小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory45 『ディスチャージ』
放たれるフットミサイル三発、それの一発をライフルで撃ち落とし、即座に方向転換。
ビルドストライクはホーミング範囲から逃げようとするけど、Uターンしている途中にミサイル同士が激突。
その爆発に煽(あお)られ、機体が吹き飛ぶ……そこを狙い放たれる、メガサイズのザクマシンガン。
薬莢(やっきょう)とマズルフラッシュが吐き出される中、レイジは各部スラスターを調整・噴射。
右へのバレルロールで掃射範囲から逃げ、そのまま遠ざかる。でも……ザクは相変わらずこちらを狙う。
一発でも直撃すれば、装甲どころか機体フレームごと持っていかれる。そんな弾幕をかいくぐり、レイジはビームライフルで牽制(けんせい)射撃。
「やっぱり、こっちを狙ってる……!」
『セイはん! 何してはりますの!』
でもライフルは頭部ヘルメット、右肩部などに命中しても、穴一つできない。サイズ差だけじゃない、きっちりと装甲強度も高めてある。
でも、このバトルロイヤルでこんな……勝負とは全く関係のない、無人機体を出すなんて!
『逃げろ! あのザクはバトルと無関係だ! 戦う必要はない!』
「分かってるけど……!」
「野郎がしつけぇんだよ!」
そこでザクは背部スラスターを噴かせ、重い巨体を浮かび上がらせながらジャンプ。そうして伸びる左手は飛び越える形で回避。
すかさず首元やランドセルにビームを当てていくけど、全く貫けない。更にレイジは反転し、ブースターのビームキャノンを展開・発射。
ザクの背中に当てるものの、ザクはやはりダメージは軽微。バランスを崩しかけながらも、あの巨人は着地。
こちらへ振り返りながら、マシンガンで牽制(けんせい)。弾切れしてもすぐに予備の弾薬へ切り替え……くそ、しつこい!
「セイ、どうするんだ! ディスチャージして逃げんのか!」
「……そうしたいの?」
「したくねぇ!」
それが正しいのは分かっている。でも……レイジも同じ気持ちなのが嬉(うれ)しくて、俯(うつむ)きながら笑ってしまう。
「だよね……! こんな無茶苦茶(むちゃくちゃ)!」
「されたんじゃあ!」
また放たれるフットミサイル。レイジは合計六発のそれを立て続けにロックオンして。
「そうこなくっちゃなぁ……相棒!」
ビームキャノンとライフルを一斉発射。回避行動も取りつつ射線を調整したからか、三発の光条はそれぞれが、ミサイル二発を貫通。
そのまま生まれた爆炎を突っ切り、立ちはだかるメガサイズザクへと挑む。
『レイジはん!』
『あの馬鹿!』
馬鹿で結構……アホで結構! こんな真似(まね)をされて、黙っていろと!? PPSE社は何も分かってない!
ここに立つ人達が! 今僕達を見ている、世界中のみんなが……一体何を望んでいるか! だから壊してやる……ガンプラの歪(ゆが)みは、ガンプラで正す!
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory45『ディスチャージ』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……ビルドストライクは弾幕をかいくぐり、その機動性と小回りを生かし、ザクの死角へと回り込む。
『レイジ、関節を狙うんだ!』
『おうよ!』
地上すれすれをホバリングしつつ、ビームライフルを膝(しつ)関節へ。しかしザクは彼らへと向き直りながら、装甲部分でビームを受け止め、マシンガン乱射。
『まだまだぁぁぁぁぁぁぁ!』
襲ってきた参加者達を払いのけ、スガさんと斬り合い……お互いに温まってきた頃、それは始まった。
メガサイズモデルの連続投入。そんな中で挑む彼らは、余りに愚かと言えるだろう。
「何と馬鹿なことを……生き残るが優先のバトルロワイヤルなのに」
『まぁしょうがないよ。あの子達、ザクに目を付けられているっぽいから』
『それでも光の翼があるはずだけど……まぁ、アレッスね』
「風車に挑む、ドン・キホーテのような行為――!」
彼らはもしかしなくても、バトルロイヤルの趣旨を理解していないのか? それも十二分にあり得そうで怖い。
……するとスガさんのAGE-2は、シグルブレイドを納刀。彼らがいる方へと向き直る。
『今回はここまでッスね』
「スガさん、まさか」
『確かにドン・キホーテかもしれないッス。でも……戦う理由ならあるッスよ』
『だねぇ』
『彼らが……そして、自分達がファイターだから――!』
どうやらそれが逃げない、戦う理由らしい。……無駄だとは思っているが、右の刃をAGE-2に向ける。
「敵に背中を向けるとは、迂闊(うかつ)ではありませんか?」
『君には斬れないッスよ』
「大した自信だ」
『そのタイミングなら、今まで幾らでもあったッスから』
……そう言われては反論もできず、苦笑しながら刃を引く。そしてAGE-2は変形――ストライダーモードとなり、そのまま飛び去っていく。
そう、幾らでもあった。なのにボクは……戦いの中で、戦いを忘れていた。愚かな彼らの姿に、熱に、見入ってしまったんだ。
そこで別方向から、巨大な爆発が生まれた。あっちは確か、AGE-1が暴れていた……そう、恭文さん達がいた場所だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くそ、やっぱりロングレンジは通用しない! 間接部を狙っても、装甲で遠慮なく防いでくる!
「ロングレンジが駄目なら……!」
「懐に飛び込む!」
ビルドストライクは、ライフルを左手に持ち替え。その上でビームサーベルを抜刀。
『それは駄目だよ』
そのまま飛びかかろうとしたところで、通信……これは恭文さんと、リインちゃん!?
「おいヤスフミ、邪魔すんなよ! コイツはオレ達の」
『結論を言う、そいつには爆弾が仕掛けられてる』
「……爆弾!?」
「恭文さん、どういうことですか!」
今度はクラッカー――手榴(しゅりゅう)弾が投げつけられるので、レイジは下がりながら迎撃。放物線を描くクラッカーは、閃光(せんこう)を受けて爆発。
でもその衝撃は半端なくて、シールドで防御しても吹き飛ばされてしまう。……レイジは対応に忙しいので、僕が話を聞く。
「クラッカーじゃないんですよね!」
『違うよ。機体内部に仕込まれていて、駆動停止時、周辺をキロ単位で巻き込む』
『リイン達を襲ったAGE-1がそれだったのです。というか、サテライトキャノンで撃墜された、一機目のザクも』
「あ……!」
そうだ、あの爆発もかなりの規模だった。てっきりガンダムX魔王の、ハイパーサテライトキャノンが原因だと思ってたけど。
つまり近接攻撃で止めたら、その途端に巻き込まれて……何なんだよ! サプライズってレベルを超えているじゃないか!
「じゃあどうしろってんだ!」
『方法は一つ……近接戦闘以外の超火力攻撃で倒して、即行で退避する』
逃げる選択肢などない。その言葉だけで、恭文さんの気持ちもよく理解できた。……僕達と同じだ。
こんな無茶苦茶(むちゃくちゃ)は、僕達の道理でこじ開ける。そう……ファイターとして、ビルダーとしての道理で!
「セイ!」
「……バスターライフル、ハイパーサテライトキャノンはアウト。なら」
というか、さすがにフェリーニさん達は巻き込めない。これは完全に僕達のわがままだ。
危険だって伴う、ポイントレースの敗北だって賭ける。恭文さんも教えてくれただけで十分。……なら。
「レイジ、全速力でザクから距離を取って。相手から二キロほど離れられたら、ディスチャージ開始……ライフルモードだ!」
「おう!」
反転したところで、また投げつけられるクラッカー。それをビームキャノンのノーモーション射撃で撃ち抜きつつ、ザクを置き去りに飛ぶ。
加速力と小回りなら、こちらが上だ。でもそこで、ザクIIはスラスター噴射――最大出力で飛び込んでくる。
「セイ、振り切れねぇ!」
「くそ……やっぱり最大出力はあちらが上か!」
このままじゃ距離を取れない。ホバリングしながらの追撃……構えられたザクマシンガンに寒気が走ると。
『邪魔はさせないッスよー』
赤い閃光(せんこう)が鋭く走り、ザクマシンガンを両断。その爆発にザクも驚いたのか、ホバリングを停止した。
「何だ、今のは!」
『やっほー。セイ君、久しぶり』
そこで通信……あれ、このベレー帽の人、確か。
「イビツさん!?」
そう、ガンダムAGEの大ファン……イビツさんだった。ど、どうしてこの人が……というか今の赤は。
光学センサーを駆使し、Uターンしてくる煌(きら)めきを見やる。ライトグリーンの刃を突き出し、飛んでいくあの機体は。
「ガンダムAGE-2! じゃあイビツさんが」
『いや、俺はオペレーターだよ』
『初めまして−。スペイン代表のスガ・トウリッス』
現れた男の人は、見覚えがあった。うん、名乗った通り……というか僕の馬鹿−! 大会に参加しているライバルくらい、チェックしておくべきなのに!
「は、初めまして! 助けてくれてありがとうございます! でもあの……もうやめてください!」
『あれ、いきなりッスね! ここから協力プレイじゃ』
「あのザク、爆弾持ちかもしれないんです! 今の調子で突撃したら、AGE-2ごと!」
『……マジッスか』
マジなので再度逃げる中、何度も頷(うなず)く。さすがに、それで突撃させるわけには……! その意図は分かってくれたようで、トウリさんも汗をだらだら。
『そう言えばさっき撃破された、メガサイズAGE-1も……ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! AGE-1の仇(かたき)は俺が討つ!』
『ちょ、あなたはオペレーター! こっちきちゃ駄目! 失格になる!』
とにかく距離は稼げた。ほんの少しだけでも……すると次はフットミサイルが襲ってくる。
でもそれも、五時方向・上三十度の角度から飛んだ、ビームライフルの連射により止められた。
『全く……世話の焼けるお人ですなぁ』
「マオ君!」
更にマシンキャノンが乱射……追撃の三発は弾幕を受けて、軌道が乱れて爆散。
『さっきの借りを返しておこうか。……言っとくが、逃げない馬鹿どもじゃねぇぞ。マオに対してだからな、そこを勘違いするなよ』
「分かってるからくどくど言うな! おっさんか、お前は!」
『誰がおっさんだぁ! 俺は若さ溢(あふ)れる二十代だぞ!』
『あおー』
X魔王とフェニーチェは、手持ちの火器で牽制(けんせい)射撃。ザクマシンガンを失ったおかげで、それくらいのことは通じるようになっていた。
ミサイルも弾幕により撃墜されていき、ほぼ無効化。これなら……そこで進行方向から、赤い奔流が迫る。
慌てて左バレルロールで回避すると、奔流はザクの頭部に衝突。その一撃で、あの巨体が僅かに揺らいだ。
『……最大出力でないとはいえ、激龍砲の一撃に耐えますか』
そうして飛び込んできたのは……ストライク劉備! いや、今はランチャー装備だけど!
「セシリアか!」
『ほら、早くチャージを始めなさい。ここはわたくし達が』
『頭部を狙いましょ! フェリーニさんはミサイルとクラッカーの撃墜に集中してください!』
『分かった!』
またしても放たれる、赤い奔流――激龍砲と、シールドバスターライフルの連射。それを受け続けた頭部は赤熱化。
表面が融解し、熱とともに破裂する。その様子を見ながら。
「レイジ、ディスチャージ!」
「おう!」
レイジは武装スロットを展開し、ディスチャージ・ライフルモードを選択。ライフルを右手に持ち直し。
「弾種は散弾砲撃をセレクト!」
「分かった!」
シールド先端部の、折りたたまれたコネクトが展開。それがライフル右側面の接続部へと差し込まれる。
シールド自体がフォアグリップ化した状態で、ビルドストライクは改めて、ザクを狙う。
ライフル上部の延長バレルも稼働して、銃身に接続。そして背部に星形のパワーゲートも広げ、準備完了……あとは時間だけだ。
……頭部をなくしたザクは、またクラッカーを取り出し投てき。でもそれはフェニーチェのマシンキャノンで撃墜される。
そのはずだった……なのにマシンキャノンは、クラッカーへ命中前に途切れてしまう。
『……すまん、弾切れだ』
『「えぇ!」』
『ああもう! ならわたくしが』
『必要ないッス!』
そこでまた赤い閃光(せんこう)が走り、クラッカーを両断……その爆発ごと切り伏せ、高く突き抜けていく。
「AGE-2!」
『ちょ、トウリさん、爆発物に突っ込むとか危ないから! 俺達のヒーローAGE-2がー!」
『ははははは! その場のノリッスよ!』
『自由か!』
本当にノリ!? 楽しげだし! すっごく笑顔だし! でも爆発物を斬るのはやめてください! 申し訳なくなりますから!
……そしてまたまた放たれるミサイル。く、突っ込んでいる場合じゃない。これはマオ君達に……と思っていると、レーダーに接近する反応。
それは、銀色に輝く二本の刃だった。ミサイルを二つずつ貫き、そのまま両断。突き抜けながら爆散させる。
『あ、すんません。ワイも弾切れです……って、今の誰や!』
三時方向から飛んできたので、チャージを継続しながらチェック。そこには……戦国アストレイ! ニルス・ニールセン君か!
『まだですよ!』
そう、まだだった。今度はザクバズーカ……そうだよね! リアスカートに設置してあったよね! 忘れてた−!
……今度は上から反応……見上げると、太陽を遮るように『二機目のアストレイ』が飛び込んでいた。
しかもそれは……メガサイズレベルな、超巨大刀剣を抱えながら。あれ、150ガーベラ!?
しかもあのアストレイ、ぼろぼろだけどパワードレッドじゃないか! あ、ヤバい。
「待って! 本体は破壊しないで! しちゃ駄目−!」
『……チェストォォォォォォォォォォ!』
慌てて警告している間に、唐竹(からたけ)一閃。構えたバズーカ、それに胸元装甲を浅く切りながら、刃は振り下ろされる。
それは大地すらも真っ二つにして、衝撃と振動を呼び起こし、ザクの動きを止めてしまう。
「な、なんだぁ! あの馬鹿でかい刀は!」
『ブラジル代表……ジオウ・R・アマサキ、参上! てーかそこの奴、何で止めた!』
『そうダヨ−! 今、すっごくいい感じだったのにー!』
「爆弾が仕込まれているんです! 近接攻撃で倒したら、もろともですから!」
『……マジ?』
「マジです! 止めてくれたのは感謝しますけど」
でも、何だか世界大会出場者の顔見せになってない!? いや、言っている場合じゃない!
パワードレッドの腕から火花が走り、150ガーベラを手放してしまう。あぁ、やっぱり重すぎるのか、アレ!
『ち……まだ完成形には遠いってことかよ』
「すぐ離れてください! こちらの砲撃で仕留めます!」
『……ジ、ジオ−!』
『そうさせてもらうぜ! またなー!』
えぇえぇ、逃げてください! 巻き込んだらほんと、申し訳ないので! ……でも嬉(うれ)しくもあった。
みんな、やっぱり不満だったんだね。僕達だけじゃない……それが心強くもあって……そこでアラームが響く。
「よし……チャージ完了だ!」
背部のパワーゲートがそのままスライド移動。ビルドストライクの前方へと出る。チャージされたエネルギーは、ゲートによって更にブースト。
そのままザクを乱れ撃つ光となる。……更に左右から挟み込むように、また光が走った。
あぁ、今度はどちら様だろう……右側からはピンク色の粒子砲撃。それがザクの左肩スパイクアーマーを撃ち抜き、砕いてしまう。
左からは鋭い狙撃ビーム。こちらは右足に着弾して、バランスを崩し……ザクは派手に転げてしまう。
姿も見えない支援者には感謝をしつつ。
「レイジ!」
「食らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
レイジがトリガーを引く。……放たれた赤い奔流はゲートをくぐり、一瞬で散弾か。
それが倒れたザクの胸部や足――その全身をたやすく貫き、蜂の巣とする。通常射撃とは根底から違う、その一撃に胸が沸き立つ。
……赤熱化した傷口、その途端に生まれる巨大なエネルギー反応。だから僕達は反転して。
「全員撤退!」
号令をかけ、その場から全速力で離脱――そして警告通り、周辺の地形すら変えてしまうような爆炎が、僕達の背後で上がった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
イオリくん達が、あのザクを倒した。知らない人達も次々集まって、みんなで一緒に……その快挙に、お母さんと手を取り合う。
『げ、撃破ぁ! メガサイズザクが、ついに沈黙しましたぁ!』
『よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!』
「セイとレイジ君がやったわ!」
「はい!」
「というかもったいつけちゃってー! あんなのがあるなら、とっとと使えばいいのに!」
まぁその通りなんだけど……多分、使えなかったんだよね。撃つのに時間がかかっていたし。
でも、凄(すご)い爆発。あんなの近づいて倒していたら、ビルドストライクも巻き添えに。
「これなら優勝間違いなしよね、チナちゃん!」
「は、はい」
あんな攻撃ができるなら。そういう意味でお母さんははしゃいでいたけど、妙な胸騒ぎがしていた。
それが何なのかよく分からない。でも……そこで、画面から大きなブザーが鳴り響く。
『おおっと、ここにきてようやく規定人数に達したか! 第二ピリオド終了のブザーが鳴り響きました!』
『今フィールドに残っている、全ファイターが勝利者です! みなさんに四ポイントずつが与えられます! おめでとう!』
その言葉にホッとする。だってあのまま戦い続けていたら、どうなっていたか……ビルドストライク、大丈夫なのかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
勝敗は決した……それにはもう、ホッとするやら恐ろしいやら。エネルギーもギリギリだったし、終わってよかったよ。
とにかく反省材料も多数。いろいろ考えながらも、ビルドストライクをチェック。レイジが心配そうに覗(のぞ)き込んでくるのは、変化というか。
「どうだ、セイ」
「大丈夫。シールドの予備はあるし、この程度の破損なら、一晩あれば直せるよ」
「はぁ……そうか」
そしてレイジはいつもの調子で、右手を挙げる。なので一緒にハイタッチ。
「頼むな」
「任せて。それよりマオ君のガンプラは」
というか、手伝ってくれた人達みんなが心配だけど……何人か見当たらないんだ。今こっちにいるのは、セシリアさんとマオ君だけ。
「ワイも予備パーツはぎょうさん用意しているので、すぐ直せます」
「フェリーニさんも、大したことはないと言っていましたわ」
「……よかったぁ。あー、でもトウリさんやジオウさん達にも、お礼を言わないと!」
「必要なのか? それ」
「必要だよ! ……あのザクを倒しても、得点にはならない。むしろやられる危険が増える……それを分かった上で、助けてくれたんだから」
「……そうだな」
僕達だけじゃ無理だった。ほんと、大恩を作ったよ。……ちゃんと返していかなきゃ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……自爆機能まで備えた、メガサイズガンプラ。しかもあれは、ヤスフミとレイジ達を狙っていた。
こんなこと、今までの大会ならなかった。現にPPSE社は、株価にまでダメージを負う大損害。
ヤスフミはまぁ分かる。ガンプラ塾絡みで、PPSE社とは因縁浅からぬ相手だからな。だが、レイジとイオリ・セイはなぜだ。
大会も初出場で、今回の試合だって危ういところは幾つもあった。優勝とはほど遠いルーキーって立ち位置だ。
スタービルドストライクの性能に恐れを成して? いやぁ、それこそあり得ないな。あれには致命的な弱点がある。
今回の試合で、それは全て露見しただろう。……いろいろな疑問を感じながらも、廊下に持たれて、ある男を待ち伏せだ。
それは訳知り顔で歩く、ニルス・ニールセン。俺に気づいた奴へ、軽く右手を挙げる。
「あおー♪」
「何でしょうか、リカルド・フェリーニ……というか、その奇妙な生物は」
「俺の友達さ。……何、助太刀の礼を言っておこうと思ってな。グラッシェ、サムライボーイ」
「……礼には及びません」
奴はそんなことかと笑い、俺の前を横切る。
「あれは助太刀などではない。戦いを長引かせ、みなさんの実力を見極めたかった。それだけのことです」
「ほお……で、その甲斐(かい)はあったのか」
「有意義でしたよ。弾切れしたときのあなたなど」
「……言いやがるな」
「おー」
あお、頭をぺしぺし叩(たた)くな。さすがにあれは予想外だったんだよ。メガサイズだぞ、メガサイズ……そりゃあ慌てるさ。
「その中で特筆すべきは、イオリ・セイが製作したスタービルドストライクの威力と特性……ハッキリ言えば、性能だけの欠陥機体」
「また言いやがるな」
「言いますよ。……シールドは、相手が放ったビームを消失させるものじゃない。シールドを展開させ、ビーム粒子を変容。
そのまま本体に吸収していた。そうでなければ最後にザクを倒した、あの攻撃……膨大な粒子放出量に説明がつきません。
しかし原理が分かれば、対応することは可能。いえ……その前に彼らは」
背を向けたまま、侍はまた笑う。
「スタービルドストライクが使えなくなる」
「あお!?」
……本当に気づいているようだな。あぁ、使えなくなる……俺も同感だ。
「次に対戦することになろうとも、僕の勝利は磐石(ばんじゃく)です」
そのまま去っていくニルス・ニールセンを見送り、苦笑してしまう。
「……何が磐石(ばんじゃく)だ。お利口な理屈こねやがって……素直じゃねぇんだよ」
「あお?」
「さっきのバトルを見て、胸の中が熱くなってるくせによ」
そうじゃなかったら、助けるはずがないだろ。俺も同じだから、ほんと……よく分かるぜ。
アイツらのバトルには、何かがあるんだよ。真っ直(す)ぐで、熱くて……俺でさえ忘れがちになりそうな、そんな熱いものがな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
試合を終えて、脇に控えていた歌唄達とハイタッチ。今日は何だかんだで大活躍だったし、もう満足満足。
「恭文、やったじゃん! アイラ・ユルキアイネン撃破だよ! おめでとうー!」
そしてりんが飛び込み、全力ハグ……よ、よしよし……でもあの、その……胸が、思いっきり当たって。
「まぁよくやったわね。でも……アンタはちょっと話があるから。私というものがありながら、また他の女にフラグを」
「歌唄!? 違う、アレは違う!」
「恭文さんがそう思っていても、オルコットさんは……うん、私ともお話ししようね。メイドさんだから、頑張るよ」
「その前にリインとお話なのですよ……あ、リインは最後でいいのです」
リインが引いた!? ともみがガッツポーズをし出す中、リインは俯(うつむ)いているあの子を……千早を視線で刺す。
「……くっ」
「ち、千早……あの、どうしたの。怖い顔をして」
「お兄様、決まっているでしょう。こういうときの如月さんは」
「間違いなくアレだな」
「プロデューサー……やっぱり、大きな人が……くっ」
「お前、やっぱりかよ!」
どうしよう、触れたくない! この誤解を解くのは凄(すさ)まじく面倒かも! 考えなきゃいけないことも、多数なのにー!
……そこで後ろから、トタトタと迫る気配。そちらを振り返ると。
「――ヤスフミィィィィィィィィ!」
そこで飛び込んでくるのは、外はねな黒髪を肩まで伸ばし、白のワンピースを着た女の子。
肌は褐色で、瞳はライトパープル。健康的に盛り上がった胸を揺らし、思いっきり抱きついてくる。
「な……! ちょ、アンタ誰! 今はあたしのターン!」
「あなたこそダレ!? ヤスフミからハナレル! ヤスフミ……ヤスフミダー!」
「え、誰よ。恭文……説明しなさい。またフラグを」
「知らない知らない! え、どちら様で」
「ヒドイヨ! ナターリアのコト、忘レタノ!?」
りんにはちょっと離れてもらい、その子にもハグを解除してもらう。じゃないと、その……胸の圧力が、半端なくて。
でもナターリア……ナターリア……そこで思い出すのは、僕よりずっと小さかった女の子。
リオデジャネイロのカーニバルを一緒に回って、いっぱい遊んだ……でも目の前の子は、僕と同じくらいの身長。
それにその、こんなに大人っぽい体型でもなくて。……だけどその違和感が一気に重なる。この瞳の色も、跳ね気味な髪も、ちゃんと記憶にあった。
「まさか……ナターリア!? リオデジャネイロの!」
「ウン! 思い出した!?」
「うん! わぁ、ほんと久しぶり! というか全然変わってて!」
「ナターリア、オトナになった?」
「うん、とっても。奇麗になったよ」
あんまりに懐かしくて、改めて飛び込んできたナターリアとハグ。よしよし……甘えん坊なのは変わらずかー。
……それどころかナターリアは、僕の左頬に軽くキス。な、なので僕も少し恥ずかしいけど、ナターリアの頬にキスを返す。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「挨拶ですか! 挨拶なのですか! でもナターリア……あ、リインも聞いたことがあるです! 確か旅先で仲良くなった子ですよね!」
「リイン……そう、リイン! ナターリアもリインのこと、聞イテタ! ヨロシク−!」
「よ、よろしくです」
そしてナターリアはリインにもハグ。……そうか、歌唄達にも説明が必要か。
じゃないと怖くて……リインにもキスがされる中、ナターリアを右手で指す。
「あのね、この子は……四年前の三月頃だね。ブラジルのリオデジャネイロを旅してたとき、知り合ったんだ」
「三月? じゃああれかしら、リオのカーニバルで」
「そうそう」
「リオのカーニバル……大規模なサンバパレードですね」
「てーかお前、その年だと機動六課が設立直前」
「相変わらず楽しんでいたわけだな。そしてフラグも立てたと……もぐ」
ショウタロスやヒカリのツッコミは知りません。……とにかく、改めて説明しよう。
リオのカーニバルとは、リオデジャネイロで開催される謝肉祭。開催日は年によって変わるんだけど、大体二月から三月上旬。
そんな頃に出会った女の子は、四年の歳月を経て急成長。立派な女性として僕の前に立っていた。
「でもヤスフミ、ヒドいヨ! ナターリアがオトナになるまで待たずに、ケッコンとかしちゃうし! それにあのセシリアとも!」
「あ、あれについては……ツッコまない方向で。というかリイン!」
「恭文さん、リインとお話なのですよー♪ ね……お兄ちゃん!」
話を聞いていない! うん、知ってた! 何だかそんな感じはしていた!
「やっぱりフラグが立っているんだね。うぅ、ライバル多いなぁ」
「大丈夫だよ、ともみ! あたし達には大人の魅力がある!」
「……でも恭文、この子と連絡は取り合っていなかったの? 応援にくるのは分かるけど」
「最近はメールで……でも全く聞いてなくて。ナターリア、お父さん達も一緒なのかな」
「オウエン? ううん、違うヨ。ナターリアは出場者ダヨ」
『えぇ!』
「一応さっきもいたんだが、関わるタイミングがなかったからなぁ」
そこでひょいっと出てきたのは、白髪紫アイズなお兄さん。ナターリアはその人を見て、笑顔……そうか、だからナターリアがいるのか。
「ジオ−!」
「初めましてだな、ヤスフミ・アオナギ。ブラジル代表のジオウ・R・アマサキだ」
「日本(にほん)第二ブロック代表の蒼凪恭文です。初めまして、ミスタージオウ」
「ジオでいい。敬語もいらねぇよ……アンタのことは、ナターリアからいろいろ聞いていてな。
本当はコイツ、お前に会いたいがために、ブラジル予選に出たんだよ。まぁそれを決勝で叩(たた)き潰したんだが」
「そうしたらジオ、ナターリアをセコンドにしてくれたノ。それでナターリア、ヤスフミとやっと……やっと会えた」
ナターリアは涙ぐみながら、また僕に全力の抱擁。しかも軽く嗚咽(おえつ)を漏らしながらだから、離そうにも離せない。
大きな胸から伝わる鼓動、その高鳴りだけで、ナターリアが僕とどれだけ会いたがっていたか、分かってしまうから。
「ごめん……全く気づかないで」
「イイヨ。びっくりさせたくて、ナターリアも内緒にしてたカラ。……ヤスフミ、ナターリア……勉強シタヨ。
本当はヤスフミを独り占めにしたかったケド、奥さん達とイッショでも……いいかなッテ」
「何を学んだ!?」
「いや、お国柄だろ。ブラジルはイスラム教の影響が強いからな」
ジオさんの補足で思い出す。……そうだ、イスラム教では一夫多妻がOKだった。いや、宗教なので、いろいろ事情が絡むんだけど。
でもナターリアの家、無宗派だったはずじゃ! それが勉強かぁぁぁぁぁぁ!
「それにカゾクがたくさん、楽しそう。ナターリアもオシゴト頑張るから……ヤスフミ」
「は、はい」
「まずは……フェイト、サン? ナターリアに会わせてホシイ。それに、ヤスフミの赤ちゃんとも会いたい」
「……アンタ、ほんと頑張りなさい」
あれ、歌唄が応援に回った!? 何だか肩を叩(たた)かれたんだけど! というかジオさんも……!
「じゃあナターリア、明日までは自由行動な。親交を深めるといいさ」
「ウン! ジオ、ありがと!」
「ちょ、ジオさん待って! 一応敵チームなのに!」
そして止める間もなく、ジオさんは脱兎(だっと)。
「はははははは! さらばだ明智(あけち)君!」
「おのれは何人だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして止める間もなく、ジオさんは消えてしまう。……あ、嫌な予感しかしない。
ナターリアは離れてくれないし、リインはふくれっ面。千早は何やらぶつぶつ言っていて怖い。しかも。
「や、ややややややや……恭文さん! その方は誰ですの! どうしてくっついていますの!」
≪あ、きましたね≫
≪主様、アーメンなの≫
セシリアまでもが……! というか、フィアッセさんとゆうひさん、キリエ達の視線も感じる! あれ、おかしい……僕、MVPで大勝利のはずなのに!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
メガサイズザクは見事にぶち倒せた。しかしPPSE社の奴ら……取りあえずトウリさんと部屋へ戻り、エストレアのチェック。
機体の損傷は軽微だから、やっぱり明日までに何とかなる。問題があるとすれば。
「どうしてセイ君達にまで、だよねぇ」
「そうッスねぇ」
試合観戦で疲れた様子な、らぐとリー達を起こさないよう、玉こんにゃくを食べながら密談です。
「確かあの二人、三代目メイジンと因縁があったッスよね」
「恭文君の話ではそうだね。でも因縁と言っても、PPSE社が口出しするレベルじゃない。
正体についてもメイジン本人や、セコンドのアラン・アダムスが口止めしている。理由としては」
「弱いッスか」
トウリさんは玉こんにゃくをもう一つつまみ、幸せそうにもぐもぐ。いや、分かる……これ、マジでおいしいもんな。
「よし、こっちは恭文君に丸投げしよう」
「いいんッスか」
「俺達は初対面だし、さすがに触れにくいって。それより大会のことだけど……スタービルドストライク、どう思う」
「欠陥機ッスね」
だよねー。……え、ヒドい? まぁまぁ待ってよお代官様。これにも理由があってさ。
「まずあの……粒子吸収(アブソーブ)ッスけど、やっぱりシールドそのものを奪われたら使えない。
そしてそのディスチャージには、アクションが幾つか必要。あの粒子の星を展開するとか」
「あれは一種のブースターなんだろうね。ゲートを突破することで、粒子量を一時的に増やすというか、暴走させるというか。
ただその発動にはやっぱり、シールドの存在が必要不可欠。今日だってブッパするとき、ライフルと接続していたし」
「その辺りを上手(うま)くやれば、あとは馬鹿高い基礎性能への対処だけ。
でもそれもトーナメントでは、足かせになりやすいッス。……気づいてるッスよね」
「もちろん。ビルドストライク、RGシリーズ張りのパーツ分割・フレーム構造だ。恐らくはRGのストライクを元に改良している」
つまりさ、地区予選で使っていたビルドストライクとは、ベースそのものが違うんだよ。
そしてRGの完成度は言わずもがな。それが高い基本性能の骨子となっている。……でも。
「それゆえに一度深く破損してしまえば、修理には多大な手間がかかる。現にパートナーのレイジ君、かなり心配してたし」
「それを連日、厳しい戦いを強いられるトーナメント内で、どこまで通せるか。
PPSE社やら、チーム・ネメシスみたいなワークス系ならともかく……個人ッスから」
「相当予備パーツを用意している、とかかなぁ。それなら欠点ではないけど……まぁ油断せずにいこうか」
「はいッス」
二人で玉こんにゃくを食べつつ、今日のトーナメントをどんどん復習していく。……それもビルドストライク……いや、イオリ・セイの欠点。
完成度と作り込みが高すぎるが故に、トーナメントでのクオリティ維持が非情に難しい。もっと言えば整備性が極めて低い。
もちろん解決策は、今言ったように存在する。予備パーツをしこたま量産するか、それが大会中にできる状態を維持するか。
もっと言えば人員だ。例えばF1などのモータースポーツでは、たくさんのスタッフが一台のマシン、操縦者の管理を行う。
レース中も最新技術により、マシンの速度や状態をチェックしていく。そこで問題があれば、素早く対処するわけだ。
ここもワークスチームと、個人チームの差となるだろう。今日撃破されたキュベレイパピヨンだって、明日にはケロッとした顔で再登場するはず。
それでもう一つ……コンセプト上の設計ミス。もし粒子吸収・開放のみが切り札なら、もう恐るるに足らず。
ただ強ければ、ただ完成度が高ければ……残念ながら世界大会では、それだけじゃ駄目らしい。
だから今頃、セイ君は戦っているはずだ。彼の戦場はテーブルの上――ガンプラ制作にあるんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時刻は夕方――思い通りにならない忌ま忌ましさを感じながら、ドーム前に設立された、創設メンバー用の宿泊施設へ。
あのレイジという少年を排除できなかっただけじゃなくて、誰も……誰も、ボクのサプライズを理解してないって何。
むしろテレビ局からもちょっと怒られたんだけど。視聴率、その瞬間がた落ちって嫌みを言われたんだけど。
ああもう、ほんと腹立たしい! イライラしながらも会長用の、オフィスも兼ねた部屋でモニターとにらめっこ。
レイジ……同じ名前、容姿も……成長しているなら、こんな感じかもしれない。他人の空似にしては似すぎている。
だがもしそうなら、なぜ何もしてこない。私の考えすぎか?
「おやめください!」
あれ、ベイカーちゃん……すっごく焦った声!? ま、まさか。
「アポイントメントなしに会長にお会いすることは!」
「そこを曲げろと言ってる!」
あ、メイジンかー。ホッとしてデスクから立ち上がり、押し入ってくるメイジンを迎え入れる。
「失礼!」
「おーおー、これはこれはメイジン・カワグチ。よくきたねぇ、御活躍みたいじゃないの−。で、どうしたのいきなり」
「マシタ会長、幾ら大会主催者とはいえ、勝手な真似(まね)は慎んでもらいたい」
「ん、何それ……あー、ザクを出したこと? でもいいじゃないー、あのサプライズでみんな驚いてくれたし」
「驚いた結果、真剣勝負の邪魔をしたと大ひんしゅくだが」
「し、視聴率も変化したし」
「ダダ下がりらしいな」
「そうそう! 協賛メーカーも大喜びなんだから!」
「ガンプラとバトルに理解がない、一部の派手好きだがな」
……その通りだよ、ちくしょー! というかさりげにボクもディスったよね!
ボクもただの派手好きってディスったよね! メイジンなんて嫌いだー!
「ま、まぁまぁ……メイジンも派手なパフォーマンスで、ファンを沸かせちゃってよー、頼むよー」
取り繕い肩を叩(たた)こうとした瞬間、その手は掴(つか)まれ……一気に捻(ひね)り上げられる。
「い、痛い! 会長の腕が痛い−!」
「勝手な真似(まね)は謹んでもらいたい」
「メイジン、いい加減にしなさい! 会長はあなたのように、ガンプラで戦うだけの男ではなくてよ!」
そしてベイカーちゃんは後ろから、メイジンを止めようと手を伸ばす。
「ちゃんと社のことを考えた上で」
……が、メイジンの眼光一つで停止させられる。だ、駄目……それは説得力がないー!
結果被害が出ている――そう言ってるからー! とにかく離すように説得を。
「会長、勝手な真似(まね)は」
駄目だ、こっちが折れないとこのままやり続ける! 目が……サングラス越しの目がそう言ってる! というか二代目の再来だー!
「しないしない! もうしないってばー! だから許して−!」
「ならば結構」
ようやく手が解放され、そのまま床に倒れ込む。
「邪魔をした、失礼する」
そしてメイジンはボク達なんて見ることなく、すたすたと去っていった。うぅ……!
「痛い! 腕外帯−!」
「会長、お怪我(けが)は!」
「飛んでけして! 飛んでけ−!」
のたうち回りながらお願いすると、ベイカーちゃんは笑顔でボクの腕にフーフーしてくれる。
「痛いの痛いの……飛んでけ〜」
……するとなぜだろう。痛みがスッと引いたので起き上がり。
「治ったー♪」
でも本当に痛かったぁ……やっぱりメイジン、三代目になっても使いにくいなぁ。
こういうことがないように、こっちでも候補者をたくさん仕立てたのに……アイツ、全部はねつけちゃうんだもん!
いや、その分実力は保証されているけど!? でもボク、会長なのにー! ああもう、悔しい−!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
タツヤは怒り心頭で抗議……強引に押し通ったそうだから、ヤスフミのことは余り言えないと呆(あき)れたものだ。
とにかく会長へもお仕置きしたのに、それでも怒りは収まらない様子。選手村の自室に戻ったタツヤは、険しい表情で外を見ていた。
「全く……マシタ会長にも困ったものだよ」
「失礼千万だ。あんな勝手な真似(まね)をされては」
「勝手をしたのは君もだけどね」
「何のことか」
「そうだったね」
……タツヤは一応、手出しはしなかった……そういう話になっている。でも実際は違う。
人気のない場所から、三キロほどの長距離スナイピングを敢行した。スタービルドストライクの必殺攻撃が放たれる直前、足を撃ったアレだ。
ウェポンバインダーに搭載していた、狙撃用の長銃身に換装。その上で、ヤスフミの反対方向からズドンだ。
そう、左肩アーマーを粉砕した砲撃は、ヤスフミのパーフェクトAGE-1だ。打ち合わせはしてなかったはずなのに、どんぴしゃってもう。
「あえて言おう」
「どうぞ」
「傷ついたガンプラを倒して得た勝利に、何の価値がある」
「ないね」
「ただ勝利するだけではない。ベストな状態の相手を圧倒してこそ、名人たり得る」
それがユウキ・タツヤの目指した、メイジン像。なぜタツヤがザクアメイジングを使い続けていたか、そこにも絡む大事な話だ。
……ザクアメイジングは遠中近とオールレンジに対応した、高性能ガンプラ。しかしその実、必殺攻撃に等しいものはない。
そこはケンプファーアメイジングも同じだ。だがそれゆえに、『アメイジング』はあらゆるレンジで相手を受け止められる。
相手の得意な領域へあえて乗り込み、その全力を受け止め、なおかつ自力で圧倒する。
それこそがタツヤの描いた、メイジンのガンプラ。アメイジング――進行中の名を有する意味。
マシタ会長の余計なお世話で勝っては、意味がないんだよ。それは相手の全力を受け止めることにならない。
「それを証明するためにも、一歩引く気はない――!」
タツヤは手に持ったサングラスを見つめ、決意を新たにする。……ボクが惚(ほ)れ込んだ、夢の輝き。
それは変わらずなのに安心しつつ、モニターを見やる。そこには今日のバトルが映されているんだが。
「ところでタツヤ、イオリ・セイとレイジは、PPSE社と揉(も)めたのかい」
「……あのメガサイズザクが、イオリ君達を狙っていた件か」
さすがに気づくか。君は援護のタイミングを見計らい、ずっと彼らを見ていたんだから。
「マシンガンも、クラッカーも、バズーカも、ミサイルも……その視線でさえも、彼らが独り占めにしていた」
「だがそんな覚えはない。私の件も恭文さんが上手(うま)く説明してくれたようで」
「例のコウサカ・チナ君は?」
「それこそないだろう。常識的に考えれば、私の状況はあり得ない。コウサカ君の反応は当然だ」
「でも、そうは思わない人もいるかもしれない。……少し調べてもらった方がいいかもしれないね」
ただボク達は余り派手に動けない。反逆中だし、隙(すき)を見せたら引きずり下ろされそうだ。なので携帯を取りだし。
「Xに頼もうか」
「秋山玲麻(アキヤマ・レマ)か。だが彼女にできるのか」
「君には言ってなかったね。実は彼女、まだメイジン候補なんだよ」
「私の後釜か」
「違う違う。企画段階なんだが」
君が駄目な場合に備えての……タツヤの思考は当然だけど、少し違いので左人差し指をフリフリ。
「いわゆる女流名人を立ち上げられないかってね」
「つまり」
「あえて言わせてもらおう――レディ・カワグチだ」
ベアッガイなどの可愛(かわい)いガンプラによって、女性ビルダー・ファイターも増加傾向にある。
セシリア・オルコットやアイラ・ユルキアイネンなどは、飽くまでも一部という話だ。
もちろん彼女達が活躍することで、この輝かしい舞台を目指す人達も、もっと……もっと増えていく。
そんな女性モデラー達の目標となる、新しいメイジンを作れないか。そういう話が持ち上がっているんだ。
男性のタツヤとは違う視点とやり方で、輝ける星となれる女性。そこで目を付けられたのが、Xことアキヤマ・レマ。
……ガンプラ塾終了後、PPSE社が選出したメイジン候補。タツヤともつい最近、メイジンの座を争い戦った間柄だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……選手村の自室へ戻った結果、どうにも空気が微妙です。というか、何か……女性比率高すぎ!
ダーグとディアーチェ、シュテル、ユーリにアミタは逃げちゃうし、これを僕に収めろと!?
そう、女性比率が高かった……チームとまとだけでなく、フィアッセさん、ゆうひさん、キリエ……ナターリア。
更に貴音と美奈子、セシリアまで……というか、美奈子はどうしてかメイド服を着ていた。どういう、ことなの……!
「よし、一つ一つツッコもう。まず……なぜ美奈子はメイド服!?」
「だって御主人様のメイドさんだから」
「わたくしは取材の申し込みです」
「取材? ……あー、そっか。キュベレイパピヨンやメガサイズAGE-1も撃破したし、MVPだもんね」
「それに生すかに関係しているファイターなので……特にメガサイズ、でしたね。
そちら絡みのお話が聞きたいのです。あなた様、いきなりで申し訳ありませんが」
どうやら貴音も、アレについては無粋と考えているらしい。目が一気に細くなったもの。……そうだね、これも大事な戦いだ。
「うん、大丈夫だよ。じゃあえっと」
「夕飯後で構いません。すたっふと響は今、フェリーニ殿からお話を聞いていますので」
差し当たっての許可を取った。つまりはそういうお話らしい。それならセイ達にも取材するべきだと思うけど……そこは後で聞いてみるか。
「あ、それでお夕飯」
美奈子がどーんと取り出すのは、十段重ねのお弁当箱。ま、まさかこれは……!
「作ってきたよー。御主人様の大好きなものばっかり! さ、みなさんもどうぞー」
「おぉ……何だか美味(おい)しそうだぞ! ミナコ、ありがとー!」
「ありがとうですー♪」
「感謝するぞ、美奈子! 私も腹が減ってしょうがなかった!」
「……さっきまでクロワッサンを食べていた奴が、何言ってんだ」
「お姉様、本当に底なしですね」
リインとレヴィ、ヒカリは大喜びで、美奈子に抱きつく。でも……ちょっと、ツッコんでいこうか。
「あ、ありがと……でも、作ってきた?」
「うん」
「調理場とか、どうしたの。食材も……てーかおのれ、生すかの取材で滞在してるよね!」
「違うよ! 御主人様のメイドとしてだよ!」
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
おかしい! 一応プロデューサーだから、取材関係の話は聞いているのに! それなのに違うって本人が否定したよ!
……あぁ、リインがまた髪を揺らめかせて、メドゥーサみたいに! 千早も無言のまま笑いかけてくる! 怖い、怖すぎる!
「旦那様、大丈夫。わたし達が旦那様に求めるのは、精神と肉体の繋(つな)がりなの。経済問題はみんなで解決していきましょう」
「おのれはいきなり何のお話!?」
「最近旦那様の書庫で見つけた漫画が……『おふらいんげーむ』って言うの」
「それR18でしょ! というか僕は買ってないんだけど!」
≪あなた、言い訳は見苦しいですよ≫
≪なのなの。主様は勉強していただけなの。恥じることはないの≫
「本当に知らないんだって! そもそもR18コーナー、ここ一年近く増えていないし!」
そう、R18コーナーは聖夜市(せいよし)暮らしを始めてからも存在している。ただ……実は総数としてはさほど増えてなくて。
ほら、子作りでいろいろ忙しかったからさ。それにあむ達も遊びにくるから、極力目が届かないように配慮してたの。
だから場所自体も、結構奥まったところに……五月からはユーリもいるから、余計に気を使っていたんだけど。
誰かが買って、中に入れた? でもそれができる人間は……シャーリーか、フェイト、ティアナ。
でもシャーリーとティアナは除かれる。だって二人なら、自室に隠すでしょ。普通に書庫へ入れないでしょ。……つまり。
「……フェイトの仕業かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「即行で断定したなぁ。というかフェイトちゃん、どんだけよ。毎日ラブラブしとるんやろ?」
「ま、まぁ……とにかくみんな」
「うん、とにかくだね。……勝ち抜きおめでとー♪」
そしてフィアッセさんがハグ……こういう意味ですかー! こっちに突き抜けるんだ、フィアッセさんは!
「むぅ……でもナターリア、さっきいっぱいハグしたから……我慢、スル」
かと思いきや、フィアッセさんは笑顔で手招き。……ナターリアは意味を察するも、少々戸惑う。
でもフィアッセさんが念押しで頷(うなず)き、僕達を揃(そろ)って抱き締めてくる。ちょ、ナターリアとの密着具合がー!
「わぁ……フィアッセさん、とってもおっきい。ナターリア、負けてる」
「ナターリアちゃんはまだまだ成長するよ。でも嬉(うれ)しいなー、やっぱり家族がたくさんっていいよねー」
「じゃあナターリア、いてもいいの?」
「もちろんだよー」
あれ、僕はどうなっているの! 何でフィアッセさんが決定!? ナターリア、嬉(うれ)しそうにしている場合じゃない! 外堀が……外堀が埋められていく!
「……恭文さん、是非お話を伺いたいですわ」
「セシリア!?」
「どうしてイギリスの至宝、フィアッセ・クリステラさんが、あなたにべた惚(ぼ)れですの!」
きゃー! セシリアが憤怒(ふんぬ)の炎を−! そうだよね、そうなっちゃうよね!
イギリス国民にとって、フィアッセさんはもはや現人神(あらひとがみ)だよね! そりゃあ驚くよね!
取りあえず両手でなだめながら、セシリアには事情説明。そう言えば、話していなかった気がする。
「その、十年来の付き合いゆえで」
「私が婚約者だったのに、フェイトちゃんとお付き合いしちゃうしねー」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「……旦那様、やっぱり覚悟を決めるしかないわよ。全員引き受けないなら、逆に最低じゃない」
どういう理屈!? あれ、おかしい! 一生懸命生きてきただけなのに、すっごい瀬戸際に立たされているような!
「むぅ……そっちの新キャラと、おっきいお姉さんはくっつきすぎだ! ボクだってヤスフミにぎゅーっとされたい−!」
そしてフィアッセさんが、再度手招き……じたばたし始めたレヴィをも受け入れ、凄(すご)い圧力が……こ、これは理性にきつい。
「……今回だけは、許してあげようかな。ヤスフミともくっついてるし」
「レヴィちゃん、それはチョロいんじゃ。……でもこのピリオドで、キュベレイパピヨンを落とせたのは大きい……のかな」
ともみが困り顔で、話を戻してくる。でもごめん、僕……大したアクションが取れない。
「大きすぎるでしょ。相手の基礎能力も暴いたし、『絶対に倒せない敵』ではないことが証明されたわ。
もちろん向こうも相応の対策を整えてくるはずよ。あとは油断せずに……そんなところよね、恭文」
「まぁね。というか、決して油断できる相手じゃないよ。今日だって一歩間違ってたら、一撃で倒されていた」
作業机に置かれた、傷ついたパーフェクトグランサを見やる。どれもこれも皮一枚だったけど、深く踏み込めば肉と骨に届く。
それもほんのちょっとの差だ。でも何だろう、動きが若干ぎこちなくも感じたんだよね。
何かを引きずっているような、そういう重さがあった。粒子感知能力の限界値なのかな、あれは。
「でもほんと、どうやって粒子の流れを見ているのか」
「そこは確定なのよね」
「実際に戦って、確信が持てたよ」
「リインも同じなのです。あの動きが読まれる感覚……それも先読みとは違う、もっとシステム的なところから察知される恐怖。
あのとき味わったものと全く同じなのです。もしアレを経験してなかったら、さすがに」
「勝てなかったね」
「……その経験についてはいろいろお聞きしたいですけど、疑問については答えがあります。
もしかすると彼女は特殊な能力者――サイキッカーかもしれません」
システムではなく、いきなり人に断定した。その鋭さにレヴィ達も驚き、自然と僕から離れてくれた。だってセシリア、そう言いながら僕を見ていたから。
「実は折りを見て、御相談しようと思っていたことが」
「相談? イギリス代表なセシリアさんが、恭文さんにですか」
「それは少し違います。第一種忍者、蒼凪恭文さんにです。……実はチーム・ネメシスは、フラナ機関という怪しい連中を引っ張り込んだようで」
「フラナ機関? で、どう怪しいの」
「フィンランドのストレートチルドレン達に、声かけをしていたようで。今チェルシーにその辺りを調べてもらっています」
ストレートチルドレン……ふむ、大体の流れが見えたので、手帳を取り出してメモ開始。
「ようするにアレ? ソイツらは身寄りのない子どもを利用して、何らかの研究をしている。それもわりとアウトな方向で」
「確証はありませんが……そういった子ども達ならば、衣食住を確保さえすれば、相応に従順となるでしょう。
もし言うことを聞かなければ、放り出すとでも言えばいい」
住むところもない苦しさ、食べるものにも事欠く日々、身なりを整えることすらできない経済状況……それは鎖に早変わり。
セシリアの推測は余りに的確。でもそれゆえに、歌唄やりん達の怒りを強く煽(あお)る。
「何それ……! マジだったら大問題じゃん!」
「分かった。知り合いの人達にも聞いてみるよ。あとチェルシーさんとも連携したいから」
「後でお呼びします」
「でも嫌な話やけど、何でガンプラバトル? 基本は遊びやし」
「チーム・ネメシスに属しているところから、容易に推測できますわ。……フラナ機関はやり口こそアウトなれど、ガンプラバトルに対しては本気。
そこで大口のスポンサーを見つけ、世界大会で優勝などすれば……たちまちその名前は世界に広まります」
「実際問題、バーサーカーシステムなどの暴走装置を使って、バトルに勝とうとした馬鹿どももいるしね」
説明しよう、バーサーカーシステムというのは、機動戦士Gガンダムに登場する用語。
名前の通り、操縦者ごと機体を暴走状態に起き、その能力を底上げするというもの。……本当に作った馬鹿がいるんだよ。
「バーサーカーシステム? ヤスフミ、それって」
「簡単に言えば暴走状態を引き起こす機能。操縦者もろともね。……問題になったのは、プラシーボを利用した『なんちゃって』。
いわゆる思い込みの力……暗示によって、暴走していると思い込ませ、操縦者の反応を跳ね上げるんだ」
「もちろん機体性能も、それに見合ったブースト状態が使えるように調整してね」
そこで千早が復活……でもさり気なく僕の左腕にくっついてきて、笑顔……それが怖い。あの、怖いです。如月さん……!
「でもそれは催眠操作でもあるから、PPSE社は即日でバーサーカーシステム、又は類似する機能の再現を禁止しているわ。
もちろん破ったチームには、公式大会への出場停止処分という重い処分が下される。それも数年間……場合によっては永久に」
「そ、それは怖すぎるぞ! というかガンプラバトルで催眠!? やり過ぎだろ!」
「それだけ世界大会という場が、一攫千金(いっかくせんきん)も狙えるフロンティアって話だよ。
……しかもガンダムというコンテンツの永続性は、ガンプラとガンプラバトルにも影響している。
ただの遊びではあるけど、それで食いっぱぐれることがないなら、立派な一大事業です」
「そっかぁ……ガンプラバトルは、ガンダム自体が消えたりせん限り、なくならんわけやな。でも遊びで、そんな怖い真似(まね)は……なぁ」
しかもゲーム・小説・漫画などで、外伝作品も多く出続けている。歌唄が大好きなサンダーボルトだってその一つだよ。
それでも……無粋すぎる。きっとこれも、変えていくべき可能性の一つだ。まずはそれが真実かどうか、確かめるところから……あ、そうそう。
「それで余談なんだけど、その辺りの問題を検証した結果、少し興味深いことが分かったんだ。
……プラシーボ効果による暴走は、『ガンプラと一体化』するとも捉えられる。
だからね、ガンプラが傷つくと……自己暗示の影響として、自分の体にも痛みが走る」
「はぁ!? 旦那様、それ……え、マジ!?」
「マジなんだよ。それにガンプラバトルで考えるとアレだけど、一流の格闘家はイメージトレーニング中、同じ現象が起きるらしい。
敵の姿、攻撃、その痛みを詳細にイメージしすぎると、脳がダメージを受けたと錯覚する」
「私も聞いたことがあります。現象も用語もつけられていて……アシムレイト」
「うん」
でもガンプラバトルの激しい損傷が、肉体に跳ね返るのは……痛みだけに留まらない危険もある。
さっき言ったイメージトレーニングでは、アザや切り傷などができる場合もある。
人間のイメージは基本曖昧だけど、それが極まったときの影響は、肉体すら騙せるわけだ。
そんなこともあるのかと、みんなが身を引き締める中……千早はなぜか笑い出した。
「実はアシムレイト、目標でもあるんです」
『えぇ!』
千早が凄(すご)いことを言い出したので、さすがにみんな慌てる。でもすぐに手を振り、千早は訂正。
「あの、催眠行為を認めているわけじゃないの。もちろんそれは、絶対に許されないことだと思う。遊びの範疇(はんちゅう)を超えているし」
「では千早、なぜ目標だと」
「もし……もしも、そう言った機械や他者の干渉を抜きに、自分のガンプラとそこまで……痛みすらも共有できるほど、一つになれたら」
千早が取り出すのは、修復されたジム・ウンディーネ。いとおしそうに機体を撫(な)で、頬を緩める。
「そんなレベルで一緒に戦うことができたら。それはすばらしいことだと思うんです」
「……納得しました」
「……そうだね。その気持ち、僕も分かるよ」
ガンプラと一体化……それは僕がバトルを教えるとき、いつも言っていることだ。ガンプラと人間では動き方も、構造も違う。
だからガンプラの限界値を理解し、それに合わせた操縦を心がける。そうして一体となっていくことが、基礎であり極意。
アシムレイトは発見された要因こそ喜べないけど、確かにビルドファイターにとっては目標だった。
心を一つに――そんな未来を夢見て、僕達は自然と笑っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
選手村へ戻り、早速ビルドストライクの調整。シールドは予備に入れ替えで問題ないけど、新しいものも作っておかないと。
内部フレームの一部と、胸部・左肩スラスターも作り直し。あー、メインスラスターも弄(いじ)らないと。
やることが結構たくさんで、目が回りそう。でも……これは僕の仕事だ。レイジが全力を出せるよう、頑張らないと。
「セイ、メシの時間だってよ」
部屋のドアが開いて、レイジが声をかけてくる。でもそちらは見ずに。
「このまま作業を続けるよ。レイジ、あとでまた買い食いしに行くんでしょ?」
「ぐ」
「そのときでいいから、コンビニで何か買ってきて」
「分かった」
簡単に応対して、終了……素っ気ないとは言わないでほしい。ビルダーとして、頭の痛いところもあるから。
敵の粒子ビームを変容させ、吸収するアブソーブシステム……でもその秘密は、既に暴かれた。
やっぱりルワンさんだけじゃない、他のファイター達にも見抜かれている。そう考えて動いた方がいい。
更に吸収した粒子を全面開放する、ディスチャージシステムも……分かってるよ、これが弱点だらけだって。
というか突きつけられた。改めて感じているよ、世界の壁を。……状況次第では、最終トーナメント前に使うかもしれない。
粒子吸収(アブソーブ)、全面開放(ディスチャージ)に続く、第三のシステム――RGを。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やっぱりセイ、張り詰めてたなぁ。まぁ当然か、準備期間もほとんどなくて、作りもややこしいんだ。
今まではそれでもセイを信じて……ってやっていたが、どうにも焦(じ)れったい。何でなんだろうなと考えながら。
「ありがとうございましたー」
コンビニを出る。……そっか。地区予選のときは、一週間に一試合だったからな。でも今は連日だ。
修理する時間は凄(すご)く限られていて、それを上手(うま)く使うことも大事。てーかそれができなきゃ、全力で戦えない。
セイのガンプラはすげぇ。でも万全じゃなければ……なら何ができる。オレに何が……考え込んでいると、三時方向から茶色い袋が投げ込まれる。
慌ててそれをキャッチすると、あの銀髪女が立っていた。
「何だこれ、肉まん……ん?」
「この前、渡されたお金が多かったから……その差額分、返すわ」
「お前、これだけのために、わざわざ俺を待ってたのか?」
「……アンタなんかに借りを作りっぱなしは嫌だから、早めに返そうと思っただけよ」
そっぽを向いた女に呆(あき)れながら、肉まんは突き返しておく。
「え」
「いらねぇよ、冷えてんじゃんか」
「仕方ないでしょ! アンタ、いつ来るか分かんないんだから!」
「誰も待っててくれとは頼んでねぇよ」
てーかオレのために……そっか、携帯電話ってやつもないからなぁ。それは悪かったと思っていると。
「受け取りなさいよ!」
「いらねぇって」
袋が突き返される。でも一度返したものを受け取るのは……迷いがあったので、改めて袋を返す。
「それじゃあ私の気が済まないの!」
だがそこでまた突き返され……袋が落ちる。慌てて右手を伸ばし、落ちかけた袋をキャッチ。
「「……はぁ」」
駄目だな、意地の張り合いとか無駄かもしれない。そう思いながら顔を上げると、銀髪の顔がすぐ近くに。
「……は!」
「あ?」
いきなり逃げるように、銀髪が離れた。……すると右横からなぜか口笛。そっちを見ると、ジャンパーを着た兄ちゃん達が三人、そこに立っていた。
「何だ何だぁ……ガキが何盛ってんだよー」
「ひゅーひゅー」
「いや〜ん、ここじゃダメェー♪」
コンビニに入ろうとしていた暇人は、軽くからかってきた。まぁそれは適度に流して。
「何言ってんのよ! 馬鹿じゃないの!?」
だが煽(あお)り耐性〇な馬鹿がいた。……その途端に奴らは足を止め、こっちに敵意を向けてくる。
「あぁ?」
「誰に向かって言ってんだ……オラァ!」
銀髪が自業自得で身構えるので、ため息交じりに前に出る。喧嘩(けんか)はよくない……だったよなぁ、ラルのおっさん。
「まぁ待てよ。コイツは照れ隠しをしただけだ、笑って許してやれ」
「はぁ!? 照れてないわよ! アンタも馬鹿なの!?」
「オレのような超絶美男王子とそうなれるなんざ、そりゃあ女として光栄だろ。
だが素直に認められないんだよ、女はそういうものなんだよ。意地があるんだよ。
男ってのはそんなところも可愛(かわい)いもんだと受け入れて、笑ってやるのが器量なんだよ」
「アンタはどんだけ自信過剰なのよ! 自分で美男王子って言って、恥ずかしくないの!?」
「事実じゃねぇか」
あっけらかんと言い切ると、奴らも、銀髪も唖然(あぜん)。そう、それこそが王族の教え……これで奴らも。
「ほ、ほほう……つまり、アレか」
すると赤ジャージの奴が、持っていたバッグから……なんだ、あの金属の棒は。
「器量がないってことかぁ! てめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちくしょお! 美男子なんて……美男子なんてぇ! もう止められねぇぞ! 兄貴はもう止められねぇぞ!」
「兄貴はな、つい最近惚(ほ)れた女に、『器量が狭い』って振られたばっかりなんだよ! しかもイケメンに……くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……アンタ、逆に煽(あお)ったみたいよ?」
「あ……何か、悪い」
だが許してくれる雰囲気じゃ、ないよなぁ。てーか金属の棒って何だよ。何で普通にメイスっぽいのを持ち歩けるんだよ。……やるしかねぇか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
メイジンの嫌がらせなどすっ飛ばし、ベイカーちゃんにワインを注(そそ)いでもらう。ルビー色の輝きに目を細めていると。
「会長はなぜそれほどまでに、あのレイジという少年を気にされるのですか」
ベイカーちゃんはボトルをワインクーラーへ戻しながら、そう聞いてきた。
「理由を言わないといけないかな」
「言いたくなければ、それでも構いません。私は会長に従うだけです……昔も、今も」
「ありがとう。で、首尾は」
「御要望通り第三ピリオド、イオリ・セイ&レイジ組と、蒼凪恭文&蒼凪リインの対戦相手を、調整しておきました。
……二人にはタイ代表、ルワン・ダラーラ。蒼凪恭文にはブラジル代表、ジオウ・R・アマサキ&ナターリア組を」
その二組は相当に強いらしく、ベイカーちゃんは楽しげに笑う。
「彼らの敗北は必至です」
その返答に満足して、ワインで喉を潤し、つまらない喧噪(けんそう)も吹き飛ばす。……この少年が王子であるはずがない。
しかしあんな少年がいるのは、目障り極まりないのだよ。そしてゴーストボーイ、君もだ。
やっぱり邪魔、させてもらうね? 君がカテドラルなんて出してきたら……ほんと、迷惑だからさぁ。
(Memory46へ続く)
あとがき
恭文「というわけでVivid編、第45話です。……バトルロイヤルも終了と言ったところで、お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、今回はセイ君達の活躍と」
恭文「読者アイディアな機体とキャラがたくさん……更にナターリアも登場!」
(アイディア、ありがとうございました)
恭文「ナターリアは可愛いなー。CVつかないかなー」
フェイト「う、うん……でも私も負けないよ? うん、勉強したから」
恭文「あ、それ絡みでお仕置きね」
フェイト「なんでー!」
(閃光の女神、納得できずにじたばた)
フェイト「でもヤスフミ、アシムレイトやレディ・カワグチの話が」
恭文「アシムレイトについては、わりと多く扱っていくから、今のうちにネタ振り」
(もっと言えばあのラストバトルこそ、アシムレイトの存在理由かと)
恭文「とにかく全く懲りていないマシタ会長とベイカー……奴らに救いはないのか」
フェイト「ない、のかなぁ」
(とにかく次回は第三ピリオド……その辺りも考えつつ、作者は風邪気味なので早くお休みします。
本日のED:AiRI『Imagination > Reality』)
恭文「そうだ、ちょっと連絡事項を。先日、こんな拍手が届きました」
(※メロンブックスで販売しているとある魔導師と古き鉄と豪快な奴らの1巻が見あたらなかったのですが、削除したのですか?)
恭文「こちらですけど、販売リストを調べたところ……削除等はしていません。ポイントも使って試したところ、購入も可能でした。
ただ商品名をフルにすると、検索が今一つ機能しないようでして。というか、一部ワードで『豪快』ってやっても一巻だけがない形に出たり」
古鉄≪一応メロンブックスDLS様には報告しましたが、今のところ不具合らしきものは見られないそうです。
一応今は豪快って検索したら、出るようには……ただこちらがリストから商品ページに入ったせいとも考えられます。
なのでまた何かありましたら、ご報告いただければと。以上、業務連絡のコーナーでした≫(ぺこり)
あむ「でもスタービルドストライクが酷評……欠陥機って言われたし!」
恭文「それも正確ではないけどね。ただ個人チームであるセイとレイジが運用するには、課題が多いって話だよ。
あむ、あむの家だって車があるよね。それだって買ったら永久に使えるものじゃなくて、ちゃんと整備が必要」
あむ「うん」
恭文「でもそのパーツ代が高かったり、パーツそのものがなかったら? ちょっと壊れただけでもう乗れなくなるでしょ。
基本はそれと同じなんだよ。セイ達の技量と人員で、スタービルドストライクを常に万全にできるか。
しかも世界大会はF1などのモータースポーツと同じく、機体の酷使が前提にある。だからこそ地区予選から、一か月単位のインターバルがあるんだよ」
あむ「その準備もしてねって話なんだ。……じゃあセイ達、かなりヤバいじゃん! 完成だってギリギリだったし!」
恭文「もちろんニルスやリカルドは事情を知らないけど、レイジやセイの様子から察したんでしょ。
ちょっとした損傷が命取りになりかねない……整備関係では、綱渡りの機体だってさ」
(おしまい)
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