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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション08 『鉄達のそれぞれの戦い』:1



・・・真実は、いつも本当に深い・・・闇・・・いや、深淵の中に隠れている。





いい意味でも悪い意味でも、空に浮かんで俺達をいつも照らしてくれる日の光や、二つの月の光が直接的には届かない、そんな世界の中に本当の事は存在している。例えば、人の心の中。例えば、世界や組織、コミュニティという繋がりの中。





今回の事だってそうだ。でも、今は違う。





真実はもう・・・俺達の目の前に、日の光の下にさらされようとしている。










『・・・レジアスの奴は、もう使えんな』

『捨て置け、奴の代わりなどいくらでもいる。問題は・・・』

『スカリエッティ・・・だな。ちと、自由に遊ばせすぎたか』



声は三つ。それの発生源は・・・よく分からない。



『全く、ゼストの奴をもう少し有効に使えれば、スカリエッティの監視役として最適だったと言うのに』

『仕方あるまい。アレは生粋の武人、我らには御せぬよ。戦闘機人事件のデータとルーテシア・アルピーノの身柄を餌に、かろうじて鎖を繋いでいるに過ぎん』

『あと・・・アレだな』



なぜだろう、声は恐らく人工的に合成されたもの。なのにも関わらず・・・苦いものを感じるのは。



『ヘイハチ・トウゴウの亡霊達か』

『全く、我らの理想を介さず好き勝手に暴れただけでは飽き足らず、局を離れてなお、我らを苦しめるか。特にあの忌々しい小僧だ。奴の時代錯誤も甚だしい暴走の数々で、局の威信は著しく損なわれている』

『アレらも近いうちに始末せねばならんな。ヘイハチ・トウゴウという存在は、そこにあるだけで我らが局にとって害悪だ。いや、恥部と言っていい。消してしまわなければ、意味がない』



そして、そんな声に耳を傾けている様子も見せず、端末に向かってぽちぽちと指を動かしている女が居る。



「・・・お悩み事ですか?」

『いや、たいした事ではない。もうすぐ終わることだ。・・・お前にも苦労をかけるな』

「いえ。たいしてお役には立っていませんから」



女が顔を上げる。そして、にこやかに笑う。



『そのように申すものではない。我らが身を見てくれているだけでも、十分ありがたい』

「そうですか。ただ・・・残念ながら、それも今日で終わりなんです」



女の姿が変わる。それは・・・恐らく今回の事件で関わった人間なら誰もが知っている姿。そう・・・戦闘機人・ナンバーズのスーツを見につけていた。



『・・・な、なんだそれはっ!?』

「簡単です。アナタ方は見誤りました。我が主・・・ドクター・スカリエッティは、あなた方が生み出した『無限の欲望』は、誰にも、どんな鎖を繋ごうと飼いならせません。だから・・・」



女の笑みが深くなる。そして、右手が上がる。そこには銀色に煌く爪。親指と人差し指と中指の三本に付けられた大型の獲物。



「あなた方の勘違いという鎖を、私が・・・断ち切るのよ」

「あー、そこまでだ」

≪残念ですが、あなたにそれをやらせるわけにはいきません≫





今、まさにその爪を振り下ろそうとした女の動きが止まった。そしてそのまま・・・顔だけ振り向く。その表情が、驚きに染まる。



当然だ、ここに居るはずの無い人間・・・つまり、俺が居たんだから。





「・・・いや、苦労したよ」





不思議な空間。薄暗く、板が何枚も空中に浮き、それが足場として形成されている。



そして・・・そのど真ん中に存在が四つ。その後方20メートルほどのところに、俺は立っていた。





「レジアス中将の身辺、徹底的に洗って・・・不自然なものを一つ見つけた」





一つは・・・当然、女。部屋の照明が気味悪くて、どうにも髪の色とか瞳の色が判別出来ないけど、美人。





「いや、あんまりに・・・完璧すぎるもの、かな。だって、疑う要素が0だったんだから。普通なら流しておくとこだったんだけど、それだけが妙に気になった」





俺は相棒を担ぎながら、足場を使って飛び、近づいていく。





「だから、それの足取りを徹底的に追った。そして、見つけた。そいつはここに頻繁に出入りしていること。そして、ここにある存在とレジアス中将のパイプ役になっていること。それを知った」

「・・・よく気づいたわね、気をつけていたのに。私、何か失敗したかしら?」

「失敗って言える失敗はしてない。ただ、一つだけ誤算だったな。・・・俺さ、一度会ったいい女のことは、絶対忘れないから」





俺が笑ってそう言うと、見覚えのある爪を装着している女が・・・嬉しそうに、そう・・・嬉しそうに笑った。





『お、お前は・・・』

『サリエル・・・エグザ。ヘイハチ・トウゴウの弟子・・・』

『なぜここがっ!?』



そして、残り三つの存在。



「よう、初めまして・・・だな。亡霊その2だよ」



三つの培養器の中で、人の脳の形をしたものが浮いている。さっきから話していたのは、コイツら。




「あー、それと・・・・お前らバカか?」

『なんだとっ!? 貴様、我らをなんだと』





瞬間、俺に対してそんな口を聞いて来たバカ脳の真横を、白い魔力弾が横切る。・・・大丈夫、まだ培養器は傷つけない。





「・・・さっき言っただろうが。人の話はちゃんと聞けよ」

≪主、仕方ないかと。彼らはもはや既にそれが出来る存在ではありません≫

「それもそうだな」





俺は今、凄まじく機嫌が悪い。こんな奴らのためにギンガちゃんがさらわれたり、ヒロの友達が傷つけられたり、今、ミッドで戦ってる連中全員振り回されたかと思うと、マジで腹が立つ。





「お前ら・・・最高評議会・・・だろ?」





つまり、管理局のトップはこんな形で生きながらえていたわけだ。肉体を捨て、脳だけで存在して、このバカデカイ組織のトップに居座り、動かしていた。





≪あなた方の先ほどまでの会話は、全て聞かせていただきました。今回の一件、あなた方が黒幕というわけですね≫



・・・連中がスカリエッティという存在を作り出した。全部は管理局の利益のために。そしてそのまま、スカリエッティのスポンサーになった。だから、奴は今の今まで捕まるどころか姿すら確認されなかった。

そりゃ当然だ、捕まえようとする管理局のトップからアイツを守ろうとしてたわけだから。で、もう察しが付いてると思うけど・・・コイツらがレジアス中将とスカリエッティを引き合わせた。ゆりかごを隠し、局の戦力にさえしようとした。



「また随分上から見てくれてるな。てめぇら、救いようのないバカだわ。この世界はな、お前らのおもちゃじゃないんだよ」



ゼスト・グランガイツが隊長を務める部隊を全滅に追い込んだのも、コイツら。そして・・・ルーテシア・アルピーノを利用して、レリックで蘇生させたゼスト・グランガイツを縛り付けていたのも、コイツら。

言うなら・・・アレだよ、ショッカーとかの悪の軍団の首領だって。あ、テレビ版じゃなくて原作・・・漫画の方だな。だってよ、アレだとショッカーの正体は日本政府ってことになってるし。



「もうお前らは役を降りて、舞台から引いた。いい加減自覚しろよ、自分らが引退組だってさ。今、局や世界を引っ張って、変えていくのはお前らじゃない。もちろん俺でもない。
・・・今という舞台に立って、主役として生きてる連中だ。俺やお前の出番は、とっくにもう終わってるんだよ。おとなしく幕の内弁当でも食べながら、主役達の生き様を見てやがれ」

『何を言うか、この若造がっ! 貴様に一体何が分かるっ!!

『我らの行動の全ては、この世界の行く末を思えばこそ』

「あー、アンタ。名前・・・なんだっけ?」



とりあえず、3バカは無視。俺は女に声をかける。



「・・・教える必要、あるかしら。それに、あなたが会った女かどうかもまだわからないわよ?」

「分かるに決まってるさ。つーか、あの時のまんまだ。姿じゃなくて・・・心がな。強くて、鋭い・・・棘付きの綺麗な薔薇みたいな心だ。綺麗過ぎて、忘れたくても忘れらんないよ」



そして、左手の人差し指をピンと立てて、言葉を続ける。女にニヤリと笑いながら。



「それで、教える必要もある。またこうやって会えたら、プライベートでも会ってくれる約束だろ? 名前も知らなきゃ、デートにも誘えないし、耳元で愛の言葉も囁けないさ」



女が思い出したような顔をして、笑う。そして、笑顔のまま・・・答えてくれた。



「ナンバーズの2番目・・・ドゥーエよ。久しぶりね」

「・・・おう、久しぶり。でも、ドゥーエ・・・か。いや、いい名前だ」

≪それではドゥーエ女史、そこを・・・離れてもらえますか?≫



金剛の言葉に、笑みが消える。あの時と同じ・・・敵意を秘めた視線がぶつかる。



「そうはいかないわ。これの始末が私の仕事の一つですもの」

「大丈夫、仕事の邪魔はしないから」

「え?」



・・・魔力弾を生成する。数は・・・三つ。そして、金剛の切っ先を向ける。狙いは、三馬鹿。



「正直、どんなジジイでも一発は殴ってやらないと気が済まないと思ってたんだよ。でもさ、殴る肉体が無い場合・・・どうすりゃいいんだろうな」

≪撃てばいいと思いますよ?≫

「うん、俺もそう思ってた」



俺らがそう言うと、ドゥーエが驚いたような顔を見せた。どうやら、これは予想外だったらしい。



「・・・いいの?」

「いいさ。・・・こんな屑、アンタみたいないい女が手にかける価値もない。俺が背負って、そのまま地獄の三丁目まで持ってくさ」



そして、ドゥーエはそこから引いた。なので・・・遮蔽物は無し。魔力弾がどんどんと大きくなる。



≪あぁ、それと・・・ここのデータバンクにハッキングして、あなた方のこれまでの所業を記した全てのデータ、本局のクロノ提督と、リンディ総務統括官と三提督宛てに送らせていただきました。
あと、先ほどまでの自供と見られてもおかしくないやり取りもですね。・・・我々に心から感謝してください。あなた方、自供する手間が省けましたよ?≫



ごめん、アコース査察官。俺、アンタの心遣いを無駄にしたよ。あはは・・・俺さ、無事に職場復帰できるかな?

あぁ、それと現在件のゼスト・グランガイツと交戦中のやっさんにも、それに関する情報だけ送った。あとはやっさん次第だ。まぁ、行動は予測つくけどな。・・・アイツがゼスト・グランガイツを瞬殺してなければ・・・だけどな。



「よかったな。これでお前ら全員、今すぐ本当の意味で舞台から降りる事が出来る。つーか、今すぐ引きずり下ろしてやるよ」

『ま、待てっ!!』

『貴様っ! 我らにこんなことをしてタダで済むと』

「関係ねぇな」



三馬鹿をにらみ付ける。連中の言葉が、それだけで止まった。



「俺は、ここにお前ら助けに来たんじゃねぇ。局の威厳や規律を守りに来たわけでも、世界を守りに来たんでもねぇ。・・・俺はな、俺達に喧嘩を売った奴を潰しに来たんだ。もうこんなバカな事が起きないように、しっかりとな」

≪肉体があれば、まだ言葉で分かったのかも知れませんね。ですが、申し訳ありません。私も主も、今のあなた方に伝えるべき言葉など、一つとして思いつきません≫

「んじゃ、お疲れ様。先に地獄へ行っててくれ」










そのまま、思念でトリガーを引く。










「俺も・・・いずれそっちに行くからさ」










ソフトボールほどの大きさの魔力弾はそのまま飛び出し・・・三つの自覚無き害意を砕いた。










「・・・さて、今度は名乗らせてくれよ? 俺はサリエル・エグザ」

≪そして私は、そのパートナーデバイスの金剛です。ドゥーエ女史、お見知りおきを≫

「えぇ、一応・・・初めましてね。本当の顔で会うのは、初めてだから」



あー、そういや以前は変装だっけ?



「変装・・・というのとはちょっと違うわ。私のIS・・・ライアーズ・マスクは、完全な『変身』を可能とする。それを使えば、どんなセキュリティやシステムもごまかせるの」

「なるほどね・・・。マジで暗殺・潜入向きのスキル持ちだったと。で、俺なんかにそんなこと教えてもいいわけ?」

「いいのよ。だって、ドクター以外で言うならあなたが初めてだもの。私のISを見破ったのは。・・・なんだか、不思議。私、今・・・とても嬉しいの」



そう言って、本当に嬉しそうに笑う。いや、髪の色とかそういうのがさっぱりなのが惜しいね。凄まじく魅力的なんだから。



「で、俺としては早速デートと行きたいんだけど・・・ご予定は?」

「これから中央本部へ行って・・・レジアス中将を殺すわ」



またぶっちゃけるな。察するに・・・口封じか。



「でも、あんまり意味がなくなっちゃったのよね。アナタがデータを全部送っちゃうから」

「あ、アレ嘘」

「・・・はぁ?」

≪正確には、現在ハッキング作業中です。これが中々大変です。おかげで主のサポートがほとんど出来ません≫



あ、出てきたデータは片っ端から送ってもらってるから、まぁ・・・半分正解ってとこだけどな。で、やっさんにゼスト・グランガイツのデータを送ったのは本当。絶対必要だと思ったから、そこは最優先で。



「なら・・・私の仕事にも意味が出てくるわね。いいえ、その前に優先するべき事があるわ」



ドゥーエが構えた。右手を引き、爪の先を・・・俺に向ける。



「サリエル・エグザ。そして金剛。あなた達を・・・抹殺するわ。今のところ、真相に一番近いわけだもの」

「・・・スカリエッティは負けるぞ? ゆりかごも落ちる。俺の弟弟子やら、その想い人にお仲間がむちゃくちゃ頑張ってるしな」

「そうね」



あっさり認めた。主であるはずの男の敗北を。



「我が主は、負けるわ。いえ・・・もう負けてるかも知れないわね」



このお姉さんは・・・本当にあっさりと。



「私、そういう勘は鋭いの。でも、そうだとしても・・・任された仕事はきちんとしないと。そうしなかったら、アフター5になんて行けないわ。
例えば一般的な会社で考えてみて欲しいの。上司に話も通さずにお先しちゃう部下なんて、最低だと思わない?」

「なるほど・・・。そりゃ道理だ」



だから、俺は構える。金剛の切っ先を・・・ドゥーエに向けた。



「なら、仕事はここで強制的に終わってもらおうかな。つーわけで、ぶっ飛ばすから」



・・・金剛はハッキングを続けてもらわなきゃいけない。つまり、ここからは金剛のサポートは抜きでガチに戦闘だ。



「それで、これから俺と朝までお楽しみコースだ」

「また強引ね」

「強引さ。目の前のいい女を逃がすような真似、俺はしたくないんでね」



いいね、楽しくなってきやがった。俺は久々にマジで神様に感謝してる。試したいと思っていた事が、実際に出来るんだから。

俺のマジな技量だけでどこまでやれるか・・・お楽しみってわけか。



「そう。でも・・・簡単にはいかないわよ? 私、こう見えても仕事人間だから」

「そりゃあいけないな、余暇を楽しむことは人生で大事な要素だぞ?」





なんて言いながら、互いに飛び出すタイミングを計る。そして・・・なぜか二人とも笑顔だ。



どうやら、互いにこの緊張感がたまらなく楽しいらしい。どこかで気持ちが繋がっているような感じがして、俺はそれがとても嬉しかった。





「・・・それじゃあ」

「始めましょうか」










そして、俺とドゥーエは、この場で再び・・・2年前の続きを演じることになった。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と古き鉄の戦い


ミッション08 『鉄達のそれぞれの戦い』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・クロノ』

「えぇ、僕の方にも届きました。これはまた・・・」





ここはクラウディアの艦長席。ゆりかごの浮上ポイントに向けて進行中、突然サリエルさんから送られてきた情報。

それは・・・最高評議会のこれまでの所業に関して記されたもの。どうやら母さんにも同じものが送られてきたらしく、二人して関心を通り越して呆れている。よくもまぁ、これだけ詳細なかつ膨大なデータを引き出し、送れたものだと。



いや、訂正だな。送り続けている。それも相当のスピードで。





『スカリエッティは最高評議会が生み出した人工生命体。そしてそのコードネームは・・・アンリミテッド・デザイア。意味は『無限の欲望』・・・まさしくその通りなネーミングね』

「そうですね、現に欲望のままに現状を引き起こしていますし。ですが、最高評議会はこうまでして・・・世界を守りたかったんでしょうか」

『そうでしょうね。でも、決して許されることではないわ。その責は払って・・・もう、払わされてるかしら』

「恐らくは」



・・・不幸はたった一つ、あの方の弟子を敵に回したことだ。あの遺伝子を縛る鎖など、どの世界だろうと存在しない。

よし、僕は気をつけよう。人の振り見て我が振り直せ・・・だ。



『また、ヘイハチさんのお弟子さんは・・・ぶっ飛んだ事をするわね。これ、どう考えても完全な違法捜査よね』



母さん、今更それを言うんですか? というより、それを言えば恭文もそうでしょう。



『はやてさんがちゃんと自分達に任せるようにと言って、それでいいと返事したのに・・・これは無いわよ』

「問題ないでしょう。恐らくですが・・・手を出さないとか、首を突っ込まないとは言っていないと思われます」

『はぁ・・・。やっぱりそういう理屈なのね』



間違いなくそうでしょう。あの方でもそうするのが、目に浮かびますよ。僕も一度だけ酒を交えてお二人と話をさせてもらったことがあるが、まさしくあの方の弟子だった。

だが・・・美味く酒を飲みつつ、色々と話が出来たのはいい思い出だ。僕個人で言うなら、ヒロリスさんもサリエルさんも好きな人間と言える。だが・・・後処理は大変だろうな。ははは、覚悟はしておくか。



「それで、どうします?」

『どうするもなにも、出来る範囲で公表するしかないでしょ。そうしないと、間違いなく市民にリークするわよ?』



そうでしょうね、PSでそう書かれていますから。しかし、文面の一番最初にPSが付いた報告書なんて、僕は初めて見た。



「とにかく、この情報に関しては後で考えましょう。もちろん、公表して、絶対に同じ事を繰り返さない方向で」

『そうね。それで、こっちの方だけど』

「大騒ぎですか」

『えぇ、今更・・・ね』



仕方あるまい、予言の事を知っていたとしても、これはありえない。いくらなんでもぶっ飛び過ぎだ。



『ただ、レティや三提督の方々が取りまとめてくれてるから、大きな混乱は無いわ。遅延せずに、こっちからも増援を出せそう。あとは・・・』

「やはり、ゆりかごですね」

『そうね。・・・あぁ、それと中央本部の方、相当派手に戦闘してるようよ』



そう言われて思い出す。・・・恭文か。確か、リインと一緒に騎士ゼストの相手をしているとか。



「まぁ、そちらは心配ないでしょう。大丈夫です、恭文は強くなりました」



特にここ1、2年の間の成長速度は目覚しいものがある。原因は、サリエルさん達との訓練。相当シゴかれていると、僕も聞いていた。だから・・・心配はしていない。

まぁ、師匠3号として信頼している・・・と言ったどころだ。



『そうね。あのね、クロノ』

「はい」

『実は・・・私ね、あの子に時期を見て、局入りの話をしてみようかと思うの。それで、正式に局員になってもらうつもり』

「またどうしてですか」



正直、アレは僕の目から見て局員が出来るとは思えない。きっと、アイツの道理と局の道理は折り合わないだろうから。

それになにより、今回の一件を見てアイツがどう思うか・・・火を見るより明らかだ。納得するとは思えない。



『大丈夫よ、局ではなくて、人を信じて仕事をしてみてって言うつもりだから。信頼出来る上司の指示や人柄を信じて動く。それだけで十分よ』



・・・僕は頭が痛かった。本気で言っているのかと聞きたくなる。というより、どうしてそんな話になるのかがさっぱり分からない。



『・・・あの子が普通にしているのなら、今のままでもいいの。ただ、どうしてもね・・・見てて思うの』

「なにをですか?」

『あの子、諦めてるんじゃないかって。一つの居場所を、自分から求めて、作る事を。奪った事実を背負うために、それを諦めている部分があるんじゃないかと。
だから、誰かを助ければ、守れば軽くなると考えて、飛び込み、傷つき・・・そんなことばかりを繰り返している』



なるほど、だから・・・こそと。



『もう、8年よ? 過去に縛られる必要はもう無いわ。あの子は十分苦しんで、償いを続けてきた。これ以上あの道を進んでも、幸せになれるとは私には思えないの。もう変わってもいい頃じゃないかしら。
大人になり、組織の中で生きる道を進み、自分の居場所を作る。その中で出会うやるせなさや不条理を周りの人達と抱え、共有し、それが少しずつでも無くなるように、今ある環境を変えていく。そんな道を進んで欲しい』



・・・僕達と、同じ道・・・ですね。それは。僕や母さん、はやてになのは達と同じ道だ。

いや、きっとそれは僕達だけでなく、社会に生きる者全ての人達に通じる道だ。



『これから局はきっと変わっていくわ。あの子が嫌う理由も、無くしていけばいい。ううん、憤りがあるなら、あの子自身の手で、私達自身の手でそれを変えていけばいいのよ。
・・・きっと、あの子はまた一人で背負う。私は、もうあの子にそんなことをして欲しくないの』

「・・・ですが、それは本当に恭文のためになるのでしょうか」

『・・・あなたは、反対?』

「反対・・・ですね。僕は、男同士・・・というのもあるんでしょうけど、アイツが母さんの言うように償いだけで飛び込む選択をしているとは、思えないんです。
そもそも、我が弟は、それのためにここまでやれるほど・・・頭が良くありません。アイツは、生粋のバカですから。ヘイハチさんと同じ、ただのバカなんです」










・・・なぜだろう、母さんの言葉にどうにも憤りを感じてしかたなかった。





確かに、道理としてはそうだろう。実際、僕から見ても不安になる時がある。あれは、自分を軽視し過ぎる時がある。ギンガ陸曹の一件などがいい例だ。そして家族として、母さんやアルフの言う事も分かる。





だが、それは本当に正しいことなのだろうか。世界や道理ではなく、アイツにとって、それは・・・本当に正しいことなのか?





恭文、お前は何のために・・・戦っている? ただ、償いのために手を伸ばし、守る選択を取るのか?





違うよな、お前は・・・そんなことのためだけに戦っているわけでは、ないよな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ぶつかり合い、交差する。刃と槍が打ち込まれ、それにより衝撃を生み出す。衝撃は一定空間をその音と波動で支配した。





でも、僕達は止まらない。交差してから同じタイミングで振り返るように反転。そのまま直進して、僕はまた袈裟にアルトを打ち込む。










「・・・いい打ち込みだ」





二度目の衝撃による空間支配。火花が散り、互いの獲物が交差する。今度は斬り抜けせずに、その場で激突。

突いてきた槍をアルトで払う。そのまままた打ち込む。でも、受け止められた。

それが流され、おっさんは槍の柄尻を僕の頭に打ち込んでくる。それを少し下がって回避。



右からそのまま槍の先が叩き込まれる。だから僕も、アルトを打ち込む。

また火花が散り、衝撃が生まれる。振り抜き、そこから槍を返して袈裟に打ち込んできたので、同じように僕も逆袈裟で返し、斬撃をぶつける。



高く上に飛ぶ。さっきまで僕が居た場所を、槍の切っ先が突き抜ける。僕とおっさんとの距離は大体20メートルほど。その高さから見下ろしながら・・・リインっ!!





【フリジットダガーッ!!】





生まれた数十個の氷の短剣がおっさんを襲う。だけど、おっさんの周りに同じ数の炎の玉が生まれた。




【ブレネン・クリューガーッ!!】





それらが中間距離でぶつかり合い、爆発を起こす。爆煙が僕達の前に生まれる。





「はぁぁぁぁぁっ!!」





おっさんがその中を突っ切ってきた。そして、槍の穂先には炎。でも・・・あまい。



こっちも突っ込んでるっ!!





【「氷花・・・!」】





もう、刃は打ちあがっているのよっ!!





【「一閃っ!!」】





おっさんの炎の槍と、僕とリインとアルトの氷の刃がぶつかる。紅と蒼の光がぶつかり、せめぎ合い・・・爆発した。



それに吹き飛ばされるようにして、僕は後退。足元のアクセルを羽ばたかせて、なんとか体勢を立て直す。・・・あー、やっぱ魔力の相互干渉来たか。



でも、止まらずにアクセルのブーストをオン。一気に前方へと踏み込む。そうして・・・突っ込んできたおっさんとまた打ち合う。

いや、やっぱ楽しいね、コレ。炎の灯った槍を避けて、打ち込み、火花を散らせる。

そうして、またおっさんの槍の柄尻が動く。アレ・・・カートリッジ?



炎の勢いが強くなり、そこから気合の入った打ち込みが放たれる。それを僕は・・・。



ジガンからカートリッジを3発ロード。そうして、刃を打ち上げる。それは・・・青い全てを斬り裂く刃。





【「鉄輝・・・!」】





そのまま、その打ち込みに向かって上段から斬撃を打ち込む。





【「一閃っ!!」】










今度は爆発なんて起こさずに、僕の斬撃は炎の打ち込みとぶつかり合う。そのまま・・・突きを打ち込む。





そして、止めた。・・・向こうの突きを。アルトの切っ先と、向こうの切っ先がぶつかる。そのまま、僕は後ろに大きく飛んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・くそ、なんなんだよアレっ!!





ミッド市街地上空でアイツらと距離を取り・・・向き合う。でも、強い。ふざけた口調からは考えられないくらいに強い。





旦那やアタシの技量にぴったり付いてきてやがる。それだけじゃなくて・・・相性が無茶苦茶いいみたいだ。多分、この間戦ったロードよりもずっと。





その上コンビネーションもバッチリで・・・あぁもうっ! なんかムカつくー!!










「・・・アギト」

【言っとくけど、フルドライブは絶対にダメだからな? そんなことやったら、間違いなくあのひげのおっちゃんの所にたどり着けなくなる】

「しかし」

【しかしもカカシもねぇっ! いいかっ!? こうやってユニゾンしてる間はアタシは旦那のパートナーだっ!! 一つになってるから、旦那の状態は手に取るように分かるっ! そのアタシがダメだって言ってんだっ!! 絶対に・・・絶対にダメだっ!!】





意地は通させるから。助けてくれて、守ってくれたから、その恩返し・・・にもならないかも知れないけど、せめて・・・せめて、旦那の命が尽きる前に、旦那の意地を通させるから。





【・・・もちろん、アタシもこの前みたいな突っ走りは絶対にしない。いいか? アタシ達は、今二人で戦ってんだ。だから・・・二人で勝つ方法を考えようよ】

「・・・そうだな、すまん。アギト。どうやら・・・焦り過ぎてたようだ」

【いいって、別に。・・・まず、旦那。フルドライブは絶対にダメだ。前に使ってるから、向こうがその辺りを対策立てないはずがない。なにより、旦那の意地が通せなくなる】





そして、相手は・・・多分、今まで戦った中でぶっちぎりに強い。ふざけた言動ばかりだけど、それでも・・・だ。



なんというか、局に関係している魔導師相手というよりも、どっかの違法魔導師相手にしてる時と似てる。油断したら・・・やられるのはこっちだ。多分、一瞬で潰される。

旦那の身体も、もう長く持たない。半端なダメージでも致命傷になりかねないと思う。・・・はは、マジで命がけだよな。これは。





「なら、どうすれば俺は・・・いや、俺達は勝てる?」

【アイツ、年は旦那よりも下だよな。多分、戦闘経験も旦那より少ない】



だったら・・・。



「経験の差・・・積み重ねたもので覆す・・・か」

【そうなる。きっと、アタシらの方がそれは重い】

「まるで、どこかの教本のような方針だな」



・・・実は、アタシもそう思う。



「だが、基本であり・・・大切な事だ。それでいこう」

【了解。んじゃ・・・方針も決まったし】

「あぁ、行くぞ。アギト」

【おうっ!!】




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・リイン、評価としてはどう?





僕は・・・結構驚いてる。まさかユニゾンした相手がここまで強いとは思わなかったから。師匠達? やり合った事はあるけど、あれはまた別。だって、中に居るのはリインだから。リイン以外のユニゾンデバイスが融合した相手ってのは、実は初めて。










”確かに・・・今まではこういうの無かったですよね。でも、それでも評価は変わらず・・・いえ、下がってます”





構えを崩さず、意識のみでリインに話しかけると・・・そんな答えが帰ってきた。・・・評価が下がってる?





≪実は、私もそうです≫





念話でいきなり話に加わってきたのは、手元のの相棒。てか、アルトもかい。どういうことよ、それは?





”あのロード・・・騎士ゼスト、身体に不備があるみたいなんです”





不備? それってつまり・・・万全じゃないと。





≪正解です。リインさんからもらったデータと照らし合わせつつ現状を見てみましたけど・・・以前よりコンビネーションのキレが落ちてるようです。それに、炎熱系への魔力変換の効率も悪い≫

”事情は分かりませんけど、今の騎士ゼストはあの子・・・アギトの融合相手としては、非常に適してないんです”





・・・なるほど、なーんとなく読めてきた。もしかして、その不備・・・というか、体調になにか問題があって、そのせいでアギトがゼスト・グランガイツを守ろうとして特攻したり、僕の軽口であんなに目くじら立てたりしたと。





”多分そうですね”

≪・・・いえ、正解です。今、サリさんからデータが届きました≫

”サリさん?”



先生の弟子だった人で、僕の兄弟子。



”えぇぇぇぇっ! ヘ、ヘイハチさんって、恭文さん以外にお弟子さん居たですかっ!?”



ま、そこは後で説明するよ。で・・・なんだって?



≪まず、ゼスト・グランガイツは一度死んでいます。そして・・・人造魔導師としての資質があったため、レリックを埋め込まれて蘇生させられたそうです≫

”蘇生・・・!? というか、レリックってそんなことが出来るですかっ!!”

≪データによるとそのようです。ただ、それにも限界が来ているということらしいです。つまり・・・二度目の死が近づいている。今度は恐らく、蘇生など出来ないでしょう≫



そして、それを向こうの融合騎・・・アギトも知っている。いや、そう考えないと行動のあれこれが説明出来ない。今まで話したのもそうだし、このタイミングになるまでゼスト・グランガイツが出てこなかったこともそうだ。

事件に直接的に出ていた六課は、揃ってオーバーSとか強いのがごっそり揃ってる。もしもそんなのと戦闘した場合への身体の負担とか、そういう理由で引っ込んでいたとしたら・・・。



”・・・恭文さん、どうします?”



・・・はぁ、仕方ないなぁ。このままもアウトだよねぇ、やっぱりさ。死なない程度に痛めつけて、それからぶっ飛ばすとしましょ。



≪いいんですか?≫



しゃあないでしょうが。これで未練残して死なれて、祟られでもしたら僕が嫌だし。僕、お払いが効かないのよ?



”運の悪さに限り・・・ですけど。とにかく、分かりました”

≪なら私は、今のうちにデータを算出しておきましょう≫

”アルトアイゼン、お願いしますね”



・・・え、僕のやることわかってるの?



≪当然です、何年の付き合いだと思っているんですか。というより、さっき自分で言ってたでしょ≫

”まぁ、私達は借りが返せればいいだけですしね。後は知りません”



・・・ありがと。んじゃ、行くよっ!!



≪【はいっ!!】≫





とにかく、そのままアクセルを羽ばたかせ・・・踏み込む。おっさんも突っ込んで・・・槍を突き出す。それをジャンプして回避。後ろに回りこむ。

そのまま左から斬撃を打ち込む。おっさんは振り返りつつ槍を打ち込んできて、それらがぶつかり合い、交差する。

そこから距離を保ちつつ、互いに斬撃と刺突をぶつけ合う。・・・確かに、こうしてみるとちょっとダメかも。



例えばこれがシグナムさんとか師匠だったら・・・もっと手こずってる。まぁ、ここはいいか。



そして、数度斬り合った後、互いに袈裟に相棒を打ち込み・・・鍔迫り合い。





「・・・何のためにお前は戦う」



僕の斬撃を槍で受け止めながら、おっさんが聞いて来た。



「局のためでも無ければ、正義のため・・・でもない。ましてやこの世界のためでもない。ならお前は、なぜここに居て、俺達の邪魔をする。いや、戦う選択をする」



その間にも火花が散り、刀と槍がせめぎ合う。



「もし、俺達への借りを返すためだけなら・・・ここを通してくれ。レジアスと話さえさせてもらえれば、あとは好きにしてくれてかまわん」



槍の穂先には・・・また炎。



「いやなこったっ! 僕、言わなかったっ!? 友達でもなければなんでもないお前らの道理に付き合う必要は無い・・・ってさっ!!」

【てめぇ・・・! どこまでアタシらをナメてやがんだっ!!】

「最初にスカリエッティしかり、あのダークヒーローもどきしかり、お前らがこっちをナメたんだっ! そのくせにグダグダ抜かしてんじゃないよっ!!」



いや、真面目にそうでしょ? コイツらにナメてる馬鹿にしてるどうこうっていわれたくないんだけど。



【アタシらはガリューはともかくあの変態ドクターの仲間じゃねぇよっ!!】

「あー、はいはい。犯罪者はね、みーんなそう言うのよ? 関係ない仲間じゃないって言えばなんでも済むと思ってるでしょ? まったく、これだから最近の若い子はこうなのよ。
もうね、ダメ。私の若い頃はみんなもっと情に溢れてたのに、いつからこんなつまんない時代に」

【一体どこの世話焼きおばさんっ!? 何時からてめぇはアタシ達のご近所さんになったっ! つーか、ちったぁマトモに戦えよっ!!】



槍が押し込まれる。でも、それに一歩も引かず。僕はアルトを押し込む。・・・そうそう、言い忘れてたね。僕がここで戦う理由。借りを返すこと以外では・・・いちおうある。



「まぁ、しいて言うなら・・・こんなバカな騒ぎを終わらせて、とっとと近くのコンビニに寄ってジャンプ立ち読みしたいからかなっ! ほら、今日月曜日だしっ!!」

【あ、リイン今週のワンピース読みたいですっ! あとあと・・・っ!!】



なお、この非常事態でジャンプがちゃんとあるのかとか、そういうツッコミはスルーします。



「忘れちゃいけない劇場版『さらば・仮面ライダー電王』っ! 次元世界が崩壊なんてしたら、良太郎とモモ達の最後のクライマックスが見れなくなるでしょうがっ!!」

≪だから邪魔するんですよ。あなた方の意地や道理なんぞより、私達にとってはこっちの方が重要なんですから≫




そう返すと・・・おっさんの表情が険しくなった。どうやら、そんな理由でここに飛び込んでいるとは思わなかったらしい。



【てめぇらっ! まだアタシ達を相手にふざけた事言うのかっ!!】

「・・・そんな理由か」

≪【「そんな理由ですがなにかっ!?」】≫

【言い切るなぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか、逆ギレすんじゃねぇよっ!!】





瞬間、おっさんの気配が変わった。





「情けない。かの英雄・・・ヘイハチ・トウゴウの弟子が・・・この程度か」





鋭く、突き刺すような闘気が僕を襲う。





「貴様は師の顔に泥を塗っているも同然だ」





アルトの刃が弾かれる。





「あの方と違い、世界を見ようともせず、ただ私欲のみで動く」





体勢が少し崩れる。





「それゆえに貴様には信じる正義も無く、大儀も無い」





そこを狙って、おっさんが槍を突き出す。紅蓮の炎に包まれた槍を。・・・いや、それだけじゃない。



同時に、炎を纏った衝撃波も放たれた。それも、至近距離で。





「そんな貴様に・・・俺達は止められんっ!!」





タイミング的にはいい感じ。普通なら避けられない。





【これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁっ!!】




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・アジトが揺れる。どういうわけか揺れる。




でも、そんなの関係なしに私と目の前の女は斬り合い、打ち合い、思いをぶつけあっていた。










≪・・・姉御、ヤバイ。自爆スイッチ入っちまった。なんかブロンドガールとブロンドガールの補佐官が対処してるみてぇだけど、相当ヤバイってこれっ!!≫





ふーん・・・だからっ!?





≪だからじゃねぇってっ! このままじゃ俺達お亡くなりだぞっ!? 今日発売のジャンプも見れねぇじゃねかよっ!!≫





そんな泣き言抜かす相棒を右から打ち込む。女は右の銃でそれを受け止めると、即座に左の銃をアタシの頭に向けてぶっぱなす。

それをしゃがんで回避。そのまま刃を引き、両手の刃を女の足元に向かって打ち込む。



女はそれを後ろに飛んで回避。そのまま両手の銃の銃口を向け・・・私に乱射。





「あぁ、それなら安心だっ!!」





私は後ろに飛び、それらを回避。数回跳んで、体勢を整える。





「こんな騒ぎで、ジャンプ出てるわけが無いでしょうがっ! 今週号は来週号と一緒に発売だよっ!!」

≪それはそれで嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 俺はNARUTOの続きが気になるんだよっ!! 合併号でもないのにもう一週なんて、待てるわけねぇだろっ!?≫





私は・・・To LOVEるっ!!





「アンタらっ! この状況で一体なんの話してんのよっ!!」



女は着地。こちらへ突進しながら、また両手で銃を撃つ。



≪「ジャンプの話だけど・・・」≫



両手のアメイジアの刃が変化する。刃が一定間隔で分割され、それらがワイヤーで結ばれている。蛇腹剣と言われる状態へと変化した。

これがアメイジアの形状変換の一つ。サーペントフォルム。そして、その蛇腹剣をしならせ・・・刃に白い雷撃を纏わせ、襲い来る弾丸を全て斬り払うっ!!



≪「なにかっ!?」≫

「逆ギレすんじゃないわよっ! このバカっ!!」



そのまま女が突っ込んでくる。私はアメイジアを両手剣に戻して・・・斬撃を打ち込むっ!!

・・・だけど、女が止まった。そして、私の後ろを見る。そして私は・・・大きく前に飛んだ。瞬間、私の居た場所が大きく破裂した



≪な・・・なんだありゃっ!?≫



着地して振り返る。そして・・・見る。体長は3メートルほど。2足で人型で全身銀色の・・・ガジェット? でも、これは形や印象が少し違う。もしかして・・・とっておきってやつですか? あぁもう、面倒な時に・・・!!

そして今、私に対して行ったのは、両手の鎌を振り下ろした斬撃。それに攻撃が止まるはずもなく、目と思しき四つのレンズから光線が放たれた。また私は大きく飛んで避ける。



「あははは・・・! これで2対1っ!! さぁ、もう観念」



女が言葉を言い終わる前に、私の方に飛んできた。そりゃそうだ。自分の所に鎌が打ち込まれたんだから。



「な、なにすんのよアンタっ! 私は味方」



残念ながら、その理屈は通じないらしい。だって、女にも熱光線打ち込んできたんだから。



「・・・アンタ、敵として認識されてるみたいだね」

「そ、そうみたい・・・」

≪姉御、まずい・・・まずいぜ。ここであんなデカ物と戦闘したら≫



分かってるよ。ここは・・・!!



≪「「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」≫



私は回れ右で全力疾走っ! 通路をひた走るっ!! ・・・メガーヌっ!? バカっ! このシチュで戦ったら今度こそメガーヌごと巻きこんじまうよっ!!

相手の能力が不明なのに、そんな真似できるワケがないでしょうがっ! アレは脅しやらハッタリやら効きそうにないしっ!!



「ちょっとアンタっ! さっきのレールガンでどーんといけないのっ!?」



後ろからガシャガシャと足音を立てながら、私達を追いかける巨大ガジェットが撃ってくる光線を回避しつつ、私達は通路を全力疾走。

すると、となりに女が・・・って、なんでお前がいるっ!?



「仕方ないでしょっ!? 私だって嫌だけど、逃げる方向こっちしかないんだからっ! まさかアンタ、アレの脇を突っ切れとか言うつもりじゃないでしょうねっ!!」

「あぁ、そりゃ納得だっ! で、レールガンは・・・無理っ!! チャージ時間が足りないものっ! あんなの避けながらチャージなんて、無理っ!!」

「あぁもうっ! ここぞって時に役に立たない攻撃ねっ!!」

「自分でもそう思うよっ!!」



なにより、魔力の問題がある。今度撃ったら私はマジでエンプティ。さすがにそれは・・・。



「そういうアンタは隠し技ないのっ!? こう・・・種が弾けるとか、静かな怒りで髪が逆立って金色になってパワーアップとかっ!!」

「あったら使ってるわよっ! 特に後者よ後者っ!! でも、基本的に私は魔法関係やら特殊能力関係はさっぱりなのっ!! それに・・・」



振り返りながら、女が銃弾を数発撃つ。すると・・・あ、弾かれた。



「あぁもうっ! マジで通用しないってどういうことよっ!!」

≪こりゃ納得だっ! でもよ、このまま二人して逃げ回っててもラチあかねぇぜっ!?≫



じゃあなんか手があるのか手がっ! 悪いけど私はなんにも思いつかないんだよっ!!

そんな時、通信がかかってきた。あぁもう、誰だよこのクソ忙しい時に。



『ヒロリス、僕だよ』

「このKYがっ! 豆腐の角にでも頭ぶつけてろっ!!」



そのまま通信を切った。全く、この状況で何を・・・。



『いきなり辛辣な言葉をぶつけて切るのはやめてくれないかなっ!? ・・・せっかくいい情報を掴んだのに』

「いい情報っ!?」

『そのガジェット・・・いや、人型兵器だね。それを倒せば、アジトの崩落が止まるよ』



・・・え、マジ?



『マジだよ。ちょっと査察させてもらって分かった。その兵器の稼動プログラムとアジトの自爆プログラムがリンクしてる。フェイト執務官とシャリオ補佐官が必死に自爆プログラムを止めようとしてるけど、最後のウォールがどうしても解除出来ないんだよ』

「つまり・・・それがこれと」

『そういうこと。でも、フェイト執務官はもう限界で戦闘は無理だし、シャッハもナンバーズの一人を確保して今外に出てる。早急に戻るとは言ってるけど、時間はきっとかかる。僕は知っての通り』



・・・シャッハはともかく、ロッサの能力は戦闘向きじゃない。あの猟犬達は、あくまで探査と捜索のための能力だ。ここで当てにするのは間違ってる。



『その上、時間もそんなに残ってないと思われる。それは瞬殺するしかないんだけど・・・多分、普通の教会騎士とかじゃ相手にならないだろうね』



なら・・・方法は一つか。私は趣味の悪い通路を走りながら、覚悟を決めた。



「ロッサ、シャッハはこっちに来なくていい。その代わりハラオウン執務官に付かせて。アレはやっさんの想い人だからさ、絶対守らないといけないのよ」

『それはいいけど・・・なら、君は?』

「よく聞けたもんだね。人を焚きつけたくせに」

≪・・・ま、覚悟決めるか≫



なんにしても、メガーヌ守ってハラオウン執務官守ってハッピーエンド迎えるためには・・・コイツを倒すしかない。

全く、私・・・何しにここに来たんだろうね。完全にハラオウン執務官やロッサ達のフォロー役じゃないのさ。あー、おとなしくルーテシア追っかけてればよかったー。そうすりゃ例のもすぐに使え・・・あ、ここで使えばいいじゃないのさ。



『とにかく、シャッハはフェイト執務官に付かせるよ。・・・ヒロリス、気をつけてね』

「あいよ」



通信はこうして終わった。そして、私は振り返る。そのまま、銀色の悪魔を見据える。



「ちょっと、アンタ。話は聞いてたね。・・・協力して」

≪姉御っ!?≫

「はぁっ!? アンタなに考えてんのよっ! 私とアンタは敵同士でしょうがっ!!」

「ガタガタ抜かすなっ!!」



そのままいらだち混じりに、女の襟首を掴み、そのまま引き寄せる。



「アイツ止めなきゃ、アンタも死ぬし私も死ぬっ! 今から脱出なんて出来るかどうかわかんないっ!! でも、協力してあのデクの棒を瞬殺すればまだ可能性はあるのっ! んなこともわかんないのっ!?」

≪いや、それは分かるけどよ。さすがにそれは≫

「・・・分かったわよ」

≪アンタも納得すんのかよっ!!≫



その言葉に満足して、私は手を放す。女がボンテージの襟を直しながら、迫り来る脅威を見据える。



「仕方ないでしょっ!? 私だってこんな悪趣味な通路の中で死にたくはないのよっ! 死ぬなら好みの男の子の腕の中で死にたいわよっ!!
・・・ただし、あくまでアイツを倒すまで・・・だからね? それ以上は協力しないわよ」

「それでいいさ。アンタ、名前は?」



私は、ベルトを取り出す。銀色のベルト、バックルに時計にも見えるレンズ部分があり、その横には上から赤・青・金・紫のボタン。

・・・この状況だ。被弾覚悟で突っ込まなきゃいけない。これなら、普通のジャケット構成するよりも分厚いし、きっとやれる。まぁ、その分機動性は落ちるけど、なんとかなるでしょ。



「・・・・・・無いわよ」

「はぁ?」

「私、名前なんてない。私は・・・父様の人形だもの。人形に、名前なんていらないって言われた」



・・・あぁもう、聞かなきゃよかった。これじゃあやりにくくなるの決定じゃないのさ。



「・・・なら、私がつけてあげるよ」

「え?」

「呼び名がないとめんどくさいし、連携も取り辛いからさ。この間・・・だけだ。いい? アンタの名前は・・・」



黒い髪、金色の瞳。・・・うーん、思いつかない。

よし、アレでいいや。なんか声も似てるし。



「シャナ。アンタはシャナだよ」

「シャナ・・・」

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・姉御、もうちょっと考えてやれよ。それはいくらなんでもあんまりにもひどいだろ≫



うっさいねっ! 一時的になんだからいいでしょうがっ!! つーか、そんな真剣に考える時間と余裕がどこにあるとっ!? 十月十日かけて姓名判断の本抱えながら子どもの名前考えるのとは状況が違いすぎるでしょうがっ!!

とにかく、私は赤いボタンを押して、そのまま・・・右手に持ったパスをベルトにセタッチッ!!



「変身っ!!」

≪Sword Form≫










瞬間、赤いガラスのような光が弾けた。





さぁ・・・ハッピーエンド目指して、ぶっ飛ばしていくよっ!!






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