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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory42 『その星は鮮烈に現る』


あたしこと日奈森あむ……こっちに帰ってきたばっかりだけど、みんなと集まって選手権観戦中。

唯世くん達におみやげとかも渡しながら、恭文とリインちゃんの行動にただただあ然です。

なおフェイトさんとティアナさん、シャーリーさんにギンガさんもびっくりしていた。


え、ギンガさん? ティアナさんへ会いに、お休み取ってきたんだよ。というかあたしと一緒にきた。


「あむちゃんー」

「ま、まぁ恭文とリインちゃんの事だし、大丈夫とは思うけど……出場してる人、みんな強いしなぁ」

「ですが悪くはない戦術かと。恐らく蒼凪さんが意識しているのは」

「アイラ・ユルキアイネンね。話には聞いていたけど、なによあれ」

「やや、なにが起こってるか分からなかったー」

「ファンネルだな。映像を解析したが」


そこでひかる君が高性能携帯でポチポチ……空間モニターみたいなのをあたし達の前に展開する。


『おぉ!』

「このりん粉のようなもの、どうもクリア素材で作られたファンネルらしい。まぁ世界大会出場者は大半が気づいていると思うが」

「そうだよねぇ。ジ・Oのグレネード、明らかにアンブロッカブル攻撃に備えたものだったし」

「シャーリー、ジ・Oって……え、どれ?」

「あとで説明しますので。というかフェイトさん、そんな有様だとやっぱりなぎ君の手伝いは無理ですって」

「もうここは、あれよね。フェイトさんと似たり寄ったりな知識量で、バシバシ暴れるレイジって子が凄いのよ」

「ふぇー!」


フェイトさんがまた涙目……でもそれは、しょうがないよ。やっぱ好きこそものの上手なれ、なんだね。

でも負けた人達も十分凄い。ちゃんと地区予選とかをチェックして、対策を整えてきてるんだね。

恐ろしいのはそれすらかいくぐる実力というか。……そこで恭文が言っていた、トーナメントの厳しさを思い出す。


ほら、言ってたじゃん。空海も今年は試されるって。優秀な成績を出したのは、空海がダークホースだったから。

それで調べてみると、凄いダークホースが次の大会でボロ負けするの、よくある事っぽいんだ。

ある意味洗礼というか。そう、今の戦いは洗礼だった。それをかいくぐったあの人は……本当の強さを証明したとも言える。


「でもひかる、気づいていても対処できてなかったような……あたしの勘違い?」

「いや、実対処がかなり難しい部類だからな。りっかが言う通りできてはいなかった」

「あとは蒼凪君とリインさんが、それをできるかどうか……だね。というか、相馬君」

「……二人の顔、それにインフラックスって辺りから予測はつくだろ。それよりほれ、俺達はいつ静岡へ行く?」

「あ、そうだね。あたしも大会が終わるまではこっちにいられるし、いつでも大丈夫だけど」


久々にみんなと集まる時間……うぅ、IMCSに向けて訓練しまくってたから、この時間が愛おしい。帰ってきたんだな……あたしの大事な場所に。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory42 『その星は鮮烈に現る』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会場を進み、出てきた機体は……わーお。因縁というかなんというか……Hi-νのライバルまでがいた。

青いF91は空を飛び、海上をドム・トローペンがホバリング。しかしそれらは突如飛来する、きらめく赤いせん光から逃げ始めた。

しかしせん光は鋭く退避先を捉え、ビーム発射。網目のような包囲網から逃げ切れず、二体が派手に爆散する。


ついでにこちらにも襲ってきた……大型ファンネル五基か。左へローリングし、急停止しつつも上昇。

一気に包囲網を突破し、百メートルほど上昇。すると右側から飛び込んでくる巨大な影。

グロス塗装がまばゆい赤、インフラックスの倍近くはある巨体……そのほとんどを胴体が占め、ジ・Oにも通ずるずんぐり体型。


曲線が描くバインダーにはファンネルが搭載され、身の丈ほどもあるネオ・ビームライフルを抱えながら、こちらに砲撃を放つ。

それを宙返りで避けると、赤は鈍重な体型からは想像もできない機動性でこちらに追撃。

装甲内側のスラスター、及び各部に過剰なまで設置されているアポジモーターが、絶え間なく噴射してまるで無重力が如き浮遊感を演出する。


「でかいのです……!」

「RE/100のナイチンゲールだね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さてさて、開会式から俺とユーリ達も会場に乗り込んだわけだが……わけだが、なんじゃありゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

てーかモビルアーマーじゃね!? なんだってやすっちは毎度毎度強そうな相手とバトれるんだよ、羨ましいわ!


「うわぁ……ドン引きなくらいでかいわね。大人と子どもってレベルじゃないわよ」

「しかも動きが速かったですよ!」

「落ち着けアミタ! MAクラスなら推力が半端なくてもおかしくはない……が、なんだありゃ」

「ナイチンゲールですね」


俺の問いには、シュテルが眼鏡を正しつつ答えてくれた。もう一度言う、なぜかかけている丸眼鏡を正し、瞳を輝かせる。


「小説『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』に出てくる、ナイチンゲールという機体……ようはサザビーの立ち位置です。
ただしほぼMAクラスで、性能を徹底追求していますが。百分の一スケールでは、RE/100というカテゴリでプラモ化もされています」

「……なんでシュテるんはそこまで詳しいのさー」

「今更だ、たわけが。だがデカブツなだけではないぞ、あの誘導兵器の動き……使っているやつも腕利きだ」

「恭文さん……!」


そしてユーリは両手を組み、視線はバトルに向けたまま祈りを捧げる。まるでその姿は天使のようだった。

しっかし第一ピリオドだけでも楽しそう……なのは当然として、戦術は様々だな。

ナイチンゲールやらアイラ・ヘンナカッコウヤネンのように、初っぱなから圧倒的力を見せつけ勝ち抜く奴ら。


例え負けてでも、強豪選手のデータ取りを優先する奴ら……やすっちとリインみたいに、両方欲しがる馬鹿とかよ。

うぅ、やっぱ俺ももっとバトルがしたい! もうこうなったらあれだな、やっぱフジガンプラバトルってやつに行くしかねぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


初っぱなからナイチンゲールとか、さすがにあり得ない……と言う事もなく、私達チームメンバー四人はあきらめ気味に観戦。

ただし諦めていたのは勝利ではなく……アイツの、運の悪さが変わらない事よ。大丈夫、アイツは戦い続けてきたもの。

スケール違いからくる出力差、それを物ともしない細やかな動きと闘志に、世界レベルのファイターも目を見はった。


それがまぁ、誇らしいのなんのって。……やっぱり私、恭文に首ったけみたい。昨日もなんだかんだでいっぱい仲良くしちゃったし。


「恭文さん……!」

「ともみ、大丈夫だってー。あたし達が惚れた男はめちゃくちゃ強いんだから。
……でもアイツ、今更だけどガンプラでは射撃とか砲撃戦が多いよね。リアルファイトの基本は格闘戦なのに」

「実はそうなのよね。でもプロデューサー、元々ハイマットフルバーストとかがしたかったそうだから」

「それは私も聞いてるわ」


ガンダムSEEDのフリーダムガンダムを見て、魔法でハイマットフルバーストを再現できないかと……無理だったけど。

だってアイツ、ティアナさんとかみたいに魔力弾の多数生成とかできないもの。そもそも砲撃と相性がよろしくないもの。

もっと言えばアイツの魔力資質はフリーダムというより、エクシアだもの。出力がないからダブルオーにはなれず、ひたすらにエクシアだもの。


まぁそんなわけで、ガンプラバトルではふだんできない事を中心にやっている節があるわけで。……そういうところが、ちょっと可愛いとも思うのよね。


「でも、大丈夫なのかな。本命機体じゃないし」


ともみが呟き、不安げにおろおろ……全く、外見はクールなくせにフェイトさんみたい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あう……ヤスフミ、駄目だよ! ほら、ヤスフミは近接型なんだし、もっと斬りにいかないと」

「そうだよなぎ君! ほら、銃なんて捨てて向かっていかないと!」

「そうとも言えないよ」


そしてロイヤルガーデン……アイツがいきなりナイチンゲールとぶち当たったので、フェイトさんとギンガはおろおろしていた。


「あたしも魔導師の勉強を始めたから、よく分かる。実際のところ恭文は剣術も、射撃も同じくらい得意だ。ただ資質的に向いているのが前者ってだけでさ」

「それに恭文先輩、マーキュリーレヴとかで射撃武器もいっぱい使ってたし、大丈夫ですよー」

「で、でも相手は大きいし、懐に入ればドガーンって……あ、まさか分離するのかな! ダーグと戦った金ぴかもそうだったし!」

「かもしれないわよ? これはガンプラバトルだもの」


……インフラックスは錐揉み回転しながら、スタビライザーも兼ねている実体剣をバックパックから取り出し、逆袈裟一閃。

ナイチンゲールが左腕を動かし、そこから緑色のビームトマホークを展開。右薙に振るってきた。

そしてつばぜり合い……激しく火花が舞い散る中、刃を引きつつ向こうの斬撃はやり過ごす。


その上で後退し、フロントスカート内部の隠し腕から逃げる。隠し腕に持たれたビームサーベルが、インフラックスがそれまでいた場所を鋭く斬り裂く。

サーベルは百分の一サイズに合わせ長大で、本当にすれすれ……インフラックスの胸元をかすめたんじゃないかと思うレベルだった。


「な……え、今のなに! 腕がもう一本!?」

「ふぇ……!」

「……あーあー!」

「ああー! ああー!」


ギンガさんとフェイトさんが慌て、アイリ達もさすがに驚く。ていうかあたしも驚いた……だって今の、ちょっとでも退避が遅れたら間違いなく……!


「二人はさすがに分からないか。あのね、ナイチンゲールはスカート内部に隠し腕が仕込んであるの。ようは不意打ち目的の隠し武器」

「じゃあ、変に接近したらカウンターなんですか!?」

「それだけじゃないよ。百分の一スケールの機体だから、出力的にもインフラックスより上だろうしね」

シャーリーさんは補足を加えながらも、視線を厳しくする。そうして続くバトルを手に汗握りながら見つめた。もちろんあたし達もだけど。


「真正面からのパワー勝負じゃ絶対に勝てない」

「でも恭文は最初から……本当に初っぱなから、そんなのができるキャラじゃなかった」

「魔力ってところに限ったらね。出力的にはアンタや空海達より下だもの。さぁ、ここからよ。古き鉄の――蒼い幽霊の真骨頂は」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


すれすれで避けたサーベル、その圧力と危機感で一気にスイッチが入る。というか、楽しくて口元が思いっきり歪んだ。

半端ない……半端ないよ、世界。思っていたよりも広く、大きく、厳しく、強く……そして楽しい。

その全てが楽しくて、心が沸き立ってしまう。毎日……これから毎日、大会が終わるまでこんなバトルができる。


そう考えたら、進んできた道が間違いじゃないと実感する。そうだ、ここには僕の望む戦いがあった。


「隠し腕まであんのかよ!」

「RE/100シリーズでは稼働しないはずなんだけどねぇ、それくらいは改良できるか」

『ふ、若いなりにやるな。だが……ファンネル!』


展開したファンネルが再び僕を取り囲む。とりあえず反転して下降しつつ、実体ブレードを元の位置へセット。

それから前転し、背後から放たれた射撃をブレード二本で受け止め払う。


「なんですか、この速度……! めちゃくちゃ速いのです!」

「世界大会出場者だからなぁ、そりゃあレベルもダンチだろ……もぐ」

「問題ない、アメイジングレヴ……いけ!」


アメイジングレヴをパージ……アメイジングレヴはマーキュリーレヴと同じく、トオルが僕達に送ってくれたパーツ。

直線的なラインを描くシールドブースターは、たたんでいた翼を広げロボット鳥となる。

アメイジングレヴ二基は甲高い鳴き声を放ち、ファンネル達に向かって突撃。全方位のビームを引きつけつつ、華麗なバレルロールでたやすく避ける。


でもそれで引きつけられたのは五基だけ。残り五基はこちらへ迫ってくるので、まずは背部ビームキャノンでけん制。


『そんなものでは当たらんよ!』

「本当にそうだから腹立つな!」


ショウタロスが荒ぶっている間に、ファンネル達は散開……それはアメイジングレヴ達が引き付けている方もだ。

でもそれこそが狙い。……改めて迫るファンネル達へ突撃し、あえてその中枢へ。そしてインフラックスウェポンバインダーが展開。

飛び出してきたのは黒塗りのライフル二丁。それを両手でキャッチし、錐揉み回転しながら二時・七時方向に同時射撃。


続けて三時・六時方向、両腕を交差させ、五時・十一時方向にもビームを放つ。

放った射撃はそのどれもが、死角を取ろうとせわしなく動いていたファンネル達を捉え、容赦なく粉砕する。

なお最後の十一時方向は、アメイジングレヴに絡んでいる方へ飛び、射線上にいた二基を撃墜した。


「……ほらね?」

『ガン=カタだと! いや、それ以前にブースターからライフルが!』

「そういう武装だしねぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やはりあの人は強い。まぁこのわたくしを一度下したのですから、当然ですわ。驚くギャラリー達は気にせず、さっと髪をかき上げ当然と笑う。


「おぉ、あの速度に当ておった!」

「当然ですわ。恭文さんは射撃戦及び誘導兵器対策にはお強いのですから」

「さすがは師匠と同じくマリュー・ラミアス友の会会員や!」


そこでつい前のめりにズッコけてしまう。また……またその会ですのぉぉぉぉぉぉ!?


「だからなんですのそれ! あの人は本当に……二次元より三次元ですのに!」

「す、すまん……声を、声を抑えめに……うげぇ」

「……ほんま幻滅や」

「本当ですわ! あなた、大会中はもうお酒を飲んではいけませんよ!? 絶対なのですよ!」

「おー!」


そこで可愛いナマモノが、両手を振り上げポーズ。……あぁ、なるほど。『今度は僕が止めるよー』という感じでしょうか。

するとわたくしを見てその通りと頷き、ぴょーんと飛び込んでくる。


「……あおあおー♪」

「はい、いらっしゃい」


その子は受け止めると、胸元に甘えてスリスリ……その様子が可愛くて、頭を撫でながらまた試合に注目する。

あれで敵の気勢は削がれた。ならば、あとはどこまで押し込めるかですわ。元々出力勝負では厳しい相手。

上回るのならば攻撃精度と精密性……ようするに、相手の喉元を突いて一気に潰すんです。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


また放たれる、ネオ・ビームライフルによる砲撃。その射線上へ飛び込み、アメイジングレヴ達と大きくバレルロールしながらもすれすれ回避。

続くギロチンバーストもすり抜け、アメイジングレヴ達が手近なファンネル二基へ首元を向ける。

喉元に仕込まれたガトリングから弾丸がまき散らされ、ファンネルの背後を取りつつの掃射で赤いせん光が蜂の巣となる。


同時に十二時・九時方向へ同時射撃。最後の一基……九時方向に回りこんでいたファンネルも潰す。

十二時方向のビームはナイチンゲールへと飛び、ネオ・ビームライフルを撃ち抜き容赦なくへし折る。


『ちぃ!』


しかしナイチンゲールはライフルを放り出し、それでもなお闘志をへし折る事なく飛び込んでくる。

更に張り出したバインダーから追加のファンネルが射出される。合計……十基か、サイズはさっきのよりも小型。


「予備があったですか! でもやれるですよね!」

「もちろん! アメイジングレヴ、戻って!」


アメイジングレヴ達はまた甲高く泣きながら、背部へと再接続。


「リイン、シールドブースターの粒子砲チャージ!」

「やってるですよ!」

「上出来――!」


そうして上がった機動性で飛び込み、予備ファンネル達の包囲網と射撃を突破。

迎え撃つように振るわれるビームトマホークを伏せて避け、時計回りに回転。ナイチンゲールの右サイドを取り、下がりつつも両腕を大きく広げる。

そのまま至近距離でのローリング射撃。ライフル二丁はギロチンバーストで空間を薙ぎ、追いかけてきた予備ファンネル三基を払う。


ナイチンゲールは隠し腕を展開しかけるも、慌ててシールドを構えて防御。その上でまた踏み込み、隠し腕をスナップさせサーベル投てき。

回転をやめ、投てきを引きつけつつブースト。迫る刃を飛び越えながら、逆立ち状態でナイチンゲールの頭頂部を取った。

右のライフルで頭頂部を、更にシールドブースターのメガ粒子砲でファンネル達のいる方を狙い、同時射撃。


ナイチンゲールはシールドをとっさに構え、こちらの射撃はなんとか防御。ただしその際、ファンネルの操作が一瞬おろそかとなった。

結果残り七基のファンネル達は、不意打ちの奔流に巻き込まれ全て飲み込まれてしまう。

それでもナイチンゲールは止まらず、身を回転させながらビームトマホークで左薙一閃。……しかしその武装は既に読みきっている。


大ぶりな甲剣、しかもでかいボディに干渉するところも多い。振るい方は限定されているんだよ。

なので急上昇し、ビームトマホークを飛び越え……振るい切った直後のシールド上に着地。

その上でナイチンゲールの首元にライフル二丁の銃口をねじ込み。


『なんだと!』

「この距離なら隠し腕は使えないよね!」


ビームを乱暴に乱射……そしてナイチンゲール内部の装甲が一気に膨れ上がり、爆散する。


『サボテンの花が、咲いている――!』


その寸前で退避し、沈みゆく赤い鳥を見送った。……うし、初勝利っと!


≪BATTLE END≫

『第十試合――勝者、日本第二ブロック代表、蒼凪恭文・蒼凪リイン組』


消えていく粒子の中、巻き起こる大喝采。その全てを受け止め、リインと顔を見合わせる。

世界が、会場にいるみんなが、僕達のバトルで沸き立ってくれた……それが嬉しくて。


「リイン!」

「はいです♪」


飛び込んできたリインとおもいっきりハグ……よっしゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! まずは初勝利だ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんも勝った――! ナイチンゲールがすっごく強くてびっくりしたけど、黒いガンプラは縦横無尽な射撃で対応。

相手の攻撃を受け止め、真正面から跳ね返した。なおお母さんもさすがに前のめりで、嬉しそうにガッツポーズ。


『――次の試合には日本代表、第三ブロック予選の覇者……イオリ・セイ君とレイジ君が出場します!』

「あ、きたわね!」

「はい!」


そして集まっていく出場選手達……あ、大人っぽい女性までいる。やっぱりガンプラバトル、性別とか関係なく大人気なんだね。

ただそんな中にイオリくん達の姿がない。あれ、おかしい……なんとなく嫌な予感がしてきた。

……そして試合が始まる直前というところで、慌てて会場内に走りこんでくる二人の姿。

『……おおっと! イオリ君達、今現れました! 大遅刻です……試合開始まであと十秒! これはみっともない!』

「きっと、レイジくんね……!」

「……はい」


なにやってるの……というか遅刻グセがついてないかな! こ、これは早めに行ってきっちりしないと駄目なのかも! うん、わたしがしっかりしないと!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やらかしてしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

全世界生中継で大遅刻なんて! なお、今回はレイジが悪いんじゃない。レイジはちゃんと時間通りに起きた……ただ。


「この馬鹿がぁ! なんでガンプラいじったんだよ! なんで作業しながら机に突っ伏したんだよ!」

「ごめん……眠れなかったから、気分を和らげようと」

「いいからガンプラを出せ! 説教は後だ!」

「はいー!」


新しいガンプラを渡し、レイジはベースにセット。……それはビルドストライクだよ。ただしバックパックや武装は変更した。

ビームライフルは可変機構を搭載し、取り回しと威力をより突き詰めた【スタービームライフル】。上部に展開用バレルを仕込んでいるのが特徴。

シールドは一見すると、チョバムシールドに白いパーツがかぶさったように見える【アブソーブシールド】。


ビームサーベルやイーゲルシュテルンも変わらずだけど、出力や威力の見直しは万全。

そしてバックパックはビルドブースターではなく、翼を持たない宇宙用戦闘機をイメージした【ユニバースブースター】とした。

ブースターはアームを通じ、胸部インテークにカバーをかぶせる。これによりより深く、ビルドストライクと接続される。


白地に赤の装飾、及びクリアパーツは、レイジの印象をイメージとしてカラーリングした。

ブースター搭載のビームキャノンはグリップ展開ギミックこそないし、ビルドブースターのものと比べれば小型。

でも出力は負けてないし、その分可動範囲を広げてより使いやすくしてある。


そしてユニバースブースターに合わせ、脚部太もも外側には増設コンデンサを装備……ドキドキする。

委員長やセシリアさん、恭文さんにマオ君……いろんな人から刺激を受け、悩んで迷って、それでも一直線に突き進んだ結果。

生まれ変わった僕の全身全霊、限界を突き抜けたそこにあった星……その輝きが世界に通じるかどうか、今試される。


怖くはある、でも楽しみでもある。今までなら感じなかったワクワクで、胸がいっぱいになっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


控え室に戻り、歌唄達やセシリアとハイタッチ……そして遅刻してきた馬鹿ども。アイツらはまた……!


「……説教が必要ですわね!」

「チナの件で懲りてないと見えるし、しょうがないね……ん!?」


でも二人が置いた、新しいビルドストライクで呆れた感情が止まる。なに、あれ……あの、とんでもないプレッシャーは。

セシリアも、マオも、それに二日酔いなリカルドやあおも気付き、前のめりで目を見張る。もちろん千早とりんもだ。


「プ、プロデューサー!」

「なにあれ……!」

「歌唄ちゃん、りんもどうしたのかな。あれ、ビルドストライクじゃ」

「いいや、違います!」


ともみの言葉を否定し、マオはとても嬉しそうに笑う。戦って脅威になるであろう相手なのに、本当に楽しくだよ。

その意味はここにいるみんななら誰でも分かる。……強い方が、楽しいじゃないのさ。


「ワイにはよう分かります! 見た目は同じようでもまるで違う!」

「あれがイオリ・セイの、レイジの新しいガンプラか」

「恭文さん」

「やっぱり、一筋縄じゃいかないらしいね。でも楽しいじゃないのさ――!」

「えぇ、本当に」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「レイジ……行くよ!」

「おうさ!

≪BATTLE START≫

「スタービルドストライク!」

「出るぜ!」


そして新しい『星』は、暗礁宙域へと飛び出す。ところどころデブリが見える中、飛び出して早速背後を取られた。

背後から追いかけてくるのは、緑色のスーパーカスタムザクF2000か。ガンプラビルダーズに登場した、超重武装のザク!


『食らえ、遅刻野郎ども!』

「……セイ!」

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


わぁ、早速怒りを買ってたよ! でもそうだよね、こんな大舞台に遅刻なんてあり得ないものね!

ほんとごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい! でもレイジは悪くない、今回レイジは一かけらも悪くないんですー!

……放たれたのは両肩部に搭載してあるショルダーミサイル四発。それをメインスラスターの出力のみで振り切り……無理か。


三発は暗礁宙域のデブリにぶつかるけど、一発はこちらへ接近。だからレイジは振り向く事なく、左スタービームキャノンで振り向かずに射撃。

小型化による可動範囲拡大は、こういう時に役立つ。難なくミサイルを撃墜すると、今度は十時方向からアラーム。

今度は黒と赤に塗装された、デュエルガンダムアサルトシュラウド……三五〇mmレールバズーカ【ゲイボルグ】を右肩に構え射撃。


ただし原典と違い、放たれたのはデブリを飲み込む巨大な奔流。バスターライフルクラスのそれを、レイジは冷静に防御。

アブソーブシールドを構え、外部パーツが展開。露出したのは内部に仕込んだ吸入フィン。

それはビーム本体も、プラズマ化した周囲の粒子も、接触した途端に全て吸い込み、スタービルドストライクの蓄積粒子とする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あれが恭文とフェイトさんの言っていた、イオリ・セイとレイジかぁ。でも遅刻って……!

あり得なくてあんまり期待してなかったら、あのストライクガンダムはビームを消した。そう、バスターライフル級のビームを消したの。


「な……なんだとぉ! おい日奈森、今の見たか!」

「見てるに決まってるじゃん! Iフィールド!? そうなのかな、あれ!」

「……いや、あれは『吸い込んだ』んだろう」

『吸い込んだ!?』


同様してると、ひかる君が冷や汗を流していた。というか、こんなひかる君を見るの……初めてかも。めちゃくちゃ驚いてるの。


「シールド表面のIフィールドで消されたのなら、プラズマ化した周囲のエネルギーまではカバーできないだろう。
あれではまるで掃除機の如く、シールドを構えた一定範囲のエネルギー……粒子を吸収しているようにしか」

「一之宮君、実際そんな事って」

「簡単には無理だろう。というか、恭文だってそこまでの事はしていない。ただ問題はそこじゃないんだ」

「どういう事かなー! だってビームが通用しないって事じゃ」


ややが聞いている間に、もう一基……赤いゲーマルクが乱戦状態のところへ迫る。遅刻野郎どもに引きつけられた敵達を、脇から狙ってきた。

腹部のメガ粒子砲で空間を薙ぎ、ビーム吸収で驚き、停止していたデュエルガンダムをあっさり撃破。


『がぁ!』

『迂闊だねぇ! ……そらよ!』


そのまま機体を回転させ、今度はビルドストライクへ迫る。でもその砲撃もやっぱりシールドで受け止められた。

あ、今度はあたしにも分かった……! 確かに吸い込まれてる! シールドに触れるより先に、砲撃エネルギーが分解されて、ギュイーンって!


「ほらー!」

「だから言ってるだろう、重要なのはそこではなく……吸収した粒子をどうするのかだと」

「機体出力が上がるとかじゃ……いえ、違うわね。こんな手の込んだものを作るんだもの、その先も当然考えている。つまり」

「あるのだろう、吸収した粒子を活用する『切り札』が」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『やるじゃないか、遅刻野郎ども!』


ごめんなさいごめんなさい……! 謝る暇もなく、レイジは三時方向へ振り向き加速。ザクF2000が突撃しつつ、こちらへ全弾発射していた。

迫るミサイルやマシンガンの雨あられ。レイジもすぐに実弾と見て取ったのか、回避行動に余念がない。


「セイ!」

「駄目、ザクF2000は実弾系武装が中心! アブソーブは使えない!」

「だったら」


レイジはスラロームも交えた回避でザクF2000を引きつけつつ、更にゲーマルクの砲撃も、アブソーブを巧みに使いこなし吸収。

ローリングや急な方向転換で巧みにシールドを向け、力をしっかり蓄えていった。……さすがレイジだ。

最初は動かすだけでも大変そうだったのに、今はまるで手足のように使いこなしている。有言実行とはこの事だよ。


感動すら覚えていると、大きめのデブリに接近。すれすれで通り過ぎるかと思ったら、急停止し上昇。

ザクF2000の弾幕はデブリを、その先を撃ち抜き破壊の帯を刻み込むけど、そこに僕達はいない。


『な……!』

「言っとくが、遅刻したのはオレじゃねぇ」


そして放たれる、スタービームライフルでのギロチンバースト。それによりザクF2000は胴体部から頭部を抉り切られ、派手に爆発する。


「セイだ!」

「その通りですごめんなさい!」


……っと、謝ってばかりもいられない。残っているのはゲーマルク……となれば、次に来るのはオールレンジ攻撃だ。


「レイジ、チャージ完了! ディスチャージスピードモードで!」

「分かった!」

『生意気だねぇ……行きな、ファンネル!』


ゲーマルクはガンダムZZに登場した、ネオ・ジオン軍製のニュータイプ専用試作型重モビルスーツ。

全身の至る所にメガ粒子砲が搭載され、更に特徴的なのはファンネルだ。今背部から射出された、二基の大型マザー・ファンネル。

それから飛び出すのはその内部に十四基搭載されている、小型のチルドファンネル。


マザーを中継点とする事で、より広範囲にファンネル攻撃が可能だ。それにその数を相手じゃ、さすがにアブソーブだけじゃ対応しきれない。

だからこそ星はより輝きを強める。原作に捕らわれない想像力……そうして導き出したのは、粒子という力を使いこなすための扉。


「ディスチャージ!」

「パワーゲート展開……限界を」


ユニバースブースターと脚部コンデンサのクリアパーツが輝き、せっせと吸収した粒子エネルギーを放出。

それはチルドファンネルの包囲網から抜け、上へ突き抜けるビルドストライクの眼前で、黄色い粒子のエンブレムを描く。


「突き抜けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


凝縮した粒子の扉、そこを突き抜け、その力を全身に纏いながら錐揉み回転。描いた夢の、星の輝き。

目指した高みへ昇るため、僕達には力が必要だった。そう、これが――この蒼い翼こそが!


「これが――オレ達の!」

「ガンプラだ!」


背部にひらめく青い翼、そしてその根本には再出現したパワーゲート……その力を羽ばたかせ、追撃するチルドファンネル達に迫る。

更にマザー・ファンネルの側面から、横並びでホーミングビームも放たれる。でも大丈夫。

無数の砲口から放たれるそれを、右へのスライド移動のみで置いてけぼりにし、脇から一気に突き抜ける。


攻撃などはしない、ただファンネル達の包囲網……その一角を突き破っただけ。

でも翼の羽ばたきによってまき散らされた粒子は、チルドを打ち据える圧力となり、粉砕する。


『……なんだって!』


残りのファンネル達も脅威度を察して襲い掛かってくるけど、追いつけない……追い付かせない。

光の如く突き抜け、邪魔なオールレンジ攻撃は全て羽ばたきの圧力で払う。全てのファンネルも、その攻撃も、星の煌きには届きもしない。

そして残ったマザー・ファンネルは、そのサイズゆえに圧力のみでは止められない。でも動きは、その矛は止められる。


圧力に負けてスタンしているところを狙い、レイジはビームライフルに連射。緑のせん光二つに貫かれ、マザー達は爆散。


「レイジ、ゲーマルクは各部にメガ粒子砲を搭載している! 接近せずに仕留めて!」

「分かった!」


ゲーマルクへと接近。距離、一キロを切って八百、五百メートルと近づく。

迎撃のため、各部メガ粒子砲を一斉発射。しかしそれも……扇状に放たれた砲撃も全てすり抜け。


「もらったぁ!」


交差するその瞬間、スタービームライフルから放たれたせん光がゲーマルクの胴体部を貫く。そして爆発を置き去りに、僕達は初勝利へと突き抜けた。


≪BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……なんつう性能だよ、スタービルドストライク。もうね、間違いないわ……セイのビルダー能力は僕やらタツヤより上だ。

今までは経験差や、セイ自身がガノタゆえにガンダムの世界観設定へ捕らわれ過ぎていたから、まだなんとかなった。

でもこれからは違う。あの性能を扱い切るため、レイジ自身もレベルアップしている。少しでも気を抜いたら……負ける。


ただスタービルドストライク、僕が見る限り二つ三つ致命的な弱点がある。それもこの長丁場な世界大会とは相性最悪な弱点が。

予備パーツ制作の準備期間も、ろくすっぽ取れなかったセイが……今目の前で、正座しているセイが、それに気づいているかは謎だけど。


「レイジさん……は、まぁいいでしょう。ちゃんと起きたのは事実のようですし。でもセイさん! あなた、本当に馬鹿じゃありませんの!?」

「ご、ごめんなさい……!」

「許しません。チナさんからメールを頂きましたもの、自分が来る前にあなたをしっかり叱っておいてほしいと」

「委員長おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「あぁそっか、お前ら師弟関係だもんな。こりゃあ……こっちでもビシッとしてねぇと怖い事になるぞ」


まぁ放置でいいか。ライバルだし、わざわざ教える必要もないわけで。そしてマオ、リカルドと一緒に僕達はお手上げポーズ。


「セシリアー、その馬鹿どもは任せるねー。僕達は次の試合が大事だからー」

「あ、ずるいですわ! わたくしも見ます!」

「次? なんだ、なにかあるのか」

「PPSE社のワークスチームが出るんです。それで噂通りなら」

『ガンプラバトル世界大会、第一ピリオド最終戦……主催者特別枠で出場している、PPSE社ワークスチーム!』

「やっぱり出てきたな」


そして奴は、アランを伴ってゆっくりと……堂々とバトルベースへ近づく。紺色のジャケットを翻し、オールバックにグラサンという出(い)で立ち。

しかしその風格は修羅を思わせるほど鋭く、PPSE社という看板を背負って立つにふさわしい力強さだった。


『ガンプラ製作のゴッド、『メイジン』の名を受け継ぐ三代目!』

「おい……アイツは! セイ、ヤスフミ!」

「こう、きちゃうなんて」

「間違いない。とりあえず安心したよ、約束は守られそうで」

『メイジン・カワグチ!』

「ユウキ・タツヤじゃねぇか!」


そう、あれこそが三代目メイジン・カワグチ――恐らく本大会における、最大の障害。そして僕の友人ユウキ・タツヤだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


嘘……! どうして、なんで! サングラスはつけてるけど、あのオールバックな髪型と雰囲気はどう見ても。


「ユウキ会長!?」

「え、チナちゃんの知って……ユウキ会長!? セイとレイジ君が戦いたがってたって言う!」

「はい!」


どうしてユウキ会長が……あれ、携帯に着信? 画面を見て、慌てて着信ボタンを押す。かけてきたのはセシリアさんだった。


「もしもし!」

『テレビ、見ていますわね』

「はい!」

『これがあなたの知りたかったものです。……ユウキ・タツヤがガンプラ塾で出した答えは、バトルトーナメント制覇。
わたくしや名だたる塾生、講師達……もちろん恭文さんも下し、勝利の上で手にしたものは』


そう、これが答えだった。今なら本当の意味で分かる、セシリアさんが言っていた言葉の意味が。


――言ったでしょう? 次期メイジン決定戦でもあると。元々ガンプラ塾はそのための施設でしたし、目的が達成されれば役割も終えます。
……こう言えば分かりますか? あれは居場所の防衛戦ではなく、夢を叶えるためのトーナメントだったと――


誰もが願っていた看板、その重荷……それを背負うために、あの人は消えた。その上でまた、わたし達の前に出てきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会場が騒然となる。どう見ても十代……限界まで見積もっても二十代前半。

そんな若い奴がPPSE社の看板を背負って立って、バトルベース前に立っている。

様々な選手の顔見せも兼ねた第一ピリオド、しかしメイジンって看板が出るだけで雰囲気が変わるな。


「ディアーチェ、ダーグさん達も」

「うむ……小僧の話を聞いてから試合映像なども確認したが、間違いない」

「ユウキ・タツヤ……ヤスフミの友達で、紅の彗星」

「そしてイオリ・セイとレイジの宿敵」

「雰囲気は別もんだがな。映像では熱くありながらも紳士的な印象だったが」


あの張り詰めた闘気、試合前から相手を食ってかかろうという気迫は紛れもなく。


「修羅……というには幼いか。彼も彼で苦労しているようだ」


そこで左側から声。さらっと大尉が登場し、その視線を奴に向け続けていた。


『ラルさん!』

「君達もやはりきていたか。……彼の雰囲気はPPSE社の意向もあるのだろう。なにしろ新世代ヒーローの初陣だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「な、なにあれ! タツヤ君じゃないみたいだし!」

「あう?」

「ああー」

「何事も初めが肝心という事でしょうか」


慌てるフェイトさん、そしてあたし達……だって、どう見ても別人だし! でもそんな中海里が眼鏡を正し、厳しい視線を三代目に送る。


「うむ。二代目のイメージをまずは引き継ぎ、初戦を制する……できなければ、メイジンの名折れでは済まないからな」

「二代目のイメージ……勝利のみを追い求める修羅。じゃあタツヤさん、めちゃくちゃ緊張しまくってるのかな」

「まぁそういうわけですから、フェイトさんも落ち着いて。アイリ達も困ってるじゃないですか」

「う、うん……でもセイ君達、大丈夫かな」

「セイ? ……さっき大遅刻してきた奴らじゃん! あ、そっか!
なんか一度か二度こてんぱんに負けたんだっけ! じゃあフェイトさん」

「その二人は知らない。ヤスフミもメイジン絡みの話は難しい事も多いからって、正確には伝えていなかったはずだから」


つまり、向こうはこれから大荒れ……! うわぁ、恭文も巻き込まれてんのかな。その、えっと……頑張って。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ついにきたねぇ、世界大会の舞台に……そして予想通り、今年の大会は節目にもなる。

第七回でラッキーセブン、というわけではなく、プラフスキー粒子が見つかって十年目でもあるしね。

ガンプラを上手く作り、上手く動かすというシンプルなぶつかり合いで華やいだれい明期。


プラフスキー粒子そのものの特性研究、及び重火力・重装備機体達が列挙し、暴れまわった恐竜的進化期。

MAのような機体が世界大会で多く使われだしたのは、実に当然の事なんだよ。ガンプラバトルは世界大会も含めて、一対一での勝負が基本だ。

相手を一撃で倒せる火力、相手の攻撃を防ぐ高い防御能力を持つ機体に行き着くのは、まさに心理と言える。


同時になんという偶然……いや、運命かな。それはUC世界のMS開発史と図らずも同じ流れとなった。

そして十年目で、その進化は一つの実を結び始めていた。スタービルドストライクの無双がいい例だろう。

見かけだけの火力や防御能力にとらわれる事なく、プラフスキー粒子によるオリジナルの特殊能力を付与した機体。


更にそれを通常のMSサイズに落としこむ事で、機動力も維持しているときたものだ。

ただ……そんな中で気になるのはヤスフミだが。というか、あれは嫌がらせだろ……!

君がインフラックスを先に出したら、ケンプファーアメイジングのインパクトが薄れるじゃないか!


というかさすがに予想外で、控え室でズッコけたんだぞ! まぁ、第二ピリオドに向けての布石だろうけどさ!


「メイジン」


メイジン――タツヤにケンプファーアメイジングをしっかり手渡す。既に扱い慣れた機体なので、不安はない。


「我々PPSE技術開発部が、その英知を結集して作り上げたガンプラ……今日は君とこの子の初陣だ。メイジンの称号にみあう戦果を期待するよ」

「期待など不要だ」

「ん?」


メイジンはGPベースをセットし、案内に従ってケンプファーアメイジングもセット。

作られる雪原のフィールド、メイジンという『得物』を狙う狩人達……その全てを見据えながら、彼はアームレイカーに手をかける。


「メイジンにとって勝利とは、必要最小限の絶対条件である」

「……ふ」

≪BATTLE START≫

「メイジン・カワグチ――ケンプファーアメイジング、出撃する!」


こらこら、素が出ているよ? クールぶっていても本当に楽しげな表情で、メイジンはアームレイカーを押し込んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


カタパルトを滑り、戦いの場へと飛び出すケンプファー。その機動を支えるのは、過剰とも思えるほどセットされた各部スラスター。

それは推力方向から計算され、突撃に特化したもの。その大半が前傾姿勢での滑空ができるよう、後方斜め下へ向いているのよ。

黒に限りなく寄った青、それを引き締めるような各部のホワイトラインは、雪原の中ではよく目立つ。


でも注目を集めているのは、別に色のせいだけじゃない。おぉおぉ、トウリさんがしっぽでも振る勢いで瞳を輝かせてるよ。


「ケンプファー……ガンダム0080にて登場する、ジオン軍の強襲用モビルスーツですわね」

「でも、なんて推力だ! というかあのバックパック」


セイ、そしてリカルドや千早達が僕を見る。そりゃそうだ、ケンプファーが背負っているのは……ウェポンバインダーだから。


「恭文さんのインフラックスウェポンバインダーじゃないか!」

「あれね、僕が作ったんじゃないんだよ。今メイジンの隣にいる、アラン・アダムスが作ったんだ」

「そしてアランさんもガンプラ塾・ビルダー科の出身……ガンプラ塾時代から、タツヤさんをメイジンになれる器とほれ込んだ人です。
でもまた腕を上げていますわね。ケンプファーアメイジングのアレは、インフラックスよりも性能が上でしてよ」

「セイ、アランはおのれと割合近いところがある」

「僕に?」

「おのれだってレイジにほれ込んで、パートナーとして誘った。結果スタービルドストライクを作ったでしょ?
アランもね、メイジンのガンプラを作るって夢があったんだよ。そしてタツヤならと見込んで……今、夢を叶えている」


そう、スタービルドストライクはレイジ専用……本当の意味でね。元々ビルドストライクが完成した後、セイはレイジと出会ったから。

でもあの星は違う。姿形は同じでありながら、設計・制作段階からレイジの使用を前提としていたはずだ。

だからこそセイは画面の中で、改めてアラン・アダムスという男を見やる。


「しかしアラン、いい出来だなぁ。なぁヤスフミ、あれはPPSE社の力ってだけじゃ」

「当然ないよ。そしてタツヤもウェポンバインダーは問題なく使いこなせる」

「お兄様と同じく、サツキ・トオルさんからマーキュリーレヴを受け取っていますしね。つまり多数の武器を同時に扱う事が得意」

「得意な事も似通っているから、こっちの手も読まれやすいですね。戦う時は気をつけないと……ところでヒカリ」


そうだ、ヒカリだ。ヒカリはせんべいをかじりながら、神妙な顔で携帯を見ていた。タツヤの試合は見ずにだよ。

はい、ヒカリには携帯を持たせています。僕が以前作った、しゅごキャラサイズの携帯電話『たまフォン』ってのがあってね。

さすがにサイズがサイズだから、機能はわりと絞ってあるんだけど……スマートフォン型のたまフォンをずっと見つめていた。


「なにしてるですか?」

「いや……さっきの、アイラ・ユルキアイネンか? 妙に気になってなぁ」

「気になるって、今更? おのれ、僕達と一緒にフィンランドで試合を見たはずだし」

「なんだよなぁ。自分でもよく分からん……もぐ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんの言う通りだ。スタービルドストライクはただ超高性能なガンプラってだけじゃない。

作る時はこれまでレイジとやったバトルを見返し、その癖や反応も勉強し尽くした。

そうでなければ真の専用機とは言えないから。最初のビルドストライクとは違う、レイジのためだけに作ったガンプラ。


メイジンのガンプラを作る、その夢を叶え、今ユウキ先輩の隣にいる男……アラン・アダムス。

こうなると、僕もレイジ張りに気張るしかないじゃないか。もしユウキ先輩と戦うなら、それは僕とアランさんの勝負でもある。

ビルダーとして、ファイターの癖を知り尽くしたパートナーとして、どちらが優れているかの……だから断言する。


あの人は、僕のライバルだ――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前傾姿勢のケンプファーアメイジング……それらを狙い、狩人達が動き出す。

まずは一時方向・上四十五度……距離にして三百メートルほどのところから、ガンダムAGE-2が強襲。

機動戦士ガンダムAGEにて登場ずる可変機体。現在は飛行形態【ストライダーフォーム】となり、四つ羽で空を切る。


先端部にセットされたロングライフル【ハイパードッズライフル】が連発される。

回転粒子エネルギーは、ガンプラバトルにおいてもDODS効果と近いものを発揮し、こちらへと容赦なく迫る。


『ワークスチームだかなんだか知らないが!」


が、メイジンはそれを最小限のスラロームでたやすく回避。第二射、第三射などものともせず、急停止し雪原を滑る。

停止したところで四発目――機体の目の前すれすれに着弾。地面が雪とともに爆ぜ、視界が防がれた。

ケンプファーアメイジングはそれを盾とし、右手に持っていたライフルを向け……発射。


最小限の動きで放たれたビームは、雪と土の壁を突き破り、AGE-2へと迫る。

AGE-2はとっさにMS形態へと変形し、左腕にセットした小型シールドで防御。しかしビームはシールドごと腕を貫き、胴体部も僅かに抉る。

そしてケンプファーは背後から忍び寄っていた、陸戦型ガンダムへと振り返る。……レーダーに反応はなかった。


だが陸戦型ガンダム……まぁジム頭なんだが、ソイツが脱ぎ捨てた大きな布をチェック。

それもきらめきを放ちながら、周囲の景色を映し出していた。なるほど、ステルス性の高いマントを持ってきたか。

その直後放たれる、ビームサーベルでの袈裟一閃。やはり世界大会なだけはある。


ここまで接近できるのは脅威と言えよう。もちろん気づいたメイジンもさすがと言えるが、それでもレッドゾーンへ踏み込んだ。

だから誇りたまえ、メイジンの背後を最初に取り……散らされるその栄誉を。


『え……!』


メイジンは張り出した左肩アーマーを向け、無謀にも体当たり。だがこれで正解だった。

まずサーベルを持った右下腕は、こちらのウェポンバインダーに衝突。刃も本体へは届かない。

何分でかくて幅もある背負いものだ、サーベルは順手で持たれたものだし、腕を受け止めれば相手はなにもできない。


もちろん手首を回転などされると厄介だが、肩アーマー先にはヒートスパイクがセットされている。

鋭いそれは赤熱化し、ジム頭の胴体を貫き一瞬で動きを止める。ビーム刃の展開が中断され、ジム頭はあお向けに倒れた。

……いや、倒れる前にケンプファーは再度振り返り、その上で後ずさり、開放されたジム頭を蹴飛ばした。


ジム頭はまたまた飛んできたハイパードッズライフルでの射撃、及び同じ方向から襲ってきたGN-Xの射撃を受け、派手に爆散。

しかし腐っても世界大会使用のガンプラ。それだけでは完全に防げないので、ケンプファーは反時計回りに回転。

左にスライド移動しつつ、左のウェポンバインダーを展開。飛び出したアメイジングライフルをキャッチし、回転したまま射撃。


左薙一閃のギロチンバースト……相手が攻撃直後の隙を狙い、薙がれる緑のせん光。

それはAGE-2の損傷箇所――シールドと腕がなくなった、左サイドを抉り、そのまま両断する。


『なんて、反応速度だ!』


そう、なんて反応速度だろうね。連邦軍カラーなGN-Xは赤いGN粒子をまき散らしながら、ギロチンバーストをたやすく避けていた。

そして両手持ちのロングライフルから、先端部の銃身をパージ。GNマシンガンとした上で乱射するも、ケンプファーは回転継続。

その射線上から退避しつつ右・左・右・左とライフル連射。五月雨のように放たれる乱舞は、あっというまにGN-Xを蜂の巣とし……撃墜する。


≪BATTLE END≫


ライフルを空へ向けたまま静止するケンプファー。バトルが終わり、消えていく粒子の中……僕はメイジンの肩を叩いた。


「メイジン、ガン=カタ……やりたかったのかい?」

「……なんの事か分からんな」


うっそだー! ヤスフミがやっていたからだろ! あの動きはどう見てもリベリオンのそれじゃないか!

というか顔を背けないでほしいなぁ。大丈夫大丈夫、君もなんだかんだでノリは近いって知っているから。……まぁそれはそれとして。


「――まさにPerfect!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まぁ知ってはいたけど、相変わらずぶっ飛んだ強さ……てーか隠匿状態だったせいで、かなり鍛えてるね、あれは。

そうして楽しくなった中、レイジが走りだした。セイも慌ててついていくので。


「ごめん、みんな!」

「あー、うん。こっちは大丈夫だから!」

「気をつけなさいよね」

「ありがと!」


送り出してくれたりんと歌唄、更に困り顔なともみ達に見送られ、セシリアも一緒に後を追いかける。

そして選手控え室へと続く廊下の中……ここは会場の一部なのに、客席やベース周囲と違いしんと静まり返っていた。そして追いつくと。


「待ってください!」


控え室へ入ろうとしていた、タツヤ……いや、メイジンとアランを、セイが呼び止めていたところだった。


「ん、君達は……おぉ! セシリア……セシリア・オルコットじゃないか! 久しいなぁ! この再会、まさしく運命だろう!」

「お久しぶりですわ、アラン・アダムス。でもわたくしは後で構いませんから」

「……そうだね。レイジ、だったね。以前はラル大尉と、ヤスフミ達と一緒の時に」

「あぁ、そうだったな……てーかあの時は知らなかったぞ。てめぇもガンプラ塾ってとこの一員だったとはな。それ以前に」


そしてレイジの視線がメイジンに向く。でもセイはそんなのお構いなしでアランの前に立ち。


「アラン・アダムスさん……あの」

「イオリ・セイ、だね。イオリ・タケシの息子で、スタービルドストライクの製作者」

「はい。そういうあなたはケンプファーアメイジングの製作者、ですよね」

「いかにも。ケンプファーアメイジングはPPSE社の総力が結集されているが、主導はボクだ」

「やっぱり……!」


当然と言いたげなアランの両手を握り、瞳を星のようにきらめかせ始めた。あれ、これアカンパターンや。


「あの完成度、機動性、シンプルに見えながらもファイターの特性を理解した武装配置とその威力! 感動しました! あなたは凄いビルダーだ!」


メイジンの事より、その正体より、まずガンプラを褒めやがりました。結果僕達は全員ズッコける。

なおタツヤは必死に耐えるけど、額から脂汗が出ているのを見逃さなかった。


「セイ……てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 本気のガンプラ馬鹿だな! まずガンプラってなんだよ! ソイツはどうでもいいってか!」

「いや、ガンプラ塾やバトルトーナメントについてはさっき説明しただろ? だからもういいかなーって」

「軽いなお前!」

「度し難いですわ……! チナさんから爪の垢でももらって、飲んでいなさい!」

「ま、まぁアラン……セイもおのれと似たもの同士なんだよ」


その馬鹿はどうしようもないので、呆れるアランとセイの仲を取り持つ。じゃないと、セイは止まらない。


「お兄様の言う通りです。セイさんもレイジさんというファイターと出会い、ほれ込んでスタービルドストライクを作り上げましたから」

「そ、そうか。……ならこの出会いは大事にするといい。ビルダーにとって、そう思えるファイターとの出会いは奇跡だ。
ボクもそう思えるファイターと出会えたからこそ、今ここにいるしね」

「はい! アランさん、もし対戦する事があったらその時は」

「PPSE社の威信に賭けて、君を全力でたたき潰そう」

「望むところです!」


そして改めて二人は握手。しかしセシリアも、レイジも気づいた。にこやかだけど、火花が走りまくってる……!

お互いビルダーとして、ファイターを理解し支える者として、真正面から戦うつもりだ。いいなぁ、こういうのー。


「アラン、喋りすぎだ。……用がないのなら失礼する」

「待てよ。お前、ユウキ・タツヤだろ」

「否……私はユウキ・タツヤなどという男ではない。聖鳳学園高等部の元生徒会長でもなければ、模型部の部長であった過去もない」

「随分と詳しいのですね。まるでストーカーですわ」

「そうだそうだー、ストーカー。ストーカー」

「否! 私はストーカーなどではない!」

「「じゃあなんで詳しいんですかー? なんでそんなに知り尽くしているんですかー?」」


セシリアと楽しげに笑いながらそう言うと、メイジンの額にまたも汗……そしてついセシリアと顔を見合わせハイタッチ。


「恭文さん達、鬼……!」

「イオリ・セイ、残念ながら彼らはこれがデフォだ。セシリアも在学中にそれはもう……言い寄ってきた男達がどれほど地獄を見た事か」

「ちなみにあなたもその一人ですわ」

「言うなそれを! ボクにとっては思い出し難い黒歴史なんだ! というか君、そんなんじゃ結婚できないぞ!」

「失礼な事を言わないでもらえますか!? わたくしもスコール姉様と同じく……ただ一人、自分を捧げたいと思える殿方を待っていただけです」


そしてセシリアは荒ぶるアランなど気にせず、頬を赤らめながら僕の左腕に抱きついてくる。

え、えっと……あの、今はやめてもらえると嬉しいんですけど。というかお姉さん、いたよね。うん、知ってた。


「ヤスフミ、君はまた……あぁそうか。そう言えば君、自分より強い男が好みって言ってたっけ。トーナメントで負けてころりと」

「……恭文さんはその前に、千早さんやリインちゃん達をなんとかするべきだと思うなー」

「てーかお前、ハーレムはいいけど順番はきちんとしないと揉めるぞ。アリアンも以前それでゴタゴタした事があってよぉ」

「あれ、なんでか僕がフルボッコ!? 待って待って、多分僕は悪くない! ……でもレイジ、その話はまた後でじっくり」

「お前、聞きたいのかよ……!」


ショウタロス、ヒカリ、そんな目で見ないで。だって、本当に頑張らなきゃいけないかなーって。

……気のせいと思いたいけど、出場前に会場でフィアッセさん達を見たし!


「てーかその前に」

「なのですよ、正体を見せるのです」


そして後ろからリインが近づき、なぜか笑顔で僕の右腕に抱きついた。もちろんセシリアと火花を散らし……怖いからやめて。


「ね、義理のお兄ちゃん!」

「そうですわね。義理の兄として、ここはきっちり問いただすべきですわ」

「どういう理屈!?」

「……いいだろう、そこまで言うのなら」

「いいの、これで!」

「君達のグダグダには付き合いきれんという事だ――!」


そしてメイジンは幅広なサングラスを外し、その素顔を晒す。そして戦う者として、険しい表情を見せつけた。そう……それは。


「とくと見るがいい……メイジンの名を受け継いだ男の素顔を!」

『やっぱりユウキ・タツヤだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そしてレイジとセシリア、リインも加わり、この馬鹿へキック。え、どうしてかって? とりあえず……外した意味が分からん! 以上!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


揃って本気で蹴り飛ばしてくれて……! 意味が分からないのはよく知ってるさ! でもしょうがないだろう!?

レイジ君が知りたいって言うんだから! ……ただそれだけで解放されたのは救いというか。

どうも恭文さんが……いや、セシリアもだろうか。ガンプラ塾についてはいろいろ説明してくれたらしい。


正直あれで絡みつかれていたら、かなり困っていた。部屋へ戻り、窓際に立ちながら改めて感謝する。

ただお礼をする暇すらないわけだが。なんだかんだで僕達はPPSE社の望むメイジンを否定し、反発する不良社員だからねぇ。


「明日はバトルロイヤルだが……さて、どうするタツヤ」

「事前情報など不要」

「……君、部屋でもそれって疲れないかい?」

「言うな!」


というかアラン、呆れるな! キャラは徹底するべしと言ったのは君じゃないか! 誰が見てるかも分からないんだからと!

くそぉ、真面目だから馬鹿を見るのか! こんな現代社会には絶望しか覚えないぞ!


「ただ今回は不要とも言っていられないよ? あのチーム・ネメシスのトップファイターとやり合う可能性だってある」

「……アイラ・ユルキアイネン、キュベレイパピヨンか。アラン、君はあの『反応速度』についてどう思う」

「やはり気になるよねぇ」


窓から見える会場はひとまず置いて、アランが展開したモニターをチェックする。

……ジ・Oの対応は的確だった。見えないならば、見えるようにすればいい。実に分かりやすく合理的。

しかし問題は煙幕の有効範囲まで予め見切り、きっちり回避してきた事だ。正直異常そのものだろう。


「どうもボク達は勘違いをしていたようだね。知っているかい? 蝶は近視で、視力は一メートルほどだそうだ」

「聞いた事がある。ならばこの蝶(パピヨン)は、目には見えない『なにか』が見えている」

「それがクリアファンネルの驚異的な命中率にも繋がるなら……答えは一つかな」

「……粒子か」

「あり得ないなんてあり得ない、ヤスフミの口癖だったね」

「あの人自身が一番あり得ないがな、主に行動のハチャメチャさで」

「違いない。もしかするとこの蝶(パピヨン)は、ガンプラや武装を操作する流体的粒子が見えているのかもしれない」


今更だがおさらいだ。ガンプラバトルにおいてガンプラは、一種の操り人形と言っていい。

粒子がガンプラに浸透し、見えない操り糸を我々は巧みに操作し、戦わせる。しかしだ、その糸が見えていたとしたら。

もちろん本来はあり得ない。流体的に、リアルタイムに操作される粒子エネルギーは基本不可視状態だからだ。


しかし超直感やら、本物のニュータイプではないとしたら……こんな与太話未満の推測しか行き当たらない。


「ジ・Oのグレネード……煙幕が避けられたのは、もしかすると内包する粒子エネルギーで警戒されたせいかもしれないね。
あの煙幕も完全な塗料ではなく、プラフスキー粒子の効果も絡めていたようだし」

「まるでオカルトだな。しかし、物事には原因と結果――因果が存在する」

「なんにしても、彼女の動きには要注意ってとこだろうね。というか、嫌でもデータは取れるだろう」

「蒼い幽霊――チームとまとか」

「君が言う通り、彼はめちゃくちゃだ。だがその根源は強い好奇心にある……間違いなく飛び込むよ、あの馬鹿は」

「まさしく、馬鹿はくる」


なぜインフラックスを使ったか。確かに高性能な機体だし、恭文さんもその性能を百パーセント以上で引き出せる。

でも僕達へのプレッシャーというには今ひとつ力不足なのも否めない。ならばその真意はどこにある。

簡単だ、本命を明日の第二ピリオドへ持っていくためだよ。その狙いはアイラ・ユルキアイネン。


……あの人、本当に馬鹿だなぁ! でも、だからこそらしいと思い、アランと二人笑ってしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


部屋に戻ってから、チームとまとは明日の作戦会議。それで僕とリインの基本方針、更にアイラ・ユルキアイネンへの考察を告げると。


「粒子が……そ、そんなのあり得るの!? だってそれだと」

「こちらの動き、及び使用能力の大半が見抜かれるね。もちろん実弾・エネルギーを問わず」

「もしリイン達の考察通りであれば、間違いなく優勝の最有力候補なのです」

「当たり前じゃん! 相手はファンネル使いだよ!? 近づく前にやられるっての! しかもそれで明日は叩き伏せるって!」

「プロデューサー……というかリインちゃんも、相変わらず無茶ですよ」

「馬鹿ねぇアンタ達。コイツらが無茶でなかった事が一度でもあったかしら」


ご覧のとおり大反発です。……まぁ、無茶じゃなかった頃は思い返す限りないねー。

なんだかんだで僕達の勢いは変わらずなので、リインを後ろから抱き締めつつついニコニコです。


≪でも今のうちにやっておかないと、決勝トーナメントで当たった時などに実対応が追いつきませんから≫

≪ジガンも二人に賛成なの。というか……主様とリインちゃんなら絶対できるの!≫

「恭文さん、でも」

「大丈夫。……実は五年くらい前、同じような異能力者とやり合った事があってさ。対応策も幾つか考えてる」

「既に経験済みなのがおかしい……りんー!」

「ともみ、諦めようか。あたし達が惚れた男は、これだからこそ……だし」

「ありがと」


納得してくれた二人に感謝。後は、厳しい視線の千早かぁ。なのでリインと瞳うるうる。


「……そんな目をしても、基本反対なのは変わりませんよ」

「「やっぱりかー!」」

「なのでまずは確認から。やっぱり今回の大会、全体的にレベルが跳ね上がっています。
去年とは大違いすぎる……ネメシス以外にも新世代ファイターとガンプラが多数参戦している。
そんな中で一人の相手に固執するなんて危険すぎます。それは分かってますよね」

「当たり前でしょ」

「リインも同じくなのです」

「で、正直なところは」

「早くアイツと戦いたい!」

「ですです!」


ぶっちゃけるとなぜか千早からチョップ。というか……どうしてか分厚い辞書で殴ってきた。


「な、なぜ殴った」

「これこそ当たり前です。……レベルの高さは、当然決勝トーナメント突破の難易度を現している。
一つ足りともピリオドを落としたくない。なので使用機体は『パーフェクトAGE』を使ってください」

「……もちろん。千早、ありがとう」

「いいんですよ。戦いたい気持ちはよく分かるし……それに、私もだからこそなプロデューサーを愛していますから」

「う……うん」

「レイジに話を聞きに行くか」


そしてショウタロスに肩を叩かれ、涙目で頷く。大会はどんどん楽しくなりそうです。でも……これから僕、無事に生きていけるだろうか。


(Memory43へ続く)






あとがき


恭文「というわけでお待たせしました、スタービルドストライクとケンプファーアメイジングの初陣です。
そしてアブソーブシールドが一番輝いていた時……輝いていた時」

フェイト「そ、それは触れない感じで」


(よく壊れていたしね、しょうがないね)


恭文「お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと、今回で第一ピリオドは終了」

恭文「インフラックスもなんとか勝ったよー。僕達の本領も次回からスタート」


(そしておまたせしました、新しいAGEが登場です)


フェイト「この状況で!?」

恭文「この状況だからこそだよ。さぁ、不敗神話を打ち破るぞー!」


(『打ち破りますわよー!』)


恭文「ん!?」

フェイト「あれ、同じ事を考えている人が!」


(なんだかとんでもない事になりそうです。
本日のED:泊進ノ介 詩島剛 チェイス (CV:竹内涼真 稲葉友 上遠野太洸)『Spinning Wheel』)




タツヤ「だが君、セシリアと……知らなかったぞ」

アラン「……紳士的に声掛けしただけだ。だが彼女、基本気位が高いからなぁ。しかもガンプラ塾のノリもあってぶっ飛ばしていたし」

恭文「勝ち気だからねぇ、セシリアは。チナにあれこれ教えていた時もぶっ飛ばしてたそうだよ。あ、セイは覚悟しておいてね」

アラン「なにかやったのか、君。だったら本当に……まぁ、死なないといいな」

セイ「そういうレベルですか……!」


(おしまい)





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