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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory46 『ウェポンバトル』

こんなことになったのは、わたしのせいだ。わたしが、変な冷やかしに反応したから。

そのためにアイツまで巻き込んで……だからあの男は、バットを振るう。憎き敵を穿(うが)つように。

怒りを、憎しみを、嘆きを、劣等感を、全て真っ白な……自分とは真逆な存在に叩(たた)きつける。


その重量は感情を載せ、余りに暴力的な表現を見せつける。そう、そうして……敵を捕らえ、その身を歪(ゆが)める。


「――ふん!」


歪(ゆが)められた『白球』は勢いよくコート内を飛び、ホームランゾーンへと一直線。そして男達のリーダー格は、満足そうに笑う。


「兄貴、さすがッス!」

「ここで一六〇キロを打てるのは、兄貴だけッス! これで勝てるッスよ!」

「……ほれ!」


そして赤髪のアイツは憮然(ぶぜん)としながらも、差し出されたバットを受け取り……そのまま次の打球へスイング。

最初はぎこちなかった動き。しかし単純明快なルールを理解した途端、白球は容赦なく打ち返され、わたし達の視界から消える。


「これでオレの勝ちだな」

「「「……嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」


崩れ落ちる男達……その声が『バッティングセンター』内に響き渡る。それに対し、アイツは余裕のどや顔。


「しかし面白いもんだな、野球ってのは……いや、バッティングだっけか?」

「……ちょっと待ちなさいよぉ!」

「あ? 何だお前」

「何だはアンタ達よ! 何平然とバッティングセンターで対決してるのよ! そのまま殴り合いをしそうな勢いだったじゃない!」

「馬鹿野郎! 俺達は腐っても野球部だぞ! そんな真似(まね)したら、出場停止だろうが!」

「「そうそう!」」

「だから、これなら……これならと思っていたのにぃ! おいお前……いいや、兄さん!」

「兄さん!?」


そう、わたし達は男に連れられ、ごくごく普通にバッティング対決をしていた。喧嘩(けんか)ではなくて、それは安心だけど……でも意味が分からない!

しかもコイツは赤髪(アイツ)に対して、ごくごく自然に平服。それがまた信じられなくて。


「バッティングが初めてとは思えないその動き、お見それしました! 確かに兄さんの言う通りだ……俺は、俺は男として足りないものばかりだ!」

「「あ、兄貴ー!」」

「まぁそう畏(かしこ)まるな。安心しろ、やりたいことをやって鍛えていけば、相応のレベルな女もついてくるってもんさ」

「「「はい!」」」

「アンタも何受け入れてるのよ! 喧嘩(けんか)を売られて、面倒くさそうだったのに!」

「傅(かしず)いた相手をなぶる趣味はねぇよ。なら道を示すのが、王族の威厳ってもんだ」


コイツ、どっかのお坊ちゃまなの!? さっきもそれっぽいことを言ってたし、野球も知らない様子だったし!

……でも、別にいいかぁ。コイツらももう敵意はないし、殴り合いとかは……やっぱ困るし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日のバトルを鑑みると、PPSE社の妨害はまだまだ続きそう。フェイト達にも警告したから……夕飯を食べた後で、早速調整開始。

明日は【オリジナルウェポンバトル】。あらかじめフィールドに用意された武器以外は、使用禁止という制限が課される。

肉弾戦はOKだけどね。となれば……出すガンプラは必然的に決まってくる。そこで手が加えられるなら、僕達の武器は役立たず。


しかも相手にとって有利なものとなりかねない。なのでデスクに向かい、歌唄とリインが寝た後もギリギリまで調整。


≪しかしあなたも難儀ですねぇ。せっかく世界大会に出てもこれって≫

「人気者だからね。パーティーが激しくなるのも必然ってやつだよ」

≪で、勝てる見込みは≫

「なくても勝つのが僕達でしょ」

≪それもそうですね≫

「なので……一緒に頑張ろうね」


明日出す予定のガンプラに、静かに語りかける。……肉弾戦も込みなら、コイツに勝る機体は早々いない。

いや、一体いるか。正真正銘の【怪物】が。少し前に送った、ナターリアのことを思い出す。

そんなナターリアを日本(にほん)まで連れてきた、ジオさんのことも。マッド・ジャンキー……そう呼ばれるのはなぜか。


それは病的なまでに、ある一点を追い求めているから。作品に登場する機体に憧れ、作り、動かして楽しむ。

ガンプラやガンプラバトルにハマるキッカケとしては、ポピュラーだ。そしてそんな【王道】の先を、あの人は目指している。


「……眠れないの?」


そう言って、歌唄が後ろから抱きついてきた。その、そうしながら右耳で甘噛(か)みは、やめてもらえると。


「ごめん、起こしちゃったかな」

「そうね、起きちゃった。だから私がまた眠れるように運動……しましょ?」

「でもリインが」

「お風呂場ならいいでしょ。ほら、早く」


歌唄は胸を背中に擦(こす)りつけ、更に耳元を舐(な)めてくる。甘い吐息とささやきで我慢できず、改めて振り返る。

既に欲しがっている歌唄は、目を蕩(とろ)けさせ笑う。夜の闇に溶け込む、淫靡(いんび)な笑い……なので照明を落とす。

リインを起こさないように浴室へ入り、歌唄の柔らかい唇を奪う。


そのままキスを繰り返しながら、また大きくなってきた胸を揉(も)み上げ、一気に服を脱がす。

お互い疲れ果て、眠くなるまで、いつものように……ケダモノのようなコミュニケーションを楽しんだ。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory46 『ウェポンバトル』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日は第三ピリオド……何だけど、朝早くからソワソワ。そしてレイジはなぜか、野球についての本を買ってきていた。

今度一緒にやろうとか言い出していて、それが実に驚きだった。一体、何があったんだろう。

不思議に思いながらも朝はきて、大会開始前にちょっとお出かけ。選手村の近くにあるバス用ターミナルへ。


会場近辺には当然公共バスの出入りもあり、大会中なら専用ツアーも組まれているから、その車両も入る。

今はどちらも到着時刻ではないから、空(す)いているけど。そしてそんなターミナルの一角に、邪魔にならないようハマーが止まる。

見慣れたそれは、ラルさんが運転するもの。ハマーから委員長が、たどたどしく下りてきた。


「委員長」

「イオリくん」


委員長はノースリーブの上着と、ジーンズスカートを翻し近づいてくる。ピンクの上着……可愛(かわい)らしいなぁ。

なおレイジやセシリアさんも誘ったけど、なぜか断られた。というか、呆(あき)れられた。あれはおかしい……!


「親戚の家、ここから近いんだっけ」

「ここから二十分くらいのところ。だから毎日応援に行ける」

「そっか。あはは……嬉(うれ)しいけど、無理しなくていいから」

「……応援したら、駄目なの?」

「ち、違うよ! 他に行きたいところがあるなら、そっちを優先してくれていいから!」


委員長が前屈(かが)みになり、不安げな表情。なので両手を振って慌てて否定。……そう、大会だけじゃない。

この近辺には遊べる施設も多いし、それなら。


「じゃあそうしようかなー」

「えぇ! ま、待ってよ委員長ー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そっぽを向いて焦らすチナくん、それに慌てるセイくん……ふ、なるほど。このラル、全てを察したぞ。

なぜセシリアくんやレイジくんがいないのか。ヤスフミくんもだが、その理由は……これだ!


「ケツが、痒(かゆ)く……!」


なんだ、あの戦場に似合わない青春模様は! しかもチナくんもさりげに上手となっている。

それが見ていられず、我が愛車にもたれかかり尻を……かくわけにもいかず、軽く撫(な)でる。

こんなの、朝から見せられたら辛(つら)すぎる。ヤスフミくんのはまだ平気なのに、なぜ彼らは。


「ラルさん、どうしたんですか」


そこで私の様子に気がついたのか、チナくんがずいっと戻ってくる。更にセイくんも。


「まさか痔(じ)ですか?」

「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!」


あぁ、無自覚な若者達よ……いずれ君達はやらかすのだろう。公共の場で愛を語らい合い、手を取り、口づけを交わす。

そうして目撃者足る一般市民に、深い罪悪感を与える、ラブテロリストと成り果てる。そう、それは坊やだからさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


音すら超えそうなほど、鋭く飛んで迫る打球。それは数える間もなく、様々なコースへと飛ぶ。

そこに狙いを定め、バットってやつの真芯に当てる。単純だが、その手ごたえが溜(た)まらなくてつい笑っちまう。

花壇も近くにある、緑豊かな自然公園……試合会場へ向かう途中の一角。そこに座り込み、セイ達を待つ。


そう、待っていた。だが暇で暇で……てーか遅い。遅すぎてつい立ち上がり、素振りなどしてしまう。


「……楽しかったよなぁ。野球で人のピッチャー相手だと、もっと楽しいって言ってたよな、アイツら」


ピッチャーとキャッチャーが二人三脚で、バッターを絡め取るそうだ。で、バッターはそれをかいくぐり、デカい一発を当てる。

いや、状況に応じた一打……だよな。場合によっては手頃なところに落として、守備を引きつけるのも大事らしい。

その答えをほんの数瞬で導き出し、ぶつけ合うスポーツ。武道やバトルの瞬間的判断に通ずる、途方もない面白さ。


やっぱこの世界、面白いなぁ。ガンプラバトル以外にも、いろいろやってみたい……待てよ。

そうしたらその分野で、ユウキ・タツヤやフェリーニみたいなプロとやり合えるよな。

で、そいつらに勝ったら……すげー楽しくね!? おぉ、新しい冒険が始まっているぞ!


よし! 夏が終わったら、今度はそっちで暴れてみるか! そう期待を込めながら、青空にフルスイング。

世界は広い……別世界なんてあるのに、今更思い知っていた。やっぱ旅はいいもんだ。


「何してるのよ」


そこで後ろから、最近よく聞いている声が響く。振り返ると、そこにはあの銀髪がいた。


「未来に向かってかっ飛ばしてた」

「……大丈夫なの?」

「何がだよ」

「怪我(けが)とか、頭とか」

「お前よりマシだ」

「はぁ!? どういう意味よ!」

「あれくらいの冷やかし、普通は流すって話だ」


なのでもう一度フルスイング。するとアイツは頬を膨らませ、子どもみたいに睨(にら)んでくる。


「あ、あんな奴ら……わたし一人で何とかしてたわよ! なのにアンタがカッコつけて、一人で戦っちゃってさ」

「女に喧嘩(けんか)をさせられるか。そんな真似(まね)させたら、一族の沽券(こけん)に関わる……名誉に傷がつく」

「何よそれ」

「こっちのことだよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう言いながら、アイツはノンビリと寝転がる。空を見上げてあくび……わたしを、全く意識していない。

それが腹立たしいというか、でも怒ると独り相撲みたいで恥ずかしいというか。それでつい、右手で髪をかき上げいじいじ。

……でもそこで、そろそろ時間だと気づく。また面倒な、お仕事の時間。そんな憂鬱な気持ちは飲み込み、空を見上げる。


故郷とは違う、晴れきった空。悪意や陰謀なんて感じさせない、平和な……どこまでも広がる世界。


「き、昨日はありがと」

「は?」

「言いそびれたから! それだけ!」


そう言って、その場から早足で離れる。わたしには、あの場所はきっと似合わない。わたしがいるべきなのは、あの……いつでも曇って、寒い世界で。


「……なんだあの女、やっぱり変な女だな」

「聞こえてるわよ!?」


それだけ言って、いら立ちながら走る。もう、なんなのよアイツ……いつもいつも、わたしの感情をかき乱して!

……それでもチーム・ネメシスの移動ラボ……ようはデカいトレーラーに到着。深呼吸で気持ちを入れ替え入ると。


「遅いぞ、アイラ」


面白みのない男……ナイン・バルトは、内部のソファーへ座り、ノートパソコンを忙しそうに弄(いじ)っていた。

なので近くのティッシュを取り、それを持ったまま右平手でげんこつ。バルトが派手に倒れるのも構わず、素知らぬ顔で謝罪。


「申し訳ありません」

「おい待て……今なぜ殴った!」

「蚊がいましたので」


そう言ってティッシュの内側を見せ、納得させる。潰れた蚊、血の跡もティッシュで覆い隠し、ゴミ箱にシュート。


「そ、そうか……ん? 確かにカユい……うぉ! こんなところにも! くそ、日本人はよくこんな環境で生きられるな!」

「そうですね。それで」

「……キュベレイパピヨンの修復は完了している。だが未(いま)だに信じられん……チームとまと」

「ヤスフミ、アオナギ」


……昨日の負けを思い出して、イライラが再燃。最終トーナメントじゃないから、まだ大丈夫。

ポイントレースも序盤だから、今後巻き返すことも十二分に可能。でもこれは、道理と策謀の問題じゃない。

わたしの、プライドの問題だ。平和な国で暮らして、衣食住の不足で喘(あえ)いだこともない子どもに……負けるなんて。


わたしにとって、勝つことは必要最低限の生命維持活動。役に立たないと判断されれば、それだけで捨てられかねない。

幸いわたしのような『能力者(イレギュラー)』が少ないから、まだ救われているけど。


「会長もこの件には大きく驚いておられた。だが巻き返すは可能ということで、納得してもらった。……だが」

「次は負けません」

「頼むぞ」


そう、絶対に負けない。アイツにも、他の誰にも……わたしは生きていく。何をしても、何があっても。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……レイジとの待ち合わせ場所にやってきたら、ラブコメが始まっていた。何を言っているか分からないよね。

自分でも分からないけど、それは間違いない。こう、超能力とか幻とか……そういうものの次元を超えた、凄(すさ)まじいものを見せられた。

そのため木陰に隠れてラルさんも、委員長も打ち震える。ラルさんに至っては痔(じ)に響くのか、お尻を撫(な)でていた。


「イ、イオリくん……あれ」

「そんな、馬鹿な。レイジ、いつの間に」

「二人とも、我々は何も見なかった。いいね?」


それはさすがに……と思ったけど、ツッコんでも答えてくれないと思う。更に言えば、ツッコんでどうするの?

レイジはあの、知り合いっぽい女性とのこと、話してもないし。だから僕と委員長は。


「「……はい」」


選択なき選択を、受け入れるしかなかった。……よし、気持ちを入れ替えよう! 今は試合に集中だ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いよいよ試合時間。ミホシさんの『ガンプラワールド』がインストゥルメンタルで流れる中、ラルさんと一緒に会場の一角に座る。

でも、まだ午前中なのに凄(すご)い人だかり。夏休みということもあるけど、ついその空気に飲まれてしまう。


「凄(すご)い数」

「会場だけではないよ。昨日のチナくんやリン子さん達のように、生中継で世界中のガンプラファンが注目している。特に今日はね」

「今日、何か凄(すご)いことが起こるんですか?」

「昨日行われたバトルロイヤル、その直後だからだ。あれで各選手の傾向や使用ガンプラについて、ある程度の情報が広まった。
……例えばヤスフミくんとリインくん達、チームとまと……νガンダムインフラックスや、AGE-1パーフェクトグランサ。
例えばマオくんのガンダムX魔王、例えばセイくん達のスタービルドストライク」

「あ、そうだ。あの、イオリくん達のガンプラって大丈夫なんですか。大きいのに狙われていて……というか、恭文さん達も」

「……やはり君もそう思うか」


わたしもってことは、ラルさんも同じ意見だったんだ。でもどうして。あれってPPSE社のサプライズで……あ。

そこで、足が震え始める。PPSE社がイオリくん達に起こるようなこと、それはない。そう、わたしを除いては……!


「わたしの、せい」

「チナくん」

「わたしが、ユウキ会長のこと、探し回ったから……それに、ガンプラ塾絡みで揉(も)めた恭文さんにも、聞いて」


あのときはメイジンのことなんてサッパリだった。ただ必死に、イオリくん達の力になれればって。

それが伝わっていたら? というか、それしか思いつかない。イオリくん達に迷惑をかけるようなこと、それしか。

だから今、とても怖い。わたしのせいだとしたら、応援する権利なんてない。そのせいで心臓の鼓動が乱れ、息も苦しくなっていく。


「だから、知り合いなイオリくん達に嫌がらせを」

「それこそあり得ないよ」


そんなわたしの背中を、ラルさんが優しく叩(たた)いてくれた。それで大丈夫と、優しく笑ってくれる。


「そんな真似(まね)をすれば、PPSE社は批判を免れん。……大丈夫、君のせいではない」

「でも、それじゃあどうして」

「その答えも、ここで出るやもしれん」


そこで中央ステージにスポットライト。歓声が巻き起こり、ミホシさんが笑顔で登場する。

……やっぱりわたし、あの人は少し苦手。というか、あの人のスタイルを見るたびに、敗北感が。


『――はい、お待たせしました! 世界大会第三ピリオドについて、御説明しまーす!
第三ピリオドは【オリジナルウェポンバトル】! くじ引きによって引き当てた武器のみを使用し』


そこでバトルベース上の巨大モニターが点灯。映し出されるのは、『別室ホール』と銘打たれた上での映像。

そこにイオリくん達の姿を見つける。あと、五メートルくらいある巨大なガシャポンも。


『一対一のバトルを行います!』

「くじ引き?」

『はい! 引き当てた武器は、バトルフィールド内のコンテナに収納されます!
中にどのような武器が入っているかは、文字通り『ふたを開けてみるまで』分かりません!
手に入れた武器の特性、使い方を瞬時に判断するスキルが必要とされるバトルです!』

「補足を加えるなら、最悪格闘戦に持ち込むことも可能だ。武器に属する機能使用は禁止だがな」

「もし性能の低い武器を引き当ててしまったら」

「知恵と機転で対応するか、殴り合い宇宙のどちらかだ」


な、殴り合いに宇宙はあるんだろうか。でもそれだと、あの翼が出るのとか、散弾銃みたいな攻撃も使えない。

というか、ビームを消すシールドもだよ。スタービルドストライク、大丈夫なのかな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……くじ引きかぁ。嫌な思い出しかないので、頭が痛い。リインに励まされながら壇上へ上がり。

『それでは、くじ引きを開始します! イタリア代表、リカルド・フェリーニ!』

「ふん!」

「あおー♪」


あおが巨大ガチャポンのレバーを回すと、マシン中央のモニターに二桁の数字が表示される。インチキし放題だろうなぁ。


『ウェポンナンバー23!』


そして続くガチャポン抽選会。あぁ、やっぱり嫌な予感が……怖いの、くじ引きで当たった試しがないもの。


『アメリカ代表、ニルス・ニールセン――ウェポンナンバー47! 日本(にほん)第五ブロック代表、ヤサカ・マオ――ウェポンナンバー07!
フィンランド代表、アイラ・ユルキアイネン――ウェポンナンバー16! PPSE特別招待枠! メイジン・カワグチ――ウェポンナンバー01!』


レナート兄弟は36、ルワン・ダラーラは43か。次はセイとレイジの番。二人は壇上へ上がる。


「へへへへへ……面白そうだな! オレにやらせろ!」

「壊さないでよ?」

「分かってるって」


そしてレイジは勢いよくレバーを回し、ナンバーが表示される。


『日本(にほん)第三ブロック代表、イオリ・セイ、レイジ組――ウェポンナンバー44!』

「死と、死……!」


あぁ、セイは意味が分かるのか。だからババを引かされたが如(ごと)く、頬を引きつらせていた。でも僕達は。


「おっしゃー!」


ガッツポーズです。全力のガッツポーズです……他に選択肢はない!


「最悪のナンバーは避けられたのです! いけるですよ!」

「おいお前ら、聞こえてんぞ!」


と言っている間に、僕達の番。壇上へ上がるとき、アルト経由でガチャをサーチ……やっぱ侵入できる箇所はないか。

さすがに無理だよなー。これでハッキングの証拠を残したら、僕達が悪者だし。ここは、真正面から突破するしかない。

そのままリインと一緒にガチャを回し、ナンバー表示。まぁ主人公組には負けるでしょー。


あれ以上の悪い数字なんて、早々出るわけが……そうショウタロス達と笑っていたら、一瞬で凍り付く。

リインも油断していた。そう、僕達は油断していた。奴ら、優秀な前振りをしてくれたのだから。


『はい! 日本(にほん)第二ブロック代表、蒼凪恭文、蒼凪リイン組』

――49――

『ウェポンナンバー49!』

「「何でだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

「死と、苦なのです!」

「……いや、予想してしかるべきだろ……もぐ」

「お兄様、やっぱり運が悪いですね」


そんな馬鹿な! 僕は運がいいはずだ……今日は誰にも絡まれてないし! ただ黒猫に十数匹、前を横切られただけだし!


「あおあおあおー♪」

「はははははははは! ヤスフミ、お前最高だぜ! 予想通りに最悪の数字を引き当て」


そんなことを言うリカルドには、どこからともなく取り出した缶詰を投げつけておく。

あおの大好きな、トマトの水煮だ。顔面に命中したから、楽しく味わうといい。


『……え!? はい……全ファイターのくじ引きが終了しましたぁ!』


しかもこの最悪な数字で終了!? 納得できないものの、もう諦めるしかない。天国と地獄……上がる前とはテンション真逆で、僕達は壇上から降りた。


『それではウェポンナンバーの順に、第三ピリオドのバトルを開始します!』

「ということは、恭文さん」

「一番と二番、三番と四番って感じだね」


……予測通りというのは、どういうことか。僕とリイン、ショウタロス達は五十番の二人を見る。

昨日話をしたのは、何らかのフラグだったのか。そこにいるのは、不敵な笑みを浮かべるジオさんとナターリア。


「ワオ……! ヤスフミとリインが相手ナノ!? ジオ!」

「不足はねぇ。だよな、蒼い幽霊」

「えぇ」

「やってやるですよ!」

”……盛り上がっているところ、失礼します”


おぉアルトか。ここで水を差すってことは……いや、気づいていたけどね。


”選手村の回線から、システムを覗(のぞ)いてみたんですが”

”ちょっと”

”覗(のぞ)いただけですって。……誰かが私と同じように、様子を見ていたようです”

”……特定は”

”すぐ切り上げたので、少し難しいですね。さて、これはどう見るべきか”

”誰かが様子を見ていた……妨害の主犯側じゃないなら、内偵? 向こうも面倒そうだ”


まぁいいや。せっかく楽しい趣向を凝らしてくれたんだ、勝つことで礼をしようじゃないのさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕達もアレだけど、恭文さん達も相当だった。何だろう、呪(のろ)われているんだろうか。

四十三番とかよかったなー。ほら、そうしたら『死散』……死が散るって解釈できるし。

そう、そんな縁起のいい四十三番さんと、僕達が対戦だ。相手は。


「アイツか」

「うん、ルワン・ダラーラさんだ」

「昨日の奴か!」


スタービルドストライクのアブソーブシールド、その弱点を早々に見抜いた、世界大会の常連。

まさかこんなところで、早々にお返しができるなんて。いや、やってやる!

レイジと二人気合いを入れていると、ルワンさんが静かに近づいてくる。


「ミスター・セイ、ミスター・レイジ」


険しい表情で見下ろされ、警戒していると……ルワンさんは一気に破顔。


「率直に言おう、私は君達の虜(とりこ)となった!」

「「……はぁ!?」」


笑いながら、目をキラキラさせるルワンさん。そうして僕達に詰め寄り、鼻息を荒くする。


「奇抜な発想力! それを形にできる技術力! 使いこなす操作センス! 実にすばらしい!」

「いや、そんな……あははは」

「デレデレすんなよ! これから戦う相手だぞ!」

「そう、私達は戦う! だからこそ悔いのない、全力のバトルを望む!」


ルワンさんは右手を差し出してくる。……レイジはそれに対し不敵な笑みを浮かべ、しっかりと握り返した。


「あぁ……昨日の礼をたっぷりしてやるよ」

「僕も同じです! 勝つのは僕達だ!」

「それで構わない……本気の君達と戦って勝たなければ、意味がない」


そうして僕もルワンさんと、力強く握手。……なんてたくましい、大きな手なんだ。これであんな凄(すご)いガンプラを作り上げるなんて。

あ、そう言えばルワンさん、前歴はスポーツ選手だっけ。世界大会の選手特集で見たことがある。

だから鍛えている人の手なんだね。この人は強い、でも僕達だって意味がないのは同じだ。


昨日のリベンジ……スタービルドストライクの底を見せつける! そのための新型パックも用意してあるし!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

計画通り……全てに置いて完璧。イオリ・セイ、レイジ……そして蒼い幽霊、あなた達は惨めな敗北を喫することでしょう。

私が作り上げたパーフェクト・プランの前に。なぜならあなた達は知らないでしょう?

ルワン・ダラーラの隠された実力、そしてマッド・ジャンキーの恐ろしさを。それが会長の……PPSE社の望み。


選ばれたもののみが入れるVIPルームの中、決められた弱者を見下ろし悦に浸る。誰もあの方に逆らうことなど許されない。

あの方は世界を変えたのだから。私が……そしてあなた達が望んでいた、『この世界』を作り上げた創造主も同然。

だから敗北しなさい、神の前に……そして跪(ひざまず)き、崇(あが)めなさい。神と、その巫女(みこ)である私を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第三ピリオド……ウェポンバインダーの出番がなさそうなのは、ほんと寂しいなぁ。

そんな空(むな)しさを感じながらも、改めて試合会場へ。だがその道すがら、携帯に着信……タツヤの後を追いながら、朗報に期待しながら出る。


「もしもし」

『あなたの予想通りよ。今のガチャ、四組だけ結果が固定されていたわ』

「その組は」

『蒼凪恭文&リイン組と、イオリ・セイ&レイジ組……その対戦相手』

「なるほど」


ルワン・ダラーラと、マッド・ジャンキー……だとすると、武器の傾向は分かる。あからさまなズルはしないだろう。

仮に全く使えない弱い武器が入っていても、それはそれで問題だ。どんな武器にも使い道がなくては。

ならその使い道を限定化させればいい。対戦相手の本領が大きく発揮できる方向で。答えは、すぐに出るはずだ。


『このままでいいの? ヤスフミは全く心配していないけど、あなた達のお気に入りは』

「もう少し泳がせておきたい。済まないが頼んだよ、ヒロインX」

『ミスターXよ!』


憤慨しながら、彼女は通話を叩(たた)き切る。携帯を仕舞(しま)うと、タツヤはこちらに少しだけ振り返った。


「マシタ会長達に反省はなしか」

「あぁ。だがメイジン」

「分かっている。……今はバトルに集中するぞ」


すまないね、君達。僕達もリコールするなら命がけだし、今は見過ごすしかないんだ。

だがそれも信頼ゆえと受け取ってほしい。アキヤマ・レマだって言ってただろう? ヤスフミは心配していないと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして、試合は始まる。まずは第一試合……ユウキ先輩。ケンプファーアメイジングは草原に置かれた、赤いコンテナを開く。


『コンテナが見えた』

『回収する』


中に入っていたのは、鉛色に塗装されたトンファー。それをケンプファーが取り……ケンプファートンファー……ぷ。

くすりと笑っている間に、スラスター音が響く。三角頭のザクフリッパーが接近して、二叉のライフルを構える。

あれ、レールガン!? くそ、やっぱりこのバトル、有利不利が出やすい! ……でも心配はいらなかった。


ザクフリッパーはホバリングしつつ、レールガンを発射。電磁力によって弾丸が、ワイヤーつきで飛び出す。

でも射線さえ読めれば、回避自体はたやすい。なぜなら相手は、あの紅の彗星なんだから。

射線上から退避したケンプファーアメイジングは、ウェポンバインダーも交えフル出力で接近。


ワイヤー付きの弾丸はその脇を掠(かす)め、火花を走らせながら墜落。すぐ巻き戻されるけど、その間にアメイジングが左ストレート。

トンファーを胴体部に叩(たた)き入れ、急所を一撃で貫く。……凄(すご)い、一瞬で片を付けた。


『強力な武器であろうと、使いこなせなければ意味はない』


うぅ、突き刺さるお言葉です。さすがはメイジン……次はガンダムX魔王。ただしその武器は。


『スプレーガンって……!』


マオ君、すっごい嫌そう! そりゃそうだよね! しかも本当にスプレーが出るだけなんだよ!

緑色の塗料がぷしゅーってさ! ビームですらないよ! あんなのただのエアブラシだよ!


『運が悪かったなぁ!』


そうしてX魔王に飛びかかるのは、蒼いカラーのゼウスガンダム。……Gガンダムに出てきたモビルファイターか!

そうだよねー! このバトル、武器が使えなかったときのため、格闘戦に強い機体で挑むのも手なんだよ!

それにその手の機体は、大体が可動範囲や耐久性に優れる。だから逆に言えば、『どんな武器だろうと使いこなせる』とも言える。


だから今までの大会でも、ここだけはモビルスーツが大活躍していてさ。実は人気競技なんだ。

……そう、マオくんもまた人型のX魔王。だから頭上からの強襲に対し、まず足下にスプレー噴射。

勢いよく吐き出されたスプレーは、砂塵(さじん)を巻き起こす。更にその中へ飛び込んできたゼウスガンダムに、右へと回り込みながら射撃。


もちろんエアブラシでガンプラは壊せない。でもメインカメラと胴体部に吹き付けられた塗料が、その視界を一時的に塞ぐ。


『何!』


そしてX魔王は脇から忍び寄り、ハンマーを強引に奪い去って。


『武器を奪っても』


ハンマーヘッド後部にあるブーストを噴かせ、一回転しながら右薙の打撃。それでゼウスガンダムの腹を撃ち抜き、ボディを砕きながら吹き飛ばす。


『OKでしたな!』

『そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


ああいうのもアリなんだ。よし、覚えておこう。次は水中……ガンダムSEEDに出てきたグーンが悠々と泳ぎ、その両手でガトリングガンを放つ。

しっかり腰だめに構えながらも、機動性を失っていないのはさすがだ。でも水中じゃなかったら、どうするつもりだったのか。

少し考えながらも、射線の先を見やる。対戦相手は恭文さん達と戦い、負けたキュベレイパピヨン。


でもやっぱり強い。四方八方から放たれる射撃を回避し続け、水中でも飛んでいる蝶の如(ごと)く可憐(かれん)。

まさしく名前通り、つかみ所のない軌道でグーンに肉薄。でも武器、シールドだよね。

あれでどうやって……と思っていたら、そのシールドがハサミの如(ごと)く展開。グーンの両腕ごと胴体部を挟んだ。


更にシールド両脇に付いている、補助ブースターが噴射。グーンが反撃する前にハサミを押し出し、真っ二つにする。

何というエグい……! というかあれ、シールドブースターとかじゃなかったんだ! 驚きながらも、爆散するグーンを見送る。

……続いては無限鳥居……ホバリングで迫るのは、ガンダムZZに登場したドライセン。


その手に持っているのは十手。迎え撃つは戦国アストレイ――投げつけるのはビームヨーヨー。

電磁ストリングが糸代わりのそれを、ドライセンは右薙の打撃で弾(はじ)いて回避。そのまま糸の脇を突き抜け接近。


『もらったぁ!』


でもその瞬間、電磁ストリングがドライセンの首に巻き付く。そう、ヨーヨーはまだ勢いを失っていなかった。

更に戦国アストレイは跳躍。ドライセンの突撃をやり過ごしつつ、鳥居を飛び越え着地。

電磁ストリングはそのままドライセンを持ち上げ、虚空へと吊(つる)す。ま、まさかこれは。


『えぇ、もらいましたよ』


……電磁ストリングが戦国アストレイの左指で弾(はじ)かれると、強烈な電撃がドライセンを焼く。結果機能停止して、ドライセンは十手を落とした。

す、凄(すご)い……アメリカ出身なのに、必殺仕事人とは! いや、戦国アストレイの時点で日本(にほん)びいきは分かっているか!

そうして試合は進み、あと一戦で僕達の出番……ライナー・チョマーさんと、リカルド・フェリーニさんとのし合いは。


『待たせたなぁ!』


市街地で着地するウォドム。そう、モビルアーマーは、コンテナを開き。


『フェリーニ、このウォドムで今度こそ血祭りに』


できるわけもなかった。なぜなら中身(ハンドガン)が、手のサイズに全く合わない。


『ちぃさぁ!』

『馬鹿かてめぇ!』

『あおー♪』


とか言っている間に、フェリーニさんはメイスでフルボッコ。そう、フルボッコ……普通の武器も使えないからね、しょうがないね。


「……セイ、ありゃ」

「ああいうことがあるから、この競技ではモビルアーマーを使わないんだよ」

「フェリーニの逆恨みで忘れてたな、アレ」

「彼女を取られたのは逆恨みでいいの!?」

「男として魅力が負けてるからだろ」


うわぁ、当然って顔で言い切ったよ! そう言えば王子様設定だっけ!? そういうのでアリなんだ!


「それより集中しろ。次は」

「あぁ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二十もの限定的な戦い。武器での有利不利を補う、知恵と勇気によるバトル。それに見入っている間に、いよいよイオリくん達の試合。


「イオリくん、レイジくん」

「セイ君たちの対戦相手は、タイ代表のルワン・ダラーラか」

「強い人なんですか?」


そう聞いたものの、すぐに反省して首振り。


「聞くまでも、ないですよね。昨日もイオリくん達、あの人に好き勝手されて」

「例えるならシャア・アズナブル、ジョニー・ライデン、アナベル・ガトーといったところか」

「え、えっと……ガンダムの、ライバルさん達……ですよね」

「そう、エースパイロット級の実力者だ。できればイオリくん達には、スタービルドストライク以外で挑んでほしいが」

「え、どうしてですか。だってスタービルドストライクは」

「この競技ならアビゴルバインとの相性が最悪だからだ」


アビゴルバイン……あの、カブトムシみたいなガンプラ。紫色で、悪人顔のそれを思い出す。

でも相性なんてあるの? だってイオリくん達のスタービルドストライク、あんなに強いのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっちが、不吉な数字を引いたでござる。それに嘆いている間もなく、次々と激戦が続く。

そして俺達的にも心配な、セイとレイジ組の試合。まさか馬鹿正直に、スタービルドストライクでやらねぇよなぁ?


「あの、スタービルドストライクとの相性が最悪というのは」

「考えてみろ、ユーリ。アビゴルバインは見るからに重装甲のパワータイプ。変形機構を使えば機動力とてかなりのものだ。
しかも第一ピリオドでは、奴はあの豪腕一つで敵のガンプラを撃破している」

「そう言えば……あれ?」


ディアーチェの言葉で思い出すのは、攻撃を全て受け止めぶっ潰す、パワータイプな戦い方。

あれは楽しそうだったが……だから、普通ならスタービルドストライクは使わないんだよ。


「対してスタービルドストライクはどうか。今回は粒子吸収・解放も使えませんから、どうしても設置武器頼みになりがちです。
つまり……戦い方の幅が狭くなる。それは格闘戦という切り札を持つ、アビゴルバイン相手では不利な要素かと」

「あのカブトムシ、かなりガチガチっぽいしねー。それだけでも有利じゃないかなー」

「な、なるほど」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なので彼らが使うガンプラに、誰もが注目している。ここで違うガンプラを出すなら、それもまた攻略・研究対象。しかし出せないのなら」

「ど、どうなるんですか」

「彼らの選手評価は著しく低くなる。状況対応能力もないのではな」


つまり、弱いって見られるの!? スタービルドストライクがどんなに強くても……そんなのはおかしくて、必死に首を振る。

ラルさんが悪いわけじゃないのに、つい詰め寄る形になってしまった。


「そんなのおかしいです! だってスタービルドストライクが完成したのは、つい最近で!」

「それもまた不備だ。チナくん、なぜ予選大会終了後から、一か月以上もの期間を取った上で、世界大会が行われると思う」

「え、それは夏休みで」

「違う。その間に『装備品も含めた準備をしろ』という話なんだよ。それが滞っていたのは、紛(まぎ)れもない事実だ。
……スタービルドストライクのように、高性能だが整備性の低い機体を使うのなら、なおさらな」

「そんな」


というかあれだけ頑張っても、そこまでぼろくそに言われるなんて。これが、世界の厳しさ。

でも、イオリくんなら……そう思っていると、イオリくん達がベースに現れる。ルワンさんと向かい合い、三人で楽しそうに笑っていた。

粒子がフィールドを、コクピットを作る中、イオリくん達が置いたのは……スタービルドストライクだった。


どうしてだろう。あんなに奇麗なガンプラなのに、見ていると胸が痛い。だって昨日と何も変わらず……あれ。

ううん、変わってる。両下腕の裏側に……トンファーなのかな。直角系の蒼いパーツがくっついている。

同じデザインのパーツがバックパックにもくっついていて、胸アーマーも何だか分厚くなっているような。


「やはり別の機体は用意……ん?」

「ラルさん」

「なるほど、ベースはストライクガンダムだったな。失念していたよ」


そうだ、ストライクガンダムって、背中の装備をいろいろ変えられるんだよね。だからあれが、イオリくん達の答え。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ストライカーパック、さすがにデフォのユニバースブースターだけじゃあ足りないしね。

なのでいろいろ作ってみた。時間もなかったから、SEEDやMSVに出てきたものが準拠だけど。

……これはストライクの強化バッテリーパック、及び友軍機へのパワー供給、加えて超長距離狙撃任務目的に開発されたパック。


その名も『ライトニングストライカー』。SEED MSVに出てくるもので、スタービルドストライクに合わせて小型化はしてるけど。

ストライカー本体の左右には、測距離センサー・バーニア・放熱機構を備えたコンポジットポッドを装備。

ストライクのリアアーマー左右に装着されるバッテリータンク、『70-31式電磁加農砲』を分割・搭載したものもあるんだ。


左右腕部に装着されるマスターアームと、胸部増加ユニットとのセットがそれ。で、ガンプラ的にはどうなるか。

今回は武装関係が一切使えないので、純粋な機動力・粒子貯蔵量増加に割り振っている。

これでディスチャージも、三つ目のシステムも予備動作なしで使用可能。うぅ、本当はこれを更に小型化できればいいんだけど。


ユニバースブースターに搭載してさ。でもそのためには、僕の技術力も未熟なわけで。


「レイジ」

「問題ねぇよ。コイツのクセは把握済みだ」

「よし! ビルドストライクR(ライトニング)!」

「出るぞ!」

『アビゴルバイン、出撃!』


ステージは草も生えた平地……逃げ場なしかぁ。レイジは宣言通り、コンポジットポッドによる軌道補助も使いこなしてくれる。

まずは先に武器を拾うこと。レーダーに示された反応に従い、四十四番のコンテナに接近。それを素早く開ける。


「……何だこれ」


レイジが言いたくなるのも分かる。だって中に入っていたのは、サンバイザー・グローブ・ボールの三点セット。

ボールには戦闘ポッドのボール……ああもう、ややこしいからボールでいいや! とにかくこれって……!

レイジはスタービルドストライクを操作して、それを素早く装着。サンバイザーは強引にかけ、グローブは稼働指をはめ込み、右手にはボールを持つ。


しかも数は三球だけ。ねぇ、待ってよ。これってアイテムで戦え……だったよね。つまり。


「セイ、これって野球の」

「そうだよ……ピッチャーのだよ! 又はソフトボールだよ! こんなので戦えっていうの!?」

「武器ですらねぇだろ、おい!」


くそ、ライトニングストライカーを装備してなかったら、本当に諦めるところだった!

でも何なんだよ、昨日と言い今日も! PPSE社、少しおかしくない……あれ、野球? 何だか嫌な予感が。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会長用のVIPルームで、ワインを楽しみつつ試合鑑賞。それでお待ちかねの処刑タイムだと思ったら。


「あっはははははは!」


馬鹿だよ、馬鹿! ガンプラバトルで野球って! つい面白くて、ワインを置いた上で指差し笑い。


「傑作だよ傑作! ボールにグローブだって! ……で、ベイカーちゃん」

「はい」

「傑作だけど、どゆこと?」

「もちろん、彼らにドラマチックな敗北を与えるためです」


そしてフィールドが揺れ、再構築開始。なぜか地中からせり上がってきたのは……甲子園球場。

彼らとガンプラはピッチャー姿のままマウントに立たされ、取り囲むフェンスや客席に戸惑うばかり。


『何だぁ!』

『まさか……野球のスタジアム!?』

そしてブザーが響き、プレイボール。


『タイチーム、選手交代をお知らせします。ピンチヒッター……四番サード、ルワン・ダラーラ。背番号43』


あ、選手交代だったのね。紫色のガンプラは、棘(とげ)付きバットを持ち、サンバイザーを角に引っかけて、バッターボックスへと歩みよる。


『……この勝負、予想以上に楽しめそうだ』


モニター内では、アームレイカーも変化していた。ルワンちゃんの方は黄色いバットとなり、彼の両手で持たれる。

王子の方は……あ、こっちは変わらないか。アームレイカー、元々丸いもんね。


「え、本当に野球をさせるの?」

「はい」

「え、でも確か野球って」

「御安心を。だからこそのルワン・ダラーラです」


はぁ、ボクの危惧は察してくれているけど、対策はあるんだね。まぁ見てみようか、止めるのも野暮(やぼ)だしねー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


や、野球……三球だけの勝負? 何かのテレビ番組みたいで、場がざわざわ。人数が人数だから、それはもう凄(すご)いことに。


「馬鹿な……よりにもよって野球だと!」

「そ、そうですよね。ガンプラじゃなくてもいいし」

「そうではない! この勝負、セイくん達の負けだ!」

「えぇ!」


ラルさん、断言しちゃったよ! しかも普通じゃない。脂汗を滲(にじ)ませ、わたしには見えない未来が見えている。


「まずどんな超一流のバッターでも、打率は三割が限度。つまりピッチャー側には七割近い勝率があるんだ。
しかも初対戦で、相手のクセや球筋も分からない」

「あれ、それならイオリくん達が勝つんじゃ」

「そう、普通なら……だがルワン・ダラーラは例外だ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


よりにもよって野球。ルワン・ダラーラ、野球……その組み合わせで思い出していた。彼の専門としていたスポーツは。


「レイジ、ここは冷静に! ルワンさんは」

『プレイボール!』

「早!」

「いっくぜぇ……!」


げ、レイジが……振りかぶって投げたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「うぉりゃあ!」


昨日野球について、興味を持ったからだろうか。初めて投げるにしては、また奇麗なフォームで。

文字通りの剛速球。ボール(ポッド)型のボールは、回転しながらストライクゾーンへと飛ぶ。

普通なら安心するところだ。でも、違う。感じるのは恐怖、得たいの知れない敵を前に、僕は蛇に睨(にら)まれたカエル同然。


だから見えてしまった。


『……!』


ルワンさんが裂帛(れっぱく)の呼吸を漏らし、スイング。

棘(とげ)付きバットでボールを打ち返し、飛ばした様を。

それは現実のものとなり、ボールは青い空へと消えていく。


……やっぱり。


『……ファール! 今のはファールです!』

『いや、ファールって……ガンプラバトル、よね』


司会者とミホシさんの声が響き、止まっていた呼吸を一気に吐き出す。

よかった……いや、よくない! あと二球であの人を討ち取るの!?


「打ち返しやがった……!」

「当然、だよ。だってルワンさんは」

「セイ?」

「元タイ代表の野球選手なんだ!」

「はぁ!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


凄(すご)く速い球だったのに、簡単に打ち返された。どういうことなの、あの人が怖い。何でこんなに、怖く感じるの?

暴力を振るわれたわけでもない。威圧されたわけでもない。ただ怖い……あの人がガンプラを通して出している、その『力』が怖い。


「あのスイングスピードは……く、やはりか!」

「あの、どういうことですか! どうしてイオリくん達が勝てないって!」

「ルワン・ダラーラは、元タイ代表のベースボールプレイヤー。
メジャーからお呼びがかかったほどの逸材で、その生涯打率は……八割九分九厘」

「八……!?」


ううん、それだとほぼ九割! 三割がやっとって言うのに、その三倍!?

そんな人がどうしてガンプラバトル!? 行くべきところは本当にメジャーだよ!


「彼がガンプラバトルで見せる技量、戦術は選手時代に鍛えたものだとされている。
昨今の野球は様々なデータを元に、戦術を組み立てるものだ」

「じゃあ、本当にイオリくん達は」

「……だが、だからこそおかしい」

「え」

「彼の実力なら、今のもホームランにできたはずだ。あれはまるで」


そう言えばファール、なんだよね。打ち損じ? ううん、ラルさんが疑問に思っているんだから、もしかして。


『こんなものかね!』


アビゴルバインは、スタービルドストライクにバットを突き出す。


『いいや……君達の実力は、こんなものではない! さぁ、次こそ本気で投げてこい!』


そう挑発して、改めてバットを構える。それでわたしも、ラルさんも……会場中の誰もが確信する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「むむむむ……ねぇジオ、もしかして」

「相変わらずだなぁ、ルワン・ダラーラ」


甘っちょろいというか……いや、違うか。アイツは元々スポーツ選手だ。スポーツはルールの元、公平にぶつかり合うもの。

頭と体力の限りを使い、鍛えて鍛えて鍛え抜いて、それを制限の中で生かし尽くす。スポーツってのは全力が基本となる。

そしてガンプラバトルもまた、そんなスポーツだった。戦う場所は、やってることも違えど、アイツは未(いま)だ『プレイヤー』だ。


そんな精神に呆(あき)れつつも、頭をかいて笑う。……こういうのがあるから、世界大会は面白い。


「アイツは、二人に言ってんだ。全力の勝負がしたいってよ」

「やっぱりー! でもルワン、野球すっごくツヨい! 普通には勝てないヨ!」

「普通じゃなければいいだろ?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あぁ、分かっている。普通じゃあ駄目、なんだよね」

「セイ」


ルワンさんの挑戦状、心意気……それを受け取って、感じるのは恐怖? 勝てないことへの恐れ?

いいや違う。……渇望だ。だったら勝ってやる、だったら食らいついてやるという意志。

レイジも同じだ、さっきから僕達……笑いっぱなしだもの。だったら、答えは一つ!


「レイジ、僕の指示通りに機体を動かす。いいね」

「……ここであれを使うのか!」

「勝つためには、それしかない!」


大丈夫、そのために準備はしてきた。スタービルドストライクの弱点なら、作った僕本人が一番分かってる。

それを補うためのパックでもある。だからコンソールを叩(たた)き、ロックを解除……レイジではなく、僕からシステムを解放する。


「RGシステム」

――RADIAL GENERAL PURPOSE SYSTEM――

「完全解放!」

――LIMIT BREAK――


外部粒子、及びライトニングパックに内蔵されている貯蔵粒子を機体フレームに全て流し込む。

その結果グレーのフレームが青く輝き、表面に粒子の輝きをたぎらせる。でも、負荷が……いいや、あと二球だ! 構うか!


『その光』


ルワンさんは歓喜の声を上げ、アビゴルバインもバットをより深く握り込む。迎え撃ってくれる、僕達の全力に。

真正面から、逃げることなく。それが嬉(うれ)しくて、また笑みが零(こぼ)れる。


『そうだ……その本気とやりたかった! さぁこい!』

「レイジ、機体の上体を逸(そ)らして!」


ボールを変形するほど握り込み、スタービルドストライクは両腕を上方へ挙げる。


「左足を空に掲げる!」


左足を垂直になるまで上げて、昔懐かし野球アニメのポーズ。ガンダムはサンライズ……サンライズのアニメなら、アレしかないよね。


「そして地面を踏み込み、叫んで! 44ソニック!」

「44(ふぉーてぃーふぉー)」


地面を踏み締め、スタービルドストライクは全力投球。


「ソニック!」


RGシステムによって上がった機体出力、その豪腕によって打球は握りつぶされたまま、空気の壁を引き裂く。

発生した衝撃波は玉の周囲を……地面を、離れたフェンスや客席を揺らす。


「そうだ、この球だ……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


それはストライクゾーンに設置された、ボードごと粉砕しかねない衝撃。白き音速は捉えられることもなく、突き抜ける。

そのはずだったのにルワンさんは、アビゴルバインは、ボールを捉えてしまう。そうしてせめぎ合い、僕達の目の前でバットが振り切られる。


「……ちぃ!」


ただしホームランコースではなかった。ボールは真正面、つまり僕達へと飛ぶ。レイジは咄嗟(とっさ)に左手のグローブをかざし、何とかキャッチ。

これでアウト……と思ったら、ボールがグローブの中で暴れ乱回転。そのまま左腕を粉砕してしまう。


「そんな!」

「まだだぁ!」


腕を砕き、跳ね上がりかけたボール。ビルドストライクが右手を伸ばし、何とかキャッチ。すぐに消失するそれを見て、ほっと一息。……でも。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何か向こうのガンプラが本気を出したっぽい。その結果さっきより凄(すご)い球を投げて、打ち返したと思ったら……捕られたよ!


『これはナイスキャッチ! スタービルドストライク、左腕を対価にルワン・ダラーラを討ち取ったぁ!』

「捕られちゃったよ!」

「いいえ、今のは球が消滅したので、ノーカウントとします」


でもベイカーちゃんは当然と笑って、二次策を出してくれる。


「そして最後の一球、彼らのガンプラは……粉々になるでしょう」


さすがはベイカーちゃんだ。ちゃんと勝てるシナリオを考えてくれた。そうだ、負けるはずがない

ボクの安寧(あんねい)を守るためにも! ベイカーちゃんと二人、嬉(うれ)しくて思いっきり笑ってしまう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『これで試合終りょ……はぁ!? え、えー! 大会運営委員会より通達です!
今のはボールが消失したため、ノーカン! 最後の一投に入ります!』

「何だって!」

「マジかよ!」

『ちょ、何よそれ! キャッチしてから消えたわよね!』

『わ、私に言われましてもー!』


くそ……! 昨日もそうだったけど、何だかおかしくないかな! いや、言っていても始まらない!

ルワンさん、もう一発ってやる気で構えてるしさ! でもこっちは……!


「左腕の損傷甚大! 各部関節にも負荷がかかってる!」

「さっきの勢いじゃあ、無理ってことかよ」

「うん、無理だ。今の機体状況だと、出力は三十パーセントくらいしか出せないけど」


でもそこを何とかするのが僕だ。落ち着け……考えろ、考えるんだ。ルワンさんは超一流のプレイヤー。

それも九割の確立で当てに来る人だ。その人を出し抜くことは不可能、真正面から打破するしかない。

そう、真正面から……それでよかったんだ。慌ててアビゴルバイン、及びバットの状態をサーチ。……よし!


「その全てを右腕に集中させる! ライトニングストライカー、パージ!」


それでライトニングストライカーももう重荷にしかならない。僅かに残っているエネルギーをフレームに注(そそ)ぎ、補充。

その上で調整……右腕だけになるけど、スタービルドストライクは再び構えを取り、ボールを握り込む。


「セイ、今度はなんて叫べばいい」

「そうだね……44ソニック・オン・ファイヤーなんてどう?」

「いいね、長ったらしいのも嫌いじゃない! おい……ルワン・ダラーラ!」

「これが正真正銘、ラストイニングだ!」

『あぁ……こい!』


……スタービルドストライクは左足を垂直になるまで上げて、昔懐かし野球アニメのポーズ。

狙うはただ一点……レイジもそれは分かっている。だからそこに向かって。


「44ソニック」


粒子の残滓(ざんし)をフレームからまき散らし、それを炎に変換。そう、僕達はボールを軸に、炎を投げつける。

そう、昔やっていた『アイアンリーガー』というアニメの、必殺技を!


「オン・ファイヤァァァァァァァァァ!」


業火は再び衝撃を放つ。それを送り出した右腕は、負担に耐えきれず根元から完全粉砕。

今度はフィールド全体を焼き尽くす、衝撃の炎となって飛ぶボール。それを当然のように。


『……そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


ルワンさんは捕らえた。さっきの44ソニックをも打ち返した、バットの真芯に。だから、バットは振り切られた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ボールをキャッチしたのに、ノーカウントにされた。左腕も壊れて、もう終わりだと思った。

なのに、イオリくん達は投げた。右腕が壊れても、全力で……ありったけを注(そそ)ぎ込んで。

文字通り、命を賭けた剛速球。それを真正面から受け止め、アビゴルバインはバットを振り切る。


とても、奇麗なスイングだった。それでホームランを捕られ、負けた。誰もがそう思った……わたしがそう思った。

でもバットを振り切ったのと同時に、キャッチャーボックスのストライクパネルが吹き飛んだ。

炎の衝撃波は死んでいなかった。なぜか打たれたはずなのに突き抜け、そのまま球場外壁へ衝突。


スタンドや客席なども巻き添えにして吹き飛ばしながら、数十メートルに及ぶ大穴を開けてしまう。

そして、あちらこちらに火の手が上がる中、誰もがその光景を信じられずにいた。打たれたのに、なぜ炎は死ななかったのか。

その答えは唐突に落ちてきた、何かにあった。カランと音を立てて、地面に突き刺さるのは……バットの先。


慌ててアビゴルバインの手元を見ると、バットが中程からへし折れていた。……つまり。


≪――BATTLE END≫

『……ストライクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! 勝者、イオリ・セイ&レイジ組!』


司会者さんの声、そして消えていくバトルフィールド……全てが勝負の決着を知らせていた。

バットをへし折る剛速球。それでストライクを取った、イオリくん達の勝ちだと。

強く握っていた手を解き……やっぱりまた握りつつ、ガッツポーズ。


「やったぁ!」

「うむ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


消えていくバトルフィールド、勝利者への歓声で、ようやく肩の力が抜ける。そしてレイジと、いつも通りにハイタッチ。


「やったな、セイ!」

「ルワンさんのおかげだよ」

「アイツの? あぁ……そうだな」


僕達、ちょっとズルをしているしね。レイジも野球の経験から、それは察したらしく苦笑。……僕だって知っている。

ホームランには幾つかの条件があるってのは。バットの一定箇所にボールを、タイミングよく当てることでホームランボールになる。

ルワンさんの打率から考えるなら、ルワンさんの凄(すご)いところは『如何(いか)なる状況でも、バットの真芯に当てられる』とも言える。


でもこれは野球じゃない、ガンプラバトルだ。ルワンさんの全力、本気……そこに勝機があった。

右腕が粉砕するほどの出力で、先ほどよりも強い球を投げる。そうしてバットをへし折り、強引にストライクを取る。

ほんと、我ながら穴だらけだと思うよ。……スタービルドストライクとライトニングストライカーを回収し、静かにお礼を送る。


「ミスター・セイ、ミスター・レイジ」


するとルワンさんが近づいてきた。またあの明るい笑顔を送り。


「すばらしい勝負をさせてもらって感謝する! 次、また合間見えるときも……全力で頼む!」


その言葉に、呆気(あっけ)に取られる僕達。……ルワンさんは、あの状況で勝てた。ホームランではなく、ヒットを狙えばよかった。

スタービルドストライクは両腕が砕けていたし、それでも十分勝利になる。でも、受けて立ってくれたんだ。

これがプロ――本気の勝負で生きてきた人の凄(すご)さ。ううん、今も生きているんだよね。


その潔さ、その力強さに感動し、僕達は二人で握手する。


「はい!」

「次も勝つのは、オレらだけどな」

「そうはいかないな。ははははははははは!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


嘘……嘘嘘嘘嘘! 何が粉々!? 粉々になってないよ! 生き残ってるよ! しかもバットを折って勝ちってなにー!


「何? 何? 何ぃー! さわやかに笑ってるよ! どういうことよ!」


そう言ってベイカーちゃんを見ると、背中を向けて黙っているだけ。


「ベイカーちゃん!? 何で何も言わないの!」

「……あ、安心してください。次こそは……必ず」

「次!? あ、ゴーストボーイ! 本当に大丈夫なんだろうね!」

「もちろんです。何せ彼らの相手は、あのマッド・ジャンキーなのですから」


ベイカーちゃんはようやくボクへ振り返り、自信満々の笑み。でも信用して、いいのかなー。今のも失敗だったしなー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱきな臭ぇ、今回の大会……それでも僕達のバトルは始まるわけで。

スタービルドストライクとアビゴルバインの検討、プロの本気が垣間(かいま)見えた勝負で、会場は沸き立っていた。

セイも状況に応じたパック変更をするようだし、これから楽しくなりそうだわ。


わくわくしながらも、次は僕とリインの番。……立ちはだかる強敵に心を躍らせつつ。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文」

「蒼凪リイン!」

「ガンダムAGE-1タイタス――目標を駆逐する!」


アームレイカーを押し込み、タイタスは地面を滑りながら加速。そのままフィールドへと飛び出した。

……問題はそのフィールドが、どういうわけかMSサイズのトレーニングルームってことだけど。


「恭文さん」

「嫌な予感しか、しない」


それでもトレーニングルームに着地。不吉な数字のトランクを開けると、何ということでしょう。

中から登場したのは、大きめのバーベル。あれだよ、重量挙げで使うような……やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁ!

試しにそれを持ち上げてみるけど、かなりの重量。持っているだけで動きが鈍くなる。


いや、持ち上げられるだけで凄(すご)いけど。でもこれを振るったら、すぐ間接がガタガタになりそう。


「何ですかこれ! 重量挙げでもしろと!?」

「そういうこと、だろうなぁ」


そして……奴もまた、現れる。トレーニングルームのドアを破壊して、のしのしと入ってきたのはパワードレッド。

いや、パワードレッドとはまた違う。両肘・両手首の小型シリンダーは、小型化したGNドライブを搭載。

更に両足の太もも・膝・足首、両肩の付け根、背骨にも三つずつドライブ搭載。


標準装備なスラスターすら捨て去ったそれは、純粋な力を求めた先……そう、力そのものを食らい尽くす、怪物のようだった。


『面白いねぇ。お前ならこの機体のことを知っていただろうに』


そう言いながら奴は、五十番のコンテナを開封。中に入っていたバーベルをたやすく、本当に軽々と左手で持ち上げる。

……それを逆手に持ち替えた途端、嫌な予感が走り跳躍。それと同時に怪物は床にバーベルで刺突を放つ。

その接触点から生まれるのは、強烈な衝撃波。内部浸透系……徹と同じ原理の破壊技!


結果トレーニングルームに存在していた危惧も含め、全てが床から伝わる振動によって粉砕。

部屋は一瞬でその壁紙も、床材も剥がれ落ちた廃墟(はいきょ)に変貌する。それに寒気が走りながらも、振動が消えたことを察知して着地。


「なんなのですか、あのパワー……!」

「このルールでやり合うにはキツい相手だね」


今のはむしろ、二重の極みだ。それも遠当ての方……プラン通りとはいえ、すげー怖いし。


『これを避けるなら、楽しめそうだな』


怪物はバーベルを軽く肩に担ぎ、こちらへと近づいてくる。


『お前にも楽しんでもらうぜ! このモンスターズレッドの力をな!』

『ヤスフミ、リイン、加減しないよ! ナターリア達も全力勝負ネ!』

「望むところだ」

「ですです!」


対するは正真正銘の怪物。タイタスだろうと、真正面からの対峙(たいじ)は危険……今のでよく分かった。

でもあいにく相手はいつも、僕よりどっか強い奴ばかりでね。……遠慮なく粉砕してやる。


(Memory47へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、Vivid編は第三ピリオド。これでビルドファイターズは、話数的に残り半分だね」

歌唄「最後のモンスターズレッド、及びバトルのシチュは読者アイディアからとなります。アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


歌唄「お相手はほしな歌唄と」

恭文「蒼凪恭文です。え、えっと……歌唄、なぜ腕組みして、僕を睨(にら)むの?」

歌唄「私の出番をよこしなさい」

恭文「そう言われましても! 大会中だよ!? セイ達中心だったんだよ、今回!」

歌唄「同人版も、何だかんだで彼女じゃないし……もっと私を可愛(かわい)がりなさい。
何、足りないの? メールの量が足りないの? だったら送るわよ」

恭文「もう十分だよ! 歌唄、分かっていないかもだけど、僕が一番メールしている相手、歌唄だからね!?
三十分以内に変身しないと、矢継ぎ早に『どうして返事がないの』って送ってくるから!」

歌唄「当たり前じゃない。……仕事も忙しいと、余り会えないから。それにライバルも増えたし」


(ドS歌姫的には、頑張りたいそうです)


歌唄「分かったわ、私も戦闘とかできればいいのね。中二病的に……何かの魔眼に目覚めたり」

恭文「……歌唄、歌唄には殺し屋の目があるよね。それで十分じゃないのさ」

歌唄「そうね……じゃあもっと積極的になるわ。倦怠(けんたい)期とか吹き飛ばす勢いで」

恭文「メ、メールはもう十分なので」

歌唄「分かっているわよ。……それプラスLINEしましょう。二十四時間」

恭文「仕事はどうするの!? というか寝る時間は頂戴!」


(今一つLINEというものを分かっていない作者であった)


恭文「とにかく今回は、テレビ版の流れを再構築……怪我(けが)もしなかったけど、途中のピリオドは省略されてるし問題ないか」

歌唄「でも一つ、おかしいところが……メイスって」

恭文「抽選だしね、仕方ないね」

歌唄「というわけで、キスしましょう」

恭文「……相変わらず、脈絡のない話の飛び方」

歌唄「あるわよ。アンタにキスしたい……それ以上のこともしてほしくなった。はい、納得したわね」

恭文「できるかボケ! 欲望に忠実なだけだよね!」


(というわけで次回へ続く。果たしてアクアモードの出番はあるのか!
本日のED:ロードオブメジャー『心絵』)


あむ「……でもPPSE社、あそこまでやる!? 腕破損の流れが変わったせいもあるけど、ヒドいじゃん!」

恭文「手段を選んでないからなぁ。でも面倒なので、全部ぶっ潰していこうー。だって僕は海賊さー」

あむ「本当に認めちゃったんだ! そう言えば恭文、グリムゲルデを作ったんだけど」

恭文「うんうん、僕も作ったよ。……グレイズで不満だった腰の可動が改善され、更に騎士っぽいデザイン。
動きにくそうに思えても、実はそんなこともなく各所はグリグリ……でもね、本当に凄(すご)いとことはそこじゃない」

あむ「え、どこ!?」

恭文「引力圏に引き込まれつつあっても、たやすく圏外へ突破できる異様な推力だよ」

あむ「それ劇中の話じゃん! いや、周囲が真っ赤になってる中、平然と飛び出したから凄(すご)かったけどさ!」


(おしまい)






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