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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第1話 『帰還』


誰かが噂(うわさ)をしたのか、くしゃみが飛び出る。おー、秋に入ったせいかなぁ。今日は温かくして寝ようっと。

それはそうと……レナ達に見送られ、僕は再び東京(とうきょう)へ。

一応東京(とうきょう)出身なので、この街には妙な懐かしさがある。あの頃の僕、荒れまくっていたなぁ。


ちなみに当時の顔見知り……学校の先生や同級生、叩(たた)きのめした高校生やおじさん達に見かけられると。


「ひ……!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やだ、やだやだ、やだ……やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


どれだけ奇麗に取り繕っていようと、なぜか揃(そろ)って悲鳴を上げ、半狂乱になりながら逃げ出す。


”今日はよく遭遇しますね。でもあなた、何やったんですか”

”レンガブロックや適当な石を、フルスイングで投げつけた。あとはスリングとか……『魔力』とか”


魔法自体はリインから教わったけど、実は魔力の発現なら、その前からできていた。

それもまたキッカケがあって……見上げて思い出すのは、そんな戦いの日々。

それもまた、数えて向き合うべき罪の形。


その上で先を目指すように、足を動かしていく。


”あなたもやっぱり、相当なワルだったんですねぇ”

”でも向こうから手出ししてきたんだよ? 正当防衛だよ”

”それを理由に、スリングで頭を狙いはしませんよ”

”まぁね”


仕返しとかがないよう、徹底的にやったからなぁ。やっぱり活殺自在は大事だと思いながら、とある事務所のドアを叩(たた)く。


「失礼しますー」

≪どうも、私です≫


今の売れっぷりからは想像もできない、こぢんまりとした事務所。

左サイドには、幾つもの予定が書かれたボード。右サイドにはみんながくつろぐソファーとテーブル。

社長室以外、全てがワンルームで構築されたそこには、お馴染(なじ)みのメンバーがいて。


『プロデューサー(さん)!』

「ぢゅ!」

「蒼凪くん!」

「あぁよかった! 無事だったのね! 怪我(けが)はないの!?」

「見ての通り、足もついてますよ」


軽くステップを踏みながら一回転。そうしてお土産を取り出し、みんなに差し出す。


「みんな、心配かけてごめんね。これ、雛見沢(ひなみざわ)のお土産」

「恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


黒髪ポニテを揺らし飛び込んできたのは、響だった。それを受け止め、頭を撫(な)でて落ち着かせておく。


「よかった……心配したんだぞ! いきなり失踪するとか、身辺には気をつけろとか言うから!」

「ホントよ! アンタ達、今度は一体何に巻き込まれたわけ!?」

「そりゃあもう、盛大なパーティだよ」

≪えぇ、派手過ぎて……しばらく戻りたくないなぁと思う程度には≫

「いろいろ大変だったようだね。まぁ、その辺りもじっくり聞かせてくれ」


社長は安堵(あんど)した様子で笑い、みんなを一瞥(いちべつ)。


「みんなも気になっているようだしね」

『はい!』

「うん、いいよ……まずは何から話そうか」


長い話になる……世界は、少しずつ変わり始めていた。

そのキッカケはどこからだろう。改めて、あの事件について思い返してみる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年・十月中旬――世界を震かんさせた都市型テロ事件【JS事件】から一か月後。

世界は混乱から立ち直りながらも、日常を進む。しかし、未(いま)だ課題は多い。

時空管理局の権威は最底辺まで失墜し、各世界の治安は悪化傾向にある。


ここは戦闘機人、ガジェットなどによる蛮行が、世に広まったことも起因している。

第二のセーフティーを持たない局は、新体制の上で現状に対処。

各地上本部とも歩み寄り、治安回復を最優先としていた。


しかし最高評議会とその一派による影響は消えず、セーフティーとなり得る各組織との関係も芳(かんば)しくない。

ここは機動六課後見人である、リンディ・ハラオウン提督の責任も大きい。

公式的にはJS事件解決の功労を評価され、特別総務統括官という新役職への出世を果たす。


……しかし、実際には違う。彼女は組織の中で隔離されていた――最高評議会の残党として。

そして彼女と志を同じくする【最高評議会派】とも言える人間を暴き出す、生き餌として利用され続けている。

残念ながら私達機動六課についても、同じことが言えるだろう。


元より局内外の人気も高く、リンディ提督の方針から広報誌などへの出演も多かった、六課の隊長陣。

JS事件でより高まった人気を利用し、機動六課を【奇跡の部隊】として祭り上げ、少しでも信用度を取り戻そうとする。

そんな旧来と変わらない、小ずるい動きも見え隠れする。内部では真逆の評価があるというのに。


最高評議会と接触していた、リンディ・ハラオウン提督。

その娘であるフェイト・T・ハラオウン分隊長。二人の処罰関係を見れば、大まかな流れは見えてくる。

やはり機動六課は、その設立から見過ごされていた。スカリエッティ達と戦い、”処分”するための猟犬として。


もちろんその可能性を危惧し、一部を除き全ての部隊員が徹底。

リンディ提督から出された、犯人一味の【破壊命令】もやり過ごし、全員の確保にも成功した。

ヴェートル事件の真実を知る人達からの評価も、それである程度覆ったらしい。


ただそれでも……私達がハラオウン一派である限り、リンディ提督の声を受け入れる限り、疑われ続けるだろう。

英雄の部隊……それは大うそにもほどがある。私達は利用されたことに怒り、その手を払った反逆者にすぎない。


そうして世界は、混迷を続ける……私はまだ、道に迷っていた。


「ティアー」


……ワードパットに日記を打ち込んでいると、同室のスバルが肩を叩(たた)いてくる。


「お風呂行こうよ! それでさっぱり!」

「私はもう行ってきた」

「ちょ、ヒドいー! いつの間に」

「アンタはギンガさん達の見舞いだったでしょ」

「だよねー。……これ、あらすじ?」

「日記よ!」


いや、確かに現状を振り返ってるけど……日記じゃない! それは違うから!

……そう言いながら立ち上がり、軽く伸び。


「……やっぱ私も、もう一度入るわ」

「そうだね……でも後処理もあらかた終わったし、あとは隊舎復活を待つだけかぁ」


ワードパットを閉じて、保存。その上で端末もシャットダウン……それが終わってから、スバルと一緒に部屋を出る。

そう、私達はまだアースラにいた。六課隊舎は復旧中だけど、まだ時間がかかりそうで。


「怒りの矛先、かぁ」

「シグナム副隊長が言ってたことだね」

「私達は利用された自らに怒り、利用した敵に怒り……まずそれを原動力として、進まなければならない」

「難しいね。怒りは強すぎれば、飲み込まれちゃう」

「どんな思いだって同じよ。でも……少しずつで、いいわよね」

「うん」


私達は変わっていく……変わることを迫られている。でも、その道筋がまだ分からない。

それでも同じ間違いを繰り返さないよう、一つずつ……そんな面倒な状況にいるのが、今の時空管理局だった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロデューサーさんは、嵐のようにやって来て、嵐のように去っていった。

まだ行くところがあるとか……今度はあれだっけ。イギリスに行くんだっけ。

でも私達、一つ疑問がある……とても、とても。


「プロデューサーさんとアルトアイゼン、なんで生きてるんですか」

「はるるん、それは……言わない方向で」

「本当に足がついてるかどうか、確かめたじゃんー。千早お姉ちゃんなんて八回も」

「いや、だって……核爆発レベルの砲撃に巻き込まれて、軽傷よ!? 幽霊を疑うわよ! 霊能力とかないけど!」

「元プロデューサーが人間離れしてるのは、いつものことだって……」


真に肩を叩(たた)かれるも、全然納得できない。というか、件(くだん)のリインちゃん達も同じらしいし、どういうこと……これが魔法か!


「でもプロデューサー、これからどうするんですかぁ? ミッドのお仕事も考え直すそうですし」

「あの、また765プロでお仕事してほしいなーって! 社長ー!」

「まぁそれも、しばらく考えたいようだし……今は見守ろうじゃないか」


社長は沸き上がるやよいや私達を宥(なだ)めながら、窓の外を見る。


「彼らもまだ、旅の途中さ」

「旅の途中」


呟(つぶや)きながら、私もそれに続く。……窓の外は、秋らしい穏やかな青色。

その下で旅を続けるプロデューサーさん、そして私達……一体、どこへたどり着くんだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


JS事件が終わって、六課は本懐を遂げた。……そこへの反省も、後悔も、逃げずに受け入れ持っていく。

その覚悟は定まったけど、今後はどうなるか。レリック事件も連鎖的に解決したし、あとはノンビリ……そう思うてたら。


「のんびりは、できそうもないんやな」

『あぁ』


アースラの艦長室で、クロノ君からの通信を受けていた。

リインも恭文を追いかけ、とんぼ返りした直後……ミッドの状況は、いろいろと面倒で。

なおアースラは不時着して、動かないまま。幸い郊外に墜落したので、撤去作業も後回しにされている。


というか、撤去されるとうちらの居場所もないので、隊舎が復活するまではこのままです。

いやー、町中やったら、人様の視線が突き刺さっているところやな。そこは幸運と言うべきか。


『基本は最初期のように、訓練などを中心にしてくれて構わない。
ただ……そこまで世紀末じゃないにせよ、治安悪化の流れは進んでいる』

「特にミッドは……ですね。レジアス中将の不正、その中将が作ったアインへリアルの暴発があったですから」

『その通りだ。なので有事の際は、地上部隊と連携・対処を頼む』

「本局は問題ないんやな」

『大丈夫だ。……幸いなことに、先日の働きで部隊評価も上がっているからな』


リンディさんはアレやけど、やっぱなのはちゃん達実働部隊は……って感じみたい。

実際クロノ君も、辛辣やった機動課の人達に謝られたらしい。偏った見方をしていたってな。


「もちろんそれは……フェイトちゃんとリンディさん以外。なぁクロノ君、せめてフェイトちゃんだけでも、カウンセリングとか」

『調整は構わないが……シャマルで何とかできないか』

「あの子、基本は体専門やで?」

『そうだったか……実はレティ提督にも相談して、調整はしているんだ。
ただ……一度調整したカウンセラーが、調べてみると母さんとは懇意で』

「ちょ、それって!」

『特別総務統括官になってから、いろいろと手の平返しをされているらしい。
その上恭文も行方を眩(くら)ませたからな。……というか、どうやって見つけたんだ』


そう言ってクロノ君が、リインを疑わしそうに見やる。

……そう、恭文は自宅に戻ってすぐ、また旅に出た。

まるで事後処理から、うちらから背を向けるように。


うちはもちろん、クロノ君も行方が分からん。そやからこそ……リインにはビックリで。


「恭文さんがまず行きそうなところは、大体絞られているですから。海鳴(うみなり)、警防、CSS、765プロ、横浜、ヴェートル――」

『……それでも十箇所以上はあるだろ』

「心配をかけたみなさんのところ、回っているだけって言われたら……でもフェイトちゃんやリンディさんはさっぱり」

「当然なのですよ。恭文さんのコミュ関係を、今まで散々馬鹿にしてたくせに」


そうしてリインはプンプンなので、落ち着くように撫(な)でておく。

……そう、リンディさんだけやない。フェイトちゃんも同じなんよ。

アイツがいろいろと無茶苦茶(むちゃくちゃ)なの、そういう人達の影響って思ってるからなぁ。


しかもそれは否定できない。なんよ、デンジャラス蒼凪って……! セクシー大下もアレやけどな!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イギリスも本格的な秋を迎えた頃、やすっちが急に訪ねてきた。

あぁ、例の婚約があるから……そう思っていたら、また事情が違っていて。


「……恭文君、それは冗談とかじゃ」

「わざわざイギリスに来て、そんな冗談を言うと?」

≪データも提示しましたよね≫

「分かってる……でも、それは」


リビングで紅茶を飲みつつ、聞かされた話は……アタシ達三人の血の気を、凍り付かせるには十分なもので。

闇の書事件をキッカケに、洗脳されていたリンディ提督。いいや……欲望の解放と言うべきか。

それは決して元に戻らず、組織に固執した結果、窓際族に追いやられた……思わず父様を見つめてしまう。


父様は冷静な表情を装いながらも、震える手で静かに、カップを置いた。


「恭文君、ありがとう……実ははやて君や、クロノからも連絡があってね」

「フェブルオーコードについては」

「聞かされていない。事件中、彼女とフェイト君が手痛い失態を犯し、それを取り返そうと躍起になっていること。
そのため今後接触するかもしれないが、その場合は知らせてほしいという……その程度のことだ。向こうで一般公開は」

≪されていません。被験者のリストを元に、それぞれに継続調査・対処をしている段階ですから≫

「スカリエッティが作った解読コードでも……いや、無意味だったね。”覚醒”する者にとっては」


でもタチが悪すぎる……! それだとアタシ達にも、六課が利用された責任は、あるよね。

もちろん局員を辞めてしまったから……辞めたからこそ、もう何もできないけど。


「はっきり言いますけど、リンディさんはどうしようもありません。
六課への内偵も行われているでしょうし、全力で無視してください。解読コードは見せましたし」

「あぁ、見せてくれたね……不意打ちで」

「そうだよ! 早速ってかなりヒドくない!? ……御主人様、アタシは悲しいよ」

「そうですよ……私達はあの日、いずれあなたのメイドになると定められ」

「定められていませんからね!? ちょっとグレアムさん、まだ継続してたんですか!」

「恭文君、私も老い先短い身だ。私が亡くなった場合でも、三日ほどは大丈夫だが……今のうちに考えてほしい」

「は……はい」


そこで押されて、『はい』って言っちゃうやすっちが……とっても可愛(かわい)くて大好き。

なのでめいっぱいハグして、すりすり……アリアと二人、早速御奉仕です。


「それならカウンセリングとか……駄目だったよね! というか、内偵の邪魔になるって判断されたら……!」

「その時点で同罪となる危険があるので、今は手出しできません。できるとしたらフェイトだけ」

「フェイト君達は洗脳されていないのだね」

≪えぇ。……まぁ、リンディさんお手製の『信じてコード』には参ってますけど≫

「「「……だよなぁ」」」


フェイトちゃん、基本純粋だからなぁ。というか……十年前と同じ、か。

変わろうと、強くなろうと足掻(あが)いて、結局元の位置に戻ってしまった。あの子の十年は、ただそれだけのものだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アースラはもう動けないけど、各生活設備は何とか修復。

衣食住には困らないので、こうやってお風呂にも……しかし広い! 広すぎる!

今は私達二人だけって何! いや、昼間っからひとっ風呂浴びてるせいだけど!


「……で、なのはさん達は? そっちもお見舞いしたのよね」

「なのはさんも、ヴィータ副隊長も元気だったよ。もうすぐ退院できるって」

「ヴィヴィオは」

「聖王教会や、局ともお話し合いが終わったって。もう高町ヴィヴィオだよ」

「……そう」


結局、娘にしちゃったわけだ。まぁ事件も終わったし、聖王のゆりかごも奇麗さっぱり消えてる。

だけど……あの子が聖王の【末えい】なのは変わらないし、今後どうなるか。不安に思っていると、右隣のスバルが前のめりになる。


「あ、でも後見人にマクガーレン長官達もついてくれたから、変なことにはならないみたい」

「フェイトさんやリンディ提督じゃなくて?」

「うん……そっちは、無理だって。ルーテシアについても、父さんが面倒を見るつもりで」

「ならよかったじゃない。でもアンタ、責任は感じてなさいよ。元はと言えば」

「そ、それはなのはさんにも、謝り倒しました……はい」


そう、元はと言えば……コイツがヴィヴィオに、『なのはさんがママ』とか言い出すからよ!

ほんと、そこは反省させなきゃ……してる!? まだ足りないわよ! 生まれ変わっても引きずるくらいじゃないと!


「あ、それとなのはさんが言ってたんだけど」

「うん?」

「これからの訓練は、教導隊とも相談の上で”セーフティー”関連もやるみたい」

「大丈夫なの、それ」

「せっかくGPOや維新組とも縁ができたから、選択肢の一つとして参考にしたいって……凄(すご)いよねー。もうそんなことまで考えていて」

「……逆を言えば」


温かいお湯に浸(つ)かり、移り変わる周囲の景色――壁に埋め込まれたモニターを見ながら、つい頭を抱える。


「教導隊ではもう考えなきゃいけないし、てんやわんやなのよね。
新装備・戦術のテストやら、開発やらがあそこの仕事だもの」

「……うん、なのはさんもそう言ってた。でも、いきなり銃器を使えと言われても」

「無理でしょうね。本来なら時間をかけて教育するものだし、その設備や時間もないし」

「ティアも……えっと、質量兵器のインストラクター資格を取って」

「ちゃんと事前勉強をして、講習は受けたわよ。合計三十時間……でも、それは個人だからとも言えるわ」


あくまでも私は、”資格を取りたい一人”だった。警備組織が一つのプログラムとして、教導するのとは違う。


「誰でも、普遍的に扱えるように――まず正式な装備を決めるところから始まり、教導の手順を定める」

「危険物に入るから、事故などがないよう防護策も整え……簡単にできないよね」

「しかも時空管理局は、今更言うまでもなく組織規模が大きすぎる。そう言った改革には年単位の時間が必要」

「現にここ十年で導入された、カートリッジシステム関係も……そっかー」


備品として計上できるよう、まず事務的なシステムに手を加える。

あとは仕入れ先のルートや、安全な保管場所。使用上のマニュアルも……やめよう、考えるだけで頭が痛くなる。

もちろんこれら全てを、教導隊が全て行うわけじゃない。でも組織全体で……この混乱した状態で行うのは。


そう言えば、レジアス中将も言ってたっけ。本局がむやみやたらに新世界を探査・開発していくから、より人員の枯渇が進むって。

管理していく世界が増えて、その分人員が必要になって……でもそれも、今考えると違う答えが見えてくる。


……最高評議会の意向が大きいとしたら、侵略だったのかもしれない。実際ヴェートルの件でも言われていたことだし。


「GPOが試験的に作った、第五世代デバイスの試作型も……やっぱり」

「リンディ提督が失礼をかましまくったのよ? 渡すわけない」

「つまり早急に……全力で、方針を打ち立てないといけない。組織は時間がかかるから、まずは私達個人で」

「組織の方は、第五世代デバイスの開発着手になると思うけど……それだって何年かかるか」

「ティア的には、頭が痛い?」

「かなり」


私、一応事件捜査が専門の執務官志望だしなぁ。しかも魔導師だし……ほんと、考えないと。

魔法の優位性、それを保っていた逆説<パラドックス>は崩れたんだ。……古き鉄みたいには、早々いかないけど……頑張ろう。


「あとはその、リンディ提督も……隔離って、本当みたい」


湯船に首まで浸(つ)かって、気持ちを入れ替えていると……スバルが困り気味に俯(うつむ)く。

そのとき両腕で胸が寄せられ、とても深い谷間を作った。……また……大きくなっている、ですって。


「同期でユリシア・エイル、いたよね」

「……あの子、本局だっけ」

「たまたま会って、軽くお茶したら……心配された。今はちょうど、提督と近い部署で働いていてね」

「それで耳に入ったと。でも私達と同じくらいのペーペーがソレってことは」

「リンディ提督の近辺では、かなり噂(うわさ)になってる。決戦時にやらかした件もあるから、関わるなっていうのが命令」


そんな命令が出されるレベルだったんだ。それはまた……ただ、そこだけでは済まなかった。


「あとね……これは、本当に噂(うわさ)なんだけど」

「えぇ」

「提督はアインへリアル誤爆の件も、古き鉄やGPOに押しつけて……局上層部を脅迫したって。
スカリエッティ逮捕の件を、フェイトさんのものとして扱い、誤爆についての処分を下すように」

「……ネタは何よ」

「分かんないから、噂(うわさ)レベル。とにかくそこで揉(も)めたから、隔離されている……むしろ、提督が病院行きじゃ」

「病院嫌いなのよ、母子揃(そろ)って」


なので……スバルには一応、無駄とは思うけど忠告しておく。


「スバル、やっぱりハラオウン家とは、ちょっと距離を置きなさい。少なくとも提督の件が進展するまで」

「なのはさんもって、ことかな」

「できればそれが望ましいけど……アンタは無理よね」

「無理だよ。……私の責任も大きいから、ヴィヴィオとは……もっと、ちゃんとお友達になりたいなって」

「そう」


じゃあ無理も言えないかぁ。とするとなのはさんや部隊長達は……思案に耽(ふけ)っていると、大浴場の入り口が開く。


「お……なんや、二人も揃(そろ)って昼風呂かぁ」

「お仕事サボりは……って、お仕事自体なかったですねー」


入ってきたのは、八神部隊長とリイン曹長だった。

慌てて立ち上がり、揃(そろ)って敬礼。


「「八神部隊長! お疲れ様です!」」

「あぁ、えぇよそのままで……というか女風呂といえど、乙女がほいほい体を晒(さら)したらアカンよー」

「「は、はい!」」

「はやてちゃんに揉(も)まれるですよー」

「では警戒態勢を維持します!」

「ちょ、ティア! 何でや! その素敵なDカップ、触らせてもらってくれてもえぇやん!」


とにかく、スバルと一緒に再度入浴。……あぁ、緊張した……昼間からゆったりお風呂だから、どうしても……ねぇ。


「いえ、スバルやシャーリーさんの揉(も)み魔を見ていると、つい」

「なんやと……アンタはスバルの”それ”を揉(も)まんのか! なんてもったいない!」

「そうだよティア! 八神部隊長の胸、本当に素敵なんだよ!? 私、そのときは女でよかったって思うレベルで!」

「既に揉(も)み合ってるですか!」

「……女性同士でもセクハラって、成り立ちましたよね。今すぐ査察部に連絡を」

「「やーめーてーよー!」」


でも部隊長、自分のじゃ満足できないのかしら。いや、スバルの揉(も)み癖を見て、常々思うのよ。

……部隊長、身長が百五十前後なのに、私より大きい。ゆさゆさ揺れる乳房と、腰のくびれ、肉付きのいいお尻は十分女性的。

いわゆるトランジスタグラマーってやつよね。リイン曹長は……その、外見年齢通りだけど。


というかスバルも……もう、EとかFの領域では。何、何なの……日本人の血? ギンガさんもトップ九十越えのGカップだし。

私にも、入ってないかしら。あんなふうに大きくなれる自信が……くっ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕とキャロは、ちょくちょく海上隔離施設へ向かう。やっぱり気になるのは、ルーのことで。

年も近い関係から、割とすぐに名前で、あだ名で呼び合うようになった。なおフェイトさんや、リンディさんのこととは関係なしに。

まぁ僕はおまけというか……やっぱり召喚師同士、通じ合うところがあるのかな。一番仲良しなのはキャロだった。


「そう言えばルーちゃん、ガリューって」

「いるよ。本当は駄目なんだけど、ガリューも勉強したいって」

「じゃあ更正プログラムを一緒に」

「うん」


その通りと言わんばかりに、ガリューがドアを開けて登場。

まるで公演のようなリフレッシュルームに入ってきて、静かに頷(うなず)いてくる。


「もちろん戦闘関係の能力は、局の管理で封印しているけど」

「よく許してくれたね」

「お母さんの介護も考えなきゃいけないからって……あ、そうだ。お母さん、目覚めたらしいの」

「本当に!? いつ!」

「二人がくる前に……本当は三日前だったらしいんだけど、記憶関係の調査もしていたから」


あぁ……そう言えば三佐が言っていた。目覚めても、記憶が失っている場合があるって。

又はヒドい混乱を起こす場合もあるから、慎重な治療が必要らしい。確かに……八年だしね。


そこで思い出したのは、浦島太郎。あれはもっと時間が経過していたけど、やっぱり怖いよね。


「そっちは大丈夫だけど、まだ混乱してるから……直接会うのは、もう少し先みたい」

「そっか。良かったね、ルーちゃん」

「うん……でも」

「きっと分かるよ」


ルーの不安は分かった。自分が娘だと、本当に分かるかどうか……アッサリ言い切る僕に、ルーが怪訝(けげん)な顔をする。


「どうして、そう思うの」

「だってそっくりだもの」

「あ……確かに。髪型や髪質も……あとはちょこんと出ている前髪の数」

「くきゅー」


ルーは不思議そうに、両手で髪やアホ毛をいじいじ。

いや、大人と子どもの違いはあるけど、髪型や顔立ちは似ていると思う。


「でも……私、お母さんみたいにおっぱい、大きくないし」

「「それは排除で!」」

「でも」

「というか、メガーヌさんって……えっと、当時でも二十代だよね! 今のルーと違って当然だから!」

「そうだよ! フェイトさんだって、小さい頃はつるぺただったよ!?
でも見てよ、あの……成長しすぎなボディを! 脳の栄養を全部吸い取られて!」

「キャロもアウトー!」


世界はまだまだ大変。変わりたい、変えていきたい……そんな願いを見つめている最中。

それは僕達も変わらない。ルーだけじゃなくて、ここのみんなとも話して、分かり合って、新しい道を探していく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ギンガや高町嬢ちゃん達を見舞いに行ってすぐ、また病院……今度は聖王教会の医療施設だ。

三日前に目覚めたメガーヌの様子を、主治医に確認したくてな。てーかギンガの奴が……!


「今はまだ、面会謝絶ですね。ハッキリといつ会えるというのは」

「そうですか、ありがとうございます」

「ありがとう、というと」

「……娘が、今か今かと待ち受けてやがって。自分もけが人だって言うのに」

「あぁ……それで」


実は三日前に聞かされたときは、状態確認しているって言われたからなぁ。

はっきり会える、会えないについてはボカされていた。だからギンガの奴も……これで俺も落ち着ける。


「やっぱ記憶の混乱ってやつが」

「当然と言えば当然ですが……アルピーノさんの中では、ガジェット達と戦い、負けたところで記憶が途絶えているわけで」

「それから八年、ですしね。しかも事件が全て解決しているとなれば……その辺りは、まだ」

「まずアルピーノさんが安全な場所で保護されていて、身の危険がないことだけは。
あとはこれから、少しずつ伝えていくところです。それで記憶以外の……体の状態ですが」


俺よりもずっと若い先生は、困り気味に眼鏡を正し、レントゲンや各種サーチ写真を貼り付け、見せてくれる。


「前提としてアルピーノさん、及び生存が確認された四十八名の被検体は、人造魔導師素体として……あえて言いますが、”長期保存”されていました。
その関係から、筋肉などの衰えがないよう、培養ポッドには電気的刺激も送られていたようです」

「電気的刺激? そりゃ拷問」

「いいえ。植物状態の患者にも行う、筋肉マッサージです。……筋肉は動かさないと衰えていきますよね。
なので命に関わりがないレベルで……電気信号を肉体各所へ送り、運動させるんです」

「衰えないように……いつでも使えるようにと」


なるほど、だからこその長期保存って言い方か。ちょっと引っかかって、視線を厳しくしたが……申し訳ないな。


「なので体全く動かせないとか、そういう心配はありません。歩行については訓練が必要でしょうが。
……ただ魔導師としては、もう戦えません。幾つかの実験を受けているようで……そちらは」

「……戦闘機人のクアットロが主導だったようです。随分といじめてくれたようで」


それでも、命あっての物種――ちゃんと生きて、無事なことを喜ぼう。

それにアイツが培った技術は、イビツな形ではあるが……ルーテシアに引き継がれている。

ガリュー達とも会わせてやらなきゃな。まぁ、それが法的に問題なくなったら……だが。


「とにかく、こちらも全力を尽くします。アジトから引き上げられた、スカリエッティ一味の研究データもあるので」

「よろしくお願いします」


クイントの夫として、アイツの末路を見た者として、先生には改めて願う。

そうだ、クロスフォードにも連絡しておかないと……アイツも待ちきれず、うずうずしてるだろうし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なのはちゃんとヴィヴィオに先駆け、ヴィータが戻ってきた。

リミットブレイク乱用による後遺症は、完治にはほど遠い。……うちがリカバリーをかけたのになぁ。

やっぱり闇の書から受け継いだ、守護騎士システムは役立たずか。もう以前みたいに、完全復旧とかは無理。


さらには個体への”寿命”兆候も見られ始め、あの子達もいずれは壊れて消える。

ただヴィータも、シグナム達も、それを『人間らしさ』と捉えていた。

永遠ではなく、限りある不可逆の命。その短い時間を懸命に、自分らしく生きること。


失敗を繰り返しながらも、少しずつ前に進むこと。その意味を喜び、好意的に受け止めていた。

そんな家族の姿に安堵(あんど)しながらも、眠りについた早朝――アースラの総員は、緊急警報によってたたき起こされた。


「な、なんやぁ!」


ベッドからずり落ちながら、ハザードランプの輝きに目を見張る。

ちょ、今……ティアナのオパーイを堪能して、幸せの一時やったのに! 夢の中で!


『部隊長、失礼します!』


サウンドオンリーで通信をかけてきたのは、グリフィス君やった。

一応アースラ内でも、二十四時間態勢は維持。交代部隊が夜勤もしとったんやけど……暇極まりない地獄を。

今日はグリフィス君の当直やったか。でもどうしてサウンドオンリー……あぁ、うちの寝室にかけるから。紳士やなー、惚(ほ)れてしまいそうや。


「どない、したん?」

『首都クラナガン、K-11エリアに突如、装甲車が出現しました!』

「……装甲車!?」

『現地映像、送ります!』


……その装甲車は、巨大な……戦車の如(ごと)き砲塔を携え、一メートル近い八輪で跳梁(ちょうりょう)。

周囲には全長九メートルほどのパワーローダーが六体。いや、パワーローダーちゃうで、これ。


「レイバー!?」

『レイバー……あぁ、地球で発達していた工業用作業機械』

「そうや! しかもこの形状は……菱井インダストリー製のハンニバルやないか!」


かのTOKYO WAR時にも、東京(とうきょう)にて配備された陸上自衛隊所属のレイバー。

いや、所属していたと言うべきか。後に襲ってきた世界的大不況で、レイバー業界は致命的縮小を余儀なくされたから。

そうして処分された機体が、ミッドチルダに運び込まれることも……実はレアケースやけど、あったんよ。


まぁこっちやと魔法があるから、非武装・所在場所の明確化を条件に、民間所有も許されているんやけど。

実際レイバーは工業機械として優秀で、開発地域ではかなりの旧型でも威力を発揮しているから。


では、この軍事用はどうか……ずんぶりむっくりな体型で、いわゆる頭部などがない。

イングラムがヒーローロボットなら、こっちはガサラキやな。

それが護衛につき、悠然と進軍していた。どう見てもこれ、武装集団やないか……!


サーチライトも、スモークディスチャージャーも……ガトリングもそのままやし! さすがに軍事用レイバーは取り締まってたはずやで!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――こちらはミッドチルダ第七十八警ら隊である! 今すぐ停車し、乗員は機体から降りなさい!
繰り返す! 今すぐ停車し、乗員は機体から降りなさい! さもなければ』


そして砲塔が、説得中の我々に向けられ……発射される。

慌てて横へ飛びのき、壁代わりにしていた警備車両から退避。

画面越しでも伝わる、空気を切り裂く迫力……それが車を射貫き、爆破。


車体は五十メートル近く飛び上がり、炎となって空中でまき散らされる。


「た、隊長!」

「……待機中の魔導師部隊へ! 攻撃開始!」


馬鹿め……既に死角を取る形で、魔導師部隊が配置されている!

これ以上の攻撃行動は許さないと、ほくそ笑んで――。


続いて生まれる空間の軋(きし)みに、笑みが凍り付いた。


魔導師部隊が放った砲撃、それは車両とパワーローダーから展開したAMFによって結合解除・霧散する。

更にパワーローダー達は上半身のみを回転させ、ガトリングを乱射。

もちろん魔導師隊とて無能ではない。すぐさま退避し、防御バリアを展開。


問題はその弾丸によって、バリアが、移動の際用いた飛行魔法がかき消され、次々と撃ち抜かれること。

悲鳴すら響かせることなく、顔見知りの部下達が肉片に変わっていった。


「AMFの、弾丸……だと……馬鹿な」


その数少ない生き残りが、物質操作魔法を発動――。

コンクリを岩として切り出し、そのまま射出する。

これはAMFでは防げない。撃ち込まれるのは、魔法が起こした現象の結果。


あの岩は魔法で切り出しただけで、それ自体はただの物質。しかも装甲車より遥(はる)かに巨大。

それが一気に十発も撃ち込まれ、奴らは粉砕……だが、それもまた甘い幻想だった。

パワーローダーと装甲車に、岩は直撃した。その結果自ら砕け、粉砕する。


「そんな、馬鹿な」


AMF、物理……二重の防御を何一つ貫けず、魔導師隊はゴミのように片付けられた。


「隊長!」


そして砲塔はこちらへと向けられる。腰を抜かし、動けなくなっている我々へ。


「そんな、馬鹿な……!」

「隊長ぉ!」


事件以後叫ばれている、AMF……魔導殺しへの対策。

正直生唾ものだと思っていた。我々はこれまで、懸命にやってきた。

それに偽りがあり、見直す? 今更そんなことを言われ、対応できるか……!


そう嘲(あざわら)った結果が、これだった。我々は放たれた砲弾にその身を引き裂かれ、次なる爆発で灰となる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


現場からの映像、ロスト……でも、今のだけで分かる……AMFを発生させて、蹂躙(じゅうりん)!? 早速魔導師を殺しにきたわ!


『現地部隊からの信号、途絶しました……!』

「……この緊急警報は、他の部隊にも」

『はい。発見した警ら隊から連絡をもらい……部隊長、クロノ提督からです』

「繋(つな)いで」

『――はやて、すまないが……おい、なんでサウンドオンリーなんだ』

「うちの寝室やから」

『納得した……では話している間に、着替えておいてくれ。出動要請だ』


言われた通り、ぱっとパジャマを脱ぎ捨て、制服にお着替え……これも魔法のように、しゅぱーっとはいかんなぁ。


『現時点でミッド中央本部、並びに地上各部隊は、編隊を極めて危険度の高い敵性勢力と認定。市民に被害が出る前に、その排除を頼みたい』

「了解した。でも……完全キャンセルレベルのAMFを張られている上、弾丸もお手製やと。それに車両や装備の特定も」

『まずはその辺りの分析から。専門家の意見が必要だな』

「そうそう……あれ、もしかして」

『出てくれるといいが……』


あぁ、やっぱりアイツかぁ。というか、今はどこにいるんやろ……さすがに救援は無理やと思うし。


『……何だって!』

「グリフィス君?」

『部隊長宛てに通信が……その』

『どうしたんだ』

『犯人だと……あの車両編隊を指揮する、犯人だと名乗る人物からです!』

『「はぁ!?」』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日はいよいよ訪れた、決戦の日――密(ひそ)かに揃(そろ)えた戦力、その成果に安堵(あんど)しながらも、手元の装置を操作。

その上で忌ま忌ましき逆賊、時空管理局のトップへと通信。もちろん逆探知、顔などは見られないよう、しっかり処置はしている。


最初は訝(いぶか)しんでいたオペレーターも、すぐ慌てた様子で私の……この私の話に聞き入る。


そうして繋(つな)いでくれたよ。【英雄】機動六課の部隊長と。


『――あなたは、何者ですか。もしお話ししてくれたことが事実であるなら、今すぐ投降を』

「今日はMFC(ミッド・ファイティング・クラブ)の女子無差別級で、セレーネ・ラスティとミューラ・レディの試合があったなぁ」

『はい?』

「知らないのかね。ミッドプロ格闘リーグ……IMCSの入賞選手も目指すほどの、有名団体だ」

『いえ、そういうことではなくて』

「実はセレーネ・ラスティのファンでね……今回のタイトルマッチ、是非とも彼女に勝ってほしいんだよ。何とか都合、できないかねぇ」


そんなことを要求してみるが、八神部隊長は訝(いぶか)しげにするばかり。


『あのねぇ……無理に決まっとるでしょ。こんなことやられたら、そもそも試合からパーです』

「そうか、それは残念だ」

『ちょお待った! まさか、八百長試合のためだけに……んなわけないやろ! 一体何が狙いや!』


通話を切り、ついほくそ笑んでしまう。

そうして朝焼けに染まる庭園を……我が居城を見やる。

城と言えるほど豪勢ではないが、それでも汗水垂らして働いて得た、自慢の我が家。


そうだ、全てはこの日のためだった。富を得たのも、その使い道を覚えたのも――。

世界は変わる。時代遅れの管理局など、もういらん……この変革を持って、真の英雄が降臨する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いきなりの出動――朝っぱらから街は大混乱。

進軍ルート上の、市民の避難誘導。パレードを思わせる、局車両でのエスコート。

それはもう念入りに……! 結局私達機動六課も、警戒しつつ……あの犯罪者どもを、見送るしかなかった。


「あ、あの……私が行きます! 私の振動破砕なら!」

「アカン! 相手のデータも揃(そろ)ってないんやで!? それに下手な手出しをすれば、周囲の奴らごとドガンや!」

「ほんとよ! アンタ、脳みそ筋肉はいい加減卒業しなさいよ!」

「いえ、あの……データが、揃(そろ)ってから……準備が、整ってからで」

「いいから卒業しなさいよ! その脳みそ筋肉!」

「ティアが流した!? ヒドいよー!」

「くきゅー?」


うるさいわよ! こっちも冷静じゃないのよ……てーかレイバーって! ロボットって!

まぁカッコいいわね! 一台くらい欲しいけど、武装とかいらないわ! プラモでもいいから……って、ちがーう!

ヤバいヤバいヤバい……状況が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)過ぎて混乱してる! というかアイツら、戦闘機人よりやりにくい!


「……ただ、スバルの言うことも分からなくは」

「シグナム!?」

「いえ、倒すどうこうではなく……交戦なしでは、解析にも限界があると」

「あぁ、それは……なぁ」


慌てた様子のシグナム副隊長に、一同は安堵(あんど)。

ようは情報入手のためにも、ある程度の攻撃は必要ってことよ。

特に守(まも)りは……でも、できるタイミングも限られる。


向こうは攻撃した瞬間、AMFの弾丸をブッパよ? 一発でも掠(かす)れば重傷間違いなしだし。


「その辺りもまずは、こちらの態勢を整えてからやな。独断では絶対できんから、みんなそのつもりで」

『はい!』

「最強の敵は、ゆりかごでもなければ、戦闘機人でもない……装甲車だったんですね」

「キャロ!?」

『それを言うなぁ!』


つい副隊長や部隊長……全員で、キャロにツッコんでしまう。

な、情けない……情けないわ! とにかくえっと、今は……!


『こちらロングアーチ01! 装甲部の解析が終了しました!』


そこでシャーリーさんから連絡が届く。早速……対価としては大きすぎるけど、交戦データが役に立ったみたい。


「おぉ、ほんまか! えっと、それは」

『……あの戦闘時の映像解析で……何とか。とにかく装甲車及びレイバーは、”液体装甲”が使われています。
魔法も使えない状況では、みなさんのデバイスも、物質操作魔法も一切通用しないと考えてください』

「そこまでかい!」

「……シャーリー、それはそんなに凄(すご)いのか」

『ヴィータ副隊長が苦戦した、ゆりかごの動力炉。あれも同じ技術が使われている……そう言えば分かりますか』

「なんだと……!」


シグナム副隊長が恐れおののき、ヴィータ副隊長を見やる。

でも本人は理解してなかったのか、慌てて首を振った。


「いや、知らねぇ……あれ、そう言えばシャインボルグ捜査官が、分子変化がどーたらって」

『えぇ……着弾時に分子変化を起こし、その強度を劇的に跳ね上げる性質が』


サブウィンドウが展開し、あのときの戦闘映像が表示される。

質量では大いに勝っている岩が、車体を揺らがせることもなく霧散した。

これはその強度、及び材質としての密度が、圧倒的に勝っているが故。


でもそれは常時じゃない。着弾の瞬間……サーチシステムが捉えた装甲強度の数値が、二乗されてしまう。


『言うなら自ら物質変換する素材。動力炉もエネルギー保全の意味から、外部・内部の圧力をトリガーに硬度を高めていたんです』

「つまり、アレと同じレベルの攻撃が必要と!? 魔法なしでかよ!」

『いえ、さすがにレリックの集合体とは比べられないかと。……方法は二つ。一つは今、ヴィータ副隊長が仰(おっしゃ)った形。
もう一つはこちらも液体装甲を用いた、同等以上の質量攻撃を行うこと。ただこの強度となると』

「なら、私の振動破砕は!」

『今は危険過ぎる。効果は絶大だろうけど、破砕している間に周囲の敵が』

「です、よねー」


私は銃型だから除(のぞ)かれるけど、近接型全員が駄目……そういう念押しを受け、誰もが絶望する。


”ティア”

”アンタ一人で突っ込むのは、絶対になし。逆を言えば、そのアンタがやられたら”

”もう対抗手段がない……ここは、慎重に”

”そう”

「あの、シャーリー……何かないかな。ほら、物質変換するなら、電撃で止めるとか」


そしてひょっこり来ていた、フェイトさんがまた口出しを……それに全員がウンザリ。

さすがに最終決戦でやらかしたから、長年の友人である部隊長達も苦い顔。


しかも休職とかもできないし、実に忌ま忌ましそうだった。


「はいはい……フェイトちゃんは、アースラ待機って言うたやろ。また命令違反するつもりか」

「違うよ。リンディ提督からも、出動するようにって言われているから」

「ほな無効やな。さぁ、山へお帰り」

『山!?』

「そんな……どうしてなの。ねぇ、やっぱりおかしいよ。私はただ、母さんをみんなで助けようって」

『……その手があった!』

『えぇ!』


ちょ、シャーリーさんが閃(ひらめ)いたって顔を……どうして!? どうしたの、一体!


「そうだよ……シャーリー、分かってくれたんだね。私達、間違ってないよ。ただ」

『そっちじゃありません! フェイトさん、攻撃魔法でありましたよね! えっと……サンダーフォール!』

「う、うん」

『それを最大威力で、車両とハンニバル六機へ叩(たた)きつけてください! 一切の加減なしで、物理破砕設定もONで!』

「そうか……レイバーも、車両も精密機械! そして魔法で発生させた現象なら、AMFでは邪魔できん! フェイトちゃん!」

「サンダーフォールは天候操作の遠隔魔法だから、確かにできるけど」

『耐電処置もされている可能性は大きいですけど、試してみる価値はあるかと。
もしかするとむき出しになっている機銃や、砲塔は駄目にできる……!』


そのアイディアは確かに秀逸だった。でも……いや、言ってる場合じゃないか!

他に手立てがない以上……私も覚えておこう、天候操作系の魔法。


「なら早速チャレンジや! シャーリー、各員に通達!
相手の反撃も予測されるから、攻撃可能ポイントを割り出して!」

『了解!』

「でも、いいんですか。この人は」

「あの、お願い……信じて、くれないかな。私、頑張るから……みんなが母さんを信じてくれるように、まず私が」

「この調子ですし……!」

「……シャマル、フェイトちゃんが魔法を撃ったら、即座に回収できるよう準備」

「了解です」


ですよねー! でも、まずは一つ……一発では無理でも、二発、三発と続ければ何とかなるかも。

いいえ、何とかしてみせる。さすがに最強の敵が装甲車とか……台なしすぎるもの!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イギリスでフィアッセさんとデートして、ロッテさん達からも誕生日プレゼントをもらい……みんな、気づかいすぎる。

どうも今年の誕生日が、失踪初日になったことを気にしているようで。それはもう、念入りに二か月半遅れだろうと、プレゼントをくれる。

フィアッセさんについては、婚約指輪……僕が、僕が送るものだと思うので、それは遠慮したけど。


でもよかった、注文前で……! デートついでに選ぶ段階で! そうじゃなかったら泣きたくなってた!

そんなイギリスの休日を楽しんでいると、やっぱり小うるさいリンディさんの件。

なのでミゼットさん達に相談した上で、その呼び出しに応じてやることにした。


まさかあれだけやらかしておいて、僕を遠慮なく呼び出すとは……どんだけ恥知らずなのか。


「――というわけで、嘱託魔導師・蒼凪恭文君、あなたに本局遺失物捜索課【機動六課】への出向を命じます」

「断る」

「これはどうしても必要なことなの。前にも言ったでしょう……あなたは過去を忘れて、私達とやり直すべきなの。
そうすることで私達は、本当の家族になる。あなたも私達を信頼して、大人になって」

「その前に土下座しろよ」

「土下座? 一体なぜ私が」


その言葉を鼻で笑い、踵(きびす)を返して退室。

すると僕の手を掴(つか)もうとするので、スウェーで回避。そのままドアをくぐると。


「待ちなさい! お願いだから話を」


リンディ・ハラオウンという愚物は、閉じた自動ドアに衝突して御臨終。……第一部、完!


「話を……聞きなさい!」


ち、まだ生きてやがるか。やっぱ額を撃ち抜かないと駄目だな。


「お願い、今すぐに受けて! というかあなた、ニュースを見てないの!? ミッド地上でまたテロが起こったのよ!」

「何、こんな朝っぱらから呼びつけておいて、常識を問うの?」

「あなたが指定したんでしょ!? いいからこれを見て!」


リンディさんが朝の六時から張り叫ぶ中、モニターが展開。


するとクラナガン近くの道路をかっ歩する……巨大な装甲車が出てきた。

それも大砲や機関銃を携えたもので、その周囲をハンニバルの改造機体がガード。


更にその周りを、局の警ら車両がガードしている。まるでパレードのようだった。


「……パレード?」

「事件現場よ! これ……犯人はこれ!」


そう言ってリンディさんが必死に指差すのは、装甲車とハンニバル六体。


「砲撃でぶっ飛ばせばいいでしょ」

「駄目なのよ! 本局の戦力も、この間の事件で疲弊していて……それで機動六課におはちが回ったんだけど」

「いや、だから砲撃で」

「装甲車の周囲にAMFが張られていて、魔法が通用しないの! 質量攻撃でも傷一つつかないわ!」


あぁあぁ、そういうことで……なので背を向け歩き出すと。


「待ちなさい! どこへ行くの!」


突撃を壁際すれすれで回避すると、リンディさんは自ら激突。顔面からぶつかり、そのまま引っ繰り返った。


「ならせめて……アルトアイゼンに搭載した、第五世代デバイスの試作システムを渡しなさい!
その個人所有は違法であり、管理局で運用するべきものよ!」

「GPOに話を通してよ。僕の一存じゃあ無理だわ」

「何を言っているの! あなたは私の息子として、フェイト達を支えるの! なぜその使命から……私達家族から逃げるの!」

「頭のおかしい奴からは、逃げてもいいんだよ?」


そうしてお手上げポーズで置いていく。しっかりと人目を引きつけつつ、愚か者は捨て置く。


「待ちなさい! どうしてなの……どうして信じてくれないの!
私は、六課は正しかった! おかしいのはあなた達なのよ!」


なおリンディさんが何か叫んでいるけど、決して気にしない。

……既に気にするべき権利など、あの女にはないのだから。


≪……クロノさんから通信です≫

「おー、ちょうどいいね。六課の後見人と母親が、頭のおかしい人だって教えてあげなきゃ」

≪さすがにもう知っているでしょ≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで……進行方向に存在する、工事現場の付近で攻撃開始。

避難も済んでいるし、うちらも安全圏にいる。周囲を警戒していた車両についても、危ないので下がってもらった。


あとは攻撃できれば問題ナッシング……! さぁ、どうなる……どうする!


『こちらライトニング01――術式詠唱完了』

「よし。ほな発射!」

『うん……でも、お願いだからこれが終わったら、ちゃんとお話ししようね。
私、やっぱり間違ってないと思うの。今はみんなで、母さんを守ってあげなきゃ』

「発射言うたやろうが! ほれ、撃て……とっとと撃て! 部隊長命令やで!」


不安全開で再度号令。フェイトちゃんはいら立ち気味に、車両をにらみ付け。


『……サンダーフォール!』


魔法を発動。すると空に渦巻いていた、局所的な暗雲から雷音。

金色の火花が幾つも走ったかと思うと、突如……極太の稲妻となって、大地を撃ち抜く。

その衝撃を、眩(まばゆ)さをモニター越しに見つめる。それは音よりも速く、奴らを撃ち抜く。


……そう思っていた時期が、うちらにもあった。

その途端、各車両から火花が走り、青白いエネルギーフィールドを展開。

それが雷撃を受け止め、弾(はじ)き、周囲に霧散させる。


結果稲光は無数の弾丸となり、地面を、工事現場を、近くの商業ビルを黒焦げにしただけ……奴らには、火花一つ届かなかった。


「な……!」

『嘘、どうして……カートリッジも、全て使ったのに! なら、もう一発』

「駄目!」


そこでシャマルが転送魔法発動。フェイトちゃんを引き寄せ、こちらに戻してくれる。

……それで正解やった。車両の砲塔がフェイトちゃんへと向けられ、砲弾が発射されたから。

それだけやのうて、上部ハッチから黒人男性の機銃手が登場。車体前方のものと合わせ、弾丸をまき散らしてくる。


その射線と着弾地点についても、人がいない河川敷。遠くで水しぶきが立ち上るのを見て、一応は安心。


「おい、はやて……つーかシャーリー!」

『高出力のエネルギーフィールドです。もちろん魔法には頼らない……でも、これは』

「一朝一夕に準備できるものやない。かなり長い間、計画を練って……アホか!」


近くの壁を殴りつけ、いら立ちをぶつけてしまう。つまりそれは、あんなことが起こっている間も……そういうことやろ!

てーか何が狙いや! 一体何が……要求があるなら、とっととぶつけてこんかい!

いや、落ち着け……しかしあの機銃手もようやるわ。フェイトちゃんの回避先を予測し、弾丸を置くように撃っていた。


相当な腕利きと見てえぇ。つーか顔をさらした……すぐ犯罪履歴と照合やー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


はやて達は現場に出動……それで安全を確保した上で、試行錯誤を繰り返している。

おかげで能力の詳細も判明して、関係各所は頭を抱えているわけだが。

……まず相手は、闇雲な破壊を行っていない。あくまでもこちらが手出しした場合のみ、反撃に移っている。


更に言えば、行動の狙いが分からない。単なるテロであれば、あの凶悪兵器で蹂躙(じゅうりん)が始まっているはずだ。

とにかくその間に、相手の調査を進める。その上で対策を……それが今取れる最善策。

そんな中、地球のレイバーにも詳しい恭文を頼るのは、ある意味必然だった。アイツ、操縦資格も持っているからな。


そして幸いなことに、恭文はミッドにいた。……母さんをおちょくるためだけに!

母さんは廊下に出て、人前で赤っ恥をかいているらしい!


人前であえて揉(も)めて、決裂して、自分は無関係と印象づけるか! なんて最悪な奴だ!


「お前は……! まぁ、事情説明が省けて助かったが」

『それで……レイバーですけど、やっぱりハンニバルですね』

「確か柘植行人が所属していたという、PKOレイバー小隊にも使われていたな」

『TOKYO WAR時にも配備されました。武装は……胴体部の二〇mmガトリング砲』


恭文が言葉を続けるごとに、機体の各装備に注目していく。

更に恭文からも、ハンニバルのスペックデータと画像が送られてくる。


『右肩部の可動式センサー、左肩部の赤外線サーチライト。あとは両腕のスモークディスチャージャー各三基。
ただこれはカタログ上のスペックなので、実際は魔改造されている可能性も』

「されているな……現場からの分析結果だが、装甲車・ハンニバルどもに、液体装甲というものが使われているようだ」

『あれかー。じゃあ普通の質量攻撃は通用しませんよ。少なくとも同じだけの硬度がないと』

「それは、質量兵器の領域だな。……では装甲車については」

『ルーイカット装甲車を改造したものですね。それでクロノさん、早速ですけど一つ頼みが』

「頼み? ……嫌な予感しかしないが、なんだ」


本当に嫌な予感通りの頼みだった。もちろん相手の状況次第になるが……そう、”あの編隊だけ”で済むのなら、実行はしなくていい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


完全にお手上げだった。ただ攻撃自体は無駄じゃない……相手のスペックが分かってきたもの。

更にシャーリーさんは、地球の兵器関係をピックアップ。その中で類似する装甲車も見つけてきた。


「それでシャーリー、そのルーイカットってのは」

『地球――南アフリカ性の八輪式装甲車。実戦投入は十五年ほど前だけど、その七年後には主砲をGT7 105mm対戦車砲に換装しています』

「それで全身を液体装甲に換装して、魔改造か」


更に車両データも出てくる。……これ、地球のWiki?

あ、でもそうよ! 車両の形状や装備は類似してる!


「えっと」


エリオは前のめりになりながら、文面を指差ししつつチェック。


「兵装は主砲と、MG4 7.62mm機関銃二挺」

「前面と上でドンパチしてたやつね。それと81mmスモークディスチャージャー。
……あの機関銃も、AMFを発生させる弾丸だったわ。完全に魔導師を殺しにきてる」

『問題は航続距離だね。整地速度は百二十キロで、その行動距離は……約千キロ』

「千キロやて! ちょ、ちょお待って……素(もと)のスペックでそれってことは」

『改修されているであろう今なら、それ以上。ハンニバルの方はともかく、装甲車は』

「燃料・弾薬切れは期待できない……!?」


最悪だ……しかも、向こうからの要求は分からず、ただ蹂躙(じゅうりん)されるだけ? そんなことをいつまで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


機動六課の部隊長達は、無駄な足掻(あが)きを続けているらしい。そんなことでは無理だと言うのに。

魔法による管理社会は、とっくの昔に破綻している。ジェイル・スカリエッティ達によって滅ぼされるべきだった。

それをおめおめと、見苦しく生き残ってやり直す? ……そんなことは許されん。


そう思いながら、木造の机を全力で叩(たた)いてしまう。


管理局などは、もはや過去の産物……破壊しなくては。


「――私だ。第二・第三・第四班は出動。それと第四班は、攻撃を許可する」

『よろしいんですか。まぁ俺らは有り難いですが』

「構わん……ただし、市民に被害は出すな。殺していいのは」


そう、これは制裁だ。神に代わって、その体現者たるスカリエッティ一味に代わって。


「世界の逆賊<管理局員>だけだ――!」


老い先短い我が身なれど、世界のため、人々のため、逆賊どもを討ち取ってみせる。

さぁ英雄よ、降臨せよ……これは偉大なる儀式なり。管理局に代わる英雄よ――我らの正義と対峙(たいじ)せよ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――割り込みすまねぇ!』


そこで新しいモニターが展開し、三佐の焦った顔が映る。


「ナカジマ三佐!」

『挨拶は後だ! 同じ車両群が……都市部北方・西方・南方にも出現しやがった!』

「なんやて!」

『しかも北方の方は、他三箇所と違い攻撃行動に出ている! こっちも近隣の部隊と対処してるが、もうお手上げだ!』

「そんな……父さん!」

『安心しろ、安全圏は確保してる! とにかく避難誘導だけはきっちりと』

『更に割り込み、失礼します』


更にモニターが展開すると、クロノ提督が登場。


「クロノ! あの」

『三佐、あと三分だけ待ってください』

『何だと』

『今、救援を送ります』

「ちょ、この状況で救援って……あ」


そこで部隊長や副隊長達が、何かを察する。三佐も同じようで、なぜか楽しげに笑ってきた。


『マジかよ……お前さんが呼んだのか』

『いいえ、いつも通りに』

『世界がアイツらを放っておかないわけか』

「でも、大丈夫なんやな」

『緊急退避の手段もある……まぁ』


それにクロノ提督も合わせて笑い、肩を竦(すく)める。


『僕達の心配など、あの二人はたやすく跳び越えるんだろうが』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一旦クラウディアへ回収してもらい、その転送装置にて……大気圏ギリギリの高度に跳ばしてもらう。

訓練室の一部をお借りして作った、巨大な鉄塊<ソードメイス>を担ぎながら、そのまま自由落下開始。


『恭文くん、本当にいいのね!? その高度からで!』

「大丈夫です」

『どうなっても知らないからー!』


クラウディアのオペレーター『エレナ・トウドウ』さんは、茶色のポニテを揺らしながら悲鳴。

まぁまともじゃないね。バリアジャケットで生命維持はできると言っても……高度数千メートルからの、スカイダイビングだもの!


「アルト」

≪はい≫

「最大出力でいくよ」

≪Accel Fin≫


カートリッジを一発使い、術式発動――。

足下から魔力の翼を生み、最大加速。

風を突き抜け、フィールド魔法の効果もあり、一気に音速域へ突入。


狙いは真下……まずは”コイツ”の質量そのものを、唐竹(からたけ)に叩(たた)きつける!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


現場はまるで、地獄絵図のようだった。笑い声が響く……各々の車両から、男達の声が。

破壊を楽しむ奴らに対し、閃光(せんこう)は舞い降りる。

空気を切り裂く音が聞こえ、バリケードに隠れていた俺達は……恐る恐る顔を出す。


すると両足から蒼いアクセルフィンを生やし、突撃する影を発見。

それは戦車の真上から……砲塔や機銃の死角外から、剣閃を振り下ろす。

それもただの剣じゃない。鉄塊のように分厚い、両刃剣型のメイス。


二メートルはある鉄色の刃を、身を捻(ひね)り、勢いを更に増しながら。


「上から強襲!」

『無駄だぁ! そんなデバイスでは、この装甲車は傷一つ』


刃をボディに叩(たた)きつけ、力任せに押しつぶす。咄嗟(とっさ)に退避した機銃手が、上部ハッチごと粉砕。

分厚い車体が歪(ゆが)み、砲塔もへし折れ、車体を中心にかかっていたAMFも解除。


おいおい……物質操作魔法でも、傷一つつかなかったってのに、マジかよ……!


「WHO――!」


うちの部隊員『アニタ・フランク(ナイスバディな女性)』も笑顔で、着地する襲撃者を見つめる。

奴はAMFの中でも、アクセルフィンを維持。血の付いたメイスを再度振り上げながら、ひしゃげた車体から離れる。


『この……!』


高高度から降り立ち、戦車を力尽くで『たたき潰した』鬼神は、揺らめきながら一回転。

笑い、鋭い眼光を放ちながら、背後に回ったハンニバルに右薙一閃――恐らくは同レベルの硬度を誇る、鉄塊を叩(たた)きつける。

飛び上がりの一撃は、そのフレームを搭乗者ごとへし折り、潰し、数十メートル背後のビルへとたたき潰す。


九メートル近くある巨体がへし折れる様子に、他の五体も硬直。

笑顔は消える……ただ一つを除いて。パーティに飛び込んだ鬼神を除いて。


そして首を傾(かし)げる。これはお前達が始めたパーティ……ならば、楽しむ覚悟はあるだろうと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


特別生成したソードメイスはその時点でぼろぼろ。なので放り投げ、歩きながら術式発動――。

新しいメイスをコンクリから、物質変換で生成。そのまま右手で引き抜く。

そう、このメイスもまた液体装甲製。とある事件で使われたものを参考に、改良を重ねてきている。


つまり質としては、こちらの方が上。念のため高高度からの勢いを付けてみたけど……これで他も潰せるね。


「あと五体か」

≪ここは……ですね≫

「分かってるって」

『恭文さん、アルトアイゼン』


そこでリインから通信が届く。


『おかえりです♪』

≪えぇ≫

「ただいま」




魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝

とある魔導師と機動六課の日常 Ver2016

第1話 『帰還』




(第2話へ続く)







あとがき


古鉄≪というわけで、特に連載予定もありませんが、要望もありましたので第一話だけ……オルフェンズ二期の一話もリスペクトしつつ≫

恭文「はぁ……ゆかなさん、素敵だなぁ」

古鉄≪そして前後の流れは【とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016】をご覧ください≫


(言うなればそちらが一期。こちらが第二期という扱いです)


古鉄≪やっぱり最初からドンパチですね。なお話の流れは西部警察……ちょっと、あなた≫

恭文「山椒の木、植えようっと。今から植えれば」

古鉄≪……≫


(真・主人公、バルバトスルプスボディで突撃――ソードメイスで唐竹一閃)


恭文「うぉ! 何するの、おのれ!」

古鉄≪ぶるらじDのゆかなさん回に、うっとりしている場合じゃないでしょ≫

恭文「なんで!?」

古鉄≪というかほら、タレントさんにお仕事とファンサービス以上を求めちゃ駄目ですって≫

恭文「分かってるよ! だから最近自重気味なんだよ!」


(ぶん!)


古鉄≪説得力がないでしょ≫

恭文「何! どうして今回はそんなに荒ぶってるの!」

古鉄≪べ、別に……ゆかなさんにヤキモチとか、焼いてないんだからね!?≫

恭文「どうしてツンデレ!?」


(真・主人公、ちょっと複雑なお年頃だそうで。……なお現在蒼い古き鉄コンビは、我那覇響とともに北海道でお仕事です。
本日のED:SPYAIR『RAGE OF DUST』)


恭文「……バルバトスルプスのプラモ、凄いなぁ。フレームは基本そのままだけど、外装パーツだけでこんなに変わるとは」

古鉄≪しかも顔の色分けですよ。前はフェイス近くのグレー、塗装が必要だったのに≫

恭文「腕に三ミリ軸の穴もできたから、拡張性もアップ。これは……最高だ」

古鉄≪獅電やレギンレイズも期待できますね。今週発売のユーゴーも≫

恭文「ただ……それと反比例する形で、本編が不穏。キービジュアルがアレで、OPがアレで、最初が順風満帆だから余計に……!」(ガクブル)


(おしまい)





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