違いな説教をする。


それこそが勘違いだと諭しても、聞いてくれない。私を信じないのが不幸だと言っても、平然と否定する。

それが現実など、決して認められない。私は英雄を産み、神の頂へ踏み出したはずなのに。

なのに可愛(かわい)い子ども達が、母である私を否定する。私をこの牢獄(ろうごく)へ追いやった、悪魔達のように……!


孤独になっていく――私は何一つ間違っていないのに、悪意ある者達が傷つけていく。私を殺そうとする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトちゃんを押しのけ、アースラへ戻し、リンディさんの妄言をはね除(の)け……十一時二十分。

恭文については、ちょお防護策が必要かなーと考えていた頃。


『部隊長――やりました!』


グリフィス君から、焦り気味の声が届いた。でもそこには、確かな喜びもあって。


『ボイスチェンジャーの解除を終了! 声の主についても特定できました!』

「ようやった! ピザ屋の出前を超えたで! ……それで」


展開していた空間モニターに、サブウィンドウが表示。それにスバル達も注目。


『アジュウ・ウコン――』


はげ上がった頭、丸眼鏡、五十代くらいの男性……でも目つきはやたらぎらぎらしとる。


『株式投資の資産家ですが、過激思想グループ【バトズム】との繋(つな)がりを噂(うわさ)され、本局でもマークしていた男です』

「ほなあの装甲車やレイバーも」

『バトズムには地球出身の資産家も所属しているようです。恐らくはその繋(つな)がりで。
既に上から逮捕状は出されていますので』

「ありがとう、グリフィス君。……シグナム、スバル、付き合って!」


逮捕状のデータを受け取り、コートを羽織って移動開始。


「108と協力して、アジュウ・ウコンの自宅を包囲! 主犯確保や!」

「「了解!」」

「ヴィータとリインはエリオ達と現場待機! シャーリー達の作業、随時経過報告をお願い」

「「「了解」」」

「了解なのです!」


うぅ、本当は最大戦力といきたいけど……さすがになぁ。

ヴィータはリハビリ中やし、AMFの展開も予測されるし。

かといって、恭文達を呼び戻すのも辛(つら)い。……こちらの立ち入りを予測して、編隊を暴れさせる可能性かてある。


ただそれについても、押さえの手はある。シャーリー達の作業終了と同時に、一気に踏み込むで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あと一時間……世界は変わる……この私が変える。

死に近づく痛みに震えながらも、その事実が安堵(あんど)へと導いてくれる。

そう、そのはずだった。突如、玄関の方から破砕音が響くまでは。


「……旦那様!」

「何事だ!」

「局の討ち入りです!」

「馬鹿な……なぜだ!」

「お話は後で! 車を用意していますので……こちらに!」


秘書と護衛の者達に守られながら、必死に逃げる……そう、この私が逃げる。

お国のため、最後の奉公をしているだけの、私を……逆賊どもはまるで、犯罪者のように追い立てる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


予想通りにAMFが展開し、結界などは張れない状況。

その上奴らは銃器まで持ちだしてきたけど。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


スバルが前線を張り、リボルバーシュート――。

左手のナックルはないけど……ギンガに返しているけど、その威力は折り紙付き。

一気に十数人の男達が、不可視の衝撃波に煽(あお)られ、吹き飛ばされ、その意識を断ち切られる。


「ふん!」


更にシグナムも、庭に埋め込まれた石や像を斬り捨てる。

なお八つ当たりとちゃう……AMF発生装置、至る所に埋め込まれているんよ!

そんな地道な破砕活動のおかげで、完全キャンセル状態が緩和。


高濃度は変わらずやけど、魔力結合ができる……! それに喜び、声を上げた。


「よし――敵性対象排除、完了しました!」

「ようやった! 捕縛は108の人達に任せて、内部に突入! 主犯確保や!」

「了解しました」


うちも……いやいや、最後衛型やから自重。突入するスバルとシグナム、108の部隊員達を見送る。


「八神」


そこで三佐が合流。バリアジャケットを装着していると、肩を叩(たた)かれた。


「お疲れ様です」

「おう。……近隣の部隊や本局にも協力してもらって、バトズムのアジトや関係者は確保していってる」

「そうですか」

「それで最新情報だ。やっぱメンバーの一人が、向こうから車両を密輸したらしい」

「なら目的についても」

「判明した。やっぱ後追いだったよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


内部はもぬけの空……レヴァンティンのサーチでも、引っかかるところはない。

既に屋敷内は結界で封鎖されたが、恐らくは無駄。AMFの発生タイミングで逃げおおせたか。


「レヴァンティン」

≪やはり反応なし……しかし屋敷内の、綿密な捜索を推奨≫

「そうだな。隠し通路などがある可能性も」

「シグナム副隊長!」


スバルから大声で呼びかけ。慌てて縁側に出て、また別の大部屋へ入る。

そこには大型の通信機器が置かれていて、スバルはその前に座っていた。


「これは」

「どうもこれで、声を変えてお話していたみたいです。それと」


通信機の裏側に隠れて見えなかったが、スバルは小冊子を開いて見ていた。

それを閉じ、私に差し出してくる。丁寧に受け取り、ぱらぱらと中身を確認……その内容にゾッとした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――逆賊<時空管理局>打倒計画!?」

「これがその計画書のコピーだ」


別所(べっしょ)で頑張っているお仲間から、送ってもらったものらしい。

三佐が展開したモニターを受け取り、中身をチェック。えっと、なになに――。


――組員達の協力を得て作り上げた、対魔法戦闘兵器により市街を闊歩(かっぽ)。

逆賊どもが応戦したときのみ攻撃。市民には決して被害を出さない。

差し当たっての目標は、中央本部の陥落。部隊はミッド、ヴァイゼンなどの各主要都市に配備。


最終目的は逆賊<時空管理局>の無能さを世に知らしめること。

すなわち……ヴェートル事件のように、GPOと維新組の介入を誘発させる。

我らは悪として駆逐されるだろうが、それでいい。その後の正義は、GPOによって成される。


世界を守る防衛装置として、管理局がふさわしくない……それを証明するのだ。

そうすることで人々は目覚める。各国で管理局の不信任案が可決され、管理局は解体。

より強い軍隊がお国を守り、人々を守る。その後は未来永劫(みらいえいごう)の平和が訪れる。


我らの命は、世のためお国のために――。


「……アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「本人は大まじめらしいぞ。何せ死期が近づいているからな」

「死期!?」

「アジュウは最近、体調を崩していた。……末期ガンらしい」


三佐がやたら真剣な顔をしてきたので、つい息を飲む。

しかしはた迷惑な! こんなの無理心中も同じやろ! よっしゃ、絶対止めて無駄死にさせたる!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……なんですか、このいろいろ穴だらけな計画書……というか、メモ書き!?」

「一応習字で書いているがな」


なのでこちらも鑑定に回そう。アジュウのものだと証明されれば、駄目押しになる。

奴が過激思想組織とつるみ、こんなとんでも計画を打ち立てたと……死ぬまで牢屋(ろうや)入りだろうか。


「それにあながち、荒唐無稽とも言えん……地球で起きたTOKYO WARという都市型テロ事件もある」

「とうきょう、うぉー?」

「日本(にほん)の首都が今回のように、テロリスト集団に『占拠』された。
諸々(もろもろ)の事情で諸外国が軍隊を派遣し……危うく軍事介入寸前だったんだ」

「そうなっていたら、マズいんですか?」

「マズい。日本(にほん)は諸外国から『自国のテロすら防げない弱い国』だと示され……社会国家として死ぬ」


そこでスバルが息を飲む。そう、奴が狙っているのはそれだ。

実際ヴェートルの件、JS事件だけでも相当なダメージだ。

というか……介入という意味合いで言えば、JS事件の時点でアウト。


今回のことは駄目押しだ。反管理局感情が加速したら、各地で似たような事件が連発しかねない。


「本当に、スカリエッティ達の後追い!?」

「止めなくては、隊舎修復もなし。お前達の卒業祝いもなしだ」

「そ、それは嫌かも……!」

「その通信機、壊れてはいないんだな」

「はい」

「では……蒼凪」


レヴァンティンが気を利かせて、既に通信をかけてくれていた。

だからアイツはアッサリと出てくる。ここは……ぼろぼろだが、重機場か。


「委細は聞いているな」

『それはもう丁寧に』

「こちらで通信機を見つけた。お前の能力でハッキングし、奴らのコントロールを奪うことは」

『システム関係は言った通りなので、難しいかもですね。というか、それだとスバルのリクエストに添えられない』

「えぇ!?」


コイツは……戸惑うスバルには、『甘い奴なんだ』と肩を竦(すく)めておく。


『なのでスバル、もし僕に言ったことが本気なら』


だからこそ、対策を整えてくれていたらしい。蒼凪から私達宛(あ)てに、音声データが送られてきた。

ただし……どういうわけかタイトルが。


――大都会〜通常音量では再生禁止!〜――


なんだが……!


『これを使うといいよ』

「これって、音声データ? でも」

『究極の非殺傷設定兵器だよ』

「絶対嘘だろ……!」


付き合いも長いから分かる。ロクなことにならない……恐らく、私達の常識がまたミキサーにかけられる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


部下達に送り出され、一号車へと乗り込む。なかなかに手狭な運転室……その予備席へ座り、同志達と視線を交わした。

もちろん途中で分かれた者達も、二号車・三号車へと合流し、お国のため死地へ向かう所存だ。


「災難でしたね、大将」

「逆賊どもめ……もういい! 交渉は中止だ! 全車両、中央本部に進軍……攻撃開始!」

「一号車了解! 進軍開始します!」

『二号車、閣下の付き人さんを回収完了!』


おぉ、彼らも無事にたどり着いてくれたか。良かった……本当によかった。


『三号車も同じく! 進軍開始!』

『二号車、進ぐ……なんだ、この反応は……がぁ!』


そこで二号車から、けたたましい破砕音が響く。その上で通信が途絶した。


『三号車りょうか……うあぁぁぁぁぁぁ!』


三号車も同じ。その行動に寒気が走り、マイクを通し同志達へ呼びかける。


「二号車、三号車、応答しろ! 何があった!」

『こ、こちら二号車随伴六号機! ハンニバルだ……!』

「何だと」

『三号車随伴一号機! いきなり、空からハンニバルが振ってきて……砲塔がへし折られた。つーか転倒させられた!』

『二号車も同じく! まさかさっきの……これより迎撃に移る!』


つまり、同時二箇所にハンニバル? まさか奴らも、そんなものを用意して。


『ガトリングが通用しない!? 間違いない、鹵獲された機体だ!』

『だがなぜ! あれは一機だけだったはず! 同時に二機……うわぁぁぁぁぁ!』

『こ、こちら三号車二号機! 一号機がやられた! 二機目が突撃してきやがった!』

「……大将!」

「迷うな! 逆賊は殺せ……皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁ!」

≪The song today is ”大都会”≫


すると、なぜだろう……いきなりどこからともなく、音楽が聞こえてくる。


「おい、なんだ! ラジオか!」

「さすがにかけてませんって! まさかこれ……大将! 屋敷の通信機は破壊したんですか!」

「何……まさか!」


奴ら、通信網をジャックしにかかっているのか! ハンニバルがやられたように!

だがそんなのは無駄だ! すぐに予備回線へ切り替えてくれる!


だから車長も操作を始めようとした途端。


らーらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! らららららららぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


突如音量がMAXとなり、車内に歌が響き渡る。


らららーららららーがららーがあららららららー♪


問題はそれが……とんでもなく音痴ということだ!

思わず両手で耳を塞ぐが、そんなものでは効果がない。


「――――――!」

「――!?」

あららららーあああああーあああーああああーああーああーあーーーー♪

「――!」


液体装甲でできたはずの、車体が軋(きし)む……内部塗装がひび割れる。

積んでいる通信・制御装置も火花を起こし始める。


なんだ、これは……この、とんでもなく下手クソな歌はぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なぎ君が鹵獲したハンニバル一号機も、遠隔操縦できるようセッティング。

更に急ごしらえではあるけど、パラシュートも装着して空中強襲。

その結果装甲車二台のメイン砲塔を断ち切り、更に車体のひっくり返しに成功。


それじゃあ三機連動の戦闘開始……と思ったら。


『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やめ、みみが……みみがぁぁぁぁぁぁぁ!』

『がぶぶぶばばばおうばうばうぶっぶぶぶ……!』


とんでもなく下手クソな歌が各機に流され、次々と行動停止。それも響き続ける悲鳴の様子から察するに、搭乗員ごと。


「……シャーリー……さん」


手伝いに来てくれたアルトがぽかんとする中、私と……アースラのグリフィス、ルキノは察する。

こんなアホな方法で鎮圧する人間なんて、次元世界広しと言えど一人しかいない……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うちらは家宅捜索を108に任せ、アニタにもついてきてもらい、移動開始。

そうしたらまぁ……あのアホ、どこから音響兵器を持ってきたんや!

レイバーや装甲車の制御装置どころか、搭乗員まで破砕って! 自爆する前に粉砕って!


しっかし下手やなぁ、この歌! うちらは音量を絞って流しとるけど、まともに効いたら死ぬで! 精神的に!


『に、二号車と三号車、及びそれに連なる編隊は活動停止……凄(すご)い、威力だ』

「あ、あははは……ははははは……」

「……あり得んだろ、おい」

「……なぁ恭文、これ……JS事件のときに使えば」

『その解決祝いのカラオケで、生でうたわれたんだよ』

「それでなんで生きとるんよ、アンタ達!」


しかもまた気持ちよさそうに……クリスタルキングも泣くわ! 喜びとは別の涙が流れるわ!


「で、でも……ありがと。ちょっとやり過ぎな気もするけど、私のために……だよね」


そこでスバルが、頬を赤らめモジモジ。あの豊満バストも両腕で寄せられアピール。おー、これはまさか姉妹揃(そろ)って。


『それだけじゃないけどね。……だって偉そうな計画を立てておきながら、これで鎮圧されたら屈辱でしょー!』


上げたら落とす……それが恭文やった。アホがぶっちゃけたことで、スバルは後部座席からずっこける。


「スバル、これが恭文や。もうアイツらは立ち直れんで」

「は、はい……!」

「……どうしたらここまでヒドく外せるんだ。もしかすると、これは当代のギャグでは」


シグナムが明後日(あさって)の方向に思考する中、すっかり勝利気分やった。

だって……こんな地獄みたいな歌を聴いて、生きていられる人間なんて早々いるはずが。


『……待ってください! 一号車が再始動!』


でもそんな緩んだ気持ちは、グリフィス君の声で一気に引き戻される。


「なんやて!」

「そんな……あの歌を聴いて、生きていられるの!? まず耳だけは確実に壊れるよね!」

「まさか奴らは、人外なのか! ロストロギアと同化しているのでは……グリフィス、では護衛のレイバーは!」

『ハンニバルは全機稼働停止! 各地上部隊が手順に乗っ取り、搭乗員を確保していってます! これは……』

『そっちは大丈夫です』


そこでティアナが登場。楽しげにライフルを構えながら。


『お待たせしました! とびきりのライブ会場が用意できましたよ!』


窓から顔を出し、後方へ射撃――そうして着弾音が響く。


「あ、まさか……グリフィス君!」

『六課八○一<レパード>、一号車の前方に出ています! おい、大丈夫なのか!』

『問題なし!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの釜ゆでに等しき歌に苦しみながらも、車長は何とか通信をカット。

だが被害は甚大……そう、甚大だった。


「やべぇ……AMF発生装置、稼働率減衰! 完全キャンセル状態は維持できない! おい、各種制御システムはどうなってる!」

「こちらも稼働率六十八パーセント……エネルギーフィールドも使えません! ですが、戦闘続行は可能!」

「なら一部マニュアル制御だ! ”童貞”だった頃を思い出して、仕様書通りにてきぱきやれ!」

「「了解!」」


そこで着弾音が響く。慌てて前方を確認すると、金塗りの乗用車がいた。

更に助手席から身を乗り出しているのは……機動六課の部隊員! おのれ、逆賊の代表がまだ邪魔をぉ!


「大将、他の奴らとは連絡が取れない……孤立無援になりましたが」

「構わん。正義とは常に孤独……進めぇ! 真の英雄が、世界に舞い降りるまで!」

「――了解!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


六課隊舎の準備は完了。

僕達を追いかける理由作りも完璧。

スバルの願いも叶(かな)えたし、後は……仕方ないねぇ。


≪奴らのAMF濃度、七十二パーセントに減少。これなら魔法が通用しますよ≫

「通用するだけでも十分よ!」


奴らの機銃掃射をすり抜けながら、マイクを取り出し警告。

ティアナも一旦身を伏せ、クロスミラージュに持ち替える。


『あーあー……こちらは機動六課! みなさまの平和と正義をお守りする、本局・古代遺物管理部【機動六課】でございますー!』

「選挙アナウンス!?」

『ただいま国家転覆を狙う、アジュウ・ウコン一味と楽しいカーチェイス中!
市民のみなさんには巻き込まれないよう、迅速な退避をお願いいたします!』

『何だと……黙れ、逆賊がぁ!』


おぉおぉ、乗ってきた乗ってきた。火線が激しくなってきて、回避もどんどん難しくなっている。それでも笑みは崩さない。


「ティアナ、牽制(けんせい)・フォロー・囮(おとり)とガード、ついでに主砲もよろしく!」

「全部じゃないのよ、この馬鹿!」


さて……シメといきますか!


(第3話へ続く)








あとがき



恭文「というわけで、ラストバトルが三話に持ち越し……この後はサクッと終わるのにー」

古鉄≪それでも尺に収まらなかったんだから、仕方ないでしょ。というわけでどうも、私です≫

恭文「蒼凪恭文です。……最終兵器はヒロさんの歌」


(『つまり私は、とまとの熱気バサラってことだね。いいねー!』
『……姉御』)


恭文「頑張れ、アメイジア」

古鉄≪私達は一切ツッコみません。とにかく今回は……レパード登場≫

恭文「これが回り回って、さらば あぶないDのアレになるのです」


(え!?)


古鉄≪驚いてますよ、作者が≫

恭文「なるのです!」


(断言!?)


恭文「でもどうしよう。ヒロさんの歌という最強兵器を手に入れた今、僕達に敵はいなくなってしまった」

古鉄≪スーパー大ショッカーでもOKですしね≫

恭文「ザンギャックもこれで全滅だ――!」


(それで全滅したら、死んでも死にきれないと思う今日この頃。
本日のED:クリスタルキング『大都会』)



あむ「何で初っぱなからクライマックスな曲を……!」

恭文「破壊力で言えば、次点だよ?」

あむ「はぁ!?」

恭文「安室奈美恵さんの『CAN YOU CELEBRATE?』、UVERworldさんの『CHANGE』が最高峰」

あむ「ちなみに、基準は」

恭文「音楽は普通だからね。初っぱなで歌に入る曲は最強。……ただ最強過ぎて、初っぱなで装置が壊れる危険性も」

あむ「どんだけなの、ヒロさん……!」

恭文「ただね、全部の歌が駄目なわけじゃなくて……マキシマム ザ ホルモンをうたわせると上手なのよ。Fとか」

あむ「どうして!?」


(おしまい)







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