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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory36 『青い涙』


「――律子、これ大丈夫なの!? 普通にクロスボーンとかじゃなくて、同じ素組みって!」

「私に言われても困るわよ! こ、これで負けたりしたら問題なんじゃ……!」

「まぁ、印象はよくありませんよねぇ」


困っている間に、恭文君……アデルはビーム弾幕に突っ込む。嘘、真正面から!? さすがに無茶すぎよ!

でも次に訪れたのは、撃墜による納得ではなく……現実を認められず生まれた、驚きだった。

次々放たれる回転ビームを、アデルは急加減速やスラローム、バレルロールを駆使してすり抜けていく。


『な……! アレで当たらんって!』

『う、動きが速すぎて追いつけませんー!』

『……散開して!』


アデルの一機に恭文君が肉薄。みんなが望月さんの声で離れる中、その一機は完全に遅れてしまう。

恭文君は左サイドスカートのビームサーベルを、左手で逆手に持って展開。右薙の斬り抜けで敵の胴体部を断ち切る。

その上囲まれながらの射撃網をたやすく抜け、一機目を撃破してしまう。一瞬の早業で、認識が追いつかない……!


『嘘、なにもできなかった!?』

『百合子ちゃん!』

『百合子、反応が遅い! それと』


更に恭文君は振り返り、自身の十時・二時方向へ連続射撃。立ち止まって、攻撃し続ける二機にビームが迫る。

距離にして五百メートル以上。なのに、とても正確に……まるで吸い込まれているかのような軌道だった。

それも追撃の射撃が飛ぶ中、回避行動を取りつつよ。でも逆に二体は避けられず、ライフルごと胴体を吹き飛ばされ爆散した。


『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『嘘やろ!』

『可奈、奈緒も棒立ちで射撃しない!』

『でぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!』


そこで佐竹さんの声……でも恭文君はとても冷静に身を翻し、七時方向へ左後ろ回し蹴り。

回り込んでいた佐竹さん機を蹴り飛ばし、近距離での斬りつけを容赦なく払った。


『美奈子は踏み込みが甘い!』


とか言いつつ、恭文君は急降下。望月さんの射撃から退避し、雪の上を滑りながら森林地帯へと突入する。

雪の波が走る中、望月さんと一緒に北沢さんも射撃継続。でも木々に阻まれ、更に恭文君もその中に消えて全く手ごたえがない。


『く……なんなの! 素組みだって言ってたのに!』

『まさか中身だけ別物……じゃないよね』

「り、律子……!」

「甘かったわ、私達! 恭文君、容赦なく潰しにきてる!」

「……あらあらー」


とか言っていると、森から恭文君が浮上。すかさず全員が狙いを定めるけど……それは機体じゃなかった。

色合いが本体と同じだから、すぐには気づかなかった。あれはシールド……そう、シールドを投てきしただけ!

でもみんな、すぐには気づかずビームを乱射。距離があったせいもあるけど、それだけじゃない。


バトル――戦いそのものに慣れていないせいよ。だから防御装備を投げ捨てるなんて、思考になかった。


『待って……! アレ、シールド!』

『え……あ!』


望月さんが気づき、北沢さんも息を飲む。そう、全員の注意がシールドに捕らわれた。

その隙を狙い、恭文君が急加速。地表すれすれに木々をくぐり抜け、森から飛び出る。

まずは佐竹さん機の下を取り、すれ違いざまにライフルで射撃。真下から佐竹さん機を撃ち抜き爆散させる。


『ちょ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


そんな恭文君から、望月さん機はスラロームしつつ後退。更にけん制射撃が飛ぶけど、恭文君のアデルは急停止。

跳ねるように飛び上がり、雪がまた舞い散る。そんな舞い散る雪を突き抜けるだけで望月さん機のビームはあらぬ方向へ飛ぶ。

それを幾度も繰り返すと、雪の地面が破裂しまくる。それに惑わされ、北沢さん機が完全に停止。


そんな中、雪のカーテンをかいくぐってビームが走る。あれはライフルの射撃……じゃない!

ビームサーベルそのものを投てきしてきた! ……恭文君のアデルから、鋭く投げつけられた刃。

それは戸惑っていた北沢さん機の胴体部を遠慮なく打ち抜き、機能停止へと追い込む。距離は百メートル単位で、姿も見えなかっただろうに。


『え……!』

『志保は連携が甘い! もっと味方との距離を考えて!』


何度目かの爆発が走ると、ビームサーベルも炎に煽られ飛んでいく。それに跳びかかり、アデルはキャッチ。

そのまま同じく戸惑っていた箱崎さん機の背後へ着地し、振り返りながら右薙一閃。胴体部を両断してしまった。


『星梨花も同じく! もっと周囲をよく見て!』

『は、はい!』


天使だろうと容赦なし……これが悪魔の所業。そして残るは望月さんだけ。望月さんは腹を決めて、左手でサーベルを取り出し加速。


『杏奈は目もいいし、動きも悪くないから』


恭文君も迎え撃って、二機は交差する。お互い袈裟に刃を振るった瞬間、両断されたのは……望月さん機だった。

嘘、ほぼ同時だったはずなのに、どうして! 明らかに恭文君のアデル、みんなのより強いじゃない!


『ガンプラについてもっと詳しくなろうか。ガンプラでできる事、できない事をちゃんと理解したら、もっと強くなれるよ』

『……ほんと、に?』

『もちろん』


驚きと疑問に苛まれながら、最後の爆発を見届ける。嘘……本当に、ほぼ同じ条件で勝っちゃった。


≪BATTLE END≫


そして粒子が消えていき、フィールドもなくなる。ベース上には関節部が外れたガンプラ達……その中で無事なのは、たった一機だけだった。

シミュレーションって本当に壊れたりはしないみたいで、そこはちょっと安心する。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory36 『青い涙』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪BATTLE END≫


そして粒子が消えていき、フィールドもなくなる。ベース上には関節部が外れたガンプラ達……その中で無事なのは、たった一機だけだった。

シミュレーションって本当に壊れたりはしないみたいで、そこはちょっと安心する。


「や、恭文君……一応聞くけどそれ、本当に素組みなのよね」

「そうだよー! 明らかに性能が違ってないかな!」

「素組みだよ。ただし基本工作の精度が違う。例えば志保、ドッズライフルのスコープ部分、シールがズレてる」

「えぇ!」


慌てて私達も近寄り、北沢さんのライフルを見る。……あ、ホントだ。ちょっと斜めになってる。


「ほ、ほんとだ。え、戦いながらどうして気づけたんですか!」

「自分でも作ったものだし、そりゃあ分かるって。奈緒はゲート跡の処理が適当で、肩の辺りに段差ができてるでしょ」

「……あ、ほんまや!」

「まぁ初めて作ったものだし、しょうがなくはあるけどね。でも同じ素組みでも」


動揺するみんなや私に、恭文君は自分のアデルを見せてくる。それを借りてちょっと見比べてみると、確かに違いがあった。

シールも歪みなく奇麗に貼られていたし、パーツもきっちりはめ込まれている。こう、なんかレベルが一つほど違うのよ。


「……わたし達のに比べて、切った跡が目立ってないです。それになんだかツヤも違う」

「ほんまや。プラスチックっぽい感じとちゃうで。え、これどないしたん!? 色塗ったりはしてないんよな!」

「作り方次第で性能差が出てくるんだよ。ちなみにこれは基本通りに作ってから、メラミンスポンジで磨いてつや消しにしてある」

「メラミンスポンジ? 洗剤がいらないスポンジとかに使われているのよね」

「……そういえばその手のスポンジって、研磨剤でもありましたよねー。私、そうとは知らないでお皿を磨いてこんな風にした事が」


そう言えばそんな事書いてたような。プラスチックで使うと、艶が消えちゃうって。

そっか、それでよりメカっぽくなっているのね。素組みは素組みだけど、一手間加わってるんだ。

……ちょっと待って! その一手間であれだけの性能差が出たっていうの!? そんな馬鹿な!


「そうですそうです。あとは単純に場数と、ガンプラの限界値を理解しているかどうかですね」

「限界値?」

「最近のガンプラはバトルシステム普及もあって、可動範囲などもかなり凄くなってるんですよ。
このアデルやAGE-1もその筆頭です。ただ……それでも人間の動きそのままというわけにはいかない」


それが限界値。でも一体どういう意味があるのかと一瞬考えるけど、ラジコンという印象を思い出した。それで意味が分かって、拍手を打つ。


「あ、なるほど。ガンプラでできる動き、できない動きを理解すると、より効率的に動かせるのね」

「その通りです。ただ理解自体は難しい事じゃないんですよ。作っていく中で、自然と覚える事ですから。
あとはそれを意識できるかどうかだけ。……というわけで体感してもらった通り、同じ素組みでも作業精度によって性能は変わる。
更に幾らガンプラがよくても、自機の得手不得手、及び戦術そのものを理解してないと今みたいにやられるわけだよ」

「……すみません。私、とんでもなく失礼な事を」

「別にいいよ、そこを理解してもらうための実習だったわけだし。……よし、じゃあここからは各自、自分の機体を手直ししてみようか。
ちょうど律子さんが塗装用の機材なんかも用意してくれてるし、簡単フィニッシュでパワーアップだよ」

『はい!』


恭文君が私を見るので、早速準備していた塗料やガンダムマーカー、コートスプレーなどを取り出し作業机に置く。

指導は恭文君に任せ、急に乗り気なみんなを見てついほころんでしまう。なんかこう、一気に進んだーって感じなのよね。

疑問いっぱいだった北沢さんまで、一生懸命になっちゃって。あずささんと真も、その様子を嬉しそうに見始める。


千早もちょくちょくきてくれる事になったし、これで我が社の体制は整ってきたかも。


「あらあら、元プロデューサーさん……ちゃんと考えてこれだったんですねー」

「相変わらずというか、恐ろしいというか。目標提示と人心掌握を一気にやっちゃうなんて」

「まぁ、それだけじゃないけどね」

「律子、それって」

「みんなのチームワークも確認してたのよ。初心者なりに連携するかーとか」

「……あぁ、だから律子は後でと」

「私がいると、私中心でまとまっちゃうしね」


……でもあの様子だと、そっちは駄目っぽいけど。まぁ連携の仕方、戦術についてさっぱりだったせいもあるしなぁ。

だからね、そこまで専門的な形では見てないと思うのよ。こう、みんなの距離感とか……っと、いけない!

私も教えてもらわないと! 勉強するって決めたのに、率先して動かなくてどうするのか!


慌ててみんなの輪へ入って、恭文君に指導をお願い。更にあずささん、真も加わって……楽しい工作タイムはスタートした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


委員長へのレクチャーも三日目――まずはレイジ主導で基礎操作から練習。歩かせ、走らせ、ブーストし、敵に狙いを定める。

これもガンプラ(ベアッガイIII)が完成しているからこそ。僕の担当は予備パーツ作成や補修関連について。

エントリーした大会はトーナメント形式だし、どうしてもビルダー能力も問われるから。


元々委員長が真面目な事もあって、思っていたよりは順調だった。特にガンプラの補修関係はね。

ほら、元々AGE-1やジェノアスでやってた事だから。……それは言い換えれば、多くの時間を操縦技術向上に費やせるという事。

ただ……もし、もしもそんな状況で一つ問題があるとするなら。


「だから……そこはガーッと言ってバーっとやるんだよ!」

「レイジェ……! それじゃあ分からないって! 委員長はバトル経験三日目だよ!? もうちょっと理論的にさ!」

「分かりやすいだろ! 小難しい用語を並べたって、チナが理解できると思うか!? ちなみにオレは無理だった!」

「……あー、ガンダム関係の知識だっけ。まぁ、それはそうだけどさぁ」


レイジの教え方が今ひとつ……委員長に伝わらない。ニュアンスは分かるんだけど、それをビシッと捉える経験がないからなぁ。

レイジも特訓の経験から、感覚的なのを優先してるんだろうけど……委員長が戸惑ってるし。これがニュータイプの感性か。


「イ、イオリくん……それじゃあレイジくん、どうやって操縦を覚えたの?」

「レイジはビルドストライクを無茶苦茶に動かして、すぐ覚えた。可動範囲とかも含めてね」

「簡単だろ、それくらい」

「わたしには無理だよー!」


ですよねー! どうしよう、もうちょっと目線を合わせた教え方が……でも僕は操縦できないし、レイジもアレだし。

恭文さんと千早さん……は頼れないよなぁ。えっと、我那覇響さんの仕事絡みで忙しいらしいから。


「……セイ、いっそ大会までお前がつきっきりで教えたらどうだー?」

「「なんか見捨ててきた!?」」

「いや、改めて考えたら……オレ、空気読めてなかったかなと」

「「なにが!?」」


それは本気でわけが分からない! え、どういう事!? なにが空気読んでないのかな! 分からない――この感じ方がオールドタイプだったのか!


「……ああもう、見てられませんわ!」


そこでいきなりバトルルームに飛び込んできたのは、金髪ウェーブ髪の外人さん。

青いタレ目を細めながらプラモを一個持った上で……あれ、この人って見覚えが。更に慌てた様子で母さんも入ってきた。


「あのお客様、まだお会計がー!」

「すぐ終わらせますわ! 先ほどから様子を窺っていれば……なんたる体たらく! あなた、世界大会の準備もせずになにをしておりますの!」

「は、はいー! ごめんなさいー!」

「なにをしているのかと聞いておりますの!」


その人は僕を指差しし、ずかずかと詰め寄ってくる。さすがに恐怖も覚えつつ、慌ててホールドアップした。


「おいセイ、お前の友達か」

「どうしてそう思うのさ!」

「いや、変な奴が登場したら大体お前の知り合いじゃないかよ。マオとか」

「やめてよ、そのレッテル貼り! ちょっと気にしてるんだからさ! ていうかレイジもその一人だからね!」

「はぁ!? オレを変人見本市に巻き込むんじゃねぇよ!」

「それにそこのあなたも!」


僕達のいがみ合いをすっ飛ばし、その人は委員長も指差しする。


「世界大会出場前のビルドファイターに準備もさせず……! 伴侶として気遣いが欠けておりますわ!」

「伴侶ぉ!?」

「いえ、わたしはその、イオリくんとは今のところ同級生というか……そんな感じでして! 伴侶なんてとんでもなくて! というかイオリくんー!」

「ごめん、僕に聞かれても!」

「ちょっと待ちなさい! そもそもチナちゃんはセイの」

「すぐ終わらせると言いましたわよね!」


母さんがギロリと睨まれ、不満を一瞬で押し潰される。そして敗北のホールドアップ……勢いが強すぎる!

いや、そっちはいい! こうなったら僕が止めないと! これじゃあ委員長が邪魔しているって決めつけられてるし!


「全く……しょうがありませんわね。彼女にはわたくしからレクチャーします。あなたはとっとと作業へ戻りなさい」

「えぇ!」

「あの、それは違います! 作業に煮詰まっていまして、委員長には気晴らしをさせてもらっているというか!
……というかいきなりなんなんですか! そもそも誰ですか、あなた!」

「まぁ……! このわたくしを知らない!? このセシリア・オルコットを!」

「いや、知らないもなにも初対面……ん?」


セシリア・オルコット……そうだよ、見覚えがあって当然だ!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! は、初めまして! すみません、知ってました!」

「やっぱお前の知り合いだったか」

「初めましてって言ったよね! ……このセシリア・オルコットさんは、イギリス第二ブロック代表! 世界大会出場者だよ!」

「え、それじゃあイオリくんと同じ」

「そう! 二つ名は青い機体を多く使用し、小型ビット兵器の運用に長ける事から――青い涙(ブルー・ティアーズ)!」

「「「ブルー……ティアーズ?」」」


レイジと委員長、母さんもそれくらい優秀な人だってのは分かるらしく、感心した様子でオルコットさんを見始めた。

それに対しオルコットさんは得意げに鼻を鳴らす。……この人もユウキ先輩と同レベルの、世界的ファイターだよ。

現にストライクフリーダムの動きはもう、完璧に等しかった。でもなんだってこんなところに。


「というわけで、早速レクチャーを始めましょうか」

「あ、あの……わたしはイオリくんに教わるので、申し訳ありませんが」

「いいから準備をなさい」

「「話を聞いてくれない!?」」


オルコットさんは持っていた箱を見せつけ、挑戦的に……委員長へ笑った。そこでレイジが前に出て、詰め寄りかけた僕を止めてくる。

それから見定めるようにオルコットさんを一べつしてから、そっと腕を下ろした。


「レイジ」

「やめとけ、セイ。……習うより慣れろって事か」

「えぇ。模擬戦形式で一度やってみれば、どこが問題かはすぐ分かります」

「だとよ、チナ……どうする。お前の底は一度で見きれるって、喧嘩売られてるぜ」


あぁなるほど。まず問題点を洗い出してと……そっかぁ、初心者ってくくりだけじゃ駄目なんだよなぁ。

……いやいやいやいや! それで世界レベルの人と模擬戦!? 慌てて委員長に振り返ると。


「……分かりました、やります」


止められないと一瞬思ってしまうほどに、委員長は本気だった。


「無理だよ、委員長! さっきも言ったよね、世界大会出場者だって!」

「安心しなさい、わたくしが今回使うのはここで購入したガンプラです。シミュレーションモードにすれば、ガンプラも破損しません」

「いや、でも!」

「不満ならあなたがセコンドへ入ればいいでしょう」

「はぁ!?」


わけが分からない! いや、でも……それなら勝てるチャンスはあるかも。幾ら世界大会出場者と言えど、素組みのガンプラが基本。

しかもセコンドにつけるなら、初心者で戦闘に不慣れな委員長もサポートできる。でも……委員長には改めて確認。


「委員長、本当にいいんだね」

「いい。……ごめん、イオリくん」

「謝る事はないよ。……確かに、模擬戦は必要だけどなぁ」


一瞬レイジならと思ったけど、レイジは加減ができるタイプじゃない。瞬殺される危険もあるし。

……もしかしてこの人、それも察して言い出してくれたんじゃ。まさかと思い見上げると、オルコットさんはその通りと頷いてきた。

考えが読まれた!? く、ビット操作に長けた人だから、やっぱりニュータイプという事なのか!


「まずはお会計ですわね。さ、レジへ戻りましょう」

「はぁ!? チナちゃんとセイの邪魔ばかりして……あなたはお客さんじゃないわよ! とっとと帰りなさ」

「軟弱者!」

「はいー! お客様は神様です!」


母さんがやっぱり押し負けたー! どんだけ押しが強いの、この人! というか、軟弱者でその結論はおかしい!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


オルコットさんは店内の作業ベースへ座り、深呼吸――それから購入したガンプラを開け、まるで手が千手観音のように分身。


「な……!」

「手が、増えた!?」

「あの女、やるな。分身してるが如く素早く腕を動かし、ガンプラを作ってやがる」


そう、腕を動かし……ガンプラを作っていた! いつの間にか工具や機材も揃えちゃってるし!

プラモ狂四郎みたいだよ、あれ! そうだよ、プラモ狂四郎で見た事があるよ、アレ!

しかもヤスリがけによるゲート処理や、接着剤とパテによる合わせ目消しからバッチリ!


その作業精度も半端ない! 突如として現れた千手観音モデラーに、僕達はただ息を飲む事しかできなかった。


「できましたわ!」

「しかももう!?」

「は、早すぎる……!」


あの人が作ったのは、一つ結びの髪を揺らすSDガンダム。トリコロールカラーなボディはストライクによく似ていて、更にデフォルメ状態。

くりくりとした瞳を輝かせる鎧武者は、その両腰にジャーマングレーの片刃剣を携えていた。アレは……いや、箱を見て知ってたけど!

でもトップコートや部分塗装、墨入れまできっちりやってるし、ほんとどういう事!? 世界大会出場者ってみんなこうなのかな!


「……セイ、なんだ。あのちんちくりんなガンダムは」

「イオリくんのガンプラに似てるけど、あれもガンプラ、なの?」

「SDガンダムだよ。ガンダム劇中のモビルスーツを三頭身ほどにデフォルメした、低年齢層向けのモデル。
あれはそんなSDガンダムで三国志をやった、『SD三国伝』に登場する劉備ガンダム――その最新形態」


震えながら、オルコットさんの手元を――ストライクによく似た武者ガンダムを指差す。いや、三国志だから武者とはまた違うけど。


「ストライク劉備ガンダム!」

「おい、アレもストライクなのか」

「ストライクモチーフなキャラクターなんだ! なお最新キットだよ! 価格はちょっと割引してピッタリ千円!」

「「宣伝も交えてきた!?」」


◆◆◆◆◆


ストライク劉備ガンダム(演者:GAT-X105 ストライクガンダム)

『BB戦士三国伝 LEGEND BB』にて劉備ガンダムが、光の欠片に眠る【蒼龍の神器】によって進化した姿。

自身の神器である蒼龍と、曹操から託された炎凰は分離して劉備の鎧と武器に変化・装着される。

基本武器は【鋼龍刀(こうりゅうとう)。元ネタはストライクが装備していた対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダー。



◆◆◆◆◆


ストライク劉備ガンダム……出来のいいLEGEND BBを選んでくるとは。しかもあのキット、かなりお得なんだ。

いわゆるソードやランチャー、エール……それにパーフェクトストライクモチーフな形態も組めて、パーツもきっちり揃ってる。

しかもそれぞれの追加パーツは一つのランナーへ収まっており、作りやすさもバッチリ。


本体だけなら一時間もかからずに組めるけど、SDガンダムはそのサイズ的にパーツ分割や肉抜き穴にも多少難がある。

簡単だけど、そういうのも含めて作っていこうとすると歯ごたえがある。僕は専門じゃないけどさ。


「というかレイジ、SDについては教わってなかったんだ」

「実はな。なぁアンタ、ちんちくりんだが戦えるのか? いや、そもそも……動くのか、それ」

「ではかつ目するといいですわ。SDもリアル系に負けず劣らず、楽しいものですから」

「面白そうだな……! チナ、すぐやられんじゃねぇぞ!」

「え、えぇ!?」

「ちょっとレイジ君、どっちの応援してるのよ! もー!」


やっぱりこの人、油断ならない……! 驚がくしながらもバトルベースへ戻り。


≪――Plaese set your GP-Base≫
 

ベースから音声が流れたので、委員長は手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――River≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は大河が通り……あれ、村っぽいものがある。そうか、ここってSD三国伝に出てきた江東だ。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りベアッガイIIIを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が委員長の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

委員長が両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


「ベアッガイIII、痛い思いをさせちゃうかもだけど……一緒に頑張ろうね」

≪BATTLE START≫

「コウサカ・チナ」

「イオリ・セイ!」

「ベアッガイIII……行きます」


委員長はスフィアを押し込んで、滑りながらも空へと飛び出る。それから少しブーストして、しっかりと着地した。


「オルコットさんのストライク劉備……どこだ」

「イオリくん、アレって本当に戦えるの? あんまり動かなそうだし……わたし達、からかわれてるんじゃ」

「勘違いだよ、それ。SDはリーチも短めだけど、組み換えによるギミックなども多く搭載していてさ。
そのバリエーションとトリッキーさは、ベアッガイIIIやビルドストライクみたいなリアルタイプ以上だ」

「そう、なんだ」

「なにより」


そこでレーダーに反応。委員長は慌てて右に走るけど……よし、じっとしないってところはちゃんと守ってる。

でもこの反応、真正面? というかこの速度、歩いてきてるんじゃ! そこでメインモニターをズーム。

するとゆっくりと……百メートルほど先から、ストライク劉備の軽装状態が近づいてくる。


「ブーストもせずに、真正面から!?」

『追加ハンデを差し上げますわ』

「ハンデ……!」

『そうですわね……攻撃がかすりでもしたらわたくしの負け、というのはどうかしら』


そんな事を言いつつストライク劉備――オルコットさんは、半径五十メートル以内へと入る。

とても無警戒な様子だけど、なにか異質なものを感じているのか、委員長の動きも完全に止まってしまった。

というか挑戦的すぎる。委員長のベアッガイIIIだって、それなりの完成度だ! それは分かるだろうに!


「そんなのいらない……! あなたが申し込んできたのに、真剣にやらないなんて!」

『分かっていませんわね。あなた、セイさん達の話を聞くにバトルを始めて三日足らずでしょう?』

「「いつ聞いたの!?」」


いや、確かに……言った! そうかそうか、あの段階からもう話を聞いてたんだ!


『あなたが思っている以上に、動いている敵を狙うのは難しいんです。こういうルールで始めるのが普通ですよ?』

「そ、そうなの? イオリくん」

「まぁ、そうだね。だから射撃練習もやろうって思ってたんだけど……って、そうじゃない! 委員長、攻撃!」

「え、でもよろしくお願いしますって」

「もうバトルは始まってる!」


攻め込まれる前にまずこちらから。ベアッガイIIIは戸惑い気味に右へ走りながら、左腕部のメガ粒子砲で射撃。

……するとストライク劉備は足を止め、左にスウェー。瞳は閉じたように描かれ、続く射撃を苦もなく避けた。

二発目、三発目、四発目とビーム粒子が飛んでいくけど、それもスウェーの繰り返しで平然と避ける。


「イ、イオリくん……どうして! あの人、動いてないのに当たらない!」

「完全に弾道を読みきっている!? 初見の攻撃なのに!」

『攻撃の中身は関係ありませんわ。チナさんの心がまえに問題があります』

「わたしに、問題……!?」

『あなたは』


ストライク劉備は右手を伸ばし、左腰に差した【鋼龍刀】をさっと引き抜く。

その上で逆風一閃――地面を切り裂きながら、こちらに衝撃波を送ってきた。

それは放たれたメガ粒子砲を斬り裂きつつ、ベアッガイIIIの回避先もしっかり押さえた上で衝突。


ベアッガイIIIは大きく後ろに吹き飛び、地面を派手に転がった。


『逃げ腰です』

「え……!」

『やるのであれば、傷つく事も恐れず踏み込んできなさい』

「委員長、起き上がって!」


ベアッガイIIIは慌てて起き上がり、口内のビーム砲も交えて一斉射撃。

でもストライク劉備は左手で、もう一本の鋼龍刀も抜き放って斬り払い。

目にも捉えられぬ乱撃を放ちつつ、ストライク劉備がこちらへと駆け出してくる。


どうして! 確かに手は加えられているけど、ベアッガイIIIより上とは思えないのに!

……でもそこで気づく。鋼龍刀をズームアップしてよく見ると、刃部分がよく研がれていた。それこそ実剣と変わらないほどに。


「どうして……ビームがなんで斬られちゃうの!」

「なんて、人だ」

「イオリくん?」

「ヤスリで刃を研いで、切れ味を増している! それもとても正確で、鋭く!」

『さすがはタケシさんの息子……その通りですわ。例え簡単フィニッシュに属する組み方でも、こだわり次第でここまでの事ができます』


こだわりってレベルなのか、これは……! いや、ガンプラは安全対策の関係から、基本鋭角的パーツのエッジは甘くなりがち。

例えばザクのスパイクとか、こういう刀剣とかさ。だから研ぐというのは簡単なように見えて、とても効果的な改造だ。

でも……それをあのスピードでこなせるのが凄いんだ。ちょっとでも削りが甘かったり、狂っていたらどうなる? 壊れるのは鋼龍刀の方だ。


『さて、チナさんと仰ったかしら? あなたにはあるかしら、そのガンプラに……そこまでのこだわりは』


そう言いながらストライク劉備が肉薄。ベアッガイIIIは慌てて両腕をクロスさせ、袈裟に打ち込まれた二刀を防御。

激しい音が響きながらも、ベアッガイIIIがたじろいだ。よし、なんとか踏ん張れた!


「ある……ちゃんと、ある!」


委員長は両手でビームサーベルを展開。メガ粒子砲の砲口から走る刃――まずは右のサーベルを唐竹に振るう。

左スウェーで避けられるけど、そこに左のサーベルで右薙一閃。更に袈裟・逆袈裟と交互に振るう。

でも当たらない。委員長の技量が未熟だって事を抜いても、完全に動きを読まれてしまっている。


……そこで気づいた。さっきの射撃は、止まっている的への攻撃。今は接近した相手への対処――近接戦闘の練習だ。

少々駆け足気味だけど、この人は委員長の技量を一つ一つ確かめてる。委員長は真剣なのに、それも全部受け止めてだ。

それで委員長もさっき、真剣にどうこうと言った事が完全な勘違いだと突きつけられていた。


自分は今、攻撃を当てられて……たった一発の直撃を得られるだけでも、勝利になる状態なのだと。

それでも必死にサーベルを打ち込み、再びの右唐竹一閃。ストライク劉備は右サイドに回り込みつつ回避し、更に右脇腹へ飛び蹴り。

蹴飛ばされたベアッガイIIIはすぐ体勢を立て直すけど、すかさず踏み込んできたストライク劉備が右ストレート。


顔面を殴り飛ばされると、そのまま左フックで殴り倒される。剣を使わず……完全に遊ばれてる!


「きゃあ!」

『全く感じませんわね。あなた、ガンプラが傷つかないよう遠慮して動かしていますね』


そんな事まで見抜いているのか! でもそれは……あぁ、しょうがない。委員長はバトル初心者。

僕だって……今もガンプラが傷つくのは嫌だ。レイジと組んでから、多少は腹も決まってきたけど……根っこは変わらない。


『相手のガンプラも、自分のガンプラも……壊したくないのなら、バトルなんておやめなさい。
もちろんそんな状態で彼に頼る事も。はっきり言って足を引っ張っているだけでしてよ?』

「違う! 委員長は足を引っ張ったりなんてしていない! むしろ委員長にガンプラの事を教えて……初心に返れているんだ!」

「イオリくん……!」

『なるほど。でしたら覚悟もあると』

「……覚悟?」

「あなたが成果を出せなければ、それは彼女のせいになる』


そう言い切られ、言葉に詰まってしまう。それは……まだ、見えていない。まさか彼女が『足を引っ張っている』というのは。

急に肩が重くなった。そうだ、委員長のおかげ……と言っても、結果が伴って初めてそう言い切れるんだ。


『言葉や思いだけでは足りませんよ。あなたは今、彼女も背負って世界大会へ向かおうとしている』

「それ、は」

『それは絶対に忘れないでください。彼女を泣かせたくないのなら……いいですわね』

「は、はい!」


あれ、つい『はい』って言っちゃったけど、いいのかな! ……ううん、きっといいんだ。

やっぱりこの人、悪い人じゃない。委員長の事を傷つけもするから、頑張ってって……エールを送ってくれてるんだ。

もしかしてそういうの、僕達が自覚を持ってないように見えていたのかな。だからお節介を焼いてくれたとか。


委員長もオルコットさんのそういう気持ちを感じ取ったのか、ちょっとだけ表情が柔らかくなった。

だからベアッガイIIIを立ち上がらせ、また両手のメガ粒子砲を連射。僕の戸惑いを払うように……その勢いでつい驚いてしまう。


「確かにわたしは、足手まといかもしれない! 煮詰まってるイオリくんの事、手伝ったりできないし……でも!」


でもそうして展開された弾幕をすり抜け、ストライク劉備が二十メートルほどの距離を歩いてくる。く、また平然と!


「それでも、イオリくんならって信じてる! 今は無理でも……きっと、きっと素敵なガンプラを作れるって!」

『いい攻撃ですわ。さっきよりも狙いが正確……でも』


距離はもう三メートルを切る。そんな至近距離で委員長は、ベアッガイIIIの口を開きビーム発射。

上手い! SDのサイズなら、懐に入らないと攻撃はできない! しかも避けたり迎撃ができるタイミングじゃない!

これなら……そう思っていたのに、ストライク劉備はそこからスライディング。


ビームの下をくぐり抜けてきた。放ったビームは地面に着弾し、小さな爆発を起こす。


「そんな!」

『足が止まっていますわよ!』


そして腹部に衝撃――立ち上がりながらの右ストレートを食らい、ベアッガイIIIは竹やぶへと突っ込み、竹をなぎ倒しながらまた転がった。

ガンプラ自体の出力までこんなに……! もう間違いない! あのストライク劉備ガンダムは、ベアッガイIIIより完成度が高い!


『口ではなく、手と頭を動かしなさい! あなたが戦っているこのわたくしは、果てしなく格上ですのよ!』

「……はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


知らないくせに……わたしはそう思った。イオリくんは根を詰めすぎていて、少しでも気分転換してほしくて。

でも違った。きっと、そう言い訳している感情を見ぬかれている。……そうだよ。わたしのやった事には汚さが、打算がある。

イオリくんの優しさを利用して、自分の事に巻き込んだ。そうして大事な時期の、大事な時間を消費させているんだ。


同時にイオリくんへ、わたしの事も背負わせている。それでも大丈夫にしなきゃいけないっていう、重荷を。

それで改めて突きつけている。無自覚にそんな事をやれば、間違いなく後悔するって。だったらわたしは、どうすれば。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


オレとママさんはバトルベースの外から観戦だ。ママさんはすっかりチナに肩入れしてるが、あの動きを見て慌てるばかり。

あの女、いけ好かないかと思ったら……ちょっと違うようだな。今の拳で、言葉に嘘がないって確信したよ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! チナちゃん、しっかりしてー! どうしてよ、どうしてあんな小さいガンプラにやられてるの!?」

「そりゃ当然だぜ、ママさん。あの女、チナの動きを完全に見切ってやがる」

「さすがは青い涙だな」


そして平然と湧いて出るラルのおっさん……! オレ以上に神出鬼没ってなんだよ!


「ラルさん!」

「チナくんも初心者ながら、なかなかのマニューバだ。しかし……相手が悪すぎる。
セシリア・オルコットはユウキ・タツヤ君と同じく、ガンプラ塾に在籍していた。その中でヤスフミ君とも死闘を演じている」

「……ユウキ・タツヤだと!」

「ちょっとラルさん、それってあの子……恭文君レベルで強いって事!?」

「そうだ。レイジ君、彼女の戦いを――そしてガンプラをよく見ているといい。彼女もまた、君達のライバルだよ」


言われなくても……って感じだが、少し疑問も出た。ガンプラ塾ってこう、そんな凄いとこなのか?

あの野郎も在籍してて、だからって言い回しだったしよ。あとでセイにも聞いてみるか。


「じゃ、じゃあチナちゃんは」

「どういう経緯でこうなったのかは知らないが、チナくんに勝ち目はない」

「それなら心配いらねぇよ。チナの問題点を洗い出す模擬戦だからな」

「ほう、それはいい事だな。きっとチナ君にとっては忘れられないバトルになるだろう」


少なくともチナをボコボコにして、そのままって感じにはならないさ。てーかあの腕なら、決められるタイミングは幾らでもあった。

そうしないって事は……あぁ、言った通りだ。『チナの練習』に付き合ってるんだよ。だから駄目なとこも逐一叱ってるだろ?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


くそ、クロスレンジは勝負にならない! 射撃も全く当たらないし……こうなったらと、委員長に指示を飛ばす。


「委員長、川へ入るんだ!」

「川……え、どうして」

「ベアッガイのベースとなった【アッガイ】は元々水陸両用! 水の中は得意なんだ!」

「うん、分かった!」


ベアッガイIIIはどすどすと左に駆け出し、竹やぶを突っ切っていく。川まで三百メートルほど……追いつかれなければなんとかなる!


『甘いですわ』


そこで背後に反応……嘘、回り込まれた!?


「委員長、後ろ!」

「え」


そこで炎の砲弾が飛び、ベアッガイIIIを直撃……しない。砲弾は周囲の竹やぶへ衝突し、へし折りながら爆発。


「きゃあ!」


次々と砲弾が発射され、竹やぶが燃え始める。そうして周囲が白い煙に包まれ、視界が全くなくなってしまう。


「イ、イオリくん……これ、なに」

「分からない! ストライク劉備ガンダムは軽装形態で、炎が出るような装備もなかったはずだし!」


慌ててコンソールを叩き、レーダー確認。……そこで自分がとんでもなく抜けていた事を察した。

そう、ヒントは軽装形態だった事だ。SDの特徴――それは原典にはない組み換えギミックなどが搭載されている事。

それはキャラクター性がより強くなり、登場人物として存在している騎士・武者系だと顕著。


同時にそのキャラクター性は、バトル時に再現するだけで強い個性となる。それがSDシリーズの強みだ。

……フィールドに生まれている敵機反応は二つ。一つはストライク劉備ガンダムで、もう一つはそれより小さいサイズ。


「委員長、また後ろ!」


ベアッガイIIIが振り返ると、メカメカしい龍が炎を突っ切り迫っていた。そしてベアッガイIIIをはじき飛ばし、煙をやや払いながら消え去る。

でも今のはチェックできたぞ。赤白のボディは、アーマーと盾が合体したような形状。

頭は金色に輝き、そのいびつなボディを翻しつつ空へ登っていった。やっぱり……!


「蒼龍の鎧!」

「そう……え、それって」

「ストライク劉備ガンダムの鎧だよ! 元々組み換えで、ドラゴン形態になるんだ!」

「えぇ!」

『さすがは模型屋のご子息』


そして煙の中、ストライク劉備ガンダムが眼前に現れた。委員長が軽く悲鳴を上げたところで、左ストレート。

こちらを殴り飛ばし、反撃する前にまた煙へ紛れてしまう。委員長はキョロキョロするけど、大丈夫。


「次は七時方向!」

「七……え」

『よく商品を理解していますわ』


……しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 委員長にこれは伝わらないのか! 委員長が戸惑っている間に、七時方向からストライク劉備が飛び蹴り。

ドロップキックを食らいながら、ベアッガイIIIは地面を転がり炎の中へ突っ込む。

慌ててゴロゴロ転がり、炎を払いながらなんとか起き上がった。すかさず目の前にきたストライク劉備へ、メガ粒子砲発射。


両手から放たれた弾丸五発に対し、ストライク劉備は跳躍――右の鋼龍刀を逆手に持った上で反時計回りに回転。

弾丸を二刀の回転斬りで斬り払いながら、遠慮なくベアッガイIIIへ接近する。委員長は慌てて下がるけど、よけきれず顔面に斬撃を食らう。

く、顔面のモニターに亀裂が……! うん、モニターなんだ。ベアッガイIIの拡張パーツで、表情を変えられる新型モニターがあってさ。


価格も七百円前後とかなり安めで、バトルじゃなくても使えるから実は人気パーツなんだ。

……って、説明してる場合じゃない! 斬撃を食らってたじろいだベアッガイIII……委員長はそれでも反撃。

踏ん張って左のサーベルで刺突を放つも、向こうも逆手に持った右鋼龍刀で刺突。


ビーム刃は鋼龍刀の切っ先に割かれ、そのまま砲口を塞がれてしまう。あ、これは。


「委員長、サーベルを止めて!」


でも指示は遅かった。砲口が塞がれ、ビームサーベルの圧力は最大限に高まる。……結果ベアッガイIIIの砲口から爆発。

委員長の表情に青いものが差し、ベアッガイIIIも左腕を痛そうに押さえながら下がった。僕はそれに構えずダメージ計算。


「損傷は……腕は無事だけど、左のメガ粒子砲はもう使えない!」

「そんな……ベアッガイIII」

『全く……水中へ入るタイミングなら最初からありましたのに。あなた達、フィールドをよく見ていませんでしたね』


呆れ気味にそう言われてハッとする。そうだ、最初から格上だって分かりきっていたじゃないか。

それで川も今ほど遠くなかったし、最初からダッシュで行けば……くそ、僕のミスだ!

相手の動きが率直すぎて、戦術がおろそかになっていた! いや、まさかこれを狙ってあえて歩いてきたのか!?


『まぁもっとも情けないのはチナさん、あなたですけど。あなた、自分で作ったガンプラの事もよく理解していないのですね』

「あ……アッガイ」

『その通りです。……あなたがどれだけ自分のミスと言おうと、今のファイターは彼女。それを履き違えるのはおやめなさい』


そこで嫌な動悸が走る。また僕の考えを読んでいる、だと……!


『さぁどうしますか。彼は自分のせいで負けると恐れていますわよ。あなたのせいなのに』

「わたし、の」

『その優しさに甘えますか、このままずっと……わたくしに一撃を入れる事もできず』

「委員長、逃げて……今はとにかく逃げて!」

『させるとでも?』


そこで周囲に続けて爆音が発生。これは、蒼龍の鎧による爆撃――炎はろう獄の如く広がり、僕達を戒める。

逃げ場などないと言わんばかりに……く、さすがは青い涙と言うわけか!


「イオリくん、火事! 火事だよ火事!」

「ビット操作の要領で、蒼龍の鎧を使役してるのか!」


どうすればいい……どうすれば勝てる。ベアッガイIIIは武装も少なめだし、技量では完全に負けている。

でも空の上……委員長も思いついたらしく急速ブースト。


「だったら、飛んで!」

「……駄目だ、委員長!」


上昇して竹やぶから離脱すると、目の前に蒼龍の鎧が出現。


「え……!」

『状況判断が甘すぎます!』


その口から砲弾を連続発射――合計八発のそれを食らい、爆炎に焼かれながらベアッガイIIIが墜落する。

く、やっぱり動きを読まれてる! 更にストライク劉備は跳びかかり、また鋼龍刀を振るう。


『ピンチの時ほど冷静になりなさい!』

「は、はいー!」


襲ってきた右の唐竹一閃に対し、ベアッガイIIIは右のサーベルでなんとか防御。

鋼龍刀がサーベル刃を少しずつ斬り裂いていた。その鋭さを持って、ベアッガイIIIの出力を上回っていく。


『ガンプラの基本は人機一体です』

「人機、一体?」

『ガンプラだからこそできる事、できない事――作る中で得られた情報を操作にフィードバックさせる。そうしてガンプラと一体になるんです』

「わたしと、ベアッガイIIIが……あ」

『そう、今のわたくしもまた、ストライク劉備ガンダムと一つとなっている!』


ストライク劉備は回転しながらサーベルを斬り裂き、その衝撃でこちらの体勢は崩れる。

そのまま縦に一回転しながら、ストライク劉備はかかと落とし。こちらの頭を蹴り、着地してすぐに鋼龍刀を持ったまま右ストレート。

胴体部を叩いて下がらせた上で、二刀を振りかぶって息吹。見える……関節駆動の一つ一つに、オルコットさんのプレッシャーが!


「委員長、下がって! 炎も短時間なら耐えられる!」


でも委員長は右のサーベルを再度展開し、それでもとその切っ先を向けた。それから深く……深く深呼吸。


「委員長!? 待って!」

「ごめん、イオリくん。でも……わたしは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


人機一体……そんなの、思いつきもしなかった。ただ上手く動かす、ただ強く……って。でもそうじゃない。

それだけじゃあきっと、わたしのイメージをベアッガイIIIに押し付けているのと同じ。ベアッガイIIIはガンプラなんだ。

わたしができる事、ベアッガイIIIができない事。わたしができない事、ベアッガイIIIができる事――それらを一つにする。


どうやればいいかはさっぱりだったけど、答えは私の中にあった。……ベアッガイIIの可愛さに見ほれて、買った時の事。

塗装をする前、イオリくんのレクチャーを思い出しつつ組んだ時の事。関節の動きや硬さを確かめた時の事。

その全てが一つになるための取っかかり。わたしとベアッガイIIIを繋ぐ、大事な絆。


そこで思い出したのはイオリくんと、レイジくんが言っていた事。


――レイジはビルドストライクを無茶苦茶に動かして、すぐ覚えた。可動範囲とかも含めてね――

――簡単だろ、それくらい――


そんなできないって思ってたけど、違った。きっとレイジくんは組むんじゃなくて、動かした感覚でそれを知ったんだ。

だからあんなに……イオリくんが組みたいって思うくらい、上手にガンプラを動かせる。

大丈夫、できる。レイジくんみたいには無理でも……例えほんの一瞬でも、ベアッガイIIIと一つになれる!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――いきます!」


委員長は意を決して踏み込んだ。今までとは違う疾駆――傷つく事も恐れない、勝利への進軍だ。


『いい覚悟ですわ!』


ストライク劉備はそれに応え、青い輝きに包まれながらの突撃。ベアッガイIIIもそれを唐竹一閃で迎え撃つ。

一瞬レイジの影が見えたのは、人機一体の説明を受けたせいかもしれない。そこで改めて気づいた。

レイジも無茶苦茶なように見えて、僕のビルドストライクと一つになってくれていたんだ。


これなら、届くかもしれない。僅かかもしれないけど……それは一瞬の交差。ベアッガイIIIの刃は虚空を斬り。


『正義よ、光となりて剣に宿りなさい!』


――壱(逆袈裟)・弐(右切上)・参(右薙)・四(袈裟)・伍(左切上)!


『星龍――斬!』


その代償として瞬間五連撃を食らう。それはベアッガイIIIのボディを斬り裂き、虚空へと吹き飛ばす。

馬鹿な……劉備ガンダムの必殺技、星龍斬!? ストライク劉備になってからは別の技へ切り替わっているのに!

いや、それ以前に速すぎる! さっき作ったガンプラの性能をここまで引き出せるなんて……これが、世界なのか。


「……イオリくん、ごめん」

「委員長!」

≪――BATTLE END≫


これが終幕――! 脱力しながらも、消えていく粒子の中呆けてしまう。

委員長は慌ててベアッガイIIIを回収し、破損箇所をチェックする。まぁシミュレーションだったから、大丈夫なんだけど。


「ベアッガイIII、ごめんね。イオリくんも」

「いや、僕は大丈夫だよ」

「でも……見えた気がする。わたしに足りないもの、やらなきゃいけない事」


委員長にとって、このバトルは得るものが大きかったみたい。オルコットさんはそんな委員長を見ながら、ストライク劉備を回収してひと撫で。


「ありがとうございます、ストライク劉備」


小さくお礼を……そう、お礼を言った。僕達へはキツいけど、ガンプラに対しては愛情を持っていた。そんな表情を見せた上で、オルコットさんはせき払い。


「というわけでチナさん、これから大会まで毎日模擬戦です。徹底的に鍛え抜きますので」

「あの、待ってください! やっぱりそこは僕が」

「気晴らしなら付きっきりではなく、適度にやればいいでしょう?」


自信満々に髪をかき上げ、オルコットさんは断言……って、そうじゃない! なんでそこまでしてくれるの!?

実質僕の手伝いも込みだよ、これ! 確かに集中しなきゃいけないのは事実だけど、だからって理由がないよ!


「ちょっと待ちなさいよ!」


そこで母さん達がバトルルームになだれ込んできた……あれ、ラルさんもいる!? お世話になっといてなんだけど、神出鬼没すぎる!


「チナちゃんはね、セイとレイジ君にガンプラを教わってるの! あなたの出番はないわよ!
……そうよね、チナちゃん。セイの方がずっといいわよね」

「おーい、オレが抜けてんぞー。当然だけどよー」

「あの、えっと……お母さん、力が強いですー! 落ち着いてー!」


ちょ、母さん!? 落ち着いて! なに委員長の肩を掴んで揺らしてるの! 脅してるからね、それ!


「ほら、セイがガンプラ制作から離れられたのもチナちゃんのおかげだし、私としてはこのままじゃないと困るのよ」

「あ、お母さん駄目ー!」


……聞き捨てならない事があったので、ちょっと母さんの肩を叩く。


「もうなにセイ! アンタもしっかりチナちゃんには自分が教えるって言いなさい! ガールフレンドなんだから!」


一回じゃあ足りないので、ちょっと本気で十回ほど連続で叩く。叩いて叩いて……叩いて!

それで母さんはようやく僕へと振り向いてくれた。同時に僕がかるーくお怒りなのも理解してくれて、ほんとなによりだよ――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


イオリくんはお母さんを正座させ、本気の説教――とりあえずそこは触れない方向で。

というか触れたくない。あんなに怒ったイオリくん、初めて見た……! レイジくんもドン引きだし!


「ど、どうしよう。あの、オルコットさん……ありがとうございました」

「セシリアでよろしくてよ。それとあんな迂闊(うかつ)者は放置でいいですわ」

「だなぁ、ほっとけほっとけ。……それよりなんでお前、セイを助けるんだよ」

「イオリくんを、助ける?」

「チナに構う時間が少なくなる分、作業へ戻れるだろ。間接的には助かってんだよ」

「あ……そうか」

「セイさんのお父上――イオリ・タケシさんですわ。あの方には少々お世話になりまして」


そう言えばイオリくんのお父さん、ガンプラバトルがとっても強いって……世界大会も準優勝だっけ。

今はガンプラ普及の旅に出ているそうだけど、だから知り合ったとかなのかな。でもイオリくん……聞いてないね、はい。


「でもそれはわたくしだけではありませんわ、イギリスの全ガンプラファイターにとっても、タケシさんは敬愛する先人です。
ジョン・エアーズ・マッケンジー卿と協力する形で、イギリスのガンプラバトル普及にも尽力されていますから」

「じょ……はい?」

「世界大会常連で、今回も出場決定しているイギリスのビルドファイターだよ」


ラルさんがさっと前に出る。いつの間にきたんだろうとかツッコみたいけど、もう……やめておこう。


「ラル……は! 大尉!」


出たかと思ったら、セシリアさんが全力の敬礼。え、また大尉って! あのタツって人もそうだったけど、有名すぎないかな!


「挨拶が遅れてしまって、申し訳ありません! それにお見苦しいところを!」

「なに、気にする事はないよ。……マッケンジー准将はイギリス貴族でもあるお方で、今年で七十八歳。大会出場者としては最高齢だ」

「な、七十八!?」

「そんなじいちゃんまでガンプラをやってるのかよ!」

「これ自体はおかしい事ではないよ。そもそも初代ガンダムのアニメ放映開始が三十五年ほど前だ。
もちろんそれを元とするガンプラも――私にも言える事だが、数十年単位のファンが多いんだよ」

「あ、なるほどな」

「納得しました」


その時子どもだったら……ラルさんくらいの年になっていて、大人だとおじいちゃんおばあちゃんって感じなんだよね。

息が長いアニメ作品でもあるからこそ、なのかな。そう考えるとガンプラって、とても凄い。


「それにタツヤさんからも、セイさんの事は軽く聞いていましたの」


タツヤ……その名前は聞き捨てならなくて、ついレイジくんと詰め寄っちゃう。


「タツヤさんは元々セイさんのガンプラを見て、ファンになって……その関係からわたくしにもメールを送るほどで」

「タツヤ……そうだそうだ! お前、ガンプラ塾ってとこでアイツと知り合いだったんだよな!」

「そうなんですか!? あの、ユウキ先輩は今どこにいるんですか! 学校も休学しちゃって、行方が分からなくて!」

「……それについてはわたくしも知りませんわ。大会を辞退して、驚いたのは確かですけど」

「そう、なんですか。あの、それならそのガンプラ塾というところの人達なら」

「まぁそこはいいじゃないか。しかしセシリア君、君も準備はいいのか?」


ラルさんに慌てて話を切られ、戸惑ってしまう。今の、明らかにわたしの質問を遮った。その行動に違和感が走る。


「問題ありませんわ。煮詰まってもいませんし……それに、放っておけませんもの」

「なにをかね」

「ゴール地点も分からず、右往左往する迷子は」


問題ないと言わんばかりに、セシリアさんは髪をかき上げながらまた胸を張る。……やっぱり大きい。

とにかくセシリアさんからも教わる事が決定。なおお母さんには有無を言わせなかった。

どうもイオリくん、ガンプラが絡むとお母さんを徹底的に信用していないみたい。ちょくちょくそういう発言が出てたし。


でもそれだけじゃなくて、わたしに迷惑をかけたって……違うのに。わたしはやっぱり、イオリくんを利用していた。

単純に引き受けてくれた事だけじゃないの。……お母さんにも好印象を持ってほしいとか。

あとは近くにいられるとか、そういう感情もきっとあったから。だからイオリくんが申し訳なく思う必要、ないのに。


例え小さくてもそれは、わたしの中にある汚い感情だった。……ごめん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


オルコットさんはまた明日くると言い残して、委員長と一緒にお店を出た。なお母さんには正座を命じている。

ただそれを見送ってから、レイジが小首を傾げながら質問してきた。それも……とんでもなく嫌な質問を。


「セイ、ガンプラ塾ってのは結局なんなんだ」

「ビルダー・ファイター育成を目的とした専門機関だよ。選手権のスポンサーであり、プラフスキー粒子を開発したPPSE社主導でできた学校でね」

「そこにユウキ・タツヤとセシリアがいたわけか。一応聞くが、そこの奴らにユウキ・タツヤの行方を聞くってのは。チナがやりかけたんだが」


やりかけたんだ……! そうだよね、結局ユウキ先輩がどうなってるか、さっぱりな状態だもの。

これは改めてレイジも止めておかないと。委員長には、どう説明しよう。恭文さんも引っ張り出すべきなのかな。


「駄目だよ。ガンプラ塾は去年の三月末で機能停止していて、所属していた人達についてもよく分からない。
それにPPSE社への問い合わせも無駄だと思う。……というかレイジ、ごめん。実は」

「あの野郎が辞退してから、ガンプラ塾とやらについては聞いてた……とかか?」

「そう、なんだ。ただ先輩がいなくなったのは、塾やPPSE社絡みの事情があるって言われちゃって。
その辺りに首を突っ込むと、僕達の出場停止もあり得るらしいんだ。どうも、相当重い事情みたい。内緒にしてて」

「謝る必要はねぇよ。あの時のオレが聞いたら、遠慮なくすっ飛んでたからな。
……それに大丈夫だ、バトルで確かめただろ? オレ達二人でよ」

「……うん」


レイジの気遣いには感謝。バトルで伝わった気持ち――先輩の決意、それがあるから信じられるのかもしれない。

あとは委員長かぁ。どうも学校で先輩の行方について聞きまくっていたそうだし、明日にでも止めておかないと。


「とにかくガンプラ塾についてだけど」

「おう」

「一つ確実に言えるのは……極度のスパルタ教育をしていた関係で、塾生・スタッフのレベルが異様に高い事。
それこそ所属メンバー全員が世界レベルって言わんばかりだったみたい。それはもう、今回のバトルで実感したよ」

「ファイターがチナだからってのもあるが、お前もペースを握られっぱなしだったしな」

「……反省してるよ。そういうところも見て、厳しい事を言ってきたんだろうしさ。委員長には悪い事、しちゃったな」

「だったらきっちり完成させるしかないだろ。それが一番の礼になる――それも確かだ」


もちろんと頷いて、早速作業室へ戻る。……そうだ、これはもう僕一人の戦いじゃない。

委員長もちゃんと背負ってるんだ。それに大丈夫、セシリアさんとのバトルで目が覚めた。

今はまだ上手く言えないけど、壁の砕き方は見えてきている。あとは形にできるかどうかだ。


あ、作業の前に……母さんへの説教をしないと。正座で待たせてるから、じっくり、しっかり修正してやろう――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ホテルへ戻り、夕飯前にシャワーをひと浴び……さすがに夏だからもう、汗が凄くて。

……お店の様子を窺うだけだったのに、あの子が気になってついお節介を焼いてしまった。

まぁ、しょうがありませんわね。あの子、幾らなんでも不器用すぎて見過ごせませんもの。高倉健さんじゃあるまいし。


ただ見込みはある。最後の一撃、実はかなり危うかった。星龍斬を出していなかったら、間違いなく直撃を受けてましたわ。

不器用ゆえか、純粋ゆえか、思い込みのちょっと強い子らしいですし、そのせいもあるのでしょう。

あれなら実戦形式で鍛え上げれば、女子限定大会までにはいっぱしのファイターとなれます。


えぇ、確信してます。今日話した問題点を、彼女は明日までに必ず改善する。……わたくしも負けていられませんね。

そっと……ガンプラ塾卒業時より大きく、柔らかくなった胸を撫でる。わたくしの胸は欧米人としてはやや小ぶり。

だからちょっと気になっていたけど、それでも最近は大分改善され、先の柔肉もまた可愛らしく色づいている。


毎日マッサージでお手入れしていた甲斐がありました。……その胸があの人の顔を思い浮かべただけで、強く弾む。


「蒼凪、恭文」


蒼い幽霊――同じ【青】の二つ名を持つ者として、必ず一年前の雪辱は晴らします。

それでそれで、よく考えたらトーナメントで負けたお仕置きもしてませんもの。えぇ、敢行しましょう。

まずは買い物の荷物持ちですわね。静岡の大会会場近辺では、大型ショッピングモールなどもありますから。


それで一緒に夜景がよく見えるレストランでお食事して、夜はわたくしの部屋に招いて……そこで胸がまた弾み、お腹の中が熱くなる。

ちゃんとおめかしもして、この胸もできる限り見えるよう……べ、別に変な事は考えていません!

ただその、これは……お仕置きですから! ライバルとしてこう、きっちりしたいだけですの!


そうです、それだけなんですから! ま、まぁ恭文さんも殿方ですし!?

わたくしの美しさに魅了され、オオカミさんになってしまうのはしょうがありません!

その場合は、もうしょうがありませんわよね! えぇ、しょうがないんです……ないったらないんですー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セシリアさんに送ってもらい……というか、どうしてかリムジンがきたんだけど!

ぎょっとしながらも後部座席に乗り込ませてもらうと、運転していたのはどういうわけかメイドさん。

チェルシーさんと言うらしいその人は、大きなリムジンを軽々と……な、何者なの、この人。


ビクビクしながらも、ガンプラ塾とやらについて聞いてみた。さっきはラルさんに邪魔されたけど、もう大丈夫だもの。

そうしたら……セシリアさんは『やっぱりか』という顔で、一つ一つ説明してくれた。

ガンプラ塾がどういう場所だったのか。その中でユウキ会長が、そして恭文さんがどういう人物だったか。


それはわたしも知らない会長の姿で、恭文さんも塾生じゃないのにとても印象深い人で。

家へ辿り着き、びっくりしているお父さん達には適当な説明をしつつ……部屋へ戻って、ベッドに飛び込む。

柔らかい感触に埋もれながら、改めてお話された事を思い出す。どうしても納得できないのは、わたしが子どもだから……かな。


……二人はエキシビションマッチを通し、閉鎖的だった塾に風穴を開けた。

そうして楽しいガンプラをみんなに思い出させてくれた――セシリアさんはそう言って笑っていた。

でも負けた人は即刻退塾というのを聞いて、無茶苦茶だと思った。それに外から参加した恭文さんもあり得ないって思った。


だって無関係なのに飛び込んで、戦ってやめさせるなんて……ヒドいもの。でもそれも、勘違いだった。


――はぁ……あなたは表面上の正しさに捕らわれて、物事の本質を見失う傾向にあるようですわね。あのお母様と同じです――

――えぇ! で、でも!――

――言ったでしょう? 次期メイジン決定戦でもあると。元々ガンプラ塾はそのための施設でしたし、目的が達成されれば役割も終えます。
……こう言えば分かりますか? あれは居場所の防衛戦ではなく、夢を叶えるためのトーナメントだったと――

――夢を、叶えるための――

――……だからこそ、わたくしはあの人が凄いと思ったんですけど――


そう言ってオルコットさんは、少し嬉しそうな目をしていた。

ううん、あれはちょっと違う。恭文さんを思い出して、ドキドキしている感じだった。


――普通ならあなたのように言って、二の足を踏みますもの。もちろん周囲から批判もされるでしょう。
でも恭文さんはそんな【嘘】に惑わされず、これを試練として迷いなく飛び込み、戦い抜いた。あの人はとても強い人なんです――

――わたしの言う事は、嘘……なんでしょうか。だって、傷つけるかもしれないのに。そうしない事が正解なんじゃ――

――それも含めて大うそですわ。そこには鉄のような意志も、鋼のような決意も存在しません。
ただ傷つかないだけの選択……あなたが最初に見せたマニューバと同じですわ――


わたしはユウキ会長に、『どうして作品を壊すかもしれないのに、戦わせるのか』と聞いた事がある。

それに対し会長は『傷つけても、強さを証明したい』と言ってくれた。セシリアさんの話を含めると、またニュアンスが変わってくる。

自分が、ガンプラが傷つかないだけの選択――それだけでは掴めない夢があって、みんなはそれに手を伸ばした。


その姿はイオリくんにも通ずるところがあった。だって、イオリくんも自分のガンプラが力不足って突きつけられて、傷ついていて。

それでも誰かを恨んだりせず、手を伸ばしている。……ただ傷つかないよう選ぶだけじゃ、大切にするだけじゃ、届かないものがある。

ただ好きでいるだけでは、楽しいだけでは向き合えないなにかがある。みんなそれを目指して戦っている。


そんなみんなに――イオリくんに、わたしはなにができるんだろう。傷つかない選択しか選べないわたしには、迷い続ける事しかできなかった。


(Memory37へ続く)








あとがき


恭文(A's・Remix)「というわけで今回はアニメにはないオリジナル話。
本編世界のセシリアも登場し、今までは影も薄かったSD枠もプッシュ。お相手は八神恭文と」

セシリア「セシリア・オルコットです。というわけで同人版幕間第三十一巻が販売開始……みなさん、ご購入ありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文(A's・Remix)「セシリアは出てないけど、僕はちょいちょい出てるからよろしくー。
……ちなみに話にも出ているガンプラ塾トーナメントは、幕間第二十九巻にて描かれていたり」

セシリア「わたくしは名前が出ていませんでしたけど……でもチナさんはまた」

恭文(A's・Remix)「大丈夫だよ、次回はそんな余裕なくなるから」

セシリア(A's・Remix)「なにがありますの!?」


(魔窟へ飛び込むだけです)


恭文(A's・Remix)「でもモブ的に織斑一夏や箒も出て……まぁ前回もだったけど」

セシリア「次はどなたが出るのでしょう」

恭文(A's・Remix)「まぁセシリアみたいに第二ブロックでーとか言うなら、世界大会だろうとモブ的に登場は可能だけど」


(やっぱりモブ……でもしょうがない。これはしょうがない)


恭文(A's・Remix)「それはそうとセシリア……あと十日でバトルスピリッツ烈火魂(バーニングソウル)が放映開始だよ!」

セシリア「あ、そうですわ! 四月一日、テレビ東京系で午後六時半から……楽しみですわねー!」

恭文(A's・Remix)「三十秒VerのPVも出たみたいだしねー」


(アニメ公式サイト(あにてれ)『http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/battlespirits7/story/#pv』)


恭文(A's・Remix)「主人公である烈火幸村の声も聞けるし、OPもちょろっとだけ流れているのでチェックしてみよー」

セシリア「初代キースピリットであるセンゴク・グレンドラゴンも登場いたしますし……って、こちらは初期PVと同じ感じですか」

恭文(A's・Remix)「三十秒だしねー。それと烈火伝についても、ちょろちょろと情報が。
戦国龍ソウルドラゴンとか、連刃とか……激突だよ! 激突デッキだよ、セシリア!」

セシリア「落ち着いてください! そんなに好きですか!?」


(蒼い古き鉄、激突でスピリットを削っていくのが楽しいようです)


セシリア「どういう理屈ですの!?」

恭文(A's・Remix)「やっぱ激突っていいよね。戦いの原初を思い出させるよ」

セシリア「それはアニメのセリフですー! ……あ、そうそう。アニメ放映の四日前、ニコ生などで特番が行われるそうです」

恭文(A's・Remix)「……突然ジャスティス立花とマジカルスター咲が引退したから、新しいカリスマも登場とか。
まぁしょうがないよ。二人とも最近はガンプラ制作で忙しいし」

セシリア「それ以上いけませんわ!」


(お疲れ様でした。でもひーろーずではまだまだ出番もありますので頑張りましょう)


恭文(A's・Remix)「でも新しいカリスマか。……は! 異次元アシュライガーのマヌガスでは!」

セシリア「……そうなったらバトスピ大好き声優の生放送はどうしますの」

恭文(A's・Remix)「セシリアはエロいなぁ。新しいカリスマヌガスと、菅沼久義さんは別次元の人だって」

セシリア「だからまだ決定しておりませんー! あとエロいはおかしいですー!」


(ぽかぽかぽかー)


セシリア「と、というか……恭文さんは、エッチなわたくしは……お嫌いですか?」

恭文(A's・Remix)「はい!?」

セシリア「お風呂とか、添い寝とか……その、ご奉仕を言い出したりするわたくしは。もっと、おしとやかな方がいいのでしょうか」

恭文(A's・Remix)「そ、そういう事じゃなくて……別に嫌いとかじゃ、ないよ? セシリアが頑張ってくれて嬉しいし」

セシリア「本当、ですか?」

恭文(A's・Remix)「うん」

セシリア「……でしたら、今日はちゃんとご奉仕させてください。その、わたくしだって……いろいろ、限界なんです」

恭文(A's・Remix)「は……はい」


(というわけでバトスピ新展開ももうすぐ。銀魂も始まりますし、春は楽しい事で満載ですねー。
本日のED:玉置成実『Reason』)


恭文「でもガンプラも盛り上がってるよー。四月後半にはフルクロス(BFTVer)とか、ORIGIN仕様なシャアザクとか出るし。
……そうそう、ORIGIN仕様な高機動型ザクも六月に出るんだっけか。黒い三連星仕様で」

あむ「え、高機動型ザクってわりと最近のキットじゃ」

恭文「映画のORIGIN仕様だからね」

あむ「そうだ、それでシールド表面にバズーカの弾倉とか装備してるじゃん。アレってどうなの?」

恭文「あー、気になるのは分かる。ただ今回出てくるシャアザクは、まだ連邦が艦隊戦をやってた時代のものだしさ。
ぶっちゃけ戦艦のビームなんて、シールドじゃ防げないって。それを機動力で避けつつ、継続して攻撃って感じのセッティングだよ」

あむ「……そっか。機能性じゃなくて、現地でどう使われているかが重要なんだ」

恭文「そういう現地的なセッティングって考えても、また面白いかもしれないね。これもまた想像力だよ」


(おしまい)







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