小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory44 『メガラッシュ』
今日はロイヤルガーデンじゃなくて、うちでみんな集まっての鑑賞会。そうしたらヤスフミとリインがまた……ふぇー!
さ、さっきまで余裕しゃくしゃくだった相手に、全力で飛び込んじゃったし! でも……二人ともノリと勢いで
『これはすごい! あのカルロス・カイザーを破り、昨日今日と誰一人触れられなかったキュベレイパピヨンを追い込んでいる!
それを成したのは日本(にほん)地区第二ブロック代表、チームとまと――蒼凪恭文・リイン選手! ガンダムAGE-1 パーフェクトグランサ!』
「わぁ……ヤスフミー!」
「あうー!」
「ああー♪」
それでアイリ達も大興奮。まだ小さいけど、パパが頑張ってるーって分かるんだね。えへへ、何だか嬉(うれ)しいなぁ。
「でもアイツ、よく対処できますね。あの子の機動、完全に動きを読んでいるのに」
「だからこそなぎ君も、余り動かずすれすれの回避を心がけているんだろうけど」
「実はああいう相手とやり合ったとかかしら。全部動きを読まれるとか」
ティアの言葉でギクリとしてしまう。それでつい、つい顔をそむけて……そう、だよねぇ。
だってその、オーギュスト・クロエ相手に同じようなこと、やっていたもの。二人ならそういう相手も対処できるんだ。
うぅ、これはやっぱり奥さんとしては負けていられないよ。もっともっとレベルアップしないと……よし!
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まずい、エンボディゲージがどんどん上昇……アイラが怒り狂っている証拠だ。だが余り高すぎても身体に負担が。
「アンタ……!」
「冷静になれ! 感情を支配できない者はゴミだと」
「やってくれるじゃ……ありませんことですの」
変な敬語になった!? 指導しすぎたのではとビクビクしていると、アイラは構わず突撃。
するとAGE-1は重武装な体を鋭く回転。そして放たれるのはやはりシールドライフル達。
合計四発のそれを、アイラは素早く左に回避。更にテールバインダーに仕込んだ通常ファンネルも展開。
これならばあの最小限な動きだけで、回避などできまい。派手に動いた隙(すき)を狙い……だがそこで、更に警告音。
十六基のファンネル達を、アイラが操作し出したその瞬間、カメラは――キュベレイパピヨンの頭部が三時方向を見る。
すると避けたはずの回転粒子はカーブし、こちらへと迫っていた。
「何!」
「ちぃ!」
回避はできない。損傷とミサイルのダメージは大きい……いや、それ以前の問題だった。
ファンネル操作に集中した、その一瞬を狙ってきている。まさしく職人芸だろう。
回避へ専念するための、刹那の隙(すき)……その間に音速よりも速い粒子砲弾は迫り、アイラは防ぐしかなかった。
受ければ砕け散る、それはアイラにも分かっている。だから砲弾を一発、また一発と右薙・袈裟・逆袈裟・刺突と何とか払う。
しかし一撃払うために足を止め、踏ん張らなくてはいけなかった。そうしなければ吹き飛ばされてしまう。
それほどにこのビーム砲弾は圧倒的出力を持って、こちらに迫っていた。しかも、二発だ。
一発だけならまだいい、だがあのシールドライフルは二砲身に改良されている。
数が増えた分、その対処も難しい。それでもやってのけるアイラは、やはりスペシャルということだ。
だが機体は持たない。胴体部は腕を動かすたびにきしみ、ランスビットも酷使によって機能障害が出始めている。
だがなぜだ、どうして曲がった! まさか、SEEDのフォビドゥンのような機能が!
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回転運動の勢いで、ビームを曲げて射出する。機能ではなく、飽くまでも技術による誘導弾攻撃。
実は去年パーツハンターとやり合ったとき、やられたことだ。砲撃や普通の射撃、誘導弾とは違うベクトルだから驚いたっけ。
ドッズライフルでも難しくはあるけど、同じことはできた。……だからこそ回転を止め、逆回転。
また展開した右のサーベルから斬撃波を放ち、続けて左のシールドキャノンで射撃。
再び生まれる粒子の反発力は、昨日スタビルが見せた翼の圧力と同等……いや、それ以上にも思えるきらめきをまき散らす。
こちらを取り囲んでいたファンネル達は全期撃墜。
『最後のファンネルが!』
『ち……!』
更に回転を続け弾丸乱射。奴らの回避先を押さえるように、曲がるDODS弾丸が次々と迫る。
そうそう、素敵な情報ありがとう……てーか馬鹿めが! 最後のって情報を漏らしやがったし!
キュベレイパピヨンはこちらの射撃を避けることなど、もうできない。……それはなぜか。
一つはダメージのせい。二つ、DODS効果を付与したビームは、その出力から通常のものより大きくなる。
だからこそサーベルなどにも応用しているわけで。更に同時に二発分を処理しなきゃいけないから、その威力も倍増し。
ゆでたまご理論なら一発だけより一万倍くらい強くなっているはず。いや、もしかしたら十万倍かもしれない。
つまり受けに回った時点で、その衝撃をものともしない出力が出せない時点で、完全に詰みってわけだよ。
だからこそ攻撃を捌(さば)ききれなくなり、それどころか得物がへし折れる。
その衝撃で体勢が崩れ、放たれ続ける弾丸達を胴体部、足、肩などに食らい。
『馬鹿な……!』
『――!』
チョウは羽を引きちぎりながら爆散。……回転を停止し、爆炎を背にしながら息吹。
しかし周囲の警戒は怠らず、リインも決して油断しない。勝利したその瞬間こそ、一番危ないしね。
「恭文さん、やったですよ!」
「さすがはお兄様です」
「まぁタツヤよりは弱かったかな。……さて」
そうして次に見やるのは地球……このままいっちゃうか、メイジンとの対決を!
とか思っていると敵機反応。指示方向、上四十五度から迫ってくるのは。
『ああもう、出遅れましたわー!』
セシリアのストライク劉備ガンダムだった。攻撃する気配もなく、左隣へやってきてじたばたする。SDだからまた可愛(かあい)らしいのなんのって。
「セシリア、悪いねー。先にMVPは頂いたわ」
『だから悔しいのです! ……でも、ここからは共同戦線と参りませんか?』
「メイジンのところへ突っ込む予定だけど」
『構いませんわ、わたくしも用がありますし』
「……今更だけどリイン達、とんでもない馬鹿をやってるですね」
気にしない気にしない……というわけで。
『始めましょうか、わたくし達のオペレーション・メテオを』
「うん」
次はメイジンだ、楽しみだなー! やっぱりガンプラバトルは最高と思いながら、揃(そろ)って最大加速。
散ったチョウなどさておき、大気圏突入の準備に入る。こうして僕達は文字通り、流星となって地球へ舞い降りる。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory44『メガラッシュ』
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くそ……! 赤子の手をひねるってのは、ああいうことを言うんだ。まさか、スタービルドストライクがあそこまでたやすく。
それでも機体は何とか無事。既に地球の重力へ引きこまれてしまったから、このまま大気圏突入だ。
スタービルドストライクは半壊状態のアブソーブシールドを正面に構え、大気圏内の熱を切り裂きながら降下。
「どうだ、セイ」
「大丈夫、損傷は軽微だ。けどアブソーブシールドは使えない……ディスチャージは一回が限界! 注意して!」
「分かった! だが何でだ! アイツ、アブソーブシールドの弱点を知ってやがる!」
「知っているというか、あれは見抜いてるんだよ。たった一回で……あれが世界のレベルだ」
くそ、まさか第二ピリオドであっさり看破されるなんて、正直予想外すぎる。決勝ピリオドまではいけると思ってたのに。
……これから、ディスチャージできる機会はそう多くないかもしれない。なら、【RG】も予選ピリオドで?
そうなったらスタービルドストライクはほぼ丸裸。性能の全てを見抜かれたと言っていい。
これは大会中だろうと、改修作業を進めないと……いろいろ悩んでいる間に、大気圏突破。
摩擦で赤熱化していた空間が色を取り戻し、砂漠地帯を真下に映し出す。そして地表近く――爆発が幾つも起こっていた。
「何だあれ」
慌ててコンソールを叩(たた)き、爆発をズームアップ。そこに映るのは青赤のガウ攻撃空母と。
「あれは、ガウ攻撃空母!」
「えっと……最初のガンダムで見たぞ! てーかデカすぎねぇか、アレ!」
「どう見ても百四十四分の一スケールだしね。戦っているのは」
次に見たのは、バスターライフルを放つフェニーチェだった。
「フェリーニの野郎か!」
「ウイングガンダムフェニーチェ!」
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『貴様に……貴様に……! 去年ガールフレンドを横取りされた恨み! 晴らさせてもらうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!』
「あお!?」
叫びとともに爆撃が再開される……なので展開される機体下部ハッチを狙い、後退しながらバスターライフル発射。
我ながらめちゃくちゃ冷静に、とても冷酷に引き金を引けたのには驚くしかない。
黄色の奔流は投下されかけた爆雷を飲み込み、機体内部で大爆発。
恐らく貯蔵していた爆雷や機関部にも引火しただろう。そしてガウは激しく揺れ、その機動を乱し始める。
まぁ、機体構造もそのままだからなぁ。的もでかいとくれば、対処はかなり楽なわけで。
『『『『『『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』』』』』
幾つか悲鳴が聴こえたような気もするが……気のせいだろう。
ガウは爆雷ハッチから黒煙を出しつつ、それでもこちらに迫っていた。
「ざけんな馬鹿! あれはあの子の方から言いよってきたんだぞ!」
『嘘(うそ)だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「あおあお! あおー!」
ホントだ! それは嘘(うそ)じゃない……あおもぱしぱし叩(たた)くな! バトル中だぞ!
とにかくメテオホッパーのカートリッジが再びロードされ、三発目のバスターライフル発射。
しかし機首にダイレクトヒットした粒子砲撃は、あっさりと散らされ消えてしまう。そして、ガウはその残滓(ざんし)を払い更に接近。
ち、塗装技術によるビームコートか! まぁまぁ同じ機体をずっと使ってたら、こういうこともあるわな!
そしてガウの機首上部、及び両翼が展開。放たれるメガ粒子砲を、再び前方へ向き直り、加速しつつ振り払う。
派手に吹き上がる砂を見やりながら、直撃したらやばいことは痛感する。さて、どうするかねぇ。
まずは誤解を解かねぇと……マジで横取りはしていない! 彼女だと知ったのも受け入れた後だぁ!
「あおあお!」
「だから横取りはしてねぇよ! 受け入れた後に知ったんだよ! 俺も肝を冷やしたんだよ!」
『受け入れた貴様が悪いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
「来る者は拒まずが俺の主義なんだよぉ!」
『ならばその主義を後悔するがいい……ゆけぇ、同志諸君!』
同志……さっきのことを思い出し、もう一度メテオホッパーはジャンプ。一回転した上で着地し、狙いを定めた。
更にガウを素早くサーチ、『同志諸君』って辺りで既に分かっているが、一応確認だ。
その間にガウのフロントカウルが観音開き。本来そこはMSの出撃ハッチとなっているが。
『させるな、ゲンガオゾ!』
ゲンガオゾは雷様のようなフォルムで、背部の太鼓――もとい、マルチプルランチャーからビームを連続発射。
だが残念ながら、狙いは最初からそのゲンガオゾだ。……メテオホッパー搭載のカートリッジから、エネルギーが引き出される。
それは金色を思わせる輝きとして放たれ、その周囲にプラズマと灼熱(しゃくねつ)の奔流を巻き起こす。
設定では数十キロの最大射程とあるが、それほどの勢いで空を突き抜け、ゲンガオゾの弾幕を本体ごと飲み込み消失させる。
『さあ出番だぜぇ……同じ被害を受けた同志諸君よ! 恨みを晴らして、次のステージに進むんだあ!』
……だが、何も起こらなかった。開いたハッチの中にあるのは、くすぶる炎とガンプラ達の破片のみ。冷静に、そこへ狙いを定め。
『あ、あれ……同志諸君、どうした!』
「あおあおあおー」
「もうお休みだってよ」
そう言いつつ、もう一発バスターライフルを発射――開いたハッチの内部へ奔流は飛び込み、そのまま機体内部を抉(えぐ)る。
内部にIフィールド加工はしていなかったらしく、そのまま後尾付近に大穴が開き、ガウは内部から爆発。
『何でだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
そんな断末魔は気にせず、メテオホッパーを九時方向へ方向転換。まだ形を保っている、ガウの墜落予測コースから退避する。
なお同志諸君がいなかったのは……簡単だ。ほれ、さっき爆撃を邪魔したときだ。内部にバスターライフルをぶち込んで、誘爆していただろ。
あれで待機していた機体達が、尽くやられたらしい。一体か二体くらいはやり合うかと思ったが……残念だったなぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今回の試合、ボクは不参加。試合中のあれこれはメイジン・カワグチに任せている……クビになったとかじゃ、ないよ・
VIP用のゲストルームで、大事なお客を迎えるのでね。メイジンのセコンドでもあるボクは、現状報告も兼ねて接待さ。
そして試合が始まって少しして、紫髪短髪・白スーツの紳士がやってきた。その脇には金髪ロング・混色スーツの秘書。
そんな彼らに対し、恭しくお辞儀。そう、彼らこそPPSE社の創設メンバー……マシタ会長、ベイカー秘書だ。
「お待ちしておりました、会長」
「おつかれちゃーん。……いやー、アラン主任もごめんね。会議が長引いちゃってさぁ」
「問題ありません」
「あらら、そう言うってことは」
会長は嬉(うれ)しそうな顔で、ルーム中央のソファーへ座る。既に会長をもてなすため、一流ワインとおつまみがほどよく冷やされていた。
その脇にベイカー秘書が、立ったまま寄り添う。そのときこちらにも、静かに一礼してくれる。
そして二人が見やるのは、前方に展開した大型モニター。都市部に陣取るケンプファーアメイジングが映り、それでまた笑みが零(こぼ)れる。
何せ無傷で、大して疲れた様子も見せていないんだ。素人目にも圧倒的だと分かる。
「メイジン、やっちゃってる感じ?」
「最初はその首を狙って、無謀な輩(やから)が絡んでいましたが……今は実力差がありすぎると分かったのか、寄りつきもしません」
「強すぎるのも考えものだねぇ」
「我がPPSEのガンプラ、その技術力の高さが証明されたと考えれば」
「分かってるって。優秀な人材に恵まれて、ボクは幸せ者だよー」
「恐縮です……と言いたいところですが、ここからは無傷といかないかもしれません」
「というと?」
右手リモコンを取り出し、軽く操作。するとケンプファーアメイジングから、大気圏付近の様子へと切り替わる。
今映っているのはヤスフミのパーフェクトAGE-1と、セシリアのストライク劉備ガンダムだ。
更にパイロットの画像も映し出されるので、マシタ会長とベイカー秘書も訝(いぶか)しげに唸(うな)る。
「ゴーストボーイか! それでこっちは……おぉそうだ! オルコット家の御令嬢も出場してたんだよね! ベイカーちゃん!」
「セシリア・オルコット――彼女はガンプラ塾の塾生であり、現在も優秀なファイターです。
今回はイギリス第二ブロック代表として、本大会に出場を。それでアラン主任とメイジンとも旧知の仲です」
「そうそう! でも二人がどうしたの?」
「現在、二人が目指しているのは……メイジンのいる地点です」
ちょうど大気圏を抜けると……ほら、タツヤがいる場所の付近だ。そして楽しげに、廃棄都市部へと突っ込んでいく。
「あらら……え、塾生仲間&親友対決ってわけ?」
「しかもヤスフミ・アオナギはアイラ・ユルキアイネン――チーム・ネメシスのガンプラとファイター相手に完全勝利しました」
「え、じゃあチーム・ネメシスは負けちゃったの!? 何かめちゃんこ強いって聞いているんだけど!」
「それは事実です。しかし蒼い幽霊は正真正銘のニュータイプですので」
「むむむ……まぁメイジンには頑張ってもらうしかないけど、二人がかりかぁ」
「恐らくはタイマンになりますので、御安心を」
軽く訂正すると、マシタ会長が小首を傾(かし)げた。四十代くらいに見えるんだが、妙に愛きょうのある仕草だ。
「どういうこと?」
「彼らも馬鹿ですので」
どういうことか、説明が必要かとも思ったら……そこで会場から歓声が巻き起こる。
「何事だい」
『リカルド・フェリーニ、ドイツ代表ライナー・チョマーのガウを撃墜! ピンチを寸前でかわしたぁぁぁぁぁぁぁ!』
『やるじゃない、ドイツの伊達(だて)男!』
ガウ……また端末を操作し、先ほどから五キロほど東へ移る。乾燥地帯に墜落し、ガウが爆散。
というか、爆散して破片をまき散らしていた。それを置き去りにして、ウイングガンダムフェニーチェが砂漠を走る。
……そこで派手に襲いかかるのは、スタービルドストライク。間抜けにもシールドを破損させた状態で、頭上からビームライフルを乱射。
しかし事前に察知したフェニーチェは、スラロームで緑色の五月雨をすり抜け回避。それどころか右肩上に仕込んだビーム砲を乱射する。
ほぼ狙いはつけていないだろうが、スタービルドストライクはたまらず後退。シールドに二発ほど食らいながらも、弾幕から退避する。
「うんうん! 次から次へと襲いくる敵……油断ならない感じが楽しいねー!
えっと、こっちの緑は……ウイングガンダムフェニーチェ、だっけ? イタリアの」
「はい。世界大会の常連、リカルド・フェリーニです」
「さすがに毎年いるから、覚えちゃったよー。また形は変わっているけどねー」
なお会長は、余りガンプラが詳しくない。その分ベイカー秘書が補っているそうだが……まぁ致し方あるまい。
それでも最低限のことは分かり、更に勉強も継続中だそうだが。もしかするとそう装っているだけという可能性もある。
マシタ会長はワインをグラスに注(そそ)ぎ、その香りを楽しみながら一口。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文さんはアイラ・ユルキアイネンという人に勝った……AGE-1、傷だらけだけど動く分には問題ないらしい。
それにセシリアさんも合流して、メイジン・カワグチ――ユウキ会長のところを目指す。
一方さほど離れていないところで、イオリくんとレイジくんもフェリーニさんを襲う。
「よし、やっちゃいなさい! セイ、レイジくん−!」
『そしてそんなイタリアの伊達(だて)男に、スタービルドストライクが突撃! しかしこれはいささか無謀では!』
『世界大会の常連……ルワン・ダラーラに喧嘩(けんか)を売って、情けなく負けたばかりだものねー。場当たりすぎでしょ』
「んな! 何よ、負けてないわよ! 吹き飛ばされただけだし!」
「お、お母さん……落ち着いてください。それに」
言っている間にフェニーチェさんは、苦もなく攻撃を捌(さば)いてる。バイクだから上が死角と思ったのに、あんな反撃をするなんて。
スタービルドストライクがブースターのビームキャノンを放っても、急停止とドリフトであっさりかわす。
赤い奔流で地面の砂が大きく爆(は)ぜ、そこでバイクが一回転。バスターライフルの砲口を向けて……一気に発射。
しかも真正面に、じゃない。回転するときに左へスライド移動していて、スタービルドストライクの退避方向に放っている。
『レイジ!』
『ちぃ!』
スタービルドストライクは急停止から大きく宙返り。ギリギリでプラズマ渦流の範囲外へ逃げた。
でも……一体何発撃てるの!? あのバスターライフルって、三発だけのはずなのに!
「やっぱり、常連の人は強い……!」
「もう、どうしてよー! セイだって倒れるまで頑張って作ったのに! 昨日だってすっごく強かったじゃない!」
「でも、それはみんな同じです」
そうだ、もう分かっている。お母さんが言っていることは、この間のわたしと同じだ。
同時にセシリアさんの教えも思い出していた。……やっぱり、わたしは間違っていたんだ。
もう何度も思ったはずなのに、今は改めて突きつけられている。分かっていたであろうイオリくんでも、ビルドストライクでもこれだから。
「だから、スタービルドストライクの……イオリくん達の戦い方が、どんどん暴かれている」
「暴かれている?」
「セシリアさんに教わったんです。トーナメントは……こういう、ポイントレースでも、固定メンバーが何度も戦いますよね。
だから相手への研究と対策が必要になって、優勝するならその上で勝ち抜かないといけない。
つまりそれは……どんどん丸裸にされて、弱くなっていくのと同じ」
「はぁ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そう、彼らは今、洗礼を受けているんですよ」
スタービルドストライクがやられ放題なので、疑問顔……なので補足を加えていた。
「世界大会優勝の頂は、強いガンプラとファイターがいれば得られるものでもない。
最後の最後、戦う意思の一かけらだけになろうと、抗(あらが)い抜く覚悟がなければ。
同時に……これは飽くまでも私見ですが、ターニングポイントでもあります」
「ターニングポイント?」
「とても大きな壁ですから。くじける人間も多いということです」
「ふむぅ……ならメイジンもくじけちゃうかなぁ、それは困るけど」
「それもまた、これからのバトルでお見せできるかと」
「期待してるよー」
まぁ、そんなことはないと思っているが。とにかく戦いが進む中、レイジやイオリ・セイの姿も映し出される。
相当焦っているねぇ。でもその焦り、その恐怖は覚えておくといい。もし君達が立ち上がれるなら、きっと力に。
「……会長!」
そこでベイカー秘書が慌てた声を出す。どうしたのかと思い見やると……会長が、いきなり怯(おび)えた顔をしていた。
さっきまで飄々(ひょうひょう)としていた顔は、まるでナイフを突きつけられたかのようにこわ張っている。
そして飲みかけだったワインが、傾いたガラスからこぼれ落ちる。まるで恐怖を仰々しくアピールしているようだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
馬鹿、な……赤い髪とあの顔立ち、金の腕輪には見覚えがある。もちろんそこに収められた【アリスタ】もだ。
ボクが知るころよりも成長しているけど、間違いない。どういうことなんだ。
どうして……どうしてあのお方が、【この世界】に!? まさか、アレを取り戻すために追いかけてきたのか!
王子自らということは、やっぱり相当怒っている!? だよねぇ、城の宝物庫に忍び込んじゃったし!
どうしよう……もし、顔を見られたら。どうしよう、もし【アリアン】へ連れ戻されたら。
十年かかったんだぞ……! 一昨年の十一月は、意味も分からず苦しむ羽目になってさ!
それでも必死に! ただ幸せになりたくて頑張ってきたんだ! 壊されてたまるか……そうだ、蹴落とすしかない。
邪魔をするなら、蹴落とすしかないんだ。ボクの顔を見られないように、この場所から……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
馬鹿はくる……本当にアイラ・ユルキアイネンを倒したらしい。しかし、パーフェクトガンダムカラーのAGE-1か。
恭文さんもまた、イオリ・タケシ氏を意識している。タケシ氏のガンダム……その先にいるのがパーフェクトガンダムだからな。
もちろんブルーウィザードもその一つに入る。……空から襲ってくる二機に対し、右手のライフルを構え。
『今攻撃したら、世界中にバラすよ。卯月とのラッキースケベ』
意地の悪い声が響き、一瞬照準が揺らぐ。その間に二機は距離二百メートルほどのところへ降り立ち、両手を挙げてきた。
……戦うつもりがない、だと。いや、それより何より、さらっと島村くんの話をしてきたぞ!
「私は知らん! 現在346プロで活躍中、ニュージェネレーションズの一人である島村卯月さんのことなど」
『……否定するつもりで、自分からいろいろバラしていますわよ?』
「ぐ……!」
く、またやってしまった! やっぱりこのキャラで常時会話は合わない! バトルのときだけなら問題ない……今はバトル中かー!
なお、恭文さんがそんな彼女を呼び捨てにするのには、理由がある。彼女は聖鳳学園の生徒……私と同学年だった。
その絡みもあって、恭文さんとも知り合った。あぁ、そういえば言っていたなぁ。
彼女も私の動向を心配して、恭文さんにちょくちょく電話をかけてくると。それがまた、大変だと。
……だがラッキースケベとは何だ! あれか、階段から転げ落ちかけた彼女を受け止めた話か!
それは恭文さんにしていないぞ! 情報源は……ヤナかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! いや、島村くん自身もあり得る!
彼女が悪意なく、『こんなことがあった』と話したなら……く、まずはヤナから問い詰めなくては!
「……一体、何の用だ。今はバトルロイヤル中……のんきに話をするつもりか、君達は」
『いやさぁ、大気圏突入しながら、セシリアと相談したんだよ。やっぱメイジンはタイマンで倒したいなーって』
「自惚(うぬぼ)れが強いものだ。メイジンにとって勝利とは最低限の絶対条件……二人がかりだろうと容赦なくたたき伏せる」
『あれ、話が通じてないのかな?』
声に殺気を感じて、軽く震えが走る。
『僕達は……メイジンをタイマンで倒したい、そう言ったんだけど』
これは命令に等しい……王の意図を曲解など許さない、家臣にそう告げているのと同じだ。
しかも通信画面に映る恭文さんは、全く目が笑っていなかった。あぁ、これが年下に対する理不尽か。
そんな画面隅で、ショウタロス達が悲しげに合掌。……やめてくれないか? いや、本当にやめてくれ。
大丈夫、もう慣れている。この人が理不尽なのはよく知っているから。これで勢いを潰されるほど、脆(もろ)くもないから。
『なので……メイジンにどちらと戦いたいか、聞いてみようと思ったですけど』
『その必要はなさそうですね。というか、キャラがおかしくて話になりません』
おい待て、さらっと攻撃はやめてくれ。私も常時このキャラは、いろいろと悩んでいるところなんだ。
ちょっと傷つくじゃないか、その傷にパイルバンカーが突き立てられるじゃないか。
痛いからそれはやめてくれ、女性から言われるとよりキツいんだ。こう……気遣いとか、欲しくなるだろ。
『しょうがないから、じゃんけんで決めようか。で、負けた方は邪魔が入らないようガードねー』
『そうですわね』
何がそうなんだ。いや、そういう話は事前に決めておいてくれないか。
私が置いてけぼりじゃないか。というか波長が合いすぎだろ、君達。自由か、これが自由か。
『ならリインがやるですー! ……それでセシリアさんを地にたたき落としてやるです! 義理のお兄ちゃんは渡さないのです!』
『あら、お兄様を困らせてはいけませんよ。恭文さんにも選ぶ権利があるのですから』
『むきー! リインはお兄ちゃんと添い寝やお風呂も普通なのです! ほっぺにおはようのキスや行ってきますのキスもするのです!』
『何ですって! 恭文さん、どういうことですの! ま、まさか……いけません! もっと成長した女性のよさを理解してください!』
『あれれー!? いや、妹分のお世話をしているだけだよ! ほっぺも外国なら普通だよ! セシリアだってするよね!』
『あなたの妹は明らかにそれ以上を望んでいます! お分かりでしょう!?』
おい、修羅場を始めるな! 本格的に置いてけぼりじゃないか! というか同じ声でぽんぽん喋(しゃべ)らないでくれ! さすがに混乱する!
というか世界大会の場だぞ! おい、これはいいのか! 誰か止めてくれ……私しかいないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『分かりました! そういうことなら……わたくしが、大人のよさを改めて伝えます。まずはその、抱擁から始めて』
『ノーサンキューなのです! 恭文さんはリインとずーっとずーっと……一緒なのですー♪』
『本当に、口が減りませんわね……!』
『ポッと出キャラのくせに、生意気なのです!』
『おのれら……いい加減にしようか! ほら、じゃんけん! バトルするよ、バトル!』
「その通りだ。君達はガンプラバトルを侮辱している――! ここは」
『『ちょっと黙っていてください!』』
『「……はい」』
押し負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 押し負けてしまった……というか恭文さんまで負けるって何だ!
あなたは何でそう、女性に対して押しが弱いんですか! だから女性にシェアされるとか、わけが分からない状況になるんでしょ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……メイジンと本格対決と思っていたら、アホな口げんかが発生。ロイヤルガーデンであたし達は唖然(あぜん)。
いや、だって……世界中継なのに! もう会場中がはやし立てているよ! 偉いことになっているよ!
『これはひどい! バトルロイヤル中に修羅場発生……どうする、蒼い幽霊! 三代目メイジンもツッコむものの、押し切られてしまったー!』
『お兄ちゃんは辛(つら)いわねー。そういやセコンドとメインパイロットの入れ替わりってアウトだったっけ』
『はい! 試合前の登録が必要なので……え、キララさん、なぜそんなことを』
『いや、あの子……あのままだとパイロットベースに乗り込みかねないから』
『……これはピンチだぁぁぁぁぁぁぁ! 本当にそうなったら、規約違反で失格! せっかくの大金星もパーだぞ!』
キララって人の見込みは正しい。だってリインちゃん、恭文絡みになるとマジで肉食系だし!
ていうかセシリアさんもアイツに惚(ほ)れてるの!? もう、マジでハーレムを拡大するしか解決手段がない……!
「うぅ、ヤスフミ……それならちゃんと、第一夫人の私に相談してくれないと。その、セシリアちゃんにも宣戦布告を」
「フェイトさん、落ち着きなさいよ。恭文も混乱しているじゃない……それに、フェイトさんの前にまず私よ」
「りまー、拳を鳴らすと指が太くなるよー?」
りま、アンタの立ち位置が分からない。小姑(こじゅうと)? 小姑(こじゅうと)なの? だからそこまで本気なのかな。
「でも蒼凪君、もう結婚しているのに」
「今更だと思うなー。リインちゃんがいる時点で、この道は避けられなかったよー。というわけで、ギンガさんもそのHカップでアピールだー!」
「アンタも煽(あお)るな! ギンガさん、駄目だから! それはマジで駄目だから!」
「い、いや……さすがに、世界規模の痴話喧嘩(けんか)は」
「ですよねー!」
「なぎ君も難儀だよねー。まぁ頑張ろうか」
結局受け入れてしまう、恭文のハーレム……まぁ逃げ場もないしね、頑張れと言うしかない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くそ……レイジの勢いに押されて強襲したけど、あっさりかわされている! というかメテオホッパーが面倒だ!
「セイ、あのバイクは何とか何ないのか!」
「ピンポイントでタイヤやバスターライフルを撃ち抜けば……とにかく足を止めて! 通常の機動戦に持ち込むんだ!」
「分かった!」
言っている間に、また肩部ビーム砲が発射。……直撃コースなそれに、レイジはシールドをかざし防御。
既にアブソーブ機能は使えないけど、防御力はそれなり。でもそれなりなため、衝撃でまた機体が煽(あお)られる。
「くそ……! 分かってはいたが、ちょっと脆(もろ)くないか、この盾!」
「チョバムシールドと違って、内部機構を詰め込んでいるから……でも詰め込みすぎだったかも!」
「じゃあその辺りは」
レイジは左逆手で、左サイドスカートのサーベルを掴(つか)んで抜刀。右切上の斬撃を放ち、ビーム砲の一撃を切り払う。
それから順手に持ち替え、前進しながら袈裟・逆袈裟と連続切り払い。強引に突撃するつもりか!
バスターライフル……いや、この距離じゃあどちらにしてもじり貧! 踏み込まなきゃ勝ち目はない!
「オレが埋めてやるよ!」
「お願い!」
落ち着け……さすがにそんな、無尽蔵で撃てるとは思えない。実際バスターライフルを発射した後、メテオホッパーからカートリッジが排出された。
カートリッジの大きさ、機体サイズから考えて、搭載数は多くても十発と見た。大丈夫、そろそろ弾切れだ!
まずは地上戦に持ち込もうとしたとき、巨大な震えが走る。それに思わずレイジが、フェニーチェが足を止める。
それほどに大きく、空間を揺らす衝撃。あ、レーダーに反応! でも、これは。
『何だ、この地響きは……!』
『あおー?』
「おい、セイ……セイ、どうした」
「……九時方向、距離……八百メートル」
スタービルドストライクとフェニーチェがそちらを見て、揃(そろ)って硬直する。……そこにいたのは、ザクだった。
ザクIIJ型――地上戦用にセッティングされた機体で、右手にはザクマシンガン。両サイドスカートにはクラッカーとヒートホークを装備。
腰の後ろにセットしているのは、ザクバズーカか。両足にも三連装フットミサイルが見受けられる。
遠中近、あらゆる距離で戦えるようセッティングされている。ただ、問題なのはサイズだった。
僕達よりも大きい……それも、MG(百分の一)サイズじゃない。でもPG(六十分の一)サイズでもない。
ビルドストライク達、HG(百四十四分の一)くらいなら軽く鷲(わし)づかみにできる大きさだった。
「ザク、だよな。だが何だよ、あれ……こっちがまるで小人じゃねぇか! あれもガンプラなのか!」
「あれは、メガサイズモデル(四十八分の一)ザクじゃないか!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アラン主任には平然を装い、仕事へと送り出した。……その上で行動開始。ベイカーちゃんには軽く指示だししておく。
「会長、御要望通り……自動操縦によるガンプラを三機、バトルフィールドに投入いたしました」
「ありがとちゃん。あ、それと」
「もちろん『種』は仕込んでいます。仮に倒せたとしても」
「そっかそっかー」
いいことだよ。ベイカーちゃんは本当に有能だなぁ、時間もなかっただろうにすぐ進めちゃうだから。ボク、ベイカーちゃんなしじゃあ生きていけないわ。
「それからスタービルドストライクのファイター、その名前が分かりました。
フルネームではありませんが……【レイジ】という名で登録されています」
「そ、そう」
名前まで同じか。やはりアリアンはこの私を……やっぱり、消えてもらわないと駄目だよねぇ。
あと、ついでに小生意気な蒼い幽霊さんもさ。楽しそうで何よりだけど、君も邪魔なの。
さて、スター何ちゃらが壊れる様を楽しむか。……ザクがどう暴れるか楽しみにしていると、突如青白いせん光が走る。
それは一瞬でザクの頭頂部から胴体部……足先までを飲み込み、ボディを歪(ゆが)ませながら破壊。
スタービルドストライク達の前で、とっておきのザクはあっさり消えてしまう。そして巨大な爆発に煽(あお)られ、距離を取った。
でも巻き込めていない、巻き込んでは……いない。その様子にベイカーちゃん共々、口をあんぐり。
「え……!」
「何あれぇ! ベイカーちゃん!」
「超高高度からの砲撃? でも、あの出力は」
『……危なかったですなー、お二人さん!』
そこで空から飛んでくるのは、ガンダムXの改造機体。そうか……サテライトキャノンってやつかぁ!
「あれは……日本(にほん)第五ブロック代表、ヤサカ・マオ! そうか、ハイパーサテライトキャノンで」
「くぅぅぅぅぅぅぅ! こらー! 日本人なら空気を読めー! 侘(わ)びさびの心はどうしたー!」
「会長、落ち着いてください!」
「これが落ち着けるわけ」
……そっかぁ、落ち着いていいんだ。ベイカーちゃんの言いたいことが分かり、深呼吸……よし、気持ちは切り替えたー♪
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
空から飛び込んできたのは、マオ君のガンダムX魔王……そうか、助けにきてくれたんだ。何かされる前に止まったので、ほっと一息。
『おぉ、ヤサカ・マオか! いきなりぶっ放すな!』
『危ない感じでしたので。あ、借りはちゃんと返してくださいよ?』
『ちゃっかりしてやがる……ん?』
『あお……あおあおあおー! あおー!』
あれ、あお君がめちゃくちゃ鳴いてる。というかこっちに呼びかけている? ……そこで警告音が響き、即座にレイジが反応。
スタービルドストライクが三時方向へ回避すると、白煙を吐き出しながらバズーカ砲が……しかも、サイズが大きい。
スタービルドストライクサイズだし、一撃でも食らったら終わりだろう。それは前方へと抜けていき、そのまま爆発する。
「ちぃ、本当に休む間も」
振り返りながら、敵機を視認。それでレイジも、僕も、絶句する。……そこには、倒したはずのメガサイズザクがいたから。
「……二体目かよ!」
「おかしい」
「セイ?」
「バトル開始時に、あんなガンプラはなかった……! さすがに目立つよ、あんなのを持っていたら!」
『誰かが機体を乗り換えたのか……いや、ないな』
『バトル中の機体変更は基本禁止です! ブースターの類いならともかく、アレは……!』
ザクはバズーカをリアスカートにセットし直し、ザクマシンガンを取り出す。
銃身下部の円筒形フォアグリップを左手で持ち、こちらへ歩きながら構えた。
「奴が動く!」
そして鈍い音とともに、120mmマシンガンが乱射。距離があるため、弾丸達はバラけていく。
でもそれが逆に怖い。メガサイズの弾丸だ、一発一発がビルドストライクの胴体サイズ。
これも直撃すれば……僕達は散開、弾丸の範囲内から逃げる。それに合わせ、ザクが跳躍。
ランドセルのメインスラスターを吹かせ、大きく跳躍。上からも弾丸が襲う……いや、弾丸だけじゃない。
排出された空薬きょうも、タイミングを変えて襲ってくる……! レイジもそんな雨あられの中、必死に回避行動を取る。でも。
『ぐ……!』
回避しきれず、マオ君のX魔王が被弾。弾丸が背中を掠(かす)め、爆炎となる。
「マオ君!」
『……くそ!』
更にフェニーチェも……ううん、バトルホッパーも被弾。地面を跳ね、跳弾した弾丸が襲ってきた。
幾らフェリーニさんの技量が圧倒的でも、さすがに跳弾は読み切れない。とっさにバトルホッパーから飛び降り、フェニーチェ本体は回避。
でもバトルホッパーはバスターライフルカスタムごと、派手に爆散。フェニーチェは最大の武器を奪われてしまう。
「フェリーニ!」
『こ、こっちは何とか……でもハイパーサテライトキャノンが!』
『天丼ってわけにはいかねぇか』
そして僕達の目前に着地したザク。慌てて距離を取るも、左足を踏み出しフットミサイル発射。
『……逃げてぇ!』
キララさんの声が響く中、迫るミサイルをビームライフルで、フェニーチェのマシンキャノンとバルカンで次々撃ち落とす。
でもそうして訪れるのは、圧倒的大きさの爆発。それに煽(あお)られ、僕達は揃(そろ)って吹き飛んでしまう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
取りあえず、リインは操縦を代わろうとはしなかった。さすがにない……さすがにあり得ないから。
じゃあ早速じゃんけんと思っていると、遠方で大爆発。連続するそれは見て取れるほど大きく、リインも慌てて解析。
『何ですの、アレは……!』
『あの爆発の規模は』
「な、何なのですか……これ!」
そこでリインがズーム映像を回してくれる。そこに映るのは、スタービルドストライクやフェニーチェ……こっちはいい。
問題はそれらとは比較にならないほど、大きなザクII。このサイズ差、まさか……!
「メガサイズじゃないのさ!」
『こちらでも確認しました! ですが、どうして!』
……言っている場合じゃない。足下から嫌な予感がして、右に急速移動……ストライク劉備の手を取って引きずると。
『きゃあ!』
僕達のいた場所を撃ち抜く、ら旋のエネルギーが生まれた。それは空へと消えていくけど、一撃だけで終わらない。
ケンプファーアメイジングも距離を取る中、何発も……何発も『ドッズライフル』は放たれ、穴を大きくしていく。
そんな中から悪魔のごとくはい出てきたのは、AGE-1だった。それも、メガサイズの……!
黄色い眼光をたぎらせ、地面に腕を這(は)わせ、ゆっくりと出てくるメガサイズAGE-1……あぁ、そういうことか。
なのでストライク劉備を脇へ投げ、はい出ているところを狙いつつ地面に着地。でもこちらの砲撃前に、メガAGE-1は大きく跳躍。
嵐のような衝撃波を放ちつつ、一気に高く飛び上がる。その上で身を翻し、こちらにドッズライフルで一撃。
それを大きめのスラロームで回避しつつ、奴の作った穴をチェック。予想通りにそこは、ガンプラの収納場所だった。
そこにも狙いを誘導し、ドッズライフルを撃ち込んでもらう。すると地面が一気に膨れあがり、より大きな爆発を生む。
それを置き去りにすると、AGE-1は僕へ向き直りながら、炎の中へ着地。
そしてゆっくりと歩きつつ、ドッズライフルを重く、ひたすらに重く放ってくる。
既にドッズライフルっていうか、戦略級なドッズハイパーキャノンってノリだけどさぁ……!
「メイジン、お友達の召喚ならもうちょっとファンシーにやってよ。あり得ないでしょうが」
「あれじゃあ地獄の悪魔なのですよ。どん引きなのです」
『失礼なことを言うな! 私の知り合いに、こんな不しつけな奴はいない!』
「でも正体は知っている。アレ、何よ」
『……恐らくはバトルシステム内、対コンピュータ戦用に格納されていた無人機体だ』
「やっぱり」
出てきた箇所に仕込まれていたガンプラ達は、無人用の機体だよ。ただしそれが必ず出てきて、戦うわけじゃないの。
対CPU戦は練習も兼ねているからさ。内蔵ガンプラを読み込み、固体粒子で作られたお人形として登場する。
もちろん実際に機体を動かすことも可能だけど。固体粒子の仮想敵、実際のガンプラに比べて劣る部分も出ちゃうそうだから。
だけどこれは本物のガンプラだ、それもまたよく作り込まれていて……さすがはPPSE社と言うべきか。
穏やかだった廃棄都市部は、一瞬でその中心部が崩壊。そしてあの火力なら、身を隠しても意味がない。
しかしセシリアやタツヤは狙わず……ビル群へ入り、距離感をごまかしながら回避継続。
「セシリア、聞こえる?」
『聞こえていますわ! 恭文さん、これは』
「背中、向けまくりでしょ」
『はい……!』
そう、僕のみを狙っていた。まぁAGE-1の武装がシンプルだし、行動もCPUだから十分読み切れるけど。
「その位置がいいから、ちょっとじっとしててよ。さてメイジン、おのれはどうする?」
『……の……だ』
そう聞いたものの、今は答える余裕もないか。タツヤはさっきのが遊びと思えるほど、怒りに打ち震えていた。
『一体……誰の仕業だぁ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
会長のお出迎えが終わったので、さぁ仕事だ……と思っていると、怒り心頭なタツヤから電話がかかった。
……試合会場を見られない廊下で、慌ててきびすを返す。一体どういうことだ……とにかく会長に直(じか)談判だ!
息を切らせながらゲストルームに飛び込むと、会長は平然と酒盛りに勤(いそ)しんでいた。
「会長、無人のザクとAGE-1がフィールドで暴れているようです! 直ちにバトル中止の要請を」
「必要ないって」
「え?」
「余興だよ。よ・きょ・う♪」
「ま、まさか……あのザクとAGE-1は会長が!?」
「いいじゃない。世界中のガンプラファンが、この大会を楽しみに見てくれている……このくらい派手にバーンとやらなくっちゃあ。ねぇ」
平然と言ってくれた。我々が……いや、出場者の誰もが大会のため、どれだけの苦心を重ねたか。
それを余興の一言で、バトルとは関係ないところで台なしにされる。ベイカー秘書を見やるが、こちらも平然としたものだった。
しかもメガAGE-1の近辺には、メイジンもいるんだぞ。……そこで気づく、これはメイジンの邪魔にもなることだ。
そして三代目メイジンの勝利は、PPSE社の威信にも関わる問題。もしかすると、会長達は分かっているのか。
メイジンがメガサイズのガンプラ達にやられないと。それが単に実力を信頼しているなら、まだいい。
だがそうじゃないとしたら。そういう、妙な心遣いをしているなら。ガンプラ塾時代を思い出す、嫌な流れだった。
ならいいさ。宮仕えの身らしく、慇懃無礼(いんぎんぶれい)に邪魔をさせてもらう。ボクも、こういうのは気に入らないのでね……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……アメイジングウェポンバインダーから、ロングライフルを射出。今までのライフルとは入れ替わりでキャッチし、静かに構えた。
『カワグチ、何をする気だい』
そこでアランから通信がかかった。本当に、私のことをよく分かっている相棒だ。
「奴らを撃ち落とす!」
『マシタ会長の遊びに付き合う必要はない』
「しかし!」
『ボク達が目指すもの、その一つは優勝だ。自分の立場を忘れるな』
……メイジンはPPSE社が打ち出したキャラクター。ようは社員だ、だからこそアランは警告している。
ここで邪魔をするのは、その妨げになると。見過ごすしかない……そんな腹立たしさを飲み込み、改めてライフルを構えた。
恭文さんのことだ、既にプランは考えているだろう。あとはアドリブで合わせる。
『そう、それでいい。……優勝だけじゃないよね、ボク達が目指すものは』
『メイジン、こっちの手助けはいらないよ』
更に恭文さんも通信を送ってきた。プランはできているようだが、手助けがいらないと言われて面食らってしまう。
『おのれはザクの方を何とかしなよ。そうしたら面倒も少ないでしょ』
「アラン、蒼凪恭文」
『何だい』
「……感謝する!」
『ちゃんと返してよ?』
『だね』
これは必要なことだ。僕達が目指す道に、サプライズ(これ)は必要ない。これで誰が喜ぶ、誰が笑う。
誰が、ガンプラバトルを楽しいものと思ってくれる。確かに一時の歓声は得られるだろう。だが……それだけだ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
突然現れた大きなザクと、AGE-1……一機はマオくんが倒したけど、もう一機のザクはイオリくん達に絡んでいた。
そしてAGE-1は、パーフェクトAGE-1に集中攻撃。AGE-1同士の対決ではあるけど、状況が異常過ぎてついていけない。
『えー……先ほど投入された大型ガンプラは、主催者側のサプライズイベントとのことです!』
混乱していると、アナウンサーさんが補足を加えてくる。これが、サプライズ?
楽しませるため、だよね。でも……イオリくん達、凄(すご)く怒っているのに。
「どうなっちゃうの!? 中止にならないってことよね!」
「た、多分。でもあの大きいガンプラ、イオリくん達を狙っているような」
「えぇ! そんな、弱そうだから……じゃないわよね! 傷ついているのは他のガンプラも同じだし!」
どういうことなの。それに狙われているのは、イオリくん達だけじゃない。……恭文さんも同じだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
突如現れたメガサイズ達、それに動揺する中、サプライズという楽しい情報が知らされた。
だが戸惑っていた。観客の誰もが気づいているんだよ、サプライズじゃない……もっと醜い何かだってな。
そりゃあそうだ。奴らの攻撃、その矛先はスタービルドストライクとパーフェクトAGE-1に集中している。
「……PPSE社の奴らめ! こういう手を使ってくるか!」
「奴ら、ふざけてやがる……!」
ディアーチェ共々怒りに震え、拳を鳴らす。あぁ、妨害だよ。それも紛(まぎ)れもない、純度百パーセントの……!
どうやら奴らは、カテドラルガンダム絡みでやすっちを蹴落としたいらしい。まぁ実質メイジン候補にのし上がれるからな。
つまり、これからも何らかの妨害が考えられるということで……くそが! せっかくの楽しい遊びを何だと思ってやがる!
「旦那様……!」
「大丈夫です! 恭文さんですから! 熱血……ってタイプでもなかったかー!」
「だが、狙われているのはヤスフミ君ばかりではないぞ」
「はい、ラルさんの仰(おっしゃ)る通りです。セイさん達も……!」
そうだ、セイ達も狙われている。だが理由が分からず、大尉も困惑気味だった。
「でも、どういうこと!? ヤスフミはまぁ覚えがあるよ! でもあっちの迂闊(うかつ)っ子達は何もしてないよね!」
「PPSE社の意向に刃向かったという意味であれば、特にないな。三代目メイジンの件も、直(じか)談判などはしなかった」
「……今は、気にしてもしょうがないでしょう。しかし無謀です」
そう、無謀だ。シュテルはあざ笑う……それはあの巨体に立ち向かうやすっち達に、じゃない。
「あの程度でヤスフミの足が止まるなら、我らマテリアルズは幾度も苦汁を舐(な)めていません」
こんなことをしでかし、ツッコミどころを与えたPPSE社――奴らをあざ笑っていた。
俺も同じくなので、ガッツポーズで答える。あぁ、楽勝だよな……やすっち!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……メガAGE-1は飛び上がり、左手でビームサーベルを取り出す。左サイドスカートから外された途端、サーベルのビームが展開。
それはダガーサイズではあるものの、容赦なくパーフェクトAGE-1へ投げつけられる。
メガサイズのサーベルだ、真正面から撃ち落とすのは無理。急停止し、ダガーを眼前でやり過ごす。
更に宙返り――AGE-1は右サイドスカートのサーベルを抜刀。そのまま逆風一閃を放つ。
斬撃の範囲から退避し、AGE-1の右サイドを取る。……すかさず両手のシールドキャノンを発射。
右手から放たれたDODSは、吸い込まれるように相手のドッズライフル基部を貫く。
なおドッズライフルはグリップ周辺の基部に、用途ごとの銃身を合わせる方式。なので基部を破壊しないと、ドッズガンとして再利用可能。
結果ドッズライフルは爆散、銃身部が重苦しく落ちていく。更に左手から放たれたDODSは、不格好に突き立てられた左つま先へ命中。
どうやら対ビーム加工を施しているらしく、決して致命傷にはなり得ない。でも、それでいい。
衝撃からつま先が滑り、AGE-1は不格好に倒れてしまう。そのとき、振り下ろしていたサーベルがビルを幾つもなぎ倒す。
なぜつま先が滑っただけで、AGE-1がコケたか。それはメガサイズAGE-1の可動範囲に答えがある。
そもそもメガサイズは二〇一〇年三月四日、ガンプラ三十周年を記念して始まったシリーズ。
最初に出たのは初代ガンダム。全高三七五ミリで、初心者にも作りやすい大型モデルというのが売り。
その大型ゆえに、HGやMG、PGとはまた趣が違った。まず全身可動箇所は三十四箇所。
大型モデルの重量を支えるため、ポリキャップにはクリック機構を追加……他にもいろいろな要素が注(そそ)ぎ込まれた。
でも、飽くまでもディスプレイが基本。メガサイズをガンプラバトルに持ち出すと、そのままでは辛(つら)い部分もある。
例えば可動範囲。実はHG AGE-1より狭い。肩も九十度までしか上がらず、肘は一軸関節なのでやっぱり九十度。
特に辛(つら)いのが設置性。大きなボディを支えるため、足首は余り動かない。膝も九十度が限界だから、膝立ては無理。
さっきも着地しながら、ショックを吸収するために無理やりやっていた。支えがつま先だけだから、そこを突けばあっさり崩れる。
そして間接部のクリック機構、これがまた厄介。もう一度言うけど、大きいということは全体重量も同じく。
それを支えるためのものだから、間接部の動きはぎこちない。実は近接攻撃を避けること自体かなり楽。
その上AGE-1ノーマルは武装も少なく、ライフルを潰せば遠距離武器もない。まぁ油断は禁物だけど。
……倒れ込んだところへ接近。右のシールドキャノンからサーベルを展開し、左薙の切り抜け。
頭部を両断し、そのまま離脱する。追撃したいところだけど、動きを止めたら一瞬だ。
たとえ動きに難があるとしても、それは細かい点にすぎない。普通に見得(みえ)を切る動きなら十分だし、ここはやっぱり絡め取る。
そのままビームダガーの脇を抜けつつ、右シールドキャノンで一撃。柄を撃ち抜いて壊しておく。
これで奴の武装は動きの鈍い四肢とシールド、今持っているサーベルだけになる。うん、シールドも武器だよ。
質量の差は歴然。あれを全力で突き立てられるだけでも、十分驚異対象だ。
……AGE-1がフラつきながらも立ち上がるので、振り返り不格好に動かす左足へ連続射撃。
回転しながら放った曲がる弾丸は、あっという間に奴のバランスを崩して横倒しにする。
「おぉ、凄(すご)いのです!」
「足首の可動範囲が狭いから、起き上がるのも辛(つら)いでしょ。……っと」
倒れ込んだAGE-1は、メインスラスターを全出力――こちらへ破損した首部分をぶつけるように、突撃してくる。
地面を抉(えぐ)り、ビルや街頭の破片を潰し、自らを弾丸としてぶつけてくる。なので急上昇し、迫るサーベルもするりと避ける。
そのまま強引に肩や足のスラスターも吹かし、AGE-1は起き上がる。やっぱり、頭を潰しただけじゃあ駄目かぁ。
左のサーベルを右手に持ち替えてくるので、十時方向に加速。立ち上がった奴はそのままホバリング、こちらに袈裟・逆袈裟と連撃。
圧倒的ビーム出力は、一発当たればその時点で終わり。でもここで足を引っ張るのが、自重を支えるためのクリック機構。
やっぱり動きがところどころ引っかかり、ぎこちない様子を見せる。なので回避行動も交えつつ、再び曲がる弾丸で攻撃。
やっぱり効果こそ薄いものの、奴を引きつけるには十分だった。奴は僕達の狙い通りに迫り、胸元から強く光を放つ。
これは……内部に仕込んだ発光ギミックか。それを目くらましとして利用してきた。
でも予想はしていたので、目を閉じながらも連続回避。刺突を左に避け、返す刃は宙返りですり抜ける。
そのまま横になりながら、時計回りに回転――また刃が返る前に、軸となった右足に弾丸三発をぶつけ、遠慮なくあお向けに倒す。
とっさに左足を前に出すものの、ここでも設置性の悪さが足を引っ張る。
ただ脆(もろ)くなった地面を深く抉(えぐ)るだけで、倒れ込むことは止められなかった。
しかし接近は許さない。右手首を回転させ、ビームローターとした上で防御してくる。それを強引に振り回してくるので、たまらず退避。
「くぅ、やっぱりしぶといのです!」
「でも好都合だ」
AGE-1はローターを回転させたまま、またスラスターを使い強引に立ち上がる。
そして僕がいる方へと加速――でも地面を踏み締め、飛び上がろうとした瞬間に異変が起こる。
……ローターやら、格納庫内で起きた爆発により、地面の耐久値そのものが著しく落ちていた。
結果AGE-1の超重量を支えきれず、一部が崩壊。AGE-1はその破片ごと、できた穴へと滑り込んだ。
しかし広げていた両腕が支えとなり、体全てが埋まることは防がれる。……そう、だからこそ。
「その位置がよかったんだ、セシリア」
そこへ飛び込むのは、正義を重んじる若きSD……操っているのは奇麗な女の子だけどねー。
更にその穴も大きく崩壊――元々できた穴と繋(つな)がる形となり、AGE-1は横滑りを起こす。
穴が崩壊する寸前でAGE-1に取りつき、鎧(よろい)の一部をパージ。その後を追って、緑青の龍が飛来。
上半身がオリーブドラブで、下半身が水色のアレは【蒼龍の神器】。いわゆるサポートメカだよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……相変わらず悪知恵が働く人ですね。元々出てきて、破損状態なドッグに落として仕留めるなんて。
確かにこの位置でよかった。だって、AGE-1に取り付いてすぐ攻撃できますもの。
「神器装着――!」
まず、ストライク劉備の右肩アーマーをパージ。代わりに蒼龍の神器から、上半身部分が飛んでくる。
両前足の付け根はそのまま、マルチランチャーを備える右肩アーマーとなった。
そして頭も含めた胴体部は、背中に装着……左脇に周り、大型のキャノン砲【激龍砲】として扱う。
そう、これもまたストライク劉備の可能性! わたくしが得意とする射砲撃形態!
「狙い撃ちなさい、激龍ストライクガンダム!」
そのまま龍の頭――砲口をAGE-1の首付根(くびつけね)へ突っ込み、エネルギーチャージ。破損部を滑りながら、格納庫の底へ到達。
でもガンプラは問題なく可動できます、プラフスキー粒子で満たされていますから。それも既に確認済みです。
でなければ、地面を突き破って出てくるはずがないでしょう。取り付かれたと察したAGE-1が反撃する前に。
「ディスチャージ!」
チャージ完了したエネルギーを全て注(そそ)ぎ込む。激龍砲から放たれた赤い粒子砲撃は、AGE-1の内部をずたずたに引き裂く。
即座に飛び上がって格納庫から離脱……地上部を見上げると、恭文さんも飛び込んでいた。
全く、甘すぎます。巻き込まれたらどうするのかと、笑いながら右手を伸ばす……ストライク劉備の右手を。
AGE-1はそれをしっかり掴(つか)み、さっきと同じようにわたくし達を引き連れてくれる。
『……ハイパーブースト、オン!』
そして急加速――地上へと飛び出した直後、AGE-1は爆発。格納庫を、内蔵されていたガンプラ達を、その上にある町を全て灰じんに帰す。
わたくし達はそれを空から見下ろし、ホッと一息。合体していた神器もパージし、元のストライク劉備へと戻った。
「やりましたわね」
『うん。さて……メイジン戦どころじゃなくなったけど、どうしようか』
『女の決着をつけるのです!』
「ふ……受けて立ちましてよ!」
『おのれらは自重しろぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
いいんです。だって……また、ときめいてしまいましたから。やっぱりわたくしは、この方が好きみたいです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
な、何あれ……何で! どうして! デカくて強いボスキャラだよ!? なのに傷一つつけられず終わるって、何!
『これは凄(すご)い! 蒼凪恭文&リイン組とセシリア・オルコット、メガサイズAGE-1を完封したぁ!』
『さすがは蒼い幽霊と青い涙! いやー、すっきりしたー! いいぞ、もっとやれー! でも痴話げんかは控えめにねー!』
『口の中が甘ったるくなりますしねー! 会場も三人の活躍に沸き立っております!
聞こえていますか、この拍手が! これこそがガンプラバトル! これこそがビルドファイターです!』
またワインをこぼしながら、唖然(あぜん)とする。こういう場合は……そうだ、ベイカーちゃんに頼ろう!
うるさいくらいに響く歓声や拍手はさておき、ベイカーちゃんを問い詰める。
「ベイカーちゃん、どういうこと! 何でやられちゃうの!」
「……恐らくは、メガサイズの弱点を突いたものかと。可動範囲や俊敏さでは難がありますので」
「じゃあもっとだよ! ほら、他のプラモを出して!」
「無理です」
「何で! サプライズって言えばどうにかなるでしょ!」
「格納庫が、破壊されています。収納されたガンプラごと……!」
「……あ」
そうだ、アイツらAGE-1をわざわざ格納庫に落として、ぶっ壊してくれた。その巻き添えで……畜生めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リインとセシリアのアホには説教が必要だ……! で、でもセシリア、やっぱりそうなんだよね。
僕も、応えていかなきゃ駄目なのかな。ただそれはそれとして、PPSE社は今頃歯ぎしりしていることだろう。
なぜ僕達が、わざわざ地下で倒したか。それは追撃を防ぐためだよ、念のためって軽いレベルだけどね。
またこれで仕掛けられても面倒だし、取りあえずこの場にいるのだけはって感じ。そうしたら、予想通りに爆発が大きかった。
……倒しても巻き添えにできるよう、爆発物が仕込まれていたんだよ。こういう流れはエキシビションマッチで経験している。
そこについては、最初に倒されたっぽいメガサイズで判明していた。爆発が幾ら何でも大きすぎたし。
まぁおかげで廃棄都市部という貴い犠牲を経て、奴らの馬鹿が潰されたわけだよ。すばらしいことだねー。
でもこれでバトルが続いているのも、また凄(すご)いなぁ。バトルベース内部で爆発したも同然だろうに。そうか、これが超技術か。
「それよりも……メイジン、聞こえるね」
『あぁ』
「セイ達にも連絡するけど、絶対に至近距離で倒さないで。町の代わりに心中するよ」
「リイン達は周囲を警戒しているですから、決着はその後で……ですよ?」
『了解した』
よし、これでタツヤが紅の彗星やらをかまして、心中する心配はない。あとはセイ達だけど、こっちが不安だなぁ。
だって戦い方が脳筋っぽいし。いや、最近のセイ達を見ていると、そういう言葉が出てきて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「よ、よし……こっちは忘れよう。というか、決めた……もうアレには触れない」
「よろしいのですか?」
「これ以上やると、本当に捕まりそうだし」
ちょっと出来心で手を出しちゃったけど、気づいていそうで怖い。実際エキシビションマッチは……おぉ怖い。
「ザクは……まだやられていない! こっちは大丈夫だよね!」
「えぇ」
ベイカーちゃんも調子を取り戻し、さっと眼鏡を正す。それからモニターを操作して、フィールドの様子を見せてくれる。
……あれれ? 何だかスタービルドストライク達以外、メガサイズから離れているような。
「メガサイズはバトルロイヤルとは関係ない、完全なイレギュラーです。そのため付近にいた彼ら以外は、距離を取っていますので」
「ようは増援は期待できず、フルボッコ?」
「はい」
「よっし……やれやれ! もっとやれー!」
「ただ、それで一つ問題が」
「え、今度は何! ゴーストボーイが助けるとか!?」
ベイカーちゃんが携帯を取りだし、見せてくれる。えっと、Twitterかな。大会について書き込みが……あれ、何これ。
「……ベイカーちゃん、これ……サプライズに対しての批判? 萎えるとか、運営くそとか書いているんだけど」
「ごらんの通りです。元々この大会は、トップレベルのファイター達がしのぎを削るのもだいご味です。
そこに無人操縦で、しかも得点にもならないメガサイズが出てきたので……冷めてしまったようで」
「え、逆効果なの!? 楽しいじゃない、派手でいいじゃない!」
「でも、ごらんの通りです。あとはその、PPSE社の株価も急降下を」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
何それ! じゃあ骨折り損のくたびれもうけ!? そんなのないよー! うぅ、世間の風が冷たすぎるー!
(Battle45へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、ちょっと間が開いたVivid編……今回はアイラ撃破、そこからのメガサイズ強襲。
アニメだと十一話・十二話辺りですね。そして原作と違う流れのため、メガサイズが三体に増えた」
フェイト「AGE-1もメガサイズになってたんだ!」
恭文「AGE-2もね。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……それはそうとヤスフミ、ここ数日作者さんが落ち込んで」
恭文「……拍手でも何件かきていたけど、松来未祐さんが……ご冥福をお祈り申し上げます」
(ご冥福をお祈り申し上げます。……自分でも驚くくらいに、ショックが強かった)
恭文「とまと的には月村忍(TVアニメ版)や、ロッテさんでおなじみで……ご本人様もとても愛らしい方で……よし、振り返るのはここまでにしよう」
フェイト「それでえっと、今回のお話は」
恭文「まぁ見てもらったとおり、まだまだバトルロイヤル中。でも本番はむしろセイ達の方で」
フェイト「そこでいろんなキャラがまた絡むしね。でも、すぐに弱点が分かったよね」
恭文「タツヤと一緒に作ったことがあるしね」
(設定ではこんな感じですが、実際はレビューサイトなどを見て回りました)
恭文「メガサイズだしねぇ。さすがに購入は大変……でもアマゾンでチェックしたら、三十パーセント近く値引きされているんだよね」
フェイト「ほんとだ。AGE-1も六千四百円とかだし」
恭文「でも、まだザクがいる。さぁこれから……セイ達には頑張ってもらおうー」
フェイト「ヤスフミは動かないの!?」
(またメガサイズが出るかもなので、周囲を警戒します。
本日のED:栗林みな実『unripe hero』)
あむ「でもメガサイズ、やっぱ無茶苦茶……!」
恭文「僕はポイントを押さえて対処したけど、巨体ゆえのパワーと火力は驚異だしね。
ちなみにセイも同じことができるよ。ううん、僕よりずっと綿密に」
あむ「セイも!? ……あ、そっか! 模型屋の息子じゃん!」
恭文「ただ問題があるとすれば、ザクはAGE-1より武装も豊富……しかも遠距離武装がね。
僕の場合はドッズライフルを潰しただけで、すぐ誘導できたけど」
あむ「セイ達は違うってことか。じゃあ向こうの方が難易度は高め?」
恭文「かなりね。さて、次回はどうなるか」
(おしまい)
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