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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory32 『蒼い幽霊』


前回のあらすじ――約束は、予想外な形で果たされた。というわけで土曜日、朝一番でレイジとミーティング。

機体能力について軽く説明しつつ、店のベースでCPU戦。でもさすがはレイジ……すぐにビルドガンダムMk-IIに順応してくれた。


≪BATTLE END≫


消えていく粒子の中、レイジは満足そうに笑う。そうしてベース上に着地させた、ビルドガンダムMk-IIを右手で取る。


「どう、レイジ」

「セイの言う通り、ビルドストライクとは感じが違うな。硬いっていうか……いや、カッチリしてる」

「カッチリ?」

「なんかこう、芯が通ってる感じなんだよ。だから動かしにくいとかじゃなくて、安心する硬さなんだよ。いや、オレは好きだぞ」

「よかった。……もしかしたらムーバブルフレームのおかげかもね。Mk-IIが革新的なのは、人体構造を模したフレームにあるから」


レイジの言う芯で、ビルドストライクと違うところ……ならそれくらいしか思いつかなくて、つい苦笑する。


「そういやヤスフミもそんな事言ってたな。そのムーバブルってどう凄いんだ」

「まず装甲が全て外付けにされた事で、モビルスーツの整備性が向上しているんだ。
更に四肢やバインダーの稼働による、重量移動を用いた機体制御が格段にやりやすくなった。
Mk-IIは作品的にも革新に繋がる機体。ここから宇宙世紀のモビルスーツはより発展する」

「歴史を作ったメカかぁ。……なんかかっこいいな! 羽根とかもないのに!」

「でしょでしょ!? 最近のガンダムとはまた違う、渋いデザインが大好きなんだよ! 設定的にも広がりをもたせられるし!」


あぁ、なんか楽しい。まさかレイジとガンダムについて軽くでも語れるなんて。

本当に頑張ってくれていたんだなぁ。なにかお礼をしないと……あ、そうだ。


「レイジ、せっかくだしちょっと出かけようか。委員長のお店でシャーベットを奢るよ」

「マジか! 気前いいな、どうしたんだ!」

「だって……レイジとガンダムについて語れるなんて。こんなに、こんなに嬉しい事はないよ」

「……泣くなよ。てーか悪い、せっかくだが遠慮しておく」


レイジがドン引きしながらも、ビルドガンダムMk-IIをまたベースへと置き直す。その上で右手をスナップさせた。

その目にはもう迷いなんてなかった。ただレイジは真っすぐに……ひたすらに、ガンプラとガンプラバトルへのめり込んでいる。


「それは祝勝会まで取っておこうぜ。まずは明日の決勝だ」

「……うん! じゃあもっと煮詰めよう! ビルドガンダムMk-IIはね、凄いよー! もっともっと面白い機能があるんだから!」

「そりゃ楽しみだ!」


ユウキ先輩、恭文さん、ラルさん……ありがとうございます。おかげで僕達、ちゃんと思い出せました。

ガンプラが、バトルが好きな自分自身を。だから恭文さん、世界大会で待ってます。このお礼は……全力の勝負を持って返す!


◆◆◆◆◆


RX-178B ビルドガンダムMk-II(ビルドガンダム・マークツー)

ザクアメイジングとの再戦で損傷したビルドストライクの代替機として、セイが新たに製作した『HGUC ガンダムMk-II』の改造機。

ただしとまとではオリジナル設定として、HGUCではなく『RG ガンダムMk-II(エゥーゴ仕様)』の改造機となっている。

ガンダムMk-IIは『機動戦士Ζガンダム』劇中に登場する、特殊部隊『ティターンズ』が製造した試作型モビルスーツ。


一年戦争で英雄的活躍を行った初代ガンダムの機体設計や思想をベースに、様々な新技術を盛り込まれている。

ただしその技術は幾つか問題も抱えており、装甲材質なども旧規格品が主となっている。

『Zガンダム』では合計四機のMk-IIが製造され、劇中では三機が登場。その全てが主人公陣営であるエゥーゴに奪取されている。


なお四号機はそれ以前、試験運用中の事故で大破しているという設定なので登場しない。

ビルドガンダムMk-IIは『公式には存在しない幻の五号機であり、ほかのMk-IIとともにエゥーゴに奪取された』という独自設定が付記されている。

通常のMk-IIからブレードアンテナや胸部ダクトの形状が変更され、構成素材や各部センサーも最新のものに強化されている……という設定。


カラーリングはエゥーゴ仕様に準じた白基調となっているが、これには『ティターンズカラーへ塗装される前に強奪された』という追加設定の反映。

背部にはビルドブースターの発展型である強化バックパック兼支援戦闘機『 ビルドブースターMk-II』を装着。

元々Mk-IIにはGディフェンサーという支援戦闘機が存在しており、似たコンセプトを持つビルドストライクの後継機に選ばれた理由となっている。


ビルドブースターMk-IIは『Zガンダム』作中において、ギャプランを参考にしたという設定で製作。

中央のコクピットブロックと新規武装『ビームライフルMk-II』を備えた、左右のムーバブルシールドバインダーで構成された三胴体形状を持つ。

機体への合体時は、Gディフェンサーのように余剰となるコクピットブロックを分離する方式となっている。


ビームライフルMk-IIはブースター側のジョイントアームと、MS側の前腕部ラッチの二点で保持。

どちらか片方を切り離して保持したり、ライフル自体を取り外して直接手に持つ事もできる。

ブースターのアームと連結した状態では、ブースター本体からエネルギー供給を受けられるために威力が高い。


しかし前腕ラッチ、又は手で保持した状態よりも射角は制限される。

その他の武装は、通常のMk-IIと同じものを使用。機体デザインは海老川兼武氏が担当。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


土曜日……人間、本気になればなんとかなるものだね。ていうかノリってやっぱり凄い。

あの後、待っていたレヴィとキリエを巻き込み、熱いバトルについて語りながら制作開始。

なお歌唄も宣言通り手伝いにきてくれました。待たせた事も謝りつつ、おみやげの肉まんを渡したらごきげん。


そうしたらもう乗りに乗りまくって、今まで滞っていた作業もさくさく進み……完徹だけど完成。

いわゆるベーシック状態に近いけど、それでも十分……想定以上のものができ上がったと思う。

さすがにつかれて軽くフラつくと、キリエが僕を受け止め抱き締めてくる。あぁ、今は抵抗する気力もない。


「つ、ついにできたわね」

「うん……みんな、ありがとう」

「お礼は期待してるね、ヤスフミー」

「うん、期待してて」

「じゃあ私は早速」


そこで歌唄が近づき、僕にキス……不意打ちのキスだったけど、しっかり舌を絡めて応える。


「ちょ、旦那様!? ……鬼畜。わたしにもたれかかりながら、他の女とキスなんて」

「わぁ、なんかねちっこいー!」

「お前ら、歌唄と恭文のこれは普通だから気にするなー」

「ラブなのです! 歌唄ちゃんもエロ甘になりつつあるのです!」


唇を離すと、歌唄は嬉しそうに笑ってもう一度……今度は触れるだけのキスをくれる。


「これも彼女だからこその先取りね。アンタ達はあれよ、追加の肉まんでも食べてなさい」

「うわ、その言い草腹立つわね。わたしだって旦那様にキスくらい……したんだから」

「……へぇ」

「ちょ、待って歌唄! ほっぺ! ほっぺだから!」

「それでもファーストキスだったんだから。というわけで」


抵抗する間もなく、キリエからキス……ほっぺの柔らかい感触でついドギマギする。


≪やっぱりラッキーセブン計画は必要でしたね。とにかく今あるもの、全てを注(そそ)ぎ込んだ……新しいガンプラ≫

≪角も増えて強そうなのー。でもまさか、AGE-1の角がここで役立つとは思わなかったの≫

「破片に近かったですしね、ターミナルに送ったAGE-1は」

「だがそうだよな、角状態なら……もぐ」

「小さいからこそってわけか。面白いな、ガンプラはよ」


角パーツを作り替え、以前バーのバトルで使った隠し武器も更に昇華。

あとはピーコックスマッシャーにヒントを得て、遠近両用な万能武器……僕なりの『レヴ』も作った。

スカイブルーのメインカラーに、緑もやや混ざった金属色が鈍く生える。瞳も青色で、僕やリインのカラーに合わせてる。


できる事はやった。こうしてここに、存在しないはずの機体と武器はまた生まれたのである。


「初戦からハードだけど、一緒にいこうね。……クロスボーン・ガンダムGR」







魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory32 『蒼い幽霊』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レヴィ達と朝ご飯を食べて一眠り……お昼前にはすっかり元気いっぱい。GRのテストも完了して、あとは試合を待つだけ。

アイリ達もしっかりあやし、おしめも替えてからお昼……今日のお昼はカツカレーです。なおフェイトが涙目で仕込んでいた。


「うぅ、奥さんなのに……奥さんなのにー!」


キリエとレヴィ、歌唄共々おかわり三杯……そして嘆くフェイトを、ディアーチェやダーグが悲しげに見守る。

悲しげなのはもう、察して。救いようのないドジだってまだ自覚がないから。


「ヘイトはしつこい! というか、ヘイトのせいでGRも完成度八割なんだよ!? パーツ壊しちゃって、ボク達が修理したから!」

「だ、だからもう一度教えてくれれば……うん、今度こそ。ヤスフミ、今日のうちに残り二割を完成させようよ。
私も頑張るし……あの、ネットで調べて分かったんだ。合わせ目っていうのを消すと強くなるんだよね」

「もう消してるよ! というかそこから?! ……フェイト、僕はフェイトが応援してくれるだけでいいの。
フェイトが『お疲れ様』って、こうして温かい食事を作ってくれるだけで本当に嬉しいし感謝しているの。フェイト、ありがとう」

「う、ううん。奥さんだし……って、話を逸らさないでー! 私だって、私だってちゃんと教えてくれれば」

「「「ちゃんと教えた上で失敗してるよね! それも同じところを何度も!」」」

「ほんとよ。フェイトさん、ここは適材適所……それが一番だと理解しなさい」


四人でツッコむと、フェイトはぐすぐす言いながら僕に抱きつく。いや、それやられても無理だから。なにもできないから。


「……黒ひよこ、お前はそろそろ自覚を持った方がいいぞ。自分がドジな上相当不器用だと」

「そうですよフェイトさん、なので……ね? もうなぎ君達は休ませてあげましょう。GRにも触っちゃ駄目ですからね、絶対」

「ふぇー!」

「やすっち、大変だな。いや、ほんと……頑張れ」

「うん、大丈夫。まだね、常識的な事ならまだなんとかなるから」


うわぁ、みんなめっちゃ疑わしそうだわぁ。でもホントだよ? ほら、料理とかもなんとかなってるでしょ。

みんなが食べたカレーだって、フェイトが頑張って作ってくれたものなんだから。つまり……そうか、その手があったな。


「とりあえず、今日はゆっくり休むわ。後で買い物に行くけど」

「買い物? どこ行くのよ、徹夜明けなのに」

「そうよ。今日は奇数日なんだから、私を明日の朝まで構いなさい」

「歌唄さん、それはもう休んでいる事にならないのですよ。こういう時は……やっぱりリインとラブラブなのですよー♪」

「……元気だね、おのれら。とにかくアレだよ、ガンダムAGE-1を買いに行くの。あとはザクアメイジングの修理用資材」


フェイトを撫でてなだめると、何度か頷いて胸をすりつけてくる。おー、よしよし。あとでまたコミュニケーションしようね。

さてさて、現在まで修理……というか、作り直しレベルなガンダムAGE-1は放置状態。

残骸自体はダーグのユニコーンと一緒に、ターミナルへと送っている。飛燕さんにお願いされてさ。


プラフスキー粒子のサンプルが必要と……本来なら送るのはダーグのユニコーンだけだった。

ただ僕も協力者ではあるし、パーツを大事に扱ってもらえるならという条件付きで加わったの。

GRのアンテナはそんな中から、予め取り出した一部……AGE-1の事もしっかり受け継いで、引っ張りたくて。


でも決着がどうあれ、地区大会が終わったら再制作開始予定。なので今のうちに準備しておくの。


「でもそのタツヤさん、でしたね。よく恭文さんにガンプラを預けてくれたというか……大事なものなのに」

「私もちょっと疑問です。壊れたからもう……という事ではないんですよね」


アミタとユーリはタツヤの人柄を知らないから、疑問があるらしい。まぁしょうがないけど、ちょっと勘違いもあるので訂正。


「僕を信頼してくれたってだけじゃなくて、正体を隠す関係からだろうね。
ザクアメイジングはユウキ・タツヤのガンプラとして有名だし、それを修理してたら」

「あー、正体を知らない人だと大問題と。一種の隔離処置だったんですか」

「もちろんザクアメイジングは大事な機体だし、だからと言って壊れたまま放置というのも……ちゃんと直さないとなぁ。
ザクアメイジングはね、アメイジング――現在進行形って意味なんだ。ユウキ・タツヤというより、三代目メイジンって意味で」

≪ただタツヤさんが三代目候補だというのはトップシークレットです。なので裏の意味というか、ダブルミーニングというか≫

「じゃあアンタが使うって事もないんだ」

「よっぽどの事がない限りはね。クロスボーンGRも仕上がったし、AGE-1もその辺りを含めてまた改良するし」


フェイトにはちょっと離れてもらい、三杯目を食べきる。そうしてキリエ達と一緒に。


『ごちそうさまでした』


両手を合わせてしっかりごちそうさま。フェイトへの感謝も目一杯込めて、両手を合わせる。


「……あとは、『アレ』もいじっておこうかな」

「アレ? シナンジュやF91ですか」

「ううん、実はガンプラ塾のトーナメントで使った機体なんだ。
本当は出すつもりがなかったんだけど、昨日のバトルを見て火がついちゃって」

「……アンタ、いつ休むのよ。それで二か月って足りるの?」

「スケジュールは立てているよ。それにどれも方向性は見えているし、伸ばす事自体は難しくない。もちろん……明日のバトルに勝ってからだけど」


敵は強くも強大。しかし決して揺らぐ事なく、戦いに立ち向かっていこう。そんな楽しさを込めて笑うと、みんなも安心してくれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


キリエとレヴィへのお礼……その一つはデートだった。なので三人でお出かけ。でも、どういう事なの。

いいのだろうか、両手に花って。かなり迷って、頭を抱えながらも歩いていく。……なお歌唄も誘ったんだよ。

僕からは言えなかったんだけど、キリエとレヴィが気を使って。そうしたら遠慮されてしまった。


僕へのお礼は今日の夜、たっぷり受け取るらしい。あははは、頑張ろうっと。それで休ませてもらおうっと。

そうしてたどり着いたのは近所のホビーショップ。歌唄の事はそれとして、まずはフェイトだね。

うーん、フェイトはまず自分で全部やり通してからだよなぁ。まぁ、フェイトは確かにドジだ。



学習能力も極めて低く、人の話を聞かない。でもそれは自分のレベルを鑑みず、いきなり高度な事をやろうとするから。

なので一つ一つ順序良くステップアップしていけば、そこまで駄目な子じゃないのよ。

ようは順序立てる事が必要。なので次のステップは『自分一人でガンプラを作り上げる』、これだね。


それでなにがいいかなにがいいかと考え歩いていると、あるものが目についた。そうか、これがあったと笑って手を取る。


「旦那様、それって」


僕が手に取ったのは、丸っこくて腕長なガンプラ。某スコープドックにも似ているけど、それはカラバリな緑色であるせいだった。

そのガンダムとも、ザクなどとも違うフォルムに、脇からのぞき込む二人も軽く首を傾げた。


「最近PPSE社が出した、モックっていうガンプラだよ」


◆◆◆◆◆


モック

PPSE社がコンピューター戦用の無人機として開発した機体で、一般市販もされている商品。

他のガンプラと違って、ベースとなる原典機を持たないPPSE社独自の機体。

単眼を持つ半球型を基本として、複数の頭部バリエーションが存在する。武装は既存のガンプラから流用可能。



◆◆◆◆◆


「え、アニメとかに出てないの?」

「なんだよ。でもね、凄いんだよ。パーツ数がHGの標準より少ないんだけど、可動範囲は最新レベル。
作りやすくて動きもバッチリ。その上ハードポイントが機体各所に設置されていて、武装増設も思いのまま」

「へぇ、ずんぐりなのに凄いんだなー。この子」


レヴィも気に入ったみたいで、モックの箱を軽く撫でる。……そう、いわゆる改造などが推奨されるオリジナル素体だ。

当初はオリジナルって事で、評判は今ひとつだったんだけどね。でもその秘めたるスペックが発売後に判明して、一気に爆発だよ。


「価格も控えめで、模型誌などでは最近『オラモック選手権』などがスタートしているくらいだし……今人気が上がりつつあるんだよ、モック」

「……まだまだ勉強不足だったってわけね。でもこれをどうするの? まさか予備機とか」

「違う違う。フェイトにどうかなーと思って。これね、合わせ目とかもわりと出るし、ちゃんと作ろうと思ったら歯ごたえもあるんだよ」

「それでレベルアップ? でも大丈夫なのかしら、あの様子だし」

「そうだよー。ヘイト、すっごいドジっ子だよ?」

「そこは付き合いの長い僕を信じてほしいな」


現にコミュニケーションの性戯もこう……もう一度言おう、フェイトは順序立ててレベルアップしていけば問題ない。

ただそのためにはある程度付きっきりになる必要があるし、手間もかかるだけで。

というわけでこれは購入っと。レヴィ達も自分の買い物を終えたので、三人仲良く外に出た。


というか、僕が奢った。これもまたお礼だよ、お礼。


「ヤスフミ、ありがとー」

「ありがと、旦那様。というか太っ腹ー♪」

「ううん。じゃあ」

「プロデューサー」


美味しい中華を食べさせてくれる、素敵なお店へ……と思っていたら、右側から声をかけられた。

そっちを見ると、そこには千早が……しかもやたら真剣な表情なので、楽しい空気が一瞬でストップ。


「あー! 板っ子だー!」

「あらあら、また凄いところではち合わせね」

「やっぱり、そうなんですね。大きい方が……くっ」

「千早!? え、なにか勘違いしてないかな! 違う違う、これはお礼も兼ねたお出かけで」

「そうよー。これから旦那様と……まぁレヴィも一緒ってのが驚きだけど、それも必然なのかしら」


アホな事を言い出したキリエへは、裏拳をかまして黙らせておく。……ほんとやめてよ! この瘴気が分からないの!

千早、二人の胸にすっごくいら立ってるし! どうすればいいの、これ! いや、僕が触れられるところじゃないんだけど!


「プロデューサーが、それなら……遠慮はいりませんね」

「明日のバトルって事かな。それなら最初からいらないよー。バトルはやっぱり全力全開! そうじゃなくちゃ楽しくないもの!」

「そうそう、レヴィの言う通りだって。なので千早、ちょっと落ち着いて」

「プロデューサーは、やっぱり大きい人が好きなんですね。板っ子な私なんて……くっ」


ちょっレヴィの頭をはたいて、キリエも一緒にスクラム編成。なお理不尽とか言わないで、こうなった千早は洒落じゃないくらい怖いの。


「ヤスフミ、痛いよー!」

「黙れ馬鹿! だから言ったでしょうが、そういう事は言っちゃ駄目って!」

≪千早さん、胸が全くないのを気にしているんですよ。食生活が細すぎるせいだとこの人が指摘して、よく食べるようにはなったんですけど≫

≪残念ながら効果なしなの。それでそれで、主様の周りにはフェイトさんやティアナちゃん、フィアッセさんと大きい人がたくさんなの≫

「あぁ、それで……歌唄もスレンダーに見えるけど、実はかなりある方だものね。
旦那様、ここは全力で受け止めるしかないわよ。一夜の思い出でも、きっと救いに」

「そんな事できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「そうです、か。私とはそんな事……できませんか。一夜の遊びもしたくないと」


げ、なんか聞かれてた! レヴィとキリエもちょっとやばいと思ったのか、僕と一緒に振り返りつつ後ずさる。


「ち、違う! そうじゃない! そういう一夜なんてのが駄目なの! 無責任でしょうが!」

「そうそう! 旦那様はほら、ハーレム作っているけど基本奥手だから! 誰でもいいってわけじゃないから!」

「でも大きいおっぱいが好きなのは本当だよね。だってキリエのおっぱいにももたれかかってたしー。
……ボクにもそうしてほしいなー。なんか楽しそうだもん」

「「今は黙ってて!」」

「もたれ……そう、ですよねぇ。柔らかくてふかふかで、大きいですものねぇ」


違う、そうじゃない! 徹夜明けでフラついてて……聞いてくれないー!

千早、とりあえず胸をペタペタ触るのはやめよう! 女の子として、ね!?


「だったら明日の決勝戦、私が勝ったら」


千早は震える手で僕を指差し、涙で満たされた瞳も向けてくる。


「世界大会、私のセコンドになってもらいますから!」

「「はぁ!?」」

「それで、選手村でも同室で……ずっと一緒です! 夜のご奉仕も私が相手をします!
それでもし私が負けたら、私がセコンドに……というか、彼女になります!」

「いやいや……それ意味が分からない! 結局同じじゃないのさ!」

「そうよ! 結局ずっと一緒なのは変わらないわよね! 結局彼女化するのは変わらないわよね!」

「そうだそうだー! それならボクがセコンドになるんだい! 板っ子の出番なんてないんだぞ!」


だから板言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なに芽を自分から摘み取っていくの!? いらないわ、そんなスタイル!


「約束しましたから! 失礼します!」

「待って! 千早、してない……約束してない! 僕は同意してないから!」


そして千早は風のように立ち去り……と、止める間もなかった。伸びてしまった手を引っ込める事もできず、ただただぼう然とする。


「どうして、こんな事に……!」

「お兄様が私一筋にならないからです。……ふん」

「まぁあれだ、女同士は問題ないんだし、頑張れ……もぐ」

「「できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


頭を抱え、ショウタロスと一緒に叫んで蹲る。どうしよう、マジで世界大会についてきそう!

ていうか負けても引きずられそう! どうすれば……一体どうすれば!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


旦那様が頭を抱えていたけど、引きずりつつお目当てのお店へ。中華がって言ってたけど、どれほどのものかと思ったら。


「「……美味しいー!」」


ついレヴィと二人、ほっこり笑顔。柔らかくもしっとりとした『トンポーロー』。ピリ辛でエビのうまみたっぷりな『エビチリ』。

カシューナッツの歯ごたえと、とり肉のジューシーさがくせになる、『とり肉のカシューナッツ炒め』。

具沢山の野菜がそれぞれ美味しく、なおかつ一つにまとまって協奏曲を奏でる『八宝菜』。


その全てが全てが完璧……これは食べにきたくなるわー♪ 佐竹飯店、恐るべしね!


「ははは、気に入ってくれたようでなによりだよ」

「私もお気に入りだ。特に量が多くてな……もぐもぐもぐ!」


確かにヒカリの分だけはこう、どっしりという感じだった。というか、看板娘っぽい子がしゅごキャラ見えてたんだけど。


「でも旦那様、別にお嫁さんって一人じゃなくてもいいわよ」

「そうだよー。ウタウもいるし、みんなもOKーって感じだしー」

「そうそう。わたしは今みたいに、みんな一緒が楽しいもの。まぁ通い妻的になるけど」

「なにレヴィやシュテルまで嫁って感じにしてるの!? ……でも責任とかいろいろあるじゃないのさ」


あぁ、旦那様が頭を抱えちゃった。ちょっと意地悪しちゃったかしらと思い、旦那様の頭を撫でて軽く慰める。

……こういうところでまた、信頼しちゃうのかな。ちゃんと向き合おうとして、苦しんで、考えてくれるから。


「悩んでいるようですね、あなた様」


そして旦那様の背後にいた、銀髪ウェーブ髪の女が突然声をかけてくる。よく見るとめちゃくちゃ美人……しかも胸、レヴィレベルじゃない!

旦那様はハッとしながら振り返り、そのパープルな瞳を見て驚くばかり。


「ですがそれでよいのでは? 真剣に考えるからこそ、フェイト殿達も納得するのでしょうし」

「貴音!」

「ヤスフミ、知り合い?」

「あ、うん。765プロ所属の四条貴音――千早達の親友でもあるの。
貴音、この子はレヴィ・ラッセル、それにキリエ・フローリアン」

「おぉ、あの板っ子と知り合いなのか! 初めましてー!」

「初めまして」

「こちらこそ……四条貴音ともうします」


穏やかな物腰だけど、油断ならない感じがするのはどうしてか。あと……なんか、テーブル上に空の丼が三個くらい置かれているような。


「それで貴音は……あー、うん。もう言わなくても分かる」

「ヒカリともよくここへ来ますので。量がたっぷりなので実に嬉しいのです」

「だな」


へぇ、しゅごキャラも見えていると。でもヒカリ……あ、旦那様がまた頭を抱えちゃった。


「ヤスフミ、どうしたのー?」

「……貴音とヒカリ、同レベルの大食いだからさ。ちょくちょくあっちこっちの店へ出向いて……食料を食べつくしたり」

「わぁ、凄い凄い!」

「旦那様、それ……え、ジョーク?」

「現実だよ!」

「分かったから落ち着いてよ! 泣かないでよ!」


ていうか止めなくていいんだろうか。そのヒカリ、貴音のところへ移動してまたガツガツと……しゅごキャラってこれがデフォ?

いや、シオンやラン達はまた違うし、この子だけなのよね。だから余計に頭が痛いとか。


「ただ今日はそれだけではないのですが」

「なによ、限定メニューでも出るの?」

「いえ……少々挨拶にきたのです」

「……貴音さん、おまたせしましたー!」


そこでやってきたのは、赤エプロンにバンダナを巻いた女の子。明るい笑顔が印象的で、胸はわたしはお姉ちゃんレベル。

この店の一人娘らしくて……名前はえっと、佐竹美奈子ちゃんだっけ? 旦那様ともかなり仲良しみたい。


「追加の担々麺です! えっと、あと三十分くらいかかりそうなんですけど」

「大丈夫ですよ、美奈子。ここの食事を楽しみにもきていますから」

「ありがとうございます! それでえっと」


そこで美奈子ちゃんがわたし達と四条貴音を見比べる。あぁ、知り合いだとは知らなかったってやつね。


「安心していいよ、美奈子。僕と貴音は四年ほどの付き合いがあるから」

「その通りです。というか、765プロにくるガンプラプロデューサーというのは……あなた様の事です」

「あぁ、なるほ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「そうそう……ん? そこを説明するって事は、貴音」

「プロデューサーと律子から聞いていなかったのですか。美奈子は765プロのにゅぅふぇいす――あいどる候補生です」

「マジですか!」


あらら、なんだかわたし達、蚊帳の外〜? でもお話を邪魔してはいけないので、ちょっとつまらなそうなレヴィを軽くあやす。

カシューナッツをあーんしてあげると、すぐにごきげんよ。うんうん、分かる分かる。

……これ、博士にも作ってあげたいなぁ。レシピ聞いたら、教えてくれるかしら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レシピは問題なく教えてもらったので、もうほくほく。美奈子には感謝しないとー♪

そんなわけで食事を終え、暗くなった道をみんなで歩く。どうも四条貴音と美奈子は、これからちょっとしたお仕事らしい。

なんでもグルメリポーターとか……それを聞いた時、つい旦那様と頬を引きつらせてしまった。


というかレヴィも一瞬考えこみ。


「いやいや……おかしいぞ! そこの銀髪くん、ラーメンを五杯もお代わりしていたじゃないか!」


指差しし、それは違うと指摘する。すると四条貴音が急に視線を険しくした。


「レヴィ殿、それは違います。わたくしが食べたのはらぁめんではなく……担々麺です!」

「「違う、そうじゃない!」」

「……どう違うのかな。ヤスフミー」

「……どっちも中国の麺料理なんだけど、ラーメンは日本だと異なる文化的発展を遂げた『日本料理』という認識みたい」


とりあえず他の人はともかく、四条さんはって意味で説明か。でも旦那様、なんでそんなにこめかみをグリグリ? 説明がめんどいのかしら。


「実はそういう料理って結構多いんだ。洋食なんかだと和製洋食って言うんだけど。
それで担々麺は比較的現地アレンジや発展が少ない料理で、中国料理として認識している……でしょ、貴音」

「えぇ。さすがはあなた様です」

「うーん、とりあえず違う料理だって、この銀髪くんが考えているのは……って、そうじゃないー! レポーターなのにいっぱい食べるってなんだー!」

「そうよそうよ! 問題はそこよ! お腹がもう入らないでしょ!」

「はて、わたくしはおやつ気分で収めましたが」

「貴音さんが本気なら、あの四倍はいけますよね」


ついレヴィと一緒に口をあんぐり……なんなの、この人外! 旦那様……って、顔を背けたー! マジなんだ! このまま行けるんだ、レポーター!


「と、とにかくあれだ。美奈子は『四条貴音のラーメン探訪』で、付き添いデビューと」

「そうなんだ。でも恭文くんが……あぁそっか、地区予選も決勝戦まで勝ち残ってるものね。それで」

「まぁそんなとこだね」

「ですが運命とは不思議です。世界を賭けた大戦……その枠をあなた様と千早で争うなど」

「そういえば、決勝って完全に身内枠なのよねぇ。というか765プロ枠」


歩きながら、口元を軽く右人差し指でなぞる。……あ、ちょっと乾燥してるわね。帰ったらリップクリームを塗らないと。

確かに不思議よねー、世界を賭けてるってのがまた。おかしくて笑っていると、駅前に到着。

四条さんと美奈子はわたし達から少し離れ、軽くお辞儀。ちょうど駅まで送る感じになっていたから。


「それではわたくし達はこれで。あなた様、明日の試合も応援に行きますので」

「そっちは私も! 実は私と同期な子達も、勉強のためにって行く予定なんだ! 頑張ってね!」

「ありがと。二人もお仕事、頑張ってね」

「ありがとうございます。ではレヴィ殿もまた」

「またねー。銀髪くんー、ミナコー」

「番組、オンエア日が決まったら教えてねー♪」


手を振って、姿が見えなくなるまで二人をお見送り。それから静かに、ゆっくりと三人でまた歩き出す。

自然と旦那様を挟んで、レヴィと手を繋いでいた。……ほっぺにキスやハグもしてるのに、妙にドキドキする。

こういう時にね、運命を再認識しちゃうのよねー。意外と乙女な自分に気づいて、無意味なほどにニコニコしてしまう。


「うん、ヤスフミの周りはいい奴ばっかりだ。……なのにヘイト達はどうして馬鹿だったんだろう」

「奴らは管理局が大事だからだよ、言わせんな恥ずかしい」

「アレを見ちゃうと否定できないわねー。でも旦那様、お腹大丈夫? 美奈子、どういうわけか旦那様へ山盛りサービスしてきたし」

「うん、それは大丈夫……いつもの事だから」

「アレがいつもぉ!?」

「どうも美奈子はその、ちょっとぽっちゃりした感じが好きみたいで……僕はもっと食べるべきだって、それはもう」


という事はあの子……いや、ツッコまないでおこう。……そのまま帰りかと思ったら、旦那様に連れられてちょっと寄り道。

街の中にある生まれたてホヤホヤな遊園地に寄って、三人だけの……優しくて、キラキラな思い出を一つ作った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一日……心機一転した僕達にとっては、余りに余裕すぎる準備期間だった。いよいよ地区予選最終日。

決勝戦の舞台へ、レイジと二人歩いていく。今までだったら絶対に触れられなかった舞台。

僕はいつも、これを見ている側だった。僕とレイジ、対戦相手だけのために集まってくれた観客達。


熱い勝負への期待、驚きや感動……それを受けるプレッシャー。その全てが心地いい。

送る側ではなく、受ける側にいられる。僕のガンプラで、僕の理想とするファイターと一緒に。こんなに嬉しい事はないよ。


「対戦相手は大会常連のベテラン、カトウさんだよ」

「誰だソイツ? 知らねぇな」

「そう言うと思った。……つまり僕がお願いした事は一切守ってないんだね。
対戦相手になるかもしれないから、試合はちゃんとチェックしておけと」

「それはずるいだろ! いや、知ってる! 本当は知っている! 分かっているからそのつや消しアイズはやめろ! 怖いんだよ!」


軽いジョークも交えつつ、レイジと二人ベース前に立つ。GPベースをセットし、生まれる粒子と戦う舞台。

レイジがビルドガンダムMk-IIを置くと、カタパルトが生成。レイジはアームレイカーを握り締め、僕はセコンドコンソール各部をチェック。


「これに勝てば世界大会にいける。そこには、もっとすごい人たちが待ってる!」

「あぁ!」

≪BATTLE START≫

「ビルドガンダムMk-II!」

「行くぜ!」


カタパルトを滑り、ビルドガンダムMk-IIが宇宙空間へと飛び出す。

やや灰色がかったボディは宇宙の色を映し、僕達の気持ちを表すように前へ……ただ前へ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フィンランドの一角……少々ロングランになるが、スタッフと一緒にスポンサーのところへ移動中。

ちょうど日本でも気になる試合が開始されたので、運転手である私以外は各々端末で試合をチェック。

雰囲気あふれる夜の街、それを黒い乗用車で走り抜けながら、今後の事を思案する。


「まさかな……あのユウキ・タツヤが辞退とは。よく見ておけ、どちらかと戦う事になるかもしれん」

「白いガンプラが勝ちます」


後部座席に座っている、白ワンピースに帽子というロシアチックな女が呟く。

長い銀髪は暗い社内でも映え、その瞳は虚ろに手元を……携帯のモニターに向いていた。

バックミラーで軽く確認し、安どする。ここで即答できる事、それこそがこの拾い物の価値なのだと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「見えたよ! レイジ」

「アイツが決勝戦の相手か」

「ああ…! ガンダム――ダブルエックス!」


ダブルエックスは月を背に、動きもせず仁王立ち。いきなりサテライトキャノンがくるとも思ったけど、違う。

カトウさんは軍団の魔術師とも呼ばれる、『チーム戦』のエキスパート。それにこれまでの試合でも。


「レイジ、Gビットがくるよ!」

「分かってる!」


よかった、本当にチェックしてくれていて……指示出しを忘れてつい涙ぐんでいると。


「フン、『軍団の魔術師』の異名を持つ、私の力……とくと見るがいい!」


ダブルエックスが左人差し指を立て、たかだかと虚空を指差す。すると背後の月から合計十二(じゅうに)の光が走った。

渦巻きながら飛び出たそれは、ライトグリーンに彩られたモビルスーツ達。

L字型のバインダー、サテライトキャノンを背負い、右手にはシールドバスターライフル装備。


あれがGビット……ガンダムXの量産型でもあり、ニュータイプが扱うモビルスーツ型ビット。

ファンネルなどは小型なんだけど、ガンダムXに登場するこれは逆に巨大。

しかもそれぞれがサテライトキャノンを搭載しているという豪華仕様。原作でもあるお話では大活躍だった。


あのタイプだと正確には、GXビットって言うんだけどねー。まぁそこをレイジに説明している余裕、ないよね。


◆◆◆◆◆


ガンダムダブルエックス

『機動新世紀ガンダムX』に登場。新地球連邦軍の力の象徴として開発された、新型ガンダムタイプモビルスーツ。

その名の通り第七次宇宙戦争当時、最強のMSと謡われたガンダムX(GX)の強化発展機として開発された。

戦前の他ガンダムタイプ同様、支援戦闘機Gファルコンとの合体機構を備えているほか、フラッシュシステムも移植されて搭載。


そのためGビットの指揮・連携能力も維持している。武装は専用バスターライフルとディフェンスプレート。

ヘッドバルカンと腹部ブレストランチャー、サイドスカートにハイパービームソード基部を二基搭載。

そして背面に搭載された連装型大出力エネルギービーム砲『ツインサテライトキャノン』が最大の武装。


これはガンダムXのサテライトキャノンをシステム面、機体構造面、エネルギー面からも強化したものである。

威力はサテライトキャノンの数倍で連射可能。しかし単砲身ではその出力に耐え切れなくなったため、二門に増強ししている。

しかし月からのマイクロウェーブを受信しなければ、撃てないという弱点は変わらずである。


作中では超長距離(約38万km)から短時間に3度の高精度砲撃を行うなど、脅威を見せつけている。

ダブルエックスは絶大な戦略攻撃力もそうだが、MSとしての基本性能も当時としては最高水準。

劇中では敵MSに腕部を拘束されるものの、アームを引きちぎりながら離脱。大気圏内でも高い飛行能力を見せつけた。



◆◆◆◆◆


GXビット

GXのフラッシュシステムを介して遠隔操作される無人MS。頭部センサーがバイザー状となり、各部の形状も親機のGXより簡略化されている。

各武装はGXとほぼ同等品だが、ブレストバルカンは胸部中央にニ門のみを装備する。型式番号は資料ごとに表記が異なっている。



◆◆◆◆◆


『戦いは数だ。個々の能力は低くとも物量で敵を包囲し、駆逐する!』


ドズル・ザビ中将のセリフ……さすがは軍団の魔術師。でも戦い方がちょっと甘いかな。

Gビット達はこちらへ突撃しつつ、シールドバスターライフルで一斉射撃。

レイジは慌ただしくもスムーズにアームレイカーを動かし、連続で走る弾幕をすり抜けていく。


「確か、サテライトキャノンってのが撃てたんだよな!」

「そうだよ! つまり」

『たった一機で、私の軍団に対抗できるはずがない!』


左へのバレルロールで、集団ギロチンバーストをすれすれで回避……そうして左斜め下へ加速し始めた、その一瞬。

レイジはトリガーを引き、右のビームライフルMk-IIが発射される。二時方向・上五十度……走る緑のせん光は、一直線上にいたGビット二機を貫通。

胴体部を撃ち抜かれた二機は爆散し、宇宙の塵となった。よし、威力はバッチリ!


『……え』

「僕らのガンプラは!」

「伊達じゃねぇ!」


前方にいた三機目を、左のビームライフルMk-IIですれ違いざまに撃破。続く四機目は右に大回りしつつ、ビームを撃ち合う。

左腕すれすれに向こうのビームが通り過ぎるけど、こちらの狙いはより正確。四期目の胴体を撃ち抜いて爆散する。

前進……かと思ったらレイジは急停止。一気に上昇して、五時方向から迫っていた五機目へ対処。


突撃しながらのビームを回避し、すれ違いざまに両のビームライフルMk-IIを同時発射で仕留める。

そうしてまた一機、また一機と撃墜され、爆散の炎が周囲を彩る。……突撃させず、サテライトキャノンを撃つべきだった。

確かにGビットは驚異的だけど、ガンプラバトルでは一人のファイターによる同時制御が基本。


どうしても個々の戦闘スペックは低くなる。そこはオートを交えようと同じ。だからこそサテライトキャノンだよ。

月もあるなら、全機一斉砲撃とかすれば……さすがに危なかったかもしれないし。


『ばか、な。十二機のGビットが……一分足らずで全滅ぅ!?』


そのままレイジはダブルエックスへ突撃。ビルドブースターMk-IIの加速力もあり、数百メートルという距離はどんどん縮まる。

それに対しダブルエックスは、両手両足・背部のリフレクターを展開。ツインサテライトキャノンの発射態勢へ入る。

でも判断が遅い……遅すぎる! 完全に砲門が構えられる前に、ビルドガンダムMk-IIは肉薄。


『え……!?』

「言っとくが、戦いは量より質だぜ――おっさん!」


零距離から放たれる、左のビームライフルMk-II。胴体部を零距離で撃ち抜き、そのまま脇をすり抜け交差。

金色にカラーリングされたダブルエックスは、そのまま爆散。それを捨て置き、僕達は月光の中へと飛び込む。


≪BATTLE END≫


勝った……決勝戦に、僕の……僕達のガンプラで。沸き上がる歓声すらもかき消す勢いで、僕は勝利の雄たけびを上げる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


他愛もない試合だった。日本のビルドファイター……この程度か。軽く笑いながら、信号待ちだった車を再度走らせる。


「フ……お前は賢いな」


バックミラー越しに、揺れる銀髪を……アイラを見やる。無表情のままかと思ったら、またドヤ顔だ。まぁいい、今は見逃そう。


「拾ってやった甲斐もある」


大事な商談を前にしている。チーム・ネメシス……上手く食い込めるといいんだが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロデューサーさんと千早ちゃんの試合……第二ブロックの決勝戦は満員御礼(おんれい)。早めにきて、席取りしておいてよかったー。

私達765プロメンバーは目立たないよう、軽く変装などしつつ注目。いや、千早ちゃんが出てるから、バレる確率も大きくて。

でもフェイトさんや唯世君達とお話しできないの、ちょっと残念だなー。早めは早めだったけど、わりとぎりぎりだったし。


それでみんな揃って無駄にそわそわ。身内同士で世界を賭けて……って辺りで緊張していた。

しかもプロデューサーさんの新作ガンプラ、制作進行が滞りがちだったって言うし。

響ちゃんはいても立ってもいられず、プロデューサーさんのところへ行っちゃいました。


「真美ー、ひびきんは情熱的ですなー」

「だよねー。ゆきぴょんとあずさお姉ちゃんも見習えばいいのにー」

「ふぇぇぇぇ!?」

「うーん、そうしたいのはやまやまだけど、それだと千早ちゃんに悪い気もするのよねー」

「……恭文君、やっぱりちょっと頑張ってもらわないと駄目かしら」

「まぁまぁ」


現プロデューサーさんは律子さんをなだめてから、私と同じように接続されたベースを見やる。

そのなにもないクリアブラックパネルに描くのは、これから始まるであろう激闘。きっと数分間に満たない時間だけど、得るものは大きいはず。

……あ、現プロデューサーさんじゃなかったなぁ。現チーフプロデューサーさんだった。うぅ、やっぱりややこしい。


「でも今の千早さんに勝つの、ちょーっと大変かもしれないの。まぁ美希は負けたからアレだけど」

「安心しなさい、誰もアンタが弱いなんて言わないから。……ていうか言えないわよ、実際あの射撃ショーは驚かされたし」

「デコちゃんにそう言われると、ちょっとは元気が出るの。だけど元プロデューサーも、戦いって事に区切ればめちゃくちゃ強いの。
実際不安のあった準々決勝とかも、かなり楽に勝っちゃったし」

「……本当に、ガンプラをやるんですか」


そこでやや戸惑い気味なのは、勉強のため連れてきた……えへへ、私達にも後輩ができました。

そんな七人のうち、黒髪ウェーブ髪の女の子は一番戸惑っていた。


「いえ、もう納得はしているんですけど……現実感がなくて。夢じゃありませんよね」

「志保、そりゃあもう遅いわ。なんなら私がつねろうか?」

「杏奈も……手伝う」

「……顔以外にしてもらえると嬉しいわ。一応、アイドル候補生だし」


ただ不満というわけではなくて……うん、分かるよ。私も最初、話を聞いた時は夢みたいだったから。

アイドルにガンプラ……どうしても結びつかなくてねー。でも。


「だからこそ、生でバトルを見て……考えていけばいいんじゃないのかな」

「天海さん?」

「千早ちゃんも、元プロデューサーさんも、ガンプラが……バトルが大好きで、本気でやっている二人だから。
きっとなにか、答えに近いものは出せると思う。私達に、アイドルとガンプラバトルがどう繋がるのか」

「……はい」


黒髪の子――志保ちゃん達も納得してくれたところで、選手入場。妙な緊張感に生唾を飲み込みつつ、一挙手一投足に注目していく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セイ達は勝ったか。でも……ガンダムMk-IIの改造機体!? うわ、すげーカッコいい!

でもティターンズカラーじゃなくて、エゥーゴカラーか。設定とかこだわってそうだし、あとで聞いてみよう。

いい感じでワクワクしてきたので、僕もリインとにこにこしてしまう。次は僕達の番……決勝戦だ。


「恭文」


心配そうな響の頭を撫で、安心させる。ハム蔵も含めて、そこから力強くサムズアップ。


「大丈夫、さっき見せたでしょ? みんなの協力もあってでき上がったって」

「うん……分かった! 自分、ちゃんと見てる! 最後まで応援するからな!」

「ちゅちゅ!」

「ありがと。さて、行くよ……リイン!」

「はいです!」


そのまま廊下を出て、ゆっくり歩いていく。そうして響く拍手と歓声……それを受けるのが実に心地いい。

千早も険しい表情で向かい側に立ち、軽く深呼吸。そのせいか僅かに表情が緩んだ。


「プロデューサー、約束は覚えていますね」

「約束していないからね! 僕は許可してないからね!」

「ですです! 千早さん、ちょっと落ち着くのですよ! せっかくの決勝戦が台なしです!」

「ならお願いです! それなら問題ありませんよね!」

「「駄目だこいつ、早くなんとかしないと!」」

≪――Plaese set your GP-Base≫
 

ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Ocean≫


ベースと僕の足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回はどこまでも広がる海上……陸地なしかい。

でも夜明けの時間なのか、暗い水平線が徐々に染まっていく様子は奇麗。リインも感動した様子で声を漏らす。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――スキャンされているが如く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が僕の前に収束。メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。


コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙しなく動く。

両手でスフィアを掴むと、ベース周囲で粒子が物質化。機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここでガンプラバトルを見るのも、今年は最後……かしら。地区予選としては最後よね。うん、問題ない。

ダーグとシュテル達もそわそわしてしまうのは、アイツのガンプラ製作が本当に大変だったから。

私もなにかフォローできればよかったんだけど……ごめん、許して。ようやく、ようやくZガンダムってのを見始めたばっかりなの。


とりあえずバンダイチャンネルは偉大だとだけ言っておく。フェイトさんもおろおろする中。


「あう……や、やっぱり私も手伝って、完成度を百パーセントにすれば」

「駄目に決まっておるだろうが! このボケひよこがぁ! お前はアレだ、あのずんぐりむっくりを完成させろ!」

「ふぇー!」

「王、フェイトも静かに……きましたよ」


シュテルの制止で、全員がアイツに注目。そこでアイツが水色と灰色が混ざった、四本角のガンプラをベースに置く。

銀色の片刃剣、ごちゃごちゃした左手のロングライフル……なんだろう。

アイツほどガンプラについては詳しくないけど、なにか違う。オーラみたいなものが漂っているの。


「あれが、恭文先輩の新しいガンプラ……クロスボーン・ガンダムだー!」

「そうだよー! ボクとレヴィ、ウタウも手伝ったんだから!」

「大変だったわよねー」

「私には、分かります」


ユーリも私やみんなと同じものを感じているらしく、嬉しそうに両手を胸で押さえた。


「あの子はゴーストとはまた違う。もっと鈍い……鉄のような意志を感じさせます。でも柔らかい楽しさもいっぱい。なんだか、不思議です」

「Jud.本気で遊んで、楽しんで……って事か! やすっち、リイン、ぶっ飛ばせ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文」

「蒼凪リイン」

「クロスボーン・ガンダムGR――目標を駆逐する!」


カタパルトを滑り、夜明け前の海へ。夜明け前が一番暗い……って、歌舞伎町に住んでいる万事屋さんが言っていた。

でもそんな中を飛ぶのは気持ちがいい。魔法でもちょくちょく、夜明けを目指して突き進んだりするよ。

……でもそんな感動はカタパルトを出た直後にかき消えてしまう。左へのローリングで、暗い空から飛ぶ光を回避。


「早速なのです! 十二時方向――上三十七度!」

「小型のクロスボーンなら」


続けて走るビームを、右手の片刃剣『GRザンバー』で次々斬り払う。その上で光の先、夜明けの色に染まる入道雲へ突撃する。


「通常サイズなウンディーネの先を取れるはず!」


雲に隠れる陰――それを追いすがり、四基のフレキシブルスラスターを全開。更に微細な角度調整も行う。

スラスター本体接続部、更にバーニア部の二箇所がせわしなく角度を、出力を変更。

クロスボーンの特徴はこのスラスター可動。噴射位置を変更する事で、アポジモーターなどの増加もなしで鋭敏な機動性を発揮する。


感覚に従い、千早の殺気――プレッシャーを、それを辿るように幾つも放たれる弾丸をすり抜け、音速域へ。

空気の波動を周囲にまき散らしながら、入道雲へと突入。白の中に隠れたウンディーネを見つけ、GRザンバーで袈裟一閃。

すかさず千早は左手でサーベルを抜き、こちらと斬撃をぶつけ合う。突入と衝突の衝撃から、雲が大きく散らされた。


『小さいくせに……やる!』

「言ったはずだ」


ザンバーを振り切り、ビーム刃を脇へ外し右に加速。腹部へ向けられていた銃口、そこからばら撒かれたビームマシンガンを避ける。

空へ消えていく緑の弾丸達、それを横目で見ながらウンディーネの左サイドを取った。


「GR(ゲシュペンスト・リーゼ)だと!」


すかさず振り返り、こちらへ向けられる銃口。スカルレヴを負けじと構え、ドッズマシンキャノン&ライフルのトリガーを引く。

スカルレヴは接続パーツやジャンクパーツを組み合わせて作った、僕なりの『レヴ』。

その関係でザンバスターもくっつけ、ロングライフル的なフォルムを見せている。


ザンバスターの銃口にも蒼の輝きが生まれ、性質の違う弾丸二種が同時発射された。

千早も今度はライフルによるバーストを放ち、直線上のビームがこちらへ迫る。

それは渦巻くドッズライフルビームと衝突……交じり合いながらも二色のビームがはじけ飛んだ。


衝撃にあおられ距離が開き、更にマシンキャノンの弾丸もビームの反作用を受け消失する。

すぐに宙返りして体勢を立て直し、同時にワイヤーフック展開。スカルレヴから放たれたフックは、ワイヤーを伝い逆風に振るわれる。

そうして飛んできたフックを、ウンディーネは左回し蹴りで脇に飛ばす。更に上昇し、攻撃直後の隙をなくした上でマシンガン乱射。


上から襲う小型ビーム弾丸達は、前方へ加速――ウンディーネの足元をすり抜けながら回避していく。

更に右ローリングでワイヤーを振るい、フックを振り返るウンディーネへと叩きつけた。

薙がれるフックは本体を捉えられなかったものの、その切っ先で右アンクルアーマーが深く抉られる。


ウンディーネが逆さま状態で加速。海へと急降下しながら、こちらにけん制用のミサイルを発射。

ミサイルは合計八発……いや、違う。走る感覚に従い、展開したワイヤーを振るってそのまま回転。

同時にミサイルは火花を走らせながら、一発一発から合計十基のマイクロミサイルが発射。


「逃がさないのです!」

「逃げ腰弾など!」


高速回転し唸るワイヤーは、巨大な物理シールドとなる。それがマイクロミサイルを防ぎ、弾きながらも次々爆散させていく。

そして背後に殺気……加工していたはずのウンディーネは背後へ回り込み、一足飛びでは踏み込めない距離から銃口を向ける。

放たれるのはごう音とせん光――そう、美希のストライクにとどめを刺した超圧縮粒子弾丸。


それに対して振り返り、GRザンバーで逆風一閃。片刃がビーム粒子と衝突し、軋んで衝撃を伝えてくる。

大丈夫……僕が持っている技量を、戦闘経験を全てクロスボーンにフィードバックさせる。

瞬間的に動く十指、斬り裂いた先に見えるもの……だから宣言する。


「ナタとは違うのよ」


そして刃は振り切られる。切れ味と硬度にはこだわっている……もちろん粒子無効化技術も応用している。

でもそれ以上に、クロスボーンGRに注いだのは再現能力。原作もそうだし、僕の持っている技を再現する事。

僕が思う通りに、戦いの中で培ってきた想像力――戦術と技能を生かせるように。だからそれも必然だった。


アルトでいくども斬っていった砲撃、それに比べればこれはまだ軽かった。

ザンバーが月夜で振り切られると、弾丸は弾けて両脇へ掠め飛び……背後で二つの爆発となる。


「ナタとはぁ!」

『そんな!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ほう……!」


ディアーチェが楽しげに笑い、私もアミタやシャーリーさん、やや達とガッツポーズ。えぇ、これよ……これこそアイツよ!


「あの高圧縮弾丸を斬るなんて……いえ、これも必然の熱血なんですね!」

「その通りだよ! 砲撃斬りはなぎ君の得意技! 師匠から受け継いだ十八番だもの!」

「僕にも分かります! 蒼凪君とクロスボーン・ガンダムが、一つになっている……これは言うなら」

「人機一体! 蒼凪さん、その調子です!」

「その調子でいっちゃいなさい!」


つい興奮して叫んでしまう。これならいける……アイツなら『フラグだ』とか言うところだけど、そんなのは勘違いと思おう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クロスボーンの左手を右薙に振るい、展開したままのフックを引き戻しつつ殴りつける。

フックはライフル中心部を確かに捉え、貫きながらもウンディーネの手から奪い去った。

その勢いでへし折れるライフルは構わず、ウンディーネへ踏み込み唐竹一閃。


ライフルの爆炎を払い、ウンディーネが右のサーベルも抜き出し二刀で防御……いや、手首を軸にサーベル回転。

ビームシールドを生み出し、GRザンバーを平然と受け止めてくる。


「ちぃ……! 回転で狙いが定まらない!」

『接近戦に強いのは分かっています!』


こちらの斬撃が止まったところでシールド展開停止。二刀のバツの字斬りで刃を払いのける。

更に接近し袈裟・逆袈裟と左右の連撃。スラスターでスラロームを描き、後退しながらも頭部バルカンと両肩部ビームマシンキャノン連射。

けん制射撃を左のサーベルによる回転シールドで全て弾き。


『だから奥の手はある――!』


接近するその瞬間、緑色のアイカメラが赤く染まる。感じた殺意は今までの比じゃない。

反撃を中止し、スラスター全開。更に右腕のブランドマーカーからシールドも展開する。

左にかわした瞬間、ウンディーネが左薙の斬り抜け。そのサーベル出力、加速は倍増しとなり、シールドは斬撃によりあっさり斬り裂かれる。


「な……なんですかあれ!」

「損傷報告!」


距離を取りながら再突撃に対応――錐揉み回転からの逆風一閃で、ウンディーネの二刀逆袈裟一閃を払う……払えない!

くそ、クロスボーンの出力はAGE-1FWリペア以上だってのに、押し込むか!

更にウンディーネは二刀を近づけ重ね合わせ、刃を融合する。反発を通り越した先にあるのは調和。


咄嗟にGRザンバーを手放し急速退避。


「右肩部排熱スラスター破損……でもかすっただけで、可動には問題ありません! でもこれは……!」


ザンバーは大型化したビーム刃に押し切られ、刃の一部を抉られながらも海上へ吹き飛ぶ。

……スカルレヴに接続したザンバスター、そのうちバスターガン部分をパージ。

右手でキャッチし二刀ピストルとした上で、迫るウンディーネへビーム弾丸乱射。でも赤い眼光が稲妻のように走る。


それはウンディーネの機動を示すもの、バイクで言うなら夜に映るバックランプ。

そう、三倍だ……まさしく三倍の加速力で、時間差もつけて放たれる弾幕を避けていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「な、なにあれー! すっごく速くなっちゃったー!」


ヤヤが驚いている間に、ジム・ウンディーネは右のサーベルで袈裟の斬撃。

ヤスフミはあの複合武器に……いいえ、セットしたビームザンバーを展開。

走るビーム粒子は幅広な片刃となり、高出力のサーベルを受け止めつばぜり合い。


そのまま二機は加速し、押し合いローリングしながら空へ登っていく。その光景は荒々しくも美しく、誰もがその二面性に捕らわれる。


「トランザム……いいえ、違うわ。トランザムなら赤い光が生まれるはずだもの」

「恐らくあれはEXAMシステム――対ニュータイプせん滅用に開発された、パワーアップモードでしょう」

「あれが正真正銘の奥の手か。最後の最後でまた……やすっち、どうする」

「あぁぁぁぁぁぁ……! ヤスフミー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「EXAMシステム……!」

『いいえ』


粒子刃同士の反発力、更に加速力は逃げ場のないローリング現象へ変化。

お互いのスラスターをフルに使っても押し込めない……だからこそ反発し合う。



『これはHADESです!』

「ペイルライダー!?」


HADES……新作ゲーム内に登場した、ゲームオリジナル機体、ペイルライダーが持つ特殊機能。

EXAMシステムを元にしている設定なので、似ているのも確か。なお機能的にも似た感じ。

……ほぼ同時のタイミングで刃を振り切り下がると、ウンディーネが二刀を持って再度突撃。


バスターガンは右腰へ装着し、ザンバーをスカルレヴから取り出しこちらも加速する。


『負けてくださいとは言いません!』


お互いバルカンやマシンキャノンでのけん制射撃にも真正面から飛び込み、傷つく装甲には構わず右薙の斬り抜け。

そのまま海面へ方向転換し加速。その中で何度も接近・離脱を繰り返し、スラロームも込みの斬撃戦へ突入。

バックパックはまだだ……まだ使うタイミングじゃない! 勝負は海面到達直後!


『勝たせてもらいます!』


再び斬撃をぶつけ合うと、お互いの切っ先が胸部装甲を掠める。ダメージ表示には構わず振り返り、何度も……何度も意地を叩きつける。

やっぱりガンプラバトルはいいものだ。普通の戦いならアレだけど、千早ともこうやってぶつかれるんだから。


「それは強者の理屈だ!」

『いいえ、勝利を求める心です!』


海面まで百……五十……三十……二十……十! 逆さま状態から反転し、海上でホバリング。

生まれた反発力により水面が一瞬沈み、そこから水が爆発。僕達の周囲とその合間で水しぶきが舞い上がる。

一瞬途切れた視界……バックパックのアームを展開。腕に隠れるところまで伸ばす。


それと同時進行で、ザンバーによる右薙一閃。ウンディーネは二刀を振り上げ、再び重ね合わせながら唐竹の斬撃。

二つの斬撃が衝突し、再び生まれた反発力で火花が走る。水を蒸発させ、水蒸気も生み出しモヤがかかる。

刃を重ねあわせるとどうなるか。構築されたビーム粒子が交じり合い、より力強く巨大なビームソードとなる。


それがシステムによる出力強化中ならなおさらだ。だからさっきもGRザンバーが斬られかけた。

だからビームザンバーの刃は、薙がれるように走り続ける構築粒子は、その重ねたプレッシャーによって少しずつ断ち切られていく。


『もう……逃がさない!』


展開していたアーム『蛇の足<セルビエンテ・タコーン>』を発動。セットしていたハイパービームサーベルの柄尻を、ウンディーネに向ける。

その先から走るのはザンバーよりも長く、鋭いビーム刃。水蒸気が最後の位置調整を覆い隠してくれた。

両腕の脇下から走るビーム刃が水蒸気を、更にウンディーネの胴体を狙う。その寸前で気づいたウンディーネは急速退避。


でも間に合わず二刀は両肘を貫き、溶断。肘の中心部から手首に向かって抉られ、両手は爆散する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロデューサーさんが優勢かと思ったら、千早ちゃんが奥の手……でもそれが切り崩された。

爆発する水蒸気。その中で走るビーム刃と、それを成す第三・第四の腕。ブロックが組み合わさったようなそれが、ジムの両腕を断ち切った。


「なの!? あれは……隠し腕なの!」

「あ、あれはアリなんですか! 反則とかでは」

「問題ないの! アニメでも隠し腕を持った機体はたくさん出ているの!」


志保ちゃんの疑問は美希が一刀両断。いや、みんなの疑問だろうけど……そうか、そこからの隠し腕だったんだ!

単なるバックパックに思わせるよう畳んでおいて、不意打ちと……なんという凄い武器!


「千早ちゃん!」

「……このチャンスを、アイツが逃がすわけもない」


つい叫んでしまうけど、伊織が言う通りだった。そう、逃すわけがない。プロデューサーさんは……わりと悪らつだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そこでスカルレヴのフックを再度射出。反撃と逃走を防ぐため、フックとワイヤーに僕の意思がこもる。

それはうねりながらもウンディーネへ巻きつき、一気に引き寄せる。


『隠し腕、ですって!』

「そう、もう逃げられない!」


ビーム刃はカットし、消えてすぐに発生部を向け乱射……そう、乱射だ。

肩部のマシンキャノンより大型の弾丸が撒かれ、ウンディーネはその雨あられにさらされる。

青い機体が衝撃で揺れ、至近距離からの乱射なので装甲がひび割れていく。


バックパックに搭載したのは、単なる大型サーベルじゃない。アーム接続し、フレキシブルに動く隠し腕だ。

――中距離は再びゼロとなる。斬られかけていたビームザンバーは既に復活。そのまま袈裟の斬り抜けを放ち、ウンディーネの胴体部を両断。

そうしてウンディーネの後方五十メートルほどで停止し、ゆっくり振り返った。


『ありったけを詰め込んだのに、足りなかった……かぁ』

「それはこっちも同じだ。まぁ、あとは戦い慣れってやつ?」

『やっぱり強いですね、プロデューサーは』


そのままウンディーネは全ての力をなくし、水中へ没する。そして三度水面が弾けた。

粒子で構築された海の雨をその身に浴びながら、フックを全て引き戻す。


≪BATTLE END≫


そして試合終了――消えていく粒子の中、溜めに溜めていた呼吸を吐き出す。そうして息を整えると、周囲から歓声と拍手が巻き起こる。


『――ガンプラバトル選手権、地区予選第二ブロック優勝者――蒼凪恭文、蒼凪リイン組に決定いたしました』

「……恭文さん!」

「やったよ、リイン!」


リインと力いっぱいのハイタッチ。そこで勝利を確信し、思いっきりハグをする。やった……やったー!


「僕達が優勝だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ですー♪」

「……プロデューサー」


千早が近づき、傷ついたウンディーネを持ちながら……そっと右手を差し出してくる。


「ありがとうございました。また、やりましょう」

「もちろん」


その握手に応え、僕は会場中から響く拍手と歓声に応える。こうして激動の地区予選は。


「あと、セコンドは頑張ります」


終わったはずなのに……千早が顔を赤らめ笑顔。手を離そうとしても決して逃してくれない。

いや、やめてよ! ご奉仕とかいらないからね! そのお願いは断るしかないからね!? 一応プロデューサーだし!


「むー! ちょっと待つのです! リインがセコンドなのですよ!」

「三人でも問題ないわよ? 現に第三ブロックのカトウさんがそれだったし」

「恭文さん、ごめんなさい。論破されたです」

「もっと抵抗してよ! ちょ、離して……千早! 千早ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


◆◆◆◆◆


クロスボーン・ガンダムGR(ベーシック)

恭文がガンプラバトル選手権地区予選決勝、及び世界大会を視野に入れて作った新作ガンプラ。

三回戦まで使用していたAGE-1の技術も盛り込んでおり、各部ビーム射撃兵器はDODS効果を持つものとして改められている。

頭部アンテナは増設し、そのうち二つはAGE-1の破片から使用。両肩部に排熱スラスターを増設している。


ヒートダガーや肩部マシンキャノンなどの基本武装はそのままに、試験的追加武装を数々装備している。

更にバックパックはコアファイターのものから、蛇の足<セルビエンテ・タコーン>というフレキシブルアーム付きのものに変更。

蛇の足<セルビエンテ・タコーン>は原作『クロスボーン・ガンダムゴースト』に登場する組織名から取っている。


右手の実体剣GRザンバーは、AGE-1も使っていたナタの技術を昇華させたもの。

が……フェイトのドジで一度粉砕したため、想定した性能は発揮されていない。

左手の『スカルレヴ』は、マーキュリーレヴを参考として作られたオリジナル武装。


基本はビームライフルとマシンキャノン、更にワイヤーフックという複合武器である。

これは接続パーツを用いて作ったジャンクかつ簡易な武器だが、それゆえの拡張性を前提としており、状況に合わせた武装を追加可能。

恭文はクロスボーン・ガンダムの通常兵装である、ザンバスターを接続している。


ザンバスターの機能はいじっていないので、劇中のようにバスターガン、ビームザンバーとして分離・運用も可能。

なおマシンキャノン砲身は取り出し、通常のビームサーベルとして使用できる。



(Memory33へ続く)






あとがき


恭文「というわけでご心配おかけしたけど、アメイジングレヴが届いたおかげで……復活!」

フェイト「うぅ、ヤスフミー!」


(ぎゅー)


恭文「ただアレを見た後で格付けチェックもできなかったので、順序を変えてVivid編へ。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。えっと」

恭文「Vivid編、まずは全二巻のファーストシーズンがスタート。平成27年1月31日販売開始ですので、みなさま是非お手に取ってみてください」


(戦闘シーン、いつも通りな感じで手直ししています。より激しく、よりエグく)


フェイト「エグくってなに! そ、それはそうと……こっちでも美奈子ちゃん達が」

恭文「登場だねー。あとはクロスボーン・ガンダムGRもデビュー。ただAGE-1も復活予定です」

フェイト「それでまずは二機体勢……だよね」

恭文「クロスボーン・ガンダムGRも基本近接戦闘用だし、オールマイティーさではAGE-1に一歩譲るから。
そしてビルドガンダムMk-IIも登場。説明文にもありましたけど、とまとではRGが元になっています」


(ビルドガンダムMk-IIも好きな機体なので、できる限り出番を増やせればと思っています)


恭文「いっそバンダイが公式HPでやったみたいに、RGとHGを組み合わせてRG仕様なビルドガンダムMk-IIが作れればいいけどねー」

フェイト「え、そんなのがあるの!?」

恭文「うん。ガンプラの公式サイトで……ビルドファイターズ放映当時にね」


(ガンプラ製作レポート『http://bandai-hobby.net/site/gunpla_build_31.html』)


恭文「URLを見てもらえば分かると思いますが、バンダイホビーサイトの公式HPなのでご安心を」

フェイト「公式でやってたんだ、凄い」


(なお検索してみると、挑戦なさっている先駆者ビルダーの方々が)


恭文「そして原作よりずっと早く登場したモック」

フェイト「そうだよ! 私がモックってなに!? ちゃんと作れるんだからー!」

恭文「……早速肩パーツを粉砕したよね!」

フェイト「うぅ……ふぇー!」


(今年も閃光の女神はいつもどおりです。
本日のED:鮎川麻弥『Ζ・刻を越えて』)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


PPSE社の研究室……その中に置かれたベースを前に、ボク達は安どする。いや、安どしているのはボクだけかな。

ライトブルーのゴーグルに紺色のコートを羽織った、険しい表情の彼にその様子はなかった。

しかし、ただ静かに……新しく生まれた『蒼い幽霊』を見やっている。


「蒼い幽霊、復活と言ったところかな。まさかチハヤが破れるとは」

「蒼い幽霊……存在しないはずのファイター」

「そう。彼は本来、ガンプラ塾に存在しないはずの男だった。しかしあのトーナメントに、試されるように参加。
そうして存在しないはずの機体と武器を使い……君の前に立ちはだかった。無論、勝ったのは君だが」

「でなければ、私はこうしていない」


ガンプラ塾トーナメント……あの熱い激闘を、切ない決着を思い出し、少しセンチメンタルな気分になる。

しかし振り返ってばかりもいられない。イオリ・セイ達も新たなガンプラを作り上げていたようだし。


「日本中……いいや、世界中から強敵が勢ぞろいだ。そして君はそんな彼らから狙われる事になる。さぁ、反逆の時を始めようじゃないか」

「無論だ。そうして私の」

「ボクの夢を叶えよう」

「そのために勝利し、世界大会で優勝する」

「あぁ」


僕達はこれから反逆を行う。それはPPSE社が、人々が求めるメイジンを壊すという……途方もない計画だ。

そのために勝利し、結果を残す。それがタツヤの、ボク達が描く夢。だから彼を今一度、こう呼ぼう。


「ボクのガンプラと、君のファイター能力ならできる。メイジン――三代目、メイジン・カワグチ」


三代目(ヒーロー)と。ヤスフミ、世界大会で再び相まみえよう。

今度はあの時のように、タツヤを試す必要はない。全力で潰しにきたまえ。


(おしまい)





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