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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory40 『開催! 世界大会!』

ここはTBS内の特設スタジオ――世界大会まであとちょっとだけど、今日は大イベントです。


「――日曜夜のゴールデン! 765(なむこ)揃って大放送! 生すかー!」


MC席に座る春香と真美、伊織が元気よく挙手。……両隣は千早と美希だったけど、もう引退して久しいからねぇ。


『生すかー!』

『レボリューションー!』


はい、というわけで765PRO ALLSTARSの冠番組です。ギャラリーも大勢詰めかけ、脇から見ても凄い賑わいだった。


「はい――というわけでみなさん、こんばんはー! 生すかレボリューション、MCの天海春香と!」

「双海真美とー!」

「竜宮小町リーダー、水瀬伊織でーす♪ 今日は先週お伝えした通り、大幅に予定を変更して」


伊織がウィンク気味に指を鳴らすと、三人の背後にある巨大モニターが点灯。そこにでかでかと、『響チャレンジ』というロゴが出てきた。


「響チャレンジスペシャルをお送りします! ひと月前から始まったこのチャレンジも、いよいよラスト!
今回は今までの放送を未公開映像も交えて振り返りつつ、ここTBSのスタジオから」


ロゴに続いて出てきたのは、響とリカルドの姿。そしてスタッフによって運び込まれてくるバトルベース。

合計七基のそれは素早く連結され、今か今かとバトルの時を待ち構える。


「響ちゃん対リカルド・フェリー二さんのバトルをお送りしたいと思います!
それでは我々765プロメンバーとも、実はプライベートで付き合いがあったりする……そんな特別ゲストをお呼びしたいと思います!」

「リカルド兄ちゃんと同じく、世界大会出場者! しかもリカルド兄ちゃんともとーっても仲良し!
日本第二ブロック代表で、二つ名は蒼い幽霊――そんな兄ちゃんの名はー!」

「蒼凪恭文! その妹で蒼凪リインちゃんのお二方です! どうぞー!」


音楽とともに呼ばれ、拍手を受けながら入場。なお隣のリインはとーってもニコニコ顔。結果僕の手を全く離してくれなかったりする。


「こ、こんばんはー。蒼凪恭文です」

「蒼凪リインなのですよー♪ ……ね、お兄ちゃん!」


リイン、その殺気は理不尽なのでやめて。あぁ、リインの髪がメドゥーサみたいに揺れてる。

しかもライトの照明で、神々しく輝いているのがまた腹立たしい。


「ね……義理のお兄ちゃん!」

「重い家庭事情をバラすのはやめない!?」

「リインさん、気持ちはよく分かります。ですが私を置いていくのはどうかと」

「……ヤスフミ、なんで話を引き受けちまったんだよ」

「知らないよ! なんか勝手に話がまとまっていたんだよ! 僕は知らないー!」

「いつもの事だな……もぐ」


……はい、というわけで僕……テレビに出ました。あははは、どうしてこうなったんだろー。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory40 『開催! 世界大会!』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ、いきなりテレビ出演と相成りました。そしてリインが怖い……お願いだから、離れて。ちょっと、マジで動きにくい。


「まぁいつもの調子で砕けて話すけど……アンタ、リカルドとも親しいのよね」

「うん。旅先で知り合って、一緒にアメリカ横断とかした事もあるよー」

「実を言うと今回の響チャレンジ、両方とお知り合いな兄ちゃんにもいろいろ協力してもらってたんだー」

「そこもバラすの!?」

「なので私達からもお礼がしたくて、今日登場してもらったわけで……もちろん、今大会ではバディとなっているリインちゃんもだよ」

「ありがとうなのですー♪ ……とりあえずリインに言えるのは、義理の兄妹という事だけなのですよ」

「もっと他に言えるところがあるよね! おのれ馬鹿じゃないの!?」


ちょ、涙目で睨んでこないでよ! 僕はなにもしてないー! いや、だからこそキレてるかもだけど!


「それでプロデュ……や、恭文ー」


春香、たどたどし過ぎる! もうちょっとビシっとして! そこは呼び捨てでいいから! 打ち合わせしたでしょうが!


「恭文は企画段階からも二人を見ていたわけだけど、今日のバトルはどっちが勝つと思う?」

「そうだねぇ……確かこれ、スマホやPCの公式サイトでも投票してるんだっけ? それで当てた人は番組ノベルティグッズがもらえる」

「えぇ。投票計測はリアルタイムで行われているから、勝負前に発表したいと思うわ」

「そっかぁ。じゃあ外れるよう誘導しておこうっと」

「楽しそうに言ってんじゃないわよ! この馬鹿ぁ!」


すかさず放たれた伊織の蹴りをすっと避け、更にリインのメドゥーサバインドからもちょっと離れる。


「まぁ真面目に話すと、リカルドは世界大会常連組。ぶっちゃけ経験と実績の面では、響は絶対に追いつけない……でも」

「でも?」

「響チャレンジ内でもあった光景ですが、アメリカの地区予選ではその番狂わせが起こっている。
……リカルドと同レベルのファイターであるグレコ・ローガン氏は、ガンプラ歴僅か三か月の少年に惜敗した。
その時言われていたように、ガンプラバトルにキャリアは関係ない。むしろ自由な発想に邪魔な場合もある」

「つまり……ひびきんが経験とか覆すくらい、すっごいガンプラを作っていれば勝てるかもって事かー!」

「そういう事。でもそれだけじゃあ絶対勝てない。ここで大事な要素が一つ……リカルドはレクチャー役として響に付き添っていた。
だから改造や操縦のクセを客観的に知り尽くしていて、それで対策を整えてくる事が考えられる」


そこで会場が『えぇー!』とつまらなそうな声を漏らす。はいはい、卑きょうとか言うんでしょ? もう分かってるわ。


「はい、そこで卑きょうと思ったそこのあなた……大間違いです」

「兄ちゃんどうしてー!? だってほら、ひびきんが不利じゃんー!」

「どうして? だって教えられる側として、響もリカルドの技量を盗み見るチャンスはあったでしょ。
もちろんリカルドは公式戦にも数多く出ているし、その情報をきっちりチェックしてもいいわけで。
……相手のデータを取得し、試合に生かす事はファイターとして必要技能。同時にあらゆる競技に通ずる苦労であり、楽しさだよ」

「それは言えてるわね。ガンプラバトル以外――プロスポーツなどにも言える事だわ。
ならこの勝負はそういった競技者としての基本技能も比べ合い」

「響ちゃんの想像力と情熱が、圧倒的強者の経験を乗り越えられるかどうか! そこに注目するべきなんですね!」

「そういう事だね。どっちにしても響はチャレンジャーだ、それゆえの大逆転劇……期待してもいいんじゃないかなとは思う」

「単純なパワー勝負にはならない模様……私もワクワクして参りましたー! みんなもそうだよねー!」


そして湧き上がる会場。誰もが期待する、そんな番狂わせを……同時にそれをも制する達人の技術を。

そうして生み出されるせめぎ合いを、きっと誰もが望んでいた。でも大丈夫かなぁ。

一応盛り上がる形では言ってみたものの、ちょーっと正確ではなくて……だからリインも軽くジト目。


”……恭文さん、響さんが勝てる目、実際のところ”

”今言ったように、経験だけを見るなら百パーセント無理だ。でも……ベアッガイIIIみたいな例もあるからねぇ”

”勝負は蓋を開けてみるまで、分からないと”

”そういう事。だから面白いんだよ、ガンプラバトルは”


経験が情熱や発想力と言ったものに、あっさり塗り替えられる事もある。もちろんそれだけじゃあ強くはなれないんだけど。

でもいろんなものを吸収し、生かしていく気持ちを持たなかったら……きっといつかはしぼんでいく力。

設定や統合性なんてものを凌駕する、楽しむ心。この勝負は響が一か月間で、どれだけガンプラを楽しんだか……それが試される場とも言える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


控え室で、ベアッガイの最終調整中。可動なんかもきっちり確かめて、生放送の様子も見つつ……うぅ、緊張するぞー!


「我那覇さん、リラックスよ。バトルは楽しんでいくのが一番だもの」

「そうなの響、楽しむ気持ちが強さにも繋がる……だからバトルは面白いの」

「だ、だよな」


それで千早と響がわざわざきてくれて、調整を手伝ってくれて……更にリラックスするようにと、二人交互に肩を揉まれる。


「でも世界大会出場者相手だから……しかも恭文とリインもいるし!」

「ぢゅ! ぢゅぢゅぢゅ……ぢゅぢゅ!?」

「まぁ特等席で見られるように……という配慮みたいね」

「プロデューサーも響のバトル、生で見にくる予定だったっぽいの。これはしょうがないの。
……そう言えば千早さん、結局りんやともみ、歌唄と一緒にチームを組んだんだよね」

「えぇ。あと佐竹さんも……まぁこっちは駄目だったけど」


とても嬉しそうに笑う千早……そんな千早を、自分と美希はただただ遠い存在として見る事しかできなかった。

というかどうして美奈子が……! メイドか!? 本当にメイドをやるのか、アイツ! とりあえず食の心配はなさそうだけど!


「それはそうと我那覇さん、肩がかなり凝っていたわね」

「そ、そうかな」

「えぇ……やっぱり、大きいと凝りやすいのね」

「ひぃ!」


きゅ、急に笑顔が消えて、つや消しアイズにー! それが怖くて、美希と二人手を取り合って下がってしまう。


「ち、千早さん……落ち着くの! そこは個人差なの! ほら、美希は全然肩こりとかないし!」

「そうね。あなたはチーフプロデューサーに毎晩毎晩マッサージされているものね。全身くまなく……くっ」

「それはセクハラだと思うな! 確かにハニー、毎晩美希にいっぱいコミュニケーションしてくれるけどー♪」

「美希ぃ!? 結局認めてるじゃないか! 結局セクハラでも問題ないじゃないかぁ!
いや、これは……あれだぞ! 自分、意外とインドア系だから、凝りやすいってだけで!」

「それで揉んでもらうのよね、プロデューサーに……くっ」

「千早ー!」


やばい、調整どころじゃないかも! 千早の誤解を……というか千早の妄想を解かないと! でもこれ、解けるのか!? 既に呪いレベルだぞ!

――そうして数十分後、番組でこれまでのダイジェストとか、いつも通りのミニコーナーをやった後。


「――みなさん、おまたせしましたー! 赤コーナー……我らがチャレンジアイドル! 我那覇響ちゃんー!」


まるでボクシングの試合みたいな口上で、拍手喝采のステージに上がる。


「青コーナー……イタリアの伊達男! その相棒は決して消えぬ不死鳥! リカルド・フェリーニ!」


そして向かい側からはリカルドが……いつもガンプラの事を教えてくれている時とは違う、張り詰めた空気を感じる。

……加減はなしだな、分かるぞ。なので頷き、ベースへと一歩ずつ近づき……その前に立つ。


「もうお互いの間に言葉はいりません! 一か月に及ぶ成果を――バトルへの答えを示すため、今激突の時ですよ! 激突!」

≪――Plaese set your GP-Base≫
 

ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Forest≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。えっと、これは廃墟の街……隠れるところがたくさんは、助かるかもだぞ。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りベアッガイIIIを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が自分の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

『それじゃあいきましょう! ガンプラバトル――!』

『レディぃィィィィィィゴォォォォォォォォォ!』


会場中の声を受け、そのままスフィアを押し込む。


「我那覇響、ベアッガイオオトリ、出るぞ!」


ベアッガイは……背中に背負ったオオトリパックは、X字の翼を展開。そのスラスター加速も加味して、一気に薄暗い空へと飛び出す。

千早と美希の協力で作った、自分なりの強化ベアッガイ……これでリカルドを仕留める!

……その前に一番高い場所ビルの屋上へ着地。壁際などに姿を隠し、まずは迎撃準備だ。


周辺の地形や道をサーチでしっかり覚え、ざっとでもプランを構築。自分はリカルドにこう教わった。


――ヒビキ、バトルは真正面から殴り合うだけが能じゃない。強敵と対する時、ガンプラ以外のものを利用するんだ――

――ガンプラ以外のもの?――

――例えば時間。世界大会などのレギュレーションでは、特別ルールが絡まない限り一試合十五分と定められている。
その後は延長戦……もし長期戦になりそうな場合、延長戦狙いで逃げるのも手だ。
ただしガンプラの補修には、バトルフィールドに持ち込んだもの以外は使えないから注意した方がいい――

――根比べって事か――

――そうだ。ただこれは予備策に近いものだし、頭の片隅に置いておくくらいでいい。
それよりも一番に利用すべきもの、俺の個人的思考になるが……それは地形だ――


地形を利用……身を隠したり、盾にしたり、場合によっては建造物そのものを武器にしたり。

自分の技量はリカルドに遠く及ばない。なら使えるものはなんでも使わないと……それで、ようやく勝負になるかもってレベルだ。


◆◆◆◆◆


EW454F オオトリ。

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY HGリマスター版』に登場する、ストライカーパック。

PMPからIWSPのデータを入手したオーブが、その設計を見直し、独自の技術を取り入れて完成させたものである。

ベースとなったIWSPの持っていた信頼性・整備性の問題点をクリアした他、島国ゆえに海上戦を国土防衛の要とするオーブの戦略に対応。


大気圏内での動力飛行を可能とした推進システムと、四発のエンジンを搭載したX状の空力推進翼を駆使する事により、高度な飛行能力を有している。

オオトリはあらゆる状況に対応するため、ビーム・実弾・格闘武装をバランスよく配置しているのが特徴となる。

響のベアッガイIIには拡張用のコネクタがあり、そこに対応パーツをかませる事で装備可能とした。


※武装

ビームランチャー:パック右側に搭載された射撃兵装。高出力な他、敵をなぎ払うように放つ事も可能。

大型対艦刀:パック右側に搭載された大型格闘兵装。ソードストライカーに搭載されたものと同じく、刃の部分に高出力ビームが展開する。

レールガン:パック左側に搭載された、実体弾頭を高速射出する武装。

ミサイルランチャー:レールガンと同じく、パック左側に搭載する実弾誘導兵器。

三連小型ミサイル:両翼下に合計四セット搭載されている誘導兵器。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


響はビルの一つに身を隠し、リカルドを待ち構える。最初から派手な衝突を期待していたのか、観客達は肩透かし。

……どんだけ脳筋どもが揃っているのか。僕が響でも、全く同じ事をするというのに。


「ねぇ兄ちゃんー、ひびきんが隠れて待ち受けてるっぽいけど」

「それで正解だよ。リカルドとの技量・経験差は圧倒的。もちろん使用ガンプラの完成度にも差がある。
真正面からやり合って勝てる相手じゃない。まずは地味に動いて、いかに自分のアドを掴んでいくかだ」

「でもあんなところに隠れても、バスターライフルとかで一撃じゃない」

「それは響だって分かってる。……むしろ撃ってほしいんだよ、フェニーチェのバスターライフルは一回のバトルにつき三発までしか撃てないから」


そこも原典のウイングガンダムと同じく、カートリッジ式だから……威力はあれど、まずはそれを打ち切らせる事。

又はバスターライフルを破壊する事が狙いだろうね。そうしたらフェニーチェはロングレンジでの武装を失うもの。


「それに遠距離から撃たれると、この密集地帯も関係なくぶっ飛ばされるからなぁ。そういう意味でもあの場所に陣取ったのは正解だよ」

「変にビル街へ紛れ込むと、死角外からやられかねない?」

「そうそう。ただそれはリカルドも分かっているは……くるよ!」


そして放たれる黄色い奔流。キロ単位の距離を一気に突き抜け、響が潜伏していたビル先端部を飲み込み、一瞬で消し去る。

市街地の頭上を通るせん光に、停滞した空気に飽き飽きしていた観客達が目を見張り、声を上げる。


「響ちゃん!」

「大丈夫、脱出してる!」


だから奔流の脇、響のベアッガイは青色のボディを晒しながら、砲撃が飛んできた方にレールガンを構え三発発射。

あのオオトリも作りこんでるね。バスターライフルと同じ射程を安々とたたき出している。

火花を走らせながら飛ぶ超電磁砲。しかしフェニーチェは……いや、フェニーチェを載せた『それ』はスラロームしながら、たやすく回避する。


「や、恭文さん……あれ」

『……良い判断だ、ヒビキ。教えた事を実戦してくれて、先生としては実に鼻が高いよ』


そうして軽くジャンプし、眼前に放たれた砲弾を飛び越え……車体を左に逸らしながら、再び砲撃を放つ。

先端部にセットしたバスターライフルから、高出力ビームが解き放たれた。百メートル範囲をプラズマの嵐で巻き込み、響の進行方向を押さえる。

その時、空に雷光が瞬き、フェニーチェがなにに乗っているか……とても鮮明に見えた。


それは一輪バイクだった。両サイドにバインダーを装備し、フェニーチェと同じ緑、そして白で塗られたバイク。

機首部分はウイングゼロのものっぽくて、その姿でまた全員が驚く。だって、ガンダムがバイクに乗ってるんだもの。

でも僕は別のところに目を見張る。バイクの一部から、カートリッジらしきものが排出されたのよ。


あれは、僕も見た事がない。つまるところ……二発目を急停止で回避し、フェニーチェへと迫るベアッガイを見やる。


「バ……バイクー!? バイクなのですよ、あれ!」

「支援メカか!」

『だからこそ俺も本気でいこう! 見せてやるよ、本邦初公開の秘密兵器――【メテオホッパー】だ!』

『負けるかぁ!』


ベアッガイから放たれたミサイル達。その群れを見据えながら、メテオホッパーは地面に滑りながら着地。

ドリフト気味に左へ方向転換しつつ、ミサイル達を十分に引きつける。そうして再び跳躍……百八十度回転し、着地した途端にライフルがチャージ開始。

次の瞬間バスターライフルが放たれる。奔流は地面を削りながら突き抜け、ミサイル達を全て飲み込み爆破させる。


それに油断せず、フェニーチェは左腕からビームレイピアを抜刀。バックしながらも振り返り、右薙一閃。

ミサイルを囮に、ビルの陰に隠れながらも接近していたベアッガイへ斬りつける。

レイピアはベアッガイの対艦刀と交差し、しかし突き抜けながらも対艦刀本体を両断。


……よく見ると対艦刀の柄にジョイントがあった。まぁ普通には持たせられないしねー、ベアッガイの手はドラえもん式だし。

とにかく対艦刀を破壊されたので、ベアッガイはそれを破棄。振り返りながらもビームランチャー、レールガン、更に両手のビームガンも連射。

一本道だし、横への回避も無理。距離を取りつつのフルバーストにリカルドはさらされようとしている。


でもフェニーチェは近くのビルへ突撃。そのまま車輪はビル外壁をかみ締め、上へと登っていく。

たやすくフルバーストを回避し、それでもベアッガイは着地しながら射撃を続ける。既にバスターライフルは三発使った。

あとの兵装はバスターライフル下部の予備ライフル、及びマシンキャノンやバルカン、肩部バルカンにレイピアくらい。


さっき解説した通りなので、観客たちも興奮し始める。もしかしたら、その瞬間はくるのかと。

実際リカルドは響の猛攻から逃げるばかり。でもそれは甘い見方だ。フェニーチェは左肩アーマーからビームマントを展開。

ビル外壁を激しく登りながら、フルバーストの余波をたなびくビームで全て防いでいた。……そして、メテオホッパーは再び跳躍。


『足を止めるなと教えたよな、ヒビキ!』


宙に浮き、フルバースト中な響を狙う。もちろんバスターライフルの砲口でだ。チャージされる『四発目』。

ベアッガイが――響が『まずい』と思ったのか、フルバーストをやめて回避行動に移る。でもその寸前で、それは放たれた。

フルバーストによる弾丸やビーム達を飲み込み、まるで鉄ついのように、バスターライフルは放たれた。


「な……!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


それはベアッガイの脇に着弾し、周囲のアパートメントをも巻き込む爆発となる。もちろんベアッガイも爆炎に巻き込まれた。


「ちょ、なによあれ! まさかアレ!? 麗華と同じく真ちゅう線とか!」

「気づいてなかったの、伊織。……二発目と三発目が発射された時、メテオホッパーからカートリッジが排出されてた」

「……あ」

「じゃ、じゃあアレですか! あの三発はライフルのエネルギーじゃなくて、メテオホッパーに搭載したカートリッジから!?」

「正解」


完全に不意打ちだったからなぁ。損傷は……メテオホッパーは近くのビルに着地しつつ、周辺を警戒していた。

でもタイヤと屋上が設置仕掛けた瞬間、爆炎の中からオオトリが突撃。右翼を奪われ、火花を走らせながらもその加速に衰えはなかった。

左にカーブしながらもメテオホッパーへと迫り、左斜め下から特攻。機首でバスターライフルカスタムを貫きつつ、メテオホッパーに激突した。


『なに!』

『まだだぁ!』


へしゃげ、砕けていくメテオホッパー……フェニーチェはすぐ離脱し、爆発するホッパーとライフルを見下ろす。

そしてベアッガイはビル街を三角飛びで突き抜け、左腕からサーベルを展開。……ベアッガイも中破状態なのに、よくやる。

でも闘志は消えていなかった。右腕を奪われ、ボディも抉られながら……それでもなお、勝利のためにサーベルを打ち込む。


フェニーチェは右薙一閃でその一撃を受け、二体は地表へ落下しながらもそれぞれ射撃兵装展開。


『やるな、ヒビキ……だが狙いはもうちょっと上がよかったな! そうしたら足を持っていかれた!』


フェニーチェはバルカンと肩部マシンキャノンを乱射。


『勝ちたい……自分は負けたくない! だから、絶対諦めない!』


ベアッガイは口を開き、口部ビーム砲を連射。至近距離でお互いの弾丸が行き交い、それぞれの頭部や胴体部を穿ち、突き抜ける。

それでも決して引かず、小規模な爆発で帯を作りながら地表へ落下。ガレキを押しのけ、土煙を上げながら……フェニーチェが押し倒された。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ベアッガイの頭部は半壊。口部ビーム砲もマシンキャノンを食らっておしゃか……あっちこっちに赤いダメージウインドウが展開する。

一生懸命作ったガンプラ。それが壊れていく事はやっぱり痛くて、苦しくて……でも引いたりできない。

そう思える自分は、きっとバトルの楽しさに触れている。壊れても本気でぶつかり合えるなら、そこにはきっと……!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


押し倒したフェニーチェの胴体部……きっとできると思っていた。重量も、大きさも、自分のベアッガイが上だ。

向こうも頭部が吹き飛び、バルカンはもうない。肩部マシンキャノンもえぐれて使えなくなった。

だからあとは……叫びながらスフィアを押し込み、サーベルをまだ残っている胴体部へ少しずつ……少しずつ、近づけていく。


『ちぃ……このプレッシャー!』

「頼む、ベアッガイ! もう少しだ! いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


更にスフィアを押し込むと、サーベルはレイピアを押し込み、胴体部へわずかに触れた。あとは角度を変えて押しこめば。


『ビームマント!』


無駄だ、マントを広げたところで、今更……そう思っていたのに、突然モニターの視界が揺らぐ。

機体がいきなり左へ吹き飛ばされ、ビル外壁へ叩きつけられた。せっかく縮めた距離が……勝利の瞬間が圧倒的に遠くなっていく。

一体なにがと思っていると、フェニーチェは転がりながら、左拳を振るっていた。……ビームマントに覆われた、左拳を。


まるで包帯のように、まるで腕を守るように、ビームでできたはずのそれは繊細に、腕に巻き付いていた。

なん、だって。ただのシールドじゃないのか。あんな事、ビームでどうやって……!


『悪いなぁ、ヒビキ。お前と同じように』


フェニーチェは立ち上がり、自分へと迫る。こうなったらもう一度……と思っていると、レイピアを振りかぶった瞬間に光が走る。

それはノイズ混じりなメインモニターを飲み込み、一瞬で映像を奪い去る。この状況で……というか今の、肩部ビーム砲!?

まずいと思った瞬間、さらなるダメージウインドウが展開される。……そして復活するモニター映像。


さっきよりノイズが増えまくった中、フェニーチェは肉薄。そうしてレイピアで、ベアッガイの胴体部を両断していた。


『俺も本気だ――!』

「……やっぱ、強いなぁ」


悔し涙を……でも楽しかった時間をかみ締めて、うれし涙もこぼしながら、爆散するベアッガイにごめんと、ありがとうを送った。

≪――BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合は大盛り上がり――世界大会前にフェニーチェ、ボロボロだけどねぇ。それでも響チャレンジは成功。

まぁリカルドには負けちゃったけど、番組企画としては十分に成功だった。そのおかげで、リカルドへの密着取材も発表直後から大反響。

ぜひリベンジをーって声も、ツイッターを見てると出てきていて……それに湧きながら、早速打ち上げ。


六本木近辺のお店で、健全に……なおリカルドには酒を飲ませないよう、ちゃんと注意しておく。

協力していただいたスタッフのみなさんへ挨拶周りも済み、さぁリインの接待だと思っていたら。


「あの、恭文」


響がやや赤い瞳を向けてきながら、僕の隣に座る。


「お疲れ様、いいバトルだったよ」

「ん……負けちゃったけど、楽しかった」

「だったらもっと続けてみるといいよ。まだ先はあるしね」

「そうする。それで、その……えっと」


……ちらっとリインを見ると、リインは空気を読んでそっぽ向いていた。というか……それでも髪がメドゥーサ状態なのが、怖い。


「このお礼、必ずする……からな。だからその、つまり」

「うん」

「……うちに、お泊まりだぞ?」

「アイドルなのになに言ってんの!」

「い、いいんだ! ご飯とか作って……それでお礼なんだ! 約束だぞ!」

「むぅ……響さんばっかりずるいのですー! リインもいるのですよー!」

「じゃあ、リインも一緒に」

「いやいやいやいや!」


なにを言っているんだろう、コイツらは……! とにかくリインはしっかり止めて、響も……ごめんなさい、こっちは無理でした。

とにかく企画も上手くいき、リカルドに酒を飲ませる事もちゃんと止め、僕の復帰お仕事は大成功。

憂いなく世界大会へと迎える。……楽しみだなー! どんな強敵とやり合えるのか! もうワクワクしっぱなしだよ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界大会は明日――でも現地の選手村は既に稼働状態で、出場者を招いたレセプションパーティーもある。

というわけで出発直前、リビングでレイジとテレビを見ていたら。


『――はい! みなさんこんにちはー! ガンプラ選手権世界大会のイメージキャラクターに抜てきされた、ガンプラアイドル』


信じられない人がテレビに出ていた。そしてあのウインク混じりの決めポーズ。


『キララです! ……キララン♪』

「レイジィィィィィィィィィ! ミ、ミホシさんが! ミホシさんがテレビに!」

「別に驚きゃしねぇよ」

「驚いてよ!」


ていうか世界大会に出場どころか、イメージキャラクターって! 一体どうやって抜てきされたの! 本当に謎なんだけど!

それでもレイジはおまんじゅうをほおばり、さっと食べきりながらドヤ顔。


「あの女はやると言ったら、やりきる女だかんな」


それを聞いて納得するやらなんやら。そう言えばレイジ、ミホシさんへの評価は決して低くなかったからなぁ。

どうにもできない事を、なにがなんでもどうにかする……その気力が道を開いたわけか。うん、だったら問題ないや。

もうあんな事はしないって約束もしてくれたし、ガンプラの話もできるし……いいなー! 最高だなー!


『――はい! 今キララは静岡県静岡市――明日から開催される』


そこで画面が切り替わり、海上の人工島が映し出される。巨大ドームを中心に数々の建物が並んでいて、あそこが僕達が戦う舞台。

もはや巨大なレジャー施設と言っても過言じゃなくて、いやが応でも胸が沸き立つ。


『ガンプラ選手権世界大会の会場前に来ています! 世界大会も今回で七回目!
六十の国から、八十名以上のガンプラファイター達がこの場所に集い、優勝を目指し熱く激しい戦いを繰り広げます!
――はい! では大会のルールを簡単に説明しますねー!』

「なぁセイ、なんでいちいち『はい!』って言うんだよ。テレビってのはそういうものなのか?」

「生中継みたいだから、リアルタイムで指示出しが飛んでるんじゃないかな」

『世界大会に出場するファイターは個人戦やチーム戦、耐久戦など、様々なバトルを行います! それが予選ピリオド!
その中で勝利ポイントを稼ぎ、累積点が多い十六名が決勝トーナメントに進出! 優勝を目指す事になります!』

「……セイー、レイジ君ー、ラルさんが来たわよ」


そこで母さんが入ってきた。ミホシさんの活躍はもっと見たいけど、テレビを消して二人揃って立ち上がる。

店先にはラルさんのジープが止めてあり、ラルさんも夏らしい薄着でニコニコ顔。なのでまずはお辞儀。


「連れていってもらう上に、迎えにまできてもらっちゃって……ありがとうございます」

「ありがとな、ラルのおっさん」

「構わんさ。世界大会は、開会式から見る予定だったしね」

「ラルさん」

「なんでしょう、リン子さん」

「セイ達の事、よろしくお願いします」

「え……しょ、承知しました! リン子さん!」


そしてラルさんは母さんにデレデレ……ジト目を向けると、静かにせき払いをした。でも、それじゃあごまかされない。


「二人とも、悔いのないようしっかり戦ってくる事! あとセイは……そ、そろそろ許してもらえると」

「は?」

「駄目ですかー!」

「こりゃあチナと関わっている間は許されないんじゃないか? ママさん」

「「そういうレベル!?」」

「なんでセイが驚くんだよ!」


いや、よく考えたらどの辺りで許すべきかと……でもそっかー! なんか下手したらそうなるんだ! じゃあ……ちょっと、落ち着こう。


「イオリくーん! レイジ君ー!」


さぁ車に乗り込もう……という時、委員長が息を切らせながら走ってきた。


「これ」


それで挨拶もそこそこに取り出してきたのは、手のひらに収まるサイズのハロだった。これ、キーホルダー?

いや、違う。ぬいぐるみ生地……フェルトだ! とても柔らかで、レイジと二人受け取りつい感心してしまう。


「わぁ、凄い……!」

「なんだこりゃ」

「お守りだよ」


レイジのはオレンジハロで、僕は緑……でもお守りか。大事に抱き締め、委員長に感謝の笑顔を向ける。


「まぁセイのついでだろうけど、有り難くもらっとくか」

「ありがとう、委員長!」

「ううん。わたしも後から、応援にいくね。二人とも、頑張って」

「うん!」

「おうよ!」


車に乗り込み、母さん達に手を振りながら出発……始まるんだ。ずっと、ずっとこの日を待ち望んでいた。

あのゴールデンウィークから、かれこれ三か月と少し。ようやくここまできた。僕とレイジの――僕達の世界大会が!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新幹線に乗り、幕の内弁当を頂きながらちょっとほっこり。……窓際に置いた、ピンク色のハロを見てほほ笑んでしまう。

全く、セイさんの応援だけで十分だと言うのに。わたくしはライバルですのよ?


「お嬢様、よかったですね」

「な、なにを言ってますのチェルシー! わたくしは別に……普通ですわ!」

「はいはい、そういう事にしておきますね」

「チェルシー!? ……もう」


気を取り直し、お茶を一口……あぁ、落ち着きますわ。イギリス貴族ではありますけど、実はこういうのも大好きです。

日本の食文化はもう慣れているというか、親しんでいるというか。ガンプラ塾時代で鍛えましたので。

以前は駄目だった納豆も、くさやもいけるようになったのは、自分でもちょっと驚きで。


とにかく弁当は奇麗に、優雅に食べ終わり、お茶も飲み干す。お守りはそっと胸元につけ、よろしくお願いしますと撫でてあげた。


「お嬢様、本日夜のレセプション――三代目メイジンは出席するでしょうか」

「恐らくないでしょうね。PPSE社としては派手にアピールはしたいでしょうけど、やはりその場は世界大会本番こそふさわしい。
そちらよりも気にすべきメンバーがいましてよ。例えば件のパピヨン」

「アイラ・ユルキアイネン女史ですね。顔も、その出自すらも不明なダークホース。
……私の調査でもその辺りは不明でした。ただ、少し気になるところが」

「えぇ」

「ネメシスはフラナ機関という研究組織に出資しているようなんですが、その組織はどうも非合法に近いものらしくて」

「……闇バトル絡みという事でしょうか」

「かもしれません。それらしい人物がフィンランドのストリートチルドレンに声をかけたり、ガンプラバトルの場に顔を出したという話が」


ストリートチルドレン? それはまた珍しい……フィンランドは福祉も進んだ国で、そういうのはいないと聞いていましたが。

でもフィンランドと言っても広いですし、『こぼれ落ちてしまった人』がいないとも限らない。

それにストリートチルドレンであるなら、出自などの情報がないのも頷けるというもの。


……変わり始めた世界、しかしそういう問題はまだまだ完全解決といきません。

福祉や大人の手、法律――あらゆるセーフティーラインからこぼれ落ちる人というのは、どの国にも存在しています。

その理由は行政の身勝手な水際作戦だったり、制度に頼る事を恥だと勘違いした、親族の負債を強制的に受け継いでしまったり。


又は本当に……本当に不幸の連続だったり。貧困から抜け出すというのは、ただ懸命に働くだけでは駄目なんです。

貧困の再生産、又は連鎖という言葉があるように、世代間に渡って続く負債とも言えますから。


「まぁネメシスはこれまで、カルロス・カイザーに苦汁を舐めさせられ続けていましたから。
今大会への意気込み自体は相当なものらしいです。お嬢様、くれぐれもご注意を」

「その方がよさそうですわね」


負けるつもりはない。しかし闇バトル絡みの連中は礼儀もなってなければ、ガンプラバトルが遊びだという認識もない。

恥も外聞もなく、ただ勝利のみを、目的達成による利益獲得のみを目指す。なにをしてくるか分かったもんじゃありませんわ。

実際闇バトルで名を馳せたという、パーツハンターなる雑魚、彼もわたくしの同級生達を散々襲ってくれましたし。


「チェルシー、そのフラナ機関……でしたわね。調査を続けてください。場合によっては恭文さんと連携を」

「承りました」

「あと気になるのは」


タブレットを取り出し、ポチポチと操作。世界大会まで勝ち上がってきたファイター達……恭文さんだけではありません。

もちろんメイジンやセイさんだけでもない。世界から強い相手が、続々集まってきているのですから。


「ドイツのライナー・チョマー、イタリアのリカルド・フェリーニ、タイのルワン・ダラーラ」

「世界大会常連とも言われる方々ですね」

「でも新世代ファイター達も出ています。この間の女子限定大会にいたアーリージーニアス――ニルス・ニールセン。
スペイン代表のスガ・トウリ、ブラジル代表の【マッドジャンキー】ジオウ・R・アマサキ……まぁアマサキさんは去年出場していましたが。
あとは日本第五ブロックのヤサカ・マオ……そうそう、セイさんとレイジさんもこの中に入ってますね」

「そしてイギリス第二ブロック代表、通称【青い涙】のセシリア・オルコット――お嬢様もそんな新星のお一人です」

「タイミングの問題ですわ、経歴はそれなりにありますもの。でも……楽しみですわね」

「はい」


静岡はわたくしにとって、とても思い出深い場所。血がにじむような努力も、傷つきながら得た勝利や敗北も、青春の全てがあそこにある。

もちろん今も青春真っ最中ですけど。……楽しんでいきましょう。勝つ事は大事ですけど、それも追求しつつ、全力で。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やぁみんな、イビツだよー。いやー、日本の夏は暑いねー。あはははははははははは……でも、スペインはもっと暑かったよ。

だけどこれからもっと暑くなる。たださぁ……なんて言うかさぁ、疑問があるわけよ。


「……俺、なんで世界大会に出るんだろう」

「それは自分がセコンドとして誘ったからっスよ」

「ですよねー!」


恭文君の……というかAGE-1の応援をしているだけだったのに、飛燕さんからちょっと仕事を頼まれたのが運の尽き。

……実はプラフスキー粒子について調べていたの、ダーグ先輩達だけじゃなかった。

こちらのコードネーム【フェンリル】――スガ・トウリさんも同じく。ターミナルの関係者ではあるんだけど、また別部署でねぇ。


飛燕さんやダーグ先輩達も気づくのが遅れたんだよ。それで俺がスペインまで飛んで、渡りをつけて……結果今、静岡にいます。

てーか二人して静岡おでんを食べています。この暑いのに……でもおでん、いいんだよなぁ。


「しかし【フェンリル】の電子能力でもさっぱりとは。どんだけガードが厳しいのか、PPSE社」

「だから副駅長とほぼ同じ方向で飛び込んだんっス。あとは、ここからっスね。
三代目メイジンやら……『カテドラル』っスか? こっちの恭文君が預かったっていうガンプラ」

「えぇ。それ絡みもあるから、今大会は絶対荒れる……と、ダーグ先輩と飛燕さんが。でもカテドラルかぁ、どんなAGE系ガンダムなんだろう」

「……AGE系なのは決定なんっスね」


そりゃあもう……放送中じゃないか! 旬じゃないか! なら扱わない理由がない! ガンプラの出来も最高だし!?

楽しみだなー、楽しみだなー♪ 恭文君もAGE-1を更に改修したって言うし、楽しみだなー♪

でもセコンド、どうしよう。あははは、大会は明日だっていうのにまだ勉強中だよ……畜生めー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやくこの日がきた。リペアIIから更に発展した新型AGE-1、クロスボーンGR、ブルーウィザード。そして……カテドラルガンダム。

その四機を携え、リインと一緒にワゴン車へ乗り込む。なお運転手はりん、助手席にはともみ。

後部座席には千早と歌唄、そして僕達二人……お願い、なにも言わないで。なんか火花がバチバチ言ってるけど気にしないで。


マンションの玄関前、うちのみんなが並んで見送りにきてくれた。そしてシャーリーは気の毒そうに合掌……やめんかい馬鹿!


「じゃあフェイト、あとはお願いね。アイリ、恭介、ちょっと留守にするけど待ってね」

「あーぱー♪」

「あうあえー!」

「うん、頑張るよー」

「ヤスフミ、あの……やっぱり私も行くよ。それで奥さんとしてお手伝いしたいし」


そうかそうか……それならガッツポーズはやめてくれると嬉しいなぁ。なんで自覚を持てないの、フェイトは。


「奥様、わたしとレヴィの出禁は静岡でも有効よん?」

「そうだよー、フェイトはドジだしー」

「ふぇー! だ、大丈夫……ちゃんと教えてくれれば」

「フェイトさん、それでさんざん恭文さんやレヴィ達の邪魔をしたんですよね。
というか、世界レベルに挑むんですから役者不足もいいところでは」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


アミタの鋭い一撃によって、フェイトの嘆きが響きわたる。でもそれは理不尽だわー、だって事実だもの。


「やすっち、俺達もすぐ追いつくから負けんじゃないぞー」

「負けないよ! というか、追いつくたって開会式前には会場入りするんでしょ!?」

「負けるもなにも、勝負が始まってないのですよ!」

「まぁまぁ、こういうのは気分だ。あと」

「イビツと……スガ・トウリ、だっけ? 見かけたらちょっと話してみるよ」

「頼む」


なんかね、スペイン代表がターミナル関係者らしいのよ。それで僕達と全く同じ事をしていた。そっちも会うのが楽しみだよー。


「そうだぞ、小僧。あとお前は……彼女達とちゃんと話せ。我の乳を吸うのはその後だ」

「なにその話題を出してるの!? やめてよ、勘違いにもほどがあるでしょ!」

「楽しい道中になりそうですね、ヤスフミ」

「ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


本当に楽しくなりそうだよ! というかなに、どうしてこうなったの! 千早もチーム参加は問題なかったしさぁ!

宿泊施設の部屋割りもギリギリだけど間に合ったしさぁ! どうしてチームを組んじゃったの、僕!


「じゃあフェイトさん、恭文は預かりますんで……あと、邪魔はやめようね」

「あの、私達がいるので安心してもらえると……メイドさんですし」

「うん……あの、頑張ってね。私もアイリ達と応援に行くし、お手伝いもできるよう頑張るし」

『それはいいから!』


そうして車はゆっくり走りだす。フェイトにも改めて、行ってきますといってらっしゃいのキスを交わし……いざ出発。

静岡――ガンプラの工場がある土地で、ガンプラ塾があった場所。そんな地方に作られた人工島が世界大会の舞台。

楽しみだなー、わくわくだなー。難しい事情はすっ飛ばして、ドキドキするなー。


「お兄様、そんなにはしゃいで」

「プラフスキー粒子の事とは関係なく、もうワクワクしてやがるな」

「私もときめいているぞ、美味しいものが出そろっているからなぁ。しかし千早はともかく、りん達や歌唄もよく参加できたな」

「私は以前言った通り、出席日数の絡みがあるから。夏休みも普通に学生仕様なのよ」

「あたし達もツアーが終わったばっかりで、余裕を取ってたしねー」

「だから、メイドさんだよ?」


ともみ、振り返ってアピールしないで。心が痛いの、すっごくズキズキするの。あとメイドアピールはいらないんじゃないかなぁ。……でも。


「でもまぁ……みんな、ありがと」


一応お礼を告げると、運転中のりん以外は全員振り返り、笑顔で頷いてきた。……やっぱり、ちゃんとお話は必要かぁ。


「そういえばりんさん、いつ車の免許を取ったですか。前は持ってなかったですよね」

「エルも初耳なのですよ」

「歌唄と魔王エンジェルは一緒の仕事も結構あるけど、全然聞いてなかったよなー」

「うん、昨日取ったばかりなんだー」

≪へぇ、そうなんですか……え?≫

≪き、昨日……!≫

「うん、昨日」


……その明るいカミングアウトで、車内の空気が凍りつく。昨日……そして東京から静岡まではそこそこ。

高速だって当然使う。そんな道のりを、新人ドライバーに任せ……駄目だ、なんとかしないと!

というかともみー! ともみがイメージカラー通り真っ青になってるー! ともみも知らなかったんかい!


「り、りりりりりりり……りんー!」

「りん、やめて! 運転は僕がする! 僕ならできるから!」

「駄目だって。アンタは明日から激戦続きなんだし、ちゃんと休まないと。大丈夫大丈夫、脳内シミュはちゃんとしてきたから」

「朝比奈さん、それは不安要素しかありませんよ! プロデューサー、どうしましょうー!」

「……エル、イル、私にしっかりしがみついていなさい」

「なら新幹線……新幹線だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なのですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


東京から静岡までは、東名高速道路を使い一直線。一時間四十八分ほどで、高速代金は三二六〇円。

距離にして約百六十二キロ。トイレ休憩やパーキングでの食べ歩きで旅を楽しみつつ、夕方頃会場に到着。

敷地内にはいわゆる選手村があり、衣食住の全てが保証される。どっかのホテルにしか見えない建物を見上げ、僕はつい圧倒された。


「ここが今日から、君達の滞在する選手村だ。だが、大会が始まり十日後には、七割以上のファイターがここから消える」

「七割……予選ピリオドってのか。えっと、テレビだと八十以上って言ってたよな。その七割だから」

「十六組だよ。もちろん予選ピリオドも基本厳しい戦いが続く、誰も彼も地区予選を勝ち抜いた猛者だからね」

「望むところじゃねぇか!」

「言うと思った」


気合いを入れなおしていると、ラルさんは車に乗り込み僕達へ敬礼。


「二人とも、生き残れよ」


それに合わせ、僕も敬礼で走り去る車を見送る。レイジは不思議そうだけど、まぁ気にしなくていいや。

さて、それじゃあ荷物を置いて、設備も確認して、早くレセプションの準備を。


「あぁ、セイ……レイジ」


そこで左脇から声……恭文さんだ! だよねだよね、恭文さんも出場選手だもの!

なんだか嬉しくなってそちらを見ると……あれ、なんだろう。なんか、疲れ果ててない?

というか人数、多くない? 如月千早さんに……リインちゃん、それとよく知らない女の人が三人。


「よぉ、ヤスフミ……なんだお前ら、なに疲れ果ててんだよ。チハヤ、お前いつもより痩せ細ってるじゃねぇか」

「気にしないで。その、いろいろと道中、トラブル続きで」

「チハヤ……如月千早さん! あの、その節はレイジがお世話になりました!
自己紹介が遅れましたが、僕はイオリ・セイです! 初めまして!」

「初めまして。ライバルチーム同士だけど、一緒に頑張りましょうね」

「はい! ……え、ライバルチーム?」

「えぇ」


ライバル……チーム。そして無駄に多い人数。とりあえず僕は、静かに恭文さんに合掌した。

ごめんなさい、なんだか大変そうですけど頑張って……! これしか言えない僕を許して!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さん達と一緒に選手村へ入る。受付を済ませ、割り当てられた部屋へ。部屋はワンルーム・ベッド二つというシンプルなもの。

でも塗装ブースや工具、塗料類が完備されていて、足りなければ二十四時間発注にも対応。

パーツ類も同じくという素晴らしいサポート体制。まぁ料金はちゃんと払わなきゃいけないけどねー。


それはそれとして……僕は母さんから用意されたスーツを着こみ、洗面台前でチェック。うん……見事に似合ってない。


「セイー、なんだこの服」

「言ったよね。夜、世界大会を主催するPPSE社が、選手や大会関係者を集めてレセプションパーティーを開くって。参加者は全員正装なんだってさ」

「パーティーだぁ!? オレは堅苦しいのが苦手なんだよ!」

「いいから着替えなって」


……劇的に似合ってないスーツ、それにヘコみながらも洗面所から出る。


「レイジ、終わ……んん!?」


部屋にレイジの姿はなかった。レイジのベッドにはスーツが置きっぱ……そして『起こさないでください』の札が載せられていた。

あはははははははは……あははははははははははははは! ……なにを起こさないつもりだよ! あの馬鹿はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レセプションパーティ、その会場はまさしく一流の社交場。僕も千早達をエスコートして。


「蒼凪恭文様ですね。それと『チームとまと』のみなさん」

『はい!』

「どうぞ中へお入りください」


スーツやドレスで正装し、ビシッと決めた上で中へと入る。なお千早達はあれだ、今言ったようなチーム名で……なぜトマトになったんだろう。

不思議になりながらもホール内へ入ると、更に凄かった。立食パーティー形式で、きらびやかな照明と鮮やかな料理達が輝いていた。

もちろん出席者もおしゃれしまくりなので、更に華やか。ついついリインと驚きの声を漏らす。


「「おぉー!」」

「凄いねー! さすがは世界的企業なPPSE社だよ、レセプションでここまで豪華って!」

「ん……で、でも緊張してきたかも」

「堂々としてればいいのよ、こういうのは」


ともみも緊張していたけど、歌唄に背中を押され奮起。さて、まずは知り合い連中に挨拶していくか。


「ところでお兄様、気づいていますか? お姉様がいません」

「うん、知ってた。まぁ『待ち合わせ』って言ってたし、大丈夫でしょ」

「アイツ、豪華料理を振ってまで地元名物を追いかけてんだよな。どうなってんだ」

「約束は大事って事でしょ」

「……ヤスフミ!」


かと思ったら向こうからやってきた。スーツ姿のリカルドとあお、更に響も登場。ふだんはポニテな髪を下ろし、青い肩出しドレスを見事に着こなしていた。


「リカルド、あおー」

「あおー♪」


そしてあおは楽しげに跳躍。そのままりんに飛び込み、胸にすりすり……う、羨ましいとか思ってないから!


「おー、よしよしー! アンタは相変わらず甘えん坊だねー!」

「おー♪」

「おや、そちらのレディ達は……お前またかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! まずはアズサとヒビキからだと言っただろうが!」

「そんな事は言ってないよね、おのれ! というかりん、おのれ」

「ツアー中、応援にきてくれたの」

「うんうん」

「なんだと! ……あ、しばらく留守にするとか言ってたの、そのせいか!」

「おー♪」


そうらしいよ、リカルド。しかもともみまで嬉しそうに……まぁいいかぁ、もうツッコむのも野暮だよ。

それよりその……歌唄や千早、リインがプレッシャーを。なのでそろそろもじもじしっぱなしな響に触れよう。


「というか、響も……レセプションパーティー、生すかスタッフも入れたんだ。それにハム蔵も」

「ぢゅ!」


ハム蔵は蝶(ちょう)ネクタイを締めて、ちょっとおしゃれモード。それを誇るように笑い、響の右肩上から挙手してくる。


「自分だけになるけど……生すかで世界大会やガンプラバトル絡みのPRに協力してくれたからって。みんなの代表みたいな感じで。それでその」

「よく似合ってるよ、とっても奇麗」

「――!」


素直に褒めると、響は顔を真っ赤にする。そうして両腕で胸を寄せて……そ、それはやめて? あの、谷間がこう……くっきりとね。


「プロデューサー、私達は大丈夫なので、我那覇さんをしっかりエスコートしてください」

「そうね、アンタはちゃんとしなさい」

「いや、そういうわけにも」

「いいからやるのですよ、恭文さん」

「そうそう。……明日から、歌唄は恐ろしくなるぞ」

「ご愁傷様なのです」


イル、エル……いや、リインもだけど、なんでそんな恐ろしい事を言うの? というか今更でしょ。

歌唄が恐ろしくなかった事なんて、関わってから一度もなかったでしょ。よーく今までの話を思い返してみようよ。


「あ、でも生すか関係で来てるのは自分だけじゃないんだ。貴音と美奈子もいるぞ」

「うん、知ってた。というか、二人はヒカリと待ち合わせしてるらしくて」

「それも聞いてる……というか貴音、凄くテンションが高かったぞ。あと恭文、美奈子は……マジで、頑張って」

「なにを!?」


なに、メイドとか言い出している件ですか! あと響、お願いだから涙目はやめてよ! 僕は悪くないからね、なにもしてないからね!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――イオリ・セイ様ですね。どうぞ中へお入りください」

「は、はい……! ありがとうございます!」


レイジの馬鹿はしばき倒すとして、僕は一人会場の中へ。すると……なんという事でしょう。

なに、これは。この一流貴族主義の皆様以外、立ち入り禁止な世界は。こんなのアニメでしか見た事がない、アニメじゃないのに。

でも凄い……ここにいる人達みんな、ガンプラバトルをするために世界中から集まってきたんだ。


「そんな風に飲まれていては、明日の大会も危ういですわよ」


むむ、この自信たっぷりな言い回し……左を見ると、純白のパーティードレスを着たセシリアさんがいた。


「セシリアさん! ……って、参加してて当然ですよねー」

「えぇ。あ、そう言えば恭文さんから聞きましたよ。ガンプラ、完成したそうで」

「はい。セシリアさんにもいろいろご協力いただいて……ありがとうございます」

「いいんです。あなたが背負っているものを忘れさえしなければ」


そこでセシリアさんの目が鋭くなる。……思い出すのは、ストライク劉備とベアッガイIIIのバトル。

僕はもう僕だけの理由で、この大会にいるんじゃない。委員長や母さん――協力してくれたみんなを背負っている。

だからそれに応える事が必要になる。それは義務でもあり、必然でもあり……同時に心の叫びでもあって。


でも大丈夫、そんな重さも糧として、作り上げた輝きがあるから。だからその視線にも胸を張って、ちゃんと受け止められた。


「チナさんを知る者として、それだけお願い……したかったのですけど、もう言う必要はなさそうですわね」

「もちろんです!」

「なら、あとは全力のバトルをしましょう」

「はい、約束します!」

「セイはん!」


今度は左から声――振り向くと、同じく正装なマオ君が笑って近づいてくる。


「マオくん! 久しぶり!」

「久しぶり……って、あなたはイギリス第二ブロック代表のセシリア・オルコットはん!」

「あら、そういうあなたは第五ブロック代表のヤサカ・マオさんではありませんか。セイさんとお知り合いで」

「そういうあなたもですか! ……セイはんー、隅に置けませんなー」

「あははは、違うって。ほら、委員長……コウサカ・チナさん、いたでしょ?
いろいろあって、あの子にガンプラバトルを教えていたんだ。僕ともその流れで」

「あぁ、そういう事で」


そういう事なのだけど……セシリアさん、凄い頷いてきてるんだよ。僕とは絶対あり得ないと言わんばかりに。

なんだろう、しょうがないのに……委員長の顔がチラついたのに、なにか引っかかってしまうのは。


「改めまして、ヤサカ・マオと言います。おおきに」

「セシリア・オルコットです、よろしくお願いしますね。……ところでヤサカさん、PPSE社のワークスチームを見かけたりは」

「いいえ。なんか用ですか」

「そういうわけではないのですけど……やっぱり、明日から公表っぽいですわね」

「あぁ、そういう事情で。さすがは青い涙ですわ」

「あなたこそ。さすがは珍庵師匠の弟子と言うか……地獄耳ですわね」

「おぉ、師匠の事もご存じで! これは嬉しいわー!」


……ガンプラ心形流、本当に有名なんだ。イギリスがホームベースなセシリアさんから、スラスラ名前が出てくるって。

でもそういう事情? どうしたのかと思っていると、マオ君が体をくっつけ、なぜか囁きかける。


「あぁ、セイはんは知らんのですか。なんや二代目メイジン、病気で倒れたらしいんですわ」

「え……! 二代目が」

「しー! 声が大きいです! とにかく……世界大会間近な上、ガンプラ塾絡みでもPPSE社はいろいろ問題を起こしとる。
しかもその元塾生を襲ったっていう、パーツハンター事件なんてのもあったらしいですし。
……そういう評判の一掃も狙って、新しいメイジンをこの大会でデビューさせるかもしれんーと」

「新しい、メイジン……三代目。もしかしてセシリアさんも」

「えぇ。セイさん、覚悟しておいた方がいいですわよ。特に本大会はくせ者も多いですもの。例えば」


そこでセシリアさんが見やるのは、黒髪褐色肌の男性。あごひげを生やし、髪を後ろで一つ結びにした人だ。

でも不潔な感じは一切ない。むしろ精かんで、スーツもばっちり着こなす社交性が見られる。


「おぉ、タイ代表で世界大会常連のルワン・ダラーラや! 世界大会常連の! あっちにはアメリカ代表のニルス・ニールセンも!」

「あとは……アルゼンチン代表のレナート兄弟ですわね」


次にセシリアさんが刺したのは、目つきの鋭い双子の男性。やや紫がかった髪を品よく整え、二人静かに場を楽しんでいた。


「レナート兄弟? ワイも試合は見ましたけど、さほど目立った感じは」

「えぇ。でも……あの二人からは同じオーラを感じますの」

「誰とですか」

「……二代目メイジンと」


その言葉で僕も、マオ君も二人への視線が変わる。しかもセシリアさん、ガンプラ塾出身だからなぁ、余計に説得力がある。


「そうそう、世界大会常連ならもう一人いますわね。リカルド……フェリー……なにしてますのぉ、あの人はぁ!」

「セシリアさん!? ちょ、どうしたんですか!」

「リカルド・フェリー……ん!?」


マオ君が驚いたので、九時半方向をチェック。すると、どういう事だろう。リカルド・フェリーニは確かにいた。

でもその横……というか周囲に、なんと華やかな女性達。でもフェリーニさんを取り囲んでいるわけじゃない。

囲んでいるのはむしろ恭文さんだった……! と、というか如月千早さん達だけじゃなくて、我那覇響さんも!


ほんとどうなってるの、あれ! 事情は聞いたけど、よりひどくなってないかな!


「……お! よぉ、イオリ・セイ! セシリア・オルコット!」


仰天していると、フェリーニさんがこっちに手を振りながら近づいてくる。それは恭文さん達も同じで。

……あぁ、会場中の目を引いている感じが。ニュータイプじゃなくても分かるよ。


「えぇ! 僕の名前……あ、ですよねー」

「セイはん、凄いですやん! あのリカルド・フェリーニに名前覚えられとる!」

「いや、そこも事情があって……というか恭文さん、どうして我那覇響さんまで。如月さん達はチームメイトと聞いてますけど」

「ほら、生すか絡みだよ。リカルドの密着取材があるから」

「あぁ、それで」

「チーム、メイト……ふふ、そうですのー。ふふ……ふふふふふふ」


アイドルがチームに……なんて羨ましい状況。でも恭文さん的には苦労があるらしい。うん、距離感もすっごく近いしね。

そしてセシリアさんがメドゥーサみたいに……! というかリインちゃんもさらっと髪が揺らめいてる!

笑顔だけど怖いよ! どうしよう、逃げたい! でも逃げられない、フェリーニさんもいるのに!


「あの、初めまして。イオリ・セイです」

「初めまして、リカルド・フェリーニだ」


そう、フェリーニさんもいるので……差し出された手は、両手での握手でしっかり応える。


「ところでレイジは一緒じゃないのか?」

「……パーティーは嫌いらしくて、地元グルメを堪能しにいきました。後で叩き伏せます」

「あはははは、アイツらしいなぁ」

「それよりフェリーニさん、その……レイジから軽く聞いてはいたんですが、ありがとうございます」


初対面だけど、まずはしっかりお礼。あ、そうだ。如月さんにも……今までお会いする機会がなかったからなぁ。


「あの、如月さんもありがとうございます。先程も言いましたが、今までお礼が遅れてしまって」

「もう、大丈夫よ。私も大会前のいいウォーミングアップになったから、むしろ感謝しているの」

「こちらも同じくさ。それにアイツは面白いしなぁ」

「そう言ってもらえると助かります」

「あぁ、そういう繋がりでしたか。……あの、初めまして! ワイは」

「ヤサカ・マオ――珍庵師匠の弟子だよな。師匠、お元気だろうか」

「師匠の事までバッチリなんてー! はい! それはもう元気すぎて元気すぎて、マリュー・ラミアスのフィギュアを無限収集しとります!」

『無限収集!?』


フィギュアの無限収集!? 無駄遣いってレベルじゃないよね、それ! マオ君、嬉々として話すところじゃないよ!

突っ込みどころがほんの一秒足らずでそれはもう……山のように存在したよ!? 如月さん達も驚いてたし!


「ははは、相変わらずだなぁ」

「さすがはマリュー・ラミアス友の会を率いる会長だね。僕も見習わないと」


……納得しちゃったよ、イタリア代表! というか恭文さんもおかしい! そんな『分かる分かる』みたいに頷かれても!


「……マリュー・ラミアス、友の会? 恭文、なにそれ……そんなの自分、聞いた事がないぞ」

「ぢゅぢゅー」

「恭文さん、SEED放映当時からマリュー・ラミアスが大好きなのですよ。
えぇ、それはもう大好きで……そうしたらいつの間にかそんな会に入ってたのです。
本当に大好き……ですよねぇ! 毎週毎週あの人に注目してたですよ!」

「そう、マリュー・ラミアスは素晴らしいキャラだよ。そりゃあ友の会とかできるよ、珍庵師匠も大好きになるよ」


リインちゃんがキレたー! あれかな、義理のお兄ちゃんだからやっぱ全開になっちゃうのかな!

というかちょっと涙目なのはやめようよ! あと恭文さんは頷いてないでツッコんでー!


「……アンタ、本当に大きい胸が好きなのね。私の胸は好みじゃないと」

「というか見習うな馬鹿! そ、そんなに触りたきゃ……あたしの胸でいいじゃん!」

「わ、私も……頑張るよ? うん、頑張る」

「え……歌唄、というかりんとともみはなんの話を」


今疑問に思うっておかしいと思うなぁ! ほら、リインちゃんが全開だった時点で、もうさ!


「私は……私は……くっ」

「お兄様……こんなに近いのに、心の距離は遠く感じます。私が人間の女性だったら……しくしく」

「よく、分かりましたわ。恭文さん……あなたは大会中に! ぜーったい圧倒しますから! 覚えてらっしゃい!」

「なにを!? え、待って! 駄目なの!? マリュー・ラミアス友の会はそんなに駄目なの!? 楽しいのに!」

「そういう問題やないと思いますよ、きっと」

「マオ君に賛成……!」

「久しぶりね、セイ君?」


そしてこの混沌へ飛び込んできた、無謀なお姉さんが一人……右側を見ると、チャイナドレスを着こなす人がいた。

紫髪をさっとかき上げ……あぁそうか! イメージキャラクターだから参加してるんだ!


「ミホ……キララ、さん?」

「正解。世界大会出場、おめでとう」

「ありがとうございます! キララさんもイメージキャラクター抜てき、おめでとうございます!」

「ありがとー!」


そしてぱぁっと笑うミホシさんとしっかり握手。いやー、まさかこんな形でまた会えるなんて……やっぱり運命って、あるのかも。


「ところでレイジは」

「パーティーは嫌いらしくて」

「あははは、なんかあの子らしいわねー。……あ、初めましてー。ガンプラバトル世界選手権イメージキャラクターのキララです」

『初めましてー。これからよろしくお願いします』

「いえ、こちらこそー。インタビューとかするかもしれませんけど、その時はどうかお手柔らかに」


みんな息を合わせて挨拶してきた!? あぁでもそっか、イメージキャラクターってただ立ってるだけじゃないんだよね。

レポーターみたいな事もするし、インタビューだって……大躍進だなぁと、ついしみじみしてしまう。


「お嬢さん、もう一度お名前を」


そこでフェリーニさんがなぜか全力で踏み込んできた。さっとミホシさんの脇に立つと、ミホシさんが怪訝な顔をする。


「え、いや……今キララと」

「やはり……! ときめくお名前です」


……僕はもしかしたら初めて、人が恋する瞬間を目撃したのかもしれない。フェリーニさんから放たれたのは、眩しいほどの笑顔。

それに一瞬で心奪われたのか、ミホシさんは表情を蕩けさせ……その身をフェリーニさんに預ける。


「ヤスフミ、あおの事を頼む。俺は彼女のヤキン・ドゥーエに触れなければならない」

「どういう事!? ヤキン・ドゥーエってなんの隠語よ! 全く意味が分からないんだけど!」

「おー?」

「というかリカルド、酒は飲んじゃ駄目だよ! 勧められても絶対飲んじゃ駄目だから!」

「分かってるって。ではキララさん、あちらでガンダム00について語りましょう。……みんなも、チャオー」

「はい……♪」


それでもミホシさんの肩に手を回し、フェリーニさんは去っていく。そんな姿を見送りつつ、恭文さんは頭を抱えた。


「おぉ凄い! ガンプラバトルと同じく、電光石火の早技や!」

「あの馬鹿は……!」

「さすがは恭文さんの友達ですね」

「おのれ、それはどういう意味かなぁ」


そして恭文さんは笑いながら、僕にアイアンクロー……ちょ、やめてー! 父さんにも掴まれた事がないのに!

――こんな感じでパーティーはカオスに、そして楽しく進んでいく。だから想像もしていなかった。

一方その頃……的に、レイジが運命の出会いをかましていたなんて、それはもう全く。


(Memory41へ続く)







あとがき


恭文「というわけで世界大会本番は次回から。いよいよセイの成果が飛び出ます……今日は箒の誕生日! 明日(七月八日)はとまと七周年記念日!」

フェイト「みなさん、いつも応援ありがとうございます。というわけでお相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「準備で忙しい蒼凪恭文です。……美奈子がドムR35を使う日も近い」

フェイト「いきなりそこ!?」


(紹介動画を見ていると……というか、よく考えたらイメージカラーまでどんがぶりだった罠)


恭文「そしてとある魔導師と古き鉄のお話・支部でも掲載した、00-BTも青……なぜこうも青系が集まるか」

フェイト「ま、まぁ……ねぇ。とにかくリカルドさんと響ちゃんのバトルで、大会前のイベントラッシュは一段落して」

恭文「今まで読者アイディアできていた方々も……アイディア、ありがとうございます」


(ありがとうございます)


恭文「ただどこまで描写するかは、ちょっとお約束できなかったりするんですけど。そして結成されてしまったチームとまと」

フェイト「あのヤスフミ、待っててね。私も参加するし」

恭文「そっかぁ。じゃあ……お夜食とかを準備してくれれば。それだけで十分だよ」

フェイト「まだ出禁なの!? ふぇー!」


(『だからお前はまず、自らのレベルを鑑みろぉ! 明らかに無茶をしてるだろうが!』
『そ、そうですよ。まずはヤスリがけからです、はい』)


恭文「ほら、ディアーチェとユーリもうこう言ってるし」

フェイト「うん……頑張る」

恭文「じゃあしょうがない、フェイトには大事な密命を与えよう」

フェイト「密命? な、なにかな! 私、頑張るよ!」

恭文「フォーエバーガンダムを見かけないので、お店などで見つけたら教えて」

フェイト「フォーエバーガンダム?」

恭文「ガンプラビルダーズで、我らがレジェンド浪川さんが乗っている機体だよ。
あれのHGが欲しいんだけど、再販がきてないからどこも高いか在庫切れでねー」

フェイト「えっと……初代ガンダムが元で、フルアーマー化してるんだね。またどうして」

恭文「今度のReviveHGと絡ませて、フォーエバー化できるかもと思って」

フォーエバー「あぁ、それで。分かったよ、見かけたら教える感じでいいんだよね」

恭文「うん、お願いね。とっても助かるから」


(そうしてお願いのハグと頭撫で撫で……閃光の女神、とっても嬉しそうです。
本日のED:我那覇響(CV沼倉愛美)『Rebellion』)


あむ「えっと、フォーエバーガンダム……っと」


(Amazonの商品ページ『http://www.amazon.co.jp/144-GPB-X78-%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%A0-%E6%A8%A1%E5%9E%8B%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%BA-%E3%83%93%E3%82%AE%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0G/dp/B004ANBDGS』)


あむ「……三千円以上!? 相変わらず再販がかかってないのは、価格のインフレ激しいし!」

恭文「オークション絡みでも二五〇〇円……強烈だねぇ。いや、これはまだいいのかな。定価が二一〇〇円だし。なので僕、ちょっと旅に出るよ」

あむ「やりすぎじゃん! ……でもコンセプトは二十一世紀のパーフェクトガンダム、だっけ」

恭文「そうそう。……というわけで次回、尺が許せば新AGE-1が登場します」

あむ「どういう繋がりでそう言った!?」


(おしまい)





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