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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory35 『戦う女達』


PPSE社の一画――三代目メイジンは、ちょっとずつ作り上げているメイジンキャラを崩し。


「カルロス・カイザーが負けただと!」


自室の作業机から立ち上がり、驚きの表情。そんな彼に試合映像を見せると、その驚きがより深くなる。


「どう思う、タツヤ」

「……キュベレイのファンネルコンテナから、僅かに光が走っている。恐らくだがクリアパーツによるファンネルだろう」

「しかしカイザーの様子を見るに、レーダーなどに反応はなかった。視覚はごまかせてもそちらは」

「粒子変容塗装だろう。ステルス機能を付与するならば、前例がないわけじゃない」

「ボクも同じ読みだよ」


しかしほぼ透明状態を維持しつつというのが……これがチーム・ネメシスの力か。

財力だけならばPPSE社にも引けを取らない、個人スポンサーのワークスチームだ。

その財力で強力なガンプラを、そしてそれを確実に操るファイターも手に入れた。しかしそれは、遊びの範囲なのかな。


まぁPPSE社に属する僕が、こういう事を言うのはおかしいんだが。ただそれ以外は問題ない。

どんなものでも突き詰めれば財力や設備、人員などを揃え、有効活用できる者が勝つ。

ガンプラに限らず、いわゆるプロスポーツの類はそういうものだ。だが不公平に近いものを感じるのも否定しない。


実際メイジン率いるワークスチームは、実質シード選手だ。プラフスキー粒子の製造元でもあるし、批判の声も少なからずある。

ただその批判は『参加するな』という事ではなく、そういう現状を許しているPPSE社に対するものでもある。

その一番の原因は、世界大会がオープントーナメント――正真正銘無差別級なためだ。


財力や設備関係のレギュレーションがないため、ワークスチームと一般参加者が混在する形となっている。

例えばエキスパートリーグなんて言って、ワークスチームはそちらに参加……実質プロリーグとする方法もある。

そう、レギュレーションが変わり、区分けが成されない限りはこのままだ。そこはPPSE上層部の判断に委ねるしかない。


だからこそタツヤの――三代目メイジン・カワグチの肩にかかったものは、相応の重さがある。

その批判を目指す方向へと変えるには、気高き姿勢と強さが必要になるのだから。


「さて、この事実に気づくファイターは何人出てくるだろうね」

「選手権に出てくるファイターならば、誰でも気づくさ。それより問題なのは実対策だろう。
ステルスな上、視界にも捉えられないファンネル。正真正銘のニュータイプでもなければ、発射された事にも気づかずやられる」

「しかも初っぱなからこんなものを見せたという事は、キュベレイの本体そのものも……だろうしね」

「それで、この妖艶な蝶(パピヨン)を操るファイターは」

「アイラ・ユルキアイネン……ただ一つ、問題があってね」


タツヤが訝しげにする中、つい困ってお手上げポーズを取ってしまう。


「PPSE社の情報収集能力でも、彼女の事が掴めないんだよ」

「つまり大会などにも出場経験がない、完全なルーキー」

「まさに下克上、そして新星の如きデビューだ。同時に彼女は、『世界の敵』となった」

「あぁ。荒れるぞ、この大会」


別に彼女が悪いという話じゃないよ。そんなファイターならば優勝候補間違いなし……それは倒すべき敵となる。

彼女は注目度の分、競技などで標的にされやすいんだよ。だからこその個人情報秘匿なんだろうけどさ。

又は単純に、そんなファイターと戦いたがっている馬鹿がいる。そう、いるんだよ……ボクの隣にも、楽しげな男が一人。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミサキちゃんとメールをちょくちょくしつつ、ガンダムX魔王の改良に勤しんでいると……師匠から呼び出された。

そうして道場で聞かされた話は、あんまりに衝撃的。もう、開いた口が塞がらんかった。


「マオ、お前ほんまに知らんかったのか。フィンランド予選が終わってすぐ、世界中が震え上がってたんやで」

「素材調達で遅くまで出張ってたので……昨日は帰ったらそのまま寝てました」

「そうやったんか。まぁしゃあないわな、健康の秘けつは早寝早起きや」

「でも師匠は夜更かし」


言いかけて、そりゃないわなーと気を取り直す。


「ありませんか。フィンランドとの時差、マイナス七時間ですし」

「その時間は夕飯食べとったわ。ほんでみそ汁噴いてもうた」

「そりゃ吹きますわ、こんなん見せられたら」


一応説明しときましょうか。フィンランドとの時差は、日本のマイナス七時間。

例えば今は日本時間やと十五時やから、今フィンランドは朝の八時。ちょうど朝食時です。

そこから考えると、師匠の夕飯発言がおかしくないのも、夜更かししてないのも分かるかと。


「でもこの子、ワイとさほど変わらんような」

「現地の恭文とラルも驚いたそうや。しかも見ての通り、カイザーはなーんもできんかった」

「……相当打ちのめされとるでしょ、これ」


同じ事やられたら、ワイかて死ぬほどヘコむわ。それでガンプラを辞めるつもりはないけど……一度経験してるからなぁ。

とにかくこのアイラ・ユルキアイネンと、キュベレイパピヨンや。やってる事に推測はつくけど、ガンプラの性能だけやない。

そんな高性能なもんをほいほいと扱える、この子の技量も相当なもんや。でもそれだけ強いのに、師匠にも覚えがない。


チーム・ネメシス……金持ちはなんでもアリっちゅう事かい。まぁしゃあないか、これはオープントーナメントやし。

例え財力絡みで発掘したものだとしても、このガンプラとファイターの実力は本物。

そして堂々と試金石を砕き、世界レベルにのし上がった事も事実。そこはちゃんと認めんと、確実に負けるわ。


そう、試金石を砕いた。それも世界最強の試金石を……そやから胸の中が思いっきり燃え上がってしまう。

ファイターやったら、そんな相手とバトルしたいって思うもんや。きっとセイはんや、恭文はん達も……あぁ、きっと同じです!


「さてマオ、どないするか。相当な強敵やで」

「当然勝ちに行きます! ……対戦したら」

「弱気やなぁ!」

「そう言わんといてください、組み合わせもさっぱりですしー」


アイラ・ユルキアイネン……大会は始まってないのに、なんという支配的な存在へのし上がった事か。

対戦が決まってからじゃやっぱ遅いか。今のうちから対策考えんと、ワイもカイザーみたいにされかねんで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


カイザーの敗北、新星の登場……それはイギリスのガンプラ界を震かんさせていた。情けない事にわたくしもだった。

朝食を食べ終わった後、中継に目を通したらアレですもの。チェルシーと一緒に腰を抜かすレベルです。


「お、お嬢様……これは」

「……こうしてはいられませんわ」


こちらもより盤石な体制を整えなくては。テーブルから立ち上がり、左手を強く握り締めガッツポーズ。

貴族の娘としてはアレかもしれませんけど、今は構っていられない。胸が……胸がとても熱いんです。

あの人との再戦だけではない。世界の強者達と戦える喜び、それがわたくしの胸を支配していた。


「チェルシー、すぐに日本への移動準備を! 予定より早く現地入りいたします!」

「えぇ! で、ですがスクールは」

「期末テストは既に終わっています!」


そうと決まれば即実行。チェルシーに宣言しつつ、わたくしも自室へ戻り身支度開始。

新作ガンプラの完成作業も、向こうで済ませてしまいましょう。……熱い、胸が熱い。

こんなに夏が待ち遠しかったのは、いつ以来だろう。結果はどうあれ、今年の夏は決して忘れられないものになる。


それだけは間違いないと、足早に廊下を歩きながら確信していた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


カイザーが負けた……フィンランド予選の映像はリアルタイムで、作業室で見ていた。だから、衝撃的だった。

同時に確信する、僕の持っていた危惧が勘違いじゃないと。そして恐怖する、対抗手段がない現状に。

もちろん後悔もする。もっと……もっと早くから考えていればと、それこそ眠れなくなるほどだ。


でも負けるか、止まっていられるか。限界を超えるって決めたじゃないか。そうだ、気持ちは折れてなんかない。

僕のガンプラで、世界の凄いファイター達と戦う。彼らに負けないガンプラを作り上げる。

必ず成し遂げてみせる。だから魂を磨き上げろ。今、パーツをヤスリで磨いているように。


ありったけのその先へ行くのなら……考えろ、手を動かせ、ガンプラと接し続けるんだ。

答えはきっとこの中にしかない。それを探すため、より深く……深く作業へのめり込んでいく。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory35 『戦う女達』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第七十八回けやきが丘区・中学美術展……快晴の中、開かれるそこで仁王立ち。金髪ドリルな髪を揺らし、神に挑む気持ちで笑う。


「ついにやってきましたわ。――決着の時が!」


絵画の英才教育を受け、数々の展覧会で入賞してきたこの私……ヤジマ・キャロラインの唯一前を行く存在。

それは目の上のたんこぶ。そんな相手に勝利するため、心血を注いできた。だからこそ。


「今年こそリベンジを果たさせていただきますわよ! コウサカ・チナ!」


振り返り、のんきに歩いてきた女の子を指差す。すると彼女は。


「あ、キャロちゃん久しぶり」


またその名前で呼んでくれる……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「キャロちゃんじゃなくてキャロラインよ! ヤジマ・キャロライン! 人をお菓子のキャラみたいに呼ばないで!」

「でも、キャロちゃんはキャロちゃんだし」

「だからぁ……!」


相変わらずマイペースすぎる! ……っと、いけないいけない。のっけからこちらを動揺させ、心理戦で優位に立つつもりね。

しかしそうはいかないわ。私は絵画の技術だけでなく、メンタルをも鍛えてきたの。そう、すべてはコウサカ・チナ!

「あなたに勝つため!」

「発表、見ないの?」

「見るわよ! 見るに決まってるでしょ!」


そして彼女はマイペースに美術展へ入っていく。だからぁ……空気を読んでぇぇぇぇぇぇぇぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一方その頃、そんな二人とは全く関係のない場所で

「……は!」


お昼のシチューを仕込んでいたら、妙な寒気を感じた。手伝ってくれていたエリオ君が、軽く小首を傾げてのぞき込む。

うん、エリオ君、こっちに戻ってきてるの。出戻りは認めないつもりだったけど、旅をするなら準備も必要だからーって。

ようは着替えなんかの用意だね。それで明日また出発するみたい。しばらくカルナージにいて、いろいろ考えたとか。


「キャロ、どうしたのかな」

「今、私の大事ななにかが侮辱されたような」

「意味が分からないよ!」

全く関係ない二代目魔王が電波をもらっていた

「まぁそこはいいか。でもエリオ君、旅に出るんだ」

「あのまま居候しててもあれだし、世界を見て回る事にしたよ。ただ、疑問はあるけど」


エリオ君はじゃがいもを器用に剥きながら、ただただ苦笑。


「都会の喧騒とか、そういうのを忘れないようにってちょくちょく研修はしてたのに。あとはほら、クロノさんの部隊でも」

「うーん、それなんだけど」


玉ねぎを切り終えたので、次はニンジンを乱切り。苦手ではあるけど、頑張って食べられるようになりました。


「それってやっぱり身内というか、ツテの中にいるわけで。もっと言えば慣れ親しんだ場所でもあって。
きっともっと広い世界があるって、エリオ君自身が感じてるんじゃないのかな。気づいていないだけで」

「大人になるって、難しいね。メガーヌさんにも似たような事を言われたんだ。
世の中の事とかが以前よりよく分かるようになったら、今の場所への疑問も出る……誰でも経験する事みたい」

「だから旅なんだ」

「うん。どうも恭文も似たような感じで、あっちこっち旅をしまくっていたそうだから。
真似になるけど……知識だけじゃなくて、世界のいろんな場所を見て、肌で感じてみようと思う。今の世界、その外を」

「そっか」

「それで……もう一つ。IMCSに出ようと思ってる」


そこで手が止まった。確かに以前、同じルールで負けまくったからなぁ。そのせいかと思ったら、その通りと苦笑気味に頷いてきた。


「目標もあった方がいいってメガーヌさんに勧められてね」

「でも局員だと」

「それなんだけど、四か月以上の長期休職者なら参加できるっぽいんだ。ただランクAAA以下っていうランク制限はついちゃうんだけど」

「ギリギリかぁ」

「ギリギリだね。でも今のままじゃどうやっても負ける。また戦い方を考えないと」


エリオ君の戦闘技能、そのほとんどはIMCSルールでは活用できない。もちろんストラーダの性能もだよ。

飛行魔法・機能が原則禁止だし、デバイスの機能もフルには使えない。でも、どうしてだろう。

その上でどうやって勝つか――その先を見始めたエリオ君の目には、消えかけていた炎が宿っていた。


目標を見つけて、真っすぐに突き進む心。それに安心して、調理を再開した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


美術展、結果はどうなるかと思ったら。


「キャロラインお嬢様、金賞おめでとうございます」


私が描いた『Jの食卓』……リンゴなどの果物を配した風景画は、見事金賞を受賞。そう言うなら……トップよ!

うちの執事にも褒められ、つい得意げに笑ってしまう。勝った……第三部完ってやつね!


「くっきりとした輪郭。省略による単純化。強い明暗対比……水彩画の魅力を余すところなく伝えきった、見事な作品でございます」

「おめでとう」

「一応、ありがとうという言葉をお返ししておきますわ。
それよりチナさん、あなたはどんな作品を発表されまして? いつもの風景画かしら」

「今回は少し違うの」


そうして案内されたのは……その絵は、黄色いクマロボットが描かれていた。

はちみつを丸い手につけ、美味しそうに舐めている。これは……これはなに! しかも。


――特選 題名:不思議な森のベアッガイ 作者:香坂チナ――

「「と、特選!?」」

「わぁ……!」


馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あまりの衝撃でめまいがすると、慌てて執事に支えられる。


「お嬢様が受けた金賞よりも高い、最高の評価……!」

「く、さすがは私の、永遠のライバル! ……ていうかなんですの、この絵は! なに、クマ!? ていうかロボットじゃない!」

「ロボットじゃなくて、ガンプラ!」

「なんですの、それ」

「……お嬢様、ガンプラとはアニメ【機動戦士ガンダム】のプラモデルです。その略称でガンプラと」


そこで耳打ちにアドバイスをもらい、一応納得。しかし逆に打ちのめされ、床に突っ伏してしまう。

プラ、モデル? おもちゃをモチーフにした作品……それに敗れたというの!?

ば、馬鹿にしてぇ……! コウサカ・チナ、この屈辱は絶対に忘れなくってよ! むきー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


季節はもう夏休み間近……ガンプラバトル世界選手権、それももうすぐだから、準備もしている最中。

ちょうど会場の静岡に、親戚のおじさん達がいる。だから……イオリくん達の応援、しっかりしないと。

まぁそのためというか、お店のお手伝いもしていたり。でも、やっぱりその。


「……いらっしゃいませ。ご注文は、お決まりですか」

「オ、オムライスを二つ、お願いします」

「か、かしこまりました」

「あの、差し出がましいようですが大丈夫ですか。顔色が優れないようですが」

「いえ、その……大丈夫です。はい」


接客は苦手です。心配してくれた黒髪ポニテなお姉さんと、優しそうな男の人にはしっかりお辞儀。

ありがとうございますとも言った上で、カウンターへ。すると中にいたお父さんが、とても困った顔でわたしを見た。


「お父さん、オムライス二つ」

「なあチナ、客商売なんだから……もうちょっと愛想よくできないか?」


その言葉で軽く傷つく。や、やっぱりわたし、ちゃんとできてないんだ! なのでなんとか笑おうとすると。


「こ、こう?」

「お父さんが悪かった……! ふだんのままでいいからぁ!」


頭を抱えて絶望した!? そんな、わたしはそこまで……はぁ、駄目だなぁ。

一緒にお手伝いしてくれているユウマを見て、試しに笑ってみる。

するとユウマは……そしてお店にきてくれていた、ユウマの友達な女の子は。


「ひぃ! フ、フミちゃ……お姉ちゃんがー!」

「駄目だよユウ君! チナお姉ちゃんはその、えっと……不器用なんだよ! 高倉健さんみたいに!」

「なにそれ!」


揃って怯えて、わたしに高倉健という称号をくれました。もう、泣きたい。どうしたらもっと器用に生きられるんだろう。


「……チナ、イオリ君のお母さんから電話よー」


絶望していると、休憩していたはずのお母さんから一声。慌ててお店の電話へ駆け寄り、内線を回してもらい笑顔。


「お電話代わりました、チナです!』

『……え!?』


あれ、みんながめちゃくちゃ驚いてる。ユウ君もこっちを見て、目をぱちくり……どうしたんだろう。


『チナちゃん……助けてぇ』


でもそれに構っている余裕はない。その声は、今まで聞いた事がないくらい困り果てた様子だった。基本は明るく、優しい人なのに。


「あの、どうかしたんですか」

『ここ数日、セイがお店の製作室から出てこないの。食事と寝る時、学校以外はずーっとガンプラを作っていて』


そこで思い出すのは、あの旅館でのバトル。その前にイオリくんが言っていた、世界の壁。

そう言えば旅館での一件から、すぐ新作に取りかかるって……え、まだできてないの!? あれから三週間とかなのに!


『休めって言っても全然聞かないし……でも、チナちゃんの言う事なら、セイも聞くんじゃないかなって』

「あの、恭文さんやマオくんは駄目なんですか。レイジくんは」


あの時通じなかった言葉……そのせいか、臆病になってしまった。イオリくんはきっと困ってる。

一生懸命作ったはずなのに、それが通じなくて。通じないと突きつけられて……嘘だって、わたしが言っても駄目だった。

みんな一生懸命なのは同じ。そんなとても当たり前で、忘れがちな事実を突きつけられて。


でも同じビルダーの恭文さんや、マオくんなら……パートナーのレイジくんならって思った。


『駄目なのよー! レイジ君はしばらくきてないし、マオ君は連絡先を知らないし!
だから恭文君にお願いしたのよ! そうしたら……逆に叱られちゃってー!』

「えぇ! ど、どうしてですか! だって恭文さんもビルダーで、世界大会にも出るのに!」

『それが原因なの。私も失念してたんだけど、それでアドバイスをもらっても解決するわけ……ないのよね』

「そんな! あの、それならわたしからもお願いします! だってそれじゃあ、自分が勝つために見捨てるようなものじゃないですか!」

『チナちゃん、それは違うわ』


そうだよ、そんなのあり得ない。だって友達でもあるのに……と思っていた感情が、お母さんの固い声で一気に吹き飛ぶ。


『恭文君じゃなくて、セイがどう思うかなのよ。そんな真似したら、セイのプライドがズタズタになるもの」

「え……!」

『アドバイスするってね、セイにできるわけがないって言い切るのと同じなのよ。
大会出場するライバルからそう宣言されたら、セイは……そんなの無神経よね』

「そんな」


現実は思っていたよりも厳しかった。どうしても、駄目なのかな。だって友達でもあるのに。

困っていたら助けたっていいんじゃないかなって、そう思うのに。でも……イオリくんはどう思うだろう。

本当に、そうなのかな。嬉しいより悔しい……なのかな。ありがとうで受け止められないのかな、それは……エゴなのかな。


『でもね、チナちゃんなら大丈夫かもって思ったの。セイの大切なガールフレンドでもあるし』

「……分かりました! すぐに伺います!」


迷っていた……いや、そのはずだった。でもそんな感情は、お母さんの言葉で吹き飛んでしまう。

そうだ、わたしが……わたしが頑張らなきゃ。人を頼る前に、まず自分から動くの。うん、やってみよう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけでお弁当にオムライスを詰めてもらい、イオリ模型店へ。なおお父さん達には泣きながら送り出された。

一体どういう事なんだろうと首を傾げながらも、まずは恭文さんの携帯に電話。出かけ先らしいけど、まずはわたしからもお願い。

あの、やっぱり納得できないの。だからそこもちゃんと説明した、イオリくんが受け止める体勢さえ作れば……って。


わたしやお母さんも手伝えば、きっとできるって思ってた。でも。


『馬鹿か、おのれは』


呆れ気味に一蹴される。ば、馬鹿って言われた……!


『豆腐の角に頭をぶつけてこい』


そして死ねとも言われた! なに、このフルボッコ!


『というか、リン子さんから話は聞いてるんでしょ』

「……イオリくん一人じゃできない、そう言い切るようなものだからと」

『正解。なによりそんな精神状態で作ったガンプラを、セイが信じ切れるわけがない。
もちろんレイジのマニューバにも影響を及ぼす。いい事なんて一つもないよ』

「でも……でも」

『なによ』

「どうして今のガンプラじゃ、駄目なんですか。あんなに一生懸命作っていたのに」


思い出すのは、あの夕日に輝くガンプラ。いろいろ説明してくれたけど、未だによく分かっていない。

でもあれがとても奇麗で、強そうで、イオリくんの夢がいっぱい詰まっている。それだけはよく分かって。

だから納得できなかった。できずにいた。そんなガンプラがまるで……!


「わたし、納得できないんです。イオリくんは自分のガンプラを、まるで失敗作みたいに……それが凄く悲しくて。
イオリくん自身が、自分を駄目だって言ってるみたいで。それを止めたいのに、止められなくて」

『別に駄目とは否定してないよ。ただ……ねぇチナ、ジャンプする時には身をかがめるよね。足にも力を入れてさ』

「あ、はい」

『今のセイはそれなんだよ』


いきなりジャンプと言われて面食らったけど、あの感覚を思い出すと……どうしてだろう。

ほんの少しだけ、胸に落ちるものがあった。もし本当にそうなら、確かにわたしは馬鹿かもしれない。

だってやっている事は同じでも、それは否定じゃないもの。イオリくんはただ、前へ進もうとしているだけだから。


『自分より凄い人達、強い人達に会えて、もっと高い位置へ飛ぼうとしている。でも一朝一夕には行かない。
おのれだって新しい事を始めたら、最初から上手くはいかないよね。失敗して、それでも努力して……ちょっとずつだよ』

「イオリくんは、自分を否定していない。ただ……飛びたいだけ?」

『変わりたいとも言えるね。自分を、もちろん自分の作るガンプラと一緒に。
……そこを履き違えたら、チナの言葉はセイに届かないよ。それは分かるね』

「……はい」


恭文さんは友達の出迎えがあるらしいので、ここで電話を終了。あと、しっかりお礼も言った。

うん、大丈夫。イオリくんが本当に飛ぼうとしているだけなら、それはきっといい事だから。

だから……深呼吸し、気持ちを改めつつ作業室に入る。ちょうど手を止めていたイオリくんは、差し入れのオムライスを食べきって。


「差し入れありがとう、委員長」


すぐに作業を再開しようとする。もうガンプラは完成してるのに……それにイオリくん、表情がとても硬い。


「イオリくん、少し根を詰め過ぎじゃないかな。ほら、ガンプラももうでき上がっているし」

「自分でも分かってる。でも……カイザーが負けた」

「え、カイ……皇帝?」

「あ、ごめん。あのね、前回世界大会で優勝した、フィンランド代表のカルロス・カイザーなんだ。
最近今年のフィンランド予選が行われたんだけど、その決勝で圧倒されて。しかもその勝ち方が普通じゃない」


どうやらイオリくんが焦っている原因はそこにあるみたい。どういう風に普通じゃないんだろう、よく分からなくて首を傾げてしまう。


「普通じゃないって、どういう事かな。違反があったとかじゃ」

「ううん。……よく分からないんだ」

「分からない?」

「えっと、これを見て」


イオリくんが手元の携帯を操作し、動画再生……紫色の大きなガンプラが、宇宙空間を飛んでいた。

相手は丸っこくて、細身なガンプラ。だけど両肩のアーマーが花びらみたいに湾曲していて、横に張り出している。

それに槍っぽいものも持っていた。そのガンプラのお尻から光が走って、数秒後――大きなガンプラが爆発し始める。


あっちこっちで小さな爆発が起きて、パーツが取れて、ダメージに耐え切れなくて胴体から大きく爆発しちゃう。

こ、これって……イオリくんの言いたい事が分かって、つい冷や汗が出ちゃう。


「本当に、よく分からないね」

「でしょ? それに各国の予選映像を見ても、やっぱり波がきてるんだ」

「波?」

「今までは旅館で会った、タツさんが使っていたみたいな……大型で高火力なモビルアーマーが世界大会上位に勝ち上がっていた。
でも、それとは根本的に違う……ガンダムX魔王や、ガンダムAGE-1リペアIIと同じだよ。
プラフスキー粒子の特性を理解・応用する新世代のガンプラとファイターが次々登場している。きっとこのキュベレイも」

「……ねぇイオリくん、やっぱり少し休もうよ。ほら、気分転換だよ。うちにきて、シャーベットを食べて」

「ごめん、できない。今は、止まれないから」


どうしよう、止まってくれない。やっぱりわたしじゃ……そう、わたしじゃ無理だった。

でももしかしたらと、両手を叩きもう一声。クモの糸にすがるような気持ちで提案する。


「あの、イオリくん」

「わざわざきてくれたのにごめんね。母さんには僕から言っておくから、今日のところは」

「新しく作ってたガンプラがね、完成したの。よかったら見てくれないかな」

「本当!? 見る見る! 見せて!」


すっごく食いついてきた!? というか詰め寄ってきた!? イオリくん、落ち着いて! というかさっきまでの空気を吹き飛ばさないでー!


「イオリ君みたいに、奇麗には作れてないけど」

「そんなの関係ないよ!」

「なら取ってくるね。公園で待ち合わせ……大丈夫かな」

「うん!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


太陽の光が眩しい。しばらく学校以外は外に出てなかったなと、そこでようやく思い出す。

……イオリくんがそんな事を言うので、とても心配になりながらも一旦家へ戻り、公園へ。

イオリくんはわたしより早くきていて、そんなイオリくんに見せるのは……黄色いクマさんのガンプラ。


背中にレッド・ピンクのりボンをかけて、可愛らしく作った……わたしのベアッガイIII(さん)。


「へぇ、ベアッガイIIのオリジナルカラーか」

「ベアッガイIIIって言うの」

「それにオリジナルのストライカーパック?」

「うん。イオリくんの飛行機を見て、いいなーって」

「飛行機……あ、ビルドブースターだね。でも普通にリボンかと思ったら、スタビライザーとフレキシブルスラスターになってる」


イオリくんはリボンをさわさわ……少しこそばゆくなりながら、目をキラキラさせながら詰め寄ってきた。


「これ凄いよ、委員長!」

「あ、ありがと。あ、それでね……これ」


イオリくんが気に入ってくれたのに安心して、予備のリボンストライカーをそのまま手渡す。


「え、これって」

「ジョイントも工夫したから、イオリくんが使っているストライクにも付けられると思う。その、もしよかったらだけど」

「え、いいの!?」

「あの、ガンプラ作り……教えてくれたお礼。やっぱり駄目かな、わたしが作ったものなんかじゃ」

「そんな事ないよ! ありがとう、委員長!」


わたしの拙い工作――それで形作られたリボンストライカー。きっと、イオリくんが作ったらもっと強くなる。

でも、それでも目いっぱいに喜んでくれた事が嬉しくて……よかった。


「でもやっぱり美術部員だね。とても奇麗に塗装されてる」

「そうかな」

「そうだよ。特にリボンストライカーなんて、グラデーションが柔らかくて……布独特の質感が感じられてさ。
ガンプラ初心者とは思えないくらいだよ。やっぱり委員長は……ん? 委員長、このベアッガイ」

「おーほほほほほほほほほ! おーほほほほほほほほ!」


そこで後ろから笑い声。振り返ると、そこにあった滑り台上で……キャロちゃんが高笑いしていた。なに……してるんだろう。


「この前の展覧会以来ですわねぇ! チナさん!」

「……委員長」


あ、イオリくんが引いてる! 待って、それはやめて! わ、わたしだって傷つくのー!


「あ、あの……違うの! 美術の展覧会でよく会う子で、名前はキャロちゃん!」

「その呼び方はやめて!」


キャロちゃんは顔を真赤にして、滑り台から滑り降りる。それからわたし達に詰め寄ってきた。


「キャロちゃんじゃなくて、キャロラインよ! ヤ・ジ・マ――キャロラァァァァァァァァァイン!
……っと、危ない危ない。またあなたのペースに巻き込まれるところでしたわ。ところで」

「う、うん」

「チナさんの事をいろいろ調べさせてもらいましたの。最近、ボーイフレンドができたんですって?」

「「えぇ!」」


ついイオリくんと顔を見合わせ、恥ずかしくてもじもじ……そ、そんな。ボーイフレンドだなんて。

あくまでもその、やっぱり同級生で……まだそういう関係ではなくて。というかイオリくん、ガンプラに真っすぐだし。


「あー、初々しい初々しい! ……でもね、本題はそこじゃないの。チナさん、その子の影響でガンプラを作ってるんでしょ?」

「うん、これがそう」


よく知っているなぁ。……ちょっと怖くなりながらも、イオリくんからベアッガイIIIを返してもらい、キャロちゃんに見せる。


「わたしが作った、ベアッガイIII」

「あら可愛い! ……って、これって展覧会の絵じゃありませんの!」

「うん。この子をモデルに描いたから」

「待って委員長、展覧会でガンプラの絵を……えぇ!」

「ちょっとチナさん、あなたのボーイフレンドが驚いていらっしゃるんだけど」

「そ、それはその……イオリくんには話してなかったから」


ボーイフレンドというところは否定できず……というか否定したくなくて、あやふやに笑うしかない。

じゃああの、あとで画像だけど見せようっと。そうしたらイオリくん、どんな顔してくれるかな。ちょっと楽しみ。


「まぁそこはいいでしょ。セバスチャン」

「は!」


執事のセバスチャンさんがいつの間にか現れて、チラシらしいものを引く。それでイオリくんが目を見はった。


「ガンプラバトル世界大会開催記念……女の子限定ガンプラバトル、出場者募集。あぁ、これかぁ」

「イオリくん、知ってるの?」

「ほら、うちは模型店だから。聖夜市……恭文さんやフェイトさんが暮らしているところのお店がね」


あ、そう言えば住所がそうなってる。でも聖夜市、同じ首都圏内とはいえちょっと離れてるのに。

お店の繋がりって凄いんだなと思っていると、どういうわけかキャロちゃんが挑戦的に笑う。


「そう! この前の展覧会では後れをとったけど、今度こそあなたに勝ってみせる!
どちらの作ったガンプラが美しく、そして強いか――勝負よ!」

「えぇ!」


キャロちゃんは私を指差し、いきなり挑戦状を叩きつけてきた。というか、手にしていた手袋を外して投げつけてきた。

思わずキャッチすると、すかさずキャロちゃんがそれを取り上げて再装着。な、なんなの今の……いや、それ以前に。


「ちょっと待って、わたしはガンプラバトルをするために、ベアッガイIIIを作ったわけじゃ」

「あら、逃げるの?」

「そんな事を言われても」


ど、どうしよう。断りきれる雰囲気じゃ……でもそこで一つ思い出す。それはついさっき、電話で聞いたお母さんの声。

ガンプラの事なら、イオリくんを作業から離せる。なら……ちょっとズルいかもだけど、気分転換になればと思い。


「分かった、わたし……出るよ」

「委員長!?」

「勝負を受けてくださるのね」

「うん、受ける」

「ありがとう、チナさん。では」

「こちらを」


セバスチャンさんからチラシ、更にエントリー用紙まで受け取る。えっと、勝負は再来週の日曜日なんだ。


「エントリー手続きは三日後締め切り……会場でお待ちしていますわ。おーほほほほほほ! おーほほほほほほほほほほ!」


それでキャロちゃんは、高笑いしながら去っていく。まるで嵐のような声が消えた後、イオリくんが困り気味にわたしとベアッガイIIIを見てきた。


「いいの、委員長」

「うん、決めたから。イオリ君、わたし……ガンプラバトルをした事がないから、教えてくれる?」

「ごめん、無理」

「えぇ!」


断言!? た、確かに作業の件があるけど……そうだった。イオリくんは今とっても忙しい。

それでわたしの事を優先するはずが……そうだよね! うぅ、ズルなんてしたからバチが当たったんだ!


「ご、ごめん……そうだよね。イオリくんは大会用のガンプラを」

「いや、そうじゃないんだ。ガンプラに関しては教えてあげられるけど……操縦が」

「……あ」


そしてわたしはやっぱり馬鹿だった。イオリくん、操縦はできないって言ってたのに。

完全に自分の都合で舞い上がっていた。気分転換どころか傷つけたと思って、申し訳なくなってると。


「そっちはオレが教えてやるよ」


今度は近くの木から声。その木を……上の枝を見ると、レイジくんが楽しげに腰掛けていた。


「バトルしてる時と同じだ、分担だよ分担」

「レイジ!」

「話は聞かせてもらった。高飛車で鼻持ちならない女に勝負を挑まれたら、勝つしかねぇよな」

「うん、そのつもり」


断言すると、レイジくんは笑って飛び降り着地。二メートルくらいあるのに、コケる事もなく軽々と立ち上がった。


「よっしゃ、店に行こうぜ!」


いろいろ申し訳なくなったけど、それでも気分転換開始。でもこの時、わたし達は知らなかった。女性限定で、更に開催地が聖夜市。

それが一体なにを意味するか、わたしも……キャロちゃんも、それにイオリくん達も恐怖と一緒に突きつけられる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界大会まであとひと月。季節はジメジメとした梅雨から、沸き立つ熱の季節――夏の始まりへ。

フィンランド予選……それは余りに衝撃的な展開だった。大会中最大の障害と思っていた、カルロス・カイザーが予選敗退。

優勝への道が開いたと見るべきか。結果だけを聞いた時はそう思ったが、試合を見るととんでもない。


キュベレイパピヨンもまた、ボクの戦国アストレイと同じ。プラフスキー粒子を有効活用したガンプラだった。

対策を考えておく必要があるだろう。幸いな事に大会までは、それなりに間もある。

しかしここで大事な事がある。日本の気候は高温多湿――アメリカとはまた違う夏を迎える。


いきなり現地入りして、体調を崩したのでは話にならない。プロのスポーツ選手がそうであるように、順応期間が必要だ。

もちろん食文化などの問題もメンタルには関わる。そこも時間をかけ、きっちり解決しなくては。

そんなポテンシャル管理とある目的もあり、早めに現地入り。そんなボクを空港で出迎えてくれたのは。


「ニルスー」


黒コートに……小さな妖精三人を引き連れた、小学生にも見える男性。僕に手を振り、声をかけてくれる。

あの人は父の友人で、うちにも一度やってきた。今より幼かったボクにもよくしてくれて、ボクの勉強についても理解を示してくれた。

あの時は嬉しかったなぁと、近づきながら思い出す。既に研究などを始めていたから、専門的な話となるとついていける人も限られていて。


星の瞳は変わらずで、少し安心してしまう。そんなあの人に、まずは挨拶のお辞儀。


「恭文さん、お久しぶりです」

「こちらこそ。あ、予選大会は見学させてもらったよ。また大活躍じゃない」

「それはあなたの方でしょう。ですがすみません、父が無理な事を……ボク一人で大丈夫と言ったんですが」

「いいよいいよ。送るだけだしね」

「ところで……もしや彼女達は、恭文さんのしゅごキャラでしょうか」

「しゅごキャラが見えるの!?」

「えぇ」


夢があるから――そう誇って、恭文さんの車に乗り込み移動開始。目的地は都内にあるヤジマ商事。

大会中も含めた衣食住などは、そこのサポートを受ける事になっている。ではなぜ恭文さんがいるか。

……父がこう、心配しすぎたとだけ言っておく。それで日本にいて、ボクもよく知っている恭文さんに頼った。


ただ恭文さんも世界大会出場者なため、居候などはさすがに断られたよ。というか、ボクもそれは望むところではない。

ならせめて……と、タクシー代わりにしているわけで。それがまた、申し訳ないやらなんやらだ。

ボクとはたった一度しか会った事がないわけで。印象の強い人だから、ボクはあれだが……恭文さんはどうだろうと少し考えてしまった。


そんな思考を置き去りにするため、流れる景色を見やる。日本らしいコンパクトな軽自動車は、よく整備されているのか軽快に高速を走る。


「ヤジマ商事の本社でよかったよね」

「えぇ。スポンサーなので挨拶に」

「本当は観光とかも連れていきたいけど、さすがに今はねー」

「いろいろ慣れ合ってしまうと、お互い辛くなるだけですしね。ですが……大会後にお願いします」

「OK、予定は立てておくよ」


甘いとは言わないでほしい。ボクもあれだ、日本に長期滞在は初めてだから、観光くらいはしたいんだ。

それに日本はガンプラ、ガンダムの生まれた聖地。やはり興味もあるわけで。


「だがよぉニルス、お前なんでガンプラバトルに? ヤスフミなんか、お前の名前を聞いて腰抜かしかけてたぞ」

「そこは……まぁ夢のためとだけ。恭文さん」

「なに?」

「世界には様々な問題がある……あなたならよくご存じのはずだ。しかし差別や偏見などによる人的・戦争問題は、二〇一〇年の大異変以後緩和しつつある」

「そ、そうだね」


そこでやや戸惑っているのはなぜだろうか。少し疑問に思ったが、そこは置いておこう。


「となれば残る問題は」

「エネルギー問題だね」

「えぇ」

「ニルス、言ってたものね。粒子力学を学びたいのは、いずれなくなるエネルギーの代わりを探すためーって」


恭文さんには全部お見通しだったか。まぁボクも覚えていたから、暗に答えを示すわけで。

……世界に現存する化石燃料、その枯渇が叫ばれて何年経つ? 太陽、水、風、炎……人類は様々な可能性に挑戦してきた。

その中には原発という危険なものもある。しかし、そのどれも根本的解決には至らなかった。


もちろん今もそれらは研究中。各方面の技術者が、より効率のいいエネルギーを見つけるかもしれない。

だけど、見つけられないかもしれない。そう考えた時、自分の飛び抜けすぎた頭脳との付き合い方が見つかった。

いや、それは夢というべきだ。ボクはその問題を解決したい。次世代のクリーンエネルギーを作り上げたいんだ。


そこで目を付けたのは粒子力学。反粒子による対消滅、それがもたらすエネルギー効率を実現できれば……という感じだ。

そう、だからプラフスキー粒子の秘密を解き明かしたい。あれほどに完璧な形でコントロールされているなら……それは希望だ。


「なので例えあなたであろうと、負けるつもりはありません。……不純と笑いますか」

「笑わないよ。それはニルスにとって大事な事なんでしょ?」

「えぇ」

「ただ……あれだ、法律に触れるような事だけは絶対駄目だよ。
僕もお父さんからお願いされている身だし、その場合は止めさせてもらうから」

「承知しています。それにご安心を、夢を叶えるため……ボクはボクなりの王道を歩くつもりです」

「”アストレイ”を目指すわけだ」

「その通りです」


やっぱりこの人は面白い人だ。そう、だからこそのアストレイ……そしてヤジマ商事への挨拶は、夢への一歩。

大事に、慎重に、しかし恐れず踏み出していこう。そう決意しつつ、少し長いドライブを楽しんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんにはしっかりお礼を言った上で、新宿区にあるヤジマ商事へ到着。ヤジマ商事はいわゆる複合企業。

その社長室へ案内され、貫録溢れる壮年の男性に対面。背筋を伸ばし、しっかりと礼を述べる。


「矢島(ヤジマ)社長、世界大会ではボクの個人スポンサーになっていただき、ありがとうございます」

「こちらこそ『アーリージーニアス』と評される、君のサポートができて光栄だよ。ニルス・ニールセン君」


続けて笑顔の握手……両手を使い、改めて感謝を送る。……しかし背後から人の気配。


「お父様!」


その正体を掴む前に、白ワンピース・金髪ドリル頭な少女が入ってきた。お父様……彼女がヤジマ・キャロラインか。


「キャロライン、どうした……というか駄目だろ。今は大事な」

「アメリカ代表のファイターであるニルスさんに、お願いがありますの!」


彼女はずかずかとボクへ近づき、その右手を掴んで一気に引き寄せる。抵抗しようにもできない……な、なぜだ!

彼女から放たれるプレッシャーは一体なんだ! このボクが、ジ・Oの如く動けなくなるだと!


「え、あの……あなたは」

「詳しい事は屋敷で説明いたします! 時間がありませんの!」

「こらこらキャロライン、ちゃんと説明を」

「時間がないと言いましたわ!」

「社長、これはどういう事ですか……社長ー!」


そして抵抗も許されず、ボクは彼女に引っ張られヤジマ家へ。……この時はまだ、知らなかった。

彼女がこれから飛び込もうとしている場所。それが想像を絶する魔窟だと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ニルスを送った後、その足で765プロへとやってきました。なお車が運転できるのは、やっぱり第一種忍者だから。便利なのよー。

それで順一朗社長と小鳥さん、律子さんと事務所でガリガリ君梨味を食べていた。いやー、これ美味しいなー。


「チーフプロデューサー殿と我那覇くんからも聞いてるけど、やっぱり世界は広いんだねぇ。もうあ然としちゃったんだろう」

「えぇ。特にアイラ・ユルキアイネンとキュベレイパピヨンは注目株ですよ。試合内容も相まって、優勝候補の一角ですから。
……元々フィンランド予選は、ほぼカイザーの指定席でしたしね。ある種のマンネリも吹き飛んで、凄い騒ぎですよ」

≪しかもファイターのアイラ・ユルキアイネン、調べても全くデータが出てこないんですよ。それで余計注目度が上がっている感じです≫

「世界王者を完全封殺……しかも一分足らずとなれば、それも当然よね。恭文くん、大丈夫なの?」

「準備はしてます」


アイスを三人で食べきり、手を合わせて。


『ごちそうさまでした』


ごちそうさまでした。ではいい感じで涼も取れたので、そろそろ仕事の話に戻ろう。


「律子さん、ごちそうさまでした」

「どういたしまして。……でもそんな状況で顔合わせっていうのも、ちょっと空気を読んでなかったわね。ごめん」

「出国前から決まっていた話ですし、大丈夫ですって。えっと、そろそろですよね」

「えぇ」

『ただいま戻りましたー』


そこで入ってきたのは、あずささんと真、更に美奈子を筆頭とした五人の女の子だった。

サイドポニーのスラっとした女の子に、黒髪ウェーブの子。オレンジショートの子と、青髪ショートの子。

それとややぼーっとした蒼髪ロングに、グリズリーツインテールの可愛らしい天使がいた。


そう、天使がいた。一人は天使だった。その可愛らしさについ目を見張ってしまう。


「あ、みんなお帰りー。あずささん、真もお疲れ様」

「お疲れ様です! ……あー! 元プロデューサー!」

「そう言えば、今日は初顔合わせだったわねー。みんな、この子が蒼凪恭文くん――大会で見てるだろうけど、私達の元プロデューサーさんでもあるわ」

「初めまして、蒼凪恭文です。……美奈子以外だけど」

「え、美奈子以外ってどういう事ですか」

「ほら、私の実家って聖夜市だから。恭文くんの家はご近所さん兼常連さんなんだよ」

「あー、それで……っと、自己紹介遅れました! 横山奈緒です!」


サイドポニーの子は、確か美奈子と同じく年長組だっけ。ほかは中学生とかなんだけど……とは聞いてる。


「矢吹可奈です! あのあの、試合拝見しました! 凄かったです!」

「ありがと」


オレンジ髪の子――可奈はまた素直で元気そうな印象。一瞬スバルを思い出したけど、ヤンデレじゃなければ問題ないや。


「……北沢志保です」

「七尾百合子です!」


黒髪ウェーブの子は、どことなく困り顔。それに対し青髪ショートの子は興奮気味なので、とりあえず落ち着けと軽くなだめる。


「望月……杏奈」


そして青髪ロングの子は、眠たげな瞳で僕をまじまじと見てくる。一体どうしたのかと思ったら。


「……もしかして、ゴーストボーイ?」


そう呼んできた。いきなりその名前に触れるとは……つい律子さん達と一緒にぎょっとしてしまう。


「ゴーストボーイ? 杏奈ちゃん、それって」

「ガンプラ塾のエキシビションマッチ、勉強のために……見た。その中で出てきた、クロスボーンと戦い方が……一緒だった」

「これは驚いた。ガンプラ、まだ詳しくないって聞いてたんだけど」

「ゲームは……得意だから。動かし方とか……じゃあやっぱり」

「でも内緒でお願いね。いろいろめんどいのよ、奴らとの絡みは」


右手で内緒のポーズを取ると、杏奈もついてきてくれた。よし、これで口止めは完了っと。


「あの、箱崎星梨花です! 初めまして!」

「うん、初めましてー。……律子さん、この子はやよいに続く新世代天使ですか」

「違うわよ! というかいい加減天使扱いはやめなさい! やよいだってもう大学生なのに!」

「天使に年齢は関係ないでしょ!」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


なぜか律子さんが頭をかきむしるけど、気にせず美奈子を見やる。すると美奈子はハッとして、背筋を伸ばした。


「えっと、初めましてじゃないけど……佐竹美奈子です!」

「彼女達七人が……まぁ二期生という感じだね。まだまだ駆け出しだが、資質と個性は天海くん達に負けてないよ。
……蒼凪くんはみんなが見ての通り、ビルダー・ファイターとしても世界レベルだ。
今我那覇くんが師事しているリカルド・フェリーニ氏や、【紅の彗星】ユウキ・タツヤくんにも匹敵する」

「その上……ゴーストボーイ」

「ねぇ杏奈、そのゴーストボーイってなんなの? さっきも言ってたけど」

「一年半近く前……ガンプラ塾っていう、ビルダー育成機関があった。そこのエキシビションマッチに出た、とっても強いクロスボーン使いが……いる。
途中乱入した講師の不正を全て暴き、更に完全打破した人。外部からの招待客という事だけしか……分かってないけど」

「それが、この人?」


そう、僕です。杏奈ももう確信しているようで、全力で頷いてきたし。そこで悲しげにするのはやっぱり美奈子や小鳥さんだった。


「恭文くん、なにがあったの。運……悪くだよね、やっぱり」

「うっさい。……友達と、友達の友達がガンプラ塾にいてね。二人のトラブルに僕まで引っ張り込まれたんだよ」

「じゃあ私、間違ってないじゃない! 運悪く巻き込まれたんじゃない!」

「だからやかましいわ! そんなの知ってるっつーの! そうしたらアイツら、遠慮なく武器の位置やらフィールド変更やらかますしさ!
まぁ僕の事はともかく……みんな、ガンプラ初心者なんだよね」

『はい!』

「でも一つ作ったとも聞いてるんだけど」

「そうなの。私も一緒に、千早にも教えてもらいつつね」


ちょうど僕達がアメリカで驚いていた時だよ。そうして律子さんが取り出すのは、淡いグリーンのアデルだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


RGE-G1100 アデル

【機動戦士ガンダムAGE】第ニ部以降に登場。ジェノアスシリーズの後継主力機。

AGE-1から発展した基本フレームとウェアシステムを採用した『量産型ガンダム』と呼べる機体。

頭部はジェノアスと同様のバイザー型だが、内部のセンサーはガンダムや後述するGエグゼス、Gバウンサーと同様のツインアイ方式を採用している。


一般機のカラーリングは薄緑と白のツートン。ディーヴァ所属機は青白のツートンとなっており、胸部には個体識別用の番号が描かれている。

今回律子や美奈子達が作ったのは、前者の一般機Ver。ちなみにツートーンのディーヴァ所属機も販売されているぞ。

主武装のドッズライフルには、高精度センサーを内蔵した新設計バレルが採用。


狙撃モードに変形する事なく、AGE-1以上の命中精度を確保している。

両腰のビームサーベルニ基と、左腕のシールドはAGE-1の物とほぼ同等品。

AGE-1と異なり、ビームサーベルは全ウェア共通の標準装備となっている。


ガンプラ的に言えば、恭文も使っているAGE-1のリデコキットとも言える。共通ランナーも多く、可動範囲もそれに準拠。

初心者にも組みやすく、更に素組みでもバトルで高性能を発揮できる、優れたガンプラとなっている。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「アデルに目をつけるとは、いいチョイスだなぁ。組みやすい上に最新キットだから、可動範囲も抜群ですし」

「千早も同じ事を言ってたわ。あとはえっと、バックパックに接続穴があるから、武装強化も楽だと」

「あー、そう言えばついてましたね。さて、ガンプラはあるわけで」

「大体の動き方も、千早が先立って教えてるわ。な、なんというかごめん」

「別にいいですよ。僕はまだまだ予定ですし」


千早も後輩とこういう形で関わるの、楽しそうだったしなぁ。そのまま世界大会の事は忘れてくれると嬉しい。でもそれならと、ちょっと笑ってしまう。


「みんな、ガンプラも言われた通り持ってきているよね」

『はい!』

「じゃあ早速だけど、バトル実習してみようか。みんなの技量を確かめた上で、また考えたいし」


というわけで、社長と小鳥さんを残し……仲間外れとかじゃないの。ほら、事務所の留守番が必要だから。

あずささんと真も勉強のため引っ張って、早速バトルベース前にやってきました。


「でも元プロデューサー、バトル実習ってどうするんですか」

「簡単だよ。みんなは協力して、仮想敵を倒せばいい。もちろんそれは僕が務める」

『えぇ!』

「恭文君、私は参加しなくていいの?」


はい、律子さんもGPベースと自分のアデルを持っています。てっきりやらされると思っていたのは、成長と捉えるべきだろうか。


「えぇ」

「……そっか。じゃあまた後でお願いできるかしら。私もそういうの、できるくらいには上達したいのよ」

「承りましょう」

「あの」


そこで挙手したのは、今ひとつ乗り切れていないあの子だった。


「なに、北沢さん」

「志保で大丈夫です。私達、七人いますけど……同時にですか」

「そう、同時にだよ。……安心していいよ、シミュレーションモードでやるから、ガンプラは壊れない。それで」


念のため準備しておいた、素組みのアデルを見せる。それを見て、みんなが自分のアデルと見比べた。


「使うのはみんなと同じく、素組みのアデルだ」

「なんですかそれ。幾らなんでも馬鹿にしてます」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげようか」

「……は?」

「おのれらじゃあ今の十倍いようと、相手にならないって言ってるのよ」


なので乗りきれるよう、はっきり実力差があると断言。すると志保は明らかに不快感をにじませた。

更に他の子達も挑発に奮起し、それならやってやると言わんばかりに息巻く。


「言うてくれるやないか! よし、この挑戦受けるで!」

「私も頑張ります! やるぞー!」

「あれ、どうして勝負みたいに!? 実習じゃ! 勉強じゃー!」

≪――Plaese set your GP-Base≫
 

ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Mountain≫


ベースと僕の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は雪に覆われた山岳地帯だった。起伏に富んだ地形、それをどう利用するかが鍵だね。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文、アデル――目標を駆逐する!」


カタパルトを滑り、雪原へと飛び出す。きらめく銀世界ってよく言うけど、空と太陽の輝きに照らされている様は正しくその通り。

さて、どうくるかなぁ。とりあえず斜面上を飛んでいると……ん? 真正面から突撃か。


『いっくぞー!』

『早く終わらせましょ』


可奈と志保、二人の声を号令に、並んだアデル達がライフルを構え一斉射撃。もうちょっと芸があるかと思ったら……まぁしゃあないか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「律子、これ大丈夫なの!? 普通にクロスボーンとかじゃなくて、同じ素組みって!」

「私に言われても困るわよ! こ、これで負けたりしたら問題なんじゃ……!」

「まぁ、印象はよくありませんよねぇ」


困っている間に、恭文君……アデルはビーム弾幕に突っ込む。嘘、真正面から!? さすがに無茶すぎよ!

でも次に訪れたのは、撃墜による納得ではなく……現実を認められず生まれた、驚きだった。

次々放たれる回転ビームを、アデルは急加減速やスラローム、バレルロールを駆使してすり抜けていく。


『な……! アレで当たらんって!』

『う、動きが速すぎて追いつけませんー!』

『……散開して!』


アデルの一機に恭文君が肉薄。みんなが望月さんの声で離れる中、その一機は完全に遅れてしまう。

恭文君は左サイドスカートのビームサーベルを、左手で逆手に持って展開。右薙の斬り抜けで敵の胴体部を断ち切る。

その上囲まれながらの射撃網をたやすく抜け、一機目を撃破してしまう。一瞬の早業で、認識が追いつかない……!


『嘘、なにもできなかった!?』

『百合子ちゃん!』

『百合子、反応が遅い! それと』


更に恭文君は振り返り、自身の十時・二時方向へ連続射撃。立ち止まって、攻撃し続ける二機にビームが迫る。

距離にして五百メートル以上。なのに、とても正確に……まるで吸い込まれているかのような軌道だった。

それも追撃の射撃が飛ぶ中、回避行動を取りつつよ。でも逆に二体は避けられず、ライフルごと胴体を吹き飛ばされ爆散した。


『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『嘘やろ!』

『可奈、奈緒も棒立ちで射撃しない!』

『でぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!』


そこで佐竹さんの声……でも恭文君はとても冷静に身を翻し、七時方向へ左後ろ回し蹴り。

回り込んでいた佐竹さん機を蹴り飛ばし、近距離での斬りつけを容赦なく払った。


『美奈子は踏み込みが甘い!』


とか言いつつ、恭文君は急降下。望月さんの射撃から退避し、雪の上を滑りながら森林地帯へと突入する。

雪の波が走る中、望月さんと一緒に北沢さんも射撃継続。でも木々に阻まれ、更に恭文君もその中に消えて全く手ごたえがない。


『く……なんなの! 素組みだって言ってたのに!』

『まさか中身だけ別物……じゃないよね』

「り、律子……!」

「甘かったわ、私達! 恭文君、容赦なく潰しにきてる!」

「……あらあらー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


人が恋に落ちる瞬間を初めて見た……なんてフレーズの漫画が、なんかあったような気がする。

そんなかなりあやふやなフレーズを思い出したのは、全て蒼凪家のリビングに原因がある。

シャーリーとティアナの三人でせんべいを食べていると、買い物に出ていたフェイトがガッツポーズをしながら戻ってきた。


なおアミタとユーリも付き合っていて、めっちゃ楽しそう。でも三人揃って、どんどんガッツポーズしていく様は……ある意味ホラーだ。

それにはディアーチェが抱いていたアイリ達も驚き、もちろんシュテルやレヴィ、キリエも怪訝そうな顔をする。

いや、フェイトだけならいい。でも二人までどうして悪癖が移されているんだ。というかユーリ、お前はそれを覚えたら駄目だろ……!


「フェイトさん、お帰りなさい……で、その」

「なにしてるの、お姉ちゃん。ユーリも駄目よ、奥様のドジが移っちゃうじゃない」

「ひ、ひどいよ! 私、ドジなんかじゃないよ!」

『嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


だから自覚を持てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! この間も買い物で、ポイントカードじゃなくて銀行のカードを出したそうじゃないか!

ちゃんとキリエやレヴィから聞いてるぞ! やすっちー! 早く帰ってきてくれ! 俺達が悪いように感じてなんか辛い!


「これがガッツポーズをせずにいられますか! 見てください、キリエ!」

「あの、ディアーチェ達も……これ」


そう言って二人が同じチラシを出し、テーブルに置いてきた。そこでフェイトの三枚目もプラスされるので、しっかり注目する。


「えっと……ほう、女性限定のバトルトーナメントか」

「はい。世界大会の開催記念でやるらしくて。それで、みんなで参加できたらいいなぁと。フェイトさんも参加するそうなので」


あぁ、だからガッツポーズしてんのか。察するにアミタ達もやる気を出していると。しかし……これはよくないか?

なんだかんだで大会が終わってから、普通に居候が続いていたからなぁ。修復したガンプラで、本気のバトルってのも悪くなさそうだ。


「それでね、ヤスフミに作業室出入り禁止を解除してもらうの。あとは世界大会でもガンプラ修理を手伝ったりして」

「へいとは馬鹿だなー。出入り禁止にしているのはボク達なのに」

「全くね。というか、そういうのはわたし達に勝ってから言ってほしいわ」

「え……そういえばー!」

「おいおい、そこを忘れるなよ! というか覚えておけよ! ……だがいいんじゃないか? みんなもバトルしたくてウズウズしてただろ」

「王、私も参加決定しました。レヴィとキリエ達もやる気らしいですし」

「おま、即決か!」


即決だなぁ。キリエ、勝ってからとか言ってたしよ。そこでディアーチェはやや困りながら、抱いている双子を見やる。

更にユーリからも機体の視線を向けられ、諦めた様子でため息を吐く。


「まぁしょうがあるまい。バトルしたかったのは我も同じだしな。ユーリ、一緒にやるぞ」

「はい!」

「いあーえー♪」

「あうあー♪」

「あぁ、もちろん頑張るぞ。そして優勝トロフィーをかっさらってやるわ!」


さすがは王様、早速優勝宣言か。しかしそれはキリエやアミタ達も同じらしく、女性陣は網の目みたいに火花を散らし始めた。


「みんな、頑張れよ。俺は……応援する! だから俺の分まで頑張ってくれ!」

「ダーグ、アンタ……え、参加したいの!? どうして涙目なのよ!」

「だって強そうなの、出てくるかなーと思って」

「なぎ君と同じく、バトル大好きかー。そりゃしょうがないよ……あれ」

「シャーリーさん、なんだかあの……私も嫌な予感が」

「どうしたんだ、二人とも」


軽く首を傾げると、二人が困り気味に奴らを……そしてガッツポーズしまくりなフェイトを見やる。

その視線の意味をこの時察していれば、結果は変わっていたのかもしれない。だが、もう遅かった。

こうして街の模型店で行われるイベントは、いつも通りに身内のゲーム大会へと変ぼうを遂げるのだった。


(Memory36へ続く)









あとがき


恭文「というわけで、Vivid編第二巻が販売開始……みなさま、なにとぞよろしくお願いします」


(あんな奴も戦闘していたりします)


恭文「そして今回は……まぁ全員分のバトルをやる予定はないんですけど、その代わりめちゃくちゃ苦労するというお話」

あむ「苦労どころの騒ぎじゃないじゃん! ……あ、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。そしてカイザーの事やら、ニルスの話やらも絡めて……ついに出てきたベアッガイIII」

あむ「これ、あたしが同人版とかで作った、ベアッガイを改造したわけじゃあないんだよね」

恭文「その間に、ベアッガイIIってのが出てるんだよね。ちなみに形状自体はベアッガイIIIと全く同じ。違いはストライカーか」


(リボンストライカーがオリジナルです)


恭文「でもベアッガイなら大丈夫だよ。だって元となったアッガイ、霊長類最強だし」

あむ「……それ、ガンダムエースの漫画じゃん。そうだ、ガンダムエースと言えば」

恭文「……ソメヤ・ショウキィィィィィィィィィィィィ!」


(エレオノーラなんて目じゃなかった、ガチな吐き気を催す邪悪がいた)


あむ「えっと、ちなみに単行本の第四巻は」

恭文「四月二十五日発売だっけ。その中で一体なにをやらかしたかも明らかになるでしょう」


(待てない人は今月号のガンダムエースをチェックです)


恭文「というわけで、ちょっと幻術を組んでみたんだ。イザナミみたいなの」

あむ「アンタなにやってるの!」

恭文「でも作者が『幻術合戦になるから駄目』って……封印を」

あむ「理由がおかしいー!」


(だってしょうがないじゃないかー)


恭文「分かったよ。じゃあイザナミはやめるよ、万華鏡写輪眼みたいな感じでいくよ。体感時間でズブズブいくよ」

あむ「よりひどくなってるじゃん! より容赦がなくなっているだけじゃん! ……それはそうと、今月も今日と明日で終わりだよ」

恭文「みなさん、信じられますか? その一週間後にはバトスピ東宝怪獣コラボブースター【東宝怪獣大決戦】の発売です」


(作者的にはやっぱり白デッキに注目。メカは大好きです)


あむ「でもまだまだカード情報、出そろってないんだよね。白なんてほとんど不明だし」

恭文「ここから一気に加速するだろうね。そうそう、公式HPが三月二日に烈火魂(バーニングソウル)仕様にリニューアルとか」

あむ「あ、そうじゃん! 新しいアニメももうすぐだし!」

恭文「放送局も移るし、四月からはまた楽しみだねー」


(春はいろんな始まりでワクワクです。
本日のED:如月千早(CV:今井麻美)『ARCADIA』)


あむ「……恭文」

恭文「なによ」

あむ「セブン-イレブン、やばい。最近あそこ、美味しいものが多い事に気づいて」

恭文「あー、セブン-イレブンは攻めた商品が多いからね。僕はあれだよ、百円で売ってる鈴カステラが好きで。フェイトも好物」

あむ「あたしも好きだけど、最近ハマってるのが『メープル&マーガリン もちふわわパンケーキ』だよ!
二個入り税込み百円で、パンケーキがマジでもちもちふわふわなの! パサパサとかしてなくて、凄い食感がいいの!」

恭文「分かる分かる。メープルの甘さもほどよくて、マーガリンでコクもあって……つい買っちゃうんだよね。
あとはパン系だと、たまごサラダやポテト明太子なんかも美味しいよね。特にたまごサラダはお勧め」

あむ「さ、それあたしも好き。こう、安心するんだよね……たまごとマヨネーズの取り合わせ」


(おしまい)





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