[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第3話 『嵐を呼ぶ歌唄(うたう)たい達』



「・・・・・・あ、恭文。あれ」

「ん?」



帰り道を歩きながら、あむが指す方を見る。見ると・・・・・・あれ? あの子って。



「あ、サッカー部の子」

「そうそう」





今日のサッカーであむと同じチーム・・・・・・あれ? 表現おかしいな。あれは無理矢理乱入なのに。



とにかくその子が川原の土手の影の方・・・・・・もっと言うと橋の下で練習してる。



汗だらけで、何度も何度もボールを壁に向かって蹴っては跳ね返ってきたボールをすぐに受け止め・・・・・・を繰り返している。





「・・・・・・また頑張りますな」

「そうだね」



確かレギュラーってわけでもないし、スタメンでもないだろうに。

つまり・・・・・・明日の試合に出られるかどうかなんて分からない。分からないなのに、あれ。



「なに、恭文はあぁいうのダメだと思うわけ?」



僕の様子から考えてる事を察したのか、あむが少し視線を細めて聞いてきた。



「ううん」



僕はそれに対し、首を横に振って答える。



「それは無いかな。僕だって、同じだもの」



いつまでもそこに居たら悪いような感じがしたので、また歩き出す。あむもそれについてくる。



「同じって?」

「僕も努力無しだとどうにもならない凡人って事。
僕の周りってどういうわけか才能や能力溢れる天才ばっかりでさ、色々思う所があるのよ」



僕の魔法能力は、やっぱり凡人というか一般レベル。

素の戦闘能力だってそうだ。本当なら、普通なら、勝てないのが普通。戦えないのが普通。



「そうなの? でも、恭文ってすごく強いんじゃ」

「そりゃああむやガーディアンの皆に比べたらね。・・・・・・僕の能力ね、同じ能力者の中では・・・・・・ダメなレベルなのよ。
癖が強過ぎて、普通じゃ扱い切れない。その辺りを知ってる敵方から『欠陥品』なんて言われたりとかもあってさ。ま、ぶっ潰して黙らせたけど」

「・・・・・・ん」



普通の資質だったら、まぁまぁ凄いんだろうね。でも、やっぱり僕は・・・・・・僕の中の能力を100%は引き出せない。

そこだけは絶対に間違いないのよ。だから、あの子がやってたような努力が必要。



「でも、それで何もしない言い訳なんて出来無くてさ。だからここに居る。・・・・・・僕は『哂えない』わ。
そんな事したら、自分を哂う事にもなるもん。そんなのは嫌かな。あの子も、きっと同じだから」

「・・・・・・そっか」



そのためにフェイトと国を跨いだ大喧嘩したり、壮絶な『家族会議』したしなぁ。

あの子がバカなら、僕はそれを超える大バカだよ。哂えるわけがない。



「ね、恭文」

「なに?」

「あのさ、ちょっとだけ真面目な話。・・・・・・もうちょいさ、今みたいに外キャラ外した方がいいと思うよ?」



歩きながら、あむが僕の顔を見てそんな事を言い出した。・・・・・・はい? いやいや、どういう事さ。



「なんかさー、恭文見てるとあたし、たまにイラって来る事があるんだ」

「あぁ、ごめんね。ついついいじめるのが楽しくて」



僕がへらへらしながらそう言うと、あむが首を横に振った。・・・・・・え、違うの?



「そういう事じゃないよ、イラってくるのは恭文が『魔法少女』とか言ってきてた事に対してじゃないから。
・・・・・・ほら、ややも言ってたじゃない? 『考えてる事とか分かんない様にしてる。他人行儀』って」



そう言えばそんな事を言われたような。いや、言われた。ちょっとドキってしたからよーく覚えてる。



「あたしもそう思うんだ。恭文、ひねくれてたり意地悪な事をすぐに言って、あたし達に自分の事とか自分の気持ちとか、そういうの隠そうとしてる。
距離を作って、自分からはあたし達にあんまり近づかないようにしてる。あー、それだけじゃないかな」



僕をくりくりとした丸い瞳で見つめながら、言葉は続く。誰でもない、僕だけを見ながらだよ。



「わざと嫌な所を見せて、あたし達が必要以上に近づかないようにもしてるよね」

「いやいや、そんな事ないよ。僕は十分ひねくれた性悪よ?」

「・・・・・・本当に性悪な子は、素直にたまご返してくれないよ」



すぐに何を言っているのか分かった。初めて会った時の事だ。

・・・・・・そんな事ありませんさ。現に持って帰ろうとしたし。



「今なら分かる、恭文、あたしがどういう子か見ようとしてた。それが見れたからたまご返してくれた。
あたしの言った事、たまごが大切なものだって事、ホントだって思ってくれたから」

「自分の都合のいいように事実を解釈するのは、よくないよ?」

「いいの、あたしがそう思いたいんだから。
・・・・・・あたしの知ってる奴にね、×がついたたまご・・・・・・割った奴がいるの」



・・・・・・いきなり過ぎて意味が分からなかった。それでも、あむの言葉は続く。



「恭文がたまご返してくれた時、実はその時の事思い出したんだ。
状況も似てたからなんだけど・・・・・・そいつ、自分からたまご割るやつもいるとかなんとか言ってた」

「・・・・・・自分から」

「うん。『現実現実』って呟いてる大人は、疲れた顔して社会で生きてる大人は、みんなそうだって」



一瞬、うちの管理局大好きなあの保護責任者の顔が浮かんだのは・・・・・・まぁ、気のせいじゃないね。



「けど、あたしはそんなんじゃ納得出来なくて・・・・・・だからかな。あたし、恭文の事嫌いになれない。
本当の恭文は人の大切なもの、取ったり壊したりするの嫌な子なのかなって思ったから」

「・・・・・・そう、なんだ」





でも、たまごを割った奴って・・・・・・どこのどいつよ。



あむの話しっぷりだとたまごがどういうものかというのも知っている感じだし。



やっぱり、僕やフェイトがまだ知らない事があるんだ。そこは間違いない。





「あと、ラン達だって同じ。もし本当に恭文が嫌な子だったら、自分から近づいていこうとしないよ。
特にミキなんて、ちょっと人見知り激しいとこあるんだから」

「・・・・・・別にボクはなんとも思ってないよ。スゥがすごく気に入ってるみたいだから、付き合ってるだけ」

「だって、恭文さんはあむちゃんの言うようにいい人ですよぉ? そこは間違いなしですぅ」



ちょっとだけ、横の三人組も含めて真剣な顔でそう言われた。ただ・・・・・・なんだよね。



「色々事情はあるけど、今は一応クラスメートでガーディアンの仲間ではあるんだしさ。
性悪な外キャラを外して、もうちょっと皆に素の自分見せたっていいんじゃないかな」

「・・・・・・そう思う?」

「かなり。てゆうか、思わないとこんな事言わない」



即答って・・・・・・どんだけ強い子ですか、あなたは。はぁ、しゃあない。真剣に返しますか。



「そっか。でもさ」

「なに?」

「僕、皆に隠し事・・・・・・違うな、嘘ついてる部分があるわけよ。それも・・・・・・相当なのを多数」



あむの表情が一気に曇る。どうやら、僕の言いたい事分かったらしい。



「・・・・・・だから、なの? だから自分の本当のキャラとか見せるのためらう。
あたし達と距離縮めていいのかどうかも考えちゃう」

「そうだね。何より、仕事の時はあむの言う『外キャラ』を通すと決めてるし。
うん、ポリシーでもあるのよ。僕は『ダメな部類』だし、それくらいしなきゃ戦えない」





・・・・・・うん、やっぱり躊躇うのよ。年齢詐称に局の仕事の事に魔法の事。

嘘つきまくってるのは確か。どこまでそんな僕がこの子達のコミュの中に踏み込んでいいのか・・・・・・考えてる。

もうちょっと仲良くなっていいのか、いつ離れてもいいようにある程度距離は保つべきかとかさ。



普通に友達になるなら、相手の事をもうちょっと考えたりして仲良しこよしでいい。



仲間になるなら、もっと距離を縮めて自分の事晒してもいい。でも・・・・・・一応これ、『仕事』だしね。





「あむもそうだけど、みんなだって嫌でしょ。そんなのに友達面されるのはさ」

「・・・・・・恭文さん」



フェイトにも前に言ったけど、少なくとも僕はこの子達の仲間になるのも友達になるのも躊躇うくらい嘘ついてる。

だから、この子達と話してると・・・・・・あぁ、そうだよ。距離置きがちになるよ。多分、外キャラって奴で自分を隠してると思う。



「そっか。・・・・・・あのさ、恭文」

「なに?」

「アンタ・・・・・・やっぱりバカじゃん」



・・・・・・はいっ!? なにさいきなりっ!!



「気にする事なんてない事、ずーっと気にしてたからだよ」

「え?」

「ね、ラン、ミキ、スゥ。恭文バカみたいだよね」



その言葉に、迷いも躊躇いもなく呆れた顔で三人組が頷いた。それに内心戸惑ってしまう。



「うん、バカだと思うな。あむちゃんの言う通りだよ、私達もみんなも、気にしないから。
だって恭文が私達に『嘘』ついてるのは、お仕事の都合だからだよね?」

「ボク達には良く分からないけど、守秘義務とかそういうのがあるんでしょ? だから話せない」

「まぁ、そうだね」



ランとミキの言うように管理局の事とか魔法の事とか、簡単に話しちゃいけない決まりになってるから。・・・・・・めんどくさいけどね。



「でも、だからって嘘ついていいって事にはならないもの」

「でも、仲間に・・・・・・友達になるために、相手の事全部知らなきゃいけない。
自分の事全部教えなきゃいけないなんて言うのも、絶対に違うよ?」



あむが普段よりも少しだけ優しい声で、そう言ってきた。



「まぁ隠し事されてたり嘘つかれてるのは正直気分はよくない。でも、それはとりあえず置いてこうよ。
だって恭文にだって事情があるし、あたし達だって恭文に話してない事があるわけだし、おあいこじゃん」

「そうですぅ。でも、それでも・・・・・・きっとスゥ達は友達や仲間になれますよぉ?
あむちゃんの言うように、互いの事全部知らなきゃいけないなんて言うのは絶対に違いますからぁ」



まぁ、そこは僕も思う。そういうの・・・・・・めんどくさいもの。



「・・・・・・それに」

「それに?」

「ボクは今、恭文にはボク達に全部話せない事情がちゃんとあるのに、それでも自分は嘘をついているって言っただけで充分だよ。
そう思ってて、ヤスフミがそれを嫌だって思ってくれているって事が分かっただけで・・・・・・十分だから。ね、みんな」



ミキがあむ達に視線を向けると、三人は少し微笑みながら頷いた。



「・・・・・・いいの?」

「いいの。だから恭文の本当のキャラ、あたし達にもうちょっとだけ見せて欲しいな。
てゆうかさ、外キャラばっかってぶっちゃけ疲れない? あたしも経験あるから、まぁ・・・・・・少しだけね」



あぁ、あれか。サッカー部潰したとかなんたらかんたら。



「・・・・・・ま、考えておく」



足を進めつつ、僕は視線を前に向けてそう返した。



「さっきも言ったけど、これはお仕事用のキャラでもあるもの。簡単には外せないし外したくない。
僕は戦わなきゃいけない時に何も出来ないのだけは・・・・・・絶対嫌だから」

「・・・・・・そっか。なら、あんま無理は言えないか」

「でも」



隣を歩くあむの方を軽く見ながら・・・・・・僕は少し口元で笑ってこう続けた。



「『仕事』だと思えなくなったら、勝手に外してくわ。・・・・・・多分、そんな遠くない内に。
それでさ、話せる事は少しずつ話してく。そこまで言ってもらって何にも無しは・・・・・・悪いから」

「うん。てーか・・・・・・意地っ張り。てーか、マジ素直じゃないし」

「あむちゃん、それあむちゃんが言う権利ないよ」

「ボクもランに賛成」

「う、うっさいっ! あたし全然素直だしっ!?」










・・・・・・そっか、そうなんだ。僕・・・・・・この子達の事、本当に少しだけ好きになり始めてるんだ。





普段の仕事とは違うから、いつも通りに出来なくなってる。普通に内キャラ入り始めてるのよ。





だから嘘をついている事、申し訳無く思ってたんだ。うん、きっと・・・・・・そうだね。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第3話 『嵐を呼ぶ歌唄(うたう)たい達』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・あぁもう、あなたからは天才の守護霊の気配を感じるわっ!!』





そんな一言でゲストの俳優兼小説家な色男を持ち上げるのは・・・・・・冴木のぶ子という占い師。



最近地球で大人気の恰幅のいいメガネをかけたおばちゃんで、守護霊が見えるとかなんとか。



僕達は帰りついてから作った夕飯のカレーをみんなで美味しくいただきつつ、そのテレビをなんとなしに見ていた。





『それに引き換え・・・・・・あなたにあなたにあなたにアンタっ! もうダメっ!! 凡人ばっかりっ! やっぱり天才よっ!!
天才じゃなきゃダメなのよっ!? もうアンタ達はひど過ぎっ! てゆうか、才能のない凡人はどれだけ努力しようと天才に勝てるわけが』





僕はとっさにテレビを消した。だって、凡人代表がつや消しの瞳をしてたから。

それでテレビに向かって、右手に持ったクロスミラージュの銃口を向けていたから。

丁度右隣に居た僕は、ゆっくりとクロスミラージュを取り上げ、腕を下ろさせた。



だけど、目を真っ直ぐにあわせられない。だって・・・・・・怖いもん。





「○してやる」

「ティアっ! お願いだから落ち着いてっ!? ほら、ティアの好物のなぎ君とフェイトさんの特製カレーなんだからっ!!
お肉たっぷりでお野菜もほくほくのゴロゴロだから、その目はやめてー!!」

「でもでも、ティアじゃなくてもプンプンですよっ!!
なんですかアレっ!? リインはムカムカしてるですー!!」



まぁ、テレビ的な面白さも追求した上であんな発言してるんだろうけどさ。

さすがにアレはひどいよ。努力関係一切否定だもの。きっと今テレビ局は大変だろうなぁ。



「確かにそうだね、私もちょっとカチンって来た。よし、抗議の電話してくるよ」

「フェイトもお願いだから落ち着いてっ! なんでちょっと瞳のハイライトが消えかけてるのっ!!
ほら、カレー食べてっ!? お肉もこんなに柔らかくてジューシーなんだからっ!!」

「だって・・・・・・イライラするもの。私、ヤスフミの事知ってるから余計に」

「あぁ、そうですね。なぎ君も資質だけなら凡人ではありますし」



ま、まぁ・・・・・・特殊能力持ちではあるけど、資質や魔力量の問題でそこまで活かせてるわけではないし。

あむの言ったようにむしろ『ダメな部類』で、ノリが無ければ雑魚ってのが定説だし・・・・・・ねぇ?



「てーか、アンタはムカつかないの? あんな風に言われてさ」

「あ、瞳が戻ってる。また綺麗なハイライトが出てるね」

「おかげさまでね。・・・・・・で、どうなのよ」

「嫌だなぁ。資質どうこう才能どうこうなんて、いちいち気にしてたら身が持たないじゃない。
それよりも僕はもっと気にしなきゃいけない事があるのよ」



運の悪さ・・・・・・とかさ。体型・・・・・・とかさ。もっとね、気にしていかなきゃいけない事が沢山なのよ。



「・・・・・・泣いて、いいかな。なんか悲しくなってきた」

「いや、それやめてっ!? ・・・・・・あー、でもごめん。いや、マジでごめん。
そうよね。アンタはその前に、目の前のオーバーSを潰さないと生き残っていけないものね」

「まぁね。あと・・・・・・さ、実は今日帰る時にちょっと見ちゃったのよ」

「え?」





で、フェイト達に話した。サッカー部の男の子が必死に練習していた話を。

あの子はレギュラーじゃないし明日の試合のスタメンにも選ばれてない。

だから明日の試合には今のところ出られない。出られるかどうかも分からない。



ううん、確立で言うなら出られないと思う。よっぽど苦戦したりとかじゃない限りは・・・・・・多分。



でも、必死に練習していた。まるで明日自分が試合に出るという勢いで。





「ある漫画のセリフでもあるもの。・・・・・・努力をしても絶対に報われるとは限らない。
でも、成功している人間は皆すべからく努力を重ねている・・・・・ってさ」



はじめの一歩の御大のセリフですよ。いや、アレは感銘を受けたね。



「無駄なんて嘘だよ。積み重ねた想いは、時間は、他の人間や物は裏切ったとしても少なくとも自分だけは絶対に裏切らないよ。僕はそう思う」

「・・・・・・そっか、そうだよね。よし、ティア。
嫌な事は気にせずに今日の夜の訓練、頑張っていこうか。今日は私が相手をするよ」

「はい。フェイトさん、よろしくお願いします。・・・・・・あ、その前に宿題終わらせないと」

「あ、そうだね・・・・・・って、ティアもだんだん中学生になってきたね」

「受け入れがたいですけど、それなりに。最近ようやくクラスにも馴染めてますから」



あぁ、そうらしいね。ちょこっと覗いたりもしてるけど、クラスの子と話とか出来てるみたいだし。

どうやらティアナは女子連中と仲良くなっていくところから始めたらしい。その成果が段々と実を結び始めているとか。



「でもティア、真面目な話ここに居て大丈夫かな? 戦闘訓練も気をつけてやる必要があるし、執務官試験の勉強だってある。
もしその辺りの不満があるなら私で信頼出来る執務官に話をして、その人のところで勉強なり訓練をしていくという方法もあるけど」

「大丈夫です。・・・・・・これ、意外だったんですけど、試験勉強の時間意外と多く取れてるんですよ。集中も出来てます。
ほら、普通に今は学生ですから。今までみたいに突発で仕事入ったりもしませんし」

「そう言えばそうですね。残業とかもありませんし」





僕がみんなのために夜食を大量に作る必要も無いしなぁ。



そう考えるとティアナにとってはここに居るのって、意外とよかったりするのかな。



一応これ仕事中だし、それもやりつつ試験勉強の時間も取れて一石二鳥と。





「なら・・・・・・大丈夫?」

「はい。フェイトさんは私を誘ってくれた時の約束、ちゃんと守ってくれています。だから、安心してください」



その言葉に、少しだけ心配そうにしていたフェイトの表情が柔らかい物になる。どうやら、安心したらしい。

そう、こうしてると忘れがちだけどティアナは僕やシャーリーみたいにずっとフェイトの補佐官をするわけじゃない。



「ただ、問題は戦闘訓練の相手なんですよね。やっぱりそこに不足を感じてて」



ティアナの夢は執務官・・・・・・フェイトと同じ職に就く事。

だからこそ、こう続けたりもする。場合によっては戦闘技能も必要だから。



「あぁ、そうだね。僕とフェイトは近接寄りのオールラウンダーだから、もうちょいタイプの違う相手とやりあったりはしたいか」

「そうなのよね、出来れば私と同じ射撃型だと嬉しいんだけど。
・・・・・・いや、半分悪人思考なアンタと訓練出来るんだから、不足は感じる必要ないかも知れないけどさ」



ティアナがそんな失礼な事を言ってきた。一体どういう意味だろうか。

とりあえずカレーを一口食べてそんな疑問を消していく。みんながなんかくすくす笑ってるけど、気のせいだ。



≪そう言えばティアナさんと同じ射撃型って、私達のコミュの中だとあんまり居ませんよね。
せいぜい同系統だけどタイプ違いの高町教導官くらいで≫

「そうですね、リインはどちらかと言えば補助型ですし、はやてちゃんもちょっと違いますし。
あとヒロリスさんですか? アメイジアのスラッグフォルムでの射撃戦」

「でも、なのはも忙しそうだし、ヒロさんもお忙しいんだよね。あ、メガーヌさんやナカジマ三佐から聞いてるんだ。
ヒロさん、暇を見つけてはルーテシアの所に行ったり、海上隔離施設に顔を出したりしてるらしいから」

「おかげで仕事場が大変だって、サリさんが愚痴ってたけどね」



実際かなりの頻度らしいから、僕もミッドに航海任務からようやく帰り着いた時に局長とサリさんが嘆いていた。

二人に捕まって飲むと、二人とも愚痴がひどいの。僕になんとかしてって言うんだけど、そんなの無理だって。



「・・・・・・あれ? フェイトさんって、メガーヌさんとメールのやり取りしてるですか? あ、もしかしてウィハン関係とか」

「ううん、そことはまた別にだね」



ウィハンというのは、僕とフェイト、あとはメガーヌさんやヒロさん達もプレイしてるオンラインゲーム。

ミッドの中では一番人気なゲームだね。なお、今も現状維持な感じでちょくちょくやってる。



「先輩として、色々教えてもらってるんだ」










でもなんでかな。今のフェイトの言葉になにかこう・・・・・・妙な含みを感じたのは。

だけど、なぜか頬を赤く染めて僕をニコニコと見つめるフェイトに僕達は何も言えなかった。

だって、なにか言った瞬間に知りたくも無い事実と向き合う羽目になりそうだったもの。それは嫌かなと。





ただ・・・・・・すみません、僕だけはこの数時間後に向き合うになりました。うん、すごかったです。





・・・・・・そしてこの時、ティアナが撃ち抜こうとしていたテレビをあの子も見ていたとは、僕達は知る由もなかった




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その翌日。僕は・・・・・・あの、フェイトとおはようのキスといってきますといってらっしゃいのキスをした上で。

ねぇ、これ解説する必要あるのかなっ! 僕は意味分からないんだけどっ!!

・・・・・・とにかく、僕とガーディアンの面々はサッカー部の練習試合を見に来ていた。





なぜか無駄に豪華なお弁当など食べつつ。なお、なでしこが朝一番に起きて作ったらしい。・・・・・・ごちそうになってます。










「・・・・・・苦戦してるね」

「まぁ、仕方ないよ。相手は全国でもトップクラスで」

「おらぁぁぁぁぁぁぁっ! もっと気合入れんかいっ!! 飛び込めー! たたき潰せー!!」

「なでしこっ!? おのれはいったい何やってんのさっ!!」



なぜかいきなりドスを聞かせた声を出してきたなでしこの様子に僕はびっくりする。

というか、その薙刀はどっから持ち出したっ!? おかしいでしょうがっ!!



「あ、恭文やこてつちゃんは」





なお、ややが言った『こてつちゃん』とはアルトの事である。ややとの数回に渡る協議の結果、呼び名はこれになった。



ただ、その道のりが非常に長く、苦難に満ち溢れたものだったのは言うまでもない。



どうしても『アルト』と呼びたかったらしいんだけど、アルトがそれを譲らなかったので、間を取ってこうなった。





「見るの初めてだったよね。これがなでしことてまりのキャラチェンジなんだ。なんでか・・・・・・こんな感じになるの」

≪いや、なるのって・・・・・・どこの極道の妻ですか、これ≫

「確か、しゅごキャラってなりたい自分が形になるんだよね? ・・・・・・え、マジでこれはなに?」

「謎なのです」



僕やアルトにリインの疑問はさておき、試合はどんどん進行していく。というか・・・・・・圧されてる?

空海も相手チームに徹底的にマークされてるし、あの調子じゃあちょっとまずいな。



「あー、これってかなりヤバい・・・・・・あれ?」

「あむさん、どうしました?」

「いや、ほら・・・・・・恭文。あの子」





あむがそうして指したのは・・・・・・昨日川原で練習していた補欠の子。



なぜか表情が暗い。自分のチームの試合なのに、全く集中していない感じ。



・・・・・・え、あれなに? というかそのまま立ち上がって、どこかへ消えていった。





「なにしてるんだろ。試合中なのに」

「・・・・・・ちょっと行ってみようか」

「え?」

「気になるんでしょ? なら、まずは突っ込む事。そこから全部始まるのよ」

「なんか、アンタが言うと説得力がありすぎて怖いよね」





そのまま僕とリインにあむは三人に断った上で、あの子の後をつける。

・・・・・・というか、結構足速いな。普通に見失うかも。

なんて思ったのがまずかったのだろうか。曲がり角でいきなり人が出てきた。



それは・・・・・・あれ? 二階堂先生。





「あぁ、ヒマ森さんに蒼凪君。あと・・・・・・君は4年のリインちゃんか」

「日奈森ですっ!!」



僕とあむになでしこのクラスの担任の二階堂先生だった。なんつうか・・・・・・若干おかしい人。



「あれ、サッカーの試合は見ないのかい?」

「いえ、これからちょっと三人で修羅場なんです。・・・・・・モテる男って辛いですよね」

「あぁ、そうなんだ。それは大変だねー。刺されないように気をつけなよ?」



そう、この人は若干おかしい。普通にすごいドジだし、ちょっとボーっともしてるし。



「そんなわけないですからっ! 一体なんの話してるんですかっ!!」

「「男が二股かけるのは最低だと言う話だけど、何か?」」

「ハモるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ほら、とっと行くよっ!? 早くしないと見失っちゃうっ!!」



その言葉に僕はお辞儀をしてあの子の追跡を再開する。リインも同じく。



「サッカーかぁ。バカみたいだよね」



でも、三人とも足を止めた。そんな普通の口調で出てきた言葉によって。



「将来の夢はプロ・・・・・・かな? でも、かなわない夢を持つなんて、バカだよね。
プロになれる人間なんて、一握りなのに。現実見てないのにも程があるよねー」



そんな辛らつなボールをへらへらと投げてきたのは・・・・・・二階堂先生だった。



「・・・・・・なんですかそれっ! ちょっとあなたっ!! いくらなんでも言っていい事と悪い事が」

「あー、そうですね。それは僕も思いますよ」

「恭文さんっ!?」

「ちょっと、なに言ってんのよっ!!」



怒ってるリインには構わずに、そのまま言葉を続ける。



「あ、君もそう思うんだ。いや、やっぱり君とは色々気が合うみたいだね」

「いや、合いませんよ?」

「・・・・・・は?」

「だって、まだ続きがありますから」



いやぁ、僕はバカだねぇ。でも・・・・・・今のはムカつくわ。だから一言で潰す。



「でも・・・・・・先生、そう言うのはやめておいた方がいいですよ? 知ってます?
人の夢を嘲笑う奴は最低極まりないクズで、ただの負け犬だって」



僕がそう言うと、僅かに二階堂先生の目が細まった。

いつものボケーとした微笑みは消えないけど、それでもだよ。



「・・・・・・君、それはどういう意味かな」

「いやだなぁ、言葉通りの意味ですけどなにか? 世間ではそういう目で見られがちみたいですから。じゃ、そういう事で」





それだけ言って、僕はリインとあむの手を掴んでその場を去る。方向はもちろん、あの子が去っていった場所。



広場というか、うっそうと木の茂った林の中に突撃する。・・・・・・くそ、完全に見失った。一応方向は合ってると思うけど、



てーか、なぜ学校の中に森林っぽいポイントがあるのさ。これおかしいでしょ。





「ちょ、恭文さんっ!!」

「・・・・・・リインもあむも、熱くなり過ぎ。あぁいうのはあれくらいの事を言ってパッと離脱するのが常識よ?」

「いや、それは分かったけど・・・・・・お願いだから離して? あの、ちょっと恥ずかしい」



その言葉に、僕は足を止めてあむの手を手を離した。・・・・・・なぜかあむが顔を赤くしてるけど、気にしない。



「あのさ」

「なに?」

「恭文、あぁいう事言えるんだね。ちょっとびっくりした。二階堂先生、完全にタジタジだったし」



・・・・・・まぁね。たまには頑張らないと、ダメでしょ。ただ、あむは一つ誤解してる。

あの人、反論しようと思えばきっとしてたよ。タジタジなんかじゃなくて、内心僕の事嘲笑ってもいた。



「僕もちょっとカチンと来たしね。あと」

「あと?」

「見せられる分は見せていくって話、したでしょうが」



それだけ言えば、あむには十分だったらしい。表情が柔らかくなった。



「まぁ、恭文さんは叶えたい夢・・・・・・あるからそう言えるんですよね」

「そうなの?」

「まぁ夢というか、願いだね。・・・・・・大好きな人が居るんだ」

「え?」



そのまま再び歩を進める。視線を前から外さずに、僕は言葉を続ける。



「すごく大好きで、大切な人。僕、その人の今と笑顔と夢を守り続けるのが・・・・・・夢かな。
まぁそういうのもあるから・・・・・・人の夢や願いを嘲笑って壊そうとする奴は、マジで嫌い」

「そう・・・・・・なんだ。ね、その人って女の人?」

「うん」

「もしかして恋人とか、そんな感じ?」

「一応そんな・・・・・・感じ」



なんか後ろであむとキャンディーズが騒ぎ出したけど、気にしない。つーか、ちょっとうるさい。

あぁもう、女が三人寄れば姦しいと言うのは身をもって知ってるけど、まさか子どもでも同じとは。



「恭文さん、キャンディーズってなんですか?」

≪昔居たアイドルグループですよ。ちょうどランさんミキさんスゥさんと名前が同じで人数も同じなんですよ≫

「あ、だからキャンディーズなんですね」



・・・・・・JACK POT!!



「はわわ、スゥ達はアイドルですかぁ? なんだか嬉しいですぅ」

「いや、多分ボク達は一くくりにされてるんだよ。そっちの方が呼びやすいからとかさ。
ほら、信号機トリオって言うのだって同じじゃん」

「むむ、手抜き反対ー! もっと愛情持って私達に接してよー!!」



いや、なんでそうなるっ!? つーか、僕の愛情は全力全開でフェイト対象なのよっ!!



「・・・・・・素敵な夢だね」

「はい?」



足を進めながらあむの方を見ると、あむがなんか嬉しそうな顔をしてた。

それが分からなくて、僕は・・・・・・うん、首を少し傾げる。



「好きな人の今と笑顔を守りたいって話。あたし、そういうのちょっと好きかも」

「あ、あの・・・・・・ありがと」

「恭文さん、デレてます?」

「デレてないからっ!!」





とにかくようやく林の中を抜けて・・・・・・ちょっとだけ広まった所に出てきた。そして、見つけた。

白い屋根つきのおしゃれな休憩所みたいな所に居る。でも、様子がおかしい。

なんだか、黒いオーラがその子の身体から溢れてきて・・・・・・胸元から白いたまごが出てきた。



そしてそのたまごは、一瞬でバツが付いた黒いたまごに変わった。





「恭文さん、あれって・・・・・・!!」

「×たまだね」





でも、そこで終わらなかった。そのたまごにギザギザな割れ目が真ん中に入って、パカッと空いた。



するとその中から僕とリインも見覚えのある、小さくて黒いチビっ子が出てきた。



額にはタマゴと同じ×がつき、もう意地の悪い顔で笑いながらこちらを見ている。





「あむちゃん、あれって・・・・・・×キャラだよっ!!」

「見れば分かるってっ! でも、なんであの子がっ!?」



言ってる場合じゃなかった。その×キャラから黒い衝撃破が放たれて、

僕とリイン、それにあむと三人組が左右に分かれて飛ぶようにしてそれを回避する。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



あむが叫ぶのは、気にしない方向で。とにかく回避によって開いた場所を×キャラが高速飛行して突き抜けて・・・・・・上空で僕達をあざ笑う。



(・・・・・・どうせ、ダメなんだ)



これ、×キャラ・・・・・・いや、違う。もしかしてあの子の声? でも、どこからともかく聞こえた声に反応するヒマもない。

×キャラの周りに黒いエネルギーが球体状となり、そのボールを×キャラが蹴る。当然僕達めがけて飛んできた。



(どんなに努力したって、天才になんて勝てるわけないんだ)



横に飛んでそのボールを避ける。ボールがそれまで居た地面に着弾。それを吹き飛ばした。

その間に・・・・・・いくつもボールが生成されて、何発も蹴り出された。



(もう嫌だ・・・・・・! もう、そんな無駄な事嫌だ・・・・・・!!)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・グダグダと



「抜かしてんじゃっ!」

「ないわよっ!!」





瞬間的にリーゼフォームにセットアップ。あむもいつぞや見たチアガール姿に変身。



そのまま、僕はアルトでを抜き放ち右薙に一閃。あむは右手に出したピンク色のボンボンを同じように振るう。



そうして上空から襲ってきたボールを全て叩き潰す。叩き潰した上で・・・・・・戦闘スタート。





「お前、そのままでいいわけ? ・・・・・・そんな自分のままで、本当にいいわけっ!?」



この手の感情は、僕にも覚えがある。だから抑えが利かなかった。つまり、内キャラ全開。



「大体、お前知ってるっ!? 天才ってのは、往々にして無茶苦茶弱いんだよっ!!
奴らは才能ありきで戦って、偉そうな顔してやがるっ! 『僕達』がそんなのに負けるわけあるかっ!!」

(黙れ・・・・・・! お前に何が)

「分かるさっ! 僕もお前同様に凡人なんでねっ!! いや、凡人以下の欠陥品の役立たずとまで言われたさっ!!
でも納得出来ないよねっ! あぁ納得出来ないさっ!! だったら・・・・・・拳突き出して、抗うしかないだろうがっ!!」



言いながら僕は左拳を突き出す。×キャラは何も言わずに僕を睨みつけるだけ。



「・・・・・・そうだよ」



そう言いながらゆっくりとあむが、×キャラに向かって足を進める。



「アンタ、それで納得出来るのっ!? 出来ないよねっ! それなのになにそんな情けない事言っちゃってんのっ!!」



・・・・・・えっと、もしかして僕はもう手出ししない方がいい?

よし、空気読もう。出番が無いのは悲しいけどきっとそれがジャスティス。



「無駄だとか、勝てるわけないとか、それほんとにアンタの気持ちっ!? 違うよねっ!!
そんな事マジで考えてるんだったら、なんで土手であんな必死に練習してたのっ!!」

『ムリッ!?』



その声に、×キャラが怯む。なぜあむがそこを知っているのかと驚いているらしい。



「あの時のアンタ、ちょっとかっこいいなとか思ったあたし達ちょっとバカみたいじゃんっ!!
そうだよっ! あの時のアンタ、凄いかっこよかったっ!! てゆうか、マジむかつくっ!!」



怯みながらも、ボールを生成。思いっきりぶっ放して・・・・・・ふん、やらせるわけないでしょうが。



≪Stinger Ray≫



左手の人差し指を×キャラに向けて、皆様お馴染み青い光弾を数発発射。

すると、それらは空気を切り裂きながら×キャラに飛ぶ。×キャラは咄嗟に左に飛んで避けるけど・・・・・そこが命取り。



「自分の大事なものに」



だって、あむがそこを狙ってもう目前に飛んでるんだから。もちろんあの時見た跳躍力を活かして。



「自分で自分の夢に・・・・・・×なんて付けてんじゃないっ!!」



そしてそのまま両手の指でハートマークを作って、それを×キャラに向ける。



「ネガティブハートに・・・・・・ロックオンッ!!」



胸元の金色の南京錠がピンク色に輝く。その光が放出され、あむの指の間を通った。



「オープンッ!」



その光がハートの形をしたなんというか・・・・・・こう、魔法少女っぽい攻撃となって撃ち出された。



「ハートッ!!」



そのまま×キャラを飲み込んだ。その中で×キャラは悲鳴をあげる。



『ムリムリ・・・・・・ムリィィィィィィィィィィィィィィッ!!』



それからまた黒いたまごに包まれて・・・・・・あ、白いたまごに戻った。

て、てゆうかアレ・・・・・・なんですか? あのファンシーな浄化技は。



「・・・・・・やっぱりあむさん魔法少女です」

≪そうですよね、やり取り皆無な思いっきり力押しな攻撃の仕方といい、あの形状といい、やっぱり魔法少女ですよ≫



そうだよね、そう思うよね。というか、それしかあれを表現出来ないよね。おかげで説明すっごく簡単になったし。



「はいそこうるさいっ!! 一体何の話してんのっ!?」

【でも、ある意味仕方ないのかも知れないよ? だって、変身して姿変わってその姿の名前名乗ってるよね。
その上決めポーズまで取っちゃって、必殺攻撃も改めて考えるとなんかファンシーなんだから。あむちゃん、私達なにも反論出来ないよ】

「ランまで何言ってるのっ!?」



なんて話していると、そのたまごが真ん中から割れて・・・・・・うぉーいっ!?



「待て待てっ! なんでたまご割れてるのっ!?」

「あぁ、大丈夫ですよぉ。・・・・・・ほら」



スゥが指す方を見ると・・・あ、なんかサッカー少年っぽいのが出てきた。



「あれがあの子のなりたい自分だよ。・・・・・・うーん、すごくサッカーが好きで上手くなりたいと思ってたんだね」

「なるほどです。というか、そのままですね」

「・・・・・・キミ、意外と毒があるね」

「そうですか?」



そのままその子はまたたまごの中に戻って、そのたまごは男の子の胸元に吸い込まれるようにして消えた。

・・・・・・うーん、やっぱり不思議だ。しゅごキャラとか見えてなかったら、僕は間違いなく信じられないでいたって。



「・・・・・・これで、解決?」

「そうですよ〜。うーん、でも今回は恭文さんは出番無しでしたねぇ」

「ちょっと手助けしただけだしね。・・・・・・というか、今度はいきなり射撃って」

「よし、二人ともちょっとお話しようか。僕に対してなにか思うところとかあるなら聞くよ?」










そして、このすぐ後の事。目を覚ましたこの男の子は試合終了間際で起用。

見事空海や他のレギュラーの子のアシストもあり、ゴールを決めて点を取る事になった。

まぁ1点先制されてたからそれで同点。その直後にタイムアップ。





今回の試合は延長無しだから、引き分けで終わったんだけどね。

ただ、キャプテンである空海や他のメンバー的には、全国トップクラスの相手にそこまでやれた事で手ごたえは感じたとか。

あー、それとどうやら空海や他のレギュラーの子は、あの子が土手で毎日のように訓練しているのを知っていたらしい。





色々びっくりしてた様子だけど・・・・・・その努力、世間はともかく空海や他のレギュラーの子には認められていたみたい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、二人で×たま浄化しちゃったと」

「うーん、恭文とあむちんもしかして結構仲良し? というか、知らないうちにラブラブ〜!?」

「違うからっ! ややもなんでそんなにやにや笑いながら私達を見るのっ!?」





夕方、ガーディアンのみんなと下校・・・・・・あれ、なんか馴染んでるのがちょっと嫌なんですけど。



いや、もっと素の自分を見せていくとは言ったけど、19歳の男の子としての僕がやっぱり拒否反応を起こしてるのよ。



と、とにかく、下校しながら商店街を歩く。なぜだろう、みんなの僕とあむを見る目が生暖かい感じがする。





”あなた、これはまずいんじゃないですか?”

”お願い、アルト。なにも言わないで。お願いだから何も”

”やっぱりもっとハッキリと本命が居るって言うべきですよ。
そうじゃないと、絶対にまずい事になりますよ?”



そうだよね、間違いなくそうだよね。よし、それじゃあ早速言ってしまおう。



”でも、下手な言い方をすると今度はあむさんの気持ちを傷つける事になるんですよね。
今まで大丈夫だったのはこの人がフラグ立ててたからであって、それが折れたらどうなるか”

”あぁ、それはありますよね。本命が居るからってそんな言い方しなくていいのにーって。
それはもうプリプリするですよ。この年頃の女の子は扱いが難しいですから”

”じゃあどうしろって言うのっ!? つーか、おのれらはどっちの味方だよっ!!”

”私は私自身の味方に決まってるでしょ。なんでいちいちあなたの味方しなくちゃいけないんですか”

”リインも同じくです。あ、恭文さんの一番の味方では居たいですけど、それとこれとは話は別なのです”



お、おのれら・・・・・・! くそ、やっぱアテになんないしっ!!



「あーもうはいはいっ! みんなそういうの無しっ!! 恭文、本命というか彼女居るらしいんだからっ!!」

『そうなのっ!?』



なんか僕の意思とは関係なくぶっちゃけられてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!? つーか、勝手に話すなぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「ちょっとあむっ!? 何を勝手に」

「じゃああたしと公認カップル的な扱いを受ける方がよかったの?
言っておくけど、このまま放置してたら明日の校内新聞が凄い事になるんだから」

「日奈森さま、ありがとうございます。私、非常に助かりました」

「うん、よろしい」



よ、よかった。なんか知らないけど校内にそんな噂が広まる事だけは避けられた。うし、これで平和に。



「あら、それなのにあむちゃんを弄って気を引こうとしてたの? それはちょっと問題ね」

「お前・・・・・・なんつうか、男って初志貫徹が大事だと思うぞ?
日奈森気になるならちゃんと周囲の事を片付けてからだな」

「なでしこも空海もなんの話してるっ!? つーか気を引こうとなんてしてないしっ!!
お願いだからそんな信じられないものを見るような目で僕を見るなっ!!」



や、やばい。ここはとっとと逃げろと本能が叫んでいる。

じゃないととってもまずい事になると経験が叫んでいる。もっと言うと現地妻ズの声が聞こえる。



「ねね、その子ってどんな子なの? 写真とかあるの? やや達に見せて見せてー!!」

「えっとですね、フェイトさんと言って・・・・・・んー! んーんー!!」



リインの口を右手で塞いで発言を止める。というより、こうしないとまずい。



「はいはい、リインも妙な事喋るのやめようね。いや、真面目にやめようね」



というか、それでどうやってフェイトの事を説明しろとっ!?

今の僕は小学生と思われてるのに、ここでフェイトの事出したら間違いなく色々やばい事になるでしょうがっ!!



「だめよ、女の子にそんな乱暴な事をしちゃ。あなたが素直にそのフェイトさんとやらの事を私達に話せばいいだけじゃないの」

「いや、あの・・・・・・ですね。それはあの、色々と事情が邪魔をして」

「蒼凪君、僕達はもっとお互いの事を知っていく必要があると思うんだ。
確かに君の場合、色々特殊な事情が多いとは思うけど」

「そんなもっともらしい事を言うなら全員その興味深々な顔はやめてっ!? というか、唯世っ!!
身長ほぼ同じで上目使いな視線を送るのもやめてっ! どんだけ器用な事してるのさっ!!」



やばい、真面目にやばい。僕すっごい追い詰められてる。なんとか逃げないと。



『・・・・・・えー、それでは引き続き、本日のゲストにはクリステラ・ソング・スクールの校長で自身もシンガーとしてご活躍中の』

「・・・・・・恭文さん、あれ」





ふと目に入ったのは電気屋さんのテレビ。そこに映るのは・・・・・・三人の人物。

白い、柔らかそうなソファーに座っている三人の内の一人は、背広姿のアナウンサーっぽい人。

残りの二人は金とブラウンが混ざった色合いの長い髪をポニーテールにしている女性。



あと一人はその女性と比べると幾分若い10代後半くらいに見える女の子。



なお、二人ともちょっとスーツ姿だったりする。





『フィアッセ・クリステラさんと、現在歌手として若者に人気を得ているほしな歌唄さんに来ていただいて、新旧歌姫の対談という形でお送りしております』

『ちょっと、その新旧の『旧』って、フィアッセさんに失礼ですよ?
フィアッセさんは今なお人気が衰えない世界を代表する歌姫なのに。・・・・・・あ、私が旧なのかな』

『あ、そうですね。これは失礼しました。確かに歌唄さんの言う通りですね。
えー、スタッフー! すぐにテロップ直してー!? 女性二人にこういうのは無しでしょー!!』



司会の人がおどけて言うと、公開放送というか収録なのか、会場がドっと笑いに包まれる。なんだか・・・・・・楽しそう。



『いえ、なんだかんだで私ももう年齢が年齢ですし。
でも、歌唄さんの歌、今回の対談をさせてもらうに当たって、聴かせてもらいました』



そう、そこに映っていたのは・・・・・・フィアッセさんだった。



「うわー! ほしな歌唄ちゃん出てるー!! あ、そっかっ!!
今日は緊急生対談だったんだっ! あぁ、録画するの忘れてたー!!」

「・・・・・・ややさん、この女の子知ってるですか?」

「あれ、リインちゃん・・・・・・恭文も知らないの?」



僕達はややを見ながら頷く。見てるとアイドルっぽい感じではあるけど・・・・・・誰?



『あ、あの・・・・・・ありがとうございます』

『あぁ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ? とても素敵で・・・・・・真っ直ぐで、力強い歌をうたうんですね。私、とても感心してしまいました』

『ありがとうございます。あの、私もフィアッセさんの歌・・・・・・歌手になる前から聴かせていただいていて、すごく好きなんです。
それであのすみません、実は尊敬する歌の先輩と思うのと同時に、勝ちたいというか超えたい目標とも思ってて』



金色の髪をツインテールにした子は、少し申し訳なさそうな表情を出して・・・・・・というか、緊張してる?



『それで普通にファンだったりする部分もあったりして』

『あ、そうなんだ。・・・・・・ありがとう』



フィアッセさん・・・・・・変わってないなぁ。綺麗で、優しげで・・・・・・暖かい感じがいっぱいで。

あれ? もしかして生対談って事は、これ国内放送っぽいから・・・・・・日本に居るのっ!?



「えっとね。ほしな歌唄って言って、最近人気急上昇の歌手の子なんだ。うちの妹もすっごいファンなの」



驚く僕達に補足を入れてくれたのは、隣でテレビを見ていたあむだった。

・・・・・・そう言えば、ミキが前に妹がどうこうって言ってたな。



「なるほどね。でもあの子、フィアッセさんと対談出来るって事は、相当人気あるんだ」

「そうだね。実際歌も上手いし、うちのクラスでもファンな子が多いし・・・・・・え、フィアッセさん? 恭文、なんでそんな親しげに言うわけ?」

「そう言えば・・・・・・さっきもこのテレビを見た時驚いた顔してたよな。ほしな歌唄じゃないとすると、なんでだ?」



僕はその言葉にテレビから視線を外さずに答える。

胸の中に広がる懐かしくて、暖かい感情をかみ締めながら。



「僕、このフィアッセ・クリステラさんと友達なんだ」

『・・・・・・・・・・・・えぇっ!?』



全員の驚く声がその周囲に響いた。・・・・・・あー、みんな落ち着きなさいよ。ほら、通行人の方々が何事かと見てるし。



「マジかよっ! だって・・・・・・あれ、この人世界的に有名な歌手なんだろっ!?」

「恭文このお姉さんと友達っ!? というかというか、それっておかしくないかなっ! やや全然知らなかったんだけどっ!!」



当たり前でしょうが。たった今話したんだから。むしろ知ってたらびっくりだ。



「実は僕おばあさまを筆頭に家族一同昔からの大ファンなんだけど・・・・・・え、本当に知り合いなのっ!?」

「これは驚いたわ。でもどうしてなの? こういう言い方は失礼だけど、あなたとフィアッセ・クリステラさんが繋がる要素があるとは思えないんだけど」



まぁ、普通ならそう思うよね。ただ・・・・・・ここにはちゃんと理由があるのだ。



「もしかして、仕事関係でかしら?」

「いや、全くのプライベートで。僕の実戦剣術の先輩二人がフィアッセさんと幼馴染でね」

「という事は、その人達がご縁で・・・・・・なのね」

「そうなの。ただそうしたら、どんぴしゃで事件に巻き込まれてさぁ」



僕がそう言うと何故か全員が黙った。そして、なんか気の毒そうな顔で僕を見る。



「ねね、恭文ってもしかしなくても・・・・・・運、無い?
あむちんと会った時もこっち来た途端に遭遇したとか言ってたし」

「もしかしなくても無い。つーか、むしろ悪い。で、話を戻すけど」

「あ、うん」

「僕、こういう感じだからその時はずっとフィアッセさんの側について護衛してたんだ。
子どもってのも、色々利用はしやすいの。その時に色々お話して、すごく仲良くなったの」





思い出すのは、あの時の旅の記憶。自分の中に出来たもやもやを探し出すための旅。

その中で出会って、繋がって、大好きで大切になった人。

それからも色々あって、今なお繋がっている大切な友達。それがフィアッセさん。



でも・・・・・・日本に来ていたんだ。そっか、そうなんだ。





『それで、フィアッセさんが今回日本に来られたのは、コンサートのため・・・・・・ですよね』

『はい。先ほど説明していただいていた通り、現在私達はチャリティー・コンサート・ツアーを行っています。
先月まではアメリカの方を回っていましたけど、今月からはここ、日本で公演させていただく事になりました』



・・・・・・あ、そっか。もうそんな時期なんだ。



『世界を巡り、その収益を使って医療関係に対して寄付を行う・・・・・・でしたね。先代の校長でありフィアッセさんの母親。
同じく世界的に有名なシンガーだったティオレ・クリステラ女史の頃から行われている、スクールの活動の一つ』

『そうです。・・・・・・母は戦地で子ども時代を過ごしていました。自身もそのせいで身体を悪くしていた時期もあるんです。
だからスクール主催でコンサートを開いて、その収益を寄付する・・・・・・という事を、したかったらしくて』





それでスクールの卒業生達に声をかけて始めたのが、もう10年以上前。

あの素敵なメッセージを残してくれたお母さん自ら、スクールの卒業生達に声をかけてそこからスタート。

これだけ聞くととても素敵なお話だよね。ただ、ここには一つ裏事情がある。


僕も恭也さんやフィアッセさんから聞いたんだけど、お母さんは相当ぶっ飛んだ人なのよ。

それを『収益を荒稼ぎして、企業やスポンサーの懐には入れず一円残らず寄付してやりたい』と表現したらしい。

ノリのいいところは・・・・・・遺伝、かなぁ。フィアッセさんもそういう部分が無いわけじゃないから。





「・・・・・・リインちゃん、恭文なんだか嬉しそうだね」

「恭文さん、フィアッセさんが大好きですから。
フィアッセさんも恭文さんの事を気に入ってくれて、本当によくしてくれてるですよ」

「なるほどね。もしかして彼、意外とモテるのかしら」

「かなりですね」



うん、嬉しい。元気そうな姿、テレビで見る事が出来てさ。それも・・・・・・生放送でっ!!

フィアッセさん・・・・・・あの、えっと・・・・・・ダメ。なんか嬉しい。それしか言えないや。



”よかったですね。いや、色々怖いですけど”

”恭文さーんっ! 聞こえてますかー!? ・・・・・・だめです、聞いてないです”

”感激しきった表情浮かべてますしね。仕方ありませんよ”

”ですね”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌日、僕はガーディアンの面々とロイヤルガーデンで一緒にお昼を頂きつつ一つの話をする事にした。





そう、多分もう予想ついてると思うけど・・・・・・あの話だよ。










「・・・・・・コンサートに招待されたっ!? え、昨日テレビに出てた恭文の友達だって言うフィアッセ・クリステラさんのコンサートだよねっ!!」

「というか、それにやや達も行っていいのっ!? それもタダでっ!!」

「うん」

≪あなた方の事もちょろっと話したら、せっかくだから連れてきて欲しいと言われました≫





なお、フェイトにリインにティアナ、シャーリーも誘われて・・・・・・オーケーだって。



いや、もうフィアッセさんの押しが強くて『行く』か『招待を受ける』かという選択しかなかったんだけど。



でもそうすると・・・・・・10人近く? うわぁ、大変そうだなぁ。





「えっと、それは嬉しいけど・・・・・・本当にいいの?
だって僕達、蒼凪君やリインさんはともかくフィアッセ・クリステラさん自体とは何の繋がりもないし」

「いいの。というか・・・・・・お願い、来て。全員揃って一人も欠ける事なく来て。
そうじゃないとフィアッセさん絶対納得してくれないから」

「どうして?」

「・・・・・・フィアッセさんは警備組織関係以外だと、僕の能力の事とかどんな仕事してるとか、そういうのを知ってる数少ない人間なのよ。
で、その僕が小学校通ってるって聞いて、親しくなった人間がどんな感じかって凄まじく興味を抱いたらしくて」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけでなので、行くのはかまわないんですけどそこだけ承知してもらいたいんです。
この近辺でコンサートだと、関係者に見られる可能性もありますから」

『えっと・・・・・・恭文くん、もう一度聞くけど本当に?』

「本当・・・・・・です」



僕は皆と別れてから、かかってきた電話に対応していた。相手はもちろんフィアッセさん。

それで久しぶりという挨拶もそこそこになぜここに居るのかという話になって・・・・・・簡単に事情を説明した。


『でも、小学生か。恭文くん、大丈夫?』

「なんとかやってます。辛いですけど・・・・・・あの、フェイトからいっぱい元気貰ってますし」

『ふーん、ラブラブなんだね』



あの、なんでそんなに膨れたような声を出すの? いや、なんとなく分かるけど。



『あーあ、私もっと頑張ればよかったなぁ。まさかあんなに早く成立するとは思ってなかったよ』

「・・・・・・ごめんなさい」

『いいよ、別に。私は恭文くんが幸せならそれで嬉しい。結婚の約束は、恭文くんがずっと一人にならないようにするためのものだもの。
それにリインちゃんとは違う意味で、私はフェイトちゃんから公認されてるしね。それだけで十分だよ。私達、ずっとわがまま仲間だもの』

「あの・・・・・・ありがとうございます」



いや、公認っておかしいけど。間違いなくおかしいけど。・・・・・・なんでこんな事に?



『つまり、健全な浮気相手なんだよねー。ふふふ、恭文くんとまたいっぱいラブラブしてー』

「そういう言い方やめてもらえますっ!? てーかアンタそれでいいんかいっ!!」



あぁ、この人にはきっと一生勝てないんだろうなぁ。うん、分かってた。

それにその・・・・・・僕もフィアッセの事、大好きだし。



『あ、そうだ』

「・・・・・・あの、フィアッセさん。どうしてか僕はその一言に凄まじく嫌な予感がしたんですけど。いや、真面目にですよ?」

『大丈夫だよ、ちゃーんとお願い事は聞くから。
その子達と一緒に居る間は、小学生の男の子としての恭文くんに合わせればいいんだよね』

「いや、なんでいきなりそんな話っ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・というわけなの」

「・・・・・・まぁ、そういう事ならご好意に甘えさせてもらうかな。お断りするのも失礼だろうし」



唯世が若干『大変だったね』というような・・・・・・こう、慰めるような目で僕を見る。

いや、それに関しては他のみんなもかな。みんな、普通に僕に対してそういう感情を持ってるらしい。



「そうだな、じゃあ行ってみるか。あ、俺あれから調べてみたんだけどさ。
あそこのコンサートって相当レベル高いらしいし、案外面白いかもな」

「面白いよー。フィアッセさん達の本気の歌はむちゃくちゃ凄いんだから」

「恭文君、すごく楽しそうね。・・・・・・そんなにあの方が好き?」

「うん。大好きで、特別で、大切だって思ってるから」










そう言って、空を・・・・・・屋根越しに見える空を見る。





チャリティー・ツアー・コンサートかぁ。9年前のあれこれを思い出すけど・・・・・・楽しくなるといいなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そんな事を思った1時間後。僕はリインとティアナと一緒に全速力で家に戻っていた。

ガーディアンの定例会議もキャンセルさせてもらった上で。

なお、みんなには謝り倒した。そして、授業もガーディアンの特権を使った上で早退させてもらった。





色々問題が起きた。それも重大問題。きっかけは、お昼にフェイトから来た電話だった。

とにかく、僕はその電話を切ってからすぐに先ほど話したような感じでリインとティアナと一緒に学校を出立。

全速力で家に帰りついた。そして、一気にリビングへ駆け込み・・・・・・崩れ落ちた。





普通にハンバーグをほうばる女が居たからだ。年の頃は16で、長い金色の髪を空色のリボンで結んでポニーテールにしている。





服装は青のワンピースでその上にジーンズ生地の服。スタイルはフェイトと同じくらいにボンキュッボン。











「おじいさま、リインさま、ティアナさま、お邪魔しております。ご無沙汰してしまって申し訳ありません」



でも、その身長は少しだけ低い。そして凛とした翡翠色の瞳がこちらへ向いて、不思議そうな顔をした。



「ところで・・・・・・なぜ崩れ落ちていらっしゃるのですか?」



その喋り口調は少々舌足らずな感じで、声はフェイトを幼くしたような感じ。

口調や外見が大人びているというか丁寧な分微妙なアンバランスを感じるんだけど、そこがまたかわいらしかったりする。



≪あなた、それ本気で言ってます?≫

「いえ、さすがにそこまで神経が図太くはありませんから。というより・・・・・・古鉄さまもお久しぶりです」

≪えぇ、久しぶりですね。まぁ、そこはいいじゃないですか、問題はもっと別のところにありますから≫



そうだね、もっと・・・・・・別のところがあるよね。うん、そうなんだよね。

なんで僕を『おじいさま』なんて呼ぶのが居るのかってのが問題なんだよねっ!!



「咲耶・・・・・・! なんでおのれがここに居るっ!?」





彼女の名前は咲耶。未来の時間に存在している僕の孫の恭太郎のパートナー・・・・・・というか、本妻らしい。

そして、リインと同じユニゾンデバイス。その特性は・・・・・・雷。先天魔力変換資質として魔力を電撃へと変換する能力を持つ。

この子は同じ能力を持つ恭太郎と相性はピッタリで、公私ともに常に一緒に居るらしい。その二つ名は『雷鳴の鉄姫』。



で、想像はもうついてると思うけど、これが咲耶のアウトフレーム・フルサイズ形態。なお、リインは初めて見た時に普通に嫉妬していた。





「そ、そうだよっ! さっきも言ったけどどうしてここにっ!?」

「あら、愛する方のおじいさまに会いに来てはだめなのですか?」

「そう言う問題じゃないですよっ! 咲耶は未来の時間の人間ですよねっ!?
それがリイン達の時間に居るのが問題なんですっ!!」

「そうよっ! 会いに行きたいならアンタの居る時間のコイツに会いに行けばいいでしょっ!!
つーか、アンタはまたなんで普通に食事してんのっ!? そういうとこまでコイツの血筋を見習わなくていいからっ!!」



リインとティアナが口々にそう言うと・・・・・・うわ、無視しやがった。普通にまたご飯食べ始めたし。



「・・・・・・実は」



あ、無視じゃなかった。すぐに箸が止まった。それでそのまま箸を置いて・・・・・・頭を抱えた。



「あ、あの・・・・・・咲耶? どうしたのかな、もしかして恭太郎達に何かあったとかかな」

「咲耶、もしそうなら出来うる限り力になるよ? 前は咲耶もそうだし、恭太郎や幸太郎が助けてくれたんだもの。それくらいは」



・・・・・・いや、スピード解決が絶対条件だけどね。今やってる事あるんだし。



「みなさま、ありがとうございますっ! 実は・・・・・・実は・・・・・・!!」

『・・・・・・実は?』

「恭さまが・・・・・・私を差し置いて他の女と一夜を過ごしたんですっ!!」

『・・・・・・・・・はい?』

「私、恭さまの本妻として浮気は男の甲斐性と思い、現地妻ズも認める覚悟でしたっ! そしてなにより・・・・・・私は人ではありませんっ!!
恭さまが子を成すために他の女と子作りしても我慢するつもりでしたっ! でも・・・・・・ダメなんですっ!!」



ちょっとちょっと・・・・・・なんだか凄い語りだしたよ、雷鳴の鉄姫。



「恭さまが私以外の女の腕の中で眠るのなんて、やはり許容できなかったんですっ!!
気がついたら私はチケットを握り締めてデンライナーに乗り込みこの時代へやってきていましたっ!!」



そして更に語ってるよ、雷鳴の鉄姫。



「私、恭さまが迎えに来るまで帰りたくありませんっ!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし。



「フェイト、今何時何分何秒?」

「えっと・・・・・・13時46分27秒だね。次は14時14分14秒だから、あと30分くらい待たないとだめだよ」

「ティアナ、リイン、ちょっと手伝って。次にデンライナーに乗れる時間になったらこのバカ叩き出すから。
それまで逃がさないようにふんじばっておかないと。あ、フェイトは結界張って逃げられないようにして」

「「「わかった(です)」」」

「ひどいですわっ! あなた方私をなんだと思っていますのっ!?
傷ついた乙女にそんな真似をしていいわけがないでしょうっ!!」



ほう・・・・・・そういう事を言いますか。いいさいいさ、だったら反論してやろうじゃないのさ。



「それはこっちのセリフじゃボケっ! なにさその昼メロ事情っ!! そんな事のためにわざわざまた時間を越えてやってきたってのっ!?
おかしいでしょうが、おかしすぎるでしょうがそんなのっ! それならもっと別のところに行けっ!! ライド・オン・タイムして僕達のところに来るなー!!」

「そんな事はありませんっ! フェイトさま、あなたなら私の気持ち分かってくださいますよねっ!? 
もしおじいさまが・・・・・・と考えてくださいっ! そんなの許せますかっ!!」

「・・・・・・ううん、許せない。絶対許せないよ。というか、そんなの嫌だよ。だって、この間あんな話したばかりなのに」



そう言って、フェイトがなんだかつや消しアイズで涙目に・・・・・・って、怖いからやめてー! そして咲耶の口車に乗るなー!!



「・・・・・・で、ちなみに誰と一夜を過ごしたのよ」

「恭文さん、そこ聞くんですか?」



いや、しゃあないでしょうが。とりあえず事情を聞いて、冷静になってもらう。

その上でふんじばってデンライナーに叩き込まなきゃいけないんだから。



「あぁ、シャーリーさまのお孫さんです。あ、もちろん女の子です」

「・・・・・・私っ!?」

≪え、この人結婚できるんですか?≫

「ちょっとっ! それどういう意味かなっ!!」



アルト、それは失礼だよ? いや、僕もそう思うけど。



「はい。ノンセクシャルに仲がいいのですけど、仕事でむしゃくしゃして二人でオールでカラオケしてストレス解消したんです」



いや、それなら別にいいんじゃ。ノンセクシャルなんでしょ? 仲いいんでしょ?

今は僕がフェイトと付き合うようになったからもうやってないけど、僕とシャーリーも同じような事してたし。



「もしかして、それで咲耶を差し置いて恭太郎、そのシャーリーの孫と付き合い出したですか?」

「いえ、その後も至って普通にお友達です」

「なら、問題無いんじゃ」





なら別に気にする必要もないとさらに思う。現にフェイトは気にしてなかった。



うん、付き合うようになるまでは全くだね。話聞いてると、今のところ咲耶と恭太郎はそういう感じじゃないらしい。



そこを見ても何度も言うようだけど特に問題な・・・・・・え、もしかして倫理的に間違ってる?





「甘いですわ、おじいさまっ! カラオケボックスは薄暗い狭い密室っ!!
そんな中に年頃の男女が二人っきりになってただアニソンで紅白対決しただけでなんにも無いわけが」

「いや、だってなかったって言ってるなら」

「いいえ、絶対にありえませんっ!!」



あぁもう、ご飯粒飛ぶから叫ぶなっ! てーかテンション高過ぎだからっ!!



「きっと、それ以外に二人で一晩かけてカロリー消費の激しいストレス解消をしていたに決まっていますっ!!
いわゆるスポーツ的なあれで対決もしていたんですっ! そこはもう決定なんですっ!!」

「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そんなの咲耶の勝手な妄想じゃないのさっ!!
つーか、それでここまでやってきたのっ!? マジでバカでしょ雷鳴の鉄姫っ!!」



つーか、そういう事言うのはやめてー! なんかフェイトが厳しい視線で僕とシャーリーを見てるからっ!! マジで何にもないのにー!!



「・・・・・・そうですわね、人は誰かを思うとバカになってしまうのかも知れません。
ですけど、私はそれでいいと思いますの。それは本当の意味で愚かになる事ではありませんから」

「んなわけあるかいっ! バカになりすぎて本当の意味すらぶっちぎりな愚か者になってる事に気づけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



と、とにかくこのバカは速攻で帰ってもらおう。それがジャスティスだ。

オーナーに事情説明して・・・・・・よく考えたらなんでオーナーも未来から咲耶を連れてきたっ!? おかしいでしょうが、こんなのっ!!



「すみませんが、そういうわけにはいきません」

「なんでよっ!!」

「私、おじいさま達のお手伝いに来ましたから。
もっと言うとしゅごキャラ関連の事件に関してです。今、ブッチギリで関わっていますよね?」



・・・・・・はい?



「ちょ、待ちなさいよ。アンタ、しゅごキャラの事分かるの?」



ティアナが掠れた声で聞くのも無理はない。普通はどうしてもそうなるって。



「はい。恭さまにも一時期しゅごキャラが」



え、恭太郎にもしゅごキャラ居たのっ!?



「居たら色々と面白かったんですけど」

「ただの要望っ!? なに言ってんのさ雷鳴の鉄姫っ!!」

「ただ、私や恭さまもしゅごキャラを見る事は出来るんです。未来にもこころのたまごを持つ方々は居ますから」





そ、そうだったんだ。でも未来にもたまごがあるって、なんかびっくりした。

いや、考えようによっては当然なんだけど。

だって、あのたまごは簡単に言えばなりたい自分が入ってるわけでしょ?



見える人間が居るのになくなってるとかだったら・・・・・・相当怖い事だし。





「ねぇ、咲耶。ちょっと待てくれるかな。しゅごキャラを見れるのはいいとして・・・・・・それでどうして咲耶がなぎ君や私達の手伝いに?」

「実は私、あまり事情は詳しく聞かせてもらっていませんの。あまりにそれを知り過ぎると、未来の形が変わってしまいますから。
ただ・・・・・・今一度、おじいさまにこの私の力をお貸しする必要が出てくるかも知れないとだけ、言われたんです」



平然と味噌汁に口をつけながら咲耶がそう言ってきた。

その口調は先ほどは少しだけ違う、真剣なものになっていた。



「でも、オーナーがそれでよくこっちに来るのを許してくれたね。あの人、結構厳しいのに」

「実は、オーナーは未来のおじいさまから私よりも詳しく話を聞いたそうなのです。それで許可を頂きました。
ただ、自分達が今回の一件に関して直接的な干渉をする事は出来ないとは断言されましたけど」

「それもそうですね、今のところ特にイマジン絡みだったり、時の運行に差し障るという感じでもないですし。
あ、という事は恭太郎の話は冗談か何かですか? ・・・・・・全く、驚かせるのは無しなのです」

「・・・・・・まぁ、恭さまの事は事実ではあるんですけど、それはついでという事で」



あのバカ話まじだったんかいっ! 一体なにやってんのっ!? 僕の孫はさっ!!

いや、その前に・・・・・・今咲耶は相当気になる事を言った。オーナーが未来の僕の話を聞いて、咲耶の滞在を許可した?



”フェイト、もしかしたら”

”そうだね、やっぱり私達・・・・・・たまご関連で知らない事があるんだよ。それも相当に重大な事。
そうじゃなかったら、オーナーが咲耶の時間移動を許可するわけが無いと思う”



例の視線は未だ健在だし、なにがどうなんってんのさ、これ。

というか未来の僕、一体なにを話した? 出来ればそれ教えて欲しかったんですけど。



「あと、この状況だと私は局員でもなんでもありません。
最悪局の規約のためにフェイトさまやティアナさま達が動けなくなった場合に備えてですね」

「ま、まぁ・・・・・・確かにそうよね。アンタは未来の時間の中にいる存在なんだから」

「はい。あ、それとおじいさま。しばらくお世話になるお礼と言ってはなんですが、お土産を持ってまいりました」

「お土産?」



その言葉に少し考えて・・・・・・思い当たった。



「・・・・・・咲耶、もしかして」

「はい。オーナーからこちらもしばらく持っていてよしと許可をもらっております。
まぁ元々はおじいさまのものですしね。なので、遠慮なく使ってください」





咲耶が上着の内ポケットからあるものを出して僕に手渡す。それは空色の二つ折り式のパス。

良太郎さんや幸太郎が持っているライダーパスよりも分厚いそれを、僕は受け取って開く。

親指の腹を使ってチケットを入れる部分を左へ押しながら動かすと、4つのカードスロットが扇形に開いた。



そのスロットの動きを確かめると、僕はスロットをパスの中へと納めた。そのままパス自体も折りたたむ。



これは以前色々あって作られた僕用のパス。なお、名称は『TOMATOパス』(命名:デネブさん)。





「あと、こちらもですわね」





咲耶がまた内ポケットから取り出して渡してきたのは、数枚のカードが入ったホルダー。

その中からカードを取り出して最初に確認するのは、このパスとカードのメインとも言える三枚のカード。

赤・・・・・・アギトの絵が描かれたカード。金・・・・・・咲耶の絵が描かれたカード。



そして青・・・・・・リインの絵が描かれたカード。あとは『Sound』や『Attack』なんて書かれたカード達。



それも一通り確かめて、ホルダーに全て戻してからパスと一緒に持つ。





「うん、確かに。咲耶、ありがと」

「問題ありませんわ、おじいさま」



にっこりと笑顔で返してくれたので、僕もそれに返す。でも・・・・・マズイな。

今回の一件、もしかしたらとんでもない事になるかも。もうちょっと気を引き締めた方がいいかな。



「でも咲耶」

「はい、なんでしょう。フェイトさま」

「どうして咲耶だけがこっちの時間に来たのかな? 最初に話してくれたあれこれはついでなんだよね。
恭太郎は・・・・・・えっと、もしかして修羅場とか?」



ある意味予想出来る答え。だけど咲耶は、それに首を横に振って答えた。



「本当は恭さまもこちらへ来る予定だったんです。恭さまも気合いが入っていたのですが」

「え、咲耶。『いたのですが』ってどういう事です?」

「実は出発前日に、おたふく風邪にかかってしまったんです。現在、自宅で寝込んでいます」

『・・・・・・おたふく風邪っ!?』










僕の孫、蒼凪恭太郎・・・・・・現在おたふく風邪のために絶対安静を命じられているらしいです。





なお、大人のおたふく風邪は本当に危ない時があるそうなので、みんなも気をつけようね? ・・・・・・まる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけなので、一名増えました、あ、生活費の方はよろしくお願いしますね?」

『・・・・・・なぁ、恭文。お前はなぜそのアホな状況を受け入れられてるんだ? どう考えてもおかしいだろ』



通信モニターの中で頭を抱えているのはクロノさん。・・・・・・当然、咲耶の事で頭を抱えている。

そりゃそうだ。僕だって頭を抱えている。だから・・・・・・だからね? こういうわけですよ。



「んな事言われたってどうしようもないでしょっ!?」



オーナー公認じゃあ、事態が解決しない限りは未来の時間に返す事も出来ないしさっ!!



「ハッキリ言いますけど僕達は誰一人として進んで受け入れてるわけじゃないですよっ!!
こうなったら受け入れるしかないからそうしてるだけだしっ!!」

「おじいさま、何気にひどいですね。私、ちょっと傷つきました」



知るかっ! このよく分からん状況を更にカオスにした張本人が偉そうに言うなっ!!

あぁ、マジでどうなんのこの長編っ!? こんなんで完結出来るんかいっ!!



「とにかくクロノ提督。この頃はまだ」



あれ、咲耶。なんでクロノさんを見て黙るの?

というか、気のせいかな。なんかクロノの頭頂部を見ているような。



「・・・・・・いえ、なんでもありませんわ」

『君は一体僕の何を見たんだっ!? 頼むからその気の毒そうな視線はやめてくれっ!!』










あはは・・・・・・これ、どうなるんだろ。クロノさんの頭頂部以外のアレコレについてとかさ。





特にこの長編がちゃんと完結出来るのかとか? うん、かなり不安だね。




















(第4話へ続く)





[*前へ][次へ#]

5/51ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!