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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション09 『終わる戦い 始まる日常』:1



・・・こうして、人型兵器は排除された。あのシャナも潰した。





いや、苦戦したけど無事に終わってよかったよかった。










「んなわけないでしょっ!? アンタなに回想入ってちょっと楽しようとしてんのよっ!!」





ごめん、私ウソついた。ぶっちゃけ『変身』ってやった直後なの。でもね・・・許して欲しいな。ちょっと現実逃避するくらいはさ。

だって、私マジでフォローに来ただけだし。『ヒロリス・クロスフォード』じゃなくて『フォローリス・フォロースフォロー』になってるのよ。『フォロ方十四フォロー』と同類じゃん。



・・・ごめん、ちょっと泣いていい? あぁ、きっとこんなのは私だけなんだ。サリはきっとかっこよく暴れてるだろうし、やっさんはやっさんで主人公っぽく偉そうに暴れてるんだ。戦いながら説教なんてしてるに違いないんだ。なにかのガンダムみたいに。

なのに、なんで私だけフォロー人生っ!? おかしいでしょうがこれっ! ・・・あぁもう、そういう憂さも全部これで晴らしてやるっ!!





「うっさいねぇ、こういうのは掴みが大事なんだから、いいでしょうがっ!!」

≪いや、姉御。きっと良くねぇとおもうぜ?≫

「そのデバイスの言う通りよっ! てゆうか、一体どんな掴みっ!?」





なんて言いながらも、私の身体には変化が起きる。まず、包むのは銀と黒の装甲。そこから、虹色のレールに乗ってアーマー達が現れ・・・私に装着される。



身を包むのは、赤いプレストアーマー。そして、頭の部分にある銀色のレールの上を走るようにして現れたのは・・・赤い桃。それが顔の正面まで来ると、パカっと真ん中から二つに割れて、目のようになる。



で、ここからがほんばーん♪





≪え、これで終わらないのかよっ!!≫

「当然っ!!」

≪一体なにがどういう具合で当然っ!? いや、俺マジで分からないんだけどっ!!≫

「さぁ・・・」

≪お願いだから無視するなぁぁぁぁぁぁぁっ!!≫





右手から取り出したのは・・・赤いケータイ。それをベルトに装着して、その上で・・・もう一回♪





「変身っ!!」





パスをベルトにセタッチ。





≪Climax Form≫





装着されたアーマーが光に包まれ・・・変化する。赤い、全身にレールが入ったような感じのアーマーになった。

それから、右肩に青い亀の仮面。左肩に金の熊の仮面。胸元に紫の竜の仮面が装着される。



そして、顔の桃な仮面が・・・パカっと剥ける。





「か、皮が剥けたっ!?」





そうして、一瞬だけそのボディが輝き、空気が震える。



ふふふ・・・どうせやるなら徹底的っ! せっかくのクライマックス、派手にやんなきゃだめでしょっ!!





「・・・俺」





右手の親指で自分を指差し、それから腕を広げる。



ちょうど、歌舞伎やるような、見栄を張るポーズな感じで。





「参上っ!!」





瞬間、私の周りにある全てのものが完全に動きを止めた。それは、シャナだけじゃなくて人型兵器も。



・・・ふ、私が余りにカッコよ過ぎて皆感動してるんだね。わかります。





≪・・・姉御、それマジで言ってんのか? だとしたら・・・アレだ、それは老化現象だ。もしくはゆとり思考だって≫

「アンタ、それはどういう意味よ?」

「あ、あの・・・なによ、そのダサいのは」



・・・はぁ?



「待て待てっ! これのどこがダサいのっ!? めちゃくちゃカッコいいでしょうがっ!!」

「アンタ、それマジで言ってるっ!? ダサいにも程があるでしょうがっ! なによそれっ!!」

≪あぁ、ついやっちまったー! 俺達絶対怒られるよなっ!? マジですごい勢いで怒られるよなー!!≫










・・・いちおうこれについて説明。これは私とサリが暇つぶしに作った装備。名づけて・・・Den-oジャケットっ!!

これはバリアジャケットの技術を応用して作った特殊装甲。なお、ただ魔力で作った通常のジャケットと違って、物理装甲も組み合わせていたりする。・・・おかげで重いんだけどね。物理的に。

で、徹底的にこだわりにこだわり抜いたおかげで、見ての通りモノホンな感じなのですよ。





ただ・・・あの、あれなの。あんまりにこだわり過ぎて魔力消費一切考えなかったおかげで・・・魔力フルの状態でも、装着時間が10分持たなかったりするんだな、これが。それを過ぎたら? 当然魔力エンプティで変身が解除されて倒れるさ。

・・・ちくしょお、絶対に実用化してやる。具体的には、バッテリーでも動くようにしたりとかして・・・あれ、これは別のお話で有ったからダメだな。パクリになっちゃうよ。

とりあえず・・・目の前のデカ物を見据える。そして・・・そのまま普通に歩いていく。熱光線が打ち込まれるけど・・・あ、痛くないな。もう全然。普通に歩いていけるし。アメイジア、装甲の状態はどう?










≪問題はねぇけど・・・でも、やっぱ魔力消費がデカイって。早めに勝負つけねぇと、今の姉御の魔力だと3分と持たずにエンプティだぜ?
・・・つーか、早く終わらせてくれっ! 俺は怒られるかと思うと、怖くて怖くて仕方ねぇんだっ!!≫

「わぁってるよっ! そんじゃあ・・・行くよっ!!」





アタシは、そのままかまわずに走り出す。また光線を打ち出してこようとするけど・・・それが止められた。



後ろから銃声。それによって、相手の顔部分に数発の銃弾が当たる。あ、それでも射撃止まった。

つーか、マジで援護してくれたんだ。うーん、意外といい奴だね。





「アンタ、いくらなんでも単純過ぎでしょっ!? とにかく・・・さっさと潰しなさいよっ!!」

「了解っ!!」





とりあえず、私は走りながら腰のデンガッシャーを外す。まず・・・二つ、パーツをくっつける。それを、高くに放り投げる。



そうしながら、迫ってきた鎌を左に飛んで避ける。その間にもう二つのパーツを手に持つ。それから前転。また打ち込まれた鎌を避けて・・・相手の足元に入り込み、全力でスネに向かって回し蹴りっ!!

ちょうど足払いな感じで倒れたそれの後ろに回りこむ感じで、私は立ち止まる。すると・・・放り投げたパーツが上から落ちてくる。そして、それが私の前に来ると、手に持っていた二つのパーツとの間に電気のようなものが走り、三つのパーツは一つになる。

そうして、生まれる。赤く・・・鋭い刃が。





「悪いね、あんまり遊んであげられなくてさ」





私はそのまま、左手にパスを持つ。パスは開いた状態。



まず、ケータロスのエンターボタンを親指で押す。それから、一回セタッチ。





「でも、時間無いのよ。だから・・・ぶっ潰すっ!!」





それから、パスを閉じて・・・もう一回、セタッチ。





≪Charge and Up≫





ソードモードなデンガッシャーを身体の前に構える。そして、ベルトから火花のようにエネルギーが伝わり・・・赤い刃が虹色のエネルギーに包まれて、剣の基部部分から外れた。いや、飛び上がった。



立ち上がり、私を睨んで来たこのデカ物に向かって、私は・・・手元に残った剣の基礎部分を右から横に振るう。





「必殺・・・私の必殺技っ!!」





剣は、その動きに呼応するかのように空中を移動。刀身がドリルの如く回転しているけど、それでもまず・・・右から横一文字に巨人を斬った。



そのまま、今度は左に右腕を振るう。空中の剣は、やはり先ほどと同じように巨人を斬る。その度に虹色の閃光が生まれる。



このまま・・・ラストっ!!





「クライマックスバージョンッ!!」





最後は、腕を大きく上に振り上げ・・・打ち込む。空中の剣が巨人の頭上から唐竹割りに打ち込まれて、その巨体を・・・完全に真っ二つにした。



そのまま・・・巨人が爆発する。その爆風が通路を満たすけど、私はなんとか平気。だって・・・こういう状況にも対応出来るようにこだわり抜いたもん。



爆発が収まる。通路の所々に炎と飛んできた破片の数々。・・・あれ、アイツ生きてるかな?





「あ、アンタ・・・マジでこっちのこと考えてなかったでしょっ!!」

「あ、生きてたか。うん、よかったよかった」

「よくないわよっ!!」

≪姉御、多分皆は姉御が教導隊出身だって言うのを疑わしく思ってるぜ?≫





失礼な。私は頭脳労働が出来ないだけだってのに。とにかく・・・巨人は倒した。さっきから感じて仕方なかった揺れも・・・無いね。つーか、今止まった。



私はベルトを外す。すると、私の身を包んでいたDen-oジャケットが解除されて、私は元の教会騎士の服装に戻る。





「ロッサ、聞こえる?」

『聞こえるよ。大丈夫、君があれを倒してくれたおかげで自爆プログラム、止まったよ』

「・・・・・・そっか、ならよかった」



とりあえず、そう言いながら私はアメイジアをスラッシュフォルム・・・二刀流の片刃の双剣としてセットアップ。そのまま、構える。



『あと、フェイト執務官とシャリオ補佐官から伝言』

「は?」

『教会騎士の方であれを対処するとだけ、話してはいたからね。『ご協力、感謝します』だってさ』

「あいよ」



そのまま、通信を切る。そして、見据える。私に向かって・・・銃を向けている女を。



「そういや、倒すまでは協力する・・・って話だったもんね」

「そうよ、だからもうここまで。あとは、アンタを捕まえるだけよ」

「アンタを人形と言って、名前ひとつ付けようとしないお父様のために?」



私がそう言うと、女の・・・シャナの身体が固まる。黒い髪が少しだけ揺れて、金色の瞳に確かに見て取れる動揺が走る。



「それでも、私は・・・こうするしかないのよ」

「なにか特殊な処置でも必要な身体とかなの?」

「違うわよ。でも、私はこれしか知らない。これしか、生きていく手段を、知らないの。だから・・・こうするしかない」

「・・・そうかい。だったら、私もこうするしかないね」










そのまま、にらみ合う。互いの間には炎。そして、瓦礫の山。

炎が揺れる。だけど、私達は揺らぎはしない。もう・・・気持ちは固まってるから。






ちょうど真ん中の瓦礫が積み重なっている感じだった。それが・・・グラリと揺れて、そのまま焼け焦げた床に落ちた。

結構大きめな音が響いた。その瞬間、私と女は飛び出した。

そして、空中でぶつかり合い、交差した。




















「・・・あはは」



肩から・・・血。くそ、一発もらった。それも・・・結構深い。

私はそのままヒザを付き、崩れ落ちた。あー、こりゃ・・・また消えない傷が増えるな。



「アンタ・・・なんでこんな・・・強い・・・のよ」



後ろで・・・ドサっと何かが倒れる音がした。考えるまでもない、あのわからず屋の女だ。



「つか・・・くやしい。なんで私・・・」



雷撃属性持ちのスタン効果の魔力を、刃に纏わせた。そうして・・・何回斬ったっけ?



≪・・・いや、何気に一瞬で何回も斬りましたーって話するなよ。
肩に撃ち込まれて、右での一閃でやっとだったじゃねぇか≫

「うっさいねぇ、わかってるよ」





そのまま、私はもう一度立ち上がり・・・女の方へと歩く。



その道中に、真っ二つにした二丁の銃が落ちてたりするけど、気にしない方向でいく。





「・・・殺しなさいよ」

「嫌だ。私は自分にとって無意味な殺しはしない主義なんだよ」

「殺しなさいよ・・・。アンタ、このまま私を放置してみなさい。
復讐してやるから。この借り、返さないで」

「いいよ、来なよ」



右手で傷口を押さえて、私は女を・・・シャナを見下ろす。



「それで、何度でも叩き潰してあげるから。アンタが・・・あんな情けない事をもう言わなくなるまでね」

「情け・・・ない?」

「情けないでしょうが。なにさ、これしか知らないからこうするしかないって。
・・・本当にいい女はね、男に縛られないもんなのよ。選択をね、自分の手で作っていくもんなんだよ」



そう、本当にいい女は男の言うことなんてほどほどに聞いて、自由気ままに生きてくもの。



「例えば・・・この私みたいにね」

≪・・・そうだよな、姉御は確かにそうだよな。ま、あれだよ≫

「なによ・・・」

≪俺から見てだが・・・アンタ、人形なんかじゃねぇよ。本当の人形はな、アンタみたいに表情ころころ変わったりしねぇって。だから・・・姉御の言うように、情けないこと言うなよ。
知らないなら、それを知っていく事から始めればいいだろ? アンタは少なくとも今、それを選び取ることは出来る。それは、絶対に・・・絶対だ≫



・・・あぁもう、なんか説教臭いなぁ。こういうのは趣味じゃないってのに。



「・・・デバイスに言われたくないわよ。アンタだって、マスターが居なかったらアタシと同じようなもんじゃない」

≪それは違うな、俺は姉御の人形になるつもりなんぜねぇよ。つーか、俺が居るから姉御はまだなんとかなるんだ。俺が全力全開でツッコむから、姉御はまだマトモで居られるんだ。
だってよ、やたらと綺麗好きで部屋ぴかぴかなくせに、朝はすさまじく低血圧だし、それなのにネトゲで徹夜しまくるし、それで眠いからって職場で平気な顔して寝まくるし、『リアルは出稼ぎでネトゲ世界が現実』ってマジな顔して言う時あるし≫



そうそう、だって私はネットゲーム大好き・・・って、おいっ!?



「なにそれ、完全にダメ人間じゃないのよ」

≪だろ? それで栄養管理とかも出来ないんだよ。俺がツッコんでいかなかったら、朝昼晩毎日ふたば軒でとんかつ定食だ。俺がイエスマンだったら、姉御はとっくにメタボ族の仲間入りだ≫

「あぁ、それで動脈硬化とかになるのよ。つーか、朝昼晩毎日とんかつ定食で何とかしようってのが信じられないわよ。スタイル管理とかしてないわけ?」

≪してねぇなぁ。『私はいくら食べても太らない』って本気で言い切るんだよ≫

「うわ、それマジ? いくらなんでもありえないでしょ。女でそんなこと言ってるやつ、初めて見たわ」



なぜだろう。怒りが・・・こう、ふつふつと・・・!!



「アンタら・・・! 好き勝手な事言ってんじゃないよっ!! ネトゲ中毒で朝昼晩毎日とんかつ定食の何がいけないってのさっ!? ふたば軒のとんかつ定食はな、むちゃくちゃ美味いんだぞっ!? すさまじく美味なんだからっ!!」



ついつい叫んで反論してしまう。てか・・・あ、痛い。傷口が・・・。



「そんなの知ってるわよ。・・・私も、たまに食べに行くから」

「・・・そっか」

「ねぇ、ヒロリス・クロスフォード。あと・・・アメイジア・・・だったわよね」



私はうなづく。多分、アメイジアも。



「・・・私には、アンタらの言ってる事が・・・よくわかんない。本当にそんな道があるのかどうかも、正直分かんない。でも・・・あの・・・さ」

「うん?」

「『シャナ』って名前・・・これからも使わせてもらっても、いいかな? まず・・・そこから、始めてみたいの」

「・・・あぁ、いいよ」

≪某アニメからの丸パクリでよければな≫





あれ、なんか固まった。そして・・・あはは、なんでそんな怒った目で私を見る?





「・・・付け直してっ! この名前、付け直してよっ!! つーか、アニメから丸パクリってなにっ!? 常識的に考えなさいよっ!!」

「常識的に考えてそれなんだよっ!! つーか、声がそっくりなんだから仕方ないでしょっ!?」

「言い切るんじゃないわよ、このバカっ! あぁもうっ!! なんで私こんなバカな女に負けたのっ!? ムカつくー!!」

≪・・・なぁ、姉御。やっぱり考えなおしてやろうぜ? これはあんまりだって≫

「嫌」

≪「即答っ!?」≫










ーヒロリス・クロスフォード&アメイジア 人型巨大兵器・・・速攻で排除 シャナ(確定)・・・保護ー





ー勝利要因:疑いようのない姉御っぷりー




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と古き鉄の戦い


ミッション09 『終わる戦い 始まる日常』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・廃棄都市部のハイウェイの上。私は救助に来てくれた局員達に介抱されて、今は担架に寝かされている。そこから、空を見る。そこに小さく映るのは、巨大な船。





でも、あの船も・・・もうすぐ墜ちる。私が操られている間に、みんなが・・・頑張ってたから。





スバル・・・無事に帰ってきてね。










「・・・おう、元気か」





ふと、頭を撫でる感触。そこを痛む身体の中でも比較的動かしやすい首を動かして視線を向けると・・・父さんが居た。



部隊長モードの時とは違う・・・とても、優しい視線。





「あんまり・・・元気じゃないかも」



身体中が悲鳴を上げてるし、ちょっと動かすだけで痛みが走る。それは・・・当然だとも思うけど。死にかけているわけだし。



「ま、そりゃそうだな。・・・無事だっただけでも御の字だろ」

「そうだね」



下手をすれば・・・そのままだもの。それだけでも、だよね。



「ねぇ、父さん」

「なんだ?」

「なぎ君・・・大丈夫なの?」



私がそう聞くと、なぜか呆れた表情をした。

そ、そんなにおかしいこと聞いたかな。だって、一ヶ月以上行方不明で、六課の方々に聞いてもなしのつぶて。だから、すごく心配だった。



「安心しろ。もうとっくに姿を現してる」

「ホントにっ!?」

「あぁ、動くんじゃない。・・・ったく、なにはともあれ恭文のことってのは、おかしいだろ」



・・・普通ならそうかも。でも、今は普通じゃない。

それにそれに、私・・・喧嘩したままだったから。このまま仲直りとか出来なくなったらとか考えたら、私・・・。



「あの、それで今は?」

「八神の話だと、おちびの曹長さんと一緒に相手方の魔導師とドンパチしてるってよ。ユニゾン能力持ちのな」



なんにしても、戦ってる・・・んだよね。また、無茶とかしてないかな。大丈夫だといいんだけど。



「無事ですよ。忌々しいことにね」



そう声がした。突然に・・・だ。私達がそちらを見ると・・・居た。巨大な両手剣を持って、銀色の腰まであるストレートの髪をなびかせ、黒い喪服を見に纏った男の人が。



「・・・てめぇ、なんだ」

「初めまして。ゲンヤ・ナカジマ三佐、そして・・・ギンガ・ナカジマ陸曹」



その男を囲むように、近くに居た武装局員が走り寄り、囲んでデバイスを構える。



「武装を速やかに解除しろっ! そうすれば」

「邪魔です」



瞬間、複数個の黒い魔力スフィアが形成されて、一瞬で全てを発射。そのまま・・・自分を囲んでいた局員の腹を貫いた。

・・・そう、貫いたんだ。数十メートル離れているここからでも見える。全員の身体に穴が・・・開いてる・・・!!



「簡潔に言いましょう。ギンガ・ナカジマ陸曹。あなた・・・人質になってください」

「・・・なるほど、てめぇか。うちの娘の貴重な婿候補を付け狙ってるっていうキチガイ野郎は」

「正解です。私、あの粗悪品が殺したくなるくらいに嫌いなんですよ」



頭がついていかない。父さんやあの男の言ってる事が、わからない。



「そうか? 俺は好きだがな。あんなに骨があって面白い奴は、最近中々居なくなっちまったからな」

「趣味が悪いですね。あんな粗悪品の何がいいんですか」

「そうだな、しいて言うとしたら・・・フラグブレイカーで有名なうちの長女の興味を引いたところ・・・か? いや、父親としてはこれが嬉しくてな。将来の心配ってやつをあんまりしなくて済むようになった」



だって、あんまりに状況の進展具合が速すぎて、おかし過ぎて・・・。



「あの、父さん・・・」

「あぁ、すみません。あなたは置いてけぼりでしたね。簡潔に言うと・・・粗悪品・・・蒼凪恭文を潰すために、あなたに人質になってもらいたいんですよ」



・・・え?



「安心してください。人質になっている間は・・・私が可愛がってあげますから。身も心も、アナタがこれまで感じた事の無いような幸せに浸らせてあげましょう。大丈夫、その後もしっかりと面倒を見てあげますよ」



瞬間、寒気が走った。だって、気づいたから。この人の・・・私と父さんを見る目が、すごく濁ってる。

なに・・・この目。私、こんな目・・・見たこと無い。



「・・・そいつは出来ねぇ相談だな」



私の傍らから離れて、父さんが男の前に立ちふさがる。



「ほう、邪魔をしますか。あなた・・・わかってます?」

「あぁ、分かってるさ。てめぇにギンガを渡せないってのはな」

「ふふふ・・・粗悪品の関係者は、やはり粗悪品ですか。魔法能力も無い人間に、私が倒せるわけがないでしょう」

「バカか、てめぇ」



父さんがあざ笑う。思いっきり挑発した声で・・・笑った。



「そんなの関係ねぇさ。・・・ただな、俺は父親として、二度もマジでさらわれるわけにはいかねぇんだよ」

「なぜ、そこまでします」

「簡単だ、俺は死ぬまで娘に嫌われたくないからな。洗濯機で洗ったパンツを割り箸で捕まれるような光景は、想像したくもねぇ」



音がした。私が父さんの脇から前を見ると・・・黒い弾丸が生まれていた。



「理解出来ませんね。まぁ、いいでしょう。・・・魔法能力もない屑は、死んでください。私は今・・・非常に機嫌が悪いんです」





そのまま、弾丸は放たれた。私はそれでも動かない父さんを止めようとしたけど、身体が・・・動かない。

声を出す。でも、父さんは動かず・・・両手を広げた。



瞬間、黒い光がはじけた。そして・・・青い閃光が、男の前に迫り、斬り裂いた。





「・・・馬鹿、遅ぇんだよ」

「すみませんね。これでも相当急いで来たんですけど」



男は、その振り下ろされた閃光を大剣を受け止め、後ろに数十メートル吹き飛ばされる。勢いを、全部は止められなかったらしい。



「ゲンヤさん、アイツは」

「八神から事情は聞いてる、邪魔するつもりはねぇよ。だが、俺やギンガは・・・居ちゃ邪魔だよな」

≪そうですね。すみませんが、すぐに後ろに下がっててください≫

【アレは・・・私達が、潰します】





見えるのは、蒼い鉄。普段とは違う、薄手で蒼に染まったジャケットを身に付け、髪までが空色に染まっている。

振り下ろした刃を持ち上げる。そしてそのまま、目の前の男を見据える。



そして、その内からあふれ出るのは・・・これ、感じた事がある。2年前の・・・あの時と同じ雰囲気だ。





「・・・粗悪品が。どこまでも私の邪魔をする気か」

「するさ。そして・・・お前はその粗悪品に潰されるんだよ」

≪知ってますか? 戦いはノリのいい方が勝つんですよ≫

【今の私達は、最高にノッてます。誰であろうと、止められません】





なぎ・・・くん?





「そうだよ。・・・ギンガさん、おひさ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おひさじゃないよっ! いきなり出てきて、狙われてるとか潰すとか潰されるとか・・・これ、一体なんなのっ!?」

「事情はゲンヤさんから聞いて。詳しく説明してる余裕・・・ないわ」



僕は、振り返ることなく声をかけると・・・正眼に構える。男も、同じくだ。



「だめっ! ちゃんと説明を」

「うんしょっと」

「父さんっ!?」

「総員、ここから退避っ! 死にたくなけりゃあ俺についてこいっ!!」





そのまま、複数の足跡が後ろへと走っていく。・・・よかったよ、これで全力が出せる。





「・・・本当に、忌々しい。あなた、何様ですか」

「さぁ、何様だろうね。とりあえず・・・」



踏み込む。そのままアルトを袈裟に振り下ろす。また・・・刃がぶつかり合った。



「お前を叩き潰してから、考えることにするわ」

「まぁ、いいでしょう。アナタを殺して・・・彼女の身体を堪能させてもらうとしますか」

「・・・やってみろよ」



そう言って、にらむ。瞬間、男がアルトを弾いて後ろに下がる。そうして弾丸を30近く生成、そして・・・放つ。

それだけじゃない。下がってから男の左手が動いた。だから、僕は・・・。



≪Stinger Rey≫

「スナイプショット」



そこに弾丸を放つ。高速で放たれた弾丸は、襲ってきた魔力弾をかいくぐり、迫り来る左手に形成された魔力スフィアを貫き、爆破させた。

やっぱり殺傷設定だったのか、男の左手がその爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。中ほどから、抉れたように腕がその姿を消す。



【フリジットダガーッ!!】



なお、襲ってきた弾丸はリインが対処。全て撃墜された。僕は、そのまま突撃して・・・男に刃を振り下ろす。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





男が叫ぶ。そうしながら動きが止まってる。今なら・・・。

瞬間、腕が生えた。いや、生えたの。無くなった左腕が、抉れた所からトカゲの尻尾かピッコロさんの腕みたいな感じで・・・にょろんと。

そのまま、血と体液に塗れた左手を貫手にして、僕に打ち込んできた。手には・・・魔力。僕は、それを左に飛んで回避。なんとか避ける。



・・・まてまて、アレ・・・なにっ!?





「・・・はぁ・・・はぁ・・・まさか、いきなりこう来るとは思いませんでしたよ。やはり、二度も使った攻撃はダメですね。モーションだけでバレてしまう。というより、つまらないですね」



足元に違和感。後ろに大きく飛ぶと・・・黒い縄が生えてた。あ、あぶな・・・。

でも、休む事は出来ない。男が・・・刃を打ち込んでたから。僕は、それをアルトで受け止める。



「やはりここは、斬り合う事にしましょう。実際にアナタの腹を裂き、肉と骨を絶つ。その手ごたえを感じる方が・・・私が楽しい」



どこか悦に入ったような顔で、男がそう言ってきた。つか・・・気持ち悪い。



≪あなた、人間やめた・・・クチですか≫

「えぇ、やめましたよ。なお、能力は超再生・・・と言ったところでしょうか。私、言うなれば彼女やあなたの想い人と同じなんですよ。まぁ、私は自分の意思でなんですけどね」



力が篭る。そして、怒りが燃え上がった。対象は、目の前で勝手な事を言いまくっている男。



「・・・ふざけんな。ギンガさんも・・・フェイトも・・・人間だ」

「アレらが人間? くくくくく・・・あはははははははははっ!!」



男が笑う。そしてそのまま・・・勢い任せに大剣を振るい、打ち込む。それに吹き飛ばされて・・・僕は近くの廃ビルに突入した。

滑走するように受身を取り、構える。見ると・・・上手い具合に何も無いフロア。あるのは数本の柱だけ。・・・あれ? このシチュってどっかで見たような。



「笑わせないでくださいっ!!」



男も飛び込んでくる。そのまま大剣を振り下ろしてきたので、僕は左に跳んでそれを避ける。着地してから、距離を取る。



「あれらは人間の慰み物。私達というご主人様が居なければなんの存在価値も得られない可哀想で哀れな生き物なんですよ」



そのまま、互いに構え・・・時計回りに歩いて、間合いと飛び込むタイミングを計る。それから、飛び出した。

そして、互いに袈裟で打ち込んだ刃が・・・耳障りな音を立ててぶつかり合う。



「あなただってそうでしょう? 彼女を好きだと言うが、それは哀れみ。自分が存在価値を与えて、その代価に自分の物になれと迫る。そうでしょう? ・・・そうでしょうっ!?」



一定距離を保ちつつ、廃ビルのフロアの中で斬り合う。飛び込んできた男が剣を振るう。僕もそれに合わせて打ち込む。



「あなたは彼女の肉体と心を汚し、蹂躙し、服従させたいと思ってるっ!!」



刃と身体が交差する。そのまま振り返り、もう一閃。その場で数度打ち合う。その火花でそこだけ薄暗いフロアが明るくなる。



「・・・正直になりなさいっ! あなたも同じだっ!!」



男が後ろに飛ぶ。そこに追撃をかけて・・・袈裟に打ち込む。だけど、斬ったのは男が背にした柱だけ。男は・・・僕の右側に飛んでいた。そして、勢い良く刃を右からの真一文字に打ち込む。それを飛んで避ける。

だけど・・・胸元のジャケットが裂かれた。ほんの皮1枚分だけ。



「あなたは・・・私と同じなんですよっ! ただ違うのはその低い能力と偽善者じみた思考のみっ!!」



そのまま大きく数度後ろに飛ぶ。男が飛び込んで、大剣を振るう。それを下がりながらアルトで払う。ラチがあかないと思い床に着地。大きく打ち込まれた一閃を、僕も左からの一閃で払う。火花がまた一瞬だけ照らす。衝撃が空気を振るわせる。

そのまま剣を突くと、今度は男が上に飛ぶ。そうして、身を縦に回転させながら、大剣で一閃。僕はそれを右に飛んで避ける。そして飛び込み、アルトを上、右、逆袈裟と打ち込む。男はそれを難なく受け止め、弾く。数度の刃のぶつかり合いで、火花が再び散る。



「それらがアナタを粗悪品へと堕落させているっ! ほら、認めなさいっ!!」



互いに後ろに飛び、距離を取る。でも、すかさず男が飛び込んできた。そのまま・・・アルトを横から打ち込み斬り抜ける。また交差で火花が生まれ、フロアを照らす。

そこから急速Uターン。勢いよく回転して、一閃。それをしゃがんで男が避ける。・・・いや、しゃがみながらも身を回転させて、僕の足元に打ち込む。僕はそれを後ろにジャンプして避ける。



「あなたは・・・こちら側の人間だとっ! あなたが戦うのも、彼女を思うのも、ただ自分の思うように他人を蹂躙したいからなんですよっ!!」



男がそこに更に踏み込んで、突いてきたデカイ刃を身を捻って避ける。そこから刃を返し、横に打ち込んできたので、後ろに跳ぶ。そのまま、壁に着地。そこに向かって男が・・・魔力弾を打ち込んでくる。数は相当数。



「・・・クレイモア」



左手をかざし、それを手前で全て爆発させる。その爆風を突っ切るように・・・男が壁に剣を突き立てる。破裂するように壁が砕けて、日の光がフロアに差し込む。それで・・・男の身体が照らされる。


でも、僕はそこには居ない。もう、クレイモアを撃った直後に右へ飛んでいる。飛びながら・・・床に着地。



「・・・くくく、衝撃で言葉も出ませんか? それはそうでしょう。ですが・・・一度認めてしまえば、後は楽です」

「それだけ?」



瞬間、場が固まる。そのまま・・・ゆっくりと男に迫る。笑いながら・・・そう、笑いながらだ。

だって・・・むちゃくちゃおかしいんだもの。



「言いたい事は・・・それだけかって聞いてんだよ。つーか、ビビってんじゃねぇよ。・・・情けな」

「なん・・・だと」

「ビビってるじゃないのさ。負け犬が、いっちょ前なこと抜かしてるんじゃないよ」



踏み込んだ。男が迎撃のために魔力弾を撃って来た。また・・・誘導弾。



≪Sonic Move≫



蒼い光に包まれ、身体が加速する。そうして、魔力弾の中を無理矢理突っ切った。数発かすって、ジャケットがちょっとボロっちくなったけど、それでも気にしない。

男が驚いた顔で大剣を上から打ち込んでくる。だけど、遅い。



「だから・・・もう」



そのまま、僕は相手の左側に移動。アルトを構え、左からの真一文字の一閃を打ち込んだ。



「潰すわ」










そして、男はそのまま・・・吹き飛んだ。身体が再び日の光へとさらされた。





どうやら、ガードされたらしい。・・・一端アルトを鞘に納める。










「アルト、リイン、最高速度でどれくらい時間かかる?」

【・・・最低でも、30秒は。そうじゃないと、威力を確保出来ないと思います】

≪つまり、左手が一瞬で生えるようなピッコロもどきを相手に、それだけ動きを止めなくてはいけません。難しいですよ? マジックカードの魔法で閉じ込める・・・というのも、無理ですから≫



・・・そうだね、マジックカードに入ってる魔法はほとんどが非殺傷設定。正直、殺傷設定で入れ直してる余裕はなかった。今回は、そんな甘い事言えないわけだし。



「でも、問題ないや」





そうして、右手と左手からあるものを出す。・・・黒い鞘に収められた二振りの小太刀。これは万が一アルトが使えない場合に備えて、作ってもらった予備の武器。デバイスとかじゃない、完全な武器。

刀身の素材はアルトと同じ。普段と同じ要領で思いっきりぶん回せる。刃渡りは・・・40センチ。なお、普通に普段も隠し持ってたりします。

それを腰の後ろに差してから、抜く。壁の穴から差し込む日の光で銀色の刃が輝く。



一応、小太刀の扱い方も教えてもらってる。問題は・・・ない。アルトと鞘でも二刀流は出来るけど、それだと小太刀に比べると若干だけど取り回しが悪くなる。

相手の攻撃パターンは大体見切れた。ここからは、攻撃あるのみ。多少掠ってでも、骨を絶つ。





「僕は『粗悪品』だからさ。魔法やら相棒達に頼りっぱなしじゃ、戦えないもの」

【・・・納得です。それじゃあ、恭文さん】

≪準備が整うまでは任せます。それまで・・・潰されないでくださいよ?≫

「了解」










そうして・・・僕は両手に小太刀を持って・・・飛び出した。





追撃するは、あの負け犬っ!!










「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





ハイウェイに着地した男に上段から小太刀二刀を打ち込む。それを男は寸前で察知。後ろに飛んで避ける。



そのまま・・・対峙した。構えて、距離を保ちながら再び対峙。





「さて、第2ラウンド・・・始めようか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・なに、これ。





なんなの・・・これっ! どうして、いきなりなぎ君がリイン曹長とユニゾンして・・・あんな戦闘をっ!?










「父さんっ! 下ろしてっ!! というか・・・お姫様抱っこは恥ずかしいからっ!!」

「あ、そりゃすまねぇな。よいしょっと」



安全圏に着いたと思ったのか、父さんがようやく下ろしてくれた。それからすぐに・・・モニターを開く。

その画面の中で・・・なぎ君がアルトアイゼンとは違う刀を持って、斬りあっている。飛び交い、下がり、大剣と小さな刀がせめぎ合う。その中で相手の刃がなぎ君のジャケットや肌を掠めて・・・血が吹き出る。なぎ君の身体が、どんどんボロボロになっていく。



「・・・うそ」

「ギンガ? おい、お前顔青いぞ、どうした」



あれ・・・前になぎ君が見せてくれた戦闘用の武装。確か・・・小太刀。

あれはデバイスなんかじゃなくて・・・完全な武器。言うなれば、なぎ君の世界の昔の質量兵器。



「だめ・・・」



うわ言のように呟く。その間も、なぎ君は大剣の攻撃を掻い潜り、小太刀を振るう。相手の刃が掠めて、傷だらけになっていく自分の身体なんて気にしていないかのように、ただひたすらに斬撃を繰り出していく。

だけど、そうしてまで懐に踏み込んだ攻撃。それが回避された。横から振るわれた刃を上に飛んで男が避ける。次の瞬間、後ろに下がりながら魔力弾を生成。一気に掃射した。



「ダメだよ、なぎ君っ! それは・・・それはダメっ!!」



ハイウェイの路面に高速で発射されたそれが激突して、クレーターを作る。だけど・・・なぎ君はもう上に飛んでいた。相手より高い位置に居た。そのまま、なぎ君の左手から銀色の光が数本走る。それが男の背中に突き刺さる。

その箇所から血が吹き出るけど、男はそれにかまわず身を翻してなぎ君の上から剣を叩きつける。なぎ君はそれを二本の小太刀で受け止めて・・・吹き飛ばされた。そのままハイウェイの路面に叩きつけられる。



「・・・おい、ギンガ。ありゃ・・・手裏剣か?」

「・・・そんな感じ」



なぎ君が魔法なしで戦うための手段。当然非殺傷設定なんて無いから・・・殺すという選択しか取れない武器。

前に教えてもらった・・・というか、聞きだした。



「アイツ・・・あんなの使えたのか。また器用なやつだな」

「そんなノンキに言わないでよっ! ・・・なぎ君、聞こえるっ!? なぎ君っ!!」



通信・・・だめ、繋がらないっ! なら・・・念話っ!!

その間に、なぎ君に向かって男が剣を振り下ろす。なぎ君はすぐに立ち上がり、そこから後ろに飛んでその斬撃を避ける。そうして・・・また間合いを保ったまま対峙。



「お願いだからそんなもの使わないでっ! 私・・・前に言ったよねっ!? 絶対に使わないでってっ! そういう時は、周りの人を頼ってってっ!!」



そう話した。躊躇ってもいい、迷ってもいいと。だって、私は・・・なぎ君にそんな真似、して欲しくなかったから。



「なのに・・・なのに・・・どうしてそんなものに頼るのっ!? どうして、私や父さんのこと頼ってくれないのっ!!」



念話で呼びかける。でも、声も一緒に出る。あまりに・・・あまりに目の前の状況が信じられないから。



「・・・いや、あのな。アレには事情が」

「事情ってなにっ!? 父さん、私が居ない間に・・・何があったのっ! ほら、ちゃんと話してっ!!」

「ギ、ギンガ・・・とりあえず首・・・首は離せ・・・! 死ぬ、マジ死ぬから・・・そして話せねぇからっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



体中傷だらけ。ユニゾンしてても・・・これとは。いやはや、恐ろしい。





リイン、大丈夫?










【大丈夫です。恭文さん、リインに構わず・・・やっちゃってください】

「了解」










荒くなっていた息を整える。そして・・・飛び込む。二本の小太刀を持って・・・しっかりと踏み込む。





男が大剣を横から振るう。それを少しだけ止まり、後ろに飛んで避ける。そのまま・・・踏み込む。










「・・・愚かな」





男の身体が光に包まれる。瞬間、消えた。僕の両側から、いつの間にか高速で接近する二つの魔力弾。それをマトモに・・・食らうかっ!!



咄嗟に両の手のひらにプロテクションを局所展開。それによって、弾丸を受け止める。だけど、次の瞬間襲ってきた爆発の衝撃で小太刀を・・・落とす。





「理解力もない粗悪品・・・いや、屑が・・・私に勝てると、本気で思っているんですか?」





そして、剣が男から見て左横から撃ち込まれようとした。振り向く時に見えた。

多分、背後に回りこむために使っったのは高速移動の魔法。でも・・・遅いわ。



言ったでしょうがっ! もう・・・おのれの攻撃パターンは見切ったっ!!





「鉄輝・・・一閃」





なお、僕はと言うと・・・アルトを鞘から抜き、振り返り様に男に居合いの一撃を撃ち込む。



生まれたのは青い閃光。それが真っ二つにする。僕の周りを取り巻く爆風を、空間を、目の前の悪意を。





「・・・瞬(またたき)」





対象は・・・迫り来る大剣。それがアルトの刃とぶつかり・・・両断された。斬られた先の刃が、衝撃で宙を舞う。



それから、一気に踏み込み、袈裟に男を斬る。

再び生まれた青い閃光が、男の身体に袈裟に刻まれ、血を吹き上げる。





「二連」





でも、それで終わらない。傷が再生しないうちに、カウンターをかまされないうちに、僕はアルトを逆手に持つ。





「・・・御神流・・・奥義」





腰から鞘を抜き、柄尻と鞘の口を魔力で硬化した上で・・・男の胸元に同時に打ち込む。





「雷徹っ!!」





衝撃が生まれる。接触点を始点として、空気が震える。



瞬間、男の身体が震え・・・傷口や口から大量の血が吐き出された。僕は、すぐに後ろに下がる。





「・・・こ、これは・・・馬鹿な。衝撃吸収のフィールドは・・・張って」





まだ喋る様子だったから、黙らせた。方法は簡単。青いフィールド結界が男の身体を包む。男は抵抗するそぶりをなくし・・・ただ、そこに座り込む。

なお、これはいわゆるヒーリング結界。そう、もう皆様ご存知な、身も心も癒しつくす危険結界。



・・・まぁ、普通なら使わない。人一人が入るくらいの大きさで形成するのがやっとだし、魔力も結構喰う。これの中に閉じ込める暇があったら、鉄輝一閃で斬ればいいんだから。

というよりね、あんまりに危険だからみんなに絶対使うなって言われてるの。スターライトと同じで、禁呪なの。だって、一種の精神操作魔法なんだもん。



それでも今回は特別緊急処置として使った。これで、チャージ時間は確保出来る。とにかく・・・生まれる。

アルトを順手に持ち帰る。それからアルトに・・・青い流星が降り注ぎ始めた。





「・・・だろうね。さっきから何回か徹使ってるのに効かなかったもん」





多分、あの女ガンマンで使った時にデータ取られたんだろうね。





「でも・・・甘かったね。身体に直接的に二つ同時に打ち込まれた徹の衝撃なんざ、消せやしないよ。もともとこの技は、そういうもんを突き抜けてダメージを与える技だし」





御神流の技の一つ・・・というか、奥義に『雷徹』と呼ばれる技がある。簡単に言えば、全く同時に二つの徹を打ち込み、対象の内部を徹底破壊する技。

奥義も含めた御神流の技の中で一番破壊力があるとか。・・・いや、それが二つ目に修得できる技を全く同時に打ち込むというのは、どうなのかと士郎さんにツッコんで苦笑いされたりしたけど。



とにかく、徹対策に衝撃吸収用のフィールドを張ってたみたいだけど・・・無駄だったね。威力は半減したし、肉体改造もしてたみたいだけど、それでも大ダメージだ。





「アルト、リイン、お待たせ」

【・・・はい】

≪さて、いきましょうか≫





そして、僕はアルトを正眼に構える。流星が刀身に降り注ぎ、それを青く染める。





「ふ、ふふふ・・・。あなたに、殺せるんですか?」





・・・え?



男が、こちらを見る。表情が若干半笑いで・・・気持ち悪い。





≪その結界に閉じ込められて・・・自我を保てるんですか≫

「かなり・・・危うい・・・ですけどねぇ・・・。あなたに・・・私を、ころせ・・・るんですか・・・?」





驚いたけど、それでも、鉄は別の姿に変わりつつあった。



青き、全てを斬り裂く星の光の刃に。





「自らの闇を・・・認めることも出来ず、誰かを助ける、誰かを守るなどと・・・言う、愚かな事ばかりを・・・・繰り返すあなたに・・・私を、いや・・・殺す行為が、出来るんですか? こちら側の人間でありながら、光の中に居ようとするあなたに、私を殺せるんですか?
そんな真似をすれば・・・あなた、一人になりますよ。光の中に居る人間は・・・あなたの行動を、認めるわけがない・・・。出来るはずがない・・・。出来る・・・わけがない・・・」



だろうね。現にさっきギンガさんから泣き叫ぶような声で念話が届いてたもん。こんな真似するな。自分達を頼れ・・・ってさ。

もうシャットアウトしたから聞こえないけど。悪いけど、それでもコイツは普通に倒すなんて真似、出来ない。



「あなたは弱い・・・。弱くて・・・愚かだ。何故自分の本質を認めようとしないんですか・・・。戦うのが好きでしょう? こうやって・・・他者を踏みつける時・・・幸せを感じるでしょう・・・? あなたの本質は・・・そこですよ。私と同じ・・・闇の中でしか生きられない人間なんですよ・・・。
なのに、あなたはそれを認めようとしない・・・愚かです。愚か・・・過ぎます。こちら側に来る事も出来ないあなた方に、そんな真似は・・・出来ませんよ。くくく・・・私を捕まえようとしてるんでしょ? 無駄ですよ。私はどこにいてもあなたを」

「・・・言いたい事は、それだけ?」

「なん・・・ですって・・・」

「そうだよ、僕は・・・お前と同類だ。でも、だから何? そんなの、お前に言われるまでも無く、やんなるくらいに知ってる」



・・・そうだよ、僕は弱いよ。弱くて・・・愚かだ。戒めても、忘れそうになる。間違えたくないと思っても、間違える。

一度じゃない。何度も・・・何度もだ。その度に後悔して、立ち止まりそうになる。



【あと、私達があなたを殺せないと言いましたね? ・・・そう思うなら、今すぐに私達の今からの攻撃が何かを、確かめるといいですよ】

「お前・・・スターライトって知ってる? いや、知らないはずないか」

≪これを殺傷設定で食らえば・・・その無茶苦茶な再生能力も意味が無いでしょ≫





男の表情が驚きに満ちる。・・・いや、半分だけだね。ヒーリング結界の効果のせいで、口元だけが笑ってる。





「これは・・・なぜ・・・です。なぜ・・・」

「簡単だ。・・・一つ、アギトに敵討ちを頼まれた。つーか、無理矢理引き受けた。二つ、お前はここで始末しなきゃ・・・確実にフェイトやギンガさんに被害が及ぶ。三つ、僕はお前が更正するなんて、これっぽっちも信じられない。
そして四つ目。僕には、例え重いもん背中にしょっても・・・絶対に、絶対に守りたいものがある。だから、迷わないし揺らがない。偽善者? あぁ、そうさ偽善者さ。けどね・・・お前みたいな腐った獣になるくらいだったら、僕は偽善者で、弱くて愚かな人間で十分だ」

≪結論から言えば、私達はあなたを殺せます。あぁ、そうそう・・・この人があなたと同類だと言うなら、私達がその道に進むのを止めます。いらない心配をしないでください≫

【側に居て守ると・・・そう誓いました。それが、私達の力です。あなたの言う闇なんかよりずっと強い・・・大切な誓いです】





守るために殺す・・・なんて、言い訳にもならないわな。殺しは殺し、最悪手なのには違いない。その上、リインにも一緒に背負わせる。・・・最低だね、本当に最低だよ。





「お前に一つだけ感謝してる事がある。・・・忘れると、こうなるんだという姿を見せてくれたことだ。ありがと、だから・・・もう、消えろ」





だから、背負う。忘れず、下ろさず、死ぬまでずっと・・・背負い続ける。きっと、それしか出来ないから。それでもそうすると、ずっと前に決めたから。そういうわけで・・・お前を、殺す。





≪Starlight Blade≫





刃は打ち上がった。僕は・・・ゆっくりと振り上げる。いつもとは違う。ただ・・・殺すためだけに、刃を振り上げる。



・・・ごめんなさい、もらった力・・・こんなことのために使ってしまって。



瞬間、風が吹き抜けた。その時・・・きっと気のせい。だけど、声が聞こえた。ただ一言、『大丈夫だ』という・・・声が。それだけじゃない。本当に一瞬だけど、アルトを握る手に・・・誰かの、手が添えられたような感触がした。





”恭文さん・・・今”

”リインも聞こえたの?”

”はい”





・・・僕達のきっと気のせいだ。さすがにこれは無い。



だけど・・・それで、本当に少しだけぶれていた覚悟が、完全に決まった。





「・・・やられるか、私は・・・まだ」

「もう、終わりだよ」

【恨むなら、恨んでください。・・・さよならですよ】





両手の力を強める。しっかりと、アルトを握り締める。



そして・・・トリガーを引く。





≪【「・・・スタァァァライトッ!」】≫





リインと、アルトと、僕との・・・三人で。引き金を引く。





≪【「ブレェェェェェドォォォォォォォォォォッ!!」】≫










一歩踏み込み、そのまま、男の頭上目掛けて、星の光の刃を唐竹割りに打ち込んだ。





刃は男の身体を、結界を真っ二つに斬り裂いた。そして・・・その全てを、吹き飛ばした。





目の前に走るのは星の光。その光がハイウェイの路面を舐め、吹き飛ばし・・・爆発を起こす。その瞬間、空さえも光に包まれた。





その光が収まっていく。その中でゆっくりと・・・体勢を元に戻す。そうして、目の前の吹き飛ばされたハイウェイやらを見る。・・・なんだろ、これ。どうにも・・・重いな。










≪・・・生体反応、完全に消失。リインさん≫

【はいです。こっちでもサーチしましたけど・・・完全に・・・消失です】

「・・・そっか」



落ちている小太刀を拾い、二本とも刀身を改めた後・・・腰の後ろの鞘に収める。・・・あの時と違って、泣いたり、吐いたり・・・しないな。

なんだろ、これ。僕・・・アイツと同じ・・・なのかな。



≪一人で抱え込まないでください≫



その声が胸を貫いた。それは、いつもは自由気ままな相棒の声。

・・・そうだね、一人で抱え込んでたかも。



≪リインさん、あなたもですよ。あなたが、みんなで背負おうと言ったんでしょ? そのあなたがそんな調子で、どうするんですか≫

【アルトアイゼン・・・そう、ですよね。こんなんじゃ・・・ダメ、ですよね。恭文さん】



・・・うん。



【怖くて・・・重い・・・ですね。すごく・・・重いです】

「・・・うん、重いね。本当に・・・重いや。ね、リイン」

【・・・はい、甘えてください。寄りかかって・・・ください。私も、そうしますから】

「うん、そうする」



空を見上げる。さっきまで有ったあのデカイ船は・・・もう、無い。



≪スターライトの発動と同時に、吹き飛んだらしいですね≫

【もしかして、空のぴかーって・・・】



あはは・・・スターライトは関係無かったのね。なんつうか、タイミングよかったんだなぁ。



【ですね・・・。でも、これで・・・終わり、なんですよね】

「一応は・・・ね」



・・・風・・・気持ちいいな。なんか、少しだけ気持ちが持ち上がってきた。

年末、海鳴に帰ったらお礼言わなきゃいけないかな。本当に少しだけ、後押ししてくれてありがとうございましたって。あと・・・やっぱり謝罪も入れよう。



『・・・ヤスフミ、無事?』



突然通信がかかってきた。この通信は・・・フェイト。あれ、なんか姿が違う。

というか、真・ソニックなんだ。あ、背景が森ってことは・・・。



『うん、無事に脱出したよ。シグナムから聞いたと思うけど、スカリエッティも無事に確保した。・・・ありがと、ヤスフミ』

「なんでいきなりお礼?」

『ヤスフミがいっぱい助けてくれたから』



そう言って、フェイトが微笑む。・・・いやいや、僕はそっちに居なかったじゃないのさ。



『それでも、助けてもらったの。それで・・・どう?』

「あのおっさんなら・・・消滅させたよ。塵一つ、残さずね」

『・・・そっか、ヤスフミ、リイン・・・大丈夫?』



通信越しに、心配そうな顔を見せる。いつものフェイトの表情のひとつ。心配性なのは、昔からだから・・・もう見慣れた。

そして同時に、申し訳なく思う。そんな表情を何回もさせていた事を。そして、またさせてしまった事を。



【大丈夫です。・・・重いですけど、一人じゃありませんから】

「なんとか・・・ね。フェイト、ごめん。結局・・・最悪手だった」

『・・・ううん、大丈夫だよ。言ったよね? 私は・・・絶対変えないし、変わらないって』










・・・うん、そうだった。なんというか、僕はいい友達で、仲間で、家族なお姉さんを持ったと思うよ。うん、本当に。





そして、再び空を見上げる。何の憂いもなくなった空を。





・・・リイン、アルト。










【はい】

「ジャンプ・・・立ち読みに行こうか」

≪そうですね、そうしましょうか≫










そして、そのままゆっくりと歩き出した。近くのコンビニを目指して、いろいろな事を思いながら・・・本当に、ゆっくりと。





ー蒼凪恭文&古き鉄・アルトアイゼン&祝福の風・リインフォースU 騎士ゼスト&アギト・・・決着つかず フォン・レイメイ・・・排除ー





ー勝利要因:心の中にある鉄とそれが生み出す絆ー






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あきゅろす。
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