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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory47 『夢の名は』


俺達が操る、モンスターズレッドはウェポンバトルに挑む。

対するは蒼凪恭文&リインの【ガンダムAGE-1タイタス】。……少々オーバースケールだがな。

というかこれ、百分の一……マスターグレードを持ちだしたのか? また気合いの入りようが違うなぁ。


だがそれくらいしてくれなきゃ、こっちとしても困る。

見極める必要がある。あの人が預けたものを、コイツがどう扱っていたか。


ただ神棚に飾って愛(め)でていたか。

その熱意に恐怖し、目を背けたか。

それとも……お前だって分かっているはずだ、蒼凪恭文。


お前は二代目メイジンと同じ、修羅だ。

戦う舞台は違えど、修羅と修羅が出会った……ならば、そこには闘争しか存在しない。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory47 『夢の名は』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【タイタス】を用い、飛び出した先にはパワードレッド。

でも、一気にフィールドが半壊って……こりゃ予想以上に厳しいなぁ。


『俺を粉砕したいとは、大胆だなぁ』

「あれ、声に出てたっけ」

「出てたですね」

『なら俺もそれに乗ろうか。……いくぞ、"グラトニー・システム(暴食)"』


【レッド】はバーベルのに対して、左手刀。

重りの片方、その付け根部分を切断した上で、重りを中に放り投げ。


『オラオラ――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!』


両の拳で鋭く連撃を放ち、バキバキに粉砕。

バラバラになった破片が降り注ぎ、それをすべて両手の平ですくったかと思うと。


『すべての食材に感謝を込めて……頂きます』


何ということでしょう――口を開き、バリバリボリボリ食べ始めてしまいました。

え、待って……咀嚼……咀嚼!?


『ごちそうさまでした……さ、次はそっちの番だぞ』

「できるわけないです!」

『……なんだ、自分の発言に責任を持てないのか。減点一』

「あいにく、バーベルを食べる趣味はないわ」

『そっちじゃない……ナタ―リアの保護者代理として、夫候補の採点だ』

「「おいこら待て!」」

『そしてペナルティ……"スロウス(怠惰)"」


……【レッド】の姿が消えた。

地面に破裂音が響き、姿を現したときには、タイタスの左側面にいた。

速い……重りを半分食べたってのに、なんて瞬発力。


奴が構えた拳に、左腕でガード体勢。

その途端嫌な予感が走り、腕部ビームスロット展開。


『"プライド・ブレス(傲慢)"』


【レッド】の口から放たれたのは、真っ黒な毒霧ブレス。

武装は使用禁止だけど、粒子エネルギーの活用自体は禁じられていない。

だから腕部を包む粒子エネルギーを操作――増大・振動させ、振動破砕状態を構築。


それはブレスと衝突……その結果浸食されていく。

咄嗟(とっさ)に飛びのくと、ダメージ警告が次々表示。


「装甲部表面が溶解……高熱の毒霧!? いえ、これは」


そう……溶解してすぐ、次の瞬間には効果。腕部表面の磨き上げられた塗装表面は、歪(いびつ)なものとなった。

更に間接部も……ち、粒子フィールドである程度弾(はじ)いてなかったら、ボディ全体がやられていたな。


「瞬(しゅん)着パテ!? で、でも……与えられた武装以外は使用禁止です!」

『いいや、ちゃんと』

「武装で攻撃してるよ……飲み込んだバーベル」

「あ……!」


そう……あのバーベルもまた、プラスチック素材だ。

それを内部で噛み砕き、プラフスキー粒子で変質・放射した。


『御名答……もらった武器を、試合中に『改造』しちゃいけないとは言われてないからなぁ』


【レッド】は口の中から、熱く煮えたぎる……ドロドロのプラスチックを吐き出し、両手で受け止める

それを叩(たた)いてこねて伸ばして……何と言うことでしょう。

あっという間に、刀を一本作ってしまった。


「あ、あんなことができるですか!?」

「あれがマッドジャンキーと呼ばれた、もう一つの理由だよ。病的なまでの【理想】への執着だけじゃない」


てーか、なんて精度だよ……!

手ごねだよ? きちんと計測し、打ち上げたわけでも、研いだわけでもない。

なのに刀はただ一つの歪(ひず)みもなく、その刃も、切っ先も、鋭さを見せつけていた。


単純な思いつきじゃない。何百……いや、何万、何十回と研ぎ澄ましてきた結果。


「試合中に機体の修理も、改造も行ってしまう……異端の【ビルダー】」

『いつもなら光雷球で溶かすとこだが、このルールだと武装扱いで反則になりかねないからなぁ』

「腹の中に、作業場を作ってきたわけか」


アインハルトがあの年で、あれだけ戦えるのと同じだ。

アインハルトの場合、覇王への思慕から、カイザーアーツに打ち込み続けた。

奴もガンプラとバトル、何より自らが作品に込める理想があればこそ、刀のように研ぎ澄まされていった。


……その姿には、また別の誰かがちらつく。


『でもジオ、行儀悪い……減点一だよ』

『そりゃあ手厳しい。……だがこれで終わりじゃねえよな』

「当たり前でしょ」


……再び、粒子フィールドを操作。

装甲表面への振動破砕によって、こびりついたパテに亀裂を入れ、その全てを粉砕する。


『……ほう』


ただノーダメージってわけじゃない。くそぉ……ここの塗装、ちょっと苦労したのにー!


『いいね……そうじゃなくちゃ、面白くない。なにせこのモンスターズレッド・"セブンシンズ"は』


そこでモンスターズレッドが、歓喜の咆哮(ほうこう)――。


『勝利でも、優勝のためでもなく――お前と戦うためだけに、調整していたガンプラだからな』

「また豪勢だねぇ」


その上で両腕を広げ……ゆっくり、こちらに近づいてくる。


「……何のつもり」

『決まってるだろ……お前達の力を見せてみろ』


無防備だった……余りに無防備。殺してくださいと言わんばかりだ。


「舐(な)めてるですねぇ……!」

『いいや。戦士としてお前が格上だと認め、最大限に警戒しているからこそ、自分からは動かない作戦だ』


……つまり、攻撃を受けても問題ない”何か”があると。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何アレ……ノーガードで近づいて、もう……十メートルもない。


「あれなら、攻撃し放題なのに……二人とも、動かない?」

「いや……動けないのだ。明らかに罠(わな)だからね」

「え」


ラルさんはそう言って、訝(いぶか)しげにモンスターズレッドを、タイタスを見やる。


「”柔よく剛(ごう)を制す”――ヤスフミ君は君も知っている通り、第一種忍者。同時にHGSなどの、対異能力戦のエキスパートだ」

「対、異能力……」


正直、全然見えない。いや、資格を持っているなら、凄(すご)い人なのは分かるんだけど……だからあんなに強いの?


「その経験がバトルにも生かされている。こと戦闘にかけては、彼の右に出るファイターもそういない」

「だったら余計に、ノーガードは駄目なんじゃ」

「しかし下手に攻撃すれば、その力を利用されて投げ飛ばされるか、カウンターを受けることになる。
それが分かっているから、あえて受けに回っている……何を狙っている、マッドジャンキー」

『……よし、逃げ回ろう』


その言葉で、会場全体がずっこけた。……恭文さんがヒドい!

いや、罠(わな)なんだよね! 罠(わな)なら……飛び込む必要も、ないとは思うけど!? でもヒドい!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「よし、逃げ回ろう」

「「「「意義なーし」」」」


さすがに罠(わな)と分かってるのに、飛び込むのとか嫌だわ。なので退散しようとすると。


『やめろ……』


モンスターズレッドは、僕の行く手を阻んでくる。


『その精神攻撃は、俺に効く』

「いや、罠(わな)だって分かってるのに乗っかるのは……ねぇ」

「ですです。リイン達は罠(わな)にはめるより、はめたい方なのです」

『ヤスフミ……やめてあげて。ジオ、ちょっと涙目』

『ば、馬鹿! 泣いてねぇよ! ただ……やめてくれ。その攻撃は、俺に』


……隙(すき)に隙(すき)が乗算されたところで、踏み込み右ストレート。

ビームラリアット等は使えないけど、それでもフル出力――しかし、異変は起こる。

拳が確かに、モンスターズレッドの胸元を捕らえた瞬間……拳ごと、タイタスが大きく弾(はじ)かれた。


「な、何ですかこれぇぇぇぇぇぇぇ!」


慌てて着地すると、リインが今の攻撃データを急ぎ解析。

その結果をこちらのモニターにも回してくる。……これは。


『どうした……一回駄目だったからって、諦めるのか』

「じゃあそれで!」

「リイン達、時間いっぱいまで逃げるので!」

『それはやめろって言ってるだろ……! 俺が間抜けだろ!』

「だったらTP装甲なんてやめればいいのに」


なので結論をぶつけてやると、モンスターズレッドが静止――。

ジオさんが、モンスターズレッドが楽しげに笑う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


TP装甲……またてんこ盛りだなぁ、マッドジャンキーは。

カワグチと二人、バトルの様子を見ながら感心してしまう……あの勢いがもう、凄(すご)すぎて。


「多くの人々が誤解していることだが、”あれ”はパワードレッドと全く違う。別のコンセプトで開発されている」

「パワードレッドのキモは、ジャン・キャリーによって開発されたパワーシリンダー。
それによって実現した、桁外れの腕力でガーベラストレートを振るう。しかしモンスターズレッドは」


そこで見やるのは、各所に配置された……大量のGNドライブ。


「膨大な数のGNドライブ、それが生み出す粒子でガーベラ全体を包み込み、重量軽減を行う。
C.E.の機体で言えば、ミラージュコロイドを姿勢制御に応用しているレッドドラゴン、ヴァンセイバー改に近い」

「だがその制御に使われている技術は、余りに圧倒的だ。……アラン」

「スラスターも、エンジンもない150Mガーベラを振るう技術なんて、我がPPSE社のワークスチームにもないよ。
彼は間違いなくスペシャル。ビルダーとしては、ボクより上だろう」


総合的には勝てるかもしれない。だが、その理想を突き詰めたという点では……それは悔しいと、つい苦笑する


「だが一方で恭文さんも、本物の戦闘……それも対異能力戦も込みの殺し合いをくぐり抜け、生き残ってきた猛者だ。
これは最高のビルダーと、最強のファイターの戦いとも言える」

「だとしたら、会長の横やりが残念だね。……でも、最強が常にナンバーワンとは限らない」

「無論だ。それをこの大会で、必ず証明して見せよう……だが」

「なんだい」

「実は大会初日……君と別れた後、マッドジャンキーが私を訪ねてきた」

「なんだって」


それは気になるので前のめりになると。


「私がユウキ・タツヤであるかと聞いてきたので、否定したが」

「……また、あの下手クソな否定を」

「哀れみの目はやめろ……! とにかく、その後の反応が気になっている。
……私がユウキ・タツヤでないと否定したのが、好都合であるかのようだった」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「リイン」

「間違いないです……TP<トランスフェイズ>装甲。接触ポイントに着弾時、自動的に粒子を通し、強度を固めているです」

「いや、恐らく手動<マニュアル>だ」

「マニュアル!?」


リインが見せてくれたデータは命中時のエネルギー反応。

ようは機体内部で粒子が駆け巡って、ピンポイントに強化したんだよ。

今回で言えば強度関係にベクトルが向いていて……それは、ガンダムSEEDに出てくるTP装甲とよく似ている。


「念能力で言うところの、攻防力の移動」

「恭文さんがさっきやった、振動破砕と同じ……武装が禁じられたルールでも、IフィールドやPS装甲は有効でしたね」

「それが反則なら、スタービルドストライクのアレだってアウトだもの。
……想像を絶するほどの、粒子制御能力だわ」

『本当に……神棚に飾っていたわけじゃあないようだな』

「神棚?」


まぁいいや、そういうことなら……腰を落とし、右拳を引く。

恐らくは読まれているだろうけど……まずは。


「試してみてから……かな!」


右手を中心に、粒子エネルギーを収束――。

再び受けに回っているモンスターズレッド、そのコクピット目がけて、右ボディブロー。

全身を駆け巡る、粒子の血流。その力をイメージし、瞬間的に駆け巡らせる。


それはインパクトの瞬間――向こうのTP装甲が発動すると同時に、拳を通して爆発。


……一瞬、時が止まったかのように静寂……そして。


『が……!』


ジオさんの呻(うめ)きとともに、モンスターズレッドは吹き飛ぶ。

十メートル……そんな距離を浮かび、着地。

すると胴体部は破砕し、コクピットは潰れる寸前となった。


『ジオ!』

『大丈夫だ……こりゃあ、発勁』

「いいや」


拳は問題ないので、右スナップ……そのまま構え、AGE-1タイタスは地面を踏み締める。


「桜花衝もどきだ」

『NARUTOかよ……!』

「忍者だもの」


NARUTOで桜や綱手様が使う、チャクラの精密コントロール技術。

それを用いての怪力は、正しく一撃必殺。僕も原作で見て、魔法で再現できるよう調整している。

だから今回は、粒子エネルギーを応用して、それを放ったわけ。


普通ならこれで大ダメージと言いたいところだけど……傷口から溢(あふ)れるパテが、粒子制御によって成形・構築。

その傷口を、内部破砕を埋めていく。


「これでも駄目ですか!」

『保護者だからなぁ。お前がナターリアと――【カティ】にふさわしい男かどうか、確かめなきゃいけないんでね』


突然出された名前に息が止まる。カティ、カテ……!


「おい、恭文……!」

「恭文さん、また知らない名前が出ましたけど――今度はどこの巨乳に、フラグを立てたですか!」

『またお嫁さん、増やしたの……ヤスフミ! まずはナターリア!』

「違う、そうじゃないから!」

『……その反応の遅れ……やっぱりお前だったんだな。あの人からカテ』


なので飛び込み、桜花衝もどきを両足に応用……そのまま胴体部を蹴飛ばし、モンスターズレッドには下がってもらう。


『てめ、今攻撃かよ!』

「ジオさん……僕は、バックボーンの解説とか、戦闘中の回想による尺稼ぎとか……嫌いなんだ。察して?」

『ふざけんなてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一体何かと思ったら、すげぇ理由で攻撃してきやがった! しかも平然と察しろと……俺達に合わせろと言ってくるし!


『何言ってるの! 面倒じゃないのさ! そういうのはね、試合前にやってよ!
なんで試合中にやっちゃうの! 負けフラグでもあるんだよ!?』

「全てのバトル漫画に喧嘩(けんか)を売りやがった! おいナターリア、コイツ馬鹿だぞ!」

「ジオ……今更気づいたの?」


うわぁ、めっちゃ哀れむ視線をぶつけてきた! しかもヤスフミじゃなくて、俺にだよ!

分からないのがアウトってことか! だが理不尽すぎるだろ! ヤバい、泣きそう……この精神攻撃は俺に効く!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あー、でも大体分かった。それはヒカリ達も同じなので、呆(あき)れ気味に頷(うなず)いてくる。


「コイツ、二代目メイジンと懇意にしていたのか」

「それについても、試合後にすればいい話です。お兄様」

「サクッとやっちまおうぜ」

「もちろん……でも、よく分かったよ」


よかったよ……このバトルに、”カテドラル”を持ちださなくて。

それじゃあ駄目だ……駄目なんだよ。


「あれは願い<メッセージ>でもあったんだ。ガンプラ塾で本当は、何を生み出したかったのか」

「そして一体、何を見失ったのか。きっと、本当は」

「奇跡――その心を託し、燃え上がる種。だから彼は、私達が見えていた。その心に夢を抱き続けたから」

「そして出資者は無理を仰(おっしゃ)り続けた。……それに応え続けるのも馬鹿だが」


ジオさんが見たいのは、今の僕だ。

ソメヤ・ショウキは、その悪意に亀裂を入れられた。

ジオさんは、ガンプラの可能性を――ビルダーに限界はないと突きつけられた。


なら僕は? ここにいる時点で、もう決まってる。


「でもさぁ、それで長い回想とか、バトル中に持ち込もうとしたのはねぇ……!」

『別にいいだろ!』

「なのでお返しだ」

『よくねぇのかよ!』


……SPスロットを展開・クリック。

AGE-1タイタスの【外装】をパージし。


「たっぷりと味わえ!」


二段変身――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……AGE-1タイタスが破裂した。

いや、これは……MGの精密性を生かした外装!

その中から降り立ったのは、”カテドラル”だった。


「な……!」


いや、違う……一瞬見まごうたが、あれは……ガンダムレオパルドだ。

だがヘッドバルカン・ヘッドキャノン以外の固定武装はとっぱらい、四肢はラインを残しつつもシンプルな形状。

両肩・両太もも・両サイドスカートにはハードポイント。それだけで拡張性の高さが分かる。


「ソイツは……」

『言ったでしょ、ムカついたって』

『だったらそれ以上のものを作ってやると、意気込んだ結果がこれだ……もぐ』

「カティのコピー機かよ!」

『コピーじゃない、リスペクト機体だ! その名も――ガンダムレオパルド・フェイタリー!』

「ものは言いようかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



いや、あるけどな!? 他のビルダーが作ったものに感銘を受けて、同じものを作るのは!

例えば塗装、工作技法……模倣は技法の始まりとも言うし、技術向上の一つではある。

だがコピーではない……そう、それは違う。これは本当に、リスペクトなんだ。


はははは……そういう、ことかぁ。


「ジオ?」

「お前、プライドはないのかよ! こてんぱんに打ちのめされた奴の機体をリスペクトって!」

『ない! いいものはいい――それが僕の主義だ!』

「け、そうかよ!」


おじさん……コイツは、俺と同じ道を選んだようだ。

ちゃんと知ろうと、してくれたんだな。おじさんの本気が、どれほど凄(すご)いか。

たとえその差に心が軋(きし)むことになったとしても、全力で……それで俺に”試せ”と言っている。


カティを知っているなら、それに迫ろうとした”贋作(がんさく)”がどれほどのものか……!

自分という種が、本当におじさんの意志を受け継ぐにふさわしいか、試せと言っている!


コイツ、性格も悪いな。俺がおじさんとカティについて、どれだけ知っているか”試す”つもりだ。

自分の見立てが正確かどうか。

きっとあるであろう、改善の余地がどこにあるか。


だが……それでいい。俺も試したくなったからなぁ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヤスフミの奴、あんなガンプラを用意してたのか……すげぇ完成度じゃないか。

選手・関係者用の観戦席はざわめいていた。なお――。


「え、AGE-1タイタスが……きゅう」

「イビツさん!? ちょ、しっかり……メーデー! メーデェェェェェェェ!」


一部、AGE-1タイタスの破裂にショックを受けて、倒れちまったが。

まぁ放置でいいだろ……メーデーがいないから、自分がメーデーとなって走っていったからな。


「しかし……なーんか、らしくねーなぁ」

「あお?」


頭上のあおも、フェイタリーには目を輝かせていた。だが俺の言葉で、小首を傾(かし)げる。


「前にあの野郎とやり合ったときは、小細工抜きでガーベラをブン回してきやがった。
戦いの中で刀を手放してからも、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)暴れまわりやがった。だっつーのに……小細工がすぎる上、半端というか」

「あお〜」

「ていうかアイツ……カティって! どこの金髪巨乳だ!」

「あお!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「恐らく、彼の動きが鈍いのはガーベラがないことと関係があると思います」

「どういうこと?」


何だか雰囲気のおかしいバトルだった。

普通の殴り合いとは違う……何か、確かめられているような。

そうだ、オーディションみたいな空気だ。


それでともみと二人、小首を傾(かし)げていると、千早が気になることを言い出した。



「去年の第六回世界大会――彼は全てのバトルに、150mガーベラを持ち込みました」

「うん……明らかに不必要な、スピードレースにも」

「あれは驚きよねぇ」

「正気の沙汰じゃないのです」

「それくらい拘(こだわ)っているんだろうけどよぉ」


歌唄とエル達に賛成……え、それでどうやって勝ったかって?

スピードレースは……去年だと、水上だったんだけど、とんでもなかった。

ガーベラの重量を加速と結びつけ、すっ飛んだんだよ。高飛びとかも込みで。


「それで去年の試合を確認したら、彼は基本立ち上がりが遅い」

「じゃあもしかして、この勝負は恭文が有利」


そう言いかけるけど、すぐ首を振る。


「んなわけないかぁ。タイタスの外装、ぺこぺこだもの」

「一発でも当たればアウトよ。しかも……あのモンスターズレッド、倒し切られたことが一度もないのよ」

「一度も? でもあの人、去年の大会で負けてるんじゃ」

「そのときの相手は前回優勝者カルロス・カイザー。そのときカイザーがとった手は」

「……場外負け」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「彼は去年の大会ベスト4――タツヤ君を下した直後の試合だった」

「それで、場外負け……ですか? でも」


わたしもセシリアさんに教わる中で、カイザーとのバトルは見た。

その……全てではないんだけど。でも先輩との戦いはとても堂々としていて、そういうことをする人には。


「あのカイザーを持ってして、倒しきれなかったんだ。……戦場で死なないこと、それがどれほど厄介か。
彼のビルダー能力と、モンスターズレッドはそれを体現していると言える」

「だったら恭文さんも」

「無理だろうな。バーベルを飲み込むことで、自重も重くしている。……砕くしかあるまい」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「勝つためには、決して死なない”怪物”を殺すこと。それが恭文さんに求められる」

「でもよ、あのフェイタリーっての、いい感じだぞ。それでも」

「世界大会ベスト4の実力者だよ? TP装甲の件から見ても、いろいろ仕込んでるよ。そもそも」


あんな、リアルタイムの修復方法があったなんて……!

僕の想像力、まだまだだったのかも! まぁそれはそれとして。


「体内に工房を抱えているわけで……」

「お前は無理なのかよ」

「さすがに、ボディ内部は……ビットみたいな感じで、修理ユニットを作る程度なら」


……そこで、モンスターズレッドが変化。

大きく口を開け、まるで呼吸をするように……それが、去年の世界大会と大きく被った。


「……マズい!」

「セイ?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれは……去年の世界大会で、アイツがやらかした!


「お前ら、耳を閉じろ!」

「あお?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「みんな、耳を閉じて!」

「え……え」

「早く!」


三条さんが混乱するけど、まずは自分から……それでみんなも追従した瞬間。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――!』


会場……いいえ、それを跳び越え、空に、静岡(しずおか)の大地に響きかねないほどの大咆哮(ほうこう)。

それがフィールドも揺らし、粒子の光を地面に宿す。


『ガイアクラッシャァァァァァッァァァッァァァッァァァッァァ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


な、何あれ……!

拳を地面に叩(たた)きつけたかと思うと、衝撃が……そうだ、大地を揺らし、空を歪(ゆが)めている。

荒れ地となっていた戦場が、更に砕け、ひび割れ、正しく地獄の模様を見せる。


更に口から長い舌が飛び出る。カエルが虫を取り込むみたいに、その舌が岩の塊を掴(つか)んで……振り回した。


「な、何アレ……ベイカーちゃん!」

「まさか、先ほど取り込んだバーベル!?」

「自由自在すぎでしょ!」

『グラビトン・ハンマァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


それがぐるんぐるん回ると、エネルギーが集束。それがゴーストボーイのガンプラに叩(たた)きつけられる。

当然左に跳んで回避するけど、一撃じゃ終わらない。嵐だ……嵐が起こっている。

岩が広範囲に、幾度も叩(たた)きつけられて、ゴーストボーイを潰そうと襲い続ける。


離れても、どれだけ逃げても、全く止まらない……どんだけ伸びるの、あの舌!


「ベイカーちゃん……もしかしてあの赤いの、去年デッカイ刀、持ってなかった?」

「はい」

「思い出したよー! あれ、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)暴れていたやつだよね!
怪獣みたいに叫びながら暴れて、レース勝負で刀を使った棒高跳び!」

「緻密な粒子操作行う知性と、どう猛なる獣性。二律背反する特性を併せ持つ……これこそ真の姿なのです。
そしてフィールドを改造するほどのこのパワー。いかにゴーストボーイと言えども」

「いいよいいよー!」


ゴーストボーイも負けるし、視聴率も上がりそうなバトル! 最高の気分で、零(こぼ)しかけたワインを飲み干せる。


「すっごく派手だしさ! ……ところでベイカーちゃん」

「はい」

「一応聞くけどこれ、反則じゃないよね」

「問題ありません。支給された武器と肉弾戦以外に、地の利を利用することも許されています。
例えばここがプロレスリングとしたら、四方の鉄柱やロープ、場外の椅子を利用するのはありですから」

「へー、じゃあ銃が撃てなくて、やられた奴もそうすればよかったのにー」

「全くです」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


頭上、左右……場合によっては真下。

ありとあらゆる場所から襲ってくる岩を回避しながら、つい笑ってしまう。

てーか地面が揺れすぎ……そしてジオさんはうるさすぎ!


耳が……耳が、キーンって……咄嗟(とっさ)に口を開けて、身構えていなかったらヤバかった。


”む、無茶苦茶(むちゃくちゃ)なのです……ウェポンバトルの定義を再確認するです!”

”肉体が最大の武器ってこと? それより冷静にやらないと”


なおうるさすぎて会話できないので、念話にて意思疎通しています。


”……まだトランザムも使っていないわけだし”

”確かに……!”


真正面からきた岩を避けると、それはすぐに回転――左薙に叩(たた)きつけられる。

大きく跳躍しながらのバレルロールで回避し、着地しながら後ろへ跳ぶ。

追撃を避け、右に跳躍。突き出されるように飛んできた、ハンマーもどきをやり過ごした。


当たらない自信はあるけど、この調子で騒がれるのは辛(つら)いなぁ。リインが倒れそうだ。


”ここから三倍速くなったら、さすがに対処できないですよ”

”……そうでもない”

『ガイアクラッシャアァァァァァァァァァァァァァアァアァァァァァ!』


拳を叩(たた)きつけ、放たれるのは……また宇宙海賊アルゴ・ガルスキーの技だった。

割れる大地は無数の杭(くい)として生成――それがこちらへ直進していく。

突き出される地割れを左に避け。


「……黙れよ」


目を閉じ、意識集中――そのままトリガーを引く。

鎖をかみ砕きながら、フェイタリーと一体化。

HGAC レオパルドを元に、動きやすい”素体”としての性能を突き詰めた。


そのときの経験から、分かる……フェイタリーでできること、できないこと。

一つ一つを、歯車のようにかみ合わせ、理解・分解・再構築。

その流れのまま、アームレイカーを操作。すると左の足下から、鋭く火花が走る。


地面の粒子が分解・再構築されて、大型のメイスとしてせり出してくる。


それを引き抜き、左薙一閃――襲いくるハンマー部を打ち砕き、舌先ごと粉砕する。


『えぇ!』


フェイタリーの全長ほどはある、黒塗りのメイス。

それは両刃(りょうば)の大剣にも見えていた。更にそれを回転しながら、奴へ投てき。


もちろんモンスターズレッドのパワーなら、問題なく止められるだろう。

……だけど、その瞬間フィールドに、メイスの通過地点に火花が走る。

それが肥大化し、雷撃となり、電導レールを形勢。それに乗っかり、メイスは半エネルギー化しながら射出。


更に一旦右手をアームレイカーから離し……大下さん直伝、処刑ソング発動! 右手刀で空間一閃!


『……!』

≪The song today is ”Silent Trigger”≫


放たれた豪腕と、フィールドの粒子に干渉し、発動された超電磁砲<レールガン>が衝突。

二つの力はせめぎ合い、衝撃をまき散らしながらも……豪腕が勝利する。

エネルギー化したメイスを散らし、衝撃を穿(うが)ち、豪腕が鋭く突き抜ける。


そこへ踏み込みながら、新しいメイスを生成。地面から生まれたそれを引き抜き、左薙一閃――。

がら空(あ)きの胴体部目がけて叩(たた)きつけ、モンスターズレッドをなぎ倒す。

しかし奴は器用にブーストし、距離を取りながら着地。


大きくへこんだ腹部、そしてメイスを振り切り、左手で保持するフェイタリーに眼光を叩(たた)きつけた。


「リインの声が、聞こえないでしょ」

「なんですかー! なんて言ってるですかー!」


ほらー! 全然聞こえてないよー。シオン達も耳が馬鹿になってて、会話に入れないしさー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ちょっとちょっと……なんか、話が違うんだけど! 砕いちゃったよ、ハンマー!」

「だ、大丈夫です。マッドジャンキーに勝てるはずが」

「というか、この音楽は何!」

「分かりませんー! ……あれ」


ベイカーちゃんと慌てふためいていると、あのフェイタリーが更に変化。

……胸元のアーマーやバックパックに埋め込まれたクリアパーツが、蒼色に輝いた。

すると周囲のフィールドが揺れ、また空気中に火花が走り始める。


バチバチと……あっちこっちで、雷撃が破裂する。


「何あれ……! 武器!? 武器なのかな! だったらルール違反じゃ!」

「お待ちを……!」


ベイカーちゃんは携帯を取り出し、試合の監視員に連絡。

それなら違反になるけど、ゴーストボーイがそんな初歩的なミスをするはずが。


「もしもし! あれは武器の使用ではなくて!? 今すぐ調査を……はぁ!?」

「ベイカーちゃん」

「そんな……フィールドの一部を利用しているから、問題ない!? マッドジャンキーと同じぃ!?」

「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何つう粒子貯蔵量だよ……! 本格起動しただけで、フィールドの構築粒子にまで影響を及ぼし始めた。

それを物質変換でもするかの如(ごと)く、新しい武器にしやがった。

でも問題ないよな……俺だってフィールドをぶっ壊して、岩や杭(くい)にしてぶつけていたしよ!


いや、それ以前に……この音楽は何だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? おじさん、助けてー!


「ジ、ジオー!」

『言っておくけど、【カティ】なら全てをマグマに変えられる』

「ははは……ぱねぇな、おじさん」


劣化でこれだけ……つーことは、あれか。

コイツはカテドラルの性能を、そこまでは引き出せると。

本当に、飾られるだけで終わってないんだな。


『というわけで、ノーガードでいこうか』

「ぜってぇゴメンだ……! てーかこの音楽はなんだ!」

『いい曲だよね!』

「そんなことは聞いてねぇ!」


そのまま飛び込み……奴と肉薄。最初に作った刀を振り上げ、唐竹一閃。

奴もまた、フィールドメイスで左薙の打撃。

お互い腰と力、魂の入った一撃が正面衝突。


それが衝撃を、空気を破裂させて、振り抜きながらも拡散させていく。

そして俺達の刀とメイスは、同時に破裂……強度、切れ味は同じ……つまり。


割り切った上で左掌底。だがその真下から、突如地面がせり出し、杭(くい)として生成されながら射出。

それに腕を押し上げられ、攻撃はキャンセル。そしてまた地面がせり出し、新しいメイスとなる。

咄嗟(とっさ)に飛び上がり、放たれた左薙一閃を回避。


そう……新しいメイスを抜き放ちながら、自ら作った杭(くい)もへし折り、空間を薙(な)いだ。


「ジ、ジオー!」

「厄介だな……おい!」


こちらも新たな刀を……奴の重量に対抗できる、大剣を生成。

その上で唐竹(からたけ)に叩(たた)きつけるが、奴も身を翻し、再度の左薙一閃を放つ。

そして奴のメイスは、粉々に砕ける。……こちらの刃を、全てぼろぼろにした上で。


これじゃあ当たっても、致命傷は避けられる。だったらと剣を離して、両拳を振り上げた。

そのままハンマーパンチを放つが、フェイタリーは即座に後退。その上ですぐ地面を踏み砕き、接近してくる。

こちらの両拳が地面を、落ちた大剣や刀を砕いたところで、また身を翻し……今度は、顔面にメイスの直撃を食らう。


そう、作り出す武装の総合性能がほぼ同じなら、あとは作り出す速度と手順、材料の貯蔵が重要になる。

そういう意味では、フェイタリーの行動は理に適(かな)っていた。……ルール違反ギリギリだけどな!


だが――。


「おもしれぇ……トランザム!」


確かに長々と解説なんざ面倒だ。

結局のところ、試す試さないと言ったところで……答えの求め方は決まっている。

どっちが強く、より”好き”の気持ちを表現できているか。


それを、バトルの中で白黒ハッキリさせる。俺達がやっているのは、そういう遊びだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


モンスターズレッドが赤熱化。口から赤い吐息を漏らしながら、重力を感じさせない速度で回り込む。

背後から放たれた拳を伏せて避け、続くバックブローもバク転で回避。

その上で大きく下がりながら、地面を連続変換。


うねりながら突き出される杭(くい)を一つ、二つ、三つと殴り潰しながら、こちらに接近してくる。

肉薄されたので身を翻し、左薙一閃。右ストレートと正面衝突しながら、メイスを振り切る。

そう……生成したメイスを砕かれながら。


すかさずSPスロットを展開して、クリック。

更にモンスターズレッドは、口から放つ吐息にプラ粒子を混ぜ込み瞬間生成。

二本の大太刀とした上で、連続斬りつけ。それを下がって回避するも、胸アーマーが僅かに削られる。


その鋭い打ち込み、地面を砕きながらも放たれる衝撃波に、つい笑みが零(こぼ)れる。

着地し、右足を踏み締めながらフィールド変換開始。衝撃波をせり出した壁で防いだ上で、散歩下がって左にスライド移動。

一気に切り崩される壁を気にせず、先ほどの位置へと戻り……空から放射されるビーコンを、胸部クリアパーツで受け止める。


『あれ……これって!』

「月は出ているか――」


一秒――モンスターズレッドが踏み込み疾駆。すかさず踏み込み、懐へ入りながらすり抜け。

二秒――斬撃を回避しつつ、その背中を蹴り飛ばす。

三秒――耐えるモンスターズレッド目がけて、フィールド変換開始。地面から張り出した右手で押し込んでおく。


四秒――空中にいる間の、一瞬を狙った押し込み攻撃。モンスターズレッドは機体と平手を摩擦させながら、回転斬り。


「マイクロウェーブ、くるです!」


衝撃波を伴い、右手が根元まで切り崩された瞬間、空に浮かぶ月からマイクロウェーブ照射――。

そう、トレーニングルームの外側には、御丁寧なことに月が設定されていた。

それが胸部クリアパーツへ到達し、エネルギーゲインは五倍以上に跳ね上がる。


両手両足のリフレクターが蒼色に輝き、その力強さをフィールド全体へ、試合会場へ伝えてくれる。


『サテライトキャノン……いや、違う!』


そしてフェイタリーの機体色が変化。

僕の魔力と同じ蒼色から、燃えるような赤に変身する。


「限界突破<ブラスター>I――――リリース!」


モンスターズレッドへと一瞬で忍び寄り、桜花衝もどきでの連打。

腹部表面を粉砕しながら後ずらせるけど、奴はそれにも耐え、こちらを掴(つか)もうと両手で攻撃。

それを受け止め……いや、開かれた手の中心部を殴り、弾(はじ)いた上で一回転。


モンスターズレッドが鯖(さば)折りに入るより早く、身をかがめ、地面を踏み込み――。

一気に立ち上がりながら、その勢いと力の流れを、体当たりでぶつける!


『が……!』

「鉄山靠!」


これで吹き飛び……いや、無理だ。奴は左足を踏み締め、強引に右フック。

それをガードして、逆にこちらが吹き飛んでしまう。

攻撃方向とは逆に飛んだので、ダメージは最小限。すぐ各部スラスターを吹かし、側転しながら着地。



『サテライトシステムを使った、機体のブースト能力……そうか、だからこそのレオパルド』

「面白いでしょ。つーわけで――」

『なら、真正面からだぁ!』


お互い地面を踏み砕き、最高速度で肉薄――お互いの拳を、出力の全てを叩(たた)きつけ、その衝撃で周囲の地面が粉砕する。

あの速度域でこの怪力なら、物質変換の速度を超えられる。となればあとは、気合いと根性と――踏み込み!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さてさて、実はなのはも長期休暇を取って、恭文君の応援へ行く予定です。

ヴィヴィオとあむさん達も気になってるしね。あとはアインハルトも。

はやてちゃん達の方では、もうすぐデバイスも仕上がるそうだし……ただそれも、決勝トーナメント以後。


それでもテレビで応援はできるので、ヴィヴィオ達と試合を見ていたところ。


「ぶぅぅぅぅぅぅおぅぅぅぅぅぅ!?」


ついカルピスを吹き出してしまった。


「「「「「なのはさん!?」」」」」

「なのはママ、しっかりして! クリス、タオルー!」

「ぴよぴよー!」

「ルティ、スゥもお手伝いしますよぉ。慌てず騒がず、丁寧に……いいですねぇ」

「ぴよー!」


クリスとフォルティア、スゥちゃん達が持ってきたタオルでフキフキ……。


「あ、ありがと……というか恭文君がー! 散々ブラスターは欠陥とか言ってたのに!」

「いや……なのはママ、それって”生身で使うから”って前提が」

「ぐ」

「そうだよー。それでなのはさん、年単位の後遺症にかかってたんでしょ? ガンプラバトルならダメージ修復もそこまでじゃ」

「……そうか。なのはは銀河鉄道に乗って、機会の体を手に入れるべきだったんだね。うん、よく分かった」

「「違う、そうじゃない!」」


ヴィヴィオとランちゃんのツッコミが苦しくて、あんなモードを作った自分に活……活!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ち……やたらと堅ぇ! MG外装のフレームに仕立てるだけあって、これ自体が半端ない強度ってことか!

まるで鉄だ。叩(たた)かれ、叩(たた)かれ、叩(たた)かれ――ただひたすらに研磨され続けた鉄。

……そこで一つ引っかかった。奴のフレームが鉄色に瞬き、その力強さを後押しする。


少し時間が欲しくなり、アームレイカーを引きながら後退。

限界突破<ブラスター>と銘打ったレオパルドは、原作ガン無視な超加速。一気にこっちの左サイドへ回り込み、右回し蹴り。

それを掴(つか)もうと、左手を伸ばすが……その手ごと弾(はじ)かれ、吹き飛ばされる。


そういうことならと、こちらも身を翻し踏み込む。ラリアットを撃ち込み、脇をすり抜け、すぐさま振り返りながらドロップキック。

ガードしたところで左アッパー。高く打ち上げ、瞬間的に飛び上がって四方八方から乱撃。

だがレオパルドはすぐ対応。こちらの突撃に合わせ、拳を幾度も撃ち込んでくる。


無数の交差、衝撃の破裂を描きながら、再びクロスレンジで乱打戦。

お互い同じだけの拳を、蹴りを放ちながらも、それをぶつけ合いながら上昇。

かと思うと離れて、空間を大きく回って交差。組み合い、せめぎ合いながらも乱回転を起こす。


お互いの推力がぶつかり合い、行き場のないそれらが機体バランスすら狂わせ、上昇させていく。

そんなせめぎ合いが無駄だと思い、お互い手を話した瞬間……顔面に右ストレート。

すかさず右ボディブロー。拳は左エルボーで打ち砕かれ、すぐさま右ハイキックが飛ぶ。


追撃のフックを逸(そ)らされた上で、腹に掌底。衝撃で内部機構が更に破砕する。

それでもがら空(あ)きな頭頂部目がけて、ダブルナックルの打ち下ろし。

頭部アンテナがへし折れ、首が外れかける。……いや、それにすら耐え、黄色いカメラアイを輝かせてきた。


くそ、砕かれた右拳のせいで、威力が半減してるか!

そう思った瞬間、左腕を取られて一本背負い……そして首に衝撃。

間接部をへし折られながら、右ローキックを放ってきた。


そうして勢いよく吹き飛ばされるが、すぐさま口からプラ粒子噴射。

奴に向けてじゃない……破損部へ吹きかけ、まずは右手を修理。

更に間接部も簡易的だが、修理した右手を動かし修繕。力を伝え、ゴリラみたいに殴ることは可能となる。


なので空中を踏み締め、左ラリアット。レオパルドはガードするものの。


「おらぁ!」


勢いよく空中へと吹き飛ばす。その上で拳に力を溜(た)め、一気に突き出す。

『パン』と空気が弾(はじ)け、放たれた衝撃が奴のボディを叩(たた)く。

それで腕のリフレクターがひび割れたところで、両手を腰だめに構え……親指を連続指ぱっちん!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「拳の打突だけで、空気弾!? どんだけ馬鹿力なのですか!」


リインに応える暇もなく、モンスターズレッドのアクションに合わせて左に加速。

指ぱっちんにより、マシンガンの如(ごと)く放たれた空気弾を回避し、続く追撃も置き去りにしていく。


「指の動きでもOKですか!」

「ほんととんでも」


急停止して、左肩スラスターを噴射。奴も移動を開始し、こちらの進行方向に射撃。

そのすれすれで停止しながら、改めて接近……深呼吸した上で、アームレイカーを稲妻のように走らせる。


「ないねぇ!」


機体表面の塗装が剥離し、それが粒子と反応。M.E.P.E(質量を持った残像)として展開される。

更に足下に粒子を収束させ、飛ぶのではなく駆ける――過去にある戦いで見た、縮地と呼ばれる歩法。

伝説上のそれに近い、空間そのものを縮める体捌(さば)き。それを思い出しながら、レオパルドが走る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱきたか、M.E.P.E(質量を持った残像)……あれは機体の武器などではなく、超機動による発生現象だからなぁ。

当然このルールでも問題なく使える。そう考えるとこのルール、がばがばな気もするが……まぁいいか! 楽しいなら!


「ナターリア、お前の見立ては正しいぞ」

「え」

「アイツ、間接部や装甲をPS装甲に仕立ててやがる」

「PS装甲!?」


原作でもストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、デスティニーがやっていたアレだ。

フレームの限界値が高いから、見て取れる拡張性も存分に生かせる。

だからこそあの超機動とパワーに機体がついていける。てーか俺の攻撃も軽減してる……念入りだなぁ、おい!


「だったら……」


分身の発生タイミング、その軌道を見据え、本体を見極める。

よく分かったよ、蒼い幽霊。ガチな殺し合いじゃあ、俺は間違いなく勝てない……だがな。


「そこだぁ!」


指弾を停止し、一瞬で両手を開いて猫騙(だま)し……いや、飛び込んできた奴を、蚊の如(ごと)く捕らえて潰す!

上手(うま)くいくかどうかはギリギリ。あの、空間を踏み締める加速もあったから、成功率からすれば二割いくかどうか。

だがこちらのトランザム出力が、それによって生み出されている重力軽減が、その助けとなった。


豪腕は羽毛のように軽く、しかし力強く、燃えるボディを捉える。


『……!』


奴は瞬間的に停止し、左右の平手に両拳を撃ち込む。

きっちり手の平の中心部を撃ち抜いてくれたが、今度は砕けない。


「やった、捕まえた!」


すかさず腹部に蹴りが入るが、それだけじゃあ……なぁ!

あとは全力で押し込み、両腕ごと胴体を捻(ひね)り潰すだけ!

幾らPS装甲で強化されていると言っても、耐えられる限界値はある!


しかも自分から、限界突破なんて出力を出してんだ! ほら……間接部から、粒子が漏れ出てきたぜ……!


「俺の方が遊んでいるようだな、蒼い幽霊!」


奴は押し込まれ、腕が曲げられ、縮む。あと少し……そう思っていたのに。


『ブラスターII――リリース!』


そこで奴の力が倍増。塗装表面が更に赤くなり……いや、燃えている。

赤から蒼へと戻りながらも、揺らめく熱を放出し始めた。コイツ、まだそんな力が……!

ボディが、間接部が軋(きし)み、その耐久度を急激に削っていく。そのはずだ……なのに。


『邪魔……だぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


炎は……より高い熱は、その指先にも伝わり、力を強める。

奴の拳はもう一度、零距離で撃ち込まれ……俺の掌握を弾(はじ)き跳ばす。


その上で蹴りが入る。強引に吹き飛ばされ、背中から数十メートル下の地面に墜落。


『もっとだ』


そうして奴は右拳を掲げる。上下にスラスターが付いた、独特なバックパックが回転。

一部から推力を放ちながら……まるでヘリコプターのように。


『もっと――』


拳に炎を、熱と見まごうばかりの輝きを凝縮。おい、あれは……ビルドストライクもやっていた!


『もっと!』


その光を、指先すら軋(きし)むほどの圧力を、固く握り締めていく。

人差し指、中指、薬指、小指、そして親指……相手を真っすぐ殴れる、弾丸のような拳。


『もっと――輝けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


それを右へと振りかぶりながら、レオパルドは回転。

プロペラのようになった、バックパックだけじゃない。体全体も回転させながら、推力を高める。


「面白ぇ」


それならばと、こちらも左拳を振りかぶり……同じように粒子集束。

力を限界までため込み、赤い炎としながら……一気に飛び上がる。


「これで、最後だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


基礎と基本でしっかり固めた頑丈な土台。模擬戦や実戦で積み重ねた、瞬間の判断と応用力。

横馬が教導時、前提とすることだ。フェイタリーに込めたものも、基本は同じ。

強力な武装や外装パーツも、しっかりとした”土台”があって、初めて応用できる。


だからこそ本体は極めてシンプルに纏(まと)め、VPS装甲でその強度も跳ね上げている。

その強度を、出力をどう用いるか。奇(く)しくも答えは、セイ達と同じだった。


「シェルブリット――!」


そのまま回転エネルギーも込みで、飛び込んできたモンスターズレッドへ突撃。

奴もまた、ロケットの如(ごと)き加速を見せる。それゆえに肉薄し、僕達は。


『「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」』


全力で、お互いの力を――自慢の拳を叩(たた)きつける。

衝撃は空気どころかフィールド全体を揺らがせ、充満している粒子エネルギーにすら干渉。

あちらこちらで雷撃が走り、大地が軋(きし)み、ひび割れた岩達が宙に浮かぶ。


アームレイカーから……フェイタリーから伝わる衝撃。

骨が、肉が軋(きし)んで、砕けんばかりの手ごたえ。でも笑う……僕は笑う。


笑って、ただ前だけを見て、ただ一歩でも進むことを夢見て、両足を踏ん張り、じりじりと押し込み。


「そこを……」


フェイタリーのフレームが軋(きし)んでも、その痛みが全身に走ろうと、構わずに笑って……笑って……笑って――!


「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『――!』


そうしてまた一ミリ進む。

――その一ミリが、拮抗(きっこう)を崩す。

粒子エネルギーを込めた弾丸は、流星のように突き抜ける。


それが拳を、モンスターズレッド本体を打ち砕き、引き裂きながら……フェイタリーは地表へ滑るように着地。


数十メートルの線を残しながら、ようやく停止する。そして右腕の各部から幾つもの爆発が走り、脱力。

それに痛みを感じながらも、息を整える。もう……振り返る必要はない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……こっちの再生機構すら、一瞬でぶち壊しやがった。

拳を始点として、機体全体が粒子フィールドに包まれ、弾丸と化していた。

おかげで正真正銘のスクラップ。はははは……もう呆(あき)れて声も出ねぇ。


「ジ、ジオー」

「おじさん、安心していい」


爆発が生まれ、そこに飲まれるモンスターズレッドだったもの。


「カティは……アンタに負けないくらい、ガンプラが好きで」


口から出てきたのは、あの人のことだった。


「人から怖がられるくらい、打ち込んじまう負けず嫌いに……ちゃんと引き継がれてる。……いつか、伝えに行くよ」


そうして新しい決意を、願いを送り、俺は……この敗北を受け止める。


≪BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんか、ドラゴンボールみたいな戦いになって……なったかと思ったら。


『――試合終了! 力と力の正面対決……不死の怪物を制したのは、蒼凪恭文・リイン組!』

『やっぱやるじゃない、あのおチビちゃん達! 最高ー!』


ゴーストボーイ、勝っちゃったんだけど……! 会場、めっちゃ盛り上がってるんだけど!


「ちょっと、ベイカーちゃん! どういうこと!?」


するとベイカーちゃんは、なぜかどこにもいなかった。


「あれれ……ベイカーちゃん!? どこ! どこ! 怒らないから出てきてー! プリーズ! 説明プリーズー!」


そう言っても、どこにもいない。いつでもというか、たった今探しているのにー。

テーブルの下、ソファーの後ろ、こんなところにいるはずもないのにー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


はははは……さすがに、疲れたー。てーか右腕が……まぁいいか! シェルブリットだしね!


「恭文さん、右腕は」

「大丈夫。……シャマルさんに怒られるかなぁ」

「そのまま愛を受け入れるといいのです」

「どういうこと!?」

「まさかお前も、アシムレイトが使えるとはな」


そこでジオさんとナターリアが近づいてくる。僕の脱力した右腕を見て、訝(いぶか)しげにしていた。


「いつからだ」

「結構前から……元々自己暗示での潜在能力解放ができたから」

「そういうことか。まぁあれだ、体調管理はきっちりしとけ。おじさんの二の舞が嫌ならな」

「な……! それ、どういうことですか!」

「……二代目の体調不良は、アシムレイトのせいだと?」


シオンが問いかけると、ジオさんは肩を竦(すく)めるだけだった。


「まぁその辺りは、またおでんでも食べながら話そうや。……美味(うま)いんだろ、静岡(しずおか)おでんっての!」

「美味(おい)しいよー! よし、じゃあ早速行こうか!」

「おう! だがこの俺と真正面から、力の殴り合いをするとは」


そう言ってジオさんは快活に笑い、ナターリアの背中を押す。


「やるじゃねぇか! つーわけで勝利祝い……じゃねぇが、任せたぞ!」

「……は?」

「ヤスフミ、ナターリアもチームとまとで頑張るゾ!」

「待て待て……待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ちょ、ジオさん!」

「それじゃあ店のピックアップは任せろ! あ、またバトルしようぜ……とう!」

「待てー!」


ちょ、逃げないで……ナターリアも抱きつかないで! ヤバい、りんやともみ達の視線が……特に歌唄が怖い! 千早が怖いー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――ウェポンバトルは無事に終了。セシリアも、ニルス達も無事に勝利。

僕達はそんな中、少し早めのお昼に突入。静岡(しずおか)おでんのお店で、黒はんぺんをかじって。


『――はぁ』


ひたすらに蕩(とろ)けていた。でも、いつまでも蕩(とろ)けるわけにもいかない。事情を聞いておかないと。

幸いここは個室だし、誰かが聞き耳を立てている様子もない。尾行もないので、早速話に入る。


「で、どういうことなのですか。どうして……ティアだけが知っていたのかとか、リインは聞きたいですけど」

「ごめん、それは後で……!」

「もぐもぐ……お前は二代目メイジンと懇意だったんだな」

「懇意ってレベルじゃねぇよ」


ジオさんは大根を摘まみ、ひんやりお冷やをぐいっと一息。それで心地よさそうな声を漏らす。

なおお酒はナターリアやリインもいるため、自重しているようです。大会中だしね。



「かつてお兄様と戦い、破れたソメヤ・ショウキもまた、”それ”を目撃した。……思えば、彼の心には、既に亀裂が刻まれていた」


シオンは険しい表情で、髪をかき上げた。そうして静かに……険しい表情で、モンスターズレッドを見やる。

はい、合流したときには修復されていました。修復スキル、半端ない……!


「努力には、情熱という炎が必要だと……それは二代目もまた、その炎を持つ者だったから」

「だから、オレ達が見えてたんだな」


ソメヤ・ショウキは他者のガンプラを奪い、そのパーツを組み合わせ、自己のガンプラとした。

そうして作り上げる努力を否定し、僕やタツヤすら上回る、天性のファイター能力のみで勝ってきた。

……キメラと言うべきガンプラで……バランス調整などが、一切されていないガンプラで。


でもそんなガンプラでも、一つ共通点があった。

それは奴が最初にバトルした際、使っていたHGUC バンシィの頭部。

それだけは……どれだけ異質に変貌しようと、使い続けていた。


メイジンに頼まれ、アランがインフラックスを貸し与えるまでは。

最初に動かし、勝利したガンプラだ。思い入れがあって当然だ。

僕もバトルした後、その点をつついて、奴の心を完全にへし折ったんだけど。


努力を、情熱を否定しながらも、奴もまた同じものを持っていた。

それはこれまでの道が、間違いであることを示すものだったから。


……でもそれは、僕だけの力じゃない。

<情熱の結晶>をかいま見たことで、亀裂を生じていた――!


「僕は、そのとどめを刺しただけ。うん……知っていたわ」

「あの人はお前のことを、特別扱いしていたからなぁ。可能性は高いと思ってたが……やっぱり当たりだったか」

「じゃあジオ、昨日……メガサイズAGE-1に狙われたのとか、ナターリア達がバトルするのとか」

「本当ならよくもこんな茶番に巻き込みやがって……と抗議するところだが、今だけはPPSEに感謝したよ。
で、なぜカティについて知っているかだが、最後の手紙に【描】いてあったんだよ」


僕も頷(うなず)きながら、がんもどきを頂く。これがまたジューシーで、食感が心地いいのよ。


「まだガンプラバトル黎明(れいめい)期で、二代目メイジンがデビューして……そう経(た)っていない頃だ。
お前達くらいの腕前なら、知っているはずだ。原作完全再現不可の技術も存在していると」

「トランザムによる粒子化……実際は量子テレポートですね。あとはガチな核砲撃とか……そう言えばパワードレッドのアレも」

「そう、その技術の一つだ」


原作さながらのバトルが売りとされる、ガンプラバトル……でもね、リインが今言ったように、無理なのもあるのよ。

極めて近い能力なら作れる。でもガチな再現は……特にテレポートとかはなー。


「まぁバトルシステムについては、常に研究・発展が続いているそうだから、その進化によっては……で、ここまでが前提。
子どもの頃、俺はそんなパワードレッドを作りたくてな。だが……無理だった。誰に聞いても結論は同じ。
何度やっても、どれだけ手直ししても、俺が原作で見て、憧れた”パワードレッド”が……150Mガーベラが作れない」

「パワーローダーなら……って、これは禁句か。だがヤスフミ、それも不可能なのか? テレポートよりは」

「質量が何倍もある”刀”を、平然と振るうからねぇ。普通は原作で初めて使ったときみたいに、一発で腕がイカれるよ」

「その通りだった。でも、メイジンだったら……そう言って一度だけ、すがったことがある。くだらないと、払いのけられたが」


うわぁ、想像できる。あのおじさん、僕との応対にも基本冷淡だったからなぁ。でも……そこで終わらなかった。


「でもメイジンは、答えを示した」

「俺が煽(あお)ったからな。”メイジンのくせに”って……それから少しして、あるものが送られてきた。……あの人が作った、150Mガーベラだ」


そう言ってジオさんが取り出し見せるのは、人間が持っても遜色ないサイズのガーベラ。でもその完成度に、リイン達と息を飲む。


「ジオ、これ……!」

「すげぇだろ」

「そんなレベルじゃ、ないのですよ。何ですか、この塗装……このあしらえ!」

「サイズがサイズだから、手を抜くとチープなところにも力を入れて、きっちり作り上げてる。……恐ろしい」


カテドラルと同じ印象だった。つまりメイジンは、示したわけだ。答えを……それは自分の誇りを守るためというより。


「俺が作ったツギハギだらけとは、比べ物にならないきれいな刀身……それ以上に鬼気迫るオーラ。
……初めて見たとき、震えたよ。腹の中がカーッと熱くなって、目の前の霧が晴れるような思いだった」

「でしょうね。メイジンが”くだらない”と言ったのは、パワードレッドの再現じゃない。
それくらい……何度も挑むくらい大事な夢を、アッサリ人に頼って解決しようとした」

「そんな、俺の弱い心だ。……だから火が付いたんだ。不可能とか、分からないとか、知ったことか。
何が何でもやってやるんだって……あの人が助けてくれたんだ。消えそうになった夢の種火に、発破をかけてな」


それはなぜか……きっと、メイジンも夢見るものがあったから。

そうして”追いかけてこい”と、挑戦とエールを送った。


「その日から俺は、プラモ改造の技術を磨くと同時に……ガーベラを使うには、根本的に何が必要か研究し始めた。
誰にも手を貸してもらえなくても、誰にも理解してもらえなくても、その俺を助けてくれた人がいる
俺は、それだけで走っていけた。……何より助けてもらってから初めて知った」


大根をつまみながら、ジオさんの声が変わる。悲しげな……苦しげな声に。


「あの人は、過酷な場所にいた。それもあってか、手紙を何度も送ったよ……今できる最高のものができたら、挑戦状として。
”これが俺の全力です! あなたはまだ挑んでいますか?”って……そうしたら、何度も返り討ちにされた」

「でも、そのたびに答えを示した。自分も挑戦を続けていると」

「その手紙も、二年前にぷっつりと途絶えた。最後に描かれていたのが」

「カティ」


ジオさんが大根の半分をかじりながら、静かに頷(うなず)く。


「最高にして最強……でもすぐ分かった。それでも、あの人の理想にはまだ遠い。
追いかけたくても、あの人は……アシムレイトを多用しすぎたんだ」

「……メイジンの強さ、それはアシムレイトがあるから……いや」


ヒカリはそれを無礼だと感じたのか、卵をかじりながら首振り。


「それほどにガンプラへ入れ込んでいたから、か」

「俺にとって、あの人はライバルだった。目標であり、競い合う相手だった。……だが勘違いするな」

「どういうことなのですか?」

「それでも、あの人には罪もある。……そういう人間の最後は、笑っちまうくらい惨めで孤独だ。しかも周囲の奴らまで不幸にする、とんだド外道だ」

「そうだね……よく、知ってる」

「それでも、その夢の結末を確かめなきゃならねぇ。ずっと大事にしてたものが、お約束通りに……ひっでえ、無残な最期を迎えたのか。
それとも何かの間違い(キセキ)が起きて、最後の最後で……全部を託せる理解者が見つかったのか」


そう言ってジオさんが見やるのは、やっぱり僕で。


「ま、それについては安心してる。フェイタリーは本当に、お前なりの”返礼”なんだな」

「カティも似たコンセプトだったから……というか、挑戦状みたいな真似(まね)をされて、実に腹立たしくて……!」

「マジでそういう理由かよ!」

「恭文さん、負けん気の塊ですから」

「だがそういう奴が、誰よりも強くなる……見立てはやっぱり、正しかったわけかぁ」


そうして宴は続く。その中で改めて、カティ――カテドラルとの向き合い方を定めた。

出すタイミングは決まった。これは預かり物じゃない、託されたんだ。だったら……応えていかないと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっと、全試合が終わった。何よ……ちゃんと生で、試合を見てろって。

確かに昨日は不覚を取ったし、あのヤスフミ・アオナギが半端ないのも分かったけど……でもねぇ。


「頭、痛い……早くこれ、脱ぎたい……」


通路をふらつきながら歩いていると、壁にヘルメットをごっつんこ。


「うぅ……早く寝たい……部屋に、帰って」

「楽しかったな、セイ」


そこで後ろから声……慌てて脇道に入ると。


「やっぱガンプラバトルは最高だな!」

「うん、そうだね。でも課題は山積みだ」


通り過ぎていくのはアイツと……あれ、確か一緒にいる子は。


「恭文さんのフェイタリー、RGシステムと同コンセプトのシステムを積んでいたし」

「だが決勝トーナメントへ入ったら、改修の余裕もできるんだよな」

「ある程度はね。……よし、そのためにもまずは、ビルドストライクの修復! それと今日のおさらいだ!」

「おう! 次の相手はどんな奴かな……楽しみだな!」


……ビルドストライク……今日のおさらい? じゃあ、もしかしなくてもアイツら……アイツは――!


(Memory48へ続く)





あとがき


恭文「というわけで、お待たせしました……やっぱりサクッとぶっ飛ばしていこう」

あむ「何を!? あ、日奈森あむです。恭文、北海道土産……ありがと。大事にするから」

恭文「うん。それとジオさんの背景については、読者アイディアからとなります。アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「そしてHP版では初登場、ガンダムレオパルド・フェイタリー。こちらはpixivにも上げていて……写真、また調整しなければ」


(いろいろ環境整備が……というかお掃除がー)


恭文「実は急ピッチで仕上げて、フレームとして使っていた罠……正しく存在しないはずの機体」

あむ「後付けって言うんじゃ!」

恭文「知らない!」

あむ「アンタはぁぁぁぁぁぁぁ! ……それで恭文、またハロウィンが……というか、エリザベートが痴女みたいな格好を!」

恭文「明日開催される、復刻じゃなくて……今年の新イベントだね。あれはドラクエの女戦士」

あむ「そう言えば……!」


(現・魔法少女、蒼い古き鉄や某タヌキのおかげで、オタク趣味への理解が進みました)


恭文「ところでさ、あむ……実は幾つか疑問が」

あむ「疑問?」

恭文「まぁ昨日届いた拍手の通りなんだけど」


(※北海道から帰ってきた恭文が見たものは。

@原初の馬鹿と言われても何も言い返さない金ぴか。

A超・得意顔になっている槍の兄貴。

Bなぜかフェイトと契約してもなお、此方にくっつくこうとするネロ。

恭文「僕がいない間にどういう展開がっ!?」 by 白砂糖)



恭文「拍手、ありがとうございます。……これはどういうこと!? 最後はともかく、他二つ!」

あむ「ま、まぁ……いろいろあったんだよ。それよりほら、今日も響さんの誕生日祝いがあるし!」

恭文「気になる……一体何が……」


(なお蒼い古き鉄はネロイベント開始から終了まで、我那覇響と北海道でイトウ釣りをしていました。いい型が釣れたそうです。
本日のED:BACK-ON『Silent Trigger』)


あむ「それはそうとアンタ、試合中に音楽って……リインちゃんが聞こえなかったの、そのせいじゃん! というか時系列ー!」

恭文「え、この技は時すら乗り越えるけど」

あむ「アウトォォォォォォ!」



(おしまい)







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あきゅろす。
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