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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory43 『地球がリングだ!』

第一ピリオドは滞りなく、予想通りに終了。最後のメイジン・カワグチには驚かされた。

いや、出てくるという話は聞いていた。だから驚いたのは……やはり、あの強さだろう。

そして敵を知り、己を知れば百戦危うからずとも言う。早速部屋の端末でメイジンについて調べてみる。


事前知識としてはあったが、改めてというのも大事だ。第二ピリオドのバトルロイヤルで遭遇する危険もある。

「メイジン・カワグチ、それを語る上で外せないのが」


まず見つめるのは、初老で頭もやや寂しいながら、温和な人柄を感じさせる男性。


「川口名人……本名、川口克己。一九六一年十二月十日生まれ。現在五十歳。法政大学経営学部、経営学科出身。
その大学時代にモデラー集団【ストリームベース】を仲間内で結成し、機動戦士ガンダムに登場するモビルスーツをフルスクラッチ。
それが模型雑誌月刊ホビージャパン等で掲載され、模型業界へと携わる事に。……それがガンプラ誕生の引き金となった」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最後の試合が終わって、気になったのでお母さんと一緒にネット検索。メイジン・カワグチっていうの、そんなに凄いのかなと。

ただガンプラバトルが強い人って印象だったけど、調べてみて驚くべき事実が判明した。というか、お母さんが目をぱちくりさせてる。


「え、これ……本当に!? このストリームベースって人達が作ったものがきっかけで、ガンプラが発売されたって!」

「えっと、そうみたいです。……初代ガンダム放映時、スポンサーとなっていたのはおもちゃメーカー【クローバー社】。
しかし出していた商品は、当時のロボットアニメのキャラクタービジネスとして当たり前な、児童向け合体おもちゃ」

「これなら分かるわ。金属っぽいので作られていて、完成品で……ガシャガシャして遊ぶやつ」

「ただそれは当時ガンダムのファンだった人達とは、また違う年齢層だったみたいで」


わたしもそういうのならまだ、なんとか……戦隊物のロボとかを想像すればいいのかな。

あの、後になってどんどん合体していくやつ。イオリくんが作るガンプラとはまた違うから驚き。


「それでえっと……お母さん、この宇宙戦艦ヤマトって」


ネットに載っていたデータには、別作品のアニメについても書かれていた。これもガンプラが出る要因の一つらしい。


「あ、チナちゃんは知らないのね。松本零士って漫画家さんが監督した、アニメ作品よ。私も夏休みの再放送で制覇したなー」

「なんでもそのプラモは、それまでの……ゼンマイとかを仕込んだ、ギミック付きのものとは違っていたそうなんです。
アニメ系のプラモって、今まではそういうのが多かったらしくて。でもヤマトのプラモはそれを廃止。
アニメの造形を再現し、奇麗に作って飾るために特化したプラモ。その人気が高くて、いろいろな状況がガンダムと似ていたとか」

「……なるほど。その手の完成品って、ギミックの再現中心だものね。
戦隊ロボとか、合体こそすれどテレビみたいに動かないし。じゃあバンダイは」


お母さんが脇からのぞき込んで、データ確認。その時あの大きな胸が背中に……うぅ、わたしもこうなりたいです。

フェイトさんもすっごくゆさゆさだったし、お母さんになると大きく……やめよう! 今のわたしには早い!


「あ、この時はそのヤマトのプラモを作っていたのね」

「はい。そのせいか、ついにバンダイへ『ガンダムのプラモ』をという要望まで届いて……そこでストリームベースさんです。
ストリームベースさん達のフルスクラッチは、あくまでも放映中にやっていた事っぽいです。
……えっと、初代ガンダムは低視聴率のため打ち切り。でもバンダイはその後人気が盛り上がっていくと予測し、プラモデル商品化権を取得」

「結果正解だったわけね。その後は雑誌掲載の模型を作るだけでなく……プラモ狂四郎? なんだっけ、前にタケちゃんが凄く力説していたような」

「……お母さん、本当にガンプラの事とかさっぱりなんですね」

「それは言わないでよー! おかげでセイも経理以外は一切信用してくれないしー!」


むしろそれを主商品として、仕入れとかしているのにさっぱりっていうのがおかしいような。

まぁ、だからこそイオリくんもそれなのかもだけど、そういうのって相性があるのかなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プラモ狂四郎……パーフェクトガンダムやレッドウォーリアなどを世に送り出した、伝説の漫画だな。

内容は当時出ていたガンプラやスケールモデルを、シミュレーションマシンで読み込み戦わせるというものだ。

これはありとあらゆるホビー・スポーツ作品の始祖でもあるとされ、ガンダム以外にも多大な影響を与えた。


現代で言えばガンプラバトルにもだ。これがあるからこそ『ガンプラバトルという需要』が誕生したとまで言われている。

川口克己氏は模型製作のみならず、その漫画へのアイディア提供まで行っていたようだ。

及びMSVと言ったプラモデル企画にも深く関与。……これは。


「まさしくガンプラブームそのものを盛り上げた立て役者だな。もちろん彼が作る作品、その完成度が素晴らしいからこそだが」


端末のモニターを見ながら、ただただ感心するばかり。いや、ガンプラについて調べた時に知ってはいた。

ただ改めて見ると、概要だけでも面白くなってしまって。一見関係ない様々な要因が積み重なり、生まれた商品なのだと。

とにかく彼はガンダム放映終了から五年ほどが経った、一九八五年にバンダイへ入社。


これだけでも特別扱いできる人物だが、当時のバンダイでは『マニアを採用しない』という噂があったため、一般枠だったとか。

結果アニメ作品『機動戦士ガンダムZZ』の頃から、社員としてガンプラ開発に携わり、現在もそれは変わらず。

百分の一スケール『マスターグレード』の頃から、ガンプラ企画責任者として改めて露出するようにもなった。


そんな大人物――ガンプラの誕生にも浅からぬ関わりがあり、その発展を見届け続けていた名を、PPSE社は利用した。

だがこれは正解でもあった。ビルダーとしても、ファイターとしても圧倒的強さを誇る二代目メイジンがいればこそ、ガンプラバトルは発展した。

例えばボクの生まれたアメリカ……欧米諸国では、現在eスポーツが盛んだ。億単位の賞金がかかった大会もよく開催されている。


デジタルなテレビゲームがなぜと、よく言われる事だ。それは『突き詰めた先のエンターテイメント性』があるからだろう。

ただ遊ぶだけではない。どんなプロスポーツでもそうだが、プロの技巧はそれだけで華がある。

二代目メイジンはその圧倒的強さで、世界中に見せつけたんだ。ガンプラバトルはただの遊びではない。


製作技術を、操縦技術を突き詰める事で、今までとは全く違うホビー・スポーツになると。

言うなればビルドファイターというのは、ガンプラバトルというスポーツで戦うアスリートだ。

二代目メイジンはアスリートの理想型を示し、三代目はそれを引き継ぎデビューした新星……つまり。


「強敵というわけか。明日のバトルロイヤル……荒れるのは必至か?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「しかし強敵はメイジンだけではない。全九十名にも及ぶファイター達、その誰もが厳しいオープントーナメントを勝ち抜いた猛者達だ」


ユーリ達を連れ、ラルさんと屋台の焼きそばをずるずる……世界大会中、周辺も実に騒がしい。

フリーバトルコーナーや出店、各種イベントも展開しており、その中を練り歩いていた。やすっち達は作戦会議中っぽいしなぁ。


「更に言えば、世界大会初出場のくせ者ルーキー達がいるものねぇ。アイラ・ユルキアイネンとか」


キリエはそう言いながら、幸せそうなレヴィの口元をティッシュで拭ってやる。出店、エルトリアにはないもんなぁ。


「でも驚きです。あのメイジン……というか、川口という人のいたストリームベース、でしたよね。
それがガンプラ誕生の遠因になっているなんて。というか、熱い誕生物語です!」

「はいはい、お姉ちゃんも食べながら叫ばない。汚いでしょ?」

「もちろんそれが全てのきっかけではないがな。宇宙戦艦ヤマトのプラモをきっかけに高まった、ディスプレイモデルとしての需要。
打ち切りアニメの一つにすぎなかったガンダム、その価値を見ぬいたバンダイスタッフの先見性……様々な要因でガンプラは生まれたのだよ。
だが……いいや、だからこそ『川口』の名は重い。その誕生を、更にガンプラバトルのプロスポーツ化を後押しした名前だからな」

「小僧達はまさしく、歴史と威信に挑むわけか。くぅぅぅぅぅぅ! 我も出たかったぞ! というかダーグ、お前もだろう!」

「当たり前だ! やっぱ別の大会でいいから大暴れするぞ! ……それはそうと」


そこで全員が、フリーバトルコーナーを見る。あそこから漂う異様な気配……そして、その中にあるバトルベースが原因。

バトルベース内で凄まじい機動を見せつけ、連戦連破している馬鹿。あれはニャッガイ……ニャッガイIII!

そして操っているファイターは、やや照れながらもクールな表情を見せつけつつ。


「……にゃーにゃーにゃー、にゃーにゃーにゃー」


妙な鳴き声を放ちつつ、頭の猫耳を揺らしていた。シュテル……シュテルゥゥゥゥゥゥぅ!


「ママー、あのお姉ちゃん猫さんだよー」

「そうね。きっと猫さんのガンプラだから、なりきってるのよ」

「そっかー」


子どもに指さしされ、お母さんにフォローされ、なんとほほ笑ましい光景だろう。だが……なんか、おかしい。


「シュテル君はまたすごいな。ベアッガイIIの改造機体だが、またどうして」

「えっとね、セイの同級生で、チナって子が作ったガンプラに影響されたんだー。
ぬいぐるみがロボットになったーって設定で、綿がガンプラに詰め込まれててー」

「レヴィに大破直前まで追い込まれたのに、逆転勝利したんです。それにインスピレーションを受けて」

「ぐぬ……ボ、ボクだって次は負けないんだ! やってやるぞ、打倒クマッガイIII!」

「はははは、そうか。他者の作品やバトルに影響され、新たな創作意欲を持ってバトルに挑む。
私にも経験がある、鮮烈なモチベーションだよ。君達はすっかりガンプラバトルにハマっているようだな」

「あぁ、本当にな」


いろいろ出自が重いせいもあるが、この三か月はみんな楽しそうでなによりだ。……やべ、俺おじさんっぽいかも!

というか……イビツゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! 今一瞬、奴の声が聞こえてしまった! そうだ、イビツだ!

アイツ、フェンリル――スガ・トウリと一緒に行動しているとは聞いたが、なんでセコンドについてたんだ!?


なんでアイツが世界大会に出てんだよ! 俺を追い抜きやがって! 今度バトルで決着つけてやる!



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory43 『地球がリングだ!』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕達は、作戦会議をしていたはずだ。そのはずなんだ。なのに突然部屋に、二人の来訪者……やっぱり見間違えじゃなかった。


「恭文くーん♪」

「おひさー」


現れたのは笑顔なフィアッセさんと、ゆうひさん……全力でハグされ、ほっぺにキスもされ、やっぱり大好きなんだと痛感。

そうして現在……なぜかフィアッセさんも加わって、作戦会議継続中。これは、どういう事なの……!


「でもフィアッセさん、よく間に合ったわね。イギリスからこっちに直行?」

「そうだよー。ギリギリだったけど、恭文くんの試合はちゃんとチェックしたよー。ね、ゆうひー」

「うんうん。よう頑張ってたなー、やっぱりうちからご褒美かなぁ」


も、もう僕……結婚してるんですけど。そんな疑問を口に出す事もできず、ゆうひさんに頭を撫で撫で。幾つになっても僕は子どもみたいです。


「……今更だけど恭文さん、人間関係が幅広すぎるよぉ」

「さらっと世界の歌姫が激励にきてるしねー。そういえばフィアッセさん達は」

「近くのホテルで、大会終了までお泊まりだよー。だから明日もいっぱい応援するね」

「は、はい。ありがとうございます」


そしてフィアッセさんに後ろから抱きしめられ、すりすり……あぁ、やっぱり落ち着く。とっても幸せかも。


「むぅぅぅぅぅぅ! 恭文さんはフィアッセさんにデレデレしすぎなのです! リインにもデレデレするですよー!」

「ごめんなさい」

「どうして謝るですかー!」

「リインさん、まだ道は遠いようですね」

「まぁいつもの事だ、頑張れ……もぐ」

「……ヤスフミ、やっぱ諦めるしかないんじゃね? つーかレイジに話を聞けよ」


ショウタロスの言葉が突き刺さるけど、それより膨れたリインの視線が辛い……どうしてこうなった、僕の人間関係。

そして千早が……千早がずっと黙ってるの! それで両手で胸をさわさわしてる! まずい、二人ともナイスバディだから気にしてる!


「……くっ」

「まぁアンタがフィアッセさんに甘いのはしょうがないとして……アイラ・ユルキアイネンだけじゃないでしょ、気をつけなきゃいけないのは」

「分かってるよ。めぼしいところ……今日目立っていたのだと、やっぱりスタービルドストライクやケンプファーアメイジングだね」

≪いわゆる世界大会常連組は安定してて、逆に目立てないってのも皮肉ですよね≫

≪それはしょうがないの。今回は三代目メイジン達、ニューフェイスがかなり目立っていたの≫


歌唄が端末を操作し、モニター展開。既にアーカイブとしてアップされている、第一ピリオドのダイジェスト映像を再生した。


「改めて見ると、スタービルドストライクが目立ってるなぁ。いや、セイ達が遅刻したギャップもあるんだけど」

「あ、この……遅刻した子達もすごかったよなぁ。恭文君の友達なん?」

「えぇ。ただ、スタービルドストライクには二つ三つ欠点がある。対処もできるし、そこまで気にしなくていいよ」

「え……!」

「ともみは気づいてなかったかぁ。まぁあくまでも、『かも』ってレベルだよね」

「さすがにこの一戦だけじゃね。だからこそ明日の第二ピリオド、重要になるよ」


僕が複数ガンプラを用意したのは、こういう時に備えてだもの。ただセイ達は、どうなるかな。

もし明日もスタービルドストライクを使うなら、ちょっと厳しくなるかも。


「それより注目すべきは、ケンプファーアメイジングだ。原典通りの突進力が、ウェポンバインダーで更に強化されてる。
でも汎用性が失われているわけでもなく、特化したところがない分素直にファイターの技量が出やすい機体……実に『メイジン』向きだ」

「タツヤのザクアメイジングと、設計コンセプトは同じだな。全領域対応な武装が中心で、特化機能はなし。
相手を受け止め、力を引き出し、しかし自分も全力を出し尽くし、バトルに勝利する……もぐもぐ」

「しかし試合はまだ一つだけ、奥の手を見せていない可能性もありますし、『紅の彗星』が飛び出す可能性とてあります」

「そうなったらユウキ・タツヤだってバレバレだけどなー」

「どうだろうね、タツヤ……アホだしなぁ」


熱くなるととにかく前のめりだし、楽しいガンプラは好きだけど勝ちたいっていうエゴイストでもあるし。

フィアッセさんに抱っこされながら、とにかく狙いをタツヤに定める。明日は……余裕があるといいなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あぁ、恭文がまた楽しそうな顔を……これはやらかすと思っていたら、りんがちょんちょんつついてくる。


「ねぇ、アイツ」

「余裕があったら、メイジンのところにも飛び込むつもりね」

「馬鹿だねー! 大会最強を倒して、その上メイジンって!」

「戦いたくてしょうがないんでしょ、そういう奴だもの」

「うーん、欠点……欠点……駄目だ、しっかりしなきゃ。うん」


ともみが映像を確認し、まるでフェイトさんみたいにしてる。その様子をほほ笑ましく見守りながら、まずはお食事に出る。

せっかくフィアッセさんもいるんだし、ちょっと豪勢にいきましょ。初戦のお祝いもあるし。

それで二人は恭文を見て、とても嬉しそうだった。まぁそうよね、小さい頃から見てきた子だもの。


それが世界大会で名を上げて、しかもずっと変わらず瞳をキラキラさせて……恭文はやっぱり、恭文のままだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


リカルドは無事に勝利。というわけで密着取材していた自分達も、リカルドに改めてインタビュー。

二日酔いだったはずなのに、今はもう元気……それに呆れながらも、リカルドの自室でインタビューは佳境に入っていた。


「――なぁヒビキ、今度は逆に俺から質問だ」

「なんだ?」

「第二ピリオドで、全員参加のバトルロイヤル……それはとても難しい。どうして難しいと思う」

「え……えぇ! えっと、勝ち抜くのが大変だから、とかか?」

「なるほど、それはある。だがもう一つ欲しいな」


もう一つ……ハム蔵と一緒に腕組みしながら考え、考え……一つ思いついたので、拍手を打つ。


「あ、そうだ! どうやって勝ち抜くかが大事……とかかな。だって自分から戦いを挑んでいく必要って、ないだろ?」

「グラッチェ! 正解だ!」

「やったぞー!」

「ぢゅぢゅー!」

「そう、どうやって勝ち抜くが大事だ。例年通りなら、バトルロイヤルの勝者となれるのは三分の一のみ。
しかしフィールドは巨大で、様々な地形がある。なので明日は俺だけではなく、各選手の戦い方にも注目してくれ。
その三分の一へ入るために、ファイター達がなにを選び、持ってくるか」

「分かったぞ! というわけで、明日のバトルロイヤルもリカルドにしっかり密着! 注目してほしいぞー!」

「……はい、OKです!」


ディレクターからOKサインをもらい、場の空気が緩む。それにホッとしつつ、立ち上がってリカルドとしっかり握手。まぁ、こういうのは礼儀だから。


「リカルド、試合後疲れてるところ、ありがとうだぞー」

「いやいや、俺もまたヒビキと一緒に仕事ができて嬉しいよ。もちろんみんなもな!」

『ありがとうございます!』

「でもリカルド」

「なんだい」

「酒は、やめような? いや、ほんと昨日は大変で……キララさんもドン引きだったし」

「ドン引き……え、マジか!?」


自覚がなかった!? そんなアホな事があるかぁ! それすら記憶にないって、どんだけ酔っ払ってたんだ、この人!


「……あーおー」


そしてあおは両手を挙げ、『こりゃ駄目だ』のポーズ。……しょうがないな。うん、自分だって同じだし、だから自分もポーズを取る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


波乱の一日目、その締めはやはり豪華にディナーでしょう。選手村と会場脇には、大型ホテルも隣接。

その最上階……バーカウンターも兼ねたレストランで、ある紳士と一緒にお食事。

その方は白髪をオールバックにして、杖を片手にやってきた。ブラウンのサングラスを輝かせ、その奥に鋭い眼光を隠す。


しかし今は食事中という事もあり、サングラスは外し、穏やかな瞳をわたくしに向けていた。


「オルコット嬢、いきなりな誘いですまなかったね。こんな老体に付き合わせてしまって」

「そんな事はありませんわ。イギリス・ガンプラバトル界の筆頭、ジョン・エアーズ・マッケンジー卿のお誘いほど光栄な事はありませんもの」

「はははは、そう言ってもらえるとこの老体、まだまだ朽ちるわけにはいかんな」


そら豆の冷製スープを品よく飲むこの方こそ、ジョン・エアーズ・マッケンジー卿。

わたくしと同じイギリス代表であり、イギリスのガンプラ及びガンプラバトル普及に尽力する貴族。

それについては以前、チナさん達に説明した通りなのですが……この方とわたくしは、もう一つ接点がある。


「しかし君がSDガンダムとはね、実は少し驚いたよ」

「こちらで事前準備をしていた時、少々縁がありまして。思い入れができたんです」

「それはよい事だ。ガンプラ塾出身の青い涙と言えど、君はまだまだ若い……おっと、いかんな。説教臭くてはせっかくのディナーが台なしだ」

「いえ。ところで、ジュリアン先輩はまだ」

「……あぁ。ガンプラ塾の機能停止から一年半……未だに止まり続けている、君とは違ってね」


そう、これが接点。実はマッケンジー卿のお孫さん、ジュリアン・マッケンジー氏もガンプラ塾塾生。

それも塾内最強と謳われ、メイジンにもっとも近かった男と呼ばれていた。

わたくしにとっては同じイギリス出身というのもあって、目標であり……最大の強敵でした。


ただジュリアン先輩は……恭文さんから聞いた、バトルトーナメントの切ない結末を思い出し、胸が痛くなる。


「そう、ですわよね。バトルトーナメントで塾を去ってから、あの方はガンプラそのものから遠ざかった。
でなければわたくしや親しかった塾生の方々はもちろん、タツヤさんとも連絡を絶つわけがありません。特にタツヤさんは」

「虎の穴的なガンプラ塾の風潮に、短期間ではあるが風穴を開けたそうだしね。君がご執心な蒼い幽霊と一緒に」

「そ、そのような……執心などしておりません! あくまでもその、イギリス淑女として恥ずかしくない対応でですね!」

「ははははは! 照れなくても大丈夫だよ、若くて結構!」


もう……一気にシリアスな空気が吹き飛びましたわ。まぁ、だからこそでしょうけど。

……特にタツヤさんは、今も気にしていますわよね。自然と窓の外――美しい夜景を見やりながら思った。

もし、もしもあの日の決勝戦をもう一度できるなら、一体どちらが勝つのだろうと。そんなのは無理なのに、時は決して。


「それでだ、そんな若い君に相談があってね」

「はい?」

「なに、ちょっと証言してほしいだけなんだよ。……タイミングを見て、私が体調不良だとね」


そしてマッケンジー卿を見やると、とても悪い……子どもが面白いいたずらを思いついた時のような、軽快な笑みを浮かべていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界大会一日目は無事に終了……その余韻もかみ締めつつ、少し外の風に当たっていた。

セイの奴はスタービルドストライクの調整にかかりっきり。アランってのと話して、気合いが最高潮だ。

だが気持ちは分かる。世界……世界を賭けての戦いだ、そこで自分の力がどこまで通用するか。


そしてなんの偶然か、セイととても近いビルダーがいて、対決できるかもしれないんだ。ワクワクしない方がおかしい。

オレだってあの野郎の上をいく……今度こそ、オレの勝利を刻みこむんだって思うと眠れなくなるほどだ。

だが、寝よう。セイみたいな目には遭いたくないし、ちゃんと眠ろう。会場を眺めてのんびりするのは、これにて終了。


体調管理も立派な仕事だ、踵を返して歩き出すと、枝葉が揺れる。ただその音はかなり近くだった。

二時方向を見ると、茂みに隠れていた女がいた。しかもまたタップリと荷物を……試しにちょっと近づいてみる。


「よぉ」

「……! す、すみません。ちょっと買い出しに……ん!?」


銀髪の馬鹿はこっちへ振り返り、ぎょっとしながら指差し。


「アンタは!」

「こんなとこでなにしてんだ」

「アンタこそなにしてんのよ! さっさと出ていきなさいよ、ここは大会関係者以外立ち入り禁止……伏せて!」


いきなりアイツに頭を押さえられ、オレまで茂みに伏せる。て、ていうかこの女……遠慮なさすぎんだろ!


「なんだよ一体!」

「こっちきて……早く!」


アイツに手を引っ張られ、より深い茂みへ。妙に密着するが、それより気になる事がある。

……茂みの向こうに人影。黒スーツにサングラス? 妙に怪しい風貌だな、ただ者じゃないだろ。それともう一つ。


「いい匂いすんな」

「え……!?」


黒服達が去っていったところで、その匂い……根源である袋にさっと手を伸ばし。


「な、ななななななな……なに言って」


中に入っていたみしまコロッケを四つゲット。一つかぶりつき、その代わりにあるものを投入。それからさっと立ち上がって、銀髪から離れる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! なにすんのよ!」

「昨日の借りは返したぜ、じゃあなー」

「ちょっと、待ちなさいよ! こらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


さて、一つは今オレが食べたんで、タカネとミナコ、セイの土産にするか。いやぁ、今日はいい日だ。

遅刻はアレだが、スタービルドストライクでバシッと決めた。更に仕返しもできた、言う事ねぇなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


赤髪はあっさりと逃げて、茂みにへたり込みながら地団駄……なんなのよ、アイツは!

ていうか、レディに密着しておいて結局食べ物!? ああもう、また買い直しだ。お金は足りるだろうか。

不安になりながら袋を見て、小首をかしげる。袋の中にはコロッケの代わりに、入れた覚えのない千円札が入っていた。


日本のお金……それを持って、広げてみる。私のじゃない、タイミング的にはアイツ? でも、これ。

「これだけあれば、コロッケ……四つどころか七つくらい買えるじゃない」


なんなの、アイツ……ムカつく。アイツに関わると、なんだか調子が崩されっぱなしで正直、イライラする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本大会、優秀なビルダーは多いが、明日のバトルロイヤルで感触を確かめるべきは……やはり、スタービルドストライクだろうか。

日課のマッスルトレーニングを終え、クールダウンも兼ねて試合データをチェック。そうして狙いを定め、つい笑ってしまう。

アイラ・ユルキアイネンもと考えていたが、今日の反応を考えるとどうにもきな臭い。もう少し様子を見たいのが正直なところ。


この第二ピリオド、単なる勝抜戦と思っていてはアウトだろう。乱戦であるが故に、各々の戦術が見えてくる。

勝ち抜くために、無謀に飛び込んでいく者。又はそう言った奴らが潰し合う事を期待し、身を潜める者。

これから先のピリオド、及び決勝戦を踏まえ、深追いはせず限定的に戦う者……もちろん使用機体によっても、その戦力はある程度考察できる。


スタービルドストライクの粒子吸収能力、及び吸収粒子の活用法はすごいアイディアだ。

発想はゴールドフレーム天シリーズの、マガノイクタチからだろうか。同じSEED系機体ではあるし、作品の延長線上であり得る能力だろう。

基本性能も極めて高い。恐らくはRG張りのフレームを仕込んでいる……よく見ると装甲各部が動きに合わせ、繊細に稼働している。


塗装も含めたクリアランスをきっちりしていなければ、ここまでスムーズに動く事はないだろう。

これだけでもイオリ・セイ――イオリ・タケシの息子が、とんでもない化け物だと分かる。

しかし、ガンプラの性能差が、戦力の決定的差ではない。ファイターも世界レベルで極めて優秀だが……さて。


「明日はどう出てくるかな。正々堂々、しかし楽しんでいくとするか」


クールダウンは終了。汗を払うため、シャワールームへと静かに駆け込む。しかし、困ったな。

明日の応対、どのような流れになるか皆目見当がつかず、ただただ楽しい。すぐには眠れそうもなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日――今日は、今日は遅刻せずにすみました。本当に、ありがとうございました。

だって委員長が……委員長が、おはようコールしてくれてー! 寝坊しないようにって、気遣ってくれて!

嬉しかったけど、泣きたくなりました。どんだけ恥ずかしい思いをさせたんだろうと、こう……クイっていきたくなりました。


とにかく今日は出場選手揃ってのバトルロイヤル。会場内は満員で、巨大バトルベースを囲むように全員スタンバイ。


『――長らくお待たせしました。第二ピリオドの内容についてご説明します。
第二ピリオドはこの巨大フィールドを使用し、全ファイター九十名によるバトルロワイヤルを行います』


そしてフィールドが構築。これは、すごい……世界大会レベルの規模でなければ、なかなか使用できない数十メートルのフィールド。

それに地球と周囲の宇宙がまるまる構築された。都市部や廃虚、湖がある森林……これはまさしく。


『すっごーい! ではキララがあえて言いましょう――地球がリングだ!』


そして更に沸き上がる歓声! というか僕も興奮! これだけでも……これだけでも世界大会に出てよかったー!


『残り三十組となった時点で終了となり、生還したファイターには、各四ポイントが与えられます。それでは第二ピリオドを開始します』


レイジがガンプラをセットし、カタパルトとコクピットベースが展開。さぁ、いくよ……!

≪BATTLE START≫

「スタービルドストライク!」

「行くぜ!」


レイジがアームレイカーを押し込み、スタービルドストライクは宇宙空間へと飛び出す。さて……まずは。


『とりあえず、出てきた相手を片っぱしから倒せばいいんだよな!』

「そうだけど、相手は実力者ばかりだ! 注意して!」

『セイはんの言う通りです』


そこで右側から反応……マオ君のガンダムX魔王が、横につけてきた。一緒に宇宙を飛ぶけど、攻撃する様子はない。


『でもまた脳筋なー。隠れて戦闘を避けるだけでも十分でしょうに』

「それでレイジが納得すると思う?」

「んなちまちましたやり方、オレの主義じゃねぇんだよ!」

『でしょうね。でもこのバトルロイヤル、一人で戦うのは危険です。
残るのは三十組……というわけで、協力して戦いましょ』

「そうだね、一緒に」


今度は真正面から警告音が響く。返事をする前に強襲……く、全力で飛び込んできたか!

ビルドストライクと魔王は左右に散開し、放たれた高出力砲を回避。レイジも今のは実弾かどうか見分けがつかなかったから、きっちり避けてくれる。

「なにもんだ……!」


連射された砲撃。その一発を魔王が上昇して避け、二発目・三発目はビルドストライクのアブソーブシールドで吸収し止める。

その間に見えたのは、紫色の巨体。それを縮め、虫のような羽を羽ばたかせながらこちらに飛んできた。


『あのガンプラは、アビゴルバイン!』


こちらへ突撃しつつ、縮めた体を一気に解放。頭部アンテナを向けたMA状態から、一気にふとましい人型に変化した。

複眼式なマルチセンサーは赤く輝き、両肩からビームサイズが射出。それを連結し、ダブルサイズとした上で構える。


「タイ代表……ルワン・ダラーラ!」


……レイジはマオ君と一緒に、アビゴルバインへけん制射撃。でも巨体とは思えないほど軽やかな動きで、左右へのスライドから上昇。

こちらの弾幕を避けて、更に接近してくる。そしてレイジも合わせて前進。


「行くぜ!」

「レイジ!?」

『無茶です!』


でも止められないしなー! なにより僕も止まりたくない。あの人はフェリーニさんと同じく、世界大会の常連。

試してみたい。スタービルドストライクが……僕のガンプラが、一体どこまで通用するかを!

……続けてくるビームをスラロームで避け、こちらも反撃の射撃。アビゴルバインは一気に右サイドへ回り込み、ビームサイズで逆袈裟一閃。


ビルドストライクは身を伏せ、急停止しながら斬撃回避。続く左薙一閃をアブソーブシールドで防御し……でも体格、出力差から吹き飛ばされる。

それでも追撃阻止のため、ビームライフル連射。アビゴルバインは急停止し、ビームを左サイドすれすれでかわしながら、左腕を向けてきた。

「シールド!」

「おう!」

左腕内蔵のビーム砲、そこから放たれるせん光を、展開したアブソーブシールドで受け止め吸収……でも、警告音が響く。

ウインドウが指示するのは上。モニターがそちらを映すと、合計七発のミサイルが急接近。

回避は間に合わない……シールドを構え直し、全弾防御。でもその衝撃、爆発の圧力に耐えかねて、スタービルドストライクは更に吹き飛ぶ。


「野郎! ビームと同時にミサイルを」


そして爆炎を払い、レイジはなんとか姿勢制御を取り戻そうとする。……それじゃあ遅かった。

今度は十一発のミサイルが飛んでくる。結局これも回避できず、シールドで防御。

……さらなる衝撃とアラームに苛まれながら、僕は困惑するしかなかった。


「馬鹿な……たった一度見せただけで、アブソーブシールドの弱点を見ぬかれた!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロデューサーはまだ動かず。でもレイジ君とイオリ君がまた……ルワン・ダラーラ相手に真正面って。

あの子達、バトルロイヤルがどれほど重要なピリオドか分かっているのだろうか。

ステージへ続く通路脇で様子を見守りながら、さすがに呆れてため息。


「たった一度? そう言ってるならとんでもない勘違いね」


三条さんがダラーラさんの手腕に驚いていたので、ほしなさんが軽く訂正。


「昨日は二度、そして今日は三度見せているわよ、アブソーブは。そして昨日の時点で全ての答えは出ている」

「全ての? じゃあルワン・ダラーラさんは」

「当然スタービルドストライク対策を整えた上で、飛び込んでいます。いいえ、対策というよりは」

「スタービルドストライクの、致命的な弱点……だね。あたしも気づいた」


昨日もプロデューサーが軽く触れていたところなので、三条さんも納得。でも、その時薄着な胸が揺れて……くっ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


嘘やろ……! あのレイジはんとセイはんが、スタービルドストライクがまるで赤子の手をひねるように。

改めて世界の高さを感じながらも、シールドバスターライフルを構え直し、援護射撃。


「セイはん! レイジはん!」


三発……きっちり狙いながら撃ったはずなのに、アビゴルバインはまず右へローリング。

一発目をやり過ごしてから宙返りし、二発目を飛び越える。そして三発目は左へのローリングでたやすく回避。

更に四発目……というところで、アビゴルバインがなぜか前転。頭部アンテナから高出力砲を放ってくる。


それは回転の勢いで湾曲し、まるで斬撃波のように広範囲をカバー。慌ててシールドバスターライフルを逆手持ちにし、シールド形態に変形。

斬撃波を受け止めるも耐え切れず、こちらも吹き飛ばされる。くぅ……でかいくせに速いし強いし、腹立つくらいの完成度や!

そうしてこちらを押さえ込んだアビゴルバインは、更にミサイルを射出。


宇宙空間で乱舞する黒い弾頭は、執ような追撃となってスタービルドストライクを叩き、爆発を生み出す。


『『うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』

「お二人とも!」


撃墜……いや、違う! 爆発から突き抜けていく、小さな点……それはスタービルドストライク。

大した破損も見られず、そのまま地球へと落下し始めていた。でも、これ以上はやらせん!

なんとか機動修正できたので、追撃阻止のためシールドバスターライフルを連射。


それを察し、アビゴルバインは後退。錐揉み回転も絡めた回避で下がりつつ、MA形態に変形。

そのままこちらに背……というか、足先を向けて一気に索敵範囲外へ退避する。その様子を見て、苦虫をかみ潰すしかなかった。


「なんて鮮やかすぎる……! あのお人、最初からスタービルドストライクの底を見るのが目的だったんかい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



昨日と同じように、俺達と試合観戦中な大尉。大尉とディアーチェは渋い顔で、あの二体に注目していた。

それだけの性能がありながら、好き勝手されただけのスタービルドストライク。そして……アビゴルバインという強者を。


「それもまた当然よ。奴らはしょっぱなで札を出しすぎた。特に粒子吸収はまずかったな」

「確かにセイ君の想像力と情熱は大したものだ、スタービルドストライクは性能だけで言えば、世界大会中トップクラスかもしれん。
しかし致命的な欠陥もある。まずあのシールドのビーム無効化能力は、実体弾には効かん」

「それならIフィールドとかと同じですし、致命的と言うほどでは」

「いいえユーリ、あのシールドは単に防御するものではなく、粒子エネルギーを吸収するもの。
それを活用したのが、昨日見せた光の翼。つまり『解放と吸収』は、一そろえの機構なのです」

「あ……!」

「シールドによる粒子吸収ができなかったら、翼を出したりはできないって事ね。そう、シールドが壊れたりしたら」

「というか、壊れましたよね」


アミキリにも見えたようだな。三発目のあれで、表面の展開装甲が剥がれていた。

もしあれで粒子吸収ができなくなったら……バトルロイヤルの序盤で、とんだミスだよ。


「ついでに言えば、シールド自体の防御力も飛び抜けて高いわけじゃないんだろうな。ああいう連続的な攻撃には弱い」

「ボクも分かるよ。だって昨日の試合、スタビルはビーム攻撃だけ防御してたもん。実体弾は全部回避してた」


思い出してほしい、スタビルはザクF2000のフルバースト、回避からのカウンターで仕留めていただろ。

又は背中のキャノンで撃墜してさ。あれは実体弾が吸収できないってのもあるが、あれを防御すると盾がぶっ壊れるせいもある。

もちろん昨日はそんな事もなかった、でも『そうかもしれない』って可能性を生んだ時点でアウトとも言える。


そうそう、それでビームサーベルのように、固定化された粒子エネルギーは吸収できないようだな。

機能的な制限があるか、それとも強度的にもろくなるはずの吸収機構がさらされ、断ち切られてしまうか。

そのどちらかと言ったところだろう。もしできるなら、アビゴルバインの斬撃も吸い込んでいるはずだ。


「ルワン・ダラーラもそう予測し、多機能な武装を応用して攻め込んだんだよ。スタビルがシールド防御するしかない、そんな状況を作った。
しかも自分の機体が弱点を晒す、その前に手早く撤退だ。あれは戦いというより、今後に向けての布石……嫌がらせだな」

「だが効果的なのは間違いあるまい。素の状態であれだけの力が出せるのなら、最初からやっておるはずだ。
少なくとも翼の展開――粒子解放には、一定の条件がある。それをこのピリオドで晒されたとなると、今後は厳しくなる」

「スタービルドストライクの弱点、それはあの吸収・解放システムの脆さだ。これが一発勝負とかならまだいい、初見殺しだろうさ。
だが世界大会などは、『固定メンバーで長期間遊ぶお祭り騒ぎ』とも言える。そりゃああんな丸分かりな弱点、見ぬかれて当然だ」

「そして、第二ピリオドは単なる勝抜戦にあらず。その長丁場な大会序盤に、なぜここまで大掛かりなバトルを行うのか。
……それは今のやりとりが示している。各ファイターの戦術や使用機体、それをいかに隠し、相手の対策とさせないか」

「でも隠し過ぎてもやばい。その微妙なやり取りというか、パワーバランスを見極められるかどうか……結局二人は失敗したわけだが」


まぁ勝負の本質としてはそれなんだが、楽しそうだなぁ……やっぱバトルしたいなぁ。

というか、ターミナルに導入できないかなぁ。さすがに無理かなぁ……でも無理じゃないかもしれないー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地上――針葉樹林に囲まれながら、静かに呼吸。第二ピリオドのバトルロイヤル、無駄に戦う必要ない。

もちろん戦力を晒す必要も……そこで殺気。右肩の菊一文字を抜刀し、鋭く三時方向へ投てき。

右手が向けられた先にはなにもない、誰もいない……しかし気配が、足音が、駆動音による僅かな軋みが存在した。


結果四十メートルほど飛んで、菊一文字は敵機を貫く。そこで姿を現したのは、NダガーN……SEED MSVの機体か。

緑色のそれは、核動力を搭載したステルス機体。ミラージュコロイドシステムによって、いわゆる光学迷彩を纏う事ができる。


「……油断大敵だな」


かなりギリギリまで気付かなかったので、ホッとしてしまう。奇襲を許せば、その立て直しにも相応の時間がかかる。

というより、考える事は同じか。砲声が遠く響く中、改めて気持ちを引き締めた。


『お、いたッスね!』


そこで聞こえる声は頭上から……右へ飛び、振り下ろされる翡翠(ひすい)色の刃を回避。

更に返す刃をバク転で飛び越えつつ、地面に落ちていた菊一文字を回収する。

襲撃してきたのは、ガンダムAGE-2……しかしその翼は緑色のクリアパーツとなっており、内部で粒子が煌めいていた。


これは右手に持った長大なシグルブレイドは、地面をまっすぐに斬り裂き、木々をもなぎ払う。


「あなたは」

『せっかくだから、お手合わせ願おうと思ったッスよ。アーリージーニアス……やっぱり気になってたッスからねぇ』

「スガ・トウリ――ガンダムAGE-2 エストレア」


左の虎徹も抜刀し、二刀を構え深呼吸。全く、油断大敵どころかする暇すらないとはどういう事か。だが、ボクも逃げるつもりはない。

……だからこそお互い反転し、背後に刃で右薙一閃。襲ってきた粒子砲撃を斬り裂き、ちらした上で後退……一気に背中を預け合う。

ボクは当然とも言えるが、この人の斬撃もなかなか。さっきまで一触即発だったのに、妙に心強い。


『そう、願おうと思っていたけど、その前に邪魔者かぁ。イビツさん』

『結構な数が近づいてるよー。これ、どう見てもニルス君狙いかな。アメリカ大会で大暴れしたらしいし』

「正々堂々、誇りを賭けてバトルしただけですが……致し方ありませんね。スガさん、巻き込んで申し訳ありませんが」

『問題ないッスよ、肩慣らしにはちょうどいい』

「感謝します」


素直に礼を述べ、アームレイカーを押し込み疾駆。こちらへ迫る一団を二人で迎え撃つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さて、それはそれとして宇宙のもう一角に注目してみよう。堂々と……まるで自分が勝者であるがごとく陣取っていた。

その名はキュベレイパピヨンとアイラ・ユルキアイネン。そんな奴らの左右から迫るガンプラ達。


また無謀とは言う事なかれ。やっぱり強い機体の弱点などを晒す事は大事。Vガンダムのコンティオ、ガンダムXのオクト・エイプ改は左側から。

左側からはガンダムSEED ASTRAYシリーズのハイペリオン、ガンダムW EWのヘビーアームズが突撃。

でも奴らの周囲にりん粉が巻かれる。ハイペリオンは察知し、ウイングバインダーのアルミューレ・ リュミエールを展開。


これは光波シールドで、それで全方位を包んで防御。ヘビーアームズもそれに合わせ、急速後退。

その代わり最接近していたコンティオやオクト・エイプ改が、なにもできずに撃墜されていく。

そしてヘビーアームズは各部装甲を展開し、両手のダブルガトリングガンを構え一斉発射。


胸部ガトリング砲、両足ランチャーポッドのホーミングミサイル、両肩及び腰アーマーのマイクロミサイルが、派手な弾幕を生み出す。

それはりん粉と正面衝突し、ヘビーアームズを守り切る。しかしヘビーアームズは踵を返し撤退。

そう、撤退だよ。ヘビーアームズの砲戦能力は高いが……弾切れになると、徒手空拳しかできない。


一方ハイペリオンは、全方位のアルミューレ・ リュミエールでりん粉を受け止めつつ前進。

連続して発生した、小さな爆発を受けてなお止まらず、そのまま体当たりを敢行する。そしてアルミューレ・ リュミエールが変形。

全方位に展開されていたものは、突撃命中直前で一点集中。大型のビームランスとして展開する。


それは普通には避け難く、キュベレイパピヨンを抉り切るはずだった。……でもキュベレイパピヨンは発生前に右へ回りこんで回避。

肉薄し、生まれた光波の槍は、ただ虚空を照らすのみ。その衝撃は明確な隙となる。

そして反転する前にりん粉が撒かれ、ハイペリオンは蜂の巣となって撃墜される。


「ダーグ、今の見てたよね。大尉も」

「あぁ、バッチリだ」

「やはり彼女には見えているようだな、『未来』が」


未来……言い得て妙。動きの先、動きの方向が見えている。ニュータイプというか、サイキッカーの類だろう。

そしてそんな機体を見つけ、楽しげに近づく馬鹿どもがいた。ただし機影は一機で、まだ向こうも気づけないような距離から。


「ん……あ、あれ!? あの機体は! え、もしかして!」

「落ち着け、ユーリ。知っているだろうが、奴らは馬鹿だ」

「そしてこの乱戦を最大限楽しもうともしている、だからこそ馬鹿は強い。そうでしょう……ヤスフミ、リイン」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セコンドへ入り、アイラのバトル及び【エンボディシステム】の状態を逐一確認。ゲージは問題なし……やはりな。

アイラの能力に対応できるファイターなど、この世界には一人として存在していない。

世界大会に優勝すれば、我がフラナ機関もより大きくなる。これはチャンス……チャンスなのだよ。


せっかくなのでメイジン辺りでもこないかと思っていると、敵機反応。真正面……現在八百メートルの位置か。

「アイラ」

「迎撃します」


そしてクリアファンネルを十機射出。見えない、透明なファンネルはりん粉のように見えるのみ。

これで今近づいている奴も、無謀の仲間入りをしてもらおう。しかし、やる事がなくて暇だな。

エンボディの状態も今言った通りな上、アイラが強すぎるものだから……しかし、そこで爆発の帯が見える。


「やったか」

「いえ……これは、撃墜された」

「され、た?」


そう、撃墜された……つまり、こちらのクリアファンネルがだ。一体どうなっているのかと、慌てて爆発地点をモニター。

そこに映ったものを見て、つい寒気が走った。それはパーフェクトガンダム……伝説のガンプラだった。

だがよく見ると、カラーだけは同じなAGE-1フルグランサだった。背部武装は大きく違うが。


パーフェクトガンダムを思わせるキャノン砲をバックパック右に、ミサイルポッドをその逆に搭載。

安易な改造と発想……そんな感想を抱いている間に、距離は五百メートルを切る。


『アイラ・ユルキアイネン……キュベレイパピヨン、その首もらおうか』

『首おいてけーなのですよー♪』


この幼い声は確か、日本地区第二ブロック優勝者で、ヤスフミ・アオナギとその義妹のリインだったな。

まるで自分達が、アイラより強いと言わんばかりの言い草。アイラが口元を歪め。


「……ファンネル」


真正面から飛び込んでくる馬鹿に対し、もう一度クリアファンネルを射出。しかもこれは……ん!?


「おいアイラ、誰が全弾飛ばせと言った! 長丁場だから小出しに」

「一度撃墜されています」

「……くそ!」


論破されてしまった。だが確かに、どんな手を使ったかも分からない以上は……フルグランサはクリアファンネルが迫る前に急停止。

その分厚い体くからは想像もできない身軽さで下がり、まずは右腕を左に振りかぶり、ビームサーベル展開。

原作にも出てきたシールドライフル……いや違う。大型かつ二連装になるよう改造されている。


それを右薙に振るい、斬撃波を発射。ふん、無駄だ。そんなものでクリアファンネルが撃墜できるわけもない。

アイラは既にファンネル達を、回避コースへ操作している。この一撃で頭を冷やすといい。

そして奴は無駄にこちらへ射撃。回転するビームが迫るものの、アイラは回避行動を取りつつ、奴に回り込もうと加速。


そう、だから対応できなかった。奴のビームは我々ではなく、放った斬撃波に飛んでいたというのに。

斬撃波は回転し、あるものを思わせる。気円斬……いいや、これは劇場版Zガンダムの。


『ビームコンフューズ!』


命中した斬撃波とビーム砲弾、それらはお互いの回転効果も混じらせながら、粒子の波動を全方位に展開。

その衝撃に押され、ファンネル達の遠隔コントロールが一斉に途切れる。それだけではなくボディもひしゃげ、次々と爆散。

アイラもこの撃墜方法は予想外らしく、あ然と固まっていた。馬鹿な、ビームコンフューズ、だと。


しかも見えてもいないファンネルに対して……顔に泥を塗られた気持ちで、怒りに打ち震える。

それはアイラも同じだ。奴らは、我々を……強者たる我々を見下していた。


◆◆◆◆◆


AGE-一PG ガンダムAGE-1 パーフェクトグランサ(読者アイディア)

武装

二連装シールドキャノン(ビームサーベル兼用)×1
両腰装着ビームダガー(ビームサーベル及び)×1
大型バックパック・フォートレスユニット
ハイパーシグマシスロングキャノン
(フォートレスユニット右肩)
六連装ミサイルポット
(フォートレスユニット左肩)


ガンダムAGE-1フルグランザをパーフェクトガンダム風に武装変更したモノ。

フルグランザとの違いは、シールドキャノンが二連装になっている点。

そしてカラーリングがパーフェクトガンダムと同様の、トリコロールカラーになっている事。


最大の違いが大型バックパック・フォートレスユニットである。

パーフェクトガンダムと同様、胴体後部を覆う大型バックパックに、キャノンとミサイルポットを装備したもの。

大きさは伊達ではなく、スラスターが左右四つ付いているので、機動性をしっかり補っている。


なお、今後のためにフォートレスユニットは、ビルドファイターズの武器セット同様のマルチパック仕様である。



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これがコードネーム『パーフェクトAGE』こと、パーフェクトグランサだよ。ふふふ……作ってみたかった、パーフェクトガンダム!

でもフルグランサっていうのがちょうどアニメで出たから、頑張ったんだー! ちなみに装甲は全部自作です!


「さぁさぁ! アイラ・ユルキアイネン……見えないファンネルはもうおしまいかなぁ! どんどん出してきていいんだよー!」

「カモンなのですよー♪」

『……!』


どうやらファイターは気が短いらしいね。まぁ知ってたよ、今のファンネル攻撃、さっきよりずっと数が多かった。

一度撃墜されて、ムカついたんでしょ。そういう奴らなら絡め取り方も決まってくる。

ランスを持って、こちらに加速してくるキュベレイパピヨン。なので目を閉じ深呼吸。


先を読まれているなら、狙うのは後の後。そして本当に粒子が見えているのなら、反応の性質は脆い。

そして視覚に頼っていては駄目だ。感覚を研ぎ澄ませ、既にパーフェクトグランサと僕は一体化している。

そう、やれる。今ならあの【極地】に……まずは両肩、膝アーマーの一部装甲を展開し、マイクロミサイルを連続発射。


合計八発が揺らめく中、キュベレイパピヨンは素早く左にスライド移動。

ミサイルをやり過ごし、一気にこちらの左脇を取ってくる。ミサイルのコントロールは行いつつ、回避行動。

派手なアクションはせず、わずかな動き……誤差に等しいレベルの操作で、キュベレイパピヨンの攻撃をやり過ごす。


この動きは以前知り合った、ジョン・エアーズ・マッケンジー卿という人がやっていた。

二代目メイジン最大のライバルとも言われる、イギリス貴族だよ。今回の世界大会にも出場している。

見切り……最小限の見切りによって、襲い来る攻撃のブレそのものを少なくし、回避を容易くする技法。


結果相手はどのような高速機動を行おうと、どのような攻撃を行おうと、こちらに縛り付けられるが如く動いてしまう。

動きが予測されるのなら、予測して対処するその刹那を狙うしかない。それで思いついて、やってみたのがこの技法だよ。

実際キュベレイパピヨンも意識せずにやってたでしょ。あれと同じ事だよ。


でも僕のは真似っ子で劣化品。つまり……マッケンジー卿なら、こいつにも勝てるって事だ。

キュベレイパピヨンがパーフェクトグランサの前を通り過ぎる中、左腕をゆっくりと動かし、シールドライフル発射。

これはシールドとサーベル、ドッズライフルとして扱える複合武器でね。

しかも二連装にしてあるから、威力は……ゆでたまご理論で計算してほしい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


アイラが見えているもの――ガンプラを動かす流体粒子、それは類まれなるバトルの才能。

だからこそ拾い上げた、だからこそ価値がある。なのに、アイラが接近戦で外すだと。

信じられず震えていると、視界が急激に回転。奴は避けた途端、左腕のシールドライフルで背中を狙い撃っていた。


すれすれで攻撃を避けるものの、弾丸が左下腕を掠め、派手に吹き飛ばしてしまう。


「な……! かすめただけで、この威力だと!」

「く……このぉ!」

「アイラ、熱くなるな!」


しかしまた突撃。ランスビットで逆袈裟・刺突・右薙・袈裟・逆袈裟と乱撃……が、どれも当たらない。

奴は静かに下がりながら、その全てを紙一重で避けている。アイラがターゲットを捉えていないわけではない。

現に切っ先はボディを掠め、頭部アンテナの右側を断ち切り、トリコロールカラーの装甲にも傷を刻む。


しかしそれだけ、相手の皮だけしか切れない。それも乱撃を続けるうちになくなり、ついには触れる事すらできなくなった。


「アイラ、一旦下がれ! ファンネルで仕留める!」

「ちぃ!」


だがアイラは言う事を聞かず、右へスライド移動。相手の視界から消え去り、背後へ回って右薙一閃。

なるほど、まずは不意打ちで驚かせてか。冷静さを欠いているわけではないらしい。

そしてランスビットでの刺突が放たれ、フルグランサは時計回りに一回転。無駄だ、アイラは回避の機動が見える。


そんな事では……と思っていたのに、奴の胴体部が分割。ランスは胴体と下半身の間を通り過ぎただけ。

奴の命を断ち切る事もできず、私達は一瞬呆ける。だがそこで胴体部の隙間が見える。

そこにはメカ造形らしきものがびっしりと……まさかこれは、コアファイターか! なら。


「この!」

「下がれ!」


アイラが私の声で反射的に下がると、奴は背面(ニュータイプ)撃ちを放つ。こちらへわずかに振り返り、至近距離での射撃。

回転するビーム粒子を、キュベレイパピヨンは後ろに反り返りながら回避。が……頭部は弾丸をまともに食らい消失。

更に胴体部前面も軽く抉れ、一気にダメージ表示が連続展開。衝撃で機体は大きく吹き飛ぶ。


焦りと恐怖の中、慌ててそれら全てを確認する。その間に奴は下半身――Bパーツと合体し、改めてこちらへ振り返った。


「なんなの、あれ……ねぇ!」

「後で説明する!」


なんという奴だ……! 今のはガンダムSEED DESTINY劇中で、インパルスガンダムが行った回避方法じゃないか!

しかも初代ガンダムと同様、AGE-1にコアファイターを仕込んでいた! くそ、完全に弄ばれている!

今奴の相手をし続けるのは危険……どうする、選択肢はある。エンボディゲージを限界まで上げ、アイラの能力を引き出す。


しかしこのピリオドは、勝利条件が特殊。残り三十組になった時点で終了するが、逆を言えばならなければ終わらない。

現に試合時間も例外的に無制限となっている。普通のバトルとは違う長丁場、この序盤でそんな真似をするわけには。

当然アイラへの負担も大きい、この場はなんとかなっても損傷した機体で、後には続かない。


だがなぜだ。奴の戦い方はまるで、こちらのやり口が見えているような。疑問に思ったところで、Uターンしてきたミサイル達が再び迫る。

キュベレイパピヨンは素早く上昇し、回避……が、そこでミサイル達はあり得ない反転速度をたたき出し、容赦なく追撃する。

もちろん粒子の動きが見えているアイラには、避ける事自体たやすいが……このしつこさは。


「アイラ、撃墜しろ! これはファンネルだ!」


そうだ、これはクリアファンネルと同じファンネルミサイル。だが、これほど繊細な操作をあの少年が?

いや、できる。あれだけの工作、戦闘技術を有しているのだ。やはり日本……一筋縄ではいかないという事か。

これを放置しておけば、間違いなく攻撃の隙を作る。撃墜するよりあるまい。


アイラはファンネルを引きつけつつ、ランスビットで左薙一閃……しかし切り裂けたミサイルは三発だけ。

残り五発は仲間を囮に、斬撃を避けつつこちらのボディを叩く。くそ、いやらしすぎる!

更に警告音……右側を見ると、シールドライフルの回転ビームが迫っていた。


キュベレイパピヨンは左へのスウェーでなんとか射撃をやり過ごすも、ビームは張り出した右肩バインダーを貫き、粉砕する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「恭文さん!」

「予想通り」


既に底は見えた。だから閉じていた目を開き、鎖を完全にかみ砕く。体中から溢れんばかりの闘気、自己催眠による能力の活性化。

そう、ガンプラバトルでも修羅モードは有効。ここからは、容赦なく食いちぎっていく。


「種割れしましたね」

「文字通り目の色が変わってるな……もぐ」

「押しこむよ!」

「はいです!」

「だが油断すんなよ、お前ら!」


幾ら動きが読めたとしても、人間の体はとっさの事に反応しづらい。それが攻撃中ならばなおの事だ。

というか、得物がおおぶりな実体ランスだもの。可動範囲の問題が絡んで、振り方ってのはある程度限定される。

近接戦闘ならば動きが読まれたとしても、対応自体はたやすい。更に奴は『目』に頼りすぎてもいる。


見える事が、先読みできる事がデフォだから、それ以外の変化に無頓着。例えばビームコンフューズだ。

あれはただファンネルを撃墜するためだけに使ったんじゃない。確かめたかったのよ、

奴の『原作知識』を、そしてその能力の幅を。それで断言できる、奴はガンダムとガンプラバトルが好きじゃない。


少なくとも自分から進んで、アニメや映画を見るタイプじゃない。だから気づけなかった、僕の戦術に。

そのせいもあって、現象のかけ合わせによる相乗効果――コンボ的な動きは読みきれない。

ビームコンフューズもビームサーベルの固定化された粒子と、ビームライフルの粒子が衝突・相互反応を起こして発生するもの。


だけどセコンドの方は違うようだし、二人の連携具合によっては……このペースを保っていかないと、逆転負けも十分あり得る。

なんて事はない、僕達がこれまでやってきた事の積み重ねだよ。能力的に格上な相手を、戦術とその場のハッタリで絡めとり、粉砕する。

あいにくそういう戦いなら、今までずっと続けてきた。つーわけで、どんどん追い込んでいこうか――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


メテオホッパーを駆るフェニーチェ……砂漠地帯を駆け抜けながら、前方から迫る敵機達に砲口を向ける。

ザクタンクはキャノン砲を放ち、ティエレンタオツーはホバリングしながらも援護射撃。ドワッジと一緒に接近してくる。

更に上からは、パラシュートで降下するサーペントまで出現。ビームキャノンも連射され、雨あられの中をスラローム。

『まずは協力して、優勝候補の一角を崩すんだ! 撃ちまくれぇ!』

「お前らの考える事は」


ちょうどいい岩があったので、二時方向へ走りながら乗り上げ、跳躍。

砲弾も、ビームキャノンも、ついでにタオツー達の突撃もたやすく飛び越え、奴らの中心部へ。

そのままメテオホッパーを回転させながら、トリガーを引く。変則的なローリングバスターライフルで、周囲の砂ごと敵機達をなぎ払う。


「お見通しだっつーの!」


カートリッジ一発をパージし、回転しながら着地。そのまままた砂漠の上を走り、帯状に連なった爆炎を突っ切る。


「どーよ、このスマートな戦いっぷり。キララちゃん……そしてヒビキ、アズサ、見てくれたかな?」

「おー♪」


……だがそこで警告音。だらけるのはやめ、頭上を確認しつつ緩急つけたスラローム回避へ突入。

落ちてくる爆雷をなんとか避け、爆発の連鎖を置き去りに走り抜ける。そして百八十度回転し、後方へ向き直りながらバック。

「どこのドイツ……なんじゃありゃあ!」

「あお!?」


頭上のあおと一緒に驚いちまう。出てきたのはでかい……でかい攻撃空母だった。

熱核ジェットエンジンを推進用に十八、上昇用に八基搭載し、丸みを帯びたボディの両横は、大きく広がった翼。

全高七二.四メートル、全長一四七.四メートル、全幅一五九.四メートル……総重量六九〇.四トン。


武装は爆雷の他にタイ空気銃、メガ粒子砲を機首上部、左右翼部に各一基ずつ……そう、あの青赤カラーは。

Vガンダムに出てくる、ゲンガオゾと随伴飛行するアイツは……!


「ガウ、攻撃空母……だと。しかもありゃ、百四十四分の一サイズ!」


初代ガンダムにて登場した、ジオン軍が使用する攻撃空母だ。ガルマ・ザビが乗っていたやつでもあるな。

もちろん系列の外伝作品にもちょいちょい登場する。そんなのを作った奴は。


『見つけたぞ、リカルド・フェリーニ』

「……ドイツのチョマーか。それを作るの、大変だったろ?」


ドイツのライナー・チョマーだった。青赤と言えば、奴のパーソナルカラーだからな、すぐ分かった。


『貴様を倒すため、全てをこれに費やした』


じゃなきゃこんなもん、そもそも作ろうとは思えない。攻撃空母なので、機体を収納する事が前提になってる。

それゆえの巨体なわけだが、情熱がなければ……長年世界大会で戦ってきた強敵(とも)は、声にその苦労をにじませる。


『貴様に……貴様に……! 去年ガールフレンドを横取りされた恨み! 晴らさせてもらうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!』

「あお!?」


叫びとともに爆撃が再開される……なので展開される機体下部ハッチを狙い、後退しながらバスターライフル発射。

我ながらめちゃくちゃ冷静に、とても冷酷に引き金を引けたのには驚くしかない。

黄色の奔流は投下されかけた爆雷を飲み込み、機体内部で大爆発。


恐らく貯蔵していた爆雷や機関部にも引火しただろう。そしてガウは激しく揺れ、その機動を乱し始める。

まぁ、機体構造もそのままだからなぁ。的もでかいとくれば、対処はかなり楽なわけで。


『『『『『『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』』』』』


幾つか悲鳴が聴こえたような気もするが……気のせいだろう。

ガウは爆雷ハッチから黒煙を出しつつ、それでもこちらに迫っていた。


「ざけんな馬鹿! あれはあの子の方から言いよってきたんだぞ!」

『嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「あおあお! あおー!」


ホントだ! それは嘘じゃない……あおもぱしぱし叩くな! バトル中だぞ!

とにかくメテオホッパーのカートリッジが再びロードされ、三発目のバスターライフル発射。

しかし機首にダイレクトヒットした粒子砲撃は、あっさりと散らされ消えてしまう。そして、ガウはその残滓を払い更に接近。


ち、塗装技術によるビームコートか! まぁまぁ同じ機体をずっと使ってたら、こういう事もあるわな!

そしてガウの機首上部、及び両翼が展開。放たれるメガ粒子砲を、再び前方へ向き直り、加速しつつ振り払う。

派手に吹き上がる砂を見やりながら、直撃したらやばい事は痛感する。さて、どうするかねぇ。


まずは誤解を解かねぇと……マジで横取りはしていない! 彼女だと知ったのも受け入れた後だぁ!


(Memory44へ続く)






あとがき


恭文「さぁ、第二ピリオドはイタリアの駄目男が本領発揮する感じ……でも原作より強い」

あむ「一瞬で迎撃してるしね。お相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文です。そして作者はなにをしていたかというと、現在HPトップにも載っている」





恭文「これを作っていました」

あむ「あ、レオパルド・ダ・ヴィンチの改造機体か」

恭文「ただその範ちゅうを超えそうな設定が次々飛び出し、今度の同人板に出るかも」

あむ「はい!?」


(ガンプラは自由だった)


恭文「それでさ、同人板幕間をそれに伴い書いてて……ちょうどいい夢を見たおかげでこっちが進んで」

あむ「夢……あー、HGAC トールギスとかか。ていうか、なんで最初じゃなくてIIから?」

恭文「夢だもの、しょうがないね」


(統合性は投げ捨てるもの)


恭文「そしてアイラ・ユルキアイネンと僕との対決。ご覧いただいた通り、パーフェクトグランサは読者アイディアからになります」

あむ「アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


あむ「しかしアンタ、器用な」

恭文「まさかのメルとま自体が、このバトルの伏線だったとは……作者も分からなかった」

あむ「当たり前じゃん! メルとま書いたのって何年前!? ビルドファイターズは影も形もなかったじゃん!
とにかくそんなバトルは絶賛いろんなキャラが入り乱れて……でも前半は静かだよね。作戦会議だったりで、セシリアさんもあの人と」

恭文「HP版では初登場、ジョン・エアーズ・マッケンジー卿だね。分からない方のために一応ご説明を。
マッケンジー卿や孫であるジュリアンは、アニメだと一話限りのゲストキャラでしたけど、漫画『ビルドファイターズA』ではガッツリ絡みます。
マッケンジー卿はやっぱり一話しか出ていないものの、とまかので見て頂いた通りタツヤのガンプラ塾入塾にも協力。
間接的にジュリアンとタツヤの出会い、及びその別れ――三代目メイジン誕生の要因として大きく絡んでいます」

あむ「それで漫画はアニメの過去話だから、ガンプラ塾時代のジュリアンさんがガッツリと」

恭文「タツヤにとっては尊敬する先輩であり、やっぱり最大の目標でもあった。……ただ」


(そんなジュリアン・マッケンジーがどうなっているかも、今後にまた。同人版では幕間第二十九巻でやっていたりしますが。
本日のED:RIDER CHIPS『NEXT LEVEL』)


あむ「あれ、NEXT LEVELって確か」

恭文「今年に入って、全仮面ライダーのOPをカバーって企画が始まっててね、アマゾンのデジタルミュージックとかで販売されてるの。
そうそう、仮面ライダーと言えば気になるのがUNLIMITED DRIVEとか、Spinning Wheelとか」

あむ「そうだそうだ! 現段階で視聴もできないじゃん!」

恭文「それなんだけど、九月九日にまたドライブ絡みでアルバムが出るんだって。そこに収録……もうすぐだよ!」

あむ「うっし、覚えてうたうぞー!」

恭文「僕は分身でハモる!」

あむ「それはずるいじゃん!」


(おしまい)





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あきゅろす。
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