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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory39 『蒼い魔導師』


それはみんなから、『危ない性癖』という風評被害を受けた直後……今もどうしてかよく分からない。

だってほら、やっぱりがっしりした体型がいいって言っただけなのに。とにかく社長は私達の様子を見て。


「待ちたまえ、プロデューサー」

「懺悔なら聞きますよ、許しませんけど」

「違う違う! ……まぁ現時点での評価は揺るがないだろうが、北沢くん達にチャンスもなしは少し不公平ではないかね」

「え、そっちですか! 今言っても説得力なんてないのに!」

「そうですよ、社長。おとなしくしておいた方が」

「君達ー!?」


志保ちゃんと百合子ちゃん、容赦ない……! でもしょうがないかー。

そもそも社長が伝えるのを忘れていたから、余計大慌てなわけで……そこを考えると。


「よし、じゃあ美奈子と杏奈の出場は考え直そう」

『えぇ!』

「ちょ、恭文くん! どうしてー!」

「杏奈……巻き添え!?」

「まぁ社長の言う事も一理あるしね。ただあくまでも一理で、ミスにあっさり飲み込まれるだけで」

『ですよねー』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


でも不公平はよろしくない……かぁ。まぁ確かになー、今後にも繋がるし、そういう事ならと杏奈ちゃんと顔を見合わせ納得する。


「それなら……杏奈達、大丈夫」

「私もだよ。でもどうするの? チャンスって言っても」

「今からオーディションをやります」

『オーディション!?』

「実際にやらせるとまた違うかもしれないしね。オーディションは……シミュレーションモードで、千早とタイマン。
一度でも直撃させたら、又は五分間逃げきれたら合格って感じかな。合格者が複数いる場合、そのバトル内容を協議した上で決める」

「直撃?」


いや、世界レベルの人がどれだけ強いか、これまでのバトル実習で分かっている。実際……私は一撃も当てられていないし。

だけどこれって……相手は千早さんで、直撃でしょ。ん……んん!? 杏奈ちゃんも気づいたっぽくて、小さく声を漏らした。


「そう、一撃だよ。僕の知り合いに一人教導官がいるんだけど、そいつは戦闘訓練の締めでよくやってるのよ」

「あぁ、それで。実は私、こういうのって訓練として当たり前なのかと疑問だったんですが」

「そうだねぇ……志保の疑問も分かるけど、まず『動いている敵に攻撃を当てる』のは難しいんだよ。
射撃なら狙う……ようは相手の動きや周囲の環境も予測し、弾丸を撃たなきゃいけないわけで」

「環境? 障害物があるとかでしょうか」

「それだけじゃないよ。距離が開けば開くほど、弾丸ってのは風などの影響も多く受けるんだよ。
場合によっては地球の自転、重力もね。もちろん手ブレも抑えなきゃいけないし、そもそも弾丸の性質やライフル性能にも左右されて」

「わ、分かりました。その……たくさん、考えなきゃいけないというのは」


志保ちゃんが心へし折れた!? まぁそうだよね! いきなり重力とか出されたら、それはねー!

しかも恭文くん、戦闘でもいわゆるプロ級だから、説得力が重いのなんのって!


「まぁあれやろ? そういう事も覚えなアカンから、まずは一発当てるとこから始めて、徐々にと」

「そういう事。ただ千早が自分の機体を使うと、機体性能に差がありすぎるからなぁ。千早、今すぐにアデルを組んで」

「分かりました」


機体の差は圧倒的ではないらしいので、そこは一安心。……狙撃なんてされたら、確実に負けちゃうもの。

でも圧倒的ではないだけ。最初に蹂躙された恐怖を思い出し、軽く身震い。恭文くん、容赦なかったしなー。

というか今もだけどさ! わりと本気で叩きのめしにくるから、毎回大変なの!


「でも一撃だったら、わたし達にも」

「勝てるチャンスはあるで! 恭文、私からもお願いや! それやらせて!」

『お願いします!』


なので私も含めて、みんなでお願い。そう、オーディションと言えばやっぱり……アイドルには常に立ちはだかる試練!

それから逃げる事はやっぱりできません! さーやるぞー! 実力で恭文くん体重増加計画をつかみ取ってやる!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで受験者は呼ばれたら、バトルルームに移動。それぞれのガンプラを持って……私はフォートレスだけど。


「……美奈子さん、その……恭文さんは今の体型でいいのでは」

「志保ちゃんなに言ってるの! 男の子はもっとがっしりした方がいいと思うんだ!
えっと、まずはいっぱい差し入れして……ちょっとずつだよね。うん、ちょっとずつ」

「天海さん……!」

「あかんで! 私らへの差し入れで察してはいたけど、自覚なしってのがまた怖すぎる!」

「志保ちゃん、みんな……ごめん。私に泣きつかれても」

「じゃあ誰に泣きつけばいいんですか!」

「知らないよ! 私も聞きたいんだよ! 私だってどうにもできない事はあるよ! 泣きたい時はあるんだよー!」


おかしい、やっぱりみんなが私に恐怖を持っている。疑問に思いながら、呼び出しの時を待っていた。

この辺りはあれなの、先にやる人がどうするかを見たら、不公平だからと。……やっぱりこのオーディション、いろいろ仕組まれてる。


「緊張だー♪ 準備もほぼできずーガンプラオーディションー♪」

「可奈、ちょっと音外れてる。あと……や、やめて。緊張が強くなる」

「ちょ、志保ちゃん!? 顔が青いよ! 大丈夫かな!」

「わ、わりと本格的にやっていくんだなと……思って」

「……可奈ー、出番だよー」


そこで恭文くんがいきなり呼び出し。可奈ちゃんはビクつきながらも一気に立ち上がる。


「えぇぇぇぇぇぇぇ! い、一番は私ですか!」

「うん、あみだくじで決めた」

「あみだくじ!?」

「ほらほら、ガンプラを持って。一応自己紹介も忘れないようにね」

「は、はい! それじゃあ……行ってきますー!」

「頑張ってね」


志保ちゃんもエールを送ると、可奈ちゃんはガッツポーズで事務所から出ていく。

そうしてまた、胃の痛い時間が続く。や、やっぱり緊張するかもー!


「可奈ちゃん、大丈夫かなぁ」

「なんだかんだで恭文がきてから、バトルもちょくちょくしてたし……それにガンプラも素組みやったら、そこまで絶対的な差は」

「わたし達も自分のガンプラ、弄って改造してますしね。一撃だけなら」

「た……ただいまぁ」


あ、可奈ちゃんが戻ってきた……戻って!? 慌てて時計を確認する。

可奈ちゃんが恭文くんと出ていってから、三分経ってないんですけど……!


「可奈ちゃん!? え、速すぎないかな! まさか……!」

「やられ、ちゃったの?」

「瞬殺だったー! うわー、悔しいー!」

「まぁ評価に関してはまた後でするよ。次は……杏奈だね、準備はいい?」

「ん……大丈夫」


杏奈ちゃんは深呼吸して、立ち上がってすたすたと……どうしよう、早く終わりたい。

でもできれば遅く……とも思うし、結構複雑かもー。そして志保ちゃんはより緊張が強まり、ちょっとガタガタ。


「……志保は最後の方がいいかなぁ。なんか見ているとゾクゾクするし」


そしてこのドSプロデューサーは、志保ちゃんを見てぼそっと呟いてきた……! しかもめっちゃ楽しそうだし!


「ちょっと、そういうのはやめてくださいよ! 決まった通りにしてくださいよ!」

「嫌だなぁ、半分冗談だって」

「半分本気な時点で最悪ですからね!」

「まぁまぁ。みんな揃って、そんなに緊張しないで。これもふだんのレッスンやオーディションと同じだよ。
ぶっちゃけ限界以上の力なんて出せないんだから。今までやってきた事を試されるわけだし」

「そ、そう言われるとその」

「かなり弱いねー」


そう、かなり弱い。だからこそふだんの努力が大事なのは……あぁ、そっか。こんなに緊張するのは、ガンプラって辺りだけじゃない。

プロとして、アイドルとして私達は、こういう事に立ち向かっていかなきゃいけなくて。

その重さを感じ取っているから、みんなこんなに……もちろん、私も含めてなわけで。つまるところ、腹をくくるしかない。


「つまりその、腹をくくれと」

「空回りするよりは建設的だね」

「恭文さん、それ……私がやる前に言ってほしかったようなー」

「は? おのれはなにを言ってるのよ。本来ならそれくらい既に気づいてなきゃいけないの。つまり……律子さんと赤羽根さんを恨め」

「えぇー!」

「「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


そう言って、恭文くんはまた杏奈ちゃんと……なので深呼吸し、ひたすらに落ち着こうと試みる。

深呼吸に軽いストレッチ。そうして志保ちゃん、奈緒ちゃんと続き……私の番がやってくる。

恭文くんに連れられ、バトルルームへ。いつもとは違う張り詰めた空気に背筋を伸ばし。


「佐竹美奈子です、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく。いいバトルをしましょうね」

「はい!」

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――City≫


ベースと私達の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

バトルする場所は市街……って、ここは新宿近辺じゃ! アルタ前とかが見えるんだけど!


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「佐竹美奈子、ガンダムAGE-3フォートレス! いっきまーす!」


そのままスフィアを押し出し、御苑上から駅方面へと飛び込む。勝利条件は直撃か、又は五分間逃げ切るか。

……何度も考えたけど、多分これで正解。なので飛び出してすぐ、レーダーの反応に背を向け加速。

そう、私は逃げた。あとは、私の『ふだん』がどれだけのものか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして試した結果……それはもう、散々な有様で。いや、ぎりぎりすぎて笑えない。

とにかく全員のバトルが終わってから、みんなでまたバトルルームへ移動。ベースに記録されていたみんなの映像を見ながら、ある事実に気づく。


「あれ……恭文くん、みんな同じフィールドなんだけど!」

「設定で固定化したしね。それで勝利条件を満たしたのは、杏奈と美奈子の二人だけ。じゃあ総評だけど」

『は、はい』

「まずは……可奈、奈緒、おのれらはイノシシか」


いきなりイノシシ扱い!? なんか毒がまき散らされたんだけど! それも容赦なく!


「あう!」

「いきなりヒドいな!」

「言いたくもなるわ! 真正面からタイマンでやり合って、勝てる相手じゃないのは明白でしょ!
一分経たずに撃墜されるってどういう事よ! なのでおのれらは不合格! 問題外なので徹底的に鍛え直すから!」

「「は、はいー!」」

「それは箱崎さんもね。一撃当てれば……という点に目が眩んで、ちゃんと状況把握ができていなかった」

「は、はい。ごめんなさい。……あれ、それだとどうやって勝てば。それだと戦っちゃ駄目って言ってるような」


あぁ、星梨花ちゃん達は気づいていなかったのか。ただ恭文くん、星梨花ちゃんにキラキラな目をしないで。

天使扱いですか、天使が大好きですか。……なんか、ちょっとジェラシー。


「星梨花、よく分かったね。……僕は勝利条件を二つ提示した、一つは相手に一撃でも入れる事。
もう一つは五分間逃げ切る事。一般的に正解とされるのは、疑う余地もなく後者だ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「……恭文さんの言う通りよ、星梨花。私も直前で気づいて、逃げる方向にしたから……まぁ、撃墜されたけど」

「私も同じくだよー」


志保ちゃん、それに百合子ちゃんも気づいてたか。苦笑気味なのは結果が芳しくなかったせいかも。……うん、一般的に正解は後者。

そもそも前提がこちらに悪すぎるもの。ガンプラが素組みで作ったばかりのアデルだとしても、それは変わらない。


「そこまで分かっているなら……志保、イノシシ二人と星梨花に説明してみて。訂正が必要なら加えていくから」

「分かりました。……まず一撃でもってところだけど、それは『直撃』という前提がついている。
アデルはシールドもある機体だし、直撃となると条件は途端に厳しくなっちゃう」

「あ……ほんまや! というか実際私らの攻撃も、シールドやサーベルでめっちゃ捌かれてたし!」

「その上ファイターは世界大会にも出場した如月さん。さっきも恭文さんが触れた通り、今の私達が勝てる相手じゃない。
最初からこの勝利条件は地雷なのよ。もちろんそれで取れるなら、問題はないんだろうけど……ですよね」

「もちろん。ただみんなの実力では現実的じゃない。基本同じ機体だから、レンジも似たり寄ったり。
……つまりみんなが直撃を取るって事は、千早の射程内に入っていかなきゃいけないのよ。
その上でみんなも自分の『レンジ』に千早を取り込まなきゃいけない」

「わたし達の、レンジ?」

「機体性能のレンジはどっこいでも、みんなが『攻撃を当てられる距離』がそこに加味される。
実銃……現代のハンドガンの話で例えよう。物によって前後するけど、有効射程距離は五十メートル前後。
でも射撃訓練などもさっぱりなトーシローがブッパすると、確実に当てられる距離は二メートル以内と言われている」

『ニ……はぁ!?』


さすがに信じられなくて、みんなで驚く。いや、だって……あぁそっか! だからこそ余計に『現実的』じゃないのか!


「そ、それは本当にどういう事ですか! 銃自体は五十メートル飛ばせるのに、当てられるのは四十八メートル減るって!」

「銃自体はね。でも銃には基本反動もあるし、それで狙いはブレる。
対応するなら訓練が必要なんだよ。ようは……『性能は引き出すもの』って事」

「あ……そ、そうですよね。そもそも如月さんとのスキル差があるわけだし、それはつまり……『当てられる距離』の差。
私達は如月さんより距離が短いから、より踏み込まなきゃいけなくて……当然危険もその分倍増していって」

「それがレンジの考え方だよ。ならどうすれば『勝負』に勝てるのか。方法は一つでしょ。
市街地という隠れやすい地形を利用しつつ、五分間千早の攻撃をやり過ごす事」

「「「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


射程……その視点はまぁ、格ゲーでのあれこれでなんとかって感じ。杏奈ちゃんもそこは同じくみたい。

もしそれがなかったらと思うと、軽く恐怖。普通は一撃ってところに目がくらむだろうしなぁ。


「そう、地形を利用ってところが大事なのよ。今回美奈子以外、全員アデルのままだったでしょ。
機体武装の射程や中身はほぼ同じだし、逃げの戦法でも直撃させるチャンスはかなり多い」

「身を隠しつつ、杏奈達のレンジへ誘い込み……ズドン」

「実際杏奈がそれだった。千早も手を焼いてたよねー」

「望月さんのゲーム経験、全開でしたから」

「え、杏奈は当てに行ったの!?」

「あくまでも……時間稼ぎ、だけど。基本は逃げ」


うんうん、近づかれた時に対応は必要だしね。はいそうですかで逃してくれる相手でもないし、攻撃して対応を迫らせるのも大事な事で。

なので驚いた志保ちゃんも納得する。でもまぁ、かなり怖いだろうけど……というか私は近づかれるだけで怖かった。


「それで選択肢が二つあるのは、相手との力量差や状況への分析力を見るためのもの。チーム・個人に限らず、勝負では大事な事だからね。
千早の攻撃も厳しかったけど、杏奈と美奈子が逃げ切った点から技量次第というのも分かると思う。
もちろん逃げ切ったらって条件で、最悪四肢が吹き飛ぼうと問題ないからだけど」

「そ、そっかー! 一撃ってところが釣り針なんですね!」

「わたし達みたいに、真正面から飛び込んだら……うぅ、失敗しましたぁ」

「私もあそこで退避がうまくいってればー! うぅ、もっと鍛えないと駄目です!」

「実際問題、百合子と志保はかなり惜しかったよ。あとはやっぱり勝負勘――慣れだね」

「は、はい。それは強く実感しています。……どうしてなんでしょう」


そこで志保ちゃんが疑問を漏らす。それで悔しげに……でも、どこか楽しそうに、自分のアデルを抱き締めた。


「なにかな」

「アイドル……プロにガンプラが必要なのかどうか、まだ分からないんです。
正直戸惑いもあって。でも今、『悔しい』って感じてるんです。一体どうして」

「そりゃあ負けたら悔しいに決まってるよ。だから次は勝ちたいって思う。……それはアイドルどうこうは関係なく、バトルが好きだからだよ」

「私が、バトルを?」

「志保はどうも真面目だから、いろいろ考えるのも分かる。これはお仕事に備えて……って名目が確かにある。
でも流れ的にはあれだよ、事務所内の部活や研究会みたいな感じだからさ」


そう言われれば……あぁそうだ、このノリは確かに部活なのかもしれない。改めてみんなを、春香さん達を見て、ストンと落ちるものがあった。


「なので余り気負わず、全力で楽しんでみようか。悔しいなら、まずは全力で一勝もぎ取るところから」

「……一勝」

「そうしたら答えが見えてくるかもしれない。結論を出すのは勝利と敗北、両方を味わってからいいでしょ」

「そう、ですね。はい……そうかも、しれません」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――杏奈のアデルは、けん制射撃も交えてドラドから距離を取る。やっぱりその動きは機敏で、軽い焦りを感じる。

右に回りこまれてもシールドバッシュでたたき落としつつ、ウイングガンダムの右横から飛び蹴り。

ウイングガンダムが飛び上がりながら回避すると、まずは背後のドラドにけん制射撃を一発。


それから身を翻しつつ、ドッズライフルでウイングガンダムに連続射撃――美奈子さんのフォートレスと一緒に乱れ撃つ。

それを払うように、ウイングガンダムはジグザグ後退。バスターライフルを構え、三発目の最大出力発射。

走るビーム砲撃がビルを、道路をなぎ払い、二人へと迫る。フォートレスとアデルは左右に散開し、それをなんとか回避。


すかさずドラドが尾のビーム砲でフォートレスを狙うも、それは両腕のシグマシスキャノンで払いつつ防御。

ウイングガンダムもライフルを左手に携えたまま……お互い相手を入れ替えつつ、また近距離で交戦する。


「接戦だな。しかし杏奈君、それに美奈子君はいいマニューバだ」


ラルさんという人がそう表するけど、この人……本当にどこから入ってきたんだろうか。不審者とかでは、ないのよね。恭文さんも受け入れているし。


「気になる事があるとすれば、りん君のドラド、それにともみ君達が持ち込んだコンテナか」

「コンテナ? そないなもんどこに」


そう言いつつ奈緒さんと一緒に、魔王エンジェル組のスタート地点をチェック。

……あ、ほんとだ。こう、無造作にジェラルミンケースみたいなのが置いてある。


「あったわ!」

「でも使って、いませんよね。ともみさんのジム・スナイパーも離れちゃっていますし」

「ならドラドはどこが気になるんだ?」

「ややオーバースケールなのだよ。少なくとも百四十四分の一サイズではない。りん君のイメージに沿った改造ゆえか? ……それとも」

『……こう着状態、打ち崩していこうじゃないのさ!』


フォートレスの射撃を跳躍して避け、ドラドは……ドラドの装甲がいきなりはじけ飛んだ。


『キャストオフ!』

「な……!」

「なるほど、だからこそのオーバースケールか!」


ドラドの中から出てきたのは、白い装甲に赤いフレームが丸出しな……ガンダム? しょ、正直よく分からない。

ガンダムなんて角があって、へのへの口ってイメージしか……あれはスラっとした口元だけど。

とにかくそのガンダムはそのままフォートレスへと突撃。一回転しながら左踵落とし。


フォートレスがシグマシスキャノンを交差させて防御。同時に両肩のキャノンにエネルギーチャージし、停止状態のガンダムを狙う。

でもそのガンダムの両肩アーマー、上に載せている細い棒状パーツから光が走り、フォートレスの砲口を撃ち抜き爆散させる。


「ビームライフルやて!」

「いや、あれはビームガンだろう。ガンダムアストレイの改造機……あれが朝比奈くんの、本当のガンプラか」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


両肩のビームバーナーでシグマシスキャノンを狙い撃ちー。砲撃をブッパされるまでに撃ち抜き、厄介なキャノンは爆散しておく。

体勢が崩れたフォートレスは、防御も崩しこちらのかかと落としを食らう。頭頂部を撃ちぬかれ、前のめりとなるフォートレス。

その間に着地し、両手の平を開いてトーチ展開。そう、ビームサーベルではなくトーチです。


ドラドの中身でもあったから、光電球どころかトーチ展開も可能になってる。

それを突き出しつつ掌底。咄嗟に下がるフォートレスの両肩を貫く。いや、腕を落とせなかった。

命中は浅く、フォートレスは改めてこちらにシグマシスキャノンを構える。でもそこでタイミングよくコンテナが射出される。


『りん!』

「ありがと、ともみ!」


こちらへ近づくコンテナその一は一気に分解され、トランク型の武器ユニット二つが飛び出してくる。

それを両手でキャッチし、トンファーとかの要領で持って一回転。右のソードユニットに装着している、ショットランサーを振りかぶり。


「マーキュリーレヴ、リミッター解除! これから自衛目的のため」

『く……!』

「ちょーっと暴れちゃいまーす!」


そのまま加速――するとコンテナそのニが分解し、M1アストレイにも使われているフライトユニットが飛び出してくる。

赤とマホガニーメタリックで塗られたそれを受け入れるため、アストレイのバックパックが稼働。

アーム接続されたバックパックはそのまま下へ移動し、リアスカート後ろに落ち着く。


露出した三ミリ軸の接続部と、フライトユニットがしっかり差し込まれ合体完了。

……より加速を強めながら、一気にショットランサーを突き出す。するとランサー部からピンク色のビームが走り、機体を守るビームシールドとなる。


放たれたシグマシスキャノンの奔流を突き抜け、余波もシールドで斬り裂きながら一気にフォートレスへ肉薄。


『な!』


そのままショットランサーをボディに突き立て交差。……フォートレスは咄嗟に左へ身を逸らしたから、本当たりじゃない。

でも右腕は今度こそ根本からもらった。そこでつい笑いがこみ上げちゃう。


『速い!』

「ふふふふ……ドラドというのは仮の姿! これこそがあたしのオリジナルガンプラ!」


地面を滑りながら着地し、左のガンユニットを稼働。ロケットランチャーを展開し、レーダー、及び視界の端でアデルを捕らえる。


「シビリアンアストレイSAフレーム!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なにあれ、コンテナが飛んできたかと思ったら、武器とバックパックが中から飛び出してきて……しかも朝比奈さんのガンプラ、強くなってる。

バックパックのスラスターはXを描き、下日本の外側には小羽のような赤いパーツがくっついている。スタビライザーって言うのかしら。

それで肩の砲身からもビームが撃てて、あのトランク型の武器が……なによあれ、槍からバリアみたいなのが出たんだけど。


「ほう、シビリアンアストレイか。そう言えば外伝劇中設定ではロウ・ギュール達が使う、オリジナルアストレイへの改造パーツも出ていたな。
……そのパーツを用いて改造した、オリジナル機体というわけか。ふ、面白い」

「な、なんでだ! なんでりんが『あのパーツ』を持ってるんだ! 千早!」

「えぇ、あれは……マーキュリーレヴじゃない!」


あのパーツ? いや、アストレイとやらが持っているのは……え、ちょっと待って。

あの槍みたいなのは知らないけど、確かトランクは……そうよ! あれって恭文さんが一回戦で、ガンプラに持たせていた射撃武器じゃない!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! マーキュリーレヴってあれやんか! ほら、勉強で恭文の試合を見てて!」

「は、はい! 一回戦で使ってました、あのトランク! 銃がたくさん仕込まれてて! ならあの、右腕のは!」


可奈が指差すのはあの右腕……槍付きのユニット。あれだけは分からないけど。


「……元々マーキュリーレヴは近接用のソードユニット、射撃用のガンユニットで構築された二対一体のオリジナル武装よ。
プロデューサーは取り回しの問題から、試合ではガンユニットしか使っていなかったけど」

「恭文とユウキ・タツヤ達が、ずっと前に友達からもらったオリジナル武器……言うなら友情の証」


答えはすぐ提示された。というか如月さん達だけじゃない、天海さん達もその話は知っていたらしい。

ガンプラ自体は作っていないけどって感じで、みんな揃ってあの光景に動揺していた。


「どうやらマーキュリーレヴがりん君達の切り札らしいな。あの多機能ぶりからすれば当然だが」

「でもあれって、ルール的には……使用ガンプラを偽ってたとか、そういう事は」

「問題ない。コンテナも試合開始時に持ち込まれたものだし、外装も追加装甲だからな。
後者に関しては数あるガンダム作品の中で、時おり見られる発想だ。むしろ外装を作れた朝比奈くんの技量を褒めるべきだろう」

「な、なるほど……って、あなたは本当に誰なんですか!? 部外者ですよね!」

「北沢さん、大尉は大尉だから。もうこれで全てが許されるの」

「法律はどこへいったんですかー!」


……って、言ってる場合じゃない! 試合はこの間にも進んでいて……美奈子は、撃墜寸前のピンチだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『美奈子……さん!』


そこで麗華のウイングガンダムを蹴飛ばし、アデルがこちらに射撃。振り返りつつ、十時方向にロケットランチャーを発射。

もう一発をフォートレスの足元へ放つ。一発目は揺らめきながらビームに命中し、白煙を生み出す。

もちろんフォートレスへの一撃も同じく。でも美奈子は中身が分からないから、大きく回避行動を取る。


その隙にレールガンを展開し、長大な方針を予想される進行方向へ向ける。

チャージは五秒きっちり……交代し、白煙を利用し相手の視覚から逃げつつ。


「もらい!」


レールガン発射。電磁レールで高速射出された砲弾が、白煙を突き抜け吹き飛ばし、浮上して逃げていたフォートレスの胴体部を捉え、貫く。


『え……!』


今更驚いても無駄無駄無駄無駄無駄ぁ! 弾丸は既に肉薄し、回避も許さない。でもその瞬間、横から風が走る。

……正直信じられなかった。命中寸前の砲弾は、全く別方向から飛んできた別の砲弾で撃ち落とされる。

それも正確に、真横からこちらの砲弾を捉え、粉砕しつつ突き抜ける。


『はぁ!?』

『ん……え!』

「なん、ですとぉ!」


衝突で生まれた衝撃、遅れてやってきたソニックブームで、フォートレスはビルの陰に隠れてしまう。

舌打ちしつつレールガンを収納し、ガトリングガン展開。慌てた様子で飛んできた、アデルのライフル射撃をすり抜けつつけん制。

あんな真似できるのは、一人しかいない。ていうか邪魔してきたの、実体弾だったし……選択肢は一つしかない。


「ちくしょー! 恭文、アンタか!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


はい、正解ー。なお美奈子が不用意に飛んだのも僕の指示……じゃなかったら、さすがにブッパできないって。


「美奈子、いい動きだったよ。おかげで当てるのが楽だった」

『こっちはひやひやだよ! というかあれって』

「マーキュリーレヴ……僕が以前、りんにあげたオリジナル武器だよ。これも持ち出すとなれば……さて」

『恭文さん、前に……出る?』

「うん。二人とも、前衛ありがと。……ここからは圧倒するよ」


プロデューサーというのも辛いもので……僕一人が大活躍というコースは避けなくちゃいけない。

バックパックの右アームに懸架した180mキャノンで、前衛となった二人を援護……というかともみのジム・スナイパーをけん制。

今の二人だと狙撃には対応しにくいから、こっちが追い回さないと辛い事この上ない。


そうしたらりんが先に手札を晒してくれたよ。いやー、よかったよかった。


「砲弾は残り五発……これだけあれば十分か」

「しかしヤスフミ、お前……マーキュリーレヴを渡してたのかよ」

「そういえばショウタロス先輩は知りませんでしたね、お姉様も生まれる前の話でしたし……私、ジェラシーでした」

「やっぱお前、巨乳が好きなんだろ……もぐ」


180mキャノンを一旦引っ込め、左の【DODS Vバズーカ】を展開。今回は精密射撃のため、左手でグリップをホールド。

そうしてエネルギーチャージ……砲口付近に黄色のエネルギーが渦巻き、集束する。

……感じる悪寒に従い、そのまま前進しつつスウェー。放たれる狙撃ビームをすれすれで二発回避し、三発目は身を伏せて回避。


そのまま大きく跳躍し、太陽を背にするまで上昇。先ほどの射撃位置、更にともみがこれまで見せた『射撃後の反応速度』も計算に入れつつ。


「DODS Vバズーカ――ディスチャージ!」


トリガーを引く。その瞬間、バズーカの大型砲弾が発射……うん、実弾バズーカなんだ。

でもこれにもDODS効果を詰め込んで、改良してある。砲口付近で回転した粒子エネルギーは、突き抜けてくる砲弾の回転に巻き込まれつつより凝縮。

更に砲弾を包み込み、そのまま撃ち出される。物理と粒子、二つの回転エネルギーが合わさり、周囲の空気にも影響する。


渦状の衝撃波を生み出しながら、DODS V(ドッズ ヴァリアブル)バズーカは予測位置へと直進。

すかさずともみが迎撃の射撃……さすがだねぇ。砲弾の真芯を捉えて狙撃してきたよ。

でもビームは衝突した途端、DODS効果により霧散。揺らめくビームがあらぬ方向へ幾つも飛び、地表の四人にも降り注ぐ。


『ひやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『なによこれぇ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


狙撃で砲弾ごと、恭文さんを撃墜……と思っていたのにビームがあっさりと潰され、地表にも被害を呼ぶ。

違う、あれは普通の砲弾じゃない。膜上の粒子エネルギーに包まれていて、しかもそれ自体も力を有している。

ビームバズーカの中に実体弾が仕込まれているというか……射撃を中止し、回避行動に移る。


ううん、移ろうとした、移りかけた、移りつつあった。でも射撃を止め、立ち上がりつつブーストするまでにはラグがある。

機体の限界じゃない。これは、私の限界……脳内から走る電気信号、それにより体が動くまでの刹那。

射撃武器にとっては、その刹那で十分だった。そもそも迎撃という選択肢を取った時、回避なんて捨てたも同然だった。


だからライフルが、そしてジム・スナイパーIIのボディが砲弾を食らい、回転エネルギーによってえぐられながら爆散する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今まで動かなかった恭文さんが飛び出す。そうかと思うと、三条さんのガンプラ……ジム・スナイパーII、だったね。

その射撃をはじき飛ばしつつ、一瞬で粉砕。なに、あれ……私でも分かる。あれは、凄く強い。


『ともみ! く……なによあれはぁ!』

『あの、ガンプラは』

『恭文、くん……だよね』


それで美奈子さんや杏奈、東豪寺麗華さんも空を見上げた。太陽を浴び、なぜか蒼い輝きを放ち始めた、あのガンプラを。

もちろんモニター内――自分のガンプラを通しての事なんだけど、三人にとってそれはリアル。

外からゲームとしている私達よりも、強い驚きや動揺がその仕草から感じられた。


『やっぱりきたか、蒼い魔導師(ブルーウィザード)!』


でもただ一人、朝比奈さんだけはその正体を察した。そして光を振りまきながら、ゆっくりとそのガンプラは降りてくる。

形はえっと、最初のガンダムによく似ている。でもへのへの口がなくて、色は蒼色。

背中にバズーカやキャノンらしきものを背負い、左腕のシールドは頼りないほどに小さい。


両肩上にはブースターらしきものがくっつき、そのフォルムはシンプルだけど目を引くほどに特異的。


「蒼い、ガンプラ」

「クロスボーンっとも、違う」

「なんや、あれ。あのオーラは……あんなん、見た事ない!」

「なんでしょう。わたし、目がおかしくなったのかな。とってもキラキラしてるように見えます」

「プロデューサーの、力の色。あなたは朝比奈さん達との闘争に、自らを示すんですね」

「伝説の、ガンプラ……! その先を行く、【蒼き幽霊】真の切り札!」


百合子、奈緒さん、星梨花が私に続き……更に如月さんと、ラルさんという方が楽しげに笑った。

恭文さんの、力の色? 意味は分からないけど、あのガンプラは本当に凄いものらしい。だから二人は。


「「パーフェクトガンダムW――ブルーウィザード!」」


そう締めくくった。その声を受け、ブルーウィザード……蒼い魔導師はビルの一つに着地。

屋上には給水ポンプがあって、その隣に深い蒼色のガンプラが堂々と立つ。



魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory39 『蒼い魔導師』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『伝説の、ガンプラですって……!』

「そう……過去、全ホビー・スポーツ作品の始祖と言える、プラモ狂四郎という漫画があったのだよ。
ようはプラモを戦わせる作品なのだが、その中ではひときわ有名なオリジナル改造ガンプラがある」

「それまでのガンダムとは違う、スリットのないフェイス。トリコロールから外れた赤主体のカラーリング。
今では珍しくないデザインコンセプトだけど、それでもその機体は始まりを切り開いた。それがパーフェクトガンダムIII【レッドウォーリア】よ」

「でも、あれは蒼いですよね!」

「えぇ。プロデューサーはその先を行く、パーフェクトガンダム四号機としてアレを作ったわ」

「伝説のガンプラ、その先を……なんて大胆な」


でも、それは決してビックマウスじゃない。あのガンプラから感じるオーラは、確かにそう言ったものを感じさせる。

もっと言えば……挑戦心。そうだ、私はあれから前のめりな挑戦者をイメージしている。

それはアイドルにとっても、プロとしてやっていく上で必要な感情で……だからこんなに胸が震えているの?


ガンプラなんて、アイドルには関係ないはずなのに。でも違う……それは違うのだと、誰かにささやかれているようだった。


「恭文の、超本気モードなガンプラ……でもあれ、自分達の知ってる時よりもその」

「進化し続けていたというのか、彼そのものを示すガンプラは……ふ、面白い」

『こけおどしをぉ!』


そこで東豪寺さんのウイングガンダムが、バスターライフルを構えた。杏奈も、美奈子も見とれていたから、反応が遅れた。

近いのにフォローできず、あの強力な粒子砲撃が発射された。でもブルーウィザードは避ける様子もない。


「ちょ、なんで避けんのや!」

「当たる……!」


かと思っていたら、ブルーウィザードは右腕側面から黄色いビームサーベルを展開。それを振り上げ逆袈裟一閃……砲撃に向かって叩きつけた。

無理だ、あんなので防げるわけがない。結局伝説って言っても、油断してすぐやられちゃうんじゃ。


『な……!』

「え……えぇ!」


そう思っていたのに、刃は百メートル以上に及ぶ砲撃を両断。ビルの両側面を通り過ぎつつ爆発。

その衝撃が帯のように連なるけど、それも逆風に振るわれたサーベルで一瞬にして破裂。

爆煙の中、ブルーウィザードは天にサーベルを、右手を突き出すようにしていた。しかも、無傷……!


『麗華、僕に砲撃は通用しないよ? 知らなかったのかな』

「嘘でしょ! バスターライフルを……麗華の攻撃を防いだ!?」

「いいえ水瀬さん、あれは斬り裂いたのよ」

「はぁ!?」

「ヤスフミ君が得意とする砲撃斬りか。あのビームサーベル、なんという出力だ……!
あのブルーウィザードは、我々が知るものとは全く違う!」

「あ、あらあらー」


なんて、デタラメな戦い方なの。あれを斬るだなんて。どうしよう、悔しい……一体どうして、こんなに胸が熱いの。

悔しくて、情けなくて、でもドキドキして。ブルーウィザードは下手なアイドルよりもずっと、フィールドの中で輝いていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『麗華、ブルーウィザードはあたしに!』


来たか……アストレイのガンユニットはガトリングを展開し、こちらに掃射。軽く天井を踏み砕き、そのままビル内部へ突入。

頭上すれすれをガトリング弾が突き抜ける中、空洞状態のビル内部を落ちていく。すかさずDODS Vバズーカを再度展開し、チャージ。


『落下位置なら予測できる……!』

「こちらもね」


中空でバーニアを吹かせ急停止。りんから向けられる殺気――レールガンの息吹を感じながら。


『ファイア!』

「ディスチャージ!」


ホバリングしつつDODS Vバズーカを発射。螺旋を描くヴァリアブルシュートは壁を原子分解。

そのままレールガンの砲弾も受け止めかき消しつつ、二百メートル先のアストレイへと迫る。

しかしアストレイはその軽快な運動性を駆使し、素早く身を翻しながら回避。砲弾は幾つかのビルを抉り、地面にクレーターを作り爆発する。


……そのまま地面に降り立ち、堂々と外壁を蹴り破って外に出る。


「てーかりん、おのれ……マーキュリーレヴを持ち出すとは」

『面白いでしょー! あたしとピロートークしてくれたら』


そこで右側の道路から、アストレイが飛び出し突撃。素早くブルーウィザードを反転させ、左へのスウェーで回避行動。


『使う理由を教えてあげるよ!』

「アイドルがこんな場でなに言ってるの!?」


ツッコみながらも突撃を回避する。……その動きにはトオルの影が見えた。

そういやショットランサーはトオル、おのれの得意とする突撃戦法からだったね。


「なら僕も」


DODS Vバズーカにアーム経由で接続している、ショートビームライフルを取り出す。まぁこれも形態の一つだけど。

これはあるアイテムと一緒に、トオルが送ってきた武器ユニット。多機能なので僕は『マーキュリーレヴMk-II』と名づけた。

反転するりん……マーキュリーレヴMk-IIの銃身後部から、引き出し式の柄が素早く展開。


軽く物理法則とか無視してるけど、気にしてはいけない。とにかくその柄を両手で持って、頭上で回転させながらビーム展開。

円筒形の銃口から、ブルーウィザードの身の丈以上なサーベル刃が走り、周囲のビルを派手に斬り裂く。

マーキュリーレヴMk-IIは、マーキュリーレヴに負けないレベルの多機能武器……まぁ機能はちょっと絞られているけど。


パーツの組み換えでショートビームライフル、ガトリングガン、レールガンと換装可能。

そしてショートビームライフルは取り回しもよく、見ての通りバヨネットとしても活用できる。

だから僕はこっちメインで使っているんだけど……これはそれを活用した新形態。



「マーキュリーレヴMk-II――ザンバーモード!」

『それじゃあ止まらないよ! 恋する乙女は』


そしてりんは真正面から突撃――こちらもザンバーを構え、一気に加速する。


『強いんだ!』

「アイドルって事を忘れんじゃないよ!」


りんは全推力を傾けた突撃、僕はザンバーでの逆袈裟一閃で、周囲のビルをなぎ倒しながら激突する。

ただそうしながらも、二人への指示出しは忘れない。これはチーム戦だもの、僕一人で戦っているわけじゃない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


右腕は根本からえぐられ、両肩のシグマシスキャノンは粉砕……中破状態だけど、左腕一本あれば問題ない。

それにウイングガンダムのバスターライフルは三発のみ! 火力的には徹底低下してるもの! というわけで……!


「杏奈ちゃん、任せたー!」

『美奈子さん……弱気』


いや、さすがにこの武装だと援護が一番かなーって! とにかくハイウェイ上に乗っかったウイングガンダムを追い回し、シグマシスキャノン乱射。

行く手を阻むようにブッパするけど、相手も去るもの……ほんと、重力無視な軽やかさで逃げ続ける。

その行く手を杏奈ちゃんのアデルが阻み、ドッズライフル連射。でもそこでウイングガンダムがバスターライフルを構えた。


いやいや、それだと三発……かと思ったらエネルギーがチャージされる。あ、やばい。


「杏奈ちゃん!」

『ん……!?』


そのまま真正面からバスターライフル発射。プラズマ粒子はハイウェイの先を飲み込み、なぎ倒しながらも消失させていく。

そんな、四発目……! え、どうやって! いや、これはガンプラバトル……改造したに決まってる!


『甘いわね! グリップ部に真ちゅう線を仕込んで、本体と接続してるのよ! このバスターライフルに……弾数制限はない!』


えっと……本体からエネルギーをもらって、ズドンって事? おぉ、そんな手があったのか。

……って、納得してる場合じゃないー! 杏奈ちゃん……駄目ー! 姿が確認できない!

かと思っていると、ウイングガンダムの二時方向からビームが走った。咄嗟にウイングガンダムはバスターライフルを手放し退避。


ビームはバスターライフルを撃ち抜き、更にウイングガンダムの左腕とウイングを貫通。

その全てを中程からへし折りながら爆散。そのビームを発射したのは。


『それは……読んで、いました』


杏奈ちゃんのアデルだった。ギリギリで退避していたらしく、機体は無傷。


「杏奈ちゃん、ナイスー!」


かと思ったら、バスターライフルの爆炎を突き抜けサーベルが投てきされる。

杏奈ちゃんの攻撃直後、生まれていた隙を尽き、サーベルはアデルの胴体部を貫く。


「杏奈ちゃん!」


フォローする前にウイングガンダムが加速。一気に肉薄し、突き刺さったサーベルを確保……そのまま右切り上げ一閃。

胴体部を抉りきり、そのままアデルを蹴り飛ばした。嘘……フォローできなかった!


『やられたわ……だからお返しよ、ルーキー!』

『ん……やっぱり、強い』


そしてアデルは爆散。ウイングガンダムは不安定な機動でこちらへ振り返り、マシンキャノンとバルカンを乱射しながら接近してくる。

慌てて退避……恭文くんの位置も確認しつつ、ビル街を盾に逃げていく。でもウイングガンダムは不安定な機動ながら、より軽やかに動いていて。


『逃がさないわよ! さすがにりん一人じゃ荷が重いでしょうしねぇ!』

「く……!」


けん制にシグマシスキャノンを連射。でも全て避けられ、サーベルの乱撃でも切り払われる。

どうして……いや、考えるまでもない。連射でしっかりチャージしていないから! でも当てられる自信もない!

というかむしろ私は……そうだ、どうして忘れていたのか。むしろ私は……ホバリングを停止し、深呼吸。


マシンキャノンやバルカンが装甲を叩くけど、これでも頑丈な重装甲MS。それじゃあ落とせない……つまり。


『諦めがいいのか、なにか企んでいるのか……どちらにしても』


人機一体――恭文くんから教わった、動かす基本であり極意。自分の持っている経験も生かしていく事、それを短い間に教わった。

思い出して、こういう勝負なら私は『ずっと』やってきた。私の『レンジ』はどこか。私がガンプラに注(そそ)ぎ込める経験はなにか。

恭文くんは戦闘経験とか、豊富な知識をガンプラに込めていた。でも私はさすがに、そんなのない。


そう、実戦はない。でも私にはある……『戦いの記憶』が。振り下ろされるのは、右腕に持ったサーベル。

斬られたらもう反撃はできない。恐らく捕まえる事も……なら私の『レンジ』に誘い込むしかない。

そう、私のレンジはこの手が届く範囲。システム的なレンジ補正はないけど、目は鍛えている。


近年の高フレーム、コンボ要素や見切り……それに対応しようと練習し続けた、格闘ゲーマーとしての本能が目覚める。

指先は先の先まで予測し、呼吸よりも速く、瞬きよりも鋭く、そして重苦しい敗北のプレッシャーを跳ねのけるために動く。

だからウイングガンダムの動きをフレーム単位で見切り、振るわれる右手を取り……そのまま片手で一本背負い。


背後の地面にウイングガンダムを叩きつけ、素早く胸元を右足で踏みつけ……いや、その前に体が反応する。

フォートレスはけん制のマシンキャノンを下がって避け、ウイングガンダムは身を翻しながら立ち上がり、またサーベルを構えた。

大丈夫……やれる。ううん、やってみせる。やっぱりチームメンバーとして選んでくれた事は嬉しいし、期待には応えたいもの。


なにより、さっきはお姫様みたいに助けてもらったから……今度は私が頑張る番だ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


美奈子さんが追い詰められた。杏奈もやられて、もうこれは……と思ったら、信じられない事が起こった。

あの鈍重な体くが今までで一番、まるで流水の如くスムーズに動き、振り下ろされた右手をキャッチ。

そのままウイングガンダムの懐へ入り、細い体を背中で押し上げながら一本背負い。


強烈に地面へ叩きつけ、ウイングガンダムを一瞬スタン。……ウイングガンダムはもう一度飛び込み刺突。

でも結果は同じだった。また投げ飛ばされ、立ち上がりながらも再度踏み込み足払い。

サーベルで足が両断される、そう思った瞬間フォートレスが張り手。右薙に振るわれた腕を叩き、そのまま反時計回りに一回転。


ウイングガンダムがスタンしている間に、周囲のビルすらもなぎ倒す裏拳を放った。

ウイングガンダムも胴体部に直撃を受け、アーマーを砕かれながらもまた吹き飛び、地面を滑る。

その摩擦で片翼が擦り切れ、潰れて爆発。それでも立ち上がり。


『くそ……いきなりなんなのよ!』


逆袈裟にサーベルを振るう。でもやっぱり投げ飛ばされてしまう。初動が見えない……気づいたらウイングガンダムがビルに叩きつけられてる。

一体なにをしているの、美奈子さん! あんなボロボロな状態なのに、どうしてそこまで戦えるの!


『がぁ!』

「投げ技……で、でも美奈子って格闘経験とかはないよね! だったらなに! あの見切りは!」

「真ちゃん、あれ……凄いの? プラモの機能とか」

「違うよ! ちゃんと攻撃を見切った上で対処してる! 普通あそこまで捌けないよ!
あぁ……でもそうだ! アデルの時でも美奈子、格闘戦を好んでしかけてたじゃないか! むしろ砲撃よりこっちが得意なんだ!」


だったらどうしてフォートレス……って、体型でしたよねー! しょうがないか、そこは!

でも格闘……あ、そうか。星梨花達も気づいたみたいで、百合子に至っては拍手を打つ。


「そうです、格闘です! 志保ちゃん、格闘ゲーマーですから! それも腕前はかなりのもの!」

「そうだった。……いや、それであれだけ動けるのは驚異的なんだろうけど。空手有段者な菊地さんまで驚かせているし」

「そうでもないな。昨今の格闘ゲームは高フレームによる滑らかな動き、コンボや特殊ガード要素などが多く盛り込まれている。
いわゆる目押しに近いシステムを導入しているゲームもあるし、それならば美奈子君の動きも納得できる」

「むしろ目だけなら……って事か! 凄いぞ、美奈子!」


これもきっと、恭文さんが言っていた人機一体……どうしよう、やっぱり体が熱い。

というかこれは、本当にパフォーマンスなのかもしれない。自分の培ってきたものをガンプラで、バトルで表現する……そうだ。

ようやく分かった。どうして悔しいのか、どうしてアイドルとは関係ないと言い切れなかったのか。関係ないどころか、そのものだからだ。


歌やダンス、演技で表現するように、この作られたフィールドで自分を出しきり、最高のパフォーマンスを見せる。

ガンプラバトルもまた、アイドルのステージになり得るんだ。私はその魅力に、捕らわれ始めている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


機体が鈍重なのは否定できない。損傷もあるし……だから初撃、それを逐一潰していかなきゃいけない。

それで長く持たない。相手もかなり強いわけで……超必殺技を、使うしかあるまいて。

ビルの瓦れきから抜け出したウイングガンダムは、既にボロボロ。衝撃で関節部もあっちこっち火花が走っている。



『さすがに蒼凪恭文が、選出しただけはあるわね……でもねぇ!』


そうしてまた突撃。翼がへし折れ、機動性もガタ落ち……それでも、それでもファイターの執念に後押しされ、ウイングガンダムは飛ぶ。

まだレンジ外だ。恐らく次の行動は……マシンキャノンとマシンガンで頭部に集中砲火。

予想はしていたから、避ける事自体はたやすい。でも避けたら、次に繋がらない。


だから避けずに全て受け、結果頭部は蜂の巣になって爆散。カメラ映像も一瞬消失する。フォートレス、ごめん。

作ったばっかりで、すっごくボロボロにして……痛いよね、苦しいよね。でもね、もうちょっとだけ付き合って。

直感に従い、映像もない中背後へ振り向き、更にしゃがみ込む。そうして表示されるダメージ警告。


背中がサーベルによって抉られたっぽい。でも貫通はしていないし、表面上だけ……まだいける!


『これを、避けた!?』


メインカメラからサブカメラに切り替わり、映像は乱れたものの復帰。やっぱりウイングガンダムはフォートレスの背後に回って切りつけていた。

そのまま股間に腕を回し、突撃してきた勢いも加味して持ち上げ……地面に頭から叩きつける!


「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


頭部はコンクリの道路と正面衝突し、首をへし折りながらも粉砕。小さな爆炎が生まれる中、とどめの一撃。

逆さ状態なウイングガンダムに組み付き、そのまま最大ブーストで上昇。五十メートルほど飛び上がったところで、回転しつつ高速落下。


「スクリュー……!」

『ちょ、待って! これガンプラバトル! アンタ』

「パイルドライバァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

『このクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


とか言うので、この隙に分離ー! 頭部は吹き飛んでいるけど、その近辺のスラスターや機首が胴体部から分離。

高速回転の勢いに流され、思いっきり吹き飛んじゃう。……実はAGE-3、頭部近辺と首から下で分離できる。

頭部近辺のは【コアファイター】、首から下がフォートレスだと【Gボンバー】。コアファイターは緊急脱出用でもあるんだっけ。


とにかくGボンバーはウイングガンダムに組み付いたまま……苦し紛れの刺突を胴体部に受ける。

もうそこには誰もいないのに。それに気づいたからか、東豪寺さんが小さく声を漏らした。


『……あ』


そして地面に衝突……ウイングガンダムの胴体部、更に肩も勢い任せに叩きつけられ、ひしゃげて粉砕。

更に限界を迎えたGボンバーが爆発し、ウイングガンダムは逃げる事もできずそれに巻き込まれ誘爆……炎の中へ消えた。


『嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


かく言う私はコアファイターを制御し、なんとか空中で制止。その様子を見て、静かに息を吐く。

「……わっほい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ブレードでの切り抜けを払い、振り返りつつザンバーの切っ先を向け弾丸乱射。バヨネットだからねー、こういう事もできるのよ。

アストレイはビルを盾にしつつかいくぐり、十時方向から再び強襲。突っ込む……かと思ったらまずはレールガン。

スウェーで避け、背後のビルが貫かれ崩壊する中、アストレイはショットランサーを突き出しながら加速。


こちらも飛び上がり、ザンバーで唐竹の斬撃を放ちながら交差。なお展開するサーベルはやっぱりDODS効果を得たもの。

その切れ味、出力はやっぱり今までのものとは桁外れで、だからこそショットランサーは、ソードユニットは両断される。


『ちぃ!』


……すると背後から突如警告音。嫌な予感に従いザンバーを手放し、右腕のサーベルを展開しながら跳躍。

取り回しはさすがに悪いから、こっちじゃなきゃ間に合わない。その読みは実に正解だった。

錐揉み回転で突如襲ってきた『刃二本』を払う。それはフライトユニットに装備されていた、あの増設スタビライザー。


それもふわふわと浮遊し、着地したブルーウィザードを再度襲う。その軌道を読み切り袈裟・逆袈裟と払うも、刃は弾かれ、すぐに体勢を立て直す。


「おいおい、ありゃなんだよ!」

「ビット……いや、ドラグーンか」


まぁビット兵器ではあるんだけど、ガンダムSEED内ではドラグーンと呼ばれているので。

しかもスラスターとカラーリングを重ね、スタビライザーに見せているところが悪質。

とにかく切り払った直後、ビームガンの連射が襲う。全て左腕のシールドで受け止め防ぐと、アストレイが突撃。


ガンユニットからショットガンを展開し、こちらの腹へ突き立てる。でも発射前に右腕のサーベルで逆風一閃。

ソードユニットも両断し、蜂の巣だけは避けた。すかさずアストレイはマーキュリーレヴを破棄し、右飛び蹴り。

胴体部を蹴られ地面を滑ると。


『ダガードラグーン!』


再びドラグーンが襲ってきたので、両手をスナップさせ……軌道を読み切り左右のスウェーで回避。

でも交差する瞬間、両手を伸ばしダガードラグーンの柄を掴む。よしよし、逃げるなー、暴れるなー。


『なにぃ!』

「いい武器だね。ちょっと借りるよ、永遠に」


しっかり握った状態で、突撃してきたアストレイに相対。アストレイは両手でバックパックのサーベルを抜き出し、こちらに投てきしていた。

それを逆手に持ったダガードラグーンで払いのけると、今度は頭上を取りながらビームガンの砲身を握り……抜刀。

そのまま唐竹一閃を放ってくるので、ダガードラグーンで刃を受け止める。なるほど、ビームサーベルと兼用だったのか。


『永遠はちょっとじゃないぞこらー! というか、相変わらず腹が立つくらいに強いし!』

「当然でしょ。だから」

『大丈夫とか言わないでよ、馬鹿ぁ!』


アストレイはサーベルを引き、そのまま後退。刃を構えつつ半身となり、りんは静かに呼吸。

さっきまでの打ち合いが嘘のように、場は静寂に包まれる。……次で決まりか。

しかしどんだけ、作り込んでいたのか。あははは、最近自信をなくすような猛者ばっかりで嬉しい限りだわ。


でも、だからこそ伝わる。りんが僕の事、めちゃくちゃ心配して……行動がひっちゃかめっちゃかになるほど、心乱してくれていた事が。


『……分かってるよ。アイドルとして全力で、夢を追いかけていく事を……望んでくれてるんだって。心配って、押し付けてるだけだって』

「心配、かけてるとは思う。でも孤軍奮闘してるわけじゃないし、続いていた因縁を払うだけだから」

『それでも……それでも心配するに決まってるよ。ねぇ恭文』

「なによ」

『あたしはアンタの危機を見過ごせっていうの? なにもせず、どうせ大丈夫だろうと油断して……笑っていろって』


……その言葉がまた突き刺さる。フェイト絡みで手を払って、後悔した事があるから。だからまぁ……困り顔で頭をかく。


『アンタは絶対そんな事、しないよね。逆の立場なら無茶苦茶やりつつついてくるに決まってる。
あの時だってそうしてくれた。あむ達と一緒に……だから、あたしもそうするの』

「りん」

『自分に胸を張りたいから。もう、俯いたりしたくないから。……だから、一生側にいてやるんだから!』

「……分かったよ」

『……え』

「それを言われたら、僕には反論できないじゃないのさ。ありがと、りん」


りんは返事の代わりに、アストレイを全力疾走させる。なのでダガードラグーンを地面に投てきし、深々と突き刺し跳躍。

更に踏んづけしっかりフィールドに埋め込みつつ。


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「隙あり!」


まずは右のサーベルを展開し、右薙一閃でりんの袈裟一閃を払いつつ交差。やっぱり出力が半端ない。

すぐに振り返り、シールドに増設したサーベル発生器からビーム展開。今度はピンク色の隠し刃が生まれ、右切上一閃。

アストレイの左刃と衝突するも、DODS効果の恩恵からアストレイのサーベルは散らされ、霧散する。


アストレイはすぐサーベルを再形成し、ダガーサイズとする。取り回しを重視した刃で、素早く追撃と言ったところか。

両腰のサイドアーマーを操作し、その砲口を向けた。いわゆるハイパービームソードなんだけど、ドッズガンとしても使えるよう調整してある。

そこから不意打ちで放たれたビーム二発が、アストレイの胴体部を襲い貫通。


『な……!』

衝撃であお向けに倒れかけるアストレイ、そんなアストレイに、DODS Vバズーカを向けた。

既にエネルギーはチャージし終えている。最大出力……掛け値なしの全開で。


『この』

「ディスチャージ!」

『外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


なんか凄い事を言われたので、躊躇いなくヴァリアブルシュート発射。結果アストレイは直撃を食らい、そのまま爆散する。


≪――BATTLE END≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バトルは無事に終了。そして終わればノーサイドで、『ありがとうございました』と健闘を讃え合う。

そんなわけで終了後は、みんなで仲良くガンプラの補修。ブルーウィザードもちょこちょこ傷ついてるし、しっかり修理しないとねー。


「ちくしょー! ひどいひどいひどいひどい! 恭文の鬼畜! 外道! ショタ!」

「なによいきなり」


隣のりんはなぜか荒ぶり、春香達も微妙な視線を向けてくる。更にともみもとても嫉妬深い目でこっちを見ていた。


「だってあんな事言っておいて、油断させてさ! しかもドラグーンは地面に埋めて踏みつけるって!」

「失礼な。まるで僕が勝利のため、あんな事を言ったみたいじゃないのさ」

「その通りじゃん!」

「そんなわけないでしょ。ちゃんと連れていくから」


さすがにそれはないので、手を振りながら否定。するとりんはともみと一緒に目をぱちくり。


「ほ、ほんとに? でもあたし達」

「言ったでしょう、『ありがとう』って。……でも徹底的にこき使ってやるからね」

「……うん!」

「恭文さん……!」


すると二人揃って左右から抱きついてくるので、軽く離れ……られない! 腕を押さえられてるんですけど!

それ以前に圧力が……ちょ、やめて! 理性が飛ぶ! これは理性が飛ぶー!


「くっ……くくくっ、くっ」

「恭文、やっぱりすっごく大きい方が好き……なんだな」

「ひんそうで、ちんちくりんで……うぅ」

「あらあら、あらー」

「はははははははは……おのれら、黙れ?」


それでもあずささん達に笑顔と殺気をプレゼント。全員揃って冷や汗だけど……当然でしょうがぁ!

まぁまぁりん達も非常にアレだったけど、元はと言えばおのれらがとんでもない勘違いをしたせいだからね!?

なので視線で『座れ』と命じ、全員正座……よし、よく分かってるね。今日はずーっとそのままでいなさい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


頭部、Gボンバー……派手に壊れたなー。でも予備パーツもあるし、修理自体はすぐなんとかなりそう。

東豪寺さんのウイングガンダムも同じくで、あれこれ教わりながら修理しています。いや、ガンプラバトルっていいかもー。


「しかしあなた……スクリューパイルドライバーって。え、ザンギエフ?」

「はい、ずっと使ってるんです!」

「それならむしろ、装飾の少ない機体がいいように思うけど。本領は格闘戦でしょ、あなた」

「確かに……でも」


そうして修理中なフォートレスを見やり、納得しつつも軽く撫でる。うん、やっぱりフォートレスももっと一緒に……だよね。


「砲撃も楽しいですし、この子も目いっぱい使いたいなーと」

「そっか。それはいい事ね、大事にしてあげなさい」

「はい! ……それはそうと」

「……お願い、私にツッコミをさせないで」

「プロデューサーさんでもあるのに! でもついていく……メイドさん……そうか!」


ハッとし、立ち上がりガッツポーズ。そうだ、その手が……その手しかなかった!


「分かったよ、恭文くん! 私もメイドさんになる!」

「「……はぁ!?」」

「だってほら、そうすれば自然と恭文くんの体型改善もできるし」

『駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


なぜか全員に止められてしまった。おかしい、私は変な事を言ってないはずなのに……とにかく、こんな感じで交流戦は終わった。

でも今後も継続していくと決定し、志保ちゃん達も気合いが入った様子。うん、志保ちゃんが一番凄かった。

『次は私も、自分のガンプラを作って持ってきます』とか言ってたし。そうだね、バトルって……やっぱり楽しいものね。


(Battle40へ続く)








あとがき


恭文「というわけでバトル決着……りんのアストレイも作っていて、ちょっと大変だった蒼凪恭文と」

りん(アイマス)「朝比奈りんでーす!」

恭文「みなさん、ティアナ脱走・六課崩壊ルート第一巻、ご購入いただきありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「絶賛販売中ですので、もしよければよろしくお願いします」

りん(アイマス)「よろしくお願いします……あたし、出てないけど」

恭文「……おのれはしょうがないでしょうが。とまかのベースだと、十一月頃登場だし。まだ知り合ってないし」

りん(アイマス)「でもこっちでは違う! これで本編でも……きゃー! そんな、毎日だなんてー! でも嬉しいかもー!」

恭文「おのれはなにを想像してるの!」


(とまとは阿澄佳奈さんボイスも多く登場しています)


恭文「あー、そうだね。ランとユーリ、アイシスもそうだし、最近噛ませ犬として負けてしまったシャンテも」

りん(アイマス)「あの試合については言わないであげようよ。だってあれ、相手が悪すぎて……というかシチュも」

恭文「だから判定勝ちを狙えとアレほど言ったのに。というかずっと隠れているだけでも問題ないでしょ」

りん(アイマス)「言ってないよね!」

恭文「え、じゃあ事故に見せかけて反則行為とか」

りん(アイマス)「その『格闘漫画でよくある中堅キャラ』的なのは出さなくていいよ! アンタはIMCSになにを求めてるわけですか!」

恭文「……血?」

りん(アイマス)「グラップラー刃牙でも読んでろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


(げし!  ……でもとまとではクラッシュエミュレートとか省いたので、血は見られます)


恭文「漫画で読んでる時は『格闘大会としてどうなのか』とか思ってたけど、アニメで改めて見ると分かりやすくてアリだったかもと思った件」

りん(アイマス)「……グラップラー刃牙とかと比べるからアレなんだよ。とにかく、あたしと恭文のガンプラ設定ー」

恭文「ガンダムとか詳しくない人にも分かりやすくと心がけた結果、長くなったしねぇ。とにかくこんな感じでしたー」


◆◆◆◆◆


シビリアンアストレイ SAフレーム

朝比奈りんが『HG GUNDAM SEED ガンダムアストレイレッドフレーム(フライトユニット装備) 』をベースとし、作り上げた新作ガンプラ。

一部に『HG ガンダムアストレイ ゴールドフレーム天ミナ』のパーツも使用。

『ジャンク屋同盟が開発した【シビリアンアストレイJFカスタム】を、オリジナルアストレイ改造パーツでカスタマイズした』という設定になっている。


フェイス部はガンダム特有のスリットをなくし、両肩部にはビームバーナーにもなるトーチ基部を設置。

フライトユニットには『ダガードラグーン』二本を装備し、手持ち武器としても利用できる。

軽量かつ可動性に富む機体特性を殺す事なく、近接戦闘に比重を置き手堅く仕上げた機体である。


SAフレームというのは『Satan Angel(魔王エンジェル)』、又は『Slash Assault』のダブルミーニングとなっている。


※武装

ビームトーチ:バックパック、及び両肩部に設置されている武装……ではなく作業用トーチ。決してビームサーベルではない。

両肩部のものは出力を絞る事で照射する、固定式ビームバーナーとしても使える。決してビームガンではない。

SEED世界では民間MSの武装化は基本禁止されているため、このような設定となっている。


ダガードラグーン:フライトユニットに設置した、遠隔誘導も可能とする作業用ダガー。

こちらも武装ではなく、あくまでも作業用。遠隔誘導も紛失・事故防止のためとしている。


マーキュリーレヴ:ユウキ・タツヤが夏休みに出会った、『サツキ・トオル』からもらったオリジナル武器。

どのようなガンプラにも装備する事が可能な多機能武器ユニットで、その場にいた恭文とヤナも同じものをもらっている。

遠距離戦闘用ガンユニット、近距離戦闘用ソードユニットのニ種類があり、合体・分離機能まで有している。


接続はガンプラでよく使われる三ミリ軸。なのでバックパックなどに軸を介し持たせる事も、シールド用接続パーツなどで装備する事も可能。

ガンユニットにはガトリングガン、ロケットランチャー、ショットガン、ロングレンジライフルの四種類が搭載。

ソードユニットにはレイピア1・2、ビームサーベル、アーミーナイフ、ブレード、ノコギリの六種類が内臓。


りんはこれも『作業用ツールであり、リミッターによりふだんは戦闘機能を封印している』……という設定にしてある。

しかしどこからどう見ても戦闘用装備なので、麗華などからは『さすがに無理がある』とよくツッコまれる。



◆◆◆◆◆


PF-78-4R ブルーウィザードR

恭文がエキシビションマッチの経験を生かし作り上げ、ガンプラ塾バトルトーナメントにて使用したオリジナルガンプラ。

それにAGE-1リペアII、クロスボーンGRなどで得られたノウハウを注(そそ)ぎ込み、徹底改良したのが本機である。

設定上はパーフェクトガンダム四号機という事になっており、ここは『イオリ・タケシ』が初代ガンダムの使い手である事にも起因している。


ボディデザインはレッドウォーリアと大差ないが、カラーリングは魔力光の蒼へ変更。

武装は小型シールド内側にバルカンや二連装キャノンなどを仕込み、バックパックはアーム接続により、更なる武装追加が可能。

更に外伝作品の【ヘイズル】シリーズを元に、可動式ブースターポッドを装着。


元のレッドウォーリアと同様に【軽量かつ高推力】をコンセプトとし、凄まじい高機動性を発揮する。

そのキモは両肩上の可動式ブースター。レッドウォーリアにも搭載されているものだが、恭文はよりコンセプトを煮詰め、改良を施している。

更にブースターポッドには三ミリの接続軸も仕込んでおり、更なる武装強化も可能である。


Rはあえて振り仮名を設定せず、様々な意味で受け取れるようにしている。主な意味はリファイン、リーゼ、リベンジなど。

恭文はオリジナルにはない武装を追加し、多武装・高機動型とした……が、それゆえにその扱いには高い技量が必要となる。

結果戦闘経験豊富で、多機能な武装の扱いにも慣れている恭文しか使いこなせない、正真正銘の『専用機』となった。


※武装

頭部76.5ミリバルカン砲:ガンダムではおなじみのバルカン砲。ミサイル迎撃、けん制等様々な状況で活用できる。

なお経口は付き合いも深い『765プロ』から取っており、恭文なりの遊び心である。


ビームサーベル:右下腕外側に固定している、レッドウォーリアでもおなじみな近接装備。

AGE-1の改良で得られたDODS効果により、それまでとは比べものにならないほどの出力を獲得した。

更に恭文自身が会得している戦闘スキルも用いる事で、バスターライフル級の攻撃すら斬り裂く『鉄輝』となる。


小型シールド:機動性を重視した結果、小型化したシールド。防御範囲は極めて狭いため、的確な見切りによる運用が必要。

内側にバルカン砲、二連装キャノンをそれぞれ二門ずつ、更にサーベル発生基部も備えた複合装備となっている。


ハイパービームソード:両腰アーマーにセットされた近接用武装。基本サブウェポン的な側面もあるが、ドッズガンとしても運用可能。

セット状態でサーベル発生部を向け、サーベル展開、又は射撃なども行えるオールマイティーな調整がされている。


三連ミサイルランチャー:胸部スロットに仕込んだ隠し武器。けん制や不意打ちなど、その用途は幅広い。

基本は自動誘導による一般的なものだが、用途に応じて砲弾の種類変更も視野に入れられている。


180mキャノン:陸戦型ガンダム、又は外伝ゲーム出典機体【ペイルライダー】にも装備されている、折りたたみ式長距離砲。

超射程と高い攻撃力を持ち、砲撃支援用として優れた兵装である。しかし反動から制止射撃が必要とされ、運用の難度も高い。

ブルーウィザードではペイルライダー同様、アームを用い折り畳み状態で懸架。必要に応じて展開する方式を採っている。


DODS Vバズーカ:レッドウォーリアの主武装でもあったハイパーバズーカを、DODS効果で強化できるよう改良した専用武装。

その特徴はティアナがStrikerS第三話で使った、『ヴァリアブルシュート』を再現できる事。

実体砲弾にDODS効果持ちのエネルギーフィールドをくるむ事で、あらゆる防御フィールドを突き抜け、本命の砲弾を直撃させる事が可能である。


マーキュリーレヴMk-II:タツヤと恭文の親友でもある、『サツキ・トオル』が送ったパーツの一つ。

パーツの組み換えによりショートビームライフル・ビームガトリングガン・レールガンに換装可能。

更にショートビームライフルではサーベルを展開しバヨネット、柄を接続しジャベリンとしても運用できる。

本来は『本命パーツ』のおまけに近いもので名前もなかったが、恭文がその万能性から思い出深い『マーキュリーレヴ』の名を与えた。

恭文はショートビームライフル形態で、DODS Vバズーカに接続。様々な場面で活躍させる事となる。



◆◆◆◆◆


りん(アイマス)「……恭文、武器が多すぎる」

恭文「コマンドーだよ、コマンドー。備えあれば憂いなしって言うでしょ」

りん(アイマス)「こち亀の某キャラじゃあるまいし!」

恭文「そしてりんがアストレイ……でも民間用の改造機体という。ちなみにオリジナルアストレイの改造パーツ、マジで出ています」

りん(アイマス)「ただし本人達に間違われるかもだから、自己責任でーってやつだね。
それで実際に改造機体の見せ合いっこというか、そういう寄り合いみたいなものがあったりして」

恭文「こういうのも楽しいよねー。トーチだから原作であったような応用もできるだろうし」

りん(アイマス)「うんうん! 実はそれをやる予定なんだー! ……どっかで」


(予定は未定です)


りん(アイマス)「というわけでこれからよろしくね、ご主人様ー」

恭文「待て待て! メイド設定を持ち出すな! というか美奈子がー!」

りん(アイマス)「……ねぇ、あの子はどうしてちょいちょいヤバい描写が出るの?」

恭文「僕も分からないよ!」


(そして、佐竹美奈子の戦いは永遠に続くのでした。……そしてファビアがエグい。
本日のED:Vivid『REAL』)


りん(アイマス・本編)「というわけでご主人様、よろしくお願いします」

ともみ(本編)「よろしく、お願いします」

恭文「……なぜ、マジで近所に引っ越してきてるの?」

フェイト「ヤスフミ、やっぱり……そ、そうだよね。りんちゃんとは凄く仲良しさんだったし。うん、私も奥さんとして頑張るよ」(ガッツポーズ)


(おしまい)






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あきゅろす。
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