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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション08 『鉄達のそれぞれの戦い』:2



でも・・・僕は避けた。





とっさに魔法陣・・・足場を形成して、それを右足で蹴るようにして飛んだ。そうして、衝撃波を回避したのだ。





なお、かすりもしていない。まったくのノーダメである。










「な・・・!!」

「・・・ノロマが。ちんたらやってんじゃねぇよ」





遅い。本気の恭也さんや美由希さんやフェイトの方が、数倍速いしおっかないよ。



でも、これで終わらない。





「・・・まず」





アルトの切っ先を迷い無く・・・おっさんの右ひじの近くに向かって突き立てる。





「借り、一つ」





攻撃の直後、回避は無理。中の融合騎も完全に決まったと思ってたのか、なんの防御の兆候もなく・・・魔力を込めた刃は腕に突き刺さる。そして、刃は肉を破り、腕の骨を易々と断ち斬る。

するとどうなるか。簡単である。右手は使えなくなる。おっさんがうめくけど、ここは気にしない。アルトの刃を引いて、腕から抜く。



すると・・・身体を捻って、だめになった右手を裏拳の要領で打ち込み・・・いや、振り回してきた。それをしゃがんで避けると・・・左手だけで捕まれた刃、それが遠慮なく僕の前に来る。

中々に楽しい反応と攻撃。でも・・・遅い。アルトをそこに打ち込んで、槍の軌道を反らす。それから・・・。





「そして、二つ目」





鞘を腰から抜き、おっさんの胴に向かって叩きつけるっ!!




「返させて・・・もらうよ」





魔力はなし。ただの斬撃・・・というか、打撃。それにより、おっさんは、吹き飛ばされるように宙を舞う。・・・徹とかは使ってない。本当に単なる打撃。距離取らないと、危なそうだったしね。



飛ばされながら、複数の火炎弾がこちらに飛んでくる。・・・回避、ちょっと無理かな。





【フリジットダガーッ!!】










だから、リインがダガーを同じ数生成、それを打ち込んで火炎弾を撃墜する。そうして、爆煙が空中に生まれ、空気を振るわせる。僕はその爆煙の中を突っ切るようにして斬りかかる。そうしてぶつかったのは、左手で槍を持ったおっさん。

そのまま・・・押し込む。足のアクセルを全開にして、ぶっ飛ばしていく。





具体的には、斬撃の乱舞。










「・・・つーか、ふざけんな」





アルトを打ち込み、防御ごと叩き潰す斬撃でおっさんを吹き飛ばす。





「僕の先生はな、英雄なんかじゃないよ」

「なん・・・だと」





そして踏み込む。それに対してカウンターで打ち込まれた攻撃を払い。





「自分のわがままと感情でしか動けない・・・どこにでも居る偏屈な爺さんだっ!!」

≪正解です≫





カウンターのカウンターで、胴を狙い薙ぎ斬る。・・・ち、かすっただけか。





「てめぇ、人の先生を知ったかぶりで・・・語ってんじゃねぇよっ!!」

【ヘイハチさんが凄いのは、世界や局、そこに住む人のために戦ったからじゃありません。自分の・・・自分のそうしたいと言う想いにものすごく正直な人だったから、凄いんです。
その想いを貫き通せる人だったから、すごいんですっ! あなたの言うヘイハチさんは・・・ヘイハチさんじゃないですっ!!】





とにかく、そんな規則性もない勢い任せの攻撃の数々。それをひたすらに繰り返していく。





「世界のため? 局のため? そこに住む人達のため? 信じる大儀や正義のため? ・・・ふざけんじゃねぇよっ! このゾンビ野郎がっ!!」






対象は・・・人の師匠を知ったかぶりで語ったこの愚か者。だから、教えてやるよ。



そんなもんじゃ・・・僕達は止められないってことをね。





「違うっ! 全然・・・違うっ!! そんなもんのために先生や僕は戦ってないっ! つーか、頼まれたって・・・ごめんなんだよっ!!」










おっさんは怪我のダメージがあるのか・・・防ぐのと避けるのとで精一杯。そのやり取りだけでおっさんは数百メートル押し込まれる。そのまま、僕はアルトを引いて蹴りを入れる。そして、またそれを槍で防いだおっさんが後ろに下がる。

また踏み込んで・・・アルトを右から打ち込む。だけど、それは空を斬っただけで終わった。





目の前には・・・誰も居ない。そりゃそうだ。僕の上から・・・槍を突き出してきてるんだから。あー、リイン。データ送っておいて。一気に・・・ぶっ飛ばす。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそっ!!





なんでだよ・・・! なんで、こんなふざけた奴に、通すべき正義も大儀も意地もないような奴に、アタシと旦那が敵わないんだよっ!!





とにかく・・・上は取ったっ! これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁっ!!










「・・・遅い」





だけど、隙を取ったはずの攻撃は・・・簡単に避けられた。それも、ほんの数歩分の距離を下がって。



さ、さっきからなんなんだよコイツっ! 攻撃がまるで当たらねぇしっ!!





「最後に・・・三つ目っ!!」





そいつは、下がりながら刃を返し・・・それを左から横薙ぎにアタシ達に・・・正確には旦那に打ち込んできた。



旦那は槍を使ってそれを防御・・・ん? なんか送られてきた。



なんだ、このデータ。これ・・・この場所だよな。で、そこから軌道予測のデータが入ってて・・・って、これっ!!





【旦那っ! しっかり防御固めろっ!! それで・・・絶対に踏ん張ろうとするなっ!!】

”なんだとっ!? アギト、それはどういう”

【いいから言う通りにしてくれっ! このまま・・・真っ直ぐ後ろに吹き飛ばされるんだっ!!】





そのまま凄い衝撃が伝わる。そして、目の前のアイツが剣を振り抜くと・・・アタシらはそのまま吹き飛ばされた。そして、その勢いを利用して・・・突入する。



いつの間にか、近づいていたある場所に。それはとてもデカイ建物。そして、アタシらはそこの一角に突入した。ガラスを突き破り、そのまま部屋の床を転がるようにしてなんとか突入成功。

そこは・・・広いオフィスのような部屋。両側の壁に本棚があって、真ん中の床が吹きぬけになってる。それで、ガラス・・・アタシらが突入してきた窓のところに、人が二人。一人は栗色のショートカットでメガネをかけた女。

そして、もう一人は・・・将校クラスの制服を着ているひげ面でガタイのいいおっさん。アタシ・・・というか、旦那のよく知っている奴。





「・・・レジアス」

「・・・あ、あなたは・・・騎士ゼストっ!?」

「また・・・随分乱暴なやり方だな。ゼスト」





・・・アタシは旦那と目の前の二人が話している間に、さっきまでの戦闘データを振り返る。そして、気づく。アイツら、戦いながら・・・アタシと旦那をここまで運んでくるような行動に出ている事実に。



もっと言うと・・・後半。アイツのやり口なら、アタシらを黙らせることなんて・・・簡単だったんじゃないのか? よく考えたら、魔力攻撃を一切してないし。





”・・・アギト、もしやと思うが”

”多分・・・正解”





さっき送られてきたデータ、多分・・・アイツらからだ。つまり、教えてくれたわけだ。このまま吹き飛ばされて、その勢いを利用していけば・・・真っ直ぐここにたどり着けるって。





「ちょっと失礼しますよー!!」





そうして、また突入してきた影。それは・・・アイツら。そのまま、アタシらと違って遠慮なく床に着地。



で、わざとらしく周りを見渡す。





「・・・あれれ、どういうわけかレジアス中将のオフィスに乗り込んじゃったね」

【そうですねー。なんででしょうか。あぁ、失敗しましたねー】

≪というか、私達も不法侵入扱いになるのでは?≫



こ、コイツら・・・棒読みにも程があるだろっ! つーか、お前ら分かってたよなっ!? 分かってて乗り込んできただろっ!!



「な、なんですかあなた方はっ! ここがはレジアス中将のオフィスですっ!! 一体なんの権限で」

≪【「・・・通りすがりのピザ屋です。いや、どういうわけか道に迷っちゃってー♪」】≫

【「「「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」】





なぜか旦那やひげのおっちゃんも一緒になってツッコんだのは、きっと罪じゃないとしておいてして欲しい。だって、その言い訳マジでありえないし。



てか、なんでこんな真似を? いや、望むべき状況ではあるけどさ。





「・・・さて、初めまして。レジアス中将。まぁ、知ってるかも知れませんけど・・・僕は蒼凪恭文です」

≪私は古き鉄・アルトアイゼンです≫



そして、ユニゾンを解除して・・・例のバッテンチビが名乗る。



「機動六課所属の、リインフォースU曹長です。レジアス中将、私達・・・そして、ゼスト・グランガイツがここに来た理由、分かりますね?」

「・・・海の狗どもが何の用だ」

「簡単だ。アンタシバき上げて今回の一件について全部吐いてもらうためだよ」



こ、コイツ・・・おっちゃんがにらんでるのに臆面もなく言い切りやがったっ!!



「貴様、私を誰だと」

「スカリエッティを飼ってると勘違いしていた馬鹿な犯罪者」



そう言った瞬間、おっちゃんの視線が更に厳しくなる。というか・・・。



「貴様っ! 立場を弁えろっ!! お前のような若造に」

「つーか、今のうちにいろいろ吐いた方がいいと思うよ? ・・・後ろのおっさん、もうすぐ死ぬから」



言い返そうとしたひげのおっちゃんの動きが止まった。そしてそのまま・・・旦那を見る。



≪というより、一度亡くなっています。あそこに今立っていられるのは、ロストロギア・レリックの力により蘇生出来たおかげです。ただ・・・もう長くは持ちません≫

「・・・そこまで知っていたのか」

「ついさっき・・・だけどね」



まさか・・・そのためにあんなことを?



「まぁ、死出の旅路の土産くらいにはなるでしょ。・・・いい? 後ろのおっちゃんはアンタが殺した。どんな形であれ・・・アンタが殺したんだ。
おっちゃんだけじゃない。その仲間も同じくだ。その中には僕の友達の母親と、同じく友達の親友も入ってる」

「・・・黙れ」

「そこのおっちゃんが、僕達が立ちはだかった時になんて言ったか分かる? 復讐かって聞いた。そうしたら・・・そうじゃないって迷い無く答えた。凄いでしょ、自分や仲間を死に追いやった人間に復讐しないって、このおっちゃんは言い切ったのよ」

「・・・・・・黙れ」



ひげのおっちゃんが拳を握る。そして・・・わなわなと震えている。うつむいて顔はよく見えないけど、きっと表情は怒りに染まっている。



「まぁ、良く出来た人だよ。僕だったら遠慮なく復讐してる。だって、自分も自分の大事な仲間も殺した人間だよ? それなのに事実だけ知りたいって言ってるんだから」

「黙れと言っているだろうがっ! 貴様に・・・貴様に一体なにが分かるっ!? 私はミッド地上本部とこの世界の平和のために」

「黙らねぇよっ! そして分かるわけないだろうがっ!!」



そのまま、立ち上がって掴みかかろうとしたヒゲのおっちゃんの襟首を、逆にアイツが掴み、引き寄せる。机から引きずり出されるように・・・アタシ達の方にブン投げられた。

そして、床に叩きつけられたおっちゃんの首を更に掴んで、また引き寄せる。



「おい、アンタ・・・何時までそうやって逃げてるつもりだよ。世界の平和? 組織のため?
馬鹿かアンタっ! はっきり言ってやろうか、アンタはな・・・何にも守れてないんだよっ!! 友達も、世界も、組織も、そこに居る人間もっ! 何にも守れてないんだよっ!!」



怒号が響く。



「空を見ろっ! 全部ぶち壊しにしようっていう厨二設定な船が飛んで、それ止めようと必死こいて戦ってる人間が居るっ!! 陸を見ろっ! 一部のバカの行動のせいで、今この瞬間も空に居る奴らと同じように、命賭けて戦ってる人間が沢山居るっ!!
海とか陸とか本局とか地上本部とか関係無しに、自分の守りたいもの守るために戦ってるっ! でもな、本当ならこんな戦い・・・する必要無いんだよっ!! みんな、アンタを含めた一部のバカの尻拭いのために、賭ける必要の無い命賭けてんだよっ!!」



窓を叩き割られて、風通しがよくなった部屋に、アイツの声が響く。



「世界や組織、そこに居る人達を守りたいっ!? あぁ、立派だよっ! 尊敬も出来るよっ! でもな・・・そのために大事なモン無くして、どうするんだよっ!!
アンタが本当に守りたかったものは・・・今、ちゃんと守れてるのかっ!? アンタ、その手で一体なに守りたかったんだよっ!! ・・・ほら、答えろよっ! レジアス・ゲイズっ!!」

「あなた・・・中将に向かってなんですか、その口の聞き方はっ! いきなりこんな形で侵入してきたこと、その分を弁えない失礼な発言の数々、然るべく形で抗議させて」

「黙れ、おばさん」



ソイツがちょっと女をにらんだ。それだけで・・・女の身体が震え出した。というより、へたり込んだ。アタシや旦那からはその目がどういうものかはよく見えない。

ただ、相当な目をしてるのは間違いない。だって、女の表情が完全に恐怖に染まってるから。



「僕はアンタと話してんじゃない。・・・このおっちゃんと話してんだ。邪魔すんなら、そのうるさい口潰すぞ。いいな、少し黙ってろ」



・・・まるで、自分で言い聞かせるように何度も頷く。つか、アイツはなんなんだよ。思いっきりビビらせてやがるし。



≪・・・ゼスト・グランガイツはこうも言いました。あなたと話さえ出来れば・・・あとで自分のことは好きなようにしてもかまわないと。もし・・・もしも、あなたの心に一片でもあの人を友達と思う気持ちがあるなら・・・話してください。
あの人に、あなたが隠してきた全てを。もうすぐ命が尽きるあの人が、何の心残りも無く逝けるように。誰でもない・・・あなた自身のために、話してください≫



アイツら・・・。なんでだ? 借りがどうこうとか言いまくって邪魔しようとしてたくせに、なんでいきなり・・・こんな真似を。



「簡単だ」



思考が読まれてるっ!?



「僕、お払い効かないのよ。・・・死んだ後で僕のせいで話が出来なかったとかなんとか言われて祟られても困る」

「これ以上恭文さんの運が悪くなったら、対処出来なくなっちゃいますしね〜」

「リイン、お願いだから言わないで、自分でもそう思うのがすっごく嫌なの」

【そんな理由かっ!? そんな理由なのかオイっ!!】



こ、こいつ・・・やっぱりマジでワケ分かんねぇよっ! マジでコイツの師匠ってのは何教えてたんだっ!?



「・・・理解出来んな」

「はぁ?」

「なぜ・・・いきなりそこまでする」



旦那が聞くのは当然だ。アタシだって分かんない。



「さっき言ったでしょうが。僕は祟られても困るし、この事件の真相って奴を自分の目と耳で知りたい。だから・・・このおっちゃんに全部この場で吐いてもらう。それだけの話。
元々、アンタが来なかったらこうするつもりだったしね。まぁ、ついでだよついで」



そのまま、アイツはおっちゃんの首を離す。



「さて、どうする? 喋らないって言うなら・・・強制的に喋ってもらうけど」

「その必要は・・・無い」



ひげのおっちゃんが、とても・・・とても疲れた声でそう答えた。



「ゼスト、俺は・・・お前が来るのを待っていた。だが、いかんな。まだ色々なものに未練があったらしい。・・・この若造の言う通りだ。私は・・・何も守れていないと言うのに」



とても遠いものを見ているような瞳で、言葉を続ける。

あの、ということは・・・。



「お前の知りたい事は・・・この一件の真相だな」

「・・・そうだな、簡単に言えばそうなる。だが、それだけではない。俺がもっとも知りたいのは、俺と、俺の仲間があそこで死ぬ必要があったのかということ。
そして・・・俺とお前が語った正義が、どこに行ったのかということだ」



・・・アタシは、ゆっくりとユニゾンと解除する。状況が一気に進展し過ぎて、すっかり忘れてた。



「なら、話そう。私が知る全てを。そして・・・お前の問いに、答えよう」

「・・・すまない」










そうして、言葉がつむがれた。





旦那が・・・ずっと知りたかった真実って奴が、ようやく目の前に現れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・最高評議会が黒幕・・・ですか。




で、スカリエッティはそれから紹介されたと。




つまり・・・あれですか? この組織はトップそのものから腐っていたと。なんですか、それは。




そして、話を聞きながら・・・さっきまで感じていた怒りが消えていた。代わりに頭をもたげてきたのは、やるせなさ。




この人の・・・目の前で小さな背中を見せているおっちゃんは、決して間違ってないと思う。少なくとも、その心根は。





なのに・・・なんでこうなるんだろ。ただ守りたくて、取りこぼしたのが悔しくて、それで・・・頑張ってただけなのにさ。










「・・・これが、私の知る全てだ。言い訳に聞こえるかも知れんが・・・私が知った時には、もう・・・ゼスト、お前の隊は」

「もういい、よく・・・分かった」





とりあえず・・・おっさん二人が真剣にお話している間に、こっちのチームはこっちのチームで念話でお話。



というか、秘密の相談。さて、どうするよ、リイン、アルト。





”どうするもなにも、レジアス中将は裁判にかけられると思います。なんにしても、間違いではあったわけですから”

≪あと、この話・・・録音しましたけど、どうします? すぐにでもクロノさん達に送ることは出来ますが≫



・・・『個人的な友人との会話』なんて、意味ないでしょうが。つーか、悪趣味。すぐに消去して。



≪了解です≫

”でも・・・なんか、やるせないです”



・・・そうだね。



”恭文さんは、特に・・・ですよね”



うん、特に・・・だね。なんかさ、改めて振り返っちゃった。リインやアルトと・・・初めて会った時の事。僕もきっと、同じだから。

守れないのが悔しくて、取りこぼした事が納得出来なくて、だから・・・もっと強く、もっと強く・・・って。



≪・・・想いは、強過ぎればこういう形を呼び起こします。誰だってそうです。きっと・・・誰も間違ってないんですよ≫

”そうですね、きっと・・・そうです。なのに、コレって、なんだか悲しいですね”



・・・そうだね。



「・・・蒼凪、恭文」



僕達三人が念話であれこれお話していると、ゼスト・グランガイツがこちらを見る。どうやら、レジアス中将とのお話は終わったらしい。



「一つ、聞かせてくれ。お前は・・・なぜ戦いに飛び込んだ」

「はぁ? さっき言ったでしょうが」

「本当にあんな理由なのか? なにか・・・お前には無いのか。世界を守りたい・・・そこに住む人々を守りたい・・・そういう大儀や強い想いが」

「ない」



・・・その呆れた目はやめて欲しい。本当にそういうのは興味無いんだから。



「つーか、そんなの僕の流儀じゃないのよ。・・・組織なんかより、世界なんかより、そこに住む人達なんかより、もっと大切なものがある。それはね、僕の・・・ううん、僕とアルト、リインの胸の中に、しっかりとあるの」



そのまま・・・自分の胸を押さえる。というより、当てる。



「それが戦えと声を上げる。目の前の状況から逃げずに、目を逸らさずに立ち向かえと叫ぶ。だから・・・戦う。それだけの話」

「それは一体なんだ」

「簡単だよ。・・・僕達の、魂だ」



・・・訪れるのは沈黙。そして、それが少しだけ場を支配すると・・・目の前のおっさんが口を開いた。



「ならば・・・その魂とやらに一つ忠告をしてやろう」

「なにさ」

「俺やレジアスのようになるな」



・・・はい?



「お前・・・いや、お前達が戦う理由が、組織や世界の道理ではなく、自らの魂の声そのものだと言うなら・・・その魂の守りたいものを、通したいことを見失うな。人は・・・それさえも忘れる。そして、失う」



そうして、おっさんはレジアス中将を見る。どこか・・・悲しいものを隠した瞳で。



「だから、何を守りたいか、通したい事はなにか。常に己に問いかけながら進んでいけ。そして、そうしたいと思う、その根源を忘れるな。例え、それがどんなに辛い道だったとしても、絶対に怠ってはいけない。お前達が、大事なものを守る騎士であるならば、そうしていけ。
レジアスは・・・いや、俺達は、恐らくそれを見失った。俺達二人ともな。だから、俺達はお前の言うように何も・・・守れなかった。だから、こんな愚かな状況を引き起こした」

「旦那・・・」



・・・なーんでいきなり説教っぽい話になるんだろうね。

でも、不思議だ。この言葉が・・・胸に届いた。僕は騎士でもなんでもないけど、どこかで感じてたのかも知れない。必要な・・・事なんだと。



「・・・分かった。その言葉、僕達の魂に刻んでおく」

「それならば、いい」

≪まぁ、見失うも何も無いと思いますけどね。この人は惚れた女のために命を賭けるバカですから≫



そうそう、僕はフェイトを守れるなら・・・って、なんでいきなりバカ呼ばわりっ!?



「なるほど・・・。愛しい女性を守る・・・か、それもまた一つの道理だ。もしお前にそういう相手が居るなら、それもまたお前が戦う根源の一つなのだろうな」



・・・まぁ、そう・・・かな。フェイトの事、やっぱり守りたいから。そう言えば・・・大丈夫、かな。

ううん、大丈夫だ。フェイトは強いもの。きっと、僕なんかよりずっと強い。辛い事あっても、それでもあんなに優しくいられる。だから・・・フェイトは強いんだ。おかげで模擬戦で勝率4割超えられないしなぁ。うぅ、頑張ろう。



「それで、騎士ゼスト、融合騎アギト、あなた方はこれからどうするつもりですか?」

「俺達はスカリエッティを止めに行く。そして、ルーテシアを保護しなくては」

「あー、そんな必要無い無い」



僕は右手を横に振り、おっさん・・・ゼストさんの言葉に返す。当然、言葉どおりに行く必要が無いと言う意味で。



「はぁ? なんでだよ」

「まず、スカリエッティはフェイトが絶対に止めてる。・・・僕の想い人は無茶苦茶強いもの。あーんな雑魚に手こずるわけがない」



まぁ、散々言ってるしね。大丈夫でしょ。

・・・なお、後に全然大丈夫じゃなかったこと。そして、現在アジトが混乱の極みに陥っていたことを知って、本気で頭を抱えたけど・・・きっとそれは罪じゃないと思う。



「で、ルーテシア・アルピーノも六課の人間が保護に全力を注いでくれるって約束してくれてる。・・・大丈夫、僕の友達たちも事情を知って、絶対になんとかするって約束してくれてるから」

「・・・なるほどな」

「その通りです。スカリエッティは私の隊長が先ほど確保、そして、ルーテシア・アルピーノも同じく私の部下が保護したそうです」



その声は・・・部屋の入り口から。そこを見ると・・・居た。騎士甲冑に腰に片刃の剣、そしてピンク色のポニーテール・・・って、シグナムさんっ!!



「・・・お前は?」

「申し遅れました、騎士ゼスト。私は機動六課ライトニング分隊所属の、シグナム二尉です。以前の所属は首都防衛隊。・・・あなたの後輩ということになります。そして、そこの蒼凪とは姉弟のようなものをやらせてもらっています」



・・・いや、シグナムさん。名乗るのはいいんですけど・・・今までなにやってた?

ほら、よく見てよ。もうほとんど話片付いて、後はもうさようならーって感じなのに。今更そんなラスボスっぽく出てこられても・・・ねぇ?



「言うなっ! 貴様が早々にここに突入・・・いや、不法侵入などするから、私はこの状況なんだぞっ!? 心配して加勢に来てみれば、もう事態は解決しているというこの有様・・・私のやる気と気合を今すぐ返せっ!!」

「僕のせいっ!? ちょっと待ってくださいよっ! それはいくらなんでもないですってっ!!」

≪というより、返しようが無いですから・・・≫



と、とにかく・・・今のシグナムさんはちょっと怖い。そんなに出番が無いのが嫌だったのか。



「・・・とにかく、シグナム・・・さっき話してたこと、本当なんですか?」

「あぁ、本当だ。テスタロッサもエリオもキャロも、頑張ってくれた。それに・・・」



シグナムさんが空を見る。多分、見ているのはゆりかご。



「他の戦闘機人も、今稼動しているのはゆりかご内部の4番だけだそうだ」



え、もう一人だけなのっ!? ・・・うわ、みんな頑張ったなぁ。

でも・・・あれ? なんか忘れてるような。



≪シグナムさん、ということは以前私達が接触した青髪とピンク髪も・・・ですか≫

「・・・いや、そこが問題なんだ」

「どういう・・・ことですか?」

「テスタロッサがスカリエッティから聞き出したそうだが・・・」





瞬間、僕達は身構える。感じたのは・・・殺意。そして、僕はコレに覚えがある。



そのまま、身体中に走っている悪寒に従って魔法を発動。





≪Protection Powerd≫










シグナムさんも同じくだ。防御魔法を発動。そして・・・部屋が黒い悪意で満たされた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・槍を振るう。空間を薙ぎ、点を突き、線を描いて刈る。





でも、そのどれもが当たらない。いや、かすりもしない。いやはや・・・ここまでとは思わなかった。





ドゥーエが爪を振るう。それを俺は金剛の柄で受け止め・・・流す。瞬間的に、身体を左へと持って行き、数歩前進。

そのまま金剛の刃を左から振るって、俺と行き違うようにして少しだけ体勢が崩れたドゥーエの腹へ打ち込む。

だけど・・・避けられた。というか、消えた。





頭上に・・・気配。俺は後ろに大きく飛ぶ。そして見た。俺の居た位置に向かって爪が振り下ろされ・・・床が砕けたのを。

ドゥーエはそのまま俺の方へ真っ直ぐ飛んでくる。距離はあっという間に縮まり、空中で俺達は再びぶつかる。

突く。それを身を翻すように避け、金剛の槍の柄に手をかける。それに乗っかるようにして・・・顔面に蹴りが飛んできた。右からの回し蹴りを、俺はまともに食らう。




それにより吹き飛ばされて、近くの床に身体を叩きつけられる。休む間も無く身体を後ろに回転させて、その場から離脱。先ほどと同じように女が爪・・・いや、蹴りをかまして、床を踏み抜いた。そのまま俺の方に飛び込んでくる。

突き出された爪を・・・俺は槍で受け止める。そこから・・・力と力で押し合う。










「・・・どうしたの? こんなことじゃ、私お仕事を終われないのに」

「あー、やっぱり? 俺も実は・・・ちょい足りないなと思ってたんだ」





ヤバイなぁ・・・。懐に入り込まれたら好き勝手に攻撃されたい放題だよ。まぁ、レンジで得意不得意がハッキリ分かれてるから仕方ないんだけど。

さて、どうする・・・? この調子でやってたら間違いなくアウト。いつもなら遠距離攻撃に移行するんだけど、今回はそれもだめ。つーか、やりたくない。

これは、俺の腕試しでもあるんだ。そんなもん使ったって楽しくない。なら・・・覚悟、決めるか。



あとはタイミングだ。こういうのは不意をつけるかどうかで全部かかってくる。いや、楽しいねぇ。楽しすぎて・・・笑っちゃいそうだ。





「なにかいい作戦でもあるの?」

「そりゃもう、素晴らしいのがどっさりとね」

「そう・・・なら、見せてもらうわねっ!!」










そのまま、俺は爪を弾いて距離を取る。別の床に着地。そしてそのまま・・・構える。ドゥーエが飛び込んでくる。そこを狙って・・・全力で突きを叩き込んだ。





でも・・・それは避けられた。ドゥーエが俺の突きをしゃがんで回避。まるで・・・猫のようにはいつくばる。

そのまま、低く、これまた這うように飛び込んできた。槍を元に戻してる時間は・・・ない。

ドゥーエが右手を振りかぶる。あと数瞬で突きは決まる。だから・・・。





俺は、金剛を放り投げた。ちょうど・・・ドゥーエの上に降りかかるように。金剛、残りの処理はよろしくな。





ドゥーエの動きが一瞬止まった。まさか大事な相棒を放り投げるとは思ってたらしい。金剛が落ちてくるのを左に移動して避け・・・また飛び込んでくる。でも、それが隙だ。





だって、俺・・・もうドゥーエの背後に回りこんでるし。





ドゥーエが気づく。爪を裏拳の要領で俺に打ち込んでくる。俺は・・・踏み込んで、ドゥーエの右手首より上の部分を右手の手のひらで受け止める。こうすれば爪は効果がなくなる。

そして、心の中で謝る。・・・ごめんな、ちょっとだけ流儀を破るわ。




そのまま右手でドゥーエの手首を掴む。そして、すぐにその肘に左手で掌底を叩き込んだ。もちろん・・・腕をへし折るため。





左手から伝わるのは、確かな手ごたえ。間接を決めた上で叩き込まれた掌底は、見事に強化骨格であるはずの彼女の骨をへし折った。というか、肘を折った。

でも、次の瞬間腹に衝撃。俺はそのまま手首を離して吹き飛ばされた。つか・・・蹴りかい。




俺は胃の内容物が全部吐き出されそうになる衝撃に耐えつつ・・・受身を取り、着地。彼女はもう踏み込んでいた。そして・・・折れたはずの腕を振り回し、爪を投げ飛ばした。

それだけじゃない。左の手を拳にして、思いっきり握り締める。アレ・・・食らったら死ぬよな。だから俺は・・・まず、飛んできた三本の爪を、俺は左に飛んで避けた。

そして、その隙に彼女が俺の胸元に・・・拳を叩きつけてくる。





・・・でも、残念。俺はその胸元に飛んできた拳を、左の腕で受け止めた。瞬間、腕から凄まじい痛みが走る。簡単だ。骨・・・折れた。でも、それにかまわず俺は拳を握り締める。





右の拳を握り締め・・・彼女の腹へと、叩き込む。そのまま・・・中へとねじり込んで・・・衝撃を内部に伝える。





『ドン』・・・という鈍い音と、接触部が空気を震わせる。そして・・・そのまま二人とも動かずに数秒が経った。





突然、彼女の口から少量の血が吐き出される。そしてそのまま・・・前のめりに倒れた。俺は、それを受け止める。










「・・・かは」

「あー、大丈夫・・・か?」

「大丈夫じゃ・・・ないわよ」



そのまま、俺はその場で座って・・・彼女を寝かせる。



「・・・痛い」

「それ言ったら、俺だって・・・死ぬほど痛い」



左手、完全にバカになっちまった。あー、いくらなんでも無茶しすぎたなぁ。



「内臓器官・・・いくつかやられたわね」

「悪いな、加減できなかったわ」

「でも、あなた・・・あんなこと出来たのね。あれ・・・中国拳法とかそういうのかしら」



少し苦しそうに息をしながら、ドゥーエが話す。・・・で、俺は金剛を拾いにまた立ち上がり、歩き出しながらその言葉に答えた。



「あー、ちょっと違う。実はこれ・・・やっさんから盗んだんだよ」

「・・・あのおチビちゃん・・・から?」



内部打撃・・・徹と呼ばれる技。俺やヒロが見せてもらって衝撃を受けた御神流の技。で、やっさんから技の詳細を聞いて、ヒロにも内緒でこそっと練習してた。

元々、今ドゥーエが言ったように内部打撃の技は他の武術でもある。ただ、俺の見た限りでは徹はそれよりももっと強力で、徹底していた。まぁ、その手の技を他に覚えていたおかげで習得は結構簡単だったけどな。



「なら、どうして・・・あの子でソレを打ち込まなかったの? チャンスはいくらでもあったわよね」

「簡単だ。・・・俺、素手じゃないと使えないんだよ」



・・・うん、ダメなんだ。金剛でやってみたんだけど、全然だめ。なので、素手限定というあんまり役に立たない手札が・・・出来上がりと。

くそ、やっさんとかはどうやって剣撃でアレを打ち込めるんだよ。俺は手を使わないと全然だぞ?



≪主、お疲れ様です≫

「おう、お疲れさま。悪かったな、放り投げちゃって」

≪いえ、問題ありません。それと・・・全データ、転送完了しました≫

「お、ありがとな」



そのまま、金剛を・・・ドゥーエに向ける。



「さて、一応決着はついたわけだけど・・・どうする?」

「そうね・・・。とりあえず」





とりあえず?





「これで朝までお楽しみコースは・・・無理よ。これは、その前に入院ね」










・・・・・・あ、そう言えば・・・あぁ、しまったっ! 俺・・・もしかして詰めがすっげぇ甘かったっ!?










「爪相手だけに・・・ね」

「そんなジョークはいらないからっ!!」










ーサリエル・エグザ&金剛 最高評議会メンバー・・・排除 ナンバーズ・ドゥーエ・・・打破ー





ー勝利要因:一度会ったいい女は、姿が変わろうと絶対に忘れないという隠れた特技ー




















≪・・・これは≫

「ん、どうした。金剛」

≪強力な魔力反応を察知。これは・・・奴です。場所は中央本部、レジアス中将のオフィス近辺≫




おいおい・・・。まさか、やっさんの奴・・・くそ、ゼスト・グランガイツとどうなってるのかがさっぱりな以上、行かないわけにはいかないよな、これ。

金剛、やっさんと通信繋がるか?



≪・・・ダメです。通信、届きません≫

「なら、今すぐに転送魔法準備。オフィス近辺に跳ぶぞ」

≪ですが主、その腕では・・・≫



しゃあないだろうが。それに、利き腕はやられてないし、まだいける。もしやっさんがダメっぽかったら・・・俺が潰すしかない。

とにかく、俺は振り向く。そうしてなんとか身体を起こして俺を見るドゥーエを見る。



「あー、悪いドゥーエ。そういうわけだから・・・」

「・・・デートに誘っておいて、それはつれないんじゃなくて?」



う・・・。そこを言われると非常に辛い。



「まぁ・・・いいわ。私も怪我の治療があるし、それが済むまではお預けね」

「え? ・・・なぁ、いいのか。仕事はきっちりやるって言ってたのにさ」

「かまわないわよ。・・・私ね、あなたに興味が出てきたから。さっきも言ったけど・・・あなたが初めてなの。ISを使ったのに、あらゆる意味で別人だったのに・・・私だと見抜いた人は」



また、嬉しそうに笑う。苦しみを隠して・・・とても素敵な笑顔を、俺に向けてくる。



「とにかく・・・また、会いましょう? 気が向けば、メールするわ」

「そっか。・・・え、俺のアドレス知ってるの?」

「当然よ」



・・・なにが当然なのかはよく分からない。でも、アレだよアレ。この女は・・・怖い。うん、今ちょっと思った。もっと言うと、『当然よ』と言いながら笑った顔を見て思った。

とにかく・・・俺は転送魔法を展開。足元に白いミッド式の魔法陣が広がり、回転する。



「んじゃ・・・ドゥーエ、一人で大丈夫か?」

「大丈夫よ。これでも丈夫だから。それじゃあ・・・またね、サリエル」

「・・・あぁ、またな」

≪またお会いしましょう、ドゥーエ女史≫










そう金剛と俺が言うと、左手を上げて・・・手を振ってくれた。そして、俺はそのまま・・・転送魔法で中央本部に跳んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・レジアス中将のオフィス近辺には、すぐに到着した。そして、俺は左腕に回復魔法をかけつつ、急いでオフィスに向かう。





その途中で掴んだ。それは、俺が今さっき使った転送魔法の反応。もちろん、俺とは別の奴だ。俺は金剛にその行き先を調べるように頼むと、更に歩を早める。





さほど時間がかからずにオフィスに到着。だけど・・・そこは地獄絵図だった。





オフィスの内装は完全に吹き飛び、焼け焦げてる。そして・・・その中で倒れてる人間が二人。





それにかけより、泣いている女性が一人。そして・・・小さな赤毛の妖精みたいな子が一人。残りの二人ともう一人の妖精みたいな子は、それを見て・・・拳を握り締めている。










「・・・やっさん」





俺は、ゆっくりと後ろから声をかける。そして、振り向いた。



それを見た瞬間に気づいた。目の前の奴はいつもの表情を・・・装おうとしてやがった。だが、それは無意味だ。

もう、アイツの中に居る獣を縛り付ける鎖は、完全に砕けていたんだから。





「サリ・・・さん。あ、魔力反応で・・・ですか?」

「あぁ。それで、これ・・・どうしたんだ」

「・・・あのサイコ野郎ですよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・爆発は一瞬だった。でも・・・なんとか、防げた?





とりあえず、念話繋いで呼びかけをしてみる。・・・みんな、大丈夫?










”・・・なんとか、大丈夫だ”



最初に聞こえてきたのはシグナムさんの声。硝煙が少しずつ晴れて・・・辺りが見える。よかった、皆立ってる。



”だが、これは・・・なんだ?”

”考えるまでもないですよ”





この魔力反応、もう覚えてる。これは・・・奴だ。



意識を集中させる。そうして、辺りの気配を・・・来る。僕は近くに居たリインを抱えて、後ろに飛んだ。すると、今まで居た位置を射撃魔法が襲ってきた。これも、前回使ったやつか。

そのまま、乱射してきたそれに大して、僕は防御魔法を再び展開。





≪Round Shield≫





そうして、弾丸を全て弾く。その乱射が終わってもシールドを展開したまま前方を見る。すると・・・居た、アイツが。



悪意を撒き散らす獣が、にこやかに笑って・・・そこに居た。





「貴様・・・」





どうやら、ゼストさんも健在か。声で分かる。





「・・・ふむ、生きてますか。これはいただけませんね」

≪いただけないのはアナタの頭の中身ですよ≫

「アナタが・・・フォン・レイメイですね」

「えぇ、そうですよ。可愛いお嬢さん」



そのまま・・・構える。なんにしても、もう覚悟は決まってる。ここでやらなきゃ、意味がない。

そして、飛び出そうとした瞬間、何かがドサリと床に倒れる音がした。それも、二つ。



「・・・旦那っ!?」

「父さんっ!!」



そして、僕は見た。二人の・・・レジアス中将とゼストさんの胸元に、穴が開いているのを。



「レジアス・ゲイズ中将。あなた・・・もう用済みだそうです。まぁ、いちおうスカリエッティに雇われている身としては、貢献しないといけないので・・・死んでください。
あ、それとゼスト・グランガイツ。あなたはもうすぐ勝手に死にますけど・・・それでも、殺しますね。理由は簡単です。私・・・くくく、あなたみたいな武人が、嫌いなんですよ」



笑いと共にそう言ったのは、他でもないあの男。まるで、目の前で二人殺したのが楽しいみたいに言いやがる。

・・・なるほど、よくわかった。うん、改めて・・・分かった。



「てめぇ・・・! よくも旦那をっ!!」

「なぜ怒るんですか? どうせもうすぐ死ぬんですから、ここで死のうと別のところで死のうと、変わりはないじゃないですか」



・・・構えを解く。そして・・・踏み出す。



「ふむ、親しい人間を攻撃されるというのは、やはりダメージが大きいようですね」



そして、男が僕を見る。そのままあざ笑う。



「ならば、ここはあなたにも同じ思いをしてもらう必要がありますね。まずは・・・彼女でしょうか。あの美しい金色の髪に紅い瞳、整った顔立ちに柔らかな身体。それらを徹底的に汚して、蹂躙して、身も心も私に服従させる。そしてあなたの前で」



言葉は最後まで続かなかった。なぜなら・・・男が自分で言葉を止めたから。そして、なぜか・・・笑う事をやめた。



「・・・どうした、続けろよ。徹底的に汚して、蹂躙して、服従させて、それから僕の前で・・・なんだ?」



僕が一歩踏み出すと、男が空中に居ながら一歩下がる。僕は追いかけるように一歩踏み出す。



「ほら、聞いてやるから・・・言えよ。それからどうすんだ。ほら・・・言え。・・・言えっつってんだろうが」



だけど、男はその言葉に耳を貸さず・・・いや、聞く事を拒否した。数歩下がってから、また笑いを浮かべる。



「・・・まぁ、いいでしょう。手は他にもあります。えぇ、いくらでも・・・ね」



そのまま、姿を消した。転送魔法・・・か。



≪・・・救いようが無いですね≫

「恭文・・・さん」



・・・拳を強く握り締める。あぁ、もう・・・ダメだわ。

鎖が、砕けた。



「・・・やっさん」










その瞬間、声がかかった。振り返ると・・・居た。





左腕に当て木をして、包帯を巻いたサリさんが。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・という事です」

「・・・そっか。うし、金剛」

≪奴の転送先、既に掴んでいます。これは・・・廃棄都市部ですね。座標は・・・ここです≫



廃棄都市部? えっと、確かそこって・・・。



「六課の前線メンバーと戦闘機人達の戦闘ポイントだな」



横からシグナムさんが来た。一つの指輪を右手に持って。



「・・・シグナム二尉、会って早々ぶしつけな質問なんですが、そこにやっさんの関係者は?」

「居ます。・・・保護されて、現場で手当てを受けているギンガ・ナカジマ陸曹が」

「ギンガさん、無事・・・なんですね」

「あぁ、スバル・・・ギンガの妹が止めてくれたおかげでな」





ならよく・・・はないか。だって、つまり、マジで僕の関係者潰していこうとしてるわけだから。・・・でも、手を出そうとしてるのはフェイトじゃない。アイツはさっき自分でフェイトを襲うと宣言してたのに。



そこで、僕は一つ気づいた。先ほどの反応なんかも考えた上で、なぜこの行動を取ったのか、分かった。



・・・くくく・・・そっか、そういうことか。よーく分かったわ。アイツ、もう怖くなんてないや。獣は獣でも・・・負け犬なんだもの。





「サリさん、僕とリイン、今すぐそこに飛ばしてください。アイツ、潰してきます」

「待ってくれっ!!」



声がかかった。それは・・・赤い小さな妖精。



「・・・アタシも連れてってくれ」

「えぇっ!? で、でもアナタは・・・」

「アイツは・・・絶対に許せねぇ。この手で・・・仇を討たなきゃ、気が済まねぇんだっ!!」



・・・僕はその言葉に、右手をその子の頭にポンと乗せる。



「・・・やめときなよ」

「え?」

「仇討ちとか、復讐とか、そういうの・・・やめなよ。きっと、むなしいだけだ」



・・・ちょっと、思い出してた。昔の事。そういうのに関わった時のこと。今のこの子は・・・アイツらと同じ目をしてた。

さすがに、それは・・・ね。



「名前・・・アギト、だったよね」

「・・・あぁ」

「仇は、僕が討つ」

「え?」



らしく、ないかな。でも・・・さ、さすがにキツイのよ。あんな連中と同じ道、こんな小さな子に歩かせるわけにはいかない。



「僕がやる。徹底的に・・・もちろん、もう二度とこんな事が出来ないように。僕がアギトの代わりに、その人の仇討ちをする。だから・・・そんな目、やめなよ」

「うるせぇっ! アタシはやると言ったらやるんだっ!! さっきまで名前も知らなかったくせに、止めてんじゃねぇよっ!!」

「止めるに決まってんだろうがっ!! ・・・怒りで、憎しみで、憎悪と妄執で、目の中が一杯になってる。そんな目をしてたら、その人・・・安心して眠れないよ?」



僕にそう言われて、アギトがハッとする。そして・・・僕を見る。いや、ちょっと違う。

僕の目の中に映る、自分の姿を見てるんだ。



「僕が言ってる事は、間違いなく奇麗事だよね。でもね・・・ダメだよ。そんな目をしても、誰も喜ばないし、誰も・・・幸せになれない。少なくとも、その人は」



それから、顔をあの人に向ける。別れの言葉をかけることも出来ずに、そのまま旅立ったあの人を。大事な友達と一緒に、永遠の眠りについたあの人を。



「・・・お前、名前・・・なんだっけ」

「蒼凪・・・恭文」

「なら、恭文。本当に、任せていいんだな?」



僕は頷く。そして、アギトが・・・目をつぶって少し考えるような仕草を見せて、それから目を開いた。

そして、真っ直ぐに僕を見る。



「・・・分かった。お前に・・・任せる。ただし、絶対に潰せ。それが出来ないなら、アタシがやる」

「・・・確かに、引き受けた。シグナムさん、この子のこと、お願いします」

「あぁ、任せろ。それと・・・」

「分かってます。絶対に・・・帰ってきます。五体満足で、無事にね」



そうして、足元に白い魔法陣が発生する。サリさんが話してる間に、転送魔法の準備、整えてくれてたみたい。



「んじゃ、サリさん。・・・お願いします」

「おう、思いっきりやってこい」

「はい」










そして、次の瞬間・・・僕とリイン、アルトは廃棄都市部へと転送された。





今度こそ・・・あの『負け犬』を叩き潰すために。




















(ミッション09へ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・さて、あっちやこっちでドタドタと暴れまくった今回のお話、いかがだったでしょうか。本日のあとがきのお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

フェイト「え、えっと・・・レギュラー化してるフェイト・T・ハラオウンです。前回、幕間そのきゅうのあとがきでヤスフミに叱られたので、ちょっと自重していきたいと思います」





(閃光の女神、色々考えたらしい。なお、詳しくは電王クロスのインタールード03を呼んでいただけると分かるかも知れません)





古鉄≪まぁ、最近は色々と加減できてませんでしたからね。もういつでもエロオーケーみたいな感じで≫

フェイト「オ、オーケーじゃないよっ! その・・・そういうのは、私がその・・・頑張らないとダメなの」

古鉄≪エロですか?≫

フェイト「だからエロじゃないってっ!! ・・・あの、つまり・・・告白・・・とか」

古鉄≪告白してからエロですか?≫

フェイト「だからエロじゃないよっ! そ、その・・・付き合い出したりしたら、そうなるのかも知れないけど・・・!!」





(閃光の女神、顔が真っ赤。それはもう真っ赤。まるでトマトのようだ)





フェイト「というか、どうしていきなりそんな話になるのっ!?」

古鉄≪簡単ですよ。男と女が求め合うのは精神より肉体だからです≫

フェイト「・・・なにそれっ!?」

古鉄≪いえね、私ネットラジオ聞くのが趣味なんですよ。なお、最近のお気に入りはフェイト・ゼロのラジオですね。小山力也さんと大原さやかさんが出ているの。
それで、某レギオスのレイフォン役の人と、谷山きーやんさんがやっているラジオに、同じくレギオスに出ているティアナさんの中の人・・・中原麻衣さんがゲストに呼ばれている回を聴いたんですよ≫





(閃光の女神、話の行き先が分からないけど、とりあえず話を聞く事にした)





古鉄≪それで、そのラジオの中で女性ゲストが来た回には、そのゲストを愛の言葉でくどくというコーナーがあるわけですよ。その中できーやんが『男と女が求め合うのは、精神より肉体だと・・・俺は思うんだ。だから・・・麻衣ちゃん、(おでん全部くださいっ!!)て?』・・・と言う、素晴らしいくどきを」





(閃光の女神、その一言で完全に固まる。なお・・・規制音の部分はラジオでは普通に聴けます)





フェイト「や、や・・・やら・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

古鉄≪いや、私は思いましたよ。あなた方に足りないのはこういう獰猛さですよ。もうプラトニックなんていらないでしょ。8年間十分過ぎるくらいにプラトニックだったんですから。これからは、セクシャルな事を頑張っていきましょうよ。
とらハ3の美由希さんシナリオを見てくださいよ。作者とかマスターがやってて『これ・・・もしかしなくてもエロな部分っていらなくね?』と思ったとしても、無駄に沢山頑張ってるんですし≫

フェイト「・・・・・・アルトアイゼン、もしかして・・・それでさっきまでの会話?」

古鉄≪はい。アレですよ、あなたから『して・・・いいよ?』とか言えば、もうあとは無事に解決めでたくハッピーエンドですから。いや、ラジオって聴いておくもんですね。これで糖尿病予備軍な読者が減るんですから≫





(青いウサギ、自信満々に胸を張って言う)





フェイト「自身満々に言わないでっ! あの・・・その、確かに恋人同士のコミュニケーションとしてそういうのは必要だろうけど・・・あの、その・・・でもダメっ!! その、いきなりそういうえっちなことはダメなんだよっ!?」

古鉄≪大丈夫ですって、きーやんはこうも言ってましたよ? 身体と身体が結びついてから、精神が結びつくと≫

フェイト「逆だよ、それはっ! ま、まず・・・心から結びついて、それから・・・その、身体が・・・私と・・・ヤス・・・フミが・・・」





(閃光の女神、頭からスチームが発生。どうやらそうとう色々考えているらしい)





古鉄≪だったらどうしてラジオでそんなこと言ったんですか、規制音とかも無かったんですよ?≫

フェイト「そんなの知らないよっ! お願いだからそういうのは番組スタッフに聞いてっ!?」

古鉄≪なお、中原麻衣さんはこのくどきに対して一刀両断してましけどね。うーん、どうしてでしょう≫

フェイト「当たり前だよっ! その・・・他はともかく私とヤスフミはそういうのダメなのっ!! こう・・・いきなりえっちなこととかはしないんだからっ!!」

古鉄≪でも、あの人は口に出さないだけで我慢はしてますよ?≫





(閃光の女神、その一言でうなって固まる)





フェイト「そ、そう・・・だよね。ヤスフミ、すごく優しいから、いつもそういう話になると大丈夫って言ってくれるけど・・・きっと、すごく我慢させてるよね」

古鉄≪・・・自覚はあるんですね≫

フェイト「その・・・それは、すごく。だから、一応でもなりかけでも・・・ちゃんとしたいなと」

古鉄≪いいことです。・・・えー、それでは話もキリがいい感じで締まった所で≫

フェイト「締まったの、コレっ!?」

古鉄≪お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

フェイト「え、えっと・・・いきなりえっちなのはいけないと思いますっ! フェイト・T・ハラオウンでしたっ!!」

古鉄≪いいと思うんですけどねぇ≫

フェイト「・・・アルトアイゼン、それははやて達のこととか考えて言ってる?」

古鉄≪いえ、あれを見た上でさっきの話を聞いたので、やっぱりそうなのかな・・・と≫










(青いウサギがとんでもないことを言っているのもカメラに映しつつ、フェードアウト。
本日のED:『ヤサシイウソ・フェリVer』)



















フェイト「・・・ヤスフミ、私そうとう・・・我慢させてるよね」

恭文「大丈夫だよ。それに・・・無理矢理迫ってフェイトとの距離、遠くなったりとかも嫌だし」

フェイト「ヤスフミ、正直に言って。我慢・・・してるよね」(顔を近づけ、真っ直ぐに見つめる)

恭文「その・・・多少は。というか・・・かなり」

フェイト「・・・ごめん。私、本当に酷いよね。自分勝手過ぎるよ」(凄まじく落ち込む)

恭文「あの・・・えっとさ、だから・・・その・・・あぁもう、お願いだから落ち込まないでよー!!」

サリエル「てめぇら・・・人が骨折れたりしてる時にまでイチャつくなよ・・・!!」

ドゥーエ「別に関係の始まり方なんてなんでもいいのに。身体からだろうと精神からだろうと、上手く行く時は行くし、ダメな時はダメなのよ」

サリエル「ドゥーエ、お前・・・大人だな」

ドゥーエ「当然よ、色々・・・あったから」










(おしまい)






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